約 2,769,057 件
https://w.atwiki.jp/abokadou/pages/94.html
sepiidaeがうっかり言ってしまったダジャレ ちなみにこの民謡とは「スカボロー・フェア」である .
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5409.html
前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第20話(実質19話) 船乗りは上陸が最大の娯楽である。 巨大な戦列艦も、性能を考えた設計をすれば、大砲や砲弾を積むスペースや 舷側の厚い装甲板、竜などの飛行幻獣を搭載するスペースや重量に 大部分を持っていかれてしまうため、戦闘能力に直接かかわらない人間の 搭載スペースがどうしても削られてしまう。いや、削らざるを得ない。 そのため食堂は手狭で風呂も無く、船員の寝室は狭い。いや、狭いとはいえ 寝室をもらえるのであればかなりましなほうだ。下士官の下、士官見習いが 数人押し込まれる狭くてベッドしかないような部屋ですら、かなり上等だ。 水兵ともなれば特定の寝室は存在せず、廊下や倉庫などにハンモックを吊るして そこで寝る事になる。下士官が数時間の間だけ使わないなと判断した一時的な 開きスペースで寝かされるのだ。当然、下士官の読みが外れたり突発事項が 起きたりすれば、その当面使わないはずだったスペースを使う事になり、 睡眠時間を削られる事になる。 航行中はちょっとした天気の急変で船員総出で躁艦をする羽目になることもあり、 やはり睡眠時間や休息時間を削られる事も多い。 食事は出航直後は新鮮な野菜や水も飲食できるが、日が経つにつれて 保存の利く根菜類、乾燥野菜、塩辛い漬物と蛆のわいたビスケットのみに腐った水 と悪化していく。風呂に入って体をすっきりさせることも出来ず、 わずかな水にタオルを浸して体を拭ければいいほう。もちろん飲み水も 制限され、一日に決まった量しか飲めない。酒も制限を受ける。 船上では緊急時を考慮して操船が出来る程度にしか酔えないのだ。 操帆のために帆下駄に登ろうというときに酔っ払っていたら死亡確定だからだ。 故に、船乗りは上陸が最大の娯楽である。 上陸すればこういったもろもろの悪条件から開放され、思う様飲み食いし、 ゆったりしたベッドで存分に眠り、後先考えずに酔っ払える。女も抱ける。 特に、戦闘艦の場合、戦闘後の血の高ぶりを解消するためには港に行って 商売女を確保するしかないこともあり、戦勝後には“できるだけ”港に立ち寄り、 褒美として最低一晩の上陸休暇を与えるのが慣例となっていた。 それは、海軍だけでなく空軍でも常識であった。 故に。アルビオン親征艦隊と黒色枢機卿艦隊に乗り込むほぼ全ての将兵達が、 スカボロー港で今夜はゆっくり羽を伸ばせると思っていた。 港を一つ、艦隊を二つ下し、アンリエッタの戦勝演説のが熱狂的な大盛況で終わった後。 啓太の執務室にぞろぞろと戻る薬草クラブ員達は、笑いさざめきながら 今夜の予定について話していた。 「どうする、ご褒美たくさんもらっちゃったし、今夜はスカボロー港に繰り出すか?」 「そうだな、レイナール! 是非そうしよう!」「う、うん、そうだよね!」 「さすがにモンバーバラみたいないい店があるかどうかわからんけど!」 「普通の店だって大歓迎さ」「女を射止める経験積まんとな」 「わっはははは!」「あはははは!」「わははははは!」 戦勝で沸き立ち、たくさんのご褒美ももらった薬草クラブ員達は、 港に大抵あるという娼館で女を買う相談を、声高にしていた。 上から下まで浮き立っている艦内では声を潜める必要も無く。 当然ながらそこを通りかかったものがいれば丸聞こえな馬鹿話である。 それは。 何の問題も無いはずであった。 そう。 その時。 たまたま、とある精神性疾患に悩む一人のオトコが通りかからなければ。 「やあ、ケータ君! どうだい、スカボローに着いたら娼館に一緒しないか?」 ヒクリ レイナールの邪気の無い誘いに、啓太の頬が、ひくついた。 そして、啓太は、相変わらず女を買う相談をしているレイナール達を見。 ついで本来ありえないことにしばらく前からひくつきもしなくなった 自分自身の下半身にちらりと眼をやった。 「ほう、そうか。」 凄絶な。 実に凄絶な笑みを浮かべて、啓太は笑った。 「そうか…港で女を、女を買って抱くのか。それに、俺を、この俺を誘っていると。」 レイナールが、彼の後ろで笑いさざめいていた同級生達が、異様な雰囲気を察した。 ぴたりと笑いをやめる。 「ど、どうしたんだい、ケータ君?」 啓太は、顔をうつむかせると、低い、非常に低くて誰にも聞き取れぬ声で ぶつぶつと陰気に呟いた。 「そうか。俺が女を抱く事が不可能になってる脇で、女を買いに行く相談か。 初陣を経験し、戦いに勝って手柄を立て、歴史の転換点を作った一員として 生涯誇りに出来るほどの栄誉に浴し、多大なご褒美をもらったという、 最高に幸福なこの時に、俺を尻目に、更なる幸福を欲張って 手に入れようというのか。実に、実にいい度胸じゃないか。」 「ど、どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」 レイナールが、心配そうに聞く。 啓太が、顔を上げた。そのときには、啓太はにこりと笑いを浮かべ、 ごくごく普通の、普段どおりの啓太に見えた。 そう、少なくとも、そう見えた。 「いやあ、悪いな、みんな。実はそれはもうちょっと待ってもらわないといけないんだ。」 「ええ!?」「そ、そんな!?」「こんな大勝をした後なのに!?」 「こ、今夜はしっぽりと思ってたのに!?」「ダメなのかい!?」 皆が驚いて聞き返した。誰も彼もが今夜は羽を伸ばすぞといっている艦内で、 これは寝耳に水の宣告である。 啓太が事実上アンリエッタの軍事顧問として作戦立案を行っているのは、 その作業を手伝っている彼らが一番良く知っている。 ということは。 「さあ、姫様のために仕事だ。執務室にに戻るぞ、みんな。」 啓太が、ニッカリと。にっこりとではなく、ニッカリと有無を言わさぬ迫力で笑った。 そして。 「い、イヤだ~~~!」「今夜は、今夜は美人をはべらせて!」 「これだけの戦果を上げた上にさらになんて!」「欲張りすぎだよ!」 「少しは! 少しは休ませてくれ~~~」「休暇を! 休暇を請求する~~~!!」 泣き喚く少年達を引きずって、啓太は執務室に入ると、船の進路について通達を出し、 薬草クラブ員達をこき使って徹夜で作戦計画を練ったのであった。 前日から始まったアンリエッタの覇道は、すさまじい勢いで突き進んだ。 翌早朝。 ロンディニウム郊外にある造船港ロサイスを急襲した連合艦隊は、 数と錬度の力押しで勝利し、港を奪取した。ロサイスで長砲身のカノン砲を 搭載中であった巨艦レキシントンを初めとして多くを取り逃がしはしたものの、 代わりに損害も少ない勝利である。その後には陸戦隊を下ろして ロンディニウムに侵攻、ハヴィランド宮殿を制圧する構えを見せた。 レコンキスタ側は当然戦力をハヴィランド宮殿に集結させる。 だがこれは連合艦隊の欺瞞行動だった。王宮に兵を取られ、手薄となった ロンディタワーという、昔の王宮にして現在監獄に一隊を潜入させ。 多くの捕虜達を救出し、アルビオン親征艦隊の陣容を分厚くし、 不動の忠誠を確保した。目的を達した連合艦隊は、知らせによって レコンキスタ艦隊が救援に駆けつける前に早々と撤退した。 「お見事ですわ、ケータ殿。」 「ほんと、こんなにあっさり成功するなんて思わなかったわ。」 「啓太様、すごいです!」「キョロキョロキュ~」 はしゃぐ女性陣に対し、悲痛な声を上げるのが男性陣だ。 「ああああああ!」「ロンディニウムが、ロンディニウムが遠ざかっていく!」 「首都で、首都でいい店にいけると思っていたのに!」「ひどいよ!」 「そうだよ、こんなぬか喜びさせて!」「今度こそって思ったのに!」 「すまんな、思ったより敵の救援が来るの早かったんだ。」 泣いて訴える薬草クラブ員達に、啓太はニッカリと笑ってわびた。 「ううう、この欲求不満をどうしてくれる」「そうだそうだ!」 「(ふふふふ、貴様らに、貴様らだけにいい思いはさせん!)」 昨夜に続いて今日も女を抱く機会を失った彼らは盛大にブーイングを上げたが、 啓太はどこ吹く風でさらに彼らをこき使った。 その日の昼ごろ、続々と艦隊が合流した。 トリスティン後続艦隊。ガリアの傭兵達を乗せていた船をまとめて統率し、 指揮官をシャルロット王女に据えたガリア義勇傭兵艦隊。キュルケの実家が 保有していた大型武装商船3隻を中心としたゲルマニア補給艦隊。 真の連合艦隊となった彼らは、サウスゴータをあっさりと占領し、 膨大な食料を手に入れた。当然連合艦隊は、一晩の休暇を将兵達に与えた。 ガリア義勇傭兵艦隊を除いて。彼らは、レコンキスタのタイン本陣の 後輩に上陸して挟み撃ちにするため、早々に別行動を取っていたからだ。 それ以外は、街に入って、あるいは港に戻ってゆっくりと休暇を楽しんだ。 しかし。 「ようし、サウスゴータを制圧して兵糧の策源地を手に入れたぞ!」 「さあ、今日こそ街に繰り出して宴会だ!」「よし、宴会だ!」 「馬鹿やろう、その前に荷物の積み込みを手伝いやがれ! アルビオン軍が この補給物資を待ってるんだぞ! 気絶するまでレビテーション使え!」 「そんな、気絶するまで使ったら今夜遊びにいけないじゃないか!!」 「るせーるせー、作戦上必要なんだ、文句を言うんじゃねええぇぇ!」 「うわあああん、なんで俺たちだけ休めないんだああ!」 「お前らが下士官の下、見習い士官よりも下の臨時だからだ、 下っ端はこき使われて当然、きりきり働きやがれ!」 「いやだああああ!」「休暇を、せめて一晩の休暇を請求する!」 「却下だ~~~!」 トリスティンには大少数十の魔法学院がある。トリスティン魔法学院ほどの 権威と設備、教育水準を誇る学院は首都トリスタニアにも無いが、 そこには沢山のメイジの男女が学び、修行をしている。 首都にある学院の中で、比較的水準の高い学校から男性メイジ (生徒だけでなく、教師も含む。トリスティン魔法学院からコルベール等も来た) をかなりの数連れてきた後続艦隊は、メイジの比率を非常に高いものにしていた。 それらをうまく使い、通常ありえないほどの高密かつ迅速な軍事行動が、 連合艦隊によって繰り広げられていた。メイジを兵士や労役夫のように使う。 魔法を工作機械や工事用重機程度にしか考えない、啓太ならではの運用方法である。 そして、当然のことながら、最も酷使されたのは、啓太の前でうかつなことを 口走ってしまったがために八つ当たりの対象にされた、薬草クラブ員男子達であった。 (-人-) (ちーん) 薬草クラブ員達の過酷な労働は続いていく。 「よし、風石鉱山を占拠したぞ!」「大量の風石が手に入ったな!」 「鉱山町ってことは娼館もあるよな?」「ちょっと質は低そうだけど」 「多分あるんじゃないかな」「よし、今夜こそ!」「いくか!」 「よし、出航だ!」 「えええええ!」「え”え”え”え”え”!」「EEEEEEEE!」 「なんだ、文句でもあるのか?」 「なんで旗艦だけ出航するんだよ!」 「そうだそうだ!」 「二つの艦隊の旗艦の振りをしているから忙しいのは知ってるだろ。 ほれ、ペンキの塗り替えと帆の交換、銘板の交換手伝いやがれ!」 「そ、そんなああ!」「また、また女の子達が遠ざかっていく~~~!!!」 「やった、また一つ港を確保したぞ!」「ばんざ~~い!」 「けど守りきるだけの戦力が足りないぞ?」「なに、問題ない。」 「物資をもらって放棄すればいいさ。」「そうだな。」 「連合艦隊の拠点に運べばいいだけだ。」「攻撃こそ最大の防御!」 「戦争とは経済行動だ!」「もうかりゃいいのさ!」 「さておき、今夜こそ休暇だよな?」「早速娼館の予約に行こうぜ。」 「あ、それ無理。」 「ええええ!」「え”え”え”え”え”!」「EEEEEEEE!」 「なんでだよ!?」「そうだそうだ!」「説明を要求する!」 「偉い将官達がすでに借り切ってるからさ。 もうちょっと早く仕事を終えてればよかったのになあ。お前ら遅いぞ。」 「そそそそ、そんなあああ!」「こんなに仕事を割り振ったからだろ!」 「酷い、酷いよケータ君!」「休暇を、せめて一晩の休暇を要求する!」 「だから。一晩の休暇はやるって。女の確保まではしらんけどな。」 「ブーブー!」「酷い、酷いよケータ君!」 「なに見習いの分際で言ってんだ、お前らに必要なのは己を鍛えルことナンダぞ、 俺はオマエタチを鍛えてやってるんじゃナイか。そのうちこの修行が役に立つYO!」 どこかわざとらしく言う啓太である。当然ながら、薬草クラブ員達は納得しない。 「そのうちじゃなくて!」「今、いや、今夜だけでいいから!」 「何とか、何とか!」「ケータ君のコネなら一軒くらい何とかなるだろ!?」 「すまン、姫様たちすらおふろにまともに入れないのに我慢してるんダ、 俺にはお前達の力になってやることはできないYO!」 「う…それは、確かに。」「姫様たち、暗殺予防のために下船して無いからな。」 「それと比べればずっとましだけどさ」「でも、せめて、ちょっとだけでも!」 「だめなんだヨ。 ごめんナ!」 薬草クラブ員達は、見習いの身でありながら次々と手柄を立て、 分不相応な栄光を思い切り享受しまくっていた。 しかし、彼らはその分、不幸であった。 主に、約一名のビョーキからくる嫉妬によって、実に実に不遇であったのである。 後の歴史家は、この日々の事をこう評した。 アンリエッタ・ド・トリスティン王女は、その日自由に泳ぐ湖を手に入れた。 本人もまた「ケータ殿と私の関係は水魚の交わり」とたびたび発言している。 彼女は、孤立無援の王宮の中で、 1日にして多数の若き協力者達を獲得し、 2日にして専横を振るっていたマザリーニ枢機卿をひざまずかせて 王宮の文官大臣達の忠誠をとり戻して政治を王家に復帰させ、 3日にしてトリスティン艦隊将兵の心を掴んで軍権を掌握し、 4日にして艦隊の錬度を向上させて精強にし、 5日にしてロサイスに巣食った背教者達を捕らえて膨大な金を得るとともに 3度レコンキスタに勝利して多くの艦艇を手に入れトリスティンを強国にのし上がらせ、 6日にしてレコンキスタの支配する首都ロンディニウムを脅かすとともに ガリア義勇傭兵団とシャルロット王女を救援に差し向けてレコンキスタを敗走させ (略) 10日にして(略)プリンス・ウェールズとアルビオンを手に入れた。 