約 1,746,380 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9396.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十二話「二冊目『わたしは地球人』(その2)」 地球原人ノンマルト 復活怪獣軍団 守護神獣ザバンギ カプセル怪獣ウインダム カプセル怪獣ミクラス 登場 『古き本』に精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅立ちを決意した才人。 一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を完結させ、次に入ったのはウルトラセブンの世界。 ……だがそこは正史の歴史から枝分かれした、地球防衛軍が過剰防衛に走ってしまって いる危うい世界であった。更に中国奥地から発掘され、何故かトップシークレットとして 封印されたオーパーツを巡り、セブンの周りにノンマルトを名乗る女の影が見え隠れする。 果たして才人は……ゼロは、己の父ではないセブンを導き、この世界を無事完結に至らす ことが出来るのだろうか。 地球防衛軍に宇宙人であることが知られてしまった、カザモリの姿を借りているセブンは、 一度はゼロに助けられるものの、己の潔白を証明するために自らウルトラ警備隊に捕まった。 カザモリは防衛軍の隔離施設で、シラガネ隊長に地球の未来を救うには、地球人自身の手で オメガファイルの封印を解き、侵略者の過去から文明人に進化したことを宇宙に証明する他は ないことを訴えた。 しかし、そのカザモリ=セブンに命の危機が迫っていた……。 「カザモリ隊員の処刑が決定した、だと……!?」 防衛軍基地の周辺で、身を潜めながら超感覚で防衛軍の動向を見張っていた、才人の身体を 借りているゼロが、基地内の発表を盗み聞きして愕然とつぶやいた。 オメガファイルの秘密を隠し通そうとしているカジ参謀は、相手が何度も地球人を守ってきた ウルトラセブンと知ってなお、秘密を闇に葬ることを優先したのだ。残念ながら、ゼロの危惧した 通りになってしまった。 才人が焦り気味にゼロに呼びかける。 『ゼロ、これはまずいぜ! セブンが処刑されたら、ルイズも助けられなくなっちまう……!』 「ああ、分かってるぜ……!」 ゼロは固い決意を表情に示し、踵を返した。 「それがなくても……本の中の別人といえども、俺の親父は殺させやしねぇぜ!」 ゼロが向かう先は、カザモリの囚われられている隔離施設――ではなく、ウルトラ警備隊基地であった。 ウルトラ警備隊の司令室では、カザモリの処刑を知らされた隊員たちが重苦しい空気の中、 相談をし合っていた。 「わたしたち、これでいいの? このまま、仲間を見捨てて……」 ルイズが声を絞り出すようにつぶやくと、シマが奥歯を軋ませながら言う。 「奴はカザモリじゃなかった……。侵略者だったんだ……」 「それはカジ参謀の下した結論でしょ!? わたしたちは、もっとカザモリ君のことを知っている はずじゃない!」 ルイズが立ち上がって反論した。すると、 「ああ、そうだ。他人から与えられた結論じゃなく、あなたたち自身で答えを出してもらいたい」 司令室の扉が開き、ゼロが当然のように入ってきたことに隊員たちは仰天した。 「君は、北海道の……!」 「お、お前! どうやってここに入ってきた!?」 シマが血気に逸ってウルトラガンを抜こうとしたが、それをゼロは手で制する。 「待て! あなたたちに危害を加えに来たんじゃない。今防衛軍に捕まってる……カザモリ隊員を 一緒に助けてほしいと、お願いしに来たんだ」 「助けてほしい? 俺たちに侵略者の手助けをしろって言いたいのか!?」 敵意を向けてくるシマを正面に置いて、ゼロは冷静に隊員たちに訴えかけた。 「口で侵略者ではないと言うのは簡単だ。けどそれじゃあ納得しないだろう」 「当たり前だ!」 「だから、あなたたち自身で考えてほしい。カザモリ隊員のこれまでの行いを振り返って、 彼が本当に侵略者なのかどうかを」 ゼロの頼みに、シマたちは戸惑いを見せる。 「俺たち自身で、考えろと……?」 「仮にあなたたちの助けがなくとも、俺は一人でもあの人を助けに向かうつもりだ。だがその前に、 確かめたいんだ。あの人の気持ちが、あなたたちの心に届いてるかどうかを」 ゼロの言葉を受けて、最初に口を開いたのはミズノだった。 「……僕は、カザモリを信じたい」 「ミズノ!」 振り返るシマ。ミズノは続けて語る。 「カザモリはいい奴だ。あいつに、何度も命を救われたよ……。カジ参謀がどう言おうと、 あいつが侵略者だとは信じられないんです」 ミズノに続いて、ルイズもこう言った。 「その子の言う通り……カザモリ君が宇宙人だったとしても、侵略者だとは限らないわ」 「このまま上に任せとくんですか!? それで後悔しないんですか!」 ルイズとミズノの説得を受けて……シマは、デスクの上のヘルメットを手に取った。 「シマ隊員……!」 一瞬身を乗り出したゼロに、シマが告げる。 「俺は、お前やカザモリを信じた訳じゃない。しかし仲間として、カザモリ自身から本当の ことを聞きたいんだ」 隊員たちは互いに顔を見合わせると、重い表情から一転して、微笑みながらうなずき合った。 「ありがとう……!」 ひと言礼を告げたゼロが踵を返したところ、ルイズがその背中に問いかけてきた。 「一つだけ教えて! あなたはカザモリ君の仲間なの?」 「……いや、そういう訳じゃない」 「だったら、どうしてそんなにカザモリ君のことに執着するの? あなたは一体……」 それにゼロは、次のように答える。 「……あの人は、俺の大切な人なんだ。あの人自身も知らないことだが……」 「それはどういう……」 ミズノの聞き返しを最後まで聞かず、ゼロは司令室を飛び出していった。 防衛軍の隔離施設では、拘束されているカザモリが防衛軍兵士に連行されながらどこかへと 向かわされていた。 「極東基地に輸送されるんじゃないのか? 軍法会議に掛けられるのなら、あそこに行くはずだろう」 「違うわ!」 カザモリが聞いたところ、ルイズの声が響いて、彼らの行く先から姿を出した。 「この通路の行き止まりは、粒子レベル分解システムルーム。どんな物質も、分子、原子に バラバラに分解して破壊してしまう!」 驚くカザモリ。ルイズは小銃を向けてきた兵士たちにウルトラガンを構えるが、 「銃を捨てろ」 横から、こめかみに拳銃の銃口を向けられた。カジ参謀だ。 「異星人に美しい友情など必要ない」 「――それがあんたの出した結論かよッ!」 その時ゼロがバッと跳躍しながらカジに飛びかかり、拳銃を叩き落とした! 「何ッ!?」 「あんたみたいな人間がいるからッ!」 兵士も反応が出来ていない内に、ゼロは当て身を食らわせてカジを昏倒させた。 「ぐあッ……!」 更に兵士たちは、シマとミズノが撃った麻酔弾でバタバタ倒れていった。 「大丈夫ですか!? 危ないところだった……!」 「君は……!」 ゼロはカザモリの拘束を手早く解いていく。そこに騒ぎを聞きつけた警備兵が駆けつけて くるのを察知して、シマがゼロとルイズに首を向けた。 「ここは俺たちに任せろ! お前とサトミ隊員はカザモリを!」 「分かりました!」 シマとミズノが警備兵を足止めしている間に、ゼロとルイズはカザモリを連れて防衛軍施設から 脱出していく。 外にも防衛軍の兵士が待ち構えていたが、ルイズとゼロの手によって無力化されていった。 ほとんどはゼロの格闘技によるものであった。 「はぁッ!」 「ぐッ!?」 「ぐあぁッ!」 瞬く間に兵士を気絶させていくゼロに、ルイズとカザモリは驚いていた。 「やるわね。屈強な防衛軍の隊員を、まるで子供扱い……」 「すごい腕前だな……」 「……あなた譲りさ」 「えッ?」 「いや、何でもない」 ポツリと漏らしたゼロがごまかした。 空が夕焼けに染まり出した頃、外の兵士を全員無力化すると、シマとミズノが追いついてきて 合流した。 「大丈夫だったか?」 「はい。そっちこそご無事で」 落ち着いたところで、ルイズがカザモリに呼びかける。 「あなたが何者であっても、わたしたちはあなたを信じるわ」 「ウルトラ警備隊は家族みたいなもんだ。何があっても、一蓮托生さ」 ミズノも、シマもカザモリにうなずいてみせた。 「ありがとう、みんな……!」 礼を述べたカザモリに、ゼロが告げた。 「シラガネ隊長の方も、オメガファイルの封印を解き、真実を突き止める努力をしてます。 どうか、地球人をまだ信じてやって下さい」 「ああ。君もありがとう……。僕のために、また力になってくれて」 カザモリがゼロにも礼を言った直後、ルミからの通信をシマのビデオシーバーが着信した。 『外部からの通信が入ってます! ビデオシーバーにつなぎます!』 ビデオシーバーの映像が切り替わると、覗き込んだカザモリとゼロの目の色が変わった。 「君は……!」 映っているのはノンマルトの顔だった。ノンマルトはカザモリに向かって告げる。 『あなたなら、秘密を探り出してくれると思った。でも……あなたの力は頼らない!』 ノンマルトはテレパシーで、防衛軍の首脳部に呼びかけた。 「地球防衛軍に要求する! 隠蔽している証拠を解除せよ! さもなくば、我々は実力を以て、 これを全宇宙に公開するだろう!」 その言葉の直後に、オメガファイルを封印している秘密施設の周辺区域の地面が突然裂け、 地中から鳥型の怪獣が出現した! 「キャッキ――――イ!」 翼の部分は鋭利な刃物状になっているが、眼光はそれ以上に鋭く、憎悪に煮えたぎっている……。 地球人の惑星破壊爆弾の最初の犠牲となったギエロン星、その星の生物が放射能で変異してしまった 再生怪獣ギエロン星獣である! ゼロは険しい目つきで、防衛軍の秘密施設に向かっていくギエロン星獣をにらんだ。 「怪獣にオメガファイルを暴かれたら、地球人は……!」 地球人の手ではなく、ノンマルトによって真実を公開されれば、今の地球人は侵略者のままに なってしまい、地球に留まる権利を失ってしまう。それだけは何としても阻止せねばならない。 そう考えたゼロは、カザモリに向き直って申し出た。 「ここは俺が時間を稼ぎます! あなたは、どうか地球人の助けになってあげて下さい! ……ウルトラセブン!」 「えッ!?」 「カザモリが、セブン……!?」 ルイズたちはカザモリの顔に振り返った。その間に、ゼロはギエロン星獣の方向へ駆け出していく。 その背中を呼び止めようとするカザモリ。 「待ってくれ! 君は……!」 「……」 ゼロは一瞬だけ立ち止まったものの、すぐにまた駆け出して彼らの前から離れていった。 そしてウルトラゼロアイを顔面に装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体からウルトラマンゼロに変身を遂げて、巨大化しながらギエロン星獣の正面に着地した。 「シェアッ!」 「キャッキ――――イ!」 戦闘の構えを取ってギエロン星獣に立ちはだかったゼロに、ノンマルトがテレパシーを向けてきた。 『青き戦士よ、この期に及んでまだ我らの障害になろうというのか。その怪獣を見ろ!』 ノンマルトはギエロン星獣を示す。 『その怪獣は、今の地球人の横暴な行いによって理不尽に故郷の星を奪われた。それが地球人の 真の姿なのだ! それでもかばおうというのか!』 見せつけられる、地球人の残酷性を前に、ゼロは答える。 『たとえそうであっても……俺は、あの人が信じる地球人を、最後まで信じるぜッ!』 覚悟を決め、ゼロスラッガーをギエロン星獣へと飛ばした! 「セアァッ!」 「キャッキ――――イ!」 だがスラッガーは刃状の翼によって弾き返された。ギエロン星獣は翼を閉ざすと、手と手の 間をスパークさせてリング光線をゼロに放つ。 「グッ!」 ギエロン星獣の攻撃を素早く回避するゼロだが、ギエロン星獣の口から黄色いガスが噴射された。 ギエロン星を爆破したR1号の放射能が大量に含まれたブレスだ。 「グゥゥッ!」 ギエロン星獣のガスを浴びせかけられたゼロが胸を抑えて苦しんだ。そのガスには放射能のみ ならず、ギエロン星獣の苦痛の記憶と憎悪の感情も乗せられている。その負の力がゼロを苛む。 だが、ゼロはここで退く訳にはいかないのだ。 『おおおおおッ!』 スラッガーを片手にして、全身に力を入れ、毒ガスを一気に突き抜けていく。そしてギエロン 星獣の喉笛を見据えると、 『すまねぇッ!』 すれ違いざまに、喉をひと太刀で切り裂いた! 「キャッキ――――イ!!」 仰向けに倒れ込んだギエロン星獣は、そのまま目を閉ざし、再びの永遠の眠りに就いていった。 地球人の所業のせいで、散々に苦しみ抜いたギエロン星獣をこれ以上苦しませることはないと 考えた、急所の一点のみを狙った捨て身の一撃であった。 これでギエロン星獣は倒されたが、ノンマルトの攻勢はこれで終わりではなかった。 『あくまで地球人の側につくというのか。だが我々とて諦めはせん! 地球人によって葬られた ものたちの、怨念の声を聞け!!』 その言葉の後にまたしても地割れが発生して、今度は一気に五体もの怪獣がゼロの前に 姿を現してきた。 「キイイイイイイイイ!」 「ギャ――――――ア!」 「グルゥゥゥゥゥゥ!」 「ウオオオオッ!」 「グオオォォォ!」 トリステインにも現れたことのあるエレキングを中心に、発泡怪獣ダンカン、硫黄怪獣 サルファス、太陽獣バンデラス、植物獣ボラジョが出現してゼロと対峙した。 『ちッ……! どれだけ怪獣を復活させようと、こっちだって負けるつもりはねぇぜ!』 一度に五体を前にしてもひるむことはないゼロだが……離れた場所で土煙が柱のように立ち上った。 「ギャアアアアアァァァァァ!」 そしてまた新たな怪獣が地上に姿を現した。今度のものは再生させられた怪獣ではなく、 棺と一緒にあった石碑の壁画の生物とほぼ同じ姿をした怪獣であった。胸には棺にもあった 紋様――ノンマルトの印が刻まれている。 ノンマルトの直接の配下であり、守り神でもある神獣ザバンギである。 『! あっちが本命かッ!』 一心不乱に防衛軍施設に向かい始めるザバンギの方へ回り込もうとしたゼロだったが、 それをエレキングたちにさえぎられた。こっちが足止めされてしまった。 『くそッ、邪魔だお前ら!』 どうにか怪獣たちのディフェンスを抜けようとするゼロだが、五体の怪獣はしつこくゼロの 前に立ちふさがる。このままではザバンギが施設を襲ってしまう。 しかしその時に、カザモリの声が響き渡った。 「ウインダム、ミクラス、行け!」 同時に二つの光がザバンギの前で膨らみ、二体の怪獣の姿に変化した。 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 『カプセル怪獣……!』 ゼロもよく見覚えのあるウインダムとミクラスの姿。しかしゼロが出したものではない。 彼のカプセル怪獣は、デルフリンガー同様に連れてこられないので現実世界に置いてきている。 このカプセル怪獣は、本の世界のセブンのものだ。ゼロの応援として、送り出してくれた ものに違いない。 「デュワッ!」 そしてカザモリ自身もまた、ウルトラアイを装着してウルトラセブンに変身したのであった。 変身を完了したセブンは等身大のまま一旦空に飛び上がり、垂直落下して防衛軍施設の 地下に突入。そのままオメガファイルの元まで向かっていく。 これを見届けたゼロが、一層の活力に溢れて怪獣軍団に向き直った。 『ウルトラセブンが頑張ってるんだ……。そいつを無駄にはさせねぇぜ! 来るなら来やがれッ!』 ザバンギにぶつかっていくウインダム、ミクラスとも同調するように、ゼロは一気に怪獣たちの 間に切り込んでいった! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/13464.html
今日 - 合計 - ゼロの使い魔 夢魔が紡ぐ夜風の幻想曲の攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月12日 (金) 13時24分55秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9003.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第一話「ハルケギニアゼロ作戦第一号」 古代怪獣ゴメス(S) 宇宙怪獣ベムラー 凶暴怪獣アーストロン 登場 ウルトラマンゼロと融合した才人がトリステイン魔法学院に召喚されてから早五日が過ぎた。 この日までに才人の日常は既に波乱万丈のものになっていた。 まず、召喚主たるルイズからは人として扱ってもらえず、犬と呼ばれてはことある毎に雑用を言い渡してきた。 口答えすると、すぐに罰として食事抜きにしようとしてくる。まぁ雑用をこなす過程でシエスタという可愛いメイドと仲良くなったのはいいが、 その直後にギーシュという生徒とちょっとした諍いを起こして決闘を行うことになってしまった。 ギーシュの青銅のゴーレム『ワルキューレ』に危うく殺されかけたが、ギーシュの出した剣を手に取った途端不思議な力が湧いて彼を下すことが出来た。 この時の力は、成り行きを見ていたゼロが貸し与えてくれたものだろうと才人は考えた。 とまぁこんな感じで忙しない毎日だったが、融合する際にゼロが言っていた怪獣や宇宙人の類は一度も出現することがなかった。 そして才人が日々の忙しさの中でそんな話を忘れていったある日、遂に事件は発生した。 「それにしても、あんたが出てきた時は驚いたわ」 トリステイン魔法学院の寮塔の自室で、ルイズが寝床で通信端末をいじっている才人に話しかけた。 宇宙開拓時代の人間である才人が持っている通信端末は現代のパソコン程度の性能があり、 尚且つ空気中の微細な電気で動作するので、どんな僻地へ行こうと充電の心配をすることはない。 科学の進歩は素晴らしい。ただ、当たり前だがネットには繋げられない。異世界なので。 「出てきた時って?」 「最初出てきた時、あんたじゃなくて人間大くらいの赤く輝く玉が出てきたのよ。 それでどこに『コントラクト・サーヴァント』したらいいか悩んでたら、その赤い球がいきなり破裂して、 あんたが倒れてたんだもの、もう何が何だかわかんないわ。サイト、あんたは何か知ってるの?」 「え? ええと……」 問われて、才人はどう答えたらいいものか悩んだ。自分が異世界の人間であることだけでも説明が難しかったのに、 ウルトラマンのことはその何倍も途方もない話である。果たして信じてもらえるかどうか。 「……いや、俺もよくわかんないな」 結局、上手い言葉が見つからずに適当にごまかすことにした。 「ふーん、そう」 ルイズはそんな才人の言動を特に怪しむこともなく、違う話題を始めた。 「そうそう、最近この近くで変な地震が多発してるそうよ」 「地震?」 「何でも揺れは大きいんだけど、とてもせまいところにごく短い時間にだけ発生するそうなの。 あんたも転んだりしないように気をつけなさいよ」 などというルイズの台詞を聞いて、才人に若干の嫌な予感が湧いた。自分は体験したことはないが、 昔の地球ではそういう局地的な地震が度々観測されていたという話を聞いたことがあるのだ。 そして、その原因というのが……。 と、その時、 「きゃっ!?」 「うわっ!」 彼らのいる部屋を激しい揺れが襲い、二人は姿勢を崩した。 「もうっ! ホントに起こるなんて……」 ベッドにつんのめったルイズが苛立ちながら起き上がった。そして何となしに窓の外を覗くと……。 「きゃあああああああッ!?」 