約 2,770,955 件
https://w.atwiki.jp/sakatsukuds2010/pages/420.html
ASボローニャ チーム編成 右の編集でデータを入力したあと、下の「新しい行として追加」にチェックを入れることで行が増えます 名前 国籍 コスト ポジ 備考 編集 コロンボ イタリア 4 GK - 編集 ビビアーノ イタリア 4 GK - 編集 - 編集 - 編集 ランナ イタリア 5 DF - 編集 モラス 東欧 4 DF - 編集 ボルタノーバ イタリア 4 DF - 編集 ブリトス 南米 4 DF - 編集 クリスティアン・ゼノーニ イタリア 5 DF - 編集 - 編集 - 編集 ムディンガイ 西欧 5 MF - 編集 ジャコモ・テデスコ イタリア 5 MF - 編集 ラベッキア イタリア 4 MF - 編集 グアーナ イタリア 4 MF - 編集 ボンバルディーニ イタリア 4 MF - 編集 ミンガッツィーニ イタリア 4 MF - 編集 バリアーニ イタリア 4 MF - 編集 - 編集 - 編集 - 編集 ディ・バイオ イタリア 7 FW - 編集 サラジェタ 南米 6 FW - 編集 アダイウトン ブラジル 4 FW - 編集 マラッツィーナ イタリア 4 FW - 編集 オスバルド イタリア 4 FW - 編集 抽出テーブル:テーブル-ASボローニャ
https://w.atwiki.jp/shomen-study7/pages/1205.html
ボローニャ大学
https://w.atwiki.jp/mishgardwiki/pages/468.html
ボロール変異体 登録者:バーボンハイム
https://w.atwiki.jp/cardxyz/pages/1551.html
サイス スペルカード コスト なし 使用者 [[大海恵]] このカードは使用者に装備し、[[アビリティ]]扱いで使用する。 1[[ターン]]に1度、使用者のMPを-1することで効果発動。 相手[[フィールド]]の[[キャラクター]]1枚、もしくは相手LPに1[[ダメージ]]を与える。 出典 金色のガッシュ!!
https://w.atwiki.jp/settei-matome/pages/25.html
【名前】 サイス 【読み方】 さいす 【所属】 ティオ 【登場作品】 金色のガッシュ! 【詳細】 「金色のガッシュ!」に登場するティオ第ニの術。 両手を振って前方に空気の鎌を発射する。 数少ない攻撃技ではあるが威力が弱く魔物相手にはろくなダメージが与えられない。 しかし人間相手には十分であるため本を狙って攻撃する際によく用いられる。
https://w.atwiki.jp/jwe2009cc/pages/98.html
クラブ名:Bologna FC 1909 本拠地:ボローニャ スタジアム:スタディオ・レナート・ダッラーラ(38,279人) オフィシャルサイト:http //www.bolognafc.it/ Gazzetta:http //www.gazzetta.it/Calcio/SerieA/Bologna/ Ps 09 09-10 10 名前 ST 20 85 85 - アダイウトン →FCヴァスルイ(ROM) ST 22 -- -- - パオネッサ →←ヴィチェンツァ(ITA) →パルマ(ITA)→チェゼーナ(ITA) CF 99 22 -- - オスバルド →エスパニョール(ESP) CF 41 41 41 - マラッツィーナ → CF 9 9 9 9 ディ ヴァイオ CF 44 -- -- - チステルニ →←フィリーネ(ITA) →スペツィア(ITA) CF 11 -- -- - ベルナッチ →←アスコリ(ITA) →トリノ(ITA) →引退 CF -+ 20 20 - ヒメネス ←リーベルプレート モンテビデオ(URU) ※未収録 CF -+ 25 25 - サラジェタ ←→ナポリ(ITA) →カイセリスポル(TUR) WG + 7 14 ピザヌ ←パルマ(ITA) ※未収録(08) ST -+ 89 - ヌセレコ ←フィオレンティーナ(ITA)←ウェストハム(ENG) →フィオレンティーナ(ITA)→1860ミュンヘン(GER) CF -+ 19 - ダヴィデ スッチ ←→パレルモ(ITA) WG + 69 メッジョリーニ ←ジェノア(ITA)←バーリ(ITA)←チッタデッラ(ITA) ※未収録 ST + 20 ヘンリー ヒメネス ←リーベルプレート モンテビデオ(URU) ※未収録 CF + 11 ガビラン ←ベティスB(ESP) ※未収録 CF + 35 パポーニ ←パルマ(ITA)←ペルージャ(ITA) ※未収録 DMF 26 26 26 26 ムディンガイ DMF 5 - ヴォルピ →レッジーナ(ITA)→アタランタ(ITA)→ピアチェンツァ(ITA) DMF 4 - アモローゾ →アスコリ(ITA) DMF 34 - コンファローネ →テルナーナ(ITA) CMF 25 5 5 5 ムタレッリ CMF 74 74 74 - ラヴェッキア → CMF 8 8 8 - ミンガッツィーニ → SMF 10 10 - ボンバルディーニ →アルビノレッフェ(ITA) SMF 2 - マルキーニ →トリエスティーナ(ITA)→リヴォルノ(ITA) SMF 7 7 - ヴァリアーニ →パルマ(ITA) SMF 3 - セーザル →ペシーナ ヴァレ デル ジョヴェンコ(ITA) SMF 77 - コエリョ →コリンチャンス(BRA)→アトレチコ ミネイロ(BRA) OMF 32 32 32 32 カザリーニ CMF + 4 4 - アッピアー ←無所属 →チェゼーナ(ITA) ※未収録(07) CMF -+ 14 14 - グアーナ ←→パレルモ(ITA) →キエーヴォ(ITA) CMF -+ 19 - ジャコモ テデスコ ←カターニャ(ITA) →レッジーナ(ITA) OMF + 11 - ヴィジャーニ ←→レッジーナ(ITA) WB -+ 30 - モデスト ←→ジェノア(ITA) SMF + 24 24 ブーシェ ←レッジーナ(ITA)←エンポリ(ITA) ※未収録(08) DMF + 15 ディエゴ ペレス ←ASモナコFC(FRA) DMF -+ ラドヴァノヴィッチ ←アタランタ(ITA)←ピサ(ITA) ※未収録(08) CMF + 4 クルヒン ←インテル(ITA) ※未収録 CMF -+ 12 エクダル ←シエナ(ITA)←ユベントス(ITA) SMF -+ 77 シリガルディ ←インテル(ITA)←トリエスティーナ(ITA) ※未収録 OMF ++ 7 デッラ ロッカ ←ペルージャ(ITA)←ブレシア(ITA)←サッスオーロ(ITA) ※未収録 OMF + ガストン ラミレス ←ペニャロール(URU) ※未収録 CB 14 - カステッリーニ →引退 CB 19 - テルツィ →シエナ(ITA) CB 18 18 18 18 モラス CB 6 6 6 6 ミゲル ブリトス SB 17 - ディエゴ ロドリゲス →ペニャロール(URU)→CAウラカン(ARG) SB 84 - ベッレーリ →レッチェ(ITA)→SPALフェラーラ(ITA) SB 21 21 21 - クリスティアン ゼノーニ → SB 23 23 23 - ランナ → CB -+ 3 3 - ラファエウ サントス ←→アトレチコ パラナエンセ(BRA) ※未収録 CB + 13 13 13 ポルタノーヴァ ←シエナ(ITA) CB + 50 50 - バッソーリ ←昇格 →フォリーニョ(ITA) ※未収録 CB -+ 84 84 - ラッジ ←パレルモ(ITA)←サンプドリア(ITA) →パレルモ(ITA)→バーリ(ITA) CB -+ 16 アンドレア エスポージト ←ジェノア(ITA)←レッチェ(ITA) SB + 3 モルレオ ←クロトーネ(ITA) ※未収録 SB + 8 ガリッチュ ←アタランタ(ITA) SB -+ 19 ルビン ←トリノ(ITA) SB + 21 ケルビン ←チッタデッラ(ITA) ※未収録 GK 12 - カンピローニ → GK 1 - アントニオーリ →チェゼーナ(ITA) GK 15 15 15 - ロベルト コロンボ →トリエスティーナ(ITA) GK -+ 1 1 1 ヴィヴィアーノ ←インテル(ITA)←ブレシア(ITA) ※未収録 GK + 28 28 ? スピトーニ ←アンドレアBAT(ITA) ※未収録 GK + 22 ルパテッリ ←カリアリ(ITA) GK + 44 フィリッポ ロンバルディ ←アスコーリ(ITA) ※未収録 基本フォーメーション 4-4-2 GK ヴィヴィアーノ CF ディ ヴァイオ CF サラジェタ CB ポルタノーヴァ (オスバルド) CB ミゲル ブリトス LMF ヴァリアーニ RMF ヴィジャーニ RSB ラッジ (テデスコ) (ゼノーニ) LSB ランナ CMF ミンガッツィーニ CMF グアーナ CMF グアーナ CMF ミンガッツィーニ LSB ランナ RSB ラッジ RMF ヴィジャーニ CB ブリトス CB ポルタノーヴァ LMF ヴァリアーニ (モラス) CF サラジェタ GK ヴィヴィアーノ CF ディ ヴァイオ ------------ └-------------- --------------┘
https://w.atwiki.jp/pokeyakata/pages/130.html
名前 サイス 種族 人間・調教師 性別 ♂ 年齢 25 身長 198.5cm 体重 85.3kg 備考 季節に関係なく黒いコートを着ている。 金髪で、背中の中間まで延びている。なので、頭の後ろで一つにまとめてある。 顔立ちは良く、歌手のような感じがする。 体付きも良く、引き締まっている…が、ムダ毛が多い。 縄で縛ってからの強姦が好みで、いつもコートの裏に縄を隠し持っている。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8904.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 九四 君が武器を取ると同時に、向こうも剣や拳銃を構え、にらみあいとなる。 双方とも動けずにいるなか、だしぬけにキュルケが口を開く。 「あなたたち、ロサイスに向かっているんでしょう?」と、 何気ない調子で言う。 「あ、ああ。それがどうした?」 隊長格の男が、君から目を離さずに応じる。 「それなら、町に入る前にその馬を処分しなきゃいけないわよね。あたしたちはちょうどいい取引相手だと思うんだけど」 「なぜ馬を処分する必要があるんだ?」 男は顔をしかめる。 「今ロサイスにいる連合軍は、誰もが先を争って、引き揚げの船に乗り込もうとしているわ。将校の物ならともかく、 兵隊の乗った馬まで連れて行く余裕なんてないでしょうね」 「それなら、市内で売り払えばいい。ロサイスの住人たちまで一緒に逃げ出すわけじゃないだろう」 「あの港町じゃ、まだ規律が生きてるわよ。その立派な馬に乗っているところを将校に見つかったら、ちょっと厄介なことになるかもね」 キュルケが意味ありげな微笑を浮かべる。 「ロサイスまでしばらく歩くことになるけど、今ここで売らなかったら、せっかくの馬をただで手放すことになるんじゃないかしら?」 男は黙って考え込む。 君たち三人はそれぞれ馬にまたがり、北に向かって進んでいる。 取引は成立し、傭兵たちは安値で馬を手放したのだ。 「あんたもとんだ悪党よね、キュルケ」 ルイズが呆れたように言う。 「なにが?」 「引き揚げの船もなにも、今のロサイスは港に近づくこともできない状態じゃない。それに、将校に捕まるですって? よくまあ、 あれだけでまかせがぺらぺらと出てくるわね」 「多少の嘘は、始祖だってきっと許してくださるわ。なんたって、あたしたちは世界の命運が懸かった、大事な任務を果たそうとしているんだから」 キュルケはにやりと笑う。 「あそこで馬を手に入れそこねてたら、今もとぼとぼと歩き続けているところよ? いいじゃない、あの人たちに損をさせたってわけでもないんだし」 「ときどき、あんたって子が恐ろしくなるわ……」 ルイズはかぶりを振る。四二一へ。 四二一 君たちは小高い丘の上にいる。 眼下には緑の草原が広がっており、その穏やかな眺めを前にしていると、ここが戦乱の地であることをともすれば忘れそうになる。 「もう、五十リーグは進んだわよね」 ルイズは鞄から折りたたんだ地図を取り出し、周囲の地形と見比べる。 懐中時計を持つルイズによれば、今は正午を少し過ぎた頃合らしいが、厚く垂れ込めた雲に陽が隠されているため実感はない。 ここまでの道のりですれ違った相手といえば、早馬を駈る伝令らしき兵士と、家財を満載した馬車に乗った避難民たちだけだ。 