約 3,621,433 件
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/699.html
あ行 アーチャー(人名/サーヴァント) 209cm・111kg 涜神の王、ニムロド。 『旧約聖書』におけるノアの子孫であり、クシュの息子。 クシュの父はハム、その父はノアである。 万能の狩人。バベルの塔建設の監督者であり 勇敢な狩人、地上で最初の勇士であると同時に、アッシリア全土を支配した暴君、人類最初の君主とされる。 アラビア語ではナムルード。 アラブの伝説では、アブラハムが生まれた頃世界を支配した王とされ、 悪魔イブリースにそそのかされて魔術や偶像崇拝を行っていたとも。 また、父クシュからアダムとイヴがエデンから追放されていた時に身に着けていた魔法の皮を受け取る。 これを身に着けると動物はその姿を認めただけで倒れてしまい、彼と格闘して人間もいなくなったという。 強大な力を手に入れたニムロドはやがて邪心に取り憑かれ 世界を支配したニムロドは今度は神になろうと手下を使ってバビロニアに巨大な塔を建設し始めた。 これが所謂バベルの塔である。 人間を天国に侵入させ、略奪を行い、天を乗っ取ろうとし、順調に塔は高くなり、昇るのに一年もかかるが頂上は天に届いた。 人間は頂上から雲の中へ矢を射て、射られた天使は血を滴らせながら血に落ちる。 これに怒った神は、塔の建設を終わらせる為に当時の唯一の言語であったヘブライ語を多くの言語に分け 意思の疎通の出来なくなった人々はやがて仲たがいを始めた。 これにより、それ以上塔が高くなる事はなかったという。 性格は傲慢で凶暴、そして残酷。 人間としての能力は穴だらけだが、自己の強さは何者をも凌駕している。 苦悩が刻まれた貌と長き時を闘いに費やした強靭な執念と妄執が、対峙した者に嘔吐感に似た重圧を与える。 かつては自らを神にもなぞらえるほどに欲深く、天に侵攻しようとまで考えたが 当時は神への信仰深い人物でもあった(はなはだ身勝手で独善的な思想ではあったが) だが前述の神罰によって、彼は地位も名誉も、全てを失い辱められ絶望する。 当時の記述に詳細な記録は残されていないが、死後は世界との契約により 神という存在を憎み己の手による復讐の道を辿っていく。 宝具はリヴァイアサンの思念が宿った『天に逆巻く海淵の裘(レ・ディヴィヌス・ペラガス)』 と バベルの塔『惑乱の塔は天高く栄える(タワー・オブ・バベル)』 の2つを有する。 アヴェンジャー(人名/サーヴァント) 168cm(偽)・60kg(偽) 真名はアンチキリスト 〈キリストの敵〉の意で、ギリシア語ではAntichristos。 世界終末のキリストの再臨前に出現して教会を迫害したり世を惑わす偽預言者 見目麗しい容姿を持ってキリストの再臨前に世に現れ、 世に出て最初のうちは善行をなし正に英雄として振舞い、 偶像崇拝者を倒し、さまざまな奇跡を行い人々より多くの信頼を得る。 そして、彼が聖人として認知された後、「666」と呼ばれる計画を行使 世界を退廃と堕落の荒野へと変え、そして彼は人々にこう宣言する。 「我は我が与えし印を持たぬものを救わぬ」と。 そうして世界は闇に覆われ全ては彼の手中へと収まったかと思われた時、キリストは再臨し 世界は救済される。 性格・容姿・素性。 全ての詳細が不明の謎に包まれた人物。 その正体は、黙示録で予言された終末の前に現れる反英雄。 実在の人物ではなく、現象のような存在であり、時代・場所など条件によって 形が変わる朧(おぼろ)な架空の事象。 共通しているのは、予言に記された人物像と行動原理、そして敗北主義者であることである。 戦闘能力は英霊にあるまじき低さであるが、人心掌握と処世術は宝具によらぬものとしては最高クラス。 特筆すべきは不完全ではあるが、奇跡の一端を行使できる点だろう。 望むがままに他者の望みを叶える、文字通りの奇跡、仮初めの幻影であり、使用条件も厳しいが それを鑑みても、破格の異能であることは揺るがない。 なお、本物の奇跡を行使できた人物は歴史上10指に満たず、古来から魔法に最も近い異能の一つだといわれている。 第五次聖杯戦争において、ライダーの手引きによって三枝由紀香に召喚される。 彼女の影響を大きく受け、此度は年若い少女の姿で現界し、日常と非日常の狭間で揺れ動く。 ライダー同様に、終末の到来を実現させるため、冬木市市民の煽動、情報操作、武器調達など 短期間で市民の過半数を指揮下において、混沌と絶望の坩堝へと誘う。 だが、キャスターとの水面下でも協約や、由紀香への思慮など前述の行動原理に反する行いもしている。 イレギュラー 聖杯によって実現されようとされる終末において、ニムロデが語っていた 三つの障害となりうる存在。 一つはランサー・アキレスの存在である。 此度の聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントは、いずれも聖杯によって意図的に呼ばれた 英霊たちであり、それぞれが意味と役割を持っている。 だが、アキレスは凛が用意した強力な触媒と、彼女自身の優れた手腕による完璧な召喚によって 聖杯の介在を跳ね除けて呼び出したためである。 2つめは、衛宮士郎。 彼がいずれ守護者と成る存在であるため、ニムロドは強く警戒していた。 なお、なぜ彼が士郎の守護者としての適正を見取ることができたのかは不明である。 最後は、間桐桜。 歪められた聖杯戦争の特異点。 全ての始まりにして、全ての終わり。 間桐の翁によって、原罪と死極の矢を取り込んだ聖杯の欠片を埋め込まれ マザーハーロットとの結節点を得る。 大聖杯、龍脈、および間桐桜を通じて冬木市は徐々に汚染を拡大させていった。 原作同様に、聖杯としての機能を有するが、バベルではより不安定で禍々しい仕様となっている。 もし、英霊の魂を取り込んでいった場合、どのような変貌を遂げるのかまったくの未知数だ。 衛宮士郎(人名/魔術師) えみや しろう。 身長167cm。体重58kg。 穂群原学園2年C組。 第五回聖杯戦争におけるキーパーソン。 本作では、資格はあったもののマスターではない。 家事に並々ならぬ才能を持つ。家庭料理(中でも和食)が得意で、おいしい食事を作るには材料をケチらない。 英語が苦手。工作に没頭する性格。 剣製に特化した魔術回路を所持する一点特化の魔術使いであるが、今現在はまだ回路の起動もできない。 ほかに物の構造・設計を把握することに特化している(構造把握の魔術)。 体内に27の魔術回路を持つが、それは作ったものを使わなかったために放棄され、通常の神経が魔術回路になっている。 本人はそれを知らず、鍛錬のときは死の危険を犯して魔術回路を作ることから始めていた。 8年間続けている魔術の鍛錬は自分が楽しいからしているのではなく、 魔術を身に付ければいずれは誰かの為になると思ってのこと。 10年前の大火災から唯一人生還したことで死んでいった人たちへの償いをこめ、 衛宮切嗣の遺志を継いで正義の味方に憧れて人助けに奔走するが、 それは反英雄としての切嗣とは違って自分を犠牲にして他のみんなが幸せになるというひどく歪んだもの。 彼の価値観には『自分を優先する』ということがない、 というよりも大火災から唯一生き残ってしまったために自分を優先する資格がないと思っている。 人助けはその見返りを求めるのではなく『人助け』そのものを報酬としている歪んだ価値観の持ち主。 大切な目標以外には興味を持たない、持てないという頑固というか遊びのない性格。 目に見える範囲の不幸や不平等を正そうと努力するが、かといって無条件で助けるわけではなく、 本人がそれを打破することに意義があると判断した場合は陰ながら見守る。 本当の両親は一般人で、前回の聖杯戦争の折に聖杯戦争の参加者たちが引き起こした大火災によって死亡。 本人もそのときに瀕死の重傷を負うが座礁した前アーチャーの手によって蘇生し、その後、衛宮切嗣に引き渡される。 バベルの塔の一部が崩御した後、言語の乱れ、秩序と理性の混濁化が進む冬木市内で 街の異常事態を察知し、単身で新たに聳え立つバベルの塔へと事態収束のために乗り込む。 その際、言峰神父との邂逅を果たし、聖杯戦争の基本知識を知り、サーヴァント、セイバーと供に 敵地侵入をし、その折に、襲撃してきたライダーとの戦闘を経て、彼女に囚われていた凛との合流を果たす。 か行 神の座(用語) 根源の渦。 あらゆる出来事の発端となる座標。 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。 世界の外側にあるとされる、次元論の頂点に在るという“力”。 根源の渦に至るという願いは魔術師に特有のものであり、これは世界の外側への逸脱である。 かつて、ニムロドが挑んだ宙の外へと逸脱せんと天を貫く塔を築いて挑んだ。 キャスター(人名/サーヴァント) さ行 終末(用語) 終末論(しゅうまつろん)は、歴史には終わりがあり、それが歴史そのものの目的でもあるという考え方。 目的論という概念の下位概念。 様々な宗教に共通して存在する世界の終わりであるが バベル内で発生した現象はクリスチャンである言峰神父の願いが発端であることから キリスト教の終末論、イエス・キリストの復活と最後の審判への待望という事柄に関わるものであると 推察されるが、詳細は不明である。 このキリスト教における終末論とは 現在の天地万物にみられる事物の体制が終わりを告げ、 新しい体制の中に生まれ変わる時のことを、意味していると考えられている。 神霊(用語) 神と崇められる自然霊。信仰を失うと精霊の位に落ちる。 発生に人間の想念が関わっていながら、人の意思に影響されずに生まれたもの。 なお、ニムロドが恨む神とは別であり、彼が憎んでいるという存在は世界の中枢。 天上の神の座を守護する番人――――すなわち抑止の力そのものである。 聖杯(用語) 冬木市に伝わるものは、神の血を受けたものではなく古来より伝わる願いを叶える『万能の釜』が原型で、 その力は伝説のものに匹敵する第726聖杯。根源へ至る門。 願望機である大聖杯に繋がる孔にして炉心。大聖杯起動の鍵。 万能の釜そのものではなく、始まりの御三家によって造られた願望器のレプリカである。 その中身の本質は“無色の力”だが、第三回聖杯戦争以降はアンリ・マユに汚染されて 悪性の“力の渦”(呪い、第三要素)になっている。 よって精密な計算・相互作用による矛盾の修正などは絶対に不可能であり、 持ち主の願いをあらゆる解釈による破壊のみによって叶える。 また、ひとたび開けてしまえば際限なく溢れ出し、災厄を巻き起こす。 さらに第四次聖杯戦争において、『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪を混入され 言峰の終末到来の祝詞を受諾し、世界根絶のために力を費やす災厄の器と成り果ててしまう。 その際、この世全ての悪(アンリマユ)とは別にマザーハーロットを孕むことになる。 セイバー(人名/サーヴァント) 167cm・56kg 真名はエルキドゥ バビロニア神話。「ギルガメシュ叙事詩」の英雄。もともとは、シュメールの神話、伝説を起源とする。 もとは神に生み出された泥人形であり、人智を超えた力を持ちながらも知性も性別も無く、 ただ森の獣たちと戯れる生活をしていた。 だが聖娼と名高い女と六日七晩過ごすことで人間の姿と知性を手に入れ、黄金の王との死闘の末にその無二の友となる。 その後は、ギルガメシュと怪物フワワ(フンババ)や天の牡牛グアンナを倒すなど行動を共にした。 しかし、天の牡牛を倒した時、女神イシュタルによる嫉妬が彼の運命を決めてしまった。 後日、神々は天牛を殺した償いとして、二人の英雄のうち、より罪深い方の死を望み、 大気神エンリルの意向により、エンキドゥは呪いで衰弱して死んでしまった。 質素な貫頭衣を身に着けた、きわめて中性的な姿をしている。 その容貌は端麗ながら、雰囲気は人間的なものではなくむしろ魔術師が作る『人形』に近い。 武器は己の身体と『創生槍・ティアマト』 。 獣の言葉も使うことができ、気配探知スキルは最高クラス。 本来は英雄というより神が使用した宝具そのもの。 バベル歴代において最強のサーヴァントであり、個人の単純な性能に絞れば英霊最高位。 かの英雄王のこの世全ての財による万有の力に対して、単一で万能の力を有する。 これは、女神アルルが泥から創造し戦争の神ニヌルタが、神々すら畏怖する王に対抗するために 万能の神の力、あらゆる生命の原典の因子を与えられたことによる。 もっとも、彼自身はその出自を快く思っておらず、今を生きる生物に対して強い敬意と羨望を抱いている。 これは彼がこれまでに歩んできた生の中で、厳しい環境下で弱く儚くも精一杯に生きる 強く気高い彼らの心に深い感銘を受けたためであろう。 そう、彼の願いは、模倣によって得た仮初めの心と身体ではなく、一つの生命として地に根を張ることである。 また容姿に対して人形と揶揄されることがとても嫌いでもある。 前アーチャー(人名/サーヴァント) 166cm・64kg 真名はアシュヴァッターマン 『マハーバーラタ』の戦争でシヴァと戦った兵士。 パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子に武芸を教えた師、ドローナの息子。 2人の王子間による大戦の際、百王子軍に参戦する。 五王子軍の軍師クリシュナの姦計により、 父ドローナはドゥリシュタドゥユムナに殺され、百王子軍もほぼ壊滅。 復讐に燃えるアシュヴァッターマンは、 クリパ,クリタヴァルマンと共にパーンダヴァ陣営に夜襲をかける。 まず自分の父を殺したドゥリシュタドゥユムナのテントに入り首を刎ね、 陣内にいる者を皆殺しにした。 その時、英雄アシュヴァッターマンは自らのヴィマナに断固とどまり、 水面に降り立って神々すら抵抗しがたいアグネアの武器を発射した。 神殿修道騎士団長の息子は全ての敵に狙いを付け、 煙を伴わぬ火を放つ、きらきら輝く光の武器を四方に浴びせ 五王子、クリシュナ、サーティヤキらを除く五王子軍を全滅させる。 それはまさにユガの終わりに一切を焼き尽くすサンヴァルタカの火のようであった。 まるで広島・長崎の原爆を思わせるこのアグネアの内容はまぎれもなく遥か昔、 紀元前に記された内容なのである。 その後、アシュヴァッターマンは遂に敗北を認め、 頭についていた不思議な宝石をビーマに渡して森へ去っていった。 誇り高き戦士。 善悪に囚われず、自らの魂の赴くままに生き、復讐にその身を焦がした炎のように熱い男。 戦場では粗暴で暴力的な性格だが、根は正義の人で人懐こい悪戯好きの好青年。 回りくどい方針と裏切りが嫌い。好き嫌いと敵味方はまったく別物と考えている。 武勇にも優れた戦士ではあるが、彼の真骨頂は頼みとする宝具と、予測不可能なトリッキーな頭脳である。 古代インドの空中機動兵器。 アグニ(サンスクリット語で「火」を意味する。)の名を冠する 『陽光宿す天の双翼(ヴィマーナ)』、額に、生まれた時より付いていた宝石『瑞験の星月(カウラヴァ)』 そして、神々が最も嫌悪したといわれる禁忌とされる一つの矢『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の破格の3つの宝具を所有し、マントラ(真言)の力と相まって、大英雄クラスのサーヴァントとも 互角以上に渡り合えるポテンシャルを有する。 特に、彼が自分好みに魔改造したヴィマーナは、破格の機動性能を有する上に 魂魄フィードバックシステム、――常住永遠なるもの「空」とのアクセスを可能とするシステムによって 統覚機能と認識野を一段階昇華、つまり世界と己を一体化させ、可視領域内に補足できる万物の 魂の様々な構造や仕組みを把握することが可能になる。要約すると、究極の探知レーダー。 前回の聖杯戦争で、聖杯の呪いを浴び受肉(前述の魂魄フィードバックシステムによって、昇華寸前の魂を捕捉させ この世に無理やり呼び戻した) 以後は、言峰と袂を分かち、日がな俗世で2度目の生を謳歌していたが、イリヤスフィールによって 箱庭へと強制拉致され、ぶつぶつ言いながら彼女の束の間のままごとに付き合っている。 た行 天の杯(魔法) ヘブンズフィール。第三法。 現存する魔法のうちの三番目に位置する黄金の杯。 アインツベルンから失われたとされる真の不老不死を構造できる御技、魂の物質化のこと。 過去にあった魂から複製体を作成するのではなく、精神体でありながら単体で物質界に干渉できる高次元の存在を作る業。 魂そのものを生き物にして生命体として次の段階に向かうもの。 遠坂凛(人名/魔術師) 2月3日生まれ。身長159㎝。体重47㎏。B77 W57 H80。血液型O。 遠坂家六代目当主。私立穂群原学園2年A組。朝が弱い。第五次聖杯戦争におけるランサーのマスター。 父である遠坂時臣を師とし、言峰綺礼は兄弟子。属性は『五大元素』。 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する。 優秀だが、ここ一番というところで大ポカをやらかすことがあるのはもはや遺伝的なものであり なにか説明するときにかける黒縁眼鏡は伊達。 桜が間桐にもらわれていくときに髪留めを贈ったが、そのときも対価を要求した。 というのも、凛は大切な人にこそ貸しを多く作って繋がりを持っていたいがため。 ただし借りに関してはきちんとした借用書でもない限り認めようとしない。 幼少の頃から、冬木市の異常事態を察知し、独自の調査活動をする。 だが、龍脈の異常汚染は判明できたが、大聖杯と桜の存在に至ることは叶わなかった。 言峰綺礼から、ある程度の情報は聞き及んでおり、聖杯戦争への参加目的は 原作よりも、遠坂家の悲願だけでなく、管理人としての事態収束のために強い勝利への渇望がある。 その執念の賜物か、触媒と完璧な召喚の儀式によって、自身の望む最速のサーヴァントを呼び込むことができた。 だが、経験不足と事態の予想以上の深刻さに焦りを生み出し、バベルの塔内部にて初戦を敗北。 その後、間桐桜との邂逅の際に違和感を抱いた彼女は、後を追い間桐邸に乗り込み ライダーと遭遇。人身お供として拉致され、再びバベルの塔内部に連れ去られる。 後に、塔内部へと侵入していた衛宮士郎とセイバーに救出され、行動を共にする。 は行 バーサーカー(人名/サーヴァント) 182cm・80kg 真名はカルキ。 ヒンドゥー教に伝わるヴィシュヌの第十番目の化身にして最後のアヴァターラ。 その名は「永遠」、「時間」、あるいは「汚物を破壊するもの」を意味し 白い駿馬に跨った英雄、または白い馬頭の巨人の姿で描かれる。 西暦428899年の末世(カリ・ユガ)にシャンバラ村のヴィシュヌヤシャスという バラモンの子として生まれるとされており カリ・ユガ(Kali Yuga)と呼ばれる世界が崩れ行く時代に現れ、 そして世の全ての悪を滅ぼし、新たな世界、黄金期(クリタ・ユガ)を築くとされる。 バベル歴代において最優のサーヴァント。 維持神の化身であり、霊長の存続、すなわち抑止力そのものの分体である。 御神体であるカルキが人間界で存在を確立するために構成された人型の器であり 自我・精神を持たず、彼の乗騎たる機動白馬『System K.A.L.K.I(ハヤグリーヴァ)』 によって 世界から発信される危機信号を受信し、目的を完遂させる。 その力は絶大であり、かつてセイバーのクラスとして参加した第四次聖杯戦争では 前アーチャーを除く、単独で五騎を相手にして勝利を収めた。 完全である神の力、世界からのバックアップを有するカルキはあらゆる障害に対して 有効な手段と方法で対処が可能であり、彼を排するのは世界そのものを破壊するに匹敵するほどの 力か、世界との繋がりを遮断させるしか手段はない。 