約 1,893,826 件
https://w.atwiki.jp/aousagi/pages/505.html
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/9653.html
SAO/S26-032 カード名:気がかりなレコン カテゴリ:キャラクター 色:緑 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2000 ソウル:1 特徴:《アバター》?・《武器》? 【自】[①] このカードが手札から舞台に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分のクロック置場のクライマックスを1枚選び、手札に戻し、自分の手札を1枚選び、クロック置場に置く。 ……来ないの? レアリティ:C
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/852.html
アルビオンの聖都ロンディニウム、ハヴィランド宮殿内で始まった貴族会議は紛糾していた。 トリステインを攻めることに関しては、出席している貴族の意見は肯定で一致している。 問題はどうやってである。 沈黙を保っていた神聖皇帝クロムウェルは喧騒が一段落付いたところで、 おもむろに立ち上がると自らの考えを言ってのけた。 「親善訪問の際に、こちらの艦隊の内、一隻を故意に落とし、トリステイン側の先制攻撃と見せかけ、 その後こちらの艦隊の全力をもってトリステインの艦隊を殲滅する。もちろん落とすのは老朽化した船だ。いかがかな、この計画は?」 良くも悪くも体面を重視する貴族では思いつかない作戦だ。 不可侵条約を締結した相手に、だまし討ちをかけるなどというのは。 会議の円卓に集う貴族の内半数ほどが拍手と賛成の声を上げる。 賛成の意を示した者たちはクロムウェルに追従する者たち。レコン・キスタの創成期から彼に従っている者が多い。 「しかしそれでは条約を破ることになる。アルビオンが条約破りの恥じをさらすことどうするおつもりか?」 クロムウェルから見て最も遠い位置に座っている貴族が立ち上がりクロムウェルに疑問を投げ掛けた。 他の貴族議員とは違い、アルビオン軍の軍服を着ている。階級章は将軍位。 アルビオン陸軍の代表として会議に出席しているホーキンス将軍である。 彼らは王家を倒したとはいえ、貴族なのだ。貴族には貴族の誇りがある。 ホーキンスも名誉のない戦いなど望んではいない。 「言ったではないか、トリステインが先制攻撃をかけたことにすると。戦には不明な点が数多く起こる。 勝てば良いのだよ。トリステインなど腐った杖のようなものだ、力を加えればすぐに折れる」 言い切ってから円卓をぐるりと見回すクロムウェル。 これまで王軍との数々の戦いを勝ってきたからこそ、言える台詞だ。 勝ち進んできたからこそ、クロムウェルは皇帝と見なされている。 ホーキンスは言葉に詰まった。手の平を握り締める。 軍人だからこそホーキンスは戦争に勝つことの難しさを知っている。 今まで常勝を保ってきたクロムウェルに言われると反論できない。 唯一大きな損害を出したニューカッスル攻城戦も勝利には違いないのだ。 何も言わなくなったホーキンスを眺め、クロムウェルは内心ほくそ笑んだ。 勝っている限り、自分に逆らう貴族はいない。そして自分に負けはない。 他に反論を述べる貴族はいない。けれど貴族議員の表情には何かしら不満が感じられる。 やはり貴族の誇りからこの作戦に拒否感があるのだ。後もう一押しが必要だろう。 「それとも諸君はいたずらに開戦を遅らせ、ゲルマニアの参戦を招くつもりかね。 ゲルマニアは敵ながら強大だ。特に地上戦力は特筆すべきものがある」 トリステインとゲルマニアは違う。トリステインとゲルマニアの同盟が成った今、時間を掛けている余裕はなくなった。 もたもたすれば膠着状態に陥ってしまう。それを回避する為のだまし討ちである。 同盟さえなければ不可侵条約など結ばず、トリステインを飲み込んでやれたろうに。 クロムウェルは更に強い口調で言った。もはや誰も反論できまい。 「皆、この計画でよろしいか。ならば詳細を詰めようではないか。降下地点は予定通りタルブ。 艦隊司令長官は誰が良いかな? トリステイン侵攻軍総司令官は?」 クロムウェルは貴族議員に聞いているわけではない。芝居がかった仕草でクロムウェルは貴族議員一人一人を見回した。 皇帝として貴族に命令を下す時。この瞬間がクロムウェルはたまらなく好きだ。 元はただの一司教に過ぎない自分が並み居る貴族に命令を下し平伏させる、この瞬間が。 「ふむ、ならばホーキンス将軍、トリステイン侵攻軍総司令官とアルビオン艦隊司令長官の大役、君に預けよう」 最も作戦に反感をもっているだろうホーキンス将軍にあえて司令官を任せる。 クロムウェル流の意趣返しだ。とは言ってもホーキンスは有能な軍人である。必ずや作戦を成功させるだろう。 ワルドがいたのなら、建前の指揮官を腹心から任命し、指揮自体は彼に行わせたのだが。 ワルドにはもはや帰るべき故郷はない。故に裏切りの心配はない。 「おお、ホーキンス将軍なら、適役ですな」 「全く彼ならば安心だ」 周りの貴族からクロムウェルの選択を持て囃す声がかけられた。 それらには任命されなかったという安心感と、ホーキンスの能力に対する信頼が込められている。 「……トリステイン侵攻軍総司令官及びアルビオン艦隊司令長官の役目、ありがたく承ります」 ホーキンスはクロムウェルの命令を受け入れた。 彼はアルビオンの軍人だ。アルビオンの総司令官の命令には従わなくてはならない。 どれだけ険悪感をもった作戦であろうと、指揮官となったのなら全力を尽くすまでだ。 「では議会は閉会とする。レコン・キスタに栄光あれ」 「「レコン・キスタに栄光あれ」」 何重にも重なった声。クロムウェルに続いて唱和する貴族たち。 クロムウェルが秘書のシェフィールドを引き連れて真っ先に会議室から退出すると、他の貴族も各々会議室から出て行く。 ただ一人、ホーキンスだけが椅子に座ったまま残っている。両手を組み合わせたまま机の上に置いて。一つ溜息をついた。 レコン・キスタに身を置いたことを、ホーキンスは今では正しい行動だったかどうか分からない。 ハヴィランド宮殿の各所に掲げられたトリコロールのレコン・キスタ旗を、三匹の竜が絡み合うアルビオン旗に見てしまうことがある。 ニューカッスルで全滅した王軍には彼の友人もいた。友人は最後までアルビオンの王族を信じ仕え死んでいった。 ならば自分はどうなのだ、ホーキンスは自問する。王族との共倒れを嫌ったホーキンスはレコン・キスタに付いた。 しかしレコン・キスタにアルビオンの王族のように信じられるものがあるのか。 もしアルビオンの王軍に残っていたら、もっと誇りをもって生きていけただろうか。 けれど、全ては遅い。ホーキンスは神聖アルビオン共和国の、そしてレコン・キスタの軍人なのだから。 「よく来てくれた、ミス・サウスゴータ」 フーケは神聖皇帝の私室に足を運んだ。歓迎の言葉を口にするクロムウェル。 しかしフーケはクロムウェルに見られぬよう顔をしかめた。 貴族名を呼ばれたためだ。だが面と向かって訂正するわけにもいかない。 クロムウェルはアルビオンの皇帝、フーケは一介の雇われメイジ。立場が違う。 