約 1,746,449 件
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/32464.html
登録日: 2015/07/01 Wed 23 58 36 更新日:2021/04/22 Thu 19 06 22 所要時間:約 3 分で読めます ▽タグ一覧 MF文庫 スピンオフ ゼロの使い魔 ゼロの使い魔外伝 タバサの冒険 タバサ ヤマグチノボル ライトノベル 外伝 わたしは人間なの。だから人間の敵は倒す……それだけ。 ゼロの使い魔外伝・タバサの冒険とは、 ヤマグチノボル原作のライトノベル『ゼロの使い魔』の登場人物・タバサを主人公にしたスピンオフ作品である。 既巻は3巻。 今拓人によるコミカライズもされている。ただし途中から原作9巻から10巻のアーハンブラ編へとシフトする。 【あらすじ】 本編の舞台となるトリステイン魔法学院に通う少女タバサは、 実はガリア王国の暗部の汚れ仕事を請け負う秘密組織『北花壇騎士団』の一員であり、本名をシャルロット・エレーヌ・オルレアンと言った。 タバサはガリア王国の傲慢な王女イザベラの命を受けて、様々な困難な任務に狩りだされる。 しかし、タバサは文句ひとつ言うこともなく、無理難題の任務の数々をこなしていく。 そこにはタバサの生家と王家の血塗られた因縁が隠されていた―― 【概要】 基本的に、任務を与えられたタバサが現地へ赴いて現地の人たちと交流しながら任務を果たしていくという一話完結方式をとっている。 だが中にはシルフィードを主人公にしたものや、タバサの過去編も存在しており、タバサという人物をいろいろな方向から掘り下げていっている。 本編とはリンクしており、それぞれの話が本編のどのあたりの出来事なのかをわかるようになっている。 イザベラは後に本編にも登場。本作のエピソードや登場人物はいずれも人気の高いものが多い。 【主な登場人物】 タバサ トリステイン魔法学院に通う2年生。ガリアからの留学生であり、小柄な体と青い髪と目を持ち、二つ名は『雪風』 本来はガリアの王家の一門であるオルレアン家の娘であるが、現在その地位は剥奪されていてタバサは偽名である。 母の心を魔法の毒物で狂わされており、その解毒剤を手に入れるためと復讐のために、いかなる危険な任務をも受けている。 性格は無口で人付き合いを自分からはしないタイプ。 しかし情には厚く、任務の達成には遠回りになるとわかっていても人命や心を優先した作戦をとることもある。 反面、隠れドSなところもあり、普段はおとなしく見えてもちゃっかりえげつない手段で意趣返しをすることもある。 シルフィード タバサの使い魔で、2年生昇級の『使い間召喚の儀』で呼び出された。 周りにはウィンドドラゴンに見せているが、実は人語を解する絶滅種『風韻竜』の生き残りで、本名はイルククゥ。 年齢は200歳を超えているが、精神年齢の発達は遅く、おつむは幼児並み。 明るく優しく奔放な性格で、危険な任務ばかりさせられるタバサのことを常に心配している。 なお、主人といい勝負の食いしん坊である。 イザベラ ガリア王国の第一王女で、国王ジョゼフの一人娘。 王家の人間であるためタバサと同様の青い髪と瞳を持っているが、印象は凶暴。ファンからの愛称はデコ姫。 気まぐれで冷酷かつ嗜虐的な性格をしており、タバサとは正反対。 タバサの属する北花壇騎士団の団長を兼任しており、彼女がタバサに命令を出すところから物語は始まる。 魔法の才能に乏しく、強いコンプレックスを抱いており、天才的なメイジであるタバサに強く嫉妬していることから、 あてつけにタバサにわざと危険で困難な任務ばかり当てている。 【これまでのお話】 第一話、タバサと翼竜人 北花壇騎士団員タバサに任務が下った。指令は、エギンハイム村で村人と対立している翼人を討伐せよ。 しかし、現地に赴いたタバサの前に、人間と翼人の共存を願う恋人たちがやってきて、なんとか討伐を中止してくれと頼んでくるのだった。 第二話、タバサと吸血鬼 サビエラ村で、一晩のうちに若い娘が体中の血を吸い尽くされて殺害される事件が続発した。ハルケギニア最悪の妖魔、吸血鬼の出現である。 吸血鬼討伐に出発したタバサだったが、吸血鬼は普通の人間と見分けがつかない。 姿なき殺人鬼に対して、タバサがとる作戦とは。 第三話、タバサと暗殺者 王女イザベラに暗殺を狙っている者がいるとの疑惑があがった。タバサは魔法でイザベラと入れ替わって捜査をはじめる。 だが、暗殺者の正体と黒幕は意外な人物であった。 第四話、タバサと魔法人形 珍しい任務が下った。ガリアの名門の引きこもりの少年を学校に通わせろというのだ。 危険のない任務に退屈げなイザベラから、たわむれに魔法人形スキルニルを譲られたタバサはいつもどおりに任務に向かう。 しかし少年の冷え切った家族関係と、彼を一身に思うメイドのアネットの訴えに、タバサはある考えをめぐらせるのであった。 第五話、タバサとギャンブラー 違法賭博場撲滅の命を受けたタバサ。偽名を使って潜入するが、カジノのディーラーはなんとタバサの家で昔に仲のよかった使用人だった。 しかも、イカサマ賭博の証拠を掴まなくてはカジノをつぶすことはできない。 情と使命、さらにタバサの目をもあざむくカラクリの正体とは? 第六話、タバサとミノタウロス 任務を終えて、とある村で休息をとっていたタバサは、平民の老婆から助けを求められる。 エズレ村に人食いのミノタウロスが現れ、生贄を求めているというのだ。 助っ人を引き受けたタバサだったが、ミノタウロスの正体は人攫いの野盗がミノタウロスを騙ったものだった。 追い詰められるタバサだったが、なんとそこに本物のミノタウロスが現れる。しかも、そのミノタウロスは人語をしゃべり、自らを貴族と名乗った。 番外編、シルフィードの一日 とある平和な日、のんびりとしていたシルフィードはニナという少女と仲良くなる。 けれども、近隣の村の住人にはドラゴンであるという理由だけで嫌われてしまった。 使い間仲間に慰められても傷心のシルフィード。だが、そんなシルフィードを救ったのは少女の純粋な心であった。 第七話、タバサと極楽鳥 イザベラの気まぐれと嫌がらせで、火龍山脈に住む極楽鳥の卵を採りに行かされることになったタバサ。 そこでタバサは、料理人を目指して修行中というリュリュという少女に出会う。 だが極楽鳥は強力な火竜に守られていて手出しができない。そこでタバサは、錬金を使っての料理という新境地を目指している リュリュの魔法を使おうと考えるが、リュリュは大きな壁にぶち当たっていた。 第八話、タバサと軍港 ガリア王国軍両用艦隊の軍艦が次々と爆破されるという事件が起き、タバサが調査に派遣される。 幹部士官らに邪険にされながらも、協力者を得て調査を進めるタバサだったが、次第に事件の背後に潜むどす黒い影に気づいていく。 それはタバサ自身の生い立ちにも関わる。人の心を弄ぶ禁呪を用い、無関係な人間を大勢巻き込むことをも辞さない狂気だった。 第九話、タバサとシルフィード シルフィードがタバサに召喚された直後のお話。 見るからにちんちくりんなのに偉そうなタバサに不満タラタラのシルフィードだったが、ある日ひとりでお使いに出かけることになった。 ところが世間に疎いシルフィードは悪い人にだまされて…… 第十話、タバサと老戦士 コボルドに襲われているというアンブラン村に赴いたタバサ。彼女はそこで、村人から慕われているユルバンという老戦士に出会う。 タバサの実力を持ってすればコボルドは敵ではなく、任務達成は容易なものと思われた。 だが、タバサたちは村で過ごすうちに奇妙な違和感を感じ出す。さらに血気にはやったユルバンがコボルドに囚われてしまい…… 第十一話、タバサと初恋 最近タバサの様子がどうにも変だ。妙にそわそわして落ち着かない様子だったりしている。 それが恋だと思ったシルフィードは一念発起、なんとかタバサの初恋を成就させようとあの手この手を試みるけれど空回りばかり。 一方で、タバサも自分の中に芽生えた不思議な気持ちがわからずに自問自答を続けていたが…… 第十二話、タバサの誕生 タバサがまだシャルロットと名乗っていた時期の話。 ガリアの先王が亡くなり、時期後継者候補のひとりであったシャルロットの父オルレアン公が暗殺された。 ジョゼフが王となり、オルレアン派最後のひとりであるシャルロットは母の身柄と引き換えに怪物の跋扈するファンガスの森に送られる。 そこは凶暴な合成生物キメラたちの魔境であり、ボス格である『キメラドラゴン』を倒さなければならない。 戦闘経験などないシャルロットはキメラに襲われて絶望するが、そこを森の猟師であるジルという女性に救われる。 ジルから戦い方を学び、シャルロットは戦士として成長を始める。だがそれは、長くつらい戦いの始まりでしかなかった…… 追記・修正はムラサキヨモギを噛み締めながらお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] これらの中では極楽鳥の話が一番好きかな。リュリュがすごくいい子ってのもあるけど、彼女の魔法が完成したらハルケギニアから飢餓がなくなりそう -- 名無しさん (2015-07-20 01 11 09) アニメの最大の罪はデコ姫を出さなかったことである -- 名無しさん (2015-08-06 00 39 39) なんやかんやでかなり続いたんだな -- 名無しさん (2015-09-15 16 55 09) OVAでシリーズ化希望 -- 名無しさん (2016-05-16 13 15 48) ふと思ったけど、錬金で食料作れたら人口爆発につながるんじゃなかろうか -- 名無しさん (2017-02-05 21 45 18) 読み返すと、ハッピーエンドで終わらない話もあるし、本編に比べて大人向けファンタジーって感じがしたな -- 名無しさん (2018-07-04 00 01 47) 作れたらというより、錬金による食料生成はあまりうまいものが作れないだけで昔から可能だったっぽい。普段からは食べてないだけで深刻な食糧不足ならそれで食べ物を作るだろうからハルケギニアでは餓死なんて基本ないんじゃないか。魔法のサービスは思いのほか安いようで、大豆に錬金をかけてつくる代用肉のほうが本物の肉よりずっと安いみたいだし。 -- 名無しさん (2018-07-04 07 50 54) 時系列的にはちょっとおかしな話もある。「タバサとシルフィード」では彼女はサイトと同じ日に召喚されていてまだいくらも時間が経ってないはずなのに、タバサの任務や境遇について妙に詳しかったりとか。 -- 名無しさん (2018-07-04 07 54 31) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gojyuon/pages/26.html
[部分編集] 三美姫の輪舞 「魅惑の砂浜」on zoopy #12(了) on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28689" #11 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28688" /a #10 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28687" /a #09 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28686" /a #08 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28685" /a #07 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28684" /a #06 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28683" /a #05 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28682" /a #04 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28681" /a #03 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28680" /a #02 on zoopy a href="http //say-move.org/comeplay.php?comeid=28675" /a #1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1581.html
ごうごうと音を立てて風が吹き付ける見張り塔で、ギアッチョとワルドは まるで決闘のように対峙していた。傲然たる態度で己を眺めるギアッチョを 見返して、ワルドは今まで見せたことのない猛禽のような眼つきで笑う。 「それで?僕に話があるんだろう 王宮の話でも聞きたいのかな? グリフォン隊の武勇をご所望かい?それとも――」 杖をヒュンヒュンと回して、カツンと地面を叩く。 「ルイズの話、かな」 退屈そうにワルドを睨んで、ギアッチョは口を開いた。 「人間にはよォォ~~~、目的ってもんがあるよなァァ 目先の話じゃあ ねー、いつか辿り着くべき『場所』の話だ」 「・・・・・・?」 もはや擦り切れて思い出せないが、自分にも恐らくそれはあったのだろう。 遥か過去を思い出しかけた自分をナンセンスだと切り捨てる。真っ向から ワルドの眼を覗き込んで、ギアッチョは言葉を繋いだ。 「或いはこんな話もよくあることだ それで物事の全体だと思ってたもんが、 目線を引いてみるともっと大きな事象の一部だった・・・ってな」 更に鳥瞰すれば、全ての事象は是人生の一部に過ぎないと言えるだろう が――敢えてギアッチョはそこで言葉を切った。 「・・・すまないが、話が抽象的過ぎて言わんとしているところが掴めないな 君らしくもなく迂遠じゃあないか?ギアッチョ君」 大げさに肩をすくめてみせるワルドから、ギアッチョは眼を離さない。 「はっきり言って欲しいってわけか?」 「・・・・・・」 スッと帽子を取り去ると、ワルドは髪をかきあげて改めてギアッチョを見る。 その眼も口元も、もはや笑いを続けることをやめていた。 「結婚をすることで――僕がルイズを何かに利用しようとしていると 言いたいのか?」 二人は先ほどまでと変わらず悠然と対峙している。しかしもし殺気という ものが視える人間がいたならば、彼には二人の間に暴力的なまでの それが吹き荒れていることが解っただろう。 「そう聞こえたか?」 焦ったようでも怒ったようでもない、さりとて人を小馬鹿にするような 顔でもない、有体に言えば無表情な顔のまま、ギアッチョはしれっと 言ってのける。 「ま、言われてみれば確かにそうだよなァァ 聞けばてめー、今まで 何年も会ってない上に手紙の一つも送らなかったそうじゃあねーか てめーとルイズは『偶々偶然』同じ任務に居合わせただけってわけだ」 「・・・・・・」 「今思えばよォォ~~ ラ・ロシェールに着いた翌日からルイズの様子が 妙だったが・・・てめー、あの時既にプロポーズしてたな ええ?オイ どうにもおかしな話じゃあねーか」 そこでギアッチョは一度言葉を止める。と同時に、ギアッチョから今までと 別種の殺気が噴き出し始めた。 「『ウェールズは明日死ぬ、だからその前に式の媒酌をして欲しい』・・・ これは分かる スゲーよく分かる・・・死んじまっちゃあ式は挙げれん からな・・・・・」 「ダ、ダンナ・・・!」 思わずデルフリンガーが叫びを上げるが、もう遅い。 「だが数年ぶりに偶然会ったその日のうちにプロポーズってのはどういう ことだあああ~~~~~ッ!!?ええッ!?オイッ!!誰がどう見ても 不自然だっつーのよーーーーーッ!!ナメやがってこの野郎ォ 超イラつくぜぇ~~~~ッ!!スピード結婚もビックリじゃあねーか! 馬鹿にしてんのかこのオレをッ!!クソッ!クソッ!!」 時と場所と場合の全てを省みずブチ切れたギアッチョには、流石の ワルドも唖然とした顔を隠せなかった。 手近の柱を狂ったように蹴りまくるギアッチョに、デルフリンガーが 声を張り上げる。 「ダンナーッ!ストップストップ!落ち着こうマジで!!クールダウン クールダウン!KOOLに・・・いやさCOOLに!COOLになれ!」 デルフの悲痛な叫びが届いたのかどうなのか、ギアッチョはピタリと 足を止めるとワルドにあっさり向き直った。 「でだ」 実に切り替えの早い男である。おでれーたってレベルじゃねーぞと 呟くデルフを無視して、ギアッチョは何事もなかったかのように 話を再開する。 「貴族派の連中に襲われる危険を冒してまでよォォ~~、明日 無理に式を挙げる理由があるってぇわけか?それなら是非教えて 欲しいもんだな・・・てめーの行動はオレにゃあまるでこの旅が 最後のチャンスだと語ってるようにしか見えねーぜ」 言い終えて、ギアッチョはどんな隙も逃がさんばかりの視線で ワルドを刺す。 「・・・一つ、言っておくが」 既に平静を取り戻していたワルドは、ギアッチョの視線をものとも せずに彼を睨み返した。 「現実は物語とは違う 何もかもが論理的に進むことなどありはしない 何故なら人間は、理のみによって動くものではないからだ」 「・・・・・・」 今度はギアッチョが沈黙する番だった。