約 845,524 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/455.html
食事はきっちり全員分作られてある。ギアッチョが貴族の分を食べたため―― ルイズの分の食事はなくなってしまった。するとどうなるか?ルイズは使い魔の責任を取って、本来ギアッチョが食べるはずだった実に貧相な朝食を食べる 羽目になってしまったのだ。生まれて初めてのことである。 「それもこれも・・・全部あのクサレ眼鏡のせいよッ!!」 食堂に来たとき以上の怒りを撒き散らしながら、ルイズは教室に向かった。 さりげなく罵倒のランクも上がっている。 「ていうかあいつちゃんと掃除してるんでしょうね・・・もし教室にいなかったら飯抜きだわ!」 ブツブツ文句を垂れながら教室の戸を開く。 はたしてそこにギアッチョはいた。ぼんやりと宙を見つめて座っている。 「ちょっ・・・どこに座ってんのよあんた!降りなさい!」 「学生ならよォー 誰でも座るだろォ?怒ることじゃあねーだろ」 「座らないわよ!ここは平民の学校なんかとは違うんだからね!」 「やれやれ」ギアッチョはそう呟くと教卓から飛び降りた。 「文句ばっかじゃあ人はついてこねーぜお嬢様よォ~」 「ここまで酷い仕打ちにあって文句を言わない奴がどこにいんのよッ!!」 正論である。しかしギアッチョは動じない。 「リゾットの野郎は文句一つ言わなかったぜ 『お前はそういう奴だからな・・・』 とか何とか言ってよォオォ」 「あんたそれどう考えても諦められてるじゃない!」 等と無駄な問答がしばし続き― 「ハッ!肝心なことを忘れてたわ!あんたちゃんと掃除したんでしょうね!」 ようやく本題に気付いたルイズが辺りを見回すと・・・ 意外ッ!それは完璧ッ!! 「うッ・・・美しい程に磨かれているわッ!!あんた一体どんな魔法を使ったの!?」 「何も・・・別に元々掃除は嫌いじゃあねー」 ルイズはそこで理解する。こいつはキレさえしなければマトモな奴なのだと。 「・・・ん?」 キレさえしなければ。 「・・・ギアッチョあんた 念のために訊くけど・・・ 私の部屋も綺麗に片付いたんでしょうね?」 「・・・・・・」 ―ルイズは頭痛と共に確信する。 「・・・壊したのね」 「・・・まぁ そういう説もあるな・・・」 「・・・あーそう・・・」 ルイズはもはや怒る気力もなくなっていた。隣でギアッチョが「椅子の形が気に入らねェんだよ椅子の形がよォォォーーー」等と呟いているので恐らく壊れたのはそれだろう。 全くこいつを召喚してしまってからというもの本気でロクな事がない。「私は今世界で一番不幸な貴族だわ・・・」とルイズは一人ごちた。 始業の鐘が鳴り、教師が入ってくる。シュヴルーズと名乗ったその教師は、開口一番 「おやおや、面白い使い魔を召喚したものですね ミス・ヴァリエール」 とのたまった。本人に悪気はないのだろうが、ルイズにその言葉はかなり 堪えた。「こいつと一日一緒に過ごしてからもう一度言ってみなさいよ!」と言いたかったが、勿論教師にそんなことが言えるわけもない。 しかしそんなルイズの胸中も忖度せず、一人の生徒がルイズをからかい始める。 「ゼロのルイズ!召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れて 来るなよ!」 周りでドッと笑いが起きる。 「うるさいかぜっぴきのマリコルヌ!私はきちんと召喚したもの!こいつが 来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう?それと俺は風邪なんかひいてない!」 二人はギャーギャーと言い争いを始めた。罵り合いは次第にエスカレートし、やる気かと言わんばかりに二人がガタンと席を立ったところでシュヴルーズは 杖を振った。彼女の魔法によって糸が切れたように着席した二人を交互に見て、ミセス・シュヴルーズは仲裁にかかる。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」 マリコルヌはニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌは自分で言って大笑いする。が、そのバカ笑いは突然ピタリと止んだ。 「はガッ!?ぼ、僕の口にィィ こ 氷がァァァ!!」 マリコルヌの口は、いつの間にか氷でガッチリと覆われていた。 ルイズはハッとして床に座らせていた己の使い魔――ギアッチョを見る。 「氷を床から伝わせて奴の口を封じた・・・ ゼロだか何だかしらねーが 恩人がバカにされてんのを見んのはいい気分じゃあねーからよォォ~~」 「・・・ギアッチョ・・・あんた・・・」 この学院に来て以来、ルイズは誰かが自分をかばってくれたことなど一度もなかった。 昨日自分を助けてくれたキュルケだって、普段は数百年来の怨敵の間柄である。 ―むしろ彼女がどうして体を張ってまで自分を助けようとしてくれたのか、ルイズにはまずそれが分からなかったが―つまりギアッチョは、ルイズにとってここで初めての味方だったのだ。 ルイズは一瞬だが、今までギアッチョに受けた仕打ちなどすっかり忘れて、この男を召喚出来たことを始祖ブリミルに感謝した。 ミセス・シュヴルーズは授業を開始した。マリコルヌの口はしばらくふさがれていたが、息が苦しいのかウーウー唸るのが煩わしくなってきたのでそのうちギアッチョに解除された。 そのギアッチョは真面目に授業を聞いている。やっぱり 平常でさえあればマトモな男なのだろう。意外と勤勉なのかもしれない、とルイズは思った。 「そういえば何度か妙な雑学を披露してたわね・・・」 まぁ問題は披露の度にブチキレる事なのだが。そんなことを考えていると、「ミス・ヴァリエール!」 突然先生に名前を呼ばれた。 「は、はいっ!」 「使い魔が気になるのは分かりますが、そちらばかり見ていて授業を疎かにしてはいけませんよ」 「ち、ちがっ・・・」 「口ごたえをしない!ではあなたにこれをやってもらいましょう ここにある石を、望む金属に変えてごらんなさい」 「え?わ、私がですか?」 シュヴルーズがルイズを指名した途端、生徒達から一斉にブーイングが起こる。 「まってくださいミセス・シュヴルーズ!」「ルイズに魔法を使わせるなんて自殺行為 です!!」「・・・イカレているのか?この状況で・・・」等々、まるでルイズが魔法を使うと死人が出るかのような狼狽ぶりである。 ルイズは正直やりたくなかった。 彼女の魔法が成功したことなどサモン・サーヴァントを除けば殆ど皆無なのだ。 しかし――彼女はちらりとギアッチョを見る。 ――使い魔の前で主が逃げ腰になるわけにはいかないわ! ルイズは「覚悟」を決めた。クラスメイト達にとってはこの上なく迷惑な「覚悟」だったが。 「やります!」 と言うがはやいか、ルイズは教卓に向かって歩き出していた。石の前に立ち、 杖をかざし、呪文を唱え始める。ギアッチョは興味深げに見守っていたが、 それにしても周囲の声が尋常ではない。「その魔法を出させるなァーーー!!」 だの「う…うろたえるんじゃあないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ!」だの、 あまりにも怯えた声が聞えてくるものだから流石のギアッチョも何だか 分からないなりに用心の構えをとることにした。 ―私は出来る、やれば出来る子よ!そうよ、サモン・サーヴァントだって 成功したんだから! そしてルイズは呪文を発動させる! カッ!! 一瞬の光の後、 ドッグォオオオォオン!!! 運命は覆らなかった。石を中心に広がった爆風は石や机の破片を撒き散らし、逃げ遅れた生徒は殆ど例外なくその餌食になった。間近にいた ミセス・シュヴルーズは、ちょっとお見せできない顔で地面に倒れている。 とっとと机に潜り込んで難を逃れていたキュルケは、はたと思い当たってギアッチョの姿を探した。 ギアッチョは―座っていた場所を1mmも動いてはいなかった。少し驚いたような顔はしていたが・・・彼の体には一箇所たりとも傷はなかった。 そして更に奇妙なことに、ギアッチョの体から大体半径50cm程度の範囲に飛来したと思われる破片は、全て宙に浮いて止まっていた。 ――バカな・・・この一瞬で爆風と破片全てを「止めて」しまったというの!? 一人眼を見張るキュルケをよそに、ギアッチョは呼吸と共にスタンドを解除し、宙に浮いていた破片はそれと同時に一斉に地面に落下した。 ――なんて「パワー」なの・・・ この男 ギアッチョ・・・やはり危険だわ! キュルケは出来うる限りの範囲でこの男を警戒することを心に決めた。 「あーもうッ!全然終わらないじゃない!!」 ルイズは箒を片手に喚いていた。 「そりゃあそーだろォォォ 教室の半分をフッ飛ばしゃあよォォ」 2人は今掃除中である。ルイズは始終ぶつぶつと文句を言っているが、教師の不注意ということで十数人を医務室送りにした事を問われなかったのだから、むしろここは喜ぶべきなのである。 「ったく・・・どうしてこの私がこんなことを・・・」 「てめーがブッ壊したからだろ」 この学院では、選択も掃除も全てメイドが行っている。勿論ルイズの実家でもそうだったので、彼女に掃除の経験など全くなかった。 「あんたのおかげであんな惨めな場面を衆目に曝されるハメになるし、 その上あんたの代わりに使い魔のご飯は食べるハメになるし、おまけに魔法も失敗してこんな平民の仕事をやらされるハメになるし・・・全部あんたのせいよこのバカ使い魔!!」 「後半2つは関係ねーだろ」 「うるさい!ていうかあんたも手伝いなさいよッ!さっきからそこに座ったまんまで何にもしないじゃない!」 ルイズはギロリと半分壊れた教卓の上のギアッチョを睨む。 「ここを爆破したのは俺じゃあねーぜ」 「主の不始末は使い魔の不始末よッ!」 さっきの「覚悟」のことなど、少女はすっかり忘れ去っていた。 自分で言って恥ずかしくねーのかこいつは、と思ったギアッチョだったが、これ以上ギャーギャー騒がれると氷漬けにして窓からブン投げたくなるので仕方なく掃除を手伝うことにした。 「あんたはここからそっちまでお願い それと一つ言っておくけど、絶対にキレて物を壊したりしないでよ!」 「ここからそっちってほぼ4分の3じゃねーか、ええ?おい まあそれでもお前がそこを掃除し終えるよりは早く片付くだろーがよォォ」 こうして互いが互いをいつまでも罵り合いながら、教室の掃除は進んでいった。 午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。それとほぼ同時に、2人の掃除は終了した。 「はぁー・・・やっと終わったわ・・・ 掃除なんてもう二度とやらないんだからね!」 誰に向かって宣言しているのだろうか。 「やりたくねーならちゃんと魔法を勉強するこったな」 ビキッ! ギアッチョの何気ない一言は―ルイズの逆鱗に触れてしまった。 「・・・てるわよ・・・」 「ああ?」 「してるわよッ!!」 ルイズは幼い頃から魔法も使えないメイジとしてバカにされてきた。自分を見下している奴らを見返すために、彼女は常の他人の何倍も努力をしている のだった。それを、知らないとはいえ自分の使い魔にバカにされたのだ。 ルイズが怒るのももっともである。 「ええそうよ、私は一度も実技を成功させたことのない『ゼロ』のルイズよ!! だから何!?勉強なんて腐るほどしてきたわよ!!練習だって毎日毎日死ぬほどやってきたわ!!腕から血が出るまでし続けたこともあったわよ!! サモン・サーヴァントが成功した時私がどれほど喜んだか分かる!? それをッ・・・!!どうして何も知らないあんたに言われなくちゃならないのよッ!!」 激昂して喋るルイズの眼には涙が浮かんでいた。彼女はそれを乱暴にぬぐいとると、バン!!と激しく扉を開けて駆け出していった。 「・・・・・・チッ」 誰に向けてのものだったのか、ギアッチョは舌打ちをしながら走り去って行く彼女の後姿を眺めていた。 ギアッチョは食堂に来ていた。怒っていても根が真面目なルイズの事だ、今朝のような事態にさせないためにも食事には来るだろうと考えたのだ。 食堂を見回してみると、やはりルイズはそこにいた。まだ怒りが冷めていない のがここからでも分かる。