「君を呼んだのは、今回のトリステイン侵攻軍に君も加わって欲しいからだ。」 フーケはいきなりの命令に面喰らった。フーケの系統は土。 艦隊の船に乗っていても大したことは出来ないし、竜も操れない。 地上戦ではゴーレムで戦えるかも知れないが、あまり気が進まない。 そんなフーケの思いを汲み取ったのかクロムウェルは安心させるように付け足した。 「心配しないでくれ。何も空中戦に加わってくれとは言わない。彼に指示を出して欲しいのだ」 そう言ってクロムウェルは部屋の隅を杖で示した。あの時出会った親衛隊の一人、長剣を腰に着けた、仮面の戦士が立っている。 フーケはますます困惑した。あの戦士に指示を出す? どういうことだ。 「彼はいわゆるメイジ殺しという奴でね。加えて狂戦士なのだ。あの仮面で人格を抑え操っているのだよ」 クロムウェルはまるで自分のことのように自慢げに語る。無意識にだろうが声も大きくなっている。 メイジ殺し、そして狂戦士。メイジであるフーケにとって不吉な単語だ。しかしたかだか平民の戦士一人に何が出来る。 メイジ殺しと言っても所詮一対一の場合だけだろう。 「……戦士一人に何が出来るのでしょう?」 フーケの疑いの心に気付いたのか、はたまた最初は自分もそう思っていたのか、クロムウェルは機嫌を崩すことなく答える。 「疑っておるようだな。それも仕方がない。しかし、彼は強いぞ。べらぼうに強いぞ」 クロムウェルは笑うように語った後、フーケに近くに来るように言うと指にはめた指輪をフーケに渡した。 「これは?」 「彼の仮面と対になるものだ。仮面を着けている者は指輪をはめている者の命令に従う。 此度の戦争では彼を上手く使ってくれ。そうそう、彼を動かすときは決して、離れてはいけないよ。敵ばかりの状況なら別だがね」 眼を細く開き悪魔のような表情でクロムウェルは言った。 ここまでクロムウェルが言うからには断る訳にもいかない。 フーケは仕方なくアルビオン艦隊に乗り込むことに同意する。 「承知しました」 試しにフーケは戦士に向けて一つの命令をする。来い、と。戦士は無言でフーケの前に立つ。 仮面の穴から戦士の瞳が見えた。深い深い闇の色をしている。戦士はこの瞳でどんな光景を見てきたのだろう。 そんなことを思いつつフーケは部屋を出る。付いて来い、と戦士に命じて。 フーケと戦士のいなくなった皇帝の私室。クロムウェルは横に立つ黒いコートの女性に声をかけた。 「ミス・シェフィールド本当に良いのでしょうか? 彼を行かせてしまって」 クロムウェルとてあの戦士がいくら強くても、伝説のガンダールヴに符号するような働きができるとは思っていない。 だがあの戦士を見ているともしや、と言った考えが浮かぶのも事実だ。 しかしそれとは関係なしに戦士を戦場に出せ、とクロムウェルに命じたのはシェフィールドだ。 クロムウェルはそもそもシェフィールドの命ある人形に過ぎない。シェフィールドの得体の知れぬ力に怯えつつ、 彼は権力のためにシェフィールドに従っている 「彼は生来の狂戦士。戦いを与えなければ、殺人への渇望からいずれ仮面の呪縛を打ち破ります。 人間離れした精神力、そして身体能力。彼こそまさに狂戦士ですわ」 シェフィールドと呼ばれた女性は妖艶な笑みを浮かべた。 普通の人間ならば強力なマジックアイテムである仮面から逃れることなど出来ない。 しかしあの戦士は違う。いつか呪縛から逃れるかも知れない。 従えにくいものを従えることは、まったくもって楽しい。 額に刻まれたミョズニトニルンのルーンを光らせながら、シェフィールドは口元に笑みを浮かべた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1038.html
前ページ次ページゼロのアトリエ あっさり片付くと思われていたニューカッスルの攻城戦は、 レコン・キスタに想像の範囲を超える損害を与えつつ、丸々一日を要してようやく終結を迎えた。 三百の王軍に対して、損害は三千。怪我人も合わせれば六千。 戦死傷者の数だけ見れば、どちらが勝ったのかわからないぐらいである。 サウスゴータの森の中、ウエストウッドと呼ばれる村の中で。 ティファニアたちが、出入りの商人の語る『最新情勢』に耳を傾けていた。 「そうかい。戦争はとりあえず…終わったのかい」 『マチルダ姉さん』はいつも通り宝石と金貨の詰まった袋を手渡し、 「ご苦労だったね」と、ねぎらいの言葉をかける。 商人はしきりに恐縮して、太守様には並々ならぬご恩を頂戴し…と、いつもの感謝を繰り返し、 頭を下げ下げ馬車に乗って、帰って行った。 秘密を守りつつティファニアを援助するのに最適なあの商人がいたことはおそらく、幸運なのであろう。 そんなことを考えていたフーケは、馬車の後を追うようにゆっくりと歩き始める。 「マチルダ姉さん?」 「戦争が終わったってならまあ、戻ってやるかと思ってね」 問うティファニアに答えると、空を仰ぎ、 「せいぜいゆっくり戻るとするさ」 それだけ言って、フーケは村を後にした。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師26~ 戦が終った二日後。かつては名城とうたわれたニューカッスルの城は、無残な姿を晒すこととなった。 城壁は度重なる砲撃と魔法攻撃で瓦礫の山となり、無残に焼け焦げた死体がそこかしこに転がっている。 照りつける太陽の下、長身の貴族が死体を検分しているようだ。 羽のついた帽子に、トリステインの魔法衛士隊の制服。ワルドである。 その隣には、フードを目深に被った土くれのフーケがいた。 『レコン・キスタ』の兵士達は、戦勝祝いの勢いのままに財宝漁りにいそしんでいる。 宝物庫のあたりでは金貨を見つけた兵士達が歓声を上げ、 中庭のあたりでは傭兵団が死体から装飾品や武器を奪い取り、大声ではしゃいでいるようだ。 フーケはその様子を苦々しげに見つめ、思わず軽蔑をあらわにする。 そんなフーケの表情に気付き、ワルドは薄い笑いを浮かべた。 「どうした土くれよ。貴様もあの連中のように、財宝を漁らんのか?」 「私とあんな連中を一緒にしないで欲しいわ。目の色変えてお宝を詰め込むなんて、趣味じゃないもの」 「盗賊には盗賊の美学があるということか」 ワルドは笑った。 「私がここで狙うとしたら…そうね」 フーケは、ちらっと王軍のメイジの死体を眺めて言う。 「ウェールズ皇太子の、風のルビー…だけど、見当たらないわね」 その言葉にワルドは呪文を詠唱し、杖を振って答える。小型の竜巻が、礼拝堂の瓦礫を吹き上げて――― ウェールズの亡骸が、姿を現した。その指にはアルビオン王家の宝たる『風のルビー』が燦然と輝く。 「あらら。懐かしのウェールズさまじゃない」 フーケは思わずそう呟いて、『風のルビー』を手に取る。 「いいのかい?」 ワルドにそう問うたが、ワルド自身は別の何かを探すのに夢中で、フーケの方を向こうとすらしない。 (こいつは本当に…ま、その方が都合がいいけどね) ワルドの他人をかえりみない自己中心的な行動、視野狭窄に感謝しつつ、フーケは風のルビーを懐にしまいこむ。 遠くから、そんな二人に声がかけられた。 快活な、澄んだ声だった。 「子爵、ワルド君!ウェールズの死体は見つかったかね?」 ワルドは頷き、たった今姿を現した亡骸を指差す。 「おお、やはり止めを刺したのは君だったか!