約 1,746,520 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2339.html
前ページ次ページゼロの使い魔人 「チキュウ? トウキョウ? シンジュク? …変わった地名ね。聞いた事ないわ」 「…ハルケギニア大陸のトリステイン王国、だったか。一晩に月が二つも昇る夜、 というのも有り得ん話だが、何より魔法なんて代物は、俺の世界では表向き、完全に否定されたからな」 「そもそも、あんたのいた世界ってなによ? 月が一つだけ? しかも、魔法が無いだなんて信じられないわ」 …その夜。 学院生寮内、ルイズの私室にて両者は話合いの場を持っていた。 部屋の主は、天蓋付きのベッドに腰を下ろし、龍麻はその対面にて椅子に座り、足を組んでいる。 「別の世界から(無理やり)呼び込まれた」と言う龍麻の主張に対し、ルイズは露骨な不信…を通り越して、 『頭がちょっと可哀想な人』という視線を向けっ放しだった。 相棒ともいえる、小型多目的情報端末(通称H.A.N.T)を始めとする『証拠』を見せて、どうにか納得させようとした龍麻だが、 「ふーん、でも、これだけじゃ、わかんないわよ」 「わからん奴だな…。なら、お前達には出来ない事が、当たり前に出来る場所が有る…。とでも考えておけ」 これ以上、説得と説明を続けても無駄と感じ、龍麻は本題を切り出す。 「――回りくどいのは無しだ。俺が、此処から元の世界へと帰る方法は有るのか?」 「無理よ」 「予想通り…。と、言いたいが、どういう理由でだ?」 「召喚の魔法…つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。 普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて初めてだわ。 そして…、あんたはわたしの使い魔として、契約しちゃったのよ。あんたがどこの田舎モノだろうが、 別の世界とやらから来た人間だろうが、一度使い魔として契約したからには、もう動かせない」 「…なんつー横暴かつ、一方的な話だ…! 大体、意に沿わん相手が来たなら、 無理に契約せずとも、送り返すなり、別の相手を探すなりするのが自然だろうが…!?」 こめかみに指をやって、怒りと偏頭痛を抑えながらの龍麻の言葉に、ルイズは頭を振る。 「それも無理」 「…即答かよ。キッチリ説明してくれるんだろうな?」 「だって、あんたの世界と、こっちの世界を繋ぐ魔法なんて無いもの。そして、『サモン・サーヴァント』は 呼び出すだけ。使い魔はメイジにとって、生涯のパートナーよ。それを元に還す呪文なんて、存在しないし……」 「…で、何と続くんだ?」 「一度呼び出した、その使い魔が死ぬ迄、『サモン・サーヴァント』を唱える事は出来ないのよ。 例え、それがどんなに強いメイジであってもね」 「…………。つまりは、帰る途など無く、このまま一生かそれに相応する時間を、お前に付き合え、と」 ぎり、と言葉の最後に歯ぎしりが混じる。 「…俺もよくよく、運の無い男だが、それにも増して巫山戯ているのは、この世界と魔法だな……」 と、心の底からの悪罵を吐く龍麻に、ルイズもルイズでジト目を向ける。 「ほんとに…、なんであんたみたいなのが召喚されちゃったのよ! このヴァリエール家の三女が……。 由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんだって平民なんかを使い魔にしなくちゃなんないのよ?」 「…五月蠅い。その科白、熨斗と引き出物付けて返す。後先考えず、下手糞な術を使いやがって。 誰が好き好んで、こんな貴族や魔術師なんぞがのさばる世界に来て、従僕(サーヴァント)になるものか」 我の強い者同士、深刻かつ多大な互いへの失望と苛立ちをぶつけ合う。 既に両者の間に漂う空気は、リアルファイト勃発迄の秒読み段階といっていい。 「――で、だ。お互いこれ以上無い程、不本意かつ現状に対し、不満と怒りを抱え込んでいる訳だが」 「それがなによ」 「話が進まんからな。一方的な従属など真っ平だが、条件によっては、俺は妥協しないでも無い」 「わたしに従うって事?」 「何を聞いてんだ。――いわば、取り引きだ。お互い、持っている物を出し合う。俺は労働力なり、技能を出す。 お前は、衣、食等の俺が動くのに必要な物を出す。…決して理不尽なモノでは無いと思うが?」 聞きながら、ルイズの眉が段々吊り上がって行くのが見て取れるが、気にせず続ける。 「俺は絶対に帰るつもりだが、その為には、この世界の情報が必要る。片やお前の方も今迄の話を総合するとだ、 形はどうあれ魔術師である以上、俺という使い魔がいない事には、此処での生活なり立場に支障をきたす…違うか?」 龍麻の声に、む、とルイズの表情に不機嫌そうな色が浮かぶ。 『……………………』 それきり、睨み合う二人。 この場合、先に視線を逸らした方が負けだというのは言うまでも無い。 「重ねて言うが、一方的な従属はせん。だが、仁義なり道理や良心に背かん限り、 そちらの指示や意思は尊重した上、希望に対しても善処するさ」 「――わかったわよ! 色々気に入らないけど、家僕の声を聞き入れるのも又、主の器量よ。 いいわね? これからは、わたしがあんたの主人よ」 「交渉成立…だな。短い付き合いだろうが、それ迄宜しく頼むよ、マスターさん」 椅子から立つと、軽くではあるが龍麻は頭を下げて見せる。 「なによ、そのマスターって言葉は?」 「俺の世界で言う所の、主君なり師匠等、目上の人物を指す言葉だ。 人前で名前や姓を呼び捨てにするのは、無礼に当たるんだろう?」 「そんなの当たり前じゃない」 「なら、それでいいだろう。…で、だ。使い魔として、俺に一体、何をさせるつもりでいるんだ?」 との龍麻の質問に、ルイズはぴっ、と人差し指を立てる。 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」 「つまり、感覚または認識の共有…。と、いう訳か」 「そうよ。でも、あんたとじゃ無理みたいね。現に、何にも見えないし、聞こえないわ」 「それは無条件で成立する物なのか? 小動物ならまだしも、確たる自我を持つ人間相手なら、 相互の相性なり、魔術師側の技倆に依る可能性も在ると思うが?」 と、龍麻は知り合いの陰陽師や魔女らとの付き合いから得た、知識を持ち出す。 が、龍麻の疑問を無視したルイズは、別の話題を持ち出した。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?」 「特定の魔法や儀式を行う時に必要な触媒よ。硫黄とか、コケに…、ある種の鉱石、宝石も含まれるわね」 「成る程」 「あんた、トレジャーハンターだったっけ? そういうの、得意なんじゃないの?」 「…不可能では無いが、すぐには無理だな。俺の持つ知識が、そのまま『こちら側』でも通用するとは限らん。 やるなら、『こちら側』での下調べ…、偏に時間が必要るな」 「そう。期待はしてないから。最後に、これが一番なんだけど…。使い魔は、主人を護る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から護るのが一番の役目! …出来ないとは言わせないわよ」 「この六年で、一対一で負けたのは一度きりだな。後は常に一対多数の状況で生き残って来たが」 「あんたが何と戦ってたかは知らないけど、ウソや口からでまかせで無い事を祈ってるわ。 …強い幻獣だったら、並大抵の敵には負けないし、こんな心配をせずにすむんだけど」 「言ってろ」 「――そうそう。部屋の掃除や洗濯とかもあんたの仕事だからね。さてと、喋ってたら、眠くなってきちゃったわ」 その声で話は終わりと判断した龍麻は、椅子を元の場所に戻すと部屋の壁際に陣取り、 ルイズに背を向けて所持品を確かめる。 …バックパックに穴が開いていたとかいうベタな展開は無く、詰め込んでいた物品が床に並ぶ。 此処に持ち込めたのは、銃火器が大小合わせて三梃。鞭が一振りに、手甲一つ。 永久電池を含む希少品(オーパーツ)に始まり、銃器に対応した弾薬類はそれなり。爆薬類は…僅少。 後は緊急医療キットと某国難民も喰わんと揶揄られる野戦食に、護符や雑具の類いで全てである。 「――あの三連戦が響いたなぁ…。こんな事になるのなら、銃器は弾の共有が利く奴を用意するんだった…」 ついついぼやく龍麻の頭にばふっ、と投げかけられる物がある。 何かといえば、ルイズが先程迄身に着けていた、制服のブラウスやスカートに肌着。最後に薄手の毛布である。 「これ、明日になったら洗濯しといて。後、ベッドは駄目だからこれを使いなさい」 「汚れ物を他人に投げるな! そこらに一纏めにして置いておけ! …で、洗い場はどこだ?」 「ここに仕えるメイドか、使用人にでも聞けば解るわよ」 興味なさげに言い捨てると、指を鳴らす。 同時にランプの灯が落ち、室内を照らすのはカーテン越しに差し込む双月の光だけとなる。 ――部屋の主は眠りの国へと旅立とうとしていたが、居候にはまだ、確かめるべき事があった。 結跏趺坐に組み、瞼を閉じて精神を研ぎ澄す。 息を継ぐ毎に、身体の奥底より湧き出す《力》を全身に行き渡らせながら、一点に導き、高めながら望む形へと錬り上げる。 「……巫炎」 短く呟くと、開いた掌の中で『炎氣』により生み出した、鮮やかな焔が小さく躍る。 (ふう…。世界や法則が異なる上、龍脈との繋りが無い今は、《黄龍の力》は駄目だが、 普通に《力》を使う分には、異常が無い事は不幸中の幸いだな……) 手を振り、焔を消す龍麻。 (――地図も羅針盤も無い旅だが、俺の採る道は決まっている。この世界の魔術師共が存在しないと断言しようが、 関係無い。何がなんでも、還る手段を探り当てて、生きて日本の土を踏んでやる…!) 口に出す事無く、決意を己が裡に刻み込むと、壁に寄り掛かって毛布を被る。 睡眠に優る疲労回復は無し。腕時計のアラームをセットした龍麻も目を閉じる。 ――こうして、彼と彼女の長過ぎる一日は終わったのだった。 ハルケギニア24時… 双月の輝きは語るを知らず、 歴史の流れは人には見えず、 希望は全ての心の中に… 時は静かに命を刻む。 前ページ次ページゼロの使い魔人
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/416.html