キュルケなどがいつになく真剣に怒るルイズを いぶかしんで話しかけていたが、ルイズは「うるさい!」の一点張りで取り合おうとしない。 「チッ!」 先ほどよりも大きく舌打ちして、ギアッチョはルイズの元へ向かった。 「まだ怒ってんのかよ ルイズよォォ」 「・・・うるさい」 ルイズはギアッチョとまともに顔をあわせようともしない。 ―・・・やれやれ ギアッチョは心の中で嘆息すると、ルイズに向き直った。 「・・・さっきは悪かったぜ お前が勉強してるかも知らずによォォあんなこと言っちまうのは・・・『礼節』に欠ける行為だった 反省してるぜルイズ」 ルイズは耳を疑った。こいつがこんなに早く謝ってくるなんて夢にも思わなかったのだ。こいつは自分が思っているよりよほど礼儀の 分かる男だったらしい。ルイズは少しばつの悪そうな顔をしながらそこでようやくギアッチョに顔をあわせた。 「・・・わ、分かればいいのよ ・・・・・・どうして魔法が成功しないのか分からないけど 私はいつも死に物狂いで努力してるんだから―もう二度とさっきみたいなこと言わないで」 「・・・ああ 分かったぜルイズ」 それを聞いてルイズは少し表情を崩し、そしてそれを合図にしたかのように祈りの唱和が始まった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ 今朝もささやかな糧を我らに与えたもうたことを感謝いたします」 貴族達の祈りが終わると同時に、あちこちでフォークとナイフの音が鳴り始めた。 「ところでよォォ オレの椅子が見当たらねーんだが」 「使い魔は床よ」 やれやれ・・・ギアッチョはもう一つ嘆息すると、もう一つルイズに尋ねた。 「で・・・オレの飯はどれだ?」 ルイズはちょいちょいと下を指差す。そこには見るからに硬そうなパンが小さく二切れ、そして意識して見なければ見逃してしまいそうな ほど小さな肉のカケラが2つ3つ浮かんだスープが置いてあった。 「・・・なるほどな・・・ こいつが使い魔用のメニューってわけか」 「そういうことよ 使い魔が食堂の中で食事をすること自体が 特例なんだから 始祖と女王陛下に感謝を捧げてありがたくいただきなさい」 とのご主人様の優しいお言葉に、 ブッチィィィィ―――――z______ンッ!! 今度はギアッチョの怒りが爆発した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/459.html
「宇宙空間だと!?」 眼下に地球を見下ろし虚空の暗闇に浮かぶカーズ! ! このままでは地球へ戻れぬ だがカーズは究極生命体 そのIQ400の超頭脳で 打開策を導き出す その間 0.01秒! 「フンッ!体内から空気を噴出させて!その圧力抵抗で軌道を変え!地球へ戻ってやるわ!」 バリッ!背中から6本の管が現れ空気を噴射した!がみるみる顔が引きつり凍結していく! 絶対零度の宇宙空間ではあらゆるものが凍りつく この時点で致命的なチェクメイト!! 「ぎぃゃぁぁあああ!だ…だめか!こ…!凍るッ!く…空気が凍ってしまう!外に出ると凍ってしまうッ!き…軌道を変えられん、も…戻れんッ!」。 己が完全敗北したことをカーズは瞬時に悟る 確かに究極生命体となった自分は無敵 マグマも波紋も太陽光も自分を滅ぼすことは不可能 まさに完全! だが宇宙空間への 追放とは さすがの究極生命体でも予測外の事態 ! 対応不可能! まさか 己を産みだした母なる星の力により このような終焉をむかえるとはぁぁ! ! みるみると地球から遠ざかるカーズ さしもの究極生命体もはやなんの手も打てぬ状況 不死身の肉体も超頭脳も 全てが真空のここでは なんの意味も持たない おのれ下等な人間 ! 宿敵波紋の戦士達!! なぜ この究極生命体となったカーズが敗れるのか この超頭脳をもってしても理解不可能! ! さらに仲間二人の終焉・・・ふと それがカーズの脳裏を横切る 同じ志を持ち一万年以上 自分と共に生きた我が一族の末裔達の姿 彼らの犠牲の上に この究極生命体カーズは存在するのだ 内一人は自分の前で 波紋の戦士に破れ滅び散った なぜか満足そうな表情を浮かべて ・・それもわからぬ!理解不能 この究極生命体 天才カーズの頭脳分析ですら わからぬ!! カーズは2度と地球へは戻れなかった…。鉱物と生物の中間の生命体となり永遠に宇宙をさ迷うのだ。 そして死にたいと思っても死ねないので--そのうちカーズは、考えるのを やめた ・・・・そして 永劫と思える時がカーズに流れた 希望も絶望も感じない状態のままで・・ 可能性にかけてカーズは思考停止する このまま宇宙の終焉まで彼は 永遠に漂流するのか 否っ! 地球はカーズを追放した だが別の世界は必要としていたのだ! ! ・・・・いま希望の扉は開かれる! カーズの進行方向に突如 銀のがま口が出現 それは運命という名の 必然! ! ! first kiss から始まる ある少女と奇跡の命のstory! ! これは究極ゆえ 地球から追放されたが故に 異世界にはその存在を許されることになった ある生命体の物語だ! ! ゼロの究極生命体 re start 異世界 戦闘潮流
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/825.html
『老化執行中 脱出進行中』 「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」 その言葉と共にワルドの腕を掴む手に力が入る。 「うぉぉぉぉぉおお!我が風の偏在ィィィイイイ!最後の力を振り絞れェーーーーーーーーッ!!」 一瞬。老化する僅かだがほんの一瞬早く分身が放った風の魔法がワルドの腕を切り飛ばしたッ! ズキュン! 「チッ・・・!」 斬り飛ばされた腕のみ老化し、干からびたそれを投げ捨てもう一度直を仕掛けるべく掴もうとするが脚に力が入らなくなり膝を付く。 「くそ…だが…危なかった…腕一本犠牲にした価値はあったというものだ…!」 あれ程のダメージを受け印の効果で無理矢理体を動かしここまできたのだ。限界などとうに超えている。 「私の…腕一本の代償としては高くついたが…ここはウェールズを斃せただけでもよしとせねばなるまい…!」 残った右手で杖を握り中空に浮く。ワルドの方も一瞬だが老化させられた事と左腕を失った事で、もう分身は消えている。 「この城はじきに我が軍が落す…!そうなれば今の貴様達ではどうしようもあるまい…愚かな主人共々薄汚い傭兵にでも首を取られるがいい!」 逃げようとするワルドに対して広域老化を再び仕掛けようとするが、気を失ったのか突っ伏してブッ倒れているルイズが視界に入り (…殺すより生かす方が先かッ!) ここで広域老化からの直触りを行えば恐らく、いや確実に敵中突破するだけのパワーは残らない。そう思いワルドを見逃した。 デルフリンガーを杖にして立ち上がる。戦闘はほぼ不可能だが移動は辛うじて可能だった。 ルイズに近付き起こそうとするが、起きようとしない。 軽く、デルフリンガーの柄で頭を小突くが、それでも起きない。 水でもあればブッかけ叩き起こすところだが生憎ここにはそんな物は無い。 ブチ破った扉の外の方から足音や怒号、悲鳴などの叫びが流れ込んでくる。 ここで起こそうとして時間を食ってはマズイ。そう判断しグレイトフル・デッドの指が三本しか無い手で器用に抱えあげる 「兄貴ィ……船はもうとっくに出ちまったがどうするんだ…?」 「考え無しに残るかよ…隠し港にタバサを待たせてある」 「敵は五万だぜ?突破できるのか…?」 「勝ち戦が確定した敵ってのは無駄死にを避けるもんだ… 残ったスタンドパワーを全て最初に注ぎ込むッ!それで駄目なら…そんときゃあ最期の最期まで敵のノドに食らい…付くまでだ」 「やっぱり兄貴はスゲーや!そうだな、たかが5万。兄貴にとっちゃあ飯を食いに行くようなもんだな」 その言葉と共にルイズを抱えたグレイトフル・デッドの体から煙が流れ出す。 礼拝堂の外に出ようとするが倒れているウェールズに気が付いた。…老化はしていない。 氷で冷やしているものを除けばグレイトフル・デッドで老化しないものは『無機物』と『死んだ生命体』だけになる。 ゴールド・エクスペリエンスが終わってしまった生命を呼び戻す事ができないようにグレイトフル・デッドも終わってしまった生命を老化させる事などできやしない。 斃れているウェールズに近付きその指に嵌っている大粒のルビーを抜き取り言葉を紡ぎだす。 「その覚悟だけは…認めてやる…それに免じてオメーの言葉は伝えといてやるよ…」 そうして、自分がブチ破った扉に向き直りウェールズの死体に背を向けると 「アリーヴェデルチ」 ただそれだけを言い残し礼拝堂を後にした。 城の中に一人だけの足音が静かに鳴り響く。 城の外は未だ大砲の音や兵士達の叫びが聞こえるが、それに反して城の一角だけは静寂に包まれていた。 朽ち果てたメイジや兵士達の死体を踏み越えながらただ前に突き進む。 ―――死は誰にでも訪れる。例え貴族だろうと平民だろうと平等に。 王軍はウェールズの戦死も手伝い士気が下がり城の内部にまで突入され全滅が確定している。 ならばここで全員を巻き込もうが問題無い。この城に残った連中はその覚悟ができているはずだ。文句を言われる事などあろうはずもない。 隠し港へ向かうまでに呻き声をあげ辛うじて生きているヤツらも居たが、その生き残りの全てにトドメを刺す。 無論、王軍、貴族派の区別などしない。淡々と、そして平等に命を狩り獲る。 比率で言えば貴族派の人数が圧倒的に多かったし王軍の生き残りの貴族などほぼ皆無だったがそれでも数人は居た。 だが、それでもトドメを刺した。どの道広域老化が解除されれば包囲され殺されるか捕縛され処刑される運命だ。 なら早めに楽にしといてやるという気になっただけことだ。 周りの呻き声すら聞こえなくなった頃には城の内部に突入してくる部隊は皆無になっていた。 この戦いは貴族派の勝利が確定している。だからこそこんな訳の分からない…老化などで死にたくないという感情で支配されている。 主力部隊が傭兵で構成されているならその感情は加速度的に膨れ上がる。 傭兵はあくまで金で雇われた存在であり、雇い主に忠誠を誓う存在ではない。 金で雇われているからこそ傭兵は無謀な突撃などはしたりしない。命が無ければ報酬を受け取ることもできないからだ。 ぶっちゃけハッタリである。スタンドパワーなぞスデに尽きている。 グレイトフル・デッドそのものは発現させる事はできるが、老化を起こすだけのパワーは無い。 最後の力を使えばまだやれない事はないだろうが、それでは離脱するだけのパワーが無くなる。脱出経路が存在するのに特攻する気など毛頭無い。 全力で城の中で老化を引き起こし、敵の戦意を喪失させこれ以上の介入を防ぐ。 人これを良く言えば『策略』悪く言えば『ペテン』と言う。 その目論見は成功したようだが、あまり長くは持ちそうもない。隠し港へ続く道以外の生き残った敵はそろそろ老化から回復している頃だ。 その連中が外に出れば、今度こそ夥しい数の敵が雪崩れ込んでくる。 そうなる前に目的地にたどり着かねばならないが、負傷も手伝いギリギリと言ったところだろう。 だが、歩いている途中に再び膝を付く。 「血が少しばかり足りねぇな…」 急所は避けたとはいえ5体のワルドの攻撃を受け続け血を流しすぎている。 立ち上がり歩を進める。止血する道具など無い上に時間すら残されてはいない。 壁を支えに手を付き港に向かうが、その壁にも血の跡は残されていた。 鍾乳洞の港の穴の上でホバリングをしているシルフィードの上でタバサとキュルケがプロシュートの到着を待つ。 ヤバくなったら逃げろとは言われていたがギリギリまで待つつもりだった。 「さっきまで静かだったけど、そろそろ危なくなってきたわね…」 再突撃が行われ、遠くから兵の叫びや破壊音などが徐々に近付いてきているが肝心の者はまだ現れない。 しばらく時間が経ちこの港にも反乱軍が雪崩れ込んでくると思ったその時 ――来た 宙に浮き運ばれているルイズの後ろに血に塗れたプロシュートがゆっくりとだが歩いている。 タバサがシルフィードに命じ二人に近付く。 「その怪我はどうしたの!?」 「説明してる暇…はねーぞ…」 港の入り口の方から兵士達の声が聞こえ、敵がもうそこまで迫っている事を理解させた。 