なお前回では、原罪を取り込んだ聖杯の孔を破壊するために放った前アーチャーの『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の余波から人々を守るために自身を盾にしたためである。 そのため、被害は街の一区画という極小へかなり抑えられ、役目を終えたカルキは次の戦場へと還っていた。 奇しくも、その戦場は10年後の冬木市であり、前回同様アインツベルンの参加者として闘いに身を投じるのであった。 バベル外伝 バベル本編の外伝。 息抜きのために書かれたギャグss。 本編とはうって変わって、セリフ主体のテイストで下ネタが多い。 主人公はアシュヴァッターマン。 ヒロインはイリヤとアンチキリスト。 なお、途中から本編とリンクした裏側の物語、The Tower, La Maison de Dieu backnight が始まる。 副題は花言葉で、それぞれ Taraxacum officinale 「真心の愛」、「思わせぶり」 Helleborus、「私を忘れないで」 である。 バベルZERO 本編の10年前、第四次聖杯戦争の話。 作者の悪い癖で、行き詰ったときに妄想して構想された物語。 コンセプトは昼ドラ。 始まりと終わりは原作と同じで、マスターに割り振られた鯖のクラスも同じ。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー カルキ ランサー ベイリン アーチャー アシュヴァッターマン ライダー チンギス・ハーン バーサーカー ピサール キャスター エリザベート・バートリー アサシン キルロイ なお、本編、間章5において、最終決戦カルキVSチンギス・ハーンVSアシュの三つ巴 が描かれている。 また、当初はシグルドとブリュンヒルデが参加予定であった。 バベルの塔の狸 本作、皆鯖WIKIで連載されているss。 前作、FateMINASABA 23th 00ver連載時、登場予定のネブカドネザル2世が製作中であったため それまでの読みきりとして、中篇ssの予定で書かれた。 当初はソロモンVSニムロドVSマザー・ハーロットであった。 だが、書いてるうちに作者が本気で書き始めたため、長編ssとして連載が続くことになる。 コンセプトは鬱サスペンス。バッドエンド症候群に悩まされた作者によって気色の悪いテイストになっている。 主人公はニムロドと士郎。 ヒロインは桜と由紀香、マザーハーロット。・・・・・のつもり。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー エルキドゥ ランサー アキレス アーチャー ニムロド ライダー マザーハーロット バーサーカー カルキ キャスター ソロモン アベンジャー アンチキリスト 前アーチャー アシュヴァッターマン ま行 埋葬機関(組織) 聖堂教会の切り札ともいえる吸血鬼専門の異端審問機関。 神への信仰は二の次で、ただ異端を抹殺する力さえあればよいという強面の部署。 メンバーは形式だけでもアデプトで扱いは司祭級、さらに特別権限を持つ異端審問員。 ただし彼らが形式的な異端審問をすることなどないので、単に代行者、または殺し屋とも呼ばれる。 メンバーの証として普段は見えない羽の生えた十字架(剣)の刺青を施す。そこに刻まれている数字が機関でのナンバー。 たとえ大司教でも悪魔憑き、異端ならば処刑する権限と実力を持っているために、教会でも厄介者扱いされている。 この機関こそ教会における異端と囁かれるのも当然だろう。 全吸血鬼の排除と因となる二十七祖の封印を目的とするが、もとは聖遺物の収集をしていた。 完全な実力主義制で、能力があり教会にとって都合の悪いモノを始末するのなら誰でも一員になれる。 ただし年功序列が根強い。 1位から7位の構成員と1名の補欠で構成される。 1位は代々ナルバレックで5位がメレム・ソロモン、6位がミスター・ダウンとその相棒(ミスター・ダウン単独では暫定6位) 7位がシエル。補欠は教会から優れた者をスカウトするが、審問のたびに死亡する為にめまぐるしく交代する。 メンバーには表立っては禁忌とされる魔術を好む者、捕らえてきた異端者を奴隷として扱う者、 近代兵器マニアや殺人快楽性となかなか飽きさせない人材が集まっている。 また、埋葬機関のメンバーはサーヴァントと渡り合うことができる(シエルは防戦レベル)。 今回の聖杯戦争は、聖堂教会において、最も忌むべきものであり、待望となる悲願であった 教義における終末が発生するとの情報を受け、渡航可能な総戦力を冬木市内に送り込む。 埋葬機関も例に漏れず、5位のメレム・ソロモン、6位のミスター・ダウン、7位のシエルが派遣される。 奇しくも同時期に、白翼公トラフィム・オーテンロッゼが何十年とかけて用意してきたアルズベリの儀式が 開始されたため、他の構成員はそちらに行っている。 彼らの冬木への派遣選抜の理由は、単にナルバレックの嫌がらせ。 間桐桜(人名/魔術師) まとう さくら。 3月2日生まれ。身長156㎝。体重46㎏。B85 W56 H87。血液型O。Eカップ。 第五回聖杯戦争におけるライダーのマスター。 穂群原学園1年生。弓道部員で、弓道は衛宮士郎の影響で始めた。 間桐慎二の義妹。今代(最後)の間桐の魔術師(候補)。マキリの聖杯の実験作。 遠坂凛の妹だが、十一年前に後継者がいない間桐に養子に出された。 髪を結んでいるリボンは凛が最初に作ったもの。 本来の属性(起源)は架空元素(虚数)で遠坂の魔術師としてならば大成しただろうが、 間桐の属性である水に変えられたために魔術師としては衛宮士郎なみ。 原作では刻印蟲に魔力を喰われるため、魔術の起動は出来なかったが バベルでは、感情が昂ぶった際に架空元素を起源とした『黒い影』の具現化ができる。 臓硯もその事実を把握していたが、冬木市の治安悪化による万が一の危険に備え、止むを得ず黙認をしている。 目も髪も遠坂の色ではなくなるほど初期(五歳くらい)に身体をいじられており、 その心臓には間桐臓硯の魂の器である本体が寄生している。 10年前に監視用および聖杯の器にするために、第四回聖杯戦争の最後で破壊された聖杯の欠片を触媒として 生み出された刻印虫を体内に植え付けられた。 その際にマザーハーロットとの結節点を取得し、自身の意思とは無関係に 周りの人間の理性を簒奪し、『黒い影』の侵食を続けていく。 また、魔道の伝承のために十一年前から性的虐待を受け、魔道とは関係なしにたびたび間桐慎二に暴行を受け、犯されている。 だが何をされようと隠そうとする。 間桐の魔術師にされたために魔術師の精がないと体が火照っておかしくなってしまう。 原罪など、より純度の高い呪詛を孕んだ聖杯の欠片とマザーハーロットの影響で 原作よりも感情的で不安定であり攻撃的。 彼女自身が、邪悪の呪詛を取り込んでいるため、負の感情に対する高い耐性を得ていたためと考えられる。 だが、絶えず微弱な呪詛を撒き散らすため、彼女の周りには悪辣なトラブルが耐えない。 仲の良い友人で、三枝由紀香、美綴綾子、衛宮士郎がいる。 聖杯戦争直前に、不良グループによる強姦事件の被害にあい、半日もの間輪姦され その後、座礁して海岸で体を休めていたところを間桐臓硯によって、半ば強制的に召喚の儀式を執り行い ライダーを召喚する。 彼女を呼んだことによって、体内の聖杯の欠片が活性化し、ライダー自身の禍々しい魔力と相まって 精神を病む。 そのため、苦肉の策として『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 の力によって意識を混濁化させることによって 汚染侵食の緩和措置を取られた。 間桐慎二(人名) 身長167㎝。体重57㎏。 弓道部副主将。間桐鶴野の息子で間桐桜の義兄。穂群原学園2年C組。 ナルシストで天才肌。極めて自己中心的で自意識過剰な性格で他人を見下す。 弓の腕前はなかなか上手なのだが、本人は暇つぶしと言ってはばからない。 第四次聖杯戦争中は遊学の名目で国外に出されていた。 桜が養子に来たときは多少は苛めながらもかわいがっていた。 しかし間桐の後継者が自分ではなく桜だと知った時、 『生まれを憐れんでいたのは自分ではなく桜の方だった』と思い手酷い暴行を働くようになった。 だが、内心では桜を酷く恐れている。 魔術師としての才能はないが、一般の人間としての才能は多分にある。 それだけに魔術師としての才能がないことを気に病み、鬱屈していき、周囲の人間を見下すようになった。 間桐桜から流布される呪詛によって、徐々に精神を病んでいく。 精神の安定のためか、原作より女遊びなど派手な享楽を繰り返しており、精神科に通院している。 最後は、意識が混濁化した桜の妄言に、ストレスが臨界点を超え暴行する。 その折に、衛宮士郎に彼女の真実を話すと挑発したため、逆上した彼女に殺害された。 ら行 ライダー(人名/サーヴァント) 167cm・53kg 真名は不明。 マザー・ハーロット、「地上の忌むべき者や売春婦達の母たる、大いなる、謎めいたバビロン」。 「グレート・ハーロット(The Great Harlot="大淫婦"の意)」とも呼ばれる。 キリスト教における黙示録に出現し、もろもろの民族、群衆、国民、国語の上に立つ 人々を惑わす悪徳の象徴とされる美女。 『黙示録』によれば“悪魔の住むところ”であり“汚れた霊の巣窟”である。 女性の姿で表されておりきらびやかな装身具を身につけ、手に金杯を持つが、 その杯は姦淫による汚れに穢されているという。 大淫婦は殉教者の血を流すが、神のさばきによって滅ぼされるともいわれる。 新約聖書『ヨハネの黙示録』によると、終末の時、地上に邪悪な獣に跨って姿を現れる。 これ等には明確な名前が付けられておらず、その多くは謎に包まれており その為か多くの文献では黙示録の獣、あるいは666等として紹介されている。 バベル歴代において最悪のサーヴァント。 第四次聖杯戦争において、この世全ての悪(アンリマユ)・聖槍の原罪 そして、言峰による 「見よ。まことにわたし(神)は、新しい天と新しい地とを創造する。 先のことは思い出されず、心に上ることもない。だから、わたしの創造するものを、いついつまでも楽しめ」 という世界の終わりを聖杯に願ったことによる触媒によって、現世に召喚された反英雄である。 もっとも当初は、冬木の街に土着した現象的な形のないものであり 着々と人々の悪意を煽るなどの終末到来のための暗躍を行い、第五次において間桐桜によって召喚され肉体を得る。 正真正銘の邪悪な英霊。 本来は英霊に収まる霊格ではなく、神霊といった方が相応しい。 老若男女問わず誘惑し、堕落させ破滅に追い込む悪徳の華。 笑うと途端に邪気のない聖女のように清らかな表情になる。 宝具は『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 と『黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト)』 を有し 特にこの黙示録の獣は、赤き竜より同等の力と権威を戴き、次元違いの力を有する。 呪力の純度は、世界から供給される大源(マナ)と悪意によって大きく上限するが 龍種と同等の力も有しているため、単一でも生半可な英霊では太刀打ちはできず、 審判の日には、天を貫き、大地を腐敗させ、あらゆる生命を死滅させるほどの権威と力を得られるという。 また、彼女自身も「原初」の力を有しているとか。詳細は不明。 ランサー(人名/サーヴァント) 167cm・58kg 真名はアキレス。 イリアス叙事詩の主人公。プティアの王ペレウスと海の女神テティスの息子。 数多くの英雄が激戦を繰り広げたトロイア戦争において、最強の英雄としてその名を讃えられている大英雄。 生まれてから間もなく、母によって冥界を流れるステュクス河の水に全身を浸され不死身となる。 その際に、踵を掴まれていたために唯一の弱点となってしまったアキレス腱の逸話はあまりにも有名だろう。 トロイア戦争の時、アガメムノーン王がアキレウスの妻プリセイスを連れ去ろうとしたことで戦場から去ってしまう。 その後苦戦したアテネ軍からアキレウスに謝罪と参戦を請う使者が来て、 最終的には戦線に復帰し敵側の最強の英雄ヘクトールを倒す。 そして女神エオスの息子メムノンを殺し、トロイア軍を城市まで押し戻しスカイアイ門から入ったところで アポロン神により狙いを定められたパリスのはなった矢に弱点の踵を射られ、さらに次の矢を胸に受けて戦死した。 これにより両軍共に大黒柱を失った形になり、その後の戦局は混迷を極め 死後、アキレスの魂は英雄たちの楽園であるエリュシオンに迎えられたとも、 冥府でオデュッセウスと会見したとも言われる。 容姿は、金髪、碧眼、薄い唇の美男子で、剣、槍、弓矢の腕にも優れ、 さらに素手であっても、どんな敵にも勝てたという。 また、「足の速い」アキレウスとも呼ばれ、父から譲り受けた馬、バリオスとクサントスを除いて、 どんな馬よりも速く走れたといわれる。 バベル歴代で最速のサーヴァント。 名立たる英雄と、神々・幻想種があたりまえのように存在した神代において 無双を誇るまでに到達した無窮の駿足は、地に足を下ろしている限り、慣性の法則に縛られぬあらゆる制動を可能とし その速度は最高で、地球の自転速度に並ぶほど。 彼の願いは、自身の人生に後悔はないが、生前の若さゆえの浅慮な行動を恥じており、次の生を得たときは よく深く思慮し、強く正しい道を進むことを望んでいた。 時に厳しく、時には優しく接する、戦士としてもサーヴァントとしても非常に高潔で優れた人物であり 凛という最高のパートナーを得たことにより、此度の戦場においても輝かしい栄光が得られるはずであった。 だが、この歪んだ聖杯戦争において、彼の力は十二分に発揮することは叶わず 盾にされた凛を庇った隙をつかれ、アーチャーに腱を射られて敗北してしまう。 六道(用語) 六道(りくどう)とは、仏教において迷いあるものが輪廻するという、6種類の迷いある世界のこと。 すべての衆生が生死を繰り返す六つの世界。 迷いのない浄土に対して、まだ迷いのある世界。 地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道。前の三つを三悪道、あとの三つを三善道という。 仏教では、輪廻を空間的事象、あるいは死後に趣(おもむ)く世界ではなく、心の状態として捉える。 たとえば、天道界に趣けば、心の状態が天道のような状態にあり、地獄界に趣けば、 心の状態が地獄のような状態である、と解釈される。 なお一部には、天狗など、この輪廻の道から外れたものを俗に外道(魔縁)という場合もある (ただし、これは仏教全体の共通概念ではない)。 地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天。などのカルマに支配された六種の衆生が、 生命の輪廻の輪の中に表されている。 アシュヴァッターマンによって放たれた『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 ベイリンによって混入された『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪 聖杯に眠るこの世全ての悪(アンリマユ) 第五次聖杯戦争に召喚されたアキレスとカルキを除くサーヴァント、守護者 聖杯降誕の地、冬木市と生命。 神と崇められる自然霊。 位階を別にする六道を揃え、然るべき手順と儀式を行った人間は この輪廻の輪を断ち切ることで解脱が得られるという。 これほどの純度の触媒と、聖杯を持ってすれば、確実に天上の神の座へと届くだろう。 ニムロドと臓硯は、最大の障害となる抑止力(閻魔)の目を逸らすだろう終末の日の中で 儀式を行う腹積もりである。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/2454.html
山田丸:B (山田朝右衛門吉利) 人間の脳髄、肝臓、胆嚢などといった臓器から精製される秘薬。 服用することでサーヴァントであれば高純度の魔力リソースとなり、マスターであれば魔術回路を賦活化させる。 倫理的な問題から明治政府によって禁止されたものであり、セイバーは処刑した罪人からこの秘薬を精製する。
https://w.atwiki.jp/bokuserve/pages/1969.html
【元ネタ】史実 【CLASS】キャスター 【マスター】 【真名】フレデリク・オーギュスト・バルトルディ 【性別】女性 【身長・体重】153cm・47kg 【属性】中立・善 【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運A 宝具A+ 【クラス別スキル】 陣地作成:B 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。 “工房”の形成が可能。 道具作成:B 魔力を帯びた器具を作成できる。 魔術の素養はないが、作り上げた芸術品に有り余る魔力を注いだ魔術道具を作成可能。 【保有スキル】 千里眼:C 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。 芸術審美:C 芸術作品、美術品への深い造詣。芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、 高い確率で真名を看破することができる。 神性:E 神霊適性を持つかどうか。本来ならばただの人間である。 製作した女神の受ける信仰が高すぎるあまり、女神の信仰に侵食され最低限の神性を持つ。 【宝具】 『世界を照らす自由(リバティ・エンライトニング・ザ・ワールド)』 ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1-93 最大捕捉:15人 アメリカ、リバティ島に屹立する自由の女神像が持つ概念を再現、伝播する宝具。 そのコンセプトとは全ての弾圧、抑圧からの解放、及び人類が皆自由であり、かつ平等であるということ。 この想いが人々の信仰を集め、キャスターを英霊としている。故に彼女自身が自由の女神であるとも言える。 キャスターの視界に収まるあらゆる束縛を強制的に解除し、対象をひとつの個として独立させる。 それはサーヴァントとの契約であっても例外ではなく繋がりを断つ。 当然魔力パスも断絶させるため、サーヴァントであれば再契約しない限り魔力不足で消滅することとなる。 発動には令呪を必要とする。 本来7つの大陸、7つの海原に伝播する概念であるが、莫大すぎる魔力の維持が不可能であるため、劣化を起こしている。 また、直接肉眼で捉える必要があり、鏡を用いるなど間接的な視認は宝具の対象外となる。 そのため、キャスター自身に対してこの宝具を使うことはできない。 『それが示すは解放の意志(ラ・スタチュー・デ・リベルテ)』 ランク:D 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:∞ フランス国内にあるもう一つの女神像、故国に設置された独立の象徴の像。 女神像の範囲内に存在する対象全ての、自分を縛り付ける者への反抗心や鬱憤といった感情を増大させる。 レンジ外にでれば収まりを見せるが、範囲内に長くとどまる程その思いが蓄積されていく。 一定時間が経過すると、対象は憎悪する相手へ反逆行動を始める。 この際対象に対する精神干渉が無効化される為、怒りを向ける相手へ糾弾し、狂奔する。 女神像の破壊は容易にできるが、この像一つ一つが母性というカリスマ性を放っている。 フランスひいては万人の母を象ったそれを破壊するには、畏敬の念を振り払えるかが鍵となる。 設置後の維持にかかる魔力は、土地の龍脈から吸い上げているため不要である。 【Weapon】 『彫刻刀』 【解説】 1834年、フランスの彫刻家フレデリック・バルトルディはアルザス地域圏のコルマールで生まれた。 コルマールとパリで建築と絵画を学び、その経験は自由の女神像に活かされる。 1886年、フランス政府からアメリカ政府に寄贈された自由の女神像の作者である。 合衆国独立100周年を記念し、フランス人募金によって贈呈されたこの像は、合衆国の自由と民主主義、 世界各地から来る移民にとっての新天地の象徴となった。 その顔はフランスの象徴マリアンヌと言われているが、彼の母親だという説もある。 炎を擁する松明を掲げる右手に対し、左手には合衆国独立記念日とフランス革命勃発の日がローマ数字で刻まれた銘板がある。 足下には引きちぎられた鎖と足かせがあり、これを踏みつけることで束縛からの解放、自由と独立を表している。 合衆国を象徴する自由の女神像が集める信仰心が本人以上に高すぎるため、サーヴァントとして召喚されたフレデリックは その霊格に引きづられる形で、歴史と異なり性の転換、及びステータスの変更を余儀なくされている。
