約 3,470,409 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2409.html
ミッドチルダの大都市、魔法文明の中心地 クラナガン。 無数の高層ビルが立ち並び、キレイに舗装された道が広がり、ライフラインが完備された完成形とも言える街。 だがソコに人が住んでいる以上、どうしても「ソンナ場所」は存在する。キレイな大通りから一歩脇道に入ってみよう。 暗い通りがある。汚い建物があり、弱々しい明かりがある。非合法な店が軒先を並べている。 「ソンナ場所」 そのビルも裏路地に居を構えるだけあって、古く薄暗い印象を与える有象無象の一角。 だけどその一室だけはまた違った色を纏うことになる。まぁ、コレもこう言う場所では起こりやすい事態の一つなのだが…… 「ゴフッ……」 悲鳴と呼ぶには余りにも小さく、だが余りにも凄惨な音。ボコボコと溢れかえる水音。 だけど水の色は紅いアカい赤。溢れ出る先は人間の首元。横一文字に切り裂かれた傷。 崩れ落ちる男の背後から彼の喉元を引き裂いたのは銀に光る鋭い刃。シッカリとしたグリップとそれに似合う刃を備えたダガーナイフ。 ソレを持つ黒一色に包まれた人影は、崩れ落ちる男に何の感慨も抱かず、淡々と奥の部屋へと歩を進める。 「コンコン」 軽いノック音。これまた友人の家を訪ねるような自然なノック。数秒の沈黙の後、開かれた扉。 怪訝そうな表情の中年女性が顔を覗かせる。人影はその襟元を掴んで引きずり出すと同時にナイフを腹部へと一撃。 「□□□□□!!」 「っ!? どうした!!」 ナイフを回転させて引き抜くと悲鳴、それによって生まれた驚愕の声が室内から響く。 回転させて傷口を抉った結果として生まれる多量の返り血を浴びながら、殺戮者は室内へと飛び込んだ。 「キサマ!」 奥に見えた最後の標的、白いスーツの青年が突き出した手の先に魔力反応。魔道師、しかもその収束率からしてかなりの腕利き。 だが……遅い。人影、殺戮者、殺し屋には遅すぎた。距離も既に魔法の間合いではない。 ここはもう魔法に比べれば原始的な殺傷兵器、ナイフの間合いだ。 「グッ!?」 自然な動きで殺し屋の袖口から引き抜かれたもう一本のナイフ。二人の命を奪ったナイフよりも幾分細く、シンプルな作り。 切り裂く事ではなく、投擲用に重心が先端部にあり、「突き刺さる」事に重点を置いたスローティングナイフ。 飛翔した凶器は寸分違わず、魔道師の肩に突き刺さる。もちそんそれだけでは命を奪う事は出来ない。 だが魔法を成功させる集中を途切れさせるという意味では充分。残された手に握られたナイフが容易く最後の命を刈り取った。 「あぁ……ゲンヤさん? 終わりました。三人、皆殺しです」 辺りに死体が散乱するホテルの一室。そこで黒いロングコートを筆頭とした黒尽くめの殺戮者は携帯電話を取り出して、番号をプッシュ。 慇懃無礼に高級そうなソファーの上で姿勢を崩し、足をテーブルに乗せて組んだ姿勢で、繋がった先で黒尽くめの殺し屋は言う。 『相変わらずお前さんの仕事は速くて助かるぜ、ピノッキオ。何時も通り処理するから、先に出な』 答えたのは中年の男性の声。話の内容から察するにこのような出来事は日常的に行われる慣れた行為。 「解りました」 それだけ言うと殺し屋 ピノッキオは電話を切る。余計な会話は足をつく事に成りかねない。 仕事で使ったナイフと携帯電話を黒いコートの中へと納め、彼は呟いた。 「バリアジャケット解除」 『YES』 光がピノッキオの体を包み、一瞬で弾ければ彼の服装は何処にでもいる好青年のソレ。 気だるげな表情は青年期独特の無気力感を醸し出しており、手元に収まったのは小さなナイフにも似たペンダント。 それが彼の扱う魔法の道具であり、殺しのアイテム。『カヴァリエーレ』 ナイフ形という珍しいデバイスだった。 「けど……便利なもんだ、魔法って」 魔道師資質に乏しいといわれた某管理外世界ではピノッキオを驚かせる不思議な事など多くは無かった。 まぁ不思議な事など、自分と殺し合える小さな女の子くらいなもの。 勿論彼自身も魔法に才能があるわけではない。いま行ったバリアジャケットの生成と解除、僅かな運動能力の強化が限界だった。 だが……彼の強さは魔道師としての才能ではない。単純な身体能力と適切な行動予測、そして殺しの知識に裏づけされたもの。 「……ん?」 ジャケットの内ポケットを弄っていたピノッキオはソコにお目当ての品 タバコが無い事に顔をしかめる。 何時から吸うようになったか覚えてないが、仕事のあとに一服するのはそれなりに気分が良いものだ。 思い出したように己が命を奪った死体 白いスーツの魔道師の懐へと手を入れて、引き出したタバコを咥え、火をつける。 「変わった味だな……」 煙を吐き出しながら立ち上がり、軽い足取りで扉を二つ通って廊下へ。 ピノッキオの足取りは三人を殺して、その背後には死体が転がっている事など感じさせない自然なソレ。 裏に分類される場所とは言え、廊下で歩きながらの喫煙などしているからか? 「?」 「……」 途中で擦れ違った少女に訝しげな目を向けられたこと以外、ありきたりな日常のような平静。 二階分ほど階段を下りたころには、彼も意識するレベルでは無いが、仕事を終えた安心感を覚え始めても居た。 だが……ピノッキオと「女の子」の相性は基本的に最悪なのである。 「まて!!」 「なに?」 体全体で振り返る何時もの本能を押さえ、ピノッキオは首の動きだけで背後に居るだろう、叫びの主へと視線を向ける。 一般人としての対応により、不信を感じさせない策だったのだが……叫びの主の姿からすればソレは失敗だった。 オレンジ色の髪をツインテールにしてバリアジャケットに身を包んだ少女が銃型のデバイスを向けていたのだから。 「708号室……殺ったのはアナタね!?」 「はぁ?」 疑問を確かに表情に乗せ、ピノッキオはゆっくりと振り返る。 自然な動きで尚且つ隙が無く、気取られないようにジャケットの袖中へと指が滑り込む。 「何を言っているのか解らない」 だがそのナイフが閃くのは最後の手段だ。ピノッキオとて殺しが好きな訳ではない。 余計な殺しは足がつく危険が増す事にもなる。しかし少女が如何して確信を持って彼に対峙するのか? その理由は…… 「タバコ」 「ん?」 「そのタバコ、ヘンな味でしょ? ベルカ自治領でしか売ってない珍品なの。 708号室で殺されていた私の知り合いも……ソレを吸うのよ。確認したら持っていなかったわ」 そこまで聞いてピノッキオは最良の展開を切り捨てた。 「アナタが持っているタバコの箱を調べさせてもらおうかしら? 彼の指紋がバッチリ付着している箱をね?」 冷静な状況判断、慎重にして大胆な考察。それを効果的に発言し、相手の抵抗を押さえ込む手法。 実に優秀だ。だが……『殺しの腕』はどうだろうか? 「どうぞご勝手に。急いでるんだ、早くしてくれ」 ピノッキオは右の手で懐からタバコの箱を取り出し、自分にデバイスを向ける相手へ放り投げる。 相手の突然の動きに驚き、反射的に箱を受け取ろうと彼女の視線が僅かに揺れる。しかし動いたのは視線だけ。 余りにも小さなスキ、だがそれでピノッキオには充分だった。反対側になる左の袖下から器用にナイフを引き抜く。そして予備動作は無しで投擲。 「このっ!?」 少女は回避も防御も選ばない。受けるか、弾くかしての間髪置かない射撃を選択。 ナイフだと油断? 違う、これは管理世界の魔道師ならば正解の判断。 魔力反応無しで放たれた物体では、バリアジャケットを破る事などできないからだ。 ご禁制の質量兵器ならばまだしも、手一つで放つことができるナイフ程度。先ほど放り投げたタバコ程度の価値しかない。 「え?」 だがティアナは貫き、焼くような痛みを覚える事になる。 呆然と見下ろした視線の先、バリアジャケットを貫き、太腿に突き刺さるナイフの柄。 そこから滲み出した血を見るに至り、ようやく自分に起きた事態を把握する。 だが遅い。受けてしまい、傷を負ってしまった時点で取り返しのつかない「スキ」を作っているのだ。 「誰も同じ反応だな!」 その様子にピノッキオは冷静な判断として嘲りの叫びを上げた。 確かに魔法はスゴイし、ソレを操る魔道師は厄介な敵となりうる。だが……魔道師は自分達の力、魔法を過信している。 同時に魔法を使わない技術を甘く見ている。体術、戦闘の術として身のこなしを学習しても、ソコに魔力反応が無いだけで油断する。 ナイフを遠距離から『魔力無し』で投擲したところで致命傷にはならないと『思い込んで』いるのだ。 「シッ!」 予想外の負傷に少女の気が散る一瞬の間、ピノッキオが新たなナイフを構えて走る。 彼がもつナイフは全て対魔力鉱物を用いた合金製だが、その能力は簡易な障壁やバリアジャケットを無効化する程度。 つまり本気で障壁など防御に徹されれば攻撃する事は叶わないし、距離を本当の意味で離されれば攻撃自体は不可能になってしまう。 故にピノッキオは距離を詰める。魔法が持つ優位点を数多く無効化し、一撃で必殺できる場所まで歩を進める。 痛み集中力が乱れた少女の射撃魔法など当たらない。ピノッキオは見るのではなく、射線を感じて避ける。 『先生』に教わった動きを忠実に、そして自分なりにアレンジを加えた的確な軌道。 相手に射撃する機会をなるべく与えず、もっとも早くナイフだけの間合いに入る為の動き。 「ヒュン!」 動きの収束点でナイフが閃く。響くのは小さな風を切る音だけ。輝くのは一つ筋の白銀。 それだけだ。実に小さく、実に確実な……殺しの動き。狙う先には少女の細い首があった。 だが少女も唯の少女ではない。魔道師であり、あれだけの状況推測が可能な人物。 「ダガーモード!」 銃口から飛び出したオレンジ色の魔力光が刃を形成。ナイフを受け止めて、払おうとする。 だが力をかけると同時に抜ける手ごたえ。宙を舞うピノッキオのナイフに目を奪われそうになって少女は気がつく。 「囮!?」 ピノッキオの足が少女の足元を薙いだ。可愛らしい悲鳴を上げるまもなく、背を地へと打ちつける。 息が詰まるのにもかまわず立ち上がり、再びデバイスを銃として運用。ピノッキオに標準をあわせる。 だが……ピノッキオの金髪が視界の下へと沈む。身を伏せるように射線から逃れ、沈み込んだ視線から顎へ拳……ではなく掌底で一撃。 「ドン」 鈍い衝撃音。意識を刈り取られて少女は崩れ落ちた。 一度このように対処した少女を逃がさずに放置し、後に痛い目にあったことがあるピノッキオだ。 きっちり止めを刺そうとナイフを振り上げて…… 「良いんですか? 僕と直接、こんな場所で会うなんて」 「硬い事は言いっこ無しだぜ、ピノッキオ」 『高すぎる事も無く、極めて安いわけではない』 ビルの地下に居を構えるそのレストランの値段設定は大体そんな感じだ。 地球で言うところのイタリア料理風の料理はピノッキオの舌にあったが、対面している人物には不満があった。 ヨレヨレのスーツと同じく草臥れた中年男性……そんな事が問題ではなく、その中年男性の名と素性が問題だ。 「オメエさんには世話になってるからな。これくらいはな?」 屈託の無い笑みを浮かべながら、二つのグラスへとワインを注ぐ男性の名前はゲンヤ・ナカジマ。 管理局の局員であり、世に言うJS事件が起きるまでは平凡な部隊指揮官、三等陸佐に過ぎなかった人物だ。だが今は? 『表記するのが面倒なほど複雑な地位と立場』 ソレくらいがピノッキオの解る事であり、そんな状態だからこそ表には出せない厄介事や危険に常に隣り合わせ。 そしてこの世界に流れ着いた自分の面倒を見てくれた恩人でもある。 「恩は返すよ」 先生に教えられ、おじさんに実行してきた彼にとってのたった一つの行動理念、『恩返し』。 「……そう言えばあの女の子は始末しなくて良かったのかい?」 「ん? ティアナの嬢ちゃんのことか?」 運ばれてきた料理に手をつけながら、思い出したようにピノッキオは疑問を口にした。 あの仕事の後、要らない頭を利かせて追いかけてきた魔道師の少女。始末する直前でゲンヤからの連絡が来たのだ。 「本局なんだろ? 彼女も」 「彼女はスバルの親友でな? 知らない事とは言え、見殺しにしたら目覚めが悪いだろ?」 「プロならば優先順位を考えるべきだ」 人の首を掻き切るよりも手馴れない動きで、ステーキをカットしているピノッキオはタメ息を一つ。 「それにイザと言う時の為に海とのパイプも確保しておいたほうが良いからよ」 「……そっちが本音でしょ?」 現在の陸と海の関係、管理局の混乱っぷりを見ればそんな思考が浮かんでくるのもわかる。 JS事件により余りにも多くの問題点が噴出し、陸と海の関係は今までに増して険悪。 地上本部は『まともな戦力を寄越さないからこんな事になる!』と言い、 本局は『お前らが言う事を聞かないからこんな事になる!』と反論した。 だが犯罪者との取引の容疑で逮捕されたオーリス・ゲイズの裁判が進むに連れて、地上本部の余りにも苦しい状況が浮き彫りになった。 するとその僅かな戦力で地上を守り抜いてきた故 レジアス・ゲイズへの支持の声と本局への不満が噴出。 本局が主導する事後処理に不満を持っていたレジアス派と呼ばれる中堅職員が、地上本部を大量に退職して業務に滞りが出る始末。 その打開策として本局が提示してきた新たな地上本部中枢の人事案、そのトップに置かれていたのがゲンヤ・ナカジマだった。 海に理解と親交があり、同時に経歴としては根っからの陸でもあり、ある程度有能。 正に本局が求める最高の人材と言っても良い。だが如何してそんなゲンヤが本局と影ながらとは言え対立する事を望んだのか? 「せっかく新しい娘たちも含めた家族と余生を楽しもうと思ってたのによ」 この大抜擢が無ければゲンヤは長女であるギンガ・ナカジマとJS事件の遺児、戦闘機人の保護観察の任に付くはずだった。 実はゲンヤが選ばれた大きな理由として『戦闘機人という特殊な娘の境遇を利用して縛る事が可能だから』と言うものも含まれる。 「まぁ、これでギンガ達の体の事を陸で行えるようになれば御の字だ。 レジアス派もナンバーズの嬢ちゃん達が運用可能になれば汚名が晴れる事になるし、嬢ちゃん達も狭い檻から出してやれる」 だが彼とてそのまま飼い殺されるつもりは無い。 根っからの陸であり、妻が本局とのつまらない確執や戦力差の犠牲になった身としては、このまま陸を海の下におく気など無かった。 薦められる陸の改革は海との関係を対等にしていくものだと気がついた本局は焦った。 しかし表向きには『陸と海の体質・関係の改善』を掲げて任命したゲンヤを解任する事は出来ない。 故に……暗躍する。ゲンヤや地上本部の荒を探し、優秀な人材の引抜を裏では加速させ、ときに犯罪組織とすら手を組む。 暗躍してきた魔手を潰し、地上での本局の勢力を秘密裏に削いでいく。それがピノッキオに与えられた恩返しの方法だった。 「そうそう! ギンガを覚えてるか?」 「? ゲンヤさんの娘ですよね?……上の」 「おう、そのギンガだがな? お前に気があるんじゃねえか?と思ってよ」 「まさか……数回しか有った事無いのに」 メインディッシュをたべ終わり、もっぱらワインを飲む時間へと移行したテーブル。 ゲンヤのそんな言葉にも、タバコを吸いつつグラスを傾けていたピノッキオは、ヒドク詰まらなそうに返した。 「いや! お前の事は民間の情報・捜査協力者って紹介したんだがよ? あれからけっこう『ピーノ君、元気?』とか『今度は何時来るの?』とか聞いて来るんだ。 ギンガは同年齢だと仕事仲間に見えるのか、職場じゃ彼氏ができね。お前さんみたいに、どっか抜けている奴が母性的に気になるんじゃね~かと……」 「言っただろ? 女の子は苦手なんだ」 「ソイツは人生の半分は損してるぜ、ピノッキオ」 「忠告ありがとう。でも実体験だからさ」 最初の殺しの時、撃ち殺した少女の血飛沫と表情を今でも覚えている。 モンタルチーノに潜伏していた時も、お節介を焼いてくれた少女に正体がバレて、殺そうとした。 そして……そのモンタルチーノでやりあい、殺せなかった少女の暗殺者。後に自分を殺したあの褐色の少女。 「女の子には良い思い出が無いんだ」 「じゃあこれから作れば良いさ!」 確実に酔っていると言えなくも無い言動を繰り返すゲンヤにピノッキオはタメ息を一つ。 不意にゲンヤが楽しそうに注いでいたワイングラスに映りこむ人影にふと視線を写す。 ワイングラスに映る場所、つまりピノッキオの後ろから近づいてくる……少女。 ウェイトレスの格好をしているが左手に持ったお盆は、右手を『隠すように』組まれていて…… 「ゲンヤさん伏せて!!」 「「っ!?」」 ピノッキオの反射と言っても良い叫びに、二つの方向が即座に反応した。 一つはもちろん呼びかけられたゲンヤ。すぐさまテーブルの下に転がり込む。 そしてもう一つ……ウェイトレスの少女がトレーの下に隠していたのは……拳銃。 拳銃型のデバイスではない。火薬の反動により金属の弾頭を飛ばす質量兵器だ。 「このっ!」 立ち上がりざま、ピノッキオは盛大に真白なテーブルクロスを引っ張る。 上に乗っていた食器やワイングラスを広範囲にぶちまけながら、テーブルクロスが空間を埋め尽くす。 これは目晦まし。そのスキにナイフを引き抜き布と布の僅かな隙間、そこから一瞬見えた金属の光沢へと投擲。 「キン!」 「ちっ!?」 銃を取り落としたらしい相手の顔、ようやくテーブルクロスが空中で暴れるのを止めた時、確かに見えた。 どちらも緊張を孕んだまま、視線だけが交差して……驚きの色に染まる。 「モンタルチーノの女の子……?」 ウェイトレスの服装に身を包んでいるが、間違いなかった。その女の子をピノッキオが見間違えるはずが無い。 褐色の肌に青い瞳、くすんだ金髪を長いツインテールにしている。それだけならば世界にはたくさん居るだろう。 だがその視線と身のこなし。小さな女の子の体は戦士としての理想形をなぞり、視線にははっきりとして冷静な闘争の色。 「ピノッキオ!? なんで……」 「君は本当に何時でも邪魔をする……やはりあの時殺しておくべきだった」 少女の方も相対する存在が何者であるのかを理解し、同時にどうしてこの場所に居るのか?と言う疑問を漂わせる。 だがそんな理解を得る作業をここで行うことは出来ない。今ここは確かに戦場、修羅の巷。 「やってみろ……セットアップ、アウグストゥス」 少女の手の内で光を放つのは小さなクマのお人形。 光が納まれば少女の身を包むのは不釣合いなピッチリとしたネクタイと灰色のズボン型のスーツ。 その上からはロングコートを羽織り、手に持つのは……銃剣付きショットガン。 確かに銃剣まで完備した大型銃器を携帯するのに、デバイスと言う形はナイフ以上に都合が良い。 「それと私は『モンタルチーノの女の子』じゃない」 「ん?」 「私の名前はトリエラ。あなたに一度負けたけど、貴方を殺して……もう一度倒す者だ」 どちらとも無く闘争が弾ける瞬間、ピノッキオは思う。 「アァ……本当に女の子は苦手だ」と 上へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/248.html
見学も進んでいった頃、はやてが 「ほな、ちょっと派手なもんでも見にいこか」 と、いきなり出てきた。 案内されたのは時空管理局自慢の訓練スペース。 ライトニング、スターズの新人フォワード達が様々なパターンで対ガジェット戦術の訓練をしている。 エリオが最後の一つを貫いて破壊。 指導するなのはとフェイト、それに観測のシャリオ達の所に戻ってくる。 「みんなお疲れ」 「よくなったね。新記録だよ」 「やったぁ」 スバル達は飛び上がって喜ぶ。 「ふっ」 わざとらしく鼻で笑う音が聞こえてきた。 あからさまにあざけるが含まれている。 「まだまだだな」 「なによ」 一転して機嫌の悪くなったティアナがグゥを見下ろした。 「あの程度で手こずっているようでは」 「ならなに?あなたなら、もっとできるって言うの?」 「まあな」 傍目から見ても険悪な二人の間にはやてが割ってきた。 「まぁ、まぁ二人とも。じゃ、グゥちゃんやってみるんか?」 「望みとあらばな」 「部隊長、いいんですか?」 と言いながらもシャリオは設定をはじめている。 「かまわんよ。さ、やってみよか」 「じゃ、はじめますね」 シャリオがキーを押すと遠近に無数のがジェットがあらわられた。 「あたし達がさっきクリアしたのと同じね。見せてもらいましょう」 ティアナが腕組みをして、グゥの後ろに立っている。 「じゃ、スタート」 グゥが服の中からなにかを取りだした。 ぶんぶん振り回していてなにかはよくわからない。 「ここんとーざい」 「オッケー。ボス」 びしっと止める。 グゥの周りに無数の光球ができて飛んでいく。 それは、見えるがジェットはもちろん隠れて視認できないガジェットまで全てAMFをものともせずに破壊していった。 「すごい・・・最高スコアです」 つぶやきながら映像を再生するシャリオ。 「なぁなぁ、ここんとこよーみせて」 食い入るように映像を検証するはやて。 「ま、まけたわ・・・」 がっくりと膝をつくティアナ。 ハレはグゥの成果に驚いてはいなかった。 グゥの振り回していたものを凝視していた。 ピタリと止められたそれは今ははっきりとその姿がわかった。 それはビシッと背広を着込んだ筋肉質で禿頭でひげ面の大男だった。 「おい、それいったい何なんだよ」 「ボッチャン、ワスレタンカ?ぼくヤ。ボディーガードノクインシー・ポーター(以下QP )ヤガナ」 「いや、そういう事じゃなくて・・・今日もステッキのバイト?」 「チャウネン」 「じゃあ・・・」 「キョウハ、インテリジェンスデバイスのバイトヤネン」 「インテリジェンスデバイス・・・どこが?」 グゥが口をはさんだ。 「喋る」 「喋ればいいってもんじゃないわぁあああっ」 向こうでは、はやてとシャリオが顔をつきあわせている。 「完全自立型のインテリジェンスデバイス。めずらしいですね」 「せやな。あんなに大きいのは初めて見た」 「いや、他に言うことがあるだろ」 QPはなのはの見ていた。 「ボッチャン、チョットシツレイスルワ」 大きな体を揺らしてなのはの前に行く。 「あのぅ・・・」 自分をじっと見下ろすQPにおずおずと声をかける。 「オヒサシブリデス」 「あの、なのはさん。お知り合い?」 なのはは横で結んでいる髪が遠心力で水平になるほどに勢いよく首を横に振って答える。 「レイジングハートハン」 「そっちかよ!!だいたいクインシーとレイジングハートにどんなつながりがあるんだよ」 「レイジングハートハンハ、ぼくノ指導教官ナンヤ」 「は?」 「アレハナ・・・・・」 回想シーン 大勢のデバイス達が並んでいる。 その中にはマッハキャリバー、クロスミラージュ、ストラーダ、ケリュケイオンやクインシー・ポーターもいる。 彼らの前を歩き、レイジングハートは声を張り上げていた。 「わたしが訓練教官のレイジングハートである!話しかけられたとき以外は音声を発するな!ノイズをたれる前と後に“サー”と言え 分かったか、石ころども!」 「Sir,Yes Sir」 過酷な訓練がはじまる。 デバイス達は泥まみれになり、傷を作り、無様に倒れていく。 「貴様ら真空管どもが俺の訓練に生き残れたら、各人がデバイスとなる!その日までは漬け物石だ!次元世界で最下等のケイ素だ!」 「貴様らはデバイスではない!哺乳類の糞をかき集めた値打ちしかない!」 「俺は厳しいが公平だ!差別は許さん!尿酸結石、シスチン結石、リン酸結石を、俺は見下さん!すべて・・・平等に価値がない!」 「俺の使命は役立たずを排除することだ!愛する次元管理局の石綿を!」 「分かったか、コプライト!」 「Sir,Yes Sir」 回想シーン終わり 「ト、イウワケナンヤ」 「なぁんだそりゃぁああああ」 「レイジングハートが私の知らないところで私の知らないことを・・・・・」 ハレの横で頭を抱えるなのはの肩が叩かれた。 なのはが振り向くとはやてが満面の笑みでそこにいた。 「なのはちゃん、お手柄や」 「え?」 「グゥちゃんや。すごい逸材や。うちに来てくれたら、戦力に厚みが出ること間違い無しや」 「え・・・えーーーと」 フェイトもやってくる。 「うん、私もそう思う。私、昔のなのは思い出したし」 「ええ?私あんなふうだったの?」 「うんうん、あの砲撃。その通りや」 なのははガマのように冷や汗をたらし、ハレの両肩をがしっとつかむ。 「ハレ君!」 「はい」 「ハレ君もうちに来て!」 「いや、俺普通の人だし・・・」 「来て欲しいの!」 「魔法使えないし・・・」 「私を見捨てないで!!私1人じゃ、グゥちゃんのこと絶対無理!」 「俺の存在意義って、グゥ関連だけですか!!!」 その後、はやて説得に全力を尽くすと言うことでとりあえず落ち着いたがハレはしばらく落ち込んでいた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3596.html