これを、疾風怒涛の10日間と呼び、各国は覇王アンリエッタを褒め称え、恐れた。 また、ガリア王女シャルロットの勇名もハルケギニア中に鳴り響いた。 ある日を境にまったく宮廷でみられなくなったため、暗殺されたとさえ 囁かれていたシャルロット王女が、突如としてガリア義勇傭兵団を率いて アルビオン救援に駆けつけたのである。傭兵達への充分な給与と糧食を 支給されていたタバサは、率いるガリア人を中心とした傭兵達の心を 充分に掴んでおり、3千程度とはいえ士気高い兵力を配下としていたのだ。 しかも、使い魔の風韻竜と共に竜騎士隊を率いてもおり、背後を突いた ガリア義勇傭兵団はレコンキスタを震え上がらせ、浮き足立たせるのに充分であった。 この日、アルビオン軍は一気に攻勢に出て、レコンキスタを敗走させたのである。 ただ残念なことに、この時追撃はほとんど出来なかった。 意外に思うかもしれないが、戦争において最も戦果を上げられるのは、 正面決戦のときではない。正面決戦で勝利し、敵を追撃する段階になってからだ。 敵は逃げるのであるから当然背後から攻撃する事になり、しかも陣形は乱れており、 敵の戦意は喪失している。この追撃のときにどれだけ余力を残しているかで 大方の戦果が決まるのである。しかし、アルビオン軍にせよガリア義勇傭兵団にせよ、 レコンキスタと比べれば寡兵であり、勝利するのがやっとであったのだ。 勝利後に降伏し、帰順を願い出た部隊を取り込むのに時間がかかったのも タイムロスとなった。とはいえ、総合的な戦力での逆転は、この一戦で成されたのだ。 勝利後、アルビオンの主だったものたちと挨拶し、宴に出たタバサは、 黙々と食べ、話をし、それなりに宴を楽しんだ。 今のタバサは、憂いの多くが解消している。 母の毒はルイズのディスペルで無効化され、使用人含めて人質にされそうな 者達は安全な場所にいる。自分の戦力を手に入れ、後見を得たが故に ガリア王ジョゼフへの復讐の足がかりも出来た。シャルロットの名は 今度の戦で大いに喧伝され、ガリア貴族の取り込みも容易になるだろう、 ジョゼフの足元を切り崩すこともたやすくなる、とケータが請合ってくれた。 つまりは、残る一つの憂い、父の敵を討つという目的の目処もついたのだ。 それゆえに、タバサの心には余裕が出来ていた。 シャルロット王女をウェールズ王子の后に、などという話も持ち上がったりしたが、 「私にはやる事がまだございます、よって、お受けできません。」 と、落ち着いて断る事が出来た。 彼らは、大いに英気を養っていた。そう。レコンキスタとの決戦に向けて。 レコンキスタVSアルビオン軍&連合艦隊。 雌雄を決する決戦は、おそらく明後日と予想されていた。 前ページ次ページいぬかみっな使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4328.html
前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第18話(実質17話) チェサピーク領上空で行われた事から、後にチェサピーク空戦と呼ばれる 戦いの終了後、アンリエッタは艦隊旗艦メルカトール号上で、戦勝の演説を 行っていた。戦闘前の演説と同じく、魔法で全ての艦に声が届けられている。 「皆の者、良くやった! 我はそなた達を褒め称えよう! 良く攻撃した、と! 今日はよき日である。そなた達は今日、転換点となる歴史を作ったのだ! 思えばこの数十年、トリスティンはただ攻め込まれ、守りの戦ばかりをしてきた。 外征を一度足りと行えず、領土を切り取られるばかりであった! さぞや鬱屈が溜まっていたであろう。己が祖国を小国と揶揄することすらあった! だが我は、本日ただいまよりはその揶揄を捨てることを宣言する! 見よ、8隻ものほぼ無傷な、見事な戦列艦を! 他にも多数の艦艇をわがトリスティンは手に入れた! これだけの砲艦を手に入れたとなれば、わが国はすでに小国ではない! ハルケギニアに胸を晴れる大国である! しかも、これは我らトリスティンの先遣艦隊のみが勝ち得た戦果なのである! 後続艦隊が到着すれば、その力はいかほどにまでなるか! レコンキスタ、恐れるに足らず! 鎧袖一触とはまさにこのこと! 将兵達よ、誇れ! 胸を張れ! 汝らは強い! トリスティンに栄光あれ!」 アンリエッタの力強い演説が途切れると、艦上の将兵達の声が唱和した。 「我らは強い!」「我らは強い! 我らは強い! 我らは強い!」 「トリスティンに栄光あれ!」「トリスティンに栄光あれ! トリスティンに栄光あれ! トリスティンに栄光あれ!」 「アンリエッタ王女殿下、万歳!」「 アンリエッタ王女殿下、万歳! アンリエッタ王女殿下、万歳! アンリエッタ王女殿下、万歳!」 遠く離れた僚艦上からも、アンリエッタを称える声が木霊のように返ってくる。 だが空の上に木霊を返す障害物などあるはずもなく、音速の壁による伝播の 時間差でしかない。全ての僚艦上でアンリエッタを称えているのだ。 アンリエッタが手を上げ、続きを話すことを示すと、唱和は潮が引くように 消え去り、静寂が戻ってくる。 「我は、このよき日に、そなた等に更なる栄光を加えることを許す! 我は今日、3度の勝利を約束する! たった一度の、まぐれの勝利ではなく、 実力による完全なる勝利を証明するに足る、3度の勝利を約束する! そのふたつ目の勝利は、2時間後に与えられるであろう! 邪悪なる背教者、レコンキスタの根拠地と成り果てたスカボロー港! 我らは、これを開放するのである! 皆、急ぎ次なる戦いの準備をせよ! 終わった者より、交代で仮眠を取り、ワイン1杯とパイを食す事を許す! 次の戦いは2時間後の予定である。それまで、英気を養うのだ!」 怒号のような歓声が上がる。まぐれではなく、実力を証明する更なる勝利! アンリエッタの約束したものがまさに与えられたばかりの彼らは、 更なる勝利の約束に熱狂していた。 演説の後、堂々とした歩き振りで自室に戻ったアンリエッタ王女は。 椅子に座って寛いで…もとい、茹で上がっていた。 「姫様、又顔真っ赤です。」 高空なので結構涼しい、もとい寒いというのにアンリエッタの顔は真っ赤である。 ルイズとともはねが二人して扇で扇いでいるほどだ。 「伝令や戦況監察官も含めて丸ごと拿捕の完勝を記念する、 良い演説でございました。というわけで、次はこの演説をですな。」 と啓太は計画の第5段階を姫に説明して演説草稿を渡している。隣に立った マザリーニ枢機卿も説明を受けており、自分用の演説草稿を読んでいる。 「やだ…またこんな恥ずかしい演説を!?」 説明する啓太にぼやくアンリエッタを、難しい顔のマザリーニが諭す。 「人の上に立つ者の仕事の一つにございます。おあきらめ下さいますよう。」 「で、でも。」 先ほどの演説も本当に恥ずかしかったらしく、アンリエッタは抗弁する。 戦闘開始前の演説においても、アンリエッタは茹蛸になっていた。 椅子に座っていれば大概の船員に見えない角度だったのは勿怪の幸いであった。 「啓太殿の言うとおりですな。これが一番効果的です。」 「おお、お分かりいただけますかな、枢機卿殿。姫殿下、ご理解ください。 王族には将兵を守り、聡し、導き、時には操る義務がございますのです。」 かくして、アンリエッタは降伏したレコンキスタ艦に行幸した。武装を解除 され杖を奪われた貴族士官達。武装を解除され、縄をかけられた水兵達。 アンリエッタがまとうのは、啓太が貸した白銀のマント。日の光を浴びて まるでダイヤモンドで織られたかのごとく、眩い輝きを反射するマントは、 清楚な乙女の身を飾るに実にふさわしく、アンリエッタを引き立てた。 (本当にダイヤモンド製なので当然なのだが) その両脇に立つのがマザリーニ枢機卿とマンティコア隊隊長ド・ゼッサールだ。 啓太とともはね、ルイズなどはつつましく後ろに控えている。 上空にはいつでも降下ボーディングが可能な位置と砲撃可能な位置に トリスティン戦列艦が並び、無言の威圧を放っている。 レコンキスタ艦隊の主だった者と旗艦の水兵を集めたメインデッキを 見下ろすアッパーデッキ上にアンリエッタ達は立ち、演説を始めた。 多数のトリスティン水兵やメイジ達が見張りとして展開している。 その人数は、おおよそレコンキスタ4人につき1人といったところである。 彼らは安全確保の見張りのためという名目でアンリエッタ達に背を向けて 話を聞くことを命じられていた。だがそれは建前。彼らは、各担当の レコンキスタ将兵の表情を重点して見ていろ、と言われている。 演説の最初は、マザリーニ枢機卿だった。クロムウェルが虚無を 装うためにアンドバリの指輪を使っていること、それは始祖ブリミルの虚無を 冒涜する行為であり、レコンキスタに加担することは背教者として 異端審問にて有罪となるに充分な行為である事を知らしめた。 彼らレコンキスタの将兵に対し、レコンキスタの背教行為を説明したのだ。 (この時、ロマリア教皇の怒りに触れるで“あろう”等と推測形で言っている だけであり、嘘ではない) ついで、ド・ゼッサールが説明し、アンドバリの指輪を使って 心を操る事によって主だった武将を反乱させたクロムウェルの行為を非難し、 操られた上官ゆえに従っていたと考えるものは後で名乗り出よと伝えた。 同時に、突然思考を翻し、操られたと思しき者達の情報提供を呼びかけた。 最後にアンリエッタが、アルビオン国王の姪として救援に来たこと、 このままでは連合軍によってレコンキスタとその支配地域が 蹂躙されるであろう事、その前に素早く反乱を鎮め、アルビオンを荒廃から 救うために、アルビオンを思うものたちは協力して欲しいと訴えた。 (このままだとトリスティン以外が食指を伸ばすだろうから嘘ではない) 最初に前に進み出たのは、一人の艦長だった。 「レコンキスタ艦隊重巡洋艦ワシントン艦長サー・ヘンリー・ボーウッド にございます。私は上司の命令で仕方なくレコンキスタに組していました。 同時に、ロンディニウムの監獄塔に仲の良い同僚や部下達を囚われ、 彼らを人質代わりにされて従ってきたのです。アルビオン王党派よりの立場 だったが故に囚われた、頼もしく頼りになる仲間達でございます。なにとぞ、 彼らをお助けくださいますよう。さすれば私はこの場で従いましょう。」 救出を訴えるボーウッドにアンリエッタが問いただす。 「レコンキスタは、そなた達に具体的にどう申したのです?」 「は。レコンキスタは、我らが良く働くのであれば牢の待遇もよくなるだろう、 戦後は流刑地に送るが殺しはしない。そう約束しました。ですが。我らが 寝返ったとなれば、生かしておく理由が消えまする。時間がございませぬ。」 深い苦悩をにじませる訴えに、アンリエッタは、にこりと笑って答えた。 「レコンキスタが約束を守っているのであれば、救出の望みはありますね。 よろしい。我が従兄弟の忠実な部下達を助けるため、出来る限りの 努力をいたしましょう。代償はレコンキスタを叩き潰すまでのそなた達の忠誠。」 アンリエッタは、ついと片手を差し出した。 ボーウッドは、うやうやしくアンリエッタの手に接吻した。 怒号のように歓声が沸き起こる。この瞬間、アンリエッタは レコンキスタ艦隊将兵の半分の心を掴んだ。 次に名乗り出たのは、フィッシャー砲術長だ。 「私はジョン・アルバスノット・フィッシャー砲術長。どうにも我慢ならぬ 事これあるにつき、恐れながら申し上げたく存じまする。 これを解消していただけるのであれば、姫殿下に忠誠を誓いまする。」 「聞きましょう。どのような不満なのです?」 「ありがたき幸せ。当艦隊には、無能なる将校が数多くおりまする。 中にはレコンキスタ万歳と真っ先に叫んだだけの理由で下士官から副艦長に、 よいですか、下士官から副艦長に昇進した者までおるのです。 このような暴虐非道、天の道理をわきまえぬ人事は、断じて我慢できませぬ。 しかし、レコンキスタに不満を漏らせば牢に入れられ、あるいは降格され 己の部下の中から選ばれたものが後釜に座るだけであるため、仕方なく 従っている者がなんと多いことか! 正当なる人事。これを望みまする。」 「そなた達の不満と鬱屈、確かに聞き届けました。」 そういって、アンリエッタは居並ぶものたちを見渡し、宣言した。 「レコンキスタによって不当に地位を貶められたもの、不当な上司を あてがわれたものは申し出るように。見張りの者達が多くいるはずゆえ、 それらに申し出ればよい! 正当なる人事が、直ちに行われよう! ふさわしい者が遠き牢に囚われ、空いているポストは今は代理を立てよ! 近いうちにそのポストにはふさわしい人物が就くであろう!」 またも歓声が爆発した。アンリエッタの指示は、救出された上司や同僚が 帰ってくる事を意味していたのだ。 こうしてアンリエッタは、残る5割のうち、4割の心を掴んだのである。 これらの話の間に、レコンキスタ将兵はじっくりと観察されていた。 観察していたトリスティン将兵達は、危険そうな者、反抗的な者、 レコンキスタに組して昇進していた者達等を分別して船倉に追いやり、 残る信頼できそうな者達を本来の地位そのままに使用したのである。 無論、メイジの杖は取り合えげられていたし水兵の武器も取り上げられていた。 見張りのために、戦列艦に降下した魔法衛士隊員を中心とした 一群が乗り込んでもいたが、他は以前とほとんど変わりない。 信頼され慕われている副艦長などの人事が以前に戻った事を含めれば、 さらに変化は乏しく見えた。しかし、その所属と行動原理はまさしく正反対 となっていたのである。このあたりは、組織というものの長所であり欠点だ。 上に立つもの次第でその性質はいかようにも変わる。 だからこそ人事権を握る事が組織を握ることに等しくなるのである。 レコンキスタの対トリスティン艦隊序列2位の重巡洋艦ワシントンは、 艦名を昔のヴァンガードへと戻した。サー・ヘンリー・ボーウッドは 艦隊指令代理となり、旗艦機能はニューヤーク改めタイコンデロガから ヴァンガードへと移った。慣れた艦のほうが、指揮に集中できるからである。 “アルビオン親征艦隊”指令兼ヴァンガード艦長となったボーウッドは、 アンリエッタの命ずるままの通信をスカボローにと送っていた。 通信筒を運ぶのはレコンキスタ軍の制服を着たトリスティンの竜騎士である。 道案内として杖を預かられたアルビオンの竜騎士が先導する。 スカボロー港の所定の場所へ無事通信筒を届けた竜騎士達はそのまま艦隊に とんぼ返りする。通信の内容は、平たく言うと 「現在艦隊指令方が負傷されたため、本官が代理で通信を送る。 トリスティン艦隊と行動を共にしていたガリア艦隊がスカボローに 向かっているので迎撃を求む。