「このギアッチョによォォ~ 容赦しねェだと?ええ?おい やってみろクソガキがッ!!」 とは言え、男―ギアッチョには最初からフルパワーで行く気はなかった。よってたかってピンク頭に野次を投げかけていたガキ共は、ギアッチョの凍てつかんばかりの殺気に恐れをなして蜘蛛の子を散らすように我先に逃げ出していたし、年齢から考えて教師であると思われるハゲ野郎は仲間を呼びに行ったのかもうこの場にいない。ちなみに当のピンク頭は彼の下で腰を抜かしている。 ―そのオレに恐れることなく立ち向かってくるガキ・・・どうやらこいつが筆頭格の強さを持っていると理解していいようだ―ギアッチョはそう考えた。こいつをブッ倒し、奴らの戦意を喪失させてからここを出る。なかなかいい作戦じゃあねえかおい。 「今ここでオレのジェントリー・ウィープスを全開にすればこの中庭を丸ごと凍らせるのはたやすい・・・しかし逃げ出したガキ共にそいつを見られると面倒なことになりそうだからなァァ~~」 「何をぶつぶつ言ってるのよ!くらいなさいッ!」 キュルケが言い放ちざま大型の火弾を打ち出すが、ギアッチョはそれを意にも解さずキュルケに向かって歩き出す―氷でシールドを作ることもせずに。その余裕ぶりにキュルケはカチンときたが、「いいわ、ナメているのならそのまま燃え尽きればいい」と思いなおした。2・・・1・・・着弾ッ!! バシュウゥウゥウッ!! 「なッ・・・!!」 しかし火弾はギアッチョに当たる寸前、大量の水をブッかけられたかのような音を立てて「消え去った」!! 「そんな 嘘でしょ・・・!?」 眼前の出来事を信じられないキュルケは2発、3発と火弾を放つ。しかしまぐれであれという彼女の 願いも虚しく、彼に撃ち出された火弾はその全てが直撃寸前に消滅するッ! ギアッチョは歩き続ける。氷のように冷たい眼でキュルケを見据えて。 「炎ってよォォ~~・・・」 ザッ・・・ザッ・・・ 「一般的には火が激しくなったものを言うんだが・・・」 ザッ・・・ザッ・・・ 「実際に火が激しいはずの単語には炎じゃなくて火が使われることが多い」 ザッ・・・ザッ・・・ 「噴火だとか火柱だとかよォー・・・ 」 ザッ・・・ザッ・・・ 「なんで噴炎って言わねぇーんだよォォオオォオーーーッ それって納得いくかァ~~おい?」 ザッ・・・!ザッ・・・! 「オレはぜーんぜん納得いかねえ・・・」 ザッ・・・!! 「な・・・何なの・・・こいつ・・・」 キュルケはもはや完全に敵に呑まれていた。ギアッチョがついに目の前までやってきたというのに―構えることすら出来なかった。そして。 バキャァアアッ!! 「なめてんのかァーーーーッこのオレをッ!!炎を使え炎を!チクショオーーームカつくんだよ! コケにしやがって!ボケがッ!!」 キュルケは宙を舞った。 「うぐっ・・・い・・・痛ッ・・・ フフ・・・だけどおかげで眼が覚めたわ 今よフレイムッ!!」 「ムッ!?」 どこからか現れた化け物が―実際にはギアッチョの眼に入っていなかっただけだが―彼に向かって火炎を吐き出す!しかしそれも彼に当たる直前にことごとく消え去ってゆく。「・・・まだ理解しねーのか?え?おい 隙を突こうが無駄なんだよッ・・・・・・」 そこまで言ったところでギアッチョは気付いた。今火を噴いた化け物の存在に。 「・・・なんだァ~?こいつがてめーのスタンドってわけか・・・?」 とは言ってみたが・・・どう見てもこれは「ビジョン」ではない。実体である。 ―いや・・・そういうスタンドがあってもおかしかねー・・・世の中にゃ無生物に命を与える スタンドもいるくれーだからな・・・―ギアッチョはそう思いなおすとキュルケに眼を戻し、 「こいつでブチ割れなッ!!」 直触りを発動しようとしたその時。 ドゴォッ!! 「うぐぉおぉッ!?」 上空からギアッチョに空気の塊のようなものが撃ちつけられた! 「タバサ!」 キュルケが日の落ちかけた空に向かって叫んでいる。 「ナメやがって・・・上かァーーッ!?」 ギアッチョが見上げた空には。 バサッ これまたどう見ても実体の― 「ドラゴン・・・?」 ―それに乗ってこっちを見下ろしている少女。そして何より彼女の後ろに二つの月が 「・・・なんだ・・・ありゃ・・・」 二つの、月が。 ―ここはトリステイン王国の― 「マジで・・・別世界だってェのか?」 流石のギアッチョも呆然とせざるを得なかった。 ルイズはじりじりとギアッチョに近づいていた。正直自分が何かの役に立つとは思えなかったが、因縁の相手のはずの自分を体を張って助けてくれたキュルケを見殺しになど出来なかったのだ。キュルケは「とっとと逃げなさいよゼロ!」と必死に眼で語っているが、そこは妙な意地を張らせたらトリステイン一のルイズである。聞き入れるわけがなかった。 一方ギアッチョは―静かに沸騰していた。 ここが花京院もビックリのファンタジー世界だとほとんど確定してしまった以上、とりあえずは武器を収めて情報の収集にかかるのが最善手だろう。しかしギアッチョに売られた喧嘩を見過ごす選択などあるはずがない。 「後のことは・・・てめーらをブッ倒してから考えるッ!!そっちが空中にいるってんならよォォ~~ ちょっとだけ本気をださせてもらうぜェェェー!!」 ギアッチョの足元が凄まじい速度で凍っていく。それはギアッチョの靴を覆い足首を覆い・・・ルイズは眼を疑ったが、どうやら氷のスーツを形成しようとしているらしい。 ―マズいッ!! 少女は遅まきながら確信した。何だかよく分からないがこいつの魔法はヤバい!この氷の発生速度、スーツを形成する精密さ、何よりそれが無詠唱で行われているということ!更にこの殺人をも厭わない覚悟!どこまで暴れるつもりか知らないが・・・死人は出る!絶対にッ!そしてそれを阻止するチャンスは今ッ、このスーツが完全に形成されるまでの間しかないことを! ルイズは反射的に動いていた。反射的に―だが決死の覚悟で、ギアッチョに飛び掛ったッ!完全にタバサに気を取られていたギアッチョは一瞬反応が遅れ、そして―ルイズの殆ど頭突きのようなキスをまともに「食らい」、頭からブッ倒れた! 「ガフッ!!てめー何をしやがったァァ~~!?毒か!?スタンド・・・いや魔法かッ!?」 ギアッチョとは逆方向にブッ倒れたルイズは、よろよろと立ち上がりながら告げた。 「・・・契約よ・・・!」 「・・・ああ?どういう事だッ!ナメやがって クソッ!・・・・・・ぐッ!!?」 ギアッチョの左手が光り始め、 「っづぁああぁああぁあああああッ!!!」 その甲にルーンが浮かび上がったッ! こいつを説得するなら今しかない!ルイズはギアッチョの前に仁王立ちになる。 「聞きなさい!あなたがどれだけ強いか知らないけどここには300のドラゴンを一人で倒した 偉大な学院長や太陽拳を使える先生がいるのよ!これ以上騒ぎを起こせば先生方は 黙ってないわ!万一囲いを破って逃げ出せたとしてもあなたみたいな危険人物は四六時中追っ手に追われ続けるわよ!悪魔の軍団を一人で倒せるような追っ手達にね!」 半分以上は今適当にでっちあげた話だったが、 「・・・」 ギアッチョには思いのほか効果があったようだった。ルイズは疑われる前に話を進める ことにする。 「ま、貴族を3人も殺そうとしたんだから今のままでもまず終身刑は免れないわね ちなみにあなたが入るのは水族館と呼ばれる脱獄不能の監獄よ!」 これもデタラメである。 「・・・で、てめーはオレにそれを聞かせてどうしようってんだ?え?おい」 食いついたっ!ルイズは心中でガッツポーズをした。 「話は最後まで聞きなさいよ あなたが罪を問われない方法が一つだけあるわ・・・ 私の使い魔になることよ!」 「・・・・・・一応聞いとくが・・・そのツカイマってのは何なんだ」 「主の剣となり盾となるものよ」 「・・・・・・」 一瞬の逡巡の後、ギアッチョは舌打ちをしながらもルイズに答えた。 「まぁいいだろう・・・この世界のことがわかるまではここにいるのも悪い選択じゃあねぇ」 実際は一度使い魔になってしまえば死ぬまで契約は執行されるのだが―今それを 言うとこいつはまたブチ切れるだろうと思ったのでルイズはとりあえず黙っておくことにした。 ←To Be Continued・・・ 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/906.html
学院長室。四人のメイジと一人の使い魔は、オールド・オスマンに事の次第を 報告していた。全てを聞き終えたオスマンは、ステレオタイプな仙人ヒゲを いじりながら口を開く。 「ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・全く騙されたわい」 一体どこで採用されたのですか、という隣に立つ教師の問いで彼が秘書を 適当に採用していたことが分かり、オスマンは全身に彼女達の非難の視線を 浴びるハメになった。 「ま、まぁ問題はそこではない 重要なのは今君達が成し遂げたことじゃ」 老齢の学院長は無理やりに話を戻し、コホンと一つ咳払いをして続ける。 「よくぞ土くれのフーケを捕まえ、我が学院の至宝を取り戻した!」 誇っていいのかよく分からない顔で二人、いつも通りの無表情で一人、そして これ以上なく誇らしげな顔で一人がオールド・オスマンに一礼した。 「フーケは城の衛士に引渡し、『破壊の杖』は無事この宝物庫に収まった これで一件落着と言うわけじゃ・・・そこで!」 オスマンは生徒一人一人の頭を撫でながら続ける。 「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた また追って沙汰が あるじゃろう ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っているからの 彼女には精霊勲章の授与を申請しておいた」 「本当ですか!?」 四人の生徒達は一様に喜んでいる。 「勿論じゃよ 君達はそのぐらいのことをしたのじゃから」 しかしルイズは、ハッと気付いてギアッチョを見た。 「・・・あの 彼には・・・ギアッチョには何もないんですか?」 松葉杖をついたルイズの質問に、 「残念ながら・・・彼は貴族ではない」 オスマンは申し訳なさそうな顔で答える。 「そんな・・・オールド・オスマン 彼は一番の手柄を立てましたわ!」 「彼女の言う通りです ギアッチョがいなければ今頃僕らはどうなっていたことか!」 「・・・大戦果」 キュルケ達が一斉にフォローに入るが、 「すまんの・・・そうしたいのはやまやまなのだが、ここはトリステインなのじゃ 平民が貴族になることは――出来ない」 聞き分けてくれ、とオールド・オスマンは言う。ギアッチョはそんな彼女達の 抗弁を意外そうに見ていたが、やがて口を開いた。 