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ボイス:南 何行目 台詞 篇 イベント名 マップ情報(場所・キャラアイコン)など 001 002 003 004 005 006 007 008 009 010 011 012 013 014 015 016 017 018 019 020
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ボイス: 何行目 台詞 篇 イベント名 マップ情報(場所・キャラアイコン)など 001 無礼者!イレギュラーはおとなしく ブリタニア軍人篇 ナリタ攻防戦 002 たった一騎で状況を変えられるなら、 ブリタニア軍人篇 ナリタ攻防戦 003 屁理屈をこねるか? ブリタニア軍人篇 ナリタ攻防戦 004 副総督!? ブリタニア軍人篇 ナリタ攻防戦
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幻想の光 動画リンク コメント 幻想の光 何人目の幻想入りか 作者 イクス ひとこと 主人公 動画リンク 新作 http //blog.livedoor.jp/gensou0627/archives/51260327.html 一話 http //blog.livedoor.jp/gensou0627/archives/51065109.html コメント 名前 コメント
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■鼻白ませる(第十二話) 鼻白む= 批判を受けたり気勢をそがれたりして,気分を害する。また,興ざめする。
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前話 「ルルーシュ・ランペルージ…」 少年は、拾い上げた手帳に目を落としていた。 無二の友の名であり、少年がこの一年間、名乗り続けた名前でもある。 「アッシュフォード学園高等部三年生、生徒会副会長を務める。授業を欠席し、趣味に興じることが多々あるが、学業成績は至って優秀。友好関係は広く、現在、同じ生徒会役員であるシャーリー・フェネットと交際し…っッ!!」 ライは怒りで頭が沸騰しそうになり、乱暴に本を投げつけた。 この手帳には『ルルーシュ・ランペルージ』として生きてきた自分の日々が事細かく記載されていた。持ち主である機密情報局の男は、先ほどギアスで殺害している。手帳も死体も炎に焼かれ、焦げ付いた匂いが鼻についた。 灰色のナイトメア、『月下』を駆る卜部は、 「作戦補佐が…ゼロだったのか」 モニターに目を向けつつ、コクピットの中で一人呟いた。 銀髪の少年は魔女に歩み寄る。 彼の形相を見て、はっと気づくがもう遅い。ありったけの力を込められた左手が、少女の胸倉を掴んだ。片腕の膂力だけで、女の体は宙に浮く。苦しみと悲しみが入り混じった顔をする魔女を余所に、魔神は咆哮した。 「…これはどういうことだ!?答えろっ!C.C.!」 時は、一年前に遡る―― 幻の露と消えた、行政特区日本の設立。その式典の悲劇から始まった内乱、ブラックリベリオン。 エリア11のテロリストをまとめ、コーネリア率いるブリタニア軍と激突した黒の騎士団は、仮面の総帥、ゼロの突然の戦線離脱によって、指揮系統は乱れ、結果、敗北を喫した。 その詳細を語ろう。 「うっ…うう」 ユーフェミアに撃たれ、気付けば、式典で使われた会場の医務室のベッドに寝かされていた。時は夕暮れ。カーテンから差し込む光が小麦色に輝いている。 「目が覚めたか!?ライ!」 「…ルル、ーシュ?」 ゼロの衣装を着た黒髪の少年が、銀髪の少年の顔を覗き込んでいた。 「…どうしたんだ?その眼は」 仮面を外したルルーシュの左眼には黒革の眼帯が巻かれており、それを聞くと、途端に顔を変えた。苦虫を潰したような表情に染まっている。 「暴走したんだよ。ルルーシュのギアスがな」 答えたのは緑髪の魔女。 その事実を知るや否や、ライはある答えにたどり着く。 腹部の銃創がズキリと疼いた。 「もしかして、君は…」 「…ああ、そうだ。俺は、ユフィに、ギアスを…かけたつもりは無かった!」 胸の内を吐露するように、近くにあった台に拳を叩きつけた。 彼の手が、震えている。 「ルルーシュ…」 ライは、そっと掌を添える。 「それで、現状は…」 「特区日本は終わったよ。多くの犠牲が出た。日本人は、虐殺された。ユーフェミアは…」 「俺が、撃った…」 もう見ていられなかった。ルルーシュの苦渋に満ちた顔を。 言葉の端々から、血の惨劇がありありと伝わってくる。 『日本人を虐殺してください』 普段の彼女からは想像すらできない言の葉。一目ですぐにわかった。彼女はギアスに操られているのだと。 ライは彼女を止めようとした。 だけど、止められなかった。撃たれても、彼女を救おうとしたのに、ギアスの力に打ち勝つことはなかった。 かつての自分が、そうだったのように… 「君も…やってしまったんだね」 「俺、も…?どういうことだ?ライ」 「記憶が全て戻ったんだ…いや、全てじゃないけど、ほとんど思い出しつつある…僕はね。ルルーシュ。この時代の人間じゃない」 「な、に?」 「数百年前、ギアスを暴走させ、敵国に全国民をぶつけ、総玉砕させたブリタニア史上最悪の暴君、『狂王』ライゼル・エス・ブリタニア…それが、僕だ」 ルルーシュは大きく目を見開き、絶句した。 それは、長い年月を生きてきた魔女も例外ではなかった。 「…やはり、そうだったのか。確信は、無かったが…」 C.C.の発言に、ルルーシュは訝しげな視線を浴びせる。 「…ライの契約者も、お前なのか?C.C.」 「違う。私はっ…」 魔女の顔に動揺が浮かぶ。 意外な彼女の反応に、ライもルルーシュも目を向ける。 その時、コンコン、とドアをノックする音が三人の耳に届いた。 声で分かる。 「……ッ!」 ライは立ち上がろうとしたが、体中に激痛が巡る。ルルーシュは眼帯を外し、悪魔の刻印は銀髪の少年を捉えた。 「お前は休んでいろ。いいな」 「…ああ。了解した」 ギアス。 絶対遵守の力。 その眼を見たライは、虚ろな表情でルルーシュの言葉に従う。 「ルルーシュ…」 「こうでもしなければ、ライは戦場に出ようとする!自分の命を顧みることも無くな。こいつの性格は、お前もよく知っているだろう!」 「…ああ」 ルルーシュはおもむろに仮面を顔に当てた。ゆっくりと瞼を閉じる親友の顔を確認すると、漆黒のマントをひるがえし、C.C.は何も言わず、ゼロとなった少年の後に続く。 ドアの先に立っていたのは、予想通りの人物だ。 「ゼ、ゼロ!?それにC.C.まで…」 『あまり大きな声を出すな。カレン。ライは眠っている』 部屋を出た途端、組織の首領と鉢合わせたカレンは慌てた。変声期を通して、ゼロは紅髪の少女を諌める。 「ライの、ライの容態はっ…!?」 ゼロを前にしても、カレンは胸の内に迫る感情を隠しきれていない。 幹部の不振な態度は、下の人間に余計な不安を与えかねない、と一喝するところだが、彼女とライの関係を身近で見てきたからこそ、ルルーシュは、カレンを気遣った。 『…治療が早かったため、命に別状はなかったようだ。だが、ナイトメアを操縦できる状態ではない。絶対安静、ということだ。本作戦において、ライは外す』 カレンは黙って、その事実を受け止める。ライを出陣させる気はカレンにも微塵もない。だが、ブリタニアとの戦力差は素人の目からも見ても歴然。猫の手でも借りたいこの時に、ライの欠如は手痛い。 彼のナイトメアの操作技術と部隊の指揮能力は、どちらも甲乙つけがたいほど、優秀なのである。 紅蓮弐式を駆るカレンも、ゼロの懐刀と呼ばれるほどの実力者だが、それは戦闘面においてだけだ。 部隊の統制、指揮だけではなく、組織の運営、管理、事務においても遺憾なき実力を発揮する彼は、黒の騎士団にとって欠かすことのできない人材だ。日本貴族の血を引く遺児という肩書が、組織の表の顔となっているといっても過言ではなかった。 事実、ゼロではなく、ライに信頼を置き、黒の騎士団に入隊した人間も少なくない。四聖剣の朝比奈が良い例だ。その長である藤堂鏡志朗もライの実力、人柄に一目置いている。 カレンも、ゼロに重用されている人間とは言え、信頼性の度合いは彼の足元にも及ばない。ライの特別扱いは黒の騎士団でも有名であるし、幹部にすら話すことの無い秘密裏の作戦も、ライに相談を持ちかけている節がある。 「ライのやつ、ゼロとデキてるんじゃねえのか?」という玉城の不謹慎な発言も、ある種の信憑性を持っていた。勿論、カレンは鉄拳の制裁を加えておいたが。 今や黒の騎士団は、ゼロの組織、というより、ライとゼロ、二人の組織と言えるほど、彼の存在は大きくなっていた。 カレンは、それが悔しくもあり、同時に嬉しくもあった。 彼女は病室に足を踏み入れ、静かな寝息を立てて、横たわる少年を見た。人形のように完成された端正な顔立ち。自分の容姿には多少の自信があるカレンですら、引け目を感じてしまう。この少年は、本当に美しい。 そして、カレンは気付いてしまった。 彼に特別な感情を抱いていることに。 否。 気付かないふりをしていた、というほうが正しいのかもしれない。 「ライ…私ね。貴方のことが――――」 彼女は言葉よりも、行動で告げる。 眠れる王子に、少女はゆっくりと唇を近づけていった。 ◇ ――ライが再び目覚めた時、それは、全てが終わっていた後だった。 強い衝撃が頭を揺さぶる。 「ぐっ――!?」 冷たい床の温度が頬を通して伝わってくる。乱暴に掴まれた毛髪が、痛い。首を上げると、ライは驚愕した。 (スザク!?) 自分の頭を押えつけている男は、まごうことなき、枢木スザクだった。 体を必死に動かそうとするが、動かない。全身が拘束具に縛られていることに気づく。 そして、目先に悠然と立つ男は、 (皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア!?な、なぜだ?なぜ、ここに!?) 荘厳な風貌と衣装、体から滲み出る存在感は尋常ではない。王、という地位を体現している人間から出た言葉は、存外に柔らかいものだった。 「お目覚めになりましたか?ライゼル・エス・ブリタニア様」 丁寧な言葉遣いが、逆に肌を栗立たせる。世界の頂点に立つ男が、年端もいかない少年に敬意を払う異様さ。