現在我が艦隊はトリスティン艦隊の掃討中にて 追撃不能。ガリア艦隊は民間船を装っているので注意せよ。航路は(後略)」 というものである。直ちにガリア艦隊を迎え撃つために、 スカボロー駐留艦隊が出撃した。偽の情報に合わせた航路をたどって。 それからしばらくして、次なる通信筒が届いた。平たくまとめると 「無事トリスティン艦隊を撃退するも相応の被害を受けたため緊急に修理と 補給の必要あり、比較的近い貴港にて修理を求む。準備を整えられたし。」 というものである。 “アルビオン親征艦隊”には、アルビオン水兵服を着込んだ多数の トリスティン陸戦隊が乗り込んだ。同時に、トリスティン艦隊からもたらされた 多くのうまい食い物…アルビオンの食事は食えればいいという程度で、 他国人からはうまい食材をわざとまずくする調理していると評される…と うまいエールを与えられてご機嫌で協力を約束した元レコンキスタ陸戦隊とが いまや遅しと出撃準備を整えていた。目指すは、スカボロー港である。 大破もしくは中破したスループ船やフリゲート艦を 曳航した“レコンキスタ艦隊”が入港してくると、世界樹の枝には多くの 港湾労働者が群がり、接岸作業に入る。ほぼ全ての接岸作業が終わる頃、 一部の者達が疑問を感じた。艦隊司令部に向かった者達以外、誰も降りてこない。 その事を聞くと、一様に「取り逃がしたトリスティン艦隊が残っていて こちらに破れかぶれの奇襲を仕掛けてくるかもしれないので下船禁止だ。」 との答えが返ってくる。 そんなものか? と納得していた彼らは目をむいた。 高らかに艦隊司令部のほうから鳴ったトランペットの『いざ切り込む時だ』 の曲と共に、するするとレコンキスタ旗が降ろされ、かわりにアルビオン旗が 掲げられたのだ。 同時に、多数の陸戦隊が整然と上陸を始めた。 アルビオン水兵のように、あまりに数の多い下級兵士は、レコンキスタ専用の 制服というものを与えられていない。そこまで大量の制服の発注が 間に合わず、また反乱によってころころと所属が変わるたびに制服を与えるのでは どうにも対処が難しいからである。よって、新規に制服を与えられたのは レコンキスタ士官達である。艦の中から走り出て陸戦隊の前に出た士官達は、 一様にトリスティン艦隊の士官服を着ていた。 港湾労働者に彼らを止められるはずも無く、止める理由も無い。 港の戦力のほとんどは“ガリア艦隊”が向かっているので迎撃されよ、 との偽情報で出払っており、まともな防衛行動は不可能だった。 スカボロー港艦隊司令部には、充分な数の魔法使い達が到着しており、 そのままあっさりと制圧された。そこに、無傷のトリスティン先遣艦隊が接近。 ほぼ無血で、スカボロー港は落ちたのである。味方が血の一滴も流さない、 完全勝利であった。 陸戦隊を下ろしたトリスティン艦隊とアルビオン親征艦隊は、 一路東を目指した。そちらに、第3の獲物が待っているのである。 レコンキスタ、タイン陣地艦隊総司令部にて、サックス・コーバーグ・ オブ・サウスゴータ(マチルダの叔父)は、はなはだ不穏当な報告を聞いていた。 「な、なんだと! 対トリスティン警戒艦隊が消息を絶った!?」 「は! スカボローにトリスティン艦隊と行動を共にしていたガリア艦隊が 向かっているので警戒するように、敵は民間船を装っているので注意せよ、 との竜騎士の通信筒による報告を最後に消息を絶ちました!」 「くっ! そういえばスカボローからの情報では!」 「スカボローからは、敵艦隊がこちらに向かっているとの情報を得たため 迎撃後タイン陣地に向かう、ついては集結に遅れるので許されよ、 との伝令が来ております!」 「うぬ、ガリア艦隊が来るはずが無いなどと! サイトとかいう新参者の 言を信じた我が馬鹿であったわ! 複数から発見情報が来ているではないか! こちらは数で押しているのだ、余計な介入さえ排除すれば充分地上戦で 勝てるというのに、艦隊を移動させてしまったせいで対処しきれん!」 詳しいアルビオンの切り抜き地図と、ハルケギニアの地図が重ねられた戦況卓。 アルビオンの地図は、時間に従ってハルケギニアの地図上を移動させられる。 その地図上には、いくつものレコンキスタ艦隊の駒が移動中を示す マーカーと共に置かれている。どれもタイン陣地に向けて移動中であった。 移動中ということは遊兵化している、という意味でもある。 今現在は、敵と戦うことも警戒のため即応体制にも無いということ。 港に駐留している場合と比べて、片方の場所の特定が難しいため 情報の伝達も困難になる。 まさにそのタイミングを狙ったかのように、 敵が連携して同時攻撃を仕掛けてきたように見える。 「まさか敵の狙いはこの状況で叩くことだったのか!? だとすれば一体何箇所で我らが艦隊が攻撃を受けているかわからん! くそ! 私はクロムウェル閣下に報告してくる、ここを頼むぞ!」 この世界に通信機はない。ある種の強力なマジックアイテムを使って 遠距離即時通話が可能な場合もある、という程度の世界である。 当然ながらほとんどの情報は自分でおもむくか、あるいは伝令などを使うしか 集める手段がない。集めた情報は移動にかかった時間の分だけ古いものである、 ということを考慮して使用する必要がある。 タイン川沿いのレコンキスタ本陣で大騒ぎが持ち上がっていた頃、 ガリア船団はレコンキスタ艦隊の接近を確認していた。 ガリア『艦隊』ではない。ガリア『船団』である。 彼らはラ・ロシェールで異端船拿捕が始まる寸前までに出航した連中である。 啓太が意図的に選別して出航許可を与えるよう指示した船団だ。 「このリスト見るとずいぶんガリアの船が多いな?」 先日、啓太の私設秘書団の一人と化したレイナールの報告書に、 啓太は疑問を呈し、いくつかの説明を受けた。 「それはもう、戦でもっとも必要なのは火の秘薬、硫黄だからね。 アルビオンには硫黄のまともな鉱山が無くて、買い入れるしかないんだ。 ガリアには火竜山脈という火山地帯があって、良質の硫黄を産出する鉱山が たくさんあるんだ。なんでもレコンキスタは黄金並みの値を硫黄につけて 買いあさってるそうだよ。」 「なんだと!? 詳しく話せ! というか、詳しい奴は根こそぎ呼んで来い!」 啓太は、ほんの10分の情報収集と指示で、この作戦を展開した。 だが、本当に重要なのは、非常に有効なこの作戦の立案ではなかった。 それについては、後に説明するとして、今は『ガリア艦隊作戦』を追おう。 商船の選別条件は、ガリア船籍でガリア人傭兵や戦略物資を運び、 船足が同じくらいで特定の同じ港、この場合スカボロー港、が目的地であること、 少しは武装していること、なおかつガリア王直轄商船もしくは異端容疑で脅して 大金をふんだくるのが難しいバックを持つ船、といったものである。 (ようするに、ガリア王ジョゼフに打撃を与えられそうな船) これらを、「軍事訓練の都合上この時間帯しか出航を許可できない、 次は3日後だ」と通達して同じ時間帯に出航させ、「空賊船が出没しているから なるべく固まっていったほうがいい」と“忠告”してあたかも一つの部隊として 統制されているかのごときまとまりを持った船団としてしまったのである。 啓太の出した偽伝令によって疑心暗鬼となっているレコンキスタ艦隊は見た。 通常はばらばらに出航してばらばらにアルビオンに向かう商船団のはずが、 一塊になってスカボローを目指している。掲げる旗は全てガリア国旗。 偽装したガリア艦隊が来た、と誤解させるに充分であった。 しかも、接触の少し前にガリア船団を守るかのように風竜隊が出現した。 先頭を駆るのは、小型の風竜に乗った、青い髪の少女だ。 「良いか、皆の者、この戦いの目的は敵に打撃を与えることではない! 攻撃を受けたという事実を作ることこそが目的である! 必要の無い戦闘で一騎なりと部下を失うことを私は好まない! 皆、生きて帰る事を至上とせよ! 攻撃、開始!」 啓太に入れ知恵された無口なはずの“シャルロット王女”が 長口上で檄を飛ばすと、制服を定めず思い思いの飛行服に身を包んだ 風竜隊がレコンキスタ艦隊…の周りを哨戒する竜騎士隊に襲い掛かった。 わずか数分の攻撃。というよりも、かなわぬまでも襲い掛かったが あっというまに追い返された、とでも言うべき戦闘。 双方とも被害は無く、逃げる竜騎士隊の追撃も、 「深追いするな、ガリア艦隊におびき寄せる罠だ!」 とすぐに止められる。彼らの逃げる先に、遠く“ガリア船団”が見えていた。 ガリア船団には、多くのガリア傭兵が乗り込んでいた。高い賃金を払う レコンキスタ軍に雇ってもらうために乗り込んでいるのだ。 傭兵達は、船員達の邪魔にならない甲板上で、思い思いに寛いでいる。 それは、どう見てもガリア軍艦の陸戦隊にしか見えなかった。 当然ながらレコンキスタ艦隊は問答無用で“ガリア艦隊”を攻撃した。 商船団である、との旗流信号も無視された。しかたなく自衛用のわずかな 大砲で反撃する船が続出したが、レコンキスタの誤解を深めるだけである。 “ガリア艦隊”は蹴散らされ、ほうほうの体で逃げ散ったのである。 レコンキスタ艦隊が誤解と気づいたのは、完全に“ガリア艦隊” を蹴散らしてしまった後だった。こんな報告をタイン本陣に送れるはずもなく、 艦隊指令はこのように報告した。 「わが艦隊は卑怯にも商船団に偽装した有力なるガリア艦隊を発見。 竜騎士隊ならびに大砲での攻撃を受けるも撃退、戦闘用スループ船3、 戦列艦1を撃墜、陸戦隊多数を殺傷。他国救援艦隊に補給のために 随行したと思われる輸送船多数を撃破・もしくは拿捕せしむ。」 ガリア船団の船員達は当然帰った後にレコンキスタの海賊行為を語り伝えた。 これはガリア(国王ではなく)王国とレコンキスタの間に大きな溝を作り、 ラ・ロシェールを使用する商人達の対レコンキスタ感情の悪化を招いた。 レコンキスタ陣営に存在しないはずのガリア艦隊の来襲をしらしめて ガリアとトリスティン以外の艦隊の実在を信じさせ、弾薬や風石の射耗を強要し、 兵員を疲労させ、拿捕船と言うお荷物を押し付けて動きを鈍くし、 レコンキスタ艦隊を誘引してアルビオン軍への攻撃に参加することを阻止し、 レコンキスタへの今後の補給を阻害した。豊富な資金を持ち硫黄を黄金並みの 値段で買い取るほどだったレコンキスタへの荷が止まったことにより 軍需物資の値段が暴落、トリスティンの物資調達が楽になるだろう事もあろうか。 かくして、なんら腹の痛まない作戦により、啓太は多くの戦果を得たのである。 だが、最大の目的は、一時的に敵艦隊をスカボローから離れさせ、 その後良い位置で彼らを補足、撃破する絶好の機会を作ったことだろう。 夕方、ガリア船を曳航してスカボローに帰ってきたレコンキスタ艦隊は、 アルビオン親征艦隊と“黒色枢機卿艦隊”の十字砲火とボーディングにより、 実にあっさりと撃破され、降伏もしくは逃亡したのである。 トリスティン艦隊ではなく、“黒色枢機卿艦隊”によって、である。 啓太は、素早く取り付けられる支柱と畳1枚分程度のベニヤ板を多数組み合わせ、 艦のメインデッキの舷側近くに斜めに板を張り巡らせるプレハブ方式の 偽装装甲を施した。通常の船に翼をつけた艦形のトリスティン艦隊は、 それだけで飛行船型をした新式の船に(少しだが)形が似る事になり、 印象ががらりと変わる。さらに、メインデッキに張り巡らされた 偽装装甲板には両舷にいくつもの砲撃口が開いており、大砲が設置されていた。 ただの大砲ではない。木砲である。これは木製の大砲で、威力も弱く、 砲身の寿命も短く、単なる数合わせに使用されるものであるが、 軽く簡単に作れるのが利点だ。表面を青銅に錬金し、黒い塗装を施したので 傍から見る限りは本物に見える。これで、外形上はまるで別物である。 さらに艦名を記した銘板をロマリア艦隊風のものに交換させ、ロマリア国旗と 枢機卿旗、司教旗、司祭旗などを掲げさせ、マストにブリミル紋を 白く染め抜いた黒い帆を上げさせたのである。船体は黒くタールで塗らせた。 トリスティン艦隊も腐敗を防ぐためタールを船体に塗っているが、船体に一筋 白い線を描いており、それが視覚的特徴とも言える。その部分を黒く塗らせたのだ。 これは、枢機卿自らが座上する旗艦を持つ場合だけに許される艦隊の特徴だ。 ちなみに、法的には枢機卿が率いる艦隊ならどれでも黒色枢機卿艦隊となる。 しかし、枢機卿自身が個人として艦隊を持つことなどありえず、 前例から言って必ずロマリアの教皇聖下の命でロマリア艦隊から抽出される。 そこを突いたのである。しかも、ロマリア人司祭達が、各人金貨1枚で “トリスティン艦を雇い、自分の配下とした”のである。命令は唯一つ 「マザリーニ枢機卿の命令に従え。」 こうして、形の上からはロマリア人の私設艦隊となったトリスティン艦隊は、 慌てふためくレコンキスタ艦隊を夕日の薄暗い光の中蹴散らしたのである。 レコンキスタ本陣に最後に届けられたのは、陥落寸前のスカボロー港からの 報告とスカボロー駐留艦隊が逃走後によこした報告である。それによると、 トリスティン艦隊を警戒しいていた艦隊はあっさりとトリスティンに 拿捕された、もしくは寝返ってスカボローを襲い、ガリア艦隊は 撃破されたものの実在し、ロマリアの黒色枢機卿艦隊が現れて我がほうの艦隊を 蹴散らしたため再集結しているかもしれない。 トリスティン艦隊はスカボロー出航後行方がわからず、 ゲルマニア艦隊は目撃情報があるにもかかわらず所在がつかめない。 レコンキスタは戦慄した。明らかに、連合艦隊が来て我がほうに補足されない 様に動いている、しかも、味方艦隊がいつ寝返るかわからない、と。 彼らは集結させようとした艦隊を警戒のため再び分散せざるを得なくなったのである。 レコンキスタが接収し、司令部としている小さな村。住民はとうの昔に 逃げ出しており軍人のみが闊歩している。その村長宅には司令部が置かれ、 平賀才人に与えられた部屋は少し離れた一軒家にあった。隣には大きな納屋。 「サイト様!」「お帰りなさいませ。」「夕食になさいますか?」 「お風呂を先にします?」「それとも…ワ・タ・シ?」「ちょっと!」 「マノン、あんた昨日抱いてもらったばかりでしょ!」「今夜は私よ!」 「一人なんておっしゃらず私も!」「でしたら私も!」「私も!」 4人もの美女を与えられた才人は、相好を崩したが、一瞬後には顔を引き締めた。 「すまないが、全ては後だ。部屋に一人きりにし、盗聴されないようにしてくれ。」 美女4人の顔も引き締まった。何度も調べているというのに改めて 調査を行い、魔法を使って調べ、2階の1室に結界を張った。 