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(3-25) 「演算終了。 ミサカ10032号の照準誤差が発射直前の3.2秒間に指数関数的に増加したことを 確認。標的への集中によって視野が狭くなることに乗じて狙撃者の視覚を撹乱したもの と結論づけます、とミサカ19090号は演算結果を報告します」 「ではミサカ10032号は照準後ミサカ達のナビゲートに従って照準を修正して下さい。 敵能力の影響が少ないミサカ10100号、13577号、19090号、19961 号が3次元像を構築し、残りのミサカがナビゲートします とミサカ10039号は射撃手順を懇切丁寧に説明します」 「「「「「「「「 了解 」」」」」」」」 その時舞台では一度弱まった炎の龍が再び火勢を強めてカナミンを圧倒しつつあった。 「お姉様がピンチです、とミサカ10032号は簡潔に報告します。 能力の起点と思われる赤光を放つ槍の穂先に照準をセットしました。 以後のナビゲートをお願いします」 「では照準を現在より右に1度23分、下に0度14分修正して下さい とミサカ10039号はナビゲートします」 「了解。発射します!」 打ち出された御坂妹の弾丸はフリウリスピアの穂先を捉えた。 穂先にヘビー級プロボクサーのパンチ並みの衝撃を受け、五和はフリウリスピアを炎の龍 から大きく逸らしてしまう。 術式を破られた炎の龍はその火勢を急速に減じていく。 五和は弾かれたフリウリスピアを引き戻して術式の再構築を図るが、その火勢が戻ることはなかった。 五和の目の前で炎の龍が薄れると、そこには砂鉄の剣で炎の龍の額を貫き炎の核を切り 裂いた御坂美琴の姿が現れた。 御坂美琴はさらに五和に斬りかかろうとするが、カナミンにスーツの襟を掴まれに空中へ 釣り上げられてしまう。 「ちょっ、ちょっと!」 文句を言う御坂美琴に構わずに空中に飛び上がったカナミンはマジカルステッキを白く輝かせる。 「クリスタルダイヤモンド!」 カナミンを取り巻くように空中に5つの氷の槍が現れる。 カナミンがマジカルステッキを振るうとそれらは矢のように飛んで舞台に描かれた5つの ×マークを同時に射抜いた。 その結果、五芒星に注がれていた大量の魔力が行き場を失い暴走する。 うっすらと燐光を放つ五芒星が浮き出たと思った瞬間、眩いほどの閃光を伴い周囲に電磁 波を撒き散らし会場内のいくつかの電子機器を故障させた。 それは意外な所にまで作用してしまう。 自爆機能など付いているハズの大型スピーカーシステムがなぜか大爆発したのだった。 周囲に大量の部品を撒き散らし、部品の一つが天井にまで届いた程だ。 当然のことながらそのスピーカーの横には世界一不幸な高校生上条当麻がいた。 上条当麻は舞台でバトルを続けている美少女達のことを皆良く知っている。 だからこそどちらに肩入れする訳にも行かず、戦闘開始以来目立たぬように舞台の片隅にいたのだ。 そんな上条を爆風が舞台中央へ押し出した。 さらに天井まで吹き飛んだ部品が照明用ライトを上条目がけて落下させる。 「おっわったった!」 上条はとっさに身体を捻って落下してきたライトを避けたが更にバランスを崩す結果と なり上条は顔から舞台に倒れ込む。 しかし上条が顔面を叩き付けたのは硬い床板ではなく柔らかい物体だった。 それは天草式の術式が破られたことに気を取られた五和の無防備な胸だった。 上条は不幸(?)にもそんな五和の胸の谷間に顔をすっぽり埋めていた。 1.3秒後その正体に気付いた上条は慌てて五和から離れる。 先に口を開いたのは狼狽える上条ではなく五和だった。 「だ、大丈夫ですか?当麻さん」 「わっ、悪りぃ。五和」 「いえ、気になさらないで下さい。当麻さんのお役に立てたのなら嬉しいです」 そして顔を赤らめて見つめ合う五和と上条。 「「ビッシィィッ!!」」 上条と五和は気付かなかったが、この時舞台奥と舞台袖にいた二人の美少女のこめかみに 浮かんだ青筋がブチ切れていた。 その一人、御坂美琴は既視感(デジャヴ)に囚われていた。 (なによ!アイツったらデレデレしちゃって!巨乳がなんだっていうのよ!! でも、さっきの光景ってどこかで見たことがある…………どこだったかしら?…………) もう一人の姫神秋沙も上条が口にした名前に聞き覚えがあった。 (上条君ったら。もう!なんで私じゃないのよ!私だってそれなりに大きいのに………… でも。さっきの名前はどこかで聞いたことがある…………どこだったかしら?…………) (( …………、あーっ!思い出した!! )) (3-26) 御坂美琴は思い出した。 (そうだ、街でサッカーボールがアイツの頭に当たって隣の女の胸に倒れこんだ時だ。 それにあの巨乳はスパリゾート安泰泉の湯船でチラッと見えたあの胸) 姫神秋沙も思い出した。 (そうだ。インデックスさんが『たまに上条君の下宿に来る』って言っていた女の名前。 そしてこの露出狂の名前も五和) ((ということは…………この巨乳女(露出女)は私の敵!)) 御坂美琴と姫神秋沙。二人の心が一つになった瞬間であった。 「いくわよ、秋沙!」 「任せなさい。御坂さん!」 「いっけえぇぇ────────────!」 超電磁砲(レールガン)が咆吼を響かせ観客席を背にする五和に放たれる。 「ひッ!!」その迫力に思わず五和は上半身を捻ってその一撃を回避してしまった。 (しまった)と五和が観客席へ振り向いたとき、観客席に直撃すると思われたのレールガンが 魔法障壁(イージスフィールド)に弾かれ斜め上方に飛び出すのが見えた。 「ほら、どんどん行くわよ!」 続けて御坂美琴からレールガンが3連射される。 一撃目。なんとか素早い足裁きで身体を横に滑らせて避けることができた。 しかし天草式からのサポートが途切れた状態での無理な体重移動は五和をふらつかせる。 二撃目。回避を諦めフリウリスピアを両手できつく握りしめ身構える。 レールガンが直撃すれば魔術的補強を施したフリウリスピアとはいえタダでは済まない。 だから弾き返すのではなく斜め後方に弾いて逸らす必要があった。 五和は音速の3倍で飛来するコインをフリウリスピアの柄に当て後方に弾き飛ばすという 神業を完璧にやってのけた。 同時にフリウリスピアが砕けないようにレールガンの衝撃を手首、肘、肩、腰、膝、足首 全てを使って受け流す。 それでも獰猛な衝撃は五和の身体の中で荒れ狂い骨・筋肉・関節構わず容赦なく軋ませる。 しかも一瞬遅れでやってきた衝撃波が身体の外から追い討ちをかける。 三撃目。最後の一撃もフリウリスピアで弾いた。 しかし二撃目のダメージが残る五和の身体はもはやその衝撃を受け流すことができない。 もろにレールガンの衝撃を受けたフリウリスピアは粉々に砕け散り、衝撃波は五和を大きくよろめかせる。 「これでお終いよ!」 フリウリスピアを失いバランスを崩した五和にトドメのレールガンが放たれた。 しかし激しい閃光が舞台を満たしたもののその後に続くハズの爆音と衝撃波はなぜか起こらなかった 閃光がおさまった舞台では御坂美琴と五和の間に割って入った怪人(上条)が御坂美琴へ向け右手を突き出していた 「なっ、なんで?」 戸惑う御坂美琴。そして呆然と立ちつくす五和。 怪人(上条)は彼女たちには構わず、とってつけたようなセリフを吐き出す。 「ブラックキャット様!我々ではとても敵いません。 ここはひとまず撤退しましょう。 憶えていろ!カナミン。それに雷光の双子(ジェミニ)。 次こそは叩きのめしてやるからなああぁぁぁ!」 怪人(上条)は捨てぜりふを吐きながらブラックキャットの手を引いて舞台上手へと脱兎 のごとく走り去ってしまった。 あまりの急展開に御坂美琴は舞台上で呆気にとられて身動きできないでいる。 「こうしてカナミンと『雷光の双子(ジェミニ)』によって学園都市の平和は守られた。 しかし学園都市を狙う悪の組織が滅んだ訳ではない。 超機動少女(マジカルパワード)カナミンの闘いはまだ終わらない! 頑張れカナミン!学園都市の平和を守れるものは君達しかいない!」 舞台のスピーカーからとってつけたようなナレーションが流されると、舞台下手から進行 係のお姉さんが登場する。 「みなさ~ん。どうでしたか~~?」 お姉さんは今回の騒動があたかも脚本通りだったかのように、にこやかな表情で観客席に 手を振ると、めくれ上がった床板を軽やかなステップで避けて歩き、砕け散ったガラス片 は軽く跳び越えて舞台中央までやって来た。 プロ根性が為せる業である。 「これをもちまして『超機動少女カナミン=ダイバージェンス=』ショーは終演で~す。 では皆さん!学園都市の平和を守ってくれたカナミンさんと本日の特別ゲスト『雷光の 双子(ジェミニ)』さんに大きな拍手を!」 「「「わあ──────!」」」 観客席から割れんばかりの大きな拍手と歓声が沸き上がる。 (3-27) 一方舞台をはけた上条と五和は舞台袖の荷物搬入口まで逃げてきた。 「はあ、はあ、ここまでくれば一安心だ」 「あっ、あのー、当麻さん。先ほどは助けて頂きありがとうございました」 「気にするなって。 御坂のヤツも何考えてんだ!小学生にスプラッターを見せる気だったのか、全く。 そんなことより一体どうしたんだ。五和!?」 「はい。まさか弾丸よけの魔法陣が破られるとは思ってなかったもので焦っちゃいました。 それに天草式の皆で張った結界まで破っちゃうなんて、やっぱり皆さんすごいですね」 「そうじゃなくて、五和。この茶番は一体何なんだ!?」 「えーっと、どういうことかと尋ねられましても……………………ハハッ、アハハッ」 笑って誤魔化そうとする五和に上条は詰め寄る。 「そもそも天草式は一体学園都市(ここ)で何してやがる!?」 「それはですねぇー、そのーっ、私達は学園都市からの依頼で動いて…………」 「何!学園都市からの依頼だぁあ?」 「わっ、わっ、ゴメンナサイ。今のは内緒の話なんです。 お願いです!今のは聞かなかったことにしてもらえません?」 「バカ野郎!そこまで話を聞いて、簡単にハイそうですかって言えるか!」 「じゃあ後で必ずお話しますからそれまで内緒にしてもらえませんか?」 「後っていつだよ?」 「では火曜日の夕刻、当麻さんの下宿でよろしいですか?」 「それまで黙ってりゃ良いんだな。ああ、わかったよ」 「ありがとうございます。では火曜日に」 そう言うと五和は荷物搬入口からスルリと外へ抜け出した。 あんな格好のまま外へ出て大丈夫か?と心配した上条が搬入口から顔を出した時には五和 の姿はどこにも見えなかった。 どこかで人払いの術式を掛けたのだろう。引き際の速さも天草式らしかった。 「(ようやく終わったな)ふーっ」と一息ついた上条上条であったが「当麻さん」と突然 背後から掛けられた呼びかけにビクッと身体を震わせる。 「当麻さん、とミサカは再度呼びかけます。ひょっとしてお邪魔でしたか?」 「み、御坂妹。えーっと、お前いつからそこに?」 「確か『私達は学園都市からの依頼で動いて』という辺りからです、とミサカは正直に応えます。 あの人が当麻さんのお知り合いだったということは、ミサカがあの人の槍を狙撃した ことは当麻さんにとって余計なお世話だったのでしょうか? とミサカは当麻さんの反応を探るように問いかけます」 「そんなこと無いぞ!お前は良くやった。 五和のヤツもまさか弾丸よけの魔法陣が破られるとは思わなかったってビックリしてたぞ」 「ではミサカは当麻さんのお役に立ったのですね? とミサカはまだ少し不安げな表情を残したまま尋ねます」 「当たり前だ!」 「では、ミサカは当麻さんにご褒美を要求します とミサカは少し頬を赤らめながらもここぞとばかりに当然の対価を請求します」 「えっ?えーっと、ご褒美? ちょっと待て!(貧乏)学生の俺に余裕(お金)なんてないぞ!」 「当麻さんに経済的余裕がない、端的に言えば貧乏だ、ということぐらい承知しています とミサカは無理難題を押しつけるつもりはありませんと予め断っておきます。 その代わり当麻さんのお時間を少しミサカに頂けませんか? とミサカは当麻さんにとってもリーズナブルな提案をしてみます」 「時間?」 「はい。水曜日の放課後をミサカのために空けてもらえませんか? とミサカはこれぐらいならOKでしょという口調でお願いしてみます」 「(ホッ、それくらいなら問題ないよな)そんなことならおやすいご用だ!まかせとけ」 「「「「「「「「「 約束しましたよ 」」」」」」」」」 突如響いたサラウンド音声に上条は狼狽える。 なぜだか背中に冷たい汗が流れ出した上条は恐る恐る後ろを振り返る。 「げっ、御坂妹がいっぱい!!」 そこには常盤台中学校の制服に身を包み頭にNVゴーグルを着けた全く同じ顔の美少女達 がズラリと並んでいた。 妹達は一斉に顔を赤らめるとサラウンド放送を再開した。 「「「「「「「「「 水曜日が楽しみです、とミサカは満面の笑みを浮かべます 」」」」」」」」」 「「「「「「「「「 確かに約束しましたからね、とミサカは再度念を押します 」」」」」」」」」 サラウンド放送を終了した妹達は嬉々として三々五々に帰っていった。 呆気にとられて暫く真っ白になっていた上条が正気に戻ると既に妹達の姿はなかった。 上条は「ふ──────っ」と盛大なため息を漏らした。 (3-28) しかし「上条君」と再び掛けられた声にまたしても上条はビクッと身体を震わせる。 「そ、その声は姫神さんでしょうか?と上条さんは少しオドオドしながら問いかけます」 「どうしたの?上条君。口調が変。何かやましいことでもあるのかな?」 「いや、そんなことは決してありません。上条さんは清廉潔白です」 上条は振り返りつつ不自然なほどのオーバーアクションで否定してみせた。 「そんなことより。上条君。ほっぺから血が出てる」 「えっ、そうなの?」 上条が左手の甲で右頬をこすると手の甲に赤い血がついていた。 どうやら先ほどの爆発の際破片が頬をかすったようだ。 「早く治療しないといけない」 そう言いながら上条ににじり寄ってくる姫神秋沙を上条は両掌で牽制する。 「いや。大丈夫だって、姫神。こんなかすり傷、唾でも付けてりゃ治るって!」 「上条君!!」 姫神秋沙のしかりつけるような声に上条は言葉を詰まらせてしまった。 これ以上抵抗してもどうにもならないようだ。 「傷を見せなさい!」 「…………はい」 姫神秋沙は右手を上条の顎に当てると左手で右耳を引っ張って上条の右頬を引き寄せた。 「ホラよく見てみろ!大したこと無いだろ…………」 そう言いかけた上条は右頬に暖かい吐息がかかったと思うと姫神秋沙の濡れた唇が右頬に吸い付くのを感じた。 軟体動物が蠢くような感触に上条の脊髄をゾクゾクゾクと電流が突き抜ける。 それは不快なものではなかった、というより不快とは正反対の感覚だった。 顔を真っ赤にする上条であったが姫神秋沙に耳をつままれているため身動きできない。 そして上条の頬に吸い付いた姫神秋沙が唇を離すと今度はたっぷりと唾液を含んだ舌が その舌腹で上条の傷を優しく舐めあげる。 そして再び唇を押しつけると少し開いた唇の隙間を舌先が触れるか触れないかの強さで チロチロと上条の傷を愛撫するように何度も往復する。 その身体の芯まで痺れてしまうような感触に上条は耳たぶまで真っ赤にしてしまう。 「ちょっ、ちょっと姫神!なにやって…………」 上条の傷を舐めていた姫神秋沙は頬に付いた唾液を吸い取るように「チューッ」という 音を立てるとようやく唇を離した。 「はい。治療お終い!」 「ちっ、治療?」 「君が唾でも治るからって言った。でも君の舌は君の頬には届かない。だから私の出番」 そう言う姫神秋沙の顔は真っ赤に染まっていた。 そしてどこからか絆創膏を取り出すと上条の頬にペタっと貼り付けた。 「でも化膿しないか心配だから明日の放課後上条君の下宿に様子を見に行ってあげる」 「いや、大丈夫だって!こんなの傷のうちにも入らないからさ。別に明日来なくてもさ」 「だって、火曜日と水曜日はダメなんでしょ?」 「うっ!(バレてる。全部バレてる。五和のことも、妹達のことも…………)」 上条は言葉を詰まらせた。 どうやら先ほどまでの会話は全て姫神秋沙に聞かれていたようだ。 ここにいたって上条は無条件降伏を受け入れるしか選択肢が無くなっていた。 「…………よっ、よろしくお願いします…………」 「どういたしまして。上条君。お大事にね」 そう言う姫神秋沙の顔は満面の笑みで溢れていた。 まるでワルツのステップを踏むような軽やかさで姫神秋沙がクルッと回転するとルンルン とスキップしながら舞台側の出口へと出て行った。 一人残された上条当麻はそこで今日一番の大きなため息をついた。 どうやらこの一週間は大変な目に遭いそうだ。 「ふっ、ふっ、不幸だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 to be continued. 「ミサカ、巫女と美琴」第3話「宿敵。その名はブラックキャット!」お終い。 (第3話 おまけ) その一週間に何があったのかを上条当麻が他人に語ることは生涯なかった。 しかし後年発見された上条当麻の日記には以下の記述が残されていた。 『上条当麻の日記』より抜粋 ○月○日(月) 姫神が治療と称してやって来た。 インデックスはアレが不満らしいが治療だって姫神が言うんだからアレは治療なんだよ。 そしてその後、なぜか夕食と翌日の弁当作りを一緒に行うことに。 やっぱり姫神って料理が上手いよな。 幸せも束の間、ご立腹モードのインデックスに体中噛み付かれる。…………不幸だ。 結局、姫神を下宿まで送り届けて帰って来たときには日付が変わっていた。 でも姫神の下宿で姫神が噛み傷を治療してくれたことはインデックスには内緒にしとこう。 ○月○日(火) なぜかインデックスだけが天草式の夕食会に招待された。 羨ましくねえからな!すき焼きなんて………… かわりに五和が大量の食材を持参してやって来る。相変わらずの絶品の味に感動する。 夕食後「最近お疲れでしょう」と言われ全身をマッサージしてくれた。 どこか中東の国のマッサージ方法らしいがあんなに全身を使ってマッサージすれば五和 の方が疲れるんじゃねえのか?顔も真っ赤だったし息使いも荒かったし。 でもまあ、いろいろ気持ち良かったのは確かだ。 ○月○日(水): なぜかインデックスが出してもいない懸賞に当選した。 自分の完全記憶能力よりも眼前の中華フルコース招待券を信じるとは…………少しは疑え! インデックスが出払ったのを見計らったように御坂妹&8人の妹達が押しかけて来た。 なぜだか一人最低1時間のノルマを課せられる。 でも上条さんの体力はこれ以上持ちません。許して下さい! どうやら残りは翌日に持ち越しだそうだ。はあ────っ ○月○日(木): またしてもインデックスが懸賞に当選した。 だから消印のない手書きの当選葉書なんかを信じるんじゃない! 残りの妹達だけやって来るはずがなぜかまたもや全員やって来た。 だから上条さんの体力は持ちませんって! ご奉仕しますだの言ってたけど、結局自分たちが愉しんだだけじゃねえのか。全く! ○月○日(金): 今日インデックスは小萌先生の家にお泊まり(お食事付き)だ。 夕方やって来た御坂美琴はなぜか私服姿だった。おーっ、新鮮だ! 早速特性スポーツドリンクの作り方を教えて貰う。 途中少しうたた寝したのがいけなかった。 目が覚ますと御坂が顔を真っ赤にして食って掛かってきた。 で、結局なんだかんだとなだめるのに時間がかかっちまった。 でもまさか御坂に朝飯を作ってもらうことになるとは夢にも思わなかった。 あと新発見が一つ、『寝顔は可愛いんだな、あいつ』
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Date 2010/01/05(Tue) Author toto(SS3-857) 「っ!?」 バードウェイは生まれて初めて、絶望を知った。 光の無い闇。 死を待つだけの無力感。 彼女に去来した感情が心を震わせた。 虚栄でもいい。 『明け色の陽射し』を統べるリーダーとして、年端も行かぬ少女は肩を張らなければならなかった。そうしなければ、周囲に認めてもらえず、自分の居場所が無くなってしまう。 法律も倫理も通用しない世界で生きていく為には、必要な「鎧」だった。 だが、絶対的なチカラの前では、全てが吹き飛ばされてしまう。 金と権力が人を狂わせるように。 一つの過ちが正義を悪に変えるように。 チカラは人の心を丸裸にする。 竜王の腕が迫りくる中、バードウェイは、死に怯えるただの少女だった。 バギンッ!!! だが、幾ら待っても死は訪れない。 「———?」 涙で霞んだ瞳を開けると、彼女の眼前には一筋の光が見える。 『闇』に手を伸ばす一人の少年の姿が、そこにはあった。 その姿は、いつも、彼女が想う小さな勇者だった。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は全てを打ち消す。 竜王の腕が砕け散る。 学園都市全土を覆うほどの竜王の腕は、腕の形に圧縮された雲であり、幻想殺しによってただの水蒸気へと変わり、霧散した。肌寒い突風にドロシーは小さく声を上げる。 「きゃっ!?」 突如として、零度以下の風が吹き荒れた。 冷たい風が彼らを襲う。地上付近で発生した雲は、地熱で温められ、冷たい雨が崩壊した都市を濡らした。 右手を突き上げたまま、空に浮かぶ英雄。 周囲を見渡す。 「…これは、ひどいな」 海は荒れ狂い、大地は揺れ、空を歪んだ。 シンラのベクトル操作で空中に舞い上がっていた上条当麻は、静かに降り立った。 少年は紅い空を見上げた。 螺旋状に霧散した雲。 紅い月が世界を照らし、地上は鮮血のように染められている。 世界を破滅させる大魔術、「神戮」は既に第三章に突入していた。 竜王の腕を形成するために、莫大な水蒸気が凝縮された。気候を大きく左右する雲が意図的に操作されたことによって、地球の環境が変動し、生態系に大きな影響を及ぼすことなる。 上条当麻は知覚する。 学園都市だけでは無い。戦争の余波は世界中に広がってしまった。 被害を最小限に抑えるために、周到な準備を行い、雲川芹亜を中心にして戦略を練った。神上派閥を総動員し、学園都市、ローマ正教、イギリス清教や様々な組織に協力を得て、事を起こしたというのに。 「くそっ…!」 世界を託された重圧が両肩にかかる。神上派閥の総帥として動いてきた上条当麻は、悔しさに唇を噛みしめた。 「……当麻」 恋人の背中に、御坂美琴は声をかける事が出来なかった。どんなに優しい言葉をかけても、人一倍責任感の強い彼には、慰めにならない。どのような厳しい言葉をかけたとしても、それは重みの無い言葉となってしまう。 だが、上条当麻に消極的思考(ネガティブ)は似合わない。 「…待てよ」 幾つもの死線を潜り抜けてきた少年は、逆転の勝機を見出した。 指をコキコキと鳴らし、 「…一か八かだ」 「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」 右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が次元を越える。 ビシリ、と空間に穴が開いた。 瞬間、ドバァッ!と膨大な光が噴出する。 上条当麻を囲むように見ていた魔術師や能力者は目が眩んだ。闇夜に目が慣れ、瞳孔が開いていた事もあり、光の漏洩を直視できる者はいなかった。 少年は、その歪に右手を突き刺した。 インデックスは驚愕する。 「まさかっ…!」 「…ドラゴンは世界と同化したのならば、地球上の全てがドラゴンだ。ならば、いつ何時でも、そこに『在る』ってことだよなぁ!!」 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が「核」を掴む。 光の中から、一人の青年が引き摺り出された。 凹凸の激しいアスファルトの地面に、青年が転がる。 