「別に褒美が欲しくてやったわけじゃあねー その辺にしとけ」 本人のその言葉にルイズ達は不本意ながらも口を閉ざし、それを機会に 偉大な老師は話題を変える。 「さて、今宵は『フリッグの舞踏会』じゃ 『破壊の杖』も無事戻ってきたので 予定通り執り行うぞ」 四人は釈然としない気持ちだったが、本人がいいと言っているならしょうが ない。キュルケ達は無理やり気持ちを切り替えることにした。 「そう言えばそうでしたわね・・・フーケの騒ぎで忘れておりましたわ」 「今日の主役は君達じゃ 用意をしてきたまえ しっかり着飾るのじゃぞ」 いつもの好々爺に戻ってそう言うオスマンに礼をして、四人はドアに向かった。 ルイズはその場を動かないギアッチョに眼を向けたが、「先に行ってろ」と 言うギアッチョに心配そうに頷くと、慣れない松葉杖に苦戦しながら出て行った。 「何か・・・ワシに聞きたいことがあるようじゃの」 そう言うと、オールド・オスマンはギアッチョに向き直った。ギアッチョは黙して 老翁を見つめている。オスマンはそれを肯定と受け取った。 「言ってごらん できるだけ力になろう 彼女達を助け、フーケを捕らえて くれたせめてもの礼じゃ」 それからオスマンは、隣に控える雑草一本ない頭頂部を持つ教師――コル ベールに退室を促した。一体何が始まるのかと期待していたコルベールは 今正にかぶりつこうとしていたケーキを取り上げられた子供のような顔で 部屋を出て行った。それを見届けてからギアッチョは口を開く。 「『破壊の杖』・・・あれをどこで手に入れた?」 キュルケが抱えていたあれは、間違いなく自分の世界の兵器、ロケット ランチャーだった。何故あれがこっちの世界にある?自分の故郷、 イタリアに戻る方法は存在するのか?・・・ 全てを聞き終えたオスマンは、少し驚いた顔をしながらもこの兵器の由来を 語りだした。曰く、この杖は自分の命の恩人が持っていたもので、その男は 既に死んでこの世にいない。そして彼が何故、どうやってこの世界に来た のかはこのオスマンにもさっぱり分からないということだった。 「・・・・・・そうか」 ギアッチョは黙ってそれを聞いていたが、やがて諦めたようにそう言った。 何せルイズが連日徹夜で調べてくれても見つからなかったのだ。そう簡単に 分かるとは、ギアッチョも思ってはいなかった。オスマンはすまんの、と 一言謝罪を述べてから、 「しかしおぬしのこのルーン・・・これについては分かるぞ」 ギアッチョの左手を取ってそう言った。 アルヴィーズの食堂、その二階のホールが今夜の舞踏会場だった。中は 色とりどりに着飾った貴族達で溢れ、平民なら頼まれても入りたくないような 豪奢な雰囲気が漂っている。が、ギアッチョは勿論そんなことに躊躇など しない。ずかずかと入り込んで好き放題に飯を食い、シエスタについで もらったワインを豪快に飲んでいた。さっきまではキュルケと話をしていたが、 ちょっと踊って来ると言って彼女はホールの中央へと歩いていったので、 ギアッチョは今デルフリンガーと会話をしている。 「いやー、しかしダンナも使い魔として召喚されるぐれーだからなんか能力は 持ってんだろーなとは思ってたが いやはやこんな化け物じみた魔法を 使えるたぁね!おでれーたよ俺は」 うんうんと何か一人で納得しているデルフだった。 「あれは魔法じゃあねー スタンドっつーオレの世界の能力だ」 デルフは基本的には己の使い手に味方するあまり主体性のない剣なので 特に情報をバラされる心配はない。そういうわけでギアッチョはルイズの他に このデルフリンガーにだけは隠し事をやめている。 「ほー そうかい しかしおっそろしい能力だよなぁ・・・無詠唱で一瞬の うちに空気までも氷結させるなんざよー あいつらメイジにしてみりゃあ まさに魔人の所業だね あん時ゃ流石の俺もブチ砕けそうだったぜ」 スタンドとは精神のヴィジョン。つまり彼らメイジの扱う魔法と、本質的には 同等のものだと言える。もしもギアッチョのスタンドがなんらかの形を取る ものであったならば、彼らには恐らくその姿が見えていたはずだ。デルフ リンガーには、本人はまだ気付いていないが強力な魔法吸収能力がある。 デルフがあの極寒の世界でブチ割れずに済んだのは相当に強力な固定化が かかっているということともう一つ、彼が所持しているその力がスタンド・・・ 精神の力に密かに反応して発動していたせいなのだが、彼がそれに気付くのは もう少し後の話だった。 テーブルの上で意外な健啖ぶりを発揮しているタバサや性懲りもなく次々と 女性を口説いてはモンモランシーに殴られているギーシュを見ながら、 ギアッチョはホールの奥へと進む。はたしてルイズはそこにいた。 「よぉ」 上から降ってきたその声に、ルイズは握っていたフォークを置いて顔を上げる。 「何してんだ? こんなとこでよォ~」 自分を見下ろすギアッチョから眼を逸らして、ルイズは答えた。 「・・・わたしは主役なんかじゃないもの」 一人で勝手に突っ走って仲間に迷惑をかけ、そして自分の身まで危うくし挙句 己の使い魔まで亡くしかけたのだ。そんな自分にどうして土くれのフーケを倒した ヒーローになる資格があるだろうか。キュルケ達に説得されて一応は着飾って 来たルイズだったが、入場した途端にホールの門に控える衛士に大声で紹介を され、彼女はもう恥ずかしいやら悲しいやらで一目散に壁際の席まで逃げて きたのだった。 「本当なら謹慎をくらっていてもおかしくないのに・・・場違いにも程があるわ」 ギアッチョは頭を掻いた。そりゃあいくら皆無事で済んでるからと言ってそう 簡単に開き直れるわけもないだろう。 全く手のかかるガキだ、とギアッチョは溜息をついた。 「ま・・・反省するのは結構だがよォォー てめーが主役じゃないなんてこと だけはねーぜ」 「え・・・?」 きょとんとしているルイズを見下ろして、ギアッチョは続ける。 「あの時てめーが討伐隊に志願しなきゃあどうなった?おそらくキュルケは 手を上げないだろう・・・それならタバサも志願する理由はねえ ギーシュの 野郎も立ち聞きもそこそこに逃げていっただろうよ そして教師共が 行かされることになれば・・・フーケを逃していたか、もしくは殺されていた 可能性もあった」 ギアッチョは眼鏡を中指で上げて、こう結論した。 「てめーが杖を掲げたからこそ、今のこの状況があるってわけだ」 ルイズはしばらくギアッチョを見上げて呆然としていたが、やがて我を取り 戻すと、ぷいと横を向いて言う。 「・・・な、何よ 危うく丸め込まれそうだったけど・・・結局は上手いこと言って 励まそうとしてるだけじゃない 余計にみじめになるだけだわ」 ネガティヴまっしぐらである。そんなルイズにギアッチョはもう一つ溜息を つくと、座っている彼女の目線に合うようにしゃがみこみ・・・その綺麗な 鳶色の瞳を覗き込んで、 「嘘じゃあねえ」 ただ一言、こう言った。 ルイズは当惑している。ギアッチョはいつも通りの凶眼で、ルイズをいつも 通りに睨んでいるだけだ。だけど何故だか今、その瞳の奥に優しさが 見えた気がして――有り得ないことだと自分に言い聞かせつつも、一度 そう思ってしまったルイズは彼と眼が合っているのがどんどん恥ずかしく なって、結局すぐに眼を逸らしてしまった。この使い魔は本気で言っている のだろうか?いや、そんなわけはない・・・今日わたしがしたことを知ってて 誰が本気でそんなことを言う?・・・・・・でも、もし本気だったら? やや混乱気味のルイズの頭の中で肯定と否定がぐるぐる回る。 ・・・もし、本気だったら。 「・・・・・・嘘じゃないなら」 ルイズは横を向いたまま、スッと手を差し出す。 「・・・・・・お・・・踊りなさいよ・・・」 ギアッチョは思わず「ああ?」と言いかけたが、更に一つ溜息を吐き出すと、 すっくと立ち上がり・・・ルイズの手を取った。 「・・・・・・一回だけなら付き合ってやる」 意外にも――実に意外にも、ギアッチョはダンスが上手かった。やり方 など一切知らないらしく本当に適当なダンスだったが、ロクに左足が 使えないのですぐにバランスを崩すルイズをリードして、足一つ踏むこと なく踊っている。 「・・・う、うまいじゃない・・・あんた」 それは当然だった。ギアッチョはスケートでアスファルトを時速80キロ以上で 走る男である。バランス感覚には相当なものがあった。 ――ったくよォォーー 寝ても醒めても殺しに塗れてたオレがなんだって こんなところでガキ相手にダンスを踊ってるってんだァァ? ギアッチョはルイズを見た。更にバランスが崩れやすくなるというのに、 赤く染まったその顔はギアッチョから背けられたままだ。「全く不器用な ガキだな・・・」と、ギアッチョは今度は心の中で嘆息する。 ――とっとと帰りてーところだが・・・もう少してめーの面倒を見てやると するぜ しょーがねーからよォォ~ 世にも不機嫌に見える顔で、しかしギアッチョは踊り続けた。 「おでれーた!」 さっきまでルイズが座っていた席に松葉杖と共に立てかけられている 魔剣は、実に機嫌の悪そうな男と彼から眼を背け続ける少女という、 全く不可解な組み合わせのダンスを見ながらそう叫んだ。 「しかも使い魔とご主人様だ!こんなダンスは見たことねえ!」 デルフリンガーはもう一度、心底面白そうに叫ぶ。 「こいつはおでれーた!」 ==To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2245.html
