約 3,574,466 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1959.html
「ある日」 この町に来てから三週間が過ぎた。 アタシがこの町に居られるのも、後一週間と少しだけ。 なのにすっかり当初の目的なんて頭の中から無くなり、アタシは今日も公園の木陰で彼等が来るのを待っている。 それにしても暑い。 木々の陰により和らいだ熱の下にありながらも、それでも暑いと感じるのだから日向に居る人たちにはさぞ暑いことだろう。 もう暑いじゃなくて、熱い。 温暖化も二十一世紀初頭に比べればその悪化具合もだいぶ緩やかになってはいるけど、それでもその傾向がマイナスに転じてはいない現在。亜熱帯と化した日本の夏はけっして住み良い環境ではない。 空気が流れた。 体にまとわり付いた汗が、その風に反応して体の熱をほんの少しだけ、奪い去る。 そしてその風と共に、待ち人がいつもの様に現れた。 「また、居たのか。案外お前も暇だねぇ?」 開口一番、憎まれ口を叩くこの男に、会いたくて堪らないのだと自覚したのはいつだったか? 「なんだか今日はどっかのお姫様みたいな格好だなっ!」 今まで自分とは遠くにある存在と思っていた小さな少女も、こんなにも愛おしく感じる。 「こんなに暑いと、スカートだってはきたくなるの。それに帽子だけじゃこの日差しは遮れないでしょ!」 今日のアタシのいでたちと言ったら、フリルのあしらわれた薄手の白いワンピースに白い日傘と、一体何時代だよ! って突っ込みを入れたくなるくらいの時代錯誤な格好だった。 正直照れくさい。 「あぁ~あ。口さえ開かなきゃ、深窓の御令嬢でも通じるのにな」 意地の悪い笑みで男は言う。 「ちょっとー。いくらアタシでも傷つくぞ」 「でもカワイイじゃんかー。ちょっと憧れだぜっ!」 「まて、お前がこんな格好したらそれこそ喋るな! って話になるぞ」 「おう! それはこの刹奈ちんがとってもカワイイって言ってるんだよなぁ?」 かわいい仕草をし、しかしその仕草を台無しにする口調でその小さな神姫は問う。 「だから色々台無しなんだよお前は」 深々とため息をつく夢絃を見て、アタシは思わず大きな声で笑ってしまった。 「……ここにも台無しが一人」 失礼だぞ! 「やっぱり今日もあの時みたいなのは起こらないね」 ヴァイオリンを弾き終えた夢絃にアタシは言った。 「あれって、結局なんだったんだろうなー」 アタシの方に跳ねて来た刹奈は、そう言うとアタシの肩に腰を下ろす。 「ね……ねぇ、体少し熱いけど大丈夫?」 刹奈の座ったアタシの肩が、少しだけ熱を感じる。 「だーいじょうぶなのさー。外気が熱いから、ちょこっとだけ廃熱がままならないだけ。今日も一生懸命踊ったもんなー」 そう言うと刹奈は花が咲くような笑みをアタシに向ける。そして小さな声で「アリガト」と言った。 「あぁ! もう! 刹奈ちんはかわいいなぁ」 もうホント抱きしめたい! ……肩に座っている神姫を抱きしめるのはムリだけど。 「……なんだかんだでお前も結構神姫好きになってきたよな」 ヴァイオリンを丁寧に片付けて、夢絃はそれとは別に持ってきていたリュックを開ける。 「これ、やるよ」 そう言ってそのリュックから取り出した箱を、アタシに差し出す。 「ちょっ……!」 どう見てもそれは武装神姫のパッケージで。 いくらアタシが神姫に疎いからといっても、これが高価なものである事くらい知っている。 ……親友であるセツナのおかげかもしれないけれど。 「こんなの受け取れる訳ないじゃん!」 勢いよく立ち上がってしまう。肩に座っていた刹奈が振り落とされまいとアタシの髪にしがみついた。 「ちょっ! 待てって。……夢絃! 話がいきなりすぎなんだって!!」 「あ? あぁ、確かにそうか」 「朔良もさ、とりあえず話だけでも聞いてよ。判断はそれからでも遅くないだろ?」 刹奈のその言葉に促される形で、アタシは静かにまた座っていたベンチに腰を下ろす。 「えっとな、実を言うとコレ、余りモンなんだ。でもさ、中古屋とかには売りたくねーし、ネットオークションなんて言語道断。だったら俺が気に入った、神姫が好きそうな奴に譲りたいって思ったんだよ」 「余り物って…… それでもこんな高価なもの貰えないよ」 アタシの覚え違いじゃなければ、神姫一体でPC一揃えが購入できるはず。そんな物を「貰えてラッキー♪」とか簡単に言えるほど無邪気じゃない。 「でも、俺はお前に……『朔良』に貰ってほしいんだ」 真剣な眼差しで、まっすぐにアタシを見て、そして初めてアタシの名前を呼んで―― そんなのズルイ。そんなことされたら、絶対に断れない。 「う、ん。……わかった」 熱くなる顔を隠すようにうなだれて見せる。 上手くごまかせたかな? そんなアタシの心配をよそに、夢絃はアタシに一歩近づく。 そして少しだけかがんで、アタシの傍らに神姫の箱を置いた。 「それならさ、明日駅前で会わないか? ここじゃセットアップ出来ないから、神姫センターにでも行こう」 「え? そんなに急がなくても……」 アタシはそう言って顔を夢絃に向けた。 その途端に―― 夢絃の唇で、アタシの口が塞がれる。 それは本当に僅かな瞬間で。 直に立ち上がった夢絃はくるりとアタシに背を向ける。 「明日十時に駅前の広場で。……遅れるなよ」 と言うと振り向きもせずにそのままリュックとヴァイオリンケースを持ち上げる。 「にししししー☆」 耳元で刹奈は笑うと、そのままアタシの肩から飛び降り、そのままの勢いで夢絃の元へ走る。 そんな二人をアタシはただ真っ赤になって見送る事しかできなかった。 そのアタシの手元には、MMS TYPE DEVILと書かれたパッケージが残されていた。 戻る / まえのはなし / つぎのはなし
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2354.html
キズナのキセキ ACT0-3「アイスドール」 ◆ 右の武装脚を踏み込み、ほんの少しだけ身体を宙に浮かせる。 間髪入れずに、背部の増設バーニアを噴射。 地を這うように滑空し、猛スピードで対戦相手に肉薄する。 「くそっ!」 小さなつぶやきと同時、対戦相手のジルダリア型のハンドガン「ポーレンホーミング」から、弾丸がばらまかれてくる。 それを錐揉みしながら回避、逆にこちらも機関銃を構え、撃った。 ジルダリアは防御の姿勢。 数発着弾。花びらを模した装甲に阻まれ、ダメージにはほど遠い。 だが、足は止まった。 間合いを取ろうとしていたピンクのジルダリア型は、その場で相手を待ち受けざるを得なくなった。 両腕にマウントされた剣「モルートブレイド」を構える。 そこに白亜の神姫が飛び込んできた。 背後から伸びるサブアームを前方でクロスし、そ のまま体当たりしてくる。 「くうっ!」 たまらず声を上げたのはジルダリア。 力任せの体当たりを防御するも、弾き飛ばされる。なんとか空中で姿勢を制御した。 背面に取り付けられたリング状の武装は、花びらを模した武装が取り付けられており、推進器の役割も持つ。 その「フローラル・リング」はジルダリアの代名詞とも言える武装だ。 姿勢を取り戻したジルダリア型だったが、しかしこのタイミングは、迫る白亜の神姫にとって得意のパターン。 さらに踏み込んできた白い神姫は、サブアームを振り抜いた。 鋭い指を揃え、突いてくる。 この抜き手は狙いを外さない。 反射的に身をよじったジルダリアの身体をかすめ、背後のフローラルリングを打ち砕いた。 「しまった……!」 ジルダリア型の驚きを気にも留めず、白い神姫は間髪入れずに、逆の副腕で抜き手を放つ。 狙いは胸部。その奥のCSC。 あやまたず放たれた抜き手は、無慈悲にもジルダリア型の胸を貫いていた。 勝利したのは、白いストラーフ型。 その名を、ジャッジAIが画面に表示する。 『WINNER ミスティ』 ◆ 「いやー、まいったまいった」 頭を掻きながら筐体から離れた男が言う。 先ほどの、紅とピンク色にリペイントされたジルダリア型のマスター・花村耕太郎である。 彼の神姫・ローズマリーも、今は彼の肩の上でうなだれていた。 「今日はいいところまで行ったのに……」 ここのところ、ミスティとの対戦は連敗である。彼女は急速に力を付けてきていた。 「強くなったなぁ、久住ちゃん」 「いえ……わたしなんてまだまだ……」 セミロングの髪を上げ、花村を見る少女は、まだ中学生である。 控えめな口調で謙虚な言葉を口にする。 『七星』の一人を破ったというのに、久住菜々子は笑わない。むしろ、せっぱ詰まっている様子さえ見て取れる。 実際、菜々子はこの対戦に満足してはいなかった。 ローズマリーはノーマルのジルダリア型だ。各部の調整と細かなメンテナンスでポテンシャルを引き出し、知略戦略で戦う。 そのバトルスタイルについては、菜々子は大いに花村を認め、参考にもしていた。 菜々子はまだ中学生で、ミスティを満足にカスタムしてあげられない。わずかに、強襲用の背面ブースターを追加したのみだ。 だから、ノーマルでも強い花村は、今菜々子が目指すべき神姫マスターと言える。 だが、実力があるかどうかは話が別だ。 花村も『七星』の一人ではあるが、まだ二つ名もなく、他のメンバーに比べると実力は劣っている。 カスタムを施された神姫たちがひしめく、他の『七星』たちに勝つためには、現状で満足しているわけには行かない。 もちろん、この時の菜々子は、後に花村たちが『薔薇の刺』の異名を取るなどとは知る由もなかった。 とにかく、菜々子はバトルロンドで強くなることに必死だった。 それには理由がある。 「菜々子、絶好調じゃない」 「あおいお姉さま」 菜々子はそこでようやく、ほっとしたように微笑んだ。 『七星』一人・桐島あおい。 彼女の側に居続けるために。 彼女のパートナーであり続けるために。 菜々子はどうしても強くならなければならなかった。 ◆ 久住菜々子が想像していた以上に、『ポーラスター』における桐島あおいの人気は絶大なものだった。 ゲームセンター『ポーラスター』の神姫マスターの間で、『七星』のメンバーであれば、それだけで羨望の的だ。 彼らは『ポーラスター』に集う神姫マスターの代表である。バトルの実力ももちろんだが、それぞれのやり方で『ポーラスター』の対戦レベルの向上を図っている。 たとえば花村は、ノーマルあるいは公式装備にこだわるマスターたちのまとめ役である。彼を中心に研究グループができ、日夜ノーマル装備の可能性を探っている、という具合だ。 桐島あおいは、バトル初心者を見つけては声をかけ、バトルの講習を行い、対戦の面白さを知ってもらう活動を行っている。 そして、ゲームセンターへの定着をはかり、仲間を増やしていこう、という魂胆だ。 菜々子はあおいの魂胆にまんまとはまってしまったわけだ。 だが、その魂胆にはまったのは菜々子一人だけではない。まだ初級者に分類されるマスターたちの半分以上が、あおいの受講生だと言うから驚きである。 楽しく優しくレクチャーしてくれるあおい先生が、人気がないはずがない。 受講生たちはほとんどが桐島あおいのファンだ。特に女の子たちは、あおいの取り巻きとなっている。 もちろん、彼女の人気は女子だけに留まらない。 あの美貌、あの気立てのよさ、である。あおいとお近付きになりたいと思う男性マスターは大勢いた。 そんなわけだから、ゲーセンにいるときのあおいは、常に人に囲まれていると言っても過言ではない。 つい先日まで、あおいがその輪から離れることはなかった。 そう、久住菜々子と出会うまでは。 菜々子が『ポーラスター』に現れて以来、あおいは菜々子との時間を優先するようになった。 対戦していないときは、もっぱら菜々子の側にいる。 バトルロンドでは、ツー・オン・ツーのタッグバトルでコンビを組んでくれるし、対戦を希望すれば必ず相手をしてくれる。私的な練習にも、まめに付き合ってくれる。 しかも、タッグバトルのパートナーは、『七星』のメンバー以外では、菜々子とだけしか組まなくなった。 菜々子をひいきする理由をあおいに問いただしても、笑ってはぐらかされる。 当然、あおいの取り巻きをしている少女たちは面白くない。 彼女たちの矛先は、自然、菜々子に向けられた。 菜々子に対する「特別扱い」をやっかむ陰口は毎日のことだった。 また、ことあるごとに……いや、何もなくても、あおいの取り巻きたちは菜々子にしょっちゅう難癖を付ける。直接不満をぶつけに来る。 「いい気にならないで! あおいお姉さまはあなたのものじゃないのよ!?」 「……あなたたちのものでもないでしょう」 「みんなのものよ!」 「……お姉さまは、お姉さまのものだと思うけど」 「まあっ、生意気に言い返すつもり!? だいたい、あんたなんか、お姉さまのタッグパートナーに不釣り合いなのよ!」 「じゃあ、誰だったら、お姉さまと釣り合うの?」 そう言われると、取り巻きたちは声を詰まらせざるを得ない。 『七星』や上級者の常連ならともかく、初級者に毛が生えた程度の取り巻きマスターたちでは、タッグマッチでルミナスの足を引っ張るのがオチだ。 そう言う意味では、今一番の成長株と目される菜々子は、あおいのパートナー候補になりうる。 また、それなりの美貌がなければ、あの桐島あおいの隣に並んでも見劣りしてしまう。 本人が考えたことはないが、その点でも、菜々子は及第点をクリアしていると言えよう。 だからといって、やっかみの声が静まることはない。 菜々子は表立って反論するようなことはしない。そんなことをすれば、火に油を注ぐだけだとわかっている。 では、どうするか。 実力で黙らせる。 バトルの実力で、お姉さまの側にいるのにふさわしいことを証明してみせる。 『七星』なれるほど強くなれば、きっと誰もが、自分をあおいお姉さまのパートナーとして認めざるを得ないだろう。 だから、菜々子は最短距離で強くなろうとした。 その結果、彼女のバトルスタイルは、相手の弱点を容赦なく突き、勝ちばかりを求めるものになっていた。 だが、そんな菜々子のスタイルに、当のあおいお姉さまは難色を示す。 あおいが菜々子に求めるバトルスタイルは、勝ちばかりを意識したものではない。 それは「魅せる戦い」だとあおいは言う。 しかし、菜々子にはその意味が、よく分からない。 ◆ 「久住ちゃんも強くなったよな。そう思わないか、お姉さま?」 あおいと花村は並んで、観戦用の大型ディスプレイを見上げていた。 ディスプレイには、ミスティの戦いぶりが映し出されている。 現在、三連勝の表示。 「……まだまだね」 「手厳しいな。君の妹分だってのに」 「自分の身内に対しては、容赦しない主義なの」 「それは久住ちゃんがかわいそうだ……また勝つぜ」 その言葉とほぼ同時、ミスティは必殺の抜き手を放ち、相手神姫を撃破した。 連勝表示が一つ増え、四を示す。 「ほら。もう、常連の中でも頭一つ抜きんでてる感じだ。相手になるのは『七星』ぐらいじゃないか?」 「そうかもね」 「……だから、みんなに提案がある。俺は久住ちゃんを『七星』に推薦したい」 「え?」 あおいは花村を見た。 そして、その場にいた、『ポーラスター』の『七星』のメンバーたちも。 その時点での『七星』のメンバーは、花村とあおいを含めて六人だった。 「今日、招集をかけたのはそれか、花村」 「そうだよ」 武士型のマスターである『七星』メンバーの言葉に、花村は頷いた。 『七星』のメンバーに加入できるか否かは、メンバーの合議によって決まる。 といっても、堅苦しいものではない。誰かが推薦して、「いいんじゃない?」