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ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。 トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。 港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。 そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。 「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」 「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では、『共和制』に乾杯!」 そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。 彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。 ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。 男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。 「働いて貰うぞ」 傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。 一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。 ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。 長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ワルドの前に跨ったルイズが言った。 ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。 「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」 ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「ほう、どうしてだい?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……」 何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。 ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。 ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。 三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。 炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。 その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。 「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」 「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」 ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」 過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。 「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」 ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。 グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。 生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。 だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。 薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。 その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。 途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。 町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。 「待って!」 不意にルイズがワルドを制止した。 「どうしたんだい?」 「誰かいるわ…2……3人…」 そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。 「な、なんだ!」 「馬から下りなさい!」 慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。 突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。 もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 「奇襲だ!」 「伏せなさい!」 ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。 ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。 同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。 「ほう」 感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。 そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。 「シルフィード!」 ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。 「お待たせ」 ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。 「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」 「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」 キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。 寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。 「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」 ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。 こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。 「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」 キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。 「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」 ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見つめる。 「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」 キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。 ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。 しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。 「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。 「ルイズ、どうしたんだ?」 「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」 「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」 タバサは無言で頷く。 「何か気になることでも?」 ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。 「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。 キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。 目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。 そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-17]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-19]]}
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「……これは何?」 「……団子虫の一種かしら?」 「ふむ……珍しい使い魔だな。もしかすると幻獣の一種かもしれない」 確かにルイズはサモン・サーヴァントに成功した。 しかしそれによって呼び出された使い魔は、 博識で知られるコルベールでさえも全く知らないものだった。 それは子犬ぐらいの大きさの、ずんぐりとした形の、団子虫に似ているものだった。 外皮は硬そうな外骨格、そして腹部にはたくさんの節足、 そして頭部には青色の目が何列も並んでいた。 「まあ、無事に召喚できたようだし、儀式を続けなさい」 「はーい」 それなりの使い魔を召喚できたおかげか、嬉しそうに返事をしながら ルイズは『契約』の儀式を開始する。 しかし、幸か不幸か、彼らは実はその召喚された使い魔が、 戦争によって文明が崩壊した異世界から召喚されたものだとは 最後まで知る事が無かった。 その後。 「……ねえ、ルイズ」 「……なによ、キュルケ」 「この子、ずいぶん大きくなったわね」 「そうね、ちょっと育ちすぎたかもしれないわね」 「……ちょっとどころじゃないわよ」 ルイズが召喚した団子虫のような使い魔。 当初、この珍しい使い魔にどんな餌をやったら良いのか頭を悩ませたルイズであったが、それはすぐに解決した。 どうやらこの地に自生する植物が余程気に入ったのか、適当な草であれば何でもよく食べるのである。 (なお、特に良く食べたのははしばみ草であり、それこそ一心不乱という形容詞を具現化したかの如く それを延々と食べつづけるこの使い魔に、タバサが密かに対抗意識を持ったのは余談である) しかし、それにしてもよく食べる。 まあ、そこらの野山の草を適当に食べさせておけば良いのでルイズの懐は痛まなかったが、 それでも限度はある。ただ食べるだけなら良いのだが、 食べた分に見合ったレベルで延々と大きくなり続けるのはいささか問題があるだろう。 何度も脱皮を繰り返し、今では馬よりも大きくなっている。 当初、ルイズの部屋で飼われていた使い魔は、 もう部屋の扉を通る事ができなくなったため、 他の大型の使い魔と一緒に外の小屋で飼われていた。 ところで脱皮した皮はコルベール先生が嬉しそうに持ち帰っていたけど 一体何に使うつもりなのだろうか。ルイズは気になったけど、 ゴミを処理する手間が省けたと思って気にしない事にした。 さらにその後。 「……ねえ……」 「…………なによ………」 「言わなくてもわかるでしょ」 「わかってるけどわかりたくないわ」 ルイズとキュルケの目の前にいる使い魔。 もはや育ったとかいうようなレベルではなかった。 なんと二階建ての家ぐらいの大きさである。 魔法学院内の、あらゆる使い魔よりもずっと大きかった。 既に学院からは「使い魔の餌はどこかの山の草木を与える事」という指示が下っている。 なにしろこの巨体である。ルイズがちょっと目を離した隙に 学院の花壇をあっという間に全滅させてしまったのは記憶に新しい。 「それにしてもよく育つわね」 「きっとこれはそういう種類なのよ」 彼女たちは知らなかったが、もし仮にこの使い魔が召喚された世界の、 この使い魔の生態を知る人物がこれを知ったら恐らく驚愕したに違いない。 どうやらこの世界の植物がよほど肌に合ったらしく、 この使い魔は本来の速度の何十倍もの速度で育ちつづけているのであった。 ついでに食事量も本来の何十倍もの量であった。 「……でも、この子、どこまで大きくなるんだろう……?」 バキバキと豪快な音をたてながら一心不乱に木を食べ続ける使い魔を見上げると、 この先を想像することは恐ろしくてとてもできなかった。 さらにさらにその後。 「…………………………(唖然)」 「…………………………(呆然)」 もはや、巨大な使い魔という形容詞すら生ぬるかった。 高さは40メイル、全長は100メイルはあるだろうか。文字通り、動く山といった感じの巨体である。 「……どうするのよ、これ」 「……いいい、いいじゃないの、せせせ戦争には、かかか勝ったんだからぁ!」 可哀想なのはアルビオン軍の一般将兵である。 地上にいたアルビオン軍の兵士は、この超巨大な使い魔が通っただけで文字通り粉砕され、 艦隊の方も、うかつに地上近くを航行していた何隻もの艦船がこの使い魔によって地面に引きずり降ろされて撃沈された。 そしてその硬い外皮はアルビオン軍の大砲ごときでは掠り傷ぐらいにしかならず、 かえって目を不気味に赤く光らせながら怒りで大暴走する使い魔の怒涛の体当たりを喰らうだけだった。 そのあまりのとんでもなさにアルビオン軍は、大混乱に陥ったまま敗走するしかできなかった。 「……それと、あれはどうするのよ」 「……あああ、あれはそう、不可抗力よ、不幸な事故よ、天災だったのよ。 だから私にはどうする事もできなかったのよ!!」 キュルケが視線を向けたその先。 そこは、使い魔に食い尽くされてすっかり禿山になってしまった山々があった。 そして、ご主人様の気持ちも知らず、その禿山を作った使い魔は今日も延々と食べつづけるのであった。 「これ、いつまで大きくなるのよ」 「私に聞かないで」 ~おしまい~ -「風の谷のナウシカ」の王蟲を召喚
