約 1,885,895 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/339.html
「『巨人の剣』が盗まれたそうじゃなコルベール君」 オールド・オスマンが髭を撫でながら何時もより低い声で言うとコルベールは禿からでる冷や汗をハンカチで拭き取った 「はい、犯人は今貴族の間で被害が多い『土くれのフーケ』だそうです。宝物庫の壁にそう刻まれていました」 「ふむ・・・・、で目撃者がいるそうじゃが」 「はい、二年生のミス・ツェルプトー、タバサ、それとミス・ヴァリエールです」 するとオスマンはピクッとした 「今なんと言った?」 「はい?二年生の」 「違う最後に言った生徒じゃ」 「ミス・ヴァリエールですか?」 「彼女の使い魔もその場に居たのか?」 「さあ?使い魔は目撃者に入りませんから」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 第5話 甦る天空よりの使者 「これが昨日の事件の目撃者三人です」 そう言ってコルベールが深刻な顔をした教師達の前にルイズ、キュルケ、タバサ、使い魔なので数えられてロムを連れてくる 「ふむ・・・・、では君たちが見た事を詳しく説明したまえ」 ルイズが前に出て見たことを述べていった 「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。肩に乗っていた黒いメイジが何かを・・・・ その・・・・『巨人の剣』だと思うのですがとにかくゴーレムが崩れ去った後もうそこには黒いメイジは居なかったのです」 「ふむ・・・・、後を追おうと思うにも手がかりは無しか・・・・」 オスマンが髭を撫でて頷く、そしてコルベールに尋ねた 「時に、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それが、朝から姿が見えなくて」 「この非常時に何処へ行ったのじゃ?」 そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた 「ミス・ロングヒル!こんな大変な時に何処へ行っていたのですか!」 コルベールが捲し立てるがロングヒルは落ち着きながらオスマンに告げた 「申し訳ありません。朝から急いで調査していたもので。犯人が国を荒らし回っているフーケの仕業と聞き、直ぐに調査してきました。」 「仕事が早いの。で、結果は?」 「はい、フーケの居どころがわかりました。」 「なんとー!」 コルベールがすっとんきょうな声をあげた、ロングビルは続けて言う 「近所の農民に聞き込みをした所、どうやら森のの廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです」 (男?剣を投げた時に見せた顔、あれは男だったのか?顔つきから女だと思っていたが・・・・) ロムが疑問に思っているとルイズが叫んだ 「間違い無いです!黒づくめのメイジ・・・・、それがフーケです!」 オスマンは目を鋭くしてミス・ロングビルに尋ねた 「そこは近いのかね?」 「馬で四時間という所でしょう」 「ではすぐに王室に報告して衛士隊を!」 コルベールが叫ぶとオスマンは目を向いて怒鳴った 「馬鹿者!王室なんぞに知らせる内にフーケは逃げてしまうわ!身に振りかかる火の粉を払えないようでは何が貴族じゃ! この学院で起きた事件なら当然我らで解決する!」 ミス・ロングビルは微笑んだ。まるでこの答を待っていたかのように オスマンは咳払いをすると有志を募った 「では捜索隊を編成する。我はと思う者は杖を掲げよ」 掲げたのはルイズ、キュルケ、タバサであった 「ふむ、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つだと聞いているが」 タバサは返事もせずに突っ立っていたが教師達は驚いて彼女を見つめた 「本当なのタバサ?シュバリエって余程の実力がなきゃ貰えない称号じゃない!」 驚くキュルケに対してオスマンは更に語る 「ミス・ツェルプトーはゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、自身も炎の魔法に長けると聞いておるが?」 キュルケは得意気に髪をかき揚げる それからルイズは次は自分の番だと胸を張るが、オスマンは困った顔で目を逸らし 「その・・・・ミス・ヴァリエールは数多くの優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、うむ、なんだ 将来有望なメイジと聞いておる、してその使い魔は」 オスマンは後ろで立っていたロムを見る 「平民ながらあのグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンに決闘して勝ったと聞く」 「ああ!そうですぞなんせ彼はガンダー、ハッ!」 コルベールは思い付いたように言おうとするが止めた 「魔法学院は諸君の活躍期待しておる。頑張ってくれ」 ルイズとキュルケとタバサは真顔となって「杖にかけて!」と唱和し、一礼した 「では馬車を用意しよう。ミス・ロングビル、目的の場所までの案内を頼むぞ、彼女達を助けてやってくれ」 「はい、オールド・オスマン」 「では解散!」 それぞれが部屋を後にするがオスマンが言う 「ああ、ミス・ヴァリエールの使い魔君、君だけは残ってくれ。君に話がある」 「学院長、こいつに何の様で?」 ルイズがきょとんとした顔で尋ねる 「ああ、悪いようにはせんよ。すぐに終るから」 そして部屋にロムとオスマンだけが残った。そして「俺に何か?」 「君は異世界から来た使い魔で人間では無いと聞く」 ロムはああっと頷いた 「・・・・もしこの事件が無事に解決したらワシの下に来てくれ。では頼んだぞ」 そしてロムは退室した。外でルイズに失礼はしなかったかと怒鳴られていた 「頼んだぞ、ガンダールヴ」 「ミス・ロングビル、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」 「いいのです、私は貴族の名を無くした者ですから」尋ねたキュルケはきょとんとした 「だって貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」 「ええ、でもオスマン氏は貴族や平民だということにあまり拘らない人ですわ」 「もし宜しければ事情を詳しく・・・・」 するとキュルケはルイズに肩を掴まれた。 キュルケは振り返ってルイズを睨んだ 「なによヴァリエール」 「よしなさいよ昔の事を聞き出そうとするなんて」 「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」 「あんたの国じゃどうか知りませんけどこのトリステインでは恥ずべきことなのよ」 キュルケはつまらなさそうに足を組んで言った 「ったく、何が悲しくて泥棒退治なんか」 ルイズはキュルケをじっと睨んだ 「だったら志願しなきゃよかったじゃない」 「あんた一人じゃロムが危険じゃない。ゼロなんだから直ぐにロムの足を引っ張っちゃうでしょ」 「なんですって~!!」 二人が火花を散らしている間にタバサは相変わらず本を読んでいる。 空には彼女の風竜が飛んでいた 「二人共そろそろやめにしとけ」 ロムが二人を宥める。腕の中にはデルフリンガーがあった 「ま、いいけどね。せいぜい怪我しないようにね」 キュルケがそういうと手をひらひらさせた、ルイズはぐっと唇を噛んでいる 「ねえ、ダーリン?もしもフーケが襲ってきたら私が炎で助けてあげるからね?」 キュルケが色目でロムに近づく 「あ、ああ」 「もうすぐですよ皆さん」 ロングビルが自分の後ろにいる乗組員に言う 「それにしても『巨人の剣』って一体どんな物なのでしょうか?」 ロングビルが続けて尋ねる 「う~ん、見た感じ巨人が持つ、て感じの物ではなかったわ。大きさも1メイルほどしかなかった」 ルイズが問いかけに答える 「・・・・・・・・」 「どうしたのダーリン?急に恐い顔になって」 「・・・・いや、なんでもない」 「見えてきました。あれです」 馬車から降りて暫く歩いた後、一行は開けた場所に出た その中心には確かに廃屋があった 「私の情報によりますと中にいるという話です」 ロングヒルが指を差して言った。本当にフーケはあの中に要るのだろうか、それぞれが相談する 「よしわかった。合図したら皆は直ぐに来てくれ」 作戦の結果ロムは小屋の偵察に行くことになった ロムはあっと言う間に着き、窓に近づいて中を覗く 家具や酒ビンが転がっている以外何もない さらにドアの前に立ち、その奥を覗くがやはり誰も居なかった 暫く考えた後、ロムは腕を交差させ、皆を読んだ 隠れていた全員が出てきて小屋の前に来た 「では私はこの辺りを偵察してきますので」 ロングビルはそう言うと森の中に消えた 「これ」 「あっけないわね!」 タバサが持ってきたのは1メイルほどの細長い箱、それを開けると中には木の杖が現れた 「・・・・これが『巨人の剣』か?」 ロムの問いかけにタバサがコクッと頷く 「うーんそうみたいね、私もちゃんと見たのは初めてなんだけど・・・・、剣じゃないわね・・・・」 (馬鹿な・・・・しかしこれは・・・・!) 「ねーえ、私にも見せてー!」 外で見張りをしているルイズが大声を出すと足下が急に盛り上がってきた 「きゃあああああ!」 「「「!?」」」 一斉にドアを振り向くとそこにはフーケの巨大ゴーレム「ゴーレム!この前より、大きい!!」 キュルケが叫ぶ、確かにゴーレムは昨日よりさらに大きくなっていた タバサは呪文を唱えて小さな竜巻をゴーレムにぶつける、しかしびくともしない 更にキュルケが杖を振り、火炎を出すがこれも無駄だった 「無理よこんなの!」 「退却」 タバサは口笛を吹いて風竜を呼び、キュルケと共に乗った ルイズは呪文を唱えて杖を振り、ゴーレムの胸元を爆発させるが効かない そしてゴーレムはルイズを踏み潰そうとする 「いやあああああ!」 「マスター危ない!」 間一髪の所ルイズを救出するロム 「逃げろマスター!」 ルイズは唇を噛んだ 「いやよ!あいつを捕まえれば誰ももう私をゼロのルイズなんて呼ばないでしょ!」 目が真剣であった 「しかし死んだら元も子もない!」 「やってみなきゃわからないじゃない!」 更にルイズは言う 「あんた言ったじゃないの!どんな夜にでも必ず朝が来るって!私は自分の夜を掻き消したいの!朝を迎えたいの!」 「言ったが今は!」 「わたしは貴族よ!魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないの!」 ルイズは杖を再び握り締める 「敵に後ろを見せない者、それを『貴族』というのよ!」 ルイズは再び詠唱を初め、杖を振った そしてゴーレムの胸が小さく爆発したがそれだけで終わった ゴーレムはルイズを敵と見なし、踏み潰そうとするがロムがルイズの体を抱え離脱する するとロムはルイズの頬を叩いた 「さっきも言ったはずだ!死んだら終わりなんだ!君はここで終わる人間では無いだろう!?」 ルイズは震えながら泣いた 「だって・・・・悔しくて、私・・・・、いっつもバカにされて・・・・」 目の前で泣かれてロムは困った いっつもゼロゼロと呼ばれて悔しかったに違いない ルイズは気が強くいが、本当はこんな戦いなんか嫌いな少女、ただの女の子なんだ しかし今は泣いているルイズを慰める暇はない、大きなゴーレムが拳を向けていた しかし今は泣いているルイズを慰める暇はない、大きなゴーレムが拳を向けていた すると目の前で竜巻が起こりゴーレムが怯んだ 起こしたのはタバサだった 「乗って!」 タバサは二人の前に風竜を着陸させる ロムは泣いているルイズを風竜に乗せた 「あなたも早く」 焦る声でタバサが言う 「いや、俺は残って奴を何とかする」 「ロム!」 ルイズが怒鳴るが 「俺は戻る。必ずな。俺は君の使い魔だから」 「危ない!」 キュルケが声を出す、ゴーレムが拳を出そうとしていた 声と同時に風竜は飛び、ロムは一番高い木まで高くジャンプした 木の上に乗ったロムが言う 「闇を裂き、悪を裂き、正義の道を切り開く! 人、それを『闘志』という!」 「!?」 