約 1,746,407 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1926.html
「・・・何やってんだ、おめーら」 部屋の扉を開けたまま、肩にデルフリンガーを担いだ状態でギアッチョは しばし固まった。 厨房でルイズ達と別れてから数時間を剣の訓練に費やし、今戻って来た 彼の眼に飛び込んだものは、 「あ、おかえりギアッチョ」 「お邪魔してます」 足りない分はキュルケあたりの部屋から持ってきたものか、しっかり 五人分揃えられた椅子に座り円卓の騎士よろしく丸テーブルを囲む ルイズ達の姿だった。 「シエスタの嬢ちゃんまでいるじゃねーの 今日は半ドンか?」 やけに俗な言葉でデルフがギアッチョの疑問を代弁する。シエスタは椅子を 引いて立ち上がると、律儀に礼をしてからそれに答えた。 「はい マルトーさんに掛け合ったら快く許してくださいまして」 「・・・理由はそいつか?」 ギアッチョはテーブルの上に丁寧に広げられた数枚の地図に眼を向ける。 「ロマンだよギアッチョッ!!」 両手で勢いよく地図を叩いて、ギーシュが興奮した面持ちで声を上げた。 「見たまえ!宝の地図だよ!宝、財宝、進化の秘法!」 「ああ?」 「宝探しは男のロマンさ!男に生まれたからには、心躍る冒険の一つや 二つ夢見て当然!いや、見ないでどうするッ!!」 「あんた毎日冒険してるじゃない」 主に女性関係で、と突っ込むルイズの言葉も、熱苦しい情熱を振りまいて 語るギーシュの耳には届かないらしい。キュルケはやれやれという風に首を 振ると、一人と一本に説明を始めた。 「ほら、折角こんな関係になったんだしシエスタも入れてどこかに 遊びに行こうって話になったのよ それで、最近私が買った地図のことを 思い出してね」 「貴族の割に野趣溢れる選択だな・・・こういうなぁ人を雇って探させる もんじゃあねーのか?」 「貴族と言っても私達は所詮子供だしね、大金持ってるわけじゃないのよ それに、ま・・・ギーシュじゃないけど、ちょっと夢があっていいじゃない?」 ギアッチョはもう一度並べられた地図に眼を落とす。どれもこれも、いかにも 作り話じみたうさんくさい代物ばかりである。胡乱な視線に気付いたらしい、 タバサが本をめくる手を止めずに口を開く。 「・・・確率は低い でも伝承や噂と矛盾する内容は見当たらない」 「行ってみる価値はある、っつーわけか」 桃色の髪を揺らして、ルイズがギアッチョを見上げた。 「・・・ダメ?」 「何でオレに許可を求めんだ ・・・ま、いいんじゃあねーのか」 「見たとこどれもそう遠くはなさそうだしな」地図にルイズ達がつけた 印を見ながら応じる。「死なねー程度に頑張って来な」 「何言ってるの?あなたも行くのよ」 「・・・何?」 キュルケの言葉に、ルイズのベッドに無造作に下ろしかけた腰を一瞬止める。 「同行」 「おめーらで行きゃあいいだろーが」 「皆で行くからいいんじゃないか!」 「だからおめーらで行けば・・・」 「ダメよそんなの!皆で行くんだから、ギアッチョがいなきゃ意味ないわ!」 五人は喧々囂々主張を交わす。この数日を特に鍛錬に充てるつもりの ギアッチョとしては、それが潰れることは歓迎出来ない。一方ルイズ達は 誰か一人欠けても意味が無いと主張し、彼らの議論は中々収束しない。 「・・・あのっ」 おずおずと声を掛けたシエスタに、全員の視線が集中する。慌てて机上の 地図を一枚掴み、ギアッチョに差し出して言った。 「これ、『竜の羽衣』って宝物の地図なんです」 「・・・?」 「さっき話してたんですけど、これ実は私のひいおじいちゃんの持ち物で」 「おめーの故郷か?そりゃあ奇遇だな」 「はい、それで・・・あの ・・・何にもない村なんですけど、一つだけ ――とっても綺麗な草原があるんです 私、ギアッチョさんにも見て 貰いたくって」 「・・・・・・」 「・・・ダメ、でしょうか」 ギアッチョの冷たい双眸が、シエスタの不安げな瞳を捕える。 「・・・・・・しゃーねーな 保護者が必要だってことにしとくぜ」 小さく溜息をつくと、両手を上げて降参の意を示した。同時に、その場が わっと歓喜に沸く。 「よく言ったッ!それでこそ男だよギアッチョ!」 「おめーに男がどうとか言われたくねー」 「お手柄よシエスタ!」 「きゃっ!?だ、ダメですミス・ツェルプストー!」 再びロマンを語り出すギーシュの横で、キュルケがシエスタを抱き締める。 珍しくというべきか、歳相応にはしゃぐ彼らだったが、 ――あ・・・・・・ 嬉しそうに笑うシエスタと、その視線の先にいるギアッチョに――ルイズの 胸はちくりと痛んだ。すぐに理由に気付いて、それを吹き飛ばすように彼女は 強く首を振った。 「それじゃ、明日はちゃんと起きるのよ」 「わ、分かってるわよ!」 キュルケ達を見送りに出た廊下。今朝のことが頭をよぎり、ルイズは思わず頬を 染めて返答する。一瞬怪訝げな表情を浮かべたキュルケだったが、自室の扉を 開くと特に詮索することも無く手を振った。 「そ、じゃあ二人ともお休みなさい」 「お休み・・・また明日」 「じゃあな」 無理矢理見送りに引っ張り出したギアッチョと三人で挨拶を交わし、キュルケは あくびをしながら扉を閉めた。同時に、ルイズが同じく自室の扉を開ける。 「さ、わたし達も早く寝ちゃいましょ 明日は早いんだから」 ギアッチョは声を出さずに、肩をすくめてルイズに応えた。 ぱたり、と扉が閉まる。その音に被せて、 「・・・ギーシュ・・・」 廊下の角に姿を隠して、見事な金糸の髪を持つ少女は――怒りと不安と悲しみの 入り混じった声で恋人の名を呟いた。 ニ脚に戻った椅子に腰を下ろして、ギアッチョは最近見方を覚えた水時計を 覗く。もうすぐ深夜に差し掛かる頃合だった。中々スケジュールが定まらず、 夕食を終えて入浴を終えた後も六人はあれやこれやと打ち合わせを続けていた。 もっとも、その半分以上は他愛の無い雑談に割かれていたのだが。 「ほら、さっさと寝るわよギアッチョ!寝坊なんてしたら許さないんだからね!」 「・・・随分と楽しそうじゃあねーか」 「そ、そう見える?」 「見えるも何も・・・っつーやつだ」 二人は背中を向けたまま会話する。 「おめーがそんなに笑顔でいんのは見たことねーからな」 「えっ・・・ええ?」 ぺたぺたという音がギアッチョの耳に届く。大方、今頃気付いて反射的に自分の 顔でも触っているのだろう。 「・・・単純なガキだな」 「ぅ・・・わ、悪かったわね・・・」 自分の行動を見透かされたと気付いたらしい、ルイズは小さく拗ねた声を出す。 「・・・別に、いいんじゃあねーのか」 「え?」 「おめーらみてーなガキがよォォォ~~~~、小難しいことばっか考えてて どーすんだっつーのよ そうやってあいつらと笑ってるほうがよっぽど歳相応 だろーが」 毎度巻き込まれるのは勘弁だが、と小さく付け足して、ギアッチョはフンと 鼻を鳴らした。 「・・・そ、そう・・・」 若干の沈黙が場を支配する。微かに衣擦れの音が聞こえた後、 「・・・もういいわ」 着替えの終了が告げられた。といっても、ギアッチョは何ら興味を示さずに 黙り込んだままだったが。 「・・・あの」 「何だ」 ベッドの上に座り込んだまま、ルイズはどこか眼を泳がせながら問いかけた。 「わたし・・・笑ってたほうが、いい?」 「・・・・・・」 ギアッチョは肩越しにルイズを振り返る。 「・・・まぁ 年中辛気臭ぇ顔されるよりゃあよっぽどいいだろ」 何とはなしに軽い答えを返すが、ルイズの表情は予想に反して緊張したまま だった。既に薄く染まっていた頬を更に赤くして、毛布をいじりながら口を開く。 「・・・・・・じゃ、じゃあ」 「まだ何かあんのか?」 「わっ、わわ・・・笑ってたほうが、か、か、かか・・・可愛い・・・?」 「・・・・・・ああ?」 コントよろしく椅子からずり落ちそうになった身体を何とか持ち直す。 「バカかてめーは」とあしらおうとしたが、ルイズが存外真面目な顔でこちらを 見ていることに気付いて、ギアッチョは思わず言葉を飲み込んだ。 物の本によれば、弟子の質問にどう答えるかで師匠はその真価が問われると 言う。しかしこのような場合に一体何と答えて然るべきなのか、ギアッチョには 皆目見当がつかなかった。 ――そもそも、こいつは何を求めてやがるんだ 片手で特徴的な髪をいじりながら、ギアッチョは改めてルイズに眼を向ける。 毛布を抱き締めた格好で、ルイズは上気した顔に不安げにも期待するようにも 見える色を浮かべている。 自慢ではないが、生まれてこの方連想ゲームや伝言ゲームに勝った試しなど 一度とて無い男である――最も、敗北よりもブチ切れてゲーム自体を台無しに したことのほうが多いのだが――、ルイズの心の機微など解ろうはずもなかった。 「あー・・・」 何と言っていいものか、ポーカーフェイスの下でギアッチョは白旗を揚げたい 気分だった。――その時。 コンコンと、扉を小さく叩く音が聞こえた。 「夜分遅くにすまんの、ミス・ヴァリエール 起こしてしまったかな」 扉の向こうに居たのは、誰あろうオールド・オスマンその人であった。 「い、いえ・・・大丈夫です それよりもこんな格好ですいません、今着替え――」 「いや、それには及ばんよ 忘れておったこちらが悪いんじゃからの」 「忘れ・・・?」 小首をかしげるルイズに、オスマンは古びた一冊の本を差し出した。 「本来ならば昼に渡すべき物だったんじゃが・・・いやすまぬ、職務に忙殺 されてすっかり忘れておったのじゃ」 「それは・・・ご苦労様です」 とりあえず受け取りながら、学院長に労いの言葉をかける。ミス・ロングビル ――土くれのフーケがいなくなってから、まだ新しい秘書は雇っていないらしい。 それでは忘れてしまうのも仕方が無いだろう。 「・・・それで、これは・・・?」 「うむ それはの、『始祖の祈祷書』と呼ばれる古文書じゃ」 「始祖の――こ、国宝じゃないですか!」 それがどうして、とルイズが疑問を継ぐ前に、オスマンは静かに説明を始めた。 「アンリエッタ王女が、この度目出度くゲルマニア皇帝との結婚を執り行う こととなった」 「・・・・・・!」 ルイズは絶句する。こうなることは分かっていたはずなのに、刺すような痛みが 彼女の心を抉った。オスマンは数秒ためらうように沈黙したが、やがてゆっくりと 説明を再開する。 「おぬしも聞いたことはあろう トリステイン王室の伝統では王族の婚儀の際に 貴族から一人の巫女を選出し、その祈祷書を手に式の詔を詠み上げさせる慣わしが あるのじゃ」 「ま、待ってください!それは――」 「うむ 王女はおぬしを巫女に指名した」 「姫様が・・・」 ルイズはハッとして顔を上げた。こっそり左右に目配せすると、オスマンは ルイズを見返して言う。 「望まぬ結婚じゃ、王女も――おぬしも辛かろう しかし、ならばせめて親友に 祝ってもらいたいのだろうとワシは思う ・・・どうじゃ、引き受けては くれんかの」 元より選択肢など無い。数多いる貴族の中から、アンリエッタはこの自分を選んで くれたのだ。一体どうしてそれを拒否出来ようか。 「・・・謹んで拝命致します」 始祖の祈祷書を両腕に抱いて、ルイズは静かに一礼した。 「・・・・・・どうしよう」 「何がだ」 扉の閉まる音に重ねて、ルイズは弱った顔で呟いた。 「聞いてたでしょ?詔の内容はわたしが考えるんだって」 「みてーだな」 ギアッチョはさして興味も無いと言った風に返す。 「わたし、そういうの苦手なのよ 全っ然思いつかない」 「・・・受けちまったもんはしょうがねーだろ」 「それはそうだけど、しかもそれを国賓の貴族達の前で詠み上げるなんて・・・」 「考える前に弱音を吐くんじゃあねーよ」 「うう・・・」 ギアッチョのあまりの正論にルイズは言葉も無く溜息をつく。 