一瞬たりとも彼からその 鋭い双眸を逸らさずに、ワルドは淀みなく言葉を続ける。 「聡明な君ならば理解してくれるだろうが、人の行動を理詰めで 推し量ろうとしても、必ずどこかで綻びが出る 何故か?答えは 簡単だ 論理的思考というものは――偶然を容認しないからだ」 「偶然を除去し、蓋然を必然に摩り替える それは真実を糊塗する 欺瞞に他ならない なんとなれば、人の行為とは全て偶然の集積に よって決定されるものであるからだ」 風は吹き止まない。月に反射して美しくなびくワルドの銀糸を、 ギアッチョは鼻白んだように眺めた。 「一見不自然に見えることも全て偶然だと、そう言いたいってわけか?」 「理解が早くて助かるね 一々説明する気はないが、彼女に手紙を 出せなかったことも会いに行けなかったことも、つまりはそういうことだ」 ゆっくりと、ワルドは楼上を歩く。ギアッチョを通り過ぎ、そのまま端まで 歩を進める。先ほどまでギアッチョが眺めていた雲海を見下ろして、 ワルドは再び口を開いた。 「僕はルイズを愛している 僕には彼女が必要なんだ 嘘じゃない これは紛れもない、僕の本心だ」 ばさりとマントを翻して、こちらを睨むギアッチョに向き直る。そうして、 ワルドはこの上なく真剣な眼で彼を見据えた。 「君は僕がルイズの権力や財力を狙っているのかと疑っているんだろうが …それは断じて違う 始祖ブリミルの名にかけて、天地神明天神地祇、 万物万象にかけて言おう 僕が欲しいのは、ただルイズだけだ 彼女に 付随する如何な力も要らない たとえ彼女が今、全ての富と権力を―― ヴァリエールの名を失ったとしてもかまわない 僕はルイズという人間が 欲しいんだ」 朗々と言い放たれたワルドの言葉に、ギアッチョは僅かに眉根を寄せる。 今の発言に嘘が含まれているようには思えなかったのだ。 押し黙って動かないギアッチョに、ワルドはフッと笑いを戻す。 「理解してもらえたようだね 話はそれだけかな?」 「・・・ああ」 ギアッチョの返答に満足げな顔をすると、ワルドは帽子を深く被り直す。 彼の横を通って扉の奥へ消えるまで、ワルドはギアッチョを一顧だに しなかった。 ワルドがいなくなったことを確認して、ギアッチョは不機嫌そうに首の 骨を鳴らした。 「大した詭弁だな・・・ヒゲ野郎」 メイジよりもソフィストのほうが向いてるぜと毒づくギアッチョに、 デルフリンガーが恐る恐る声を掛ける。 「・・・ダンナ やっぱりあいつは黒なのかねぇ」 「分からん」 「え?」 「こいつは感覚だがよォォ~~~ 野郎の最後の言葉・・・あれだけは どうにも取り繕ってるような感じがしねー」 「するってーと・・・?」 「ただの感覚だ、アテにゃあならねーよ 第一、そうだとしても依然 奴には不自然な部分が多すぎる」 「ま・・・そりゃそうか そんじゃ今すぐにでも部屋に戻ってルイズの 嬢ちゃんにこのことを――」 「いいや あいつには黙っとけ」 ギアッチョの言葉に、デルフは「へ?」と間抜けな声を上げた。 「え、いや、だってダンナ、このまま結婚しちまったら・・・」 「ワルドが白の可能性もある もしも真実奴が黒なら、必ず明日 行動を起こすだろうからな・・・そこで殺しゃあいい だが野郎が 白だったなら――ルイズの決断に水をさすことになる」 言い終えると、ギアッチョはデルフが何か口にする前に彼を 無理やり鞘に戻した。その格好のまま、ギアッチョは星辰煌めく 天空を振り仰ぎ。そこから何一つ言葉を発することなく、彼は ゆっくりと扉の奥へ歩き去った。 こうして騒がしい一日は終わりを告げ――そして、幾人もの運命を 別つ朝が来る。 「では、式を始める」 静謐に満ちた堂内に、ウェールズの声が凛と響く。ニューカッスル城の 片隅に設えられた小さな礼拝堂、そこがルイズとワルド、二人の婚礼の 舞台であった。非戦闘員は既に港に向かい、兵士達は最後の戦いの 準備を始めている。式を見守っている人間は、ギアッチョとギーシュ、 それにキュルケの三人だけだった。 「・・・ねえ どうしてタバサがいないんだい?」 ギーシュがこっそりとキュルケに尋ねるが、 「私も知らないのよ 起きたら部屋にいないんだもの・・・」 帰ってきた答えはこれであった。心配そうな顔をする二人を横目で 見て、ギアッチョは眼鏡を押し上げる。 「タバサのことは心配しなくていい ちょっとした野暮用だ」 「え・・・ちょ、ちょっと!どうして止めないのよこんな時に!」 「オレが頼んだことだ 文句は後で聞くぜ」 顔を寄せ合ってぼそぼそと続けられる彼らの会話は、ウェールズの 声によって中断された。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!」 ウェールズの朗とした声が、ワルドに投げかけられる。 「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻と することを誓いますか」 重々しく頷いて、ワルドは杖を握った左上を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って頷くと、今度はルイズへと視線を移す。 恥ずかしいのか俯いているルイズに微笑んで、ウェールズは彼女に 儀礼の言葉をかけた。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ ド・ラ・ヴァリエール 汝は始祖ブリミルの名において――・・・」 顔を俯けたまま、ウェールズの声が響く中ルイズは必死に自分の心と 戦っていた。一晩経って今日、彼女の葛藤は消え去るどころか更なる 重みを持ってルイズを苛んでいた。ワルドと結婚するのだと、彼を 愛しているのだと思おうとすればするほど、ギアッチョのことが頭から 離れなくなる。それはまるで、自分の中のもう一人の自分が「それで いいのか」と問い掛けているようで、ルイズの胸は訳も分からず 痛んだ。それでいいに決まってるわ、と彼女は言い聞かせるように 自答するが、それは自分でも驚く程に弱弱しいものだった。どうして こんなに胸が苦しいのだろう。どうしてギアッチョの顔を直視出来ないの だろう。ギシギシと痛む己の心に自問を続けながらも、ルイズは 答えを知ってしまうことが何故だかたまらなく恐かった。 「新婦?」 心配の色を含んだウェールズの問いかけで、ルイズはハッと 顔を上げた。ウェールズとワルドが、それぞれ異なる色の瞳を ルイズに向けている。 「えっ・・・あ・・・」 思わず言葉にならない声を上げるルイズに、ウェールズは 優しく微笑みかけた。 「緊張しているのかい?硬くなるのは仕方がないさ 何であれ、 初めてのことは緊張するものだからね これは儀礼に過ぎないが、 しかし儀礼にはそれをするだけの意味がある」 「では続けよう」というウェールズの言葉に、ルイズの心臓は ドキンと跳ね上がった。 「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し・・・」 ウェールズの口から滔々と紡がれる言葉に同調して、ルイズの 心臓はどんどん鼓動を早めていく。それを止める者などいる はずもなく――ウェールズはついに、再び文句を唱え終わる。 「・・・夫とすることを、誓いますか」 「・・・・・・ち・・・誓い・・・」 言葉が、出ない。まるで喉の水分が全て奪われてしまったかの ように、ルイズの口はそれ以上何も言えなくなってしまった。 ――何をやってるのよ・・・!誓います、でしょう・・・ルイズ! 己の心に叱咤するが、しかし意志に反して、ルイズの喉は ただかすれた息を繰り返す。 ――どうして・・・?どうして言葉が出ないのよ・・・! ルイズは己の心を怒鳴りつけるように独白するが、その言葉すら 大音量で鳴り渡る自身の心音に掻き消されてしまいそうだった。 ウェールズが、ワルドが不安げな顔で自分を見つめている。 もういっそ、彼女は消えてなくなってしまいたかった。自分の心など 誰も分からない。誰も助けてはくれないのだから―― 「ルイズッ!!」 突然の怒鳴り声に、ルイズはびくりと肩を揺らす。彼女が誰よりも よく知るその声の主は、辺りを憚ることなく長椅子に片足を乗せて 立ち上がった。 「うじうじやってんじゃあねーぞクソガキが!何を悩んでるんだか 知らねーが、答えが出ねーなら考えることなんざ止めちまえ! てめーのしたいようにやれ!そいつが間違ってたってんなら、 このオレが直々にブン殴ってやるからよォォ~~!!」 あまりにも傲岸不遜なギアッチョの言葉に、ルイズは何故か 安心する自分を感じていた。そしてそのまま、彼女は吸い寄せ られるかのようにギアッチョに顔を向け―― 「~~~~~~っ!?」 頑なに顔を見ることを拒否していたギアッチョと眼が合った瞬間、 ルイズは今の今まで気付かなかった・・・いや、気付かない振りを していたことを、稲妻に打たれたように理解してしまった。 一日。たった一日見なかっただけのギアッチョの姿を、ルイズは まるで百年も待ち焦がれていたように感じて――そして今度こそ、 彼女は誤魔化す余地もなく理解した。どうしてギアッチョのことが 頭から離れないのかを。どうしてギアッチョを直視出来なかった のかを。・・・どうしようもない程に、自分がギアッチョに惹かれて いることを。 「・・・・・・あ・・・・・・あう・・・」 己の心を理解した瞬間、ルイズの顔はぼふんと湯気を立てて 茹で上がった。ギアッチョを召喚してからというもの、自分はこんな ことばかりだとどこかぼんやりとルイズは考えたが、当の使い魔が 怪訝な顔で自分を見ていることに気が付いて、彼女は慌ててその 綺麗な顔を背けた。しかし背けた先で、ウェールズもワルドも、 ギーシュにキュルケまで、その場の全てが自分に目線を集中させて いることに漸く気が付いて――ルイズの顔は、ますます真っ赤に 染まってしまった。 「あ、あああああのっ!わわ、わたし・・・!」 どうにかしてこの場を誤魔化そうと、実際どう考えても無駄なのだが とにかくルイズは出来る限りの大声でそう言って、ギクシャクとした 動きでワルドに向き直った。 「・・・・・・ルイズ」 「・・・ワルド・・・わ、わたし・・・・・・」 ルイズはそこで少し言いよどんだが、すぐにキッと顔を上げて、 はっきりとワルドに告げた。 「・・・ごめんなさい わたし、あなたとは結婚出来ない」 「・・・本気なのかい ルイズ」 極めて穏やかに、ワルドは問うた。しかしその拳がわなわなと 震えていることに気付いて、ウェールズはワルドの顔に眼を 遣る。彼の顔に隠し切れずに浮かんでいる表情は、どこか 屈辱や無念とは違っている気がした。 「世界だ!!」 マントを跳ね上げて、ワルドは両手を拡げる。 「僕は世界を手に入れる・・・!その為には君が必要なんだ! 君の力が!君の魔法がッ!!」 「ワルド・・・?冗談はやめて 私が魔法を使えないこと、知ってる じゃない」 「言っただろう、君は強大なメイジになる・・・今はそれに気付いて いないだけだ!僕と来い!来るんだ!ルイズッ!!」 尋常ならざるワルドの剣幕に、ルイズは思わず後ずさった。 流石に不味いと思ったのか、ウェールズが二人の間に割って入る。 「やめたまえ子爵!婚約とは二人の意志があって初めて為される ものだ!潔く身を――」 「貴様は黙っていろッ!!」 「なッ――!?」 あまりに礼を失する物言いにウェールズの顔色が変わるが、 ワルドはそんなウェールズに眼もくれずルイズの手首を掴む。 「痛ッ・・・!やめてワルド!どうしたっていうの!?」 「君はいつか才能に目覚める!目覚めなくてはならない!! 魔法が使いたいのだろうルイズ!僕と来い、僕が君の力を 目覚めさせてやるッ!!」 ギリギリと締め付けられる手首に顔を歪めながらも、ルイズは 臆さず言い放つ。 「ふざけないで・・・!私の魔法?私の才能?何なのよそれは! わたしはあなたの道具なんかじゃないわ!」 自分を拒み続けるルイズに、ワルドは顔を苛立ちに歪める。 言葉による説得を諦め、自分の方へ彼女を引っ張ろうとした その時、 「我が友人に対するそれ以上の侮辱、断じて許さぬ! ワルド子爵、今すぐその手を離せッ!さもなくば我が刃が 貴様を容赦なく切り裂くぞ!!」 ウェールズの声が堂内に響き渡った。猛禽を思わせる双眸で ウェールズを睨んで、ワルドは漸くルイズから手を離す。 「この僕がここまで言ってもダメなのかい?ルイズ」 「いい加減にして!!どこまで・・・どこまで人の心を裏切れば 気が済むの!?」 叫ぶルイズに仮面のような笑みを浮かべて、ワルドは肩を すくめて見せた。そうしておいて、彼は油断なく周囲に眼を 走らせる。すぐ手前にいるウェールズは、自分に杖の先を 向けている。状況についていけず眼を白黒させている ギーシュを、同じく驚きつつもキュルケが叱咤している。 そしてあの「ガンダールヴ」は――既に剣を抜いて、狩人の ような眼でこちらを睨んでいる。何か動きを起こせば、すぐに 飛び掛ってくるだろう。だが―― 「遠い、な」 誰にも聞こえないように、ワルドは低く呟いた。次いで、 今度は本来のよく通る声で語り始める。 「やれやれ・・・こうなっては仕方がない 君の気持ちを掴む 為に、それなりに努力をしたんだがね 目的の一つは諦めると しよう」 「目・・・的・・・?」 ルイズはギアッチョの方へと後ずさる。それを止めもせずに、 ワルドは凶悪な笑みを浮かべた。 「君を手に入れるという目的――これはどうやら、上手く いかなかったらしい」 敵意と悲しみの入り混じったルイズの視線を平然と受け流して、 ワルドは話を続ける。 「二つ目の目的は、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙だ」 「――ッ!」 ワルドの言葉で、礼拝堂は一転して刺すような緊張に包まれた。 「そして三つ目だが」 つば広の羽根帽子を目深に被りなおすワルドに、全てを察した ウェールズが迅速に呪文を唱え始め―― ドズッ!! 心臓の辺りに風穴が空いたのは、ワルドではなくウェールズだった。 「・・・『レコン・キスタ』・・・だと・・・」 ごほッと、ウェールズの口から空気が溢れる。「閃光」の二つ名 さながらに一瞬で「エア・ニードル」を完成させたワルドは、ぶしゅりと 音を立ててウェールズから杖を引き抜いた。 「ウェールズ・テューダー 貴様の命というわけだ」 「ウェールズ様ぁぁぁ!!」 凍った場に響いたルイズの悲痛な叫びは、果たして彼の耳に届いて いるのだろうか。ウェールズはよろよろと二・三歩後退して、ガランと 杖を取り落とした。 「・・・ハ・・・ハハハ・・・ 悔しいな・・・・・・」 彼の顔は、痛みではなく無念によって歪んでいた。 「こんな・・・ガハッ・・・ ところ・・・で・・・ 戦うことすら・・・出来ずに・・・」 ウェールズは息も絶え絶えに言葉を吐く。命がぼろぼろと崩れつつある その体が、ぐらりと後ろへ仰け反った。 「いーや おめーはよく戦ったぜ」 がっしりと、死に行く彼の身体を受け止めた者がいた。 「堂々とよォォー・・・先陣を切って、三百人の誰よりもおめーは 勇ましく戦った そうだろ?ウェールズ・テューダー」 「・・・き・・・みは ギアッ・・・チョ・・・か・・・」 もはや眼が霞んで、ウェールズには何も見えはしなかった。だが、 『理解る』。友の腕が支えてくれていることに。友が自分を認めてくれて いることに。 「泣き言はいらねぇ・・・ただ誇ればいい おめーにはその資格がある」 後の始末はオレがつけてやると。ギアッチョははっきり、そう言った。 ウェールズはその言葉に満足げに微笑んで――ゆっくりと眼を閉じる。 「ふふ・・・・・・ありが・・・とう・・・ギアッチョ・・・・・・ 頼・・・んだ・・・」 胸の上に置かれた手が、だらりと下がった。 「・・・・・・アン・・・リ・・・・・・タ・・・ ・・・・・・しあ・・・・・・せ・・・に・・・」 最期の最期に、うわ言のように呟いて、ウェールズはその人生を閉じた。 そっとウェールズの遺体を横たえて、ギアッチョは幽鬼の如き胡乱な 双眸をワルドに向ける。その凍った瞳に、ボッと炎のような殺意が 灯った。 「どけ、ただの『ガンダールヴ』 死にたくなければ身の程をわきまえろ」 杖をギアッチョの胸に向けて、ワルドは嘲笑う。 「久しぶりだぜ・・・こんな気分になったのはな・・・ てめーは ルイズの心を裏切り、こいつの『覚悟』を踏みにじった・・・ええ?オイ 出来てんだろーなァァァ・・・償いをする『覚悟』はよォオォォーーー!!」 「我が暦程に転がるものは、皆等しくただの小石だ 小石に情けを かける者がどこにいる?」 愉快そうに言うワルドに、ギアッチョはもはや何も言わず剣を掲げた。 ギアッチョの代わりに、デルフリンガーが叫ぶ。 「俺もムカついてたところだぜ!ダンナ!存分に俺の魔法吸収を――」 ドンッ!! 「え?」 デルフは何が起こったものか分からずに、間の抜けた声を上げる。 それはそうだ、ワルドに向かって振るわれるはずの己が、床に突き立て られているのだから。 「ダ、ダンナ・・・?」 「こいつはオレが殺す・・・てめーらは手を出すんじゃあねー」 その言葉に、場の人間全てが驚愕の表情を見せる。 「え、ちょ、おいおいダンナ!この野郎はトリステインでも有数の実力を 持つメイジでだな・・・」 「その通りだ 貴様如きに敵う道理はない 尻尾を巻いて逃げ出すが 賢明・・・ッ!?」 言葉の途中で、ワルドは異変に気付く。妙な寒気が、ギアッチョの周囲に 集っているのだ。それは徐々に彼の全身を包んで行き、そして包んだ そばから固体となり始める。 「光栄に思えよ・・・てめー如きに見せるのは勿体ねー力だ」 ギアッチョの足を包んだ氷は、信じられないスピードで膝を、腰を、 肩を覆い。白い魔人が、その正体を現した。 キュルケが、ギーシュが、デルフが・・・そしてワルドまでもが絶句する 中、ギアッチョはワルドを死神のような双眸で貫いて、たった一言を 吐き出した。 「惨めに死ね」 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1777.html
