約 3,243,187 件
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1560.html
朝。 天に輝く太陽が、草木に、動物に、例外なく恵みの光をもたらしていく。 なんともさわやかなその日光は、少なくとも人間の睡眠を善意100%で阻害してくれるらしい。 昨夜うっかりカーテンを開けっ放しで寝てしまったことが災いしてか、自然の摂理はガラス張りの窓を貫通して攻撃を仕掛けてくる。 人体の急所の一つである目を的確に狙い済ますその技巧に舌を巻きつつ、背に腹は代えられまいと断腸の思いで起き上がり、いそいそと布団から抜け出す。 寝起きのけだるさにまぶたを落としそうになるも、視線を滑らせて壁にかけられた時計を見やれば、黒く飾られた二本の針はきれいに一直線上に並んでいた。 いつもより大分早いが、再びベッドへと戻ってしまえば、時計の短針はあと90度から120度ほど傾くこととなるだろう。 早起きは三文の徳と言う、健康的に生活するに越したことはあるまい。 部屋のドアを押し開けると、顔を洗うべく洗面所へと歩き出した。 ◆ 朝独特の静けさと、頬を刺すような冷たい空気。 何とも言えない気分の高揚を覚えて、やや上機嫌に登校の路を辿る。 朝と言うものの印象は各々によって変わるものだと思うが、個人的には嫌いではない。 何らかの苦難や面倒ごとが待ち受けている人もいるだろうが、それにしたって一日の始まりから暗い顔をしていては気分も頭も下がり気味になるというもの。 自分の足下を見ながら歩いていてる内に、自然と猫背気味になってしまうのもいただけない。 「その点霊夢はすばらしいな。 常に正面を見据えて姿勢よく歩く様はたいへん美しい」 「朝から何言ってんのあんた」 前を行く少女の背中に声をかければ、彼女は怪訝そうな瞳と共に返答してくれた。 博麗 霊夢。 日本人然としたつやのある黒髪と、非常にさばさばした性格を持つ、近所の神社に在住している巫女。 ひいき目に見てもかなりの美少女であり、知り合ったきっかけはささいなことであるが、 この様な見目麗しい女性とお知り合い、更には友人にすらなれている自分はかなりの幸せ者だろう。 そんな女の子に変な目で見られているのは非常に興奮するのだが、 いくら何でも一時の快楽のためにこれから先の未来を犠牲にするのは賢い選択とは言えない。 悪くなった印象を戻すべく、ひとまずは弁明に全力をかける。 「これは俺の持論なんだが、朝は元気に過ごしたほうがいいぞ。 調子よくスタートを切れば、一日をより精力的に過ごすことができる」 「力の入れどころは見極めたほうがいいと思うけどね。 少なくとも私はそれほど元気が溢れてるわけじゃないから、朝ぐらいは静かに無気力に過ごしたいの」 確かに、霊夢の言うことも間違っているとは思えない。 スタートダッシュの勢いそのままに全力疾走を続けてしまっては、スタミナ切れになるのもまた道理。 スパートをかけるタイミングを見極める洞察力を養うことも、生きていく上では重要なことである。 「そうか、それは悪かった。低血圧気味なのか?」 「いや、健康そのものだと思うぜ。少なくとも霊夢は」 かかった声に視線を向ければ、そこにいたのもまた一人の少女。 霊夢より低めの背丈と、砂金を散りばめたような長めの金髪。 特徴的な男言葉は、彼女のチャームポイントの一つと思えなくもない。 霧雨 魔理沙。 彼女も同じく近所住まいの、古い馴染みのある友人である。 なお、霊夢に勝るとも劣らぬ美少女であることも追記しておく。 並んで歩く俺と霊夢の列に彼女が加わったのを認めると、霊夢はさも気が滅入った様な表情で、 「何であんたが私の健康状態を把握しているのかとても気になるんだけど」 「昔からの知り合いの体のことを忘れたりはしないな、少なくとも私は」 「何とも色っぽい物言いだな。 まだ朝だと言うのに――――ああいや、俺は別に同性愛を否定するつもりはないぞ。 愛の形は人それぞれだからな、そんな些細なことで軽蔑したりしない」 「あんた頭わいてんじゃないの」 辛らつな言葉も、俺にしてみれば甘言に過ぎない。 突き刺さるような霊夢の視線を元に悦楽にひたる俺の性癖はさておき、魔理沙は朝からそれなりに活発なようだ。感心である。 「しかしお前は変わらないな。 昔っからこんな…………だったっけ?」 「私に聞かないでよ」 「時間は少年を一人の‘男’にするもの。 肉体的にも精神的にも成長し、変わって行くものなのさ、人間って言うのは。 人生は重き荷を背負うて長き道を行くが如し、と言うやつだ」 「あんたは絶対に間違った方向に進んでいると思うんだけど」 「しかも言葉の意味間違ってるよな」 適当な言葉を並べれば、容赦なく入るツッコミ。 この雰囲気の、なんと過ごしやすく心地よいことか。 傍から見れば時間の浪費に近いそのやり取りは、しかし俺にとっては有用な時間の使い方なのである。 ◆ しょうもない会話を続ければ、いつの間にやら学園の正門前へと到着していた。 さて、ここで俺たちが通う学校についての説明をしておくとしよう。 やたら立派なつくりの門と、バカでかいと表現しても差し支えないだろう校舎。 ~~ホールやら~~館やら、まあ便宜上つけられただろう名前の施設がこれでもかと言うほどに敷地内に詰め込まれている。 それも見てくれだけでなく、 校舎内部は空調施設完備、備品はぴっかぴかの美品が並び、私服登校可能ながらも制服のデザインはカッコよく可愛らしく、 グラウンドは学校らしからぬ広大な面積を誇り、しかも女子生徒・女教師のレベルの高さ――――はともかく。 簡潔に言えば、至れり尽くせりな学校なのだ。 しかも私立校だと言うのにもろもろの費用はかなりの割安であり、 その上在学中に様々な功績を残すことによってさらに減額・還元されると言うぶっ飛びっぷり。 校長が裏で非合法なことして金を稼いでいてもおかしくない、と割と真剣に思う。 まとめると、絵に描いた様な、魅力的な高校であることは間違いない。 であれば当然といえば当然だが、入学試験はかなりの難関であり、 通常の学力検査に加え実技試験と呼ばれる名前から察してほしいアレなものが存在したわけだが、どうにかこうにか俺はパスすることに成功した。 まあ、そのことはおいおい語っていくとしよう。 「しっかし、今更ながら随分変わった学校だよな。 私としては普通の高校生活も悪くないと思うんだが」 「2年生になってから言うことじゃないでしょ」 「そうか、もう2年生になるのか……時が経つのは早いもんだ。 昔のお前らはそれはそれはかわいかったぞ。今の方が素敵で、綺麗になったけどな」 「昔のあんたはもっと純粋だったと思うんだけど」 「そうだっけか?」 首をかしげる魔理沙に、思わず目を細めて昔を思い出す。 かなりやんちゃで、そこら中を走り回っていたようなそうでないような。 「そう言えば、昔は生傷の絶えない日々を送っていたな。懐かしいなぁ」 「その時期頭に障害を負ったのね」 「だからこんな変な学校を選んだんだな」 「そんな言い方したら、私たちも変なやつになっちゃうじゃない」 「いや、変であることは悪いこととイコールではないだろう。 変であると言うことは一握りの存在であるということであり、 一握りの存在であると言うことは天才と同じであると言うことだ」 「少なくともあんたが自分のこと天才だと思ってるんならエジソンやアインシュタインに土下座しなさい、今すぐ」 「まあともかく、変わり者が集まる学校だってことに間違いはないみたいだな」 言いながら魔理沙があごで門を示せば、そこには一人女性が立っていた。 太陽の光を吸収した様な明るい色の髪と、中華風と言うか、オリエンタルな格好をして門柱の傍に控えている。 こちらの存在に気づくと、彼女は笑顔の花をぱっと開かせて、 「おはようございます!」 とっても元気に挨拶をしてくれた。 紅 美鈴、学校の警備を兼任している用務員の一人。 女性ながら格闘技を得意としているらしく、不審人物がいればたちどころにノックアウトする実力者らしい。 身体つきはすらりとしているが、引き絞られた体にはしなやかな筋肉がついていることが見て取れる。 ついでに言っておくと、周囲の羨望の視線を集めるほどのないすばでー(死語)である。 朝から門前に立つのは、登校時にごたごたが起きた場合の対処と、積極的な挨拶を身につけるための活動、 その両方を兼ねている様で、生徒たちに積極的に声をかけている姿を目にすることが多い。 今日も今日とて職務に従事しているらしく、なんとも和やかかつ可愛らしい笑顔で皆を活気付けている様だ。 俺たちが返事をすれば、彼女はにこにこと楽しそうな笑みを浮かべたまま、 「ふふ、仲がいいんですね。皆さんいつも一緒にいますし」 「ええ、両手に花の状況にあこがれるのは男の本能みたいなもんですからね。 まあ、手を出したりはしませんが」 「出来ないんでしょ?」 「出来ないんだろ?」 「俺は紳士なのさ。同意を得ず無理やりってのは美しくない」 「なんで行為に及ぶのが前提なのよ」 朝っぱらから何とも過激と言うか下世話な内容である。 どうやら用務員兼警備員さんはそう言った話が苦手らしく、あはは、と笑ってごまかしていた。奥ゆかしい人だ。妻に欲しい。 一方、魔理沙は話から抜けて手元の腕時計を見下ろすと、 「お前の頭の中はともかく、そろそろ行かないと遅刻するぞ?」 「おや、もうそんな時間か」 もう少し彼女と話していたくもあったが、流石に遅刻するのは避けたい。 気づけば大分前に進んでいる他の生徒たちをざっと見渡すと、それじゃあ、と別れの挨拶を済ませて、俺たちは教室へと急いだ。 ────────────────────── 結果から言うと、俺たちは何とか始業のチャイムに間に合った。 チャイム5分前、2年生教室。 ホームルームが始まる前の、短いようで割と長い時間。 各生徒の行動はそれぞれバラバラであり、 友人との雑談で時間をつぶす者、 昨日の内に片付けられなかった宿題をすませる者、 わずかな時間であれど、足りない睡眠時間を補う者。 十人十色、言葉の意味を間違っている様な気がするが、ともかく統一性なく過ごしているわけで。 そんなだらっとした教室の空気を味わった後、席に移動した俺たちが選んだのは他者との会話。 円滑なコミュニケーションは人間関係をよりよくすると言う俺の持論と、 朝からかわいい子と話してるとテンションあがると言う世間一般の常識に基づき、行動を開始したわけである。 「間違いなく逆だと思うんだけど」 「何と、俺の心の中まで読み始めたか」 「顔見れば何考えてるかなんて想像がつくもの」 「ふふっ、まるで長年連れ添った夫婦のようだな。どうだ、せっかくだし俺と結婚しないか? 任せろ、お前を一生の間幸せにするぐらいの甲斐性は持っているつもりだ」 「遠慮しておくわ」 「そうか、残念だ」 すまし顔のまま、霊夢は疲れたように首を振る。 朝の学校でプロポーズして振られている俺に奇異と好奇のこもった視線を向けてくる輩も何人かいるようだが、その内皆慣れてくるだろう。 1年生の時も、大体夏休み突入前ぐらいにはクラスの全員が俺の行動を受け入れていた。 周囲の人間に認めてもらえると言うのは、何ともありがたいことである。 この様を見かねてか、魔理沙はとっくに慣れた様子で、 「人の求婚を邪魔して悪いが、‘他者との会話をする’んじゃないのか?」 そう言えば忘れていたが、行動に移さねばならないと薄々感じていたところである。 「ほう、魔理沙もついに読心術を身に着けたか。 互いの思っていることがわかれば、夫婦生活において最大の敵である思想の相違や些細なすれちがいを避けることが出来るな。 どうだ、毎朝俺の味噌汁を作ってくれないか?」 「味噌汁は作れるが毎朝は面倒だな」 「そうか、なら俺が炊事を担当すれば完璧だな。 おっと心配ご無用、将来妻を持った時のためにと家事はしっかりこなせるようにしているからな、味は保障するぞ」 「そうか、なら明日からずっと私のごはんを作ってくれ。あ、一応言っておくと結婚はしないからな」 「ふふっ、愛いやつめ。初夜まで貞操を保っているタイプだな。魅力的だ。 まあいいさ、共に過ごす内に愛が育まれることもあるだろう。 見られたくない部分があっても心配するな、どんな魔理沙でも俺は受け入れる」 「それはありがたいな。こう見えて私は抜けてるところがあるから、助手がほしかったんだ」 「人の求婚を邪魔して悪いけど、誰かと話に行くんじゃないの?」 疲れたような霊夢の言葉に、はっと思い出す。 いかんいかん、魔理沙との新婚生活のプランニングに没頭してしまっていた。 ちなみに今一児をもうけたところである。魔理沙に似てかわいい子だ。 まあ何はともあれ、俺たちは他者との接触を図ることとした。 ◆ さて、ここでいくつかの選択肢が生まれてくる。 まず前提として、流石に大人数でつるんでいるグループに入り込むことはできないし、 そこに一切の色っぽい感情がなさそうとは言え、男女間で会話の花を咲かせている間に入り込む様な無粋な真似はしないこととする。 となると、教室内で一人、あるいはなるべく避けたくもあるが二人程度の者のところへ行くのが良策だろうが―――― さて、俺たちは誰の元へと赴くべきか。 この選択肢次第で生涯の伴侶が変わってくるのだ、慎重に選ぶほかあるまい。 「いや、それは流石にないだろ」 「そもそもあんたは一生結婚できなさそうな気がする」 少女たちの声をよそに、教室の端から端まで、ざっと視線を滑らせる。 俺の女性探知アイの能力をもってすれば、この集団の中から美と付く女性を探すことなど造作もない。 選択的注意集中を用いて探してみた結果、教室に1人でいるのは3人ほど。 2人組を含めればもっと数が増えるが、他人との触れ合いの邪魔をするのは俺の美学に反するので除外しておく。 ――――さて、誰と話すとするか。 ・教室の隅っこで裁縫に全力を注いでいる、金髪の少女 ・同じく端っこで読書に耽る、紫髪の少女 ・手帳を片手に、何やら原稿用紙にペンを滑らせている黒髪の少女 若干の逡巡、だが決断は素早くクールに、それが男。 霊夢と魔理沙の二人にアイコンタクトを取ると、俺は席を立って歩き出した。 ◆ 俺たちが歩み寄れば、彼女は本から顔を上げてこちらの顔を見据えた。 その顔立ちはやや幼くもあるが、やはりこの学園のルールに則ってか整っている。 「いえ、そんなルールはないと思いますが……」 ルールと言うのは誰かが決めるものではなく、事実や事象から法則性を見つけ出すものではないだろうか。 「はあ、確かにそうですが……」 困ったように返答する少女は、古明地 さとり。 クラスメイトの一人にして、俺の意中の相手である。 「あなたの意中の相手は、何人もいるようですけど」 おや、これはお恥ずかしい。 しかし勘違いしないでほしいのは、俺は決して軽薄な気持ちで愛を謳っているわけではないと言うことだ。 俺は別に、美人だったら誰にでも求婚しているわけではない。 いろいろな付き合いを経て、その女性のことを真に愛し、幸せにしたいと思った相手にのみこの心を告げているのである。 不純な気持ちなど一切ない。 