「何にせよ今日はもう寝とけ」 「・・・うん」 言いながら寝床へ向かうギアッチョに習ってルイズもベッドへ足を向けるが、 ふと立ち止まって後ろを振り返った。 「・・・ねえ、ギアッチョ」 「何だ」 「・・・・・・やっぱり、ベッドで寝たい?」 「・・・今更だな」 毛布を広げながら、ギアッチョは首だけをルイズに向けて答えた。 「そりゃあよォォ クッションよりも硬い床が好みなんてヤローはそう いねーだろうぜ」 「――そう・・・よね・・・」 悄然と俯くルイズに、フンと鼻を鳴らして言葉を重ねる。 「別に何とかしろたぁ言わねーよ 金もスペースもねぇのは分かってんだ こういう所で寝るのは慣れてるしな」 事実、ルイズに金は無かった。昨日の自分とギアッチョの治療費に加えて、 キュルケ達の反対を押し切って彼女らの分までを負担していたのである。今の ルイズの財布では、今日の糊口を凌ぐことすら難しかった。そんな現状を 把握した上での発言だったが、 「ん・・・」 いつまでも床で寝させていることへの罪悪感からか、それを聞いてルイズは 複雑な顔をする。 「・・・・・・あ、あの」 しばし言おうか言うまかといった仕草を見せた後、ルイズは小さく深呼吸を して意を決したように口を開いた。 「・・・や、やっぱりいつまでも床なんてあんまりよね だ、だから、その、・・・ベ、ベ・・・」 そこで言葉が止まる。ギアッチョの怪訝な眼差しから逃げるように、ルイズは 俯いて毛布を抱き締めた。 「・・・だからオレぁ別に――」 「ベ、ベベベベッドで寝てもいいわっ!」 ギアッチョの言葉を遮って、一息に言い切った。 「ああ?」 ギアッチョは視線をルイズの下に移す。ベッドというのは――普通に考えてこれの ことだろう。 「・・・おめーはどうすんだ」 「そ、それはわたしも隣で・・・」 「・・・・・・」 「あ、ちっ、ちち違うわよ!変な意味は全然無いんだから!た、ただあの、昨日 二人で使ってもスペースに問題無いって分かったし、ギアッチョの為にわたし何も 出来て無いし・・・だ、だからその・・・!」 ギアッチョの沈黙をなんと捉えたものか、ルイズはブンブンと手を振って釈明した。 ギアッチョはそれでも少しの間黙考していたが、すぐに顔を上げて口を開いた。 「・・・ならそうさせてもらうぜ」 「これから寒くなってくるかもだしやっぱり床は不衛生だし・・・って、え?」 投げられたのは、ルイズの予想と全く反対の言葉だった。毛布を担いで数度埃を 落とすと、ギアッチョは何の迷いも無くベッドへやって来る。 「えっ、えええ!?ちょちょちょちょっと待って!!まままだ心の準備が――!」 「何の準備だよ」 ルイズの心境も知らず、ギアッチョはあっさりとルイズの反対側に寝転がった。 「とっとと寝るぞ 明日遅刻したくねーならな」 「・・・・・・バカ」 「何か言ったか」 「な、何でも無いわよ!おやすみっ!」 ギアッチョから顔を背けてそう言うと、ルイズもそそくさと毛布に潜り込む。 それを確認して、ギアッチョは静かに眼を閉じた。 ――変わったのは・・・どうやらオレだけじゃあねーらしい 静謐に身を委ねて、ギアッチョはぼんやりと考える。勿論、自分は今までの ルイズの何を知っているわけでもないのだろう。ルイズと共に過ごしたのは、 まだたかだか数ヶ月だ。しかし、その数ヶ月で自分はルイズの涙も笑顔も知った。 だからこそ解る。自分が変わったように、ルイズも変わったのだと。 ルイズの提案を受けた背景にはそういう思考があった。知り合ってすぐのルイズで あれば、貴族のベッドで平民が寝るなど自分の私物で無くても許しはしなかった だろう。――だから。昼にシエスタに言ったように、まさか本当に保護者になる つもりなどは毛頭無いが――ルイズが自分を気遣うならば、それを受け入れて やるぐらいの度量はあってもいいだろうと、そう思う。 ――プロシュートの野郎は、こんな心境だったのかもな・・・ それは、ギアッチョが最も理解出来ないと思っていた感情だった。軽い自嘲を 口元に浮かべて――ギアッチョは今度こそ眠りの底へ落ちて行った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3255.html
前ページ次ページゼロの使い魔-闇の七人 トリステイン魔法学院。メイジ達が集う、世界随一の学び舎。 故に多くのメイジが、この学院で一生の伴侶となる使い魔を得る事になる。 俗に「春の使い魔召還」と称されるこの儀式は、そのまま昇給試験でもあり、 皆が皆、優れた使い魔を得るべく、自然と力をいれるのが常であった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールも、その一人。 貴族=メイジの家柄でありながら、およそ一般的な魔法の悉くが不得手であるという少女だ。 “ゼロの”ルイズなる不名誉な渾名を返上する為にも、より一層の力を入れ、彼女は召還呪文を唱える。 爆発。 爆発。 爆発。 幾度と無く繰り返される爆発。そして空白。 呪文を唱える度、色とりどりの火花が散り、空間が炸裂するが、 しかし煙が晴れた後、其処には彼女の望む使い魔の姿は無い。 周囲の人々も「さもありなん」と言った顔で頷いていた。 所詮、彼女は“ゼロ”だ。 何でもない。何もできない。故に“ゼロ”。 使い魔すら、召還できないのだ。 彼らの反応を知るが故に、ルイズは必死になる。 使い魔が欲しい。 使い魔が欲しい。 使い魔が欲しい! 悔しくて、悔しくて。 涙が出るほど悔しくて。 次第に周囲には夜の帳がおりはじめたというのに、彼女は諦めない。 諦めず、必死に、もう何度目かもわからない召還呪文を、高らかに唱えた。 「全宇宙のどこかにいる私の使い魔よ! この世で最も強く、賢く、美しい存在よ! わが呼び声に答え我が元に来たれ!」 あまりにも必死だったせいだろう。 そして今、この時が“夜”だったからだろう。 その声は、ある存在に聞き届けられた。 ――爆裂。 現れた使い魔の姿に、飽きずに様子を見守っていた皆が驚いた。 其処にいたのは獣人であり、人間であり、そしてエルフであったからだ。 その数、七人。 獣人が召還される。これは有りうるだろう。 人間も、生き物である以上、まったく無いとは言い切れまい。 エルフも――恐るべき種族ではあるが、同様だ。 だが、七人である。 “ゼロ”だからと言っても、およそ信じられない現象だ。 この光景を見て、召還した本人のルイズも、どう反応してかわからないまま、 「春の使い魔召還」儀式は、一応、これをもって完了となった。 ――大方の予想に反し、彼ら七人は、極めて魔法学院に適応した。 皆が皆、魔法を使えるという(メイジであるとは言わなかったが)驚くべき事実もあったのだろう。 生徒達も彼らを見下すことはなく、また貴族ではないが故に学院で労働に従事する人々も彼らを受け入れた。 もっとも率先して学院に関わったのは、二人の蜥蜴人である。 オチーヴァ、テイチーヴァと名乗った彼らは、双子の姉弟なのだという。 元来、読書を好んでいた二人は、学院の膨大な蔵書を読み耽り、 そして時折、授業に顔を出しては、水を吸う樹木のように新たな知識を汲み上げていった。 特に彼らと親しくなったのは教師、コルベール。 未知の世界の、未知の知識。それらに夢中になったのは彼も同じだった。 三人の間での交流が深められていくのは自然の成り行きである。 ヴィンセンテという吸血鬼は、オールド・オスマンが好んで自室に誘っていた。 当初こそ、やはりヴァンパイアという怪物を警戒しているのかと思ったが、そうではない。 単に茶飲み相手が欲しいという、それだけの理由だった。 何せこの吸血鬼、300年を生き延びてきたというのだから驚きだ。 無論肉体は若々しいのだが、精神的にはオスマンに近い。話も弾むというものだ。 つまり好々爺が一人増えたことになり、ミス・ロングベルの苦労が二倍になったのは言うまでも無い。 学院の職員たちに気に入られたのはエルフのテレンドル、人間のマリーという女性陣二人。 そして驚くべきことに、オーグのゴグロンであった。 とはいえ、この恐るべき顔つきの大男が、そう簡単に受け入れられるわけもない。 だが、その一方で彼はとてつもなく良い奴だった。 職員の仕事を良く手伝ったし、貴族たちの無理難題を笑い飛ばすような人物である。 そして傍らに寄り添うテレンドル。エルフであっても(あるが故に)美しい彼女だ。 何かにつけて言葉の足りないゴグロンを補って、二人して認められていた。 マリーはマリーで厨房に入り浸り、マルトーとの間で熱心に料理のレシピを交換している。 彼女の「異国的な」料理は、中々に料理長を苦しめているようではあったが。 一方、生徒達に気に入られたのは誰であろう、猫人のムラージ・ダールだ。 口が悪く、人間種の事を「薄汚いサルめ」と公言して憚らない男だが、面倒見が良いことは直ぐに知れた。 たとえば生徒達がインクを切らしたとき、授業用に使う魔法道具が足りなくなったとき。 何処からか、そういった品々を調達し、困っている人々に配っていったのが彼だ。 今ではすっかり気に入られ、皆に取り囲まれる日々を送っている。 本人は実に迷惑そうだが。 そして最後の一人。 一行の代表としてルイズの使い魔となったのが、蜥蜴人の彼だった。 リザード――異国の言葉で蜥蜴という意味だ――と名乗った彼は、自分はそれ以上でも以下でもないという。 短剣、長剣、弓矢、それに幾つかの魔術に精通し、滅法強い。 容姿は蜥蜴人である為いたしかたないとしても、ルイズにとっては素晴らしい使い魔に思えたろう。 何より、魔法の使えぬ自分を馬鹿にすることがない。 ただ気に入らないのは、その寡黙で愚直、謎めいた雰囲気が――彼女の隣室の女性を虜にしたことだ。 まあ、幾ら“微熱の”キュルケといえども蜥蜴に思慕の念を抱くことはあるまい。 そう高を括っていたのだが、どうやら「種族の壁は恋を燃え上がらせるのよ!」とのことだ。 悔しいかな、ルイズ自身も、この蜥蜴人に対して思うところがないでもない。 だからと言っても鬱憤をぶつけても、リザードはそれを素直に受け止めてしまう。 まったく、この想いを何処にぶつけて良いものやら、と彼女は日々悶々としているらしい。 だが、誰もがこの奇妙な集団に疑問を抱かなかったわけではない。 “雪風の”タバサは違った。あるいはコルベールもそうであったかもしれない。 およそ尋常なる者どもではないことは、即座に見て取れた。 相当な手練れだ。若年ながら、数々の修羅場を潜り抜けた彼女には、嫌と言うほどにわかる。 気配を感じない。足音が聞こえない。 自分も気付かぬうちに背後を取られている。 そして、あの男――リザード。 一体如何なる経験を積めば、アレほどまでに各種の武具に精通できるのだろうか。 タバサには、想像もつかなかった。 その疑問が解消されるのは、それからしばらく後のこと。 とある貴族によって、学院のメイドが連れ去られた日の夜に――……。 前ページ次ページゼロの使い魔-闇の七人
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/6493.html
