約 1,596,386 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7388.html
前ページ次ページベルセルク・ゼロ テーブルに並べられた豪華な料理。響く笑い声。溢れる人々の笑顔。 ニューカッスルの城に到着したルイズ達は、その夜に開かれたこの最後の晩餐会に招待されていた。 その華やかな席にあって、ルイズの顔は浮かないままだった。 既にその手の中にはウェールズに託された手紙を持っている。任務は無事完了したのだ。 いや、この手紙を無事にアンリエッタに届けて初めて完了したといえるのだが、とにかく最大の山場は越えた。 にもかかわらず、ルイズの気持ちは晴れない。 原因は目の前で楽しそうに談笑するアルビオンの兵士達だった。 彼らは明日、圧倒的戦力差があるにも関わらず勇敢にも――或いは、無謀にも――貴族派の大軍に立ち向かって死ぬ。 死ぬのだ。ルイズの目の前で心の底から笑っている彼らは。 それは変えようのない事実。わずか三百に満たぬ王党派の兵たちが五万の反乱軍と戦闘を行えばもちろん死ぬ。 「どうして…笑っていられるの…? どうして…」 彼らの明るい笑顔を見れば見るほど、逆にルイズの気持ちは沈んでいく。 会場内に目線を走らせる。ウェールズがいた。ウェールズも笑っている。 敵との圧倒的な戦力差をルイズ達に語って聞かせたのは、他でもないウェールズだった。 アンリエッタの手紙をルイズに渡すときに死の覚悟を語ってみせた時も、ウェールズは笑っていた。 ウェールズとアンリエッタが恋仲にあることは、手紙を扱うウェールズの様子から簡単にうかがい知れた。 ルイズは止めたのだ。死に往く王子を。他ならぬアンリエッタのために、と。 大使としての領分を超えて、恥も外聞もなく。 それでも、ウェールズは困ったように笑うだけだった。 これ以上ウェールズや目の前の人々の笑顔を見ているのが辛くなって、ルイズはパーティーの会場をこっそりと後にした。 ガッツは会場の隅っこで、壁に背を預けて何となく会場内の様子を眺めていた。 決定的な負け戦を前にして、逃げることなくここに残った兵たち。 それも、強制的にではない。先ほど、アルビオンの王ジェームズ一世はここに残った面々に避難することを勧めていた。 彼らは自分の意志でここに残っている。自分の意志で死のうとしている。 正直、ガッツには理解しがたい感覚だった。 「やあ、楽しんでもらえているかな?」 ウェールズが話しかけてきた。 差し出してきた杯を受け取り、軽く舐めるとウェールズは満足したように頷いた。 「しかし君の戦いぶりは凄まじかった。君のような兵士が我が隊に一人でもいたら……今の状況も少しは違っていたのかもな」 ウェールズはガッツのすぐ傍に立てかけられた大剣『ドラゴンころし』をまじまじと見つめながら感嘆したように息を吐いた。 そのままガッツの隣で壁に背を預ける。 「いいのかよ。王子様がこんな端っこにいて」 「構わないさ。もうあらかた酒は酌み交わしてきた」 そう言うウェールズの頬はほんのり赤い。 決して酒には弱くないウェールズではあったが、最後の決戦を前にした乱痴気騒ぎにいささか酒が回ってしまったらしかった。 「君も、僕達を愚かだと思うかい?」 だから、ついこんなことを聞いてしまったのかもしれない。 自分を引き止めようとしたルイズの必死な顔、愛しい愛しいアンリエッタの華やかな笑顔が交互にウェールズの頭の中を巡っている。 「ああ」 あっさりと頷いて見せたガッツにウェールズはくつくつと笑ってみせた。 「はっきりと言うね」 無礼な物言いにも腹は立たない。死を前にしたウェールズにとって、そんなことは瑣末なことだった。 「君は見たところ傭兵を生業としていたようだからね。貴族の誇りの考え方は馴染まないかもしれないな」 「別に傭兵だけやっていたわけじゃねえが…確かに貴族様の考えることはイマイチよくわかんねえな」 「ほう? 傭兵だけでないとすると、もしや騎士団に所属していたこともあったのかい?」 ウェールズが目を丸くして聞いてくる。 しまった。喋りすぎた。まさかこんなに食いついてくるとは。 ガッツは露骨に顔をしかめ、目を輝かせてこちらを覗き込んでくるウェールズから顔を背けた。 「まあ…な」 「ほう! それは興味深い! 一体どこの騎士団に所属していたんだ!?」 「……」 「あ……」 何も答えようとしないガッツの様子に、ウェールズはしまったという顔をした。 これほど腕の立つ剣士だ。そこらの凡百な騎士団に収まっていたわけがない。 それほどの男が、ここでこうしてルイズ嬢の使い魔をしているということは……おそらくは。 「すまない。思慮を欠いた発言だった」 ウェールズは素直に頭を下げる。 今度はガッツが目を丸くした。 面倒だからウェールズの言葉を無視していただけなのに、この王子様は何か色々気を回してしまったらしい。 「君の騎士団は……もう無くなってしまったのだな」 ウェールズはそう言って胸に手を当て、黙祷のような姿勢をとった。 「不肖の身ながら、冥福を祈らせて――」 「無くなっちゃいねえよ」 「え?」 思わず、ガッツは口を開いていた。 「キャスカがいる。大将が生きてる限り、鷹の団は無くなったりしねえ」 そうだ。俺たちの鷹の団は終わっていない。 だから、鷹の団を名乗るあのクソッタレの化け物どもを俺は許さない。 必ず、一匹残らず狩り殺して――― 「……ちっ」 舌を鳴らす。余計なことを喋りすぎた。 「悪ぃな、もう俺は行くぜ」 ぽかんと口を開けるウェールズを横目に、ガッツは会場を後にする。 「大将が生きている限り……無くならない?」 残されたウェールズはぼんやりとガッツの言葉を繰り返していた。 会場を抜け出したルイズは薄暗い廊下をとぼとぼと歩いていた。 窓から差し込む月の灯りに足を止める。見上げれば一つに重なった双月が夜空に浮かんでいた。 なんとなく、寄り添う二つの月がアンリエッタとウェールズの姿に重なる。 明日になれば月は離れ、そしてそれから交わることは二度とない。 置いてけぼりにされた月は一体どんな気持ちになるのだろう。 それを思うとルイズはたまらない気持ちになった。 「男の人って本当に馬鹿だわ。自分勝手。残された人のことなんて全然考えてない」 「うるせえ。大馬鹿野郎はてめえだろうが」 突然背後から飛んできた声に振り返る。 そこにいたのは船の上でルイズを睨んでいた、亜麻色の髪をぼさぼさに伸ばした少年だった。 近くであらためて見ると本当に若い。幼さをその顔に残した少年は、もしかするとルイズよりも年下かもしれなかった。 「折角のパーティーで辛気臭え顔しやがって。その上途中でふけやがって、様子を見に来てみりゃ誇り高きアルビオンの勇者に向かって罵詈雑言」 険しい顔で口を開いた少年は、一気にそこまでまくし立てると最後に息を大きく吸って、 「ホントに脳みそ入ってんのか!? あぁ!?」 呆然とするルイズに向かってそう言い放った。 「なぁんですってぇ!?」 一瞬でルイズの顔が怒りに染まる。 「馬鹿に馬鹿っていって何が悪いのよ馬鹿!!」 「なんだとぉ!!?」 一度口を開けばもう止まらなかった。 「勝ち目のある戦ならまだいいわよ! でもないんでしょ!? それって自殺とどう違うのよ!!」 腹の底に溜まり続け、ようやく出口を発見した鬱屈した気持ちが勢いよくルイズの口から飛び出していく。 「何が誇りよ! 誇りより命でしょ!!」 仮にこの場にキュルケなどがいたら、顔を真っ赤にしてまくし立てるルイズを呆れ混じりに見ていただろう。 自らの誇りのために、誰よりも先に危険へと立ち向かっていくのは他でもない、このルイズだ。 そんなルイズが自分のことを棚にあげ、怒鳴り声を上げ続けている。 「てめ…いい加減に……!!」 怒りに任せてルイズに掴みかかろうとした少年の足が止まった。 ルイズの目から涙がぽろぽろと零れ落ちている。 「残される人の気持ちも……考えなさいよお………」 ルイズの思い出の中で、アンリエッタは常に笑っている。 いやだ。姫様の泣く顔は見たくない。 それに、もっと単純に、死んで欲しくない。 ウェールズにも、目の前の少年にも、会場で笑っていた全ての人たちにも。 「ちっ…」 ひっく、ひっくと喉を鳴らすルイズに怒りを削がれた少年は不愉快そうに舌を鳴らす。 「ならお前は、戦いに行くやつの気持ちは考えたことあんのかよ」 ルイズは零れる涙を拭うだけで、何も答えない。わかっているからだ。 ルイズとて立派な貴族だ。いや、その精神の在り様は貴族の中の貴族といってもいい。 だからわかる。きっと逆の立場だったなら、ルイズだって逃げ出したりはしない。 少年はぼりぼりと頭を掻いた。 「死ぬことでしか示せない誇りもある。特に俺にとっちゃ、明日の戦は絶対に逃げ出すわけにはいかないんだ」 「どうして…?」 ルイズは思わず聞き返していた。自分とそう年も変わらぬこの少年を死地に向かわせるものがなんなのか知りたかった。 「俺の父と姉は王党派の敗北が濃厚になった瞬間あっさりと国を捨てて亡命した。最低さ。地に落ちた俺の家の名誉は、残った俺が戦うことでしか取り戻せない」 吐き捨てるように少年は言った。 ルイズは何も言えなかった。 ごちん、といい音が響いた。 ルイズが驚いて顔を上げると、がっしりした体躯の壮年のメイジが少年の頭を殴りつけていた。 「いってえ!! 何するんですか!!」 立派な顎鬚をたくわえたその男は、涙目で抗議する少年の頭を掴み、無理やりルイズに向かって頭を下げさせる。 「全く、どこにいったのかと探してみれば友好国の大使を泣かせているなどと…何を考えているんだお前は!!」 「ち、違います!! それはコイツが……!!」 「何たる口の利き方だあ!!!!」 問答無用で殴られる。ルイズは慌てて止めに入った。 「だ、大丈夫です! 特に何かされたわけではありませんし、非はどちらかというとこちらにあったので……謝罪するべきはむしろ私のほうなのです」 「おお、頭をお上げください大使殿。全く、大使殿の温情に感謝しろ! 行くぞ! 殿下がお呼びだ!!」 「痛い痛い! 耳を引っ張らないで!!」 壮年のメイジに連れられ、少年はその場を去っていく。 「待って!」 ルイズは少年を呼び止めた。 「あなた、名前は?」 「アレン。アレン・ヴァルカモニカ」 何だか――聞き覚えがあるような。ルイズが首を傾げている間に、少年達の姿は廊下の向こうに消えていく。 「あッ!!!!」 少年達が完全に立ち去ってからルイズは声を上げた。 『俺の父と姉は――――』 道理で少年の顔に見覚えがあるはずだ。 トリステインからラ・ロシェールへ向かう道中、盗賊の手から助けた少女の名が確か。 メリッサ・ヴァルカモニカ。 「まったく、大切なお客人に…一体何を考えているんだお前は」 ウェールズ達が待つ部屋へ向かう途中、壮年のメイジはアレンと名乗った少年の頭をあらためて小突いた。 壮年のメイジの名はバリー・イベルドン。『爆熱』の二つ名を持つスクウェア・メイジだ。 「すいません…でも、あいつらは船でたくさんの仲間を殺した。……友好的になんて、俺には無理です」 アレンは悔しそうに唇を歪める。 「皆…せめて、反乱軍と戦って散りたかっただろうに……!」 ばこん、とバリーは三度アレンの頭を殴りつける。 「痛い!」 「いいかアレン。どこで死んだのかなんてのはどうでもいいんだ。あいつらは殿下をお守りするために立派に戦って死んでいった。 明日、アルビオンのために死んでいく連中と何が違う? お前がそんな風に言うってことはな、アレン。逆にあいつらの誇り高い死に泥を塗ることになるんだぞ」 バリーは真剣な顔でアレンを見据え、叱り付ける。 「そ、そんな……」 バリーの叱責でようやくそのことに思い至ったアレンはがっくりと肩を落とし、己の浅慮を恥じた。 「まあお前はまだガキだ。怒りが先行しちまうのもしょうがねえ」 「でも……俺は自分が恥ずかしいです」 「ほれ、そんなことよりシャキシャキ歩け! 殿下がお待ちになってるんだぞ!!」 そう言って今度はアレンの尻をひっぱたく。 