君たちは馬を木につなぎ、休憩と食事をとることにする。 体力点二を加えよ。 食事を終えた君たちは、ふたたび馬にまたがる。 しばらくの間は何事もなく進み続けるが、やがて、草原と森が接する所で何かが動いているのに気づき、身を乗り出す。 森から伸びた小道を通って小さな人影が現れ、よろめく足取りで街道に向かっているのだ。 君たちに気づいている様子はない。 隠れて通り過ぎるのを待つか(四八一へ)、それとも進み出て姿を見せるか(一六四へ)? 一六四 馬首をめぐらせ人影のほうに近づくと、相手が十歳ほどの少年だとわかる。 足を引きずるようにして歩いており、着ている服は泥まみれだ。 少年は、涙を湛えた目で君たちを仰ぎ見る。 君たちが口を開くより先に、 「助けて!」と哀れっぽい声を上げる。 「お姉ちゃんが、みんなが、危ないんだ! お願い、村へ来て! 助けて!」 この少年の話を聞くか(二三三へ)、それとも厄介ごとは避けて立ち去るか(六一へ)? 二三三 話を聞こうと馬を降りたルイズに、少年はすがりつく。 「早く、早く来て、貴族のお姉ちゃん! 急がないと、みんなが!」と懇願する。 「ちょ、ちょっと待って……」 身分の差もかえりみず必死に訴える少年を前に、ルイズは戸惑う。 そこへキュルケが進み出る。 「大丈夫よ、落ち着いて」 腰をかがめ、顔の高さを少年と合わせる。 「何があったのか、最初から話してちょうだい。お姉さんたちにわかるようにね」 「う、うん……」 少年はうなずく。 泣きじゃくりながら語られる話は要領を得ぬが、大筋はどうにか理解できる。 少年は森の奥にある小さな村の住人だが、その村に突如、大勢の武装した男たちが現れた。 襲撃は夜明け前に行われ、無法者どもは家に火を放ち、住民を生け捕りにした──難を逃れたのは、森に逃げ込んだ少年ただひとりだけだった。 なんとか逃げきったものの方向感覚を失って、暗い森の中を何時間もさまようことになり、やっとの思いで森を脱け出したところで、君たちに出会ったのだという。 話を聞き終えた君たちは、これからどうすべきかをひそひそ声で話し合う。 「残念だけど、今は寄り道なんてしていられないわよね」 キュルケの言葉に、ルイズが眉を吊り上げる。 「そんな、見捨てろっていうの!? あの子は、あの子の家族は、どうなるのよ! あんたには、情けってものがないの!?」 「ルイズ」 キュルケの表情がきっと引き締まる。 「あたしだって、こんな事は言いたくないわ。だけどね、ここは戦場なのよ。助けを必要としている人たちはいくらでもいるわ。それらをいちいち相手にしていたら、 いつまでたってもロンディニウム塔へたどり着けないわよ」 「で、でも……」 「それに」 口ごもるルイズに、キュルケは追い討ちの言葉をかける。 「村が襲われたのは、何時間も前の事よ。今ごろ向かったって、どうにもならないわ」 それを聞いて、ルイズの白い頬に血がのぼる。 「賊どもは村人を生け捕りにしてたって聞いたでしょ? どこへ連れ去るにしても、馬を走らせればすぐに追いつけるはずよ!」 「で、追いついてからどうするつもり? たった三人で何ができるっていうの?」 「わ、わたしの≪虚無≫を使えば、なんとかなるはずだわ」 ルイズは弱々しく言い返すが、キュルケのほうが何枚も上手だ。 「任務に関係ないところで、精神力を浪費するつもり? それは、どうあっても認めるわけにはいかないわ……カリン殿がここにいたならきっと、 あたしと同じことを言うでしょうね」 「だけど、だけど、わたしは……!」 煩悶するルイズを見て、君は『ロリアン』号船上での、カリンとのやりとりを思い出す。 「……しかしこの先、非情な決断を下さねばならない時が来るかもしれません。 あなたやわたくしはともかく、ルイズにそのような事ができるかどうか」 君が、優しいルイズは非情になれないだろうと答えると、カリンはこう言った。 「それが命取りにならねばよいのですが」 君は意見を述べることにする。 少年を連れて村へ向かおうと言うか(三〇二へ)、任務を優先して先へ進もうと主張するか(三七二へ)? 三七二 「あんたもキュルケと同じ意見なのね」 ルイズは悲しげな表情を浮かべる。 「わたしだって、理屈の上じゃそうするのが正しいって事はわかるわ。あと五日以内に≪門≫を破壊できなかったら、失われる命は村ひとつぶんじゃ済まない。 トリスタニアの都が炎に包まれて、それから、トリステインもガリアもゲルマニアも、ハルケギニアのすべてが敵の手に落ちてしまう。 ねえさまたちや、学院のみんなだって、どうなってしまうかわからない。寄り道してる暇なんかないことは、わかってる……わかってるけど、 そんなの納得できない!」 ルイズはそう言って君の目を見つめるが、君の意志は固い。 相手を説得できそうにないことを悟ったルイズは、目を伏せ、ぽつりとつぶやく。 「行きましょう」と。 君たちは馬の脚を速める──追いすがる少年の、悲痛な叫びに背を向けて。 「待って! 行かないで! みんなを助けて! テファお姉ちゃんを助けて! お願い、お願いだから!」 距離が広がるにしたがって声は小さくなり、やがて何も聞こえなくなるが、誰も振り返ろうとはしない。 先頭を行くルイズは顔をうつむかせており、キュルケの表情も重く沈んでいる。 判断を誤ったとは思わぬが、それでも罪悪感は消えず、君の胸は痛む(強運点一を失う)。三八八へ。 三八八 君たちは街道に沿って、北東へと馬を進ませる。 日の暮れが迫るにしたがい、もとより曇っていた空がなお暗くなり、周囲が見えづらくなる。 遠くから低い雷鳴が響き、顔には水気が当たる──今夜は雨になりそうだ。 「そろそろ、眠る場所を探したほうがよさそうね。宿屋とは言わないけど、雨風のしのげる所に泊まりたいものだわ」 キュルケの提案に、君も同意を示す。 ルイズは会話に加わらず、ただ黙々と手綱をとっている。 しばらく進むと遠くのほうに光を見出すが、どうやらそれは人家の灯りではなく、揺らめく炎のようだ。 数百ヤードの距離まで近づくと、それが荷馬車や幌馬車を円形に並べた野営地だとわかる。 街道から少し離れた空き地に火が焚かれ、周囲をいくつもの人影が歩いているのが見える。 「連合軍の輜重(しちょう)部隊かしら」 キュルケがつぶやく。 「あの馬車の中で眠らせてもらいましょうよ。このままだと、建物が見つかる前に雨が降ってきちゃいそうだわ」 君としては警戒心が先に立つ。 ≪門≫を使ったカーカバード軍の奇襲を受けて、連合軍の規律は崩壊したと聞く。 統制を失った兵士たちの一部は、山賊同然のありさまらしい。 野営地にいる者たちも、こちらが隙を見せれば牙を剥くかもしれぬ──若い娘たちが相手とあれば、なおさらだ。 野営地で一夜の宿を求めるか(五三五へ)、それとも迂回して他の寝床を探すか(三五三へ)? 五三五 野営地に入ってほどなく、周りにいるのがどういう連中かわかるようになる。 君たちを見つめているのは、手足や頭に包帯を巻いた、傷病兵たちだ。 シティオブサウスゴータの前線から、ロサイスに向けて後送されている途中なのだろう。 彼らのうち何人かは、キュルケを見て低く口笛を吹き、にやにやと笑う。 また別の者たちは、ひそひそと何事かを耳打ちしあっている。 君たちが挨拶を送り、ひと晩のあいだ厄介になりたいと申し出ると、兵たちは顔を見合わせる。 「ここには、貴族のお嬢さんがたがお泊まりになるような、立派な寝床はありやせんぜ?」 そう言ったのは、兜をかぶり、革の上着を身にまとった中年男だ。 肩に鉄砲をかつぎ、腰には短剣を吊るしており、背は高くないが頑強そうだ。 刀傷の痕が目立つ額の下では、抜け目のなさそうな眼が輝いている。 キュルケが男に向き直る。 「眠れさえすれば、細かい事は言わないわ。もちろん、お礼ははずむわよ」 男は顎を撫でながら考える。 「まあ、天幕の数をちょいと増やせば、幌馬車の空きは作れますがね」 「それで結構よ。さっそく準備してちょうだい」 「了解でさ」 男はそう言うと、君たちを馬車の一台へと案内する。 降りだした雨を避け、君たちは幌馬車の中で食事をとる。 キュルケは馬車の清潔さに問題があるとぼやき、ルイズに同意を求めるが、相手にされずにいる。 「調子狂うわね。タバサみたいに無口になっちゃって……」 そう言った後、君に向かってささやく。 「まあ、無理もないわよね。今日はいろいろあったから」と。 食事を終えて(体力点一を加えよ)馬車の外を眺めていると、雨の中、さっきの男が手招きしているのに気づく。 君が近づくと、男は小声で 「あんたに訊きたいことがあるんだが」と切り出す。 「あんたたち、本当は四人連れじゃないのか? あのお嬢さんたち以外に、騎士がひとりいなかったか?」 君は、肩を震わせそうになるほど驚く。 なぜこの男が、君たちの旅にカリンが同行していた事を知っているのだろう? 疑念が浮かぶが、君は何気ないふりを装う。 どう答える? その通りだと答え、なぜそれを知っているのかと問いただすか?・四八九へ しらを切り、自分たちは最初から三人だったと言うか?・四三六へ 四八九 「やっぱりあんたたちだったか!」 男はにっと笑う。 「若い女のふたり連れが、あんたたちのことを探してたぜ。どういう関係だい?」 君は戸惑う。 『若い女』とは誰のことだろう? 気になった君は、ルイズとキュルケにも話を聞かせようと、男を馬車に連れていく。 「自分はニコラ軍曹といいます。この輸送団列の、護衛小隊長を務めとります」 男は兜を脱ぎ、一礼する。 「あなたがたの事を尋ねられたのは、四時間ほど前のことでした」 ニコラは語りだす。 「うちらの車列は、南から来たふたり連れ──それぞれ馬に乗っておりました──とすれ違おうとしたんですが、ふたりのうち片方が、こう言ってきたんです。 『鉄の仮面を着けた騎士、貴族の娘がふたり、そして平民の男がひとりの、四人連れを見なかったか?』ってね」 「そのふたり連れは、どんな姿だったの?」 キュルケが尋ねる。 「どっちも若い女……失礼、娘さんでしたが、話しかけてきたのは、背が高くて年上のほうでさ。金髪を短く切りそろえてて、瞳の色は青。 鎖帷子を着込んで剣を差してましたから、おそらくうちらの同業者──つまり傭兵でしょうな」 キュルケは首を傾げる。 「心当たりないわね。あなたは?」 そう問いかけられた君も、知らぬと答える。 「もうひとりは?」 「年のころは二十歳前、たいそうな別嬪さんでさ」 ニコラは笑みを浮かべる。 「黒い長衣を着て頭巾を目深に被ってましたが、それでも、ちらちらと顔や髪が見えましてね。白い肌に青い瞳、髪は栗色でした。ああ、そうそう。 えらく育ちが良さそうに見えましたね。それも、並外れた気品があるとでもいいやしょうか……とにかく、普通の貴族様とはどこか違った雰囲気でさ」 「ねえ、それってまさか……」 キュルケの言わんとする事に気づいた君は、無言でうなずく。 「白い肌……青い瞳……栗色の髪」 話しの間ずっと押し黙っていたルイズが、うわごとのようにつぶやく。 「普通の貴族とは違った気品……もしかして」 ルイズの目が見開かれる。 「姫さ、わぷっ!?」 ルイズの口を塞いだのは、電光の勢いで伸ばされたキュルケの掌だ。 「どうかなさいやしたか?」 怪訝な顔をするニコラに、キュルケは 「なんでもないわ。そうね、その貴族の子は、確かにあたしたちの友達よ。ロサイスではぐれちゃって、心配してたの。 一緒にいた騎士様は、まだロサイスに残って、あの子を探しているはずだわ」とごまかす。 「それで、そのふたりはどうしたの?」 「へえ、うちらが誰もあなたがたの事を知らないとわかると、すぐに街道を北へ進んで行きました。この先は危険だぞ、と声をかけたんですが、 お構いなしに走り去っちまったんでさ」 「なるほどね」 キュルケが呆れたような表情を見せる。 「あの子ったら、あたしたちに置いていかれちゃったと思って、先を急いでいるのね。明日は急いで出発して、追いつかなくちゃ」 「それがよろしいかと」 ニコラは相槌を打つ。 「ところで、この先に何のご用で? シティオブサウスゴータに向かうつもりなら、危険ですからおやめになったほうが……」 「それは、あなたには関係のない事ね」 キュルケが冷たい口調で言い放つと、ニコラは 「これはとんだご無礼を」と頭を下げる。 話を終えたニコラは、雨の中へと出て行く。 「おかげで心配の種が減ったわ。ありがとう!」 遠ざかるニコラの背中にキュルケが声をかけるが、実際のところ、心配事は増えている! 二七へ。 二七 君たちは蝋燭の灯りを囲んで、アンリエッタ王女の身に何が起きたのかと話し合う。 「『ロリアン』号は出港できなかったのね。敵の攻撃を受けて」 ルイズは眉根を寄せる。 「船を降りてロサイスから脱出したお姫様は、逃げ出した市民や兵隊たちと一緒にいようとはせず、あたしたちと合流しようと考えた。 あたしたちが、カリン殿を探して町の外に残っているとも知らずに」 キュルケも真剣な表情を見せる。 「そして、どうやってか知り合った女剣士と一緒に、わたしたちに追いつこうと馬を走らせたのね。