https://w.atwiki.jp/bokuserve/pages/2810.html
【元ネタ】史実、「沈黙」 【CLASS】アサシン 【マスター】 【真名】井上筑後守政重 【性別】男性 【身長・体重】171cm・61kg 【属性】秩序・悪 【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運C 宝具B 【クラス別スキル】 気配遮断:D サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 アサシンではあるが、筑後守に暗殺行為は不可能に近い。 【固有スキル】 扇動(攻撃特化):B 個人に対する精神攻撃に特化した扇動。 数多の大衆を導く力はないが、個人の、特に傲慢な人物の心を折ることに適している。 また、この言葉は“拷問”として見なされる。 拷問技術:A 卓越した拷問技術。 拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。 このサーヴァントの場合、“自分は耐えられる”と思っている者に対しては、 さらにダメージ補正があがる。 神々の加護:E 日本土着の信仰体系に由来する八百万の神からの加護。 “神の加護”など一神教ないし一柱の神から受ける加護とは似て非なる、そして交わることのない“水と油” 微弱ではあるが、それらの加護に対する特攻と、ステータス上昇補正を得られる。 【宝具】 『沼地の秩序を護る者(あなづりのごうもん)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人 精神的攻撃によって相手に与えた精神ダメージに応じて相手を蛇のように縛り上げる縄。 精神ダメージが一定以上に達すると、全身拘束による拷問“穴吊り”へと移行。 こめかみ近くに浅く穴をあけ、汚物の入れられた穴に上半身が入るように逆さに吊るす、キリシタンに棄教を迫るために実際に行われた拷問。 穴吊りを成す縄や汚物入りの穴、こめかみの傷は、相手の心に絡みつく“精神攻撃”の一種であり、 近接ステータスはもちろん、魔力や幸運でさえ防ぐことはできない。 また、さらに悪辣なのは屈服の意思表明が容易に行えることにあり、これに屈したサーヴァントは自己の正当なる英雄性を失い、 宝具の弱体化や、アサシンと対峙時の戦闘能力低下、最悪の場合屈服の時点で消滅するなどのデメリットを負うことになる。 対精神干渉能力などで、縄の締め付けや拷問の苦痛を軽減、またはそれらから脱することは可能。 【解説】 江戸時代初期の大名。高岡藩初代藩主。 一説には当初、蒲生氏郷に仕え、その死後に豊臣、徳川と主君を変える。 豊臣配下時に小田原征伐で、徳川配下時に大阪の陣で功績を挙げ、 秀忠政権下で従五位下・筑後守を拝命。のちに大目付にも任ぜられる。 島原の乱の鎮圧にも中心的な働きを成し、鎮圧から程なくして下総は高岡に大名として封じられる。 同時に長崎へと赴き、同地の奉行としてオランダ商船や禁教後の隠れキリシタンらの取り締まりにあたる。 この取り締まりと穴吊りなどに代表される拷問によって、イエズス会宣教師ジュゼッペ・キアラを含む多くの棄教者、 そして多くの殉教者を出した。この取り締まりには、当時すでに棄教し、日本人・沢野忠庵となっていた イエズス会司祭、クリストファン・フェレイラも携わっていたという。 キリシタン弾圧の中心人物であるが、自身も禁教以前はカトリックの信者であったともされる。 また、遠藤周作著の歴史小説「沈黙」では、史実のキアラに相当するロドリゴ神父を追い詰める重要人物として登場している。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/2342.html
人工英雄(偽):B+ (ジーク) 英雄ジークフリートの心臓を受け取り、フランケンシュタインの宝具電流が体内に流れたことによって作られた疑似英雄。 わずかな時間であるが、竜告令呪との組み合わせによって英雄───サーヴァントとして活動できる。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/977.html
昼は多くの生徒と教員で賑わっていた学校も、放課後になると人の数が少なくなる。 もっとも活動中の部活があり、完全に無人とは言えないが。 そんな中で、士郎は陸上部で使うハードルを修理していた。それももうすぐ終わる。 「よしっ、終わったぞ」 「ありがとう。衛宮君」 振り向いた先にいたのは、ほんわりとした雰囲気を持つ小柄な少女、陸上部のマネージャーをしている三枝由紀香だった。 「本当に修理できたんだ。凄いね。衛宮君」 嬉しそうに修理の終わったハードルを由紀香は見た。 衛宮士郎の別名は穂群のブラウニー。それが趣味かと思える程、各備品の修理や整備を得意としている。 「おー、上等上等。ありがとうなスパナ」 「世話になった人物にスパナというのはどういうものか、蒔の字」 由紀香の後ろから現れた活発な女子生徒―――蒔寺楓。 突っ込みを入れた眼鏡をかけている女子生徒―――氷室鐘。 二人とも、修理のできたハードルを満足そうに眺めている。 「何にせよ。修理してくれて感謝する。衛宮」 「別にいいさ。しかし、蒔寺のあの頼み方はなあ」 「『助けて、衛宮スパナ!』か?別にいいじゃん」 授業を終えて帰ろうとしていたところを、某二十二世紀の猫型ロボットのように陸上部の備品修理を楓から頼まれた士郎は、陸上部の倉庫で大概の備品の修理を完了した。 「まあ、このくらいなら俺にもできる。だけど、新しいのは買えなかったのか?」 士郎の疑問に、三人の顔が渋顔や苦笑に変わる。 「まあ、色々あってな」 「クッ、あの眼鏡坊主が予算をケチっているんだ……」 「陸上部の予算は大幅に削られちゃったし……それに、ちょっとした故障なら直して使わないと」 「あー、そういや一成が言ってたなあ、各部活の予算偏重を正すって」 『士郎』 雑談に興じる士郎の脳内で聞こえる声に、士郎もまた脳内で返事を返す。 『どうしたんだ?キャスター』 『気になることがあるから、後でこの建物の屋上に来て欲しいのだけれど。できるだけ急いで』 『分かった』 「……どうかした?衛宮君」 「いや、何でも無い。それじゃあ俺用があるから」 突然黙り込んだ士郎を、由紀香が気遣うように顔を覗きこむが、それを士郎は誤魔化して立ち上がった。 「何だよ。用があったんなら言えば良かったのに」 「悪い、今思い出したんだ」 そのまま、部室を離れて、校舎の階段を上った。 屋上へ向かう途中で、士郎はキャスターから聞いた聖杯戦争の概要を思い出していた。 聖杯戦争。 七騎の英霊を使役して殺し合い、聖杯を手に入れる魔術儀式。 剣の英霊、セイバー。 槍の英霊、ランサー。 弓の英霊、アーチャー。 騎馬の英霊、ライダー。 暗殺者の英霊、アサシン。 狂戦士の英霊、バーサーカー。 魔術師の英霊、キャスター。 この七騎のいずれかが聖杯を手に入れる。そのための戦争。 それが、キャスターから聞いた話だった。 ―――ふざけるな、と思う。 キャスターを見ただけで分かった。明らかに人間よりも上位に位置している存在、サーヴァント。 そのサーヴァントが行う戦争ならば、当然巻き込まれる人もいるのでは無いか、と聞く士郎に対し、キャスターは肯定で返した。 『普通の戦争でも、巻き込まれる人はいる以上、多かれ少なかれ確実に巻き込まれる人は出てくるでしょうね』 「……なら、俺が助ける」 救う。 一人でも多くの人を、一掬いでも多くの命を、理不尽に晒されて泣く人を見ないように。 それが、あの大火災の地獄から生還した衛宮士郎の生き方だ。 キャスターは選択肢を二つ示した。 一つは、キャスター自身を令呪と呼ばれる三画の絶対命令権で自決させ、この街から遠くへ逃げる。 自分の死という事柄を口にしても、キャスターの顔色に動揺の色は見えなかった。 もう一つは、キャスターと共に聖杯戦争の被害不拡大のために戦う。 ―――衛宮士郎がどちらを選ぶか、考えるまでも無い。 校舎の屋上、そこに、黒衣の女は佇んでいた。 「遅いわね」 「悪い……それで話ってなんだ?」 キャスターは視線を校庭に向ける。陸上部をはじめとする多くの生徒が部活にせいを出していた。 「この学校の近くに、サーヴァントがいるわ。数は約三体」 「なっ……」 士郎は身構え、周囲を見回す。 「こんな人のいる近くで戦闘を始める気か?何考えてるんだ」 「さあ、そこまでは、だけどいずれも強力な英霊だってことは確か。私よりも強いことは確実よ」 その言葉に、士郎は屋上の隅に隠していたモノを取り出す。 やっと成功した強化の魔術を付加した木刀。 サーヴァント相手には、戦車に竹槍で立ち向かうようなものだろうが、無いよりはマシだと思い込む事にした。 「これからはどうする?」 「……とりあえず、生徒が下校するまで待とう。巻き込まれる人がいないように」 「サーヴァントがいなくなった時には?」 「それならそれで、問題は無いさ。キャスターは戦闘得意じゃ無いんだろ?戦わずに済むんだ。素直に喜ぼう」 「……まあ、それもそうね」 サーヴァントの気配を絶つ程度の魔術はもう使っている。このままやり過ごすのも手だろう。 「学校の近くって事は俺以外にも学生でマスターになった奴がいるのかな」 「さあ、聖杯が誰をどう選ぶかは私にも分からないわ」 でも、とキャスターはいったん言葉を句切った。 「この世に意味が無い事なんて無い。正義も悪も、全ては意味があるから生まれた。士郎がマスターに選ばれたことにも何らかの意味があるはずよ」 初めて強い調子で喋るキャスターに、士郎は少し面食らった。 淡々と聖杯戦争のことに説明し、自分を自決させるという非情な策にも言及する程、キャスターは自分を主張しない。と、いうより、笹舟のように流されるだけの人といった方がいいだろうか。 流されることを良しとしているのか、それとも流されることに慣れているのか、何にせよ、いつかきちんと話をしたい。そう、士郎は思った。 冬の日暮れは早い。既に周囲は黒のペンキで塗りたくったように暗くなっている。 結局この時間まで、学校は冬の沈黙を守っていた。 士郎は廊下を歩きながらキャスターと会話を始めた。 「どうだ。キャスター、サーヴァントの気配は」 「……まずいわね。一騎増えているわ。ここで戦うかも知れない」 「どんなサーヴァンなのかはわからないのか?」 「そこまではね……でもまあ、放って置いてもいいんじゃないかしら」 キャスターの投げやりな台詞に、士郎は憤慨した様子で口を開く。 「なんでさ。ここで誰かが……あっ、そうか」 夜の学校。もう人は士郎ぐらいしか残っていないだろう。誰かが巻き込まれる心配は少ない。 「後は、隙を見て抜け出せば、どうにかなるわ」 キャスターの言葉に、僅かに安堵する。よく考えれば、急に戦いが起きるわけでもないのかもしれない。 心配のし過ぎも良くないだろう。とりあえずは、自宅に帰ることにしよう。 強化した木刀を竹刀袋に入れ、肩にかける。普通に帰っている限り、剣道の帰りに帰宅する学生に見えるだろう。 後は、別のサーヴァントに見つからずに抜け出すタイミングを考えていたとき、士郎は思い知った。 ―――甘かった、ということを。 「士郎!避けて!!」 キャスターの言葉で、反射的に身を捻る。瞬間、先程まで自分がいた場所の廊下に放射線状の亀裂が走っていた。 「なっ……」 亀裂の中心に立つ顔も見えない人影は、無言で拳を自分の方へ突き出す。 いや、突き出すなんて生やさしいものじゃない、まるで砲弾のような勢い。 無理矢理に回避したが、掠っただけで腹の肉が僅かに削がれたらしく、腹部に痺れるような感覚が生まれた。 「やめなさい!」 キャスターの右手が発光する。光源が周囲を照らした。 そして、襲撃者の顔があらわになる。 それは、見知った顔だった。 「三枝……?」 ―――■え。 ふわふわとした気分。なのにちっとも気分が良くない。 でも、何をすればいいのかは分かる。目の前に居る少年を■えばいい。 でも、なんでこの人を■うんだろう。ハードルを修理してくれた優しい人なのに。 「……三枝なのか」 さえぐさ? 三枝由紀香、私の名前。だけど、それだけじゃ無い気もする。 犬■■■飼健■。 別の名前を知っている。 ―――■え。 まあ、いいや。何か喋っている人をやっつけよう。お腹にキック。 「―――うわっ!」 避けられちゃった。残念。当たればやっつけられたのに。 ―――■え。 はい、わかりました。 私は口を思いっきり開けて、■■君の喉笛に―――。 「やめておきなさいな」 意識が、薄れる。 「……どうなってるんだ。なんなんだ」 突然襲いかかってきた三枝由紀香は、廊下に転がっている。キャスターの魔術によって眠りについたその表情は、いつもと変わりない三枝由紀香だった。 「魔術で、操られたんでしょうね。人を操るだけの魔術師がまだこの世界にいたとはね」 キャスターの言葉に、身体が硬直する。 操られた? あの当たれば確実に死ぬような攻撃は、操られていたためだったのか。 「……ふざけんな」 三枝由紀香は普通の女の子だ。 生活があって、家族があって、人生があって、夢がある尊い普通の人間だ。 それが、魔術師の気まぐれで、本人自身の手で壊されようとしていた。 「許せるか、そんなもん……」 「怒りを募らせるのはいいけど、冷静で無ければ救える者も救えないわよ」 キャスターの指摘に、熱くなりかけていた頭が冷える。 ともかくも、これからしなければならないことをすることにした。 ……変な夢を見た。 自分が自分で無くなって、誰かを追い回す夢。 『私』は意識が覚醒し――― 「気がついたか、三枝!」 ―――全てを思い出した。 「え、だって、なんで……」 頭の中は疑問と気持ち悪さと、夢であって欲しいと言う願望で埋め尽くされる。 しかし、夢で無い事は、床の亀裂と傷ついている少年の腹部で証明されていた。 「あ、ああ、ああぁぁぁー!!」 「お、落ち着け……クッ」 パニックになって叫んだ由紀香に対し、士郎は必死に落ち着かせようとするが、腹部の痛みで一瞬動きが止まる。 「衛宮君……」 パン、と小さく音が響いた。由紀香が、自分の両頬を叩いた音だった。 「お腹、出して」 「え?」 戸惑う暇も無く、シャツのボタンを外され、傷ついた腹部が露わになる。 「何を……」 次の瞬間、衛宮士郎の表情が固まった。 「ぺろ、ぺろぺろ、今治すからね。じっとしててね、ぺろぺろ」 三枝由紀香が、傷口をなめていた。 年頃の少女が、自分の傷口をなめている。その事態に士郎は止める間もなく硬直した。 士郎は硬直したまま動けず、キャスターは、由紀香を見るだけで止めようとはしない。 「それにしても、これってなにかしら……」 その言葉に、硬直が解けた士郎はキャスターの視線の先にある物体を見る。そして一言だけ呟いた。 「なんでさ」 ピコピコと動く物体、俗に言う犬耳が、三枝由紀香の毛髪から、飛び出ていた。 「……俺は大丈夫だからな?」 「本当?大丈夫なんだね?」 治療?を終え、上目遣いで自分を見上げる三枝由紀香の姿は、本当に子犬のようで―――そういえば、この犬耳は何だ。 「なあ、三枝、その頭上のそれなんだが……」 「へ?頭……あれ」 しばらく頭をいじっていた由紀香も『それ』に気づいたようで、廊下の隅にある鏡で確認したり、引っ張ったりしている。しばらくの沈黙が時間と共に流れ、唐突にそれは終わりを告げた。 「何、コレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 絶叫が、学校中に響き渡った。 「ねえ、衛宮君。これって何?なんで犬耳が私に生えてるの?私、蒔ちゃんや鐘ちゃんや綾子ちゃんに良く子犬っぽいって言われるけど、それと関係あるの!?それとも何かの病気!?」 「落ち着け。それと雰囲気は関係ないと思うぞ」 先程とは別の理由でパニックになった由紀香を必死になだめる士郎は、助け船を求めるようにキャスターに向き直る。 「何かわからないか?キャスター」 「……魔術、或いは宝具。それくらいしか今の時点では分からないわね」 そう言うと、キャスターは由紀香の方に向き直る。 「三枝さん、だったわね」 「えっ、はい。そうです」 見慣れない美女に話しかけられた由紀香は、少し緊張した様子で会話に応じた。 「最近……多分、ここ数時間で何かあった筈よ……お願い、思い出して」 何かあった? キャスターと呼ばれた人の言葉に、由紀香は記憶の蓋をこじ開けた。 今日は、部活が終わった後、家に帰ろうとして通学路に居たことまでは覚えている。 そして、帰っているとき、道の真ん中に、『誰か』が立っていて。 何か良く分からない、だけどとても香りがよくて美味しい物を飲み込まされて……。 そして、後から来た誰かに『私達』は……。 『私達』!? 「衛宮君、蒔ちゃんと鐘ちゃんは何処!?」 瞬間、何か、鉄と鉄がぶつかり合うような音が校庭から聞こえた。 自分達に何が起こったのか? 「ふーん、明らかに一般人じゃないわね。でもサーヴァントでも無い」 銀髪の少女は僅かに興味を持ったように、眺める。 自分達のこの力は何なのか? 「気をつけろイリヤ、二人居る以上、どちらかがお前を狙う可能性がある」 金髪の西洋剣を持った青年は、油断無く気を張っている。 そもそも、何故自分達は眼前の人物を襲っているのか? 「あら、平気よ。貴男がいるんだもの」 何もかもわからない。まるで夢の中。 「……そうか、そうだな。だが、お前達。俺のマスターに手を出したら楽に死ねると思うな」 青年の殺意を持った眼光にも、何も感じることは無い。夢心地のままに身構え―――そして。 「蒔ちゃん、鐘ちゃん!!」 夢が、醒めようとしていた。 音を聞いて、校庭に出た由紀香の眼前にいるのは、確かに蒔寺楓と氷室鐘だった。 しかし、その姿は昼間と明らかに違う。 氷室鐘の背には、巨大な翼が存在していた。鳥のそれそのものである翼は、突風を巻き起こしている。 蒔寺楓の両手両脚は、金色の毛で覆われている。そして年代物らしい剣がその手に握られていた。 何より特徴的なのは、その自分の意思を感じさせない瞳だ。衛宮士郎はそれに見覚えがあった。 さっきまでの三枝由紀香の眼だ。 「蒔ちゃん、鐘ちゃん、私だよ。由紀香だよ。どうしたの。返事してよ」 必死に呼びかける由紀香に対し何の反応も見せず、二人はサーヴァントと、マスターらしい少女を威嚇している。 「三枝、少し下がっていろ。俺がどうにかする」 士郎が前に出て、キャスターもそれに続く。 「キャスター、頼む。戦えるか……いいや。逃げられるかどうか分からないけれど……」 「ええ、あれは間違いない」 キャスターの視線の先には剣を持った青年が佇んでいた。 「セイバーのサーヴァントよ」 「ああ、そうだ。