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前ページ次ページThe Legendary Dark Zero 闇の眷属たる悪魔達の住まう魔界は実に様々な環境で構成された領域が存在する混沌の世界だ。 永久凍土に覆われ、その身を骨の芯まで痛めつけるほどの寒さで支配された極寒の領域。 逆に全てを焼き尽くす灼熱の業火と溶岩が広がる、魔界で最も過酷と言われる炎獄の領域。 魔界の住人でさえ参ってしまう瘴気が広がるだけでなく、彼らを飲み込み、森の一部としてしまう生きた深淵の密林が広がる領域。 どこへ行こうとも、魔界へと迷い込んだ者に待っているのはその過酷な環境に耐えられずに死に絶えるか、領域に住まう血に飢えた悪魔達の餌食となるかのどちらかだ。 昼も夜の区別もなく、時間の感覚さえ失いかねない混沌とした地獄の中を生き抜く方法はただ一つ。――己の力によって襲い来る敵を打ち倒すのみ。 スパーダはそれらの過酷な領域を含め、無限に存在する数多の混沌の世界たる故郷を、デルフリンガーと共に渡り歩いていた。 その間、彼らには『休息』『平穏』などといった二文字は決して許されない。 故に久方ぶりの故郷を懐かしみ、見物している余裕もスパーダには無かった。 「相棒っ! またあのエセ天使だぞっ!」 左手に装着されている篭手のデルフが焦ったように声を上げる。 だが、スパーダはデルフからの警告にも悠然と歩を進める足を止めはしない。 神々しい白光で満ち溢れた世界。そこには踏みしめるべき大地と呼べるようなものは存在しなかった。 広大な空間の中には、現世で見られるありとあらゆるものがそこかしこに浮かび無秩序に、上下の別もなく漂っている。 無数の岩塊、大理石の石柱や階段、城壁といった瓦礫などはもちろんのこと、中には巨大な彫像や白亜の城塞、塔さえも形を残しつつ存在していた。 それらの物体はこの光で溢れた空間そのものに照らされながら静かに留まっている。 天界と呼んでも差し支えない壮麗で神秘的な光景ではあるものの、頭上を見上げればそこに広がるのは全く別の光景がある。 禍々しい漆黒の暗雲が渦巻き、その中には巨大な朱色の瞳孔のような影が太陽や月のように、しかし不気味にぼんやりと浮かび上がっている異様なものだった。 そして、この光の領域に住まう魔の眷属達は……。 ――ハアアアッ! 荘厳な、威勢のある掛け声と共に光が、空間を漂う瓦礫の上を歩くスパーダ目掛けて右方から突っ込んできた。 眩しいほどの光に包まれたそいつは、手にする長大な青光の槍を突き出す。 スパーダは冷然とその槍を篭手のデルフで掴み取ると、そのまま相手ごと無造作に背後へと持ち上げて叩きつけた。 ガシャンッ、と甲高く割れる音が響くがスパーダは振り返りもせずに無数の幻影剣を発生させると背後に向けて一斉に射出する。 ――グオアアアッ! 重々しく威厳のある悪魔の断末魔が響き、気配が一つ消えたことを感じ取る。スパーダの横を背後から羽毛状の光が流れてきて、すぐに溶けるように消えていく。 悪魔の気配そのものは全て消えてはおらず、まだ何体もの悪魔達がスパーダの周りにいるのを感じ取っていた。 (しつこい奴らだ) この領域へ足を踏み入れてから何度も相手にしている悪魔達ばかりであったが、正直いって鬱陶しいこの上ない。 スパーダの正面上方から突如、三つの眩い光が透けるようにして姿を現した。 宙を漂う光の中にいるのはその体を純白の大きな翼に包み込んだ品格と威風に満ちた灰色の男女。翼と一体化している手の片方には青白く光る長大な槍を手にしている。 肩からも翼を生やし、さらには下半身さえも翼で覆われているそれは天使と見まごうごとき美しく神々しい姿であり、とても悪魔とは思えぬものであった。 だが、この姿も所詮は現世の者達を惑わせるための見せ掛けに過ぎない。 堕天使とも呼ばれる、天使の面をかぶったこいつらはフォールンと呼ばれている中級悪魔だ。 いい加減に見飽きているフォールン達にスパーダは思わず溜め息をつきたくなりつつも、背中のリベリオンを手にして無造作に垂らしながら瓦礫の道を進んでいく。 「ったく、あのエセ天使ども……。しつこいったらありゃしねえな」 デルフも何度となく現れたフォールン達の姿に辟易している様子だ。 6000年前も始祖ブリミルはこんな奴らを相手にしていて、当時のガンダールヴと共に手を焼いていた気がする。 確か、あの時ブリミルは……。 ――セイヤッ! 女顔のフォールンが手にする槍をスパーダ目掛けて投擲し、それをスパーダは素早く後に身を引いてかわす。 さらに後へとステップを踏んで下がった途端、瓦礫の地面に突き刺さった槍が雷鳴のような轟音と共に大きく爆ぜた。 まるで天の怒りが降り注いだかのような場面を連想する爆発の余波が、スパーダのオールバックの髪へと流れていく。 ――ハアッ! 右側面へ流れるように回り込んでいた男顔のフォールンの一体が槍を力強く振り上げる。 さらにもう一体のフォールンは地面の下からすり抜けて槍を突き上げてきた。 半分実体を持たないフォールンにとって今の状態では地形など全く意味を持たない存在なのである。 だからこそこいつらはこのような奇襲戦法を得意とし、そして地形を壁にすることで相手の攻撃を通さないようにするのだ。 スパーダはまずリベリオンを片手で振るい、右側のフォールンの槍を弾き返す。そして、地面から仕掛けてきたフォールンの槍をデルフを盾にして受け止めた。 「おっとぉ! 通しゃあしねえぜ!!」 フォールンの奇襲を防いだデルフが吠える。 リベリオンの反撃で怯んだフォールンに向かって飛び掛ったスパーダはリベリオンを振るってフォールンの体を覆っている翼に斬りつけていく。 さらに背後に出現した八本の幻影剣がスパーダの攻撃に合わせて様々な角度で振り回され、怒涛の連撃が繰り出されていった。 フォールンを包んでいる翼は中々に強固な結界としての役目を果たしており、このままでは本体に傷を付けることは叶わない。 だが、その翼そのものがスパーダの攻撃で傷付けられ、ヒビが入っていく。 ――フンッ! ――ハアッ! だが、当然他の二体のフォールンもスパーダに攻撃を続けてくる。頭上で槍を振り回す、槍を突き出すという方法で突進してきた。 スパーダは空間転移でその攻撃をかわし、背後から槍を突き出してきたフォールンの頭上に現れる。 フォールンの頭を踏みつけ跳躍し、身を翻すとそのまま瓦礫へと戻っていった。 瓦礫の上へと着地するとリベリオンを背に戻し、ルーチェとオンブラを手にしてフォールン達へと銃口を向ける。 既に発現させていた幻影剣を全てフォールン達に射出し、さらに新たな幻影剣を発現させては射出させていく。 そして、左手のオンブラの引き金を何度もの引き絞っては魔力を固めた銃弾を放ち、幻影剣と共にフォールン達の翼に傷をつけていった。 銃弾と飛剣の雨にフォールン達も焦っているようだ。既に一体は体を覆っていた左腕の翼が砕け散り、その隠されていた体が露となる。 その下にあったのは――醜い顔。 比喩でも何でもなく、大きく口の裂けた顔そのものがフォールンの胸から腹にかけて存在しているのだ。それはあまりにも不気味で奇異でしかない。 これが堕天使フォールンの本性。奴らはこの醜悪な顔こそが本体であり、人間の頭のようなものはいわば角や触覚に過ぎない。 スパーダはその醜く怪異な顔面に容赦なく、魔力を蓄積させていたルーチェから放ったより強力な魔力の弾丸を叩き込む。 ――グアアアッ! 強烈な銃声は広大な空間に反響し、フォールンの断末魔もまた大きく木霊する。 眩い光に包まれ、無数の羽毛状の光を魔力の残滓として残しながら、堕天使は昇天していった。 「おいおい、逃げちまうぜ。とっとと仕留めた方が良いんじゃねえか?」 「当然だ」 銃弾と幻影剣で同じように翼を砕かれていた二体のフォールンが醜い腹部の顔を晒しながらスパーダの立つ瓦礫より遠ざかっていく。 あれでフォールンは意外に臆病な存在であり、本体である己の醜悪な顔を傷付けられることを何より嫌う。 あの状態では地形をすり抜けることもできない。だからああして空間を漂う瓦礫などに身を隠そうと必死なのだ。 もっとも、悪魔としての再生力で時間が経てば翼も復活する。その前に仕留めるのである。 ……魔を切り裂き、喰らい尽くす閻魔刀を用いればフォールンの結界など無視して本体を仕留めることもできたのだが。 事実、ここに来てから今まではそのようにして手っ取り早くフォールン達を仕留めていた。だが、そればかりではつまらないからこうしてリベリオンも使うことにしたのだ。 大きな瓦礫の影にフォールン達が逃げ込んでいくのを見届けていたスパーダはルーチェ、オンブラを収め僅かに腰を落とすと、 背中から引き抜き斜に構えたリベリオンをさらに後へ引き絞るようにして構えた。 ルーチェ、オンブラに注がれるものよりもさらに強大な魔力がリベリオンの刀身に纏わりつき、赤いオーラを帯びていく。 オーラの色は時と共にさらに濃くなり、魔力の唸りの中にバチバチと魔力が弾ける音が混ざっていた。 いつだったか、ラ・ロシェールの町でロングビルのゴーレムを粉砕した時とほぼ同じ膨大な魔力がリベリオンに注がれている。 あの時はロングビルを配慮して三度に分けて放ったが、今度はその必要はない。 「Break Down!(砕けろ!)」 渾身の力を持って一気に振り上げたリベリオンから魔力が溢れ出し、鋭い剣風と絡み合って巨大な衝撃波を形成する。 ロングビルのゴーレムに放ったものよりさらに巨大な衝撃波がフォールンの隠れる瓦礫へと襲い掛かる。 スパーダの魔力が乗せられた衝撃波に触れた途端、瓦礫は砕け散ることもなく塵と化す。無論、それに飲み込まれたフォールンは断末魔を上げる暇もなく文字通り消滅した。 「しかし、本当にキリがねえな。相棒の忘れ物ってのは、一体どこにあるっていうんだい?」 「心配はいらん。もうすぐだ」 リベリオンを背に戻しながら疲れたように言葉を吐くデルフに答えるスパーダは改めて瓦礫の道を進んでいく。 丸一日、魔界中を突き進み、悪魔達を狩り、ようやくここまで辿り着いたのだ。 スパーダの真の力が封じられている領域はもはや目と鼻の先と言っても良い。 (我が主達と鉢合わせなかったのは幸運だな……) 魔界にはスパーダがかつて仕えていた魔帝ムンドゥスの勢力が残っているはずだった。故にその勢力に属する悪魔達と出会ってしまっても不思議ではなかったのだが、 これまでにスパーダが相見えていた悪魔達はどの勢力にも属さない純粋な魔界の住人達だけであった。 ……ましてや、間違って魔帝ムンドゥスと遭遇でもしてしまえば今の自分ではとてもではないが勝ち目がない。 (余計に不気味だな……) スパーダがこうして魔界へ舞い戻ってきた以上、魔帝ムンドゥスやその勢力が自分の存在を察知している可能性が高い。 それならば逆賊である自分に兵が差し向けられてもおかしくないのだが、何故かその兆候さえ感じられないのが不自然だった。 考えていても仕方あるまい。今は先を急ぎ、己の真の力を手にするのが先決だ。 ハルケギニアで日食が起こるまで時間がない。魔帝ムンドゥス以外の勢力が直接侵攻すれば、ハルケギニアの民達だけではそれを迎え撃つことはできない。 故にスパーダが彼らに力を貸してやらねばならないのだ。 空間を漂う瓦礫の上を歩き、時には飛び移り、先へ先へと魔界の深淵に向かっていたその時。 「む?」 瓦礫の上に飛び乗ったスパーダの視界が突如としてぼやけ始めた。 両目を交互に何度か開閉を続けていると、どうやら左目に映る視界が右目とは全く異なるものになっているようだ。別にモノクルに映像が映っているわけではない。 「どうしたんだい、相棒?」 デルフに呼びかけられつつ足を止めたスパーダは左目に朧げながら映りだした光景に意識を集中する。 すると、頭の中で何やらこの空間とは別の音声がざわめき出していた。 「もう、気持ち悪いったらありゃしないわ!」 頭の中にルイズの癇癪が響く。だが、その視界に彼女の姿は映らない。 シルフィードの上にいるのだろうか。蒼穹の大空が広がる光景がそこには映っている。 そして、その光景の中を飛び交う無数の影。 おぞましい奇声を上げながら突っ込んでくる醜悪なハエに酷似したそれは紛れもなく、下級悪魔のベルゼバブであった。 「ウインド・ブレイク」 ベルゼバブ達が前に座っているタバサの放った突風で吹き飛ばされ、バランスを崩して宙を舞った。 「バーストッ!」 そこに杖を握ったルイズの手が視界に入り、ベルゼバブ達のいる空間がピンポイントで小さく爆ぜた。 粉々に砕け散ったベルゼバブは肉片と体液を撒き散らして地上へと落下していく。 (きゅいっ! 気持ち悪いのね!) シルフィードが四散したベルゼバブの破片を慌ててかわすと、今度はベルゼバブとは別の金切り声のような奇声と共に赤い影が斜め上方から突っ込んできた。 「ファイヤー・ボール!」 視界には映らないが隣に座っているらしいキュルケが放った火球が赤い影達に殺到する。 だが、赤い影は素早く散開することでかわし、多方向から奇声を上げながら一斉に突進してきた。 液状の体で構成され、巨大なコウモリの翼で飛翔する悪魔達。 細長い腕と尾はあるが足は持たない、長いクチバシで獲物を啄ばもうとするそいつらはブラッドゴイルと呼ばれる下級悪魔だ。 本来はただの石像に過ぎなかったものが、魔力を持つ穢れた血を浴びて溶け合うことで命が宿り、血液状の肉体を持つ悪魔が誕生するのである。 「バーストっ!」 ルイズが杖を振り上げたらしく、その途端にシルフィードの周りを花火のような爆風が小刻みに幾度となく発生していた。 その中に突っ込んできたブラッドゴイルは次々と悲鳴を上げながら元の石像の姿へと戻って硬直し、ボトボトと地上へ墜落していく。 まるで巨大な網を用意して、その中にかかっていく虫か鳥のようだ。 ブラッドゴイルは熱などの急激な温度変化に弱く、先ほどのキュルケが放った炎を浴びればそれだけで液状の肉体が固まってしまうのだ。 それ以外の物理的な衝撃を与えると肉体が分裂し増殖してしまうのだが、彼女達はそれが分かっているのかブラッドゴイルが現れると必ずキュルケとルイズが迎え撃っていた。 (やるな) 関心するスパーダであったが、あまり楽観してもいられない。 視界に映る光景であるが、これはどうやらタルブの草原の上空のようだ。 その空にはアルビオンの旗を掲げている巨大な軍艦が十数隻に渡って停泊しており、飛び上がる竜騎士が悪魔達と共に次々とルイズらに襲い掛かり、タルブの村へも火をかけていく。 村人達であるが、森の方へ逃げていく姿がまばらに窺うことができた。その村人達を庇うようにしてルイズ達は戦っているらしい。 さらに軍艦の甲板から吊るされているロープを使って次々と兵達が草原に降り立ち、近隣の領主のものらしい100にも満たない軍勢が向かっていくのが見える。 (もう仕掛けてきたのか……) レコン・キスタがトリステインへの侵攻を始めた場面であることは明白だ。 裏で糸を引く悪魔の勢力と同調して、日食の日に攻めて来ると踏んでいたのだが自分の予想は外れたのか? だが、これはあくまでレコン・キスタ単体による侵攻に過ぎないらしい。悪魔達はブラッドゴイルとベルゼバブの姿しか見えない。 ……しかし、何故こんな場面が見えるというのだ? 未だ左目にはハルケギニアでの戦闘が映り意識もそちらに集中する中、スパーダの手は腰の閻魔刀へと伸びていた。 瞬時に抜刀すると一陣の鋭い剣閃が飛び、目の前に現れたフォールンの翼の結界もろとも肉体を斜に断ち切った。 「おい、相棒。どうしたっていうんだい?」 意識をこの場に戻し、体は自然に閻魔刀を納刀する中デルフが話しかけていた。 「ルイズ達の光景が見えるな。何だこれは」 「……ああー、そりゃ使い魔の能力だなぁ。