「貴様に名乗る名前は無い!!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4788.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 6.ブルドンネ街 決闘から三日、ルイズの周囲は少しずつ変わっていった。 まず表立って馬鹿にする生徒が少なくなったのである。 メイジについて表す言葉に「メイジの実力を見るなら使い魔を見ろ」というのもあり 「ギーシュのゴーレムを圧倒的かつ一瞬で葬り去ったのはルイズの使い魔」 という衝撃的事実はあっという間に学院内を駆け巡っていた。 元々魔法以外の成績はトップクラスであり、家系もトリステインの中では相当に有名な部類に入るので 「あのルイズがとうとう」と感心する者もいたという。 「どうせ嘘に決まっている」「ルイズが凄いのではなく使い魔が凄い」 人づてに話を聞いた者や、ルイズを侮蔑目的でからかっている心無い者もいたものの 決闘の当事者であるギーシュとルイズ、更にこの決闘を見ていた彼女らのクラスメートも多く 何より使い魔の名前が「ゼロ」であったためルイズのクラスでは「ゼロ」とルイズを馬鹿にする者は一人もいなくなった。 「アンタが名前をゼロゼロ言うから私の二つ名が“ゼロ”のままじゃないのよーーーーーーー!!!!」 当人はこんな感じで相変わらずご立腹であったが。 「買い物に行くわよ」 その日の夜、ルイズから提案があった。 話によると明日は休日にあたる虚無の曜日なので街へ買い物に行くとの事らしい。 「それで、アンタの寝具と…剣ね、それを買うわ」 「…どういう風の吹き回しだ」 「あんたがボロっちぃマントで寝てるのがみっともないからよ! 使い魔の管理をするのも私の仕事!それに…私が受けた決闘で剣、壊しちゃったみたいだし…」 今までの待遇からするとあり得ない提案とちょっとしおらしくなった言動に疑心暗鬼になるゼロ。 この娘の事だ、何か物を買わせてまた雑務を押し付けるに違いないと彼は思ってしまった。 「物で釣っても俺は着替えの手伝いもしないし顔は洗わんからな」 使い魔が出来て色々と雑務をさせようというルイズの企みは事実失敗に終わっていた。 呼び出して2日目の朝は何とかなったものの、それ以降は着替えと洗顔に関しては 「そのぐらい自分でやれ」と断固として断られたのだ。(水は朝の鍛錬のついでに汲んでくれているようだが) 更に部屋の掃除と洗濯は率先してシエスタがやるようになってゼロをこき使う機会も無くなってしまった。 着替えと洗顔をやらないなら飯を抜こう、とは思い立ったがシエスタの話では 決闘で気を良くした厨房の人達がご飯を出してくれており、ゼロも 「俺の飯と、シエスタがルイズの世話をしている礼だ」 と薪割りや物の持ち運びなどの力仕事や使い魔への餌やり(使い魔達がゼロに妙に懐くかららしい)を 行っているので「言う事聞かないから飯を抜く」とはとても言い出せなかった。 しかし決闘で見事圧倒的な力の差を見せ勝利した使い魔、 褒美で何か買ってやろうという気持ちも無い訳ではなかった。 それがゼロの一言で見事に打ち砕かれた。 ゼロの鈍感な言葉にルイズの心に火が灯り、それは徐々に炎を形作る。 「あー…っそ! アンタ異世界から来たなら当然この世界のお金ってのは持って無いわよね?」 「そういえば…そうだな。元々流浪の身だから手持ちは殆ど無かったが…」 「いくら強くても騎士たるもの、剣を持ってないと駄目よねぇ…!」 「確かに…いや、向こう側にいた頃のように魔物を退治をして路銀を…」 「私がそんな事許可すると思う?それより何より、アンタの種族はこの世界でアンタだけ。 信用されるどころか下手すると魔物扱い、追う筈が追われる立場にねぇ…」 「くっ!」 この世界での路銀と、決闘で使い物にならなくなった剣の調達。 食事と寝床が保障された学院に数日いたおかげでそこまでゼロの考えが回っていなかった。 実を言えば雷龍剣には剣を使わない技もあるのだが、的確な指摘をされたゼロは すっかりルイズのペースに呑まれてしまいぐうの音も出なかった。 「まぁ、別に物を買い与えて働けって訳じゃないのよ? 私は決闘ですっごい活躍したゼロになんか買ってあげようかなーって思っただけ。 でも、そう思ってたのにガンダムが「物で釣っても働かない」って勝手に決めつけちゃって…」 「ぬぬ…」 「あー傷ついたなー、ご主人様すっごい悲しいなー」 あからさまな演技なのは分かっているのだが、もはや言い返す言葉が見つからないゼロ。 彼女が「あの言葉」を要求しているのは何となく感じてはいるが自分の意地がそれを言わせまいとしていた。 「ガンダムがもうちょっと素直ならねぇ…」 「(迂闊に疑ってしまった俺にも非がある… 仕方が無い、背に腹はかえられん…)」 「疑り深くなって…すまなかったな、ルイズ」 「もっと分かりやすく簡潔に」 「何?」 「反省しているんでしょ?じゃあもっと分かりやすい言葉がいいわ」 ルイズの顔はとてもにんまりしていた。 しかしそれはクックベリーパイを前にした時のような無邪気なものではなく、 何か黒いものが奥底にあるような邪悪なにんまり顔。 その顔を前にゼロはその言葉を言わざるを得なかった。 「……ごめんなさい」 「よろしい、じゃあ明日はお買い物ね」 ルイズ、召喚して以来初めてゼロより優位に立った瞬間であった。 「…プフッ」 「何がおかしい」 明くる朝、魔法学院前の正門前。 馬に乗ったゼロを見てルイズは思わずちょっと吹き出していた。 ゼロの身長こそルイズよりも大きいとはいえ、ゼロの頭身は大体2.5~3頭身であり 馬に乗っているゼロの姿はルイズの目にはなんともユーモラスに映っていたのだから。 「何でもないわよ……ックク」 「昨夜か!?昨夜のアレか!?俺はもう謝ったぞ!」 「じゃあ私が先導するから付いてらっしゃいな」 「おい!」 昨夜のやり取りの事かと思ったゼロが話しかけても、どこ吹く風といったルイズは ゼロをよそに楽しそうに馬を走らせていった。 ブルドンネ街、トリステイン王国で一番の大通りである。 休日で人がごった返すそこを窮屈そうに歩くルイズと、それに付いてくる フードを目深にすっぽり被った何か…もといゼロ。 何があったかというと、街に近づくちょっと前に馬を止めたルイズから 「ゴーレムにしてはかなり例外な見た目だし喋るから目立つわよね…」 という懸念から来る提案で表向きは「自分で喋る珍しいゴーレム」という扱いで行動することになった。 無論ゼロも余計な騒ぎは好かなかったので 「ルイズにしては中々真っ当な考えだな」 と彼女に蹴りを入れられるような感想を返しつつ素直に承諾した。 街の入り口にある駅で馬を預けた時も最初は駅の者に珍しい目で見られたが それだけだったので一安心で街へを繰り出せたのである。 「ん~と、確かこの路地を入って……四辻を抜ければ近くに武器屋だったかな…」 記憶を辿りながらルイズは人ごみを外れて街の裏路地へと入ってゆく。 建物の間に位置する日の差さない路地は昼間でも薄暗く、そこらに汚物やゴミが散らかっており ゴロツキやならず者の溜まり場になっていた。 昼間はそこまでたむろしている訳でもなく、壁にもたれかかったり地べたに座ってる者が ほんの少しいるぐらいでここを通るルイズとゼロを一瞥するとまた視線を元に戻していた。 「おいお嬢ちゃん」 が、もうすぐ四辻に出ようという所で道端に座っていた男に声をかけられてしまった。 そいつがすっくと立ち上がって前に立ちふさがると同時に、後ろからも男が三人ほど こちらに向かって歩いてきておりちょうど挟まれた形になる。 「…ちょっとそこを通して欲しいんだけど」 「通して欲しいってかお嬢ちゃん!げひゃひゃひゃ!」 前にいる男の片方が卑下た笑いをし周りの男達もニヤニヤと笑いを浮かべる。 しかめっ面で対峙しているルイズをよそにゼロは男達の観察をする。 後ろから来た男達はちらつかせてはいないものの腰元に短剣をぶら下げていて いつでも抜けるような態勢になっており、前の男はというと何も持っておらず 腰にも何かぶら下げている様子は無かった。 「(……後ろ三人はともかく前の奴は何も持っていないな、一体どういう事だ?)」 「ここは俺達の縄張りって奴でな、通る奴には通行料を頂いてるんだ」 「で、いくらたかろうってのよ」 「お嬢ちゃん可愛い見た目して言い方キツいねぇ、じゃあ金貨20枚って所だな」 ルイズが買い物に持ってきた金額は新金貨300枚。ルイズが200枚、ゼロが100枚持っており 出せない金額ではないもののカツアゲとあっては貴族のプライドが黙ってはいなかった。 「ゴロツキに出すものは何も無いわ、そこをどきなさい」 いつもの調子でルイズが言い放つとやはり男達は卑下た笑いを浮かべた。 「よぅし分かった、じゃあ払わない場合どうなるかご覧頂こうか」 前に立ちふさがる男が後ろのズボンをまさぐると短い棒――即ちワンドを取り出した。 「悪いが俺はこのブルドンネの裏通りじゃちょいと有名でね」 そう言った片方の男がワンドを壁に向け呪文を唱える。 小さな炎がワンドの先に発生しそれは膨れてあっという間に火球へと変貌してゆく。 ファイヤーボール、火球を発生させそれを放つ火系統の魔法である。 杖を向けた瞬間から身構えるルイズとゼロに余裕ありげに男が話す 「おっと今は当てないから大丈夫、い・ま・は」 そう言うと発生した火球が二個、三個と増えてゆく。 「兄貴を怒らせると痛い目に遭うぜぇ!」 「何せトライアングルだからな兄貴は!治療が追いつかねぇほど爛れちまうかもなァ!」 「悪いが後ろへ逃げようとしても、呪文を唱えようとしても、俺達がブスリ!といくぜぇ…」 後ろにいた男達が腰の短剣を抜いて構える。 「(ゼ、ゼロに何とかしてもらわないと…って剣使えないじゃない! 壊れたからって学園内に置いてきてたんだった!でも壊れてるからあの技は使えないんだし 持って来てもしょうがないって言うか…えーっとえーっと…)」 目があちこちに泳ぎどうしようもないルイズの様子に「カモれる」とふんだ男達がにじり寄ろうとしていたその瞬間であった。 「お待ちください!我々とて争いは好みません、金貨はお支払いしますので 袋から金貨を取り出すまでお待ちいただけないでしょうか!」 ゼロは確かにそう言い放った。 それを聞いて唖然とするルイズと、話がまとまったと思い返事をする男。 「従者さんは賢い事で!おい、お前らそこで止まっときな!何か怪しい素振りをしたら俺が始末する」 「ちょっと!何言っ…」 「お嬢様申し訳ございません!ここはひとつ彼らに!」 ゼロはそう言うとルイズの手を掴み引き寄せる。ファイヤーボールが周囲を照らしているものの 薄暗い場所なので鼻先まで近づかないと深くフードを被ったゼロの顔は見えない。 鼻先までゼロの顔が近くに来た時、小声でゼロが喋った。 「いいか、俺が合図をしたら後ろの三人の男の誰でもいい、手に持ってるナイフを錬金してみろ」 「いきなり何なのよ、そこまで正確に狙いつけてやった事無いし」 「これも経験だ、前のメイジは俺がやる」 「アンタ剣無いじゃない」 「心配するな、手はある」 「手だけあってもしょうがないじゃない!」 「そういう意味の手じゃない!」 「おい従者さんよぉ!いい加減早くしてもらえねぇかなぁ!何なら従者さんから先に焼いちまってもいいんだぜ!」 「申し訳ありません!早速お金を…」 「とにかくお前を信じてるからな」と言いルイズの前に立ち金貨の詰まった袋を前に掲げる。 ひゅぅ、と男が袋を確認しゼロ達に向けていた杖を下ろしたその時。 「今だ!」 ゼロの袋を持ってない空いた片手が男の方に向くのと、ルイズの杖が後ろの男達に向いたのはほぼ同時だった。 「錬金ッ!」 「雷電破(サンダーエレクトロン)!」 ゼロの手から稲妻が男に向かって迸る、それは杖を向きなおした男にとってあまりにも早すぎる攻撃であった。 火球を飛ばす間もなく稲妻が男の体を貫き、火球が虚しく掻き消えながら男が崩れ落ちる。 ルイズの錬金は狙いを外す事無く、見事真ん中の男のナイフに作用しいつもの失敗のようにナイフが爆発した。 「武器屋に走るぞ!」 「う、うん!」 ゼロの呼びかけにルイズが走り二人はその場を走り去ってゆく。 倒れた男の手に持っていた杖が走ってゆく二人に踏まれ、虚しく軽い音を立て割れた。 