約 1,746,396 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9339.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五話「魅入られた少女」 毒ガス幻影怪獣バランガス 登場 リシュの引き起こした事件が解決し、クリスが帰国してからしばらく経ったある日のこと。 朝もやの中、ヴェストリの広場に、一人、一人と生徒が現れた。いずれも、地獄のアルビオンから 生還した生徒たちである。 軽く緊張した面持ちの彼らの目の前に、二人の男子が立つ。ギーシュと才人だ。 その内の才人が、かちんこちんのギーシュの肘をつついた。 「な、なんだね?」 「お前、隊長だろうが。ちゃんと挨拶しろよ」 「うう……」 「なんだよ?」 「い、胃が痛い……」 集まった生徒たちが爆笑した。 「……しっかりしてくれよ」 「やっぱり、きみが隊長になったほうがよかったんじゃないかね? 水精霊騎士隊(オンディーヌ)の 隊長なんかぼくには荷が重すぎる」 困った顔でギーシュが言った。 リシュの件で、才人が囚われの身となり、ルイズも一時命の危機に瀕したことを知ったアンリエッタは、 二度と同じようなことが起きないようにするため、表向きは怪獣や宇宙人に関わるような怪奇事件を調査する 目的の、実態は才人たちの支援組織となる新たな騎士隊の結成を学院に対して発令したのだった。騎士隊の 名称は、英雄たちウルティメイトフォースゼロを助ける騎士たちとして相応しい名誉ある名を、とアンリエッタが かつて存在した伝説の近衛隊の呼び名からつけたのであった。 才人はゼロに変身する都合上、隊長だと色々と不都合が生じるし、ハルケギニアのルールに 疎いところもあるので、副隊長の座に着いた。代わりの隊長はギーシュだ。人柄と実力と経験に 不安は残るが、父親は元帥だし、他に適任もいなかった。 「由緒がどうした。気にしたってキリがねーだろ」 「で、でもな……、さすがにぼくがその、伝説の騎士隊の隊長というのは、うーむ……」 「おいギーシュ! サイト! いつになったら訓練を始めるんだよ! 毎朝グダグダじゃないか!」 二人がもたもたしていると、隊員の間から野次が飛んだ。 「ほら、お前が、もたもたしてるから文句言われたじゃねーか」 「きみがうだうだ文句ばっかりつけるからじゃないのかね!」 「お前が情けないからだろうが!」 「だから隊長はきみがやれって言ったじゃないか!」 才人とギーシュで言い争いになると、才人が小馬鹿にした調子で言い放った。 「……ったく、そんなだからモンモンに許してもらえねえんだよ」 「モンモンとのことはきみにかんけぇええええないだろぉおおおおおおおッ!」 キレたギーシュが才人に殴りかかった。 「やりやがったな! いいぜ、今日の訓練の初めはお前とのぶつかり稽古だぁぁぁッ!」 才人の方もギーシュに飛びかかってやり返す。彼らの熱に当てられた隊員たちもギーシュ側、 才人側の二つに分かれて壮大な取っ組み合いを開始した。 その様子を見ていたルイズが呆れ返ってつぶやいた。 「……毎度毎度、飽きもせずによくやるわね」 その日の午後、昼食の席。オンディーヌが結成されてから、才人はルイズの隣ではなく 騎士隊の者たちとかたまって食事することが多くなっていた。 その席で、ギーシュやマリコルヌがある話題を上げていた。 「今年のスレイプニィルの舞踏会に、オールド・オスマンが女王陛下を来賓に仰いだが、 キャンセルされたと教師たちが噂してたよ。ああ、舞踏会の席で女王陛下にお目通り 出来たら望外の喜びだったのに……。実に残念だよ」 「でもそれは仕方ないだろ。女王陛下は連日激務に追われていらっしゃるそうだし。所詮は 学院の一行事にお越しいただくという方が無理ってもんさ」 二人の話を耳に入れた才人が尋ねかける。 「スレイプニィルの舞踏会?」 「そうだよ、今度、新学期が始まるだろ?」 「新学期で、どうして舞踏会なんかやるんだよ」 「そりゃ、歓迎に決まってるじゃないか。新しく入ってきた貴族の少女たちは、社交界が初めて という子も少なくない。そんな子たちに、ぼくが手取り足取り、大人の社交を教えるのさ! あ、少年もいるけどね」 要は新入生歓迎会のようなものか、と才人は解釈した。そういえば、自分が召喚されたのは 春の使い魔召喚の儀式の場だったから、今現在と大体同じ季節のはず。あれからもう一年が 経とうとしてるんだなぁ、と何だか感慨深いものを感じた。 「でだな、ただの舞踏会じゃないんだよ!」 話が進むに連れ、ギーシュは興奮気味になる。 「どこがどう“ただの”じゃないんだよ」 「仮装するのさ」 「仮装? そんなの別に普通だろ。どこがすごいんだよ」 才人が問い返した時、後ろの席の会話が才人の耳に入ってきた。 「知ってるかい? 最近、トリスタニアの上空に現れた“怪鳥”の話」 「ああ。竜騎士隊に勤める兄貴も噂してたが……、ほんとなのか?」 才人はそちらが気に掛かり、ギーシュたちをほっぽって聞き耳を立てた。 「……なんでも、幅は百五十メイルはあったって言うぜ」 「フネじゃないのか?」 「そんなかたちのフネがあるもんか。それに鳥のようなかたちをしてたって。仮に怪獣だとしても でかすぎだよな。まぁ、アルビオンでそれくらいの大きさの奴が現れたけど……」 「やめてくれよ……。あんな感じの化け物がほいほい出てきたらたまんないぜ……」 才人はいささか不穏なものを感じて、席を立って話を聞きにいった。 「その話、詳しく聞かせてくれないか?」 それは、最近宮中で噂になっていることであった。竜騎士が夜間飛行中に、巨大な“影”を見たと。 幅は百メイル以上で、およそ生物とは思えないような奇妙な音を立てていたという。しかし竜騎士の竜が 怯えて、観察する前に逃げ出してしまったそうだ。報告を受けた竜騎士中隊があがったときには、もう霞の ように消えていたという。王宮では、雲を見間違えたという意見が主流のようだ。 才人はその“怪鳥”の噂を考察する。やはり怪獣としても大きすぎるから、宇宙人の円盤の 一種だろうか。しかし、竜騎士に見つかるようなヘマをする円盤がウルティメイトフォースゼロの 監視をかいくぐれるとは思えない。 いずれにせよ、この噂話だけでは情報があまりに足りないので何も断定は出来ない。 だが新手の敵かもしれないので、覚えておいた方がいいだろう。 才人が席に戻ると、マリコルヌに見咎められた。 「おい、人の話はちゃんと聞けよ! 途中で席を立つなんて失礼極まりない!」 「んあ? ああ、ごめん。で、仮装がどうしたって?」 「もういい!」 「ごめんごめん。そう怒るなよ。お前たちも気にならないか? トリスタニアの上空に現れた 謎の巨大な影! こういうのを調べるためのオンディーヌだろ」 「夜の哨戒飛行なんて、誤認の連続だよ。そもそも空の出来事じゃあ、ぼくたちじゃ調べようがない。 裸のお姫さまが飛んでた、なんて情報なら調査に乗り出してもいいが」 ギーシュらはへそを曲げてしまっていた。参ったな、と才人が思っていたら、眼鏡をかけた少年、 レイナールが口を開いた。 「きみたち、舞踏会も謎の影もいいが、騎士隊そのもののことももっと考えてくれよ。ぼくたちが 宮中でなんと呼ばれているか知ってるかい? “学生の騎士ごっこ”だぜ? そりゃあ、昔の偉大なる 武人たちと比べられて、“子供のお遊び”なんて言われてしまうのはしかたない。でも、ぼくたちが それに甘んじるいわれもない。だからこそギーシュ、サイト、きみたちにはもっと真面目に考えてほしいのさ」 ギーシュと才人は、うむむ、と顔を見合わせた。 「きみの考えは正しいかもしれんが、で、どうすりゃいいんだ?」 「もっと陣容を強力にしたい。今のところ、シュヴァリエはサイトだけじゃないか」 「といっても、シュヴァリエなんてなかなかもらえる称号じゃないし……」 「一人知ってるぜ」 レイナールの考えとは、才人の他に学院でシュヴァリエの称号を持つタバサを騎士隊に 招き入れるというものであった。 そんなレイナールたちにオンディーヌ加入を誘われたタバサだったが、彼女は北花壇騎士の 任務がある。つき合ってはいられないので、すげなく断ったのだった。 そしてその日に、タバサは新たな密書を受け取った。しかしそれはいつものイザベラの 召集状とは違い、チクトンネ街のある酒場に来るようにとの指示書であった。 その指示通りに酒場に着いたタバサを迎えたのは……かのシェフィールドだった。彼女は タバサに対して、このように告げた。 「あなたとわたしの主人はね、こういう風に考えているの。世界に四匹しかいない竜同士を 戦わせてみたいんだけど……、どうしていいのかわからない。で、竜を捕まえることにしたってわけ」 「…………」 「竜には、強力な護衛がついている。だから、あなたにその護衛を退治してほしいのよ。 その隙に、わたしが竜を盗むってわけ」 「護衛を退治?」 「あなたもよく知っている人物よ」 シェフィールドの見せた似顔絵を見て、タバサの目が見開かれた。 「この任務を成功させたら……、大きな報酬があるわ。あなたの母親……、毒をあおって 心を病んだのよね。その、心を取り戻せる薬よ」 タバサは軽く唇を噛んで震え、シェフィールドに敵意を含めた視線を送った。 「あら? 天下の北花壇騎士さまが、知り合いだからって私情を挟むの? わかってるの? あなた、自分の母親の心を取り戻せるチャンスなのよ」 ギーシュたちが話題にしていた、スレイプニィルの舞踏会の当日がやってきた。その舞踏会前に、 ルイズは才人に、仮装舞踏会で絶対自分を見つけることと厳命した。この命令の裏には、ルイズと シエスタの女の勝負があるのであった。 夢の世界で、才人との間に確かな絆があることを実感したルイズ――。しかしそういうことが あるとすぐ調子づくのがルイズという女。主人と使い魔の絆が奇跡を呼んだのよ、これはどこぞの 泥棒猫が入り込む余地なんてないわねオホホという感じにシエスタ相手に散々自慢し、さすがに イライラが頂点に達したシエスタが、この際ですから白黒はっきりつけましょうと勝負を申し出たのだった。 その内容こそ、スレイプニィルの舞踏会で才人がルイズを見つけられるかどうか。見つけられたら、 シエスタは才人のことをきっぱりあきらめるという条件であり、そのためルイズは気合いが入って いたのだった。 さて、スレイプニィルの舞踏会とはギーシュたちの言ったように、ただの仮装舞踏会にあらず。 “真実の鏡”を使用して、自分の最も憧れる人物の姿に変身するという内容である。そしてルイズが 変身した相手とは……二番目の姉のカトレアであった。 「サイトはわたしがわかるかしら」 つぶやいたルイズは、わかるわよね、と思った。何せ、カトレアの姿なのだ。 ホールには、それぞれ変身をした様々な人で溢れていた。伝説の勇者、偉人、有名人……、 ウルティメイトフォースゼロの姿になった人もチラホラいたので、ルイズは苦笑した。 才人が自分の元までやってくるのを待つルイズだが、舞踏会が始まった直後に背後から名前を呼ばれた。 「ルイズ」 早いわね! とウキウキしながら振り返ったルイズだが……残念ながらお目当ての才人では なかった。ずっと背が低いし、何より女子だ。 「タバサ?」 後ろにいたのがタバサだ。ルイズが名前を言うと、コクリとうなずいたので、誰かの変身ではないようだ。 「そんな姿でどうしたの? 仮装するなら、鏡はホールの入り口よ」 入り口を指差すルイズだが、タバサは彼女の言うことには構わず、ルイズの手を取って引っ張り出す。 「ついてきて」 「え? ち、ちょっとタバサ、わたし今、大事な用があるんだけど……」 いつになく強引なタバサに戸惑うものの、今まで何度も助けられているので、袖にするのは 忍びない。ルイズは手を引かれるままにホールから外へ連れ出されていった。 才人がホールにやってきたのは、ルイズが連れ出された後だった。彼は周りを見回してひと言、 「うわッ、ゼロたちの格好までいるぜ! しかも仮装っていうか、ほぼそのまんまだ! これどういうことかな?」 ゼロは透視を行って、仕組みを見破る。 『魔法で姿を変えてるみたいだな。まぁ魔法の学校の仮装だから、当然ってとこだろうな』 「そうか、ギーシュたちが話してたのはそういう意味だったのか」 『だがルイズが誰なのかは教えねぇぜ。それじゃフェアじゃねぇからな』 「ああ、分かってるよ」 才人はちゃんと己の判断力でルイズを見つけ出そうとする。しかし一歩踏み出したところで…… 異常が発生した。 周囲の人たちの容姿が一瞬にして変化し、見慣れた学院の生徒たちのものとなったのだ。 変身が解除されたみたいだ。 「うわ! 魔法が解けた!」 「まだ舞踏会は終わってないぞ!」 騒然となるホール。才人は何事かと呆気にとられる。 「何だ何だ? 何か事故でも起きたのか?」 一方、ゼロは訝しげな声を発する。 『妙だな……。ホールのどこにもルイズの姿がねぇぞ。魔法が解けたのなら、この場にいなけりゃ いけないだろうに』 「え? それってどういうことだ……? 俺に見つけろって言っておいて、自分はここにいない?」 才人が、訳が分からずに首をひねっていると、ゼロの声が不意に緊迫の色となった。 『! 学院の外に異様な気配が現れたぜ! まずい、ルイズの身に何か起こったのかもしれねぇ!』 「何だって! やばい、すぐ行かなきゃ!」 才人はマントを翻し、急いでホールの出口へ向かって走り出した。 その少し前……ルイズはタバサに連れられ、学院の外、明かりが届かないような場所まで来ていた。 夜の帳に覆われた野外まで連れられ、ルイズも不審に感じる。 「ねぇタバサ、ここはもう学院の外よ。こんなところに連れてきて、何のつもり……あら?」 気がついたら、タバサの姿がなくなっていた。自分が目を離した一瞬の隙に、どこかへ 行ってしまったのか。だが何のために? 「た、タバサ? どこ行ったの? 変な冗談はやめてちょうだい、あんたには似合わないわよ……」 また、自分の姿がいつの間にかカトレアから元に戻っていることにも気がついた。 「え? 舞踏会が終わるには早すぎるはず……」 「確かにお目当ての子に間違いないわね。悪いけれど、確認のために魔法は解かせてもらったわ」 闇の中から、知らない声音が聞こえてきた。ルイズは咄嗟に身構えて、杖を抜いた。 「誰ッ!? 姿を見せなさい!」 「これは失礼」 自分の前方から、マジックアイテムの明かりとともに黒髪の見慣れぬ容貌の女が現れた。 ハルケギニア大陸では見ないような顔の作りだ。 「わたしは、こっちではもっぱらシェフィールドと名乗ってる者。けれど、あなたには……」 女の前髪が揺れ動き、隠されていた額が露わになった。 そこには、ルーン文字が刻み込まれている。 「ミョズニトニルン、と名乗った方がいいかしら?」 その名と、額のルーン文字――才人の左手の甲のガンダールヴの印と酷似した刻印で、 ルイズは驚愕した。 「“虚無”の使い魔!?」 「うふふ、こうして顔を合わすのは初めてね、わたしの主人と同じ力を持った娘さん」 シェフィールドこと、才人以外の“虚無”の使い魔が目の前に出てきたことに、ルイズは 呆気にとられた。ティファニアとの出会いで、虚無の担い手は四人いることは既に知っていた。 そしてまだ見ぬ他の二人が使い魔召喚をしていたら、才人以外の人間の使い魔が出来ているはず。 そのことは考えていたが、それが本当にいるのだと見せられたらさすがに驚きを禁じ得ない。 同時に、この状況からして、ミョズニトニルンは穏やかな用事でルイズの前にやってきたのでは ないことも理解した。 「わたし以外の担い手の使い魔が、こんな夜更けに何の用かしら!」 深く警戒しながら問うと、ミョズニトニルンは変に恭しい態度で頭を垂れた。 「あなたをお招きに参ったのです。わたしの主人は、この世に三人しかいない同じ力を持った同志を、 ご自分の元へご招待するようわたしに仰せつかったので」 「ふざけないで! 要するに、わたしをさらおうってことでしょ! 誰があんたなんかの言うことなんか……」 ミョズニトニルンの振る舞いに、逆に神経を逆なでされたルイズは怒鳴るが、どこからか 赤い煙が立ち込めてくると、その声が急速に弱まる。 「うッ、これは……!」 毒ガスだ、と判じた時にはもう遅く、ルイズの意識が遠のいてその場に倒れかかった。 彼女の身体を、ミョズニトニルンが操るガーゴイルが受け止め、背に乗せる。 「陛下と同じ虚無の担い手でも、所詮は小娘、呆気ないものね。後は陛下の元まで連れ帰るのみ……」 ミョズニトニルンは自身もガーゴイルに乗っかって飛び立とうとしたが、そこに才人が駆けつけてきた。 「ルイズッ!」 「あら、護衛の騎士様はさすが有能ね。ここを突き止めるなんて。でも、一歩遅かったと いうところかしら」 嘲るミョズニトニルン。才人はこの状況をひと目見て、大体のところを察してデルフリンガーを抜いた。 「ルイズを返しやがれ!」 あらん限りの殺気を向けるが、ミョズニトニルンは涼しい顔で嗤ったままだ。 「あんたの相手は、わたしじゃあないわ」 ミョズニトニルンの背後の闇の中から……赤い毒ガスとともに巨大怪獣が出現する。 「クアァ――――――!」 角ばった頭部と羽を持つ怪獣、バランガスという名前だ。才人は怪獣の姿によって目を見開いた。 「怪獣を操ってるだと……!?」 ということは、ミョズニトニルンは宇宙人か? しかし、額にルーン文字が見える。あれは自分と 同じ、“虚無”の使い魔の印ではないか! ではあの女の主人は、宇宙人を使い魔にしたということ なのか? それとも女は人間で、アルビオンの時のように侵略者が裏で糸を引いているのか? まさか リシュではないのだから、虚無の担い手自身に怪獣を操る力はないだろう……。 何にせよ、今すべきことはルイズを救い出すことだ。才人はウルトラゼロアイを出そうとしたが…… 彼の側にタバサがひょっこりと現れる。 「タバサ!? どうしてこんなところに……いや、今はそれはいい!」 才人はバランガスから目を離さないまま、タバサに頼み込む。 「ルイズがあいつらに捕まっちまったんだ。それを助け出す! お前も力を貸してくれ!」 しかし……タバサからの返事が来る気配がない。 「タバサ……?」 さすがに訝しんで振り向いた瞬間――氷の矢が放たれた! 才人に向かって! 「なッ!?」 咄嗟に飛びすさって回避する才人。そんな彼を、タバサは杖を向けて強くにらみつける。 この殺気……今のが何かの間違いではないと、才人に知らしめた。タバサは、ミョズニトニルンの 側に立ち、才人を殺そうとしている! 「ど、どういうことだ!? タバサッ!」 気を動転させる才人が問いかけたが、タバサは何も答えようとはしなかった。 タバサに守られるミョズニトニルンは、さも楽しそうに言い放った。 「あんたの相手はわたしじゃあないけど、怪獣でもない。そのガリア王国が誇る北花壇騎士―― あんたたちの言うところのタバサだよ!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9426.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十四話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その2)」 双頭怪獣キングパンドン 地獄星人スーパーヒッポリト星人 剛力怪獣キングシルバゴン 超力怪獣キングゴルドラス 風ノ魔王獣マガバッサー 土ノ魔王獣マガグランドキング 水ノ魔王獣マガジャッパ 火ノ魔王獣マガパンドン 登場 ルイズの魔力を奪った『古き本』も遂に最後の一冊となった。