前ページ次ページゼロの使い魔人 …天を貫くかの様に高く掲げられた杖が、鋭く振り下ろされた。 果たして、この挙動を何十回繰り返しただろうか? ただ一心に呪を紡ぎ、 己が裡に在るだろう《力》を注ぎ、解き放つ。 だが……。それに応えるのは、只の土煙と爆音。そしてそれにも増して不快で自身を辱める、 男女入り交じった嘲弄の雨だった。 この日を迎えるにあたって、彼女は心身共に入念な準備を施し、不退転の決意を胸に臨んだ。 ――が、度重なる失敗と外野からの呵責無い悪罵、野次がもたらす、焦りと無力感は体力に集中力をも蝕み、 それらが相俟って、『もう後が無い』という事実を彼女に自覚させる。 揺らぐ身体と心に鞭打ち、天地全てに届けといわんばかりの声で、彼女は呪を構築し詠み上げた。 そして……。遂に「それ」が彼女の眼前に顕れた。 それ迄の爆発では無い。七色に煌く、姿見の様な物体が朧に浮かび、表面が波打つや、大きく渦を巻いた。 (や、やった…! 私にも出来…、いけない!) 反射的に浮かぶ歓喜を抑え、彼女は意識を前方の《門》へと傾注する。 もし、この機を逃してしまえば、今の自分が再度この《門》を開ける保証なぞ、一分も無いのだ。 手にした杖を握り直し、残された体力と気力の全てを託す。 「――さあ、来なさい! 我と命運を分かち合いし、半身よ…!!」 凛とした声が響き渡った瞬間。 叫びに応えるかの様に、《門》が一際強い輝きを発した瞬間。 砲弾の如き速度と勢いで、黒い塊が光の中から飛び出した。 「きゃ……!」 突然の事に、正面に立っていた少女は避けきれず弾かれ、その場に尻餅を付く。 彼女を撥ねても影の勢いは衰えず、更に数メイルを転がって近くの草むらに突っ込み、 それを薙ぎ倒した所で、やっと止まった。 ……したたかに打った腰の痛みも今は気にならない。 少女は立ち上がるや、自身の『成果』を確かめようと、蹲る影へと駆け寄る。 ――黒髪と黄色がかった肌。顔の半分は眼鏡に似ているが、ごつごつとした仮面じみた物体に覆れている。 見慣れぬ色形の衣服。その上にやたらポケットが付いた短衣を着込み、足下は頑丈そうなブーツ。 両手には細緻な彫物が施された、騎士が着用するような黄金色をした小手を填めていて、 又、すぐ近くには彼の荷物とおぼしき、濃緑色の袋と銃に似た細長い金属の塊が転がっていた。 ――角も無ければ羽も無く、腕が四本だったり、尻尾も見当たらない。 そして何よりも――杖を携えて無ければ、外套(マント)を纏ってもいない。 ――つまりは、平民。他の者達が得た様な、幻獣はおろか小動物ですらない、どうでもいい存在。 「…ミス・ヴァリエール。使い魔召喚の儀で、平民など呼んでどうするおつもり?」 「なんだい、成功したようでやっぱり失敗してらぁ!」 「さすがは“ゼロ”のルイズ! どこまでも俺たちの予想を裏切らないぜ!」 「しかも、出てきたのは平民だぜ平民! ま、あいつらしいちゃあ、あいつらしいけどね」 周囲を取り囲む人垣が、どっと笑い声を上げた。その中に気遣いや遠慮といった物は、一つとして無い。 否応無く恥辱と怒りを呼び起こされた少女の白皙の肌は、赫っと紅く染まる。 「ミスタ・コルベール!」 背後に控える中年の男性…この儀式を監督する、担当教師へと少女は向き直る。 「なんだね。ミス・ヴァリエール?」 「あの! もう一度、召喚をさせて下さい!」 「それは駄目だ。ミス・ヴァリエール」 訴え掛ける声は、すげなく拒絶される。 「これは決まりだからだよ。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今、やっているとおりだ。 この儀により現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。 一度呼び出した『使い魔』は変更する事は出来ない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。 好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔とするしかない」 ――生存本能に衝き動かされたか、混濁しきった彼の意識は急速に形を整えていく。 それに伴い、神経、筋、腱、骨格、血流、氣脈…。バラけて、停滞していた機能が、 『緋勇龍麻』という人間を動かすべく、有機的に纏まり連携を取り始めた。 (か、は……) 僅かに息をつく。何処からか聞こえて来るのは、あの凄まじい断末魔じみた破壊音に変わって、 ヒトの声…しかも複数のだ…である。 若い女性らしいのと年配の男性…、それ以外にも、少なくない数の人間がいるのがわかる。 その時点で、今居るのはあの崩壊しつつあった遺跡では無く、何処か地上に出ている事は明らかだ。 (く…。地下で、あの鏡みたいなモノへと飛び込んでから、此処で寝転がっている迄に一体、何が、あったと…?) 一方で、全身の自己診断は既に終わっていた。 ――僥倖というべきか。全く未知の異変に巻き込まれたというのに、拙い怪我や異常等は感じられ無い。 逃げる時から稼働っ放しだったN.V.Gの電源を落として頭の上にずらすと、二日酔い にも似た頭痛に眉をしかめつつ、投げだされたままの四肢に力を送り、上体を起こす。 「――いは認められない。彼は…、ただの平民かも知れないが、呼び出された以上、君の『使い魔』 にならなければならない。古今東西、人を使い魔とした例は無いが、春の使い魔召喚の儀式 のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔となって貰わなくてはな」 「そんな……」 半分方禿げ上がった中年男性の前で、桃色がかった金髪の少女がうなだれるのが見えた。 「…そこの二人組。聞きたい事が有る。一体、此処は何処だ? お前達は、何者なんだ…?」 彼の当然ともいえる問い掛けは無視されたのか、手前にいた少女がこちらへと歩み寄って来る。 「…聞こえていないのか? お前達は誰だ? 何故こんな場所に、俺が居るというんだ?」 敵意や武器は無いようだが、警戒すべき何かを感じ、自然、彼の手は腰に下げた物へと伸びる。 「あーっ、もう! うるさいだけじゃなく、失礼な平民ね! いい? 言うのは一度だけよ。 ここは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国。そして、伝統あるトリステイン魔法学院よ。 …後、これが一番大事な事だけど。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール。 あんたの主人となるべきメイジよ。覚えておきなさい!」 「な、に……?」 (トリステイン王国? 地名だけなら、ヨーロッパか何処かにありそうだが、仮にそうだとしても、 日本から此処迄の瞬間転移を行った上、着いた先はハルケギニア大陸!? しかも『魔法』学院だと!? 馬鹿な…!!) 経験上、大抵の異変、トンデモには耐性を備えていた龍麻だが、全く予想だにしない事態と地名や語句に 思考を掻き乱される、が…。それに気を取られたのが、彼の人生で二番目の不幸であった。 「……ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」 気付けば、息がかかる程の距離にルイズと名乗った少女の顔がある。 「!?」 そのまま彼の唇に押し当てられる、柔らかく温かな触感。 「っ…!? いきなり何をするかっ!」 触れたのは一瞬。反射的に身を放した龍麻は、袖で口元を拭う。 「何って、『契約』に決まってるじゃない。…感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、 普通は一生ないんだから」 「契約だと!? 何を勝手なこ…っっ!?」 言い終える前に、左手に感じた違和感に唇を噛む。 火傷…むしろ高圧電流に触れた様な熱と痺れが、左手を起点に全身を這い回る。 「ヴァリエールとか言ったな! 何が原因で、こうなった…っ!!」 「すぐ終わるわよ。あんたの身体に『使い魔のルーン』が刻まれているだけだもの」 言い返すよりも先に、『黄龍甲』の止め具を外すと、左手の状態を確かめる。 ――鈍色に光る、文字とも記号ともつかぬ代物。勿論、龍麻が持つトレジャーハンターとしての 知識の中にも、類似する物は全く存在しない。 (これは……!?) ふと、横から向けられた視線に気付く龍麻。 見れば、あの中年の男がまじまじと左手に刻まれたソレを注視している。 「ふむ…。珍しいルーンだな。少し調べてみるとしよう」 一人ごちると、龍麻達から背を向け、向こうに居並ぶ教え子達に声を掛ける。 「――これにて、儀式を終了する。さあ皆、教室に戻るぞ。遅れないように」 その身体が音も無く浮かび上がり、滑る様に宙を舞った所で驚愕の余り目を見開く。 「何っ!?」 これ迄、異能を宿す奇人、魔人、変人、化人、人外らを相手取り、無数の命の削り合いを演じて来た龍麻だが、こればかりは無い。 しかも後ろにいる、ルイズと名乗った少女の同窓と思しき、男女含めた集団も又、 当然の様に飛び上がり、一団となって動きだしたのだ。 その光景を片や呆然と、もう一方は憮然とした表情で見やる。 そして…。教師であるコルベールと、同級生一同が立ち去った後の草原に、龍麻とルイズだけが取り残された。 「――人が空を飛ぶのはいい。だが、それが『魔法』なんて代物によって成り立つ等と、 デタラメも此処に極まれりだな…!」 「なによ。メイジが飛ばなくてどうすんのよ」 「その発想自体がおかしいんだ。少なくとも、俺にとってはな…!」 目一杯主張する龍麻だが、ルイズは鼻にも掛けずに答える。 「あんたの考えなんてどうでもいいし、関係ないわ。ここは、魔法とそれを扱うメイジが全てに先立つ世界よ。 …そうだ。まだ、あんたの名前を聞いていなかったわね」 「…緋勇龍麻。ロゼッタ協会に籍を置く、トレジャーハンターだ」 仮の身分ではあるがな、と胸中で付け加えつつ、名乗る龍麻。 「そ。名前がわかった所はいいとして、取りあえず付いてきなさい。 今からあんたに申し渡しておくべき事が有るからね」 「…奇遇だな。俺からもアンタに対し、言いたい事と確かめたい事が山積しているからな」 近くに転がっていた、自分のバックパックと愛用のドイツ製突撃銃を拾い上げた龍麻は、負けじと言い返す。 互いに対する、敵意じみた警戒心と観察の視線を交わしつつ、黒髪の青年と桃色がかった 金髪の少女は取りあえずの目的地である、草原の先に有る白壁に囲まれた城塞を思わせる建物へと歩いて行った。 ――頭上をかすめ飛ぶ異郷人(メイジ)… 紅く輝く黄昏の陽… 異界を成り立たせる常識と法則… その日、召喚主は“従え!”と言った……。 前ページ次ページゼロの使い魔人
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/717.html