余談だが、そのほんの少し後に爆発音に気づいた通行人が様子を見に行った所、気絶している男と 何かに吹き飛ばされたかのように壁に打ち付けられて気絶した煤だらけの男三人が発見された。 男達は「貴族のガキとフードを被った従者にやられた」と証言しているものの ここらへんで顔の知れたゴロツキであるのと証言のみで信用に乏しく、この件に関しては 「内輪もめの喧嘩」として処理されたそうだ。 閑話休題 ゼロとルイズは何とか武器屋の前まで辿り着いていた。 周囲を見回しているゼロに対し、恐らくはあまり運動をしていないであろうルイズは すっかり息を荒くしており肩で息をしていた。 「…この様子だと奴らは全員気絶していると見て間違いないだろうな、上手くやったな」 「アンタ…さっき…かっ……雷を…ぜぇ…手から撃ってなかった…?」 「あれも雷龍剣の技だ。まぁかなり加減はしてあるが」 「なんなのよもう…なんでもありじゃない…」 「しかしこれぐらいで息が上がるとは鍛えが足りないな、少し運動しろ」 「う…うっさ…い!」 「店の前で何だいあんたら!買うなら買うでさっさと入りな、冷やかしならさっさと…」 「買うわ!買うわよ!」 いつの間にか武器屋の入り口に立っていた五十がらみの男が、パイプを片手にうっとおしそうに二人へ話しかけてきた。 しかし勢いよく買うわと答えながら振り向いたルイズの胸に紐タイ留めに描かれてある五芒星を見て 「これはこれは貴族様でございましたか!」 と、彼はころっと態度を変えつつ、もみ手しながら二人を店まで案内したのであった。 その頃、魔法学院内の学院長室―――――― 「ミス・ロングビルや」 「はい、なんでしょうオールドオスマン」 「おっぱい揉みたい」 「今度は折りますよ」 いつものようにオスマンのセクハラな質問を書き物をしているロングビルが無慈悲な返答で返す。 「…ちょっと位ケチケチせんでもええのに、まーええわい。ミス・ロングビルや、この間宝物庫の目録を作りたいと言っておったの。 今用事があって宝物庫に入るところでな……行ってみるかえ?」 「えぇ、是非」 施錠の魔法がかかった引き出しを開錠し、大人の掌ほどの頑丈そうな鍵を一つ取り出したオスマンとロングビルは学院長室を後にした。 オスマンの後ろを歩くロングビルの顔が今までにない、歪んだ笑みを浮かべていたのには 前を歩いていたオスマンが気づくはずも無かった。 「ここが…宝物庫」 箱に収められているアイテムが大半であるが、様々な杖がかけられている一画があったり また別の壁に目をやれば見た事も無い剣や鎧などが置かれておりそれらが一体となって 尋常ではない空気をかもし出していた。 「わしはちょっと探し物をするから、ロングビルは目録を頼むぞい」 「はい」 宝物庫の奥へと進むオスマンを見届けると、ロングビルは目録を記しつつ保管している箱や 飾られている鎧をやけに丁寧に眺めた。 「…飾ってあるのは大体かさばるような大きさで…箱は魔法で施錠…流石に今ここで…ってのは無理、ね」 「何か言ったかのー!」 「い、いえ、なんでもありませんわオールド・オスマン!」 「…お、あったあった」 オスマンの方から声が聞こえ、つい声に出してしまったとハッとするロングビル。 しばらく目録を作る作業に打ち込んでいるとオスマンがレビテーションの魔法で大きな箱を三つほど浮かせて持って来た。 「よいしょと、ふぃー…長らくしまっておると出すのにもひと苦労じゃわい」 「それは何ですか?」 「聞きたい?」 宝物庫の開けた場所に置かれた三つの箱を前に、オスマンの手がいやらしくわきわきと動く。 「一揉み100エキューはいただきましょうか」 「…しゅ、しゅみません」 にっこりとした顔でオスマンの襟を締め上げるロングビルにどうしようも出来ず、 素直にオスマンはこの箱について話す事にした。 「これは三つ合わせて「三獣の武具」とワシは呼んでおる。 それぞれ獅子と、梟と、竜をあしらった武具じゃから三つ纏めて“三獣”という訳じゃな」 「三獣の武具…思い出しました、宝物庫に納められている物の中でも指折りのものだと聞いております。 確か斧・杖・盾の三つでしたわね。しかしそのような代物を何故?」 「これを受け取るべき者が現われた、とでも言うておこうかの」 「受け取るべき…者…」 「これでいつでも武具は渡せる準備は整ったの、ではここから出るぞい」 「はい」 オスマンの後に続いて部屋を後にするロングビル。 閉じてゆく扉の向こう側にある三つの箱を見ている眼差しはいつもとは違う、獲物を定める狩人の眼差しであった。 ――――――――――――三獣の武具、今度の獲物はこいつに決まりだねぇ 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2334.html
東方Projectの博麗霊夢が召喚された話 ルイズと無重力巫女さん-01 ルイズと無重力巫女さん-02 ルイズと無重力巫女さん-03 ルイズと無重力巫女さん-04 ルイズと無重力巫女さん-05 ルイズと無重力巫女さん-06 ルイズと無重力巫女さん-07 ルイズと無重力巫女さん-08 ルイズと無重力巫女さん-09 ルイズと無重力巫女さん-10 ルイズと無重力巫女さん-11 ルイズと無重力巫女さん-12 ルイズと無重力巫女さん-13 ルイズと無重力巫女さん-14 ルイズと無重力巫女さん-15 ルイズと無重力巫女さん-16 ルイズと無重力巫女さん-17 ルイズと無重力巫女さん-18 ルイズと無重力巫女さん-19 ルイズと無重力巫女さん-20 ルイズと無重力巫女さん-21 ルイズと無重力巫女さん-22 ルイズと無重力巫女さん-23 ルイズと無重力巫女さん-24 ルイズと無重力巫女さん-25 ルイズと無重力巫女さん-26 ルイズと無重力巫女さん-27 ルイズと無重力巫女さん-28 ルイズと無重力巫女さん-29 ルイズと無重力巫女さん-30-a ルイズと無重力巫女さん-30-b ルイズと無重力巫女さん-31 ルイズと無重力巫女さん-32 ルイズと無重力巫女さん-33-A ルイズと無重力巫女さん-33-B ルイズと無重力巫女さん-34 ルイズと無重力巫女さん-35 ルイズと無重力巫女さん-36-a ルイズと無重力巫女さん-36-b ルイズと無重力巫女さん-37 ルイズと無重力巫女さん-38 ルイズと無重力巫女さん-39 ルイズと無重力巫女さん-40 ルイズと無重力巫女さん-41 ルイズと無重力巫女さん-42 ルイズと無重力巫女さん-43-a ルイズと無重力巫女さん-43-b ルイズと無重力巫女さん-44 ルイズと無重力巫女さん-45 ルイズと無重力巫女さん-46 ルイズと無重力巫女さん-47 ルイズと無重力巫女さん-48 ルイズと無重力巫女さん-49 ルイズと無重力巫女さん-50 ルイズと無重力巫女さん-51 ルイズと無重力巫女さん-52 ルイズと無重力巫女さん-53 ルイズと無重力巫女さん-54 ルイズと無重力巫女さん-55 ルイズと無重力巫女さん-56-a ルイズと無重力巫女さん-56-b ルイズと無重力巫女さん-57-a ルイズと無重力巫女さん-57-b ルイズと無重力巫女さん-58-a ルイズと無重力巫女さん-58-b ルイズと無重力巫女さん-59 ルイズと無重力巫女さん-60-a ルイズと無重力巫女さん-60-b ルイズと無重力巫女さん-61-a ルイズと無重力巫女さん-61-b ルイズと無重力巫女さん-62 ルイズと無重力巫女さん-63 ルイズと無重力巫女さん-64-a ルイズと無重力巫女さん-64-b ルイズと無重力巫女さん-64-c ルイズと無重力巫女さん-65 ルイズと無重力巫女さん-66 ルイズと無重力巫女さん-67 ルイズと無重力巫女さん-68 ルイズと無重力巫女さん-69 ルイズと無重力巫女さん-70 ルイズと無重力巫女さん-71 ルイズと無重力巫女さん-72 ルイズと無重力巫女さん-73 ルイズと無重力巫女さん-74 ルイズと無重力巫女さん-75 ルイズと無重力巫女さん-76 ルイズと無重力巫女さん-77 ルイズと無重力巫女さん-78 ルイズと無重力巫女さん-79 ルイズと無重力巫女さん-80 ルイズと無重力巫女さん-81 ルイズと無重力巫女さん-82 ルイズと無重力巫女さん-83 ルイズと無重力巫女さん-84 ルイズと無重力巫女さん-85 ルイズと無重力巫女さん-86 ルイズと無重力巫女さん-87 ルイズと無重力巫女さん-88 ルイズと無重力巫女さん-89 ルイズと無重力巫女さん-90 ルイズと無重力巫女さん-91 ルイズと無重力巫女さん-92 ルイズと無重力巫女さん-93 ルイズと無重力巫女さん-94-a ルイズと無重力巫女さん-94-b ルイズと無重力巫女さん-95 ルイズと無重力巫女さん-96 ルイズと無重力巫女さん-97 ルイズと無重力巫女さん-98 ルイズと無重力巫女さん-99 ルイズと無重力巫女さん-100
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/119.html
あいつらがやって来たの段 ルイズは自分が召喚したものが何であるか分かった。しかし、いくら才能がない自分でもしかも・・・・・・。 悲しいことであるがルイズは自分があまり、いやほとんど魔法を使えない事をよく自覚していた。 自分が魔法を失敗するたびに周りから笑われていた。使い魔の召喚も成功するはずがないだろうと半ば諦めていた。 でも、もし、万が一成功することが出来たら。サモン・サーヴァントで周りがあっと驚くようなヤツを召喚出来たら。 ルイズはそんな淡い期待を込めて臨んだ。 呪文を紡ぎ、杖を振る。すると、目の前の空間に召喚のゲートが開かれた。 やった、これであたしにも使い魔が・・・・、何がくるのかしら・・・・そこまで考えたときそれは現れた ルイズは嬉しかった。ゲートが開いた瞬間に使い魔が来てくれたのだから。 その幸せは使い魔が何であるかを認識すると落胆に変わったのだが。 ルイズの前に現れたのは人間であった。おまけに、3人。人間を呼んでしまった事を悟ったルイズは激しく動揺していた。 さらに、呼び出された使い魔の方も慌てふためいていた。なんとなく、間抜けな風貌である。よく見ると年下のようだ。 ルイズ「あんた達何なの」 3人はしばらく間を置いてこう答えた。 「乱太郎」 「きり丸」 「しんべえ」 名前までも抜けててるなぁとルイズは思った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/714.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (2)分析+葛藤 「ふむ…この契約のルーン、悪くは無い」 ウルザはマジマジと自分の左手に浮き上がったルーンを見ていた。 魔法的構造までを解読するにはウルザを以てしても時間を要するが、効果だけは読み取ることが出来た。 1.武器に関する熟達 2.武器所持時の肉体の強化 3.術者に対する忠誠を対象の深層心理へ植えつける 要するに強化と忠誠。 シンプルだが実に強力なエンチャントである。 これを効果を拡大し軍勢に影響するように作り変えれば、新兵の軍団も一朝一夕で熟達の兵士となるだろう。 また、効果対象が個人のままであったとしても人間としての基本骨子にこれを刻みつけ、品種改良を続ければいずれ強力な力を持つ人間を作り上げることが出来るだろう。 ウルザはそれらがファイレクシア攻略の手助けになるとほくそ笑むのであった。 また、この世界についてウルザを喜ばせる原因は他にもあった。 今は夜、ここは学院の図書室である。 ウルザが手にしているのは、この世界、ハルケギニアの魔法体系についての本である。 この世界には火、水、風、土の魔法要素があるらしい。 一方ウルザが扱うマナは、赤、青、緑、白、黒である。 赤のマナで行う魔法は、四系統の中では火と土といったように、必ずしも一対一で相対するものではないようである。 一方で、この世界には根本的に白と黒のマナの魔法に相当する魔法は無いようである。 (黒の魔法にあたる死者の蘇生などは先住の魔法という形で存在するらしい) 何より、ウルザが注目したのは「虚無」である。 これは始祖ブリミルと呼ばれる何ものかが確立させた、今は失われた系統であるらしい。 