「ワルド子爵は?」 「あのヤロー…は敵だ」 「…よく分かんないけど逃げた方がいいって事ね」 「掴まって」 這い上がるようにシルフィードに乗り込むと穴の中へと降下を始める。 それと時を同じくして貴族派のメイジや兵士が港に雪崩れ込んできた。 「間一髪ってとこだったけど…その傷大丈夫なの?」 壁に打ち付けられ出来た傷は打撲などが殆どで出血自体は大した事は無いがワルドと分身にやられた傷はそうも言ってられなれない。 他の傷はシルフィードに積んできた包帯や薬などで止血もする事はできたが、大腿部に受けた一撃がヤバイ。 動脈の一部が傷付き血が止まらないでいる。下手すればトリステインに帰り着く頃には失血死だ。 キュルケとタバサの顔が青くなる。系統が水でない以上治癒の魔法は使えないし、使えたとしても秘薬など無い。 プロシュートが深く息を吐く。それを見て、まさか諦めたのではないかと思った二人がその両眼をで見るがそんな絶望したような目は見せていない。 「折れた剣…アレまだあるか?」 「……え?ええ、そりゃあの武器屋に突き付けてやろうと思ってたから持ってきてるけど…なにに使うの?」 「…火出してくれ」 キュルケが火球を作ったのを確認すると折れた剣を手に取りその中に刀身を突っ込む。 (メタリカがありゃあこんな事しなくても済むんだがな…) 適度に熱せられ刀身が赤熱するとそれを火球の中から引き抜き息を吸い再び深く息を吐き厚く巻いた布を咬むと…… 刀身を…その傷口にッ!『ブッ刺したッ!!』 ドジュゥゥゥ 「…ッ!~~~がッ!!」 一瞬血が流れ出るが赤熱した刀身に焼かれ瞬時に血は止まる。 焼いて傷口を塞ぐ。最も原始的だが最も確実に血を止める方法だ。 当然、その痛みは半端無い。傷口に刺された痛みとその傷口を焼かれる二重奏曲とも言える激痛が駆け抜ける。 1秒…!2秒…!3秒…!4秒…!5秒…! その行動に半ば放心したように見ている方もやっている方もその5秒がやけに長く感じられ4秒と5秒の1秒間の間に 『8秒経過!ンッン~~♪実に!スガスガしい気分だッ!歌でもひとつ歌いたいイイ気分だ~~ フフフフハハハハ。100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ!絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ… フッフッフッフッフッ、ジョースターの血のおかげだ。本当によくなじむッ!最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハーッ 9秒経過ッ!』 (長いんだよ…ボケがッ!) やけにテンションの高い幻聴が聞こえ心の中で突っ込みを入れ5秒経ち血が止まったのを見ると剣を引き抜き投げ捨てる。 少なくともこれで失血死の可能性は無くなった。 赤熱した剣を引き抜くまで意識を保っていたという精神力そのものが賞賛に値されるものだが さすがに、度重なる傷の痛みと極度の疲労により意識を落し未だ気絶しているルイズの方に倒れ込んだ。 ―――主に忘れられた中庭の池。 その池に浮かぶ小船の中にルイズが居た。 10年前ならワルドがこの場所から連れ出してくれただろうが、今は違う。 信頼を裏切り、ウェールズを殺し、自分すら殺されかけたことを思い出し泣いた。 泣いていると船が動き島の湖岸から船に手がかけられ引き寄せられる。 それに気付き手の先を見る。 プロシュートとなにやら得体の知れない化物がそこに立っていた。 その化物に抱きかかえられ船から地面に降ろされる。 「泣いてんのか?」 そう言われ、子供のように頷くと―――思いっきり殴られた 「この腑抜けがッ!なんだ!?あのザマは!?ええ!?」 さすがに踏まれこそしないが襟首をグィィッと掴まれ顔を引き寄せられる。 「いいかッ!オレが怒ってんのはなてめーの『心の弱さ』なんだルイズ! そりゃあ確かに『ワルド』にいきなり裏切られたんだ!衝撃を受けるのは当然だッ!自分まで殺されかけたんだからな。オレだってヤバイと思う だが!オレ達チームの他のヤツならッ!相手に裏切られたとしてもうろたえたりはしねぇッ!たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!! オメーはマンモーニなんだよ…ルイズ!ビビったんだ…甘ったれてんだ!分かるか?え?オレの言ってる事 『裏切り』のせいじゃあねぇ。心の奥のところでオメーにはビビリがあんだよ! 『成長しろ』ルイズ!成長しなけりゃあオメーは栄光を掴めねぇ!」 唐突に殴られ半ば放心しながらそれを聞いていたが、使い魔に殴られた事に怒ろうとした。 だが、怒ろうにも相手の方がそれを上回っており……目が覚めるまで説教が続き、さっき泣いていた事とは別の意味で『泣きたくなった』 軽い衝撃を受け目を覚ます。 薄く目を開けると空と自分の顔の横に使い魔の顔があった。 夢と違うのは体のあちこちから血を流している事だ。少し顔を動かすとキュルケとタバサが珍しく慌てた様にしてこっちを見ている。 風に紛れて鉄と何かか焦げたような臭いが流れ、血と何かが焼けた臭いだろうと思い、自分が助かった事を認識する。 体を動かそうとするが動かない。 当然だ。倒れたプロシュートの体が半分ぐらい自分に重なっている。 血の臭いとその重さにそれを退けようと思ったが、あの時自分の魔法を信頼し命を賭けてくれた事を思い出しそのままにしておこうと思った。 ワルドの分身に襲われる瞬間まで魔法を撃っていたが、そこからの記憶無い。 生きているという事はワルドに勝ったのだろうが…そのせいでプロシュートがこんな大怪我をしてしまったという事に少し悲しくなった。 「……この腑抜け野朗が…!」 そう呟くような声にハッっとする。思わずその顔を見るがその目を閉じたままだ。 「…オメーは…マン…ーニなんだよ…ッシ」 ……さっきまで夢の中で受けていた説教とほぼ同じような事を言っている事に『実は起きてるんじゃないか?』と思い動く方の手で顔をつねってみる。 起きていれば多分えらい事になっていただろうが、反応は無い。 その後も半ばうわ言のようにそれが続いているが、ただ違うのは相手が自分ではなく時折聞こえる『ペッシ』という人物であるという事だ。 それが誰なのか気にはなったが 『ブッ殺…と心の中で思っ…なら…その時スデに…動は終わって…るんだ』 という危険極まりない言葉に、帰ったらはしばみ草を食べさせてやろうかと思いになり流れる雲をぼんやりと見ながら再び目を閉じた。 「分かったよ!プロシュート兄ィ!兄貴の覚悟が!『言葉』でなく『心』で理解できた!」 そう叫ぶ弟分はもうマンモーニの目はしていない。 別世界にいる弟分に覚悟が伝わったかどうか分からないが、少なくともこの夢の中のペッシはマンモーニではない。 「やれ…やるんだペッシ…オレはお前をここから見守っているぜ…」 このペッシにすらそれが聞こえているか分からないが、それでも今は見守ろうと思った。 プロシュート兄貴 ― 左脚にひび 右大腿部に火傷 全身打撲 出血多量 [[←To be continued ゼロの兄貴-24]] ---- #center(){[[戻る< ゼロの兄貴-22]] [[目次 ゼロの兄貴]] [[>続く ゼロの兄貴-24]]} //第五部,プロシュート
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1035.html
第2章 後編 「ティッツァーノ…… ”ちょっと”ってどれくらいだろうか……」 ―――魔法学院の教室は、いわゆる階段教室ってヤツだ。 全て石造りあることが、魔法学院ぽさを演出している。 スクアーロとルイズが中に入っていくと、先にやってきていた生徒たちが一斉に振り向いた。 二人に対する反応は、大きく分けると二種類あった。 嘲笑と好奇である。 明らかに前者が多いのだが、極わずかではあるが興味をもった生徒がいた。 圧倒的多数がくすくすと笑い始める。 その中に、朝に出会った赤い髪の美人… キュルケもいた。 キュルケも笑ってはいたが、微笑みと表現した方がしっくりくる。 そう好意的に解釈していると、手を軽く挙げた。 こちらも笑顔で手を振り返す。 キュルケがさらに笑顔と、投げキッスを返してくれた。 ニョホホ♪ ! ルイズの背中に”鬼の貌”が!……見えた気がする。 鮫とキュルケのやり取りにキュルケの取り巻き達の笑顔が消える。 その光景を見て、少しは溜飲が下がったらしい。(取り巻き達の分だけ) キュルケへの対応は今は不問にされた。今は…。 「…さっきの”挨拶”については、また後でね?」 ……ヤバイってレベルじゃねぇぞ? これ…。 ルイズの席にたどり着くまでは気を抜けない。 二人をくすくす笑う男子生徒には、「パッショーネ謹製」の”ガン”を飛ばす。 こちらの様子を伺う女子生徒には、笑顔と”ammicco(アンミッコ)”をプレゼントして差し上げた。 ammicco(伊:ウィンク) ……なにやら顔を赤くしている男子生徒Aが… 気のせいだ。 うん。気のせいにしよう。 流石にやりすぎたのか、席に着く前に二度ほど怒られた。 良い感じで教室が混沌としてきたぞ! ルイズのため椅子を引く。相変わらず上品に座りなさる。 「…隣に座っても… いけませんよね?」 「わかってるじゃない?」 勝ち誇ったような顔で、”着席は許可しないィィィッ!”と言われた。 スタンド使いの口調になってるぞ? ……オレの影響(せい)か? しぶしぶ床へ直に座る。床というか通路だが、ここ以外は狭すぎる。 …なんかオレ、丸くなってきたよな……。 …異世界にいるせいか? 周りには本当に奇妙な生物… 悪魔や妖魔、バケモノたちが蠢いていた。 窓の外を見ると、教室のドアを通りそうにない使い魔たちがおとなしくお座りしている。 (意外とデカイのがいるな… 小動物サイズが基本だと思っていたが…) ドアから中年女性が入ってきた。 いかにも”魔法を使いますよー!”といった服装である。とてもオサレです。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ――」 シュヴルーズ先生ね… 覚えたぞ。 隣のルイズが俯いている。なんで? 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 教室中が笑いに包まれる。今までで一番大きい爆笑だ。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民連れてくるなよ!」 「そうだ! せめて、仙道でも使える紳士を連れくればよかろうなのだァァ!」 (嗚呼… そういうことか… なんか悪いな、ルイズ。 …仙道て何?) (でもちょいと、からかい過ぎじゃないか? おまえ等…) おにいさん、ブチギレちゃうぞ?と首を鳴らしていると、ルイズが立ち上がった。 「違うわ! きちんと召喚したもの!」 そうだ。しかも異世界からだぞ? スタンド使いだぞ!? スゴイぞー! カッコイイぞー! 「召喚したけど、こいつが来ちゃっただけ!」 ……結構な仰り様だな? 御主人様…。 その後、ルイズはマリコルヌとかいうヤツと罵り合う。ほんとに元気だな。 ルイズ「UREEYYY!」 マリコ「KWAHHHH!」 ……おい、どっちも人間辞めてないか? 不毛な口喧嘩は、シュヴルーズ先生の魔法によって終結した。 しかし、元はといえばこの先生の一言からじゃないか? ……この後、本来の目的”魔法のお勉強”に入っていった。 勉強は好きじゃない。 ……苦手なわけじゃねぇぞ? 「やればできる子ですから」 ティッツァーノ談 だが、ルイズにすれば、今日は”基礎の復習”みたいなもんらしい。 ……頑張って聞いてみる。情報は大切だからな。 魔法は五系統。いま使われてるのは四系統。 金属の加工とかはメイジがやってる。 というか、”科学”に当たる仕事は全てメイジの領分みたいだ。 目の前で『錬金』を見た。確かに魔法だ。 素直に感激した。これでメイジ様々ということが理解できた。 「…ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジ…」 「…私は『トライアングル』ですから…」 御主人様の肘をつんつんとつつく。 