「相手が複数いる時点で不純だと思いますが……」 さて、彼女が地の文に対してツッコミを入れているのは、決してこれが一人称型の作品だからではない。 彼女は、相手の考えていることが読み取れると言う。 それも、心理士やカウンセラー ――まあ、こういった職業に疎い俺には名前が合っているのどうかすらわからないが―― の類ではなく、 一目見るだけで相手の心が手に取るようにわかるらしい。俺のハートもわしづかみである。 それには様々な理由があり、それこそがこの学校が異常と言われるゆえんなのだが、まあそれは後述するとしよう。 ともかく、普通の人間ならば彼女と相対するだけで心の中までスッケスケなのである。 もちろん、今考えていることだって彼女は読んでいるのだろう。 しかし、心の奥底まで覗かれてしまうと言うのは少々の羞恥と興奮を覚える設定だと思う。 いやん、見ないでよぅ、えっちぃ/// 「すいませんが帰ってくださいますか」 読書の途中に邪魔してしまったな、悪い。 「いえ、ただの暇つぶしですから構いませんが……」 そう言ってもらえると助かるな。 そうだ、暇なら俺と楽しいことをしないか? 天にも昇る気持ちになれるぞ? 「丁重にお断りさせていただきます」 そうか、怪しいことに近づかないのは賢い判断だな。 お兄さんとしてはやや残念だが。 「と言うより、もうすぐでホームルームが始まると思うのですが」 「なあ、お前らが何話してるのかわからないんだが」 「そうか、では俺の心の中を見てみるか? バラ色だぞ」 「ピンク色でしょ」 「まるで俺の頭の中が性欲まみれのような物言いだな。 違うぞ、俺は愛欲が旺盛なだけだ」 「変わらないだろ」 しかし、彼女らとはこうして口頭で思っていることを告げねばならないのだが(それが楽しくもあるのだが)、さとりとの会話は楽でいい。 勘違いをさせてしまうこともなく、しかも俺の恋慕の情が直接伝わってくれるのだから願ってもない。 普通の人間は考えていることが読まれたら気味悪がるだろうが、俺は被虐体質‘でもある’ので、羞恥プレイの一環だと思えば何とも性的な昂ぶりを覚えるではないか。 「……貴方は変な人ですね」 「そうだな、変なやつだな」 「そうね、こいつ変態だもんね」 「何だ何だ、少女たち。今度は言葉責めか? ふふ、よほど俺を喜ばせたいと見える」 「あんた本当に過去に何があったの」 「ダンディな男ってのはミステリアスなもんさ」 「ダンディな男は常に性的なことを考えてたりしないぜ、少なくともな」 「いえ、私が言いたいのは変態だとかどうとかそう言うことではなくてですね」 慌てふためいているさとり嬢は、外見とあいまって実年齢よりも随分と低く見える。 何とも可愛らしいその様は、幼い少女のよさを再認識させてくれる。 未発達な肢体を俺のものにすることを今から考えれば、なんと心躍ることか。 しかしいけない。幼女は花、花は手折るものではなく愛でるものである。 「人を勝手に幼女扱いしないでいただけますか――――って、話が逸れますね、さっきから」 「こいつのせいね」 「こいつのせいだな」 びっと俺を指差す少女二人。 人に指を突きつけるのは失礼だと習わなかったのだろうか。 まあそれも女の子にバカにされてるようで興奮するが、ともかく俺が子供をもった時はしっかりと礼儀正しい大人に育ててやるとしよう。 そうだ、さとりは子供の名前は何がいい? 「何で私に聞くんですか」 そりゃお母さんになるんだからな、夫としては妻の意見を尊重したいのだが。 「少なくとも今は貴方の妻になる気はありません」 ぴしゃりと断る彼女だが、『少なくとも今は』と言う言葉はつまり、これから先には可能性があると言うことだ。 人の心を無意識に読むが故の、傷つけぬようにする小さな心遣い。 こういう気配りができるのだから、全くもっていい女である。妻にほしくなってしまうではないか。 「って、私が言おうとしたのはそういうことではなく――――」 やや怒り気味のさとりが立ち上がれば―――― キーンコーンカーンコーン、と、何とも古きよき臭いのするチャイムが会話を中断してくれたのだった。 「む、空気の読めないチャイムだな。 愛する男女を別つのが趣味なのか、時間と言うのは」 「別に私の方は貴方を愛しては――――」 「ほらほら、後にしなさい、後に」 「急がないと先生が来ちゃうぜ」 俺を置いて撤収する霊夢と魔理沙を見送って、俺は笑いながらさとりに手を振ると、悠然とした足取りで席へ戻ったのだった。 彼女が疲れた顔をしていたのが気になったが、今はホームルームをやりすごすほかない。 後で精のつくものでも差し入れておくとしよう。 生徒全員が席に着いたのを見計らったように、教室のドアが開け放たれたのだった。 ────────────────────── 「きりーつ、れーい」 日直を担当する生徒の号令を合図に、生徒が一斉に頭を下げる。 それから順々に着席していって、我がクラスの担任が教団に立つ。 ――――上白沢 慧音。 説明不要、綺麗な大人のおねーさんである。 その長い髪に顔をうずめたいと見る度思うのは、まあ不可抗力と言うやつだ。 しかし俺は紳士、同意を得るまで手は出さないのが絶対のルール。 それにしても女教師、なんと素晴らしい響きだろうか。 生徒である俺にはさらに禁断の関係もプラスされるので、もうフィーバーを越えて打ち止めだ。 昨年も担任の教諭が彼女だったので知り合ったが、こればかりは運命の巡り会わせと言うやつに感謝しよう。 同級生から用務員、更には担任に至るまで美人揃いとは、全く持って喜ばしい環境だ。幸せで死んでもおかしくない。いや死なないが。 まあそんな俺の思考はさておき、彼女はざっと生徒たちを見渡すと、話を切り出した。 「さて、学年が変わって丁度一ヶ月、皆もう慣れてきたころだと思うが――――」 話に、ふと思い返す。 進級して、一月。当たり前と言えば当たり前だが、既にクラスのメンバーの顔と名前ぐらいは完全に把握している。 そして、この学校に入学し、既に1年と一ヶ月が経過しているわけだ。 1年生の内はまだ最低学年と言うこともあり、‘俺としては’、あくまで‘俺としては’大人しくしていたわけだが、ついに中堅学年になった。 まだ立場もはっきりとしていないころは、まだ堅実に生活・活動せざるを得なかったわけだが、そろそろ動き出すのも悪くない。 一生に一度の高校生活、一花咲かせて見せようではないか。 ひとまずは眼前にそびえる行事、『体育祭』。 校風と同じく普通とは一味違うこの祭りは、自らの名を上げるチャンスとなるだろう。 俺の思考と慧音先生の話は、並列して進む。 「一ヶ月と一口にいっても、長いようで短いものだ。 まだ勝手のわからない下級生への手助けなども、無理にとは言わないが、出来る限りしてやるんだぞ」 はーい、と返事の声が、教室のそこかしこから上がる。 うむうむ、コールアンドレスポンスは大事だ。 それはともかく、話題に上がった‘新入生’と言う単語。 つまるところ、俺たち2年生にとっては後輩にあたるわけだ。 後輩。これもまたいい響きである。 まあ後輩の魅力についてはともかく、思い出すのは今年の入学式。 正直歓迎するのなら3年生の生徒会あたりだけ出ればいいのではないか、2年生出る意味ないんじゃないかと当時は思っていたが、 だからと言って文句をたれつつパイプ椅子に背中を預ける作業に専念するのは非生産的すぎる。出来る男は時間を有効活用するものだ。 昔と言うほど前のことでもないが、言われてみれば懐かしい出来事のような気もする。 男は過去を振り返らないものだが、たまには古い記憶を掘り返すのも悪くはないだろう。 ◆ 入学式を行うのは、まあ当然ながら体育館だった。 学校説明会で設備の充実を謳っていた通り、快適な温度が保たれていたのが印象深い。 さて、前述のとおり、俺は入学式中、一つの任に取り掛かっていた。 その任と言うのは、 校長先生のありがたい話に耳を傾けることでもなく、 目の前のやつの椅子を蹴り上げたあとそ知らぬ顔をするいたずらでもなく、 ここまで答えを絞れば大体の諸氏は感づいたであろうが、新入生のチェックである。 この俺が行う以上、無論ただの素行チェックにはなり得ない。 ぼけっと座る野郎共は無視、まあ面白いやつがいたら後々引き抜けばいい、狙うは女子生徒。 名前順で椅子に座っているためか、男女きれいに分かれているわけではなかったものの、俺の鷹の眼の前にはその程度些細なこと。 首は正面を向けたまま、目だけ動かして、並んで座る新入生たちを一瞥する。 ――――流石、ここに入学してきただけのことはある。 一般の私立高校などと比べ、まず平均的なレベルが突き抜けているのだ。 中でもひときわ目立つのは―――― あ行に座っているのですぐ見つかった、銀髪の少女。 凛々しい顔立ちに反して、その背丈はちっこい。なんというギャップ。 その上、頭についているのは動物の耳。柴犬みたいな、ピンと立ったタイプだ。 そんな目立つ耳がついていることに疑問を感じた方もいるだろうが、まあそれは後で語るとしよう。 名前は何だったか、記憶の海を探る。 確か学校に入ってすぐに掲げられていた掲示板に、新入生全員の名前が書かれていた。 一応、女の子っぽい名前だけ厳選して記憶に叩き込んでおいたはずだが―――― あ行、そしてかなり先の方に座っているので、おそらくは『う』から前。 そして椅子が何列目にあるかで、クラスを絞り込むことが出来る。 あそこのクラスの女子で、あ~うの―――― 思い出した、犬走だったか。 犬走 椛、そう言えば同じクラスの新聞部部長が前に話していたような気がする。 何でも、彼女の知り合いらしい。話に聞く限りでは随分仲がよさそうだったが。 まあ、犬走については後で聞き出せばいいだろう、次のターゲットを探る。 今度は後ろから行ってみるか、と視線を走らせれば、目に付いたのは長いウサギの耳。 視線を下げれば、そこには綺麗に整った顔がある。 赤い目と、薄い紫色で染まった長い髪が特徴的だ。 後ろから名簿とクラスの両方で絞込み、名前を割り出していく。 椅子の位置的に、ファーストネームはクラスの最後尾。 それさえわかれば、後は容易く特定できる。 鈴仙・優曇華院・イナバ。 目立つ名前だったのと、後は保健室の先生が何度か口にしていた名前だけあって、割と覚えているほうだったのが幸いした。 女生徒だと言うのに、何故か男物のブレザーを羽織っている様に見えるが、そうだったらむしろ来るものがある。 まあ俺の性癖はともかくとして、次の獲物に移るべく俺が視線を走らせれば、新入生は立ち上がって退場を開始していた。 校風の一つに『めんどっちいのは避ける(※意訳)』みたいな項があった様な気がするが、まさか入学式がこんな早く終わるのは予想外だ。 去年はどうだったかなんてとっくのとうに忘れている。仕様があるまい、あのころの俺は若かった。 まあ入学式なんぞ長引いたところで何の得もない、俺たちはとっとと教室に退散したのだった。 ◆ 以上、回想終了。 随分長い思い出話になってしまったが、『体育祭』への足がかりとして新入生につばをつけておくのもいいだろう。 割と早めに終わった慧音先生の話と同じく、俺は思考を切り上げて、ホームルームが終わって若干空気の緩んだ教室の中を歩いていく。 他クラスへの授業へと向かった慧音先生の後を追って、廊下に出た彼女の背に声をかける。 「お荷物、お持ちしましょうか」 「ん? 手伝ってくれるのか?」 「ええ」 「すまないな、助かる。じゃあ、こっちのを半分――――」 「いえ、せっかくですし全部持ちますよ」 「いや、それは悪いだろう」 私は教師なんだぞ、と渋る慧音先生だったが、 「慧音先生は教師である以前に女性、であれば、体を使う仕事は男性に任せるものですよ」 「まぁ、お前がそう考えているんだったら否定はしないが」 「俺は思うんです、確かに外に出て働く女性もいいですが、妻が家を守ってくれると男は安心できるもの。 どうでしょう、俺が働くので慧音先生には専業主婦として――――」 「……話が見えないんだが」 「未来の話ですよ。俺たちの」 「……何故私がお前の妻になっているんだ?」 「あ、俺が婿に出ても構いませんよ」 「そういう問題じゃない……」 疲れたようにため息をつく慧音先生。 その隙を狙い、彼女の腕から、俺は資料やら教科書を頂戴した。 「あ、こら」 「それとも寿退職ですかね、ああ、次の授業は1年2組でしたっけ?」 「ああ、そうだが――――」 「慧音先生は寿退職をご希望、と」 「……そっちじゃない」 痛んでいるだろう頭に手を添える慧音先生の先を歩き、俺は一路1年2組の教室を目指したのだった。 ◆ つま先を扉に引っ掛けて、ふさがった手を使わずに扉を開けると、俺は1年2組の教室へと入室した。 節度を持った生徒が多いのか、教室内での会話はあるものの、馬鹿騒ぎにはなっていない。 うむうむ、これがあるべき学生の姿だ。感心しつつ教卓に荷物を置き、視線を滑らせることで教室中を見渡す。 お目当ての人はすぐに見つかった。 鈴仙・優曇華院・イナバ。 何やら同じ女子生徒と話しているが、授業が始まると見て別れたらしい。 何と行儀のよい生徒だろうか、今の子供にはこの真面目さが足りないのだ。 まあそれはともかく、自然な動作で俺は彼女に近づくと、にこやかに話しかけた。 「鈴仙さん、でいいかな?」 「ええ、はい、そうですけど」 何らかの業務的な連絡だと思ったのだろう、彼女は俺の姿を認めると、まっすぐに見つめ返してきた。 思ったより素直で、コミュニケーションの取りやすい性格のようだ。ありがたい。 俺は彼女に気持ちずいと近づいて、 「君が必要だ。 君がほしい」 それだけ言った。 「……はい?」 「ああいや、返事はすぐでなくて構わない。 君にもいろいろ事情があるだろうしな、入学してそれほど経ってもいない、不慣れからくる苦労もあるだろう。 だが、俺には君が必要なんだ。どうしても」 俺がまくしたてれば、彼女は状況を把握できていないのかたっぷり3秒ほど固まった後、 「あ……え? い、一体これは……あの……?」 「面識もないのに誘っては難しかったか。 ともかく、こんな男がいたと言うことだけでも覚えておいてほしい」 それでは、と俺は軽く手を上げると、慧音先生に見つかる前にさっさと教室から撤収した。 ◆ 完全に誤解されただろうが、別段俺は彼女にプロポーズをしたわけではない。 むしろ誤解されるのが狙いだったわけだが、まあこれはその時がくればわかるだろう。 俺が彼女に求めていたのは生涯の伴侶ではなく、『体育祭』の戦力である。 早いうちから勢力を拡大しておかねば、強豪に飲まれてしまう。 では、そろそろ体育祭の説明をしておこう。 この学校、いたって普通に三勢力程度に分かれて行うありがちな体育祭に加え、もう一つ、有志のみで行う『体育祭』がある。 便宜上、まあ運動会と呼称しようか。逆にわかりづらくなりそうな予感もするが。 さて、体育祭、これ自体は至って普通だ。 リレーやら組み体操やら応援団やら、まあそんなありがちなものを執り行う。 で、もう一方の運動会。 これは非常に特殊であり、有志のみの参加となる。 出たくない人は別段、欠席しても構わないし、それは公欠扱いだ。 内容は生徒たちの間で自由にグループを作り、各々の全身全霊で学校側から出された競技に挑むと言うもの。 