「なるほど、事態は把握したよ」 シルフィードの背中、身元を隠す黒いローブの下でギーシュは頷いた。 その隣で、同じくタバサが頷く。双月の光が降り注ぐ夜空を、ルイズ達は モット伯の屋敷へと飛んでいた。 「だけどどうするんだい?」 「止めるの」 「・・・止める?何をだね?」 「ギアッチョをよ」 「・・・何だって?」 意味がよく分からず、ギーシュはぽかんとした顔でルイズを見る。 少し俯いた顔で、ルイズは話し始めた。 「・・・そういうことなら、協力しないわけにはいかないね」 ルイズの説明に、ギーシュは納得したという顔で答える。 それを受けて、しかしルイズは「だけど」と返した。 「今回のことは冗談じゃ済まないわ 最悪の場合、あんた達の 家名にまで係わることになる・・・無理をする必要は、」 ルイズの言葉を遮って、彼女の頭にぽんと掌が乗せられる。 「それで、私達が帰ると思ってるわけ?」 「・・・キュルケ」 ルイズの頭をぐりぐりと撫でながら、キュルケは一見皮肉めいた 笑みを見せる。 「あなた達を助けるって『覚悟』してるから皆ここにいるんでしょう? いらない思量はしなくていいの」 ギーシュとタバサは片や鷹揚に、片や静かに頷いた。ルイズはそれを見て、 「・・・・・・うん」 少し恥ずかしげに――しかし満面の笑みを浮かべた。 ――あ・・・ キュルケは気付く。この少女は、こんなにも綺麗に笑うことが出来たの だと。もう二度と、この子の笑顔を裏切りはしない。言葉にこそしないが ――それはキュルケだけではない、この場の全員の決意であった。 地図を頼りに森を行くギアッチョの眼前に、大きな屋敷が姿を現した。 「おう、旦那 どうやらここみてーだぜ」 「ほぉ こりゃまた大層なお屋敷じゃあねーか」 夢に出てきたあの屋敷よりは幾分小さいが、と心の中でどうでもいい ことを付け足すギアッチョにデルフリンガーは一つ疑問を投げかける。 「しかし旦那、具体的にはどうするんだ?嬢ちゃん掻っ攫ってとんずら っつーわけにもいくめぇ この警備じゃあよ」 木陰から伺えば、確かに門前と庭内には数人の衛兵。そして彼らと 共に、蝙蝠のような翼を生やした犬という悪魔合体の産物の如き 生き物が数体庭を闊歩している。それらをちらりと一瞥して、 ギアッチョは詰まらなさそうに息を吐いた。 「奴らを排除してモットの野郎を殺す それで仕舞いだ」 「・・・そうかい ま、俺ァ人殺しの道具だ とやかくは言わねーよ」 「・・・とやかく言いたいことがあるってわけか?」 「いんや、俺ァ旦那の相棒だかんな ――ただ、ま・・・ ルイズは悲しむんじゃねーかと思ってよ」 「・・・・・・」 呟くようなデルフの声で――ギアッチョの口は数秒動きを止めた。 「チッ・・・」 何故か脳裏をよぎったルイズの泣き顔を掻き消そうと一つ舌打ちして、 ギアッチョは無理矢理に言葉を吐いた。 「・・・それだけか?言いたいことはよォォーー」 人の身であったならば溜息の一つもついただろう。それが敵わぬ デルフリンガーは、ただ淡々と質問を続ける。 「いや、もう一つ スタンド・・・だったよな そいつを使う力、 もう殆ど残ってねぇんだろ?大丈夫なのかと思ってよ」 そう。確かに自分のスタンドパワーは今にも底をつこうとしている。 誰にも言いはしないが、少しでも気を緩めようものならがくりと 膝を落としてしまいそうだった。彼の心身は、今それ程までに 疲弊しているのである。しかし、 「問題はねえ」 ギアッチョがそれ以外の言葉を口にすることなど有り得なかった。 「旦那・・・」 納得し兼ねるといった声を出すデルフに目を向けて、ギアッチョは 面倒臭そうに言葉を継ぐ。 「オレの目的はあくまでシエスタとモットだ 雑魚共をいちいち 相手にしてる程暇じゃあねーぜ ・・・そもそもだ、わざわざ スタンドを出すまでもなくこっちにはてめーがいるんだからな」 「へ?・・・お、おおよ」 いきなりの不意打ちに、デルフリンガーは少々上擦った声を上げた。 考えてみれば、ギアッチョが己への信頼をこうして言葉にしたのは 初めてのことなのである。力の化身のようなこの男が口にした 信頼の言葉に、デルフリンガーは密かに感動していた。 喋れるように鞘から少し露出させていた刀身をすらりと引き抜いて、 ギアッチョはその心中も知らず彼を無造作に肩に担ぐ。隠れていた 木陰から数歩歩み出て、不機嫌そうな顔のまま口を開いた。 「行くぜオンボロ」 「任しとけ・・・ってうぉい!結局オンボロ呼ばわりかよ!」 それは、彼女のような平民は眼にしたこともないような巨大な 浴場だった。モット伯の邸内に設けられたそこに、シエスタはもう 随分長く浸かっている。身体が茹だってゆくにも構わず、彼女は その最後の安息地から腰を上げることを頑なに拒んでいた。 「・・・どうして・・・」 震える肩を抱きながら、シエスタは一人呟いた。呟いてから、その 先に何を続けたかったのかを考えて自己嫌悪に陥る。どうして こんな目に遭わなければならないのか、どうして自分なのか、 どうしてこれが許されるのか――考えれば考える程に出てくる それらは、まるで己の卑小さを嘲る刃のようにシエスタ自身に 突き刺さった。 「そうよね・・・」 シエスタはその口に、諦念混じりの自嘲を浮かべる。そうだ、 恨み言をいくら吐こうが何も変わりはしない。この世界は 「そういうもの」なのだから。平民にとってメイジは天災。それは 比喩ではなく、正しく言葉通りの意味でそうなのだ。平民如きが 何をどう足掻こうが覆らない災禍。洪水や嵐と違うのは――彼らが 意思を持っているということだけだ。そしてそれ故に、メイジは 時として災害よりも凶悪な存在にすらなる。 だから。そういうものだと割り切るしかないのだ。例え彼らに 襲われようが、奪われようが、そして殺されようが・・・それは 仕方の無いことなのだと。メイジとは、貴族とは、そういうもの なのだから。 …ぽたりと。伏せた瞳からこぼれた一滴の雫が、水面を震わせる。 心を抑えることは出来ても――涙を抑えることまでは出来なかった。 我知らず漏れていた嗚咽と共に、シエスタの綺麗な瞳からは次々と 涙がこぼれ落ちる。 「お金なんていらない・・・ 皆と仕事をして、マルトーさんや ギアッチョさん達と色んな話をして、たまに故郷へ帰って・・・ それでよかったのに・・・ それで幸せだったのに・・・」 止めようとして止まるものではなかった。何も変わらないと 知りながら、シエスタは静かに泣き続ける。 最後の安息、その終焉を告げたのは、シエスタと同じくこの館で 働く侍女の一人だった。浴場の入り口から一言、「伯爵が寝室で お待ちです」そう淡々と伝えると、老境の侍女はそのまま立ち去った。 「・・・・・・」 永遠にも思える時間を、シエスタは祈るように沈黙した。それが 無駄だということは、誰より己が解っている。それでも、何かに 祈らずには居られなかった。 そうして数秒、震える両肩から手を離し、彼女は静かに閉じていた 眼を開く。 「・・・最後に、ギアッチョさんにお別れを言いたかったな・・・」 もはや叶わぬことを呟くと、シエスタはごしごしと涙を拭い―― 諦観に染まった表情で、ゆっくりと湯船から立ち上がった。 「うぐっ」 「あがっ」 屋敷の門外、高い塀の向こうからからくぐもった声が二つ続けざまに響き、 庭内を巡回していた三人の衛兵は不審げに顔を見合わせた。視線の先、 格子状の門の外には何者の姿も見えない。静かに目配せし合うと、彼らは その手の槍を素早く構えて門へと駆け出した。 一分後。塀に身を隠すギアッチョの目の前に、合わせて五人の衛兵達は 折り重なって倒れていた。 「とりあえずは、こいつらで全部だな」 「意外だね、気絶でとどめるたぁ」 左手の先で笑うデルフリンガーに、ギアッチョはいつもの仏頂面で答える。 「オレは別に殺人鬼じゃあねー」 デルフリンガーは、そう言いながら自分を鞘に戻そうとするギアッチョに 向けて早口に口を開いた。 「旦那、あの犬コロ共はどうすんだ?あいつらァすばしっこい上に空を飛ぶ 相手してる間に騒ぎに気付いた衛兵連中が集まってくるぜ」 「・・・問題はねえ」 対するギアッチョの反応は、実に淡々としたものだった。そのままデルフを 鞘に納めて、彼は開きっ放しの門から躊躇無く庭内へと侵入する。 「ぐるるルるる・・・」 一歩足を踏み入れたその途端、六匹の怪物犬は唸りを上げながらギアッチョ 目掛けて走り出した。そう訓練されているものか、彼らは一瞬にして ギアッチョの周囲を逃げ場無く取り囲む。翼の生えた黒い犬が血走った 眼で獲物を囲んでいるその光景は、正に地獄の様相と言うに相応しかった。 常人ならば失神してもおかしくないそれを、ギアッチョはただ面倒臭げに 一瞥する。自分達に恐怖を感じていないその様子が気に入らないのか、 黒い獣達は一斉に刃のような牙を剥き出した。そのまま怒りに任せて獲物を 引き裂かんとするその瞬間、 「ああ?」 ギロリと。圧倒的な怒気と殺意を宿すギアッチョの凶眼に刺し貫かれて、 六匹の魔物はまるで石像のように硬直した。 「・・・ぐ・・・ぐるるる・・・」 怯えるはずの人間に、今恐怖を感じているのは紛れも無い彼らだった。 直接ギアッチョの双眸と対峙していない後方のニ匹でさえ、ギアッチョの 放つ極寒の炎の如き殺意に身動き一つ取れなかった。 魔眼の巨人や魔除けの籠目を例に出すまでもなく、古来より「眼」に ある種の力を認める類の譚話は世界中に散見するが――今、彼ら六匹の 魔犬は正にそれを実演するかのように停止していた。 それを何でもないような様子で確認して、ギアッチョは一言低く、 「行け」 と呟く。その瞬間、彼らはきゃんきゃんと喚きながら我先に空へと 逃げ出していった。 「・・・すげーな、旦那」 呆けたような声を出すデルフリンガーに、ギアッチョは無感動に答える。 「急ぐぞ」 ルーンの刻まれた左手ですらりと魔剣を抜き放つと、邪魔者のいなくなった 前庭を、ギアッチョは眼にも留まらぬ速さで駆け抜けた。 「何だきさ・・・はぐぉッ!!」 右の拳で玄関の番人の一人を問答無用で殴り飛ばし、同時に左手の剣は もう一人の喉元へ流れるように突きつける。 「なッ・・・!?」 「ちょっと訊きたいんだがよォォォ~~~ モット伯とか言う野郎はどこだ」 突然の状況に眼を白黒させている番兵を、ギアッチョは静かに問い詰めた。 「き、貴様・・・何のつもりだ こんな狼藉が許されると――」 言い終わらない内に、ギアッチョはデルフリンガーの刀身を番兵の喉に 軽く触れさせる。 「ぐッ・・・」 「聞こえなかったっつーわけか?ええ、おい?」 ギアッチョは、「三度目はねぇぜ」と低く呟いて繰り返した。 「モット伯はどこだ」 「・・・・・・は、伯爵は・・・」 諦めたように口を開く男の右手の動きを、ギアッチョは見逃さなかった。 虚を突いて繰り出された槍の穂先をデルフリンガーがまるでバターを 切るように両断すると、右手で男の首を掴んでそのまま館の壁に叩きつける。 「ぐッ・・・!」 「いい返事だ 下衆野郎に殉じな・・・」 ここまで倒して来た衛兵達と違い、この男にははっきりと顔を見られている。 首を掴む右手にぎりぎりと力を込めるが、苦しげにもがくだけで何かを 喋ろうともしない。この様子では懐柔も難しいだろう。 「大した根性じゃあねーか・・・そいつに敬意を表して一瞬で終わらせてやる」 そう言いながら、しかし躊躇なく剣を構える。胸に狙いを定め、一気に 貫こうとしたその時、 「待って!!」 上空から聞きなれた声が響き――同時に放たれた風がデルフリンガーを 弾き飛ばした。 「・・・何のつもりだ」 気絶させた番兵から手を離すと、デルフを拾いながらギアッチョは シルフィードを見上げる。返事の代わりに、ルイズ達はひらりと地上に 飛び降りた。ルイズはそこから一歩を進み出て、曇りの無い瞳で ギアッチョを見つめる。小さく息を整えて、彼女はゆっくりと口を開いた。 「ギアッチョ・・・もう誰も殺さないで」 「・・・ああ?」 見ようによっては恫喝的にも感じられるギアッチョの視線に、 ルイズは臆さず向かい合った。 「もう十分よ・・・お願い、これ以上殺さないで」 「今更だな 何人殺そうが何百人殺そうが、オレには同じことだぜ」 「・・・違うわギアッチョ あんたが殺してるのは――自分の心よ」 「・・・・・・」 かぶりを振ってそう言うルイズに、ギアッチョはわずか絶句した。 「ギアッチョ、もういいのよ もう誰も殺さなくていいの 今の あんたは暗殺者なんかじゃないんだから」 「・・・御主人様らしく命令でもするってか?」 「――命令することは簡単だわ だけどそれはわたしの意志 それじゃ何の意味もないのよ わたしじゃない、ギアッチョ自身の 意志でそうして欲しいの!だからギアッチョ、お願い・・・もう 誰も殺さないで!」 ルイズの懇願に眩暈のような錯覚を覚えて、ギアッチョは思わず壁に 片手をついた。それ程までに、ルイズの言葉は今のギアッチョには 眩しすぎた。 「・・・今更、オレにどう生きろっつーんだ」 「人生」、表現を変えればそれは個人の歴史と言えるだろう。歴史とは 即ち記憶――ならば人生もまた、記憶の集積であるはずだ。そして ギアッチョは、真っ当な人間であった頃の記憶など、とうの昔に捨てて いた。彼の記憶は暗殺者の記憶、彼の人生は暗殺者の人生。それは 殺人を生業とする異常極まりない世界で自己を保ち続ける為の手段で あった。異常な世界で生きるには、それを異常だと感じる原因を 抹消してしまえばいい。ギアッチョはそうして、身も心もその全てを 殺戮に染めていた。 存在する理由を、手段を失くした時、人には何も出来なくなる。 正に暗殺という二文字で成立していたギアッチョの自己同一性は、 今届かぬ蜃気楼のようにその姿を揺らめかせていた。 「・・・オレは暗殺者だ 人殺しだからオレなんだよ」 「それは違うわ!!」 ルイズは怒ったように否定する。 「何が違う?暗殺者っつー事実だけがオレの全てだ オレは殺す為に 生まれ、殺す為に生きてんだ そいつを取り上げりゃあよォォーー オレにゃあ何も残りはしねえ」 「違う・・・そんなことない!!」 吐き捨てるギアッチョに、ルイズは更に語気を強めて遮った。 何かを言おうと同時に口を開いていたギーシュ達は、互いに顔を 見合わせて言葉を飲み込む。今はギアッチョの主に全てを任せて おくべきであろうと思われた。 「そんなことない・・・!ギアッチョはいつもわたしを助けてくれた、 わたし達を導いてくれた・・・あんたが何を否定しても、それだけは 変わらない事実だわ!」 「ハッ・・・そんなもんはおめーら他人が作り上げたただの幻だろーが」 話にならないとばかりに笑い捨てるギアッチョから、ルイズは尚も 眼を逸らさずに言い放った。 「幻で何が悪いのよッ!!」 双眸の深奥まで深く見通すようなルイズの眼差しに、ギアッチョは 再び言葉を失った。 「・・・貴族が、どうして平民の上に立っているか分かる? 魔法が使えるからよ 力ある者は、敵に背を向けてはいけないの 天に授かったその力で、身を挺して弱者を守る者・・・それが 本当の貴族なのよ」 「・・・・・・」 「・・・だけど、わたしは魔法を使えない ねえギアッチョ、 あんた今『殺す為』って言ったわよね それは自分に生きる理由が あるってことでしょう?・・・わたしにはそれがなかった 魔法の使えない貴族に、存在価値なんてない・・・わたしは ずっと叱られ、疎まれ、蔑まれてきたわ ゼロのルイズとは よく言ったものよね・・・誰の役にも立たない、貴族の務めも 果たせない、誰にも必要とされない、生きる理由も意味もない ――わたしは何もかもがゼロだったわ」 凛として己を見つめながらそんなことを言うルイズに、ギアッチョは 眉をひそめる。ルイズの口から、ギアッチョは後ろ向きな言葉など 聞きたくはなかった。半ば話を中断させるように、その口を開く。 「・・・一体何が言いた――」 「だけどッ!!」 それすらも遮って、ルイズはギアッチョに言葉を投げかけた。 「だけどこんなわたしを友達と呼んでくれてる人がいるの!! 彼女達がわたしに抱いている感情は幻だわ、だけどキュルケ達は その為に命を賭けてくれた!!それが悪いことなの!?違うわ、 絶対に違うッ!!」 「・・・ッ」 「・・・ねえギアッチョ わたしを必要としてくれてる人がいる ように、わたしにもあんたが必要なの 暗殺者なんかじゃない、 使い魔でもない・・・ギアッチョという一人の人間が必要なのよ!」 ルイズの叫びは、ギアッチョの心に激しく響き渡った。彼女の言葉、 そのどこにも偽りはないのだろう。だからこそ、ルイズ達はここへ やってきたのだから。だがそれでも、ギアッチョは言葉を返せない。 己に向けられた幾多の信頼に、友愛に応えるべきだとギアッチョは 今そう思えていた。しかし、それでもその口からは言葉が出ない。 暗殺者であることを辞めることは、リゾット達への裏切りではないかと いう思いが、彼の心を縛していた。 『・・・お前は振り向くな 過去に囚われるな』 ルイズの声の残響に合わせるかのように突如リゾットの声が聞こえ、 ギアッチョはハッとして顔を上げる。 