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クローサの歪んだ林は奇妙な実を結ぶ。 Krosa s distorted groves bear strange fruit. オンスロート 第9版 【M TG Wiki】 名前
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夕方の暗いタルブ村の近くの森を、十歳にも満たない男の子が泣きながら走っていく。少年はシエスタの弟だった。アルビオンの攻撃から逃れる途中、家族とはぐれてしまったのだ。 「おかーさん! おとーさん! おねーちゃん! どこー?」 村が焼かれ、必死で逃げてきた彼は、既に方向感覚を失っていた。森の木々は空を覆っており、方向の助けになるものは何もなかった。 絶望に打ちひしがれそうになっていたそのとき、行く手にローブを着た女性が現れた。ようやく人に会えた安堵感に、女性に駆け寄ろうとして、少年は思わず短い悲鳴を上げた。 女性の手に杖があったからだ。今しがた貴族に村を焼かれた彼にとって、杖は見るだけで恐怖を抱くアイテムだった。 悲鳴を耳にしたのか、貴族の女性も少年に気づいた。少年は蛇ににらまれた蛙のように動けない。自分の人生はここで終わりなのだと少年は思った。 しかし、貴族の女性は少年の前でかがみこむと、意外にも優しい声で語りかけてきた。 「こんなところでどうしたいんだい、坊や? 迷子かい?」 少年は震えながら頷いた。 女性…フーケは内心で頭を抱えた。こんな子供に関わっている暇はない。とりあえずこの辺は安全のようだし、置いていくべきか。 それとも、リゾットが上空の竜騎士をひきつけるまではまだ時間があるだろうし、それくらいの時間は割いてやるべきか。 フーケは自分が悪党であると認めている。少なくとも、金のためなら大して知らない貴族の命が奪われたところで心は痛まない。 が、同時に理由もないのに犯罪に手を染めるほどの外道でもない。流石に泣いている年端も行かない子供を置き去りにするのは、自分が養っている家族を思い出し、心が痛んだ。 「まあ、いっか」 しばし悩んだ結果、フーケは少年に手を差し伸べた。なるべく安心させるように笑顔を浮かべる。 「おいで。お姉さんが連れて行ってあげる」 少年はまだ少し怯えていたようだが、おずおずとフーケの手を取った。 「よしよし、いい子だ」 (何してんだろ、私。これから戦争しようってのに……) 少年の頭を撫でつつ、思わず苦笑がした。とはいえ、村人たちが避難した場所に見当はついている。フーケはそこへ向かって歩き出した。 第十九章 夕暮れに昇る太陽 タルブの村は無残な姿をさらしていた。火竜によって焼かれた家々は燃え盛り、夕日を受けてその赤をより色深いものにしている。 草原ではアルビオンの部隊が展開し、トリステインの軍と火花を散らしていた。その上空をトリステイン側の竜騎士を追い払ったアルビオンの竜騎士が飛び交い、地上部隊を援護する。 数の上で勝り、制空権を確保しているアルビオン軍だが、けん制程度にしかトリステイン軍には仕掛けない。 その理由は上空で着々と砲撃の準備を進める『レキシントン』号を中心としたアルビオン艦隊にある。真正面から戦えば損害が出るため、まずは艦砲射撃によってトリステインを弱らせ、それから突撃する予定なのだ。 トリステイン側はそれを踏まえ、乱戦に持ち込もうとしているが、アルビオン軍は巧みにトリステイン軍の攻撃をかわし、弾き、いなし続けていた。 そんな時、タルブ村の上空を警戒していた竜騎士隊は自分たちの上空、二千五百メイルほどの高度を飛ぶ一騎の竜騎兵を見つけた。 見慣れない竜だった。その翼は固定されているかのように羽ばたかず、奇妙な轟音のような唸り声をあげている。 一瞬、警戒を強める竜騎士隊だったが、隊長のワルドからは近づいてくる竜騎士は叩き落せ、という指令を受けているため、とりあえず二騎ほどが撃墜へと向かう。 どんな竜であれ、アルビオンに生息する『火竜』のブレスを受ければたちまち燃え尽きる。向かった二人の竜騎士は勝利を信じて疑わなかった。 「前方から二騎、あがってきたぜ」 デルフリンガーが警告に、リゾットは燃えるタルブの村から視線を離した。氷のような冷静さで心を覆い尽くす。機械の操作において必要なものは冷静さであり、激情ではないからだ。 「あいつらのブレスには注意しろよ。一瞬で燃え尽きちまうぜ」 「……だろうな」 リゾットは機体を急降下させる。竜騎士たちは予想以上の速さに慌てて火竜の口を開けさせた。 火竜の喉の下には燃焼性の高い油の入った袋がある。コルベールやアヌビス神とのガソリンの素材選定の過程でそれを知っていたリゾットは火竜の開いた口目掛け、機首に装備された七・七ミリ機銃の弾丸を数発撃ち込む。 打ち込まれた銃弾の熱によって油が引火し、火竜は爆発。隣の騎士は爆発の衝撃で吹っ飛び、乗っていた騎士は、空中で焼失した。ゼロ戦はその炎を掠めるようにして降下すると、再び上昇する。 村の上空を飛んでいた竜騎士たちは、新たに現れた奇妙な竜を撃墜に向かった二騎の同僚が空中で倒されたのを見ていた。 攻撃手段は不明だったため、竜騎士たちは警戒して編隊を組み、上空へと舞い上がった。 「竜の喉の下、または騎士が弱点だな」 シエスタから譲り受けたこのゼロ戦には機首に七・七ミリ機関砲、両翼に二十ミリ機関砲が装備されていた。だが、その各種武装の弾が尽きればゼロ戦はただの空飛ぶ鉄の塊である。なるべく弾は節約したかった。 「さらに左下から十騎」 デルフリンガーの指示にもリゾットはたじろぐことなくゼロ戦を操作する。 初めて扱う機体ではあるが、ガンダールヴの力か、速度を高度に変え、そこから降下することでスピードを引き出すという操縦法も自然と出来た。 「日が沈むまでに決着をつける」 リゾットはそれが可能だと理解していた。ゼロ戦と竜では性能が段違いだからだ。 まず、速度が違う。火竜の飛行速度は地球の単位に換算して時速約150km、対してゼロ戦の最高速度は時速400kmに達する。ゼロ戦から見れば、火竜は止まっているようなものだ。 さらに、射程距離もこちらに利があった。火竜のブレスであろうと、貴族の魔法であろうと、ゼロ戦に装備された機関砲は射程の遥か先から攻撃を仕掛けることが可能である。 その射程を利用し、降下しつつ両翼の二十ミリ機関砲を射ち込み、二騎の火竜を爆発させる。爆発によって編隊が乱れ、ゼロ戦はその隙間を縫うようにして通り抜けた。 追い越された竜騎士たちは慌てて反転しようとするが、追いつけるはずがない。降下した勢いを駆って上昇し、ある程度のところでトンボを切るようにして再び降下。 首だけをこちらに向けている竜騎士たちに、リゾットは容赦なく弾丸を射ち込み、落として行く。 「後ろだけは取られるなよ、相棒。この乗り物、後ろに攻撃できねーだろ」 「下らない策だが、対策はある。取られないことに越したことはないが」 リゾットは自分のコートのポケットに入れた袋を一瞥し、再び機体を上昇させた。 タルブ村の住人は避難した先の森の中で、樹上に広がる光景に呆然としていた。 隠れた彼らを脅かすように低空飛行していた竜騎士たちが次々に空の上を飛ぶ何かに向かっていき、そして消えていくのである。 やがて、村人たちは狂喜し、歓声を上げ始めていた。 だが、シエスタとその家族はそれどころではない。弟の一人がいなくなっていることに気がついたからだ。 「私、探しに行ってきます!」 シエスタが村の方へ戻ろうとした時、森の奥から当の本人がフーケに手を引かれてやってきた。 「お姉ちゃん!」 弟はシエスタをみつけると、半べそを掻きながら駆け寄った。シエスタはそれを抱き寄せて背中をさすりながら、フーケに視線を向ける。 「ミス・ロ……じゃなくて、フーケさん、何で私の弟と一緒に!?」 「おや、シエスタ。この子はあんたの弟かい。迷子になってたからつれてきてあげたんだよ」 フーケは屈んで弟の涙をぬぐってやった。 「良かったね。そら、男の子なんだから、もう泣くんじゃないよ」 「うん……」 「よし、いい子だ。なあに、あの連中ならフーケ姉さんが追っ払ってきてやるさ」 頷くシエスタの弟に微笑みかけ、フーケは立ち上がった。シエスタは不思議そうな顔でフーケを見つめる。 「あの、フーケさん……。追い払うって?」 「言ったろ? 今、私はリゾットと組んでるのさ。で、リゾットがあんた達に恩を返したいって言うから、私もね」 「リゾットさんが!? 今、どこにいるんですか?」 勢い込んで訊くシエスタに、フーケは空を指差した。夕暮れ時の空ではまだ竜騎士が上昇しては消えていく。 「ありゃあ、竜の羽衣だ!」 一人の目のいい村人が、叫んだ。一人が気付くと、周囲の村人たちも次々と気がつき始める。 「そうだ、竜の羽衣だ! 本当に飛んだんだな!」 「しかも竜騎士どもが落とされていく!」 「じゃ、あれを使ってるのはこないだの貴族様方か!」 隠れていることも忘れ、住人たちは興奮して騒ぎ始める。フーケは肩をすくめた。 「ま、そんなわけよ。じゃ、私も行くわ。竜騎士は十分に引き付けられたみたいだし、私が地上の援護をしないとね」 最後にシエスタとその弟に笑いかけると、フーケは燃え盛る村へと走り去った。 地上部隊の指揮を執っていたワルドの所へ、慌てた様子の伝令が入ってきた。 「タルブの村方面より、巨大な土のゴーレムが現れ、我が軍の別働隊を蹂躙しております」 「ゴーレムだと? それくらい自分たちで何とかできないのか?」 「そ、それが、全長30メイルにも及ぶ上、破壊しても破壊しても再生しまして…。術者がどこかに潜んでいるのでしょうが、捕捉出来ません」 「……フーケか? しかし奴が何故トリステインに……」 ワルドは自軍の戦況を見た。今のところ、トリステイン軍は果敢に攻め込んできている。女王自らが指揮をしているためか、士気という点ではむしろこちらより高い。 とはいえ、数で勝る分、そう簡単に突破されることもない。無理に突撃してくれば押しつつんで殲滅できる。 だが、ただでさえ謎の竜騎兵に竜騎士隊を殲滅されつつある現在、別働隊が潰されていくとなると話は別だ。側面から崩された結果突破され、乱戦になっては砲撃もままならない。 結局のところ、地上でも上空でも風のスクウェアクラスのメイジである自分以上に頼れる人間はいない。ワルドはそう結論した。 「よし、私が出よう」 副官に指揮を任せると、ワルドは『フライ』を唱え、タルブの村方面へと向かった。 フーケのゴーレムが拳を振り上げ、叩き付ける。単純なその動作で、アルビオンの小隊は逃げ散っていった。 反撃として、炎や風が飛んできてゴーレムを砕くが、すぐに再生する。青銅や土のゴーレムも襲ってきたが、どれもこれもフーケのゴーレムの敵ではなかった。 (本隊ならともかく、別働隊に配属されてる連中はラインか、せいぜいトライアングルか。なら、このまま押し切れるね……) フーケは戦況をそう判断した。 ドットやラインクラスはもちろん、トライアングルクラスのメイジであってもフーケのゴーレムを破壊するのは困難だ。 最も簡単な突破口は制御している自分を倒すことであるが、フーケは現在、岩陰に身を隠し、遠くからゴーレムを操っている。 平原といっても人が一人隠れるくらいの場所ならば無数にある。ゴーレムの妨害を避けながらフーケを探すのはそうそうできることではない。空から楽に探すことができる竜騎士は今、リゾットと戦っていていない。 何より、今、アルビオン軍はトリステインとも戦っているのだ。空を舞う謎の味方とフーケのゴーレムの動きでトリステイン側は勢いを増しており、結果としてアルビオンは側面のフーケに対応しづらくなっている。 リゾットとフーケの参戦によって、戦況はこう着状態から徐々にトリステインに傾きつつあった。 (このまま、うまい具合にトリステインが勝てばいいんだけど) そう考えていたフーケの眼前で、ゴーレムが転倒する。土煙が立ち上る中を、ワルドが姿を現した。 「そう、上手くはいかないか。まあ、覚悟はしちゃいたよ」 呟くと、フーケはゴーレムを立ち上がらせ、ワルドに攻撃を仕掛けた。 一度戦ったゴーレムの動きは大体掴んでいるらしく、ワルドは体術とレビテーションを併用し、繰り出される攻撃を全て、寸前で見切って回避している。 踊るようにしてゴーレムの周りを回りながら、時折魔法でゴーレムの腕や足を吹き飛ばす。一度に倒さないのはゴーレムの動きからこちらの位置を割り出そうというのだろう。 フーケもスクウェアとトライアングルの間には一段階でも絶対的な壁があることは了解している。その壁を乗り越えてワルドを倒すには一瞬の機会にかけるしかない。 幸い、まだワルドにフーケの居場所は知られていない。チャンスを作り出す機会は必ず訪れるはずだった。フーケはじっとその機会を待った。 ゴーレムが左の拳を地面に抉りながら振りぬく。もちろん、ワルドはそれを回避したが、それと共に舞い上がった土煙に一瞬、視界を奪われた。 「これで潰れな!」 フーケは岩陰から走り出てワルドに向かうとともに、ゴーレムをワルドに向かって倒れこませた。30メイルの巨体がワルドに向かって殺到する。 ワルドにその巨体が触れる寸前、ゴーレムの体が砕け散った。ワルドが連続で唱えた『エア・ハンマー』が、ゴーレムの体を構成していた土を舞い上げる。 「所詮土くれ……。俺を潰せるとでも思ったか?」 フーケを見据え、冷たく告げるワルドに土が降り注ぐ。もちろん、小さな破片になったそれらではワルドはダメージを与えることはできない。 それでもフーケは呪文を唱える。そう、ここまでは計算通り。そのために姿を現し、走り寄ったのだ。距離を縮め、魔法を届きやすくするために。 ありったけの精神力を注ぎ込んだ『錬金』が完成する。