黒で統一された長点上機学園の制服に、砂利が付着した。頭痛のせいか、青年は頭を押さえながら立ち上がった。 ツンツンとした黒髪。 一七八センチの背丈。 御坂美琴とお揃いのピンクマリンゴールドのネックレスを下げ、深紅の瞳が宿った『上条当麻(ドラゴン)』がそこに存在した。 「き、貴様ァ…!」 「そもそも「神戮」なんて起こす必要も無い。普通は神が地上に現れただけで、『カバラの樹(世界の法則)』は捻じ曲げられ、世界は崩壊する。 でも、世界は壊れなかった。つまり、俺の肉体を素体としてドラゴンは世界の矛盾を防ぎ、自分自身を召喚していた。 違うか?———ドラゴン?」 「…!」 右足を軸に回し蹴りが放たれる。 上条当麻は両腕で防いだ。 「つぅ…!」 バッドで殴られたような衝撃が、二の腕を襲う。膝が軋んだ。 (流石は俺の体。柔道、合気道、空手、ボクシング、プロレス、コマンドサンボなどなど…あらゆる格闘技と体術、そして殺し合いの実戦で鍛えてるんだ。やっぱ伊達じゃねえな) 己の肉体を自画自賛しつつ、冷静な思考で敵を分析する。 今、眼前に立ちはだかるのは自分自身。 上条当麻は、不思議な感覚を覚えた。 (…怖えーツラ、ドラゴン完全にぶち切れてるよ…だが、中々イケメンだな、俺!) 一年前の上条当麻の身長は一六八センチで、現在の身長よりも一〇センチ低く、体重も一〇キロほど劣る。故にリーチもパワーもハンデがある。 だが、 「ぐはっ!」 技術は、積み重ねてきた努力は、魂に刻まれている。 バギンッ!と拳がぶつかり合う。背の低い上条当麻は腰を屈め、正拳を鳩尾に叩き込んだ。 『竜王の鱗(ドラゴンアーマー)』が破壊される。 ドラゴンは世界から魂を乖離された反動でダメージを負い、反応も鈍い。 「ごぼっ…!」 次々と繰り出される拳。 「ふ」 地を這いずる様に逃げるドラゴンは、上条当麻に砂利を投げつけた。 ドラゴンの逆鱗に触れる。 「ふざけるなァ!余が、きっ貴様ら人間如きに屈するか!余は『竜王(ドラゴン)』!神殺しの神と畏怖された唯一無二の存在!」 ドラゴンは叫んだ。服は汚れ、顔は泥と血が混ざり合っている。 竜王は、この世で怪物と恐れられた魔術師たちを手玉に取り、『一方通行(アクセラレータ)』をいとも簡単に死地に追い詰めた。『魔神』と呼ばれた禁書目録でも、竜王の前ではただの少女になり下がる。 かつて、魔術と科学の亀裂が顕在化し、『戦争』が勃発した。 戦力としてヨーロッパに派遣された能力者の子供たちは、兵士として、人を殺した。 魔術師を殺した。 神父を殺した。 聖人を殺した。 スパイを殺した。 歯向かう者は女子供であろうと容赦なく殺した。 そして、同時に殺された。 少年少女たちは学園に命令されるがままに能力を振るい、人を殺し、魔術の存在すら知らずに殺された。 生きたまま、精神が殺された者も多かった。 二人の『超能力者(レベル5)』を失い、四〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』も命を落とした。 同じく、送り出された魔術師たちによって、学園都市も戦場と化していた。 学園都市第一位の超能力者は敗北し、守るべき少女は息を引き取る。 怒り、悲しみ、憎しみ、痛み。様々な感情が交錯し、とある少年の感情に蓄積する。幾多の戦いを乗り越え、苦しみを乗り越え、近しい者の死を受け入れ、大魔術師が長い月日をかけて肥やした土壌は、成熟期を迎えた。 魔王を倒すため、人々が一振りの聖剣を鍛え上げるように。 世界の危機が、英雄を生み出すように。 『竜王(ドラゴン)』は現れた。 覚醒した神は、全てを圧倒し、支配し、蹂躙した。 抗う事さえ愚かに思えるほどの絶対的な存在。 其の頭は、万物を理解する。 其の腕は、万物を創造する。 其の体は、万物を拒絶する。 其の足は、万物を超越する。 そのドラゴンが、追い詰められていた。 顔は泥で汚れ、長点上機学園は土色に染まっていた。地べたを這いつくばり、怯えた表情で上条当麻を見つめている。 震える手で、ベレッタW78を上条当麻に向けていた。 「当麻!」 「手出すなァ!美琴ォ!」 大声で御坂美琴を制す。 御坂美琴が使い捨てていた拳銃をドラゴンが拾ってしまった。 完全な失態だった。 彼女は自責の念で心を締め付けられる。 上条当麻は、 「情けねぇ…」 声を張り上げた。 「そんな銃じゃ俺は殺せねぇよ!」 バァン! 銃声が轟く。 彼らを見守っていた人々に緊張が走った。 御坂美琴は激情に駆られ、ドラゴンを射殺してやろうとホルスターから拳銃を引き抜くが、『一方通行(アクセラレータ)』がベクトル操作で彼女を拘束する。怒りで思考が沸騰した。 「何すんだぁ!殺されたいのか!シンラァッ!」 「黙って見てられェのか?テメェは」 「んだとぉっ!」 口から発生する波動を全て『反射』に切り替え、御坂美琴の叫び声を消した。 「当麻が死ぬわけねェだろうがァ」 半狂乱に陥っている御坂を無視し、白髪の少年は親友の決着を見届ける。 銃弾は上条当麻の頬を掠め、空を突き進んでいっただけだった。 「生まれてこのかたいくつもの不幸を味わって、もう慣れっこなんだよ!俺の肉体に宿ってしまった事が、「不幸」だったなぁ!」 上条当麻は拳を振り上げる。 ドラゴンは立ち上がり、拳を握りしめる。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」 「上条当麻ァああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 二人の拳が交差し、 ガツンッ!と。 顔面に突き刺さる。 6 :『並行世界(リアルワールド)』:2010/01/05(火) 01 08 46 ID zvS.PsQ6 魔術師と能力者が見守る中、瓦礫と土で出来たリングでの肉弾戦は一時静止した。 全力の右ストレートを額に受けたまま、微動だにしない。 ドロリと、二人の顔面に血が伝う。 「—————————」 「————————」 『神』と『人間』は言葉を交わす。 そして、 「お前の負けだ。ドラゴン」 『竜王(ドラゴン)』は崩れ落ちる。 『神』は敗北した。 上条当麻の胸に、意識を喪失した青年は倒れ込んだ。 紅い月は光を失う。 「神戮」は解除され、世界の破滅は止まった。 周囲は歓喜に満ちる。 だが、 「な、なに?」 ゴゴゴゴゴ…と鳴る地響きに、シルビアはいち早く気づいた。 地震では無い。 世界は在るべき姿に戻る為、修正が始まったのだ。 いつの間にか発生した光り輝く霧は、急速に広がり、濃度も急激に上がる。彼の勝利をたたえ、上条当麻の元へと駆け寄っていく仲間の姿が光に塗り潰されていった。視界だけでは無く、音も遠ざかっていく。少年は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる右手を見た。 右手の輪郭が徐々に薄れる。 視界が光に包まれていく中、上条当麻はそっと笑みを零した。 第三学区。 日は落ち、学園都市は既に夜になっていた。 セブンズホテルの最上階のスウィートルーム、プリズムルームにある大きなソファーに、雲川芹亜は深く腰かけていた。タオルで汗を拭き取り、テーブルに投げ捨てる。 ようやく、長い一日が終わる。 多くの能力者と、多くの魔術師を動員し、神を滅ぼす『戦争』は幕を閉じた。 先ほど、意思体の交換が終了し、一年前の上条当麻の肉体を『並行世界(リアルワールド)』によって無事に返還したと報告が来た。 『並行世界(リアルワールド)』作戦は成功した。 半年前から動き出していた計画に終止符を打ち、ようやく緊張から解かれた彼女は、大きな深呼吸を繰り返す。 「お疲れさま」 黒スーツを着込んだ金髪グラサンは、彼女にコーヒーを手渡した。雲川はそれを受け取り、口に含む。ミルクと砂糖が多く入っており、甘い味覚が舌を刺激する。 「… 本当に忙しいのはこれからだ。既に根回しは終わっているが、経営機能を失った企業を買収し終えるまで気が抜けない。この戦争の被害を利用しない手は無いからな。神上派閥を拡大させるためには又と無い大チャンスだ。目標値に達するかどうかは蓋を開けてみなければわからんが、戦後にアレイスターがやった買収行為。そのままそっくり真似させてもらうよ」 「ブレインは大変だにゃー」 口の周りに付いたコーヒーの泡を吹き取りながら、 「ま、やりがいはあるけど…貴様に言っておく」 「任務終了だ。「土御門元春」のふりはもう止めろ」 雲川は、眼前に立っている青年に告げる。 彼は柱の陰に隠れ、サングラスを外す。 途端、パリンと何かが割れたような音がした。 金髪が黒髪に変わり、彼の素顔は影に潜めた。 雲川芹亜の場所からでは、彼の顔が分からない。 「…上条様には、本当にお優しいのですね。貴女は」 彼女はその問いに答えなかった。 土御門元春は、既に死んでいる。 『戦争』が勃発する直前、彼は裏の世界で命を落とした。 義理の妹に告げること無く、優しい嘘をつきながら、上条当麻の腕の中で息を引き取った。 一年前の上条当麻には教えてはならない情報だった。故に、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』の「彼」が死人の役割を担ったのだ。 「……土御門の死は、必要な犠牲だった。でなければ、ドラゴンの覚醒は…」 「私は上条様に命を救われました…こんな私にも、生きる理由と帰る居場所を与えてくれた。能力ゆえに、利用されるだけの人生でしたが、人のために尽くしたいと思ったのはこれが初めてですよ」 「…それが意中の人の為だと尚更だよ。私は総帥の悲しむ姿は、もう見たくは無いんだ……」 「貴女こそ、上条様に相応しい方だと、私は思っていますよ」 「…ありがとう」 雲川芹亜は、年相応の笑顔をこぼした。 数日後。 第七学区内で最大規模を誇る病院のとある病室。 茜色に染まる日の入りを一人占めできるという西側の個室であり、関係者の間ではいわくつきの病室だと噂されていた。 その病室とは、事あるごとに戦いに巻き込まれ、ギネス級の入退院を繰り返していた上条当麻の専用室と化してしまった病室であり、彼が入院していなくとも「上条当麻」のネームプレートを看護士が外さなかったほどだ。 彼が入院するたびに医療機材が増え、現在ではICUと遜色ない設備が整っている。それと同等に、六五インチのテレビや最新のゲーム機といった嗜好品も数多く揃っており、一般患者が多い同階の病室では一際異彩を放っていた。 「二三学区に最新鋭の兵器が非公式にあったらしくてね?被害総額は八〇〇兆円ほどだって、聞いたよ?」 「…マジですか?」 カエルのような顔をした医者は、ベッドに横たわるパジャマ姿の上条当麻に声をかけた。 テレビから流れてくる情報は、世界各地で起こった超常現象の報道ばかりで、チャンネルを切り替えても内容はほとんど変化が無い。テーブルに置かれている新聞も同様だ。 公式見解では、『樹形図の生計者(ツリーダイグラム)』の後継機である『大いなる母(マザー)』が超常現象の危険を事前に察知し、アレイスター学園長指揮の元、二三〇万人を避難させたとの事だった。だが、各学区に残る不自然な痕跡から、これは超常現象ではなく、人為的に起こされたものではないか、という話も浮上し、人々の噂が噂を呼び、報道だけではなく、ネット上でも話題を独占していた。 「これ以上、ニュースを見るかい?」 「…結構です」 リモコンを操作して、テレビの電源を切る。 コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。この時間に来訪する人間は一人しかいない。 「あんな可愛い子に心配をかけちゃいけないよ?」 「…すいません」 「それは美琴ちゃんに言うべきだね?」 カエルのような顔をした医者は、ドアを開ける。 彼らの予想通り、手に小箱を持って見舞いにきた御坂美琴がいた。 常盤台中学の冬服の上に、至宝院久蘭と同様の黒のマントを羽織っている。茶髪のロングヘアーに、誕生日プレゼントとして上条当麻からもらったヘアピンで前髪を留めていた。 「いつも当麻がお世話になってます」 「…いきなり何言ってんだ。母親かお前は」 「恋人よ。馬鹿」 二人のやりとりを見て、カエルのような顔をした医者は小さな溜息をつく。 「君たちの事は知ってるけど、仲が良いのもほどほどにね?分かってると思うけど、君たちはこの学園都市を代表する生徒だからね?」 「はい。十分承知しています。先生」 「美琴ちゃんからも当麻君に言っておいてくれないかな?君とは違って、ちょっと物分かりが悪いからね?」 「ちょ!?本人の目の前で、何言っちゃってくれてるんですか先生!」 「それと、彼、明日退院だから」 「シカト!?」 箱をテーブルの上に載せる。銘柄から、美琴が贔屓しているケーキ屋の名前だとすぐに分かった。御坂美琴は花瓶に生けてある花に目を通し、その隣には、一体どれほどの人が見舞いに来たのだと言うくらい、山のように積まれたフルーツの籠がある。 彼の顔は広すぎる。御坂美琴は改めて認識させた。 「額の傷は、そんなに酷いんですか?」 巻かれている包帯を見て、御坂美琴は言った。 平静な声だったが彼女は本当に彼の事が心配なのだろう、と医者は思った。人一倍向う見ずな性格をしている彼が、今まで肉体に後遺症を残さず命を落とさなかったのは、彼女のおかげだ。そう思い、カエルのような顔をした医者はそれが杞憂であることを正直に告げた。 「治療と言うより、検査かな?目立った外傷は殆どなかったからね?」 「…そう、ですか」 御坂美琴は安心した顔で、胸を撫で下ろした。 果物で溢れかえっている籠の中から、御坂美琴はリンゴを取りだし、慣れた手つきで、リンゴの皮を果物ナイフで剥き始める。 「何だぁ?美琴。この世界の英雄、上条当麻様がかすり傷くらいでどうかなるとでも思ってたのかぁ?心配性だな。美琴は」 「…分かってるなら、ちょっとは無傷で帰ってきなさいよ!」 ザクッ!と果物ナイフをベッドに突き立てる。上条当麻の右手の人差し指と中指の間を縫うように刺さった。 「うおっ!?」 「今のは当麻君が悪いね。ちなみに破れたシーツ代は後で君に請求するから」 「マジッすか!?いじめ?これいじめですよね?なんたる不幸!」 うがー!と両手で頭を抱える少年を見て、 「今回の事は、統括理事長から聞いたよ。世界を救ってくれたことに僕からもお礼を言わせてもらう。ありがとう。当麻君」 カエルのような顔をした医者は、深く頭を下げる。 その姿を見た二人は、少々面を食らった。 「こちらこそ…なんか、慣れないんですよね。こういうの」 上条当麻は視線を逸らし、頬をかく。何照れてんのよ、と。美琴は彼の頭を小突いた。 「あと、あしたはこっちの病院にはいないから、見送りは出来ないんだ。会う機会も少なくなるだろうから、先に言っておくよ。お大事にね」 カエル顔の医者は、ドアを閉めた。 君が患者になることは二度とないだろうから…と告げて。 「貴殿にしては、例に見ない愚策であったな」 「———そう言うな。君に比べれば、私の謀略など子供の遊戯程度にしか見えない事は分かっている」 「なに、そう自分を蔑下するでない。長い月日を生きていた余でも、貴殿ほど存在に狂った人間は見た事が無いぞ?」 第七学区。 窓の無いビルの中で、聖人とも悪人とも、男であり女であるような人間は、緑色の手術衣を着て、弱アルカリ性培養液に満たされた巨大ビーカーの中に逆さに浮いている。 推定寿命は一七〇〇年程。 世界最高の科学者である一方で、世界最高最強の魔術師でもある、学園都市総括理事長アレイスター=クロウリーは、視線の先にいる者と会話をしていた。 「AIMといったか?『神の物質(ゴッドマター)』を地上に振りまく濃度を観測する基準は」 「…君の予想通りだよ。神々が存在し、神の肉体を構成する『神の物質(ゴッドマター)』を地上で満たし、『神の世界(ヴァルハラ)』と同等の土壌を築き上げるために、大量の人間に「開発」を行っていた。 『神の物質(ゴッドマター)』の残滓とはいえ、本質は『思考によって変化する物質』。 『自分だけの現実』を強めれば『副産物(のうりょく)』は出現する。故に、現実を直視する者は、『自分だけの現実』が「有り得ないモノ」もしくは「現実で不可能だ」という思考が無意識に働いていてしまい、能力は弱体化する」 「『無能力者(レベル0)』とは、身分不相応な願望を持たない現実主義者(リアリスト)というわけだな。 ゆえに、夢や希望を信じて疑わない子供を使ったのか。 すなわち、高位能力者ほど、稀有なる誇大妄想家ということになるな …だが、余の見てきた大義を成す人間は、大抵がそういう者ばかりだったぞ? 唯の妄想家と、偉人と呼ばれる人間の違う点を挙げるとするならば、如何ようにして願望を実現できるかを理論的に考え、実行しているか否か、という点においてのみだ。 まぁ、科学も穴だらけの空論だ。現象を文字や数字に代用しなければ共通の理解を得られない人間の限界を、余は承知しているつもりだが?」 自身を『余』と名乗る者は、言葉を続けた。 「これからどうするつもりだ?アレイスター」 「——さて、どうするかね?君は、私に何を望む?」 「つまらぬことを聞くな。魔術師。心は貴殿の宝であろう?余の関することでは無い。この酔狂な街をどうしようが、貴殿の勝手ではないか…ただ、余にも守るべきモノはある。それだけだ」 「学園都市は潰さないさ…何時の間にか、この箱庭には随分と愛着が湧いてしまったからね」 「手間のかかる矮小な存在ほど、可愛いものだからな」 ククク…と、其の者は声を小さくして笑う。 アレイスター=クロウリーは告げる。 「どうだ?上条当麻。『神上(レベル7)』となった気分は?」 窓の無いビルの中で、学園都市総括理事長と対等に会話する少年。 身長は一七八センチ。 ツンツンとした黒髪。 長点上機学園の制服。 「———っ…悪い。アレイスター。記憶の混濁が激しくて……危うくドラゴンに呑み込まれそうになってた」 頭を押さえる上条当麻が、そこにはあった。 「パーソナルリアリティを確立しろ。自我を保たないと、人間一人の思念体など、容易く飲み込んでしまうぞ。『竜王の顎(ドラゴンストライク)』から流れる情報は莫大だ。過去、未来、現在すら、区別がつかなくなってしまう」 そう、これは雲川芹亜すら知らない。 『竜王(ドラゴン)』は『上条当麻』と完全に同化した。 『The Real World Project』の最終目的はここにあったのだ。 ドラゴンは、元来から天界に存在する神ではなく、地上に存在する異端の『神』であり、その存在は「地に堕ちた天使」、すなわち『堕天使』のエイワスと酷使している。 そもそも、死の概念が無い「神」を殺すことはできない。 人が同じ過ちを繰り返すように。 神とは人の恐怖の対象であり、いずれそれが形となって、再構築される。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が打ち消したのは『竜王(ドラゴン)』の破壊本能であり、肉体は残留していた。 意思体を失った世界最強の能力は、そのまま上条当麻という器に内包される。 ゆえに、『神上(レベル7)』。 神を殺し、神を越えた存在。 「神になったっていう感覚はイマイチなんだけど、人間じゃ無くなったっていう感じの方が大きいかな。アレイスターを見てるだけで、アレイスターがどんな過去を生きてきたのかっていうことが手に取る様に理解(わか)るんだ。この防壁の構成要素も、製造過程も、粒子の一つ一つが辿った歴史も…未来も」 「私の死も理解(わか)るか?」 上条当麻は頷く。 「…ああ、理解(わか)る」 そっと、アレイスターは瞳を閉じた。 (自分の未来は聞かないでおこうか…)とアレイスターが言ったかどうかも定かではないが、上条当麻は彼の意思を理解した。 次に放たれる言葉すらも理解し、 「『超電磁砲(レールガン)』を選んだ理由もあるのかな?」 鼓膜が震え、上条当麻はそれが発せられた言葉だと認識する。 「…美琴と禁書目録が対立する前に、美琴を選ぶのが最良の選択だった。一歩間違えれば、インデックスが美琴の存在を抹消したり、一〇〇人を越える女たちが、公式に殺し合いを始める未来すら在った……『竜王の顎(ドラゴンストライク)』がそう教えてくれる。 そして、ドラゴンは疲れていた。 人間が繰り返す歴史に、嫌気がさしていたんだ。 人間を滅ぼしてしまいたい気持ちも、理解(わか)ってしまう…だから、ドラゴンは、俺に託したんだ。神としての役割を…」 最期に交わした言葉を上条当麻は思い出す。 『余の代わりに、永遠の時を生きよ……神浄の…討魔』 「…やはり、ドラゴンは自ら殺されたがっていたわけだな…確かに、ドラゴンの余興に付き合うという点では理解したが…あのような作戦でドラゴンを殺せる訳は無い」 上条当麻の脳内では、見た事の無いビジョンが流れ出す。 それは人がまだ言語すら知らない時代から、今現在まで辿ってきた歴史。 人は笑い、悲しみ、憎しみ、愛し、築き上げてきた世界。 上条当麻の瞳に、うっすらと涙が溜まる。 誰の為に流した涙なのか、彼自身は理解しようとしなかった。 「…これからは長い付き合いになりそうだな」 「互いに有益な関係であることを望むよ。出来れば未来永劫にね」 時すら越える『空間移動(テレポート)』の究極能力、『竜王の脚(ドラゴンソニック)』が発動する。 音も無く、影も無く、窓の無いビルから「上条当麻」は消え去った。 再び、場所はとある病室に戻る。 二日前、アレイスターと交わした言葉が何故今、頭をよぎったのだろうと上条当麻は思いながら、 「あれ?」 御坂美琴の胸に手を伸ばす。 もにゅ。 時は夕暮れ。 昼間は彼女が買ってきたショートケーキを食べながら、御坂美琴の常盤台中学での話を聞いていた。混乱に乗じて事件が多発している事や、校舎の半壊で長点上機学園は無期限の休学になっていることなど、話す話題は尽きない。 夜は『並行世界(リアルワールド)』作戦成功を祝い、学園都市最高峰の『エドワード・アレクサンデルホテル』のホールを借りて、立食パーティーが催される予定だ。 上条当麻と御坂美琴は恋人同士である。 名目上、 少年は長点上機学園高等部二年。『絶対能力者(レベル6)』第一位。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。 少女は常盤台中学三年。『超能力者(レベル5)』第一位。『超電磁砲(レールガン)』。 両名とも学園都市を代表する生徒であるが、それを除けば年相応の少年少女であり、格好良くなりたい、可愛くなりたい、オシャレもしたい、異性は気になるお年頃である。 個室に二人きりで、それが恋人同士になれば行動も自ずと限られてくる。 「…あっ、ん…どうしたの?」 「おっぱい大きくなった?」 「え?わかったの?服の上から?」 「ああ。俺、美琴のおっぱい大好きだからな」 「…おっぱいだけ?私は?」 「愛してる」 歯が浮くようなセリフは、ストレートなだけに絶大な効果がある。上条当麻はそれを肌身で感じていた。 彼女は当麻、と彼女は言おうとしたがそれ以上は言えなかった。 美琴の唇は塞がれてしまったからだ。 当麻の舌は美琴の口に入り込み、それを彼女も受け入れた。丹念に舌を絡め、熱いキスを交わす。 唾液に熱が加わり、それに合わせて当麻は胸を強く揉み始めた。 「ちょ…んふ、と…ちゅ、ちゅ…とうまぁ、少し痛い」 「ごめん。久しぶりだから我慢できねえ」 当麻は再び美琴の唇を貪り始め、強引に舌をねじ込ませた。そのまま彼女の体を反転させ、ベッドにゆっくり押し倒した。当麻が美琴に覆いかぶさるような体勢になる。 慣れた手つきでニットの下から手を入れて、シャツのボタンを外していく。その隙間から桃色のブラジャーを掻い潜り、素肌を貪った。 「やっぱり…大きくなってる」 「エッチ…ん、ふぬっ、あ、む、むちゅ…」 美琴の唇から口を離した当麻はフレンチキスを数回した後、頬、顎、首筋にキスをしていった。柔らかくてザラザラとした舌の感触が美琴の脳を刺激する。 