最後の本は、かつてウルトラマン メビウスが赤い靴の少女に導かれて迷い込んだパラレルワールドの地球。そこにはウルトラ戦士は いないのだが、そんな世界を侵略者が狙っている。才人とゼロは位相のずれた空間で、キングゲスラに 襲われる青年を発見するが、何故かメビウスが現れない。その時ゼロは気がついた。この物語では、 自分たちがメビウスの役割を果たすのだと! キングゲスラを撃退したゼロたちは、青年―― マドカ・ダイゴと邂逅を果たす。 ダイゴに赤い靴の少女から聞かされた、「七人の勇者」のことを話した才人は、それらしい 人たちに心当たりがあるというダイゴに導かれて、ある四人のところへ行った。 「おお、ダイゴ君。そちらは?」 その四人とは、自転車屋のハヤタ、ハワイアンレストラン店主のモロボシ・ダン、自動車 整備工場の郷秀樹、パン屋の北斗星司。……ゼロがよく知っている、ウルトラマン、セブン、 ジャック、エースの地球人としての姿そのままであった。ダイゴは彼らがウルトラ戦士に 変身するのを幻視したのだという。 だがこの世界での彼らは、ウルトラ戦士ではない普通の地球人であった。ウルトラ戦士に 変身する力を秘めているのはまず間違いないであろうが、それはどうやったら目覚めさせる ことが出来るのだろうか……。 『ゼロ、ウルトラマンメビウスから方法とか聞いてないのか?』 『いや……詳しいこと聞いた訳じゃねぇからなぁ……』 才人が困っているのを見て取って、ダイゴが励ますように告げた。 「まだ、あきらめることないよ。だって……あの四人は、この世界でもヒーローだから。 いくつになっても夢を忘れないって言うか、カッコよくて、小さい頃と同じように 憧れられる、特別な人たち……。だから、きっと思い出すと思うんだ! 自分たちが、 別の世界ではウルトラマンだったってこと!」 「そうですね……俺も信じます!」 ダイゴの呼びかけに才人が固くうなずくと、ダイゴはふとつぶやいた。 「でも、残る三人の勇者は誰なんだろう。この街のどこかにいるのかな」 すると才人が告げる。 「その内の一人は、ダイゴさんだと俺は思います!」 「えぇッ!? 俺!?」 仰天して目を丸くしたダイゴは、ぶんぶん首を振って否定した。 「そ、それはないよ! 僕なんかは、ハヤタさんたちとは全然違うから……夢も途中で あきらめてしまったし……僕にウルトラマンになる資格なんてないよ」 自嘲するダイゴに、才人は熱心に述べる。 「いいえ。ダイゴさんには強い勇気があるじゃないですか。俺たちが危ない時に、危険に 飛び込んで助言をくれました」 「あ、あの程度のこと、別に普通さ……」 「いえ、勇気があってこそです」 ダイゴに己のことを語る才人。 「俺も初めは、特に取り柄のない普通の人間でした。だけど勇気を持ったから、今でも ウルトラマンゼロなんです。勇気を持つ人は……誰でもウルトラマンになれます!」 「才人君……」 熱を込めて呼び掛けていた才人だったが、その時にゼロが警戒の声を発する。 『才人ッ! やばいのが近づいてきたぜ!』 「ッ!」 バッと振り返った才人の視線の先では、海から怪しい竜巻が沿岸の工場地区にまっすぐ 上陸してきた。その竜巻が消え去ると、真っ赤な双頭の怪獣が中から姿を現す! 「キイイイイイイイイ! キュイイイイイイ!」 「怪獣!?」 才人は工場区で暴れ始める怪獣に酷似したものを二度見覚えがあった。 「あいつは、パンドン!」 パンドンが強化改造されて生み出された、キングパンドンだ! ダイゴは現実に現れた 怪獣の姿に驚愕する。 「でも、どうして!? 僕の住む世界に、本物の怪獣はいないはずなのに……!」 「誰かが呼び寄せたんです! それが、少女の言った勇者が必要な理由……!」 キングパンドンは火炎弾を吐いて街への攻撃を始める。こうしてはいられない。 「ダイゴさん!」 「……行くんだね……戦いに……!」 うなずいた才人は前に飛び出し、ゼロアイを取り出す。 「デュワッ!」 才人はすぐさまウルトラマンゼロに変身を遂げ、パンドンの前に立ちはだかった! パンドンは 即座に敵意をゼロに向ける。 『さぁ……これ以上の暴挙は二万年早いぜ!』 下唇をぬぐったゼロに、パンドンは火炎弾を連射して先制攻撃を仕掛ける。 「キイイイイイイイイ! キュイイイイイイ!」 『だぁッ!』 だがゼロは相手の出方を読み、素手で火炎弾を全て空に弾いていく。 『行くぜッ!』 頃合いを見て飛び出し、パンドンに飛び掛かろうとするも、その瞬間パンドンは双頭から 赤と青の二色の破壊光線を発射した! 反射的に腕を交差してガードしたゼロだが、光線は防御の上からゼロを押してはね飛ばす。 『うおあッ! 何つぅ圧力だ……!』 キングパンドンは極限まで戦闘に特化された個体。そのパワーは通常種のパンドン、 ネオパンドンをも上回るのだ。 「キイイイイイイイイ! キュイイイイイイ!」 仰向けに倒れたゼロに対し、パンドンは破壊光線を吐き続けて執拗に追撃する。 『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 ゼロの姿が爆炎の中に呑み込まれる。 「キイイイイイイイイ! キュイイイイイイ!」 高々と勝ち誇ったパンドンは、今度は街を手当たり次第に破壊しようとするが……その二つの 脳天に手の平が覆い被さった! 『なんてな!』 「!!?」 ゼロが器用に、パンドンの首を支えにして逆立ちしたのだ! 「キイイイイイイイイ! キュイイイイイイ!」 『自分の攻撃で自分の視界をさえぎってちゃ世話ねぇな! はぁッ!』 ゼロはグルリと回ってパンドンの後頭部に強烈なキックを炸裂した。蹴り飛ばされたパンドンだが 反転して再度火炎弾を連射する。 『そいつは見切ったぜ!』 しかしゼロはゼロスラッガーを飛ばして全弾切り落とし、更にパンドンの胴体も斬りつける。 「キイイイイイイイイ!!」 『行くぜッ! フィニッシュだぁッ!』 左腕を横に伸ばし、ワイドゼロショット! 必殺光線がキングパンドンに命中して、瞬時に 爆散させた! 「やったッ!」 短く歓声を発したダイゴに、ゼロはサムズアップを向ける。ダイゴもサムズアップで応えるが……。 『ッ!』 ゼロの周囲にいきなり透明なカプセルが現れる! ――その寸前に、ゼロは側転でカプセルを 回避した。 『危ねぇッ!』 ぎりぎりでカプセルに閉じ込められるのを逃れたゼロの前に、空から怪しい黒い煙が渦を 巻いて降ってくる。 『ほぉう……よく今のをかわしたものだな。完全な不意打ちのはずだったが……』 『へッ……似たようなことがあったからな』 黒い煙が実体化して出現したのは、ヒッポリト星人に酷似した宇宙人……より頭身が上がり、 力もまた増したスーパーヒッポリト星人だ! 今のはヒッポリトカプセル……捕まっていたら 間違いなくアウトであった。 十八番のカプセルを避けられたヒッポリト星人だが、その態度に余裕の色は消えない。 『だが、お前のエネルギーは既に消耗している。どの道貴様はこのヒッポリト星人に倒される 運命にあるのだ!』 ヒッポリト星人の指摘通り、ゼロのカラータイマーはキングパンドン戦で既に赤く点滅していた。 さすがにダメージをもらいすぎたか。 『ほざきな。テメェをぶっ倒す分には、何ら問題はねぇぜ!』 それでもひるまないゼロであったが、ヒッポリト星人は嘲笑を向ける。 『馬鹿め。怪獣があれで終わりだとでも思ったかッ!』 ヒッポリト星人が片腕を上げると、地面が突如陥没、また空間の一部が歪み、この場に 新たな怪獣が二体も出現する! 「グルウウウウゥゥゥゥ!」 「ギュルウウウウゥゥゥゥ!」 キングゲスラやキングパンドンと同様に、強化改造を施されたキングシルバゴンとキング ゴルドラスだ! 新たな怪獣の出現に舌打ちするゼロ。 『くッ、まだいやがったか。だが三対一だって俺は負けな……!』 言いかけたところで、空から黒い煙が四か所、ゼロの四方を取り囲むように降り注いだ! 『何!?』 黒い煙はヒッポリト星人の時のように、それぞれが怪獣の姿になる。 「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」 「ガガァッ! ガガァッ!」 鳥のような怪獣、グランドキングに酷似したもの、魚と獣を足し合わせたような怪物、 またパンドンに酷似した個体の四種類。それらは皆額に赤く禍々しい色彩のクリスタルが 埋め込まれていた。 『な、何だこいつらは……!』 この四種は、あるモンスター銀河から生まれた「魔王獣」という種類の怪獣たち。風ノ魔王獣 マガバッサー、土ノ魔王獣マガグランドキング、水ノ魔王獣マガジャッパ、火ノ魔王獣マガパンドン。 内の一体を、現実世界のあるレベル3バースにて封印することになるということを、今のゼロは まだ知らない。 それより今はこの現状だ。さすがのゼロも、カラータイマーが点滅している状態で七体もの 敵に囲まれるのは厳しいと言わざるを得ない! 「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」 しかし怪獣たちは情け容赦なく攻撃を開始する。まずはマガバッサーが大きく翼を羽ばたかせて 猛烈な突風を作り出し、ゼロに叩きつける。 『うおぉッ!』 「ガガァッ! ガガァッ!」 身体のバランスが崩れたゼロに、マガパンドンが火炎弾を集中させる。 『ぐあぁぁぁッ!』 灼熱の攻撃をゼロはまともに食らってしまった。更にキングシルバゴンも青い火炎弾を吐いて ゼロを狙い撃ちにする。 「グルウウウウゥゥゥゥ!」 『がぁぁッ! くッ、このぉッ!』 瞬く間に追いつめられるゼロだが、それでもただやられるだけではいられないとばかりに エメリウムスラッシュを放った。 しかしキングゴルドラスの張ったバリヤーにより、呆気なく防がれてしまう。 「ギュルウウウウゥゥゥゥ!」 ゴルドラスはカウンター気味に角から電撃光線を照射してきた。ゼロはそれを食らって、 更なるダメージを受ける。 『あぐあぁぁッ! くっそぉッ……!』 それでもあきらめることのないゼロ。光線が駄目ならと、頭部のゼロスラッガーに手を掛けたが、 「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」 そこにマガジャッパがラッパ状の鼻から猛烈な臭気ガスを噴き出す。 『うわあぁぁぁッ!? くっせぇッ!!』 考えられないレベルの悪臭に、ゼロも我慢がならずに悶絶してしまった。その隙を突いて、 スーパーヒッポリト星人が胸部からの破壊光線をぶちかましてきた。 『うっぐわぁぁぁぁぁぁぁッ!』 逆転の糸口を掴めず、一方的にやられるままのゼロ。ヒッポリト星人は無情にもとどめを宣告する。 『そこだ! やれぇッ!』 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 マガグランドキングの腹部から超威力の破壊光線が発射され、ゼロの身体を貫く! 『が――!?』 ゼロもとうとう巨体を維持することが叶わなくなり、肉体が光の粒子に分散して消滅してしまった。 「なッ!? さ、才人君ッ!」 ダイゴは大慌てでゼロの消えた地点へと走り出す。一方でゼロを排除したヒッポリト星人は 高々と大笑いした。 『ウワッハッハッハッ! ウルトラマンはこのヒッポリト星人が倒した! これで邪魔者はいない! 人間どもよ、絶望しろぉぉ――――!』 「グルウウウウゥゥゥゥ!」 「ギュルウウウウゥゥゥゥ!」 「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」 「ガガァッ! ガガァッ!」 ヒッポリト星人の命令により、怪獣たちは思いのままに街を破壊し始める。巨体が街中を蹂躙し、 竜巻が街の中心を襲い、ビルが次々地中に沈んでいき、悪臭が広がり、火が街全体を焼いていく。 地獄絵図が展開され始めたのだ。 そんな中でもダイゴは懸命に走り、ゼロの変身が解けた才人が倒れているのを発見した。 すぐに才人の上半身を抱えて起こすダイゴ。 「大丈夫か!? しっかりしてくれ!」 「うぅ……」 才人はひどい重傷であった。ゼロの時にあまりにも重いダメージを受けてしまったのが、 彼の身体にも響いているのだ。 息も絶え絶えの才人であったが、最後に残った力を振り絞って、己を介抱するダイゴの 手を握って告げる。 「あ、後のことはどうか……七人の勇者を見つけて……そして……」 うっすら目を開いて、視界がかすれながらもダイゴの顔をまっすぐ見つめる。 「ダイゴさん……この世界を、救って下さい……!」 「そ、そんな! だから俺は勇者なんて……おい!?」 困惑するダイゴだが、才人はそれを最後に意識の糸が切れた。 「しっかりするんだ! おーいッ!!」 ダイゴの必死の呼びかけが徐々に遠のいていき、才人の意識は闇に沈んでいった……。 「……はッ!?」 次に目が覚めた時に視界に飛び込んできたのは、真っ白い天井だった。 バッと身体を起こして周囲に目を走らせると、病院の病室であることが分かった。身体には 何本ものチューブがつながれている。あの状況で救急車がまともに機能しているとは思えない。 ダイゴがここまで担ぎ込んでくれたのだろう。 しばし呆然としていた才人だったが、遠くから怪獣の雄叫びと破壊の轟音、人々の悲鳴が 耳に入ったことで我に返る。 「あれからどれくらい時間が経ったんだ!? こうしちゃいられない! 早く行かないと……うッ!」 チューブを無理矢理引き抜いてベッドから離れようとする才人だが、その途端よろめいた。 いくらウルトラマンと融合して超回復力を得たとしても、さすがに無理がある。 『無茶だ才人! その身体じゃ!』 ゼロが制止するのも、才人は聞かない。 「けど、俺が行かなきゃこの世界が……! ルイズも……!」 ここまで来たのだ。最後の最後で失敗したなんてことは、才人には耐えられなかった。 傷ついた身体を押して、才人は病室から飛び出す。 病院は至るところ、数え切れないほどの怪我人でごった返していた。それほどまでの被害が 出てしまったことの証明だ。才人は下唇を噛み締めた。 怪我人たちをかき分けてどうにか病院の外に出て、遠景を見やると、夜の闇に覆われた 横浜の街の中でヒッポリト星人と怪獣たちがなおも大暴れを続けていた。あちこちから 火の手が上がり、まるで地獄が地の底から這い出てきたかのようだ。 「くッ……これ以上はやらせねぇぜ……!」 人の姿のないところへと駆け込んで、再度ゼロアイで変身しようとするが……それを ゼロに呼び止められた。 『待て才人! あれを見ろッ!』 ゼロが叫んだその瞬間、街の間から突然光の柱が立ち上った! 「あの光は……!?」 才人はその光がどういう種類のものかをよく知っていた。いつもその身で体感しているからだ。 果たして、光の中から現れたのは……銀と赤と紫の体色をした巨人! 胸にはカラータイマーが 蒼く燦然と輝いている! ゼロがその戦士の名を口にした。 『ウルトラマンティガだッ!』 才人はひと目で、あのティガが誰の変身したものかということを見抜いた。 ダイゴが……勇者として、ウルトラマンティガとして目覚めたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9447.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十五話「暗黒の化身」 超古代尖兵怪獣ゾイガー 超古代怪獣ゴルザ(強化) 邪神ガタノゾーア 登場 「ピアァ――――ッ!」 ガリアから飛び立ち、今まさにアクイレイアを狙ってロマリア艦隊を壊滅せしめたゾイガーの 群れは、ロマリア側の虎街道上空にて侵攻を阻止しに出動したウルティメイトフォースゼロと 激しい交戦を繰り広げていた。 『ちっくしょう! こいつら、何てスピードだ! 攻撃が全然当たんねぇぜ!』 空中でファイヤースティックを振るうグレンファイヤーが毒づいた。先ほどからゾイガーへ 向けて如意棒を振り回しているのだが、一体にさえかすりもしない。 『こっちもだ! ジャンミサイルが振り切られるとは……!』 ジャンボットもまた搭載火器をフル使用しているが、ゾイガーの動きがあまりに速すぎて、 ロックオンすらも出来ないありさまであった。 それもそのはず。ゾイガーの飛行速度はネオフロンティアスペースの当時の主力戦闘機 ガッツウィングはもちろんのこと、高速型のブルートルネードも、果てはマキシマオーバー ドライブ搭載のスノーホワイトでさえ追いつけないほどの常軌を逸した速さなのだ。生半可な 攻撃では、ゾイガーの影を捉えることすら出来ない。それが何体もいるという恐ろしさ! 「ピアァ――――ッ!」 それほどのスピードを出しながら縦横無尽に飛び回るゾイガーたちは、口から光弾を吐いて ジャンボットとグレンファイヤーを一方的に攻撃する。 『ぐわぁぁッ!』 『うおあぁぁッ! くっそうッ……!』 光弾を肩に被弾し悲鳴を発する二人。歴戦の戦士たるこの二人が大いにてこずるこの怪獣たちに、 怪獣迎撃に出撃したロマリア軍の部隊はますます太刀打ちすることは出来なかった。 「速すぎて目で追うことすら出来ない……! これでは戦いにもならん……!」 ロマリアの聖堂騎士の一人が唖然とつぶやいた。艦隊はまだ残存しているが、ガッツウィングと 比べたらはるかに遅いハルケギニアのフネではゾイガーに対抗することなど到底出来ない。 オストラント号でも不可能である。人間たちは、何も出来ることがなく立ち尽くすばかり。 『はぁッ!』 グレンファイヤーやジャンボットも苦戦する中、ミラーナイトは鏡のトリック全開でゾイガーに 対抗している。空に張り巡らした鏡にミラーナイフを連続反射させることで、一体の羽を切り 飛ばしたのだ。 「ピアァ――――ッ!」 片側の羽を失ってバランスを崩したゾイガーが谷底へ向けて真っ逆さまに転落していった。 それを追いかけるのはグレンファイヤー。 『ようやく一体落としたか! とどめは俺に任せな!』 役割分担をして、グレンファイヤーは地上に落ちたゾイガーを叩く。そのつもりだったのだが……。 『うらぁッ!』 炎の拳を、ゾイガーが弾き返した! 『ん何!?』 「ピアァ――――ッ!」 更にグレンファイヤーを蹴り返すと、残った片側の羽を自ら引っこ抜いて身軽となる。 そして跳ねながらグレンファイヤーに猛然と反撃を行う。 『くッ、飛べなくなっても戦えんのか! 何て手強い奴らだ……!』 さしものグレンファイヤーも冷や汗を垂らした。一体だけでもこれほど隙がないのに、 まだまだ何体もいるのだ! 追いつめられるウルティメイトフォースゼロ。この戦いに、地上から入り込もうとする 人間がただ一人だけいた。 「ウルティメイトフォースゼロが危ないわ! 援護するわよ!」 ルイズだ。虎街道の入り口、戦場を一望できる崖の上で、杖を握り締めながら前に出ようと するのを、彼女の護衛のギーシュたちが慌てて制止した。 「ルイズ! おい、馬鹿な真似はよせ! 無闇に身を乗り出そうなんて、いくら何でも 命知らずが過ぎる!」 「怪獣の速度を見ろ! 向こうがこっちに気づいたら、まず間違いなく死んだと悟る前に 消し飛ばされるぞ!」 ロマリアは聖女となったルイズの護衛に聖堂騎士隊や民兵の連隊をつけたが、今はどちらも 敵怪獣の強力さにすっかりと怖じ気づいていた。オンディーヌも、ルイズがいなければずっと 身を潜めていたい気分である。 「何言ってるのよ! 