どのようなものかまでは、この図書室では分からなかったが…ウルザの頭には一つの仮説が浮かび上がっていた。 「このような世界で、ファイレクシア攻略の手掛かりがみつかるとはな…失われた力を取り戻すまでの骨休みと思っていたが、そうもいかないらしい」 ルイズがもしこの場に居合わせたなら、ウルザの口元に浮かんだ笑みと、体中から滲み出るもので言葉を失ったに違いない。 朝 ルイズは自室のベットの上からぼーっと天井を見上げていた。 (ええと、染みが一つ、二つ…) 無為なことを考えながら、幽鬼のような表情で部屋の片隅を見る。 そこには、どこから持ってきたのか小さいながらもしっかりとした机が置かれている。 その机に向かい、何かの作業をしているウルザの背中。 どうやら何かを作っているようだが、何を作っているのかはわからない。 (私、どうしてあんなメイジと契約しちゃったのかしら……それに、私のファーストキスぅ…) 枕を抱いて涙目で転がるルイズ。 一応、昨日の晩に自分の中では決着をつけることが出来たのだが、一晩経つとまた挫けそうになるのである。 (そうよ、あれは執事みたいなもんよ!従者なの!本人も認めたんだから、執事みたいなもんなのよ!) ハルケギニアにおいて、メイジは貴族である。 当然、召喚されたメイジであるところのウルザも、何処かの貴族であると考えられた。 その点をコルベールやルイズが問い詰めたが、ウルザ本人は「記憶が混乱している」だの「記憶が欠落している」だのらりくらりと交わし、どこの貴族かは分かっていない。 そもそも杖を持ってローブを来ていたからメイジ、と言うことになっているが、本人が魔法を使っているところはまだ見ていない。 もしかしたら平民なのかもしれないが、「魔法見せて」というのも………正直怖い。 魔法をまともに使えないルイズでも分かる、あの貫禄と得体の知れない雰囲気。 きっとどこぞの名のあるメイジに違いない。 ヴァリエール家は公爵家であるから、身分で負けているとは思わない。 しかし他国の貴族、しかも記憶喪失の者を使い魔や従者として扱ってもいいものかと一晩悩んだのだ。 (もしも何処かの王家の縁の者だったら………) ―ぶるりと悪寒が走る。 (だから執事、執事なら文句ないでしょ!それに本人も使い魔になるのは同意してるんだし!) こうしてメイジを使い魔にする、という部分はルイズの中で一応の決着を見た。 問題はキス、乙女心な甘酸っぱい、青春のメモリーである。 (アレはノーカウント!ノーカウント!使い魔の契約なんだからノーカウント!じゃ無かったらお父様にキスしたのと一緒!そうなのよ!わかったルイズ!?) ごろんごろんと転がるルイズであった。 「お目覚めかな、ミス・ヴァリエール」 大丈夫、決着したと言い聞かせてルイズはベットから起き上がった。 「おはよう、ミスタ・ウルザ。それと昨日も言ったけどルイズでいいわ」 「そうだったね、ミス・ルイズ」 「じゃあ、起きて着替えるから…いいわ、外で待ってて」 「そうかね?てっきり貴族は従者がいる場合手伝わせるものだと思っていたがね」 「いいから、出ていって頂戴、ミスタ・ウルザ」 バタンと扉が閉まり、ウルザは外へ出て行った。 ルイズも最初は手伝わせようかと思ったのだが、あの色眼鏡に見つめられると思うとどうにも落ち着かなくなってしまったのだ。 何より、眼鏡の奥、彼の瞳に何か恐ろしいものが潜んでいる気がするのだ。 「?」 着替える最中、ウルザの机の上に作りかけの何かが置いてあった。 「何これ…鉄の、…動物?」 これは、…壊れてる ――炎蛇の魔道師 コルベール 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6004.html
前ページ聖剣と、ルイズ その日、世界は変わった。 ルイズはその兵器を使える唯一の人間だった。しかし、誰よりそれの恐ろしさを知っていた。だから使うのを嫌がった。 あれほど魔法に執着していたのに、あの日から私がいくらからかっても、軽くあしらうようになった。その頃の私は、魔法が成功して余裕ができた、その程度しか考えていなかった。だけど、そうじゃなかった。 「魔法が最高だと思ってるなんて、幸せね」 あの、疲れた表情と言葉が、未だに忘れられない。そのときは、私は無邪気に憤慨できた。あの兵器の威力を見る前は。 天空に放たれた光は、跳ね返るかのように地上に降り注ぎ、狙った大地を焦土にしてしまった。私はそれを、あの塔のモニターという遠見の鏡で見てしまった。 私は理解した。メイジがどんなに束になろうと、これには敵わないと。 キュルケの回顧録より ルイズは、エクスキャリバーを使う気はなかった。誰がどんなに請うても、首を縦に振らなかった。たとえアンリエッタが興味本位で撃つよう頼んでも、エレオノールが脅迫しても。アカデミーの人間がどんなに調べても、それを撃つどころか、一部の起動すらできなかった。 それの威力を知っている、そしてそれを造ったのが誰か知っているルイズは、魔法に固執しなくなった。平民でメイドのシエスタやコック長のマルトーなどとも親しくなり、よく話すようになった。同級生たちにそれをからかわれたりしたが、爆破してやるとそれもなくなった。キュルケは、それをいい傾向だと見ていたが。 しかし、そんな平和な日々は続かない。急遽決まったアンリエッタ姫の学院視察、その日の夜。 「ルイズ、力を貸して欲しいの」 突然の姫の訪問に、しかしルイズは驚かない。遥か天空の機械の眼から、彼女はアンリエッタが寮に向かってくるのを見ていた。 望む望まないに関わらず、ルイズは巨大な力を持っているのだ。 それは遺憾ながら、コルベールの滑らせた口からアカデミーのエレオノールを経て、王室に伝わっていた。『ヴァリエール家の三女が強力な兵器を召喚した』と。 「今、アルビオン王家に叛旗を翻している貴族たち、レコン・キスタをどうにかしないと、トリステインが危ないの。彼らは聖地奪還を掲げ、ハルケギニアの統一を目指しているわ」 アルビオンで内戦が起きているのはよく『見え』ていた。日に日に戦線を後退させ、今では浮遊大陸の隅にある城に篭城している。あれは、ニューカッスル城といっただろうか。 「そこで、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになりました。条件は、わたくしがゲルマニアに嫁ぐこと。成り上がりのあの国には、始祖の血という正当性がのどから手が出るほど欲しいものですから」 それを聞いても、ルイズの頭は冷静だった。かつての彼女なら憤慨していただろうが、異世界のあらゆる英知が詰まったその頭では、それが『しかたのないこと』と理解できてしまった。強大な勢力が統一を名目に宣戦布告してくるかもしれない、そして自国の国力ではそれに対抗できない、ならば力のある隣国と軍事同盟を結ぼう、しかし相手は政略結婚を条件にしてきた。それだけだ。幾度となく繰り返された歴史が、また繰り返されるだけの話。 「……アルビオンに、同盟を阻止できる何かがあるのですね?」 「――――っ。ええ、そうよ」 考えてみれば簡単な話だ。同盟ができなければ、トリステインはレコン・キスタに滅ぼされる。逆を言えば、レコン・キスタはトリステイン・ゲルマニアの同盟をなんとしても阻止したい。しかし、妨害できる材料がなければそのまま放置しておけばいいのだ。わざわざそれをルイズに話すということは―――― 「私に、その『何か』を取り戻して欲しいのですね?」 「……ええ。城には既にレコン・キスタの間諜が入り込んでいるらしいの。だから、信頼できるあなたに頼みに来たのよ。危険なのは判っているわ、だけどあなた以外に信じられる人がいないの……」 そして、彼女は、ルイズが一番触れられたくないことに触れてしまった。 「それに、あなたにはエクスキャリバーがあるじゃない。あれはとても強力な兵器と聞い」 「あれを、使えと言うのですか」 アンリエッタの笑顔が凍りつく。恐ろしく低い、今まで一度も聞いたことのない底冷えのする声。アンリエッタは一瞬、それが誰の声か判らなかった。 「そ、そうよ。平民の造った物とはいえ、あれもあなたの使い魔なのだから、あなたを護ることくらいなら……」 「姫様。あれの威力、レコン・キスタで試してみましょうか。二度とトリステインに楯突く国家は現れなくなるでしょう」 ルイズの表情は笑顔。しかし、アンリエッタはその笑顔を生涯忘れられなかった。世界の全てを呪ったような、そんな笑顔だった。 それから数日間、ルイズは学院とアカデミーの人間にエクスキャリバーの運用を叩き込んだ。エレオノールと学院の生徒は反発したが、アンリエッタとオスマンの命令が下達されると大人しく作業するようになった。 そして、後にD-dayと呼ばれるその日、ルイズとアンリエッタと、枢機卿マザリーニをはじめとする将軍や大臣が、トリステイン空軍旗艦メルカトールに乗り、アルビオンに発った。様々な問題や文句が大臣や将軍からあがったが、姫とヴァリエール家の三女の説得は、それを黙らせた。乗員の中にはヴァリエール公爵などルイズの家族がいたが、ルイズの一言でこれも黙らせた。 「お叱りは、結果を見てからでもできます」 そしてその日、歴史上最も短く、最も犠牲者の多い戦争が始まった。 風石を大量に消費し、メルカトールはニューカッスル城上空に現れた。トリステインによる突然の介入にアルビオン王家、レコン・キスタ共々驚いたが、たった一隻の援軍に、片方に絶望を、もう片方に嘲笑を与えた。 しかし、それは一回の手旗信号により変わる。 『レコン・キスタに告ぐ。我はトリステイン公爵ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。即時降伏せよ。従わぬ場合は、光の鉄槌が諸君を襲うだろう』 レコン・キスタ側の空軍司令部、戦艦レキシントンの艦橋では、たちの悪い冗談だと思っていた。が、公爵家名義での通達だ、冗談では済まされない。 すぐに主砲をメルカトールに向け、返答を送る。 『こちらレコン・キスタ空軍司令サー・ジョンストン。その要求には従えない』 それが儀礼的なものとは、双方承知していた。 『了解した。トリステイン王国はレコン・キスタに宣戦布告する』 宣戦布告と同時に、ルイズはエクスキャリバーから持ってきた衛星通信機に声を吹き込む。 「作戦開始。目標、第一ポイント。敵旗艦」 外では将軍や大臣が敵主砲に怯えて騒いでいるが、すぐに大人しくなるだろう。今、艦橋にいるのは国の頂点に近しい者たちと最小限のクルーだけだ。即ち、アンリエッタ、マザリーニ、ヴァリエール公爵、ヴァリエール夫人、エレオノール、そしてルイズ。 「ルイズ、お前は、何をしたかわかっているのか?」 「もちろんです。ほら、お父様も敵艦を見ていないと。歴史の変わる瞬間を見逃しますわ」 「ちびルイズ! お父様に向かって……」 「あねさま。黙って見ていてください」 くるりとエレオノールに背を向け、エクスキャリバーに指示を出す。 「照射」 そして向き直り、 「これが、異世界の平民の力です」 その言葉と同時に、レキシントンは天空からの青い光に包まれた。 騒いでいた将軍大臣達、艦橋の人々、ニューカッスル城の王族貴族、そして、レコン・キスタ。レキシントンに乗っていた者と、光の下にいた者以外の、その場に居合わせた全ての人が、その光を見て唖然としていた。 たった数秒の、光の柱。それが、史上最大の戦艦を、消し去った。 「第二ポイント。敵主力戦艦群。照射」 時が止まったように動かない人々の中で、ただ一人、ルイズが淡々と通信機に命令を言う。 次に大きな戦艦が幾つか消え去った。 「第三ポイント。敵地上拠点。照射」 無慈悲にも、地上の野営地が焦土となる。 「後は指定ポイントを順次照射。民間人と市街には絶対に当てないよう注意すること」 その言葉は、さながら『元の世界』の軍人の様だった。 もう『照射』の声も無く、次々に光の柱が現れては消え、次々に人が、船が消えてゆく。 「どうです、姫様。私の言葉の意味が理解できましたか? 貴女は私に、『これを使え』と命じたのです」 ルイズは、震えていた。しかし、必死でそれを隠して、努めて平静を装い、アンリエッタに告げる。アンリエッタは、蒼白な顔で涙を流しながら、その光景を見ていた。 「これが、『所詮』と侮った異世界の平民の力、魔法の無い世界で造られた兵器。個人を護る為に使えるようなものではありません。大量殺戮と対空防衛の為の、文字通りの戦略兵器なのです。これが……私の、使い魔……エクスキャリバーの……真実……です」 「ああ……ルイズ……こんな、私は、こんなつもりじゃ……」 嗚咽と共に、アンリエッタは崩れ落ち、ルイズにすがりついた。 「ごめんなさい……ごめん……なさい……」 怖くて、泣きたかった。しかし、泣くわけにはいかなかった。ルイズは、強大な力を持ち、そして今、それを行使したのだ。泣いてしまったら、エクスキャリバーの威力を誇示するために人柱になった、消え去ったレコン・キスタの兵士に申し訳が立たない。戦争とはいえ、敵とはいえ、こちらのエゴで殺してしまったのだ。そして、この件に加担した学院の生徒、教師、アカデミーの人間に罪の意識を持たせぬために、ルイズ一人がこの殺戮の責任を負うために、ルイズ名義で宣戦布告をしたのだ。今ここで子供のように泣くわけにはいかなかった。 レコン・キスタの首謀者、オリヴァー・クロムウェル名義で降伏が宣言されたのは、それから十二分後のことだった。 前ページ聖剣と、ルイズ