「美琴」 当麻の声が下から聞こえた。彼のツンツンとした黒髪が美琴の顔に当たる。 「ん…なに?」 ボタンを外し終えた当麻はさり気無く両手を背中にまわして、美琴を抱きしめていた。本当はブラジャーのホックを外すためだったが、彼女の体温を感じた当麻は無意識的に抱擁していたのだ。 「来週の土曜まで溜めておくつもりだったが、上条さんはもう限界です」 「…だろうと思った」 美琴は当麻の髪を優しく撫でながら彼のことばを待った。 「今日はスゴイですよ?」 「あ…」 「どうしたの?」 上条当麻は周囲を見渡し、 「この部屋、カメラとか付いてないよな?」 御坂美琴は肯定した。 「あるわよ」 「マジで!?」 しかし、彼女は前髪に静電気を立てながら、不敵な笑顔で言った。 「…私がこうなることを予想してなかったと思う?」 「美琴、大っ好きだー!」 「きゃーっ!」 彼女に勢いよく襲いかかった上条当麻は、シャツを脱がせ、ブラジャーのホックをはずした。 彼の欲望は今から満たされようとしている。 「な・に・が・大好きなのかなぁ?とうまぁ?」 世界が止まった。 上条と御坂は即座に凍りついた。 「インデックスさん…人が悪いですよ。私はあと二時間ほど待ってたほうがいいと言ったんですが…ひぃ!」 「何?私に逆らう気?」 「……いえ。何でもありません」 御坂美琴はあわててシーツで上半身を隠し、おそろおそる上条当麻が振り向くと、 ブチギレ気味のインデックスと。 冷や汗をかいているアニェーゼ=サンクティスと。 現場を直視できない神裂火織がそこに佇んでいた。 「…ノックは?」 「したよ。三回も。なのに、とーまとみことちゃんはラブラブちゅっちゅっしてて気付かないんだもん」 うっ…!と黙り込む二人。 「私が気付かないと思った?匂いとかシャワーで…前からバレバレなんだよ?」 銀髪碧眼のシスターのこめかみに青筋が浮き出ている。 対処を間違えれば、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が撃たれかねない、と上条の能力が教えていた。 「ご、ごほん!その、貴方とその彼女が、そ、あ…だ、男女の関係だということは知ってました、が…」 知人の情事を間近で見るのは…その、とても恥ずかしいというか…だろう。 神裂の続く言葉は分かる。 実は神裂火織とのキスが上条当麻のファーストキスだったりする。 思わぬアクシデントだったとはいえ、唇が触れあったのは確かだ。それ以来、どことなくギクシャクしていた。そんなことは死んでも美琴には言えないが、と上条は思った。 突如、 「当麻さぁぁああん!」 と、彼に跳び込むように抱きついた少女がいた。 「ごめんさない!ごめんなさぁあい!」 上条のパジャマにしがみ付き、泣きじゃくっていた。入院しているのか、所々に包帯が巻いてあり、水色のパジャマを着ている。髪はショート。二重まぶたが印象的な女の子。 「…五和」 上条当麻は腹部に柔らかい感触を感じつつも、理性を保つ。 御坂は少々を面くらったが、彼女の心情を察し、手を出さなかった。 五和は顔を上条の胸にうずめたまま、謝り続けた。 そんな彼女の髪を、優しくなでる。 「五和が謝る事は何もない。むしろ謝るのは、俺の方だ。皆にたくさん迷惑をかけちまった」 彼の言葉に、五和が顔を上げる。 瞼には涙の痕がある。一人で泣いていたのだろう、上条は思い、優しく頭を撫でながら、微笑みかけた。 彼女の顔に、徐々に生気が戻る。 そして、目つきが険しくなったと思うと。 「当麻さん…私、やっぱり諦められません」 と、告げた。 「へ?」 何かを決意した目だった。 そのまま上条当麻の顔を両手で掴むと、 「貴方が、好きですっ!」 チュッ。 五和は愛の告白と同時に、情熱的なキスをした。 「ちょっ?!」 恋人の唇が目の前で奪われ、御坂美琴は素っ頓狂な声を上げる。 『あーっ!!!』 と、インデックスやアニェーゼ、後ろに控えていた『新たなる光』のメンバーが声を上げるが、時すでに遅し。五和の大胆な行動に、神裂火織は茫然としていた。向かい側のビルから双眼鏡で覗いていた天草式十字凄教のメンバーが、「うおおおおおおっ!修羅場キタ——(゜∀゜)——!」と喝采を上げていた事には誰も気づかない。 「責任とって下さいね♪」 「何言ってんのよ!五和!というか当麻から離れろぉ!」 はっとした御坂は五和を恋人から引きはがそうとする。 こんな時でも、病院内ということで雷撃を発生しないのは流石と言うべきだろう。 「聞いたよ!とうま!五和とデ、デデ、ディープキスしただけじゃなくて、裸まで見たとか!」 その言葉にビクン!と反応した御坂美琴は、ジロリと、座った目つきで上条当麻を睨みつけた。 うーん…と、甘える声を出しながら、五和は抱きついたままだ。 上条はダラダラと冷や汗を流しはじめる。 「ねぇ…どゆこと?」 「いや、それは俺じゃなくて、ドラゴンの仕業でっ?!美琴!」 グイッ!と襟元を掴み、強い力で引っ張られる。彼女の瞳にはうっすらと涙さえ溜まっている。 少年は慌てた。 「もう許さない!私と別れるか、皆の前で最後までヤっちゃうか!どっちにする!?」 「そんなことしたら、美琴の裸が皆に見られるんだぜ?!そんなことできるか!」 「じゃあ別れるのね?!私のこと、遊びだったんだね?!当麻に私の初めてを全部あげたのに!」 「やっぱり一年前とちっとも変ってないかも!むしろ肉体関係が絡んでるからもっとサイアク!とうま!とうまにはお祈りの時間を与える余地も無いんだよっ!死刑!生きたまま噛み殺す!」 「ああっ!カオス!本当にカオスってる!もうどぅすりゃいいんだよぉぉおおお?!!」 「うわーん!当麻の馬鹿ああああああああああああ!」 ズバン! バチィ! ドガァァッ! とある病室は木端微塵に破壊された。 時刻は一九時を回っていた。 第三学区の『エドワード・アレクサンデルホテル』の三階にあるフロアを仕切って、立食パーティが行われていた。各国から名立たるシェフが集い、古今東西の料理が並べられている。 「これなに?」と物珍しそうに料理を眺めるアンジェレネもいれば、片っ端から腹に詰め込む暴食シスターもいる。総数は一〇〇〇人強と多く、畏まったフォーマルな雰囲気は無く、どちらかというと打ち上げのような賑やかな空気に包まれていた。修道服を着ている者もいれば、学園都市の制服を着ている人もおり、そこに科学と魔術の垣根など無い。力を合わせ、世界を救ったという連帯感が彼らの心を一つにしていた。「これが噂のライスケーキであるのよ?」と生ハムとチーズを包んだ餅を口に入れ、『最大主教(アークビジョップ)』が喉に詰まらせ、あたふたするステイルの姿もあった。 主役である上条当麻は、多くの女性からあからさまなアプローチを受け、その度に受ける電撃を打ち消していた。 学園都市を一望できるラウンジで、会場から一杯のオレンジジュースを飲みながら、 「…で、俺の借金はさらに増えるのでした…と」 「なに独り言を呟いてるの?友達イナイイナイ病が発症しちゃってるわけ?…まさか、お酒飲んじゃった?」 「んな訳ねーだろ。カミジョーさんは未成年ですよ?」 ツンツンのヘアスタイルでは無く、オールバックの髪型にワインレッドのネクタイに黒スーツ姿の上条当麻の隣には、白のドレスを身に纏い、化粧でその美しさに磨きがかかっている御坂美琴が立っていた。茶髪のロングヘアーにウエーブをかけ、胸元にはピンクアクアマリンゴールドのネックレスが輝いている。 「破壊されたあの医療機材、全部で六〇〇〇万円もするんだって…」 「八〇〇兆円に比べれば、大した金額じゃないでしょ?被害総額とか、既に天文学的数字だからね。でもその分、復興資金が潤っているみたいじゃない?」 「…神上派閥の組織がどんどん増えるわけだよな。ビジネスの恐ろしさを改めて身に感じてるわけですよ。経済学もすこしかじってるから」 長点上機学園でのカリキュラムは普通の高校過程と異なるが、彼のカリキュラムは雲川の助言の元、武等の他に、各国の財界人との会合も頻繁にある為、帝王学や上級社会のマナーも授業に組み込まれている。 そして、御坂美琴は常盤台中学の授業に加え、彼に並び立つに相応しい女であろうと様々な分野を学び、二人は多忙な日々を送っていた。 故に、会える機会には激しく求め合う。 口紅が付くのも厭わず、上条当麻は恋人と唇を重ねた。 「来週の土曜…覚悟しろよ?」 「それは私と遊園地に行くこと?それとも夜のこと?」 色々と特殊なカップルだが、蓋を開ければ一七歳の少年と一五歳の少女である。 「どっちもだ。馬鹿…好きだよ。美琴」 「私も。愛してる。当麻」 どちらともなく無言で見つめ合い、無言でキスをした。影が一つに重なる。欲情を満たす口付けでは無く、愛を確かめ合うような甘ったるいキスだった。唇を離し、瞳は離さないまま美琴は、 「ねぇ、当麻」 「なんだ?美琴」 「一年前に帰った当麻も、私のこと、好きになるかな?」 「ははっ…欲張りだな。美琴は」 「いいじゃない…それくらい」 一年前の自分が、どうような未来(せかい)を辿るかは分からない。 『戦争』が起こらない世界も『在』る。 近しい友が生存する世界も『在』る。 『戦争』で敗北する世界も『在』る。 自分が死んでしまう世界も『在』る。 御坂美琴を選ばない世界も『在』る。 小さな選択肢で、幾つもの多様な未来へと別れる「並行世界」。 その中で、この上条当麻は、この世界を選びとった。 後悔は無いと言えば嘘になる。 だが、この道を選んだ責任は取る。 そうやって、彼は新たなる未来(せかい)へ進んでいく。 上条当麻は全ての思いを呑みこんで、返事を待ちわびる恋人に笑顔を送った。 「ああ…何度でも、美琴のことを好きになる」 時間は、ゆっくりと流れていく。 再び、二人は甘い口付けを交わした。 夜空をほのかに彩る満月は、一つになった人影を優しく照らしていた。
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【深夜・公園】 草むらの影から御坂美琴を先頭に五人の人影が出てくる。その内の一人、上条当麻は運悪く白井黒子の盾となった(盾にさせられた?)せいで痛む額に手を当てている。 上条「いててて」 禁書「大丈夫?とうま」 上条「あぁ、お前と姫神は下がってろ」 気遣うインデックスを尻目に姫神秋沙とインデックスの二人を後ろに下がらせ、SOS団に目を向ける。こんな時間に集まって何事か密会をしていた彼ら。いくら上条当麻がお人好しでもこれでは流石に怪しまずにはいられない。彼は御坂達の予想が当たってしまった事に内心溜め息を吐いた。 黒子「皆様こんばんわ。こんな夜分遅くに公園で密会とは随分と仲がよろしいのですわね? よければ、わたくし達も仲間に入れていただけませんか?」 美琴「なんだか随分と怪しい会話だったわね?」 白井黒子と御坂美琴が前に立ち、SOS団の面々に問う。彼らは彼らで長門有希、朝倉凉子、喜緑恵美里の三人がキョン達を守るかのように前に出る。 黒子「あらあら、婦女子の後ろに隠れるだなんて。随分と情けない殿方達ですわね?」 白井黒子が挑発するように問うが 喜緑「その言葉、そのままお返ししましょうか?」 ニッコリ笑って返された。 美琴「アンタもこっち来る!」 上条「わかったわかった。お前ら危ないと思ったらすぐ逃げろよ」 彼の言葉に素直に頷くインデックスと姫神秋沙。本当ならすぐにでもここから避難して欲しい所だが一触即発のこの状態では無闇に退避させるわけにはいかない。彼らが何かしらの能力で攻撃でもしてくれば守るのが困難になる。ならば最初から近くにいてもらったほうが守り手側としてはやりやすかった。 それにこちらには「第三位」と「レベル4」がいる。相手が第一位級でも無い限り、そうそう危険な事態にはならないはずだと上条当麻は考える。 さて、一方のSOS団の面々はというと…… キョン「いや、これはその……そう! SOS団の打合せだったんだ!」 美琴「団長もいないのに?」 キョン「あーそのなんだ、ハルヒはちょっとヘソ曲げててな……」 なんとか誤魔化せないかとキョンが頑張っていた。しかし…… 黒子「では『閉鎖空間』と『古泉さんの能力』、『彼女の能力』、『我々にとっては面白くない事態』、『神人』とはなんでしょうか?」 キョン「それは……」 白井黒子の突っ込んだ質問に口を濁らす。どうやらこれ以上彼が何を言おうと誤魔化すことは不可能らしい。 朝倉「最初から全部聞かれてたみたいね?」 上条「まぁ、な」 それまで事の推移を見ていた無口な少女、長門有希が一歩前にでる。その意を酌んだのか朝倉凉子、喜緑恵美里も彼女に並ぶ。 長門「そこまで聞かれていたのなら、もうごまかせない」 キョン「おい長門! どうする気だ?」 長門「問題無い。彼らの記憶を情報操作する」 その言葉に御坂美琴と白井黒子が体を緊張させる。不意に攻撃されても対処できるように。 辺りにピンと張り詰めた空気が漂う。 上条「おいおい「記憶を操作する」なんて穏やかじゃねぇな」 喜緑「私達の会話を他人に漏らされるワケにはいきませんから」 美琴「それは『ハルヒの能力』に関係してるのかしら?」 喜緑「ええ」 アッサリと答えられ、拍子抜けする御坂美琴。 美琴「……随分ハッキリと肯定するのね」 喜緑「この場の記憶は全て抹消させてもらいますから」 朝倉「キョン君達はそこにいてね? すぐに終わるから」 その挑発するかのような言葉に御坂美琴は内心腹を立てる。 美琴「へぇ? あたし達も随分と舐められたもんね。昼間の「アレ」を見てそんなコトが言えるなんて」 彼女は既に臨戦体制だ。周囲には昼間彼女がそうしたように、火花がバチバチと爆ぜている。 朝倉「自分達だけが「特別」だなんて思わない方がいいわよ?」 朝倉(長門さん、この公園の周辺だけ「情報の遮断」は可能?) 彼女達に目を向けながら小声で朝倉凉子は長門有希に話しかける。このまま戦闘を開始しては周囲の人間が集まってくるかもしれない。口ではああ言ったが昼間見た彼女達の「能力」鑑みれば、そうそう簡単にコトは進まないことくらいすぐ判る。そうなれば「交換留学」どころでは無い。 長門(現在作業中。しかし作業に支障がきたされている。彼女達を取り押さえながらの作業は不可能と思われる) 喜緑(彼女達の力は未知数。戦いながらの作業は諦めたほうがよさそうですね) 朝倉(とはいえ彼女の「超電磁砲」はやっかいよ。騒ぎになる前にカタをつけたいトコロだけど……簡単にはいかなそうね?) 長門(同意する。まずは彼女達の主力を封じることを提案する) 喜緑(そうですね。それが一番よさそうです。とりあえず最小限の情報操作の許可が通ったので最初に彼女を抑えましょう) 朝倉・長門((了解)) 美琴「「特別」ね。その言い方だとアンタ達も何かしら「特別」を持ってるように聞こえるけど?」 朝倉凉子に応えながら彼女達も小声で作戦を練る。 美琴(黒子、全力で行くわよ) 黒子(ですがお姉様!?) 美琴(わかってる、加減くらいするわよ。でもあいつらの能力が何かわかんない以上こっちも本気でやらないと足元すくわれるわよ……アンタは援護に回って) 上条(おい! 二人で大丈夫なのかよ!?) 美琴(相手が何なのかわかんない以上アンタは後手に回るしかないでしょ! 拳銃とか出されたらどうすんのよ?) 上条(う……わかった) 黒子(了解しました。ではわたくしとお姉様が前衛、上条さんは状況を見て援護を) 美琴(可愛いからって手ぇ抜くんじゃないわよ?) 上条(わーってるよ。んなこと) 美琴(……どうだか。二人ともOKね? 行くわよッ!) 朝倉「フフフ、さぁ? どうかしらね?」 クスクスと笑いながら朝倉凉子達も構える。いつでも対処できるように。 美琴「あっそう。そんじゃとっとと大人しくなさいっ!」 先手必勝。そう言って彼女から電撃の槍が放たれる。しかし、朝倉凉子もそれは予測していたのかヒラリと見事な後方宙返りで避ける。その動きは常人がするように小さなモノではない、軽く二、三メートルはあろうかの大ジャンプだった。驚く御坂美琴と白井黒子。だがそれも一瞬。 美琴「黒子ッ!」 御坂美琴が叫び、意を汲んだ白井黒子がその隙を狙って瞬間移動で朝倉凉子の背後に現われる。普通の人間なら空中で身動きなどとれる筈が無い。しかし 朝倉「ざんねーん。それも予測済み♪」 黒子「ッ!?」 ジャンプした朝倉凉子を背後からそのまま組み伏せようと手を伸ばした白井黒子だったが、彼女は「もう一度空中で後方宙返りをして」白井の背後をとる。ありえない動きに一瞬固まる白井黒子。このままでは逆に組み伏せられてしまう。だが 美琴「させるかぁ!」 御坂美琴が朝倉凉子目掛けてもう一度電撃の槍を飛ばす。だがそれもさらなる空中ジャンプで避けられてしまう。 朝倉「長門さん今よ!」 それと同時に朝倉凉子が叫び、それまで機を窺っていた長門有希と喜緑恵美里が恐ろしい速さで突っ込んでくる。こちらも常人ではありえないスピードだ。 美琴「なめ、るなぁッッッ!」 喜緑「ッ!?」 長門「ッ!」 間を詰める二人に対して放射状に電撃を放つ。捕えた! と思いきや喜緑恵美里はとっさにしゃがんで回避。長門有希はクルリと前方宙返りで避ける。その距離五メートル。十メートル以上の開きがあった筈なのに彼女達は一瞬で五メートル以上の距離を詰めてきたのだ。 だが驚いている暇は無い。一瞬の隙をついて続けざまに電撃を打ちつけようとする。が、二人は止まらない。長門有希はまるで空中に壁があるかのように中空を蹴り、そのまま彼女に向かって突っ込んでくる。喜緑恵美里は低い姿勢のまま地を這うように間合いを詰める。 空中から襲いかかる長門有希の拳を真横にステップして紙一重でなんとか避ける。 美琴「くっ!」 だが避けた先には喜緑恵美里。真正面から彼女が突っ込んでくる。回避は不可能。 喜緑「あなたは少々やっかいなので先に眠っていてくださいね」 上条「させるか、よっ!」 それまで驚いているばかりだった彼だが仲間の危機を見るやいなや、とっさに御坂美琴をかばうように前に出る。突っ込んできた喜緑恵美里の勢いそのままにカウンターで殴りかかるが…… 上条「ぶはっ!?」 それも寸前で避けられ腹にひざ蹴りを入れられる。そのまま崩れ落ちる上条当麻。 美琴「ッ!こん、のッ!!」 御坂美琴は喜緑恵美里に向かって至近距離から電撃をもう一度放つが既に喜緑恵美里と長門有希は距離をとっていた。 美琴「大丈夫!?」 正面の三人から目を話さずに上条当麻の様子を窺う。 上条「あぁ何とか、な……しかし、なんつー動きするんだよコイツら」 黒子「おそらく彼女達の能力は「肉体強化」のレベル4クラスなのでしょうが……それではあの「空中ジャンプ」の説明がつきませんわ。いったいどういうことですの?」 先程の攻防から離脱した白井黒子も彼らの元に戻ってきていた。若干混乱気味である。 後輩のその言葉を聞いて御坂美琴は考える。肉体強化能力を持っているのなら、あのありえない運動量の説明はつく。だが彼女が言うように肉体強化能力では「空中ジャンプ」の説明がつかない。 美琴「考えられるのはあいつらの中にもう一人能力者がいて、影からサポートしているってくらいだけど……」 そう言って三人の後から遠巻きに今の攻防を見ていた残りの面々を見据えるが キョン「古泉! しっかりしろ! 古泉ぃぃぃいいい!」 古泉「フフ、僕としたことが流れ弾ならぬ流れ電撃に当たるとは……どうか墓前には「紅のスーパーボール ここに眠る」と添えて下さい」 朝比奈「ほえ~」 キョン「よし。大丈夫みたいだな」 古泉「んっふ」 流れ電撃を避けるのに必死でこちらの攻防を気にしている暇は無いように見える。 黒子「……どうにも緊張感が削がれますわね。あの方達を見る限りとてもこちらに割って入ってる様には見えませんわ」 美琴「だとすると……「多重能力者」なのかもね」 黒子「まさか!?ありえませんわ!」 多重能力者。言ってしまえば一人の能力者が複数の能力を操ることだ。元来能力は一人につき一つなのがこの都市での常識だ。詳しい説明は省くがコレは人間の脳の性質上どうあっても克服できないコトだと言われている。だが 美琴「黒子忘れたの?木山先生のこと」 彼女の言葉で白井黒子は思い出す。以前、御坂美琴が木山春生を止めるために彼女と戦った時の話を。 その話によれば木山春生はまるで「多重能力者」のように風を、電気を操り、更には能力で爆弾まで作り出したそうだ。だがそれは「多重能力」ではなく「幻想御手」の副産物を応用した「多才能力」だった。 黒子「……「多才能力者」ですか。確かにそんな事件もありましたがアレは」 美琴「そう「幻想御手」はもう無いし、ここじゃ能力者達が意識不明なんてニュースも流れてない。でもね黒子、あいつらは「外」の人間なのよ」 黒子「まさか他でも「幻想御手」が使われているとでも!?」 美琴「かもしれない」 黒子「……だとすれば、ますますあの方達を放って置くわけにはいきませんわね」 白井黒子は思い出す。「幻想御手」の事件を。あの時は親友まで巻き込まれ、危うく学園都市が崩壊するところだったのだ。あんな事件をもう一度起こさせるわけにはいかない。決意を新たに気合を入れなおす。 上条「なぁ「マルチスキル」だとか「レベルアッパー」ってなんのことだ?」 それまで二人の会話に口を挟めなかった上条当麻が疑問を口にする。彼は「幻想御手事件」には関っていないのだからこの疑問も当然である。 美琴「その話は後よ。とりあえずアイツらが複数の能力を使ってくるってことだけ頭に置いといて。「多才能力者」だとしたらまだ何か隠してるかもしれないわ」 上条「お、おお。わかった」 その言葉に上条当麻もまた油断無く三人に目を向ける。 朝倉「二人とも大丈夫?」 長門「問題無い」 喜緑「ええ、大丈夫よ……でも恐ろしい子達ね。仕方ありません、更なる情報操作の申請を許可します」 朝倉「了解。これで全力で行けるわね。降参するなら今のうちよ?」 美琴「ハッ冗談! アンタ達こそ降参したら? 次は手加減なし、よ」 朝倉「強情ねぇ。あんまりツンだと彼に嫌われちゃうわよ?」 上条「へ?」 美琴「だれがツンよッ! 誰がッ!! 大体誰がコイツなんかを!」 顔を真っ赤にして反論する御坂美琴。その姿を見て朝倉凉子はクスクス笑いながら何事か呟き、右手にサバイバルナイフを左手には光の槍のような物を出現させる。 上条「おいおい、なんだよアレ」 黒子「肉体強化に念動、瞬間移動能力もありますわね。あれは……インデックスさんが言ってた魔法…?」 それまで離れた場所から推移を見ていたインデックスだが白井黒子の声を聞いて思わず答える。 禁書「違うと思う。彼女達からは魔力より短髪達と同じような感じがするし。なによりあんな詠唱聞いたことがない。……三人とも気をつけて」 黒子「魔法でもないとすると、ますます「多才能力者」のセンが強くなってきましたわね」 上条「どっちにしろ『異能』には変わりないんだろ?だったら今度は俺が前にでる」 美琴「あいつらの動き、人間技じゃないわよ? 大丈夫なの?」 上条「……ま、なんとかなるさ」 美琴「…気をつけてね」 上条「ああ」 そう言って今度は上条当麻が一歩前に出る。二人は彼の援護に回るよう下がる。 朝倉「あら? 今度は上条君がお相手してくれるの?」 上条「そんな「物騒なモン」持ったヤツ女の子に相手させるワケにはいかないだろ?」 朝倉「あたし達も「女の子」なんだけどなぁ? それに心配しなくても大丈夫。ナイフも「コレ」も気絶させるくらいの威力しかないから」 そう言って朝倉凉子は左手の『光の槍』を軽く振る 上条「……正直手を上げたくない。大人しく話してくれないか? なんか困ってる事があるなら相談に乗るぞ」 朝倉「うん、それ無理♪」 上条「そーかよ。だったら仕方が無い(こっちも「また」記憶を消されるなんて嫌だしな)」 朝倉「(また?)でも、上条君って『無』能力者じゃなかったっけ? いいの?」 上条「さぁ、な」 朝倉「ふーん。男の子の意地ってヤツかしら?……それじゃあ行くわよ!」 瞬間、朝倉凉子が『槍』を掲げて上条当麻に、喜緑恵美里は御坂美琴に突っ込んでくる。