隠れてるだけで戦いに勝てる!? ウルティメイトフォースゼロは 勇敢に戦ってるのに、このハルケギニアの貴族のあんたたちはコソコソしようっていうの!?」 怒鳴り散らすルイズだが、ギーシュは反論。 「だからって、きみは無謀だよ! 呪文も唱えないでさ! 何だか昔のきみに戻ってしまった みたいだよ。やはり、サイトを帰してしまって落ち着きをなくしてるんじゃないのかい?」 その言葉にドキリとするルイズ。 「て、適当なことを言わないでちょうだい! わたしはただ、自分の後ろにいる人々を守りたいだけよ!」 強がるルイズだが、実際は図星であった。才人がいない……彼の分まで戦わなくてはならない…… それを意識しすぎるあまり、つい功を焦ってしまうのだ。 虚勢を張るルイズに参るギーシュたちは、ふと彼女に尋ねかけた。 「ところで、サイトの代わりになるとか言ってた男はどこに行ったんだい? いつの間にか、 姿が見えないけれど」 「ランなら……先に戦いに行ったわ」 「ええ!? まさか、あの激戦に生身で飛び込んでいったのかい!? 無茶な!」 マリコルヌが叫んだその時、彼らの目の前を、崖の下から現れたウルトラマンゼロが猛然と 飛び上がっていった! 「シェアッ!」 「おおッ! ウルトラマンゼロだ!」 ゼロの登場には、ギーシュたちも一瞬心が沸き上がった。 ランから変身したゼロは全速力でミラーナイトたちを苦しめるゾイガーの群れに飛び込んで いきながら、ルナミラクルゼロへと姿を変えた。 『この星にはこれ以上手出しはさせねぇ! ミラクルゼロスラッガー!』 ゼロは数を増やしたスラッガーを飛ばし、ゾイガーを纏めて三体滅多切りにして爆散させた。 ゾイガーの超スピードをも超える早業であった。 「ピアァ――――ッ!」 『レボリウムスマッシュ!』 ルナミラクルゼロの超能力でゾイガーと同等のスピードを出しながら、手の平から発する 衝撃で片っ端から弾き飛ばしていく。ゼロもまた才人の分まで戦おうとしているのだが、 ルイズとは違ってあくまで冷静に、それでいて闘志を燃やしていつも以上の力を発揮する ことに成功していた。 『助かりました、ゼロ!』 『ここから盛り返すぞ!』 ゼロの加勢によってウルティメイトフォースゼロが徐々に押していく。それに合わせて、 人間たちの心にも希望が灯っていく。 「おお、すごい! さすがゼロ!」 「この調子ならいけるわ! 生き残りは、わたしの“爆発”で纏めて地上に叩き落とせば……」 意気込むルイズだったが……彼女たちは、すぐに思い知らされることとなる。 あれほど手強かったゾイガーが、真の戦いの『前座』でしかなかったことを。 「プオオォォォォ――――――――!!」 怒濤の勢いを見せていたゼロだったが、突如谷底から長く巨大な触手が伸びてきて、彼を はたき落としたのだ。 『うおぉッ!?』 「あぁッ!? ゼロがッ!」 「何事だ!? 触手!?」 不意打ちを食らったゼロが谷底に落下。すぐに起き上がるものの、彼はそこで目の前に 現れた『もの』を目にして驚愕する。 『な、何だ! 闇!?』 ゼロの眼前に、広大な谷を埋め尽くそうとしているかのように、『闇』としか言いようない もやのようなものが立ち込めているのだ。いや……その『闇』は凝縮されていき、ゼロをも 超える巨体の怪物を形作っていく。 「プオオォォォォ――――――――!!」 ルイズたちもその怪物の姿を目にして、一斉に絶句した。 「な、何だ、あの化け物の異常な姿は……! いくら何でもおかしいだろう……!」 「しかもでかい……! ゼロが子供みたいだ……!」 ギーシュが『異常』と称したその怪物の姿は、巻貝かアンモナイトから怪物の首と四肢、 触手が生えているかのようなもの。しかもその眼は、下顎についている。まるで顔の上下が 逆になっているようだ。顔の上下が逆の生物が他にいるだろうか? それに全高が百五十メイル辺りもある。ゼロの倍以上だ! そして全身から発せられる プレッシャーは、並みの怪獣の比ではない。距離の離れている聖堂騎士隊や民兵が、一目散に 逃げ出してしまったほどだ。 ゼロはこの闇の怪物の名を、戦慄とともに口にした。 『邪神ガタノゾーア……! こんな奴までいやがったか……!』 それは広い宇宙でも特に恐れられる名前の一つだ。かつてネオフロンティアスペースの 地球の超古代文明を滅ぼし、現行文明もまた滅ぼしかけたほどの大怪物である! その力は 計り知れないものに違いない。 『だがッ! 俺は負けねぇぜッ!』 ゼロはストロングコロナゼロになって、超巨大なガタノゾーアにも恐れずに果敢に挑んでいく。 『おおおぉぉぉッ!』 「プオオォォォォ――――――――!!」 一瞬で距離を詰めて、鉄の拳を真正面からぶち込む! ……が、ガタノゾーアは全くびくとも しなかった。 「プオオォォォォ――――――――!!」 ガタノゾーアは少しの身動きもしないまま、全身からエネルギーをほとばしらせてゼロを 弾き返す。 『ぐあッ!?』 吹っ飛ばされたゼロにガタノゾーアの触手が襲い掛かり、首に巻きついて締め上げる。 『ぐッ、ぐぅぅぅぅ……!』 必死に触手に抗うゼロだが、ストロングコロナのパワーを以てしてもなかなか引き千切る ことが出来ない。延々と苦しめられるゼロ。 『何て野郎だ……! ゼロを簡単にあしらってやがるッ!』 おののくグレンファイヤー。しかし仲間たちはゾイガーに足止めされており、ゼロの救援に 向かうことが出来ないでいた。 『ぜあぁッ!』 ようやく触手を千切って拘束から逃れたゼロ。だがこれはガタノゾーアに無数にある触手の 一本でしかないのだ。 「プオオォォォォ――――――――!!」 ガタノゾーアは触手の数を増やし、更に巨大なハサミつきの触手を伸ばしてゼロを追撃。 ハサミはゼロの上半身ほどもあるサイズだ。 『うおぉッ! ぐあぁぁッ!』 大量の触手を叩きつけられて、さしものゼロもどんどんと追いつめられていく。カラー タイマーも危険を報せ、このままでは極めてまずい。 『ぐッ……はぁぁぁぁぁぁぁッ!』 全身からエネルギーを発して触手を吹き飛ばした一瞬の隙に、ゼロは決死の反撃に転ずる。 『ガルネイトバスタァァァ―――――ッ!』 全力を込めた光線をガタノゾーアに叩き込む! 灼熱の光線はガタノゾーアの中央に炸裂し、 ガタノゾーアの動きが停止した。 「決まったッ!」 ぐっと手を握り締めるルイズたち。――しかし、 「プオオォォォォ――――――――!!」 ガタノゾーアが停止していたのはほんのわずかな時間だけであった! それ以外は、通用した 様子が見られない。 『なッ……!?』 動揺するゼロ。その隙が命取りとなり、触手のハサミに両肩を掴まれて動きを封じられてしまった。 『しまったッ! うおおぉぉ……!』 もがいて逃れようとするゼロだったが……既に遅かった。 「プオオォォォォ――――――――!!」 ガタノゾーアから暗黒の光線が照射され、ゼロのカラータイマーを貫いた! 『がッ……!?』 ゼロの視界から色が消える。そして……カラータイマーが瞬く間に石化し、ゼロの全身も 完全に石化してしまった……! 「ぜ、ゼロッ!?」 『ゼロぉッ!』 『ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 絶叫する仲間たち。しかし石化したゼロは物一つ言わず、ガタノゾーアの触手に突き 飛ばされて谷底に倒れる。 「ウルトラマンゼロが、負けた……」 「プオオォォォォ――――――――!!」 ゼロを石像に変えたガタノゾーアが、勝ち誇るように咆哮。ルイズはそれに、キッと怒りの 眼差しを向けた。 「よくもゼロを……! ありったけの“爆発”を食らわせてやるわ!!」 激しい怒りを燃やすルイズ。しかし相手はゼロを一蹴するほどの規格外の化け物。“爆発”も 通用するかどうか。 だがやらねばならない。ゼロの仇を取るのだ! とルイズは呪文を唱えるのだが……。 「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」 突然新たな怪獣の鳴き声が、下から起こった。直後、ルイズたちの立っている崖に亀裂が走る。 「あ、危ないッ!」 「ルイズ、下がるんだッ!」 「放してッ! あいつをぶっ飛ばさなきゃ!」 「その前にきみが転落死するぞ!?」 危険を察知したオンディーヌが慌てて、ルイズを抱えながら退避。それがぎりぎり間に合い、 崖の崩落から逃れることが出来た。 しかし崩れた崖の中から、一体の新たな怪獣が出現したのだった! 「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」 ガタノゾーアのしもべの怪獣ゴルザ! それもマグマのエネルギーを吸収することで肉体を 強化した個体だ! 戦いの騒乱に紛れて、地中を掘り進んできたのだ。 「わッ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」 一斉に悲鳴を発するオンディーヌ。何せ怪獣は目と鼻の先だ! 『彼らが危ないッ!』 焦るミラーナイトたちだが、未だにゾイガーの群れに苦戦していて救援に回ることは 出来なかった。ルイズたちを助けられる者が、この場には誰もいない! 「くぅッ……!」 目の前にそびえ立つゴルザを憎々しげに見上げるルイズ。しかし山のような怪獣に対して、 彼女はあまりにちっぽけであった。 「ウアァッ!」 キリエロイドを撃退してブリミルたちの村を救ったかに見えたティガ=才人だったが…… その後すぐに現れた新たな脅威に、まるで太刀打ちできずに叩きのめされていた。 「プオオォォォォ――――――――!!」 その相手とは、邪神ガタノゾーア! 六千年前にも現れていたのだ。そして今まさに才人を 追い詰め、殺そうとしている! 『つ、強すぎる……! こんな奴が現れるなんて……!』 ガタノゾーアはティガのあらゆる攻撃を受けつけない。パワータイプとなって筋力を底上げし、 ハンドスラッシュやデラシウム光流など様々な光線を次々繰り出しているのだが、ガタノゾーアには 少しのダメージも与えられている様子がなかった。 「プオオォォォォ――――――――!!」 「ウワァァァッ!」 ガタノゾーアの触手がティガを殴りつける。ティガはパワータイプになっても力負けし、 ねじり伏せられる。 『だ、駄目だ……! ブリミルさんたちを、守らなきゃなんないのに……!』 もしブリミルが死んでしまったら、現代のルイズたちは全員タイムパラドックスで消滅して しまうかもしれない。これまでの出逢いが、全てなくなってしまうのだ……。だがエネルギーは もう残りわずか。ここからどうやったら逆転が出来るのだろうか。 最早打つ手なし。才人は己の無力さを噛み締めるしかない。そう思われた時だった。 「負けるな、ウルトラマン!」 誰もが絶望している中、それでも応援を続ける者が一人。そう、ブリミルである。 「ぼくはそれでも、きみたちが見せてくれる光を信じる! ぼくに何が出来るか分からない けれど……ぼくも戦うよ! きみたちの、力となるッ!」 懸命な思いをとともに、ブリミルは杖を掲げる。そして才人にとっては聞き慣れた、“爆発”の 呪文を唱え始めた。当たり前と言えば当たり前だが、ルイズのものと同一だ。 しかしその杖先に灯った光は、“爆発”の輝きとは異なるものだと才人には分かった。 『あれは……?』 「こ、この輝きは……? いつもの光り方じゃない……」 「ブリミル、どういうこと?」 呪文を唱えたブリミル本人も何事か分かっていないようだ。問いかけたサーシャが、 あることに気づく。 「ブリミル、杖だけじゃなくあなた自身も光ってるわ!」 「えッ!? うわッ、本当だ!」 ブリミルの身体全体がほのかに光り、その光が杖に集まっていく。杖に灯る輝きはまばゆい ほどになり、サーシャたちは思わず顔をそらした。 「おぉッ!?」 最高潮に高まった光が勢いよく飛び、ティガのカラータイマーに入り込んでいった。その瞬間、 色が青に戻る。 それだけではない。ティガの肉体にも大きな変化が発生し、黄金色の光に包まれていく! 『こ、この光は!? 身体中に……力がみなぎってくる!!』 思わず興奮する才人。ルイズの虚無魔法で何故か力が回復することは何度かあったが、 今のこれはその比ではない。限界以上に力が湧き上がってくるのだ! 「ハァッ!」 立ち上がったティガの身体が、そのままぐんぐんと巨大化。自分と同等の体躯になっていく ティガに、ガタノゾーアが初めて狼狽えたように見えた。 ウルトラマンティガは、黄金の光に覆われた最強の形態……グリッターティガとなったのである! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1005.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ゼロの使い魔・ブルー(?)編 ルイズは安堵していた。 一時はどうなるかと思ったが、 剣を持ったとたんブルーが凄い動きをして、 ギーシュのゴーレムをバラバラにしてしまった。 彼女は自分のことのように喜びながら、ブルーに駆け寄る。 「ブルー!凄いじゃない!あなた剣も使えたの?」 そうブルーに語りかけたが、返事はない。 「……ちょっとブルー、返事ぐらいしなさいよ!」 そう言って掴みかかると、 彼はあっさり倒れてしまった。 「え?」 「ルイズ、彼は凄いと思うが、その怪我で動けるはず無いぞ。 ……僕がやっておいて何だけど」 などと、平静は取り戻したものの、未だに立ち上がれないギーシュが言う。 「……ちょ、ちょっと誰か!ブルーを運ぶから手伝って!」 周りで呆然としていた生徒達が、その言葉でハッとして、 ブルーに『レビテーション』をかける。 そのままルイズは、ブルーに付き添って去っていった。 その後暫く観客達は留まっていたが、 そのうち彼らもその場を去っていった。 ギーシュも友人に支えられてその場を去る。 「…彼は何者なんだろうか」 ギーシュは、友人に問う。 「ただの平民では無さそうだな」 「そんなのは身でもって解ってるよ」 軽く返してきた友人に、 冗談交じりでギーシュは返した。 そんな様子を、『遠見の鏡』を使って除いていた二人が居た。 コルベールは声を抑えながらも、興奮を隠せない様子で話し出す。 「オールド・オスマン……あの青年、勝ってしまいました」 「うむ……やはり」 「ミスタ・グラモンはドットクラスのメイジとはいえ、普通の平民では勝てるはずもありません! あの動きと剣の腕、彼は間違いなく『ガンダールヴ』かと!」 「少し静かにせい。しかし……」 オスマンの言葉は聞いているのか居ないのか、コルベールは騒ぎ立てる。 「さっそく王宮に報告して、指示を――」 「喝ッ!」 半ば暴走していたコルベールを、それより更に上の大声で止める。 「……落ち着いて話を聞かんか、ミスタ・カーネル」 「コルベールです。……それはともかく、王宮に指示を仰ぐべきでは?」 「それには及ばんよ」 オスマンは即答した。 が、コルベールはその事を疑問に思ったのか、問いかける。 「どうしてです?」 その質問を予め予測していたかのように、オスマンは即座に答えを返した。 「『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」 「その通りです。主人の呪文の詠唱の隙を守るために、戦闘に特化した使い魔だと。 特別と言うことは解っています、だからこそ―」 「だからこそ、あの戦争と金稼ぎと 他人の足を引っ張ることしか出来ん王宮のボンクラ共に渡すわけにはいかんじゃろう」 酷い言い方だったが、コルベールは戦争がしょっちゅう起きているこの世界の現状を考え、 取り敢えず同意しておくことにした。 「ははぁ、なるほど」 「この件は他言無用じゃ。下手な手出しもせんようにな」 「はい、かしこまりました」 ふとオスマンは立ち上がると、窓に歩み寄ると、コルベールの方を向くこともなく語りかけた。 「時にミスタ・ルーベンス」 「コルベールです!……で、何でしょうか」 「彼は本当に剣だけで戦っているように見えたかね?」 「……剣以外は、あの閃光を放つ玉しか使ってないでしょう?」 「そうか、なら良い……そろそろ行ったらどうじゃ。 君にも色々と用はあるじゃろ?」 「……は、それでは」 コルベールがドアを開け、去っていくのを察知してから、 オスマンは誰に聞かれるでもない独り言を言う。 「うちにまともな奴は居ないのかのぉ…… あんな量のナイフが忽然と消えても何とも思っておらん……」 まぁ、色ボケとツンとデレと誇りが頭の大部分を占める貴族に、 そんなことを期待する時点で間違ってるのかも知れないが。 彼は目を覚ました。朝の光が窓から差し込んでいる。 起き上がってみると、自分の身体の所々に包帯がまかれ、 絆創膏が貼られているのを確認した。 思い出してみる。 一つのみの月が照らす、あの切り立った―― いやいや、確かにそれが最後ではあるが、それではない。 ギーシュとか言う少年が繰り出したゴーレムにボコボコにされ、 その後剣を持ったら途端に身体が軽くなり、 剣を流れるように扱って、勝利した。 そして、気絶した。 辺りを見回してみると、ルイズの部屋だった。 自分はどうやらルイズのベッドに寝かされているらしい。 そのルイズはと言うと、机で寝ていた。 左手を上げてみる。 そこには使い魔の証たるルーンが刻まれていた。 決闘の時はよくわからなかったが、 剣を持ったとき、確かにこのルーンは光り輝いていた気がする。 (g……u…nd…r…l……f……『ガンダールヴ』) 読んで見る。ルーンの知識はある。 読めたものの、意味が全くわからない。 (一文字違えば灰色の魔法使いと同じ読みだな) そんなことを考えながら、左手を見つめていると、ノックの音がし、 暫く待つとドアが開き、少女が入ってきた。 シエスタとか言う少女である。 彼女は彼を見ると微笑み、パンと水の入ったお盆を彼の隣に置いた。 「シエスタさん?」 「目が覚めたんですね、ブルーさん」 「うん……ブルー?」 「……どうかしました?」 「…ああ、何でもないよ。……いや、なんでもない」 口調を直す。不自然ではあったが。 が、シエスタは特におかしいとは思ってないらしかった。 元々それほど話していたわけではない。 よく憶えて無くてもおかしくはないだろう。 考えていると、シエスタが話しかけてきた。 「あれからミス・ヴァリエールがこの部屋までブルーさんを運んできたんです。 先生を呼んだりして、『治癒』の呪文をかけてもらったりして、大変だったんです」 自分……自分達には『命』の術があるのだから、 その気になれば怪我など致命傷ですら一瞬で治せるのだけど。 だが、あのまま目覚められない可能性もあったので、 素直な気持ちでルイズに感謝していた。 「『治癒』の呪文のための秘薬の代金は、ミス・ヴァリエールが出してくれました。 だから心配しなくても大丈夫ですよ?」 黙り込んでいたので、お金の心配をしていたと思われたらしい。 ……ちょっと待って。 「……お金ってどのぐらいかかるか知ってる?」 「えーと、まぁ、平民に出せるような金額じゃないのは確かですね……」 「困ったな、僕はお金を持ってないよ?」 確かクレジットは使えないはずである。 金の取引で莫大なクレジットがあったが、ここでは役に立たない。 元手として残して置いた金があれば話は別なのだろうが、 残念ながら、今それはここにはない。 「ミス・ヴァリエールが出してくれたのですから、あなたが心配しなくても大丈夫ですよ」 「それでも、何かお返しをしなきゃいけないだろう?……痛ッ」 左手に痛みが走る。 