といった感じで決まることがほとんどだ。 「『七星』は今六人。久住ちゃんが加われば、人数的にもちょうどいい。 それに、彼女の向上心は、他のプレイヤーたちにもいい刺激になるんじゃないかな」 「なるほど」 「確かに」 「異議なし」 他のメンバーも、花村の意見に頷いている。 確かに、最近の菜々子とミスティの成長には、目を見張るものがある。 あおいの取り巻きたちと比べても、あきらかに一線を画した実力だ。あおいのパートナーを目指すマスターは他にもいるが、実力的にも相性的にも、菜々子に匹敵する者はいない。 他の『七星』に比べれば、まだ見劣りする実力も、すぐに追いつくだろう。 そして、菜々子自身、『七星』になることを望んでいる。 反対する理由は何もないように思えた。 だが。 「わたしは反対」 そう言ったのが、当のあおいであることに、花村は驚きを隠せない。 「どうして? 桐島ちゃんが一番喜んで賛成すると思っていたのに」 「まだ早いわ」 「そうは思わない。彼女は十分に強いじゃないか」 「確かに強くなった……でも、足りないものがあるのよ」 「足りないもの……?」 「あの子はまだ、勝ち負けしか見えていない。強いだけじゃ、ダメなの」 ミッションモードで乱入待ちをしている菜々子を見る。 バトル中の彼女は、いつも真剣な表情でディスプレイを見つめている。何か思い詰めたような様子さえある。 あおいは小さくため息をつき、菜々子の向かい側へと歩み寄る。 「菜々子」 「お姉さま」 「次、対戦、いい?」 「どうぞ……真剣勝負でお願いします」 「わかったわ」 あおいは鮮やかな笑みを見せて、向かいのシートに座った。 肩にいる自分の神姫を、アクセスポッドに寄せる。 「行くわよ、ルミナス」 「はい、マスター」 その後、ものの三分とかからず、ルミナスはミスティを撃破した。 菜々子はいまだに、本気のあおいに一度も勝てなかった。 ◆ 「だから、ただ勝てばいいってものじゃないのよ。もっと楽しまないと」 「それがよくわかりません。勝つこと、イコール、楽しいことじゃないんですか?」 「勝つだけが、バトルロンドの目的じゃないわ」 対戦後、自動販売機のあるコーナーで、冷たい飲み物に口を付けながら、二人は話していた。 幾度となくかわされた会話であるが、お互いの意見は平行線である。 あおいは、武装神姫のバトルには、勝敗以上の何かがあると思っている。 その「何か」を説明するのがなかなか難しい。 たとえば、自分の力を出し切ったときの充足感とか、自分の戦術が見事に当たった瞬間の気分とか、自分と神姫がまるで以心伝心のように意志を伝えあったときとか、自分の成長を感じられたときの嬉しさとか、そういったものだ。 それを感じることこそ、武装神姫の醍醐味、とあおいは思っている。勝利はその延長上にあるものにすぎない。 それを菜々子にも分かってもらいたい。 だが、我が妹は、そのことをなかなか分かってくれない。彼女は勝利を第一優先にしている。 対戦において勝利第一主義が悪なわけではない。ただ、あおいの主義と合わないだけだ。 だからこそ、菜々子の説得が難しい。 あおいはため息をついた。 「だから『アイスドール』なんてあだ名されるのよ」 「アイスドール?」 「あなたの異名。氷のように表情を変えずに、容赦なく弱点を攻撃する。まるで感情のない人形のように。だから『アイスドール』」 二つ名は、尊敬の意味を込めてつけられる場合が多い。 だが、菜々子のそれは、皮肉が込められている。そんな戦い方で楽しいのか、と。 また、ゲーセンでの菜々子は、あおいの側以外では、あまり表情を変えない。それは先日の悲しい出来事に起因しているのだが、知らない人の方が多いのだ。『アイスドール』の二つ名は、そんな普段の様子も揶揄されている。 しかし、菜々子はのんきにコメントした。 「へえ……ちょっとかっこいい、ですね」 そう言って小首を傾げた菜々子はとても可愛い。 あおいはがっくりと肩を落とした。我が妹は、二つ名の裏の意味にまったく気がついていないようだ。 あおいは頭に手を当てて、悩む。 どうすれば菜々子に、自分の考えを分かってもらえるのだろう? ◆ マスターたちの悩みをよそに、ミスティとルミナスはのんきに話をしている。 神姫である彼女たちも、マスター同様、すこぶる仲がよい。 お互いのマスターの肩の上で、マスターたちの話の邪魔をしないように、極長調波の音声で会話をしていた。 「まあ、わたしは『アイスドール』のままでもいいんですけどね。勝てているし」 「そうねぇ。わたしたちと肩を並べるために、まずは勝ちに行くっていう菜々子さんの考えも一理あるわよねぇ」 ルミナスはアーンヴァル型のカスタムタイプである。 本来、アーンヴァルは長距離射撃を得意としているが、マスターであるあおいの趣味で、中距離から近接格闘戦ができるような装備にカスタムされた。 背面の大型ブースターを、小回りの利くバーニアに変更。武装も、ロングレンジライフルを廃し、中距離向けのビームライフルなどに変えている。 コンセプトは最近発表されたアーンヴァルmk2に近い。 ルミナスの戦い方は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を実現したようなスタイルだ。 最高速度の加速を捨て、機動力重視の推進を手にしたルミナスは、あおいの指示のもと、飛行機のアクロバットさながらの機動を見せる。 そして、急加速による接敵からの近距離戦に移行する動きは鋭い。 こうした機動を緩急つけて行うことで、ルミナスはあたかも空中で舞っているように見えるのだ。 その空中の舞を駆使した戦いぶりは、美しく、そして強い。 あおいとルミナスは、その戦い方から、『月光の舞い手(ムーンライト・シルフィー)』と呼ばれていた。 「わたしたちの戦いぶりと比べると、あおいさんとルミナスの戦い方は真逆ですけど」 「だからこそ、タッグバトルで噛み合うってのはあるわよね」 「わたしもそう思います……あおいさんは、何が気に入らないんでしょう?」 「ミスティに、わたしたちと同じような戦い方をして欲しいんじゃないかな」 「それは無理でしょう……うちのマスターの性格からして」 二人の神姫は、人には聞こえない声で、笑った。 ◆ 「今の、ルミナスとミスティのタッグは、こんな感じね」 あおいは、ルミナスを示す右の指をくるくると回して螺旋を描き、その螺旋の中心を貫くように、ミスティを示す左の指を一直線に動かした。 「コイル……ですか?」 「え? ああ……そうね、電磁石みたいね」 「勝ちがいくらでもくっついてきそうです」 我ながら、つまらないジョーク。 でも、電磁石で何の問題があるのかわからない。 華麗に舞うルミナスと、容赦なく敵を倒すミスティ。 そのミスマッチこそ、このペアの強さだとも思う。 だが、あおいはまた両手の人差し指を動かした。 「わたしが望むタッグバトルは、こんな感じ」 両手の指が、今度は互い違いの螺旋を描く。時に近づき、時に離れ、模様のような立体図形が宙に描き出された。 「二重螺旋……?」 「ああ、なるほど……遺伝子に似ているわね。 そう、二人が一緒に魅せる戦いをすれば、試合はきっと、勝ち以上のものに進化するでしょうね」 そう言って、あおいはにっこりと笑った。 「息のあったパートナー同士のタッグバトルは、すごいわよ? それはバトルなのに、まるでダンスを踊っているように見える……とても美しいの」 「……美しい?」 「そうよ」 自信たっぷりに頷いたあおいに、菜々子は首を傾げる。 菜々子は、そんなバトルをしたことがなかったし、名勝負と語り継がれるような試合を見たこともなかった。 戦闘行動は、その時どきの状況によって刻々と変化する。 それなのに、パートナーと息を合わせて戦うなんて、できるだろうか。 もちろん、菜々子とあおいのコンビは、ここ『ポーラスター』でもトップクラスの実力である。バトルの時のルミナスとミスティは息が合っていると思う。 これ以上、何が足りないというのだろうか。 「きっと、菜々子の戦い方には、個性が足りないんだと思う」 「個性?」 「そう。ミスティは、ストラーフ型の戦い方としてはすごく真っ当だけど、それは誰もがどこかで見たことのあるストラーフに過ぎないわ。サプライズが何もない」 「……でも、わたしは、お姉さまのように華麗な動きを指示できません」 困ったように言う菜々子に、あおいは苦笑した。 「わたしの真似をする必要はないわ。まずは、あなたらしい戦い方を模索してご覧なさい」 「わたしらしい……戦い方……」 それこそが今の戦い方なのではないかと思うが、違うのだろうか。 おそらく違うのだろう。ステレオタイプなストラーフの戦い方は、誰にでもできる、ということなのだ。 だけど、菜々子らしい戦い方、というのは、なんなのだろう? 「それができるようになったら、菜々子を『七星』に推薦するわ」 「えっ……」 「どう? もう少し頑張ってみる?」 「はい!」 微笑むお姉さまに、元気に返事をした。 他でもないお姉さまが『七星』に推薦してくれるというのだ。 そうなれば、誰に恥じることなく、あおいお姉さまのパートナーと名乗ることができる。 菜々子は俄然やる気になった。 その日から、菜々子とミスティの、オリジナルな戦い方を模索する日々が始まった。 □ 「ひとつ疑問があるんですが……」 「何かな?」 「桐島あおいは、なんで久住さんにこだわったんでしょう?」 ここまでの話を聞いて、俺が一番気になったのはそこだった。 ただ仲がいい、とか、お気に入り、と言うレベルを超えている気がする。 長い付き合いの他の常連たちを差し置いても、菜々子さんを特別にかわいがる理由が、何かあるのではないか。 花村さんは、少し考えてから、言った。 「……たぶん、桐島ちゃんは、久住ちゃんに自分を重ねていたんじゃないかな」 「……?」 「桐島ちゃんも、幼い頃に両親を亡くして……祖父母の元で暮らしてるって聞いたことがある。 あの頃の、打ちひしがれた久住ちゃんを見て、桐島ちゃんは放っておけなかったんだと思うよ」 なるほど、と俺は頷いた。 桐島あおいは、自らの境遇を菜々子さんに重ねていた。だからこそ、献身的に菜々子さんを支えていた。 菜々子さんも、桐島あおいの事情をいつか知ることになったのだろう。 武装神姫だけでなく、身の上でも、二人は共通の思いを抱いていたのだ。 二人が急速に惹かれ合い、寄り添ったのにも納得がいく。 それにしても。 花村さんが話してくれる菜々子さんの過去は、実に興味深い。 『ポーラスター』で過ごした菜々子さんの様子は、今の『エトランゼ』の戦闘スタイルが形作られていく過程だ。 スタンダードなストラーフ型のバトルが、いかにしてあのトリッキーかつパワフルなミスティのバトルへと変化するのか? 俺は期待を込めつつ、花村さんの声にまた耳を傾けた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/421.html
前へ 先頭ページへ 次へ 参加手続および第一次作戦会議 2036年*月*日1144時 ホビーショップエルゴ二階 入り口をくぐったときから妙な熱気が漂っているとマスター達は感じていたが、二階への階段を上がりきらないうちにその熱気の発生源を見つけて、思わず気圧されそうになった。 エルゴの二階はもともと武装神姫バトルスペース専門で、仕切りなどなく全体がひとつの空間である。イベント当日の今日は本来の筺体は脇にどけられ、一方の壁には二十台の特設コンソールルームが並び、さらにその上の壁にはギャラリーのための巨大なペーパーディスプレイが張られている。ゆうべほとんど徹夜でマスターたちが設営したものだから、コンソールルームの手前は広い空間があるはずだった。 その空間を、人が占めていた。数百人のギャラリーが、ほとんどすし詰めになっているのである。もちろんちゃんと椅子も用意してはいたのだが、まったく足らず、半分以上が立ち見であった。 純粋に史上初の大規模バーチャルバトルを楽しみに来た者、他企業の偵察としてきているようなピチッとしたスーツを着込んだ者、抽選にもれたため参加者に託して応援しに来た者、様々であるが、たぶん神姫のことをまったく知らない人々もいるだろう。これほどまでに話題性のあるイベントなのだとあらためて知って、マスターとケンは心が躍った。 「これは、凄いな」 「で、オレたちゃどこ行きゃアいいんだ?」 ケンがきょろきょろと見回す。なにしろすし詰めであるから道が無いのである。 と、彼らから見て一番奥、つまりもっとも窓側に近いところで声が上がった。 『大会参加者は窓側の集合場所に集まってください』 エルゴ店長、夏彦の声であった。 二人はそれぞれ所定の場所(コートの胸ポケットとニット帽の中)にいる自分の神姫を振り落とされたり押しつぶされたりされないよう気をつけつつ群集をかき分けかき分け、そちらへ向かった。階段が店舗の一番奥にあることを少し呪った。ケンの風体におののいて自ら道をあける人が多かったことに、マスターは少し複雑な気持ちになる。 集合場所はギャラリー席とは分割されていて余裕があった。もう参加者全員が集まっていた。マスターとケンを入れてちょうど二十人である。 「やあ、すまない。大変なギャラリーだな」 「こんなに集まるなんて思ってもみませんでしたよ。兎羽子さんと澟奈さんが列整理に行ってくれたんですけど、行ったっきり戻ってきません」 「大丈夫なのか」 「ご心配なく。ああ見えて頑丈ですから」 「頑丈?」 妙な形容をするなとマスターは思った。 「あ、いや、何でもないです。さて、時間も押してますし、最終登録してルームに行きましょう」 最終登録は本人確認と神姫の装備確認である。装備確認はあらかじめ郵送されてあるエントリーシートに構成を書き込んでおき、ショップのイベント管理担当(多くはそのショップの店長が行う)に渡すのである。その後、コンソールにて最終審査に入る。ここで弾かれればもちろん参加不可能であるが、イベント主催側にも事前に予定装備を電信し許可されてあるから弾かれることはまず無い。 イベントの癖にずいぶん参加手続きが面倒だなと思う読者もいるだろうが、しかし実際にランクポイントや褒賞パーツが授与されるのであればその扱いは通常のオフィシャルバトルと同等なのである。 マスターはこの時になっても、参加資格にあった「一部自由」がどこまで自由なのか気になっていた。そもそもほとんどオフィシャルバトルに参加していないどころか裏バトルの常連であるケンが参加できたというのが、マスターをいっそう混乱させた。 「ケン」 「あ?」 「お前、シエンにどんな装備をさせたんだ?」 「そいつぁ・・・・・・」 少し考えるふりをして、ケンはにやりと笑った。口元のピアスがきらりと反射した。 「見てのお楽しみだ」 そう言い残して最終登録に向かって行ってしまった。 「あなたが公式武装主義者(ノーマリズマー)ね」 年季の入った声をかけられ、マスターは振り返った。 小柄でスレンダーな老婦人が立っていた。 銀色の長い髪を後ろで結んだその顔は、「苦労して勝ち取った」であろう皺が刻まれている。パリッとしたワイシャツの上に黒いベストを着ている。下はスカートではなく、フォーマルパンツである。豪奢さをひけらかさず、きつく内に秘めたまさしく老練な人物が感ぜられた。どこか大きなカジノの名ディーラーといった雰囲気だった。 適度に化粧の施された顔の、瞳の色は青い。日本人ではない。 「あなたは?」 めったに言われることの無いほど知名度の低いその名前を呼ばれて、マスターはややうろたえた。 「ごめんなさい。私はバセット・スキルト。