確かに恐ろしいスピードだが幾多の修羅場を潜り抜けてきた彼にとって反応出来ない速度では無かった。正面からのナイフの一撃をなんとか避ける。体勢を崩す朝倉凉子。チャンスとばかりに拳を殴りつけようとするが 朝倉「さっすが男の子。やるわね! でも……」 そう言って朝倉凉子は上条の背後に目だけ向ける。圧迫感を感じた上条当麻が顔だけ後に向けると 長門「……」 いつの間にか長門有希が彼の後ろに回りこんでいた。彼女は手に持った槍を彼目掛けてなぎ払うように水平に振り回す。とっさにしゃがんでやり過ごす上条当麻。だが今度は目の前の朝倉凉子が光の槍を叩きつけるように襲い掛かる。こちらはしゃがんだ体勢から転がってなんとか回避する。それを追って長門有希が追撃しようとするが 黒子「させませんわっ!」 長門「!?」 白井黒子がいつの間にか手にしていた彼女の武器、複数の鉛筆状の金属棒を瞬間移動させる。 上条「っておい! そんなの喰らったら死ぬだろ!」 黒子「体になんて当てませんわよッ!」 宣言どおり長門の両足の甲と地面を縫い付けるかのように金属矢を交差させ、地面に向けて瞬間移動させる。ガクンと長門有希の足が止まり、体勢を崩す 美琴「よくやった黒子っ!」 そこへ喜緑恵美里と相対していた御坂美琴が電撃を走らせるが、驚くことに長門有希は地面ごと張り付いた足を引き抜き、コレを回避する。さっきまで彼女がいた地面を見るとアスファルトが抉れ、金属棒が散乱している。 上条「どんだけ無茶苦茶な脚力してんだよ! お前ら!!」 朝倉「余所見は危ないわよ?」 思わず余所見をした上条当麻の隙をついて朝倉凉子が『光の槍』を彼目掛けて横薙ぎに振るう。今度はさっきのように避けられない。手で受け止めることは出来るが、この『槍』は情報操作で作った特別製だ。対象が触れただけで気絶するように出来ている。勝利を確信した朝倉凉子だが…… 朝倉「えっ!?」 上条当麻は朝倉凉子の『光の槍』目掛けて右手で『光の槍』ごと殴る。『光の槍』は右手に触れた瞬間消え去り、そのままの勢いで朝倉の顔面を殴りつけた。 朝倉「きゃう!」 カウンター気味に入り、そのまま朝倉凉子は派手に吹っ飛んだ。 ありえない。そんな顔で長門有希と喜緑恵美里が動きを止める。 黒子「いただきですわ!」 長門「ッ!?」 そこへ白井黒子が瞬間移動で突っ込んできて長門有希を組み伏せる。今度は簡単に引き抜かれないように手と足の全体を縫い付け、どこから持ってきたのかバス停まで長門の上に乗せる。 長門「……不覚」 さしもの長門有希もコレでは動きようが無かった。 美琴「どう? これでもまだやるってのなら今度は「コイツ」をお見舞いすることになるわよ?」 勝利を確信した御坂美琴が「コイン」を見せつける。 喜緑「くっ!」 喜緑恵美里が逡巡する。そこへ キョン「いや、降参だ」 さっきまでコトの推移を見守っていたキョンが降伏宣言をした。 朝倉「ちょっと!まだやれるわよ!?」 聞き捨てならないと言った風で朝倉凉子が即座に反発する。その姿は土埃まみれだが、どこにもダメージを受けた形跡は無い。 上条(全力殴ったのに効いてないのかよ!?) 彼女のタフさに内心驚愕する上条当麻。だがそんなことはおくびにも出さないよう必死で努める。そんな葛藤をしているとキョンが朝倉凉子を鎮めるように話を続けた。 キョン「長門がこのありさまだ。2対3じゃ勝ち目は無いだろ? 大体世話になった人間に危害を加える趣味なんて俺には無いしそれに……」 朝倉「それになによ」 そう言って彼は自分の背後に指を向ける。そこには騒ぎを聞きつけたのか何人かの野次馬達が集まっている。必死に古泉一樹と朝比奈みくるが 古泉「心配しないで下さい。これは映画の撮影ですので」 朝比奈「そ、そうでしゅ! け、喧嘩なんかじゃありませ~ん」 野次馬達を抑えていた。 朝倉「……えーと、これってマズイ?」 キョン「かなりな」 朝倉「ア、アハハハ!……わかったわよ! こーさん! 降参すればいいんでしょ!」 【深夜・公園】 黒子「それでは、あなた方の正体と涼宮ハルヒの『能力』について…聞かせていただけますわね?」 あの後なんとか野次馬達を追い返し、場所を移動した俺たちは現在攻める様な目で黒子ちゃん達に質問されている。しかし……そんなトコまで当たりを付けられていたのか。こりゃ、遅かれ早かれハルヒの力はばれてたのかもな。 しかしなんでこんなに早くバレたんだ…… 黒子「簡単ですわ。この『学園都市』は機密の塊。そんなところに警備も監視も付いていない『交換留学生』なんて怪しすぎます。それに…」 姫神「キョン君は隠し事。下手だよね」 キョン「……そんな事…ない、よな?」 古泉「……」 長門「……」 朝倉「ノーコメントで」 みくる「あ、あはは」 みんな何故目を逸らすか 古泉(どうしますか?さすがに全てを語るわけには……) 黒子「あら、今語らないのなら本部に連行して「サイコメトリー」に心を読んでいただきますわよ?」 だそうだ、古泉 古泉「仕方ありませんね……」 黒子「どうされます? わたくしとしては「連行」したほうが手っ取り早いのですけども?」 キョン「わかった、わかった。全部隠さず話すから「連行」は勘弁してくれ」 黒子「内容、によりますわね」 キョン「やれやれ」 上条「宇宙人~!?」 美琴「未来人~!?」 黒子「『願望実現能力』~!?」 まぁ普通こういう反応だよな。ただ、インデックスちゃんだけは 禁書「ねぇねぇ!宇宙から来たってホントなの!?」 長門「ホント」フンス 禁書「すごーい!」 簡単に信じてくれたようだ しかしお前ら『超能力者』には驚かないんだな…って当たり前か 古泉「……んっふ」 美琴「しかし未来人ねぇ……(ねぇねぇ、やっぱりその胸って未来人だからなの?)」 みくる「ふぇッ!? そ、それはどうでしょう?」 上条「お前、何聞いてんだよ……」 美琴「う、うっさいわね!別にいいじゃないのよッ!」 黒子「お姉さまはそのままでも魅力的でs……コホン。まぁ、信じましょう。嘘をついてるようにも見えませんし……何より「アレ」があるのがその証拠でしょう」 そう言って『閉鎖空間』に目を向ける黒子ちゃん 姫神「でも。涼宮さんの『能力』…その『願望実現能力』だけどなんで。それが二人の力を増幅させたの?」 古泉「それは多分涼宮さんが「もっと凄い能力が見たい」と強く願った結果かと」 美琴「なるほどね。確かにハルヒすごい喜びようだったしねぇ。そうとう期待してたんでしょうね」 上条「…しっかし『増幅能力』じゃなくて、『願望実現能力』ねぇ…なぁインデックス。そんな魔術に心当たりあるか?」 キョン「は?魔術?」 姫神「上条君。そんなことキョン君達の前で言っていいの?」 上条「あ。………あー、ま、まぁいいだろ。キョン達はここの「機密」や、インデックスを狙ってきたワケじゃないみたい、だし?」 禁書「とうま、なんかごまかしてない?」 上条「そ、そんな事は無いヨ?」 禁書「ほー」 上条「……な、なんだよ?」 禁書「べっつにぃー?」 キョン「上条、魔術って正気か?」 上条「お前がソレを言うかね……まぁ気持ちはわかるけどな」 禁書「キョン。魔術はちゃんと「ある」よ? ただ一般の世界には広まってないだけ」 キョン「まじかよ……」 古泉「驚きですね」 長門「初耳。朝倉涼子、喜緑江美里は?」 喜緑「……情報統合思念体にもそんな情報は出回っていません」 朝倉「おかしいわね。そんな当たり前にあるものなら私達が知らないハズないのに……」 みくる「魔法ですかぁ。素敵ですねぇ」 禁書「みくる、なんか違うの想像してない?」 みくる「ふぇ?」 キョン「しかし上条。インデックスちゃんを狙うってのはどういうことだ?」 上条「あ~まぁコッチの事情も説明しとくか」 キョン「そうしてくれると助かる」 キョン「……天使とか、吸血鬼とかホントかよ」 禁書「うん、本当だよ。世界はキョン達が知っているよりずっと広くて深いんだよ?」 こんな女の子の頭の中に10万3000冊もの「魔道書」の情報が詰まってるってのも信じ難いぞ…… みくる「天使様にはあってみたいですねぇ」 上条「やめといた方がいいですよ……」 美琴「アンタそんなことひとっことも言わなかったじゃないの!」 上条「そだっけ?」 美琴「そうよっ!」 黒子「上条さんの話も、にわかには信じられませんわね……」 禁書「でもホントのコトだよ?」 古泉「インデックスさんの言動を見ていると、信じるしかありませんね」 上条「それで? どうなんだインデックス」 禁書「……そこに「ある」モノを一定の法則にしたがって「変化」させるコトは魔術師なら可能だけど……はるひみたいに『強く思うだけで実現する力』なんて初めて聞いたかも」 禁書「それに『無』から『有』を作り出す魔術なんてどんな魔術師にも不可能なんだよ。私の頭の中の「魔道書」にだってそんな魔術は無い。でも……」 上条「でも?」 禁書「『神様』なら可能」 キョン「おいおい、待ってくれ。なら何か? ハルヒは古泉の言う通り「神様」だとでも言うのか?」 禁書「それは無い……と思うよ。神が人の身に宿ることはあるけど、そういう人は、その、オーラとか気配とか、その人そのものが神格化しちゃうモノだし…何より「イギリス聖教」が黙ってないとおもう」 禁書「はるひにそういう雰囲気が出たこと今までにあった?」 キョン「『神様』の雰囲気、なんてわからんが俺が知る限りアイツは普通の女子高生だ」 頭に「破天荒」がつくがな 禁書「より高位の神でも神格化もせずに『世界を変えるくらいの大きな力』を顕現させることは不可能だと思うから、はるひが神様ってことは無いと思うよ」 ハルヒが神様じゃなくて残念だったな古泉。ふぅ、少しほっとした………なんで「ほっ」としたんだ俺は? 禁書「今、安心したでしょ?キョン」 ニヤニヤしながらインデックスちゃんが話しかけてくる キョン「そりゃ、あんなとんでもないのが『神様』なんて勘弁してほしいからな」 禁書「……キョンは自分の気持ちにも「鈍感」なんだね」 キョン「え? そりゃどういう……」 朝倉「やっぱりインデックスちゃんもそう思う?」 美琴「そんなの見てればわかるわよ。コッチにも似たようなのがいるし……」 朝倉「やっぱりそうよねぇ」 姫神「二人とも。どうして「こう」なんだろうね」 上条「な、なんだよお前ら」 四人「………はぁ~」 キョン・上条「「だから何だってんだ?」」 あ、ハモった 何が言いたいんだこいつらは 古泉「……結局、涼宮さんの力は謎のまま、ということですね」 キョン「当面の問題は…「アレ」だな」 黒子「ですわねぇ…とは言っても「消し方」が無いのではどうしようもありません。わたくし達も単独で入れる、というのなら話は別でしょうが…」 古泉「それは無理かと思います。『閉鎖空間』に入れるのは、多分「僕達」の能力でしょうから」 黒子「種類が違う、ということですわね」 古泉「そうです。一応僕が一緒にいれば入れるとは思いますが……」 キョン「なぁ、上条の「右手」で消せないのか?」 古泉「それも無理でしょう。彼の能力で「根本から断つ」には涼宮さんに触れ続けていなければ、ならないかと…」 朝倉「さすがにそれは不自然、ね」 黒子「ホント、上条さんは肝心な時に役に立ちませんわね…」 上条「えーえーそうですとも。どーせ、上条さんは役に立ちませんよ」 キョン「あらゆる『異能』を消せる、なんて便利だと思うんだがなぁ」 上条「どこがだよ……上条さんは幸運だって消しちまう能力より、白井さんみたいな使える能力の方がよかったですよ」 黒子「無いものねだりしても仕方がありませんわ。わたくしだったら上条さんの能力が欲しいくらいですのに」 上条「こんなもんどうするんだよ」 黒子「当然!お姉様に触り放題、抱きつき放題ですわっ!」 美琴「ほーアンタまた、そんなコト考えてたんだ?」 黒子「お、お姉様」 つつつ、と美琴ちゃんの腕に抱きつく黒子ちゃん 黒子「その、これは場をなごます冗談であって、決してわたくしの本音と言うわけでは……」 美琴「……そう言いつつ、どこ触ってんのかしら?」 俺は見た。黒子ちゃん思いっきり胸もんでたな 美琴「アンタは一回、体に教え込まないといけないのかしらね?」 黒子「いやですわお姉様。わたくしの愛は永遠不滅ですわよ?」 美琴「アンタの愛は色欲に偏りすぎなのよっ!!」 二人の追いかけっこが始まる 黒子「ホラホラ、お姉様。捕まえてごらんなさ~い」 美琴「待ちなさい!黒子っ!」 …まぁ、あの二人はほっといて キョン「で?どうするよ」 上条「消し方が無いんじゃ涼宮の機嫌をとるしか無いんじゃないか?機嫌悪いと「アレ」が出るんだろ?」 古泉「現状ではそうするしかありませんね…」 キョン「しかしどうしたもんかね」 禁書「そんなの簡単なんだよ。今回のことはキョンが悪いんだから、キョンが謝ればいいんだよ?」 上条「え、でも涼宮が拗ねてるのって、朝倉が原因じゃ…」 そうそう。それにもう朝倉と長門から説明はしたはずだし。今更俺が謝ったところで機嫌が直るとも思えん コレ以上どうしろと? 禁書「その考えがそもそもの間違いなんだけど……二人には説明してもきっとわかんないと思うんだよ」 長門「同意する」 朝倉「同感ね」 喜緑「同意見です」 姫神「私もそう思う」 ……お前らさっきから何なんだ。その一体感は みくる「あ、あははは」 禁書「とにかく!「キョン」の口から説明することが重要なんだよ!!」 キョン「わかったわかった。俺の口から説明すればいいんだな?」 姫神「あと。ちゃんと謝ること」 キョン「いや、でも何て言って謝ればいいのか……」 朝倉「そのくらい自分で考えないとダメよ?」 ……わかったよ ふぅ、やれやれだ
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No.SP-020 ミサカ(Misaka) 「あなたが今日まで接してきたミサカはシリアルナンバー10032、つまりこのミサカです。」 情報 作品名 とある魔術の禁書目録 定価 3,000円(税込) 受注開始 2010年10月08日(金)04 00 受注締切 2010年12月10日(金) 発送開始 2011年05月19日 商品全高 約135mm 付属品 表情:通常顔、開口顔 手首:×11(握り手×2、開き手×2、持ち手×2、銃もち手×2、銃持ち手(角度付き)・右、支え手・左、指差し手・右) 武器:メタルイーターMX、F2000マシンガン 共通付属品(スタンド、スタンド用アーム、収納袋、di stage用カバースキン) その他:電撃エフェクト、前髪(NVゴーグル下ろし) 写真 キャラクター概要 学園都市最強の能力者「一方通行(アクセラレータ)」をレベル6へと成長させるために為に、御坂美琴の体細胞から生み出された2万体のクローン「妹達(シスターズ)」。 クローンである為に外見はオリジナルである御坂美琴に酷似しているが、その能力までは引き継がれずオリジナルに見劣りする為、他のクローン共々欠陥電気(レディオノイズ)と呼ばれている。 商品解説 電撃屋ホビー館限定アイテム第2弾。 1月発売の美琴の一部パーツ変更品で、スカートの中は設定どおり縞パンに変更されている。 劇中の設定にあわせ2万体の限定生産となっている(予約受付は既に終了)。 台座及び台座アームが通常の透明な物と違い黒い特別仕様となっている。 台座には0000一から二0000までのシリアルナンバーが印刷されたシールが貼られている(ランダム・重複なし)。 劇中登場個体に関してはhttp //www12.atwiki.jp/index-index/pages/116.htmlを参照 本商品購入をめぐるトラブル・問題はミサカ騒動まとめを参照。 購入特典として台座に印字された検体番号(シリアルナンバー)を対象に抽選で3名に『とある魔術の禁書目録』DVD-BOX[1]&[2]セットがプレゼントされる企画がある。 当選番号発表は2011年06月10日に行われ、当選番号は一00三二号、一0七七七号、一九0九0号と全て本編登場個体となっていたが、 同年06月15日に抽選ではなかったことが電撃屋公式HPで発表され、謝罪と共に新たに抽選でに0四六三四号、一一八九六号、一五七七七号が追加当選番号として発表され、 合計6名に賞品が送られることとなった。 良い点 悪い点 不具合情報 関連商品 上条当麻 白井黒子 御坂美琴 インデックス コメント なんかページが更新されてると思ったら…そうですか何の連絡もなしに上旬→中旬に変更ですか… -- 名無しさん (2011-05-02 01 14 33) 当選発表は6月上旬です、とミサカは暗に訂正しろという意思を示しつつコメントに投稿します。 -- misaka10032 (2011-05-21 12 45 30) いや…そんなのはコメ残すより自分で修正してしまった方が早いだろうに… -- 名無しさん (2011-05-21 14 35 41) 商品はあくまで「ミサカ(妹達)」であり御坂妹と呼ばれる10032号一個体のことではないのでキャラクター概要からその記述を削除 -- 名無しさん (2011-05-22 12 31 02) 10032当った人挙手 -- 名無しさん (2011-06-05 15 22 53) DVD-BOXの当選番号…もう笑うしかないな -- 名無しさん (2011-06-10 21 11 20) 景品表示法違反じゃね?ってメール送ったら即行で再抽選しやがったよw -- 名無しさん (2011-06-15 17 28 18) ☆★☆発注時、発送間際の告知、ダブルチャンスと電撃屋のgdgdっぷりがいかんなく発揮されたなw☆★☆ -- 名無しさん (2011-06-15 18 24 47) 超電磁砲2期の影響もあってか、Amazonだとプレ値で売られてるな -- 名無しさん (2013-07-12 10 15 10) 中古屋で迎えたミサカは生きてた、よかった。 -- 名無しさん (2016-03-28 01 06 31) 名前 コメント
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キャラ替えしよう 「待てぇぇ、逃げんなゴラァァァ!!!」「そんなビリビリしてる人なんかに待つ人なんていません!!てか俺が何をしたっていうんだァァァ!!!」「女の子の前で『ぺったんこ』なんて言ってれば怒るに決まってんでしょうが!!」「餅つきのことを話そうと思って言ったのにぃぃ!!もう、不幸だあぁぁぁ!!!」上条当麻と御坂美琴はいつもの通り追いかけっこをしていた。師走の学園都市だということを気にせず、二人の男女は全速力で駆け抜けていった。既に一時間ほど走り回った所で上条は公園に着き、ベンチに腰掛けた。「はあはあ、ったく、やっと撒いたか。いやー疲れた疲れた」上条は壊れかけの自販機に軽く拳を叩き込む。すると、バネがゆるんでいるせいでジュースが出てきた。黒豆サイダー。この自販機にしてはまともな商品だった。「ビリビリキックなんかよりこうするだけで出てくるんだから、あいつも覚えればいいのに」美琴のチェイサーキックに倣って自販機の側面を叩いてみたら、同じように上手く行き警報も鳴らなかった。夏には二千円を飲み込まれたわけだし、このくらいの融通利いてくれなければ割に合わない。だから今では無料ジュース提供機として上条に無料でジュースを恵んでいるのだ。「にしても御坂の奴、どうして俺にばっかりあんなに怒ってんだろう? 今日だって年あけたら知り合いみんな誘って餅つきパーティーしようって言おうと思ったのに… あいつも女の子なんだから素直でお淑やかにしていれば十分可愛いんだけどなー」上条はそう言いながらジュースを飲み干し、空き缶を近くのゴミ箱に捨てた。そして特売の時間を確認すると公園から出ていった。「ふふふ、聞いてしまったぞ上条当麻」草陰から突然現れたメイド服の少女はICレコーダーのスイッチを切り、急いで常盤台の女子寮へと向かった。そのときの目は兄譲りの企みを考えているときの目だった。その夜上条はバスタブの中で眠りこけていた。夏よりずっと白い居候にベッドを占拠され続けたため、バスタブで寝ることに十分馴れた。よってこの日も夢の世界に落ちるのはそう遅くはなかった『こんにちは、上条当麻』『うおっ!!誰だお前!!てかなんですかその堕天使エロメイドは!!?』『私は堕天使エロメイドでもなければ神裂火織でもありません。ただの夢の使いです』『あれ、本名言ってない?それはそうと夢の使いって?』『はい。夢の使いとは魔術の一種であなたの願望とともに現れる精霊です』『俺のガンボウ?なんか願ったっけ?』『あなたは御坂美琴がツンツンしていることがあまり好きではありませんね?むしろもっと素直になって自分と接してほしいと思ってますね?』『まあ、確かにあいつとは友達として喋ってきたけど、友達ならもっと素直になって欲しいよな』『…彼女の気持ちを察して欲しいところですが、とにかくそんな彼女を素直にしてあなたともっと気楽に話し合えるようにしてみせましょう』『本当か堕天使エロメイド!?あいつの性格変えるなんてできるのか?』『だから堕天使エロメイドではありません。話を戻しますがあなたの同意さえあれば性格を変えることができます』『そうか、ならそうしてくれ。そろそろ電撃が当たりそうで怖いんだ。素直になればそうじゃなくなるんだろ?』『はい。では始めます。洗濯洗濯、センタッキー!!御坂美琴の心を洗い給え~~!!』『おお、なんか呪文っぽくないけど効果ありそう!!ありがとな!!』『呪文はかけましたがあなたにもこの呪文の効果を永久のものとするためにしなければならないことがあります。 それは彼女の想いに正直に応えなければなりません。でないと彼女を失意のどん底に堕としてしまうでしょう』『え!?そんなこと聞いてないぞ!!どうすればいいんだ堕天使エロメイド!!!』『だからちげえっつてんだろ!!このド素人が!!』「はっ、夢か……」時刻は午前八時半上条当麻はバスタブの中で起きあがった。冬休みに入ったので学校の授業はないがインデックスにご飯を作るには遅い時間だ。急いで服を整えリビングへ向かったが、白い居候はいなかった。「あれ?この書き置きはインデックスのか?『とうまへ 朝ごはんが来ないから出ていくよ!! 今日はこもえの所で泊まっていくかも!! 少しは反省してほしいんだよ!! ps,れいぞーこの中のものは全部食べたからちゃんと詰めておくんだよ!!』 ……なんて横暴な書き置きなんだ」上条はイギリスの白い悪魔を呪いながら外に出て食事することにした。ジュースだけでは腹は満たないので、近くのファミレスに行くことにした。行く途中こけること5回、車に跳ねられそうになること3回、ストリートファイターに会うこと2回と禄な目に遭わなかったが、なんとかファミレスの近くに着いた。だが、入り口に入ろうとすると後ろから声をかけられた。「お、おはよう!!当麻!」思わず後ろを振り向くと、そこには御坂美琴が立っていた。『当麻』などと呼ぶ人物はインデックス以外にいないはずだ。しかし彼女は今小萌先生の家にいるはずだ。ということは…「み、御坂さん!?今なんとおっしゃいました?」「だ、だから、おはようって言ったんだよ、当麻!」確かに聞こえた。今、御坂美琴の口から『当麻』という声が聞こえたのだ。しかしこれには訳があった。昨日の夕方、美琴の部屋に土御門舞夏がきたのだ。白井黒子はまだ風紀委員から戻っていなかった。「みさかーみさかー、ちょっといいかー?」「土御門、いい加減呼び捨てで名前呼ぶのやめなさい。メイドだったらせめて御坂様でしょ」「まあまあ、そんなことよりこれを聞いて欲しいんだぞー」「ICレコーダー?何か録音でもしたの?」「ふふふ、みさかにとって重要人物の願望だぞー」舞夏は再生ボタンを押して美琴に聞かせた。内容は美琴が追いかけ回した後の当麻の公園での独り言であった。美琴は耳をスピーカーにくっつけ聞いていた。五分ほどで終わり、舞夏はICレコーダーをしまおうとしたが美琴に取られ当麻の声を一瞬でコピーした。