約 845,524 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6506.html
前ページ次ページゼロの最初の人 「オールド・オスマン。王軍から、現時点での今年度卒業見込生徒の総数と、ランク、系統ごとの人数を書類にまとめ、今月のティワズの週ラーグの曜日までに報告するようにとのことです」 「ご苦労。明後日までには早馬を手配して王宮に届けさせるようにしよう。4、5日中には届くであろうから、安心してくれ」 魔法でペンをいくつも扱い、浮かんだ書類をどんどんと処理していきながらオスマンは答える。 目で書類を追わず、視線はしっかりとロングビルに合わせていた。 かつてロングビルが秘書の職に就いたころ。初めてこの異常な光景を目の当たりに彼女は、どうすればこのようなことが出来るか聞いたことがある。 彼いわく、レビューションと遠見の魔法の応用であり、練習すれば誰にでも出来る事。らしい。 それを聞いたロングビルは、使えれば何処かで役に立つかもしれないと、こっそり練習した。 しかしながら「複数のペンと複数の書類を浮かし、複数の視界を展開、なおかつそこから得る情報を同時に処理しながら、複数のペンを別々に動かし正確に文字を書く」など、常人にできるはずはない。 ロングビルは浮かんだペンを複数同時に動かすことはなんとかできたが、正確に、しかも同時に文字を書くなんてことは出来ず、すぐに諦めた。 そんな昔のことを思い出し、この人はやはりすごい人だ。と、微笑みながらロングビルがさらに言った。 「心配なぞしておりませんよ。もしどうしてもしなければいけないのならば、その相手は貴方ではなく早馬でしょうね」 「ほっほ。仕事は正確でしかも速い。おまけに舌まで達者とは、ワシはいい秘書を雇ったもんじゃのう。」 そんな談笑をしている間に、オスマンが動かすペンの動きが止まり、書類が束にまとめられ、ポンと机に置かれた。 「さて……もう今日やらねばならんことは終わってしまったの。 むぅ、まだこんな時間か…………そうじゃのう、ちとばかり早いが仕事は終わりじゃ。自室へ戻っても構わんぞ」 「それでは、お疲れ様でした。お先に失礼させていただきます」 「ああ、ご苦労じゃった」 オスマンはそう言って、ロングビルを見送った後、窓の方向に向き直り物憂げに空を見つめる。 ここはトリステイン魔法学校学院長室。そこには数々の並行世界で不埒な行為 ―俗にいうセクハラ― を行っていた変態爺とは全く違う「大賢者オールド・オスマン」の姿があった。 彼が成し遂げた偉業は数知れない。そして偉業は人々に伝わって伝説となる。 人が、国が、彼に救うたび伝説は増えていく。 さらに伝説は人に伝わると尾ひれを付け泳ぎだす。そうしてその総数は両手両足ではまったく足りないほどになった。 曰く、四大系統を全て修めた。 曰く、300年以上の時を生きている。 曰く、彼の出陣は、終戦の号砲である。 彼の伝説の中には虚実のものもある。しかしそれこそ「彼ならこれでも出来る」という周りの評価の高さを表しているだろう。 彼は、自身のもつその強大な力で祖国トリステインの危機を幾度も救った。 当然王宮の貴族らは彼に褒美を取らせようと考えたが、彼の素性に関しては謎な部分が多かったため、連絡がつかず、その功績に対し見合った報酬を与えることができずにいた。 しかし、彼の齢が200を超えしばらく経ったころ、ある日、彼自ら王宮に姿を現し当時の国王フィリップ3世にこう言った。 「これから、この杖は未来を担う若人を導くために振るいたい。このわしをトリステイン魔法学院の学院長にしてくだされ」 突然のことだったが、メリットはあれどデメリットの見つからないその提案に、フィリップ3世は一も二もなく首肯する。 そうして、彼はトリステイン魔法学校の学院長に就任することが決定し、その知らせはすぐ学院にも届いた。 ハルケギニア一の実力を持つとも言われるメイジが、学院長に就任することに対して、反対するような教員、生徒がいるはずもなく、学院の貴族たちは一様にオスマンを歓迎した。 学院の平民たちは、最初こそ萎縮したものの、平民だからといって差別せず、気さくに話しかけてくるオスマンに対し好感を抱いた。そして彼が学院長になることを歓迎した。 そして、一般的な学院長職の寿命としては長すぎるほどの間、オスマンは学院長であり続け、今現在も学院長職を努めている。 人望も厚く、学院に関する細々とした事務処理にも手を抜かず、ミスを犯すこともない。 そんなオスマンをわざわざ学院長のポストから下ろす道理もなかったため、オスマンは何十代もの生徒が卒業するのを今も見届けている。 しかしながら、元来オスマンの性格は、お調子者で助平。そんな彼が、どうしてこのような偉大な人物となったのか。 トマトが何故赤くなったかを、気にするものが稀有なように。その理由を気にするもの ―少なくとも今のハルケギニアには― はおらず。 必然的に、その理由を知る者はいない。 所変わって同時刻。ヴェストリの広場、ここでは春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 ほとんどの生徒が使い魔を召喚し終え、召喚した使い魔との交流を深めていた中。未だに召喚が成功していない生徒が一人。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国有数の大貴族であるヴァリエール家の第三女である。 少女は集中する。自分の魔力を、そして自分の意識を、杖に集め呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……五つの力を司るペンタゴンよ。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ!」 魔力のこめられた詠唱は、爆発を生み出し地面に大きなクレーターを作った。副産物は他生徒からの中傷の言葉。 「おいおい!ゼロのルイズはサモン・サーヴァントでも爆発させるのかよ!」 「万一、いや億一に成功してもあの爆発じゃ使い魔死んでんじゃねーか?」 「ハハハ!!違いないな!!」 無慈悲な言葉の矢がルイズに浴びせかけられる。ルイズは奥歯を噛み締め、悔しさを飲み込んだ。 絶対に、絶対に絶対に見返してやる。神聖で強力で、そして美しい私だけの使い魔を召喚してみせる。私をバカにしたやつらを見返してやる。 ルイズが呪文を唱えようと今一度杖を振り上げた。そのとき、監督教師のコルベールがそれを制止した。 「ミス・ヴァリエール、待ってください!」 ルイズが苛立ちを隠そうともせず答える。 「なんですか?!まだ授業の時間はあるでしょう?!」 「違います!そこを見てください!」 言うと同時にコルベールは指を指す。その先は先ほどルイズが"サモン・サーヴァント"で作ったクレーターがちょうどあるあたり。そこは爆発で巻き上げられた土煙に覆われていたが、かすかに中の様子が垣間見れた。そこには確かに黒い影があった。 「成功です!あなたの!ミス・ヴァリエールの使い魔が召喚されたのです!」 目の前の少女の苦労を少なからず知る教師が興奮しながら言う。 しかしながら、先ほどまで負の方向へ大きく傾いていた少女の精神に対して、正の方向へ強く心を揺るその情報はあまりに強烈過ぎたらしく、 念願の使い魔召喚、魔法の成功だというのにただただ、口をパクパクとするのみで少女の思考は停止した。 只、ルイズほどの衝撃を受けないにしろ他の少年少女たちにも目の前の状況は大きなショックであったらしく、誰も口を開けない。そんな中、青い風龍を召喚した青髪の少女が小さく何かを呟いた。 「ウィンド・ブレイク」その風の呪文で、クレーター近辺を覆っていた土煙が吹き飛ぶ。 ルイズはその少女に小さく、でもありがとうの思いをしっかりこめて一礼。そしてすぐに影 ―煙は晴れていたが外皮が黒い生物なのか正確な形が判断できない― に向かって駆ける。 駆けながらルイズは考える。 よく姿がわからないけど、人間と同程度には大きいわ!きっと幻獣よね、しかもあんなに大きいんだもの!あの青髪の子が召喚した風龍には劣るだろうけど、ツェルプストーのサラマンダー同等程度には強力に違いないわ! これでみんなを見返せる!これで姉さまに、お父さまに、お母さまに褒めてもらえる! きっと、ルイズはこのとき興奮で盲目になっていたのだろう。そうでなければ駆け寄る途中に自身の召喚したモノの正体に気付いたはずだ。 そしてルイズはソレにあと5メートルというとき、やっと気付いた。興奮していた精神が急激に冷やされる。あまりのことに再び声を失った。 何秒か、何分か、時間が過ぎた時やっとのことでルイズは一声もらす。 「…………人間?」 ルイズは近づいて観察する。年は17、18才といった所だろう。造形が整っており知性を感じさせる顔つきだ。 しかし、その青年は、サモン・サーヴァントで召喚された、ということを差し引いたとしても、明らかに異質に感じられた。 その原因の全ては青年の着ていた衣服である。貴族のものとは明らかに違う作りのローブのような妙ちくりんな黒いものを羽織り、その中に橙色の如何とも形容しがたい服を着ていた。靴は大きな黒いもので、髪の色もまた―このあたりでは珍しく―黒だった。 両手には中の服と同じ橙の手袋がはめられて、その左手には……"杖のようなもの"が握られていた。 また男は、ルイズ達生徒やコルベールの居る方向に対し背を向けた状態で、膝を軽く抱えたようにして寝ていた。 つまり、黒い面しか彼女らには見えておらず、見慣れぬ服装のこともあったため、黒い大きな幻獣と勘違いしたわけだ。 そんなとき男がゴロンと寝がえりをうった。顔や首、袖口に見える手首。そんな"人"の部分が生徒の方向を向く。 数人の生徒が目の前の事実を理解した。ヒソヒソとした話し声。その声は次第に大きなものになり、ルイズに向けられる罵言へと姿を変える。 「なんだあれ!ヒトじゃねぇか!」 「ゼロのルイズの使い魔は人間!こりゃ傑作だ!!」 それに混じってスースー、グーグーと規則正しい呼吸音が聞こえる。 それがルイズの精神を逆なでした。 「こ、こここ、この!!起きなさいよ!!!!」 杖を空に向け怒りを乗せた呪文を唱える。上空に巨大な爆発が生まれた。その衝撃で周りの生徒の使い魔たちの数匹が暴れだす。 誰かの蛇が、誰かカラスを飲み込む寸前で、空気の槌に吹き飛ばされる。 巨大モグラがやたらに穴を掘り、その中に使い魔と人間が何人か落ちてしまう。 寝ているところを起こされてしまい不機嫌なサラマンダーがめちゃくちゃに炎を吐く。 そんな阿鼻叫喚の騒ぎをなんとか収めた生徒たちが、ルイズをにらんで怒鳴るように声をあげた。 しかしルイズは振り向かない。肩で息をしながら使い魔をじっと見ていた。 なぜなら、そこでようやく召喚した彼が目を覚まし、起きあがったからだ。 目を覚ました彼は「くぁあ」と大きな欠伸をしながら伸びたあと、目をこすりながらゆっくりとあたりを見渡す。 その動きをコルベールは警戒しながら見つめる。