このバリーという男、何とも豪快な気質をしているらしかった。 「殿下が俺なんかに一体何の用なんです?」 「それは殿下に直接聞け! さあ、この部屋だ」 失礼いたします、と騎士の礼をもってアレンは部屋に入室する。 「やあ、待っていたよ」 「お待たせして申し訳ありません―――で、殿下!?」 一礼をしてウェールズの姿を認めたアレンは、思わず狼狽の声を上げていた。 「で、殿下、その格好は……?」 ウェールズは先ほどまでパーティーで身につけていた王族の衣装を脱ぎ去り、黒を基調とした麻の服で身を包んでいた。 その上にフードのついた黒いマントを羽織り、あろうことかその頭には空賊に扮していた時に使っていたカツラまで被っている。 「そ、それはどういった余興で?」 混乱するアレンを落ち着かせるようにウェールズは柔らかく微笑み、言った。 「今晩、私はこのアルビオンを脱出する。君も来るんだアレン・ヴァルカモニカ」 「なッ!!?」 アレンの顔が驚愕に歪む。 ウェールズはその顔にいささかの乱れも見せず、アレンを見据えていた。 遡ること十分前。 ウェールズはその瞳に硬い決意を宿し、父であり、王であるジェームズ一世の前に跪いていた。 その部屋には二人の他に誰もいない。まだ誰にも聞かせるわけにはいかぬとウェールズが人払いを命じたのだ。 ウェールズの話を聞いてからじっと目を瞑っていたジェームズ一世は、ゆっくりとその目を開き、ウェールズを見据えた。 「……本気か?」 「はい」 ウェールズの声には一切の乱れなく、その決意の固さを思わせる。 「私は今晩のうちにアルビオンを発ち、そのまま身を隠します。王家の血筋が生き残ればアルビオンは絶えない。滅びない。 今は一時反乱軍の手に落ちようとも、いつか必ず私の手で取り戻す。そのためにも、私はここで死ぬわけにはいかないのです」 ジェームズ一世は、自分を真っ直ぐに見据えてくる我が子の瞳をじっと見つめた。 その目に恐怖はない。明日の死に臆したわけではない。 つまり本気なのだ。息子は心からアルビオンを滅ぼさせぬためにこんな提案をしている。 簡単に決めたわけではないだろう。その結論に至るために、どれほど煩悶したのか想像に難くない。 ジェームズ一世はしばらくウェールズの目を見つめたあと、再び目を閉じてゆっくりと息を吐いた。 「……その道は茨の道ぞ」 「承知しております」 「逃げれば臆病な王子と罵りを受けよう。国を捨てたと蔑まれよう」 「覚悟の上」 「ならば老いたわしより言える事はもうない」 ジェームズ一世は椅子から立ち上がり、 「これよりアルビオンの王はお前だ、ウェールズ」 我が子にその王位を継承した。 「すまんな」 簡易的な王位継承の儀を終えて、ジェームズ一世の口から最初に出たのは詫びの言葉だった。 「これでお前一人にアルビオンの全てを背負わせることになる。お前がこれから歩む道は明日死ぬことより遥かに困難なものとなろう」 「何を仰いますやら」 ウェールズは笑った。 「謝るのはこちらですよ。何しろ私は明日のアルビオンの意地と底力を見せる重要な戦を全て父上に丸投げしようとしているのですから」 「ぬかしおる」 「その上、三百にも満たぬ我らの手勢から貴重な戦力を抜いていこうと考えているのですからね」 「誰を連れて行く?」 「『爆熱』のバリーを頂きたい。そのメイジとしての技量は元より、彼は各国にたくさんの繋がりを持っている」 「ならばアレン・ヴァルカモニカも連れて行け。ヤツは齢15にして既にそのレベルはトライアングルに達しておる。足手纏いにはならんはずだ。 なにより、ヤツは明日の負け戦に付きあわせるには若すぎる」 ウェールズは頷いた。 「元よりそのつもりです」 部屋を出ようとするウェールズを呼び止め、ジェームズ一世はその場に跪く。 そして――この国に代々伝わる祈りの言葉を口にした。 「新たな王に、光の鷹の御加護があらんことを」 アレンは震えていた。信じたくなかった。 あの誇り高いウェールズが、あの臆病な父と姉と同類だなんて。 「……逃げろっていうんですか」 ウェールズの顔を見れない。視線を足元に落としたまま、アレンは喉から声を絞り出した。 「そうではない。生きろと言っているのだ」 一緒だそんなもの。ただの言葉遊びではないか。 「嫌です。明日の、アルビオン最後の戦を前にして逃げるなんて俺には出来ない」 「最後にはならぬ」 アレンは思わず顔を上げた。ウェールズを見た。ウェールズの顔はどこまでも真剣だった。 「アレン・ヴァルカモニカ。アルビオンとは何だ?」 余りにも抽象的な問いにアレンは首を傾げる。 ウェールズはアレンの言葉を待っている。 「俺たちが育った国の名前です」 アレンはやっとの思いでそれだけの答えを捻り出した。 「そうだ。では国とは何だ?」 今度こそわからない。アレンは言葉に詰まる。ウェールズは今度は待たなかった。 「国の名はその土地に冠するものか? 或いは城か? そうではない。我々だ。アルビオンとは我々なのだ」 アレンはごくりと唾を飲む。わかってきた。ウェールズが何を言いたいのか。 「アルビオンは滅びぬ。アレン・ヴァルカモニカ」 このお方は――この絶望的な状況にあって――勝つつもりなのだ。 どれ程時間がかかろうと、どれ程辛酸を舐めようと、どれ程泥をすすろうと。 「アルビオンを背負う覚悟があるか?」 既に皆が寝入った深夜。 出発を前に、ウェールズ達は始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂を訪れていた。 始祖ブリミルの像を前に、ウェールズ、アレン、バリーの三人は手を合わせ、跪き、これからの旅の無事を祈願する。 半ば以上、皆を残して生き残ることへの贖罪の気持ちもあった。 そんな想いが三人の祈りを長くした。一分、二分とたっても誰も立ち上がろうとはしない。 祈りを止める切欠となったのはドアが開く音だった。 「失礼、邪魔をしてしまったかな」 頭を下げながら礼拝堂に入ってきたのはトリステインからやってきた長髪のメイジ、ワルドだった。 「…って、殿下ではないですか。その出で立ちはどうしたことです?」 ワルドは祈りを捧げていたのがウェールズだったことに気がつくと、目を丸くした。 というのも、ウェールズは再び空賊の頭領に扮していたからだ。 「これはまずいところを見られてしまったな」 ウェールズは苦笑しながら立ち上がる。 ワルドはウェールズの目の前まで歩み寄るとにやりと笑った。 「まさかまた憎き空賊の頭領と相見えることになるとは思いませんでしたよ。して、これはなんの余興です?」 どうやらワルドはウェールズの扮装をパーティーでの余興と考えているらしい。 好都合だった。今夜出立することはなるべくなら誰にも知られたくない。 「情けないことに明日の戦を控えて震えが止まらなくてね。この扮装をしていたときは不思議と気が大きくなっていたから、ちょっと着てみたのさ。悲しいことに、効果はなかったがね」 「ははは、殿下ほどの方なら明日になれば自然と震えも収まりましょう。おや、よく見れば後ろの少年は随分とお若い様子」 アレンの肩がびくりと震えた。不審な動きをしてはならぬ、してはならぬと言い聞かせるほどアレンの額からは汗がダラダラと零れ落ちる。 「彼もまた、明日の戦に?」 「ああ。彼こそアルビオンが誇る真の勇者だ」 「…願わくば、彼に始祖ブリミルの御加護があらんことを」 ワルドは神妙な面持ちになり、ウェールズ達が先ほどまで拝んでいたブリミルの像に向かって手を合わせた。 アレンはほっと息を吐く。どうやら感づかれてはいないようだ。 「では、ワルド子爵。我々はこれで」 「ああ、殿下。少々お待ちを。実は私殿下をお探ししていたのです」 立ち去ろうとしたウェールズをワルドが呼び止める。 ぎくりとアレンの肩が震えた。バリーがアレンの後頭部を叩く。 「何かな?」 「恐れながら殿下にお願いしたい儀がございまして」 「ふむ、その儀とは?」 「トリステイン大使ルイズ・フランソワーズとこの私ワルドとの婚姻の儀」 「実にめでたい。喜んでその役目引き受けたいところではあるが、申し訳ないワルド子爵。私はこれからやらねばならぬことがあるのだ」 「いえいえ、もちろんこんな夜も更けた今からとは申しませぬ。明日の朝、ほんの三十分ほど時間をいただければ」 「すまぬな、私は忙しい。折角そのような大役を任せてくれようとしてくれたのに、申し訳ない。心よりお詫び申し上げる」 「いえいえ殿下! このお忙しいときにこんなことを申し上げた私の方が悪いのです! お顔をお上げください!!」 深々と頭を下げたウェールズにワルドは慌てた。 「では、そういうことなので、これで」 ウェールズは今度こそ部屋を後にしようと歩みだす。 露骨にほっと息を吐いたアレンの頭にバリーの拳が飛んだ。 「道中、お気をつけて」 背中にかけられたワルドの声。 ぎくり、とウェールズ達の足が止まった。 「ど、どういう意味だ!」 思わず声を荒げてしまったアレンの尻をバリーが蹴り上げる。 「気をつけるも何も……」 ウェールズは落ち着いた声で言った。 「これから自室に戻るだけだ。ものの数分もかからない。何も問題は起こるまいよ」 「おや、自室に戻られるのですか。お忙しいと申しましたから、てっきりこれから軍議かと」 ウェールズはぐっ、と一瞬声を詰まらせるも、 「この扮装を解きに一度立ち寄るだけだよ」 そう咄嗟に切り替えした。 「部屋で着替えて、礼拝堂まで来ねば扮装による精神安定効果ははかれませんでしたかな?」 「ああ、存外小心者でね。この格好で歩き回ればあるいは、と思ったのだよ」 いかにも苦しい言い訳だ。語れば語るほど今の自分達の状況、その異質さを曝け出してしまっている。 だがこの男はどういうつもりでこんなことを言っているのか。 ウェールズが慎重にワルドの思惑を図っていると、ワルドはくつくつと笑い出した。 「いや、失礼。殿下達に意地悪するつもりではなかったのですが、つい興が乗ってしまいました。ご安心下さい、私は誰にも喋りません」 「しゃ、喋らないって何をだよ!!」 ウェールズはワルドに食って掛かったアレンの肩に手を乗せる。 「もうよい、子爵は恐らく全て気付いておられる。そうであろう?」 「殿下たちは今夜のうちにアルビオンを離れるおつもりでしょう?」 ウェールズの言うとおりだった。ワルドは既にウェールズ達の思惑に気付いている。 「子爵、貴殿の頼みは断っておいて大変に恐縮なのだが、折り入ってお願いがある」 「先ほども申し上げました。私は誰にも喋りません。ご安心を」 「感謝する。この恩は忘れない」 ウェールズはワルドに深々と頭を下げた。 「では、我々はこれで」 「ああ、殿下。最後にひとつ、恐れ多くも殿下にご忠告を」 三度ウェールズはその足を止め、ワルドの方を振り返る。 「聞こう」 「殿下が歩もうとしているのは長く苦しい修羅の道。頼る者なき孤独の道。裏切り者と謗りを受け、殿下の周りは敵ばかりとなりましょう。 くれぐれもその背中にはお気をつけ下さい。殿下を狙う刺客は、いつどこに現れるかわかりません」 「覚えておく」 ウェールズはワルドにそう言い残して振り返った。 目の前に白い仮面を被った男が立っていた。 「な、何者!!」 ウェールズ、バリー、アレンは咄嗟にその腰帯に差していた魔法の杖を抜く。 どす、と肉を突き刺す音がウェールズの耳に届いた。 視線を落とす。自分の胸から鋭い刃が生えている。 「え?」 振り返る。ワルドが笑っていた。 「おやおや、忠告したばかりではありませんか」 ウェールズに突き刺した魔法の杖を少し動かし、ウェールズの心臓を裂く。 つぷ、と音を立てて杖が引き抜かれたその穴から、噴水のように血が噴き出した。 「背中には気をつけろ、と」 どう、と音を立ててウェールズの体が崩れ落ちる。 驚愕に見開かれたその目はもはやどこも見ておらず、 「殿下ぁーーーーー!!!!!!」 アレンとバリーの絶叫が礼拝堂に響き渡った。 ぴちゃん、ぴちゃんと水の音。 ワルドの持つ杖から赤い液体が滴っている。 