一時はどうなる事かと思ったが、 やはり魔法衛士隊隊長の名は伊達ではなかったということだな!」 やってきた男は、年のころは三十代半ば。 球帽をかぶり、緑色のローブとマントを身につけている。 一見すると聖職者のような格好に見えるが、物腰は軽く、軍人のようでもあった。 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子のすそから、カールした金髪が覗いている。 「ですが、陛下が欲しがっておられた手紙は入手できず、王子を名誉の戦死という形で死なせる事になり、 私自身も奸計に嵌められて逃げ帰る始末…私は陛下のご期待に沿う事ができませんでした。」 「何を言うか、子爵!君は杖をもってその汚名を見事にすすいで見せたのだよ!なに、気にする事はない。 今回はウェールズが死にさえすればそれでいいのだ。理想は着実に一歩ずつ進むことにより達成される」 そこまで言うと、緑のローブの男はフーケの方を向いた。 「ときに子爵、そこの綺麗な女性を余に紹介してくれたまえ」 フーケは、男を見つめた。ワルドが頭を下げているところを見ると、ずいぶんと偉いさんなのだろう。 だがしかし、気に入らない。妙なオーラを放っている。禍々しい雰囲気が、ローブの隙間から漂ってくる。 ワルドが立ち上がり、男にフーケを紹介した。 「彼女が、かつてトリステインの貴族たちを震え上がらせた土くれのフーケにございます、陛下」 「おお!噂はかねがね存じておるよ!お会いできて光栄だ、ミス・サウスゴータ」 かつて捨てた貴族の名を口にされ、フーケは微笑んだ。 「ワルドに、私のその名前を教えたのはあなたなのね?」 「そうとも。余はアルビオンの貴族のことなら何でも知っておる。司教時代に学んだことだ」 その男は、実に『快活』な笑顔を作りながら挨拶をする。 「レコン・キスタ総司令官を勤めさせていただいておる、オリヴァー・クロムウェルだ。 貴族会議の厳正なる投票の結果、聖職者でありながらこのような重責を担う事になった。 微力の行使のために、『余』などという不遜な言葉を使うことを許してくれたまえよ?」 「陛下は既にただの総司令官ではありません、今ではアルビオンの…」 「皇帝だ、子爵」 クロムウェルは笑った。しかし、目の色は変わらない。 「確かにトリステインとゲルマニアの同盟阻止は余の願うところだ。 しかし、我々にはもっと大切なものがある。何だかわかるかね?子爵」 「陛下の深い考えは、凡人の私には量りかねます」 クロムウェルはその言葉を合図として、かっと目を見開いた。 それから両手を振り上げて、大げさな身振りで演説を始める。 「『結束』だ!鉄の『結束』だ!ハルケギニアは我々、選ばれた貴族たちによって結束し、 聖地を忌まわしきエルフどもから取り返す!それが始祖ブリミルにより余に与えられし使命なのだ! 『結束』には、何より信用が大切だ。だから余は子爵、君を信用する。些細な失敗を責めはしない」 ワルドは深々と頭を下げた。 「その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ」 フーケの眉が、ぴくんと跳ねた。力?一体どんな力だというのだろうか? 「『陛下』、始祖が『陛下』にお与えになった力とは何でございましょう?よければお聞かせ願えませんこと?」 自分の演説に酔うような口調で、クロムウェルは続けた。 「魔法の四大系統はご存知かね?ミス・サウスゴータ」 フーケは頷いた。そんなことは子供でも知っている。火、風、水、土の四つである。 「だが…魔法にはもう一つの系統が存在する。始祖ブリミルが用いし、零番目の系統だ」 「零番目の系統…虚無?」 フーケは蒼ざめた。今は失われた系統だ。どんな魔法だったのかすら、伝説の闇の向こうに消えている。 この男はその零番目の系統を知っていると言うのだろうか? 「ワルド君、ウェールズ皇太子を余の友人に加えようと思うのだが…異存はあるかね?」 クロムウェルはウェールズの死体を指差して、ワルドに問うた。ワルドは首を振る。 「陛下の決定に異論が挟めようはずもございません」 クロムウェルはにやにやしながら、フーケに宣言した。 「では、ミス・サウスゴータ。貴女に『虚無』の系統をお見せしよう」 フーケは、息をのんでクロムウェルの挙動を見る。 クロムウェルは腰にさした小さい杖を引き抜いた。 低い、小さな詠唱がクロムウェルの口から漏れる。 フーケがかつて聞いたことのない言葉であった。 詠唱が完成すると、クロムウェルは優しくクロムウェルの死体に杖を振り下ろす。 すると…何ということであろう。冷たい躯であったウェールズの瞳がぱちりと開いた。 ウェールズはゆっくりと身を起こし、青白かった顔が、みるみるうちに生前の面影を取り戻してゆく。 まるで萎れた花が水を吸うように、ウェールズの体に生気がみなぎる。 「おはよう、王子」 クロムウェルが呟く。 蘇ったウェールズは、クロムウェルに微笑み返し、 「久しぶりだね、大司教」 「失礼ながら、今では皇帝なのだ。親愛なる皇太子閣下」 「そうだった。これは失礼した、陛下」 ウェールズは膝をついて、臣下の礼をとった。 「君を余の親衛隊に加えようと思うのだが、ウェールズ君」 「喜んで」 「なら、友人達に引き合わせてあげよう」 クロムウェルが歩き出し、その後ろを、ウェールズが生前と変わらぬ仕草で歩いてゆく。 フーケは呆然として、その様子を見つめていた。 (まずい) フーケの懐にある『風のルビー』は、ウェールズの死体から頂戴したものだ。 普通の死体はそのまま死んでいるので問題ないが、その死体が生き返ったとしたら… フーケは歯噛みして、いつでも逃げられるように周囲に警戒をめぐらす。 ふと、クロムウェルは思い出したように立ち止まり、振り向いて言った。 「ワルド君、同盟は結ばれてもかまわない。この程度なら余の計画に変更はない」 「…?」 てっきり問い詰められると思ったフーケは、拍子抜けして警戒を解く。 ワルドは会釈した。 「とりあえずトリステインとゲルマニアには暖かいパンをくれてやろう」 「御意」 「トリステインは、なんとしても余の版図に加えねばならぬ。あの王室には、 『始祖のオルゴール』が眠っておるからな。聖地におもむく際には必要となるだろう」 そういって満足げに頷くと、クロムウェルは去っていった。 「あれが…虚無?」 クロムウェルとウェールズが視界の外に去った後、フーケはやっとの思いで口を開いた。 ワルドが答える。 「虚無は生命を操る系統…陛下が言うにはそう言うことらしい。 俺にも信じられんが、目の当たりにすると信じざるをえんな」 その後もワルドは何か言葉を連ねていたようだが、 フーケの心中はそれ所ではなかったので、適当に聞き流しておいた。 クロムウェルに、あからさまな疑念の種を見つけてしまったのだ。 風のルビーの話を持ち出してこなかったウェールズ。単に気づいていないだけという可能性はあるが、 最期まで後生大事に身につけていた王家の秘宝をそう簡単に忘れるものだろうか? あれは本当にウェールズその人なのか? そして、見覚えのある…正確には似たようなものを見たことがある『魔法の指輪』も気になる。 そう、クロムウェルのしていた指輪は、どこがというわけではないが全体的なデザインが、 ティファニアが母からもらったという『先住の魔法』が込められた指輪に似通っていたのだ。 