「みさか…それを夜のオカズにでもするのか?」「へ!?おおおおお、オカズって何よ?だだだ、大体これはあのバカに聞かせて馬鹿にするためであって――」「ちょっとまったー!!みさか、お前は今の上条当麻の声を聞いていたのか?」「え、あいつは確か、私に素直にお淑やかにしてれば可愛いって言ってたんだよね?」「そうだみさか。だから私が上条当麻に好かれるためにお前に指南しようと思ったのだよ」「な、何をすんのよ一体?」舞夏の突然の提案にびっくりしたが、聞く気マンマンだった。「みさかにとって素直でお淑やかとはズバリ、メイドのように相手に気遣いして相手の言うことを真摯に受け入れることなのだー!!」「ええー!!あいつに対してメイドのようにって……」美琴は盛夏祭のときのメイド服を着て上条に奉仕する姿を思い浮かべた。「無理無理無理無理!!ああああいつのメイドだなんて……」「違うぞみさか、いいか?これから言うことを心がけて行動すればゼッタイに上条の心も動くはずだ!まずはだな――」このあと黒子の帰ってくる一時間ほど美琴は舞夏からメイド特別レッスンを受けた。そして消灯の後も頭の中でシュミレーションを繰り返し、現在の状況となったのだ。そんなことがあったことなど知る由もない上条は美琴の変化に戸惑った。だが、おなかの虫がグゥ~と鳴ると、自分の状況を思い出した。「あー、御坂さん?実は上条さんはまだ朝食前でして、お腹が減っているのですよ。だからお話があるならファミレスの中で話しませんか?」「え!!じゃあおごってあげるから一緒に食べよう?」「ああ、ありがとう御坂」というわけで上条と美琴は二人でファミレスに入り、席に着いた。上条は朝食セットを頼み、美琴はドリンクだけを頼んだ。メニューを片づけられて食事が来るまで二人は黙ってしまった。上条は美琴の様子をじっと見た。いつもと変わらない制服姿であったが何故か体をモジモジとさせていた。顔を赤らめているみたいだしいつもと様子が違うのは明らかだった。「なあ御坂?」「どど、どうしたの、当麻?」「今日どうしたんだ?いつも『アンタ』とかしか言わないのに急に『当麻』って呼んで?」「え……やっぱり嫌だったかな?素直になってみて当麻のこと『当麻』って呼びたくなったからそうしたんだけど…」「……いや、別にいいけどよ。いつもツンツンにしてくるからちょっと驚いたんだよ」「そう…私ね、いつも当麻に逃げられちゃうから接し方変えてみたんだ。そうすれば当麻とお喋りできるかなって思ってさ」「……そうか」上条は未だに困惑していたが、何か引っかかっていた。(素直になる……ツンツンしている……どこかで聞いたような…!! そうだ!今朝みた夢のことだ!!確か堕天使エロメイドが出てきて御坂美琴を素直にするって言ってたな!!)上条は夢の内容を思い出した。そして堕天使エロメイド(夢の使い)が最後に言ったことを思い出した。(最後に確か、呪文はかけましたが俺にもこの呪文の効果を永久のものとするためにしなければならないことがあります。 それは彼女の想いに正直に応えなければなりません。でないと彼女を失意のどん底に堕としてしまうでしょう、 とか言ってたよな?てことはこれは魔術による呪文じゃないのか!?)上条は(実際は違うのだが)そう解釈した。そしてその魔術を解くための方法を考え始めた。(俺のイマジンブレイカーを使えば魔術を打ち消せる。問題はどこに触れれば打ち消せるかだ)上条は美琴の顔をジロジロと覗き始めた。「えっ!ちょ、ちょっと、どうしたの?」「いいからじっとしてろ!」上条は美琴の魔術を解くために探しているつもりだが、美琴にとっては顔をジロジロ見られ恥ずかしかった。すると上条は美琴の頬がいつもより赤いことに気がついた。上条は美琴の隣に移り、顔ごと美琴に近づけた。(頬全体を触れば呪文は解けるかな?)(顔が近い近い近い~~~!!ま、まさかキスでもする気なの!?)二人とも考えていることは大きく外れているのだが、気づくことはなかった。美琴は今にも触れそうな上条の唇を見て決心した。(よ、よし!舞夏にも言われたけど、自分の気持ちに正直になってみよう!当麻は驚くかもしれないけど……)美琴は目をつぶり上条に特攻した。ちゅ(へっ!?!?い、今俺は、な何をしている!?)唇同士を重ねてキスをしてます。ただ上条にはいきなりのことで頭が付いてこなかった。約一分間キスを続けてる二人を店内の人々はチラチラと観察していたが、そこに店員の一人が料理を持ってやってきた。「お客様?料理をお持ちしましたがお後の方がよろしかったでしょうか?」その言葉に美琴は我に返り周りを見渡した。そしてみるみるうちに顔全体が真っ赤になるとポンッと音がした。「わわっわわわわわ私は、その、だから、えっと、ふ、ふにゃあああああぁぁぁぁ!!!!!」美琴は上条をどかして急いで外へ出て行ってしまった。「み、御坂!!どこ行くんだ!!あっ、すいません!戻して来ますので置いといてください!!」「は、はい!!あ、あの、がんばってくださいね!」店員の応援はよくわかんなかったが上条は美琴の後を追った。美琴はいつもの公園にいた。そしてベンチを見つけると座り込んで顔を覆った。「ぐすん……せっかく素直になってみたのに何やっているんだろ私…… …当麻の気も知らないであんなことしちゃ、当麻も嫌だったよね……謝りに行かなくちゃ…」だが美琴は覆った顔を上げる勇気もなかった。当麻に拒絶されてしまうのではないか。そう思うと足がすくんで動けなくなってしまうのだった。上条は途中で美琴を見失ったが、勘を頼りに公園に着いた。そしてベンチで泣いている美琴を見つけ考えた。(美琴の様子が変だったのはおかしいが、あのキスは美琴からしてきたんだよな。てことはアイツは俺のこと……)そして当麻は堕天使エロメイドが言っていたことを思い出した。彼女の想いに応えなければ、彼女は失意のどん底に行ってしまうことを。彼女の周りの世界を守ると約束した当麻はゼッタイにそんなことがあってはダメだと決めた。だから上条は勇気を持って美琴に近づいて行った。「御坂、いや美琴?」上条は美琴に声をかけた。美琴はビクッと震えた。顔も上げられなかった。嫌われるかもしれない、そう思うと覆っている手もどかせなかった。「そのままでいいから聞いて欲しい。言いたいことがあるんだ」当麻は美琴の隣に座ると話し始めた。「お前のさっきまでの行動、俺は最初なんかに操られているんじゃないかって思ったんだ。だから俺の幻想殺しをあてて正気に戻そうと思ったんだ」美琴はまだ顔を覆っている手をどかせなかった。だが当麻は話を続けた。「でもキスしてわかったんだ、いつものお前だって、いや本当の御坂美琴だって。 お前の素直になった気持ちが伝わってきたんだ。だからお前が本当に俺が好きだっていうのがわかったんだ」美琴は覆っていた手を外し当麻を見た。いつになく真剣な眼差しで美琴を見つめていた。「だから俺も美琴の気持ちに応えなきゃいけないよな……お前とはいつもケンカ友達のように接してきたけど今日で終わりだ。 美琴、こんな俺でよければ付き合ってくれないか?お前の素直な笑顔をもっと見たいんだ」当麻は告白した。美琴が望んでいたシチュエーションではなかったが、美琴の心は歓喜の嵐で舞い上がった。そして嬉し涙を流しながら、うん、と頷くと素直な気持ちで当麻に抱きついた。「うわーん、当麻当麻当麻!!!その言葉待ってたよぉー。私も好き!当麻のことだーい好き!!」「今まで気づかなくてごめんな。お前が素直になって初めてわかったんだ」「私も自分に正直になれなかったからごめんね!!ホントは好きだったのにツンツン当たっちゃって!」「心配すんな。そんなことで嫌いになるほど上条さんは冷たくありませんよ」公園のベンチで素直になった二人は約五分間抱き合ったままでいた。そして今度は当麻から、「なあ、キスしてもいいか?」「うん、いいよ」ちゅ美琴からの許可を得て当麻は右手で美琴の頭を掴んでそのまま自分の方に寄せた。先ほどとは違ったキス。同じように見えるかもしれないが二人の感じ方は全く違った。お互いの唇の形を確かめあうように、お互いの味を調べあうように、二人はたっぷりとベンチの上で愛し合った。「さて、じゃあファミレスに戻って朝食としますか?」「うん!さっきはごめんね。ご飯も食べてないのに飛び出したりしたから……」「いいって!お前を追いかけないで食べてたらのどが通らないって」「ふふふ、ありがとね当麻!」美琴は当麻に抱き寄せるように歩いた。美琴の慎ましい胸が時折当麻の腕に当たったが以前よりも気にならなくなった。二人仲良くファミレスに戻ると店員さん一同揃って拍手をした。当麻も美琴も照れくさかったが悪い気はしなかった。当麻が出ていくときにエールを送った店員が暖め直した料理とともに、大きめのグラスに入ったジュースと二つに分岐したストローを差し出した。「朝の一時をごゆっくりと……うふふ」店員は満足しながら別のテーブルへと向かった。他にストローが見当たらないので当麻と美琴は一緒に飲むことにした。「こういうのって相手の顔とか見ながらやるもんだけど、俺が向こうに座ろうか?」「いい。当麻にくっついてのむの」当麻の右腕にしがみつくように抱きしめ、頭を当麻の肩に預けた。相当箍が外れたようで、すっかりツンデレキャラからデレデレキャラに生まれ変わった。なんかもう可愛くて抱きしめたい、当麻は素でそんなことを思った。そこで、そうだ、と当麻は閃いた。「美琴、これ食べ終わったら家に来ないか?昨日話そうと思ってた餅つきパーティーのこと二人で計画しよう」「えっ!?そ、そうね!パーティーのこと考えるんだし当麻の家で話し合わないとね!」要は『お持ち帰り』というわけだが美琴は全然OKだった。「よし、じゃあ二人で最高のパーティーを考えなくちゃな!」「うん!!私、今日はずっーと付き合ってあげる!二人でがんばろ、当麻!!」当麻は朝食を食べ終え、美琴と一緒にファミレスを出た。そしてこのいちゃいちゃカップルは当麻の部屋へと向かった。餅つきパーティーと二人のこれからのことを話し合うために。その後、年が明けて三日目、イギリスから天草式特性の臼と杵を持って神裂や天草式のメンバー、ステイルや清教のシスター達が来て、さらに上条の高校のクラスメイトや常盤台のお嬢様方、初春、佐天、固法、打ち止めを連れた一方通行とグループの皆さん、妹達を代表して10032号と19090号、番外個体を招待して大餅つき大会が開かれた。そこで甘酒で酔っぱらった美琴が計画してたときに当麻と二人でしたことをカミングアウトしてしまい、さらに土御門舞夏がファミレスで起こったことから告白するところまでを納めたDVDが上映され、当麻が招待客からド派手な制裁を喰らったのはまた別の話。
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(番外) 翌日スーパーマーケットに立ち入った上条は牛乳コーナーで牛乳パックを睨み付ける御坂美琴を見かけた。 「よっ、御坂。奇遇だな?牛乳でも買う気なのか?」 「私は……別に。あっ、アンタこそ何よ。こんな所に」 振り向いた御坂美琴は両手で胸を隠すように腕を組みながら上条に問い返した。 「ん?どうしたんだ。御坂?」 「きょ、今日はあの女(ひと)達は一緒じゃないの?」 「当たり前だ!いつも一緒な訳あるか。 それより昨日はなんで急に泣いて帰ったりしたんだ。 吹寄が顔を出したとたん御坂が泣き出したもんだから、吹寄のヤツも心配してたぞ」 「なっ、何でもない!っていうか、あの巨乳女は吹寄っていうの?」 「こら、女の子が巨乳なんて言うもんじゃありません。 お前、少し変だぞ……………………あっ! ひょっとしてお前、胸にコンプレックスがあるのか?」 「なっ、何バカなこと言ってんの。アンタは!」 「そうか、それで牛乳パックと睨めっこしていたのか。うんうん」 「ちょっと、人の話を聞かないでなに一人で納得してんのよ!」 「でもな御坂。牛乳を飲むと胸が大きくなるっていうのは実は大嘘なんだぞ」 「え”っ…………そうなの?」 「実は牛乳より豆乳の方が良いんだぞ。なんでも大豆イソフラボンが効くそうだ」 「じゃあ、私バカみたいじゃない……って、なんで男のアンタがそんな情報を知ってんの? はっ!ひょっとしてあの巨乳女から教えてもらったの? そうなんでしょ!ほら。観念してさっさと白状なさい!」 「バカ野郎!胸元握って頭を揺するんじゃない。 全く、そんな訳あるはずないだろ。 俺のダチからそういう話を聞いただけだ。 この前そいつがネットに『豊乳には牛乳』ってデマを書き込みやがったんだよ。 それを見た俺にそいつがだな、 『カミやん。俺がこのデマをばらまくのには崇高な目的があるんぜよ。 いいか、全ての女性は神様からロリという美を授かって生まれてくるんだよ。 ロリこそ人類にとって至高の美なんだ。 だから、女性が胸を大きくしようなんて行為はいわば神への冒涜なんぜよ。 俺の使命は巨乳という災厄から全ての女性の美(ロリ)を守ることぜよ』 なんてことをぬかしやがったんだよ」 「なっ、なんてバカなの?そいつ。 誰なのそいつは?教えなさい!後でキッチリ焼いてやるんだから!」 「まっ、待て!御坂。殺人は犯罪だぞ!だから落ち着け!まずは深呼吸だ!」 「スーッ、ハァーッ、スーッ、ハァーッ…………ふーっ、 しっかし、アンタの友達ってロクなヤツがいないわね」 「俺もそう思う。 しかし今時こんなデマに引っ掛かる女なんていないぞってヤツには言ったのに…… まさかお前が引っ掛かったなんてなーっ」 「…………バカにして。 …………………… どうせ私はAカップよ!ええ、そうよ。貧乳で悪かったわね!」 「何言ってんだ。お前!そんなことは関係ないだろ?」 「え?」 「お前はまだ成長期なんだし、そもそも胸のサイズなんて女の魅力には関係ないぞ! お前は今でも十分魅力的な女の子だぞ!」 「えっ?えぇぇーー?」 「世界中の奴らが違うと言っても、お前は魅力的だって俺が大声で言ってやっても良い」 「ほっ、本気で言ってんの?」 「俺がお前に嘘付いてどうするんだよ」 「ホントに?」 「ああ、本当だ」 「嬉しい…………、とう 「だから、きっとお前にも良い男(ヤツ)が現れるさ」 」 御坂美琴の最後の一言は上条当麻の言葉にかき消されてしまった。 「はぁ?アンタ今なんて……」 「きっとお前にも良い男(ヤツ)が現れるって言ったんだ。だから安心しろ」 「アンタってヤツは…………」 「ん?どうした御坂?」 「アンタってヤツは…………、アンタってヤツはあぁぁーーーーーー!」 その夜、常盤台中学学生寮208号室にて (今日は散々だった。アイツは無神経なこと言うし…………でも、 アイツ……私が魅力的だって言ったわよね。それに嘘じゃないとも…… …………と言うことは、私にも十分チャンスがあるって事なのかしら? そうよね。 アイツが私のこと魅力的だって言って、私をその気にさせたんだから……、 その言葉の責任をアイツに取らせりゃ良いのよね。ふふっ、うふふふふっ……) 「おっ、お姉様。一体どうなさったんですの? お姉様が山賊のような薄ら笑いを浮かべるなんて…… 大丈夫ですの?黒子の言葉はお姉様に届いておりますの?お姉様ーーっ!」
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第三学区 日は落ち、学園都市は既に夜になっていた。 セブンズホテルの最上階のスウィートルーム、プリズムルームにある大きなソファーに、雲川芹亜は深く腰かけていた。タオルで汗を拭き取り、テーブルに投げ捨てる。 ようやく、長い一日が終わる。 多くの能力者と、多くの魔術師を動員し、神を滅ぼす『戦争』は幕を閉じた。 先ほど、意思体の交換が終了し、一年前の上条当麻の肉体を『並行世界(リアルワールド)』によって無事に返還したと報告が来た。 『並行世界(リアルワールド)』作戦は成功した。 半年前から動き出していた計画に終止符を打ち、ようやく緊張から解かれた彼女は、大きな深呼吸を繰り返す。 「お疲れさま」 黒スーツを着込んだ金髪グラサンは、彼女にコーヒーを手渡した。雲川はそれを受け取り、口に含む。ミルクと砂糖が多く入っており、甘い味覚が舌を刺激する。 「…本当に忙しいのはこれからだ。既に根回しは終わっているが、経営機能を失った企業を買収し終えるまで気が抜けない。この戦争の被害を利用しない手は無いからな。 神上派閥を拡大させるためには又と無い大チャンスだ。目標値に達するかどうかは蓋を開けてみなければわからんが、戦後にアレイスターがやった買収行為。そのままそっくり真似させてもらうよ」 「ブレインは大変だにゃー」 口の周りに付いたコーヒーの泡を吹き取りながら、 「ま、やりがいはあるけど…貴様に言っておく」 「任務終了だ。「土御門元春」のふりはもう止めろ」 雲川は、眼前に立っている青年に告げる。 彼は柱の陰に隠れ、サングラスを外す。 途端、パリンと何かが割れたような音がした。 金髪が黒髪に変わり、彼の素顔は影に潜めた。 雲川芹亜の場所からでは、彼の顔が分からない。 「…上条様には、本当にお優しいのですね。貴女は」 彼女はその問いに答えなかった。 土御門元春は、既に死んでいる。 『戦争』が勃発する直前、彼は裏の世界で命を落とした。 義理の妹に告げること無く、優しい嘘をつきながら、上条当麻の腕の中で息を引き取った。 一年前の上条当麻には教えてはならない情報だった。故に、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』の「彼」が死人の役割を担ったのだ。 「……土御門の死は、必要な犠牲だった。でなければ、ドラゴンの覚醒は…」 「私は上条様に命を救われました…こんな私にも、生きる理由と帰る居場所を与えてくれた。能力ゆえに、利用されるだけの人生でしたが、人のために尽くしたいと思ったのはこれが初めてですよ」 「…それが意中の人の為だと尚更だよ。私は総帥の悲しむ姿は、もう見たくは無いんだ……」 「貴女こそ、上条様に相応しい方だと、私は思っていますよ」 「…ありがとう」 雲川芹亜の笑顔は、恋する乙女だった。 数日後。 第七学区内で最大規模を誇る病院のとある病室。 茜色に染まる日の入りを一人占めできるという西側の個室であり、関係者の間ではいわくつきの病室だと噂されていた。 その病室とは、事あるごとに戦いに巻き込まれ、ギネス級の入退院を繰り返していた上条当麻の専用室と化してしまった病室であり、彼が入院していなくとも「上条当麻」のネームプレートを看護士が外さなかったほどだ。 彼が入院するたびに医療機材が増え、現在ではICUと遜色ない設備が整っている。それと同等に、六五インチのテレビや最新のゲーム機といった嗜好品も数多く揃っており、一般患者が多い同階の病室では一際異彩を放っていた。 「二三学区に最新鋭の兵器が非公式にあったらしくてね?被害総額は八〇〇兆円ほどだって、聞いたよ?」 「…マジですか?」 カエルのような顔をした医者は、ベッドに横たわるパジャマ姿の上条当麻に声をかけた。 テレビから流れてくる情報は、世界各地で起こった超常現象の報道ばかりで、チャンネルを切り替えても内容はほとんど変化が無い。テーブルに置かれている新聞も同様だ。 公式見解では、『樹形図の生計者(ツリーダイグラム)』の後継機である『大いなる母(マザー)』が超常現象の危険を事前に察知し、アレイスター学園長指揮の元、二三〇万人を避難させたとの事だった。だが、各学区に残る不自然な痕跡から、これは超常現象ではなく、人為的に起こされたものではないか、という話も浮上し、人々の噂が噂を呼び、報道だけではなく、ネット上でも話題を独占していた。 「これ以上、ニュースを見るかい?」 「…結構です」 リモコンを操作して、テレビの電源を切る。 コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。この時間に来訪する人間は一人しかいない。 「あんな可愛い子に心配をかけちゃいけないよ?」 「…すいません」 「それは美琴ちゃんに言うべきだね?」 カエルのような顔をした医者は、ドアを開ける。 彼らの予想通り、手に小箱を持って見舞いにきた御坂美琴がいた。 常盤台中学の冬服の上に、至宝院久蘭と同様の黒のマントを羽織っている。茶髪のロングヘアーに、誕生日プレゼントとして上条当麻からもらったヘアピンで前髪を留めていた。 「いつも当麻がお世話になってます」 「…いきなり何言ってんだ。母親かお前は」 「恋人よ。馬鹿」 二人のやりとりを見て、カエルのような顔をした医者は小さな溜息をつく。 「君たちの事は知ってるけど、仲が良いのもほどほどにね?分かってると思うけど、君たちはこの学園都市を代表する生徒だからね?」 「はい。十分承知しています。先生」 「美琴ちゃんからも当麻君に言っておいてくれないかな?君とは違って、ちょっと物分かりが悪いからね?」 「ちょ!?本人の目の前で、何言っちゃってくれてるんですか先生!」 「それと、彼、明日退院だから」 「シカト!?」 箱をテーブルの上に載せる。銘柄から、美琴が贔屓しているケーキ屋の名前だとすぐに分かった。御坂美琴は花瓶に生けてある花に目を通し、その隣には、一体どれほどの人が見舞いに来たのだと言うくらい、山のように積まれたフルーツの籠がある。 彼の顔は広すぎる。 御坂美琴は改めて認識した。 「額の傷は、そんなに酷いんですか?」 巻かれている包帯を見て、御坂美琴は言った。 平静な声だったが彼女は本当に彼の事が心配なのだろう、と医者は思った。人一倍向う見ずな性格をしている彼が、今まで肉体に後遺症を残さず命を落とさなかったのは、彼女のおかげだ。 そう思い、カエルのような顔をした医者はそれが杞憂であることを正直に告げた。 「治療と言うより、検査かな?目立った外傷は殆どなかったからね?」 「…そう、ですか」 御坂美琴は安心した顔で、胸を撫で下ろした。 果物で溢れかえっている籠の中から、御坂美琴はリンゴを取りだし、慣れた手つきで、リンゴの皮を果物ナイフで剥き始める。 「何だぁ?美琴。この世界の英雄、上条当麻様がかすり傷くらいでどうかなるとでも思ってたのかぁ?心配性だな。美琴は」 「…分かってるなら、ちょっとは無傷で帰ってきなさいよ!」 ザクッ!と果物ナイフをベッドに突き立てる。上条当麻の右手の人差し指と中指の間を縫うように刺さった。 「うおっ!?」 「今のは当麻君が悪いね。ちなみに破れたシーツ代は後で君に請求するから」 「マジッすか!?いじめ?これいじめですよね?なんたる不幸!」 うがー!と両手で頭を抱える少年を見て、 「今回の事は、統括理事長から聞いたよ。世界を救ってくれたことに僕からもお礼を言わせてもらう。 ありがとう。当麻君」 カエルのような顔をした医者は、深く頭を下げる。 その姿を見た二人は、少々面を食らった。 「こちらこそ…なんか、慣れないんですよね。こういうの」 上条当麻は視線を逸らし、頬をかく。何照れてんのよ、と。美琴は彼の頭を小突いた。 「あと、あしたはこっちの病院にはいないから、見送りは出来ないんだ。会う機会も少なくなるだろうから、先に言っておくよ。お大事にね」 カエル顔の医者は、ドアを閉めた。 君が患者になることは二度とないだろうから…と告げて。 「貴殿にしては、例に見ない愚策であったな」 「―――そう言うな。君に比べれば、私の謀略など子供の遊戯程度にしか見えない事は分かっている」 「なに、そう自分を蔑下するでない。長い月日を生きていた余でも、貴殿ほど存在に狂った人間は見た事が無いぞ?」 第七学区。 窓の無いビルの中で、聖人とも悪人とも、男であり女であるような人間は、緑色の手術衣を着て、弱アルカリ性培養液に満たされた巨大ビーカーの中に逆さに浮いている。 推定寿命は一七〇〇年程。 世界最高の科学者である一方で、世界最高最強の魔術師でもある、学園都市総括理事長アレイスター=クロウリーは、視線の先にいる者と会話をしていた。 「AIMといったか?『神の物質(ゴッドマター)』を地上に振りまく濃度の基準は」 「…君の予想通りだよ。 