その足元に転がる3つの肉の塊。生きていた頃の名はそれぞれウェールズ、バリー、アレンといった。 カタン、と物音。 ワルドが音のした方に目を向ければ、桃色の髪の少女が立ちすくんでいた。 「ワルド…? これは一体どういうことなの……?」 ワルドはふっ、と柔らかい笑みをその顔に浮かべると、やれやれと首をふった。 ああ、ルイズ。君はなんとまあ、間の悪い。こんなところを見られては、誤魔化し様がないじゃないか。 「ルイズ、君はどうしてここに?」 「ね、眠れなくて散歩してたらたまたま……じゃなくって! そこに倒れているのは殿下なの!?」 「賊が侵入してきたんだ。何とか僕が追い払ったんだけど、殿下たちは助けることが出来なかった」 「嘘っ!! じゃああなたのその姿は何!?」 言われてワルドは自分の姿に目を落とす。ウェールズ達の返り血で真っ赤だ。 「賊を撃退したときについたんだな」 「嘘っ!! 嘘嘘!!!! じゃあ賊はどこにいるの!! 逃げたの!? 血の跡は貴方の周りにしかついていないじゃない!!!!」 ああ、確かにそうだ。これほどの返り血を浴びるほど賊にダメージを与えたなら、逃げたときの血痕がどこかについていないとおかしいね。 賢しいな、ルイズ。君のそんなところも素敵だよ。 「ルイズ、結婚しよう」 「ふざけないで!!!!」 駄目元で言ってみた一言はあっさりと断られてしまった。なら、しかたない。 ワルドの目が冷たく光る。 ―――多少手荒に行かざるを得ないな。 「誰か!!」 叫びながらルイズは礼拝堂の出口へ振り返る。 「ひっ!」 すぐ目の前に、白い仮面を被った男が立っていた。 首筋に衝撃。目の前が黒く塗りつぶされていく。 消えゆく意識の中で、 ガッツ――――――!!!! ルイズは彼の名を呼んでいた。 ワルドは裏切り者だった。 現在アルビオンと交戦している『レコンキスタ』、その一員。それがワルドの正体。 この旅におけるワルドの目的は3つあった。 ウェールズの命。アンリエッタの手紙。 そして―――ワルドはその腕の中で眠るルイズを熱の篭った目で見つめる。 「ルイズ、君はいずれ素晴らしいメイジになれる。この世界を手に入れ得る、大いなるメイジに」 ワルドにはいかなる故かその確信があった。だからワルドはルイズとの結婚にあれ程固執していた。 出来れば自らの虜とすることで傀儡にしたかったが、こうなってしまった以上は仕方がない。 精神への影響は気になるが、心を操る類の魔法薬にも心当たりはある。 ワルドの3つ目の目的は、ルイズを手に入れること。そしてそれもこうやって達成した。 「さて、では早いところお暇せねばな。ウェールズの死体が王国の者に見つかっては厄介なことになる」 そう呟きながら礼拝堂の入り口に目を向けたワルドの足が止まる。 「くっ……くっくっく」 思わず笑いがこみ上げて来た。 「いつもいつも、まるでヒーローのようなタイミングでご主人様の前に現れる。使い魔の鏡だな、君は」 ワルドの視線の先では、鉄塊を背負った黒い剣士が佇んでいた。 「別にてめえが本当はどこの誰で何をしようが知ったこっちゃねえが……」 ゆっくりと、一歩一歩礼拝堂の中に歩み出て、 「その女は置いていってもらうぜ」 ガッツはドラゴンころしをその手に握った。 「よかろう、君にはもう2度も煮え湯を飲まされている」 ラ・ロシェールでの決闘。『桟橋』へ向かう途中、仮面の男として現れたときの一戦。 ワルドはルイズの体を床に横たえると、収めていた魔法の杖を抜き、構えた。 「第3ラウンドだ!! 三度目の正直といこうじゃないか!!」 その叫びと共に、4人のワルドがワルドの周囲に現れた。 前ページ次ページベルセルク・ゼロ
https://w.atwiki.jp/quizmagicianblackcat/pages/3090.html
回復系(雷)アンサースキルを編集 自己回復 属性 スキル名 効果 使用者 備考 無 ヒールライト 自分のHPをほんの少し回復 (C+) 雷のアングリーマフィン(C+) スターウィスプ ヒールライト+ 自分のHPを小回復 (B+) ライトニングウィスプ(B) 稲妻のアングリーマフィン キュアセルフ 自分のHPを50回復 (B) セシルとクマちゃん(C+) ハイ・サンダープラント(C+) 峰黄のゴックンガエル他多数 ▼ (C+) レア・エメラルドフィッシュ(C+) 黄色のホップペンギン ニコニコの休憩 自分のHPを50回復 (A) ニコニコテレビちゃん キュアセルフ+ 自分のHPを75回復 (A) 魅了する者 メイヴィス(B+) イエロージュエルドラゴン(B) 橙色のステップペンギン他多数 ▼ (B) セシルとクマさん(C+) リュウゼツラン(C) 電機関 ライブラ 初号機 (C) キイロサボサボ ニコニコの休日 自分のHPを75回復 (A) ニコニコテレビちゃん1ch キュアセルフ++ 自分のHPを100回復 (S) ポット・ザ・プラチナム(S) 死神 メイヴィス・ドラクロワ(A+) ポット・ザ・ゴールデン他多数 ▼ (A+) 冥界の口づけ メイヴィス(A) 死地への誘い メイヴィス(A) 琥珀色のジャンプペンギン(A) トパーズドラゴン(B+) セシル・ラヴとクマ様(B) リュウゼツラン・改(C+) 電機関 ライブラ 最新機 (C+) リーブルサボサボ魔道書(全種)ポット(全種)キノコ(全種)タヌキ(全種)フラウ(全種)ロシェ(全種) ニコニコの連休 自分のHPを100回復 (A+) ニコニコテレビちゃん2ch 呪われし宿命 自分のHPを100回復 (A) 傷だらけのカノン リフレッシュ 自分のHPを125回復 (B+) リュウゼツラン・極 ニコニコの日々 自分のHPを125回復 (S) ニコニコテレビちゃん3ch 万物流転 自分のHPを200回復 (A) 抵抗のカノン 冥府の血脈 自分のHPを300回復 (S) 魔王邪眼ギンガ・カノン(A+) 魔封少女カノン オレのバカンス☆ 自分のHPを300回復 (S) 謳歌する夏 バロン・ライオネル 属性回復 属性 スキル名 効果 使用者 備考 雷 サンダーヒール 雷属性の味方のHPを少し回復 (A) 褐色のパトラ(A) 気高き幻獣 アルビオン(B) きいろウサちゃん他多数 ▼ (C+) 光のハルピュイア(C+) ハイ・サンダーラビット(C+) 百合の妖精 ハニー サンダーヒール+ 雷属性の味方のHPを小回復 (A+) 風に舞う妖精 キアナ(A) 双生の魔道士 イリ&ジン(A) 黄金のパトラ他多数 ▼ (A) 輝くマジカルうさちゃん(A) 妖精 キアナ(A) 花びらの妖精 キアナ(B+) 弦楽奏者 シオミ(B) シオミ(B) 化学者 イーライ(B) ライトサンダーパンプキン MAXHPの5%回復 ちょっと休憩♪ 雷属性の味方のHPを小回復 (A) クロム・マグナ生徒 ニコラ MAXHPの6%回復 本が読みたい! 雷属性の味方のHPを小回復 (A) 読書犬のカズヒト サンダーヒール++ 雷属性の味方のHPを中回復 (S) 花片の風姫 キアナ・フェリア(A+) 砂漠の国のパトラ(A+) お菓子の錬成師 ラデュー他多数 ▼ (A) 嫉妬する魔女 パッツァ(A) 調奏 シオミ・フォニック(A) 風使い レラ(A) 荒ぶる雷鳴のレラ(A) 巫女 アルテミス(A) 颯天の双子 イリ&ジン(A) 奇才なる化学者 イーライ・エアーズ(A) 調香師 フェルチ(A) お菓子の研究者 ラデュー(A) お菓子の探究者 ラデュー(B+) 選ばれし者 シンシア(B+) 異彩な化学者 イーライ MAXHPの7%回復 はじける笑顔☆ 雷属性の味方のHPを中回復 (A) 生徒会執行部 ニコラ 本を読ませろ! 雷属性の味方のHPを中回復 (A+) 罵られ犬のカズヒト 龍の守り 雷属性の味方のHPを中回復 (A) 金色の策士 イーリン(A) 金色の智将 イーリン ライトニングヒール 雷属性の味方のHPを大回復 (S) 雷神の対星 イリ&ジン(S) 夢幻の女王 ネフェルト・パトラ(S) 魅惑錬成 ラデュー・ヴィルメール他多数 ▼ (A+) 破雷の使い手 レラ(A+) 聖巫女 アルテミス(A+) 紫電龍の両翼 イリ&ジン(A+) 覚醒の魔道士 シンシア(A) 聖痕の魔道士 シンシア(A) 疾走の幻獣 アルビオン(A) 花の調香師 フェルチ(A) 愛を求める魔女 パッツァ MAXHPの8%回復 上弦の明かり 雷属性の味方のHPを大回復 (A) 月の女神 クラリス 読まずに死ねるかぁ! 雷属性の味方のHPを大回復 (S) 駄犬のカズ MAXHPの8%回復 黄龍の煌めき 雷属性の味方のHPを大回復 (S) 黄天女皇 イーリン・ファンディ(A+) 黄天の王者 イーリン 下弦の輝き 雷属性の味方のHPをかなり回復 (A) 新月の女神 クラリス MAXHPの9%回復 スターライトキュア 雷属性の味方のHPをかなり回復 (S) 天を操る者レラ・カムイ(S) 聖雷の使い手 シンシア・スターライト(S) 神威の幻獣 アルビオン・イクシス他多数 ▼ (S) 麗華の調香師 フェルチ・リリー(S) 艶羨狂気 パッツァ・メレラナ(A+) 破邪の巫女アルテミス(A+) 天翔の幻獣 アルビオン(A+) 甘蜜の調香師 フェルチ(A+) 愛に飢え狂う魔女 パッツァ MAXHPの9%回復 雷光の護符 雷属性の味方のHPをかなり回復 (A+) 仁愛の名君 劉備(A) 希望の光 劉備(A) 後漢の希望 劉備 月光華 雷属性の味方のHPを大幅に回復 (S) 満ちた月の女神 クラリス・ルナ(A+) 三日月の女神 クラリス MAXHPの11%回復 イレクトルキュート 雷属性の味方のHPを大幅に回復 (S) 聖弓の乙女 アルティミシア MAXHPの11%回復 雷帝の護符 雷属性の味方のHPを大幅に回復 (S) 仁徳の君主 劉備 慈愛の薫香 雷属性の味方のHPを大幅に回復 (S) 想いを運ぶ香り フェルチ・リリー 火 雷 ポップ・マジック 火・雷属性の味方のHPを中回復 (A) 時の迷い姫 アリス(A) 時を詠む姫 アリス MAXHPの6%回復 スイート・トリート 火・雷属性の味方のHPを大回復 (S) 現世の時詠み アリス・スチュアート(A+) 時詠み師 アリス MAXHPの8%回復 ディバインヒール 火・雷属性の味方のHPをかなり回復 (S) 幻想の森の乙女 アルティミシア 水 雷 ライトスコール 水・雷属性の味方のHPを少し回復 (A+) 悠久の調停者 ニーニャ(A) 森の旅人 ニーニャ(A) 森林の守り人 ニーニャ(A) 春風の作曲家ポロン(A) 新緑の作曲家ポロン MAXHPの3%回復 キュアヴェール 水・雷属性の味方のHPを少し回復 (A) 花嫁 アンジェリカ(A) 約束の花嫁 アンジェリカ MAXHPの7%回復 キュアスコール 水・雷属性の味方のHPを中回復 (S) 天冥を見届けし者 ニーニャ(S) 雪解けの音楽家 ポロン・ポロロン(A+) 豊穣の音楽家ポロン MAXHPの7%回復 ハッピータイム! 水・雷属性の味方のHPを中回復 (S) 雷弓会計係 ニコラ・モーガン(A+) 生徒会会計係 ニコラ MAXHPの7%回復 ホーリーヴェール 水・雷属性の味方のHPを中回復 (S) 至福の花嫁 アンジェリカ(A+) 煌めく花嫁 アンジェリカ 全体回復 ALL プリズム・ヒール 味方全体のHPを小回復 (A) 光の戦士 アーサー ブライト・リカバー 味方全体のHPを中回復 (A+) 閃光を放つ戦士 アーサー(A) 雷光の戦士 アーサー デイティ・レストレーション 味方全体のHPを大回復 (S) 聖輝の勇者 アーサー MAXHPの8%回復 全ての人の魂の歌 味方全体のHPを大回復 (S) 約束の地 アンジェリカ・ヴァイル みんな頑張ってにゃ☆ 味方全体のHPを超回復にゃ (S) 雷のクリスマス猫ウィズ MAXHPの15%回復 コンボ数回復 属性 スキル名 効果 使用者 備考 雷 ワイズサンダーヒール 3問連続正解で雷属性の味方のHPを大回復 (A) 天使 マリカ(A) 悪戯天使 マリカ ワイズサンダーヒール+ 3問連続正解で雷属性の味方のHPをかなり回復 (S) 想いを貫く天使 マリカ・ファリア(A+) 恋をもたらす天使 マリカ MAXHPの10%回復 回復系(雷)アンサースキルを編集