ガシャン!とデルフリンガーを地面に投げ捨てる。そうしておいてギアッチョは キュルケとルイズを交互に睨んだ。 「勝てる相手かどうかも考えずによォォ~~・・・ただ条件反射で突っ込んで、挙句 仲間の命まで危険にさらす・・・今てめーがやったのはそれだキュルケ」 ギアッチョはキュルケの顔を覗き込んで続ける。 「そんなのは『義務』でも『覚悟』でもねぇ・・・ただの無謀だ てめーは根拠もなく まぁなんとかなるだろうと考えたな え? 最も忌むべきもの・・・無知と驕りから 来る過信だ」 一切の容赦無く、ギアッチョは冷厳として事実を述べる。曲がりなりにも貴族である キュルケは何とか言い返したかったが、彼がいなければ親友は死んでいた―― 自分が殺していたと思うと、己には何を言う資格もないと理解した。 「ルイズ、てめーもだ」 キュルケが悄然としてうつむいているのを意外そうに見ていたルイズは、ハッと 我に返って姿勢を正す。 「こいつが走り出した時、おめーは爆発でフッ飛ばしてでもキュルケを止めるべき だった 二人一緒なら勝てると思ったか?それとも倒せる自信があったってワケか?」 どうなんだ、と凄むギアッチョに、ルイズもまた言葉を返せなかった。いざとなれば ギアッチョが助けてくれる。彼女は無意識のうちにそう考えていてしまっていた。だが 現実はどうだ。タバサがいなければ、ギアッチョが辿り着く前に自分達は死んでいた だろう。周囲の状況も、自分の実力も鑑みず、安易に自分の使い魔に頼って しまっていた。ルイズは自分がとても情けなくなったが――それと同時に、彼女の 心にはとてつもない不安の波が押し寄せた。 ギアッチョは自分に幻滅した・・・? ふと浮かんだその言葉は、一瞬でルイズの心に波紋となって爆発的に広がった。 ――そんなのいやだ・・・! ギアッチョ。私の唯一成功した魔法の結果。私の唯一の使い魔。私の唯一の味方。 私の唯一の、私の――・・・! ルイズの頭をさまざまな言葉が駆け巡る。 幻滅、失望、諦観、厭離、侮蔑、嘲笑、忌避、放逐・・・。 ――いやだ嫌だ、そんなの嫌・・・!! ギアッチョに見放される恐怖で心が埋め尽くされてしまったルイズには、彼が何故 怒っているのか、何が言いたいのか・・・その真意を汲み取ることなど出来なかった。 「てめーに出来ることをしろ」と言うギアッチョの言葉も、ルイズの耳に届くことは なかった。そしてそれが故に――ルイズは重大な錯誤をすることになる。 説教を終えてデルフリンガーを拾い上げるギアッチョに、キュルケがおずおずと 声をかける。 「・・・あの ギアッチョ」 「ああ?」 まだ何かあるのかといった顔をキュルケに向けるギアッチョに、 「――ごめんなさい」 キュルケがストレートな謝罪を発した。ギアッチョは怪訝な顔でキュルケを眺める。 「あなたのこと誤解してたわ・・・本当にごめんなさい」 ギアッチョは自分の親友を助けた。それも、一歩遅ければ当のタバサとシルフィード 共々潰される危険を冒してまで。今までの行動がどうあろうが、その事実だけで キュルケが彼を信じるには十分にすぎた。 ギアッチョはトンと肩にデルフリンガーを担ぐ。 「疑われたり監視されたり命を狙われたり・・・そんな事は日常茶飯事だ 気にしちゃ いねー」 ギアッチョはそう言うとキュルケ達に背を向けた。 「しかしよォォ こんな役割はプロシュートかリゾットにやらせるもんだ オレのキャラ じゃあねー・・・もう同じことを言わせるんじゃあねーぞ」 ひょっとして、意外と面倒見は悪くないのかしら。そう思ったキュルケは、 「・・・分かったわ」 そう答えて少し相好を崩した。 翌朝。オールド・オスマンは学院中の教師を一室に集めた。集まった教師達は、 口々に誰が悪いだの自分は悪くないだのと責任を押し付けあっている。 目撃者としてタバサと共にコルベールに呼ばれたキュルケは、そんな状況に 嘆息しつつ同じく召致されたルイズに眼を遣る。心なしか気分が沈んでいるように 見えるが大丈夫だろうか。「昨日の説教がそんなに効いたのかしら」などと考えて いると、騒ぎ続ける教師達を制止してオスマンが話を始めた。 宝物庫が破られたのは教師全体の責任であること、奪われたのは破壊の杖で あること、犯人は目撃者達によるとトライアングルクラスの土のメイジ、恐らくは 土くれのフーケであること、そしてオールド・オスマンの秘書であるミス・ロングビルが 徹夜の調査でフーケが隠れていると思しき場所を発見したこと。 以上のことを述べてから、学院長は教師達を見渡してフーケ討伐の志願者を募った。 ところが、手を上げる者はなかなか現れない。もしも失敗すれば、自分の名は地に 落ちる。或いは殺されてしまう可能性すらあるのだ。教師達がしりごみするのも、 分からなくはない。 不甲斐ない教師共の代わりに思わず杖を掲げそうになったキュルケだが、 ギアッチョに「出来ることをしろ」と言われたことを思い出して気持ちを抑えた。 誰も手を挙げないからと言っても、自分はただの生徒なのである。放っておけば 志願しなくとも教師の誰かは行かされる。トライアングルが数人がかりなら、 いくら土くれのフーケと言えども逃げ切れはしないだろう。わざわざ自分から 死地に赴くような真似をする必要はない。そう思っていると―― スッと杖を掲げた者がいた。杖の持ち主を確認して、キュルケは眼を見張る。 得体の知れない平民を使い魔に持つ少女、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールだった。 ギアッチョの信頼を取り戻すべく彼女が取った方法、それは土くれのフーケを 倒し、自分も役に立つのだと証明することだった。 「ちょっ・・・!あなた何やってるのよ!」 キュルケは慌てて止めに入る。 「うるさいわねキュルケ 見なさいよ、誰も手を挙げないじゃない!」 ルイズの言葉に教師陣はうぐっと息を詰まらせるが、彼女が言いたいのは そんなことではない。キュルケはちらりとルイズの後方に控える男、ギアッチョを 見た。ギアッチョは冷徹な眼でルイズの後頭部を見ているが、特に何も言う気配は ない。「ちょっといいのそれで!?」とキュルケはギアッチョを小声で問い詰める。 「あなたが言ったんじゃない!出来ることをしろって!」 しかしギアッチョは何も答えず、ただルイズを見つめている。 ダメだ、このままではルイズが一人で――正確には二人でだが――行かされて しまう。キュルケは迷った末に、覚悟を決めた。 「あぁあもう!微熱のキュルケ、志願させていただきますわ!」 出来ることをしろと言うのなら――出来る限りでルイズを守ってやらなくては。 そんなキュルケを、ルイズは不審そうに見つめている。 ――どこまで鈍感なのよこのバカはッ! キュルケは出来ることなら怒鳴りつけてやりたい気分だった。 そんな二人を横目で見て、タバサは観念したように杖を掲げる。思い思いの 感情で彼女を見る二人に、タバサは一言、 「心配」 と呟いた。その言葉にルイズとキュルケが感動していると、教師達から次第に 批判の声が上がり始めた。曰く、「子供が何を言っているんだ!」「生徒を危険に さらすわけにはいかないでしょう!」などなど。しかしオールド・オスマンがそれでは 誰か志願する者はいるのかと問うと、彼らは途端に静まり返る。 「やれやれ・・・ よいか、彼女らはただの生徒ではあるが、敵の姿を見ているのだ その上、ミス・タバサは若年にして既に『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士であると 聞くぞ」 周囲にざわっと驚きの声が起こる。キュルケやルイズも驚いた顔でタバサを見て いた。老練のメイジはそのまま言葉を継ぐ。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの高名な軍人家系の出で、彼女自身なかなかの 使い手であると聞く」 そして、と言いながらオスマンはルイズを見る。 「そして・・・あー・・・」 学院長はわずか言いよどんだが、すぐに威厳を取り戻した。 「ミス・ヴァリエールはかのヴァリエール公爵家の息女であり、将来有望なメイジで あると聞いている そして彼女の後ろに控えておる使い魔は、平民の身で ありながらあのグラモン元帥の息子を打ち負かしたそうではないか」 彼女らを派遣することに文句のある者は前に出よ、と言って締めるオスマンに、 意見を唱えるものなど一人も居りはしなかった。 ガラッ! ――いや、一人だけいた。その男は扉を開けて入ってくると、あっけに取られて いる教師達への挨拶と立ち聞きの謝罪もそこそこに、本題を言い放つ。 「この僕、ギーシュ・ド・グラモンを討伐隊に加えてはいただけないでしょうか!」 豊かな金髪とセンスの悪い服の持ち主、ギーシュであった。 「ちょっ・・・いきなり入ってきて何言ってんのよあんたは!」 最初にツッこんだのはルイズである。それにキュルケが続く。 「あなた病み上がりでしょう?何考えてるか知らないけどやめておきなさいよ」 しかしオールド・オスマンは彼女らを片手で制して言う。 「理由を聞こう、ミスタ・ギーシュよ」 「はい! 僕は先の決闘で、ミス・ヴァリエールの使い魔・・・このギアッチョに 敗北しました」 ギーシュは語りだす。周りの人間達は――ルイズやキュルケでさえ、ギーシュの 奇行に困惑していたが、ギーシュは全く意に介さず先を続ける。 「彼は決闘の前、僕に『覚悟』はあるのかと尋ねました それに対して僕は そんなものは必要ないと嘯き―― 結果は皆さん御存知の通り、完膚なきまでに 敗れ去りました」 そう言って彼はギアッチョに眼を向ける。その眼に迷いはなかった。ただし、彼の 膝は相変わらずガクガクと震えてはいたが。 「僕はその時から、『覚悟』という言葉に取り憑かれているんです 彼の言う『覚悟』 とは一体何なのか 彼と僕を・・・いえ、我々殆どのメイジを隔てている何か強大な 壁・・・僕はそれが『覚悟』なのだと思ってます そして、ならばその正体は一体 何なのか? 僕はそれが知りたい 理由はそれだけです・・・オールド・オスマン」 部屋中を沈黙が支配した。殆どの者はギーシュの言ったことの意味を量りかねて いるようだったが、オールド・オスマンはそれを理解したようだった。 「・・・なるほど それでは直接本人に聞こうではないか どうだねギアッチョ君 彼・・・ギーシュ・ド・グラモンの同行を許可するかね?」 決断を任されたギアッチョは、ふぅっと一つ溜息をついてから、魔物じみた双眸で ギーシュの眼を覗き込む。ギーシュはそのあまりの気迫に今すぐ謝って逃げ出し たくなったが、全身の力を集中させて――冷や汗をダラダラ流しながらも、 何とかギアッチョの視線を受けきった。 「・・・やれやれ 勝手にするんだな・・・ただしよォォーー てめーのケツはてめーで 拭け 間違っても仲間がいるからなんとかなるなんて思うんじゃあねーぞ」 「・・・あ、ああ!約束しよう!」 交渉は成功した。喜ぶギーシュを見てやれやれと言わんばかりに首を振る ギアッチョだったが、直ぐにオスマンに向き直ると、 「爺さんよォォ~~ ついでに聞いておくが」 一つ確認しておくことにした。「貴様、オールド・オスマンになんということを!」等と 言う声が聞こえるが全く気にしない。 「そのフーケとやらよォォーー・・・殺してもいいんだろうなァァ」 殺す。あまりにも淡々と吐き出されたその単語に、教師達はまたも固まった。 そして誰にも気付かれなかったが、ミス・ロングビルもその耳を疑っていた。 オスマンはピクリと眉を上げたが、直ぐにいつもの好々爺然とした顔に戻る。 「それは遠慮してもらいたいのう 処理が色々と面倒じゃからの」 その返答に、ギアッチョは面倒臭そうな顔をしたものの特に文句は言わなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1157.html