『オレ達の影に――縛られるな』 ――・・・そうだったな 誰にも聞こえない声で、ギアッチョは静かに呟いた。 ――迷わねーと誓ったばかりじゃあねーか・・・オレはよォォーー 夢中に聞いたリゾットの言葉は、ギアッチョの迷いを容易く打ち砕いた。 口角を皮肉めかせてつり上げると、ギアッチョはがしがしと頭を掻いて ルイズに向き直る。 「・・・勘当されてもしらねーぞ」 「わたしには家柄なんかより――ギアッチョのほうがよっぽど大切だわ」 応えてくれたギアッチョに向けて、ルイズは吹っ切れたように笑った。 「――で、どうする気なんだおめーら」 静かな玄関前で、彼らは額を寄せ合って会話を交わす。当然の疑問を 発したギアッチョに、代表してキュルケが返答した。 「別に殺すことだけが口封じの手段じゃないわよ?」 キュルケは意味ありげに笑うと、ギアッチョに作戦内容を開陳した。 数分後。全てを聞き終えて、ギアッチョは凶相を面白そうに歪めた。 「おめーらもよォォ~~ 中々えげつねーこと考えるじゃあねーか ええ?」 「だ、だってそれしか手段がないってキュルケが・・・」 渋々といった顔のルイズに眼を向けて、キュルケはしれっと言い放つ。 「あら、他に策がないこともないわよ だけどあんな下衆にはこれで 丁度いいわ」 「ま、違いねーな」 ギアッチョとキュルケは互いを見合わせてニヤリと笑う。不安げな表情の 中に「オラわくわくしてきたぞ」という心境が見て取れるギーシュと 本に眼を落としながらもどこか楽しそうなタバサを見遣って、ルイズは 「もうどうにでもなれ」とばかりに溜息をついた。 ギイと音を立てて、軋んだ扉が開く。打ち合わせもそこそこに、 ギアッチョ達は邸内へと侵入した。その瞬間、 「貴様ら何者だ!」 警備兵の野太い声が響いた。黒装束に身を隠した人間が勝手に侵入して 来たのである。それを見咎めない者などいようはずもなかった。 心臓が飛び出る程に驚いたルイズやギーシュを制して、キュルケは 平然と口を開く。 「あなた、モット伯から何も聞いていないのかしら?私達は"アレ"を 届けに来たのだけれど」 「・・・納入は来週だと聞いているが」 「予定より早く用意出来たのよ 納品は早ければ早い方が、伯爵も お喜びになるでしょう?」 「・・・そういうことなら、こっちだ」 キュルケの言葉をあっさり信じ込み、警備の男はモット伯の部屋へと 先頭に立って歩き始めた。 "アレ"が何かなど、キュルケは勿論知る由も無い。モット伯のような 男ならば、口に出すのも憚られるような禁制の品を取引していたと しても何もおかしくはないと読んでカマをかけたのだった。そんな 品物の配達人なら、身元を隠す姿をしていることに何の問題もない。 そこまでの判断を一瞬の内にやってのけるキュルケに、ルイズ達は 舌を巻いた。 扉の向こう、廊下の方で「ぶがッ!?」という間抜けな声が聞こえ、 一拍置いて何かが倒れるような音。部屋の主には聞こえなかったらしい それら小さな音の後に、今度は扉がコンコンと大きく音を立てる。 モット伯は鬱陶しげに眉をひそめて、やって来たばかりのシエスタに ぶっきらぼうに手を振った。 「出なさい」 「・・・はい」 シエスタはいつもの快活さからは想像出来ない緩慢さで扉へ向かう。 がちゃりと扉を開けて、 「何用ですか?」 言い終わったと同時に、驚きで固まった。 「帰るぞ」 あちこちに巻かれた包帯の上からでもはっきりと分かる、無愛想な 顔の男がそこにいた。 一目会いたかった人が、自分を救いに来てくれた。それが――どれ程 残酷なことか。ここでギアッチョに縋ってしまえば、逃げてしまえば。 彼はきっとモット伯への罪で処断されてしまうだろう。シエスタに そんな選択が出来るわけはなかった。ギアッチョの眼を見ないように 俯いて、シエスタは冷たい声で言い放った。 「・・・お引き取りください」 拒絶の意志を表したシエスタを、ギアッチョもまた冷厳と見下ろす。 彼女の細い肩がか弱く震えていることに気付かないギアッチョでは なかった。 「断る」 「・・・っ」 シエスタは一瞬見せた泣きそうな顔をすぐに正して、ドアの握りを持つ 手に力を込める。 「・・・お引取り、ください」 そう言いながら扉を閉めようとするが、 ガンッ! ギアッチョは素早く片足を滑り込ませてそれを止める。 「断る、って言ってんだろーが」 ギアッチョの断固たる声に、シエスタは半ば諦めたように顔を上げた。 「・・・ダメです、それじゃギアッチョさんが」 「問題はねー オレを信用しな」 「・・・だけど」 尚も抵抗するシエスタを読めない瞳で見つめて一つ溜息をつくと、 ギアッチョは身体を半身にずらした。その後ろに見えた数人の顔に、 シエスタはハッと息を呑む。 「・・・オレで足りねーなら――こいつらの分の信用も足してくれ」 ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモンに ミス・タバサまでがそこにいた。ここに来ることがどれだけ危険か、 彼女達が知らぬわけがない。家名にまで累が及ぶ危険を冒して、 彼女達は自分を助けに来てくれたのだ。それは彼女達の誠実さを、 何よりも雄弁に物語っていた。 「・・・・・・はい」 シエスタはおずおずと頷いた。貴族であっても、彼女達は信じられる。 彼女達の瞳、そのどこにも欺瞞の色などなかったから。 「何だ貴様ら・・・何をしている!!」 突如聞こえた怒号に、ギアッチョ達の視線はシエスタの背後に集まる。 不機嫌さを隠しもせずに、モット伯がそこに立っていた。 「・・・シエスタを頼んだぜ、おめーら」 シエスタの肩を抱いて、ギアッチョは彼女をルイズ達へ押しやった。 そのまま一歩進み出し、黒装束の下の顔を暴かんとするモット伯の 視線を身体で遮る。一連の流れで、モット伯には大体の事情が掴めた ようだった。怒りに顔を歪ませて、モット伯は手元の呼び鈴を乱暴に 鳴らした。 「許さんぞシエスタ・・・ 衛兵!!何をしている、はやくこやつらを 捕えよ!!私は置物に金を払っているつもりはないぞッ!!」 その瞬間聞こえ始めたどたどたという多数の足音に軽く舌打ちして、 ギアッチョはルイズ達に追い払うように手を振った。 「行け」 答える代わりに、タバサはシエスタに向けて何事か呟いた。それを 理解したシエスタとタバサが先頭に立ち、ギーシュを引き連れて 長大な廊下を走り出す。それを追いかけようとするルイズを、 ギアッチョは何の気なしに皮肉った。 「今日はいつもみてーにしつこく念押ししなくていいのか?ええ?」 ギアッチョの背中を向けながら、ルイズは肩越しに顔を覗かせる。 「・・・必要ないもの わたしはあんたを信じてるわ」 そう言い切って刹那笑うと、彼女は今度こそタバサ達を追って走り去った。 「・・・調子が狂うぜ 全くよォォォ」 ギアッチョは頭を掻きながら、ぎゃあぎゃあと何かを怒鳴り散らす モット伯へとキュルケと共に向き直った。 「このような夜更けに・・・薄汚い平民風情がよくも我が楽しみを 邪魔してくれたな」 嗜虐に満ちた表情で、モット伯は呼び鈴を投げ捨てる。 「貴族の前で剣を抜いた平民は、殺されて文句は言えぬ 覚悟は 出来ているのだろうな?」 「剣?オレはそんなもんを持った覚えはねーぜ」 ひょいと両手を上げて、ギアッチョは無手をアピールする。彼の 身体のどこにも、デルフリンガーの姿は見当たらなかった。しかし モット伯はそんなことはどうでもいいといったように哂う。 「分からんか?『どうとでもなる』ということだ・・・特に貴様らの ような身元も知れぬ平民の場合はな 女共なら再利用してやるが、 男に用は無い・・・ここで死ね」 「・・・身も心も腐り切ってるっつーわけか?やれやれ、これで 無くなったな・・・仏心を出してやる理由はよォォォ~~~」 この場にデルフがいれば「ハナっから許す気なんざさらさらねーだろ」と でも突っ込まれそうなセリフを吐いてポキポキと拳を鳴らすギアッチョに、 モット伯は心底愉快そうに下卑た笑いを上げた。 「ぬはははははははッ!!これは面白い!トライアングルの私に、この 波濤のモットに素手で挑もうと言うのかね!ふふふははははは! こんなところで命を賭けた寸劇が見られるとは思わなかったぞ!! もっとも、平民風情がいくら矢弾を持ってこようがこの私に傷一つ つけられはせぬがな!」 「波濤だか佐藤だかしらねーが・・・ごちゃごちゃ抜かしてねーで とっととかかってきなよ ええ?おい オレは出来てるんだぜ・・・ 『覚悟』はいつでもな」 余裕の挑発にピクリと眉を上げかけるが、モット伯は口よりも魔法で 黙らせることを選んで杖を構えた。キュルケが数歩後退すると同時に、 モット伯は杖で空を切る。飾られた花瓶がコトリと倒れ、注がれていた 水が赤い絨毯にぶちまけられた。続けてルーンを唱えると、こぼれた 水は映像を巻き戻すように宙に浮かぶ。細長い水の鞭と化したそれは、 杖の動きに合わせてギアッチョに襲い掛かった。 「便利な魔法じゃあねーか 寝たきりになっても自分で水が飲めるぜ」 「寝るのは貴様よ、ただし土の中でだが・・・なッ!!」 言葉尻に篭った気合と共に、水鞭はギアッチョの右手を打たんと 飛来する。ひょいと手を上げてそれを回避するが、凶器と化した水は 生き物のようにくねり、しつこく右手を追いかける。身体を捻って 避ければ次は左手に襲い掛かり、飛び避ければ今度は右。次は左手、 また左手、右手、左手、右、右、右。水の蛇は執拗にギアッチョの手を 狙い続ける。 「いい趣味してやがるぜ」 モット伯の意図を理解して、ギアッチョは悪鬼の如き表情で笑った。 まずは両手を壊し、次は恐らく両足を狙う。そうして敵を無抵抗に しておいて、後はたっぷり嬲るつもりなのだろう。 「どうやらしっかり教えてやる必要があるらしいな ええ?」 まるでダンスのようなステップで攻撃を躱しながら、喉の奥で笑う。 「てめーが戦ってんのは一体誰なのかを、な・・・」 ギアッチョの纏う空気が――鋭く冷たい刀剣のようなそれに変じた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2719.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ 「そういえば私ここに持ってきたものがあるんだけど」 ももえはルイズに別の世界から来たという証拠を見せるように要求された。 「何よ、これが証拠なの? なんか白い布をかぶった人の体のように見えるけど……」 「まあ大した事ないんだけどちょっと見てみてよ。 ―――余った私の本来の体」 「きゃあああああああ!!!!!」 ルイズは思わず悲鳴を上げた。そこにはあるべきはずの首が無いのである。 なぜか手を振っていた。吐きたくなってきた。 「な、なんでこんな事が………」 「だから昨日から言ってるじゃん。 私ははじめ、悪魔の体を持つ死神から斬られたから存在を肩代わりされちゃったのよ。」 ももえはやれやれとつぶやきながら説明する。 「で、今はその影響で現れた悪魔を追いかけてここに来たんだけど、 このカマで斬られたものの存在を肩代わりするのよ。」 すると、ももえは突然窓に目を向けた。 「最も肩代わりするのは斬られた者の"部分だけ"だから残りも当然あるわけで…… ほら、あそこに首だけある火とかげとか名前も知らない上級生が朝の散歩を 「いやぁぁぁぁあああああああ!!!!」 秋休み突入記念「ゼロの使い魔死神フレイム二年生ももえサイズ」 ルイズとももえはなぜかトリステインの城下町にいた。 他の二年生達は今頃新しい使い魔を連れて授業を受けているはずだ。 「なぜ、私達だけ『虚無の曜日』なのですか!?」 朝食後に教科書を取りに行こうと部屋に戻ったらそこに禿教師のコルベールがいて 町にでも行ってももえの服を買いにでもいけばいいと言われて、お金を押し付けられた。 もっとも、ももえに服が一着も無いのは事実だ。 あんな恥ずかしい衣装を着た使い魔を連れまわすのはルイズにとっては恥ずかしいことだった。 「まったく、私達だけ『虚無の曜日』だなんて学院長も勝手なことをするものね………」 「まあ、私のいた世界でも自主休講っていう似たようなのがあったし別に気にしてないけどね。」 ???ものしり館??? ※自主休講【じしゅきゅうこう】 自らの意思で学校の授業を取りやめてしまうこと。 類義語:「エスケープ」「サボタージュ」「俺、自宅警備の仕事やるから」 ちなみに『無印ももえ』でのももえは学校の存在そのものを忘れていたので論外である。 また今回の場合無理やり休まされているのでそういう意味でも論外である。 「気にしなさいよ! あんたのせいでこんな事になったんでしょうが!!」 ルイズは人通りの多い城下街で激昂した。 ももえは話を聞くのが苦手らしくあっちをフラフラ、こっちをフラフラとしていた。 「ねえねえこの服買ったけどいいよね?」 「誰が勝手に買っていいっていったのよ! しかも私のお金勝手に使ったでしょ!!」 『ももえはお嬢様だからお金の心配とかはあまりしない性格なのだ!』 「いいの、いいのー 気にしないでー」 「って、それ私の台詞でしょうが! だいたい人のお金使っておいてそんな台詞口が裂けても言わないわよ!」 ルイズは周りからの好奇の視線の痛さを避けるのとももえが勝手にお金を使わないかを見張るのとでへとへとになっていた。 ようやくルイズは人通りの少ない通りに抜けるとももえにある事を命令した。 「そのカマはもう使っちゃだめ。」 「えー?」 ルイズの突然の宣告に当然ながら反抗するももえ。しかし、ルイズには考えがあった。 「代わりに新しい武器を買ってあげるわ」 ルイズ達が来たのは大通りから少し外れた武器屋である。 しかし本来ルイズはここに来るつもりは全く無かった。ももえがここで足を止めて動こうとしなかったためである。 「ここに悪魔がいるのよ。」 困ったのは武器屋の店主だ。 変な衣装を着た女の子がそんな事を言うものだから誰も店に近づこうとしないのだ。 「全く………これじゃあ商売にならないじゃないか。これでその悪魔とやらが居なかったら………」 「とりあえずここで売られている武器を見させてもらえるかしら? 気に入ったのがあれば買うから。」 仕方なくルイズはそうフォローした。それを聞いた店主はしぶしぶすべての武器を取り出してももえの前に差し出した。 「まだ見せてないのがあるでしょ。いいから早く見せなさいよ!」 なぜかいらだっていたももえはカマを振り回しながら店主を脅した。 店主は残っていたぼろぼろの剣を取り出した。すると 「おい、何しやがる! 俺は見せしめなんかじゃn ももえのカマが躊躇無く振り下ろされる。思わず店主はそれを手にした剣で受けた。 ガキィン! そんな音が響き渡った刹那、ぼろぼろの剣は無残にも崩れ落ちた。 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 「おでれーたー! 剣と同化した使い魔なんて初めて見たぜ!」 ももえの半径3メートル以内の人物が驚きのあまり跳ね上がった。 「いたぞー! こっちだー!!」 声がしたかと思えばいつの間にかルイズ達は囲まれていた。 「おい小娘! 俺達の商品を勝手にパクっといてのんきにお買い物とはいいご身分ですなぁ、オイ。」 「全くだ。大人を誑かしおって………きっちり体で返してもらうからな!」 「ぐへへへへへ………くぁいいおんにゃのこが二人も、ふふふふふふふ…………」 追いかけてきたのは服屋、貴族、変質者などがそろった大人一同であった。 ルイズはももえを甘く見ていた。 ももえは元からルイズのお金を使ってなどいない。お金を使わずに物を盗ったのである。 「いやだから気にしないでって……えーっとあんたの名前何だったっけ」 「そっちの方が問題でしょうがぁ!!! あと私の名前はルイズよ! 三文字の名前すら覚えられないってどういう事よ!」 『ももえは人の名前を覚えるのが苦手なのだ!』 「いや、だから覚えるのが苦手っていっても限度ってものが 「大丈夫。」 ももえはルイズを後ろに下げ、十数名はいる大人達と対峙した。 「ルイス、後は任せて。」 「いやだから私の名前はルイ 「うおりゃああああああああ!!!!」 手にした武器を持って大人たちがよってたかって押し寄せてきた。 「…………」 精神を集中させたももえはカッと目を見開いた。ももえの全身が光りだす。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 ももえは体をくるくると回転させる。 「人間回転切りぃ!」 『デルフリンガーの能力』 「ぐわああああああ!」 ルイズは、ももえの体に当たった大人たちが血しぶきを上げながら倒れていく大人たちを見てしまった。更にももえの攻撃は続き、 「人間滅多切りぃ!」 「人間急所切りぃ!」 「人間MVソード!」 ???ものしり館??? ※MVソード【えむぶいそーど】 アニメ「スカイガールズ」の桜野音羽が操るソニックダイバーが使っている武器の名前。名前のとおり剣のような形をしている。 剣を振ることで衝撃波を発することが出来、敵に止めをさすのに非常に有効。 ただし対象相手が巨大なもののため人間相手に使うのはかなりの規格外いじめプレイとなる。 動く殺人兵器と化したももえは周りの人間をばったばったと切りまくり大人たちを全滅にまで追い込んだ。 しかし、ももえが元に戻ったそのとき後ろから最後の力を振り絞って変質者が襲い掛かってきた! 「死ねやぁああああああああああ」 「死神レーザー!!!」 突如ももえの体から光線のようなものが発射されて変質者を跡形も無く焼き尽くした。 恐怖に戦慄く武器屋の店主をよそに、ひょっとしてこの使い魔ってかなり使えるんじゃないか?と考えていたルイズであったのだが 「あーっ!!! ルイズったらこんなところにいたのね。」 声がするほうに顔を向けるとそこにはキュルケとその友人のタバサが風竜のシルフィードに乗ってここまで追ってきたのだ。 「おーい、モモエちゃーん!」 キュルケが上空からももえに声をかけたその瞬間 「サイズラッガー!」 ギュルルルルルルル、ザシュッ。 シルフィードの首が飛んだ。そしてそのままキュルケとタバサは落下していく。 「キュルケーーー!!!!」 ルイズは叫んだ。しかし、無常にもキュルケとタバサはただただ落下していく。 思わずルイズは目をつぶった。しかし、何も物音がしないのを不審に思って目を開けてみると、 「あ」 「いやー あんたが授業サボって町に繰り出してるって聞いたからついてきちゃったわ。」 「あの、授業はサボってなくて 「あら? 別に言い訳なんてしなくてもいいのよ? 人間誰しもサボりたいときはあるんだから」 「だから、今日は『虚無の曜日』だからって学院長が 「あらあら? 自分のサボりを人のせいにするなんてあなたらしくないわね。ミス・ヴァリエール。 それにその言い訳面白いわね! 今度サボる言い訳で使わせてもらおうかしらね。」 ももえの背にキュルケとタバサが乗っていた。タバサは愛しげにももえの頭をなでていた。 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 「それの乗り心地ってどうなの?」 「うん、とっても気持ちいいわよ。 ちょうどいいからルイズもこれに乗って帰る?」 ルイズは思わず首を横に振った。 ※おわり これまでのご愛読、ご支援ありがとうございました。 ※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神フレイムデルフリンガーシルフィード二年生ももえサイズ」に乞うご期待!!! 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8874.html