授業に集中していたルイズはビクッと体を振るわせる。 「…ッ! 何よ! ビックリするじゃない!(小声)」 「いやな、『スクウェア』とか『トライアングル』って何のことだ? レベルとかランクか?」 「…そうよ。『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクウェア』…」 足すことができる数が多いほど強いらしい。 なるほど。 ……”先生”で『トライアングル』か…。 「生徒のレベルってのは、学年ごとにほぼ一緒かい? ルイズは?」 急にルイズは黙ってしまった。 しまった! これは禁句だったか! 「いや、言いたくなければいいんだ。ルイズ…」 「ミス・ヴァリエール! 授業に集中なさい! 使い魔とのお喋りはいつでもできますよ!」 「は、はい! すいませんでした…」 またオレのせいで怒られた。 本当にすまん…。 「それではミス・ヴァリエール。 あなたに名誉挽回のチャンスを与えましょう」 ミス・シュブルーズは机の上にある石ころを指しながら続ける。 「ここの石ころを『錬金』してみてください」 一気に教室が静寂に包まれる。使い魔まで静かになった気がする まるで”止まった時の世界”に入門したみたいだ! ……入門したこと無いけどな。 「やめた方が良いかと。 その方がみんな、幸せになれます」 キュルケが時を動かすと、皆一斉に喋りだす。 「やめろッ! 人間の寿命はどうせ短い 死に急ぐ必要もなかろうッ!」 「こいつは グレートにまいったぜェ…」 「お…恐ろしいッ おれは恐ろしい!」 「安っぽい感情で動いてるんじゃあないッ!」 ……生徒たちの本音はどうやら逆効果のようであった。 すっと立ち上がるルイズ。 「やります」 当然オレはこの少女が周りからの暴言・侮辱を受けた事で、 パニックと敗北と反逆の表情をするだろうと思った。 しかし… 彼女はそのどの表情もしなかった…。 少女は微笑んでいたのだ……。 ただ 平然ともの静かに微笑んでオレを一瞥してから前を見ていた……。 その表情には「光り輝くさわやかさ」さえあるようにオレには感じられた……。 …逆に考えるのよルイズ。 『ヤッちゃってもいいのさ』って考えるのよ。 …今までは失敗しないよう、縮こまっていたわ。 でも、今日は違う! 思い切りイクわッ! だって昨日確かに『サモン・サーヴァント』は成功したもの! すでにッ! ”魔法”は成功しているッ! この事実は誰も否定できないッ! ……思いっきりされてるけどね……。 …きっと今日もできる。 一度じゃ無理かもしれない。 昨日も何度も失敗したわ。 それは認める。 でも成功したもの! 私はやれるッ! もうゼロのルイズなんて誰にも言わせない! 見てなさい! すんごいの錬金してみせる! あの使い魔にも御主人様の凄さを見せ付けてやるわッ! 偉大な御主人様のッ! 華麗なる魔法をッ! る オ オ オ オ オ !! ―――ルイズが教壇に向かうと同時に生徒たちが隠れだした。 「……何してんだ? おい、何で隠れる?」 男子生徒B「…君も早く隠れたほうが良いよ」 「?」 いまいち状況を把握できないでいるとルイズがすでにルーンを唱えていた。 「使い魔のだんな! 窓から離れろーッ!」 先ほど頬を赤く染めていた男子生徒Aが叫ぶ。 教壇で一つ奇跡が起こった。小宇宙大爆発(ビックバン)である。 …そう表現しなければミス・シュヴルーズに申し訳が立たない……。 男子生徒Aのおかげで、爆風の通り道から逃げ、直撃だけは避ける事ができた。 「…スゲーな。 まさか…ルイズがここまでやるとは」 多少の傷はあるが、直撃を受けるより完全にマシだ。 教室に戻るとそこは阿鼻叫喚・地獄絵図だった。 爆発の中心にいたミス・シュヴルーズは……。 ………。 …………。 ………あ、動いてる。 生徒たちはほとんど無傷であったが、それぞれの使い魔が暴れだして手に負えない。 …これを映画化したらハリウッドで大ヒット間違いなし! そんな迫力がある。 あ、小太り(マルコ?マリコ?ま、どうでもいいか…)が大蛇に…。 腹壊すなよ大蛇君……。 グランド・ゼロ(爆心地)にいるゼロのルイズの様子を急いで見に行く。 なんという幸運! 爆発・爆風の被害が一番軽いとこにいた。 服はぼろぼろ、全身は煤で汚れていたが、奇跡的に無傷だ。 近寄り、抱き寄せる。 流石に拒絶はしなかった。 「大丈夫か!? ケガは? 頭打ってないか?」 「だ、大丈夫」 「そうか! 良かった…」 「…良くないわ」 「! やっぱりイテーとこあんのか!?」 「ちょ…」 「ちょ?」 「”ちょっと”失敗しちゃった☆」 「「「「おいッ! ”ちょっと”じゃ無いだろッ! ゼロのルイズッ!」」」」 ルイズとスクアーロ以外の全員が、声を揃えて非難を浴びせる。 ……その通りだ。 今回ばかりは……。 「何が起こったんだァーーーッ!」 「爆発だァーーーッ 近づくなーッ 近づくなーッ」 「危険だーッ なんで教室が爆発するんだァァーー」 他の教室から先生や生徒が騒ぎを嗅ぎ付けてやってくる。 こりゃあ、もう授業どころじゃないな……。 ……オレの御主人様は、”ちょっと”魔法が苦手らしい。 ”ちょっと”(本人談)だけ……。 「『言葉』は自由でもあり、不自由でもある」ってティッツァが言ってたっけ……。 トーキングヘッドの重要性に、今日もまた、気付けたぜ……。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 後編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1383.html
「ああ…ッ!!」 少年、ド・ロレーヌは震えていた。 悪魔と噂される、ゼロのルイズの使い魔を退治しよう! 夕食時、誰とも無くそんな話をし始め、その意見に自分を含め7人の生徒が賛同した。 噂とはいえ、悪魔等と呼ばれる存在が、この学院に居る事が許せない者、ギーシュの仇を とらねば貴族の沽券に関わると憤る者、中にはキュルケがたぶらかされたと勘違いする、 彼女の数多い恋人の一人まで居た。 その結果、2年、3年の生徒で全員ライン以上、トライアングルも二人いるという、 彼らの頭の中では、これ以上ないという面子となった。 勝利を確信し、ゼロのルイズの使い魔をヴェストリ広場に呼び出したのだが… まず最年長で、リーダー格だったぺリッソンが、何も出来ずに変身した使い魔の一撃で 吹っ飛ばされた。次の瞬間、ぺリッソンの傍にいた2人の生徒の杖が断ち切られる。 「俺なら空から攻めるね!」そう自信満々に言って、友人に抱えてもらい7、8メイル の高さに浮いていた3年生が、その場所まで飛び上がった使い魔に杖を破壊された。 吹き飛ばされたぺリッソンが、なんとか起き上がり着地の瞬間を狙えと叫んだ事により、 呆然としていたド・ロレーヌともう一人の生徒が、慌てて呪文を唱え、使い魔に向けて エア・カッターとウィンディ・アイシクルを放つ。そしてその呪文は見事に命中した。 しかしそれだけだった。 「こ、来ないでくれぇ……」 腰が抜け、尻餅をついた格好のド・ロレーヌが氷柱が突き刺さったまま、平気でこちらに 歩みよってくる使い魔に、震える杖を向ける。もう一人の、ウィンディ・アイシクルを 放った生徒と、空を飛んでいた生徒達は既に逃げている。 ルイズの使い魔が、杖をその手につかみ、ドロドロに溶かして行く様を見ながら、 彼は失神し、失禁した。 「以上が昨夜の事件の顛末ですが…どうします?」 「どうしますと言うわれてもの。規定通り罰を与えればいいじゃろう」 ミス・ロングビルからの報告を受け取りったオスマン氏が、めんどくさそうに 指示を出す。 「その…生徒の一人が随分とショックを受けたようで、今も医務室で…」 「あ、悪魔が!蒼い悪魔が僕を殺しに!」 「大丈夫、大丈夫ですから落ち着いてください!」 「あの、すいません…ロレーヌという人はここに」 「GYAAAAAAAAAAAAAA!!!」 「とまあ、イクロー君がお見舞いに行った後さらに…」 「そ、そうか…まあ、あんまり酷いようなら実家に送り返しなさい」 「はい…あの、イクロー君は悪気があったわけじゃ…」 「まぁ、そうなんじゃろうがのう…… おお、そういえば彼との授業はどうなっておるかな?進んどるかね?」 なんだか気まずい雰囲気になったので、オスマン氏が話題を変える。 「ええ、使い魔の特性なのか、覚えが早くて」 「そうでなくて…もう、わかっとるくせに」 このこの!っと、肘でつつくジェスチャーをするオスマン氏。 「気を引くためにいろいろやっとるんじゃろう?彼の反応はどうかね?」 頬を赤らめるミス・ロングビル。 「私はイクロー君とそんな…」 「そう言いながら、少し上着をはだけるぐらいやっとるじゃろう? 『最近温かくなってきましたわね、暑いぐらい』とかなんとか言って!」 その言葉にミス・ロングビルの眉がピクリと動いた。 「…そうですわね、下着が見えるかも?というような感じで足を少し開いてみたり」 「な、ウソじゃろ!?ワシはそんな素敵な瞬間拝んでおらんぞ!?」 「ええ、嘘ですわ。ですがマヌケは見つかったみたいですわね」 部屋が静寂に包まれる。 「………シブイのぅ、君はまったくシブイの」 「やはりあの時見かけたネズミはモートソグニルだったんですね?」 にっこり笑って机の上の文鎮を持ち上げるミス・ロングビルに、オスマン氏が 震える声で告げる。 「ど、道具を使うのはかんべんしてくれんか?」 しばらく考えた後、ミス・ロングビルは文鎮を机の上に戻し、オスマン氏を パワーボムで机にたたきつけた。 「あら、タバサじゃない。風邪ひいたって言ってたけど、もう治ったのね」 自分の部屋に戻ろうと歩いてたキュルケが、廊下を走るタバサを見つける。 先日部屋を尋ねたところ、風邪をひいたから少しの間休むと言われたキュルケは 気にはなったものの、うつるといけないと言われたので、気を使わせるのも悪いと思い、 毎朝様子を見に行くぐらいだったのであるが。 「それにしても、あの子が廊下を走るなんて珍しいわね」 そう考えていると、タバサが角を曲がり姿が見えなくなる。 少し考えた後、キュルケは後を追ってみる事にした。 「う、ウソ…!」 そこで彼女が信じられない光景を見た。 なんとタバサが、育郎に手紙を渡していたのだ、しかも渡した後、タバサは 逃げるように立ち去っている。 ラ ブ レ タ ー ! その様子から、キュルケはその手紙がそれ以外にあり得ないと確信した。 「そんな…確かに恋をするように進めた事はあるけど…彼なんて…」 「タバサ、こっちにおいで…」 育郎の言葉に従い、ベッドの横にちょこんと座るタバサ。 「本当に良いんだね?」 「………」 頬を染め、小さく頷き育郎を見つめる。その瞳には、普段の彼女からは決して うかがうことの出来ない熱が、かすかだが存在した。 「じゃあ…」 育郎がタバサの服を脱がしていく。 「目を閉じて…」 生まれたままの姿になったタバサは、その言葉に素直に従い目をつぶる。 「タバサ…僕の全てを受け入れて欲しい…」 何処からとも無く現れた無数の触手がタバサの柔肌に… 「おお…なんて事なの…あの子の小さな身体じゃ…」 ヨヨヨとその場に泣き崩れるキュルケ。 「全部受け入れたら………きっと壊れてしまう!」 今日も彼女は絶好調であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/938.html