ルイズは夢を見ていた。夢の中で、ルイズは自分ではない誰かになっている。 誰かになったルイズは、どこか古臭い部屋で仲間と思われる人々と会話を交わして いた。自分も回りもどこかかすみがかかったようにぼんやりとして、ルイズはそれに 不安を覚えたが、それと同時に不思議な居心地の良さを感じていた。 「――」 仲間達は自分に何かを語りかける。 「―― ――」 しかし、その言葉もまたおぼろげにかすみ、 ルイズの耳には届かなかった。 ルイズはそれが何故だかとても悲しいことのように思えて、なんとか声を聞こうと するが――聞こうと思えば思うほど、言葉はかすみ、彼らも自分もかすんでゆく。 それでも彼らはルイズに何かを伝えようとしている。酷くかすんで彼らの顔は 分からないが――きっと今の自分である『誰か』の大切な人達なのだろうと、 ルイズは思った。そう思うと、彼らの声が聞えないのがなおさら辛くて、ルイズは 声を張り上げようとする。だけどそれすらもかすみにとけて、そして、世界が、白く、 包まれて。真っ白い闇に、全ては消えた。 ――ゾクッ、と寒気がする。誰かに見られているような視線を感じ、いつの間にか 自分に戻っていたルイズはキョロキョロと周りを見渡すが、それらしいものは 何もない。にも関わらず、ルイズの心はアラームを鳴らし始めた。何かよく 分からんがこれはヤバいッ!と思うと同時にルイズの体は浮上を始め、心の 海を上へ上へと上昇し―― 意識が覚醒したルイズが最初に見たものは、今にもスタンドを発動させそうな 眼でルイズを見下ろしているギアッチョの姿だった。 「だから言ったじゃあねーか」 バシャバシャと水音を立てて顔を洗うルイズを見ながらギアッチョは言った。 「この時間になったら起きなきゃならねーってことを体が覚えこむってよォ~~」 ――覚えこまされたのはあんたの殺気と威圧感よ! と心の中でツッこむルイズである。 「起きる度に殺されかけてちゃ身が持たないわよ・・・」 ルイズはため息をつきながらクローゼットに向かう。ギアッチョに服を持って 来いなどとは勿論言えない。ごそごそと着替えを漁っていると、ガチャリと音を 立ててギアッチョが部屋の扉を開いた。 「・・・どこ行くのよ」 床に座り込んだ状態で首だけ向けて訊くルイズに、 「厨房だ」 と背中で答えるギアッチョ。 「そう・・・それならいいわ だけど教室にはちゃんと来てよね」 ルイズが言い終えると同時にギアッチョは廊下へ姿を消した。 「何よ・・・そんなに早く出て行かなくてもいいじゃない」 と一人ごちるルイズだったが、その原因が自分の着替えにあるとは気付く べくもなかった。 昨日の決闘の噂は、一日も立たずに学院中に浸透したらしい。ギアッチョの 行くところ常に生徒が道を開け、ギアッチョの後ろには謎の魔法を使う男を 一目見ようと大勢の野次馬が付き従っていた。 ――やれやれ・・・シナイ山で啓示を受けた覚えはねーんだがな ギアッチョは畏怖と好奇の視線に辟易していたが、また同時に奇妙に新鮮な 感覚を覚えていた。ギアッチョの生前は目立つという行為はタブーであった。 暗殺を成功させる為、敵の刺客から逃れる為――何か特殊な場合を除き、 ギアッチョ達暗殺者が目立ってしまうことは決してあってはならないことなのである。 こんなに大勢の人間に注目されるのは初めてか、でなくとも久方ぶりの経験だった。 まぁ実際にはギアッチョがそう思っているだけで、客観的にはギアッチョは暗殺者と して有り得ないぐらい目立ちまくっていたのだが。暗殺チームで刺客に襲われた 回数にランキングをつけたならば、ギアッチョはブッちぎりで一位だったことだろう。 「あいつじゃなきゃあ10回は死んでるな」とは地味度一位のイルーゾォの言である。 「おはようございます」 シエスタはにこやかにギアッチョを出迎えた。 「ギアッチョさんの分、もう出来てますよ」 悪いな、と答えてギアッチョは厨房に入る。マルトー達と適当に挨拶を交わして テーブルに着くと、そこには既にギアッチョの為に朝食が用意されていた。 「さぁ食べてくれ!少しならおかわりもあるから遠慮するなよ!」 マルトーはそう言うと意味もなく豪快に笑った。 「いただくぜ・・・ん?」 いざ食事を始めようとしたギアッチョは、窓の外から赤い何かが覗いている 事に気付いた。よくよく眼を凝らすと、そこにいたのはキュルケの使い魔であった。 ――あの化け物・・・サラマンダーとか言ったな ご主人様の命令でオレを監視 してるってェわけか・・・ご苦労なこった ルイズが言っていた、使い魔の視覚と聴覚を共有する力を使っているのだろう。 ギアッチョはスープを飲むふりをしながら、キュルケがフレイムと名付けた化け物を 観察する。どうやら本当に自分を監視しているようだ。脇目も振らずこちらを凝視 している。ガンくれてやろうかとも思ったが、特に迷惑でもないのでギアッチョは そのまま無視を決め込んだ。 「このままキュルケのヤローの疑いが晴れてくれりゃあ儲けもんだしな」 そう結論すると、ギアッチョは今度こそ目の前のご馳走に専念することにした。 それから数日は滞りなく進んだ。フレイムが四六時中ギアッチョの周りをうろついて いること以外は特に変わったこともない。ギアッチョ同様早々にフレイムに気付いた ルイズがキュルケに食ってかかろうとしたが、ギアッチョに静止されて引き下がった。 ギアッチョがキレた回数もたったの3回と、実に平和な日々だった。 「明日は街に出るわよ」 その夜、ルイズはそう宣言した。 「授業はねーのか」 と訊くギアッチョに、 「明日は虚無の曜日だからね」 短く答えるルイズ。虚無だ何だと言われてもギアッチョに分かるわけもなかったが、 まぁ要するに休日なのだろうと彼は判断した。何をしに行くのかと尋ねると、 「剣を買いに行くのよ」という答えが返ってくる。 「剣だぁ?誰が使うんだよそんなもんよォォ」 当然の疑問を放つギアッチョをルイズは指差した。 「ああ?いらねーよそんなもん オレは素手が一番力を発揮出来るんだからな・・・ 第一ナイフや銃を扱ったことはあっても剣なんざ触ったこともねーぜ」 ホワイト・アルバムはプロシュートのグレイトフル・デッドと同様、直触りが最も効果を 発揮するスタンドである。わざわざ剣を握って片手をふさがらせる必要はない。 そう言うと、 「そ・・・それは・・・えっと、あれよ・・・だから」 何故かしどろもどろになるルイズである。 「・・・そ、そうよ!貴族の使い魔たる者、剣の一つや二つ下げていなければ格好が つかないの!分かったらつべこべ言わずに寝なさい!明日は早いんだからね!」 そう言い放ってルイズは逃げるようにベッドに潜り込んだ。 ギアッチョは「剣下げてる使い魔なんて見たことねーぞ」と言おうかと思ったが、 ギーシュ戦の感謝を素直に言えないルイズの遠まわしな礼だと気付いて黙っている ことにした。 「剣で何とかなる敵がいるならそれが一番だしな・・・・・・」 今は平和だがこれから何があるか分からない。スタンドはやはり極力隠すべきだと 判断したギアッチョだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1033.html
重々しい音を立てて魔法学院の正門が開き、王女の乗った馬車の一行が到着した。 整列した生徒達は一斉に杖を掲げて、王女アンリエッタの来訪を歓迎する。 敷き詰められた緋毛氈の上にアンリエッタが降り立つと、生徒達から一斉に歓声が上がった。 ギアッチョとルイズ、それにキュルケとタバサ、ついでにギーシュとモンモランシーも手を振る王女を眺めている。 正確に言えば、タバサだけは地面に座って我関せずで本を読みふけっていたが。 ギアッチョはしばらく興味深げに王女や御付の人間達を眺めていたが、やがて飽きてきたらしい。 あくびを噛み殺して隣の少女に眼を向けると、ルイズは紅潮した顔で一点を見つめている。 何とはなしにその視線を辿ると、どうやらルイズが見ているのはつばの広い羽帽子の下から凛々しい口髭の覗く、護衛の男のようだった。 「知り合いか?」 と声を掛けてみるが、聞こえていないのかぼんやりと男を見つめたままルイズは何の反応も返さない。 ギアッチョも別に気になっているわけでもなかったのですぐに顔を戻した。 「あの人はきっと魔法衛士隊の隊長だね」 と言ったのはギーシュである。 「何だそりゃあ?」 アンリエッタに鼻の下を伸ばしていたことがバレたらしく、モンモランシーに足を踏みつけられた格好のままギーシュは続けて説明をする。 「女王陛下の護衛隊さ グリフォン、マンティコア、ヒポグリフの三つの隊があるんだが、あのマントの刺繍からするとグリフォン隊だろうね 僕達メイジには憧れの存在だよ」 「・・・マンティコア?」 聞き覚えのある単語に、ギアッチョは記憶を辿る。 ――あれは・・・プリニウスの博物誌だったか? 確か、とギアッチョは思い返す。ギアッチョが読んだ記述では、それはライオンの身体を持つ化け物だった。 それだけなら問題はないのだが、博物誌ではその前後に「人面に三列の歯を持つ」という記述があり、おまけに彼が読んだものにはご丁寧に口の下にもう一つ口がついた顔で人面のライオンが不気味に微笑んでいる挿絵までついていて、その気持ち悪さにギアッチョは一瞬で本を二つに引き裂いたのだった。 更に出禁の図書館が増えたそんな記憶を思い出して、ギアッチョはギーシュに眼を向けて一言、 「てめーらのセンスはわからねー」 と呟いた。 さてその夜。ルイズは未だに思案顔でベッドに転がっていた。ギアッチョやデルフリンガーが何を言っても生返事である。 「それで、ルイズの嬢ちゃんはどったのよ?」 とデルフが問いかけるが、ルイズはやっぱりうわの空で「あー」とか「うー」とか言うだけなので、仕方なくギアッチョが返事をする。 「さぁな・・・昼からずっとこの調子だがよォォ~」 ルイズは何かを思い悩んでいるようだった。 「あのヒゲが憎いなら暗殺してやるぜ」と言おうかと思ったギアッチョだったが、どうもそんな感じの悩みではなさそうだったのでやめておいた。 他に何か言ってやるべきかと少し考えたが、数秒の黙考の後どうせ明日になったら治るだろうと投げやり気味に結論してギアッチョはさっさと藁束に寝転がる。 