使い魔は主人の目となり耳となる、ってな。そういえばルーンがいつの間にか復活してるっぽいな」 「何?」 背後に気配を感じたので幻影剣を出現させて後方に連続で射出させる中、スパーダは篭手のデルフを外してさらに左手の手袋も外す。 途端に険しい表情となり、そこにあったものを睨みつけた。 忌々しいガンダールヴのルーンがまたしても封印から目覚めており、手の甲で淡い光を放っていたのだ。 だが不思議なのは今までのようにスパーダを服従させようと強制力を働きかけてくるのが、今回に限ってそれを行ってこないのだ。 心なしか、ルーンの気力のようなものもこれまでよりかなり低くなっている気がする。 「ずっと封印されっぱなしだったからなぁ。おまけに封印されていなくても相棒はルーンの力を受けつけるようなタマじゃねえし、自信を無くしたか諦めてるんじゃねえのか?」 ルーンがルーンとしての役目を喪失する。ルーンそのものに明確な意思があるかはよく分からないが、そうだとしたらおかしな話だ。 「ならば何故、あのようなものを私に見せる」 悪魔の気配が無くなったので幻影剣の射出を止め、手袋とデルフを付け直しながら尋ねる。 「さあなぁ。最低限、ルーンとしての役目を果たそうとしてるのかもな。ま、俺もよく分かんねえけどよ」 スパーダを使い魔として服従させられないが、使い魔と主との繋がりだけでも保とうとしている。何と律儀な。 だが、スパーダは決してルーンに服従する気などない。自分に命令を下すことができるのは自分自身、もしくはかつての主のみだからだ。 (しばらくこうしておくか) このまま封印するのも良いが、ルイズ達ハルケギニアの民の様子を窺うことができるのでせめて現世へと戻るまではルーンの封印は後回しにして良いだろう。 「ボヤボヤしてはいられん。急ぐぞ」 気を取り直し、瓦礫の上を駆け出すスパーダ。 レコン・キスタが攻めてきた以上、早急にハルケギニアに戻らなければルイズ達だけでなく罪のないトリステインの民達も危ない。 あの軍勢ではとてもではないが、トリステイン側の力だけではレコン・キスタの侵攻に打ち勝つことはできないだろう。 ましてや、黒幕である悪魔の勢力が攻めてくれば尚更だ。 自分の代わりに勇敢に戦ってくれている者達に報いるためにも、スパーダは全力で光に満ちた混沌の世界を駆け抜けていた。 王都トリスタニアにアルビオンからの宣戦布告の報が届いてすぐ、城下にもこの一大事が知れ渡っていた。 途端に城下町は騒然となり、市民達は恐怖と不安、混乱に陥る。 アルビオンとは不可侵条約を結んでいたのではないのか。国内は戦争の準備など整っていないのにどうするのか。アルビオンはこのトリスタニアにまで攻めてくるのか。 そして、王宮はアルビオンにどのような対応をこれから取るのか。アンリエッタ姫殿下の婚儀が一体どうなったというのか。 小国であるトリステインにとってアルビオンの戦艦がここトリスタニアまで攻めてくるのも時間の問題だ、と誰かが騒ぎ立てることで市民達の不安と恐怖が煽られる。 平和な日常を送っていたはずの市民達は一瞬にしてパニックに直面していた。 だが所詮は平民に過ぎない彼らにできることなどなく、ただ慌てふためき続けるだけである。 「戦争? 戦争が起きたの?」 「テファは心配しなくて良いよ」 市民達が騒然とするブルドンネ街の中、ロングビル=マチルダは不安に狼狽するティファニアの肩を抱いてやった。 数日後にゲルマニアで行われる予定であったアンリエッタ王女の結婚式。その王女がこれから馬車に乗って出発するはずだったので、せっかくだからティファニアと一緒に 見送ってやろうかと思ってマチルダはこのトリスタニアを訪れたのである。 ティファニアも王女がどういう人物なのか期待していたのだが……。この様子では婚儀どころの話ではないだろう。 「とにかく、今日はもう修道院で大人しくしてなさい」 「マチルダ姉さんはどうするの?」 「大丈夫。テファがそんなに心配する必要なんてないから」 ティファニアの肩を抱きながらチクトンネ街の修道院を目指すマチルダは密かにほくそ笑んでいた。 アルビオンが……レコン・キスタがいよいよ攻めてきた。スパーダは明日の日食の日に攻めてくるかもしれないと言っていたが、一日程度の誤差など何ら問題は無い。 あいつらはマチルダから、ティファニアから大切なものを奪っていった。 レコン・キスタが滅ぼしたアルビオン王家により身分と家族を、そして今度はそのレコン・キスタの手によってこれまでマチルダが守ってきた孤児達の命を奪われたのだ。 彼らの生活費を稼ぐために〝土くれのフーケ〟という盗賊に身をやつし、貴族達への復讐を兼ねて犯罪行為に手を染めてまで守ってきたものを、奴らは容赦なく奪っていった。 (くそっ……あいつら……) 思い出したくもないのに、マチルダの頭の中では未だ子供達の末路が呼び起こされる。 ――魔物や亜人の細胞を組み込むことで、我々は人を超える天使の力を得られるのだ。 ――やはり、こんな子供を相手に儀式を行っても体も精神も耐えられないみたいだな。 ――見ろ。もう人としての意識も持たない、ただの血に飢えた化け物だ。 ――こんな役に立たないガラクタどもはな、こうして処分してしまえば良いのさ。 スパーダが仕留めてくれた(正確には違うが)ワルドの酷薄な笑みと言葉。そして見せしめのように見せ付けられた子供達の変わり果てた姿。 ぎり、とマチルダは唇を噛み締め、苦い表情を浮かべていた。 (奴ら……絶対に許さないよ) 悪魔のような所業に手を染め、自分達を苦しめ大切なものを奪い去っていったレコン・キスタへの復讐。それがマチルダの新たなる杖を振るう理由。 〝土くれのフーケ〟を敵に回せばどうなるか、今こそ奴らに思い知らせてやる。 (そろそろ借りも返さないといけないしね) そして、自分達に何度も救いの手を差し伸べてくれた、人の心を宿す伝説の悪魔、魔剣士スパーダ。 彼は明日の日食にこの世界に現れるという、悪魔達を迎え撃とうとしているという。 現在、レコン・キスタに侵攻されているタルブへと昨日から赴いているそうなので、そこで剣を振るって戦うであろう彼の力になることができる。 そろそろ自分達を助けてくれた恩に報いなければマチルダ・オブ・サウスゴータとして、そして人間としての名折れだ。 アルビオンからの宣戦布告より数時間後の午後。 アンリエッタ王女による陣頭指揮の元、タルブに陣を張ったアルビオン軍を迎え撃つための王軍が編成されていた。 主な構成は状況を既に把握しアンリエッタの呼びかけで即座に召集した、三種の幻獣を駆る近衛の魔法衛士隊。 さらに彼らからの連絡を受け、竜騎士隊や城下に散らばった王軍の各連隊も直ちに召集されていた。 つまるところ戦う意志を持つ者、そしてトリステイン王家に心から忠誠を誓う者達が此度の戦へと赴くことになったのである。 しかし、如何せん急ごしらえでかき集められた軍隊であるためにその兵力はわずか2000程度にしかならない。 元々、戦争の準備を整えていなかったがためにトリステイン王国が配備できる兵力はこれで精一杯だった。 おまけにメルカトール号を始めとする主力艦隊を失い、制空権をアルビオンに完全に奪われてしまったことも致命的な痛手であった。 軍事同盟の盟約に基づいてゲルマニアへ軍の派遣を要請したものの先陣が到着するのは三週間後などという答えが返ってきた。 彼らはトリステインを見捨てる気なのだろう。いくら軍事同盟を結んだとはいえ小国のトリステインへの加勢のためだけに戦力を失いたくはないということだ。 もっとも、アンリエッタ曰く「ならばそれで結構。ゲルマニア皇帝との結婚は無期延期とします」と強気に返していたのだが。 「姫殿下の輿入れが、まさかこんなことになるとはな……」 竜の意匠が鍔に施された大剣を背負う金髪の女剣士は戦争が始まったことによる混乱が続くトリスタニア城下のチクトンネ街の大通りを進んでいた。 平民出の軍人であるアニエスの今日の仕事は、アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式場の警備のはずであった。 宮廷の貴族達にとって、メイジではない平民でしかないアニエスのような人間は正直邪魔者に過ぎない。 『下賎な平民ごときに何ができる』 『剣しか振れない平民にはちょうど良い似合いの仕事だ』 そうこき下ろされ、嘲笑われる彼女達は必要な時だけ呼び出され、しかもメイジ達にとっては物足りない、もしくは厄介事でしかない仕事を押し付けられてばかりだった。 それはほとんどはした金で雇われ使い捨てられる傭兵のような扱いに等しい。 そして貴族達が与えた仕事で不始末が起きると、彼らは口々にこう吐き捨てる。 『だから平民など役に立たないのだ』 かといってその仕事にメイジ達が割り当てられることはなく、平民である彼女達に任され続ける。 結局は保身が大事である多くの貴族達にとっては些細な失態で不名誉を負いたくないがための矛盾に満ちた意識と行為であった。 まあ、貴族達のそんな考えなど平民のアニエスにとってはどうでも良いことなのだが。 「戦支度くらいはしないとな」 やがてアニエスが辿り着いたのは、一軒の建物。そこは一階が小麦粉などの穀粉を取り扱っている店であった。 店主であるふくよかな中年女性が現れたアニエスの姿に目を丸くする。 「おや、アニエスさんじゃありませんか!? 今日は仕事があるって……」 「ああ。忘れ物を取りに来ただけだ」 そう言いながら、アニエスは店の奥へと入っていき、階段を上がっていく。彼女はこの建物の二階の一部屋を借りているのだ。 部屋に入ると、アニエスは机の上に置いてあったゲルマニアの名工ペリ卿に特注で作ってもらった対魔物・悪魔用の砲銃を手にし、革帯で肩に吊るしていた。 そして同じく机に置かれているベルトを腰に身に着ける。そのベルトの周りには、この放銃に装填される小さな太いドングリ型の弾が10個、並べられるように固定されている。 婚儀の警備にこのような代物を持っていくことができなかっために今日は使わない予定だったのだが、戦となれば遠慮も配慮も必要あるまい。 準備を整えたアニエスは部屋を後にし、建物の外へと出ていく。店の主人は彼女が完全武装して出てきたのを目にして息を呑んでいた。 (お前も存分に振るえそうだな) 馬に乗るため駅に向けて大通りを歩くアニエスは背負っている大剣・アラストルの柄に手をかける。 この稲妻の魔剣は屈強の剣士であるアニエスに更なる力を与えてくれるだけでなく、その命を守ろうとしてくれていた。 力ある強者に大いなる加護を与えるアラストルは、もはやアニエスにとっては無くてはならない相棒といっても過言ではない。 故に今回の戦でもその刃に宿る力を全力で引き出してやろうと闘志を燃やしていた。 「アニエス殿!」 「待たせたな」 ブルドンネ街入り口の駅に到着すると、そこではアニエスと同じく各所を板金で保護した鎖帷子に身を包む20名弱の女戦士達が馬に乗り込んでいた。 全員が腰に剣と短銃を携え、さらにはマスケット銃などを革帯で肩に吊るして武装している。 彼女達は今日、アニエスと共に本来婚儀の警備を行うはずであった同僚達であり、彼女が配属されている平民で構成された一小隊である。 同じ女性ではあるがアニエスと同じく男などには負けない気迫と苛烈さを持ち、熟達した腕前を持つ戦士ばかりだ。 もっとも貴族達にとってはメイジにも劣る弱小集団だと見下されているのであるが。 「既に各連隊はアンリエッタ王女の率いる本隊と共に行軍し、タルブへと向かったそうです」 「よし。我々もすぐに合流する。敵はアルビオンの兵や軍艦だけではない。決して気を抜くなよ!」 『はっ!!』 馬に乗り込んだアニエスから檄を飛ばされ、他の女戦士達もそれに答えて返礼した。 剣と銃を武器にして戦う彼女達は、これからメイジ達でさえ味わったことのない戦いの中に飛び込むことになる。 アンリエッタ王女が率いる2000の軍隊が出陣し始めた頃、タルブの草原では熾烈な戦いが続いていた。 タルブの領主、アストン伯が防衛のために出向いた90名弱の兵達は上空に停泊している戦艦から地上に降り立っていくアルビオンの兵達へと突撃していた。 侵攻拠点とするには最適な場所であるタルブの草原ではあったものの、上陸を開始したばかりのアルビオンの地上部隊はまだ戦闘準備そのものが整っていないために その軍勢をまともに相手をするのは厄介なことである。彼らはタルブ伯の領軍からの突撃に押され気味であった。 本来ならばアルビオン産の火竜に騎乗した竜騎士達が空から地上部隊の援護を行えば良いのだが、彼らにとっては予想外の事態が起きているのだ。 「生意気な小娘どもめ!」 火竜に搭乗している竜騎兵の一人が舌打ちをし、呻いた。 それはタルブ村上空であるこの空域を飛行している他の竜騎士達とて同じである。 「たった一騎だぞ! 我らがあんな子供ごときに……!」 彼らが忌々しそうに睨んでいたのは、空域を飛び回る一匹の風竜。 初めはたった一騎だということで舐めてかかった竜騎兵達であったが、その侮りこそが彼らの誤りだったのだ。 風竜の吐くブレスは攻撃力こそ低いものの火竜よりも速度に優れるために、火竜のブレスも彼らの魔法も中々当てることができない。 作戦開始から姿を現していた自軍勢である異形の魔物達も、ことごとく屠られていっている。 「ファイヤー・ボール!」 「エア・カッター!」 的の大きい竜を狙らい、当たりさえすればそれだけで搭乗者もろとも地上へ墜落する。火竜の火炎のブレスであれば翼ごと搭乗者を焼いてしまうこともできるのだ。 「何故、効かん!?」 だが、運良く当てることができたとしても風竜の体は一瞬、赤く発光するのみでまるで傷がつかない。 搭乗者の青髪のメイジが杖を振ると、風の障壁によって阻まれて攻撃が届かない。 おまけにその竜に乗っているのは、トリステインの竜騎士などではなかった。 ……ただのメイジの学生。それも三人の女だ。 「そろそろ引き上げ時じゃない?」 アルビオンの竜騎士達の攻撃をかわし続けていたシルフィードの上でキュルケが呟く。 横から突っ込んできたブラッドゴイルにファイヤー・ボールによる火球をぶつけて石にし、地上へと落としていた。 「何言ってるのよ! まだいけるわ! このままあの竜騎士達を倒しちゃっても……」 「村人達の避難は済んでいる。これ以上、彼らを引き付ける必要は無い」 杖を振るって自分達を取り囲む三匹のベルゼバブを『炸裂』の魔法で吹き飛ばしながら意気込むルイズであったが、タバサがちらりと地上へ視線をやって冷静に呟いていた。 竜騎士達が放ってくる魔法や火竜のブレスを避けきれないため、エア・シールドによって攻撃をできるだけ通さないようにしているのだ。 シルフィードに当たってしまっても、スパーダから託されていたスメルオブフィアーによる結界を先ほど施していたために万が一、何回かは被弾しても大丈夫である。 「で、でも……あたし達が逃げたらこいつらもあっちへ行っちゃうわよ?」 納得できないルイズが指すのは、草原に降り立ったアルビオン軍と戦っているタルブ領主の軍勢である。 タルブの村人達を逃がすために時間稼ぎの陽動を行っていた結果、つゆ払いのために村を焼いていた竜騎士達はそちらへと急行できないでいたのだ。 このまま陽動を続けていれば、抗戦している領主の軍勢が地上部隊を何とかしてくれるとルイズは思っていたのだが……。 「残念だけど、この竜騎士達がいかなくても彼らは全滅しちゃうわ。見なさいよ」 キュルケが空に停泊し続けている無数の軍艦を指し示す。 