「あ、まだ動いちゃ駄目です!身体の方の傷は大したこと無かったんですけど、 その左手の骨折は『治癒』でも直しきれなかったんです。安静にしていないと」 「不便だな」 ……確かに不便だ。後で治しておこう。 が、今は止めと居た方が良いだろう。 「食事を持ってきました。食べてくださいね?」 「ありがとう……僕はどのぐらい寝てたのかな」 聞いてみるが、大体の予測は付けている。 ここに来てからは何故か回復が鈍いけど、 術力が結構回復しているから、大体2・3日って所だろう。 「三日間ずっと寝続けてました……」 ほら。 「厨房のみんなも心配してました。動けるようになったらこっちに顔を見せてくれますか?」 「構わないよ」 そう言ってから、視線を机で寝てるルイズに向ける。 「彼女は僕が寝てる間ずっと机で寝てたのかい?」 「いや、全然寝てませんよ?」 「え?」 「彼女が寝ずに看病してくれたんです。ずっとやってたから、疲れちゃったんじゃないでしょうか」 「そうか、彼女には感謝しなきゃならないね……」 ルイズは夢を見ていた。 自らの使い魔と、それと同じ顔をした者が対峙している場面だった。 同じ顔をしていたその人は、よく似てはいたものの、 髪の色は銀というような色だったし、何か雰囲気というものが違っていた。 だが、似ている部分もあるような気がする。 それに、ブルーもなにか少し雰囲気が違うような気がする。 そうしているうちに、二人の間に何かが違う「空間」が作られるのを感じた。 何かが始まるようだ。 よく似た男も、術士のようだった。二人は互いに光の線の様な術を放ち合う。 互いにそれが当たりはしたものの、致命傷にはなっていないようだった。 今度は、「空間」が変わるのを感じた。 何か明るさを感じさせるような雰囲気になると、ブルーが詠唱を始めた。 とてつもない熱風が、その場にある全てのものを巻き込み、吹き飛ばし、溶かしていった。 当然、あの銀髪の術士もだった。 (……――!) が、そのどう考えても死んだはずの青年が光の帯に包まれ、浮かび上がると、 光の帯が消えた後には無傷の青年がいた。 (なにがどうなってるの?) 夢にしては、何か現実味がありすぎるのだ。 目の前の光景が現実的かと言われたら、はっきりと否だが。 暫く、その戦いは続いた。勝ったのはブルーだった。 何をしたのかは解らなかったが、相手の術士が既に倒れていた。 そして、何故か死体を残すこともなく、その術士は消えた。 ブルーは、少しそこに留まっていたが、そのうち切り立った頂点から飛び降りてきた。 「俺は誰だ?」 (え?) それが、声ではないとルイズには解った。 あえて言うのなら、それは心の声とでも言うべきもの。何故か理解できる。夢だからだろうか? ルイズは興味が湧いた。何故か聞いてみたくなったのだ。 が、不思議なことに、ブルーしかいないはずなのに、さっき死んだ筈の青年の声も聞こえてくる。 それは会話をしているようにも思えた。 「ブルーなのか?ルージュなのか?」 「あの瞬間、ブルーの力が僕を貫いたとき、僕はブルーに吸収されたんだ」 「今、俺はブルーでありルージュだ。そして、理解した」 「最初から僕達は一つだったんだ!」 「何故キングダムは教えてくれなかったのか?」 「それを知らなければならない。帰ろうブルー」 「「――キングダムへ!」」 二つの声が合わさって聞こえたあと、ルイズの意識は一旦暗転し、今度は光に包まれた。 ルイズが目を覚ました。 「ふぁ……ふわああぁ……」 ブルー(?)とシエスタは、欠伸の音に反応してルイズの方を向く。 ルイズも、彼らの方に向く。 (……あれ?) 何か違和感を感じる。 ルイズは何か言おうと思ったが、その前にブルー(?)が話しかけてくる。 「おはようルイズ」 「え、ええ、おはようブルー」 「看病していてくれたって、シエスタから聞いたよ。 ありがとう。礼を言わせてもらうよ」 「そ、そうね、感謝しなさい」 「洗濯物とか溜まってるだろうからやっておくよ。どこにある?」 「え、えーと、あそこに……」 「シエスタ、洗濯が出来る場所に案内してくれないかな?」 「大丈夫なんですか?左手……」 「大丈夫。すぐ治るよ。それじゃルイズ、ゆっくり休んで」 そう言うと彼女の使い魔は、メイドを連れて彼女の部屋から出て行った。 そんな彼の様子を見て、ルイズはただ戸惑うことしかできなかった。 「……えぇ~?」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9275.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十話「君がウルトラマンゼロだ」 甲冑星人ボーグ星人 熔鉄怪獣ツルギデマーガ 登場 執務室に侵入してきたボーグ星人に対し、才人、ルイズ、アンリエッタ、アニエスはそれぞれの 得物を手にした。皆臨戦態勢に入り、ボーグ星人を強くにらむ。 『ボーグ星人……宇宙人連合が壊滅したってのに、このハルケギニアの侵略をやめないってことかよ』 問いかけるゼロ。宇宙人連合はヤプールの消滅により、まとめる役割がいなくなったことで 自ずと解散となった。だが先日才人を急襲したレギュラン星人やバルキー星人のように、 連合がなくなっても侵略をあきらめない者が少なからずいるようだ。 『フッフッフッ、当然だ。ヤプールは元よりこの宇宙に来るために利用しただけ。奴を葬ってくれて、 むしろお前たちに感謝してもいいくらいだ。この星をいただくための一番の邪魔者がいなくなったのだからな』 そう語るボーグ星人。ヤプール自身がそうだったが、宇宙人たちもヤプールに対して利用価値以上のものを 見出していなかった。連合など所詮、利害の一致だけの薄っぺらい結束だったのだ。 「けッ! 相変わらず侵略者ってのは胸くそわりぃ性格だぜ」 グレンが吐き捨て、ミラーがボーグ星人に指摘する。 「私たちを抹殺するつもりとのことですが、この女性を利用した奇襲が失敗しておいて、 あなた一人で私たち全員を相手にするつもりか?」 ウルティメイトフォースゼロは全員が一流の戦士。才人もまた強くなった。そこにルイズたちもいる。 どう考えても、ボーグ星人単体に勝ち目などない。 しかしボーグ星人は余裕の態度であった。 『フッフッフッフッ、お前たち全員に私と戦う暇があればの話だ』 「何?」 『先ほど、私が仕掛けた爆弾が炸裂しただろう』 前置きをして、ボーグ星人は恐ろしいことを説明し出した。 『それの何倍もの威力がある時限プレート爆弾を八個、この王宮の至るところに仕掛けた。 一つだけでも王宮を吹き飛ばすのに十分な威力を、八個だ!』 その言葉にギョッと驚愕する才人たち。 『フッフッフッフッ、一個でも逃したら何人の人間が死ぬだろうなぁ? フッフッフッフッフッ……!』 脅迫の文句を言い残したボーグ星人は窓へ飛び込み、ガラスを突き破って外へと逃走した。 「待ちやがれ、この野郎!」 それを追いかける才人。 「サイト!」 ゼロはルイズらに言いつける。 『俺たちはボーグ星人を倒してくる! みんなは手分けして爆弾を回収して、爆発を阻止してくれ!』 「頼んだぜ! デュワッ!」 才人は窓から外へ飛び出すと同時に、ウルトラゼロアイを装着した。 残された執務室の者たちは、アンリエッタを中心に行動を起こす。 「こうしてはいられません! いつ爆発するかも分かりません、役人や使用人たちは直ちに 王宮外へ避難させ、兵士を総動員して爆弾を捜索しましょう!」 「陛下も避難して下さい! 総指揮はわたしが行います」 アニエスが申し出たが、アンリエッタは首を横に振った。 「いいえ、人の上に立つ者が逃げるのは常に最後です」 「陛下……了解しました!」 「ルイズとウルティメイトフォースゼロの皆さまは、ゼロを助けてあげて下さい」 アンリエッタはそう言ったが、ミラーたちは次の通りに返す。 「いえ、ボーグ星人の言葉が真実とは限りません。八個以上の数が仕掛けられてる恐れもあります。 王宮中をくまなく探すには、私たちの力が必要となりましょう。私たちも協力します」 「ボーグ星人ならゼロとサイトに任せときゃ大丈夫だぜ! あいつらが負けるもんかよ!」 『うむ。私たちはゼロとサイトを信頼している!』 「姫さま、わたしも手伝います! 人手は一人でも多くあるべきでしょう」 「わ、わたしもジャンボットさんと一緒に!」 五人の言葉を受けて、アンリエッタは固くうなずいた。 「分かりました。では、皆さまのお力をわたくしたちトリステインにどうかお貸し下さい!」 「おうよッ!」 グレンが代表してうなずき返し、一同は直ちに爆弾捜索に取りかかっていった。 外へと逃走したボーグ星人は、城下町の真ん中で巨大化を果たす。 その直後に変身したウルトラマンゼロもまた巨大化。ボーグ星人と向かい合って宇宙空手の構えを取った。 「あッ! 侵略者がまた現れたぞ!」 「それに……ウルトラマンゼロも!」 トリスタニアの民たちはボーグ星人出現に驚く以上に、久々のゼロの勇姿に大きく沸き上がった。 「ゼロは生きてたんだ! よかった!」 「また私たちを救って下さるのね! ああ、ゼロさま!」 「ゼロー! 頑張ってー!」 「侵略者なんてやっつけろー!」 ゼロの生存を知った人々は歓喜し、こぞってゼロに熱い声援を送る。それを一身に受けるゼロは、 勇んでボーグ星人に立ち向かう! 『俺のこのカラータイマーが輝く限り、ハルケギニアはお前みたいな連中の好きにはさせないぜ! 行くぜッ!』 『ふんッ! 来るがいい!』 ゼロとボーグ星人双方が踏み出し、格闘戦を開始した! 「ジュワッ!」 ゼロの先制の拳を腕一本で防御するボーグ星人。ボーグ星人は見た目の通り、全身が甲冑並みに強固。 生半可な打撃では少しのダメージにもならない。 頑丈な肉体が生み出すのは防御力だけにあらず。ボーグ星人のカウンターのパンチは文字通り鉄拳で、 打たれたゼロの頬がジンジンと痺れる。 『ぐッ! せぇいッ!』 だがゼロはダメージをぐっとこらえ、突き出されたボーグ星人の腕を捕らえて素早く背負い投げを決めた。 地面に叩きつけられるボーグ星人だが、打たれ強さもなかなかのもので、すぐに起き上がる。 そこからボーグ星人はゼロに向けてパンチのラッシュを繰り出す。しかしゼロは全てさばき切り、 鋭い掌底を相手の胸の中央に入れてボーグ星人を吹っ飛ばした。 武術には『気功』というものがある。体内の力の流れを制御して、効率よくパワーを発揮したり 相手に一層のダメージを与えたり出来るのだ。宇宙空手の達人たるゼロも気功を扱える。それにより、 今の掌底から生じた衝撃をボーグ星人の肉体の内側へと行き渡らせたのだ。体表は鉄のように強靭な ボーグ星人も、体内まで頑丈とはいかず、無視できないダメージを受けて一瞬ふらつく。 格闘戦で劣勢のボーグ星人は、頭部の中央のトサカから細いレーザーを発射した! 「シャッ!」 だがゼロは即座にウルトラゼロディフェンサーを展開し、レーザーを防御。バリアを消すと 間髪入れずにエメリウムスラッシュをお返しして、ボーグ星人を撃つ。 よろめいたボーグ星人だが、押されているというのに焦りを見せずに言い放った。 『フッフッフッ、聞きしに勝る実力だな、ゼロ。ボーグ星一の戦士である私をこうも容易く 追い詰めるとは。やはり、アレを用意しておいて正解だった』 『アレ、だと?』 『真の勝負はここからということだ。さぁ、出てこい!』 ボーグ星人の呼び声に応じるように、ゼロの背後の地面が下から一直線に切り裂かれ、 裂け目が広がって巨大怪獣がせり上がってきた! 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 以前にグレンファイヤーが倒した怪獣、デマーガと同種。しかし両腕からは長大な剣が生え、 両肩からも反り返った禍々しい刃が伸びている。全身から発せられる威圧感も、デマーガよりも ひと回りもふた回りも大きい。 『そいつはツルギデマーガ。ヤプールが強化改造を施し、リザーブしていたのを私がいただいたのだ。 さぁツルギデマーガよ、ウルトラマンゼロを八つ裂きにしてしまえ!』 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 ボーグ星人の命令でツルギデマーガが咆哮し、ゼロに向かって突き進み始める。 「シェアッ!」 ゼロはツルギデマーガに向けてゼロスラッガーを投擲。だがふた振りのスラッガーはデマーガの 腕の剣に難なく弾かれてしまう。 「デェヤッ!」 スラッガーを戻したゼロは次にワイドゼロショットを発射。が、デマーガが振るった剣によって 真っ二つに切り裂かれてしまった。 『くッ、伊達に剣がある訳じゃねぇってか……!』 必殺技が二連続で破られたゼロが舌打ちする。 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 今度はツルギデマーガの攻撃する番だった。口から熔鉄光線を発射! あまりに膨大な熱量で、 大気が歪むほどであった! ゼロはウルトラゼロディフェンサーで防御しようとしたが、熔鉄光線はバリアをも溶かして ゼロを弾き飛ばした! 『ぐわあぁぁッ!』 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 投げ出されたゼロに詰め寄っていったツルギデマーガが斬撃を振るう。両手にスラッガーを 逆手に持ったゼロが受け止めようとするが、ツルギデマーガの凄まじい剣圧に押されて防御を崩され、 剣をその身に食らう。 『うぐわぁぁぁぁぁッ!』 剣は深々とゼロの身体を切り裂き、ゼロは一旦後退を余儀なくさせられる。 『つぅッ……何てパワーだ……!』 ツルギデマーガを警戒するゼロだが、そこにボーグ星人が飛び蹴りを仕掛けてきた! 『うわッ!』 『フッフッフッフッ、私がいることも忘れるんじゃないぞ!』 掴みかかってくるボーグ星人を対処している間に、ツルギデマーガが接近してきて剣を薙いでくる。 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 『ぐッ……!』 その攻撃をどうにかかいくぐるゼロだが、ツルギデマーガに意識が向いている隙をボーグ星人に 狙われ、みぞおちに鉄拳をもらった。 『ぐはッ!』 ボーグ星人とツルギデマーガに挟み撃ちにされたゼロは、一転して窮地に立たされてしまった。 カラータイマーが赤く点滅し出す。 「あった! これで四つ目だな……」 王宮では、グレンたちによる爆弾捜索が大急ぎで行われていた。たった今グレンが四個目の爆弾を、 回廊に飾られている絵画の裏から見つけ出す。発見された爆弾は随時、ミラーが解体して信管を抜いていく。 だがここで、彼につき添うアンリエッタが窓からゼロの苦戦を目撃し、両手で口を覆った。 「グレン、ゼロが危険な状態に陥ってます!」 「何ッ!?」 「侵略者は怪獣も出してます!」 グレンは新たに出現したツルギデマーガの姿を確認し、ギリッと歯噛みする。 「そうか、爆弾で俺たちを抑えつけてる間に二対一でゼロを倒そうって作戦だったんだな……」 「グレン、あなただけでもゼロを助けに行ってあげて下さい! いくらゼロでも、一人だけでは……」 魔法衛士隊も爆弾の捜索に駆り出されているため、現在のゼロは孤立無援の状況だ。 焦るアンリエッタはグレンにそう要請したのだが、 「いいや、ゼロは一人なんかじゃねぇぜ」 「え?」 グレンがそう返したので、思わず変な声を出してしまった。 グレンは力強い表情で、こう告げる。 「ゼロにはサイトの奴がついてる。サイトはアルビオンで、男として見違えるぐらいに成長したんだ。 それは鍛えた俺がよく知ってる。あいつがゼロの力になってくれるぜ!」 『ぐっはぁッ!』 ゼロはツルギデマーガとボーグ星人の同時攻撃で吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。 彼を見下ろしてボーグ星人が豪語する。 『フッフッフッフッフッ! たとえお前とて、このヤプールの秘蔵のツルギデマーガと私を前にして、 たった一人では勝ちの目はない!』 だが、なおも立ち上がったゼロは言い放つ。 『俺は、一人じゃねぇんだぜ……!』 『何だと?』 そしてゼロは、己の内の才人に呼びかける。 『才人、俺は知ってる。俺が眠ってる間に、お前は前よりもずっとずっと強くなったってことを。 意識がなくとも、お前の頑張りは俺にしっかりと伝わってたぜ』 『ゼロ……』 『お前のその強さと勇気が、俺にも力をくれる! 才人、俺と協力してくれ! 一緒に俺たちの、 みんなの未来を切り開こうぜ!』 『ああ、もちろんだ!』 ゼロと才人は今、心を重ねる。 『何をごちゃごちゃ言っている! ツルギデマーガ、早くやってしまえッ!』 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 業を煮やしたボーグ星人にけしかけられ、ツルギデマーガがゼロに迫っていく。恐るべき切れ味の 凶刃がゼロに向けて振るわれる……! 「フッ!」 しかし、ゼロは二本の指でその刃をはっしと止めた! 『な、何だとぉ!?』 それまでツルギデマーガに手も足も出ていなかったゼロが、突然剣を受け止めたことに 衝撃を受けるボーグ星人。ツルギデマーガはより凶暴になって両腕の剣を滅茶苦茶に 振り回し出したが、ゼロは全て見切り無駄のない動きでかわし切った。 『とぉうッ!』 ツルギデマーガが疲労で動きの鈍ったところで、ゼロはひねりをつけながら相手の頭上を 跳び越えて背後に回り込み、尻尾を抱え込んだ。 『でりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 「グバアアアアアア!」 そこからジャイアントスウィング! ツルギデマーガの巨体が軽々と宙を舞い、真っ逆さまに 地表に落下した。 『おのれぇッ!』 まさかのゼロの盛り返しに焦りを覚えたボーグ星人が背後から突撃をかけたが、すかさず 放たれた後ろ蹴りで返り討ちにされた。 『ごはぁッ! ど、どういうことだ……あれだけのダメージを受けながら、動きに磨きが かかっただと……!?』 混乱するボーグ星人。そこには、才人の存在があるのだ。 今の才人とゼロは一心同体。ゼロは才人の影響を受ける。才人の心が弱まればゼロは力を 発揮できなくなるが、逆に才人の心の高まりがゼロに一層の力を与える。 才人はグレンの鍛錬によって心身ともに見違えるほどに鍛えられ、戦士の風格を得た。 また、ポール星人の仕掛けた試練を乗り越えたことで、大きな勇気がその胸に宿った。 彼の鍛え込まれた熱い魂がゼロの精神とシンクロし、彼の実力を以前よりも一段も二段も 高く引き上げているのだ! ゼロは才人へ呼びかける。 『才人、お前の強さが俺に流れ込んでくるのが分かる。お前と一緒であることで、俺はもっと 強くなっている! 俺たちはもっと高みへ行けるぜ!』 『ああ! 俺も前よりずっと、お前が近くにいることを感じるよ、ゼロ!』 『相棒たち、俺のことも忘れるなよ!』 デルフリンガーが声を上げた。 『もちろんだぜ。デルフ、お前も一緒に戦おうぜ!』 ゼロはスラッガーとデルフリンガーを結合し、ゼロツインソードDSを作り上げてツルギデマーガへと 肉薄していく。 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 ゼロツインソードDSと斬り結ぶツルギデマーガだが――その途端に、腕の刃が粉々に砕け散った! 「グバアアアアアア!?」 武器を破壊されたことで大きく狼狽えるツルギデマーガ。