「どうしたルイズ!」 突然ルイズが悲鳴を上げたので、才人が駆け寄って同じように窓の外を見た。すると、 四角いガラスから見える平地を下から突き破って40メイルほどもあるあまりにも巨大な、 頭頂部にフックのように曲がった一本角、手には三本の鋭い爪が生え並び、 毛と鱗を持った青みがかった体色の生物が這い出てくるところを目撃した! 生物は二本の脚で、 人間のようにしっかりと大地を踏みしめて地表へ上がってきた。 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ―――――――――!」 巨大生物が雷鳴のように轟く咆哮をした。その鳴き声は離れた場所にいるルイズと才人の耳にまで届いてきた。 「な、何なのあれ!? あんなに大きい幻獣、聞いたことないわ!」 ルイズは驚愕のあまり腰を抜かしていた。無理もない。ハルケギニア大陸に存在する地上に生息する生物の内、 最も大きいといわれる竜でも10メイルを越えるものはそうお目にかかれないものなのに、今目に映る怪物はその四倍もの巨体なのだ。 しかも二本の脚で直立までしている。こんな生き物が存在するなど、夢にも思わない。 「あれは……確か見覚えが……」 一方才人の方は、通信端末をいじって以前興味半分に端末にダウンロードした怪獣・宇宙人のデータから、 一匹の怪獣のデータを検索して画面に映し出した。画面に表示される怪獣の写真と今目の前の怪獣の姿を見比べて、彼は確信した。 「間違いない……大きさに大分違いがあるけど、あいつは古代怪獣ゴメスだ!」 「わぁッ! 間近で見ると迫力満点ね!」 魔法学院の側に出現したゴメスの頭上を一匹の風竜が飛び回っており、その背には二人の少女が跨っていた。 後ろに乗っている赤い髪で女性らしいプロポーションの少女はキュルケ。帝政ゲルマニアからの留学生で、 ルイズとは家柄やその他様々な理由から仇敵の関係である。そんなキュルケが前の少女に申し出た。 「ね、もうちょっと近づいて見ましょうよ、タバサ」 「これ以上は危険」 キュルケに淡々と言い渡した少女の名はタバサ。こちらはガリア王国からの留学生で、 本人が寡黙なのもあり不明な点が多い。両者はどちらともトライアングルメイジであり、 学院きってのエリートである。彼女らは現在、突然見たこともない巨大生物が出現したことに興味を示したキュルケが 親友であるタバサに頼み込んで、彼女の使い魔シルフィードに乗ってゴメスを近い位置から観察に来ていたのであった。 「もう、タバサったら固いんだから。ちょっとくらいいいじゃない」 タバサの態度にキュルケが不平を述べた時、タバサがハッと空を見上げるとこう叫んだ。 「危ない!」 叫びでシルフィードが急激に方向転換した。その直後に、彼女らのすぐ側を巨大な青い球体が猛烈な勢いで落下していった。 あと少し気づくのが遅かったら、彼女たちは球体と正面衝突していた。 「きゃああッ!」 球体が通りすぎたことで起きた突風にキュルケたちが煽られた。一方球体の方はゴメスの近くに落下すると、 青い光がしぼんでいって腕の小さい竜のような容姿の生物へ変化した。これもまた40メイルを越える巨大生物である。 「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」 「え、えぇッ!? 二匹目!?」 巨大生物が増えたことに驚嘆するキュルケ。だがこれで終わりではなかった。 「ギャアアオウ!」 新しい怪獣を挟んだゴメスの反対側の地面より、刃物のように鋭く曲がった一本角の、 岩みたいにゴツゴツした体表を持つ巨大生物が飛び出してきたのだ! 「三匹目……」 「ち、ちょっと待って!? 一体何がどうなってるのよぉ!?」 この事態に、さしものキュルケもついていけていなかった。 この新しく現れた二匹も才人の端末にデータが載っていた。前者は宇宙怪獣ベムラー、 後者は凶暴怪獣アーストロンだ。 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ―――――――!」 「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」 「ギャアアオウ! ギャアアオウ!」 一つの場にそろった三匹の巨大生物――怪獣たちは、お互いを確認し合うと、三匹そろって前に出て乱闘を行い始めた! 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ―――――――!」 「ギャアアオウ! ギャアアオウ! ギャアアオウ!」 「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」 ゴメスがベムラーに爪を振るい、アーストロンがゴメスに角を突き刺そうとして、 ベムラーがアーストロンを狙って光線を吐いた。三匹が乱闘する中でベムラーの流れ弾がタバサらの方へ飛んできた! 「きゃあッ!!」 「きゅい!!」 「くッ……!」 ギリギリのところでシルフィードが身をよじらせ、光線から逃れた。タバサは珍しく焦りの色を顔に浮かべ、 呪文を詠唱して攻撃魔法を放った。 「『ウィンディ・アイシクル』!」 「『ファイヤーボール』!」 キュルケも攻撃を行う。複数の氷の矢と火球がベムラーに降り注いだ。が、ベムラーは彼女らの方に振り向きもしなかった。 今の攻撃を蚊ほどにも感じなかったのだ。 「……!」 「そんな! 全く効いてないなんて!」 確かに最大威力で撃ったはずなのに、とショックを受けるキュルケ。一方怪獣たちは キュルケたちには全く目もくれないで乱闘を続け、挙句にアーストロンの吐いたマグマ光線が学院の外壁に直撃してドロドロに溶かしてしまった。 「あッ!?」 「……一旦降下する」 学院には多数の自分たちより力の劣る生徒たちがいる。彼らを助けるためにも、 タバサたちは学院の敷地内に降りていった。 学院はパニックに陥っていた。何せすぐ傍で途轍もない大きさの怪物たちが争い合っているのだ。 彼らが足を踏み鳴らす度に地揺れが起き、攻撃の余波が飛んでくることもある。あまりにイレギュラーすぎる事態に、 生徒らは普段掲げている貴族の誇りと矜持も忘れて我先にと怪獣たちと反対の方向へ逃げていっていた。 「何なんだ! 何なんだよあれはぁッ!!」 「この世の終わりだぁぁぁぁぁ!」 「誰か助けてぇぇぇ!」 教師たちは取り乱す生徒らの避難誘導に当たっていた。その先頭に立って陣頭指揮を取っているのは、 学院長のオールド・オスマンである。 「皆の衆! 慌てず、しかし速やかに避難するのじゃ! 怪物は私たちが食い止める!」 教師の半数が生徒の避難誘導に当たり、コルベールやギトーなどの残る半分が怪獣たちに攻撃を仕掛けて何とか追い払おうとしていた。 しかし、彼らの攻撃を怪獣たちは丸で気に留めていない。怪獣は地球の科学の最先端によって作られた兵器を駆使しても、 人類が全く太刀打ち出来ないこともあったほどの恐るべき生き物。世界トップクラスとはいえ、 一学院の保有する火力では敵うはずもない相手なのだ。 魔法が全然通用せず、教師たちもいよいよ精神力を使い果たそうとしていたその時、コルベールが急に叫んだ。 「い、いけません! すぐ戻ってきなさい!」 「何じゃ!? ミスタ……何て名前じゃったか……ええい、今はそんなことどうでもよい、一体どうしたんじゃ!?」 オスマンが何事かと問うと、コルベールは慌ててまくし立てた。 「ミス・ヴァリエールと彼女の使い魔のサイト君が、怪物たちの方へ向かっていってしまったんです!!」 「何じゃと!?」 オスマンが驚愕した。 そして問題のルイズと才人は、コルベールの言う通り怪獣たちのすぐ傍まで来ていた。 怪獣が暴れるのを見たルイズがここまで飛び出してきて、才人は慌ててそのあとを追って来たのだ。 「おいよせルイズ! こいつらは人が敵う相手じゃない! 今にも踏み潰されるぞ!」 「敵うか敵わないかなんて、やってみなくちゃわかんないじゃない!」 ルイズを制止しようとする才人だが、ルイズはそれを振り切る。 「この学院はわたしが、わたしたちがこれからたくさんのことを学ぶための大切なところなのよ! それを、こんな訳のわからない奴らに潰されてたまるもんですか!!」 ルイズが絶叫し、呪文を詠唱する。杖を向けた先はゴメスだ。 「『ファイヤーボール』!」 発生した魔法はいつもの通りの失敗、爆発だった。しかし威力は今までの中で最大で、 ゴメスの脇腹に絶大な爆発が起きると、初めて魔法による裂傷が走った。 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」 「え? 効いた……」 これまで誰も怪獣に傷一つつけられなかったため、魔法を使ったルイズが一番驚いた。 が、呆然としているところに、攻撃に怒ったゴメスが太い尻尾をルイズ目掛けて振り回してきた! 「きゃあああああああああああああああああッ!!」 「くッ!」 ルイズの危機に、才人が左腕をまっすぐ前に突き出した。すると腕にはまっている銀色のブレスレットから、 ウルトラゼロアイが浮き出てくる。 ウルトラゼロアイ。召喚された直後に見た、ウルトラマンゼロとの邂逅が夢ではなかったことを証明するもの。 才人は説明された通りにゼロアイを構えると、銃口をゴメスの顔に向けてビームを撃った。ビームはゴメスの眉間に命中し、 驚いたゴメスはあとずさる。それにより尻尾はルイズからそれた。 「馬鹿野郎! 死んだら何もかも終わりじゃねぇか!」 何とか危機を脱したルイズを抱きしめ叱る才人。しかしルイズの方は才人の手のゼロアイに注意が行っていた。 「サイト、それは……?」 「こいつはだな……」 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」 答えようとする才人だが、そこに更に怒りを増したゴメスが二人の頭上から足を振り下ろしてきた。 踏み潰そうという気だ。これはゼロアイの光線では防げない。 「きゃあああああああああああああああッ!!」 「……!」 最早これまでかと目をつぶるルイズ。その隣で、才人はいよいよゼロアイの本来の使い方をする時が来たことを確信した。 折りたたんだ状態のゼロアイを素早く広げ、顔に当てる。 「デュワッ!」 その瞬間に才人の身体が光に包まれ、ウルトラマンゼロの肉体へ変化した! 「あれは!?」 ルイズたちを助けに行こうとしながらも、アーストロンのマグマ光線に遮られて近づけなかったコルベールは、 ゴメスの振り下ろした足の下から強烈な閃光が発せられたことに気づいた。そして、 「アアオオウ!?」 光は急激に大きさを増し、その勢いでゴメスを押しのけた。このことに争い合っていたベムラーとアーストロンが驚いて動きを止める。 「な、何!? 今度は何が起こったの!?」 「あれは……」 驚いているのは怪獣だけではない。キュルケやタバサ、教師陣や生徒たち全員が、 三匹の怪獣の間に割り込んだ巨大な青い光に目を奪われている。 そして光が収まり、巨人がその雄々しき姿を現した。彼こそがトリステインの、 ハルケギニア全土の平和を守るためにこの世界にやってきた光の国の若き戦士、 ウルトラマンゼロである! 『ようやく出番だな』 とうとう大地に降臨したウルトラマンゼロが人間には聞き取れない声でつぶやいた。 彼の手の平の上にはうつ伏せになっているルイズがいる。 「うぅん……きゃあッ!?」 起き上がったルイズは自分のいるところと、ゼロの存在を確認して今日何度目かの悲鳴を上げた。 だが、ゼロの顔をまじまじと見つめると、口からこんな声を漏らした。 「サイト……サイトなの?」 ゼロはルイズの問いには答えず、黙って彼女を学院の中庭に降ろした。それから三匹の怪獣を見回し、 下唇を親指でぬぐいながらひと言、 『余裕だぜ』 一方ゼロの登場で怖じ気づいていた怪獣たちだが、はね飛ばされたゴメスは起き上がるとすぐさまゼロに突撃していった。 「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」 『ふッ……』 ゼロはゴメスの接近に慌てず、頭についている宇宙ブーメラン・ゼロスラッガーを一つ取ると、 それをすれ違いざまにゴメスに斬りつけた! 「セリャアッ!」 その一閃でゴメスの身体に切れ目が入り、そして一気に爆散した! 「つ、強い!!」 「一撃で!?」 ゼロがゴメスを瞬殺したことに生徒や教師が仰天した。一方ゴメスの爆発で我に返ったベムラーとアーストロンが一斉にゼロに向かっていく。 「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」 「ギャアアオウ!」 「セヤァッ! ハァッ!」 襲いかかってきたアーストロンの腕の振り回しをさばき、反対側のベムラーに縦拳を撃ち込んで弾き飛ばすゼロ。 ふっ飛んだベムラーは学院の壁の横に倒れ込んだ。 『おっといけねぇ。ちゃんと気をつけないとな』 危うく学院に倒れるところだったことにゼロが反省した。そしてアーストロンに向き直ると、 キックの一撃でアーストロンを弾き飛ばした。 「ギャアアオウ!」 アーストロンが吐いたマグマ光線を手の平で受け止め、ゼロは額のビームランプからひと筋の光線を発射した! エメリウムスラッシュだ! 「セリャァァァッ!」 エメリウムスラッシュを受けたアーストロンが木端微塵になった。それと同時にゼロの胸についているカラータイマーが赤い点滅を開始する。 『ちっ、もうエネルギーが切れかかってるのか。さっさと決めるぜ!』 ゼロは最後に残ったベムラーの方を向く。ベムラーはゼロに光線を吐き出した。 「ギィ―――――イ!」 「ゼリャッ!」 ゼロは二振りのゼロスラッガーを投げた。ベムラーの光線はスラッガーに切り裂かれて霧散し、 ベムラー本体も斬撃を食らう。 「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」 『とどめだ!』 ゼロスラッガーが頭に戻り、ゼロが左腕を横に伸ばす。そして右腕とL字に組んで、 「ドリャァァァァ――――――――――――――――――――!!」 必殺光線ワイドゼロショットを放った! 光線を食らったベムラーは大爆発を起こした! 「おおおおお!?」 「つ、強すぎる……」 圧倒的な力で怪獣三匹を瞬く間に倒したウルトラマンゼロに、学院の者たちは呆気に取られていた。 そしてそのゼロは、怪獣を倒すと彼らに何も告げずに両腕を空高く伸ばし、飛び上がってそのまま空の彼方へ姿を消した。 「一体何が起こったんだ……?」 「あの巨人は一体……」 あまりに自分たちの常識からかけ離れた出来事に皆がついていけずに立ち尽くす中、ルイズは才人の姿を懸命に捜していた。 そうしていると、 「おうルイズ、ただいま」 塔の陰から才人がひょっこりと出てきた。ルイズは才人に駆け寄って詰め寄る。 「ただいまじゃないわよ! あんた、今の一体何!? さっきの巨人はサイトなの!? 一体何がどうなってたのよー!!」 「わ、わー! 声が大きいって!」 まくし立てるルイズの口を才人が塞いで静かにした。それから彼女に耳打ちする。 「えーっと、話は長くなるんだけど、とりあえず一つ……」 「何よ」 「あの巨人はな、ウルトラマンゼロっていうんだ。光の国から俺たちのためにやってきた平和の使者、 ウルトラマンだ!」 と言って、才人は誇らしく胸を張った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9336.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四話「うたかたのリシュ」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 超怪獣スーパーグランドキング 脳波怪獣ギャンゴ 地獄超獣マザリュース 夢幻怪獣バクゴン 百体怪獣ベリュドラ 登場 ゼロ、才人、デルフリンガーの三人の心が一つとなり、完成したウルティメイトイージスDSを その身に纏ったウルティメイトゼロ! 聖なる光が、邪悪な闇の化身と相打つのだ! 『キィーッ! どこまでも生意気な! そんな銀ピカの鎧を纏ったところで、このグランドキングには 敵わないってことをこっちが教えてあげるわよぉッ!』 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 憤怒するナックル星人の意思により、スーパーグランドキングが地響きを鳴らしてゼロへと 向かっていく。 「シェアッ!」 だがそれより早くゼロの方が間合いに踏み込み、右腕に装着された白銀の剣、ウルティメイト ゼロソードを振り上げた。 「グワアアアァァァァァァァァ!」 その一撃の威力は先ほどまでの比ではなく、斬りつけられたグランドキングの表面から 火花が飛び散って大きくひるませた。 『うぎゃあッ!? な、何ですってぇーッ!?』 「セェェェアッ!」 そこからゼロは怒濤の攻撃を加える。フェンシングさながらの連続刺突がグランドキングに 叩き込まれる。その速さたるや、傍目からだと剣が大量に増えたように見えるほどであった。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 グランドキングはほぼなす術なく刺突を食らい続ける。グランドキングは確かに恐ろしいまでの パワーと防御力を持った怪獣ではあるが、そのために肉体があまりに重いので、素早い動きを 取ることは出来ないのだ。 大抵の敵ならば莫大な力で封殺できるが、ウルティメイトゼロは並大抵のレベルなどはるかに 突き抜けている。更には才人とデルフリンガーの力もプラスされているのだ。速いのに重く鋭い 一撃を受け続け、グランドキングにも目に見えてダメージが溜まり始めた。 「す、すごい……」 いつもゼロの戦いを見ているルイズでさえ、ウルティメイトゼロの強力でありながら華麗な 剣さばきにはすっかりと見惚れていた。もう一年近くになるつき合いであるが、ゼロにまだ これほどの力が隠されていたとは。 これまでゼロは、ハルケギニアでイージスの力をほとんど使用してこなかった。それは エネルギー消費の問題や、不必要に大きな力に頼ることをよしとしない信条などの理由からで あるが、ずっと出し惜しみしていただけのことはあり、大怪獣スーパーグランドキングすら 押し込むほどのパワーを見せつけている。 『いい気になるんじゃないわよぉ! グランドキングの恐ろしさは、こんなものじゃあないわッ!』 だが敵もさすがにしぶといもの。攻撃を受けながらエネルギーを腹部の縦一列に並んだ 発光部に集め、反撃を繰り出そうとする。 「ッ!」 『食らいなさぁーいッ!』 「グワアアアァァァァァァァァ!」 正面のゼロに対し、光線を発射しようとする! 「タァーッ!」 ……そこに80の飛び蹴りが頭部に直撃し、光線発射が阻止された。 『な、何ですってぇーッ!?』 「いいぞー! 先せーいッ!」 80もいることを思い出さされたナックル星人が絶叫する。一方で80の教え子たちは、彼の活躍に 歓声を発した。 『サンキュー、80先輩! ぜりゃあああッ!』 80の作ってくれた隙を逃さず、ゼロは剣から衝撃波、ソードレイ・ウルティメイトゼロを放った。 飛んでいった斬撃はグランドキングの体表を切り裂き、更なるダメージを与える。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 『いい調子だぜ、相棒たち! このままぶっ倒してやんな!』 『ああ! 怪獣の悪夢なんて終わりにしてやろう!』 『よぉっし! そうとなったら、とっておきの一発をお見舞いしてやるぜッ!』 