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/1940.html
954 名前: NPCさん 2006/10/20(金) 16 49 49 ID ??? シナリオボスの前口上ってみんな聞くかな? 憎い敵が目の前にいるっていうのに聞いていられるか、って人もいるだろうね。 でも、それも時と場合によるってこともあるわけで……。 そのときのシステムはアルシャードガイア。 このゲームにはGMが許す限り、どんな願いもかなえられる ガイア という 便利なものがあるんだけど、そんなに何回も使えるものじゃないし、 キャラクターのメンツによっては1回限りということも少なくない。 それを踏まえて話を進めるよ。PCの一人が敵に幼馴染の少女を捕らえられ、その救出に向かった。 色々な障害はあったものの、危なげなく、突破していくプレイヤーたち。 そうしてボスのところまでたどり着いた。 GM「ここまで来たか、だがもう……」 PC「御託はいい、お前を殺して全てを終わりにする!」 GM「待て、人の話は最後まで……」 PC「「敵の行動値は?じゃあこっちのほうが先に動けるね」 そんなこんなでボスの前口上を無視して戦闘に突入。 PCたちが使える ガイア は一回きり。 その ガイア を使い、勝利を収めたんだ。 955 名前: NPCさん 2006/10/20(金) 16 50 26 ID ??? 戦闘シーンが終わり、彼女が捕らえられている部屋にたどり着いたシーン。 GM「キミたちはボスを倒し、PC1の幼馴染の少女が待つ部屋にたどり着いた」 PC1「助けに来たぞー!」 GM「……だけどすでに彼女は事切れていた」 PC1「ちょ、ちょっとまてよ、それ今まで何のために」 GM「だから前口上で『ここまで来たか、だがもうお前の幼馴染は死んでいる』と言おうとしたんじゃないか」 そうなんだ、GMはプレイヤーに ガイア を使って幼馴染を蘇生させようとしたんだね。 そのためにボスに幼馴染は死んでいると言わせようとしたんだけど、プレイヤーに封じられちゃった。 ロールプレイに没頭するのもいいけど、情報はなるべく手に入れておいたほうがいいよね。 だからといって、GMが無駄に長々と話し続けるのも困るけれど、それはまた別の話。 スレ115
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3147.html
前ページ次ページヘルミーナとルイズ ガリア王国、王都リュティス。 数ある酒場の中でも、中の上といった格付けに入る一軒。 様々な層の平民にお忍びの貴族、まっとうな商売人から人様には言えない仕事に従事するものまで、その客層は多種多様。 そこに旅から帰還したルイズたちの姿があった。 火竜山脈での『竜の舌』採集からは既に四日が経過している。 あれから山を下りて街へ戻った二人はそこで一泊宿をとり、ぐっすり眠ってからリュティスへの帰路についた。 当初はルイズが浴びた竜の血が酷い悪臭を発していたのだが、街に戻り次第それを捨てて新しい服を調達、念入りに湯浴みして香水をつてごまかすこと四日、ようやくその臭いからも解放された。 今ならこうして酒場にいても臭いのせいで目立つということもないだろう。 テーブルを挟んで向かい合っている美女二人。 ちびちびと舐めるようにして酒を飲むルイズと、ゆったりとした動作で時間をかけて杯を呷るヘルミーナ。 別に『祝杯』というわけでもない。 採集へ出かけて帰ってきた日の夜にはこうして酒場に足を向ける、これがこの三年間における二人の日常であった。 二人の錬金術師は現在このリュティスに工房を構えている。 表向きは薬屋として、裏では後ろ暗いマジックアイテムでも用意してみせる何でも屋として。 錬金術というものは何はともあれ金を食う、それがルイズが最初に学んだことだった。 魔法学院をあとにした二人は、道々で適当なアイテムを作ってはそれを売り払いながら路銀を稼ぎ、旅を続けた。 そうして辿り着いたのがガリア王国は王都リュティス。 人口三十万人を誇るハルケギニア随一の大都市、そこに二人は工房を据えることにした。 人が多く活気もある、これは裏を返せばろくでもない人間も多数集まっているということだ。 ヘルミーナとルイズは最初しばらくの間は宿に腰を据えて、こうして酒場に出入りして依頼人を捜すことを繰り返した。 そうやって一月もたつ頃には、街の大通りから一本入った通りに面した一軒家を借りられるくらいに、纏まった金が集まっていた。 この頃になると既にルイズは、錬金術というものが金になると学んでいた。 無事王都リュティスに工房を構えた二人は、今度は必要な機材を集めるための資金集めに奔走した。 昼間は薬屋として、夜は事情を聞かないで不思議なマジックアイテムを作ってくれる便利屋として、酒場ややってきた顧客を通じて積極的に宣伝を行った。 ヘルミーナの予想通りというかなんというか、ルイズがあっけなく感じてしまうほどに、二人の名は瞬く間にリュティスの裏側へと浸透していった。 何より二人にとって何より幸運であったのは、ガリア王国で常に燻っている政争の存在であった。 事情を詮索せずに、金次第ではどんなアイテムでも作ってくれる店。それは彼らにとっては実に歓迎すべき存在であったのだ。 官憲の手がまわりかけたこともあったが、そのうち何度かが勝手に解決されたことになっていたのは、お互いに持ちつ持たれつの関係を築けたという証左だろうか。 そうやって工房を構え、名前が売れてきてからも、ルイズたちは定期的に酒場に顔を出すことを欠かさなかった。 勿論営業努力という面もあったが、二人の本来の目的は金などではないのだから、その真の意味合いは情報収集にあった。 酒場の客や情報屋からえられる情報、そのうちに少しでも興味が引くものがあれば西へ東へ飛び回るのである。 この日も、新たなる情報と仕事の依頼を求めて顔を出していたルイズとヘルミーナだったが、結果は芳しくなかった。 こうなると特にやることもないルイズは酒を飲むことくらいしか時間をつぶす方法がない。 片手にグラスを持って、あまり美味しそうには見えない飲み方でちびちびと酒を舐める。貴族様が好んで飲むような高級ワインではない、平民も口にするような蒸留酒。 ルイズには酒の味は大して分からなかったが、ヘルミーナに言わせると値段の割には悪くないらしい。 手持ち無沙汰になった左手では手にしたネックレスを弄っていた。 アクセサリーのようなそれも、錬金術師としてルイズが制作したものの一つだった。 一見すると菱の形に整えられた黒い水晶、しかしその正体は錘の形の容器に入れられた黒い液体であった。 暗黒水。錬金術によって作られる毒薬の中でもとびっきりの劇薬である。 並の錬金術師には目にかかることすら適わない、大海原のように奥が深い錬金術の中でもかなり難しい部類に入るそれを、自前で作り出せる程にルイズの腕前は上達していた。 元々勉学に関しては得意な方であったルイズは、明確な目的を備えたことで錬金術という学問において目覚ましい成長を遂げていた。 ヘルミーナが言うには「私ほどじゃないにしろ、あなたも十分に天才ね」とのこと。 「あれ……おめぇ、娘っ子、ルイズ! ルイズじゃねぇか!?」 近くから、どこかで聞いたことがあるような声が聞こえた。 幻聴が聞こえるほどには飲んでいない。ルイズは左右を見渡して声の主の姿を探した。 「おい俺だ! 俺だよ! こっちだこっち!」 ルイズがそちらを向くと、隣でテーブルに突っ伏していびきをたて寝ている男の姿が目に入った。 「また、酒弱くなったのかしら」 元来強い方ではなかったのだが、ザルのヘルミーナに付き合っているうちに、多少は飲めるようになったルイズである。 「そっちじゃねぇ! こっちだよ! テーブルの下だ!」 訝しんだルイズがそちらの方を見てみると、そこには一振りの大剣が転がされていた。 ルイズの中で、やや胡乱になっていた記憶のピースがかちりと嵌る。 「あら、お久しぶりね。デルフリンガー」 だらしなくぐーぐーと寝ている傭兵風の男の足下、そこに転がっていたのはかつての使い魔、あの少年の手にあったインテリジェンスソード、デルフリンガーであった。 当時よりも薄汚れて錆が浮いているようだ、つまりは今の持ち主はその程度ということなのだろう。 「こんなところじゃぼちぼち話もできねぇ、ちょっと俺をそっちのテーブルの上に置いてくれよ」 「私から話すことなんて一つもないわ」 冷たく切り捨てるルイズ、だがデルフリンガーは食いついた。 「そんなこと言うなよ。おめぇさんだって、あのあとのことが気になるんじゃねぇのか?」 「興味ないわ」 取り付く島もない様子のルイズに、デルフリンガーはそれでも引き下がらない。 「いいから俺をそっちにあげやがれ! こうして出会ったのはきっと相棒の導きなんだよっ!」 大声をあげたデルフリンガーに、酒場中の注目が集まる。自然とその方角にいた二人にも視線が刺さった。 「話くらい別に構わないじゃない」 ヘルミーナから「あまり目立つことはするな」という意味の台詞。 ルイズは嘆息を一つ漏らし、仕方なくといった手つきでデルフリンガーをテーブルの上へと置いた。 「いやぁ、それにしても久しぶりだな娘っ子!……って、もうそんな歳でもねぇのか。嬢ちゃんって呼んだ方が良いか?」 「別に。呼び方なんて何だって良いわ」 その声を聞くのも不愉快だというふうにそっぽを向いてルイズはグラスの中身を舐めた。 「つれねぇなぁ……以前はもう少し付き合いが良かったぜ」 「そういうあんたは変わりないようね。凄く気に触るわ」 「そりゃあ、俺はインテリジェンスソードだかんね。ちょっとやそっとじゃ変わらねぇよ」 カタカタと柄が鳴る、ルイズはこれがこの剣が笑うときの仕草であったことを思い出した。 「お前さんは……随分と変わったみたいだな」 ルイズはつまらなそうな顔のまま、デルフリンガーの言うことをじっと聞いていた。 遮る声が入らなかったことを続けても構わないと受け取ったのか、デルフリンガーは言葉を続けた。 「背丈も伸びたみたいだし、ぺたんぺたんだった胸もちったあ膨らんだみたいじゃねぇか。何よりそう、……美人になったよ。もしも相棒が生きてりゃ、きっと見惚れてたと思うぜ」 ガシャン という音が響いた。 酒場を満たしていた喧噪がピタリと止み、一瞬の静寂が世界を支配する。 ルイズはこのとき初めて店内に竪琴を奏でている奏者がいることに気がついた。 客たちの視線が視線が一斉に音の方向へと向く。そこにはテーブルにグラスを勢いよく降ろしたルイズの姿。 その表情は先ほどまでと変わらぬ無表情だったが、凍えるような冷たさを秘めたものになっていた。 静けさはいつまでも続かない。水が低いところに流れ落ちるようにして、すぐに人々の発する騒音に飲み込まれ、取って代わられた。 人々はもう先ほどまでの静寂など忘れたように、飲んで唄って馬鹿話に花を咲かせている。 ただ一つ、ルイズたちの座るテーブルのある一角を除いて。 「……悪かったよ。その服で、気づくべきだった」 ルイズの身につけた黒い服、それが喪服であることに気づけなかったのは彼らしくない迂闊であった。 