先ほどまでの勢いが嘘だったかのように、 ゼロによって追い詰められていく。 デルフリンガーが叫ぶ。 『相棒、ガンダールヴの力は心の震えで引き出される! その力も、ゼロに影響してるんだぜ! ガンダールヴのウルトラマン、ウルトラマンのガンダールヴ! へへッ、こりゃ無敵の組み合わせだぜ!』 『その通りだな! 行こうぜ、ゼロ!』 『おうよッ! プラズマスパークスラッシュだぁぁぁッ!』 ツインソードDSを真正面に構えたゼロが、一直線にツルギデマーガへと飛んでいく! 「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 ツルギデマーガは熔鉄光線を吐き出してゼロを撃ち落とそうとしたが、ゼロは先ほどとは逆に、 熔鉄光線を真っ二つに切り裂きながら直進していった。 「セェェェヤァッ!!」 そしてツルギデマーガも一刀両断! ツルギデマーガは壮絶な大爆発を起こして消え去った! 『なぁぁッ……! お、おのれぇぇぇぇぇッ!』 切り札のツルギデマーガを討ち取られたボーグ星人は、最早自棄になってゼロスラッガーを 戻したゼロへ殴りかかっていく。が、拳を易々と止められて当て身で迎え撃たれた。 『ぐふぅッ!』 『うりゃあぁぁッ!』 ゼロは更にボーグ星人の背後を取り、ゼロドライバーを決めた! ボーグ星人は脳天から 大地に打ち据えられる。 『ごふぅッ……!』 『さぁ行くぜ! フィニッシュだぁぁぁ――――――――ッ!』 一足飛びで距離を取ったゼロは、スラッガーをカラータイマーに接続してゼロツインシュートを発射! ちょうど起き上がったボーグ星人は、光の奔流に呑み込まれる! 『うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? こ、この力は何だ!? その強さはどういうことなんだッ! お、お前は何なんだぁ……!』 『ウルトラマンゼロ! 俺の、俺たちの名前だッ!』 颯爽と背を向けるゼロ。それと同時に、ボーグ星人は爆裂して紅蓮の炎を遺した。 ゼロが逆転勝利を収めた頃、グレンたちも八個の爆弾全部を発見し終えていた。 「これで全部みたいだな……。他にも爆弾がなくてよかったぜ」 「爆弾も解体し終えました。これでもう安心ですよ」 もう爆発の恐れがないことが分かり、ルイズたちはほっと胸を撫で下ろした。だがアニエスは もう一つ、心配があった。 「しかしわたしの部下が、敵の手で機械にされたままだ。あれは元の人間に戻れるのだろうか……?」 それについては、ジャンボットが答える。 『大丈夫だ。私の設備があれば、彼女を本来の生身の状態に戻すことも可能だ。後で彼女を 引き取ろう。一日もあれば治せるはずだ』 「私も手伝いましょう。アニエスさん、すぐにあなたの部下をお返ししますよ」 「かたじけない……!」 ジャンボットとミラーに頭を下げたアニエスは、安堵して微笑みを浮かべた。 王宮の問題が片づいたところで、変身を解いた才人が戻ってきた。 「みんな、敵はやっつけたぜ! そっちも解決したみたいだな」 「サイトさん! よかった、ご無事だったんですね!」 シエスタとアンリエッタが才人の無事の帰還に喜びを見せた。ゼロはミラーたちに告げる。 『今回の勝利は才人がいてこそだったぜ。こいつの勇気が俺に力をくれたんだ』 「そうですか。やりましたね、サイト」 『君はもう立派な戦士だ! 実に素晴らしい』 ミラーとジャンボットに称賛されて、才人は照れくさそうにはにかんだ。 「俺も誇らしい気分だぜ! なぁ、ルイズもそうだろ? 何たってお前さんの使い魔なんだしな」 グレンが呼びかけると、ルイズは若干つんけんとした態度で才人に告げる。 「まぁ、姫さまから賜ったシュヴァリエの称号に恥ずかしくない程度には頑張ったんじゃない?」 「むッ、何だよ、その言い草。もっと他に言うことないのか? よく頑張ったわねーとか、 すごいわサイトーとか」 ルイズのぶっきらぼうな言葉に顔をしかめる才人。 「調子乗るんじゃないわよ。全く、あんたってすぐそうなるんだから」 鼻を白けさせたルイズだが……すぐにやんわりと表情を緩めて、才人に言った。 「……お帰りなさい。これからも、改めてよろしくね、サイト」 「……ああ。こっちこそよろしくな、ルイズ」 一瞬面食らった才人は、すぐに同じように微笑を見せて返答した。 その背にかかったマントが、どこか誇らしげに翻った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9215.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十七話「ハーフエルフの娘」 隕石小珍獣ミーニン 悪質宇宙人レギュラン星人 登場 入室してきた金髪の少女へと顔を上げた才人は、途端に硬直した。彼女の美貌に……容姿に、 思わず心を奪われてしまったのであった。少女の顔立ちは、宇宙一美しいと言われる 怪獣ローランもかくやというほどだった。 しかしそれ以上に目を引くところが、胸であった。何という大きさであろうか! 才人は生涯に これほど大きな女性の胸というのは見たことがなかった。魔法学院一と謳われるキュルケ以上。 たとえばルイズとは、最早比べることすらおこがましい。これぞ大怪獣サイズだ。 「ば……バスト・レヴォリューション!?」 才人はそんなことまで無意識下に叫んでいた。だがそれで少女がビクリと震え上がった。 怖がらせてしまったか。 「ほ、本当に大丈夫? さっきから変なこと言ってるけど……」 「あ、ああいや、大丈夫だよ。今直面してる現実に色々と驚いただけだから」 適当にごまかした才人はベッドから起き上がろうとする。しかし大分長いこと眠っていて、 身体がなまったからか、ふらついて倒れそうになる。 「わわッ……!?」 「あ、危ない!」 傾いた身体を、少女が受け止めてくれた。その際の衝撃で、少女の金色の髪がはだけて、 隠れていた耳が露わになった。 ツンと尖っていて、見慣れない形だ。物珍しさから才人が凝視すると、少女は慌てて自分の耳を両手で隠した。 「ご、ごめんなさい」 「え?」 「でも、安心して。危害をくわえたり、しないから」 何を言われているのかよく分からなかった。もしかして、自分が怖がっているとでも思われたか。 「違う違う。あまり見ない形の耳だから、つい見つめちゃって」 その言葉で、少女は何故か呆気にとられる。 「……ほんとうに、驚いていないの? 恐くないの?」 聞き返され、才人は肯定する。少し耳が尖っているから、何だというのか。様々な異形の 宇宙人を見てきた身からしたら、そんなのは誤差みたいなものだ。 少女はほっとしたような顔になった。 「エルフを恐がらない人なんて、珍しいわ」 「エルフ?」 聞いたことのある名前だった。確か、ハルケギニアの“東方”に住むという種族の名前だったはずだ。 凶暴で、それこそ怪獣と同じくらいに恐れられているということだったが……それと目の前の少女は とてもではないが結びつかない。 「そう、エルフ。わたしは“混じりもの”だけど……」 自嘲気味につぶやく少女。何やら複雑な事情を抱えているみたいだが、初対面でいきなり 根掘り葉掘り聞くのは図々しい。 そこで才人は、まず自己紹介する。 「礼が遅くなったけれど、助けてくれてありがとう。俺の名前は平賀才人。君は?」 「わたしはティファニア。呼びにくかったら、テファでかまわないわ」 お互い名乗ったところで、さっきの小怪獣が舞い戻ってきた。 「キューキュウー」 「おいおい、もっと優しく運んでくれよ。折れたりはしねえけど、振り落とされるのは気分が いいもんじゃねえからな」 小怪獣はデルフリンガーを抱えていた。 「デルフ!」 「いよぉ相棒……。やっと目が覚めたか。よかったよかった」 「ミーニン、サイトの剣を持ってきてくれたのね。ありがとう」 「キュー」 小怪獣の頭をなでるティファニアに、才人はその怪獣について尋ねる。 「そのミーニンっていう生き物は、ここで飼ってるの?」 「ええ。最近、近くの森の中でうろうろしてるのを子供たちが見つけて、連れてきてね。 見たこともない生き物だから初めはビックリしたけれど、すごく大人しいからそのまま置いてるの。 今では子供たちの良いお友達よ」 「キュッ」 ティファニアはミーニンをそう紹介した。 それからデルフリンガーとティファニアが、才人が意識を失っている間のことを説明してくれた。 限りなく死んでいた才人をデルフリンガーが能力で運び、そこを偶然ティファニアが発見。 先住魔法の力が込められた指輪の最後の一回を使い、才人の命をギリギリのところで復活させたこと。 そのことに才人は、心の底から感謝しきりだった。 しかし、何かお礼がしたいところだが……その前に、自分はとんでもない問題にぶつかっているのであった。 「デルフ、大変なんだよ! 左手のルーンが消えちまってるんだ! これってどういうことなんだ!?」 先ほど確認した通り、左手の甲には確かにあったはずのルーンが、跡形もなく消えている。 それについてデルフリンガーは、こう説明した。 「使い魔の契約が外れちまった理由……そいつはやっぱ、相棒が一度死んだからだろうさね。 使い魔は死ぬとルーンは消えるんだ」 「でも、俺は生き返ったんだぜ。ルーンも復活しないのか?」 「先住の魔法のことは、メイジの扱う魔法じゃ想定外だ。そういう機能はないんだろうね」 「自動で戻ったりはしないってことか。それじゃあ……もう一度契約したらいいんじゃないか?」 「おすすめはしないね。メイジは使い魔が死ねば、次の使い魔を召喚できるが……使い魔にとって、 “契約”は一生もんだ。生きてる状態で“契約が外れる”ってことがまずありえねえ。そんなわけで、 メイジと二回目の契約をした使い魔の存在なんか聞いたことねえし、やっちまったら、そいつの身体に 何が起こるかわからねえよ」 思った以上に難しい問題のようだ……。サイトが重い顔をしていると、二人の話を端から 聞いていたティファニアが目をパチクリさせた。 「人が、使い魔……? そんな話、聞いたこともないわ。サイト、どういうことなの?」 「あッ……」 回答に窮する才人。そのことを説明しようとすれば、話が『虚無』に行き着く恐れが大だ。 さすがにティファニアを自分たちの事情には巻き込めない。 「えっと、その……色々込み入ったことがあってさ……おいそれと教えられることじゃないんだよ。ごめんな……」 仕方なく、無難にごまかすことにした。幸い、ティファニアはそれ以上突っ込んでこなかった。 「そう……仕方ないわよね。人には秘密の一つや二つ、あるものだもの。……わたしには 聞かせられらいことがあるのなら、しばらく席を外すから、その間に話し合ってちょうだい」 それどころか気を利かせて、ミーニンを連れて退室していった。才人は彼女の後ろ姿へ、 小さくお礼を言った。 「それでなんだけど、デルフ……もう一つ、大変なことがあるんだ……」 「わかってるぜ。その左腕の腕輪……もう一人の相棒のことだろ」 力なくうなずく才人。正直、ガンダールヴのルーンが消えたことよりも衝撃の大きなことであった。 ゼロが、目を覚ます気配がないのだ。 「ゼロ、どうしちまったんだろう……。どうして俺が目覚めたのに、ゼロは眠ったままなんだ? おかしいじゃないか……」 「さすがにそこまではわからんね。ただ……」 「ただ?」 「……あの嬢ちゃんの指輪に残ってた魔力は、一人分だけだった。だから下手したら……」 デルフリンガーの言葉の先を、才人は青い顔でさえぎる。 「そんな馬鹿な! 俺とゼロは一心同体なんだ! 他ならぬゼロがそう言ったんだ! だから…… 俺だけが助かったなんてこと、あるもんか!」 「だから、もしかしたらって話だよ。単にもう一人の相棒は、まだ力が戻ってねえだけってことも 考えられらぁ。何せすげえ決着のつけ方だったからな。あんなん、誰にも真似できねえや」 「……ゼロ……」 才人はひたすらに、ゼロの身を案じる。 偉大なる勇士、ウルトラマンゼロ。思えば、自分が勇気を持って戦えたのは、ずっと彼が 側にいたからかもしれない。自分が見守られていることを実感していることで、ただの高校生だった 自分が戦場に立てたのかも……。そのゼロがいない今……ガンダールヴでもなくなった自分に、 どれだけの価値があるのだろうか。 一人で暗い気分になっていると、窓の方から聞き覚えのある声が聞こえた。 『ああ……! やっと見つけました……!』 よく聞き慣れた、爽やかな雰囲気の声音。振り返れば、窓のガラスに銀色の戦士の姿が映っている。 「ミラーナイト!」 言うまでもなく、ミラーナイトだ。彼は才人の姿を確かめ、非常に安堵している様子であった。 『よかった……本当によかった……! ずっと捜してたのですよ……! サイト、あなたが 生きてて何よりです……。本当に犠牲になってたなら、私たちはどう償えばよかったのか……』 かなり興奮しているようだったが、ミラーナイトは呼吸を整えて落ち着く。それから、才人へ呼びかけた。 『さぁ、サイト、皆の元まで帰りましょう。皆、あなたが死んでしまったのではないかと心配してるんですよ。 特にルイズがひどく落ち込んでて……。しかし、あなたが見つかった以上はそれも終わりです。 皆を安心させてあげましょう』 だが、才人はそれに応じることが出来なかった。 「ミラーナイト、ごめん……。わざわざ捜してもらったのに……今は、それは出来ないよ……」 『え? ど、どうしてです? そういえば、何やら様子がおかしいですが、もしかして何かあったのでしょうか……?』 心配して尋ねるミラーナイトに、才人は今の自分の状態を打ち明けた。そしてうつむき気味に なりながらつぶやく。 「今の俺が帰ったところで、何が出来る? 何も出来ない……。俺はもうガンダールヴでも、 ウルトラマンでもない、ただの人間に逆戻りしたんだ……。こんなんじゃ、また敵が現れた時に 誰も守れない。帰っても、ルイズをガッカリさせるだけだよ……」 『……』 ミラーナイトは何か言いかけたが、今の才人には何を言い聞かせてもどうしようもないと 判じたのか、口に出すことはなかった。 『……分かりました。サイト、あなたにはしばらく気持ちを整理する時間が必要みたいですね。 では今日は、私はこのまま引き上げます。ルイズたちにも、あなたを見つけたということは話しません』 でも、とつけ加えるミラーナイト。 『ジャンボットやグレンファイヤーには伝えますよ。あの二人も私と同じように、あなたのことを 捜し続けてますので』 「うん、分かった。無理言ってすまないな……」 『……ゼロが目覚める時、そしてあなたが本当の意味で元気になる時が早く来ることを、祈ってますよ』 その言葉を最後に、ガラスからミラーナイトの顔が消え失せた。 「……」 残された才人は、じっと無言のまま立ち尽くした。その背中からは、あまりにも大きな悲痛さが にじみ出ていた。 その翌日、才人は肉体的には完全に復調した。元々、命自体が消えかけていた状態で特に目立った 外傷はもらっていない。そのため回復が早かった。 世話にばかりなることに引け目を感じた才人は、何か出来ることをしようと手伝いを申し出た。 遠慮するティファニアを半ば強引に押し通して、今は薪割りを行っている。 「はぁ……」 しかし薪割りを行う才人は、ため息を吐いてばかりでかなりブルーだった。薪を割る手つきも、 かなりもたついている。斧を振り下ろしても、ガスッ、ガスッ、と薪に食い込んでばかりで、綺麗に割れない。 その手際の悪さも、彼が落ち込んでいる要因の一つだった。ガンダールヴのルーンがある状態で 斧を握れば、薪を割るくらいハイスピードでやってのけるはず。本当にその力を失ってしまったのだと いうことを実感してしまった。 「ほんとに、何の力もないただの人間に逆戻りしちまったんだな……」 「そうしょげるなよ、相棒。伝説じゃなくなっちまっても、相棒は相棒に変わりねえだろ? 少なくとも、俺にとっちゃそうだよ」 ため息を吐いてばかりの才人を、近くに立てかけたデルフリンガーが慰めた。すると才人が聞き返す。 「俺が、ガンダールヴじゃなくなっても、お前はいいのか? お前はガンダールヴの剣なんだろ?」 「いいさ。六千年も生きてきたんだ。俺にとっちゃあ、相棒との時間なんて一瞬みてえなもんさ」 「でも、ルイズはそうじゃねえんだよな」 「まあね。それにあの娘ッ子は現役の『虚無』の担い手だ。また何か問題が降りかかるってのは、 十分に考えられる」 「そういう時に、戦える力のない奴がいたって、邪魔なだけだよな……」 「まあ、間違っちゃあいねえな」 ヤプールは倒れた。しかしこのハルケギニアから悪の芽がなくなった訳ではない。別の魔の手が ルイズに目をつけることはあり得る話。その時に、ガンダールヴでもない自分が側にいたら むしろ足手纏いだ。それは忍びなさすぎる。 しかしルイズのところへ帰らないとしても、これからどうするべきか。時が来れば、地球には いつでも帰れるという心積もりでいたのだが、ゼロが目覚めない以上は帰る手段がない。 まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかったので、才人はすっかり途方に暮れていた。 「ゼロも一緒に目覚めてくれたら、少なくともこんな思いはしなくて済んだのに……って、 俺は本当にゼロ頼みだな、はは……」 自分一人では一歩も踏み出すことが出来ないことを自嘲しながら、次の薪を割ろうとする。 だが……切り株の上に置いたはずの薪が、綺麗さっぱりとなくなっていた。 「あれ?」 どこかに転がっていったか? と思って周りを見回すが、それらしいものはどこにもなかった。訝しむ才人。 「デルフ、確かに俺、ここに薪を置いたよな。どこに行ったか知らないか?」 「いや。見てなかった」 大層不思議がる才人だが、何かの記憶違いだと思い、気を取り直して次の薪へ手を伸ばす。 しかしその時、才人が掴もうとした薪にどこからか飛んできた光弾が当たり、一瞬にして 跡形もなく燃やし尽くした! 「!? 誰だッ!」 明確な異常事態だ。才人が振り返って叫ぶと、光弾の飛んできた方向の森の陰から、異形の シルエットが姿を現した。 『フハハハハハ! 貴様はウルトラマンゼロの変身者だなぁ~! こんなところで発見するとは 思わなかった!』 首があるべきところが三角錐になっているような、鈍色と紫色ののっぺらぼうの怪人。 ハルケギニアの生命体ではないとひと目で分かる容姿であった。 「宇宙人か!」 『如何にも! 私はレギュラン星人ヅヴォーカァ! 宇宙一の嫌われ者だぁ! ウルトラマンゼロの首は、 この私が頂く!』 レギュラン星人と名乗る宇宙人は堂々と宣言した。まさか今、宇宙人に狙われるとは思っていなかった 才人は激しく動揺するが、それを相手に悟られないようにするかのように身体の震えを抑え込んだ。 「ヤプールは倒れた! それなのに、まだハルケギニアを狙うつもりなのかよ!」 『当然だぁ! ヤプールが死に、宇宙人連合もまた分解したが、私はそんなものがなくともこの美しい星を 我が物にするつもりだった! むしろ競争相手が勝手にいなくなってラッキーというところだ!』 レギュラン星人は根っからの侵略者。ヤプールとは関係なしに、ハルケギニアを狙っているという。 しかもこんな時に限って、自分が狙われてしまうとは、と才人は己の不運を呪った。 『こんなに接近しても、ウルトラマンゼロの気配は微塵も感じられない。どうやら、お前だけが起きてて ゼロは力を取り戻していないようだな! ますます僥倖! ゼロが復活する前に、息の根を止めてくれよう! どうだぁ、私の悪賢さはぁ!』 