こうしている今も、 このアルビオンで心細い思いをしておられるだなんて……」 おそらく、ルイズたちの考えているとおりなのだろう。 君はロサイスの西門で聞いた噂話を思い出す。 ──ふたり連れの若い女が町を離れ、シティオブサウスゴータへと向かう街道を北上していった。 あれは、アンリエッタとその護衛のことだったのだ。 「恋人会いたさに密航するわ、戦乱の地をたったふたりでうろつくわ……あのお姫様って、大胆すぎるわよね。あたし、負けちゃいそう」 キュルケが苦笑いを浮かべる。 「とにかく、早く休みましょう。明日は日の出の前に出発して、姫さまに追いつくわよ!」 ルイズはそう言い放つと、蝋燭を吹き消す。 君はふと眼を覚ます。 浅い眠りを破ったのは、雨粒が幌に当たる音でも、遠くで響く雷鳴でもない。 別の何かだ。 やがてそれの正体がわかる──ルイズの寝ている方から聞こえてくる、低いうめき声だ。 悪い夢でも見て、うなされているのだろうか? 寝ぼけまなこをこする君の耳に、今度は意味をなす声が飛び込んでくる。 「母さま、だめ……行かないで……魔法が効かないのに……」 ルイズは眠りながら、混乱の中ではぐれてしまった母親の身を案じているのだ。 横になったまま、どうしたものかと思案していると、もぞもぞと毛布が動く音とともに、別の声が聞こえてくる。 「大丈夫よ、ルイズ。ほら、あたしがここにいるから」 声の主はキュルケだ。 どうやら彼女も、ルイズのうめきで眼を覚ましてしまったようだ。 「母さま……」 キュルケが何をしたのかはわからぬが、ルイズの寝言はおさまり、静かに寝息を立てるようになる。 翌朝早くに目覚める。 睡眠をとったので、体力点に三点を加えてよい。 あいかわらず空は暗いが、旅を続けるのに支障はないし、雨も上がっている。 ふたりを起こそうと振り向いた君は、思いがけぬものを目にする。 キュルケが昨夜、うなされるルイズに何をしていたのかが明らかになり、君は思わず笑みを漏らす。 互いの手を握り、寄り添って眠るふたりの姿は、まるで母と子のようだ。八へ。 八 ニコラたちに別れを告げ、野営地をあとにする。 昨夜の雨で道がところどころぬかるんでいるが、君たちを乗せた馬は、何の問題もなく駆けていく。 シティオブサウスゴータに近づくにしたがい、道をすれ違う人の数が増えていくことに気づく。 人々は、騎馬で、馬車で、徒歩(かち)で、南へ向かっているのだ。 多くは市民や農民だが、兵士の姿もちらほらと見かけられる。 武器を持つ者も持たぬ者も、同じように憔悴した顔つきをしており、君たちに声をかける者もいない。 彼らの多くが目指しているであろうロサイスもまた、安全とはほど遠いありさまだが、それを教えてやったところで無意味だろう、と君は考える。 陰鬱な雰囲気に影響を受けてか、ルイズとキュルケも口を開かない。 ただ黙々と馬を走らせる。 君たちは街道沿いの草原で休憩し、食事をする。 体力点二を加えよ。 「この調子なら、夕方にはシティオブサウスゴータに着きそうね」 地図を手にしてルイズが言う。 「それまでに姫さまを見つけられればいいんだけど。町の中に入られたら、探すのも一苦労よ」 「町が持ちこたえていればの話だけどね」 キュルケの言葉に、ルイズは怪訝な顔つきをする。 「どういう意味よ?」 「≪門≫を使った攻撃をもう一度受けたら、きっと総崩れの大敗走になるわよ──ロサイスみたいにね。そうなったら街道が敗軍で埋め尽くされて、 人捜しどころじゃなくなるわ」 ルイズの表情がこわばる。 「フォン・ツェルプストーにしては、ずいぶん悲観的な物言いじゃない」 「誰だってこうなるわよ……この『黒の国』を目の当たりにすればね」 キュルケは小さく溜息をつく。 君たちは旅を続ける。 しばらく進むと、街道から五十ヤードほど離れた草地に、誰かが倒れているのを見つける。 近づいてみると、兜をかぶり胴着をまとった兵士だとわかる。 顔を地面に突っ伏し、微動だにしない。 胸から背中に矢が突き抜けている──物盗りの仕業だろうか? ルイズは恐怖と嫌悪に眉をひそめ、 「わたしたちにしてあげられる事は何もないわ。早く行きましょう」と、 君を促す。 君は死体を調べてみてもよいし(三二五へ)、構わず先を急いでもよい(五六八へ)。 三二五 死体の頭を持ち上げて、泥に汚れた顔を覗き込む。 それは若い男だが、君たちの見知った人物ではない。 拍車の付いた長靴を履いているので、馬に乗っているところを襲われたようだ。 見たところ、何ひとつ所持品がない──彼に矢を放った襲撃者が、乗騎を含めてすべて持ち去ってしまったのだろう。 もう少し調べてみようと死体の懐を探った君は、指先にべっとりと血が付いたので、思わず毒づく。 「ちょっと、もういいでしょ」 ルイズが抗議の声を上げる。 「これ以上は死者への冒涜になるわ。持ち物をあさるだなんて浅ましい事はやめて、先に進みましょうよ」 「あたしも賛成ね」 そう言ったキュルケの視線は、ちらちらと街道のほうに向けられている。 「こんな所を誰かに見られたら、あたしたちが犯人だって思われちゃうわ。長居は無用よ」 ふたりの言う通りにしてこの場を立ち去るか(五六八へ)、それとも、あくまで死体から何かを見つけ出そうとするか(一〇四へ)? 五六八 数時間にわたり進み続けるうちに、陽が翳(かげ)ってくる。 丘を登り頂に立つと、背の高い城壁に囲まれた立派な都が、数マイル先に姿を現す。 「あれがシティオブサウスゴータよ」 ルイズが君に説明する。 「始祖ブリミル降臨の地との言い伝えがある、アルビオンでもっとも伝統のある古都。ロンディニウム塔までは、あと六十リーグくらいかしら」 「でも、その六十リーグが長くなるんでしょうね」 キュルケが肩をすくめる。 「あそこから先は、馬から降りて徒歩で進まなくっちゃいけないんでしょ? それも森の中、敵の眼を避けながら」 それを聞いたルイズの顔に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。 「なによキュルケ、泣き言? 嫌だったら、都に残って待っててもいいのよ」 「冗談おっしゃい」 キュルケは鼻を鳴らす。 「あなたこそ、柔らかいベッドが恋しくなってきたんじゃなくって?」 「大事な任務の最中に、そんなこと考えるわけないでしょ!」 食ってかかるルイズから顔を逸らし、キュルケは君のほうを見つめる。 「そう? あたしは恋しくなってきたわ……素敵の殿方のぬくもりが、耳元で囁かれる睦言(むつごと)が。ああ、我慢は体に毒だわ」 「はぁ?」 あっけに取られたルイズに、キュルケは言う。 「ねえルイズ。あなたの使い魔さん、一晩だけ貸してくださらない?」と。 「ふ、ふ、ふざけんじゃないわよぉ!」 ルイズの叫びが、アルビオンの空に響きわたる。 日没の迫る刻限のため、もはや難民たちとすれ違うことはない。 都の門まであと二百ヤードほどの所で、君たちは呼び止められる。 相手は、それぞれが腰に剣を差した四人組の傭兵だ。 彼らが興奮した様子で手招きするので、君たちは馬を寄せる。 「夜になる前に会えてよかった。貴族のお嬢さんと女剣士が、あんたらの事を探していたぞ!」 傭兵のひとりが、君たちに告げる。 「ほんと!?」 ルイズが身を乗り出す。 「ああ、ほんの二十分ほど前のことだ。俺たちが知らないと答えると、ふたりは都に入ろうとはせず、森の中へ行っちまった」 傭兵が指し示した小道は、暗い森の奥深くへと分け入っている。 「どうしてそんな所に……」 「森で野宿するつもりなんだろう。今のシティオブサウスゴータは物騒だからな。外のほうがまだ安全だ」 傭兵は、君たちを値踏みするような目つきで見る。 「俺たちはこの森の中を何度も通っているから、野宿に向いた場所も知っている。案内してやるよ。もちろんただじゃあないがな。 案内料は九エキューだ」 申し出を受けるか(二三一へ)、無視して森の中へと進むか(一三一へ)、それとも彼らの言うことを信用せず、都の門へ向かうか(二八二へ)? 一三一 君たちの乗った馬は、暗い森の小道を駆け抜ける。 道は曲がりくねっているが、一本道なので迷うことはない。 半マイルほど進むと空地にさしかかる。 そこで見たものは、意外な光景だ。 空地の中央ではふたりの若い女が、後ろ手に縛られた姿で引き据えられており、その周りを十数人の武装した男たちが取り囲んでいる。 確かに、アンリエッタ王女とその同伴者は、この森に居た──盗賊どもの捕虜として! 何人かの盗賊が死体となって地面に転がっているところを見ると、ふたりは激しく抵抗したようだ。 君たちの出現は予期せぬものだったらしく、彼らは驚きの表情でこちらを振り向く。 状況を一瞬で理解したルイズは、 「姫さま!」と叫ぶと、 大胆にも盗賊たちの作る輪の中に馬を突っ込ませ、彼らを蹴散らす。 「まったく、無茶するんだから!」 言葉とはうらはらに、楽しげな口調でそう言うと、キュルケは落ち着き払った態度で呪文を唱える。 混乱から立ち直った盗賊たちはルイズに武器を向けようとするが、キュルケの放った炎で手足を焼かれ、悲鳴を上げて転げ回る。 君は、首領格らしき背の高い男に迫る。 相手は 「くそったれめ!」と毒づくと、 懐から短い杖を取り出す。 この男は魔法使いだ! どの系統の術を使うかはわからぬが、素早く対処せねばならない。 君は武器で斬りかかるか(九〇へ)? それとも魔法を使うか? FOG・七三九へ NAP・六五七へ POP・六九九へ BOM・五八八へ ROK・六二七へ 六九九 体力点一を失う。 小石は持っているか? なければ、この術は使うだけ時間の無駄だ。 君がもたついている間に、盗賊の首領は呪文を唱える。一一〇へ。 持っているなら、術をかけて投げつけてよい。 長身の男は小石を払い落とそうとするが、当たると同時に小石は破裂し、傷を負わせる。 敵がひるんだ隙をのがさず、君は決着をつけようと、武器を構えて進み出る。 盗賊の首領 技術点・七 体力点・九 相手の体力点を三まで引き下げることができたら、情けをかけてもよい。 助けてやりたいなら、三四〇へ。 そのまま闘い続けるなら、倒したあとで、三一三へ。 三四〇 武器と杖を捨てねば、とどめを刺すぞと君は脅す。 男は言われたとおりにし、慈悲を乞う。 「命だけは助けてくれ! 俺は盗賊じゃない、まっとうな傭兵だ。あんたらの仲間には何もしていない。全部、他の奴らが勝手にしたことで、 俺は見ていただけなんだ!」と訴える。 他の盗賊どもより身なりのいいこの男が盗賊の首領であり、部下たちを動かして、アンリエッタとその同伴者を捕らえたことは間違いない。 君は、嘘をつくなと怒鳴りつける。 君の剣幕にすくみ上がった男は、 「そ、そうだ。いい物をやろう」と言って、 一枚の羊皮紙を取り出す。 「これは連合軍の秘密文書だ。≪レコン・キスタ≫に変装したアルビオン王党派を、見破る方法が書かれている。 ウィンプフェン参謀長の署名つきの、まぎれもない本物だぞ。こいつを≪レコン・キスタ≫に渡せば、たっぷり褒美が貰えるはずだ」と言って、 へつらいの笑みを見せる。 男は、そのような重要な物を、どこで手に入れたのだろう? 奇襲を受けて混乱した司令部から盗んだのか、あるいは使者を殺して奪ったのか。 なんにせよ、元は傭兵とおぼしきこの男は、秘密文書を手土産にして敵に寝返るつもりだったのだろう。 君は羊皮紙を奪うと、卑劣な男を剣の柄で殴って気絶させ、手近な木に縛りつける。 他の盗賊どもはキュルケの炎を受けて逃げ散ったので、君は武器を納める。 「相棒、ちょいとそいつを見せてみな」 デルフリンガーが君の代わりに文書を読み上げる。 「ほうほう、『ロンディニウム近郊に潜伏する王党派の一部は、倒した蛮族から奪った甲冑を身に着け、敵の斥候(せっこう)に擬装しているが、 首に青いスカーフを巻いているので、識別は容易である』だとさ。 カーカバードの兵隊に出会っても、あわてて襲いかかっちゃいけねえってこったな。ふむ、合言葉も書いてあるな。≪ロイヤル・ソヴリン≫か」 この先、カーカバード兵に変装したアルビオン王党派と思える相手に出会ったなら、その時の参照項目の番号から四〇を引き、新たな参照項目へ進め。 君はルイズたちのもとへと向かう。一三五へ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4363.html