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4642.html
前ページ次ページBrave Heart 「何が起こったというのだ……!」 伝令からの報告を聞いたボーウッドはわなわなと震えた。 タルブの草原に降下させた竜騎士達が村を焼いた後で、 突如として、その異変は起こったのだという。 どこからともなく聞こえてくる、笛の音色。 それを聞いた瞬間に、ドラゴン達が暴れだした。 ドラゴンだけではない その戦場にいたあらゆる動物達が、 その笛の音色に操られるようにして、兵士達を襲ったのだ。 竜騎士は先ほどまで乗っていたドラゴンの炎で焼かれた。 馬は主を振り落とし、蹴り飛ばした。 それはまさに、地獄絵図としか言い様が無かったそうだ。 今現在、笛の音色こそ止んではいるものの、兵士達の士気は下がっていた。 ぎゃあぎゃあとうるさい総司令官ジョンストン殿には眠っていただいている。 「だが……艦隊への被害は微量だ。どうとでもなる」 誰が吹いた笛だか、魔法だか知らないが、 吹き飛ばしてしまえば、どうにでもなる。 甲板に出たボーウッドはそう考えながらも悔しく思った。 何故、我が真の主たるアルビオン王家の末裔がいる国を、 焼かねばならないのか、と。 森の片隅で、女性が一人息を荒げていた。 赤い帽子と服に身を包んだ白い髪の女性。 金属で出来た笛を握る右手には、紫の手袋の上からでも分かるほど、 ルーンが眩い光を放っていた。 「コレの力は……ちょっとばかり、デカすぎる……ねぇ」 自身の右手を睨みつけながら彼女は呟く。 本来なら、彼女と同種族で虫に似た姿のものだけを操る笛の音は、 ルーンの力によって、人と亜人以外の生物を操ることが出来るようになっていた。 だが、この力は強大すぎるためか制限が付けられているようだった。 他者の支配下にある生物をその意思に逆らって操る場合には、 彼女の体力を削るのである。 意識が途切れないギリギリで笛の演奏を止めて、息が整うのを待つ。 この場所は、彼女を、彼女の主を受け入れてくれた場所だ。 何としてでも守り抜いてみせる。 そう考えている自分に気がついて、自嘲するような微笑みが彼女の顔に浮かぶ。 壊すために生まれてきた存在のはずだった。 何かを守るために震える心なんて、持ってないと思っていた。 それでも今、守りたい、と思っている。 そんな自分がおかしくて、彼女は紫に彩った唇を歪めて笑った。 「アル!」 「アルさん!」 聞きなれた声のする方を慌てて振り向いた。 「テファ、それにシエスタ? どうしてここに!」 「アルが心配になったの。ね、早く避難しましょ?」 星のように輝く金色の髪をした主が、彼女の手をぐいと引く。 「こ、こんな所にいたら、アルビオンに襲われてしまいます!」 黒髪の少女が、心配そうに彼女を見つめてくる。 「大丈夫だよ、このくらい。あんたたちも戻ってな!」 丸い色眼鏡の下の細い目で、二人を見据えると叫ぶ。 「おい、居たぞ!」 「笛を持ってる……あいつか!」 運悪く、アルビオンの兵士達が現れ、彼女達に剣と杖を向けた。 「……あんたらが声を出すからお客さんが来ちまったじゃないか!」 かばうようにして二人に背を向ける。 「さっさと行きな!」 「させるか!」 火のメイジらしい男の杖から炎が飛び出る。 それはアル、と呼ばれた彼女に当たり、爆発を起こす。 「やったぞ! ……え?」 討ち倒したと思い、歓喜の声を上げた男は一瞬何が起きたか分からなかった。 煙の中から伸びた赤い紐状のものが男の首に絡みつき、締め上げた。 うげぇ、と醜い声を上げて男は倒れる。 煙が晴れた先には、女が未だ立っていた。 少々服が焼け焦げているものの、ピンピンしている。 「ヒィ! ば、化け物!」 「それに見ろ! あっちの女を!」 「な、何でエルフがこんなところに!」 先程の爆風で、彼女の主、ティファニアの頭部を隠していた帽子が飛んでいた。 あらわになった彼女の尖った耳を見て兵士達が後ずさった。 「……シエスタ。テファを連れて逃げな。私もすぐに行く」 「は、はい!」 その耳を恐れることもなく、シエスタはテファの手を引いて逃げ出した。 「さて、人間共。私を化け物だと言ったね?」 にたり、と笑って挑発する。 「それじゃあ、その化け物の姿を、見せてやろうじゃないか!」 頭部からは赤と紫の縞模様の帽子が消え、 こめかみの辺りから悪魔じみた角が生える。 上半身は血のように赤く形だけは人間に近い。 腕は死人のように青白く、顔ほどもある大きな手はグロテスクだった。 何より不気味なのは、赤と紫の縞模様に彩られた まるで蜘蛛の腹部のような下半身である。 「私の名は……」 地の底から響くような声で化け物になった女が自身の名を告げる。 「……アルケニモン!」 「う、うわあああああ!!」 メイジの杖からは火の玉が、風の刃が、襲ってくる。 彼女はそれを交差させた両手で防ぐ。 「ふん!この程度かい!」 決して小さくはないダメージだが耐え切れない程ではない。 「スパイダースレッド!」 両手の甲の宝石から赤い糸が無数に飛び出し兵士達を襲う。 「ええい、落ち着け!たかが一体だ!囲め!」 隊のリーダーらしい男が叫ぶ。 大多数との戦闘はあまり得意ではない。 だが、守ると決めたのは自分なのだから、退くわけにはいかないのだ。 兵士達の向こうに燃え盛る村が見えた。 この村のかつての有力者であったシエスタの曽祖父は、 『命はただそこにあるだけで素晴らしい』と考える人間だったという。 故に、エルフの血を引く主ティファニアも、 異形の存在である自分も受け入れてもらえたのだ。 その居場所を破壊したこいつらを、絶対に許さない。 そう考えながら、戦闘を続ける。 酸性の霧を吹きかけ、赤い糸で動きを封じ、殴り飛ばす。 しかしメイジ達相手ではいささか力が足りない。 「クッ!」 体中に焼け焦げや切り傷を作りながら悔しく思う。 せめて、『彼』のように戦闘向きに作られていたなら、 こんな奴ら相手に苦戦なんかしないはずだ。 「アタシを……守るんじゃなかったのかい……!」 『同じ世界にいるのなら、世界中どっからだって飛んできて お前を守る。俺は、そのために生まれたんだからな』 別れの時、そう言った『彼』を思い出しながら、 ぎり、と奥歯を噛み締める。 そんな時、そこにいた全ての人々の耳に聞きなれない轟音が響いてきた。 何事か、と空を見上げれば見慣れぬ形の竜らしき何かか飛んでいる。 あんな竜、ハルケギニアに存在していただろうか? 真っ直ぐ横に伸びた翼は、まるで固定したように羽ばたきを見せない。 アルビオン軍の竜騎士はいぶかしみながらもそれに向かう。 瞬間 白く光る何かが無数に飛び、竜騎士は爆発した。 その光景を見てアルビオン軍は言葉を失った。 アルケニモンは口の端を歪めて何処か嬉しげに叫んだ。 「遅いんだよ、この馬鹿!」 前ページ次ページBrave Heart
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/55479.html
【検索用 あひおん 登録タグ 2023年 VOCALOID ZEROKU あ 山桜P 曲 曲あ 鏡音リン】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:ZEROKU 作曲:ZEROKU 編曲:ZEROKU 唄:鏡音リン 曲紹介 曲名:『アビオン』 ボカコレ2023夏TOP100参加楽曲で、27位にランクインしている。 歌詞 (YouTube概要欄より転載) 言葉にならない 言葉にできない そんな記憶の歌なんだよ 触れられない 触れちゃいけない 傷に触れて あなたの温度と その差を知る 人が皆 日々に川に溺れる隙に 行かないで 行かないでくれ 息を吸い込んで 伸ばした片腕は 連なって逃した空 今日だって祈ってる 私もただ、風になると思う 春芽吹去った 思い出と門出に 止まった時の宙 今日だって祈った この唄も今、風になると思う 気乗せ 言葉にならない 言葉にできない 音が聴こえない 光が見えない 暖かくはない 冷たくもない 言葉にならない 言葉にならない 言葉にできない そんな記憶にいた何かだ そよ風を追って 集った陽だまりに 澄み切った空は鳴る 今日だってもらった宝物 嗚呼 今何してるの? 大人になることが怖いなら ちょっと馬鹿げた真似をしていいよ 子供の頃に見たあの夢は 春風に舞い空に消えたよ 大人になれなかった 君に見せる顔がないよ 大人になることは、、、 触れられない 触れちゃいけない 傷に触れて あなたの温度と その差を知る 人が皆 日々に川に溺れる隙に 行かないで 行かないでくれ 息を吸い込んで 伸ばした片腕は 連なって逃した空 今日だって祈ってる 私もただ、風になると思う 春芽吹去った 思い出と門出に 止まった時の宙 今日だって祈った この唄も今、風になると思う コメント 本当に好き… -- 名無しさん (2024-05-25 21 07 33) 終始落ち着いた声なのに感情はずっとぐらぐら揺れ動いてるのが好き。素敵な世界観 -- 名無し (2024-06-16 20 53 47) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/uww2/pages/13.html
一覧は、五十音順でお願いします。 国家設定雛形(これをベースにカスタマイズするなりしてお使いぐださい) あ行 アイスランド共和国 アフリカ連邦 イスラエル国 インド=イスラーム帝国 ヴェリット連邦 か行 桔梗国及びユニオン王国連合 ギリシャ統一帝国 クウェート さ行 スマトラ連合王国 赤森小王国 た行 中華連邦 な行 は行 フィラディリア合衆国 ベネットループ共和国 ま行 や行 大和帝國 ら行 わ行 滅亡した国 東亜連合 クルトナル帝国 神聖アルビオン帝国 チリ共和国 ニュージーランド 大和民国 オスマン帝国 スウェーデン連合王国 アルゼンチン共和国 アンゴラ連邦共和国 イベリア民主主義国 中華民国 ノーデンフェルト共和国 フィンランド民主共和国 ケルゲレン共和国 オーストリア帝国 コーカサス連邦 バルト連邦共和国 オーストラリア共和国 キャンベリック連邦 朝鮮民国 中央アメリカ連合 ポーランド民国 ケルゲレン民国 メキシコ連邦 フランス帝国(神聖ローマ帝国) __________________________________
https://w.atwiki.jp/vipkohaku2014/pages/105.html
威霊 威霊 悪魔名 Lv STR TEC VIT AGI LUC 物 火 氷 電 衝 魔 スキル1 スキル2 スキル3 スキル4 制限 アルビオン 64 54 44 58 42 46 無 耐 渾身の一撃 三分の帝旺 仁王立ち なし 吸収攻撃 ナイトメア 99 65 82 65 72 65 耐 反 無 メシアライザー 万魔の乱舞 五分の帝旺 勝利の雄叫び なし なし
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/14023.html
草案 登場人物 チュリネ:ポル チラーミィ:クレア バシャーモ:ユーフェミア メガヤンマ:ジェイラス ゴチルゼル:ヒース ニャオニクス:ブリジット エルフーン:プラカブ ミミロル:ラブル ムウマ:キュリー ヒメグマ:アルビオン ボスゴドラ:ロンダリオ ムウマージ:シャルロット ドラピオン:ハミルトン -- (ユリス) 2016-10-11 18 20 14