登録日:2011/04/10 (日) 21 58 52 更新日:2024/03/11 Mon 10 36 17 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 おっぱい エルフ エルフ耳 ゼロの使い魔 ティファニア テファ ハーフエルフ ヒロイン昇格 同人誌のエース 天然 巨乳 桃りんご 溢れ来るおっぱい 爆乳 胸オバケ 胸革命 能登麻美子 虚無 虚無←胸にあらず 遅れてきたヒロイン 『ゼロの使い魔』の登場人物。 CV 能登麻美子 愛称はテファ。ティファじゃないので注意。 七万のアルビオン軍に立ち向かい、瀕死の重症を負った(というか、実際に一度死んだ)才人の前に現れ、彼を介抱した少女。 ハルケギニアでは恐怖の対象として忌み嫌われるエルフの血を半分引くハーフエルフで、尖った形の耳にその血が現れている。 アルビオン、サウスゴータ地方の街道外れにある集落、ウエストウッドに家を構え、孤児となった子供たちを引き取って共に暮らしていた。 エルフの特徴である白い肌と青い瞳、豊かな金髪をもった美しい女性である。 そして彼女を語る上で欠かせないのが、 胸 であろう。 その大きさはルイズやタバサなんてボルボックスがごとし、 シエスタとアンリエッタはおろかキュルケをも遥か彼方に追いやって作中トップを張るほどであり、 そのたわわな桃りんごを目にした才人が名付けた名称は、「胸革命(バスト・レボリューション)」。 巨乳フリークの才人にとってその大きさはまさに「完璧(パーフェクト)」。一躍彼を虜にした。 エルフである母親は王弟であるアルビオン大公の妾であり、血筋だけならアルビオン王家に名を連ねる人物である。 しかしエルフを妾にしていたことが国王に知られ、父親は投獄、母親は殺害されてしまう。 自身も殺害されそうになるが、その時王家の血に眠る「虚無」の力が目覚め、辛くも難を逃れた。 その後は父の忠臣、サウスゴータ太守の娘、マチルダの力を借りてウエストウッドに隠れ住む。 その出自ゆえに世間の常識に疎く、その「おともだち」観はかなり歪んでいる(友達なら大丈夫と才人に胸を揉ませるなど)。 自身が他人と違うことにもコンプレックスを持っており、その胸革命も彼女にとってはただの悩みのタネ。 また、長らく外界に出たことがないため「自分の知らない世界を見てみたい」とも考えている。 使う虚無は相手の記憶や感情を奪う『忘却』のみ。 母親の形見である指輪を使って死亡した才人を蘇生させ、ガンダールヴの力が消え、 進む道を決めかねている彼とウエストウッドで共に暮らすことになる。 趣味・特技はハープの演奏で、始祖のオルゴールに教えられたという歌を才人に聞かせていた。 歌詞は虚無の系統の使い魔についてを述べたもので、 ”神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導き我を守りきる” ”神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導き我を運ぶは陸海空” ”神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知恵を溜め込みて、導き我に助言を呈す” ”そして最後にもう一人……記すことさえはばかれる……” ”四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……” アニメ版ではかなり無理矢理にではあるがメロディーを当てて再現されている。 自分を怖がらなかった才人とはじめての「おともだち」になり、彼とルイズとの再契約を見届けたあと、トリスティンに戻る才人と別れた。 その後はしばらく登場しなかったが、テファに眠る虚無を保護するため、トリスティンにメイジとして招かれ、学園に在籍することになる。 その際、姓に出身であるウエストウッドを付けた。 学園ではその美貌と胸で学園中の男子を骨抜きにし、女子からは嫉妬からのいじめを受けたりエルフであることを明かしたことで異端審問に掛けられそうになるが、 才人たちの助けもあって乗り越え、徐々に学園に馴染んでいく。 もっとも、コンプリートブックの書下ろしでは異端審問にかけた張本人であるベアトリスにベッタリ懐かれてしまって困り果てている様子が見られた。 この時に才人やマリコルヌのアドバイスで変態的な衣装を着させられるはめになる。 曰く、ふわふわしたレースで何重にも彩られた、毒々しい極彩色のところどころ肌の露出したドレス 確実に薄い本まっしぐらである。しかし挿絵で大きく描かれているのはボンテージ姿のベアトリス。嬉しいやら悲しいやら ガリアとの戦いではルイズと共に「聖女」としてロマリアに祭り上げられる。 19巻で才人と共にエルフにさらわれ、薬で心を奪われそうになるが、ルクシャナの手引きでなんとか逃れる。 二人きりのなかでだんだん才人のことを意識していき、才人から恋人の定義を聞かされたことで、自分が才人に恋をしていることを確信する。 それからは事故に見せかけて才人にキスしたり、自分から胸をまるごと見せるなどなかなか大胆になった。才人もげて氏ね。一回死んだけど。 しかし自分の姪であり、テファの母のせいでエルフたちから迫害されていた少女ファーティマによって瀕死の重症を負ってしまう。 意識を失う寸前、ついに使い魔を召喚。その呼び掛けに応えたのは…… 21巻で新たな虚無の魔法である『分解』を習得する。 これは物質を構成する粒のつながりを忘却させてしまうもので、わかりやすく言えば分子構造を無条件で原子にまで分解させてしまうもの。 発動すれば相手がなんであれ、跡形もなく消滅してしまう。 アニメ版では二期最終話で初登場。しかしこの時は顔見せのようなもので出番は一瞬で、クレジットも妖精であった。 本格的な登場は三期より。原作とは違い、ウェストウッド村でいっしょに暮している孤児たちはおらず、一人暮らしをしていた。また、マチルダとの関係もない。 二次創作においてはルイズに並ぶ主役ヒロインで、特にクロスオーバーものでは主人公となるキャラをルイズ、タバサ、ティファニアの誰かが召喚するかでほぼ決まっていた。 ※余談 直接のつながりはないが、PS2ソフト『夢魔が紡ぐ夜風の幻想曲』に登場するオリジナルキャラクターのリシュと中の人がいっしょである。 このゲームにはティファニアが登場しないのでかぶることはないのだが、リシュはティファニアとは正反対のロリっ子。 声優さんの演じわけのすごさが垣間見えるので、聞き比べてみるのも一興だ。 わかりやすく言えばテファに「お兄ちゃん」と言われるようなものである。 追記・修正宜しくお願いします。 ???「ん~、おっぱ〜い( ゚3゚)」 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] あと二巻で完結という状況でヒロインレースに乗り込んだのは、今更過ぎてなんとも -- 名無しさん (2014-12-16 09 14 16) 才人とルイズの関係が固まった後に入ろうとしても、すでにすきまはないものな。タバサも遅すぎたが -- 名無しさん (2014-12-16 22 16 23) ↑にも関わらず、亡き作者のインタビューによるとルイズに次ぐ人気を獲得しているらしい。もっと早く動かしていればルイズと並べたか上回っていたか・・・ -- 名無しさん (2014-12-19 04 10 25) タモリ先生風のテファって、ありそうでないよな… -- 名無しさん (2015-03-19 01 29 40) 二次創作では序盤でフライング登場することが多いな。話にからんでくるのがかなり遅いのに、たいした人気だよ -- 名無しさん (2015-04-04 11 20 24) 普通に比べたらルイズの敵う要素がないヒロイン。というか、ルイズが他のヒロインたちに勝る要素って、才人にとっての『最初』であること以外なかったりする -- 名無しさん (2015-05-15 03 36 28) ↑3 なにそれわからん -- 名無しさん (2015-07-12 20 19 10) ↑5たぶんルイズとはすべてにおいて正反対のキャラクターとして設定されたからじゃないかな。ルイズの嫌われてる要素をすべて逆にしたらそりゃ人気も出るってもんだ -- 名無しさん (2015-10-02 23 33 33) 頼めばどんなエロいことでもやってくれそう -- 名無しさん (2015-11-02 08 18 57) 巨乳キャラは多々いれどもテファほど見事なおっぱいは見たことない -- 名無しさん (2016-02-09 09 18 14) 最新刊でサイトの妾(愛人)になることを決意した。まぁ一応ちゃんとした実家のある他のヒロインと違ってサイトの側以外にホントに行き場がないからルイズたちも説得できるんじゃないだろうか・・・ -- 名無しさん (2016-02-25 16 40 44) ドリフターズにいなくてよかった娘。もしいたらのぶのぶに何される事やら…!? -- 名無しさん (2016-07-09 22 18 07) ↑ヒラコーにゼロ魔キャラで誰が一番好みかって聞いたら迷わず選びそうだよな -- 名無しさん (2016-07-23 09 46 51) 眼鏡と手袋つけたら完全にオルミー乳になりました。ありがとうございます -- 名無しさん (2016-10-09 09 25 16) ↑2ドリフターズにいたら、のぶの前に帝国に慰み者にされてるだろ、確実に -- 名無しさん (2020-04-11 05 27 17) 実は特徴的なあの緑の衣装はあんまり着てなかったりする -- 名無しさん (2024-03-11 10 36 17) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1724.html
ギーシュ、タバサと別れ、ルイズ達は自室へと女子寮を歩いていた。 「流石に疲れた顔してるわねぇギアッチョ」 苦笑するキュルケに、 ギアッチョは淡々と返事をする。 「そう言うおめーもな ・・・ま、確かに本音を言やぁ今すぐ寝床に ブッ倒れたい気分だが」 散々暴れたばかりか、瓦礫の山に押し潰された上に巨大な竜巻を丸ごと 一つ消し潰したのだ。その疲労たるや推して知るべしといった所である。 王宮へ向かう前、ラ・ロシェールで正式に怪我の治療はしたのだが、 それも心身の疲労を回復させることまでは出来ない。ギアッチョの 体力と精神力は今、殆ど枯渇寸前と言ってよかった。 「・・・あら?」 前方を歩いているキュルケは、ぴたりと足を止めた。 「ルイズ、あなたの部屋の前に誰かいるわよ?」 「え?」 心配げにギアッチョを見ていたルイズは、その声で前に視線を戻す。 どこかで見た男がそこに立っていた。向こうもこちらに気付いた らしく、どたどたとこちらに向かってくる。 「おお、我らの剣!!」 平民の料理長、マルトーだった。ギアッチョを見て、彼は一瞬 救いの神を見たかのように顔を輝かせたが、あちこちに包帯が 巻かれているギアッチョの姿を見て、 「あ・・・」 辛そうに顔を曇らせて俯いた。 「・・・どうした」 「い、いや・・・いい 悪かったな、こんな時間に・・・」 「それ程のよォォーーー、理由があるんだろうが いいから言いな」 「・・・あ、ああ・・・」 促すギアッチョに応えて、マルトーは暗澹たる顔で語り出した。 「・・・シエスタが、行っちまった」 「・・・ああ?」 「買われていったのよ・・・モット伯だとかいう野郎にな 今頃は屋敷に着いてる頃だろうぜ」 ピクリと、ギアッチョは眉を上げる。マルトーは俯いたまま、 吐き捨てるように続けた。 「・・・その筋では有名な男さ 眼に留まった女をまるで花でも 摘むように買って行きやがる」 「・・・・・・」 「勿論止めに入ったぜ そしたら奴は何て言ったと思う? 『平民が許可無く貴族に口を利く法は無い』とさ 野郎は それだけ言うと後は俺達の方なんざ一度も眼を向けやしなかった …全く反吐が出るほどご立派な貴族様じゃねえか!ええ!?」 「――・・・ッ」 隣に貴族が二人いるにも関わらず、声を荒げて言い放つマルトーに、 ルイズ達は苦しげに眉根を寄せる。 「俺達はオールド・オスマンに助けを求めた あの人とコルベール 先生だけは、俺ら平民に理解を示してくれてるからな・・・ ――だが、駄目だった 奴ぁ王宮直属の国吏で、下手なことを すると学院全体に累が及ぶ可能性があるんだとよ 交渉するに しても、まず下準備がいる・・・時間がかかるんだそうだ」 「・・・」 「だがそんな余裕はねえッ!」 