勝利者となった面子は学園内で一躍有名になると同時、学園側からの様々な恩恵を受けることが出来る。 内申点のプラス、一部施設の利用許可、文化祭時のクラスの予算増額、授業料の還元、などなど…… そんなうまい話には、当然裏がある。 それは、特別に『能力』の使用も許可される、と言う点だ。 能力。 いやまあ、これは俺の妄想設定でもなんでもない。 さて、そろそろこの学校の異常性について説明するとしよう。 超能力者、と言う存在が世の中にはいるらしい。 スプーン曲げだとか、世紀の大脱出だとか、発勁だか何だか、気功波みたいの出すおっさんとか、そう言ったそれだ。 アレをトリックでも何でもなく、自力でやりとげてしまう連中と言うのがいる。 冗談ではなく、本気で。 この学校は、そう言った存在をかき集めた場所なのだ。 大分前、入学試験の話をしたと思う。 その時に行った『実技試験』と言うのが、まさしくこれ。 学力検査に加えて、受験生が持っている能力を確認・実験する。 これの結果次第では、学力検査の成績が悪くても入学が可能になる。 霊夢や魔理沙がこの学校に入学したのは、それが理由なのだ。 まず、博麗 霊夢。彼女、ただの神社の巫女さんだと思っていたら、何でも博麗の巫女とか言うぶっとんだ存在らしく、 その気になれば空ぐらい余裕で飛べるらしい。再三言うが、決して俺が電波を受信して嘘八百を並び立てているわけではない。 学校側がつけた呼称は、『主に空を飛ぶ程度の能力』。主に、と言うのが気になるが。 次に霧雨 魔理沙。彼女、魔法使いらしい。箒に乗って空を飛んだり、手からビーム出したりできるんだとか。 再三言うが、決して俺が妄想をノートに書き込んでいるわけではない。 学校側がつけた呼称は、『魔法を使う程度の能力』。まんますぎる。 んで、古明地 さとり。これは前に説明したが、彼女は人の心を読む力を持っている。 しかも目を合わせたり身体に触れる必要もなく、彼女の視界に入るだけで思ってることがだだもれになるのだ。 学校側がつけた呼称は、『心を読む程度の能力』。確かに、シンプルな方がわかりやすいが。 お偉いさんのネーミングセンスはともかくとして、 この学校にいるやつのほとんどが、こう言ったそれぞれの力を身に着けている。 この学校の施設がやけに整っているのも、そのため。 それらの異能を、産業や科学技術の発展に活かし、それによって莫大な利益を得ているのだ。 もちろん生徒の了承を得て行っているわけだが。 ことの起こりは、随分昔のことらしい。 それらの能力を利用すれば、例えば今問題になっている地球温暖化やら資源不足やらも解決できるのではないか、 と言う試みの元、試験的に設立されたこの学校の原型が、見事大成功。 それから規模を大きくし、今では専門の研究所の様なものも出来ていると言う。 加えて能力者の保護も行っており、他人から疎まれる立場にある異常者――――能力者がまともに通える、数少ない学校でもある。 まあ、まともに暮らしたいのだったら能力を伏せていればいいのだが、それを隠し切れないやつもいるのだ。 例えば、下級生の犬走や鈴仙。彼女らの頭には、耳がある。 帽子をかぶれば隠せなくもないが、流石に乗り切れないときも存在するもので、そう言った生徒を差別なく扱うのも、学校側の保護の一環なのだ。 これだけ見ると中学生の妄想のようだが、少なくとも俺にとってはこれが現実である。 ちなみに、何故俺がこの学校に入れたかと言うと、実を言えば能力持ちだからだ。 と言っても、霊夢や魔理沙の様に立派なもんでもないし、さとりのように特殊なものでもない。 で、俺の能力は何かと言うと――――― 『女性のスリーサイズがわかる程度の能力』、だったりする。 なんともアホくさい上に使えない技能ではあるが、実はこれがなければこの学校に入学すらできなかった。 何故かというと、実技試験の時相手をしてくれたきれいな金髪のおねーさんのスリーサイズを言い当てたところ、 扇子で顔を半分くらい隠しながら、他言無用をきつく言いつけられたのだ。 で、これを交渉材料に何とか入学に成功したわけだが、学力検査の結果は散々だったらしい。 これのおかげでどうにかこうにかやっていけているのだから、能力様さまである。 それで、俺はこの能力を持っていることを誰にも打ち明けていない。 そりゃそうだ、見られただけでスリーサイズがわかる男になんて、女性なら誰も近寄りたくあるまいよ。 と言うわけで、俺は学校でも珍しい‘謎の能力を持つ男’として登校している。 まあ、何で俺だけこんな地味で使えない能力なのか、謎と言えば謎だが。 ついでに言っておくと、金髪のおねーさんのスタイルはめちゃくちゃよかった。 ◆ あの後、俺は自分の教室に戻ってお行儀よく椅子に腰掛けていた。 学校の校訓と言うか、指導の基本方針は、『社会に出ることの出来る力を身につける』こと。 一字一句丁寧に覚えていないので間違っているかもしれないが、この言葉にはもちろん能力のことも含まれている。 であるから、授業内容は非常に独特と言うか、学校っぽくない。 必要最低限のことは教えるが、‘まあ正直、高校の授業の内容なんて社会に出たらあんま必要ない’と言う生徒一同の考えも相まって、 教えるのは道徳的なことや、人間関係について、他にも業務の体験、あるいは意見の交換・討論と言った、実践的・実用的なものが多いのだ。 いくら私立校とは言え、いろいろと大丈夫なんだろうかと不安になる。 まあ、正直勉強があまり得意でない俺にとってはありがたい仕様だが。 しかし、今の時間は必要最低限とされる授業の間に入っているらしい。 踊るアルファベットと、頭の中を駆け巡ってごんがらがる文法に嫌気がさした俺は、バレずに寝る方法はないかと模索しつつ、何とか授業をやり過ごしたのだった。 ◆ 終業を告げるチャイムが鳴って、ようやく休み時間が訪れる。 席が近いことも手伝って、俺はいつも通り霊夢・魔理沙と共にだべっていた。 授業の張り詰めた感じと違って、このゆるい雰囲気はなんとも心地よい。 「英語は苦手だ」 「何で?」 「愛を語る言葉が少なすぎる。 やはり日本語は素晴らしいな、賛美の表現の多さや言葉の響きの美しさは世界に誇れるものだと思う。 そう思わないか、霊夢よ」 「いやまあ、私も英語よか日本語の方が得意だけどさ」 「だろう? コミュニケーションの大切さを説いている俺だが、言語の壁はやや大きすぎる」 「私も同意見だ。 ここは日本なんだし、日本語で話すべきだと思うんだが」 「駄々こねてないで勉強しなさいよ」 「くっ、霊夢には俺の思想が理解できなかったか……残念だ。 魔理沙、やはり新婚旅行は外国より日本にすべきだな」 「ああ、私もそう思う。が、とりあえず今からお前と旅行に行くつもりはないぜ」 「また俺の考えていることを読んだと言うのか……以心伝心と言うやつだな」 「めげないのねあんた」 「ふふっ、男と言う生き物は不屈の闘志を持っているものさ。 どうだ霊夢、こんな男を一生支える気はないか?」 「ない」 「そうか、残念だ」 雑談を続けながら、思考をめぐらせる。 運動会で名を上げるためにどう動くかの計画と、仲間に引き入れるべき人員の選抜。 今から勝負は始まっているのだ、気を引き締めねばなるまい、と、俺は覚悟を決めたのだった。 ────────────────────── ようやくの昼休み。 教室で友人たちとの会話に興じるのも、 校庭に出てさわやかにスポーツに打ち込むのもいいが、 何はともあれ昼食である。 そもそも、食事と言うのは生きていく上で欠かすことの出来ない要素。 エネルギーを補充し、身体に活力を満たすその行為は、人間健康的に生きるべきであると言う俺の主張にとっても、たいへん重要な意味を持つ。 そんなわけで、俺たちは昼食を取ることとした。 そもそもこの学校、昼休みの時間を長めに定めることでその時間で昼飯をすませる形式なので、チャイムと共に皆動き出すことになる。 「さて、今日はどうする? 食事は大事だぞ、丈夫で強く、美しい体を作るのならきちんと三食食べねばならない。 強い子を産むためにも、しっかりと食べるべきだ」 「まぁ、そうだな」 「少なくともあんたの子は生まないけどね」 「そうか、それは残念だ」 かぶりをふる俺から視線をそらして、霊夢は黒板を一瞥する。 端のほうに白いチョークで書かれた曜日を確認すると、彼女は思い出したように、 「あんた、今日バイトじゃないの?」 「ああ、その通りだ。 どうだ、二人も食べに来るか? 特別メニューを出そう、俺の愛山盛りだぞ」 「私はお前の愛より調味料の類がほしいぜ」 「愛に勝る調味料などないぞ、魔理沙」 「いいから新しい七味買ってきなさいよ。前に使い切られたまんまで、空っぽの置いてるじゃない」 「愛は時に辛いものだ、愛さえあれば辛味はいるまいよ」 「いいから買って来いよ」 話の内容からわかる通り、俺は曜日によってアルバイトに従事せねばならない。 さて、これもまた内容から伺える通り、バイト先は飲食店、この学校の食堂なのだ。 花婿修行として幼少より家事炊事の練習を重ねてきた俺の調理スキルを生かす場として、自ら選んだ職場である。 この学校、校内でアルバイトを募集しているのだ。 経費削減の為か、内容は俺の勤務先である食堂の手伝いや、 裏庭の草むしり、体育館の掃除、窓拭きなど肉体労働が中心だ。 金額もそれなりであり、何より、当然といえば当然だが立地条件が非常に優れている点が生徒に人気で、部活よりバイトに精を出す者も少なくない。 しかも将来そう言った職に就くことを想定してか、何と学生である俺が鍋を振るえると言うおかしなことになっている。 去年はずっと下積みだったとは言え、一年の修行で自ら料理を作れるようになるとは、随分と豪気と言うか何と言うか、おかしい気がする。 これもまた、この学園の異常性の一つだろう。 幸い苦情も出ておらず、生徒が食堂で働いていると言う話題性のおかげか、意外にも好評で助かっている。 そんなわけで、俺はまれに二人を職場に招いたりする。 「では、食堂で決定だな。席を確保しておこう」 「悪いな、いつも」 「ふふ、そうは言わない約束だろう。 二人で互いに支えあって生きていくと決めたじゃないか」 「そんな約束してないぜ」 「私もね」 彼女らの苦言を流しつつ、俺は教室から背を向けて、階段を降りていったのだった。 ◆ この学園の食堂は食券制であり、券売機で購入した券を受け取って製作に取り掛かる形を取っている。 冷凍・レトルトのものを使わないため手間がかかるものの、それに対応すべくバイトの人数を増やしているので、割と切り盛りできていたりする。 時間がかかるのが難点だが、そこにこだわっている生徒もいるし、昼休みが長いのもあって、繁盛していると言えなくもないだろう。 ただ、人気があるのは嬉しいことだが、その分仕事が増えるわけで。 「おい、塩と砂糖の位置入れ替えたの誰だよ!?」 「誰か大皿出してくださいっ!」 「野菜切っとけって言ったろうがっ!! 仕事しろっ!!」 「やべえ足つった痛ってぇぇぇぇっ!!」 「出汁こぼしたやつちゃんと床拭けよぉ」 「お前らうるさくてオーダー聞こえないんだけどぉぉぉ!?」 まあこんな具合に、混沌とした様相を呈しているわけだ。 普通の飲食店ならばこんなことはないのだろうが、いかんせん学生が主だとこう言った騒がしい感じになる。 厨房の端を見てみれば、数人しかいないおばちゃんたちは黙々と注文の品を作り続けていた。流石プロだ。 さて、クールでスタイリッシュな男を自負している俺としては、この騒ぎに乱入するのはあまりよろしくない。 ともかく混乱を避けつつ、オーダーが入ったらただそれを消化していく他ないのだ。 きつねうどんの注文を受け賜りつつ、俺は冷蔵庫にあったはずなのに行方不明になった油揚げの捜索に取り掛かった。 きちんと煮たものでない新しい油揚げでは、どうやっても味が落ちてしまうのだ。 ◆ 「しかし厨房は暑いな、春先だと言うのにまるで夏場のようだ」 「お疲れ様、はいお水」 「せっかくだから口移しで頂きたいのだが……いや冗談だ、そう怖い顔をしては綺麗な顔が見れなくなってしまうからやめてくれ」 「なあ、誰か七味買いに行かないのか? 結局きつねうどんを七味なしで食べきることになってしまったんだが」 「今は暑いので七味は結構だ」 「お前が使うんじゃなくて私が使うんだよ」 「水に七味を入れるとは、随分とアグレッシブだな魔理沙。 刺激を求めるのは悪いとは言わないが、若いうちから無茶をすると火傷するぞ」 「七味じゃ火傷しても舌ぐらいですむから、早いとこ七味補充してくれ」 「魔理沙の舌、か……想像したら興奮してきた、ちょっと口を空けて見せてくれないか」 「七味買ってきたら見せてやるから」 「霊夢、七味を買ってくるので先生によろしく頼む」 「放課後まで学校から出れないでしょうに」 「――――何と言う……ことだ……」 「あんたバカでしょ」 バイト終了、力なくテーブルに突っ伏しながら、俺はいつも通り二人とだべっていた。 昼休み終了まではあと数分だが、昼休み後十分程度の休み時間を挟んで授業が始まるため、割とゆっくりしていても遅刻することはない。 五分前行動は大人のマナーだが、たまにはゆっくりと休むことも大事だ。 特に職務に従事した後は、体の熱と疲れを若干でも放出しておかないと大変なことになる。 汗をだらだらと垂れ流す男は、女性の生理的嫌悪感をあおるものなのだ。 「確かに、汗だくの男性は見ていて気持ちのいいものではないな」 「まぁ、そりゃあな」 「しかし女性だとむしろ興奮するのだが……なあ霊夢、腋に鼻先を埋めさせてもらえないだろうか」 「死ね」 「死ぬ前に七味買ってきてくれ」 「了解した、七味を買ってくれば霊夢の腋を好きにしていいのだな?」 「死ね」 「お前の頭もうだめになってるんじゃないのか」 熱と言うのは、人をおかしくするものだ。 ◆ さて、昼食と共に午後の授業を消化し、俺たちは晴れて自由の身となった。 と言っても、クラスの中には去年から引き続き部活動に所属している連中もいるだろうし、 委員会やら生徒会やら、まあそう言ったこなすべき責務を抱えているやつもいるだろう。 と言うわけで、終業のチャイムと共に、大体の生徒は各々の持ち場に移動するので、教室に残る者はほとんどと言っていいほどいない。 まあ、部活に所属していない、あるいは幽霊部員の称号を持っているやつは、早いとこ帰宅したいと考えているだろうから、これが普通のことである。 と言うわけで、俺たちも下校の路を辿る――――のだが、今回ばかりはそうもいかない。 「とっとと帰ろうぜ、私は出来る限り早く学校と言う束縛から解き放たれたいんだ」 「魔理沙を束縛するのか……縄もいいが鎖でもいいな、普段活発な彼女を縛るなんて興奮するではないか。 なあ魔理沙、悪いが少しでいいから床に座って目を閉じてじっとしていてくれないか」 「服が汚れるから遠慮しとくぜ」 「断る要素はそこじゃないと思うんだけど」 「では霊夢はどうだ?」 「死ね」 「ふふっ、今日の霊夢はやけに辛口だな。昼食の時には七味は摂取していなかったと思うんだが」 本題から逸れまくる話の内容はさて置くとして。 