使い魔はコントラスト・サーヴァントで契約するまでは、主に危害を加える恐れがある。召喚されたのがヒトであったとしてもそれは変わらない。 ルイズはというと、そんな緩慢な動きに内心イライラしていたが、何も言うことがなかった。 いや、正確には先ほどの怒り感情に身を任せ荒々しく唱えた呪文のせいで、いまだに息が荒れていた為、言えなかった。という方が正しいだろう。 その青年にそんなルイズの心象を知る由もなく、しばらく彼はそうしていたが、やがてルイズに目線を合わせ溜息をつき、こう言った。 「そこのおぬし。何故わしはここにおるのかのぅ?」 前ページ次ページゼロの最初の人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1724.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 シャナク――破邪呪文の一種で、アイテムや武具、もしくは生命体にかけられた呪いを解除する魔法である。 解除の成功率、そして解除後の影響に関しては使い手の力量がそのまま影響する。 呪いとは何か? ポップの世界において呪いという言葉の定義はない。 何故なら、原因がわからない不都合を起こす現象はほぼ全て呪いとされているからだ。 ただ、一説によれば呪いとは総じて魔法の別に形ではないかと言われている。 不思議な現象に魔法が絡んでいなければおかしいというのが根拠だった。 コントラクト・サーヴァント――術者と受術者の間にルーンを刻むことによって主従契約を生み出す魔法である。 始祖ブリミルが生み出したとされるこの魔法はメイジであれば大抵のものが扱える。 いわゆる初級魔法に分類されるこの魔法は、ある種の強制力を持つ。 ルーンを刻まれ、使い魔とされた生物は主人に対するある程度の忠誠心を代表とする色んな能力が強制的に付加されてしまうのだ。 さて、ここで話は本題に戻る。 前述の通りシャナクは呪いを解除する魔法だ。 そしてコントラクト・サーヴァントは魔法ではあるが、その効力上呪いといっても差し支えはないものだろう。 つまり、シャナクはコントラクト・サーヴァントに対して十分効力を発揮すると言っても良いのである。 (くっ!? 思ったより強固な…っ!) 話を聞く限りでは初級魔法のようだから解除も簡単だろうと臨んだポップだったが、意外な苦戦を強いられていた。 効力は外道といえども、そこは始祖ブリミルの魔法である。 戒めという呪いを砕かんと襲い掛かるポップの魔力を押し返さんとばかりに抵抗力を発揮する。 (こりゃ、師匠のアレ並だな…) アレ、つまりポップがマトリフのお下がりでもらった、バックルにマトリフの顔が彫ってあるダサいベルトのことである。 装備すると外れなくなるという呪いがかかっていた恐るべき一品。 なお、バーン打倒後ポップが必死にシャナクの修得に励んだ理由がここにあるのは言うまでもない。 「ちょっとアンタ、何してるの!?」 ポップが悪戦苦闘しているその時、ルイズがその様子に気がついた。 流石に契約を解除しようとしているとは気がついていないが、ルーンが激しく光り輝いているとなれば主人としては気になるのは当然。 同様の心境のコルベールと共にルイズはポップへと近づいていく。 と、その瞬間。 「こっ…の……消えろぉぉーっ!!」 ポップの渾身の叫びと共に後押しされた魔力がルーンへと襲い掛かる。 シャナクの力がルーンよ砕けろと奔流。 しかしこの瞬間、ルーンが自己防衛とも言うべき力を発した。 始祖ブリミルが使役したといわれる伝説の四なる使い魔の一体の力は、己の存在の消滅を防がんと動いたのである。 バシュゥッ! そして次の瞬間。 ルーンは砕け散ることなく、ポップの体から出て行き――そして『乗り移った』 「なっ…!? ぐっ、ぐあ…!?」 ここで不幸だったのは、彼が一番位置的にポップに近かったということがある。 周囲の生徒たちは既に彼自身の言によって解散していたということも不幸の一因だっただろう。 ルイズも同程度の位置だったのだが、彼女はコントラクト・サーヴァントの行使者。 条件的には当てはまらなかった。 それはつまりどういうことかというと―― 「こ、コルベール…先生?」 炎蛇のコルベール。四十二歳。独身。 ポップから追い出されたルーンをその体で受け止める羽目になった彼は ――この日、この時を持って教え子の使い魔になることが確定した。 『………』 痛いほどの沈黙が場を包んでいた。 場にいる人間は五人。 ぽかん、と口を大きく開けて固まっているルイズ。 自身の左手をまるで悪夢を見るかのように眺め続けるコルベール。 とある事情によりこの場に残っていた微熱と雪風の二つ名を持つ二人の生徒。 そして、どうコメントしていいのかわからず目をそらすポップだけだった。 「じゃ、そういうことで!」 キッカリ三秒後、最初に動き出したのはポップだった。 ぶっちゃけ、ルーンが砕けずに他人に移ったのは予想外の出来事だった。 しかし話の限りでは命にかかわることではないらしいし、そもそも自分は火の粉を払っただけである。 自己欺瞞を完成させたポップは素早く身を翻すと飛翔呪文を唱え 「あ、ま、待ちなさい!」 背に降りかかるルイズの罵声を無視して逃走を開始するのだった。 「随分と…め、珍しいルーンだね。私の左手にあるルーンは…」 ひゅうう、と風がコルベールの少なくなった髪の毛をなびかせる。 彼の目の前には罵声を上げ続ける桃色の少女の姿がある。 ミス・ヴァリエール。 いや、ご主人様? どちらで少女を呼ぶべきかコルベールは闇に染まりそうな思考の中、他人事のように考えるのだった。 「さて、これからどうしたもんだか…」 ポップは一度ルイズ達の視界から消えた後、こっそりと身を隠しつつ近くに戻ってきていた。 まだ完全に確信したというわけではないが、ここが異世界である可能性が高い以上無闇に動き回るわけにもいかない。 言葉が通じて人間がいる以上、町なども存在はしているであろうが、法律や常識が大幅に違う可能性は大いに高い。 となると下手すればうっかり犯罪者になってしまうということも考えられる。 現時点ではハルケギニアの知識がないに等しいのだから。 「お、移動するようだな」 ポップの視線の先には、宙に浮いて移動を開始するルイズ達の姿があった。 何故かコルベールがピクリとも動かないルイズを抱えて飛んでいたのだが、そこは気にしてはいけない部分だろう。 「トベルーラ…じゃないよなぁ。やっぱ異世界となると魔法体系も違うのか?」 少なくともポップの知る限りではサモン・サーヴァントやコントラクト・サーヴァントなどという魔法は存在しない。 類似している魔法や現象はあるにはあるのだが、彼らの様子を見た感じでは広く浸透している魔法のようだ。 となると、自分の知る魔法と、ルイズらの扱う魔法は全く別のものである可能性は高いといえる。 「とりあえず、あいつらに着いて行ってみるか。まずは情報を集めないことにはどうしようもないしな」 またぞろ厄介なことになったぜ、とポップは髪をガシガシとかきむしりながら飛翔呪文を唱える。 (ま、流石に大魔王を倒すよりはマシだろ) そうポジティブに考えることができたのはポップの成長の証だったのかもしれない。 それが楽観的な考えだったのかは、未来のポップのみが知ることではあったのだが。 前ページ次ページゼロの大魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/413.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 青い髪の少女。タバサが、本を読んでいる。 授業を終えた後、タバサにとっては貴重な一人の時間。 「タバサ、いる?」 ドアがノックされた。 「タバサ、おーい、タバサちゃーん?」 無視したら、ノックの音が3倍に増えた。 仕方がないので扉へと向かう。こんな事をするのは決まっている。 「ねえ、面白そうなもの見つけたんだけど。」 満面の笑顔を浮かべながら飛び込んできたのは予想通り、キュルケだった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師9~ ヴィオラートが召喚されてもうすぐ一ヶ月。 ルイズはたまには話でもしようと探す事もあるのだが、使い魔としての仕事をこなした後は、どこかに出かけているのか姿が見えない。 「まったく、なんていうの、自由時間はきっちり取る使い魔ってのはどうなのよそこんとこ。」 少し憤りを感じながら広場を歩いていると、キュルケとタバサのコンビが顔を出した。 「ねえ、ヴァリエール。」 「何の用?」 「あなたの使い魔さんがどこにいるのか、わかる?」 「別に。やることやった後は、自由にさせてるもの。」 「あら。気にならないの?あたしちょっと心当たりがあるんだけど。」 「…知ってるの?」 「ええ、噂に聞いたのだけれど、何だか面白いことやってるって。」 「面白い事?」 「なんだか壁の外で土遊びをしてるみたいよ?」 学園を囲む壁の外では。 「それーっ、いけいけー!」 ヴィオラートが、地中から半分体を出したヴェルダンデにまたがって、土を掘り返していた。 ルイズたちは呆然と、掘り返された地面を疾走するヴィオラートonヴェルダンデをただ見つめる。 「…何してるの?」 「あ、ルイズちゃん。見て、いっぱいとれたよ!」 体中が土で汚れているが、気にする様子もない。 収穫の喜びが、汚れの不快感を上回ってるようだ。 「じゃじゃーん!錬金術専用菜園~!」 菜園。なるほど。錬金術専用菜園。 「あれは何?」 「まめだよ。」 なるほど、まめである。これでもかというくらいまめだ。 「あれは?」 「ぶどうだよ。」 なるほど、ぶどうである。ぶどうとしか言いようがない。 「じゃ、あれは?」 「さんごだよ。」 なるほど。畑から生えたももいろさんごが、これ以上ないほど雄雄しく屹立している。 (さんごって、畑に生えるものだったのね…) ルイズの常識が、また一つ書き換えられた。 「手伝ってもらってたんだよねー。」 ヴェルダンデは誇らしげに鼻を振って、ルイズたちを睥睨する。 「へえ、すごいじゃない。畑からさんごが生えてくるなんて。これがあなたの…『錬金術』?」 興味を示したキュルケが、ヴィオラートに質問する。 「うん、錬金術で畑を作ると、普通じゃできないようなものができたりするんだよ!」 (え?錬金術じゃないと、畑からさんごは生えない?) ルイズの常識が、元に戻る。 菜園の隅に視線を移すと、乱雑に積み上げてあるレンガが目に入った。 「で、あっちの隅のほうにあるレンガはなんなの?」 「ああ、あれはヨーコーロ用のレンガ。」 「ヨーコーロ?溶鉱炉を1から作ってるってわけ?」 「うんそうだよ。土とか、がらくたとか使って。ちょっと時間かかったけどね。」 信じられないものを見たといった風情でヴィオラートを見るキュルケ。 「あなた、何者?」 そう問いかけられたヴィオラートは自信満々にこう答える。 「えへへー、あたしはヴィオラート!錬金術師だよ。」 