陶器でできた仮面でも被っているように冷たく非人間的な無表情をしたルイズに、デルフリンガーが詫びを入れる。 「……」 「すまねぇ」 デルフリンガーにとって何とも気まずい沈黙が舞い降りた。 何も喋らないルイズであったが、その無言はむしろデルフリンガーに息苦しい重圧となってのしかかる。 厨房で作られた美味しそうな香りを放つ料理を運ぼうとしていた給仕が、避けて通った。 すえたような臭いを放つ平民の酔っぱらい二人組が、そばを横切ろうとして思い直す。 男のいない席で酒を飲んでいる美女二人を見つけた優男が、声をかけようか考えて結局諦めた。 そういったある種の『触れてはいけない空気』の底に、ルイズたちのテーブルは沈み込んでいった。 「辛気くさくていけねぇ! 話題を変えるぜ娘っ子。それで、あのあとのことはちったあ聞いてんのかい?」 耐えかねたのか、わざとらしいほど明るい声でデルフリンガーが次の話題を提供した。結局呼び名は以前のまま『娘っ子』で通すことにしたらしい。 彼なりの気遣いなのだろうが、それすらも今のルイズには気に入らなかった。 「さっきも言ったけど、そんなことに興味はないわ。知らなくたって別に私は困らないもの」 「んじゃそれでも構わねぇよ。俺が勝手に喋る、お前さんはそれを聞く。これでどうだ?」 「……勝手にすれば」 ルイズはテーブルにあった酒瓶を手にとって、中身をグラスへと注いだ。 舐めるようにして飲んでいたはずなのに、いつの間にかグラスの中は空になっていた。 「お前さんたちがいなくなっちまって、学院はもう大騒ぎだったんだぜ。特に姉っ子二人の慌てようったら……」 そう語り始めたデルフリンガーの昔話は、ルイズにとっては知っている事実と、予想できる範囲の出来事の、実につまらない内容であった。 手紙も残さず消えた名家の子女と怪しい女。二人の失踪は役人によって連れの女による誘拐と判断され、即刻トリステイン中にルイズの似顔絵と背格好、連れの女の人相などが書かれた手配書がまわされた。 しかし彼女たちの行方はようとして知れず、有力な手がかりがつかめないまま時間だけが経過した。 その先の春期休暇、夏期休暇にはルイズの学友たち、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシーによって遠隔地や都市を巡る自力による捜索も行われたらしい。 それでも、彼女たちの学院卒業までに集めることができた情報といえば「それらしい人影がガリア方面に向かう馬車に乗った」という目撃証言だけだったそうだ。 そうして一年と少しの時間が過ぎ、ルイズの同窓たちは卒業を迎え、それぞれの進路へ旅立っていった。 エレオノールとキュルケたち、それにコルベールの嘆願でそのままにされていた寮の部屋も、彼女らの卒業と共に片づけられ、今では別の生徒が使っているそうだ。 同時、休学扱いとなっていたルイズの学籍も正式に退学となり、学院にはルイズが在学していたという痕跡は何もなくなった。 書類の上ではルイズの所持品ということになっていたデルフリンガーにはこのとき、エレオノールに引き取られてヴァリエール家の所有になるか、コルベールが身受けして学院の備品となり、引き続き居残るかの選択肢が与えられた。 そして、結局デルフリンガーが選んだのは第三の選択肢。 デルフリンガーはエレオノールに自分を武器屋に売却して欲しいと頼み込んだ。 どこか一カ所に留まるよりも、世界中を行き来する誰かの手に渡れば、もしかすると再びルイズに出会える日が来るかもしれない。 何よりも自分は剣だ、武器だ。屋敷の倉庫や学院の研究室に放置されるのは、自分の在り方じゃない。 例え持ち主を失っても、次の持ち主の手に渡り振るわれることこそが自分の在り様なのだと、デルフリンガーはエレオノールを説得したらしい。 結果、エレオノールはデルフリンガーの言う通りに彼を武器屋へ売却した。 そうして半年、ついに買い手がついたデルフリンガーは、新たな持ち主の剣となった。 その持ち主とやらが、今ルイズたちの隣のテーブルで気持ちよさそうに寝ているこの男らしい。 「それにしても、ガリアにいたってのは驚いたぜ。それに印象も随分変わっててよ、オデレータオデレータ」 黙ってデルフリンガーの話を聞いていたルイズ。先ほど継ぎ足したはずのグラスの中身はもう半分になっていた。 「馬鹿ね。トリステインなんて探し回っても見つかるわけないじゃない」 ルイズはつまらなそうにそう漏らすと、テーブルの上に置かれたアイスペールから、大きめの氷を取り出してグラスに入れた。 この店の目玉は、店からのサービスとして出される『氷』にある。 普通は高級な酒場で貴族が馬鹿みたいな金額を払ってワインを頼んだ際にボトルクーラーに入れられて出てくる氷。それをこの店ではどんな客にでも、平民でも貴族でも、分け隔てなく出しているのだ。 勿論そのための追加の料金などはとらない。他の店と同じ程度の料金で、きちんとした口にできる氷が出てくるのである。 それには当然ながらからくりがある。 この店にあって他の店にないもの、それがルイズたちの作った製氷器の存在である。 錬金術の研究と応用、そして実践。その上でたまたま完成した製氷器、特に自分たちには使い道のないそれを、ヘルミーナの言い分でこの店に売却したのだ。 それ以来、酒場は連日満員御礼。結果としてルイズとヘルミーナは酒場の店長から、様々な面での便宜を図ってもらえるようになったのである。 「まあ、無事で何よりだ。のたれ死んでやいないか心配したんだぜ」 「……ふぅん」 グラスを手元で揺らすと、中で氷が転がって澄んだ音がした。 別に酒が好きというわけでもない。 ただ、酒を飲んで、やがてその後にやってくる酩酊感は嫌いではなかった。 そういう意味においては、今口にしているそれはワインなどよりもよほど適している。 けれど、今日はなんだか気持ちよく酔えそうになかった。 「まあ、お前さんも色々あったみたいやね」 「そう?」 「見てりゃ分かる」 色々あった、と言われてルイズは自嘲気味に笑った。 確かに色々なことがあった、命を狙われたこともあったし死にかけたこともあった。 錬金術の習得はとても楽しいことだったし、自分の作り出したものが何か成果をあげたときは確かに嬉しかった。 けれど、同時に何もかもが空虚だった。 その空虚の中心には常に一人の少年の存在。彼が隣にいないという、ただそれだけのことで何もかもが色あせて感じてしまう。 刹那的な快楽に身を委ねてみるというのも考えたが、そんなことをしても願うものはえられないと分かるほどには理性的であった。 結果、こうして酒をちびちびとやり、忘れた気になるというのが専ら最近のルイズの楽しみと言えた。 「その後、誰か昔の知り合いとは会わなかったか?」 「ん……タバサは見かけたわね。二回ほど」 タバサ、というか彼女の所属する『北花壇騎士団』というものが、ガリアの暗部にあって結構な知名度の組織であった。 ガリア王国の裏側の顔役ともいえるそこに所属するかつての学友は、今ではルイズにとって同じ業界に身を置く近くて遠いお隣さんであった。 「へぇ、あの青髪か。元気してたか?」 「さあ? あっちは私のことに気づいてないようだったし、私は別にあの子のことなんてどうでも良いからね。体調のことなんて分かるわけないわ」 そう言って薄く笑う。 二度ほどニアミスしたことがあるが、お互いはっきりと顔を見たわけではない。ことが済んだあとに北花壇騎士団に所属するタバサという名の騎士だったと知っただけだ。 「変わったなぁ……」 「さっきも聞いたわ」 「いや、本当に変わっちまったんだなぁって思ってよ。ルイズ、昔のお前さんはそんなふうに冷たく笑うことなんてなかったのによ」 これもまた、予想の範囲内の反応。 「変わったですって? いいえ、むしろ何も変わっていないわ。私は昔のまま、何も変わらず進み続けているだけよ」 「何がだよ。何が変わってないって言うんだよ……あの頃、相棒と一緒だった頃のお前さんと、今のお前さんの、どこが同じだって言うんだよ!」 最初は抑えるように、そして最後は溜まっていたものを爆発させるようなデルフリンガーの叫び。 それを聞いてもルイズは揺るがず、惑わず、静かに応えた。 「サイトを愛しているわ」 「……あ?」 「私はまだ、ちゃんとサイトを愛しているわ。あんたたちとは違う、私はサイトを忘れてないしサイトを諦めてもいない。この手で必ずサイトを蘇らせるわ。そして言うの、きちんと伝えるの、好きだって伝えるの」 そう、何も変わっていない。 この気持ちだけは真実。例え時間と共に記憶が風化しても、この気持ちだけは変わらない。 この先、何があっても絶対に失ってやるものか。 「そうか……お前さんの時間は、あのときのまま凍っちまってるんだな」 寂しそうに呟いたデルフリンガーの声は、六千年を生きながら快活であったこの剣とも思えない老けた声色だった。 「そっちの嬢ちゃん、嬢ちゃんはどうなんだい?」 一瞬、誰に話を振ったのかを理解できない。人の姿をしていないとこういうときに困る、そう思いつつヘルミーナが答えた。 「あら、私のことかしら、デルフリンガーさん」 「おうよ。えっと……すまねぇ、まだ名前を聞いてなかったな」 「ヘルミーナよ。お喋りな魔剣さん」 「よせやい、さんなんてつられるとむず痒くて仕方ねぇ。デルフリンガーで構わねぇよ」 自分に話題が振られることは予想外であったが、その程度でヘルミーナは微笑を崩さない。 「それで、一体何がどう、なのかしら?」 「ルイズが、こう思っているってことを、お前さんはどう思うってことだよ」 デルフリンガーの柄がカタカタと何度も音をたる、それはまるで感情の高ぶりを暗に主張しているようでもある。 「お前さんはこの三年、この娘っ子と一緒だったんだろ。だったら今を一番分かってるのはお前さんのはずだ。そのお前さんから見てどう思うか、俺はそれを聞きてぇって言ってんだよっ」 最後の方は紛れもなく激昂が含まれていた。 デルフリンガーの怒り。 どうしてルイズがこんなふうになってしまったのか、止められたはずだ、導けたはずだという彼の主張。 「すべてはルイズが自分で決めたことよ。それに私はその在り方が間違ってるとも思わない」 そうしてヘルミーナの脳裏に思い出されたのは、古い記憶。 彼女かつて、封印され禁忌とされた伝説の秘技を用いて、一人のホムンクルスを創造した。 ヘルミーナが十歳の頃である。 彼女はホムンクルスに『クルス』という名を与え、本当の家族のように愛を注いだ。 一緒に街を歩き、風を感じ、木陰で休み、ものを食べ、鳥の囀りを聞き、水の冷たさを感じた。 姉妹のような存在はいたけれど、むしろ彼女はライバルで、ヘルミーナにとっては、自分が作り出したホムンクルスこそが本当の弟のように思えた。 ヘルミーナは本当に、惜しみなく彼に愛を注いだ。 しかし、別離は突然訪れた。 人造生命として創造された彼は、試験管の外では二十日しか生きられなかったのだ。 クルスが動かなくなる直前、二人は最後の、別れの言葉を交わした。 ――クルス、思い出、わすれない。 ――え? ――たのしい。悲しい。うれしい。さみしい。くるしい。クルスはわすれない。ヘルミーナとの思い出、わすれない。 ――ありがとう……。あたしもクルスといっしょにいた時間、忘れない。絶対忘れないよ……。 ――おやすみなさい……クルス。さようなら。 忘れてはいない。いや、生涯忘れることはないだろう。 動かなくなった彼を前に、泣くことしかできなかった自分を覚えてる。 彼を作り出したことを後悔した。彼を助けられなかったことを後悔した。 泣いて泣いて、涙が涸れる程に泣いたそのあとに気がついた。 自分にもっと力があれば、こんなことにはならなかったと。 だから私はそのときに決意した。この身のすべてを錬金術に捧げることを。 この悲しみを忘れない。 そして誓ったのだ、この技術を悲しみとともに伝えていこうと。 ヘルミーナは正面に座るルイズを見た。 彼女の在り方は間違っていない。愛するものを忘れず、それを貫こうとする意志は崇高とも思えた。 故に、ヘルミーナはルイズを導く。 自らの錬金術が、人の悲しみを癒やすことができると信じて。 「彼女がそうしたいと望むなら、私は喜んで手を貸すわ」 その答えを聞いたルイズは顔を上げて、しっかとヘルミーナを見返した。 「私は、このまま錬金術の研究を続けたい。そして、いつかサイトを蘇らせたい。今の私が思うことはそれだけよ」 そのルイズの言葉を聞いて、ヘルミーナは小さく微笑みを返した。 出会ったときにヘルミーナの言葉がルイズに届いたのは、同じ痛みを背負ったもの同士の共感かもしれなかった。 もしそうなら、よく似た二人が近い道を歩むことになったのは必然であったのだろう。 「……そうかい。それじゃあ、俺から言うことはもう何もねぇよ」 サイトと心を通じさせたデルフリンガーは、結局最後までルイズと心を通じ合わせることはなく、その言葉を最後に口をつぐんだ。 デルフリンガーの沈黙で話は終わったと判断し、ルイズは席を立った。 続いてヘルミーナも席を立ち、あとに残されたのはテーブルの上の大剣一振りだけ。 先に店の外へ出たルイズとは逆方向へとヘルミーナは歩いて行き、奥にあるカウンターの前で会計を済ませた。 そうしてルイズの待つ外へと出ようとしたところで、ヘルミーナの背中に向かってデルフリンガーから声が投げかけられた。 「あいつのこと、よろしく頼む!」 その言葉にヘルミーナは何も答えず、扉を開けて夜の街へと消えていった。 「なあ相棒、どうしておめぇさんは一人で逝っちまったんだよ……。娘っ子はよぉ、相棒のために大事だった貴族の名誉や大儀まで捨てて、あんなになってまでお前さんを追いかけてるよ。でもよぅ、こんなのがお前さんの望みだったのかよ……答えてくれよ、相棒……」 虚空へと消えたデルフリンガーの言葉に、応えはなかった。 前ページ次ページヘルミーナとルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/833.html