「すまないが、今日の俺は帰るのがやや遅れそうだ。先に帰っていてくれると助かる」 「今度は何する気?」 「七味を買ってくるのか?」 「いや、買い物ではない。『体育祭』の戦力確保のため、東奔西走せねばならん」 「『体育祭』……って、運動会の方か?」 問いに俺が首を縦に振れば、魔理沙は面白そうに顎をなでた。 彼女は自身が興味を引かれる物事に対して、非常に意欲的になり、首を突っ込みたがるくせがある。 俺にとっては、その行動原理は悪くない。 自身の考えていること・思っていることを口に出せること、また行動力が備わっており、それに足る実力があること。 これはすばらしいことである。 「今年はどうするの? 去年は観戦に徹してたけど」 「俺の名を上げるいいチャンスになりそうなんでな。 学校側から出る『優勝商品』も頂きたいところだ、挙兵し、俺がこの学園の覇を握る」 「下克上ってやつだな」 「まったく物騒な話だこと」 「どうだ、二人も俺の軍に入る気はないか? I want you, I need you」 「ん~……どうするかな」 「私は面倒なのは嫌いなの、悪いけどお断り」 乗り気でない二人、しかし俺はこの程度で挫折する男ではない。 「今年の優勝商品には食券があるらしいぞ。なんと十万円分」 「私、参加するわ」 「全く現金なやつだな、そこがまたかわいいんだが」 「霊夢がやるなら私もやるぜ」 「魔理沙も協力してくれるか、ありがたい。 では、二人ともこの参加申し込み書と婚姻届にサインしてくれ」 「さらっと重婚しようとすんな」 差し出した緑色と白黒の紙は、しかし片方しかもって行かれることはなかった。 最近の流行はモノトーン調らしい、覚えておくとしよう。 「よし、これで二人は俺の軍の所属になった。 それと言っておくが、 他の男に声をかけられても聞いてはいけませんよ、食べられてしまいますからね。 最近の男共はさわやかな男の皮を被った狼なのです、隙あらば女の子に接触しようとして来るのですから」 「お前は童話のおばあちゃんか」 「ってかあんたが言えたセリフじゃないでしょ」 「だがこれは真剣な話だ、くれぐれも他の男の誘惑に乗せられるなよ。 もしそうなれば俺は人生で初めて殺人を犯すかもしれん」 「もはや脅迫だな」 「そんな心配しなくても、あんたとの約束は破らないから安心しなさい」 「やばい今本気でキュンときて何も言えないんだが霊夢結婚してくれ」 「嫌」 さて、何はともあれ俺の軍団にいつもの二人を引き込むことに成功した。 それと霊夢の好感度が急上昇中だ、まったく愛いやつめ、そろそろゲージが振り切れてしまうではないか。 ◆ で、彼女らを釣る餌となった優勝商品について説明しておこう。 前に言った通り、運動会での総合優勝者は学園側からの恩恵を被ることができる。 内容も前述の通り、内申点のプラス、文化祭時のクラス予算増額、授業料の還元、食券の譲渡などなど…… しかしながら、優勝したグループの全員にそれを渡すのは、学校としてもやや厳しい。 と言う訳で、人数と景品は反比例の関係に置かれている。 勝利した軍の人員が少なければ少ないほど、商品が豪華になっていくと言う仕組みだ。 もちろん人数無制限と言うルールがある以上、メンバーは少なければ少ないほど不利になっていく。 しかし、参加する意義とイコールであるご褒美を欲するのなら、意図的に数を減らさなければならない。 これもまた実力主義の校風の表れであり、少ない人員をどう割き、どうやって最大限の成果を出すかを考える、授業の一環なのである。 ともかくここが重要な駆け引きの一つであり、勝負は運動会前のこの時期から始まっているのだ。 であれば、種目に合わせて策を練らねばならないのだが、軍のメンバーの構成を提出するのは、なんと競技発表の前なのだ。 未来は何が起こるかわからない、人生一寸先は闇であると暗に示しているのだろう。 社会の厳しさを学生時代から味あわせるのが目的らしい。 しかし、俺は型にとらわれない男。 八方塞な状況から抜け道を探すのは、他の誰でもない俺の専売特許である。 ◆ 「俺はこれからメンバー探しに赴くわけだが、二人はどうする?」 「まぁお前がいなかったらいなかったで暇だしな、付き合うぜ」 「あんたらだけじゃ不安だし、私もついてくわ」 「まったく付き合いのいい連中だ、愛してるぞ」 「それじゃあ、どこに探しに行くんだ?」 「3年生はどう? 実力は折り紙つきらしいけど」 「同じグループ内に先輩がいると、どことなく気まずくないか?」 「長い間一緒にいるけど、あんたが場の空気を気にするタイプだとは気づかなかったわ」 「ふふっ、今度は放置プレイと言うやつか。これはこれで昂ぶるものだな」 さて、俺の性癖にはノータッチで行くとして、これからどう動こうか。 ・下級生にはルーキーがいるかもしれん、俺の発掘スキルの見せ所だな ・手堅く同級生から行こう、連携の取りやすさは随一だ ・ぶっ飛んだ噂の多い上級生に突撃してみるか、切り札になってくれるかもしれん 若干の逡巡、だが決断は素早くクールに、それが男。 霊夢と魔理沙の二人にアイコンタクトを取ると、俺は目的地に向かって歩き出した。 ────────────────────── 俺たちが一路目指したのは、やはり2年生、それも他クラスの教室であった。 と言っても、既に時分は放課後。 先ほどまであった生徒たちの活気は、鳴りを潜めている。 さて、俺の目的は空き教室漁りではない。 釘を刺しておくが、好きな娘の机の中を探索するわけでもない。 乙女の花園を土足で踏み荒らすほど、俺は人間の出来ていない男ではないのである。 では何故俺が他クラスの教室を目指しているかと言うと、こんな時間まで教室に残っている変わり者を探すのが目的なのだった。 「あんたに変わり者呼ばわりされるなんてかわいそうなそうな人もいたものね」 「変わっていることと悪いことは――――これ前に言ったな。 ともかく、変わり者を集めなければ、戦に勝つのは難しい。 物量作戦も悪くはないが、ただ兵をかき集めただけでは烏合の衆と成り果てる」 「指揮はお前の担当だろ? そこをどうにかするのが腕の見せ所じゃないのか?」 「目当てが優勝商品である以上、あまり人員を増やすのは得策ではないからな。 であれば、各方面に特化した連中を集めて少数精鋭の軍を作り、適材適所に当てはめていくのが良策と俺は見る」 「ま、そう言うことやるのは全部あんただからいいけど、やるからには勝たないといけないんだからね」 「それについては案ずるな、かつて伏龍と呼ばれた俺の軍略を見せてやる」 「全国の孔明ファンに謝罪しなさい今すぐ」 廊下を歩きながら、運動会で勝ちを狙うための作戦を説明しておく。 スムーズな連携を目指す以上、事前の確認は欠かせない。 特に、体育祭と違って『能力』の使用が許可される運動会では、一瞬の油断が命取りとなる。 ぼうっとしていたら次の瞬間には黒こげになっていました、など冗談ではすまされない。 流石に殺生は禁止されているものの、競技上の過失はある程度なら容認されるため、それ相応の覚悟が必要だ。 「言っておくが、決して無理はするな。 男ならばいいが、女性なら体の傷は一生ものだ、危ないと感じたら即座にリタイアしろ」 「お前よりは頑丈だと自負してるがな」 「そういう考えが一番危険だぞ。 生涯背負っていかねばならなくなるやもしれんのだ、これから先のことを考えれば、ここでの敗北など安いものだろう」 「私にとっては安くはないんだけど」 「そうなったら飯などいくらでもおごってやる。 ともかく、棄権は常に視野に入れておくことだ。注意するに越したことはない。 まあ、俺は体に傷跡がある程度で女性を差別したりはしないが」 「そうかい、そいつはどうも」 見たところ軽く聞き流しているようだが、やはり心配なものは心配だ。 いざとなれば、この身を呈して守らねばならなくなるかもしれない。 そのぐらいの覚悟、とうに出来てはいるが。 ◆ さて、話しているうちに新聞部の部室に到着した。 部室と言うより、教室であるが。 さて、この新聞部、一応設立時に部室の建造を持ちかけられたらしいが、それを断ってその分の予算を部費にまわしたらしい。 必要なのは印刷用の機器と原稿用紙程度である以上、専用の部室を作る意義は薄いためだ。 で、その分放課後に空くと言う教室を部室として利用している。 最初は部長のクラスが選ばれたらしいが、そこには授業が終わっても残る生徒がいるため、隣のクラスに移ることとなったと聞く。 そこで、俺はこの新聞部の部長を勧誘に来たわけだ。 教室のドアをノックすれば、はーい、と明朗な声が返ってきた。 引き戸を滑らせれば、そこにいたは机を二つ向かい合わせて原稿に向かい、黙々と作業に集中している二人の少女。 ショートカットにした黒髪と、学校のデザインとは若干違う制服が特徴的なのは、新聞部の部長にして俺のクラスメイト、射命丸 文。 ミニスカートから覗く生足がまぶしい。 こちらへの対応をしたらしい彼女は、ひとまずは右手を止めて、来訪者が何者かを確認しようと思ったようだ。 彼女は顔をあげると、にっこりと笑みを作った。営業スマイルと言うやつだろうが、かわいい女の子に笑顔を見せられて嬉しくない男などいない。 「おや、どなたかと思えば」 「作業中に邪魔したな。日を改めたほうがいいか?」 「いえいえ、構いません。貴重なネタを提供してくださる客人を拒む理由などありませんからね」 「そう言ってもらえると助かる」 「そこらの椅子におかけください。ついでにお茶でもお出ししましょうか?」 彼女は、誰が相手でも敬語を使う。 その理由は本人のみぞ知ると言ったところだろうが、察するに新聞を作成している者――ここでは記者と言おうか――としての、本能の様なものではないだろうか。 インタビューや取材をする以上、観察対象や相手は上の立場にあるため、記者と言うのは何者にも敬意を払わねばならない。 同級生に敬語で接するのには違和感がありそうなものだが、彼女にとってはなれっこの様だ。 彼女と話すときに敬語で罵られたいと思うのは異常ではないだろう。 「いや異常でしょ」 「やっぱりお前は変態だな」 「否定できないな。否定する理由もないが」 「おや、お二人もご一緒でしたか」 では三人分でよろしいですかね、と彼女は席を立ち上がる。 いくら予算が豊富にあるとは言え、ポットと茶葉、それに湯飲みを経費で落とすのは、何と言うかバイタリティに溢れていると思う。 彼女に礼を言って、椅子に腰を下ろしつつ視線を滑らせる。 姿勢よく椅子に座り、原稿用紙にペンを走らせているのは銀髪の少女。頭に生えた耳がなんとも目につく。 1年生の、犬走 椛と言ったか。 入学式で目をつけておいたが、なるほど、近くで見ればさらにその容姿端麗さがわかる。 サラサラと流れる銀色の髪にはつやがあり、入念に手入れがされていることが伺えた。 頭の耳はピンと立っていて、そこにはきちんと毛も生えていればごくたまに動いたりもする。どうやら本物らしい。 彼女もまた異常者の一人の様だ、いや俺のように性癖がではなく。 俺が彼女の観察に力を注いでいると同時、文はお茶を淹れ終わったらしい。 慣れた手つきで俺たちの前に鎮座した机に湯のみを置いていくと、原稿は一旦置いて、俺たちと話すべく対面の椅子に腰かけた。 「早速で悪いが、用件に入っても?」 どうやら別の仕事もある様だ、そう時間を取っては迷惑だろう。 視線で問えば、文は了承の意を込めて頷いた。 「運動会の際、何か予定はあるか?」 「ええ、一応優勝グループのリーダーにインタビューやら、新聞用の写真の撮影やら色々と」 「多忙ならば断ってくれても構わないが、今回、俺は参加するつもりでいる」 「へえ、それは……」 「ああ、3年生の他にも強豪は多いだろうが、負けるつもりはない。 少数だが、既に何人かメンバーは決まっている」 俺が左右に視線を振れば、霊夢はさも無関心の様にお茶を啜って、魔理沙は応える様に胸を張った。 「そこで、新聞部の部長にも俺の軍に入ってもらいたい」 「…………」 「もちろん、勝利するだけならば3年生に付いたほうが有利だと思うかもしれないが……勝つための策はある。 もし優勝すれば――――いや、優勝した時のヒーローインタビューも独占できるぞ? 2年生の新顔が新しく挙兵し、優勝をかっさらっていったとなれば、それなりの話題性はあるはずだ」 「だから協力しろ、と?」 「ああ、それに『優勝商品』もある。悪い話ではないと思うが」 「なるほどなるほど……お話はわかりました」 ふむふむと頷きながら、文は情報を整理するように若干の間思考すると、 「私が参加する間の仕事はどうします?」 「他のメンバーに頼めないか? 俺がほしい人材は君だけだ。あと妻としてもほしい」 「それはお断りします」 「そうか、残念だ」 「ともかく、出来るとすれば、最終的に優勝する組に付きたいものですが……」 「負ける可能性があるなら、わざわざ誘いに来たりはしないさ。 かつて鳳雛と呼ばれた俺の知略をもってすれば、勝ちは見えたも同然」 「伏龍じゃなかったのあんた」 霊夢のツッコミに対するように、文はあごに手を添えて少しだけ黙ると、やがて顔を上げて、 「……わかりました。ただし、絶対に勝って頂きますが」 「もとよりそのつもりだ」 「つまり、手伝ってくれるってことでいいんだよな?」 「ええ。せっかくのネタを見逃す手はありませんからね。 仕事は椛に任せることになってしまいますが……技術を磨くいい機会です」 「では、詳細は追って連絡する。ついでに、新入生に新聞部を薦めておくとしよう」 「……お気遣いどうもありがとうございます」 「いや何、少人数では仕事も大変だろうと思ってな。女性が笑顔を曇らせているのを見てみぬふりをするなど、男としてはよろしくあるまい」 「……見ていらしたのですか」 「ふふっ、俺はおはようからおやすみまで愛する女性の暮らしを見つめているのでな」 「とりあえず通報していいと思うぜ」 「これでお別れね、長い間割と楽しかったわ」 「死刑確定か。全く罪深い男だな、俺は」 「まんまの意味でね」 かぶりを振る俺に、霊夢は刺す様な視線をぶつけてくる。 俺にとってはそれも甘い薬にしかならないのだが、ともかく収拾のつかない話をまとめるべく、俺は机に置いてあるお茶を頂戴して喉を潤すと、 「それでは、これで失礼しよう。それとお茶が美味しいな、これから俺のためにお茶を淹れる生活をする気はないか?」 「いえ一切ありません」 「そうか、残念だ」 「お茶美味しかったわ、ご馳走様」 「今度はお茶菓子でも持ってくるぜ、こいつが」 「ふふっ、無茶振りをするな、魔理沙よ。そうだ、今度はガラナチョコを手土産にするとしよう」 俺たちはバカな会話をしながら、新聞部の部室を後にしたのだった。 ◆ さて、何故新聞‘部’なのに部員が少ないか、説明するとしよう。 今まで散々部と言っておいてなんだが、実は新聞部、名前に相違して同好会なのである。 今更過ぎるネタばらしに何言ってんだコイツと思った諸兄もいらっしゃるだろうが、ともかく説明に入ることとする。 そもそも、この新聞部、元々は部活動であった。 結成された時の部員は6人ほどで、今に比べて人手が足りていたのもあって、他の部活と比べても遜色ない活発な部活だったのだが。 