そこで才人は携帯電話で時間を確かめ、ヘッドバンドを取って 額に刻まれたルーンを露にするとひざまずき、ぶつぶつと独り言を繰り出した。 「陛下。陛下。偉大なる陛下の忠実なる僕、平賀才人にございます。 どうか、お声をお聞かせ願いたく。陛下。陛下。」 額のルーンが、淡く光る。5分ほどもそうしていただろうか。才人の顔が、喜びに輝いた。 その頃、数日にわたる狩猟から王都リュティスはヴェルサルテイル宮殿に戻った ガリア王ジョゼフは、部屋で一人となり、人形に向けて一人遊びを始めていた。 「おお、我が忠実なるミョズニトニルンよ。どうだ、そちらの手はずは。 もう王党派を撃破したか? なに? いまだ抵抗している? どういうことだ? なんと、連合艦隊が!? わがガリア艦隊まで参加しているだと!? ばかな、では、我のあずかり知らぬ連中が密かに参戦したとでも言うのか? ふむ、それは面白い、こうまで我の思うが侭では、まったくつまらぬ。 少しは歯ごたえが無くては、ゲームともいえぬ。 なに、これでよいのか、だと? はははは! かまわぬ、そもそも真の謀略とは、失敗したとて 己の利益となるように用意しておくものよ。 我が此度の謀略で、どれだけの物を得たのか、知っておろう! レコンキスタという反王家組織を表の顔として、我がガリア王国に 巣食う我に反目する者どもと接触してその実態の8割を掴んだ。 最近多い我に不満を持つものの暗躍とテロのうち、大きなものは皆事前に 思いとどまるよう誘導し、取るに足らぬ小さなテロや陰謀のみに押さえ込んだ。 アルビオン王国の戦力を内乱で潰し合わせることによってアルビオンへの 警戒に割く戦力を削り、我に反するものどもへの警戒に回せた! 資金をレコンキスタに援助し、高値で硫黄を買わせることで値を吊り上げ、 我が所有する硫黄鉱山の価値を何倍にもし、硫黄商人たちにも膨大な税をかけて 膨大な利益を得た。その中からレコンキスタへの援助をしていたのは痛快だ。 奴らは、アルビオン貴族の領地を一つ手に入れるたび、溜め込んだ黄金を 我がガリアに流し込んでいることすら気づいておらぬ! 足りない分をまた援助してやれば、我の代理人に感謝して言うがまま。 いつでもレコンキスタを利用できる状態を維持しておる。他の国々も硫黄の 値上がりによって金を我がガリアに供給しておることに気づいておらぬ。 戦とはな、経済活動の一種だ、サイト。すなわち、我はもうすでに勝利しておる!」 「なに? それでも、できるだけ当初の予定通りに進めたい? そんなにも張り切らずとも良いであろうに。我への忠誠のため? サクシャとやらに弱体化される前に召喚した事への礼という訳か? おぬしの言うことは時々良くわからぬ。しかしな、我は王党派、 レコンキスタ、どちらが勝利しようとかまわぬのだ。 レコンキスタが勝てば、我の操る政権が誕生する。金銭感覚を破壊 してやった政権だ。すぐに破綻し、われが征服する下地となろう。 王党派が勝てば、反旗を翻した貴族達への粛清が始まり、メイジの数を減らした アルビオンは弱体化し、恨みと反乱の種がまかれ、我が征服する下地が出来る。 潰しあいの末共倒れになるのであればやはり我が征服するにた易くなる。 他の国が征服したのであれば、よほどうまく統治せぬ限り反乱の温床となる。 うまい統治などさせねば良い以上、解放者として我が征服するにた易くなるな。 いずれにせよ、我の得にしかならぬ。」 それは、啓太の教える『リソースは少なく、常に一石二鳥も三鳥も狙うべし』 という方法をさらに1段上回る方法論であった。この段階にいたれば、 結果がどう転ぼうと失敗とはならない。成功し続ける事が可能なのだ。 失敗する場合は唯一つ。まったく予測不能な事態が起き、想定外の 方向に物事が転んでいく、という場合である。 すなわち、イレギュラーに弱いのだ。 跪いた平賀才人は、一抹の不安を感じていた。ガリアを含む 連合艦隊が突如として救援に訪れるなど、想定外だった。 全ての宮廷で、事前に入念な誘導を仕掛けて救援するにあたわずと 世論を操作していたはずなのだ。それなのに、このタイミングでの 圧倒的な数の増援。ありえない。まったくのイレギュラーが起きている。 今後もそのイレギュラーが連鎖しないと、誰が言えるだろうか? 無論、救援艦隊が来た以上、アルビオンは領土の一部割譲くらいは 飲まねばならないであろう。そうなれば、ガリア艦隊も来た以上、 アルビオン大陸に橋頭堡ができる事になる。レコンキスタが敗北したとて、 それはそれでめでたいことであり、問題は無いはずではあるのだが。 才人は、意を決してガリア王ジョゼフに進言した。 「陛下。サイバインまでは必要ないでしょうが、せめてゼロの使用許可を。」 前ページ次ページいぬかみっな使い魔
https://w.atwiki.jp/seiyu-coversong/pages/481.html
よしだ こなみ カバー曲一覧 曲名 収録・音源 他ボーカリスト エルガイム-Time for L-GAIM- とうきょうデンキKIRA KIRA合唱団 THE MIRACLE FOREVER 子守唄を聞かせて タイムカプセル9 声優ミレニアム・シリーズ コンドルは飛んでいく THE SOUND OF SILENCE スカボロー・フェア THE SOUND OF SILENCE 窓 タイムカプセル9 声優ミレニアム・シリーズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8377.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 「エツィオ・アウディトーレ! 無事だったか!」 「サー」 エツィオによる『レキシントン』号爆破から三日後、 ほぼ機能停止となったロサイスから遠く離れた街、スカボローで、エツィオはヘンリ・ボーウッドと再会を果たした。 二人は固く握手を交わすと、ボーウッドは苦笑しながら首を振った。 「よしてくれ、ぼくはもう『サー』ではない」 「これは失礼を、シニョーレ。……ここは人目が多い、歩きましょう」 エツィオは一礼すると、ボーウッドを促し、歩き出した。 「聞いたか? ロサイスで大規模な爆発事故が起こったらしいぞ」 「ああ聞いたよ、なんでも、『レキシントン』号が突然火を吹いて大爆発したんだろ? 死傷者の数は計り知れないんだってな」 二人がスカボローの街を歩いていると、住民達の噂話が聞こえてきた。 二人は街を歩きながら、その噂話に耳を傾ける。 「議会議員がまた一人殺されたって話は聞いたか? ロサイス郊外の街道で、ジョンストン議員が変死体で見つかったそうだ」 「おいおい、本当か! これで何人目だ? 一体誰がそんな事を……」 「決まっている。『死神』の仕業だ」 「『死神』?」 「ワルド子爵を暗殺してのけた王党派のアサシンだよ。ロンディニウムの広場に堂々と現れても、誰も手出しできない凄腕だそうだ。 なんでも、ロサイスで行われた緊急会談、その最中に現れて、議員一人を殺ったって話だぜ。すげえのは会議の閉会まで、誰も気がつかなかったそうだ」 「アルビオンは大丈夫なのか? 建国からまだ三週間と経っていないのに……」 そんな噂話を聞いていたボーウッドは口を開いた。 「街は君の噂でもち切りだな」 「そのようで、……しかし爆発事故と言うのは?」 「兵達の士気を考慮してのことだろう、ロサイスを壊滅させ、貴族議会すら半壊させたのが、 たった一人のアサシンの仕業だと知られては、否でも士気は下がるだろうからな。 ……とはいえ、もはやそれも無駄だろうがね。『レキシントン』号を失ったのは奴らにとっては大きな痛手だ」 「はい、偶然とはいえ、ロサイスの機能も停止させることができました。貴方のお陰です、シニョーレ」 「いやなに、ぼくはなにもしていないさ。それにしても、まさか政府高官まで暗殺してのけるとは……恐ろしい男だな、きみは」 ボーウッドは苦笑しながら呟いた。 「旗艦をはじめとした主力艦を四隻、軍事工廠、司令官の死。クロムウェルにとって、この損失は計り知れない程の大打撃だ」 「これで、侵攻を少しでも遅らせることができればよいのですが」 「ふむ……、どうだろうな、『レキシントン』を含む艦隊を失ったとはいえ、まだ他の艦隊や竜騎士隊は健在だからね」 「兵達の士気は?」 ボーウッドはエツィオを見つめ、にやっと笑った。 「きみのお陰でひどいものさ、きみが身にまとう王家のマントはもはや、『王党派』ではなく、『死』の象徴となりつつある。 『白(アルビオン)の死神』、『王家の亡霊』。呼び名は様々だが、みなきみを恐れている。 貴族議会の馬鹿どもは、白のローブとフードの着用を禁止する法案を本気で考えている始末だ」 「随分と嫌われたものだ」 「兵達は戦々恐々だ、街の巡回にしたって、次は自分が殺されるのではないかといって隊から逃げ出す者も出ているそうだ。 ……まったく、我が祖国は、いつからこのような腑抜けになってしまったのだろうか」 眉をひそめてボーウッドは呟く。それから苦笑しながら頭をかいた。 「とは言え、つい先日までぼくもきみの事を恐れていたのだがな、こうして、泣く子も黙るアサシンと、共に街を歩いていることが不思議に思えてくるよ」 「奇遇ですね、私もそう思っていたところですよ」 二人は笑いあいながら、とある建物に入ってゆく。 そこはスカボローの港にほど近い場所にある宿屋であった。 その中にある部屋のドアの前に立ち、軽くノックをして扉を開ける。 すると部屋の中にいた女性が立ち上がり、二人を迎え入れた。 「初めまして、かしらね。ミスタ」 「まさか貴女が、エツィオの言う協力者とは思いもよりませんでした、ミス・サウスゴータ」 二人を出迎えた女性、マチルダはボーウッドと握手を交わす。 マチルダはにっこりと笑顔を浮かべて言った。 「亡命をすると聞いて、耳を疑いましたわ、ミスタ」 「はは、これ以上簒奪者に仕えるのは我慢ならなくなってね」 クロムウェルの側近の一人であるマチルダに、 ボーウッドは苦笑を浮かべながらエツィオを見つめた。 「なるほど、我々の動向が全て君に筒抜けだったのは彼女のお陰と言うわけか」 「その通りです、シニョーレ。彼女は心強い味方ですよ」 エツィオは笑みを浮かべると、ボーウッドに席を勧める。 ボーウッドが椅子に腰かけるのを見ると、二人は同じ様に椅子に座りテーブルについた。 「船の手配はどうだ?」 「問題ないわ、すぐにでも出発できるはずよ」 「ありがとう、助かったよ」 「まったく、結構難儀だったわよ」 そう言うと、マチルダは一枚の羊皮紙を取り出してエツィオに手渡した。 羊皮紙にはフードを被った男の姿が描かれている、果たしてそれは、エツィオの手配書であった。 「あいかわらず酷い絵だな、俺はもっと男前だぞ」 エツィオは苦笑しながら、手配書をテーブルの上に放り投げる。 エツィオに懸けられた懸賞額を覗き見てボーウッドは思わず目を丸くした。 「……これは驚いた、アルビオンの長い歴史の中でも、過去最高金額だな……」 「50000エキュー、数字だけならフィレンツェと並んだな……」 自分の首にかかった懸賞金が十倍に跳ね上がったというのに、エツィオはこともなげに首を竦めて見せた。 「それにしたってこの絵は無いな、懸賞金と一緒に絵描きの腕も上げてもらいたいもんだ」 「言ってる場合? 船長にそいつを運んでくれと言ったら、結構吹っ掛けられたんだよ?」 「だろうな……。そいつは信用できるのか?」 「金さえ払えばしっかり仕事をしてくれるわ、口も堅い、あれでも職業意識ってもんがあるみたいね」 「なるほど……念の為こちらでも金を用意した方がよさそうだな。クロムウェルの様子は?」 「それがね、見てて笑えるわよ、ロサイスの一件以来、宮殿の自室にこもって一歩も外に出てこなくなってしまったわ。 ほかの議員もほとんど同じね、みな自分の屋敷に閉じこもって怯えているわ」 「結構なことだ」 エツィオは口元に笑みを浮かべると、テーブルの上に金貨がたっぷりと詰まった袋を差しだした。 それはやはりというべきか、エツィオが先日強奪したアルビオン共和国の軍資金であった。 「これは報酬だ、手間賃も入ってる」 「どうも、受け取っとくよ」 それを受け取ったマチルダを見てボーウッドは首を傾げる。 「貴女は、彼に雇われているのですか?」 「協力関係、と言って欲しいですわね」 「失礼、いつから彼と?」 「全てお話すると長くなるのですが……彼女が『レコン・キスタ』に参加する前からの仲なのですよ、シニョーレ」 「……ああ、これは失礼、ぼくとしたことが、野暮なことを詮索してしまったようだ」 ボーウッドはにやっと笑うと、二人を見つめる。 マチルダは冷笑を浮かべ、エツィオを睨みつけた。 この男はそうとは思っていないだろう。こいつはそういう奴だ。 「いえ、お気になさらずシニョー……あたっ!」 マチルダのそんな冷たい視線を知ってか知らずか、エツィオはにっこりとほほ笑んだ。 マチルダはエツィオの頭を叩くと、仕方がないとばかりに、これまでのいきさつをボーウッドに話して聞かせた。 「なるほど……それで彼と……」 「一応、彼には命を救われましたから。それに、彼を敵に回すことの恐ろしさを知っている、というのもあるでしょうか」 「ははは、ぼくも彼の恐ろしさを身を持って思い知ったばかりでね、出来ればもっと早く教えてほしかったよ」 マチルダがそう言うと、ボーウッドは豪快に笑って見せた。 マチルダは窓の外にちらと視線を送る。日はとっぷりと暮れ、空には二つの月が浮かんでいる。 「……そろそろ約束の時間ですわね、行きましょう」 マチルダはフードを目深に被ると、二人を促し立ち上がる。 宿を後にした三人は、トリステインへ向かう密航船が待つ、港の一角へと向かって行った。 人気のない、夜のスカボローの港の片隅に、一隻の古い小型のフリゲート船が停泊している。 船から降ろされたタラップの前で、船長と思わしき男と、フードを目深に被ったマチルダが交渉をしていた。 やがて交渉が終わったのか、マチルダは船長に金貨がたっぷり詰まった袋を手渡す、 船長は満足そうに頷くと、そそくさと船の中に入り出航の準備を始めた。 マチルダはそれを見送ると、こちらに近づいてきた。 「話はついたわ、さ、乗って」 「すまないな。ずっときみに世話になりっぱなしだ」 「ふん……、こっちも金を貰ってるからね」 エツィオはマチルダの顎を持ち、なにやら切なそうな表情を浮かべた。 「しばらくの間、きみに会えないのか……胸が張り裂けそうだ」 「何言ってんだか。はやくご主人様んとこに戻ってやんな」 「名残惜しいが……きみの姿を目に焼き付けてから行くとするよ」 マチルダと唇を合わせ、エツィオは真剣な表情になった。 