前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第19話(実質18話) スカボロー駐留艦隊を下したトリスティン艦隊はアンリエッタの演説の後、 褒美としてスカボロー艦隊司令部から奪った金貨の一部と酒を将兵に配った。 褒美は、元レコンキスタ将兵にも分け与えられ、忠誠を確かなものとした。 交代で兵達を休ませるよう命ずると、アンリエッタは自室に戻る。 今回の演説も恥ずかしかったようだが、日が沈みランプと魔法の明かりで 照らされたアンリエッタは、多少顔色が赤くなっていても目立たない。 「ケータ殿は、こんな事まで計算していたのかしら?」 「さて、私にはわかりかねます。」「きゅ~~?」 アンリエッタの疑問に、律儀に答えるマザリーニだ。 「ケータなら、このくらいの先読みと打算は当然だと思いますわ、姫様。」 ルイズが、得意そうに言った。 「毎回姫様に演説させているのは、士気を上げるためと、兵が姫様への忠誠を 確実にすることと、兵へのご褒美として高貴な王族から直接賞賛を受けるのと、 姫様の場慣れの訓練。今後の大まかな予定を知らしめる、という目的があるかと。 当然、ご褒美の金貨を今与えたのも、計算のうちだと思います。スカボローには 硫黄を買うお金が山ほどあるはずだって最初から言ってました。3回分の ご褒美を1回で済ませられて。アルビオン将兵の買収の意味も持ちますし。」 今頃、出航禁止を言い渡された商人や船長達は、スカボローに運んできた荷物、 スカボローから運び出す荷物、人員名や目的地、期限、など等を書いた書類を 書いていることだろう。ラ・ロシェールで船の出航許可を申請するために 必要だった書類だ。それが異端審問の証拠として使われたことはまだ 伝わっていないはずであり、素直に提出するだろう。その後、黄金並みの 値段で取引される硫黄の商人達から、膨大な量の黄金を搾り取り、船を没収。 他の物資についても没収できるだろう。膨大な戦利品が手に入る。 ある意味、この戦争はすでに勝利したといっても良い。 戦争とはつまるところ経済活動であり、利益が出れば成功なのだ。 膨大な資金と物資、運輸に役立つ船の入手。このまま行けばトリスティンは 今後大きく発展するだろうことは間違いない。 そして、まだ啓太以外に気づいていないことだが、ガリア王ジョゼフの野望を 大いに躓かせてもいた。ジョゼフは高値で硫黄を売りつけると共にレコンキスタへ 購入資金を提供…多くは貸与という形で…することで値段を維持させて来た。 つまりは、儲けから搾り取った税金のかなりをレコンキスタに供給することで 黄金並みの値段で硫黄を売りつけていたのだ。さもなくば、 こんなばかげた高値で硫黄が売れるはずが無いのである。 資金の円還。 その一部を断ち切り、流れる金をトリスティンに回した事により、 ガリア商人達は大いに困り、しばらく後に破産するものも続出することになる。 硫黄で儲けた金は、とうの昔に支払う予定の決まった金であり、 それが滞ることで債務不履行が連鎖する事になったのである。 経済の安定によって国力を増すことで支持を受けてきたジョゼフにとって、 これは実に痛い攻撃であった。戦争資金の調達予定も大幅に狂っていく事になる。 厨房からおやつのプリンが届いたすぐ後にマザリーニは呼ばれて出て行き、 次いでともはねと啓太が戻ってきた。タバサも一緒である。 啓太は自分の執務室(口の堅くて頭のいい武闘員達のたこ部屋)に行っていた。 戻ってくると色々な書類を持っている。 「姫殿下、今マザリーニ枢機卿にも渡しましたが、これがレコンキスタ スカボロー艦隊を取り込むに際しての演説草稿です。ご確認ください。」 「ええ。ケータ殿。プリンが届きましたの、食べながら話しませんか?」 アンリエッタは、書類を受け取るとかわりにプリンを手渡してやった。 「おや、姫殿下じきじきにおやつをいただけるとは、これはうれしい。 味わいも格別でしょうな。何よりの褒美にございます。」 啓太は、わざと大仰にうれしがって見せた。 「! い、いいえ、ただ渡しただけですわ。」 アンリエッタは何かに気づいたようだ。 「はい、シャルロット様。はい、ともはねちゃん。」 「…ありがとう、アンリエッタ様。」 「わ~~い、プリンプリン!」「きゅ~~(俺も分けてくれ)」 タバサが、ほんのりと笑みを浮かべる。ともはねがぴょこぴょこはねる。 ツインテールと尻尾がそれにつれて上下に揺れる。 アンリエッタは、啓太の意図を正確に理解した。こういった些細なことでも、 大きなご褒美になる事があるのだ、と。 「時にケータ殿。今回もスカボロー港でも、伝令を逃がしましたが、 良いのですか? 最初の戦いでは絶対に情報を漏らすな、と厳命しましたのに。」 「良いのです。最初の戦いでは大砲の新戦法を試しました。 それをばらすわけには行かなかった。今回は見せていませんからね。」 そんな戦術論を話しているアンリエッタと啓太である。 一方タバサは、プリンをじっと見つめて考え込んだ。 啓太の袖を引き、一口目を食べようとしていたところに訴えた。 「ご褒美は?」 ルイズ、ともはねのテンションが急降下した。部屋の温度が数度下がる。 「ああ、ゲルマニア竜騎士団攻撃作戦とその後の戦闘のか。1騎捕まえて 1騎落としたんだったよな。規定の金額はもう渡されたはずだけど、 それ以外のご褒美だよな?」 うなずくタバサに、啓太は頭をなでなでしてやった。 タバサは目を細めて気持ちよさそうにしている。 「ああ! ず、ずるいです、ともはねも一杯働いたのにご褒美もらってません! 啓太様と14騎も倒したんですよ! ご褒美ください!」 啓太は、プリンをテーブルに置くと反対の手でともはねの頭をなでてやった。 ともはねも気持ちよさそうに目を細める。 「ケータ! 私は!? 私にもご褒美!」 ルイズも騒ぐ。アンリエッタ王女もうらやましそうに見ている。 「ルイズ。お前は姫殿下の後ろに控えてただけだろ。」 「うっ! そ、それは、でも…」 ルイズは、うんうん悩み始めた。 (「確かに何にもしてない。今の私じゃ、手柄を立てる手段が無いわ。 危険な戦場に来たのに! なんとか、何とか方法を考えないとご褒美が!」) ↑目的が摩り替わってます! 悩むルイズを尻目に、つい、とアンリエッタも頭をさしだした。 少し恥ずかしそうに上目遣いで啓太に訴える。 「あの、私も恥ずかしい演説をがんばったのですから、ご褒美を。」 王族であるために庶民的に甘えた経験が少ないゆえか免疫が無かった故か? アンリエッタは、甘えることにある種目覚めてしまったらしい。 マザリーニを初めとする大人達がいない場所でならいいようだ。 「少しだけですよ?」 啓太は、素直に頭を撫でてやった。 なでなで。なでなで。なでなで。 その手は、順番から言って当然ながらタバサの頭から移動したものであり。 一通り撫でてやった後、タバサがまた啓太の袖を引いた。 「(くいくい)もっと。」 それは、もっと頭を撫でてほしい、というだけの要求だった。 しかし啓太は、さらに別のご褒美がほしい、という意味だと解釈した。 ふと見ると、脇のテーブルにはまだ食べていないプリンが。 「はい、あ~~ん。」 「!! ……(はむ)」 タバサは数瞬悩んだが、啓太の前だとなぜだか素直に甘えられる気分になる。 素直にプリンを食べさせてもらった。当然、ともはねは嫉妬全開である。 「あああああああ!! ずるいずるいずるい!! そんなうらやましいこと、 私だって数えるくらいしかして貰ってないのに! 私も私も私も!」 地団駄踏んでくやしがるともはね。2口ほど食べさせた後、自分でも一口食べた 啓太は、ちょっと困惑した。タバサは、間接キス、と述懐して赤くなっている。 「ともはねにやる分のプリンはもう無いからな。厨房に行ってもらってくるか。」 ともはねの分のプリンを食べさせるのではこの場合ご褒美にならない。 「無かったらどうするんですか!」 「む、そうか、その可能性もあるか。」 「だいたい、プリンならまだあります!」 びしっと指差すともはね。食べかけだが、確かに啓太の手にある。 「これでいいのか? ほら、あ~~ん。」 「わ~~い! あ~~ん!」 実に幸せそうなともはねである。アンリエッタは、さすがにそこまではしない。 それを見ていたルイズは。ついに一大決心をした。 「姫様! ルイズ一生のお願いがあります! どうか、私に始祖の祈祷書を お貸しくださいませ! どうしても、どうしても必要なのです!」 鬼気迫る様子のルイズである。ルイズ達は以前、虚無魔法の呪文書に 心当たりが無いかオスマンに聞き、あっさりと始祖の祈祷書を教えられた。 1冊しかないはずなのに、集めれば図書館が出来るほどハルケギニア中に あると言われるまがい物のどれか一つは本物であり、6000年前、 始祖が神に祈りをささげた際に読みあげた呪文が記されているとされる。 身近なところではトリスティン王家も所蔵している、と。 「ええ、いいですわよ。」 あっさりと、あまりにもあっさりと承諾され、ルイズ達は固まった。 アンリエッタは、部屋の隅にあった作り付けのロッカーから厳重に魔法で 封印された箱を取り出すと、呪文を唱え杖を振った。 蓋が開き、中からものすごく古めかしい1冊の本が出てくる。 「我が王家に伝わる『始祖の祈祷書』です。ガリアの始祖の香炉、アルビオンの 始祖のオルゴール等と並んで始祖に与えられたと伝えられる秘宝です。 わが国では、王族の結婚式で貴族から選ばれた巫女がこの『始祖の祈祷書』 を手に式の詔を読みあげる慣わしになっています。詔を考えるのは、巫女。 ウェールズ皇太子との結婚に尽力してくださるとケータ殿が 請合ってくださったのですもの、早めに考えておきませんとね。 さすがは博学なルイズ、ちゃんとわかっていましたのね。 私も、あなたに巫女になって欲しいと思いますよ。結婚式まで、 『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詔を考えてくださいね。」 現在、出征しているトリスティン貴族の女性でなおかつ処女なのは ルイズだけである。アンリエッタは、その事に思い至ったルイズが、 巫女を志願し、ひいてはウェールズとの結婚に協力しようとしてくれた、 と解釈したようである。 「は、ははは、はい! 誠心誠意、勤めさせていただきます!」 ルイズは、頭がいいだけにそれらの事をすぐ理解し、遅滞無く引き受けた。 が、目的は別にある。失敗魔法で攻撃するという情けない状況を打破し、 強力かつ有益な虚無呪文を習得して活躍し、啓太にご褒美をもらうためである。 なんだか変な目的になってしまっているがルイズは気にしない。 早速ページを繰り出すルイズ。一方啓太は、頭を抱えて聞いた。 「姫殿下。もしかして、ウェールズ皇太子との結婚、最初から狙って 親征いたしたのですか? すぐに結婚式挙げられるようにと持ってきたと。」 「ええ、そうですわ。」 アンリエッタは、澄まして答えた。啓太が自ら動かなくては何も手に入らない、 自分から掴みにいけ、と教えたのである。それを実践したまでだ。 「さ、さすが王族!?」 啓太はうなった。恐るべき学習速度とバイタリティである。 「そういえば、おん年17歳ですでに水のトライアングルでしたな。 それだけの努力もしているわけですか。頭も良く機転も利く。もう10年、 いえ、5年も齢を重ねれば、押しも押されぬ女王となられましょう。」 啓太は、アンリエッタの信用を得て、脇から軍政に口を出して、という心積もり であった。しかし、その予定は大幅に変えたほうが良さそうな気がしてきた。 かわいい顔に似合わず、かなりしたたかだ。 そのときである。 「ひ、姫様。この本、最初から最後まで白紙なんですけど!?」 戸惑いと落胆とやはりそうだったか、という嫌な予想の当たったような声。 ルイズが開いて見せたページは、完全な白紙。パラパラとめくってみせる その他のページも同様だ。総数300Pほどの始祖の祈祷書は、 まがい物と呼ぶのもはばかられるほど出来が悪い…ように見えた。 「ああ、それですの? まあ、仕方ありませんわ。とにかくその 白紙のページを見ながら詔を考える伝統なのですもの。」 「やっぱり、昔からこうなのですか、姫様?」 「ええ。」 二人の会話は、当然の結果を確認するような、そんな調子である。 だが。啓太とともはねは違った。 「くんくん。姫様、これ、触ってみてもいいですか?」 「ふむ。俺も、調べさせて欲しいのですが。」 アンリエッタが許可すると、二人は目を眇めたり瞑想したり匂いをかいだりと 思い思いの方法で本を調べ始めた。アンリエッタもルイズも、 何をしているのかわからずにきょとんとしている。 「一見見えないインクで書かれた書物というものは、実在する。」 タバサが、ポツリともらした。アンリエッタとルイズが、顔を見合わせる。 ディティクトマジックで見えるインクで書いた、アンチョコ。 アンリエッタは、数日前からこれのお世話になりっぱなしである。 旗に書き込んだり盾に書き込んだりして身近において演説する事の なんと多いこと。一見何も書かれていないこの本も同じかもしれない? だとすると、そう簡単に人に見せられない、それなり以上に重要なものとなる。 少なくとも、権威付け用に作ったまがい物なら、もっとそれらしく 体裁を整えるはずである。古代ルーン文字で呪文を書き込む、とか。 ということは。これは。 本 物 なのだろうか? 「強い霊力を感じますね。ページの匂いも、なにか書いてある部分と 素の羊皮紙の部分に分かれてるみたいな匂いです。」 「うん、確かに、かなり強い霊力を感じる。こっちの系統魔法とは違うな。 むしろ陰陽五行系仙術に近い。