そのメンバーと言うのも、全員が同学年であり、卒業と共に廃部になる予定だったのだ。 しかしそんなことを知る由もない文は、元々記者に憧れていたのもあり新聞部に入部、 その後3年生――――今の3年生の一個上の学年――――が卒業し、今に至る。 2年生である文が部長を勤めているのも、これが理由だ。 本当は文も部長ではないのだが、生徒たちにはいまいち馴染まなかった様で皆部長呼びである。 わかりづらいので、便宜上俺も部呼びとしておく。 かつては部費も下りていたのだが、校則の関係上同好会扱いになってしまうため、今は余った予算でやりくりしているらしい。 まあ、それほどお金を使わない活動であることもあり、結構余裕はあるらしいが。 ともかく、この運動会で優勝すれば、優勝商品を用いて新聞部を部活扱いにすることもできるだろうし、 何より新聞部部長が優勝したチームの一員だったとなれば、それなりに話題にもなるかもしれない。 名を上げるいいチャンスであり、それを含めた上で俺は彼女を誘ったのだが、うまいこと乗っかってくれてありがたい限りだ。 しかし俺の予想外だったのは、犬走 椛が新聞部の部員となっていること。 知り合いだと言う話は文から何度か聞いてはいたが、まさか彼女も部員の一人だったとは。 これは何かに利用できるかもしれない、覚えておくとしよう。 ◆ 文との話がある以上、3年生を軍に加えるのは避けることとなったため、2年生のみ、あるいは1年生との混合軍と言う形になる。 まあ、やる以上は派手に勝ちを飾るべきなのは言うまでもない。 そのためにも、勝利への方程式を作る人員の選抜はしっかりとせねばなるまい。 さて、次は誰を仲間に引き入れるとしようか。 ────────────────────── さて、現在のところメンバーは俺を含めて四人。 軍師にして総大将を務める俺と、 ツッコミとまとめが役職の腋担当、霊夢。 魔砲を持つ火力特化ボーイッシュ乙女、魔理沙。 新聞部のくせに陸上部顔負けの俊足を持つ太もも担当、文。 それなりにバランスのいい面子が揃ったわけだが、搦め手に弱い点、後は俺自身の戦力が心もとないのは気にかかる。 まあ俺についてはともかく、相手の奇策に対応出来る面子がほしいのもまた事実。 なので、精神的に強い、あるいはそう言った能力を持った者と限られる。 となると、心当たりは複数。 まず思い当たるのは古明地 さとり。 ……だが、彼女は部活に所属しているわけではないので、今日は既に帰宅しているだろう。 こればかりは仕方のないことだ。 ではどうするか、と俺が思い出したのは、クラスメイトの一人。 ふむ、彼女に頼んでみるとしようか。 二人に目をやると、俺は階段を下っていった。 行動は迷わず、スピーディに。出来る男の必須条件である。 ◆ 俺たちが一路目指したのは、学校の正門。 訪れた理由はと言うと、別に帰宅するわけではなく、人探しである。 目的地が校門である旨を告げたところ、女性陣は準備よく中身の詰まったカバンを持ってきていた。 効率的に生活するのはいいことである、俺だけバッグを持ってきていないのはともかくとして。 さて、挙動不審な人物として用務員さんの飛び蹴りをくらうわけにもいかないので、俺たちは地道な捜査を始めることとした。 そこらを駆け回るなり、下校の路を辿る生徒の証言を集めるなり、その活動は地味ながら、確かな成果は上がるものだ。 結果、 このあたりで先ほど見たということ、 そして警備員さんに聞いたところ、まだ学校から出ていないことがわかった。 そこまでやれば、最終的に残るのは、やはり足を使う方法のみである。先の行動と一切変わっていない。 規模の違いを見せ付けるように、校門すらバカでかいこの学校では人探しにはやや苦労するものの、 三人寄れば文殊の知恵、それぞれ分かれて探し人の捜索にあたることとした。こうすればすぐに見つかろうと言うものだ。 ◆ 「仲よさげに手なんか繋いじゃって……妬ましい……」 「ビンゴだな。これも愛の力か」 俺が足を動かし始めて数分、彼女はすぐに見つかった。 水橋 パルスィ。彼女もまた、クラスメイトの一人である。 ファンタジー小説などでよく見かける『エルフ』の様にとがった耳と、くせのある金髪が特徴的だ。 彼女を語る上で欠かせないのは、何と言ってもその嫉妬深さだろう。 とにかく人を見かければ妬ましい妬ましいと呟いて、その人の優れている点を上げていく、素直じゃない優しい子である。 まったく、かわいらしい特技だ。そんな彼女が、俺はお気に入りなのである。 ターゲットを発見したと言うメッセージと現在地をメールに添付し、今も人探しに赴いているであろう連れの二人に送信した後、 いつも通り下校途中のカップルを見つけては門柱に隠れつつ妬ましいと呟いている彼女の背に近づいて、俺は声をかけた。 「精が出るな、パルスィ。今日も妬ましいもの探しか」 「む、貴方……」 こちらの存在に気づいた彼女は、仲むつまじい男女を見据える目そのままに俺を見やる。 細められたその目からは、ひいき目に見ても、歓迎の気持ちを感じ取ることはできない。 しかしながら、俺の強靭かつ図太い神経の前では、そんなそっけない態度もたちまちチャームポイントに早変わりするのである。 「顔を合わせるだけでにらみつけてくるとは、相変わらずかわいいやつだ」 「何しに来たの? 別に忙しいわけじゃないけど、私は今手が離せないの」 「ふふっ、気にしないで続けてくれていいぞ」 本人は気づいていないようだが、彼女は柱の陰に隠れつつ向こう側を覗いているため、どうしてもこちら側にお尻を突き出す形になる。 小ぶりながらもしっかりとした丸みのあるそのお尻がなんとも蠱惑的だ。 思わず手を伸ばしそうになるが、しかし俺は紳士。手を出すのは絶対のタブーである。 「……貴方がそう言う話し方をする時は嫌な予感がする」 「俺のことに詳しくなったな、パルスィ。 俺も君に興味があるんだが、どうだ、互いのことをもっとよく知るために遊びにでも行かないか」 「何の用?」 「今しがた用を言ったのに聞き返してくるとは、パルスィはお茶目さんだな」 「用がないなら帰ってくれる?」 「だんだん扱いが悪くなってきたな。このまま行くとその内罵倒されるんだろうか、それは興奮するな」 「本当に何しに来たの貴方」 「少しばかり長くなるかもしれないが、構わないか?」 パルスィは少しばかり考え込むと、やがて諦めたように首を縦に振った。 ◆ 「運動会についての説明はいらないな?」 彼女が頷いたのを確認して、俺は続ける。 「今回、俺も運動会に参加することにしたんだが」 「それは妬ましいわね、貴方の行動力が妬ましい……」 「俺と一緒に過ごす内にパルスィにも身に付くさ。 どうだ、笑顔と愛にあふれた同棲生活をする気はないか?」 「ない」 「そうか、それは残念だ。 話の続きなんだが、簡潔に言うと、俺の軍に入ってもらいたい」 俺の提案に、パルスィは怪訝そうな目をこちらに向けた。 何故私を誘うのか、と聞きたいのだろう。 「今味方についているのは、俺を除いて三人。 全員同じクラスだ。霊夢と魔理沙、それと文がいる」 「女の子ばかりね」 「図ってそうなったわけではないんだが、この学校は女性の方が実力者が多いようだからな」 随分一般常識とずれたことを言っているが、事実である。 この学校に通う生徒の男女を比較してみると、より強い異能を持っているのは女性なのだ。 男子にも能力もちはいるが、女性陣のそれに対し、やや見劣りするものが多い。 例えば、同じクラスの森近 霖之助。 彼は『未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力』を所持しているのだが、 魔法を使って空を飛んだり人の心を読むそれに比べると、地味と言うか平凡な能力である。 いや、能力を持っている時点で平凡ではないが。 なお、俺の能力もそんな感じなので、人のことは言えない。 「ともかく、パルスィの力を借りたい。相手の奇策に対抗するには、君の力が必要不可欠だ」 ふぅん、と鼻を鳴らして、パルスィは腕を組むと、 「嫌」 「差し支えなければ、理由をお聞かせ願えるかな?」 「貴方と一緒に参加したくない」 「『優勝商品』は、あまり魅力的ではないと?」 「いや、そんなことはないけど……」 「では俺のために腕を振るってはもらえないか?」 「もっと嫌、と言うか貴方人の話聞いてる?」 「ああ、もちろん。 ……しかし、どうしてもだめか?」 「どうしてもだめ」 「強情だな、そこがかわいいところだが」 「そう、それよ」 何かに気づいたのか、パルスィはびっと俺を指差した。 鼻先に突きつけられた、細くて白いこの指の意味するところは、察するに、 「くわえて舐めろと言うことか。それは願ってもない、いただきます」 「やめなさい」 パルスィが指を引けば、俺の頭は虚しく空を切った。 「ネイルアートをしている様には見えなかったが……なるほど、ネイリストの資格を持つ俺に仕事の依頼か? 自らを美しく飾ることは自信につながる、喜んで引き受けよう」 「全く違うし貴方ネイリストでも何でもないでしょ」 「そこまで知っているとは、俺に興味があると見てもいいのか?」 「貴方は本当に話を聞かない人ね」 パルスィは疲れたようにため息をつくと、痛む頭を右腕で抑えながら、 「さっきから話が逸れる逸れる……その無駄な頭の回転の速さが妬ましいわ」 「俺と過ごすうちにパルスィにも身に 「いいからちょっと黙ってなさい」 釘を刺された。 内心ちょっとショックな俺に、パルスィはもう一度俺の顔を指差すと、 「そう言う、すぐ人のことかわいいって言ったりするのが嫌なの。 ああもう、そう言うはた迷惑な勇気を持ってるのが妬ましいわ」 「何と、そこまで嫌われているとは……気づかなくてすまない、悪いことをした」 「ああいや、そう言うことじゃなくて」 言葉を選んでいるのか、パルスィは少しばかりの間を持って、 「その……別に、貴方のことが嫌いなわけではないの」 「やばい今すっごいときめいたパルスィ結婚してくれ」 「少しぐらいは真面目な話させなさいよ」 呆れ顔の彼女は、仕切りなおすように小さく咳払いして、 「恥ずかしくないの? 女の子と見ればすぐに声をかけて、愛の言葉を囁いて。 ああもう、今はその鈍い神経が妬ましいわ……」 「どうやら勘違いをしている様だな。 俺は決して、軽薄な気持ちで愛を謳っているわけではないぞ。 俺は別に、美人だったら誰にでも求婚しているわけではない。 いろいろな付き合いを経て、その女性のことを真に愛し、幸せにしたいと思った相手にのみこの心を告げているだけだ」 「そんなことはどうでもいいの。 だから、貴方のその、かわいいとか結婚してくれとか簡単に言うところが嫌いなのよ。 運動会に参加することが嫌なわけじゃなくて、貴方と一緒なのが嫌なだけ」 ぷいっとそっぽを向くパルスィ。 これは嫌われてしまったか、と思ったが、よく見れば彼女の頬がわずかに紅潮していることが見て取れる。 いや、これは。 「つまり照れているのか、パルスィは。そうだったら嬉しいな、俺が」 「何でそう言う結論に至るのよ」 冗談のつもりで言った俺の言に、しかし、パルスィは刺す様な視線を俺に向けた。 敵意と若干の嫌悪が込められたそれに、俺の背に寒いものが走る。 ――――不覚にも、ぞくっと来た。 なんと甘美な感覚だろうか。普通の人間ならビビるが、被虐体質‘でも’ある俺からすればご褒美である。 催促の意を含めて、俺は適当な言葉を並べ立てた。 「隠さずともいい、俺の前では全てをさらけ出してくれて構わないぞ」 「貴方人の話聞いてたの?」 「当然だ、パルスィのかわいい声を聞き逃すなどあろうはずもない」 「貴方ね……」 俺の言に辟易したか、呆れ顔を見せるパルスィ。 ここがチャンスだ、俺は彼女の手を取ると、ずいと顔を近づける。 「え? ちょっと、何いきなり? って、わ、顔近いって……」 「聞いてくれ、パルスィ。 決して軽い気持ちでこの話を持ちかけたわけではない。 俺には、パルスィが必要なんだ」 錯乱した様子の彼女に、畳み掛ける様に俺は続ける。 「頼む、俺に力を貸してくれ。 他の誰かに勤まるものではないんだ」 ゴリ押しが割と有効に働いたか、パルスィは顔を背けながらも、呟く様に応えてくれた。 「……私じゃなきゃだめなの?」 「ああ、その通りだ」 「……どうしても?」 「どうしても、だ」 「……何で?」 「君が水橋パルスィだからだ」 「……意味がわからないわ」 「わからなくていい。君の存在が、俺にとって必要不可欠なものであることが伝わってくれれば、それでな」 俺の言葉を最後に、しばらくの間沈黙が続く。 ついでに言っておくと、その間俺はパルスィの手を握りっぱなしである。 やや冷たいそれは、確かなやわらかさをこちらに伝えてくる。いかん、段々昂ぶってきた。 俺がやり場のない情欲に苛まれていると、パルスィは決してこちらに視線を向けないまま、 「…………やっぱり、駄目」 「何故だ?」 「………………」 言いづらそうにしているパルスィの表情から、言いたいことは大体読み取ることが出来る。 彼女もまた、この学園の生徒である以上は能力者である。 彼女の持つ能力は、『嫉妬心を操る程度の能力』。 前述の通り、水橋 パルスィは非常に妬み深く、嫉妬心が強い。 どうやらそれは彼女の持つ能力の副作用の様なものであり、幼いころからずっとそうだったらしい。 俺は別段気にしてはいないが、世間一般的には、やはり嫉妬狂いと言うのはあまり好かれる立場ではないのもあって、いい扱いをされていなかったそうなのだ。 あくまで伝聞であり、本当のところがどうなのかはわからないが、 彼女がかつて嫌われ者として生活していたのは事実な様で、本人は強く『他人から嫌われている』と思い込んでいる様に見える。 まあ、奇人変人が集まるこの学校に居場所が移った以上、嫉妬狂い程度で差別されるはずもなく、 既にそんなことはないのだが、人間、そうだと信じ込むと周囲が見えなくなるものだ。 そのためか、彼女は積極的に人と接触したがらない傾向があり、 また、自身と一緒にいても相手は楽しくないのではないか、と、常に思い悩むところがある。 俺としては、好きな女の子と話せればそれだけで楽しいものなのだが。 「生憎、俺にはパルスィが何を考えているのか読み取ることは出来ないが…… 少なくとも、皆、君のことを嫌ってはいないぞ」 「…………」 「パルスィは人の優れている点を見つけるのが上手いからな。 それと自分を比較することもあるようだが、決して自身を卑下することなどない。 パルスィにはパルスィのいいところがある」 「…………」 「それに、もしパルスィが皆に好かれていないのだとしたら、この様な誘いが来るはずもあるまい。 ……とは言え、口で言うだけでは伝わらないこともあるだろう」 俺は言葉を途切ると、振り返った。 パルスィがつられて俺の視線の先を追えば、見えたのは二人の人影。 博麗 霊夢と、霧雨 魔理沙だった。 パルスィを見つけた後、携帯電話で連絡を取っておいたおかげで彼女らとの合流はスムーズに成し遂げられたのである。 