ルイズと幽香は他者と一歩送れて朝食の席を立つ。 これから、幽香を入れての、初めての授業である。 「・・・むきゅー。この本、興味深いわ。ここの世界の魔法も会得して、 絶対に魔理沙をぎゃふんと言わせてやるわ」 第4話 こんどこそ すごい 本領発揮 他の生徒から数分遅れてルイズと幽香が教室に入る。 すると、赤い髪をしたスタイル抜群の女性がルイズの姿を認めると、近づいてくる。 「あらルイズ、おはよう」 「・・・おはよう、キュルケ」 ルイズは心底嫌な顔を、キュルケは悪戯を楽しむような顔をしている。 「この人が貴方の召喚した使い魔?」 「そうよ、幽香こそ「使い魔じゃないわ。あくまでルイズとは対等のつもりよ」ってちょっと」 キュルケの質問に、ルイズが自慢げに答えようとしたところ、幽香の口から驚きの言葉が漏れた。 「ち、ちょっと、前に一応ではあっても敬おうって言ってたじゃない」 「いや、なんかやっぱり慣れない事はするもんじゃないわねって事で」 「余りにも酷いわ・・・」 ルイズの絶望感に満ちた声が漏れる。もちろん、それはキュルケにも聞こえていたわけで。 「あははは、ルイズ、なんだかとんでもないのを召喚したみたいね?」 「ふ、ふん!これでも実力は本物・・・なんだからねっ!多分!」 「多分って何よ、私は本気さえ出せれば分けはあっても負けたことは無いわ」 「ふふ、でもあたしはちゃんとした使い魔を召喚したのよ?おいで、フレイム」 すると、教室で他の使い魔と話して(?)いたオレンジ色のトカゲの様な大きな生き物が歩いてきた。 「あら、火の象徴の生き物?」 微妙に不快そうな顔をする幽香。 「そうよ。この尻尾、素晴らしいと思わない?」 確かに、とルイズは思う。この尻尾から見るに、サラマンダーの中でもそれなりに 高位にあるのだろう。と、容易に想像が付く。 「ふーん・・・知能の割に力はあるのね。花、燃やさないでね」 「ふふ、あたしが指示したりしなきゃ、そうそう火なんて吹かないわよ」 「ふーん、ならいいわ」 完全にルイズは蚊帳の外である。 「ちよっと幽香、せめて他人の前では使い魔らしく振舞って頂戴よ」 「嫌よ、逆にルイズしか居ないんなら・・・考えなくも無いけど、他人の前で使い魔 ・・・と言うより、ルイズより下だなんて思われたくないわ」 「ふふ、ルイズ、貴方、使い魔に忠誠も見せて貰えないようだからモテないのよ・・・」 「私はアンタみたいに他人に媚を振り分けるほど暇じゃないのよ」 ルイズが反論をするが、キュルケは幽香に興味があるようだ。 「ねぇ、貴方はなんて名前なの?」 「あら、こちらの貴族は相手に先に名乗らせるの?」 「そうね、こちらから名乗りましょうか。あたしはキュルケ。微熱のキュルケ。」 キュルケはそこで一旦区切ると、ルイズにあてつけるように胸を張り、幽香に向かって艶かしい視線を送る。 「ささやかに燃える情熱は微熱。でも、世の男性はそれでいちころなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは視線を幽香の胸に移動させ、その後視線をルイズの胸に固定し、嘲るような笑みを浮かべる。 「じゃ、失礼?」 そのまま、キュルケはさっそうと歩いていく。歩く姿でさえ何か色気のような物があった。 「キィィィッ!くやしいっ!何よ何よ!絶対幽香のほうが使い魔としての格は高いんだからっ!」 「・・・・・・」 「どうしたのよ、幽香?」 「胸で・・・負けたわ。そうそう負けることは無かったのに・・・」 「・・・そう」 幽香は割りと本気で悔しがっているようだ。 そこに何故かキュルケが戻ってくる。 「ルイズ、貴方、タバサの部屋に入った何か、見なかった?」 「・・・? いえ、見てないけど?」 「うーん。やっぱりルイズも見てないか・・・」 「どうしたのよ?」 「ううん、ただ、タバサが後で戻ってはいるとはいえ、本が減ったりしてるって嘆いてたのよ」 「ふぅん・・・普通、生徒ならタバサの部屋じゃなくて図書室に行くと思うけど・・・」 「だから妙なのよ。まぁいいわ。見つけたらあたしに言ってね。それじゃ」 こんどこそキュルケは男性の群れに戻っていく。 「変なの・・・」 「へぇ、この学園、図書室なんてあったんだ」 「えぇ、まぁ、一般生徒じゃ入れないところもあるけどね」 「ふぅん・・・まぁいいわ、前に居るの、先生でしょ?」 「げ、危なかったわ。ありがと幽香」 「どういたしまして」 前に来た先生、シュヴルーズ先生が口を開く。 「おはよう皆様、私はこの季節に召喚された使い魔を見るのが好きなのですよ・・・ 本当に皆さん、色々な・・・色々な・・・」 シュヴルーズはルイズの隣に居る幽香を見て凍りつく。 「・・・えー、本当に色々な使い魔が居るのですね・・・」 「ちょっと、ミセス・シュヴルーズ!人の使い魔みて硬直するのは止めてください!」 「そうよ、使い魔を一通り見てみたけど、私以上の生き物・・・いや、かろうじて対抗できそうなのは、 そこの青もやしの竜しか居ないわよ?」 幽香は青もやし・・・いや、タバサを指差して言う。 タバサは反応しない。それに対してキュルケが反応する。 「ちょっとそこの使い魔、タバサをもやし呼ばわりとは、 礼儀がなってないんじゃない?」 「あら、すいませんね。昔、そこのタバサ、だっけ? に似た人が紫もやしと呼ばれて居たので、つい呼んでしまいましたわ。 非礼をお詫びします」 「くっ・・・わ、わかればいいのよ!」 周りからは明らかに喧嘩を売りに行ったキュルケを上手く受け流すほどの知慧を 見せた幽香に控えめながらも感嘆の声が漏れる。 ルイズは幽香の耳元でささやく。 (よくやったわ幽香!) 「ゃん!」 「え?」 しかし幽香はそれに気づかなかったようで、ルイズの息が幽香の耳に入り、 思わず嬌声を上げてしまう。 その声はやけに色っぽく、何人かの男子生徒が反応してしまう。 その耳を押さえて甘い声を上げながら顔を赤らめるという動作を 幽香のスタイルとルックスを見ていたギーシュは直視してしまった。 「・・・可憐だ。薔薇たる私が、あの花を手に取らない?そんなことはあり得ない。そんなことは―――!」 ギーシュは、ルイズの最初の召喚、そう、コルベール場外ホームラン事件を見ているのだ。 もちろん幽香の名乗り上げも聞いている。 「そうだ、花だ!全ての美しい花は私の物、ならば私が薔薇である必要は何処にもなくて―――!」 気障なギーシュがなにやら叫んでいるが関係ないことである。 しかし、ミセス・シュヴルーズ先生は耐えられなかったらしい。 「ふがっ!」 「しばらく黙っていなさい。では授業を始めましょう」 「ふがふぐふもっふー!」 ギーシュの喚く声が五月蝿いので生徒達によって窓から落とされる。 これは痛い。 「では、今日は使い魔を召喚して皆さん疲れているでしょうし、土魔法の基本、錬金 のおさらいをしましょう。それでは・・・」 シュヴルーズ先生が錬金の理論を説明している。 しかし、ルイズにとっては実技が出来ない分、座学はかなり優秀な方である。 そんなルイズにとっては、非常に退屈な授業である。 しかし、幽香はしきりに頷きながら、その授業の内容を咀嚼している様であった。 「幽香、意味わかるの?」 「うーん、分からないわけじゃないんだけど、どうにもピンと来ないわ。 せめて、一回でも実技が見れれば・・・」 「・・・貴方、実は頭良い?」 「・・・伊達に数百年生きてないわ」 「うそっ!貴方、そんなに生きてたの!?」 「言ってなかったかしら?妖怪は軽く千年は生きたりするわよ。 ま、種族にもよるけどね」 「・・・何か、常識が崩れて来たわ」 この時、ルイズは不覚にも大きな声を上げていてしまった。 「ミス・ヴァリエール!」 「はっ!はい!」 「随分と余裕のようですね。では、私がやるつもりだった 錬金の魔法を実演していただきましょう。大丈夫です。 貴方はとても優秀な生徒と聞いています。さぁ」 途端に周りがザワザワと騒ぎ始める。 「あの・・・先生、やめさせた方がいいと思います」 「もう爆発は見たくありません!」 「触ると爆発する技ってあったわね」 周りの生徒達が口々に止めろ止めろと騒ぎ立てる。 その様子を見て、なおルイズはその指名を受けた。 「やります!」 ルイズのこの宣言で、生徒達が隠れようとした。 「―――静かにしてくださらない?」 しかし、ルイズの隣に居た女性、いや、使い魔の幽香が、 この喧騒の中でもやけに響く、重く、低く、人間の本能に直接語りかけるような 声を、いや、もはやこれは号令だ、を掛ける。 「ミセス・シュヴルーズ?」 「は、はい?」 幽香が、非常に優しい声でシュヴルーズに声を掛ける。 周りの喧騒は、幽香の先ほどの一声で静まり返っていた。 「普通は生徒の前に、先生が手本を見せる物じゃなくて? ―――ミセス・シュヴルーズ?」 幽香の、「異論は許さない」と言う、確固とした感情の籠められた言葉は、 それは言霊となってシュヴルーズの考えを侵食する。 「え、えぇ、そうですね。わかりました。では私が手本を見せます」 そう言ってシュヴルーズは、土を出すと、それに魔法を掛ける。 するとその土は、金の輝きを放つ金属に変化する。 「あら、凄いですね先生。それは金ですか?」 幽香は心底感心した風でシュヴルーズを見て、声を掛ける。 それに対してシュヴルーズは自嘲したような 笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。 「いえ、これは真鍮です。私は二つしか属性を掛け合わせられませんから。」 シュヴルーズの自分を見下すような言葉に、幽香はポツリとつぶやく。 「ふぅん―――なんだ、これなら、まだ魔界の人形の魔法の方が高度だわ」 「え?」 幽香のぽつりと言った一言は、近くに居たルイズにしか聞こえていなかった。 「ミセス・シュヴルーズ?」 「は、はい、何でしょうか・・・?」 「よろしければ、私に一度やらせて戴けません事?」 「え?」 シュヴルーズは、不思議そうな表情をしながら、疑いの念の篭った声を上げる。 その幽香の申し立てに、ルイズが反応する。 「や、やめてよ幽香!私が恥かいちゃうじゃない!」 「見てなさいルイズ―――これが、私の実力って言う物よ」 幽香は、あたかも自分がこの空間の支配者のごとく、 いや、事実そんな状況だ。誰もが、学園長室に居る三人ですら、 遠見の鏡を使ってこの状況を覗き見ている。 「行くわよ―――」 幽香の宣言に、全員が息を呑む。 そして―――幽香の魔法、土を真鍮に変える魔法が使われた。 それは、貴族の使う杖と言う、それなりの長い時間を掛けて作られる杖と言う 魔法媒体無しで振るわれた。 