その時、トントンと決められたような間隔を空けて扉がノックされ、ルイズはその音にハッと飛び上がると急いで服を着て扉に駆け寄った。 果たして、入ってきたのは真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女だった。 ノックの合図はギアッチョにとって懐かしいもの――己が仲間であることを知らせるサインだったので、彼は特に警戒はしなかった。 しかしノックの後に入ってきた人物が黒い頭巾で正体を覆い隠しているとなれば話は別である。 ギアッチョはさりげなくデルフリンガーに手を掛けて少女の動向を見守った。 しかしギアッチョの心配は杞憂だった。少女は黒いフードを外すと、 「ああ、ルイズ・フランソワーズ!お久しぶりね!」 と感極まった声で言うや否や跪いたルイズに抱きついた。 「姫殿下!いけません、こんな下賎な場所へお越しになられるなんて!」 ルイズがかしこまった声で言えば、 「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!ルイズ・フランソワーズ、わたくしとあなたはお友達じゃないの!」 フードの少女――アンリエッタ王女は即座にそれを否定する。 ギアッチョは小さく溜息をつくと、デルフリンガーを元の場所へ立てかけた。 聞けばアンリエッタは閉塞した宮廷にうんざりしているらしい。 幼馴染であるらしいルイズとしきりに昔話に興じている。 「・・・・・・結婚するのよ、わたくし」 ひとしきり思い出を語り合った後、王女は無理に笑顔を作ってそう言った。 その声に何か悲しげなものを感じて、ルイズは複雑な顔で祝いの言葉を述べた。 そこで初めて、アンリエッタは藁束の上に座るギアッチョの存在に気付く。 「あら・・・ごめんなさい もしかしてお邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼・・・あなたの恋人なのでしょう? いやだわ、わたくしったら つい懐かしさにかまけてとんだ粗相をいたしてしまったみたいね」 そう言って、アンリエッタはすまないという顔をする。 「こ、恋人?ギアッチョが?わたしの?」 思ってもみなかった角度からの攻撃に、ルイズは少しうろたえる。ちらりとギアッチョに眼を向けると、思いっきり視線がぶつかった。 途端に顔が赤くなるのを感じて、ルイズは理由も分からぬままにバッと俯いて顔を隠す。 「そそ、そんなんじゃありません!これはただの使い魔です!」 「・・・使い魔? 人にしか見えませんが・・・」 アンリエッタは小首をかしげた。 「人です でも使い魔です」 自分をルイズの恋人と勘違いしたアンリエッタをギアッチョは「大丈夫かこのガキ」 といった眼で観察していたが、ルイズにとっては幸いなことにそんなギアッチョの心がアンリエッタに気付かれることはなかった。 「そうよね ルイズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど・・・相変わらずね」 アンリエッタはそう言って物憂げに笑う。 ルイズはギアッチョの凄さをそりゃもう徹夜で語ってやりたい気分だったが、王宮に彼の力を知られるのは流石に不味いかと思い、多少の罪悪感はあるもののそ知らぬ顔で通すことにした。 「――それよりも 姫様、どうなさったんですか?」 この部屋に入ってきた時から、アンリエッタに元気がないことにルイズは気付いていた。 ルイズのその言葉に、アンリエッタは話そうか話すまいか悩む素振りを見せたが、やがてぽつぽつと語りだした。 アルビオンの貴族達が反乱を起こし、今にも王室を打倒しそうであること。 アルビオンを制圧すれば、彼らは次にこの小国トリステインに攻め入ってくるであろうということ。 それらに対抗する為に、トリステイン王女アンリエッタの嫁入りという形でゲルマニアと同盟を結ぶことになったということ。 それらをいちいち大げさな身振りで説明するものだからギアッチョはいい加減うんざりしてきたが、ルイズが真剣に聞いているので仕方なく黙って耳を傾けていた。 この分だと何かの任務を任されるかもしれない。 アンリエッタの話は続く。ゲルマニアとの同盟を阻止する為に、貴族達は婚姻を阻止する為の材料を血眼で捜していること。 そして、ある時自分のしたためた一通の手紙が、その材料であるということ。 「・・・そ、その手紙はどこにあるのですか?」 ルイズの眼は真剣だった。ギアッチョは呆れた顔で彼女を見ているが、特に何も言いはしなかった。 手紙のありかはアルビオン。正に戦の渦中の人、アルビオン王家のウェールズ皇太子が所持しているという。 「ああ・・・破滅です!ウェールズ皇太子は遅かれ早かれ反乱勢に囚われてしまうでしょう そうしたらあの手紙も明るみに出てしまうわ!」 アンリエッタはそう言って泣き崩れる。そんな彼女を見て、ルイズは一も二も無く立ち上がった。 「ギアッチョ・・・わたし達を助けてくれる?」 懇願するようなルイズの言葉にギアッチョは何度目かの溜息と共にやれやれという言葉を吐き出すが、 「・・・ま、オレは使い魔だからよォォ~~ 面倒だがついて行ってやるとするぜ」 実にあっさりと承諾した。 知ってか知らずかルイズの良心につけこむ話し方をするアンリエッタは正直胸糞悪かったが、万一この国が戦争になりでもしたら面倒になりそうだということと、他の国も一度ぐらいは見てみたいという好奇心が合わさった結果そういう結論に達したのだった。その言葉を聞いて、ルイズの顔がぱぁっと輝く。 「姫殿下!わたし達にお任せください!わたしの使い魔がいれば、どんな任務でもきっと達成して御覧にいれますわ!」 そう言ってルイズは凹凸に乏しい胸を誇らしげに張る。デルフリンガーはそんなルイズを見て、 「えらく信頼されてんねダンナ」 と笑ったが、ギアッチョは不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。もっとも彼が不機嫌そうに見えるのは全くいつものことだったが。 話が纏まると多忙なアンリエッタはすぐに部屋を辞し、ギアッチョとルイズは明日に備えて早々に寝床に就き。彼らの多忙な一日は、こうして終わりを告げた。
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/2768.html
「ええい、もう一度よ!」 無理矢理にもう一度だけ召喚のチャンスを得たルイズ。 モクモクとした噴煙が消え、そこから現れたのは…… 「む……ここは……何処か……?」 東方不敗マスターアジアである。 予想外の大物の登場に、ざわ…ざわ…となるコルベール&学生s。 「東方不敗きたよ……」 「俺、サイン貰ってこようかな……」 「よし、これなら文句無しに成功よね……、契約しなくちゃ!」 東方不敗の手に浮かび上がるルーン。流石は東方不敗である。玉子とは違いその痛みにも微動だにしない。 「やったわ、留年回避……あら?」 様子がおかしいと、ルイズは気付く。あまりにも反応が無さすぎるのだ。 「これは……まさか!?」 そう、東方不敗は既に死んでいた。 彼はGガンダム本編で言う45話……『さらば師匠!マスター・アジア、暁に死す』の絶命直前よりこの地に呼ばれたのだ! 「……もう息はありませんね」 「ししょおおおおおおおおおおっ!!!」 【トリステイン魔法学校】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@カオスロワ】 【状態】留年 【装備】つえ 【道具】支給品一式 【思考】1:\(^o^)/ 【ジャン・コルベール@ゼロの使い魔】 【状態】爆笑 【装備】つえ 【道具】支給品一式 【思考】1:学園長にルイズの留年を伝える 【東方不敗マスター・アジア@機動武闘伝Gガンダム 死亡確認】死因:石破天驚拳(加害者:ドモン・カッシュ)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1153.html
なんというブチキレコンビ。ギアッチョの怒りは、まるで次はオレの番だと でも言うかのように静かに爆発した。 「ところでよォォ~~・・・ 朝こいつを食った感想はどうだったよお嬢様?」 ギアッチョは波一つない海のように静かに尋ねる。 「最悪だったわッ!・・・そういえばあんたよくも貴族の私にこんなもの 食べさせてくれたわね!後でお仕置きを――」 ゴバァアァ!! 穏やかな海が突然嵐に変わるように、ギアッチョの全身から突然冷気と 殺気が噴き出し始めた! 「うぅッ!?ちょっ・・・何!?こんなところで・・・!!」 ルイズは慌てて辺りを見回すが、周囲の貴族達にはギアッチョの異変に 気付いたようなそぶりは見受けられない。ギアッチョがミスタ達との戦いで 得た教訓の一つ、それは他のスタンド使い達が当たり前にやっている 「自分の能力を安易に敵にバラしたりしない」ということであった。己の命と 引き換えに得た教訓は、彼の心の根っこにしっかりと突き刺さっている。 激しくブチ切れた今も、「周囲に己の能力を悟らせない」という事に関して だけは自制が働いていた。つまり――ルイズが感じた冷気と殺気は、 他でもないルイズただ一人に向けられたものだったのである。 ギアッチョはすっと地面にかがむと左手で食事の入ったトレイを持ち上げ、 背中を曲げた体勢のまま、色をなくした眼でルイズを見る。 「つまりてめーはそんなものをこのオレに食わせるってぇわけだ・・・」 「なッ・・・あんたは使い魔なんだから当然でしょ!?使い魔の上に平民! 貴族と同じ地平線に立つことなんて一生ありえないのよ!!」 ビシッ!! ルイズがそう言い放った途端、最近聞き慣れた音が彼女の耳に響いた。 ビシィッ!!ビシビシビシッ!!ビキキィッ!! この音は、他でもないこの音は。ルイズは恐る恐る、音のした方向へ 眼を向ける。 音がしていたのはギアッチョの持っている食事・・・いや、食事だったもの からだった。パンとスープを載せたトレイは、ギアッチョの左手の上で まるで彫刻のように完璧に凍っていた。 「・・・・・・こんな・・・ええ?こんな『ささやかな糧』でよォォォ~~~~~ てめーの命を守らせようってのかァ?・・・え?おい」 ――てめーの人生のかかった仕事を・・・ 「あ・・・!」 クソみてーなはした金でよォォォ・・・―― バキィィィィインッ!!! ギアッチョがどんな仕事をしていたのか――ルイズがそれを思い出した 瞬間、白磁の彫刻は彼の手の上で「ブチ割れ」、そしてそれと同時に ギアッチョは食堂を震わせるような大声で叫んだ。 「オレ達の命は安かねェんだッ!!!」 いつもの薄っぺらな怒りではない。ギアッチョは本気で「怒って」いた。 ルイズは声も出せなかった。ギアッチョの剣幕に怯えていたのでは ない。一体自分がどれほど酷いことを言ってしまったのか、それを 理解したのである。自分はギアッチョ達を皆殺しにした『ボス』と 何も変わらない。ギアッチョの彼らしからぬ心の底からの叫びに、 ルイズの胸は千切れ飛びそうな痛みを感じた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1046.html