この身はセイバーのサーヴァント。話を聞く限り、お前はキャスターのサーヴァントか?」 セイバーの問いに対して答えたのはキャスターでもマスターである士郎でも無く、高速で走りながら剣を振り上げた楓だった。 青年は、何もしない。剣を振り上げることすらしない。 楓が振り下ろした剣は、真っ直ぐに青年の頭を狙っている。 ガキィン。 分厚い装甲を鉄パイプで叩くような、何のダメージも感じさせない金属音。 それが、渾身の攻撃が青年に与えた全てだった。楓はそのまま空中で回転しながら後方に下がる。 「けえええええええええええ!!!!!!」 怪鳥のような声を発していたのは、氷室鐘だ。 翼を大きく広げ、跳躍する。蹴りの姿勢をそのまま保ったまま、マスターである少女の方へ肉薄する。 砲弾のような蹴りは、確実にイリヤと呼ばれた少女を絶命させるだろう。襲い来る死を前にして、銀髪の少女は、 「哀れね」 少しも慌てず、悠然と立ち続けていた。その前に、光の粒子が集まって人の形状を作り出す。 「ああ、そして愚かだ」 嘆息気味に、現れた銀髪の女―――女神のような美貌を持つ女が、持っていた槍で鐘をその勢いを殺さずに弾き返す。結果、鐘の身体は後方に下がっていた楓を巻き込み、吹っ飛ばされる。 「蒔ちゃん、鐘ちゃん!」 由紀香が悲鳴を上げて、二人に駆け寄る。 呻き声も上げないままに倒れ伏した二人と駆け寄った由紀香に、金髪の男―――セイバーがゆっくりと近づく。 この後やることなど、誰でも分かる。瞬間的に士郎は飛び出した。 立ち塞がった士郎に対し、セイバーのサーヴァントは軽い驚きと共に口を開く。 「マスターがサーヴァントも連れずに飛び出すとは……正気か?」 「ああ、正気だ」 キャスターもまた、セイバーの前に回り、同時に顕現した女性の方を見やった。 「驚いた……まさか、サーヴァントを二騎従えるとはね」 呆れたように言葉を発するキャスターの姿に、イリヤと呼ばれた少女はふふん、と鼻を鳴らす。 「流石はキャスターのサーヴァント。私達の二重契約を見破るとはね。そうよ。三騎士の二角、最優のセイバーと、最速のランサーを従えたアインツベルンに敗北は無いわ」 「アインツベルン?」 士郎の疑問に、いつか出会った少女はにっこりと笑ってお辞儀した。 「今代のアインツベルンのマスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンですわ。衛宮の当主。どうぞお見知りおきを」 『早く呼ばないと、死んじゃうよ』 その言葉を士郎は思い出していた。 だが、記憶に浸っている場合でも無い。今はこの状況をどう切り抜けるかだ。 「イリヤスフィールだったか?聞いて欲しい」 「ん?」 きょとんとした顔になるイリヤスフィールに、士郎は楓と鐘を指し示した。 「この二人を攻撃するのはちょっと待ってくれ、事情があるんだ」 士郎は必死に言葉を紡ぐ。サーヴァントのマスターとなったからこそ分かる。 キャスターではこの英霊には勝てない。スペックが違いすぎる。 無論、勝負がステータスの比べ合いで終わる物ではないということは、士郎も分かっている。だが、F1マシンと普通の軽自動車がタイムトライアルをしても、戦いにすらならないに決まっている。 キャスターも同じだ。綿密な準備や作戦があれば勝つ可能性もあるが、何の準備もしていない今では、戦いはただの自殺行為に他ならない。 ならば、この場は相手の善性に期待して、退いてもらう以外に、生き残る方法は無い。 それが念話のよる脳内の会話でキャスターと決めた唯一この場から生還する方法だった。 気を失った二人の介抱をしていたキャスターも口を開く。 「この娘達は別のマスターに魔術で操られていた可能性があるわ。いえ、むしろそれで間違いない。誇りを尊ぶ英霊が、そんな娘を斬り殺せば、さぞや夢見が悪いのではないかしら?」 キャスターの言葉に、わずかにセイバーとランサーの顔が曇る。セイバーが口を開いた。 「一般人か。それなら、記憶を奪う程度で済ませてもいいかイリヤ?」 セイバーに続いて槍を持つランサーも口を開く。 「できれば、ヴァルハラに行く必要の無い者の血を流したくは無いのだ。我が主」 イリヤは、少し考え込むと、にこりと笑った。 「うん、いいよ。その子達は勘弁してあげる」 ようやく、空気が少し柔らかくなった。安堵のままに士郎はイリヤに礼を言おうとする。 「ありがとう。イリヤス「―――じゃあ、殺すのはお兄ちゃんとキャスターね」」 無邪気な笑顔を浮かべて、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは残酷な命令を発した。 由紀香は鐘と楓を介抱しながらも、事態の推移を見守っていた。自分達は助けるという言葉が出たときは安堵したが、その後の台詞に背筋が凍り付いた。衛宮士郎とキャスターと呼ばれた女性は、一歩退いて身構えている。 「お兄ちゃんは絶対に殺すって決めていたの。それにマスターなんだから助けるわけないでしょ?」 イリヤというらしい少女は、嬉々として残忍な台詞を平気で喋っている。台詞そのものよりも、そんなことを簡単にできる少女の方が怖かった。間違いない。イリヤは確実にあの少年と女性を殺すつもりだ。 「……一つ聞いておく、俺達がどのように行動しても、三枝達は助けるんだな」 ああ、あの少年はこんな時にでも人の心配をしている。怖いはずなのに、理不尽に降りかかる災厄に心折られることもなく、前を見据えている。だが、その姿には悲壮感しか感じられない。 「うん。その子達はどうでもいいけど、ちゃんと戦うのなら、助けてあげなくも無いわ」 その言葉に、少年と『キャスター』が、前に進み出る。 『セイバー』と『ランサー』も、イリヤの前に出て、少女を守るように武器を構えた。 「殺しなさい、セイバー、ランサー」 イリヤの声が戦闘の引き金となった。 キャスターは一気に術式を編むと、魔力で作られた呪いの弾丸を発射した。その数百以上。 一撃一撃が必殺の呪弾を前にして、しかしランサーとイリヤを庇うように前に出たセイバーは何もしなかった。 直撃。 呪弾の奔流は紛れもなく青年の命を奪うだろう―――普通ならば。 「なんて分厚い対魔力……反則ね」 「まあ、勝負にならないのは勘弁してくれ。お前が弱いわけじゃない」 セイバーに、呪弾は痛痒すら与えなかったらしく、平然と立っている。 キャスターの視線は、次にマスターである少女に向くが、ランサーに睨み返される。 「生半可な呪法でイリヤに害を与えようとは思わないことだ。魔術の攻撃ならば、私のルーンがこの子を護る」 「……ええ、害する前に貴女の槍が私を貫くでしょうね」 キャスターの声には、諦めの色が濃く滲んでいた。 士郎から見ても、状況は悪い以前に絶望的だった。 セイバーとランサーの布陣は鉄壁。なおかつセイバーにはキャスターの持ち味である魔術が効かない。 絶望的な状況と、何もできない自分に歯噛みする。 『士郎』 脳内に聞こえてくる声、キャスターの念話だ。教えてもらったとおりに返事を返す。 『キャスター、逃げることはできるか?』 『無理ね。相手にはサーヴァント中最速のランサーがいるわ。逃げようとしても追いつかれるに決まっている』 だから、とキャスターは提案を口にした―――衛宮士郎が受け入れられない提案を。 『令呪三画を用いて、私に足止めを命じなさい。その間に貴男は逃げなさい』 「なっ―――」 思わず、実際に口が開いた。 「できるわけ無いだろそんなこと!」 「私は死者で貴男は生者、どちらを優先させるかなんて決まっているでしょう」 何でも無いことのように言うキャスターに、思わず声を荒げるが、キャスターは涼しい顔でいる。 冗談じゃ無い。他者を犠牲にして生きるなど、『衛宮士郎』のやる事じゃない。 もし、誰かを切り捨てなければならないのであれば、それは俺自身(セイギノミカタ)だ―――!! 「話が終わったのなら、悪いがここで果ててもらう」 思考は、セイバーの声で強制的に断ち切られる。キャスターの提案で気が逸れていたが、ここは紛れもない戦場だ。今まで俺達を攻撃しなかったのは、作戦でも何でも無く、その必要が無いからだろう。 絶望と諦観が場を支配しようとしたとき。 「バーサーカー!ぶっ倒しなさい!」 唐突に、『それ』は出現した。 校舎の屋上から飛び降りた『それ』は地面に着地して土煙と轟音を上げると、魂を揺さぶるような咆吼を発する。 「◆◆◆◆―――◆◆◆◆◆◆―――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 数秒遅れて、命令を発した人物が同じく飛び降りる。しかしそれは猫のように華麗に着地した。 士郎も、由紀香も、その人物を知ってはいたが一言も発することができなかった。あまりにも予想外な人物だ。 「こんばんは、かしら。衛宮君、三枝さん」 「……遠坂さん?」 「……まさか」 呆然と呟く由紀香と士郎に、遠坂凛はいつも通りの微笑を浮かべていた。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/517.html
【元ネタ】史実 【CLASS】アサシン 【マスター】言峰 綺礼 【真名】ハサン・サッバーハ 【性別】- 【身長・体重】- 【属性】秩序・悪 【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B 【クラス別スキル】 気配遮断:A+ サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 完全に気配を断てば発見する事は不可能に近い。 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 【固有スキル】 蔵知の司書:C 多重人格による記憶の分散処理。 LUC判定に成功すると、過去に知覚した知識、情報を、 たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。 専科百般:A+ 多重人格の恣意的な切り替えによる専門スキルの使い分け。 戦術、学術、隠密術、暗殺術、詐術、話術、 その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、Bクラス以上の習熟度を発揮できる。 【宝具】 『妄想幻像(ザバーニーヤ)』 ランク:B+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:ー ――単一の個体でありながら複数に分断された魂を持つことで、 自らの霊体ポテンシャルを細分化し、複数のサーヴァントとして現界できる。 最大で80人にまで分裂可能。 さらに無自覚な自我が出現する可能性もある。 【解説】
https://w.atwiki.jp/bokuserve/pages/759.html
【元ネタ】モーリス・ルブラン原作「アルセーヌ・ルパン」シリーズ 【CLASS】アサシン 【マスター】衛宮 切嗣 【真名】アルセーヌ・ルパン 【性別】男 【身長・体重】179cm・63kg 【属性】混沌・善 【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運B 宝具D 【クラス別スキル】 気配遮断:C+ サーヴァントとしての気配を絶つ。 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。 ただし、アサシン自身は堂々と行動する事を好む。 【固有スキル】 変装:B 変装の技術。 Bランクなら、外見が変わったように見せかける事さえも可能。 生前は姿勢、言動、薬品を駆使し、常に他人へとなりすましていた。 芸術審美:A 芸術作品、美術品への深い造詣。 芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、 ほぼ確実に真名を看破することができる。 特に欧米の芸術・調度品関係の分野に関する宝具に対し高い効果を発揮する。 陣地作成:D 自らに有利な陣地を作り上げる。 “結界”を形成する事が可能。 生前、多くのアジトを作り上げた逸話により、このスキルを得ている。 専科百般:B+ 類まれなる多芸の才能。 騎乗、解錠、武術、射撃、詐術、話術、等 多種多様なスキルについて、Cランク以上の習熟度を発揮する。 【宝具】 『怪盗紳士(アルセーヌ・ルパン)』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- ルパンの象徴ともいえる変装術が神秘の域にまで昇華した物。 ルパンが変装を行っている限り、ルパンに対する認識が変装された人間と『同一』となる。 一般人に変装している限りサーヴァントの気配自体も消え去り、マスターの持つステータス看破能力も作動しない。 サーヴァントに変装しようとも周りの人間はおろか変装された本人にすら『本物』であると誤認させる。 また架空の人物に変装しようともルパンの設定した人物通りに誤認させることも可能。 ただし実際のステータスやスキルに変動は無い。 『奇巌の城もまた秘密の一つに過ぎず(エイギュイユ・クルーズ)』 ランク:E++ 種別:結界宝具 レンジ:- 最大補足:30人 ルパンが生前作り上げた奇巌城を始めとする数々のアジトの伝説の具現。 建築物や洞穴などに結界を形成する事で生前のアジトに存在した数々の仕掛けを具現化させる。 仕掛けはアジトの形成に時間をかける事で増えていき、またルパンが思いつくものであれば 電子機器を始めとするその時代、その場所に存在する技術を応用する事も可能。 またアジト内にいる限り、自軍の存在に気配遮断・気配察知・破壊工作・戦闘離脱等のスキルを付与する。 スキルのランクはスキルによるが、アジトの充実度によってランクが高まる。 【解説】 20世紀初頭に小説家モーリス・ルブランが発表した推理小説・冒険小説「アルセーヌ・ルパンシリーズ」の主人公。 怪盗紳士。「怪盗」の代名詞であり、現在でも根強い人気を誇る。 紳士にして強盗、詐欺師、冒険家。変装の名人でいくつもの変名を持つ。 貴族の城館や資本家の邸宅などを襲い宝石や美術品、貴重な家具などを盗んでいく一方、 善良な者を助ける義賊的な性格もあわせ持つ。虐げられた婦人や子供にとっては頼もしい保護者となる。 切嗣との相性をよくしてみた。・・・けど場合によっては対立しかねない気もするね。 ひたすら逃げて隠れて情報集めてに特化した鯖だけど戦闘も若干こなせるし マスターによっては相当化ける鯖かも。意外とステータスも悪くないしね。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/613.html
──────Archers Side────── 真冬の夜だというのにそう寒くは無い風に晒されながら大橋を渡り切り隣町までやって来た。 「とりあえずここまでは特に異状は見受けられなかったか」 「だからワシはそう言っただろうが、それをマスターが───」 「お前の意見なんか訊いてない」 間桐はアーチャーの言葉をすっぱりと切り捨てる。 「チッ。まったくうちのマスター様は───ッ!??どけ!マスターッ!!!!」 アーチャーはそう叫ぶと即座に実体化し間桐の身体をむんずと掴むとそのまま後方に投げ飛ばした。 かなり勢い良く放り投げられた間桐は体を地面に打ち付けながらそのままゴロゴロと転がる。 「がっ!き、貴様ぁ、サーヴァントの癖に…マスター、相手になに、を───!!」 ────瞬間。さっきまで間桐が居た周囲が吹き飛んだ。 轟音と土塊が八方に飛び散る。 「おわぁああああああああああああああ!!!?」 悲鳴を上げる間桐の前にアーチャーが爆発から庇う様に立っていた。 「ふうぅぅ……危ないにも程があるわ、かなり紙一重だったぞ。 しかしなんつー魔術じゃ……こんなもんをなんの気配も感じさせないままぶっ放してくるとなると……敵はキャスターか?」 突然の奇襲にアーチャーは忌々し気にぼやく。 「キャ、キャスターだと?」 困惑するマスターに今の状況を教えてやる。 「よかったなマスター。早速念願の 異 常 が見つかったぞ?」 コツコツと靴音を鳴らしながらその敵は悠然とアーチャー達の前に現れた。 「なるほど。君が御三家の一角である間桐家の魔術師か。ふん、やはり落ちぶれてるだけあって脆弱だな」 その男は現れると開口一番に間桐に対して嘲笑を浮かべた。 「なんだとお前……?」 挑発された間桐の声にじわりと殺気が篭る。 「ふん。キャスター奴は私が相手をする。お前は敵のサーヴァントの相手をしろ」 「わかりましたマスター」 簡素なローブを着たサーヴァントがマスターの声に応え前に出る。 「アーチャー!判っているな?」 「マスターに言われるまでも無いわい。しかし、ある意味幸運だぞ。いきなり最弱のサーヴァントに当たるとは」 間桐に促されるまでもなくアーチャーは既に臨戦態勢に入っていた。 「おやおや。やはり最弱とされるキャスタークラスでは舐められてしまうものですね。 良いでしょう、その驕り後悔してもらいます───!」 キャスターがその場で魔道書を開く。 同時にソフィアリは素早くその場から離脱しながら詠唱を開始する。 キャスターから貰った魔術刻印がソフィアリには本来無い筈の魔術を与える。 次の瞬間に二人の魔術師が発動させた肌を飴のように溶かす程の熱風が間桐に向かって叩きつけられた! 「───無駄じゃわ!」 敵の魔術攻撃と同時に素早く間桐の前に躍り出たアーチャーが熱風を特に防御もしようとせずに遮断する。 二人の魔術はアーチャーの持つ強力な対魔力によって無効化された。 弓兵の右手には既に弓と言うには少々大き過ぎる巨大な弩が装備してある。 そしてアーチャーはそのまま一気にキャスターとの間合いを詰めるために突進をかけた。 「むっ!?やはり見た目通りCランク以上の対魔力持ちでしたね!ならば行きなさい我が七体の───!」 キャスターの号令と共に七体の小人が踊り出た。 首、心臓、目、足を狙ったコンビネーションがアーチャーを襲う。 「うお!!なんじゃ!?」 キャスターへの突進を一旦止めて小人たちの七連続攻撃の回避に専念する。 ”人形……あのキャスターは人形師か? となるとアレはキャスターの魔力を帯びていると考えるのが妥当か……ならサーヴァント相手でも干渉出来るな。” 冷静に分析しながらキャスターに狙いを定めて右手に持った弓の引き金を引く。 打ち出される巨大な二本の牙。 通常の弓矢の規格とは明らかに違う大型の矢が唸りを上げながら獲物に向かって直進する。 だがそれをキャスターはまるで氷を滑るような動きでかわした。 続け様にもう三発射撃する。 再びキャスターは滑るような動きで回避してゆく。 しかも今度はそのまま移動し始めた。 「あの妙な動き……何かの魔術を行使しているのか?ぬおわ!」 キャスターの奇妙な動きに気を取られている隙を突いて一体の人形が手に持った凶器を叩き付けてくる。 それを左の手甲でガッチリと受け止め、右手の引き金を人形の小さな体に向かって引く。 巨大な矢に貫かれぶっ飛ぶ半デコ人形の体。 真っ二つにされて地面に転がった人形はそのまま消滅した。 「ワハハハ!所詮は雑兵よワシの敵ではないわ」 そのまま距離を取ろうとするキャスターを追って移動する。 ”───本来ならこんな見え見えの戦力分断の作戦なんかに乗らんでこの場に残ってキャスターのマスターを殺したいところじゃが……” アーチャーに突然雨雲も無いのにどんでもない落雷が降り注いだ! 「ごわっ!!?今のはかなりびっくりしたぞ糞っ!!」 ”───これがあるからな。 下手にキャスターのマスターに近寄ればいくらワシが無事でもうちのワカメマスターまで巻き込まれて死にかねん。” キャスターはソフィアリから離れながらアーチャーより射られる矢をヒラヒラと回避する。 「やれやれ今のも大した手応え無しですか。 ───普通ならば粉々になる威力がある大魔術クラスの干渉魔術ですら殆ど傷付かないとは厄介な……」 キャスターは敵のあまりに出鱈目な対魔能力に若干呆れたような声を吐き出した。 先ほどからキャスターが放っている魔術攻撃は高ランクの対魔力を備えているアーチャーには殆ど通用していなかった。 「ならこれならどうです?」 くすりと忍び笑いを浮かべたキャスターは『世界の書』を開いた状態で別の魔術を発動させる。 「連動、高速可動───性能強化」 残り六体の人形に連携を組ませ、さらに魔術で人形たちのスピードやパワーなどの性能を上げてやる。 「さあ、行きなさい!」 キャスターが人形達へ向かって吼えた───! 「ぬ?突然なんだこいつら!?」 アーチャーの声に困惑の色が浮かぶ。 それもそのはず、あしらう程度に相手をしてやっていた人形の動きが突如変わったのだ。 先よりも鋭く、先よりもこちらの行動の終わりを狙って、速く、正確に動いてくる! しかも人形たちの攻撃の迫力も先程とは段違いである。 いくらアーチャーが硬い部類だと言ってもまともに喰らえば相応の損傷が待っている事は容易に想像できる。 アーチャーは人形の攻撃を無駄の少ない動作で回避と防御をしながら、手にした弩の矢を射ち込むのだが───上手く当たらない。 「チッ!チョロチョロと!防御力は大して無い癖に素早さだけはサーヴァント並にありおる。 ───キャスターめぇ、何か人形に補助をしておるなぁ!!」 アーチャーは苛立ちながら狙いも付けずに今度は引き金を引きっ放しにする。 するとシュカカカカカカカカカカカカカカ!という風切り音と共に大量の矢が乱射された。 大きな渦巻きを描く様に撃たれた矢は回避し損ねた一番小さな人形の頭を吹き飛ばし、残りは全弾空を切った。 これで残り五体……! 「よし今のうちに本体を先に────ヴおっ!?」 突如眼前で起こる爆発音。 アーチャーが気を逸らした隙にキャスターが魔術で攻撃を加えたのだ。 あのキャスターは小癪にも自身の手駒を上手く使いながら自分もしっかりと戦闘に参加していた。 人形が作った隙を突き、人形に出来た隙をカバーするように、とんでもない速さで魔術行使してくる。 だが幸いな事に対魔力Bを誇るアーチャーには魔術による攻撃はよほどのものじゃ無い限りまず傷付かない。 牽制にキャスターに五発ほど矢をぶっ放つ。 再び弩がキャスターに牙を剥く。 だがしかし、やはり滑るような動きでするりと回避していくキャスター。 「むぅ完全に暖簾に腕押ししとる……やはり出来るだけ近づかんと駄目か」 そう判断するするとアーチャーは一気にキャスターへ向かって疾走した。 「っ!?」 敵が動揺した気配が感じ取れる。 ───行ける!このまま一気に! キャスターまでの距離を一気に詰めようとしたその時。 「どふっ!??」 鎧の上からにも関わらず背中に強い衝撃を受けた。 背後の少し離れた位置には赤い人形と黒い羽を生やした黒い人形。 あの距離から攻撃したという事はあの二体は飛び道具も備えているらしい。 「お、う……痛ぅぅおのれこの玩具め!効いたぞ畜生!」 紅い人形の左肩を目掛けて矢を放つ。 撃ち出される銀星は真っ直ぐに紅い人形目掛けて飛んでいく。 人形はその程度の攻撃避ける事なぞ容易いと言わんばかりに右方向へ跳躍した。 ────が、その跳躍先には待っていました。とばかりにもう一発の銀星が既に放たれていた。 片腕がもげて爆散する紅い人形。 「ビンゴ」 これであと四体! 紅い人形を仕留めると、身構えている黒い方は相手にせず再びキャスターへ走り寄る。 そしてそのまま後ろを見ずに矢を撃つ。 背後から矢が何かに着弾する音と、何かが地面を転がる音が聞こえた。 これで残り三体。 「よし上手くいったわ」 やはり睨んだ通りだった。キャスターを狙えば人形は主の護衛に回る。 となると当然あの黒い人形は無防備な背中を見せたアーチャーに真っ直ぐ襲い掛かり。 ───そのまま弓兵の作戦通り鮮やかにジャンクにされた。 アーチャーは一切後方の音には振り向かずにキャスターへ突進する。 ─────あと少しで至近距離まで入れる! 「光刃よ───!」 キャスターも一小節の詠唱だけで強力な魔術を発動させ応戦する。 目が眩むほどの閃光と共にキャスターの方から飛んで来る光の弾。 バチン!と着弾するが対魔力の阻害によりダメージは無し。 しかし、若干走る勢いが一瞬だけだが落ちた。 構わず右手の弓を構える。 「手こずらせおって、喰らえいキャスター!!!」 人指し指が引き金を強く引き絞る。 大量に撃ち出される矢の嵐。 だが、キャスターはアーチャーが駆け寄る勢いを落としたその一瞬の隙をついて霧となっていた。 霧散するキャスターの肉体。 一発もまともに命中せずに悉く空を切る矢の嵐。 「くぬぅぅぅぅうううう!惜し過ぎるっっ!!」 悔しがりながらも素早く敵の位置をその猛禽類のような両目で探る。 居た……左方30m先にキャスターは現れている。 「…………今の霧化といい、先程から使っている大魔術といい、どうも殆ど詠唱も無しに使用している気がする。 というより殆どシングルアクションに迫るほどの速さ……。それにあの魔道書、物凄い魔力を放っているが……まさかとは思うが、宝具?」 いやしかし流石に序盤も序盤でいきなり宝具を使用してくるサーヴァントなど存在するのか? 宝具を使用するという事はそのまま持ち主の真名へと繋がる致命的な情報となり得る。 故にサーヴァントは滅多な事では宝具を使用しない。 使用しないのだが───ならあの魔道書はなんじゃ……? アーチャーの困惑をある程度離れた場所でキャスターはほくそ笑む。 ───やはりこの手にある魔道書が気になりますか。 まあ当然ですね、何せ宝具を使用するという事は真名を明かすという事と同義ですからね。 「フフ……でもまぁ、それも無駄なことなのですけどね」 決して言葉には出さずに口の中だけで呟く。 そう無駄だ。なにせこれは彼のマスターと共に考えた作戦なのだ。 序盤から他の組は伏せておくであろう切り札たる宝具を積極的に使用して他のマスター達より優位に立つ戦略。 普通の英雄ならまず出来ない戦略だがこのクリスチャン・ローゼンクロイツはそれが可能な英雄であった。 ”元々ボクは英雄としての力を持ち始めた辺りからの伝承が全くと言っていい程残っていないんですよ” それがキャスターがマスターであるソフィアリに告げた言葉。 中世の世に存在したというわずかな記録と噂以外は正体不明とされる魔術師の英雄。 それがこの聖杯戦争で彼に与えられた唯一の強み。 英雄は自身の伝承を紐解かれる事によりその特性や能力そして弱点を露呈する。 だが───その伝承自体が不透明なものならば仮に真名が明るみにされてもデメリットは殆ど無い────! おまけに彼の宝具の能力は至ってシンプルだ。 『世界の書』に記された世界中の魔術刻印に記録された魔術がシングルアクションで使える。 ただそれだけ。 仮にローゼンクロイツ自身が習得したの魔術が判明したところでこの世界の書があればそれすらも簡単にカバーできる。 「とは言ってもやはり高ランクの対魔力スキル持ちには分が悪すぎますね……せめてCランク程度の対魔力ならまだ何とかなったものを」 苦虫を噛んだ様な声が漏れる。 そう、どんなに序盤からの宝具使用による優位を得ても相性という根本的な問題がある。 恐らくあのアーチャーの対魔力はBランク相当。並の大魔術や儀礼呪法程度じゃまず傷付かないだろう。 彼にはAランク相当の大魔術を喰らわせないと有効打にはならないはずだ。 おまけに喰らわせたとしても単発では致命傷にはならない筈だ。二発三発と立て続けに喰らわせる必要がある。 「人形はあと三体。やはり陣地外での単体勝負は圧倒的に不利ですか」 世界の書のページをめくる。 こちらの攻撃が通用しないのならば───相手の攻撃を利用するまで。 キャスターがアーチャーに対して仕掛けようとしたその時───。 マスターたちの居る方向から火柱と爆発音が轟いた。 「……!!?」 「────なっ!!!?」 驚愕は一体どちらの方が大きかったのか。 二人のサーヴァントは音を聞きつけるやいなや、その意味を即座に察知しマスターの元へ疾走する。 「チッ、あのヘタレワカメがっ!だから言わんこっちゃないうつけ者め!」 アーチャーを焦燥感が襲う。 これはマズイ。自分のものとは別のラインが危険信号を出している。 その警報がなんなのか、サーヴァントとマスターとの繋がりで十分過ぎるほどに理解できた。 今───自分のマスターがかなりヤバい状態にある!! 「アーチャー、そう簡単には貴方を行かせません!」 マスターの許へ急ぐアーチャーにキャスターとその人形が並走する。 足の速さでは向こうの方が上だ。 「く!!?」 横合いから振り下ろされる凶器。 「邪魔を……するなこのゴミ屑ども!!」 それを左の手甲で逸らし、怒声と共に右の手甲で裏拳を人形へお見舞いする。 随分遠くまで吹き飛んでいくお人形。 真横でキャスターが唱える行動阻害の魔術を対魔力に物言わせて完全に無視しマスターの許へ急ぐ。 勿論足の速いキャスターにしっかり牽制に矢をたらふく撃ち込んでやるのも忘れない。 まず当たらんだろうがキャスターの足を緩める時間稼ぎにはなる。 ────居た! 倒れ伏した間桐に丁度ソフィアリが止めを刺そうと手を伸ばしているところだった。 「させぬわ!」 アーチャーは自身の前方と後方にいるキャスターとソフィアリに手早く狙いを付けると引き金を引いた。 「アーチャーなぜ此処にっ!!!!?きさま!!!??」 「マスター!!離れなさい───うぐっ!!!!?」 弩の射出と同時にキャスターは自分のマスターの周囲に防壁を展開する。 防壁に阻まれ弾かれる矢。 ソフィアリはキャスターが咄嗟に張った防壁で守られた。 しかしキャスターの身体にはアーチャーの矢が見事に穿たれていた。 今の攻防でキャスターが手負いになったのを気配で察すると、アーチャーは間桐の傍まで駆け寄りながらソフィアリの心臓へ目掛けもう一発弩を撃つ。 「っく────!!………ぶっっごっ!!!???」 キャスターの声に反応して身体を捻りながら回避行動を始めていたソフィアリの脇腹に矢が突き刺さる。 否、─────それは突き刺さったなどというレベルではなく脇腹を 吹 き 飛 ば し た 。 ソフィアリは受けた衝撃で数m後方に転がりそのままピクピクと痙攣していた。 「咄嗟に回避動作を取られたせいで心臓は外されたか……だが」 だがこれでキャスターをマスターの傷の治療の為に足止めさせられる筈だ。 矢が大きいため、ソフィアリの脇腹にはコブシ大ほどの大きさの風穴が開いていた。 流石にあの傷の大きさでは『復元』レベルの治癒魔術でもしない限りは治癒出来まい。 死に掛けの敵マスターを前にして撤退するのは遺憾ではあるが、なにぶんこちらのマスターも死に掛けている。 これ以上敵に構っている余裕は一秒だって有りはしない状態だ。 「マスター。問答無用だ、離脱するぞ。ここじゃ治療もまともに出来ん」 しかし離脱してどうする? アーチャーには治癒魔術の心得など無い。 どう治療すればいい……? ”いや───もしかするとあの爺さんならば治療出来るかもしれぬな。” 即座にマスターの受けたダメージを回復させられそうな人物を頭の中に弾き出すと、 アーチャーは間桐を抱え上げそのまま臓碩のいる間桐邸を目指して撤退した。 ◇ ◇ 間桐を肩に担いだまま大橋を渡り、こちら側(深山)の町を駆け抜け、間桐邸に続く坂を一気に駆け上る。 マスターが瀕死になった為、今のアーチャーには魔力提供が一切行われていなかったがクラススキルの『単独行動』がその威力を存分に発揮していた。 おかげで魔力不足のせいでヘロヘロになる事もない。 おまけに暁幸なことに敵マスターと遭遇することも無かった。 間桐邸の敷地内に駆け込むとそのまま玄関をブチ破りそうなの勢いで開ける。 「おい爺さん!!いるんじゃろう!?マスターがヤバいなんとかせい!」 そして洋館全体に聞えんばかりの大声で臓碩を呼ぶ。 すると目的の爺さんは建物の影から湧き出たように突然現れた。 「なんじゃ騒々しい。む、アーチャーかどうした?」 「なんじゃじゃないわい。爺さんこのワカメ小僧が死にかけてるから何とかしてくれ。 正直マスターが死んだところで弓兵のワシならばそこまで致命的では無いが流石に今更新しいマスターを見繕うのも面倒だ」 アーチャーの切れ長の目が不機嫌そうに細まる。 「ククク、こやつに愛着でも湧いたかアーチャー?」 「つまらん話は良いから治療できるんならさっさとせんかい。こいつ長くは持たんぞ? 助ける気が無いのならさっさと申告するんじゃな、今から他の寄り代を探しに行く」 爺さんの下らない冗談にいかにも面倒臭そうにその長髪を掻き揚げる。 「わかっておるわ、地下へ連れて来るが良い」 臓碩はそれだけ告げるとまた闇に溶ける様に姿を掻き消した。 「げえ地下か……あそこ出来れば行きたくないんだよなあ。臭いったらありゃしないわ」 文句を言いつつも直ぐにアーチャーは臓碩の言葉通りに間桐を地下へ運び込んだ。 「で、どうするんじゃ?なんかもう息の根が止まりかけとるんだが」 全く洒落にはなってないが、ぬわっはっはっはー!ととりあえず笑い飛ばしておく。 割と大雑把な気質のアーチャーは辛気臭いのは好きではないのだ。 「まったくもって情けない限りじゃのう。序盤も序盤でいきなり取って置きを使う羽目になろうとはな。このたわけが」 ぼやきながら臓碩は一匹の蟲を間桐の口の中に杖で押し込んだ。 ニュルニュルと間桐の口から腹の中へ入っていく淫猥な形をした蟲。 「…………………うわぁ…マスターご愁傷様……そんなイチモツみたいな形の気色悪い蟲を銜えさせられるとは……同じ男として同情するぞ…」 アーチャーは心底同情したようにお経のような呪文を唱えている。 「……ところで爺さん、なんじゃ今のアレは?」 「儂が今回聖杯戦争のために用意した切り札だ。 心臓さえ動いていればとりあえず干乾び掛けていようが全身骨折大火傷だろうが持ち直せる程の…処女の血で練り上げた魔力の塊よ」 そう説明する臓碩の声は明らかに不機嫌だった。 さっきまで蚊の鳴くように息をしていた間桐が今では苦しそうに呻き声を上げている。 ……あの卑猥なアレの形をしたあれって大丈夫なものなんだろうか? いやどう考えてもヤバいな。まず形がヤバい。いろんな意味で有り得ない。 アレで持ち直すような奴は変態に違いないわ。 などとしょうもない事を考えていると、しばらくしてその苦しげな呼吸が徐々に収まりつつあった。 心証的にいまいち信じたくはないがどうもあの男根蟲で持ち直したらしい。 なるほど、ワシのマスターは変態じゃったのか。個人的にはアレを食わされるくらいならば潔く死ぬが─────。 アーチャーが内心少しアレの効果に疑問を持ち始めた頃、臓碩が質問をしてきた。 「何があった?」 「あ~ついさっきキャスターと一戦やって来たんじゃが、その時に炎でも使う敵マスターと戦って負けたのだろう」 まあワシはキャスターの相手をしとったから直接は見とらんが。と付け加える。 「火炎使いか。蟲使いの儂らマキリの業にとって相性悪い敵とまともに遣り合おうとするとは……使えぬ孫じゃな」 臓碩はその使えぬ孫を横目で見ながら溜息をついている。 「…………ならば何故あの大量の魔力を蓄えた蟲を使った?切り札なのじゃろう? ワシはてっきり貴様はマスターを見限ると思っておったがな」 「孫に期待は無くともそのサーヴァントであるアン・ズオン・ウォンにはあるからのう。 不出来な孫はともかくアーチャーは大事という事だ」 アーチャーの正直な感想にマキリの老人はそう答えると陰湿そうな忍び笑いを漏らした。 だがその賛辞を受けた当の本人はというと。 「あ~……今の台詞がこんな陰湿な爺じゃなくて、むちむちな色香を放つ綺麗なねえちゃんなら文句無しだったのに……はぁ」 などとこの見た目年若そうなアーチャーは、相変わらずの調子でオッサン臭い台詞を吐きながら深く溜息をついていた。 ──────Fighters Side────── 夜。遠坂は寝静まった隣町を霊体化したファイターと共に探索していた。 家を出てから既に結構な時間が過ぎているが特に成果は上がっていない。 今日は暖かい冬木の冬にしては寒い。 まるで夜に蠢いているナニかへの畏怖で先程まで暖かかった町の熱が急に冷めたみたいだった。 「ここも特に異常はなさそうだな、マスター」 「………」 「で、次はどうする?町の中心部はもう見たわけだから大橋の方へ戻ってみるのかな?」 「………………」 「ん?……遠坂殿?」 「……………………………」 遠坂はファイターの言葉には答えずに何かを探すように周囲をキョロキョロと見ていた。 「マスター?」 やはり遠坂はファイターの呼びかけに反応を示さない。 「………ふぅ、マスター!」 「───ぉ!!?な、なんだ?ファイター」 「なんだではない。遠坂殿の方こそどうしたというのだ。私の声も聞えていないほど呆っとするなぞ遠坂殿らしくもない」 少し呆れてマスターを諫める。戦場で呆けるなんて本当に彼らしくない行動だ。 「……ファイター、一つ訊ねるが君は何か視線を感じないか?」 ボソッと呟かれた言葉に今度はファイターの神経が鋭敏になる番だった。 ファイターは自身を張り詰めさせ周囲の気配を探る。 「─────」 だが手応えらしい手応えは無い。 「────いや。私では嗅ぎ取れない。となると……」 「サーヴァントの気配ではなく───マスターの視線、か?」 恐らく。とファイターも相槌を打つ。 「マスター、視線を感じ始めたのはいつ頃に?」 「確か、こちらの町に入ってしばらくしてからだ。遠坂の家が在る深山の町にいる間は感じなかった筈だからな」 「という事はこちら側の町に根を張っているマスターが居ると?」 「多分な。しかも恐らくそのマスターは複数の駒持ちだ」 「複数か───フッ、これはまたいきなり面倒臭そうな輩に引っ掛かったものだ」 つまらなそうにファイターは零す。 「ファイターが視線を感じない点と、私が家から『魔力殺し』を持ってきたという点を考えればコレらの違和感は魔術師の魔力に反応したキャスターや敵マスターの網ではなさそうだな。 私自身も他のマスターの網に対しては細心の注意を払っていたから恐らく引っ掛かってはいない筈だ」 安全な陣地である自宅から外に出た遠坂はその分敵に対しての警戒をしっかり行っていた。 「しかも令呪が全く反応しないときている……まさかマスターじゃない、のか?」 「しかしマスターではないような者が何故そんなことを?」 「判らない。だが現状だとそれが一番解答としてはしっくりくる……これはどういうことだ?」 ────困惑する遠坂の予想はほぼ正解だった。 ───────Interlude ─────── 遠坂たちから200m以上離れた地点。 その人影は存在した。 「───標的を捕捉。既に発見より15分は追跡しているがこちらの姿を見つかった様子はない。 恐らくサーヴァントを霊体化して傍に控えさせていると思われるため、このまま監査aは監視を続けると監査dへ報告」 「伝達b了解───」 そういうと一人の人影は闇の中を音も無く駆けて行った。 ───彼らは聖堂教会よりゲドゥ牧師と共に派遣された構成員たちだ。 魔術師では無い彼らは魔術の力には頼らず鍛え抜いた己の肉体を頼りとする。 ライダーのマスターでもある牧師が彼らに与えた命令はこうだった。 ”各自深夜に潜伏した町で何かを探すように徘徊する人間を見かけた場合は、絶対に手を出さずにしばらく追跡し観察しろ。 この時期の深夜にそんな行動をする人間は魔術師の可能性が非常に高い” その命令に従い今もこうして遠坂を静かに監視している。 標的に張り付く監視員と、監視員が得た情報を他の構成員や牧師へと伝える連絡員に分かれて行動する。 そういうものに対して訓練を受けている人間ならともかく、そういう事には疎い魔術師ではまず彼らを見つけられない。 そしてもし標的が全く無関係のハズレだったとしても人手が十分にある彼らには大したデメリットは無い。 