「錬金術師…へえ、なんか面白そうね。」 興味深げにレンガを触るキュルケ。 こつこつと音をさせ何かを試しているようだ。 タバサは食い入るように畑にそびえ立つさんごを見つめる。 しばらく誰も言葉を発せず、各人何かに興味を引かれていたその時。 「こ、困るねえ、一体何をしているんだ?」 なんだか、いかにも命じられてきましたといった感じのコルベールがおっとり刀で駆けつけた。 やはり、大人数で騒いだのはまずかっただろうか。 コルベールは地面を見渡し、しかるのちに正当なる問いを発する。 「これは何だね?」 「錬金術の、菜園です!」 「じゃあ、あのレンガは何かね?」 「ヨーコーロを作ろうかなー、って思って。」 「溶鉱炉?君が、ここで?」 コルベールは信じられないといった面持ちで、ヴィオラートの真意を探ろうとする。 「設計図はあるかね?」 促されたヴィオラートは、設計図を取り出すと、コルベールに手渡す。 「ふむ、ちょっと見せてもらえないかね?ふむ。」 手渡されたコルベールはしきりに感心して、設計図を指差しながら構造を確認する。 「ほー、これは…ゲルマニア式?いや、それよりも効率そのものは良くなっているようだな、ふむ。」 「あの、先生?」 「いや、これはこれは。」 「素晴らしい!」 「はい?」 「火の司るものは破壊の力ばかりではない!私は常々そう考え、その実践の方法を模索してきた。」 「は、はあ。」 「いや実は私も、溶鉱炉の設置は考えてはいたんだが、金がなくてね。」 「ええと…」 「いや、しかし原材料からほぼ全て手作りでここまでの施設を!錬金術師とは、本当に凄い存在なのだね!」 「そ、そう、ですね。はい、あはは…」 禿頭がゆだるような熱さで、伝えきれない感動を表すコルベール。 コルベールが、火の力とその民生における社会的有用性についての考察に熱弁をふるうこと小一時間。 燃料が切れてきたのか、話の方向がようやく現実レベルの話へと回帰する。 「…ものは相談なんだが、私が、学院長への根回しやら他の雑事をしておくからだね…」 コルベールは見せ付けるようにわざとらしく咳払いをすると、 「君の作る施設を、使わせてもらってもいいだろうかね?」 取引をもちかけた 「え、ええと。いいですよ、はい…」 「そうか!いやー、今日はいい日だ!長年の念願がこんな形でかなうとは!」 いやー感動した!としきりに呟きながら、コルベールは去っていった。 その様子をただじっと見ていたルイズは、ヴィオラートに視線を向けると、何かを決意するように語り始める。 「ねえ、ヴィオラート。」 「ん?」 「その錬金術って。私にも、魔法の使えないこの私にも…できるかな?」 「うん。勉強すれば、必ず答えてくれると思うよ。魔法は、必要ないから。」 「そう。それなら、ちょっと…一日一時間くらい。」 「やっても、いいかな。」 「あら。あなたがやるならあたしもやろうかしら?」 ルイズに対抗意識を燃やしたのか、キュルケも錬金術師に立候補する。 そして静かに手を上げるタバサ。 「いいかしら?ヴァリエール。あたしたちも参加して?」 「い、今私が拒否したらなんか、なんか。けちくさいじゃない。」 ちょっと不満げな顔をして、ルイズはヴィオラートに向き直る。 「いいよね、ヴィオラート?」 問いかけられたヴィオラートは、お日さまのような笑みを浮かべ、高らかに宣言した。 「よーし、じゃあ、皆で色々作ってみようか!」 ハルケギニアの錬金術師、その起源。 この瞬間は後の世にそう記される事になるが、彼女達は未だその事実の重みに気付いてはいなかった。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/400.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 天井が見える。僕は…どうなったんだろう?不思議な音を聞いて、それから… 「あ、気がついた?」 そこにあるのは、真の意味で穏やかな笑顔をしたヴィオラートの姿のみ。 「君は…」 記憶を手繰り寄せ、ギーシュは自らの敗北を悟る。 「君が、看病してくれていたのか…」 何かを磨く作業を止め、ヴィオラートは静かに頷いた。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師8~ 「ええと、つまり、君はヴェルダンデにあの岩を探してもらっていただけだと。そういう訳かい?」 「そう。あの岩を割るとね、中からこんな…」 「原石?」 「そうだよ?このあたりだとあんまり使わないみたいだけど。」 ヴィオラートは磨いていた原石を布で拭き、表面を光らせる。 「磨けば、こんなにきれいな宝石になるんだから。」 そこには、美しく輝く猫目石の姿があった。 「ああ、こんな宝石があるなんて知らなかったな。君は職人か何かだったかい?」 「錬金術師。職人といえばそうだけど、ちょっと変わってるっていうか…」 「なるほど。僕が負けるのも当然かもしれないね。謝罪しよう、ヴィオラート。」 ギーシュはたっぷり間を取ると、これ以上ないくらいの気障な態度でなめらかに言い放つ。 「可愛らしい貴女が、このように美しい宝石を創り出す…まことに、これは天の配材と言う他はないね。」 ヴィオラートを見つめ、熱視線を送り始める。 「…わかってくれれば、それでいいよ。」 しかし、当のヴィオラートはだんだんギーシュから離れているようだが。 「そうだ!勘違いの贖罪として、次の虚無の日に一緒に出かけるってのはどうだい?」 ヴィオラートは全てをスルーすると、無言で猫目石を磨く作業に没頭する。 たぶん猫目石を磨く作業に没頭するふりをしている。 「黙られるとそこはかとなく怖いんだが…。あの、調子に乗りすぎたかもしれないね、その、」 「もう大丈夫みたいだし、あたし用があるから…じゃあね、ギーシュくん。」 有無を言わせぬ勢いで退出するヴィオラート。 ギーシュの積み上げてきたものは、ヴィオラートには何の効果ももたらさなかったようだ。 部屋の扉を開けると、廊下の向かいにルイズが立っていた 「別に、待ってたわけじゃなくて…その、帰りが遅かったから。」 それだけ言うと、ルイズは早足で部屋の方へ歩き出す。 「ねえ、ヴィオラート。」 「ん?」 「聞いてなかったから…あなたの世界のこと。」 それだけ言うと、ルイズは下からヴィオラートを覗き込む。 ヴィオラートは、少し考えた。 お店はロードフリードさんに任せてあるから、なくなってたりはしないだろうけど。 でも、ずっと任せっぱなしにもできないし、結局はあたしがいないと駄目なんだろうなあ… 思索に沈んでいたヴィオラートに、ルイズが怪訝な顔を浮かべて質問する。 「ロードフリードさんって誰?」 「へっ?何でルイズちゃんがロードフリードさんのこと知ってるの?」 「アンタさっき、ロードフリードさんが…って言ってたじゃない。」 どうやら、知らぬ間に声が漏れていたらしい。 「ええと、ロードフリードさんには…お店を任せてあるんだ。」 「ふーん。お店をねえ。お店、か。」 ルイズは、考えて 「明日は虚無の曜日だし、町に行くわよ。何か買ってあげるわ。」 明日の予定を決めた。 「わあ、町があるの?良かった。材料とか買える所が欲しかったし。」 「そ、そう。良かったじゃない。優しいご主人様に感謝しなさいよ?」 最後に、これだけは小声で、こう付け加える。 「…別に、ホウキを使いたいとか、そんな、そんな子供っぽいことは。」 そして翌日。 朝早く目を覚ましたルイズは、それでも既に起きていたヴィオラートに理不尽な怒りをぶつけ、 空を飛んで町に向かった。 おおはしゃぎで、ヴィオラートのフライングボードに競争を挑みながら。 「ここかな?」 「ここよ」 ついたところは、魔法の道具を扱っている店らしい。 ドアを開けると、薄暗い店内に怪しげな道具が山と積まれ、どこからか独特の香りが漂ってくる。 「ここは…見た目怪しいけど、色々素材とかも揃ってる…らしいわ。聞いた話だけど。」 「そうなんだ。」 (何だか、あたしの店に似てるような…タネとかあるかな?) ヴィオラートは店内を漁り、なんだかしょぼくれたものばかりをカゴいっぱいに詰め込んでゆく。 「けっ!しょぼくれた娘っ子が、しょぼくれたもん集めやがって!」 なにかが聞こえた気がしてあたりを見渡すが、声のした方には誰もいない。 気をとりなおして今度はいらなそうなものを集め始めると、 「そんなものいらねえだろ!俺買え俺!」 また声がする。声の方角を確かめると、一振りの剣ががらくたの山に刺さっているようだ。 「俺だよ俺!俺俺!」 「あ、喋った。」 「へえ、インテリジェンスソードね。結構錆びてるのがアレだけど。」 「デルフリンガーだ!おぼえとけ!」 そう名乗ると、ヴィオラートを観察するように伸びようとして、ぶっ倒れた。 「おでれーた!お前さん『使い手』か!ええと…そう、名前の長え奴だな!」 「あ、あたし?」 「そうだ、てめ、俺を買え!」 「剣、使えないし…」 「なぬ!?」 「あたし剣使えないから…ちょっと残念だけど、使えないんじゃ買っても意味がないよね。」 (ピンチだ。折角のチャンスが水泡に帰す5秒前って所だ。ようやっと日の目を見れると思ったら、 見つかった『使い手』は名前の長い奴、しかも剣が使えねえときた。何だそりゃ。 だがそれでも、ここで逃したらまた何年となく道具屋の隅でほこりを被ることになるかもしれねえ。) 「ま、待て待て!俺を買ったほうが何かとお得だぜ!」 「おとくなって、どんなお得がついてくるの?」 「お前さんならわかるはずだ。ちょっとでいい、触ってみちゃくれねえかな?」 ヴィオラートは気の抜けたような顔になり、まあ、触るぐらいは…と、デルフリンガーの柄に手をかける。 額のルーンが輝き、しばらくすると何かを納得したように両手でデルフリンガーを抱え持った。 「これは…そっか。デルフリンガーくんって魔法の剣なんだね。」 「ん?おう、魔法で動いてるぜ?」 「そういう意味じゃないんだけど…まあ、いいや。これもください」 「へい!まいど!」 主人はデルフリンガーを鞘に入れると、ヴィオラートの集めたがらくたと一緒に清算する。 デルフリンガーはヴィオラートの背中に収まることになった。 「別に、無理に買う必要はなかったんじゃないの?そんなの…」 「色々お得ってのは本当みたいだし…そなえあればうれいなし、って言うでしょ?」 「???」 「あたしには、デルフリンガーくん自身の知らない事までぜーんぶわかっちゃったからね。」 本当に良かったのだろうか?デルフリンガーは、感じないはずの悪寒を感じたような気がして、何かに祈った。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/505.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 早めの出席を旨とする生徒達がようやく集まり始めた、朝の教室。 とある四人が、彼女達にしかわからない会話を続けていた。 「ガラス玉?そんなもの作ってどうするの?」 キュルケが問う。