自身の正体を知っていたとしても、それが当然のように受け入れられる。 「初めて聞いた時は…信じられなかったよ。君が…あの、狂王だなんて…君も、カレンも…ルルーシュも……皆、嘘つきだ」 スザクが向けた表情は、ライの思考を凍り付かせるには十分な威力を誇っていた。 初めて見る、殺意と憤怒に染まった親友の横顔。柔和をたたえていた彼は、どこに行ったのか。 何か言い返そうとしたが、声が出ない。 口も何かを噛まされ、遮られている。 「陛下。自分を、帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズにお加えください」 「ゼロを殺した、その褒美を寄こせと?」 (―――――――――は?) スザクは力強く頷く。 「はい」 「…ルルーシュ。所詮は、小賢しいだけの弱者であったか」 今、何ていった? 殺した? ゼロを…殺した? スザク、が? ――――ルルーシュを!? 「気に入った。よかろう。そなたにラウンズの称号を授ける。枢木よ。その者の目を開けよ」 「イエス・ユア・マジェスティ」 実の息子の死を平然と受け止める父親を見ても、ライは驚かなかった。彼も皇位継承権で争い、実の父と実の兄二人を手にかけた男だ。 だが、親友を殺し、それを代償に地位を求める人間の存在を、ライは知らなかった。 鈍器で頭を強く殴られたかように、語られた事実を咀嚼することができない。 「今も名高き狂王様。貴方に、試練を与えましょう」 皇帝の両眼に、悪魔の刻印が浮かび上がる。 (奴も、ギアスを持っていたのかっ!?) 「シャルル・ジ・ブリタニアが偽りの記憶を刻む――」 両手を広げ、尊大に告げる王の言葉。 それは、『死』よりも過酷で、生ぬるい、空虚な悪夢の始まり。 ライは声にならない絶叫を喚いた。 (…や、やめろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!) 必死の拒絶も、ギアスの前では意味をなさない。 それは、誰よりも知っていたはずなのに…銀髪の少年は抗い続けた。 記憶が消える、最期の一瞬まで。 ◇ 「ああっ!思い出すだけでも、腹が煮えくり返るッ!」 魔女を振り払い、ライは無頼の装甲を殴った。 ガァン!と、鈍い音が響く。 「C.C.!なぜ私と契約を交わした!?目的は何だ!答えろ!」 「毒を盛って、毒は、制した、か――」 彼の行為を咎めることもなく、魔女は言った。まるで行動を予想していたかのような表情に、ライはますます苛立つ。 「なんだと!?」 「お前の絶対遵守のギアスは、本来、持っていたものか?」 「そうだっ!それがどうした!?」 「今は、何とも無いだろう?」 急速に頭が冷えた。ライは身に宿るギアスを確かめる。ギアスを持つ者にしか分からない感覚だが、理解できるのだ。 「…これしか、無かったんだ。二重契約を果たすことで、ギアスの暴走を食い止める。お前のギアスの暴走は、タチが悪すぎる」 ライのギアスは聴覚を媒体とする。 ルルーシュとは違い、相手の目を見ずとも命令を下せるメリットはあるが、暴走した際には、それは全て裏目に出る。C.C.は契約を二重に上書きすることで、ライのギアスの抑制に成功したというのだ。 俄かに信じがたい話だが、事実、身に潜む悪魔は幾分か小さくなっている。 「…私に何をしろと?」 ライは話を切り出す。 記憶を取り戻した以上、虚偽で塗り固められた安息の日々は終わる。 そして、始まる。 悲劇よりも残酷な現実の日々が。 「私たちを救ってくれ。ライ」 いきなり難解な要求をする。 「この作戦に投入した戦力が、今の黒の騎士団の総力だ。ここまで漕ぎ付けるにも、随分と苦労した。退路は、すでに無い」 「C.C.」 「…話は、後にしてくれ。頼む。私は…逃げも、隠れもしない」 目を伏せ、弱弱しい声を吐くC.C. 今の彼女を見ていると、傍若無人だった面影が薄れてしまう。 ライは暫し黙然とした。 そして、再び、口を切る。 「……情報をくれ。現状の戦力とこのバベルタワーの構図だけでも把握したい」 蒼い双眸が周囲を見回し、 「まずは――」 魔女の表情に微笑が入り混じる。 「ブリタニア軍のナイトメアを鹵獲する。話はそれからだ」 〇 バベルタワーの異変に、政庁の内部は慌ただしくなった。中華連邦の大使として招かれた要人たちも、独自のルートを使い、その情報を手に入れつつある。 会食の席で、カラレスも、中華連邦の聡明な武人も、内部情報を聞きつけたのはほぼ同時だった。 「テロリストにやすやすと侵入を許すとは…」 後に続く言葉など聞くまでもない。東洋系の男の目がすっと細くなる。 人知の及ばぬ天候の機微さえ、弁舌の道具となる場でのこの不祥事は、カラレス総督、引いてはブリタニアの威信に関わる出来事である。その隙を、相手が見逃すわけもない。傍に控えていたギルバート・G・P・ギルフォードは軍からの通達を受け、総督に席を外させる。 「面白いものだろう?人間狩りは」 会食の席での鬱憤を隠しもせず、カラレスが吐いた一言がこれだった。弱者を蹂躙する征服感に味を覚えた人間。 礼節を欠いた武人は、ただの獣である―― ギルフォードの胸に、仕える君主の教えが去来する。眼前に立つ武人は、血に飢えた獣のごとく、獰猛な眼を輝かせていた。 巧みな演技力でパイロットをコクピットから引きずりだし、ギアスで奪ったサザーランドのIFF(Identify friends or Foes)を管理室のコンピュータにリンクさせる。 多面のモニターに映し出される戦況と飛び交う通信を理解し、分析し、照合する。三次元の空間が脳内に形成され、ようやく、時間軸という一次元が加わった。バベルタワーの構造はすでに把握している。黒の騎士団の活路もすでに見出している。 後は、計画を現実にしていけばいい―― ライは通信機を手に取る。 「――――よくやったQ1。次は21階に向かえ」 サザーランドの一機が、『LOST』と示される。 「P4は階段を封鎖しろ。R5は左30度。N1、そこから50m、天井に向けて斉射」 ブリタニア側の通信は筒抜けだ。敵のKMFと武兵小隊を混乱させ、または同士討ちさせ、次々と撃破していく。淡々と命令を告げるなか、胸ポケットが震える。 ハート型のストラップの付いた携帯電話。一旦、通信機を切り、通話ボタンを押した。 「…リヴァルか?どうした?」 『どうした?じゃないぜルルーシュ!今、どこにいるんだ!?』 ルルーシュ…と、ライを呼ぶ。 込み上げる激情を無理やりにでも押えつけ、平静を取り繕って言葉を紡いだ。 「軍人さんに保護してもらったんだ。戻るには少し時間がかかるかもしれない」 『…はぁー。よかった。心配したぜ。最初見たときは心臓が止まるかと思ったよ』 安堵した声が、携帯越しに伝わる。 ライは小さく笑うと、 「バベルタワーはそこから見えるか?ここから何も見えないんだが…」 『ああ。道路は通行止め。上からは、煙が出てて、あっ!ナイトメアもたくさん来てる!報道陣も詰めかけてるぞ!』 生で見ている人間の情報には価値がある 何処の放送局も規制がかけられたようで、中継の映像無しのアナウンサーと解説者の他愛無い話しか映っていない。建設的な改革は延々と先送りにされる事に対し、醜聞な雑事については、異常なほど対応が速いのが世の中の常だ。 「…ナナリーには、このことを黙っておいてくれないか?余計な心配はかけたくないんだ」 『シャーリーも、だろ!?妹想いなのは、前から知ってるけど、恋人ほったらかすのもいい大概にしろよ!』 「……すまない」 『早く戻ってこいよ。ルルーシュ。これ、貸しだからな』 「ああ。わかっ…」 背中から伝わる衝撃に、携帯を落としてしまった。ぎゅっと締めつけられる白い両手が、ライを包み込む。 声を聴かなくても、誰だがすぐに分かった。 「…カレン」 ライは振り返り、今度は正面から抱きしめた。 「会い、たかった…」 「それは、僕のセリフだ」 声も、肩も、震えている。 ライは腕に力を込めた。 それに応えるようにカレンも少年の背中に手を回す。 「この一年、本当に、辛かった」 「…ああ」 「ずっと、貴方に、会いたい、と、思って…」 「…ああ」 「だから、今日まで、頑張って、これた…」 ライはくしゃりと髪を撫でた。 整髪料でセットしているが、触るとわかる。一年前より、艶がない。 「カレン、少し、痩せた?」 「…うん」 「よく、頑張ったね」 「…うん」 ライは、彼女の名前を呼んだ。 吐息がかかるほどの近さで見つめ合う二人。大きな瞳から零れ落ちる涙をそっと指で拭った。 「ライ。聞いて」 カレンの真剣な眼差しが、心を捉えて離さない。 「私、貴方が好き」 「…っ!僕も、カレンのことが好きだ!でも…」 言いごもるライ。 「シャーリー…でしょう?」 潤った瞳を向けられ、ライは、力なく頷いた。 「僕は…記憶がない僕は、ルルーシュとしての僕は、シャーリーを…」 愛した。 抱いた。 それも、何度も。 「でも今は…ライの口から、好きって聞けただけで、十分よ」 嘘だ、とライは勘づいていた。 カレンは無理をしている。本当は、複雑な想いが巡って、どうしていいか分からないだけだ。自分が愛してやまない男が、偽りの記憶が植え付けられていたとはいえ、他の女を深く愛していた。 さらに悪いことに、相手は、彼女の数少ない友人でもあるのだから。 この1年間、カレンはどんな気持ちで観察していたのだろう。そう考えるだけで、心が潰れそうになる。 「おかえり。ライ」 許されるなんて、思っていない。 でも、彼女は受け入れてくれた。 ならば、答えるしかないだろう。彼女の全てを受け止めて、それ以上の愛を、彼女に捧げよう。 「…ただいま。カレン」 ライは返事する。 二人は、どちらともなく、自然に口付けた。 ◇ 「エリア11の餌に誰かが食いついたようだな」 「C.C.ですか?」 「まだわからぬよ。枢木、ここにいれるのは、ラウンズでもお前が初めて。シュナイゼルたちも知らぬ場所よ」 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと共に歩む騎士は、ナイトオブラウンズの一剣。 「光栄です、陛下。しかし、どうして自分を?」 「ラウンズの中でお前だけが知っている。ゼロの正体とギアス、そして―――――狂王、ライのことをな」 深い霧の奥に広がっていたのは、黄昏に浮かぶ神殿を思わせる世界だった。 「……ここは……神殿?」 「違うな。これはそう、神を滅ぼすための武器」 「武器?」 「アーカーシャの剣という」 ◇ C.C.からの通信が入る。 