何かあるのは確かだな。」 啓太は、じっと考え込んだ。法術の呪文を唱え、始祖の祈祷書に霊力 を流し込んでみる。しかし何も起こらなかった。次いで、最大限まで 霊力を高めて霊視をしてみる。その状態で、波長も変えてみる。 「違うな。あぶり出し、なんてものをやったら本が傷む。となると、 場所の条件を満たすか、道具を使うか、あるいは人の条件を満たすか。 それとも複数か? ルイズ、お前が持って、精神力を集中させて見てみろ。 魔法力もこの本に込めてみな。」 いずれも、RPGの一つもやっている連中なら、あるいはファンタジー系の 知識があれば思いついて当然の可能性である。啓太は本物の霊能者である分、 そちら系統の知識は豊富であり、ごくあっさりと方法を考え付いていた。 「わ、わかったわ。」 ルイズは、いわれたとおり精神を集中し、魔力を込めてみる。 それを見ていたアンリエッタが、当然の疑問を呈した。 「なぜ、ルイズに試させるのです?」 「ルイズが、虚無の担い手である可能性が高いから、ですよ。」 「ええ!?」 「今は、何も聞かずにルイズに機会をおあたえくださいますよう、 伏してお願いいたします。可能性は、充分あります。虚無に目覚めれば、 ルイズは大いに姫殿下のお力となりましょう。ですから、今は。」 「え、ええ、もちろん良いですわ。」 そうこうするうちに、ルイズから何の変化も無い、と報告される。 「そうか。ならば、姫殿下。」 「は、はい。」 ただのガラクタと思っていたものが、本物かもしれない、どころかルイズが 虚無の担い手かもしれないと知って、アンリエッタも真剣な表情で答えた。 「この本を公式の行事などで読むよう指示されている場所、それも数千年前から 変わらない伝統の場所にお心当たりは? あるいは、始祖の祈祷書と セットで王家に伝えられているアイテムなどはありますか? 杖とかメガネとか指輪とかペンダントとか。メダルとか。 法衣や帽子もありうるかな。それらとセットなら読めるのかもしれない。」 「私にはわかりません。でも、マザリーニ枢機卿ならば判るかも知れません。」 かくして、マザリーニが戻った後に質問を繰り返した啓太は、 アンリエッタの嵌めていた『水のルビー』を指摘された。 アンリエッタから借りた青い水のルビーをルイズが嵌めて始祖の祈祷書をめくる。 「意識を集中しろ。何がなんでも今読まなければならないと必死になれ。 祈祷書とルビーに魔力を注ぎ込め! 可能性は高い!」 啓太の励ましに、ルイズが意識を集中させて始祖の祈祷書を開く。 1ページ目から、開いていく。 「光? 光が漏れて見える。これは…! 古代ルーン文字? 見える! 見えるわ! 読める、読めるわ!」 「おでれーた。お嬢ちゃん本当に担い手かよ。懐かしいな、その本。」 今の今まで、壁に立てかけられ忘れられていたデルフリンガーがしゃべった。 「あ。そういやお前、ガンダールヴの持ってた剣だったんだよな。 なんでいままで教えてくれなかったんだ?」 「ガンダールヴの剣!?」 「まさか、デルフリンガーですかな!?」 アンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿が驚く。 「いやあ、始祖の祈祷書見てから、ずっと思い出そうとがんばってたんだ。 けどよ、何しろ何千年も生きてるからな。忘れてること、 思い出せないことも多いんだ。年寄りなんだから勘弁してくれや。」 「なるほどね。じゃあ、やっぱりこれは本物で。私は、虚無の担い手なのね。 何しろ生き証人が保障してくれるんだもの!」 ルイズが、誇らしげに無い胸を張った。 「待ってください。ミス・ヴァリエールの使い魔はそのオコジョ「きゅ~~!」 でしょう、虚無の担い手ならば使い魔はもっと大きいはずです。ガンダールヴは 1000の軍勢を壊滅させるほどの強さを持っていたとされるのですから、 このように小さくはない「きゅう~~~!!!」はずですよ。なんです、 うるさいですね。ミス・ヴァリエール、使い魔のしつけがなっていませんよ。」 「あの、マザリーニ枢機卿。マロちんの事を悪く言ったら怒って当然かと。」 ルイズが、控えめな声でフォローする。 「そうですね、目の前でオコジョなんていわれたら怒りますよ。」 「マロちんはオコジョじゃなくてムジナです! 強いんですよ!」 ともはねも無い胸を張ってマロちんをフォローする。 その後しばらく、使い魔談義になって話は中断した。マザリーニ枢機卿が 怒ったマロチンに口を封じられるという一場面もあったりした。 そして。 しばらく逡巡した啓太が切り出した。 「しょうがないか。俺が、ルイズの使い魔。伝説のガンダールヴですよ。」 啓太が、左手の手袋を外してルーンを見せる。 「これは!」 「なんと! 古代ルーンでガンダールヴと。」 (ちなみに木などに掘り込む活字体ではなく筆記体である。 イラストやアニメではなぜか活字体であるが原文準拠ということで) 次いで、デルフリンガーを抜いてルーンが光るところを見せる。 アンリエッタとマザリーニが、動かぬ証拠を見せられて驚愕する。 「君は、ガンダールヴだったからあんなにも強かったのか!?」 「幼い頃からの修行にガンダールヴの力を上乗せしたから強いのです。 そこの所は間違えないで戴きたい。努力もなしにそこまで強くはなれませぬ。」 「修行の成果と合わせたからゆえ、ですか?」 アンリエッタが確認する。 「修行修行でろくに遊べず友達もわずかしか出来ず、幼い頃から何度も 死にかけました。姫殿下とて、苦しい修行の末にトライアングルと なったのでございましょう? 才能と努力。それを補助する道具。 様々なものが相乗してこそ、強力な力となるのでございます。 それは国の統治や軍事も同じこと。広いだけの国土では意味が無く、 人多く住み、初めて国土と呼べます。国民が豊かでこそ国力は高くなりますが、 高い技術がなくてはそれを生かせませぬ。そして、国内が割れていては 軍事力を大幅に削がれる事になるため、外征はままなりませぬ。」 アンリエッタは、納得してうなずいた。 マザリーニももっともだとうなずいた。しかし、本題はそこではない。 「虚無に関する人、物、才能がこのように一つ所に集まるとは。 とはいえ、本来虚無とは王家に伝わる力のはず。公爵家とは言え 貴族のミス・ヴァリエールが担い手となるはずが…」 「何をおっしゃいます、枢機卿。ヴァリエール家の初代はトリスティン王家の 姫を守り抜いたからこそ公爵となったのです。その後の1000年で、 何度も王家の血を受け入れています。そもそも公爵家とは王家の血を受けた 強大な貴族もしくは王家の分家に与えられる爵位。資格は充分でしょう。」 「むむ。」 マザリーニは考え込んだ。 王家の正統を示す最高の証拠が、ヴァリエール家という最強の貴族の血に現れた。 これは、下手を打つと王家交代劇にもなりかねない。本来なら、抹殺を考える 必要がある場面である。だが幸い、ヴァリエール嬢は姫、ひいては王家に 非常に好意的だ。これは、むしろヴァリエール嬢とヴァリエール公爵家を 王家に取り込む方向で利用したほうがいいのではないだろうか。 「このように目出度い事は滅多にありませんな。枢機卿として、 そなたに祝福を授けたい。ですがその前に虚無の担い手としての 証立てをする必要があります。始祖の祈祷書を読み、虚無呪文の 習得を行っていただきたい。姫殿下も、よろしゅうございますか?」 「もちろんです!」 「わかりました!」 マザリーニの言葉の裏を知らないアンリエタとルイズは、喜んだ。 「よかったな、ルイズ。皆にもわかるように、声を出して読みあげてくれ。」 「ええ!」 啓太が促すと、満面の笑みを浮かべたルイズは、始祖の祈祷書を開いた。 「序文。(略)全ての物質は、小さき粒より為る。4の系統はその小さな粒に 干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる(略)神は我に更なる力を与えられた。 (略)小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、 (略)我が系統はさら為る小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる (略)零すなわちこれ『虚無』これを読みし者は、我の行いと理想と目標を 受け継ぐ(略)力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。(略) 『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。(略) 詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。(略) 『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。」 ここまで黙って聞いていた一同だが、さすがに聞き捨てなら無い部分である。 「おい!?」 「命を削る!?」 「詠唱が永きにわたるため詠唱中の始祖を守るガンダールヴがいたと されてはおりますが、命を削るほどだったとは。」 「ルイズ、呪文を習得しても絶対に全力で使うなよ。常にセーブして使え。」 「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」 「そうですわ、ルイズ。命を削ってまで使うなど、してはなりませぬ。」 「そうですな。そんな使い方は誰も望みませんでしょう。」 「ありがとうございます、姫様、枢機卿、ケータ、ともはね、マロちん。」 ルイズは頭を下げると、音読を再開した。 「選ばれし読み手は、『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ユミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし虚無の呪文を記す。ここまでで後は白紙です。」 「おい!?」 「白紙!?」 「ここまで来て白紙とは、肩透かしにしても酷すぎますな。」 「ルイズ、ちゃんと意識は集中してるのか?」 「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」 「そうですわ、ルイズ。もう一度意識を集中して!」 「そうですな、ここまで来た以上呪文の一つも習得しないことには。」 「で、でも、何も書かれていないのです!」 大騒ぎの室内だが、発言していないものが2人。いや、一人と一本。 「必要にならないと読めない、とか?」 「あ、そうだったそうだった。その本は必要な場面にならないと読めねーんだわ。 どんどんページを繰っていきな。今必要とされる呪文が見えるはずだ。 無いなら、虚無を必要としないほどの安泰だってこった。喜びな。」 タバサの呟きとデルフリンガーの助言に、ルイズが猛烈な勢いでページを繰っていく。 「あった! ディスペルマジック!」 啓太とタバサが、目を見開いた。 「「魔法薬の中和!」」 「な、なに!?」 声をそろえた二人に、ルイズがビクリとなって聞いた。 「タバサ。いいな?」 「(無言でコクリ)」 啓太は、アンドバリの指輪について説明する際、『シャルロット姫』について さわりだけ説明したタバサの過去を詳しく話した。 「つまり、タバサの母親を正気に返らせる事が可能な呪文、かもしれない。 だめだとしても、アンドヴァリの指輪で心を操られた人、死体を操られた人を 本来の状態に戻す事が可能って事になる。だとすれば、実に強力な戦力だ。」 一同の意見は、まさにこの状況にふさわしい、ということで一致した。 「よっしゃ、それじゃあ、無駄打ちして寿命を縮めるのもなんだから、 今回は紙に呪文を写すだけにしておけ。序文もな。いずれ、多数の 虚無呪文を習得したら、その呪文を全部書き記して、お前のように 虚無系統だったせいで魔法使いとしてダメ認定された奴らの救済に使おう。 というか、他にも注意書きとか、虚無系統を使うときに共通の確認事項とかは 書いてないのか? 普通、基本として書いてありそうなものだが?」 「書いてないみたいね。まずは、このページを写しますね。」 「ええ。後で見せてね。」 「はい、姫様。」 かくして、ルイズはこの日、ディスペルマジックを習得した。 「タバサ。今すぐお母さんを治療しに戻れないのは許してやってくれ。 戦争中でどうしても戻れないんだ。いや、方法はあるか。 姫様! トリスティン第2艦隊に、シャルロット姫の母君を伴うよう、 急使をお願いいたします! シャルロット姫の母君なら、正気になれば 貴重な戦力となってくれましょう!」 マザリーニ達は直ちに動いた。それを尻目に、啓太はタバサに耳打ちする。 「人をうまく使うコツはこれさ。相手にも利益・利得があると理解させて、 自分のためなんだから自分から協力しなければ、と思わせるのさ。」 そっとウインクすると、タバサは、笑み崩れた。やっと。 やっと、『母』と会える。 