たしかにガラスは高価だが、手に入らないほど高いというほどでもない。 「ガラス玉は基本だよ?宝石の代わりにもなるし、メリクリウスの瞳とガラス器具はいつか必要になるし…」 「それに、これを錬金術で作る事に意味があるんだから。」 ヴィオラートが、ガラス玉製造の必要性を強調する。 「ガラス玉でも、宝石の持つ魔力を代用できるの?」 ルイズが質問する。魔法の授業とは違い、そこに理不尽なハンデは存在しない。 「うん、一応効果は発動するし、品質そのものはいいものが…」 授業前の、四人が揃う最初の時間は、放課後の錬金術教室の企画立案の場となっていた。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師14~ 教室の扉がガラッと開き、ミスタ・ギトーが現れる。 長い黒髪に黒いマントを纏ったその姿は不気味であり、 その不気味さと冷たい雰囲気からか、生徒達には全く人気がない。 「では授業を始める。知っての通り私の通り名は『疾風』。疾風のギトーだ。」 教室中が静寂に包まれ、ギトーは満足げに頷いて授業を続ける。 「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー。」 「『虚無』じゃないんですか?」 「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ。」 何かを期待するようにキュルケを見るギトー。 キュルケはその裏に気付いたが、気付かないフリをしてギトーの求める言葉を吐いてあげた。 「…『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー。」 キュルケはうんざりしながら、ギトーの幼稚な証明につきあうことにする。 「ほほう。どうしてそう思うね。」 「全てを燃やしつくせるのは炎と情熱。そうじゃありませんこと?」 「残念ながらそうではない。」 ギトーは腰の杖を引き抜いて、言い放つ。 「試しに、この私に君の得意な火の魔法をぶつけてみたまえ。」 「火傷じゃ済みませんわよ?」 キュルケは、目を細めて言った。 「かまわん、本気で来たまえ。その有名なツェルプストーの赤毛が飾りでないのならね」 キュルケは杖を振り、小さな火の玉を生み出す。 その玉を一メイルほどに成長させると、適当にギトーへ向けて押し出した。 ギトーはその火の玉を避ける動作もせずに、杖を横薙ぎになぎ払う。 烈風が巻き起こり、火の玉をかき消し、その向こうにいたキュルケを吹っ飛ばした。 悠然として、ギトーは言い放った。 「諸君。風が最強たる所以を教えよう。風は全てをなぎ払う。」 キュルケが気だるげに起き上がり、両手を広げた。気にすることもなく、ギトーは続ける。 「不可視の風は、諸君らを守る盾となり、敵を吹き飛ばす矛となるだろう。」 「そしてもう一つ、風が最強たる所以…」 ギトーは杖を立てた。 「ユビキタス・デル・ウィンデ…」 低く、呪文を詠唱する。 しかしその時、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔のコルベールが現れた。 「ミスタ?」 ギトーは眉をひそめた。 コルベールは妙にめかしこんでいたのだ。 頭に金髪ロールのカツラをのせ、ローブの胸にはレースの飾り。 ご丁寧に靴まで趣味の悪い金箔で飾り立てていらっしゃるようで。 「あやや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」 「授業中です」 「おっほん!今日の授業は全て中止であります!」 コルベールは重々しい調子で告げた。教室から上がる歓声に、コルベールが手を振って答えたまさにその時。 金髪のカツラが「しゅるっ」という軽妙な音を立てて滑り落ちた。 教室中の生徒が、コルベールから目をそらして必死に笑いをこらえる。 一番前に座ったタバサが、コルベールの禿頭を指差してぽつりと呟いた。 「滑落注意」 教室が爆笑に包まれた。 コルベールは顔を真っ赤にして怒鳴った。 「黙りなさい!ええい、黙りなさいこわっぱどもが!」 とりあえずその剣幕に、教室中がおとなしくなった。 「えーおほん、本日は恐れ多くもアンリエッタ姫殿下が、この魔法学院にご行幸なされます」 教室がざわめきに包まれる。 「そのために本日の授業は中止。正装し、門に整列する事。」 生徒達は、緊張した面持ちで一斉に頷く。 コルベールはたっぷりと生徒達を見渡してからようやく満足し、重々しげに首を縦に振った。 整列した生徒達は杖を掲げ、しゃん!と小気味良い音を響かせる。 魔法学院の正門をくぐって、王女様ご一行が姿をあらわした。 馬車が止まり、玄関と馬車の間に非毛氈のじゅうたんの道が作られる。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーりーー!」 そのように告げられたのだが、しかし、最初に姿を現したのは四十過ぎの痩せこけた男であった。 がっかりである。 生徒達の落胆を見て取った男は、意に介した風も無く馬車の横に立ち、続いて降りてくる王女の手を取る。 生徒達の間に歓声が沸き起こった。 「あれがトリステインの王女?ふん、あたし達とそう変わらないんじゃない?」 キュルケがつまらなそうに呟く。 「そ、そうかな?綺麗な人だと思うけど…」 問われたヴィオラートはそう答え、何気なくルイズに視線を送るが… ルイズは顔を赤らめ、惚けたように何かを見つめている。 その視線の先には、羽帽子を被り鷲の頭と獅子の胴を持つ幻獣に跨った、りりしい貴族の姿があった。 脇を見ると、キュルケもいつの間にか赤い顔で羽帽子の貴族を見つめている。 そんなにいいのかなあ、と思いつつ、ヴィオラートはその貴族をじっくりと観察してみる。 ヴィオラートはその貴族に違和感を感じた。何かと似ているのに違う、本物とそれを装っているものの違い。 何が本物でなにが装っている…偽者なのか。具体的な言葉が、なかなか思い浮かばない。 その貴族が通り過ぎ、従者の列も通り過ぎ、生徒達も散会し始めた後になってようやっと思い至る。 (どこがというわけじゃなくて、全体的に…ロードフリードさんと雰囲気が似てるんだ。) 礼儀正しい振る舞い、隙のない動作、そしていつも浮かべる微笑。 (似ているけど違う。それも何か、致命的な違い…) ヴィオラートは、穴の開くほど観察したその微笑を何回も思い出して、手がかりをつかもうと考えた。 ルイズを見たときの微笑、アンリエッタを見たときの微笑、学院に向けた微笑… そして、ルイズがわずかにその貴族から視線を外し、アンリエッタを見た瞬間の彼の表情にたどりつく。 特別に、違和感を持って観察して見なければわからないような刹那。ルイズに向けられた酷薄な眼差し。 彼は何かを装っている。もしかしたら、全てを。 ヴィオラートは一抹の不安を抱えながら、人気の消えた玄関先をあとにした。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/696.html
「あんた誰よ?」 『サモン・サーヴァント』によって現れた一人の青年を前に、不機嫌そうにルイズは尋ねた。何やら呆けた様子を見せている、みすぼらしいナリの男は、不思議そうに辺りを見回し始める。 「……何だここ?」 「先に聞いてるのはこっちなのだけれど?」 要領を得ないやり取りに、徐々に不機嫌さを増していくルイズの顔に目を向けると、男は盛大にその腹の虫を鳴らせた。 「ああ、俺は……雷(アズマ)って言うんだけど……そんな事より、何か食わせてくれないか? 腹、減っちまった」 尋ねた答えは得られたが、おまけで付いて来た言葉に、その周りで様子を眺めていた生徒達が爆笑でもってルイズとその使い魔に言葉を投げかけた。 「呼び出した使い魔が平民な上に、いきなり食事を要求されてるぜ?」 「あさましい使い魔もいたものね。ある意味ゼロのルイズには相応しいんじゃない?」 あからさまな嘲笑を浴びせかけられ、羞恥に身を震わせるルイズは、その怒りを目の前の使い魔にぶつけた。 「あんた! 状況理解してる!? 呼び出された第一声がそれって、何よ、馬鹿にしてるの!?」 「呼び出されたって……わけわかんねぇよ。こっちは船に乗ってた筈なのに、気付いたらこんな所にいたんだから。理解してるのは、今俺の腹が減ってるって事くらいだな」 そう言って力無く倒れたアズマと名乗った青年は、差し掛かる日の光を浴び、あくびを一つ、そのままくぅくぅと寝息を立て始めた。 「……召喚のやり直しは……」 「無論、不可だ。さぁ、早く『コントラクト・サーヴァント』を執り行いたまえ」 おずおずと言うルイズに対し、コルベールの対応は迅速な物だった。 「はい……」 不本意ながらも、こうしてルイズのファーストキスは、空きっ腹を抱えて眠る平民に捧げられる事と相成ったのだった。 目を覚ましたアズマは、そこがまるで見ず知らずの場所である事を知り、あからさまにうろたえを見せた。そして、眠る前のひと時を思い出し、あー、と頭を抱える。どうやら夢の類ではなかったらしい。不可思議な現象にアズマは混乱する。 少なくとも、日本では見たことの無い意匠の部屋は、アズマの好奇心を刺激した物の、下手に動くのはどうか、と思い至り、自身が横たわっていた藁の床に再び身を預けた。 「腹減ったなぁ……」 この部屋の窓からは、日の光とは違う控えめなそれが差し込んでいる。 恐らくは夜なのだろうが、月の光にしては明るすぎる。そう思い、アズマはその身を起こして窓の外に目をやった。 「嘘だろ?」 その目に映ったのは、夜空に煌々と輝く二つの月。あり得ない光景に息を呑んだアズマの無防備な背に、がちゃりと戸を開けて部屋に入ってきた者の声がかけられた。 「やっとお目覚め? 怠惰にも程があるわ……これ、夜食。お腹空いてるんでしょ?」 アズマが振り返ると、そこにはパンを手にしたルイズの姿があった。 何がどうなってるのか分からない状況だが、空きっ腹を抱えたアズマにとっては、目の前にある食べ物が全てだった。慌ててルイズの差し出したパンを掴み取ると、ほぼ一息でそれを嚥下した。 「おかわり」 「はぁ? ちょっと、あんた殆どそれ一気食い……」 「足りない」 問答無用とばかりに言うアズマに、ルイズは自身のペースが掴めずに戸惑いっぱなしである。少なくとも、ある程度は空腹が満たされたのか、笑顔の彼に目を向けた。 「ちょっとは我慢しようって考えにならないの? せっかくご主人様がご主人様が施しを上げたって言うのに」 「ご主人様? おまえ何言ってるんだ? よく分からないけど、これっぽっちじゃ全然足りないよ」 あの後眠っていたせいか、契約について理解していないのだろうか? ルイズはそんな不安を抱えながらも、ずい、と手を差し出して食べ物を要求する使い魔の勢いに押され、 「……ちょっと待ってなさいよ。ちゃんと食べ物は用意してあげるから。その後、わたしの話を聞きなさいよ?」 「ああ。何か食わせてくれたら何でも聞くさ」 肩を怒らせ、ルイズは渋々と部屋から出る。