「それじゃ、きみは引き続き調査を続けてくれ、何か動きがあったらすぐに連絡を。……くれぐれも無理はしないでくれ、いいな」 「わかってるよ……それじゃ」 するり、とマチルダからエツィオの腕が離れる。 マチルダはすぐに踵を返すと、闇の中へと消えて行った。 タラップを登り、船に乗り込む、すると先に乗っていたボーウッドがにやっと笑い、肩を竦めた。 「驚いたな」 「彼女のことですか?」 「いや、昔から英雄色を好むとあるが、どうやらきみもまた例外ではないようだね」 「こればかりは性分でして、どうにもならないですよ」 エツィオも甲板に寄り掛かりにやりと笑う。 ボーウッドも同じように甲板に寄り掛かると、エツィオを見た。 「気風だけをみると、きみはロマリア人のようだが……、どこの生まれだ?」 「フィレンツェです」 「フィレンツェ……すまない、聞いたことがないな」 「でしょうね、遠いところですよ」 エツィオは徐々に離れゆくアルビオンに別れを告げながら答えた。 「そんな遠いところから来たきみが、なぜアルビオンに?」 「いろいろありましてね、今はとある人物に仕える身です」 「とある人物……それを尋ねることは野暮と言う物だな」 「感謝します、シニョーレ。……アルビオンに来た理由は、その随伴です」 「随伴でここに? その主人はどうしたのかね?」 「一足先にここを離れました、私はその後始末ですよ。……とはいえ、ここまでする予定ではありませんでしたし、 その後始末自体、主人の知るところでもありません」 「主人の命ではない?」 「はい、全て私の判断です。加えて言うと、主人は、私が『アサシン』であることを全く知りません」 その言葉を聞いてボーウッドは言葉を失った、 この男は、主人に命じられるまでもなく、自己の判断で全ての暗殺を実行してきたというのか。 「なるほど……、きみのようなアサシンを配下に置く人物か、なんともうらやましい限りであり……恐ろしい限りだ」 「戦の遅延を目的とした暗殺、それらは全て"後始末"のついでにやったことです。私自身、クロムウェルが気に入りませんからね」 「それでは、なぜクロムウェルを暗殺しなかったんだね?」 「そこです」 ボーウッドが尋ねると、エツィオは真剣な表情になった。 「奴のもつ力は、マジックアイテムによる偽りの力です、それゆえ、奴を消したとしても、 同じようなアイテムを使い、第二第三のクロムウェルが現れるかもしれない」 「なるほど……今はまだその時ではない、と」 「はい。それと、これは私の勘ですが……。この反乱、何か裏があると思えてならないのです」 「裏?」 「メイジではない平民の男が、『死者を蘇らせる』とはいえ、たった一つの指輪だけで、 僅か数カ月かそこらで、あそこまで勢力を拡大し、王家を滅ぼした……。全てがあまりに急すぎる、話が出来すぎているのです」 「確かに……あの反乱は瞬く間に広がった。王家に不満を持つ貴族など、決して多くはなかったのに……」 ボーウッドも、感じ入るものがあったのか、顎に手を当てて考え込む。 「……クロムウェルという男自体は、名のある人物なので?」 「いや、この反乱が起こるまで、聞いたことがなかったな、なんでも、元は一介の司教だとか……」 「なるほど……。とはいえ、今はまだ情報が足りません、まだ奴には生きてもらわなくては。奴を消すのは、それからでも遅くはない」 「……全く、きみは本当に恐ろしい男だな。一国の皇帝を暗殺するなんて、普段は冗談か何かだと思うのだが。……きみが言うと、とても冗談とは思えないよ」 エツィオのその言葉に、ボーウッドは苦笑いを浮かべた。 「さて、こうしてアルビオンから離れたはいいが、トリステインに到着したらきみはどうするのかね?」 「到着次第、トリスタニアへ同行します。私は王宮へ行き、姫殿下に事の報告と貴方の亡命の申請を行ってきます」 「きみは姫殿下に目通りできるのかね?」 「面識は一度だけありますが、確実に門前払いでしょうね」 首を振って見せたエツィオに、ボーウッドは首を傾げた。 「ではどうやって……。まさか……」 「決まっています。忍び込むんですよ」 数日後……。こちらは、トリステインの王宮。 アンリエッタの居室では、女官や召使が、式に花嫁がまとうドレスの仮縫いでおおわらわであった。 大后マリアンヌの姿も見えた。彼女は純白のドレスに身を包んだ娘を、目を細めて見守っていた。 しかし、アンリエッタの表情はまるで氷のよう。仮縫いのための縫い子達が、袖の具合や腰の位置などを尋ねても、曖昧に頷くばかり。 そんな娘の様子を見かねた大后は縫い子達を下がらせた。 「愛しい娘や。元気がないようね」 「母さま」 アンリエッタは母后の膝に顔をうずめた。 「望まぬ結婚なのは、わかっていますよ」 「そのようなことはありません。わたくしは幸せ者ですわ、生きて結婚することができます。 結婚は女の幸せと、母さまは申されたではありませんか」 その言葉とは裏腹に、アンリエッタは美しい顔を曇らせて、さめざめと泣いた。 マリアンヌは、優しく娘の頭を撫でた。 「恋人がいるのですね?」 「『いた』と申すべきですわ。速い、速い川の流れにながされているような気分ですわ。すべてがわたしの横を通り過ぎてゆく。 愛も、優しい言葉も、なにも残りませぬ」 マリアンヌは首を振った。 「恋ははしかのようなもの。熱が冷めれば、すぐに忘れることができますよ」 「忘れることなど、できましょうか」 「あなたは王女なのです、忘れねばならないことは、忘れねばなりませんよ。 あなたがそのような顔をしていたら、民は不安になるでしょう」 諭すような口調で、マリアンヌは言った。 「わたしは、なんのために嫁ぐのですか?」 苦しそうな声で、アンリエッタは問うた。 「未来の為ですよ、民と、国と、そしてあなたの」 「わたしの?」 「アルビオンを支配する、レコン・キスタのクロムウェルは野心豊かな男。聞くところによると、かの者は『虚無』を操るとか」 「伝説の系統ではありませぬか」 「そうです、それがまことなら恐るべきことですよ、アンリエッタ。過ぎたる力は人を狂わせます。 不可侵条約を結んだとはいえ、そのような男が、空からおとなしくハルケギニアの大地を見下ろしているとは思えません。 軍事強国のゲルマニアにいたほうが、あなたのためでもあるのです」 アンリエッタは、母を抱きしめた。 「……申し訳ありません、わがままを言いました」 「いいのですよ。年頃のあなたとって、恋は全てでありましょう、母も知らぬわけではありませんよ」 母后が退出し、居室に一人になったアンリエッタは、椅子に腰かけ、ぼんやりとしていた。 「全ては……未来のため……」 小さく呟き、机の上に置かれた薔薇が差してある花瓶へと視線を送る。 ついと立ち上がり、薔薇を一輪手に取ると、アンリエッタは花弁を一枚、はらりと落とした。 「愛している……」 今は亡きウェールズの面影を思い浮かべながら、もう一枚花弁を落とす。 「愛していない……」 そうやって、一枚花弁を落とすたびに、呟く。 「愛している……、愛していない……」 はらりはらりと花弁を落としながら、物思いにふけっていると、窓の方からきいっ……という音がした。 アンリエッタは、はっと顔を上げ、音の気配がした方向に振り向いた。 「……! あなたは……!」 「ああ続けて、邪魔をするつもりはない」 アンリエッタはそこに立っていた人物を見て言葉を失った。 いつの間に入り込んでいたのだろうか、そこには、見覚えのある男が一人佇んでいた。白のローブを纏い、フードを目深にかぶった男。 その男には見覚えがある、確か彼は……。 「ルイズの使い魔の……! どうして……! いえ、生きておられたのですか!」 「はい、ルイズ・フランソワーズが使い魔、エツィオ・アウディトーレ、只今アルビオンより帰還いたしました」 アンリエッタが驚いた声で尋ねると、エツィオはフードを外し、恭しく片膝をついた。 「どうやって……、いえ、なぜここに?」 「殿下の居室に踏み入れたこと、どうかお許しを、ですがこれもトリステインの危機をお知らせするため」 「トリステインの危機?」 「はい、私がアルビオンで見聞きしたことをご報告に上がりました」 困惑するアンリエッタに、エツィオは深く頭を垂れた。 「まずは殿下にご覧になっていただきたいものが……こちらを」 エツィオは懐から一枚の羽根を取り出し、アンリエッタに差しだす。 アンリエッタはそれをおずおずと受け取ると、それを見つめた。 元は純白の羽根だったのであろうそれは、なにやら根元から赤黒く変色してしまっている。 アンリエッタは首を傾げると、エツィオに尋ねた。 「羽根? これは……?」 「裏切り者の血です」 「裏切り者の? ……まさか!」 その言葉が意味するところを知ったのだろう、アンリエッタは驚きのあまり、思わず羽根を取り落としてしまった。 エツィオは、淡々とその後を引きとる様に言った。 「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは、犯した罪に相応しい末路を迎えました」 「子爵は……あの裏切り者は、死んだということですか?」 アンリエッタが信じられないと言った様子で口元を押さえた。 「はい、それが証拠の羽根でございます、殿下」 エツィオは膝をついたまま、淡々とした口調でアンリエッタに事の次第を報告をした。 ルイズ達と別れ、一人アルビオンに残っていたこと。 スカボローで行われた王党派残党の公開処刑、その式典の最中、ワルドを暗殺したこと。 しばらくアルビオンにて諜報活動を行っていたこと。 最初は驚いていた様子のアンリエッタであったが、エツィオの報告が終わるころには、幾分か落ち着きを取り戻していった。 「正直に申します……人の死を、これほど喜ばしく思う日がこようとは……。夢にも思いませんでした」 事の顛末を聞いたアンリエッタは、切なげにため息をつくと、悲しげな、それでいて安心したかの様な笑顔を浮かべた。 「……私もです」 「ルイズの使い魔さん……、いえ、エツィオ・アウディトーレ、ウェールズさまの仇を討って下さったことに、感謝の言葉もありません。 よくぞ……よくぞ討ち果たしてくれました」 「恐れ入ります」 それからアンリエッタはエツィオを見つめ首を傾げた。 「して、先ほどあなたはトリステインの危機と申しましたが、それは?」 「はい、先日締結された不可侵条約、それは全てまやかしでございます、殿下。彼らはすぐにでも攻め込む気でいるでしょう」 「そんなっ……!」 「ゲルマニアとの同盟がまとまりきる前に彼らはこの国を制圧する気でいます。 今はアルビオン国内で混乱が起きているためなんとか時間は稼げているはずですが、軍の再編が済み次第、彼らは攻め込むでしょう。……こちらを」 言葉を失い、呆然と立ちすくむアンリエッタにエツィオは一枚の羊皮紙を取り出すと、アンリエッタに手渡した。 アンリエッタはそれを手に取ると、その書類に目を通し、絶句した。 書面には、アルビオンの企む『親善訪問』の概要が、事細かに書かれていた。 「これは誰が書いたのですか?」 「一人、アルビオンから亡命を希望している者がおります、その者がしたためた書面でございます、殿下」 「その者とは?」 「現政権に不満を持っている、アルビオン空軍旗艦、『レキシントン』号の元艦長でございます、私の説得に応じてくれました。 先ほど申した通り、今はトリステインに亡命を申し出ております」 「……信用できるのですか? その男は」 「はい。万一裏切るようであれば、その時は奴の首をこの手で切り裂き、私の命も捧げましょう」 きっぱりと言い切ったエツィオに、アンリエッタは、しばらく考えるかのように顔を俯かせる。 そしてきっと顔を上げると、扉の方を見て衛兵を呼びつけた。 「衛兵!」 「はっ……! なっ! き、貴様! 一体どこから入った!」 アンリエッタの呼び出しにすぐさま部屋の中へ飛び込んだ衛兵は、部屋の中に佇んでいた侵入者に、 目を吊り上げながら、腰に差した杖を突きつける。 「やめよ! 彼はわたくしの大事な客人です!」 「は……、はっ!」 「すぐに将軍達を集めて、これよりアルビオンに対する軍議を行います」 「はっ、畏まりました!」 アンリエッタはそんな衛兵を窘めると、将軍達を招集するように命じた。 衛兵は敬礼すると、すぐに踵を返し将軍達を召集すべくアンリエッタの居室を退出する。 衛兵を見送った後、アンリエッタは机の上の羊皮紙に羽ペンで、さらさらと手紙をしたためると、花印を押し、エツィオに手渡した。 そこには城へ入ることを許可するという文面が記されていた。 「亡命を希望する者にお渡しください、直接伺いましょう」 「ありがとうございます。殿下、最後にもう一つ」 エツィオは深々と頭を下げると、懐から一つの指輪を取りだし、アンリエッタに差しだした。 「これを、友の……ウェールズ殿下の形見でございます」 「これは、風のルビーではありませんか、預かってきたのですか?」 「はい、手渡してくれ、と」 本当は斃れたウェールズの指から抜いてきたものなのであったが、エツィオはそう言った。 すこしでも、彼女の慰めになれば、と思っての事だった。 アンリエッタは風のルビーを指に通した。ウェールズがはめていたものなので、アンリエッタの指にはゆるゆるだったが……、 小さくアンリエッタが呪文を呟くと、指輪のリングの部分が窄まり、薬指にぴたりとおさまった。 アンリエッタは、風のルビーを愛おしそうに撫でた。それからエツィオのほうを向いて、はにかんだような笑みを浮かべた。 「なにからなにまで……、いくらお礼を申し上げても足りないくらいですわ」 寂しく、悲しい笑みだったが、エツィオに対する感謝の念がこもった笑みだった。 その笑みを見つめると、エツィオは再び頭を垂れ、呟いた。 「殿下、ウェールズ殿は、勇敢に戦い、そして立派に討ち死になさいました。それだけは間違いありません」 「……はい、わかっております」 「ウェールズ殿の魂は、その指輪……貴方と共にあります。 故に、この先、どのような事が起きようとも、それはウェールズ殿の真意ではありません。決して惑わされぬよう、お気を付け下さい」 「それは……どういう意味でしょうか?」 「それは……」 エツィオはウェールズが蘇ったことを明かすべきか迷った、クロムウェルによって死体を動かされているに過ぎないとはいえ、 ウェールズは彼女の想い人である、このトリステインにとって大事な時期に、彼女の心を乱すわけにはいかないだろう。 エツィオは唇を噛みしめると、呻くように呟いた。 「申し訳ない、今は……お伝えすることができません。