80のサポートもあり、必殺の一撃を繰り出そうと左腕を高く掲げるゼロ。が、しかし、 敵も黙ってはいなかった。 『舐めるんじゃないわよぉぉぉッ! これならどうかしらぁ!?』 グランドキングは再び腹部にエネルギーを溜めるが、ゼロたちから身体の向きを変える。 その方向は、ルイズたちがいる校舎だ! 『!? まずいッ!』 相手の狙いに気づいたゼロと80は慌てて校舎の前に回り込み、80は輪郭を手でなぞることで 光の壁、リバウンド光線を作り出した。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 その直後に、グランドキングは校舎に向けて大破壊光線を発射! リバウンド光線が受け止めるも、勢いは完全に防ぎ切れず、凄絶な轟音と旋風、土煙を巻き起こす! 「きゃあああああああッ!」 「ウゥッ!」 暴風にあおられて思わず悲鳴を上げるルイズたち。80は光の壁を後ろから押さえて、光線が校舎に 及ばないよう必死に耐えるが、グランドキングの攻撃の威力は絶大だ。壁は耐え切れず、少しずつ ひびが入っていく。 80がこらえている間に、ゼロは鎧を一旦解除。それをそのまま左腕につけ直し、大型の弓へと 変化させた。 『ファイナルウルティメイトゼロ! 奴を止めるには、こいつで倒す他はもうないぜ!』 それこそウルティメイトゼロの、文字通り最終最後の必殺技。ゼロは早速光の弦を引き絞り、 エネルギーを充填していく。 持てる光のエネルギーの全てをぶつけるファイナルウルティメイトゼロならば、グランドキングの 強固な肉体も突き破れるだろう。しかしこの必殺技は、エネルギーチャージまでが長いという大きな 欠点がある。80が耐え切れなくなるまでに発射が出来なかったら背にしているルイズたちは確実に お陀仏だ。果たしてエネルギーチャージは間に合うのか。 『ぐぅぅッ……!』 力を目一杯注ぎ込み、出来るだけチャージを早めようとするゼロだが、リバウンド光線は もう今にも破られそうな状態だ。傍から見ても、とても間に合いそうにない。 『オ――――ホッホッホッホッホッホッ! 大分てこずらせてくれたけれど、今度こそあんたたちは おしまいよぉぉぉぉッ!』 もう勝ったつもりになって高笑いするナックル星人。グランドキングは更に光線の勢いを増し、 光の壁は最早風前の灯火だ。 「……も、もう駄目だわ。あたしたちはおしまいなのよ。あたしが騙されたりしなければ……」 リシュは心が絶望によって折れ、思わずその場に膝を突いた。 しかし、ルイズは全く違った。 「いいえ! サイトは、ゼロたちは、こんなところで終わったりなんてしないわ!」 「えッ……」 確固たる自信に満ち溢れた言葉に、リシュはルイズの顔を見上げた。彼女の表情にも、 才人たちへの信頼が溢れていて、不安の色など一片もなかった。 「わたしたちの英雄は……帰ってきたわたしの使い魔は、絶対にわたしを守ってくれるんだから!!」 才人たちの力を信じて疑わないルイズに、リシュは一瞬呆気にとられた。 「わたしだって、サイトたちの助けになるわ! わたしにはその力があるんだから!」 杖を引き抜くルイズ。力いっぱいの『爆発』ならば、グランドキングの光線をさえぎって ゼロの時間を稼ぐことも不可能ではないはず。 だが『爆発』の呪文の一文字目すら唱えていない段階で、杖の先端にはまばゆい輝きが宿っていた。 「え……? この光は……?」 ルイズにもその輝きの正体は分からない。分からないが、きっと才人たちの助けとなるものだ。 彼女の直感が訴えた。 念を込めると、杖に宿っていた光はまっすぐゼロへと飛んでいき、彼の中に吸い込まれる。 すると何と! ファイナルウルティメイトゼロのエネルギーチャージが急速な勢いで進み始めたのだ。 『おぉッ!? な、何だこりゃ! すげぇぜッ!』 以前からルイズの“虚無”の魔法が自身に力を与えたことはあったが、今度はそれらを ずっと上回るものだ。これならば、発射も間に合うかもしれない! そして80の教え子たちも叫ぶ。 「先生! がんばれー!!」 だが応援のちょうどその瞬間に、光の壁は破られてしまう! 『勝ったぁッ!!』 確信するナックル星人。が! 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 何と、80はその身を盾にしてゼロと教え子たちをかばったのだ! 全てを消し飛ばして しまうほどの光線を一身に受けているにも関わらず、80は踏みとどまる! 『う、嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉ!? 何でそんなことが出来るのよぉぉぉぉぉぉぉ!!』 絶叫するナックル星人。その理由は、彼には全く理解することが出来ないものであった。 『私は先生だ! 応援してくれる教え子たちの前で……負ける訳にはいかないッ!!』 そして80の献身により、エネルギーチャージは完了した! 『今だッ! 80!!』 ゼロの呼びかけにより、80は横へと飛びすさる。さえぎるもののなくなった光線がゼロへと 襲いかかるが、同時に放たれたファイナルウルティメイトゼロが押し戻していく! 『いっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!』 弓がそのまま飛んでいき、回転しながら光線を突き破っていく。そうしてグランドキングまで届いた! 「グワアアアァァァァァァァァ!」 『そんなぁぁぁぁぁぁッ! ここまできてえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』 弓から溢れ出る光が、グランドキングの闇の波動を、中のナックル星人ごと浄化していった。 『闇の力が、消えていくぅぅぅぅぅぅ……!』 ナックル星人の断末魔を最後に、グランドキングは身体をぶち抜かれて大爆発。充満していた 闇は綺麗に晴れていった。 リシュは、誇らしげにゼロを見上げるルイズの顔を見つめて、つぶやいた。 「……そっか。あたしには初めから、勝ち目なんてなかったんだね……」 「ギャアオオオオオオウ!」 「オギャ――――――!」 「グアアァァァ――――!」 「ウオオオオオオォォォォ……!」 グランドキングが倒されたのと同時に、現実世界で人々を脅かしていた怪獣たちにも変化が訪れた。 「見ろ! 怪獣が……消えていくぞ!」 ギャンゴが、マザリュースが、バクゴンが、そしてベリュドラが、スゥッと薄れて消滅していった。 黒幕、ナックル星人の闇の力の影響がなくなったことで、存在が維持されなくなったのだ。 怪獣たちが完全に消え去ると、トリステインの人たちはようやく危機から解放されたと 知って心から安堵したのだった。 グランドキングが倒されたことで、夢世界の空を覆い尽くしていた厚い黒雲も晴れ、大空は 一面晴れ渡った。 だがそれは同時に、この夢の世界の崩壊も意味していた……。世界全体がゴゴゴゴ、と 大きく揺れ出し、世界の端から徐々に薄れて消えていくのだ。 『遂に目覚める時が来たんだな……。ルイズ!』 「うん!」 ルイズは差し出されたゼロの手の平の上に飛び乗る。その一方で、80の教え子たちはこの世界の 外へは出られない。彼らは大声で、80に別れの挨拶を送る。 「矢的先せーい! さようならー!」 「あなたは、僕たちの変わることのない誇りでーすッ!」 「先生、どうかずっとお元気でー!」 「私たち、先生の活躍をずっとずっと、見守ってますッ!」 口々に唱えて大きく手を振る教え子たちの姿を、じっと見つめる80。ゼロたちは彼ら教師と生徒の、 永遠の絆を感服の気持ちでながめていたが、ハッとリシュに気を向ける。 『リシュ、お前もこっちに!』 才人が、自分たちと来るように促したが……リシュは静かに、首を振った。 「ううん。あたしは、一緒には行かないわ」 『……!』 「ハルケギニアに戻っても、サキュバスは結局世の混乱の原因になるだけ……。あたしは夢の生物。 夢と幻のように消え去るわ……。初めから、そうするべきだったのよ……」 『そんなことは……!』 それでもリシュを助けたいと思う才人だが、ゼロの前の空間が崩壊して断絶し、リシュの元まで たどり着けなくなってしまった。 『うわぁッ! リシュ!』 「リシュ!」 叫ぶ才人とルイズたちに、リシュは寂しげに告げた。 「バイバイ、お兄ちゃん、ルイルイ……」 その時――80が前に乗り出した――。 そして才人とルイズは、ルイズの部屋の中で目を覚ました。 「あッ! 二人が目を覚ましましたよ!」 「うおお―――――! ぃやったぜぇぇぇぇぇ――――――――!!」 「よくぞ無事に戻ってきた……! よかった……本当によかった……!」 「お帰りなさい……サイトさん、ミス・ヴァリエール……!」 夢の世界で何があったのかを知らないグレンたちは大喜びして、クリスとシエスタは感涙を流した。 しかし、才人たちは周りにリシュの姿がどこにもないことを知って、小さくつぶやいた。 「リシュ……」 数日後。任務を果たしたクリスが、遂に魔法学院を去って故国に帰る時がやってきた。 学院の正門で、ルイズたちがクリスの見送りを行う。モンモランシー、ギーシュが言葉を掛けた。 「クリス、またいつか会いましょう。道中気をつけて」 「悲しみに心を引き裂かれそうだッ……! この僕を哀れんでくれるのなら、どうか再会の約束を!」 「そうだな、また会いたいものだな」 ギーシュの大袈裟な物言いにも、クリスは笑顔で応じた。 「タバサも元気で。国で珍しい本を見つけたら送ろう」 「……ん」 「シエスタ、そんな隅にいないでこちらへ」 「あ、あの、でも……わたし、平民ですし……」 「いいんだ。シエスタもわたしの大切な友人だ。どうか元気に」 一国の姫から「友」と呼ばれ、シエスタは若干気が引けつつも嬉しそうにはにかんだ。 「は、はいッ! ミス・オクセンシェルナもお元気で……!」 そしてクリスは、顔を強張らせて才人へ振り返る。 「……サイト」 「どうした。そんな思い詰めた顔して」 「帰る前にひと言謝っておきたいのだ。わたしは、サイトを見捨てかけた。本当に、すまなかった」 謝罪するクリスに、才人は朗らかに答える。 「ああ、そのことか。クリスは被害を最小限に抑えるためにがんばったんだろ? 結果的に 俺は助かったわけだし、いいって」 「そう言ってくれると嬉しい。……しかし、ルイズには一番迷惑を掛けてしまったな」 そう言われて、ルイズはクリスに告げる。 「確かに迷惑もしたけど、あなたといることで貴重な経験が出来て、楽しかったわ。だから、 気にしないで」 「ありがとう、ルイズ……」 ルイズたちの温かい気持ちに触れ、クリスは心から嬉しそうな顔であった。 そんな中、デバンがこっそり才人の袖を引く。 「サイトくん」 「デバン! こんなところで俺に話しかけていいのか?」 「誰もこっちを見てないからね、ちょっとだけなら大丈夫さ」 気楽に言ったデバンは、ふと眉をひそめる。 「それよりも……もっと早くサキュバスの正体に気づいていれば、事件も未然に防げたのに。 本当に、悪かったね」 「仕方ないだろ。あのちっちゃなリシュがサキュバスだなんて、冗談にも聞こえないし」 「そうかなぁ。仮にも元劇団だったのに、ちょっと自信なくしちゃったよ……」 「それに、本当に大変だったのは、あそこにいる俺のご主人様だからな」 ルイズに感謝の念を向ける才人。今回ばかりは、ルイズの命がけの活躍がなければ自分は 助からなかった。どれだけ感謝しても足りないくらいだ。 「そうか。じゃあ私が謝っていたって、ルイズにも伝えておいて」 「分かった。ほら、怪しまれる前にご主人様のところに戻れよ」 「ああ。じゃあね、また会えるといいね」 「元気でな、デバン」 「キュー!」 デバンはひと声鳴き声を発して、クリスの後ろに控えた。 最後に、クリスは次のことを話した。 「学院での日々は、本当に素晴らしいものだった。ただ一つだけ、サキュバスの行方が不明なままで 終わったことだけが心残りだが……」 才人たちが夢の世界から帰還した時、リシュは彼らの側には現れなかった。今日までの間に 学院周辺を捜索したが、結局発見することは出来なかったのだ。クリスは消えた地点に出現する はずだが……と訝しんでいた。 ルイズは顔を曇らせて、つぶやく。 「リシュは最後、現実世界への帰還を拒んだわ。だから崩壊する夢の世界と、そのまま……」 しかし才人は、それを否定した。 「俺はそう思わないな」 「え?」 「確証はないけれど……リシュはここじゃないどこか別の場所で、生きてると思うんだ。 そんな感じがする……」 才人は第六感とでも言うべき不思議な感覚で、そう感じ取っていたのだった。それを聞き、 クリスは薄く微笑む。 「わたしもそう願う。思えば、サキュバスを封印せざるを得ないのは人間の都合だ。人がもっと 賢くなって……サキュバスとも共存できるようになれば、今回のようなこともなくなる。いつか、 そんな風な世界になる日が来てほしいな……」 「ああ……」 才人たち一同は、この星により良き世界が訪れる未来を願い合った。 「……そろそろ時間だ。皆、世話になった」 「ねぇ、クリス。次は、変な問題はなしで来なさいよ。と、友達としてなら歓迎してあげるから」 少し照れながら誘うルイズに、クリスは微笑んでうなずいた。 「そうだな。今回は任務で来たが、次は友として皆に会いに来よう」 「ああ、待ってるからな」 「うむ。では皆、さらばだ!」 馬車に乗り込み、学院から離れていくクリスを、才人たちは大きく手を振って見送る。 「じゃあなー! クリスー!」 「また会いましょーう!」 不思議な夢の訪れとともに、魔法学院へやってきた不思議な武士の姫は、こうしてルイズたちと 友情と絆を築いて自分の国へと帰っていったのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9432.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十七話「決闘!ウルトラマンゼロ対悪のウルトラ戦士」 ウルトラダークキラー 悪のウルトラ戦士軍団 登場 六冊の本の旅を終えた才人とゼロだったが、ルイズの記憶は元に戻らなかった。更にはルイズが ダンプリメなる謎の人物に、本の中にさらわれてしまった! 才人たちはダンプリメの正体を、 ガラQに説得されたリーヴルから知らされる。ダンプリメは長い年月を経て本に宿った魔力が成長して 誕生した存在であり、人間に関心を持った末に莫大な魔力を秘めているルイズを自分のものにしようと、 リーヴルを脅して今回の事件を仕組んだのであった! そんなことを許せる才人ではない。彼は リーヴルの手を借りて、ダンプリメが待ち受ける七冊目の世界へと突入していった……! 「うッ……ここは……」 才人がうっすら目を開けると、そこはもう図書館ではない別の場所であった。本の中の 世界に入ったに違いない。 しかし七冊目の本の世界は、これまでの六冊の世界とは大きく異なっていた。それまでの 本の世界は、様々な宇宙の地球の光景そのままの街や自然で彩られた景観が広がっていたのに、 この世界は360度見渡す限り薄暗い荒野が続いていて、石ころとほこりしかないようであった。 「随分殺風景だな……。至るところに何もないぜ」 「それはそうさ。この本の物語はまだ一文字たりとも書かれていない。だからこの世界には まだ何もないのさ」 才人の独白に対して、背後から返答があった。才人は即座にデルフリンガーを抜いて振り向いた。 「ダンプリメ!」 果たしてそこにいたのはダンプリメ。才人のことを警戒しているのか、デルフリンガーの刃が 届かない高さで浮遊している。 「物語はこれから綴られるんだ。ウルトラマンゼロ……君たちが敗北し、ボクとルイズの永遠の 本の王国が築かれるハッピーエンドの物語がね」 ダンプリメはすました態度でこちらを見下ろしながら、そんなことを言い放つ。対して才人は、 デルフリンガーの切っ先をダンプリメに向けて言い返した。 「残念だったな。これから書かれるのは、俺たちがルイズを救出して現実世界に帰るハッピー エンドの物語だ!」 早速ダンプリメに斬りかかっていこうと身構える才人だが、それを察知したダンプリメは 才人から距離を取りつつ告げた。 「まぁ落ち着きなよ。そう勝負を急がずに、前書きでも楽しんでいったらどうだい? たとえば、 ボクがどうして六冊もの本の世界を君たちにさせたのか」 「何?」 自在に宙を舞うダンプリメが逃げに徹していると、才人も狙うのが難しい。相手の動きを 常に警戒しながら、ダンプリメの発言を気に掛ける。 「ルイズを手に入れる上で最大の障害である君たちを排除するため……おおまかに言って しまえばそういうことだけど、それは旅のどこかで本の怪獣たちに倒されればいいな、 なんて希望的観測じゃないんだよ。ボクも、そんな不確実な方法に頼るほど馬鹿じゃない」 「じゃあ何のためって言うんだ」 才人が聞き返すと、ダンプリメは自分でも言っていたように、遠回りな説明を始める。 「ところでボクは本から生まれた存在なだけに、その知識量はこの世界の誰の追随も許さない ものと自負している。何せ、トリステインの図書館の蔵書数がそのままボクの知識だからね。 それは世界の全てを知っているということに等しい。それこそあらゆることをボクは知っているし 実際に行うことも出来る……剣術も間合いの取り方だって達人のレベルさ」 いつの間にか、ダンプリメが剣を手に才人の背後にいた! 間一髪察知した才人は振り向きざまに、 相手の斬撃をデルフリンガーで弾く。 「図に乗るな! いくら本の内容を全部知ってるからって、世界の全てを知った気でいるのは 自惚れだぜ!」 「そうだね。逆に言えば、本に書かれてないことをボクは知らない。そう、君の中の光の戦士、 ウルトラマンゼロ。それなんかがいい例だ」 単なる余興だったのか、剣を弾かれても平然としているダンプリメは、才人の胸の内を指差した。 「ハルケギニアの外の世界からやって来て、超常的な力であらゆる敵を粉砕する無敵の戦士。 その力の前では、どこまで行っても本の世界から外に出ることは出来ないボクは呆気なく 粉砕されてしまうだろう。そう考えたボクは、リーヴルを通じてある策を実行した。無敵の ウルトラマンゼロを『本の中の登場人物』にしてしまうというね」 「何!?」 ここまでの説明で才人も、ダンプリメの狙いが薄々分かってきた。 「本の中に引き込んでしまえば、ボクは相手の能力を分析することが出来る。六冊分もの 旅をさせて、既にウルトラマンゼロの力は隅々まで把握してるよ。……だけど、狙いは それだけじゃあないんだ」 「まだあるってのか!」 「旅の中で、君たちは度々その本の世界には本来存在しない怪獣と戦っただろう。あれらは ボクの介入で出現したんだ。何でそんなことが出来たのかって? それはこの『古き本』の 力によるものさ!」 ダンプリメが自慢げに取り出して見せつけたのは一冊の本。それは……。 「怪獣図鑑!?」 どこで出版されたものか、古今東西の様々な怪獣の情報が記載されている図鑑であった。 そんなものまでトリステインに流れ着いていたのか。 「それだけじゃない。本の中の存在も生きてるんだよ。本の中の怪獣が君たちに倒されるごとに 生じた怨念のエネルギーも、ボクは集めてたんだ。そういうこともボクは出来るんだよ」 それは黒い影法師の力か。ダンプリメはそんな能力まで学習していたのだ。 そしてダンプリメの周囲に、六つの禍々しく青白い人魂が出現する。 「……それが真の狙いかよ!」 「さぁ、機は熟した。ウルトラマンゼロへの怨念が一つになり、今こそ誕生せよ! ゼロを 上回る最強の戦士よッ!」 