前ページ次ページゼロの使い魔BW 身体を揺さぶられて、目が覚めた。 目を開いたら、見慣れぬ格好の少年がこちらを見下ろしていて、思わず叫んだ。 「だ、誰よあんた!」 「……ツカイマだよ、ゴシュジンサマ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 窓から朝の日差しがさんさんと降り注いでいる。ルイズは寝台の上でうーんと伸びをすると、椅子にかけてあった服を指して命じた。 「取ってくれる?」 使い魔の少年は無言で頷くと、服を取ってルイズに手渡した。 寝起きのけだるさのままネグリジェに手をかける。途端にくるりと背を向ける辺り、この使い魔にも一応年頃の少年らしい部分もあるらしい。 「後、下着も――そこのクローゼットの一番下に入ってるから、取って」 彼はクローゼットを開けると、ぎくしゃくとした動きで下着を取り出す。と、そこで完全に停止した。 なにを考えて止まったのかが分かって、ルイズは呆れた。別に、使い魔に見られたところでどうということもないのだが、彼は動きそうにもない。 「……投げてくれていいわよ」 飛んできた下着は、過たずルイズの手元に納まった。見えてるんじゃないかと思うようなコントロールである。むしろ見てるんじゃないかと思って使い魔に目をやるが、完璧に背を向けていた。 服を着させるところまでやらせようと思っていたが、やめた。無駄に時間がかかるのは分かりきっている。下手をすれば、朝食を食べそこなうことにすらなりかねない。 壁を向いて硬直している使い魔を横目に、ルイズはこれまでのように着替え始めた。 身支度を済ませたルイズたちが廊下へ出ると、ちょうど近くの扉が開くところだった。 中から出てきたのは、燃え上る炎のような赤い髪の女の子だ。 ルイズよりも背が高く、スタイルも良い。彫りの深い美貌に、突き出た胸元、健康的な褐色の肌、と街を歩けば十人が十人振り返るような容姿だった。 だが、その顔を見た途端、ルイズは不機嫌そうな顔になる。赤い髪の少女がにやりと笑った。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 むっつりとした表情のまま、ルイズは挨拶を返す。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 寡黙に控えている少年を指さしての問いに、ルイズは短く答えた。 「あっはっは! 本当に人間なのね! さっすが、ゼロのルイズ」 「うっさいわね」 無愛想に返答するルイズを横目に、キュルケは少年を観察する。 「中々可愛らしい顔してるじゃない。あなた、お名前は?」 「なに色惚けたこと言ってんのよ。あと、名前を聞いても無駄よ。そいつ、記憶喪失だから」 「それは残念。……だけど、記憶喪失、ねぇ。それは元から? それとも、ルイズのせいかしら?」 その指摘に、目の前の勝気な少女が言葉に詰まったのを見て、キュルケは頷いた。 「なるほどねえ。――それじゃ、あたしも使い魔を紹介しようかしら。フレイムー」 キュルケが呼ぶと、背後の扉の中から赤い巨大なトカゲが現れた。大型の獣並みの体躯に、真紅の鱗。尻尾の先は燃え盛る炎となっていて、口からもチロチロと赤い火が洩れている。 「……リザード?」 熱気を物ともせずにそれに見入っていたルイズの使い魔が、ここで初めて声を上げた。 「りざーど? これは火トカゲよ」 「ヒトカゲ?」 首を傾げて言ったルイズの使い魔に、キュルケは微笑みかける。 「なんか発音がおかしい気がするけど、そうよー。火トカゲよー? しかも見て、この大きくて鮮やかな炎の尻尾。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんてつかないわ」 「そりゃよかったわね」 ルイズが無愛想に答えた。 「素敵でしょ? もう、あたしにぴったりよね」 「あんた、『火』属性だしね」 「そう。あたしは微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは得意げに、その男であれば視線を釘付けにされそうな胸を張った。 ルイズも負けじと胸を張るが、残念ながらボリュームの違いは明白だった。それでもキュルケを睨みつける辺り、かなりの負けず嫌いらしい。 「あんたみたいにむやみやたらと色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」 キュルケは余裕の笑みを浮かべて、その言葉を受け流す。そして颯爽とこの場を後にしようとして、使い魔のサラマンダーが居ないことに気づいた。 「あら? フレイムー?」 「わたしの使い魔も居ないわ。……まさか、あんたのサラマンダーに食べられちゃったんじゃ」 「失礼ね。あたしが命令しなきゃ、そんなことしないわ。……あ、居た」 ルイズとキュルケが言い争っていた場所から少し離れたところに、二人の使い魔は揃っていた。二人が喧嘩している間に、使い魔は使い魔で親睦を深めていたらしい。 少年は、慣れた手つきでサラマンダーを撫でてやっている。撫でられているほうも、妙に落ち着いた様子で彼の手のひらを受け入れていた。 キュルケが目を丸くする。 「あらま。確かに、誰彼構わず襲うような子じゃないけど、誰彼構わず懐く子でもないのに」 「あんたのことを見習ったんじゃないの?」 「どういう意味よそれ。……まあ良いわ。それじゃ、お先に失礼。行くわよフレイムー」 呼ばれて、サラマンダーが動き出す。図体に似合わないちょこちょことした足取りでキュルケの後を追うが、少し行った先で少年のほうを向くと、ぴこぴこと尻尾を振った。 少年も微笑んで、手を振って返す。 一連の流れを見ていたルイズが、少年の頬をつねりあげた。 「……いふぁい」 「いーい? あの女はフォン・ツェルプストー。わたしたちヴァリエール家にとっての、不倶戴天の敵なの。だから、ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くしちゃダ、メ、よ?」 「ふぁい」 一音ごとに頬をねじり上げるようにして確認され、少年は涙目で答えた。 トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいて、それぞれに少年少女が座っている。 ルイズは、黒いマントをつけた生徒が並ぶ真ん中のテーブルへと向かった。 ここに使い魔を連れてくるのには非常に苦労した。なんせ他の使い魔を見るたびに、吸い寄せられるようにそっちに行こうとするのである。首輪と縄が必要かしら、とルイズは思った。 その使い魔は、豪華な食事が並べられたテーブルや、絢爛な食堂をきょろきょろと見回している。その顔に少なからぬ驚きを見て取って、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。昨日も説明した通り、メイジのほとんどは貴族。だから、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けるの。この食堂も、その一環ね」 「すごいね」 素直に驚きを示す使い魔に、椅子を引くように促す。本来なら「気が利かないわね」ぐらいは言ってやりたいところだが、記憶喪失では致し方ない。 椅子についてから、ルイズは考えた。この使い魔がもう少し反抗的であれば、床ででも食べさせるつもりであったが、今のところは特にそういった気配はない。 現在も自分が座るべき席ではないと理解しているためか、脇にじっと佇んだままである。 しばらく逡巡した後、ルイズは近くに居た使用人の一人を呼びとめた。 「ちょっと、そこのあなた」 「はい、なんでしょうか。ミス・ヴァリエール」 呼びとめられた黒髪のメイドに、脇の使い魔を指して見せる。 「こいつに、なにか食べさせてやって頂戴」 「分かりました。では、こちらにいらしてください」 「食べ終わったら戻ってくるように」 ルイズの言葉にやはり頷くと、使い魔は促されるままにメイドについて行った。 「もしかしてあなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 行きがてらにそう問われて、少年は頷いた。目下のところは、彼の唯一の身分である。 「知ってるの?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって噂になっていますわ」 にっこりと笑って、黒髪のメイドは答えた。屈託のない、野の花のような笑顔だ。 「君もメイジ?」 「いいえ。私はあなたと同じ平民ですわ。貴族の方々をお世話するために、ここで御奉公させていただいているんです」 どうやら自分と同じような立場らしい。納得すると、彼は黙り込んでしまった。 記憶がないというのは、話題がないというのに等しい。訊きたいことは山ほどあったが、彼女は仕事中だったようだし、あまり時間を取らせるわけにもいかないだろう。 そんな考えからなる沈黙だったが、どうやらそれは少年を気難しく見せていたらしい。しばらくは静かだった黒髪のメイドが、いかにも恐る恐るといった様子で口を開いた。 「……えっと、私はシエスタです。あなたのお名前を訊いても良いですか?」 少年はそれに黙ったまま首を振る。しかし、不味いことでも訊いてしまったのだろうかと狼狽するシエスタを見て、言葉を続けた。 「名前は分からないんだ。記憶喪失だから」 「キオクソウシツ……って、あの、記憶がなくなっちゃうあれですか?」 頷くと、シエスタの視線が途端に同情的になった。少年を上から下まで眺めまわして、はう、とせつなげな溜息を洩らす。 「大変だったんですね……」 そうだったんだろうか。そうだった気もするが、今のところは大したことがない気もする。だが少年がなにか答える前に、彼女はいきなり彼の手をギュッと掴むと、引っ張り始めた。 「なるほど、そいつは大変だ」 コック長のマルトー親父は、シエスタの話(学園内で出回っている噂を少し盛った上で、記憶喪失であるという事実を付け加えたもの)を聞くとうんうんと頷いた。 「やっぱりそうですよね、マルトーさん!」 「記憶を失くした上に、あの高慢ちきな貴族どもの下働きだろ? しかも、こういう仕事を選んでやってる俺たちと違って、強制的にだって話じゃねえか。いやあ、災難だな、お前さん」 二人で完全に盛り上がってしまっている。展開について行けず途方に暮れそうになったところで、少年のお腹がぐう、と鳴った。 「おっと、悪かったな。シエスタ、賄いのシチューを持ってきてやれ。俺は戻らにゃならん」 「はい、わかりました!」 少年を厨房の片隅に置かれた椅子に座らせると、シエスタは小走りで厨房の奥へと消えた。 マルトーもまた、背を向けて調理場へと向かう。が、ふと振り向くとニッと笑った。 「同じ平民のよしみだ、なにか困ったことがあったらいつでも相談してくれ」 「ありがとう。いざって時には頼りにさせてもらいます」 少年が礼を言うと、マルトーは「良いってことよ」と大笑いして去って行く。 入れ違うように、シエスタがシチューの入った皿を持って戻ってきた。目の前に置かれたそれをスプーンで掬って、口に運ぶ。思わず顔がほころんだ。 「おいしい」 「よかった。おかわりもありますから、ごゆっくり」 思った以上に空腹だったことに気づく。丸一日ばかり食べていないような、そんな感じだ。 夢中になって食べる少年を、シエスタはニコニコしながら見ている。 仕事中だったのに大丈夫なんだろうか、なんて思うが、食堂には彼女のようなメイドが沢山いたし、一人ぐらい抜けても問題ないのかもしれない。 「ごちそうさま。おいしかったよ」 「ふふ。ぜひ、マルトーさんにも言ってあげてください。喜びますから」 食べ終わって皿を返すと、シエスタは微笑んでそう言った。そして皿を片づけるために立ち上がりざま、そういえば、と彼の顔を見る。 「えっと、なにか分からなくて困ってることとかあります?」 「……それなら、洗濯物のことなんだけど」 なるほど、とシエスタが頷く。 「ああ、そうですよね。水汲み場とか分かりませんよね」 「それもあるんだけど、ここでのやり方もイマイチ分からないから、教えてもらえると助かる」 彼の常識は、洗濯物には洗濯機を使え、と言っている。使い方も分かる。しかし同時に、それがここにはないだろうということもなんとなく分かっている。 昨晩のルイズとの会話と、今日見て回った学内の様子から、自分の常識の欠落は記憶喪失から来るものではないことに、少年はうすうす感づいていた。 「洗濯のやり方なんて何処でも同じ気がしますけど、わかりました。今からご案内しても良いんですが、ミス・ヴァリエールに『戻ってくるように』って言われてましたよね」 確かに、「食べ終わったら戻ってくるように」と言っていた。 「それじゃ、お昼もまたこちらで取られるでしょうし、その際にでも」 「よろしくお願いします」 心からの感謝をこめてお辞儀をすると、シエスタはウインクして答える。 「マルトーさんも言ってましたけど、同じ平民のよしみ、です。いつでも頼ってくださいね」 魔法学院の教室は、石造りのやはり巨大な部屋だった。生徒が座る席は階段状に配置されており、その中央最下段に教師が立つ教壇がある。 二人が入ると、先に教室に来ていた生徒たちが一斉に振り向いた。そしてくすくすと笑い始める。 だが、ルイズにそれを気にしている余裕はなかった。今日は学年最初の授業ということで、大抵の生徒が使い魔を連れている。そんな場所に少年を放りこんだらどうなるか。 早くもふらふらと引き寄せられそうになった彼の襟元を、がっしと掴んで引きずりつつ、ルイズは席の一つへ向かった。本格的に、首輪と縄が必要かもしれない。 席の近くの床に少年を座らせる。机があって窮屈なのは気にならないらしいが、周囲の使い魔を見てそわそわしている。 ふと、少年が使い魔のうちの一体――浮かんだ巨大な目の玉を指さして言った。 「アンノーン?」 「違うわ。バグベアーよ」 「チョロネコ?」 「あれは単なる猫じゃない。チョロってなによ」 「アーボ?」 「あれは大ヘビ……一体、その名前は何処から出てきてるのよ」 ルイズが呆れたように言ったところで、教室の扉が開いて一人の魔法使いが入ってきた。 ふくよかな頬が優しげな雰囲気を漂わせている、中年の女性だ。紫色のローブに、帽子を被っている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 「おや? ミス・ヴァリエール、使い魔はどうしました?」 床に座った少年は、教壇からはちょうど死角になっていて、彼女からは見えないらしい。 シュヴルーズが問いかけると、ルイズの近くに座っていた少年が声を上げた。 「ゼロのルイズ! 召喚出来ずにその辺の平民連れてきたからって、恥ずかしがって隠すなよ!」 その言葉に、教室中がどっと笑いに包まれた。 ルイズは椅子を蹴って立ち上がった。長い髪を揺らし、可愛らしく澄んだ声で怒鳴る。 「違うわ。ちゃんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』に失敗したんだろう?」 ゲラゲラと教室中が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『かぜっぴき』のマリコルヌが私を侮辱したわ!」 