ルイズはまた夢の中だった。今回もあの夢だろうかと彼女は身を固くしたが、今日の夢はどうやらそうではないようだった。 周りを見渡すと、どうやら自分は小舟の上にいるようらしい。ああ、とルイズは思う。ここはヴァリエールの屋敷だ。 そしてここは自分が「秘密の場所」と呼んでいた中庭の池――・・・。 魔法が使えないことで幼い頃から周囲に白眼視されていた彼女は、悲しい時悔しい時、いつもこの小舟の上で毛布を被り、ひっそりと泣いていた。 「泣いているのかい?ルイズ」 頭の上から声がかかる。はっとして顔を上げると、大きな羽帽子にマントを被った立派な貴族がルイズを見下ろしていた。 隣の領地を相続している、憧れの子爵だった。幼いルイズはそんな彼にみっともないところを見られて慌てて顔を隠す。 「子爵さま、いらしてたの?」 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ あのお話のことでね」 その言葉にルイズは紅に染まった頬を更に赤くして俯く。 そんな彼女を見て、子爵はあっはっはと頼れる声で笑った。そして彼はおどけた調子でルイズを元気づける。彼女にとっては大切な、懐かしい夢。 その時ざあっと風が吹き、子爵の帽子をさらっていった。 「へ?」 いつの間にか今の自分に戻っていたルイズは、帽子の下に現れた顔を見てぽかんとした。その顔は、どう見ても己の使い魔――ギアッチョのものだった。 「な、何よあんた どうしてここにいるのよ」 ルイズは当惑して叫ぶ。しかしギアッチョは、相変わらず感情の読めない眼でじっとルイズを見ている。 「何か言いなさいよ!ねえったら!」 しかしルイズの言葉などまるで耳に届いていないかのように、ギアッチョは何も言わず何もせず、ただルイズを見つめている。 そしてそのまま、一言も言葉を発さぬままにギアッチョの姿は掻き消え、そして小舟も、池も、世界も、ルイズも消えた。 廊下から聞こえてくる声で、キュルケは眼を覚ました。外は薄暗く、恐らくはまだ教師達も眠っているであろう時間帯だ。 静謐な学び舎に響く二人分の囁き声をキュルケはまだ半分寝ている頭で聞いていたが、それがルイズとギアッチョの声であること、そして会話のところどころに「姫さま」とか「任務」などという単語が混じっていることに気付いて飛び起きた。 物音を立てないように急いで着替えと支度を済ませると、ルイズ達が門へ向かったのを確認してから彼女はタバサの部屋へ飛び込んだ。 「タバサおはよう!寝てる場合じゃないわよ、面白いことが――」 部屋に入るなり早口にまくし立てるキュルケの言葉は、サイレンスの魔法によってあっという間に掻き消える。ドアの開く音で目覚めた瞬間反射的に杖を取って呪文を唱える、タバサの瞠目すべき早業であった。 無声映画のように身振り手振りを続けるキュルケを寝起き直後の胡乱な眼で眺めると、掴んだ杖もそのままにタバサは再びベッドの中に潜り込んだ。 キュルケはしばらくジェスチャーを続けていたが、タバサが完全にシカトする構えだと知ると、ならばとばかりに両手でタバサの肩を掴んで揺さぶる作戦に移行する。 最初のうちは無視を決め込んでいたタバサだが、キュルケが一行に諦めようとしないので仕方なくサイレンスを解除すると、 「・・・何?」 ウインド・ブレイクを唱えたくなる前に話だけは聞くことにした。 そんなわけで、タバサは今いそいそと支度を済ませている。 アンリエッタからの秘密の任務でギアッチョ達がアルビオンへ向かうらしいというのはキュルケ程ではないにしろタバサの興味を引いた。 それにキュルケも言っていたことだがルイズの身が安全であるという保障はない。 ギアッチョがいるのだから大抵のことは大丈夫だろうが、彼の魔法も万能ではないことはフーケ戦で証明済みである。 一瞬の思案の後、タバサはシルフィードによる尾行――キュルケに言わせると護衛――を承諾したのだった。 ちなみに当のキュルケはと言えば、何か野暮用を済ませてくると言ってどこかに行ってしまった。まぁそのうち戻ってくるだろうなどと考えながら、タバサは制服のボタンを留め始める。 キュルケはタバサの部屋に続き、またしても堂々とアンロックの魔法で部屋に侵入する。薔薇や宝石で派手に飾られた部屋――ギーシュの私室だった。 「ギーシュ!起きなさいってば ギーシュ!」 キュルケは周りの部屋に聞こえない程度の声でギーシュを起こそうとするが、幸せそうによだれを垂らしたまま彼は一向に目覚める気配がない。 キュルケは少し苛立ったような表情を見せると、ギーシュの耳元に口を寄せて一言ぼそりと何かを呟いた。 「うわあああああ!!待って、待ってくれたまえ!やってるから!ちゃんとやってるからマンモーニだけは――ぁああ!?」 効果覿面、その一言でギーシュはうわ言と共に跳ね起きた。「何だ夢か」と呟くとギーシュは息を吐きながら辺りを見回し、 「うわぁ!!」 キュルケと眼が合った。 「やれやれ・・・やっと起きたわね」 「キュ、キュルケ!?こんな夜も明けきらない時間に一体何の用・・・ハッ!? ダ、ダメだキュルケ!僕にはモンモランシーという女性がヘヴンッ!!」 ギーシュが言い終える前に、キュルケのカカト落しがギーシュの脳天に炸裂した。 「寝言は起きる前に言いなさい」 「・・・それで、後をつけるって言うのかい?」 後頭部をさすりながらギーシュが言う。 「失礼ね、護衛と言いなさいよ あなたは行きたがるかと思ったからわざわざ声を掛けてあげたわけ それで?行くの?行かないの?」 腰に手を当ててキュルケは身体を乗り出す。姫さまとか秘密とかヤバいんじゃないのと言ってみるが、キュルケはそれがどうしたという顔でギーシュの返答を待っている。 ギーシュはうーんと唸りながら数秒考えた後に、まあなんとかなるかと実にギーシュらしい結論を下した。 ギアッチョとルイズは馬を駆って学院を出る。正門の先では一人の男が彼らを待ち構えるように待機していた。 「ワルドさま!?」 ルイズが驚きの声を上げると、ワルドと呼ばれた男は人好きのする笑みを浮かべてそれに答えた。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 ワルドはルイズに駆け寄ると、その華奢な身体を抱き上げる。 「お久しぶりでございます」 そう言って恥ずかしげに頬を染めるルイズを見て、ワルドは豪快に笑った。 「まるで羽のようだ! 相変わらず軽いね、君は」 「・・・お恥ずかしいですわ」 睫毛を伏せるルイズを、ワルドは優しげに見つめている。そしてそんなワルドをギアッチョが見つめていた。 「あいつは・・・昨日の護衛じゃあねーか」 ルイズがぼーっと見つめていた男だ。確か魔法衛士隊の隊長だとギーシュが言っていた。 「あのヒゲが従えてるのは、ありゃあグリフォンだね 正真正銘の魔法衛士隊、トリステインじゃあエリート中のエリートだ」 デルフリンガーがそう言って鍔を鳴らす。「妙な偶然もあったもんだな」と呟いてギアッチョは首をすくめた。 ルイズがギアッチョとデルフリンガーを紹介する。ルイズを下ろしたワルドは大げさな身振りで両手を広げると、 「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」 おどけた調子でそう言った。 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「婚約者ァ?」 彼らの意外な関係に、デルフリンガーが妙な声を上げる。ギアッチョはワルドをジロリと遠慮無しに観察すると、 「どういう縁だ?」 とこれまた遠慮無しに疑問をぶつけた。ワルドは帽子を取って被りなおしてから、「幼馴染さ」と答えた。 「領地が隣同士でね、ヴァリエール家とは昔から懇意にさせていただいているのさ」 その縁で、父親達の間でルイズとワルドの婚姻の約束が交わされているのだとワルドは説明した。 ――結婚って・・・いくらなんでも歳が離れすぎてるんじゃあねーのか? ワルドはどう見て二十代後半だ。対するルイズは、とギアッチョは彼女に視線を移す。 「な、何よ」 いきなり眼を向けられてルイズは心臓が飛び跳ねた。「け、結婚なんて小さい頃の約束で」だの「もう何年も会ってなかったし」だの、ルイズの口からは無意識の内に次から次へと言い訳が飛び出すが、肝心のギアッチョは一切聞いていなかった。 ――歳は聞いてなかったが・・・いいとこ十四歳って所だよなァァ 犯罪だろ、とギアッチョは思った。イタリアでは結婚可能な年齢は十八歳からだった。そうでなくても歳が一回り前後は離れていそうな二人である。 もっとも、実際は発育が少々哀れなだけでルイズはもう十六歳を迎えているのだが。 じろじろと自分を見るギアッチョをどう解釈したものか、 「なぁに、任務のことなら心配はいらないさギアッチョ君 こう見えても僕はスクウェアメイジだ 大船に乗った気でいてくれたまえ」 そう言ってワルドは自分の胸を拳で叩いて見せた。 「任務?」 ルイズがきょとんとした顔でワルドを見上げる。 「アンリエッタ姫殿下から直々に拝命したのさ 君達と共にアルビオンへ行かせてもらうよ」 そう言ってワルドはルイズに微笑んだ。 ――ま、確かにこんなガキと平民の使い魔を手放しで信用は出来ねーわな ギアッチョはそう納得して馬に跨る。ワルドはそれを見て、 「さあルイズ、こっちにおいで」 グリフォン隊の象徴であり、彼ら隊士の乗り物でもあるグリフォンを呼び寄せると、それに跨ってルイズを手招きする。 ルイズはちょっと躊躇うようにして俯くと、何故だかギアッチョが気になって横目で彼を見た。ギアッチョはデルフに眼を落として会話をしている。 まるでルイズに全く興味がないと言われているようで、ルイズは軽くショックを覚えながらとぼとぼとワルドの元へ歩き出した。 グリフォンの横まで来るとワルドはひょいとルイズを抱きかかえる。そうして手綱を握り、ギアッチョのほうを見てから杖を掲げて叫んだ。 「さあ諸君!出撃だ!」 その声を合図にグリフォンがばさりと飛び立ち、ギアッチョがそれを追って馬を駆る。 深くけぶる朝もやの中、こうして任務は始まった。