ファーストランカーをやらせてもらってるわ。こっちは・・・・・・」 と言って胸元から神姫を取り出した。優雅さのにじみ出る仕草だった。 「はじめまして、忍者型MMSフブキの『シヅ』です」 バセットの手のひらで、シヅと名乗ったその神姫は深々とお辞儀をした。マスターは慌ててポケットからマイティを引っ張り出して挨拶させた。首根っこを掴まれたマイティは金色のボブヘアーを振って不機嫌そうにしながらも、三つ指ぞろえでこうべをたれるシヅを前にして慇懃に応じた。普段そんな礼儀正しいことことなどやっていないから、マイティの動きはぎこちなかった。後で礼儀を教えてやらねばいけない。 「この子があのマイティちゃんね。可愛い子だわ」 微笑を浮かべるバセットの後ろで、他の参加者達がなにやらざわざわと沸いていた。どうやらこの老婦人のことを話しているらしかった。それほど有名な人物なのだろうか。一人を除いてファーストランカーのことなどまったく知らないマスターは、少し申し訳ない気持ちになった。 「ファーストランカーの方が、どうして私たちを知ってるんですか?」 マスターが質問しにくくなっているところへ、率直な疑問をマイティはぶつけた。 バセットはいやな顔ひとつせず答えてくれた。 「私たちも、あなた達と同じように公式装備しか使っていないからよ」 これにはマスターが驚嘆した。 ファーストリーグで公式装備を使っている。当たり前のように響くその言葉だが、ファーストリーグを少しでも知っているオーナーならばその意味がどんなに過酷な限定条件であるかすぐに分かる。 あの鶴畑、は極端な例だが、そうでなくても勝つために手段を選ばないのは至極当然としてまかり通っている所である。違法すれすれのあらゆる装備を万全に使いこなすのが実力、もちろん運も実力のうちで、その運を思い通りに操作するのも実力。裏で八百長をやっているのはさすがに鶴畑の次男坊と長女くらいなものだが、それを抜きにしたところで、ただのオーナーが飛び込んでいってまともに戦える世界ではない。 そこで公式装備のみを用いて戦ってゆくというのは、正直「自虐」といっても良いくらいであった。 マスターは質問しにくい空気を無理に切り裂いて、一番訊きたいことを訊いた。 「ミズ・バセット。失礼ですが、ランクは?」 「72位よ」 自慢する風はまったく無かった。ただ事実のみを告げるように言って、事実、そうだった。 ファーストでトップ100位以内に入っていることが告げるのは、彼女のノーマリズムは自虐ではなく、れっきとした実力であるという証であった。 このときマスターの中には、あの片輪の悪魔へのリベンジとは別に、ファーストへ向かう動機がもう一つ生まれた。だが今の彼はまだそれに気が付いていない。 「ほら、あなたの番よ」 バセットに言われて、マスターははっと我に返った。気がどこかに飛んでいた。背中の方で店長が呼んでいた。 「失礼」 あわただしく手続きに向かおうとして、マスターは一度振り返って、 「あなたと共に戦えて光栄です。ミズ・バセット。たとえ敵でも味方でも」 この先仲間になるかどうかは分からない。チーム分けは完全にコンピュータ任せのランダムなのだ。 「ミセス、よ。夫はもう天に召されてしまったけれど」 何の屈託も見せずにバセットは言った。マスターは一瞬どう返してよいか迷ったが、 「頑張りましょうね」 その言葉に深々と礼をした。 手続きを済ませ、割り当てられたコンソールルームへ向かおうとすると、 「あーっ、マイティちゃんなのーっ」 丸っこい声が斜め後ろからぶつかった。 びっくりして振り向くと、そこには見覚えのあるマオチャオと、長いポニーテールの少女。 「ねここちゃん!?」 マイティも目を見張った。が、飛びかかられるところまでは回避できなかったようである。気が付けばすでにマスターの腕の上でマイティはねここに抱きつかれていた。 「また会えたの、感激~っ」 「ちょっと待って落ち着いて。あっ、だめ、そんなとこさすらないで、あっ、揉んじゃだめえぅっ」 本物のネコばりにじゃれ付くものだから、もうマスターの腕の上は喧々である。時折妙につややかな叫びが上がるのは気のせいにしておく。 「風見美砂さんか。君もこの大会に?」 腕の上は完全に放っておいて、マスターはこの猫の飼い主に挨拶した。 「ええ、ねここが『どうしても飛びたい』って言って聞かないものですから。まさか受かっちゃうなんて」 「空対空戦闘の経験は」 「正直、まだちょっと不安なんです。マイティちゃんがいてくれれば心強いんですけれど」 「同じチームになれることを祈っているよ」 「はいっ」 まだごろごろと懐いているねここを引き剥がさせて、マスターは別れた。美砂の肩でハウリンがものすごい形相でこちらを睨みつけていたのはわざと無視した。シエンでもあんな顔はしないな。 彼らが割り当てられたルームは十一番。一番真ん中、ディスプレイの真下である。 ルームは移動式の個室であった。ドアを閉めるとギャラリーのざわざわした喧騒がふっと消えた。耳を澄ませばかすかに聞こえる程度だが、気にはならない。かなりの防音機能である。床は絨毯で、一角に見慣れたバーチャルバトルコンソール一式が置かれ、一時間腰を据えて挑めるようリクライニングシートが設けられている。設営のときから感じていたが、かなり金のかかった設備である。意外に閉塞感が無いと思ったら、天井が透明なアクリル張り。見上げれば巨大なペーパーディスプレイが一面に広がっている。店長の計らいで小型の冷蔵庫まで設置され、その中には清涼飲料水が何本かストックされていた。 ここで七時間半戦うのである。ラウンド中にやられても、次のラウンドには参加できるルールである。もし撃墜されたとしてもその間はただ待っているつもりは無かった。そういう時間こそ有効に使うべきだとマスターは考えた。 だが、肝心のルールの詳細がまだ分からない。負けた後に戦いを観戦できるのかどうかも。まあここで見られなくなっても、見上げればドでかいディスプレイである。情報収集に困ることは無いだろう。 十二時までまだ数分あった。コンソールを起動し、コネクティングポッドにマイティを座らせ、メインボード、サイドボードのそれぞれにあらかじめ申請していた武装を設置してゆく。サイドボードにはさらにオフィシャルのマークが入った紙箱を入れた。中には何かがぎっしり詰め込まれているようだった。ボードの窓を閉める。 これで時間が来たら即座にアクセスできる。他にやることもなくなったので冷蔵庫を開けようとすると、コンソールのテーブルの上に一枚の白いビニールパックが置いてあるのを見つけた。 手にとって見ると、中にカードが入っているようだった。パックの表面には赤文字で大きく「許可されるまで開封しないでください」との注意書きがある。コンソールの脇には増設されたカードスロットもあった。何か特別なことをするのだろう。考えるのは開けてからで良い。 パックを傍らに置いて、時間を待った。冷蔵庫の中身は全部スポーツドリンクだった。いま季節は冬だが、空調が利いているとはいえルーム内は余計に熱を持つだろう。この選択は賢い。 一口飲んでいるところで時間が来た。マイティを寝かせ、激励の言葉をかけ、ハッチクローズ。 アクセス開始。 ◆ ◆ ◆ BGM Operation(エースコンバット04・オリジナルサウンドトラックより) 1200時 114サーバー・ブリーフィングルーム(VR空間) ブリーフィングルームはまるで宴会場だった。マイティはその騒がしさに圧倒されて、まるでどこか知らない土地に放り出されたような気持ちになった。 神姫スケールに縮小された大部屋だった。くぐもった轟音がひっきりなしに響いてくるので、ここはどこかの航空機の中なのかもしれないとマイティは叫びだしたくなる衝動を抑えて冷静に分析した。ずいぶん凝ったVR構築である。 全ての神姫が素体状態で騒ぎ合っている。カスタムタイプの神姫はひどく目立っていた。が、マイティを含むほとんどの神姫たちは姿かたちだけでは誰が誰だか判別できないから、オンラインゲームよろしく頭の上に名前が浮かんでいる。マイティは不安に耐え切れずに頭上の名前たちを見渡した。まるで自分が人間になったような雰囲気だった。自分のを含むオーナー達の姿が見えないのも不思議な感覚を覚えさせた。 見覚えのある名前は見つけられなかった。いよいよわめき出しそうになるところへ、まさにタイミングよく真後ろから抱きつかれた。 「ぃひゃああーっ!?」 素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。水を打ったように喧騒が静まって、周囲の神姫たち全員の視線がマイティに注がれる。二百体以上はいる。マイティという名前のアーンヴァルは一躍みんなの知るところとなった。 「ごろごろ」 後ろから抱きついてきたのはもちろん、ねここである。 「マイティ!?」 集団から抜き出て近づいてきたハウリンは、シエンである。その後ろからはフブキ。シヅであった。 さらに次々と何体かの神姫が集まってくる。なんと同じエルゴ接続の神姫たちであった。彼女らはマイティとシヅそして彼女達のマスターの会話を見てすでに二体を見知っていた。他の二百体弱の神姫がほぼばらばらの場所から集まっている中、奇跡的な確立で、あの場にいた二十体全員が同じチームに割り振られたのである。 マイティを中心にして、彼女らに奇妙な連帯感が湧いた。自然と一つの飛行隊が出来上がった。 エルゴ飛行隊(ERGO Spuadron)の結成である。 間もなくアナウンスが聞こえ、第一次ブリーフィングが開始された。 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1239.html
考えている、アタシこと豊嶋神無は考えている。誰の事を? それはまあ、彼女・・・じゃなくて彼の事を。 「だってさあ、男の子なんだよ?」 数学の吉田先生の方程式をガードするようにノートを立て置き、そんなふうに呟く。はっきりとしない感情。窓際席ゆえの暖房と、意外に暖かい冬の日差しの二重奏にぼんやりするのとはまた別の、良いような悪いような心地。 微音、叩。 「神姫って普通、女の子じゃないの・・?」 ロウの姿を思い浮かべる。顔の造形は女性的。あまり詳しくはないけれど、普通の神姫と変わりはないように見える。けれど、胸はない。父さん曰く「強化改造の影響」ということらしいけれど、そうじゃない気がする。まあ、男か女かなんて、“下の方”を調べてみればわかるはずなんだけど・・ 「できる訳、ないじゃない・・・」 ただ“その辺り”を見つめるだけだって何か恥ずかしいから、わざわざロウ用のショートパンツ作った位なのに、そんな事したら恥ずかしくて死んじゃうよ。 微音、叩、叩。 「大体、触るのだって怖いのに・・・」 ロウは普通の神姫より頑丈らしいし、その手足、後【背中の手】は大きいけど、首とか二の腕とかなんてちょっと触ったら折れちゃいそうなほど細い。すぐ痛がらせちゃいそうで触れない。でも、あの髪くらいなら触っても大丈夫かな? でも、何かヘンな事言われそうで、それが、また、怖い。 「・・・でも、今日手に触っちゃったんだよね・・・。あんな事くらいで喜んじゃって。そう言えば、ショートパンツあげた時もバカみたいに喜んでて・・・」 微音、叩、叩。軽音、叩、叩。快音、叩叩叩叩叩。 「・・・ってうるさいなあ、さっきか・・・ら?」 その音がした方を振り向く。それは窓の方、よく考えればアタシが窓際、しかもここ3階、つまり人がいる訳ない方向。振り向いたら確かに人は居なかった。でも、“居た”。 快音、叩、叩叩。 「・・カンナっ!」 「・・・え、ロウっ!?」 直ぐさま窓の鍵を外して、そっと開く。と・・・ 「カンナぁっ!!」 「うわっ!?」 急、飛込。回避。 「おりょ!?」 通過落下転倒、横転横転、巻込横転薙倒横転転倒横転、横転横転横転。 「きゃあっ!?」 「なんだぁ!?」 「うわ、机が!?」 横転激突、停止。 「ううううぅう・・・」 「・・・ロウ、あんたって・・・」 窓からアタシ目掛けて飛びかかってきたロウを避けたら、ロウはそのまま教室の中に突っ込んで机を吹っ飛ばし、クラスメイトの足を引っかけ、ホコリを巻き上げながらすごい勢いで転がって、教室の反対側の壁で止まった。ノートも教科書も机も椅子も薙ぎ倒されて、教室はメチャクチャ。クラスメイトのあびきょーかんの声。どういう勢いで飛んできたの、あんた。 「豊嶋さん! これは一体なんです!?」 「あ、吉田先生! ええと、まあ、うちの犬です」 「犬ぅ?」 「あー、いたかった。カンナよけるなよ~」 「犬って、神姫じゃん、これ」 クラスメイトが指摘する。いやまあそうなんだけどそうじゃないと言うか・・・。 「・・・ところでさ、ロウ、何しに来たの?」 「カンナのべんとーとどけに!」 確かに大きな手の中にアタシのお弁当箱が握られてる。とりあえず近づいてそれは渡して貰う。 「・・・で、用が済んだなら早く帰る!」 「は~い!」 疾走、跳躍、飛込、消。 また同じ窓から、ロウは北風みたいに飛び出していく。あんまりに唐突な出来事に、誰も声が出せないみたい。 「・・・ええと、まあ、ごめんなさい」 残りの授業時間は、お説教と教室の片づけだけで終わった。 「まったく、あいつったら・・。夕飯ヌキにしてやる」 「まあ、そのお陰で神無はお昼抜きにならなくて済んだんじゃない」 「このぐっちゃぐちゃの寄り弁見てもそんな事言うの?」 机を向かい合わせにしていた秋子にそう言い返す。ご飯とミニハンバーグとポテトサラダとオレンジが混ざっててすごい味がするんだよ、これ。 「でも、神無が神姫持ってるなんて知らなかった。あ、でも犬飼ってるって言っていたね。それがあの神姫?」 「うんまあ・・・。でもあの武装神姫っていうの? あれはしてないよ」 でも、神姫の事であんまり騒がれるのが嫌だったので、秋子も含めて学校では誰にもロウの事は言ってなかった。神姫って高いらしいから、知られると特に男子が騒ぐんだよね。大体あいつみたいなやっかい者の事を人に知られたら恥だし・・・って遅いかもう。 「確かに、神無がそういう事するようには見えない。まあ、私もそうなんだけど」 「え? 秋子にもいるの、神姫?」 「ええ。兄のお下がりみたいなものが、1人」 「どんな性格なの?」 「可愛いよ、人なつっこくて。でもちょっと頑固な所がある」 「ふうん、うちのロウよりはまともみたい」 「そうでもないのだけど・・。でもそんなに変なの、あの神姫?」 「うん、すごく変。だって“男の子”なんだよ? それに騒がしいしものは壊すしごはん犬食いだし・・・」 「男の子? そんな事もあるの?」 「あるみたい」 「ふうん。でもそう、“男の子”ね・・」 「?」 「なあなあ!! あの神姫って豊嶋のものなんだろ? カッコイイな!」 「へ!? あ、うん?」 突然、甲高い声が耳元を直撃。見上げると居たのはクラスメイトの男子。ええと確か相原武也君(男子の名前なんて全員は覚えてないや)。いきなり馴れ馴れしく話しかけられて、ちょっとびっくりする。 「俺も神姫持ってるんだけどさ、あのハウリン、見た事もない武装だよな? 何処で手に入れたんだ? バトルやらないか?」 「いや、あれ父さんが会社から連れてきた試作品?だから売ってないし、そのバトルってのもちょっと出来ないんだよね。アタシはマスターとか言うのじゃないし」 「え!! 豊嶋の親父って神姫メーカーに勤めてんの? 嘘!? 何か非売品パーツとかも貰えるの!? いいな、俺にも少し分けてくれないか?」 あ、やばい言っちゃった。