あれは虚無ではなく、おそらく何らかの『先住の魔法』が込められたマジックアイテムなのだろう。 (引き際を考える時かもしれないね) クロムウェルが嘘をついたのか、あるいはクロムウェルも騙されているのか。 どっちみち、あんな奴に冠を被せたこの『レコン・キスタ』という組織に先はなさそうだ。 とりあえず次の戦争あたりに参加して、そのどさくさに紛れてまた消えるとしよう。 今度は多分永遠に…そう長くはない、レコン・キスタの瓦解する日まで。 そして、この『風のルビー』を、おそらくはこの世に残った最後の所有者に託す。 最も蔑まれ、最も王座から遠かった者が最期の継承者となり、 アルビオン王家は風のルビーと共に静かにその幕を下ろす。悪くない。 とるべき道は決まった。あとは時を待つだけ。 「…いると、俺は思うのだよ」 考えをまとめたフーケの傍らでは、ワルドの語りがクライマックスを迎えていた。 ヴィオラートたちが魔法学院に帰還してから三日後に、 正式にトリステイン王女アンリエッタと帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世との婚姻が発表された。 ゲルマニアの首府ヴィンドボナで軍事同盟の締結式が行われ、 トリステインからは宰相のマザリーニ枢機卿が出席し、条約文に署名した。 アルビオンの新政府樹立の公布が行われたのは、同盟締結式の翌日。両国の間には緊張が走ったが、 アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルはすぐに特使を派遣し、不可侵条約の締結を打診して来た。 両国は協議の結果、これを受けることになる。 両国の空軍力をあわせてもアルビオンの艦隊には対抗しきれない両国にとって、 この申し出は願ったり叶ったりであったからだ。 そして…ハルケギニアに表面上は平和が訪れた。 政治家達には夜も眠れぬ日々が続いたが、普通の貴族や平民には日常が戻ったのだ。 それは、トリステインの魔法学院でも例外ではなかった。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4544.html
前ページ次ページ割れぬなら…… 「聖地奪還が天下万民の願いだとは初耳だ。司教の深遠なる考えを伺いたい」 ざわ……と、一瞬ではあるがレコン・キスタの軍勢が怯んだ。 背後に居る兵達の不穏な空気を読み取ってか、クロムウェルがさらに大きく声を張り上げる。 「始祖ブリミルは混迷の世を一つにまとめ、秩序をもたらし、さらに魔法をもたらした。その素晴らしき偉業を貴公は否定するのかね?」 対する曹操少しも慌てず、 「兵は不祥の器にして君子の器にあらず! 戦上手だったことで始祖を偉大だというなら司教は君子を理解せぬ愚か者だ」 と返す。 わからない人はいないと思うが、『君子』とは偉い人、あるいは偉大な人、とでも考えていただきたい。 (本当はもう少し難解かつ崇高なものなのだが、今はその程度の認識でかまわない) 「魔法は我々が生きていく上で必要不可欠なものだ。それを人間にもたらした始祖は偉大なる存在だ!」 「魔法が不可欠だとは片腹痛い。己の背後を見てみるがいい! 魔法を使わずとも日々の糧を得ている者達が見えないのか?」 ……ぐぅ、とクロムウェルが息を詰まらせ、たじろいだ。 「ウェールズ皇太子、クロムウェルは墓穴を掘るぞ」 曹操は勝利を確信しているのか、既に表情に余裕があった。 むしろ見ているだけの兵達の方がハラハラしている風もある。 「クロムウェル司教、まだ遠い! 司教は始祖の本質を全く見落としているのだ!」 おおおおおおおおお……歓声とも驚愕ともとれる声が戦場に響き渡る。 「私には始祖のみが扱えるという虚無の力がある!」 クロムウェルは、切り札を使った。 それがクロムウェルにとっては最後の砦であり、本来ならばもう少しの間は隠しておくべきものであった。 それほどまでに曹操はクロムウェルを追い詰めていたのだ。 大義名分……それは時として万の兵よりも重く、強い。 「私が虚無の力を授かった事こそ、始祖が理想としていた世界を再び蘇らせよという天からの采配である!」 「語るに落ちたり、クロムウェル! 何人の真似もしなかったことこそ始祖の『始』たるゆえん。 レコン・キスタ代表クロムウェル! やること全て始祖の猿真似に過ぎぬ貴様には、始祖を語る資格は無い! すなわちレコン・キスタの存在を、天が許してはおらぬ!!」 虚無に驚く間も無く、曹操は断じた。 おそらく兵達には何が起きたのかわかっていまい。 だがしかし、クロムウェルの滝のような汗と曹操の鷹のような眼光を見れば、その勝敗は誰の目からも明らかだった。 「馬をあおれ。10騎で威圧できる」 あっけにとられていたアルビオンの兵達が、慌てて背筋を伸ばした。 レコンキスタの軍勢はじりじりと後退を始め、10騎に対してだんだんと遠巻きになっていった。 クロムウェルはそれに気づき、気づいていながらも何も言えなかった。 切り札にと温存していた虚無が一蹴され、一種の恐慌状態になっていた。 最も冷静であるべき司令官が、最も自我を失っていた。 そして曹操が指の一本を天高く突き出すと、兵達は訳もわからずに狼狽する。 「全軍! 曹操孟徳の指を見よ!」 この状況下で彼の言葉に逆らえる者はいない。 その場にいた全員が曹操を見た。 誰一人として逆らえなかった、誰もがここが戦場である事を忘れた。 ……天空で、一匹の竜が降下を始めた。 砂塵が間近にまで迫っていた。 曹操が指を傾けると、砂と風が戦場に舞った。 ……高空で、一匹の竜が加速した。 曹操が指をゆっくりと降ろすと、それに呼応するかのように風が強まった。 「魔法だ!」と誰かが言った。 「あれが虚無なのか!?」と誰かが言った。 ……上空で、一匹の竜の周囲に氷柱が生じた。 誰もが叫び声をあげていた。 あらゆる人間が視界を奪われていた。 ドスンッ、という音がした。 誰もが恐怖を感じていた。 あらゆる人間が自己の生存を祈っていた。 「よし、今こそ勝機だ。全員! これより我らはレコン・キスタ勢へと突入する。狙うはクロムウェルの首だ!」 「応っ!!」 砂塵の中でウェールズが叫び、兵達が意気を挙げる。 「早まるな!」 しかし曹操がそれを止めた。 この戦場において兵達はもちろん、ウェールズさえも曹操に逆らう事はできなかった。 「これより完璧な勝利を迎える」 「完璧な……勝利だって!?」 再び曹操は天空に指を突き出す。 「まだ曹操孟徳の指を信じぬか」 巻き起こる砂塵の中で、レコン・キスタの全員が懸命に眼を見開き、曹操の指を注視した。 ゆっくりと曹操は指を下げる。 すると今度は指の動きと共に砂塵が弱まった。 冷静に周りを見ていれば、この砂塵が規模の大きなものではないと気づけただろう。 冷静に周りを見ていれば、この砂塵が止まる時期を見抜けただろう。 だがしかし、この戦場において冷静だったのは曹操一人だった。 曹操の指が完全に止まった頃には、砂塵は完全に通り過ぎた後だった。 そしてその指の先には、複数の氷柱に貫かれたクロムウェルの姿があった。 しん……と、さっきまでの恐慌が嘘だったかのように静まりかえった。 レコン・キスタ軍はもちろん、アルビオン軍の全員も固まっていた。 「よし!」 曹操の声が戦場にいる全員の耳に届いた。 「両軍ごくわずかの犠牲をもち、この無意味な戦いを終結とする」 戦場から遥か上空、地上から見ればゴマ粒程度にしか見えない位置、雲と雲の切れ目に一匹の竜が舞っていた。 前ページ次ページ割れぬなら……