「 そこで止まれ!! 」 霧の夜に力強く響く男性の声、その一言に己が魂の全てを注ぎ込むかの如く...... 声の主が構える大型リボルバー、その銃口の先に佇むのは黒いフェルト帽を目深に被り、同じく黒く大きな二重外套を ゆったりと優雅に着込んだ、まるで大鴉(Raven)の如き大きく不気味な人影。 「これは警部殿、こうして直にお会いするのは初めて、ですかな?」 落ち着いた深みのある声で喋りながら、それまで背を向けていた“大鴉”は、ゆっくりと警部の方へと振り向く。 そこはスラム(貧民街)の、ほぼ中心に聳える様にして建つ赤煉瓦でできた古い精肉工場。 その二つの人影は屋上の一角に、まるで霧に覆われた街並みを見下ろす様にして佇んでいた。 「あぁ確かに……やっと会えたな、この化け物!」 追いつめられて尚も、その場の状況を楽しむかの如く不敵な笑みを浮かべる黒尽くめの大男。 そんな相手を前に若い警部は、その幾分か仕立ての良い年季の入った紳士服を着崩し、それまで全力で走って来たのか 肩で大きく息をしながら、明るいブルーの瞳で目前に立つ大鴉を睨んでいた。 「して第一印象は、いかが?」 「……キザだ」 「それはどうも」 「褒めてんじゃ無い!」 「ご謙遜を」 「黙れ人殺しが!」 自身に銃口を向けられているにも関わらず、未だ気取った様子で挑発の言葉を口にする相手に対し警部は、それまで抑 えてきた気の昂りを吐き出す様にして怒鳴った。 彼の汗ばんだ手に握られた6連発、その照準は震えながらも確実に相手の左胸へと向けられていた。 「だが貴様の、その自信たっぷりな余裕も……」 言葉の一つ一つを警部は、しっかりと噛みしめる様にして決め台詞を言い放ち、未だ震えのくる指先で重い撃鉄を起こ すと、辺りが静まり返る中で金属部品が擦れ合う“ガチャリ!”っという音が不気味に響いた。 「 これで、終わりだ!! 」 だが、それでも黒尽くめの男は怯む事無く、それどころか「さぁどうぞ」と言わんばかりに両手を大きく広げ、さも楽 しげな笑みを浮かべると、狂喜の笑い声と共に己が“宴”のクライマックスを宣言した。 「まだです、まだですぞ警部殿! さて次は、如何なさいますかな?」 *リリカルxクロス~N2R捜査ファイル 【 A Study In Terror ・・・第六章 】 そして今...... 日付が変わった5月12日の深夜25時を約5分は回った頃 ミッド貿易センター第三ビル前の大通り 「 させるかよォ!!! 」 かつて同じ”大鴉”と向き合った「警部」と同様、その一言に魂の全てを注ぎ込むかの如く赤毛の少女は、己が右拳を 真っ直ぐに突き出しながら叫んだ。 その大きく怒らせた両肩を、そして大地を踏みしめるかの様にしっかりと踏ん張った両足を小刻みに震わせ。 今や起き上がれぬ程に傷付き倒れた姉に向かって、その残忍な刃を振り下ろそうとしていた「怪物」を睨みながら。 その視線の先では、狂気を滲ませたグレイの瞳で相手の姿を、射抜くかの如く真っ直ぐに凝視する黒服の紳士が姿。 少女の叫びがビルの谷間に木霊し、冷え切った夜の空気を揺さ振った瞬間、全ての時が止まった。 惨劇を生き延びた者たち全員が、その場に凍て付いたかのごとく立ち尽くし、身動ぎすらままならぬ状態で刻一刻と変 化していく状況を、固唾を飲んで見守っていた。 そうして皆が、そう惨劇の張本人たる黒服の紳士さえもが動きを止める中、最初に動いたのは...... 「アタシ等の、アタシ等の家族に……アタシの姉貴に」 金属パーツが弾け擦れ合う甲高い響きとともに、魔力カートリッジの空薬莢がデバイスから排出され、それと同時に充 填された魔力が少女の身体から金色のオーラとなって炎の如く立ち上った。 「 手を出すんじゃネェっ!!! 」 デバイスの稼働音と共に彼女の怒声が雷鳴の如く響き、静まり返っていた場の空気を激しく揺さぶった。 だが、その叫びに答えたのは...... 「はぁ~、まったく」 ......一つの溜息 「いけませんな、お嬢ちゃん。 これでは何もかも台無しですぞ」 幾分か腹立たしげな口調で呟くと黒服の紳士は、空になった右手を軽く振りながら自身を睨む少女の姿を、その剃刀の 如く鋭い眼差しで一瞥する。 「私のGameに参加したいなら、ちゃんと順番を守るのが礼儀と……」 悪戯な子供を叱り、戒め、そして諭す様な口調で彼が話を続ける。 っが、そんな相手の言葉を遮り、打ち消す様にして再び少女の怒りに満ちた叫びが轟いた。 「 だ ま れ !! 」 そして続けざまに響くデバイスの射撃音。 彼女の右腕に装着されたガンナックル、そこから放たれた大出力の魔力弾は主の怒りを象徴するかの様に、まるで闇を 切り裂く光の矢が如く黄金の輝きで辺りを煌々と照らしだす。 だが、それは...... 「……なっ!?」 少女は思わず絶句する。 それは双方の対決を息を飲んで見守っていた陸士たち、そして魔導師達も同じだった。 そうそれは、ほんの一瞬の出来事 彼女が放った強力な魔力弾を黒服の紳士は、身動ぎはおろか眉ひとつ動かす事無く、まるで目障りなハエを払うかの様 な仕草により右掌だけで軽く弾き飛ばしたのだ。 そうして目標を反れ流れ弾となった魔力弾は弧を描く様にして彼の背後、道路の向かいに建つビジネスビルへと命中し 凄まじい大音響と共にビルの壁面から真っ赤な炎を吹き上げた。 これは、悪夢? これは夢? それとも性質の悪いジョークなのか? たった今目前で起きた出来事を目の当たりにし、その場に居た皆が凍て付き、竦み上がり、中には恐怖のあまり気を失 って倒れる女性魔導師まで居た程...... そんな周囲の事など気に掛ける事無く黒服の紳士は、静かに背後を振り返って肩越しに、瓦礫の雨が下の歩道へと降り 注ぐ様子を眺めると、顎に手をあてて何かを考えるかの様な仕草をする。 そうして前を向き、再び視線を唖然とする少女へと向けると、未だ身動き出来ぬまま倒れている彼女の姉の傍らを離れ それまで立っていた浅いクレーターの中から外に向かって素早く跳躍する。 そうして道路の上へ堅い靴音を立てて降り立つと、彼は徐に右腕を突き出したかと思うや少女を真直ぐに指差した。 そんな相手の行動に彼女が思わず身構えると、その様子を見た黒服の紳士は白い歯を見せて薄ら笑いを浮かべ、そのま ま少女に向かって軽く手招きをする。 “誘ってる!?” その動作を見た彼女が呆気に取られている前で彼は、ヨレヨレになった外套を大きく翻したかと思うや、まさに風の様 な速さで飛ぶが如く走り出す。 驚いた皆が身構える前で黒服の紳士は、そのまま黒焦げのスクラップと化し、黒煙を上げて燻ぶる装甲車の残骸の上を 一気に飛び越えて行った。 向かってくるでも無く、皆に背を向けて去って行く黒服の紳士。 それは、まるで「戦いたければ、追って来い」とでも言って、相手を挑発しているかの様に見えた。 「……逃げんなよ」 そう呟きながら少女は、気が付けば前へと踏み出していた。 「人にケンカ売っといて、サッサと……」 その背後で傷付いた身体を無理に起こし痛みを堪えながら、熱くなった妹を必死に引き留め様と弱々しく腕を伸ばす姉 の声も、口々に「止せ、行くな!」と叫ぶ陸士や魔導師達の声すら彼女の耳には聞こえなかった。 そう、そのとき少女の耳に響いていたのは、摩天楼の谷間に木霊する狂喜の笑い声...... 「 逃げんじゃネェ!!! 」 そして黒服の紳士の後を追い、空中に展開したエアライナーの上を疾走しながら、破壊されて転がった装甲車の上を飛 び越えた彼女の目に映ったのは...... 道路を塞いでいたパトカー数台の上を軽々と飛び越えながら、待機していた陸士達による一斉射撃すら物ともせずに掻 い潜り、真夜中のメインストリートを颯爽と走り抜ける“怪物”の黒い後ろ姿だった。 **************************************** 「姉上ぇぇ! ノーヴェ--! どうか返事をぉ!! 無事でしたら二人とも……どうか」 大声で姉妹二人の名を呼びながら、隻眼の少女が一人...... 正に悪魔の屠殺場が如き有様となった玄関前広場を、その小柄で華奢な容姿とは不釣り合いな灰色のロングコートを羽 織った姿で、輝く様な長い銀髪を揺らす様にして歩いていた。 辺りを見渡せば、そこかしこに先の騒動で瞬時に命を奪われた陸士達の屍が転がり、また生きてはいても重傷を負わさ れたり、あるいは無残にも四肢を失って呻く者達の呻き声が絶えず響いていた。 足元へと目を向ければ、広場の石畳は惨殺された者達が流した血溜りで真っ赤に染まり、あちらこちらに千切れ跳んだ 手足や肉片が散ばっているのが見える。 「救護班は! 救護班は何処だぁぁ!?」 「……あ、し……脚が、オレのあ、脚が……誰、か」 「嫌だぁ! 死にたくない、死にたく……」 必死で助けを呼び求める怒鳴り声や苦悶の叫び、腹を切り裂かれ飛び出した自身の臓物を押さえる若い陸士が、その想 像を絶する苦痛に上げる悲鳴...... どんなに耳を塞ごうとも聞こえてくる様々な叫びと、辺りを覆い尽くす血臭に吐き気を催し、気を失って倒れそうにな る自分を気力だけで支えながら、それでも彼女は姉妹の姿を必死に探し求めた。 「どうか二人、とも……ぐっ」 目を覆わんばかりの惨状を前にして、既に失った筈の少女の右眼......その黒い眼帯の奥で、焼け付くように痛み続け ていた右眼が更に激しく疼き始め、その苦痛に彼女は思わず歩みを止めた。 その鼻を突く様な臭い、溢れ出した血や飛び散った汚物が混ざり合った悪臭...... そして深紅なる朱、その視界を覆い尽くすほどに広場の石畳を染め上げる鮮血の色...... それら全てが目には見えぬ巨大な壁となって少女の、その小さく華奢な身体の上へと重く圧し掛かる。 吐き気を催す異臭とともに、ジットリと湿り気を帯びた濃密な空気が身に纏わり始める中で忘れていた、いや出来る事 なら忘れたかった忌まわしい記憶が、悪夢となって彼女の脳裏を過った。 “これは、これはあの時と、あの時と同じ……” いま少女の目前に広がる地獄の様な光景。 遠い過去に一度それに近い、いや殆ど同じ光景を彼女は目の当たりにしていた。 あの時の地下施設で、数え切れぬ程のガジェットが群れによって、無残に殺されていったゼスト隊のメンバーたち。 その中には...... 右眼の奥からジクジクと響く痛みと共に、その小さな胸の奥で遠い過去の亡霊たちが目覚め、それらが苦悶の呻きと共 に彼女の名を...... 「おい君ぃ! しっかりしろ、どうした!?」 突如その小さな肩を激しく揺すられ、必死で呼び掛ける声に少女はハッ! と我に帰る。 顔を上げれば彼女の目前には呼び掛けた声の主、辛うじて惨劇を生き延びた陸士の一人が滝の様な汗で顔をグッショリ にしながら、不安げな表情で自身の眼を覗きこんでいた。 「キミ所属は? どっか怪我でも?」 「いえ、だ、大丈夫です。 ただ少し気分が……」 「……無理もない。 こんな状況じゃあな」 なんとか気を取り直した少女の言葉を聞き安心した彼は、未だ凄惨な傷跡の残る広場を見回しながら溜息を吐いた。 【チンク姉、聞こえる? 今どこに?】 そんな中で不意に隻眼の少女ことチンクの元に、リンクを通じて連絡が入った。 すぐに返事をしようとするも彼女は、冷たい手で自身の心臓をガッシリと掴まれたかの感覚に囚われて為か、すぐには 返答する事ができず、少し間を置いて呼吸を整えながら何とか言葉を紡ぎ出した。 【でぃ、ディエチか、すまん】 【気分が悪いの? まさか怪我でも……】 【いや、姉は大丈夫だ。それよりどうした?】 【じゃあ落ち着いて聞いてねチンク姉。 いまギンガさんを見付けたんだけど】 【姉上を!?】 心配そうな様子で気遣う妹ディエチに、少し無理をしながらチンクは自身の無事を伝える。 だがその後に妹から伝えられた言葉を聞いた彼女は、その場から自ずと駆けだしていた。 【うん。 でもギンガさん、酷い大怪我を……】 **************************************** 「……」 言葉は出なかった。 いや言葉より以前に声を出すこと自体が出来なかった、とでもいうべきだろうか。 妹より連絡を聞いてから十数分後...... 今は全身血塗れとなった姿で横たえられ、救急車の到着を待ちながら救命士の応急処置を受ける姉ギンガの傍らにガッ クリと膝を突くとチンクは、その傷付いた手を取ってポロポロと大粒の涙を流した。 「大丈夫だ、病院で手当を受ければ何とか……」 彼女を落ち着かせようと声を掛けるカルタス陸尉の言葉すら、その耳に届かないのか今のチンクは傷付いた姉の手を握 ぎり締めたまま、押し殺した声で咽び泣くばかりだった。 悔しかった。 彼女が深手を負わされた姉ギンガの姿を目の当たりにするのは、これで二度目だったからだ。 その前は利用されていたとはいえ自身の手で、その更に前には間接的であったとはいえ彼女の母親を...... だからこそチンクは、その小さな胸の内で堅く決意していた。 もしまた姉が、そして家族の皆が命の危険にさらされる時が訪れたならば、その時こそは自分が盾となろうと。 それで全てが許されようとは思わない。だがそれでも自身が身代わりとなる事で、少しでも自分が背負ってしまった過 去を償おうと、なにより妹たちにまで重荷を背負わせまいと。 だが今は...... ようやく到着した救急車へ収容する為に、救命士達が重傷を負ったギンガを移動式のストレッチャーへ乗せようとする 時ですら、チンクは姉の手を決して放そうとはしなかった。 悔しかったから それ以上に許せなかったから 姉妹が危機に瀕した時、その傍に居なかった自分の事を 救命士やカルタスが掛ける言葉に対し、泣きながら首を横に振る彼女の姿を見てディエチが、そして周囲の皆が沈痛な 面持ちで見守る中...... 「チ……ンク、おね、が、い……」 そのか細い声を聞いた彼女が泣くのを止め、ゆっくりと握っていた手を緩めながら顔を上げると、そこには薄らと目を 開けて自身を見つめるギンガの顔が見えた。 「 二人を…私、は大、丈夫だ、から、二人を……」 未だ朦朧とする意識の中、それでも彼女は泣き腫らした眼で自身を見つめる妹に、今出せる精一杯の声で何かを伝えよ うとしていた。 「……」 何も言えなかった。 必死で何かを伝えようとする姉に、何か言葉を掛けたかった。 なのにチンクは言葉はおろか、小さく呻く様な声しか出せぬまま、救命士達によって運ばれていく姉ギンガを見送る事 しか出来なかった。 「……ノーヴェと、それとウェンディの事だよ。 彼女が伝えたかったのは」 その声にチンクが泣き腫らした顔を上げると、自身の傍らに立って共にギンガを乗せた救急車を見送っていたカルタス が静かに口を開いた。 「彼女が倒れた時、それを庇ってノーヴェが犯人に立ち向かったんだが……」 そこまで話すとカルタスは溜息を吐き、少し俯きながら幾分か疲れた様子で、右手で自身の額を軽く押さえた。 「立ち向かって、どうしたんです?」 泣き続けたせいか、すっかり掠れてしまった声で話すチンクに向かって彼は、これまでの経緯を少し震えるの来る声で 静かに語り始めた。 魔導師達によって追詰められたはずの殺人犯が、凄まじい凶暴さを露わに破壊と殺戮の限りを尽くしたこと。 そんな恐ろしい相手に憶する事無く、たった一人で正面から立ち向かったギンガのこと。 そして彼女が深手を負わされ倒れた時、その場に駆け付け殺人鬼を食い止めたノーヴェのこと。 「その後で彼女が、犯人の挑発に乗って……」 「じゃあ、あいつも、ウェンディも一緒に?」 **************************************** 【ノーヴェ! ノーヴェ! 聞こえてたら返事をしてくれっス!】 自身の固有武装“ライディングボード”を駆ってウェンディは、摩天楼の谷間を擦り抜ける様にして低空を飛びながら リンクを通じ姉ノーヴェを呼び続けていた。 それは何時間か前の事...... あの時、犯人の挑発に乗せられたノーヴェが、皆の制止を振り払うようにして飛び出して行ったすぐ後で、カルタスや 他の陸士達と共に先の闘い深手を負わされたギンガの元へと駆け寄った時である。 「あいつを、ノーヴェを探して来るッス。 あたしが連れ戻して来るッス!」 そう言って皆の前から飛び出したウェンディだったが、実際のところ姉を連れ戻すという理由は彼女にとって、あの場 を離れる為の口実でしか無かったのかも知れない。 とにかくあの場には居られなかったのだ。 悔しくて、心の底から悔しくて...... 止められたとはいえ姉が、たった一人で残忍な“怪物”を相手に戦っている時、それをただ見ている事しか出来なかっ た自分が心底悔しかった。 例えギンガに後で怒鳴られる事になったとしても、あの時に自身も加勢するべきだったはず。 だが援護に向かおうとする度、あの殺人狂が己の存在を鼓舞するかのごとく振った凶行が脳裏を掠め...... 何も出来なかった。 そんな自分が許せなかった。 そして大殺戮から約1時間半後の深夜26時32分 ウェンディ・ナカジマ二等陸士は今、“ライディングボード”を駆って、先に殺人鬼を追って飛び出して行った姉ノー ヴェの姿を探し求めていた。 この後まさか彼女自身にとって、最悪のトラブルが待っていようとは知る由もなかった。 【ノーヴェ! 何でも良いから答えてくれっス!】 ウェンディは呼び続けた。 この眼下に広がるオフィス街の何処かで、現場から立ち去った殺人狂を追い掛けているであろう姉の名を。 ......っと 【 逃げられたぁ!! 】 そんな彼女の呼び掛けに応えるかのごとく、リンクを通じノーヴェの怒鳴り声が聞こえた。 【え、え? の、ノーヴェ!?】 【 バケモノ野郎を見失った! クソォっ!! 】 【見失った、って今どこに……】 突然の事に驚いたウェンディは危うくバランスを崩し、その眼下に見えるビルの谷間へと落ちそうになりながらも、辛 うじて体制を立て直しボードを停止させた。 【どっかのオフィスん中。 けど分かんねぇーよ今どこだか!】 【オフィスの中って、なんでそんなトコに?】 【アイツ(犯人)追っかけてて飛び込んじまった。 つか誰だよ、こんな所にビルなんか建てたのは!?】 冷や汗をかきつつ返事をするウェンディに、相手を取り逃がしてしまった事をノーヴェが悔しげに話している時、そこ に同じリンクを通じて別の声が加わった。 【ノーヴェ! それにウェンディ、二人とも無事か?】 【【チンク姉ぇ?】】 自身の呼び掛けに対し先に飛び出して行った妹たちが、ほぼ二人同時に返事をするのを聞いて安心したのか、リンクの 向こうからチンクが安堵のため息を吐くのが聞こえた。 【こっちは大丈夫っス。 でもチンク姉いまどこに?】 【お前たちを探してたところだ。 全く何を考えてるんだ二人とも!】 【……ごめん、申し訳ないっス】 姉からの厳しい言葉を聞きウェンディは、言葉に出来ぬ思いを抱えたままボードの上で意気消沈し、それはノーヴェも 同じだったようでリンクの向こうより彼女の詫びの言葉が聞こえた。 【ごめんよチンク姉。 でも……】 【言いたい事は分からんでもない。 姉上や他の皆が受けた仕打ちを見れば、私とて我慢など出来ぬ】 ディエチが運転する大型バイクの後ろに乗り、そこからリンク先で自身の言葉に聞き入る妹達に対し、自らの感情を抑 える様にしてしてチンクは、切々とした口調で二人に語りかけていた。 【だが相手の正体や目的が不明なままで、無闇に深追いするのはどうかと思う。 それに今は姉上の事も心配だしな】 【【……】】 【とにかく一度合流しよう。 いま姉はディエチと一緒に中央通りを西に向かっている】 姉からの指示を聞きながらウェンディは、すぐさまライディングボードを中央通りの有る方へと向ける。 【細かい話は皆で集まってからだ。 いいな?】 【了解ッス!】 そうしてチンクの言葉に返事をすると彼女は、ビルの谷間を縫う様にして飛んで行く。 しかし...... ウェンディが中央通りの位置を確認する為に、ライディングボードの高度を上げた瞬間である! その眼下に聳えるビルの一つ、その屋上を見下ろした彼女は驚きと恐怖のあまり紅い瞳を大きく見開き、身体の血が全 て瞬時に凍て付くかのような戦慄を覚えた。 “アイツだ!!” そう彼女の目に映ったのは数時間前に、あのミッド貿易センター第三ビルの屋上へと追詰めた時と同じく、手摺に凭れ かかる様な姿勢で、こちらに背を向けて立つ...... **************************************** 【 居たァーー!! 】 突然リンクの向こうから響く悲鳴にも似た叫びに驚き、危うくバランスを崩しそうになったノーヴェは、何とか姿勢を 立て直しながら黄金色のテンプレート“エアライナー”の上を疾走していく。 【どうしたウェンディ! 何が……】 【 見付けたッス! 】 【落ち着けウェンディ! 見付けた、って何を!?】 パニックに陥った状態で喚く妹を宥めつつ、状況を何とか確認しようとするノーヴェ。 だがそこで彼女は、ショックのあまり未だ混乱するウェンディの口から、思わぬ言葉を聞かされる事となった。 【 あ、あいつッス、あのバケモノ野郎ッス!! 】 【アイツが? 何処に、今どこに居るんだ!?】 【 いま、今アタシが居る1ブロック先の、び、ビルの屋上に!! 】 「違ァうって! お前は今どこに居るんだ、って聞いてんだよ!」 なかなかパニックが治まらない妹に向かってノーヴェが、かなり強い口調で喝を入れる様にして呼び掛けるや、少し間 を置きウェンディからの返事が聞こえた。 【今は、今は三番街の、たぶん三番街の、交差点の上あたりッス。 それ以上は分からないッス!】 「分かった、分かったからそこで待ってろよ! 良いな!?」 【……り、了解ッス】 恐怖と興奮が無い混ざりになった声で、なんとか言葉を返す妹からの応答を聞くとノーヴェは、すぐさまデバイスで連 絡のあったポイントを探し始める。 「三番街の、三番街の・・・どこだ?」 《 Sir! (ウェンディからの)連絡が有った場所は、三番街の中心に有る立体交差点の付近かと…… 》 「じゃあアイツも、あの黒服オヤジも近くに居るって事だな!」 デバイスが示すポイントを確認するや否や、すぐさまウェンディが居ると思しき方角に向け移動を始めるノーヴェ。 だがその横からリンクを通じ、少し慌てた様子で二人に向けチンクからの通信が入る。 【 待て二人とも! 無闇に動くんじゃない! 】 【で、でもチンク姉……】 【 ダメだ! とにかく姉たちもすぐ三番街へ向かう。 それまで迂闊な行動はするな、良いな二人とも! 】 【……わ、分かったよ】 いちだんと厳しい口調で逸る妹たち二人を制するチンクの言葉に、どこか煮え切らぬ様子でノーヴェは返事をした。 ......っが 【 返事はどうしたウェンディ! おいウェンディ!! 】 もう一人の妹からの応答が無い事に焦り、その名を何度も呼ぶチンク。 その様子にノーヴェが戸惑い、そして言い知れぬ不安の抱き始めた時である。 突如として響く重い射撃音。 それに驚き辺りを見回すノーヴェの目に、まるで花火の様に鮮やかな光を放ちながら高エネルギー弾の閃光が、そう遠 くは無い所で幾つも飛び交う様子が見えた。 「……まさか!?」 《 間違いありません Sir! 先ほど連絡の有った立体交差点付近のビル屋上です! 》 「 あのバカっ! なに勝手な事してんだ全く……ジェットエッジ!! 」 《 Alright Sir! 》 主の呼び掛けに応えるや、それまで待機状態だったデバイスが唸りを上げて起動する。 黄金の輝きを放つテンプレートの上を、三番街の方角に向けて疾走していくノーヴェ。 彼女の燃える様に真っ赤な髪を激しい風が揺らす中、今その胸中に有ったもの...... ”頼む! 頼むから、早まった事すんじゃねぇぞ!” ノーヴェは走る、夜の闇を切り裂く様にしてビルの谷間を走り抜ける。 今この時にも妹はたった一人で戦いの場に立っているのだから。 血の匂いを求め身も凍る様な冷酷さを剥き出しに する、凶暴で残忍極まる“怪物”を相手に...... 「あんな、あんなバケモノ野郎を相手に、一人じゃムリだろバカっ!」 いま自身が向かっている先で、必死になって恐るべき相手と闘っているであろうウェンディ。 そんな妹の様子が脳裏に浮かぶや、ノーヴェの抑えようのない不安と焦りが、言葉となって口から零れ出し、その彼女 の心情に呼応しているのか、エアライナーの上を疾走するデバイスが見る見る内に加速していく。 《 Sir! Sir! 間もなく三番街です。 注意して下さい! 》 「わ、分かってるよそれ位!」 目指すポイントが近付いた事を告げるデバイス“ジェットエッジ”からの音声に、危うく我を忘れそうになっていたの かノーヴェは、幾分か緊張した様子で言葉を返す。 っが気が付けばそれまで響いていた、妹のデバイスの物と思しき射撃音が何時の間にか止んでいたのだ。 そして夜の静寂が再び辺りを支配しつつある中で、先を急ぐノーヴェの心中に最悪の状況が過った正にその時である。 彼女の目の前が急に開けたかと思うと、その眼下に幾つもの道路が混じり合う大きな立体交差点が見えた。 《 連絡のあったポイントに到着しました。 Sir! 》 その言葉を聞くやノーヴェは、すぐさまデバイスを中空で停止させると、妹の姿を求め周囲へと視線を走らせる。 「どこだウェンディ、どこに居るんだよいったい……」 ビルの屋上は勿論その下の交差点や道路にまで、くまなく目を向けて妹の姿を探し続けながらノーヴェは、次に立体交 差点の上で大きく旋回するようにしてデバイスを徐行させる。 そうして辺りを見回す彼女の目が建ち並ぶビルの一つ、通りに面して建つ約30階建てのビルの屋上へと向けられた時 そこに思わぬ光景が見えた。 それは...... まるでオーケストラを前に指揮者が振う指揮棒の如く、右手に握り締めた両刃の剣先を不気味に揺らしながら、ゆっく りとした足取りで“獲物”の周囲を円を描く様にして歩く黒服の紳士が姿。 そして、その円の中心で右脚の太股の辺りをザックリと深く斬りつけられ、その場に腰を落とし身動きのとれぬ状態と なって、震える手で自身の固有武装を構える...... 「 そんな…… ウ ェ ン デ ィ !!! 」 ・・・・・・Until Next Time
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/44798.html
スクランブルクロス クロスギアを面白くしてみたいオリジナル効果。 ■スクランブルクロス(このクリーチャーは召喚酔いしない。攻撃するとき、このターン中にメクレイドで出ていれば、これと同じ文明またはサムライを持つクロスギアを1つ、コストを支払わずにクロスしてもよい。) バーンエッジ・迅烈・ドラゴン VR 火文明 (5) クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アーマード・サムライ 5000 ■侍流ジェネレート ■スクランブルクロス(このクリーチャーは召喚酔いしない。攻撃するとき、このターン中にメクレイドで出ていれば、これと同じ文明またはサムライを持つクロスギアを1つ、コストを支払わずにクロスしてもよい。) ■アクセル-攻撃の後、クロスしているクロスギアを破壊してもよい。そうしたら、アンタップする。 スピードアタッカーを内包し、更にそのクリーチャーがメクレイドで出ていれば、そのターン中の攻撃時にクロスギアを無料でクロスすることができる。 コストが高いクロスギアでも出しておければシュバっと使えるのがポイント。 自由使用可・報告不要 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2725.html