サブ・ゼロの使い魔 第二章 傅く者と裏切る者 ――また、あの夢だった。古びた部屋にいる、誰かになった自分の夢。 だが、今回はいつもと違った。ルイズがその夢を知覚したと同時に、全ての霧はざあっという音と共に消え去り――そしてその瞬間、ルイズは部屋にいる男達のことをまるで遥か昔から知っているように理解していた。 後ろのソファに座って仲良く話している二人・・・ソルベとジェラート。 椅子に座ってテーブルの上の変な物体を叩いている男・・・メローネ。 椅子の背に手を置いて彼の肩越しにそれを覗き込んでいるのは、イルーゾォ。 立ったまま壁に背を預けて本を読んでいるリゾットは、たまにこちらを見てはやれやれといった顔をしている。 そして先ほどから二人して自分に怒鳴り続けているのはホルマジオとプロシュート。 二人がかりの説教を喰らっている自分は・・・そう、ギアッチョだった。 「ギアッチョッ!何度言ったら分かるんだてめーッ!!」 プロシュートが上半身を乗り出して怒鳴っている。 「しょーがねーなぁぁぁ これで何冊目だっつーんだよギアッチョさんよォォ」 右手に持った本だったものの残骸をバンバンと叩きながらホルマジオもプロシュートに加勢するが、当のギアッチョはどこ吹く風で受け流す。 ・・・というか全く聞いていない。 「何で3ページで打ち切りになるんだよォォォ~~~ッ!! ナメてんのかオレをッ!!クソッ!クソッ!!まそっぷって何だ!バカにしやがって!!」 イルーゾォが呆れた顔でプロシュート達を見る。 「だから言ったじゃあないか・・・ギアッチョにだけは物を貸すなってよォー」 「そのくらい諦めるんだな オレなんてパソコンを破壊されてるんだぜ」 同じく顔を上げたメローネはそう言って首を振った。ソルベとジェラートはそんな彼らをニヤニヤ笑いながら眺めている。 「外野は黙ってろッ!今日という今日は許さねぇぜギアッチョ!」 「仲間に対する敬意ってもんが足りねーんじゃあねーか?オイ」 プロシュート達の怒りは全く収まらないようだった。 「やれやれ・・・ お前達・・・その辺にしておけ そんなことをいくら言おうがギアッチョには通じないことぐらい知っているだろう」 パタンと本を閉じて、リゾットがリーダーらしく彼らを制止する。 プロシュートとホルマジオは「甘いぜリゾット」という視線を彼に向けるが、リゾットが続けて「ギアッチョ、お前は弁償しておけ」と言ったのを聞いてとりあえずその場は収めることにした。ギアッチョはその言葉に不満げな表情で財布を出し―― ――場面が飛んだ。 ギアッチョの前には古びた扉がある。決まったリズムでそれを叩くと、少ししてから軋んだ音を立てて扉が開いた。 「仕事は終わったぜ、リゾット」 扉を開けたリゾットにそう報告して、ギアッチョは中に入る。 彼に続いてメローネが入ってきたのを確認して、リゾットは彼らにねぎらいの言葉をかけた。 「・・・ま、今回もくだらねー仕事だったがよォォ どうせやるならもう少し面白みのあるやつを回してもらいてぇもんだ」 とギアッチョが言えば、 「簡単なのに越したことはないさ・・・ こんなはした金で命を捨てたくはないからな」 タッグを組んでいたメローネがそう答える。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすとどっかりと椅子に腰を落とした。 と、ウヒャヒャヒャヒャという聞き慣れた笑い声が場に響き、ギアッチョ達は声を発した男に目を向ける。 ホルマジオはイルーゾォと机を挟んで向かい合っていた。 二人の横にはプロシュートが陣取り、奥のソファには相変わらずソルベとジェラートが座っている。 そして彼ら全員の視線が集まっているのは、テーブルの上にあるチェス盤だった。 ホルマジオは盤からイルーゾォに視線を移して言い放つ。 「チェックメイトだ オレの勝ちだぜイルーゾォ!」 「バ・・・バカな・・・ただのポーンなんかにィィィ!」 イルーゾォが信じられないという顔で叫ぶ。 「クハハハハハハッ!分かってねェーなァァ チェスって奴をよォォー! 駒の強さなんてもんは所詮ここの使い方一つだぜェェ~」 ホルマジオは人差し指で自分の頭をトントンと叩きながら言った。 「クッ・・・クソッ!再戦だ!もう一度やらせろ!」 「ダメだね ほら!とっとと賭け金をよこしなよイルーゾォよォ~!」 イルーゾォの願いをホルマジオはあっさり跳ね除けた。イルーゾォはしばらくの間「再戦の拒否は許可しないィィィー!」等と叫んでいたが、結局彼のスタンド、リトル・フィートにガッシリ押さえ込まれて財布から二割増しで金を抜き取られていた。 「やれやれ どきなイルーゾォ オレが仇をとってやるよ・・・なぁに、ボードゲームは得意なんだぜ」 メローネが自信たっぷりに椅子に座り、 速攻で敗北した。 部屋の隅で頭を抱えているメローネを尻目にギアッチョが挑み、敗北。プロシュートが挑み、敗北。ソルベが挑みジェラートが挑み・・・ 敗北。敗北。敗北。 「てめーイカサマやってんじゃねーだろーなァァーー!!」 「何逆ギレしてんだオイ!しょぉぉがねーなァァアァ!」 度重なる敗北についにギアッチョがブチ切れた。 その瞬間、今がチャンスとばかりにプロシュートがホルマジオを蹴っ飛ばし、そのスキにソルベとジェラートが彼に飛び掛り、イルーゾォが一瞬でその財布を奪い取り、メローネが皆の取り分を計算して分配した。 「ちょっ・・・何やってんだてめーらァァァ!!」 「うるせェェェ!勝負になるかボケッ!!」 七人はギャーギャーと騒ぎ続け、リゾットはそれをいつものことだというような眼で見つめていた。 そしてもう一人、ギアッチョの眼を通してルイズもまた彼らを見つめている。 喧嘩ばかりしているが、ルイズの眼には彼らはとても楽しそうに見えた。 常に四面楚歌で命のやり取りをしているからこそ、きっと彼らは死よりも強い絆で結ばれているのだろう。 バカ騒ぎを続ける彼らを、ルイズの心は羨ましそうに見つめていた。 そうしてルイズの夢はいくつもの場面を映し出す。しかしその内容は、徐々に不穏の色を帯びて来た。 場面が過ぎる度に、自分達の理不尽な待遇に、彼らのボスに対する不満は高まって行くのだった。 そして幾度目かの場面転換の後――ついにそれは起こった。 ドンドンドンドンドンドンッ!!! アジトの扉が猛烈に叩かれる。中で待機をしていたギアッチョとメローネ、そしてリゾットとプロシュートは一斉にスタンドを発現させた。 「おいッ!!開けろ・・・!!大変なんだよ!!ジェラートが殺されたッ!!」 「リゾットッ!!オレだ、ホルマジオだッ!!早くここを開けろォォォ!!」 決められたノックをしないことにリゾット達は不審を抱いていたが、その声はどう聞いてもイルーゾォとホルマジオだ。そして彼らが口にした言葉は、彼らにとってこれ以上なく衝撃的なものだった。 プロシュートのザ・グレイトフル・デッドを使って扉を開ける。最初に転がり込んできたイルーゾォの襟首を、ギアッチョが強引に掴んで引き上げた。 「てめーイルーゾォ!!タチの悪い冗談はやめろッ!!」 ギアッチョが人を殺しかねない剣幕で怒鳴る。しかしイルーゾォは苦渋に満ちた顔で答えた。 「嘘じゃない・・・!!『罰』と書かれた紙を身体に貼り付けて・・・ッ!!」 サイレントの魔法がかかったかのように、その場は静まり返った。 ――・・・そんな・・・嘘・・・ ルイズは崩れ落ちそうになった。勿論、今はリプレイされるギアッチョの幻に宿るただの意識である彼女には不可能なことであったが。 ギアッチョの仲間は、リーダーを除き全てが死んだ・・・それは理解しているはずだった。 しかしギアッチョを通して幾つもの場面を共有した今、ルイズに彼らの死を無関心に眺めることなど出来るはずがない。 だがそんな彼女の気持ちなど一顧だにせず、場面は無情に進んで行く。 ジェラートは自宅のソファで、恐怖に顔を引き攣らせて絶命していた。 「ジェラート・・・おいジェラートッ!!」 プロシュートがジェラートを揺さぶる。リゾットは彼の肩を掴んでそれを止めた。 「やめろ・・・プロシュート ・・・ジェラートはもう死んでいる」 「クソッたれがッ!!」 プロシュートは怒りを吐き捨てて立ち上がった。逆にメローネは、その場にがっくりと膝を落とす。 「・・・ボスだ・・・ボスの正体を探ったことがバレて・・・・・・」 ギアッチョは唇を噛んで怒りを耐えていた。ギリギリと音がするほど噛まれた唇からは、彼らの心を代弁するかのように血が流れている。 「・・・ホルマジオ イルーゾォ ソルベはどこだ?」 リゾットが二人に向き直るが、彼らは俯いたまま黙って首を横に振った。 「クソッ・・・!お前達・・・ソルベを探せ!!」 リゾットは焦燥感も露に叫んだ。 そして場面はまた一つ飛ぶ。 ギアッチョ達はアジトに集合していた。彼らの足元の床には、七十サント四方程の箱が数えて三十六個転がっている。 その箱にはガラスのケースに額縁を嵌めたようなものが入っていて、その中に何か気持ちの悪いものが、 ――・・・そんな 彼らは最後の一つまで開封して、やっとそれが何かに気付いた。 ――やめて ・・・いや、解ってはいたが・・・気付かない振りをしていた。彼らが送られてきた順にそれらを並べてみると、 ――お願いだからもうやめて・・・! 三十六個に斬り分けられた、輪切りのソルベが、 ――あぁあぁああああああぁああああッ!!! ルイズはいっそ気絶してしまえたらどんなに楽だろうかと思った。 しかし今はただギアッチョを通して彼の過去を見ている「意識」だけの状態であるルイズには、気絶どころか顔を覆うことも背けることも出来ず・・・彼らの為にただ涙を流すことすら出来なかった。 しかし、眼前の場面は冷徹なまでに滞りなく流れ続ける。自分達を嘲笑うかのように警告の道具としてソルベを惨殺したボスに、誰もが怒りを必死に押し殺す中―― バギャアッ!!! ギアッチョの我慢は限界を超えた。 「あの野郎ォオオォオォォオオーーーーーーーーーーーッ!!!!」 テーブルを叩き割り、ギアッチョは天地が割れんばかりの声で叫んだ。 「殺すッ!!!オレが殺してやるッ!!!」 額縁を梱包していた箱を踏み破りながら、ギアッチョは悪鬼の如き凶相で扉へと向かう。 プロシュートが「早まるんじゃあねぇ!」と手を伸ばすが、ギアッチョは彼に眼も向けずにその手を払いのけた。 しかし、その先でギアッチョの足がピタリと止まる。扉の前に、リゾットが立ちふさがっていた。 「どけよ・・・リゾット!!」 怒りに沸き立つギアッチョの双眸がリゾットを射抜く。しかしリゾットは充血した両眼でギアッチョの視線を真っ向から受け止めた。 「リーダーとして・・・ギアッチョ、お前を行かせるわけにはいかない」 「何故だッ!!」 ギアッチョは激昂して叫ぶ。 「ええ!?オレ達は一体何年屈辱に耐えてきた!?命を賭けて組織の敵を排除し続けてよォォーー・・・オレ達は文字通りパッショーネに命を捧げてきたッ!!いつか忠誠が報われる日が来ると信じてなァァ!! それが何なんだこのザマはッ!!オレ達の誇りだけじゃあ飽き足らず、ボスの野郎はソルベとジェラートを無惨に殺し・・・そしてその死まで侮辱したッ!!ここまでされてよォォォー!!一体いつまで耐え続けろっつーんだッ!!」 ギアッチョは怒りに任せてまくし立てた。 「落ち着けギアッチョ・・・! オレは・・・いや、オレ達の誰一人としてこの状況を受け入れている者はいない・・・ だが耐えるんだ!」 リゾットはそう言うと、ギアッチョが何かを言う前に続ける。 「ボスの正体を探ろうとしたんだ・・・オレ達が関わっていようがいまいが、ボスは既に・・・間違いなくオレ達を監視下に置いているはずだ そんな状態で一体何が出来る・・・?刺し違えるどころか、ボスに辿り着くことすら出来ないだろう」 ギアッチョはぐっと言葉を詰まらせる。 「今は伏して耐えるんだ・・・ ボスを倒す『チャンス』が来るまで!」 リゾットの眼は『覚悟』している者の眼だった。ギアッチョは壁を一発猛烈な音を立てて殴りつけると、その拳を震わせながら収めた。 ルイズは今度こそギアッチョの気持ちを理解した。彼女の耳には、食堂でギアッチョが叫んだ言葉が木霊していた。 『オレ達の命は安かねェんだッ!!!』 これだけの言葉に、一体どれほどの無念が込められていたのだろう。 ルイズにはもう結末が分かっている。リゾットの部下は、全員が死亡する。 ならば例え彼がボスに打ち勝ったとしても、一体その勝利にはどれほどの意味があるのだろうか? 仲間を失くし、ボスを殺して生きる目的までも失ってしまったならば、リゾットはもはや一人で生きていけるのだろうか。 そして、殆ど全ての仲間を失って唯一人生きながらえてしまったギアッチョは? 己が立っていた足場を失い、拠り所にしていた支えも失い――彼は一体何を思って生きているのだろうか。彼は自分を命の恩人だと言う。だけどそれは本心からのものなのだろうか?自分はギアッチョに、ただ終わることすら許されない痛みを与え続けているだけなのではないか―― ルイズには何も解らない。ただひたすら辛く、そして悲しかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/866.html