ダンプリメの命令により人魂が一つになり、マイナスエネルギーも相乗効果によって膨れ上がる。 そして人魂が巨大化して戦士の形になっていった! 「あ、あれは……!」 新たに生まれた、邪悪な力をたぎらせる巨人の戦士を見上げて、才人は思わずおののいた。 あまりにもおぞましいオーラを湛えた異形の姿だが、胸の中心に発光体を持つその特徴は、 明らかにウルトラ戦士を模していた。頭部には四本ものウルトラホーン、腕にはスラッガーが 生えていて、様々なウルトラ戦士の特徴を有しているようである。 「目には目を。歯には歯を。古い言葉だが、ウルトラマンを葬るのにも闇のウルトラマンが 最もふさわしいだろう。君たちウルトラ戦士を抹殺する闇の戦士……ウルトラダークキラー とでも呼ぼうかな」 「馬鹿な真似はよせ! 闇の力ってのは、手を出したら取り返しがつかないことになるぞッ! 今ならまだ間に合う!」 警告を飛ばす才人だが、ダンプリメは取り合わず冷笑を浮かべるだけだった。 「おやおや、ウルトラダークキラーを前にして臆病風に吹かれちゃったかな? 君が勇士と いうのは、ボクの買い被りだったかな」 「……どんなことになっても知らねぇぞッ!」 才人はやむなくウルトラゼロアイを装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体が光り輝き、この暗い世界を照らそうとするかのように閃光を発するウルトラマン ゼロが立ち上がった。 「ふふ、いよいよ最後の決戦の始まりだ。さぁウルトラダークキラーよ、恨み重なるウルトラマン ゼロをその手で闇に還すがいい!」 ダンプリメの命令によって、ウルトラダークキラーが低いうなり声を発しながら腕のスラッガーで ゼロに斬りかかってきた! 「セアッ!」 こちらもゼロスラッガーを手にして対抗するゼロだが、ダークキラーの膂力は尋常ではなく、 押し飛ばされて後ろに滑った。 『くそッ、とんでもねぇパワーだな……!』 ダークキラーは倒した本の怪獣全ての怨念の結集体というだけあり、力が途轍もないレベル だということが一度の衝突だけでゼロには感じられた。 『こいつは全力で行かねぇと駄目なようだな! デルフ!』 そこでゼロはゼロスラッガーとデルフリンガーを一つにして、ゼロツインソードDSを作り出した。 本の世界では一度も使用していないこれならば、ダンプリメも対策はしていまい。 『こりゃまた歯ごたえのありそうな奴じゃねぇか。相棒、遠慮はいらねぇ。かっ飛ばしな!』 『もちろんだぜ! はぁぁぁぁぁッ!』 ゼロはツインソードを両手に握り締めて、一気呵成にダークキラーへと斬りかかっていった。 ゼロツインソードとダークキラーのスラッガーが激しく火花を散らしながら交差する。 ダークキラーはその内にゼロを突き飛ばすと、スラッガーを腕から切り離して飛ばしゼロへ 攻撃してきた。 「セェェアッ!」 ゼロは一回転して迫るスラッガーをツインソードで弾き返す。スラッガーがダークキラーの 腕に戻った。 『なかなかやるじゃねぇか……』 一旦体勢を整えて、ひと言つぶやくゼロ。ダークキラーの戦闘力はかなりのもので、 ゼロツインソードを武器にしてもやや押されるほどであった。しかし、ゼロは決して戦いを あきらめたりはしない。どんな相手だろうとも最後まで立ち向かい、勝利をもぎ取る覚悟だ。 だが、この時にダンプリメが次のように言い放った。 「そっちもさすがにやるものだね。このダークキラーに食い下がるなんて。……だけど、 ボクはより確実に君を倒す手段を用意してるんだよ」 『何!?』 「さぁ、ここからが本番だッ!」 パチンと指を鳴らすダンプリメ。それを合図にしてダークキラーの身体から怨念のパワーが 次々と切り離されて飛び散り、それぞれ実体と化してゼロを取り囲む。 それらは全て、ダークキラーと同じように暗黒のウルトラ戦士の形を成した! 『な、何だと……!?』 カオスロイドU、カオスロイドS、カオスロイドT、ダークキラーゾフィー、ダークキラージャック、 ダークキラーエース、ウルトラマンシャドー、イーヴィルティガ、ゼルガノイド、カオスウルトラマン、 カオスウルトラマンカラミティ、ダークメフィスト……ウルトラダークキラーも含めたら何と十三人にも 及ぶ悪のウルトラ戦士軍団! ゼロはすっかり囲まれてしまった! 『おいおいおい……こいつぁ絶体絶命って奴じゃねえか?』 口調はおちゃらけているようだが、その実かなり本気でデルフリンガーが言った。 「行くがいい、ボクの暗黒の軍勢よ! 恨み重なるウルトラマンゼロを葬り去れッ!」 ダンプリメの号令により、悪のウルトラ戦士たちが一斉にゼロへと襲いかかる! ゼロは ツインソードを握り直して身構える。 『くぅッ!?』 カオスロイドやダークキラーたちが飛びかかってくるのを必死でかわし、ツインソードを振り抜いて ウルトラマンシャドーやゼルガノイドを牽制するゼロ。だが悪のウルトラ戦士は入れ替わり立ち代わりで 攻撃してくるので、反撃の糸口を掴むことが出来ない。 そうして手をこまねいている内に、カオスロイドSのスラッガー、ウルトラマンシャドーの メリケンパンチにツインソードが弾き飛ばされてしまった。 『し、しまった!』 回収しようにも、カオスウルトラマンたちやダークメフィストが立ちはだかって妨害してきた。 立ち往生するゼロをイーヴィルティガ、ゼルガノイドが光線で狙い撃ってくる。 『うおぉッ!』 懸命に回避するゼロだったが、十三人もの数から狙われてそうそう逃げ切れるものではない。 ウルトラダークキラーを始めとした悪のウルトラ戦士たちの光線の集中砲火を食らい、大きく 吹っ飛ばされた。 『ぐはあぁぁぁッ!』 悪のウルトラ戦士はどれも本当のウルトラ戦士に迫るほどの恐るべき戦闘能力を持っている。 しかもゼロがたった一人なのに対し、二桁に及ぶ人数だ。多勢に無勢とはこのことで、ゼロはもう なす術なくリンチにされている状態であった。 完全に追いつめられているゼロのありさまに、ダンプリメが愉快そうに高笑いした。 「ははは……! 実質一人で乗り込んでくるからこんなことになるのさ。仲間を危険な罠から 守りたかったのかもしれないけど、一緒に本の世界の中に入る方が正解だったのさ」 今もなお袋叩きにされているゼロを見やりつつ、勝ち誇って語るダンプリメ。 「君はこれまで、一人の力だけで勝ってきた訳じゃないようだね。仲間の助けを受けることも あった。……だけど、この本の世界では君の仲間なんてどこにもいない。君は独りなのさ、 ヒラガ・サイト……ウルトラマンゼロッ!」 最早エネルギーもごくわずかで、息も絶え絶えの状態のゼロにウルトラダークキラーが カラータイマーからの光線でとどめを刺そうとする……! その時であった。 「それは違うわ!」 突然、ダンプリメのものではない甲高い声……才人たちにとって非常に慣れ親しんだ声音が 響き渡り、ダークキラーがどこからともなく発生した爆発を受けてよろめいた。 恐るべき暗黒の戦士のウルトラダークキラーの体勢を崩すほどの爆撃……それも才人たちは よく覚えがあった。 『ま、まさか……!』 ゼロが振り向くと、その視線の先に……桃色のウェーブが掛かった髪の少女が腰に手を当て、 無い胸を張っているではないか! 『ルイズッ!!』 才人は歓喜や驚愕、疑問など様々な感情が入り混じった叫び声を発した。また驚き、動揺 しているのはダンプリメも同じだった。 「そ、そんな馬鹿な! ルイズの意識は確かに眠らせていたはず……それがどうしてこの場に いるんだ!?」 ルイズはダンプリメの疑問の声が聞こえなかったかのように、ゼロに向かって叫んだ。 「ゼロ、しゃんとしなさい! あなたは独りなんかじゃない。……本の世界でも、あなたは たくさんの人を助けて、絆を紡いでいったんでしょう? わたし、覚えてるわよ!」 そして空の一角を指し示す。 「ほら、みんなが駆けつけてくれたわよ!」 ルイズの指差した方向から、ロケット弾や光弾が雨あられと飛んできて、ゼロに光線を 発射しようとしていたカオスロイドU、S、カオスウルトラマン、カラミティの動きを阻止した。 『あれは……!』 ゼロの目に、この場に猛然と駆けつけてくるいくつもの航空機の機影が映った。 ジェットビートル、ウルトラホーク、テックライガー、ダッシュバード! どれも各本の世界で 共闘した防衛チームの航空マシンだ! 「何だって……!?」 またまた絶句するダンプリメ。だがそれだけではなかった。 「彼らだけじゃないわ。ほら見て! みんなやって来たわよ!」 各種航空機の編隊に続いて飛んでくるのは……あれはウルトラマン! ウルトラセブン! ゾフィー! ジャック! エース! タロウ! コスモスにジャスティス! マックス! ティガにダイナにガイアも! 計十二人ものウルトラ戦士がマッハの速度で飛んできて、 ゼロを守るようにその前に着地してずらりと並んだ。さすがの悪のウルトラ戦士たちも、 この事態にはどよめいてひるんでいる。 『み、みんな……!』 声を絞り出す才人。最早言うまでもないだろう。彼らは六冊の本の世界の旅の中、才人と ゼロが出会い、助け、助けられた者たちである。 才人は最後の旅の終わり際にティガ=ダイゴが言っていた言葉を思い出した。「この恩は 必ず返す」……その約束を果たしに来てくれたのだ! 『みんな、本の世界の枠を超えて、助けに来てくれたのか……!』 強く胸を打たれるゼロ。彼はコスモスとジャスティスからエネルギーを分け与えてもらって、 力がよみがえった。 そしてルイズが救援のウルトラ戦士たちに告げるように、高々と宣言した。 「さぁ、行きましょう! このウルトラマンゼロの物語をハッピーエンドにするために!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9104.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十二話「爆弾魔星人」 サーベル暴君マグマ星人 銀河星人ミステラー星人(悪) 緑色宇宙人テロリスト星人 登場 「……平賀くん」 「んんッ……」 「平賀くんってば」 春奈の声に呼ばれて、才人は目を開いた。 「ああッ、ごめん……。トリスタニアに着いたんだね?」 顔を上げながら問いかけると、目の前の春奈が苦笑を浮かべた。 「全く……。何を寝ぼけてるの? もう下校時間でしょ」 「……!? あれ、ここは学校じゃないか」 目をこすって辺りを見回した才人は、一気に寝ぼけ眼が覚めた。今彼がいる場所は、ハルケギニアに 召喚される前には毎日通っていた高校の教室。春奈も自分も、着慣れた制服を着ている。だが、 どうして学校? 才人は今日の出来事を思い返す。 まず、ソドムの事件の際に春奈が目立ったことで、学院に春奈の存在が発覚。その件で 校長のオスマンに呼び出されたのだ。学校の掟を破ったルイズたちなのだが、春奈が才人の 世界の人間であること、才人のクラスメイトだということ、理由は分からないが宇宙人たちに 狙われていて、それでかくまっているということを必死に説明すると、オスマンは理解を 示してくれて、特別に春奈の滞在を許可してくれた。 それで一件落着かと思いきや、その場でオスマンから、アンリエッタがルイズたちを呼んでいることを 話した。それでルイズと才人は、すぐにトリスタニアに発つことになった。春奈のことを報告する ちょうどいい機会ということもあり、春奈も連れていくことにした。シエスタは留守番のはずだったが、 春奈と、主に才人の処遇を心配した彼女は便乗してきてしまい、放り出す訳にもいかずに、結局一緒に 行く羽目になった。 こうして四人で馬車に揺られながら一路トリスタニアを目指していたが……それがどうして こんな状況に? 「放課後になっても、平賀くんずっと寝てるんだもん。授業全部寝てたんじゃない?」 「え……寝てた?」 春奈の呼びかけで、才人は混乱した。まさか、ハルケギニアでのこと全てが、自分が見ていた 長い夢だったのか? 「平賀くん、今日の日直でしょ? 早く学級日誌を書かないと」 「あれ、そうだっけ?」 春奈に言われて、首をひねる才人。そんなこと言われても、才人には今日学校で過ごした 記憶は何もないのだ。困っていると、春奈は怒った顔になる。 「そうだっけって……今日は私と日直だったじゃないッ! 仕事、ほとんど私がやったんだからね」 「そうだったんだ……ごめん」 怒らせてしまったことで、才人は慌てて謝った。が、彼女に怒りを収める様子はない。 「もう、平賀くん、ボサッとしてばかりだよ。……そんな平賀くんには、お仕置きしちゃうんだから」 「お、お仕置き?」 ルイズみたいなひと言が飛び出たので、才人が驚いて春奈の顔を見返すと、更に驚く光景を 目にすることになった。 春奈の顔にいつの間にか、白いおたふく顔の能面が被られていたのだ。 「は、春奈!?」 しかもその能面の口から、火炎が噴射された。硬直していた才人は炎を全身に浴びる。 「待ってくれ、春奈! やめるんだぁ! うわあああああッ!!」 自分の絶叫で、才人は馬車の中で飛び起きた。目の前には、ルイズの驚いた顔。 「サイトッ? どうしたの? 寝てたと思ったら、いきなり声を上げて」 「サイトさん、悪い夢でも見たんですか?」 隣のシエスタが尋ねた。斜向かいには、水筒の水を飲んでいたところの春奈が同じく驚いた目を こちらに向けている。 「ここはどこ?」 ぜぇはぁと息を切らす才人が聞くと、ルイズがすぐに答えた。 「まだ街道よ。それがどうしたの?」 「サイトさん、汗すごいですよ? どんな悪夢だったんですか?」 「平賀くん、もしかして、まだ風邪抜け切ってないの?」 「い、いや何でもない……」 シエスタの質問を、才人はごまかした。春奈が攻撃してくる夢を見た、なんて言っても、 空気を悪くするだけだろう。 (どうしてあんな夢見たんだろう。春奈が怪物になって俺を襲う? そんな馬鹿な……) 「……?」 才人の視線に気づいて、春奈は不思議そうに小首を傾げた。 それから数刻後、トリスタニアに到着した四人は、早速トリステインの王宮を訪問した。 「わぁ、すっごく綺麗なお城! まるで、ファンタジーの世界に入り込んだみたい!」 「ふふ、当然よ。ここは由緒正しきトリステイン王国の、歴史のある王宮なんだからね。 城自体が、トリステインが各国に誇る財産の一つなのよ」 廊下で春奈が、元の世界ではまず見られない光景に興奮してキョロキョロ辺りを見回すと、 ルイズがさも自分のことかのように胸を張った。だが、春奈はすぐに肩を落として寂しそうに 顔を曇らせる。 「春奈?」 「本当に……私、知らない世界に来ちゃったんだね。みんな、今頃元気にしてるかな……」 現実世界と大きくかけ離れた光景は、却って春奈の孤独感をかき立ててしまったようだ。 それでルイズとシエスタも表情を落とすと、才人が春奈を元気づけた。 「そんな心配するなって、春奈! この世界にもウルトラマンが来てるんだ。侵略者たちを 撃退したら、きっと元の世界に帰してくれるさ」 「そうかな……?」 「ああ。だから、くよくよしてないで元気出そうぜ!」 「……うん! ありがとう、平賀くん」 才人の激励で、春奈は少しだけ気力を回復させた。その様子を見ていたゼロは、心の中で 決意を固める。 (早いとこ、宇宙人連合とヤプールをとっちめて、春奈を元の世界に戻してやらないとな。 もちろん才人も……) そこまで考えて、才人は、どうするつもりなのだろうか……と、ふとそんなことを考えた。 普通なら、すぐにも地球に帰ることを選ぶだろうが、今の才人はルイズの使い魔の立場なのだ。 果たして、いざ帰れる日が来た時に、彼はどっちの道を選ぶのか? などと考えている間に、一行がアンリエッタに謁見する時がやってきた。 人払いをされた謁見の間で、アンリエッタが一人でルイズたちを待っていた。ルイズの顔を ひと目見たアンリエッタは、喜びを顔に浮かべて腰を浮かす。 「ああッ、よく来てくれましたね! ルイズ・フランソワーズ」 ルイズはすぐにひざまずき、アンリエッタに頭を垂れる。 「姫さま、ご機嫌麗しゅう」 「ルイズ。あなたも相変わらず元気そうですね。顔を上げて下さい」 「はい……」 自分を律しているのか、相変わらず最初はかしこまるルイズに苦笑したアンリエッタが 許可を出すと、ルイズは言われた通り顔を上げて立ち上がった。 「そちらの使い魔さんも、変わらないようですね。それと、そちらの女性は?」 ルイズから才人たちに目を移したアンリエッタは、初対面のシエスタと春奈に目を留めた。 まずはシエスタが名乗る。 「はい。わたくし、魔法学院で給仕を務めております、シエスタと申します」 「あ、あの……。今回はわたしの給仕としてこの城へと連れてきています」 勝手についてきた、とはさすがに言えないので、ルイズはそう言い訳した。アンリエッタは、 特に気にしなかったようだった。 「シエスタさんとおっしゃるのね。どうぞよろしく。それと、もうひと方の彼女は……あまり この辺では見かけない顔立ちのようですけど?」 「あ、あのッ、彼女は……」 ルイズが説明に窮していると、春奈が緊張した様子で、自ら名乗った。 「あのッ……。初めてお目に掛かります。わたくし、高凪春奈と申します」 「タカナギハルナさんとおっしゃるのですね。学院長から報告のあった、使い魔さんや ウルティメイトフォースゼロと同じ、このハルケギニアではない異世界から来られた方なのかしら?」 アンリエッタは既に、オスマンからある程度のことを聞いているようだった。ルイズが 気を取り直して口を開く。 「そのことについては、これよりわたしが全てをお話し致します。姫さま、どうか落ち着いて 耳をお傾け下さい」 「分かりました、ルイズ。あなたの告白を、素直に受け止めましょう」 それからルイズは、春奈を偶然拾ってから今日までのことを、隅々まで説明した。全てを 聞き入れたアンリエッタは、おもむろにうなずく。 「なるほど、大体のことは分かりました。学院長のおっしゃる通り、タカナギハルナは、 使い魔として召喚されたのではなく、ウチュウ人に拉致され、つけ狙われる理由も未だ 分かってないというのですね」 「はい」 確認を取ったアンリエッタは、判断を下す。 「分かりました。タカナギハルナの身柄は、引き続きルイズ・フランソワーズに一任します。 ただし、事情が事情ですので、異世界から来たことを公にすることは禁じます。よからぬ陰謀を 抱く人たちに利用されるかもしれませんから」 「姫さまにご理解を頂けましたことを、深く感謝致します」 「女王様、ありがとうございます」 ルイズと春奈が礼を告げると、アンリエッタが春奈に向き直った。 「ハルナさん」 「はい」 「いきなり異世界での生活。大変かもしれませんが、頑張って下さい。この使い魔さん同様、 いつか帰れる日が来るはずです」 「ありがとうございます!」 アンリエッタとの、春奈の話がひと段落着いたのを見て、シエスタが口を開く。 「良かったですね。これで無事解決でしょうか?」 「ああ、そうだな」 才人も頷いたが、ここに来てアンリエッタは、話題をガラリと変えた。 「ところで、ルイズのことをこうしてわざわざ呼び出したのには、別の理由があります」 「えッ……。そうなのですかッ!? わたしはてっきり、ハルナのことで呼ばれたのかとばかり……」 「いいえ。ハルナさんのことは今日初めて知りました。これからお話しすることは、ある意味、 深刻な問題です」 目つきをやや鋭くしたアンリエッタは、春奈とシエスタの二人に告げる。 「ハルナさん、シエスタさん。すみませんが、席を外して下さいませんか?」 「はい、分かりました」 「それでは、失礼致します」 二人には聞かせられない、物騒な内容の話のようだ。