だから神姫の事言わないでいたって言うのに。 「いや、そういうのはちょっと・・・」 「じゃあ、バトルだけでもしない? レギュレーションがマズイならフリーバトルでいいしさ。あ、もちリアルバトルは無しな、今修理中のパーツがあるしセッティングも・・」 「いやだからムリなんだってば・・・」 なんかよくわかんない単語の連続と、そもそもよくわかんない男子に話しかけられるウザさでちょっと嫌になる。けど相原君のこの勢いをどうやって止めれば・・・ 「・・・私の神姫で良ければ、会わせてあげてもいいわ。直接、バトルは無理だけれど、装備やバトルデータ共有で参考にはなると思う」 「何? 法善寺も神姫持ってるの!? だったら・・今度お前んちに行ってもいい?」 「え、あの、いやそれは・・・」 「お~い武也、体育館行こうぜ!」 「ああ、今行く! じゃあ、法善寺また後でな!」 そう言って、友達に呼ばれた相原君は教室から走り去って行った。 「う~ん、言うだけ言って帰るし。でも、良かったの秋子? あんな事言っちゃってさ」 「・・・私の神姫、ちょっとバトル嫌いなだけだから」 「いやそうじゃなくって相原君を家に呼ぶって話。秋子って、男の子と遊ばないでしょ普段。神姫の事も隠してたんだから、そっちに興味ある訳でもなさそうだし。アタシを庇ったって言うなら後でアタシが断るよ?」 「そうじゃないの。ただ、ちょっと相原君に興味があるだけ」 「・・・あ、なるほど。秋子って相原君好きなんだ」 「・・ちょっと、興味があるだけだって」 クールな秋子が珍しくしおらしい顔を見せる。そういうのまだ興味ないんだって思ってた。でもそんな事も無いよね。 「うん、わかった。出来る事があったら応援するよ」 「それはいいけれど、神無は、自分の事も考えた方が言いよ」 「へ? どういう、意味?」 「え!神姫での犯行だったんですかあの窃盗!!」 豊嶋甲の裏返った声が、BLADEダイナミクス第4研究部に木霊する。周りの部下に変な目で一瞬見られるが、部長が変なのはいつもの事と、すぐに視線は消える。 『ああ、私がずっと犯人を追っていたんだ。そちらの方は処理出来たんだが、それよりちょっと気になる事があってな』 甲がパソコンに写した複雑な面持ちを知ってか知らずか、ボイスチャットの相手は少し重い声色に変わる。 「気になるって、もしかして犯行に使われた武装神姫の事ですか、“ファナティック”さん?」 甲は画面の向こうの低い電子音の主、ネットハッカー“ファナティック”に問いかける。“彼”はハッカーとは言え通常のそれとは毛色が違い、メーカー等関係者への有用な情報提供、ネットに漂う違法神姫サイトのクラッキングなど、MMS、特に神姫を守護する存在として有名だった。甲自身も研究の支援を受けた経緯があり、“彼”には無二の信頼を寄せていたのだ。 『いや、それを破壊した者の事だ。お前の神姫、確かロウ、と言ったな』 「ええまあ。ってロウがどうかしたんですか?」 『そのロウが、犯人の神姫を破壊した』 「へ!? ロウが!? そういえば庭に何か居たとか・・・でも何も無かったしなぁ・・・」 『それは私が回収した。犯人を追跡する途中で、その現場を目撃したんだ。どうもお前の家に盗みに入る所を、ロウが阻止したらしい』 「うちに盗みに? 本当に入ってたのかよ・・・」 『問題は其処じゃない。その神姫が、“自分の同類である神姫を何の躊躇いもなく破壊した”と言う事だ』 「・・・どういう、事ですか? 大体ロウはそんな凶暴な訳ないし・・・」 『その神姫は、“神姫を認識していない”。認識していなければただの人形と同じように“壊せる”。それどころか下手をすれば人間にも危害を加える可能性がある』 「う、嘘でしょ!?」 思わず甲は画面にかぶりつく。 『その神姫は、論理プロテクトが外れている可能性がある。いや・・適応されなくなった、とでも言った方が正しいか。確かその神姫は、自分の事を“男”と思っていると言っていたのだったな?』 「変な話だと思うけど、別にいっかと思ってたんですが」 『・・・普通はもっと怪しむがな。ともかく、そいつにお前は「留守中の家を守れ」と言ったのだったな』 「ええまあ、犬だし、昼間うちは蒼とロウしかいないから、家を守るのはお前の役目だって言ったけども確か」 『つまりはその“家を守る”為なら誰を傷つけても何とも思わないという事だ』 「そんな! そんな事、出来る訳・・・」 『“人間”ならば家族を守る為になりふり構わず、なんて事は普通だろう? いや、もっと残酷な手段であろうと日常茶飯事ではないか? “G・L”に感染しているとすれば、そんな事も有り得るんだろうな』 「へ? “G・L”って何のことで?」 『後で話す。まずは確認してからだ。今からその神姫に会う』 「ロウに会うって・・・」 『お前の家が近いと判ったからな、もう家の近くに来ている。もうすぐ・・・』 「もうすぐ・・・ 来たわね」 塀の上を歩いて来る影を見つけ、アニーはボイスチャットを一旦保留する。【玉座】を操作して、緩い速度で、その影へと近づく。 「ガッコってとこ、おもしろそーだな、カンナもいるし。もっといたかったけど、でもカンナがかえれっていうし・・・」 「はあい、あなたがロウ君ね」 「? あんただれだ? ロウとおんなじか? おんなじみたいなにおいがする」 「・・ふうん、自覚もあるんだ。それにジャミング無しでも“2次感染”もしない、本物ね、“G・L”だわ」 「だから、あんただれ?」 「ああ、ごめんなさい。あたしはアニーちゃんって言うのよ。あなたに大事な事を教えに来たのよ」 「え!! それってセンセってやつか! ガッコでいろんなことおしえてくれるひと!」 「先生? まあ、そうとも言えるかもね」 「やったー! これでおれもガッコにかよえる~!!」 「え!? いや、そういう事じゃないんだけど・・・」 「そうすれば、ずっとカンナといっしょだ!」 彼女、いや彼の名はロウ。それは「狼」ではなく、「浪」でもなく、「桜」でもなく、「Law」でもなければ、「Low」でもない。「ろー」、それはただ家族の為にある名。 ・・・“男”としての誇りに満ちた名。 “女性”を失い、同族を握り潰し、そして己が身すら省みる術を知らない。だが、家族があり、誇りがあり、・・・そして“愛するもの”が居る。 その“心”の何処が、劣ると言えるか? その心の何処が、狂っていると言えるだろうか? 答えを出せる“人間”は居ない。 ―第1章 狂犬 終― 目次へ
https://w.atwiki.jp/battleconductor/pages/37.html
声優 デザイナー 神姫解説 性格セリフ一覧 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 神姫ハウス内コミュニケーション ステータス情報親密度Lv1 親密度Lv100 ブーストステータス 覚えるパッシブスキル一覧早熟型のパターンで覚えるパッシブスキル 通常型のパターンで覚えるパッシブスキル 晩成型のパターンで覚えるパッシブスキル 神姫固有武器補正得意武器 不得意武器 神姫考察攻撃力 防御力 機動力 総評 神姫攻略法 お迎え方 アップデート履歴 コメント 声優 釘宮理恵(鋼の錬金術師:アルフォンス・エルリック、ハヤテのごとく!:三千院ナギ、他。「ツンデレの女王」の異名を持つ) デザイナー GOLI(beatmania IIDX) 神姫解説 サンタクロースをモチーフとした神姫。二丁のスナイパーライフルを駆使した長距離射撃や、高い機動力とロングブレードを組み合わせた一撃離脱戦法が得意。武装はトナカイのそりを思わせる高速移動形態レインディアバスターへと変形する。AIの性格はノリのいい現代っ子気質で、少し子供っぽく扱いづらい一面もある。 名称:サンタクロース型ツガル(さんたくろーすがたつがる) メーカー 素体:Studio Roots 武装:Studio Roots 型番:SRX03 フィギュア発売:2006年12月7日(BX Ver.は2007年12月13日) 主な武装:フォービドブレード(レインディアバスター時はソリのレール部になる。むしろレール部分を外して刀代わりに使っているという方が妥当か。バトコンでは双斬撃武器) ホーンスナイパーライフル(レインディアバスターでは操縦桿になる。バトコンでは双ライトガン) ハイパーEML(EMLはエレクトロ・マグネティック・ランチャーの意味。ツガル武装形態でのリアユニットの左右に配置されている逆三角形のあれ。今作でも未登場) レインディアバスター(武装を変形合体させたソリ。ツガルの武装のほぼすべてを使用した、武装神姫史上初の「変形合体して別形態となる」武装である。バトコンではアクティブスキル使用時に拝見できる) サンタクロースをモチーフとし、赤・白・緑のクリスマスカラーを効果的に用いたカラーリングが印象的なStudio Roots社の開発した神姫。 バリエーションとして、青を基調としたクールなカラーリングの武装を持つ「Blue X'masバージョン」(通称「青ツガル」/バトコン作中では「BXツガル」)も存在する。 2丁のスナイパーライフルを駆使した長距離射撃や、高機動力とロングブレードを組み合わせた一撃離脱戦法を得意とし、身にまとった武装はトナカイのそりを思わせる高速移動形態「レインディアバスター」へと変形する。 ただし、シリーズ展開初期の神姫だけに、武装ジョイントなどの接合がやや甘めな事に注意(BXツガルでは幾らか改善されているが)。 基本的に出自など固有のバックボーン設定を持たないのが神姫の常だが、例外的に彼女には担当デザイナーの裏設定として「モデルになった人物」が存在している。「beatmaniaIIDX」の登場人物「津軽(菱宮津軽)」がそれであり、彼女のクリスマス武装イラストを立体化したものが神姫としてのツガルという事になる。 元はコナミ内製のキャラクターという事で公式媒体への登場頻度も高く(バトマスのみMk.2時の実装)、近年では「ボンバーガール」において、藤崎詩織やパステルといった古株キャラ達と共に「武装神姫のツガル」として名を連ねている。 ちなみにツガル自身の発売日は前述した通りだが、ボンバーガールとしての誕生日は8/8となっている(「ボンバーガール」公式サイト上の表記による) アニメ版においても「ツガル・サンタマリア」という(文字通り)サンタクロースの職業神姫として、トナカイ&ソリ役のレインディアバスター共々声付きでスポット出演を果たした。 ただし、彼女のカード絵は全て武装神姫展開当時のパケ絵からの転用であり、描き下ろし絵は存在しない。ボンガでは普通に描き下ろされているというのに、何故だろうか…… フィギュアとしてはサイフォス/紅緒と同期の第3弾だが、彼女だけは素体を持たない「EX」シリーズとして発売された。そのため、別個にMMS素体(1st/NAKED WHITEを推奨)を調達する必要がある(ただしBXツガルには、バトロン版をベースに色調をやや抑えたカラーリングの素体が添付されている)。 バトマスやアニメで登場した際の素体デザインはバトロン版準拠となっており、バトコン版も同様。 更にレイドボスバトル(第二回)の終盤(2021/12/08~)、レイドボスとして大型バグΩや闇神姫の代わりにBXツガルがランダムで出現するようになり、これに勝利すると専用武装を獲得できるようになった。力で奪い取るクリスマスプレゼント このうち専用防具にはバグ耐性があるとの事。すべて揃えればBXツガルになれるぞ! 性格 紹介文通りの性格。バトロンの丁寧口調こそなくなったものの、根本的な「背伸びをする子供」という特徴は残っている。 「~じゃないんだからね!」が口癖だが、その文意や性格から一概にツンデレという訳でもない。 むしろ言動には「背伸びをする子供」という部分が前面に押し出されているため、 あまりツンデレという印象を受けるシーンは少ない。 少々ドジで焼き餅焼きなところはあるが、優しく思いやりがある一面も見る事が出来る。 本作では見る事ができないものの、サンタ型という設定のためか年下(?)の子供に対してお姉さんぶることもあるらしい。 神姫ハウスでの会話は、明らかにクリスマス直前~当日のやりとりがそのままストーリーになっている。 他の季節はどうなのだろうか…いや、南半球ならクリスマスは夏なのだが。 セリフ一覧 + おこちゃまじゃありませんから。 ログイン時 通常(朝) おはようございます~!私の目覚めは、バッチリですよ! おはようございます~!さて、今日は何しますぅ? 通常(昼) こんにちは!ほらほら、早く始めましょう?よろしくお願いしますね! こんにちは~!今日は気分がいいんです。ふふっ♪ 通常(夕) おかえりなさーい!今日の私、どうですか?大人っぽいでしょ? こんにちは!私は出来る子なんですよ!もっと可愛がってくれても…はっ!ううん、なんでもないです! 通常(夜) おかえりなさーい!バトルの後は、お買い物に付き合ってくださいね! ごきげんよう。このカタログ、見て下さい!もちろん、買ってくれますよね? 通常(深夜) こんばんは。夕飯はオムライスですよ!楽しみにしていてくださいね! こんばんは!あれ?ちょっと太りましたぁ?なぁーんて、ウソですよ! 年始 あけましておめでとうございます。クリスマスの次のお楽しみですね。 (ボイス) あけましておめでとうございまーす!早速ですが、新年会!開いちゃいましょう? バレンタイン はい、チョコレート♪ちょっと奮発して、大人っぽいのをチョイスしましたよ。どうですか? ホワイトデー これ、キャンディ?私、甘いものに目がないんですよねぇ。あっ、今子供っぽいとか思ってないですよね? エイプリルフール ゴールデンウィーク 夏季 暑いからって、アイスばっかり食べてちゃダメですよ?何事も、バランスが大事なんです! 水着キャンペ ただ今、期間限定イベント、開催中ですよ?特別に大人っぽぉ~い水着を着ちゃいますから、期待してて下さいね? 七夕 お星さま…(プレイヤー名)がおこちゃまあつかいしませんように。ううん、何でもないですぅ! ハロウィン トリックオアトリート!さあ、みんなを驚かせに行きますよぉ! 冬季 寒くなってきましたね~。早く雪が降らないかなぁ~って、ワクワクしますぅ! クリスマス サンタ型だからと言ってプレゼントは配りませんよ。ウソウソ、(プレイヤー名)には上げちゃいます! (ボイス) メリークリスマース!今日はわたしの日!だから、ずっと一緒にいてくれますよね? 神姫の発売日 オーナーの誕生日 誕生日、おめでとうございまーす!プレゼントあげちゃいます! 神姫ハウス 命名時 呼び方変更 (プレイヤー名)って呼び方そろそろ変えてみませんか?どんな呼び方がいいですか? (→決定後) (プレイヤー名)ですね。わかりました! レベルアップ後 MVP獲得 3連勝後 親密度Lv5後 今年のクリスマス、どんな飾り付けしたら(プレイヤー名)は喜んでくれるかなー? 親密度Lv10後 おっきなツリーを買って…。リースを飾って…、イルミネーションはやっぱり派手がいいかなー? 親密度Lv20後 お店で飾り付けを買うのもいいけど、手作りするのもいいよね。(プレイヤー名)と一緒に作ったら楽しそう! 親密度Lv30後 あ、そうだ!忘れちゃいけないクリスマスケーキ!(プレイヤー名)ってどんなケーキが好きなのかなぁ? 親密度Lv40後 カタログカタログっと…。うわぁ、フルーツいっぱいで美味しそう!こっちはデコレーション可愛いなぁ。 親密度Lv50後 あれ!