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5764.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ タルブ村の上空三千メイルに、アルビオンの主力艦隊であるレキシントン号の姿があった。存在を誇示するかのごとく、 悠然と君臨している。その周囲には、友軍の戦列艦が分散して警戒に当たっていた。 トリステインの艦隊は全て爆沈され、艦上のあちらこちらで水兵達が万歳を繰り返している。そんな状況に、ボーウッドは 眉をひそめていた。因みに総司令官であるジョンストンも万歳をしていたが、こちらに対しては無視している。 「上手くいきましたな、艦長殿」 隣に風竜を従えたワルドが、ボーウッドに耳打ちする。先ほどまで自国の村を焼き払っていたとは思えない、冷やかな 表情をしている。 「別に、ただ戦争が始まっただけだ。それ以上でも、それ以下でも無い」 ボーウッドは、ボソリを呟いた。その言葉を聞いたワルドは、口元を歪める。 そんな二人の元へ、ジョンストンが近づいて来た。まるで子供が欲しかった玩具を手に入れたかのような、嬉しそうな笑みを 浮かべている。 「艦長、伝令から情報だ。港町のラ・ロシェールに、トリステイン軍が展開したらしい。速やかに艦砲射撃の準備を 進めてくれたまえ」 「了解しました、司令長官殿」 ボーウッドは水兵達に艦砲射撃の準備をするよう命じると、ワルドに顔を向ける。 「で、君はどうするのかね? トリステイン軍が砲撃で全滅する様を、高見の見物かな?」 ワルドは首を横に振ると、ボーウッドに背を向ける。 「まだ敵軍に竜騎士が残っているかもしれませんので、周囲の警戒でもしてきますよ」 そう言って歩き出そうとした時、伝令が走り寄って来た。真っ直ぐにジョンストンの元へ向かい、何やら報告をしている。 何事かと思ったボーウッドは、ジョンストンに問いかけた。 「何かありましたか?」 「ん? あぁいや、別に大した事では無いよ」 そう言いながら、ジョンストンは帽子を被り直す。そして、ボーウッドとワルドに言った。 「何でも、奇妙な形をした竜騎士が一騎、こちらに接近しているらしい。まあ、一騎ほどなら驚くに値しないがね」 「相棒、右下から続いて三騎あがって来るぜ!」 「ヤー!」 「相棒の相棒、左から十騎ばかり来やがったぜ!」 「は~い♪」 レキシントン号から五百メイルほど離れた二千五百メイル上空で、二人はアルビオンの竜騎士隊と空中戦を行っていた。 時速150キロを誇る火竜の約二倍、時速287キロの速度でヘリを縦横無尽に操り竜騎士隊を翻弄している。 敵の背後に回り込んで銃撃すると言う単純な戦法で、二十ほどいたアルビオンの竜騎士隊は、すでに片手で 数えられるまでに数を減らしている。 「まったく、この飛行機械ってのは凄いね! おもしれえわホントに!」 二人の操縦士の間で、デルフリンガーが大声で叫ぶ。 「本当に、私もビックリしたわ!」 後部座席からルイズが体を乗り出して、大声で声をあげた。 「天下無双と言われてるアルビオンの竜騎士隊を軽々と撃ち負かしちゃうんだもん、流石は私の使い魔ね」 アンリエッタから譲り受けた水のルビーをはめた右手を、強く握り締める。本人に聞くと、お守りのためとのこと。 左手には、始祖の祈祷書をしっかりと抱き締めている。 マスケットの銃口に丸い弾を入れながら、リップは楽しげに口を開く。 「私達の持つ武器の性能がチートすぎるからよ、こっちだけズルして無敵モードだし」 ドアの窓から銃口を突き出し、竜騎士に向けて発砲。弾丸は不規則に動きながら、複数の竜騎士と火竜を穴だらけに した。ガクリと姿勢を傾け、地表へ落下していく。 「有効射程が竜の吐く炎よりずっと上ですから、近づかれる前に撃つだけだから簡単ですよ」 大した事では無いとでも言いたげな表情をしながら、セラスは窓からハルコンネンを突き出し残った竜騎士に向け引き金を 引く。落雷のような音を響かせ、火竜の頭部を粉砕。竜騎士はフライの呪文を使い、なにか叫びながら地表へ落ちていった。 「やったわ! アルビオン竜騎士隊、全騎を撃墜。トリステイン竜騎士隊の仇を討てたわ!」 ルイズは立ち上がると、両手でガッツポーズを決めた。それと同時に、始祖の祈祷書が足元にドサリと落ちる。あっと声を あげ、ルイズは慌ててしゃがみこむ。 それを見た(どこに目があるのか分からない)デルフリンガーが、ニヤニヤしながら(どこが顔なのかも分からない) 口を開く。(どこに口があるのかは分かる、鞘の部分だ) 「ご主人さまよ、喜ぶのは良いけど国宝の書物はキチンと扱いなよ」 「言われなくても分かってるわよ、ちょっと手元が狂っただけなんだからね!」 大声で反論しながら始祖の祈祷書を拾い上げようとして・・・ふと、ルイズの手が止まった。 「どうしたよ、ご主人さま。鳩が豆鉄砲くらったような顔して?」 「・・・・・・」 「マスター?」 不審に思ったセラスが振り向くと同時に、ルイズが顔を上げた。両目が大きく見開き、呆気にとられたかのような表情だ。 「え~と・・・どうかしました?」 「・・・セラス、ちょっと聞いてくれない?」 「なんですか?」 二人のやり取りを、リップは眼鏡をキラリと光らせながら見つめている。 「私、読み手に選ばれちゃったみたい。いや、何かの冗談かもしれないけど・・・」 「「はぁ?」」 セラスとリップが揃って首を傾げる。その時、デルフが話に割り込んだ。 「まさかとは思うけど、それってもしかして・・・虚無のことかい?」 「授業で先生が言ってた、虚無のことですか?」 セラスは召喚された後で見学した授業を思い出した。確か、四大系統の他に失われた系統魔法があるって言ってたような? 「そうよ! ほら見て、始祖の祈祷書に古代のルーン文字が浮かんでるでしょ?」 ルイズは始祖の祈祷書の適当なページを開き、二人に見せつける。だが、二人は再び首を傾げる。 「どうしたのよ二人とも、文字が読めないの?」 「いや、そうじゃなくてですね」 「じゃあ何よ!?」 「文字が見えないんですけど・・・」 セラスの冷静なツッコミが、穏やかに響いた。 ◇ 「竜騎士隊が全滅しただと!? しかも、たった一騎の竜騎兵だけで?」 レキシントン号の後甲板で、総司令官のサー・ジョンストンは伝令の報告を聞いて呆然としていた。 ハルケギニアで一、二を争うアルビオンの竜騎士隊が、わずか一騎の敵軍の竜によって壊滅させられたと言うのだ。 「本当に竜騎士隊が全滅したのか!? 生き残りはいないのか?」 伝令の襟首を掴み上げ、額がくっ付きそうなほどの距離で問いただす。伝令は震えながらも、なんとか報告を続ける。 「竜は全滅しましたが、竜騎士は数人ほど生存が確認されています。現在、タルブ村を占領している兵士達によって保護 されています」 ジョンストンはホッと息を吐く。 「分かった、数人ほどは生きているんだな。竜騎士に伝えろ、動ける者は地上の兵と共に占領を維持せよとな。 負傷してる者については、治療を受けるように」 敬礼をして、伝令は走り去って行った。それと入れ替わるように、ボーウッドが歩み寄る。 「わずか一騎で二十騎を打ち負かすとは、まさに英雄ですな。この戦いが終わったら、是非とも会ってみたいものです」 「同感だな」 相槌をうった所で、ワルド子爵がいなくなっている事にジョンストンは気づいた。 「艦長、ワルド子爵はどうしたのかね?」 「ワルド子爵ですか?」 部下達の働き具合を見つめていたボーウッドは、ジョンストンに向き直る。 「子爵なら、我が竜騎士隊が全滅したのを聞いてから飛び立ちました。敵軍の竜に挑んで行ったと思われます」 ジョンストンの眉が、ピクリと動く。 「大丈夫なのかね、相手は我が竜騎士隊を全滅に追いやった強敵だぞ。子爵は皇帝の側近の一人でもあるし・・・」 弱音を呟きだしたジョンストンに対し、ボーウッドは自分の唇に人差し指を当てた。 「総司令官殿、周りに部下がいるのですぞ。そのような言葉は、慎んでください」 ハッとした顔をして、ジョンストンは周囲に目を向ける。どうやら、聞かれてはいないようだ。帽子の傾きを直しながら、 ラ・ロシェールに視線を向ける。 「子爵には、生きて帰って来るのを祈るしか無いな。艦長、左砲戦の準備だ」 「了解しました」 ボーウッドは大声で指令を出した。 「総員、左砲戦準備! 上方及び下方、右砲戦準備! 弾種、散弾!」 ◇ タルブの村を占領したアルビオン軍から距離にして五百メイルほど離れた町、港町ラ・ロシェール。 そこにトリステイン軍は陣を張り、立て篭もっていた。 その中には、アンリエッタの姿があった。右隣には同伴すると言っていたマリナと側近のシーリン、左隣ではマザリーニが 将軍達と何やら話しあっている。 「あれが、アルビオン軍・・・」 アンリエッタは軍旗を掲げて前進する兵士達と、上空に浮かぶ艦隊を見て顔色を変えた。背後で控えていたアニエスが 近付いて、耳打ちする。 「殿下、怖いのは分かります。ですが、今は落ち着いて冷静を保って下さい。指揮官が取り乱しては、部下まで取り乱して しまいます」 額に浮かぶ汗を袖で拭いながら、アンリエッタは手綱を握る手に力を込める。 「ごめんなさいアニエス、心配をかけてしまって」 そう言うアンリエッタの呼吸は、明らかに乱れていた。アニエスは少し考えると、アンリエッタの手を取り胸に当てさせる。 「殿下、このような時は深く呼吸をするのが良いと聞いております。大きく息を吸い、そして吐いてください」 アンリエッタは言われた通り、胸に手を当てたまま深く呼吸をした。淀んだ肺に新鮮な空気が入り、不安に苛まれていた 心が落ち着いていくのを感じる。 「大丈夫ですか?」 マリナが隣に寄り添い、優しく声をかける。アンリエッタは平気ですと口を開こうとした時、爆音が轟いた。 地面が大きく揺れ、危うく落馬しそうになる。音の聞こえた方角に目を向けようとして、アニエスに両目を塞がれた。 「見てはいけません、殿下は正面だけに意識を向けてください!」 「わ、分かったわ。正面ね」 アンリエッタを敵軍に注意を向けさせつつ、アニエスは湧き上がる吐き気をなんとか抑えていた。敵艦隊から放たれた 砲弾によって、見方の一部に被害が出たのだ。それも、人や馬が散弾と岩によって砕け散ると言う、恐ろしい死に方で。 「敵は空から強力な支援を受ける三千、我が軍は砲撃の的となった二千」 マザリーニの号令によって空に空気の壁を作るメイジ達を横目で見ながら、アニエスは小さく呟く。 「勝てるのか・・・こんな、圧倒的な差で?」 更に砲撃が加えられ、空気の壁が破られる。人や馬が岩といっしょくたになって、宙に舞い上がる。頬に飛び散った血を 拭いもせず、小さく口元を歪めた。 「まあ、武器を持っているだけ・・・ダングルテールの虐殺に比べればよっぽどマシだな」 マザリーニの号令により、騎馬隊が前進を始めた。腰に下げた剣と背中に背負った新式のマスケットを頼りに、 アニエスは馬を走らせ敵陣に向けて突進して行った。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5497.html