「100にも満たない軍勢に、その何倍の数の兵達がどんどん降りてきてるのよ? あれじゃあとてもじゃないけど、勝ち目がないわ」 初めは善戦していた領軍であったが、次第に数を増やしていく敵軍に囲まれて劣勢になっていく。 キュルケの言う通り、全滅するのは時間の問題であるのは目に見えていた。 だからといって、自分達が救援に向かえば二の舞になるだろう。おまけに十数隻もの軍艦が空から地上を砲撃してくるのだ。自殺行為もいい所である。 突きつけられた現実に、悔しげに唇を噛み締めるルイズ。 このまま彼らを見殺しにしなければならないだなんて。自分達メイジの力も、何百もの軍勢や巨大な軍艦相手には無力なのだ。 「とにかく、一度例の門がある広場へ戻りましょう。もしかしたら、ダーリンが戻ってきてるかもしれないし」 「退却」 頷いたタバサが短く呟くと、竜騎士の魔法をかわしたシルフィードが大きく翼をはばたかせ、戦闘空域を離脱するべく反転する。 「逃がしはせんぞ!」 「我らを敵に回して生きて帰れると思うか!」 当然、竜騎士達は自分達の敵である彼女達を易々と帰そうとはしてくれない。 何より、ハルケギニア最強と言われるアルビオン竜騎士隊のプライドもあり、おめおめと敵を討ち漏らすなど屈辱でしかないのである。 「しつっこいわね!」 背後から次々と魔法や火竜のブレスが飛んでくるのをシルフィードは必死にかわしている。 風竜とはいえ幼生であるシルフィードは全速力を持ってしても、良くて火竜よりも僅かに速いくらいのスピードしか出せない。故に中々振り切ることができなかった。 後ろを向いたキュルケは杖から炎の渦を放って竜騎士達を牽制した。左右に避ける竜騎士達の攻撃と追走が一時的に止む。 「ウィンディ・アイシクル」 さらにタバサも氷の矢を拡散させることで回避に徹する竜騎士達が追撃を再開できないようにしていた。 その間にシルフィードは彼らの攻撃の射程外へと逃げることに成功する。 「バーストっ!」 僅かに残ったベルゼバブやブラッドゴイル達はしぶとく追いかけてくるが、ルイズが放った爆発による爆風の中へと突っ込み、そのまま地上へと墜落していく。 三人を乗せたシルフィードは一度、タルブ近郊の空域から外へと向かった。 追っ手が来ないことを確認すると、そこから40メイルほど低空を飛行しつつ大きく迂回して南側からタルブへと戻っていく。 どうやら竜騎士達は地上部隊の援護に向かったようだ。領軍は……考えるまでもない。 「降下」 広場のある森の上へとやってきて、降下を始めるシルフィード。 ルイズはその間、タルブの制圧を推し進めているアルビオン軍を口惜しそうに眺めていた。 (何よ……今に見てなさいよ……) スパーダが戻ってきたら、彼の力を借りて必ずアルビオンの軍艦を叩き落してやることをルイズは心に固く誓っていた。 悪魔なんかの力を借りてアルビオン王家を滅ぼし、あまつさえこのトリステインを侵略しようとしている恥知らずな輩には鉄槌を下さなければならない。 それを自分の手で果たしてやらねば、ルイズの心から湧き出る怒りは収まりそうもない。 「まだ戻ってきてないのね……」 シルフィードは広場の中央に着陸するが、相変わらず地獄門に開けられた次元の裂け目からは瘴気がこちら側に流れ込んでくるのみだった。 そして、石版の周りではスパーダが従え、留守を任せている悪魔達が静かに佇んでいる。 ゲリュオンは荒々しく息を吐きながら蹄をその場で踏み鳴らし続けている。 無数のコウモリ達を侍らすネヴァンはケルベロスのヌンチャクの輪に腕を通し、くるくると回して弄んでいた。 その隣でネヴァンの姿を写し取っていたドッペルゲンガーはその動きを真似ている。 みんな退屈そうな様子であったが、関わり合いになるのはよそう。 「ま、仕方ないわ。このままここで待ちましょ」 スパーダが帰還していないことを残念がるルイズにキュルケが言う。 明日の日食までもはや時間が無い。それどころかアルビオンが先に攻めてきたという最悪の状況だ。 本当にスパーダが日食の時までに帰ってくるのか、ルイズは少し不安になっていた。 タルブの村人達はアルビオンの戦艦がトリステインの艦隊を全滅させてしまったという光景を陰で目にした時、何か恐ろしいことが起きていると理解はしていた。 戦争が起きたのか? だがしかし、アルビオンとは不可侵条約を結んでいるはずだ。では、今目の前で起きたのは一体なんだ? 不安と困惑が彼らの心に渦巻き、アルビオンの艦隊がこのタルブへと向かっている間もただじっと陰で見ていることしかできなかった。 あまりの異常な事態に、彼らは今すぐすべきことを失念していたのである。 そんな村人達を動かしたのは、一つの叫び。 「 み ん な 逃 げ て え え え ぇ ぇ ぇ っ ! ! 」 村中に突如響き渡った、少女の絶叫。 恐怖と緊張が入り混じりながらも、力をふりしぼって外へと吐き出された声は家の中に引っ込んでいた村人達の耳に届いていた。 ――逃げろ。 たったそれだけの言葉が、失念していた村人達を突き動かした。 アルビオンの艦隊が上空に停泊する前に聞き届けられた必死の叫びのおかげで、村が焼き払われる前に全ての者達がその外へと逃げることができたのだった。 「お姉ちゃん、怖いよぉ」 「えぇ~ん!」 村人達を逃がした叫びを発していたシエスタもまた、泣きじゃくる幼い弟妹達を連れて南の森へと向かって走っていた。 父は家にいる母を連れに戻り、我が子達をいち早く安全な場所に逃げるように命じていたのだ。 「大丈夫……大丈夫だから……」 弟妹達をなだめるシエスタの顔は、真っ青だった。 本当はシエスタ自身も、恐怖と緊張でその身を震わせているままだったのだ。激しく高鳴る心臓も、息苦しさも未だ収まる様子がない。 ちらりと肩越しに空を見上げると、そこには目を背けたくなるほどの恐ろしい光景が広がっていた。 (悪魔……) タルブ上空に停泊する軍艦から次々と飛び上がる竜。だが、それよりももっと恐ろしいものが目に入る。 竜達と共に空を飛び交う異形の影。それはシエスタが密かに存在を感じ取っていた血に飢えた闇の眷属達だった。 気配を感じるだけで苦しくなるというのに、直視をすれば余計にひどくなる。 ……とにかく、今は逃げるしかない。 シエスタはもはや振り返らずに弟妹達を連れ、他の村人達と共に南の森を目指して駆けていった。 紫に妖しく輝く雲海が一面に、どこまでも広がっている。 頭上にあるのは空ではなく闇。ただそれだけだ。星も太陽も、月さえもないこの混沌の世界の空に広がるのは、ほとんどが禍々しい暗雲である。 だが魔界の奈落の底、深淵の奥深くともなるとその暗雲はおろか空さえも存在しない領域もあるのだ。 この領域へと足を運ぶのは、実に1500年以上も久しい。 雲海の中から突き出るように伸びているのは、切り立った細い断崖絶壁がいくつも集まることで出来上がった禿山である。 その高さは優に1000メイルにも達し、雲海と闇だけが広がる空間を地平線の彼方までどこまでも見渡すことができる。 ここには道などというものが存在せず、岩場を飛び越えることでしか登ることのできない険しい場所だ。 スパーダはその禿山の岩場を何度と無く飛び移っていくことで、難なくその頂へと上がっていた。 「やっと頂上だな! しっかし、とんでもねえ場所だな。火竜山脈なんか目でもねえぜ」 左腕のデルフが歓声を上げる。光で満ちた空間から一転した闇の空間は、まさしく魔界と呼ぶに相応しい過酷な所だ。 かつて始祖ブリミルが迷い込み、すぐに逃げ帰ってきた所に比べれば天と地以上もの差である。 スパーダは禿山の頂を歩き、前へと進んでいった。この領域に悪魔達の気配はない。 高低差が激しく複雑な地形であった頂の上を歩いていると、その先に何かが見えだす。 「何だ、ありゃあ?」 デルフが怪訝そうに声を上げた。 禿山の頂の一角、岩に突き立てられているものがあった。スパーダは真っ直ぐと、そこへ近づいていく。 「これが、相棒の忘れ物なのか?」 「ああ」 目の前に立ち、見下ろすそれは一振りの両刃の長剣であった。今背負っているリベリオンより少し短い140サントほどの長さである。 剣首には三面の髑髏の意匠が施されており、刃幅もリベリオン並に広いのだが剣先に沿って狭くなり鋭くなっている。 一切の無駄がない造型はリベリオンほどの重厚さや迫力はないものの、逆にリベリオン以上に研ぎ澄まされ洗練された鋭さと威圧感を備えていた。 そのような威厳に満ちた長剣が岩にしっかりと突き立てられていた。まるで御伽噺にでも出てきそうな伝説の剣が封印されているような光景である。 「こりゃあ、ただの剣じゃねえか。こんなもんを取ってくるために里帰りしたっていうのかよ」 デルフが拍子抜けした様子で呟いていた。かつては剣であった彼としてはそこらの店にある品と大して変わらないように見えているようだ。 事実、〝今〟のこの剣からは何の魔力も感じられない。愛用のリベリオンや閻魔刀でさえ振るわずとも魔力を纏っているというのに。 だがそれは表面上に過ぎない。この剣は現在、完全に封印されいわば仮死状態になっているのだ。 (久しいな……) スパーダは目の前にある長剣――1500年ぶりに、己の分身を感慨深げに見つめていた。 かつてスパーダが魔界と決別する前に振るっていたのも剣であった。魔剣士スパーダを象徴するものはやはり剣であり、様々な魔界の剣を手にして振るったこともある。 だがスパーダが最も長きに渡って使いこなしていた剣はたった一振りのみ。 それが目の前にあるこの長剣。スパーダの魂から作り出された、彼自身の力が写し取られた化身。 その剣を手に魔界の抗争を生き残り、そして魔帝ムンドゥスの人間界侵攻を食い止めたのだ。 だが、この剣は現世に留まる前、魔界の奥深くの領域であるこの場所へと封印した。 己の強大過ぎる力の大半を、この分身へと移すことで人間界で活動するのに支障が出ないようにしたのだ。 本来ならばそれでもう再び使うことは無いと思っていたのだが……。 (今一度、私と共に。我が魂の化身よ) スパーダは胸元のスカーフからアミュレットを外し、剣の真上でかざしていた。 銀と金、二つの面を持つ縁の中央には血のような真紅に輝く宝玉が淡い光を発し始める。 やがてアミュレット全体が赤い光に包まれると、スパーダの手から離れてひとりでに長剣の中へと吸い込まれていった。 「おおっ!? な、何だぁ!?」 その途端、長剣の全体から夥しいほどの魔力が紫のオーラとなって溢れ出し、炎のように揺らめいていた。 今まで何の魔力も感じられなかった剣から、今度はスパーダもはっきりと分かるほどの強大な魔力が満ち溢れている。 アミュレットは封印を解除するための『鍵』の役目を果たしているのだ。 剣の柄を両手でしっかりと握り締める。1500年ぶりに手にする分身の手ざわりはすぐにスパーダの手に馴染んだ。 それを一気に引き抜いた途端、岩場が突如として大きく揺れだした。 幾多に集まって禿山を成している切り立った岩場が突如として崩れだし、スパーダが立っている岩場を中心にして放射状に弾けていく。 遥か下の雲海へと落ち、そしてせり上がりだしていた。 「我が魂にして、仮初めの化身よ。今一度、我と共に」 スパーダは己の分身――フォースエッジを天に向かって力強く掲げた。 溢れ出る魔力はその元であるスパーダの全身に浸透していき、彼の全身を紫のオーラが包み込んでいた。 フォースエッジと現在のスパーダの身に宿る魔力が融合し、その力はさらに高まっていく。 「とほほ……何てこった。こんなすげえ魔剣があっただなんて。俺の出る幕じゃねえ。完敗だ……完敗だよ……」 フォースエッジから流れ込んでくる魔力を感じ取り、デルフはさめざめと泣き出していた。 かつては伝説の剣であった彼は、このフォースエッジが自分を軽く凌駕する伝説の剣であると認めざるを得なかった。 これだけ強大な力を宿した魔剣など、ハルケギニアのどこを探しても見つかりはしないだろう。 故に同じ剣として、敗北を認めなければならなかったのだ。 スパーダはゆっくりと正面にフォースエッジを構える。未だ溢れ出る魔力が紫のオーラとなって纏わりついている。 リベリオン以上に研ぎ澄まされ、洗練された白刃が静かに煌く。 「フンッ!!」 掛け声と共に袈裟へと力強くなぎ払った。 刃に纏わりつく魔力が剣圧となり、離れた岩場へと直撃する。 フォースエッジの一撃を食らった岩場は、粉々に砕け散ってしまった。 (強すぎるな……) フォースエッジをゆっくりと前に降ろすスパーダは苦い顔を浮かべていた。 分身であるこのフォースエッジはスパーダの魂そのものであるのだが、この状態はまだ真の力を発揮しているわけではない。 この状態で発揮できる力はせいぜい全体の1/4ほどのものでしかないが、1500年の間に新たに高まった今のスパーダ自身が持つ魔力と合わさることで 全盛期だった頃の半分以上のものとなっていたのだ。 故に、完全に力を引き出してしまうのはやめておいた方が良さそうだ。そうなると全盛期のスパーダの力を超えることになってしまう。 かつてのスパーダをも超えたその力ならば魔帝ムンドゥス級の強大な悪魔を相手にしても不足はしないだろうが……その力を発揮するのは最後の手段とした方が良いだろう。 ましてやハルケギニアでその力を引き出し続ければ安定を崩すどころかハルケギニアそのものを滅ぼしかねないのだ。 (本当の意味での切り札だな……) 強大過ぎる力は使い所を少しでも誤れば己自身をも滅ぼしかねない諸刃の剣となる。それを力ある強者たるスパーダは最も理解していた。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero
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『瑞穂皇国』 鳴海・亜季 清水・陽咲 『フランク連合』 ミーナ・クレメンティ 『グロースクロイツ帝国』 ヨゼフィーネ・ボールマン エルゼ=ツー=エーベルハルト エディータ・ミューラ 『アルビオン王国』 オフィーリア・コールター 『プリマス合衆国』 セリ・カタヤマ ラナ・モーゼズ 『ヴォルガ連邦』 タチアナ・トハチェフスカヤ 『華夏民主共和国』 『その他』