「かぜっぴきだと? 俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」 同じく椅子を蹴って立ち上がったマリコルヌに向けて、ルイズが追撃を放つ。 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 次の瞬間、立ち上がった二人は揃って糸の切れた人形のようにすとんと席へ落ちた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 席に座ったルイズは、先ほどの剣幕が嘘のようにしゅんとしてうなだれている。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだのと呼んではいけません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の『かぜっぴき』は中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」 教室にくすくす笑いが広がった。 シュヴルーズは厳しい顔をすると、ぐるりと教室を見回し一つ杖を振った。するとどこから現れたものか、笑っていた生徒の口元に赤土の粘度が貼り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 くすくす笑いがおさまった。 「それでは、授業を始めますよ」 少年は授業にはあまり興味がなかった。彼の注意はもっぱら他の使い魔に向けられていたが、属性の話が出た時は少しだけ耳をすませた。 現在は失われた『虚無』の魔法を含めて、魔法の属性は五種類あるらしい。彼の感覚からすると、五つの属性――タイプというのは、酷く少なく思えた。 もっとこう『はがね』だとか『エスパー』だとか『あく』だとかがあって良い気がする。もっとも、単に彼の感覚の方が細分化されている、というだけのことかもしれないが。 そんなことを考えたり、周囲の使い魔を観察していたりすると――。 「それでは、この『錬金』を誰かにやってもらいましょう。そうですね……ミス・ヴァリエール」 不意に指名されたルイズは、びくっと肩を跳ねさせると、シュヴルーズに問い返した。 「えっと、私……ですか?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 そうやって教壇を指し示されても、ルイズは動かない。痺れを切らしたシュヴルーズが更に促そうとしたところで、キュルケが困った声で言った。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方が良いと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケが言い切った。ほとんどの生徒もそれに頷く。 「危険? 一体、なにがですか」 「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。ですが、彼女が努力家であるという事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、なにもできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言う。しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 言って、若干硬い動きで教壇へと向かう。通路に乗り出すようにして、少年はその背中を見送った。 教壇に上ったルイズに、シュヴルーズが隣に立って微笑みかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと可愛らしく頷く。そして緊張した面持ちで小石を睨みつけると、神経を集中した。 同時に、少年は周囲の生徒たちが、彼と同じように机の影に隠れるのに気付いた。なんでだろうと思う間もなく、短いルーンと共に、ルイズが杖を振り下ろす。 瞬間、小石は机もろとも爆発した。 爆風をもろに受けて、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられた。悲鳴が上がる。 驚いた使い魔たちが暴れ始めた。 眠りを妨げられたキュルケのサラマンダーが火を吹き、尻尾をあぶられたマンティコアが窓を突き破って外へ逃げ、その穴から巨大な蛇が顔を出して誰かのカラスを飲みこんだ。 教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる。髪を乱したキュルケが、ルイズを指して叫んだ。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「ラッキーが! 俺のラッキーがヘビに食われた!」 黒板の前にシュヴルーズが倒れている。時々痙攣しているので、死んではいないようだ。 煤で真っ黒になったルイズが起き上がった。服装は悲惨極まりない。上も下もところどころ破れていて、隙間から下着が覗いている。 だが、ルイズは自身の惨状も教室の阿鼻叫喚も気にしない様子で、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗したみたいね」 当然、他の生徒から猛然と反撃を喰らう。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 爆風で吹き飛ばされた帽子を拾いつつ、少年は一人、すごい『だいばくはつ』だったなと頷いていた。 「おふっ……ミス・ロ……ング、ビル……やめて、やめ……お、おち、る……」 ルイズが教壇を吹き飛ばし、それの罰として掃除を命じられている頃。 この魔法学院の学園長であるオールド・オスマンは、秘書にいつもよりも酷いセクハラ行為――尻を両手でじっくり三十秒ほど捏ねまわすように揉んだ――に及び、いつもよりも苛烈な報復を受けていた。 首を絞められ、今にも気を失いそうなオールド・オスマンに対し、ミス・ロングビルは無表情でチョークスリーパーをかけ続けている。 そんなちょっとした命の危険は、突然の闖入者によって破られた。 「オールド・オスマン!」 荒っぽいノックに続いて、髪の薄い中年教師――コルベールが部屋に入ってくる。 その時には既に、オールド・オスマンもロングビルも自分の席へと戻っていた。早業である。もっとも、オスマン氏は酸欠気味で、頭をふらふらと揺らしていたが。 「なん、じゃね?」 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 ようやく脳に酸素が戻ってきたらしきオスマン氏は、コルベールの焦りに鼻を鳴らした。 「大変なことなどあるものか。全ては些事じゃ。……ふむ、これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。こんな古臭い文献など漁りおって。そんなものを持ちだしている暇があったら、たるんだ貴族たちから学費を上手く徴収する術でも考えたまえ。ミスタ……なんじゃっけ?」 「コルベールです! お忘れですか!」 「おうおう、そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかん。……で、この書物がどうしたのかね?」 「これも見てください!」 コルベールが取りだしたのは、少年の右手にあったルーンのスケッチであった。 それを見た瞬間、オールド・オスマンの表情が一気に引き締まり、目が鋭い光を放つ。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ロングビルが席を立ち、部屋を出ていく。それを見届けると、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズが滅茶苦茶にした教室の掃除が終わったのは、昼休みの前だった。 罰として魔法を使うことが禁じられていたため、時間がかかったのである。といってもルイズはほとんど魔法が使えないから、余り変わらなかったが。 ミセス・シュヴルーズは二時間後に目を覚ましたが、その日一日錬金の授業を行わなかった。どうやらトラウマになってしまったらしい。 片づけを終えたルイズと少年は、食堂に向かった。昼食を取るためである。 道すがら、少年は先ほどの光景を思い返していた。何故か、『わるあがき』という言葉が浮かんで消える。 次にちょっと間抜けな顔をした大きな魚が出てきて、最後に巨大な龍が脳裏をよぎった。 その余りの脈絡のなさに、自然と苦笑が漏れる。それを見とがめたルイズが、少年を睨みつけた。 「……あんたも」 「?」 「あんたもわたしを馬鹿にしてるんでしょ!? 貴族だなんだと散々言っておいて、その実はなにも出来ない、『ゼロ』であるわたしを!」 そんな叫びは、少年のきょとんとした表情によって迎えられた。作ったものではない。心の底から、なにを言われているか分からない、と思っている顔だ。 それを見た瞬間、毒気も怒りも、全て雲散霧消してしまった。 沈黙したルイズを見て、少年はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。 「……使い手と『わざ』には相性がある」 「ふえ?」 「どれだけ強い力を持っていても、相性の悪い『わざ』は使えない。今のゴシュジンサマは、相性の良い『わざ』がない状態なんじゃないかと思う。だから、『わるあがき』しかできない。……けど、それでもあれだけの力があるんだから、適正のある『わざ』ならすごい威力になるんじゃないかな」 突然饒舌になった使い魔に、ルイズはしばらくぽかんとしていたが、それが彼の不器用な慰めだと気づくと、くすりと笑った。 それに、こいつの考え方は面白い。これまで失敗してきた『わざ』――魔法を使えるように努力するのではなく、相性の良い魔法を探す。 今までも色々な魔法を試してはきたが、もっと色々と、それこそ普通は思いもしないようなものまでやってみるのも悪くないかもしれない。 ただ、今は――。 「……『わるあがき』ってなによ」 「えっ? ええと、うんと……なんなんだろう」 「ご主人様にそういうこと言う使い魔は、お昼ご飯抜きにしちゃうわよ?」 慌てる少年にルイズはくすくすと笑うと、先ほどより明らかに軽い足取りで、食堂へと向かった。 前ページ次ページゼロの使い魔BW
https://w.atwiki.jp/19940910/pages/37.html
リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名 リンク名
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1479.html
軽い自己紹介を終えてから、ルイズとワルド、それにギアッチョはウェールズの 先導で「イーグル」号の船長室にやってきた。ウェールズの対面にルイズと ワルドが腰掛け、ギアッチョは少し離れて壁に背を預ける。キュルケ達が同席 出来ないことに若干の罪悪感を感じながら、ルイズはまずアンリエッタが 自分に預けたウェールズへの手紙を取り出した。しかしウェールズに手紙を 差し出そうとして、ルイズはピタリと動きを止める。 「・・・あ、あの」 「なんだね?」 「・・・無礼を承知でお尋ねしますが、その・・・本当に皇太子様でしょうか」 恐る恐る尋ねるルイズに、ウェールズは笑って答えた。 「その疑問はもっともだ 僕は正真正銘、本物のウェールズ・テューダーだよ ・・・そうだね ラ・ヴァリエール嬢、右手を出してごらん」 言われるままに、ルイズは右手を差し出す。その指に光る指輪は、忠誠に 報いる為にアンリエッタがルイズに与えた「水のルビー」であった。ウェールズは 己の右手に嵌る指輪を外すと、そっとルイズの手を持って指輪同士を近づける。 その瞬間、ウェールズの指輪を飾る宝石と水のルビーの宝石が共鳴を始めた。 二つの宝石から放たれた二色の光は、互いと緩やかに絡み合って世にも美しい 虹色の光を振りまいた。 「・・・・・綺麗・・・」 「この指輪は、我がアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ 君のそれは、 アンリエッタが持っていた『水のルビー』だね?」 柔らかいまなざしで水のルビーを見つめるウェールズに、ルイズはこくりと頷いた。 「水と風は、虹を作る 王家の――そして国家の間に架かる虹さ」 ウェールズはにこりと微笑んで言うと、疑った非礼を詫びるルイズを手で制する。 「いいんだラ・ヴァリエール嬢 このような状況であれば、疑ってかかるのは 大使として当然のことだよ それに、僕達は最後の客人に気を使って欲しくなど ないんだ ラ・ヴァリエール嬢、ワルド子爵・・・そして使い魔の青年、ギアッチョ どうか楽にして欲しい それが――我々への、一番の手向けでもある」 ――戦況が悪いだとかそんなレベルじゃあねーらしいな 壁にもたれたギアッチョは、腕を組んでウェールズを観察する。しかし彼に 怯えた様子は微塵も見当たらなかった。ただのボンボンではないらしい、と ギアッチョは考える。 「姫様からの密書にございます」 ルイズは一礼して、アンリエッタからの手紙をウェールズに渡す。 ウェールズはルイズから手紙を受け取ると、愛おしそうに花押に口づけした。 折り目一つつけないように丁寧に封を開き、便箋を静かに取り出す。 真剣な眼で文字を追って、ウェールズは顔を上げた。 「・・・結婚するのか アンリエッタは・・・私の可愛らしい、従妹は」 その口調にどこか寂しげなものが感じられ、ルイズは何も言えずに頭を 下げた。 最後の一行まで手紙を読み終えて、ウェールズは微笑んだ。 「委細了解した 姫はとある手紙を返して欲しいと従兄の私に告げている 何より大切なアンリエッタからの手紙だが――彼女の望みは私の望みだ 喜んでそのようにさせてもらうよ」 ルイズはほっとしたようなどこか物悲しいような、複雑な表情で顔を上げた。 「しかしながら、あれは今手元にはない ニューカッスルの・・・我ら王国軍の 最後の牙城にあるんだ 姫の手紙を、空賊船などに『連れて来る』わけには いかぬのでね」 ウェールズはそう言って笑うと、手紙にすっと指を滑らせた。 「足労をかけてすまないが、ニューカッスルまで同乗してくれたまえ 何、明日の戦が始まるまでには君達を帰すことが出来るだろう」 少し話があるらしくウェールズと二人で船長室に残ったワルドを置いて、 ルイズとギアッチョは退出した。とりあえずすべきことが終わって、ルイズは 甲板へ向かう通路を歩きながらほっと溜息をつく。大使としての緊張感が 解けて素の自分に戻ったルイズは、そこではっと思い当たった。状況が 状況だったのでさっきの騒動以来ギアッチョと口をきいていなかったが、 ひょっとしてギアッチョは怒っているのではないだろうか。自分達の命も 顧みず、空賊にまるで喧嘩を売るような――というか完全に売っていた ――真似をしてしまったのだ。フーケと戦った時にギアッチョに言われた ことを何一つ理解していないと言われても仕方がないだろう。そして、 ならばギアッチョはきっと自分に説教をするはずだ。今までは空気を 読んで黙っていたのだとすると、ひょっとしてそろそろ―― 「・・・おい」 「は、はいっ!?」 来た。やっぱり来た。思わず敬語が出てしまい、ルイズは軽く自分が 情けなくなった。つーっと冷や汗が流れる。ギアッチョに怒られるのは やっぱり少し・・・いや、かなり恐い。「しっかりしなさいルイズ」と彼女は 心中自分に言い聞かせる。ギアッチョが人間だろうと自分より年上で あろうと、自分は彼の主人なのだ。身分だとか上下関係だといった ものを主張する気など毛頭ないが、しかし主人であるからには使い魔に 対しては毅然とあらねばならないとルイズは思う。魔法を使えない自分 だからこそ、せめて振る舞いだけは堂々としていなければならない。 そうでなくては、自分などに召喚されてしまったギアッチョにも申し訳が 立たない。 己の心に棲みつくどうしようもない劣等感に蓋をして、ルイズは堂々たる 所作でギアッチョを見上げた。例え怒りを受ける身であろうとも、毅然と してそれを迎え入れるべきだとルイズは考える。コホンと一つ咳をして、 「・・・何かしら?」 彼女は極力余裕を持たせてそう言った。 ギアッチョはルイズを見て何かを考え込んでいるようだった。声を掛けて おきながら何も言おうとしないギアッチョにルイズの不安は加速度的に 重さを増してゆく。しかしルイズはギアッチョから眼を離さなかった。 内心の不安を押し隠すべく無理に表情をなくそうとして逆に殆ど睨む ような形になってはいるが、ともかくルイズは退かなかった。「来るなら 来なさいよ!」と、心中まるで戦でもするかのように呟く。こうであると 決めたルイズの意志は、時として鋼よりも固かった。 思考を止めたものか纏めたものか、やがてギアッチョは何だかよく 分からない顔でルイズに向き直った。 ――来た・・・ッ! ルイズはかかってきなさいと言わんばかりにギアッチョを睨む。 ギアッチョはいつも以上に読めない表情でスッと右手を上げると、 わしわしと、ルイズの頭を乱暴に撫でた。 「ふええぇっ!?」 ギアッチョの有り得ない行動に、鋼鉄のはずのルイズの意志はあっさりと 砕け散った。厳然たる言葉を紡ぐはずの口から生まれて初めて出した のではないかというほどに情けない声が飛び出て、頭上の手と己の声の 相乗効果でルイズの顔は湯気が立たんばかりに茹で上がった。 