「ちゃんと見つけたみたいね……って、何手なんか握ってんのよ」 「もう言い逃れは出来ないぜ、現行犯逮捕だ」 「女性の手を取るだけでわいせつ罪か。まったく、男性に厳しい世の中になったものだ」 名残惜しいものの、パルスィの腕から手を離す。 かぶりをふる俺はさておき、二人はパルスィの方に向き直ると、 「大丈夫、何もされなかった?」 「脅されてても心配するな、いざとなったら守ってやるから。ほら、怖がらずに言ってみるんだ」 「いや、特に何も……」 「本当に大丈夫? 見たところ外傷はなさそうだけど……」 「わからないぞ、トラウマになってて言い出せないのかもしれない。あいつなら何やってもおかしくないからな」 「まるで性犯罪者の様な扱いだな。新メンバーにその様な悪印象を植え付けないでほしいんだが」 「新メンバー?」 「ああ、今日をもってパルスィは我が軍に入ることとなった」 俺の言葉に、パルスィがびくっと反応する。 知らぬ間に話が進んでいることに対するツッコミと、 嫌がられるのではないかと言うことに対する不安の入り混じった条件反射。 しかし、彼女の予想は裏切られることとなった。 「何か弱みを握ったんじゃないでしょうね……何かあったら私たちに言いなさい」 「にぎやかになるのはいいことだが……どうにも不安だ、本当に何もされてないよな?」 「え、ええ……」 「誘導尋問をするな、怖がっているではないか。 いやしかし、怯えている様もまた可愛らしいな」 「やっぱり不安すぎる……」 怪訝な目を俺に向ける霊夢と、いざとなったら武力行使も辞さない意を表明している魔理沙。 そんな二人に、パルスィは問う。 「……嫌じゃないの?」 「何が?」 「その、私がグループに入ることが」 「何で?」 「嫌がる必要があるのか?」 あっけらかんと否定した二人に、パルスィは呆気に取られたように固まった。 霊夢と魔理沙に限って、彼女を否定することなどありはしない。 そもそも、俺と言う存在が身近にいる以上、俺以下の異常などは彼女らにとって正常なのである。 俺とパルスィを比べれば、どちらが異常かなど一目瞭然だ。 「それとも嫌がられたいのか?」 「い、いや、そんなことはないけど……」 「……あんたまさか、催眠術の類でも使ったんじゃ」 「まさか。そんなことをするぐらいなら、俺は女性に振り返ってもらえるように自らを磨くさ。 ……ともかく、二人とも異存はないな?」 俺の言葉に、二人は頷いた。 何はともあれ、彼女らはパルスィを受け入れることに異論はないようだ。 「パルスィもそれでいいか?」 「え、ええ……」 「では、この参加申し込み書と婚姻届にサインを」 「またか」 二度目のチャレンジ、しかしまたもや緑色の用紙のみ残る結果となった。 ◆ パルスィと話がある、先に帰ってくれ、と二人に告げたところ、少女たちは食い下がった。 『こんな脳内ピンク色の男と同級生を二人にするのは危険すぎる』と言うことらしい。 別に、心配しなくても取って食ったりはしないのだが。 結構な時間をかけて説得し、どうにか二人を説き伏せ後姿を見送ると、俺はパルスィに話を切り出した。 「どうだ? 彼女らの言動に、パルスィを拒絶する様子はあったか?」 「確かになかったけど……気を遣ってくれてるのかもしれないじゃない」 「それはないな。あの二人は、我慢してまで嫌いな奴と一緒にいようとは思わないタイプだ。 嫌いなやつが相手なら、真正面からバッサリ行くだろう」 俺が相手の時のようにな、と続ければ、パルスィは何ともいえない曖昧な表情でこちらを見た。 そこには、悲哀と、同情と、わずかばかりの親近感が混じっている、様に見える。 いや、心を読めない俺にはわからないが。 そうだ、心を読むと言えば。 「心配なら、クラスメイトのさとりに聞いてみるといい。彼女の前では、誰も嘘がつけないからな」 「でも……」 「そもそも」 俺は言葉を区切ると、パルスィの瞳を覗き込んで、 「パルスィの様なかわいい子を否定するなど、あるはずがないだろう」 「……それは貴方の意見でしょう」 「万人に通用すると思うんだがな」 「それは貴方の頭の中だけよ」 俺から目を逸らすパルスィ。 それに何の意図が含まれているかはわからないが、気恥ずかしさの表れだろう、そう思いたい。 まったくかわいいやつだ。 「では、これから先少しでいいから、俺たちに付き合ってみてくれないか。 居心地の悪さを感じたのなら、俺に伝えてくれ。 すっぱり止めてくれて構わないし、そのことを責めたりもしない」 俺の出した案に、不承不承と言った感じながらも、パルスィは首を縦に振った。 「よし、では親睦を深めるために一緒に下校しないか?」 「え? そ、それはちょっと……」 「誰かに噂されたりしたら恥ずかしいし……と言うわけか。まったく愛いやつめ。 しかし、その気持ちはわからなくもない。 強制するのはよろしくない、次の機会にするとしよう」 俺は踵を返すと、校門を後にした。 そのまま帰りたかったところだが、生憎とカバンの所在は教室だ。 しかし、この時の俺は、目指す教室でまた一波乱起きようなどとは考えてもいなかったのである。 ────────────────────── 校舎に入り、昇降口から階段を上る。 2年生の教室は2階にあるため、どうあがいたところでこの上下運動は避けられない。 怪我をした者や、足の不自由な者のためのエレベーターはあるものの、健康そのものなこの体で使用するのはためらわれる。 この学校、1階層あたりの設備が充実しているが故に、階層ごとの天井が高く、代償としてか階段が結構長いのだ。 空を飛べる者ならば楽に進めるのだろうが、残念ながらこの身は一般的な成人男性のものと変わりないのだった。 ◆ 大分時間をかけて2年生の教室前にたどり着くと、俺の背後から声がかけられる。 「ねえ、そこの貴方」 高さ・発音から察するに、若い少女のものだろうそれ。 振り返れば、そこにいたのは案に相違せず幼い少女だった。 幼いと言うのは、実年齢にしては幼く見えると言うわけではなく、そのままの意味だ。 一目見て、小学生程度。 よくて中学生ぐらいの少女が、そこに立っていた。 マリンブルーの髪とは対照的な、ルビーの様にきらめく、血のように深い赤の瞳。 肌は、日に当たっていないのか――粉雪のよう、とでも表現しようか――異常なまでの白さを保っていた。 そして何より目をひくのは、背から生えている二対の羽。 羽と言っても、鳥や、あるいは天使の様な美しいそれでなく、 こう表現しては何だが、そう、例えば‘悪魔’が持つような、禍々しいそれが、まるで少女の背中に取り付いている様に、存在していた。 少女然としたその容姿と、おどろおどろしい翼は随分とミスマッチだが、俺は人を外見で判断したりしない。 人類みな兄弟、偏見を持たず、互いに手を取り合うべきである。それも、見目麗しい女性が相手ならばなおさら。 ……よく考えれば、今思いっきり外見で人を差別したような気がする。 いや別に、顔の良し悪しは人間にとって重要ではない。 人として生きていく上で大事なのは、精神的な面である。 共同生活で最も大切なのは、外面ではなく内面なのだ。 生き物は、時間が経てば次第に老いていくものであるし。 まあそれはともかく、少女の持つ後翅程度、ここでは至って普通。 異端が集まる場所だ、彼女の風采は、異常と呼べるほど奇抜でもない。 そんな俺の思考を知る由もない少女は、俺の顔を見て、ふむ、と一度鼻を鳴らすと、 「咲夜を知らない? さっきから探してるんだけど」 話の内容から察するに、人探し、あるいは迷子。 まだこんな幼いのに、単身で行動するとは偉いものだ。 「探し人がいるのか」 「まぁ、そんなところね」 「どれ、お兄さんが一緒に探してあげよう」 このバカでかい校舎で人一人を探すのなら、足を動かすより校内放送を使ったほうが早い。 デパートや大きいスーパーなどでまれにある、迷子の放送のあれだ。 呼ばれる側はたまったものではないが、こんな小さい子をほっぽっておくのもあまり感心できない。 しかし、俺の一存では放送設備を使用することはできないため、教職員の許可を得る必要がある。 脇の窓から下を見下ろせば、丁度よく慧音先生が昇降口から出てきたところだった。 教室から取ってきたのだろう資料を抱えて、職員室へ向かって歩いている。 鍵を外し、ガラス戸をスライドさせて、俺は眼下の教諭と連絡を取るべく声を張り上げた。 「慧音せんせー、小学生の女の子が校内に迷い込んでるですけ、どぉっ!?」 突如、わき腹に衝撃。 とりあえず吹っ飛んでおいた。10mほど。 ゴロゴロと、掃除が徹底された廊下を転がる。 無機質な冷たさが、俺の頬を無慈悲にもこすり、えぐっていく。 最後に、どしゃぁっ、と手足を投げ出す鈍い音が響いて、それっきり廊下は静まり返った。 きっと、呼び止められた慧音先生も不審に思ったことだろう。 名前を呼ばれたので見上げれば、見間違いでなければ自身の生徒が右方へ平行移動し、一瞬にして姿を消したのだから。 少女はぴくりとも動かなくなった俺に近づくと、げしげしと腹を蹴り上げる。 「誰が小学生よ、誰が。大体あんた吹っ飛びすぎでしょ、軽く小突いただけなのに」 彼女の言を否定することになるが、あえて言わせてもらうとすれば、 小さい女の子に小突かれたとは思えないほどの威力だった、あれは。確実にどついている。 わかりやすく例えるとするならば、野球部の部員が全力投球したテニスボールぐらいの勢いだった。 しかし俺にセリフ中で【!】を使わせるとは、大した奴だ。何気に今作品初である。 「起きてるんでしょ、ほら」 言いながら、少女は足を止めない。 「公開SMプレイに走るのはやや早いのではないかと思うが…… 俺でなければ死んでいたぞ」 「それほど力は入れてないんだけど」 「何……だと……あれで全力ではなかったと言うのか……!? この少女、やはり天才か」 「あんた何言ってるの?」 会話での意思疎通がはかれないと判断したらしい少女は、やや怒り気味に俺の体を蹴り続ける。 「まあ待て、蹴られていては起き上がりづらい。 ひとまずは足を止めていただきたいのだが」 幼い少女に変な目で見られながら蹴られると言うドMかつロリコン垂涎の状況ではあるが、 俺が罵られたり殴られたりすることによって快感を得られるのは、愛する女性に限るのである。 少なくとも、名前すら知らないこの少女にサッカーボールの様に蹴り飛ばされたところで、感じるのは痛みだけでしかない。 少女が動きを止めたことを確認して、手をついて立ち上がる。 まったく情けない、こんなザマでは霊夢たちの笑いものだ。 いや、彼女らに嘲笑されるなら、それはそれで興奮するが。 色々とドス黒い妄想はさておくとして、制服についたほこりを払いつつ、俺は少女に問いかけた。 「さて、名前を伺っても?」 「レミリア・スカーレット」 「ほう、レミリアちゃんか。 小学生ではないとのことだが、では中学生があ゛っ!!」 またしても繰り出されたレミリア嬢のエルボーが、こちらもまたしても俺のわき腹にめりこんだ。 見れば、彼女は割と本気で怒っている。何がいけなかったのか。 「私は中学生でもないの」 「……そうか、それはすまなかった。まさか就学前とは思わながぁっ!?」 再び、レミリアの右肘が俺の腹部に炸裂した。 「……た、ぞ。 しかし、怒るたびに手を出されてはもたないのだが、主に俺の体が」 「あんたが失礼なこと言うからでしょ。私、ここの生徒なのよ?」 「なんと、それは失礼した。制服を着用していなかったようだからな」 さて、目の前のお嬢さんがこの学校に通っていることにツッコミを入れなかった理由を説明しよう。 俺たちの通うこの学校の異常性は前に説明したとおりだが、中には、特殊な能力を持つ者もいる。 『外見を変化させる程度の能力』、や、『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』などだ。 その様な連中が普通の学校に通うのはやや難しいため、この学校では、‘飛び級’が許されている。 就学するに十分な学力・身体能力があれば、実年齢に関係なく入学できるのだ。 本当に、色々とぶっ飛んでいると、今更ながら思う。流石に、義務教育は受けるべきではなかろうか。 そうは言っても、見た目は普通の人間である俺にはそれら異端の存在の気持ちはわからないし、 まあ、‘人間でない’存在に、それらの規則が適用されるかどうかは、何とも言えないが。 そもそも、この学校では外見年齢などアテにならない。 能力を使ってごまかす奴もいれば、やたらと幼い奴、やたらと老けた奴もいる。 気にしたところでどうにもならないし、生徒は皆それを受け入れているのだ。 「それで、探し人とは? お兄さんか、それともお姉さんかな? 出来るならお姉さんであってほしいところだが、美人の」 「どっちでもないわ」 「では、両親を? 教職員にスカーレット姓はいなかったはずだが」 「それもはずれ。私が探してるのはメイドよ」 「メイド? 使用人のことか?」 「使用人って言うより、付き人……従者ってところかしら」 「従者……メイドか、いい響きだな。 では、名前をお聞かせ願えるか? 先ほど、‘さくや’と言っていたようだが」 「咲夜よ、十六夜 咲夜。あなたと同じ2年生の」 俺の制服に付けられている章から、学年を察したらしい。 洞察力に優れているのはたいへん素晴らしいことなのだが、 「……先ほどから思っていたのだが、先輩には敬語を使うべきだと思うぞ、あと敬称もな」 「嫌よ、あなたに敬意を払うつもりはないもの」 「亀の甲より年の功、年上には敬意を払うものだ」 「あなたの年齢は知らないけど、知り合って数分のあなたを尊敬する理由がないわ」 「世の中、年上は無条件で尊敬するものだと決まっている」 「なら、私がそのルールに縛られる必要もない」 さてこのお嬢、外見通り中身も幼いようで、先ほどからわがままオーラが溢れている。 親からしてみればそこがかわいいのだろうが、生憎これほど小さいと俺からしてみれば対象外だ。 しからば、ここで社会の厳しさをその身に染みこませてやったほうが彼女のためか。 そう、これは彼女のためなのだ。彼女のためなのだったら彼女のためなのである。 別に、ちょっとばかり怒ったからではない。俺は子供に優しい男なのだ。 これも、彼女の将来を考えての行動である。 「ふふっ、そうか。では次から選ぶといい。 お尻ぺんぺんか百叩きだ」 「1択じゃない」 「好きなほうを選択しろ」 「どっちも嫌」 「ならば実力行使だ、覚悟をしてもらおうか」 腰を落とし、すぐにでも動き出せるよう構えを取る。 この学園に入学する時点で、レミリア嬢はただの幼女ではない。ただの人間に勝ち目はないだろう。 しかし、『バレずに少女たちのチラリズムを堪能し、その上で他人に見せないよう影になる位置に移動する』 ための研鑽を重ねてきた俺の身体能力は、決して侮れるものではない。 例え相手が能力者であろうと、鍛え上げられた体は、俺のために動いてくれる。 自分の体は言わば俺そのものだ、決して裏切りはしない。 しかし。 ――――俺の(女性に対してのみ発揮される)動体視力をもってしても、彼女の動きを捉えることはできなかった。 「お嬢様に何をしようとしているのかしら?」 