ブリタニア側に援軍が登場したことが告げられた。 「…どうやら援軍が到着したようだね」 「上からも来てる。これじゃあ……」 カレンはモニターに映る敵の数に呆然とした様子で呟く。 「そうだな」 ライは着ていた学生服の上着をカレンの背にかけると、焦った様子もなくモニターを眺める。 「なんで?なんでそんなに落ち着いていられるの?ライ!」 「カラレス総督が出てきた。脱出は難しいよ。だから―――――」 口元を歪め、笑いながらライはデスクに広げられていたクイーンを進める。 「私の勝ちだ」 上層から、下層からバベルタワーを制圧していくブリタニア軍。黒の騎士団に残された活路は一つに絞り込まれる。 だが、そこには間違いなく、カラレス総督の本隊が陣取っている。追い立てられて出てきたところを叩く、至ってシンプルな戦略。 「敵は勝利を確信している。あとはそちらのフロアだが…」 ライがギアスをかけて強奪したブリタニア軍のサザーランドに乗り込むのを確認すると、カレンは紅蓮弐式のコックピットに身を潜める。 『C.C.』 『もうすぐだ』 『わかった。ならば、今の配置で守りきれってくれ』 『ディートハルトの仕込みは?』 『…僕も知ってるよ。システムは生きていた。すべては作戦に基づいている』 ライはコックピット内で呟く。 「このまま、何事もなく終わればいいんだが……」 完全などものない。 どれほど綿密に組まれた作戦であろうとも、綻びはある。そんなライの思考をカレンが遮った。 『大丈夫よ』 「え?」 『私がいるから』 力強い声だった。何の根拠も理屈もないのに、胸にすっと落ちる。 これは願いではなく誓い。 どんな状況になろうとも、彼を守るという誓い。 「…それも、そうだな」 そして、数分も経たないうちに、C.C.から完了との伝達が入る。 ライは団員達全員に配置を通達し、起爆スイッチを押した。 バベルタワー内に設置された爆薬が次々と起動していく。崩れ落ちていくバベルタワー内で、瓦礫に飲まれ敵のナイトメアの姿は次々と見えなくなった。上層部から、飛行船を巻き込んで崩壊していく。 『そうか。これで上にいる敵は地面に叩きつけられて…』 「それだけじゃないよ」 『え?』 バベルタワーは真っ二つに折れてゆっくりと崩れ、それに伴い、大量の瓦礫が零れ落ちていく。その先には、ブリタニア軍を指揮する中枢が、首をそろえて待機していた。 命が、機械の騎士が圧殺されていく。 「さようなら。カラレス総督……く、くくくっ、くははははははははっ!!」 バベルタワーが激震する。 『すげえ…これが…学生が考える作戦かよ…』 卜部は身に起こる出来事に、畏怖を超える感情を覚えていた。 ナイトメアの操作技術も、常人を逸した身体能力も、戦局を見極める知力も、謀略も、一人の青年が持つ能力ではない。 (これが王の器、というやつなのか…) 武士や騎士は、どこまででも、一つの駒にしかすぎない。だが、彼は違う。肌で理解してしまう。人の上に立つ者は、このような人物なのだ、と。卜部は自分自身も気づくことなく、不敵な微笑をこぼしていた。 ◇ 『私は、ゼロ!日本人よ、私は帰ってきた。聞け、ブリタニアよ。刮目せよ、力を持つすべての者たちよ!』 ありとあらゆる放送が乗っ取られ、ゼロの映像がエリア11に流れる。 いや、それは日本に留まらず、大国のブリタニアや中華連邦にもゼロの復活を声高に告げていく。 『私は悲しい。戦争と差別。振りかざされる強者の悪意。間違ったまま垂れ流される悲劇と喜劇――――世界は、何一つ変わっていない 彼が真に悲しみ、怒りを抱いているのか、それを知る術は放送を見ている者には存在しない。 存在しているのはただ一つ―――――死んだはずのゼロが再び舞い戻ってきた、それだけだ。 『だから、私は復活せねばならなかった。強き者が弱き者を虐げ続ける限り、私は抗い続ける。まずは、愚かなるカラレス総督にたった今、天誅を下した』 「おやおや、いきなりやってくれるね、イレヴンの王様は。なあ、スザク」 ナイトオブラウンズの面々が集まり、全員が等しく視線を向ける先にあるのはゼロの姿だ。最後に見た姿と同じく、漆黒のマントに、漆黒の仮面。 世界が変わっていないと言った彼の言葉をそのまま使うならば、彼もまた何一つ変わっていない。ジノの声に返事を返すことなく、スザクはゼロを見つめた。ぎりっ、と両手を強く握り締め、画面越しにゼロを睨み続ける。 「なあ、死んだんだろ? ゼロは」 「……ああ」 肩を組んで問いかけてきたジノに、スザクは画面から視線が外れない。 「じゃあ、偽者か? どちらにしても、総領事館に突入すれば…」 「重大なルール違反だ。国際問題になるぞ」 笑いながら言うジノに、スザクはあくまで冷静に言葉を返す。 けれど、本心を言えば今すぐにでもランスロットで中華連邦の総領事館に突入したかった。 そして、あの仮面の下にいるのが誰なのか、この目で確かめたかった。 だが、それはできない。以前の自分だったら、きっと己の感情のまま突っ走っていたのだろうが、今のスザクにはそれはできない。良くも悪くも、ナイトオブラウンズ、ナイトオブセブンの地位が、スザクを押し留める。 「ゼロを名乗っている以上、皇族殺しだ。EUとの戦いも大事だけどさ」 「どっちも蟻地獄……」 手に持った携帯電話に目を落とし、ぽつりとアーニャが呟いた。どの道を選んでも、どの道を進んでも蟻地獄だと言うのならば、スザクが選ぶ道はただ一つ。 世界は変わってゆく。 運命は動き出す。 一人の王によって――― 次話 龍を食べてみたい人 45 *
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前話→ 行政特区日本式典で起こった虐殺事件。 これを契機に勃発した黒の騎士団の反逆――《ブラックリベリオン》は、トウキョウ租界から遠く離れた神根島で、終止符は打たれることになる。 「スザクうゥッッ!!」 「ルルーシュゥゥツ!!」 親友だった二人は、互いに憎悪し、拳銃を向け合い、引き金に力を込めた。 ルルーシュが撃った弾丸は、スザクのインカムをかすめる。 だが、スザクの撃った弾丸は、ルルーシュの頬を抉り、後頭部を突き抜けた。被弾した体は上半身をのけ反らせ、そのまま、仰向けに崩れ落ちる。かたい音を立てて、ゼロの手からコイルガンが転がり落ち、マントを羽織った体は地面を無様に這った。 ルルーシュの手足は震えていた。立ち上がる気配はない。 スザクは知っている。 今の痙攣は、死に直面した動物の動きだ。 父親を刺殺した日から―― 日本がブリタニアに敗戦した日から―― 軍人になった日から―― 人間の死は何度も見てきた。 だからこそ、解る。 ルルーシュはもう、助からない。 「…ユフィは、最後の、最後まで…ゼロの正体を、口に、しなかった」 ユーフェミアが起こした日本人虐殺は、インターネットを通じ、世界中に知れ渡っている。ブリタニア政府が情報統制しようとも、人の口に戸は立てられない。 「ユフィが、何をした?」 スザクは眉間に皺を寄せ、顔面の皮膚が引き攣り、心も体も、悲しみと憎しみに支配されていた。 「お前は今まで、何をしてきた?」 スザクの翠緑の瞳がぎょろりと動き、足元を映す。 ルルーシュの麗しい容姿には、黒ずんだ銃創が空いている。 「正義を驕り、皆を騙して、戦場に駆り立て、多くの人間を犠牲にしただけだろう!」 スザクはありったけの殺意を込めて、ルルーシュに銃口を向けた。 「ユフィは、お前を信じていたのにッ!」 彼女は、ブリタニアと日本の架け橋と成り得る存在だった。彼女は武器を持って互いに傷つけあうよりも、話し合うことで互いを理解し、武器を持たない戦場で、独立を勝ち取る方法を提示した。 そんな心優しいお姫様の名前は、未来永劫語り継がれることになる。 虐殺皇女ユーフェミア――、と。 「ギアスでユフィの意思を捻じ曲げて、日本人を虐殺させてッ!なぜ、なぜユフィを殺したんだよおォォおお!!」 ドンドンドンッ――! スザクは無我夢中で引き金を引き続けた。 コイルガンから排出された空薬莢が地面に飛び散り、ルルーシュの体は、銃弾を浴びるたび、何度も跳ねる。弾倉が空になっても、スザクは、カチカチ、とトリガーを引いた。 声にならない絶叫を喉から吐き、くぐもった息をこぼす。 殺したいほど、憎かった。 だから、殺した。 「……う、うううううぅッ…」 気づけば、温かいなにかが頬を濡らしている。 両目からは、ぼろぼろと涙が溢れていた。 物言わなくなった親友の傍で、スザクは両膝から力が抜け、地面に座り込む。 「ぐふっ、うぐっ、あ、あぐぅ…」 喉から込み上げてくる嗚咽が、暗闇が広がる洞窟に響いていた。 「気は済んだかい?枢木スザク」 光に目が眩んだスザクは、第三者の声を耳にして、はっと振り返る。 「……V.V.?」 神根島は断崖絶壁の孤島。 交通手段が存在しない場所に、どうやって辿りついたのか。 一瞬でそこに現れたかのように、V.V.を含む黒装束を纏った集団がスザクの眼前に佇んでいる。 「っ!?」 違う。 V.V.が現れたのではない。 スザク自身がいた場所が、転移していた。 見渡せば、未知の空間に自分がいる。 「意外に呆気なかったなぁ、ルルーシュは。マリアンヌの子供のくせに」 V.V.は、瞳から光彩を失ったルルーシュを、足のつま先で小突く。 男の肩に担がれていた青年が、大理石の床に置かれる。 銀髪が揺れ、見知った少年の顔があった。 「………………ラ、イ?」 上半身は裸であり、ユフィに撃たれた脇腹に包帯が巻かれていた。 「彼、暴れると危ないから、拘束服できつく縛っておいて。口を塞ぐのが先だよ」 V.V.は抑揚のない声で云い、黒服の男たちは命令に従う。 「何故、彼を…?」 「あれ?話していなかったっけ?」 とぼけたような顔で、V.V.はスザクを見た。 スザクは、V.V.が外見から判断できるような、年相応の貴族の少年とは思っていない。 小さな体躯から滲み出る異様な気配に、スザクの第六感はけたたましい警鐘を鳴らしている。 「ライはね、僕やシャルルの憧れなんだ」 シャルル―― ブリタニア皇帝の名前を呼び捨てにするV.V.にスザクは面食らった。 しかし、彼の何気なく云った言葉も、スザクの思考を揺さぶるには十分な威力を持っていた。 ライは、アッシュフォード家に保護された記憶喪失の人間である。 皇帝やV.V.に興味を持たれるどころか、認識すらされない人物のはず―― 「リカルド・ヴァン・ブリタニアなんて、古い血筋を持つというだけ祭り上げられた人間さ。 