「なッ、な、な、ななな――!?」 動揺ここに極まれり。せめて言葉の一つも出ればまだなんとか取り繕う ことも出来たかもしれないが、現実は非情であった。ルイズはギアッチョに 錯乱でもしたのかと問いたかったが、今この場で一番錯乱しているのは 誰がどう見てもルイズ自身である。ギアッチョはルイズを差し置いて よく分からんといった表情をすると、彼女を見下ろして声を掛けた。 「よくやった」 「・・・へ?」 怒らないどころか自分を褒めるギアッチョに、ルイズは赤くなった顔の ままきょとんとする。ルイズの頭に無造作に手を置いたまま、ギアッチョは 全く褒めているとは思えない顔で続けた。 「言っても解らんガキかと思ってたがよォォ~~ 上出来だぜルイズ 己の命が奪われようと・・・オレやワルドが死ぬことになろうともてめーの 心を貫くという『意志』・・・それが『覚悟』だ」 「え」 「状況に流されたり強制されたりした結果の行動・・・そいつは『覚悟』 なんかじゃあねえ 追い詰められたりどうでもよくなったりしてなりふり 構わずヤケになって突っ込むなんてのは、ただ諦めてるだけだ」 「・・・ギ、ギアッチョ あの・・・わたしさっき空賊のことで頭が一杯で あんたやワルドのことなんてすっかり忘れてて・・・だから」 ギアッチョが言ってるようなことじゃないと否定するルイズを、ギアッチョは 言葉で遮った。 「――『覚悟』は・・・確固たる己の『意志』から生まれる オレ達のことを 覚えていたか忘れていたか、そんなもんはどうだっていいことだ 何がどうであれ、さっきのおめーには間違いなく『覚悟』があった 祝福するぜルイズ 無意識だろーとなんだろーとおめーには覚悟の心が ある 重要なのはそれだけだ」 ギアッチョは抑揚に乏しい、一見無感動に思える口調で、はっきりと そう言った。 「・・・・・・・・・『覚悟』・・・」 心で反芻するように呟いて、ルイズはギアッチョを見上げる。彼は 相変わらず読めない顔でルイズを見ていた。だが、だからこそ、ルイズは 彼を信じることに躊躇はなかった。この無愛想な男が言うのなら、きっと そうなのだと。だからルイズは、ただ一言だけ言葉を返す。 「・・・・・・うん」 それで十分だった。 「・・・・・・ところで、あの」 置き忘れられたかのようにルイズの頭に乗っているギアッチョの手を 指差して、ルイズは疑問をぶつける。 「こ、これ・・・どうしたの?いきなり・・・なんかギアッチョらしくないわよ」 「あー・・・なんだ 一つプロシュートに倣ってみよーと思ったんだがな」 やっぱりこれはオレのキャラじゃあねーな、とギアッチョは両手を上げて 首をすくめた。 「そ、そんなこと・・・」 頭からどけられた手が何故か名残惜しくてルイズは思わずそう言い かけるが、 「あーいたいた おっそいわよあなた達!」 続く言葉は、やってきたキュルケの呼びかけに遮られた。 「キュ、キュルケ!」 「何やってるのよ二人共 もうすぐニューカッスルに着くらしいわよ? 甲板に行きましょうよ」 催促しながら歩いてくるキュルケに眼を向けて、ギアッチョは口を開く。 「あいつらは甲板か」 「ええ、ギーシュは船酔いでフラフラしてるけどね タバサは相変わらず 本を読んでるわ」 そう言って笑うと、キュルケはルイズに眼を向けた。 「あらルイズ?あなた顔が真っ赤だけど何をやってたのかしら?ん?」 「なっ、何もしてないわよ!あんたじゃないんだから!」 楽しそうに笑って顔を近づけるキュルケから眼を逸らしてルイズは 怒鳴る。しかしキュルケは綺麗な笑みを崩さずに、デルフリンガーを見た。 「ねぇデルフ 今二人は何をしてたのかしら?」 「いや、てーしたことじゃねーんだけどよー」 答えようとした魔剣を睨んで、ルイズは「余計なこと言ったら船から投げる わよ!」と凄む。 「・・・てーしたことじゃなさすぎて忘れたわ」 いくらなんでもここから落とされたくはないらしい。デルフはあっさり従った。 ルイズは謝りたかった。何事もなかったかのように甲板上で歓談している 三人に。それが出来ないならば、せめてありがとうと言いたかった。 しかし、どうしても言葉が出ない。喉まで言葉が来ているのに、どうしても それを吐き出すことが出来ない。礼の一つも言えない自分を、ルイズは ブン殴ってやりたかった。打ち沈んだ彼女の心境を知ってか知らずか、 キュルケはルイズに何かを言わせる暇もなく話題を繋ぐ。 「そんなわけでフーケを逃がしちゃったのよ どう思う?ギアッチョ」 「・・・ま、いいんじゃあねーのか てめーの意志で決めたってんならな」 ギアッチョはギーシュに眼を遣って答えた。その言葉に、ギーシュは 青白い顔のまま満面の笑みを浮かべる。 「ほら言った通りじゃないか!ギアッチョなら分かってくれるってさ・・・うぷっ」 「はいはい聞こえたわよ それも『覚悟』ってわけ?さっぱり解らないわ」 キュルケはやれやれといった感じに首を振った。舷側の欄干に背を 預けて、ギアッチョははしゃぐギーシュから眼を外して言う。 「安心しろ てめーの決意で奴を逃がしたってことは責任を取る『覚悟』も 当然出来てるってわけだからな・・・なあオイ」 「えっ!?あ・・・ああ も、勿論さ!当たり前だろう?」 青白い顔を一層青くして答えるギーシュに、キュルケは一つ溜息をつく。 「・・・そっちは?」 話の間隙を縫うようにして、タバサが本から眼を上げて問うた。 珍しく自分から声を掛けるタバサにギアッチョは意外そうに眉を上げる。 「仮面の野郎が追ってきたな」 「本当?あの傭兵達の自白は事実だったわけね・・・怪我は?」 三人を代表したキュルケの質問に、ギアッチョは左手を上げることで 答えた。隙間なく巻かれた包帯に、キュルケ達は息を呑む。 「ちょっ・・・それ大丈夫なのかい!?」 思わず叫ぶギーシュに、ギアッチョはどうでもいいように右手を振って みせた。 「大した怪我じゃあねー こいつが持ってきた軟膏もあるしな」 ギアッチョはそう言って、浮かない顔をしているルイズを見る。 「へぇ あなたもそういう気配りが出来たのねー」 キュルケはわざと皮肉っぽい口調で言うが、ルイズは沈んだ顔のまま 何の反応も返さない。少し唇をとがらせて、キュルケはルイズの顔を 覗き込む。 「ちょっとールイズ!あなた少しは明るい顔を――」 と、キュルケがルイズを叱咤しようとした時、フッと影が彼女達を覆った。 「何・・・?」 彼女達は一斉に空を見上げる。雲の切れ間から、巨大な軍艦がその 姿を覗かせていた。 「うっぷ・・・あ、あれはひょっとして・・・」 ギーシュが眼を見開いて呻く。 「そう」 空を振り仰ぐキュルケ達の後ろから、突然声が投げかけられた。 ワルドと共に船室から出てきたウェールズが、形のいい眉を忌々しげに ひそめて言う。 「叛徒共の、船だ」 巨大な、全く巨大な――禍々しき戦艦であった。優に『イーグル』号の 二倍はある艦体に同じく巨大な帆を何本もはためかせている。かと 思うと、巨艦は無数に並んだその砲門を一斉に開き、大陸に向けて 斉射を開始した。どこに着弾しているのかは大陸を半ば見上げる形で 航行している『イーグル』号からは分からなかったが、ドゴドゴッ!という 砲撃の音と振動はびりびりと伝わってきた。 「かつての我らが旗艦・・・『ロイヤル・ソヴリン』号だ 奴らの手に落ちて からは、『レキシントン』号と名前を変えている 初めて我々から勝利を もぎとった戦地の名だ・・・よほど名誉に感じているらしいね」 ふっと皮肉な笑いを浮かべるウェールズの横で、ギアッチョは 『レキシントン』号を観察する。舷側に並んだ無数の大砲と対を成す ように、艦の周囲ではドラゴンに乗った数多の竜騎士達が哨戒を行って いた。ウェールズ達王党派にとっては、まさに絶望の象徴に他ならない だろうと思われた。 「備砲は両舷合わせて百八門、その上竜騎士まで積んでいる あの戦艦の反乱から、全てが始まった・・・因縁の艦だよ さて、我々はあんな化け物に対抗し得るはずもない そこで雲中を通り、 大陸の下からニューカッスルに近づくというわけさ そこに我々しか 知らない秘密の港があるんだ」 ウェールズはそう言って大陸を見上げた。 大陸の下へと潜り込み、陽の届かないそこを慎重に航行する。 そうするうちに頭上に見えてきた三百メイル程の穴を、『イーグル』号は ゆるゆると上昇してゆく。頭上に薄っすらと見える光は船の上昇につれて 徐々に明るくなってゆき、やがて眩い程に大きくなったかと思うと、船は 静かに停止した。 ウェールズに促されて、ワルドはグリフォンと共にひらりと地面に飛び 降りる。辺りを見渡して、彼はほう、と感嘆の声を上げた。 「これは――素晴らしい」 「驚いたかい?子爵」 いたずらっぽく笑うウェールズを振り返って、ワルドは両手を広げてみせる。 「それはもう ここまでの旅路もさることながら、これ程までに美しい光景は 様々な場所を旅した私にも滅多に御眼にかかれませぬ」 そこは巨大な、そして実に見事な鍾乳洞であった。見事な円錐形の鍾乳 石が大小様々に垂れ下がり、それを覆う発光性のコケが周囲を幻想的に 照らし出している。ルイズ達もまた、息を呑んで立ち尽くしていた。 背の高いメイジの老人がウェールズに近寄り、彼の労をねぎらう。 「おやおや、これはまた大した戦果でございますな 殿下」 老境にあって尚かくしゃくたる彼は、『イーグル』号に続いて鍾乳洞に現れた 船を見て、顔を綻ばせた。 「喜べ、パリー」 ウェールズは手を上げて、洞窟中に響く声で戦利品を報告する。 「積荷は硫黄だ!硫黄を手に入れたぞ!」 その言葉に、主人の帰還を待っていた兵達が一斉に歓声を上げた。 「おお!硫黄ですとな!火の秘薬ではござらぬか!いやはや・・・これぞ まさしく天の配剤と言うべきかも知れませぬな 最後の最後に、我々の 名誉を守る機会を下さるとは!」 パリーは男泣きに泣き始めた。 「先の陛下より御仕えして六十年・・・これほどに嬉しい日はありませぬぞ 彼奴らが反乱を起こしてからというもの、苦渋を舐めっぱなしでありましたが ――何、これほどの硫黄があれば!」 ウェールズは、ニヤリと一つ勇ましく微笑んで後を継いだ。 「ああ、そうだ 我らアルビオン王家の誇りと名誉を、散華のその瞬間まで 叛徒共に示し続けることが出来るだろう」 「おお、おお!この老骨、武者震いがいたしまするぞ!」 ウェールズ達は、心底楽しそうに笑いあった。 「して陛下 御報告なのですが、叛徒共は明日の正午に攻撃を開始する との旨、伝えて参りましたぞ」 「ついに来たか・・・それではやはり、明日こそ我ら王家の最期になると いうわけだな」 怯えた様子一つ見せずに、ウェールズはあっさり言ってのける。その 言葉に動揺を見せる兵士もまた、居りはしなかった。 ――最期って・・・この人達怖くないって言うの? キュルケはルイズ達に困惑した顔を向ける。皆思い思いの表情を 浮かべていたが、その表情はどれも自分とは違うような気がして、 彼女はますます困惑を深めた。 「さて、こちらはトリステインからの客人だ 重要な用件で我が国に 参られた大使殿だよ 丁重にもてなしてさしあげてくれ」 「ほほう、これはこれは大使殿 殿下の侍従をおおせつかって おりまする、パリーでございます このような沈みゆく国へ、ようこそ いらっしゃいました 大したもてなしも出来ませぬが、今夜は ささやかな祝宴が催されます 是非とも御出席くだされ」 老いたメイジは、気品溢れる仕草で一礼した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1429.html
「アルビオンが見えたぞー!」 怒鳴る船員の声で、ギアッチョは眼を覚ました。慣れない空飛ぶ船での 睡眠で痛む頭と軋む身体を半ば無理やりに引き起こす。 「――ッ・・・」 睡眠をとり過ぎた時のような気分の悪さに頭を抑えて、ギアッチョはふぅっと 息を吐き出した。気だるげに隣に眼を遣ると、ベッドの上は空。 「眼が覚めた?」 待っていたようなタイミングで上から降って来た声に、ギアッチョは緩慢に 頭を上げる。隣のベッドの主が、両手にコップを一つずつ携えて立っていた。 ギアッチョの返事を待たずに、彼女は片方のコップを差し出す。 「・・・水、飲む?」 だるそうな声で「ああ」と答えて、ギアッチョはコップを受け取った。取っ手を 傾けて一息に飲み干すと、徐々に頭が冴えてくる。軋む身体を捻ってから、 ギアッチョは彼女――ルイズに眼を戻した。 「・・・昨日といい今日といい、おめーが早起きしてんのは珍しいな」 ルイズは既に制服に着替え終わっている。困ったように溜息をつくと、 「今日はあんたが遅いのよ わたしはいつもの時間に起きたもの」 そう言って自分のカップに口をつけた。ルイズから眼を戻して、ギアッチョは 節々が痛む身体に鞭打って立ち上がる。首や肩をコキコキと鳴らすと、 眼鏡を探しながら口を開いた。 「悪ィな」 「え?」 意味を掴みかねているルイズに、コップをひょいと上げることで答える。 「あ・・・べ、別にあんたの為に汲みに行ったわけじゃないわよ なんだか あんたが寝苦しそうだったから、わたしのついでに持ってきてあげただけ」 ついでという部分を幾分強調して早口にそう言うと、空になったギアッチョの コップを奪い取ってルイズはぱたぱたと走って行ってしまった。 ルイズの背中を見送って、デルフリンガーはカシャンと柄を持ち上げて笑う。 「いやはや、見てるこっちが恥ずかしくなる程の純情ぶりだね」 「ああ?」 なんの話だと言わんばかりの眼をこっちに向けるギアッチョに、デルフは 内心やれやれと呟いた。 ――やっぱりネックは旦那だねこりゃ ギアッチョ達の世界で、カタギの人間と恋に落ちるような者は中々珍しい。 理由は種々あるわけだが、ギアッチョはそれ以前に愛だの恋だのという もの自体に全く興味がなかった。彼にとっては、リゾットチーム以外の人間は 殆ど全てが敵か、またはどうでもいい者のどちらかであった。例えば一人の 女性がいて、彼女がそのどちらであるにせよ、ギアッチョには微塵の興味も 沸きはしない。殺すか、捨て置くか。彼の前には、それ以外の選択肢など 出ようはずもなかった。そんなことが何年も続くうちに、ギアッチョからは もはや恋だとか愛だという概念それ自体が失われてしまったのである。 これはいかんと思ったメローネが愛読書のハーレム漫画を無理やり 読ませたこともあったが、次々と女絡みのトラブルに巻き込まれる主人公に ついて「このガキはスタンド使いか何かか?」などと呟くギアッチョには、 さしものメローネも匙を投げざるを得なかった。「敗因は漫画のチョイスだろ」 とはイルーゾォの言であるが。 勿論デルフリンガーがそんなことを知る由もないのだが、これだけ度々こんな 場面に遭遇すれば流石に彼にもギアッチョのことが分かって来たようで、 デルフリンガーは半ば本気で二人の行く末を心配していたりする。 返事をしないデルフから、ギアッチョは早々に視線を移して身体を伸ばして いた。若干身体が楽になったことを確認して、ひょいとデルフを掴む。 「お?」 「アルビオンとやらを見に行くぜ」 アルビオンを「見上げて」、ギアッチョは絶句した。広大無辺の大空に、 溜息が出るほどに巨大な島――否、大陸が一つ、悠然と浮遊している。 「――・・・・・・」 正に文字通りの意味で絶句して、ギアッチョはアルビオンに眼を奪われている。 それは当然だ。この神々しいまでに美しくも雄大な景観に、圧倒されない 人間が一体どこにいるだろうか。 珍しく驚嘆の表情を露にしているギアッチョが面白いのか、ワルドと話をして いたルイズはくすりと笑って口を開く。 「驚いた?」 「マジにな・・・」 「あれがアルビオンよ ああやってずっと空を彷徨ってるの 普段は大洋の 上空に浮かんでることが多いんだけど、月に何度かハルケギニアの上に やってくるわ」 大きさはトリステインの国土程もあるのだとルイズは説明する。それを受けて、 「通称『白の国』、だね」 ワルドも解説に加わった。ギアッチョはアルビオンの下方にちらりと眼を移す。 アルビオンの大河から流れ落ちた水が、霧となって下半分を白く覆っていた。 「・・・なるほどな」 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 鐘楼で見張りに当たっていた船員の大声で、船内に一瞬で緊張が走った。 ギアッチョは言われた方向に首を向ける。こちらより一回りも大きい黒塗りの 船が、明らかにこちらを目指して近づいて来た。 「・・・貴族派の連中か?お前らの為に硫黄を運んでいる船だと教えてやれ」 船長の指示で見張りが手旗を振るが、黒い船からの返信はない。皆一様に いぶかしんでいるところへ、副長が血相を変えて駆け寄って来た。 「せ、船長!あの船は旗を掲げておりません!空賊です!」 二十数門もの砲台が、こちらを睥睨している。いかなワルドやギアッチョと 言えども、もはや逃走は不可能だった。 黒船のマストに、停船命令を意味する信号旗がするすると登り、 「・・・裏帆を打て・・・・・・停船だ」 苦渋に満ちた顔で、船長は絶望の命令を出した。 黒船の舷側に、銃や弓を持った野卑な男達がずらりと並ぶ。一斉にこちらに 狙いを定められて、ルイズはびくりと小さく肩を震わせた。ギアッチョは感情の 読めない顔で、一歩ルイズの前に進み出る。 「・・・ギアッチョ」 冷静に、彼は状況を分析する。黒船からは、既に小型の斧や曲刀を持った 賊達がこちらに乗り移って来ていた。大砲を使われることはないだろう。 仲間諸共沈めてしまうからだ。