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/6593.html
作詞:一色 作曲:南欧P 編曲:南欧P 歌:巡音ルカ 翻譯:yanao 基於相互尊重,請取用翻譯者不要改動我的翻譯,感謝 牙膏島上的克羅威爾 「或許會發生些什麼事?」 朝露中散出虹光 美好的香氣和 薄荷味的,預感? 興奮的胸口啊 用說著早安的笑容 飛躍入世界中 將鬆開的衣釦 就那樣放著 在搖盪的銀河中 一副賴著床的樣子 好想看看充滿泡沫的肥皂 朝那前進 向下而行 哪裡? 是誰? 引導我的是 只屬於小小的我的「克羅威爾」 紳士先生牽起手 「開始冒險囉!」 通過鯨魚橋 用牙刷划著船 忘記了「不可思議」的 公主的旅程 可羅威爾說 「全都是夢中的惡魔 為了要得到『某一天』的 接續的下一頁啊」 來,翻開它吧 在眨眼之間 與起身微暈的前方 就是與和平時不同的自己相遇的第一頁了 一定的 「嘟.嗶嗶.嗶啦」迷路的小孩唱著 一下下的熬夜,呢
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4566.html
前ページ次ページ割れぬなら…… ~前回までのあらすじ~ ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドはアンリエッタを裏切り、レコン・キスタの一員となっていた。 彼は味方を装い、ルイズと彼女が持っている手紙を手に入れるつもりだったのだ。 迂闊にも彼と2人きりになったルイズは衝撃の事実を告白され、動揺する。 ルイズは必死の思いでワルドの手から逃れようとするも、彼女の未熟な魔法ではワルドに太刀打ちするのは不可能であった。 とうとう追い詰められ、ワルドに捕らえられたルイズ。 はたしてルイズの運命やいかに!? その時曹操のとった行動とは!? クライマックスは近い! 「……ちょっと待ちなさいよ」 何でしょうか? 今かなりノリノリで執筆中なので止めないでいただきたい。 そもそも貴方はワルドに捕らえられている筈なのですが。 「前回ってそういう話じゃなかったわよね」 ……あ、本当だ。 「どういう事なの?」 史上初! 前回までのあらすじに衝撃の新事実!!! 「ごまかすなぁっ!」 手足は縛られ、杖も手紙も奪われ、さらにグリフォンによって地上から100メイル以上も離れた場所を飛んでいた。 おおよそ逃れる事は不可能な状況の中で、ルイズの心は決して折れる事無くワルドを糾弾し続ける。 当時のルイズにとって貴族たる者は誇り高く、清廉潔白であることが当然であると信じていたし、人間の持つ心の闇を見せられた経験も無かった。 彼女にとってワルドの裏切りは天地を揺るがすような一大事であり、初めて見る汚い大人の姿であった。 ワルドもその辺りの事は心得ていて、ルイズによる糾弾が初めて口にする毒の味に対する驚きの表れであって、 実に子供っぽいヒステイーにも似た感情である事を見抜いていた。 だから今すぐにルイズの激情を静めるのは不可能だろうと見て、焦らず時間をかけて説得し、 心を開かせなければ彼女の協力を得るのは難しいだろうと考えていた。 ルイズと手紙を押さえ、敵地を離れ、後はレコン・キスタの本陣へと戻るのみとなったワルドは、原作以上に冷静であった。 基本的にこの男は追い詰められない限り冷静さを失わない。 自ら死地に飛び込むと聞き、ウェールズ暗殺を早々と断念した事が良い方向に作用したのかもしれない。 しかしながら、彼の冷静さはすぐに崩れる事となる。 「両軍ごくわずかの犠牲をもち、この無意味な戦いを終結とする」 曹操の宣言は、戦場近くを飛んでいたワルド達の耳にもしっかりと届いていた。 彼等は目撃していた、砂塵の中からクロムウェルの死骸が現れる瞬間を。 ワルドは聡明な男である。 しかし今回ばかりは聡明である事が災いした。 かれは聡明であったが故に、レコン・キスタがクロムウェルの私兵に近い烏合の衆である事に気づいていた。 クロムウェルという名の最高責任者が消えれば、とたんに崩れ始めるだろうと予測していた。 もしもワルドの内通を知る者がクロムウェルただ一人ならば、ルイズの口を封じて何事も無かったかのようにトリステインに戻るという手もあった。 しかし現実には彼の内通を知る者は何人かおり、レコン・キスタが無くなるのであれば、 少しでも責任を逃れるために自己の知りうる全てを喋る者は必ずいるだろう。 つまりワルドが反逆者として処刑されないためにはレコン・キスタの存続が不可欠で、 レコン・キスタの存続にはクロムウェルの存命が不可欠で、 そのクロムウェルは最悪のタイミングで殺害されてしまったのである。 ワルドは追いつめられない限り冷静さを失わない男だったが、予定外の事態に遭遇するとすぐに冷静さを失う悪い癖があった。 その結果、彼は逐電逃亡を決断するのにほんの僅かばかりではあるが時間がかかり、それが後に偶然かつ突発的な戦いが起こる事となる。 クロムウェル殺害から2日が経過した。 ワルドの予想通りレコン・キスタ内では未曾有の大混乱が起きた。 有態に言えば、裏切り、寝返りの連鎖である。 まず真っ先にあの日先陣に居た1万の兵達が残らず寝返った。 その報を聞き、レコン・キスタに脅されて静観していた王党派が決起した。 次に金で雇われていた傭兵、盗賊達が離散した。 それと同時に優勢を理由にくっついていた日和見主義者が離れた。 そしてついにはクロムウェルの理想に惹かれた者達の中からすら、レコン・キスタと手を切る者が出始めた。 ……ここまでが僅か2日の間で起こったのである。 アルビオン王国のジェームス一世が、 「降伏した者の罪は一切問わない」 と宣言した事もあっただろう。 クロムウェルによって(見かけの上では)蘇った者達が一人残らず元の屍に戻り、それが少なからずレコン・キスタを動揺させた事もあっただろう。 しかし最大の理由はクロムウェルが舌戦で完敗し、さらに命を落とした結果であった。 さて、とにかく2日が過ぎ、ワルドは港に居た。 今のワルドにとって、生き延びるための選択肢は2つしか無い。 1つはアンリエッタに全てを話し、助命を乞う事である。 割とお人好しな面がある姫殿下の事だ、十二分に勝算がある賭けである。 しかしこの策を使用すると、一生裏切り者として蔑まれながら生きていく事になるだろう。 もう1つは戦争による混乱が収まる前に下界に降り、そのまま身を隠すという手である。 この策は助命嘆願に比べてリスクは大きいが、うまく変装し別人になりきれば、いくらでも新しい職場が見つかる事だろう。 ワルドは後者を選択した。 彼はルイズと共にとある船の貨物室に忍び込み、息を潜めて出港の時を待った。 実は、この時点までルイズが生きているのは奇跡に近かった。 少し考えれば誰にでもわかる事だが、逐電逃亡、その上ほとぼりが冷めるまで身を隠す上で人間一人を抱えるという事はとてつもない不利益を生む。 それが逃亡に非協力的な人間であるのなら尚更の事だ。 ならば何故ワルドはルイズを殺そうとしなかったのだろうか? 前述の通り、ワルドは冷静さを失っていた。 それがワルドから正常な判断能力を奪っていたからであろうか? それともワルドはギリギリの処で冷静さを保っており、人間だれもが心に抱く闇に拒絶反応を示すような子供を殺したくなかったのだろうか? 残念ながら筆者にはその問いに対して明確な答えは持っていない。 しかしワルドがどのような心情を抱いていたとしても、ルイズはまだ生きており、ワルドと同じ船室に居た。 重要な事はこの1点である。 ……偶然、本当に偶然の出来事だが、ちょうどその時に港に居たジャイアントモールがルイズの持つ水のルビーの匂いに気がついたのだ。 ジャイアントモールは宝石類を好む性質を持っており、水のルビーの匂いに魅せられて移動を始めた。 そのジャイアントモールを使い魔にしていた男、ギーシュ・ド・グラモンがそれを追いかけ始めた。 同行していたキュルケ・中略・ツェルプストーも彼を放っておく訳にもいかず、同じくジャイアントモールを追いかけた。 数分後、レコン・キスタの乱最後の戦いが始まるのであった。 前ページ次ページ割れぬなら……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4539.html