それが牧師が出した聖杯戦争での戦略だった。 そうして彼らはじっと監視を続ける。 教会の命令である聖杯の調査の成功の為に───。 ───────Interlude out─────── 遠坂達は何者からかの視線を感じながらの探索を続ける。 「遠坂殿。いっそ周辺を調査・索敵できるような魔術を使って確認をしてみるのは?」 主人の心理状態を察しファイターが助言した。 「そうしたいところだがまだ駄目だ。私の気のせいの可能性もまだある。 がそれよりも、もしコレらがただ私に対する疑惑からの監視だった場合は魔術行使は明らかに失策だ。 せっかく魔力殺しで魔力を遮断しているのに自分たちの情報をこちらから明かす羽目になる……」 夜の隣町を進みながら遠坂は冷静に状況の把握に努めている。 ファイターは黙ってマスターの采配に従うことにした。 「……一旦帰還する。恐らくだがこの視線はこちらの町を監視するモノの筈だ。ならば───大橋までは追っては来くるまい」 遠坂の提案にファイターは頷きで返す。 「同感だ、マスター。仕掛けるのなら何らかの策を用意してからの方が良い。それに何も収穫が無かったわけではないからな」 そう一応収穫はあった。隣町には正体不明のナニカが居る可能性がある事が判ったのだ。 方針を決めたら行動は迅速に。 ファイターたちは素早く大橋を目指した。 そして、その場所に差し掛かった───。 「遠坂殿ここは───?」 「少し前に間違いなく、戦闘があったようだな……」 大気中に残る強烈な魔力の残滓。焦げ付いた草花。抉られた大地。そして血痕。 「「キャスターか……?」」 二人の声が重なる。 少なくともこの強烈な気配の残滓は並の魔術師とは思えない。 二人で慎重に辺りを調べていく。 そうして周辺を調べているとファイターは妙なモノを見つけた。 「ん?これは────羽に足?……いや虫、か?」 地面にナニかが焼かれた残骸が残っていた。 「何か見つけたのかファイター」 少し離れた所を調べていた遠坂がファイターの方へ歩み寄ってくる。 「遠坂殿これはなんだと思う?」 そう言いながら地面に残ったコレを指差す。 「───────焼かれた蟲、の残骸か?」 「少し大きかったから気になったがやはり虫か。大方飛んでいたところを戦闘に巻き込まれたというところか……。 いやすまない、つまらないものだっ───」 「いや。でかしたぞファイター」 遠坂が口元に笑みを浮かべていた。 「ん、遠坂殿?」 「いやこれはアタリだよ。なるほど、となるとここで戦闘したのは間桐のマスターか。 確かマキリのご老輩は際立った蟲使いだ。ならば彼の弟子もその蟲の業を習得していたとしても不思議でもなんでもない」 「マキリ───確か遠坂家と同じく御三家の一角だったか」 「ああ。だが今あの家の後継者にはここまで強力な魔力は無い。 となるとこの場所にはキャスターのサーヴァントか間桐よりも数段格上のマスターが居た事になるな。いやあるいは両方かもしれん」 「うむ、やはり遠坂殿が自邸で見つけた通り動きがあったか」 「そうだな。いやファイター、君の助言を聞いていて良かったようだ。流石に家に居たのではこの情報は手に入らなかった」 「何を言う。私の助言を聞くと判断したのはあくまで遠坂殿自身だ。ならばこの結果は遠坂殿自身が招き寄せたものだ」 やはりこの忠実な従者は控え目に主の賞賛を受け止めるのだった。 一頻りその場所を調べた後は、先程の監視らしきの気配の事も考慮して手早く大橋へ移動する。 「恐らく間桐は負けたな」 「なぜそう思うのだ?」 「簡単なことだ。余程の事でもない限り蟲使いでは炎使いには勝てない。がそれ以前の問題として間桐の相手は恐らく格上だ」 「なるほど───強い者が勝負に勝つのはいつの世も同じであったか」 二人でこちらの町と深山の町を結ぶ大橋を渡って行く。 隣町で感じた視線は今は全く感じない。 やはりあの視線は気のせいだったのだろうか───? そうして大橋を何事もなく無事に渡り切り、ファイター達は河口側の広場までやってきた。 「さて、遠坂殿これからどうす───静かに!」 ファイターは突如耳に入ってきた異音に反応して耳を澄ませる。 一方遠坂はファイターの意図を汲み素早く臨戦態勢に入った。 明らかに聞き覚えのある音が遠くから近づいてくる。 そうこれは文字で表現すればパカラッ!パカラッ!やパカポコ!パカポコ!という類の音だ。 「──────これは、馬蹄の音?」 どんどん大きくなっていく快音。 それに伴ないこちらに真っ直ぐ近づいてくる強力な魔力の気配。 そして馬の嘶きと共についにその音の正体がファイターたちの目の前に現れた───! ズザザザーと砂埃を巻き上げながら豪奢な馬車が停止する。 馬車の手綱を手繰っているのはどう見ても騎士───否、サーヴァント!? 騎士が御者台から飛び降りる。 「いや開幕に間に合って良かったぜ。そうだろうお二人さん?」 と、に騎士が明るい口調でこちらへ声をかけてくる。 だが緩んだ表情とは裏腹に放たれた殺気は張り詰めていた。 霊体になっているファイターにも気付いているとなると間違いなくサーヴァントである。 「おっとそうだ。マスターを下ろさないと」 そう言いながら男は馬車の扉を開けて下車するのに手を差し出していた。 「セイバー、随分乱暴な運転ね」 「うっ、……面目無い。でも急いでいんだからしょうがないじゃないか!あ、お手をどうぞ」 ……なんかその騎士は主らしい女に怒られながら彼女を馬車から降ろしていた。 ファイターは実体化し遠坂を庇うように前に立つ。 「マスター、彼らは?」 「………あの今から戦場に向かうものとは考えられないような無駄に派手な馬車はどう考えてもアインツベルンだな」 一方の遠坂は騎士の方をじっと見やる。 マスターが持つ透視能力で見た騎士は───世界でも希少価値が非常に高い輝石に見えた。 奥歯を噛み締める。なんて高ランクの能力値だ……。 ランク変換しても魔力値以外はBランク越え相当の能力値、だと!!? あのサーヴァントの能力値が、筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具A+ 一方のファイターの能力値が、筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具A ───なんてことだ。あの白銀の騎士は私のファイターと全くの互角性能。 マスターはアインツベルンでそのサーヴァントはあの能力値……。 ここまで条件が揃えばもはや疑う余地も無い。 間違いない…………あれが、あの騎士が私が手にしようとした、セイバーのサーヴァント────!! おまけにアインツベルンのマスターは人外のホムンクルスである。 遠坂もかなり高いマスター適性を持つ優秀な魔術師であるが、根本から魔術に適した体を持つホムンクルスのマスター適性は人間のソレとは次元が違う。 その恩恵によってセイバーはその持ち前の性能を存分に発揮していた。 「マスター。よもや止めはすまい?」 敵の予想外の能力値に奥歯を噛み締める遠坂にファイターは静かに声をかけた。 「ファイター?」 「あの男───姿、武装、闘気、そして能力値、どれをとっても超一流だ。 どう考えても奴が今回の聖杯戦争における花形───セイバーだ」 吐き出された声音はまるで静寂な湖畔の如く、だがその声に籠められた感情は噴火する溶岩の様に激しい。 ファイターは目前の騎士を打倒すべき『敵』と認識していた。 「マスター私は召喚された時に申したな。確かに今の私はファイタークラスだがセイバークラスごときに決して劣らぬと。 いや実に丁度良い。あの時の言葉、今この場で証明をして見せよう───」 ファイターが前に歩みを進めながら臨戦態勢に入る。 その敵意に反応し騎士は女マスターを手で下がらせると、数歩前に歩み出た。 「オレは彼女に仕え聖杯を手にするセイバーのサーヴァント。残念だが真名はまだ明かせん。で、貴様は何のサーヴァントだ?」 「ファイターのサーヴァントだ。だがセイバーよ貴殿の言葉には一つ間違いがあるぞ?」 「ファイター?なるほど、基本枠の7クラスに入らなかった場合に被るエクストラクラスか。 ───にしても、へえ?オレに一体、何の間違いがあると言うんだファイター?」 ファイターの視線とセイバーの視線が激突する。 「なに簡単な事だ。聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を手にするのは、貴様マスターなどではなく、私の───マスターだ!!!」 抑える必要の無くなった両者の殺気がついに爆発した。 セイバーとファイターは同時に腰に下げた鞘から愛剣を抜き放つと猛然と自身の敵を潰しに掛かった────!! 踏み込みが同時ならば打ち込みも同時。 両者の初撃は共に会心の一撃同士のぶつかり合いだった。 「っ!!!」 「くっ!?」 刃が噛み合いその衝撃がお互いに伝わっていく。 しかし両者共にその場にしっかりと踏み止まり一歩も後退しない。 一合目の打ち合いが終えるとファイターは即座に愛剣のネイリングに魔力を叩き込む。 ───ブシュルルルルルルルゥルルルルルウルゥゥウウウウウウウウウ!!! 猟犬の唸り声のような音を発しながらネイリングが回転し獲物の首筋に喰らい付こうとする。 しかし敵は猟犬の牙を難なく打ち落した。 セイバーは敵の剣を打ち払うと即座に手首を返しファイターの首を落としに来る。 馬鹿みたいに力強い一刀。 普通ならばシュ!っと鳴る筈の風切り音がヴォ!と鳴っている───! ファイターも敵と同様に苦もないかの様に敵の一撃を弾き返す。 その後二撃、三撃、四撃と攻撃を加える。 二撃、三撃、四撃と攻撃を防ぐ。 夜の闇を照らす鉄と鉄が生み出す明かり。 ファイターとセイバーが剣を叩き付け合うごとに鉄が奏でる爆発音が響く。 ファイターとセイバーが剣を防ぐ度に淡い明かり灯る。 剣士と闘士。共に筋力ランクAを超える超一流の攻撃力を誇る二人の戦い。 大気が悲鳴を上げ、大地が畏怖し、互いの武器が火花と音による喝采を贈らない方がおかしいというものだ───! その戦いをアインツベルンは唖然と見ていた。 その戦いに遠坂は呆然と見惚れていた。 でもそれは仕方が無いことだ。 何故ならこの戦いは人間程度では立ち入る資格を得られない戦い。 ヒトを超えた超人のみが参加できる、この世界最高峰の決闘───!!! 「うらぁあああああああああ!!!」 セイバーが手にした聖剣を渾身の力で振り抜いた。 ネイリングを強く握り締めその一撃をこちらも渾身の力で受け止める。 鍔競り合いの形になる二人。 ギリギリとファイターの頭に敵の刃が迫ってくる。 ───ぐっ……重い!! 「っ、く、ぬっ───ああああああああああああああああああ!!!」 腹に溜めた気合を爆発させ敵を剣ごと弾き飛ばした。 「うお!!……なっ!!?」 セイバーが驚愕の声を上げたたらを踏む。 その一瞬を見逃さずに敵へと間合いを詰め───名剣で突きかかる! 迎撃は間に合わないと悟ったセイバーは剥き出しの頭部を腕で庇う。 再び唸りを上げて襲い掛かる猟剣。 ガイィン!とネイリングはセイバーの白銀色の鎧の腹部に命中する。 だが貫通とはいかなかった。当たりが浅い。 ”直撃の瞬間咄嗟に飛び退いて当たりを殺したか……こやつ、やるな───!?” 間髪入れずに右薙ぎもお見舞いする。 「───舐めるなよ!」 セイバーが吼えた。 足元から振り上げられた剣がファイターの薙ぎ払いを防ぐ。 その後素早く後方に飛び退くとセイバーは見事に態勢を立て直した。 二人の距離が開く。 その瞬間二人の決闘者の脳裏に浮かび上がる想いは唯一つ。 ────こいつ、かなり強い───! 「いやいいな。やっぱり戦いってのはこうじゃないといけない。わざわざマスターと一緒に出向いた甲斐もあるってもん……だぜ!!」 言葉の終わりと同時に突進してくる剣士。 「どちらにせよ倒れるのは、貴様だセイバー!!」 闘士もそれに応えるように吼え猛りながら突進をかける。 力強い突進ではためく二つの外套。 二人が手にした武器が鳴らす風切り音。 その直後にドゴォ!!っという一際強い音と地面にまで伝わる振動。 桁外れの力を持つ二人のサーヴァントの激突は本当に地面が悲鳴を上げていた。 この二人の戦いは殆ど移動が無い。 ほぼその場に足を留め、手にした武器を荒々しく叩き付ける。 それはまるで、どちらがより強く、より速く、手にした剣を振るえるかの勝負でもあるようだった。 何度目かのネイリングによる打突攻撃。 しかし当然のように敵は防御してくる。 ───ファイターの持つこの名剣は突きを主体戦法に考えられた武器だ。 まるでランスのような尖った剣先で、斬るという行為をまるで考えていないような形状をしている。 しかし勘違いするなかれ。それは決して斬撃が出来ないと言う訳ではない。 勿論斬撃は出来る。 だがそれは─── シュブルルルルルルぅぅううう!! という独特の怪音を鳴らしながらセイバーの頭にファイターの剣が打ち下ろされる。 当然の如く名剣を聖剣で受け止めたセイバー。 鉄と鉄との噛み合う音がガチガチと鳴っている。 「う、この、メンドくせえ武器だな!!お前……これ、普通の剣じゃ無いだろう!?」 セイバーが鍔競り合ったまま恨めしそうな怒声を上げる。 「ふん。いやいやこれはちゃんとした、剣ではないかセイバー!」 セイバーの怒声をさらっと流しながらファイターはジワジワと剣に体重を乗せていく。 「ぐお、重っ……どこがちゃんとした……剣、だぁコノヤロウ。 ちゃんとした剣ってのはなぁこんな妙な異音は鳴らないし、こんな風に刀身回さないし、何より、抉れた様な傷跡は付かねえぞっ!!!」 ───そう、名剣ネイリングは斬ることは出来る。 しかしそれは斬るというにはあまりに禍々しい、捻り切るという方法でだ。 ネイリングの斬撃による傷はセイバーが言うように普通の切り傷にはまずならない。 大気を捻る類の剣とは違い、魔力で刀身が物理的に回っているネイリングはまるで削岩機にでもかけた様な抉れた傷跡が出来るのだ。 じりじりとネイリングの飢えた牙がセイバーの頭に迫る。 「ぬぉ……おわわ!このままじゃ……顔が無くなる!!」 「安心してくれセイバー。顔だけなんてせこい事は言わぬよ、ちゃんとその体も全部纏めて───真っ二つに吹き飛ばしてやるさ!」 「安心できるかーーーーー!!」 さらにファイターは体重と力を込める。 あともう一押しで決着が付く。 「「フッ───ハッ!!!」」 重なる気合。 止めを刺しにさらに強く踏み込むファイター。 抵抗する腕の力を抜きさり、敵の剛力に押されるように自ら地面へ背中から倒れこむセイバー。 次の瞬間───ファイターは剣に掛かっていた抵抗を突然失いバランスを崩した。 「なっ?───ガフッ!??」 直後腹を襲う衝撃。 数m後方に流れていく体。 だがダメージは全く無い。 今の攻撃は所詮はファイターを弾き飛ばすために繰り出されたただの蹴りだ。 ファイターの極限まで鍛えられた腹筋は仮にそれが大砲で打ち出された鉄球であったとしても耐え切れるだろう。 「ム!思ったよりしぶといな……それとも、貴様の機転による延命か……」 仕留め損ねた不満を隠さずにファイターが呟く。 「ふぅ、今のはちょっと危なかったぜ?」 セイバーは悠然と剣を構え直していた。 「関係ないさ。結果は同じ事なのだから」 ファイターも同じく剣を構え直す。 ───今度こそ仕留める! 二人の闘志が今度こそと燃え盛る。 蹴り足に強く強く力を込め─── 「いやそこまでだファイター。撤退するぞ」 踏み込みはマスターの言葉に遮られた。 「───!?……何故だマスター?!」 その言葉に困惑するも、決してセイバーからは目を逸らさずにマスターの真意を問う。 「言葉通りの意味だ。恐らく誰かに監視されている」 「………」 さっきの奴らがまた?と気は張ったままセイバーから目を逸らし視線で訊く。 しかし遠坂は首を横に振って否定した。 となると別のマスターか……。 流石は戦場の礼儀には厚い騎士というところかセイバーは律儀にもファイター達のこの隙を突くような真似はしなかった。 「あのセイバーは強力だ。このまま戦わせればお前の手の内を他のマスターに無償で曝す羽目になる。私としてはそれは避けたい」 「─────」 仕留め切れなかった悔いはあるがマスターの命令なら仕方あるまい。 ファイターは異議を挟まずにマスターの所まで下がる。 「逃げる気かファイター」 セイバーの不満の声がする。 「マスターの指示に従うと決めているからな。マスターが退くの言うのなら私には是非も無い」 背後のセイバーには振り返らずに断言してやる。 「そういうわけだアインツベルン。 私は直接対峙した君にならともかく誰とも知れぬ輩に自分のサーヴァントの力を見せる気は無いのでね」 遠坂はアインツベルンにそう告げると優雅に身を翻し立ち去って行く。 ファイターも一度だけセイバーを一瞥すると霊体になって主の後を追った。 ◇ ◇ 遠坂邸までの道を無言で進む。 ファイターの胸に残るのはついさっきまで行っていた戦いの余韻と仕留め切れなかったという微かな悔恨。 ……出来るのなら今夜中にあのセイバーをこの手で倒し遠坂殿に証明してやりたかった。 そう文句無しに強敵だった。 あのセイバーの正体が非常に強力な英霊であるのはもう間違いないだろう。 それに魔術や呪布などで一切隠しもせずに手にしていた、あの見事なまでの造りをした煌く剣。 神々しいまでの輝きと美しさ。 気配だけでも十分に感じ取れたあのとんでもない切れ味は恐らく『聖剣』の類だろう。 「ファイター、随分と無口だな。先程の戦闘が堪えたか?」 唐突に遠坂殿が声をかけてきた。 「いやそういう訳ではない。ただ……セイバーを仕留め切れなかったのが少し残念なだけだ」 正直に告白する。隠しても意味の無い事だ。 「──────そうか、貴公はまだ気にしていたのか」 遠坂殿はなにやら呆れたような声を上げると、おまけにやれやれなんて言ってくる。 「む、別に気にしている訳ではない」 とりあえず反論はしておく。 「そういうのを気にしていると言うのだファイター。もはや証明なんて必要あるまい?貴公は既にちゃんと証明している」 「───?いや、遠坂殿?私はセイバーを倒せなかったのだが?」 「何を言う。貴公は貴公の言葉通り決して最強のサーヴァントとされるセイバーに劣っていなかったではないか。 むしろ優勢であったくらいだ。少なくとも通常戦闘において君がセイバー以外のサーヴァントに負ける事は無いと判明したのだ。 私からすればそれがこんなに聖杯戦争の早期に判っただけでも上々の収穫だった」 そんな事を口にした遠坂殿はどこか清々しい表情をしていた。 「しかし───!」 なおも反論しようとするファイターを遠坂はやんわりと制止させる。 「別に良い。何も今夜中に証明して見せろと言うつもりないのだからな。それよりも他の連中に君の本当の力を無償で曝す方が問題だ」 ファイターにそれだけ告げると遠坂は歩みの速度を少し速めた。 この夜に得ることが出来た収穫は隣町に潜む謎の気配と間桐たちが起こした戦闘、そして先のセイバーとの戦い。 初戦は両者共に手の内を秘したままだったが、それでも全く互角の引き分け。 我々の出だしはどうやら中々に順調のようだ。 ──────Sabers Side────── 激戦の気配を周囲に漂わせたまま敵が去っていく。 「ファイターを追わないのですかセイバー?」 「ああ。オレ的には追いたいんだけどそうするとマスターをこの場に残すことになるし、 ファイターのマスターが言ってた事が本当ならまだ他に敵が居るらしいからな。今奴ら追うのはあまり旨くない気がする。 ───それにあれだけの強さを誇るような英霊だ。今夜決着を付けるつもりなら宝具戦になると思う」 やっぱ流石にそれはマズイよな?と一応マスターに確認を取っておく。 「そうですね。初戦からいきなり宝具の使用は避けるべきでしょう」 うむ、やっぱり思った通りの回答だった。 逃げられたのは残念だが無理に追わなくて良かった。 「しっかしありゃかなり手強い敵になりそうだ。 