しかし示威としてはこの上ない威力を発揮 している。それが証拠にこちらの船員達はすっかり怯えあがり、もはや 物の役にも立ちはしない状態であった。もっとも、ギアッチョは元々彼らを 戦力などと考えてもいなかったが。 ――奴らの銃は大方オレ達三人に狙いをつけている・・・こいつを突破 するなぁ少々骨だな おまけに剣を持った奴らもオレ達を包囲してやがる これだけ四方八方から狙われりゃあ満足に立ち回れるかも怪しいもんだ ワルドの野郎は自力で何とかしてもらうとしても、ルイズを放っておく わけにゃあいかねーからな・・・ しばし黙考した末に、ギアッチョは投降を選択した。まさかこの場で 殺されるなどということはないだろう。貴族にはいくらでも「使い道」がある。 どれだけがんじがらめに縛られようが、ホワイト・アルバムがあれば 脱出は容易い。負けを認めるのは多少・・・いやかなり屈辱だが、今は 四の五の言っている場合ではないことの解らないギアッチョではなかった。 「そこのてめーら!剣と杖をこっちに放りな!」 と高圧的に命令する空賊に、ギアッチョは苛立つ顔一つ見せず従った。 ぼさぼさの黒い長髪に眼帯と無精髭という、実にステレオタイプな風体の 男がどすんと甲板に飛び降りる。ギアッチョはまるで創作ものの海賊船長 だなと思ったが、どうやら男は本当に賊の頭らしく、じろりと辺りを見回して 荒っぽく言葉を吐いた。 「船長はどこだ?」 その声に恐る恐る答えた船長と幾つか言葉をかわした後、男は震える 船長の首筋を曲刀でぴたぴたと叩いて笑った。 「船も硫黄も全部買い取ってやる!代金はてめーらの命だ!」 隅から隅まで響き渡るような大声でそう叫ぶと、男はニヤリと笑ったまま 仲間のほうを向いた。 「おい、こいつらを船倉に叩き込んどけ」 空賊に引っ立てられて行く船員達を満足に見遣って、男はルイズ達に 向き直る。 「これはこれは、貴族様方が御同船なされていたとは存じ上げませんでした」 大げさな身振りで白々しくそう言って、男は愉快そうに下卑た笑いを浮かべた。 曲刀を肩に担ぎ、どすどすとルイズに歩み寄る。ルイズの顎を片手で持ち 上げて、男は値踏みするように彼女を眺めた。 「こりゃあ大層な別嬪さんですなぁ どうです?私の元で靴磨きでも?」 人を小馬鹿にした笑みでそう言う男の手を、ルイズはぱしんとはねのけた。 怒りを込めた眼で、キッと男を睨みつける。 「下がりなさい!わたしはトリステインからの使い・・・大使よ!」 堂々と己の正体をバラすルイズにワルドは不味いという顔をし、ギアッチョは やれやれといった感じに首を振った。しかしルイズはそんな彼らの心中も 忖度せず、だが毅然として胸を張る。 「わたし達はアルビオンの王党派に、正統な政府たる王室に用があるの 今すぐ皆を釈放してここを通しなさい!」 「おいおいお嬢ちゃん あんた頭は大丈夫かね?」 賊の頭は不可解な顔でルイズに問い掛ける。 「俺達が貴族派と結託してる可能性ってヤツを考えなかったのか?」 恫喝するような調子で語りかける男に、ルイズはあくまで王女の使いと しての誇りを持って相対する。 「だったらどうだと言うの?わたしはあんた達みたいな人間に嘘をついて 下げるような頭は持ってないわ!」 その言葉に男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、やがてげらげらと おかしそうに笑い出した。 「カハハハハハ!ええ?貴族のプライドの為に命を捨てるってか?あんたら 貴族ってなァ全くもって度し難い奴らだな!」 「そんな下らないものじゃないわ」 「何・・・?」 まるで貴族自体を否定するような言葉が当の貴族から出たことに、頭は 再び眼を丸くする。それは手下の空賊達も、そしてワルドも一緒だった。 「これはあんた達みたいな外道を許せないわたし自身の、そして トリステインを代表する者としての誇りよ!あんたなんかには永遠に 理解出来ないでしょうけどね!」 貴族でありながら、彼女の言葉は貴族のものでも平民のものでもない。 ただ一人、ルイズ・フランソワーズ、彼女自身の言葉だった。頭は彼女の 綺麗な髪を引っつかみ、鼻先まで顔を近づけて脅嚇し、首筋に刃を 押し当てる。しかしびくりと身を固くしながらも、ルイズは頭の眼を見据え 続けた。逆境にあって尚、彼女の旭日のような誇りと「覚悟」は潰えない。 そんな彼女を、ギアッチョはただ黙って見つめている。男は手を変え 品を変えてルイズを脅し続けるが、彼女は何をされようがついに男に 屈しなかった。ルイズの「覚悟」が本物であると悟り、今にも人を殺さん ばかりだった男の表情がふっと和らぐ。 男の物腰は、賊のそれから一流の貴族のものに一瞬にして変化した。 彼は己の黒髪に手をやり、 「どうやらその「覚悟」は本物のようだ 失礼を詫びよう、私は――」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」 突如上空から雄叫びが聞こえ、男もルイズも、その場の誰もが天を振り 仰いだ。彼らの真上にいたのは、竜だった。そして甲板に大きく影を落とした それから流星のように飛び降りて来た金髪の少年はッ! 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぶァァッ!!」 くぐもった悲鳴と共に、見事に甲板に激突した。 「ギ、ギーシュ!?」 天から隕石の如く落下した少年に、ルイズが初めて大きな動揺を見せる。 ギーシュは鼻を押さえてフラフラと立ち上がると、造花の杖を頭に向けた。 「や、やひッ!賊め、ルイズをはにゃせッ!」 フガフガと鼻を鳴らしながら言われても何の迫力もないのだが、当の空賊 達はギーシュの体を張った一発芸に呆気にとられて言葉も出なかった。 そんなギーシュの横に、情熱に染まった髪を持つ少女が降り立つ。 「空賊であらせられる皆々様、よろしければ武器をお捨てになって 下さりませんこと?さもなくばこの微熱のキュルケと雪風のタバサ、あと 鉛の・・・青銅?・・・青銅のギーシュが、不本意ながらこちらで大暴れ させていただくことになりますわ」 優雅な身振りで一礼するキュルケに合わせて、シルフィードに乗ったまま 臨戦態勢のタバサが降りてきた。 予想外の展開にルイズは眼を白黒させている。ギアッチョとワルドも、 大小違いはあれど共に驚きの色を含んだ顔で彼女達を見ている。 空賊の頭と手下達は今度こそ驚愕の顔で固まっていたが、数秒の後 彼らは殆ど同時に、弾かれたように笑い出した。しかしその笑いには、 今までの野卑な声とは違う爽やかさがあった。 実に大きな声でひとしきり笑った後、頭は改めてルイズ達に向き直った。 「君は実に良い仲間を持っているようだ すまない大使殿、数々の無礼 許して欲しい」 ルイズに謝罪しながら、男は己の髪を掴む。男の力にしたがって、それは するりとはがれた。彼は次に眼帯を取り外し、そして最後に髭を外す。 その下に現れたのは、金糸の如き髪と蒼穹を映したかのような瞳を持つ 凛々しき青年だった。ぽかんと口を開けたまま固まっているルイズ達を 見渡して、青年は威風堂々たる所作で口を開いた。 「私はアルビオン王国空軍大将にして、王国最後の軍艦、この『イーグル』号が 籍を置く本国艦隊司令長官・・・」 にこりと爽やかに微笑んで、彼は己の名を名乗る。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 「・・・プ、プリンス・オブ・ウェールズ・・・?」 あまりの事態に頭が混乱しているルイズ達のそばで、ギアッチョとワルドは 冷静にウェールズを観察している。一人はなるほどなという顔で、一人は 興味深げな顔で。 「我々空軍の役目は反乱軍共の補給線を断つことなのだが、困ったことに 空賊に身をやつさねばおちおち空の旅もままならぬ状況でね 大使殿、君のこともなかなか信じられなかった まさか外国に我々の 味方がいるなどと、夢にも思わなくてね・・・重ねて言うが、試すような真似を してすまなかった」 そこでウェールズは一度言葉を切る。そうしてルイズ達を見渡して、まるで 太陽のように眩しい笑顔で「そして」と言った。 「明日滅びる国へようこそ、客人方」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9002.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 「宇宙の果てのどこかにいるわたしの下僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!!」 ハルケギニア大陸に存在するトリステイン王国の王立魔法学院2年生の行事である使い魔召喚。 この儀式の日、トリステインの名門貴族たるヴァリエール家の三女であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが 高々と呪文を唱え、使い魔召喚魔法『サモン・サーヴァント』を発動した。 途端に巻き起こる大爆発。立ち昇る土煙で学院の中庭にいた者たち全員が身体を伏せたり顔を覆ったりした。 そして土埃が収まっていくと、銘々が中庭の中央、爆発の中心地に出現していた「それ」を発見した。 「な、何これ!?」 「こんなの見たことないぞ!」 「ルイズ、一体何を呼び出したのよ?」 ルイズの召喚を見守っていた生徒たちから声が上がる。一方召喚主のルイズもまた、 事態を呑み込めずにただただ呆然としていた。 「……これ、何……?」 ルイズの目の前に現れたのは、彼女が望んだドラゴンやグリフォンとかとは丸で異なる、 そもそも生物としての形すらしていないものだった。人が一人スッポリ収まるくらいの 大きさの赤い球体だったのである。 かつて、ある次元の宇宙に浮かぶ「地球」という星に暮らす人類は、 たくさんの恐るべき怪獣や宇宙からの侵略者の魔の手に脅かされていました。 人類には強大過ぎる外敵たちによって彼らの命が奪われそうになった時、 遠い星からやってきた巨大なる光り輝くヒーローたちが彼らを助け、凶悪な怪獣たちを撃退してくれました。 人類はこの救世主たちを礼賛し、こう呼んで称えたのでした。「ウルトラマン」と……。 そうして長い時が流れ、人類は大宇宙へ進出。地球に怪獣が出現することはなくなり、 ウルトラマンは伝説に語られる存在となりました。 しかし地球が存在する次元とは違う、別の次元のハルケギニア大陸がある星に今、 大いなる脅威が人知れず忍び寄っていたのです。 これから、あなたの目はあなたの身体を離れて、この不思議な時間の中へ入っていくのです……。 ウルトラマンゼロの使い魔 プロローグ 『……きろ』 赤い光に包まれた空間の中で、どこからか仰向けになって眠っている少年に呼びかける声がした。 この少年の名前は平賀才人。特徴がないのが特徴とでも言うべきで、簡単に言えばどこにでもいるようなごく普通の高校生男子だ。 『おい、起きろ……』 「ん……」 再び才人に呼びかける声がしたが、才人は閉じた目蓋をピクリと動かすだけだった。すると、 『起きろっつってんだよ! いい加減目ぇ覚ませッ!!』 「うわぁッ!?」 声が怒声に変化し、驚いた才人はガバッと起き上がった。 「あれ……ここは……?」 目覚めた才人はまず周囲を見回し、自分が不可思議な空間にいることを理解した。 「ここはどこなんだ……? 確か俺、鏡みたいなものをくぐって……」 『やっと起きたか。ねぼすけな奴だぜ』 困惑する才人の目の前に銀と青と赤の三色で構成された肉体を持つ巨人の姿が投影された。 頭には刃物のようなトサカが二つ並んでおり、目つきが若干鋭い。これを見た才人が大いに驚く。 「うわぁぁッ! あんた誰だ!?」 『人に名前尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ?』 巨人に諭され、才人はひとまず落ち着きを取り戻して名乗った。 「俺は平賀才人。地球人だ」 それから、今度は巨人が名乗りを上げた。 『俺はゼロ! ウルトラマンゼロ! ウルトラセブンの息子だ!』 「へぇ、ウルトラマン……えぇッ!?」 ゼロという巨人の言葉を聞いた才人が再び驚愕した。ウルトラマンといえば、 かつて地球を長きに亘り様々な脅威から守ってくれた伝説の戦士の名だ。 地球人である才人ももちろん彼らのことは知っている。そして今目の前の巨人は、 確かによく見てみればウルトラマンの特徴をしっかりと持っていた。 ウルトラセブンの息子と名乗った通り、昔写真で見た赤い光の戦士、 ウルトラセブンの面影が見て取ることが出来る。興奮した才人はついこんなことを口走った。 「本物と会えるなんて! サ、サイン下さい!」 『……この状況でそんなこと言うなんて、のん気な奴なんだな』 ゼロは才人にあきれていた。確かに今はどう見てもサインなんて状況ではない。 我に返った才人は恥ずかしくなった。 『それに、俺は今からお前にサインなんかよりもっと重要なものをやるんだぜ』 「え?」 ゼロがつけ加えた言葉に才人が呆けた。が、そのすぐ後に自分の置かれている状態に気が回って慌てて質問をぶつける。 「い、いや、それよりここはどこなんだ!? 俺は一体どうなっちまったんだ!?」 問いかける才人にゼロは彼をなだめる動作をした。 『まぁ落ち着け。順を追って説明してくから』 「わ、分かった……」 そう言われて才人が口を閉ざす。 『まず、この俺、ウルトラマンゼロはある事情から地球やウルトラの星がある宇宙とは 別の宇宙で仲間たちと一緒にウルティメイトフォースゼロっていう宇宙警備隊を作って、 その宇宙の平和を守る日々を送ってた。そんなある日、故郷の光の国からこんな連絡があったのさ。 「宇宙と宇宙の狭間で大規模な次元震が起こり、大いなる邪悪の気配がある次元の宇宙に侵入した」ってな』 「そ、その大いなる邪悪ってのは……?」 『残念だがそこまではわからねぇ。で、そのままほっといたらその宇宙の生命が全て滅ぼされてしまうかもしれないってことになったんで、 別の宇宙での活動の経験がある俺が調査も兼ねて問題の宇宙へ出発したんだ。けどこれがまた大変な旅でよぉ。 何せ位置情報が次元震の観測で得られたデータしかねぇんだ。見つけるのに苦労したぜ』 「はぁ……」 ペラペラしゃべるゼロに才人は若干呆然としていた。ウルトラマンは神聖で厳かというイメージを抱いていたが、 このゼロというウルトラマンはかなり砕けた話し方をする。 『そんな訳でこの宇宙にたどり着いたんだが……ここで問題が起こっちまったんだよ……』 「その問題って?」 『……』 ゼロが一旦黙り、こう言い放った。 『宇宙に突入した瞬間……妙な力に身体が引っ張られちまって……お前と衝突しちまったんだよ……』 「へ……?」 ゼロのひと言で、才人の顔が青ざめる。 「じゃあ、俺の身体は……?」 『……粉微塵』 才人の気が遠くなった。 『おい! しっかりしろ!』 「そ、そんなぁー!? 俺、死んじまったのかよ!? 嘘だろ!? まだやりたいこといっぱいあったのに! 彼女だってまだ作ってないのに!」 『落ち着け!!』 メチャクチャ取り乱す才人をゼロが一喝した。 『そう心配するな! このことには俺にも責任がある。だから、俺の命をお前にやる』 「え? 命をやるって……?」 『俺たちウルトラマンには他の生物と一体化し、命を共有する能力がある。俺と一心同体になることでお前は蘇るんだ。 そうすりゃ、お前自身の命が戻る日もきっとやって来るぜ』 「そ、そうなのか。よかったぁ」 とりあえず死ぬことはないことが分かり、才人は安堵した。 『俺もこの星じゃ、このままの状態を保つことが出来ないみたいだからな。持ちつ持たれつって奴だ。 じゃあ話が決まったところで……』 ゼロが才人に青いサングラスのようなものを渡した。 「これは?」 『ウルトラゼロアイだ。こいつを顔に当てりゃ、お前の身体から俺に変身することが出来る。 怪獣や宇宙人とかが出てきて、もうどうしようもなくなったって時に使いな。俺が片づけてやる! あ、光線銃としても使えるぜ。トリガーと発射口はそことそこだ』 使い方を説明するゼロ。変身アイテムってこういうものなのかと感心する才人だが、 あることに思いが至ってガバッと顔を上げた。 「そ、そうだ! 別の宇宙とか言ってたけど、もしかして俺も!?」 『ようやく気がついたのかよ。そうだ、お前はどうやらある奴に呼ばれて、地球から遠く離れた違う宇宙の星に移動してきたみたいだ。 その途中で俺とぶつかったんだな。今この空間の外は、その星の大地だ』 「えええええ!?」 三度仰天する才人。ゼロは構わずに話を続けた。 『お前はこれからこの星で生活してかなきゃならねぇ。否応なくな。俺もこの星には来たばっかだから、 詳しいところはこの星の奴に聞いてくれ。言葉は通じるみたいだ。じゃあそろそろ外に出すぜ。 上手いことやってけよ』 「ち、ちょっと待ってくれ! まだ心の準備が……!」 懇願する才人にゼロが言い聞かす。 『心配するなよ。いつでもどこでも、この俺が側にいる。才人、お前は一人じゃないんだ!』 そして、才人はトリステインの地に降り立った。 「あんた誰?」 気がついたら、自分の顔を女の子がまじまじと覗き込んでいた。才人はこう答えた。 「誰って……。俺は平賀才人」 こうして、別次元の王国トリステインに召喚されてしまった少年才人と、彼の主となる少女ルイズ、 そして才人と一心同体になったウルトラマンゼロの物語が幕を開けたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