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前ページ次ページ虚無のパズル 大きな風竜に跨がったワルドは、薄い笑みを浮かべながら、蹂躙されたかつての祖国を見渡した。 上陸前のつゆ払いのため、ワルドはタルブの村と、その見事な小麦畑に容赦なく火をかけた。 焼け野原となったタルブの草原には、三色の『レコン・キスタ』の旗を掲げたアルビオン軍が展開している。 その数はおよそ三千。上空に大艦隊の支援を持つ、まさに鉄壁の布陣である。 ワルドの元に、偵察から戻った竜騎士が近付いた。 「申し上げます!トリステイン軍はラ・ロシェールの町に到着!拠点とし、兵の展開を進めているもよう!」 「数は?」 「およそ二千!」 「なるほど、それが緊急に配備できる限界ということか」 そばに控えた、別の竜騎士がワルドに進言する。 「子爵殿。村の連中は森の中に逃れたようですが、いかがします。森に火を放ちますか」 「よい、捨ておけ。奴らは餌だ」 「餌、ですか?」 ワルドはにやりと凶暴な笑みを浮かべた。 「そうとも。殺してしまっては、いまだ戦の準備の整わぬトリステインの軍勢を、ここまで誘き寄せることはできんだろう?」 タルブの村の南に位置する森。 村を焼き出された村人たちは、森の中に身を隠していた。 「コルベール先生!」 コルベールは、その声に振り返った。 「ティトォくん!無事だったのか」 息を切らせながらこちらに走ってくるのは、朝から姿の見えなかったティトォと、それを探しにいったシエスタであった。 シエスタは倒れている母の姿を見ると、青くなって駆け寄った。 「お母さん!」 「落ち着きなさい、シエスタ。母さんは気絶しているだけだよ」 シエスタを落ち着かせるように、父が肩を軽く叩いた。 シエスタは泣きそうな声になって、父親の腕を取った。 「お父さんも、火傷してるじゃない……、大丈夫なの?」 「こんなのは、大したこたあない。だが、ひどい火傷を負った奴もいる。連中、村に火をかけたんだ。なんとか村のものは全員逃げ出すことができたんだが、治療の薬が全然足りないんだ」 あちこちから、アルビオン軍の襲撃でけがを負った村人たちのうめき声が聞こえる。 火竜のブレスによって焼き出された村人たちは、多くの人が火傷を負っていた。 「ひどい……」 シエスタは、思わず口を抑えた。 骨折などの外傷は、村の医者の応急処置である程度なんとかなったが、火傷はそうも行かない。 こんな森の中では治療に必要な油薬を用意することなどできないので、火傷を負った人たちは、痛みにうめいていた。 見ると、コルベールが重症のものを優先して、『水』の治癒魔法をかけていた。 突然、コルベールの身体がふらりとなったので、ティトォはあわてて駆け寄った。 「コルベール先生!大丈夫ですか?」 「おお、すまない……、いや、私は『火』の系統のメイジ、治療の『水』魔法は本領ではないのだ」 『水』はコルベールの得意とする系統ではないので、コルベールの精神力を大きく削っているのだった。 「しかし、だからと言って黙って見ているわけにもいくまい」 コルベールは額の汗を拭うと、身体を起こそうとする。その身体を、ティトォが抑えた。 「待って。ぼくも手伝います、先生は少し休んでいてください」 「しかし……」 「大丈夫、ぼくも魔法使いです」 「なんだって?」 コルベールは驚いて、目をぱちくりさせた。ティトォとは三週間のあいだ、共同で研究を進めていたが、その間にティトォが魔法を使ったことはなかったので、彼のことは平民だと思っていたのだった。 ティトォは懐から小さな装置を取り出した。コルベールはそれが、以前見せてもらった『ライター』という着火装置であることに気が付いた。 考えてみれば彼の妹だという、あの小さな女の子……、アクアは、強力な爆発を操る、おそらくは『火』のメイジであった。 「ティトォくん、きみも『火』の……?」 ティトォはライターの回転ヤスリを擦って、火を付けた。ライターから勢いよく火柱が立ち上がった。 炎はみるみるうちにその色を変え、白く輝きはじめた。 「マテリアル・パズル……、炎の力よ、変換せよ!」 全身にひどい火傷を負った村の若者に、ティトォはその炎を叩き込んだ。 炎はまたたく間に若者の全身に広がり、勢いよく燃え上がった。 「きゃあ!ティトォさん!」 シエスタはあまりのことに、気絶してしまった。 村人たちもあわてて騒ぎ出す。 「ああ、なんてこと!誰か、水持ってこい、水!早く火を消さないと!」 「お前!いったいなにをするんだ!」 村人の一人が、乱暴にティトォの胸ぐらを掴んだ。 しかし、すぐに村人たちの顔は、恐怖から驚きへと変わっていった。 なんと、その白い炎に包まれた若者の身体から、傷が消えていったのだ。 醜く爛れた身体は、みるみるうちに血色を取り戻し、細かな傷も塞がっている。 ティトォを掴み上げていた村人の腕から力が抜け、解放されたティトォは尻餅をついた。 「げほ!げほげほ!」 「こ、これは、いったい……?」 コルベールは、驚きのあまりぽかんと口を開けていた。 古来より、傷を癒すのは、人の体に流れる水を操る『水』の系統の魔法なのである。 『火』の系統が傷を癒すなど、常識では、ありえない。魔法の法則から、大きく逸脱している。 それなのに、ティトォは秘薬の助けもなしに、『火』の力で、これほど強力な治癒の魔法を使ってみせた。 「……これが、ぼくの魔法。炎の魔力を変換し、傷を治す癒しの力にする。けが人をここに集めてください。ぼくが全員、治します」 「あ、ああ!わかった!おおい!おおい!怪我をしているものはこっちに集まれ!治療術を使える貴族がいらっしゃるぞ!」 シエスタの父は、気絶した母とシエスタを子供たちに任せて、村人たちに声をかけた。 足を怪我した者を運ぶのを手伝いながら、コルベールは目を輝かせてティトォを見ていた。 見つけた。 見つけたぞ。 きみこそ、私の……! トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報が入ったのは、翌朝のことだった。 王宮は混乱を極めたため、連絡が遅れたのであった。 ルイズは魔法学院の玄関先で、王宮からの馬車を待っているところであった。 その身は、儀礼用の巫女服に包まれている。なにも今から着付けしていく必要はないのだが、気分というやつであった。 しかし、やってきたのは馬車ではなく、一騎の竜騎兵であった。 王宮からの使者であるという竜騎士の少年は、オスマン氏の居室をルイズに尋ねると、息せき切って駆け出していった。 「今の、ルネじゃないの」 使者としてやってきた少年は、いつかの日に『竜籠』を操ってルイズとオスマン氏を王宮まで送った、あの竜騎士見習いの少年・ルネであった。 ルイズは、ルネの尋常ならざるようすに胸騒ぎを覚え、こっそりと後を追った。 「宣戦布告とな?戦争かね?」 式に出席するための準備をしていたオスマン氏は、飛び込んできた使者の少年の言葉に、顔色を変えた。 「いかにも!アルビオンの宣戦布告を受け、姫殿下の式は無期延期となりました!王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中!したがって学院におかれましては、安全のため、生徒および教員の禁足令を願います!」 「アルビオン軍は、強大だろうて」 使者の少年、ルネは、悲しげな声で言った。 「敵軍は、旗艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦は十数隻。さらに、三千と見積もられる敵兵力が、タルブの草原に陣を張り、ラ・ロシェールに展開した我が軍と睨み合いを続けております。 しかし、我が軍の艦隊主力は既に全滅……、完全に敵に頭を抑えられてしまったのです。かき集めた兵力も、わずか二千にすぎません。敵軍は空から砲撃をくわえ、難なく我が軍を蹴散らすでしょう」 「現在の戦況は?」 「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです……。同盟に基づき、ゲルマニアへ軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか……」 オスマン氏はため息をついて言った。 「……見捨てる気じゃな。三週間の間、アルビオン軍を食い止めることはできまい。艦隊がやられた時点で、すでに勝敗は見えておる」 「ああ、そんな……、それでは、指揮を執られている姫殿下も……」 ルネは打ちひしがれるように、膝を付いた。オスマン氏はルネの言葉に、驚いて尋ねた。 「なんと言ったね、きみ。まさか、姫殿下おん自ら前線に……?」 「そうなのです。不毛な対策会議を続ける宮廷貴族たちに発破をかけるように、姫殿下おん自ら兵を率い、タルブへ向かったのです」 「おお、なんということじゃ……」 これにはさすがのオスマン氏も驚いたようすであった。 オスマン氏は、椅子に深く腰かけると、右手で顔を覆った。 教員室の扉に張り付き、聞き耳を立てていたルイズは、戦争と聞いて蒼白になった。 そして、タルブと聞いて顔色が変わった。シエスタの村じゃないの。 さらに、アンリエッタが戦地に向かったと聞いて、卒倒しそうになった。姫さまが、戦に? たまらなくなって、ルイズは駆け出した。 走って、走って、学院の正門に辿り着いたとき、ふと我に返った。 わたし、今、なにをしようとしたの? 決まっている。タルブに向かおうとして、走り出したのだ。 姫さまを助けないと。シエスタを救けないと。 でも、ダメよ、ルイズ。あんたになにができるっていうの。 戦争なのよ。 相手は、空に浮かんだ巨大な戦艦。 『ゼロ』のあんたが行ったって、どうすることもできないわ…… ルイズはきゅっと唇を噛み締めて、ゆっくりときびすを返した。 学院の寮の、自分の部屋に向かって歩き出す。 そうよ、禁足令が出ているんだから……、部屋に戻らないと…… 『待つのだ、ルイズよ』 「──誰!」 突然何者かに呼び止められ、ルイズは振り返った。 『いいのか?このまま引き返してしまって。もう二度と、友に会うことはできなくなってしまうのだぞ』 「誰よあんた!どこにいるのッ!」 ルイズは辺りを見回したが、朝もやの中に、それらしい人影は見えない。 『今すぐ、友の元へ向かうのだ』 「向かえって……、無理よ、戦争してるのよ。魔法が使えないわたしなんかがいたって、邪魔なだけよ……、足手まといになるだけだわ……」 『それでも向かうのだ。邪魔であろうが、足手まといであろうが、危機に陥っているのであれば手を差し伸べなければならない、それが友というものだ。ここで逃げることは、友から、そして自分から逃げることだぞルイズ』 ルイズはハッとして、自分の右手を見つめた。その手には、メイジの命ともいえる杖が握られている。 そうだ、わたしは、魔法は使えないけれど…… ルイズは杖を振るい、早口に呪文を唱えた。 「ウル・カーノ……」 突然、魔法学院の正門近くで爆発が巻き起こった。門の外に控えていたルネの風竜は、驚いて威嚇の鳴き声を上げた。 「ジエーラ!」 先ほどより巨大な爆発が起こり、魔法学院の正門はガラガラと音を立てて崩れた。 「ジュラ・イル・ゲーボ!」 さらに連続して爆発が巻き起こり、崩れ落ちる瓦礫をすべて、さらに細かく砕いた。 ぱらぱらと小石ほどの大きさになった瓦礫が、正門前に降り積もった。 ルイズは深呼吸して、きっと前を見据えた。 そうだ、わたしには、この爆発がある……、昔だったら、これはあらぬところを爆発させるだけの、失敗の証でしかなかった。 でも、今なら。ティトォの魔法で、爆発をコントロールできるようになった今なら、これは立派な武器になるわ!半端な『火』の呪文なんかより、よっぽど強力な、わたしの力よ! 「うわ!なんだこりゃ!」 素っ頓狂な声に、ルイズは振り向いた。粉々に砕かれた門を見て驚いているのは、学院長室から戻ったルネであった。 「ちょうどよかったわ。あなた、わたしをタルブに連れていきなさい」 「み、巫女様?」 ルネはルイズの服装、式典用の巫女服姿を見て、怪訝な声を上げた。 「って、きみは。いつかの日に、オスマン氏と一緒に王宮へ送り届けた子じゃないか。なに言ってるんだよ。だめだよ、そんなこと。ぼくはまだ見習いだし、きみは学生じゃないか!」 ルイズが杖を振るうと、近くの地面が爆発した。土ぼこりが舞い上がり、ルネは目を丸くした。 「わたしはトライアングルクラスの『火』メイジよ」 ルイズは嘘をついた。ルネを納得させるには、得体の知れない爆発よりも、こっちのほうが通りがいいと思ったからだった。 「必ず姫殿下のお力になれるわ。連れていって」 「し、しかしだね。学院には禁足令が出ているんだよ」 ルネはそれを伝えに、こうして使者としてやってきているのである。 ルイズは懐から、一枚の書簡を取り出してルネの鼻先に突きつけた。 「……ひ、姫殿下の許可証?」 「わたしは姫殿下直属の女官です。姫殿下の御身の危機には、駆けつける義務があるわ!」 それを見て、ようやくルネの決心も付いたようであった。 「うむ……、そうだ、そのとおり!今は危急のとき!見習いだろうが、関係ない!トリステインの危機に駆けつけずして、どうして未来の竜騎士隊を名乗れようか!」 ルネはふとっちょの身体からは信じられないくらい身軽な動きで、風竜の背中に跨がった。 「よし行くぞ、目指すはタルブの村!きみも早く乗って!」 ルイズが風竜の背中によじ上ると、ルネは手綱を打ち、風竜を羽ばたかせた。 ルイズはすごいスピードで飛ぶ竜の背中の上で、ポケットを探り、アンりエッタからもらった『水のルビー』を指にはめた。 その指を、祈るように握りしめる。 姫さま……、どうか無事でいて。 それから、シエスタも……。わたしによくしてくれる、笑顔がすてきなシエスタ。どうか、無事でいて……。 ……そういえばティトォもいるはずなんだっけ。ついでに、無事でいて……。 それから、懐に忍ばせた『始祖の祈祷書』に手を伸ばした。 伝統に倣い、肌身離さず身に持っていたのである。 ルビーを嵌めた右手で、『始祖の祈祷書』をそっと撫でる。 「始祖ブリミルよ……、どうぞ我らをお守り下さい」 その瞬間、『水のルビー』と『始祖の祈祷書』がぼんやりと光りだした。 しかし、『始祖の祈祷書』は懐に入れていたため、ルイズはそのことには気付かなかった。 タルブの村の火災はおさまっていたが、そこは無惨な戦場へと変わり果てていた。草原には大部隊が集結し、港町ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍との結線の火蓋が切って落とされるのを待ち構えていた。 空には、部隊を上から守るため、『レキシントン』号から発艦したアルビオンの竜騎士隊が飛び交っている。散発的にトリステイン軍の竜騎士隊が攻撃をかけてきたが、いずれもなんなく撃退に成功していた。 決戦に先立ち、トリステイン軍に対し艦砲射撃が実施されることになっていた。 そのため『レキシントン』号を中心としたアルビオン艦隊はタルブの草原の上空で、砲撃の準備を進めていた。 タルブの村の上空を警戒していた竜騎士隊の一人が、自分の上空、千五百メイルほどの一点に、近付く一騎の竜騎兵を見つけた。 竜に跨がった騎士は竜を鳴かせて、味方に敵の接近を告げた。 ルイズは風竜から身を乗り出して、眼下のタルブの村を見つめた。 素朴で美しかったであろう村の姿はもはやどこにもなく、家々は醜く焼けこげ、ドス黒い煙が立ちのぼっている。 広大な小麦畑はすっかり焼け野原となり、アルビオンの兵隊たちが陣を張っていた。 シエスタが帰省した日、門の前ではち会わせた時の会話が、ルイズの脳裏に甦った。 『タルブの村は、小麦の名産地なんですよ。一面に小麦畑が広がって、とっても綺麗なんです。ミス・ヴァリエールにも、ぜひお見せしたいなあ』 アルビオン軍はゆっくりと行進していく。焼け残った稲穂が、兵隊たちに踏みにじられた。 ルイズは唇を噛んだ。血の味が滲む。 こちらに気付いた一騎の竜騎士が、上昇してくるのが見えた。 「叩き落としてやる」 低く唸り、自分の身体と、風竜の身体とをロープできつく結びつけた。 「ルネ!突っ込んで!作戦は分かってるわね!」 「ああ、バッチリだ!しかし、本当にやれるのかい?」 「わたしは姫殿下直属の女官で、巫女で、トライアングルメイジよ!信じなさいッ!」 「了解だ、巫女さま!始祖ブリミルよ、我らに勝利のお導きを!」 ルネの叫びとともに、二人を乗せた風竜が急降下を開始した。 「一騎とは、舐められたものだな」 急降下してくる竜騎兵を迎え撃つため、竜を上昇させた騎士が呟く。 しかもよく見れば、あれは風竜である。 アルビオン竜騎兵の主戦力である火竜に比べ、風竜はブレスの威力で大きく劣る。戦向きの竜ではない。 竜騎士は、急降下してくる風竜の竜騎兵を待ち受けた。 さすが風竜だけあって、早い。 だが、アルビオンに生息する『火竜』のブレスの一撃を食らったら、風竜など一瞬で羽を焼かれ、地面に叩き付けられるだろう。 