前ページ次ページ割れぬなら…… 「ルイズ、話がある」 未だ熱気冷めやまぬ会議室からルイズが出ると、待ち構えていたかのようにワルドが現れた。 前回描写し忘れたが、居たんだよ。一応。 「どうしたの?」 「姫殿下の手紙は万に一つでもレコン・キスタに奪われるような事になってはならない。だから我々は他の者達とは別のルートで脱出を図るべきだ」 「え? でも他に脱出する方法なんて……」 存在する筈がない。 ルイズはそう言葉を続けようとしたし、実際にニューカッスル城の秘密港を使う以外には脱出経路は存在しなかった。 「あるんだ。実は僕は秘密の抜け道を知っている。少人数しか使えないが、より安全に脱出する事が可能だ」 しかしワルドはそう言い切った。 少し目端が利く者ならばこの嘘を見抜く事もできたかもしれないが、いかんせん当時のルイズには嘘を吐かれた経験が足りなかった。 ワルドを信用しきっていたことも要因としてあった。 「なら、その抜け道を使えばウェールズ殿下やソウソウも脱出できるのでは?」 ルイズはすぐに抜け道を存在するものと考え、2人を助ける方に関心を寄せた。 あるいはその事もワルドの嘘を見抜けなくした要因なのかもしれない。 「いや、彼等はそれを望むまい。それに彼等は明朝、時間を稼ぐためにレコン・キスタと対峙しなければならない。いくらなんでも脱出は不可能だ」 その言葉で、きっとルイズは深い落胆を覚えただろう。 いずれにせよ確かな事は、ルイズはワルドを信じた。 そしてワルドは、手紙を持ったルイズと2人きりになる口実を得たのだ。 その日、ニューカッスル城に残っている人員は大きく分けて3つに別れた。 一つは城から出て、クロムウェルに舌戦を仕掛けるグループ。 一つは場外に出た者達が全滅した場合、籠城して少しでも脱出の時間を稼ぐグループ。 そして残りはアルビオン王国に残っている船『イーグル号』と『マリー・ガーランド』を使い、脱出するグループである。 曹操はウェールズ皇太子と最も忠誠心の厚いメイジ達と共に城を出た。 ルイズとワルド子爵は第1・第2隊が注意を惹きつけている間に脱出を図っている筈である。 ルイズは自らの使い魔を残して脱出するのに不満を感じていたようだが、 手紙を万に一つでもレコン・キスタに渡してはならない事、使い魔は替えがきくが主に替えはきかない事、 そして何より曹操に死ぬ気が全く無い事もあり、しぶしぶと脱出を選んだ。 さて、城外に打って出たアルビオン軍は僅か10騎。 これは全員に馬を行き渡らせるため、失敗しても籠城戦に影響を出さないため、 そして絶対安全とわかっていないとクロムウェルが出てこない可能性があったためである。 対するレコン・キスタ軍は先陣だけで1万。本隊、後詰を合わせると5万を上回る大軍勢であった。 しかしながらその内訳は利を求めてくっついてきた者や、優勢だからと味方になった者、金で雇われた傭兵によって水増しされた数であり、 もしも敵の目の前で総大将を打ち取る事が出来れば、十分に逆転も可能だというのがウェールズの見解である。 先陣を任された者達は、困惑していた。 100倍以上の人数差で城から打って出るというのは、珍しい事だが例が無い訳ではない。 しかしながら、打って出ておいて突撃するでもなく敵を待ち構えるのは流石に想定外であったに違いない。 そんな中、一人の血気盛んな男が飛び出してきた。 それを見るや手柄を奪われまいと雪崩の如く兵達が走り出す。 今度はアルビオン軍が動揺する番である。 クロムウェルが出てくる前に打ち取られては時間稼ぎにすらならない。 「うろたえるな! 必ず止まる! 堂々と胸を張り、眼を逸らすな!」 そんな曹操の一声を聞き、全員の顔色が変わった。 死んで元々だという事もあるが、それ以上に貴族の誇り、最後の精鋭に選ばれた誇りが恐怖心を打ち払った。 ここで頑張る事で救える命があるのだと。 ウェールズ皇太子も我らと同じ恐怖と闘っているのだと。 反乱軍に一泡吹かせるまでは、死んでも死にきれないぞと。 それぞれが自らを叱咤激励じ、大軍に相対した。 レコン・キスタ軍の勢いは、弓矢や魔法の射程距離になる寸前で完全に止まった。 誰だって命は惜しいものだ。 この状況下で一歩も引かずにこちらを睨み続ける者達を見れば、どうしても罠の存在を勘ぐってしまう。 それと同時に先陣の兵達に恐怖心が芽生え始めていた。 「クロムウェル司教に問う! クロムウェル司教はいかなる理由で聖地の奪還を目指しておられるのか?」 その声は先陣の兵全員に響き渡った。 お互いが顔を見合わせ、どうする? と聞きあう。 「クロムウェル司教に問う! クロムウェル司教はいかなる理由で聖地の奪還を目指しておられるのか?」 もう一度同じ声が聞こえた。 こうなってしまうと名も無い一般兵にはどうする事もできない。 先陣を束ねる将もまた、どうするべきか迷い始めた。 その迷いはあっという間に先陣全体を包み込み、それが本隊にまで伝わるのもそう時間はかからなかった。 隊列の崩れた兵達はたちまち元の統制を取り戻し、その中を堂々と歩いてくる男がいた。 その男は煌びやかな衣を纏い、屈強な男達により護られ、大軍を背に立ち止まる。 「私がクロムウェルである!」 そう宣言するや否や、レコン・キスタの軍勢から歓声が沸きあがる。 まるでそれは戦勝祝賀会のようであった。 「クロムウェル司教に問う! クロムウェル司教はいかなる理由で聖地の奪還を目指しておられるのか?」 その歓声が収まった頃を見計らい、曹操が尋ねる。 「汚らわしきエルフ共から聖地を奪い返す事は、このハルゲニアに住む全ての人々にとっての願いである」 「聖地奪還が天下万民の願いだとは初耳だ。司教の深遠なる考えを伺いたい」 ざわ……と、一瞬ではあるがレコン・キスタの軍勢が怯んだ。 戦場から遥か上空、地上から見ればゴマ粒程度にしか見えない位置、雲と雲の切れ目に一匹の竜と一人の少女が居た。 少女の名をタバサ、シルフィードといった。 彼女は地上で余分な荷物を捨てて(『微熱』のあの人と『青銅』のあの人)、レコン・キスタの警戒網を見事にすり抜けてここまでやって来た。 それは多少なりとも危険を伴うやり方であった。 では何故彼女達はそんな危険を冒したのであろうか? これはルイズもワルドも知らない事だが、曹操はラ・ロシェールの酒場でタバサ達と別れる寸前に、 「2日後の明朝、俺の居場所を捜して来い。そしてためらうことなく俺に対している敵の首をはねよ」 と、ずいぶんと偉そうな口調で指示していた。 しかし3人とも曹操が馬鹿ではない事を知っているため無視する事もできず、合流を急ぐ事となったのである。 さて合流こそ果たせなかったものの、曹操の姿を見つけ、相対している敵が誰かもわかったのだが、タバサはその場から動く事ができなかった。 クロムウェルには多数の護衛が周りを固めている。 何の策も無く突撃するだけでは相討ちすら危うい。 「おねーさま! 南の方角に砂塵が見えるのね。きっともうすぐここの真下を通るわ」 タバサの中で奇襲作戦が現実味を帯びた。 前ページ次ページ割れぬなら……