今言えることは、クロムウェルはウェールズ殿下の名を使い、なにかを企んでいるということです」 「……わかりました。彼らの企みに決して惑わされぬと、この指輪に誓いますわ」 アンリエッタは、指光る風のルビーを見つめながら、言った。 それからエツィオを見つめ、ほほ笑んだ。 「あなたのこの度の働きには、いくら感謝を述べても足りないくらいですわ、本来ならば恩賞を与えるべきなのだけれど……。なにかお望みはあるのかしら」 「恩賞など……、では一つだけ、お願いしたいことが」 首を傾げるアンリエッタに、エツィオは人差し指を立てる。 「私の存在は内密にしていただきたい、望むことはそれだけでございます」 「それだけですか? 他になにも望まぬと?」 驚くように言ったアンリエッタに、エツィオは頷いた。 「はい、裏切り者が城内にいる可能性を鑑みると、私の存在が明るみになれば、いろいろと面倒になるでしょう、 それゆえ、くれぐれも私のことを口外なさらぬよう、是非ともお願いしたいのです」 「わかりました……、あなたがそれを望むなら、その通りにしましょう」 「ありがとうございます、殿下」 「わたくしのお友達は、本当に良い使い魔を持ったようですね」 「もったいなきお言葉、使い魔として当然のことをしたまでです」 微笑むエツィオに、アンリエッタは左手を差しだす、エツィオは手の甲に唇を落とし、一礼する、 そしてフードを目深に被ると、入ってきた窓へと歩を進めて行った。 そして窓の淵に足をかけた、その時、あの……と、アンリエッタがエツィオを呼びとめる。 その呼び声に振り返ったエツィオに、アンリエッタは首を傾げて尋ねた。 「そう言えばあなたは……、あなたは一体何者なのですか?」 「あなたの親愛なる友人、ルイズ・フランソワーズの使い魔ですよ、殿下。では……」 正体を尋ねるアンリエッタに、エツィオはニヤリと笑みを返すと、窓の淵から空へと向かい、大きく飛翔するように飛びだした。 「まさか本当にトリステインの王宮に。しかもアンリエッタ王女の部屋にまで侵入するとはね……」 呆れと驚きが混じったような声を上げたのは、ヘンリ・ボーウッドであった。 トリスタニアの城下町にある一件の宿屋、その一室で待っていた彼は、戻ったエツィオから事の次第を聞いて、目を丸くしていた。 「何度も思ったが……本当にきみは恐ろしいな。きみに暗殺できない人間はいないんじゃないか?」 「まだ修行中の身ですよ、シニョーレ。それに今回の目的は暗殺じゃない」 「そうだったね、それで、麗しの姫殿下のお部屋の中はどうだった?」 「ええ、甘い香りで頭が蕩けてしまいそうでしたよ」 「はっはっは! うらやましい限りだな!」 冗談を言い合い一しきり笑いあうと、エツィオは真剣な表情に戻った。 「さて、シニョーレ、冗談はここまでとして……、これを」 「うむ……」 そう言うと、エツィオはボーウッドに一枚の羊皮紙を手渡した。 それは先ほどアンリエッタがしたためた、王宮への入城と身分の保護を認める書簡であった。 ボーウッドはやや緊張した面持ちでそれを眺めると、大事そうに懐にしまい込んだ。 「城門の衛兵に見せれば、案内してもらえるでしょう」 「何から何まで、すまないね」 「いえ……、それよりシニョーレ、別れる前に一つ頼みたいことが」 「何かな?」 「私がアサシンであること、そしてウェールズ殿下が蘇った事は、全て内密に願いたいのです」 「それはどうしてだ? きみがアルビオンで挙げた成果は計り知れないのだぞ?」 エツィオの口止めに、ボーウッドは驚いたように顔を上げた。 「殿下が蘇ったと知れば、アンリエッタ姫殿下は確実にお心を乱すでしょう、 一応釘は差しましたが、興し入れの前にそれだけはなんとしても避けるべきかと。 それと……、これは個人的な事ですが、私がアサシンであることは、主人にも知られていないこと、 王宮の人間に知られるのは好ましい事とは思えません、どうかご理解を、シニョーレ」 エツィオの言うことに一理あると考えたのか、ボーウッドはしばらく考えると、頷いた。 「わかった、その通りにしよう」 「感謝します。そうだ、あと……」 エツィオはそう言うと、ボーウッドの耳元で、二言三言口にした。 「ふむ……なるほど」 「不意を打つ相手なら、こちらも相応の手で応じるべきかと……もっとも戦略は門外漢、頭の片隅にでも」 「いや、面白い考えだ、検討しておくとするよ」 ボーウッドがにっこりとほほ笑むと、エツィオは右手を差しだした。 「シニョーレ、貴方とはここでお別れです、後のことはよろしくおねがいします」 「世話になったね、ここからはぼくの仕事だ」 ボーウッドはその手を握りしめ、二人は固く握手を交わした。 ボーウッドは苦笑を浮かべながら頭をかいた。 「こういうのもなんだが、最初は敵対していた者同士だったとはとても思えないな」 「不思議な物です。……さて、私はそろそろ主人の元に帰るとします、癇癪を起されては堪りませんからね」 そんなエツィオにボーウッドは肩を竦めて笑った。 「はてさて、死神が帰る場所とは一体どこだろうね。まさか冥府ではないだろう?」 「ええシニョーレ、『楽園』ですよ。私にとってはね。……では、縁があればまたお会いしましょう」 「ああ、またきみと会える日を楽しみにしているよ」 そう言うとボーウッドは城へ向かうべく歩き出す、その姿をしばらくの間見送ると、 エツィオも踵を返し、主人の元へ、トリステイン魔法学院に戻る為に歩き出した。 一方、トリステイン魔法学院では……。 オスマン氏は王宮から届けられた一冊の本を見つめながら、ぼんやりと髭を捻っていた。 古びた皮の装丁がなされた表紙はボロボロで、触っただけでも破れてしまいそうだった。 色あせた羊皮紙のページは、色あせてくすんでいる。 ふむ……、と頷きながら、オスマン氏はページをめくる。そこにはなにも書かれてはいない。 およそ、三百ページぐらいのその本は、どこまでめくっても、真っ白なのであった。 「これがトリステイン王室に伝わる、『虚無の祈祷書』か……」 六千年前、始祖ブリミルが神に祈りをささげた際に詠みあげた呪文が記されていると、伝承には残っているが、 呪文のルーンどころか、文字さえ書かれていない。 「まがい物じゃないかの?」 オスマン氏は、胡散臭げにその本を眺めた。偽物……この手の『伝説の品』にはよくある話だ。 その証拠に、一冊しかない筈の『始祖の祈祷書』は各地に存在する、金持ちの貴族、寺院の司祭、各国の王室……。 いずれも自分の『始祖の祈祷書』が本物だと主張している。それらを全部集めると、図書館ができると言われているくらいだ。 「しかし、まがい物にしたって、酷い出来じゃ、文字さえ書かれておらぬではないか」 オスマン氏は、各地で幾度か『始祖の祈祷書』を見たことがあった。ルーン文字が踊り、祈祷書の体裁を整えていた。 しかし、この本には文字一つ見当たらない、これではいくらなんでも詐欺ではないか。 そのとき、ノックの音がした。オスマン氏は秘書を雇わねばならぬな、と思いながら、入室を促した。 「鍵はかかっておらぬ、入ってきなさい」 扉が開いて、一人のスレンダーな少女が入ってきた。桃色がかかったブロンドの髪に、大粒の鳶色の瞳。ルイズであった。 「わたくしをお呼びと聞いたものですから……」 「おお、ミス・ヴァリエール。待っておったよ。身体の調子はどうかな?」 ルイズは言った。オスマン氏は両手を広げて立ち上がり、この小さな来訪者を歓迎した。 「はい……大分楽になりました、今は授業にも出ています」 「ふむ、大鷲は……まだ帰って来てはおらぬようじゃな」 「……はい」 表情を曇らせ、弱弱しい声で答えたルイズに、察したようにオスマン氏は言った。 「そんな顔をするでない、ミス・ヴァリエール。大鷲は必ず帰ってくるとも」 優しい声で、オスマン氏は言った。 「さて、今日お主に来てもらった件なんじゃが……」 オスマン氏の言葉に、ルイズは首を傾げた。 一体何の用だろう、と思っていると、オスマン氏は手に持っていた『始祖の祈祷書』をルイズに差しだした。 「これは?」 ルイズは、怪訝そうな顔でその本を見つめた。 「始祖の祈祷書じゃ」 「始祖の祈祷書? これが?」 王室に伝わる、伝説の書物。国宝のはずだった。どうしてそれをオスマン氏がもっているのだろう。 「お主も知っての通り、来月にはゲルマニアで、王女とゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われる予定となっておる。 それでじゃな、トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。 選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしになっておる」 「はぁ」 ルイズは、そこまで宮中の作法に詳しくはなかったので、気のない返事をした。 「そして姫は、その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」 「姫さまが?」 「その通りじゃ。巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠みあげる詔を考えねばならぬ」 「ええっ! 詔をわたしが考えるんですか!」 「そうじゃ。もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……。 伝統と言うのは、面倒なもんじゃの。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。 これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立会い、詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」 アンリエッタは、幼いころ、共に過ごした自分を巫女役に選んでくれたのだ。 ルイズはきっと顔をあげた。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 ルイズはオスマン氏の手から『始祖の祈祷書』を受け取った。 オスマン氏は目を細めて、ルイズを見つめた。 「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」 「はあ……」 オスマン氏から受け取った『始祖の祈祷書』を手に、ため息を吐きながら、ルイズは自室へと戻るべく歩いていた。 勢いで受けてしまったものの……、こんなに暗く沈んだ気分で詔など浮かぶのだろうか……。 アルビオンから帰ってきたその日から、ルイズの気持ちは深く沈んだまま、なにも変わっていない、ずっと胸がちくちくと痛み、ルイズを苛む。 「エツィオ……」 ルイズは思わず自分の使い魔の名前を呟いていた。 そう、使い魔だ、あの日、アルビオンに一人残ったエツィオの事を考えるだけで、胸の奥がキリキリと痛み、悲鳴をあげる。 彼が帰ってこない限り、この心にかかった暗雲は、決して晴れることはないのだ。 一度エツィオの事を考えると、ルイズの気分はますます深く沈んでゆく。そうして歩いていると、いつの間にか自分の部屋の前まで辿り着いていた。 ぐすっ……と鼻を啜り、いつの間にか目に溜まっていた涙をごしごしと拭う。 とりあえず、受けてしまったものは仕方がない、精いっぱい素敵な詔を考えなくては、 そう思いながら、ドアの鍵を開け、扉を開けた。 「おや?」 懐かしい、どこか人を小馬鹿にしたかのようなとぼけた声。 扉を開けたルイズの目に飛び込んできたのは、開けっぱなしの窓から入る風に翻る一枚のマント。 次いで目に入ってきた、白のローブを纏った一人の青年を見た時、ルイズは溢れる涙を止められなくなった。 「エツィオぉ……」 もっていた『始祖の祈祷書』を取り落とし、顔を涙で濡らしながら、ずっと待ち続けた使い魔の名前を呼ぶ。 名前を呼ばれた使い魔は、ついと振り返ると、いつもルイズに見せていた、からかうような、子供っぽい笑みを浮かべた。 「やあルイズ。なんだ? この部屋の散らかりようは、まるで戦場だな。掃除するのは誰だと思ってるんだよ」 衣服や食器、果ては下着までもが散乱した部屋を見渡しながら、エツィオはニヤリとうそぶいた。 そんな余裕たっぷりの使い魔の態度に、腹立たしいやら嬉しいやら、様々な気持ちがごちゃ混ぜになって、ルイズはエツィオを怒鳴りつけた。 「どこにっ! 今までどこ行ってたのよッ!」 「アルビオンさ、道に迷ってね、ついさっき戻ってきたんだ」 「ふ、ふざけないで! あんたっ! わ、わたしがっ……わたしがどれだけっ……、どれだけ心配したと思って……!」 最後の方は、もう言葉にならなかった。 ルイズの目頭から、大粒の涙がぽろっと流れた、それがきっかけとなり、ルイズはぽろぽろと泣きだしてしまった。 「勝手に、勝手にいなくならないでよ。ばか、きらい」 エツィオは、優しい笑みを浮かべると、泣いているルイズの目頭を指先で拭った。 「悪かったよ、だから泣かないでくれ、ルイズ」 「ばか、知らない、だいっきらい」 ルイズはますます強く泣き始め、エツィオの身体にもたれかかった。 エツィオの胸板を拳で叩きながら、ぐずるルイズの頭を、エツィオは優しく撫でてやった。 「相棒は泣く子も黙る凄腕の……、はずなんだけどなぁ」 傍らに立てかけられたデルフリンガーがそんなエツィオの様子を眺めて呆れたように言った。 エツィオはそんなデルフリンガーをちらと視線を送り、軽くウィンクすると、改めてルイズを見つめた。 「すまなかったな、心配をかけた」 「もう、もう戻ってこないのかと思った……。怖かった、不安だったんだから」 ルイズは顔をぐしぐしとエツィオの胸に押しつけると、上目づかいにエツィオを見つめた。 「もう……いなくならない?」 いつか、ニューカッスルの廊下で聞いた、その言葉。 エツィオは優しい頬笑みを浮かべると、ルイズの額に唇を落とし、呟いた。 「いなくならないよ。……ただいま、ルイズ」 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8273.html