ガンと音を立てて、マルトーは壁を叩きつけた。 「人の心なんざ壊れんのはあっという間だ・・・その下準備とやらが 終わるまで、あの純粋な娘が平気でいられる保障はねえんだよ!!」 それは、ギアッチョには殊更よく分かることだった。一度人を 殺してしまえば――それに慣れることに時間はかからない。 「俺達には、もう出来ることはねえ・・・ 俺達平民が何人 何十人、何百人集まろうと、奴ら貴族に指一本触れることは 出来やしねえんだよ 平民にとって貴族なんてのはまさに 天災なんだ 災害に人が抗って、打ち勝つことが出来るか? 出来やしねえッ・・・!!俺らちっぽけな人間如きに出来るのは、 地べたに跪いてガタガタ震えながら祈り続けることだけだ!!」 マルトーは怒りに震える拳を抑えて怒鳴る。 「なあギアッチョよ・・・俺を軽蔑するならいくらでもしてくれ 俺はこんな傷だらけの人間にみっともなく縋るしかねぇ・・・ あの貴族にも劣る最低の屑野郎かも知れん だが、それでも 助てやりてえんだ・・・!!頼むギアッチョ・・・俺の、俺達の 希望は、お前しかいねえんだよ!!」 文字通り縋るような眼差しで懇願するマルトーを、ギアッチョは いっそ酷薄な程に冷静な相貌で見返した。 「・・・一つ聞くが 助けて欲しいと、シエスタ自身がそう 言ったのか?」 「・・・いいや・・・一言も言っちゃいねえよ あいつぁ最後まで 笑ってた 『ギアッチョさんによろしくお願いします』ってな・・・ そう言った時も、あいつは笑ってたよ」 「・・・そうか」 「だが・・・だが俺は見たッ!!厨房の裏で、あいつは声を 押し殺して泣いてたんだよッ!!ええ!?どうしてだ・・・ どうしてあいつが選ばれなきゃならねえんだよ!!貴族の妾に なれるのは平民の幸せだ?フザけんじゃあねえッ!!」 「・・・・・・」 無表情にマルトーを眺めたまま、「氷」の名を持つ男は静かに呟いた。 「・・・それだけ聞きゃあ十分だ」 「ギ、ギアッチョ!ちょっと待ちなさい!」 静かに、だが足早に歩くギアッチョをルイズとキュルケが追いかける。 しかし、その距離は一向に縮まらない。ギアッチョの発する氷の如き 殺気が、何者をも寄せ付けない壁を形成していた。 ついにルイズ達は、追うことを諦める。二人が立ち止まった瞬間、 ギアッチョは校舎の入り口から宵闇へと姿を消した。 「・・・やれやれだわ」 「やれやれね」 二人して溜息をついてから、キュルケは横目にルイズを見る。 「・・・好き放題に言われちゃったわね」 「そうね」 ルイズはギアッチョの消えた先を見つめながら応じた。 「このまま言わせておくつもり?」 「・・・まさか」 答えてから、ルイズはキュルケを見返す。二人して困ったように 笑うと、貴族の証たるマントを翻して引き返した。 不気味に茂る深夜の森に、蹄鉄の音が響く。地を駆ける白い馬の馬身が、 そしてそれを駆る男の姿が、大きな月に照らされて青白く浮かび上がった。 それはまるで――死を従える黙示録の騎士のようだった。 「旦那、そこを左だ」 マルトーから受け取った地図を見ながら、デルフリンガーが指示を 出す。それを頼りに、ギアッチョは右へ左へ馬を進ませていた。 「しかしよ、旦那・・・」 「ああ?」 「あのオッサンは動転してて気付いてなかったみてーだけどよ、 貴族の館で暴れちまうのは流石に不味いと思うぜ 旦那は勿論、 まず間違い無くルイズに――いや、ラ・ヴァリエール家にまで責が及ぶ」 自分達を慮って呟くデルフに、ギアッチョは静かに答えた。 「その時はオレが死ぬだけだ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2638.html
――召還されたのは、平民だった。 何の変哲もない、何処にでもいるような、極めて平凡な青年。 たとえ本人が異世界から来たと言い張っても、ゼロのルイズにとっては喜ばしくない。 「あ、あんたなんかと一緒に歩いて噂されたら嫌じゃない! あっち行ってよ!」 時に気紛れを起こして剣を買い与えてやる事はあっても、そんな風に使い魔を遠ざけるのであった。 ――が。 その遠ざけられた使い魔が毎日何をしているのか、それを彼女は知らなかった。 まずは朝から昼は、ここが学園であるのを良いことに勉学に励む。 続いて昼食から夕食までは肉体鍛練に勤しみ、コルベール先生に手合わせを頼み込む。 そして夕食後は、召還直後のゴタゴタで親しくなったギーシュにこの世界のファッションを教授して貰う。 「……これで今日の日課も終了、と。もうそろそろ良いかな。 それでデルフ。どんな感じだ?」 「ああ、女の子の相棒に対する好感度は ルイズ☆ シェスタ☆☆☆☆ キュルケ☆☆☆ タバサ☆☆ ロングビル☆☆☆ こんな感じだな」 「まあデートもしてないからなあ、ルイズとは。……爆弾ついてないだけマシか」 なにやら考え込む相棒を見やり、デルフリンガーは溜息を吐いた。 本人は気付いていないようだが、こいつはガンダールヴだ。 つまり武器を握れば一騎当千。技術こそ未熟だが、鍛練を積んだ今ならば……。 そして今のまま知識を習得し続けて武勲の一つでも立てれば、確実に騎士くらいになるだろう。 だというのに、この男は――。 「なぁんで女の子にモテる事しか考えてねぇのかねぇ……」 「それこそ男子の本懐だろうッ」 「…………」 かくしてその後、彼が為したことといえば―― 「あ、ルイズ。今度の休みは暇?」 「……予定は無いけど。何よ、だからどうしたっていうの?」 「良かったら街に遊びに行かないか?」 「……………………別に、良いけど」 「こいつはオデレータ! あのルイズの嬢ちゃんがデートしてくれるってよ!」 「……良いか、デルフ。確かにルイズの要求は厳しい。 キュルケは容姿、タバサは勉強、ロングビルは体力、シェスタは全部が少しずつ高ければ良いけど、 ルイズだけは、その全部が高くないと見向きもしてくれない。けど――」 そして彼は、何処か遠くを見やる。思い起こされるのは故郷の幼馴染だ。 隣の家に住んでいて、学園でも同じクラスだった、あの少女。 その存在をしみじみと噛み締めながら、青年は呟いた。 「詩織に比べれば楽なんだよなぁ……」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1867.html
すっかり慣れた、しかしこの場にそぐわぬどこか甘い香りが鼻腔を くすぐり――ギアッチョの意識はゆっくりと眠りの海から浮かび上がる。 「・・・・・・ああ?」 開ききらない瞳で仰向けのまま左右を探ったギアッチョの、それが 最初の言葉だった。 第三章 その先にあるもの ゆるゆると上体を起こして、ギアッチョはいささかぼんやりした 視線を下に向ける。視界に入ったものは、見間違えようも無くルイズの ベッドだった。そしてその持ち主は―― 「・・・・・・」 ギアッチョの隣で、すやすやと寝息を立てている。 「ここにブッ倒れて・・・そのままっつーわけか」 「我ながら情けねーな」と呟いて、ギアッチョは小さく溜息をついた。 何とか途中で気力が切れずに済んだが、もしもガキ共の前で倒れて いたらと考えると心底自分が腹立たしくなる。 「少々かったりぃが・・・鍛え直すとするか」 立ち上がろうと身体に力を入れるが、上着の裾が何かに引っ張られて ギアッチョは再び腰を下ろす。何事かとそちらを見れば、ルイズの 小さな手が服の端を掴んでいた。引きはがそうと服を引っ張るが、 一体どんな夢を見ているものか、ルイズは頑なに手を離そうとしない。 「・・・おい」 声をかけてみるが、少女が眼を覚ます様子はない。 「・・・クソガキ、起き――」 頭を掴んで揺さぶろうと伸ばした手を、ギアッチョはピタリと止めた。 考えてみれば一日以上寝ていなかったのだ。自分と違って、ルイズは そういうことに慣れてはいないだろう。そう考えると、無理矢理起こして しまうことも少々躊躇われる。 「・・・チッ」 まあいい、特に急ぐ理由もない。相変わらずの凶相で一つ舌打ちして、 ギアッチョは再びベッドに背を預けた。 「・・・ぅん・・・」 浅いまどろみの中で、ルイズは一日ぶりの睡眠を噛み締めていた。枕に 頬をうずめて、毛布を胸に抱き締める。いつもと同じそれが、今日は 何故だかとても幸せに感じられた。そんなわけだったから、 「・・・・・・ギアッチョ・・・」 等とうっかり寝言を洩らしてしまっても、それは仕方のないことで。 「ああ?」 しっかり聞こえていたギアッチョに無愛想に言葉を返されてしまったと しても、やはり仕方のないことだった。 ただ、ルイズ本人はそうは思わなかった。自分の言葉で微かに目覚めた 彼女の心臓は、ギアッチョの声で跳ね上がった。 「ようやくお目覚めか」 「えっ、な、ち・・・ちちち違うの!違うんだからね!!」 「・・・何か知らんが落ち着け」 「・・・う、うん・・・」 答えたところでギアッチョの服を掴んでいることに気付き、ルイズは 慌てて手を離した。ギアッチョはそれを眼だけで眺めると、もう用は 無いと言わんばかりにベッドから降りる。 「厨房行ってくるぜ」 「あっ・・・」 デルフリンガーを担いですたすたと扉に向かうギアッチョに一抹の寂しさを 覚えて、ルイズは身体を起こした状態のままその背中を見つめる。そんな 視線に気付く様子もないギアッチョがドアに手を伸ばした瞬間、 「・・・?」 ドアは外側から開かれた。 「あら、おはようギアッチョ」 ギアッチョが口を開く前に、キュルケは驚いた顔も見せずに挨拶する。 「昨日の今日で元気だなおめーは ルイズに用か?」 「ええ、それと貴方にもね ちょっと待っててちょうだい」 ギアッチョの肩越しに室内を覗き込みながらそう言うと、怪訝な顔の 彼をそのままにキュルケはルイズの前へとやって来た。 「おはようルイズ やっぱりまだ寝てたわね」 「お、おはよう」 「あら、ちょっと顔が赤いんじゃない?風邪でもひいた?」 「べっ、べべべ別にああ赤くなんかないわよ!」 わたわたと手を振って否定すると、ルイズは話を逸らそうと言葉を継ぐ。 「そ、それより何か用?」 「何って・・・忘れたの?」 呆れ顔のキュルケに、ルイズはようやく今朝交わした約束を思い出した。 「あ!」 「食事、行くんでしょう?タバサとギーシュはもう厨房で待ってるわよ」 「ごっ、ごめん!すぐ着替えるから――」 言いかけたところではっとドアに眼を向けると、ギアッチョは既に 廊下へ姿を消していた。 「私達でシエスタを送って行った時に、今日の昼食を厨房でって話に なったのよ」 扉横の壁に背中を預けるギアッチョを見つけて、キュルケは問われる 前にそう言った。 「ま、そんなところだろうとは思ったがよォォォ~~~~・・・ そりゃ何だ、このオレも一緒に着いてくことになってんのか」 「当ったり前でしょう?あなたが主役なんだから」 「オレぁそんなガラじゃねーんだがな」 若干首をすくめて答えるギアッチョを面白そうに眺めて、キュルケは その隣に背をもたれさせる。 「あなたが来ないとシエスタ泣いちゃうかも知れないわよ?あの子 随分あなたに感謝してるみたいだし・・・惚れられちゃったりしてね」 「こんな化け物に惚れる人間が一体どこにいんだよ」 「あら、いつもの自信がないじゃない あなたって結構イイ男だと 思うわよ?まあ私のタイプとはちょっと違うけどね」 半分茶化して笑うが、ギアッチョは詰まらなそうに首を振る。 「・・・そういう意味じゃあねーよ 得体の知れねえ力で無数の人間を 殺して来た野郎が化け物でなくて何なんだ?・・・全く今更だが、 オレは本来他人と関わっていい人間じゃあ――」 「ストーップ、ギアッチョ一点減点よ」 声と共に突き出されたキュルケの掌に、ギアッチョの言葉は中断された。 「いい?