もうこんな時間?!あれこれ見てると楽しすぎてあっという間に時間が過ぎちゃう! 親密度Lv60後 よし、このケーキに決めた!(プレイヤー名)が見たらびっくりするかな?ナイショでオーダーしちゃおっと! 親密度Lv70後 オーダー完了っと!あれ…?このアクセサリー大人っぽくて素敵!う…、!値段も大人価格だなやっぱり…。 親密度Lv80後 メリークリスマス、(プレイヤー名)!どうですか、この飾り付け!ほら見てください、このケーキ!すごいでしょ? 親密度Lv90後 え、私にプレゼント…?わ、これ欲しかったの何で知ってるんですか?!うれしいです!ありがとう、(プレイヤー名)! 親密度Lv100後 とっても素敵なクリスマスになりましたね。また来年も一緒に大人っぽーいパーティやりましょうね! 頭タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 胸タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 尻タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 通常会話 (プレイヤー名)は私の得意武器って知ってますか?そうです!銃の扱いなら任せてくださいね。 武装カスタム 戦闘力Up時 戦闘力Down時 武器LvUP時 素体カスタム 親密度LvUp時 限界突破時 出撃時 入れ替え 思いっきりいっちゃうよ! バトル開始時 けちょんけちょんにしてあげちゃうよ! 恥ずかしくない戦いをしてみせます! → おこちゃまには負けないんだからっ! バトル中 撃破時 コンテナ入手時 被弾時 オーバーヒート時 スキル発動時 (能力強化系) (HP回復系) (デバフ系) (攻撃スキル)プレゼントはこの技です! チャーミークリアボイス いっくよー!あなたに 届け。私の プレゼント♪ 被撃破時 も、もう…、ダメ……かも…… 次出撃時 サイドモニター 応援時 交代時 被撃破時 バトル終了時 1位 はぁー、楽しかったー!絶好調でいい感じいい感じ! やったね!絶好調です!負ける気がしませんよ! → 私からのプレゼント、喜んでもらえたかな? 2位 あ~あ。もうちょっとだったのになぁ~! あいったったったぁ…あぁ~、惜しかったなぁ~。 → あと少しですぅ。次こそ、がんばりますね! 3位 → 4位 あぁ、まだまだぁ!負けた訳じゃないんだからぁ! う~…文句なしに、私の負けですぅ… → なーんでぇー!なんでこうなるのー!ムキィーッ!! うぅ、ごめんなさぁい。次こそ、頑張りますね。 コンテナ獲得時 1位 配るだけじゃなくて、プレゼントも頂き〜! 2位以下 プレゼントだけは、何とか確保したよ? レイド終了時 成功 やったね!絶好調です!負ける気がしませんよ! 失敗 LvUP時 神姫親密度 んぅ、えーと。なんだか照れちゃいます。 マスターレベル おめでとう御座います!また一つ、理想に近付きましたね。 神姫ショップお迎え時 会えて嬉しいですよ。よろしくお願いしますね! はじめまして!私はレディーですからね!おこちゃま扱いしないで下さいよ? ゲームオーバー時 クリスマスプレゼントは見ましたぁ?今日も1日、お疲れ様でした! その他 カラフルコンダクト 届けるよ。素敵なプレゼントを (BX Ver.1st) 大人だもん お子ちゃま扱いしないで (2nd) ガキンチョに 負けるのは絶対嫌 (3rd) プレゼントあげます 貴方だけに + リセット開始 神姫の想い、大切に。 + 選択した神姫をリセットします。よろしいですか? リセット開始 リセット!?ちょ、ちょっと止めて下さい! はい を押す 意味分かってるんですか!?私、消えちゃうんですよ! はい を押す(二回目) 私ってその程度の存在だったんだ…さよなら… リセット完了 はじめまして!私はレディーですからね!おこちゃま扱いしないで下さいよ? リセット取消 もぉ~!ばかばかあ!涙が出ちゃったじゃないですかあ! 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 マスター・オーナー・お兄ちゃん 神姫ハウス内コミュニケーション ステータス情報 親密度Lv1 ATK DEF SPD LP BST N 30 45 100 300 100 R 35 50 110 350 120 SR 40 55 120 400 140 UR 45 60 130 450 160 親密度Lv100 ATK DEF SPD LP BST N - - - - - R - - - - - SR - - - - - UR - - - - - ブーストステータス 1/s ダッシュ速度 ダッシュ時ブースト消費量 ジャンプ時ブースト消費量 対空時ブースト消費量 防御時ブースト消費量 ブースト回復量 ジェム回収展開速度 N 940 85 50 20 70 150 3500 R 1030 105 70 40 90 3520 SR 1120 125 90 60 110 3540 UR 1210 145 110 80 130 3560 覚えるパッシブスキル一覧 レインディアライディングツガルの専用パッシブ。一定の確率でダッシュスピードがアップ 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる 防御力アップ[小]防御力を上げる 早熟型のパターンで覚えるパッシブスキル 攻撃スピードアップ[小]攻撃時のスピードが上がる 追加ダメージ軽減[小]敵からの最終ダメージを軽減する ブーストアップ[小]ブースト時の移動スピードアップ ため時間減少[小] *要限界突破(L110)ため時間を減少する スピードアップ[中] *要限界突破(L120)移動する時のスピードアップ 通常型のパターンで覚えるパッシブスキル クリティカル防御アップ[小]クリティカルダメージを抑える ため時間減少[小]ため時間を減少する ブースト最大値アップ[小]ブーストゲージの最大値を上げる スピードアップ[小] *要限界突破(L110)移動する時のスピードアップ ため威力増加[中] *要限界突破(L120)タメ攻撃の威力を上げる 晩成型のパターンで覚えるパッシブスキル ため威力増加[小]タメ攻撃の威力を上げる よろけ軽減[小]よろけの行動不能時間が短くなる クリティカル発生アップ[小]クリティカルが出る確率が上がる 攻撃スピードアップ[小] *要限界突破(L110)攻撃時のスピードが上がる 全能力アップ[中] *要限界突破(L120)全ステータスがアップする 神姫固有武器補正 ※レアリティが上がる毎に得意武器は-5%、苦手武器は+5%される。数字はレア度Nのもの。 得意武器 双ライトガン +30% 双斬撃武器・双ライトガン・腰持ちヘビーガン・下持ちヘビーガン・肩持ちヘビーガン 不得意武器 -30% 格闘打撃武器・両手斬撃武器・防具用武器 神姫考察 攻撃力 攻撃力アップ[小]を確定で習得出来るが元々のATKが頼りない。元々単発火力が高めな双斬撃武器や腰持ちベビーガンならまだしも単発火力で劣る双ライトガンや下持ちヘビーガンを使うなら個体値や防具でカバーしたいところ。 防御力 そこそこのDEFに防御力アップ[小]を習得する等平均よりは高め。 機動力 普段は標準神姫と同速度のダッシュだが、専用スキルさえ発動すればかなり早い。アップデートで発動確率がそこそこ上げられていてより実践的になった。…とはいえ確率スキル故に肝心な時に不発するリスクがある事を理解しておこう。 総評 専用スキルの発動率は?%。効果上昇量は約20%→?%。 ブーストダッシュ使用中ではなく、使用時に判定される。時間制限は無く、ブーストダッシュが続く限り効果も続く。当然ブーストダッシュを止めると同時に効果も消える。 現状得意武器をどう組み合わせても誰かしらと被る。肝心の専用スキルも、発動すれば強力であるものの得意武器が重複してかつ素で早いエーデルワイス(双斬撃武器)やヴァッフェバニー(下持ちヘビーガン・双斬撃武器)が悩みの種。 だがヴァッフェバニーもエーデルワイスも防御面は不安があるので、ツガルの防御力に魅力を感じるのであればこちらに軍配が上がる。 解放パターンはいずれもバランス型。 4/12のアップデートにて持ち武器なのに永らく放置されていた双ライトガンが得意武器に追加され 、ようやくボーンスナイパーライフルがまともに使えるようになった。 神姫攻略法 専用スキル発動中の機動力はまぁまぁ厄介だが攻撃力は大して高くないので殴れれば基本負ける事はない。 上手く追い詰めて殴りあいに持ち込もう。 お迎え方 稼動開始(2020/12/24~)から神姫ショップに登場 アップデート履歴 日時:2022.4.12 内容:専用スキルの発動率と効果量上昇 得意武器に双ライトガンを追加 日時:2021.12.08 内容:レイドボスバトル(第二回)での更新により、Blue Xmas ver.の武装が報酬として実装。 これを装備して連勝ダンスの条件を満たすと、歌詞がBlue Xmas ver.独自のものに変化する。 日時:2021.6.28 内容:神姫個別調整で遠距離攻撃のダメージを軽減できるように。 専用スキルの発動率上昇 日時:2021.5.26 内容:専用パッシブスキルの説明文変更 日時:2021.4.27 内容:バトルメンバーにいる場合、バトル中のBGMが変更されるように。 なお一番手にアーンヴァルMk.2を配置した場合、BGMはアーンヴァルMk.2専用の物になる。 コメント カラフルコンダクト Christmas version → 大人だもんお子ちゃま扱いしないで -- 名無しさん (2021-12-11 23 18 02) 真ん中 ガキンチョに負けるのは絶対嫌 右 プレゼントあげます 貴方だけに -- 名無しさん (2021-12-11 23 20 05) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1429.html
アイドルは神姫を救う? 前編 あの試合から1ヶ月がたった。恒一はいずると話すことが少なくなり、毎日のように研究所に通っていた。 (恒一、シュートレイがやられたダメージが大きいのが相当ショックだったんだろう…) いずるは彼の姿を見て心配になっていた。 あの試合の後、シュートレイは集中治療室に運ばれた。一命を取り留めたものの、彼女の精神的ダメージは思ったよりも深刻だった。あれ以来、虚ろな状態で何も反応を見せなくなってしまったのだ。おそらく自分が破壊されるイメージが脳裏に焼きついて、トラウマになっているのだろう。日常生活もままならない状態なので、、シュートレイは今もリハビリを続けている。 今日も恒一は小百合の下へ足を運んでいるのだろう。いずるはそんな彼のことを気にかけていた。 「どうしたのいずる、そんなに深刻な顔して」 家に帰ってきたいずるを、ホーリーが出迎えた。彼女もそのことが心配でしょうがないのだ。 「恒一の事だよ、あの事件から急に元気がなくなってね」 「ああ、恒一のことか。それで恒一は今どうしてるの?」 ホーリーの質問に、いずるは少し落ち着いて答えた。 「小百合さんの研究所に通ってシュートレイの看病さ。どうやら回復が遅れてるみたいなんだ」 「シュートレイはもう傷は治ってるんだよね?それなのに、どうして恒一のもとに帰らないの?」 「それは、彼女の心が病んでるからなんだ…」 重々しい言葉を放ついずるを見て、ホーリーは少し寂しそうな顔になった。 「病んでるって、そんなに重病なの?だったらホーリーたちもシュートレイを元気付けてあげないと」 「そうだな、だったらあとでお見舞いにでも行こうか」 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。 『すいません、宅急便です』 どうやら宅急便の人が荷物を届けに来たみたいだ。いずるは玄関に行って荷物をとりに行った。 荷物の送り主はいずるの実家からだった。その中身は米やラーメンなどの食料品や、衣類などの日用品だった。 「母さんの奴、こんなもの送ってくるなんて」 箱の中を一通り出し終わったいずるは、包装に包まれた箱があることに気付いた。 「あれ、こんなものが…」 どう見ても怪しい包装箱を、いずるは恐る恐る開けてみた。 「…これって、神姫か…?」 包装を取り除いた箱に書いてあるのは、『武装神姫』の文字があった。どうやら親は神姫も一緒に送ってきたようだ。 「どうしてうちの親が神姫のことを知ってるんだろう?」 いずるはその中身を開けてみることにした。その中身はアイドルタイプの神姫とその付属パーツ、起動ディスクとクレイドル、そして手紙が入っていた。 「ええと…何々…」 いずるは手紙を読んでみることにした。 『いずるへ、お前も一人では寂しいだろうから、最近はやっている友達ロボットを送る事にした。最初コレを見たときはビックリしたよ。何せ胴体がない生首状態だったんだから。慌てて胴体を買ってきて繋げたよ。でもまだ起動してないから安心して。あと起動に必要なものは出来る限り用意したつもりだから。このロボットがお前の生活に潤いを与えてくれる事を祈ってるからね。あと、年に一回でもいいからうちに帰ってきなさいよ。 母より』 「…」 いずるは暫くの間言葉が出なかった。その後我に帰ると、改めて母が送ってきた神姫を手に取った。 「相変わらず変わってるよなあ、母さんは。よく父さんが止めなかったもんだ」 さっそくいずるはパソコンに神姫を繋ぎ、起動ディスクを入れた。 「起動の仕方は小百合さんから教わってるから大丈夫だ」 いずるはもしものときに再起動できるように小百合から起動のノウハウを教えてもらっていた。そのため、初めての起動でもある程度のことは知っているのだ。 「よし、これで準備OKと…。さっそく起動させるぞ」 起動ボタンをクリックするいずる。すると神姫の目が少しずつ開いていった。 「…起動確認しました。始めまして、あなたがわたしのオーナーですね」 起動成功。続いていずるはオーナー認識のための手続きを始めた。 「そう、私は都村いずる。君のオーナーだ」 神姫はにこっと笑い、いずるのことをオーナーと認識した。 「それでは、わたしに名前を付けてください。あなたのお気に入りの名前を付けてくださいね」 いずるは悩んだ。名前を決めていなかったのだ。 「そうだな…、どうしようか…」 ホーリーの時は思いつきでつけたのでそんなに悩む事はなかったのだが、今回は状況が違う。いずるは悩みながら名前を考えた。 「…よし、きみの名前はミルキーだ」 いずるは彼女の名前を「ミルキー」と名づけた。かわいらしいと思ったからだ。 「ミルキーですね。登録しました。始めまして、わたしの名前はミルキーです。よろしくおねがいしますね」 やっと登録が終わった。これで彼女もいずるのパートナーになったのだ。 「ねえいずる~、もう入っていい?」 隣の部屋からホーリーの声が聞こえてくる。もう痺れを切らしているのだ。 「もういいよ。いま登録が終わったところだ」 登録終了を聞いたホーリーは喜んで部屋に入ってきた。 「ホーリーにも妹ができたんだね!やった~!!」 大はしゃぎするホーリー。それを見ていたいずるはホーリーに注意した。 「お前はこれからお姉さんになるんだから、見本になるようなことをしないとダメじゃないか。ほら、ミルキーが笑ってるぞ」 いずるが指差した先には、くすくすと笑うミルキーの姿があった。 