前ページ次ページKNIGHT-ZERO カ マテ! カ マテ! カ オラ、カ オラ! テネイ テ タンガタ プッフル=フル ナア ネ イ ティキ マイ ファカ=フィティ テ ラ! ア ウパネ! ア フパネ! ア ウパネ! カ=ウパネ! フィティ テ ラ! ヒ! (訳) これは死だ。これは死だ。これは生だ。これは生だ。 この男が私を助けてくれた。一歩、一歩太陽に近づく マオリの民族舞踊"ハカ"より 白い国の短い初夏が終わり、消えぬ薄雲に包まれた空中大陸特有の霧雨が降り続くアルビオン ルイズとKITTはトリスティン統治下にあるアルビオン西部地方アイルランドの首都ベルファストに居た 情報将校 それがアンリエッタ女王により、アルビオン駐留軍に従軍するルイズに与えられた軍務と地位だった KITTのそれまでの稼動記憶を蓄積した人工知能は複雑な気持ちを有していた、ルイズが得たのは かつてのパートナーだったマイケルがROTC(大学予備役科)から入隊した米陸軍での兵科と同一のもの そしてマイケルは地獄のベトナム戦争で心と体に深い傷を負い、その傷が後の彼の運命を流転させた アルビオン駐留トリスティン王国軍の本拠として徴発されたユーロパ・ホテルの階段をルイズは降りていた この老朽ホテルをベルファストの最高級ホテルとして提供したアイルランドの連中もいい面の皮だが 最上階に篭ってこの国の特産であるウイスキーやサイコロゲームに興じる老貴族にもうんざりしていた 特務士官として駐留軍の大概の場所に出入りする特権を持ちながら、士官会議への出席義務の無い立場 着任報告以来久しぶりに来た統治軍最高司令部でも、ルイズは"ヴァリエール家のお嬢ちゃん"扱いだった ホテルの上階、ルイズにあてがわれた続き部屋のあるフロアを素通りして一階まで降り、正門から外に出た ルイズは自分のために手配されたホテル貴賓用のスイートルームを、荷物置き場にしか使っていなかった 灰色の空の下、ルイズはクロークに預けていた革ジャンのジッパーを締め、ポケットに手を突っ込み歩く 占領軍目当てにホテル前で店を出してる露店でワインやパイ、チーズ、ハム、お茶を買い、軍票で支払うと そのままホテルに引き返し、国風そのものの武骨な建物を回りこんで、裏手にある馬車溜りに向かった ずっと置きっぱなしになって朽ちかけている竜籠の影に霧雨に濡れた黒いボディが見える、赤い光の往復 CGとペジェ曲線が導入されるより前、デザイナーのフリーハンドによるボディデザインの最後の世代 デトロイト製の2ドアクーペが持つ官能的な姿に、ホテルの中からずっと仏頂面だったルイズの顔が綻ぶ ルイズは両手に紙袋を抱えたままKITTに音声指示で操縦席側のドアを開けさせ、その中に滑り込んだ 異国にあっても変わらぬルイズの我が家、慣れ親しんだタン色のバケットシートに沈み、操縦桿に触れる 待機状態だったV8水素核融合エンジンが始動し、腹ワタに染みわたる重低音がルイズを優しく包んだ 食料の詰まった袋を助手席に放り出し、両足をコントロールパネルの上に乗っけると、ルイズは息を吐いた 「なるほど、お父様があっさり許可するわけだわ、これじゃお空の上の大陸まで避暑に来たようなもんよ」 KITTのボイス・インジケーターが点滅して唇を形作り、ルイズの全身に心地よく触れる声が聞こえてきた 「ルイズ、何か新規の情報は収集しましたか?アンリエッタ様への定時報告の時間まであと15分ですが」 ルイズは紙袋の中身をを漁り、アルビオン貴族が好んで読む"新聞"の上に食料を広げながら返答した 「なぁ~んにも、何も無し、女王陛下に謹んでご報告します、本日の議題はこの国の酒と飯と女の味、と」 ワインの小瓶を取り出すと、安物ワインやエールでコルクの替わりに使われているゴム栓をひっこ抜いた 「付け加えることがあるとすれば、この国はジジィ貴族のいい廃兵院として機能してるって事ぐらいね」 ルイズは紙袋からパイを取り出し、革ジャンの内ポケットから革鞘に納まった小さなナイフを抜いた 古参兵によると従軍に一番必要なものは手ごろなナイフで、それは武器よりも生活道具として必須だという そのナイフはベルファストの古道具屋で買った物で、デルフリンガーとかいう大層な名前がついていた ルイズはシエスタが持たせてくれたクックベリー・ジャムの瓶詰めを開け、ナイフに山盛りにすると パイに塗りつけ始めた、ルイズの大好物のクックベリー・パイはホテル近くのパン屋にはなかった 店主に「兎のミートパイもキーライムのパイもあって、なんであんなに美味しい物が無いの?」と聞くと チェリーパイが自慢の店主は「なんであんな不味い物を置かなくちゃいけないんだ?」と聞き返してきた このクソ爺ィ、と思った、まぁごもっともだな、とも思った、とりあえず何も入ってないパイを買った 蜂蜜と果汁の入ったワインを学院の料理長から借りたクリスタル・グラスに注ぐと、一息に飲み干した 甘口ワインの弱いアルコールが胃を暖め、体をほぐす、ルイズがこの国に来て覚えた食欲増進の儀式 酔いで少し熱っぽくなったルイズはカーステレオをつけた、エンヤが故郷の神話世界をケルト語で唄う KITTが生まれ、かつて過ごした異世界にも存在するというアルビオンと、その国で生まれた歌 以前はあまり馴染まなかった優しい歌も、この地で聞くと悪くない、酔っ払って聞くともっといい ルイズは手製のクックベリーパイとナイフで削いだパンとハム、牛乳と砂糖の入ったお茶の食事を終えた 豚毛の筆型歯ブラシで歯を磨く、ルイズは他の多くのトリスティン人と同じく塩と灰で歯を磨いていたが アルビオン製のミント入り歯磨き粉は気に入った、不味いと言われたこの国の食事も、平民の軽食は旨い 水筒の水で口を漱いだ、ホテルで貰ったアルビオンの湧き水はトリスティンの硬水よりも口当たりがいい 歯磨き粉入りの水を石畳に吐いたルイズは、白い歯をデルフリンガーに映した、やはりナイフは役に立つ その後ルイズはアンリエッタに預けているKITTの通信装備、コミュニケーター・リンクを呼び出し 三時のお茶に合わせた定時報告を行った、今日も会話の内容は茶菓子を摘みながらのお喋りが殆どだった KITTが遠距離ソナーで傍聴し、要点を纏めて送信している定例会議の内容もさして中身の無い物だった 「ねぇKITT…このままわたし、アルビオンの名産を喰い散らかしながら従軍任務を終えるのかしら?」 茶菓子と新聞と衣類、そして酒瓶で散らかり、すっかり快適な住居となった車内にKITTの声が響く 「私にはそれが決して悪しきことではないと思います、あなたは最近よく動いた、静養が必要でしょう」 ボロ布でデルフリンガーを拭き、ジャムを丁寧に落としていたルイズは、鋼の輝きを見つめながら呟く 「…わたしね、思うの…動くわよ…この先、この国が、この空中大陸が…まるで嵐の中の船みたいに、ね」 ランチマット替わりの新聞には「ロンディニウムの修道院が積極的な救貧活動」の見出しが踊っていた 夕暮れ、ホテル裏に停めたKITTから出たルイズは、ぶらぶらと歩きながら表通りにある酒場に向かった 魅惑の妖精亭 駐留兵士の慰問のために運行される船に乗って、多くの商人が植民地で一旗揚げるべくこの国に来ていた その店は主に着飾った娘達が男性に酒と食事を出す店で、ルイズは最初、自分には無縁だと思っていたが 酒場での情報を目当てに入り、その料理のうまさに驚いたルイズは、以後の夕食を主にここで摂っていた 薄鉄の鍋に炎を上げながら料理する主人が出してくれる料理や「麺」とかいうパスタは刺激的な味がした 聞けば店主スカロンはタルブの出身で、シエスタの縁戚だそうだ、そのスカロンという男はシエスタとは 似ても似つかぬむさくるしい巨漢だったが、娘で店の看板のジェシカは確かに似てる、黒髪と生意気な胸 ジェシカはシエスタの父から聞いた、戦艦と竜騎兵に立ち向かいタルブを救った騎士の話をしてくれた ルイズが「それ私」と言うと、よほどウケたらしく桃りんごのシードルをむせさせながら大笑いしていた ルイズにはそれより、スカロン店長の人間離れした容姿のほうが印象的だった、とても筆舌に尽くせない 閉店の時間にルイズを迎えに来て彼と対面したKITTの最初の第一声は「うわっシッシッ!あっちにいけ!」 ジェシカや店の妖精達がKITTを見て「ガーゴイルの使い魔なんて、ヘンなの」と言う中、スカロン店長は 「82年式のトランザムね、これ、燃料噴射装置がすぐ壊れるのよ」とルイズに理解できない感想を述べた 「いらっしゃいませ~、お客様、パイプか葉巻は嗜まれますか?、ではこちらの喫煙席にどうぞ」 ルイズはKITTのボディのような深い漆黒のビスチェに身を包み、愛想よく貴族の客を案内していた 魅惑の妖精亭に通うようになって数日、スカロンの熱烈なスカウトを受けてこの店で働きはじめていた 初めの内は夕食が目的で、食事と食後のワインを楽しんだ後は、勘定と充分なチップを払い帰っていたが スカロン店長が作ったスロットとかいう異世界の博打に金を吸われ、ルイズの懐は早々に寂しくなった 慌ててアンリエッタに調査経費の追加送金を頼んだ所、偶然、公務でその場に居たのは母親のカリーヌ …「自分で何とかしなさい」… 通信は切られた、ルイズは通信機越しに母の鉄拳を恐れ震えあがった ホテルでルーム掃除をするか、銀行でも襲うかと考えた結果、ルイズは気心の知れた店で働くことにした 初めてのバイト経験、同年代に近い女店員(スカロンに言わせれば妖精たち)との話は弾むことが多かった ルイズは最初の内、豊満で色っぽい妖精達に気後れして、目立たぬ給仕と厨房の手伝いを希望していたが 学院制服のミニスカートで配膳をしている時に、何か勘違いした中年貴族に指名を受けたのをきっかけに すっかりルイズは店の妖精の一人として馴染んでしまっていた、チップの集まりは中の下くらいだった ルイズは「情報収集のため」と自分に言い訳をしていたが、実際は無為な宮仕えには無い刺激を求めていた 夜更け過ぎ スカロンによって閉店時刻と決められた"てっぺん"と呼ばれる日付の変わる時間に近くなった頃 客の酔いが進み、財布の紐が緩くなる店の稼ぎ時に、店内で酒場には付き物の騒動が起こった トリスティン駐留兵らしきゴツい男の一団が店の奥にあるテーブルを占め、辺り憚らぬ声で騒いでいた バーカウンターで静かに飲んでいたオークの商人が顔をしかめながら勘定とチップを支払い、店を去った 八分ほど入っていた客の内の何人かが、普段とは打って変わって騒がしい店内を嫌い、早々に引き上げる 客が食事を終えた後の酒の時間が妖精達の稼ぎ時、上客を追い出す迷惑な兵士達は、どうやら貴族らしい 酒の席では身分を忘れるという暗黙の了解によりマントを外して寛ぎの時間を楽しんでいる貴族達の中で 本国を追い出され占領地に流れてきたらしき貴族兵は、揃って軍の部隊章の入ったマントを羽織っていた 酒場のマナーも知らない田舎メイジ達は貴重な輸入ワインを次々と抜き、泥酔者特有の大声を上げている テーブルに並んだガリア・シャンパーニュ製のスパークリングワインの値段には不釣合いな粗末な軍服 飲み代を払う気があるかも怪しい、当時そういう下級の駐留兵により踏み倒しがあちこちで起きていた 統治国派遣兵の徴募に応じた貴族の中には、普段は山賊や盗賊で食っている無法者連中が少なからず居た 貴族兵の一人が杖を振り、テーブルについていたジェシカの緑色のビスチェの裾を風魔法でめくった ジェシカは田舎育ちのデカい声で罵ろうとしたが、啖呵を飲み込みながら愛想のいい笑顔を浮かべる やり取りを見ていた他の妖精達が顔を見合せる、ジェシカの翡翠像のような笑顔は初回だけの執行猶予で 懲りずに二度目の狼藉を働けば、即座に彼女の蹴りが無礼な客のコメカミに叩きこまれる事を知っていた 皆が困惑する中、バーカウンターでシェーカーを振っていたスカロンが尻を振りながら近づいてきた 異世界で「モンローウォーク」と呼ばれる歩行法を見た貴族達は、獣の威嚇を見た時のように身構える 「困りますわ~、あたしのお店では魔法はご法度よ、そんな怖い顔しないで楽しく飲みましょうよ~」 目の前に立ちふさがるマッチョなオカマの前に、体格にコンプレックスがあるらしき小男の貴族兵が立ち その背に不似合いな長槍型の杖を突き出すと、こちらはチビにお似合いな甲高い怒鳴り声を上げる 「おいバケモノみたいなオッサン、相手見て物を言えよ、俺達ぁ戦勝国トリスティン陸軍の伍長様だぜ」 スカロンが小男の大杖で突かれた、後ろにひっくり返った拍子に真っ赤なビスチェがまくれ上がる 彼が競走馬のような腿を晒しながら発した「いやぁ~ん!」