https://w.atwiki.jp/shisotea/pages/33.html
種族・年齢・性別 ナイトメア(人間) ??? 男 外見 髪色は紺。額から黒い角が一本生えている。 設定 コンジャラーでアンデット作りが得意。 人族の社会を捨て組織?で働く。 セッション履歴 【2雇われナイトメアと蠢く森】 ラスボスとして登場。アンデットと植物を併せたプラントゾンビをけしかける。 アリサ・カプリ・ポポック・シンジュ・アズライト
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1746.html
年の頃三十半ば、丸い球帽を被り、緑色のローブとマント姿の一見すれば聖職者に見える姿。 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子の裾からは、カールした金髪が覗き揺れる。 彼、オリヴァー・クロムウェルは、たった今のワルドの言動に激昂していた。 「子爵ッ! ワルド、貴様裏切ったか!」 クロムウェルの眼前にて、その言葉に対しワルド子爵は、杖を抜き放った。 杖は青白く輝く。 『エア・ニードル』 ワルド得意の必殺の白兵戦魔法。 「ハハハ。僕はどちらの側に付いたのでも無い」 「では今更に、全てを己が手にしようと過剰な野心に獲り付かれたか」 「下らないな。実に下らない。 何事も力に結びつける、その愛無き心。欲しか見ぬ心。 僕が選んだのは、つまりは第三の選択さ。“愛”に生きる! 『ギーシュさん』の元で。王党派も貴族派も無い、ただ僕のこの目を覚ました純粋なる“愛”の側に立つ」 「寝言を!」 クロムウェルには、その言葉、妄言にしか思えなかった。 「クロムウェル。今からでも遅くは無い。共に来ないか? かの人の愛は全てを許したもう。そう、王命にも勝る許しだ。 ブリミルの名の元の誓いにも価する許しだ」 突然の呼び捨ても気にならぬ程に、そのワルドの表情はクロムウェルが一度も見た事が無い程に、晴れ晴れとし、男として、人として、とても魅力的な物であった。 湧き上がる興味。あのワルドを此処まで変えてしまう、その存在とは何か。 風の噂に聞いた事はある。馬鹿馬鹿しいまでの、純粋な“愛”の人とやらの噂。 しかしクロムウェルの眼前にぶら下る欲望。どんな戦況になろうとも、未だに『レコン・キスタ』が圧倒的優位な兵数を誇る事は変わらず。 押し切れば、待つのは皇帝の地位。 何より己の上に立つ者がある事は許せなかった。 例え始祖ブリミルで有ろうとも、現実に生きる人として存在していれば許せなかっただろう。 彼が抱く野心とは斯様な物である。現にブリミルの残せし遺産の一つ、アルビオン王家の血をこの世より消し去ろうとしている。 クロムウェルは差し伸べられたその手を払った。 「哀しいな、クロムウェル。 やはり『レコン・キスタ』には、我欲しか無かったか 『虚無』であるのは系統ではなく、その心か」 ワルドは哀しげな瞳でクロムウェルを見た。 その視線をも振り払い、クロムウェルは凄む。 「言いおって! いかにスクウェアメイジと言えども、命繋げるとは思わない事だ」 その言葉と共に、怒りが消え去ったように何時もの物腰を取戻す。 そう、この本陣にはワルド以外にも強力なメイジが多数存在する。 既に緊急召集の合図は送っており、直ぐにでもこの場に集うだろう。 この裏切り者を亡き者とし、他の従わなかった者達同様に自在に操るのみ。 しかし、ワルドは余裕を崩さない。 「いや、僕は生きてルイズの元へ帰る。 何故ならば!」 胸を張り宣言する。 「僕と共に有るのは、彼女の使い魔!」 畏怖堂々、余裕の笑みすら浮かべ始めたクロムウェルに向け、涼やかに笑って返した。 「『ガンダールヴ』の力を得、共に一体となって戦う、スクウェアメイジの恐ろしさ。味わって貰おう」 クロムウェルはワルドの言葉が理解できなかった。 『ガンダールヴ』伝説の虚無の使い魔。それは判る、だがそれが一体となるとは? 「待たせたね。アヌビス神」 理解に苦しむその目の前で、ワルドは腰から一振りの剣を抜き放った。 余りに妖しいその刀身。それは答える。 「おせーよ。チンタラ話し過ぎだ」 「ははは、すまなかった。だが今回はきみのお望みが叶いそうだ」 クロムウェルは目を見張った。アヌビス神と呼ばれたその柄に刻まれしは、伝説の『ガンダールヴ』。何故使い魔の印がインテリジェンスソード如きに有るのか。 あまりに常識外、有り得ない事だ。 「オイ、俺も抜けってんだ! 多数のメイジとやりあうには、杖より俺だぁね」 ワルドの背よりも声が上がる。 携えていたもう一振り。 今や、アルビオン王党派の間では、妖刀と対を成す魔剣として認められし、もう一つのインテリジェンスソード、デルフリンガーである。 「折角『エア・ニードル』を使ったのだがね。 ハハハ、焦らず少しだけ待ってくれたまえ」 ワルドは背のデルフリンガーに笑いかけると、杖を振りかざし一気にクロムウェルへと飛び掛った。 この辺でOP ふぁーすとKILLからはじまるーっ 二本のバトルひすとりーっ この強烈なー 斬ーれ味にっ 敵は ばっさーりー バラされたっ 剣が二つ 斬れない敵 ありえないこーとーだーよねー 初めてだよっ こんな斬れ味 やけに殺し 心地よくなっていくー そういう話しなのかも知れない……。 ゼロの奇妙な使い魔 アヌビス神・妖刀流舞 第三部 先人よりの遺産 数刻前、『レコン・キスタ』によるニューカッスルへの一斉攻撃が始まったその頃。 ワルド子爵が本陣へと帰還した。 本陣上空にまで下がった『レキシントン』よりグリフォンで舞い降りてきた彼は、戦利品だという二振りの刀剣を背と腰に差し、ジェームズ一世とウェールズの暗殺に成功したと語った。 「子爵よ、王の首級をあげたとは言え、作戦中に旗艦を動かすのはどうかと思うが」 「はは、凱旋ぐらいさせて貰いたい」 苦笑しながら出迎えるクロムウェルにワルドは笑って返した。 「それよりも人払いを。内密に話したい事があるのですが」 クロムウェルは真剣なその表情に頷き、人払いをした。 そしてワルドから発せられたのは、クロムウェルに取って思いもよらぬ一言。 「閣下。この戦、止める気はありませんか」 今となっての停戦の進言。 既にニューカッスルへの、一斉砲撃は始まっているのにである。 「何を言っておるのかね? 例え敵に策が有ろうとも、力で押し切れば問題無い局面!」 クロムウェルは、ワルドとの間にある、机上に広げられた地図を手でバンバンと叩いた。 「力で何もかもを奪うのは哀しい事だとは思いませんか? 力で押さえ込んで、人々の心が得られるとでも思われますか?」 