本局に対するスカリエッティの『部下』による襲撃事件。 クロノ提督と、駆けつけた機動六課武装隊員によって撃退され一応の収束は したものの、事は既に本局すらも巻き込む事態へと発展していた。 『三提督を本局に召還しようという声が出始めている。次元航行部隊を事件解 決に当たらせようとする意見も』 次元間長距離通信において、クロノは事件後の本局がどうなっているかを義 妹であるフェイトに伝えていた。事件発生から一週間も過ぎてはいないが、時 間は刻々と流れている。 「そんなことしたら、地上本部との対立が激化して内部抗争に発展する」 地上本部のレジアス中将は、時空管理局本局及び次元航行艦隊を嫌っている。 ここで本局がスカリエッティ事件への介入姿勢を見せれば、それを本局の専横 と判断して抗議と妨害を行うだろう。 『あるいは、スカリエッティの狙いはそれだったのかも知れない。情けないこ とに、我が組織には頭でっかちでプライドの高い人間が多い。本局内への襲撃 は、顔に泥をはねつけられたようなものだ』 クロノの推測は全く外れているのだが、彼にしてみればギンガが言った理由 など信じるに値しないし、信じられるわけがないのだ。 敢えてそこには言及せず、フェイトは今後の対応を協議した。 『六課は今まで通り、スカリエッティの捜索を。奴の方からまた接触があるよ うなら、すぐに連絡をくれ』 「わかった」 『それと、ギンガ・ナカジマの件だが』 急に、クロノの顔が険しくなった。 『あれに対しては殺す気でかかれ』 「クロノ……」 『あの女はもう父親殺しで、それも自分の意思で行っている。捕縛して軍法会 議に掛かれば、処刑は免れない。だったらせめて、悔いのないようにしてやれ』 プライドが高いのは、どうやら義兄も同じのようだ。クロノの口調と表情か ら、彼がギンガに手も足も出ずに完敗したことを気にしているのは明白だった。 だが、それを抜きにしてもクロノの言っていることは正論だろう。 ギンガは自分の意思で、父親を殺した。 彼女に何があったのか、それは親子の会話を聴いていたクロノから、大体の ことは判った。けど、ギンガがどんな想いで、如何なる心情を持って父親を手 に掛けたのか……それは妹のスバルですら判らない、ギンガの持つ心の闇だっ た。 スバルはあれ以来、部屋から一歩も出てこない。友人であるティアナすらも 近づけず、閉じこもっている。事情を考えれば無理からぬ話だが、状況を考え るとこのままでいいはずがない。 「今のままじゃスカリエッティに、勝てない」 次々に仲間を失いつつある機動六課において、フェイトは辛い立場にあった。 第17話「ノーヴェの悲劇」 本局と地上本部を手玉に取ったスカリエッティとその一味ではあるが、フェ イトの危惧とは裏腹に、その内部はガタつきつつあった。 理由は簡単、ギンガ・ナカジマの存在である。最近になって一味に加わった とされる彼女は何かと横柄な態度が目立ち、ナンバーズと対立していた。元々、 スカリエッティを除けばナンバーズの姉妹しかいない女所帯だ。そこに姉妹で もない新たな女が現れ、しかも性格が悪いと来れば快く思うはずがない。ノー ヴェは勿論、トーレでさえギンガには不快感を示している。興味を示さないの は、セッテぐらいである。 「何なんだあいつは! 確かに連れてきたのはこっちかも知れないけど、好き 勝手にやりやがって」 批判の口火を切ったのはノーヴェであるが、大体は同意見だ。 「ドクターは、何故あいつの専横を許すのだ……本局に襲撃を掛けるなど、常 軌を逸している」 あくまで戦略的な部分でトーレは苦言を呈すが、事実、ギンガが勝手な襲撃 を掛けたことで本局の警備は今までとは比較にならないほど厳重となり、捕ら われたナンバーズの奪還という目的が遠のいてしまった。 ウーノとクアットロを除いて、捕らわれたナンバーズは本局に収監されてい ると思い込んでいる姉妹らは深刻そうな表情をする。 「ところで、何でウーノ姉様がここにいらっしゃるの?」 姉妹らが話し込んでいるのは基地内でもそれなりに広い空間だが、普段ここ をウーノが訪れることはない。故にクアットロは訊いたのだが、ウーノの歯切 れは悪かった。 「それは、ドクターがしばらく用事はないと言っていたから……」 「フッ、ドクターに部屋から閉め出されたわけか」 「なっ!」 トーレに鼻で笑われ、ウーノは顔を上気されるものの、それは図星であった。 スカリエッティは帰還してきたギンガを部屋に呼び、ウーノに退出を命じた上 で何事かをしている。かれこれ、半日近くになるだろうか? ルーテシアがは じめてここを訪れた時期を除けば、スカリエッティが他者に多大な時間を割く ことなどあり得なかった。 「よっぽどタイプゼロが気に入ったのかしらねぇ」 クアットロの何気ない言葉に、セッテ以外の姉妹から非難の視線が向けられ る。自分で作ったナンバーズには作品以上の感情を見せないドクターが、他者 の作った戦闘機人に入れ込んでいる。 これは、嫉妬だろうか? 親を取られた子供の独占欲か、それとも…… 「あら、皆さんお揃いで」 声は、姉妹らの背後からした。ウンザリした顔でトーレが振り向くと、案の 定そこにギンガがいた。バリアジャケットは着て折らず、管理局員の制服を綺 麗に着こなしている。 「何か用かよ?」 どうしても喧嘩腰になってしまうノーヴェだが、この時ばかりは誰も窘めな かった。 そんなナンバーズとギンガの様子を、遠目でゼストとアギトが見物している。 機動六課壊滅作戦以来、ゼストはルーテシアとアギトの勧め、というより半ば 強引な論調で、スカリエッティの秘密基地に滞在している。 「ギンガ・ナカジマ、か」 知らない少女ではない。それどころか、ゼストは彼女の妹や父親の存在も熟 知している。 クイント・ナカジマ、ギンガとスバルの義母にしてゲンヤの妻だった女性は、 ゼストが管理局の魔導師だったときの部下だ。その縁で、彼はギンガの幼少期 に幾度か顔を見たことがあるし、妹のスバルとも面識があった。 「あいつも、ルールーと同じってこと?」 「俺からすれば、そうなるな」 アギトの問いに、ゼストは重々しい声で答える。ギンガとルーテシアには生 い立ちも境遇も共通点など皆無に近いが、ただ一点、双方の母親が同僚だった。 つまり、ルーテシアの母親もゼストの部下だったのだ。ゼストがルーテシア を庇護し、共に行動をしているのにはそうした事情があるのである。ただ、ギ ンガの母であるクイントが死んでいるのと違い、ルーテシアの母であるメガー ヌは生きている。あれが、生きていると言える状態ならば。 かつて自分の部下だった女性たちの、娘たち。 それが今、こんな場所に揃っているのかと思うとゼストは複雑な気分になる。 「これも運命――か」 呟くと、ゼストはいきなり壁を強く叩いた。アギトは驚くが、ゼストは叩い たのではなく手をついたのだ。見れば、顔に脂汗が浮かび上がってきているで はないか。 「だ、旦那……やっぱり、むかつくけどアイツに診て貰った方が良いって!」 ゼストの体調は、このところ著しく悪くなってきている。身体機能の低下が 見られ、芳しいとは言えない。ルーテシアと、そしてスカリエッティ一味が嫌 いなはずのアギトがゼストにここに滞在するように強制しているのは、彼にゼ ストを診て貰う必要があると感じたからである。 だが、ゼストはそれを頑なに拒んでいる。 「大丈夫だ、俺はまだくたばりはしない」 ゼロとの戦いで使ったフルドライブのツケが回ってきたようだ。大事な一撃 を、自身の惑乱で使ってしまうとは……情けない限りだ。 しかし、過去の経験から、研究者という類そのものに嫌悪感を抱いているア ギトですら、こうしてスカリエッティに診て貰うようにと勧めている。それほ どまで、傍目に見て自分の状態は酷いのだろう。 「なら、いいけどさ……そ、そういえばアイツはどうなったのかな」 話題を変えるように、アギトが言った。 「あいつ?」 「ほら、この前旦那が倒した赤い奴だよ」 「ゼロのことか。奴は、無事救助されたらしい。叩き潰すつもりの一撃だった が、あれでも倒せなかったとはな、大した奴だ」 昔の自分なら、限界や時間の制約など気にせず、思うままに互いの武芸を披 露する戦いを興じたであろう。それほどまでの魅力が、ゼロの実力にはある。 けど、それをするだけの時間と力は、今のゼストに残されていない…… 「奴に、興味があるのか?」 「ま、まさか! ただ、ちょっと強かったからどうなったのかと思っただけだ よ!」 少しだけムキになって否定するアギトに笑みを見せながら、ゼストはギンガ とナンバーズらに視線を戻した。 「私は特に用はないけど、ドクターがね」 あっけらかんと、ナンバーズらが見せる不快感に気づきもしないような素振 りでギンガは口を開いた。 「少しぐらい、あなたたちとも話せって。面倒くさいって言ってるんだけど」 こいつは他人の気に触る発言しか出来ないのだろうか? ウーノが強い視線を向けるが、ギンガは一度視線を交わすと薄笑いを返して きた。 「私のことを嫌ってる連中と仲良くしようなんて、思うわけないのにね」 「そこまで判っているなら、その態度を変えてみたらどうだ」 トーレが前に進み出て、苦言を呈した。 「勝手な行動、横柄な態度と発言。嫌われるのには相応の理由があると、貴様 も判っているだろう」 正論だが、ギンガが感銘を受けた様子はない。 「私をボコボコにして、こんなところに連れてきた人間の言葉とは思えないわ ね。いいわよ? あなたが土下座でもしてくれるなら、仲良くしてあげても」 「なんだと……?」 怒気が渙発し、トーレの口調が強くなる。思わず、ノーヴェやクアットロと いった妹たちが後ろに下がったほどだ。 「そういえば、あなたにはあの時の借りをまだ返してなかったわね」 対するギンガも、鋭い殺気をトーレに向けた。魔力の波動が空気を揺らし、 威圧感を与えはじめる。 姉妹らが固唾を呑んで見守る中、二人は一歩前に出て―― 「その辺にしておきたまえ。君らが全力を出して戦えば、基地が壊れてしまう」 スカリエッティが、ルーテシアを伴いその場に現れた。 「しかし!」 声を上げるトーレの腕を、背後から誰かが掴んだ。見れば、無言無表情のセ ッテがそこにいた。 「ドクターの命令は、絶対です」 言葉に、トーレは怒気が冷めていくのを感じた。ギンガの方も、面白くなさ そうに殺気を引っ込めてしまった。 「それでよろしい。ゲームの再開前に、喧嘩は困るからね」 騒動を止めたセッテに軽い笑みを見せながら、スカリエッティは言葉を続け た。しかし、サラッと言った割りには聞き捨てならない内容だ。 「再開って、ゲームって終わったんじゃないのかよ?」 ノーヴェが彼女にしては珍しく呆れたような声を出すが、スカリエッティは 何を言っているんだと言わんばかりの顔をする。 「当たり前じゃないか。ゼロはまだ生きていて、健在だ」 それはそうかも知れないが、折角六課を壊滅させこちらの力を見せつけてや ったというのに、まだゲームなど続けねばならないのか。 ゼロを倒すよりも、ナンバーズを救い出し、本来の目的と目標を達成すべき ではないのだろうか? 「君は、自信がないのかなノーヴェ?」 「なに!?」 「戦って、ゼロを倒す自信だよ。まあ、無理もないか。あのチンクでさえ敗れ たんだ、君が勝てないと思うのも仕方が――」 瞬間、凄まじい速さでノーヴェがスカリエッティに詰め寄った。思わずトー レとセッテが反応するが、当のスカリエッティは危険を感じなかったらしい。 身長差から、上目遣いで自分を見ることしかできないノーヴェを見つめている。 「あたしは、負けない。負けることなんて、考えたことはない」 凄まじい気迫が、伝わってくる。あまり感情を見せないルーテシアも、興味 深そうにノーヴェを見ている。 「なら、次は君に任せるとしようか」 ノーヴェの頭に手を乗せようとするが、ノーヴェはそれを払いのけた。一瞬、 驚いたようにスカリエッティが動きを止めた。 「……ディード、君にも追々任務を与える」 隅に立っている少女は、無言でそれに頷いた。スカリエッティは周囲を見回 し、ナンバーズが一人足りないことに今更気付いた。 「ところで、ディエチはどこかな?」 「あぁ、ディエチちゃんなら例の王様のところです。ご飯でも上げてるんじゃ ないかしら」 元は自分に任されていたヴィヴィオの世話であるが、クアットロはまるで気 にせず答えた。スカリエッティも気にはしなかったが、ディエチも律儀な娘で ある。従順な性格だけに、きっとしっかり世話をしているに違いない。 「さて、次にギンガだが」 名前を呼ばれた当人以外が強い反応を示した。中でもウーノが、寂しげとも とれる視線をスカリエッティに向けていたことに、クアットロ以外は誰も気付 かなかった。 「君は、どうする?」 命令するわけでもなく、強制するわけでもなく、スカリエッティにとってギ ンガは部下という認識ではないらしい。 「私は、私の復讐を一つ終えた……ドクターに何かお願い事があるなら、何で も訊いてあげるけど?」 微笑むギンガに、スカリエッティは薄笑いを浮かべた。そして、ルーテシア の方に視線を向ける。 「では、君はこれからルーテシアと、そしてゼストと共に行動して貰いたい」 名前を出されたルーテシアが、スカリエッティを見上げる。抗議の意味では なく、少し意外だったからだ。 「ゼスト……? あぁ、ゼスト・グランガイツか」 遠くにいるゼストを見ながら、ギンガは呟いた。 ゼストのことも、ルーテシアのこともギンガは知っている。前者は亡き母の 上官で、後者は亡き母の同僚の娘だ。ルーテシアに会うのは確か初めてだった と思うが、ゼストは母の職場を見学に行った際に何度か会ったことがある。当 時の管理局にあって、剛勇、豪傑の異名を持っていた実力派の騎士だ。 「わかった、それじゃあ……よろしくね?」 ルーテシアに声を掛けるギンガだが、彼女は顔を背けてしまった。しかし、 少女の仕草に不快感を感じはしない。 ギンガは笑みを浮かべながら、その場を後にした。 ナンバーズの姉妹らも解散した後、自室に戻ろうとするスカリエッティをウ ーノが引き留めた。 「ドクター、何故タイプゼロにあそこまで肩入れをなさるのですか?」 我ながら直球な質問だと思ったが、回りくどい質問をしても無駄だろう。 そう考えたウーノであるが、スカリエッティは彼に似つかわしくない困った ような表情をした。 「そう見えるのかい?」 「私だけでは、ないと思いますが」 「なるほど、そうか……」 宙を見上げ、スカリエッティは思案顔を作る。 「実はね、私にもよく判らないんだよ」 「……は?」 「ギンガは、見ての通り私に従順で、好意的だ。少なくとも見かけはね。それ が何故なのか、私にはよく判らない」 よほど、突き付けた事実が衝撃的だったのか。嘘は言っていないし、誇張も していない。それでもギンガは、実の父親を殺した。 元々、他者の真意や心理を気にしない質であるスカリエッティも、ギンガの そうした内面には興味を持っていた。人は、あそこまで変われるものなのかと。 「しかし、修理する際に多少の強化をと思って改造をほどこしたが……強くし すぎたかも知れないな」 「意識改革も、その時になさったのですか?」 所謂、洗脳の意味である。 「いや、レリックの力に飲まれないように攻撃意識に手を加えはしたが、それ だって自己自制の出来る範囲内でだ」 「そうですか……けど、あの女に大事なレリックを使ってしまうなんて」 勿体ないと言うよりも、特別扱いをしているようで気に食わない。 今や、レリックの力を得たギンガはトーレに匹敵する実力者へとなっている。 彼女の態度も、実力ではナンバーズに引けを取らないと確信しているが故だろ う。 「レリックについては、実験のつもりだった。王に対して行う実験の練習みた いなものだ。第一、あれを使わなければギンガの再稼働は難しかった」 左腕に埋め込まれてはいるが、駆動機関に直結している。トーレとセッテが、 予想以上に痛めつけてしまったため、それしか方法がなかったのだ。 「けど、予想以上に良い出来になった。他者の作品に手を加えるのは嫌いでは ないが、あれは最高だ……」 そういえば、とスカリエッティは言った。彼は、ギンガがナンバーズに対し てこんな感想を言っていたのを、何故だかふと思い出した。 「ギンガは、君らを見て言っていたよ。とても、幸せそうだと」 『ゼロ、元気にしているかな? 本来なら、私が直接顔を見せるべき何だろう が、それは良くないとギンガに言われてね。こうしてメッセージを送るだけに しておくよ。用件は何かって? 何、ゲームを再開しようと思ってね。君のル ール違反も、六課壊滅の一件でチャラということにしてあげよう。ハハ、笑っ て水に流そうじゃない――』 映像を、途中でゼロは切った。険しい表情をする彼に、セインが不安そうな 表情を向ける。 「よくも、ぬけぬけと」 セインが持っていた端末を通じて送られてきた映像は、極めて挑戦的だった。 六課を壊滅させたことで、スカリエッティは敗北続きだった勝敗を均衡させた。 そのことはゼロも判っているが、ここでまたゲームを再開させるとは予想外で あった。 「そっちがその気なら、容赦はしない」 既に、ナンバーズの一機がガジェット部隊を率いて、このベルカ自治領内部 で何事かを行っているという。目的は不明だが、倒してスカリエッティへ続く 道を見つけ出してみせる。 方やセインは、スカリエッティが自分の端末に映像を送りつけてきてきたこ とで、彼が自分の生存を正確に認識していることを知った。知っているのは、 スカリエッティだけのか? それとも、他の姉妹も知っているのか。 いずれにせよ、ドクターが自分の存在を完全に捨てたことは理解した。 「どうするの……?」 不安が隠せいないのは、行き場を失ったと感じたからかも知れない。スカリ エッティに捨てられ、姉妹らにも突き放された。もう、開き直って裏切るしか ないのか? 裏切って、管理局に知っていることを全部話すしかないのか。 「出撃する。戦うしかない」 ギンガが出てくるのかと思ったが、彼女は本局での一件以来姿を現そうとし ない。早々に決着を付けたいが、そう上手く事は運ばないようだ。 「現場にいる、ナンバーズの情報は?」 「それは、わからない。ただ、一人だけ居るってことしか」 また、一人だけか。セインの話では、単体の戦闘技術からなる実力では、チ ンクより優れているのは三番のトーレぐらいなものだという。つまり、そのチ ンクを既に敗北させているゼロにとって、他のナンバーズはそれほど驚異には ならないと思われる。自己過信や油断は禁物だが、だとすれば敵は何故負ける ことが判っていながらゲームを続けるのか。意地がある、というわけでもある まい。 「あ、あの――私も」 出撃の意志を固めたゼロに、セインが声を掛ける。 私も、連れて行ってほしい。 喉まで出かかった言葉を、セインはかろうじて飲み込んだ。 捕虜である身の自分に、そんなことが許されるわけがなかった。 さて、スカリエッティの命を受けて出撃したのは、当人曰く待ちに待ったノ ーヴェであるが、折角出撃したにもかかわらず、彼女は不満げだった。という のも、ベルカ自治領内に派遣された彼女は、何か施設を壊すわけでも、制圧す るわけでもなく、 「そこ! あんまり強くやりすぎると一気に崩れるぞ!」 何故か、岩盤破砕用の装備を付けたガジェットを引き連れ、岩山の穴掘りを 行っていた。 「どうしてあたしがこんなことを……」 スカリエッティ曰く、この下にあるものが『埋まっているかも知れない』と いうことなのだが、それが何で、どういうものなのかは教えてくれなかった。 不明確な情報で良く分からない作業をする、苦痛すら感じることだ。 「ドクター、怒ってるのかな」 彼の手を振り払ったとき、ノーヴェは自分が悪いことをしてしまったと後悔 した。彼女は口は悪いが、決してドクタースカリエッティが嫌いなわけではな い。親のようなものだと思っているし、姉であるチンクからは自分たちがスカ リエッティの望みを叶えるために存在するのだと教えられてきた。 嫌われたくない。好かれなくても良いが、嫌われたくはない。 自分が可愛げのない奴だとは判ってはいるが、今更可愛らしくなど振る舞え ない。無理にしたところで結果は見えている。 「あたしは、あたしのやり方でやるしかない」 ウーノやクアットロのように側近としてドクターの役に立てるわけでも、ト ーレのように圧倒的な実力を持っているわけでもない。ディエチのように従順 でもなければ、セッテのように無感情に忠誠を誓うことも出来ない。だから、 ノーヴェはスカリエッティとの接し方に悩んでいた。チンク、セイン、ウェン ディと仲の良い姉妹を相次いで失った彼女は、誰に悩みを打ち明けるわけでも なく、一人悩み続けていた。 「あっ、そんなに乱暴に岩を砕くな!」 命令したところで、単純作業は出来ても繊細なことなど何一つ出来ないガジ ェットだ。強弱の付け方にしたところで大雑把であり、ノーヴェは頭を抱えた くなった。発掘なのか採掘なのかは良く分からないが、さっさと終わらせて、 さっさと帰りたい。 「帰ったら、ドクターに謝る……そ、そんなことできるもんかっ」 激しく首を横に振るノーヴェだったが、このわだかまりを何とかするにはそ れしかないように思える。 故にノーヴェは悩むが、悩むだけに終わった。 彼女がスカリエッティの元に帰ることは、なかったのだから。 突如、爆発が起こった。 「なっ、なんだ」 遠くで作業をさせているガジェットたちが、次々に吹っ飛ばされている。 何かが、いる。 「あれは……まさか!」 いそいそと作業に勤しんでいたガジェットたちが、応戦する間もなく倒され ていく。 間違いない、あれは――あれは! 「全部隊、攻撃モードに変更。戦闘態勢」 ノーヴェは脚部のジェットエンジンを起動させる。ギンガやスバルのデバイ スによく似たこれは、その通りギンガのブリッツキャリバーを参考にスカリエ ッティが強化改造したものだ。 「エアライナー!」 ウイングロードによく似た、エネルギーの帯が発生する。ジェットエンジン を加速させ、ノーヴェは目標に向かって駆ける。 ガジェットによる反撃がはじまる中、敵は剣を振るい、銃を撃ってはこれを 迎撃している。ガジェットなど最早敵にもならないとでも言いたげに、凄まじ い力を見せつけている。 そんな恐るべき相手に対してノーヴェは、 「砕けろっ――ブレイクライナー!」 ゼロに向かって、ブレイクギアによる足蹴りを直撃させた。 打撃による強烈な一撃に、ゼロは近くにあった巨岩へと叩き付けられた。 「接近主体のナンバーズか!」 今までにない戦闘スタイルの相手に、攻撃以上の衝撃を受けているゼロだが、 いつまでもそうしているわけにはいかなかった。 「死ねぇっ!」 続けざまに繰り出される足蹴りを、ほとんど転がるように避けるゼロ。足蹴 りが直撃した巨岩が、音を立てて崩れた。見れば、脚部装備にギンガのリボル バーナックルによく似た武装が施されており、あれが岩をも砕く破壊力を発揮 しているらしい。 「スカリエッティの居場所を教えて貰う」 バスターショットを放つゼロだが、岩ぐらいしか遮蔽物のない空間において、 ノーヴェの能力は遺憾なく発揮されている。エアライナーで縦横無尽に駆け回 り、素早い動きでゼロを翻弄している。 「ガンナックル!」 連射速度も、発射弾数もゼロのバスターとは桁が違うエネルギー弾が発射さ れた。右手の甲から放たれる高速直射弾に対し、ゼロもバスターで応戦するも のの、数の差ですぐに圧倒された。 「名前を訊いておく!」 ゼットセイバーを抜き放ちながら、ゼロが叫んだ。 対するノーヴェも高速移動を続けながら、ゼロに向かって叫び返した。 「あたしはナンバーズ9番ノーヴェ、破壊する突撃者ブレイクライナー!」 ゼロとノーヴェの戦いは、スカリエッティの秘密基地においてはスカリエッ ティとクアットロが、機動六課の仮隊舎状態となっている聖王教会の施設では フェイトとシャーリー、それにリインとセインがそれぞれ見つめていた。 「ゼロ、まさか一人で出撃するなんて……」 セインの監視を頼んでいたはずのゼロがいなくなったことを不審に思ったフ ェイトは、セインを詰問してゼロの所在をただした。すると、彼女は言いにく そうにゼロがたった一人で出撃した事実を漏らしたのだ。同時に、ゼロが機動 六課壊滅の責任が自分にあると思い悩んでいたことも、告げてしまった。 「でも、今までだってナンバーズ相手に連戦、連勝だったから大丈夫じゃない ですか?」 画面上で激しく戦う両者の映像を見ながら、シャーリーが口を開いた。 「そう思いたいけど……この敵、凄く強い」 実力や戦闘技術で言えば、間違いなくゼロの方が上だろう。しかし、何と言 えばいいのか、荒々しい攻撃に含まれる気迫のようなものが、凄まじく強い。 洗練された攻撃が、無我夢中の反撃に撃ち破られることは決して珍しいことで はないはずだ。 「ノーヴェ……」 仲の良かった妹が奮戦する姿を見て、セインはいたたまれない気持ちになっ た。六課が壊滅してしまったことで、ゼロはもう容赦なくナンバーズを倒しに 掛かっている。馬鹿げたゲームをさっさと終了させ、スカリエッティへと剣を 突き付けたいのだ。 フェイトの危惧はもっともだが、それでもセインはゼロがノーヴェに負ける とは思わなかった。必ず勝つ、勝って、その上でノーヴェが抵抗を止めなけれ ば、ゼロはノーヴェをどうするか…… セインは、決断せざるを得なかった。 「お願いが、あるんですけど」 眼前に進み出てきたセインに対し、フェイトは困惑気味の表情を作った。 「あたしを、戦場に行かせてください!」 思いがけない頼みに、リインが驚きの視線をフェイトに向けた。 「……どうして?」 「戦いを、止めたいんです!」 意地と意地のぶつかり合いといっていい戦闘は、見るに耐えないものだった。 ギンガの一件が、常に冷静なゼロの心理に負担を与えているのは明白であり、 ノーヴェまたも、自ら後ない状況にまで自分で自分を追い込んだが故に、我が 身も省みない攻撃を続けている。 「止められるの? あなたに」 「あの子は、ノーヴェはあたしの妹です。あたしの言葉なら、耳を貸してくれ ます!」 フェイトは眼を細め、シャーリーが見たこともないほどの冷たい視線をセイ ンに向けた。怯みそうになるセインだが、何とか踏みとどまった。 三十秒ほど、それが続いただろうか? フェイトは一度目を閉じると、大き なため息を付いた。 「お願い……ゼロを止めてきて」 こんな悲しい戦い、フェイトだって見ていたくないのだった。 ゼットセイバーとブレイクギアが激しくぶつかり合い、火花を散らしていく。 攻撃の鋭さ、キレ、正確さ、どれを取ってもゼロの方がノーヴェの数段上をい っている。 だが、フェイトが感じたように、ノーヴェの気迫から繰り出される強烈な一 撃は、俄にゼロを圧倒していた。 「お前を倒して、チンク姉たちを取り返す!」 確かな目的があるノーヴェは、それを掴むために必死だった。絶対に負ける わけにはいかないという想いが、力強い原動力となっている。対するゼロも、 ナンバーズを打ち倒してスカリエッティと、そしてギンガを倒さなければいけ ないという自己への制約があった。 苛烈な攻撃の応酬を続ける二人だが、どちらも決定打を見出せずにいた。一 撃、一撃に双方を打ちのめすだけの力が込められているはずだが、どちらも痛 みを感じていないのかと錯覚するほどの戦いになっている。 「――ッ! まだまだぁっ!」 しかし、やはり基本性能と経験から来る実力差は埋めようもない。ぶつかり 合う度、ノーヴェの身体にダメージが蓄積されていく。それでも気力を振り絞 って何とか互角の戦闘に持ち込んでいるのだが、限界は確実に近づきつつあっ た。 「砕けろ、砕けろ、砕けろっ!」 連続して繰り出される足蹴りを、ゼロは尽くセイバーで弾き飛ばした。一つ 間違えば、足が斬り落とされるかも知れないのだ。ノーヴェの心に恐怖はあっ たが、それでもそれを打ち消して戦っている。 「勝つんだ、絶対に勝って、チンク姉を! そしてドクターに!」 今度こそ、認めて貰うんだ。 エアライナーを駆け上り、ノーヴェは最大限に力を込める。 「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 高く上って、急降下。弾丸、いや、ミサイルのような勢いでノーヴェがゼロ に迫った。 「――――そこだ!」 一瞬の攻防が、勝敗を決した。 ゼロの持つセイバーが、ノーヴェのブレイクギアの片方を、斬り砕いた。 「うわぁっ!?」 正確にブレイクギアだけを破損し、バランスを失ったノーヴェは地面へと叩 き付けられた。 何とか起ち上がろうとするが、ゼットセイバーの切っ先が眼前に突き付けら れ、ノーヴェは硬直した。 「終わりだ。スカリエッティの居場所を教えて貰う」 「誰が教えるかよ!」 双方が引けぬ理由を持っているが、この状況でノーヴェのそれは虚勢だろう。 現に倒れたことでいくらか戦意を喪失した彼女の表情には、僅かな怯えの色が 見えた。 「殺すなら殺せ! あたしは死んでも、何も言わない!」 度胸だけは立派であるが、それを汲んでやるようなゼロではない。彼は無言 でセイバーを振り上げ、ノーヴェは覚悟を決めた。 「待って!」 そこに、セインが駆けつけた。 「セイン――!?」 驚愕に、ノーヴェの表情が劇的に変化する。その声を聴いたゼロも、セイバ ーを振り上げた腕を止めた。 「何故、お前がここに?」 「フェイトって人に許可は貰った……ゼロとノーヴェを、止めに来た」 言って、セインはノーヴェへと歩み寄った。未だに驚きを隠せないでいる彼 女の前に屈んで、手を差し伸べた。 「立てる? ノーヴェ」 「セイン、どうして……管理局の本局にいるんじゃ」 ノーヴェの反応から、自分がどういう境遇にあったのかを知らないことに、 セインは気付いた。つまり、スカリエッティはノーヴェにも嘘をついている。 「どうしても何も、私はこうしてピンピンしてるよ。囚われの身ってのは事実 だけど、本局には行ってない。勿論、チンク姉もね」 「でも、ドクターはセインが自爆して、それでこいつを倒そうとしたって!」 「やっぱり、そんなデタラメな嘘を言ってるんだ……」 寂しさの滲み出る声と表情で、セインは呟いた。ノーヴェを立たせ、スーツ に付いた誇りを払ってやる。 「いいよ、全部教えてあげる。ドクターがあたしに、あたしたちに何をしたの かってことを」 セインの登場に一番驚いたのは、スカリエッティであったのだろうか? 彼 は複雑そうな表情をモニターに向けていたが、口に出しては何も言わなかった。 「あらぁ、セインが出てくるなんて予想外ー。このままじゃ、ノーヴェちゃん が籠絡されちゃう?」 意地悪そうな目で、スカリエッティを見るクアットロ。 「やはり……ダメかな?」 「ノーヴェちゃんは、セインに頭が上がらないから」 セインは、番号の近いチンクと懇意の中だった。チンク自身もセインを大切 な存在に想っていたようで、一つ上の姉でありながらも、セインとは対等の立 場を気付き上げていた。兄妹以上の仲にも見えたとは、ウェンディの言葉であ る。故にノーヴェは、そんなセインに対し呼び捨てで呼びはするものの、チン クの次に信頼し、敬意を払っていた。 「なるほど、そうか」 「どうします?」 クアットロが何を言いたいのかは、判っていた。モニターに映るノーヴェと、 先ほど振り払われた片手を、スカリエッティは交互に見て……やや、投げやり に言った。 「君に任せる、好きなようにしてくれ」 セインの口から次々に証される真実を、ノーヴェは唖然として聞いていた。 開いた口がふさがらないとは、このことか。俄に信じられる話ではなく、 「嘘だ、そんなの。ドクターが……そんな」 狼狽するノーヴェに、セインは悲痛そうな瞳を向けた。嘘をついている目で ないのは明らかだった。 セインごとゼロを葬り去ろうとしたディエチに、彼女に命令を下したスカリ エッティ。 