そういえば教室の場所を聞くのを忘れていた。 どうやって教室を探すか。むやみに散策しても見つからないだろうし、遅れたらルイズが何を言い出すか。 しかしそんな悩みは、校舎にはいるなりあっさりと解決した。 廊下には人、人、人。軽く40人ぐらいはいる。どうやら何かあって、ここまで難を逃れてきたらしい。 時折聞こえてくる会話内容から、教室で爆発があり、ここまで逃れてきたこと。そして今、ルイズと、その使い魔が罰掃除をしているということを、僕は知った。 使い魔というのは才人の事だろう。罰掃除と言うからには、ルイズがこの騒ぎに何らかの原因を担っているのは間違いない。僕はそのとばっちりを受けたと言うことだ。 生徒達の様子から、まだ爆発して、それほど時間は経っていないらしい。教室も解ったことだし、急ぐ必要もないだろう。 僕はゆっくり歩いていくことにした。 いざ教室についてみると、中は凄い惨状を呈していた。 教室は一般的な大学の講義室のような造りをしているのだろうが、教室全体が煤汚れており、石っころが机や、壁にまでめり込んでいる。 教壇の辺りでは、才人とルイズが雑巾とちりとりを片手に、石っころを取り除きながら、煤汚れを拭き取っていた。 よく見るとルイズは机しか拭いていない。床などは全部才人がやる羽目になっているらしい。 と、机を拭いていたルイズが顔を上げる。僕が入ってきたことに気がついたようだ。 「遅いわよ、下僕! ほら、早く煤落とすの手伝って!」 どうしてこう、わざわざ勘に障る言い方をするのか。 僕は抗議もかねて、ルイズが渡そうとしている雑巾を無視し、教室中央にあったバケツから、新しい雑巾を一つふんだくり、才人の方へと向かった。 ルイズがなにやら言いたそうに、眉間にシワを寄せてこちらを見る。大方そこを全部任して、自分は休憩するつもりだったのだろう。そうはいかない。 僕が才人と一緒に床を拭き始めると、ルイズは諦めたように、机磨きを再開した。罰掃除という名目上、無理には押しつけられない様だ。 「しかし、何でこんな事になったんです?」 僕は才人に、ルイズには聞こえないよう小声で、どうしてこんな事になったのかを訪ねた。 不満げに床を拭いていた才人は手を止め、口元をにやりと歪ませ、喜々として語り出した。 「ルイズの二つ名……ゼロのルイズって言うんだけど、何でだと思う?」 何故だろう。胸がゼロだからか? 確かに干しぶどうみたいな申し訳程度の胸だが。 いや、胸から離れろ。 「魔法成功確率ゼロだからだとさ。何をやっても爆発するんだと。これも『錬金』とやらの失敗でなったんだぜ?」 才人の声がだんだんと大きくなっていく。色々溜まっているのだろう。しかし、ルイズに聞かれたらどうするつもりだ。 「錬金! あ、ボカーン! 錬金! あ、ボカーン! 失敗です! ゼロだけに失敗であります!」 既に声はかなり大きくなっていた。間違いなく、ルイズに聞こえているであろう。 どうして虎の尾を踏むようなまねをするのか。ルイズの方を見ると、机に突っ伏してプルプルと震えている。 手遅れかも知れないが、僕は才人に釘を刺す。 「才人、せめてもう少し小さな声で……」 しかし弱点を見つけて浮かれている才人は、声が大きくなっている事にも気がつかず、続ける。 「ルイルイルイズはダメルイズ~ 魔法が出来ない魔法使い~ でも大丈夫! だって、女の子だもん…… なんてな。ぶわっはっはっはっはっ……」 「当て身」 僕は才人の首筋を叩いて、強制的に黙らせることにした。このまま放っておいたら、僕まで何をさせられるか… もう一度、ルイズを見る。一見平静を装って、机拭きを続けているが、その表情には影が出来ている。 既に手遅れだったようだ。 危険な雰囲気だったが、ともあれ掃除は何事もなく、お昼には終わらせることが出来た。 用具を片づけ、何度か、訳が分からないといった感じで首筋をさすっている才人と、終始うつむいたままのルイズと共に教室を後にする。 「……さっきからずっと首筋がいてぇんだよなぁ。気がついたら、床で寝そべってたし。花京院、何かしらねえ?」 「いえ……」 ルイズはさっきから、一言も喋っていない。僕もいささかバツが悪いので、殆ど喋っていない。 重苦しい雰囲気が漂う。だが、元凶である才人はというと、まるで空気を読まず、一人で色々喋っていた。 ルイズの肩がプルプルと震えている。しかし才人はお構いなしにまだ喋る。 「胸もゼロ! 魔法の才能もゼロ! ゼロゼロゼロ、ゼロのルイズ~」 才人は一度、調子に乗り始めたら中々空気を読まず、一度痛い目を見ないと、いや、痛い目を見ても懲りないということは、既に熟知したつもりだったが、ここまでとは。本当にわからん奴だなッ! 僕はもう、言いたいだけ言わせておくことにした。今更黙らせても、もう手遅れだろう。 途中で僕は屯所へと戻るため、才人達と別れた。才人と違い、衛兵ということになっている僕は、食事は貴族達の後で、屯所で食べるからだ。 「じゃあ、後でな~」 「……ええ」 相変わらずルイズは何も言わなかった。 屯所に向かうため、中庭に続く広場を通る。昨日、ここで僕たちは召喚されたんだな。 お昼までは時間がある。何となく、僕はここを散策したくなった。 まだ所々、芝がはげ上がっていたり、土が盛り上がっていたりと、昨日暴れた痕跡が残っているものの、殆ど元の状態に戻っていた。 昨日逃げた時点では、かなり派手に荒れていたはずなのだが。それを半日とちょっとで、ここまで直せるものなのか。 「ン?」 芝がはげ上がった所に、きらりと光るものを見る。 近くによって確認すると、紫色の小ビンだった。 僕はそれをぱっと手に取る。 「香水か」 香りからいって、これは体臭を消すためのものと云うよりは、格調高い、女性の魅力を引き立てるようなタイプのものだな。 軽く振ってみる。中には液体が入ったままだ。捨てていったものではないらしい。 おそらく昨日暴れた時に、誰かが落としていったのだろう。 「後で、ルイズにでも聞いてみましょうか」 僕はそれを、屯所の外にかけておいた学ランの右ポケットに入れ、屯所の扉を開いた。 扉を開くと、ペイジさん、ジョーンズさんの他に、二人、僕の知らない人間がいた。 顔に半分だけマスクをつけた男と、顔の左側をまるまる覆うような眼帯をつけた男だ。 「おう新入り。初めてだな。俺の名はプラント」 「ボーンナム」 「花京院典明です。宜しくお願いします」 ペイジさんの話によると、四人併せて血管針カルテットなどと呼ばれているとのこと。理由は本人達も良く知らないらしい。 「さて、後はメイドが食事持ってきてくれるのを待つだけだな」 「そういや、今日は貴族共が中庭でティータイムしてるんだったな」 椅子に座って、メイドが来るのを待つ。 暫くして、こちらに近づいてくる足音が近づいてきた。 コンコンと、二回、ノックの音がした。 新入りということで、僕が扉を開ける。 「お食事をお持ちしました」 そこには、今日、僕にこの屯所の場所を教えてくれたシエスタと、何故か才人がいた。 「何故、才人がここにいるんです」 「いや、それがな……」 「なるほど……」 あの後、ルイズにゼロといった回数だけ御飯抜きを宣告され、空腹でふらふらさまよっていた所を、シエスタに呼びとめられ、厨房で賄い食をごちそうになり、そのお礼にと手伝いをしているらしい。 ちなみに僕が知っているだけでも40回は言っていた。ご愁傷様だ。 「しかし、良くその程度で済みましたね」 「ハァ、嫌みなんていわなきゃ良かったよ」 話している間に、今、ここにいる全員分のシチューとパンが並べられていた。 シエスタは一度、こちらに礼をしてから部屋から出ていった。才人も後に続く。 と、そうだ。 ルイズの近くにいた才人なら、さっきの小ビンのこと、何か解るかも知れない。 「才人、僕の学ランのポケットに小ビンが入っている。さっき広場で拾ったんだが、誰のか解らないんだ。おそらく貴族の誰かのだとは思うんだが。何か心当たりは無いか?」 「え、小ビン? ……そういや、広場で何かを探している奴がいたな」 「なら丁度いい。その人に返しておいてくれないか?」 「構わねぇけど……」 「なら、頼んだぞ」 才人もそういって、部屋から出ていった。 意外と早く持ち主が見つかったな。 「新入り、用事は済んだか? 早く飯にするぞ。……俺の名はペイジ」 「ジョーンズ」ビン 「プラント」ビン 「ボーンナム」ビビン 「「「「頂きます!」」」」パバ――ッ 「……頂きます」 実に斬新な食事の挨拶だ。ついていけそうにない。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/964.html
ヴェストリ広場に着く。 既に広場の中心には、人だかりが出来ていた。 おそらく彼処で、決闘とやらが行われているに違いない。 「なんだよ。もう終わりかい?」 その中心から、呆れたような男の声がする。 才人の声じゃない。おそらく相手の声だ。 今、なんといった? 終わり? もう勝負がついたというのか? いや、そんなはずはないだろう。彼はかなり意地っ張りだ。 一度決めれば、たとえ何回殴られようが、意地だけで立ち上がってくる。 早く止める必要がある。 僕は人混みの中に押し入った。 「おわ、なんだよ!」 「失礼。通してください」 途中、何度も人にぶつかりながら、何とか、決闘とやらが見える所までたどり着く。 そこには腹を押さえてうずくまる才人と、それを見下ろす鈍い赤褐色の甲冑をまとった像。そして、そこからやや離れた所に、薔薇を持った、きざったらしい少年。 たぶんアレが、グラモンとやらだろう。 「さて、これ以上続けるだけ無駄だと思うが?」 「……だ、誰がっ!」 震える足に手を置きながら、何とか立ち上がる才人。 それに併せて像が動いた。なるほど、あれが俗に言う、ゴーレムという奴か。 才人は大方、アレに殴られたのだろう。 さて、ここから妨害しても良いが、僕はそこまで無粋じゃない。 ましてや、二股がばれて、八つ当たりをするような奴だ。 ここで訳も分からないまま負かしても、またいつか余計なことをする。 必ず、奴のプライドを粉みじんにしなくてはならないッ! 僕は、決闘への乱入という形を取ることにした。 これこそゲームセンター界に伝わる、由緒正しい、プライドを潰す手順だ。 「なんだい、君は?」 「私の名前は花京院典明。今、ここで倒れている、平賀才人の友人だ」 僕が乱入したことで、人混みが一気に騒がしくなった。 乱入してきた僕が誰か、近くの奴に聞いているのだろう。 ゲームセンターで人が集まった台に乱入した時と、同じ反応だ。 「見ての通り、才人も私も平民だ。それに一対一で、決闘を挑むというのは、君たち貴族にとっては恥ずべき事じゃないのか?」 僕はルイズから、貴族というのは、平民相手には感情的になりやすいということを学んだ。 だから、この挑発は有効だという自信があった。 案の定、目の前の気障な少年も、ギャラリーさえも食いついている。 僕は口上を続けた。 「しかもこの決闘は、彼の逆切れからはじまったと聞く!」 そういってビシッ! と気障な少年の方に指をさす。 ギャラリーから失笑が漏れ、さされた少年の方はぴくぴくと頬を引きつらせている。 「元はといえば、あの香水を拾ったのは私だ! 格好つけて二股をするなら、我々平民の二人や三人、なぎ倒して見ろ!」 我ながら、意味の分からない理論だ。 だが、頭に血が上った奴には、この程度の挑発で十分効果を発揮する。 案の定、目の前の少年はあっさりと挑発に乗ってきた。 「良いだろうッ! 君もそこの平民と一緒に、僕の『ワルキューレ』で、貴族に対する礼儀を教えてやるッ!」 その一言と共に、ギャラリーが騒がしくなる。 「や、止めといた方が……」 「ギーシュ、お前じゃ無理だ」 「黙って、引っ込んでろよ」 「所詮貴様は只のドットメイジ。大人しく、そっちの平民をいたぶってろ」 何人かのギャラリーが、少年の止めに入る。というか、バカにしている。 顔を見ると、昨日、僕が暴れた場に居合わせた奴らだった。 「何だ君たちは! まさか僕が平民二人程度に負けるとでもいいたいのかッ!」 ギーシュとやらは、そのギャラリーに対して吼えた。 しかし、相変わらず止めに入った奴らは、少年に冷たい視線を送るのを止めない。 