しかも、ゼロが目覚めていないことまで知られてしまった。これでレギュラン星人は何があっても退いたりはしないだろう。 焦る才人。ミラーナイトたちを呼ぼうとしても、この距離だ。どう考えても相手の攻撃する方が早い。 カプセル怪獣も、先の戦いでの負傷があまりにも大きく、まだカプセルから出せない状態。丸裸も同然である。 いや、まだ己の肉体が残っている! 自分はともかく、せめてゼロの命は何としてでも守ろうと、 才人は自分の力で立ち向かう覚悟を固めた。 「おい、あんまり馬鹿にするなよ、レギュラン星人。ゼロの前に、この俺がいるぜ!」 精一杯の見得を切るが、レギュラン星人はむしろ大笑いした。 『グッハッハッハッハッ! ただの地球人風情が、このヅヴォーカァ様に勝てると思ってるのか? 思い上がりも甚だしいわ! グハハハハハ!』 「思い上がりかどうか……今に分からせてやるぜ!」 斧を投げ捨てた才人は、デルフリンガーへと持ち替える。しかしやはり、デルフリンガーを握っても ルーンがあった時のように身体はちっとも軽くならなかった。 「……相棒、無茶だ。今の相棒じゃ、勝ち目はねえよ。力の限り逃げる方がまだ助かる目がある」 デルフリンガーが警告する。しかし才人は引けなかった。 「ここで逃げたらテファたちが危ない。ゼロが起きてるなら……同じことを言うはずだぜ」 「相棒……」 「何。俺だって今までの戦いの間中、寝てた訳じゃないさ。宇宙最高の戦士の戦いぶりを、 すぐ側から見てきた。だから俺だって、いざとなりゃ戦えるはずだ!」 と、己に言い聞かせる才人。そう思わないことには、絶望で押し潰されてしまいそうだ。 「行くぞッ! うおおおぉぉぉぉぉぉッ!」 気合い一閃、才人が遮二無二突っ込んでいくが、 『ふんッ!』 レギュラン星人の放った光弾によって、デルフリンガーはあっさりと弾き飛ばされてしまった。 続く二発目が才人の足元に当たり、才人は衝撃で転倒してしまう。 「ぐぁッ!」 『口ほどにもない。想像したよりもはるかに弱いぞ。笑いすら起きんわ』 レギュラン星人は、嘲るを通り越して呆れ返っていた。 「く、くそぉ……」 仰向けに倒れたまま、悔しさに打ち震える才人。予想していなかった訳ではないが、本当に全く歯が立たない。 ゼロの力も、ガンダールヴの力もない自分が、本当にただの軟弱な高校生だという決定的な証拠を見せつけられた。 ガクガクと身を起こそうとする才人の腹を、レギュラン星人が踏みつける。 「がはッ!」 『あまりに張り合いのない終わり方だが、容赦はせん! 貴様はあの世でウルトラマンゼロに、 自分の弱さのせいで道連れにしたことを謝っておくんだな!』 押さえつけた才人を粉々にするだけの威力の光弾を、手の平に作り出すレギュラン星人。才人は最早逃げることも叶わない。 ああ、才人よ! そしてウルトラマンゼロよ! せっかく死の淵から生還する奇跡を手にしたというのに、 こんなにも早く死の世界へと押し戻されてしまうのか! だが、才人が助かる道はもうどこにも見当たらない! 才人の最期の瞬間が、もうすぐそこに迫ってきた! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9385.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十六話「輝け!ウルティメイトフォースゼロ」 根源破滅海神ガクゾム 根源破滅飛行魚バイアクヘー 宇宙海人バルキー星人 登場 異常に暑い日が続き、海に涼を取りにやってきたルイズたち。しかしそれは逆襲を目論む バルキー星人の罠だった! ルイズたちが人質にされ、才人に海の怪獣軍団が差し向けられたが、 ウルティメイトフォースゼロの力で撃退に成功。ルイズたちも救い出し、残すはバルキー星人 ただ一人かと思われた。 だがバルキー星人は切り札の怪獣を残していた! しかもただの怪獣ではない。強大な闇の 力を持つ根源破滅海神ガクゾムだ! 暗黒の脅威にどう立ち向かうか、ウルティメイトフォースゼロ! 「グアァ――――――――!」 海より現れたガクゾムの威容を見上げたルイズたちは、背筋に寒いものが走って一様に震え上がった。 「な、何なのあの怪獣は……! 威圧感が半端じゃないわ……!」 冷や汗まで垂らしたルイズがそうつぶやいた。彼女たちもまた、生命としての根源的な 本能により、ガクゾムに充満する闇の力に危険を感じ取っているのだった。 そしてガクゾムの出現とともに、快晴の青空に異常なスピードで暗雲が立ち込め、辺り一帯が 暗黒に覆われていく。 「な、何だこの現象は!?」 「暗くなっただけじゃなく、急に寒くなってきたよ……!」 突然のことにギーシュがたじろぎ、マリコルヌがブルブル身震いした。暗黒が空を覆うと ともに、熱がその暗闇に奪われたかのように気温が低下したのだ。 「あの怪獣が、この現象を引き起こしたのか……!?」 レイナールのひと言に、オンディーヌはますます震え上がった。周囲の環境にまで干渉するとは、 それだけ計り知れないパワーがある証拠。果たしてそんな力を持つあの怪獣に、ウルティメイト フォースゼロはどう戦うのか。ここから先は、彼らの戦いを見守ることしか出来ない。 「……!」 オンディーヌが不安を覚える中、ルイズは固唾を呑んでゼロたちの背中を見上げていた。 「グアァ――――――――!」 ウルティメイトフォースゼロの四人を見据えたガクゾムは、己の両腕を彼らに向けてまっすぐ 伸ばした。 その腕の先より、怪光弾が発射される! 『うおあぁぁッ!?』 怪光弾はゼロたちの足元に着弾して凄まじい爆発を引き起こし、四人を纏めて吹っ飛ばした。 『ぐッ……すげぇ威力の攻撃だッ!』 受け身を取って起き上がったゼロがうめく。 「グアァ――――――――!」 ガクゾムはそのまま攻め手を緩めず、ゼロを狙って怪光弾を連射する。 『うおおおおッ!』 光弾の爆発の連続がゼロを襲う! 「ゼロッ!」 思わず叫ぶルイズたち。ガクゾムの猛攻の前にゼロは反撃に転じる間もなく、ただやられる ばかりかのように思われたが、しかし、 『はぁッ!』 そこにミラーナイトが躍り出て、ディフェンスミラーを展開。光弾を防ぎ、ゼロを救った。 しかしディフェンスミラーも連続する光弾の破壊力の前にひび割れていく。 『くッ、長くは持ちません!』 『それだけで十分だ!』 ミラーナイトが時間稼ぎをしている間に今度はジャンボットが前に出て、ロケットパンチを飛ばした。 『ジャンナックル!』 高速で飛んでいったパンチはガクゾムの頭部に炸裂し、ひるませて光弾発射を途切れさせる。 「グアァ――――――――!」 『今度は俺の番だぜ! うらぁぁーッ!』 隙が出来たところにグレンファイヤーが続き、鉄拳を浴びせた。その衝撃でガクゾムは 後ろによろめいた。 『よぉしッ! てあぁぁッ!』 更に持ち直したゼロが空高く跳躍し、斜めに急降下してウルトラゼロキックを放った。 その一撃がガクゾムを大きく蹴り飛ばす。 「グアァ――――――――!」 地面の上に倒れるガクゾム。それでオンディーヌが歓声を上げた。 「おおッ、やった!」 「さすがはウルティメイトフォースゼロだ! あの怪獣相手でも引けを取らない!」 強い絆で結ばれたチームの連携は抜群で、恐ろしい闇の怪獣の力も押し返していた。 『まだまだ行くぜぇッ!』 グレンファイヤーが一気に畳みかけようと前に乗り出した。 がしかし、その瞬間に海面から新たに何かが飛び出してきた! 『んッ!?』 それはゼロたちほどではないが、人間からしたら十分巨大な平たい魚型の怪獣だった。 そのヒレがハサミ状に変化すると、グレンファイヤーの首を挟み込む。 『ぐえぇぇッ! な、何じゃこりゃあッ!』 しかも魚型の怪獣は一体だけではなかった。何匹も海から飛び出してくると、グレンファイヤー、 ミラーナイト、ジャンボットの全身に挟みつく。 『みんなッ!』 『うわぁッ!? 何だ、この怪獣は!』 『み、身動きが取れん……!』 魚型の怪獣はガッチリと三人の身体に噛み込んでいて、動きを大きく阻害する。ゼロは魚怪獣たちが、 ガクゾムの放つ闇の波動に操作されていることに気づいた。 『この魚どもはさしずめ、あの野郎の眷属ってところか……!』 ゼロの推理した通りであった。名を根源破滅飛行魚バイアクヘー。ガクゾムに指揮される 怪獣であり、ガクゾムの武器でもあるのだ。 「グアァ――――――――!」 ミラーナイトたちの動きを封じてから、ガクゾムがまたも光弾を撃とうとする。ゼロはそれを 止めるべく、単身ガクゾムに飛びかかっていった。 『さえねぇぜ! せぇぇぇぇいッ!』 「グアァ――――――――!」 ゼロは宇宙空手の流れるような連撃をお見舞いして、ガクゾムが三人に手出し出来ないように 押し込む。 だがバイアクヘーはまだまだいた。複数のバイアクヘーが空を飛び回りながらゼロに接近し、 背筋にかすめるように斬撃を食らわせる。 『おわあぁぁッ!』 「グアァ――――――――!」 思わずのけぞったゼロに、ガクゾムが腕の打撃を浴びせる。今度はゼロがガクゾムとバイアクヘーに 追いつめられる番であった。 「あぁッ! 危ないゼロ!」 オンディーヌやルイズたちはゼロたちと怪獣の一進一退の戦闘を、ハラハラとした思いで 見守っている。 『くぅッ……!』 ガクゾムとバイアクヘーの波状攻撃に隙を見出せず、防戦一方のゼロ。そしてガクゾムの アッパーで宙を舞う。 「グアァ――――――――!」 『ぐはぁッ!』 だがゼロは吹っ飛ばされて逆さになった姿勢から、ゼロスラッガーを投擲した。 『てぇいッ!』 ゼロは敵に殴り飛ばされた勢いを逆に利用して攻撃のチャンスに活かしたのだ。しかもスラッガーは ガクゾムではなく、ミラーナイトたちに纏わりついていたバイアクヘーを切り裂いて三人を自由にした。 『おお、やった! ありがとうゼロ!』 『感謝する!』 『今度は助けられちまったな!』 『へへッ、ざっとこんなもんよ』 もう同じ手は食らわない。四人は飛んでくるバイアクヘーを片っ端から叩き落とし、近寄ることを 許さなかった。バイアクヘーさえ退ければ、ガクゾムを倒すのは難しいことでもない。 だが、バイアクヘーの真の能力はここからなのだった! 「グアァ――――――――!」 ガクゾムが高々と咆哮すると、全てのバイアクヘーはガクゾムの方に集まっていき…… 何と、ガクゾムの身体と一体化していった! 『何ッ!?』 「グアァ――――――――!」 ガクゾムの胸部に、バイアクヘーが変化して出来た装甲が追加され、両腕はカマ状に変化した。 この姿こそが、ガクゾムの本当の戦闘形態なのである。 「グアァ――――――――!」 早速両腕のカマから怪光弾を発射するガクゾム。その威力は形態が変化したことに合わせて 向上しており、ディフェンスミラーを一撃で叩き割ってミラーナイトを吹き飛ばす! 『うわぁぁぁぁッ!』 『ミラーナイトッ!』 『こんにゃろぉぉぉーッ!』 グレンファイヤーとジャンボットが殴り掛かっていくが、ガクゾムが振り回したカマによって 弾き返されてしまった。 『おわあああッ!』 『ぐあぁッ!』 『グレンファイヤー! ジャンボットッ! このッ!』 ゼロが三人の仇討ちとばかりにワイドゼロショットを発射。 「セアァッ!」 「グアァ――――――――!」 だがガクゾムの胸部装甲が、ワイドゼロショットを全て吸収した! 『何だとッ!?』 ガクゾムは光のエネルギーを闇に変え、暗黒光線をゼロに撃ち返す。 『うわああああ――――――――――ッ!』 あまりに強烈な一撃に、ゼロもまた大きく吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。大きな ダメージを受けたことで、カラータイマーが点滅する。 「ああッゼロぉッ!」 ルイズたちの悲鳴がそろった。一方でガクゾムの背後に控えるバルキー星人は、愉快そうに 高笑いを上げる。 『ナ――――ハッハッハッハッハッ! 思った通り、いやそれ以上のパワフルさだぜぇーッ! さぁ、ウルティメイトフォースゼロにとどめを刺すんだッ!』 「グアァ――――――――!」 すっかり気を良くしたバルキー星人が命ずると、ガクゾムはカマに闇のエネルギーを充填し、 「グアァ――――――――!」 一気に発射した! ……ただし、バルキー星人の方にだ! 『なぁぁ――――――――――――――ッ!?』 完全に予想外のガクゾムの行動にバルキー星人は対応できず、怪光弾をもろに食らってしまった。 そして瞬時に爆散して、消滅してしまう。 『なッ……!?』 あまりのことに驚愕するゼロたち。ガクゾムは強力すぎて、バルキー星人に制御し切れる 怪獣ではなかったのだ。 「グアァ――――――――!」 バルキー星人を抹消して、ますます獰猛さを駆り立てるガクゾムの様子に身を強張らせるゼロたち。 『何という凶暴性……! あんなものを野放しにしていては、ハルケギニアは滅茶苦茶に なってしまいます……!』 『うむ……! 絶対にここで食い止めねばならんな……!』 『やるこたぁ一つだけだッ! シンプルに、ぶっ倒すまでよッ!』 『ああ! みんな行くぜぇッ!』 立ち上がったゼロたちは戦意を奮い立たせ、改めてガクゾムに挑んでいく。 『おおおおおおおッ!』 光線技は吸収されてしまうので撃つことは出来ない。そのため四人は敢然と肉弾戦を仕掛けていく。 「グアァ――――――――!」 しかしガクゾムは単純なパワーも底上げされているのだ。グレンファイヤーの拳でさえ ガクゾムは揺るがず、カマの振り回しや蹴り上げで四人を片っ端から薙ぎ倒していく。 『ぐわぁぁッ!』 『ぐッ、ジャンミサイル!』 『であぁぁッ!』 ジャンボットがミサイルを、ゼロがスラッガーを飛ばした。しかしこれらもカマに叩き落とされ、 通用しなかった。 「グアァ――――――――!」 ガクゾムは両腕を伸ばし、カマの先端から光弾を乱射。ゼロたちを四人纏めて爆発の中に呑み込む。 『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 四人掛かりでも、強化されたガクゾムの前に追いつめられる。ガクゾムは戦っていく内に 消耗するどころか、どんどんと力を上昇させているようにすら見えた。 そしてガクゾムが暴れるにつれて、空を覆い隠す暗闇の濃度が上がっていくようだった。 「こ、このままではまずいぞッ! やられてしまうッ!」 「この世は闇に閉ざされてしまうのか……!?」 オンディーヌは冷や汗で汗だくになっている。周囲を覆う暗闇が、彼らの心をも弱気にさせているのか。 しかしそこに、ルイズがそんな弱気を吹き飛ばすかのような大声で唱えた。 「いいえ! そんなことにはならないわ!」 ルイズの表情には、こんな状況になっても消えずに光り輝く希望と、ゼロたちへの固い 信頼が窺えた。 「ゼロたちの光は、どんな暗闇にも負けることはない! それを何度もわたしたちに見せて くれたじゃない!」 「ルイズの言う通りだわ。ゼロたちはあんな乱暴な奴に屈したりはしないわよ!」 ルイズの意見にキュルケを始めとして、シエスタ、タバサらが賛同を示した。 彼女たちは知っているのだ。幾度もの戦いの中から目にしてきた、ゼロたちの本当の意味での強さ。 そしてその強さに信頼を置き、それが希望につながっている。 ゼロたちを信じるルイズは、彼らに応援の言葉を叫んだ。 「がんばって、ゼロぉぉッ!」 すると爆炎の中から……ウルティメイトフォースゼロの四人が堂々と立ち上がった! そして口々に語る。 『まだまだこんなものでは負けませんよ……!』 『我らを応援する声がある。その期待は裏切らん!』 『いい気になってんじゃねぇぜぇ! こっからが俺たちの底力が発揮する時だッ!』 『闇の化身め。見せてやるぜッ! 俺たちの光をッ!!』 ゼロが叫ぶと、四人の身体から光が溢れ出始めた。その光は徐々に高まるとともに、四つが 合わさって大きな一つになっていく。 「グアァ――――――――!?」 これを見たガクゾムは己にとっての危険を感知したのか、先ほどまで以上の勢いで怪光弾を 放って四人を攻撃する。だが彼らの光はガクゾムの攻撃によっても消えることはなかった。 『よぉし、行くぜぇみんなッ!』 『はい!』『うむ!』『おぉッ!』 ゼロの号令により、四人は同時に地を蹴った。そうして四人が星の如き輝きの巨大な光の 弾丸となって合体する。これぞウルティメイトフォースゼロの力と心、そして光が一つに なった時に使用することが出来るとっておきの切り札、ウルティメイトフォースゼロアタックだ! 相乗効果によって増幅された光の威力は、闇の存在に対して計り知れない効果を発揮する! 『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 合体した四人は流星さながらの勢いで飛んでいき、怪光弾をはねのけてガクゾムに正面から激突した! 「グアァ――――――――!!」 最大威力の体当たりを食らったガクゾムは、四人の光を吸収することも出来ず、木端微塵に なって吹っ飛んだ! 「おおおおおッ!」 あっと驚かされるオンディーヌ。ガクゾムを見事粉砕したゼロたちは元の状態に分かれ、 砂浜の上に着地した。 『やったな……!』 『ええ。見て下さい、空も晴れていきます』 ミラーナイトの言う通り、ガクゾムの撃破とともに暗黒に包まれていた空に太陽の明かりが戻り、 元の青空が帰ってきた。 まばゆい日差しを浴びたことで、全ての危険が去ったことを実感したオンディーヌが大歓声を上げた。 「おぉッ! 太陽の光だぁッ!」 「やったぞぉー! ゼロたちの勝利だぁーッ!」 「ありがとう、ウルティメイトフォースゼロ!」 ゼロたちに向かって大きく手を振るギーシュたち。ルイズ、シエスタ、タバサ、キュルケの 秘密を知る者たちも、ゼロたちを見上げてうなずいた。 彼らに向かってうなずき返したゼロたちは、まっすぐに空高くに向かって飛び上がり、 この場から引き上げていった。 「……おぉーい! みんなー!」 そして才人が大きく手を振りながら、波打ち際を走ってルイズたちの元に戻っていった。 振り返ったギーシュが言う。 「あッ、きみ、今戻ってきたのかい! 全く、何というか、きみはいつも間が悪いな! 一番いい ところにいないのだから」 「ああ、ゼロたちはもう帰ったのか。いやぁ、今度はどんなすごい戦いしたのか見たかったなぁ」 すっとぼける才人に、ルイズが近寄っていって呼びかけた。 「サイト、ありがとう。また助けてもらっちゃったわね」 才人はルイズにニッと笑い返した。 「いいってことだよ。何たって、俺はお前の使い魔なんだからな」 戦いが終わり、才人も戻ったところで、オスマンがホッホッと笑いながら言葉を発した。 「いやはや、全くとんだ慰安旅行になってしもうたが、諸君が無事でひと安心じゃわい。 さて、これで暑さともお別れじゃから、着替えて学院に帰ろうではないか。皆、忘れ物の ないようにするんじゃぞ」 「分かりました、オールド・オスマン!」 オスマンの後に続いて宿に戻ろうとするオンディーヌの背中に、キュルケが呼びかける。 「あらあなたたち、何か忘れてるんじゃないかしら?」 「えッ、何か忘れてるって……」 ギーシュたちは、女子が一様に自分たちに冷たい眼差しを向けていることに気がついた。 「あたしたちを着せ替え人形みたいにして弄んだ罰がうやむやになったままだわ」 「学院に帰ったら、先生たちに掛け合ってあんたたちの奉仕活動の期間を伸ばしてもらうからね! オールド・オスマンにも処罰を受けてもらいますよ!」 モンモランシーが憤然として言いつけた。それでギーシュたちはガビーン! とショックを受ける。 「そ、そんなモンモランシー! 勘弁してくれ! ぼくらはきみたちを助けたじゃあないか!」 「何が助けた、よ! サイト以外は何もしなかったでしょ!?」 「そ、それはなりゆき上そうなっただけだよ! 助けたい気持ちはぼくたちにもちゃんとあったさ!」 「言い訳しないッ!」 「わしは学院長で、しかも老体じゃぞ!? ちょっとは労わってほしいのう……」 「学院長でも老体でも、何をしてもいいことにはなりませんよ! そもそもの元凶はあなた でしょうが!」 モンモランシーにきつく叱られ、しょんぼりと肩を落とすオスマンだった。 才人の方も、ルイズにこう言いつけられる。 「あんたも帰ったら、わたしたちにご奉仕をしてもらおうじゃない。メイドの格好して働いて もらおうかしら」 「えぇッ!?」 「あッ、それいいですね! ミス・ヴァリエール!」 シエスタはノリノリで乗っかったが、当の才人はルイズに抗議。 「そりゃあんまりだろ! 俺、お前たちのために命懸けで頑張ったのに!」 「それとこれとは別よ! いい加減すぐ調子に乗る癖、ちゃんと反省して改善しなさい!」 ルイズにきつく叱りつけられ、負い目のある才人は反論できずにがっくりうなだれた。 その様子にシエスタたちは思わずアハハハとおかしそうに笑う。 そうして一行は、肩を落とす者と笑う者を交えながら、魔法学院へと帰っていったのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5447.html