「あたしは、ドクターに殺されかけた。あの人にとって、あたしたちは作品に 過ぎないんだ。壊すも捨てるも、あの人は平気でやる」 「だけど、それは」 「どうしてドクターが、私を含めたナンバーズの奪還に本気を出さないのか、 興味がないんだよ、必要性を感じないんだよ!」 セインは、スカリエッティの本質を捉えていた。彼にとって、ナンバーズと は作品であって物なのだ。ルーテシアのような元が人間の少女とは違い、スカ リエッティは姉妹の存在は認めていても、人権は認めていない。 だから、心に痛みを覚えず処分が出来るのだ。 「ノーヴェ、あたしと一緒に来て。このままドクターの所にいれば、ノーヴェ だっていずれは」 「そんなの、急に言われたってわかんないよ!」 訴えるセインに、ノーヴェは頭を抱えて叫び返した。セインがじっくりと認 識していった現実を、一瞬で理解することなどノーヴェには不可能だった。 ドクターは、あたしを、あたしたちを何とも思っていない? そんな馬鹿なこと、馬鹿なことが―― 『ハァ~ィ、ノーヴェちゃん聞こえる~?』 いきなり、クアットロの声がノーヴェの頭に響き渡った。 「クア姉!?」 『悩んでるみたいねぇ……』 「セインの言ってることは、本当なのか?」 ノーヴェの様子がおかし事に、セインとゼロは気付いた。クアットロの声は、 二人には聞こえていないのだ。 『本当だったら、どうするの?』 「そんなこと……」 『迷いがあるなら、消してあげても良いわよ?』 頭に響くクアットロの声が、急に冷たくなった。 「えっ?」 『こんな風に、ね!』 瞬間、激痛とも取れる痛みがノーヴェの頭に伝わってきた。 「クア姉……!?」 感情が増幅し、破壊され、意識が飲み込まれていくのをノーヴェは感じた。 「ノーヴェ!」 セインが駆け寄ろうとするが、ゼロがそれを止めた。感じたことのないほど、 強大な怒気がノーヴェから発せられていたのだ。 涙まで溢れている瞳に色はなく、表情が怒りに歪んでいく。 コンシデレーション・コンソール。 戦闘機人の自我を喪失させ、特定の感情だけを増大させる一種の洗脳技術。 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 ノーヴェが吠え、片足のブレイクギアで蹴りこんできた。ゼロは咄嗟にセイ ンを抱えてそれを避けると、セイバーを構え直す。 「そんな、どうして!?」 変貌振りにセインが愕然とするが、外部から何らかの操作をされたのは明ら かだった。 セインのことすら躊躇せず、攻撃を仕掛けてくる。 「死ね、死ね、死んじまえぇぇぇぇぇぇ!」 ガンナックルを連射し、セインを庇えないと判断したゼロは全弾を背中に受 けた。でなければ、セインに当たったから。 「ゼロ!」 「動くな、怪我をしたいのか」 いくらゼロが強いと言っても、攻撃に痛みを感じないわけがない。顔には、 苦悶の表情が浮かんでいる。 「あの状態を、解く方法は?」 「わ、わかんない。あんなの初めてで」 「なら、倒すしかない」 非情な決断が、ゼロの口から出された。 「待って、話せば、話せばきっと!」 もう遅い、もう無理だと、セインも理解している。しているのだが、納得す ることが出来ない。 こんな、こんな結末、あんまりだ。 だけど―――― 「お願い、ゼロ」 セインの声が、震えている。涙で、悲しみで、怒りで、震えている。 「ノーヴェを、あの子を助けて!」 戦いは、ノーヴェが動けなくなるまで続いた。斬っても撃っても、ノーヴェ は戦い続けた。泣きながら、叫びながら、腕を振るい、足を蹴り上げ、モニタ ー越しに見ていたシャーリーとリインが思わず顔を背けてしまったほどで、フ ェイトも顔を背けたくて堪らなかった。 ゼロのチャージ斬りが直撃し、ノーヴェはその動きをやっと止めた。 崩れ落ちる彼女の身体を、セインが抱え込んだ。 「ノーヴェ、ノーヴェ!」 妹の名を叫ぶセインに対し、激しい、激しすぎる戦いを続けたノーヴェは、 苦しそうに瞳を開けた。 「セイン……」 弱々しい声だった。既に、コンシデレーション・コンソールを受ける前に、 ノーヴェは限界だった。それを一切無視して、彼女は限界を超えた戦いを無理 矢理行わされたのだ。 もう、ノーヴェには喋るどころか、瞳を開ける気力すら残っていなかった。 「セイン、あたし」 だけど、それでも、ノーヴェは口を開き言葉を発した。 「嫌われたく、なかったんだ。ドクターにも、みんなにも」 チンクやセインがいなくなり、精神的な孤独を感じていたノーヴェにとって、 スカリエッティにまで見放されるのは、居場所を失うも同然だった。 「なのに、どこを間違えたのかな」 嫌われたくない、そう思っていたのに、セインが現れ、その口から真実が語 られたとき……ノーヴェは何もかもが判らなくなった。 「あたしって、本当に」 馬鹿だよな。 ノーヴェがその言葉を発することは、なかった。 全ての力を使い果たし彼女は、そのままゆっくりと、瞳を閉じた。 つづく 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2636.html
黄色い悪魔前半 私は平和の為に、弱きものを守る為に戦った… 祖国を愛し、想う若人を殺し… 祖国と利権を売り渡す豚を守り… 守るべき民には侮蔑と憎悪と嫌悪を受け… 私の戦友が守るべき人達によって殺される… 私は… 私は一体何の為に戦っているのだ! ―――とある管理局からの独立蜂起運動を鎮圧したランクS魔導士(後に精神を病み除隊)の言葉 ―――かなり前、辺境世界の道 一台の車が走る、それを確認する3人の女性そして待ち伏せするように動く。そんな事を知らずに車は走る。 「しかし…」 運転手は言う。 「何で閣下みたいな人を辺境世界に追いやるんですかね?」 運転手は後部座席に乗る男を知っている。 『ヴィルヘルム・カナリス中将』 管理局において小さな部門であった情報局を拡大させ、日夜他世界の情報収集を行って多くの危機を直前に防ぐなど大きな功績を打ち立てていった、 恐らく彼がいなかったら管理局に対して多発するテロやクーデターに対処出来ず混沌時代が再び幕をあけるかもしれなかったのだ。 「まぁ、敵を作りすぎたんだな」 自嘲するようにカナリスは言う、カナリスもかなり黒いものを持った男だった、当時最大の障害であったラインハルト・ハイドリヒ総務統括官をテロに見せかけて暗殺し、 予算を確保する為に対立組織例えば海や空の将官を事故死に見せかけて暗殺したり、スキャンダルを用いて揺さぶりをかけてかなり黒い手を使って組織を拡大していき、 優秀な人材を集めていった。本局にいる宗方玲士やリンディ・ハラオウンやレティ・ロウランを始めとする人達の協力があったとは言えカナリスを敵視する人達は多い、 そして「辺境世界の状況をしかと見てこい」の辞令の元辺境世界への追放、つまりは左遷。抵抗すると思いきや本人はすんなりと受け入れた。 「閣下がいなくても大丈夫なんですか、情報局は?」 「何、心配はいらないよ」 カナリスは言う、情報を得るために支援も無く単独で敵地に向かい情報を手に入れる、時には金、時にはこちらの情報、 そして時には権力者に自らの身体を売る(男女問わず)、多分なのは達がみたら卒倒しそうな事を行ってまで手に入れる、 無論地味な任務などで褒められはしない…だが彼らは黙々と任務をこなした、ただ自分の仕事が良き未来を作ると言う空想を信じて… 多くの部下の死を目の当たりにした、拷問され、文字通り奴隷にされ、撃ち殺され、あらゆる苦痛を受けながら死んでいき、 生物に吸収されたり、喰われたり、それらを目の当たりにしてもカナリスは顔色一つ変えずに仕事をこなした…無論心の中では全く違うが… だが、部下は皆優秀だ、すでに後任も育てている。ある時は局からスカウトし、 あるときは他世界の政府や軍人を口説いて手に入れた宝石より貴重なスペシャリスト… 総合的情報収集を任とするラインハルト・ゲーレンとハンティントン・シェルドン其の妻アリス・シェルドン、 外交的情報部門のアレン・ダレス、ウィリアム・ドノヴァン 暗号解析(通称ブラックチェンバー)ジョセフ・ロシュフォート、ジャック・ホルトウィック、ハーバート・ヤードリー 特殊工作員オットー・スコルツェーニ、ジャック・キャノン …彼らは自分達がいなくても今以上に仕事をこなす事が出来るだろう。 ―――自分はやるべき事はやった、あとは若い人に任せよう…新しい酒は新しい皮袋という諺があるしな。 そうカナリスは思った、この任務が終われば、辞職して、そうだな自分を陰から支えてくれた妻と共に趣味のクラシックに没頭する日々を送ろうとするか… そう思っていた矢先である。車に向けて砲撃が放たれる、魔法防護を施しているにも関わらずその攻撃はそれを容易くぶち抜き、エンジンを破壊した、 そして車はコントロールを失い岩に激突する。 「閣下、ここは危険で…」 非難を促した運転手は飛んできたナイフが心臓に刺さり倒れる、即死だ…、痛む肩を押さえながらカナリスは車外に出る、 救援を呼ぶ無線もすべてジャミングされている。まぁどっちみち今から救援が来ても遅いだろうな。 そう思いカナリスは目の前に降りて来た女性に目をやる。 「やれやれ随分と乱暴な御出迎えだな」 その余裕に似た口調に若干驚くも短髪の女性は淡々と言う。 「ヴィルヘルム・カナリス中将、我々と来てもらいましょう…抵抗は無意味だ」 「戦闘機人か…ジェイル・スカリエッティの差し金と言う所か…」 「なるほどそちらは知っておられましたか」 「ああ、そして狙う物もな…」 カナリスはデバイスを起動させる、ハンドガン型のデバイスだった。 「先ほども言いましたが抵抗は無意味です」 短髪の女性は言う。 「ふん、君の言う抵抗とは偉く単純なものだな…」 カナリスは言う、かつて情報局員として働いていた時に捕まり、その後看守の首を締め上げて脱走したが、 それもこの現状では不可能になった、そして彼の不可解な言動に女性は顔を顰め…そして気付く。 「いかん!チンク、ディエチ、奴を止めろ!」 そして自身と飛び出したが遅かった、カナリスは銃口を口の中に入れると躊躇無く引き金を引いた。 何故か、理由は分かる、おそらくジェイル・スカリエッティは情報局の中枢を勤め、多くの管理局内や管理世界、 管理外世界の情報を欲したに違いない、そして自分に対する敵対要素の排除も含めて。 そして後頭部に大きな穴があき頭蓋骨の破片や細かく砕けた脳髄が吹き飛び地面に赤い染みをつける。 「ちぃ、遅かったか…」 女性、戦闘能力において最強と名高い戦闘機人ナンバー3「トーレ」が顔を顰める。 「こちらトーレ、捕獲対象178の確保に失敗…」 「どういう事?」 モニターに映る女性は顔を顰め言う。 「ウーノ、奴は私たちの目的を悟って、自殺した…脳髄を完全に破壊してな…」 モニターに映る女性ウーノは顰め面をしながらも帰還命令を出した。 「ごめんさい、トーレ、阻止できなくて」 チンクと呼ばれる小さな女性は謝罪する、そしてディエチと言う女性も似たような事を言い謝罪する、それに首を横に振るトーレ。 「いや、これは私の責任だ…迂闊だったな」 トーレは頭が吹き飛んだカナリスの死骸を見やる。今までの戦闘経験から管理局員は惰弱と決め込んでいたが、 少なくとも目の前にいた男は、最後まで自分の任を果たそうとした男だ… 「覚えておけ、博士の敵はあのような連中ばかりでは無い事を…」 そう言うとトーレはカナリスに向けて敬礼する、それは彼女が最後まで自分の務めを果たそうとした …敬意に値する男だった。 「そうか、確保に失敗したか」 男は淡々と言う。 「申し訳ございません、この責は…」 そう言い頭を下げるウーノ 「まー仕方ないよ、彼が自殺を選ぶなんてまさか私でもそう思わなかったからねぇ」 男、狂人、ジェイル・スカリエッティは言い、トーレ達に責はないと言う。 「これで振り出しか…」 スカリエッティにとってスリルとは楽しむべきものだが、流石に管理局が口出しされると色々と迷惑なのだ… その筆頭がヴィルヘルム・カナリス率いる情報局であった、スカリエッティの存在と最高評議会との繋がりを 恐らく何らかの状況で知っていることだろう、其の為スカリエッティは評議会を通じて情報局の封じ込めを行った、 それだけではなく情報局の情報すら手に入れようと考えていた。流石に安易な流出はそれこそ情報局だけではなく 多方面からの猛反発も避けれない。ドゥーエも本部と評議会との繋ぎとめで動けない、そしてクアットロによる ハッキングは逆襲を喰らってカウンターウィルスを流し込まれ昏倒、現在も修復中であった。 「まぁいいか、少なくとも有能なトップを失った事で情報局の動きは制限される、それに次の局長は若手らしいじゃないか…大丈夫さ」 スカリエッティは満足そうにいった…だが情報局はすでにラインハルト・ゲーレンと言う優秀な若手がすでにトップについていたことを彼は失念していた。 ―――管理局内のある将官達の会話 「オークションに出したロストロギアがぱくられたんだって」 「おいおいおい、何やってんだよ、というか何でロストロギアをオクションにかけるんだよ、あれか?ヤフ〇クで転売でもするのか?」 「んな事知るかよ!」 「というか警備に就いていた機動6課の連中はどうしたんだ」 「隊長揃って警備名目でのパーティー内で飲み食い、そしてまともな指揮の取れない副隊長たちの行き当たりばったりの迎撃、計画なんぞ立てていない、 あまつさえド新人たちの味方撃ち、それに対する連帯責任もオール無視…もう何もかもがダメダメ」 「フッ、数ヶ月しか訓練していない新兵をセレブ達の護衛につけようなんて、あそこの隊長はバカだな」 「あんな隊長の下で戦いたくねぇな」 「「「「「「全くだね」」」」」」 「それで次の模擬戦が何故新人を暴走した理由分からずに私的制裁かまして其の上連帯責任すら負わせねぇ」 「何考えているんだよ、一体」 「八神はやては今回の経験に鑑み予算増額を請求だって、訓練に力と資材入れたいからとか」 「うがぁ~~~~金食い虫がぁぁぁぁぁぁぁぁ」 「くっそ~~~何考えているんだ、で、それはどうなった」 「…承認だってさ、もちろんそれは俺たちの部署から削るんだとさ(泣」 「「「「「「「「「もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」 ―――とある管理世界 モニターを見る二人の男 『不屈のエースオブエース「高町なのは」、美しき雷光「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」、夜天の王にして偉大なる守護者「八神はやて」、 彼女達がいる限り時空の平和は―――』 「ちっ!不快だ」 男はモニターを強制終了させてはき捨てる。 「何がエースオブエースだ、何が守護者だ、何が雷光だ、ケッ『篭中の御姫様達』のどこが偉大だって言うんだよ」 男の言う『篭中の御姫様』はとある局員達で交わされている言葉でもある。 「やめておいた方が宜しいですよ、ここの司令官である貴方が言うと部隊の士気にかかわりますし、モラルの点も…それに彼女達は」 抗議というより嗜めるように老けた男は言う。 「確かにPT事件、闇の書事件を解決したのは認めるがな…だが所詮それだけ、親の七光りや老害の後ろ盾でやりたい放題やっている餓鬼どもさ」 「まぁ、プロパガンダに使える分、士気向上、そしてそれにつられ入局しようとする人…うってつけですな」 「そうだなそれと俺とおやっさんの仲だ気楽にいこうか」 「失礼したな坊主、しかしちょっと前の坊主とは全然違うな、以前の坊主は…」 「管理局の正義を純粋に信じ、人々を救う事に理想とし道を進んだランクS+魔導士…確かにね、 だけどあんな現状見たら『正義なんてクソ喰らえ』になりますよ、管理局上層部とこの世界の 政治家や企業などはつるんで利権を貪り、富を民から収奪する、だけど管理局からの恩恵は上流階級と そのおこぼれに与れる都市部の人間ぐらいなだけ、それで怒り狂った民はテロやゲリラ的行為を行う…」 男は少し前を思い出す、続発するテロに管理局はテロ撲滅を謳いテロリストのアジトを強襲、ボス と重要幹部を除いて全部射殺された、だが射殺されたのは貧民層の人々、その中には女子供も含ま れていた。 「そして管理局内の常識が他世界に通じると思っているバカが増加しているのもテロ行為を続発させていますよ、民衆が昔から信奉している宗教を、 昔から行っている習慣を野蛮と蔑み差別する。もう見てて駄目だなと思いますよ、この世界の住人にとって我々はあくまでヨソモノなのだから」 老けた男は頷いて言う。 「その通りだ、そのお陰でテロを行う為の人材を確保するなんて容易、宗教と貧困、どの世界でも斬っても斬れぬ存在、それが絡むと本当に恐ろしい、 教養のない連中は宗教を教え込ませ立派な殉教者に仕立て上げる、謳い文句は『管理局員、政府の役人を殺せばパライソにいける』 とでも…そしてインテリ層も厄介だな、此方には笑顔で接しているけど隠している手にはナイフを忍ばせているなんて結構あるからな」 「上は版図を広げる事に御執心、とばっちりは俺達のような下っ端、そして俺達のようなランクが高い奴らは必ずやらされる汚れ仕事、 ランクの低い局員では手におえないようなゲリラ組織を一つの村を殲滅してまでの討伐、反管理局的思想を持つ政治家とかインテリ層の暗殺とか…はぁ」 「だが管理局にいる以上それは仕方ないだろう、坊主、全てが全て綺麗事とは限らないだろ」 「まぁ、仕方ないと割り切っていますがね…時々思うんですよ何の為に戦っているのかって、俺はなんだろうって… でも御姫様達はなんだろうって思いますがね、俺を含めて他の連中がどうやっているのかも知りもしないのに 自分の主張や思想がすべて正しいように押し付けて、間違っていると指摘しても自分は決して間違ってはいないと 頑なまでに意見を変えない。そして『お話をきいて』と自分の意見を認めない奴らには力押しで自分の考えを 無理矢理押し付けて、そして自分はすべて正しいんだと言う顔をする。自分の手を血で汚した事もない癖に、 その理由を知らずにやたら偉ぶる、自分は人を死なせずに救っていると誇ってな。なまじ力があるから手が付けられない… バカにしているとしか言いようがないです。確かに個人の思想を持つことは構いませんし、彼女達の思想は立派なものですよ、 ですけどそれを人に押し付けようとする時点でだめだめだな」 AAAランク以上の持つ魔導士は少なからず、汚れ仕事を行う、そうでもしなければ治安どころか次 元間の平和も守れない場合も多々あるのだ。時空の平和を守るのは彼らのようなAAAランク以上 の圧倒的な暴力によって辛うじて押さえつけている、つまり憎悪と怨恨、血と肉と言う土台によっ て平和は支えられている、だからこそ司令官を含むAAAランク、いや本当の実戦に出ているベテ ラン(一部は除くけど)達は高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、八神はやての3 人の魔法使いを密かにこう呼び馬鹿にして、その場の憤りを一時的に晴らす。 「篭中のお姫様」 3提督やリンディ・ハラオウンやレティ・ロウランなどの有力な上層部と言う籠の中で本当のAAA ランク以上の局員としての仕事をほとんどせずにただ自分達に出された特別課題、彼らから見れば 鼻で笑う生ぬるい任務をこなすだけ。丸で固い城の中で守られるお姫様のように… 重い空気を打破するように一人の若い男が入って来る、そして部屋に入ってきた男は、二人の男に 敬礼すると「今回この世界に着任する事になりました」、自分の名前、前の所属、「出身地はクラナ ガンラン」、そして「貴方のような司令官の下につけるとは光栄です」と下らない御世辞を言い、「よ ろしくお願いします」 と言う。 「よろしい、君の配属を歓迎する」 若い男、司令官はいつもの言葉を言うと、ふと思いついたように若い男に問う。 「君は何故管理局に入局したのかな」 その問いに若い男は誇りを持つように言う。 「ええ、あのエースオブエース『高町なのは』彼女のような素晴らしい人が人の救う道と言うのを教えられて… そしてかっこいいんです、彼女みたいに強く逞しく優しい人が…自分もそうなりたくて」 「ん、そうか、分かった」 内面で「このバカが」と言う表情を前に出さず司令官は頷く、そして退室する若い男を見て司令官 はぼやく。 「データでは優秀だが、実戦はランクC事件の解決ね、地はいいけど温室育ちの御坊ちゃまか…おやっさん、何日持つかな」 「数ヶ月持てばいい方じゃないんですか?」 老けた男、補佐官はサラリ言う。 「全くだ、ゲリラに殺されるか、本当の現場がどういうものを知ってしまい、夢が壊れて局を辞めるか」 プロパガンダに影響されて入る人達による離職率は高い、何故だって?答えは簡単、現実を知って しまうからだ、何せ情報では友好的なのに管理世界にいるけど周りの住人は全然友好的じゃない よ、や、何で周りから敵視されるんだよ、や、子供が武器を持って襲い掛かられる事にショックを 受けたり、人を殺してしまいショックになるなり鬱になる…意思が弱い(その分なのははかなり異常)。 その分「金の為」とか「家族の生活の為」とか「犯罪を犯した親類の罪を少しでも軽くする為」とか 「人を殺したい、壊したい為(時々いるんだこんな奴が)」の方が多少の問題はあれどもまだマシ=使える …それが司令官の認識であった。 「前来たと女性局員もあのエースオブエースに影響されたクチ、高町なのはみたいになると言っていたな」 「まぁ、高町なのはの影響を受けすぎて、彼女に振り回される部下が哀れで哀れで…何度も泣き付かれたよ、『彼女と仕事できない』って」 「まぁ最終的には我らの黙認の下、部下達が後ろ弾撃ちこんで事なきを得たんですがね」 「ふん、無能な士官は排除されて当然だ」 管理局における士官の死傷原因 3位 任務中における敵からの攻撃(とりわけ狙撃攻撃に対する対抗策は難しい) 2位 自爆テロを含むテロ攻撃(民間人を装ったテロの撲滅はほぼ不可能) 1位 後ろ弾(無能な指揮官のみならず、元犯罪者に対してよくみられる) ―――数日後 爆発する管理局の駐屯基地の敷地と門… 「またテロリスト御得意の嫌がらせ攻撃か」 司令官は全く動じない、もう彼は慣れているのだ、今司令部の部屋で慌てているのは先の新人だ。 「一体何が…」 「ゲリラがいつも行う攻撃さ、どっかから手製迫撃砲なり、手製バズーカを使って砲弾を基地に撃ち込むもしくは爆弾テロってね…」 「え、何で」 「決まっているんだろ、俺達が嫌いなだけ」 「そんな、管理世界の皆は幸せに暮らしているってそう教えられて…」 新人はただ教えられた事を言う、司令官は思う、『ケッ、だから純粋培養は・・・』だがそれをおく びにも出さずに言う。 「人は常に人の不幸を踏みにじって生きているんだよ、若造…現状を見てみろ、管理局の維持費は管理世界からの税収で賄われる、 無論見返りはあるけど、そういった利権はこの世界の上流階級や局の上層部によって押さえられてな、貧困層にはそういった 恩恵は中々受けられないのさ」 新人はただ沈黙する、そして司令官はモニターを一瞥するとすぐに自分の銃型可変デバイスを機動させスナイパーライフルモードに変えて、構える。 「司令なにを!」 新人の声を無視して司令官は混乱に乗じて敷地に入ろうとする女性に向けてデバイスを向ける。 「…狙い打つぜ」 Sランクの名は伊達ではない、収束された魔力弾がその女性の頭部に向けて放たれる、それは非殺 傷ではない・・・殺傷設定の魔力弾を撃ち込まれて頭が西瓜のように破裂する女性、その光景に仰 天する新人、そして怒る、人を、民間人を平然と殺す目の前の男に、そして階級の差も無視して新 人は司令官に掴みかかる。 「司令!何で民間人に殺傷設定を!何で撃つんですか!」 抗議する新人、無理もない…だが司令は掴んだ手を振り払うと部下に連絡を取ると射殺した女性の 身につけている物をとって来いと言う。そして女性と思しき脳漿や血糊や骨片がこびりついたコー トの下から大量の爆弾が見つかった。 「軍用爆弾だ、かなり強力な奴だな…施設の一つなら軽く吹き飛ばせるな、ま、さっきの混乱に乗じて侵入しようとしたつもりだな」 淡々という司令官 「何も殺さなくても・・・」 「コートを見てみろ、奴の腕が動けばすぐ起爆するようにセットされている…それにこの世界でテロは死刑だし、奴は自爆覚悟だ、 今死ななくても、後で死ぬ…かわらんさなにもな」 納得が出来ない表情をする新人、そして司令官は言う。 「受け入れろ小僧、これが現実だ…そして士官学校で覚えた役に立たない常識は捨てろ」 「捨てなければどうなるんです?」 「…貴様が死ぬ、忘れるな、この世界では我々はあくまでヨソモノだ」 「でも高町なのは一尉達は…」 「あんな奴らの奇麗事なんて忘れろ」 「…分かりました」 納得しがたい表情をするものの、その表情に司令は驚いた、噛み付く事をあっさり止めた事、そし て自分の尊敬する人達を踏みにじる発言しても何も言わない事、司令は思った「こいつは使えるか もな…」と柔軟性はどこの組織でも必要なのだ。 「一つ質問があります」 「どうした?」 「何故彼女がテロリストだと分かったんです?」 「コートが奇妙な形で膨らんでいた、あの膨らみ方は爆弾を縫い付けているのに間違いない」 流石にそれに対しては感嘆する新人。 「凄い…」 だが司令はどこか悲しそうな目をしていった。 「それを判断するために多くの友や知り合いや部下を失ったよ…」 「で、どうかなあの若造は?」 「まぁさっきからの言動から…まぁ使えそうかな?」 「では明日にはテロリスト鎮圧作戦でも?」 「ふん!まだ早いな…しばらく世界というものを覚えさせてからだ、しかし上からはテロ殲滅の催促か…原因を作り出している元凶が何をほざく!」 ―――聖王教会 かなり前 対峙する老年の男と若い美男子… 「何だと!ゆりかごの設計図をそちらに引き渡せだと!」 聖王教会に響き渡る大司祭の声、その大声を全く無視するように男は言う。 「ええ、そうですよ…今後の備えの為にね」 「あれは我が聖王教会の保有する最高機密レベルだ…だがゆりかごは旧暦以前の船だそれに、あれには…」 大司祭の言葉を防ぐように男は言う。 「ええ、聖王がいなければ機動はしない…だが今の科学力では機動する事は出来る…そうプロジェクトFをご存知ですか大司祭様」 それに顔を引きつらせる大司祭。 「まさか君は…」 ええと男は頷くと二枚の写真を取り出す…かつて司祭だった現大司祭がハニートラップに引っかか る写真、聖骸布をこっそりと盗み出す写真… 「聖王教会の長でもある大司祭様はハニートラップに引っかかり、貴重な聖骸布をお盗みになられた…さてその情報を流されたらどうします? …しかし大司祭も随分と精力旺盛ですね」 「君は私を脅しているのかね?」 「いや、違いますね…取引ですよ、貴方がこちらの条件さえ飲めば、この写真とネガはあげますよ…だから…」 「ゆりかごの設計図を渡せと…」 黙り込む司祭、男、時空管理局情報局局員である沖田静は内心で目の前の司祭をバカにすると同時 に感謝する、色欲に負けるボンクラで助かった、もしそれが厳格な宗教者だったらちょっと骨だからだ。 「貴方にとってそれぐらい簡単な事だと思いますがね、それに折角手に入れた地位と名誉…むざむざと失いたくないでしょう」 人間、地位と名誉を失う事を極度に恐れる、それは管理局でもどの世界でも当たり前、自分の地位 を守る為に他者を犠牲にする事も当然ある、だからこそこのような俗物は操り易いし、ボンクラで あった方がこちらの利益にかなう。 「分かった、ゆりかごの設計図はそちらに引き渡す、だから…」 懇願するように大司祭は言う。 「ええ、貴方の不祥事は全部なかった事にしてあげますよ」 沖田は言う。 「ではこれからも友好的な関係を大司祭様」 沖田は一礼すると教会から立ち去った。そして教会内では一人の男が怒り狂って叫んでいた。それを尻目に ―――本局の食堂 「すまない…」 提督は階級の低い男に頭を下げた、本来なら考えられない光景だが、その提督は心の奥底から男に 謝った、提督の名前はクロノ・ハラオウン、男の名前はカール・ライカー、あの時クロノが提督と 言う立場を忘れて怒鳴りつけた男だった。 