使い魔に甘い顔を見せるのはこれっきり、そう心に誓いながら。 アズマはと言うと、再び窓の外に目をやり、ほう、と溜息を吐いた。 「望んでた通りに、別の国に来れたんだろうけど……これはあり得ないよなぁ……」 外国の空には月が二つあるものかと一瞬思ったアズマだが、少なくとも自分が生きる世界には月が二つあるという現実は存在しないだろう、そう考えた。 だが、そんな詮無き考えも、今の彼には無用だった。全てを捨て、ただ流浪の身となったアズマには、意味のある事など殆どありはしないのだから。 「これはこれで、いいのかもな」 自身に受け継がれなかった『陸奥』の名を思い、彼は目を閉じる。 それが忘れられるなら、どうなったっていい。少なくとも、今のアズマにとって、流れに身を任せて生きる事が全てだった。 ふと視線を落とすと、妙な紋が自身の左手の甲にある事にアズマは気付く。 「なんだこりゃ?」 刺青など彫った覚えはないのだが……アズマは部屋を見回し、布らしき物でそれを拭ったが、消える気配が無い。いつの間にこんな物が、と考えるも、今の不明瞭な状況では答えなど出るはずもなかった。 とりあえず、必死になって左手の甲を布らしき物で拭っていると、再び開かれた扉の前で、仁王立ちしているルイズがいた。その手には先ほどよりも多いパンが握られている。 「おおっ、食い物!」 「あ、あああああ、あんた……」 「?」 早速その中から一つを奪い取り、もぐもぐと食べ始めるアズマに、震えた声でルイズは言う。 「ご主人様のパンツを持って、何してんのよーーーーーーー!!」 いきなり怒声を浴びせかけられ、驚くアズマ。左手を拭っていた布らしき物は、よくよく見ると、女性用の下履きに似た物であることに気付いた。 「へ、へへへへ、変態! あんた変態だわ!」 「…………何だかなぁ」 部屋に置かれていた鞭を手にしたルイズに追い回されながら、アズマはパンを咥えて呟く。相変わらず状況は分からないが、とりあえず退屈だけはしないで済みそうだ、そう思って彼は飄々と、自身に振るわれる鞭を避け続けるのだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3448.html
前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 7話 ―土くれのフーケ― 学院を統べる男、オールド・オスマン 伝説のメイジと謳われ名声を欲しいままにしてきた。 ―が。 グー・・・ 自室の机に突っ伏して寝ている。 どうやら差し込む日差しの陽気に負けてしまったようである ふと、小声で”サイレント”の呪文 唱えたのは秘書であるロングビルであった 「ふふ・・・」 扉を出て行く秘書がむかったのはオスマンの部屋の下にある“宝物庫” 扉には魔法がかけられさらには頑丈な鍵までもがついている 「(・・・・チッ、いまいましい・・・)」 扉に悪態をつくロングビル。 「だれだ、そこで何をしている!」 突然声をかけられたが場慣れしているのだろか、落ち着いて応対する。 「あ、ミスタ・コルベール。」 「おや、ミス・ロングビルではありませんか、一体どうしたのです?」 などと質問をしてきたので適当にあしらうロングビル。 食事にも誘われたが丁重に断り、残念そうに去るコルベールを見送ると 「(フン、あたしゃハゲチャビンには興味は無いのさ。)」 しかし、と壁をさわりため息をつくロングビル 「頑丈・・・ねぇ。」 なにや腹に逸物のあるロングビルであった。 その日の夜- コンコン 「は~い、どなた?」 「拙者でござる。」 ぱぁっと明るくなるのはキュルケである 「まあ!ダーリン、やっとわかってくれたのね!」 五ェ門に飛びつくキュルケ 「いや、別の用件だ。」 なんだと、ちょっとつまらなそうな顔をするキュルケ 「折り入って頼みがあるのだが。」 五ェ門からお願いされるなどとは思っても見なかったキュルケは目を輝かせる。 「なに?ダーリンの頼みならなんでも聞いてあげてよ?」 五ェ門は手にした剣を差し出す 「あら、この剣はたしか・・・」 「いかにも、拙者が拾った“デルフリンガー”だ。」 まじまじと剣を見るキュルケ 「見ちゃいやん!」 突然の奇声に嫌悪感をあらわにするキュルケ 「気味の悪い剣ね、溶かしちゃっていいかしら?」 「そうしたい所なんだが、この剣が言うには“魔法”を無効にすることが出来るらしいのだ・・」 ああ、と理解するキュルケ 「それじゃ、あたしはその剣に魔法をぶつければいいのね?」 「左様、お願いできるだろうか。」 かしこまる五ェ門 「お安い御用よ、ついでだからタバサも呼んでみる?いろんな魔法でためしてみましょうよ。」 「かたじけない。」 「お姉さま、何を読んでいるの?きゅい!」 窓際にいる少女に話しかける竜 「・・・喋っちゃだめ・・・」 「きゅい(ごめんなさいなのね!)」 「・・・秘密。」 トントン 「・・・誰?」 「タバサ、夜分にすまないが・・」 ガチャリ 「どうしたの?」 言い終わる前にすばやく扉を開けたタバサ 一緒にいたキュルケが理由を説明する。 「・・任せて。」 その様子を窓越しに眺めていたシルフィードは 「(・・・見えなかったのね!きゅい!)」 そうして一行は敷地内の広場に向かう。 それを窓からみていたのは― 「(な!なんでゴエモンがあの二人と・・・)」 そう思うとルイズは矢も盾もたまらず飛び出す。 「いくわよー」 「ばっちこーい!」 呪文が詠唱され 「ファイヤーボール!」 ドシュゥ! デルフリンガーに当たる直前、巨大な火球何事も無かったかのように姿を消す。 「すごいじゃない、その剣。」 「へへ、姉ちゃんはわかってるね!」 ボソボソと呪文が聞こえる 「ウィンディ・アイシクル」 氷の氷柱がいくつもデルフリンガーめがけて突進するが直前で 「・・・効かない」 たちまちかき消されちょっとショックをうけるタバサ。 「だろ、ゴエモン兄!どんなもんだい!」 なるほど、これはかなりいい拾い物をしたらしいと思う五ェ門 「ちょっと、あんたたち!」 いっせいに振り返る 「あたしを差し置いて、使い魔になにをやっているのかしら?」 大分お怒りのようだなので一同は理由を説明する。 「・・・じゃあ余計許せないわ!なんであたしを差し置いてやったのよ!」 それは、と言葉が詰まりそうになる五ェ門。 「だって、あなたの魔法はいつも的外れじゃないの。」 ルイズの魔法は威力こそあれ大雑把なのだ。 「うっさいわね!いいわよ!そこまでいうならやってやるわ!」 そう言い切ると、デルフめがけて呪文を唱える 「へっへ、いくらやってもむだ・・・・」 「ファイヤーボール!」 ズガーン! 「あ・・・・」 なんと、ルイズの魔法はデルフを大きくそらして、塔の壁に当たってしまったのだ。 「これは思わぬ好機のようね。」 夜の散歩で思わぬ光景を見たロングビル、その口元は暗闇に怪しく輝いていた。 「あーあ、壁にひびが・・・。」 塔の壁には大きなひび割れが姿をあらわしていた。 「あのあたりって確か・・・。」 「・・・・宝物庫。」 あちゃあと、頭をかくキュルケ 「ルイズ、どうするのよ!」 「どうするっていっても・・」 学院の宝物庫には希少なマジックアイテムなどが眠っている。 その壁を壊したとあっては下手をすれば停学物である。 ふと、五ェ門が地面から“なにか”が迫ってくるのを感じ取った 「おぬし等、ここを離れたほうがよさそうだ。」 ルイズたちもただならぬ気配を感じその場から離れる そしてデルフリンガーが据えられていたあたりから ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ なんと見る間に巨大なゴーレムが現れたのだった。 「な、なんなの・・・?」 ゴーレムの肩にはいつの間にか人影が現れている。 大きさは30メイル程であろうか、ルイズのつくったひびめがけゴーレムは 拳を振りかざす、瞬間 ズシーン! 地響きがあたりを走る。 ひびが入ったところは見事な大穴があけられていた、ゴーレムの肩から穴へ向かう人影 「あれは、盗賊!」 飛び掛ろうとルイズ達、しかし 「やめておけ、この距離では間に合わない。」 五ェ門がルイズたちを制止する。 「な、何でとめるのよ!あんたもアレ位ならその剣で一発でしょ!?」 勢いがそれてしまい軽い混乱状態になるルイズ。 「考えても見るのだ、この時間に不可抗力とも言える力でルイズが壁に穴を開けた 、そこへで都合よく賊が入るというのはいかにも怪しい。」 五ェ門の言葉に落ち着きを見せるルイズ 「ならば、賊はこの学院に長らく潜伏していた者であろう。」 「まさか!」 「十分ありえる事だ。とにかく今追えば罠に嵌るやもしれん、朝まで待とう。」 五ェ門の長い経験がそう告げる、召還されるまでは世界中を股にかける大泥棒の一味であったのだから。 五ェ門の説得にしぶしぶ応じる3人。 大穴を明けられた宝物庫に大きな字が刻まれていた 「封印の環とその魔法の書、確かに領収しました 土くれのフーケ」 翌朝、学院は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた あつまった教師たちは部屋の中央に並ぶ4人を見つめている。 「―以上が私たちの見た全てです。」 現場近くにいたルイズたち4人は会議室で昨日の件を報告した 「ふむ、なるほどのう。」 一通りの説明が終わった後がやがやと騒がしくなる 「土くれのフーケめ、魔法学院にまで手をだすとは・・・・」 「衛兵も平民では役に立たん・・・」 「当直のシュヴルーズ先生はいったい何をしていたんだね!?」 名前がでたとたんビクリとするシュヴルーズ 「も、もうしわけございません・・・」 パンパンと、手をたたくオールドオスマン 「それまで、この度の一軒はなにもシュヴルーズ先生一人の責任ではない、 大体いままでまともに当直をこなした教師はここに何人いるのかのう?」 一瞥するオスマンに声も出ない教師たち 「これが現実じゃ、それよりフーケを捕まえ取り戻す事を考えんといかんのう。」 「しかし、居場所もつかめないとあっては・・・」 そのとき、ミス・ロングビルが扉をあけ入ってきた。 「昨日の賊の居場所が判明しました!」 ざわめく会議室 「今朝方から姿がみえんとおもっていたが・・・仕事が速いのう。」 「ええ、朝起きたらこの騒ぎでしたので、早速調査を開始していました。」 「ふむ、して賊はいずこへ?」 一息いれるロングビル 「土くれのフーケと思われる賊は学院から3時間ほどはなれた農村にある廃屋にいると思われます。」 ふうむ、とヒゲをいじるオスマン 「して、その根拠は?」 「今朝、廃屋に黒ずくめのローブをきた怪しい人物が出入りしていたのを見かけたと近在の農民から聞き出しました。」 考え込むオスマン 「ふむ、どうやら本物のフーケのようじゃのう、さて・・居場所が割れたい以上これを追撃せねばなるまい、どうじゃ?フーケの首を挙げて名をあげる機会じゃぞ?」 しかし、教師たちは一様に黙り込む 「(やれやれ、なんと情けない・・・)」 「私がいきます!」 声を上げたのはルイズであった。 「ミス・ヴァリエール、君では無理だ!」 ひとりの教師が声を荒げる 「だって、こんなに集まっていて誰一人杖をあげないじゃないですか!」 「あたしたちも一緒にいきます!」 ほっほっほ、と笑うオスマン 「よろしい、ミス・ロングビル、彼女たちをフーケのアジトへ案内するのじゃ。」 「オールド・オスマン!」 どよめく会議室 「なに、心配はなかろう。彼女たちは敵を見ておる、そのうえミス・タバサはまだ若いというのに“シュヴァリエ”の称号を与えられてると聞いておる。」 言葉に詰まる教師たち 「ミス・ツェルプストーは優秀な軍人を輩出している家系の出で実力も折り紙つきともきいておる。」 そしてルイズに目を向ける 「ミス・ヴァリエールも・・・その、優秀なメイジを輩出している公爵家の出じゃ、期待はできるじゃろう。」 最後に五ェ門に目をむける 「なにより、ミス・ヴァリエールの使い魔は得体の知れない剣術でグラモン元帥の子であるギーシュ・ド・グラモンを完膚なきまでに討ち果たしたというではないか。」 笑顔が戻るオスマン 「ミス・ロングビル、彼女たちを頼みましたぞ。」 「心得ましたわ、オールド・オスマン」 そうして一向はロングビルの先導の元、フーケの隠れ家に向かうのであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3336.html