春奈とシエスタの二人が謁見の間から 退出すると、アンリエッタは面持ちを正す。 「では、本題に入ります。実は、先日の四体の怪獣の出現前後から、トリスタニアの各地で 爆弾によるテロ行為が続発しているのです」 「そうなのですか!」 ルイズが驚きの声を上げると、ゼロがボソリとつぶやいた。 『道理で、街の被害地が多かった訳だ』 アボラス、バニラ、グランゴン、ラゴラスの四怪獣との戦闘後に見下ろした街の景色と比べて、 トリスタニアの街並みは、崩壊した箇所が増えていたのだった。 「犯人像は、未だに特定できていません。そして爆発の痕跡を調査した結果、爆弾はハルケギニアに ない技術で作られたもののようなのです」 「とすると……それも宇宙人の仕業ということですか?」 「その可能性が高いでしょう」 才人の問い返しに首肯したアンリエッタだが、そこで疑問を一つ提示する。 「しかしそうだとすると、やり方が迂遠なように思えます。始めにいきなり総攻撃を仕掛けて ハルケギニア全土を落とそうとした時と比べたら、特に」 「そうですね……。今までは、もっと直接的な手段に訴えてきましたしね」 これまでの侵略者の動向を思い返して同意するルイズ。ゼロを倒してハルケギニアを侵略しようと 目論む宇宙人たちが、街を爆弾で破壊するような遠回りな方法を取るとは思えない。 「モット伯の件もあります。ひょっとすると、狙いはトリステインそのものではないのかもしれません。 そこでルイズと使い魔さんには、爆弾魔の調査と、出来れば確保をお願いしたいと思います」 「お願いだなんて、とんでもありません。ラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズが、 貴族の名に懸けて爆弾使いを姫さまの御前に連れて参りますとも」 アンリエッタの頼みを、ルイズはすぐに請け負った。 「本当でしたらこんな危険なことを、友人であるルイズなどには頼みたくないのですが、 ウチュウ人に対抗できるのはウルティメイトフォースゼロ以外では、『虚無』の担い手の ルイズと異世界人でガンダールヴの使い魔さん以外にいません。どうか、お願いします……」 「もったいないお言葉です。必ず、姫さまのご期待にお応えします」 「姫さまは、俺たちの吉報を楽しみに待っていて下さい」 申し訳なさそうなシエスタに、ルイズと才人が胸を張って告げた。 「まぁ、頼もしいですわ。ルイズと使い魔さんの働き、信じていますよ」 アンリエッタがにっこりと微笑んだその時に、異常事態が早速発生した。 王宮の外から、激しい爆発音が起こり、それに合わせてかすかな震動が謁見の間に響いたのだ。 「んぅ……!」 「きゃあッ!」 「何!?」 驚いた三人が反射的に悲鳴を上げた。才人が険しい目つきで顔を上げる。 「噂をすれば影が差す……とは、このことか!」 「上等じゃない。行くわよ、サイトッ! 姫さまは、安全なところに逃げて下さいッ!」 「ルイズッ!」 才人とルイズが、すぐに謁見の間を飛び出そうとすると、アンリエッタがルイズを呼び止めて、 ひと言告げた。 「無理だけはしないと約束してね」 「もちろんですとも。さあ、早く奥へッ!」 ルイズが毅然とした顔つきで了解した。一方の才人はデルフリンガーを早くも抜刀する。 「デルフ、ここからは俺たちの出番だ」 「ノってきたな、相棒ッ! 相手が相手だ。油断するんじゃねえぜ?」 「ゼロも、敵が本気で襲ってきた時は頼む」 『分かってるさ!』 ゼロも応答すると、才人は爆音のした方向を一瞥し、ルイズに呼びかける。 「ルイズ、こっちだッ!」 「ち、ちょっと待ちなさいよ! 爆弾魔の奴、今に見てなさい。絶対に捕まえてやるんだからッ!」 ルイズは気炎を吐いて、先行する才人の背を追い掛けていった。 王宮を飛び出した才人とルイズの二人は、ブルドンネ街の爆発があったと思しき地点へ たどり着いた。 「ここかッ!」 「ひどい……。辺りが滅茶苦茶じゃない」 ブルドンネ街は、爆発のあったことで多くの人々が右往左往して逃げ惑っている。そんな中で、 二人は吹き飛ばされた家屋の数々の跡に目をやって、ルイズが胸を痛めた。だが、周辺に目を 配りながら一つ疑問を浮かべる。 「でも、どうしてわざわざこんな民家を狙うのかしら? 特に、この辺りは怪獣の攻撃で、 最初からボロボロなのに」 爆発のあった場所は、アボラスの攻撃で破壊された地点のすぐ脇だった。そのために、 この辺には元から人も集まっていない。テロ行為のつもりならば、何故被害の少ない場所を わざわざ選ぶのか。 『ハハハハハハ! お前ら、また現れたな! ナターン星人に、ダダとギギが世話になったなぁ!』 「! その声はッ!」 唐突に、二人に聞き覚えのある声が掛けられた。デルフリンガーが才人に呼びかける。 「相棒、屋根の上にいるぜ」 爆破された家屋の通りの反対側の家に、サーベルを手に嵌めた宇宙人が乗っていて、こちらを 見下ろしていた。最初に春奈を狙い、ダダとギギにも指令を出していた悪しき侵略者、マグマ星人だ。 「マグマ星人! またお前か!」 宇宙人が姿を現したことで、民衆は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 才人とルイズはその場に残り、マグマ星人を厳しい目つきで見上げる。 『今日はお前らに用があったんじゃないんだが、ちょうどいい! ついでにお前らを消して、 あの娘を頂いて帰るか!』 マグマ星人は屋上から一気に通りに降りてきて、サーベルを向けてきた。それに対抗するように、 才人もデルフリンガーの切っ先を向ける。 「そんなことさせるもんか! 今度も返り討ちにしてやる!」 「ハルナに続いて、この爆発テロ! 一体何をたくらんでるのか、全部吐いてもらうわ!」 才人とルイズが叫びつけると、マグマ星人がニヤリと笑う。 『ふッ、この前と同じように行くと思ったら大違いだ。今日は、ナターン星人どもみたいな 役立たずとは違う、戦いのプロを連れてきてるんだよ!』 「戦いのプロだと!?」 『出てこい! ミステラー、テロリスト!』 マグマ星人の命令で、通りの陰から二人の宇宙人が更に飛び出してきて、マグマ星人と合わせて ルイズたちを取り囲んだ。一人はタツノオトシゴのような首を持った赤い宇宙人で、もう一人は 反り返った片刃剣を右手に握った、全身緑色の奇怪な容貌の宇宙人だ。 才人がすぐに新たな宇宙人たちの情報を検索した。 「ミステラー星人にテロリスト星人。どっちも、宇宙でも有数の好戦的種族か……!」 マグマ星人の言った通りだと分かり、顔を歪める才人。ミステラー星人は、アテリア星を 始めとした数多くの星と星間戦争を行っている戦闘種族。一方のテロリスト星人は、ガスを 食料とする種族なのだが、そのガスを他の惑星に求め、惑星の住人を虐殺した上で残らず 強奪するという、非常に貪欲な殺人強盗なのだ。そして両者とも、その性質故に戦闘能力に 優れているという。 強力な敵であるということを聞き、ルイズが額にジトッと脂汗を浮かべた。それを察した才人が、 小さく問いかける。 「……怖いか、ルイズ?」 「……ん。……平気」 ルイズはそれに、はっきりと答えた。 「サイトが……ちゃんと守ってくれるなら平気」 「分かった。それを聞いたからには、ちゃんと守るしかないな!」 デルフリンガーの柄を握り直す才人。その左手の甲のルーンが、より強く輝き、才人の体に 一層の活力を与える。 「相棒、相手も来るぞ」 「ああ。戦闘開始だ!」 才人とルイズの動きを見張っていた三人の宇宙人に動きが起こる。それによって、才人も 足を踏み出して、敵に斬りかかっていった。 「うりゃあッ!」 『ふんッ!』 疾風のような、超人の域の速さを出して剣を振るう才人だが、テロリスト星人が斬撃を片刃剣、 テロリストソードで受け止めた。さすがに戦闘のプロと呼ばれるだけあって、人外の反応速度だ。 『シャアッ!』 テロリスト星人に止められた才人に、右からマグマ星人が飛び掛かってきた。サーベルの 刺突が迫ることを、才人はデルフリンガーに教えられて、左に跳んで逃れた。 逃げた才人に向けて、テロリスト星人は左手を向ける。そこに埋め込まれた銃、テロファイヤーが 火を吹いた。才人は凶弾からギリギリのところで逃れる。 『グワッハッハッハッ! 貴様らを始末すれば、この星に眠る天然ガスは全て我らテロリスト星人のものだ! 何とも簡単な仕事よ!』 聞かれてもいないのに、テロリスト星人が豪語した。やはり、ハルケギニアのガスを報酬に 宇宙人連合に雇われているようだ。 『娘! お前は私が息の根を止めてやろう! どうせその体格では、戦士にも使えそうにない!』 才人がテロリスト星人とマグマ星人に二人掛かりで狙われる一方、ルイズの方にはミステラー星人が 腕を広げて襲い掛かっていた。先の二人と違って特に武器は持たないミステラー星人だが、腕力は 人間よりもはるかに上で、それだけで十分な武器になる。ルイズは小柄な体躯を活かして、ミステラー星人から 上手く逃げ回る。 (こういう時は、不本意だけど、この体で良かったって思えるわね……) 杖を抜いて魔法で反撃しようとするルイズだが、メイジは呪文を唱える間は無防備。『虚無』の担い手は、 その弱点が顕著だ。攻撃しようとすれば、たちまちミステラー星人の格好の的になってしまうだろう。 だがルイズは、それが分かった上で、呪文の詠唱を始めた。詠唱中は、才人が守ってくれる。 そう信じているからだ。 『足を止めたな! 馬鹿めッ!』 当然、ミステラー星人はここぞとばかりにルイズに飛び掛かる。メイジの弱点は、宇宙人たちも しっかり把握している。呪文が完成する前に仕留めようというつもりだ。 だがその時、才人がミステラー星人の動向に気づいて即座に動いた。今の彼は、ルイズの 詠唱を聞くことで、更にガンダールヴの力を引き出していた。 「はぁッ!」 残像が残るほどのスピードで一気にミステラー星人の前方へと割って入る才人。彼を狙っていた マグマ星人とテロリスト星人は目で追うことが出来ず、才人が消えたように見えて目をひん剥いた。 「ルイズに手出しはさせねぇーッ!」 『がぁッ!?』 デルフリンガーの切り上げが入り、ミステラー星人は綺麗に弧を描いて迎撃された。マグマ星人と テロリスト星人は慌てて狙いを直すが、その時には才人はもう眼前に迫ってきており、薙ぎ払いで 一挙に二人とも吹っ飛ばされた。 『ぐはぁッ!?』 『な、何だこいつ! 本当に地球人なのか!?』 地面の上に転がったマグマ星人が気を動転させながらわめくと、才人が叫び返した。 「言っただろ! 俺はただの地球人じゃない、ゼロの使い魔だってな!」 そして、ルイズの呪文が完成した。 「『爆発』!」 『ギャアアアアアァァァァァァァァァ―――――――――――!!』 通りを激しい輝きが包み込み、マグマ星人たちを爆発が呑み込んだ。だがルイズと才人は全くの無事だ。 「やったか!?」 「ううん。精神力の問題で、タルブ村の時のような威力は出せないから、きっとまだ……」 光が収まると、ルイズの予測が的中した。宇宙人三人は、いつの間にか40m以上の体躯に巨大化していた。 『ガキどもぉッ! 遊びはおしまいだ! 粉々に踏み潰してやるッ!』 激昂したマグマ星人が怒鳴るが、そんなものでひるむ才人ではない。ウルトラゼロアイを取り出すと、 ウルトラマンゼロに変身して戦う役目を交代してもらう。 「デュワッ!」 ゼロは変身と同時に巨大化し、敵三人の間に両腕をぐっと振り上げて仁王立ちした。 『全く懲りねぇ奴だな、マグマ星人。誰を連れてきたところで、このウルトラマンゼロが 纏めて成敗してやるぜ!』 ファイティングポーズを取ったゼロはそう宣言して、三人を同時に相手取る姿勢を見せた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9280.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十二話「ハルケギニアの剣豪」 古代怪獣ツインテール 地底怪獣グドン マスコット小怪獣デバン 登場 「グギャ――――――!」 「グオオオオオオ!」 早朝のトリステインのとある草原。普段は平穏な空気が流れる土地だが、現在は二大怪獣と それに挟まれたウルトラマンゼロがそびえ立っており、強い威圧感が草原を覆っていた。 怪獣の内の片方、逆立ちしたエビのようなものはツインテール。そしてもう片方、両腕がムチ状に なっているのがグドン。グドンはツインテールを捕食することで有名な怪獣だ。現在も、草原に 出現したツインテールを追って現れたのである。 当然ツインテールも、黙って食われたりはしない。必死の抵抗をして、グドンと激しい生存競争を 繰り広げていたのだが、その移動しながらの争いが人里にまで降りかかりそうになったため、ゼロは 駆けつけて怪獣同士の対決に割って入ったのであった。 「グギャ――――――!」 「グオオオオオオ!」 「シャッ! シェアッ!」 ツインテールとグドンは乱入者ゼロを互いに敵と見なし、襲いかかっていく。前後から二大怪獣に 迫られるゼロだが、少しもひるまずに二体同時に相手取る姿勢を見せた。 二怪獣のそれぞれの触手を巧みにいなすと、後方のツインテールに後ろ蹴りを入れ、正面のグドンには 拳打を叩き込んだ。鋭い打撃を食らった怪獣たちはよろよろと後退する。 「グオオオオオオ!」 しかしひるんでいたのはわずか一瞬の間だけだ。怒り狂ったグドンは勢いを強め、更に速い ムチさばきをゼロに振るう。 「フッ!」 そのムチ攻撃もかいくぐるゼロだったが、 「グギャ――――――!」 背後から忍び寄ったツインテールに対応できず、ふたまたの尻尾が首に絡みつき、また足首を 噛みつかれた。 「グゥッ!」 身体の弱い部分を同時に狙われては、さすがのゼロも苦しい。しかもツインテールに 掴まっているところに、グドンのムチが容赦なく飛んできて激しく打たれる。 「ウオォォッ!」 前後から攻撃を受け続け、ダメージが蓄積される。カラータイマーも点滅し出した。ピンチのゼロ! 「デヤァッ!」 だがこのままで終わるゼロではなかった。ムチの攻撃の合間に素早くエネルギーを電撃に変換し、 全身から放った。ボディスパークだ! 「グギャ――――――!」 「グオオオオオオ!」 突然の電撃攻撃をもらったツインテールとグドンの動きが停止した。そして解放されたゼロは、 狙いをツインテールの方へ向けた。 「デュワッ!」 ビームランプからエメリウムスラッシュを発射! 緑色の光線はツインテールに直撃し、 一撃で粉砕する。 「グオオオオオオ!」 その背後から迫り来るグドン。だがゼロはすかさず振り返り、相手のムチをはっしと掴んだ。 「セェェェェェイッ!」 気合い一閃、ムチごとグドンの巨体をスイングし、草原の上に投げ飛ばす! 大地に横たわる グドンに、ゼロはとどめの一撃! 「シャッ! シェアァッ!」 ワイドゼロショットが見事グドンに決まった。グドンは爆散し、草原は静けさを取り戻す。 「ジュワッ!」 危ない場面もあったが、無事に二大怪獣を倒すことが出来たゼロは、空に飛び上がって 魔法学院へと帰還していった。 その後の昼時、ルイズら学院の生徒が授業中の間、才人は中庭でデルフリンガーを素振りしていた。 アンリエッタにシュヴァリエの称号を授かってから、身体を鈍らせないようにこうした訓練を日課に 加えたのである。 「相棒、今日は一段と力が入ってるじゃねえか。一体どうしたんだい?」 素振りをされているデルフリンガーが、才人のいつもとの違いを察して尋ねかけた。それに才人は こう答える。 「いや、さっきゼロが背後からの攻撃を食らって危なくなっただろ? それって、俺の身体が 知らず知らずの内に鈍ったからじゃないかって思ってさ……」 二対一のハンデがあったとはいえ、いつものゼロなら背後からの攻撃もかわせたはずだ。 それを避けられなかったというのは、自分に問題があったからではないかと才人は考えたのだ。 だが、それにゼロが告げた。 『才人、さっきのはお前は関係ないぜ』 「えッ、そうなのか?」 ではその理由は何なのか。ゼロは答える。 『何だか、思ったよりも身体が動かなくってな……どうも、疲れてたみたいなんだよ』 「疲れてたって……ゼロが?」 『ああ、俺としても不思議だ。体力はちゃんと回復してたはずなんだが……。そう、ちょうど 直前に一戦やったぐらいの疲労感があった』 直前に一戦……? それを聞いた才人は、何かを思い出しそうな感覚を覚えた。何を思い出し かけているのか……自分は何を忘れたのか……どうにもはっきりしない。頭に靄がかかっているような……。 悶々としていた才人だが、以前よりも鋭敏になった感覚が、突如攻撃の気配を察知した! 「!?」 咄嗟に振り返ってデルフリンガーを盾にする。 「やああッ!」 その刃が、迫ってきた白刃を受け止めた! 白昼堂々の襲撃! しかし才人はそれよりも、剣を振るってきた相手の格好に驚かされた。 「なッ……! な、な、何だこいつ!?」 何と、「和風」という言葉も存在しないハルケギニアで、「袴」を纏っているのだ。しかし 日本人という訳でもない。人種自体は、金髪の典型的な白人タイプの少女だ。何ともミスマッチな服装だ。 「この不意打ちを受け止めたか。気配は完全に消したつもりだったが」 「だ、誰だ! 何のつもりだよ、これは!」 一瞬面食らってしまったが、我に返った才人が襲撃者の少女に問うた。 「いきなり失礼した。少し、お前の剣の腕を確かめたくてな。サイトとやら、お前の腕はなるほど、 なかなかのもののようだ。しかし、男なら白刃取りをせんかッ!」 「……はぁ?」 いきなりの訳の分からない発言に、才人はまたも面食らった。 「アンリエッタの話を聞く限りでは、お前はかのサムライの国の者らしいが……わたしの見込み違いか?」 更に少女の口からは、ハルケギニアではまず聞かないはずの単語が出てきた。 「ち、ちょっと待て! サムライ? 今、サムライって言ったよな!?」 よく見れば、少女の剣はハルケギニアで広く用いられている西洋剣ではない。明らかに片刃の、 日本刀であった。 「ま、まさか……お前、日本を知ってるのか!?」 「ほほう。その反応、やはりお前はニホンから来たのか」 「じゃあ、あんたも向こうの世界から来た人なのか!?」 そう思った才人だったが、少女は不思議そうに顔をしかめた。 「向こうの世界?」 「……違うのか?」 「いや、わたしはニホンの者ではない」 「けど、あんたのその格好とかサムライとか、この世界のものじゃないだろ?」 「この格好などは、わたしの師匠から授かったものだ」 「師匠?」 先ほどから変わった言動をする少女。ここでようやく名前を名乗る。 「ああ、申し遅れたな。わたしはクリスティナ・ヴァーサ・リクセル・オクセンシェルナ。 クリスと呼んでくれ。アンリエッタもわたしをそう呼ぶ」 「……アンリエッタ? さっきもそう言ってたけど、まさかそれ、女王さまのこと?」 「他にいるか?」 「えええええ!」 仰天する才人。今や一国の女王のアンリエッタを呼び捨てにするなど、一体どんな身分の者が 出来るのだろうか。ルイズだってそんなことは出来ない。 「彼女は古くからのなじみだ。互いに名を呼び合う仲でな、問題ない」 「なじみ? 仲?」 「先日、久しぶりに会った際にお前のことを聞いてな。魔法を扱えない平民で、シュヴァリエの称号を 与えられたそうではないか。それでお前の主人ともども、会いたいものだと思っていた。会えて嬉しいぞ、 サムライのサイトよ!」 「さ、侍って……」 才人は苦笑いする。「侍」など、何世紀前の身分だろうか。 「それで、えーと、クリス? お前はこの学院に、俺やルイズに会いに来ただけ?」 