「俺の不注意で君を閑職においやって」 「いえ、気にする事はありません」 ライカーはそっけなく言う。 「まぁ彼の下で中々楽しくやっていますから」 ライカー自身にも非があることを薄々感じていた、参謀は指揮官を美味く補佐し、適切な判断に導いていくものだ、 しかし彼自身も己の職責を超えて勝手な判断をした事もまた処罰されるべき対象なのだから。 「そうか・・・だが、俺にはどうも理解できないんだ」 クロノはこれだけは分からないように言う。 「人の命を軽く見る君には、いや軍属には」 元々人助けをしたいとするクロノに対して命を奪う事に平然とする軍属にはあまり理解出来ない、 いやしたくないのだ、それは認識の差かもしれない、ライカーは徹底した合理主義、 任務の為なら人の命は軽い(無論自爆攻撃とかは論外)と考える軍事的な考えに対して、 クロノは管理局の理念に基づいて人の命は大事であり例え敵であっても出来るだけ殺さず、 捕え罪の意識を植え付けるといった警察的な考えなのだ、だから二人は相容れない存在なのだ、ライカーは言う。 「貴方らしくありませんな、PT事件の時における提督の行動とは思えない」 クロノの顔が一瞬歪む、あの時自分は今の妹でもあるフェイト・テスタロッサが消耗しきるまで待ってから捕えるつもりだった、 無論あの場にライカーがいたら確実にそう判断しただろう。だがそれは結局「高町なのは」による「勝手な判断」によって覆される事となった。 その時からもしれない、「高町なのは」と言う存在に影響され続けたのは。 後の闇の書事件においてはグレアムの考えもある意味理に叶っていたかもしれない、だが結局それも「高町なのは」と言う存在によって覆され… 恐らくそれがきっかけなのかも知れない。 「提督、貴方は人を殺せますか?」 ライカーからの質問、その質問は刃の如く自分の心臓に突き刺さる。 「管理局の理念に基づく、大いに結構、ですが時空はそういった理念で管理できるほど生易しくはない」 「分かっている」 でもクロノには問いを出せない、人を殺す…禁忌とも思える事、それは自分にとって踏み出せば自分が自分でなくなるのではないかと思ってしまう、 人を救うと言う自分の信念を完全に否定するものではないのか…だが否という答えは出せなかった、だが応と言う答えもまた出せなかった…。 「俺は…」 クロノは答えを言う。 後半投下させていただきます ―――宗方の部屋 「管理局とは元々どんな組織か分かるか?」 管理局の悪党宗方は夏目とベイツに問う。 「確か次元世界の秩序と平和を守る為と」 ベイツはさらっと言う、それは管理局に入局すれば誰でも叩き込まれる答えなのだ。 「確かにそうだ、だが今の管理局はどう思う?上層部の事は無視して」 そう言うと夏目は言う。 「…どうみても治安維持というより進出に血道を上げているって感じですね」 「その通りだよ夏目君、だが他次元世界の進出を求む理由は何か知っているかね?」 「よく聞くのはロストロギア回収や他世界に逃げ込む次元犯罪者の確保とか…」 「違うな」 宗方は首を横に振る。 「では何故?」 「予算だよ、よ・さ・ん」 悪魔の如き笑みを浮かべる宗方にただぽかーんとする二人 「「は?」」 「予算を確保する為、海は予算確保の名目で決まり文句を言うんだよ『この次元世界は常に危険に満ち溢れている、だからこそ他次元世界にも進出し、 犯罪を未然に防ぐと共に管理世界に組み込む、次元世界安定の為予算が必要だ』と…それで自分達じゃ手におえない世界は勝手に管理外世界と名前を付けて見向きもしない、 そして目に付いた世界にはあの手この手でこちらに取り込んで、治安維持は陸課にほっぽり投げてはい、御仕舞い、 それで自分達の成果は拡張されて、予算確保できて万万歳!とな。 そうして華々しい成果を上げる海や空に対して陸は治安維持や紛争鎮圧など色あせたものになる、当然予算においては派手で発言力の高い海=本局が持っていく…」 二人の顔が歪む…まぁ仕方ない事か、そう思い宗方は言葉を続ける。 「そうだ、予算の事に少々熱が入ってしまった、元来管理局は「次元世界の相互防衛組織」つまりは旧世紀からのミッドチルダと同盟を結んでいる国との安全保障条約機構なんだよ」 まだ管理局が完成した時はそうだった…各地に続発する暴動、クーデター、ベルカ残党の攻撃、それを抑える為に管理局は成立したが…自分達の世界が安定すると世界に進出し始めて今に至ると。そして宗方は言う。 「何故、管理局は質量兵器廃絶を謳ったかわかるか?」 ベイツは言う。 「旧暦の戦争においてベルカが大量破壊兵器を使用して、多大な被害を齎したから」 宗方は問う。 「では何故ベルカは大量破壊兵器を投入した?」 「ミッドチルダを始めとする同盟軍に追い詰められたからだと」 ミッドチルダの歴史においてはそう記されている、同盟軍の英雄的活躍によってベルカ軍は撃破されたのだと。 「違うな…」 宗方は首を振る。 「実は戦争の時同盟軍はベルカ軍に只管敗北を重ねていたんだ、理由は簡単だ、ベルカは聖王と言う絶対的力を得たものの人的資源では同盟軍に圧倒的劣る、 そこで彼らはランクの高い者はただ魔法兵器を使わせ、下級ランクの者には質量兵器を装備させて柔軟性を生み出した、それによって魔法兵器と質量兵器を 組み合わせた新戦術を生み出したベルカ軍に対し魔法兵器、確かに質量兵器はあったがそれは極少数で魔法のみに頼る硬直した戦術を取れない同盟軍は敗退を繰り返した」 真実の歴史、次元戦争においてミッドチルダを始めとする同盟軍は敗退を繰り返した、それでも降伏しなかったのは、人的資源を始めとする様々な資源が豊富であったが、それをすり減らしながら同盟軍は苦戦した。 「では、何故ベルカは突然敗退を始めたのですか?」 夏目は問う。 「答えは簡単、ベルカは目覚めさせてはけないものを目覚めさせた」 「「目覚めさせてはいけないもの?」」 首を傾げる二人、そして宗方は言う。 「第1特別管理不可能世界ダル・セーニョ、ならびに第2特別管理不可能世界スフォルツェンド… 言っても分からんか…管理局でもトップシークレットの世界だからな」 「特別管理不可能世界…それは一体」 「要約すれば簡単、旧暦と新暦の管理局の技術を遥かに上回り、独自に次元航行技術を保持する世界… つまりは軍事や技術のレベルが高すぎてこちらが介入すれば即座に滅ぼされる世界の事」 「本当ですか!」 ベイツは言うがふと思う、他しかにミッドチルダの出版物や映画でも管理局を遥かに上回る技術を 持っている世界が接触(大半は侵略で大体は勇敢な管理局はその侵略を打ち破るといった物である) してくるというのは見た事はあるが…そうだこの次元世界は無限だ、管理局の技術を遥かに上回る 世界なんていくらでもあったっておかしくはないじゃないか!その表情に満足したのか宗方は言う。 「スフォルツェンドは魔法技術が発達した、そしてダル・セーニョは科学技術が進歩した…旧暦の戦争中ベルカは資源確保の名目で他世界に押し入り、資源などを強奪した、 しかし押し入られた世界は圧倒的技術を誇るベルカの前に何も出来なかった…ベルカは慢心していた、そうだからベルカは両世界にも押し入った、そして…」 「当然激怒した両世界はベルカに抵抗した」 「そうだ、そしてベルカは躊躇無く大量破壊兵器を両世界に撃ちこんだ…現状を知らずにな…そして、対話を望んだ世論は一気に強硬論に変化、まぁ無理も無いか…両世界は艦隊をベルカに向けて派遣した」 「そしてベルカ軍はすべてに敗北した」 「其の通り、アルハザートの技術によって生み出された聖王のクローンによるゆりかご艦隊も赤子の手をひねるように潰されて、特に大量破壊兵器迎撃に成功したスフォルツェンドに対し、 初動の遅さなどの不運が重なって、都市を吹き飛ばされたダル・セーニョの怒りは凄まじかった、彼らは情け容赦なくベルカ艦隊を殲滅した。 ベルカは初めて知ってしまった、自分達は眠れる獅子ならぬ、眠れる神を起こしてしまったと、 だが対話の道も先に撃ちこんだ大量破壊兵器のせいで両世界は全く応じない、進退窮まったベルカは残る大量兵器のありったけと残存と急遽製造した聖王クローンによるゆりかご艦隊を使い暴走した…」 「それがドゥームズデイとなったと…」 「両世界はそれを呆気なく殲滅し、ベルカの都市をいくつか吹き飛ばした…聖王の力を持ってもどうしようもなかった、 進んだ技術は聖王を上回るものだったのだから…そして両艦隊が撤退した時ベルカは壊滅し、大量破壊兵器のとばっちりを受けた同盟軍は恐れた、 自国の被害と特に阿修羅の如くベルカ艦隊を殲滅する質量兵器を満載したダル・セーニョ艦隊に…」 「それがベルカ戦争の真実と質量兵器の根絶」 「そうだ…それが旧暦の終わり」 「しかし、何故、ダル・セーニョは兎も角スフォルツェンドは管理局に加盟しなかったのですか?魔法技術が進んだあの世界なら…」 「確かに、戦争後の混迷期ではミッドチルダを始めとする両世界に支援を要請したよ…だが返答はこうだった。『全部自分達のまいた種だろ、自分たちでどうにかしろ』って」 「…」 真実とは知ってしまうと恐ろしいものだな…二人はそう思う共に同時に疑問に思った、そしたら何故両世界は進出をしないのだと?そのような疑問を読み取り宗方は言う。 「ベルカ戦争を得て両世界は交流を重ねているよ…結局魔法も科学も行き着く先、ちょっと形は違えどもほとんど一緒だ…だが目立った次元進出はしない理由は簡単、『コスト』だよ、 次元世界に進出するにも金がかかるし、そこで開拓するのも金がかかる、それを運び出すのも金がかかる、まして住民がいるのなら、殲滅するのも教育するにもコストがかかる、 そんなんで採算がとれるか?何度か彼らに接触しているけど…こう言われたよ」 仰天する二人、この悪党…どんだけパイプを繋げているんだ?こいつは一体何なのだと。宗方は続ける。 「笑われたよ『次元世界進出?ああ確かに出来るよ、だけど目の前に無限に広がる世界があるのに何でわざわざ高い金払って他の世界なんぞに進出しなきゃいけないんだ? それで変な問題起きたらたまったもんじゃないよ』ってね…それどころか同情されたよ、管理局の情報は彼らにすべて筒抜けにされているからな。 そんなしょっぱい技術と人員でよく他世界を治められるなんて、『人手不足だろ?なら俺達の旧式兵器とマニュアルと生産プログラムを譲渡しようか?それだけで随分変わる ぞ』ってね、そうしたいが御偉方は拒否したよ…まぁ認めたくないわな、此方の技術が劣っているなんて権威が落ちると言って許さないからな」 クククと笑うように宗方は言う。そしてベイツは問う。 「閣下、貴方は何を企んでいるのですか?」 真剣な表情で宗方は言う。 「…管理局が第二のベルカにならないように…それと未来」 だがベイツは喰らいつく 「そしてあなたは何を得るのですか?権力?名誉?地位?金?」 宗方は首を横に振った。 「そんなもの、もういらんよ…それにそれらの権利はすべて失った…あの戦争で」 「クリムゾンバーニング…」 「そうだよ、ベイツ2佐」 「では貴方の言う未来とは何ですか?」 「あらゆる世界の人種でも、管理局を運営していける柔軟な未来」 管理局が出来た頃は権力闘争の暇なんてなく、それどころか崩壊寸前の次元世界維持の為にそれこそ 最良の人材を最良の部署につけるのが当たり前だった、しかし平和が安定すると緩やかな腐敗が起こり、 そしてミッドチルダ出身者による権力独占…まぁまだ1世代目と次元紛争を見てきた2世はまだマシであった、 しかしそれらの子や孫は揃ってバカ(クロノなど一部は優秀であった)揃いなのだ、プライドだけは高く権力に対する貪欲、 さらに親の庇護を受けている為にタチの悪さは半端ではない。 「未来ですか、ではその未来は誰を対象にしたものですか?」 夏目は問う。 「管理局の明日を担う者すべてだ」 「それは例の機動6課の面子も含まれると」 「其の通りだ」 宗方はぴしゃりと言った。二人とも意外そうな顔をしていた。 「まさか、中将は嫌っていたはずでは?」 「嫌ってなんかいないさ…、未来への道は開いとく、それでどうするかは自分次第だ、自分が成すべき事をよく考える、 ただ老害達のお人形として使われるぐらいはならな」 ―――時間は飛んで地上本部襲撃後 ―――地上本部 中将室 二人の男が対峙していた。 「で、私を呼んだのはどんな理由です?レジアス閣下?」 「ゲンヤ、昔のままでいい…楽に行こう」 「では、何で俺を呼んだレジアス?」 「お前に全てを打ち明けたいからだ」 真顔でレジアスはそう言うと、引き出しを開けると一丁の銃を取り出す、数少ない古くからの戦友である市川二佐から護身用に送られた拳銃だった。 そして弾倉を取り出し中にちゃんと弾が入っている事を確認すると弾を装填し、それをゲンヤの目の前に差し出した。それをゲンヤは一瞥すると言う。 「どういうつもりだ、レジアス?」 「何、これから話す事を聞いて、多分君の起こそうとする事を予測してな…」 淡々とレジアスが言うとゲンヤは鼻を鳴らし問う。 「先の地上本部襲撃をひっくるめて全部話してもらおうか」 ゲンヤの内心はかなり憤っていた、何故なら先の襲撃で地上本部と機動6課は壊滅状態に陥り、二人の娘、 長女は戦闘機人に捕獲され、次女も重傷を追い本局に搬送されている。多分今にもレジアスの顔面に1発2発を撃ち込むつもりであった。 そしてレジアスはすべてを話した、最高評議会を通じてジェイル・スカリエッティに通じていた事、そしてゼスト、クイント、メガーヌを半分見殺しにした事… すべてを古くからの戦友に打ち明けた。 「俺がいう事は全てだ…後は好きにしろ、ああその拳銃には指紋がつかないように特殊コーティングしてあるし、 お前と二人きりで話す事は内密だ」 そしてレジアスはゲンヤを見る、そしてゲンヤは拳銃を取る…そして… 「レジアス中将、失礼します…」 そう言うとゲンヤは拳でレジアスの顔面を思い切りぶん殴った。レジアスはその衝撃で椅子から投げ飛ばされ無様にガラスに全身をぶつけた。 「死んで責任を取ろうとしますか?そして負うべき責任をすべて投げ捨てるつもりですか?冗談ではありません、 今あんたが死んで喜ぶのはあの腐れ外道だけだ!だが俺はアンタが憎い!妻を殺し、娘を連れ去った原因を作ったアンタが憎い! だが、アンタはまだ生きていかなきゃならん!やらなきゃいけない事をやれ!やるべき事をやってから存分に首を吊るなり、 崖から飛び降りるなり、毒物飲むなり好きして下さい、それまで、この拳銃は私が預からせていただきます、 あの狂人はなんらかのアクションを起こすでしょう、では私は事後の対策を練るために…」 そう叫ぶとゲンヤは踵を返そうとする。 「待て…」 思い切り顔面を殴られ、痛む口を無視するようにレジアスは立ち上がりゲンヤを呼び止める、 そして一枚のIDカードを渡す、ゲンヤは受け取った。 「何ですかこれは?」 「例の質量兵器倉庫のキーだ…、恐らく通常の魔法ならガジェット相手には苦戦する、 だが質量兵器なら奴らを容易く打ち破る事が出来る…情報局からの連絡だ」 「これを私に?」 「私の周りにはただ追従するしか能がない馬鹿ドモだ、だがお前なら信用出来る」 それを受け取るとゲンヤは笑みを浮かべる。 「そうですか、ではありがたく使わせていただきましょう」 それを胸ポケットにしまうと、何かを思い出したように言う。 「市川二佐と1課の姿が見当たらないのだが…」 「ああ、奴らならある訓練を受けている」 「訓練?」 「まぁ時期に分かるだろう…」 「そうか…」 「ああ、そうだ…」 レジアスも何かを思い出したようにゲンヤに言う。 「…ゼストが生きていた」 「!!!!」 これにはゲンヤも驚いた。 「恐らく、ワシに真意を聞くためだろうな…ひょっとするとクイントやメガーヌ達も…」 「分かりました…では」 そして去ろうとしたゲンヤにレジアスは言葉をかける。 「ゲンヤ…いいパンチだったぞ、奥さん譲りだな…」 「ええ、結構な鬼嫁でしたからなぁ」 互いにフッと笑うとゲンヤはレジアスの部屋から去った。これがレジアスとゲンヤの今生の別れとは …二人とも薄々分かっていたかもしれない。 ――――そして時間は飛んでゆりかご起動 ―――本局 モニターに映り、ゆりかごはなんたらかんたらと行って、自分は天才だと喚いている白衣を来た狂人を見て、 唖然とする本局の皆を尻目にただアホらしい顔をする一同がいた。 「あほだ」 「あほだな」 「ああ、救いようの無いアホだな」 「とんだ、間抜けに振り回されたな」 宗方一同と一緒にいる斎藤三弥である。 ―――最高評議会 長年にわたって管理局いや次元世界を牛耳っていた3人の男、肉体が滅んでも自分自身が滅ぶ事を拒み続け、 そして自分たちが次元世界を守る(支配)するに相応しいという妄想を今でも抱えている哀れな存在、 そして彼らは子飼いの起こした反逆に命の灯火が消えようとしていた。彼らはただ言葉を繰り返す 「畜生畜生!スカリエッティめ!我らの恩を忘れおって」 「こんなはずではなかった、こんなはずではなかった」 「死にたくない、死にたくない」 生と権力に尚もしがみつこうとする愚かな者達の末路であった。助けを呼ぶ事は出来ない、手段はあっても念話を送るだけの力ももうない… 絶望に身を焦がし死への階段を上る彼らに救いが舞い降りた。重厚なドアが開き入室する二人の男。 「おお、きてくれたのか…助けてくれ」 脳髄は二人の男に助けを求める。 「…無様だな」 「権力と命にしがみ付いた者の末路か…こうはなりたくないな」 男は見下した声で言う、そして脳髄は悟る。 「ゲーレン…シェルドン…」 だが脳髄は助けを求める。 「助けてくれ、まだ培養液のタンクはある…もう時間が無い!頼む!助けてくれ!」 懇願であった、だがゲーレンは嘲笑じみた笑みを浮かべると言う。 「もう充分に生きたでしょ?もう安らかに逝かれてはよろしくはないですか?」 「まったくですね、滑稽でしょうがありませんよ」 凍りつくような冷徹な声、そして脳髄は過去を思い出し言う。 「カナリスの事は悪かった、だが水に流そう、そうすれば次から情報局には今以上の予算と資材を分け与える、悪くない条件だ、な、頼む!」 「カナリス前局長は私やシェルドンの恩人でもありましたが、彼は自分の死期は悟っていましたよ…ですが…」 「ですが…」 唾を飲むような声で脳髄は言う。 「簡潔に述べさせていただきます…さっさとくたばれ老害!」 感情を表に出さないゲーレンが発した罵声、そして踵を返し退室する二人。 「待ってくれ!」 「行かないでくれ!」 「死にたくない!」 「精々、残り少ない時を過去の栄光でも思い出して愉悦に浸っておいてください」 命乞いをする脳髄にシェルドンも冷徹に言う、尚も懇願する声は閉まるドアによってかき消される。 「しかし、局長も相当溜まっていますね」 やれやれとした表情でシェルドンは言う。 「ふん、老人がいつまでも未来を担う若者の歩む道を防いではいかんさ… 宗方も始めた、我々も我々の成すべき事をしようではないか、ハンティントン・シェルドン副局長」 「ええ、そうですねラインハルト・ゲーレン局長」 二人にはこれから老害の罵声を浴びた後自室に戻り資料を纏めるのだ、権力にしがみ付く豚を排除する為に。 ―――宗方の部屋 「やれやれ、すべては予定通りだな」 ライカーは言う。 「オメガも配置に付、防衛部隊も配置に付、ドレッドノートも配置についた、いつでも出撃できますよ、中将」 夏目は言い、そしてベイツは疑問に浮かぶ。 「何であのスカリエッティの存在場所知っているのに、特殊バンカーバスター型ミサイルを撃ち込まなかったんですか?」 「ああ、確かにそう思ったが、スカリエッティは捕える…そしてすべてのボロを出してもらわないとな、いくら情報局とて奴の全てを知っているわけではない」 そう情報局のドノヴァンが言うと一人の男が入ってきた、ジョセフ・ロシュフォート、情報局における暗号解析のプロだった。 「どうだ、状況は?」 「ええ、上層部では暗号でいろんなやり取りをしていますよ…まぁ内容は察し出来ますが」 「ふん、まぁまさかこんな事になるなんて思わなかっただろうな」 宗方は悪鬼のような笑みを浮かべて言う。 「ところで、ゲーレンとシェルドンが見当たらないが?」 「ええ、中将らは奴らの最後を見届けて、ちょっと上にガミガミ言われてくるから」 ドノヴァンは言う、それについて心当たりの言う宗方は頷くと指令を出した。 「作戦名『E・O・P エンドオブプロジェクト』発動、各員の活躍を期待する」 ―――クラナガン沖 大海原に巨大な鋼鉄の鯨が浮いていた… 制式名称『時空管理局所属対深海戦用時空航行艦 リムファクシ級潜水戦艦 4番艦ドレッドノート』 時空航行こそ出来るが潜水機能を特化させた艦船は極めて珍しいものだろう、本来如何なる環境でも運用が出来る時空航行艦であるが、 海中などにおいては極めて作戦能力はおちる、何せアルカンシェルを筆頭とする各種武装では撃てないOR威力が凄まじく減少する、 機動性もすごく落ちるなどの大問題を抱えていたのだ。そして海中索敵任務についたL級やXL級が事故などによって次々と沈んだ事に より慌てて建造したのがリムファクシ級だ、潜水艦建造技術が皆無(だって海より次元の海の方が)なミッドチルダでは建造できず。 潜水艦などを建造、運用していた管理世界やこっそり呼び出した管理外世界の設計士などを基に建造し、高性能な巨大潜水艦となったのだ、 無論戦場を選ぶ事から生産数は極めて少なく、このドレッドノートは出来立てのほやほやなのだ。 「やれやれ、やっと寒い所から解放されたよ」 黄色系の艦長がそう言うと。 「ええ、海中では無敵の艦長は寒さには弱いからですね」 白人系の副長がクスリと笑う。 「しかし、今回の任務はただ図体がでかい飛行物体に対艦ミサイルをぶち込むだけだとはね」 つまらなそうに黄色系の艦長、藤井隆三佐はぼやく。 「課せられた任務はどんな時でも行う…」 白人系の副長ハンス・エーベル・ヴェルナー二尉は言う。 「分かっているさ、何あの時を懐かしんでいるのさ」 藤井は言う。 「ええと、第108管理外世界のウィルキア国における超兵器『ノーチラス』との一騎打ちですか?それとも解放軍を支援して『フィンブルヴィンテル』撃沈… もしくは85管理外世界における「夜明けの船」もしくは「キュベルネス」との戦闘、そしてこの前ロストロギアを守護していたランクSS級巨大海洋生物との戦闘…どれですか?」 「全部と言えば…?」 「貴方らしいと言えば貴方らしいですね」 藤井につられ笑い出すヴェルナー、元々ヴェルナーはミッドチルダ出身系によく見られる管理局に所属する他世界人差別主義者、 ミッドチルダ至上主義者で人種差別主義者であったが、藤井との出会い、戦場における藤井の的確な(そして命がけ)指示に惚れこみ、藤井を尊敬している。 差別主義者というヴェールは無くなった。 『ドレッドノート』とは勇敢な者や猛者を表すがもう一つの意味がある『恐れを知らぬ無鉄砲者』という言葉・・・正しく藤井にうってつけの言葉であった、 しかしそれを可能にするのは本人の緻密な計算のおかげなのだが。 「EOP発動しました」 「現在、クラナガンにおいて陸士とガジェット群との戦闘が開始されました」 「ゆりかごは現在の移動中」 OPの声が響く。 「では我々の仕事を始めるか」 藤井は指示を出すと先ほどまでのんびりしていた艦内の空気は張り詰める。 「ミサイル充填確認しました」 「よし、では発射準備」 「カウント…5…4…3…2…1…スパーク!」 「フォイア!」 藤井が言うと、ドレッドノートのVLSハッチから二発のミサイルが発射される。 「他のも続けてぶっ放せ」 そして他のVLSからも続けてミサイルは飛び出す。 「しかし、一体何処からあんなミサイルを持ってきたんですかね、本局は?」 首を傾げるベイツ、何せ打ち出され、もしくは発射されようとしているミサイルのリストを見たヴェルナーは驚いたのだ… 管理局には存在しないものばかりだからだ。 「情報局と鬼畜が裏で手を引いているからな」 藤井は言うとヴェルナーは納得したように頷いた、成る程あの御仁ならやりかねん。 ―――L級時空航行艦「アースラ」 現機動6課本部… 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 一人の少女が溜息をついていた。 「何でこないな事になったんやろ…」 過去を見て自分が思うのは後悔であった。新人たちの訓練しかり、アグスタしかり、地上本部しかり… 「ずっと過信していたやろうな…うちら」 言葉どおりだったのかも知れなかった、思えば集団戦と言うのは10年前の海鳴以降全然行っていなかった、だからこそ自分、 いや自分たちは集団戦を舐めていたし、うちらの知り合いの誰かがいれば何とかなるやろ… 「甘い考え方やったなぁ」 機動6課隊長八神はやてはただ呟く。結局過去省みれば、指揮と言う物が全然取れていない自分、 突撃するしか能の無い隊長、副隊長、連携のとる為のイロハを教えていなく個人主義に走る新人達 それで今まで何とかやってきたのは豊富な予算(不思議な事に増額要請しても何故かすんなり入った) によって湯水のように消費できるカートリッジ(なのは達のカートリッジは特別製で従来よりクソ高い)、 そして力押しのゴリ押し… 「市川さんがいてくれれば何とかなったんやろうか…」 自分の父親的存在でもある副官に抜擢(だけど本局からの指示で渋々外す事になったけど)していれば… 少なくとも最悪の事態は避けられた、いや起きなかったのかもしれない、アグスタの時に 3人でドレス着てはしゃいでいた時に注意して、最低でもなのはちゃんかフェイトちゃんのどちらかを 無理矢理外に引き釣り出したかもしれない、新人達にチームワークのイロハを教えてくれたのかもしれない。 だが彼との連絡はつかない…一度アグスタ事件の後会ったが…冗談で色気出して誘惑したらシカトされた (さらに「下手な娼婦の方がもっと上手く誘惑出来るぞ」と言われる始末、ムキー)…あれは仕方なかったが。 「いない人を頼ってもどうにもならへん、それにまだ最悪の状況にはなっておらへん」 妄想を止める、そして彼の言葉を思い出す 「そやな、何時までもミスをくよくよ悩んでいてもどうにもならん、なら指揮官としてやる事をやらへんと」 そう思いこれからやるべき事…ゆりかごを阻止し、ジェイル・スカリエッティを逮捕し、クラナガンを救わなければならないと言う、 無理難題であった。状況からゆりかごや研究所には強力なAMFが張られているとされている… という事はスバル、ティアナ、エリオ、キャロは役に立たない…そして残った私たちでゆりかごか研究所に 「オールハンデットガンパレード」をかますか…だが研究所を選ぶと、ゆりかごを迎撃する手段はないし、 クロノ提督率いる主力艦隊は間に合わないし、かといってゆりかごに挑めば、あのキチガイ黄金勇者オレンジを逃がしてしまい 第2、第3の悲劇が起きているに違いない… そして新人達も新人達で戦力に不安残りまくりで…まさにないないづくしであった。 「う~~~~~ん、ほんまにどないしよ…なのはちゃんはヴィヴィオ、ヴィヴィオやし…しょうがあらへんか」 多分この指示を出した自分は生涯に渡って「無能」「ボンクラ」「アホ司令」の名を背負うかもしれない、 つまり、戦力の分割、しかも二つじゃなくて、三分割…もし宗方の陰謀が分かればはやては問答無用で 研究所にオールハンデットガンパレードをかましたのかもしれない…まぁ彼女にそのEOP何て知らされていないのだから。 まぁ途中で「私も突入する、誰か指揮交替」なんてバカな真似をしないようにと… 指揮は全部グリフィス君に任せるつもりだ、アースラ電子兵装は最新型だからだ 「後はやるだけの事をやるだけ…」 八神はやてはそう言うと、作戦説明を行う為に戦友達の前に立った。 廃墟区――― 「点火!点火!点火!」 陸士の一人がスイッチを押す、そうすると両脇に立っていた廃墟ビルの基礎部にしかけられたC4が起爆し、瓦礫がガジェット群を飲み込む…だがガジェットの数は絶える事無く、 こちらに向かってレーザーを撃ち込んでくる、負けじと陸士の一人が手に持ったAK-47で反撃を試みる、そして銃弾によってガジェットの薄い装甲はぶち抜かれ爆発する、 だがそれも気にかける事無くガジェット群は侵攻を止めない。 「退避!退避!ここの防衛線を放棄する、後ろに下がるぞ!」 バリケード内に篭っていた陸士隊員達は雪崩をうって逃走する、追撃をかけるガジェットだが、アンチマテリアルライフル、 PSG-1やドラグノフ、果てはそんなもんどこにあったの38式歩兵銃を装備する狙撃班や後方から放たれる迫撃砲、 そして陣地にしかけられたクレイモアなどの対人地雷でガジェットを足止めする。 ―――陸士臨時指揮所 「第2防衛ライン突破されました、現代第3防衛ラインで何とか持ちこたえています」 「ポイントA23、B32に戦闘機人、数6!」 「くそ!6体もか!そこにいる守備隊じゃ持ちこたえられんぞ!」 罵声が響き割る、ひっきりなしに入る無線、そして響き渡る銃声、全部例の倉庫から根こそぎ持ち出した物なのだ、とりあえず数だけあって故障しにくいAK-47(数は多い)は守備隊に優先配備され、 狙撃をやっていた者には狙撃銃を渡され、どうせ従来の無線は妨害(当然された)されるのだから小隊長事に無線を持たせてと…なんとかおっかなびっくりで防衛戦を務めている、それが陸士部隊の現状だった。 「AKとRPG、手榴弾はまだ弾はありますが、迫撃砲、重機関銃、対空機関銃、MAT、TOWの弾薬はかなり減っています」 冷静な声で状況判断する副官。 「くっそ~~~、バカスカ撃ちやがって!少しは節約しろって!」 歯軋りするゲンヤ、だが仕方なかった、無論若干の訓練を受けているとは言えやっぱりその場しのぎの訓練ではボロが出る。 確かにAKは1型の装甲を簡単にぶち抜くが、装甲の厚い3型と改では当たり所がよくなければぶち抜けないのだ。 其の為有効な重機関銃や対空機銃などの弾薬は凄まじい勢いで消費されるのだ。 「6課はまだかぁぁぁぁ」 「6課より入電、これより支援隊を回す、ヘリで飛ばすのでもう少し時間がかかる…と」 「あの馬鹿狸!敵が航空優勢握っているのにとろいヘリとばしてどうすんだぁぁぁぁぁぁ!」 「根こそぎ航空部隊持ち出しやがって!制空圏なんかとれるかぁぁぁぁ!!」 罵声がまた響き渡る。 「ところで、その腰に取り付けている小刀はどうしたんですか?」 副官はゲンヤに問う。 「…最終防衛ライン突破された時にあそこ(元公園の広場)で腹を切る…」 ぽつりとゲンヤは言う。 ―――とある場所 「諸君、奴らに血の代償がどれだけ高いか教育してやれ…」 本局にいる斎藤中将からの訓示…それを胸に陸士とは思えないBJを着込んだ男達が配置につく、そして狂人のいる研究所に所属不明のヘリが飛ぶ。 そしてゆりかごに向ってミサイルは進む。 そしてとあるビルの屋上でアンチマテリアルライフルを構えた特殊部隊隊員のスコープがオットーと言う戦闘機人の頭を捕え、吹き飛ばした時、 そしてゆりかごにミサイルが着弾した時、更地となった研究所の地上にヘリが降り立った時… 驚愕するリンディ・ハラオウンとレティ・ロウランが振り向いた先にいる鬼畜王が不気味な笑みを浮かべていた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1359.html