「ただ、もしルイズの虚無が、呪文のみで魔法薬には効かないものだったら、 危険な場所に狂った人を呼びつけるだけになる。それでもいいか? 止めるなら今しかない。それと、だめでもルイズを責めてくれるなよ?」 タバサは、数瞬迷った。が…例え無理だったとしても、いまさら 先延ばしに出来るはずが無いほど、親の愛情に飢えていた。 「今、呼んで貰う。ダメでも、責めたりしない。」 「タバサは、いい子だな。」 啓太は、タバサの頭を、優しく撫でてやった。 さて一方。 平賀才人と楽しく通信していたガリア王ジョゼフであるが、何分にも数 日にわたる狩で王宮を開けていた以上、仕事が山積みしている。 ほとんどを家臣に押し付けているとはいえ、やはり仕事はあるのだ。 侍従長が遠慮がちに入室し、一人遊びを見て眉をわずかにしかめた後促した。 「陛下、ロマリアの大使が来て強硬に謁見を求めております。」 「もう夜ではないか? 明日にせい。」 「すでに数日待たせておりまする。とにかくお会いいただきますよう。」 さすがにこれ以上は外野がうるさい。 「サイト。しばし待て。政務が溜まっておってな。3時間ほど後でどうだ? うむ、では、ちと片付けて来るのでな。」 そういって、ジョゼフは人形を置いて部屋を出た。 夜も遅いので、謁見の間ではなく、執務室に通されたロマリア大使は、 「というわけでクロムウェルめはアイテムの力で虚無を装うという冒涜を」 とレコンキスタ首魁オリヴァー・クロムウェルの背教行為を訴え、 「ガリア王国におきましては直ちにアルビオン救援艦隊の派遣を要請いたしたく。 一部義勇兵が傭兵としてアルビオン王党派に参加しているだけで王国としては 何もしていない現状では始祖の教えに対して軽視しているのではと(中略) 後々まずい事になりまする。なにとぞ(後略)」 と派兵を促す。とはいえ、直ちに兵を送るなどガリア王ジョゼフの予定には無い。 共倒れになってくれたほうが面白いのだ。これ以上増援など送ったら、 一方的にレコンキスタ不利となってしまいつまらない結果になる。 送るとしても、もう少し共食いをさせてからだ。 充分かみ合わせた後においしいところで介入し、漁夫の利を得るのが良手だろう。 「国内の不穏分子がうるさいものでな。現状ではすぐには艦隊を動かせぬ。 ご期待に沿えず申し訳ない。」 とつっぱねた。すると今度は、 「では義勇軍をもっと大々的に送られますよう要請いたしまする。 募集を国王公認とし、王国側から告知するだけならなんら問題ないはず。 できれば多少なりとも資金援助や補助金を。また、勝利の暁には称揚を。」 と要求する。 (「さては、勝手に義勇軍として参加したガリア艦隊のフォローか?」) とジョゼフは思い至った。 (「ならばそれらを咎めだてるとちらつかせれば引き下がるか? いや、遠隔地の情報を素早く手に入れた理由を問いただされれば困るか。 背教者の味方をしているのでは、と勘ぐられても困る」) 個人で艦艇まで動かして参加したとなると、相当の大家で、なおかつ ジョゼフに恭順していない連中という事が消去法でわかる。 それらのリストを作れるとなれば、それはそれで面白いかもしれない。 しかも、そやつらの資金や軍備を磨耗させることも出来るだろう。 直ちに王宮から告知をし、功著しいこと明白な者に年金のつかない勲章を与える 事について、ジョゼフは了承し、文書を交わした。 その後も様々な陳情や書類決済等の些事をこなした後、ジョゼフは 私室に戻ってまた才人と通信を始めた。そして。 「ふむ、アンドバリの指輪の噂が瞬く間に広まったと。王党派は明らかに 意図して噂をばら撒いておるわけか。どこから漏れたのか、だな。 そうか、偽情報で動揺を押さえ込んだか? 良くやった。 しかし、一旦広まった疑念はそう簡単には消えぬ。どうなっておる? スキルニルやガーゴイルのように? そこまで分析されておるのか。 しかも、傭兵だけでなく民衆や商人達まで。」 ガリア王ジョゼフは、美髯をしきりにしごいた。 「ロマリアに知られておる以上、向こうでも噂になっておるとは思ったが。 敵もなかなかやるな。いかにして情報が漏れたかな?」 才人は、伝説のアイテムの能力として、誰かが思いついてもおかしくない、 と控えめに述べると共に、ラグドリアン湖周辺で異変が無かったか確かめた。 「ふむ、確かに、最近随分と水量が増えているとは聞いておるが。」 この時点で、タバサが母や親しい使用人、その家族などをトリスタニアに 連れて行った事の情報はヴェルサルテイルに届いていない。 見張りは「鳩小屋に狐が入り込んだ」ために素早い情報伝達手段を失っており、 「シャルロットがラグドリアンの水の精霊を鎮めた」 という情報を馬で連絡所まで届け、そこから早便で届けられている最中だ。 その後、見張りは 「物取りが旧オルレアン邸に入り、人を皆殺しにして財宝を盗み、 (実は豚の血を撒いて荒らして偽装しただけ)死体を湖に沈めたらしい (実は重い石を詰めた麻袋を崖まで引きずって行って跡をつけただけ)」 という情報を届けにまた馬で移動中であったので、タバサの母親についての 情報をジョゼフが知るのは数日後だ。 かくしてジョゼフは、単なる偶然と幸運で啓太の策謀ではないとはいえ、 この時点で後手後手となり、タバサを罰する機会も大金を奪われたことに 抗議する道も閉ざされつつあったのである。 前ページ次ページいぬかみっな使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7595.html
前ページ次ページ日替わり使い魔 ――目の前で、父が二匹の魔物に嬲られている。 間断なく耳に響く、肉を打つ打撲音。 全身を蝕む、疲労と鈍痛という名の束縛。 首筋に当てられた、冷たい刃の感触。 魂が永遠に地獄をさまよう――刃の主は、確かにそう言った。 字すら読めない無学な子供である彼には、その言葉の意味はわからなかったが――それがとても恐ろしいことであることだけは、なんとなく理解できた。 だが、このままでは目の前の父が命を落としてしまう。彼にとって、それは自分が死ぬことよりも、よほど恐ろしいことに思えた。 しかし、彼は拘束から抜け出せない。彼を拘束する腕は、骨と皮で出来ているかのように細かった。なのに、その見た目からは信じられないほどの膂力でもって、彼の動きを封じている。 極度のダメージのせいで思うように動けない体では、その束縛から逃げることはおろか、自ら死を選ぶことすらままならなかった。 やがて――数え切れないほどの攻撃を受け続けていた父は、ついに膝を折った。 どさりと音を立てて倒れる頑強な肉体。ゆっくりと床に広がる赤い水溜り。喉の奥から吐き出された父を呼ぶ声は、自分のもののはずなのに、なぜか遠く感じた。 しかし、父はそんな体でなお、残った力を振り絞って立ち上がった。 自らの死期を悟り、息子に最後の言葉を残そうとする父。 だがヤツは――アイツは、そんな父に最後まで言わせることなく―― 『メラゾーマ』 「――――ッ!」 ハッとなり、リュカは大きく目を見開いた。 最初に視界に飛び込んだ景色は、薄暗い遺跡の中――ではなく、あまり良い造りとは言えない狭い寝室であった。 そこでやっと、彼は自分が眠っていたことを思い出した。あまりゆっくりと寝ていられるほど暇ではないので、ベッドではなく椅子に座っての仮眠である――もっとも、仮眠のつもりだったのが、夢を見る程度には深く寝入ってしまっていたようであったが。 「……あの時の夢、か。随分と久しぶりに見たもんだ……」 ひやりとしたものを胸に感じて手を当ててみれば、湿った感触が手に伝わった。 どうやら寝汗をかいていたようである。夢見が悪かったのもあり、あまり良い気分ではない。 部屋の外を見てみれば既に日は昇っているようで、随分と明るかった。だが、いまだ早朝と呼ばれる時間帯であろうことは、日差しの角度や妙に静かな街の雰囲気で、察することはできた。 ――ここはラ・ロシェール。アルビオン行きの船が出港する、トリステインの港町である。 リュカが仮眠を取っていたのは、その街にある宿屋の一つ『金の酒樽』亭の一室である。 彼は昨晩、クックルとメッキーから報告を受けてすぐ、プックル、シーザー、ホイミンを連れて魔法学院までルーラで飛んだ。そして就寝前のオスマンに事情を話してアルビオンまでの道を尋ね、シーザーの翼でラ・ロシェールまでノンストップで飛んで来たのだ。 急いだ甲斐もあり、ここに辿り着いたのは夜明け前。そして街に入れないプックルたちを残し、一旦休憩を取ろうと適当に選んだ宿が、ここであった。 通貨が違うせいで宿泊代金には交渉が必要だったが、『珍しい異国のコイン』というフレーズを武器にどうにか交渉を成立させ、部屋を取ることに成功した。 「そろそろ行くかな」 つぶやき、リュカは手早く身支度を整え、多くない手荷物を持って部屋を出る。そのまま宿を出るために階段を下りると、酒場へと出た。 この宿は、一階が酒場を兼ねた食堂となっている――のだが、階段を下りたリュカの視界に飛び込んできた景色は、酒場でも食堂でもなかった。その景色に一番近い表現は『廃墟』とでも言ったところだろうか。 というのも、その酒場はまるで竜巻が店内を蹂躙したかのように、ありとあらゆる物品が散乱していたのだ。 「あー……」 その惨状を見て、リュカはちょっとバツが悪そうに頬を掻く――実のところを言えば、その惨状を生み出した責任の半分はリュカ自身にあった。 ちらりと酒場の脇に視線を向ければ、数えるのも馬鹿馬鹿しいぐらいの無数の男達が、死屍累々と床に横たわっていた。そいつらこそが、『責任のもう半分』のならず者たちである――ちなみに死者はいない。 そんな中で無事なものといえば、カウンターとそこから向こう側ぐらいなものである。 ――床に転がっている男達は、つい昨晩ルイズたちを襲撃した傭兵たちであった。 昨晩、適当に見繕ったこの宿には、先客がいた。 それは、昨晩の襲撃に失敗した傭兵たち。彼らは一見して金を持っていそうな出で立ちのリュカを見るなり、鬱憤晴らしも兼ねて強盗目的で襲い掛かったのだが……いかんせん相手が悪い。 相手はたかが一人、貴族だろうとメイジだろうと、この人数には太刀打ちできない――とでも思ったのだろう。だが結果は現在の惨状が物語る通り、返り討ちである。 そうやって自業自得とも言える状況に晒された傭兵たちは今、「つ、強えぇ……」だの「今日は厄日だ……」だの「俺、もう傭兵やめる……」だのと口々に呻いていた。そろそろ何人かが目を覚ましているらしい。 また、彼らがルイズたちを襲撃した張本人たちであったことは、リュカにとっても都合が良いことだった。少し締め上げただけで、欲しい情報がすぐに手に入れられたからである。 結果、情報収集に費やす予定だった時間を、丸々休憩に充てることができた。 ――ルイズたちが乗り込んだ船は、順調ならば昼前にはスカボローの港に到着する。 そこから王党派が立て篭もるニューカッスル城まで、馬で約一日―― 町の人々が活動を始める頃にでも出発すれば、シーザーの翼ならば上手くすればスカボローで合流できる。そうしたら、勝手な行動を取ったレックスたちを軽く叱ってやった上で、ルイズたちに協力すればいい。 そんな予定を立てるリュカは、ゴールド金貨の詰まった麻袋を一つ取り出し、店の修繕費と迷惑料のつもりでカウンターの向こうに投げ入れ、宿を後にした。 ――だが―― まさかリュカも、まったく同じタイミングで自分と同じ夢を見ていた人間がいたなどとは、露にも思っていなかった。 時刻は少々遡り、リュカが目を覚ましたのとちょうど同じ頃、その『同じ夢を見ていた人間』はといえば―― 「――きゃあああああっ!」 その人物――ルイズは、絶叫と共にガバッと身を起こした。 その声に、傍にいた双子の視線が集中する。だが彼女はそれに気付かず、キョロキョロと怯えたような様子で周囲を見回した。 右を見れども左を見れど、目に映るのは船の甲板の景色のみ―― 「……え、夢……?」 ややあって、今まで見ていたのが夢であることに気付き、ホッと安堵の息を漏らす。 ――敵の襲撃を退けたあの後、ワルドは停泊していた貨物船の船長と交渉した。 交渉の結果、貨物の運賃と同等の金額、そして『風』のスクウェアたる彼自身が足りない風石の代わりとなることを条件に、即出発することになった。 本来無関係なキュルケとシャルロットはともかく、ギーシュを残すことに後ろ髪が引かれる思いがなかったわけではない。 しかし襲撃者の大半を無力化したとはいえ、桟橋に来てまで襲撃された以上、馬鹿正直に朝の出港まで待とうものなら二度目、三度目の襲撃が来ないとも限らない。 そういうわけでギーシュを残して港を出た一行は、疲労から船室に案内されるのを待てず、舷側に座り込んで眠ることになった。もっとも、貨物船である以上まともな客室などあるはずもなく、たとえ案内されたとしても乗組員の粗末な船室ぐらいしかなかっただろうが。 ともあれ、それがルイズの今置かれている現状である。決して、薄暗い古代遺跡で魔物に嬲られるような、悲惨な状況ではなかった。 「どうしたの? 