所々で手を抜いていた感はあったけどオレが知ってる限りではオリヴィエ並に強いぜアイツ?」 おまけに宝具だけじゃなく手の内も隠されていた気がするし。 む~面白くないぞ。 「オリヴィエ?───確か貴方と同等の力を持ってたといわれる親友でしたか」 「そうだ。ついでにオレの親友にして兄貴でもある漢~」 軽い口調で返答する。 実際のところあのファイターの強さは確実にオリヴィエ並かそれ以上のモノを持ってるだろうな……。 オリヴィエほどの剣技は無かったけどその代わりとばかりにパワーがあった。 ───オレと同じくチマチマした技よりも一気に力で押し潰すタイプかな。 「ではファイターが私達の最大の障害となる相手ですか?」 「う~んそうだなー。他のサーヴァントはまだ見てないけど、オレの勘では多分あいつが最強の敵になるんじゃないか?」 「…………」 「まあそう心配するなってマスター!オレだってまだ手の内も宝具も見せきってないんだぜ?今夜のところは五分だよ五分! 次に合ったらファイターなんてボコボコにしてやるからそんな顔しないでくれ。 ……と言ってもいつも通り人形みたいなあまり変化無い顔してるけどさ……」 それが不満といったら少し不満なセイバーだった。 このマスターは絶世の美女だけど人間らしさがとても少ない。 話によると彼女はホムンクルスらしいが感情が乏しいのはそのせいなのだろうか。 マスターもオードやアンジェリカみたいに笑えばきっと可愛いのに………ちぇっ。 「じゃあマスター次行こうぜ次。ファイターは逃がしたけど他にも敵がいるかもしれない」 そういうとセイバーはアインツベルンをいわゆるお姫様抱っこで抱え上げて馬車に乗せてやる。 途中無礼者と言われた気がしたがさっきの戦闘の後遺症が引き起こした空耳に違いない。 男なら今の罵倒は鉄拳ものだが女に手を上げるなど男の恥晒しも良いところ。 それに騎士たる者、婦人奉公は大切だしな。 「それじゃ行くぜ。馬の名前は知らないけど、ハイヨーシルバー!」 馬に鞭を打って戦場には似つかわしくない無駄に豪奢な馬車を走らせる。 二人を乗せた無駄に騒がしい馬車はガラガラゴロゴロパカポコパカポコと夜の町へと走り出した。 ──────Casters Side────── ──────チッ感付かれたか。 キャスターの工房の一室で瞑想していたソフィアリは目を開いた。 ソフィアリが放った使い魔にセイバーとファイターの戦闘を監視させようとしたが、どうも敵の警戒網に近づき過ぎたらしい。 あの赤いスーツを着たマスターがよっぽどの使い手なのか、それとも単に運が良いだけなのか判りかねるが……とにかく彼の監視は失敗に終わったのだ。 ───アーチャーとの戦闘を終えた後、彼らは即座にキャスターの陣地に帰ってきた。 ソフィアリが単独で戦ったマトウの実力はそんなに大したものでも無く、 悪く評価しても半人前程度の実力なんかではなかったが、かといって良く評価しても平均的な力量しかなかった。 要するに並も並。その辺によく居るような平均的な魔術師だった。 ソレに対しソフィアリは曲がりなりにも名門も名門のソフィアリ家の魔術師だ。 魔術回路面の話だけならその辺の魔術師よりは優れていると言えたし、何より彼には他の誰にも無いようなとっておきの武器がある。 持ち前の魔道の名門の血肉とキャスターから譲られた複数の魔術刻印は彼をトップクラスの魔術師にまで伸し上げることになった。 間桐の魔術属性はどうも戒めとか強制とかそういう類のものだったようだが、 その殆どが複数の魔術刻印で武装したソフィアリの防御力の前には通用せず、 苦し紛れに襲わせて来た小汚い蟲の使い魔の群れは刻印に記録されていた爆炎の魔術で即座に灰に変えてやった。 ソフィアリと間桐の魔術戦はほぼソフィアリのワンサイドゲームに終わり、もう一撃とどめの火炎を加えようとした時にあの邪魔者が割って来たのだ。 ────ギリッ!と奥歯を鳴らす。 あと少しだった。あともう少しでマスターを一人殺せたと言うのに、あのアーチャーめぇ……! 一時とはいえ完全に失った脇腹を撫で擦り、戦慄する。 ソフィアリはアーチャーに撃たれた。 間桐に止めを見舞ってやろうとした瞬間に巨大な矢が放たれた。 一射目はキャスターが咄嗟に展開した防護結界により防がれたが、続く第二射目を何とか避けようしたが腹に喰らってしまった。 その隙にアーチャーは間桐を連れて即離脱し、キャスターは自分の傷もそのままにソフィアリの治療を行ってくれたのだ。 しかし驚く事もあった。 キャスターの治療魔術だがあのサーヴァントは『世界の書』を使用した形跡が一切無かった。 という事はあれはキャスター自身が習得した魔術なのだろう。 驚いた事と言ったらまさにそれだ。 キャスターはマスターに治癒の魔術はかけなかった。 彼はソフィアリの吹き飛んだ腹の傷を『治癒』したのではなく『復元』したのだ。 ───無くなった肉体を元に戻す魔術は治療ではなく復元の域になる大魔術である───。 それを容易く行うとは余程治癒魔術に特化しているのか、あるいはとんでもなく高度な治癒魔術を習得しているのか。 …………クリスチャン・ローゼンクロイツの経歴を考えると恐らく両方である可能性が高いだろう。 そして、キャスターは腹の治療を済ませると自身の傷にも治癒を施し、退却を進言してきた。 当然、腹の虫が治まらないソフィアリはキャスターの進言を蹴った。 ……が。 「マスター。やはり本気でサーヴァントの相手をするのならこちらに有利な戦法を取るべきです。 申し訳ないですが、正直工房外でのサーヴァント戦……ボクの勝算ははっきり言って低い。 先程のアーチャーとの戦いで確認が出来ました。そう強力ではないであろうアーチャー相手にもボクは手こずりました。 もし今日の相手がセイバーやランサーの様な接近戦を主体とするようなサーヴァントだったら……間違いなくやられていたでしょう」 などと言われては流石のソフィアリも引き下がるしかなかった。 その後、聖霊の家に帰還した彼らは工房作成の続きに取り掛かるキャスターと使い魔で町の監視をするソフィアリとで役割を分担した。 ───そうして、町に放った使い魔でセイバーとファイターの戦いを僅かだけ監視したのがついさっきの話だ。 少しばかりの観察だったとはいえ、アレらがキャスターの言う 強力なサーヴァント だというのは彼にも理解できた。 キャスターとは戦闘力の次元がまるで違う……。 サーヴァントの戦闘力は単純にステータスだけで判るものではない。 マスターが見ているステータスはあくまでそのサーヴァントの能力値だけを表わしている。 どの程度の身体的性能を持つのか、どの程度の精神的性能があるのか、というのを見ているだけにすぎない。 サーヴァントの戦闘力とは、そのステータスに各自の固有・保有スキルそして戦闘技能、宝具が加わる事で初めて判るものなのだ。 故に単純にステータス値の低い高いだけではそのサーヴァントが強い弱いとは言い切れない。 ───だが、それでもあの二体はキャスターとは次元違いだった。 単純なステータスの差ではない。 もっと根本的に戦闘技能があまりに違い過ぎる。 動きなんて全く見えなかったし、理解出来なかったがそれでも本能的にあの凄さが理解出来る。 きっとあいつらは幻想種と呼ばれる怪物を相手にしたような英雄や、非常に高名な英雄なのかもしれない。 そう思える程にあの二人のサーヴァントにはキャスターには無い圧倒的な迫力があった。 どうやらキャスターの進言は正しかったようだ。 もしも今夜。あの場所で遭遇したのがアーチャーではなく、この二体の内のどちらかだったら私は、今頃────。 万が一の起こり得た死という恐怖が背中を這い回る。 まあ良いさ。少し腹立たしいがキャスターの言う通りだ。 一番大事なのは最後まで勝ち残る事だ。勝ち残れればそれで良いのだ。なら経緯を問う必要は無い。 再び送り込んだ使い魔で町の監視に専念する。 自分は野蛮な真っ向勝負の決闘を上等とする古臭い騎士などではないのだ。 そう、経緯を問う必要は一切無い。 私は魔術師だ。ならばより魔術師らしい戦いをすればいいのだから────。 ──────Riders Side────── 血だらけの騎兵は寺から撤退した。 一見まるで堪えていないように見えるがライダーのダメージは十分過ぎるほどにある。 しかし、そんな彼に傷の痛みに耐えさせているのはファラオとしての自尊心だった。 「ハァ、ハァふぅはあ……くそが」 傷の痛みを我慢し、屈辱を憤怒に変え体を動かす。 ───おのれ、これがつまらない戦争だと侮ったツケ、か! どうやらあのランサーを少し舐めていたらしい。 だがその甲斐もあってか奴の力量は大体判った。 あの不可思議な大槍の能力と広い間合い、槍兵特有の速さにさえ十分に警戒すれば勝てる相手だ。 ならば次は即行で殺しに───。 ”────否、駄目だ。” それでは甘いのではないか? そのやり方では温いのではないか。 そんな事では恐らくこの聖杯戦争では勝てない。 「勝てない……だと。ふざけるなよ……ふざけるな!!」 俺様の敗北は即ち、我が最愛の妻ネフェルタリの奪われた亡骸の永遠の喪失に他ならないのだ───! そう。絶対に負けるわけにはいかない。 「いいだろう…………この傷の褒美だ。このラメセスの本気の戦争というものを見せてやろう」 暫らくは他のサーヴァントの観察から始める。 その後、各自の力量を見極めた上で神判を下す。 敵の戦力を完璧に把握・分析し、相手の二倍の戦力を以って敵を情け容赦なく完全に叩き潰す。 エジプトにおいて最も戦争と政治に優れたと讃えられたファラオ・ラメセス二世がついにその本性を現わし始めた。 ──────V&F Side────── 助けろ!ウェイバー先生!第三回 F教授「今回は死者が出なかった……不吉だな」 Vくん「……死んでも駄目。死ななくても駄目。どうしろって言うんですか先生」 F教授「いや言ってみただけだ」 槍兵 「そしてまた拙者の出番が無かった……これは贔屓か?」 雨生 「あと俺の出番は?バーサーカーは俺がいないとどうしようもないから置いとくとしても」 Gさん「おぬしらレギュラーキャラは引っ込んでおかんか!喝ーーーーッ!!」 V「……フラット。成仏用の塩を撒いておかなかったのか?」 F「あれぇおかしいですね?先生に言われた通りにちゃんと撒きましたよ俺?」 V「さて現在の戦況だが今回で聖杯戦争の一日目終了だ。にしても早くもバーサーカーを除く六組が戦闘をしているな。 槍VS騎、弓VS魔、剣VS闘。脱落者は今の所なし。 各自戦闘結果は槍VS騎はラメセスの敗走。弓VS魔は弓優勢の痛み分け。剣VS闘は引き分け。 死傷者の総合状況はラメセス中傷、間桐重傷の後何とか回復、沙条翁死亡、トマスタァ死亡だ」 F「サーヴァントではラメセスさんが、マスターでは間桐さんが一人だけ圧倒的にボロボロですね」 V「ラメセスはたらふく蜻蛉切を喰らってたからな。まさに塵も積もれば山となるの典型だ。ラメセスと間桐が早くも危ない」 F「今の状態で他のマスターに襲われたらかなり危険ですね。どうなるんでしょうか?」 V「さあ?」 F「さあ?って先生……」 V「ネタバレは良くないだろう?」 F「なるほど」 ~設定の変更について~ V「さて、今更だがこの『FateAS』を読むに当たって一つだけ注意点があるので気を付けて欲しい」 F「まあ当然の様に気付いている人もいると思いますがこのSSは若干の設定変更があります」 V「まず宝具の扱いについて設定変更がある。ベーオウルフのネイリングやローゼンクロイツの勝利の書がそうだ」 F「ローゼンクロイツなんか思いっきり自分の宝具は世界の書一個だけって言ってましたよね。どういうことですか?」 V「本来の型月世界設定を守るための措置だ。少なくともローゼンクロイツは宝具を二つ持つような強力な英雄ではなかったのでな。 ベーオウルフでも流石に宝具三つは無理だろうと判断しネイリングと勝利の書をオミットした」 F「全然オミットしてないじゃないですか……特にネイリング」 V「だからあくまで形式上の話だ。 FateASのベーオウルフは本来なら魔剣と鉄腕しか持ってないが遠坂が外部からネイリングを与えるという形で宝具を三つ所有するという状態にした。 同様にローゼンクロイツの勝利の書も正確にはオミットではなく、使用形式が変わるだけで勝利の書の能力はちゃんと使用させる。 ま要するに中身自体はまとめサイトの内容とそこまで極端に変わってないということだ」 F「つまり言い回しが変わってるだけで出来ることは同じと言う事ですねー」 V「そういうことだ。次にステータス値についてだが、ローランとベーオウルフのステータスが若干変化している」 F「さり気なく上がってますね……」 V「ローランはセイバークラスにするに当たってセイバー基準値をベースに、ベーオウルフもステータスの増減を加えて修正した。 まあ身も蓋も無い言い方をすれば作者側の都合だ。 理屈を付けるならば本文中にあった様にマスター補正によるステ変動があったものと解釈してもらえれば助かる」 F「ホムンクルスのアインツベルンが凄いのはまあ良いんですけど、遠坂さんはそこまで凄いんですか?」 V「マスターの適性力を図で表すと凛>遠坂>時臣だと思ってくれ」 F「あの……凄いマスターは出ない筈じゃ……?」 V「本当ならそうしたかったんだがzeroで時臣の才能は歴代遠坂家当主の中では割と平均ってのがあったせいでこうなった……。 遠坂のキャラ造形がパーフェクトトッキーになった背景にはつまりそういうのも含めてだったりする」 F「ところでローランさんが敏捷Aなら忠勝さんの立つ瀬が無くないですかね?」 V「その辺については問題無い。 体力馬鹿のローランと超長距離走やった場合はローランの方が速いが短距離では軽装な分忠勝の方が全然速い。 クーフーリンとメデューサと同じ関係だな。まあつまりFateASの最速キャラはランサーだ」 F「妙な部分で拘りますよねー」 V「各クラスや各英雄の特色を別の奴で潰してしまうと面白味が削がれるからな」 V「そうして最後に宝具の和名やカナ名が思いっきり変わっている場合があるが、これは完全に作者の趣味だぁっ!!」 F「おおっと、いきなりぶっちゃけたぁぁ!?」 V「『前進する大幻槍』は本多忠勝の前進や直進と言ったキーワードを使いたかっただけだぁっ! いやまあ蜻蛉切ってどういう能力?って質問が本スレであったとき見えない槍が前に進んで喰らう感じと言う説明に感動したってのもあるのだがな。 もう一つついでに言えば一矢千殺とヘアルフデネの名前が変わっちゃったりするぞぅ!」 F「おおっと先生が開き直ったぁぁぞぉう!イヤッホゥ!」 V「まあこの辺のは先も言ったが完全に作者の趣味がモロに反映してるから見なかった事にしてスルーが正しい対処法だ!」 V「それでは諸君また次回」 F「バイバーイ!」
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/742.html
カーステレオのラジオを付けると、車内を流れるのは気だるいジャズの音色。ジャズってあまり好きじゃないんだが……そんな風に思いながら姫宮冴子はブレーキを掛けた。 赤信号だ。停車した合間に空を見上げるが、一面に墨を流したような空に星は見えない。 「嫌な空だ……」 不意に、ぶるりと寒気が走る。 ここ最近、街中を嫌な空気が流れ始めた。まるで祭りが始まる前にも似た、何かの予感を孕んだ空気でありながら、どうしようもなく嫌な予感しか浮かばない。 最近はどうも嫌な事件ばかりが続く。頻発する停電。原因不明の気温の低下。幾人もの行方不明者。 そういえば、と思い出す。二十年前にも似たような空気が流れていた気がする。 少女だったあの頃の。 そして、親友二人がいなくなったあの頃の。 「みことに、夏海か……」 いなくなった親友たちの名前を呼ぶ。あの二人がいなくなった時には、大いに泣いた。そして、少しずつ立ち直ってきた。 二人の顔は、もうおぼろげにしか思い出せない。あの二人が、二十年前の連続失踪事件に関わっていたのは何となく分かっていた。 「だってのに……」 ……だというのに、何もできなかった。励ましてやる事も、話を聞いてやる事も、できなかった。こんな事では、親友を名乗る資格がない。 それでも、祈るに値するのが、あの二人しかいない。 「ったく、…………オカルトは嫌いだ」 舌打ちする。UFOだろうがプラズマだろうが、嫌いなものは嫌いだ。だけど、今だけは。幽霊でもいいから、あの二人に会いたいと思った。 不吉な予感を抱えて空を見上げる女性から少し離れ、物語は闇の中で密やかに紡がれる。 およそ、都市というものは人が集まるものであり、人が暮らすものである。故に無数の人間の目がそこには存在しているが、そうであるからこそ、自然に無数の死角が生まれてくる。 その場所も、そのような死角の一つであった。 積層型水上都市、水佐波市の中でも、ライフラインとなるのは東西に水佐波市の中央を通り、関西の中枢を首都と結ぶ鰐橋レイライン。 高速道路と国立鉄道のラインに、いくつかの私鉄を含めた、都市の大動脈といえる場所。そこから少しばかり離れた所に、バベルの塔を思わせる円筒状の施設が存在した。 水佐波原子力発電所、建設までに少しばかり住民の反発があった施設だが、結局、そんなものはあっさり押し切って建設された。 その高い塀に囲まれた敷地の周囲は、通用門や正門から少し離れてしまえば、発電所などに用がある人間など従業員くらいのもので、通りかかる人間もほとんどおらず、結果的に、水佐波環状線のガード下などは特に薄暗く、人の視線も通らない。 そのわがかまる闇に、ぐちゃぐちゃと、肉を咀嚼するような音が響いていた。無数の歯が肉を食む音。くちゃくちゃ、ぼりぼり、と蠢く無数の口が、人体を人体未満の肉片へと解体し、まるで闇そのものが肉を自らの腹の中に収めているかのようにも見える。 その腐肉食の闇の中に、一人の少女が佇んでいた。月光のように蒼黒い長髪と、薄っぺらい虚無を宿したガラス玉の瞳。間桐真夜。 その少女に、話し掛ける者があった。 「なるほど……蟲使いってのは、随分と気色悪いものだな。おい」 寿命で点滅する街灯の下にいて、尚も鋭く輝くのは魔術師の眼光。鍛え上げられた体躯に、礼装を収めたゴルフバッグ。エーベルト・フラガ・ヌァザレ・ソフィアリ。 その眼光に返礼するかのように、闇の中からどろり、と老人の声が響く。 『おおぅ……なるほどなるほど、こうも早くに聖杯戦争のマスターと会えるとは……喜べ真夜、最初の獲物じゃぞ』 声の性質は孫を可愛がる好々爺のそれ。それが聞く者にどうしようもなく違和感を与え、しかしその声に籠る陰性の悪意だけは、どうしようもなくその場に相応しい。少女はその声にこっくりと頷くと、前方に向かってゆっくりと手を差し伸べた。 「……アーチャー」 少女の、まるで怪物が潜む洞穴のように虚ろに澄んだ声が響く。 それに応えて、ずるうり、と蠢く肉質の闇の中から、異様なヒトガタが立ち上がった。 本来なら見る者に強い意志を感じさせたはずの整った彫りの深い顔立ちと、鉄壁のように頼もしくあったはずの逞しい体躯。 毒に冒された肉体は腐敗し、腐り落ちた肉の間から剥き出しの臓器や骨が覗く。落ち窪んだ瞳には陰火のような怨念を宿し、人形のような動作で武骨で巨大な石の弓を構える。 「爺ぃ……貴様、サーヴァント相手に何をしやがった……!!」 少女を無視して、エーベルトは闇の中に響く老人の声に向かって罵声を返す。 『おお、怖い怖い。こうも弱々しい老人に向かって、そのように吠えかかるものではないわい。なに、魂喰いを拒まれたのでな、令呪で、こう、属性を反転させてみたわけよ』 呵々と笑う老爺の声に、エーベルトは思わず顔をしかめた。 「嫌な爺だ……外道が」 『ほぅ……儂等魔術師にとって、悪とは魔術の存在を愚者どもに広める慮外者であろうに……。尻の青い餓鬼がいたものだのお。真夜、喰ってしまうが良い』 同時に、少女の傍に佇んでいたアーチャーが弓を深く引き絞る。 