あなたが過去に人の命を奪ってきたこと、それは事実かも 知れないわ だけどね、こう言うと冷たく聞こえるかもしれないけど、 私達はそんなこと知らないの 知ってるのは、いつでも何度でも私達を 救ってくれたヒーローだけなのよ」 「・・・・・・」 「罪を認めることは勿論大切だわ だけど人を殺す一方で、あなたは 私達の命を、人生を救ってくれた・・・その重さも知っていいんじゃ ないかしら?」 キュルケは小さく笑みを浮かべてそう言うと、躊躇いがちに開きかけた ギアッチョの口にスッと人差し指を当てる。 「だからネガティブな発言は一切禁止!次に言ったら三点減点するわよ」 あくまでも茶化した態度のキュルケに小さく溜息をついて、ギアッチョは 諦めたように彼女を見た。 「・・・で、ポイントオーバーでどんな罰ゲームを頂けるんだ」 「そうねぇ・・・十点マイナスで三食はしばみ草ってのはどうかしら?」 「・・・・・・そいつは勘弁願いてぇな」 再度の深い溜息と共に、ギアッチョは両手を上げて降参の意を示した。 「ごめん、お待たせ!」 マントを胸に抱えて、ルイズは急いで部屋から飛び出した。確認する ようにこちらに一瞥を向けて、ギアッチョは「行くぞ」という一言と共に すたすたと歩き出す。 後を追おうとするルイズの頭に、スッとキュルケの片手が置かれた。 「頑張りなさいルイズ きっとチャンスはあるわ・・・多分」 「・・・へ?」 生温かい笑みのキュルケを、ルイズはきょとんと見返した。 「本ッ当に済まなかったッ!!」 厨房へ着いたルイズ達を出迎えたのは、マルトーの猛烈な謝罪だった。 シエスタから仔細を聞いたのだろう、「やりたくてやったことだから」と 首を振るルイズ達にマルトーはまるで懺悔のような表情で謝り続ける。 設えられた質素なテーブルにこっそりと眼を向けると、本を開いて己の 世界に逃避しているタバサの横でギーシュが苦笑交じりに肩をすくめた。 どうやら自分達が到着する前から、この大柄なコック長は大音量の謝罪を 繰り返していたらしい。マルトーに視線を戻すと、謝り続けるうちに 感極まったのか、彼はとうとう漢泣きに泣き出した。 「おっ、俺は誤解していたッ!あんたらみてぇな貴族がいることを 知ろうともせずに、この世の摂理を理解でもしたような気になって いたんだ・・・ッ!!本当に、詫びのしようもねえ!!俺は、お、俺はッ!」 「・・・おいマルトー」 咆哮の如き大声のマルトーを見かねてか、ギアッチョが気だるげに声を かけるが、マルトーはギアッチョに標的を変えて尚も喋り続ける。 「おおギアッチョ・・・お前さんにも一体何て謝りゃあいいのかッ!! モットの野郎が悪魔なら、こんな傷だらけの人間を死地に向かわせた俺は 堕獄の罪人よ!!こんなもので償い切れるとは思わねぇが、どうか気の 済むまで俺を殴ってくれッ!!」 「ああ?」 「「コック長、それは・・・!」」 ギアッチョと外野、双方がそれぞれ声を上げるが、マルトーはそれに 首を振ると漢らしく両手を広げて怒鳴る。 「気にするこたぁねえ!これは俺の罪滅ぼしなんだ!!さあッ! いくらでも殴ってくれ!!さあ!さあッ!早く!!はやげふゥゥウッ!!」 「「殴ったーーーーー!?」」 ギアッチョの躊躇無い一撃を顔面に受けて、マルトーは派手に吹っ飛んだ。 やれやれと言わんばかりに溜息をついて彼を引き起こす。 「眼ェ醒めたかマルトー」 マルトーをしっかりと立たせてから、ギアッチョはそう口を開いた。 「何度も言うがよォォ~~~ オレ達がやると決めたからやったんだ 謝罪なんぞ受ける気もねーし権利もねぇ そんなもんよりオレ達はメシが 食いてーんだがな」 「お、おお・・・ギアッチョ・・・!」 マルトーの顔に、明らかな感動の色が浮かぶ。様子を見守っていた コック達を見回して、マルトーはいつもの威勢を取り戻した声で叫んだ。 「聞いたかお前達!真の英雄は己の行為に代償を求めたりはしねぇ!! 俺達がするべきはとびきりの御馳走を振舞ってやることだ!!さあ お前達、調理を再開しようじゃねぇか!!」 「「おおぉおぉおーーーーーーーーーっ!!」」 ていうか殴れと言われたから殴っただけだろうなと思うルイズ達を よそに、マルトー達は大盛り上がりで料理にとりかかった。 ほどなくして、テーブルに種々の料理が運ばれて来た。肉や野菜、色 とりどりの果実が惜しみなく使われたそれらは、正に御馳走と呼ぶに 相応しい代物であった。ルイズ達にはさほど珍しいものではなかったが、 ギアッチョにとってはそうではないようで、先ほどからルイズの隣で 小さく感嘆の声を上げている。 料理が運び終わるまでの間、キュルケ達としばし談笑していたルイズ だったが、ふと気付いて顔を上げた。と、手馴れた様子で配膳する シエスタと眼が合う。 「もうすぐ全部運び終わりますから、もう少々お待ちくださいね」 シエスタは普段着では無く、いつものメイド服を着ていた。にこりと笑う シエスタと対照的に、ルイズは少し心配げな顔を見せる。 「シエスタ、休んでなくて大丈夫なの?」 その言葉に場の視線がシエスタに集中するが、シエスタは笑みを絶やさず 応じた。 「いえ・・・自分のことなんかよりも、私は一秒でも早く皆さんにお礼を したいんです 私に出来るのは、少々の料理の手伝いぐらいですから・・・」 「それに」シエスタは少し厨房を見渡して言葉を継ぐ。 「またここで働くことが出来るんだって思うと、休んでることなんて 出来なくって」 「シエスタ・・・」 屈託の無い笑顔を見せるシエスタに、ルイズ達はこの娘を助けてよかったと 改めて思う。互いに顔を見合わせて、つられるように笑った。 「・・・おいしい」 口に運んだ料理は違えど、彼女達の感想はみな賞賛の一言だった。 「いつもうめぇが・・・今日はそれ以上だな」 ギアッチョまでが珍しく素直な賛辞を口にする。 「俺にも使える魔法がある」いつかマルトーが言った言葉だが、成る程 こいつは確かにその通りだとギアッチョは柄にも無く独白した。 「そうかい、そいつぁよかった!こんな料理でよけりゃあいつでも食いに 来てくんな!あんたらにならいつでも御馳走を振舞わせてもらうぜ!」 マルトーはガキ大将のような笑顔を見せる。その隣で、シエスタも クスクスと楽しそうに微笑んだ。 「・・・次ははしばみ」 「却下だ」 誰よりも旺盛な健啖ぶりを現在進行形で発揮しているタバサの提案を、 ギアッチョは一瞬で棄却する。 トリステイン魔法学院――その厨房を、わだかまりの無い笑いが満たした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/955.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「……《塔》!」 アルカナに秘められた意味が、放たれ、術者の全ての力を使い、雷を放つ。 強大極まりないそれは、さながら神が下した、《塔》を砕く雷そのものといえた。 その雷は、この世界の主を飲み込み、吹き飛ばした。 落雷の余波が閃光を起こす。 その閃光を眼に映して、最強の術士は意識を手放した。 ~~~~ 優秀な才を持ちながらも、決して完成すること無い双子。 自らの力を磨き、力を求め、力を学び、力を奪い。 本来一つでありながら、二つに分かたれた双子。 宿命の元に対峙し、殺し合う。 天国のような、地獄に踏み入った一人の双子。 子供達を救うために、不帰を覚悟して。 力を使い果たし、還らぬ双子。 その後、彼の姿を見たものはいない…… …………いや、いた。 ~~トリステイン魔法学院~~ 「何で出てこないのよー!」 春の使い魔召喚の儀式。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは、計三十二回目となる 『サモン・サーヴァント』による爆破の後、そう叫んだ。 「いやそれ以前にゲートすら出てないし」 「まぁ所詮はゼロって事だよな」 「もう諦めろよ……」 周りで少々煤を被った少年達が呆れ気味に言う。 最初の方は囃し立てていたものも、 二十回を過ぎる頃には座り込み、仲間内で雑談を始めた。 「うるさいっ!見てなさい……! あなたたちの使い魔なんか及びも付かないほどの強く、美しく、気高い使い魔を召喚してみせるんだから!」 系統が違うので、疲れ切った反応/Jaded Responseではルイズの行動を止めることは出来ない。 それはともかく。 ルイズは杖を構え直し、集中するためか、目を閉じ、唱え始める。 「五つの力を司るペンタゴン、我の定めに従いし、使い魔を召喚せよ!」 結果として。 『サモン・サーヴァント』による爆破は、これで計三十三回目となった。 彼が目を覚ましたとき、 周囲の雰囲気が変わっているのを感じた。 ここは『地獄』では無いようだ。 空は青く晴れ渡り、日差しが陽気を感じさせる。 心地よいと、素直にそう思った。 だが、それに浸る事はせず、まず起き上がった。 すると、なにやら妙な格好の子供達が騒ぎ立てている。 「また失敗した」 「な、何よ!こ、今度こそ成功するんだから!」 「いや、もう本気で諦めろって……芝生よりベッドの方が寝やすいのは確かだからさ」 「……後で吠え面かかせてやるんだから!」 その妙に騒がしい少女は、そう叫んでから此方に向き直った。 いや、偶然向いた方向が此方だったと言うことだけのようだが。 「……え?」 そして、何故か動きを止める。 さっき少女と話していた少年が此方を軽く見て、なにやら冷たく言う。 「……良かったじゃないかルイズ。成功したみたいだぞ」 少年の言葉に釣られて、周りにいた少年達が一斉に此方を向き、 少女と同じような反応をする。 もっとも、その後の反応は違ったが。 「……く」 「……ふふ」 「うふふ」 「うはww」 「見ろよ!ルイズが召喚したのは平民だぜ!?」 「さっすがはゼロのルイズだな!ようやく成功したと思ったら呼び出したのは平民!」 「ハーッハッハッハ!」 殆どの奴が笑い出した。 笑わなかったのは、寝転がっていたものと、本を読んでいたものと、 立っていたもの……要するに、さっきから何故か震えている少女だけだった。 「な……なんで『サモン・サーヴァント』で平民が出てくるのよ!?」 「呼び出したのはお前だろルイズ!ゼロのルイズ!」 「ゼロにはお似合いの良い使い魔じゃないか!」 「うるさいわね!」 ルイズと呼ばれた笑っている者達に叫び返し、 近くにいた禿げた男に叫ぶとは行かないまでも、強い口調で話しかける。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しをお願いします!」 召喚?なんだそれは? そう思いながらも、話しかけられた男を見やる。 まぁ、おかしいところはない。 キングダムには普通にいるような格好の男だった。 「それは駄目だ、ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか?」 「決まりだからだよ。伝統なんだ。春の使い魔召喚は神聖な儀式。 やり直すことは認められない」 「でも!平民を使い魔にするなんて―」 なにを騒いでいるか解らない。 平民だとか、召喚だとか何を言っているのだろうか。 空を見上げてみる。なぜここにいるのだろうか。 最後に、全ての力を放った事は憶えている。 その後のことは憶えていないのだから、気を失ったのだろう。 他にも色々考えるべき事はあったが、取り敢えずそれを口に出すことにした。 「ここは何処だ」 それを聞いてかどうかは解らないが、 ルイズとか言う少女が此方を向き、近寄ってくる。 「……あなた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生無いんだから」 「貴族?」 問いかけるが、それを聞いているのか居ないのか、 杖を振り、聞いたこともない呪文を唱え始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」 ゆっくりと顔を近づけてくる。 