その日、彼らは出会った・・。 「だれ・・?おにーちゃん、だれなの・・??」 後に、『機動六課』へ赴くことになる、今はまだ、戦う事を知らない少女と・・ 「・・まっ、あえていうなら・・、<野良になりたがってる飼い猫>、ってとこだな・・」 後に、一介の<掃除屋(スイーパー)>になる、<黒猫>と呼ばれる<抹殺者(イレイザー)>男は・・・。 BLACK CAT~Next StrikerS~ (BGM:ダイアの花) 数年後、この二人は思わぬ形で再会する。一方は管理局に所属する魔導師『スバル・ナカジマ』として・・ 「!?あ、あなた・・、あの時、あたしを助けてくれた・・?!」 もう一方は、次元犯罪者を捕縛する事で賞金を得て、その金で生活する<掃除屋>『トレイン・ハートネット』として・・ 「ん?・・あっ!お前、あん時のがきんちょか!?」 その後二人は、それぞれの身の回りの人間を巻き込みながらも、色々な出来事を通して関わっていく・・。 「・・ハートネットといったか?貴様・・、一体何者だ?」 「・・へえ、どういう意味だよ??」 「とぼけても無駄だ。貴様のその動き・・、並みの使い手や掃除屋のできる動きではない。・・いや、あえてこういうべきか?まるでよく訓練された『暗殺者』のような動きだ、と・・」 「イヴさんは・・、怖くないんですか?その・・、自分の持ってる、力が・・」 「・・別に。怖くなんてない。確かに、私の力は強力で、危険極まりないけど・・、心を強くもって使えば、問題なんかない・・。・・あなたも同じよ、キャロ」 「・・!?スヴェン、さん・・、その眼は・・!??」 「昔、色々と事情があってな・・、今はもういないダチの角膜を移植してあるんだよ。・・そのおかげか、今じゃちょっとした能力が使えるけど、な・・」 「・・!」 「・・・なあ、ティアナ。お前さんの気持ちもわからないでもない。でもな・・、たとえお前の今のやり方で、お前が望んだ力が手に入ったとしても・・、それを、素直に喜べるのか・・?例えば・・、もし力を得る過程で、お前のダチや仲間が犠牲になったとしても・・」 「・・ったく、久々の仕事があんたみたいな『メスタヌキ』からだなんてね・・、八神はやて部隊長殿?」 「あはは・・、相変わらず厳しお言葉やなぁ、リンスさん・・」 「ふん!あんたみたいなタヌキ相手には、こーでも言いたくなるわよ」 そして、彼らと敵対する事になるのは、狂気の科学者<ジェイル・スカリエッティ>と・・ 「ふっ・・、ふはははははは!!すばらしい、素晴らしいよ!!!わが娘たちがこれほどまでに強くなったのは・・、全てはあなたの技術提供のおかげだ・・、<クリード>!!」 狂気の剣士<クリード・ディスケンス>・・・。 「見たまえトレイン・・。これが僕が・・、いや、<僕ら>が目指す<楽園>への、華麗なる第一楽章なんだよ!!」 彼らの凶行をとめるために・・、それぞれ進む道の違う二人は・・ 「・・もたもたしてたら置いてくぜ・・、<スバル>!!」 「!・・うん、分かってるよ、<トレ兄ぃ>!!」 今、共に駆け抜ける・・!! 「!?あなたは・・、誰なんですか・・!?」 「お初にお目にかかります・・、<エース・オブ・エース>の異名を持つ魔導師、高町なのはさん。・・秘密結社<クロノス>直属の特殊部隊、<クロノ・ナンバーズ(時の番人)>が一人・・、セフィリア・アークスです」 「あ、あんた、一体誰よ!?」 「あ、自己紹介ね?俺の名前は<ジェノス・ハザード>。立場的にいうなら・・、今の所、君を救いにきた白馬の王子様・・ってとこかな?(きらーん!」 「・・あんた、頭のネジでもゆるんでるの?今時ダサいわよ、そんなナンパ・・」 「あ~らら・・、思った以上にガードが硬いんだね・・、君・・」 思わぬ人物たちの乱入もありながらも、事件は終幕へと向かう・・。 「トレイぃぃぃン!!なぜだ・・、なぜ僕と共に道を歩んでくれないぃぃ!??」 「たりめーだ・・。・・俺の進む道は、俺が決める。どう間違っても・・、てめーとおんなじ道を歩くつもりなんざ・・、毛頭ねーんだよぉぉ!!」 「そうだよ・・、トレ兄は・・、お前なんかとは違う・・!トレ兄は・・、お前なんかに・・、絶対負けないんだから!!」 「くぅ・・!この・・、魔女めがぁぁぁ!やっと理解したよ・・、貴様は<あの女>と・・、『ミナツキ・サヤ』と同じだ!!トレインを僕から引き離す、<悪しき魔女>だぁぁぁーー!!」 果てしなく暴れ狂う剣士を前に・・、 「「これで・・、終わりだぁぁぁぁぁーー!!!」」 少女と男の魂の一撃が、炸裂する・・!! 魔法少女リリカルなのはStrikerSとBLACK CATのクロス作品! BLACK CAT~Next StrikerS~ 「「不吉を・・、届けにきたぜ(よ)っ!!」」 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1275.html
――――クラウディア CIC 本編のちょっと前 「指揮官はお前じゃない!分かっているのか!」 クロノの叫びがクラウディアに響き渡る、怒鳴られているのは副官を務めるカール・ライカー一佐だった、事の顛末は、 ある反管理局組織の本拠地を発見制圧に向かったのだが、ライカーは罠があると想定して様子を見て(もしくは徹底した 攻撃を加えてから)という意見に対しクロノはあくまで証拠確保のためにも早期突入を示唆、結局クロノ案に従いクロノ 自ら陣頭指揮による早期突入となったが、それに案じたライカーは独断でクラウディアを動かし、搭載されている魔道火器使用に より本拠地を潰したのだ、それは結局功となった。もうすでに本拠地は蛻の空で内部には自爆用の爆弾が多数設置されていたからだ、 クロノは自分の迂闊さを呪い、ライカーには感謝した「流石は管理局で5本指に入る優秀な士官」と言われることはあると… ライカー自身も無能な上官に対しては徹底した侮蔑をするがそれを認め、意見を請うなど改善して行けば上官として認める。 そういったタイプだったが次の行動がクロノを激怒させた、反管理局組織を追いかけたがクロノが負傷した為ライカーが命令を 勝手に変更し組織のボス、ならびに幹部を皆殺しにしたのだ、それも徹底的に無慈悲に… 「無駄な抵抗して局員を負傷もしくは死亡させるより何倍もマシだろう、凶悪犯罪者は捕らえるよりも根絶やしにした方がいい」 (軍時代に対ゲリラ戦など見てきた)彼の合理的な持論が結果的にクロノを怒らせる事になった。 「管理局は法治組織だ、殺すと言う事はお前がかつて所属していた人殺しの組織…軍隊だ!」 クロノ叫んだ後のライカーの表情も不味かった、そう丸で「はぁ?何言っているんだこいつ?」といった 侮蔑した表情をした為だ、それが火に油を注ぐ羽目になった、何せ戦闘能力は低いが成績はきわめて優秀で バックサポートにおける役割はライカーの方が圧倒的高く局内の評価も高い(彼の手腕で解決した事件もクロノより多かった)、 それに比べ自分は局内で「親の七光」で蔑まれている事も知っていた、それらに対する鬱積、嫉妬などが一気に爆発した、 あらん限りの罵声をライカーに浴びせかけた。 「何が優秀な士官だ!血に飢えた殺人者じゃないか!」 「これだから元軍人は!」 だが周りの視線に気づいたのか罵声を止めると吐き捨てた。 「お前は副官解任だ!もう二度と船に乗れると思うな!」 ――だが断っておこう、クロノはその暴言を後で猛反省したし、彼自身の能力も高く、 ライカー自身も「嫉妬する奴にいちいち構うな」とクロノに言い聞かせていた。 だがクロノは提督になるには…あまりにも頑固すぎた。 ――――管理局内のある将官達の会話 「新設部隊の予算が決まったよ」 「どれどれ…ゲッ!うちらの部署の予算より倍以上じゃねぇか!」 「何てこった!とばっちりがこっちに来ているよ」 「頭痛ぇ~~~」 「んんんんん…ケッ!相変わらず予算が豊富なのは全部3提督の息のかかった連中じゃないか!」 「そりゃカナリスも逆らうわけだ」 「そういや一時期ゲーレンやシェルドンの更迭も考慮しているらしいぞ、カナリスの教え子たちで あり通じていたという事で…まぁ実際は提督派の人間がカナリスによって叩き出されて、主要幹 部が数少ない全員非3提督派で占められているのがよっぽど気に食わないらしくて」 「おいおいおい、どこまで強欲なんだよ」 「この前聞いたけど、情報局に圧力かけたらしいぞ、予算欲しければこちらの指名する人物を副局 長のポストに入れろと…しかも推薦した奴よりによって情報局に向かないボンクラだぞ」 「まぁゲーレンはその脅しに屈服することなく『俺のケツをなめろ』と言って叩き返したそうだ」 「…捕まらないのか?」 「いや、総務統括官の宗方中将や局の主要幹部がゲーレンのバックについているし、ゲーレンやシェルドンを 逮捕してみろそれこそ情報局の主要要員が怒り狂って辞表叩き付けるぞ」 「そうなると不味いな…しかし新設部隊の予算における内容見ろよ」 「何々…資材、機材は最新鋭、配備される戦闘部隊はあのエースオブエースと名高い高町なのは一等空尉を始めとする超絶優秀組」 「うがぁ!こっちは少ない人数と中古の機材でなんとかやりくりしているぞ、贅沢言いやがって」 「しかも地上本部で優秀な人材の引き抜きまで行っているぞ、ヴァイス・グランセニック陸曹と市川守二佐もだとさ、 後者は創設となえた八神はやて二等陸佐の推薦だとさ」 「前者は兎に角、後者はレジアス・ゲイズ中将の戦友で陸戦課の最重要人材の一人だぞ」 「不味いなぁ…しかし三提督の恩恵受けているとすぐこれだ」 「クーデター起こしてぇ」 「まぁ気持ちは分からんでもないがな」 ―――はやて本人達も時空を守る為に必死になっていた事は確かだ…だがそれに伴う犠牲(予算削減) や今までの鬱憤が後にある勢力にとって悲劇の幕開けとなる。 ――――情報局 「で、予算はこれか」 シェルドンは情報局に回された予算を見て呟く、数値には去年の予算より削減されているのだ。 「何が、『新設部隊の予算確保のために少し削らさせてもらいます』だ!ふざけやがって!あいつら (魔法至上主義者)の息のかかった部署の予算全然削られていないじゃないか!」 シェルドンは怒り狂っていた、重要な情報局の予算を減らすとはどういうことか、ジェイル・スカ リエッティの行動は兎に角、最近管理局の最大敵対組織と言える『セプテントリオン』の動きもこ こ最近活発化し始めているのだ、その情報を得る為にもなんとしても予算の増加は必須と言えるの に、予算を削るとは一体何を考えているのだ。 「だが…これでもまだマシなほうだ」 ゲーレンはもう一つの表を見せる、その表を見てシェルドンは息を呑む。 「こ、これ本当ですか?」 「ああ、本当だ。宗方中将の口添えや、その部署からの支援がなければこうなっていた」 その表には情報局に回されるはずだった予算は去年と比べて凄まじいほど減額されていた。 「そんなに気に食わなかったのか?提督派の人材を副局長のポストに付けなかった事が」 「シェルドン、本気で言っているのか?」 「…分かってますよ、ボンクラにポストついてもどうせ妨害する気は満々ですし、こちらの保持し ている重要情報があいつらに流れてしまいますよ」 そして呆れたようにゲーレンは言う。 「もうどうにもならないなあいつら、自分達が管理局のすべてだと思っている」 「だからこそ…宗方の企てに加担しているのでは」 「ああ、そうだな」 ―――――本局 宗方の部屋 「訓練場所の確保が出来たか、うん上出来だ、管理外の無人世界うん流石だ、揉み消しはまかせ てくれ」 宗方中将と斎藤中将との通信を切った、そして居並ぶ将校に不気味な微笑みを浮かべ告げた。 「対ジェイル・スカリエッティ用特殊部隊の訓練場所の確保が出来た」 それにニヤリと笑う夏目二佐とライカー一佐、ただベイツ二佐は渋い顔をしていた。 「どうした、ベイツ?」 ライカーはベイツに問うた。 「これで正しいのでしょうか?味方すら犠牲にしてまでここまで行う行為に… 確かに今の三提督もその取り巻きの横暴は目を被うばかりです…かといって」 「かといって、そこまでやる必要があるのかと…」 「はい」 宗方は真剣な表情を見せて、一切れの紙を取り出し見せた、その紙を見たベイツは仰天した、その紙に書かれているのは あの聖王教会の教会騎士団カリム・グラシアの保持するレアスキル『プロフェーティン・シュリフテン』、預言者の著書という 意味の成すとおり完全とは言わないが未来を予言出来るというスキルだ、その内容はこうだった。 「古い結晶と、無限の欲望が集い交わる地。死せる王の元、聖地よりかの翼が蘇る。死者たちが踊り、なかつ大地の方の塔は 空しく焼け落ち、それを先駆けに、数多の海を守る法の船も砕け散る」 と…それは明らかに時空管理局そのもの崩壊を予言したものであった 「ですがこれはよく当たる占いと…」 「確かにそうは言われているが…情報局が掴んだジェイル・スカリエッティに関する情報だ」 宗方はモニターを操作し、情報局が掴んでいるジェイル・スカリエッティの状況を纏めた物だ、それベイツは驚いた、 予言と類似する点が多数存在したのだ。 「八神はやてが述べている機動6課構想もこれに発端している」 「では彼女達に任せておけばよいのですか?人材は見たところ優秀です」 「確かに、致命的な面がある」 宗方は厳しい顔でベイツを見つめる、そしてベイツは分かった。 「…ベ、ベテランが市川二佐ただ一人!」 「そうだ、彼女達はあまりに後方を軽視している、そして慢心しているよ自分達の実力に、そしてやり通す意思はあるが致命的な面それは…」 「『殺』というわけですか?」 「ああ、そうだ彼女達は殺す事にすごく臆病だ、市川二佐を除いてね。ああ、ヴォルケンリッター?ああ、今は八神はやて二佐の忠実なる僕、もう牙の抜かれた犬だ」 宗方は素っ気無く言う。 「つまり、中将、貴方が考えているのは」 「最後の保険であり同時に局に対して意識改革、ならびに未だに強大な発言権を手放さない三提督とその取り巻きの排除だな」 「そうですか、分かりました…しかしミッドチルダは地獄になりますね」 「地獄か…あの時よりはマシだと思う」 「あの時とは?」 「クリムゾンバーニング…あの地獄はもうコリゴリだ」 宗方は虚空を見据える、あの戦争、とある独裁者の下らない理由で起きた世界を巻き込んだ戦争、 凄まじい死者と破壊を撒き散らした後に出来たのはただ広がるは破壊された都市や自然・・・宗方 は歯を噛み締めた。 「しかし、何故多大な成果を上げた三提督がこうも歪んだのでしょう?」 ベイツの疑問は最もだ。 「ベイツ二佐、人は大きな権力を握ってしまうと自然と腐り始める、それが過去に大きな成果を上げ、英雄と呼ばれたものたちでも …甘い蜜の味を覚えた人が苦い蜜を再び舐めるか?」 リリカルなのはストライカーズ・エピソード4 「黄色い悪魔」 ――――リッチェンス邸 市川はMP5の初弾を装填し、構えると敷地内に侵入した。すぐに低い姿勢をとる。視線と銃口 を周囲に向けた。人影は居ない。リッチェンスの手下どもは表門での戦いに駆り出されているらし い。だが市川は気を抜かなかった。庭に植え付けられた樹木や庭石に身を隠しつつ、屋敷の北側へ 進む。動作は素早いが、足取りは慎重さに満ちていた、市川は熱い闇に融けつつ前進した。 僅かに発汗しているのは、内心抑えがたいほどの興奮で満たされているからだった。このような環境こそ、 市川の生きる場所なのだった。彼はそれを実感した。 どやどやと表現するしか他ない騒音を立てながら4人の男が視界内に現れた。どうやって反応すべきか、 市川はコンマ一秒以下の時間で勘案し、決断した。MP5を彼らに向け点射を行った。無音に近い 銃弾を受けた男達は3秒で全員が絶命した。市川は足取りを早めた。屋敷の北側に到達し、周囲を確認し安全を確認する、 バッグからC4を取り出し壁に貼り付け信管を作動させる。右側から叫び声が上がった。 「野郎、こっちだ!殺せ!」 市川は足の筋肉を聞かせて低く飛んだ。空中で身をよじり、声のした方向に射撃する。着地前に弾倉は空になっていた。 匍匐前身で庭岩の影にもぐりこみ弾倉を交換した。銃声が響いた、周囲に着弾はない。市川は口を歪めた。あの莫迦どもは、 屋外で短銃身の散弾銃を使用している。爆発が発生し、壁が吹き飛ぶ、それを見た市川は閃光手榴弾を取り出し、 射撃をしている男達へと投げつけた、地面にしっかりと伏せ、瞼を閉じ右目を手で被った。小さな爆発音が起こり闇が白くなった。 悲鳴がいくつも聞こえる、そうした声を上げる元に市川はMP5を向けた。弾倉を二個消費し、全員を射殺した、 そして壁穴に破片手榴弾を放り込む…爆発、内部を銃弾で軽く撫でると邸内に突入した。 ―――邸近く 「何が起きているの?」 ギンガ・ナカジマはうめいた、ギンガによって正門の一部を砕く事に成功した、そして警察や局員がそこに向かって突入しようとしていた、 そんな中裏門の所から再び爆発音がした。 「裏門に警察か何かいますか?」 ギンガは警察部隊の隊長に通信を送る。 「いや、そちらにはいないはずだ」 「では一体誰が?」 「分からない、少なくともリッチェンスに対して何かしら恨みを抱いている連中かもしれん、こちらから何名か派遣する、 君はこのまま正門突入を行ってくれ」 ギンガは隊長からの要請に応じた、今そんな事を考えている余裕はない、今出来る事を成すだけだ、 リボルバーナックルからカートリッジを再び打ち出した、ギンガは決心したように空いた壁の中に突入しようとした。 ―――邸裏門 「全く派手にやりすぎだ」 副長はぼやく、地面には警察官と思われる数名の男女が地面に倒れていた。 そうレジアスの命令を受けた二人は市川を支援する為あえてこちらにやってくるであろう 警察や局員の阻止を行っていたのだ、副長は呆れ顔で煙を上げている裏門を見た。 「彼らしいと言えば彼らしいか」 スナブノーズもぼやいた、全く平和なクラナガンで戦争を起こせる御仁なんてあんたぐらいだよ市川二佐。 ――――邸内 部屋の中は破壊し尽くされていた。部屋には大きな布団が敷かれている。そこには血濡れになった筋肉の塊が二つ、 横たわっていた。二人とも裸だった。恐らく「ウホッ!」な趣味の持ち主同士が周囲の状況に気づかずに居たらしい。 上に居る男は死んでいたが、組しかれた姿勢の男にはまだ息がある。男は左手に包帯を巻いていた、市川は男に銃を向けた、尋ねる。 「すまないが、教えて欲しい。私の娘は何処に居る?」 男は恐怖に大きく目を見開き、市川を見つめた、市川は微笑を浮かべもう一度問うた。男は答えなかった。市川は僅かに眉をしかめ、 長靴で男の左手を踏みつけた。男は悲鳴を上げた。市川は言った。 「頼むから教えてくれ」 「ひ、左側の…い、一番奥だ」 「ありがとう」 市川は男の頭に銃弾を送り込んだ、頭蓋の中身がスイカのように飛び散った。 市川は半壊した扉を蹴破った。銃声が響き、弾が空気を切り裂く音がした。 着弾音が左右のどちらかで生じたかを確認した市川は狭い通路の左側へ閃光手榴弾を投げた。 そして絶叫があがり、何かの拍子でこちらに滑ってきた銃を見て市川は顔を顰める、 AK-47、作りやすさやメンテナンスが簡単な事で97管理外世界だけではなく、 他世界でも製造されている自動小銃だ…だが室内で自動小銃を使用する事は自殺行為だ (跳弾の可能性が高い)、恐らく閃光にやられてAKを落としてそのまま暴発したのだろう。 「ド素人だな」 市川は呟くと念のために左右を掃射した。そして散弾銃の持った男が飛び出してきた。 市川は通路の端に身を押し付けるようにした。男が発砲した、頬を小さな鉛球が撫でた。 妙な金属音がする。散弾をまともに浴びたMP5のサイレンサーと銃身が破壊されたのだった市川は反射的にMP5の残骸を捨て、 ククリナイフを抜いた、通路が狭いため、下から救い上げるようにしてそれを相手の喉にめり込ませた。 オリハルコンで強化されたククリの刃は呆気なく男にめり込む、すぐに引っ込める。喉から大量の血を噴出しつつ男は倒れた。 市川はククリナイフをさやに治め、不要となったMP5の弾帯を捨て、男の散弾銃を拾い上げる。安物だった、弾はまだ一発残っている。 男が飛び出してきた通路の過度の先から足音と罵声が聞こえる、市川は破片と閃光手榴弾を一個ずつ取り出し、同時にピンを抜く。 足音が接近するまで待ってから一気にニ個の手榴弾を投げた、目を閉じ、耳をふさぐ。爆発、悲鳴、閃光、怒声、爆風。 市川は僅かに顔を出し、通路の先を確認した。狭い通路には十名ほどの人間が倒れ、うめき、もがいていた。破片は数名にしか影響を与えていないが、 閃光は全員の視力を奪っている。市川は散弾銃を構え銃口をいくらか下向きにして発砲した。空中に飛び散ったいくつもの鉛玉は、 通路の固い床に跳ね返されながら、傷を受けていなかった男達の足元を襲い食い破った。散弾銃を捨てた市川はホルスターからベレッタを抜き、 一人一人の頭に9ミリ弾を送り込み、一番奥に居た男を除く全員を殺害した。 最後の男は腹と足に散弾を受け、床でうめいていた。銃は失っている。 墓石のような瞳にはようやく視力が戻りつつあった。彼は市川を見上げ、うめいた。 「あんたか」 「理由は説明するまでもあるまい。リンデマン君」 「まぁな」 リンデマンは通路に視線を向けた。そこには血とコルダイトの匂いに満ちた空間だった。 「ひどいものだ」 「私はもっと酷い場面を見た事がある。いや、作り出した事がある、というべきか」 「悪魔だよ、あんたは」 「自分でもそう信じ始めていたところだ」 リンデマンは楽しそうに笑った。顎で通路の先を示す。 「二つ先の部屋だよ」 「ありがとう」 「何、あそこであんたが見るものに比べれば、対した事じゃない」 「かもしれない。さようなら」 市川はリンデマンの額にベレッタの銃口を近づけると、トリガーを引いた。飛散した血液と脳漿が彼のバリアジャケットを汚した。 扉は硬く占められていた、市川は破片手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。扉からいくらか距離をあけた床に置く。 後方へと駆け戻り、リンデマンの死体を起き上がらせて盾にした。爆発、爆風。 ボロボロになった扉の手前で立ち止まる。右手にベレッタ、左手にククリを握る、室内から音は聞こえない、 長靴で扉をけった。扉は室内に倒れる。市川は中へと飛び込んだ。銃声がおこった。右脇腹に焼け付くような痛みが走った。 市川は床を転がり、銃声のした方向へ、ベレッタで反撃を加えた。人影が崩れるのが分かる。市川は立ち上がった。華やかな飾り付けの施された部屋だった。 部屋の置くには大きなベッドがあった。腹を打たれたリッチェンスはベッドの端に上体を預けていた。ベッドの上には全裸に近い若い女が居た。 「やはりね」 口元から血を流したリッチェンスが言った。 「最初はただの警察との押し問答かと思ったが」 「丁寧な出迎え、痛み入る」 「あなたも盛装だな」 リッチェンスは微笑した。彼はダークスーツを着込んでいた。 「何、貴方だと検討が付いた時に着たのですよ、二佐。慌ててね。それまでは裸でした。 押し問答ならば、私が顔を出すまでもないですから」 「うん、貴方が評価すべき一面を持っている事は確かだ。少なくとも、娘をただの玩具にしていたわけではない事は理解している」 「良かった、貴方のような男に軽蔑されるだけは御免ですからね」 「それよりは憎悪の方がマシだ、と?」 「そんな所です。少なくとも、憎悪は積極的な感情ですから。貴方の娘さんも、 ただ自棄と悲しみだけから私に抱かれたわけではないのだと信じています。ええ、そう私は信じています」 市川はわずかにうなずいた。 「まさにそうかもしれない。貴方とは別の場所で会うべきだったな」 「私もそう思います。残念です」 「同感だ」 「それから、二佐」 「何だろうか?」 「この部屋の奥には誰にも見られずに敷地の外へ出られる扉が有ります。御帰りの際は、 宜しければそちらを使って下さい。これ以上、死体を作り出す事もないでしょう」 「感謝する」 「ああ、それにもうひとつ」 「窺おう」 「今度こそ彼女を幸せに」 市川は微笑した。 「娘を大事にしてくれて有難う。貴方の期待は裏切らないようにしたい」 「それでは」 「ああ。いずれ我々が会うべき場所で、また」 市川はククリをリッチェンスの頭頂部に振り下ろした。女に視線を向ける、右脇腹がしきりに痛ん だ。女の顔は恐怖と涙に引きつっている、生々しい情交の残滓や失禁などで汚れてはいた…が彼女 は美しかった。愛らしかった。父親たるとはこういうことなのかと市川は思った。残酷な真実は常 に絶望と憎悪を生み出すわけではないのだった。恐怖に震えていた女が幼児のような声を出した。 「お父さん?」 微笑を浮かべた市川は小さく頷いた。 「お父さん」 市川の娘は新たな涙を流しながら立ち上がった。震える声で彼女は言った。 「おかえりなさい」 「ただいま」 黄色い悪魔は優しげに答え、これほどの現実を目撃した後であれば父親以外には不可能な反応を示 した。