という声に三人の貴族兵が揃って笑った 「魔法を喰らいたくなきゃ平民風情は引っ込んでろ、野蛮なアルビオン人を貴族様が教育して何が悪い」 目の前で父を突き飛ばされたジェシカは震えながら直立し、男達に向かって膝に額がつくほど頭を下げる 日本の営業マンのようなジェシカの深いお辞儀は、得意のハイキックに備えて腰を伸ばす準備運動だった 頭を下げるジェシカの姿を屈服と勘違いした肥満体の貴族兵が彼女に杖を向け、悪戯をしようとした ジェシカは頭を下げたまま上目遣いに「霞」と呼ばれるコメカミの急所を確認し、「覇~」と息を吐く 誰もが息を殺してやりとりを見守る、酒場に似合わぬ静寂が支配する中で、店の隅の席がガタっと鳴った 入り口脇の小卓で、指名がご無沙汰のため会計仕事をしていた黒いビスチェの少女が静かに立ち上がった ルイズの周りの空気が凶暴に歪む、鳶色の瞳はKITTの赤いフロント・スキャナーのように輝いていた 「この貴族の恥さらしが…いい加減にしないとあんたら…その髪の毛の一本も残さず…ゼロにするわよ…」 ルイズは一団の最古参らしき背の高い男の前に歩み寄り、自分の黒いビスチェの胸元を開いてみせた その中身、女性なら谷間があるであろう部分を上から見下ろしたメイジに「お、男…?」と言われた瞬間 この場を穏便に解決しようとする気持ちを思い切りよく捨て、襟裏に付けた金の延べ板を見せつけた 「その目ん玉が飾りでないならよ~くごらんなさい!我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール 特務情報士官として女王陛下より少尉待遇の地位を得ているわ、あんたらの親分やってる軍曹殿の上官よ」 ルイズがビスチェの襟裏につけていた近衛少尉の階級章を見た陸軍下士官の男達は、指差して笑い出した 「こちとら便衣兵や不正規兵を相手にしてんだ、そんなペテンに引っかかるかよ、貴族ごっこの平民女が」 占領地ではよくゲルマニア系の彫金屋が店を出していて、模造の勲章など駐留兵向けの土産物を売っていた ルイズは突き飛ばされた、張り手で突いただけとはいえ男の力、思わず呼吸が止まり、目の前に星が飛んだ 襟がめくれた拍子に見えた葡萄の葉のメダル、頼みもしないのに付けられたオマケを見て、男は鼻で笑う 「生意気にタルブ従軍章まで偽造しやがって、アルビオン騎兵と戦った勇士がこんな所に居るかってんだ」 初めて味わう男の暴力に、ちょっと前のルイズなら恐怖と動転で頭が真っ白になっていただろう ルイズは雲海の中を航行するクリッパー(快速帆船)の甲板で、所在なさげに舷側に寄りかかっていた トリスティンの軍港アムステルダムからアルビオンまでのKITTとの船旅、幸い船酔いとは無縁だったが KITTは現在、帆船の客室を二間ブチ抜いた臨時の車庫で、厳重な警備兵の監視の下で保管されている 特務士官ルイズもまたアンリエッタの命令により客船並の船室を与えられ、快適な船旅を過ごしていた 船上でKITTに乗る事は許されていなかった、船の王といわれるボースン(甲板長)には逆らえない その空族上がりのボースンははどこかで、この使い魔がアルビオンの戦艦を破壊した事を聞いたんだろう タルブ村侵攻の後、座礁した戦艦レキシントンは砲や風石機関をアルビオンの戦後処理官が持ち去った後 村からの再三の撤去要請にも関わらず放置された、シエスタの父はサルベージの困難な大型戦艦の解体を ルイズに依頼し、喜んで引受けたルイズは戦艦にKITTを突っ込ませて5分少々で薪の山にしてしまった ルイズは上空の冷気に身を震わせ、シエスタから借りた革ジャンを着込むと、暇に任せて甲板を歩き始めた 高度3000メイルまでの上昇航路に乗った風石帆船は、出航直後の忙しい動索操作が終わったらしく マスト上の見張り台に立つ船員を残して、残りは船乗りにとって値千金の睡眠時間を過ごしている様子 ルイズは甲板を走り始めた、陸と空の長旅で日課のジョギングも疎遠になり、体は運動不足を訴えていた 揺れる甲板でのジョギング、足首の柔軟さを求められるランニングにもすぐに慣れ、規則的に走るルイズ 後ろから、同じくリズミカルながらテンポの速い足音が近づいてくる、濃い霧の中で姿はよく見えない ルイズはフットボール選手のように後ろ向きに走りながら、足音と軽甲冑の発てる金属音の正体を探った 走ってくるのは一人の騎士であることを知った、髪の短い若い女、シュヴァリエになって日が浅いらしい ルイズはジョギング仲間が出来たと思い、手を振って挨拶をしようとした、向こうも手を振っている その騎士の振られた手には、長く鋭い剣が握られていた、サーベルはルイズに向かって斬りかかってくる 濃霧の船上で、ルイズはサーベルを振り回す狂戦士から逃げ回った、剣先が掠り、肌に冷たい感触を残す ルイズは無言で剣を撃ち込む女騎士から必死で逃げたが、上空の薄い空気に息が切れ、甲板に倒れこんだ ルイズの鼻先にサーベルが突きつけられ、続いて鉄甲の入った靴で腹をめがけて蹴りが飛んでくる 「わたしは銃士隊のアニエス・ド・ミラン曹長だ、貴様がルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールか アンリエッタ女王より貴様の鍛錬を受け持った、さぁ立てルイズ、まずは走れ、倒れるまで走るんだ」 ルイズはアニエスのヤクザ蹴りを転がって避けながら、主人の危機にKITTが助けに来ない訳を知った 「新米シュヴァリエが何呼び捨てにしてんのよ!わたしはヴァリエール家三女、姫様直属の特務少尉よ!」 甲板を転がりながらルイズは威勢だけはよく怒鳴ったが、アニエスは潰す前の虫を見るような目で見下げた 「陸に下りたら少尉とも閣下とも何なりと呼ぼう、しかしこの船に居る限り貴様は只のルイズだ、いいな?」 ルイズの反論はアニエスに尻を蹴られた拍子に出た「ひゃっ!」という情けない悲鳴にしかならなかった ルイズは甲板で腕立て伏せをしていた、汗まみれで上空の冷気を感じなくなる、薄い空気で息が切れた 「一体…何をやらせようってのよ…わたしは護身術を習ってるんで…力自慢にろうってんじゃないのよ」 胸が床につくまで身を沈める、ルイズは胸と床の距離の関係で他の女性より少々余分に苦労させられた 「貴様ら貴族士官は揃ってシャバではろくでもない暮らしをしてた奴ばかりだ、まずその鈍った体を オーバーホールしないと使い物にならん、…それからこの船の上で、私に疑問を持つことは許さん」 船旅は退屈とは程遠い物になった、日中は過酷な筋力鍛錬で絞り尽くされ、大味な船員飯がうまかった 夕暮れ後、ルイズはフラフラになりながらも、船室に戻らず船の先端近くにある錨鎖庫に入り込んだ 「…KITT…ねぇKITT……起きてる?わたしよ…今日も…寝るまで…お話、しよう…」 ルイズは舫綱に座り込みながら壁に向かって話しかけた、KITTの船室と隣り合った、ルイズの秘密の場所 日中の鍛錬を開放された後のKITTとの夜のお喋りは、ルイズにとっての唯一の安らぎの時間だった 「ルイズ、彼女はかなりのサディストですよ、私の世界で彼女に並ぶのは声優の風音嬢ぐらいでしょう」 「わたしあ~いうドSな女が一番苦手だわ、ほらわたしってKITTの扱いといい、かなりのMじゃない?」 KITTの船室の中で何かドンガラガッシャ~ン!という音がした、反論を考えすぎてエラーを起こしたらしい 船上での鍛錬はその時間の殆どを体力作りと走りこみに費やされ、護身術は最後にほんの少しやっただけ 単調な鍛錬の中で突然、アニエスが蹴りや木鞘での一撃を喰らわせる事もあり、気の休まる暇も無かった 数日の船旅の後、ルイズの乗った帆船はアルビオン南西部、統治軍共同の軍港グラスゴーに接岸した 桟橋にKITTを降ろす作業に立ち会うルイズの元にアニエスがやってきた、いつも通りの傲岸な目つき ルイズがKITTと共にアルビオン本土に降り立った途端、アニエスは鞭打たれたような直立不動で敬礼した」 「トリスティン王宮直属特務情報士官ルイズ・フランソワーズ・ド・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー少尉殿 任務の成功と無事の帰還をお祈りします、並びに、艦内での不敬な言動を深くお詫びいたします」 ルイズは学院で従軍経験者のギトー先生から少し習った不慣れな答礼をする替わりに、右手を差し出した 「…ルイズでいいわ…」 「もったいないお言葉であります、私アニエス、貴官の訓練に従事できた事はこの上ない誇りであります」 ルイズとアニエスはしっかりと手を握り合った、互いに相手の手を握り潰さんばかりに握力を篭める アニエスは握手の時、ルイズの目を見て囁いた、船上でルイズを震え上がらせた、虫を見るような目付き 「ルイズ、アルビオンで何かあった時は、ベルファスト治安維持部隊の三番隊に私が居ることを思い出せ」 ジェシカが店の若い従業員に、急いで駐留軍が詰めている屯所に知らせにいくように耳打ちしていた 「あ~、ジェシカ、お願いがあるの、騎士隊を呼ぶなら、くれぐれも三番隊だけはやめてちょうだい」 ルイズはビスチェの懐に手を突っ込み、こっちは偽造出来ない水魔法紙の身分証明書を取り出そうとした 「あれ…忘れた」 ルイズの身元と地位を証明できるのは、たった今笑いものにされた階級章と、身分証明書だけだった 「ちょ…ちょっと待ちなさい!ホテルに置き忘れてきただけだから、今、届けさせるから!」 ルイズは嗜虐の笑みを浮かべて歩み寄る三人の貴族兵士を手で制しながら、店の周囲の壁を見回す 「…ここがいいわね」 ルイズは店の隅、急ごしらえで建てた店の粗末な壁に、帳簿つけに使ってた黒鉛の筆で大きな丸を描いた KITTは既に傍聴した会話から危険を察し、ホテルの馬車停めから急発進して表通りを疾走していた 北米の幾つかの州では、出動前の消防車ではハードロックをかけて隊員を鼓舞することが定められている KITTはその規則に従い、ルイズのお気に入りを入れてるミュージックフォルダからランダム再生した その晩、KITTが駆け抜けたベルファスト中心街に、デトロイド・メタル・シティのサウンドが響き渡った KITTはこの歌詞を解する人間が居ない事を感謝し、この曲がハルケギニアでカバーされない事を祈った 近づいてくるV8のエンジン音とクラウザー様、貴族兵が身構え、少女達が不安の表情を浮かべる中で 妖精達をカウンター内に退避させたスカロンだけはなぜか懐かしそうな表情で、その音に聞き入っている 貴族兵がルイズに向かって杖を振りかざした、炎のスペルにも動じずルイズは挑戦的な笑みを浮かべる 「ねぇ、田舎貴族のオッサン、あんたは一流ホテルのルームサービスなんて、頼んだことないでしょ?」 ルイズがつけた印に沿って壁が吹っ飛んだ、赤い光、KITTの黒いボディが店内に飛び込んでくる SATSU-GAI! KITTのノーズに炎メイジの貴族兵が跳ね飛ばされる、突入時の速度調整により無傷なのは言うまでもない 「お待たせしました、ルイズ、ご指示通りアンリエッタ女王発行の身分証明書をただ今お持ちしました」 接客のあまり丁寧でないルイズへの面当てのような馬鹿丁寧な口調、叱ろうにもつい顔はニヤけてしまう 「わたしの"ホテル"はムチャクチャ速いのよ」 ルイズはKITTの車内から、夕べサンドイッチを食べる時にナプキン替わりにしていた紙を取り出した 身分証明書を見せるまでもなく、貴族兵達は奇怪な黒い物体に恐れを成し、じりじりと後ずさっている その時、店の端から悲鳴が上がった 兵士の一人が店の妖精を後ろ手に捻り上げ、底を叩き割ったガラスの酒瓶を彼女の顔に突きつけていた 見てくれの割りに戦場の経験の無い兵士、彼は未知の魔法アイテムが持つ力の前に理性を失っていた 恐怖から生存の本能を剥き出しにした彼が突きつけているのは杖ではない、彼はもう、貴族ですらない ルイズは震える手を振ってKITTを下がらせた、握り締めた拳で黒いビスチェのスカートを押さえた ルイズがKITTと共に活動するようになって知った、この世界にはあまりにも不似合いな不殺傷の思想 後に虚無の系統に開眼したルイズは、自分がエクスプロージョンという前代未聞の魔法を使えると知った 今まで狙った場所が爆発した試しの無い味方殺しの魔法だったが、その未曾有の破壊力を得たルイズは KITTの能力と自らのエクスプロージョンの魔法を、決して人を傷つける事に使わない、と誓っていた 「それは、それ!」 