神々が存在し、神の肉体を構成する『神の物質(ゴッドマター)』を地上で満たし、『神の世界(ヴァルハラ)』と同等の土壌を築き上げるために、大量の人間に「開発」を行っていた。 『神の物質(ゴッドマター)』の残滓とはいえ、本質は『思考によって変化する物質』。 『自分だけの現実』を強めれば『副産物(のうりょく)』は出現する。故に、現実を直視する者は、『自分だけの現実』が「有り得ないモノ」もしくは「現実で不可能だ」という思考が無意識に働いていてしまい、能力は弱体化する」 「『無能力者(レベル0)』とは、身分不相応な願望を持たない現実主義者(リアリスト)というわけだな。 ゆえに、夢や希望を信じて疑わない子供を使ったのか。 すなわち、高位能力者ほど、稀有なる誇大妄想家ということになる。 …だが、余の見てきた大義を成す人間は、大抵がそういう者ばかりだったぞ? 唯の妄想家と、偉人と呼ばれる人間の違う点を挙げるとするならば、如何ようにして願望を実現できるかを理論的に考え、実行しているか否か、という点においてのみだ。 まぁ、科学も穴だらけの空論だ。現象を文字や数字に代用しなければ共通の理解を得られない人間の限界を、余は承知しているつもりだが?」 自身を『余』と名乗る者は、言葉を続けた。 「これからどうするつもりだ?アレイスター」 「――さて、どうするかね?君は、私に何を望む?」 「つまらぬことを聞くな。魔術師。心は貴殿の宝であろう?余の関することでは無い。この酔狂な街をどうしようが、貴殿の勝手ではないか…ただ、余にも守るべきモノはある。それだけだ」 「学園都市は潰さないさ…何時の間にか、この箱庭には随分と愛着が湧いてしまったからね」 「手間のかかる矮小な存在ほど、可愛いものだからな」 ククク…と、其の者は声を小さくして笑う。 アレイスター=クロウリーは告げる。 「どうだ?上条当麻。『神上(レベル7)』となった気分は?」 窓の無いビルの中で、学園都市総括理事長と対等に会話する少年。 身長は一七八センチ。 ツンツンとした黒髪。 長点上機学園の制服。 「―――っ…悪い。アレイスター。記憶の混濁が激しくて……危うくドラゴンに呑み込まれそうになってた」 頭を押さえる上条当麻が、そこにはあった。 「パーソナルリアリティを確立しろ。自我を保たないと、人間一人の思念体など、容易く飲み込んでしまうぞ。『竜王の顎(ドラゴンストライク)』から流れる情報は莫大だ。過去、未来、現在すら、区別がつかなくなってしまう」 そう、これは雲川芹亜すら知らない。 『竜王(ドラゴン)』は『上条当麻』と完全に同化した。 『The Real World Project』の最終目的はここにあったのだ。 ドラゴンは、元来から天界に存在する神ではなく、地上に存在する異端の『神』であり、その存在は「地に堕ちた天使」、すなわち『堕天使』のエイワスと酷使している。 そもそも、死の概念が無い「神」を殺すことはできない。 人が同じ過ちを繰り返すように。 神とは人の恐怖の対象であり、いずれそれが形となって、再構築される。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が打ち消したのは『竜王(ドラゴン)』の破壊本能であり、肉体は残留していた。 意思体を失った世界最強の能力は、そのまま上条当麻という器に内包される。 ゆえに、『神上(レベル7)』。 神を殺し、神を越えた存在。 「神になったっていう感覚はイマイチなんだけど、人間じゃ無くなったっていう感じの方が大きいかな。 アレイスターを見てるだけで、アレイスターがどんな過去を生きてきたのかっていうことが手に取る様に理解(わか)るんだ。この防壁の構成要素も、製造過程も、粒子の一つ一つが辿った歴史も…未来も」 「私の死も理解(わか)るか?」 不老不死となった上条当麻は頷く。 「…ああ、理解(わか)る」 そっと、アレイスターは瞳を閉じた。 (自分の未来は聞かないでおこうか…)とアレイスターが言ったかどうかも定かではないが、上条当麻は彼の意思を理解した。 次に放たれる言葉すらも理解し、 「『超電磁砲(レールガン)』を選んだ理由もあるのかな?」 鼓膜が震え、上条当麻はそれが発せられた言葉だと認識する。 「…美琴と禁書目録が対立する前に、美琴を選ぶのが最良の選択だった。一歩間違えれば、インデックスが美琴の存在を抹消したり、一〇〇人を越える女たちが、公式に殺し合いを始める未来すら在った……『竜王の顎(ドラゴンストライク)』がそう教えてくれる。 そして、ドラゴンは疲れていた。 人間が繰り返す歴史に、嫌気がさしていたんだ。 人間を滅ぼしてしまいたい気持ちも、理解(わか)ってしまう…だから、ドラゴンは、俺に託したんだ。神としての役割を…」 最期に交わした言葉を上条当麻は思い出す。 『余の代わりに、永遠の時を生きよ……神浄の…討魔』 「…やはり、ドラゴンは自ら殺されたがっていたわけだな…確かに、ドラゴンの余興に付き合うという点では理解したが…あのような作戦でドラゴンを殺せる訳は無い」 上条当麻の脳内では、見た事の無いビジョンが流れ出す。 それは人がまだ言語すら知らない時代から、今現在まで辿ってきた歴史。 人は笑い、悲しみ、憎しみ、愛し、築き上げてきた世界。 上条当麻の瞳に、うっすらと涙が溜まる。 誰の為に流した涙なのか、彼自身は理解しようとしなかった。 「…これからは長い付き合いになりそうだな」 「互いに有益な関係であることを望むよ。出来れば未来永劫にね」 時すら越える『空間移動(テレポート)』の究極能力、『竜王の脚(ドラゴンソニック)』が発動する。 音も無く、影も無く、窓の無いビルから「上条当麻」は消え去った。 再び、場所はとある病室に戻る。 二日前、アレイスターと交わした言葉が何故今、頭をよぎったのだろうと上条当麻は思いながら、 「あれ?」 御坂美琴の胸に手を伸ばす。 もにゅ。 時は夕暮れ。 昼間は彼女が買ってきたショートケーキを食べながら、御坂美琴の常盤台中学での話を聞いていた。混乱に乗じて事件が多発している事や、校舎の半壊で長点上機学園は無期限の休学になっていることなど、話す話題は尽きない。 夜は『並行世界(リアルワールド)』作戦成功を祝い、学園都市最高峰の『エドワード・アレクサンデルホテル』のホールを借りて、立食パーティーが催される予定だ。 上条当麻と御坂美琴は恋人同士である。 名目上、 少年は長点上機学園高等部二年。『絶対能力者(レベル6)』第一位。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。 少女は常盤台中学三年。『超能力者(レベル5)』第一位。『超電磁砲(レールガン)』。 両名とも学園都市を代表する生徒であるが、それを除けば年相応の少年少女であり、格好良くなりたい、可愛くなりたい、オシャレもしたい、異性は気になるお年頃である。 個室に二人きりで、それが恋人同士になれば行動も自ずと限られてくる。 「…あっ、ん…どうしたの?」 「おっぱい大きくなった?」 「え?わかったの?服の上から?」 「ああ。俺、美琴のおっぱい大好きだからな」 「…おっぱいだけ?私は?」 「愛してる」 歯が浮くようなセリフは、ストレートなだけに絶大な効果がある。上条当麻はそれを肌身で感じていた。 彼女は当麻、と彼女は言おうとしたがそれ以上は言えなかった。 美琴の唇は塞がれてしまったからだ。 当麻の舌は美琴の口に入り込み、それを彼女も受け入れた。丹念に舌を絡め、熱いキスを交わす。 唾液に熱が加わり、それに合わせて当麻は胸を強く揉み始めた。 「ちょ…んふ、と…ちゅ、ちゅ…とうまぁ、少し痛い」 「ごめん。久しぶりだから我慢できねえ」 当麻は再び美琴の唇を貪り始め、強引に舌をねじ込ませた。そのまま彼女の体を反転させ、ベッドにゆっくり押し倒した。当麻が美琴に覆いかぶさるような体勢になる。 慣れた手つきでニットの下から手を入れて、シャツのボタンを外していく。その隙間から桃色のブラジャーを搔い潜り、素肌を貪った。 「やっぱり…大きくなってる」 「エッチ…ん、ふぬっ、あ、む、むちゅ…」 美琴の唇から口を離した当麻はフレンチキスを数回した後、頬、顎、首筋にキスをしていった。柔らかくてザラザラとした舌の感触が美琴の脳を刺激する。 「美琴」 当麻の声が下から聞こえた。彼のツンツンとした黒髪が美琴の顔に当たる。 「ん…なに?」 ボタンを外し終えた当麻はさり気無く両手を背中にまわして、美琴を抱きしめていた。本当はブラジャーのホックを外すためだったが、彼女の体温を感じた当麻は無意識的に抱擁していたのだ。 「来週の土曜まで溜めておくつもりだったが、上条さんはもう限界です」 「…だろうと思った」 美琴は当麻の髪を優しく撫でながら彼のことばを待った。 「今日はスゴイですよ?」 「あ…」 「どうしたの?」 上条当麻は周囲を見渡し、 「この部屋、カメラとか付いてないよな?」 御坂美琴は肯定した。 「あるわよ」 「マジで!?」 しかし、彼女は前髪に静電気を立てながら、不敵な笑顔で言った。 「…私がこうなることを予想してなかったと思う?」 「美琴、大っ好きだー!」 「きゃーっ!」 彼女に勢いよく襲いかかった上条当麻は、シャツを脱がせ、ブラジャーのホックをはずした。 彼の欲望は今から満たされようとしている。 「な・に・が・大好きなのかなぁ?とうまぁ?」 世界が止まった。 上条と御坂は即座に凍りついた。 「インデックスさん…人が悪いですよ。私はあと二時間ほど待ってたほうがいいと言ったんですが…ひぃ!」 「何?私に逆らう気?」 「……いえ。何でもありません」 御坂美琴はあわててシーツで上半身を隠し、おそろおそる上条当麻が振り向くと、 ブチギレ気味のインデックスと。 冷や汗をかいているアニェーゼ=サンクティスと。 現場を直視できない神裂火織がそこに佇んでいた。 「…ノックは?」 「したよ。三回も。なのに、とーまとみことちゃんはラブラブちゅっちゅっしてて気付かないんだもん」 うっ…!と黙り込む二人。 「私が気付かないと思った?匂いとかシャワーで…前からバレバレなんだよ?」 銀髪碧眼のシスターのこめかみに青筋が浮き出ている。 対処を間違えれば、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が撃たれかねない、と上条の能力が教えていた。 「ご、ごほん!その、貴方とその彼女が、そ、あ…だ、男女の関係だということは知ってました、が…」 知人の情事を間近で見るのは…その、とても恥ずかしいというか…だろう。 神裂の続く言葉は分かる。 実は神裂火織とのキスが上条当麻のファーストキスだったりする。 思わぬアクシデントだったとはいえ、唇が触れあったのは確かだ。それ以来、どことなくギクシャクしていた。そんなことは死んでも美琴には言えないが、と上条は思った。 突如、 「当麻さぁぁああん!」 と、彼に跳び込むように抱きついた少女がいた。 「ごめんさない!ごめんなさぁあい!」 上条のパジャマにしがみ付き、泣きじゃくっていた。入院しているのか、所々に包帯が巻いてあり、水色のパジャマを着ている。髪はショート。二重まぶたが印象的な女の子。 「…五和」 上条当麻は腹部に柔らかい感触を感じつつも、理性を保つ。 御坂は少々を面くらったが、彼女の心情を察し、手を出さなかった。 五和は顔を上条の胸にうずめたまま、謝り続けた。 そんな彼女の髪を、優しくなでる。 「五和が謝る事は何もない。むしろ謝るのは、俺の方だ。皆にたくさん迷惑をかけちまった」 彼の言葉に、五和が顔を上げる。 瞼には涙の痕がある。一人で泣いていたのだろう、上条は思い、優しく頭を撫でながら、微笑みかけた。 彼女の顔に、徐々に生気が戻る。 そして、目つきが険しくなったと思うと。 「当麻さん…私、やっぱり諦められません」 と、告げた。 「へ?」 何かを決意した目だった。 そのまま上条当麻の顔を両手で掴むと、 「貴方が、好きですっ!」 チュッ。 五和は愛の告白と同時に、情熱的なキスをした。 「ちょっ?!」 恋人の唇が目の前で奪われ、御坂美琴は素っ頓狂な声を上げる。 『あーっ!!!』 と、インデックスやアニェーゼ、後ろに控えていた『新たなる光』のメンバーが声を上げるが、時すでに遅し。五和の大胆な行動に、神裂火織は茫然としていた。向かい側のビルから双眼鏡で覗いていた天草式十字凄教のメンバーが、「うおおおおおおっ!修羅場キタ――(゜∀゜)――!」と喝采を上げていた事には誰も気づかない。 「責任とって下さいね♪」 「何言ってんのよ!五和!というか当麻から離れろぉ!」 はっとした御坂は五和を恋人から引きはがそうとする。 こんな時でも、病院内ということで雷撃を発生しないのは流石と言うべきだろう。 「聞いたよ!とうま!五和とデ、デデ、ディープキスしただけじゃなくて、裸まで見たとか!」 その言葉にビクン!と反応した御坂美琴は、ジロリと、座った目つきで上条当麻を睨みつけた。 うーん…と、甘える声を出しながら、五和は抱きついたままだ。 上条はダラダラと冷や汗を流しはじめる。 「ねぇ…どゆこと?」 「いや、それは俺じゃなくて、ドラゴンの仕業でっ?!美琴!」 グイッ!と襟元を掴み、強い力で引っ張られる。彼女の瞳にはうっすらと涙さえ溜まっている。 少年は慌てた。 「もう許さない!私と別れるか、皆の前で最後までヤっちゃうか!どっちにする!?」 「そんなことしたら、美琴の裸が皆に見られるんだぜ?!そんなことできるか!」 「じゃあ別れるのね?!私のこと、遊びだったんだね?!当麻に私の初めてを全部あげたのに!」 「やっぱり一年前とちっとも変ってないかも!むしろ肉体関係が絡んでるからもっとサイアク!とうま!とうまにはお祈りの時間を与える余地も無いんだよっ!死刑!生きたまま噛み殺す!」 「ああっ!カオス!本当にカオスってる!もうどぅすりゃいいんだよぉぉおおお?!!」 「うわーん!当麻の馬鹿ああああああああああああ!」 ズバン! バチィ! ドガァァッ! とある病室は木端微塵に破壊された。 時刻は一九時を回っていた。 第三学区の『エドワード・アレクサンデルホテル』の三階にあるフロアを仕切って、立食パーティが行われていた。各国から名立たるシェフが集い、古今東西の料理が並べられている。 「これなに?」と物珍しそうに料理を眺めるアンジェレネもいれば、片っ端から腹に詰め込む暴食シスターもいる。総数は一〇〇〇人強と多く、畏まったフォーマルな雰囲気は無く、どちらかというと打ち上げのような賑やかな空気に包まれていた。修道服を着ている者もいれば、学園都市の制服を着ている人もおり、そこに科学と魔術の垣根など無い。力を合わせ、世界を救ったという連帯感が彼らの心を一つにしていた。「これが噂のライスケーキであるのよ?」と生ハムとチーズを包んだ餅を口に入れ、『最大主教(アークビジョップ)』が喉に詰まらせ、あたふたするステイルの姿もあった。 主役である上条当麻は会場に着くなり、多くの女性からあからさまなアプローチを受けた。 その度に、恋人の前髪はビリビリと帯電していた。 学園都市を一望できるラウンジで、会場から持ってきたオレンジジュースを飲みながら、 「…で、俺の借金はさらに増えるのでした…と」 「なに独り言を呟いてるの?友達イナイイナイ病が発症しちゃってるわけ?…まさか、お酒飲んじゃった?」 「んな訳ねーだろ。カミジョーさんは未成年ですよ?」 ツンツンのヘアスタイルでは無く、オールバックの髪型にワインレッドのネクタイに黒スーツ姿の上条当麻の隣には、白のドレスを身に纏い、化粧でその美しさに磨きがかかっている御坂美琴が立っていた。茶髪のロングヘアーにウエーブをかけ、胸元にはピンクアクアマリンゴールドのネックレスが輝いている。 「破壊されたあの医療機材、全部で六〇〇〇万円もするんだって…」 「八〇〇兆円に比べれば、大した金額じゃないでしょ?被害総額とか、既に天文学的数字だからね。でもその分、復興資金が潤っているみたいじゃない?」 「…神上派閥の組織がどんどん増えるわけだよな。ビジネスの恐ろしさを改めて身に感じてるわけですよ。経済学もすこしかじってるから」 長点上機学園でのカリキュラムは普通の高校過程と異なるが、彼のカリキュラムは雲川の助言の元、武等の他に、各国の財界人との会合も頻繁にある為、帝王学や上級社会のマナーも授業に組み込まれている。 そして、御坂美琴は常盤台中学の授業に加え、彼に並び立つに相応しい女であろうと様々な分野を学び、二人は多忙な日々を送っていた。 故に、会える機会には激しく求め合う。 口紅が付くのも厭わず、上条当麻は恋人と唇を重ねた。 「来週の土曜…覚悟しろよ?」 「それは私と遊園地に行くこと?それとも夜のこと?」 色々と特殊なカップルだが、蓋を開ければ一七歳の少年と一五歳の少女である。 「どっちもだ。馬鹿…好きだよ。美琴」 「私も。愛してる。当麻」 どちらともなく無言で見つめ合い、無言でキスをした。影が一つに重なる。欲情を満たす口付けでは無く、愛を確かめ合うような甘ったるいキスだった。唇を離し、瞳は離さないまま美琴は、 「ねぇ、当麻」 「なんだ?美琴」 「一年前に帰った当麻も、私のこと、好きになるかな?」 「ははっ…欲張りだな。美琴は」 「いいじゃない…それくらい」 一年前の自分が、どうような未来(せかい)を辿るかは分からない。 『戦争』が起こらない世界も『在』る。 近しい友が生存する世界も『在』る。 『戦争』で敗北する世界も『在』る。 自分が死んでしまう世界も『在』る。 御坂美琴を選ばない世界も『在』る。 小さな選択肢で、幾つもの多様な未来へと別れる「並行世界」。 その中で、この上条当麻は、この世界を選びとった。 後悔は無いと言えば嘘になる。 だが、この道を選んだ責任は取る。 そうやって、彼は新たなる未来(せかい)へ進んでいく。 上条当麻は全ての思いを呑みこんで、返事を待ちわびる恋人に笑顔を送った。 「ああ…何度でも、美琴のことを好きになる」 時間は、ゆっくりと流れていく。 再び、二人は甘い口付けを交わした。 夜空をほのかに彩る満月は、一つになった人影を優しく照らしていた。
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美琴「全く何なのよこの学校。明らかな人外はうようよいるわ巨大ロボットが駐車されてるわ レベル5の私がむしろ常識的なオンナノコだとそう言いたいのか!? それにしてもこんなカオスな学校でも風紀委員っているのかしら?私なら願い下げね。」 佐山「待ちたまえそこのプリーツスカート着用ツンデレ女子生徒!」 美琴「誰がツンデレかァ!ワケのわかんないこと言ってんじゃないわよ!あんたテレパス!?」 佐山「隠すことはない。人の潜在的な性質は意外と簡単に浮かび上がるものだよ?時に御坂美琴君、 君の電気を操る力は、使い様によっては君一人での広域破壊が可能と聞いたが?」 美琴「た、確かにそうだけど、今までこの力をやましい事に使ったことなんてないわ!」 (アイツには効いてないからノーカンよね?) 佐山「何か勘違いをしているようだね。別に私は君を処罰しようと言う気なぞ毛頭無いのだが。」 美琴「なら一体私に何の用よ!?」 佐山「うむ、単刀直入に言おう、君を生徒会直属特別風紀委員に任命する!」 美琴「ハァァァァ!?アンタ今広域破壊がどうのって自分で」 佐山「勘違いしてもらっては困ると言った。君も知っての通り、全く嘆かわしいことだが この学校には悪夢の中から出てきたようなイカレた輩がうようよしている。 それらを平穏無事に鎮圧するためにも君のような人材が必要なのだよ。」 美琴(鏡見たことあんのかしらこのメッシュオールバック。) 佐山「ちなみに拒否権の存在は否定しないが行使は不可能だとあらかじめ言っておこう。なぜなら・・・」 美琴「なぜなら?」 佐山「いやいや、全く出所に心当たりが無いのだが君が上条を遠くから見つめている画像や、 件の恋人ごっこ中のホットドッグ事件で顔を真っ赤にする君のウレシハズカシ青春画像が・・・」 美琴「なぁぁぁぁぁぁぁ!?止めて止めて止めなさいって風紀委員くらいやったげるからそれを返しなさい!」 佐山「ハハハそこまで快く快諾してくれるとは恐縮至極の極みだね。それとこの画像は生徒会の所有となるので 『返して』と言うのは不適切だね?任期満了時に『報酬』として譲渡しよう。」 美琴「アンタ、絶ッッッ対にロクな死に方しないわ。」 佐山「祖父の代からの褒め言葉だ。『佐山の姓は悪役を任ずる。』聞いた事位ある筈だが?」 美琴(絶対にいつか焼ってやるわ・・・) CAST とある魔術のインデックス 御坂美琴 終わりのクロニクル 佐山・御言