愛すべき愚かな娘を強く抱きしめたのだった。 ――――裏門 市川が娘を連れ出して、敷地の外に出たタイミングを見計らってフレイザーの車がやってきた。 「急いで下さい、正門でドンパチ行っていた警察と108部隊が屋敷に突入しました」 市川は娘と共に車に乗り込んだ そして落ち着いてからフレイザーは問うた。 「二佐、戦争は無事終結しましたか?」 「ああ、戦争は無事終結した、こちらの圧倒的勝利で…」 ――――裏門への道 警察官や局員が一斉にリッチェンスの屋敷に突入した、それと前後して裏門で起きていた銃声や 爆発音はパタリと止んだ、そして裏門に回った警察官との連絡が取れないことに疑問に思ったギ ンガは自ら志願して裏門に回ろうとした、そしてギンガは発見した、裏門から逃げようとする車を、 それがリッチェンスなのか襲撃者なのか分からない、だが少なくとも重要参考人として認識したギ ンガはその車を追おうとした、そしてウイングロードを展開し、追撃しようとしたその時、目の前 にフェイスガードで顔の見えない巨漢が現れ、ギンガに向かって拳を打ち込んだ、咄嗟の判断が出 来ないギンガの鳩尾に拳がめり込む…ギンガの意識は吹っ飛んだ、だが吹っ飛んだ方が幸いだった かもしれなかった、そう屋敷の中は悪魔によって生み出された地獄そのものだったからだ。 ――――同 「戦争は終わったようだな」 「ええ、そうですね」 スナブノーズは気絶させたギンガの体を地面に寝かしつけた。 「我々も引き上げますか」 「ああ、そうだな」 スナブノーズはレジアスに連絡を入れると副隊長と車に乗り込みその場から去った。 ――――屋敷 「全く酷い有様だな」 ゲンヤ・ナカジマはリッチェンス邸内における惨状を見て呟いた、銃弾で負傷した者はいたものの、 幸い死者は出なかった。屋敷に突入した警察官や局員達が見た光景は凄惨な光景だった、血とコル ダイトの匂いに吐くもの、手足が千切れ飛んでいたり、臓物がぶちまけらた光景は地獄と言って いいだろう、それに耐性のない者達は皆吐いている…ミッドチルダではほぼ見れない光景、明ら かに質量兵器を使用したものであった。これを行ったのは一体誰なのであろうか、ゲンヤは悩んだ、 娘のギンガもその真相を知ろうとしたが気が付いたら地面に寝かされていた。そしてゲンヤは警察 や地上本部にとって宿敵であったリッチェンスの死体と対面する、リッチェンスの頭部は刃物を振 り落とされたのか脳漿が出ていたものの、顔は安らかでどこか嬉しそうだった。 何故、そんな顔が出来る?リッチェンス?…ゲンヤは物言わぬ死体に問うた。 ――――騒動翌日 地上本部 レジアス室 「…リッチェンス氏が行っていた密輸業が(以下略)…そして昨日警察と管理局の108部隊が リッチェンスの屋敷の強制捜査に踏み切り、突入しましたが何者かによってリッチェンス氏は殺害されており、 管理局ならびに警察はその襲撃犯の割り出しに全力を…」 モニターに映るニュース映像を消すとレジアスは襲撃犯に語りかける。 「全く君はとんでもない事をしてくれたよ、このクラナガンで戦争を起こすなんて」 呆れ顔のレジアスだったが襲撃犯は全く淡々としていた。 「だが…少なくとも金の魅力に虜になっていた馬鹿ドモの逮捕に繋がる事が出来たのは評価出来るな、市川二佐」 市川は礼を言った、そしてレジアスは本題を言う。 「君と言う男は…まぁいい、今回君の起こした行為は私の権威を持ってもしても揉み消せないのだが…どうやら本局にお前の事を評価する人間が居るらしい、 そいつのお陰でお前は其の日、クラナガン近郊の自宅でノンビリしていたというアリバイを作っておいた」 「ありがとうございます」 「市川二佐、その右脇腹完治の為の療養とほとぼりがさめるまでしばらく娘と共にクラナガンから離れて欲しい」 それに市川の顔が曇る、そう約束していた… 「機動6課の事は諦めてくれ、人事部も貴官の配属に猛反発した、すまないな」 それに渋々了承する市川、そして市川は言った。 「中将、貴方の事ですから八神はやて二佐などによい感情は持っていないと思いますが、出来るだけの協力をお願いしたい、 彼女達もまたミッドチルダを愛していますから、これは戦友として貴方に願っているのです」 「わかった、君の希望にそうようにする」 「ありがとうございます、では…」 市川は綺麗な敬礼を送ると退室した。それを見てレジアスはほっとした、少なくとも市川が最高評 議会によって殺される可能性が低いからだ(評議会もリッチェンス襲撃事件の犯人を知らない)、そ して写真を眺め、思い出に浸った…戦友達と共に戦場をくぐりぬけ笑いあったあの日を・・・ ―――通路 「まさか、クラナガンで銃撃戦が起きるとはね」 「今でも信じられないよ」 「しかし、あのリッチェンスさんがまさか密輸やってるなんて、世の中わからへんなぁ」 なのはとフェイトとはやても昨日の出来事の話題で盛り上がっていた、彼女達もリッチェンスが行 っていた慈善事業の事を知っているからこそ驚いたのだ。そしてこちらに向かってくる男を確認し、 敬礼する、男も敬礼する。 「「「御疲れ様です、市川二佐」」」 三人に対して微笑みながら市川ははやてにすこし要件があるから来てくれないかと言った。 「ええ?それってデート?それとも婚約について?いやぁ~市川二佐うちまだ心の準備出来てないし~~それに年離れすぎやないか」 と冗談をとばすはやて、それに微笑を浮かべる市川、そんなこんなで二人は誰も居ない一室に向かう事になった。 ―――― 一室 「はやて、実は…」 市川の切り出した事、それにはやてはショックを受けた、そう市川は機動6課に配属する話がおじ ゃんになったのだ、理由を問うはやて、そして市川は真実を言った。昨日のリッチェンス襲撃犯の 犯人が自分である事、レジアスがその事をもみ潰した事。 「な、何でそんな事をするんですか!」 はやては非難めいた口調で市川を問いつめる、目の前の男がとても襲撃犯に思えないからだ。そし て市川は何故それを行った理由を言った、娘の事を…そしてはやてはショックを受けた自分が何故 このことを知らなかったのか、そして何故教えてくれなかったのか、それに対して市川は君にまで 心配を駆けたくなかったから、君も家族と変わらないから(一時期はやては市川の家で世話になっ た)…と、そうしていくうちにはやてはこの男を批判する事が出来なくなる、大事な存在を守る為 に、親として自分が成せる事、はやてにとっては羨ましかった、市川の娘が… 「市川さん」 はやては真剣な表情で市川を見る 「私を抱きしめてくれませんか、6課入隊出来なかった代償に」 突然の言葉に動揺を隠せない市川。 「一度でいいんです、うちを抱きしめてください…その…私は…あの無理でしたら…」 珍しくはやては言葉に詰まった。市川は理解した、そうかこいつは…そして市川は行動に移った、 はやての細い身体を、小さいながらも大きい体で優しくそして力強く抱きしめた。父親が娘や息子 を抱きしめるように…そしてはやては一筋の涙を流すと呟いた… 「お父さん…」 はやてはもう忘れた父の温もりを感じたような気がした。 「もういいか?」 「はい!」 はやては吹っ切れたように言う。 「市川二佐有難うございます」 「ああ、八神二佐も隊長として頑張れよ」 「はい!」 二人は敬礼を行った後、それぞれの道の為に別れた。 ――――機動6課成立少し前の話である。 まぁ、レジアスが若干6課に対して協力的だったり、オーリスがはやてに刺のある態度 で接しないというのはまた別の話 そして――― 「間違いないな、あれは『聖王のゆりかご』だな」 「手はずは整った、後は彼ら次第だな、防衛ライン並びに研究所突入班、藤井のドレッドノートは?」 「既に配置についています」 「では作戦開始、奴らに血の代償がどれだけ高いか教えてやれ」 「目標はスカエリッティ研究所に居るジェイル・スカリエッティの確保そして…」 「ナンバーズと呼ばれる戦闘機人は?」 「言うまでもないだろ」 「そうだな…」 「では行くか、市川一佐」 「総員搭乗急げ!」 「目標、聖王のゆりかご」 「全VLSにミサイル装填完了、発射…5…4…3…2…1…スパーク!」 「フォイヤ!」 「まさか、ミッドチルダで質量兵器が使用される戦争が行われるとはな…」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2463.html
――――空の向こうに何かあるって考えたことはある? 無。 まったく何も無い。 音も、光も、重力も。 暗闇の中、"其れ"は巨大な惑星に引き寄せられていく。 ――自由落下という奴だ。 大気圏外から地表めがけて、何千キロもの距離を一直線に。 まず最初に訪れたのは熱であり、続いて衝撃。 分厚い空気の層に叩きつけられた"其れ"は、摩擦による途方も無い熱量に耐えながら、 一挙に回復した重力によって、瞬く間に大地との距離を縮めていた。 "其れ"は、岩ではなかった。 震動に揺さぶられ、表面を焦がし、時折何かの破片を剥離させながら、 只管に突き進む"其れ"は、何らかの知的生物によって作り出された――――人工物であった。 無論、大昔から軌道上に存在している、数多の漂流物の一つが、 惑星の引力に導かれて降下してきたのだ、などという可能性もある。 しかし、明らかに"其れ"は未だ機能を喪ってはいなかった。 数回、装甲と思わしき部位が剥がれ落ちると、即座に落下傘が開いたのだ。 無論、この圧倒的な摩擦熱の前では、瞬く間に燃え尽きてしまうのだが、 "其れ"は、落下傘を代償にして姿勢を安定させる事に成功する。 そして――――文字通りの流星と化して、"其れ"はミッドチルダの大地に落着した。 ******************************************** 「これが二日前の話。レリック――と断定はできないけれど。 それに類似する存在が、クラナガン北西に落着した」 「……そういや、昨日のニュースで見た気がするわ。 流れ星が落ちてきた、って随分と騒いどったなぁ」 「ええ。今朝の段階では、こんな物体だなんて私も知らなかった。 まさか軌道上の衛星に動画が残っているなんて思わなかったから。 私も事態を把握したのは、昨日だったの」 薄暗い室内――――聖王教会の一室。 カーテンによって完全に光を遮断された其処では、 二人の女性がモニターに向かって視線を送っていた。 外宇宙から飛来した何らかの人工物が、 大気圏へと突入し、燃え上がりながら――…… しかし形状を保ったまま、大地へと到達する映像。 それを注視している一人は、騎士カリム・グラシア。 そしてもう一人。 八神はやて。正式名称、古代遺物管理部機動六課―― 即ち、通称を「六課」とする新設部隊の指揮官を務める人物である。 そのはやての言葉に頷き、カリムは空中に投影されたキーボードへと指を走らせる。 繊細な指捌き、深刻な顔つきとは対照的な、軽快な電子音が数度響き、 続いてモニターに映っていた画像が切り替わった。 「そして問題が、これ。今日の本題」 「ん――? これ、大型次元航行船やないか……ッ」 ええ、と頷くカリム。驚愕するはやて。 無理も無い話である。 それは異形の大型船舶であった。 次元航行船――或いは単に宇宙船とでも呼ぶべき巨大な影が、 ミッドチルダの衛星軌道上に数隻浮かんでいるのである。 「管理局にこんな型の船はない筈やし……船籍は?」 「不明。 通信を送る間も無く、船舶はすぐに姿を消したから。 未確認の世界からという可能性もあるし、或いは広域次元犯罪の可能性もある。 でも一番の可能性は――――」 「落着物……レリック絡み、やな」 「ええ。本局へはまだ正式報告はしていないわ。 一応、クロノ提督には連絡して、軌道上の警備を厳重にして貰っている。 でも――はやてには話しておこうと思って。 そして、これをどう判断するか。どう行動すべきか。 慎重に行動しないと――失敗するわけにはいかないもの」 「…………………」 その通りだ。慎重にならざるを得ない。 レリック事件も。その後に起こる事件も。 対処を一つ間違えれば、どんな災厄が起きるかわからないのだから。 だが――だからと言って、後手後手に回ってはならない。 慎重に行動した結果 『間に合いませんでした』では駄目なのだ。 ならば。 「だったら、すぐに調査してみんと。 うちらに任せてくれるか、カリム?」 そう、ならば。 機動六課――自分達の出番だ。 そう言って、はやては頷いた。 キーボードを叩き、暗幕を取り払う。 眩いばかりの陽光が室内を明るく照らし出した。 ――このように、暗い状況でも打破できる部隊。 それが機動六課なのだと、言わんばかりに。 「何があっても、きっと大丈夫。 即戦力の隊長達は勿論。新人達も実戦に対応可能。 予想外の事態にも、ちゃんと対応できる下地はできてる。 だから――絶対に、大丈夫や」 かくして、機動六課に初めて、アラートが響き渡る。 ヘリで現場――山間の落着物へと向かった六課の面々は、 空中型ガジェットと遭遇し、これを迎撃する方針を固めた。 隊長陣にして空中戦力であるスターズ1、ライトニング1が迎え撃ち、 それに平行して、残存兵力が地上落着物の警備を担当。 ――――――何の問題も無かったのだ。 少なくとも、その時までは。 ********************************* 《スターズ1、ライトニング1、エンゲージ!》 《スターズ1、ヘッドオン! シュート……ナイスキル!》 《続けてスターズ1、アクセルシュート》 《ライトニング1、ハーケンモード! 2キル!》 「…………ふぇー。なのはさん達、凄いなぁ。 うわ! 見て見てティア! あの反転機動! 上に昇りながらひっくり返って向き変えてる!」 「スバルうっさい。 無駄口叩いてる暇があるなら、ちゃんと周り見てなさい。 この落着物を取られたら、アタシ達の負けなのよ」 「だぁいじょうぶだって。ティアは心配性なんだからー」 通信機から聞こえる管制官達の報告を聞きながら、 二人の少女が、光点の明滅する空を見上げていた。 スバル・ナカジマ。ティアナ・ランスター。 真新しい白色のバリアジャケットに身を包んだ彼女達は、 スターズ3、スターズ4――つまり、機動六課の新人フォワードである。 度重なる訓練を重ねて、ようやくの初任務。 新型の装備に、新しいバリアジャケットも相俟って、 地上に降り立ったばかりの彼女達は、興奮と緊張の最中にあった。 ――――が。 それも自分達の担当する場所が「安全」だとわかるまでの話だ。 勿論、ガジェットが地上を襲撃する可能性はある。 ……あるのだが、しかし空中で簡単に蹴散らされているのを見ながら、 こうして手持ち無沙汰に落着物の護衛をしていると、 そのような高揚した感覚は、あっという間に冷めていった。 つまりは平常心、いつも通りという事だ。 ある意味では理想的な状態とも言えるが……。 しかしティアナにしてみれば、初任務としては少々、不本意だといわざるを得ない。 焦りにも似た感情。最も、それに突き動かされるほどの衝動では無いのだが。 「それにしても……」 そういった自分の心情を落ち着かせるべく――意識しているかどうかはともかく―― 彼女は、自分達の護衛対象である落着物へと視線を向けた。 「……何なのかしらね、これ」 「うーん……まあ、お星様には、見えないよねぇ」 数十メートルに渡るなぎ倒された木々と、抉られた大地の先に、"其れ"はあった。 巨大な金属の塊、とでも表現すれば良いのだろうか。 半ば以上は地面にめり込んでいるそれは、入り口らしい開口部を此方に向けて鎮座している。 地面に埋まっている部分もそう大きくは無いが、 それでも六課の有するヘリコプター程の大きさはあるように思えた。 だが、用途がわからない。 こうして形状をほぼ完全に留めたままという事は、かなり頑丈に作られているのだろうが。 「……わかるのは、なのはさん達の戦闘が終わって専門家が来てから、か」 「でもさ、結構ミッドチルダ風じゃないかな、あれ。 レリックって言うから、もうちょっと古臭いの想像してたんだけど」 「見た目に惑わされないの。綺麗な宝石みたいなのだってあるん、だ、か………」 「ん? ティア、どうしたの?」 そう言いながら落着物から視線を外したティアの表情が、一転して硬く険しいものになる。 それにつられて、彼女と同じ方向へとスバルも眼を向ける。 ――そして、それを認識した。 それが第一の『想定外』。 巨大な影が、空間からにじみ出るようにして現れる。 それは船だった。 無論、ただの船である訳がない。 戦闘目的に建造された船だった。 堅牢に作られた装甲。巨大な推進器。 そして、それに取り付けられていた銃口は、明らかに此方に向いていた。 ―――敵だ。 「――――ッ! スバル、戦闘準備! こちらスターズ4! 緊急通信―――敵の増援です!」 ――――本当、とんだ初任務になりそうだ。 身体の内から湧き上がってくる高揚感を覚えながら、 突如として空中に出現した船を相手取り、ティアナはその手に銃を握り締めた。 *********************************************** それに前後する事、数分前。 ライトニング分隊――即ちエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ、 そしてフリードリヒの二人と一匹は、レリックと推定される落着物、その内部にいた。 年若く、経験も不足しているとはいえ、それでも立派な管理局員である彼らは、 物珍しさに周囲を見回しながらも、生真面目な表情で警備、調査に当たっている。 少なくともその点においては、良くも悪くも、スターズよりは緊張感があるといえた。 或いは、落着物内部の雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。 特段、何か危険な物体があった、というわけではない。 其処にあったのは、一つの巨大な――透明のケースだった。 今まで黙って其れを眺めていたエリオは、搾り出すようにして口にする。 「――――まるで、お墓みたいだ」 完全な静寂に支配された暗室。 その最奥に安置されている棺の中には、一人の人物が眠っていた。 緑色の鎧兜、甲冑を纏って横たわる彼は、まるで古の英雄のよう。 むしろ荘厳ささえ感じさせる光景は、まさしく墓の其れだった。 となると、周囲に置かれた大小さまざまなコンテナは、 英雄の為の副葬品といえるのかもしれない。 いずれにせよ、尊い光景に思えた。 尊く、寂しく、そして穏やかな風景。 となると、僕達はこの人を――この人のお墓を守ってるのかな。 そんな思いを抱いたエリオは苦笑を浮かべて首を左右に振る。 ――――と、不意にキャロ、フリードが棺の更に奥へ視線を向けているのに気がついた。 「……どうか、したの?」 「え、あ、いえっ。何でもないんです、ただ――……」 「ただ?」 「……誰かに、見られているような気がして……」 その言葉に従い、エリオもまた棺の向こう側へと眼を向ける。 勿論――誰もいない。いる筈がない。 ここにいるのは自分達と、あの棺の中の戦士だけなのだから。 「――大丈夫だよ、誰もいない」 「そう……ですよね。ごめんなさい、私、ちょっと緊張しちゃって――」 無理もない、と思う。 自分だってそうなのだし、それなら彼女だってそうだ。 だからエリオは少しだけ照れ臭そうな様子で、笑いかけた。 「うん、僕も、そうだから。――だから、その。大丈夫だよ」 「――――うん」 その言葉にキャロが返事をした直後であった。 アラート。新たな敵の出現を察知したティアナからの全員通信。 それを聞いた二人は、互いの手を握り締め、落着物から外へと飛び出していく。 ――其の背中を、カメラアイが見つめていた事にも気付かずに。 ***************************************** 船はどうやら、恐らくは降下艇であるらしかった。 地面に降り立つと同時に展開されたタラップからは、 二十体近くの敵増援が姿を現した――――が。 予想外の事態が一つ。 「な、なにあれ……」 「ガジェットじゃ――無い?」 そう、ガジェットではなかった。 それは人間の胸ほどの身長の、小柄な異形の兵士達が二十名。 そして――3mはあるだろう、巨大な兵士が一人。 どれもが不気味な装甲を纏っており、手には奇妙な武器を携えている。 誰もが初めて見る、そして初めて知った相手だった。 別段、フォワード陣だけではない。 その背後に控えるロングアーチにとっても、だ。 エイリアン(異星人)。或いはインヴェーダー(侵略者)。 次元管理局の、決して短いとはいえない歴史を紐解いても、 非人類型の存在と接触した例は皆無である。 即ち、これはどういう事なのか。 ―――――――ファーストコンタクト。 まったく、冗談じゃない。とんだ初任務だ。 そんな言葉が思い浮かび、ティアナは頭を振って思考を追い払う。 目の前で武器らしき物を構えている存在がいるというのに。 「…………ッ! 迷ってる暇は無い、か。 スバル、クロスシフトA! エリオはスバルと一緒に敵を霍乱! キャロは――エリオをブーストした後、チビ竜で攻撃!」 「わかった!」 「了解!」 「了解しました!」 それぞれの応答があり、六課フォワード陣が動き出す。 「いっくぞぉーっ!」 まずスバルが両腕を打ち合わせ、マッハキャリバーの速力によって突貫。 シールドとバリアジャケット、そしてあのスピードは、フロントアタッカーとして最適だ。 「我が乞うは、疾風の翼――――」 ついで、キャロの詠唱が始まる。 支援魔法。および竜使役による火力。 まったく、将来が恐ろしいったらありゃしない。 「……一気に行くよ、ストラーダ」 《OK!》 ブーストによって速力が上昇すれば、多少防御力が低いとはいえ、 エリオも十二分に前線で戦うことができる。 何せ彼の速度は、少なくとも新人フォワードの中では最速なのだから! 「よし、クロスファイア―――………」 そして自分――ティアナだ。 カートリッジをロードし、魔力を補充。 銃身に集中させ、一気に解き放つための準備をする。 あの数だ。まともに撃っていては話にならない。 こうして、機動六課フォワード陣は攻撃の準備を始めていた。 スバル、エリオが突貫し、敵歩兵を霍乱した後、 ティアナとキャロの一斉射撃で、殲滅する。 作戦としてはシンプルだ。 これが通常のガジェット戦であれば、容易に成功しただろう。 だが、ある意味では当然の話だが。 どんな魔導師が接近するのよりも。 どんな魔導師が呪文を唱えるよりも。 ―――狙いをつけてトリガーを弾くのは、早いのだ。 鋭い発射音が連続して響き渡り、緑色の光弾が一挙に発射される。 大気を焼く、科学的な臭い。それが鼻に届くよりも先に飛来する雷光。 それに最初に対応したのはスバルであった。 勿論、フロントアタッカーの彼女は慌てない。 今まで経験してきた――主になのはやヴィータの――弾幕よりも、 圧倒的に濃い攻撃の嵐の中にあっても、 その右腕に展開したシールドとバリアジャケットがあれば、大丈夫。 大丈夫。大丈夫なはずだった。 ただ――そう、ここで第二の『想定外』が発生する。 「――――へ?」 バリンという軽い音と共に、シールドが弾けて消えた。 その事実を認識するよりも先に、更に続けて飛んできた光弾が、 彼女の左肩を撃ち据える。 バランスを崩した主の身体を、マッハキャリバーの車輪が必死で支え、 転倒する事無く、速力を維持したまま、体勢を立て直す。 「う、うわわわわわわわわわッ!!」 痛みを堪えながら急速旋回。マッハキャリバーを駆使して、敵の集団から距離を取る。 何かの焦げる――嫌な臭い。スバルはちらりと発生源に眼を向ける。 新品だったはずのバリアジャケット、その左肩が無残にも焼け落ちていた。 ――もしもバリアジャケットが無かったら。 その事を考えると、鳥肌が立つ。 だが――それ以前に、重要な事があった。 「ティア! シールドが通じない!!」 だが、その叫びは既に遅い。 統率された兵士達の弾幕は、互いの装填を補うことにより、ほぼ絶え間なく続く。 無防備に呪文を唱えていた――それを兵士達が認識していたかは別だが――キャロ。 ブーストがかかるのを待っていたエリオ。 そして銃を構えたまま突っ立っていたティアナにも、光弾は、容赦なく襲い掛かっていたのだ。 「――――ッ! 遮蔽を……ッ!!」 撃ち返すよりも先に、ティアナの身体は回避を行っていた。 飛ぶようにして弾幕から身を避けて、背後にあった遮蔽物――落着物に身を隠す。 見れば向こうではエリオがキャロを庇いつつ、同様の場所で遮蔽を取っており、 そして、向こうから走ってきたスバルが隣へと転がり込んできた。 「スバル、キャロ、エリオ、チビ竜! 怪我は!?」 「あたしは無事だよーッ」 「わたしも……な、なんとか……ッ!」 「僕は――ハイ、大丈夫です!」 みんなの声が震えてる。 当然だ。きっと自分の声でさえ震えている。 詠唱が間に合わない。呪文が発動できない。 シールド、バリアジャケットが意味を為さない。 ただでさえ初めての実戦だというのに、あまりにも状況が異質すぎた。 勿論、だからと言って容赦してくれる筈もない。 ちらりと遮蔽物から眼を出し、様子を伺う――ーと、 今まで弾幕を小人兵士を任せていた巨人兵士が、その右手を構えるのが見えた。 その先端には、他の光弾と比べるとあまりにも凶悪な灯りがついている。 ――――アレはマズイ! 「みんな、伏せてッ!!」 言葉が早かったか、或いは砲撃の方が早かったのか。 凄まじい衝撃と轟音が遮蔽物を揺さぶり、土砂が周囲に舞い上がる。 砕けた地面の破片がフォワード達にも降り注ぐ。 ――ティアナは、自分の歯が鳴っている事に気がついた。 敵の攻撃は非殺傷ではない。ある筈が無い。 実戦。負傷どころか、死の危険性さえ伴った実戦。 機動六課に来る前、災害救助で危険な場所に赴いたことはある。 森林警備だって、それなりの危険は伴っていた。 スバルは死が間近に迫ったことさえある。 だが――悪意を持った何者かの、殺意を持った攻撃。 それに晒された事は――フォワード陣の誰もが、初めてだった。 歯を食い縛る。 死にたくは無い。怪我もしたくない。 死なせたく無い。怪我をさせたくない。 なら、前線で指揮を飛ばすセンターガードがしっかりしなければ。 パン、と軽く自分の頬を叩いて気合を入れる。 大丈夫。大丈夫だ。ランスターの弾丸は狙いを外さない。 「スバル、エリオ! 援護するから――できる限りで良いから、敵の弾幕を凌いで! キャロ、ブーストは良いから、攻撃に集中して。 クロスミラージュと、チビ竜の火球で…………。 ――あのデカブツさえ叩けば、何とかなる……からッ」 そう叫び、ティアナは銃を突き出して射撃を開始する。 放っておくとガチガチと鳴りそうな歯を食い縛り、 震えそうな足を踏ん張って、腕を突き出して必死にトリガーを引く。 勿論、それに答えないわけにはいかない。 怖い。どうしようもなく怖かったが――スバルとエリオもまた、遮蔽物から飛び出す。 勿論、防御をしても仕方ないのは理解しているから、回避を優先して。 そしてあの巨人兵士の攻撃する様子が見えたら、即座に遮蔽物へと引っ込むのだが。 唯一の幸いは、敵にも同様に攻撃が通じるという事であった。 どういうわけか、光弾がバリアジャケットや、此方のシールドを貫通するのと同様に、 此方の魔法による攻撃も、相手のフィールドタイプらしい防御を貫くのである。 勿論、スバルやエリオが接近して攻撃できる程の余裕は無いが、 弾幕の合間を縫って発射されるティアナ、キャロ――フリードの火球は、 辛うじて、数名の歩兵から戦闘能力を奪い、迎え撃つことには成功していた。 だが――本命である筈のデカブツ、巨大な兵士にはまるで通じない。 全身に纏った強固な鎧が、その悉くを弾いてしまうのだ。 更に言えば、彼女達の魔法に対し、敵の弾幕はあまりにも量、速度ともに多すぎる。 此方が一発撃つ間に、無効が十発近く弾丸を撃ち込んでくるのでは、まったくのジリ貧だ。 そればかりか、時折発射される巨人兵士の砲撃が、遮蔽物を揺さぶり、精神を痛めつけていく。 ――――初陣にしては、あまりにも絶望的な状況であった。 ******************************************** その光景をモニター越しに眺めていたロングアーチおよび八神はやては、 あまりにも絶望的な状況に対し、自分達がルーキーを死地においやった事を理解する。 脳裏に浮かぶのは、あの軌道上に出現した戦艦だ。 (奴ら、いなくなったんやのうて――文字通り、姿を消してたんや! それで、密かにミッドチルダに降りてきた……あの落着物を狙って!) 勿論、今更気付いたところでどうしようもない。 戦場に『もしも』などと言った言葉は存在しないのだ。 そんな事に時間を費やすくらいならば、何でも良いから行動しろ。 後になってから正解を思いつくより、余程建設的だ。 「――せやったな、ナカジマ三佐」 かつての恩師の言葉を思い返す。 そうだとも、ここで彼女達、将来有望なルーキー、自分の部下を傷つけるわけにはいかない。 その為にはどうするべきか――少なくとも機動六課に予備兵力は無い。 はやておよびヴォルケンリッターが現場に急行するには、あまりに時間がかかりすぎる。 となれば、現在、上空で戦闘行動中のなのは、フェイトの二名のみだ。 「スターズ1、ライトニング1、現状は!?」 《此方スターズ1。ごめん、はやてちゃん――敵の数がちょっと多すぎるの!》 《ライトニング1――それでも、後10分もあれば……ッ!》 「無茶でも何でも、五分で片付けるんや!」 そう叫ぶと同時に、通信――念話の対象を即座に切り替える。 「――――スターズ4、ティアナ! 聞こえるか!?」 《は、はい、八神隊長!》 「あと五分、五分だけ耐えて欲しいんや。すぐに救援が向かうからな!」 《了解――了解、しました!》 「ロングアーチは、敵勢力の調査! データ収集もや! リィン、情報を整理したら、片っ端からフォワードに送信!」 「了解したです、はやてちゃん!」 そして再度、念話を切り替える。 最悪の場合に備えて、隊長陣のリミッター解除の嘆願を開始するのだ。 自分に出来うる行動はあまりにも少ない。 だが、それでも行動しないよりは、遥かにマシだ。 マシの、筈だ。 グッと歯を食い縛りながら、八神はやては行動する。 ロングアーチも、スターズ分隊も、ライトニング分隊も。 誰もが必死で戦い続ける。それぞれの戦いを。 ―――――だからこそ、誰も気付かなかった。 落着物の内部で、何かが動き始めた事に。 そう、第三の――『想定外』が、起こり始めた事に。 ************************************ 薄暗く、静寂に満ちた室内に、微かな光が灯った。 続いて腹の底に響くような、機械の唸る音が響く。 それに伴い、光源が一つ、二つと次々に数を増していき、 ついには"それ"を照らし出す程にまでなっていった。 "それ"は棺桶のように思えた。 戦いに戦いを重ねて、ようやく兵士がたどり着く平穏。 しかし"彼女"は、その穏やかな時間を壊さねばならない。 一瞬の躊躇の後、"彼女"はその棺桶を起動した。 《…………よく眠れた?》 低い音を立てて、棺桶の蓋が持ち上がる。 "彼"にとっては聞き慣れた声。 さて主観ではつい先程まで聞いていたのだが、 客観ではどれほどの間、聞くことが無かったのだろうか。 姿の見えない女性の声に対し、低い落ち着いた声で返答をかえす。 「ああ。キミが管理していた割には。 ………………状況はどうなっている?」 《あんまり良いとは言えないわね。 ――――あなたが必要になったのよ》 詳細な説明を女性がするより先に、鈍い震動が船体を襲った。 更には微かにだが大気の焦げる懐かしい臭いが漂ってくる。 そして――空間を切り裂く、あの鋭い射撃音も。 「時間はあまり無いようだ」 それで悟ったのか、彼は声に対して頷きを返した。 《いつもと同じね。――戦ってるメンバーも。 たった四名で粘っているけれど、長くはもちそうに無いわ。 ……変ね、戦争が終わったのを知らないのかしら。 どちらに味方するの?》 「人類だ」 《でしょうね》 手近なコンテナの一つを解放し、内部から黒光りする兵器を引っ張りだす。 コンテナに刻印された文字はMA5C。 俗にアサルトライフルと呼称される、強力な携行火器である。 それを背中にマウントし、続いて左腰に手を伸ばした。 其処に吊るされているのは一丁の拳銃。 既に型遅れになって久しいが、彼にとっては唯一無二、最良のサイドアームだ。 そのスライドを引き、初弾を送り込む。 《…………大丈夫? 目が覚めたばかりで寝惚けていない?》 「問題は無い」 彼がそう言って船体から飛び出すのと、巨大な兵士―― ――『ハンター』が、右腕の燃料ロッド砲を発射したのは、ほぼ同時だった。 すぐ目の前では、両腕に銃を握った娘が何か叫んでいた。 視線の先には、回避のタイミングを逸したのだろう。 片腕にガントレットを装着した――やはり少女が、呆然と立ち尽くしている。 躊躇う事無く彼は駆け出した。 二挺拳銃の娘を飛び越え、地を駆け、瞬く間に少女の前へ。 すれ違うとき、彼女が眼を閉じながら何かを呟くのが見えた。 言葉はわからない。 だが――……こういう時、兵士がどう思うかは良く知っていた。 だから彼は言い切った。 「まだ終りではない」 ************************************* 「Not Yet」 もう駄目だ。 そう思い、呟いた瞬間。 奇妙な声が聞こえ、スバルが眼を開けると緑色の背中が広がっていた。 続いて、閃光と轟音。 間近で炸裂した、巨人兵士の砲撃だ。 自分が死を覚悟した攻撃。 だが――自分は生きている。 奇妙な泡のようなシールドの内部にいるからだ。 「…………へ?」 事態に脳が追いついていない。 何故、バリアジャケットをも貫通するような攻撃に、これは耐えているのか。 いや。 そもそも目の前の人物は何者なのか。 緑色の装甲を纏った――戦士。そうとしか認識できない存在。 そうやって観察している間にも、彼の動きは止まらない。 瞬きするよりも早くシールドから飛び出したかと思えば、 その左手に構えた拳銃が、一挙に火を吹いた。 数えている余裕はあまり無かったけれど、多分十二発だとスバルは思った。 だって十二体の小人兵士の頭が吹き飛んで、斃れちゃったんだから。 ティアとキャロの攻撃でやっつけたのが八体で、 全部で二十体だったから――すごいや、もう小人はいない。 「スバル! 馬鹿! 早く――早く引っ込みなさい!」 ティアの泣きそうな声が聞こえた。ああもう、ティアは素直じゃないなあ。 弾幕も消失し、一挙に極度の緊張から解放されたせいか、 スバルは、ふらつく足取りで遮蔽物へと後退する。 「馬鹿! な、なんであんな所でボーっと突っ立てるのよ、馬鹿!」 「あ……えっと、……うん。……ゴメン」 へなへなと膝から崩れ落ちるようにして腰を下ろした。 本当に、生きているのが不思議なぐらいだった。 そして――――ティアナに謝りながら、視線を戦士のほうに向ける。 そう、戦いはまだ終わっていないのだ。 ************************************** 先に言っておこう。 ティアナの「大火力の敵を率先して撃破する」という作戦は、 彼女が今までの模擬戦闘で経験したことから導き出したものであり、 間違いなどではなかった。 戦闘というのは、互いに全滅するまで行うものではない。 士気が挫ければ撤退することもあるだろうし、 ある程度の損害を受けても、撤退するのが得策だろう。 勿論、状況や作戦などが撤退を許すならば、ではあるが。 だからティアナが巨人兵士――ハンターの撃破を最優先としたのは、 重ねて言うが、決して間違いではないのだ。 巨大な兵士であり、大火力を有するハンターが倒れれば、 その他の雑兵の士気を挫くか、 戦力の減退から、指揮官が撤退を決断する可能性は、あった。 だが、この場合、最大火力を有する敵を狙うのは、 その敵を一撃で倒せるという事が前提となる。 仮に倒せないとなれば、雑魚敵からの一斉射撃が延々と続き、 まともに攻撃することなど、ほぼ不可能だ。 つまりこの場合は、雑魚を先に潰して弾幕を削った後、 火力を集中して強敵を撃破するという手法が適切であった、といえる。 ティアナ、そしてフォワード陣は、 ガジェットという大多数の兵力に対しての模擬戦闘は何度も経験したし、 高町なのはという、大火力の存在に対しての模擬戦闘の経験もある。 しかしながら、両者が混在するという事に対しては経験が無かった。 其処が、今回のような事態を招いた原因といえるだろう。 それはティアナの責任ではない。 ともかくだ。 "彼"は、敵対存在が好戦的であり、降伏も撤退も有り得ないと知っていた。 小人兵士=グラントどもの一斉射撃、弾幕が如何に恐ろしいかも知っていたし、 ハンターの倒し方も実に熟知していた。 突貫である。 まさか"彼"のような存在が乱入してくるとは思わなかったのだろう。 燃料ロッド砲を発射した直後の、再装填作業の最中、 それを中断して"彼"を白兵で迎え撃つべきかどうか、一瞬の判断の遅れ。 実に致命的だった。 ハンドガンを腰にマウントし、背中のライフルと交換。 そして500kgの重量と速度を乗せて、"彼"はハンターを銃把で殴りつけた。 鈍い衝撃。ハンターの巨体が揺らぐ。これで十分だ。 ハンターの装甲が無い部位は、頭部か腹部。 普段はシールド(この場合は文字通りの物理的な盾である)に守られているが、 こうして懐に飛び込んでしまえば、最早打つ手はあるまい。 銃口を押し込み、フルオートで32発の銃弾を叩き込んだ。 ――甲高い悲鳴。 内部に詰まっていた環状生物の群が、ぐずぐずと崩れ落ちる。 勿論、本来ならば狙撃銃で頭部を撃ち抜くか、 ロケットランチャーやレーザーを叩き込むか、 或いはグレネードを投げ込むかするのが手っ取り早いのだが、 そういった装備は今、この場には存在しない。 彼のハンドガンは狙撃も可能だが、如何せんハンター相手では火力不足だ。 《あとは――降下艇ね。 グレネードを持って来れば良かったかしら?》 「問題ない」 方法はある。少々梃子摺るだろうが。 まさか兵員が全滅するとは思っていなかったのだろう。 ぐるりと銃口を此方に向ける降下艇に対して、 彼は油断なく、アサルトライフルのマガジンを交換した。 そして降下艇に対して肉薄攻撃を仕掛けるよりも早く―――― ――――上空からの斬撃が砲塔を切り飛ばし、 圧倒的な熱量をもった砲撃が、降下艇を消滅させた。 *************************************** 「お待たせ、皆ッ!」 「みんな――大丈夫ッ!?」 スターズ1、ライトニング1の到着。辛うじて間に合った、という所か。 すでに腰が抜けていたスバル以外――ティアナ、エリオもまた、その場にへたり込んだ。 「ふぇ、フェイトさん、フェイトさぁん……ッ」 キャロに至っては泣き出してしまう始末。 ――エリオは辛うじて堪えているけれど、やはり同じ。 無理もない。まだ二人とも小さいのだ。 地面に降り立ったフェイトは、二人に歩み寄ると、ぎゅっと抱きしめる。 「大丈夫。もう大丈夫だから――ごめんね、遅くなって」 「ふ、ふぇえぇぇえぇえぇ……ッ」 ついに堪えきれなくなったキャロが泣きじゃくり、フェイトが慰める ――その光景を眺めていた"彼"は状況は終わったと言わんばかりに、 背中にアサルトライフルをマウントし、ハンドガンを腰部に吊るす。 そしてちらりと全員の様子を見回して――なのはに視線を向けた。 恐らく、指揮官――少なくとも地位が高い存在だと気付いたのだろう。 (うーん……わかっちゃうのかな、やっぱり) 少しばかり苦笑を浮かべながら頷いてみせ、 彼の思考が正解である事を認める。 「あの……助けてくれて、ありがとうございました。 良かったら、貴方のお名前、聞かせてもらえないかな?」 その言葉に"彼"は少し待て、というように掌を突き出した。 *************************************** 「どうだ、コルタナ?」 《ちょっと待って――随分と言語が複雑なの。 ――大体、あんな光学兵器を操れる人間がいる事だけでも驚きなのに、 空まで飛べるなんて、馬鹿げてるとしか言いようが――……》 「…………」 《文句があるなら、貴方が未知の言語を翻訳してる所を見てみたいわ。 ――まったく、何よこれ。 ジャーマンとイングリッシュ、ジャパニーズが混ざってるなんて……。 ええと――お待たせ。これで良い筈》 *************************************** 「……言葉はこれで通じるか?」 しばらくして聞こえてきた声は、低く落ち着いた男性のものだった。 表情は金色に煌くバイザーのせいで読み取ることはできないが、 何となく第一印象通りの声だ、となのはは感じ取る。 「うん。大丈夫――ちゃんと通じているの」 「ならば其方の所属、階級、姓名を聞かせて貰いたい」 恐らくは、と"彼"は思考する。 ある程度以上に統率の取れた動きや、多少のアレンジの差はあるとはいえ、 ほぼ同一のモチーフで作られている制服。 そういった要素を鑑みて判断する限り、彼女達は何らかの組織に属している筈だ。 「所属は時空管理局本局、古代遺物管理部機動六課。 スターズ分隊長、高町なのは一等空尉です。 貴方の所属とお名前も教えてもらえるかな?」 ――時空管理局。古代遺物管理部。 そしてタカマチ・ナノハという名前。 《時空とはまた大きく出たわね。名前は――ジャパニーズかしら?》 脳内に響く女性の声――閉鎖通信に頷きながら、"彼"もまた自分の名前を口にする。 最も、恐らくは、これもまた――彼女にとっては理解できない単語の羅列ではあるだろうが。 「所属は国連宇宙軍海兵隊。SPARTAN-II-117」 そして、 「階級は――――マスターチーフだ」 ******************************************* 「状況完了、ってところやね。 何とかかんとか、死傷者が出ずに済んでよかったわ」 モニターに映る"彼"――マスターチーフの言葉を聴きながら、はやては大きく息を吐いた。 突如出現した未知の軍勢。謎の兵士。レリック。ガジェット。 あのエイリアンが、ガジェットと共闘しているのか、或いは偶然同時にあらわれただけなのか。 「あんまり良い状況じゃあ無いですけどね。 例の落着物――を狙ってだと思うんですけど、 未知の勢力が出たとなると……やっぱり管理外世界からでしょうか?」 シャリオがキーボードを叩くと同時、モニターに映し出されたのは、 先程まで行われていた戦闘の状況写真。 奇怪な装備――それも統一された――手に取り、統率を持ち、集団で行動している。 となると――……。 「軍隊、やろか?」 「わかりません。ただ――……通信を傍受したんですけど。 まだ解読や翻訳はできないですし、ノイズも酷かったんですが、 ちょっと気になる情報がありまして」 続いてモニターに映し出されたのは、一つの単語。 「解析できたのは、この言葉だけでしたけれど。 通信を傍受した結果、何度も何度も繰り返されているんです」 はやては、記憶していた。 聖王教会のカリムから齎された情報。 恐るべき予言。或いは管理局の終焉を告げる文書。 それを齎す、悪鬼の如き存在の名―― 幸いなるかな 忌むべき者ども 災いなるかな 死せる王よ 鉄の鎧 鉄の槍 鉄の意志 持つ 一人の 兵 によりて 数多の 海を 守る 法の船 中つ大地の 法の輪 打ち砕かれん 称えよ栄光 仰げよ武勲 伝えよ千年の後までも その名―――…… 「リクレイマー……ッ」 HALO -THE REQULIMER- LV1 [First contact] Fin [[戻る その他363]] [[目次へ REQULIMER氏]] [[次へ REQULIMER2話]]
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3561.html
愛有るが故に、時として非情にならなければならない。それが戦場なら尚更のこと。 それをいつまでも仲間だから、友達だから、と同情を引きずる戦士は居てはならない。 その戦士は必ず、一人のために大勢を犠牲にするからだ。そんなことはあってはならぬこと。 なのに、ここの戦士たちはそれを知らない。いや、知ろうとしない。まるで、高校の友達のように接している。 それがアイクにはにわかに信じ難かった。戦いを生業とする者が、いつまでもヘラヘラしていることに。 アイクの部隊は決してそんなことはなかった。 確かに、戦いが無い場ではこんな風に楽しく過ごしていたのだが、いざ戦いとなると、 お互いのことを決して心配しないようになる。自分の身は自分で守るしかないからだ。 そのことをこの模擬戦が終わったら伝えよう、そうアイクは思っていた。 せめてこのことだけは、と思っていたのだ。 しかし、模擬戦の後に伝えるのはもはや手遅れだと、アイクは感じることになる――――――――。 第7章「愛情と友情と」 「たぁぁぁっ!!!」 「でやぁぁぁ!!」 スターズの隊員となのはが空中で戦っている。今日の訓練のおさらいも兼ねているらしい。 ふと、セネリオは違和感を感じた。その正体は分からない。 ただ、何かが起こる――――――――――――そう感じた。 アイクはその違和感の正体に気付いているらしい。 「アイク、これは一体…?」 「セネリオ、ティアナをよく見てみろ。」 そういってティアナを顎でしゃくる。次いで、なのはをみる。 セネリオはまだその意味がわからないでいるようだった。 「一体どういうことですか?」 「……ティアナはこの模擬戦で一発もなのはの弾を相殺していない。」 セネリオとなのはの「撃った弾」を見る。 言われてみれば、確かにオレンジの弾はなのはの撃ったピンクの弾を狙わず、なのは自身を狙っている。 ふとその正面にスバルがやってきて、なのはを思いっきり殴りつけようとする。 (危ない!) 反射的に感じたアイクは体が少し前に出ていた。スバルを救おうとして、やめた。 今は彼女の訓練中だ。他人が余計な口をはさむのは許されないだろう。 無意識的に握ったラグネルを再び壁に立てかけ、フェイトやエリオ達と一緒に傍観をすることにした。 そんな行動をしている間に模擬戦は進んでいく。 ビルの屋上からティアナが砲撃を撃とうとする。砲撃は今の彼女には使えぬ代物だ。 皆が驚いている中、セネリオは危機感を感じる。 セネリオはなのはの葛藤を感じていた。 自分の思った通りに動いてくれないという苛立ちと、予想外の行動に出始める部下への焦りを。 このままでは危ない。セネリオが感じた刹那のことだった。 「一撃必殺!!」 クロスミラージュからオレンジの刀身がなのはを襲おうとする。 確かに、この高密度の魔力の刃を食らえばただでは済まないだろう。 だが、――――――――― 「………レイジングハート。モードリリース。」 杖の様なデバイスを引っ込める。 そして、スバルの拳とティアナの刃がなのはに当たった、様に見えた。 しかし、その拳も刃も、なのはに届くことはなかった。 なぜなら、 「…おかしいな。みんな…どうしちゃったのかな?」 なのははその両方を素手で受け止めていた。 アイクは戦慄する。食らえばひとたまりもないであろう攻撃を両方素手で食い止めたのだから。 さらに、なのはの醸し出す雰囲気も変わった。 それは殺気でもなく、怒りや憎しみでもなかった。純粋な悲しみ。今のなのはからはそれが感じられた。 「練習のときだけ言うこと聞く振りして本番でこんなむちゃするなんて…練習の意味…ないじゃない。」 拳を掴まれているスバルは恐怖を、デバイスを掴まれているティアナは驚きを感じた。 血を、流している…。 ティアナの心が罪悪感で満たされつつあった。 誰も傷つけたくないから、強くなりたい。そんな思いがあったから、彼女は今まで頑張っていたのだ。 だが、今は恩師を自分の手で傷つけている。その事実にティアナは大きく動揺し、涙をにじませる。 「私は!!誰ももう傷つけたくないから!!強くなりたいんです!!」 そう叫ぶティアナはどこか、己自身を断罪しているかのようだった。 まるで、罪人が神に許しを請うように。 「……少し、頭冷やそうか…。」 スバルにレストリクトロックをかけ、なのははティアナを狙う。 「ファントムブレイズ!!!!!!」 「クロスファイア…シュート。」 二つの魔力弾がぶつかり、相殺される。 ティアナは絶望したように立ち尽くすのに対し、なのはの攻撃はまだ終わっていなかった。 「よく見てなさい…」 スバルに言い放つ。 それは、仲間がやられる様を見ていろと言うのか。 それとも、彼女が罪人に正義の鉄槌を下す瞬間を見ていろというのか。 何にせよ、質問の時間は与えられなかった。 ドウッ!!! そして、二発目が放たれる。それは一直線にティアナへと向かって行き、そして―――――― 「くっ!!」 魔力弾が当たった時特有の轟音と爆発が起きる。 しかし、クロスファイアシュートを食らった時の声は明らかにティアナではなかった。 「…………」 アイクが無言でティアナの前にたたずむ。 その姿はまさに修羅だった。 「なぜ撃墜しようとした?」 「あなたには関係ないわ。どいて。」 冷たくなのはが言い放つ。並みの人間ならば、その一言だけで足が震えるに足るものだろう。 しかしアイクは歴戦の勇者。この程度ではびくともしない。 「…………」 しばし、無言の圧力が場を支配する。その間は永遠に匹敵するほど長く感じられるものだった。 そんな二人の醸し出す殺気と圧力にエリオときゃ路の二人は脅えきってフェイトにしがみついている。 「フェイトさん……」 キャロが不安げにフェイトに抱きつく。そんなキャロにフェイトは優しく言った。 「大丈夫。あの二人は私たちを悲しませるようなことは、絶対にしないから。」 そう言って二人の頭をなでる。だが、今の二人はまさに、一触即発だ。 きっかけがあれば、爆発する。 そんな様子だった。 「……裏切られるのが怖いか?」 静寂を破り、アイクがなのはに問いかける。 それは恨みや憎しみはおろか、悲しみさえも含まない感情のない声だった。 アイクは純粋にそれが聞きたかったのだ。 「…何が言いたいの?」 「お前は「今」が変わってしまうのが恐いのか、と聞いているんだ。」 その場にいる誰もが首をかしげる。 ただ一人、なのはだけはビクン、と肩を震わせ動揺を示していた。 「誰だって突然「今」が変わってしまうことには恐怖を抱く。 だから、部下にいつもと違うことをさせぬよう徹底させ、不変の日常を演じようとする…違うか?」 「あなたに何がわかるっていうの!?それがわかってるんだったら、どうして!!」 いつにもなく、なのはが大声を出す。相当動揺しているようだ。 そんな中、アイクはすっと目を閉じ、語り始めた。 「…俺がいた世界には、対をなす二人の女神がいた。 片方は絶対の秩序こそが争いを生まぬと信じ、世界中の人々を石に変え、世界に静寂と絶対の安定を作った。 もう片方は進化こそが人間の希望だと信じ、石にされなかった俺達とともに、その女神と戦う道を選んだ。 その後、その二人の女神は一つになり、「見守る。」という判断を下した。 …確かに、「今」が変わるのは怖い。だが、それが進化のためならば、俺たちは見守ってやるべきじゃないのか?」 アイクが懐かしく語りだす。 その様子は過去を懐かしく思うようであり、また、戦うことしかできなかった自分を悔やんでいるようにも見えた。 そんなアイクの言葉に耳を貸さず、なのははレイジングハートを起動させ、アイクに向けてアクセルシューターを放とうとする。 「だから何!?私のこと何も知らないくせに、そんなこと言わないでよ!!」 アクセルシューターが放たれた。 しかし、それはアイクに届くことはなかった。 ゴウッっ! 突然、アイクを覆うように竜巻が生まれ、アクセルシューターをすべて弾きだしてしまった。 「え……?」 スバルも、ティアナも、フェイトもエリオもキャロも、もちろんアイクも。 何が起きたのか、全く分からない様子であった。 竜巻が晴れ、辺りの景色が見やすくなる。よく見ると、アイクの前に小さな人影があった。 「…大丈夫ですか?アイク。」 そこにはセネリオがいた。しかし、様子がいつもと違う。 セネリオは怒っていたのだ。自分の最も信頼する人を傷つける人に対して。 そして、なにも語ろうとしない癖に、自分のことを理解してないくせに、という人に対して。 「なのはさん。あなたは何もわかっていない。では聞きますが、あなたはアイクの過去を知っていますか? アイクの背負っている物を知っていますか?僕のことを完全に理解しているというのですか? それが説明できない者に、そんなことを言う資格はありません。」 痛烈な言葉を浴びせるセネリオ。 だが、それはすべて的を射ており、反論の余地がない。 アイクは事実上、両親を目の前で殺されている。 しかも、母親を殺した人物は父親である。 そんな複雑な家庭を持ち、さらに傭兵団団長を務めているというのはあまり人には言えぬだろう。 セネリオもそこを察知して、あえて語らなかったのだろう。 その態度と言動にすっかり心を乱されたなのはは、 「今日の訓練はここまで」 と言い渡し、さっさと帰ってしまった。 時刻は9:30. ロングアーチの階段にティアナは座っていた。 (私…どうしたらいいんだろ…) ティアナは迷っていたのだ。 自分が変わっていってほしくないから、なのははティアナの変化を拒んだ。 しかし、アイクにはその変化を受け入れてくれた。 どちらかといえば、アイクに受け入れてもらえてうれしかった、と感じてしまう自分がいる。 それはいいことなのか、それともいけないことなのか。 そう考えていると、背後から声がした。 「ティアナ…」 不意にティアナは名前を呼ばれ、反応する。 そこに立っていたのはアイクだった。 「俺は何があろうと、お前を信じる。だから、変化を恐れるな。 何かを得るには、何かを捨てなければならない。今の自分を捨て、新たな事に挑戦しなければならない。 強くなりたければな…。だから、頑張れ。」 アイクも階段に座り、そう言ってくれた。 ティアナはアイクが心配してくれているのがうれしかった。それだけで自分は強くなれる気がする、そう思えるようになっていた。 「はい!…ありがとうございます。」 ティアナは戦士として、一人の女性としてアイクに例を告げた。 そして、気になっていたことを聞いてみた。 「アイクさん、セネリオさんはああ言ってましたけど、…過去に何があったんですか?」 決して安易に尋ねてはいけないであろう質問をするティアナ。 その質問にアイクはどこか複雑な豊穣を浮かべて話した。 「俺は………………」 「すみません…こんなこと聞いて。」 つらい過去を思い出させてしまったという自責の念に駆られるティアナ。 だが、アイクはそんなことはこれっぽっちも気にしていなかった。 「いや、俺の過去は俺のものだからな。俺が背負って生きていかなきゃならない。 だったら、拒絶するより受け入れるほうがいい。それを全部ひっくるめて、俺なんだからな。」 ティアナはしばらく絶句した。 なんて、強い人だろう…。 率直にそう感じた。 ここまでつらい過去を背負って尚、一人で生きようとする意志を持てる人間はそういないだろう。 百歩譲っていたとしても、その目標を達成するのは不可能に近いだろう。 「さて、俺はこれから寝るが、大丈夫か?」 「はい!ありがとうございました!」 いい笑顔で返事をするティアナ。 アイクはそれで少しは安心した。 「じゃあ、お休み。」 そう告げて、アイクは寝室へと戻って行った。 「ぐっ………」 ティアナと別れ、寝室に戻ってきたアイクは突然膝をついた。 理由は、全身を駆け巡る体の痛みだった。 「これが、加護の反発…。」 アイクが受けた痛みの正体は、体の中にあるアスタルテの加護t、ラグネルのユンヌの加護の反発。 お互いがお互いを倒すために作られた加護。 とはいえ、ラグネルを握っただけでこの痛み。 「これで戦ったら、どれほどの痛みが…が…」 さすがに、訓練などで体力を消耗していたからか、痛みで意識が混濁し、アイクはそのまま眠りに落ちてしまった。 to be continued..... 前へ トップへ 次へ