でもね、彼は違う。 実名共に、ブリタニアの最高の王だった」 ライが、ブリタニアの王? ライ………ブリタニア。 スザクは、ライとブリタニアの単語を脳内で発音し、イントネーションにひっかかりを覚える。 そして、ある名前が頭を過ぎり、絶句した。 「ま、ま…まさか」 神聖ブリタニア帝国建国に際し、ブリタニア史の初期に語られる王。 実史が幾多の逸話や伝説で語り伝えられ、実在したことすら歴史家たちに疑われる幻の人物。 二〇に満たない年齢で王位についた彼は、先進的な改革を断行し、民を蛮族の侵入や飢餓から救ったと思いきや、一年後には国民を総動員させ、敵国に玉砕させた。 この大事件が、ブリタニア覇権の火ぶたを切ることとなり、帝国内では英雄と称えられるも、敵国からは稀代の暴君、《狂王》とも怖れられた若き王。 「うん、そうだよ。彼はライゼル・エス・ブリタニア。僕たちの遠いご先祖様なんだ」 「そ、そんな…だって、狂王は数百年前の人間で…!」 ギアス―― 言葉だけで、どんな命令でも人を従わせることができる力。 そんな得体の知れないモノが存在するのならば… 「実はね、ライもギアスも持っているんだ。ルルーシュと同じ、絶対遵守の力を」 スザクの思考は停止した。 「…ライが、ギアス、を?」 ルルーシュだけではなく、ライも、ギアスを持っていた。 その事実が、スザクをどん底にたたき落とした。 ライの人物像が、音を立てて崩れていく。 彼の笑顔も、彼の優しさも、全てが――嘘。 「………そうか」 恋人の死。 一人の友の殺害。 もう一人の友の嘘。 大切なものをすべて失い、満身創痍になったスザクの心身に、妙な力が宿り始める。 気付けば、涙は、とっくに枯れ果てていた。 氷河のように冷えきっていた心に、凄まじい感情が突如出現し、その氷をじわじわと溶かしていく。 だが、それはかつてのように、己を律してきた正義感や情熱ではない。 全身を昂ぶらせている正体は、全身が煮えるような黒い炎。 「ライ、ルルーシュ…」 これが罰だというのなら、その罰を受け入れよう。 しかし、いくら強靭な精神を持つ人間でも、度重なる悲劇に打ちひしがれ、必ず立ち直れるとは限らない。 心は、曲がることも、折れることもあれば――壊れることもある。 「お前たちは、俺を…ずっと騙していたんだな」 無言で立ち上がったスザクは、床に倒れているライに近寄ると、乱暴な手つきで、彼の銀髪を掴んだ。 ◇ スザクは友を殺し、もう一人の友を皇帝に売り払った対価に、ナイトオブラウンズの地位を手に入れた。ぽっかりと空いた心の虚空がさらに広がるだけで、後悔は微塵も無かった。 その隙間を埋めるために、人に後ろゆびを指されれば、さされるほど、任務に没頭していく。ナイトオブセブンの肩書と、積み上げてきた成果が、反対派を封じ込め、仲間を呼び寄せ、ブリタニアの中で、確固たる地位を築き上げていった。 C.C.の登場と、ゼロの復活。 もし、ライのギアスが解け、ゼロを名乗っているのだとしたら―― スザクは、この場でライを殺すことになる。 (―――これは、最終テストだ) 『もしもし?聞こえているんだろう?ルルーシュ君』 ライは後ろを振り向いたまま、言葉を発せない。 『もしかしてスザクから聞いていなかったかい?それは驚かせてすまなかったね』 「…る、ルルーシュ殿下とお話しできるなんて、光栄です」 『そんなに畏まることは無いよ。ルルーシュ君。それと、私は殿下じゃないよ。とっくの昔に皇位継承権を失っているからね。ふふっ、それにしても、変な気分だな。自分の名前で相手を呼びかけるなんて』 携帯電話から聞こえてくる声は、間違いなくライの知るルルーシュ・ランペルージだった。棄てられた皇子であり、ブリタニアに挑んだ《ゼロ》でもあった男。 そんな彼が、呑気な口調でライに語りかけてくる。 『君、チェスがとてつもなく強いんだって?スザクから聞いたよ。私がエリア11の総督として赴任した際には、一局どうかな?本国でも相手になる人がシュナイゼル兄様ぐらいしかいなくてね』 「…私も、相手になる者がいなくて、少々寂しい思いをしていたので…」 『ははっ!それは楽しみだ。総督って言っても、私はただのお飾りだからね。暇な時間はあるのさ。じゃあ、エリア11で会おう。ルルーシュ君』 プツリ、と電話が切れた直後、 「…スザクッ!」 ライが狼狽した声を出した。 スザクは身構える。 ライのギアスは聴覚に訴えるギアスだと聞いている。ならば、ギアスを発動させる前に、体を押えつけて口を封じ、喉元を斬り裂いてしまえばいい。 「びっくりしたよ。心臓が止まるかと思った!ルルーシュ様って、あの閃光のマリアンヌ様の息子だろう?」 「…え?」 「俺の腕を買いかぶりすぎだよ、スザク。俺が惨敗して、ルルーシュ様の機嫌を損ねでもしたら、どうすればいいんだい?」 ライもルルーシュと同じほど、頭の回転が速い。 少々の罠ではひっかからないどころか、たちまち、それを逆手に取られ、不利な状況を作られるかもしれない。だからこそ下手なカマはかけず、タイミングを見計らい、最大級の罠をしかけた。 死んでいるルルーシュが生きている。 ライの動揺を誘うために、これ以上の仕掛けは無いだろう。 スザクは袖に忍ばせている軍用ナイフをいつでも取り出せるようにしていたが、ライの表情を観察していて、毒気が抜かれる。 どう見ても、記憶を取り戻したような素振りではない。 「あ、ああ…その時は、僕がナイトオブセブンとして責任を取るよ。ルルーシュ様のチェスの腕を見ていたら、ライと互角なんじゃないかなって思ったんだ」 「ウソをつけ、スザクはチェス弱いじゃないか」 「まあ、得意ではないけど、棋士の力量はある程度はわかるつもりだよ」 ライは襟首のボタンを外し、右手で仰ぐ。 「…ふぅ、こんなに冷や汗かいたの、いつ以来だろう?」 「ごめん、ルルーシュ。驚かせるようなことしちゃって」 スザクはライに対し、頭を下げた。 「おいおい!簡単に頭を下げるなよ、スザク。今は立派な貴族様だろう?下手なことはするもんじゃないさ。ちゃんと貴族らしく、堂々と構えておけよ。ルルーシュ様との一局は、俺がちゃんと引き受けたからさ」 驚いた様子を見せるライに、スザクは柔和な笑顔で返す。 「僕は、友達としてルルーシュに謝っただけさ」 「…そっか、俺としてもスザクが友達であるのは、鼻が高いよ」 そういって、ライはスザクに手を差し伸べた。二人は手を握り、とりとめのないやりとりを交わすと、校舎の屋上を後にした。 スザクは、ライの拳から血がしたたり落ちていたことには気付かずに―― ◇ 太平洋に面した沿岸部のカリフォルニア大陸には森林、砂漠、山脈があり、環太平洋造山地帯、環太平洋火山帯の一部に含まれ、東西南北、起伏に富んだ環境を持っている。 カリフォルニアセントバレーと呼ばれる世界最大級の農業地帯が存在し、州都であるサクラメントはブリタニア一の人口数を誇る。 18世紀後半、先住民族が暮らすこの土地は、スペイン帝国の植民地となり、19世紀前半にはメキシコ統治による第一メキシコ帝国の発足し、後に共和国へと変わるが、ブリタニアとの戦争によって、領土を割譲され、現在では神聖ブリタニア帝国の属州となった。 年間を通して、温暖な気候に恵まれたサンディエゴにあるカリフォルニア基地では、ログレス級の大型浮遊航空艦を筆頭に、カールレオン級、中型級のアヴァロンが停泊し、基地全体が物々しい空気に包まれていた。 「侮ってはなりません。ゼロは、敵ながら、策謀に長けた人物です。何か仕掛けてくる可能性が非常に高い」 「弱気だな。それでも帝国の先槍と呼ばれた男か」 出発時刻が目前に迫るなか、この大艦隊を指揮するアプソン将軍に忠告する人物は、エリア11から訪れたギルフォードであった。 「ルルーシュ総督には私が付いている。貴公の出番など無い」 「しかしゼロは…」 先ほどから同じようなやりとりが続いていた。アプソン将軍はギルフォードの言葉を頑として受け入れない。 「まあ、あれほどの無様な敗北を喫すれば、ゼロが恐ろしくなるのも必然か…」 と、侮蔑を込めた視線を送る。 その途端、ギルフォードは表情を硬化させ、後ろに控えていたデヴィット・ダールトンが露骨に反応した。 中華連邦総領事館での一件は、誰もが知っている事件だ。 一対一の決闘で、帝国の先槍と呼ばれるギルフォードが、ゼロに打ち負かされた。 ギルフォードの実力を知る者は、ゼロの卑劣な策略にかかったと考え、名前だけを知る者は、彼の実力に大きな疑問を抱いた。 単なる軍の失態ではなく、ナイトメアのパイロットたちには大きな衝撃を与えていた。 「ゼロは既に死んでいる。奴はその名を騙っているだけだ。偽物におびえるなど、コーネリア皇女殿下に申し訳ないとは思わんのか!」 口を濁すギルフォードに追い打ちをかけるように、アプソン将軍はたたみかける。 名家の貴族に生まれ、軍人のエリートコースを歩んできたにも関わらず、功績らしい功績を上げず、軍務の晩年を迎えつつあった、最初で最後の任務である。 アプソン将軍の異様な意気込みは、ブリタニア皇族に対する過度の忠誠も相まってか、貴族としての品格を欠いていた。 「申し訳ない~」 張りつめた空気を打ち破ったのは、貴族の中で最も異端と呼ばれる人物の登場によるものだった。 「ロイド伯爵…」 アプソン将軍の一族にひけをとらない名家の長でありながら、作業服で会合に出席するロイド・アスプルントは、奇妙な足取りで、ギルフォードに報告する。 「ランスロットのユニット調整に手間取ってね♪遅刻しちゃいましたぁ」 「お久しぶりです。ロイド博士」 「いやぁ、皇帝ちゃんの直属になったからぁ」 「不敬であろう!皇帝陛下に対して!」 アプソン将軍はロイドを一喝するが、彼もまた同様、人の話を聞く耳を持っていない。 「相変わらずですねぇ…」ギルフォードは苦笑するが、眼鏡の奥で鋭い眼光をかたどると、彼の問いを読み取ったロイドは、後ろに控えているセシル・クルーミーに視線を流す。 「ジュナイゼル殿下のラインから確保しました」 「…感謝します」 アプソン将軍は、事前にギルフォードが手を打っておいたことに勘付き、表情が歪んだ。 アプソンも彼なりに用心に用心を重ねたうえで、カールレオン級浮遊航空艦を四機も配備したのだ。これ以上軍備を増強し、黒の騎士団が現れなければ、アプソンは《臆病者》呼ばわりされることになる。 貴族にとって名誉を汚すことは、死よりも耐え難い屈辱。アプソンは不服の感情を取り繕いもせず、部下とともに顔をしかめていた。 ◇ 足が、ふらつく。 