「っ……!」 かわし切れない。油断したと後悔する間もなく、闇の中に黒いロープのような影が伸び、アーチャーの矢はその影を撃ち抜き、コンクリートの壁に受け止めた。 「マスター、一人で出歩くのは危険。最初に言ったはず」 アーチャーの放った矢を受け止めたのは、闇の中から現れた少女。足元まで届く波打つ黒髪、澄んだ海色の瞳が不満気にエーベルトを睨む。 羽織った毛皮のローブの袖口から伸びているのはベージュの鱗に色褪せた黒い縞の入った毒蛇。ベルチャーウミヘビと呼ばれるその蛇は、頭部を縫い止められてだらりと力無く垂れ下がり、矢に特殊な力でもあったのか、内側から溶かされるようにして腐り落ちる。 「済まんなキャスター。少しばかり油断していたようだ」 「次からは自重して、マスター。あれはおそらく毒矢。陸棲のいかなる蛇よりも百倍強力な毒を持つあの水蛇が、ああも簡単に溶かされた」 それも、規格外の魔獣殺し。自分にとっては最悪の相手であると、キャスターはその属性を看破する。 「宝具なら、どうせそんなもんだろうよ……キャスター」 「分かった。しかし、本当に大丈夫?」 「なあに心配はいらん。母と最弱アヴェンジャーとのコンビは最強だったと、母も言っていた。それと同じポジションだ。問題は、無い!」 エーベルトは瞬発力に秀でたボクシングのフットワークで地を蹴った。そこを狙って放たれる矢は、中途で軌道を不規則に捻じ曲げ、周囲の地面やコンクリートの壁に突き立つ。そこに這うのは無数のフジツボ、魔獣の属性を持つ使い魔だ。 「それほどの魔獣殺しの弓をこの魔獣に満ちた空間で、マトモに当てられるわけがない、だろ?」 周囲に溢れるフジツボは言わばデコイ、相手の矢が魔獣殺しの属性を持つことを逆手に取って、キャスターはあえて使い魔を捨て駒にして攻撃を防ぐ。 その矢の下をかいくぐり、現実離れした速度で地を蹴ったエーベルトの拳が、アーチャーの腹を殴り付けた。 エーベルトの脚先がボクシングの高速のタップを刻み、降り注ぐ拳はアーチャーに致命傷こそ与えられないものの、魔獣使いであるキャスターにとって他者の肉体強化は得意中の得意、その援護を以て放たれる拳は英霊たるサーヴァントすら圧倒するのはむしろ自然。 『援護に特化したサーヴァントと、高い戦闘能力を持つマスターの組み合わせはこの上なく厄介――――覚えておくべきじゃったのお……』 一見余裕に満ちた老人の声は内心で舌打ちを一つ。目の前の男の拳技は確かに老人の知る神代の魔女のマスターに劣るにせよ、目前のキャスターは援護の魔術に関してだけなら、老人の知る神代の魔女すら上回る。 だが、老人にもまた切札が無いわけではない。カードを切るにはいささか性急に過ぎる局面とはいえ、相手はキャスターのサーヴァント、時間をおけばますます強大になる危険な存在だ。 『身の程知らずに出る杭は、ここで叩いておくに越した事はないかの。真夜』 その言葉に、少女はこっくりと頷くと、その足元に落ちていた影が濃さを増した。闇よりもなお濃く黒い影がぎちぎちと音を立てながら膨張する。 その影の中に、まるで水面のように波紋が走り、その中から無数の鎖で戒められた一振りの剣が浮かび上がってくる。剣の柄に紅い呪布に包まれた左手を伸ばし、少女の手には太過ぎる柄を握った瞬間――――初めて少女の口が開いた。 「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!」 まるで歌のように奏でられる絶叫が、エーベルトとキャスターの耳を打つ。 咆哮というには細過ぎて、力も無く意志も無く、ただ狂気だけを孕んだ叫び。その絶叫に連動するかのように剣を縛る鎖が弾け飛び、強烈な神秘を孕んでいたのであろう鎖は剣が発するあまりにも禍々し過ぎる威圧に吹き飛んで、無数の散弾となって周囲に飛び散った。 「っ何の冗談だ!?」 とっさに障壁を張って鎖の散弾を防いだエーベルトは舌打ちして少女を睨む。あれは明らかにおかしい。少女を睨むエーベルトの脳裏に、無数の情報が走る。クラス:狂戦士/筋力:C/耐久:C/敏捷:C/魔力:E/幸運:D。 少女の身の丈を超える巨剣から放たれるどす黒い瘴気が少女の体を侵食し、肉食蟲を象った刺青のようになって固定する。 少女の全身を覆う装甲じみたトレンチコートはズタズタになって飛び散り、衣装が内側から弾け飛んで、代わりに少女が纏うのは花嫁衣装にも似た、華麗な毒華の如き漆黒のイブニングドレス。 その上を大地の亀裂から噴き出すマグマのように輝く赤い刻印が走って彩り、左腕を覆う聖骸布が解け、少女の白魚のような右腕とは対照的に、浅黒い肌を持った野太い男の腕が現れる。 「同時に二騎のサーヴァントを使役する――――いや、人間のサーヴァント化だと……!」 『っくく、我が間桐家の二百年における聖杯戦争の蓄積の副産物、英霊どもの置き土産よ。御陰で、見よ、儂の可愛い孫は、まさに最強の人間兵器となった』 嘲笑うように老人の声が響く。真夜の握る大剣の正体はかつての聖杯戦争で召喚された狂戦士の英霊が使用していた宝具、握った者の精神を支配し、狂戦士と化す『囁く凶刃(ティルフィング)』。 「初っ端からこれとは……最悪だ」 横一直線に振るわれた狂戦士の巨剣の下を転がるようにして攻撃を回避、間合いを詰めたエーベルトはまず真夜に向かって神速の拳を飛ばすが、真夜の足元の影が地面から剥がれるようにして盾になり、拳の一撃を受け止め、その隙に弓兵の矢が連射を開始。 デコイで狙いが甘く、同時にキャスターの魔術で強化されているからこそどうにかかわす事が出来るが、そうでなければただの魔術師に過ぎないエーベルトなど、とっくの昔のあの連射の餌食だ。 エーベルトは舌打ちしつつ、キャスターと共に狂戦士と弓兵の前から撤退する隙を窺う。だが、敵はロクな理性も残っていない目の前の二人だけでなく、闇の中、どこにいるかすら分からない老人の声の主もいるのだ。そうそう逃がしてくれるとも思えない。 思考を巡らせるエーベルトは、キャスターの隣まで後退し、狂戦士の追撃をかわす。剣を振り上げて追撃した真夜は、キャスターが召喚した大蛸の触手に殴打されて吹き飛び、空中で猫のように体を捻って姿勢を立て直して着地。 「キャスター、どっちか片方、速攻で叩いて逃げる。できるか?」 「任せてマスター」 エーベルトの提案に相棒は頷き一つ。それに頼もしさを感じて、エーベルトは再び地を蹴った。 『っくく、無駄だというに。大人しく――――ぬっ!?』 地を這うような低空姿勢で横殴りの斬撃をかわし、同時に周囲のフジツボがその口から潮混じりの蒸気を噴射、一瞬、潮臭いスチームに視界が閉ざされる。 『いかん、アーチャー、宝具の使用を――――!』 「遅ぇ」 真夜の懐まで潜り込んだエーベルトの拳が、キャスターが召喚した、内側の肉すら鉄の鱗に覆われた金属質の貝殻に覆われ、エーベルトは硬い甲殻を持つ魔獣をナックルのように握り、砲弾のような右拳を発射。 対する真夜は魔力を全開に魔術を行使。まるで咲き誇る闇色の花弁のような影の楯がエーベルトの拳を受け止め、その刹那――――。 「キャスター!」 エーベルトの合図と同時に、待機していたキャスターが足元の水溜まりに足を踏み出し、そこから広がった波紋が、巨大な波濤と化して一帯を薙ぎ払う。 『ぬぅ……!?』 老人の声が一瞬引きつり、真夜とアーチャーは防御の態勢を取り、誰もがその攻撃に目を奪われた一瞬。アスファルトの地面を砕き、エーベルトとキャスターは逃げ去っていた。 その様子を観察していた者達がいる。 闇に包まれ、灯り一つないビルの屋上に立つのは、銀の髪と紅の瞳を持つ少女たち。 身に纏うのは時代錯誤なナチスドイツの軍服、様々なメディアの「格好いい軍服」のモデルとなった代物だが、一方で現代に伝わるナチスのダークサイドは有名であり、 下手に装えばナチスに怨念を抱いている者は多く、また非難の標的にもなるため、たとえコスプレイヤーや、あるいはたまにいるネオナチにせよ、堂々と公衆の面前で装う者は少ない。 しかし、見る者が見れば、いくつかの不審な点に気付くはずだ。一つには、少女たちが人形のように美しい、しかし一様に同じ顔形をしている事。そしてもう一つ、少女たちがこの灯り一つない闇の中で、何の不自由もなく動いている事。 「目標の交戦結果を確認。アーチャー及びそのマスター、キャスター及びそのマスター、共に健在。キャスター陣営は地下水道を移動に利用している模様、本拠地の特定は不可能。ドライツェーンはゼクツェーン、ノインツェーンと合流しアーチャー陣営の監視を続行」 「了解。ツヴァンツィヒは大尉に連絡を」 ややあって、少女たちの一部が駆け出し、ビルの屋上の床面を蹴り、連なるビルの上を跳躍しながら、人間離れした動きで闇の中へと消えていく。 やがて、そこに残っている少女は一人だけになった。一人になった少女はようやく、萎縮している自分自身の存在に気がついた。袖口で冷汗を拭い、ふぅ、と溜息を洩らす。 「あれが、英霊同士の戦いか……それこそ、人間に踏み込めるものではないな。いや……」 それならば、と考える。それならば、魔剣を手にして狂戦士となった少女は一体何だったのか。あるいは、キャスターの援護があったとはいえ、拳一つを持ってそれに立ち向かった男は何だったのか。 「我々は、あの高処に至らなければならないのか……」 溜息を一つ。ツヴァンツィヒと呼ばれていた少女は、懐から通信機を取り出すと、連絡を行うべく、ダイヤルをいじり始めた。通信用の魔術もあるが、使わない。魔術師達に傍受されるわけにはいかないからだ。 「道は遠いか。だが……」 魔術師どもよりはましか。彼らの目標は、根源、などという、本人たちにもよく分かっていない代物だ。そんなわけの分からない連中でも、利用しなければならない。その事に溜息をついて、ツヴァンツィヒは通信が繋がった事を確認、報告を開始した。 一方、ビルの谷間の底でその様子を窺っている者たちも存在する。 最新の特殊機器を使用するファルデウス達にとって、魔術を使わない通信手段を盗聴するのはそれほど難しいことではない。 「まあ他の“ただの魔術師”相手ならいい方法だったのでしょうが……」 どうも、この手の、近代兵器を使うタイプの“魔術使い”達は、自分以外に同じ手段を駆使する相手がいることを想定しない傾向が強い。魔術しか使ってこない“魔術師”の相手に慣れ過ぎたが故の弊害だろう。 「相手が悪かったという事でしょうね……」 では、自分たちにとっての天敵とは何者だろう、と考えて、すぐに頭を振ってその思考を打ち消す。現在、自分は考える限りの用意をしてある。考えても深みに嵌まるだけで、どうせ意味が無い事だ。 ファルデウスは、路地の入口に視線を向ける。ちょうどそこに、人影が現れる。それは、異様な男だった。 くたびれた黒い牛革のコートを纏い、腰にはスピードローダーを並べたガンベルトを巻いた、まるで西部劇のガンマンのような姿だが、伸び放題に伸ばしてから乱暴に刈り込んだ蓬髪とろくに剃りもしない髭が、まるでホームレスのような雰囲気を醸し出す。 同時に、男自身が纏っている錆びた鋼のような気配が、男に異様なまでの凄味を与えている。 ファルデウスの横でツヴァンツィヒ達の報告を盗聴する兵員達がその姿に、不審そうな目を向けた。 「戻りましたか、ミスタ・ローウェル。いかがでしたか、久しぶりの化け物どもの戦いは?」 「相変わらずだ。……弾丸が届きそうにない所まで相変わらずだ」 ファルデウスの言葉に、ローウェルは表情一つ変えずに錆びた声で返し、そのまま石段に座り込んで、腰から外したガンベルトからよく使い込まれた得物を取り出し、分解して手入れを始める。 「一応、ニホンには銃刀法というものがあるのですから、その格好のままで出歩くのはどうかと思いますよ」 「何、俺でも一応、認識阻害の魔術くらいは使えるさ」 予想通りといえば予想通りの返事にファルデウスは溜息をつき、スーツのままでローウェルの隣に座る。 「こちらで用意させて頂いた得物は使わないのですか?」 「ソーコムに……ツェリザカか。ツェリザカの反動を除けば確かにいい得物だが……このピースメイカーは家族の形見でな」 「それは……悪い事を聞いてしまいましたね」 少しばかり後悔したファルデウスを気にした様子も無くローウェルは続けた。 「何、気にするな。ツェリザカの使い所があるかは知らんが、ソーコムはいい銃だ。そういう意味では感謝しているよ」 「それは何よりです」 ローウェルはコートのポケットから煙草を取り出し、火をつけた。ファルデウスはその臭いから、その煙草のニコチン分とメンソールが異様に強い事、そして、中に大麻が混じっている事に気付き、わずかに顔をしかめた。 この男の経歴は知っているが、おそらく、麻薬でもなければやっていられないような絶望的な戦いなのだろう。それがまるで自分の将来のような気がして、なおさら気分が悪くなった。 「何事もなく終わればいいのですが……」 「そんな事は有り得ないだろうな……」 聖杯戦争において何事もないという事、それ自体が異常だ。そんな事を考えて、ファルデウスとローウェルは、互いに顔を見合わせる事も無く溜息をついた。 ローウェルの咥えた煙草の先から漂う大麻混じりの煙が風に吹かれて消えるのが、ファルデウスにはまるで自分たちの未来のように思えてならなかった。 同じように戦いを見守っていたのは、ツヴァンツィヒやファルデウスだけではなかった。 「アーチャーとキャスターが交戦、か。しかし……どっちもタチの悪いコンビだな」 ビルの屋上の縁に腰掛け、足を中空に投げ出して、アルサランはひとりごちた。 まず、アーチャー組。サーヴァントが強力な場合、まずは脆弱なマスターから狙っていくのはアルサラン的には常道だが、アーチャーのマスターがあの様子では、とてもではないがマスター狙いなど不可能だろう。 確かに戦闘能力が全てのバーサーカーとしてはお寒い限りの能力値だが、アーチャーが敵サーヴァントを押さえている間にマスターが敵マスターをミンチにするか、また、逆も可能だ。 続いて、キャスター組。キャスターの感知能力はとてもではないが馬鹿に出来るものではない。加えて、キャスターの援護魔術を受けたあのマスターは、遠距離専門のアーチャーのクラスとはいえ、肉弾戦でサーヴァントを押していた。 加えて、召喚した魔獣による攻撃がメインのあのキャスターは、三騎士のクラスの最大のアドバンテージである対魔力が意味を為さない。 どちらにせよ、マスターとサーヴァントの組み合わせが最悪だ。どうにかしてマスターとサーヴァントの組み合わせを分断するか、さもなければ弱っているところを叩くか。さもなければ、手のつけようがない。 「こうなると、無理矢理にでも戦闘に介入するべきだったか?」 まあ、考えても意味のないことだ。それに、どうせ霊地の管理者である自分は、聖杯戦争に参加するのが当然の存在、あまり表に出ないのならば、アサシンクラスの存在を疑われて当然。 そうなると、アルサランが取るべき道は主に二つ。 一つには、直接戦闘能力が低いアサシンクラスの存在を匂わせておいて、正面から攻め込んでくる敵マスターに対して、バーサーカーの戦闘能力を得たアサシンで背後から殴り潰す。 そしてもう一つ、最初に敵マスターの首級を上げたのが自分であることを喧伝し、バーサーカーのサーヴァントを保有している事を表に出し、暗兵の存在が消えた事を疑わずに油断している敵を背後から叩くか、だ。 「……守りに入るのは趣味じゃないな」 『なら、何が趣味なのだ?』 「圧倒的な力で蹂躙する」 アルサランの背後に旋風が渦巻き、実体化したアサシンがしなやかな腕を首元に絡ませてくる。獣じみた凶悪な気配を纏ったアルサランはアサシンの艶やかな黒髪を撫で、アサシンはその手の感触にわずかに目を細めた。 「今までに出てきたのは、アサシン、バーサーカー、アーチャー、キャスター。残りはセイバー、ランサー、ライダー、か」 そして、どうせ生きているであろう先代セイバー。母が従えた先代ライダーですら仕留め切れなかった大物だ。 アルサランはアサシンの髪を撫でながら夜の街を見下ろす。先程まで、眼下ではアーチャーとキャスターが各々のマスターと共に戦いを繰り広げていた。 アルサランはそれを単独で監視し、アサシンには、アサシンに特有の気配遮断とバーサーカーから奪った妖術の機動力を生かして、周辺一帯の戦いを嗅ぎつけてくる勢力の存在を探し、報告するように命じていた。 バーサーカーの能力を得たアサシンは、この聖杯戦争の中では最高の索敵手だ。 見つかった勢力は二つ。ノイエスフィールのホムンクルス達と、そして、近代兵器で武装した、正体不明の組織。おそらくは、後者がこの聖杯戦争の戦況を崩す鍵になる。 アルサランの獣の瞳は戦場の全てを俯瞰して、まだ見えぬ新たな戦場を蹂躙すべく、軍略を展開していた。 ――――おさえて、破底魔先生! 破底魔:「さて今回も、まだ一回目ですが『おさえて、破底魔先生!』の楽しい授業時間がやって参りました。このコーナーは、バッドエンドを迎えた可哀そうな戦死者の人をダシに、楽しくイジり……ゲフンゲフン、楽しく読者からの疑問に答えていこうというコーナーです」 タダーノ:「ちょっと待てこのクソアマ、今、ダシにするとか何とか言いやがったか!?」 破底魔:「誰がクソアマですか? まったく、先生に対して口答えするなんて生徒としての心構えがなっていませんね」 タダーノ:「うるさいうるさいうるさい! せっかく出番がもらえると思って来たのに、何なんだこの展開は……首切断してホルマリン漬けにすんぞ!」 破底魔:「はあ、まったく、授業態度の悪い生徒ですね。で、首切断してホルマリン漬け……でしたっけ?」 タダーノ:「え!? ちょっ……待っ……!!」 破底魔:「問答無用です。お父様、お母様、お兄様、やっておしまいなさい」 タダーノ:「ぎゃあああああああああああああああ!!」 しばらくお待ちください。 破底魔:「切り取って粉砕した首の代わりに犬の頭を付けてみたのですが、あまりいい出来ではありませんね。ぶっちゃけキモいです」 犬只野:「ワンワン」 破底魔:「無視して授業を進めましょう。さて、前回のタダーノさんの死因ですが……弱点であるアサシンに対して無警戒過ぎた、といったところでしょうか」 犬只野:「ワンワン」 破底魔:「ただでさえステの割に消耗がキツイ茨木童子の魔力消費量を考慮に入れれば、早期決戦を考えるのは確かに悪い判断ではないのですが……迂闊過ぎます。雁夜さんを見習って地面に潜るなり何なり、対策を考えるべきでしたね」 犬只野:「キャンキャン」 破底魔:「次に、今回のアーチャー キャスターの戦闘でしたが……アーチャーサイドにかなり厳しい内容でしたね。 キャスターは後回しにすれば後で地獄を見ますから、決して悪い判断ではないのですが……アーチャーの宝具こそ使ってはいないものの、マスターがかなり物騒なアイテムを持っている事がバレましたし」 犬只野:「クゥーン」 破底魔:「犬の分際でベタベタと近寄らないでください鬱陶しい。 で、無視して話を続けてしまいますと、これはアーチャーの正体にこそ直結しないものの、肝心要のアーチャーの正体にしたところで、全身腐敗したゾンビ紛いのやたら特徴的な姿を見せてしまっているため、蟲爺の余裕に反して、実は結構まずい展開です」 犬只野:「キャインキャイン」 破底魔:「さて、次にキャスター陣営ですが……正面切っての戦闘が苦手なキャスタークラスの割に、アーチャーと狂戦士化したマスターの猛攻から、ほとんど無傷で逃げおおせてます。 実際、最悪なまでに綱渡りのような展開でしたが、結果だけ見るともはや見事としか言いようがありません。これから、キャスターは陣地に引きこもって、しばらく兵力の強化に努めるのでしょう」 犬只野:「キャイーン」 破底魔:「では、今回の授業はここまで。ライダー陣営も先代セイバー陣営も、読者にまで最悪と言われているアサシン陣営も、いろいろと暗躍しているようですし、次は新しい展開が見られるでしょうね。では、次回も『おさえて、破底魔先生!』をお楽しみに!」 犬只野:「ワンワン」