じりじりと急接近する敵を引きつける。間もなくこちらのブレスの射程に入る。 まだ、 まだ、 まだ……、 今だ! ブレスを吐くために、火竜が口を開けた。 その瞬間、目の前の空間が爆発した。 「なッ!」 火竜は驚き、バランスを崩す。次の瞬間、またしても爆発が巻き起こり、羽を傷付けられた火竜は真っ逆さまに墜落した。 「やったぞ!」 「はしゃがないで!三騎、右下から来るわ!」 ルイズの言葉どおり、三騎が横に広がって上がってくる。 三騎の火竜は、ぼんぼんと炎のブレスを吐きかけた。ルネはすかさず風竜を操り、垂直に急降下する軌道を水平にした。 「うぐ……!」 急な機動の変化にルイズは振り落とされそうになったが、身体に結んだロープがルイズを支えた。 ごうと音を立てて、ルイズのすぐそばを火竜のブレスがかすめる。 「がんばれ、ベルヴュー。当たるなよ」 ルネは相棒の風竜の背中を、優しくぽんと叩いた。 風竜は大きく羽ばたき、加速した。背後から吐きかけられるブレスを避けながら、火竜の騎兵隊を引き離していく。 アルビオンの竜騎兵は、チッと舌打ちをした。風竜はブレスの威力で火竜に劣るが、スピードで勝るのである。 風竜は旋回して、ふたたび突撃してくる。すかさずブレスを放ったが、右へ左へと巧みに避けた。 「ええい!ちょこまかと……」 それ以上言うより先に、竜騎士の後ろの空間が爆発した。 爆風に押されて火竜はつんのめるようになり、背中に乗っていた竜騎士は振り落とされて、ぎゃあああああ……という長い悲鳴を残して、地面に落ちていった。 ルイズたちの作戦はいたってシンプルだ。 ルネが風竜で、魔法の射程ぎりぎりをひたすら逃げ回り、ルイズが爆発の魔法で攻撃する。それだけである。 しかし、この急ごしらえの作戦は、戦闘開始早々に二騎の竜騎士を落とすという大戦果をあげた。 なにしろルイズの爆発魔法は、狙った場所を直接爆発させることができるのである。 『ファイヤーボール』の呪文のように火の玉を飛ばすわけではないので、魔法の軌道を見切ることはできない。 魔法を使うルイズ本人以外には、どこが爆発するか分からないという、恐ろしい攻撃なのであった。 「すごい!すごいよルイズ!天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士を、二騎も撃墜したんだ!きみはまさしく戦巫女様……、いや、聖女様だ!」 ルネは興奮して叫んだ。見習いの自分が立てたとんでもない手柄に、舞い上がっているのだ。 しかしルイズはそれどころではなかった。次々吐きかけられるブレスを、右に、左に、宙返りで避ける風竜の機動に、乗り物酔いを起こしかけているのだった。 「うぶ……、あんまり叫ばないで。気持ち悪くなってきちゃった……」 「うわ!やめてくれよ、こんなとこで吐かれたらたまらないよ!いや、待てよ。聖女様の体から出されるものならば、それは聖水のようなものじゃないだろうか?するとぼくは,きみのをこの身に受け止めるべきなのだろうか?ううむ……」 ルネがなんだかろくでもないことを言い出したので、ルイズはますます気分が悪くなった。 しかし、ルイズはぶんぶんと頭を振って、なんとか酔いを振り払った。 右から十ばかりの竜騎士が、こちらにめがけて飛んでくる。 ぶおおッ!と、火竜のブレスが飛んできた。風竜は左にかわす。 「ルネ、もう少し近付いて!魔法の射程圏外よ!」 「十騎の中に突っ込むのは無理だ!引き離しながら、各個撃破を狙おう!」 ルネが手綱を操ると、風竜はぐんと加速した。 ばきばきばき!と木の枝を折って、森の中に竜騎士が墜落してきた。 森に隠れている村人たちは、びくっと身をすくませた。 落ちてきた竜騎士は、死んではいないようだが、全身を強く打って身動きが取れないようだった。 村人たちは、おそるおそる空を見上げる。アルビオンの竜騎士隊と、一騎の竜騎士が飛び回りながら戦っている。 「王軍の騎士様かい?」 「しかし、一騎だけってのもおかしな話じゃないか」 そうして見守っていると、またしても味方の竜騎士が、敵を一騎落とすのが見えた。 おおお!と歓声が上がる。村を燃やした侵略者が、次々撃ち落とされている! 村人たちはその竜騎士の活躍に熱狂した。 そんな喧噪の中、ティトォは怪我人の治療を続けていた。 ほとんど休まずに魔法を使い続けているティトォは、傍目にも消耗して見えた。 目を覚ましたシエスタが、心配そうにティトォを見つめている。 ティトォは額に浮いた大粒の汗をぐいと拭うと、目の端で空の戦いを見た。 「ルイズ……、来たのか……、ほんとに、無茶するな……」 ティトォは誰にも聞こえないほどの声で、ぽつりと呟いた。 50人目の治療を終え、ティトォは声を上げた。 「次の怪我人を、こっちへ……」 しかし、足下がふらりとなって、ティトォはよろめいた。その身体をコルベールが受け止める。 「無茶だ、少し休みたまえ。このままではきみが潰れてしまう」 「でも……」 「大丈夫だ、きみのおかげで、あとは軽傷のものばかりだ」 それを聞くと、ティトォは少し安心したような表情を浮かべた。 「本当ですか、それなら、少し……」 その瞬間、ティトォの心臓が、ずぐんと跳ねた。 ティトォは胸を抑えるとうずくまり、ごぼりと大量の血を吐いた。 足下の草花が、ティトォの血で真っ赤に染まる。 「きゃあああああッ!」 シエスタが悲鳴を上げた。村人たちも動揺し、ティトォの元に集まってきた。 「ティトォ君!」 コルベールが蒼白になる。 ティトォは荒い呼吸を繰り返し、焦点の合わない目で、地面に倒れるように横たわった。 とうとう、来ちゃったか。肉体の限界が…… ぼくの魔法『ホワイトホワイトフレア』は、生物の肉体強化。 だから、アクアやプリセラと違って、こうなることはまずないはずだけど……、 アルビオンへの密命や、宝探しの冒険旅行、それにタルブ村の怪我人の治療。魔力を使いすぎたか…… 「ティトォ君、しっかりしたまえ!」 どんどん呼吸が浅くなっていくティトォの姿に、コルベールは取り乱した。 「ああ、そんな。鼓動が弱くなっていく……、だめだ、死なないでくれ。死んではだめだ。きみは、私の夢なんだ……」 コルベールは、横たわるティトォにすがりついた。 「きみは、『火』の魔法で、傷を癒した。ここにいる人たちは、きみが救ったんだ。きみのようになりたいんだ、私は。 私の『火』で、誰かの傷を癒したいんだ。魔法を平和のために役立てたいんだ!私は、きみのことがもっと知りたい!きみの魔法が!きみの力が!だから、お願いだ……、お願いだから……、死なないでくれ……」 最後の方は声がかすれて、ほとんど聞き取れないほどだった。 コルベールはまるで祈るように、ティトォの右手を握りしめる。 ティトォは左手で、そっとコルベールの手に触れた。 「大丈夫です……、また、会えますよ」 その言葉は弱々しかったが、穏やかな響きだった。 コルベールは思わず顔を上げ、ティトォを見た。 「ぼくは……、『ぼくたち』は、死んでも魂が入れ替わるだけ……、永遠に、その繰り返し……」 「……なんだって……?」 コルベールは言葉の意味が分からず、困惑した。 ティトォは首を回し、その人形のような瞳でコルベールを見つめた。 「ぼくたちは、先生の思っているような……、立派な人間じゃありません。ぼくたちは、罪人……、確かにぼくの魔法は、癒しの魔法。戦いには向きません。でも……、平和のためじゃない……」 すでにティトォの命は消えかけていた。しかし、ティトォは強い意志を込めて、言い放った。 「ぼくたちは、戦うために魔法の力を身に付けたんだ」 突然、ティトォの身体が光を放ち、膨大な魔力が吹き出した。 「きゃあッ!」 周りで見守っていた、シエスタや村の人々は、吹き荒れる魔力の嵐にあとじさった。 ティトォの身体は、まるでパズルのピースのようにばらばらに崩れ、吹き荒れる魔力に乗って宙を飛び回る。 「これは、いったい……!」 コルベールは光から目を庇いながら、その様子を見守った。 やがて、パズルのピースは一ヶ所に集まり、組み上がって、なにかを形作ってゆく。 ばらばらになったティトォの身体が、『別の何か』になってゆく…… 「なんだと?この短時間で四騎が落とされただと?ばかな!」 艦砲射撃実施のため、タルブの草原の上空三千メイルに遊弋していた『レキシントン』号の後甲板で、艦隊司令官サー・ジョンストンは伝令からの報告に眉をひそめた。 「単騎で四騎を討ち果たしてのけたか。ふむ、英雄ですな」 隣に控えた『レキシントン』号艦長ボーウッドが、感心したように呟く。 「なにを悠長なことを!私がクロムウェル閣下から預かった兵だぞ!たった一騎の敵になにをやっておるのだ!」 伝令は身を縮こまらせながら、報告した。 「て、敵は竜の背に、竜騎士とメイジを乗せているらしいのです。風竜の素早い動きでこちらの攻撃をかわしつつ、メイジが魔法を撃ってくるので、どうしようもなく……」 「二人乗り?馬鹿な、いかに風竜といえど人間を二人乗せて素早く飛ぶことはできまい」 「それが、どうもどちらも鎧を身に着けず、かなりの軽装らしく……、メイジの方はかなり小柄で、しかもおかしなことに、巫女服を纏っているとか」 「巫女装束?」 ジョンストンが頓狂な声を上げる。 「『聖女』を気取るつもりですかな。まさしく英雄ということか。しかし、たがが英雄。所詮は『個人』にすぎませぬ。いかほどの力を持っていようと、個人には、変えられる流れと、変えられぬ流れがあります」 ボーウッドは落ち着き払って答えた。この艦は後者に当てはまる。 「艦隊前進。左砲戦準備」 しばらくすると遥か眼下に、周りを岩山に囲まれたラ・ロシェールの港町に布陣したトリステインの軍勢が見えてきた。 まず、空からの艦砲射撃により軍勢の体勢を崩し、しかる後に『レコン・キスタ』軍の一斉攻撃を開始するのだ。 水兵たちにより、砲戦の準備が進められる中、またも伝令の声が響き渡った。 「竜騎士一騎撃墜!」 またしても自慢の竜騎士を撃墜されたとあって、ジョンストンは顔色を変えた。 ボーウッドはため息をつく。 敵の竜騎士の一騎など、捨ておいても戦局に変化はないだろうが、放っておくのも目障りだ。士気に関わる。 「ワルド子爵」 ボーウッドは呟いた。 『はっ』 ボーウッドの耳に、ワルドの声が響く。 ワルドは艦隊のはるか後方を飛んでいる。声を『風』の魔法で、『レキシントン』号のブリッジまで運んだのである。 「単騎に何を手こずっているのか。遊ばせるために貴官に竜騎士隊を預けたのではないぞ」 『これは手厳しい。しかしご安心召されよ、すぐさま打ち取ってごらんにいれましょう』 ワルドはそう呟くと、はるか眼下の、竜騎士隊と戦っている一騎の風竜を見つめた。 風竜の背中には二人の人影があり、一人は儀礼用の巫女装束を纏っている。 ヘッドピースが風に揺れ、見慣れたルイズの桃色がかったブロンドの髪が覗いた。 ワルドは口の端を吊り上げた。 生きていたか、ルイズ。 ワルドは、騎乗する風竜を急降下させると、声を『風』の魔法に乗せ、残った竜騎士隊に指令を下しはじめた。 前ページ次ページ虚無のパズル
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名前:ネロ=ホーエンハイム=霞牙関 眼: 種族:人間 性別:男 年齢:16歳 一人称:僕、僕様 二人称:君 三人称:彼、彼女 口調:基本的にダルそう 口癖:うわー、君口臭いなぁ 容姿1:普段は中道学園制服、仕事中はスーツの上から白衣、綺麗な金髪と蒼い眼にモノクル 容姿2:168cm、49kg 装備:LAC製各種武装 戦術:戦いは数だよ、兄貴 職業:LAC代表取締役 所属組織:LAC 出身世界:人間界 タイプ:喧しくないもの 設定: LAC代表取締役にして、技術部最高顧問。 7歳にしてアルビオン物理学の分野で博士号を取り、天才的頭脳を遺憾なく発揮する。 「敵意が科学を進歩させる」という理念の持ち主で、兎に角多方面に武器を売買するのがモットー。 人類の発展のためなら「死の商人」の汚れ役も進んで請け負うと言ってはいるが、その実強い武器が作りたいだけである。 その最大の発明はEVILドライバーであり、純白やサファイアからも信頼は厚い。 名前からも察する事が出来るが、静羽にとっては腹違いの弟。 また、義理の妹に「レオナ=ホーエンハイム」が居る。 親族内での序列はネロの方が高く、本来家柄の継承権はネロに属する。 が、ネロにとって財力はLACを運営する以外の用途でさほど必要ではないため、静羽に様々な権利を譲っている。 「欧州魔術振興連盟」の特権階級「フランダース」をパトロンに持ち、財力面に関わらず支援を受けている。 そのつながりでマクスウェル機関にも懇意にしており、J3系列の組織とも繋がりは深い。 また、J3の技術をいくつか参考にしている節も見受けられる。 そこに能力学研究の純白、アルビオン物理学のサファイアを要する事でLACは非常に高い技術力を獲得した。 かつてはトロワ=バッドマンとなる前の景色 六華を師として尊敬していた。 彼が実の母を手にかける事件を起こし、学界から姿を消した事は少なからず心の傷となっていた。 ちなみに、イニシャルにすると「NHK」になるのを突っ込まれるとキレる。
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「やろうども弓を射掛けろ!」 「おおー」 ひゅんひゅんひゅん 「マルチナなんとかしなさいよ!」 「わかったよ」 剣を振り回し全て跳ね飛ばす もちろん全てワルドに刺さっている ぐさぐさぐさ 「ぎゃあああああああ」 ついでにギーシュは足とか腕に刺さっている 「ぎゃあああああああ」 「大丈夫、こんなの抜いてつばつければすぐに直るさ」 ぬっぽし ぴゅー 「ぺろり、うん鉄の味だ☆」 血が出すぎてギーシュがらりった 全身ハリネズミ状態のワルドはさっきから死んでいるのでスルー 「こうなったら肉弾戦しかないわっ!」 「いいね」 親指でグッドを決める骸骨を腕ごと捻じ切る 「バットじゃあああああああああ」 「うわああああああぼくちんの鋼の肉体がああああ」 「粉々にしてやるっ!」 ぼっきり ごりごり すさふぁー 文字通り粉々にしてやっと戦闘終了 そして宿 「ホラーチックホテルにようこそ☆」 「またおまえかー」 飛びつき頭をひねり折る 「ぎゃあああぼくちんのイケメンフェイスが大変な事に!」 「きさまいいかげん成仏させてやるっ!」 「まってまって、ここに虚無の秘宝があるからこれを差し上げるからゆるしてちょー」 箱を空けたら毒ガスが噴出しルイズたち一行は体が麻痺 「ふはははバーカバーカ、やーいひっかかってやんの!」 しかし遅れて付いてきたヴェルダンデが骸骨を地下に引きずり落とす もう話が始まらないので船をチャーターしてアルビオンまで向かった 「この船の積荷はいただいた!女はメイド服を着させて一生こき使ってやる!うっひょー俺ってバイオレンス」 「何がバイオレンスよこの骨骨ロック!」 強烈な突っ込みが骸骨の肩甲骨を粉砕する 「うわああ、なんてね、腕なんて飾りなんです!」 「じゃあ足も折るか」 「うわああああ」ガクガクブルブル 「アルビオンの秘宝のオルゴールと指輪を渡すから見逃してくれよー」 「ったく骸骨はしょーがねーなー・・・ってだまされると思ったか!」 オルゴールを踏み潰し指輪を外に投げるルイズ 「うわあああああああ始祖の秘宝があああああ」 「え、ほんもの?」