ルイズは黒いビスチェのフリルスカートを翻し、腿のガーターから抜いた杖を貴族メイジに突きつけた 「これは…これ!」 ルイズは自らの体内を巡る力を加速させ、目の前のクソ男を吹っ飛ばす特上の爆破魔法を唱え始めた 詠唱を完成させようとするルイズの前に、足音一つ発てることなくスカロンの巨きな背中が立ち塞がった 素手や剣の届かぬ双方の位置関係は、平民が剣や銃を持っていても貴族の魔法には決して勝てない距離 スカロンの爪先がキュっと鳴った瞬間、間合が一瞬で詰められ、酒瓶を持った男が店の端まで吹っ飛んだ 別の男がエア・ハンマーを乱れ撃ちするが、スカロンはその攻撃を左右の拳で砕き、腹にフックを打ち込む もう一人が炎の魔法を発動するより早く、術者保護のため魔法が発動しない直近でジャブ連打を浴びせた あっという間に三人の貴族が床に昏倒した、以前に何度か同じ光景を見たらしき店の常連達が口笛を吹く ルイズが唖然と見つめる横で、KITTが突入に備え上昇させていたエンジン回転数を下げ、声を漏らした 「拳よりその足さばきが私のライブラリーに残っていました、あなたもまた、地球からの召喚者ですね」 「あなたが最初の防衛戦の直前に突然姿を消したことを悔やんでいるボクシング・ファンは数多くいます 北米、環太平洋クルーザー級王者、18試合18勝12KOの重量級新人王、石 夏龍(hsu karon)さん」 スカロンはクネクネさせながら、たった今凶器として使った拳を両頬に当て、恥じらいの声を上げる 「なぁ~んのことかしらぁ、 私はこの魅惑の妖精亭の主人、チクトンネの美の化身、スカロンよぉ~」 KITTの情報によれば、シエスタの曽祖父を始めとする異世界からの召喚者達はあらゆる所に居るらしい ある者は地球への帰還を試みて果たせず失意の内に死に、ある者は召喚の影響で記憶を失ったまま生き そしてそれ以外の人々は意外な所に意外な形で居るらしい、おそらく、それは地球でも同じかもしれない スカロンのパンチでメイジ達がノックアウトされ、やっと騒ぎが終息した頃に騎士隊が駆けつけてきた 「何だルイズ、貴様か、どこかしらで騒ぎを起こす奴だとは思ってたが、酒場の喧嘩とは随分安っぽいな」 女性だけの騎士隊、トリスティンでは貴族に替わり武装した平民を中心とした銃士隊の運用が始まっていた 「ホントにルイズって呼ぶんじゃないわよ!ヴァリエール少尉よ!sirをつけなさいアニエス曹長!」 アニエスは面倒臭そうに襟を見せた、中尉の徽章、外地勤務で騎士隊副官昇進のボーナスを貰ったらしい 「なるほど、店員から話は聞いたが、こいつらは札付きでね、これで不名誉除隊は免れられないだろう スカロン殿の店は軍のお偉方にも好かれてたからな、ヘタすりゃ貴族廃籍だ、まぁ自業自得だな」 「こいつらは貴族じゃないわ、自分のやった事の責任を取れる人間、決して逃げない者を貴族と言うのよ」 ルイズが渋面で呟きながら再会の握手の手を差し出すと、アニエスはそのままルイズの手を引き寄せた 「さ、来いヴァリエール少尉殿、どうせ貴様も手を出したんだろう、事情聴取くらいさせて貰うぞ」 「ちょ…ちょっとアニエス!店長よ!みんなスカロン店長が殴り倒したのよ~!わたし何もしてない~~」 アニエスはスカロンのほうを向くと、アルビオンの港でルイズに見せた時よりずっと丁寧な敬礼をした 「スカロン店長、報告書その他の書類の体裁は、私とこのヴァリエール少尉殿が整えておきます 店長は心置きなく店の復旧をお急ぎください、被害は後ほどこの男達の俸禄から弁済させますので それから…我が銃士隊一同は、あなたが再び拳闘と柔術の稽古にお越し頂くことをお待ちしております」 隊員達に将軍の閲兵のような敬礼をされたスカロンは、キラっと星が飛びそうなウインクで答礼する 「そんな野蛮なことしたらおハダが荒れちゃうわぁ…でも、アニエスちゃんと部下のカワイコちゃん達が あたしの作ったビスチェを着てお店に出てくれれば、次は居合とクンフーでも教えてあげちゃおうかしら 銃士隊の女性隊員が妖精達のビスチェを見てまんざらでもない表情をする中、アニエスは弱気を見せる 「そ…それは…その任務を果たすには…自分は力量不足でありまして、わたし…カラダにはあまり自身が…」 スカロンはアニエスのバストを見ると、薄鋼の胸当てで覆われたオッパイのサイズを掌で正確に形造った 「もったいなぁい、ちょっと寄せて上げればナイスバディよぉ、ルイズちゃんだってお店に出てるんだし」 アニエスはルイズが見た事ないほど狼狽し、片手で冷や汗を拭き、もう片手でルイズを引きずり逃げ出した 店に残ってた客達が退場するルイズに歓声を上げ、今まで貰ったチップを超えるほどのおひねりを投げた 半分は威勢のいい台詞と貴族の誇りを見せてくれた事へのご祝儀で、残り半分は保釈金のカンパだった 銀貨をかき集めたジェシカが「今月のチップレースはルイズちゃんの逆転勝利ね」と声を漏らす 「ルイズちゃんおつとめ頑張って~、壁を壊した分の給料天引きは負けといてあげるわよ~」 「アニエス中尉、せいぜいルイズにはたっぷりと油を絞ってあげてください、たまにはいい薬です」 アニエスに襟首を掴まれ、ジタバタしながら逃げ出そうとするルイズは無慈悲に引っ立てられて行った 「て、て、店長の鬼~、アニエスの悪魔~…KITTの鬼悪魔ぁぁぁ~~~~」 結局ルイズはアニエスのちょっとした悪戯でブタ箱に一泊し、人生最初の臭いメシを食う羽目になった 前ページ次ページKNIGHT-ZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2441.html
『レコン・キスタ』の支配する敵地アルビオンに攻め込んだ、トリステイン・ゲルマニア連合軍。 だが、ある時突然、将兵のうち2万が反乱を起こし、アルビオン側につく。敵の数は併せて7万。 総司令官のド・ポワチエ将軍と、ゲルマニアのハルデンベルグ侯爵は反乱兵の手にかかり死亡。 敵地の中、決死の撤退戦が始まる。だが、『レコン・キスタ』に従わない民草も大勢ついてきた。 民草を間に挟み、行軍は遅々として進まない。 「気にくわねえな」 ロサイス郊外、トリステイン女王アンリエッタの陣営。そこに酒壜を引っさげて座っていた巨漢が、ぼそりと呟いた。 「殿(しんがり)で民草に敵を背負わせたまま先頭にいるのは、どうも居心地が悪い! 俺ァ殿に行くぜ」 「あんたはじっとしてなさい!」 立ち上がる巨漢を、少女が袖を掴んで止める。馬鹿馬鹿しいほど対照的な二人だった。 男は、年の頃は40歳ほど。身長2メイル近くはある偉丈夫で、腹は太いが全身物凄い筋肉に包まれ、毛むくじゃら。 団栗眼にヤマアラシのような髭、太い眉。豪傑を絵に描いたようだ。 少女は、年の頃16歳。身長が153サント。桃色がかったブロンドの長髪と鳶色の瞳を持つ、小柄で細身の小娘。 驚くほど美しいがまだ乳臭が抜けず、気位ばかりは高そう。お姫様を絵に描いたようだ。 「おおお、貴公が出陣してくれるのか! これは心強い!」 「盗賊退治からニューカッスルでの一戦、その後の戦いでも貴公の武勇は伝説的です!」 「まさに万人の敵、一世の虎臣! 『虚無』の使い魔、『ガンダールヴ』!」 「ミス・ルイズ・フランソワーズ! 貴女と使い魔殿がおられれば、陛下も安心ですな」 周囲の重臣たちが、一斉に男を褒め称える。 「よせやい。俺が強いのは生身の敵相手だぜ。強い妖術使い(メイジ)や艦隊にゃあ、敵わねえ。 それにな、てめえら貴族やそこの女王様のために行くんじゃあねえ。 背後で苦しんでる将兵や、民草どもを救いに行くのさ。なあ、ルイズよ」 こいつの強さは、嫌というほど知っている。粗暴でたまにポカミスもするが、戦いに出て負けたことはない。 7万の軍勢でも、こいつならなんとかしてくれそうだ。ルイズは、大博打打ちのここぞという時の顔をする。 「よしッ! あんたは殿よ! めいっぱい威圧して敵の足を滞らせなさい」 「ああ」 「でも、何があっても絶対にあんたから仕掛けんじゃないわよ! あんたは、たとえ百万の敵だろうと、ひとりで倒せると思い込んでる節があるからね!」 「ケッ、ほざきやがれ!」 巨漢は風竜を借り受け、矛を脇に挟んでまっしぐらに殿へ飛んで行く。その後を数騎が追う。 俺は乱世に生きてきた。 生まれた時から親の顔は知らねえ。女は行く先々、方々で作る。 誰が子を産もうが、死んじまおうが、こっちは流れていくから知ったこっちゃねえ。 何年停まろうが、家族のようなもんでしかねえ。死に別れを惜しむようなもんじゃねえんだ。 そう思ってきたがよ。 「なあ兄者たち。俺はまだ、生きているぜ。あの頃の歳になってよ」 あの小娘を守ろう。それが『侠』ってもんだ。 殿につくと、敵軍が迫ってくるのが眼前に見える。 3万……いや、すでに5万は超えてやがる。 反乱兵どもを併せて7万か。この地形ならなんとか防げるかな。 あの小娘が買ってきた長剣に太い長柄を付け、使い慣れた大矛のようにして携える。 こいつは口煩く喋るけったいな剣だが、流石に大人しくしてやがる。 「よお相棒。本気でやんのか? 7万対1騎をよお」 「ああ。そんなことぐれえ、わからねえか」 名乗りは……いいか。俺の武名は、天下に轟雷のごとく鳴り響いている。 俺の武勇で名乗ってやろう。民草や将兵にゃあ、指一本たりとも触れさせねえぞ。 「む! あの殿に侍る男は……なるほど! アンリエッタめ!」 追撃軍の指揮官、ホーキンス将軍が前線に出て来る。 「腹心をひとり殿におくことで、おのれは民を盾にしておらぬと言いたいのか! 民の守護を第一義と示す事で、こちらの攻撃を封じるつもりかッ! 天下に己の正義をひけらかしたいならそれもよかろう。 ならばこちらは威で圧しまくり、その群れを崩し散らせるまでだ!!」 男が長い息を吸い終わり、敵を睨み据える。 む ん 巨漢が無言のまま『気』を放つと、それは烈風のように前方に噴き出し、敵を圧する。 魔法ではない。男の武威の気が、熱風となって発されたのだ。 「なんだこの圧! なんだこの熱は!」 ホーキンスたちは顔が突風に遭ったように凹み、吹き飛ばされそうになる。 男の周りの空気は、太陽が地上に出現したかと思わせるほどに、熱い。 「こ、これがたった一騎で万の敵を圧する武威の気というものか!!」 しかし、アルビオンの将兵は、怯みながらもじりじりと前へ進む。 「だが敵将よ! それだけの気をいつまで発し続けることができるという!? さらに怒涛のごとく押し寄せるアルビオンの精鋭軍を前に!」 撤退戦は辛い。後ろの将兵や民草が、ぼろぼろと潰走し始めた。 「おい相棒、この群れはもうすぐ崩れるぜ。ここは先を行く奴らと合流して」 「聞こえねえ。聞こえねえな」 大矛の穂先でデルフリンガーが呟く。それを男が制する。 「デル公。おめえは何者だ。武器が弱気な事を喋るな。 俺ァ一介の侠者だ。てめえの居場所を見失うこたァねえ」 ホーキンスの指揮で、ついにアルビオン軍は男に襲い掛かる。 だが、近づく者は皆、彼の振るう大矛によって打ち砕かれ、両断され、脳漿や臓腑を撒き散らす。 風竜に跨る大男は、何百人を相手にしても、笑いながら次々と敵を斃していく。 魔法さえも、大矛の穂先が吸収してしまう。武威の烈風は吹き止まない。 「強い! やはりこの強さは尋常ではない!」 天下、戦、武名はおろか、主君すら無用のこの武。 すべてを捨てて、ただこの場に身命を置いたあの男の武は、べらぼうに強く清らかだ。 獲物を与えれば与えるだけ、彼は勢いづく。猛獣の檻を目一杯に拡げてやるようなものだ! 「敵が背を向けたぞ――っ」 「一気に突っ切れい!」 ホーキンスが命令を下したことを後悔し始めるが、勢いのついた軍勢は止まらない。 巨漢は再び気息を整え、満身に力を溜める。 どこの何者だろうと知ったこっちゃねえ。 なんぼの軍が相手だろうと関係ねえ。 天よ! ただ刮目せい! われこそは天下無双、張飛益徳なるぞ!! その日、7万の軍勢は、ただ一騎の豪傑の前に敗走した。 (完)