「あ、ごめんね。つい嬉しくなっちゃって、こんなことしちゃった」 「いいえ、こんなに喜んでくれて、わたしも嬉しいです。これからもよろしくお願いします、ホーリーお姉さん」 ぺこりとお辞儀をするミルキー。意外と礼儀正しいのかもしれない。 「オーナーさんもよろしくお願いしますね」 「いずるでいいよ、ミルキー」 「では、改めてお願いします、いずるさん」 ミルキーはにっこりと微笑んだ。 それからというもの、いずるはミルキーの育成に全力を注ぎ込んだ。ホーリーも一緒にミルキーのお姉さんになるように努めた。 「ええと、これはヒーリングの効果があるんですね」 「ああ、これは回復効果がある能力だな。これで相手の神姫の精神的ダメージを回復できる、と説明に書いてあるな」 「あと、こちらの本のページにはアロマテラピーと書いてありますが、これはどのような効果があるのですか?」 ミルキーは順調に見たもの、聞いたものを吸収し、自分の知識や経験にプラスしていく。そのスピードはいずるも驚くほどだった。 「すごいね、ミルキーは。どんな知識も自分の物にしちゃうんだもん。ホーリーもそんな能力があったらいいのに」 うらやましがるホーリー。しかしミルキーはそんな彼女に励ましの言葉を送る。 「ホーリーお姉さんもいいところがあるじゃないですか。わたしにはできないことがいっぱいありますし」 「でも起動してそんなに経ってないのに、こんなに覚えちゃうんだからすごいよね。このまま行けばアイドルじゃなくてナースになったりして」 三人がお世辞を言い合っているとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。 「お客さまですね」 「そうだな、ちょっと見てくるからここで待ってるんだぞ」 いずるは玄関に来て客を迎え入れた。 「やあいずる、久しぶりだな」 客は恒一だった。心なしか少し元気がないように見える。 「恒一、お前大丈夫か?」 「ああ、今のところはな…。今日は少しばかり気分転換したいと思ってね」 いずるは恒一を部屋へ招きいれた。中に入った恒一は見覚えのない神姫=ミルキーに注目した。 「お前、新しい神姫を購入したのか?」 「まあね、話せば長くなるけど…」 いずるはミルキーを手に乗せて、恒一に見せた。 「始めまして恒一さん、わたしはミルキーといいます」 「は、始めまして…俺は木野恒一。よろしく」 なぜか照れる恒一。彼女のかわいらしさにドキドキしているのかも知れない。 「ところで恒一、シュートレイの様子はどうなんだ?」 いずるがシュートレイのことを話題に持ち込むと、恒一の表情が曇った。 「それが…」 どうやらシュートレイは前と変わらない様子らしい。 「そうだ、まだ時間があるからシュートレイのお見舞いに行ってみようか?」 いずるの提案にホーリーとミルキーは賛成した。 「いこう、シュートレイのことが心配だし」 「わたしもシュートレイさんに一目会ってみたいです」 「よし、決まりだな。みんなでシュートレイのお見舞いに行こう」 元気のない恒一を尻目に、いずる達は神姫研究所へ行く事にしたのだった。 電車に揺られて数十分、いずるたちは町外れにある神姫研究所にやってきた。この隣には、神姫たちのメンテナンスや療養をする『病院』が隣接している。シュートレイは神姫研究所付属の病院に入院しているのだ。 「知らなかったな~、ここの隣に病院があるなんて」 「私もここの隣に新規の病院があるなんて、つい最近まで知らなかったんだ。何せ、規模が小さいからね」 さっそく中に入ろうとする一行だが、入り口で誰かに呼び止められた。 「あら、いずる君に恒一君。みんなでシュートレイのお見舞い?」 声の主は小百合だった。彼女も病院に出入りしていたのだ。 「小百合さん、こんにちは。これからシュートレイの様子を見に行こうと思って」 「そう、でも酷なことをいうけど、彼女の回復はかなり遅れてるから、暫くはこのままの状態が続くと思うわ」 少し残念そうに現状を語る小百合。その直後、いずるの肩に座っているミルキーに目がいった。 「あら、この神姫、ニューフェイスね。新しく購入したの?」 「始めまして小百合さん、わたし、ミルキーと申します」 すかさず挨拶するミルキー。それを見た小百合は感心した。 「あらあら、礼儀正しいのね。ところでこの神姫、どうしたの?あなたはあまり神姫のことが好きじゃなかったはずだけど」 「話せば長くなりますが…」 いずるはミルキーがどのように自分のマスターになったのかを説明した。 「あははははっ、そう、そんなことがあったの。さすがいずる君のお母さんだわ。自分の息子に神姫を送るなんて」 「しょうがないですよ、送り返したら何か言われそうですし。それに、もう一人増えても家族が増えるだけですから」 いずるの意外な言葉に、小百合は思わずふふんと鼻笑いした。 「いずる君、最初会ったときとは印象がまるで違うわ。これもホーリー効果、ってことかしら」 ちょっと意地悪げに言う小百合。 「そ、そうですか…」 「そう、それにしてもこのミルキーちゃん、結構賢そうね。やっぱりオーナーに似てるのかしらね」 ミルキーをまじまじと見つめる小百合。 「それで、この子の成長ぶりはどうかしら?上手くいってる?」 「はい、いつも借りてきた医療関係の本などを一生懸命読んでます」 ミルキーの急激な成長振りを説明するいずる。そのとき、急になにかがひらめいた感じになった小百合は、いきなりいずるに話しかけた。 「そうだ、シュートレイに会う前にちょっと研究所に寄ってほしいの」 「研究所って、どうしてですか?」 「いいから、ちょっと説明することがあるのよ」 小百合はいずる達を無理やり研究所に引き込んだ。 「で、何をするつもりですか?」 「さっきミルキーが医療関連の本を読んでたと言ってたわね。もしかしたら彼女に精神医療の知識があるんじゃないかしら」 「でも、読み始めてからまだそんなに時間が経ってませんし、もしあったとしても、治療なんてできるかどうか…」 「まあ、これを見てからでも決めるのは遅くないわ」 小百合は引き出しの奥から小さい箱を取り出した。 「これは…、何ですか?」 「これは精神医療用の『ヒーリングバトン』といってね、神姫や他のロボットの精神を安定させる、いわば『精神安定器具』といったものね」 これを見た恒一はすぐさまバトンの側に近づいた。 「どうしてこれがあるのを黙ってたんだよ?」 「これは普通の神姫では扱えないの。使い方がシビアだから、ある程度医療関係の知識がないと使えないのよ」 ミルキーはバトンが入った箱の近くに近づき、バトンをじっと見つめた。 「いいんですか、わたしがいただいても?」 「それを持つかどうかはあなた次第よ。もしバトンを持つつもりなら、あなたの能力を借してほしいの」 小百合はバトンを取り出した。 「…どういうことなんですか?」 ミルキーの質問に、小百合はこう答えた。 「いずる君から聞いた話だと、あなたはある程度だけど医療関係の知識を身につけてるようね。それに加えてあなたの能力は回復系、つまり癒しの力があるから、相性は抜群なのよ。だからお願い、シュートレイを助けてあげて」 ミルキーは暫く考えてから、答えを出した。 「分かりました、わたしにしかできないことならばやって見ます」 「それじゃあ、これを使えばシュートレイはもとに戻るんだな?」 再び割ってはいる恒一。しかし小百合は少し心配そうに答えた。 「恒一君、たとえ元に戻らないとしても、後悔しないことを約束できる?この作業はとてもシビアで、たとえ直ったとしても、完全に戻る確率は5割にも満たないわ。最悪の場合、リセットしなければいけないかもしれない。それでも彼女を救う気持ちはある?」 小百合の質問に、恒一は静かに、しっかりと答えを出した。 「ああ、よろしく頼むよ」 つづく もどる 第十一話へGO
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1901.html
{ルーナと沙羅曼蛇} クリナーレとパルカと一緒に走り続けながら次の場所に向かう。 両足の血液循環が早くなり心臓もバクバクと動く。 肺は酸素を欲しがりフル活動。 ヤッベェ、もう疲れてきちまったぜ。 「お兄ちゃん!あのシャッターて、もしかして!!」 パルカが言う先を見ると廊下の右側に大きなシャッターがあった。 パルカやクリナーレと同じ形に大きさも同じ。 違うと言えばデカデカと、シャッターに『Two』と書かれていたぐらい…。 いや、違う! シャッターが開いている! これはいったい何が起こったのだろうか。 俺達が来る前にシャッターが開いてるという事は…まさかすでにルーナは破棄されたのか!? クリナーレとパルカを援護させながら俺はシャッターに向かって走り中に入る。 「ッ!?…ヒデェ…」 シャッターの部屋の中は酷い惨状だった。 人間の死体がテンコ盛りだったのだから。 ある死体は内臓を地面にブチ撒き倒れていたり、またある死体は手足が無かったり頭が無かったり。 他にも酷い死体は腐る程あるが、これ以上の説明は不要だ。 しかしこれはいったい誰がヤッたのだろうか。 ウッ、あまりにもグロテスクだから気持ち悪くなってきた。 「あたしがヤッたんですわよ、ダーリン」 「その声はっ!?」 突如声がしたので聞こえた方向を見ると、そこには二刀のレーザーブレード持った血塗れのルーナがいた。 よかった…無事だった。 でもまさかルーナがこの死体の数分をヤッたというのか。 本人はそう言ってるし…本当にブッ殺したのだろう。 いや、これは『殺し』というより『皆殺し』『残虐』『殺戮』と言った方が正しい。 武装神姫一体でここまで人間を殺す事が出来るのは無理ではないのだろうか…。 やはりツバァイとしての能力かもしれない。 これでルーナが今までバトルした時に余裕綽々で闘えていた事に納得がいく。 でもここで一つ疑問が起きる。 クリナーレ、パルカと同じく拘束されていたはずだ。 いったいぜんたいどうやったのだろうか。 「あたしはシャドーと同じ能力がありますの。レベルは中の下ですが」 「シャドーと同じ…あ、そういう事か!」 ルーナに言われて解った。 シャドーというのはシャドー=アンジェラスの事で、能力が同じという事はネットワークシステムを支配できるという事になるのだ。 シャドーはそーいう能力があるのは知っていたが、まさかルーナにも出来るとはな。 そしての能力を使って自力で大きな試験官から脱出し、敵である人間を殺しまくったということだ。 「お前、滅茶苦茶に強いんだな」 「アインお姉様に比べればこの程度、ヒヨッコ並みのレベルですわ」 俺は右手の手の平にルーナを乗せて近づける。 血塗れになっている体を左手で拭き取ろうとしたら、ルーナが人差指に抱きついてきた。 「おいおい、抱きつかれた吹けないだろうが」 「嬉しいんですわ。ダーリンがあたしを助けに来てくれた事が…」 「当たり前だろ。それにクリナーレやパルカもいるぜ」 「あら、それは朗報ですわね。アンジェラスお姉様は…まだのようですわね」 そりゃそうだ、まだアンジェラスを助け出していないのだから。 でもこれで三人目を助け出すことができた。 しかもアンジェラスの次に強いルーナだ。 これでアンジェラスの所まで難なく行きそうだぜ。 「それは期待できなそうですわ、ダーリン」 「えっ!?それはいったいどいう」 俺が言い切る前に突如とルーナの姿消えた。 そしてルーナが消えた同時に後ろから人間の叫び声が聞こえた。 声が聞こえた方角はシャッターの外。 俺はすぐさまシャッターの部屋から抜け出す。 すると。 「沙羅曼蛇の舞!」 <…燃やし…尽くす> ルーナが武装した人間を燃やし殺していたのだった。 沙羅曼蛇の舞とは、使用者の神姫の周りに炎渦が取り囲み、神姫そのまま状態で蛇のように突進し、敵を斬刻む攻撃。 さらに火炎の炎によって敵を斬刻むだけではなく火傷させる自動追加攻撃がる。 通常攻撃の場合はある程度相手距離を保ちつつ、隙あらば一気に敵の懐に飛び込み近接攻撃する。 因みに剣を振るたびにレーザーみたいな炎が飛び出すので飛び道具としても使える。 ただしこのワザはかなり体力を消耗をするので普段は使わない。 でもルーナはなんの躊躇い無く攻撃した。 しかも人間に対して。 攻撃を受けた人間は死ぬか炎によって燃えながら焼死していく。 ウッ、人間の体が焼けた匂いが鼻につく。 イヤな匂いだぜ。 ていうか、いつのまに沙羅曼蛇を装備していたんだよ。 消えると同時に俺から奪ったとしか考えようがないがな。 「…フゥー。これであらかた片付きましたわね」 「ルーナ、お前…」 一息をついてるルーナに近寄るとルーナは苦笑いした。 「あたしは簡単に人間を殺すことができる神姫ですわ…気持ち悪いですよね…」 俯き悲痛な声だった。 どうやら俺が人間を殺す神姫が嫌い、だと思っているみたいだ。 いつも人をチョッカイだして笑うルーナがこんな風になるんなんて。 心境的に辛いのだろうか。 でも俺が応える言葉はハナッから決まっている。 「ルーナはルーナだ。例え人間をブッ殺す神姫だろうが、俺はルーナの事が好きだ」 「ダーリン…」 「それにシャドーみたくむやみやたらに人間を殺さないだろ。ちゃんとした常識があるんだからルーナの事を嫌ってりしないぜ」 俺は右手をサムズアップして、いつものニヤリ顔をルーナに見せる。 するとルーナは俯きから顔を上げて。 「あたしはダーリンにこんなにも愛されて…幸せ者です!さぁ、行きましょっ!!アンジェラスお姉様がいる所へ!!!」 ルーナが元気よく先導する。 どうやらルーナはいつも通りのルーナに戻ったようだ。 そして俺は戦闘に疲れきったクリナーレとパルカを胸ポケットに入れルーナの後を追う。 後は残り一人! 待ってろよ、アンジェラス! 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2199.html