前ページ次ページゼロの使い魔はメイド この頃、学園の様子がおかしい。 シャーリーは、そう思った。 学園のあちこちで、自分の使い魔とコミュニケーションを取っている生徒たちを見かけるのだ。 それだけなら別に普通なのだが、その接し方がいつもと違う。 ある女子生徒はカエルにリボンをつけて難しい顔をしているし、小太りの男子生徒は昼間からフクロウを飛ばせて芸でも仕込んでいるみたいだ。 ギーシュとかいうキザな男子生徒はヴェルダンデと名付けている大きなモグラと、まるで恋人みたいに見つめあっている。 遠目から声は聞きとれないが、どうも甘い言葉でもささやいているようだった。 モグラに対して。 ハッキリ言って、すごく変だ。 キュルケはサラマンダーのフレイムに、ぼうぼうと炎を吐かせている。 全体的に、まるで怪しいサーカスの練習でも見ているようだった。 「はぁい、シャーリー」 と――シャーリーを見つけたキュルケはニコニコ笑いながら、手を振ってきた。 シャーリーは黙って、丁寧に一礼をした。 悪い人ではないとわかっているが、主人のルイズとは中が悪いし、お色気満点な雰囲気がちょっと苦手なのだ。 それに、 「きゅるきゅる……」 サラマンダーのフレイムが、その虎みたいに大きな体をシャーリーに摺り寄せてきた。 その態度は虎というより猫みたいだった。 シャーリーは大いに困る。 十三歳の乙女にしてみれば、犬や猫ならともかく、火を吐くお化けトカゲに懐かれても、あんまり嬉しくはない。 おとなしいのはおとなしいが、見かけが怖い。 いいかげんで慣れてはきたが、やっぱり苦手だ。 向こうに敵意や悪意が皆無なのだから、なお困りもの。 「一体何をやってるんだ、って顔ね?」 キュルケはニコリとしながら、周りの生徒たちを見る。 「いえ、その……」 シャーリーが口ごもると、 「これは、品評会に備えての特訓よ。みんないいとこ見せようって必死になってるのよねー」 「品評会、ですか?」 どういうものだろう? シャーリーは?を浮かべた。 名前や、周囲の行動からして品評の対象となるのは、どうやら使い魔たちらしいが。 「そう、そういう毎年恒例の催しがあるのよ。生徒たちの召喚した使い魔を、学院中にお披露目するわけ。色んなゲストを招いたりしてね。うーん、ちょっとしたお祭りみたいものかも?」 ふーん、そんなことやるんだ……。 などと感心していたシャーリーだったが、キュルケが言った次の言葉で硬直する。 「ところで、あなたも何かやるの?」 「え?」 「だって、あなたルイズの使い魔でしょ? 二年生は全員参加するきまりだし」 「ああっ」 シャーリーはつい声をあげ、あわてて自分の口を押さえる。 忘れていた……。 シャーリーは自分の右手、使い魔の証であるルーンを見つめた。 今や完璧にルイズ専属のメイド、という認識しかなかったが、シャーリーはルイズの使い魔なのだ。 主もこれをほとんど失念してしまっているので、無理もないことなのだが。 「……」 シャーリーは呆然とする。 どうしよう、どうしよう……。 品評会といったって、何をすればいいのだ? やっぱり何か芸でもしてみせないのとやばいのだろうか? そういうものがないと、まずい……ひいてはルイズにとってマイナスになるのではないか。 自分の出来ることと言えば、家事くらいのものだ。 キュルケのフレイムみたいな、『芸』は持ってないし、できない。 シャーリーが硬直していることに気づいたキュルケは、ちょっとまずいと思ったのか、 「ま、まあそんなに深刻にならなくてもいいじゃない?」 と、フォローするものの、今更である。 シャーリーは深刻な顔のままだった。 (あっちゃあ……。やっちゃったわ。この子、真面目だからねえ……) 失敗したなあ、とキュルケは片手で頭を押さえる。 フレイムはいまだにすりすりしている。 いいかげんにしとけ、サラマンダー。 そんな時だった。 急に使い魔たちの様子がおかしくなった。 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、落ちつきがなくなる。 「ちょっと、どうしたのロビン?!」 「おおい、クヴァーシルーー!?」 「な、何をあわてているんだい、ヴェルダンデ!?」 「ラッキー二世、逃げないでくれーー?!」 それはフレイムも同じで、脅えるようにして、シャーリーの後ろで身を小さくした。 「ああ、これは……」 キュルケは何か納得したような顔で、空を見上げる。 ばさり、ばさり、と大きな羽根音が響き、少し空が暗くなった。 巨大なワイバーンが自分の巣にでも戻るように、学院内に降りてきた。 いつ見ても大した威容である。 わあ、とシャーリーはワイバーンを見上げる。 (モード……。ミス・モリエール、帰ってこられたんだ) 雌のワイバーンが着陸すると、その背中から主である少女が身軽な動作で飛び降りた。 長い青髪がばさりとひるがえる。 イザベラ・ド・モリエールだ。 他の生徒たちはあわてて距離を置く。 中には使い魔と一緒に逃げ出した者もいた。 使い魔同様、主もまた恐れられているようだ。 「冗談じゃないよ、あのクソ親父、変な用事言いつけやがって……」 イザベラはブツブツ言いながら、ぱんぱんと衣服の埃を払った。 「はぁい♪ どうだった? おうちは」 キュルケは笑いながら、恐れ気なくイザベラに近づいていく。 「最悪だよ」 何があったのか、イザベラは吐き捨てるように言った。 気のせいか、その顔にはどこか照れがあるようにも見えた。 「お土産は?」 「どこのお子様だよ、お前は」 おどけた態度で両手を出すキュルケに、イザベラはふんと鼻を鳴らして言った。 「で、青い髪のご令嬢、品評会に間に合うように帰ってきたってとこかしら?」 「はあ? ひんぴょうかい?」 イザベラは一瞬何だ、それはという顔をした。 「あー、そんなのあったな……。面倒くさいね、あたしゃパスだ」 どうでもいいという風に頭を掻く。 「あら、せっかくこんなにも素敵な使い魔がいるのに、もったいないわ? モードのすごさをアピールするチャンスじゃない」 「こいつにゃ、品評会に出すようなお上品な芸当はできないよ。戦場だったら、そのへんのへっぽこドラゴンに負けない働きをするだろうがね」 そういうイザベラの脳裡には、きゅいきゅいとやかしましい風竜の幼生が映っていたが、キュルケにわかるわけもなかった。 「やりようはあると思うけど」 キュルケは微笑して、いかにも狂暴でございますという風貌のグレートワイバーンを見る。 それを感じてか、モードがぐるるとうなった。 「……品評会といえばあんたのフレイム……おい、何やってんだ、そいつ?」 イザベラはシャーリーの影に隠れているフレイムを見て、眉をひそめた。 いくら隠れようとしたところで、シャーリーの小さな体にフレイムが隠れきれるわけがなく、その姿はほとんど丸見えである。 隠れているのが、大きな岩ならともかく、自分よりも小さなメイドの少女なので、傍目からすると情けないことおびたただしい。 「……いつもはこんなことないんだけどね? シャーリーがいるから、甘えちゃってるのかしら? この子シャーリーによくなついてるし……」 キュルケは使い魔を軽く睨みつける。 「フレイム、いいかげんでこっちにきなさい。いくらなんでも、ちょっと情けないわよ?」 「ちょっとどころのレベルじゃないと思うがね――」 イザベラは冷たい目でフレイムを見た後、シャーリーの顔を見た。 「ん? お前はヴァリエールの使い魔」 「は、はい」 「ふーん」 イザベラは、ずいとシャーリーに近づいた。 「お前も出るのかい、品評会に」 「い、いえ、あの……。わかりません」 「ふん。そのへんはご主人様の聞かなくッちゃわからないか」 イザベラは軽く笑って、シャーリーの焦る顔をじっと見つめる。 「特技も何もないんで、そんなモンに出されたところで困る? どうしようって顔だねえ?」 「……」 図星を突かれ、シャーリーはうなだれた。 「ちょっと、あまりいじめちゃダメだよ? この子、ルイズとは違うんだから」 キュルケが助け舟を出した。 「別にいじめてるわけじゃないさ。それにヴァリエールをいじめてるのはむしろお前だろ」 イザベラはシャーリーの右手を取った。 「見たところ、お前は獣に好かれやすい特質があるみたいだ。もしも芸がないってんで困ってるのなら、鳥さん、動物さん、助けてとお祈りしてみな?」 「……?」 この人は何が言いたいのか? シャーリーはイザベラの意図がつかめず、困惑するだけだった。 「そしたら、助けてくれるかもしれないよ? 色んな連中がさあ」 「そ、そうでしょうか……?」 いくらなんでも、そんな都合の良い話なんかあるものだろうか? シャーリーはちょっとばかり腹が立った。 自分は、天使でも聖者でもないのに、祈ったくらいでそんなことできるわけがない。 「信じられないってのなら、今度試してみるんだね」 そう言うと、イザベラはモードに向かって、パチンと指を鳴らした。 すると、モードに積まれた荷物の一部がもこもこと動き出し、何かが飛び出してきた。 それは小さなグリフォンの姿をした人形……ガーゴイルだった。 ガーゴイルはまるで生き物みたいに空を飛び、イザベラに近づいてくる。 その前足には一本の酒瓶をつかんでいた。 イザベラは酒瓶を取ると、無造作にシャーリーに突き出した。 「ほら、ガリアの土産だ。とっときな」 にひひと笑い、押しつけるようにしてシャーリーに渡す。 シャーリーは驚いたが、それを押しいただき、馬鹿丁寧なお礼を言って、その場を辞した。 「あなたもけっこういいとこあるじゃない」 キュルケはにこりとして、イザベラの肩に手を置く。 「普段の私にいいとこがないみたいな言い草だね?」 「悪いところ上げるほうが早いのは確かね」 「うっせえ」 「ほら、まず三つ。口が悪い、下品。それに短気」 「ふん」 「ところで、あなたアレはシャーリーにあげたのよね?」 「あ? ああ」 「でも、本人はそう思ってないと思うけど」 「何でだよ?」 「だって、さっきお礼の時に、代わりましてお礼を……とか言ってたもの、きっとルイズへのお土産って受け取ったのよ」 それを聞いたイザベラは、しまった、と宙を見上げる。 「ああ、そうか……。いや、別にいいけどな」 「ところで、なんか疲れてない? あなた」 キュルケはイザベラの顔を横で見て言った。 「疲れてるよ。クソ親父の面倒ごとをやらされてね」 「……それって、あなたのお父さんよね?」 「ああ」 そう言ったきり、イザベラは口をつぐんだ。 キュルケは溜め息をつく。 この悪友は時折実家の愚痴をこぼすくせに具体的なことは何も言わない。 何かしらの理由があるのはわかるが、 (そろそろ話してくれてもいいと思うけどねえ……) 褐色の女は、秘密を隠す悪友を見て、微苦笑をもらした。 さて、シャーリーはいうと。 ルイズの部屋にワインを届けていた。 「は? イザベラが私に? どういう風の吹き回しかしら?」 シャーリーからイザベラのワインを見せられ、ルイズは首をかしげた。 キュルケの予想通り、シャーリーはワインをルイズへの贈り物と受け取ったのだ。 イザベラが、 「あんたにやるよ」 と、きちんと明言していなかったせいもある。 「まあ、いいわ。棚にしまっておいて」 「はい」 シャーリーはワインをしまった後で、 「あの、ルイズ様……」 遠慮がちに、品評会について、訊ねてみた。 ルイズは最初のほうこそ、 「? 品評会?」 な、顔をしていたけれども……。 「――あっちゃああ……。すっかり忘れてたわ」 ルイズは乱暴に頭を振りながら、渋い顔になってしまう。 シャーリーは何だか悪いことでもしているような気分になって、少しおっかなびっくりにルイズを見た。 (品評会かあ……。何かするっていってもねえ……) 他の使い魔と違って、人間の少女であるシャーリーにはギャラリーにアピールできるものが……ない。 考えてはみたが、これだというものは思いつかなかった。 アピールできないということは、沽券にも関わる。 しかし、ルイズにしたって、今さらそんなことを言ったってどうにもならないことはわかっていた。 シャーリーのせいで良くも悪くも肩の力が抜け出した今のルイズは、 ――使い魔のおひろめでヴァリエール家の三女にふさわしき晴れ姿を。 などという思考には行き難くなっていた。 まったくないということはないが、そこまで神経質になることはなかったのだ。 大体、そんなことをして何になるのかという思いもある。 使い魔はメイジの力をあらわすバロメーターみたいなものだが、その結果をどうこういっても仕方がない。 クジとは違う。 召喚するメイジの実力に見合ったものがやってくるわけだから、召喚した対象を怒ってもまったくもって無意味なのだ。 だから、何がこようと自分の実力を冷静かつ謙虚に受け止めねばならない。 『感情的』が服を着て歩いているようなルイズがこんな風に考えるのは、シャーリーの気性が大きい。 ある意味で、シャーリーはもはや単なる使い魔を超えて、ルイズにとって親友であり、妹のようなものだった。 この異境の地では、シャーリーはルイズ以外に頼れるあてがない。 彼女を召喚してしまったルイズには、シャーリーを色んな意味で守る義務がある。 貴き者、貴族は平民を守らねばならない。 自分に仕える従者という面もあるが、それ以上にその守ってあげなくてはならない存在だった。 護るべき存在というのは、人間を変えるのだ。 もしもいつか妄想に出てきた駄犬みたいな少年が使い魔だったら、悪感情はさらにヒートアップし、鞭を振り振りちーっぱっぱになっていたかもしれないけど。 「あの……」 シャーリーが話しかけようとすると、 「まあ、なんとかなるでしょ」 軽い口調でルイズは言った。 開き直ったのである。 「壇上で隠し芸するなんて決まりがあるわけじゃないし」 口調が妙にすっきりして、明るかった。 その笑顔に、シャーリーはホッと安堵の息を吐いた。 同時に、微笑が口もとに浮かんだ。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1114.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「ミス・ヴァリエール!?」 シュヴルーズが、驚きの声を上げる。 「何をしているのですか、あなたは生徒ではないですか!」 「誰も掲げないじゃないですか」 「いや、ミスタ・ギトーが……」 「一人で行かせる気ですか?」 そこまで言われて、流石に黙り込む。 そのルイズの様子を見て、キュルケも杖を上げる。 「ミス・ツェルプストーまで」 「ルイズ一人には任せられませんわ」 いつの間にか、タバサも杖を上げている。 キュルケはそれを見ると言う。 「タバサ、あなたは良いのよ」 「心配」 キュルケはタバサのその返事に感動したようだった。 ルイズも彼女の申し出に礼を言う。 「ありがとう……」 そんな3人の様子を見て、オスマンは笑った。 「そうか、やってくれるのだな!それでは頼むこととしよう!」 「オールド・オスマン!私は反対です!生徒達を危険にさらすなど、教師のすることでは――」 「本当にそう思っているのなら、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」 「い、いえ……私は……ちょっと体調が」 「彼女たちは若くして優秀なメイジだ。 ミス・タバサはシュヴァリエの称号を持つと聞いておるが?」 その言葉を受けて、キュルケはタバサに聞いた。 「本当なの?」 タバサは無言で頷く。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を何人も輩出した家系の出で、 彼女自身も強力な火のメイジだと聞いておる」 キュルケは得意げに髪をかき上げた。 ルイズは次は自分の番だと推測して、ちょっと期待していた。 けど、現時点で彼女に褒めるところを見いだせなかったオスマンは、お茶を濁すことにした。 「えー……そう、ミス・ヴァリエールは優秀なメイジを数多く輩出した ヴァリエール家の息女で、あー、そうだ、うん。 将来有望なメイジと聞いている。それに、彼女の使い魔はだ」 一度咳払いをして、オスマンはブルーを見つめながら言った。 「平民でありながら、あのグラモン元帥の息子である ギーシュ・ド・グラモンと決闘し、勝ったという話だが?」 「そうですぞ!何せ彼はガンダー……」 一 \ __ / 撃 _ (m) _ ピコーン |ミ| / `´ \ (#゚∀゚) 羅刹掌! ノヽノ | 必 殺 「チェストォォォ!」 「ヤッダバァァァァァァ!?」 「おや、いきなり吹っ飛ぶとはどうしたのかねミスタ・コルベール」 素知らぬ顔をするオスマンに、激しく咳き込みながらも何とか返すコルベール。 ちなみに他の人には一撃必殺の文字が目隠しになったらしい。 「い、いや今のは……い、いえ、何でもありません!」 「とにかく、この3人に勝てる自信がある者がいたら、前に出たまえ」 出たら即刻修正しそうな雰囲気を漂わされながら言われても。 まぁともかく、誰も前には出なかった。 誰も出ないことを確認すると、オスマンはブルーを含んだ4人に言う。 「では、魔法学院は、諸君らの努力と、貴族としての義務に期待する」 「……杖にかけて!」 馬車が路を行く。 車輪が石にぶつかり、ごろごろとした音が鳴る。 「少し聞きたいのだが」 ギトーが、後ろの座席……というよりは、荷台にいる生徒達に話しかける。 「何故私が御者をやっているのだ?」 それにキュルケが返す。 「森の場所を知っているのは先生でしょう」 「それはそうだが、君たちがやってくれても」 「いちいち路を指示するのも、 されるのも余り気分の良い物ではないと思いますわ」 「……まぁ良いだろう」 納得してない様子で、ギトーは話を終わらせた。 キュルケは、今まで話していた相手と話すことにした。 「結局、決着は付いてないのよね?」 「……だから何よ」 「いや、今回ダーリンはどっちの剣を使うのかなってね」 と、話をブルーに振る。 