前ページ次ページゼロの英雄 ルイズの手記-3 △月○日 結局アタラクシアって赤竜を追ってアルビオンに行くことになった。 行くついでに姫様に用事を頼まれる、密命を帯びてアルビオンに向かったワルド様がいつまで経っても帰ってこないらしい。 ラ・ロシェーヌで一旦休んでとか思ったけど甘かった、スピノザが全力を出せばアルビオンまでひとっ飛びじゃないの。 キュルケとギーシュも何故か付いてきた、スピノザが頼まれると断れなかったらしい。 アルビオンは戦争の真っ直中、最近押され気味だった貴族派が勢力を盛り返しつつあるらしい。 途中あわやレコン・キスタ間諜かと疑われたけれど、姫様から預かった水のルビーが証を立ててくれた。 ウェールズ様は素晴らしい方だ、戦況は苦しいが最後まで戦い抜くと仰られた毅然とした態度に思わず感動。 ただもし自分たちが戦死した場合姫様がに迷惑が掛かるだろうと一通の手紙を預かった。 その時輝く水のルビー、って私の属性って虚無だったの!? 試しに一発撃ってみたらすっごい爆発が起きて貴族派の主力が吹き飛んだ、これ幸いと年甲斐もなく特攻するジェームズ陛下。 一気に王党派に傾いた戦場の様子を見て、ウェールズ様に預かった手紙を返す。 ところで先行……もとい閃光のワルド様は一体何処に? 元レコン・キスタ総指揮官オリヴァー・クロムウェルは走っていた。 森を掻き分け、川を渡り、崖から転げ落ちながら、がむしゃらに追撃の魔の手を逃れようと走っていた。 わざわざ特注で作らせた僧服は木々に引っかけぼろぼろで、かつての神聖な面影など欠片もない。 酷使を繰り返したせいか右手の中指に付けたアンドバリの指輪は効力を失って久しい。 「ふ、ふふふ……」 つまりは自分は見捨てられたのだ。 あの人を人とも思わぬガリアの狂王に。 「ふひ、ふひひひひ……」 惨めだ、途方もなく惨めだ。いっそこのまま…… その時がさりと蠢くものがあった。 「ひっ」 森の木々の奥に覗く真紅の巨体、それを見た瞬間体が凍る。 「ひへぇぇぇぇええええ」 鋼すら通さぬ皮膚、人など塵程度にしか思ってないだろう二つの紅玉、金属製のゴーレムすらやすやすと引き裂く爪と、雷を呼ぶ二本の角。 あまりにも圧倒的なその存在に出会ったとき、人は考えることをやめただ恐怖する。 己の存在の矮小さ自覚するが故に…… 「ひへぇぇぇぇぇえ!」 そのドラゴンはクロムウェルの左腕を囓り取った、そのままさも不味そうに咀嚼し、ゆっくりと飲み下す。 ――ああ、自分はこのままこの竜の昼飯になる運命なのだ。 クロムウェルがそう思い、瞳を閉じた瞬間。奇跡が起こった。 聞き覚えのない詠唱が耳を叩く。 その詠唱が終わると同時に、真紅のドラゴンはまるで夢を見たように呆然と周囲を見回した。 「おうちに帰りましょうか」 ドラゴンは一声なくと、ゆっくりとその場を飛び去っていく。 「大丈夫ですか?」 クロムウェルはほっと一息吐いて、自分を助けてくれた相手のことを見た。 金髪の髪、ぴっちりとした衣服を押し上げる二つのたわわな果実、そして美しい顔から覗く尖った耳。 ――エルフ!? 一難去ってまた一難、今度こそ完璧に硬直したクロムウェルに向かってそのエルフはゆっくりと近づいて来る。 「来るな……」 クロムウェルは残った右手を掲げる、それは死を前にしたクロムウェルの精神が生き残りたい一心で体を動かした結果だった。 「来るなぁぁぁぁあああああ!」 「きゃっ!?」 血で汚れ、光を無くした筈の指輪が蠱惑的な光を放った。 △月×日 ウェールズ様に聞いたところによると、赤いドラゴンは王都ロンディニウムから西へ飛んでいったらしい。 ウェールズ様にお礼を言い、スピノザの背に乗って西へ飛んでいくと、意外な人物と出会った。 「タバサじゃない」 『雪風』の二つ名を持つトライアングルメイジ、それに奇妙な服装の黒髪の平民と高飛車そうな微妙にタバサ似の青髪の女の子。 ものっそいおでこが眩しかった。 「きゅいきゅい、スピノザさま奇遇なのねーるーるるー」 シルフィはシルフィで色々と吹っ切ったのか、スピノザに甘える用に顔を擦りつける。 韻竜だからって隠すことを止めたらしい、まぁこれだけ韻竜が出てくればね…… アタラクシアを探していると言ったら、おでこが突っかかってきた。 なんでよ? 聞いた話によると元々デコが召喚したらしい、じゃあなんでこんなとこにいるのよ?って聞いたら 「うるさいうるさいうるさーい!」 ――取られた、私の十八番取られた…… スピノザはスピノザで平民の持った剣を呆けた用に見つめていた、破竜剣 ダンテ ? なにそれ? 魔王竜を殺す為だけの武器? 二丁拳銃ぶっ放せるようになったり変身出来るように――いや、なんでもない。 「きゅいきゅいきゅいー、そんな物騒なものだと気づかなかったのねー!?」 シルフィはもうこれ以上背に乗せたくないと騒いで、怒り狂ったおでこに鞭を入れられている、哀れ。 スピノザに聞いたら竜の臭いがするから、アタラクシアはこの付近に暫く留まっていたらしい。 けれどちょっと前にこの場から離れた様子だとか、一体何処に行ったのだろう? ある時は大盗賊『土くれ』のフーケ。 ある時は魔法学院の秘書ミスロングビル。 しかしてその実体は、アルビオンの元公爵家の一人娘、マチルダ・オブ・サウスゴーダ。 マチルダは上機嫌だった、学院から盗み出した使い方の分からない『どらごん殺し』が信じられない値段で売れたのである。 盗品の販売を任せている知人から連絡が来た時はからかわれているのかと思ったが、どこぞの王族が見た目を気に入って買っていったらしい。 故にマチルダの懐は随分と温かかった、これで暫くは孤児院の子供達を飢えさせずに済む。 「ん?」 その時マチルダは異変を感じ取った、普段は外で元気いっぱい遊んでいるか畑の世話をしている筈の子供達が一人も見当たらない。 いつもなら誰か一人が「あ、マチルダ姉ちゃんだ!」と言う叫びが上がると共に一斉に揉みくちゃにされるのだが…… 「何か、あったのかね?」 異変を感じ取ったマチルダはフーケの顔になる、杖を取りだしゴーレム作成の呪文を唱えた。 作りだしたのは五メイルほどの土のゴーレム、戦力としては頼りないが様子見には十分。 マチルダはゴーレムを使って孤児院の扉を開け…… 転がるようにしてその場から飛び退いた。 マチルダ立っていた場所を閃光のように細腕が薙ぐ、そのあまりの鋭さに回避したと言うのにマチルダの頬に血の玉が浮かんだ。 刺客は奇妙なことにどこかで見たようなメイド服を着込み、その左手に身の丈もある大剣を持っている。 ――こいつが、テファ達を! ぎりりと血が出るほどに唇を噛みしめる、そのまま渾身の精神力を込めて杖を振るった。 「此処に居た子達の仇だよ!」 地面から巨大な腕が生えた。 その腕は小柄なメイド服の人影を一薙ぎすると、そのまま地面から生えるに全長三十メイル以上の巨大なゴーレムへと成長した。 これで仕留めた、暗い感動に身を震わせたマチルダは薄れる土煙の奥に信じられないものを見た。 「なんて、奴だい……」 メイド服の人影は傷一つないまま、ゴーレムの腕の上に立っていた。 格が違う、そう理解したマチルダはゆっくりと杖を棄てる。 「参った、殺したいなら好きにしな」 目の前のメイドはとんでもない化け物だった、正攻法では絶対に敵わない。 ――だから自分の首を刎ねようと近づいて来た隙に、差し違えてでも仕留める。 太もものガーターベルトの仕込んだ予備の杖に手を当てながら、マチルダは今生最後と決めた呪文を唱え…… 「ミスロングビル?」 「おでれーた、このおっかねぇ姉ちゃんはシエスタの知り合いかい」 あまりにも予想外の名前を呼ばれたことに、今度こそ本当に杖を取り落とした。 ジョゼフの手記-3 △月×日 パソコンが動かなくなった、ガッデム! 理由は分からないのでマキシマムスピィィィンとばかりに頑張ってみたらEscが取れた。 修理を配下に任せ――パソコンのエロ画像が見れなくなって皆半狂乱だが……に託し、何故か青筋を浮かべたビダーシャルにイザベラ達が行ったらしきアルビオンの情勢を尋ねた。 「レコン・キスタがまた勢力を盛り返している」 待て、今なんと言った? もう一度聞きなおしてみても結果は変わらない、あの状況からどうやって…… 尋ねてみるとクロムウェルはエルフと真紅の魔竜と言う手札を手に入れて狂ったように暴れまわっているらしい、しかも死人の兵まで動員していると言う――どう考えても私がくれてやったアンドバリの指輪の効果じゃねぇか! しかもビダーシャルは人間がエルフを操っていることに激怒している、超恐い。 これ以上我が同胞を穢すつもりなら我等エルフ全てを敵に回すことを覚悟せよとか恐い、超々恐い、なんかキャラまで変わってるしよぉ…… いくらなんでも頃合いだろう、アルビオン内乱に介入することを決定し準備を進める。 だが準備と言う段階になって困ったことがあるのことにを気づく、最近ろくすっぽ暗躍していなかったので船が足りないのだ。 浮遊大陸でアルビオンに侵攻するには大規模な航空戦力が必要になる、我がガリアもある程度の航空戦力は有してはいるものの準備不足故いまいち決め手に欠ける。 まったく予想外の事態ばかり起こって楽しくて仕方がない、そんなことを考えていたら困惑した様子の部下が報告にやってきた。 ――コルベールが一週間でやってくれました! 魔法学院から客室研究員として招聘したハゲにパソコンで見た飛空艇と言う船のことを話したら、本当に作ってしまったらしい。 蒸気機関と言う燃料を燃やして動くカラクリを使い、風石さえあればメイジがいなくても空を飛ぶ船。 もしくは風石がなくても僅かな疲労で済むレビテーションだけで大空を駆けることが出来る船。 