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お互いの目の奥に光るのは既に憎しみや怒りなどといったものではない。 ただ相手を打倒し、己が上であると示すことに躍起になった子供のような自己顕示欲。 そう。言うなればこれは規模こそ違えど子供の喧嘩なのだ。 そして都城王土と一方通行は楽しそうに、心底楽しそうに吼えた。 「その意気や良しッッッ! 往くぞッッッ!!!!」 「上ッ等だコラァァァ! 来いよォォォォ!!!!」 魂を震わせて都城王土と一方通行が己をぶつけあわんと全力を込める。 最強の盾があるのならば、当然最強の矛もあるだろう。 果たして都城王土の拳が最強の矛なのかすらも判らない。 ましてやこれは矛盾であり、なればどちらが勝つかなど推測するのも意味が無い。 しかし、それでも確かなことが一つある。 この一撃が交差すれば、確実にどちらかが死ぬ。 それは絶対の事実であり、誰にも違えることのできない真実なのだ。 絶対致死、一撃必倒、絶対必殺の威力をもった都城王土の力。 接触致死、瞬間必倒、完全必殺の威力をもった一方通行の力。 それは、その力は、その喧嘩は。 「イヤだよ王土ッ! ボクを置き去りにして一体何を考えているのさっ!!」 「絶対ダメッー!ってミサカはミサカは涙で顔をグシャグシャにしながら貴方に訴える!!」 突如乱入してきた二つの小さな影に阻まれ、不発に終わった。 小さな身体である。 拳を握り締めた都城王土の前に立つ小さな影の名は行橋未造。 己の存在意義であり、己の生きる意味を教えてくれた男を止めるため。 両の手を広げた一方通行の前に立つ小さな影の名は打ち止め《ラストオーダー》。 己を救いあげ、己を見殺しにはしないと言ってくれた男を止めるため。 けれど。 その小さな手は。震える身体は。涙で潤んだその瞳は。 紅い双眸を持つ男達の喧嘩を中断するに充分な力を持っていたのだ。 「…行橋」 「…クソガキ」 ポツリとそう呟いて。 今にも破裂しそうなほどに膨らみ、張り詰めた風船がしぼむように男達の気迫が急速に薄れていった。 都城王土は問う。 「…どうやって目覚めたのだ?」 「えへ…えへへ… ボクは王土のことを一番判っているんだ。 催眠ガスを使われそうになったとき、手の中にこれを握りこんでいたのさ」 厚手の手袋を取り、その小さな掌を都城王土に見せつける行橋未造。 その手の上には鋭利に尖った鉄骨の欠片が自身の血に塗れて乗っていた。 「喜界島さんとの一戦を参考にしてね☆ 催眠ガスを克服するには古典的だけどやっぱり痛みが一番みたいだ☆」 一方通行は問う。 「…何で来やがった」 「何でも何も! あなたの代理演算を補っているのは私達なんだからね! あなたの身体に走った痛みという異常を感知してミサカはミサカは病院を抜けだしてきたの!」 よく見れば少女の服はシャワーを浴びたように汗で濡れ、ゼエゼエと荒い息は未だに収まってはいない。 そう、一方通行は都城王土の言葉に引きずられ顎を地面にぶつけた記憶がある。 ただそれだけで、一人夜道を走って一方通行をこの少女は探し回ったのだ。 都城王土と一方通行はどちらともなくフゥとちいさな息を吐いた。 「…おい一方通行《アクセラレータ》 おまえはどうするのだ?」 「…チッ まァ、確かにィ? もうそんな空気じゃあねェなァ…」 戦意を根元ごと引きぬかれたようなこの感覚。 それは自分だけではなく、目の前に立つ紅眼の男も感じているのだと思い紅眼の男は苦笑した。 こうなるとさっきまでの勢いが逆に気恥ずかしく紅眼の男達が静まりかえった中、小さな裁定者達はお互い勝手に自己紹介をはじめていた。 「ウチの一方通行が迷惑をかけてごめんなさいってミサカはミサカは真摯に謝ってみる」 「えへへ☆ 気にしなくてもいいよ。 王土だってきっと途中から楽しんでいたんだしね!」 「あ、それはウチの一方通行もきっと楽しんでいたとミサカはミサカは確信してる!」 「えへへ! まぁ判らなくもないかな? ボクらは自分に似た奴が好きすぎるんだからね☆」 「確かに似てるかも…ってミサカはミサカはこっそり横目で観察しながら同意したり!」 「あ、それとさ。 君、面白いね☆ ボクこんな人は初めて見たよ あ、でも王土ならもしかしてアクセスできるかもしれないなぁ…」 「ふえ? それっていったいどういうことなの?ってミサカはミサカは疑問を発してみる」 「えへへ☆ 秘密だよ☆」 可愛らしい声をあげて活発な情報交換を続ける二人を見て、金髪紅眼と白髪紅眼の男は静かに顔を見合わせる。 「…ハッ かったりィ… おらクソガキ! 帰ンぞ!」 これ以上この場の空気に耐え切れないと言わんばかりに声を張り上げたのは白髪紅眼の一方通行だった。 「ぶー!何それ何それ!せっかく心配してきたっていうのにその態度は何事?ってミサカはミサカは猛烈に抗議する!」 そう口では文句を言いながらも一方通行の隣に立つ打ち止めは朗らかな笑顔を浮かべていた。 あ、そう言えばプリンはプリンはー?とせがむ打ち止めが絶望する答えを口にしながらゆっくりと杖をついてその場を去ろうとする一方通行。 その時、都城王土の声がその背に静かにかかる。 「…おい、一方通行《アクセラレータ》」 「あン?」 そう言って振り向く一方通行に向かって都城王土がクイと顎で地面を指し示した。 「忘れ物だぞ?」 地面に転がってるのは缶コーヒーがつまったコンビニ袋。 だがそれを見て一方通行はハンと鼻をならす。 「…いらね どっかの馬鹿とやりあったおかげで充分目が覚めちまったンでなァ 欲しけりゃあくれてやンよ ってテメエ手握るンじゃあねェ!」 「まぁまぁ 気恥ずかしいのは分かるけど夜道は危ないんだからね?ってミサカはミサカは場合によっては言語能力を没収するといった選択肢をちらつかせながら強引に手を ひいてあげる」 ふざけんなァァァ!と憤慨しながらも逆らうことのできない一方通行は杖をつきながら少女に手を引かれて今度こそ振り返ること無く闇の中に消えていった。 残されたのは都城王土と行橋未造である。 と、未だ催眠ガスの残滓が残っているのか足元が覚束ない行橋未造の身体がフラリと揺れた。 それを見た都城王土が小さく溜息をつく。 「…行橋。 眠いのならば俺が背負ってやってもよいが?」 「わ! ホント? えへへ☆」 そう間延びした声で言うと子猫のように都城王土の背によじ登る行橋未造。 都城王土にとって行橋未造の体重など小鳥が止まっているような感触である。 故にそれ以上特に何も気にすることもなく、都城王土は路上に転がっているコンビニ袋を見ていた。 試しに背中にむかって声をかけてみるが。 「…行橋」 スッポリと背に収まって目を細めている行橋未造は彼が言わんとすることを察したのだろう。 「うーん… ボク苦いの嫌いだし」 そっけなくそう言うと眠気に襲われたのか、小さなあくびをして都城王土の背中の上で小さな寝息を立てだした。 「だろうな。 さて、これから修道女のところに行くのはさすがの俺でも面倒であるな。 なに、今日は充分楽しめたのだ」 そう言って行橋未造を起こさないように静かに都城王土が歩き出す。 「なに。 中々に面白い。 随分と刺激に満ちている街ではないか。 なぁ行橋?」 背でスヤスヤと眠っている行橋からの返事はないが、それでも都城王土は満足気に闇の中に姿を消した。 ■??? 中年の男が大声で問いかける。 「何故君達に能力があるのか! 何故君達にチカラがあるのか! 不思議に思わないのか!」 据えた煙草の匂いを振りまきながら[M000]というコードネームを持つ中年の男は大袈裟に両手を広げる。 「もしかしたらだ! 君達はチカラを持つ必要など無かったのかもしれない!」 静かにそれを聞いているのは10人近くの少年少女。 「この計画が達成すれば! この悲願にさえ到達すれば! 君達はその“憎らしいチカラ”に怯えなくてすむんだ!」 その台詞に自ら酔ったようにして[M000]は更に大声を張り上げる。 「そう! 君達は誰かを傷つけることに怯えなくてもいい!」 そう言って懐から一枚の写真を取り出した。 そこに映っているのは宇宙空間とおぼしき場所に浮かんでいる機械の破片。 「これだ! この[残骸《レムナント》]さえあれば! これさえ我等が手にすれば!」 そこまで言って[M000]は言葉を切ってグルリと部屋を見渡す。 そこには己を見つめる若く真っ直ぐで情熱的な視線。 ブルリと快感で背筋を震わせ、[M000]は続きの言葉を口にした。 「判るかね諸君! 君達の悩みは! 解決したも同然なのだ!!!」 少年少女たちの間に広がっていく羨望と感謝と熱意を肌で感じとり、[M000]は満足そうに頷いた。 「そしてだ! 君達は感謝しなければならない! この計画に無くてはならない“大能力者”!」 そう言って[M000]は机の隅に座っていた少女に向かって声をかける。 「[A001]! 君には期待している! 君も“普通”になりたいだろう? 我等と同じく“正常”になりたいのだろう?」 その言葉と同時に[A001]と呼ばれた少女が立ち上がり、頷いた。 それを見て、[M000]は感動したように大きな声を張り上げる。 「これは君がいなければ不可能な任務だ! 君と!私と!君達は! 共に等しく“仲間”なのだ!」 さざ波のように感動がその空間を支配していくのを感じながら[M000]は叫んだ。 「さぁ! 諸君! 時は来た! 今こそ奮起の時なのだ!」 その言葉と共に万雷の拍手が沸き起こる。 少年少女たちの中には涙ぐんでいるものまでいた。 そして、[A001]と呼ばれた少女は。 どのような障害があろうとも、任務を遂行しようと決意の光をその瞳に宿らせていた。 ■風紀委員第一七七支部 「[キャリーケース]の強盗事件…ですの?」 訝しげなその声の主は白井黒子。 「そうなんですよー。 犯人は地下に向かって逃走したみたいなんですけど… 何故か信号機の配電ミスが相次いで警備員《アンチスキル》は身動きがとれない状況らしいですー」 紅茶の本をデスクの横に置きながらそう初春飾利が答えた。 「はぁ… なんだかきな臭そうな匂いが漂ってきますのね…」 そう言われてパァッと初春飾利の顔が輝いた。 「あ! じゃあ紅茶でも淹れましょうか? いいにおいですよー! 美味しいですよー?」 はちきれんばかりの笑顔を浮かべる初春飾利だったが。 「…お断りですの。 なんで貴方は犯人ほっぽらかしてアフタヌーンティーに勤しもうと思えるんですの?」 付箋がいくつもついた紅茶の本をちらりと横目で見ながら白井黒子が呆れたようにそう告げた。 ガーン!とした顔をするのも束の間、すぐに気を取りなおした初春飾利が不思議そうな声を出す。 「うう、今度こそ100点のお茶を出せると思ってたのに… あ、でも白井さん? つまりそれって…」 恐る恐るそう問いを発する初春飾利に白井黒子は薄っぺらな鞄を持って出口に向かいつつこう言った。 「ええ。 今回はお邪魔な金髪の殿方もいらっしゃいませんし? 私一人ならば地下だろうがどこだろうが関係ありませんもの」 ■地下街出口・裏路地 「ふぅ…どうってことはありませんわね」 パンパンと埃を払いながらそう白井黒子が呟いた。 地面には黒いスーツに身を包んだ男が10人近く倒れている。 今更言うまでもないだろうが、白井黒子の能力は『空間移動《テレポート》』である。 点と点をつなぐ慣性を無視した三次元の軌道だけでも脅威だというのに。 更にああ見えて有事では頼りになる初春飾利のナビゲーションをもってすればキャリーケースを抱えて逃げようとする強盗犯を補足することなど朝飯前だった。 (ま、朝飯前というか午後の紅茶前といったほうが正しいのかもしれませんが?) そう心中で呟きながら白井黒子はこちらに向かっているという警備員《アンチスキル》を手持ち無沙汰のまま待っていた。 如何に『空間移動《テレポート》』を使えるといえど、こうまで人数が多いと動くことは出来ない。 この場を離れれば、意識を取り戻したスーツの男達が逃げ出すかもしれないのだ。 . (そういえば…最近随分とお姉さまがそっけないですの…いったいどうなさったんでしょう…) そんなことをぼんやりと考えていた時である。 突如肩口に突き刺さったのは鋭い痛み。 更には自らが浮遊している感覚が白井黒子を襲う。 「ッ!?」 完全に油断していたこともあり、受身も取ることが出来ずにペチャン!と痛々しい音を立てて白井黒子が仰向けに倒れた。 肩に刺さり、激痛の元であると主張しているのはワイン抜きだった。 「…これは…随分と趣味の悪い成金みたいですわね」 そう毒づきながらゆっくりと白井黒子が起き上がる。 そこには。 クスクスと笑う少女が[キャリーケース]に座っていた。 肩にかかった赤毛を鬱陶しそうに背中に払いながら。 「初めまして。 風紀委員《ジャッジメント》の白井黒子さん」 本来は年相応の可愛らしい声だろうが、今は随分と意地の悪そうな声がそう言った。 ■長点上機学園・放課後 「…すまないけども。 もう一度言ってくれないかしら?」 呆然とした口調でウェーブ髪の少女が今聴いたことの内容の確認を求める。 「うんいいよ! えーっとね、昨日の夜ね、王土とイッポーツーコーって人が戦闘《バトル》したんだ☆」 「……」 ハキハキと元気よく面白そうにそう答えた小柄な同級生の言葉を聞いて、布束砥信は今度こそ幻聴の類ではないのだということを理解した。 「suppose 勘違いとかその辺のスキルアウトっていうわけでは…無いようね…」 この小さな同級生が嘘を言っているとは思えない。 だが、信じられるだろうか? 一方通行。 それは学園都市最強の超能力者であり、“妹達”を一万人も殺した実験計画の中心人物であるのだ。 そのような男と都城王土が相対して戦闘をした? それならば当然の帰結としてあそこの席、都城王土の席には不在の主を慰めるように白い花瓶が鎮座していなければならない筈なのだが。 その席には金髪紅眼の男が退屈そうに腕組みをしていた。 「thought 何を考えているか判らないだなんて、初めて見た時から理解はしていたつもりだけど…まさかここまでとはね」 どこぞのホラービデオに出てくる幽霊のようにバサリと前髪を顔の前に垂らしてそう布束砥信が呟いた。 その時、布束砥信の机の側に立っていた行橋未造に都城王土の声がかかる。 「さて行橋よ。 そろそろ日も暮れてきたところだ。 今日こそ俺の寛大さをあの修道女達に示してやらんとな」 尊大にそう言って笑う都城王土の元にトテトテと行橋未造が駆け寄っていく。 「えへへ! そうだったね! ボクもう忘れちゃいそうだったよ☆」 仔犬のようにまとわりつく行橋に向かって鷹揚に都城王土が笑う。 「おいおい まったく仕方のない奴だなおまえは」 「えへへ☆ そう言うなよ王土! なにせボクは王土に付き従うんだから、王土が要らないと決めたことをいちいち進言するはずないじゃないか☆」 そう言ってピョンと両足を揃えて行橋未造が布束砥信に振り返った。 「それじゃ布束さん! また明日ねー!」 「え、ええ… よい放課後を…」 そう言ってプラプラと力なく手を振る布束砥信に向かって、何かを思い出したように都城王土も振り返った。 「む、そうだ布束よ。 おまえの案内、悪くはなかったぞ」 「え? あ、ええ… それは良かったわ…」 そうぎごちなく答えることしかできなかった布束砥信だが、その返答で満足したのだろう。 うむ、と頷いて都城王土は行橋未造を引き連れて長点上機学園を後にした。 彼等が向かう先。 それはツンツン頭の少年と銀髪シスターの元である。 先日、彼等と接触したときにぶちまけたコロッケの代わりとなるであろう“ソレ”を持って都城王土と行橋未造は学園都市を歩く。 もちろん、彼等の住所はとっくに行橋未造が端末から“聞き出している” 一人教室に残っているのは布束砥信。 もはや布束砥信にとって彼等は核弾頭のスイッチにも等しい存在である。 彼等が動けば面倒な事件が巻き起こる気がしてならない。 「naturally 出来るならば私は無関係でいたいのだけれど…」 だが、布束砥信のその儚い願いは叶えられることがなく。 その小さな希望は数時間後には容易く打ち破られる。 [残骸]とよばれる物を中心として、都城王土、上条当麻、一方通行、御坂美琴という4人少年少女達がが巻き起こす事件に布束砥信も巻き込まれることとなるのだ。 ■常盤台中学学生寮・御坂美琴と白井黒子の部屋・バスルーム カチャンという乾いた音が響き、そして噛み殺しきれなかった悲鳴が白井黒子の口から漏れる。 「あ…グッ…!?」 ひどく弱々しい声と共に大量の血液がバスルームの床を伝い排水口に流れていった。 (っ… まさかここまでとは… 完敗ですわ…) 先程の音の正体はワイン抜きや黒子の持ち物である鉄矢が硬質タイルの上に落ちたときの音。 それは裏路地で対峙した赤毛の少女に笑みをもって己の身体に打ち込まれたということ。 そう、彼女もまた移動系の能力を持っていた。 いわば同族との戦闘は、一方的に。 白井黒子の身体にのみ夥しい傷と出血を残して幕を閉じた。 雑菌が入らないよう身につけていた服は全て能力で排除した。 そして今、白井黒子はその白く細い身体を血に濡らし痛みに悶えていた。 右肩、左脇腹、右太もも、右ふくらはぎ。 (唯一の救いは鉄矢やコルク抜きといったところでしょうか…) 出血は未だ続いており、その幼くも艶めかしい身体を熱い血が汚しているにも関わらず、ふと白井黒子はそう思う。 傷は深いが、それでも傷の面積に限って言えば非常に小さい。 時間が経って傷がふさがればそれほど目立ちはしないだろう。 白井黒子は中学生という若き身でありながらそんな悲しいことを当たり前のように考えてしまう。 . (…けれど。 今はそんな事はどうでもいいんですの) 痛みと熱に浮かされながらも少女はゆっくりと立ち上がる。 たったそれだけの動作で新たに鮮血吹き出して白井黒子の身体を濡らした。 薄い胸をゆっくりと伝い、細く引き締まったウエストを滑り、太股の内側を通ってタイルにポタリと音を立てる。 だけれども。今の白井黒子はそんな事は気にしていられない。 今、彼女の脳裏をグルグルと駆け巡るのは赤毛の少女がペラペラと口した言葉である。 【[レムナント]って言っても判らないわよね? [樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》]と言えばさすがに判るでしょう?】 【そうよ。 壊れて尚、莫大な可能性を秘めたスーパーコンピュータの演算中枢】 【あらあら。蚊帳の外って顔ね? 『御坂美琴』があんなに必死になっていたというのに】 【ふぅん… そう『御坂美琴』は貴方に何も言ってないの。 噂通り理想論者で甘い考えをしてるみたいね】 本来なら。 このような事態になった以上、風紀委員《ジャッジメント》の出る幕はない。 素直に大人に、警備員《アンチスキル》に任せるべき話だ。 だが。 “あの人”の名を聞いてしまった以上、そういうわけにはいかないのだ。 . “御坂美琴” そう。 確かに、あの赤毛の少女はその名を口にしたのだ。 ならば、ここで自分勝手に痛がって悶えている場合ではない。 白井黒子はここ最近、御坂美琴がやけに気落ちしているのに気が付いていた。 だというのに、それ以上追求をしようとはしなかった。 いくらなんでもプライバシーにまで踏み込むつもりは無いと勝手に自分だけで線引きをして。 その結果がこれだ。 赤毛の少女が言っていたことの内容は悔しいことにいまだ全貌をつかめていない。 しかし、それでもたったひとつ判っていることがある。 このままではお姉様が。 “御坂美琴”が悲しむ事態が巻き起こる。 痛みにひきつり弱音を上げそうになる自分の身体を、ただ意志の力でもって奮い起こす。 手早く傷の処置をして、包帯を巻いて。 下着をつけて。シャツを羽織って。予備の制服に袖を通して。 白井黒子は携帯電話で頼りになる後輩へ連絡をしながら宙へと消えた。 …そして。 白井黒子が『空間移動《テレポート》』をしてから5分程経過しただろうか? カチャリとバスルームの扉が開く。 そこに立つショートカットの少女はバスルームに篭った鉄臭い匂いに、僅かに血液が付着したままの鏡を見てギリ!と奥歯を噛み締めた。 ■とあるマンション 『次回!超機動少女カナミン第13話! 「えっ? 堕天使エロメイド姿でママチャリダンシング(立ちこぎ)?」 あなたのハートに、ドラゴォン☆ブレス!』 聞いているこっちが恥ずかしくなるほどのロリータボイスと共にジャジャン!と派手な音をたててTVアニメ[超機動少女カナミン]が終わった。 アニメは番組間のCMが終わるまでがアニメなんだよ!と言いたげにテレビの前でフンフンと鼻息を鳴らしているのは銀髪のシスター。 彼女の名は禁書目録《インデックス》という。 10万3000冊の魔導書という恐ろしい書庫をその頭脳に収めている少女なのだが… 転がり込んだ先の少年の部屋で日がな一日ゴロゴロモグモグといった自堕落な日常を送っていたりする。 そんなインデックスがテレビを見たまま気の抜けまくった声をあげる。 「とうまーとうまー! お腹へったんだよ?」 それを聞いてガクリと肩を落とすのはツンツン頭の少年だった。 少年の名は上条当麻。 その右手に『幻想殺し《イマジンブレイカー》』という測定不能の恐ろしい力をもっているはずのなのだが… 今は周囲の状況に振り回されては貧乏くじを掴んでしまうという何とも可哀想な日常を送っていたりする。 「インデックスさん…よくもまぁヌケヌケとそんなことを言いやがってこんちくしょう!」 上条当麻が肩を落としているのには理由がある。 月一回の超特売セールで一週間分のコロッケを買いだめしたのも束の間、それを一口も口にしないままインデックスがそれらすべてを路上にぶちまけてしまったのだ。 あぁ、不幸だなー…と呟きたくなったが。 ふと上条当麻は思い出す。 脳裏に浮かぶのはインデックスが突っ込んだ男。 金髪紅眼の見るからに偉そうで怖そうな男だった。 「まぁいつもの上条さんならあそこで100%絡まれてるはずですし? 多少は運が良くなってきたってことなのかね? …てゆうかそう思わなければやってられませんよ」 涙ぐましくそう自分に言い聞かせながら冷蔵庫をパカリとあける。 そこにはモヤシが所狭しと並んでいたが、そりゃもう全然嬉しくなんかはない。 「わーい…モヤシがいっぱいで上条さんはもう何も考えたくありませんよ…」 ドラゴンボールの仙豆とかあればいいのになぁ…なんて現実逃避をする上条当麻。 その時、心底驚きました!と言わんばかりの同居人の声がかかった。 「とうまー! とうまー!!」 「…なんの御用でせうかインデックスさん。 お願いですから叫んでカロリー消費しないでくださいってば」 しかし、そんな上条当麻の文句はもとよりこの少女に届くはずもないのだ。 「そんなの些細なことなんだよ! いいからこっちに来るんだよ!」 そう言われハイハイと重たい腰をあげる上条当麻。 向かう先は可愛らしくも子憎たらしい破天荒な同居人の元である。 ■学園都市・宙空 太陽は既に沈んでいる。 眩いネオンをその瞳にはしらせながら学園都市を白井黒子が飛ぶ。跳ぶ。翔ぶ。 周りからは点々と見えたり消えたりしてるように映るだろう。 『空間移動《テレポート》』を駆使し、痛む身体に鞭打って白井黒子は赤毛の少女の後を追っているのだ。 ブツブツと電波が寸断される為、途切れ途切れの声が携帯電話からは漏れ聞こえる。 「トラウマ…ですの? …あぁ道理で。 確かに彼女は自らを転移させたりはしてませんでしたわね」 頼れる後輩の情報を聞いて、ビルの外壁を蹴りながら白井黒子がそう答える。 『はい! カウンセラーへの通院リストが確認されています! それより白井さん本当に大丈夫ですか?』 電話の向こうから聞こえる心配そうな声に向かって白井黒子はわざと声を張り上げる。 「大丈夫ですわ。 ほんの掠り傷ですもの。 それよりもまだ赤毛女の逃走予測ルートは特定できないんですの?」 『えっ、あ、はい! 今全力でルートを絞っています! 後30秒もあれば…』 だが、今回に限っては初春飾利の助言は必要がないようだった。 ドゴン!と響く凄まじい破壊音。 聞き慣れた爆発音が大気を震わせたのに気付いた白井黒子がそちらを見た。 モクモクとあがる黒煙がここからでも目に飛び込んでくる。 「初春… どうやらこれ以上予想する必要はないみたいですの」 『え? それって一体どういう意味ですか?』 きっと電話の向こうでは、ほのぼのとした少女が不思議そうな声をあげながら首をひねっているのだろう。 容易にその姿が想像できてつい微笑みながら白井黒子は静かにこう言った。 「さっさと終わらせて帰ってきますから。 100点満点のおいしい紅茶を用意して待っててくださいですの」 そう言うだけ言って。 返事を聞こうとはせずに携帯電話をポケットにねじ込んだ。 見間違えるはずも、聞き間違えるはずもない。 あの音の元にこそ、あの黒煙の元にこそ、白井黒子が探しているその人がいる。 あれこそ、白井黒子が大好きで大好きで大好きなお姉様の“超電磁砲”だ。 「今行きますの! お姉さま!!」 そう言って、白井黒子は再び虚空へとその姿を消した。 ■学園都市・雑居ビル 建設途中だったのだろうか? まるで解体されかかった獣のように鉄骨や内壁をさらけ出したそのビルの前には横倒しになったマイクロバスが転がっていた。 「――ッ! いい加減っ! コソコソ隠れてないで出てきなさいって言ってるのよ!!」 ショートカットの少女の苛立った叫び声と共に小さなコインが空を舞う。 どこにでもあるようなゲームセンターの小さなコインは、しかし凄まじい勢いを持って少女の手から射出された。 爆音と共にビルの鉄骨を易々と引きちぎる“それ”は雷神の戦槌のような破壊力で以て大地を揺らす。 少女の名前は御坂美琴。 七人しかいない超能力者(レベル5)の一人であり、学園都市最強の『電撃使い《エレクトロマスター》』である。 中学二年生にして常盤台中学のエースに君臨する少女を人々は恐れと羨望をもって『超電磁砲(レールガン)』と呼ぶ。 そして今、御坂美琴は怒っていた。 ビルの中には10人近くの能力者が篭っている判っている。 だが、それが何だというのだ。 荒れ狂う彼女を止められる者など学園都市に5人もいない。 静まりかえったままのビルに向かって三発目の“超電磁砲”を撃ちこむかと御坂美琴が思った時だった。 「学園都市最強の超能力者のくせに。 …随分と余裕が無いのね?」 ビルから突き出ている鉄骨の上に赤毛の少女がそう言って姿を見せたのだ。 ■学園都市・雑居ビル前 「お姉さま…」 現状の確認と把握のために、今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えてビルの陰から様子を伺った白井黒子がそうポツリと呟いた。 そこでは御坂美琴と赤毛の少女が相対していたのだ。 「そんなに[実験]が再開されるかもしれないことが怖いのかしら?」 そう試すように。 赤毛の少女が白井黒子では知りえない事を唇に載せる。 そして。それを聞いた御坂美琴は怒りを抑えこむようにして静かに口を開く。 「…ええ、怖いわ。 でもね…わたしはそれ以上に頭にきてんのよ」 御坂美琴の脳裏をよぎるは大量の血液が流れたであろうバスルーム。 血生臭く鉄臭い匂い。 