「おい、何を」 そして、唇が触れた。 ~~~~~~ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは苛ついていた。 『サモン・サーヴァント』を32回も失敗したこともだが、 呼び出されたのが平民の男であることと、 そしてそれと自分が契約しなければならないことであった。 (平民と契約しなきゃならないなんて……) 彼女はそう思っては居たが、 このまま何も現れずに退学となるよりは余程マシな結果だったし、 そもそも一応言ってみたものの、自分でもやり直しはきかないことは理解していたのだ。 だから、あっさり……とは行かないまでも、引き下がったのだ。 その召喚された平民を見る。 よく見るとなかなかに整った顔をしている青年だった。 「あ、……あなた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生無いんだから」 悪くないかも……と、一瞬浮かんだ考えを別の考えで阻害し、 その考えを口に出すことで打ち消す。いわゆる照れ隠しである。 と、実際は大して意味のないその発言に、目の前の平民は実にシンプルな言葉で返してきた。 「貴族?」 その言葉に、またルイズは苛ついた。 (私が貴族に見えないとでも言うのかしら……!?) 実際の所、それは目の前の少女が貴族かどうかの問いかけをしていたのではなく、 貴族という彼にとって余り聞き慣れない言葉に対しての純粋な疑問だったのだが。 しかし、少々不機嫌な状態にある彼女は、それを悪意のある類のものとして捉えた。 ともかく、彼女は目の前の青年に対して思った感想などは完全に消え、 冷静に『契約』のための呪文を唱え始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」 それをなにやら怪訝な表情で見つめていた男も、 ルイズが顔を近づけてくると、その表情を驚きを含んだものに変え、言ってくる。 「おい、何を」 その言葉が言い切られる前に、唇で口をふさぐ…… と言うわけではなく、軽く口づけした。 だが、それでもその青年は言葉を止めた。 それを見もせず、ルイズはコルベールの方を向き、告げた。 「終わりました」 「……は?」 後ろから聞こえてくる疑問符のついて音は無視し、 前にいる先生からの言葉を待つ。 一拍おいてから、コルベールが話し出す。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗しましたが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 コルベールが、嬉しそうに、生徒の成功を心から喜びながら、言う。 「相手がただの平民だから契約できたんだよ!」 「ドラゴンとかだったら契約なんか出来やしないって!」 何人かの生徒は笑いながら言った。 「馬鹿にしないで!私だって成功することあるわよ!」 「つまり失敗することが多いって認めてるのね、ゼロのルイズ」 「ミスタ・コルベール!『鉱水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」 「私は『香水』よ!……って言うか、何『鉱水』って!?『洪水』とかならまだ言われたことあるけど」 「うるさいわね!よくわからないポーション作ってはギーシュが死にかけてるじゃない!」 「な、なんで知って……じゃないよく言ってくれたわね!ゼロのルイズ!」 それをいきなり口づけをされた男は、呆然としながら眺めていた。 が、突然身体に走った熱に、意識を向けさせられる。 「熱…?」 いまだ言い争いを続ける少女達とは対照的に、 いつの間にか近づいてきたコルベールとか言われていた男が、穏和に言う。 「使い魔のルーンが刻まれて居るんです。直に収まりますよ」 「ルーン?印術か?」 「印術?何ですかそれは」 熱が収まると、コルベールが此方の左手を取った。 見ると、確かにルーンが刻まれている。 「ふむ……珍しいルーンだな」 そう言うとスケッチを取り出したコルベールに、 青年は問いかけた。 「ここは何処だ?」 「ああ、失礼しました。ここはトリステイン魔法学院です」 「トリステイン?」 その疑問には返答はなく、 コルベールは周りの少年達に対し言った。 「さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」 そしてきびすを返すと、宙に浮いた。 驚いては居たが、それを表情には出さずに、青年はそれを見つめた。 (空術……ではないな、あり得ない) 他の生徒達も宙に浮くと、城のような石造りの建物に飛んでいった。 「ルイズ!お前は歩いて来いよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともに出来ないんだぜ!」 「その平民、あなたにお似合いよ!」 口々にそう言って……最後の一人は笑ってない気がしたが、笑いながら去っていった。 残されたのは。青年とルイズの二人だけになった。 ルイズがため息をついた。 それから青年の方を向いて、大声で怒鳴った。 「あんた、なんなのよ!」 青年は……最強の術士は、答えた。 「キングダムの術士、ブルーだ」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/978.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ミスタ・コルベールは今、学院長室に向けて疾走していた。 春の使い魔召喚の儀式の際に、召喚された青年。 彼の左手に刻まれたルーンについて調べた結果、 それについて記された本を見つけることが出来たのだ。 彼はその勢いのまま、学院長室に突入した。 「オールド・オスマン!」 まず最初に見たものは、華麗な浴びせ蹴りを繰り出していたミス・ロングビルと、 それを見事なまでに顔に喰らっているオスマンの姿であった。 コルベールは目をこすった。 そして改めて見てみると、ミス・ロングビルはいつもどうり机に座っていたし、 学院長にも何らおかしいところはない。 見間違いだったのだろう。 コルベールはそう思うことにし、そしてそれを思考の外にはじき出した。 彼が口を開くより先に、オスマンが言う。 「何じゃね?」 「大変です!」 「君の様子を見れば解る。だから何がじゃ。 えーと、ミスタ……コ、コ……」 「コルベールです!」 そう言いながら、手に持っていた本を学院長に手渡す。 「『始祖ブリミルの使い魔』?これはまたずいぶんと 古くさいものを引っ張り出してきたもんじゃな。 で、これがどうしたんだね?」 そう言われると、コルベールはオスマンの手から本を奪い取るような形でとり、 あるページと、それに挟んでおいたスケッチを学院長に示す。 「これを見てください!」 それを見ると、オスマンは飄々とした態度を翻し、真剣な表情に変える。 ルイズの爆破の後片付けが終わったのは、昼休みの前だった。 二人とも体力はあまりない方だから、休み休みやっていたのだ。 術を使えば良かったのかも知れないが、 術力の消費を抑えるのと、爆発で所々にちょっと気になるヒビがあったので、 『フラッシュフラッド』で押しながす案は速攻で捨てた。 片付けを終えた二人は、食堂に向かっていた。 ブルーはルイズの二つ名の所以について考えていた。 『ゼロ』。魔法が成功しない。 「つまり、魔法がろくに成功しないから『ゼロ』と呼ばれている訳か?」 ルイズがその言葉を聞き、一瞬動きを止め、その後普段より低い声で返す。 「……そうよ」 「何で失敗するんだ?」 「知らないわよ」 「考えたことはないのか?」 「あるわよ!今だってそうよ。でも、結局何故なのか解ったことはないわ」 ブルーは、考え込み、 暫くすっかり忘れていた概念を思い出すと、それをルイズに告げようとした。 何故忘れていたかというと、その概念が自分に当てはまらなくなったからである。 「もしかしたら――」 「うるさいわね!」 「いや――」 「黙ってなさい!」 ルイズは怒ったらしい。 言いたいことを伝えきる前に、怒鳴り声で遮られてしまう。 これでは話しようがない。 そんな様子で二人とも黙り込んだまま、食堂に着いた。 そんなに量がない昼食をルイズよりかなり早く食べ終わると、 ブルーは一つのことを考えながら食堂の外をぶらついていた。 術力があまり回復しない。 朝は軽く流した考えだったが、 少ないとはいえ取った朝食でも、精々『盾』が数回使える程度しか回復しなかった。 「何故だ?」 やっぱり食事が悪いのだろうか。 そんなことを考えていると、突然声をかけられる。 「どうなさいました?」 そちらを見やると、大きな銀のトレイを持った少女が心配そうにブルーを見ていた。 ブルーは素っ気なく返す。 「何でもない」 「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったって言う……」 「……知ってるのか?」 「ええ、噂になってますし、その格好凄い目立ってますし」 「そうか」 「顔色が悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」 どうやらこの少女は自分を心配しているらしい。 トレイを持っていると言うことは、食堂で働いているのだろうか? 上手くやれば食料を少し分けて貰えるかも知れない。 その瞬間、ブルーの脳裏にあるアイデアが到来する。 \ __ / _ (m) _ ピコーン |ミ| / `´ \ ( ゚∀゚) ノヽノ | 同情を誘う これを『閃き』、と言う! 「いや、ろくな食事が取れてないだけだ」 「そうですか……なら、何か食べていきますか? 余り物で作った料理ですけど」 「感謝する」 なかなかに外道である。 あの少女はシエスタと言うらしい。 その後ブルーはデザートの配膳を手伝うことになった。 流石に悪いと思い、自分から申し出たのだ。 銀のトレイに、ケーキが並んでいる。 それを運ぶだけなのだから、食事に対する労働としては悪くはない。 ケーキを配るのはシエスタがやってくれる。 突然、シエスタが別の方向に歩き出す。 そして落ちていた瓶を拾い上げると、 「あの、落とされましたよ?」 と、グループを作っていた少年達の内、 金色の巻き髪をした少年に話しかける。 その少年がポケットから瓶を落とすのはブルーも見ていたのだが、 その少年はこう答えた。 「それは僕のじゃない。何を言っているんだ?」 が、その瓶を見た彼の友人と思わしき生徒達が続けて言う。 「あれ?あの香水はもしかしてモンモランシーのじゃないのか?」 「そういや、その色はモンモランシーが作ってるやつと同じだな」 「それが君のポケットから落ちてきたと言うことはだギーシュ、君はモンモランシーと付き合ってるんだな!」 なにやら妙な展開になってきた。 その後、茶色のマントの少女がギーシュと呼ばれた少年にむかって歩いて行き、 幾つか言葉を交わした後、その少女が平手打ちをギーシュの頬にかまし、去っていく。 つぎに、去り際に上げた大声に反応したのか、遠くの席の巻き髪の少女も立ち上がり、 頬をさすっているギーシュに近寄る。 「モンモランシー、誤解だ。 彼女とはちょっとラ・ロシェールの森まで遠乗りをしただけ――」 ギーシュが大きな声で言うが、 その言葉はモンモランシーとか言う少女の裏拳によって遮られる。 「ぶげぅ」 のけぞるギーシュに、モンモランシーは逆の手でもう一度裏拳。 いわゆる一つのスパークリングロールである。 体勢を崩したところに強烈な2打目を喰らい、 ギーシュは飛んだ。虹の如き軌道を描いて。 「うそつき!」 そして、そう言ってから去っていった。 