土くれが無数の刃物が変わり、降り注いだ。 ワルドの顔が蒼白になる。無数の刃物が迫ってくるというその光景は奇しくもリゾットの使う『メタリカ』の技に似ていたからだ。 「うおおおお!?」 杖と義手で急所を庇うワルドに、容赦なく刃物は降り注ぐ。そして一本の刃がワルドの胸を貫いた。 時は少し戻って、トリステイン魔法学院、太陽の輝きを受けて光り輝く頭を持つ男がアウストリ広場に駆け込んできた。 「大変だ、ミス・ヴァリエール! 君の言った通り、アルビオンはトリステインに宣戦布告したらしい! タルブの村が攻められているそうだ!」 コルベールの情報に、キュルケが眉根を寄せて考え込む。 「じゃあ、やっぱりダーリンはタルブの村へ行ったのね」 「…………」 「ゲルマニアはトリステインと同盟してることだし、あたしが行っても問題ないわね。タバサ、悪いんだけど、シルフィードを貸してくれない?」 こともなげに言うキュルケに、コルベールは慌てた。 「ちょ、ちょっと待ちたまえ、ミス・ツェルプストー。君は確かにゲルマニア人だが、本学院の生徒だ。勝手に戦場へ行ったりは…」 そこにシルフィードがやってくる。キュルケとともに、タバサもその背に跨る。 「私も行く」 「……いいの?」 「一人じゃ危険だから」 キュルケの問いにタバサが誰にともなく答える。キュルケは感極まったようにありがと、と呟き、俯いた。二人の様子を見ていたコルベールは悲鳴に近い声を出す。 「ミス・タバサまで!?」 「…………」 沈黙したままのルイズに、キュルケは声を掛けた。 「ヴァリエール、貴方はどうするの?」 「…………」 ルイズは放心したように座り込んでいた。リゾットに置いていかれたことがショックらしく、先ほどからずっとこの調子だ。 アルビオンがトリステインに宣戦布告したとリゾットが言っていたことさえ、何度も問い詰めてやっと、ぼそぼそと話したくらいなのだ。 キュルケは一度シルフィードの背から降りると、ルイズの前にかがみこむ。 「ヴァリエール、ショックなのは分かるけど、そろそろ動きなさい。私たちと一緒に行くなら立ってもらわなきゃ困るし、そうでないなら部屋に戻りなさい。ここにいても始まらないわ」 「……………」 ルイズは動かない。キュルケはため息をついた。キッと視線に力を込めてルイズをにらむ。 「いい加減にしなさい!」 キュルケは言うなり、ルイズの頬を張った。それほど強くは打っていないが、ルイズは突然のことにびっくりしたようにキュルケを見る。 コルベールも驚いて二人を見ている。タバサはいつものように無表情だ。 自分に焦点があっていることを確認すると、キュルケはルイズの肩を掴んで揺さぶった。 「ルイズ、何を悲劇のお姫様ぶってるの!? 貴方は誰かが迎えに来てくれるまで待つタイプじゃないでしょう!? 使い魔においていかれたなら、追っていって捕まえればいいじゃない!! そうでないなら、さっさと出て行った使い魔のことなんて忘れなさい! 貴方は誇り高きヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールでしょう!?」 自分のフルネームを大声で呼ばれ、徐々に虚ろだったルイズの瞳に生気が戻ってきた。杖を持って颯爽と立ち上がる。 「そうよ! 私はルイズ! あの馬鹿イカ墨、ご主人様の私を置いていくなんて許せないわ! 捕まえてきつくお仕置きしなくちゃ!」 「ちょ、ちょっと待ちたまえ、ミス・ヴァリエール! まさか……」 「はい、タルブの村まで外出いたします」 ルイズとキュルケはシルフィードの背に飛び乗った。 「三人とも、考え直したまえ! リゾット君だってそうそう馬鹿な真似はすまい。ここは学院で待って……」 コルベールの言葉に、ルイズは不敵に笑みを返した。 「お言葉ですが、ミスタ・コルベール。使い魔とメイジは一心同体。使い魔だけ戦場に行かせるメイジなど、貴族を名乗るに値しません」 「あたしはダーリンが心配だし、ヴァリエールが手柄を立てる機会をツェルプストーがみすみす見逃しては、家名の恥ですもの」 タバサはただ視線で拒絶する。 三人の譲る様子のない態度に、コルベールはため息をついた。 「仕方ない。私も一緒に行きたいが、ガソリンを作るのに精神力を使い果たしてしまったから、一緒に行っても足手まといになるだけだろう。くれぐれも怪我のないようにね」 「ありがとうございます、ミスタ・コルベール」 ルイズのその感謝の言葉を最後に、タバサはシルフィードの合図を送り、空高く舞い上がった。学院を眼下に臨みながら、ルイズがぽつりと呟いた。 「ありがと、キュルケ」 キュルケはそれを聞いて照れくさそうに顔を背け、タバサをせかした。 「お礼はダーリンを連れ戻してから言ってちょうだい。さ、急ぎましょ」 最初の接触から十二分で竜騎士隊を全滅させたリゾットは、その先の巨大戦艦を見すえた。 「相棒、アレが親玉だ。雑魚をいくら落としたって、あいつをやっつけなきゃお話にならねえ。ならねえが……。まあ、無理だぁね」 デルフリンガーがあっさりと告げる。リゾットもその意味を理解していた。 海の上に浮かぶ船なら底に穴を開ければ浸水させることもできるが、空に浮いているのでは多少、風穴を開けたところで影響はない。 だが、それは船にとって重要でない場所の話である。船にとって最重要部を破壊すれば、浮力が働く海上の船と違い、空飛ぶ船は時をおかずに落ちるはずだ。 「デルフ、あの船の風石はどこにある?」 「どこにって……一概には言えねえが、船の後ろよりか、船底近くじゃねえか? 風が吹かせやすいからな」 「狙うならそれか……」 ゼロ戦を加速させる。狙うは動力。人間だろうと船だろうと、それは変わらない。 そのとき、『レキシントン』号の右舷側が光った。一瞬後、無数の小さな鉛球がゼロ戦を襲った。風防が割れる。機体に小さな穴が穿たれ、機体は揺さぶられた。ついに砲撃が始まったのだ。 「散弾だ! 近づくな!」 デルフリンガーの警告に従い、二射目をゼロ戦を降下させて回避する。『レキシントン』には横にも下にも無数の砲台が並んでいた。これでは近づくことすらできない。 視線を下に移すと、『レキシントン』の向こうに展開していたトリステインの軍勢にも砲弾が打ち込まれ、戦線が崩壊しつつあった。 短く舌打ちし、リゾットは『レキシントン』から一時離脱する。 「近づかないことにはどうにもできないな………」 ほぞを噛むリゾットにデルフリンガーが指示を飛ばす。 「相棒、こいつを船の真上に持って行け。砲撃を向けられねえ、唯一の死角がそこにある。近づくなら、そこしかねえ」 「分かった」 リゾットは機体を上昇させた。十分な高度を確保した後、降下をはじめる。 そのとき、ゼロ戦の背後の雲の切れ間から烈風のように一騎の竜騎士が躍り出た。ワルドだった。 胸の奥から湧き上がる恐怖に、ワルドは唇をかみ締めた。逃げ出しそうな自分に空は自分の領域だ、と言い聞かせ、風竜を駆る。 敵の奇妙な竜騎兵を見た瞬間、ワルドの失われた左腕が激しくうずき、その乗り手を直感した。恐怖が襲ってきたが、今こそ恐怖を打ち払う機会だと思い直した。 リゾットの狙いは分からないが、こちらに仕掛けてくる以上、『レキシントン』を狙って、その死角である真上にやってくる。その読みは当たったようだ。 後はこの風竜の速度をもって、あの竜が攻撃できない背後から接近し、魔法でしとめる。 「ガンダールヴ! 俺は貴様を殺して、この恐怖を拭い去ってみせる!」 一声叫ぶと、急降下するゼロ戦との距離をぐんぐんと縮める。その中で気付いた。自分の前を飛ぶのは竜ではなく、ハルケギニアの論理ではない何かで作られた物だと。 『聖地』。その単語に、ワルドの胸に希望がわきあがった。左の義手で手綱を握り、ワルドは呪文を詠唱する。『エア・スピアー』。固めた空気の槍で、串刺しにしてやる。 「相棒! 後ろから来てる! さっき何か策があるって言ってたけど、本当にいけるのか?」 リゾットはデルフリンガーに答えず、コートから袋を取り出した。風防を開け、外に身を乗り出す。 メタリカをゼロ戦に潜行させ、エアロ・スミスを操った要領で制御する。スロットを最小にし、フルフラップ。ゼロ戦が急速に減速した。 後ろから迫るワルドとの距離があっという間に縮まる。 「何やってるんだ、相棒! スピードはともかく理由を言ってくれーーッ!?」 「人体に含まれる鉄分の量は成人男性で大体3500から5000mg。『メタリカ』はその僅かな量から大量の金属を作り出せる。 鉄分以外の何かを金属に変換しているのか、それとも、鉄そのものを増やしているのか、俺にもわからない。だが、とにかく体積以上のものができる…」 リゾットは袋の中身をぶちまけた。中に入っていた大量の砂鉄が宙を舞う。磁力に制御されたそれらは量を増しながら、後方…つまりワルドと、その飛竜を覆い尽くした。 「たかが目くらまし!」 ワルドは一瞬、視界を奪われたものの、耐える。そう、ワルドは耐えられた。だが、その下の風竜はそうはいかない。目と鼻、そして口に大量の砂鉄を入れられた風竜は混乱し、ワルドの制御を離れて暴れまわった。 「く、くそっ!? 落ち着け!」 ワルドも幻獣の名騎手である。僅かな時間で態勢を立て直す。だが、その僅かな時間は、ゼロ戦がワルドの背後に回りこむのに十分だった。 「惜しかったな……、ワルド」 呟くと、リゾットはワルドに七・七ミリ機関砲を撃ち込んだ。肩に、背中に弾丸を受け、ワルドは苦痛に顔を歪め、消え去る。 「遍在か……。本体はどこか別の場所にいるな……」 一匹で墜ちて行く風竜を眺めて呟くと、リゾットは風防を閉め、メタリカを戻した。 「おでれーたぜ、相棒! もう駄目かと思った」 「下らない小細工だが、効果はあっただろう……」 ゼロ戦は再び降下を始める。下方に浮かぶ『レキシントン』の甲板に、二十ミリ機関砲の掃射が降り注いだ。 フーケは荒い息を吐いていた。ありったけの精神力を使い果たした影響で、立つことすらままならず、膝を突く。 辺りには轟音が鳴り響いている。トリステイン軍が砲撃されているのだろう。そちらはリゾットがどうにかすると思うしかない。 そのとき、夕日が陰った。見上げると、ワルドが立ちふさがっている。先ほどの攻撃で倒せなかったのだ。 「このっ!」 フーケは杖を掲げようとするが、ワルドの杖に弾き飛ばされた。至近距離で『エア・ハンマー』を受けて倒され、腹を踏みつけられる。 「危なかった……。この身体は遍在とはいえ、そう何度も死ぬのは気分が悪いからな……」 「そんな、どうして……」 フーケの言葉に、ワルドは自分の胸からフーケの作った刃を抜き、マントの下から真っ二つになったペンダントを取り出した。 「遍在を作り出すとき、身に着けている物も複製される……。母が私を守ってくれたお陰で致命傷にならなかった。だが……」 ワルドの目が狂気に光った。 「泥臭い盗賊の分際でッ! よくもッ! 母の肖像を破壊したなっ!! 蹴り殺してやる、このアバズレがッ!」 ワルドは完全にプッツンしていた。魔法を使わず、フーケの身体に何度も蹴りを入れる。フーケは抵抗することも出来ず、ただ打たれていた。骨がへし折れる音が耳に響く。 (……こりゃ…まずいね……。ちょっと、見栄、張りすぎたかな……。 ごめん、テファ、皆……、帰れそうにない……。リゾット……私は………ここま…で……) フーケが諦めて意識を失う寸前、突然、蹴りがとまった。 不審に思って目を開けると、ワルドは別の方を見ていた。その手には石が握られている。 「貴様ら……平民が何のつもりだ? 失せろ」 ぎこちない動きで首を回すと、シエスタと、フーケが助けたシエスタの弟が立っていた。 「ふ、フーケさんを放してください……」 「お姉さんを放せ!」 シエスタは震えながら、弟は勇ましく、ワルドに告げる。弟は石を持っている。どうやらそれをワルドに投げつけたようだ。 シエスタたちはずっと物陰からフーケを見ていた。危険なので見ているだけのつもりだったのだが、あまりのワルドの暴行に、二人ともいてもたってもいられずに割って入ったのだ。 「ば、馬鹿……早く、逃げな…」 「お前の知り合いか、マチルダ」 「うるさいね……。あの子らは関係ないだろ。さっさと私を殺して部隊に戻りな…」 ワルドを掴もうと手を伸ばそうとして、フーケは金属質の何かが服に入っていることに気がついた。 「放せって言ってんだろ!」 もう一度、石が投げられた。今度もワルドはかわしたが、その表情に怒りが浮かぶ。 「平民の分際で!」 ワルドが杖を掲げ、呪文を唱える。その魔法には二人をまとめて吹き飛ばすには十分な威力があるだろう。 その時、フーケはワルドに気付かれないよう、リゾットから渡されたものをそっと準備した。 ワルドは油断していた。杖を失い、精神力を枯渇させたメイジにできることなどないと。 ワルドは激怒していた。平民が自分に逆らったことに。 結果、ワルドの意識は完全にシエスタたちに向き、フーケの動きに気づいていない。 (悪いけど、利用させてもらうよ、シエスタ。ワルドがあんたたちに魔法を撃った直後なら、私は安全に反撃できるからね……) フーケは自分が生き残るために、最善の解を導いていた。ちらりと最後にシエスタたちに目をやる。 シエスタは弟を抱きかかえ、背中を向けていた。自分の身を盾にして弟を守ろうというのだ。それを見た瞬間、フーケは反射的にそれをワルドに向け、引き金を引いていた。 FNブローニングM1910。DIOの館の兵器庫から見つかった数少ない使用可能な武器の一つが、フーケの手の中で乾いた音を立てる。 ワルドが仰け反った。遍在のためか、血は出なかったが、生きている。そして、ワルドは既にスペルは唱え終わり、シエスタたちに向けるはずだった魔法を、フーケに放った。 風の刃が肩を切り裂くのを感じながら、フーケは引き金を引き続けた。狙いなどついていないも同然の連射だったが、距離が近いこともあり、銃弾はワルドに次々と命中する。 ワルドは撃たれつつも杖を振る。『錬金』によって銃が土に変わる。だが、同時に放たれた銃弾が、ワルドの額を貫き、遍在はその姿を消した。フーケは土くれを投げ捨て、腕をばたりと投げ出す。 肩から血が流れ出ていくのを感じる。腹を蹴られたせいで内臓もずきずきと痛んだ。骨も二、三本折れているだろう。疲労は極限に達しており、気分は最悪だ。 「フーケさん!」 「お姉さん!」 声に首を回すと、向こうからシエスタと、その弟が走って来ていた。それを見て、フーケは最悪の気分の中に一抹の安堵を感じる。 (……はっ……、悪党に成りきれなかった…ね……。まったく……、馬鹿な真似したもんだ………。でも……この感じ……。悪く……な………) そこまで考えて、フーケは意識と、思考を手放す。暗黒に包まれる直前、何かの生物の羽ばたきを聞いた気がした。 『レキシントン』号の甲板は見るも無残な様相を呈していた。マストはへし折れ、床には無数の穴が開いている。 だが、そこまでだった。真上から下への射撃では戦艦その物の攻撃力を奪うには至らず、現に今も『レキシントン』は砲撃を続けている。 「弾切れだな…、どうする、相棒?」 ゼロ戦を急降下、急上昇を繰り返して『レキシントン』号の上を飛び回らせるリゾットに、デルフリンガーが問う。 何度も繰り返しているうちに、こちらの攻撃手段がなくなったことが分かってきたのか、何人かの貴族が出てきて、弾速の早い『風』系統の魔法でゼロ戦を撃墜しようとしてきた。 「乗り込んで風石を破壊する」 「おいおい、無理だぜ、相棒。あの船、確かに長いし、相棒の射撃で平らになってきちゃいるが、こいつが止まるにゃ距離が足りねえよ」 「やってみなければ分からない。何度も上を飛んで、大体どのくらいの角度でなら突入できるかは掴んだ」 平然と言うリゾットに、デルフリンガーはため息をついた。 「いいぜ、相棒。相棒が言うからには少しは成功する目があるんだろ? 付き合って跳ぼうじゃねえか」 リゾットは一度、『レキシントン』から機体を離すと、散弾が届かないギリギリの角度で再度甲板に突入した。スピードを落とし、ふらふらと船尾へと降下する。 甲板のメイジたちは竜が疲れ果てたと理解し、ここぞとばかり呪文を放つ。元々船を制御するためのメイジのため、『風』が多かった。 リゾットはあえてその魔法の風を避けず、ゼロ戦を突っ込ませた。風の魔法が機体を激しく揺さぶり、プロペラが曲がり、翼の装甲板が何枚か吹き飛んだ。一本、リゾット目掛けて飛んできた魔法の矢をデルフリンガーで吸収する。 「やべぇんじゃねえの、相棒!?」 「いや……、これでいい。この風がいい……」 正面から風の魔法を受け、ゼロ戦がダメージを受けるが、同時に急速なブレーキがかかる。落ちるようにしてゼロ戦が船尾にたどり着く。 同時にメタリカをフルパワーで解放し、甲板の木材に含まれる僅かな鉄分とゼロ戦を引き寄せ、僅かでも減速する。 「ダメだ、相棒! ギリギリで足りねえ!」 「『メタリカ』! こいつを止めろ!」 ロォォォドォォォォ…… 鉄分を集めて何本ものフックを作り出し、ゼロ戦につなげる。装甲板がはげれ落ち、フックが引きちぎれる。艦の縁にタイヤがぶつかり、機体に衝撃が走った。 だが、そこまでだった。ほとんど『レキシントン』から乗り出すようにしてゼロ戦は止まった。 「ふーっ、止まった…な!?」 デルフリンガーが息をつく間もなく、リゾットは風防を開けて飛び出した。突っ込んでくるゼロ戦に伏せていた貴族たちに、襲い掛かる。 貴族たちは慌てて立ち上がるが、その頃には最も近い位置にいた貴族は斬り伏せられていた。 慌てて魔法を撃ち出すが、ある魔法はデルフリンガーが吸収され、ある魔法は斬り伏せられた貴族に誤射することになった。魔法が収まったとき、リゾットの姿は掻き消えている。 「お前たちに恨みはないが……、この艦に乗ったのが運の尽きだ…。死んでもらうッ!」 視線をめぐらす貴族たちに、どこからともなく、リゾットの冷たい声が届き、それを聞いた貴族たちは自分の死を予感した。 「…い……ぶで……? だい………ですか? 大丈夫ですか、フーケさん!」 フーケは自分を呼びかける声で目を開けた。どうやら気を失っていたようだ。シエスタとその弟がフーケを覗き込んでいる。 「…わた…どれ……いた?」 上手く口が回らない。だが、シエスタは何を言ってるか理解したようだった。 「ほんの数分です」 シエスタの答えを聞きながら身体を起こそうするが、力が入らず、諦めた。肩に違和感を感じ、見ると、ワルドに斬られた傷が凍っていた。 「これは………」 「お久しぶりね、フーケ。ラ・ロシェール以来?」 声にゆっくり振り向くと、そこにはキュルケ、タバサ、ルイズがいた。後ろにシルフィードも控えている。 「これは、あんたたちがやったの?」 「そ、タバサがね」 「そう…ありがとう」 「止血と、簡単に治癒をかけただけ」 フーケが礼を言うと、いつもどおりタバサが呟く。 ルイズはその様子を面白くなさそうに眺めていた。 「……私は、ほっとけって言ったんだけど……」 「だから、ルイズ、説明したじゃない。フーケはラ・ロシェールでこっちの味方をしてくれたのよ」 「まあ、それは分かったけど……」 ルイズとしては一度殺されかけた相手をそう簡単に気を許すことは出来ない。その気持ちは分かるので、フーケは苦笑した。ゆっくりと言葉をつむぐ 「信じてくれなくても……いい。私にあんたたちと戦う気はない……よ」 平原の方へ視線を移すと、戦いが本格的に始まったせいか、アルビオンの部隊は全て本隊に合流している。とりあえず地上での戦いの役目は果たせたようだ。 「ねえ、フーケ。リゾットはどこにいるの? シエスタから訊いたわ。貴方、リゾットと組んでるんでしょう?」 キュルケの声に視線を戻す。タバサ、キュルケ、ルイズの視線がフーケに集まっていた。 フーケがシエスタに視線を送ると、シエスタが頭を下げた。まあ、目の前で色々あったから気が動転していたのだろう、とフーケは苦笑する。 口がうまく使えないため、視線を空に送る。全員空に目をやり、首をかしげた。 「あ、それなら、私、見ました。あの一番大きな船の上に、竜の羽衣で飛んで行ったようです」 シエスタが補足する。キュルケはそれを聞いて、整った眉を寄せて考え込んだ。 「参ったわね…。ダーリンを助けに行きたいけど……。タバサ、シルフィードであの戦艦に近づける?」 「無理」 タバサは首を振った。シルフィードといえども大砲の射程内に入れば撃墜されてしまうだろう。 全員、打開策が思いつかず、考え込んでしまう。砲撃音と、兵の喚声だけが辺りに響く。アンリエッタもあそこにいるのだ、と思うとルイズは訳もなく焦燥感に駆られた。 ポケットの中から水のルビーを取り出して嵌め、始祖の祈祷書を開く。 何もできないなら、せめて始祖にアンリエッタと、リゾットの無事を祈ろうと思ったのだ。それに、白紙のページでも見ていれば、何か思いつくかもしれない。 そんな他意のない気持ちで開いた途端、始祖の祈祷書と、ルイズのはめた水のルビーは輝きを放ち始めた。 「敵竜騎兵、本艦の直上に出現! 謎の手段により、攻撃を受けています!」 「敵竜騎兵の速度は尋常ではありません。いかなる魔法も追いつきません!」 「艦長! 敵竜騎兵が本艦に着艦! 騎兵は行方が知れません!」 『レキシントン』艦長、ボーウッドは次々と入ってくる伝令を聞いていた。 「落ち着け。敵はただの一人。『レキシントン』も他の艦も未だ健在。左砲戦を継続し、他の砲の人員を捜索にまわしてくれ。 発見次第、呼子を使って他の人員を呼び、数で敵を押し包むのだ。魔法を使えぬ者には銃の所持を許可する」 落ち着き払って言ったものの、歴戦の軍人であるボーウッドも内心、驚いていた。一騎で二十騎の竜騎士を撃墜し、スクウェアメイジのワルドまで倒してのけた。 個人としてはボーウッドの知る限りでは最大の戦果だ。だが、あくまで個人として、である。仮に侵入者がこの艦を落とそうと、砲撃そのものは止まらない。 全ての艦を落とせるとして、一人では落としきる前にトリステインの兵は全滅していることだろう。 ボーウッドは軍人である。軍人として、自分自身の命をも駒のように考えることが出来た。自分たちがどうなろうと、アルビオンの勝利は動かない。それが間違いないことは、ボーウッドには明白だった。 そこに扉が開き、ワルドが入ってきた。 「子爵、無事だったのかね? さきほど、敵竜騎兵に撃墜されたと報告が入ったが」 今まで戦場でやられたのは全て遍在なのだから本体が無事なのは当然だが、それを一々説明することはせず、ワルドが言葉を続ける。 「ご心配なく。それより、侵入者の件ですが、私に案があります。兵を何人かお貸しください。できれば、艦長にもご一緒していただきたいのですが」 「ほぅ………聞かせてもらおう」 ワルドの提案に、ボーウッドは興味深そうに耳を傾けた。 「いたか?」 「いえ、いません。そっちはどうでしたか?」 「こちらもダメだ」 「よく探せ、黒い服を着た男らしい」 口々に言い交わしながら、艦内の廊下を慌しく何人もの人間が駆け抜けていく。彼らの手には杖が、あるいは銃が握られている。 彼らがいなくなった後、リゾットは再び動き出す。別段、物陰にいたわけでもないリゾットがなぜ発見されないかといえば、彼のスタンド『メタリカ』の力によるものである。 磁力を操作し、その磁力で金属を操るメタリカはその応用で、鉄粉を体の表面に付着させ、身体に周囲の背景を描くことで透明になることができる。 以前、ワルドと戦ったときは念を入れて『サイレント』を使用したが、リゾットは元々音や気配を絶つ技術に長けている。彼が本気で気配や音を絶てば、ほとんど感知されないのだ。 だが、いくら自分の身体を透明にしたとしても、物を動かせば気付かれる。 だからリゾットは人がいなくなるのを待ってから、手近の扉を僅かに開き、中を覗き込んで確認する。 そこは倉庫のようだった。目的の場所とは違うが、リゾットは中に身を滑り込ませた。 「相棒、どしたい? 風石があるのはこの部屋じゃねーぜ」 中に誰もいないことを確認すると、デルフリンガーが囁きに近い小声で話しかけてきた。 リゾットは倉庫の品を一つ一つ改める。 「……火薬はないな」 「ああ、弾薬とか火薬は別に管理されるんじゃねーかな。多分、今は砲撃の真っ最中だし、その辺りには人がたくさんいると思うぜ」 「そうか……。まあ、それはいい……」 リゾットはメタリカを発動し、鉄分を集め始めた。 ルイズは光る祈祷書のページに文字が浮かび上がっているのを見つけた。 古代ルーン文字だったが、ルイズは魔法が出来ない分、知識は人一倍蓄えてきたので、それを読むことが出来た。 ルイズは食い入るようにその文字を追った。キュルケやタバサ、フーケやシエスタの視線も気にならない。 「序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。 四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。 これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。 たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ」 「ねえ、ルイズ。その本、光ってるけど、どうしたの? 何か書いてあるの?」 キュルケの声に、ルイズは顔を上げた。祈祷書を広げて見せる。 「この文字、見えないの?」 「文字? その本、白紙じゃない」 怪訝そうなキュルケに、ルイズは水のルビーをキュルケに渡した。途端に始祖の祈祷書とルビーから光が消える。 「それ、嵌めてみて」 「プレゼント? 何よ、今はそれどころじゃ……」 「違うわ。いいから嵌めて」 ルイズの剣幕に押され、渋々とキュルケは指輪を嵌めた。再び始祖の祈祷書を広げ、キュルケにみせる。 「何か見える?」 「いえ? 白紙に見えるけど……」 「そう、ありがとう。指輪、返して」 怪訝さを通り越して心配そうな顔でルイズを見るキュルケを無視して、ルイズは再び水のルビーを指に嵌め、祈祷書に視線を落とした。 信じられないことだが、自分はこの祈祷書の『読み手』として認定されているらしい。 書には続いて「初歩の初歩の初歩」と題して『爆発(エクスプロージョン)』という魔法の呪文が記してあった。 ルイズは『爆発』という単語から、自分が魔法を唱えると爆発していたことを連想した。あれは……ある意味、ここに書かれた『虚無』なのではないだろうか? 思えば、モノが爆発する理由を、誰もいえなかった。いつかワルドが言っていたことを思い出す。通常、魔法は失敗しても何も起きない。あの現象はルイズにだけ起きていたのだ。 すると自分は読み手で、虚無の魔法が扱えるということになる。だったら試してみる価値はあるかもしれない。 「タバサ、シルフィードで私をあの巨大戦艦のなるべく近くまで連れて行って」 「ルイズ、いきなりどうしたの? 何か思いついたの?」 キュルケのもっともな質問に、ルイズは呆然としたように答える。 「いや……、信じられないんだけど……、うまく言えないけど、私、選ばれちゃったかもしれない。いや、なんかの間違いかもしれないけど」 「何のこと?」 「あの戦艦をやっつける方法があるかもしれないのよ。何もしないより、試してみた方がましでしょ? とりあえずやってみるわ。やってみましょう」 ルイズがぶつぶつと独り言のように呟くのをみて、そこにいた全員は唖然とした。気が狂ったようにしか見えないからだ。 「ルイズ、大丈夫? 落ち着いて」 「み、ミス・ヴァリエール。とりあえず深呼吸して下さい」 「大丈夫、私は冷静。……お願い、タバサ。危険がない所まででもいいから、あの戦艦の近くに私を連れて行って」 タバサは困ったような顔でルイズを見つめた。だが、確かにここでぼーっとしていても何の事態の解決にもならない。ルイズが何か試したいというなら、それをやらせてみるのもいいだろう。 祈祷書を食い入るように見つめるルイズと困惑気味のキュルケとタバサを乗せ、シルフィードは空へ飛び上がった。 一方、艦内を探索していたリゾットは、遂に風石が安置されている動力室といえる部屋を探り当てた。 (グレイトフル・デッドならこの船一つくらい、すぐに制圧できるんだろうが……) 扉の前に立って感覚を集中する。中に人のいる気配がした。 (戦いは避けられないな……。無力化させた後、なるべく早く風石を破壊して逃げるか……) リゾットは扉を開け、中へ飛び込む。まず目に飛び込んできたのは銃口だった。 「ようこそ、『レキシントン』号へ。艦長ともども、歓迎するよ」 ワルドの声とともに、青白い雲が現れ、リゾットの頭を包む。 「ヤバイ、『スリープクラウド』だ!」 デルフリンガーが叫ぶが、既に遅く、強烈な眠気がリゾットを襲う。リゾットはそれに耐えたが、眠気によって一瞬、隙ができる。それこそが敵の狙いだった。 銃口が火を吹き、杖が振られ、眠気から脱出したばかりのリゾットに銃弾と魔法が殺到した。 デルフリンガーが魔法を吸収し、銃弾が剣に当たったのか、金属音が響く。だが、残り銃弾は右肩に二発、左腿に一発、胴体に二発と確実にリゾットを貫いた。体が跳ね、血飛沫が舞い、リゾットは仰向けに倒れる。メタリカが解除され、リゾットの姿が現れた。 「勝った…」 感慨深げにワルドが呟く。ついに自分の人生に現れた障害の一つを取り除いたと思うと、歌でも一つ歌いたいようないい気分になる。思わず笑みが漏れた。 「子爵、君の言うとおりの結果になったな」 ボーウッドの言葉に深々と頷く。ワルドはリゾットが艦内の人間を皆殺しにするにしろ、船の動力を破壊するにしろ、確実にここまで来ると読み、ボーウッドとともに待ち伏せていたのだ。 そして魔法を吸収するデルフリンガーの能力を鑑み、銃兵を六人配置した。あとは自分と二人の遍在、水のトライアングルメイジであるボーウッドがいれば事足りる。 「……今度は私の読み勝ちだったな、ガンダールヴ」 銃兵の一人が銃を突きつけながら倒れたリゾットに近づいていく。リゾットは目を閉じ、ぴくりとも動かない。 銃兵は生死の確認のため、脈を探ろうと手を伸ばす。その手がつかまれたと思うと、銃兵は腹部に強烈な一撃を受けて昏倒した。 リゾットが跳ね起きると、同時にその場の銃兵たちの銃はもぎ取られ、リゾットの足元に転がった。ワルドはボーウッドとともに、すぐさま射程距離の外に逃れる。 「生きていたか、ガンダールヴ! 確かに仕留めたと思ったが……」 「…………銃弾対策はしていたからな……」 驚くワルドを感情のない目で見据える。その足元に鉄粉がまとわりついた鉄の板が落ちた。 「なるほど、どうやったか分からんが、その板を身体に仕込んでいたわけか。だが、全て防げたわけではないようだな……」 ワルドの言葉どおり、リゾットの右腕はあがらないようだった。いつもは両手で構えるデルフリンガーも左腕一本で構えている。よく見ると、左足も動きが鈍いようだった。 「そんな状態で私の遍在二人に勝てるかな?」 ワルドの遍在が『エア・ニードル』を唱え、前に出る。本体は決してリゾットに近づきすぎないよう、距離をとった。 「艦長、私が決着をつけますので、ご心配なきよう。銃兵諸君も下がりたまえ」 「そうか。子爵、後は任せた」 「相棒、こいつぁ不利だね。勝ち目はあるか?」 デルフリンガーが焦ったような声を出すが、リゾットは無言で剣を構えるだけだった。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ ルイズは、シルフィードが上昇していく間、ずっと祈祷書のルーン文字を読み上げていた。それはキュルケはもちろん、博識なタバサですら聞いたこともない詠唱だった。 その不思議なルーンの詠唱がルイズの中にリズムを作り出していく。懐かしいようなそのリズムに、ルイズの神経は研ぎ澄まされていった。世界に自分と祈祷書以外の何物も存在しないかのような感覚だった。 それとともに体の中から何かが生まれ、行き先を求めてそれが回転するような感じがルイズに生まれる。生まれて初めて、自らの系統を唱える感覚に、ルイズは高揚とともに疑問を覚えていた。 いつもゼロと蔑まれていた自分の、本当の姿がこれなのだろうか? オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ 長い詠唱にも緩急が存在する。タバサはルイズの詠唱がクライマックスに近づきつつあるのを感じた。 「行って」 シルフィードに全速を出させ、『レキシントン』へとできるだけ接近する。大砲を避けて上昇するうちに、自然、その高度はあがり、『レキシントン』を見下ろす角度になった。 「タバサ、あれを見て」 キュルケが杖で指し示す方向を見ると、『レキシントン』の甲板に竜の羽衣が引っかかっていた。 ルイズもそれを見つけ、一瞬、心に迷いが生まれる。今から唱えるこの魔法の威力がどんなものであるか、ルイズ自身にも分からないからだ。 だが、体の中に生まれた波は、既に行き先を求めて暴れだしている。ルイズはともかく詠唱を続けた。 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…… 長い詠唱ののち、呪文が完成する。その瞬間、ルイズは己の魔法の威力と性質を理解した。 自分の魔法は眼下に広がる全てを巻き込み、消滅させることができる。 だが、選択もすることもできる。殺すか、殺さないか、破壊するか、破壊しないか。 ルイズは選んだ。そして、眼下に広がる『レキシントン』を始めとするアルビオン艦隊に向け、杖を振り下ろした。衝動が解放され、夕暮れ時にもう一つの太陽が昇った。 リゾットは追い詰められていた。腕一本と怪我した足では、白兵戦で二人のワルド相手に勝てる道理はない。 頼みの綱のスタンドだが、磁力による直接攻撃は遍在相手には通じにくく、周囲から刃物を生成する攻撃は常に張られた風の魔法で防御された。 本体を攻撃しようとめまぐるしく立ち回るものの、二人の遍在は決して本体に近づかせようとしない。逆に徐々に傷を負わされていった。 今やリゾットの足元には巨大な血溜まりができている。 「殺されるのが先か、失血で死ぬのが先か……。ガンダールヴ、お前はどちらが先だと思う?」 酷薄な笑みを浮かべながら二人のワルドが切り込んでくる。リゾットは一人の杖を受けたものの、その動作で隙が出来た。 「そこだ!」 残ったワルドの遍在が、リゾットのわき腹に杖をつきたてる。だが、リゾットはそれに構わず、二人の遍在をまとめて切り捨てようと大振りにデルフリンガーを振った。 当然、そんな大振りが通じるわけも無く、二人の遍在は軽く引いて避けようとして……足を取られ、首をはね飛ばされた。 「…………メタ……リ…カ………」 消え行く二人のワルドの足元には金属で出来た枷が嵌められていた。リゾットが自分自身の血で作り出したものだ。風の魔法で防御できるのはあくまで飛来するものであって、手のように絡みつくものには効果が無かった。 「後は………お前……だ。……本体」 静かに宣言するリゾットに、ワルドは舌打ちした。 「往生際の悪い奴だ。いや、流石はガンダールヴというところか。お前の能力はまだ俺には理解しきれない。とりあえず射程距離があるようだが……だが、もうそんなことは関係ないな。その有様では反撃どころか歩くことすらできまい」 リゾットの身体の各所は切り刻まれ、今また、深手を負った。メタリカが傷を塞ぐとはいえ、傷そのものが消えるわけではない。現に、リゾットはかろうじて立っているもの、ふらふらと左右に揺れている。 ワルドが魔法を唱え始める。『ライトニング・クラウド』。文字通り電光の速さで迫る魔法を回避する速度も、受けるだけの体力も、今のリゾットにはない。リゾットはそれでも諦めず、剣を構える。 絶体絶命のその瞬間、辺りが輝きに包まれた。 「な、何だ、これは?」 突然の出来事に今まで傍観していたボーウッドが声を上げる。ワルドもリゾットも何が起きたかのか分からない。 光に包まれても、人間には何も影響はない。だが、風石は違った。その光に触れた瞬間、消滅していく。 光の中、デルフリンガーの叫びが響く。 「おでれーた! こりゃ、『虚無』だ! 『虚無』の光だ! 誰かが『虚無』に覚醒しやがった!」 その言葉を最後に、辺りは光に塗りつぶされた。 ワルドは目を開けた。目もくらむような閃光が晴れると、艦内のそこかしこが燃え盛っていた。風石があった位置に目をやると、やはり消えていた。 幻ではなかったのだと思いつつ、周囲を確認する。ボーウッドや兵たちは無事だったが、目をやられている。そして仇敵のリゾットもまた、倒れてはいるが、生きているようだった。 「ガンダールヴ、今、留めをさしてやろう」 燃え盛る炎の中をリゾットに近づいていくが、突如、リゾットは跳ね起きた。身構えるワルドを無視し、リゾットは俊敏な動きで船室から走り去った。 追跡が脳裏をよぎったが、今はそれよりもこの艦から脱出することを考えるべきだと判断し、断念した。リゾットを殺してもトリステインに捕縛されては『聖地』にたどり着けなくなってしまう。 「いずれ決着をつけるぞ、ガンダールヴ……」 ワルドはボーウッドたちを置き去りにして船室を出て行った。 一方、リゾットは混乱する船内を抜け、甲板のゼロ戦の操縦席に座ったところで、ぐったりとした。 「デルフ……、今のは……お前か?」 リゾットが息苦しそうに紡いだ言葉に、デルフリンガーがカタカタとゆれた。 「ああ。“使い手”を動かすなんざ、数千年ぶりだからな。上手く出来るかどうか不安だったが、何とかうまく行ったぜ」 「まるで……内側から別の力を加えられているようだった」 「吸い込んだ魔法の分だけ身体を動かせるからな。だけど、これ、本当はやりたくねえんだよ。とにかく疲れるからな。あーしんど」 言葉とは裏腹に、いつも通りの軽い口調でデルフリンガーは答えた。 「さ、相棒、さっさとこんな船からはずらかろうぜ……と、言いたいが……」 「ああ、無理だな。ここから飛び立つには距離が足らないし、機体の損傷が激しい」 「どうやって脱出するつもりだったんだね?」 「船内のメイジの一人でも脅して脱出するつもりだったが……、この身体では……厳しいな。内臓はメタリカを使って避けたが、血を流しすぎた。少しずつ、メタリカで鉄分を増やして補っているが……意識がなくなりそうだ」 「仕方ない。じゃ、後は運を天に任せるか? うまくすりゃあ、この船も不時着できるだろうよ。それまで殺されなけりゃ、トリステインが保護してくれらあ」 「そうだな……」 しばし、二人は無言になった。リゾットの息遣いと、炎が燃える音だけが辺りに響く。沈黙を破ったのはデルフリンガーだ。 「相棒、さっきの光の話なんだが……」 「『虚無』といってたな。あの伝説の系統、『虚無』か?」 「ああ、それだよ。あれは『虚無』の魔法の初歩だ。で、それの使い手なんだが………」 そこまで言った所で、二人の耳に聞きなれた竜の羽ばたきが届いた。同時にゼロ戦が浮き上がる。 「お待たせ、ダーリン」 「キュルケ、それにタバサか」 シルフィードの背中からキュルケとタバサが二人係りでレビテーションをかけていた。浮き上がったゼロ戦の両翼をシルフィードが掴み、牽引しながら飛ぶ。 一旦、タバサはゼロ戦へのレビテーションを解除し、リゾットにレビテーションをかける。シルフィードの上に運ばれた血まみれのリゾットをみて、キュルケが悲鳴に近い声を上げた。タバサも眉をひそめる。 「ちょっとダーリン、大丈夫!?」 「手当てが必要。竜の羽衣を下ろしたら、学院に急ぐ」 「……俺を助けに来たのか?」 「ええ、ダーリンが一人で行ったって聞いてね。私たちを置いていくなんて酷いわ」 「………俺が一人でやったことだからな……。とはいえ……、助かった。感謝する」 そこでリゾットはシルフィードの上の最後の人物に気がついた。ルイズだ。疲れた表情をしていたが、それを上回る怒気を発している。 「ルイズか……」 リゾットの言葉が終わるのを待たず、ルイズはリゾットの頬をつねり上げた。ルイズの姉、エレオノールから身をもって伝授された技である。 「ねえ、イカ墨。『ルイズか』じゃないでしょう?」 そのままぐいぐいと横に引っ張る。地味に痛いが、この場合、文句をいう権利はルイズにあるので黙ってされるがままになる。 「ルイズ、その話は後でも……」 「黙ってて! 私は今、こいつと話をつけておきたいの」 「はい」 キュルケの抗議はルイズの怒気を含んだ声に封殺された。 「イカ墨、あんたは私の何?」 「使い魔だ」 ルイズのリゾットの頬を抓る手に力がこもった。 「そう、使い魔よね。なのに、あんた、何? 私を置いて、戦場に勝手に行ったわよね? それ、使い魔としてどうなの?」 「…………」 「多少の勝手は私だって大目に見るわ。あんたが自分のお金でキュルケと事業を起こすのも許可してあげたし、フーケを知らない間に味方につけてたことも、ちょっと腹は立つけど、この際だから許してあげる。改心させたみたいだしね。でも……」 ルイズはここで一呼吸置いた。 「ご主人様を蔑ろにするような真似は許さないわ。前に言ったわね? 『私が貴方のご主人様だってことを忘れなければ、それでいい』って。その一番大事なところを忘れるってどういうことなの?」 「俺の個人的な行動にお前を巻き込みたくは……」 ルイズの抓りが最大になった。 「それが蔑ろにしてるっていうのよ! 何? あんたまで、私のこと、無能な足手まといだとでも思ってるわけ? そりゃあ、あんたは強いわよ! 伝説のガンダールヴで、スタンド使いなのかもしれないわ! でもね! 一人で何でもかんでもできるわけないじゃない! 人間なんだから! 大体!」 ルイズの語気と、手の力が急に弱くなる。俯いてぼそぼそと呟く。 「大体……置いていかれるのだって辛いんだから…………その辺のこと、考えなさいよ……。ご主人様に心配かけないで……」 「ルイズ…………」 リゾットはそれだけ言って黙り込む。なんとなく気まずい沈黙がシルフィードの上に降りた。 と、タバサが立ち上がり、黙り込む二人の頭に、杖の先を軽く当てた。まずリゾットに、そしてルイズに。 「……何だ?」 「何よ?」 タバサはリゾットを指差す。 「反省が必要」 ついでルイズを指差した。 「怪我人に無理させない」 そしてこう、最後に付け足し、再びゼロ戦にレビテーションをかけた。 「両成敗」 しばらくして、リゾットが口を開いた。 「………確かにな。ルイズ、すまない。今回は俺が全面的に悪かった」 「うん……。私の方も今いうことじゃなかったかも……」 ルイズもそれだけ呟いた。やれやれ、といった調子でデルフリンガーがため息をつく。 「まあ、ともかく、これでこっちは一件落着じゃねーの? あっちもそろそろ終わるぜ。ほれ、後ろの地上、みなよ」 全員がそちらに目をやると、アルビオンの艦隊が燃え上がりつつも地上に不時着し、それによって士気の低下したアルビオン軍に、トリステイン軍が突撃を敢行したところだった。 トリステイン軍の勢いは数で勝る敵軍を逆に押しつぶさんばかりだ。 「勝ったわね……」 ルイズは安心したように言った。 勝ち戦となった戦場を見るリゾットの脳裏にあの光がよぎる。 「あの艦隊をつぶした光……あれは?」 キュルケとタバサはルイズに視線を投げかける。ルイズは気が抜けたのか、ぼんやりと答えた。 「説明は後でさせて。色々あって、疲れたわ」 「………そうか…………。そうだな。俺も色々と後でお前たちに言うことがある」 リゾットは、自分のスタンドの秘密を話してもいいかもしれない、という気分になり始めていた。 そしてリゾットの耳に、歓声が聞こえてくる。 タルブの村の人々が手を振り、喜びと感謝の声を上げ、地上に降りるシルフィードを出迎えていた。シエスタとフーケもいる。 (とりあえず、彼らを守ることはできたな) 暗殺者がほとんど知らないような他人を守る、というのは奇妙な感覚だった。 (まあ、深く考えるの後でもいいだろう……。今は……血が足りないしな……) そう最後に結論して、リゾットは目を閉じた。
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ザー ザー 逃走の足跡を消すように雨が降っている。 土塊の二つ名をもつ女魔術師は内心、ほくそ笑んでいた。 こんなにうまくいくなんて―― しかし突然振ってきた声に、心臓が凍り付く 「スイませェん・・・ミス・ロングビル、どこに行くんですか?」 振り向きざま、声のした方に魔法で岩を飛ばす、だが簡単によけられる。 宙に人間が浮いている。 レビテーション、と思いこの奇妙な男が先日召還された使い魔であること、そして魔術師だった事に驚く。この使い魔のマスターは魔法が使えないからだ。 「何持ってるんです?それですよ。その胸に抱えた『包み』・・・!?」 攻撃されたことが何でもないように聞く。 その態度がしゃくに障った。この使い魔をミンチにしてやろうと思った。 「あら?そんなことわかっているんじゃなくてッ!」 そういいながら大きく杖を振る、すると地響きとともに巨岩がせりあがってくる。 一気に距離をとる使い魔に対して杖を向ける。巨大な、人の手を模した岩石の固まりが使い魔にせまる。 が、信じられないことが起きた。 強固な岩石群でできたゴーレムの腕がボロボロと崩れたのだ。すぐにもう片方の腕も振るが同じように崩れ落ちる。 何が起きたのかわからなかった。頭が変になりそうだった。風の魔術だとか水の魔術だとかそんなチャチなものではなかった。 呆然とする女魔術師に向かって急降下してくる、そして顔を突き合わせる。 「大したものだが随分バカな事をしたものだ・・・ミス・ロングビル・・・ わたしの『面』がみえますか?」 女魔術師はこの使い魔に初めて恐ろしさのような、得体の知れない何かを感じた。 ただただ驚く事しか出来ない女魔術師にもう一度、焦れたように低い声で尋ねる。 「見えるか?この『面』が?」 何を言っているかわからず、何も言えないでいる女魔術師の沈黙をNOと捉えた使い魔は『包み』を奪い再び上昇して行く。 「どうやらおまえは違うようだ・・・あの方の元へはまだ・・・残念だ・・・」 女魔術師はへ?と間の抜けた声を出す。その様子に憐れみの目を向けながら、使い魔は続ける。 「お前の進退は学園側から通達されるだろう。後の『処理』は学園長が決定する」 女魔術師はいつものとぼけたフリをした老魔術師の顔を思い出す。あの老人を身近で見てきた自分にはわかる。 我が身に降り掛かるであろう陵辱と惨劇を想像し、絶望の声をあげた。 「あ あああっ・・・うあああああああああ」 「土塊」のフーケ 行方不明
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半壊になった教室をルイズは一人で掃除していた。 姿をくらました使い魔をどう叱ろうか授業中ぼんやり考えていたら 教師に目を付けられ、錬金の魔法を前に出て実践することになったのだ。 結果を一言で表すなら、惨劇が起きた。自分で言うのもなんだが日々破壊力に磨きがかかっている気がする。 実はキュルケが掃除を手伝おうかと言ってきたのだが断っておいた。 どうせ裏があるに違いないと思ったからなのだが よく考えたらキュルケは、ルイズに使い魔がいないのは自分のせいだといまだに思っているようなのだ。 そう考えると無下に断ったのは逆に悪かったかもしれない。実際はルイズの使い魔はピンピンしているのだから。 まぁもう少し黙っとこう。そのほうがおもしろい。 そう、それよりも問題はブラック・サバスのほうだ。 もし他の生徒が同じ事を言いつけられたら、使い魔にでも手伝ってもらうのだろうが ブラック・サバスは朝ルイズの下着入りの洗濯カゴを持って(というか食べて)どこかへ消えてしまった。 まさか本当に洗濯に行ったとは思えない。もし本当に洗濯してたらはしばみ草でもアバ茶でも食べてやる。 (帰ってきたらエサ抜きね!) そんなことを考えながら机の破片を拾い集める。 いや、でもあれ何食べるんだろう。まさか下着を口の中に入れたのは本当に食べるために… (もしそんなことしてみなさいよ…エサ一週間抜きにしてやるんだから!) いや、でもあれ何食べるんだろう。 ルイズはポケットから『箱』を取り出す。 壁の一部が無くなり、日の光がいつもよりずっと多く入る教室には影になる部分も多い。 それを確認すると『再点火』してみる。 だが使い魔は現れなかった。 呼ぶためには他の条件がいるのか、はたまたもう呼ぶことさえできない遥か遠くに行ってしまったのか。 ルイズは嘆息で火を消すと、どこで何をやっているのか分からない使い魔のことは一旦諦め、掃除を再開した。 学院の中庭にあるベンチにキュルケは一人で座っていた。 雲ひとつ無い空を眺め、ひとつ嘆息。 それは自分の美貌の為にはよくないことだし、自分のキャラじゃないとは思っているのだが、つい出てしまう。 自分の格好のおもちゃであるゼロのルイズ。それに大きな貸しを作ってしまった。 ツェルプストー家とヴァリエール家の伝統とも言える因縁も含めて、キュルケはルイズをある意味特別視していた。 ルイズとは会えば口げんかするし、しょっちゅうからかってはおちょくる犬猿の仲。 だけど本当に馬鹿にしたことは決してなかった。 特にルイズの日頃の努力を最も知っている自分にそんなことはできない。 だからサモン・サーヴァントへ向けて気合を高めるルイズを心の中では応援してたし 最初ルイズが箱を召喚した時は、またおちょくるネタができたとニヤニヤしつつも とりあえず成功させたことにほっとしていた。 ルイズだってうれしかったはずだ。何度も何度も失敗してとうとう現れた使い魔。 だがそれがあっさり死んでしまった。いや、殺されてしまったのだ…。 気配を感じて視線を空から前方に移す。 ああダメだ。あまりにも悩みすぎて幻覚を見ているようだ。 昨日自分が殺したルイズの使い魔が、キュルケの使い魔のフレイムの尻尾を握ってこっちを見ていたのだ。 (幽……霊?こういうのはあの子のポジションでしょ) 一瞬、無表情な青い髪の親友の姿を思い浮かべる。 そこでキュルケの意識は途絶える。 学院の中にある図書館でタバサは一人本の世界に入り込んでいる……はずだった。 タバサは嘆息する。本当に小さく、本で隠すように。 ここは図書館で自分以外誰もいない。司書の先生すら用事で抜けているようだ。 いつもこの時間帯はこんなものだ。 なのにさっきからずっとこっちに向かって声をかけてくる存在がいる。 基本的にタバサは読書に没頭しはじめると、周りのことなど眼中になくなる。 だが、さすがに同じ事を30分間近く話しかけられ続けると、いいかげんうっとおしくなる。そこで。 「チャンスをや…………」 タバサは本から目をそらさず、手だけ動かし前にいる存在にサイレンスの魔法をかけ音を消した。 一時間後、本を読み終えたときにはすでに声の主も消えていた。 シエスタには嘆息をするような余裕はなかった。今は夕食の準備の真っ最中。 厨房は戦場と化していた。自分の仕事をテキパキとこなしていかないと間に合わなくなる。 (あ、お皿用意しなくちゃ) 頭をクルクルと回転させ、やるべきことを次々とこなしていく。 これは普段のシエスタの仕事ではないのだが、今日は他の使用人に病欠が多いため回ってきたのだ。 なんでも真昼間から幽霊と遭遇して、気分を悪くし寝込んでいるらしい。 マルトーさんは何を馬鹿げたことをと笑っていたが。 (幽霊……そういえば結局朝の使い魔はなんだったんだろう) 作業する手を休めず、朝の出来事を回想する。 唐突に現れた使い魔は、唐突に消えた。なぜかシエスタの洗濯物といっしょに。 使い魔も主人の……確かミス・ヴァリエール……の洗濯に来ていたようだったから 間違えていっしょに持って帰ってしまったのかもしれないが…… できれば返してもらいたかったのだが、あまりあの使い魔にもその主人にも関わりたくないというのが本音だった。 あの使い魔の不気味さは言わずもがなだし、その主人であるミス・ヴァリエールの噂も知っていたからだ。 つまり『ゼロ』のルイズは魔法が使えないくせに、やたらプライドは高いと。 「お前にチャンスをやろう」 後ろから声が聞こえヒッと悲鳴をあげてしまう。あわてて後ろを振り向く。 そこには黒い帽子に黒いマント、人間とはとうてい思えない顔と体、そしてその右手にはなぜかエプロン。 今度は見詰め合うこと数十秒。 「あ、あの…お返しに来てくださったんですか?」 使い魔はシエスタの問いに、エプロンを持つ手を差し出すことで答えた。 「あ、えと、わざわざありがとうございます」 「…………」 「ちゃんと乾いてる。干してくださったんですね」 「…………」 「あ、あの。本当にわざわざお越しいただいたのにスイマセン。今から夕食の準備に取り掛からないといけないんです。本当にありがとうございました」 やっぱKOEEEEEEEEEEEEE。思わず下唇を歯でかみそうになりながら、逃げるようにシエスタは食器棚に向かった。 皿を何枚も重ねて、お盆に乗せる。 一枚、一枚は大した事なくても、生徒の数だけそろえると相当の重さとなった。 両手に力を入れ、よいしょっと持ち上げる。なんとか持てそうだ。 しかしそこで使い魔が道を塞ぐように立っていることに気づく。 「あ、あの……」 不安になりながら尋ねる。すると使い魔は無言でシエスタに両手を差し出したのだ。 (これは手伝ってくれるって事?) 使い魔の差し出された両手の位置からは「お盆を持ちますよ」という意味にしか取れない。 「あの大丈夫です。これは私の仕事ですから」 やんわり断るが使い魔は全く反応しない。きっとお盆を渡すまでその場からテコでも動かないだろう。そんな『凄み』を感じる。 「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。向こうの机まで運んで下さいませんか」 そう言うと使い魔はお盆を掴もうとさらに手を伸ばしてきた。 二人の手が触れ合う。予想と違って普通の人間と同じような温かさをその奇妙な手から感じる。 「じゃあ、あの、手を離しますよ?ちゃんと持ってくださいね?」 シエスタは何度か使い魔に確認し、手を離した。 そして使い魔の手に渡ったお盆は、そのまま下へ落下していく。 「どらあ!」 それに即座に反応したシエスタは気合の叫びとともにお盆を空中でキャッチする! 「つつつつつつ使い魔さん!ちゃんと持って下さいっていったじゃないですか!」 半腰に皿の乗ったお盆を両手で抱えるという、かなり無理のある体制のため 足をプルプル震わせながら、上目遣いで使い魔に非難の声を上げる。 「つかんだ!」 使い魔はそれだけ言うと、再びお盆に手を掛けて持ち上げようとするが…全く持ち上がらなかった。 思わず貧弱、貧弱ゥ!と叫びたくなる。どうやらこの使い魔はシエスタより力が弱いらしい。 (やれやれだわ…………) シエスタは思わず心の中で嘆息した。 To Be Continued 。。。。?
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入り口にあった松明に火をつけ、タバサたちは鍾乳洞の中を進む。 先導していたミノタウロスが部屋のように開けた場所で立ち止まる。 そこには机、椅子、炭などの生活用品だけではなく、 秘薬のつめられた瓶や袋、マンドラゴラの苗床や奇妙な道具などが整理されておかれていた。 棚には奇妙な人形や仮面、鉱石、そしていくつか本が並んでいる。 「粗末な物しかないが、座りたまえ」 腰掛けたタバサが男に問いかける。 「あなた、何者?」 「ラルカスという。元は、いや今もだが貴族だ、十年前にミノタウロスを倒した」 「その格好は?」 「ああ、気になるだろうな…端的に言えば、禁忌である脳移植を行なったのさ、 人間の体、そして不治の病と引き換えにこの恐ろしいほどの生命力を持つミノタウロスの体を手に入れた」 「それで、魔法が使えるし、言葉も通じるのね!」 シルフィードがワムウの後ろから口をはさむ。 「その通りだ、しかし魔法が使える、といっても人間のときとは比べ物にならないね。 人間のときもかなりの腕の水と火のメイジだと自負していたが、今やスクウェア以上の腕はあるのではないか、と思う。 もっとも、比べる相手がいない以上本当のところはわからぬがな」 ラルカスは口の端を歪める。 「寂しくはないのね?」 シルフィードが質問する。 「もともと独り身だ、絶縁こそされなかったが事実上ただの放蕩貴族、洞窟だろうと大して変わらぬ」 「でも、おいしいもの食べられなさそうなのね、お肉はちゃんと食べてるのね?」 ラルカスの口が数秒止まるが、慌てた様に話しを始める。 「……出たところの森で生き物ならいくらでもとれる、火も見ての通りあるしな」 「その森の生き物に人間の子供を食う奴がいるのか?」 唐突にワムウが話を変えたので、ラルカスは首をかしげながら答える。 「オーク鬼だっているし探せば剣牙虎くらいはいるかもしれんが、それがどうした?」 「質問を変えるか、ここの入り口に埋まっていた人間の骨は、誰の食べ残しだ?」 場が静まる。 「そ、それは本当なのね!?」 タバサは杖を構え、椅子から立ち上がる。 険しい顔になったラルカスが声をだす。 「……あれはこのあたりに住むサルの骨だ」 「そうか、化け物なら化け物らしく残さず食えばよかったものを」 ワムウがワンステップで飛び掛かり、ミノタウロスを思いっきり蹴りあげる。 「待つんだ、話を聞いてくれ」 「俺は戦いに飢えている、戦う理由ができたというのに話し合う戦士がどこにいる。 嘘ならもう少しまともな嘘をつくんだな、もっともそれでも俺が聞く保証はないがな」 杖を抜いたラルカスが放つ水の弾をいなし、もう一度胴体を蹴りあげると、堅い皮膚は破れ、肉体が露出する。 露出した胴体をワムウは一部食い、既にラルカスは致命傷のようだった。 「なんだ、この程度か。わざわざ遠出したというのに手応えがないな」 ぶつぶつと回復魔法を唱えるが、ほとんど傷はふさがらない。 小さな声でもごもごと話す。 「…二男として生まれ、不治の病に侵され、放蕩し、俺を超える化け物に殺されるのか」 「貴様ごとき化け物ではないな、所詮人間だ」 「そうか、俺は人間か、ならば悲劇だろうか、この俺の人生は」 「そんなことはあの世で決めろ、お前の身の上話に付き合っている暇はない」 「喜劇は無理でも、英雄談、くらいはめざせるかもしれんな」 「人間にしては強いかもしれんが、メイジとしては二流以下だな。狩りに慣れても実戦でそれを生かすのには長い時間がかかる」 「……俺は人間を超えたかったのだ、このまま死ねん、このまま悲劇では終わらせん」 右手が棚にあったある物をつかむ。 ワムウが驚く。 「なぜ、そんなものがここにあるのだ!」 ラルカスは血まみれの手で、それを顔にかざす。 「俺は人間を超越する!」 石仮面は、ラルカスの顔で輝いた。 「な、なんなのねあれ!」 「あれは石仮面」 「知っているのお姉様!?」 場が静まる。 「そ、それは本当なのね!?」 タバサは杖を構え、椅子から立ち上がる。 『石仮面』とは 非常に堅い石でできており、古来では鈍器として使われていたという説もある。 いつごろからハルケギニアにあったかは不明で、現在はロマリア皇国が数個保持しているいわれているが、 教皇はそれを否定しており、機密情報とされている。ただし確認された事例として、使い魔召還の儀式で 召還されてきた、鎮魂歌の洞窟などで拾えた、宝箱に入っていた、円盤の入った容器と一緒に届いた、などの報告がある。 これを被った生き物は、恐ろしい生物に生まれ変われるといい、その化け物は、首だけでも生きていられる、何十年何百年も 海の底で暮らせる、ひからびても血を浴びせるだけで蘇る、相手の血を飲み干した場合は、相手の魂を取り込むことができる、 ジェットエンジンをつけて空を飛んだ、女性型アンドロイドを従える、幻想郷を霧で覆うなど数多くの伝説を残しており、 人々から長い間恐れられてきた。始祖ブリミルは恐ろしいこの怪物を倒すために四人もの使い魔を従えたという説もあり、 しかもその内ガンダールヴ以外の伝説の使い魔の死因はこの化け物によるものである、という伝説もゲルマニア東部には 根強く残っており、宗教研究家の間ではこの化け物とはエルフを指している、という説が有力である。 (出典 ブリミル書林刊「豪華哀鈴」より) 「カーズ様の作った石仮面はこんなところにまで広がっていたのか」 「きゅい!?カーズ様って誰なのね?」 「話はあとだ、あの堅い皮膚に再生能力をもたれるとなると、かなり楽しめそうだな」 仮面がラルカスから落ちる。 すでに腹部の傷は再生しきっていた。 ワムウは飛び掛かろうとし、ワンステップで高く跳躍する。 ワムウは、突然現れた人形に空中で殴り飛ばされる。 屈強な体つきで、そして頭部にハートのマークがある。 着地したワムウが呟く。 「スタンド、とやらか」 「ほう、ご存じか。その通りだ。先ほどはあまりのスピードで身を守る暇もなかったが、今は別だ。 力に、精神力に、動体視力に、体力に、全てに満ちあふれている。素晴らしいぞ、この体は!」 杖を振ってでてきた、水が鍾乳石を切り裂く。 「どうだ、この魔法は。ミノタウロスのときですら、俺は水の魔法について勘違いをしていた。 水の本質は治療でも洗脳でもない、ダイヤモンドすら切り裂く圧倒的圧力だ!」 ラルカスはスタンドを従え、杖をこちらに振るう。 鍾乳洞と、ワムウの皮膚が切れる。 ワムウの顔色が、変わった。 杖を構え、ワムウたちに向き合う。 「スタンドの名を名乗ろう、クレイジー・ダイヤモンドだ」 To Be Continued...
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ストーリー 片倉小十郎:竜の宝 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 卑劣なる罠 人取橋の戦い 松永久秀 第二章 奥州への決死行 武田戦線強行突破 真田幸村 第三章 双竜の決闘 双竜の決闘 伊達政宗 第四章 松永の刺客 長谷堂風雲戦 風魔小太郎 風魔戦開始直後に時間無制限の極殺が自動で発動する。また、極殺状態で戦闘に入ると開始直後に自動で解除される。クリア後『極殺』解禁。専用アイテム入手可能。 最終章 決着の業火 大仏殿炎上戦 松永久秀 人質が5人いる部屋に到達するとイベント発生。政宗が味方として出現、以後同行する。政宗と合流後、BGMが『BLADE CHORD』になる。 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 片倉小十郎 本願寺顕如 上杉謙信 前田利家 まつ お市:眠れ緋の花 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 震え我が背 姉川降魔戦 織田信長 第二章 咽べ我が魂 長篠銃撃戦 武田信玄真田幸村 第三章 喰え彼の腸 手取川の戦い 上杉謙信 第四章 開け根の国 最北端一揆勃発 いつき いつき撃破後に第3軍となった濃姫&森蘭丸と対決。専用アイテム入手可能。 最終章 哮よ魔の妹 本能寺宿命戦 織田信長 信長戦のBGMが『眠れ緋の華』になる。 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される お市 織田信長 明智光秀 濃姫 森蘭丸 お市のみエンディングが他の武将と異なり、『眠れ緋の華』が流れる。 浅井長政:信義・不倒!理の花 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 危機!挙式・襲撃 姉川成敗戦 今川義元 第二章 陰謀!真偽・到来 ザビー教追放戦 ザビー 第三章 驚愕!魔王・宣戦 姉川降魔戦 織田信長 第四章 転落!正義・失墜 農民護衛戦 三好三人衆 専用アイテム入手可能。 最終章 決着!魔王・削除 安土頂城戦 織田信長 信長戦開始後1分間は刀強化状態。信長は1回目撃破後、強化状態で復活する。 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 浅井長政 今川義元 毛利元就 ザビー 島津義弘 外伝ストーリー 伊達政宗:蒼紅共闘 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 蒼紅対決 武田戦線強行突破 真田幸村 幸村は最初から体力が半分の状態で登場。 第二章 蒼紅脱出 蒼紅共闘戦 明智光秀森蘭丸 最終章 蒼紅共闘 本能寺宿命戦 織田信長 信長がいる地点に体力が半分の幸村がいる。 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 伊達政宗 いつき 宮本武蔵 真田幸村:武田家の日常~修行編~ 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 熱血!武田道場 其の壱 熱血!武田道場 壱 天狐仮面 第二章 熱血!武田道場 其の弐 熱血!武田道場 弐 火男仮面 最終章 熱血!武田道場 其の参 熱血!武田道場 参 武田信玄 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 真田幸村 武田信玄 猿飛佐助 前田慶次:古き良き友垣たち 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 友垣 手取川の戦い 上杉謙信 第二章 自信 農民護衛戦 三好三人衆 最終章 亀裂 大仏殿炎上戦 松永久秀 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 前田慶次 豊臣秀吉 竹中半兵衛 長會我部元親:戦場の友情 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 東西の遭遇 小牧長久手の戦い 徳川家康 第二章 奇妙な同盟 三方ヶ原逆襲戦 武田信玄 最終章 戦場の友情 関ヶ原の戦い 徳川家康本多忠勝 クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 長會我部元親 徳川家康 本多忠勝 風魔小太郎:伝説の忍 章 タイトル 合戦場 敵総大将 備考 第一章 風魔、天才軍師暗殺 稲葉山城の戦い 竹中半兵衛 半兵衛がいる地点に佐助とかすががいる 第二章 風魔、覇王暗殺 山崎滅殺戦 豊臣秀吉 最終章 風魔、全てを抹殺 天王山抹消戦 猿飛佐助かすが クリア後、以下の武将の衣装其の壱(染)が解禁される 風魔小太郎 北条氏政 かすが
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条件! 勝利者の権限を錬金せよ その⑤ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎の『もう一本の腕』がギーシュの腕を掴んでいる。 相当の力がかかっているのか、ギーシュは痛みに顔を歪めて右腕を震わせる。 「貴族の決闘ってのは……横槍を入れていいもんなのか? ギーシュ」 「うっ、うぅ……うわっ!?」 右腕を捻り上げられ、ギーシュは薔薇の造花を落とした。 「ゆ、許してくれジョータロー! 僕は、ただ……」 「…………」 無言の圧力にギーシュは口を閉ざした。 何を言っても、何と言い訳しても、ただじゃあすまされない……そう思った。 助けを求めるようにギーシュはルイズへ視線を向けたが、 ルイズはいつしかうつむき、震えていた。 「る、ルイズ……」 「ねえ、ギーシュ……。私、昨日の夜、成功したわよね……『錬金』」 「あれは、えっと」 左手をポケットに入れて、ルイズはゆっくりと昨夜錬金した青銅を取り出し、 承太郎とギーシュによく見えるよう頭上に掲げた。 「私……『錬金』できたわよね? ……正直に答えて」 「あ、う……あの、ルイズ、つまりだね……えっと」 ビュン、と音を立ててルイズの杖がギーシュの胸に向けられる。 「ゼロの私でも、爆発だけは起こせるんだから」 ルイズの口調は静かで、怒っているようには聞こえなかった。 しかしギーシュは本能的に、正直に答えないと自分がどうなるかを悟った。 もう自分に逃げ場は無い、真実に気づいた二人を前にどんな言い訳も通用しない。 『正直に話す』というもっとも恐ろしい事が、一番被害を小さくする方法だった。 「すす、すまないルイズ! 昨日の晩、君が倒れている間に僕が錬金したんだ! 君が持っている青銅は、僕が錬金した物なんだァーッ!」 左手の指が開いて、ルイズの持っていた青銅が地面に落ちる。 自分が錬金したと思っていた青銅、本当はギーシュが錬金した青銅。 一生の大切にしようとさえ思った輝かしい宝物が、一瞬で屑石に変わる。 杖を握った右手が震え、ギーシュが身をよじって逃れようとする。 だが承太郎が彼を逃がさなかった。 「やれやれ……ルイズの手助けくれーなら文句を言うつもりは無かったが、 代わりに錬金して俺達を騙そうとしてたってのは……やりすぎだぜ、ギーシュ」 「ぼ、僕はただ! ルイズがあまりにも不憫すぎて……」 「それに俺を追い出すチャンスだと思った訳だ」 「それもあるけど……で、でも!」 「もういい」 ルイズが言った。声が震えていた。 「る、ルイ……」 「喋らないで!」 怒鳴って立ち上がり、ルイズは杖をしまう。 釣り上がった眼差しは怒りの炎で燃え、同時に悔しさで濡れていた。 「私を……私を『ゼロ』と呼ぶのは勝手になさい! でも! こんな侮辱は二度と許さない! 絶対に!」 焼け焦げた手袋に包まれた右手が、ギーシュの頬をぶん殴る。 承太郎より力は劣っていたが、酷く心に響く拳だった。 殴った拍子に手袋がズルリとめくれるように破れ、 火傷がまだ癒え切らぬ右手の甲があらわになった。 痛みのせいか、それとも醜い傷跡を隠すためか、 ルイズはすぐ左手を右手の甲に当てた。 痛々しいルイズの姿を前にしても、承太郎はその表情を崩す事をせずに言う。 「……今の錬金はギーシュの横槍が入った。 おめーにその気があるならもう一度、錬金をしてもいいぜ」 これが正真正銘のラストチャンス。 しかし、ルイズは――。 「この勝負、私の負けよ」 潔く己の敗北を認めた。 そしてマントをひるがえし、その場から立ち去ろうとする。 ギーシュは呼び止めようとしたが言葉が見つからず、口ごもってしまう。 だが、承太郎が呼び止める。 「待ちな! おめーが負けを認めたって事は、勝利者の権限は俺にあるって事だ。 俺が勝ったらどうするか……それをまだ決めてねーぜ」 「……あんたの、好きになさい」 「そうかい。だったら好きにさせてもらうぜ」 ルイズがヴェストリ広場を去っても、承太郎とギーシュはまだその場にいた。 解放されたギーシュは右腕をさすりながら、恐る恐る訊ねる。 「……じょ、ジョータロー。さすがに酷すぎるんじゃないか? 相手はレディだぞ」 「フンッ……。言いたい事はそれだけか? おめーは俺達の決闘の邪魔をしたんだぜ」 「……信じてくれなくてもいいが、本当にルイズが不憫だったんだ。 ゼロのくせに、あんなボロボロになるまで練習をして……。 た、確かに君に出て行ってもらいたかったって下心があったのは認めるよ! でも! 君も見ただろう? 治癒の魔法をかけたのにルイズの右手は爆発でボロボロだ。 確かにズルいやり方だったけれど、女の子を泣かせるような真似は……」 「やれやれ。二股をかけた男の言うセリフじゃねーぜ。 だがルイズの心配より……自分の心配をしたらどうだ? ギーシュ」 「ううっ……な、殴るなら、殴るといい。僕はそれだけの事をした……」 「覚悟は……できているようだな」 ギーシュは恐怖で目をつむって、歯を食いしばりながら殴られる瞬間を待つ。 恐怖に立ち向かった訳じゃない。覚悟だなんてもってのほか。 絶対殴られると確信してあきらめただけで、前向きな気持ちは一片たりとも無かった。 ルイズは部屋に戻ると、爆発で汚れた服を脱いでネグリジェに着替え、 ベッドにダイブしてそのまま動かなくなった。 眠った訳ではない。 疲れはあったが、ついさっきまで気絶していたおかげか眠気は無かった。 「……どうしよう」 錬金は結局成功せず『ゼロ』のまま。 成功なのか失敗なのかは解らないが、とりあえず召喚できた使い魔は、 決闘でギーシュに勝ち、さらに自分との賭けにも勝利して自由の身。 こんなダメダメメイジ、古今東西聞いた事がない。 多分自分は世界でもっとも劣っている出来損ないのメイジなのだ。 魔法を使えるようにと努力した。 魔法が使えないならしっかり勉強しようと努力した。 でも、どんなに努力しても……自分は報われない。 報われない。 自分を卑下する言葉が呪詛のように次々と浮かんでは消えた。 ふと、窓の外を見る。 ふたつの月が色あせているように思えた。 それでもぼんやりと月を見つめていると、少しずつ嫌な事を忘れられた。 そしてもう忘れる事はひとつも無いというほど頭が空っぽになった頃。 コンコン、と部屋の戸がノックされた。 誰だろう。ううん、誰でもいい。放っといて、と思う。 十秒くらい経っただろうか、ドアの向こうで声がした。 「入るぜ」 その声を聞いて、ルイズは「え?」と呟いて、振り返る。 ドアが開いて、黒いコートと帽子の長身の男が入ってきた。 「じょ……ジョータロー?」 「何だ、起きてたんなら返事くらいしやがれ」 そう言いながら、ドアを全開にすると大きな荷物を引きずり込んできた。 「ななな、何の用よ! それ何よ!?」 「ソファーだぜ……見て解らないのか? ギーシュの部屋から持ってきた。 賭けの邪魔をした代償だ。ついでにワインとつまみもいただいてきたぜ」 「は、はぁっ!? あんた、何言ってんの? 何でここにいるの?」 「忘れたのか、勝利者は俺だぜ? 約束通り……好きにさせてもらう」 「好きに……って、あ、あんた、どうする気よ!?」 「別に……。『この部屋に泊めさせてもらう』だけだぜ」 「ど、同情のつもり!?」 ソファーを部屋の真ん中まで引きずり込んだ承太郎は、さっそくそれに腰掛ける。 「ギーシュの部屋が薔薇臭くてな……。あっちこっちに薔薇を飾ってやがる。 情けねーが、一晩泊まっただけでギブアップだ。 だから他に屋根と壁のある寝床を探して、ここに戻ってきただけだぜ。 ……勝ったのは俺だ。好きにしろと言っからには、文句は言わせねー」 「で、でも……ギーシュに薔薇を捨てさせたり、他に解決策はあるでしょ? どうして……私の部屋なの? どうして私の部屋を選んだの?」 「さあな……そこんとこだが、俺にもよう解らん。 ただ、根性がある事だけは認めてやるぜ。ルイズ」 話はこれで終了とばかりに承太郎はワインをあおり、つまみのチーズを食んだ。 それを見て、ルイズのお腹がきゅ~っと鳴る。 そういえば夕食、食べ逃してたっけ。 ルイズは赤面して、精いっぱい強がった口調で承太郎に言った。 「そ、それ、少し分けなさいよ」 「…………」 承太郎は無言。けれど、パンとチーズとリンゴを投げて寄越してくれた。 そして何かの入ったビンも一緒に投げる。 「これ、何のビン?」 「火傷に効くポーションだぜ、右手に塗っておくんだな」 「……あ、ありがと」 お礼の言葉に微塵も反応を見せず、承太郎は無言でポケットから小箱を取り出す。 そこから白いスティックを一本出して、口に咥えた。 ルイズも投げ渡されたパンを、とりあえず一口かじって、ふと気づく。 「あ、あんた、もしかして私がお腹を空かせてると思って……」 「さあな……何の事だ? 俺は酒を一杯やってから一服しようと思っただけだぜ」 そう言って懐から金属製の小さな何かを取り出して、それを指でいじる。 すると、突如その金属から火が現れ、白いスティックの先端をあぶった。 「な、何それ? 火系統のマジックアイテム?」 「……ただのライターだ」 火はすぐに消え、承太郎はライターをしまう。 そして白いスティックを咥えたまま承太郎は息を吸い、吐いた。 鈍色の煙が広がり、ルイズの鼻腔をくすぐる。 その瞬間、ルイズは覚えのある匂いにうめいた。 「そそそ、それ! パイプじゃない!」 「……何だ、この世界には紙タバコはねーくせにパイプはあるのか」 「外で吸いなさいよ! パイプは健康と発育に悪いんだから!」 「勝ったのは俺だぜ。おめーには俺をここから追い出す権限はねえ」 勝利者の権限を持つ者、持たない者の差は明確である。 しかしルイズはパンを握りしめて、ベッドの上に立ち上がった。 「ももも、もう一度勝負よ! 私が勝ったら、それ吸うの、やめなさい!」 「やかましい! 俺は女が騒ぐとムカつくんだッ! 敗者がグダグダ文句を言うんじゃねえ! いい加減鬱陶しーぜこのアマッ!」 「ななな何よ! ちょっと不思議な力があるからって調子に乗って! 覚えときなさい! いつか、いつかぜ~ったい魔法を使えるようになって……」 ルイズはお月様にまで届くような大声で宣言する。 「あんたが私の使い魔だって事を思い知らせてやるんだから~!!」 こうして、ルイズと承太郎の奇妙な生活が再び始まったのだった。 ――ギーシュの部屋。 夜も更けたというのにギーシュは寝巻きに着替えていなかった。 ワインをあおり、ベッドに腰掛け、しかししっかりと起きていた。 「なぜ……ジョータローは僕を殴らなかったんだろう……?」 殴られたかった訳じゃない。正直に言えば殴られたくなかった。 なのになぜ、こんなにも胸がモヤモヤするんだろうとギーシュは一晩中考えていた。
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ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン 機種:PS3,PS4 作曲者:福田考代 井上学 KIKU 栗田妙子 他多数 開発元:サイバーコネクトツー 発売元:バンダイナムコエンターテインメント 発売年:2015 概要 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』を原作とした3D対戦格闘ゲーム。『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』の次回作に該当する作品。 2対2のダック形式や、全編のキャラが集結する完全オリジナルストーリーの導入などが特徴。 音楽は『オールスターバトル』からほぼ全て一新されている。ギャラリーからサウンドテスト可能。 収録曲 曲名 作・編曲者 補足 順位 タイトル モードセレクト ネットワーク ジョジョ辞典 ショップ オンライン カスタマイズ ストーリー ポーカー ミニゲーム ジョナサン バトルBGM ジョナサン・ジョースターのテーマ ツェペリ バトルBGM 井上学 ウィル・A・ツェペリのテーマ スピードワゴン バトルBGM ロバート・E・O・スピードワゴンのテーマ ディオ バトルBGM ディオ・ブランドーのテーマ ジョセフ バトルBGM 栗田妙子KIKU ジョセフ・ジョースターのテーマ シーザー バトルBGM シーザー・アントニオ・ツェペリのテーマ 2015年173位 リサリサ バトルBGM 井上学 リサリサのテーマ シュトロハイム バトルBGM 井上学 ルドル・フォン・シュトロハイムのテ-マ ワムウ バトルBGM ワムウのテーマ エシディシ バトルBGM エシディシのテーマ カーズ バトルBGM カーズのテーマ 空条承太郎 バトルBGM 空条承太郎のテーマ 花京院典明 バトルBGM 井上学 花京院典明のテーマ ポルナレフ バトルBGM ジャン・ピエール・ポルナレフのテーマ 老ジョセフ バトルBGM 老ジョセフ・ジョースターのテーマ アヴドゥル バトルBGM モハメド・アヴドゥルのテーマ イギー バトルBGM イギーのテーマ ホル・ホース バトルBGM ホル・ホースのテーマ マライア バトルBGM 井上学 マライアのテーマ ペット・ショップ バトルBGM ペット・ショップのテーマ ヴァニラ・アイス バトルBGM ヴァニラ・アイスのテーマ DIO バトルBGM DIOのテーマ 東方仗助 バトルBGM 東方仗助のテーマ 虹村億泰 バトルBGM 虹村億泰のテーマ 広瀬康一 バトルBGM 広瀬康一のテーマ 岸辺露伴 バトルBGM 岸辺露伴のテーマ 矢安宮重清 バトルBGM 矢安宮重清のテーマ 山岸由花子 バトルBGM 井上学 山岸由花子のテーマ 音石明 バトルBGM 音石明のテーマ 吉良吉影 バトルBGM 吉良吉影のテーマ 川尻浩作 バトルBGM 川尻浩作のテーマ 第4部空条承太郎 バトルBGM 井上学 空条承太郎(第4部)のテーマ初回購入特典のみ ジョルノ バトルBGM ジョルノ・ジョバァーナのテーマ ブチャラティ バトルBGM ブローノ・ブチャラティのテーマ ミスタ バトルBGM グイード・ミスタのテーマ ナランチャ バトルBGM ナランチャ・ギルガのテーマ フーゴ バトルBGM パンナコッタ・フーゴのテーマ トリッシュ バトルBGM 井上学 トリッシュ・ウナのテーマ ディアボロ バトルBGM ディアボロのテーマ 空条徐倫 バトルBGM 空条徐倫のテーマ エルメェス バトルBGM 井上学 エルメェス・コステロのテーマ アナスイ バトルBGM ナルシソ・アナスイのテーマ ウェザー バトルBGM 栗田妙子KIKU ウェザー・リポートのテーマ プッチ バトルBGM エンリコ・プッチのテーマ 新月プッチ バトルBGM 新月の時を待つプッチのテーマ ジョニィ バトルBGM 井上学 ジョニィ・ジョースターのテーマ ジャイロ バトルBGM ジャイロ・ツェペリのテーマ ディエゴ バトルBGM ディエゴ・ブランドーのテーマ 世界ディエゴ バトルBGM 並行世界から来たディエゴのテーマ ヴァレンタイン バトルBGM ファニー・ヴァレンタインのテーマ 東方定助 バトルBGM 東方定助のテーマ 東方常秀 バトルBGM 井上学 東方常秀のテーマ 2015年319位 天国に到達したDIO バトルBGM 天国に到達したDIOのテーマ スタッフロール PV第4弾
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ジョジョの奇妙な冒険 第6部 HP:http //www.tok2.com/home2/alljojo/ +スクリーンショット ゲーム内容の説明 関連作品 imu 登録タグ 2D格闘ツクール2nd(フリーウェア) クローン 最終更新日時 2011-08-16 19 48 09 (Tue)
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『青銅』のギーシュ② (ク、クソ…。なんで僕は今こんな状況に立たされているッ!?) 今は昼時!天気は快晴ッ!! そんな中彼らは今も尚、戦いを続けていた。 ギーシュは先ほどから信じられない目にあっていた。 数時間前、もう一人その場にいる男――――ブチャラティに決闘を申し込んだ。 メイジであるギーシュに取って平民との戦いなんてハンマーでアリと戦うようなモノッ! だが、結果は予想と大きくかけ離れる。その平民であるはずのブチャラティに大苦戦していた! ワルキューレは謎の"見えない打撃"と『ジッパー』で一体、また一体と破壊。 焦ったギーシュは近づいたブチャラティを攻撃しようとするが杖をはたき落とされる。 ――杖を落とされたら負け。それが決闘のルール。 刹那、それを思い出したギーシュは慌てて空中で拾った。 ・・・ ・・・・・・ だが彼が手にしていたのは『杖だけ』ではなかった。 「こ、これは!右腕だッ!さっきまで杖を持っていたはずのッ!」 そして常人のそれをはるかに凌駕する殺気を放つブチャラティ。 「答えろよ・・・・。『質問』はすでに・・・『拷問』に変わってるんだぜ?」 ギーシュの命運は今、まさに尽きようとしていた。 「さあ…抵抗一つしないのか?結局おまえは威張るだけが取り得の 弱ッちいマンモーニ(ママっ子)か。…幻滅だな。」 (こ…こけに…しやがって……!!) だが思考とは裏腹にすでにギーシュの闘志は折れようとしていた。 ギーシュは元々こういう土壇場で弱くなるタイプなのだ。 (無理だ…。こんな奴勝てると思えない…。コイツは…身なりも、振る舞いも、 メイジらしさがない…。なにより杖を持ってない時点でこれは『魔法』じゃあない! ・・・だが、かといって『平民』でもない。コイツは一体なんなんだ? 『ゼロのルイズ』は一体何を呼び出してしまったんだ・・・? ああ・・・どうしよう。こんな無様なところをレディーたちの前で・・・?) ギーシュは見た。多くのギャラリーの中、一番見間違える はずない顔を見た。―――モンモランシーだ。 さっきは怒っていたモンモランシーが、見間違いでなければこっちを心配そうに見ている。 (モ、モンモランシー!どうしたことだ・・?あんなに怒っていたはずのモンモランシーが・・・? ・・・僕は何をやってるんだ?よりによって彼女に『心配』をかけてしまっているっ!!) ギーシュが杖と右腕を持って立ち上がる!ブチャラティも少々驚いた。 「コイツ・・?まだ戦う意思があるのか・・・?」 (僕はレディーにあんな顔をさせてしまうのだけは・・・どうしても『我慢』できないっ!!) ギーシュは一瞬再びモンモランシーを見て、そして前に向き直った。 「・・やっぱりだ。思い出したぞ・・。これはあの『悪夢』と同じ状況ッ!!」 ギーシュ・ド・グラモンは部門の家柄であるグラモン家の四男として生まれた。 父も、長兄も次兄も三兄も、常に戦の先頭に立って活躍している。 「生命を惜しむな、名を惜しめ」 これがグラモン家に代々伝わる家訓。 ギーシュもまた、その家訓を幼きころから伝えられ、 貴族のたしなみとしても、十分な戦い方を父から学んでいた。 同時にグラモン家は、派手好きで、周りから『色ボケ貴族』とまで囁かれるほどの 女好きな貴族としても有名だった。 ギーシュもまた例外でなく、流石グラモン家と言われるほどのルックスを活かし、 トリステイン魔法学院入学前の時点でもすでに付き合った女性の数が 数え切れなくなるほどのプレイボーイぶりを発揮していた。 家族からも、「女性には常に紳士的であるべき」と教えられ、入学後もまた女性を たぶらかし続けては、「流石グラモン一族!」「この女性の敵め!」と 周りから賛否両論を聞き続けては学校生活を楽しく暮らしていた。 ―――――しかしそんな彼をある日『悪夢』を襲った。 それが最初に起きたのは、今から半年ほどまえの事だった。 「うわああああ!!!」 その朝、ギーシュはベッドから跳ね起きた。 「ったく・・。妙にリアリティのある夢だったな。本当に殴られたみたいだ・・。」 「よお、ギーシュ。なんか今日は調子悪そうだな。」 話しかけて来たのは、友人の一人、マリコルヌだった。 「ああ。今日は少々変な夢をみてね・・。悪い意味で変だったから機嫌が悪いのさ。」 「へえ、どんな夢だい?」 「誰かと戦っている夢なんだ。それで負ける夢。そいつは僕のワルキューレをどんどん消して、 その後杖を折られて、殴られて気絶。それで終わりさ。」 マリコルヌは少々渋めな顔をし、 「そりゃ、奇妙な夢だったな・・。どんな奴だったんだ?」 「ああ、妙に印象強かったからよく覚えている。妙な髪形をしている奴だったんだ。 杖とかも持たず、平民のような身なりなのに、そんな能力で僕を倒したんだ。不快な夢だよ。」 「ふーん。ま、どうせ夢なんだからさ、そう気にすんなよ。ほら、そこの子達おまえ待ちじゃないのか?」 「おっと!いけないいけない!」 と、この時は気にもしてなかった。 だが、そのうち『たかが夢』とも言ってられなくなった 「うわああああああああああ!手が!僕の手に風穴がぁ!!」 次の朝、さらに大きな激痛を伴って跳ね起きた。 「ハァ・・・ハァ・・・ま、また夢・・・。」 手には風穴もなかったし、激痛もなかった。だが・・・。 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ その痛みは『さっきまで確かにあった』と言わんばかりに、その手は痺れたままだった。 「またなのか。大変だなお前も。」 またこのことをギーシュはマリコルヌに話していた。 「昨日よりもひどい目にあった。今度は銃で右手を打ち抜かれる夢だったんだ・・。 今はもう右手は動くけどさ・・。」 「二度あることは三度あるって言うし、これくらいでヘバってちゃ身がもたないんじゃないのか?」 マリコルヌは明らかに他人事っぽくそう言った。 「ひ、ひどいじゃないかっ!僕は苦しんでるんだぞ!?」 「そんな事言われたってオレは知らんよ。」 「なんて冷たいんだ"かぜっぴき"のマリコルヌ!!」 「"風上"のマリコルヌだ!二度とわざと間違えるなよっ!?その中傷が嫌いだって おまえも知ってるだろ!?」 ギーシュもマリコルヌもお互いカッカし始めた時だった。 「全く。二人とも何バカやってるのよ。」 「モンモランシー!」 そこにいたのは、ギーシュと最も親しい女性、"香水"のモンモランシーだった。 ギーシュはさっきまでの青ざめた顔が一変、いつものキザな振る舞いに変わる。 「やあ、今日もまた朝日に輝く君の姿は美しいね、我が愛しの"香水"のモンモランシー。」 「あら、そういうあなたは顔色が悪夢に蝕まれ青ざめてしまっているわね"青銅"のギーシュ。」 「…ぐっ!」 痛いところを突かれ、少し動揺するギーシュ。 「・・フフ。大丈夫さ。君のおかげで僕はすっかり力を取り戻してしまったよ。 流石"香水"のモンモランシー。一番の特効薬はやっぱり君自身の美しさ・・・。」 「ハイハイ。もうアンタのキザなセリフはいいから。全く。しばらく悪夢にうなされっぱなしに なってダウンしてたほうがまだ可愛げあるんじゃない?」 モンモランシーはそう言って去ってしまった。 「やれやれ・・。あいかわらずつれないなぁモンモランシー・・・。」 だがモンモランシーは、こんな事を言った事を心の底からマジに後悔した。 (『殺し方』は!出来ている・・・・・・。) グボオッ! ――――ダレカ・・・・タスケテ・・。 (キョオオ―――z______ン!!!) ドゴオッ! ――――ミヲ・・・サカレソウダ・・・! (オオオラァッ!) メメタァ! ――――ナゼコンナメニアワナケレバナラナイ・・? (『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!) グシャッ! ――――タスケテ・・・・ボクヲスクッテ・・。 (このナイフを見て、さっきのガラクタよりも恐ろしい結末になるのを悟ったか…!) ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・ (貴様はすでにチェックメイトにはまったのだッ!) グサッ!ドバァッ!! 「うわあああああ!!!!誰か!助けてくれぇ!!僕を救ってくれぇぇぇぇ!!!」 「おい!落ち着けよ!気をしっかり持つんだ!」 目が覚めたら、友人たちが自分を心配そうな目でこちらを見ていた。 「まったく勘弁してくれよ・・・。こっちが悪夢を見てしまいそうだ。」 だがギーシュはマリコルヌの声が聞こえているのか聞こえてないのか、 生気を抜かれ、生ける屍のようになってしまっていた。 顔は土気色で、全身に力が入っていない。 「ああ・・・・。」 「こいつは・・・・マジに重症だな・・・・。」 ふと、マリコルヌが思い出したように言う。 「なあ・・・ちょっとした風の噂で聞いたんだけどさ、それってもしかしたら おまえに危険信号を送っている『予知夢』なんじゃないのか?」 「・・・・・なんだって?」 「前に聞いた事があるんだ。この世界の他にも多くの世界が存在して、その中に、自分たちと 全く同じような人物が似たような生き方をしている、平行した世界の話。これを俗に "パラレルワールド"って言うらしいけど・・。」 マリコルヌが飲んでいた紅茶を置いて続ける。 「そしてお前が見たのは、『もうすでに戦い敗れていった自分自身』だったとすれば? ・・・お前もいずれ本当にその奇妙な平民と戦わなければならない運命だったりするんじゃあないか?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・ 「・・・・まさか。」 「まさかとはオレだって思うけどさ。でも偶然見たにしてはあまりにも 不自然すぎる・・・だろ?」 ギーシュは一瞬うつむいた。だが、 「・・・・くだらない。いくら僕でも夢と現実の区別くらいつけられる!」 そう言って帰ってしまった。 モンモランシーは学院中を回っていた。 「っもう!どこに行ったのよあのスケコマシ!」 懐になにかの小瓶を抱え、イライラしたように言う。 ふと、階段のところを見ると、そこに腰掛けて、力なくため息をついているギーシュを見つけた。 「ここにいたのね。」 「やぁ・・・・モンモランシー。」 ギーシュは非道くやつれきった様子で言う。 (アンタ・・・。いつもなら出会い頭にキザなセリフを言ってくるのに・・・。 そんなに非道い夢なの・・?) 「モンモランシー。僕はどうすればいいのだろう。」 「え?」 「正直な事を言うと・・・僕はマリコルヌの話を真に受けている。 馬鹿馬鹿しい。そう思いつつも自分がいずれその運命に押しつぶされるような気がしてならない んだ。」 モンモランシーは自分の見ている目の前の人物の態度が信じられなかった!ギーシュが、 あのどこか鼻持ちならない、だが常に自信に満ち溢れているような男の、この弱弱しいさまをッ! 「このままだと僕はいずれ戦いに負けるかもしれない・・。いや、負けて怪我だけで済めばまだいい。 最悪、僕は死んでしまうかもしれないんだ!・・・もう夢も希望も・・・。」 「甘ったれた事言ってんじゃないわよッ!!」 ギーシュは少しビビった。モンモランシーの檄が飛んだのだッ! 「モンモランシー・・・。」 「『夢も希望もない』!?じゃあアンタずっとあるかどうかもわからないモノに怯え続けて 生き続けるつもりッ!?」 ギーシュは顔を上げた。モンモランシーはいつになく真剣な顔つきだった! 「・・・・私だって、そんな事になるのは怖いわよ。本当にそうなったら逃げるかもしれない。・・・でも 逃げて、逃げて、でも次また同じ目にあって、また逃げ切る保障はあるの? 追い詰められて、もう逃げる事もままならなくなったらどうするの?」 ギーシュは気づいた。感情的なモンモランシーの目が、悲しげだった事に。 「…私なら戦う。たとえ力の差が圧倒的でも、自分の使える力をフルに生かして『戦い抜く』! 結果よりなにより、私は誇りだけは捨てたくないから!」 モンモランシーは持っていた小瓶をギーシュに渡す。 「これは・・・薬かい?」 「そう。それには悪夢を見る人のために、沈静作用が含まれた薬。 寝る前に飲めば、数日で悪夢は見なくなるはずだから。」 ギーシュはその薬を見て言う。 「モンモランシー・・・。君はコレを僕に渡すために・・・・?」 「・・・・!そうよッ!マリコルヌたちがあんたのうなされる声がうるさいから作ってやってほしい言われたから!それだけよッ!」 モンモランシーは急に顔を赤くして言った。 「じゃあ・・。それ飲む前に、もう一度よく考えてみて・・・・。」 そう言ってモンモランシーは行ってしまった。 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 ギーシュはしばらく黙りこくっていた!だがッ! 「僕は・・・・何やってるんだ。僕が勝手に見た悪夢でモンモランシーを困らせるなんて・・。」 ギーシュは駆け出したッ!行き着いた先は・・・図書室ッ! 厚めの呪文辞典、戦闘部門の欄を見る! 「バカな事をやってしまった。よりによって一人のレディーを悲しませてしまうなんて。 我がグラモン家ではッ!一人でも女性を悲しませる事は許されていなかったのにッ!」 ペラッ ペラッ ギーシュはページを捲りながら思った。 (僕は比較的戦闘系の魔法は苦手だ。だがせめて一つ・・・。何か、シンプルだが、抜群の威力を誇る呪文を覚える事は出来るはずだッ! ワルキューレよりシンプルで・・・確実な威力の奴がッ!) やがて"石礫"の呪文を見つけて言う。 「ありがとう。モンモランシー。もう大丈夫さ。戦うよ。その『運命』と。」 本当に来るかわからない『運命』。だがギーシュはそのあるかすらわからない『運命』のため、 大ッ嫌いな地道な努力をかさねる『覚悟』を決めた! そして、次の日から薬を服用し始め、呪文の反復練習を行ったのだ! ギーシュには飛びぬけた才能はなかった。だがその訓練はギーシュに 確かな強さをもたらしたッ!! ―――――――そして後々ギーシュは『悪夢』を見なくなる。 そして、自らの訓練と、女の子達との時間を潰している間に、いつしかギーシュは 『悪夢』のことを忘れていた。 ――――そして時間は現在に戻る。 「思い出したぞッ!そうだ。僕はいずれこの奇妙な平民と戦う運命だったのだ!」 ギーシュは立ち上がった後、自分の右腕ごと杖をするどく前に突き出すッ! 「まだここで倒れるわけにはいかないッ!!」 呪文を唱える!その内容はあの"石礫"だっ!! 「こいつ!戦う意思を蘇らせたッ!」 ブチャラティはスタンドでガードする体制に入る! 「くらえ!」 ギーシュは"石礫"を放った!それと同時に! タンッ!! ギーシュは後ろにジャンプしたのだッ! ドォォォォォン!! 「ああ!!発射の衝撃で後ろにッ!!!」 ギャラリーの誰かが叫んだ。ブチャラティもこのギーシュの合理的な行動に驚いた! 「うまい。発射の衝撃を利用してオレのS・フィンガースの射程距離から抜け出した・・! だがそれだけではない。コイツのこの目・・・。さっきまではこんな目つきをした奴じゃなかった・・・。 オレは前に、一度これに似た現象を見たことがある。何がそうさせたかはわからないが、 アイツは今、この戦いに全身全霊をかける『覚悟』をしたッ! ここから先はッ!気を引き締めたほうが良さそうだ・・・・!」 ギーシュは着地しながら思った。 (僕は"土"のドットメイジだ。自分の弱さは自分が一番よく知っている。だがそれならば! その弱さをカバーする、僕にとって最善の戦いを行うッ!あるはずだ!僕の最善の戦い!) ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!! ギーシュは右腕を繋ぎなおそうとしながら言う。 「さあ、今度はこちらの反撃だッ!」 「こちらも・・・覚悟を決めてかかる!」 to be continued・・・