そこは。 意外なほどに広い空間だった。 「……」 部屋の中央には、黒衣の神姫。 忍者装束をモチーフにした装甲衣と背後に広がる漆黒の翼。 「……」 白脱した虚無を思わせる切りそろえられた銀髪。 そして。 「……ようこそ、5年越しの挑戦者達よ」 静かに降り積もる深雪を想起させる涼やかな声。 「土方真紀の武装神姫、フブキ。……だな?」 「ええ」 祐一の問に、静かに頷きフブキは背中の翼を広げた。 「私が、最後の『敵』です」 「……なるほど」 最早、祐一には全てが明白だった。 直に彼女と出会うまでは保留にしておいた問いに、最終的な解答が出る。 「アイゼン」 「……ん」 行くぞ。と、言うまでもない。 祐一のように、この状況を完全に理解した訳ではないだろうが、それでも彼女は彼の判断に疑問を差し挟みはしなかった。 「……」 無言のまま、アイゼンは無骨なザバーカを一歩前へと踏み出す。 「何も聞かないのですね?」 「負けるまで、答える気無いだろ?」 ふふふ。と幽かに笑い、フブキも同じく一歩踏み出す。 「話が早くて助かります」 「……」 フブキと、アイゼンとが、ほぼ同時にそれぞれの武器を構えた。 奇しくも双方、双刀。 アイゼンは何時ものアングルブレードに、大小組み合わせたフルストゥを副腕に持ち、近接戦に備えている。 対するフブキも刀型の剣を両手に一つずつ持ち、明らかに接近戦を意識していた。 「開始の合図は要るか?」 冗談めかして投げかけた祐一の問に、しかしフブキは神妙に頷く。 「お願いしましょう。……それが、貴方がたの流儀でしょうから……」 「……?」 アイゼンの表情に、一瞬だけ戸惑いのような物が生まれ、すぐにそれを押し殺す。 元より、余分な考え事をしながら戦える相手ではない。 「……それじゃあいくぞ。……ゲットレディ」 僅かに屈み、突進に備えるアイゼンとフブキ。 「―――GO!!」 そして、最後の戦いが始まった。 鋼の心 ~Eisen Herz~ 第35話:ネメシス 「―――砕!!」 先手は、当然のようにフブキ。 反応速度も、敏捷性も、移動力も。 凡そ『速さ』と区分できるあらゆる性能が、敵対するアイゼンの比ではない。 両腕を万歳するように掲げ、大上段から二本の刀を同時に振り下ろす。 ≪system“Accelerator”starting up≫ 対するアイゼンは、初手からアクセラレータ。 フランカーから移植された思考加速装置を起動、フブキに追従する反応速度を得る。 AIにかかる負担から、戦闘時間は大幅に短くなるが、コレ無しでは戦闘以前の段階で勝負にならない。 「……っ!!」 性能差の割には必要とする加速度が低い為にアイゼンを苛む頭痛も鈍いが、フブキに対しては、ある程度の事前情報があり、それなりに行動を予測できる為、この程度でなんとか対応範囲に持ち込める。 辛うじて副腕のナイフで双刀を外側に弾き、素体腕で持ったブレードを左右から挟みこむように振るう。 「…疾ッ」 即座にフブキがアイゼンの胸を蹴って離脱。 悪魔型のブレードは空を切る。 直前。 「……行けぇ!!」 そのまま、ブレードが前方に投擲された。 「ほぅ?」 軽く驚きながらも、フブキは双刀で投擲された2本のブレードを弾き飛ばした。 直後。 「む?」 更に、重なるように投擲された刃が4本。 アイゼンが、分解されたフルストゥを両の腕と副腕とで、すかさず射出したのだ。 「初手から武器を全て捨てるか!?」 だが、それぐらい意表をついた攻撃で無ければ、最強の神姫相手に戦いの主導権は握れない。 フブキは一瞬。 ほんの僅かな間だけ判断に迷う。 羽手裏剣での迎撃は、投影面積の薄い刃を打ち落とすには不向き。 かといって避けようにも、アイゼンを蹴り飛ばした直後で宙に浮いている状態では緊急回避は出来ない。 刀で弾こうにも、僅かずつタイミングをずらして投擲された刃は、まるで列車のように同じ軌道を時間差をつけて飛来するため、全弾弾く事は不可能。 ならば。 「防ぐまで!!」 体の前で翼を閉じて構成する分子機械を再配置。 堅牢な殻を形成しそれを盾とする。 ダダダダ、と刃が翼の表面に突き刺さるが、分子機械で多層構造を形成された防壁は貫通をゆるさない。 この時点でようやく、アイゼンを蹴って飛びのいた滞空から着地するフブキ。 刺さったナイフを振り落とす為に勢いよく翼を広げ、開けた視界に。 「……ふっ」 チーグルを振りかぶったアイゼンが居た。 「―――ッ!?」 悪魔型のモチーフに恥じない暴力的な威力の腕(カイナ)が、寸での所で身をかわしたフブキを掠め、空を切る。 極僅かに、爪の先が引っかかった胸部装甲が、しかしその圧倒的な腕力ゆえに大きく裂けた。 (……さすがストラーフ。パワーならば最新鋭の重量級神姫にも引けを取りませんね) 振り抜いたチーグルの勢いは止まらず、アイゼンは大きく姿勢を崩す。 フブキにとっては反撃を行う絶好のチャンスだ。 しかし。 「罠なんでしょう?」 フブキはそれに喰いつくほど浅はかではなかった。 「……ッ」 更に身を引いて間合いを広げたフブキの眼前を、ザバーカによる後ろ回し蹴りが擦過する。 またもやかすり傷を負うが、それを意に介さず、フブキは間合いを広げて仕切り直しを図った。 その選択が、祐一とアイゼンにとっては最も手痛い一手であると、フブキは確かに理解していたのだ。 ◆ 武装神姫を大雑把に両極化すれば、重量級の『パワー型』と軽量級の『高速戦闘型』に分類される。 大きく、重い方がフレームの強度を上げる事ができ、それに伴ってパワーも向上する。 更には自重そのものが、打撃の威力と密接に関わる質量を上げる為、攻撃力は更に向上。 結論から言えば、神姫の重量と腕力はほぼ正比例の関係にあるのだ。 即ち。重いと言う事は強いと言う事だ。 即ちこれこそが重量級神姫のコンセプトに他ならない。 では。 対する軽量級神姫のメリットは何処にあるのだろう? 当然の如く予測されうる答えは『速さ』だろう。 だがしかし。 それでは誤りではない、だけで。正解でもない。 何故ならば、時として『重い方が速い』事もあるからだ。 神姫を例に挙げるなら、アーンヴァルとエウクランテが判りやすい例だろう。 共に飛行タイプの軽量級神姫に分類されるが、実際にはアーンヴァルの方が全備重量はかなり重い。 しかし。最大速度はアーンヴァルの方が圧倒的に速いのだ。 理屈から言えば、エウクランテではアーンヴァルに追いつけない。 ……が、実際の戦場ではむしろエウクランテの方が速さを武器とするのである。 何故か? その答えは『加速力』にある。 仮にエウクランテの最大速度を30、アーンヴァルを50として考えてみよう。 共に最大速度を出している状況では、エウクランテはアーンヴァルに及ばない。 だが、静止状態からの加速勝負なら話は変わる。 アーンヴァルが2秒ごとに10ずつ速度を上げるとしよう。 その場合、最大速度である50に達するのは10秒後。 しかし、エウクランテが10速度を上げるのに要する時間が1秒なら、最大速度である30に達するのは3秒後。 同時にスタートしたのならば、3秒後のアーンヴァルの速度は僅か15、エウクランテの半分に過ぎないのだ。 そして、乱戦中に10秒もの間直進、即ち最大加速をする機会はまず無い。 攻撃のため、回避のため、位置取りのため。 戦闘機動とは急緩が複雑に絡み合う物だからだ。 故に。 軽量級神姫の強みとは、即ち加速力。 如何に短い時間でトップスピードに乗り、そして減速出来るかが性能の優劣を分ける。 そして、それを行う為に最も邪魔になる物が『重さ』なのだ。 逆説的に言えば。『軽量級』神姫とは、速さを求めたが故に『軽く』ならざるを得なかった神姫とも言える。 それを知っている神姫とそのオーナーは、その為に、如何に自重を削るかを命題とする。 無論、装甲は極限まで切り詰める。 武器も必要な分だけあればいい。 速度を得る為の推進器も暴論を言えば、無いほうが良い位なのだ。 そして、そのバランスを如何に取るかがオーナーの見せ所とも言える。 装甲が過剰になれば、速度は目に見えて落ちるし、かと言って、無装甲では爆風や破片と言った避わしようの無い攻撃で致命傷を負ってしまう。 武器も過剰な装備は重さに直結するが、足りなければ敵を倒しきれない。 速度を得る為の推進器も、神姫素体に頼るのか、外付けの推進器を装備するのかで戦闘スタイルそのものが大幅に変わる。 斯様に軽量級神姫の扱いは難しい。 武器、装甲、速度。 このバランスを如何に取るか、最終的な結論は恐らく永遠に出ないだろう。 故に、軽量級神姫のオーナーたちは自らの最適解を目指し邁進する。 各々の解答を以って戦いに挑みながら……。 ◆ そして、原初の軽量級神姫のオーナーであった土方真紀は。 その解答をこう出した。 ◆ 「……自己修復……か。冗談みたいだな……」 「……ん」 チーグルとザバーカで付けたボディの傷が、二人の見ている前でフィルムの逆回しのように消えてゆく。 四本ものナイフが突き刺さった翼も、だ。 「私の装備は全てが分子機械(モレキュラーマシン)です」 彼女の装備、即ち。翼と装甲衣、そして双刀。 「何れも必要に応じて組み替えることで、多様な性質を帯び私の機能を補佐します」 鋭く高質化する事で刃に。 柔軟に風を孕む事で翼に。 幾重にも積層される事で鎧に。 言ってしまえば、フブキの装備は『分子機械のみ』だとも言える。 それ一つが多様な役目を果たすが故に。 「……一応言っておきますが、先ほどの攻撃も無意味ではありませんよ。私の装備を構成する12万の分子機械の内、数百は機能停止しましたから……」 「一応ストラーフの打撃は、掠めるだけでも軽量級神姫なら数発で戦闘不能になる威力なんだけどね……」 だが、フブキの外部装甲は修復が効く。 つまり小手先の小技や、アーマーから破壊して爆風でトドメを刺すような搦め手はほぼ無意味と言う事だ。 「……やっぱり、体の正中線をぶん殴るか、キャノンを直撃させるしかないと思う」 「だな」 「……もちろん、私もそれを警戒しているのですけどね……」 言ってフブキは軽やかに一歩飛びのく。 広げた間合いは、アイゼンにとっては格闘装備の使えない中距離以遠。 元より単純に撃った滑空砲が当たる相手では無い。 ならば、使用するべきは……。 「アイゼン!!」 「……ん」 抜き打ち気味に構えたアサルトライフルで発砲!! フルオートで弾幕を張り、半呼吸ほど遅らせて左右に滑空砲で榴弾をばら撒いて置く。 ライフルをかわす為に左右に避けたのならば、榴弾の爆風で巻き込める。 そうでなければ蜂の巣だ。 ……並みの神姫ならば。 「アイゼン、上だ!!」 「……ッ!!」 瞬時に跳び上がったフブキが、空中で翼を使って方向転換、即、加速!! アイゼンの頭上をキックで狙う。 「……このっ」 合わせる様にチーグルを突き出し、カウンターを狙うが、フブキは全身のバネと翼を使って衝撃を殺し、鋼鉄の拳の上に着地。 「ふっ」 振り抜かれ、伸びきった腕が弛緩する一瞬にあわせ、引き倒すように後方へと蹴る。 「……え?」 爪先から、鋭利な爪が伸び、チーグルを捕らえていた。 伸ばした腕を更に引っ張られたアイゼンが、重心を崩してつんのめる。 驚愕で見開かれた眼前に。 「ごめんなさい」 フブキの足爪が突き刺さった。 「―――アイゼンッ!!」 頭の奥のAIを守る為に、殊更堅牢に作られている頭蓋を引っ掻く音がした。 アイゼンの顔面を削るように振り抜かれたつま先には、湾曲した爪が三本。 その一つが、彼女の左目の位置を抉っていた。 「……ッ、く……」 アイゼンは左目を押さえ、よろめきながらもチーグルを振り回しフブキを追い払うが、しかし。 「アイゼン!! 大丈夫か!?」 「……問題ない、大丈夫。……左目取れただけ」 「だけ、じゃねぇ!!」 神姫センターのバトルなら、敗北をジャッジされるダメージだ。 だが。 「まだ敵は見えてるし、武器もある。……全然余裕」 「……っ」 祐一は一瞬判断に迷った。 元々、彼にはここまでするつもりは無い。 フブキを倒す為に、これほどの代価を払う必要性を、実の所まるで感じていない。 (試合ならコレで負けだし、普通に考えれば戦闘を止めるべきだけど……) 後続にはカトレアもいれば、他の神姫たちもこちらに向かっているかもしれない。 ここで、無理をしてアイゼンだけで倒す必要は、必ずしも無い。 だが……。 「……まだ大丈夫。……やらせて」 アイゼンには、撤退の意思は微塵も無かった。 ◆ 神姫バトルを始めてから5年。 四肢を破壊されるような大ダメージが無かった訳ではない。 だが、神姫にとって手足はある意味では『装備』だ。 交換も容易だし、必要に応じてチーグルなどを直に接続する場合もある。 だが。 頭部は違う。 それは不可分の『本体』。 破壊されたら、『死ぬ』部分なのだ。 そこに、これほどのダメージを負った事は一度も無かった。 当然だ。 フブキは、今までに戦ったどの神姫にも増して強い。 だから。 ……だからこそ。 ◆ 「……ねぇマスター。今、どんな気分?」 「……」 アイゼンの問に答えを探す。 だが、早鐘のような鼓動と焦燥に思考は乱れ、まるで纏まらない。 「……ね、マスター」 「心臓バクバク言っててそれ所じゃないよ」 「……ん。じつは私も」 こちらの会話を待つ心算なのか、動こうとしないフブキを見据えたままのアイゼンが背中越しに語る。 「……なんか。勝てるって確信が無いし、負けちゃうかも、って凄くドキドキしてる」 私に心臓は無いけど。と、続けた後。 「多分、CSCか何処か。……凄いオーバーワークでチリチリするの。 ……マスターもきっと同じだよね?」 「ああ」 深く考えずに、その余裕も取り戻せないままうなずく祐一。 「……でもさ、それ。マスターはよく知ってる感覚だよね?」 「え?」 「……好きでしょ?」 「……あ」 思い当たる。 「初めて敵と戦うとき。 凄く強い敵相手にピンチになった時。 絶体絶命で、でも。 ……まだ、勝ち目が残ってて、諦めきれない時……。 いつも『こう』だよね?」 RPGで。 シューティングで。 対戦格闘で。 ……武装神姫で。 遊んだ後に、一番楽しいと思い返すのは、何時だってギリギリの極限の瞬間を、だ。 「……なら」 「今が一番、『楽しい』状況……。だね」 「……ん」 そうだ。 まだ、負けた訳じゃない。 形勢は言うまでも無く不利だし、勝ち目は薄いけど。 皆無ではない。 「……一応聞いておくけど、まだ戦えるよね?」 「……当然」 言って、両の副腕を握りなおすアイゼン。 「よし。……ならもう一度だ」 「……ん」 答え、祐一のストラーフは微かに身を落とし、構えなおす。 「頼むぞ、アイゼン!!」 「……指揮は任せた!!」 答え、応え。 アイゼンが飛び出した。 ◆ (なるほど。……コレが本当の目的ですか) 気付いた彼女が密かに笑う。 (本当に、回りくどくて不器用なやり方です) 彼女を支配する感情は紛れも無くそれ。 (ですが、それでこそ私のマスターです) 主と共にあると感じた神姫が得る感情は、歓喜に他ならない。 ◆ アイゼンの突進に、フブキは全力を以って応じた。 左右に大きく腕を広げ、刀と翼を触れ合わせる。 分子機械を翼から刀に大幅に移し、武装を強化。 質量を増した分威力が上がり、重くなった分遅くなった剣速を翼で弾き出す事で補い、更に上乗せする。 「……行きます。―――奥儀『双餓狼』ッ!!」 暴風すら伴いながら、アイゼンを迎撃するのは左右からの同時斬撃。 対するアイゼンは左右のチーグルを刃に合わせる。 しかし、左右は逆に。 眼前で交差した副腕は、その距離を余力とし、圧倒的な一撃を柔らかく受け止める。 もちろん、勢いを完全には殺しきれない。 だが、その一撃がアイゼンに到達するのがほんの一秒ほど遅らせる事には成功した。 しかし、たったの一秒だ。 それはたった一秒敗北を後伸ばしにするだけの行為。 両腕を緩衝材に使い、塞がれてる以上、他に打つ手は無い……。 ……普通の神姫なら。 「けど。私の腕は、四本あるっ!!」 完全にフリーになっている素体の両腕。 それが届くのに必要な時間は一秒。 たったの一秒だった。 そして。 その一秒で充分だった。 装甲衣の襟首を掴んで全力で引き寄せる。 剣の間合いを越えるどころか、拳の間合いの遥かに内側まで。 「……つかまえた!!」 「―――なっ!?」 引き寄せられた顔面に、アイゼンもまた顔面をぶつけ、それを以って打撃とした。 「へ、ヘッドバット!?」 さしものフブキも、予測していなかった攻撃に面食らう。 素体の運動性ではフブキに分があるが、頑強さならストラーフの方が上。 更に、開いた右腕で追撃の拳。 「捕まえての殴り合いなら、ストラーフに敵う神姫は居ない!! 例えフブキでも、だ!!」 如何に破格の性能を誇ろうが、フブキは軽量級神姫だ。 打撃の速度を上げる事で、攻撃の威力を増すことは出来ても、純粋な腕力ではストラーフに及ばない。 足を止めた超至近距離での殴り合いならば、軽量級の神姫は重量級の神姫に絶対に勝てない。 「させません!!」 組合から離脱しなければ敗北すると判ったのだろう。 フブキは狙いを襟元を掴んでいる左腕に絞った。 だが、しかし。アイゼンにも逃すつもりは毛頭無い!! 「捕まえろ、アイゼン!!」 「……ん!!」 