問いただすと、クリスという少女は語る。 「いや、わたしは明日からこの魔法学院に転校する予定なんだ。アンリエッタに口利きしてもらってな」 「え、転校?」 才人は思わず虚を突かれた。今の時期は、日本の学校制度で言うならば三学期に相当する。 そんな時期に転校してくるなんて、普通はないことだろう。このハルケギニアでもそのはずだ。 「奇妙だと思うだろうが、ちょっとした家の事情があってな」 「はぁ、そういうものなのか……」 「ともかく、明日からよろしく頼むぞ、サイトよ」 「よ、よろしく……」 色々と突拍子もない少女、クリスのペースに呑まれっぱなしの才人であった。 ここでようやく気になっていたことを尋ねる。 「ていうかさ。この学院に入るからには、クリスも貴族で魔法使いなんだよな」 「一応な。系統は風、二つ名は『迅雷』だ」 デルフリンガーも問いかけた。 「おめえさん、メイジなのに剣だけを使うのか? 変な奴だなぁ。俺も初めて見るな」 「デルフが初めて見るんじゃ、歴史上初に近いんじゃないか?」 「だなぁ。いや相棒、こいつはほんとうに変な奴だよ」 デルフリンガーが何度も「変」と言うと、クリスは気分を害したように反論した。 「失礼だな、人を変だと何度も。わたしはサムライだ、故に魔法などに頼らず剣を使うのは当然! サイトならわかろう? この気持ちが」 「はぁ……」 そう言われても、才人は別に侍ではないので、そういう気持ちはよく分からなかった。 と話していたら、才人の視界ににゅっと奇怪な生物が割り込んだ。 「キュー!」 「どわッ!? 何だこいつ!? びっくりした……」 銀色の肌でたらこ唇の、何とも形容のしづらい見た目だ。地球上のどの生き物にも似ていない。 宇宙生物だろうか。 「ああ、それはわたしの使い魔だ。名をデバンという」 「デバン? 変わった名前だな」 「どうもこの音の響きを、自分の名前と認識してるみたいでな」 「キュー、キュー」 ひょこひょこ動くデバンの姿に、ゼロが独白した。 『こいつは確か、異次元の小型怪獣の一種だったな。前に魔神エノメナを倒したことがあったが、 こいつはその能力を打ち消すことが出来る奴だったはずだ』 「キュキュキュキュキュー!」 ひょうきんなデバンの動きに、才人は思わず笑いを噴き出した。 「あははは! こいつ、濃い顔だけど結構かわいいな」 「かわいいだけでなく、とても賢いぞ? サムライの従者らしくあれと言っているからな」 「へー、サムライの従者ねぇ」 一時デバンと戯れる才人。しかし、クリスはアンリエッタを呼び捨てにするほどだから、 かなり身分が高いはずだが、気さくでなじみやすい性格だ。学院の無駄に偉そうな貴族の 数々とは大違い。 と、才人はそう思ったのだが……。 「さて、サイトよ。いまから学院を案内してくれ」 「えッ、いまから!? それよりさ、さっきチラッと言ったクリスの師匠って誰なのか教えてくれよ!」 「それは、おいおい話す。とにかくいまは案内をしてくれ。明日に備えデバンと適当に見て 回るつもりだったんだが、せっかくお前に会えたのだしな。行くぞ、サイト」 クリスとデバンは有無を言わせずに本塔の方に歩いていく。 「おいッ! そんな、いま話してくれよ! それに俺、いまは訓練中……!」 才人がいくら呼び止めても、クリスは立ち止まらなかった。 先ほどの不意打ちといい、こういう強引なところは貴族だなぁ、と才人は感じたのであった。 それから才人はクリスに魔法学院の設備などを説明して回る。と言っても、案内役の才人が 半ば引っ張られるようであったが。 「ここが庭。結構広いけど、覚えられそう?」 「ああ、心配無用だ。もう大抵覚えた」 「へー、記憶力いいんだな。俺、広すぎて覚えるの大変だったのに」 「広いか? 一国を代表する魔法学院ともなれば、この程度は当然だろう」 クリスと会話する才人は、ふと尋ねかける。 「……あのさ。クリスのその言葉遣い、変わってるよな」 「ブシの言葉はこうなのだろう? 会得するのに苦労したぞ」 「いや、そんなしゃべり方をする人は物語の中くらいにしかいないけど」 今の地球では、クリスのように固い話し方をする人はまずいない。若者は大体砕けた口調だ。 しかし今の才人の言葉に、クリスはショックを受けたようだった。 「な、なんだと!? ニホンではブシがチョンマゲを装備し剣一本で身を立て、いずれセップク するのが誇りなのだろう!?」 「……えーっと」 思わず言葉をなくす才人。いつの時代のことを話しているのだろうか……というより、 それを差し引いてもどこかおかしい。まるで外国人のエセ日本観だ。 「まあその、細かい点は置いといて。武士にも色々あるんだよ、時代は流れるしさ」 「むう……。セチガライ、とはこういうことを言うのか?」 「……そうだけど。そんな言葉、よく知ってるな」 若干呆れる才人だった。本当に、クリスはどこの誰から日本を教わったのだろうか。 「でもさ、武士の心までは失ってないと思うよ。義理人情に厚い人はまだまだいるしな」 「そのようだな。サイトを見ていればわかるぞ」 「へ? 俺?」 「アンリエッタはお前を、主人への忠義に厚く、心優しく、かつ腕の立つ使い魔だと言っていた」 「え、え? そうなんだ、お姫さまが俺のことをそんなに……」 アンリエッタからそこまで高評価されていたことに、才人は思わず照れた。 そうしていると、クリスが才人へ礼を告げた。 「案内をありがとう、サイト。お陰で明日からの生活への心配が少なくなった」 「……」 「どうした? 口が開きっぱなしだぞ」 才人は文字通り、開いた口がふさがらなくなっていた。 「いや、その、使い魔にお礼を言う貴族は初めてかなーなんて思って」 トリステインの貴族は、大体がプライドの塊だ。才人もシュヴァリエとなったが、それでも 同等とは見られていないのがほとんど。平民の成り上がりが、と僻みを受けることも少なくない。 「お前はわたしの使い魔ではないだろう? それに、わたしにとってお前は友だ」 「……とも?」 才人が呆気にとられていると……聞き覚えのある声音の、怒鳴り声が響いてきた。 「サイトー!」 「わッ!?」 「何事だ?」 駆けてきたのは、案の定ルイズであった。 「この、ののの、野良犬! ささささ、盛りのついた、いい、犬ー!」 顔を合わすなり、ルイズはいきなり罵倒してきた。 「は、はあ!? なんだよ、走ってきていきなり!」 「聞いたわよッ! つつつ、使い魔のくせにいい度胸してるじゃない! 女の子連れて学院内を 散歩なんて! デ、デ、デートなんて! しかも、ま、また、む、む、胸が大きい女の子だし……」 「でーとぉ!?」 ギョッとする才人。確かに、傍目から見ればクリスと一緒に学院内を回っていたのは、 デートと取れるかもしれない。恐らく、ギーシュかモンモランシー辺りが吹聴したのだろう。 「そ、そんなんじゃねーよ」 才人がどうにか誤解を解こうとしていると、クリスが口を挟んできた。 「おい、サイト。これは誰だ?」 「こここここ、これ!? 貴族に向かってこれですって!?」 「いや、ルイズ。この子も貴族なんだって」 才人が必死になだめていると、ルイズの名を聞いたクリスが問い返す。 「ルイズ? では、これがお前の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールか」 「そ、そう」 「サイトー! あんた、こんな得体の知れない相手のわたしのことをベラベラしゃべったの!?」 「しゃべってない! 落ち着けって! いいか、この子はな……」 どうにも機嫌の悪いルイズに説明しようとした才人だが、またもクリスが口を開く。 「わたしとサイトは剣を交えた仲。つまり、好敵手と書いて友だ」 「まままま、交えた仲!?」 ルイズは顔を白黒させた。 「おい! なに考えてんだよルイズ! 交えたのは剣だよ剣! そう言っただろ!」 妙な誤解の解けないルイズを説得して、変な関係ではないことを分かってもらうのに、 才人はしばしの時間を費やすことになるのであった。 クリスがオクセンシェルナという国の姫という身分であることが分かり、更に仰天することに なるのはまた別の話なのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9455.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十八話「悪夢の四重奏」 超空間波動怪獣メザード 超空間波動怪獣サイコメザード 超空間波動怪獣サイコメザードⅡ 超空間波動怪獣クインメザード 登場 夜空での密会中、謎の空飛ぶ巨大クラゲとリネン川を横断しようとする正気を失ったガリア軍を 目撃した才人とタバサ。二人は眼下のガリア軍の様子を一瞥した後、前方のクラゲの方をにらみつける。 「あいつら、やっぱりただごとじゃねぇぜ……。あのクラゲが何かしたことは確実だ!」 才人の言葉にこくりとうなずくタバサ。あの奇怪な生物とガリア軍の異常が偶然同時発生 したとは考えにくい。これもガリア王政府の悪だくみの一つだろうか。 「けど……あのクラゲは何なんだ!? 一匹なのか? それとも大量にいるのか?」 才人たちは判別をつけられなかった。何故なら、クラゲは一箇所にいるように見えて、 次の瞬間には別の地点にただよっているようにも見えるからだ。一瞬たりとも、同じ場所には 留まっていない。これは一体どういう現象なのか。 このことについてゼロが答えた。 『あれは一点にのみ存在してるんじゃねぇ……あの空域全体に同時に存在してるんだ!』 「へ? それってどういう意味?」 ゼロの言葉は、聡明なタバサでさえ理解できなかった。ゼロが説明する。 『かなり難しい話になるから詳しいことは省くが、あのクラゲの身体は波みたいにゆらゆら してて広い範囲に跨ってるんだ。人間の脳じゃそれを正しく認識することは出来ないから、 姿をはっきりと捉えられねぇんだよ。当然三次元の生き物じゃねぇ……いわゆる異次元怪獣だな』 「異次元怪獣……つまり掟破りって訳だな」 一応は納得する才人。異次元に存在する怪獣は、時間と空間をねじ曲げるブルトンに代表 されるように、三次元世界の物理法則をあっさりと無視するものだ。 そして目の前の巨大クラゲは、生物でありながら量子力学の観点における粒子の振る舞いを するのである。通常の生物のように時空間の一点に連続して存在しているのではなく、広域に 確率的に存在している……いわば波動生命体なのだ。M78ワールドの怪獣では、ディガルーグが 近い性質を有している。 『ともかく今すべきことは、あの怪獣をどうにかしてガリア軍の侵攻を止めることだ』 「分かった。タバサはみんなのところに行ってガリア軍の接近を知らせてくれ!」 手短にタバサへ指示する才人。こうして渡河するガリア軍の姿を事前に発見できたのは、 不幸中の幸いだ。向こうが渡り切る前ならば対処が間に合う。 そして才人は自らシルフィードの上より空中へ投げ出し、大空で風を切りながらウルトラ ゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 才人の身体が瞬時にウルトラマンゼロのものに変身。ガリア軍を操っている波動生命体 めがけ飛んでいく。 『でもゼロ、身体が波みたいな奴をどうやってやっつければいいんだ? 普通の攻撃が通用 するのか?』 『しねぇだろうな』 即答するゼロ。肉体が100%の確率で存在していない状態では、如何なる威力の攻撃もすり抜けて しまって何の効果も発揮しないからだ。 『けど案ずるな! 対処の方法はあるぜ!』 才人に頼もしく応えながら、ゼロはルナミラクルゼロに変身。 「ジュアッ!」 そして広げた両腕の間から波紋を飛ばし、波動生命体にぶつける。するとどうしたこと だろうか。空に同時に存在しているように見えた波動生命体の身体が一点に集まっていき、 一個の存在として確立されたのだ。 『すっげぇ! 今のどうやったんだ?』 『あいつの波長と真逆の波長をぶつけることで、存在の確率を一点に収束させたのさ。これで 奴はもう波じゃねぇ』 ルナミラクルゼロの超能力によってなせる妙技。これによって波動生命体は攻撃を透過 することは出来なくなった。 だが、これによってまた別の問題が発覚した。 『しかし……まずいな。あいつそもそも一体だけじゃなかったみたいだぜ』 『え?』 『見ろ、今の「奴ら」の姿を!』 改めて確認すると……存在が収束されたにも関わらず、空に飛んでいるクラゲの数は何と四体。 つまり、元から波動生命体は四体も存在していたのだ! 『ま、マジかよ!』 さすがに動揺する才人。しかも波動生命体の群れは地上に降下すると、その姿をグロテスクな 怪物のものへと変化させたのだった。 「キャアオッ! キャアオッ!」 「ギャアァァァ!」 「キャアァァァ!」 クラゲの傘から首が伸びたような怪物、それが二本の足で直立したようなもの、更にそれの 腹に人面が備わっているもの、更に更に顔が他と違って背面にも人面が並ぶものの、計四体が カルカソンヌの市街地に出現した。 波動生命体の正体、メザード。その一族であるサイコメザード、サイコメザードⅡ。そして 女王個体であるクインメザードの超空間波動怪獣軍団だ! 「ギャアァァァ!」 「キャアァァァ!」 そしてガリア軍は、このメザードたちの発する電波によって脳神経を操作され、まるで マリオネットのように意のままに操られているのだった。 「キャアァァァ! キャアァァァ!」 メザードたちはクインメザードの指揮によって、四体がかりでゼロに襲い掛かろうとしている。 しかし集団には集団だ。ゼロにも仲間はいるのだ! 『待ちな! 俺たちのことも相手してもらうぜぇ!』 『とぁッ!』 『ジャンファイト!』 グレンファイヤー、ミラーナイト、ジャンボットが直ちにゼロの元へと集合した。怪獣軍団は 三人の登場に思わず足を止める。 『よっし! 頭数は同じだ! みんな、一気に行こうぜぇッ!』 通常形態に戻ったゼロの号令により、ウルティメイトフォースゼロは怪獣軍団に正面から ぶつかっていく! ここにカルカソンヌの人間たちの命運を分ける乱闘は開始されたのだった。 メザードたちの力で理性を失い、操り人形にされているガリア軍だが、リネン川から カルカソンヌの市街地の間にはおよそ百メイルの切り立った崖がそびえ立っている。さすがに 崖をよじ登ることは出来ないので、大半の兵士は長く続くジグザグの階段に押し寄せている。 その階段の頂上には、タバサからの連絡によって緊急出動したオンディーヌやロマリア軍が バリケードを築いたので、ガリア軍の侵攻はそこで食い止められていた。頭数ならばガリア軍が 圧倒的に上だが、階段を上れるのは限られた人数だけ。それならば止めるのも難しい話ではない。 メイジは“フライ”を使って飛んでくるが、基本的に高い場所にいる方が戦いでは有利。飛んで くるメイジは魔法で各個撃退されていた。 「ふぅ、何とか壁が間に合ったな。これでガリア軍は街の中に入れない」 「タバサが報せてくれなかったら危なかったね」 バリケードを構築して息を吐いたギーシュとマリコルヌがつぶやき合った。タバサの連絡が なかったら、彼らはガリア軍の接近に気づくのが遅れ、侵攻の阻止が間に合わなかっただろう。 そうなったことを想像したらぞっとする。 また、彼らはガリア軍の様子にも恐怖心を覚えていた。 「しかし……今のガリア軍のありさまには、身の危険に関係なくおぞましい気分になるよ」 「分かるよ。それに正気じゃない相手を攻撃するのは気が引けるね……」 今のガリア軍は虚ろな目でうめき声を上げながらバリケードに押し寄せており、何度押し 返されようとも自分のダメージも構うことなく這い戻ってくる。怪談に出てくるような動く 死体さながらだ。人間はこのような、常識から外れたものに恐怖を抱く。また、操られている だけの相手を攻撃するのも騎士道にもとる。そのためロマリア軍は完璧な防衛態勢を築きながら、 士気は時間が経つ毎に衰えていた。 士気が減衰していては勝てるものも勝てない。これに危惧したルイズは、崖の向こうで 波動怪獣軍団と戦っているウルティメイトフォースゼロに祈った。 「お願い、みんな……。出来るだけ早く片をつけて……!」 グレンファイヤーはメザードに狙いを定めてパンチを繰り出す。 『おらぁぁぁッ!』 「キャアオッ! キャアオッ!」 拳をまともに食らうメザードだが、殴り飛ばされながらも重力を無視したような動作で着地。 ゆらゆらと蠢く様子からは、さほどダメージを受けていないように見えた。 『何ッ!』 メザードの肉体は柔軟性が高い。そのため衝撃を受け流しているのだった。 「キャアオッ! キャアオッ!」 メザードは胴体部の傘の頂点から怪光弾をグレンファイヤーへ連続発射。 『ぐッ!』 ひるませたグレンファイヤーに触手を伸ばして巻きつけ、電撃を流し込んだ。 『ぐわあぁぁぁッ!』 「キャアオッ! キャアオッ!」 電流を延々と食らわし続け、グレンファイヤーをじわじわと苦しめるメザード。 『ぐッ、そうは行くかぁぁぁぁぁッ!』 しかしグレンファイヤーが気合いを発すると、彼から生じたエネルギーによって電撃が逆流。 触手が焼き切れた! 「キャアオッ!!」 『そんなにふらふらなよなよしてんじゃねぇぜ! 男だったら腰に力入れなッ!』 切れた触手を投げ捨てたグレンファイヤーが一喝。そして腕に炎のエネルギーを溜める。 『俺が根性焼き直してやるぜ! グレンスパークッ!!』 灼熱の光弾が投擲さえ、メザードに直撃。たちまち爆発を起こし、メザードは全身に火が 点いて炎上していった。 「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」 サイコメザードは空中を滑空しながら、ミラーナイトへ腹より怪光弾を降り注がせる。 『何の!』 しかしミラーナイトは頭上にディフェンスミラーを張って光弾を防ぎ切った。そして着地した サイコメザードへミラーナイフを飛ばす構えを取る。 「ギャアァァァ!」 だがこの時、サイコメザードが不気味に眼を細めた。 すると対岸の街に残っていた兵士たちや元々のカルカソンヌの住民がわらわらと集まってきて、 サイコメザードの前方に展開。サイコメザードに操られているのだ! 『何ッ! 何と卑劣な……!』 ミラーナイトは手を止めざるを得なかった。下手にサイコメザードを攻撃したら、操られて いる人々が押し潰されてしまうかもしれない。 「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」 人間を盾にする卑怯千番なサイコメザードは、ミラーナイトが動けないのをいいことに 両腕を伸ばして彼を捕まえようとする。 しかし腕がぶち抜いたのは鏡であった! 「!?」 『そういうことをするだろうと思ってました』 サイコメザードの背後からミラーナイトが言ってのけた。彼は人間を操作するメザードたちの やり口を事前に推測し、お得意の鏡像トリックを用いて逆に罠を掛けていたのだ。 ミラーナイトはサイコメザードが反応を起こす前に背後からがっしりと捕まえて、空高くへ 投げ飛ばした。 「ギャアァァァ!!」 『シルバークロス!』 十字の光刃がサイコメザードを切り裂き、人間に被害を出すことなく打ち破ったのであった。 『むんッ!』 「ギャアァァァ! ギャアァァァ!」 ジャンボットはサイコメザードⅡの腹部に鉄拳を入れる。重い一撃によたよたと後ずさる サイコメザードⅡだが、指先から電撃を飛ばしてジャンボットに反撃。 『むおッ!』 激しい電撃の嵐にジャンボットが体勢を崩したようであったが、それは一瞬だけで、 ジャンブレードで電撃を絡め取って相手の攻撃を無力化する。 