かなり顔が腫れているギーシュを心配した友人達に助け起こされると、 近くでおろおろし、去ろうとしていたシエスタに、 格好を付けた風――顔が酷いことになっているので、全く様になっていないが、 そんな気障ったらしい仕草で話しかけた。 「待ちたまえ、君の軽率な行動のおかげで、二人のレディが傷ついた。 この責任はどう取ってくれるのかね?」 一番傷ついてるのはお前だろう。 そう思いながらもブルーは何も言わなかった。 ただ、歩んでギーシュの方に向かうだけ。 そして、一言だけ言った。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9273.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十九話「少年シュヴァリエ」 甲冑星人ボーグ星人 登場 トリステイン王国の飛行船用の港町、ラ・ロシェールの桟橋に今、ロサイスから飛んできた 軍船が接舷した。タラップが下ろされると、パーカーを着て剣を背負った一人の少年が一番に降りてくる。 「んー! 久々のトリステインだ! 色々危ない目を見たけど、無事に帰ってこれたんだなぁ」 背筋を伸ばしながら感慨深く発した少年は、誰であろう平賀才人。その後にはグレンが続く。 「いやぁ、ほんと無事でよかったぜ。見つかるまでめっちゃ心配したけど、これでひと安心ってもんだ。 なぁ焼き鳥」 『私の名前はジャンボットだ!』 グレンに続いたのはシエスタ。その腕輪からジャンボットがいつもの抗議の声を上げた。 「サイトさん、わたしたちようやく、みんなそろって学院に帰れるんですね!」 シエスタの嬉しそうなひと言にうなずいた才人は、最後に降りてきたルイズに呼びかける。 「ルイズ、またお前の使い魔としてよろしくな」 「……」 だが、ルイズはつんと不機嫌そうに澄ましたままだった。才人は呆れたように頭をかく。 「お前なぁ、まだ機嫌損ねてるのかよ。テファとは何もなかったって言ってるだろ? ほんとだって」 ティファニアの名前を出すと、ルイズは口を開いて苛立ちの声を出した。 「どうかしら!? 実際何もなかったとしても、あの“胸っぽいなにか”に触りたいとか ずっと思ってたんじゃないの? あんたってああいうの好きそうだものね!」 「胸っぽいなにかって……」 未だにコンプレックスを爆発させているルイズに、才人たちはほとほと参った。 才人と再会した時のルイズは、筆舌に尽くしがたいほどに喜び感涙まで流したものだが、 世話になっていたティファニアを紹介すると態度が一変。彼女のあまりにも大きな胸に 過去最大のショックを受け、何故かティファニアに逆ギレし、更には彼女の胸に才人が どぎまぎしていることに目敏く気づいて八つ当たりをしでかすなどと大暴れだった。 お陰で一瞬でも生じていた才人との甘い空気は完全に霧散してしまったのだった。 ルイズにとっては、ティファニアがハーフエルフでしかも自分と同じ“虚無”の 担い手だということよりもそっちが重要なようであった。 そんなこんなでへそを曲げっぱなしのルイズであったが、残っている理性で才人らに呼びかける。 「それに、学院に戻るにはまだ早いわよ。先に姫さまの御許まで行かないと。姫さまも、 そのために迎えのフネを寄越して下さったんだから」 「ああ、そうだったな。姫さま、俺に用件って何だろうな」 才人たちは話しながら、彼らを待っている送迎用の竜籠の元へと向かっていった。 冷凍怪獣軍団とバルキー星人の襲撃を退けた才人は、ルイズと再会。そして再び彼女と 契約を交わし、“虚無の使い魔”に立ち返った。その際、ルーンが以前と同じ左手に現れたことに デルフリンガーが異様に安堵していたが……。 激戦があったこともあってしばらくウェストウッド村で休息を取るはずだったが、グレンが アンリエッタに才人の生存を伝えると、彼女から才人に話したいことがあるという連絡が来たのだ。 それで才人たちは、アンリエッタの回した送迎船に乗ってアルビオンをあとにした。 この際、『外の世界を見たい』と言っていたティファニアを才人が誘ったのだが、彼女は ウェストウッド村の身寄りのない子供たちの世話をしなくてはならないと、その話を断った。 いつかは、ティファニアも自由に外の世界を見て回れる日が来るのだろうか……。 ともかく、こうして才人、ルイズ、グレン、シエスタの四人はトリステインに帰国したのであった。 四人を乗せた竜籠がトリスタニアに到着し、一行が王宮入りすると、出迎えたのはアニエスだった。 「よく来てくれた、ミス・ヴァリエール、グレン。そしてよく生きていたな、ミス・ヴァリエールの使い魔」 「アニエスさん! お久しぶりです」 サウスゴータ以来のアニエスと顔を合わせ、才人は頭を下げて挨拶した。その顔を見た アニエスは、ほぅ、と息を漏らす。 「少し見ない内に、随分とたくましくなったようだな」 「え? そうでしょうか」 「それくらい、見ればわかる。すっかり戦士の顔つきになったな」 「だろぉ~? この俺がつきっきりで指導したんだからな! そりゃ当然ってもんよ!」 ピッと自分を指差して、胸を張って自慢するグレン。それにアニエスは苦笑を浮かべる。 「どうやら苦労したみたいだな。さぁ、陛下は執務室でお待ちだ。案内しよう」 アニエスのあとに続いて、一行は執務室へと向かう。アニエスが扉をくぐると、アンリエッタへと 深く一礼する。 「陛下、ミス・ヴァリエールの使い魔の少年をお連れしました」 そのあとに執務室へと入ると、すぐにそこが王宮に相応しくないほどに寂しい光景であることに 気がついた。家具はほとんど何もなく、執務用の机は古ぼけたライカ欅のもの。他には書架が一個、 隅にぽつんとあるのみと、王冠を被ったアンリエッタがいなければ、誰もここが女王の執務室とは 思わないであろう。 ルイズが不安そうに辺りを見回すと、アンリエッタが説明する。 「ああ、家具はすべて売り払ってしまったの。びっくりした?」 「ざ、財産だけでなく、ですか……?」 「しかたがないの。あの戦争で、国庫はからっぽになってしまったから……」 アンリエッタは、ルイズの手をとった。 「ルイズ、元気になってよかった。わたくしはあなたに、使い魔を奪いかねなかったこと、 いえそれ以上にあなたを死地に追い込んだことを改めてお詫びせねばなりませんね」 「そんな……あんなことになったのは姫さまのせいではないではないですか」 ルイズが慰めるが、アンリエッタは首を振る。 「いえ……、わたくしの責任です。わたくしは、戦争というものを……侵略者と戦うということを 甘く考えていたのです。本当に、あなたたちが生きていてよかった。ごめんなさいルイズ。なんと言って お詫びすればよいのか……」 「姫さま、どうぞお気になさらないでください。このルイズ・フランソワーズ、陛下に一身を 捧げております。己の死もそこには含まれています。ですから……」 抱きしめあっておいおいと泣くルイズとアンリエッタ。才人は、俺の死もそこに入ってるのかよと 心の中で突っ込んだ。 ひとしきり泣くと、ルイズが伝える。 「姫さま……、恐ろしい事実をお耳に入れねばなりません」 「まあ! 恐ろしいですって! どうしましょう! いいえ、聞かねばなりませんわね。 わたくしはすべてを耳に入れねばなりません。恐ろしいことも、心をつぶしてしまうような 悲しい出来事も……、さあ、話してくださいまし」 ルイズはもう一人の虚無の担い手、ティファニアに出会ったことを語った。 「あなたの他にも、虚無の使い手がいるのですか? なんということ。そのものを早く保護しなければ」 ルイズは首を振った。 「彼女はひっそりと暮らすことを望んでおります。その呪文は身を守るのに適しているし……、 できうることなら、かの地でそっとしておいてあげたいと思います」 「そうね……、この地が安全とは限りませんわね……。わかってルイズ。己のものにしたい わけではないの。ただ、わたくしは“虚無”を誰の手も触れぬようにしておきたいだけなのです。 自分の目的に利することはもう望んでおりません」 アンリエッタは、ルイズの“虚無”の存在が、自分に少なからずアルビオン侵攻を決意させた ことを知っていた。 「わかっていてなお、力を持つということは、分を超えた野望を抱きやすいものです。わたくしは そのようなことが二度と起こらぬよう、注意するつもりです。また、他人にそれをさせるつもりも ありません。ああ、触らぬに越したことはないわね。その方がそう望むのであれば、そっとしておいて さしあげましょう。ほんとうに。ええ……」 ルイズは続けて告げる。 「虚無の担い手ですが……、察するに王家の秘宝の数だけ……、つまり四人いると思いますわ」 「なんということでしょう! 始祖の力を担うものが四人とは!」 「その中に、虚無を悪しき目的で用いようと考えるものがいないとは限りません。仮にまだ 姿の見えない虚無の担い手が、侵略者の残党と手を結んだりなどすれば、脅威の度合いが一挙に はねあがるものかと思われます」 アンリエッタはルイズをじっと見つめた。 「安心して、ルイズ。最早これ以上、外敵の好きにはさせません。……で、あるならば、 なおさら必要がありそうですわね」 「必要?」 アンリエッタはルイズから離れると、今度は才人を見つめた。 「使い魔さん。わたくしはもう存じています。あなたが、わたくしたちの救い主、ウルトラマンゼロなのですね」 「え!? ど、どうしてそのことを……」 「状況から推察いたしましたわ」 見るからに動揺する才人に苦笑したアンリエッタは、一つ頼む。 「すみませんが、ウルトラマンゼロのお声を聞かせてはいただけないでしょうか」 才人は困ったようにウルティメイトブレスレットに視線を落としたが、それがチカチカと 瞬いたので、ゆっくりと持ち上げた。 『アンリエッタ姫さん、こんな風に言葉を交わすのは初めてだな。その通り、才人はこの俺、 ウルトラマンゼロと一体なんだ』 ゼロが言葉を発すると、アンリエッタは王冠をかぶった頭を何度も下げ始めた。 「ありがとうございます。何度お礼を言っても足りません。本当にありがとうございます。 あなた方は英雄です」 「そ、そんな……、ゼロはともかく、俺は英雄なんて呼ばれるようなことはしてないですよ」 「いいえ……、あの地獄絵図の最中に、飛行機械で敵に立ち向かうあなたの勇姿があったからこそ、 皆が勇気づけられたのです。あなたの活躍がなければ、最悪わたくしたちは皆殺しにされ、世界は 終わっていたかもしれません」 そんな風にアンリエッタに頭を下げられ、才人は恐縮した。同時に、今まで感じたことのない 喜びを感じた。女王さまに認められる、なんて、日本にいたら考えられないことである。 ここでグレンがニッと笑って発言した。 「これでアンリエッタ姫さんも、正真正銘、秘密を共有する仲間ってわけだな!」 「こんなわたくしがウルティメイトフォースゼロの仲間などと、身に余る光栄です」 グレンに笑いかけられたアンリエッタはほんのり頬を赤らめた。 「んじゃ、ここで改めて俺たちの自己紹介をしようか」 と言うグレン。そのために、シエスタも連れてきたのだ。 彼女の腕輪のランプを通してミラーも呼ぶと、ウルティメイトフォースゼロの四人が名乗りをあげる。 「アンリエッタ姫さま、私は鏡の騎士、ミラーナイトと申します」 『私は鋼鉄の武人、ジャンボットです』 「俺が炎の戦士、グレンファイヤーな!」 『そして俺がウルトラマンゼロ! ここにはいないジャンナインと合わせて、宇宙警備隊 ウルティメイトフォースゼロ! ハルケギニアを狙う宇宙のワルをやっつけるために来たんだ!』 それからゼロたちは、自身らの素性や目的などを詳しくアンリエッタに伝えた。遂にウルティメイトフォースゼロの 確かな事実を知ったアンリエッタは、感極まって四人へ再び頭を下げた。 「そんなに遠くの世界から、わたくしたちのために……。何と感謝の気持ちを申し上げれば よろしいのかもわかりません……」 『いいんだよ。