気づけば、俺の喉元には白銀の刃が添えられていて。 「遅いじゃない、何やってたのよ」 「申し訳ありません、少しばかり会合が長引いたものですから」 「まぁ、パチェの手伝いに出したのは私だけど……」 俺の首筋にナイフを突きつけたまま、彼女はレミリアとの会話を続ける。 まったく物騒なやつだ。全く動揺していないところを見るに、彼女には慣れたことらしい。 ――――十六夜 咲夜。 俺のクラスメイトにして、何事もそつなくこなすクールビューティ。 我がクラス内でも珍しい銀髪と、一瞬で違う場所に移動していたりする点がミステリアスな少女である。 その咲夜が、俺の動きをナイフで静止しているのだった。 「同級生にナイフを向けられるとは、随分と珍しい体験だな。 咲夜のこの様な姿を見たのは初めてだ、新しい一面の発見と言うやつか。 夫としては、妻のことを全て知っておきたいものなのだが」 「誰が誰の妻なのよ」 「ふふっ、言わずともわかっているだろう。 俺が夫で咲夜が――――すまないが、流石の俺でも喉を掻っ切られては話せないな。 こっちに段々近づいている危険極まりない凶器を離してくれないか、あ、別に話すと離すをかけたわけではないぞ」 「貴方、状況がわかっていないの?」 「咲夜が俺の首にナイフを突きつけているな。 これまた過激なプレイだ、針や首絞めの上を行くのではなかろうか」 「……貴方が何を言ってるのか理解に苦しむんだけど」 「主従そろって同じ反応だな。 ところで、いくら拘束するためとは言え、背中にぴったりと張り付かれると咲夜の体のやわらかさがダイレクトに伝わって来るんだが。 何だかいいにおいもするし役得だな、俺はこのまま死んでもおかしくないと思う、幸せで」 「咲夜、殺りなさい」 「かしこまりました」 「まったく物騒だな」 俺は頭を上げて咲夜の気を逸らし、片手で捕まれていた両腕を開放させると、左右の腕に全神経を集中させる。 ナイフに当たらないよう注意しつつ、俺は自身の指先を咲夜のわき腹に這わせると、そのまま小刻みに動かし始めた。 「え、ちょっと何、ひゃっ」 かわいらしい声をもらす咲夜。 集中が乱れたことを確認すると、俺は頭を引いて、何とか拘束から逃れる。 「危ないところだった、ナイフと声の両方で逝ってしまうところだったぞ」 二重の意味で。 「そのまま死ねばよかったのに」 姿勢と息を整えながら、二人と向かい合う。 今しがた俺に苦言を呈したレミリアと、今朝教室で見た時は制服だったと言うのに、何故かメイド服を着用している咲夜。 なんともちぐはぐなコンビだが、話に聞く限りでは咲夜がレミリアの従者らしい。 まったく羨ましい話だ、俺もあんな美人メイドがほしい。 「咲夜がメイド業に就いているとは、初耳だな」 「…………」 「そうだ、俺のところに永久就職しないか? メイドの仕事を続けても構わないから」 「お断りよ」 「そうか、残念だ」 「何よあなた、私から咲夜を取るつもり?」 「お母さん、僕に娘さんをください」 「誰が母だ。大体、こっちから願い下げよ」 「娘さんの意思を尊重したらどうです?」 「貴方の妻になるのは死んでも嫌」 「そんな、俺との関係は遊びだったって言うのか!」 「ただのクラスメイトでしょうに」 「咲夜、こいつクラスメイトだったの?」 「ええ、認めたくありませんが」 「婚約者でもあるな」 「平然と嘘をつかないでくれる? お嬢様が誤解したらどうするのよ」 「いや、誤解のしようがないでしょ」 さて、どうするか。 今は適当に――俺の言は全て本心であるが――喋って時間を稼いでいるものの、二人がこっちに敵意を向けているのは一目瞭然である。 人探しも終わったようだし、出来るならばこのままカバンを回収しつつ咲夜を娶りたいところだが、レミリアがそれを許してくれるとは思えない。 「では、俺はそろそろお暇しようと思うんだが」 「何、このまま無事に帰れると思ってるの? あんたみたいな人間に子ども扱いされて黙ってるほど、私は温厚じゃないんだけど」 いや、見るからに俺より子供な彼女にそういうことを言われても、正直対応に困る。 むしろこれはフリなのか、もしかしてツッコミ待ちなのか。 もし仮にレミリアに期待されているとしても、やっぱり困る。 ツッコんだところで、余計怒らせるのは目に見えているのだ、無理に地雷原に突入する必要もない。 とくれば。 逃げの一手に限る。 先ほどから開けっ放しだった窓のふちに足をかけ、そのまま勢いよく蹴り、飛翔する。いや、俺は飛べないが。 空中に投げ出され、重力に引かれる体。 落下するのは必然、だがしかし。 足首を曲げつつ、足の裏から着地。 次に、屈ませた膝の側面をコンクリートに叩きつける。 そのまま倒れこむ形で尻、背中の順に接触させ、 最後に体全体で回転。 五接地転回法と言われ、7、8M(普通のビルで言う3階の窓)からコンクリートの地面に落下しても無傷が保障される着地法である。 こんな時のためにと、刃牙を熟読しておいて助かった。 後ろを振り向けば、俺を追おうとしたレミリアが咲夜にいさめられているのが見える。 察するに、話の内容は ~~~~~~~~キリトリ~~~~~~~~~ 「お嬢様、私は……」 「いいのよ、咲夜。あなたが幸せに暮らしてくれることが、私にとっても一番の幸せなんだから。 あいつじゃなきゃ、だめなんでしょ? 行ってきなさい」 「……申し訳ありません」 「謝る必要はないわ。さあ、行くなら急ぎなさい。 もうすぐ日が沈むわ」 「はい……この気持ち、伝えてきます」 「ふふっ、娘を送り出す親ってこんな感じなのかしら……がんばってきなさいよ、咲夜」 ~~~~~~~~~キリトリ~~~~~~~~~ 多分こんな感じだろう。 しかしこれだけ派手に立ち回っておいてなんだが、普通に空を飛べる彼女達にとって、高さはそれほどの問題にはならない。 そのため、正直地面を転がる必要はまったくと言っていいほどなかったのだが、それはそれである。 まあ、バッグの中に大切な何かが入っているわけでもない。 また後で回収するとしよう、と決めて、俺は学校を後にしたのだった。 新ろだ2-058,2-060,2-067,2-080,2-097,2-134,2-181 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/p_ss/pages/88.html
朝のホームルーム 教室 今日は何かがおかしい。普通の学級ならこんなものなのかもしれないが。 違和感がある。雰囲気が暗いというか湿っぽいというかいつものように騒がしくない。 気になってゆっくりと教室を見渡してみる。窓際に目をやったところで違和感の正体に気づいた。 西脇がムッとしている。大本がオロオロしている。樫野がピリピリしている。 このクラスにおいていつも騒いでいるムードメーカーの西脇が黙っているところが大きい のかもしれない。普段あの3人はいつも何かしら騒ぎ、笑っている。 しかし今日は違う。そこからクラス全体に雰囲気が伝染している。 樫野の笑顔が怖い。大本の眉毛の角度がおかしい。何があった? 学園祭一週間前にこれはマズい。担任としてもなんとかしなければなるまい。 こういうときはどうすればいいのだろう?3人の誰に聞けばいい? あぁ~っ!わからん!! ー昼休み 職員室 「あの、こしじま先生 ちょっといいですか?」 こういうときは彼女に聞くのが正解だというのが俺が出した解答。 養護教諭にして生徒から絶大な支持を得る俺にとって一番話しかけやすい女性だ。 まぁ、それでも話しかけるときにもごもごしてしまうのだが。 「えぇ、いいですよ。」 職員ラウンジに彼女を引っ張る。 「それが、クラスの雰囲気が変で。原因は見当ついてるんですけど解決策がなくて。」 彼女は困り顔の俺を見てクスクス笑う。 「もしかして西脇さん?」 「! なんでわかるんですか!?」 「昨日の放課後に保健室に樫野さんが来ててね、どうも西脇さんと大本さんがケンカして 間に挟まれちゃったみたいなの。お互いに意地の張り合いみたいになってて彼女が苦心 して仲直りさせようとしてもなかなかうまく行かないみたい。」 流石に生徒からの支持率No1だけのことはある。というか俺に相談して欲しかったと思って ちょっと悔しかったりもする。 「どうすればいいっすかね?」 「う~ん。 やっぱり彼女たちに任せとくしかないよね。下手に手を出すとうまく行かないし。 彼女たちも悩んでるし、きっと3人だけにわかる融点みたいなのがあるんだよ。」 融点、か。俺が介入することで何かが変わるってこともなさそうだ。 「こしじま先生はそういうことありました?」 「うん。先生には関わってほしくなかったし、当時の私にしたら難しい問題だよ。 やっぱまだまだ子供だったし。でも解決するときは速いからね。しばらく見守ってあげたら?」 やっぱ経験者に聞くのが一番だ。 「そうですね。ありがとうございました。」 一番簡単で、正解に近いその解答。まぁもう少し待ってみるのも悪くない。 帰りのホームルーム 教室 なんかあっさりと解決した模様。いつも通りに戻ってる。拍子抜けだ。 「もぉ~、なんでプリントそんなにぐしゃぐしゃなんよ!?」 「ゴメンっ!今先生んとこ謝りに行ってくる!」 なぜか大本がこちらに走ってくる。 「中田先生っ!スイマセンっ!!こないだのプリントぐしゃぐしゃになっちゃって提出できない 状況なんであ~ちゃんかゆかちゃんにコピーもらって明日提出します!」 そう言って勢い良く頭を下げる。 何だ。そんなことかよ。俺はむしろお前らがケンカしたことの方が気になってたんだよ。 なーんて言えるはずもなく。 「あぁわかった。明日忘れるなよ。」 走って机に戻る大本。突っ込む西脇。優しく微笑む樫野。騒がしい教室。いつも通りだ。 落ち着く。このクラスはこうじゃなきゃダメだ。この温度がきっとこのクラスの融点だから。 一つ大きく深呼吸して。 「おい、帰りのホームルーム始めるぞー。 にっちょッック!」 「せんせー!声裏返ってます!」 西脇の鋭い突っ込み。沸く教室。 いつも通りの教室が帰ってくる。これが俺の一番落ち着く場所 かも。
https://w.atwiki.jp/marku/
ゲーム作成所 ここのページでは、JAVAプログラムでゲームを作成しようとしている人向けです。 「前回挑戦したけどできなかった。」「ゲームを作成したいけどやり方がわからないという人のページです。」 一緒に作成してくださる方大募集です。このwikiに参加 注意事項!! 管理者も初心者です。そのためあまりご期待に添えないかもしれないので、ご注意ください。 ここではみんなでJAVAについて学んでいこうというためのwikiです。 もちろんプロ級の方も大歓迎です。 はじめに JAVAとは? ゲームの作り方 単語帳
https://w.atwiki.jp/teral009/pages/21.html
アイデア プログラム
https://w.atwiki.jp/ffamugen/pages/68.html
久しぶりに全部読んでみるとぐちゃぐちゃ ゲームを始める目的 結論から言うと、暇だからである。 暇がないとゲームをする時間も心の余裕もない。 ゲームが面白そうというのは、その次の理由である。 重そうなゲームというのは、始めるまでにある程度の心の準備が必要であり、年をとるほど敬遠したくなる。(後半は個人的見解) ゲームを続ける理由 ゲームをプレイヤーが始めてもすぐにやめてしまう場合がある(拙作のゲームとか) ゲームを始めたら継続してもらうような惹きが必要である。 テレビゲームというのは遊ぶ前にお金を払っている。 だから払った以上は続けなければという義務感があり、ゲームをするのが楽しくなくなってきた。 一方で、オンラインゲームというのは無料で始められるものが多いが、テレビゲームよりも辞めやすい心理状況にある。 ゲームを始める目的に話は戻るが、トランプのゲームというのはお手軽でありすぐに始められるが、そのゲームを100時間も続けることはできない。 ゲームを続けるには面白いというだけではなく、発展性がなければモチベーションは続かない。 発展性というのは非常に抽象的に書いたが、RPGにおけるストーリーであり、SRPGにおける戦略性である。 ゲームのインタフェースごとの分類 特定のゲームではなく、抽象的にまとめました 比較項目 テレビ接続 ポータブル パソコン(オンライン) スマホ ブラウザ(CGI系) 料金 ハードも高い それなりに高い 基本無料 基本無料 完全無料 プレイ方法 専用ソフト 専用ソフト インストール インストール ブラウザでアクセス 場所 リビング どこでも 自室 どこでも パソコン 手軽さ 面倒 やや面倒 面倒 お手軽 やや面倒 グラフィック/音楽 豪華 十分 十分 様々 比べるに値せず 操作方法 伝統的 伝統的+α 伝統的に近い 感覚的 伝統的に近い 終わり クリア クリア エンドレス エンドレス エンドレス ネット利用度 低 低 高 中 高 ネット安定性 高 高 高 低 高 難易度 低 低 低 低 低 表に整理するとスマホゲームが人気がある理由がわかるなー 数年後はパソコン・スマホのブラウザは検索時以外使わなくなりそうだから、インストール不要というのは今後はメリットになりづらいかも ブラウザゲーム(CGI系)はネット利用度は高いんだけど、ブラウザという制約とサーバ処理という制約から、良い方の「高」ではなく足を引っ張る方の「高」だな 対策としては、 タッチパネル操作も考慮したUI WebSocketなどを使って完全オンラインゲームにする、または、1時間に1回しか操作する必要がないゲームにするWebSocketに対応した無料レンタルサーバなんてないから、投資が必要になる… 最近のゲームは全て簡単になってきてる ここに活路を見出すってのもありかな ゲーム全般的に共通する概念 初心者でも楽しめるゲームとは? ルールが明快 ルールを既に知っている やってる感じがする 操作をしている実感がある ゲームの世界に入れる グラフィックスやエフェクトが派手でテンションが上がる 後発ユーザに後発感がない 達成感がある 勝率 じゃんけんやトランプの勝率は、参加人数が多いほど低下する運の影響が強い 勝てないゲームは面白ない 勝率が高いゲームというのは雑魚戦があるつまり雑魚戦じゃないところにゲームの目的がある 勝つのが当たり前なのは退屈なゲーム ゲーム設計論 進めるに従って、世界が徐々に広がっていくようにする 最初に情報やルールが多すぎると、敷居が高くなる かといって、少なすぎると単純なゲームとなり、手ごたえがなく面白くないゲームになってしまう →ゲームを最初にプレイしてもらうためには『ヒキ要素』、始めてからは『目標』『勢い』『戦略性』『楽しみ』などが必要か オンラインゲームにおける他者の定義 競争:他者に勝ち抜く・排除することで自分の価値が高められる 依存:他者の存在なしには進めることが困難 利用:他者を一方的に利用することで自分を優位にする 共存:他者とともに前進する 長くプレイしている強いプレイヤーは、初心者を手助けする仕組み、またその逆があるとお互いがいい関係になりそう 世界観について 世界観はプレイヤーが受け入れなければならない「ストレス」である(悪い意味のストレスだけではない) シリーズものでやったことがあるなら続編はストレスではなく親近感・懐かしさとして楽しめるが、初めてやるゲームはストレスが大きいRPGではDQやFFのような王道シリーズもののは発売のたびにヒットするが、近年登場したRPGが大ヒットするというは少ない シリーズものではない限り、ストレスの少ないゲームが望ましい 自由度の高いゲームとは ストーリーの分岐が多数、進める順番が固定ではない 戦闘ではないところを楽しむユーザを取り込んだゲーム? 