完璧主義者なはずの少女が鏡に飛び散った血痕すら忘れてしまう程なのだ。 421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 12 36 51.63 ID 7ofurvBN0 それはいったいどれほどの苦痛と屈辱と苦難だったのだろう。 だから御坂美琴は許せない。 「あのバカ…私が気付かないとでも思ってたのかしら。 医者にも行かないで、今もまだこの空を飛び回っている救いようのない大バカで。 その癖きっと!私と明日顔を合わせればなんでもない様に笑う! そんな強がりで! バカみたいな! 私の大事な後輩を!」 ギリと御坂美琴が私怨でもって赤毛の少女を見上げて叫ぶ。 「この私の都合で巻き込んだ! そんな私自身に頭にきてんのよ!!」 放電をその身に纏わせて吠える御坂美琴を見てジワリと白井黒子の瞳に涙が浮かぶ。 「…おねえさまぁ」 だが、しかし今は泣いている場合ではない。 意志の力でもって胸に広がる思いを無理やり抑えこんで、白井黒子は赤毛の少女を注視した。 赤毛の少女は怒りに身を震わせる最強の“超能力者”を見て、耐えられないように呟く。 「…そう。 さぞかし気分がいいんでしょうね。 己の怒りのままにそんな力を奮ってるのだから。 でもね、悪いけれど“私達”にも貴方と同じくらい退けない理由があるの。 ここで改心して謝る気にはなれないわ」 そう赤毛の少女は笑うが、白井黒子の立つ場所からならば油断無く距離をとろうとしているのが一目瞭然である。 それも当然だろう。 “学園都市に七人しかいない超能力者”という言葉は飾りではない。 赤毛の少女は“大能力者”らしいが、このようなひらけた場所で力を奮う“超電磁砲”に抗うのは無謀にも程がある。 . その時だった。 「…?」 白井黒子は眉をひそめる。 恐らく御坂美琴の立っている場所からは見えないだろうが、白井黒子の場所からならばそれは舞台裏を覗いたように丸見えである。 ビルの陰でコソリと赤毛の少女の仲間であろう少年が何事かを呟いたのだ。 それを聞いた赤毛の少女はハッと年相応の動揺した感情をその端正な顔に走らせる。 しかし、それも束の間。 御坂美琴を見下ろしながら赤毛の少女が口を開く。 「…貴方も退けない、“私達”も退けない。 ならば“私達”は“目的”を達成させるだけよ。 それじゃあね御坂美琴さん?」 そう言って暗がりの中に逃げこもうとした赤毛の少女に向かって御坂美琴が吠える。 「逃げられるとでも…思ってんの!」 それを聞いた赤毛の少女がどこか苦虫を噛み潰したような顔で、けれど口調は優位を保つようにしてこう告げた。 「えぇ、思ってるわ。 とはいえ“私一人”では無理でしょうけどね」 赤毛の少女の言葉と共に。 一気呵成と言わんばかりの叫びが轟く。 ビルの中から一斉に赤毛の少女の仲間が飛び出してきたのだ。 風力使いが、念力使いが、電撃使いが死をも恐れんと言わんばかりに闘志をその目に燃やし。 “超能力者”に、“超電磁砲”に向かって突撃を開始する。 しかし、それは無謀な特攻でしかない。 蹴散らされ、吹き飛ばされ、地面に転がされ、絶望と恐怖に呻くために走ってくる彼等のことが白井黒子は理解出来ない。 一方的で圧倒的な実力差を見せつけ、完膚無きまでに叩きのめして。 そしてようやく御坂美琴は気が付いた。 「…やられた」 悔しそうにポツリとそう呟く。 赤毛の少女がいない。 たった一つの目的を達成するために、10人以上もの少年少女たちがその身を呈して赤毛の少女を守りきったのだ。 悔しそうな、泣きそうな表情を浮かべた御坂美琴の横顔を遠くから見て。 静かに白井黒子が、己の信念を確認するように口を開いた。 「ごめんくださいね、お姉さま。 けれど、ここからが私の出番なのですの」 赤毛の少女が向かう先など、同じ移動系能力者である白井黒子ならば容易に想像がつく。 ゆっくりと立ち上がると制服のポケットの中から彼女の原点を取り出した。 風紀委員《ジャッジメント》の腕章を取り出して、腕につけ。 「貴方のバカな後輩は。 やっぱりどこまでいっても大バカ者で」 痛覚で悲鳴をあげる頭に無理やり演算を押しこんで。 「けれど貴方の元に帰るためにはやっぱり戦い抜くという選択肢以外頭に思い浮かびませんの」 向かう先は赤毛の少女。 戦場の一番奥深くから生還するために、“お姉様”の隣に立つために。 白井黒子の足が大地を蹴った。 ■とあるマンション 「とうまー! とうまー! さっさとこっちに来るんだよ!」 騒がしい食っちゃ寝の同居人の声に引きずられるようにして上条当麻が腑抜けた声をあげる。 「まったくいったいなんなんですかー?」 ふぁ~とアクビをしながらリビングに出た上条当麻に向かってインデックスが震える指でそれを指さした。 「ね、とうま? 私の記憶が確かならば… 猫っていうのはグニャグニャモフモフスリスリだよね?」 「…はぁ? あー…まぁ間違ってはいないだろうけどさ」 何を言い出すんだコイツは?と言いたげな上条当麻の顔を見て、ぷくりとインデックスが頬を膨らませる。 「あらあらどうしたんですかインデックスさん? リスのようにホッペタ膨らませて。 そんなのは食事中だけで充分ですよ?」 そうやって茶化して切り上げようとした上条当麻だったが、それは頭に噛み付かれたインデックスによって中断される。 「むー! 違うもん違うもん! いいからアレを見てってば!」 ガジガジと頭に噛み付いたままのインデックスをそのままにして(慣れ)、言われるがままにインデックスの言葉の先を追って。 「えええええええっ!?」 上条当麻は心底驚愕した。 なんとそこにはピシッと背筋を伸ばしたスフィンクス(三毛猫)の姿が! 「えっと…インデックスさん? 何かしちゃったんですか?」 常日頃ゴロゴログーグーモグモグと誰に似たのか好き勝手気ままに生きるスフィンクス。 それが軍人のように背筋を伸ばして玄関に向かい座っているのだから、そりゃ上条当麻も驚いた。 思わず頭の上にいる少女にそう尋ねてみるも。 「むぅ ひどいよとうま! 私は何もしてないんだからね!」 ガジガジと上条当麻の齧り付いたまま器用にインデックスが返事をする。 「って言ってもなぁ… …おーい?スフィンクスさん? …ごはんだぞー?」 「ごはん? ごはんなの? ね、とうま? ごはん?」 「あーもー黙らっしゃい! 嘘です! 試しに言ってみただけなんです! モヤシでいいなら冷蔵庫にたっぷりあるからかじってらっしゃい!」 普段ならばこのどこぞのシスターに似た食欲旺盛なスフィンクスは『ごはん』と聞けば何処にいてもすっ飛んでくるはずなのだ。 しかしスフィンクスはピクリとも動かない。 一体どうしたのかと不思議に上条当麻が不思議に思った時だった。 上条当麻は勿論、インデックスも知る由はないが、遠い地で誰かが昔こういった。 “動物に人格は通用しない。彼等は圧倒的な力の前にはただひれ伏すばかりである” その時。 来客を知らせるチャイムの音が上条当麻の部屋に鳴り響いた。 チャイムに答えるようにニャアンと鳴いたスフィンクスを珍しく思いながら上条当麻がドアを開けると。 そこには見覚えのある金髪紅眼の男とどう見ても小さい子供が立っていた。 それを見たスフィンクスが再びにゃおんと声をあげる。 「ほう、猫か。 出迎えご苦労」 まるで自分を待っていたように背筋を伸ばした子猫に向かって金髪紅眼の男が偉そうに声をかける。 「えーっと…いったいどちらさま?」 何だか全然意味が判らぬまま、とりあえずそう問いかける上条当麻の言葉を聞いて鷹揚に金髪紅眼の男はこう言った。 「うむ、俺だ」 「……いや、そういうのではなくてですね」 なんか面倒な事態に巻き込まれそうですよ、と上条当麻が内心嘆きはじめたころだった。 それを補佐するように可愛らしい顔をした子供が口を開く。 「えへへ☆ ボク達のこと覚えてない? 君ってコロッケの人だよね?」 勿論このような強烈な印象の男など忘れるはずもない。 まぁ、上条当麻は他にも随分と突飛な格好をしている人間と出会ってもいるが。 「いやそりゃ覚えてるけど…」 しかし何故この男達はわざわざ家にやってきたのだろう、と上条当麻が頭上にクエスチョンマークを浮かべそうなのを見て、金色の男が言葉を発した。 「なに、俺のほんの気まぐれだ。 俺に非がないとはいえあまりにも哀れに思ってだな」 「は、はぁ……」 ぶっ飛んだ思考回路に周回遅れで置き去りにされたような感覚を感じながら生返事を返す上条当麻。 と、金髪の男がゴソゴソと子供の背負った大きな籠のようなリュックから“ソレ”を取り出した。 「そら、受け取るがよい」 ズイ、と差し出されたのは桐の箱。 「え、えっと…これはまたどうも」 呆けた顔のまま思わずその箱を受け取る。 ズシリと重たい箱の中身など見当もつかなかったが、焼印で刻まれている文字を何となく読み上げてみた。 「えーっと… 本場直送…完全…天然…超高級松坂和牛…特撰肉…3キログラム…?」 普段の生活では悲しいことに全く全然目にすることの無いブルジョアな文字が並んでいるせいか、それを理解するのに1分程時間がかかり。 そして上条当麻はようやくそれらが意味することを、箱の中身がなんなのかに気が付いた。 「あ、あの? あののののののの…? これってもしや、もしかして、もしかすると!?」 震える声で三段活用をしつつも上条当麻がそう尋ねると金色の男は当然だと言わんばかりに頷いた。 「気にせんでいいぞ。 なに、それしきでは俺の度量などこれっぽっちも現せんだろうが、何せそれ以上の物が見つからなかったのでな」 まったくしょうがないものだ、と言わんばかりに苦笑する金色の男を見て。 上条当麻はまさに感涙にむせんでもおかしくないほどに感動していた。 (見たか…見たか神様仏様! 何が不幸だ! この王様っぽい人がついにこの上条さんに恵みの手を!!!) そう内心で喜びに震えている上条当麻にかかったのはインデックスの声。 「とうまー!!!」 だが、今そんな事に構ってはいられない。 「ちょっと黙ってらっしゃいインデックスさん! 今上条さんはあまりの感動でもう胸いっぱいなんです!」 しかし、インデックスも負けてはいない。 「何を言ってるのとーま! こっちの準備はもう万端なんだよ!」 「…はい?」 振り返れば、そこには座卓の上に焼肉用のプレートが用意してあった。 「なにをボヤボヤしてるのとーま! こうしている間にも刻一刻とお肉の旨味成分が空気中に散っていってるんだよ! そんなのお肉に対しての冒涜なんだよ!」 今にもお茶碗を箸で叩きそうな様子のインデックス。 そして。座卓の上には普段上条当麻とインデックスが使っているものとは別に。 何故か来客用の茶碗と箸が2つ用意されていた。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛 上条は下駄箱で靴を取り出して、外靴と履き替える。 中靴は泥まみれで、汚かったが外靴は買い換えたばかりなのでとても綺麗だ。 ジロジロと奇異と蔑みの視線を浴びて自分の教室へ向かう。 大罪人とは同じ無能力者でも嫌い、そして差別するものなのだと。 たった三人の大罪人の1人と同じ学校だなんて、怖いと思うのも当然だろう。 上条は少し溜息をついて、教室のドアを開ける。 外とは違い、教室の中では皆が上条に挨拶をし、そして話しかけてくる。 「おう上条!訊いたぜ、御坂美琴の専属黒服学生になったんだろ?いいなー」 「給料貰えるんでしょ?上条くんの奢りで焼肉行こうよ!」 「おい、やめとけよ。上条は自分の為に金使えよ?でさ、余裕できたらクラス全員で焼肉行こうぜ?……お前は全く……金遣い荒いんだよ」 「う、うるさいなぁ化粧品を買ってたら自然に無くなるんですぅ」 少女は舌をベーッという風に出して、少年を呆れさせた。 良かった、いつも通りのクラスだと心を撫で下ろす上条。 担任の月詠小萌が出席簿を持って現れ、台が置かれた教壇から目から上の部分だけを出して、背伸びをしながら黒板に何かを書いていく。 カッカッカッというチョークの音が静かな教室に木霊する。 生徒たちはいつもとは異なるユニークで楽しげなハズの担任の醸し出す雰囲気に固唾を呑みながら、その木霊するチョークの音に耳を傾けていた。 クルッと踵を返した小萌はニッコリと生徒たちへ微笑み、そして黒板に大きく書かれた文字を指さした。 「上条ちゃんの専属黒服学生就任祝いとして、今日はシトルセルク地域へ焼肉屋にパーティーなのです!もちろん、上条ちゃんは先生の奢りですよー?」 「……小萌先生はいつも唐突なんだから、さぁ皆!行ける人はこのボードに署名しなさい!自腹だけど」 「……僕は行くでカミやん!」 「俺も行くにゃ―!」 「俺も!」 「あたしも!」 とクラスの大半がその上条就任祝いパーティーに参加し、放課後シトルセルク地域でも有名な焼肉店へ向かった。 シトルセルク地域とは無能力者地域とコーラスフラン地域と隣接している商業的施設が多い地域であり、その焼肉店は1人1500円という安さで様々な サイドメニューも含めてオーダーバイキングとなっていた。 相当余裕の無い者以外は行けるだろう。 * 「ほう……?それで遅くなったと」 「すみません美琴様わたくしめも反省しておりますのでどうかお許しをォォォ!!!」 「許さん、黒子殺れ」 「わかりましたの」 黒子、と呼ばれたものは上条を片手で投げて、そしてコンクリートの壁に磔にされた。 数本の鉄矢が上条の制服を貫通しており、コンクリートに螺子の様に打ち込まれていた。 両足、両手の服が壁と縫い合わされていて、下手に身動きすると怪我をする可能性があった。 「くそっ、なんだこれ!?」 「わたくしの『空間移動』の能力ですの。これからどうぞよろしく、専属黒服学生様?」 「て、テメェ!こ、これどうに……って御坂さん!?どこに行くんですか!置いてきぼりにはしないでってそういうプレイなの?おーいおーい!」 上条はそれから二時間程外で時間厳守についての説明を嫌味ったらしく白井黒子に言い聞かされ、新人学生女中の佐天涙子に「うわぁ」とかなり引かれた 視線を向けられた上条だった。 そして早朝、学生女中の最低起床時間は5時30分であり、上条はその一時間前に起きて風呂場の掃除をしていた。 無駄に広い浴場を一時間かけて掃除し、そして学生女中達を起こし、白井黒子に言いつけられた調理師免許と理容師免許取得の為に30分だけ勉強するという 仕事をこなし、7時に御坂美琴を起こす。 そんな上条は昨日徹夜で縫った制服に腕を通し、誰もいない屋敷の鍵をしめて学校へ向かう。 「あれ、佐天さん。どうしたんだ」 「ああ、チーフ……。ちょっと転んで」 「それほど酷くないな。絆創膏……あったな。自分で貼れるか?」 「ありがとうございます」 昨晩、大雨が降ったのか地面はドロドロで、佐天のスカートは泥まみれになっていた。 上条は遅刻寸前だったが、何かを決意したというか思い立ったのか佐天の手を掴んで屋敷まで戻る。 「え?」 「さぁ、脱いで」 「へ?」 「だから、ドロドロだから洗うんだよ。少しっていうかかなり遅刻するけどいいだろ」 「ああ……じゃあ出てって下さい」 上条はポカーンと、口を大きく開いて「なんで?」と訊いた。 佐天は顔を真っ赤にして「見る気ですか!?」と叫んだ。そして学生鞄を上条の顎元にぶつけて脱衣所のドアをバン!と大きな音を立てて閉める。 いてて、と顎をさする上条は納得した様な表情を浮かべて脱衣所から聴こえてくる布がこすれる音を訊きながらその壁にもたれた。 「なぁ、悩み事でもあるのか」 「……どうしたんですかチーフ。急に」 「いや、今朝も思い悩んでただろ」 神妙な雰囲気になった屋敷。 佐天はふぅ、と一息おいてから上条にその心中を告白する。 「あのですね、実は罪人になったっていうのは嘘なんです。知り合いが大罪人になっちゃって。 それにあたしも関わってたんだけど、罪をかぶってくれて。 罪名は『国家反逆罪』ですよ?別に学園都市は国家でもなんでもないのに」 「……大罪人か。俺と同じだな」 「チーフも……大罪人?」 「ああ、有名な話だ。『第七学区内乱事件』で起こった『CTRR事件』。俺が起こしたんだ」 「史上最悪と言われてるアレですか。詳しい事は……解ってませんよね。アレってどういう事何ですか?」 佐天の問いには答えない。 着替え終わった佐天は少し暗い表情で脱衣所から出てくる。寝衣だ。 制服はすぐに洗濯機に入れて、急速に洗い始める。 佐天はコレ以上訊くのは少し失礼か、と考え違う話題を探していた。 彼女自身、『何故、御坂美琴の学生女中に志願したのかという問いは答えれない』訳なのだが。 「何か、喉乾いたな。お茶沸かすの忘れてたし……買ってくるわ!」 「はぁ、そうですか……」 上条は財布を持って、コンビニに向かう。 この時間帯だと自治団体に声をかけられそうだが……上条は大丈夫かと楽観的に見て走る。 その道中で、彼女を見た。御坂美琴。 しかし常盤台の生徒がこの時間帯にここに居るのだろうか?まだ9時過ぎとはいえ、この時間帯にはおかしい。 軍用ゴーグルを頭につけて、サブマシンガンを片手で持って辺りを見回していた。 「おい、御坂?」 「はい、なんでしょうか。とミサカは声をかけてきた見知らぬ少年に対し、警戒心を込めながら返事します」 「……御坂じゃ……無いのか」 「ミサカですが?」 「訳わかんねぇ、もしかして御坂の妹か何かか?」 「そうですね、といっても遺伝子レベルで同じですが」 「それにしても似てるなー、双子か?」 上条は舐め回す様に御坂の妹と言い張る少女を見る。 「おっと、もうこんな時間ですか。とミサカは時間に厳しい側面を見せながら目的地へ向かいます」 「?、何かするのか?」 「何って―――――廃棄処分ですよ」 意味が分からなかった。 しかしサブマシンガンを持ちながら、中央通りを徘徊するのはいかなるものか、と上条を呆れされる。 引きつった笑みを浮かべながら御坂妹を見送った上条はデジタル腕時計を見て焦りながら何も買わずに屋敷に戻る。 * 「た、ただいまーっ」 「遅かったですね、もう乾いたんで行きますよ?チーフはどうするんですか」 「俺はもう今から行くのも面倒くさいし、このままサボるわ」 「そうですか、じゃあ」 上条は佐天の居なくなった屋敷の個室のソファーにダイブした。 「アレ……マジ誰だったんだ」 第三話 『廃棄処分される人形達』 上条は、目を大きく開いていた。今日は休日だ。しかし佐天涙子は補修、御坂美琴はゲコ太というカエルキャラクターを買い集めるとかで居なくなり、白井黒子は能力開発についての講習があるらしく上条は1人だった。 「……散歩でも行くか」 散歩なんて、超貧乏時代なら出来なかっただろう。御坂様々だな、と感謝しながら靴をはいて外に出る。 眩いばかりの光がコンクリートを反射して目に入ってくる。 眉をひそめながら歩き出す。 休日とはいえ、忙しい学生も多いらしく上条は呑気な表情で眺めながら大きな欠伸をした。 ふと、上条は『違和感』というか懐かしい感じがし、後ろを振り向いた。 軍用ゴーグルを頭に装着している少女は誰だ。御坂美琴だった。昨日の少女か?と悩んだが御坂美琴にしか見えない。 まさか娯楽地域のヲタクタウンまで軍用ゴーグルを買って行っていたのか、と上条は裏路地に消える御坂をこそこそと追いかけていく。 しばらくし、御坂は学園都市でも『選ばれた』研究所の裏口に入っていき、上条もまたその裏口から追う。 「……誰ですか?」 「見つかったか……?」 息を潜める。ガチャッと何かの音がして革靴の音を木霊させながら近付いて行く。 突然、ババババババ!!!と銃声がすると上条の隠れていたコンテナに衝撃が走る。 キュッ、と方向転換した音を上条は聞き取ると御坂じゃない誰かのサブマシンガンを蹴り飛ばす、が。吹き飛ばされたサブマシンガンは磁力により御坂ではない誰かの手に戻る。 そして銃弾を装弾し、再び上条目掛けて引き金を引く。 上条は異能を持つ人間じゃない。到底、銃弾を避けるスキルも止めるスキルも、弾き返すスキルもない。 となると隠れて、好機を探すしか無い。 「嘘だろ!?」 上条の肩に跳弾がかする。 「計算しています、とミサカはネットワークを駆使しながらあなたを処理します」 「ネットワーク、どういうって!危ないな……」 「甘いですね、とミサカはあなたの行動を嘲笑します」 鋭い蹴りが上条の腹部に突き刺さり、地面に膝をついて倒れる。 見下ろす形になったが、少女は上条を踏みつけてサブマシンガンを頭部へ向けた。 引き金を引けばこの少年は簡単に死ぬことになる。 「お前がッ!甘い!」 上条は少女の足に護衛用に渡されていた軍用ナイフを突き刺し、痛みに支配された少女の苦痛の表情を見ながらも左腕で少女の右頬を殴り飛ばす。 ゴリッ、という鈍い音が骨から聴こえ、少女はコンテナに体を打ち付けた。 少女の頭から軍用ゴーグルを外して、上条は片目で除く。中は電子線や磁力の流れなどを確認するモノで上条の周囲からも微弱な電磁波が観測された。 上条は更に奥底へ進んでいく。大きな空洞に出て、鉄製の階段のカツン、という音が響き渡る。 軍用ナイフと殺傷力の低いフリントロック式のゴム弾を持っていたが、使う機会はまだありそうだと固唾の呑んで先へ進む。 機械音がどこかからきこえてくる。 それに合わせてグチャ、ガッ、グショッと妙な音が聴こえてきた。上条はそこから漂う血臭に吐き出しそうになった。 唐突に、銃弾が上条の肩を貫く。 「おいおい、なんで一般人がこんな所にいるんだよ」 「……だ、誰だ……ッ」 「俺か、俺は木原数多っていうここで『お給料』を貰ってるしがない科学者(サラリーマン)だよ」 * 「お前もあの中に入りたいのか?」 「……くっ」 「ああ、そうか。撃ったんだったな。血液不足だ、もうすぐ楽になれるぞ。あの中ではな、出来損ないの人形が廃棄処分されてる。 まずは毒ガスで殺し、大型のプレス機械で骨までグチャグチャにする。簡単だろ?本当はとある実験で使われるハズだったんだが」 「さ、さっき俺が。倒した奴は?」 「コンテナの周りで倒れてた奴か。10032号だった気がするわ、記念すべき10000体目の廃棄処分だ。来週には11000号まで処分する」 「……な、なんだそれは?アイツ、御坂に似てなかったか?」 「そりゃそうだろ、超電磁砲の体細胞で組み上げられた軍用クローンだ。だが、二年前の大規模予算修正で、軍用クローンは必要ないと判断されてな。 絶対能力者進化計画に使うつもりが、上の連中が決められた研究所しか使わないモンだから樹形図の設計図の使用許可は降りない。 アレが無かったら、どうしようもない。処分するしか道は無いな」 「クソ……ッ勝手なことしやがって」 上条の顔に血色は無かった。真っ青で今にも死にそうな。 肩からは血が垂れていて、致命傷では無いが放っておけば死んでしまう。 最後の力を振り絞って、ポケットからフリントロック式のゴム弾を取り出す。ある程度の衝撃を加えると電気が発生する仕組みだ。 しかし木原数多は動じない。白衣のポケットから拳銃を取り出して、上条の頭へ突きつける。 「フリントロックか、今時そんな珍しいモンがあるとはなァ」 「……木原数多、俺に協力しろ」 「……頭大丈夫か。お前、自分を撃った相手に協力を頼むなんてよ!!」 「お前は、この、現状に満足してない。違うか」 「大した洞察眼というか。仕方ねぇな、協力してやるよ幻想殺し(イマジンブレイカー)!」 互いに銃をしまう。上条は壁をつたってまずは病院へ向かおうとしていた。 木原数多はメモ帳に走り書きで書いたモノを上条に手渡し、手を振って未だ血生臭い廊下を歩いて行く。 上条は何度も意識を手放しそうになりながらも、一度訪れた事のある病院へ入っていく。 人は多く、上条の怪我を見ると人は絶句する。待ち時間はそれ程長くなかった。 上条は待合室でニヤニヤと笑う彼を睨みつけた。偶然か、二度と逢いたくなかった人物が目の前にいた。 「垣根帝督……」 「なんだ、前の様に帝督兄ちゃんって呼んでくれないのかよ」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