「ギャアァァァ!」 『貴様たちのような卑怯極まる相手に、この鋼鉄の武人は絶対に屈さんッ!』 正義の怒りに燃えるジャンボットには、小手先の攻撃など通用したりはしなかったのだ。 ジャンボットは頭部から銃身をせり出して必殺の光線を発射する。 『ビームエメラルド!』 光線がサイコメザードⅡを貫き、そのまま炎上させて消滅させたのであった。 そしてゼロはクインメザードと戦っているが、ボス格だけあってその実力は一番高く、 雷撃によってゼロの接近を防ぐ。 「キャアァァァ! キャアァァァ!」 『うおッ! こりゃ近づけそうにねぇな……。ならッ!』 距離を詰められないのならと、ゼロスラッガーを飛ばす構えを取ったゼロだが、クインメザードは 不意に足元を触手でしたたかに叩く。 「キャアァァァ!」 その場所から炎の柱が起こり……どういうことだろうか。ストロングコロナゼロが現れた ではないか! 『何ッ!』 『ゼロ、あれはどういうことなんだ!? どうしてゼロがもう一人……!』 動揺する才人に、ゼロは答える。 『奴の特殊能力によって作られた、俺の偽者のようだな……!』 クインメザードには他のメザードにはない独特な能力がある。それは実体を伴った幻影を 作り出すことで、それを使って幻影のストロングコロナゼロを作り上げたのだ! ゼロには ゼロをぶつけようという目論見だろうか。 「キャアァァァ! キャアァァァ!」 幻影ゼロはクインメザードの指示により、本物のゼロに飛び掛かってくる! 『うおッ!』 ゼロは幻影ゼロとがっぷり四つを組む。しかし相手の凄まじい筋力に押され気味になる。 『くッ……!』 幻影とはいえパワーに優れたストロングコロナゼロ。通常状態のゼロでは勝ち目はないのか? ……と、思われたのだが、 『舐めんなよ! 幻影の俺をぶつけられるなんてのは経験済みだ! もう俺は、自分には 負けねぇぜぇぇぇぇッ!』 啖呵を切ったゼロが腕に一層の力を込めると、本物のパワーが幻影を上回り、幻影ゼロの 足が地面から浮き上がった。 『どりゃあああッ!』 この一瞬の隙に、ゼロは己の幻影を竜巻のような勢いで放り投げる! 「キャアァァァ!」 この結果にたじろぐクインメザード。ゼロはこの絶好のチャンスを逃したりはしなかった。 「シェアッ!」 ワイドゼロショットがクインメザードに炸裂! クインメザードは一瞬にして爆裂し、 メザード軍団はこれで全てが倒された。 同時にガリア軍の支配が解け、彼らはバタバタとその場に倒れ込んでいった。川の水の 中に突っ伏した者はいち早く目覚めて慌てて飛び起きた。 「終わった……」 「ふぅ、助かった……」 ギーシュを始めとして、ロマリア軍はガリア軍の侵攻が停止したことに大きく息を吐いて 安堵したのだった。 怪獣たちによる奇襲が防がれて、ゼロから戻った才人はロマリア側の陣営に戻ってきた。 周囲はまだ混乱と事態の後始末が終わっておらず、彼に構う暇のある者はいなかった。 「危ないとこだったけど、どうにか犠牲者を出さずに済んだな。姫さまの帰りまでに、こっちが 総崩れになるなんてことにならなくてよかった」 と才人は安心を口にしていたが、ゼロは危惧の声を発する。 『だが、今回のことで多くの人間が精神的なショックを受けたことだろう。どんな経緯に なるにせよ、これで今の均衡状態は長くは続かねぇことになるだろうな……』 「……そうなのか……」 ゼロの指摘で才人は顔を曇らせる。ロマリア軍が、ガリアの防衛線が崩れたことにつけ込んで 渡河しようとするか、逆に別の場所に展開しているガリア軍がロマリアの動揺しているところを 狙って進軍してくるか、どちらになるかは分からないが、戦局に動きがあるのは才人たち的には 良くない。彼らはアンリエッタに、本格的な戦いにならないように約束しているのだ。 「姫さま、早く戻られないものか……」 才人がここにいないアンリエッタに願っていると、彼の元にジュリオが駆けつけてきた。 「やぁサイト、ここにいたか! ずっと姿が見えないから心配したんだぜ」 彼の顔を見ると、才人は一瞬にしてしかめ面となった。 「よく言うぜ。こないだは殺そうとしたくせに」 ストレートに嫌味をぶつけるが、ジュリオはまるで意に介さなかった。 「そう言ってくれるなよ。ぼくたちも聖地の回復のために必死なんだ。別にきみが憎い訳 じゃない。この世界にいてくれるのなら、当然生きててくれた方がありがたいさ」 「はん、どうだか」 ジュリオに冷めた目を送る才人。彼はこの食えない男がどうも苦手であった。自分たちの 非道さをそのまま理解した上で受け止め、こちらに誠実な態度を見せる。その分、逆に真意を 測りがたいのだ。 と思っていたその時、才人の頬を何か鋭いものがかすめた。 「あいでッ!」 一羽のフクロウであった。フクロウはジュリオの肩に止まる。 「おや、ネロじゃないか。お帰り」 「何だよそいつ……」 「ぼくのフクロウだよ。おや、いけない! 血が出てるぜ」 才人の頬は、フクロウの爪がかすめて切れていた。ジュリオは何気ない仕草で才人の頬を 濡らす血をハンカチでぬぐった。 「よせよ。血なんかすぐ止まるよ」 才人がなれなれしいジュリオの手を払うと、ジュリオは気を悪くした風もなくハンカチを仕舞った。 才人はそんなジュリオに、重要なことを尋ねる。 「こんな大騒動になっちまったが、いつまでガリアとにらみ合いを続けるつもりなんだ?」 ジュリオは両手を広げて思わせぶりな態度を取った。 「さぁね。でもまぁ、そう遠くない内に風が吹くと思うよ」 そのまま才人に背を向けて、スタスタと歩み去っていく。 ……その顔には、してやったりというような不敵な笑みが浮かんでいた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9404.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」 スペースリセッター グローカーボーン 登場 『古き本』も遂に三冊、半分を完結させることに成功した。するとそれまでずっと眠り続 けていたルイズが目を覚ました! 喜びに沸く才人たちであったが、現実はそう甘くはなかった。 目覚めたルイズは、全ての記憶を失っていたのだ。自分の名前すら思い出せないありさま。 ぬか喜びだったことが分かり、才人たちは思わず落胆してしまった。 やはり、『古き本』の攻略は最後まで進めなければならないようだ。 三冊目攻略の翌朝、ルイズの看護を担っているシエスタが、ルイズのいるゲストルームに入室する。 「おはようございます、ミス・ヴァリエール。お加減は如何ですか?」 ルイズは既に起床していた。ベッドの上で上体を起こしている彼女は、シエスタの顔を 見返すと清楚に微笑んだ。 「シエスタさん、おはようございます」 「おはよう……ございます……!?」 ルイズの口からそんな言葉が出てくることに激しい違和感に襲われるシエスタ。本来の彼女は、 平民のシエスタに絶対に敬語を使ったりはしない。 「はぁ……ほんとに記憶の一切を失っちゃったんですね、ミス・ヴァリエール……」 「……ごめんなさい……」 ため息を吐いたシエスタに、ルイズは悲しげに眉をひそめて謝罪した。 「えッ?」 「どうやら、わたしが記憶を失っていることで、みんなを悲しませているようですね。さっき サイト……さん、だったかしら。彼も、どこか落ち込んでいられたようでした」 ルイズはルイズなりに、自身の状況を憂いているようだ。 「それでも、みんな笑顔を見せてくれる。それが、とっても悲しいの……。わたしを心配 してくれた人たちのことを、何も覚えていないなんて……」 「ミス・ヴァリエール……」 悲しむルイズの様子に胸を打たれたシエスタは、懸命に彼女を励ました。 「大丈夫ですよ! 必ず、サイトさんがミス・ヴァリエールの記憶を取り戻してくれます!」 そうして看護を行うシエスタは、密かにジャンボットにルイズのことを尋ねかけた。 「ジャンボットさん、ミス・ヴァリエールの記憶を他の手段で戻すことは出来ないんでしょうか?」 ルイズの脳を分析したジャンボットが回答する。 『難しいな……。記憶中枢が不自然に失活している。無理に回復させようとしたら、余計に 悪化させてしまうことだろう。最悪、一生障害が残る身体になってしまうかもしれない。 やはり、原因たる『古き本』をどうにかしなければならないだろう』 「そうですか……」 ジャンボットたちの力でもどうにもならないことを知って落ち込むシエスタ。彼女は同時に、 才人が残り三冊分も危険な戦いをしなければならないことに胸を痛めていた。 「……ところで、問題のサイトさんはどこに行かれたのでしょうか?」 『リーヴルのところへ行ったようだな』 才人は本件に対して、重要な鍵を握っているだろうリーヴルに直接話を聞きに行っていた。 リーヴルはおっとりした雰囲気に反して用心深いようで、何かを隠していることは確実なのだが それが何なのかは、タバサの調査でも解き明かすことが出来ないでいた。それ故、本人から 探り出そうと突撃したのだった。 しかし真正面から「何を隠しているんだ?」と問うたところで正直に答えるはずがない。 そこで才人は若干遠回しに攻めてみた。 「リーヴル、あんたは俺たちに随分協力的だよな。何日も図書館の部屋を貸してくれたり……」 「当図書館で起きた問題ならば、司書の私に責任がありますから」 「そうかもしれないけど……実は、リーヴルにも何か得することがあったりするのか? だからやたら親身になってくれるんじゃないかなって」 と聞くと、リーヴルはこんなことを話し始めた。 「……少し、私の話を聞いていただけませんか? ちょうど相手が欲しかったんです」 「え? 話って……?」 リーヴルは、昔話のような形式で話を語った。それは、小さな王国の民を愛する女王が、 可愛がっていた娘の患った重い病を治すために、悪魔と契約したという内容だった。 悪魔は女王の娘の病を治す見返りとして、女王の大切にしていたものを要求した。そして娘が 回復すると同時に……王国中が炎に巻かれ、悪魔の契約によって国民全員、果ては世界中の国々が 滅んでしまった。 その様子を見た女王は、娘に告げた。「あなたの病気が治って本当によかった」と……。 「……嫌な話だな。作り話にしたって、その女王様はわがまま過ぎるだろ」 聞き終えた才人は率直な感想を述べた。するとリーヴルが反論する。 「そうでしょうか? 悪魔以外に娘の病気を治せる者はいなかったんですよ? 娘が治るなら、 どんな代償だって……」 「でも、罪のない人たちを巻き込むのは間違ってるって」 「他人は他人。大事な人と世界……天秤に掛けるまでもなく、どちらが重いかは明白じゃないですか。 大事な人がいなければ、世界なんて何の意味も……」 そう語るリーヴルに、才人は返した。 「いや……俺は大事な人だけがいればいいなんて、それが正しいなんて思えない」 「……?」 「その女王様の話だってさ、世界に娘と二人だけしかいなくなって、それからどうやって 生きていくんだ? 多分、すぐ不幸になるさ。俺の経験から言うと、現実の世界ってそんな 甘いものじゃあないからな。それじゃあ、娘を治した意味なんてないじゃないか」 「……それはそうかもしれませんが……」 才人の指摘に戸惑うリーヴルに、才人は続けて語る。 「それにさ……大事な人、大事なものって言うのは、案外その辺りにたくさん転がってるものだよ。 俺は今シュヴァリエの称号を持ってるけど、それは今助けようとしてるルイズがいただけで得られる ものじゃなかった。シエスタやタバサ、魔法学院で出来た友達や先生の教え、他にも行く先々で 出会った人たちが俺に教えてくれたものがなければ、今の俺は確実になかったし、どっかで野垂れ 死んでたかもしれない。だから俺は、一人を助けられたらそれでいいなんてのは間違いで、みんなを 助ける! それが正しいことだと思う」 ハルケギニアに召喚される以前の才人ならば、リーヴルの言うことにある程度は納得した かもしれない。だが今は違う。多くの出会いと経験を積み重ねて、成長した才人はもっと 大きな視点から物を考えられるようになったのだ。 才人の意見を受けたリーヴルは、しかし彼に問い返す。 「みんなを助ける、と言いますが、あなたにはそれが簡単に出来るのですか? たとえば 先ほどの話ならば、悪魔にすがる以外に方法などありません。それとも、娘を見捨てろとでも?」 それに才人ははっきりと答えた。 「もちろん、簡単に出来ることじゃないだろうさ。失敗してしまうかもしれない。……だけど、 俺だったら最後まであきらめないし、妥協しない! どんなに苦しくたって、みんな助かる道を 最後まで探し続けるぜ!」 「……」 才人の言葉を聞いて、リーヴルはうつむいて何かを考え込んでいたが、やがてすっくと立ち上がった。 「少し、話し込んでしまったようですね……。本日の本の旅の時間です。準備は整っていますので、 あなたもご用意を」 「あ、ああ」 背を向けて立ち去っていくリーヴルを見送って、才人はゼロに呼びかけた。 「ゼロ、さっきのリーヴル話には何か意味があったのかな」 『わざわざあんな話をしたってからには、伝えたいものがあったんじゃないかとは思うな』 「じゃあ、さっきの話の中に真実が……もしかして、リーヴルは誰かを人質にされて俺たちを 本の世界に送ってるのかな?」 『そんな単純な話でもないと思うがな……。何にせよ、全ての本を完結させることについての リーヴルのメリットが分からないことには、何の断定も出来ないぜ』 話し合った二人は、それでも念のため、リーヴルの周囲に誰か消えた人がいないかということを タバサに調べてもらおうということを決定した。 そうして四冊目の本を選ぶ場面となった。 「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」 残るは三冊。それぞれを見比べながら、才人はゼロと相談する。 『ゼロ、次はどれがいいかな』 『次は……なるべく知ってる奴が主役の本を片づけていこう。ってことでその本だ』 ゼロが指定したのは、青い表紙の本であった。 「この本ですね、分かりました。では、良い旅を……」 『古き本』の攻略も折り返し地点。才人とゼロは四冊目の世界へと入っていった……。 ‐THE FINAL BATTLE‐ 宇宙の悪魔サンドロスが撃退されてから数年、壊滅してしまった遊星ジュランの復興とともに、 怪獣と人間の共生する世界のモデルを築く『ネオユートピア計画』の始動の時が近づいていた。 その第一歩として怪獣をジュランへ輸送する大型ロケット『コスモ・ノア』が建造され、その パイロットには春野ムサシが選ばれた。どんな苦難にも夢をあきらめなかった青年の奇跡が、 実現しようとしているのだ……。 しかし、宇宙開発センター上空に突然謎の円盤が出現。円盤から投下された巨大ロボットが、 コスモ・ノアを狙う! それを阻止したのは、ムサシとともに数々の脅威に立ち向かった英雄、 ウルトラマンコスモス! コスモスはロボットを破壊するものの、円盤からは次々にロボットが 現れる。コスモスの窮地にムサシは今一度彼と一体となり、ロボットの機能を停止させた。 これで当面の危機は凌げたように思われたが……そこに現れたのは、サンドロスとの戦いの時に コスモスを助けてくれたウルトラマン、ジャスティス。しかもジャスティスはロボットを再起動 させたばかりか、コスモスに攻撃してきたのだ! 赤いモノアイのロボット、グローカーボーン二体を張り倒したコスモス・エクリプスモードに、 ジャスティスは右拳からの光線、ジャスティススマッシュで攻撃する。 『ジャスティス、何故だ!?』 ムサシの問いにジャスティスは、駆けてきての蹴打で答えた。 「デアッ!」 かわしたコスモスにジャスティスは容赦なく蹴りを打ち続ける。何かの間違いではなく、 ジャスティスは明白にコスモスに対する攻撃意思を持っている! 『待て!』 訳が分からず制止を掛けるムサシに構わず、ジャスティスはコスモスの首を鷲掴みにして締め上げる。 「ウゥッ!」 『どうして……ウルトラマン同士が戦うんだ……!』 混乱するムサシ。ジャスティスはやはり何も言わないまま、コスモスをひねり投げた。 「デアァッ!」 「ウアッ……!」 反撃せず無抵抗のままのコスモスに対して、ジャスティスは容赦なく打撃を浴びせ続ける。 その末にコスモスを力の限り蹴り倒す。 「デェアッ!」 「ムサシーッ!」 コスモスが倒れると、ムサシのチームEYES時代の先輩であり、新生チームEYESのキャップに 就任したフブキが絶叫した。本来ムサシに個人的に会いに来ただけであり、非武装の今では コスモスを助けることは出来ない。 「ゼアッ!」 よろよろと起き上がるコスモスに、ジャスティスは再びジャスティススマッシュを食らわせた。 その攻め手に慈悲はない。 「グアァッ!」 「ムサシ! コスモス立てー!」 一方的にやられ、カラータイマーが赤く点滅するコスモスを、フブキが駆けていきながら 懸命に応援する。 「ジュッ……!」 「立て! コスモス! ムサシー!」 コスモスがやられている間に、グローカーボーンが起き上がって、両腕に備わったビームガンから コスモ・ノアに向けて光弾を発射した! 『やめろぉッ!』 叫ぶムサシ。コスモ・ノアが危ない! ――その時、空の彼方からひと筋の流星が高速で迫ってきて、コスモ・ノアの前に降り立った! 「あれは……!?」 「セェアッ!」 驚愕するフブキ。コスモ・ノアの盾となって、光弾を弾き飛ばしたのは、三人目のウルトラマン…… ウルトラマンゼロだ! 「ジュッ!?」 ゼロの登場に、コスモスも、ジャスティスも目を見張った。 「あのウルトラマンは……味方なのか、敵なのか……?」 訝しむフブキ。彼はジャスティスの行いで、それが分からなくなっていた。 「セアァッ!」 そんな彼の思考とは裏腹に、ゼロは瞬時にグローカーボーンに詰め寄って、鉄拳を浴びせて 片方を殴り倒した。 「キ――――――――ッ!」 ゼロを敵と認識したもう片方のグローカーボーンが即座に光弾を放ったが、ゼロはバク転で かわしながら接近し、後ろ回し蹴りで横転させた。 「ジュアッ!」 グローカーボーンと戦うゼロにもジャスティスは攻撃を仕掛けようとしたが、そこにコスモスが 飛びかかり、羽交い絞めにして阻止した。 「セェェェアッ!」 コスモスがジャスティスを食い止めている間に、ゼロはグローカーボーン一体をゼロスラッガー アタックで切り刻んで爆破し、二体目にはワイドゼロショットを撃ち込んで破壊した。 だがいくらグローカーボーンを破壊しても、大元の円盤、グローカーマザーから新たな機体が 送り出されようとしている。 『させるかよッ!』 するとゼロはストロングコロナゼロに変身して、上空のグローカーマザーに対してガルネイト バスターを放った! 『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――ッ!』 灼熱の光線が直撃し、その猛烈な勢いによってグローカーマザーを押し上げ、大気圏外まで 追放した。 『ちッ、破壊は出来なかったか。頑丈だな……』 ゼロが舌打ちしていると、ジャスティスがコスモスを振り払ってジャスティススマッシュを 撃ってきた。 「デアッ!」 「! ハッ!」 すぐに気がついたゼロは光線を腕で弾く。そのままジャスティスとにらみ合っていると、 ジャスティスが、『聞き慣れた声で』問うてきた。 『お前は何者だ。何故お前も人間に味方するのだ』 「ッ!」 一瞬動きが固まったゼロだったが、気を取り直して、背にしているコスモ・ノアを一瞥 しながら答える。 『あれは地球人たちの夢の砦だ。