それなんてチート? 本人はしきりに後悔していたが知ったことではない、配下に命じて既存の船を全て飛空艇に改造させる。 いよっしゃー待ってろアルビオン、狂王ジョゼフが今いくぜー! 「そう言うことだったのかい、悪かったね……」 「いえいえ、見なかったことにして放っておくことは出来なかったので」 シエスタはその黒い髪を揺らし、ニコリと笑った。 子供達はティファニアが連れ去られた後、マチルダの言いつけを破って街へと探しに出たらしい。 その折り夜盗化した傭兵達に襲われたところをシエスタが助けに入り、とりあえず元の孤児院でマチルダの帰りを待つことにしたのだ。 いきなり手刀を叩き込もうとしたのは、マチルダがどう見ても夜盗にしか見えなかったからだとシエスタは言った。 「まぁ、確かに夜盗には違いないけどさ……」 マチルダはそう言って愚痴を零す。 「しかしあんた、一体何者だい?」 「いえ、学院で奉公させていただいている”ただ”のメイドですけど」 「ただのメイドがあんな動き出来るはずないじゃないのさ、それに何それ」 「俺っちのことかい?」 カタカタと音を立てながらデルフリンガーは言った。 「魔法を吸い取るインテリジェンス・ソードなんて伝説級の剣じゃないのさ」 たしかにただのメイドが持っていていい武器ではない。 「これはおばあちゃんの遺品でして」 「――何者だい、あんたのおばあちゃん」 「ただのメイドですよ、わたしは護身術からメイドの仕事の仕方まで全部おばあちゃんから教えて貰ったんです」 思わずマチルダの顔が引きつる、シエスタが護身術と言っているものは暗殺者の用いる体術そのものだったからだ。 「そう言えば、一度だけ変なことを言ってました」 ぽんとシエスタは手を叩いた。 「どんなだい?」 「遠い異国の言葉だったので意味は分からなかったんですけどね」 「駄目じゃねぇか!」 デルフリンガーが笑う。 「でもあの時のおばあちゃんの顔、凄く寂しそうで……」 「そうかい……」 しんみりした気持ちのままマチルダはシエスタを見た、誰にだって大切な過去の一つや二つくらいはある。 「ところであたしはこれからテファを連れ戻しに行く……」 子供達を頼む、そう言おうとしたマチルダの唇をシエスタの細い指が押さえ込んだ。 「水臭いですよ、辛い時は助けてくださいって言えばいいんです」 シエスタは笑った。 太陽のようなその笑みに、マチルダは思わず泣きそうになってしまった。 ???の手記 ――恐らく、神はこの私を許すまい。 それでも構わない、たとえこの身が悪魔と呼ばれようともけして私は躊躇うまい。 「本当にいいんだな?」 友の声に、娘は「お願いします」と答えた。 友が、左手に構えた大剣を振りかぶる。 音を立てて振り下ろされた剣が祈るように目を閉じたエルフの胸に突き立った。 流れる血潮、命の結晶。 それを前にして私は呪文を唱える。 コントラクト・サーヴァント。 対象を己が使い魔とする呪われた呪文を。 「エルフ達は私たちを許しますまい」 そのようなことは分かっている。 それでも、この人とエルフの血が混じった娘は願ったのだ。 人と人、人とエルフが憎しみあわずに暮らすことが出来る世界が来ることを。 確かにこの儀式が成功すれば長きに渡って続いてきたエルフとの戦いは終わるに違いない。 果たしてそれが、正しいことなのかどうかはともかくとして…… 「だが、それが娘っこの願いだろ?」 相変わらずひねた口調で、友は言った。 随分と長い付き合いだがこれほどやりきれない口調は初めてだった。 「なぁ、一つだけ頼みがあるんだが……」 それを皆まで聞かず、私は詠唱を終える。 そして今生の別れを惜しむようにその娘の唇へ口付けた。 五つの力を司るペンタゴン この者に呪いを与え、我の使い魔となせ 血が光へと変わり、娘の胸に使い魔のルーンが刻まれる。 私はただ憐れな娘のことを見ていた。 後の世のために生贄となることを望んだ、憐れなハーフエルフの娘のことを見ていた。 後世に伝えることすら憚られる、おぞましくも悲しい使い魔のことを私は見ていたのだ。 前ページ次ページゼロの英雄
https://w.atwiki.jp/4423/pages/340.html
編集する。 カウンター - 2024-08-31 01 59 46 (Sat) 主人公ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 平賀才人(ひらが さいと) デルフリンガー トリステイン学園関係者シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 リンク 主人公 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 声優・釘宮理恵 ヴァリエール家の三女で平賀才人を使い魔にしている。 魔法が使えないので「ゼロのルイズ」と呼ばれていた。 才人に対してツンデレにあたっている。 平賀才人(ひらが さいと) 日本の秋葉原からこの世界に召喚された。 デルフリンガー トリステイン学園関係者 シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 [[]] [[]] リンク コメントログ 名前 コメント 編集する。 出典、参考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5705.html
前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 八話 桃色がかった金髪を持つ少女が、あの誇り高い少女が、あの驚くような努力を積み重ねてきた少女が、使い魔召喚と契約、二つの魔法に続けて三度目の魔法を成功させることを、燃えるような赤毛と紅玉のような瞳を持つ少女、キュルケは確信していた。 だから不安に表情を曇らせることも、机を盾にすることもない。 しかしその確信は、ことのほか容易に、つい先刻教卓の上に置かれていた石と同じく、やすやすと打ち砕かれた。 耳をつんざく爆音に驚かされる。 何故なら、それは石ではない何かに姿を変えるはずだったから。 驚きは思考を奪う。 そして本来行われるべき思考とは違う、第三者の視点に切り替わってしまった。 実際には声を発する間もなく突き刺さるはずの石の欠片を、キュルケの瞳はゆっくりと追いかける。 視界を占める割合を徐々に大きくするそれを、キュルケはよけるでもなくただ見つめていた。 一体どういった力が加わったのか、平たい面を天井に向けた半球状の石は、恐ろしい勢いで回転していた。 瞬きほどの短い時間で、間近まで迫る石。 向かい来るのはキュルケの顔。 鋭さを一部にのぞかせるその石は、瞳に当たれば失明を免れず、顔に当たればどのように切り裂くのか。 鈍い傷口ほど、傷跡は醜くなる。 傷で済めば、運が良いのかもしれない。 そこまで理解していながら、キュルケの体はよけようともしない。 石が当たる直前、キュルケが出来た行動は歯を食いしばることと、きつく目をつぶることだけ。 爆音が聞こえてからほんのわずか後、タバサの意識もキュルケと同じように、別の時間軸に切り替わっていた。 いやにゆっくりと、回転する石が視線の先を飛んでいく。 学院の内外を問わず、唯一友人と呼べる人間の頭をめがけて。 石を防ぐ為に踏み出そうという意識も、防ぐ為に手を出そうという意識も、想起させるほどの時間の隙間は存在しなかった。 極端に視野が狭窄し、石とキュルケの姿しか認識できない。 目の前に広げた手のひらほどの距離が、考えを進める間もなく縮んでいく。 ふと気付けば閉じた手のひらほどの距離となり、瞬きを挟む隙間もなく、指の本数が基準となる。 だが狭まる距離が指何本分になるか確認する間もなく、石はキュルケの目前に迫っている。 友人を守る猶予が、蝋燭の炎のように吹き消されていた。 タバサが出来たこと、それは誰かの白い手が、驚くほどの速度で友人へ向かう石を受け止めたということだけ。 不安を集中によって押し殺していたルイズは、ルーンを唱え終わった瞬間に目を見開き、教卓に乗せられていた石へと杖を振り下ろす。 それは、石ではない何かに変わるはずだった。 青銅や鉄、それどころか砂や粘土でも構わない。 ブラムドを召喚したことで、自分には変化が起こっているはずだ。 不安の中で、ルイズは杖へ全ての力を込めた。 結果として、それは災いをもたらす。 今までと何の変化もない反応をする、という災いを。 爆発した瞬間、ルイズは何一つ出来なかった。 爆風で吹き飛ばされ、後頭部を黒板に打ち付けること以外には。 爆風で吹き飛ばされる直前、シュヴルーズは温かな笑顔を浮かべていた。 爆風で吹き飛ばされる瞬間、シュヴルーズは温かな笑顔を浮かべていた。 爆風で吹き飛ばされた後も、シュヴルーズの笑顔は何一つ変わっていなかった。 なぜなら、ルイズの魔法が爆発を呼ぶことを知らなかったから。 そして、呼び出した使い魔が恐ろしく強力だと聞かされていたから。 元々体を動かすのが得意ではないにしても、その体は何の反応も起こさなかった。 笑顔のまま吹き飛ばされ、後頭部を床に打ちつける。 腰の前で合わせた手も、温かく見守る表情も、何もかも変わることなく、シュヴルーズは意識だけをなくしていた。 その傍らで、ルイズは意識を失うことなく、ただ後頭部に走る痛みに耐えていた。 不意に、後頭部を抑えたルイズの手を離させる誰かが現れる。 誰か確認する必要もない。 記憶が色あせるほどの時間も経っていない。 ルイズの想像した通り、その手はブラムドのものだった。 傷の状態を確かめたブラムドは、それが大した怪我ではないことを確認する。 安心したブラムドは、一方からの騒ぎに気付かされた。 入り口近くにまとまっていた使い魔たちが、爆音のせいでメイジたちの制御から外れている。 割れた窓を目指そうとする、飛べる使い魔たち。 臆病であったのか、混乱して暴れる使い魔たち。 本能を刺激されたのか、他の使い魔を食おうとする使い魔たち。 状況を収拾するはずのメイジたちだが、昨日の今日でどれだけ使い魔のことを理解できるだろう。 経験のなさから悲鳴を上げるか、慌てふためくばかりだ。 その様子を確認したブラムドはルイズの耳を塞ぎ、加減をした魔法を解き放つ。 『竜の咆哮(ドラゴンロアー)』 ブラムドが元々暮らしていたフォーセリア世界、その起源は一体の巨人から始まる。 世界そのものを生み出した巨人に名をつけるものはなく、それはただ始源の巨人と呼ばれた。 始源の巨人の死により、フォーセリアの大地、フォーセリアの神、そしてフォーセリアの竜は生み出される。 フォーセリアの神が土や水や風や火、それらが司る力を精霊として分化するより以前、神と同じく始源の巨人から生まれた竜は、その身に様々な力を宿している。 炎によって傷つくことのない体、口から放たれる炎のブレス、鉄の剣を弾くほどの強靭な鱗、そして魔力のこもる咆哮。 聞くものの心を乱し、恐怖を植えつける。 時にその心を砕き、狂わせ、死をもたらすこともある。 しかし弱く弱く加減したその咆哮が、瞬間的に教室内を満たす。 