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前ページ次ページゼロな提督 東の空に朝日が昇る頃、一路南へ向けて飛ぶ風竜の一群があった。 まだ夜もあけきらないうちに編成を終えて出立した風竜騎士隊だ。 星と月の明かり、そして白み行く地平線からの僅かな陽光を頼りに、十数騎の竜騎兵は 一路飛び続ける。 現在、城下には続々と騎士や傭兵が完全武装にて集結しつつある。 姫亡命、アルビオン侵攻、ゲルマニアへの禅譲と、僅か十数時間で大きく変貌した現状 に、誰しも一時は混乱を隠しきれなかった。特に蚊帳の外に置かれた平民たちには寝耳に 水だ。国民の人気を一身に集めていた姫がトリステインを裏切った事実はすでに国中に知 れ渡り、士気の低下と指揮の混乱を招いた。街道は早くも逃亡する人々でごった返し始め ていた。 それでも、王宮がいち早く対応策を発表したこと、貴族達の意見統一も既になされてい たこと、対アルビオン戦が一刻の野猶予もならないこと、そして、トリステインに虚無の 使い手が光臨したという神の奇跡と「地に平和を」との啓示。混乱は速やかに収拾されつ つある。 とはいえ、あまりに激変する事態に対応しきれず動けない者も多い。慌ててかき集めた 一般兵は、まだ2千程度。 前日のうちに集結させていた魔法衛士隊と竜騎士隊のうち、斥候として風竜騎士隊が先 発してラ・ロシェールに行くよう命じられた。そしてその中にシルフィードに乗ったルイ ズ・ヤン・ロングビル・シエスタ・タバサの姿があった。別の風竜には公爵夫人も乗り込 んでいる。 ルイズの同行について公爵夫人とヤンは「トリステインの意思統一には虚無のカリスマ が必要」と主張し、ルイズへは城に残るよう勧めた。だが「アルビオン艦隊が勝ち残った ら『虚無』の力を使わないと倒せないじゃないのっ!」と、頑として同行の意思を曲げな かった。 平民で女性のシエスタだが、彼女はタルブが心配でいてもたってもいられなかった。竜 をも倒す銃を持っている事は中央広場の一件で知れ渡ってしまっていたので、同行を許さ れた。 そして朝日が昇りきり、夜の闇が昼の光へと置き換わった頃、風竜達は山間の町ラ・ロ シェールを視界に収めた。いや、正しくは山の向こう、町があるはずの場所からあがる煙 や火の手を発見した。 それは、撃沈され墜落した艦船の燃え上がる残骸。 彼方の有様に目を向け、風竜を急がせようとする彼らの前に、ふわりと風竜が飛んでき た。ギンヌメールの風竜だ。 同僚の無事な姿を見つけて、疲労と緊張に囚われていた竜騎士隊の面々は表情を明るく した。 「ギンヌメール殿!ご無事だったか!」 「戦況はっ!?艦隊はどうなったのだ!」 「町は!?あの火や煙は一体!?」 彼方に見える港町へ向かおうとしていた竜騎士達は方向転換し、ギンヌメールのもとへ と集まってくる。 未だに昨日の疲れが抜けきれない竜騎士は、それでも空域に集まる竜騎士達の鼓膜を破 らんばかりの大声を張り上げた。 「アルビオン艦隊は・・・大損害を受け、撤退したっ!」 刹那、空いっぱいに歓喜の叫びが響き渡った。 第28話 黄昏から暁へ 世界樹の桟橋には多くの艦が停泊していた。 それらトリステインとゲルマニアの戦列艦は、大きく数を減らしていた。見えるだけで も半分以下だ。一隻として無傷のものは無い。どれもこれも砲弾で大きく抉られ、焼け焦 げ、昔は艦だったというくらいにしか原型をとどめていないものもある。 桟橋の下には沢山の人がいる。艦隊戦に勝利し、一息つくため降りてきた軍人たちのよ うだ。恐らく艦や桟橋の中では水メイジ達による治療が急がれているだろう。よく見ると 桟橋入り口から大きな布袋に包まれたものが大事そうに運び出され、並べられている。葬 儀を待つ戦死者たちだ。 街の方から沢山の人が駆けてくる。空海軍の人々は彼等から真実を聞き、仰天している ことだろう。艦隊戦が終わった後で、命令書を届けたギンヌメールから禅譲案を聞き、目 を白黒させた様子が目に浮かぶ。 斥候隊は公爵夫人の乗る竜を先頭に、桟橋の麓に着陸した。とたんに軍人達が彼等を取 り囲んだ。 「どういうことだ!姫は拐かされたのでは無かったのか!?」「我が国へ禅譲するというの は真ですか!?一体、どうしてそうなるんですか!」「姫が亡命したなんて、嘘だろ?なぁ、 嘘なんだろ!?」「あの命令書、偽の情報で我が艦隊を利用したのか!?…い、いや、事情 は分かるし、あれが届いたから我等もトリステイン艦隊も助かったのだが…しかしこれは、 どうにも…」「ええい、とにかく城はどうなっているっ!」「皆落ち着け、とにかく一つず つ確認しよう」 公爵夫人は歴戦の軍人達に詰め寄られても怯むことなく、威厳を保って理路整然と昨日 の事態について語る。両国の軍人達は黙って、というより驚きのあまり声も出ない様子で 話を聞き続けた。 そんな中、大慌てで世界樹の麓まで丘を駆け上ってくる男がいた。彼等は坂道を駆け上 りながら、大声で叫んだ。 「タッ!タルブの村に!アルビオン軍がぁッ!!」 その言葉にシエスタの顔が蒼白になる。足が小刻みに震え、倒れそうになり、ヤンに寄 りかかってしまう。 大声を上げながら駆け上ってきた人をルイズ達が取り囲んだ。 シエスタがゼイゼイと肩で息する男にヨロヨロと近付く。 「タルブに…タルブにアルビオン軍が、来たんですか!?」 息が切れて言葉にならず、ただ男は首をガクガクと上下に振る。 シエスタも息を呑み、言葉を繋げられない。 代わりにヤンが、それでも一筋の汗を流しながら尋ねる。 「それでタルブは、一体、どうなったのですか!?」 汗を滝のようにしたたらせる男は、どうにか呼吸を整えて、やっとの事で応えた。たっ た一言を。 「ぜ・・・ぜん、滅・・・」 瞬間、ヤンはシルフィードへと駆けだした。 ルイズもタバサもロングビルも、砕けそうな足で必死に大地を踏みしめるシエスタもシ ルフィードへ飛び乗る。 青く輝く鱗を朝日に煌めかせ、風竜は再び飛翔した。 一路、タルブへ向けて。 それは、確かに全滅だった。 村のあちこちから、今も火の手が上がっている。 死体が村のいたる所に野ざらしになったままだ。 動く者の姿は無い。あれほど栄えていた村から、人影が消えた。 村で一番大きい村長の家は、跡形もなくなっていた。 そう、確かに村長の村は崩れ落ち、跡形もない。 村に人影もない。 火の手も煙も上がっている。 死体だってあちこちに転がっている。 シルフィードの背に乗る人々は、その光景に絶句していた。 ルイズが、大きな目をまん丸に見開いて、呻くように呟く。 「・・・な・・・なな、なんなの・・・これ・・・」 ロングビルも眼下の光景が信じられない。 「なんで、どうして、こんなことが・・・?」 そう、確かに信じがたい光景だった。 死体が村のあちこちに散らばっている。 だが、村人の死体は一つもなかった。 それら全てがマントを纏った軍人、アルビオンのメイジ達の死体だ。 崩れた村長の家の跡には、真っ赤な鱗を自らの血に染めた竜の死体が横たわっている。 その頭は家屋の残骸に突っ込んで埋まっている。 アルビオン軍人だけでなく、竜の死体もあちこちに横たわっていた。上空から見えるだ けでも十以上。 どうやら、竜騎兵は全滅したらしい。天下無双と言われたアルビオン竜騎兵が、エルフ と並んで戦いたくない相手と言われる火竜と、それを操るメイジ達が、皆殺しにされてい たのだ。 シエスタの目が彼方を見つめる。その視線の先を力一杯指し示した。 「あれ!あっちです!草原ですっ!」 彼女の指先の彼方、朝日に輝くタルブの草原。その中に、何か塊がある。 どうやら人間、それも大人数が一塊になっているらしい。 「タバサさん、草原の方へ」 ヤンに促されるまでもなく、タバサはシルフィードを草原へと向かわせていた。 「なあ、マッシュ…どうして黙ってたんだよ」 「何をだよ」 アルビオン兵士達は草原に腰を降ろし、朝日を眺めていた。 「タルブが、こんなとんでもないメイジに守られてるだなんて、聞いてねえぞ」 右頬に大きな切り傷を持つ、いかにも歴戦の戦士という感じな男に問いただされたマッ シュは、忌々しげにぼやいた。 「んなもん知らねぇよ。俺はただワインの買い付けに来てただけなんだから。それに、そ ん時は確かにメイジなんか見なかったぜ」 「よせよ、ジョナサン」 背後にいた兵士に諫められ、ジョナサンと呼ばれた頬に傷ある戦死は舌打ちしてそっぽ を向いた。 「確かにえらい目にあったけど、ちゃんと俺もマッシュもジョナサンもアンディも、四人 で今度も生き残れたじゃねえか。それだけでも喜ぼうぜ …おい、アンディ、どうした?」 「あ、いや、チャールズ…ほら、そっちの貴族様がよ…」 アンディと呼ばれた男は視線を右に向ける。他の三人も彼の見ている先へ視線を移す。 彼等の視線の先では、一人の貴族がなにやら必死にお祈りをしていた。 そして、袖からこっそりと小さな杖を取り出す。 その貴族を見ながら、四人はヒソヒソと呟きを交わす。 へぇ、杖を隠し持ってたのか。放り出したのはダミーだったわけだ。 しかもあの祈り方からすると…やる気か? らしいな。貴族の名誉を守るため、敵に一矢報いて死ぬつもりらしい。 って…ちょっと待て。今あいつが魔法を使ったら、周りにいる奴も! 四人は、一瞬顔を見合わせる。そして、その貴族から一気に飛び離れた。同様に他の兵 士達も一気に間を空ける。杖を隠していた貴族は一瞬で人垣の中に一人孤立する形になっ た。 それでも貴族は構わず杖を振り上げ、座り込む兵士達の外側に立つ人々へ火の玉を放と うとする。 閃光が走った。 魔法を放とうとしたメイジのこめかみを、光が貫通した。 次の瞬間、メイジは光が貫通して出来た穴から細い血飛沫をまき散らす。 草の上に倒れ込み、数度ほど痙攣した後、動かなくなった。 メイジの周囲にいる人々は、名誉のために死んだメイジへの祈りの言葉、無駄に死んだ 貴族への嘲笑、そして自分が巻き込まれなかった安堵の吐息を漏らした。 タルブ草原には、数千人の兵士達がいる。アルビオン艦隊から降り立った陸戦隊が、草 原の中に一塊で座っていた。 彼等の周囲には、鋤や鍬を構えた村人達と、槍と剣を持つ数十人の兵士。そして老メイ ジがいる。タルブの村人と、結婚式に行かずアストン伯領に留まっていた兵士達、そして アストン伯爵だった。 アルビオン軍数千人を取り囲んでいるのは、松明の燃えかすが燻る草原にたむろしてい る人々。一人の老メイジと、その部下である数十人の兵士、そして百人程度のタルブ村に 住む男達。数も見た目も、内戦をくぐり抜けた傭兵とメイジ達に太刀打ち出来るように見 えない。 なのに、アルビオン兵は草原に座り込んで動かない。彼等の武具は、とっくの昔に放棄 させられていた。村の端、草原の畔には、彼等が投げ捨てさせられた剣・槍・鎧、そして 杖がうず高く積み上げられている。その周囲には村の女達が刃物やら棒やらを持って見張 りに付いている。 村人達が、アストン伯爵に向かって口々に賞賛の言葉を投げかけた。 「いやはや、さすがは領主様ですだ。素晴らしいメイジをお連れ下さって、本当に助かり ましただ」 「ほんにほんに!あーんな山の上から竜もメイジも皆殺しだなんて!」 「さすが伯爵様ですわね!私達は良い主君を持って、幸せですわ」 褒め称えられたアストン伯は、非常に微妙な苦笑いを浮かべた。 領主は山の方を見る。ブドウ畑が広がる山の斜面、山の上にはちらほらと、オレンジ色 の屋根と白い壁の民家が見える。 さっきの光はブドウ畑の中から撃たれた、様に見えた。光るのは一瞬だったため、よく わからない。それにブドウ畑の中に隠れて、誰が何をしているのか見えない。だが少なく とも、あんな魔法は見た事も聞いた事も無い。当然、自分の手勢に、そんな正体不明のメ イジなんかいない。 だが伯爵とその手勢が到着した時、その光は竜を全て撃墜した後だった。今もアルビオ ンの軍勢から士官のメイジ達を正確に殺している。 ふと空を見上げると、数人の男女を乗せた一騎の風竜が領主の頭上を舞っていた。 「あー!いた、いました!みんな無事ですよー!」 シエスタはアルビオン兵を包囲する村人達を発見し、大はしゃぎだ。 「・・・どうやって?」 タバサがたった一言、疑問を口にする。確かに事情を知らない彼女には、一体どうして アルビオン陸戦隊がこんな場所で降伏しているのか分からないだろう。 だが、ヤンは知っていた。ルイズとロングビルも薄々予想がついた。タルブがどうして レコン・キスタの襲撃を撃退する事が出来たのか。 シルフィードがブドウ畑の上を通り過ぎる。その下、ブドウの木の間には、三人の人影 が草原の方へ向けて体を屈めている。三人揃って黒髪を持つ人影達はルイズ達に向けて手 を振った。 「じーちゃん、どうやら姉ちゃん達が、お城から来てくれたらしいね」 ジュリアンは、隣にいた村長のワイズに安堵の声をかける 「やれやれ、これでようやく引っ込めるな。弾切れになる前でよかったよ。ほら、ジョル ジュ。帰るぞ」 「そうだね、父さん。まだ軍隊は来てないけど、これを撃ってる姿を見られるとやっかい だしね。 ジュリアンも、一晩中よく頑張ったな」 「へへ、僕だってサヴァリッシュだもん。でも、やっぱりじーちゃんの腕が一番だね!」 ジョルジュと呼ばれた男の手には、スコープの付いた荷電粒子ライフルが抱えられてい た。それはオイゲン・サヴァリッシュが所持していた二丁の銃のうちの一つ、ヤンが先日 メンテナンスをしたライフルだ。 竜騎兵の襲撃に気付いたサヴァリッシュ家の者達は、すぐにライフルを取り出した。飛 来してきた火竜と竜騎兵を尽く狙撃したのだ。赤い鱗を輝かす巨大な火竜も、魔法を詠唱 する騎士達も、引き金に指がかけられたライフルの前に姿を現した時点で、ただの的でし かなかった。 撃墜された竜騎士20騎の次は、草原から駆けてくる陸戦隊。遙か彼方から、偉そうな マント姿の者から順に、次々と撃ち殺した。指揮者の大半がいなくなった陸戦隊は行動不 能に陥り進軍を止めた。 陸戦隊を降下させた輸送船団では地上の有様に驚愕した。援護をしようにも武装が無い し、メイジはみんな地上に降りてしまった。右往左往していたら、上空に艦隊戦に敗れた アルビオン艦隊が敗走しているのが見えた。生き残っていた旗艦からの旗流信号で撤退を 告げられたが、桟橋がないので降下着陸が出来ず、陸戦隊を残して輸送艦隊も戦列艦と一 緒に逃げ出してしまった あとは駆けつけてきたアストン伯と部下達が、村人達と共に陸戦隊を武装解除させた。 草原の中で一晩中、松明を掲げて監視しながら城から軍が来るのを待っていたのだ。もち ろんサヴァリッシュ家の男達、村長ワイズ・息子のジョルジュ・孫のジュリアンが交代で ライフルを構え、夜を徹して不穏な動きを見せる兵士を見張り続けた。 三人が手を振ったのを見て、シエスタはようやく頬をゆるめた。大きな溜息とともに、 肩から力が抜ける。 「よかったぁ~…父さんもお祖父ちゃんもジュリアンも、みんな無事だッたんだぁ」 「そのようだねぇ、はぁ、よかった」 ヤンもヘナヘナと全身から力が抜けた。 そんな彼等を乗せたシルフィードは、村と草原の間に着陸した。とたんにシエスタは飛 び降りて、村の人々との再会と互いの無事を喜び合った。 昼前になり、ようやくラ・ロシェールから他の風竜隊と艦隊の士官達もタルブへ到着。 速やかにアルビオン兵は投降、捕虜となった。 サヴァリッシュ家のライフルについては、村人達は完全にしらばっくれた。揃って「伯 爵様の所のメイジと思ってました」と言い張った。もちろんアストン伯も言を左右にし、 歯切れ悪く説明し、カリーナに詰問されてようやく「誰だったのか分かりません」と正直 に答えた。 