そいつを壊していい道理がある訳ねぇ』 と告げると、ジャスティスはやや感情を乱したように言い放った。 『夢だと……お前もそんな曖昧なものを、宇宙正義よりも優先するというのかッ!』 ジャスティスがゼロへ駆けてきて殴り掛かってくるが、ゼロはその拳を俊敏にさばく。 『夢を奪うことが、正義なものかよッ!』 言い返しながら肩をぶつけてジャスティスの体勢を崩し、掌底を入れて突き飛ばした。 それでもジャスティスはゼロとの距離を詰めて打撃を振るってくる。 『奪う? 地球人こそがいずれ、略奪者となるのだ! それを未然に阻止することこそが正義だッ!』 荒々しい語気とともに放たれるパンチ、キックの連打。しかしゼロはそれら全てを受け流した。 『どんな事情があるか知らねぇが、まるで説得力がねぇな!』 『何!?』 『お前の拳がどうして俺に当たらないか分かるか? 感情的になりすぎてがむしゃらだからだ! 技はそのままお前の心の状態を表してるぜ』 ゼロの指摘を受け、心に刺さるものがあったかジャスティスが一瞬たじろいだ。 『何かの後ろめたさを強引に振り切ろうって感じの拳だ。そんな半端な拳は、俺には通用しねぇ。 コスモスだって、その気だったら今のお前なんか敵じゃなかっただろうぜ』 『……知った風な口を……!』 ゼロの言葉に何を感じたか、怒りを見せたジャスティスが光線を繰り出そうと構え、ゼロも 身構える。 だが二人の争いに、ムサシの叫び声が割り込んだ。 『やめてくれ! ウルトラマン同士で争い続けて、何になるんだ!? 話せば分かり合えるはずだッ!』 『……!』 それにより、ジャスティスは構えた腕を下ろした。ゼロもまた、これ以上戦おうとはせずに 構えを解く。 そしてジャスティスとゼロが同時に変身を解除し、光に包まれて縮んでいった。少し遅れて コスモスも、ムサシの身体に変わっていく。 「うッ……!」 「コスモス! 大丈夫ですか!?」 ジャスティスからもらったダメージが響いて倒れているムサシの元に才人が駆け寄ってきて、 彼に手を貸して助け起こした。 「君は……さっきのウルトラマンか……」 才人に肩を貸されたムサシが問いかけた。 「君は何者なんだ……? あの赤い姿からは、コスモスの光が感じられた……。どうして君が コスモスの光を持っている?」 「……」 才人は無言のまま答えなかった。ストロングコロナはダイナとコスモスから分け与えられた 光によって生まれた形態だが、この世界のコスモスにはあずかり知らぬこと。だがそれをどう 説明したらよいものか。 才人が黙っていたら、フブキが二人の元へと駆けつけてきた。 「ムサシ! 大丈夫だったか!?」 「フブキさん……」 「……そこの子供が、三人目のウルトラマンか……」 フブキは見ず知らずの才人を一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。 「何者かは知らないが、ムサシとコスモスを助けてくれてありがとう」 「いえ……」 フブキが話していると……四人目の人物がコツコツと足音を響かせて現れた。 「コスモス、そしてもう一人のウルトラマンよ。お前たちがどうあがいたところで、デラシオンの 決定は覆らない」 「!」 振り返った才人の顔が、苦渋に歪んだ。 新たに現れた人物……状況的に、ジャスティスの変身者は……ルイズの姿形となっているのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4886.html
前ページ次ページゼロの使い魔はメイド その日最後の授業が終わると、ルイズは軽く伸びをしてからすぐさま席を立った。 夕食までは、まだまだ時間がある。 その間生徒たちのすることは、各人バラバラであった。 異性に粉をかけたり、カードゲームに興じたり、くだらないおしゃべりをしたり。 中には真っ先に自室に戻り、予習復習をびっちりと行う勤勉な者もいる。 ルイズもそんなうちの一人だった。 これで魔法が使えないという点がなければ、絵に描いたような優等生の出来上がりだ。 それは入学当初から、使い魔を召喚し、二年へと進級した今も変わらない。 ゼロと呼ばれて馬鹿にされ、友人がいないこともそれに拍車をかけていたかもしれなかった。 部屋に戻ると、 「お帰りなさいませ」 控えめな笑みと共に、若いというより幼いメイドがルイズを出迎えた。 ルイズが召喚した使い魔・シャーリー。 「お茶、いれてくれる」 ルイズはマントを脱ぐのを手伝ってもらいながら、シャーリーに言った。 「はい。ただ今」 パタパタと響くメイドの足音を聞きながら、ルイズは椅子の上で息をついていた。 やはり、自分の部屋は落ちつく。 当人にはわからないが、その顔は非常にリラックスしていたものだった。 いつもの高飛車とも、あるいは驕慢とも言える険が消えたその顔は、ルイズという少女が生来持っている美貌をぐんと引きたてている。 魔法が使えぬコンプレックスをひた隠しにするように、貴族たらんと虚勢をはる普段からはまず想像もできない顔だった。 何故、こんな風になれるのかと言えば、その理由はシャーリーである。 今までルイズが接してきた平民というのは、多くがヴァリエール家の使用人だ。 名家であり、優秀なメイジを輩出するエリートであるヴァリエール家は、その一族のみならず、その使用人たちにも一種の自負があった。 そのため、ヴァリエールの人間でありながら、魔法の使えないルイズには少なからぬ蔑視が向けられていた。 無論、表だってそれを出すわけではないが、繊細な少女の心は敏感にそれらを感じ取っていた。 だから、ルイズは貴族であることにこだわり、高圧的な態度に出ることが多かった。 自身の心を防御するために。 それはこの学院においても同じことだった。 けれど、シャーリーに対してはそんなことはない。 する必要がなかった。 彼女は頭からルイズに従順であったし、十三という年齢ながら家事全般が器用にこなすし、気もきく。 それに、勤勉だった。 何よりも、シャーリーは他の平民たちのような、服従の中に蔑みをこめた、あの嫌な眼をしていなかった。 それはひとえに、異邦人であるシャーリーには貴族=魔法使いという認識がないせいであろう。 魔法が絶対という感覚を持たない少女にとっては、ハンデを持ちながら決して卑屈にならないルイズの姿は決して蔑むようなものではなかった。 むしろ尊敬の念さえ感じられるものであったのだ。 年齢が近いということもプラスに作用したのかもしれない。 熱い紅茶が用意され、豊潤な香りがルイズの口や鼻を潤した。 紅茶を堪能し、ほっと息をついてから、 「明日はでかけるから、今日は早めに休みなさいよ」 「おでかけですか」 間を置いて、シャーリーがたずねる。 「城下町へ買い物に行くのよ」 「街……ですか」 この世界にきてからそこそこ日数がたっているが、シャーリーはまだ学院内のことしか知らなかった。 一体、この魔法の国の街というのはどんなものか。 不安がなくはないが、少女の好奇心はくすぐられた。 「そう、馬で……」 ルイズは言いかけたが、すぐに黙ってしまった。 「――?」 主人の態度を、シャーリーは奇異に感じた。 「あなた、馬に乗れる?」 ルイズは少しばかり困った顔で言った。 「いえ、乗馬の経験は……」 シャーリーは申し訳なさそうに首を振った。 「そうかあ。困ったわね……」 ルイズは、人指し指をこめかみに当てながら言った。 「馬でいってもけっこう距離があるし……。まさか、歩いていくわけにもいかないし……。かといって、馬車だと時間がかかりすぎるし……」 と、思案に暮れだした。 「あの、なんでしたら、お留守番を――」 シャーリーが言いかけた。 「ダメよ、そんなの」 ルイズはすぐNOを突きつけてしてしまう。 かなり強い口調だった。 「そ、その…。あなたに社会見学をさせるためでもあるんだから、いなかったら意味ないでしょ?」 ルイズはそう言ったものの、どこか言い訳じみていた。 シャーリー自身はあまりそのあたりはわかっていなかったが。 ただ、どきまぎしつつあれやこれやと考えるルイズを見つめるばかりだった。 「もっと早く行ければ……たとえば、こう空を飛んで……。空、空を飛ぶ……か」 空と何度も言った後、ルイズははたと気づいたような顔になったが、すぐにまた考え込んでしまった。 「といっても、主人はあいつだし……そもそもアレは……」 (何を考えてるんだろ……?) シャーリーがルイズを見ていると、ふっと部屋に影がさした。 窓の外を、何か大きなものが横切ったのだ。 「あ……」 「あ!」 シャーリーとルイズ、二人の少女は同時に、その大きなものを見た。 それは、いかにも狂暴そうな、大型のワイバーンである。 肉食性で知られるその狂暴な生き物は、すいっと学院内の敷地に降り立った。 ワイバーンの背中には、青く長い髪をした少女が乗っていた。 ひらりと飛び降りた少女は、さげていた革袋から骨付き肉を取り出し、無造作に後ろへ放った。 ワイバーンはそれを口でキャッチして、ばりばりと骨ごと肉を食ってしまった。 「考えてたら……か。相変わらず品のない連中ね」 ルイズはげんなりとした顔で、青い髪の少女とワイバーンを見た。 シャーリーもそっと様子をうかがう。 少女のほうはせいぜい顔を知っている程度だが、ワイバーンのほうはわりと顔なじみだ。 というか、ほぼ毎日顔を合わせている仲だった。 ワイバーンの名は、モード。 学院の生徒によって召喚され、使い魔となった、いわばシャーリーの『同業者』だ。 性別もシャーリーと同じ。 すなわち、雌だった。 使用人たちの話によると、この春に召喚された使い魔の中では最大の大物らしい。 さすがに風竜や火竜などと比べれば見劣りはするものの、ワイバーン属の中でも最大の大きさを誇る種で、下手なメイジよりもずっと危険で恐ろしい。 と、シャーリーは聞いていた。 マルトーによると、学院長のオールド・オスマンは若い時ワイバーンに襲われ、あやうく食われかけたことがあるとか。 噂に違わず、その性格は狂暴で、ルーンの効果か人間を襲うことはないけれど、主人以外にはまったく懐かない。 元々が、人間が容易く飼いならせるような生き物ではないのだから、仕方ないが。 他の使い魔たちは、下手をすればおやつにされかねないのでみんなモードを避けていた。 まったくもって賢明な選択だろう。 しかし、シャーリーにはその恐ろしさというのは、今ひとつわからなかった。 確かに巨体で恐ろしい外見だが、シャーリーからすればどちらかというとおとなしく思えた。 ワイバーンのモードは愛想いいわけでないけれど、シャーリーには牙をむいて威嚇することはなかった。 そんなわけで、いつの間にかモードの餌はシャーリーがやるようになっていたのだ。 ワイバーンに続き、主のほうに視線を送る。 長い青髪に、広い額をした美少女だった。 ただし、その雰囲気は深窓の令嬢というにはほど遠く、全体に粗野で、獣性すら感じさせるものだった。 名前は、確か。 (エザリア? いや、エリザベート? いえ、イザベラ……だったかな?) 「言うだけ無駄よね、あのガリアの、意地悪おでこ魔女なんかには……」 ルイズが、諦めたようにため息をついた。 窓から下を見ると、イザベラは赤い髪をした少女と何か話しているようだった。 様子からして、友人同士なのだろう。 こちらはシャーリーもよく知っている。 キュルケという、ルイズとは仲の良くない少女だ。 ルイズが一方的に嫌っているようにも見えるが、それは深く言及すべきではないだろう。 (空を飛ぶ……か) シャーリーは先ほどルイズのつぶやいていた言葉を思い返しながら、モードを見た。 巨大な翼。 大の大人でも、四、五人は楽々と乗せられるであろう広くたくましい背中。 こんな生物が襲ってきたらさぞかし恐ろしいだろうが、従順な使い魔であるならさぞ頼もしいだろう。 (空を飛ぶって、どんな気持ちだろう?) 憧れをこめた目で、シャーリーはワイバーンの翼を見つめた。 それから。 「あの、シャーリー? またお願いできない?」 空になったティーポットを載せたトレイを厨房まで運ぶ途中、シャーリーはメイド仲間の一人にそう声をかけられた。 こう言われると頼みごとの内容はすぐにわかった。 イザベラのワイバーンに餌をやってくれというのだ。 「いつもいつも悪いんだけど……あのワイバーンに近づいて平気なの、あなただけなのよね」 「わかりました」 シャーリーはすぐに承知し、少し早足で歩き出した。 ティーポットを厨房に運んだ後、すぐに餌をワイバーンのもとへ持っていく。 餌は、日によって異なるが、大抵は羊か、豚。あるいは牛肉だった。 その総量、シャーリーのような少女に抱えられるようなものではないが、ワイバーンの巨体を考えると、少量とすら言えた。 シャーリーが専用の手押し車に乗せて肉を運んでいくと、ワイバーンのそばで主人のメイジが何事かしていた。 何か長いものを磨いてるようだが。 (魔法の杖、かな?) 一口に魔法の杖といっても、わりと個人差があることをシャーリーが知ったのは最近のことだ。 ルイズの持つタクトのようなタイプが多いが、長い木を削りだしたようものから、青銅製の造花などけっこうバラエティーに富んでいる。 ワイバーンはシャーリーが近づくと、かすかに首を持ち上げて低く鳴いた。 「なんだ、メイドかい?」 使い魔の反応で、気づいたのだろう。 主人のイザベラも顔を上げた。 「あの、使い魔の食事を持ってまいりました」 シャーリーが頭を下げると、 「ん、ご苦労」 イザベラはそれだけ言って、また杖?を磨き始めた。 シャーリーはワイバーンに餌を与えると、帰る前の挨拶をとイザベラのほうを向いたが、 (……っ) イザベラの手の中にあるものをはっきりと見て、驚いた。 杖ではなかった。 それは、どう見ても銃である。 多分ライフル銃の類ではないだろうか。 銃器などとは無縁の生活をしてきたシャーリーだが、まず見間違えではない。 それとも、彼女の杖はこういう形のもの、なのか。 しばしシャーリーは銃に釘付けになったままだった。 イザベラはシャーリーの視線に気づくと、わずかに表情を歪める。 「あんだよ、メイジが銃を持ってちゃいけないのかい?」 「し、失礼いたしました!」 シャーリーは頭を下げながら、 (やっぱりアレ、銃なんだ……) なんとも不思議な気分になっていた。 この魔法の世界で、まさか銃にお目にかかろうとは。 (やっぱり、魔法の銃なのかなあ……) 密かに考えながら、シャーリーは手押し車を押しながら早々に退散する。 しかし、 「ちょっと、待ちな」 イザベラが急に呼び止めた。 「は、はい」 咎められるのでは、とびくびくしながら、シャーリーは振り返る。 イザベラはじろりとシャーリーを、特にブルネットの髪に注視していた。 「お前、身内にバンクスとかいうやつはいるかい?」 しかし、イザベラが聞いてきたのは実に意外なことだった。 バンクス。 どうも誰かの名字らしいが、特にシャーリーの記憶に残るものはない。 「――いいえ。ございません」 「ふん、そうかい。もう用はないよ、いきな」 イザベラはひらひらと手を振った。 シャーリーは訝しく感じながらも、ほっと安心して戻っていった。 「……なーんか、あの女に雰囲気似てたんだがね。気のせいかな?」 イザベラはかすかに空を見上げて、つぶやく。 ぐるる、とワイバーンが鳴いた。 翌日になって。 ルイズとシャーリーは、馬を駆って一路城下町を目指していた。 颯爽と馬を走らせるルイズの後ろを、馬にしがみつくようにしてシャーリーが追う。 いや、というよりも。 どう見たってシャーリーは馬に乗っているだけで精一杯だった。 乗馬などしたことがないので当然なのだが。 にも関わらず、ぴったりとルイズの馬についてくる。 (……不思議な子よねえ?) ルイズはちらりとそれを振り返りながら思った。 学院の馬はきちんと訓練されたものばかりだが、それでもまったく経験のない人間が自由に乗りこなせるわけではない。 なのに、シャーリーはそれができている。 できているというか、馬が自ら積極的に動いているようだった。 まるで姫に忠誠を誓う騎士のように。 もしかすると、この異国の少女には動物を魅了し、従えさせる力があるのかもしれない。 (……そういえば、どっかでそんな不思議な力のある人間の話を聞いたことがあるような……) ヴィ……なんとかだったろうか? 確か古い本でそんな名前の存在をちらりと目のした記憶がある。 あらゆる獣を自在に使役する力を持った人間について―― (でも、まさかねえ?) シャーリーは、とてもそんなことをしているようには見えない。 確かに動物になつかれやすいタイプなのかもしれないが、それはあくまで好意を持たれるということで、自由に操るなどほど遠い。 「シャーリー、大丈夫? 無理しないで」 ルイズが声をかけると、 「は、はいっ」 必死な表情ながら、シャーリーは返答をした。 その必死さがどうにも可愛くて、悪いとは思いながら、ルイズはついつい笑ってしまった。 虚無の曜日。 魔法学院の生徒はその日をヴァカンス、あるいは勉学や鍛錬に用いる。 しかし、中には何もせずに部屋の中でじっとしている者もいる。 イザベラもその一人だった。 もっとも彼女の場合、平日の授業を勝手に休んで遊びに行く、要するにサボることは日常茶飯事だったが。 イザベラは机の上で、黒光りする短銃を手入れしていた。 メイジが銃を熱心に扱うことは珍しい。 その威力や精度において、銃はメイジの攻撃魔法と比較すれば取るに足らないものだから。 少なくとも、一般に流通しているものは―― ゆえに剣と同じく、メイジからすれば蔑視の対象でしかなかった。 「イザベラ、いる?」 いきなりノックもなく、ドアが開かれた。 入ってきたのは、キュルケだった。 「留守だよ」 イザベラは手入れを中断することなく、さめた声で言った。 「ちょっとあなたの使い魔の手を借りたいのよ、お願い」 キュルケはイザベラの発言をスルーして、手を合わせた。 「今からじゃ、ちょっと追いつけないの」 「また新しい男かい? そのうち人に言えない病気もらうぞ?」 イザベラはうんざりした顔で、銃に弾をこめる。 その銃は、他の短銃と異なり、レンコンのような弾倉があった。 弾丸も鉄の玉ではなく、リップスティックを思わせる形状をしていた。 「違う、違う」 毒舌を受けてもキュルケは平然としたままで、手を振った。 慣れているのだろう。 「ヴァリエールの後を追いかけたいのよ」 「あ? お前がそっちの趣味に目覚めたって噂はマジなのかい? やだねえー……」 「興味があるのは、ヴァリエールじゃなくって、その使い魔のほうよ」 「使い魔ぁ? あいつに使い魔なんかいたか?」 手入れの終わった銃を懐にしまい、イザベラはようやくキュルケに顔を向けた。 「そりゃいるに決まってるじゃない。でなけりゃ進級できないわよ」 「……そうだったね。で、珍しい猫か何かか、その使い魔は?」 「人間よ。人間の女の子」 それを聞くなり、イザベラの表情は変わった。 「人間だと? そいつはマジかい?」 「もちろんよ。使い魔っていっても、ほとんどメイドみたいなものだけど」 「……」 イザベラは無言になった。 しかし、すぐに立ち上がり、長い髪を後ろで束ね始めた。 「人間の使い魔か。面白そうだ。いっちょ見学としゃれこもうかね」 「ありがとう! 手を貸してくれるのね!」 キュルケはにっこりとしてイザベラに抱きついた。 「暑苦しい。その無駄にでかい乳、押しつけんじゃないよ」 イザベラは苦い顔をして、キュルケを押しのけた。 キュルケは、 「あらん、冷たくしないでよ」 と、笑っている。 それからすぐに、学院から二人の少女を乗せたワイバーンが飛び立った。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド