約 870,584 件
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/361.html
スケッチブック 【投稿日 2006/07/29】 カテゴリー-笹荻 真っ暗な夜空に、冷たい風が吹いている。澄み切った空気の層の向こうに、こぼれ落ちてきそうな満天の星。 12月28日の夜……正確に言えば、日付はすでに29日に変わっている。年末間近の冬の夜。荻上千佳は、一人ベッドの上で煩悶していた。 「……ダメだ。眠れねー」 エアコンのないベッドルームだが、着なれたフリースのジャージに厚い布団をかぶっているので寒さは感じない。むしろ体は汗ば んでいるくらいだ。彼女の眠れない原因は、隣の部屋にいる人物……笹原完士だ。 「笹原さん……大丈夫だろか。けっこう飲んでたみたいだけど」 ベッドから起きあがり、布団を払いのけた。さっきのやり取りを思い出す。 『ソファで寝るなんてダメですよ、疲れちゃいます。狭いですけど、一緒にベッド使いませんか?』 『ありがとう、でも今夜はまずいよ。俺、100%自制効かなくなっちゃう』 『それなら笹原さんがベッド使ってください、私がソファで寝ますから』 『そんなのもっとダメでしょ、荻上さんこそしっかり寝なきゃ。俺はほら、いい具合に酒も回ってきたし』 明日はコミフェスの初日だ。二人で始発に乗って冬コミに行く約束をした彼らは今回、新宿のカラオケ屋で夜明かしをする斑目たちとは別行動をとっていた。千佳の個人サークルが落選したため実際には早出の必要はないのだが、朝からあの人の絨毯に加わることもコミフェスの醍醐味のひとつだ。それに二人とも、今回は待ち時間がいくら長くてもかまわなかった。 千佳の提案で、笹原は今夜彼女の家に泊まることになった。夜半過ぎまで彼らは、笹原はビールを、千佳はあたためたオレンジ ジュースを飲みながら、翌日のことやチェックしているサークルのことなどをとりとめなく語り合っていた。 ところが。いざ寝る段になってみると二人とも居心地の悪いことこの上ない。普段のデートでは互いの家で朝を迎えることも多いが、今回に関しては主目的は明日の早起きであり、そのあとの大イベントだ。ここで己の劣情に身を委ねるわけには行かないと、笹原が渾身の理性でとった行動がさきほどの会話だった。 「笹原さんのバカ。自制なんて効かなくなってもいいのに」 つぶやく内容が支離滅裂になっているのにも気づかず、千佳はそっと床に降り立った。むき出しのフローリングは冷えきっており、思わず素足のつま先を丸める。 部屋の境の引き戸に手をかけると、リビングの明かりがついたままなのに気づいた。 「笹原さん……?起きてるんですか?」 小声で呼びかけながら部屋へ入る。彼からの返事はなく、代わりに聞こえてきたのは規則正しい呼吸音だった。 笹原はソファの上で、千佳の予備の布団をかぶって眠っていた。千佳が寝室に移動した時よりテーブルのビールの缶が1本増えており、右手には読みかけの漫画本。どうやら彼もしばらく眠れなかったらしいことを感じ、千佳は小さく微笑む。 「(飲みながら寝ちゃったんだァ。ったく、しょうがねえ人だな)」 足音をしのばせ、ソファの傍らに立って彼を見下ろす。 「(セオリーならここで『あなた、こんなところで寝てないでベッドへ行って下さい、明日も早いんでしょ?』、みたいな。……って私ナニ言ってんだ。大体そのセオリーって何のセオリーだっつうの)」 笹原の寝息は深く、穏やかだ。ともかく彼がゆっくり休むことができたのならよかった。起こさないように、音を立てないように気をつけながら、空き缶と本を片付ける。テーブルを拭いてソファの脇、安らかな寝顔のすぐ横に座り込んだ。 笹原はよく眠っている。千佳が間近で見つめていても、気づく気配もない。目を閉じ、口を軽く開けた横顔。 「(いま……キスしたら、笹原さん起きちゃうかな?)」 千佳はそっと唇を笹原の顔に近づけてみる。彼の吐息が彼女の頬にかかる。あと10センチ……と、その時。 「う……ん」 「あわっ」 身じろぐ笹原に、千佳は驚いて身を引く。思いのほか大きな声を出してしまった自分の口を慌てて押さえたが、笹原には聞こえなかったようだ。 「(……はあっ、びっくりしたぁ……なにやってんだ私)」 熱に浮かされたような自分の行動に赤面する。寝室とは逆に、エアコンが効きすぎて暑いくらいのこの部屋のせいだ、と自分で自分に言い聞かせる。 「(でも)」 動悸がおさまるのを待って、あらためて笹原の顔を見つめる。 「(けっこう、キレイな顔してんだな、笹原さん)」 眠りが深まったのだろうか、彼はまた動かなくなっている。また起きやしないかとどきどきしながら、ほっぺたを人差し指でつつく。彼女ができたとは言え、オタクなりの無頓着さで身だしなみを気にしない彼に天が与えた、きれいな形をした眉。その下のまつげも、女の子みたいとは行かないが自然なカールを描いている。傷やほくろもなく、ふっくらとした頬のライン。あごからのどにかけては、大して濃くない髭がぽつぽつと頭を出し始めている。 恋人の寝顔を見ているうちに千佳の中でおなじみの衝動が沸きあがってきた。立ちあがって中腰のまま机まで行き、ブックシェル フからスケッチブックを取り出す。シャープペンシルを持ってテーブルに戻り、彼の顔の前に再び座りなおして、千佳は笹原の顔を スケッチし始めた。 千佳の使っているノートは、いつもの落書き帳ではない。普段彼女はデッサンや落書きや、形が出来上がってくる前のネームを一冊のスケッチブックに書きこんでいるのだが、今使っているものとは別のものだった。笹原が身動きするたびに胸の鼓動を高まらせながら、ほどなくデッサンは完成した。 「(……ちっとカッコよすぎッかな?)」 出来上がった素描とモデルを見比べてみて、少し反省する。眠っていても凛々しいノートの中の寝顔と、その向こうで幸せそうに寝こけている笹原。おかしい、描いている時は同じに見えてたはずなのに。 「(ま、いっか。どうせこのノート、全部そんなんだし)」 このノートを使っている時に、必ず行なう脳内会議。自分のルーティンっぷりに笑みをこぼし、千佳はノートのページを繰った。1ページ戻ると、そこに描かれていたのも笹原の顔だ。その前のページも、さらにその前も。ノートには千佳の描いた笹原が溢れていた。笑う笹原、何かを考え込む笹原、憮然とする笹原。イベント後の飲み会で睡魔に襲われたのか、テーブルの向かいで舟を漕ぐ姿もある。見られているのに気づき、照れ笑いを見せる彼がその後に続く。もちろん目の前で描いたわけではなく、帰宅後着替えもせずにスケッチブックに向かったのを覚えている。ページの中心で笑う笹原は油断だらけの間抜け顔ではなく、爽やかな笑顔でこちらを見つめていた。 このノートを初めて描いたのは彼女が現視研に入った夏、コミフェスの原稿をみんなで描いていた時期だ。絵の描けない笹原、画力もセンスもあるのにもどかしい久我山と、自分の3人でひとつの作品を練っていた時。強引に進行役を買って出た咲の指示で自分だけ家に帰った夜、寝るに寝られなかった気持ちを静めるために手遊びで描いたのは、かつて闖入者の原口を雄々しく撃退した時の笹原の顔だった。 そのときはまだ、単に新しい落書きノートの1ページ目のつもりだった。だがそのノートは、それからしばらく姿を消した。どういうことだか今でも不明だが、いつもの場所に戻したはずのそのスケッチブックが翌日には見当たらなかったのだ。そのうち出てくるだろうと思って別の落書きノートを作った千佳が、そのスケッチを見つけたのは1年近く後のことだった。 「(今にして思うと……あれもなんかの御託宣だったのか)」 先輩の大野加奈子にうまく乗せられてコスプレに追い込まれ、しかもそれを笹原に見られてしまった日。後悔と恥ずかしさで沸騰し そうな脳と、そこに反響し続ける笹原の『かわいい』という声を抱いて帰宅した時に、本棚から突然落ちてきたスケッチブックの笹原と再会した。千佳の混乱は最高潮に達し……そして不意に、心が静まったのを感じて戸惑った。尊敬してはいたものの当時は恋愛感情などない筈の、『単なる先輩』『やおい妄想の攻め手』の顔。それに癒される自分を当時なりの論理と経験で、自分には絵を描くことしかないのだと結論した。11ヶ月前の笹原の顔の隣には、その日の笹原の照れた笑顔を描きつけることとなった。 原稿を描いていて行き詰まった時。前期試験の準備の合間。夏コミの前夜にもこのノートを開き、そのたびごとに笹原の姿が増えていく。どうしたわけかこのノートには、彼以外の絵を描く気がしなかった。 「(笹原さん……)」 目の前で眠っている笹原を見つめながら、ノートを抱きしめる。 夏コミ初日、千佳の個人サークルを手伝ってくれた笹原と別れたあと。いくつかの事件が起こってしまい、ざわめきつづける胸の動揺を鎮めようと自宅でノートを開いた瞬間、気づいた。長らく封じ込めていた感情が、自分の中に再び顔を出しているのに。 笹原しか描かれていないノート……『笹原しか見ていない』のは、千佳自身が気づかなかった自分の心の目……千佳そのものだっ たのだと思い当たった。 困惑した。 自分は人を好きになってはならない。自分は人に好かれてはならない。中3のあの日から、意識の表層には決して現れなかった決 意。笹原に惹かれる心と、それに相反する決意の両方を目の当たりにして、結論を出せないままに日々は過ぎた。 合宿の日の出来事を思いだす。笹原からの告白。逃げた自分をぎこちなく包もうと差し伸べられた手。その手をとってみようと決めた日のこと。帰宅した翌日、彼はその手を振り払うことなく、むしろ千佳の心と体を、強く抱きしめてくれた。笹原が帰ってから、1ヶ月開いていなかったスケッチブックを手に取り、翌朝まで何かに取りつかれたように千佳は、自分を愛してくれたひとの姿を描き綴った。 あれから3ヶ月。千佳の、笹原を想う気持ちは日ごとに強くなっていく。いつもへらへら笑っていて頼りなげな普段の彼。それでいて心に決めたことには正直で、かたくなにやり遂げようとする強い意思。抱きしめてくれる時の筋肉の力強さや、一緒に眠りに落ちてゆく直前に必ず頬に触れてくる、手のひらの温もりと優しい瞳。 この人がいてくれてよかった、と心の底から思う。体温で温まったフローリングにぺたりと座り、笹原の頭が載っているソファの肘に反対側から寄りかかる。彼を起こさないようにほんの少しだけ頭を触れさせ、スケッチを抱えたままで千佳は目を閉じた。 午前4時25分、笹原の頭の下で携帯電話が震える。音はしないが、本人が目覚めるには充分な衝撃だ。 「ん……っと、起きなきゃ……っうわ?」 アラームを止めながらゆっくり頭をもたげ、目の前の人影に面食らう。 「お……荻上さん?」 うっかり大きな声を出してしまったが、彼女はよく眠っている。やけに見晴らしのよいテーブルが目に入る。 「(あれ……片付けてくれたのか。いつからいたんだろう……え、ずっとここで寝てたのか?)」 暖房は入っているが、床に直に座っているのでは体が冷えてしまう。慌てて声をかける。 「荻上さん、こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ、荻上さん」 「ん……あ、ささはらさん……」 半目を開けて笹原のほうを見る。ゆっくりと微笑む。 「おはようございます、よく眠れましたか?」 具合を悪くした様子はない……よかった。 「おはよう。荻上さん、ベッドで寝ててって言ったのに」 「あ……やべ、私こんなとこで寝ちまってたんだァ」 ようやく自分の状況を掴んだようだ。慌てて身を起こし、抱えていたノートが床に落ちた。 「わ!……っと」 「あ、大丈夫?」 笹原が手をのばすより早く、千佳がノートに覆い被さる。閉じられたままだったので中身は判らなかったが、いつもの千佳のノート でないことには気付いた。 「……見ましたか?」 「見てないよぉ。……でも、その表紙」 なんにせよ彼は、千佳の作品を彼女の許可なしに見たりはしない。恋人に対する、というよりクリエイターに対する礼儀だ。警戒する千佳に、苦笑しながら言った。見えたのは表紙にただひとつ書かれていた文字列。西暦で書かれた日付、それは。 「荻上さんがうちに来た日、だよね?」 「……はい」 千佳がスケッチブックにタイトルをつけたのは初めてのことだった。これは大切な記録だったのだと気付いた日、千佳はこのノート の表紙に、その原点の日付を書きいれた。 「え、おととしからずっと描き溜めてるの?1冊のノートに?」 「あ、ええ、まーその……私が現視研にかかわったイベントとかの時だけ、記録っつうかそんな感じで使ってるだけですから……まあ、備忘録みたいなもんで。ほらあの、今日もみんなに会うし、スーたちも来るじゃないですか」 聞いてもいない理由まで喋り始める。いけない、彼女が自爆する前に話題を変えたほうがいいか。 「わ、ソレってすごく興味あるんですけど……見せていただくワケには……」 「だっ、ダメですよもちろん。尋常じゃない呪い、かけてありますからね。即死ものの」「死ぬのか……じゃダメか」 「ダメです」 ノートを隠すように抱きしめながら立ちあがる。 「笹原さん、シャワー浴びてきてください。私、その間に朝ごはん支度しちゃいますから」 「うん、ありがとう……あのさ」 持参した荷物を持ち上げながら、笹原は千佳に話しかける。 「なんですか?」 「……さっき目が覚めて、目の前に荻上さんがいてさ……。なんか、嬉しかった」 「……え」 千佳の顔が見る間に赤くなる。 「……っば、バカなこと言ってないで早く行ってくださいっ!」 「はいはい」 照れながら引き戸の向こうに消えてゆく笹原を見送り、千佳はもう一度ノートの表紙を見つめた。 炊飯器のタイマーはさっきも確認済で、まもなくご飯が炊き上がる。笹原がシャワーから出てくるまでに、焼き魚と味噌汁くらいは用意できるだろう。先に食べてもらっているうちに、玉子も焼いてみよう。たくさん練習した厚焼きを試してもらえるチャンスだ。 それともその前に、今の笹原さんもスケッチしておこうか?……いや、やめておこう。今はむしろ、愛しい人にあたたかい食事を作ってあげたい。 それに。千佳は机の脇の本棚にスケッチブックを戻しながら思った。 それに今の笑顔はノートじゃなく、私の心のほうにしっかりと描かれているのだから。
https://w.atwiki.jp/kiryugaya/pages/799.html
現在、paint_bbsプラグインはご利用いただけません。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1020.html
お砂糖 (2) 実習室にはいつも多くの学生がいる。 ノイナも結局、そのうちの一人となっていた。なんというか、小さな部屋でひとりで机に向かうというのが、なんとなく気づまりなのだ。 帳面と教科書を広げ、さらにハンカチに包んでいたクッキーの残りも広げる。先日に焼いたものの、あと何枚かの残りだ。 「あら、美味しそう」 声は言い、足を止める。 ノイナも顔を上げた。大人びた顔立ちの女生徒が笑みを返す。亜麻色の髪、どのような束ね方かノイナは良く知らないが、ゆるくねじるように束ねて、両側の肩から前に流している。知らない顔ではなかった。同級生だ。ノイナは応じる。 「食べ給え」 「おもしろいおっしゃいよう」 「そうかな。おかしいなら直そう」 「いいえ、ごめんなさい」 彼女はくすくす笑い、それから近くの席を引き寄せて座った。 「わたしはサーリアといいます」 「私はノイナ・ケイロニウス・レオニダシアと申します。おなじクラスだったかと」 「おぼえてもらっていたなんて、うれしい」 サーリアは言う。ノイナは問うた。 「サーリア様、どちらのサーリア様であられますか」 「ただのサーリアです。わたしは平民ですから」 「それは、失敬しました」 「いいえ、貴族の方々の考え方はわかります」 笑みを見せてサーリアは言う。 「でも皆様を拝見していると、貴族の関わりの重さが息苦しくはならないかと思います」 答えあぐねて、ノイナは曖昧に笑みを返す。貴族であるということは、サーリアの言った通りのことであるけれど、その中に生きていれば重いとも軽いとも思わなくなる。 ただ、関わりに軽重をつけて考えがちにもなる。たとえばこの平民の娘子はどのようなつもりでノイナに声をかけてきたのだろうか、と。 「学院」といえども、平民の学生はその元の数ほど多くはない。学院には入学試験がある。そして子弟を勉学に励ませることのできる家というのは、そもそもある程度余裕がなければならない。それを問うのはぶしつけなことだろうか。 名乗るだけで一門も家格も大体のところが判る貴族の名というのは良く出来ている。ノイナはむしろそう思った。 「何か?」 「いや、遠慮せずに食べ給え」 「ええ、いただきます」 やはりノイナの言いようは面白く聞こえるらしい。くすりと笑ったサーリアはハンカチのクッキーを手に取った。一口かじって彼女は少し驚く。 「美味しい」 「それはどうも」 「あなたが作られたの?」 「手伝いくらいです」 「そう。それでもすごいわ。それにちょっと意外」 「そうかな」 「いつも一人か、一期生と一緒で、二期生の同級生とはあまり一緒にいらっしゃらないでしょう?怖い方なのかと思っていたから」 「それは心外です」 「ごめんなさい」 言って、けれどサーリアはくすくす笑う。 「でもよかった。話しやすい方で。これからもよろしく」 「こちらこそ」 言ったときだった。 「「クラウディア様!!」」 おしゃべりのざわめきの中にひときわ大きく声がする。あたりのさざめきが吸い込まれるように消える。サーリアが目を向け、ノイナも振り向いた。 何人かの女生徒が立っている。背の高い一人、二期生と、もう一人、同じように背の高い一期生が向き合っている。その一期生がクラウディア、セルウィトゥス・セルトリア西方辺境候姫であることは知っていた。去年の学年筆頭であり、今年の学年筆頭とともに今でも取りまとめのようなことをしていることも知っていた。 二人は向き合って何か話しているようだが良くは聞こえない。ただクラウディアの体から妙な具合に力が抜けてゆくのがわかる。脱力というのではない。 もっとずっと危険な何かだ。 彼女らを囲む人垣が動いた。誰かがクラウディアへ向けて飛びこむように見えた。 誰、と思うより早く、クラウディアは滑るように退き、腕で何かを跳ねのけようとする。飛び込んできた少女の突き伸ばした腕を、だ。 あれではまるで、飛び込んできた少女が突きを放ち、クラウディアがそれをしのいだように見える。彼女の眼鏡が飛んでいた。この学院の実習室で、なぜに突然、そんなことが始まったのかノイナにはまったくわからない。 最初の背の高い二期生は、と思ったときには、ほかの生徒に引きずられるようにして連れ出されてゆく。 クラウディアと、飛び込んできた少女は、戦っていた。 素早い動きに、何が起きているのかすら良くわからない。ぱし、と何かを打つような音は、飛び込んできた少女の袖が鳴る音だ。その少女に、クラウディアはたぶん互角と言っていい動きで応じている。 驚けばいいのか、それとも噂の通りだと納得すればいいのか、それもはかりかねる。その間にも少女はクラウディアの腕を取っていた。そのまま自ら跳ねるようにして巻き込む。恐るべき素早さと巧みさを見せながら己もろともクラウディアを床に倒す。そしてその時にはもう取られたクラウディアの腕は伸ばされ、固められていた。 それが腕ひしぎ十字固めであることを、ノイナは知っていた。決められたらそうとうな無茶をしないと、抜ける前に肘から折られる。 その時になって、初めて誰か別の悲鳴があがる。なにか判らないものを目の当たりにした時、女の子たちはまずそうやって叫ぶ。 誰が呼んだのかシスターたちが慌ててやってくる。その様子もいつもとは随分違っていた。クラウディアともう一人を囲み、連れだしてゆこうとする。その時になって初めて、飛び込んで行った少女が二期生の鬼族の子だとわかった。 シスターは静かにするようにと大声で呼びかけ、それが逆に騒ぎを大きくしているように思える。いずれ、部屋へ戻るようにと命ぜられるだろう。今のままでは多すぎる生徒をさばききれない。 「どうやら面白いことになったようですわね」 声にノイナは振り向く。サーリアもまた声の方見ていた。 皮肉そうな、それでいながら楽しげな笑みを顔に浮かべた二期生が歩み寄ってくる。腰まである豊かな金髪と、人目を引く鮮やかな顔立ちの子だった。彼女は言う。 「最初の子、覚えておいででしょう?以前にも食堂で騒ぎを起こしたケイロニウス・アクィロニウスのお方」 「・・・・・・」 サーリアが困ったようにノイナへ目を向ける。ケイロニウス・アクィロニウスの名は、もちろんノイナも覚えている。覚えているのだけれど、その家が今、どうなっているのかまでは知らない。たしか最後までグスタファス候とともにあったと思う。そこまで思い出して、軽く驚きもした。 そのケイロニウス・アクィロニウス家の子も、学院にいることと、いつでも思い出せた、それらのことどもを今まで心のどこかに追いやっていた自分にも。 大逆の名こそ受けなかったけれど、「内戦」の直前、もっともそれに近いものだと思われていたのは、ケイロニウス・レオニダス公爵家だった。 中央の貴族なら知らないはずはない。金髪の女生徒はさらに続ける。 「飛び込んで行った子は、確か東方から来た魔族の子だとか。北方と西方との諍いに何のつもりがあって飛び込んだのかまではわかりませんけれども」 「あなたは、何かご存じなの?」 サーリアが問う。金髪の彼女は謎めいた笑みを見せて応える。 「いいえ。ただわたくしは、ここもやはり変わらぬところなのだと思いましたの」 口元に手をやり、金髪の彼女はころころと笑う。 「人は人ですもの。どこででも変わりようはありませんわ。ねえ、そう思われるでしょう?」 それから言うのだ。 「どこででも相争わずにいられぬのなら、はやく終わりのいくさをはじめてしまえばいいのに」 それは聖典そのものにはないが、いつのころかから伝えられる外典にあるものだ。この世の終わりの時に、正しきものらと邪なものらが最後の決戦を行うと。 ノイナは帳面を閉じた。それから立ち上がる。金髪の彼女は聞こえよがしに言う。 「あら、ノイナ様、もうお帰りになられますの?まだわたくしはご挨拶も差し上げていないのに」 彼女は言う。 「ドロテア・アドルファス・セイテロニアと申します。以後お見知りおきを」 淑女の礼をしてみせるドロテアへ目も向けず、ノイナはざわめくままの実習室を出た。 学院素敵。 エレナが登場してくれたおかげで、安心してはるかに凶悪なドロシーにご登場願えた。 彼女の眉毛のことは問わないでくれw あれはキャラデ上のポイントとして作られたものだから。ここに出てきているドロテア嬢は柳眉と長い睫で同じように強気な性格を示してる。 松井菜緒子キャラであるから、今の今まではつんと澄ましたオーラであれこれを寄せ付けずにいたんだろうと思うw ノイナは後ろ盾にするには心もとないが、単独より二期生筆頭のグループがトラブルに関わっている以上、自分の安全は自分で確保しにかかったのだろうw 彼女は利己主義者だから、北方マフィアを学内に作ろうなどとはしないだろう。そんな面倒なことはしない。 だが自分に必要と見られることならあらゆることをするだろう。彼女は、一期生のいざこざが自分に降りかかってくるようなことは御免だろうw 彼女の目的はわからない。 破滅的ならば陰謀はめぐらさない。だがそもそも陰謀を巡らすかどうか、わからない。 仲良しグループ的なこの状況を、彼女は冷笑的に見ているんだろう。おそらく人間不信で、その人間不信をにこやかで外交的な仮面で隠し、相手をコントロールしようとしているのかもしれない。 逆に彼女は気弱な二期生を取り巻きとしてコントロールするようになるかもしれない。 その辺で満足してくれないとただのソシオパスになっちゃうから、気を付けないと。 でも、彼女にとってのトラウマの治癒こそが、きっとこの学院での彼女の課題なんだろう。 北方は帝國SSの無限のネタ帳やで ノイナが部屋を出たのは、関わりにならない方が良いだろうエンドのほかに、 この後どのようにでも動けるように。 ノイナのアクティブ度を今まで比較的低く抑えていたのだけれど、活性モードにすることもできる。 低活性モードを維持することもできるんだが、そっちは間違いなく停滞を招くんで、ここは活性モードにしておいた方がいいんだけど、 さて、どのように動くのかとなると、あまり考えが無いw 常識的に考えて情報収集モードなのだけれど、事態をよく観察していたのがドロシーなわけで、その辺、ドロシーの思うとおりってことでもあるw ケイロニウス-アドルファス枢軸みたい、とw まあそういうわけで、ノイナはドロシーを避けて歩かざるを得ないw ますますノイナの周りから二期生がいなくなるw というわけで、サーリアこと、プリテンダー・ウォーター、サリィ・ポゥにご登場願うこととした。プリテンダーウォーターだし医師だし、まあソッチ関係なんだろうとは思う。なのに平民というのは若干ならず矛盾があるのだがw たぶん彼女の祖父あたりが一念発起して上手くゆき、ある程度の財産を得て、父が相続し、まあ爵位とか騎士位とかを得るほどじゃない何かだったんだろうw 貴族のしがらみから自由になれないキャラのための補完キャラであるのだから、そういうものからの距離はどうしても必要なのだよ、ワトスン君 しばらくはアルブロシアとか、アリア姫とか、同門の動きを片目で見つつ、多分ひどく戸惑っているだろうフェイトそんとか、気をもんでいるだろうウェーラさんとかエウセピアとか、 よーし、俺の歌でみんなを一つにしてやるぜ(違)な新歓コンサートとか(まだ引っ張るのかよw)やっぱ面白いわ。 フェイトそんは事態を理解できていないだろうし、アリア姫はどう動くんだろうなあ。あの人が動くとフェルヌス並みに事態を解決してしまいかねない。 もう一個、何か騒ぎになったら、エウセピアとウェーラさんが歌い始めるという展開もあり得たわけで、ああ、やればよかったかな? ちょっと唐突なんだけどw やればやったで、萌えたのにw
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1081.html
というわけで、カインとクラウディアがいちゃいちゃするスケッチもこれでひと段落である。そしてイサラが本格的に登場したわけであるが、相変わらず古人という存在は重たいわけである。これでヤンデレっているわけではないというのだから、実際にヤンデレったらどれだけ迷惑なことやら想像もできない、と。 カインは、毎日一回は地上に出て、外の空気を吸い太陽の光を浴びるようにしている。ここモリアに着いてから二ヶ月が経ち冬も到来したが、まだ雪が積もることはない。はるか北のシャブリウス丘陵地帯なら、もう村々総出で雪かきをしている頃ではないだろうか。いくら戦傷を負ったといっても、後を一門の重臣らに任せたままにしてしまってよかったのだろうか。そうした鬱々とした思いにとらわれないようにするには、陽の光を浴びるのが最も効果的であったのだ。 彼の婚約者のクラウディアは、双性化措置に成功した後も各種の身体強化措置を受けているらしい。その具体的な内容については軍機事項という事で話してはくれなかったが、最初に出会った時とは随分と雰囲気が変わってきているのは確かであった。具体的には、声と物腰に重みが加わった。真面目な顔をして見つめてくる彼女は、思わず気後れしそうになるような迫力がある。本人は、それには全く気がついている様子はなかったが。 そして療養に訪れたカイン自身は、随分と身体が楽になっていた。元々が戦傷を負う前から、決して丈夫であったとはいいがたい身体であった。もし古人として生まれたのでなければ、幼少の頃に夭折していたのではなかったかと密かに思っているくらいには。その自分がここに来てから一度も倒れていない。三度の食事を残すこともなく、夜の眠りは深い。彼から見てアヴェナエ医師は、魔導師らしく常識というものが欠落している存在であったが、医者としての技量は非常に優秀である事は確かであった。 廃墟じみている古都モリアの街中を散策していると、街の中央部にある貯水池に出る。ここがまだ機能しているかどうかは知らない。だが、冬の薄雲の合間をぬうように陽射しが柱のように立ち並ぶ様は、とても幻想的で見ていて時間を忘れさせるほどのものがあった。 「陽射しが綺麗ですね」 水辺でぼんやりとしていたカインは、少し離れたところから突然声をかけられてびっくりしてしまった。 きょろきょろとあたりを見回すと、同じ様に水辺に立っている少女がいる。厚織りでフード付きの肩掛けで上半身を覆っていて、白い長靴下と茶色の長靴をはいていた。歳の頃は自分と同じくらいだろうか。紺色にも見える黒髪を中分けにし、あごのあたりで切り揃えている。肩掛けに織り込まれた紋様は、ヴェルミヘ河沿いに南下していった先のダルクス地方の住民のものであったような記憶がある。 「こんにちは。こちらへは留学ですか?」 「いえ、仕事です」 瞳の大きな目を細めて、太い眉を傾けて微笑んだ少女は、この魔導師達の都モリアにはそぐわない素朴さと可憐さを感じさせた。 「しばらく師の元で修行していましたが、ようやく一人前と認めていただけたんです」 微笑んだまま少女は、肩掛けの下から右腕を出してカインに向かってかかげて見せた。肩掛けの下は詰襟の上着と丈の短いスカートで、そしてその服の色は紺色であった。 「ようやく、あの方に消息をお伝えできるお許しをいただけました。オクセンシュルヌス・トゥルトニウス公カイン様」 「……あの方とは?」 それが誰かは、容易に想像がついた。そして、見た目だけは自分とそう変わらないはずの少女が、実は魔導八相に覚醒した導師であるとは、さすがに予想することさえできなかった。魔導八相に達した導師は、自らの見た目すら自在にできるという噂を聞いたことがあったが、それはまさに本当のことであるらしい。慎重に穏やかな表情を保ちつつ、カインは少女からできる限り話を聞きだそうとこころみた。 「クラウディアさんです。しばらくは、わたしの方からはお会いしには行けないとお伝え願えますでしょうか? ただ、わたしが元気だとお伝えいただければ嬉しいのですが」 「……君が、彼女の恋人の一人なんだ」 「いいえ、残念ですけれども、違います。あの方にとってわたしは、しばらく一緒にいただけの人間に過ぎないと思います」 「でも彼女は、君の名前を覚えている」 「はい」 わずかに顔をかたむけて微笑んでいる少女は、腕を肩掛けの下に戻してしまえばただの素朴で可憐な少女にしか見えない。いや、少女も魔導師である以上、相応に何がしかの秘密を抱えている身なのであろうが、それが何かは判らない。そして、それをカインにさとらせるつもりも無い様子である。 「部隊で一緒だったんだ」 「はい」 「そして、彼女が選ばれてここに来ることになったきっかけを作った」 「ふふ。それはクラウディアさんにお聞きしてみて下さい」 互いに穏やかな表情を保ちつつも、張り詰めた空気が満ちた沈黙の時が過ぎる。 「そろそろお時間ではありませんか?」 「そうだね。君は、これから?」 「はい。仕事です」 それでは、また機会がありましたらお会いいたしましょう。 そう言い残して、少女は、ふっとかき消すようにカインの前から消えた。しばらく少女のいた場所を見つめてから、カインはぽつりとつぶやいた。 「なら、名前くらいは教えてくれればよかったのに」 「ああ、イサラだ、きっと」 「ふうん、平民出身なんだ。じゃあ、本当に偶然なんだね、古人に生まれたのって」 「平民出の古人って、結構いるよ」 「そうなんだ。僕の周りには、大体由緒ある家柄の人しかいなかったから」 「それは君が一門宗主だからだよ。素性の知れない古人を近づけるわけにはいかないよ」 部屋に戻ってからカインは、クラウディアと一緒に食堂に夕食を食べにきていた。今日の料理は、羊のひき肉を小麦粉の皮でくるんで熱々のスープで煮たものに、パプリカや玉ねぎ、ニンニクで作ったソースをかけたものがメインである。二人は若いだけあって、山盛りのそれをぱくぱくと食べていた。 カインが少女についてクラウディアにたずねたのは、食事が終わってお茶になってからである。私室で二人きりの時に、もしかしたらクラウディアの恋人かもしれない相手についてたずねるのは気が引けたし、それが事の後ならばなおさらである。それに、腹がくちくなれば大抵の事で頭に血が上ったりはしない。 「それで、話を戻すけれど、イサラ、本当に紺色を着ていたんだ」 「うん。一人前になった、って見せてきたから、導師になったばかりなんだと思う」 「そっか。無事だったんだ。……安心した」 ほっと一息ついてから、眼鏡を外してまぶたをもんだクラウディアの表情は、心からの安堵が浮かんでいるように見えた。 「……あのさ、聞いていい?」 「なに?」 「彼女が、君の恋人の一人?」 「違うよ。うん、好意を持っていてくれたのは確かだと思うけれど、でも、結構怒られていたから。ああ見えてさ、怒ると本当に恐いんだよ、イサラって」 「ふうん、部隊では近衛騎士だったのに?」 「正確には、近衛騎士見習いだから。見習いなんて、新兵と同じだからね。教練係の従士や、段列の工部には怒られてばっかりだって。本当にどうやって引っぱってきたんだか、親衛連隊の先任従士長なんてすごい人を教練係として引っぱってきてさ、その人が恐いのなんの。言葉遣いは基本的に丁寧なんだけれど、もう目つきからして違うから。イサラも親方だったから、機体がからむと人間が変わってさ、機装甲整備用のこんなぶっといレンチで尻っぺたぶん殴るんだよ」 「滅茶苦茶だ」 のほほんとした雰囲気の中でカインは、慎重に言葉を選んでイサラについてクラウディアから聞き出していった。そして判ったのは、彼女が古人でありながら近衛騎士団付きの機装甲工部の親方で、機神整備については「神様」扱いされていたすごい人であったことと、彼女が軍機に関わる違反を行って憲兵隊に逮捕連行されていってから、消息が知れなかったこと、この二つである。 イサラについて語るクラウディアの口調には、敬意と懐かしさこそ含まれていても、慕情や恋愛の色は一切含まれてはいない。あの彼女の口調からすると、向こう側はクラウディアに随分と深い好意を抱いていた様子であるが、当の本人がこれではカインの懸念も思い過ごしのようである。 「でも、ちょっと安心した」 「ん? なんで?」 「せっかく、二人きりで何の気兼ねも無く一緒に過ごせているのに、水入りとか嫌だったから」 もう二月近くもこうして二人きりで過ごしているのに、こういう言葉を口にするのはまだ恥ずかしい。自分の頬が熱くなるのを感じつつ、カインは上目遣いでじっとクラウディアを見つめた。 そんな彼の視線に、だんだんとクラウディアも顔が赤くなってきて、照れたように笑って頭をかく。 「や、やだなあ。大丈夫、きっとまた二人きりの時間を作れるって」 「う、うん。それじゃさ、ここは人も多いし、部屋に戻ろうか」 「そ、そうだね。色々と復習とかしないといけないし」 真白い継ぎ目も何もない部屋の中央で、イサラは紺色の詰襟の制服を着て一人立っていた。部屋の壁全体が柔らかく光っているせいもあって、彼女の影すらぼんやりとしか床に映らない。 「一号機の組み立ては終了いたしました。次は起動試験を行い、これに成功いたしましたら、予定搭乗員の受け入れ試験の予備段階に移りたいと考えています」 誰もいないはずの部屋で、イサラは、すっと空間をなでて無数の図面を宙に投影した。そこには「黒の龍神(ニグレド・ドラクデア・ウヌム)」とも「レギナ・アトレータ」とも違う、全く新しい機体の設計図が描かれている。 「予定搭乗員の調整は、順調に進んでいるとの報告を受けています。起動試験の実施はいつ頃を予定していますか?」 「現在行っている最終調整の終了予定は54時間後となります。82時間後には起動試験の実施が可能となる予定です」 何も無い空間にイサラとは別の女性の声が響き、その問いに彼女は淡々と答えてゆく。 しばらく機体の起動試験について質疑応答が続き、最後に女性の問いがイサラに向けられた。 「何故、予定搭乗員に自己の消息を伝えようとしたのですか?」 「その質問は、わたしの行動が計画の支障となるという判断にもとづくものでしょうか? 予定搭乗員の意識に対して予測方向性を持たせ、情報が開示された段階での混乱を最小限にすることを意図しての行動です」 「公的にはそのように。では、これは貴女の師としての質問です。彼女に会う事が待てませんか?」 その声に感情の色は全く混じってはいない。だがイサラは、わずかに唇を噛むと、ゆっくりと息を吐いてから答えた。 「はい。出来ることならば、今すぐにでも会いに行きたいです。わたしは、あの人の為にこの計画に参加しました。あの人がこれから戦う戦場で、生き残れる機体を作るのが、わたしの望みです。そして、その事を、あの人に伝えたい。この機体は、あの人への私の想いそのものなのだ、と」 「判りました。ですが、その望みを許すわけにはゆきません。あくまで彼女と会うのは、カイン卿がここを去ってからです。ですが、その時に、その想いを伝える事は許しましょう」 「はい。ありがとうございます、我が師」 「本日は以上です」 イサラは、白い部屋から自分の執務室へと転移すると、周囲に誰もいない事を確認してからぎゅっと自分の身体を抱きしめた。しばらくそうしていてから、ゆるゆると息を吐き、心を落ち着かせると、目を通さなければならない書類が山積みの机へと向かう。ささやかな望みではあるが、しかしそれをかなえるためには、目の前の問題を一つ一つ着実に片付けてゆかねばならない。彼女の師は、冷徹ではあるが冷酷ではない。それが計画の支障にならないのならば、イサラの想いも許してくれるという。 「でも、まだ死刑判決が撤回されたわけではないんです」 ぽつりと呟いたイサラの声には、深い絶望の色がにじんでいた。 そう、彼女は、今年の冬、機神「黒の二」を司令部の許可無く違法に改造し、そための部品を書類操作によって違法に調達したことを理由に憲兵隊に逮捕され、軍事法廷において死刑判決を下されていた。今彼女がここにいるのは、それまでの機神に関わってきた経歴と、改造した「黒の二」の設計思想と機体性能が驚愕するべきものであったから、である。 イサラは、この新機神の開発計画において機体設計を担当し、計画が成功したあかつきには、恩赦が下されることが約束されていた。 つまり、計画進行中の現時点では、イサラは刑の執行が猶予されている死刑囚であることに違いはない。 「それでも、わたしは、この賭けに勝ちます」 イサラは、「黒の二」を違法に改造した時点で、自分が軍事法廷に引き出される事を覚悟していた。だがそれでも、自らの新機神についての設計思想と技術について軍上層部が正当に評価するならば、恩赦を勝ち取れる可能性がある事を予想してもいた。 「黒の零」事件によって、軍が既存の「黒の龍神」系列の機体を基として新機神を開発する計画を放棄せざるをえなくなった今この瞬間にしか、新機神開発に関わるチャンスはない。そしてそのチャンスも、並の手段では触れることすらかなわない。 機装甲の工部の親方ともなれば、機装甲の開発に関わり機体を設計する事が許されている地位である。だがイサラは、自分で一から機体を設計した経験がない。それは、彼女の見た目が少女の古人で、機神に懐かれ易く、機神整備については余人を持って換えがたいという技能を持っていたからに他ならない。彼女に新規に機体を設計させるよりも、ただでさえ扱いが難しい機神を任せた方がよいと軍も工部も判断したということである。 だが、イサラも必死の思いで努力して親方株を手に入れた職人である。一度だけでもいい、自分の手で新機装甲を開発し設計したい。その想いは巧妙に隠されてはいたものの、決して忘れられたことはなかった。そして、彼女の目の前に現れた、最初で最後のチャンス。 「貴女のためです。クラウディア」 それでも、あえて違法行為に手を染めさせるには、それ相応のきっかけが必要であった。 そしてそのきっかけこそ、イサラにとって生まれて初めての恋慕の想いであったのだ。 クラウディアへの想いが、いつの頃から形になったのかは、はっきりとは覚えていない。多分、トイトブルグ干渉戦争の最中、皆が空腹と寝不足の中であがいていた頃のことではないかと思う。「内戦」の時とは違う、国外での、それも敵地での遠征。段列であっても、いつ敵の襲撃を受けるか判らない中、なんとか「黒の二」を稼動させ戦場へと送り出す中で、皆がどれだけ殺気立っても悠然と振舞っていた少女。これが武家の名門の姫君というものか、と、心の底から感心したものであった。 彼女が何度難敵と戦い、その度ごとに機体を半壊させて帰投したか判らない。だが、それでも彼女へ平然と振る舞っていたし、機体を壊してしまったことをイサラに謝りもした。その度ごとに怒ってみせたものの、それでも彼女が生きて帰ってきてくれる事にどれだけ救われたことか。騎士の勝利は、騎士だけのものではないのだ。当然、騎士の敗北も、騎士だけのものではない。その騎士の駆る機体に関わった者、全ての勝利であり、敗北なのだから。 クラウディアが討たれない限り、自分達が負けることはない。それがいつの間にか段列の工部達の暗黙の了解となっていた。そして彼女は、皆の期待に応え、大きな勝利をもたらしてくれたのだ。その時から、彼女は、イサラにとっての心の主(あるじ)となったのであろう。 主のためならば、この身命をささげても悔いはない。そして、その想いが恋慕へと変わるのにさほど時間はかからなかった。 「お慕いしています。我が主」 もう一度自分の身を抱きしめたイサラは、熱の篭った蕩けた声でそう呟いた。 「我が想い、必ず貴女の元に届けます」 カインに療養の終了が告げられたのは、冬至の直前の事であった。 モリアも冬のさなかであり地上は雪で白一色に染まっている。そんな光景の中、襟と袖に毛皮のファーのついた外套を着て、毛皮帽の耳当てを下ろした格好で、カインとクラウディアは別れを惜しんでいた。 そしてそんな二人を、紺色の詰襟の制服姿でアヴェナエ医師が微笑んで見つめている。 「カイン卿、貴方の身体が元々虚弱である事をどうにかできるほど、我々の魔術は進歩してはいません。ですが、先の戦争での傷は完治した事は保証いたします」 「ありがとうございます、アヴェナエ師。僕は元老院があるので「帝都」へと戻らなくてはなりませんが、クラウディアのことをよろしくお願いします」 これまでの施療と、予後経過の観察について記されたカルテを入れた書類挟みをアヴェナエ医師から渡され、カインはしっかりとした視線で彼女を見つめ返した。 そんな歳若い一門宗主に向かって、歳若く理知的で美しい魔導師は、嬉しそうに微笑んでうなずいてみせた。 「そして、いつか貴方も覚醒して私達の一員となってくれる事を期待しています。カイン君」 「はい。先生」 「貴方は良い生徒だったわ。魔術でもベッドでも」 「なっ!? なんです、それっ!!」 「ふふ。そういうところはまだまだね」 くすくすと笑ったアヴェナエ医師の事を、カインは真っ赤になってにらみつけた。 頬を真っ赤にしてふくれているカインを見て、くすくすと笑っているクラウディアが口を開いた。 「わたしは、まだしばらく「帝都」に戻れそうにもないんだ。元気でね。無理はしないでくれると嬉しいかな」 「大丈夫。冬至の議会が終わったら一度封土に戻らないといけないけれど、春には辺境候就任式があるから、その前にこっちに寄れると思う。寂しいけれど、でもまた会えるから」 「うん。……きっとだよ」 「判ってる。約束するから」 「うん」 カインとクラウディアは、しっかりと抱き合うと熱い口付けを交し合った。 二人の頬は上気し、互いの唇から唾液が糸となって二人をつなげる。 「それで、部隊の皆に手紙を渡して欲しい。いいかな?」 「六通?」 「うん。教導隊長と、中隊長と、……恋人達。嫌?」 「ううん、構わない。……本当は、君から正式に紹介して欲しかったけれど」 「ごめん。でも、皆いい子だから」 「エウセピア、フェイト、無名、そしてアルファルデス、だっけ?」 「うん」 もじもじと済まなさそうな表情でお願いされては、カインも嫉妬のしようがない。それにクラウディアと出会ったのは、彼女らの方が先なのだ。そして、それぞれの間で培われてきた絆も、カインのそれとは比較のしようもない。 「それじゃ、また」 「うん、またね」 右手を振ってから馬車に乗り込んだカインに、クラウディアも手を振り返す。 馬車が森の中に消えるまで、彼女はずっと手を振り続けていた。 「それではクラウディアさん。あらためて貴女に紹介する方がいます」 「はい。アヴェナエ師」 二人きりになってすぐに、アヴェナエ医師は表情を真面目なものへと変えて、クラウディアに向き直った。同じ様にクラウディアも表情を変える。 「新機神の試作機は組み上がり、起動試験を行う段階にまで来ている事はすでに説明した通りです。貴女の双性化は成功し、あとは予後経過の観察の段階になりました。これから貴女の管轄は、強化調整班から機体設計班に移ります。では、設計班の主任を紹介します」 「お久しぶりです、クラウディア。また会えて嬉しいです」 「やっぱりイサラだったんだ。……お久しぶり。元気そうでよかった」 アヴェナエ師の隣に転移してきたイサラの姿をみとめて、クラウディアは、白い息を吐いて一言呟くと、にっこりと微笑んで右手を差し出した。それを握り返したイサラも、嬉しそうに微笑んだ。 「もう一度会えると信じていました。今度こそ、貴女に相応しい機体を用意します」 「本当に、もう。皆どれだけ心配したと思っているんだか。わたしだって、すごい心配したんだよ?」 「はい。だから、そのお詫びもかねてがんばっています」 「そっか。じゃあ、下に戻ろう。やっぱり外は寒いよ」 「そうですね。お茶を飲みましょう、二人きりで」 「そうだね。積もる話もあるし」 イサラはアヴェナエ医師に目礼すると、クラウディアの右手をしっかりと握ってその場から転移した。 あとに残ったアヴェナエ医師は、両手を腰にあてて軽く息をつくと、自分も次の仕事のために転移していった。
https://w.atwiki.jp/zauhack/pages/20.html
Bluetooth/Zaurus/WX310K にまつわる予備知識 (まだ編集中) スペシャルカーネルについて Zaurus+Bluetooth 関連のページを検索すると、どのページでもだいたいスペシャルカーネルの導入を前提にしているが、必ずしも必須ではない。 確認していないが、スペシャルカーネルなしで スペシャルカーネルのサイト にあるカーネルモジュールインストールができて使用できるのであればそれでいけるはずだし、他の Bluetooth モジュールでも良いはず。 WX310K の場合 以下の話は WX310K の問題なので、Bluetooth でも USB でも共通である。 WX310K の場合でもスペシャルカーネルは必ずしも必須ではない。 が、カーネルにパッチを当てることはほぼ必須。 そうしないと異様なパケットロスが発生し、まともに通信できない (らしい)。 この原因については、Reference/京セラPHS + PPPのパケットロスについて が詳しい。 対策についても、同じサイトの Tips/WX310K with Linux(USB)に詳しい。 このページに書かれている対策についてまとめると、 ppp_async がモジュールになっている場合、 /etc/modules.conf に options ppp_async flag_time=0 の一行を追加 ppp_async がモジュールになっていない (kernel 組み込みになっている) 場合、 カーネルにパッチを当ててコンパイル であるが、SL-Zaurus の場合は後者である。 このパッチは、 linux/drivers/net/ppp_async.cの83行目付近 -static int flag_time = HZ; +static int flag_time = 0; のたった一行。 要は、たった一箇所を修正するかわりに、スペシャルカーネルを導入するという方法を取っていることになる。 逆にいうと、WX310K のように leading flag を省略できない機器以外、つまり普通の機器を使って接続する場合には、無駄に leading flag を送ることになって、却ってスループットが落ちる可能性もある。 現在のスペシャルカーネルは ppp_async がモジュールになっていないようなので、その場合には スペシャルカーネルを入れない ppp_async fix パッチだけを適用しないスペシャルカーネルを自分でコンパイルする スループットが落ちても気にしない のいずれかになるだろう。 ただ、タイムアウトが発生するわけでは (おそらく) ないので、非パッチカーネル + WX310K よりは気にならないかもしれない。 名前
https://w.atwiki.jp/zauhack/
いまさらだけど、SL-C1000 を買ったので、そのメモ。 今までは SL-C760 を使ってたんだけど、WX310K で Bluetooth でのネット接続をしたかったので新しいのを買った。 SL-C760 でやっても良かったんだけど、いままでつくってきた環境を壊すというリスクは避けたかったので。 雑多な情報 起動直後の ls-lR クロスコンパイル環境構築 ヘッダファイル等のインストール binutils のインストール gcc のインストール NAND バックアップ スペシャルカーネル インストール Bluetooth 関連 Zaurus と Bluetooth と WX310K にまつわる予備知識 OpenOBEX ただの備忘録 (というか、リンク集というか) アプリケーション (自前コンパイル) tcsh アプリケーション embeddedkonsole KeyHelper Applet ぱうフォント qpe-clockapplet ZEditor NeoCal Zaif PortaBase WZNotes ntpdate monafont q2ch Ztenv(未編集) qpdf(未編集) Opera その他設定とか root のパスワードとシェルの変更 (書きかけ) これから書く/やる予定 OpenSSL/OpenSSH スケジュールの祝日の設定 keyhelper その他アプリケーションいろいろ このページの CSS をもう少しマトモにしたい
https://w.atwiki.jp/zauhack/pages/28.html
KeyHelper Applet / KeyHelperConf http //tbox.jpn.org/linuzau/keyhelper/ keyhelper_1.2.2-1_arm.ipk http //tbox.jpn.org/linuzau/keyhelperconf/ keyhelperconf_0.3.0-1_arm.ipk
https://w.atwiki.jp/zauhack/pages/12.html
スペシャルカーネルのインストール 以下は全て SL-C1000 の場合。 総本山 SL-C1000 Linuxカーネルアップデート手順について を見れば OK (ダメ?)。 おおまかには、 SD or CF に、以下の二つのファイルだけを置く zImage (zImage-v18i-C1000.bin をリネーム) updater.sh (updater.sh.cd1000 をリネーム) 総本山 にこっそり(?) MD5 の一覧のページがあるので、きちんと確認しておく あとは、SL-C1000 Linuxカーネルアップデート手順についてに従って更新 必要に応じてモジュールをインストール。なお「SL-C1000/C3000/C3100/C3200 kernel modules (v18i)」(kernel-modules_v18i_arm.ipk) の中身は以下の通り drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/ -rw-r----- 0 root root 13080 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/bfusb.o -rw-r----- 0 root root 12536 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/bluecard_cs.o -rw-r----- 0 root root 12760 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/bt3c_cs.o -rw-r----- 0 root root 10988 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/btuart_cs.o -rw-r----- 0 root root 11176 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/dtl1_cs.o -rw-r----- 0 root root 21043 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/hci_uart.o -rw-r----- 0 root root 14524 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/hci_usb.o -rw-r----- 0 root root 6376 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/bluetooth/hci_vhci.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/media/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/media/video/ -rw-r----- 0 root root 11216 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/media/video/videodev.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/ -rw-r----- 0 root root 10344 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/acm.o -rw-r----- 0 root root 32027 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/hid.o -rw-r----- 0 root root 12308 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/usb-monitor.o -rw-r----- 0 root root 35197 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/usb_ohci_pxa27x.o -rw-r----- 0 root root 106798 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/usbcore.o -rw-r----- 0 root root 5616 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/usbkbd.o -rw-r----- 0 root root 4064 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/usbmouse.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/ -rw-r----- 0 root root 55648 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/usbdcore.o -rw-r----- 0 root root 10523 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/usbdmonitor.o -rw-r----- 0 root root 3569 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/usbdserial.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/bi/ -rw-r----- 0 root root 38533 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/bi/pxa27x_bi.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/net_fd/ -rw-r----- 0 root root 40933 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/net_fd/net_fd.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/storage_fd/ -rw-r----- 0 root root 27628 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/device/storage_fd/storage_fd.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/storage/ -rw-r----- 0 root root 151428 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb/storage/usb-storage.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/video/ -rw-r----- 0 root root 14280 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/video/bvdd.o -rw-r----- 0 root root 243316 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/video/encode-eucjp.o -rw-r----- 0 root root 263064 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/video/encode-gb.o -rw-r----- 0 root root 243512 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/video/encode-sjis.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/ -rw-r----- 0 root root 57928 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/bluez.o -rw-r----- 0 root root 28780 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/l2cap.o -rw-r----- 0 root root 16828 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/sco.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/bnep/ -rw-r----- 0 root root 18570 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/bnep/bnep.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/hidp/ -rw-r----- 0 root root 16515 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/hidp/hidp.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/rfcomm/ -rw-r----- 0 root root 52095 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/bluetooth/rfcomm/rfcomm.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ -rw-r----- 0 root root 21948 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ip_tables.o -rw-r----- 0 root root 6884 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_LOG.o -rw-r----- 0 root root 2004 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_MARK_target.o -rw-r----- 0 root root 2960 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_MIRROR.o -rw-r----- 0 root root 6084 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_REJECT.o -rw-r----- 0 root root 4616 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_TCPMSS_target.o -rw-r----- 0 root root 2512 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_TOS_target.o -rw-r----- 0 root root 5780 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_ULOG.o -rw-r----- 0 root root 1744 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_ah.o -rw-r----- 0 root root 1748 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_esp.o -rw-r----- 0 root root 1692 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_length.o -rw-r----- 0 root root 2436 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_limit.o -rw-r----- 0 root root 1864 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_mac.o -rw-r----- 0 root root 1472 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_mark.o -rw-r----- 0 root root 1852 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_multiport.o -rw-r----- 0 root root 3396 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_owner.o -rw-r----- 0 root root 2156 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_tcpmss.o -rw-r----- 0 root root 1468 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_tos.o -rw-r----- 0 root root 1988 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_ttl.o -rw-r----- 0 root root 10396 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/ipt_unclean.o -rw-r----- 0 root root 3404 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/iptable_filter.o -rw-r----- 0 root root 3932 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/net/ipv4/netfilter/iptable_mangle.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/lib/ -rw-r----- 0 root root 8112 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/lib/firmware_class.o drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/arch/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/arch/arm/ drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/arch/arm/mach-pxa/ -rw-r----- 0 root root 67500 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/kernel/arch/arm/mach-pxa/registers.o lrwxrwxrwx 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/build - /home/tetsu/zaurus/patched/linux drwxr-s--- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/pcmcia/ -rw-r----- 0 root root 0 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.dep -rw-r----- 0 root root 31 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.generic_string -rw-r----- 0 root root 99 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.pcimap -rw-r----- 0 root root 81 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.isapnpmap -rw-r----- 0 root root 189 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.usbmap -rw-r----- 0 root root 29 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.parportmap -rw-r----- 0 root root 73 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.ieee1394map -rw-r----- 0 root root 24 Aug 12 23 58 lib/modules/2.4.20/modules.pnpbiosmap 名前
https://w.atwiki.jp/zauhack/pages/15.html
クロスコンパイル環境構築 binutils のインストール GNU の ftp site (のミラー) から、最新の binutil を持ってくる。 現時点 (2010/03/26) での最新は 2.20 だが、うまくコンパイルできないので、2.19 を使った。 signature の verify も忘れずに... と言いたいところだが、鍵はどこにあるんだ? (PGP keyserver にはないぞ!?)。 で、インストール手順 bzip2 -cd $(SRCDIR)/binutils-2.19.tar.bz2 | tar xvf - cd binutils-2.19 あとは configure make だが、bash が入っていない環境だとうまくいかないので、その場合は後述のパッチをあてる (ちょ~ ad hoc)。 (bash の有無で処理を分けているようだけど、パースしちゃってる?) もちろん bash が入っていればパッチ不要。 patch $(SRCDIR)/binutils.diff ./configure --prefix=$(CROSSDIR) --enable-shared --target=arm-linux --enable-targets=xscale-linux-elf gmake gmake install FreeBSD の場合、素の make では通らないので注意 (Solaris 10 の /usr/ccs/bin/make もダメみたい)。 後片付け cd .. rm -rf binutils-2.19/ パッチの内容 これも手パッチの方が早いやね --- ld/genscripts.sh,origMon Aug 13 04 00 07 2007 +++ ld/genscripts.shFri Sep 21 10 09 56 2007 @@ -391,19 +391,19 @@ esac if test -n "${BASH+set}"; then - source_em() - { - local current_script="$em_script" - em_script=$1 - . $em_script - em_script=$current_script - } - fragment() - { - local lineno=$[${BASH_LINENO[0]} + 1] - echo e${EMULATION_NAME}.c "#line $lineno \"$em_script\"" - cat e${EMULATION_NAME}.c - } +# source_em() +# { +# local current_script="$em_script" +# em_script=$1 +# . $em_script +# em_script=$current_script +# } +# fragment() +# { +# local lineno=$[${BASH_LINENO[0]} + 1] +# echo e${EMULATION_NAME}.c "#line $lineno \"$em_script\"" +# cat e${EMULATION_NAME}.c +# } else source_em() { (参考) binutils-2.20 コンパイル時のエラー gcc -DHAVE_CONFIG_H -I. -I. -I. -I../bfd -I./config -I./../include -I./.. -I./../bfd -I./../intl -DLOCALEDIR="\"/usr/local/zaurus/share/locale\"" -W -Wall -Wstrict-prototypes -Wmissing-prototypes -Werror -g -O2 -MT tc-arm.o -MD -MP -MF .deps/tc-arm.Tpo -c -o tc-arm.o `test -f config/tc-arm.c || echo ./ `config/tc-arm.c config/tc-arm.c In function `make_mapping_symbol config/tc-arm.c 2488 warning empty body in an if-statement gmake[4] *** [tc-arm.o] Error 1 gmake[4] Leaving directory `/tmp/work/binutils-2.20/gas gmake[3] *** [all-recursive] Error 1 gmake[3] Leaving directory `/tmp/work/binutils-2.20/gas gmake[2] *** [all] Error 2 gmake[2] Leaving directory `/tmp/work/binutils-2.20/gas gmake[1] *** [all-gas] Error 2 gmake[1] Leaving directory `/tmp/work/binutils-2.20 gmake *** [all] Error 2 名前
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1361.html
このスケッチも「これはこれとして」扱いである。今回はガリルちんがどの程度使えるのかというのとか、久しぶりにリーファを書きたくなったとか、魔導師としてのフェイトそんの中途半端な立場とか、色々である。 ぞぉん、と総毛立つような音を立てて通り過ぎた両手剣の刃を髪の毛一筋で避けたフェイトは、くるりと床と平行に倒した身体を回転させて魔力刃を伸ばした直刀を左から右へと薙いでガリルの踏み込んできた右ひざを断ち切ろうとした。 その一閃を魔導は「光」「闇」の対相の観測によって両手剣に載せられた運動エネルギーのベクトルを操作し、手元に引き寄せる反動で身体をを後ろに戻したガリルは、右膝を折って間一髪フェイトの攻撃を避け、そのまま軸足を移した左足を跳ねさせ右斜め後ろに跳んだ。 倒した身体を起こさず、そのまま後ろに伸ばした右足で床を蹴ってするりと踏み込んでくるフェイトを、ガリルは引き寄せた両手剣を手首を返すようにして打ち下ろし、自分も床を蹴って彼女に向かって突っ込む。 わずかに切っ先が届かないと判断したのか、フェイトは左手の直刀で打ち下ろされる両手剣を弾き、右手の直刀を右足の踏み込みと同時にガリルのみぞおちへと突き立てようとした。それをガリルは弾かれた両手剣を無理に構え直そうとはせず、くるりと回転させた剣の刃を両手で握って左右に突き出た鍔を打ち込もうとする。 互いに魔導は「光」「闇」対相の観測を用いて体幹の位置をずらし、刃に鍔に纏わせた魔力刃を伸ばす。着衣一枚切り裂くぎりぎりで互いの攻撃を避け、すり抜け際にさらに一撃を放って立ち居地が入れ替わる。 左手の篭手を軸に一回転させて再び両手剣の柄を握ったガリルと、左手の直刀を突き出し右手の直刀を立てたフェイトは、ぬるりと左右に動いたかと思うと弧を描くようにして互いに相手へむかって突進した。 「やっぱりガリルは強いね」 「フェイトさんも強くなってきていますよ。昨日までなら最初の落とした鍔で背骨を砕けていました」 仕合が終わって試合場から下がった二人は、壁際でそう小声でやりとりしていた。互いに頬を上気させ瞳をきらきらさせてはいるが、口にしている言葉の中身は割りと血なまぐさい。 「練習しているから」 「そうですよね。あ、シャルルが勝った」 「上手だね、シャルル。剣技だけならまだまだ勝てないよ」 「ですよね。まずはシャルルに確実に勝てるようにならないと」 「そうだね」 フェイトが得物を帝國軍制式の長斧から直刀二本に変えてから、シャルルも片手刀二本で戦うようになった。フェイトが得物を変えたのは、ここ近衛第902重駆逐機大隊の大隊長であるゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン大隊長による「大試し」の後の事である。並人ながら身の丈六呎を超え、さらにその身長よりも長い鉄隗のような大剣を自在に振るう彼に、大隊の騎士達のほとんどが敗北している。それはフェイトもガリルもシャルルも同じで、フェイトこそ魔導を用いてかなり粘ったものの最後に魔力が尽きたところで斬壊され、ガリルは得物の両手剣ごと圧壊され、シャルルは左篭手でいなそうとして粉砕された。 それからフェイトは威力こそ大きいものの重く予備動作の大きい長斧を棄てて手数勝負のための直刀に得物を変え、魔術も最低限しか用いずに戦う方法を会得しようとがんばっていた。ガリルもこれまでの「光」「闇」対相を用いた力勝負な剣から、全身を用いた瞬発力による素早い一撃をより速く放つ刀方へと術を変えていた。 仕合が終わったシャルルは、一礼してから負かしたアイデシアとともに試合場から下がり、今の仕合について二人で身振り手振りを交えて色々確かめ合っている。アイデシアも決して弱くも下手でもないのだが、やはり505大隊副大隊長に直接鍛えられ満を持して送り出されてきただけはあって、平騎士達の中では頭一つ抜きん出ていた。 「シャルルは、体幹の芯の通りかたきれいなんですよ」 「そうだね、どんな姿勢を取っていても綺麗に筋が抜けているね」 そのシャルルおして、どうやっても勝てないよ、と嘆息させているのがガリルである。 エドキナ大公領はその軍事を担当している自治領防衛委員会の第一委員、つまり魔族領の軍事のトップを父親に持つ彼は、魔族はダイモンの双性者であるのだが、見た目は少女を思わせるマニッシュな容姿に人懐こい性格をしている事もあって皆から魔族として認識されていないところがあった。 だがそんなガリルとてダイモンはダイモンであり、魔族大夫の称号を持つ一人前の戦士である。得意とする魔導は「光」「闇」対相を用いた「力の働きの方向と量の制御」によって、自身の身長にも近い長さの両手剣を小刀同様に自在に操り必殺必壊の一撃を繰り出してくるまごうことなき魔族の戦士であるのだ。事実大北方戦争でも「黒の二改」を駆ってその両手剣で両手の指では余る程の数のゴーラの機装甲を粉砕しており、その武功に対して勲章が授けられているほどであった。 「でも幹部の皆さんほどではないんですよね。自分もですけれど」 ガリルの視線の先では、第二中隊長のクラウディアと第一中隊先任小隊長のルナマリアが、互いに長槍で仕合っている。方や武の名門で知られるセルウィトス一門宗家の姫として若年の頃より戦場に出ていた手垂れの戦士であり、方や内戦古兵の黒騎士である。素早く重い一撃を互いに繰り出し合い、時に長柄で、時に石突で対手を打ち据えようとしている。その身のこなしは、明らかにシャルルと比較して小さく素早く揺らぎが少なかった。 「私はずっと魔術中心でやってきたけれど、みんな体術を主にしてきたから」 「魔術は魔力が尽きたらおしまいですからね。自分も実は魔力頼りな戦い方をしてきて基本がおろそかになっていたのを知って悔しかったですし」 「そうだね。同格以上の敵と戦うなら、戦い方に穴があったらそこを突かれるから」 ひょいと槍を手放して見せて突きを誘ったクラウディアが、踏み込んでみせた足の甲で槍を蹴り上げて再度掴み、互いの柄を絡めてルナマリアの槍をはね飛ばして一撃突き入れたのを見て、二人はそろって溜息をついた。 「いらっしゃい。……あんたか」 「ごめんね。でもこの部屋だと肩の力が抜ける感じがして楽になるんだ」 次の休日、フェイトは帝都南岸の下町にあるリーファの下宿を訪れていた。 この森族の上位種アールヴの少女であるリーファは、ガリルが大北方戦争で捕虜にした戦士である。かつてトイトブルグでフェイトと戦った事もある彼女は、いかなるつもりでか帝國に来ることを決めてガリル達と一緒に帝都にやってきて、今では医者の助手などしているらしい。本人曰く、帝國の医術は彼女の知っているそれとは全く違っていて、素人同然の彼女でもなんとか食べていける程度の仕事はあるそうである。 壁や床にびっしりと鉢植えが置かれたリーファの部屋のすみっこの机の上に、バターや岩塩の塊をごろんと置いたフェイトは、客用の椅子に腰を下ろした。 「元気みたいだね。よかった」 「来るたびにそう言うわね、あんた。はい、お茶」 「ありがとう。頂くね」 香草や薬草をブレンドしたお茶を二客のお椀に入れて並べたリーファが呆れたようにそう口にするのを、微笑みで返したフェイトはちょっと癖のある香りにほっと息をついた。 「うん、やっぱり落ち着く」 「森の民みたいなこと言うのね。一応魔族なんでしょ」 「うん。でも森で育ったからかな。草木の香りが好きなんだ」 本来は森族のリーファと魔族のフェイトは不倶戴天の敵である。少なくとも両種族は出会った瞬間に殺し合いになる程度には敵対している。だがこの「帝國」の「帝都」では、こうして二人が割りとぞうけない態度でお茶を一緒するくらいには自由な空気があった。 「で、あいつは?」 