頭部を強打されたように、思考がうまく機能しない。 スザクからもたらされた情報に、ライは眩暈すら覚えた。 ――生きていた? ――ルルーシュが? 咄嗟にスザクから顔を隠していなければ、確実にボロを出していた。不安定な足取りで、ライは学生寮の寝室に向かう。数分もかからずに到着する廊下の道のりが、やけに長いものに感じた。 扉を開けると、 「…ルル!」 恋人のシャーリー・フェネットの姿があった。部屋の電気はつけておらず、窓から差し込む月明かりが、シルクのカクテルドレスを煌びやかに照らしている。 「もー!ダンスパーティ、終わっちゃったじゃない!一緒に踊ろうって前からメールで何度も送ってたでしょ!」 確か、ポケットの中で、何度も携帯電話のバイブレーションが鳴っていたことは覚えている。 「皆が躍っている間、ずぅーっと、一人ぼっちで…ドレスだって無理言って、ミレイさんから貸しもらったのに」 声色から分かる。 シャーリーはかなりご立腹だ。 パーティで待ちぼうけをくらうのは、自慢の彼氏のいる身としては、悪夢だろう。妙な噂が女子の間で立ってしまう恐れもある。 シャーリーは、少しヒステリック気味に辛辣な言葉を並べ立てるが、ルルーシュ――ライが、一言も云い返さないことに疑問を持つ。口を閉じると、大きな足股でライに近づいた。 「…ちょっと?聞いてるのっ!?ル―…」 俯いていたライは、突然、強引にシャーリーの体を抱き寄せると、そのまま唇を奪った。 カチッ、と二人の前歯が当たるが、ライは、シャーリーの口を無理矢理こじ開けると、温かい舌をねじ込んだ。右手で彼女の頭を固定し、左手を腰に回す。 「――ん、はぁっ…んっ!」 呼吸することも忘れ、ライはシャーリーの唇を貪った。蚕の繭で作られた質感が良く、シャーリーの体を服の上から執拗に愛撫する。シーツが整えられたベッドに二人は倒れこむと、体の絡み合いはさらに激しくなった。 シャーリーの耳元には、真珠のイヤリングがある。彼女の18歳の誕生日に、ライが送った装飾品だ。『天使の涙』と呼ばれるバロック型の真珠であり、希少性が高く、学生では到底、手の届かない代物であった。 彼女が身につけている衣服、靴、装飾品や髪型、アイメイク、マニキュア、ペディキュア、香水――など、全てをチェックし、変わったものがあれば、逐一コメントする。 だが、今のライにはそんな余裕はなかった。 凍てついた心を温めるために、生々しい人間の肌のぬくもりを欲していた。 ライは接吻を止めると、シャツのボタンを外し、制服のジャケットを乱暴に放り投げると、再びシャーリーの体に覆いかぶさった。彼女のドレスは次第に乱れ、指に引っかかったショーツを、一息に剥いだ。 「―――いやッ!」 両手でドン、と胸板を押され、シャーリーに拒絶される。 どんなに迫っても、ライの行為を拒むことの無かった恋人が、初めて拒否した。 「シャーリー…」 「…近づかないでっ!」 まくらを投げつけられた。 すると、シャーリーのすすり泣く声が聞こえはじめる。 両手で顔を拭い、美容院でセットされたはずの茜色の髪は散乱し、口紅は頬まで引き伸ばされている。 「…………僕は、誰だ?」 「……え?」 「君は、ライという男を…知っているかい?」 二人の間に沈黙が流れる。 ライは瞳孔が開き、暗闇に眼が徐々に慣れてくる。 「……ルルーシュ。携帯をかして」 無意識にパンツのポケットをまさぐった。シャーリーを押し倒した時に飛んだものだと思い、ハイヒールが転がっている床に目を移動させる。シャーリーとお揃いのストラップをつけた携帯電話を発見し、手を伸ばそうとして―― 本能が刺激される。 「ぅわッ!?」 ライが身を翻した途端、ガシャン!と耳の傍で、花瓶が割れた。 シャーリーがライの頭部を狙って、花瓶を叩きつけたのだ。水飛沫がライの二の腕を濡らし、活け花が散らばった。 今の攻撃は、殺すつもりでやったとしか思えない。 ライはシャーリーの顔を凝視して、言葉を失う。 瞳が赤く縁どられている。 「…シャーリー!?」 そういえば…「携帯をかして」と言ったシャーリーの声色に違和感があった。交際を始めて、ルルーシュのことを「ルル」としか呼ばなくなっていたのに。 ベッドに上に立ち上がったシャーリーは、 「ライゼルの記憶の帰化を確認、しかし、ライゼルの殺害には失敗。よって…」 無表情に言葉を吐いた。 そして、おもむろに花瓶の破片をとると、鋭利になった部分を首筋に当てた。 このままでは、シャーリーは死んでしまう。 まるで誰かに操られているような彼女の言動に、ライは、はたと気づいた。 (…まさかっ!) 「ライが命じるッ!」 左眼に不死鳥のような印が現れる。 「私が喋ったことを、全て忘れろ!」 聴覚を媒体とするライのギアスは、シャーリーの耳に流れ込み、記憶を改変する。意識が途切れた彼女は、両足から力が抜け、ライはベッドの上で受け止めた。 数秒もしないうちに、シャーリーはライの腕のなかで、正気を取り戻す。 「…あれ?わたし、何を…?」 シャーリーを見て、確信する。 先ほどの凶行は紛れも無く、ギアスの仕業だった。 凶行のトリガーは、『ライ』。 ライがライ自身のことを問いかけると、刷り込まれたギアスが発動し、ライに襲い掛かるようになっていた。携帯を使用するという行為から察するに、ブリタニア情報部にライの記憶が戻ったことを何らかのメッセージを用いて伝えるようになっているのだろう。 また、連絡ができない場合はライ殺害を実行し、それができないと判断した時は、自決するようにギアスがかけられており、ライの近辺で隣人が不審死すれば、それは動かぬ証拠となる。 あまりにも残酷な仕掛けに、ライは胸が引き裂かれるような思いがした。 「……ルル?どうしたの?」 身に起こったことが認識できず、辺りを見回すシャーリー。 「…なんでも、無いんだ」 ライは、シャーリーの体を強く抱きしめる。 「ちょっと…!左手、怪我してるじゃない」 スザクから驚愕の事実を知らされた時のものだ。 拳を握りしめすぎて、指が皮膚に食い込んで、血が滲んでいる。 ライは、ますます、両腕に力を込めた。 「…なんでも、ないんだ。シャーリー」 シャーリーの首元に頭を埋めたまま、ライは彼女を離さない。 「……もしかして…泣いてる、の?」 ライは、何も答えられなかった。 ◇ けだるい睡魔を振り払いながら、初老の男は、正門の警備室の中で椅子に座り、新聞を広げた。 ブラックリベリオンによって鎮火したゼロの報道は、バベルタワー、中華連邦総領事館の事件をおいて息をふき返き、記事の一面はゼロと黒の騎士団に独占されていた。著名な人間の根も葉もないコラムは読み飛ばし、民間メディアがどこまで掴んでいるかを確認する。 機情が得る情報と民衆が得る情報では、正確さと鮮度に関して、天と地の差があるが、これも諜報部たる人間の仕事であった。 アッシュフォード学園の正門は七時に開けなければならないが、まだ時間はある。年嵩の男は、窓を開けると、肌寒い早暁の空気に触れ、ガウンを羽織った。 人の足跡が聞こえる。 校舎の方角に目を向けると、制服姿のルルーシュ・ランペルージが警備室に向って歩いてきた。美しい銀髪、端麗な顔立ちに、女のようにきめ細かい肌をしている少年。成績は優秀で、運動も出来、人当たりも良い。 同じ男として、ルルーシュ・ランペールという男は認めたくない存在だった。一年間、監視し続けた身であるからこそ、彼をよく知っている。ルルーシュの学園生活を眺めていると、可も無く不可も無かった己の学生時代が惨めなものに思えてくる。 部下の報告によると、歓迎会の後、自室に恋人を連れ込んだらしい。 誰もが羨むような人生を過ごしている彼に、子供じみた嫉妬心を燃やしていると、 「おはようございます」 と、柔和な笑顔で挨拶をされた。 「おはよう、ルルーシュ君。今日も早いね。どこか出かけるのかい?」 言葉を交わすのは初めてではない。 ルルーシュは早朝トレーニングを日課にしており、ランニングの途中でよく顔を合わせていた。その足で朝食作りにとりかかり、七時前後には妹を起床させ、身支度を整えた後、一緒に食事を取ることが彼の日課であった。 「ええ。だから、案内してくれると助かります、――――さん」 年嵩の男は、一瞬、何を言われたのか、解らなかった。 ルルーシュが吐いた言葉を頭が理解するなり、血の気が引き、全身が凍りつく。 年嵩の男は偽名を使ってアッシュフォード学園の警備員に潜り込んでいる。ルルーシュが、彼に云った名前は、紛れもない本名。 「ライが命じる」 ルルーシュ――ライの言葉を耳にした男は、この瞬間を持って、人生は終わりを告げる。 そして、ギアスによる傀儡の余生が幕を開けた。 ◇ アッシュフォード学園の地下機情特務室。 通常は、諜報員たちがルルーシュ・ランペルージの監視や本国の情報局と連絡を行う場所で、彼らは日夜交代制で職務を全うしていた。だが、今日に限って、機情の諜報員は皆無。室内に設置されているテーブルの中央の椅子には、一人の学生がふてぶてしく坐っている。 スクリーンに映る魔女と会話する少年は、銀髪の男、ライ。 「C.C.…あのルルーシュは、何者だ?」 エリア11の新総督として赴任するルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの存在は、すでにメディアに流れており、今朝のニュースで取り上げられていた。 『…わからない。だが、あのルルーシュに似たやつは、ギアスを…持っていない』 「なぜ、そんなことが解る?」 『解るんだよ。私には』 ライはスクリーン越しに彼女を凝視する。 表情から言葉の真偽は読み取りにくいが、声色には真剣味があった。 「ならば、あいつはルルーシュの偽物なのだな?」 『…そうとも、云い切れない』 ダンッ! と、ライはテーブルに拳を叩きつけ、手元にあるチェスボードをひっくり返す。 「はっきりしろ!C.C.!お前の返答次第で、僕は黒の騎士団の在りようを変えなければならないんだ!」 『ルルーシュと戦うのか?』 「ルルーシュと戦う?何の冗談だ?それは。黒の騎士団は彼が作った組織だ!」 『ナナリーを守るために、な。それが黒の騎士団を発足した当初の目的だったのかもしれない―――だが、今は、お前がゼロだ』 「…何が言いたい?」 『黒の騎士団はお前の所有物だ。ルルーシュではなく、ライのものだ。だから、この組織をどうしようが、お前の勝手だよ』 すべての決定権は、ライにある――と、C.C.は言っている。 「彼が本物のルルーシュだという可能性は、どのくらいある?」 