前ページ次ページゼロのチェリーな使い魔 「結局逃がしちゃったわね」 キュルケは激闘が終焉を迎えると力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。 フリオニールは労わるように『ケアル』の魔法を重ねがけしてキュルケの傷の手当てをする。 キュルケは全身からじわじわと活力が湧いてきてゴーレムの打撃による骨折と打撲が完治 したのを感じると 「やっぱりダーリンってステキね」 フリオニールに抱きついてお礼を述べた。豊満な胸がフリオニールの左腕に当たり先程の 電撃による痺れも吹っ飛んでしまった。 「お礼を言われる程のことじゃないさ。俺達戦友じゃないか」 フリオニールは格好をつけているが鼻の下は伸びている。 「スケベ」 タバサに突っ込まれるが、慌てて話題を変えようと 「ところでこの傭兵達はどうする?」 仲間に引火した炎を鎮火した後、半ば放心状態でメイジの戦闘を観戦していた傭兵達を チラ見して一戦交えるか否か確認した。 「じ、冗談はよして下さいよ。俺達は金で雇われただけだし・・・なぁ?」 傭兵の一人が仲間に同意を求める。雇い主のメイジ二人をひとひねりして追い払ってしまった 眼前の3人を相手に命を賭けてまで戦うモチベーションはもはや無く、火傷を負った仲間を 引きずりながら傭兵達は『女神の杵』亭を後にした。 フリオニールはひと段落がついてほっとするのも束の間 「さぁ、ルイズさんのところへ行こう!」 遅れを取り戻すべく右腕を上げて気合を入れ直しキュルケ、タバサを伴って桟橋へと向かうのであった。 フリオニール達がフーケ&仮面の男と戦闘を繰り広げていた頃 ルイズとワルドは長い長い階段を懸命に駆け上がっていた。息を切らせるルイズだったが ワルドは平然とした面持ちで階段を上がる。 二人はようやく頂上である丘の上に出ると四方八方に枝を伸ばした山のようにそびえ立つ 大樹の根元へ走っていった。 大樹の枝は実が生るように船をぶら下げている。どうやらこの大木が「桟橋」のようだ。 ワルドが先導して大樹の中へ入りお目当ての発着場を探す。ひとつの看板を発見すると その先に通じる階段をルイズに指差し 「ここのようだね。さぁ、行こうか」 古ぼけた木製の階段をルイズの手を握りながらゆっくりと上がって行った。 ルイズとワルドが階段を上りきるとその先には1本の枝が伸びていた。 そして、その枝に沿って一艘の船(FF2でいうところの「飛行船」のような乗り物)が 枝にぶら下がって停泊していた。 枝から甲板へタラップが架けられているので、それを頼りに二人は船上に到着し、甲板で 雑魚寝していた一人の船員を起こし船長を呼ぶように依頼した。 気持ちよく寝ていたところを叩き起こされて不機嫌な船員だったが、相手が貴族である ことを確認すると急いで船長を呼びに行った。 寝ぼけ眼でやってきた初老の船長にワルドは身分を明かして王女の勅命であることを盾に 予定より早い出港を強引に促した。 船長は船の動力源である『風石』(『風』の魔力を蓄えた石)が最短距離分しかないのを理由に アルビオンがラ・ロシェールにもっとも近づく朝まで待って欲しいと懇願したが、ワルドは 足りない動力分は自身の『風』魔法で補うことと言い値の運賃を支払うのを条件に再度出港を迫る。 予想外の条件を出されて恵比須顔になりニヤニヤ笑みを浮かべる船長を傍目にルイズは (ワルド様、やっぱりあいつを置いていく気なのね) 自身の使い魔を除け者にするワルドの顔を曇った表情で見つめるのであった。 ラ・ロシェールを発ち、離れゆく町並みを眺めるルイズとワルド。 「この任務が終わったら僕と結婚しよう」 ワルドは突然の風に吹かれて夢中で何かを探すようにプロポーズをした。 ルイズは目を大きく見開きワルドを注視する。 「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれはこの国を、いやハルケギニアを 動かすような貴族になりたいと思っているんだ」 ほんのりと淡い月光に包まれムードが高揚したワルドはついに夢まで語り出した。 邪魔者のフリオニールがいないのも良いスパイスだ。 「で、でも・・・」 プロポーズを受けどの様に返答すべきか逡巡するルイズ。段々とテンションのあがるワルドは 「君はもう16歳だ。自分のことは自分で決めるべきだ」 「わたしは・・・」 勢いに任せてルイズに決断を迫った。それでも戸惑いを隠さないルイズにワルドは一呼吸置いて 「君をずっとほったらかしだったことは謝るよ。いきなり現れて婚約者です、なんて 押し売りみたいで気が引けるけど、僕には君が必要なんだよ」 真剣な表情を作り落ち着いた口調で求愛の言葉を贈った。 ルイズは幼少時の憧れの人物から熱烈なラブコールをもらい嬉しくないはずはなかった。 しかし、嬉しい気持ちがある反面、魚の小骨が喉に刺さったような違和感が心の片隅に あるのを無視できなかった。 ルイズは心の中をひとつひとつ丁寧に整理し、深呼吸をしてワルドに正面から向き合うと 「ワルド様がわたしを必要としてくれるのは嬉しいわ。けど、わたしはまだ魔法の修行が したいの。それにあいつのことも・・・・・・」 本音をぶつけた。 『ゼロ』の二つ名を返上するまで修行を疎かにする気はない。それに、フリオニールの ことも気になる。仮にワルドと結婚したらフリオニールをどうすればいいのか? 不仲であるのを知っていて新居に連れて行くわけにはいくまい。かといって暇を出そう ものならキュルケやシエスタが待ってましたとばかりにアプローチをかけてくるだろう。 自身の使い魔が己以外の女性のものになるのだけはどうしても許せない。フリオニールに 対して恋愛感情があるわけではないが、よく仕えてくれて腕っ節が強い上に魔法を駆使 できる有能な使い魔をメイジの端くれとして手放す気は毛頭起きないのだった。 「フリオ君か・・・」 ワルドはラ・ロシェールに置いてきたバンダナ野郎の顔を渋い顔で思い浮かべる。 「そう。だから結婚は・・・」 さすがに新婚生活の風景の中に毛嫌いしている男がいるのを想像すれば躊躇するだろうと ルイズは思った。しかし、返ってきた答えは 「わかった・・・それなら僕がフリオ君のお父さんになっていいかな?そうすればいい」 「へっ!?」 何を言っているのだろう、この男は?という冷めた目線でワルドを見つめるルイズだが 何故かここで押されては負けだと感じてしまった。相当な負けず嫌いだ。 「とにかく今はダメなの!」 ルイズは思わず大声を張り上げるとつかつかと客室へ向かっていった。 「僕は諦めないよ、ルイズ・・・」 鋭い目つきでルイズの後ろ姿を見つめるワルドであった。 一方、フリオニール達は タバサの風竜に乗って桟橋へと到着した。 大木に船がぶら下がっている光景を目の当たりにしたフリオニールはあっと息を呑み (船は船でも「飛行船」のことだったのか!) ボッタクリ料金で旅人から金を巻き上げる元フィン王国白騎士団長のヒゲ面を思い出した。 思い出に浸る時間はないとばかりに風流を待機させ大急ぎで3人は大樹の中へ入ると、 フリオニールの隠れた特技である「聞き込み」で男女一組のカップルが「スカボロー」行きの 船が待機する階段を上っていくのを見た、という証言を入手した。 駆け足でその階段を上がり行き止まりまで行くと、1本の枝が伸びているだけであとは何もなかった。 「くそっ!一足遅かったか!」 地団駄を踏んで悔しがるフリオニールにタバサが無表情で 「シルフィード」 と言った。何のことやらさっぱりわからないフリオニールにキュルケが 「あのドラゴンの名前よ、ダーリン」 風竜の名前がシルフィードであることを説明した。フリオニールはポン、と手を叩き 「その手があったか!竜騎士もびっくりだね」 戦友の心遣いに感謝した。歓喜するフリオニールにキュルケが水を差すように 「でもこの大空の中からあの二人の乗った船を捜すのは困難ね。アルビオンは戦中だし 軍艦がうようよ飛んでいると思うわ」 これから立ちはだかるであろう新たな試練を前に緊張した面持ちで呟いた。 「仕方が無いさ。先に「スカボロー」に行って待ち伏せすればびっくりするよ」 フリオニールはおどけるように言った。「ご主人様」のびっくりした顔が目に浮かぶ。 こうしてはいられないとフリオニールはいち早くシルフィードの元へ向かうのであった。 シルフィードが徹夜で飛行しフリオニール達は昼前には「スカボロー」に到着した。 途中アルビオン艦隊に見つかりそうになったがシルフィードの機転の効いた巧みな飛行の おかげで無事「スカボロー」までたどり着いたのだった。 波止場に面したレストランで食事を済ませ休息をとりながらルイズとワルドの到着を待つ フリオニール達。しかし、待てど暮らせど二人はやって来ない。 まさか船が拿捕されたのか?と嫌な予感が頭をよぎるフリオニールにフード付ローブを まとった怪しげな男が揉み手をして近づいてきた。 「なにか困りごとでもおありですかな?」 一見メイジ風の衣装であるが杖を持っていない。恐らくメイジにあこがれている平民の類 だろうと見受けられた。 知り合い?とフリオニールは確認する目をキュルケとタバサに向ける。二人は首を横に振ると キュルケは胡散臭そうな目でローブの男を一瞥した。昨夜白い仮面の男と死闘を繰り広げたばかりだ。 いきなり自分達の元へやってきて話しかけてくるのは警戒して余りある。この「スカボロー」も いまやレコン・キスタの手に堕ち街中はきな臭い空気が蔓延している。 ローブの男は困惑する3人を当分に見てひひひっ、と甲高い声で笑うと 「私はこの周辺の地域には多少詳しいですし情報網もあります。人をお探しでしたら金貨 20枚で承りますよ。ひっひっひっ」 右手を差し出して金銭を要求してくるのであった。 前ページ次ページゼロのチェリーな使い魔
https://w.atwiki.jp/gogoanison/pages/345.html
オープニング 「たった1つの想い」 作詞、作曲:KOKIA 編曲:KOKIAn S 歌:KOKIA 2chのアニソンランキング 217位(2008年05月版) エンディング 1.「doll (多田葵 version)」 作詞・作曲:麻枝准 編曲:ANANT GARDE EYES 歌:多田葵 2.「doll (Lia version)」 作詞・作曲:麻枝准 編曲:ANANT GARDE EYES 歌:Lia VIPPERが選ぶアニソンベスト100+α 87位(第5回) 挿入歌 1.「スカボロー・フェア」 (第8話) 作詞・作曲:イングランド民謡 編曲:冬野竜彦 歌:多田葵 2.「human」 (第13話) 作詞・作曲:麻枝准 編曲:ANANT GARDE EYES 歌:Lia イメージソング・キャラクターソング 関連作品 投票用テンプレ たった1つの想い(GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO-/OP/KOKIA/2008) OP…オープニング曲、ED…エンディング曲、IN…挿入曲、TM…主題曲 IM…イメージソング・キャラクターソング
https://w.atwiki.jp/xbox360gta4/pages/327.html
CHERRY POPPER 概要 日本語:チェリー・ポッパー 業種:食品(移動販売) 所在地:BROKERのSTEINWAYのダーツから東に少し進んだ工事中の駅の北側入り口脇 解説 GTAの世界ではもはやお馴染みのアイスクリーム屋さん。 過去には警察にマークされるようなアブナイ物を販売していたようだが、現在は不明である。 移動販売用に改造された専用車MR. TASTYを使用し、移動販売を行っている模様。 モデルはMR. SOFTEE。 ちなみに左スティックを押せば、MR.TASTYから流れてくる曲は以下の通り。 曲順 曲名 作曲者 1 くるみ割り人形:金平糖の精の踊りThe Nutcracker, "Dance Of The Sugar Plum Fairy" チャイコフスキーTchaikovsky 2 グリーンスリーブスGreensleeves スコットランド民謡 3 スカボロー・フェアScarborough Fair イギリス民謡 4 熊蜂の飛行Flight of The Bumblebee リムスキー=コルサコフRimsky-Korsakov 5 GTA4テーマ曲:ソヴィエト・コネクションGTA IV theme song, "Soviet Connection" マイケル・ハンターMichael Hunter 6 ヴァルキューレ:ヴァルキューレの騎行Ride of The Valkyries リヒャルト・ワーグナーRichard Wagner 車両
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4805.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《主は我が牧者なり、われ乏しきことあらじ。主はわれを緑の野に伏させ、憩いの水際に伴いたもう。 主は我が魂を生かし、御名のゆえをもて、われを正しき路に導きたもう。 たといわれ死の陰の谷を歩むとも、災いを恐れじ。汝われとともにいませばなり》 (旧約聖書『詩篇』第二十三章より) 反逆地獄へ落ちた松下たちを待っていたのは、妙にニヒリストでシニカルな案内人。 彼に案内されて、一行は地獄の中心からアルビオンへ帰還する、復活への旅路を歩み出した。 「なーによマツシタ、こいつにもう少し言い返してやらないの? あんたの生きる理由ってやつが、とっても冷ややかに嘲笑われたのに」 「彼の言うことにも一理はある。別に腹も立たんね。 ここのような、時間のない永劫の場所から見れば、地上での千年や六千年や一万年など、ほんの一瞬と変わらんよ。 それに、ぼくのすべきことは、やたらに他人と言い争うことではなく、現在苦しむ人々を救うことなのだからね」 松下が相変わらずマイペースなので、ルイズは少々期待が外れて不満そうだ。 ……ふと、ある疑問が彼女の頭に浮かぶ。 「そういえばさぁ、あんたって私に召喚される40年以上前に、一度死んでいるじゃないの。 その間は何やっていたのよ。死にっぱなしで寝ていたわけ?」 「いや。ぼくはあの時、すでに『死んでも生きる方法』を発見していたのでね……。 つまり、霊体に魔力を纏わせて肉体とし、霊界で復活する秘術のことだ」 「!?」 何を淡々とトンデモないことを言い出すのだ、このガキは。 「そのまま死の世界へ降りていって、10年ほどかけて悪魔どもと戦い、乱れた地獄を統一していた。 そして地獄の魔物を率いて地上へ攻めあがって行って、日本の首都を再占領したんだが、すぐ天界に拉致されてね。 まだ時が満ちていなかったんだろう。それから30年ばかりは、勉学と修行と瞑想だよ。 霊界は時間の流れが現世とは異なるから、あまり成長はしていないが」 「宇宙規模で迷惑なガキなのね、あんたって……やれやれ」 どうにもこいつは、生きていようが死んでいようが尋常ではない。 ルイズはいつものように、額を押さえて溜息をついた。