彼女は狙撃されたメイジ達や竜の死体を一瞥し、その傷口を確かめる。そして目を見開 き、ヤンとシエスタを睨み付けた。慌ててそっぽを向いて知らんぷりする二人に、公爵夫 人は何も言わなかった。 草原の畔、木の下ででカリーヌは力なくうずくまり続けるアルビオン兵の集団を眺めて いた。 婦人の後ろに長剣を背負うヤンが歩いてきたのは気付いているはずだが、何も語ろうと はしない。 「奥様、そろそろ城へ戻られた方が良いと思います」 ヤンの言葉にも、彼女は何も答えない。ただ黙って捕虜達を眺めている。 「奥様…?」 再びヤンが声をかける。 カリーヌは、ゆっくりと呟いた。 「口惜しい…」 その言葉に、ヤンも何も答えない。ただ次の言葉を待って立ち続ける。 「お前の持つ銃は、いや、お前と黒髪のメイドと、そしてこの村に隠されている銃は、ア ルビオン軍を倒せる程の力を持っていたのですね」 そのセリフに、ヤンは返答に窮する。 しばしの間を空けて、ヤンはハッキリと明言した。 「そんな訳はありません。多少、ハルケギニアの銃より性能は上ですが、弾切れになれば 終わりです。それに戦艦は墜とせません」 公爵夫人は肩越しに振り返る。その視線には普段の苛烈さが無かった。ただ寂しげで、 哀しげだった。 「その弾切れとやらを起こす前に、アルビオンのメイジは皆殺しにされた。メイジの魔法 は平民の銃に劣る、と証明されました」 「ハルケギニアの銃ではありません。遙か彼方、私の故郷の銃です」 「そうですね…お前の国と遠く離れていたから、我等メイジは貴族などと驕り高ぶり君臨 出来たのです。お前が魔法を使えぬ平民でありながら元帥になれたのも当然。魔法の有無 など無意味なのだから。 お前は、貧弱な魔法をひけらかす我等が、さぞや滑稽であったでしょう?」 ヤンは再び答えに窮する。 今の公爵夫人に、どんな言葉をかければ良いものか。すぐには答えが出てこない。 政治軍事方面以外には大して役に立ってくれない頭脳を巡らせて、どうにか答えらしき ものを紡いだ。 「私の国には私の国の歴史と伝統と法があります。そしてハルケギニアにもハルケギニア の歴史と伝統と法があるのです。どちらが上とか優れているとか、そういう事はないので す。どちらも等しく正しいのです」 今度はカリーヌが口を閉ざす。 視線を草原に向けたまま、指揮官を失い雑兵の群れと化した兵士達、そして彼等を囲む トリステイン軍人を見続ける。囲んでいる軍人の中に、緑やピンクの髪も見える。ロング ビルとルイズも監視の輪に加わっていた。 しばしの後、沈んだ声がそよ風に乗って届いてくる。 「歴史と伝統、ですか…。 トリステインは伝統としきたりに固執し、ゆえに国力を年々低下させた。理由は簡単。 平民でも力あれば貴族になれるゲルマニア、シュヴァリエに叙勲されるガリア。両国へ平 民達が逃げ出したのです。人口それ自体が減少していたのですよ。それも知恵や力、何よ り金がある平民ばかりが。 あとに残るのは、本当に知恵も力も富もない、家畜として飼い慣らされた平民達。それ を家畜と見下す傲慢で盲目な貴族達。我等はレコン・キスタに対抗する力を失ったため、 ゲルマニアとの同盟を画策し、失敗しました。そしてついには禅譲をせねばならなくなっ たのです。 歴史と伝統を盲信し、平民も貴族と共に国を担っていたという真実から目を逸らした我 等の無知蒙昧ゆえに、トリステインは滅んだのですよ」 カリーヌは微笑んだ。自嘲と自虐に満ちた、自信の欠片も無い、力ない笑みだった。 その言葉に、ヤンは慰めの言葉をかける事が出来ない。 国家が永遠不滅ではない事は、ヤンの知る歴史上の事実だ。あらゆる国家が発生し、消 滅した。人類生誕から今まで延々と続いた国など無いのだ。それはハルケギニアでも同じ だ。6千年続いたアルビオン王家は滅んだ。トリステインも遠からず独立国家ではなくな る。 季節が変われば服を着替える。同じように、時代が変われば歴史も伝統も法も、国も変 わる。単に、そのサイクルが人間の寿命より長いから、その事実を体感しにくいだけのこ と。 だが、それが厳然たる事実だからと言って、時代の流れに翻弄され傷ついた公爵夫人へ 冷たく事実のみを語るほど、ヤンは冷徹にはなれなかった。 なんとか、彼は物事の明るい側面を婦人に照らす。 「新しい時代が来たなら、新しい生き方を探しましょう。皆で生きるって決めたんですか ら。生きていれば、道は見つかるものです。 僕もそうやって、何度も戦争に負けて、故郷の国だって滅んで、それでも生き残って来 たんです。そしてハルケギニアに召喚されて、過去を捨てて新しい人生を送る事にしたん です」 その言葉に、カリーヌは何かを思い出したように目を開いた。そして、まじまじとヤン の顔を覗き込む。 「そういえば、お前は元の国では元帥で、軍最高司令官…という噂だったが、結局それは 真だったのですか?」 「ええ、その、まぁ…実は本当なんです。自分でも信じられませんが」 ヤンは恥ずかしげに頭をボリボリと掻いてしまう。 そんなヤンを公爵は、穴が開くのではないかというくらい見つめる。 「で…そんな過去を持つお前が娘の、ルイズの下着を洗ったり着替えをさせたりしていた のですか?」 「ええ、その通りです」 その言葉に、婦人は心から呆れたようだ。 「お前は…大人物なのか、プライドが無いのか、どっちなのですか?」 「どちらでもないですよ。郷に入りては郷に従え、というだけの話です」 当然のように答えたヤンに、公爵夫人はキョトンとしてしまう。 黙って話を聞いてたデルフリンガーが初めて口を挟んだ。 「無節操というか…少なくとも、貴族だ元帥だと威張り散らすなんて意味がないって良く 分かってるよな」 再び、二人とも黙り込む。寝ぼけまなこと呆れかえった目が交差する。 そして、公爵婦人はクスクスと笑い出した。心から楽しげに、少女のように素直に。 ヤンはヤンで、照れ隠しにやっぱり頭を掻いてしまう。 ひとしきり笑った元マンティコア隊隊長は、コホンと小さく咳払いしてヤンに向き直っ た。 「ところで、話は変わるのですが…枢機卿はいずれにせよ、失脚を免れないでしょう」 「そうでしょうね」 「代わりに新しく宰相なり大臣なりが任命されると思います。そこでお前を、その補佐官 か参謀に推挙しようと思います」 その言葉に、ヤンは少し困った顔をする。 そしてカリーヌへ頭を下げた。 「奥様、もし出来ますなら、私をこのままルイズ様の執事として置いて頂けませんか?」 カリーヌは、今度こそ目を大きく見開いた。ヤンの言葉が信じられないかのように、絶 句している。 「お前ほどの者が、ただの執事に甘んじたい…そういうのですか?」 「はい」 「何故ですか?お前ほどの知恵者なら、アルブレヒト三世とて右腕として欲しようという のに」 彼はやれやれ…といった感じで肩をすくめる。 「僕は、もう戦争なんて懲り懲りなんです。権力争いも政治闘争もまっぴらです。僕の夢 は、お酒を飲みながら歴史の本を読んでのんびり過ごす事なんですよ。年金で生活しなが ら」 婦人は、今度こそ本当に心から呆れた。 アルビオン艦隊を手紙一枚で追い返し、ハルケギニアを戦乱から救わんとする英傑が、 娘の執事で良いという。もしかしてルイズの『虚無』を狙って…とも疑ったが、そんな素 振りは全く見えない。 「おいおい、欲がねーにも程があんだろ!おでれーたなぁ」 「構わないさ。やっぱり僕には政治とか戦争なんて似合ってないんだから」 「でもよ~、おめーにそんなノンビリされてっと、剣としての俺の立場が」 「大丈夫!毎日綺麗に磨いてあげるからね」 「…いらねぇよ」 カリーヌはデルフリンガーと楽しげに話すヤンを睨み付け、上から下まで観察し、これ まで彼の言動を思い返して、とうとう観念した。公爵夫人がヤンに頭を下げたのだ。 「分かりました。これからもルイズの事を、いえ、ヴァリエール家共々、よろしくお願い します」 「はい。私で良ければ、こちらこそよろしくお願い致します」 そして公爵夫人はヤンを引き連れて、村の方へと戻っていく。 彼女は村の貴族向け宿を仮の司令室として、風竜隊やアストン伯へ命令を飛ばす。ラ・ ロシェールと城への連絡、捕虜の監視など、矢継ぎ早に指示を飛ばした。 村人達も死体や崩れた家屋の後かたづけ、捕虜の監視に忙しい。なにより、崩れた村長 の家からサヴァリッシュの書を回収する事に。 日が傾き始めた頃、ようやく作業は一息ついた。 近隣に残っていたメイジや兵士なども集まり、捕虜も完全に抵抗の意思を無くし、あと は本隊の到着と、連行なり引き渡しなりの処理を待つだけだ。 ヤンはデルフリンガーを背負ったまま、ふらりと散歩に出かけた。ブドウ畑が広がる山 の斜面をゆっくりと登り、村と草原が見える所まで来て一息ついた。地面に腰を降ろし、 ブドウ畑の間でひっくり返って空を見上げる。 白くて大きな雲、澄んだ青い空。雲の彼方には宇宙、自分が人生の大半を過ごした真空 の世界。もうあそこに戻る事もないな…と、ぼんやりと思う。 横に置かれたデルフリンガーも何も言わない。ただボンヤリと、静かに空を見上げ続け る。 「まーた、こんな所で黄昏て」 ロングビルの声が降ってきた。 声の方を見ると、ちょうど緑の髪を風になびかせて降り立った所だった。『フライ』で探 していたのだろう。 「もしかして、また僕が呼ばれる様な事が起きたかい?」 「それはないけどね。ルイズだってあんたを探してたよ。勝手にどこか行っちゃうのはよ しておくれよ」 「そっか、そうだね。ゴメン」 ロングビルは、ヤンの横に腰を降ろす。 そして身を屈め、彼の上に体を被せる。 「ホントに、どこにも行っちゃ、やだぜ」 ロングビルはヤンの唇と自分の唇を軽く重ねる。 そしてヤンの首に腕を回す。 「おいおい、まだ日は高いよ。こんなところで・・・」 「だってぇ、村に帰ったら忙しくなるし、人も多いじゃないかぁ」 甘い声で囁くロングビルは、構わずヤンの服のボタンに手をかけた。 あー!見つけたーっ! いきなり空からルイズの叫び声が降ってきた。 上半身裸のヤンと、既にキャミソールも脱ごうとしていたロングビルが、慌てて空を見 上げる。 ブドウの木の間から、着陸するシルフィードと、飛び降りてくるルイズとシエスタの姿 が見えた。 「げぇ!シエスタ!なんて野暮なんだい!?」 「うわ、ルイズも、なんでいきなり!」 二人とも闖入者に驚き、急いで服を着直そうとする。 が、急な事に手元が覚束無いヤンの首にルイズが飛びついた。 「ちょっとー!何やってんのよ、こんな時に!あんた私の執事としての自覚無いの!?」 駆けてきたシエスタもヤンの体に抱きついた。ズボンしか身につけていなかったので、 上半身の素肌にシエスタの大きな胸が押しつけられてしまう。 「ひっ酷いです!あたしだって、あたしだって!ヤンさんのために、ヴィンドボナで計画 を色々立ててたのに!ゲルマニアではあたしの番だと思ってたんですよぉっ!」 一瞬、ロングビルとどっちが大きいか、という思考が駆け抜けたのは、彼が木石であら ぬゆえ。 「ちょちょちょっ!ちょっと待って!二人とも、いきなり何をというか、あんというか、 その、あの!」 さてこれから男女の秘め事を…という所へ突然の乱入。しかもシエスタの方は、明らか に自分との関係を迫って抱きついている。 こんな事態への対処法は、彼の脳内には無い。 彼は、考えてみると不思議だった。人類の歴史は男女の歴史。なのに、歴史を学んだ彼 に、男女交際についての知識がないなんて…と。無論その思考は現実逃避の類、という自 覚もあったが。 そんなわけでヤンは、生きながらにして天国と地獄を味わっていた。 対するロングビルは地獄のみを味わっていた。特にシエスタに対して地獄の悪魔を見る かのような視線だ。 「ちょっとシエスタ!あんた、どういうつもりだい!?」 「どうもこうも無いです!ヤンさんを独り占めなんて許しません!」 「なにを言ってンだぁ!独り占めも何も、ヤンはあたしの事が好きなんだよ!」 「ふーんだ!だったら、あたしは二番目で良いです!」 シエスタの愛人・妾・二号宣言。 ロングビルはおろか、ヤンもルイズも目が点になった。 ワナワナと震えるロングビル。煉獄の炎を宿すかのような目が、未だにオタオタしてい る恋人に向けられた。 「…ヤン」 「…は、はい…」 いつも半開きだった目は、彼の生涯無かったであろうくらいまで見開かれていた。 「この泥棒ネコに、ハッキリ言ってあげなよ」 「な、にを、でしょう、か?」 彼は中央検察庁で謀殺されかかった時より、『レダⅡ』号で暗殺された時よりも、フレデ リカにプロポーズした時よりも、遙かに怖かった。 何故なら、ロングビルが微笑んだから。 「あんたなんか、お呼びじゃない…て、言ってあげな」 彼女のニッコリとした笑顔が、心の底から怖かった。 で、彼はシエスタの方を見る。 潤んだ黒い瞳が自分を見上げている。いつも元気で明るくて、召喚されてからずっと自 分を見守り、支えてくれた少女。今も自分へ必死で縋り付き、健気に自分への想いを告白 しているのだ。 そんな彼女を傷つけるような言葉、彼にはとても口に出来なかった。 あ~う~、と無様に口ごもる。 そんな彼の優柔不断な姿は、ロングビルの逆鱗に触れるには十分だった。 ゆっくりと緑の髪が、重力の軛を逃れたかのように逆巻き始める。 「もうっ!あんた達、いい加減にしてよっ!」 ルイズがヤンの首を引っ張り、強引にシエスタから執事をもぎ取った。 その小さな体のどこにこれだけのパワーが、と思うくらいにヤンは首が痛かった。 「ヤンは誰が恋人とか愛人とか言う前に、あ・た・し・の!執事なの!そんでもって、あ たしの大事な、先生なの! あんた達の勝手になんかさせないんだから!」 そういって、ヤンに力の限り抱きつく。ただし、首に抱きついていたので、ヤンは窒息 しかけていた。横に置かれた長剣が「おーい、息出来ねーってば。おーい!」と声をかけ ているのも聞こえないらしい。 人間の死に方で一番苦しいのは窒息だっていうのは本当だ…と、朧気になりつつある意 識の中でヤンは納得していた。 「いい加減にするのはルイズさんです!ヤンさん死にかけですってばっ!」 と言って今度はシエスタがヤンの体を奪い返した。そして、 「大丈夫ですか!?今、人工呼吸を…」 と言って、思いっきりヤンの唇を奪った。 「ぎゃー!ヤンを返しなさーいッ!」「な、ナニしてんだあんたはー!」 ルイズとロングビルは悲鳴を上げ、二人してシエスタからヤンをもぎ取ろうとする。哀 れ、ヤンは三人の女に引き裂かれつつあった。 デルフリンガーが仲裁の言葉を発しているらしかったが、誰にも聞こえていなかった。 「きゅ、きゅい…やっぱり人間って凄いのね」 「黙って。監視出来ない」 シルフィードとタバサは、やっぱりブドウ畑の中に身を隠して、ヤンの監視任務を忠実 に実行していた。シルフィードの巨体がブドウ畑の中に隠れるのかどうか、は別として。 前ページ次ページゼロな提督
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おしながき どんな話? 用語 +登場人物 登場人物 アーク ルイン ジェイス トップページ 未公開設定(ネタバレ) ※2018/5/4現在 +... まだないよ PSO2版キャラ設定 +PSO2版キャラ設定 今いるキャラ アーク(PSO2) ルイン(PSO2) ラフェルド(PSO2) エル(PSO2) 小さいルイン(PSO2) チェリイ(PSO2) アルビオン(PSO2) ルイコ&ビオコ(PSO2) 版権キャラクター 更新履歴 取得中です。 ここを編集