ワルドは、両の手をその机に置き、優しい声で言葉を紡いだ。クロムウェルに取っては不自然な程に。 「子爵、突然に子供じみた綺麗事を並べて、如何したと言うのだ」 それに不信感を覚えぬ筈もなく、クロムウェルは声を荒げる。 「閣下、変わったのですよ僕は。判ってしまったのですよ僕は。 当然の事をそうやって片付けてしまうのは、己の未熟さへの言い訳でしか無いと思い知らされたのですよ。 所詮、矮小な器の、小さき者が高望みする時の言い訳だと」 怒りだ。 今更のその言葉。 我々は、このクロムウェルは、矮小で小さき未熟者であるという宣言。 何よりも、ワルドの心が『レコン・キスタ』を離れ、己への恐れ敬いが失せて行く事が、言葉、口調から伝わってくる。 それらはクロムウェルの怒りを刺激するには充分であった。 高ぶった感情を乗せた声を、ワルドへと叩き付ける。 ニューカッスル城には轟音が響き渡っていた。 地上から、空から次々と放たれる砲撃。そして魔法。 城は殆ど抵抗も出来ずにそれらに晒され煙を上げる。 抵抗は殆ど無く、時折散発的に反撃の砲火があがる程度であり、只々砲撃を受け過剰なまでの爆発を上げ続ける。 戦勝ムードに包まれ、又、洗脳下にある兵士達。 それらの条件は、この状況を不自然に思うに至らせ無かった。 『レコン・キスタ』の艦隊に紛れる『レキシントン』改め、『ロイヤル・ソヴリン』より、ジェームズ一世は口惜しげにそれを見ていた。 「判ってはいても。故意であっても、悔しい事には変わらぬものじゃ」 城内に残るは、万全を期する為、撤収を察せられないよう行動を取る、隠し港よりの脱出経路を確保した少数の精鋭のみ。城の各所には膨大な火の秘薬が設置され、それらの一部が砲撃を受ける度に爆発を上げる。 残りし精鋭たちも、そろそろ待避する頃合だろう。 最低限の非戦闘員は『マリー・ガランド』号に鮨詰め状態で脱出をした。 満載していた硫黄等の火の秘薬を下ろした倉庫には充分な余裕は有った。 緊急時でなければ乗りたいとも思えぬ環境ではあったが。 ともあれ昨晩の内に出航し、闇と雲に紛れてアルビオンを離れた。 ウェールズ率いる『イーグル』号が途中まで護衛に付いたが、意外な程簡単に大陸を離れる事に成功した。 現在『イーグル』号は雲海に紛れ再び帰還し、ニューカッスル下の隠し港より様子を伺っている。 ルイズらは非戦闘員と共の待避を、ウェールズより言い渡された為、現在『イーグル』号にも『ロイヤル・ソヴリン』にも姿が無い。 使い魔と、仮にも婚約者が残ると言うのに、自分だけ帰れないと愚図るルイズにウェールズは一つの手紙を手渡した。 「アルビオンの貴族では無い、きみたちがこの戦いに参加する事は許されない。 アンリエッタに……、これを頼む。 なぁに内容は、この戦いで命あれば再び会おう。といった物さ」 微笑んで紡がれるその言葉に、納得できないながらも逆らう事が出来なかった。 アヌビス神はやたらと陽気でノリノリな態度で、『んじゃ、また後でな。あ、そーそー、基本オール“許可”だよな?』とワルドと共に去って行った。 ワルドとアヌビス神は、この策戦の要として外す事が出来ない。 何より、『レコン・キスタ』であったワルドは、立場が違う。 「万が一、上手くいかなかった時は、僕は裏切ったと王女と枢機卿に伝えてくれ」 腰に『ブッタ斬る斬るブッタ斬るー』と口ずさむアヌビス神を下げ、ワルドは言った。 そしてルイズの手の甲を取って口付けをし、微笑むと、踵を返し意外な程あっさりと去って行った。 その表情は晴れ晴れしく、武人ぜんとしたものであった。 その場にはルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュが取り残された。 ギーシュは手にした書簡を見詰めて複雑そうにしている。 ジェームズ一世より手渡されたそれが酷く重たい。 『ロイヤル・ソヴリン』奪還と国王の窮地を救った功を称える、それが嬉しくも重たい。 「そう言えば、ミス・ロングビル、じゃなかったフーケは?」 しんみりとした、その雰囲気の中、ふとキュルケはその場に一人足りない事に気付いた。 「今此処ではマチルダと呼ぶ方が適切」 タバサは言葉を返しながらも、キョロキョロと周りの様子を伺った。 この場を去るのならば、直ぐにでも港へ行かねばならないのだが、彼女の姿が何処にも見当らなかった。 さて、時間を戻そう。 ワルドの突き出した、『エア・ニードル』によって青白く輝く杖は、突然割って入った、『レコン・キスタ』のメイジによって阻まれた。 「成る程、僕の人払いの言葉は信用されてはいなかったか」 机の上に立ち、杖と杖を絡めながら、ワルドは横目にクロムウェルを見た。 クロムウェルの更なる合図によって、次々とメイジが集まってくる。アルビオンを始めとする、各国より集いしスクウェアやトライアングルの強者たち。 「こいつら全部潰さねえと任務は完了といかねえな」 ワルドの左の手でアヌビス神がニヤニヤと笑うように声を上げた。 「そうなるね」 己に向けて叩き付けられるゴーレムの腕を視界の端に捉え、絡めていた杖をぱんっと弾き、机を蹴って跳躍する。 宙にて半身を捻りながらマントを翻し、飛来する業火の如くの火球をその表面を滑るようにして回避する。 着地するや、再びマントを翻し、着地点を狙い襲いくる氷弾をマントに絡め無理矢理方向を捩じ曲げ落とす。 「クロムウェル入れて八人はいるぜ、できんのかね?」 デルフリンガーの言葉に、ワルドは杖を振り上げルーンを唱えた後続けて言う。 「『風』はこの様な場に置いては最強さ!」 捲き起こった突風が、取り巻くメイジらの手を脚を一瞬緩める。 「敵にも『風』メイジはいるだろうが」 「ハハハ、問題無い! この術に置いて、僕はハルケギニアの何者にも引けを取る事は無いと自負するッ!! ユビキタス・デル・ウィンデ……!!」 その隙にワルドは一気にルーンを唱えると杖を振り上げる。 「後は任せよう!」 ワルドは杖を懐に収め、右の手にアヌビス神を握りなおす。 「やっと、やっと出番だなッ!? 斬る斬る斬る斬るッ斬ってもいいんだよなァー! 斬る斬る斬る斬るゥーっ! へへへへへへェー!!ハッハァー!!」 ワルドの右の手でアヌビス神が長らくの鬱憤の開放の時を悦ぶ。 吹き荒れる烈風に翻弄されるクロムウェルらの視線の先のワルドが、何重にもぼやけ始める。 「おうおうおうおうおうーっ!こりゃー面白くなって来たッ! 抜け兄弟!」 「応よ、行くぜ!」 アヌビス神はワルドの身体を操り、すらりとデルフリンガーを抜き放つ。 同時にアヌビス神の柄のルーンが燦々と輝きを放つ。 「アヌビス神! デルフリンガー! ワルド 遍 在 二 刀 流 !!」 同時に四体の分け身が姿を現し。声が幾重にも重なり響き渡る。 「こりゃすげえ!」 アヌビス神は初めての感覚に驚嘆した。 得られたのは三の視界を五乗。二の刃を五乗。 そしてこの肉体からは感じられる。かつて無い使い勝手の良さ。 ウェールズも大した物だったが、格が違う。精鋭の中の精鋭。鍛えぬかれ、筋の一本一本、張り巡らされた神経一本一本に至るまで研ぎ澄まされているのが判る。 ワルドに足りない物は実戦の経験と殺しの技術。しかしそれを補って余る、己とデルフリンガーの蓄積。 「行けるか兄弟?」 「ハハッ!五万人全部ばらせる気分だァー!」 デルフリンガーの問いに、アヌビス神は興奮し高ぶった感情を隠しもせずに吼えた。 To Be Continued