「元気だよ。色々鍛錬に工夫を試してるよ」 「ふーん、あんなんでもやっぱり騎士は騎士なんだ」 なんとなく聞いてみました、という風を装いつつ、それでも少し頬がそまっていたり視線が泳いでいたり、リーファはガリルの事が気になって仕方が無い様子である。実はフェイトはリーファのことをぎゅーっと抱きしめてかいぐりしてみたくて仕方が無いのだが、少し間合いを近づけただけで警戒されるので、それは行動に起こさないでいる。少なくともこうして対面でお茶を一緒できるくらいのところまでは近づけるようになった。きっと近い将来ぎゅーっとできるようになると、そう根拠は無いが確信があった。そんなリーファが身体が寄り添うところまで近づくのを許しているのがガリルである。 「はぁ。やっぱり森が恋しいわ」 「そっか。「帝都」周辺の森は基本的に闇族のものだしね」 「そゆこと。アールヴのあたしが下手に森に近づいたら命が危ないわ。一応こうやって鉢植え置いて結界張って擬似的に森に近い空間作っているけど、やっぱり本物にはかなわないし」 お茶をすすって軽く愚痴ったリーファは、その猫目を期待にきらめかせて身を乗り出した。 「ね、あんた近衛騎士ってことは結構顔広いんでしょ? どこか森に入れて貰えないか口効いてくれない?」 「森に?」 「そ。別に住まわせてくれって言っているんじゃないわ。しばらく森で過ごさせてくれるだけでいいから」 フェイトは軽く小首をかしげてリーファのお願いについて考えてみた。 とりあえず帝都周辺の土地は基本的に御料地である。つまり皇室絡みなわけで、お願いするとするならばケイロニウス一門を経由する必要がある。そしてケイロニウス一門の友人は何人かいて、そして「帝都」周辺に土地を持っていそうな相手というと一人しか思いつかない。 「うん、ちょっと聞いてみる」 学院の頃よりも余裕と艶と、なにより凛々しさを増した彼女ノイナ・ケイロニウス・レオニダシア公爵は、その長い脚を肘掛け椅子の上で組んで両手の指を絡め合わせた。 「うん、久しぶりだね、フェイト。君も壮健そうでなによりだ」 「ノイナも元気そうだね。子供達は元気?」 「ああ。私が元老院で忙しい分構ってやれないんだが、その分は夫が可愛がっている。そういえば北ではマルクスの下で勤務していたのだったね。彼が世話になった」 女性としては身長が高く凛々しい面立ちのせいもあって、ノイナは学院では随分ともてた。それはもう彼女が顔出しするだけで他の女生徒が黄色い歓声を上げるくらいに。そしてそれを余裕であしらっていたわけで、さすがは皇室御一門に連なる高家の当主である。 「今は法典編纂事業に参加しているんだよね」 「ああ。臣民権利章典が発布されて以来の事業さ。若手の議員が法務関係の仕事を覚えるには丁度良い機会って奴だ」 「すごいね。代替わりしても続く事業って」 「その為の組織、その為の元老院さ」 ふっ、と余裕の笑みを浮かべてみせたノイナは実に格好良い。夫のマルクス・ケイロニウス・レオニダス参謀も名家出身の古人らしく艶やかな美人であったが、貫禄と格好良さという点ではノイナにはかなわないとフェイトは思う。いや上官に対する点が辛くなるのは兵隊の常だし、学院で三年間一緒に過ごした学友に対する評価が甘くなるのも仕方が無いのは判っているつもりだが。 「法務官試験の受験はするんだ」 「ああ。枢密院で判事をやるにも、法務省で検事をやるにも必要な資格だからね。やはり仕事に幅をもたせられるようになりたい」 「帝國」では臣民権利章典の発布以来、政治を行う者に対する要求のレベルが上がった。帝國臣民であるというだけで法による加護を受けられるということは、それだけ政治の側の負担が大きくなる。これまで諸侯が領主裁判権を行使していたのを、帝國政府が担う事になるのだ。そして国家の秩序が維持されるかどうかは、人民の裁判に対する信頼の度合いにかかってくるといって過言ではない。そのため今の「帝國」では、検事と判事は法務官としての資格を持った者が任命されることになっていた。もっとも、だからといってすぐに法務官の数が揃うということはなく、それ故に今の時点では若手貴族に対する一種の箔付け的なところがあるのも仕方がなかったりするのだが。 「で、だ。手紙にあった件なんだが、何故かあり得ないところからくちばしが入った」 「そうなんだ」 「ふむ、驚かないのだね。まあ昔から君はそうだったんだが」 軽くおとがいに左手を添えたノイナは、軽く小首をかしげただけのフェイトの姿に昔を思い出したのか懐かしげに微笑むと、次の瞬間には表情を引き締めた。 「正直に答えて欲しい。手紙にあった「森族の友人を森に連れてゆきたい」というのは、他に何も裏はないのだね?」 「うん。本当にそれだけだよ。私も彼女も、森が懐かしいだけ」 「そうか。うん、君が嘘をつかないことはよく知っている。……まあ、私も若造だ、判らない事の方が多いのは当然なのだな」 「何か迷惑をかけた?」 心配そうな表情になったフェイトの言葉に、笑って手の平を振って空気を変えたノイナは、少し肩の力を抜いてみせた。 「シリヤスクス・シルディール侍従武官長から話があった。心当たりはあるかい?」 「カメリア覚師が? ううん、全く。向こうが忙しいみたいで全然会って貰えないし」 「ふむ。そうか、君にとっては魔導の偉い相手という事になるんだな。だとすればそちら側の話なんだろう。つまり」 「つまり?」 「貴族としての話ではなく、魔導師としての話に持ってゆきたいのだろう、あちらさんは」 事は済んだ、という表情になったノイナは、すっかりくつろいだ様子になってそう微笑んだ。 ぱーっと明るい表情になったリーファが全身で喜びを表すのを見て、フェイトは色々がんばった甲斐があったととてもとても嬉しい気持ちになって微笑んだ。 「うわーっ! 綺麗な森!! うん、下手な手も入っていないし、精霊達も自然だし、魔力の流れも綺麗!! ありがとう、フェイト!!」 「そんなに喜んで貰えて嬉しいかな。気に入って貰えて良かった」 くるくる回って極上の笑みを浮かべているリーファが、大喜びでフェイトに抱きついてくる。そんな彼女をぎゅーっと抱きしめて冴えた金色の髪にほおずりした。 「でもすごいですね、フェイトさん。こんな綺麗な森、東方辺境を通った時にしか見ませんでした」 「ふっふん。ガリルは中原より西に行ったことないもんね。いい、西方森族が住まう森はね、これくらいが当たり前なの。伊達に森の民と呼ばれているわけじゃないんだからね!」 へーっと驚いたような表情をしているガリルは年齢よりも幼く見えるし、ちっちっち、と右手の人差し指を振ってみせるリーファも見た目相応に愛らしい。 仲睦まじい二人を見ていると、フェイトはシリヤスクスの魔女二人との会見の時の緊張と重圧を少しだけ忘れることができた。 「リーファさん、飛べたんですか!?」 「これだけ精霊がいればねーっ」 背中から魔力で出来た羽根を伸ばしてふわりふわりと宙を舞うリーファと、彼女を追いかけて走り回っているガリルの姿を眺めつつ、フェイトは数日前の会見の事を思い出していた。 「そろそろ工房が必要な段階に研究が達していませんか? フェイト師」 開口一番そう切り出したのは、紫色の詰襟の服をまとったカタリナ覚師であった。フェイトにとってはモリアで「クルル=カリル」受領のために教育を受けて以来である。フェイトにとってモリアでの勉強と研究の期間は大変にためになった。少なくとも導師としての彼女はそこまで格が高いというわけではない。やはり専門の研究を長年続けてきた導師には一歩も二歩も譲る。 「はい。カタリナ覚師」 フェイトの研究は、つまるところ空間の裂け目から落ちていった母親を探し出し再開するためのもの。そのために空間の在り様、次元の在り様を研究しているのだ。 だが近衛騎士団の駐屯地に作る事のできた仮の工房では、どうしても雑音が酷くて研究が止まってしまっていた。それも当然の事である。そもそも近衛騎士団の駐屯地にはヴェルミリオム師とイサラ師の工房があってそちらが優先であるし、フェイトの研究のためにはかなり大規模な魔導的真空空間が必要となる。それだけの高度な術式を行使するためには、非常に高度な環境管理と高度な施設が必要となるのだ。つまり、一介の魔導師がどうこうできるレベルではない、ということでもある。 「古代魔導帝国の遺跡の跡を別荘にした土地があります。それを近衛騎士団に移管しても構わないと考えています」 「はい。対価を」 「後日あらためて」 フェイトは視線をカメリア覚師に向けた。彼女は魔導師としてはカメリア覚師の派閥に属している。古代魔導帝国の遺跡が関わるとあれば、それは生半可な対価では済まない。それこそフェイトが一生かかっても支払いきれないレベルのものである。 「構いません。これは近衛騎士団員に対する魔導教育のための施設としての移管です。貴方は管理責任者となります。魔導についての教育を行いうるよう適切な環境を維持するように」 「了解いたしました。閣下」 近衛騎士団員に対する魔導教育の必要性は、常々フェイトも口にしてきた。それがようやく動き出したというのであれば、否も応も無い。近衛騎士として任務に精励するだけである。 だが魔導師としてのフェイトにとっては、この破格の対応に対して支払いをしなくてはならない。そしてそれは後日に請求書をよこすという。この事の意味をどう理解したらよいのか判らず、フェイトは二度三度まばたきをした。 そんな彼女をカタリナ覚師は、穏やかに慈愛の微笑みを浮かべて見つめているだけであった。 「この森って、どういう由来の森なんでしょう? フェイトさん」 「うん、なんでもコンスタンス帝の頃には使われなくなった皇室別荘の一つで、管理を近衛騎士団に移管する事になったんだ。それ以上はリーファの前では話せないかな」 「うわーっ、それってとんでもないいわく付きってことじゃない。でもいいの? あたしが入り浸っても?」 「うん。ここで見聞きした事を口外しないと約束してくれるなら、ここの森の管理をリーファに任せてもいいかな、って考えてる」 「いや、それは本気で怖いんですけど」 げー、ないわーそれないわー、みたいな盛り下がった表情になって、リーファは肩を落とした。さすがの彼女であってもこの「帝國」で皇室絡みがどれだけ面倒で危険なことか理解できるようになったらしい。むしろガリルの方がその点については判っていない様子である。 「でも、これだけ綺麗な森だし、ううっ、私が手を入れられるって、それって一生に一度巡ってくるかどうかも判らない幸運なわけで。うーん、いや、でも、「帝國」の皇室関係なんて泡吹いてる底なし沼に自分から飛び込むようなものだし、うう」 さすがの怖いもの知らずで即決即断即実行なリーファであっても躊躇するような物件ということである。こういうところは割りと森の中での政治を傍目で見てきただけあって鼻が効く様子である。だが森の民にとって、一つの森を自分で管理できるというのはとてつもない魅力であるようである。あえて例えるならば、領地付きの城を任されるのと同じくらいの幸運とでもいうべきか。 「いいんじゃないですか? 「帝都」を引き払ってこちらに家を構えちゃえば」 「あんたねえ、せっかく職をまわして貰ってすぐに、はいさようなら、とか不義理にも程があるでしょうが」 「あ、そういえばそうですね」 こっちは真面目に悩んでいるっていうのに、なにそのボケは。この天然め。 ふーっ、と毛を逆立てたリーファがガリルの首を後ろから回した腕で締め上げている。それで彼女の豊かな胸が背中にあたるのが嬉しいのか、とても幸せそうな表情で止めてください苦しいですとかほざいていても、二人ともじゃれあっているようにしか見えない。 「急ぐ話じゃないから、考えておいてくれるだけでいいよ」 「そっか。なら返事は待ってね。さすがに今すぐは決められないわ」 幸せそうなガリルの首を後ろから締め上げつつ、リーファはそう何かもにょるような表情でフェイトに返事をした。