かわいそうだけど、明日の朝にはにはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね、といった感じだ。 しかし、止める奴らもいれば、煽る奴もいる。 「ギーッシュ! その生意気な平民をのしちまえーーー!」 「やっちまえーーーー!」 「ギーシュ(オサ)! ギーシュ(オサ)! ギーシュ(オサ)!」 こっちは昨日、暴れた時は居なかった奴らだ。 解りやすいぐらい、反応が二分化されている。 まぁ、どちらにしろ、いまさらギーシュは引けないだろう。 「さあ、どうするッ!?」 「決まっているッ! 決闘だッ!」 良し! かかったッ! 僕は才人に肩を貸して、改めてギーシュと正面から対峙する位置に立つ。 「花京院……」 「何ですか?」 「わりぃ……」 「そういうのは、勝ってからにしてください」 才人が立つ。 っと、そうだった。 「邪魔なんで、これ、持っておいてくれますか?」 「おう……」 僕はずっと手に持っていた槍を、才人に手渡した。 才人はその槍をぐっと握る。すると、突然、才人の左手に刻まれた文様が光り出した。 「何だよ、コレ!」 「!? ……いったい何が」 「平民、もう用意は出来たのか! 始めるぞ!」 とりあえず、光り出した才人の左腕の文様については後回しだ。 今は、この目の前のコイツを叩きのめすッ! 少年は薔薇を掲げ、その薔薇から花びらを飛ばす。 すると花びらから先ほどと同じゴーレムが、6体精製された。 先ほどのも合わせると7体。 「僕の二つ名は『青銅』! 青銅のギーシュだッ! 君たちは相応の喧嘩の売り方をしたのだからな! 思い知ってもらうぞ!」 どうやらこれが全力らしい。 ゴーレムは青銅製。なら… 「たいしたことはない! 食らえッ! 『エメラルドスプラッシュ』を!」 僕のハイエロファント・グリーンから、破壊のビジョンが、エメラルドとなって撃ち出される。 かなり厚みのある石の建物ですら破れるのだ。 ペラペラの、たかだか青銅製ゴーレムなんて、簡単にブチ砕けるッ! 僕のエメラルドスプラッシュは、ゴーレムを3体巻き込んで爆砕する。 ゴーレムは綺麗に、バラバラになって吹っ飛んだ。 「へっ?」 ギーシュは何が起こったか解らないといった調子で、その様子を眺める。その姿は何ともマヌケだ。 ようやく何が起きたのかを理解した少年は、慌てて叫んだ。 「ワ、ワルキューレ! 僕を守れッ!」 ゴーレム達が、ギーシュのフェンスになるように密集する。 だが、そんなことをしても無駄無駄無駄無駄ァ~。 僕はもう一度、スタンドでゴーレム達に標準を合わせた。 もう一発、エメラルドスプラッシュを叩き込むッ! 「待てよ、花京院。後は俺にやらせてくれ」 「才人?」 だめ押しにもう一発といった所で、才人が突然止めてきた。 後は自分が片づける? 言ってる意味が分からない。イカれているのか? この状況で。 「才人。まだ意地を張って……」 僕が制止の言葉をはき出す前に、才人はゴーレムに向かって走り出した 「早いッ!」 アレは人間のだせる速度なのか? 僕ですら、スタンドを介した視界で追うのがやっとという速度で、才人はゴーレムへとつっこんでいる。 おそらく、周りの人間には、何が起こったのか見えていないだろう。 才人はゴーレム達の前で立ち止まり、そのまま、槍を横ナギに振るった。 槍は、パクゥーと空気が裂き、ゴーレム達へとたたきつけられた。 ドグシャァと叩きつぶれるような音と共に、ゴーレムの上半身がちぎれ飛ぶ。 しかし槍も、HBの鉛筆をへし折るように、ペキィと叩き折れた。 それと同時に、才人の左手の紋様からでた光も収まった。 『世界ッ!』 ギャラリーはおろか、当事者の才人や僕ですら理解不可能な光景に、時が止まる。 「ひっ!」 『そして時は動き出す』 ギーシュのおびえた声と共に、再び時は動き出した。 才人の右手に握られた、へし折れた元槍と、上半身のちぎれ飛んだ、四体のゴーレムが、先ほどの光景が幻覚でないことを見せている。 僕はすぐさま、ギーシュの方を確認する。 ぺたんと座り込んで、目をまん丸くして才人の方を見ていた。 ぽろりと、手から薔薇が落ちる。 それと共に、残っていたゴーレムの下半身は、土に還っていった。 なるほど、あれが杖だったのか。 「続けるか?」 ギーシュの口がぱくぱく動く。 参ったというつもりだろう。 だが、ここで参ったといわれては、プライドを暗黒空間にばらまくことが出来ない。 肉体的にも、お仕置きをする必要があるッ! 僕は迷わず、ギーシュの口の中にハイエロファントを飛び込ませた。 そしてそのまま、ギーシュを操るッ! 「ふん。平民に僕が降参するだとッ! なんて! なんて面白いジョークだッ! ガボッ!」 「続けるんだな」 「ガボガボッ! 君なんて素手で十分だッ! フヒィーッ、フヒィーッ」 「なら、容赦しねえっ!」 (ゆ、許してくださいぃ~~~~~!) 操っているハイエロファント越しに、そんな思考が流れてきた。 それに対し僕は一言 (お前は男としての領域を踏み出した。だ め だ ね) と送り返す。 才人が思いっきり、右腕を振りかぶる。 ギーシュの目に、涙が浮かんだ。 才人の拳は、そのままギーシュの腹部へ吸い込まれる。 ドグオォっと鈍い音がした。 「いいか・・・このパンチはゼロのルイズにバカにされた分だ……八つ当たりと思うかも知れないが、コレはお前が俺に八つ当たりした分だと思え」 なんて理不尽な言い分だ。 だが、僕は才人のしたいようにさせておく。 「また、ゼロって……」 しかし才人。先ほどから、僕の後ろで殺気を放っている人物は誰だと思う? 「そしてこれもゼロのルイズにバカにされたぶんだッ! そして次のもゼロのルイズにバカにされた分だ! その次の次のも、その次の次の次のも…その次の次の次の次のも…次の! 次も! ゼロのルイズに飯抜きにされたぶんだあああーッ! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!!」 「!?」 僕のハイエロファントが、警告を発している。 マズイ! 「才人ッ! 早くギーシュから離れるんだァー!」 「え?」 しかし、もう遅かった。僕は急いでスタンドを引っ込める。 ギーシュは才人に襲いかかるようにして倒れ込んだ。 ギーシュは口元を押さえる。 「な、なんだよ。まだやる気か!?」 「うっ」 先程まで食後のティータイムを取っていたのだ、あれだけお腹を殴られれば…… 吐くに決まっているッ! 才人は見事なゲロ・スプラッシュの洗礼を浴びる事になったのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/171.html
「もう!あんたも気合入れなさいよ」 一つでン十万はしそうなアンティークが並んだ部屋で、甲高い声が深夜の学生寮を振るわせる 声の主はルイズであり、少し殺気が入った視線の先には召喚した使い魔―――『ペットショップ』の姿 何故にルイズが叫んでいるのだろうか? 時間は多少遡る 「使い魔の目は主人の目、使い魔の耳は主人の耳ね。うふふふふ」 ちょっと逝っちゃった笑顔を浮かべながらベッドに座るルイズ 使い魔の視覚や聴覚で得た情報を、その主人であるマスターも得る事が出来ると教師から聞いた その説明にルイズはちょっと惹かれたが、サモン・サーヴァントでマトモな使い魔が出てくるとは期待していなかった だが、ルイズは召喚に成功した!故に彼女は試してみたかった。使い魔を手に入れたら誰だってそうするだろう、ルイズだってそうする。 「ちょっとやってみよ」 ルイズの軽い言葉、だが。これから長い長い時間が経つとは誰も予想してなかった。と言っても部屋にはルイズとペットショップしか居ないが 1時間――――――― 「ぐぬぬぬぬぬぬ」 2時間――――――― 「はぁぁぁぁぁぁ」 3時間――――――― 「・・・うぉりゃぁ」 4時間――――――― 「―――――ぅあ」 5時間――――――― 何回も何回も試したが、使い魔が何を見て何を聞いてるのか欠片も分からないルイズ。 ここで冒頭の「もう!あんたも気合入れなさいよ」である 駄メイジなルイズに根本的な原因があるのだが、連帯で責任を背負わされては使い魔も溜まった物ではない。 「先生はとても簡単って言ってたのに!」 レビテーション等の『とても簡単な魔法』すら失敗する自分の不名誉な二つ名『ゼロのルイズ』の称号を完璧に忘れているとしか思えないセリフを叫ぶ それから少しの間ペットショップに当り散らしたりしていたが、さすがに気力の限界が来たのか。ベッドに横になるルイズ 「ご主人様の睡眠を邪魔したら承知しないんだからね!・・・zzzz」 と、又しても理不尽なセリフを吐いてから明かりを消して、のび太並のスピードで夢の世界に直行した。 マスターが眠ったのを確認してから、ペットショップは器用に足でドアを開けて廊下に出た 鳥である彼には暗闇は天敵であり、一寸先も見渡せないはずだが。『もう一つの感覚』を持つ彼には暗闇など物の数ではない 彼の頭に浮かぶのはルイズの最後の言葉『睡眠を邪魔するな』 (マスターの命令を遂行しなければならない) (守らなければならない) (■さなければならない) (やらなければ) と、そこまで考えて突然雷鳴が走るように思考に別の異物が混じる (マスター?)(こいつは違う)(命令は違う)(ここは違う)(早く戻らなければ)(DI・様の元へ) 彼は思った。まただ、また頭に疑問が浮かんだ 何かが違う、だが、それが何なのか彼はわからない パズルが完成している、しかし、そのパズルのピースが本来の物とは全くの別物になっているような―――辻褄の合わない感覚 最後の思考が一番大事な物だと感じたが、深く考える前に命令を遂行する事が重要だと彼は結論付けた そして朝に事件は起きた 時間は朝 学生寮の廊下を二人の女が歩いている 「ルイズは寝坊かしらねぇ」 「・・・・・・・・・・・」 赤い髪をした大きい方はキュルケ。 青い髪をした小さい方はタバサ。 キュルケの後ろに居る火竜山脈のサラマンダーを見れば分かるが、どちらもメイジとしての腕もかなりの者。 タバサなんてシルフィードなる青いドラゴンを使い魔として使役している。 そんな彼女達が何故に歩いているのかというと、授業に出て来ないルイズを起こしに行くからである。 その行為は親切心からではなく、わざわざライバルから起こされるルイズの悔しそうな顔を見たいが為。 ルイズの顔を想像して笑みを浮かべるキュルケをタバサは呆れたような顔で見る、が、幸いな事にキュルケは気付いていない 目の前にはルイズの部屋のドア、ルイズの使い魔がその脇に見える 「使い魔より起きるのが遅いなんて、ルイズは本当に駄目ね」 そんな事をぶつくさ言いながらドアを開けようするキュルケ ―――次の瞬間キュルケは服をタバサに思いっきり引っ張られた! 「ちょ、何すんのよタバ「ドゴォ!」!?」 不可思議なタバサの行為に抗議しようとしたキュルケ。だが、顔の直ぐ傍にいきなり氷柱が生えては黙らざるをえない 長さは1メイル程で、壁を薄紙のように突き破っている。こんなのが顔に当たったら普通に死ぬ 慌てて発生源を見るキュルケ、するとそこには―――― 「グガガガガガッ!!!」 得体の知れぬ冷気を放ちながら翼を広げるルイズの使い魔の姿 実践経験が無いキュルケとタバサにも感じられる程の殺気を放っている 泣く子も黙るほどの殺気を放ちながら、ペットショップは主人の命令『睡眠を邪魔する者は即座に抹殺せよ』を遂行するッ! 羽ばたくペットショップの周りに氷柱が瞬時に生成!そして半秒の間も無く発射! 『それ』はタバサの得意とする『水』『風』『風』の攻撃呪文、『ウィンディ・アイシクル』に酷似していた しかし『ウィンディ・アイシクル』より弾の数は少ないが、大きさと速度は全くの別物! 勿論その氷柱が放たれるのを黙ってみているキュルケでは無い 「ファイヤファイヤファイヤファイヤファイヤファイヤァァァァッ!」 自分に当たりそうな物だけを見極め『火』*1の呪文で叩き落すッ! 外した物はフレイムの火炎が補助! 外れた残りの氷柱は、ドゴゴゴゴゴッ!、と。 氷柱がぶつかったとはとても思えない音を立てながら窓を粉砕し床に穴を開ける (トライアングル・・・・・・いや!スクゥエアクラスのメイジ並じゃない、この鳥!) 冷や汗を流すキュルケ、だが一瞬の停滞も無しに次の動作に移る 「タバサッ!!」 