どこぞの雑用係みたいに「やれやれ」が口癖になったらどうする。 よく考えたら、8歳で死んでから44年ということは、普通に生きていれば今年で50歳過ぎ。 自分の両親と同い年ぐらいではないか、確かにそんな貫禄はあるが。 いやに老けた子供というべきか、幼い容姿の壮年というべきか。……やっぱり悪魔か。 くっくっ、とその後ろで忍び笑いがした。松下が振り向く。 「何がおかしいんだ、佐藤」 「スミマセン。いやあ、メシアのそばにこんな美少女が二人も付き添っているなんて、と思ってしまいましてねえ」 「あらいやですわサトウさん、私が美少女だなんて! うふふ」 シエスタがなんだかオバサンくさく照れる。 「まあ、以前の十二使徒は、変な連中ばかりだったからなぁ。女性と言っても、フクロウや中年魔女や幽霊とかだったし」 「あんたが一番変なのよ。『類は友を呼ぶ』って言うじゃないの!」 「じゃあ、ぼくを呼び寄せたきみも相当変な奴ということだな。人のことが言えるか御主人サマ、『ゼロのルイズ』」 「ななななな、ナニヌネノ……!!」 あっさりと松下にあしらわれ、言葉のカウンターを食らって、ギリギリとルイズは歯軋りした。 死んでもある意味明るい連中である。 「でも、メシア。この佐藤が生きていた頃は、メシアが地獄から攻め寄せてきたなんて大事件は、 少なくとも東京では起きていませんでしたが……」 「じゃあ、お前の存在しない異世界の東京に攻め込んだのかな。それとも天界側が人間界の記憶操作でもしたか」 しばらく歩くが、案内人はまだ立ち止まらない。この深淵を渡るフネが用意してあるとのことだが、本当だろうか。 「ところでルイズ。今気がついたことなんだが」 「あによ」 「ぼくの右手のルーンが消えている」 タハッ、とルイズが変な声を出してつんのめった。さっきから驚いてばかりだ。 「…………え、ええええええ!?」 「使い魔と主人の契約というのは、『どちらかが死ねば外れる』ものだったよな。 なにしろ、今は両方とも死んでいるからなぁ。肉体が死ねばルーンも外れるんだろう」 「ど、どーすんのよ」 こんな悪魔人間を縛り付ける契約のルーンが外れたら、自分は、世の中はどうなってしまうのだ? 「獣を操る能力も便利ではあるし、《虚無の使い魔》ということで箔がついてはいたが……。 ここは動物もいそうにないし、今のところヴィンダールヴはいらないな。 復活したら再契約に挑戦してみるか? いくら腐れ縁とはいえ、すっぱり縁が切れては少々寂しいじゃないか」 「使い魔召喚のゲートは、基本的にアトランダムに開くのよ。召喚するのもされるのも運命としか言えないわ。 異世界の人間が召喚されるなんて、いままで聞いたこともなかったし」 「なるほど、じゃあぼく以外の者が使い魔として召喚される可能性も充分あるわけだ。 そこを歩いている虚無主義の案内人とかどうだい。右手が三本もあるぜ」 「ふんだ、次はもうちょっとマトモな人格の使い魔を召喚してやるわよ!」 《私はまた、ほかの獣(反キリスト)が地から上って来るのを見た。 それには小羊(メシア)のような角が二つあって、龍(サタン)のように物を言った。 そして、先の獣(皇帝)の持つすべての権力をその前で働かせた。 …また、小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、 すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、 この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。 この刻印は、その獣の名、その名の数字のことである。ここに知恵が必要である。 思慮ある者は獣の数字を解くがよい、これは人間を指している。その数字は六百六十六である》 (新約聖書『ヨハネによる黙示録』第十三章より) なんだかんだで仲間には面倒見のいいマツシタだ、使い魔でなくなっても元の主人を守ってはくれるだろう。 こんな薄気味悪い子供に守ってもらうのも、なんだか腹が立つが。 ――――いや、そもそもマツシタは、このルイズ・フランソワーズを必要としてくれているのか? 恋愛とか人類愛とか、そういう意味でなく。もうちょっと頼りにして、認めてくれたっていいんじゃなかろうか。 「あのう、なんですかシエスタさん、ヴィンダールヴって」 「メシアと第一使徒が契約を結んだとき、メシアの右手に浮かび上がってきたルーンです。 伝説の『虚無の使い魔』の印で、あらゆる動物を操ることができるのですよ」 「ははぁ……しかし、メシアを使い魔にするなんて、前代未聞ですなぁ。ははは」 「猫撫で声でひそひそ話をしても、ぼくには聞こえているぞ佐藤」 「さ、皆様お待たせしました。渡し場に着きましたよ」 案内人の声に、一行は喋るのをやめて立ち止まる。 なるほど、深淵の縁になにやら桟橋のようなものと、ねじくれたデザインの白っぽい巨大なフネがあるではないか。 「なんなのよ、このでかくて気味の悪いフネは」 「冥土の渡し舟、ナグルファルですよ。きちんと埋葬されなかった死人から切り取られた、無数の爪でできています。 終わりの日が来ると、深淵からこうしたフネが無数に浮かび上がり、地獄の軍勢が地上へと進撃するのです!」 「お、終わりの日って……その」 案内人は、怯えるルイズを怖がらせるように、顔もないのにニタニタと笑った。 「古い世界の終末の時です。ハルマゲドン、ラグナロク、神々の黄昏というやつですね。 さあて、このフネに乗れば、目的地まで地上の時間で言えば二日ほどです。 ま、ゆっくりと英気を養ってください」 時間は少し遡り、場面は現世に変わって、アルビオン大陸のスカボロー港。 ここに、トリステイン軍の敗残兵2万人弱が集結し、総司令部の指揮の下、母国への一時撤退の準備を行っていた……。 「おーい、フネはまだ出ねえのかっ」 「このままじゃ俺たちゃ、ゲルマニアの蛮人どもに殺されちまうじゃねえかっ」 殺気立つ兵士たちに、将校も怖気づいて説得につとめる。 「い、いや諸君、フネはあるんだ。あるにはあるが、風石が足りん。 このまま出港しては海に落下してしまう! だから今周辺の港からも掻き集めて……」 「なんだって! それじゃあ逃げられ、もとい転進できねえじゃねえか」 「ふざけんじゃねえ、誰が指揮をとってんだ! 司令官閣下を出せっ」 「まさか司令部だけ脱出しようってんじゃあるまいな」 「なんならお前らの首を手土産にして、降伏したっていいんだぜ」 「そ、その方がマシだ! ただの傭兵に名誉なんかいらねえっ。戦争が終われば盗賊に戻るだけだ」 生き残るために傭兵たちが暴動を起こし、将校に襲い掛かる。阿鼻叫喚の醜悪な争いが始まった。 さて一方、士官候補生の少年貴族たちは、そこからやや離れた臨時総司令部に集められていた。 「……どうもあっちは騒がしいですねぇ」 「風邪っぴきのマリコルヌ、おめえ何をノンキにしてやがんだ。敗戦なんだぞ」 先輩に叱られた太っちょの少年は、不貞腐れた様に唇を尖らせる。 「だって、今更アルビオンやゲルマニアに降伏なんてできませんよ。まがりなりにも僕ら、貴族の子弟じゃないですか。 こうなりゃもうフネが出るかどうか、運を天に任せましょう」 「貴族も平民も奴隷もねぇよ、戦場ってのは平等に死が襲ってくるところだぜ」 そこへ、別の貴族がひそひそ声で参加する。 「でも、貴族だったら捕虜になっても、身代金を払えば釈放してくれますよ。 人間の生き死には平等だなんて大ウソです! まだ遅くないから、今のうちに投降しちゃいましょう。 ほら、こんなビラも撒かれていましたし。本土ももう危ないって話ですもんね」 「けど、俺の実家は貧乏貴族で、払えるカネがねえからなぁ。あるのは借金だけだ……ははは」 なんともはや、戦意のかけらもない。彼らの無駄口を聞きつけた将校が激怒する。 「ばかーっ、誇り高いトリステイン王国の貴族がなんてこと言うんだーっ。 生きて虜囚の辱めを受けず、杖をひっさげて玉砕し、少しでも敵に損害を与えてこそだなァ」 「だったら閣下がお手本を見せて、華と散ってくださいよ。こんなとこまで逃げ込まなくたって」 「ばか者ーっ、上官に口答えするなーっ(ビビビビビン)。ボヤボヤしてないで、外で哨戒でもやっとれっ」 仕方なく、一同はぞろぞろと部屋から出て行った。 「ああ、戦争さえなけりゃあ、この島国は天国みたいなところなんだがなァ……」 「天国だって? 料理や酒はまずいし、ねーちゃんはキツいぜ。天国より祖国を思えよ、祖国をよう」 なにしろスカボローへたどり着くまでに、1万人ほどの人間がゲルマニア軍に降伏してしまったのだ。 今ここに集まっているのは、焦って逃げてきて降伏のタイミングを逃したか、 必死の戦闘も降伏もしたくないというような連中ばかり。 それもあらかたが王軍直属の貴族と傭兵だ。輜重部隊の平民は大多数が捕虜になったため、助かってはいる。 「そういやあ今、タルブ伯爵の私兵団が、ギーシュ・ド・グラモンと一緒に殿軍をやっているそうですねえ。 しかし七万からが相手じゃあ、どうせ全滅ですよ」 「我々が態勢を整えて、転進する時を稼ぐ程度の役には立ってくれているだろう。彼らの死を無駄にはせん」 そうこうするうちに、上空にカラスを飛ばしていた見張りが何かを発見する。 「……おい、でっかいやつが正面から来あがったぜ」 「ええっ」「あ、ほんとだ」 見覚えのある十数隻の艦隊が港の外の空中に現れた。旗は青地に白百合、トリステイン王国の旗だ。 スカボローの司令部は喜びに沸き返る。 「おお、あれは我がトリステインの軍艦だ! ロサイスから脱出して、生き残っていたか!」 「そうだ、もう助けが来るころだと思っていた! 万歳、始祖ブリミル万歳!!」 「これで帰れるぞ! アンリエッタ女王陛下万歳!!」 「おーい、ここだ! ここだ! 助けてくれーっ!」 しかし、するするとトリステインの旗は降ろされ、代わってアルビオン共和国の三色旗と帝政ゲルマニア国旗、 それに『鉤十字(ハーケンクロイツ)』の旗が掲げられる。将軍や兵士たちの表情が、凍りついた。 数十隻に増えた艦隊は揃って横腹を向けると、火砲の口を港に向けて、一斉に砲弾を放った。 ズドドン、ドーン!と炸裂する砲弾。 ドドドドド、バババババと降り注ぐ鉄の雨。 バリバリバリ、ドカーンと鳴り響く落雷のような爆音。 スカボロー港に集結していた敗残兵は、たちまち港湾施設ごと粉々にされてしまう。 「よおーし、上陸開始ーっ。さっさと制圧してロンディニウムへ進撃するぞーっ。 身代金がとれそうな、身なりのいい奴は捕虜にしていいが、あとは皆殺しだーっ」 艦砲射撃が終わると、数隻の軍艦が港に接岸し、上陸用のスロープを降ろす。 わらわらと機銃で武装したゲルマニア兵が出てくる。さらに鉄でできた砲亀兵のような、異様なモノも数台降りてきた。 異世界からやってきた超兵器のひとつ、《ティーガー戦車》だ。キュラキュラキュラとキャタピラの音を鳴らしている。 実戦での威力を試すために投入されたようである。 「目標前方の建物、88ミリメイル砲、うてーーっ!!」 ずどん!! という轟音が、マリコルヌの意識を刈り取った。 《…軍隊というものが、そもそも人類にとって最も病的な存在なのです。 本来のあるべき人類の姿じゃないのです。 澄み渡る空や、囀る鳥や、島の住人のような健全さはどこにもありません》 やがて悪夢のような数時間が過ぎる……。 マリコルヌは、弾丸の破片で穴の空いた頬にハエが卵を生みつけたので、ハッと気がついた……。 あたりには大量の血と肉片が飛び散り、死屍累々たる有様だ。死体に埋れていたおかげで生きていたのだろう。 「みぃんな死んじまったあ……ひるぅはしおれーて夜にさくぅ、か……ケケケケ」 全身ズタボロになったマリコルヌは、よろよろと立ち上がりながら、気が触れたように笑い出した。 さっきから幻聴だろうか、誰かの激昂したような声が、頭の中にガンガン鳴り響いている。 《生きるのは神の、自然の意志ですよ! 虫けらでもなんでも、生きとし生けるものが生きるのは宇宙の意思です。 それをさえぎるものはなんだろうと悪ですよ、制度だってなんだって悪ですよ》 ―――ああ、そうだろうとも。まさにその通りだ。 僕は、このマリコルヌは、まだまだ生きたい。まだ女の子と付き合ったことさえないんだ。つまり童貞だ。 祖国も女王も名誉もあったものか、自分の生命こそどんな宝にも勝る。生きる、俺は生きるぞ。 ああ、しかし一節、小唄を歌わせてくれ。けけけけけ。 私はくるわに 散る花よ 昼はしおれーて 夜にさく いやなお客も きらはれず 鬼の主人の きげんとり わたーしはー なーああんで こーのよーうな つらーいつとめーを せーにゃなあらぬ これもぜひない 親のため かすれる声で小唄を歌い、けけけけ、と哄笑するマリコルヌに、当然ながらゲルマニア兵が気づき、銃を撃つ。 「うう う ……」 あっけなく腹部を撃たれ、彼はどうっと再び倒れた。もう、二度と立ち上がれない。 (ああ……みんな、こんな気持ちで死んで行ったんだなあ……。 誰に見られることもなく、誰に語ることもできず……ただ忘れ去られるだけ……) 『風上』のマリコルヌ・ド・グランドプレは、かくして異国の土となった。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/testkdltest/pages/3544.html
lv131288858 21 04~ 01 nm7861665 【KAITO】Jewel【オリジナル】 / Jewel(新城P) 新城P 02 sm20094890 【KAITO V3 STRAIGHT】痛がり【オリジナル曲】 / 5ラウンドP 03 sm7830424 【KAITO】 空が青すぎて、ちょっと泣きたくなる 【オリジナル曲】 / MazoP 04 nm20143685 【KAITO_V3 巡音ルカ】スカボロー・フェア【カバー】 / りりりP 05 sm18907662 ★KAITO★ RaiN ★オリジナル曲★ / RaiN(ceresP) ceresP 06 sm20050091 【KAITO】Sweet Devil【カバー】 / IGASIO 07 sm20298205 【KAITO V3】 Yes Yes 【オリジナル曲】 / 頑なP 08 sm14123466 【KAITO課題曲】ロストシープ【PV付】 / チキチュリP ← 260枠目 | 261枠目 | 262枠目 → 曲順・抜け等、ミスありましたら修正お願いします。 編集方法がよくわからないようでしたら、以下に記入ください。気付き次第修正します。 名前 コメント