『半々…と、いったところだ。別人というには、あまりにも似すぎている』 「だろうな。僕も同じ意見だ」 『ライ、気付いているだろう?これは罠だ。お前をおびき寄せるための』 「ならば、その罠を完膚なきまでに破壊してやればいい!」 ライは椅子から立ち上がると、C.C.との通信を切る。懐から取り出した携帯電話を操作し、耳にあてた。 「卜部、私だ。ゼロだ――」 ◇ アーカーシャの剣――と呼ばれる神殿。 現世から隔離された幻想的な建築物の壇上に、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアとV.V.が互いに並び立つ。外見的には、あまりにもかけ離れた二人だが、彼らは、齢を同じくした兄弟であった。 「シャルルのお願いだからやったんだよ?コードを短時間だけ譲渡し、ルルーシュを生き返らせた」 「あれには、まだ利用価値があります。ナイトオブセブンも然り」 人間としての死を捨て、歴史上から葬られ、生き続けるV.V.は、年老いた弟を見上げる。 「…うん、そうだね。ゼロが狂王なら、何らかの行動は起こすはずだ。ふふっ、狂王はどんな答えを出すかな?」 「どこか楽しそうですね、兄さん」 V.V.に語りかけるシャルル・ジ・ブリタニアは、穏やかな笑みをこぼす。 「そうかな?そうかもしれない」 ◇ 「き、きたのか!?黒の騎士団が!」 アプソン将軍が指揮するログレス級大型浮遊航空艦に激震が走った。 奇襲を察知した艦隊は、ナイトメアを運搬する戦闘機部隊を迎撃するが、サーフェイスフレアで、視界と熱源感知を遮断された航空艦は、黒の騎士団のナイトメアの着地を許してしまう。 ゼロの命令はただひとつ――、ルルーシュ総督を捕獲せよ。 四聖剣を率いる藤堂や、紅月カレンの駆るナイトメアが猛威を振るった。 ゼロは航空艦に降り立つと、自機のサザーランドを早々に自爆させる。 銃弾はおろか、ハドロン砲にまで、確かな防御性能を持つ屈指の電磁防壁、ブレイズルミナスが展開される前に、ログレス級大型浮遊航空艦に穴を空けたのだ。仮面の男は、易々と艦内へと侵入する。 少数精鋭のナイトメア部隊の奇襲は功を制したかに思われた。 しかし、紅蓮弐式のレーダーが捉えた敵対戦力に、カレンは息を呑む。 (まさか…あれはフロートシステムを搭載した、〈ヴィンセント〉タイプの…っ!?) 空中戦に対応した、量産化された第七世代ナイトメアフレームの一個小隊。 第五世代ナイトメアフレーム〈サザーランド〉の重厚な体格とは異なり、機敏な瞬発性を思わせるスマートなシルエットが、枢木スザクの〈ランスロット〉を想起させた。 カレンは気を引き締める。 制空権を奪われた戦局は困難を極める。 そして、追い打ちをかけるように、さらなる戦力がブリタニアに加わった。 「なっ、ナイトオブラウンズ!?」 ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグが操縦する〈トリスタン〉が朝比奈の〈月下〉を撃破し、 「せ、仙波ッ!!」 藤堂の叫びも空しく、眼前で仙波の〈月下〉が、〈トリスタン〉のダブルハーケン型のMVSを受け、爆散した。 『陸戦兵器での奇襲とは、貴公にしては杜撰な作戦だな、藤堂鏡志朗』 藤堂のナイトメアを制した〈ヴィンセント〉から、オープンチャンネルで彼に語りかける声が発せられる。藤堂と幾度も刃を交えた騎士、ギルバード・G・P・ギルフォードであった。 ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムが駆る〈モルドレッド〉はシュタルクハドロン砲でカールレオン級の航空艦を屠ると、 『隠れんぼは、おしまい』 出力の差で、千葉のナイトメアをいとも簡単に圧殺した。 部隊損耗率、三割で『全滅』、五割で『壊滅』、六割を超えると、『殲滅』。 黒の騎士団の戦力は、すでに『壊滅』の域に達していた。千葉、朝比奈のナイトメアは大破。仙波は戦死した。 「ぅわあっ!?」 刹那、 紅蓮弐式に、高出力のハドロン砲が襲いかかる。 雲を裂いて、姿を現したナイトメアは白き死神、枢木スザクが駆る〈ランスロット・コンクエスター〉。 「カレン。僕は今更、赦しは…請わないよ」 青海へと落ちゆく紅蓮弐式を目下に、スザクは抑揚のない声で呟いた。 ◇ ライは、早まる心が抑えなられない。足元に転がる死体を無視し、進んでいく。 そして、一際重厚な扉を開けた時、花吹雪がライの視界を遮った。 アーチの先にある庭園に、一人の少年が呆然と立っている。 (―――――っ!ルルーシュッ!!) ゼロの仮面をつけていなければ、ライは声のかぎり、叫んでいただろう。 彼の顔を、一度たりとも忘れたことはない。 煌びやかな服を纏い、驚愕の表情を浮かべたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、ライの目先にいた。 ◇ 脱出システムが作動しない。 紅蓮弐式が重力に引かれて下降していく最中、カレンはコックピット内で混乱の極地に陥っていた。 時速60㎞以上の速度で海面に叩きつけられれば、機体はコンクリートに落下した同等の衝撃を受けることになる。コックピットに内蔵されたショックアブソーバーが、多少、効果を発揮するとはいえ、タンパク質とカルシウムの塊である人間の体が耐える道理は無い。 数秒後には、良くて即死。 悪ければ、見るに堪えない肉片へと成り果てる。 カレンの運命は、まさに、白き死神の鎌に斬りおとされようとしていた。 「ごめん、ママ、お兄ちゃん…皆、ライ」 ナイトメアのパイロットになったときから、死は、覚悟していた、 だが、頭で解っていても、迫りくる死の恐怖を受け入れられるとは限らない。 『ベストポジションじゃない』 通信が入る。 「…えっ?ラクシャータさん!?」 神はまだ、彼女を見捨てていなかった。 ◇ 空中換装という離れ業で、紅蓮弐式は、新たな姿へと生まれ変わる。 「これが、紅蓮可翔式…」 翼を得て、機体の出力も桁違いに上がっている。 「私は、ゼロをっ…ライを守る!」 『続いて、第2カタパルト、ハッチ、オープン』 潜水艦の鋼鉄のハッチが開き、新型ナイトメアが陽を浴びた。翼を備えた、もう一機のナイトメアが姿を現し、大空をはばたく。 「…やっと、でてきた」 「ははぁ、あれがうわさに聞く、黒の騎士団の双璧か」 紅蓮可翔式の後方には、蒼きナイトメアがX型フロートユニットを煌めかせ、ラウンズの機体に迫りつつある。 (まさか、ライなのかっ!?) スザクは一年前、日本で、幾度となく戦場であのナイトメアと対峙してきた。 (機情からの報告は無い。ライはルルーシュ・ランペルージとして、トウキョウ租界にいるはずだ。しかし、あの機体は…!じゃあ、ゼロは一体誰が…!) 飛翔滑走翼を装備した月下、とスザクは認識したが、蒼いナイトメアは、月下ではなく〈暁〉。紅蓮弐式をベースとして、月下の流れを含む黒の騎士団の機体であり、輻射波動による防御機構・輻射障壁を持つナイトメアである。 「ジノ、アーニャ、気を付けろ。紅蓮の突破力も脅威だが、蒼いナイトメアは特に油断するな、頭のきれるヤツが乗っている!」 「スザクがそこまで言うなんてな。ブリーフィングで聞いているよ、 紅蓮ってやつはあのオレンジを倒したほどの奴なんだろ?蒼いのは、それ以上に危険なのか。指揮官と戦闘員を兼ね備えたパイロットねぇ、へぇ、面白そうだな。アーニャ、蒼い奴は私がやる」 「…じゃあ、紅いナイトメアは私。スザクはルルーシュ総督の救助」 答えるまでも無い。 スザクは操縦桿を握ると、フロートユニットの右翼が煌めき、〈ランスロット・コンクエスター〉はログレス級の航空艦へと旋回した。 トリスタンとモルドレッドは、ゼロの双璧と対峙する。 ◇ 「驚いた…どうやって、ここに?警護兵はどうした?」 ナイトメアフレーム同士の戦闘が繰り広げられている、壁一枚の向こう側で、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、ゼロと対面していた。 ルルーシュとライは、一年ぶりの再会を果たす。 しかし、二人を取り巻く環境は、あまりにも変わりすぎていた。 『…お会いできて、光栄です。ルルーシュ総督。私を、ご存知でしょうか?』 「…超がつく有名人じゃないか…君は」 狼狽を隠せないルルーシュを見ながら、仮面の下で、ライは表情を歪める。 (…そんな答えを聞いているんじゃないっ!) 「貴方はエリア11の総督殺しと、皇族殺しで有名だ。クロヴィス兄さんや、ユーフェミアのように、私を、殺すのかい?」 『…貴方の返答次第では』 ルルーシュは震える手で、懐から拳銃を抜く。まるで、銃すら持ったことの無い子供のように。 平静を取り戻し、ライは、ゼロとして言葉を紡いだ。 航空艦が揺れる。 衝撃にルルーシュは体勢を崩した。ライは、その隙に、コイルガンを手に握ると、ルルーシュの腕にある凶器に狙い定め、引き金を絞った。 銃身が壊れたコイルガンが花壇に飛んでいき、ルルーシュは手元から消えたコイルガンに、目を白黒させる。カチャリ、とゼロは銃口をルルーシュに向けながら、云った。 『貴方は、なぜ、日本の総督になられた?』 「父上…いや、皇帝陛下に命じられたまでさ。ゼロ、君も知っているだろう?私が皇位継承権を喪失していることは。 私に、神聖ブリタニア帝国に居場所は無い。おまけに重傷で、記憶を失っていてね。私はかつて、エリア11…いや、日本、だったか?戦前はそこにいたらしい。ナナリー…という妹とともにね」 『…ナナリー!?』 (ナナリーの記憶が無い?まさか、皇帝のギアスを!?…ならば、C.C.の力でっ…!) 「私は、腐っても、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。皇族の血を引く人間なんだ。この血から逃れることは、決してできないよ」 アメジストのような輝きを放つ瞳に射抜かれ、ライは息を呑む。 ライも、ルルーシュ・ランペルージとして学園を過ごしてきたが、それでも、本物のルルーシュとは大きく異なる人物像を形成していた。 記憶を失おうとも、人の根幹は変わらない。 ライは、ライ。 ルルーシュは、ルルーシュ。 皇帝に命令されようとも、ルルーシュは、自分の意思で、総督という役職を引き受けたのだ。 (…僕のギアスで、ルルーシュの意思を曲げてしまっては意味が無い!そのうえ、ギアスを使うのは危険だ。シャーリーのように、何らかのギアス対策が施されているかもしれない。しかし、今は、C.C.と接触させる以外に、方法はっ…!) 『ルルーシュ!僕と一緒に…ッ!』 ライはルルーシュのもとに駆け出す。 突如、 庭園の天井が破壊され、突風がゼロの体に吹き付けた。 風穴が空いた外壁から、コアルミナスコーンを展開したランスロットが侵入し、空を仰いで、ゼロを通り過ぎる。 『ルルーシュ様!』 「ッ!!ス、スザクッ!」 ルルーシュは純白のナイトメアフレームに手を伸ばす。 ルルーシュは、迷いなく、スザクに助けを求めた。 その光景に、ライは雷に打たれたように硬直する。 風が強くなり、ゼロの体は航空艦から吹き飛び、宙を舞う。 (違う!そいつは、お前を殺した…) 「ル、ルルーシュゥウウウッ―――!!」 紅蓮可翔式の腕が、ゼロを包み込む。 ライの絶叫は、誰にも届くことなく、青い海と空に、霧散した。 次話 龍を食べてみたい人 46 *