混乱していたものたちが、その声を聞いて逆に心を静める。 強者への畏れが、心を冷やす。 爆音で我を失っていた使い魔たち、それに慌てていたメイジたち、その全てがブラムドの咆哮によって我に返る。 ブラムドが落ち着けたルイズ、そして混乱にいたっていなかったが、運よくその魔力から逃れたタバサ以外、メイジと使い魔を問わず混乱していた教室は、改めて静けさを取り戻した。 一部の生徒たちがシュヴルーズを起こした後も、教室内は静まり返っていた。 常であればルイズへ罵詈雑言が投げつけられるところであったが、主を守護する使い魔の姿に口出しできるものはない。 何より、昨日ブラムドが召喚されたとき、その威容に畏れを抱かなかったものもいないし、つい先ほどオスマンから宣告されたこともある。 安易に触れることなど、出来はしない。 意識を取り戻したシュヴルーズは、マリコルヌの制止を聞かなかった自分を恥じているのか、特にルイズをとがめることはなかった。 ただ、教卓近辺の惨状を放置するわけにはいかなかったのだろう。 爆発の衝撃で傾いてしまった教卓の片付けや、倒れてしまった最前列の机を直すことなどをルイズに指示し、午前中の授業の中止を生徒たちに告げた。 教室を出る際、ルイズへにらみつけるような視線を投げる生徒も幾人かはいたが、怪我人らしい怪我人もなく、使い魔が多少暴れた程度で済んだためか、それ以上のことをするものはいなかった。 ルイズもまた普段通りとはいかず、口の端を引き絞りながら眉根を寄せ、破片の飛び散る床をねめつけるだけ。 タバサに続き、最後に教室を出ようとするキュルケはブラムドへ先刻の礼を言おうとするが、その様子に気付いたブラムドは視線を合わせながらかすかに首を横に振る。 確かにそれを今この場でする必要はない、気付かされたキュルケはブラムドに対してわずかに頭を下げ、無言のまま教室を後にした。 やがて足音が消え、教室内に沈黙が落ちる。 ブラムドは教室を離れた風を装う誰かと誰かの気配を感じながら、ひざまずいてルイズへと声をかけた。 「ルイズ」 その一言が合図であったかのように、ルイズはブラムドをかき抱き、声ならぬ叫びを上げる。 集中して杖を振り上げたとき、ルイズには一片の希望があった。 それは、途轍もなく強力な使い魔の召喚、そしてその使い魔との契約、二種の魔法を成功させたことで、十年以上にわたる失敗の積み重ねを少しずつでも取り返せるのではないかというもの。 その希望は、キュルケが退避しようともしなかった理由と全く同じもの。 諦めかけていたルイズの前に垂らされた、ブラムドという名の蜘蛛の糸は、紐よりも縄よりも、鋼鉄よりも強靱に見えた。 だがその蜘蛛の糸は、天上へつながってはいなかった。 ルイズに残されていたただ一つの希望は、高所から落とされた陶製の人形と同じ運命を辿る。 少なくとも、ルイズにはそう思えた。 強大な使い魔を従えながら、一切の魔法を使うことのできない主。 使い魔との契約を済ませ、使い魔へ畏怖と尊敬を覚え、使い魔に相応しい貴族たらんとしたルイズにとって、それは目標にはなり得ないものだ。 堰を切ったかのように止めどなく涙を流し、その身の全てで叫ぶ。 しかしその泣き声は、赤子のそれとは違う。 生まれ出でてすぐ、何もかもがわからぬままにただ助けを求める泣き声ではない。 生きる喜びを知り、生きる苦悩を知る、一個の人間の嘆きの声だ。 嘆きは言葉となり、言葉は単語となり、単語はさらに分解される。 「ぶっ、ぶら、むどっ!! ……わっ!! わった、わったしっ、きぞくっ……きっぞ、くになれ、ない!?」 ブラムド、私貴族になれない? ほんの一言が、幾多の音に変わる。 それは、まるで涙の雨音のようだった。 長いような、短いような。 計るもののないその時間は、やがて終わりを告げる。 喉をしゃくり上げるルイズの耳元で、ブラムドが話し始める。 「ルイズ、お前は魔法を使うことができる。絶対にだ」 ルイズは泣き止みつつも、まだ返事をすることができない。 ブラムドへ絶対の信頼を置くとはいえ、先刻の衝撃から立ち直るにはもう少しの時間が必要だろう。 「なぜお前の手に系統の魔法が乗らぬか、その理由を知らねばならん」 落ち着きを取り戻しつつあるルイズをいったん離し、ブラムドはその目元を流れる涙を舐める。 頬をくすぐるその感触に、ルイズは思わず笑みを浮かべる。 「それができるのは、我しかおるまい」 「どっ、ど、うやって……?」 いまだ少し、声を操りきれないルイズが問う。 「この学院で、一番系統の魔法を知るものはオスマンであろう?」 ブラムドの問いに、ルイズがうなずく。 「なればオスマンに話を聞くしかあるまい」 「じゃぁ、学院長の部屋へ案内するわ」 その言葉に、ブラムドは首を横に振る。 「ルイズ、この状況を作ったのはお前だ。シュヴルーズの言うように、片付けぐらいはせねばなるまい?」 言われて見回すルイズは、改めて惨状に気付かされる。 最前列の長机はいくつか倒れ、教卓は衝撃で傾き、爆発した石の欠片は四方に散らばっている。 「確かに、そうね」 「しかし、その細い腕ではできぬこともあろう。ルイズ、これが我の世界のゴーレムの一つだ」 ブラムドは手に持ったままだった石を見せ、それにマナを通していく。 『石の従者(ストーン・サーバント)』 手から落ちた石の欠片は、その身を膨らませていく。 ブラムドよりも頭一つ分ほど小さなルイズ、それよりもさらに頭一つ分ほど小さな人型となったゴーレムに、ブラムドはルイズの知らぬ言葉で命令を下す。 『(倒れた机を他と同じように直せ)』 おそらくルイズ一人では手に負えない長机を、ゴーレムは軽々と元に戻していく。 大きさに似合わぬ力強さを、どこかほうけたような表情で眺めるルイズに、ブラムドが先刻できなかった問いを口にする。 「ルイズ、お前はキュルケが嫌いか?」 ブラムドの口から不意に出た名前に、ルイズは不機嫌そうな顔を隠さない。 「嫌いよ」 「何ゆえだ?」 「あの女は、ずっと私を馬鹿にし続けてきたわ!! 魔法の使えないゼロだって!!」 先ほどと違い、悲しみではなく怒りにその顔をゆがめながら、ルイズは数ヶ月前までの出来事をブラムドへ伝えていく。 「私が落ち込んでいるときに限って、くだらない挑発をするのよ!? 私はあの女と違って、男といちゃついている時間なんかないのに!!」 ルイズの言葉に、ブラムドは笑みを浮かべながら得心する。 ……なるほど、素直ではないのだな。 「ルイズ。我の言葉を聞いて、今一度思い返してみよ。お前ならば、我の言いたいことがわかるであろう」 その言葉に不思議そうな表情を浮かべながらも、ルイズはブラムドの言葉を待つ。 「キュルケは他の連中と違い、机の下へ隠れはしなかった」 目を見開いて驚くルイズの頭をなぜ、ブラムドは扉へと向かう。 「では、食堂でな。お前がいなくては、我は飢え死にしてしまう」 その一言に、ルイズは頬を赤く染める。 それを見て微笑みながら、ブラムドは教室を出た。 外に出たブラムドは、扉の横に予想通りの人物がいることを見て取る。 少し頬を赤く染める燃えるような赤毛の少女と、友人の顔を伺いながらわずかに微笑んでいるような空色の髪の少女。 ブラムドは二人に深く頭を下げ、二人もまたその意味を正しく理解する。 ブラムドの投げかけた最後の言葉に頬を染めながらも、ルイズはその優秀な頭を働かせる。 ……キュルケは他の連中と違い、机の下へ隠れはしなかった。 それは実技を促したキュルケの言葉が、挑発ではなかった証だ。 だが、とルイズは思う。 今までずっと挑発を繰り返してきたのは何だったのか、と。 ゼロと呼ばれ、肩を落としていたときに限り、キュルケは話しかけてきた。 そう、キュルケが話しかけてきたのは落ち込んだときだけ。 思いかえしてみれば、キュルケに挑発された後は落ち込むことも忘れていた。 ブラムドの言葉を受けて尚、キュルケの行動の意味が理解できないほど、ルイズは鈍くない。 …………まさか!? ルイズはキュルケの行動の真意に気付いた瞬間、言葉にならないほどの衝撃を受ける。 キュルケはシエスタと同じく、自分を励ましてくれていたのだと。 途端に恥ずかしさに頬を染めるルイズだが、彼女を責めるものはいるはずもない。 あからさまな拒絶の言葉や態度を投げつけられていた、キュルケ当人も含めて。 ルイズとキュルケは、ある意味で似たもの同士だ。 どこか素直さに欠けるという面で。 だからこそキュルケは友になって励ますことではなく、敵となって挑発することを選んだ。 ルイズはいまだ、キュルケの性格にまでは思い至っていない。 しかし自身のしてきたことが、無礼きわまることと理解するには十分だ。 恥ずかしさにルイズが首元まで赤く染めたとき、教室の扉が開く。 入ってきたのはキュルケとタバサだったが、ルイズはキュルケしか目に入らなかった。 扉の横でブラムドとルイズのやりとりを盗み聞きしていたキュルケは、自分が今までしてきたことが遠回しな励ましであったと知られ、恥ずかしさに頬を赤く染めている。 ルイズもまた、キュルケの今までの態度が悪意を持ってのことではなかったと知り、顔を首元まで含めて赤く染めていた。 それでも素直さの足りない二人の少女は、互いの顔を見ながら口を開くことがない。 ルイズがキュルケの顔を見やれば、キュルケは恥ずかしさでうつむいている。 キュルケがルイズの顔を見やれば、ルイズもまた恥ずかしさでうつむいている。 一瞬、二人の視線が交錯すれば、二人は慌てて顔を背けてしまう。 素直になれない不器用な態度に、一人蚊帳の外にいるタバサは笑いをこらえるのに苦心していた。 ルイズは考える。 ……シエスタに言ったようにありがとうって言えばいい。 ……でも散々罵声を浴びせておいてそれでいいの? ……男がどうしたなんて言ったこともあったわ。 ……事実だとしても胸のことを言われたこともあったわね。 羞恥が焦燥を呼び、焦燥が混乱を生み出す。 キュルケもまた考える。 ……散々挑発しておいて、あなたのためだったのよなんて言えるわけがない。 ……私は気にしていないから、あなたも気にしないでなんて押しつけがましいにもほどがある。 ……男がどうしたなんて言われたこともあったわ。 ……事実だとしても胸のことを言ったこともあったわね。 結局、混乱に至る過程は大差がない。 収拾がつきそうにない二人を眺めながら、タバサは吹き出しそうになるのをこらえ、仕方なしに水を向けた。 「食事に間に合わなくなる」 その言葉に促され、先に口を開いたのはキュルケだ。 「ル、ルイズ!!」 さまよっていた二つの視線がかみ合う。 その視線の持ち主の顔は、どちらもはっきりとわかるほどに赤く染まっていた。 「仕方がないから手伝ってあげるわ!!」 キュルケはルイズに何か言われたわけではない。 何が仕方なしなのか、とタバサは思った。 だが、混乱したルイズは思い至らない。 「じゃ、じゃぁ掃除道具を持ってくるわ!!」 二人の少女のちぐはぐなやりとりは、普段表情を浮かべることの少ないタバサを、しっかりと微笑ませるに十分な威力を持っていた。 前ページ次ページゼロの氷竜