攻略パターンがたくさんある?つまり簡単なゲーム? 具体論 手動戦闘と自動戦闘の違い 手動の場合 対象を選ぶことができる 状況判断ができるようになる 行動のタイミングを自分で選ぶことができる 1回の戦闘時間が長くなる 運による影響を受けにくい(アンハッピーなことが起きにくくなる) 複数キャラ育成と1キャラ育成の違い 複数キャラ育成の場合 それぞれのキャラの装備を用意する必要がある アイテムの使いまわしができる 自分の理想のパーティーを作ることができる 他プレイヤーのキャラへの依存度が下がる 1回戦闘すると1疲労、1回不参加なら2回復するとかもできる 装備とジョブ ジョブごとに装備可能なアイテムの種類が決まっている場合 転職のタイミングと所持アイテムが重要になる アイテム枠が多くないと転職が難しい ジョブごとに装備可能なアイテムの種類が決まっていない場合 ジョブごとに装備品の種類別の補正率を設定し、性能が発揮できる度合いがかわる 装備を変えると、実質的なジョブが変わるというシステム レベルの上りやすさ レベルが上がりやすいと楽しいと思う一方、ゲームバランスが後半崩壊する可能性高くなる MPとゲームの種類 冒険型RPGの場合 MPを使う魔法や技が多いジョブは、雑魚戦では力を発揮しない(ように操作する)が、ボス戦では非常に重宝する雑魚戦で便利な戦士系とボス戦で有利な魔導士系にわけられるゲーム 宿屋的なところで回復する以外は、アイテムを消費して回復するMP回復アイテムの入手難易度でゲームの難易度が決まる 戦略型RPGの場合 戦闘ごとにMPが全快であったり、時間やダメージに応じてたまっていく ダンジョンゲームについて 微妙なダンジョンゲームしか作れていないですが、まとめてみんとてするなり ダンジョン内で拾ったアイテムを活用して攻略する特に回数制限のあるアイテムが重要 ダンジョン内で移動するとHPが回復するが、満腹度的な要素が減少し0になり死んでしまう 敵と自分が同時に動く寝てしまうとボコボコになる 遠距離攻撃が有効 バトルビューがない 敵に囲まれてボコボコになることがある マップ上に罠がある 同じフロアに長期間居続けることができない 気になった記事 RPGにレベルアップ制度は必要ですか?(やまなしなひび-Diary SIDE-)キャラクター育成ゲーム(というジャンルがあるのかわからんが)なら、レベルアップは必然かな ゲーム離れ(wikipedia) HPの概念をなくしてダメージの合計で戦闘の勝敗を決めるってのもアリかなーと思ったけど、それだと戦闘に波がないか - 管理人 2014-04-13 10 56 41 手動戦闘の場合、戦闘ごとにランダムで行動チップを配り、そのチップをどの順番で使っていくかという仕様も面白いかもなー - 管理人 2014-04-13 21 22 29 今の時代、ログインしなくてもある程度勝手に進んでくれる、ログインして自分で操作すると、レアアイテム入手やイベントが発生するとか、そういう感じにしないとダメかなー - 管理人 2014-04-13 21 36 31 少し見方を変えると、ログインしていなくても、つながっている感があるというゲーム - 管理人 2014-04-13 22 33 26 メモがわりに・・・基本LV+ジョブLV - 管理人 2014-05-02 22 52 50 名前
https://w.atwiki.jp/21kaigiroom/pages/17.html
ゲーム作成メンバー 募集中 ゲーム作成メンバー 〜募集中〜について ゲーム名:KINAKO レジェンド 使うフリーソフト:「wolf rpg エディター」様のを使わさせて頂く予定です。 スタート日:2013年3月頃 募集人数:未定 募集基準:何もやったことない、知らない初心者だと思う人求む ジャンル:RPGの予定 ーコメントー 僕も初心者なのでゆっくり楽しくやっていけたらいいなと思ってます。こんな自分でも手伝ってくれる、協力してくれる人がいてくれると大変嬉しいです。 配布などはサイトに貼り付けてなどを考えてます。会議ページやチャットなどで話したいと思います。突然休止などをすることがあるかもしれませんがその時は申し訳ありません。上手くいかなかったらすいません。 休止したい場合は休止宣言をリーダーにし15日後に休止確定となります。 メンバーに入ってみてくれませんか?
https://w.atwiki.jp/seigeki_vipper/pages/19.html
グレイト◆PQB2uTgXDQ 生徒役:安久谷 将太 教師役:学園長
https://w.atwiki.jp/mk_asfrgame/pages/14.html
④ゲームを作る この章では実際にゲームを作っていく。 あれ?画像素材を加工しないの?と思う人もいるだろう。 先に忠告、というか筆者の戒めでもあるのだが、 素材の方を先に作ってしまうと 「あれ?この作った画像だけあればゲームいらなくね?」といったことになる可能性もある。 本人がそれで満足してしまえばそれまでなのでが、 筆者としてはどうしても状態変化ゲームを一本でも多く遊びたいので、 今回ゲームを作成をメインとしている方々にはゲームの作成を先にするようにしてもらいたい。 今回はSteamで購入したMZであることを前提に話を進めていく。 本講座では購入の方法までは取り扱わないのであしからず。 (というかそのレベルの話であれば本講座よりももっと詳しくやり方を載せてくれるところがあるだろう) 購入直後は以下のような画面が広がっていると思われる。 (そうでない場合は飛ばす) 暫く待つと… 最初のMAPと初期配置されている主人公が確認できる。 さて、今回は一人の女の子を石化するゲームを作ることにする。 本来ストーリーはゲーム作成の前にある程度作っておくべきなので、以下のようなストーリーを作ることにする。 一人の女の子を石化させ、この先ももっと石化させる意気込みを主人公が語って終了 これなら本講座で解説できるような超短編ができるはずだ。 ゲームを作る手順としては人そそれぞれとなるので、 あまり言及はできないが、筆者はマップ→キャラ配置→イベント配置→イベント作成 の順番で作成を行っている。 本講座でもそれに倣って作成を行うこととする。 もちろん自分でつくやりやすい手順があるのであればそっちでやることを推奨する。 人に強制された開発なんてモチベも続かないのである。 上記マップは何もない原っぱしかなく、 ここからマップを拡張することは極めてめんどくさい。 そこでMZには、マップロード機能がある。 実際にやってみよう。 マップをロードすると上記のように、マップのテンプレートがたくさん出てくる。 今回は超短編で良いので、普通の街を選択しOKを押す。 するとマップが読み込まれる。 ではキャラクターを配置していこう。 今回最低限欲しいキャラクターは 主人公、ヒロイン の二人である。 主人公はイベント編集モード中にマップの任意の箇所を右クリックして、配置することができる 主人公を初期位置に設定できただろうか。 では実際に主人公を操作してみよう。 勿論保存すること 無事実行できた。 色々動き回ってみると 建物の中に入れなかったり、町の外に出られなかったりするが、今は置いておくことにする。 先述したとおり、今回必要なキャラクターは主人公とヒロインであり、 後ろについて来る人達は必要ない。 一旦ゲームを終了(✗を押して閉じる)してパーティを主人公一人に設定する。 無事、初期パーティを1人にできたら再度実行してみよう 今度は一人で歩くようになったはずだ。 歩いていない場合は保存されていない可能性がある。 もう一度データベースを開き、パーティがいないことを確認すること。 次にヒロインを配置する 好きな場所をダブルクリックする。 上記入力が終わり、ゲームを実行して話しかけてみると入力した台詞を話す。 これで基本中の基本は抑えられたはずだ。 言ってしまえばこのセリフイベントだけで今回作成する石化ゲームを作ることは不可能ではない。 途中で顔グラを石化用の顔グラに変えればよいのだ。 上の画像では文章しかないが、これでもいいのだ。 壮大なゲームにすると豪語して何も完成しないより、立派なゲームであると言える。 その他のMZの仕様や機能は別項で説明するとしてゲームの作成はこれで完了とする。
https://w.atwiki.jp/viphero/pages/21.html
「それで、俺はどうなるんでしょうか・・・?」 少女の顔色を窺いつつ、質問をしてみる。 「喜びなさい。あなたは私の計画の協力者となれるのだから。」 少女は当然のように語る。 こちらの意思など関係ないのだ。 「で、何をすればいいんですか?」 「私が世界征服をする上で、足りないものはわかるかしら?」 誰に聞いても、現実離れした話であろう。 突然こんなことを言われても、まともに考えるほうがバカらしい。 「世界征服ってそんな非現実的なことを言われても・・・。」 「非現実的?言ったでしょ。これは仮定ではなく定説。 私が世界征服をして、この世の支配者になることは確たる真実なのよ。」 どうやら、本気で世界征服をするつもりであるらしい。 しかし、世界征服と言っても、漠然とし過ぎている。 飛竜は現実的に考えてみる。 「つまり、資金が足りない。で、俺に資金調達をしろと?」 何をなすにも、先立つものは必要である。 「たしかにそれも必要ね。でも、もっと重要なものがあるでしょ。」 「じゃあ、人手ですか?」 「フフフ、あなたは何もわかってないわね。言ったでしょう?私が世界征服をするのは確たる真実だと。 誰の力を頼らずとも、私がいれば実現できるわ。」 少女は本気である。 「でもね、そんなに容易く世界征服をさせてもらっては困るのよ。」 少女は自分の世界に入り込んでいるようだ。 もはや、飛竜は黙って聞くしかない。 「今、この世界に決定的に足りないもの!そして、今一番必要なもの!それはヒーローよ!」 やはり、少女は本気であった。 一通り話を聞き終えた飛竜であったが、少女の考えは理解できなかった。 まあ、理解しろと言うほうが無理であろう。 「結局、俺にどうしろと?」 少女は冷ややかな瞳で飛竜を見る。 「私の話を聞いてなかったの?あなたは私の計画を打ち砕くためのヒーローになるのよ。」 「つまり、世界征服を阻止する人が必要ってことですか。 法に触れるようなことをした時点で、警察が動くんじゃないですか? それこそ、世界征服なんてデカイことすれば、自衛隊とか・・・。」 「警察?自衛隊?私は世界征服をするのよ。あんな連中にどうこうできるわけないでしょ。」 「警察にできないことを、俺なんかがどうにかできるわけないでしょ。」 「もちろん、今のあなたでは無理ね。だから、私があなたに力をあげるわ。」 「力・・・って、まさか改造する気かっ!?」 「安心しなさい。力をあげると言っても、機械の体になったりするわけじゃないわ。」 「そういう問題じゃない!俺は嫌だぞ!!」 「痛みもないし、大人しくしてれば、すぐ済むわよ。」 「それでも嫌だ!!」 「ハァ、仕方ないわね。」 少女は先ほどの鉄の棒を持つと、再び火花を散らした。 「おい、それは?やっぱり、殺す気・・・」 虚しくも、飛竜の訴えは遮られた。
https://w.atwiki.jp/viphero/pages/19.html
。 。 頭がボーっとして、体が動かない。 「目は覚めたかしら?」 その声と共に飛竜はハッと顔を上げた。 「痛っ!」 頭に痛みが走る。 「あれ、俺どうしたんだ?」 「感謝しなさい。あなたが廊下に倒れてたから、わたしがここまで運んであげたのよ。」 声の主は女性であった。 整った顔立ちに、思わず見とれてしまう。 戦隊高校の制服を着ていることから、この学校の生徒であることがわかった。 「どうもありが・・・って、んなわけあるか!これはどういうことだぁ!?」 飛竜は十字に立った状態で、両手両足は頑丈なベルトに縛られていた。 助けられたというより、囚われたと言ったほうが正しい表現であろう。 「たしか変なフロッピーを拾って、その後突然電気みたいなのが走って・・・。」 「変なフロッピーとは失礼ね。あれにはあなたのような凡人には理解できないものが入っているのよ。」 「あれはあんたのものだったのか。ってそんなことはどうでもいい! これはどういうことなんだって聞いてるんだ!こりゃ犯罪だよ、あんた。」 「世界の全てはいずれ私のものになるのよ。これは仮定ではなく定説。つまり、私のものを私がどうしようと自由でしょ。」 少女は瞳を閉じてフッと微笑んだ。 飛竜は思った。 ああ、確実に頭がやばい人だ。 こいつは関わっちゃいけないと直感が伝える。 「そろそろ午後の授業が始まるぜ。あんただって遅れちゃまずいだろ。」 少女の瞳が飛竜を見つめる。 「計画を知ってしまった以上、あなたをこのまま帰すことは出来ないわ。」 いよいよ、おかしいことになってきた。 「こっちはあんたのおかげで昼飯抜きなんだ!悪いが俺は変人の冗談に付き合うほど暇じゃないんだよ。」 「天才とはいつの時代も理解されないものよ。」 まともに話合いの出来る相手ではないようだ。 気の済むまで付き合って、解放を待つのが得策であろう。 「このまま帰せないって?じゃあ、煮るなり焼くなり好きにしてくれや。」 「・・・そう。じゃあ、そうさせてもらうわ。」 少女は鉄の棒を手に取ると、飛竜のほうを向く。 ボタンらしきものを押すと鉄の棒の先に、見たこともないような青白い火花が散りだした。 「だぁぁぁー!!ちょっと、待った!!」 「何かしら?」 「それはこっちのセリフだ!それをどうするつもりだよ。」 「安心して。灰も残らないから証拠はないわ。未来の支配者とはいえ、今警察に目を付けられるのは面倒だもの。」 「いや、そういうことじゃなくて・・・。」 「あなたが願ったんじゃない。煮たり焼いたりは面倒だから、一瞬で逝かせてあげるわ。 私自ら直接手を下して死ねるんだから、誇っていいわよ。」 少女の瞳には一片の迷いもない。 「あんなの本気にする奴がいるか!そもそも、俺が何したんだよ!?誰が見たって、善良な一般市民だぞ。」 「だから計画を知ってしまったからと言ってるでしょ。」 「計画?」 「私のフロッピーを見たでしょう?」 「ああ、世界征服とかなんとかってやつか。あんな馬鹿げたこと誰も信じないって。」 「さようなら。」 鉄の棒に再び火花が散った。