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空に雲がある。 晴天の下、トウキョウ租界の首都高速を走るサイドカー付きのバイクには、二人の男子学生が乗っていた。運転する少年は防寒用のグローブで包んだ手で、ハンドルを回す。 体に吹き付ける風が、ページを乱雑にめくっていた。シールド付きのヘルメットを被ったまま、単行本の文字に目を走らせる。 「あれれ?もしかして、外れだった?その本」 「前を見ろ。リヴァル」 先日、アッシュフォード学園の図書館に入荷された新冊で、彼の退屈しのぎのために、リヴァルが無造作に選び取ってきたものだ。 それ以上の会話は無かった。 最近知り合った仲でもないので、特段話すこともない。リヴァルは慣れた運転操作で目的地に向かう。 案内先を無機質に知らせるナビよりも、土地勘に強い人間に任せるほうが信用できる、と思いつつ、悪友の横顔をちらりと見た。 数十分も経たないうちに、一般道路に出て、信号に捕まる。 ふいに、読書に耽っていた思考が遮られた。 不愉快な心情を隠さず、顔に出した少年はその原因を睨み付ける。その視線の先にあるものは、大スクリーンに映し出されたエリア11の長、カラレス総督の怒号と映像だ。 公衆の前面で、テロリストの無慈悲な処刑が執行される。 ブラックリベリオン以降、矯正エリアとして認定されたこの植民地は、さらなる弾圧と悲劇が繰り返されることとなった。 瞬く間に、このエリアの救世主と祭り上げられた稀代のリーダー、『ゼロ』の死と、黒の騎士団の事実上の壊滅。いまだに逮捕されていない幹部たちの顔写真が、租界のいたるところで見受けられる。 八年前の戦争以来、この国では激しい抵抗と内乱が続き、いまだに多くの血が流れていた。 様々な感情や情報が頭を駆け巡り、パタン、と少年は本を閉じる。 「リヴァル、青だぞ」 「おっと、いけね」 再び、エンジンが鳴る。 トウキョウ租界に聳え立つ高層ビルは、もうすぐだった。 良質な素材で作られた長方形のバッグを手にし、少年はシートから降りる。制服の襟元を整えると、絢爛に装飾されたバベルタワーの入り口に足を向けた。 後ろから声がかかる。 「どうした?」 「まあ、大丈夫だとは思うんだけど…ここってあんまりいい噂聞かないからさ。レートも半端じゃないって聞くし…」 「おいおい。今さらか?リヴァル。未成年の賭けチェス自体、違法だぞ。もしかして、俺が負けるとでも思ってるんじゃないだろうな?」 それを聞いたリヴァルは、 「まっ、それもそうだよな」 にっと笑顔を作る。 「終わったら、電話しろよ。俺は買い物があるからさ」 「ああ。ナナリーとの夕食までには帰るさ」 少年は手を振り、バベルタワーへと入っていった。 近づいてきた黒服の男に、会員証を提示する。大理石で造られた廊下を歩き、直通エレベーターに乗り込んだ。静かに上昇していく機械の箱の中で、目下に広がるトウキョウ租界を一望する。 サクラダイトの利権と、絶え間ない小規模の戦争経済で成り立つ島国、エリア11。 贅のつくしたこの摩天楼こそ、その歪な関係を象徴している。扉が開かれると、都市から人間へという縮図でその真実は突きつけられる。 インフラが整備された租界と、荒れ果てたゲットー。 支配するブリタニア人と支配されるイレブン。 共和国であるEUであれば、非人道的とみなされる光景だろう。だが、神聖ブリタニア帝国の植民地では、珍しいことではない。 勝者は美酒を呑み、敗者は苦汁を舐める。強者は全てを獲得し、弱者は全てを蹂躙される。 それが、国是。 皇族、貴族、平民、奴隷、といった、命の価値が異なる身分が存在する世界では、必然的に起こりうる情景。リングでは、イレブンの兄弟同士の賭け試合が行われている。血みどろの殴り合いを、大人だけではなく、子供までが嬉々として見物している。 何とも形容しがたい感情が、少年に渦巻いた。 いつからだろうか、このような気持ちを抱くようになったのは―― 益ともならない自問自答が、頭の片隅で蠢いている。年相応に持つ社会の反骨精神だろうか。このような不平等は近い将来、大きな争いを生む。歴史をひも解いても、その推測はあながち外れはいないことは確かだ。 だが、その未来に立ち向かう愛国心も意思もない。己の力で、国家に立ち向かえる術もない。大人になるにつれ、現実を知るにつれ、人よりも頭の回るため、己の無力が誰よりも先にわかってしまう。 身を覆う憤懣を抑えながら、己が行く場所へと足を速める。 唐突に、小さくない衝撃が体に伝わる。同時に、冷たい感触が腹部に染み入った。 「申し訳ありません」 女の声だ。 艶めかしい女体を露骨に演出したバニーガール姿の女性が、カクテルをひっかけてしまい、少年の制服を濡らす。彼女は手にハンカチを取ると、すぐに水分を拭い始める。 「いや、いいって」 「私はイレブン。あなたはブリタニアの学生さんですから」 イレブン?と、女性の髪色を見て、少年は頭をかしげた。イレブンの髪色は黒だったはずだ。 「だったらなおさらだ。嫌いなんだ。立場を振りかざすのは」 「でも、力のない人間は我慢しなくちゃならないんです。たとえ相手が間違っていても」 「君たちの価値観を俺に押し付けないでほしいな」 「申し訳ありません」 彼女の行為を制そうとしたが、男の影が近づき、中断された。赤い髪が乱暴に掴みあげられる。 「…っ!?」 「本日の兎狩り、大量で何よりでございます」 「…私は、売り物じゃない!」 「売り物だよ。勝ち取らない者に権利等ない。悔やむなら力無き自らの生まれを悔やみたまえ。皇帝陛下もおっしゃっているだろう?弱肉強食、それが世界のルールだ」 男の風貌を観察する。 頭のてっぺんから足の先まで、金がかかっている。 言うまでもない。貴族だ。 顔にも、見覚えがある。 「そこまでにしませんか」 少年も驚いた。 なぜ、このような言葉が喉から踊り出たのか。 「なんだ、若造が。この兎は私が狩った獲物だぞ」 「私もその女に興味が湧きました。丁度いい。これで、決着をつけませんか?」 金具のロックを外し、手元にある木箱の中身をさらけ出す。各々が一六個の駒を操り、思考を競う知的ゲーム。 「チェスで?」 「お、おいっ!その男は」 第三者から、驚きの声が飛び出す。 「もう遅い…何も知らないとは本当に愚かな事だな、クククッ…」 「それはどうかな。黒のキング。随分と有名な打ち手らしいが」 「んっ?知った上でかね…?」 男はバニーガールから手を離し、頭一つ低い少年を見つめた。 随分と整った容姿をしている。 黒のキングは青年の胆力に一目置きながら、盤上の勝負に応じた。黒服のスーツに身を包んだ男たちによって、速やかに席が用意される。チェスの名手と美少年の一騎打ち。その出来事を目撃したギャラリーは、自然に集まっていった。 一つだけ、分かったことがある。 俺は、思いのほか、怒っていたのだと―― 「チェックメイト」 クイーンへと変貌したポーンが王を捕えた時、勝敗は決した。黒のキングも、周囲の見物客も、この結果に二の句が言えないでいる。 実に些末な勝負だった。 見開いていた黒のキングの瞳が、すっと据わる。 「ふん、困ったな。こんな噂が広まっては、私の面子が立たん」 尤もな意見だった。名もない学生に完膚なきまでにやられたとなれば、名誉の失墜は避けられない。観衆の中にはチェスの棋士も混じっているだろう。 「…言いふらしたりはしませんよ」 「違うよ、若造。君の仕掛けたイカサマの話をしているんだ」 今度は少年が、言葉を失った。 「バカな!?チェスでイカサマなど出来る筈が無い!」 「さて、証拠を作ろうか」 腕がからめ捕られ、二人の男に体の自由が奪われる。ボードに顔が叩きつけられ、白と黒の駒が散らばった。 睨み付けるが、黒のキングの嘲笑は消えない。 「くっ…薄汚い大人がっ!!」 「正しい事に価値なんてないんだよ」 激しい怒りを覚えるが、怜悧な自分の側面が答えを出している。 ―――そんなことは、前から知っている、と。 横を視界に入れる。バニーガールは黒のキングが直接、捕まえていた。少年は上半身が組み伏せられ、身動きが出来ない。ポケットがまさぐられ、携帯電話が取られた。 聡明な頭脳が、残酷な未来をありありと映し出す。 非合法なカジノに足を踏み入れた時点で、このような結末は予想できたはずだ。そのリスクも分かったうえで行動していたつもりだった。しかし、その思いが、ただの張りぼてだったことに改めて気付かされた。 心のどこかで、こんなことは起こりうるはずはない、と現実逃避していたのだ。 遅い。遅すぎる。 そんな非力な自分を、悔やんだ。 刹那―― 轟音と共に、建物が揺れた。 一瞬にして、手足の拘束が解かれる。だが、喜んでいる場合ではなかった。パラパラ…と、固形物の破片が散漫する。ガラスが割れ、何か重量がある物体が、近くで落ちた。 地面に木霊する雑音に、少年はゾッとする。 間違いない。 ナイトメアフレームのランドスピナーの駆動音。 女性の甲高い悲鳴が、この広場を戦場へと彩った合図でもあった。恐怖と混乱に陥る人々。それはブリタニア人もイレブンも例外ではなかった。続いて、武器を装備したナイトメアの姿も現れる。 それもブリタニア軍のサザーランドではない。イレブンが持つ、亜種のナイトメアフレームだ。 突然の出来事に呆然自失としていた少年の腕が、強引に動かされた。 「こっちに来て!」 先ほどの、バニーガールだった。声に力があり、赤い髪に麗しい碧眼の双眸、豊かな肢体が目に入る。 「きゃっ!?ちょ、ちょっと!」 袖を振り払い、少年は走り出した。 