宇宙の平和は俺たち自身の願いだ。アンリエッタ姫さんも、どうか平和の 実現のために頑張ってほしい』 「はい! わたくし、この身とこの魂を祖国トリステインとハルケギニアの大地の安寧のために 捧げる決心を改めて固めましたわ」 熱い思いを瞳にたぎらせたアンリエッタは、才人に告げる。 「それで、ウルトラマンゼロとして日々戦ってくださっているあなたにせめてものお力添えと、 ささやかながら感謝の気持ちとして、用意したものがあります。受け取ってください」 アンリエッタが差し出したのは、黒地のビロードのマントであった。小さく青い百合紋があしらわれ、 胸元には銀色の五芒星が燦然と輝いている。 それを見たルイズが、口と目を大きくあけた。 「“シュヴァリエ”のマントじゃない! ということは姫さま……サイトに“シュヴァリエ”の 称号授与を!? サイトを貴族に取り立てるおつもりですか!?」 「わッ!? す、すごいです! サイトさんが、貴族に!?」 シエスタもあっと驚いた。トリステインでは、ゲルマニアと違ってメイジでないいわゆる 『平民』が貴族の位をいただくことは、アンリエッタ以前の治世ならばあり得なかったことだ。 才人自身は、ことの重大さがよく飲み込めておらずにきょとんとしている。 「でも姫さま、どうしてサイトに“シュヴァリエ”の称号を……」 「侵略者の行いはあまりに姑息です。これから先、何の権限も持たない平民の身分では侵略者の 影を追う際に動きづらい時があるかもしれません。それ故の計らいです。この騎士のマントが あるだけで、トリステインで行動できる範囲がぐんと広がります。戦時の彼自身の貢献も、 騎士叙勲の名誉を授けるに相応しいものです」 アンリエッタは改めて才人と向かい合う。 「お願い申し上げます、使い魔さん……いえ、サイトさん。あなたとゼロのお力を、これからも わたくしたちハルケギニアの民にお貸しください」 才人はやっと、アンリエッタの自分への用件と、その重要さを理解した。ルイズやシエスタの 反応を見ても、ただごとではないことがはっきりわかる。 しかしルイズがアンリエッタに抗議した。 「姫さま、でもサイトを貴族にするなんて、認められませんわ!」 「どうしてかしら? トリステインで平民が貴族になる例は、既にアニエスがありますよ」 「サイトとアニエスは違います! サイトは元々トリステインの民ではありませんし、この世界の 人間でもないんですよ! そんな人間を貴族にしていいんですか?」 「彼に貴族の資格がない、とすれば、王国中の貴族から領地と官職を取り上げなければいけなくなるでしょう」 「でも、サイトはわたしの使い魔で……」 「ええ。もちろん、そのことは変わりません。貴族になれば、あなたのお手伝いもやりやすくなるはず。 違って?」 「でも、でも、わたしの“虚無”とウルトラマンゼロのことは秘密のはずじゃ……」 「もちろん、それは秘匿します。サイトさんが“ガンダールヴ”であり、ウルトラマンゼロだということは、 これまで通り一部の人間のみの機密です。彼は今までどおり“武器の扱いに長けた戦士”として振る舞って もらいましょう」 そう言われては、もうルイズは反論できない。しかしアンリエッタは更に説得する。 「ルイズの他にも“担い手”がいるならなおさらあなたを今までとおりにしておくわけにはいきません。 名実共に騎士となり、ルイズを守っていただくことにいたします」 そうまで言われてはしかたがない。ルイズは頷いた。 「わかってくれたのね。嬉しいわ、ルイズ」 続いて才人に向けて、アンリエッタは水色の水晶があしらわれた杖を掲げた。 「略式ですが……、この場で“騎士叙勲”を行います。ひざまずいてください」 女王の威厳がこもったアンリエッタのその言葉に、才人は思わずひざまずいてしまった。 才人が目をつむり、頭を伏せると、右肩にアンリエッタの杖が乗せられた。そしてアンリエッタが 騎士叙勲の詔を唱える。 「我、トリステイン女王アンリエッタ、この者に祝福と騎士たる資格を与えんとす。高潔なる魂の 持ち主よ、比類なき勇を誇る者よ、並ぶものなき勲し者よ、始祖と我と祖国に、変わらぬ忠誠を…… いえ、他所の人間に、わたくしたちへの忠誠を誓わせるわけにはいきませんわね。詔の一部を変えます」 「姫さま」 思わずルイズが口を開いた。そんな騎士叙勲、聞いたことがない。 「いいのです。頼んでいるのはわたくしなのですから。わたくしは彼に請うて、騎士になっていただくのです」 アンリエッタは再び厳粛な顔になり、言葉を続けた。 「高潔なる魂の持ち主よ、比類なき勇を誇る者よ、並ぶものなき勲し者よ、汝の魂の在り処、 その魂が欲するところに忠誠を誓いますか?」 「……誓います」 「よろしい。始祖ブリミルの御名において、汝をシュヴァリエに叙する」 アンリエッタは、才人の右肩を二度叩き、次に左肩を二度叩いた。これで才人は騎士に叙されたのだ。 叙勲式が終わり、才人がマントを試しに羽織ると、シエスタらがわっと歓声を上げた。 「お似合いですよ、サイトさん! サイトさんがシュヴァリエなんて、夢のように素敵です!」 『うむ、なかなか様になっているな』 「マントが似合うような男前になったのも、俺の手腕だからな!」 「はいはい」 『へへッ、親父やレオのマント姿を思い出すな』 グレンたちがわいわい盛り上がる一方で、ルイズは複雑な気分だった。 才人が他ならぬアンリエッタに評価されたのが嬉しくないわけではないが、シュヴァリエなんかに なってしまったら、今より女の子が寄ってくるのではないかなんて不安があるのだ。シエスタより 強力なライバルが現れたら、女の子としての魅力“ゼロ”の自分が勝てるんだろうか? などと 憂鬱になってしまう。 それだけではなく、才人はいずれ自分の世界に帰らなければならないはずだ。それなのに 騎士になんてなってしまって、いざ帰る時に未練が湧いたらどうするつもりなの? とも思っている。 それより何より、仮に才人がシュヴァリエとしてこの地に残ると考えて、喜びがこみ上げてきたのが 一番の理由なのであった。 そういう風にルイズが悶々としていたとき……。 ドンッ!! 「!? 何事かしら……!」 いきなり執務室の外から激しい爆音が響いてきたので、アンリエッタたちは一瞬にして 楽しげな雰囲気が吹っ飛び、緊張に包まれた。 「確かめて参ります」 早速控えていたアニエスが飛び出していこうとしたが、それより早くに銃士隊の隊員が一人、 執務室に駆け込んできた。 「失礼いたします! 非常事態です!」 「何が起きた!」 アニエスの問いに、隊員は早口に答える。 「王宮の一画で爆発が発生しました! 何者かに爆発物を仕掛けられたものと思われます!」 「爆発物だと……!?」 「まさか、また侵略者の破壊工作かしら……」 アンリエッタがつぶやき、才人たちは一瞬互いに目を合わせる。 刹那、才人は殺気を感じた! 「ッ!」 才人の身体は、考えるよりも早く、デルフリンガーを抜いていた。反射神経のみで動いていた。 グレンの指導の賜物だ。 そしてデルフリンガーで、電光のような速度で斬りかかってきた銃士隊員の剣を受け止めていた。 「えッ!?」 まさかの銃士隊員が才人を攻撃したので、ルイズたちは衝撃を覚えた。 攻撃の瞬間に能面のように生気のない表情となった銃士隊員は、全く動じずに二撃目を 仕掛けようとしたが、才人の切り上げが彼女の剣を弾き飛ばした。それでもなお才人に 襲いかかろうとする銃士隊員を背後からアニエスとグレンが捕まえ、床に抑えつける。 「貴様、これは何のつもりだ! もしくは侵略者の変装か!?」 アニエスの怒号に銃士隊員は何も答えず、二人を振り払おうとする。恐ろしい力であったが、 グレンの怪力により抑え込むことが出来た。 「すげぇ力だ……! 人間のパワーじゃねぇぜ!」 「ですが、星人の変身という訳でもないようです」 ミラーのひと言に同意するジャンボット。彼はセンサーで銃士隊員の状態を突き止めた。 『うむ。彼女は生身の肉体ではなくなっている! 何者かにサイボーグにされ、操られているのだろう』 『フッフッフッフッフッ……その通りだ』 突如として第三者の声が響き、執務室に宇宙人がテレポートで侵入してきた! 全身を甲冑で 覆っているように見えるが、正真正銘の生身である。 『ボーグ星人かッ!』 ゼロの指摘を肯定する宇宙人……ボーグ星人。 『如何にも、私は元宇宙人連合の一人、ボーグ星人。ウルティメイトフォースゼロ、貴様らを 抹殺してこの星を我々のものとする!』 ボーグ星人は堂々と宣戦布告する。才人がシュヴァリエに叙勲されてすぐに、新たな敵の 攻撃が始まったのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1232.html
前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 夜、タバサはルイズの部屋に来ていた。 正確にはキュルケに無理矢理連れて来られたのだが。 部屋には他に住人であるルイズと、その使い魔もいる。 部屋の中央で、ルイズ達は剣について言い争いをしている。 そんな彼らから離れ、タバサはベッドに座り今日購入した本を広げていた。 ―― モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム ―― ふと、本から目を離すと、二人が杖に手をかけているのが見えた。 「言ってくれるわね、ヴァリエール」 「なによ、本当のことでしょ?」 タバサはすぐに杖を素早く振るった。 こんな場所であの爆発魔法を使えば危険である。 つむじ風が舞い上がり、キュルケとルイズの手から杖を吹き飛ばす。 「室内」 杖を飛ばされ、こちらへ視線を向けた二人に一言呟く。 「なによあんた。さっきからいるけど」 「あたしの友達のタバサよ」 「何であんたの友達が……タバサ?あのうるさい鳥の飼い主の?」 ルイズが忌々しげに呟く。 それを聞くと、タバサは本に向けようとしてい視線をルイズへ向け、睨みつける。 「鳥じゃない。みんな私の友達」 「何でもいいけど静かにさせなさい。こっちは夜中にあいつらが騒ぐせいで睡眠不足なのよ」 「それは無理。あの子達は夜行性。だから夜に活動する」 「うるさいうるさいうるさい!とにかく黙らせるなり逃がすなり殺すなりしなさいよ!」 ルイズはタバサの言葉に思わず叫んだ。 それを聞いた瞬間、タバサは勢いよく立ち上がり、ルイズに自分の身長よりも長い杖を向けた。 タバサの瞳の色は、氷のような青からギャオス達と同じような赤い色に染まっていた。 その様子に脅えながらも、ルイズは強がりながら尋ねる。 「な、何よ?言いたいことがあるなら言いなさいよ」 タバサは一言言い放つ。 「あなたに決闘を申し込む」 その様子を見て、才人は嫌な予感がしてきた。 「もちろん、使い魔同士で」 嫌な予感は的中してしまった。 タバサの言葉を聞くと、才人は慌ててルイズを説得し始めた。 「ルイズやめてくれ!俺がギャオスに勝てるわけないだろ!」 才人はギャオスの恐ろしさを知っている。 元の世界で何回か映画を見ているからだ。 「タバサもやめなさいよ。いくらゼロのルイズの使い魔でも、殺したらダ……」 キュルケも説得を試みるが、タバサに睨みつけられ何も言えなくなった。 そんな二人の様子を見ても、ルイズは頷いた。 「望むところよ。誰が逃げるもんですか!」 本心は逃げたい。自身などあるわけがない。 でも、こんな小さい子供?に決闘を挑まれては引き下がれない。 ルイズの返事を聞くと、タバサはすぐに窓を駆け寄り、口笛を吹いた。 口笛が辺りに響き、窓の外が一瞬で漆黒に染まり、叫びが聞こえてくる。 「この子達の力、見せてあげる」 前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