「エアハンマー」 キュルケの言葉に阿吽の呼吸で放たれるタバサの魔法! 杖から放たれる空気の槌。通常は不可視の波動であるそれを『もう一つの感覚』で感知して回避行動を取ろうとするペットショップ しかし、タバサの狙いはルイズの使い魔では無かった! ドゴォン! 轟音と共にルイズの部屋の扉が粉々に砕けて吹っ飛ぶ キュルケとタバサの狙いに気付き、急いで氷柱を発射しようとするペットショップ! だが、回避行動を取ろうとした時間のロスが、タバサとキュルケをルイズの部屋に入り込ませる隙となってしまった 部屋に侵入者を入り込ませてしまった!その事実に激するペットショップ 「キョオオ―――z______ン!!!」 聞く者を振るわせる声を一発かました後、彼もルイズの部屋に飛びこんで行った 「ルイズゥゥ!!!!!」 部屋に入った瞬間、怒声を張り上げるキュルケ ルイズの使い魔に殺されかけたのだから、その行為も自然な物だ。 しかしルイズを見付けたと同時にキュルケは腰砕けになりかけた 何故か?それは 「zzzzzzzz」 何とも幸せそうな顔でルイズが寝ているのである! 部屋の直ぐ側であんな爆音が響き、ドアを物凄い勢いで吹っ飛ばされたのにまだ寝ている! (こいつはグレートね) と、キュルケは思考停止しかけたが 「キュルケ。鳥が来る」 タバサの少々焦ったような声で通常の思考を取り戻す キュルケが振り返ると、あの鳥が部屋に入ってくるのが見えた だが、無防備なマスターのすぐ近くに居るのだから、あの使い魔も無茶は出来ないだろうと予測するキュルケ その思惑通りに、使い魔はこっちを睨むだけで手出しをして来ない だけどまだ安心は出来ない 「あたしはルイズを起こすから、タバサ見張っててくれない?」 鳥の注意を相棒に任せると ポカッ! 使い魔に殺されかけた分のお礼も込めて、ルイズの頭を杖で強めに殴った 突然魔法の才能が覚醒した私は、ライバルのキュルケと決闘して完膚なきまでに叩きのめした 「うーん」 土下座するような体勢で気絶しているキュルケ、私はそんなキュルケの頭に足を乗せて高笑いをしていた 幸せの絶頂―――ボカッ! 「あ痛ッ!」 突然の痛みに意識が覚醒した。頭を押さえて悶える私 涙が出てきそうな目を開けると前方に笑っているキュルケが見えた 「あら?良い音がするじゃない、頭の中身も『ゼロ』じゃなくて良かったわね」 あまりにもあんまりな言い草に、怒りが許容量を突破する。『プッツン』と言うやつだ 「あ、あああああ、あんたッ!何で勝手に入ってきたのよ!それに人の頭を殴るなんて何考えてるの!?」 怒りで震える口を何とか動かしながら叫ぶ。 すると、キュルケはあからさまに呆れてるような溜息を突いた。激しくムカツクわね 「授業に出てこないアンタを起こすよう先生に頼まれたのよ」 あれ、私寝坊しちゃったのか・・・・・・だけど殴って起こすのは無いわよ!常識的に考えて! と抗議しようと思ったが、周囲を見回していた私は気付いた、ドアが粉々になってるッ!? 「いきなりアンタの使い魔に襲われちゃってね、正当防衛ってやつよ」 私の視線から気付いたのか、尊大に言い放つキュルケ。私は口をパクパクさせる事しか出来ない 「それから廊下の窓や床もアンタの使い魔が滅茶苦茶にしちゃったから、後でちゃんと弁償しときなさいよ?」 使い魔の責任は主人の責任よ~、等と言いながらタバサを連れて部屋から出て行った・・・・・・わぁ、私凄く腹立ってる! 怒りに突き動かされるまま、私は近付いて来たペットショップに叫んだ 「ペットショップ! あんた、ご飯抜きだからね!」 マスターと何か話をしていた侵入者共は出て行った 追い駆けて『始末』するより先に。マスターの安全を確認するため私は近寄った すると、いきなり 「ペットショップ! あんた、ご飯抜きだからね!」 マスターの怒声。マスターは怒っている。何故だ? 「いきなりキュルケとタバサを襲うなんて何考えてんの!?それに廊下やドアを滅茶苦茶にするなんて正気!?」 どうやら私はマスターの友人を攻撃してしまったようだ。なるほどマスターが怒―――――(違う)(マスターなら)(・IO様なら) 「・・・・・・・・・ョップ?ペットショップ聞いてんの?」 目の前にはマスターの顔――何処と無く不安そうな顔で私を見ている 「まあ、いいわ。罰としてご飯抜くんだから、ちゃんと反省しなさいよ」 先程の思考が何なのかはもう思い出せない、無理に思い出そうとしても思考の一部に靄が掛かったような感じがして判別できない ―――――とても、とても重要な事だったような気がする、私の存在する意義に関わる程 「ペットショップ」 私は考え込んでいたが、マスターの声で我を取り戻した 寝巻きから制服に着替えたマスターが手を振る。「着いて来い」と言っているのだろう。 私はマスターの元に飛んでいった 廊下の惨状を目にしたルイズが大きな溜息を突き 弁償として割と少なくない額の金を払う事となったのは関係無い蛇足である
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1303.html
「ハァ………」 自分の部屋で、静かにため息をつくキュルケ。 彼女は今悩んでいた。 それというのも、 「平民ならまだしも、人間じゃないなんてねぇ…」 彼女の新しい恋の相手…の予定だった、ゼロのルイズの使い魔が、実は人間では なかったのである。 「それにしても…凄かったわね、あれ」 ドットとはいえ、ギーシュの作り出したゴーレムを、苦も無く一蹴する様を思い出す。 ゴーレムを溶かし、イカズチを発し、傷を治し、さらには姿まで変えるその力… 「先住魔法?でもディティクトマジックでの反応は無かったし…」 ルイズが彼を呼び出したとき、念のため魔力の反応を調べていたのだ。 彼女の家と、ルイズの家は犬猿の仲であり、彼女自身何かとルイズにちょっかいを 出している身としては、使い魔の質で負けるわけにはいかないのである。 「東方の亜人とか言ってたけど」 決闘の後、2人を連れて行ったミス・ロングビルに、何人かの生徒が彼は何者かと 尋ね、返ってきた答えがそれであった。 もっとも、その答えを聞く前に様々な噂が飛び交い、もはやその言葉を素直に信じる 生徒はあまりおらず。さらに、キュルケ以外にも、彼に魔力の反応が無い事に気付き、 それを騒ぎ立てる者までいて、更なる噂が生まれることになった。 曰く、ラ・ヴァリエール家が作り出した最終兵器 曰く、エルフが人類抹殺の為に生み出した魔人 曰く、星の海を越えて、この世界を侵略しに来た宇宙生物 曰く、地獄から蘇った悪魔 等々 どれもこれも邪悪っぽいのは、決闘相手のギーシュが死にそうな目にあったから。 だけでなく、見た目も無関係ではないだろう。 「ま、何であれ尋常じゃないわよね。 はぁ、ルイズの悔しがる顔が見れないのは残念だけど、諦めるしかないか… にしても、あの時ルイズが来なかったらどうなってたのかしら?」 彼を誘惑しようと、自分の使い魔を迎えに行かせた事を思い出す。 なぜか彼の変わりにルイズが来て、その後喧嘩になってうやむやになったが、 もしあの時彼が来ていたらどうなったのだろう? 「ふふふ、いらっしゃい」 育郎は素直に従い、キュルケがその身を預けるベッドに腰かける。 「あなたは、アタシをはしたない女と思うでしょうね」 大きくため息をついて、悩ましげに首を振るキュルケに、育郎は口を開く。 「いいや」 その言葉を受け、嬉しそうに育郎に身を摺り寄せるキュルケ。 「解ってくれるの!そう、しかたないわよね!恋は突然なんですもの。 突然で、そして一気に燃え上がるの… だめ…やっぱりアタシってば、みっともない女だわ」 「そんなことは無いよ」 そう言って、育郎はキュルケのアゴに手を沿える。 「ああ…」 目をつぶり、唇が重なる感触を待ち受けるキュルケの耳に、育郎の声が入ってくる。 「君は…愚かな女だよ!」 「え!?」 驚いて目を開けると、異形の姿に変わっていく育郎の姿が目に入った。 「え、ちょっと何よこれ?やぁ…ッ!」 異形から次々に触手が生え、キュルケの肢体に絡み付いていく。 「だ、だれかたすけングッ!」 触手がキュルケの口の中に入りこみ、助けを呼ぶ声を封じ込める。 「怖がる事は無いよ。君が望む事をしてあげるだけさ…」 その言葉と共に触手たちが一斉に… じゅるり 「お、惜しいことを…じゃなくて、危なかったわ! 一歩間違えてたら、そんな素晴らしい…もとい、恐ろしい事に! 待って、じゃいつも同じ部屋で寝てるルイズは!?」 あれほどの力を持つ存在が、本当に『ゼロのルイズ』の使い魔なのか? 夕食時、食堂に使い魔を連れてやってきたルイズは、彼に自分の食事を分け与えていた。 さらにその後、厨房に明日からは自分と同じものを、と頼んでいる姿も目撃されている。 正体がばれたので、わざわざ平民扱いさせておく必要が無くなった。 つまり本当の主人は… 噂の中にはその類のものも含まれていた。 「そ、それじゃまさかあの子はもう!」 「ご、ご主人様…」 下着姿で立つルイズが、ベッドに腰掛ける育郎を震えながら見る。 「ルイズ…僕は君に、一日に君が『ご主人様』と主張するのを何回許したかな?」 「は、はい…5回です…」 やれやれと首を振って、育郎がルイズに近づく。 「今はまだ君が主人であると思わせたほうが都合が良い… けど、だからと言って気楽にそう言われるのは不快だからね。 それで…君は今日何回自分のことを『ご主人様』と言った?」 「9回…です」 「7回だ…」 冷ややかに告げ、育郎はルイズの顔に手を伸ばし、その柔らかな唇に指を添える。 「いけない子だ…そんなに『おしおき』が欲しいのかい?」 「あぁ…」 震えているのは恐れているからではない、期待しているのだ。 「まったく、これじゃあ『おしおき』にならないな…今日は止めにしよう」 「そ、そんな!」 育郎の足しがみつき、必死になって懇願するルイズ。 「お、お願いしますご主人様!こ、この哀れな犬にどうかお慈悲を!」 「しょうがないな…」 「ありがとうございます…ぁ!」 触手が現れ、ルイズの幼い身体に… じゅるり 「そ、そんな!?ルイズがそんなうらやましい事…もとい酷い事をされていたなんて!」 自分の妄想に、身体をわななかせるキュルケ。 「こうなったら…私が何とかしないと!」 そう叫んで自分の部屋を飛び出し、隣のルイズの部屋の扉の前に立つ。 「こんな事に、他人を巻き込むわけにはいかないわよね…わ、私一人じゃひょっとして 不覚を取るかもしれないけど、それはしょうがないわよね? そ、その結果色々と蹂躙されちゃったりしちゃったりしても、仕方ないわよね? わ、私も精一杯やったんだけど、卑劣な罠にかかっちゃったりするんだから、 ホントにもう…不可抗力って奴よね!?」 じゅるり 「ハァハァ…そ、それじゃあ行くわよ!」 喜色満面で扉を開けるキュルケであった。 「ああああああぁ…………ぁああああああ」 「この位置までは大丈夫と」 育郎がデルフの鞘に印をつける。 「いやーすまねぇな。相棒」 「ねえ、さっきから何やってるの?」 不思議そうな顔をして、育郎の手元を覗き込むルイズ。 「いや、デルフがなるべく自分を持ち歩いてくれって言うから」 「今日みたいな事があったとき、俺が居た方がいいだろ?」 「それとさっきのに、何が関係あるのよ…」 鞘を指差し、育郎がルイズの疑問に答える。 「いや、危ないから鞘に入れておかなきゃいけないけど、それじゃデルフが 喋れないから、何処まで鞘に入れたら喋れなくなるかを調べてたんだ。 ここから切り取って、ちょっと手を加えて落ちないように」 「いいじゃない、別に。メーンとか言わなくなるし」 「娘っ子も結構拘るな…というか俺一回しか『メーン』って言ってねえぞ」 「2回目ね、3度目は無いから覚悟しときなさい。 って、道具も無いのにどうやってそんな工作するのよ?」 リスキニハーデン・セイバーとメルテッディン・パルムを組み合わせた まったく新しい工作術で 「まあ、いいけど…ってキュルケ!なに人の部屋に勝手に入って来てるのよ!?」 「キュルケさん?」 二人が扉を開けたままの姿で立つつくすキュルケを見る。 「あ………」 「「あ?」」 「貴方達にはガッカリよ!!!」 「きゅるきゅる!(駄目だこりゃ!)」 部屋に残されたフレイムが、そう呟いたとかなんとか。