今日会ったばかりの人間を信用することなどできない。腕のあるチェスの棋士ですら、簡単にルールを破ったのだから。 心に去来する感情を抑えつつ、少年は頭をフル回転させる。 バベルタワーに訪れたことは初めてではなかった。階段とエレベーターにはすでに多くの人間で溢れかえっている。中央に広がる階段はフロントと隔絶しているし、緊急時には、エレベーターは停止することが多い。すなわち、一階に通じる道は途絶えたことになる。 非常階段のある場所を記憶で探り、少年は迷わず向かった。 煌びやかな空間とは違い、コンクリートの素肌が剥き出しにされた場所。周囲には太い鉄筋や様々な建築材料が積み重なっている。少年は、急いで階段を駆け下りた。持ってきたチェスボートはかなりの値打ち物だったが、命には代えられない。 唐突に、足元が爆ぜた。 「っ!?」 数発の銃弾が横切り、少年は反射的に振り返る。黒いジャケットに黒のサンバイザーを被り、腕にはアサルトライフルをかかえている。 その服装は、知っている。 「黒の騎士団!?」 少年は、もう後ろを見なかった。テロリストの制止の言葉など、無視した。銃弾が次々と飛び交い、グレー色の壁が小さな穴を作って、抉られていく。 四角形状の螺旋に続く階段を無我夢中で走り抜けた。胸から込み上げてくる寒気が止まらない。「ぐあっ!?」飛び散った金属の粉末が、眼をかすめた。足の歩調が乱れ、手すりから体が投げ出される。 浮遊感に、全身が包まれた。 羽を持たない体は、もがくことも出来ず、ただ重力に引かれていくだけ。黒の騎士団の男の顔を眼の端にとらえた。 段々と体を突き抜ける空気が早くなる。 そして、少年の姿は、闇の中へと消えていった。 「――――――っ…」 少年は、生きていた。 工事の際に安全対策として敷かれている柔軟素材の幕を何枚も突き破って、加速度を緩和し、ようやく体の落下が鎮まったのだ。 九死に一生を得た、というイレブンの諺はまさにこのことだろう―― ひやりとする硬質の地面がひどく心地よかった。呼吸が乱れ、足が震えている。物騒な物音が、遠くに聞こえる。両手で頬を叩くと、少年はすぐさま立ち上がった。ここが戦場になるのも時間の問題だ、と危機感が切に訴えている。 階段がこの階層で途切れている。 ということは、最上階から半分の位置まで降りたことを意味していた。思わぬハプニングがあったとはいえ、ショートカットできたのは僥倖だった。暗い視界に、徐々に瞳孔が開いていく。記憶では、反対側の場所に、一階まで続く階段がある。 こつこつ、と足音が空虚に響く。 「……!」 咽かえるような匂いが鼻腔を刺激した。 生臭い鉄の匂い。 少年は、これを識っている。 角を曲がった先では、想像を絶する風景が待ち構えていた。物言わぬ肉塊が散らばっている。慣れることのない嫌悪感。込み上げる嘔吐物を、抑えることができなかった。 「う、うえぇえええっ!!」 くしゃり、と何かを踏んだ音に、目を向けた。近くで息絶えている女が、死ぬ直前まで握りしめていたであろう、一枚の写真。家族の写真でも、恋人の写真でもない。 ブラックリベリオンの際に捕えられ、処刑された仮面の男。 『ゼロ』 「皆、馬鹿だっ!こんなものに踊らされてっ!縋って!だから、お前たちは!」 負けたのだろう―――と、叫ぶはずだった。 喉が詰る。 なぜ、気付けなかったのか。 一機のナイトメアが、目先に佇んでいることに。 少年は、識っている。 黒の騎士団のナイトメア。 コクピットのハッチが展開し、一人の少女の姿が光のもとに晒される。緑色の髪を靡かせ、パイロットとしては不的確な白い服を着ている。彼女は少年に眼差しを向け、手を差し伸べた。 「迎えに来た。私は、味方だ」 澄んだ少女の声が耳に届く。 「私だけが、知っている。本当のお前を」 「本当の…俺?」 彼女の話に、裏付けも理屈もない。だが、ひどく心を揺さぶるのだ。まるで聖女に導かれる罪人のごとく、少年は歩み寄る。琥珀色に輝く双眸が、心をとらえて離さない。 タァン、と一発の銃声が鳴った。 少女の体躯から力が抜け、崩れ落ちた。 少年は慌てて、コックピットから落ちてくる肉体を抱き留めた。胸に刻まれた銃創から、止めどなく血が溢れ、純白の服装が赤く染まっていく。見事に、心臓を撃ち抜かれていた。 即死だった。 少女は、少年の腕で死んでいた。 ランドスピナーが地響きを立て、一機のナイトメアが近づいてくる。それと同時に数十人の歩兵が群れをなし、少年の前に立ちはだかるように静止した。 つい数分前の彼ならば、すぐさま助けを求めただろう。だが、少女を撃ったのが、他ならぬブリタニア軍人だった。何の警告もなく射殺した。 軍は、国民を守る職務である。 その常識が、眼前で覆されていた。タンクをかかえた兵士が豪勢な火炎を放ち、死体を焼いていく。生きていようが関係は無い。銃弾を浴びせ、完全な死体を作り上げていった。 「お役目、ご苦労」 サザーランドのコクピットから顔を出した軍人を見上げる。中年の男で、武装している歩兵とは違い、臙脂色の軍服を着ている。 「…お役目?」 「私達はずっと観察していた。6時59分起床。7時12分より弟とニュースを見ながら朝食。視聴内容に思想的偏りはなし。8時45分登校。ホームルームと1時間目の授業は出席せず、屋上で読書。2時間目、物理の授業は…」 「…今日の、俺だ」 自分の行動が、つらつらと並べ立てられていく。 次々と起こる事態に、頭がついていかない。 なんだ、これは? なんだ、この世界は? なんだ、この現実は? なんだ、この悪夢は? 「飼育日記というところかな。餌の」 「…餌?」 「罠と言ってもいい。その魔女C.C.を誘い出すための」 「シー、ツー…?」 自分の懐で息を引き取った少女に目を配る。 「さあ、処分の時間だ。これで目撃者はいなくなる」 「処分…?」 この状況下で、意味することは一つしかない。 向けられる銃口が。 戦慄した空気が。 全てを物語っている。 (俺は…終わる…?何もわからずに、こんな簡単に……) 悲しいことに、この少年は死神の鎌が明確に見えたとしても、現実から目を背けるほど心が弱くは無かったのだ。 (―――ふざけるなっ!) 今にも噴き上げそうな激情が、体の中でとぐろを巻く。絶望。憤怒。殺意。どれをとっても、言い表せない感情。 (力さえあればっ、ここから抜け出す力っ…!世界に負けない力がぁ!!) この状況を打破できるのであれば、悪魔に魂を売ってもいい―― その願いは、魔女によって、叶えられることになる。 「んっ!?」 魔女に、唇を奪われた。 流れ込む意識、情報。二人は、精神がつながる世界で、言葉を交わす。 (力が――欲しいか?) (その声、さっきの…?) (もう一度、問う。欲しいか?力が。己の運命を変える程の、力が) 答えるまでも、無かった。 (ああ――欲しい) 忘却の檻が音を立てて、壊されていく。 記憶が蘇る。 本当の自分を、思い出す。 世界が、変わっていく。 (ならば―――契約しよう。『ギアス』を―――お前に与える) 魔女は嗤いながら、少年の本当の名前を、告げた。 「契約成立だ―――――――――――――――ライ」 ライ、と呼ばれた銀髪の少年は、魔女に返事をする。 「…礼を言う。C.C.」 死んだはずの人間が息をふき返した事実に、驚愕する兵士たち。 機密情報局の一味である彼も、絶句した。 「ライ……だ、と?ルルーシュ・ランペルージはなく、ライ、だとっ!?もしやっ、き、貴様は、いや、貴方は!」 この瞬間―――魔神は生まれた。 左眼に、悪魔が宿る。 「ライゼル・エス・ブリタニアが命じる」 「―――死ね」 絶対遵守の命令が下る。 その声を聴いた兵士たちは、銃口を仲間同士に向け合う。 『イエス・ユア・マジェスティ!!』 木霊する銃声とともに無数の凶弾が迸る。 彼らは嬉々とした声で、己の命を散らせた。 爆風が吹き荒れる。 分厚い壁を突破し、瓦礫をものともせず、二機のナイトメアが降り立った。 魔神の前髪が揺れる。王の忠誠を誓うがごとく、こうべを垂れる機械じかけの騎士。 『お待ちしておりました――――ゼロ様』 コードギアス LOST COLORS R2 「神逆のライ」 turn01 「魔神が生まれる日」 完 次話 龍を食べてみたい人 45 *
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東方幻想郷版 幺樂団の歴史版 幻想の住人(東方幻想郷) 作品:東方幻想郷 〜 Lotus Land Story. シーン データ BPM 拍子 再生時間 調性 使用楽器 コード進行 ZUN氏コメント ゲームオーバーのテーマでもあるはずなんだけどね。 う~ん。ちょっとはげしすぎかも。 (東方幻想郷 Music Room より) 解説 幻想の住人(幺樂団の歴史1) 作品:幺樂団の歴史1 ~ Akyu s Untouched Score vol.1 シーン データ BPM 拍子 再生時間 調性 使用楽器 コード進行 ZUN氏コメント なし 解説 コメント この曲の話題なら何でもOK! 名前 コメント すべてのコメントを見る
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ボイス: 何行目 台詞 篇 イベント名 マップ情報(場所・キャラアイコン)など 001 002 003 004 005 006 007 008 009 010 011 012 013 014 015 016 017 018 019 020
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序盤、ルートが確定するまではあまりスザクと話さないようにする (話しすぎた場合、学園のフラグイベントが間に合わなくなり、軍人ルートに流れて しまう可能性がある) (学園篇2週目以降限定)ルルーシュともなるべく話さないようにする (温泉旅行でスザクと話す為にルルーシュと会話する必要があるので、念のため) 学園ルートに入ったら、ミレイとは全く会わないようにしつつスザクをストーキング 買出しイベントはスザクを選ぶ。いない時はミレイ以外のキャラで (学園篇2週目以降限定)温泉旅行は山歩きをする。CGあり。 ミレイのお見合いは無視する 学園祭を一緒に回ろうと誘われたらED確定 EDCGなし。代わりにステンドグラスのCGがギャラリーに登録される 基本的に会話する機会が多いので、よほどルルーシュ&ミレイと会話しない限り楽に EDを見れるはず。