嫌な夢でも見た?」 「ん……そんなところ。大丈夫よ、なんでもないわ」 心配そうに覗きこむレックスにそう答えると、彼は「そう?」と小首を傾げただけで、それ以上追究はしなかった。 ――いったい何だったんだろうか、今の夢は。 一人の戦士が、見るも醜悪な二匹……いや、三匹の魔物に、よってたかって嬲り殺される夢。 夢と言うには、あまりにも生々しいリアルな夢。首筋に触れる刃の冷たさも、全身を蝕む鈍痛も、耳に届く痛々しい打撲音も、そして――鼻をつく血の臭いすらも、全てが濃密に再現されていた。 自らの大切な者を人質に取られ、何の反撃も許されずに殺される戦士の死に様は、無惨と言うにはあまりにもむごいと言えた。 だが――ルイズにはその夢の中で、何よりも気にかかることがあった。 あの嬲り殺されていた戦士は……最後に自分に向かって、『リュカ』と呼んでいなかったか? (だとすれば、今の夢はまさか――) 「ねえ! それよりも見てよ、あれ!」 思索に耽るルイズの耳に、興奮したレックスの声が響く。 その声にルイズは考えるのを中断し、ゆっくりと立ち上がりながら彼が指差す先に視線を向ける――そこには、巨大という表現では飽き足らないほどに巨大すぎる、雲に包まれた岩塊の姿があった。 岩塊の上には山がそびえ、その端から滝が落ちているのが見える。滝は途中で雲に変わり、岩塊の下半分を完全に覆い隠していた。 これこそが、『白の国』アルビオン。こうやって雄大な姿を確認できる以上は到着も近いような気になるが、実際にスカボローの港に到着するのは何時間も先だ。つまり、それほどの距離が離れていながらも、これほど大きく見えるということだ。 その事実だけでも、この浮遊大陸がどれほどの大きさかは類推できるだろう。 「すごい、すごいよ! 島がまるごと空飛んでるよ! あれに比べれば、天空城がショボく見える! こんなの初めて見た!」 しきりに「すごい」を連呼しては笑うレックスに、ルイズも思わずつられて笑う。もし今、世界が平和になったからと職務放棄して人間に成り下がったどこぞの駄竜神がこの台詞を聞いたら、思いっきり顔をしかめたことだろう。 子供らしくはしゃぐレックス。その様子に微笑ましさを感じていたルイズは、ふと彼の腕についた傷に気付いた――そして思い出す。彼が昨晩、敵のライトニング・クラウドをまともに受けていたことを。 彼はその上でなお攻撃の手を緩めずに敵を撃退し、更にはその傷まですぐに治してしまったが―― 「ねえ、レックス……その傷」 「え? あ……完全に治ったわけじゃなかったのか。ま、いいや。一晩休んだし」 言われて初めて気付いたかのように言うと、そのまま傷を放置した。 ルイズはそんな彼の様子に一つため息を漏らし、懐からハンカチを取り出す。彼女は「ちょっとじっとしてなさい」と言って、そのハンカチをレックスの腕に巻いた。 「これでよし。傷をそのまま放っておくのは良くないわ」 「…………」 「ん?」 「あ、な、なんでもない」 いきなり黙り込んだレックスに疑問の視線を向けるが、彼はどもりながら視線を逸らした。その頬は、若干赤く染まっていた。 そんな彼の横顔を見ながら、ルイズは疑問に思う。日常で見せる、歳相応の元気な笑顔。戦闘の時に見せる、どこまでも頼りになる戦士の横顔。一体どっちが、彼の本当の顔なのだろうかと。 「ねえ、一つ聞いていい?」 「な、何?」 「ゆうべ、敵のライトニング・クラウドを受けたけど……その、痛くなかったの?」 その問いに、顔を赤く染めていたレックスの顔が、途端に真剣なものになる。ルイズにハンカチを巻いてもらった箇所に視線を落とし、そこを手で押さえた。 「……もちろん、痛かったよ。すっごくね」 「でも、そんな素振りも見せずに攻撃してたわよね?」 「そりゃあ、ボクは死んでなかったから」 「……死んでなかったから?」 さも当然とばかりのその言葉に、ルイズは怪訝そうに眉根を寄せた。 死んでなければ攻撃できる――レックスの言うそれは、ルイズには極論以外の何物でもないように思えた。 「死んでなかったら、どんな状態でも戦えるってこと? そんなわけないじゃない」 「ところが、そんなわけあるんだよ。少なくともボクにとっては。心臓が止まるその一瞬まで諦めずに、勝利をもぎ取るために足掻き続ける――それぐらいの覚悟じゃないと勝てない敵、痛がってる暇すら許されない戦いを、ボクは経験してきたから。 だからボクにとっては、死んでないってことは、イコール戦えるってことなんだ」 「そんな……」 真剣な戦士としての表情で語るレックス。その言葉に、ルイズは二の句が告げられなくなった。 レックスはいまだ11歳。まだまだ遊びたい盛りの子供である。そんな子供の口から、こんな言葉が飛び出してくる――その事実に、彼がどうしてここまで強いのかを、ルイズはなんとなく察した。 だがそれと同時、これほどの強さを持つ彼がそんな修羅場を経験しなければならない事態とは一体何かと、想像するだけでも背筋の凍るような思いになる。そしてそんな修羅場に、なぜこんな子供が放り込まれなければならなかったのか、ということにも疑問を覚えた。 並んで立てば、ルイズの方が肩の位置がわずかに高い――それを思えば尚更だ。 そんな彼の小さな腕は、しかしそれほどの修羅場を潜り抜けた証拠だとばかりに逞しく、あの落下する中でルイズを仔猫のように軽々と受け止め、抱き上げていた。 子供とはいえ、異性に抱き上げられた――その事実を思い出し、しかもそれほど嫌な気分ではなかったことに、わずかに頬が熱くなる。だがそんな微妙な心中はとりあえず脇に置いておき、レックスとの会話を続ける。 「レックスは……それでいいの?」 「いいも何も、それがボクに与えられた使命だったから。みんなが笑顔で日々を過ごすために、ボクだけが出来ることだったから」 「何よそれ?」 使命――唐突に出てきたその単語に、ルイズは眉根を寄せた。 だがそんな彼女の疑問に、しかしレックスはすぐに口を開くことなく、ポリポリと頬を掻きながら「んー」と言葉を濁した。 「ん……何と言われても、もう終わったことなんだけどね。今のボクには使命も何もない、激しい死闘を経験したことがあるってだけの、ただのレックスだよ」 「……そこは『ただの子供』って表現するところじゃないの?」 「ボクもう子供じゃないもん」 揚げ足を取るかのようなルイズのツッコミに、レックスはぷぅと頬を膨らませて反論した。その反応が本人の言葉とは裏腹にいかにも子供っぽく見え、ルイズは思わずぷっと噴き出した。 なんだかんだ言っても、やはり根っこの部分は子供である。色々と普通じゃないレックスにもそんな普通の部分が残っていることを再確認し、彼女は少しだけ安心した。 だがレックスは、ルイズのそんな心の裡など気付いた様子もなく、その反応に「あーっ! 笑ったなー!」と騒ぎ出した。しかしルイズはそんな反応ですら微笑ましく思えてしまい、「はいはい」と苦笑するばかりである。 と――ルイズはその時、隣で横になっているタバサに気付いた。 「で、それはそれとして……そっちはどうしたの?」 ルイズが首を傾げるのも無理はない。タバサは横になっているものの眠っているわけではなく、むしろ今までずっと起きてたかのように目に下に隈が出来ている。よく見ればガタガタと震えていて、顔色もあまり良くはない。 風邪でも引いたのか――そんなことを考えながら、続く言葉を口にしようとしたその時。 「こ、怖いんです……」 「え?」 「私、高いところ苦手なんです」 その返事だけで、ルイズはだいたいの事情を察することができた。だったら、わざわざ皆と一緒にこんなところにいないで、無理を言ってでも船室の方を借りてればいいのに――と思う。というか、こんな調子であの浮遊大陸アルビオンに行って大丈夫なのか。 と、そんな心配が脳裏をよぎった時――鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 その声に、船全体に緊張が走った。ルイズとレックスは、見張りの船員が示す方向に視線を向ける。 そちらには、確かに船員の言葉通り、こちらに接近してくる船の姿が見えた。この船――『マリー・ガラント』号よりも一回りも大きく、舷側に開いた穴からは、二十門を越える大砲がこちらに照準を定めていた。 「いやだわ……反乱勢、貴族派の軍艦かしら」 「敵?」 「たぶん」 ルイズのつぶやきに反応したレックスの問いに、彼女は曖昧に答えた。それを受け、レックスは剣に手をかける。 レックスがその気になれば、連中が近付いた頃合を見計らい、大砲を撃たれる前にライデインで一掃することも可能だろう。事実、彼はそれをする気であった。 だが―― 「……やめて、お兄ちゃん」 「タバサ?」 妙に弱々しい妹の声を耳にし、レックスは振り向いた。足を拘束されているような感覚に、そのまま視線を下に落とす。 すると、そこでは――床に這いつくばったまま、レックスの右足に両手でしがみ付くタバサの姿。顔は完全に青褪め、今にも泣きそうな様子であった。 「何考えてるのかわかるけど、それだけはやめて。もし……もし万が一、お兄ちゃんがあいつらをやっつける前に大砲が撃たれたら、この船落ちちゃうよ。そうなったらって考えるだけで、私……怖い」 「大丈夫だって」 「いや。お願い」 涙目で必死に訴えてくる妹に、レックスは肩をすくめた。 天まで届くほど高い塔に昇ったこともあれば、それと並ぶほどの高山の山頂に、竜神の背に乗って飛んで行ったこともある。そんな経験をしておきながらも、彼女の高所恐怖症は治る兆しさえ見せない。 そういえばあの時も、怯えるタバサを落ち着かせるのに大変だったなぁ……などと昔を懐かしみながら、レックスはやれやれと抜きかけた剣を鞘に戻した。 「とりあえずは様子見……かな」 ぽつりとこぼしたレックスの意見に、ルイズもタバサも異論はなかった。 そしてその頃には、ルイズの頭の中からは先ほど見た不吉な夢のことなど、完全に忘れ去られていた―― ――そして、その後―― ルイズが空賊の頭目に物怖じせずに啖呵を切ったり、レックスがそれを煽ったり、実は頭目の正体が王党派のウェールズ皇太子だったりと色々あり、ほとんど結果オーライ的な流れで一行は最終目的の人物と接触することができた。 そんなわけで、王党派が立て篭もる最後の砦であるニューカッスル城――その真下の秘密の港に、ルイズたちは案内されることとなった。 そして、数時間後――ルイズたちを乗せた『マリー・ガラント』号がウェールズ率いる『イーグル』号に拿捕された、ちょうどその空域にて。 「だいぶ近付いて来たわね」 眼前に広がるアルビオンを見上げ、シルフィードの背に乗ったキュルケはぽつりとつぶやいた。 今この場にいるのは、シルフィードに乗ったシャルロット、キュルケ、ギーシュの三人。そしてオマケで、シルフィードに掴まれてぶらーんとぶら下がっている、ギーシュの使い魔のジャイアントモール――ヴェルダンデ。 ギーシュが言うには、彼ら一行が用があるのは、アルビオンの王党派らしい。ラ・ロシェールで傭兵の一団を退けて後顧の憂いを断った三人は、そのままシルフィードの背に乗ってルイズたちを追うこととなった。 今現在、アルビオン王党派の所在地はニューカッスル城ただ一つ――つまり、そこまで追い込まれているということである。目的地はわかりやすいので、ルイズたちの道行きが順調ならば、どこかで必ず合流できるだろう。 もっとも――わかりやすいはいいのだが、この状況では急がなければならないだろう。王党派はもはや、明日にも壊滅する見込みだ。 「で――ここまで巻き込んでおいて、結局任務内容は話してくれないわけ?」 「勝手に首を突っ込んだのは君たちだろう。それにこれは密命なんだ。ぼくをアルビオンまで運んでくれるのは感謝するけど、それとこれとは話は別。さすがに話せないものは話せないさ」 普段は口の軽いギーシュにこうまで言われては、さすがのキュルケも諦めざるを得ない。仕方ないわねとばかりに肩をすくめ、それ以上は追究しないことに決めた。 そしてその代わりに、今度はシャルロットの方へと話を振る。既にだいぶ高くなっている太陽を見上げながら、「あとどれぐらい?」と尋ねた。 「ニューカッスルまで、直線距離なら風竜で半日もかからない。けど、アルビオンのほとんどは既にレコン・キスタの手の内。警戒網を潜り抜けながらだと、早くても明日の未明」 「遅ければ?」 「王党派の壊滅に間に合わない」 「そ、それは困る!」 キュルケの追加の質問に淡々と答えたシャルロット。その返答内容に焦ったのは、当然ギーシュであった。 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すギーシュを無視しながら、キュルケは「急いで」とシャルロットに伝える。彼女もわかったもので、コクリと小さく頷いてシルフィードに指示を送った。 と―― 「タバサ、後ろから何か来るわ」 唐突に、キュルケが後方下に視線を向け、シャルロットに警戒を促した。 その言葉に、シャルロットとギーシュは同時にキュルケの視線の先を追ってみる。 