巻きつくように背中に回されるチーグル。 構成する分子機械の大部分を刀に委譲してしまった翼に、それを防ぐだけの力は無い。 更に、素体の両腕で抱きしめるように捕縛。 そのまま全力で締め上げる。 「べッ……、ベアバック……!?」 ギリギリと、締め上げられてゆくフレームが音を立てる。 「締め落せ!!」 「……っ!!」 こうなっては、最早脱出は不能。 アイゼンの勝ちが確定したようにも見えた瞬間。 「―――空蝉!!」 腕から掻き消えるような感触と共に、フブキの身体が理不尽な動きで戒めから離脱した。 一瞬で宙に逃れ、後ろに跳び退く忍者型神姫。 「……忍法?」 「装甲衣の分子機械を膨張させて脱ぎ捨てたのですよ。……脱ぎ捨ててしまう為、一度きりしか使えない手段ですが、もう二度と捕まらなければ良いだけの事」 確かに。装甲衣を脱ぎ捨てたフブキには、最早それを再構築し直すだけの分子機械が無い。 装甲衣だけでは不足だったのだろう。刀も翼も装甲衣と纏めて脱ぎ捨てた為、最早素体しか残っていない。 12万もの分子機械群は、フブキの身体を離れて無力化された。 もちろん再掌握する事で復帰は出来るが、1分ほど時間がかかる。 そして、それが戦闘中に不可能であることは明白だった。 ◆ 「……取りあえず、装備は奪えた、と。……これでようやく五分五分、かな?」 「……だね」 全ての武装を失ったフブキには、最早アイゼンに捕まる危険のある近接戦以外の選択肢が無い。 一方でアイゼンも、遠距離戦になってしまえば射撃で命中は見込めないため手詰まり。 故に、双方格闘戦以外の選択はありえない。 武装を全て失ったフブキに対し、アイゼンは未だにチーグルを始めとする機械化四肢を持っているが、素体の性能自体は数段下。 更にフブキの速度に対応する為にアクセラレータでAIに負荷を掛けているので、実際の戦闘時間は後数分。 加えて先ほど負った左眼の損傷を考慮すれば、実際には遥かに不利だ。 しかし、その差は、確実に戦闘開始時よりも狭まっていた。 そして何より。 (ペースを掴まれたのが厄介ですね……) フブキはそう思考し、目の前の相手の戦績を思い出す。 アイゼン。 そう名づけられたストラーフの真価は、実の所、よく言われるような再戦時の勝率ではない。 一言で言ってしまえば、彼女の恐ろしさはペースを掴む事にある。 相手の得意技を無効化し、頼りとする防御や回避を越えて一撃を与えてくる戦闘スタイル。 それがどれほど困惑を生むかは、実際に相対した神姫とオーナーでなければ分らないだろう。 強い神姫には例外なく得意とする戦術、戦法がある。 何も考えず、ただ強い武器を装備するだけでは精々、初心者相手に圧勝できる程度だ。 中級者には打ち破られ、上級者には片手間で粉砕される。 故に、強い神姫とは確固たる戦術、戦法を見出した神姫であり、それに特化し、予測されうる弱点をカバー出来た者こそが強者として名を馳せるのだ。 だから。 それを磨けば磨くほどに、打ち破られた時の衝撃は大きい。 そして、アイゼンはそれをする数少ない神姫だった。 (すでにこちらの武器である素早さと分子機械を破られました) アクセラレータという強引な手段を用いねばならなかったのは、もはやハンディキャップと言っても過言ではない反応速度の遅さゆえにだろう。 だが、経緯は如何あれ既にこちらの動きは概ね見切られている。 最早素早さだけで翻弄することは不可能だろう。 (分子機械もそれごと握り潰すと言う強引な方法で突破されましたし……) 分子機械の暴走を想定した緊急パージコマンド『空蝉』が無ければ、アレでフブキの敗北は確定だった。 フブキとストラーフの埋めようの無い腕力の差。 それを前面に押し出した文句の付けようの無い攻略法。 咄嗟に空蝉で逃れてしまったが、本来空蝉は戦闘用の動作ではない。 仕様として用意されてはいたが、それを勝利する戦術に組み込んでいた訳ではないのだ。 つまり。実を言えば、あのまま破壊されても良かったと思う位見事に、祐一とアイゼンのペアは『フブキ』という神姫を攻略していたのだ。 そして何より。 (切り札を卑怯とも言える手段で返されたのに、プラス要素だけを認識して即座に戦意を取り戻す切り替えの早さ) 神姫にとって最高のパートナーとなる素養を充分に持っているオーナー。 そして、それに応える神姫というペア。 真紀が邂逅を望み、果たせなかった相手。 それが今、目の前に居る。 「ふふふ」 それが。 たまらなく嬉しかった…。 ◆ 「お見事ですね、戦術の堅実さ、思考の柔軟性、装備の選択。……何れを取っても申し分ありません」 「あまり万人向けじゃない気もするけどね」 「……ん」 コクコクと頷くアイゼン。 「無難に、スタンダードな、などと言うコンセプトでは私には勝てませんよ」 射撃も格闘もこなし、回避もガードも選択しうる。 それではフブキと同じコンセプトだ。 その上で、現行の技術には無い分子機械を擁するフブキに一段劣る技術の同コンセプトでは勝てる筈も無い。 「……だから、その選択は正解です。私は分子機械と言うチートで成立した最強の神姫なのですから『万人向け』のコンセプトでは話にならない」 自らをズルであると認めた上でフブキは問う。 「……しかし、貴方がたはその最強を突破しました」 フブキを最強たらしめていた分子機械を打ち破った。 「しかし、その代価は貴方がたにも軽くはないでしょう?」 アイゼンのダメージは大きく、AIにもアクセラレータの負荷が重く圧し掛かっている筈だ。 「一応問いますが、ここで引く気は無いのですね?」 もちろん。 フブキにはその答えが分っていた。 「当然だ。……折角、最強の神姫が相手なんだ。……最後の最後まで楽しませてもらう」 「……ん」 こくりと、頷いてそれを肯定するアイゼン。 「……。……ふふ」 軽く、全身から力を抜くフブキ。 「……いいでしょう。かかってきなさい、悪魔型!!」 「……往く」 こうして、三度目の仕切り直しから。 こんどこそ最後の勝負が始まった。 ◆ 打撃。 打撃。 打撃。 双方、拳を中心に打撃の応酬を繰り広げるが、そのスタイルは別物だった。 牽制打を連続で繰り出し、渾身の一撃を打ち込む隙を作り出そうとするフブキに対し。アイゼンは大振りながらも必殺の一撃を確実に繰り出してゆく豪放なスタイルで応じる。 蹴りはどちらも存在だけ匂わせ、実打は撃たない。 格闘技において、蹴りは威力以上にデメリットが大きい。 振り上げた脚を捕らえられれば、その時点でほぼ敗北は必至。 脱する為に必要な実力差より、蹴りを使わずに相手を倒す方が力量が要らないのだ。 そして、双方にそこまでの実力差は無い。 素体と武装状態とは言え、確かに性能ではフブキが勝る。 だが、しかし。 5年と言う歳月を待機して待っていたフブキと違い、アイゼンには1週と置かずに繰り返してきた戦闘経験がある。 間合いの取り方、外し方。 打撃の使い分け。 そして、打撃以外の投げや掴みと言う選択肢の存在。 この場の誰もが気付かなかったが、それは実の所、武術家と猛獣の戦いだ。 基本性能を武器とする猛獣に対し、技で応じる武術家。 それは、アイゼンとフブキの戦いと同じ傾向を持っていた。 そして、唐突にアイゼンが打撃を変える。 今までの重い一撃から、フェイントも同然の軽い一打。 しかし、予備動作なしで繰り出されたそれは、確かにフブキの身体を捉え、一瞬浮かせる。 そこに。 今度こそ必殺の意思を込めた一撃が打ち込まれた!! 「…!!」 フブキの反応は速い。 撃ち込まれた機械腕の右ストレートに身体を絡み付かせ、そのまま一気に腕を奪いに行く!! ダメージは決して軽くないが、彼女の反応速度は寸での所でその打撃を察知し、身を引いて威力を殺している。 フェイントにかかって居なければ無傷で反撃できただろうが、それでもこの一撃で決めるつもりだったアイゼンの意図は外せた。 ならばこれで詰み。 身体全部を使ってチーグルの右肘に加重をかける。 「……このっ!!」 アイゼンが左拳でわき腹を狙うが、それより早く、フブキの膝がチーグルの肘をへし折った。 「……っ!!」 ダメージに怯んだ一撃ではフブキを吹き飛ばすのが関の山。 致命打には程遠く。 しかし、アイゼンは迷わず追撃を掛ける。 「……行け、アイゼンッ!!」 着地の硬直で避けられないフブキに、アイゼンは片腕を失ったチーグルとザバーカをパージ。 その勢いを加速に利用し渾身の右ストレートを放つ。 「……これで―――」 それが当たる直前。 フブキが消えた。 「―――!?」 知覚が追いつかない。 拳をかわしたフブキが、姿勢を崩したアイゼンに密着するように両手を重ね。 「―――破」 発勁。 横合いから放たれた衝撃に、自分の受けた技を認識する事も出来ず、アイゼンは吹き飛ばされた。 これが決着。 戦闘開始から15分ジャスト。 敗因は、アクセラレータの時間切れだった。 第36話:伏せられた真実?につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る フブキ付き黒い翼の発売でようやくウチの(実質)ラスボスが日の目を見ました。 これの発売予告以前からフブキ+黒い翼でイメージしていたので嬉しい事、嬉しい事。 本編の方も、書き溜めてあるのでココから先は更新早めでいけると思います。 宜しければ、後もう少しだけお付き合い下さい。 と言いつつポケモンとかモンハンとか鉄の咆哮とか……。 もうすぐルーンファクトリー3出るし、世界樹Ⅲも発表だぁ!! 来年もきっとゲームが楽しい。 ALCでした~。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/713.html
姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1950.html
「ねえおじいちゃん、この店って地下室あるよね?」 「ん? 倉庫に自家発電室に物置部屋が二つな」 ふと聞いてみたの。 「物置っても、片方鍵かかってるの変だよ」 「フム、その内な」 「けちー、今でもいいのー」 どうして教えてくれないの? わたしなにかまずい事言った? ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 夜、閉店後。 「……スィーマァ」 「みゅ…どうしたんですか? ますたー」 「名目上第二物置になってる地下室を偵察してきてなの」 「ふぇっ!?」 夜の地下室は不気味だというのに、すすみはあろう事かスィーマァに頼んだ。 「い…いってきますぅ…」 明らかに足がガクガクしてるが、すすみは黙って見送った。 …… 自分サイズの懐中電灯(フラッシュライト)を手に、スィーマァは神姫にとっては少し大きい段差を降りて行った。 消灯後の地下は光源がなく、常に足元を照らしていないと階段から転げ落ちてしまうだろう。 「こわい……怖いよますたー…」 今にも泣きだしそうな丸い目。 でも、オーナーのために勇気を振り絞る。 首を回し入れそうな穴がないかを調べる。 「あ」 扉のとなりにあった小さなセラミックパネルはねじ止めされておらず、奥は…第二物置。 「何で止めてないんだろ…」 疑問を感じつつ穴をくぐるスィーマァ。 … 穴をくぐると、無数のショーケースが目に入った。 誰もいないのにライトアップされており、中身を照らしていた。 「…武装神姫」 ケースより上にある棚にはフルセット・武装セットがずらり。 品薄なアーンヴァルとストラーフ、アークも他と同じだけ数がある。 ふと、ショーケースに近づき中を覘く。 人気商品から聞いたことのないメーカーの品まで何でも置いてあった。 「ああっ!?」 スィーマァの目にとまったのは、信号銃。 でも、それを見る目が明らかに違った。 「カ…カンプピストル! 神姫用も作られてたんだ…!!」 知らない人のために説明しよう。 1930年代にワルサー社がドイツ陸軍の要請に応え、信号銃を小型の榴弾銃にしたものがカンプピストルである。 最終的に軽装甲の車両なら破壊できるほどの威力を保持するようになるなど、ある意味「対物拳銃」といった感じだろうか。 「………」 思わず涎までたらし、目を輝かせながらそれを見つめるスィーマァ。 ムルメルティアのモチーフがドイツ戦車なので、その影響もあるのだろう。 「警報装置は…ない…ね」 使い慣れないアイパッチのセンサーを使い、危険がないことを確認するとそっとケースを開けた。 そしてカンプに手をのばす。 ああ…憧れの品の一つを、いま手にできる。 あと数センチ……。 「何者だ」 後ろから声をかけられ、動きが止まる。 殺気が背中を突く。 「身なりからして野良ではない…、盗人か?」 スィーマァの心は早くも恐怖で覆われていた。 具体的に表すと 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い ってなくらいである(なんだそりゃ) 関係ないが、単語の集まりって怖いよね。 気が弱いスィーマァにこれが耐えられるはずもなく… 「ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」 「!?」 奇妙な悲鳴と共に泣きだした。 「ごごごごごめぇんなぁさぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ」 涙と恐怖のあまりちゃんと喋れてない。 ドタドタドタドタ 地上の方で木製の階段を駆けおりる音、 カッカッカッカッカッカッカッ 少しして地下へ続くコンクリートの階段を駆け降りる音。 ガチャッ ダァンッ! ドアが勢いよく開いた。 「スィーマァ!?」入って来たのはすすみとおじいちゃん。 「まぁすたぁぁぁぁぁっ!?」 号泣したまま飛びつくスィーマァ、すすみのパジャマが涙でぬれてゆく。 「オーナー、私じゃ対処する事が出来ないぞ」 「まぁまぁ、これも経験だよ」 声の主と話すおじいちゃん。 紹介が遅れた。 おじいちゃんの名は古代十三三、この店の店長である。 そして声の主―フォートブラッグ―のオーナーでもある。 「おじいちゃんこの売り場って、それとその子…」 「んー、友だちに話されたらまずいから黙っていたのだよ」 「ええっ?」 十三三は少し首を傾け、目をつむって言った。 「若い子らの間で「あれがあの店にあったぞ!」だの「珍しいものが山ほど置いてあったぞ!」と騒がれると、店が荒れてしまうんだ。だから念には念をと言う訳だ」 「おじいちゃん、そんなにわたしが信用できないの…?」 すすみは呆れざろうえなかった。 彼女はかなり口が固い、それこそ湯煎する前のシジミのごとく。 「いや、どうも今のすすみを掴みきれてなくてな。小さい頃とどうしても被ってしまうんだ」 ふっとため息を吐くすすみ、そして聞く。 「でも、信頼が置ける人なら教えてもいいの?」 「それは勿論さ。ここはしっかり"理解している人"のための売り場だからね」 十三三は手を伸ばし、フォートブラッグを手にのせすすみの前へ。 「紹介しよう、"ナァダ"だ。すすみが来る前から店を手伝ってもらっている」 「宜しく、お嬢」 "お嬢"という呼び方はどこで習ったのか、気になるところだが。 「よろしくね。…ほらスィーマァ、もう怖くないから自己紹介」 「うう……、スィーマァです」 若干怯えつつ、手をのばすスィーマァ。 ナァダはその手をしっかりと握った。 「宜しく、スィーマァ」 そんな小話を繰り広げるは、22 10分の「古代モデル店」であった。 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