が、ブルーは変わりゆく景色を眺めていた。 いや、眺めてると言うよりはただ見てるだけかも知れない。 「ダーリンって気持ちの浮き沈みが激しいのかしら? そう言うタイプには見えないけど」 「……そうなのかもね」 ルイズは、先日見た夢を思い出していた。 よくよく考えてみると、ブルーが変な感じだったとき…… あれは、夢に出てきた銀髪の術士に雰囲気が似ていなかっただろうか? だれも答えない。問いかけないのだから、答えが返ってくるはずもない。 だが、問いかければ答えは返ってくるのではないだろうか? この目の前の青年から。 馬車が路を行く。 車輪が石にぶつかり、ごろごろとした音が鳴る。 「あの森だ」 ギトーは、目の前にはっきりと見えた森を指した。 まだ、それは遠かった。 森にたどり着くと、ギトーの使い魔が飛んできた。 ギトーの使い魔は、大きなコウモリであった。 しかし何か様子が変だった。 何というか、逃げてきたようである。 「何か来る」 タバサが、呟き上を向いた。 他の者も釣られて、同じ方向を向く。 そこには、学院で見たゴーレムを 緑色の髪をした少女が素手で戦っている姿があった。 「「「……はぁ!?」」」 タバサとブルー以外の全員が驚きと困惑を足したような声を出した。 ちなみにタバサとブルーは既に戦う準備をしている。 「よう、出番か相棒!」 引き抜かれたデルフが元気な声を上げた。 「って、なんか凄いことになってるなこりゃ……」 少女が、拳でゴーレムの腕を殴りつけると、爆発が起きる。 「「「「ええー!?」」」」 「金剛神掌だな」 一つ増えた叫び声を上げるもの達の横で、冷静に解説をするブルー。 少女はゴーレム相手に戦えているように見えた……が、そうではないらしい。 吹き飛ばされたゴーレムの腕が再生している。 ゴーレムは腕を治しつつも、反対側の手で少女を殴り飛ばした。 ブルー達の方に飛んでくる。 が、少女は途中で木を蹴ると上手く力をムキを逸らし、 上手く受け身を取った。身体どころか、服にすら傷が付いていない。 「な、なんだか解らないがあのゴーレムがフーケのゴーレムのようだな!」 「そうね、さっさとやっつけちゃいましょう!」 そう言うと、杖を取り出し詠唱を始める。 緑色の髪の少女は、その様子に気付くと、叫ぶ。 「君たちはメイジなの!?……待って!」 だが、制止を無視したのか、 または間に合わなかったのかは知らないが、詠唱が完成する。 「『ライトニング・クラウド』!」 「『ファイア・ボール』!」 二人の前から雷と炎がそれぞれ現れ、ゴーレムへと飛ぶ。 その当たるはずの魔法はゴーレムに当たる直前、 何かの輝きと共に彼らの方へと向きを変えた。 「な!?」 「…え?」 防御が間に合わず、 キュルケとギトーは自らの放った魔法を喰らうことになる。 その様子を、少女とブルー以外の人間が驚きの表情で見つめる。 「な、なにが……?」 「あ、ありゃ『反射』か?」 「キュルケ……!」 それとは対照的に、 ブルーと緑色の髪の少女は驚いてはいなかったが、 焦っていた。 「……あれは」 「知ってるの?」 「あぁ、知っている。出来れば戦いたくない相手だからな」 「ちょ、ちょっとブルー!何か知ってるの!?」 ルイズが何か知ってる様子のブルーに叫ぶ。 ブルーはルイズに落ち着いた声で返す。 「あれは『魔鏡』だ」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9265.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十七話「風の竜のともだち(前編)」 凶悪怪獣ギャビッシュ 登場 エズレ村のミノタウロス事件の際に、グレンファイヤーがシルフィードの正体を知っている ということが発覚した。今一度確認するが、シルフィードはただの風竜ではない。本名をイルククゥと 言い、人間の間では絶滅したと言われているがその実隠遁して生き延びている風韻竜の子供なのだ。 イルククゥはタバサのコントラクト・サーヴァントの呪文に導かれて、彼女の使い魔となった。 しかし、その事実を何故グレンファイヤーが知っていたのか。それにまつわる話には、 魔法学院の夏季休暇期間中に起きたある事件が関わっていた……。 夜のトリステインの森の一つ。その上空を、ジャンボットが飛行している。しかし普通に 飛行している訳ではなかった。彼は、自身と同等のサイズの巨大怪獣を抱えている。 『むんッ!』 「ピィ――――――――!」 無人の森の上に強行着陸するジャンボット。その際に巨大怪獣が放り出され、木々の上に叩きつけられた。 「ピィ――――――――!」 青い毛皮に覆われ、真っ赤な両眼を持つ、凶暴な面構えの怪獣が立ち上がる。その顔面からは、 おぞましいほどの悪意がにじみ出ていた。 怪獣の名はギャビッシュ。とめどない破壊衝動と狡猾な頭脳を併せ持つ危険な宇宙怪獣であり、 これに襲われた星はあまりにも大きな被害が発生してしまう。実際、このハルケギニアでも 人の街を積極的に狙い、住民をわざと巻き込む形で彼らの命を盾にして思う存分暴れ回ろうと していた。しかしそこにジャンボットが駆けつけ、ギャビッシュが反応する間も与えずにこれを 捕獲し、こうやって無人の土地に運ぶことで卑劣な策略を無効化したのだ。 『ここならこちらも存分に戦える! 行くぞ、ならず者怪獣!』 正義の心をたぎらせたジャンボットはビームエメラルドで先手を打った。 だが緑色のレーザーはギャビッシュの赤い目に吸い込まれ、口からジャンボットへと送り返された! 「ピィ――――――――!」 『むッ、光線を反射する能力を持ってるのか! ならば格闘戦だ!』 はね返されたビームエメラルドを盾で防いだジャンボットはすぐに戦い方を切り換える。 ぐっと両の拳を握り締めて、ギャビッシュへと接近していく。 「ピィ――――――――!」 だがギャビッシュに肉弾戦をするつもりはないようだ。口から針状の光線を吐いてジャンボットを攻撃。 ジャンボットは足止めされる。 『ジャンナックル!』 しかしこれしきで追い詰められるジャンボットではない。素早くロケットパンチを飛ばし、 ギャビッシュの頭部に命中させた! 「ピィ――――――――!」 大きく仰け反ってよろめくギャビッシュ。その隙にジャンボットは押し込もうと、再び踏み込んでいく。 が、その時にギャビッシュの長い尾が頭上まで持ち上がり、その先端から電撃光線が辺り一面に発せられた! 『ぐッ!』 強烈な一撃が連続して爆発を引き起こし、ジャンボットの視界が一瞬さえぎられた。 そして晴れた時には、ギャビッシュの巨体が影も形もなくなっていた。 『何ッ、しまった! 逃げられたか!』 ギャビッシュは光線反射や光線発射の能力の他に、いざという時に逃避するテレポートの 超能力も備えている。自分が敵う相手ではないと見るや、すぐに逃走して姿をくらますのも、 ギャビッシュの狡猾さの一面である。 ジャンボットはレーダーも使って捜索したが、ギャビッシュは既にこの付近からいなくなっているのか、 反応は全くなかった。最早ここには現れないだろう。 『あの怪獣は、野放しにしておくほどに危険度が高まる。早く見つけ出さなければ! 仲間たちにも 協力してもらおう』 そう判断したジャンボットはジャンバードへと変形し、一旦衛星軌道上へと引き返していった。 一夜明けて、トリステイン魔法学院近くの森の中。そこが普段のシルフィードのねぐら。 タバサに呼ばれないときは、ここを中心に遊んだり、使い魔仲間と話し合ったりして日々を 過ごしているのだ。 しかし今日のシルフィードは憂鬱そうだ。岩の上に腰掛け、前足で器用に頬杖を突いている。 はぁ、とため息まで吐いた。 「さっきは哀しかったのね……」 思わず声に出してから、はっと気がついて慌てた顔で辺りを見回す。 しゃべっちゃった! 心の中で、そう呟く。 風韻竜の子供、シルフィードは普通の竜と異なり、言葉を操ることが出来る。しかし言葉を 話すところを人に見られたら、正体が一発でバレてしまう。それを防ぐために、タバサは上空 三千メイル以上の場所以外での、シルフィードの発声を禁じているのだ。同時に、この周辺での 人間への変身も禁止している。勘の良い知り合いに、一緒にいるところを見られたらシルフィードの 正体に気づかれてしまうかもしれないからだ。とにかく、タバサはシルフィードの正体が 露見しないように気を遣っている。 それを破ったら大目玉だ。シルフィードはどうか周りに誰もいませんように、と願いながら 見回していたが……。 「……」 振り向いたその先に、木々の間から半身を出してこちらに視線を送っているグレンの姿を見とめた。 (い、いるのねー!?) ガビーン! とショックを受けるシルフィード。彼は確か、グレンファイヤーがその身の中に 宿ったウェールズという人間。それがどうしてこんな場所に? 一体シルフィはどうしたらいいの!? と混乱するシルフィード。 しかしふと落ち着きを取り戻す。まだ自分の声を聞かれたとは限らない。もしかしたら 彼の耳には届いていなかったかも……と、一縷の望みにかけたが、 グレンはこちらにつかつかと歩いてきて、こう言ってきた。 「おいおいどうしたよ、えぇと、シルフィード。アンニュイな空気醸し出して、挙句『哀しかった』だって? 何か嫌なことでもあったのか?」 (バッチリ聞かれてたのねー!) 再びガビーン! とショックを受けるシルフィード。それでも最後の抵抗とばかりに、 そっぽを向いてしらを切ろうとしたが、 「おーい、返事しろっての。お前さっきしゃべってたじゃ……」 とグレンが言うので、無視できずに慌ててその口を塞いだ。これ以上ややこしいことになるのはごめんだ。 観念したシルフィードははぁ……とため息を吐いて、口を開く。 「あの……シルフィがしゃべってることに驚かないの?」 まずはそう問い返した。いくら使い魔でも、動物が人語を話すようになるのは極めて稀なことだ。 普通なら竜が口を利くことに驚かないはずがないのだが、グレンはそんな様子が微塵もない。 そのことにグレンは、ポカンとした表情で質問を返した。 「えッ、普通はしゃべらねぇもんなのか? そういや、竜が言葉話してるとこって見たことねぇな」 「……し、知らなかったのね?」 唖然としてしまうシルフィード。それくらいは常識であることは、シルフィードだって知っている。 まぁ、グレンはハルケギニアの人間ではないので、ハルケギニアの常識は通用しないのかもしれないが。 「まぁな。竜っていうくらいだし、言葉ぐらいは話せてもおかしかねぇって思ってた。怪獣にも、 しゃべれる奴はいるしな」 「しゃべれる怪獣もいるのね……!? そっちが驚きなのよ」 「ってぇなると、シルフィード、お前は普通の竜じゃねぇってことだよな」 聞かれて、シルフィードは今度こそ近くに人がいないことを確認してから、開き直ったような 態度でグレンに答えた。 「そうなのね! シルフィのほんとの名前はイルククゥ。人間はいなくなったと思ってる 古代の幻獣、韻竜の眷属なのよ! そこらの竜とは格が違うのね」 「へー、そうだったのか! お前ってすごい奴だったんだな!」 称賛されて、シルフィードは何だか誇らしい気持ちになり鼻高々となった。思えば、人間たちの 都合で普通の風竜の振りをし続ける毎日で、ずっと窮屈な思いをしていた。韻竜は本来気高い 生き物なので、そんな思いをするのはストレスが溜まる。 「そうなのよそうなのよ! シルフィはすごいのね! 飛ぶ速さだって鳥なんかとは比べものに ならないし、精霊の力も使えるのね! 姿を変えるのだって、ほらこの通り!」 「おぉー! やるじゃねぇか!」 すっかりいい気になって人間への“変化”まで披露し、二人で盛り上がる。 しかしはたと我に返り、グレンにお願いした。 「グレン、シルフィが風韻竜ってことや、言葉を話せるってことは誰にも言わないでほしいのね。 これが知られたら、お姉さまの使い魔をやっていられなくなるのね」 その頼みを、グレンは快く引き受けた。 「分かったぜ! こいつは俺とお前の、男と男の約束だな!」 「シルフィは女の子なのね……」 と突っ込むシルフィードであった。 ともかく約束を交わしたところで、グレンが話を戻した。 「それでシルフィード、お前何でさっき暗い顔してため息吐いてたんだ? ここであったのも 何かの縁だ。相談くらいは乗るぜ」 「……実は……」 シルフィードは己の内に抱えた重い気持ちを吐き出すように、今朝からの出来事を紅蓮に打ち明けた。 シルフィードが朝目を覚ますと、森の中で五歳くらいの小さな女の子とばったり出くわした。 苺やキノコを採りに来たようであったニナという少女は、恐ろしい竜の姿を前にしても物怖じせず、 人懐っこく話しかけてきた。それが何だか嬉しくてシルフィードも少しつき合ったが、ニナは 森の中に籠を忘れていった。それを届けに、彼女の村まで行ったシルフィードだったが、村の人間に 見つかってしまい大騒ぎになってしまった。その上ニナが、他の人々の自分を恐れる様子に 感化されて、泣き出してしまったのだ。せっかく仲良くなれたのに……と、シルフィードは それがショックだったのだ。 グレンはその話を聞いて、したり顔でうなずいた。 「なるほどねぇ……。見た目が厳ついってのは何かと不利だよな。俺だって、チーム内の人気は ゼロやミラーナイトに取られがちでちょっと悔しい思いしてるんだよ。あいつらイケメンだからなぁ」 イケメン、と言われても、シルフィードには違いがよく分からなかった。宇宙的な美的センスは、 彼女にはまだ早かった。 「よっしゃ、そういうことなら俺が一肌脱いでやろうじゃねぇか! 要は、村の奴らがお前を 恐がらなくなりゃいいんだろ?」 「でも、どうするのね?」 「なぁに、簡単なことだぜ。俺がお前のことを、メイジの使い魔で危険なことは全然ない、 すっげぇ大人しい奴って弁解するのさ。誤解が解けりゃ、そのニナって子もお前のことを もう怖がったりはしねぇだろ」 おお! と一瞬喜んだシルフィードだったが、すぐに思い直して断った。 「気持ちは嬉しいけど、やっぱり遠慮するのね……」 「え? 何でだよ」 「どんなに言葉で説明しても、人間はシルフィみたいのは本能で怖がる。それはどうしようも ないことってのは、シルフィだって知ってるのね。たとえニナが怖がらなくっても、シルフィと 一緒にいたら、あの子が村で仲間外れになるかもしれないのね……。シルフィのせいで そんなことになったら、申し訳ないの」 シルフィードはニナのために身を引くつもりであった。本当はあの子と友達になりたいのだが…… その気持ちを抑えつけるのだ。 「シルフィード……お前って結構大人なんだな」 「そうなのね。お姉さまはしょっちゅうシルフィをお叱りするけど、シルフィだって色々と考えてるのね」 寂しそうなシルフィードだが、本人がこう言う以上は、グレンにはどうすることも出来ない。 そっとしておくのが関の山であった。 考えとは裏腹に落胆を隠せないシルフィードは、それを紛らわすようにグレンに尋ね返した。 「ところで、グレンはこんなところで何やってたのね?」 「ああ、それだそれだ! 実はちょっと大変なことになっててな。ちょうどいい、お前にも 注意をしておくぜ」 グレンはそう前置きして、自身の目的を話した。 「昨晩、焼き鳥の奴がある怪獣と戦ってな」 「焼き鳥?」 「ジャンボットの仇名だぜ。あいつは認めねぇんだけどな。それは置いといて、その怪獣が この辺りに逃げ込んだみてぇなんだ。そいつを捜してたって訳だ。多分こんくらいの大きさの、 青い毛の奴なんだが、見てねぇか?」 グレンはジェスチャーで、両腕で抱えられる程度の大きさを示した。 「ううん、見てないのね。というか、そんなちっさい奴、わざわざ追いかける必要あるの?」 「いや、見た目で騙されちゃ駄目だぜ。そいつは化けの皮を被ってるだけだ。ほんとの姿は 俺たちと同じくらいの大怪獣で、しかもすげぇ凶暴なんだよ。小さな姿に化けんのも、 逃げると同時に無害な生き物の振りして、人のいるとこに潜り込んで暴れようって魂胆からだ」 「うッ、そんなずるい怪獣もいるのね……」 か弱い存在を装って人を騙し、集団の内側に入り込んでから破壊活動を始める……その狡猾さは、 説明だけでも想像がついた。 「ここには学院がある。今は休暇中だが、人はいるんだろ? そこに侵入しやがったらえらいことだ。 もし青い生物を見つけても油断しねぇで、敷地内には絶対入れるな! ってお前からもみんなに 警告しといてくれ」 「だからシルフィは、人の前ではしゃべられないのね……」 突っ込むシルフィードだが、今の話は放ってはおけない。タバサには事情を説明して、 学院全体に警戒してもらうようにしよう、と行動の方針を決定するのだった。 シルフィードとグレンが出くわす少し前……ニナの暮らす村。 ニナは母親に散々説教を食らって、しょぼんとうなだれていた。竜のそばなんかに行っちゃいけない、 と怒られたのである。そうこうするうちに、ニナは地面に転がっていた籠を見つめた。 「あ、あたしのかごー」 中にはぎっしりと蛙苺が入っている。シルフィードが運んできて、騒動の内に置いていったものだ。 「かご、竜さんが持ってきてくれたんだ」 ニナは立ち尽くした。置き忘れてきたことに気づいたのは、家に帰ってきてすぐのことだった。 「……ママがいうとおり、ほんとに怖い生き物なのかな」 わからない。幼いニナにとって、母親の言葉は絶対である。でも……、今朝見たシルフィードは、 そうは見えなかった。 ニナが悩んでいると……、彼女の元にどこからか、ひょこひょこと小動物が近づいてきた。 「あれ? この生き物……何だろう?」 小動物を目にしたニナは首を傾げた。全く見たことのない生物だった。犬でも猫でもない。 強いて言えばネズミに似ているが……青い毛のネズミなど、ニナは聞いたこともなかった。 その小動物はブルブルと震えている。弱っているようであった。 「あなた、どうしたの? 具合が悪いの? それとも、怪我したの?」 ニナは小動物のことを心配し、自分のところで介抱してあげようと思い立った。 母親は竜を、身体が大きく力が強いので、とても恐ろしい生き物だと言っていた。ならば、 身体が小さく力も弱そうなこの生き物は、家に連れて帰っても大丈夫だろう。 「おいで、家で手当てしてあげるね」 そう決めたニナは小動物を抱え、家まで運んでいった。その道すがら、村の人たちが小動物に目を留める。 「まぁ、あの生き物は何かしら? 見たことないわ」 「でも大人しそうで、安全みたいね。それにかわいい顔をしてるわ!」 「さっきの竜とは大違いだな。貴族さまがたにも、ああいう生き物を使い魔にしてもらいたいぜ」 家に帰ったニナは、母親に小動物の世話をする許可をもらう。 「ママ、この子弱ってるみたいなの。うちで看病してあげてもいい?」 「え? 何かしら、その生き物……」 母親も初めは訝しんだが、すぐに小動物の愛らしい顔立ちとうるうるした瞳に気持ちをほだされた。 「……まぁ、危なくはないみたいね。いいわよ。それどころか、そんなかわいい生き物なら うちで飼ってもいいわ!」 「やったぁ! ありがとう、ママ!」 ニナは喜んで、小動物をテーブルの上に乗せる。 「きみ、これからニナの友達だね! 待ってて、お薬持ってくるから」 ニナは傷に効く薬草を探しに、小動物の前から離れた。 ……その途端に、小動物はニタァ……と、邪悪な笑みを口の端に貼りつけた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