すると――彼女たちの目に映ったのは、一直線にこちらに向かってくる『金色の何か』の姿。 翼で風を打ち、大空を羽ばたいてやって来るそれは―― 「あれは……まさかドラゴン? ということは、もしかして貴族派の竜騎士!?」 「いえ、あれは確か――」 ギーシュはそれがドラゴンと見るや否や、最悪の展開を予想して青褪めた。しかしキュルケは対照的に落ち着いた様子で、記憶の中からそのドラゴンについての心当たりを探し出した……というより、あのサイズの金色のドラゴンなぞ、彼女の記憶には一匹しかいない。 だがキュルケがその答えを口にするよりも早く、くだんのドラゴンは凄まじいスピードでシルフィードに迫り――そして急ブレーキをかけ、彼女たちの目の前で停止した。シルフィードが驚いたように「きゅい!」と鳴き、ギーシュが「わわ!」と腰を抜かす。 だがキュルケは、目の前までやってきたそのドラゴンの姿に、自身の予想が正しかったことを確信した。 「やっぱり……シーザー! っていうことは――」 「君らは……キュルケとタバサ? なんでここに?」 「ダーリン!」 シーザーの背からひょっこりと顔を出したリュカを見て、キュルケは嬉しそうに歓声を上げた。リュカの傍にはプックルと、あとは初めて見る青いクラゲのような生き物がいた。 だが、彼らは一様として初めて見る格好をしていた。シーザーは胸当てと兜を、プックルもデザインは違うが同様に兜と、更にルイズも着ていた水の羽衣を身に付けていた。もう一匹も水の羽衣、帽子、盾を装備して、一見してよくわからない見た目である。 無論、彼らを率いるリュカ自身も、普段の格好ではない。いつものターバンは巻いておらず、マントは惚れ惚れするような見事な一品になっており、光り輝く盾を持ち、背負っている大きな杖はドラゴンの頭部を模した形状をしている。 「ねえ、ダーリン……その格好は?」 「だからダーリンはやめてって何度も……まあいいや。ちょっと手違いがあってルイズと一緒に行けなかったから、急いで追いかけてるところだよ。状況が状況だし、事によったら戦場に突っ込むことにもなると思うから、こんな格好になったってだけさ」 「さすがにルイズも、五万に突っ込むような無茶はしないと思うけど……確かに備えは必要ね」 リュカの説明に、キュルケは得心がいったとばかりに頷いた。 正直、盾や兜はともかく、マントや羽衣に鎧以上の防御効果があるとは思えなかったが――リュカがそう言って用意したものであるならば、それらもおそらく見た目通りではあるまい。 「で、最初の質問に戻るけど、そっちはどうしてここに?」 「ああ、それはぼくが話そう」 キュルケの質問に答え、最初の質問を改めて繰り返したリュカに、ギーシュが説明を買って出た。 ラ・ロシェールの街で起きた出来事を掻い摘んで――多少、自分の活躍に脚色を加えてはキュルケにツッコミを入れられていたが――話し、ルイズとワルドの二人が先行したこと、そしてレックスとタバサが少し遅れてそれを追ったことを話した。 そして最後に、自分たちがそれを大幅に遅れて追っているという話で、締め括った。 「なるほど……つまりレックスたちは、変わらずにルイズの傍にいるわけだね?」 「ラ・ロシェールに取り残されてた形跡はなかったから、無事に追い付いたと見て間違いはないと思うけど」 「あの二人がついていれば、さほど心配はないだろうね。実力だけで言えば、あの歳で既に達人レベルを超えているから」 「……みたいね。魔法衛士隊の隊長を一蹴した時は、開いた口が塞がらなかったわ」 リュカの言葉に頷いたのは、キュルケである。先日の決闘の様子を思い出したのか、感心を通り越して呆れている様子であった。 そして、リュカはそれから少し口を閉ざし、彼女たちから聞いた話を頭の中で整理する。それも数秒と経たずに終わり、結論が出たらしい彼はアルビオンの方に視線を向けた。 「さて――それじゃ僕は、これからスカボロー……だっけ? そこに向かって、可能ならルイズたちと合流するつもりだけど、君らはどうする?」 その問いかけに、キュルケたちは顔を見合わせた。先ほど、あっさりとシルフィードに追い付いたシーザーの速度からすれば、スカボローまではさほどかかるまい。 だが―― 「……あなたはスカボローに行かない方がいい」 リュカの問いに答える代わりにタバサが口にしたのは、警告であった。その内容に、リュカは「?」と首を傾げる。 「シーザーは目立ち過ぎる。今アルビオンは、ニューカッスル城を除いて全てがレコン・キスタの勢力下。何の警戒もなしにスカボローに行けば、きっと面倒なことになる」 「なるほど……それじゃ、直接ニューカッスルに向かった方がいいってことか。仮に追い抜いてしまうことになるとしても、そこで待ってればルイズたちもやって来る」 「でも、ニューカッスルはレコン・キスタに包囲されてる。それも難しい」 シャルロットの意見に、リュカは考えを改めて計画を練り直す。しかしシャルロットは、それも難しいことを指摘した。 もっとも、その条件は先行しているルイズたちも同様である。予定通りにスカボローに着いていれば、どうやってニューカッスル城に入城するかという最後の難題が待ち構えていることだろう。 まあ、実際はそんな難題もスルーして、王党派の導きで既にニューカッスル城に直接向かっているところなのだが……ここにいる彼女たちには知る由もないことである。 しかしそんなシャルロットの指摘にも、今度はリュカも考える素振りを見せず、自信ありげに笑って見せた。 「五万と言っても、そのほとんどは『ただの人間』だろう? 全滅させに行くわけじゃないんだから、突っ切るだけなら苦労はないよ。強大な魔物ひしめくエビルマウンテンでミルドラースに向かって突き進んでいた頃を思えば、楽な道行きだろうさ」 「……は? エビルマウンテン? ミルドラース? なんの話?」 「こっちの話。で――ついて来るかい?」 「やめとく」 リュカの誘いに、シャルロットは即座に首を横に振った。さすがに、その無茶な提案には乗る気にはなれない。逆に、無謀だと言って止めようかと思ったぐらいだ。 しかしそんな無謀も、彼が笑って言えば可能と思えるから不思議である。彼が「そう? じゃ、また後でね」とあっさり引き下がって去ろうとしたその背を、引き止める言葉は出てこなかった。 ばっさばっさと翼をはためかせ、シーザーがアルビオンに向かって去って行く――その後ろ姿を見送りながら、キュルケがぽつりとつぶやいた。 「……ギーシュ、あんた一緒に行けば良かったんじゃない?」 「冗談じゃないよ」 彼の自信が根拠あってのことであろうとも、あくまでも一般の学生に過ぎないギーシュには、それに付き合うだけの実力も度胸もなかった。 もっとも――付いて行って命を落としたとしても、リュカからすれば「後でザオラルすればいいや」程度の認識であっただろうが。 それから時は流れ、更に数時間後――日が暮れ、夜の帳が落ちた頃。 「いよいよ明日で終わりますね」 王党派が最後に立て篭もるニューカッスル城を包囲する貴族派『レコン・キスタ』軍――その旗艦たる『レキシントン』号の甲板の上で、盟主たるオリヴァー・クロムウェルはぽつりとつぶやいた。 先ほど、明日の正午に攻撃を開始する旨の最後通告を、王党派に突き付けたばかりである。それが終われば、貴族派の圧倒的勝利でアルビオンは我が物となるだろう。 しかしその呟きに、隣に立つ人物――彼の秘書官たる『シェフィールド』は「ほっほっほっ」と笑った。 「終わり? 何をおっしゃいますか。アルビオンが手中に収まれば、次はこのハルケギニアの全てを制圧しにかかるのですよ。むしろ、始まりに過ぎません」 「そう……そう、ですな。始まりです。ハルケギニアを一つにして聖地を奪還するという我々の使命は、いまだ始まってすらいないのでしたな」 「そうですよ、役者も揃っていないことですしね。ほっほっほっ……このわたくしが『ミョズニトニルン』として呼ばれた以上、『ヴィンダールヴ』はおそらく――いや間違いなく、“彼”以外にあり得ません。いやはや、再会が待ち遠しいですよ……役者が揃う、その時が」 「彼……?」 クロムウェルには理解しがたいことを言い始めた『シェフィールド』の台詞に、眉根を寄せた。 その時――ざわざわとしたどよめきが周囲に広がり、行き交う靴音がバタバタと耳に届き始めた。にわかに慌しくなった艦内の様子に、クロムウェルは怪訝な表情になる。 「……何事です? そこの人、止まってください! 何が起こってるのですか?」 ちょうど近くを通りかかった乗組員を呼び止め、事情を聞く。司令官に直接声をかけられたことで、その人物は足を止め、緊張した様子で直立不動になり、敬礼した。 「はっ! ただ今入った報告によりますと、後方より所属不明の竜騎士が一騎、我が陣営に突入してきたとのことです!」 「一騎? たかが一騎で、どうしてこの『レキシントン』号まで報告が届くのですか?」 「それが……再三の警告にも応じないのみならず、撃墜しようとした我が軍の竜騎士たちが軒並み返り討ちに遭い、更には信じられないスピードでこの『レキシントン』号に接近しているらしく――」 「所属不明の竜騎士、左舷後方より接近!」 「も、もうここまで!? 持ち場に戻ります!」 急いで敬礼し、慌しく持ち場に戻る男の背を見送って、クロムウェルと『シェフィールド』は左舷の方へと移動した。 船の縁から見てみれば、護衛艦の大砲が、乗組員のメイジらが放つ魔法が、雨あられと降り注ぐその中心で――それらを物ともせずに突っ込んでくる、黄金の鱗を持った巨竜の姿が見えた。その背には三つの影が見える。 さすがに全てを回避しているはずもなく、いくらかは命中しているものの――そのたびに光が竜を包み込んで傷を癒していた。その光の発生源は、竜の背にいる三つの影の一つ、小さな青いクラゲっぽい生き物であった。 その竜騎士は、撃墜される様子を見せず、どんどんと『レキシントン』号に近付いてくる。 ――そして、『シェフィールド』は―― 「ほっ――」 いつもより1オクターブは高い声が、その喉から漏れ―― 「ほっ、ほっ、ほっ――」 若干、引き攣ったような笑い声を形成し―― 「ほっほっほっ……ほーっほっほっほっほっ!」 唐突に肩を震わせ、大声で笑い出した。 「シェ、『シェフィールド』殿……?」 その尋常ならざる様子に、クロムウェルは一歩後ずさりながら、怪訝そうに声をかける。 しかし『シェフィールド』はそれに答えず、しきりに笑い続け――やがて、竜騎士がまさに『レキシントン』号に最接近してきた頃にその笑い声を止め、口を三日月のような形にしてニタリと笑った。 「ほっほっほっ。噂をすれば影とは、よく言ったものですね……まさか、こんなところで会えるとは!」 感激しているかのように言う『シェフィールド』。その視線の先にいる竜、その背中にいる男、猛獣、クラゲ――彼らは『風』の魔法、炎や吹雪のブレス、更には広範囲に迸る紫電などを放ち、周囲の竜騎士を撃墜している。 そして、それを見る『シェフィールド』は―― 「……手ぬるい。手加減してますね」 嘲るような言葉を放ち、横にいるクロムウェルが「は?」と眉根を寄せた。しかし『シェフィールド』は、そんなクロムウェルの様子に構わず続ける。 「彼らに撃墜された竜騎士たちは、おそらく一人として死んではいないでしょう。相変わらず甘い人ですね――ですが、それでこそ“彼”です。 こんな戦場にいながら甘さを保ち続ける……なんと素晴らしいことでしょう。彼に殺人を犯させることすらできない我が軍では、彼の行く手を塞ぐことなど到底できないでしょうね」 言っているうちに、竜騎士は『レキシントン』号の真横を過ぎ去ろうとしている。 ここまで近付けば、もはやその姿ははっきりと視認できる――『シェフィールド』の予想通り、やはりリュカであった。竜はグレイトドラゴン、猛獣はキラーパンサー、クラゲはホイミスライムだ。 そして彼らの視線は、この『レキシントン』号になど向いていなかった。おそらく、素通りするつもりなのだろう。彼らはこの艦に向かっていたのではなく、彼らの進路上にこの艦があっただけに過ぎない……ということか。 「この艦は眼中にない……ですか。ほっほっほっ。しかしこのまま、素直に通り過ぎることができるとお思いですか? 再会の挨拶です――このわたくしの操る地獄の業火、よもや忘れてはいないですね?」 言いながら、『シェフィールド』は右手の人差し指を天高く掲げた。その指の先に赤黒い火球が生まれ、回転しながらどんどんと膨れ上がっていく。 『シェフィールド』の表情が、狂気すら孕んだ愉悦を見せる―― 「受け取りなさい! そして思い出しなさい! あなたの父を奪った者を! あなたとあなたの愛する者たちを苦しめ続けてきた者を! あなたがこの世で唯一、一切の光を許さぬ純粋な黒い憎悪を向ける相手を!」 叫びながら、もはや『シェフィールド』の掲げる火球は3メイルにも及ぶ大きさになり―― 「そう、このわたくしの――ゲマの名を!」 言って、『シェフィールド』――否、ゲマは、「メラゾーマ」と叫んでその手を振り下ろした。 前ページ次ページ日替わり使い魔