「―――出来たわ」 そして、その土は見事金の輝きを放つ別の金属、真鍮に成り代わっていた。 「――――――!!」 その歓声は、どこまでも無音であった。 ただ、ルイズを初めとする、学園全員を、震わせ、叫ばせる物であった。 そして、幽香は言う。 「ルイズ?」 幽香の突然の呼びかけに、ルイズは驚く。 「な、何よ?」 「ルイズ、こっちにいらっしゃい。もしかしたら、 貴方に魔法を使わせられるかも。」 「なっ!」 「「「なっ!?」」」 教室のほぼ全員が驚きの言葉を上げる。 もちろん、校長室の三人も、である。 「どうするの?ルイズ?私のやり方―――やってみない?」 「当然、やるわ!」 ルイズは、もしかしたら今までの自分の評価をひっくり返せるかもしれない その考えだけで、走ってやってきた。 それはそうだろう。幽香は、完全に魔法の素人の筈なのだ。 その幽香が一発で魔法を成功させた。つまり、それは自分にも 魔法が使えるのではないか―――? そう、考えさせるのに十分であった。 「偉いわねルイズ・・・よく来てくれたわ」 ただ、ルイズには、一つ心配なことがあった。 何故か、幽香に良く解らない迫力と言うか、 周りの人に、一切の反論を許さない、ナニかが渦巻いていたのだ。 「待ってね・・・」 幽香は、またシュヴルーズの用意した土に何処からか 出した種を蒔き、宣言する。 「フラワーマスターの名において宣言するわ。 ―――咲きなさい」 すると、ルイズ、この中で最も博識なタバサですら見たことの無い花を咲かせる。 その花を、ルイズの花に近づけると、ルイズは意識を失った。 「ふふ、いいわ。さぁ―――!」 その光景を見ていたオールド・オスマンと、コルベールは、ほぼ同時に叫んだ。 「いかんっ!」 すぐさまその幽香の行動を止めに行くが、幽香の鏡越しの視線と、 満面の笑みを見ると、一瞬でそんな考えが吹き飛ぶ。 元々、動くことすら出来なくなっていたロングビルは、「ひっ」 と言う声を上げて、失神した。 使い魔は、そのメイジと実力差があると、メイジから主従の関係を取り除こうとする。 幽香は、正にそれをしようとしていたのだ。 幽香は、嬉しそうに叫ぶ。 「さぁ、これで私の使い魔生活も終わり―――よっ!」 光が走った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2456.html
前ページ次ページルイズ・キングダム!! 私の名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。 つい数日前まで『ゼロ』のルイズと蔑称されていたわ。 でも今はもう違う。 3日前の授業での事、前回の授業をサボった私に『赤土』のシュヴルーズ先生が復習のためにと『錬金』を行うように言ってきた。 クラスメイトは私が「また」爆発を起こすんじゃないかと顔を青くして見守っていたが、その時既に私はそれまでの私では無かったのだ。 颯爽とエプロンを身に付けて教壇へと歩く。 この『エプロン』は百万迷宮で使われる一般的なアイテムだが、マジックアイテムとしか思えない不思議な能力があった。 すなわち「どんな素材でも肉に変えて食べられるようにする」という効果だ。 木でも牙でも機械でも、果ては魔力や情報のようなカタチの無いようなモノまで肉に変える、百万迷宮脅威のクオリティ! 基本的に迷宮探索中に倒したモンスターを料理するのに使われるという事実は意図的に忘却した。 ともかく杖の代わりに包丁を振り、私は教壇に置かれた石コロをお肉に変える。 「うそっ!? ゼロのルイズが魔法を成功したわよ!?」 「すげぇ! 肉だ……」 「ああ、それも美味そうな肉だ……」 誰もが驚いて、教室がどよめいた。 いやしかしと生徒達は思いなおす。肉を『錬金』で生み出すことは、決して不可能では無いのだから。 彼等に挑戦的な視線を向けて、私はその肉を素早く捌いてサシミにしてショウガ醤油を付けて先生とクラスの皆に振舞ったのである。 「まぁっ! このお味は最高級のアルビオン牛の霜降りですわね!」 「これはっ……生姜醤油が霜降り脂のクドさを消して、見事に旨味だけをしっかりと伝えてくる。絶品だ」 「うーまーいーぞー!!」 「ってゆーか牛刺しとか醤油は無いだろう、ファンタジー的に考えて」 誰もがその絶品の味に舌鼓を打って喜んだ。 私はルイズ。職業は『料理人』。 そして新たに付けられた二つ名は『お肉のルイズ』 ……うん。正直『ゼロ』のまんま方が良かった気がヒシヒシとしてるわよ。 <ルイズ・キングダム!!> 「むにゃむにゃ……早く魔導師になりたーい」 某妖怪人間のような寝言を呟いて、『お肉』のルイズは目を覚ました。 ちなみに一部食通の生徒の間では『最高級霜降り肉のルイズ』と呼ばれて、尊敬の念を向けられている事を本人は知らない。 もし知っても絶対喜ばないだろうけど。 目を覚ましたルイズは自分が腕の中にヌイグルミを抱いているのに気が付く。 茶色くて柔らかくて暖かい子犬みたいな……クロビスが居た。 一瞬ギョッとなるルイズだったが、そう言えば昨夜宮廷メンバーが自分の部屋に泊まりに来ていた事を思い出す。 「宮廷は雨が降ってきて大変なんだ」 そう言ってお休みセットを持って部屋まで押しかけてきたクロビス。 まぁ普通使い魔はよほど大型の物や水生の生き物を除いて主人の部屋に住むのが普通だから、クロビスのように自分で国を作って勝手に暮らす方がおかしい。 なので、ルイズは快く部屋に泊めてやる事にした。 そしたらダッパ君とオババと輿担ぎ四人とモークまで一緒に来たと言うワケだ。 「迷宮ではこんな、天井一面から降り注ぐ雨なんてめったに無いからねぇ。 有るとしても『雨の部屋』のように決まった場所か、雲神が気まぐれにやって来た時か、あるいは上の階で貯水池の底が抜けた時ぐらいのモノじゃしなぁ」 とはオババこと『話の長い』バゼバゼの弁。 空の無い百万迷宮では迷宮の壁に結露した露を集めたり、井戸を掘ったり水路を引いたりするのが普通で、ハルケギニアのような『雨』はあまり無いから宮廷の建物も雨対策がしていないと言う。 最初は珍しさに大騒ぎしていたクロビス達も、雨漏りする中で寝るのは流石に嫌だったので、ルイズの部屋を訪ねてきたのだ。 その結果、クロビスはルイズと一緒にベッドの中。 ダッパ君とモークは部屋の隅で毛布を敷いて。 オババは自分の輿に布団を敷いて眠ることになったのが昨夜。 気が付けば雨が上って良い天気になっていた。 ――あ、おはようございます―― 「おはようダッパ君。良い天気ね」 昨日この部屋で夕食として食べていた鍋物を温めなおしながら、ルイズの起床に気が付いたダッパ君が挨拶してくる。 「二度と同じ味わい無し」と言われるほどテキトーに作られた小鬼汁を部屋の中で調理しているが煙は出ない。 迷宮で貴重な光熱元として使用される『星』のカケラを使って温めているからだ。 世界が迷宮に沈むより前、『天空』と呼ばれる場所で輝いていたと伝えられる『星』は、 迷宮に住む人々の間で無くてはならない物として採集されたり収穫されたり採掘されたりしている。 それが本当にハルケギニアの夜空に浮かぶ星と同じものかは、ルイズにもダッパ君にも判らない事だった。 グツグツと煮え始める小鬼汁を横目に、手早く洗顔の仕度と着替えの世話とピンクブロンドの髪のブラッシングをしてくれるダッパ君は、やはり従者としてとても優秀だ。 「うーんムニャムニャ。もう食べられ……たくないぃ」 ルイズの身支度が終わる頃、クロビスがちょっとグロい寝言を最後にムクリと起きてきた。 小鬼汁の匂いにつられてか、オババ達も起きてくる。 「いただきまーす!」「母神様に感謝じゃ」「…………」――おかわりありますよ―― 何処から出したのか折りたたみ式の短い脚が付いたテーブル「ちゃぶ台」を置いて、小鬼達の朝食が始まった。 それを横目に食堂に向かうルイズ。 以前に使い魔との親交を深めるために食事を共にする事も考えたルイズだったが、その考えはもう改めた。 召喚の翌日にごちそうになった小鬼汁はなんとも表現できない怪奇な味だったから。 それにゴキブリとか食うらしいし。毒々しい太った赤い魚とかも食べていたし。 そんな事もあって、使い魔の食生活にはなるべく手も口も出さない事にしたルイズだった。 ただ、ゴキブリを食べるのだけは禁止しておこうと注意はしたが。 そしたら「学院内のはもうほとんど食べつくしたからなぁ」とか答えられて戦慄したものだ。 「食事の前に嫌なこと思い出しちゃった……」 少し食欲をなくしながら、食堂へと向かうルイズであった。 「親方! お肉のルイズ様がいらっしゃいましたー!」 「おおっ! ようこそ、ラ・ヴァリエール公爵令嬢!! 存分に食って……じゃねぇ、お召し上がりくださいませ」 食堂に入ると、料理長であるマルトー親方の手厚い歓迎を受けるルイズ。 彼女のテーブルの前にだけ、それはそれは豪華な、とても朝食とは思えない食事が用意されていた。 一昨日、『お肉』のメイジとして学院に一躍名を轟かせたルイズはマルトー親父から挑戦を受けた。 尾鰭がついたウワサの中に「食堂の料理よりウマイ」というのが有ったのがそもそもの原因。 そのせいで、たとえ貴族様が相手だろうと、学生に料理の事で引けをとるとは思えない。 料理人のプライドをかけて勝負すると、親方が決闘を申し込んできたのだ。 そうして、二人の熱い料理バトルは繰り広げられた。 具体的に書くと単行本数十冊の大作になるであろう壮絶な戦いは、小鬼が持ち込んだ謎の調味料によって決着する。 白いドロッとした粘液。 ピュアセレクトマヨネーズと呼ばれるらしい、ある百万迷宮のモンスターを倒すと手に入るというその調味料は、甘辛くコク深く、誰もを魅了する天上の美味をルイズの料理にもたらしたのだった。 勝負に敗れ学院を去ると言い出した親方を、ルイズは必死に説得して留めた。 そんな理由で去られては本気で困るからだ。 これからはお前が料理を作れとか言われたら迷惑だし、厨房の人々に恨まれてギーシュの二の舞はゴメンである。 だいたい『料理人』である自分はルイズにとって最高に不本意なので、勝ったからと言って嬉しくなど無い。 だから色々ともっともらしくて立派そうな理由を並べ立てて親方を止めたのだが、そのせいでルイズはマルトー以下厨房の人々から素晴らしい貴族だと尊敬される事となった。 「おうシエスタ! ヴァリエール様のために秘蔵のワインを開けてくれ!」 「はい! よろこんで!」 どこの居酒屋だメイド。 そんな感じで、今朝も早朝からカロリー過多なルイズであった。 「うらやましいよ『お肉』のルイズ。僕なんていまだに『血塗れ』のギーシュなのに……」 教室で、まだ彼女や友達からも微妙に避けられているギーシュが恨み言を言ってきた。 「……私だって『お肉』なんて二つ名は不本意よ」 憮然として言い返すルイズ。 そのまま二人でハァーっと溜め息をつく。 勝つとか負けるとか、名誉とか、本当の強さとかって何だろう。 そんな、ある意味貴族らしい悩みを思う二人の若者でありました。 その日の午後、ルイズは『王国』の視察に出かけた。 もちろん彼女が所属するトリステイン王国ではなくて、小鬼王国こと『新・古代魔神路地裏連合マジカル小鬼同盟横丁』に、だ。 先日新しく作ったという『農場』と『牧場』は王宮の裏手にある。 大臣コルベール先生の研究室の裏手で耕されている田んぼの上に、キラキラと輝く『星』が浮かぶ。 世界が迷宮に覆われた彼等の世界では、このような『星』を使うのが農業の基本。 熱と光を放つ星を管理しているのは、『逸材』と呼ばれる他の小鬼よりちょっとだけ優秀な小鬼だった。 星と対話し、その力を借りる星術に特化した職業『星術師』の小鬼『口から先に生まれた』ピピン。 ピンクのリボンをつけたその小鬼は、小鬼のクセにルイズも使えない魔術を使うのだった。 「泣かないわよ! こんな事で泣くもんですか!」orz<ルイズ そんな感じで劣等感を刺激されながら農場を見回る。 とは言っても、まだ出来たばかりの農場には耕されてタネをまかれたむき出しの土しか無いのだが。 開墾作業で更に農地を広げようと頑張る小鬼や、水撒きの作業を続ける小鬼。 遅めの昼食に小鬼汁の鍋を囲んで和気藹々と過ごす、傍らに鋤を立てかけた小鬼達。 そこには小さいながらも平和な田園風景が広がっていた。 おもいっきり学院の敷地内なのだけど。 向こうではメイドさんが洗濯物とか干してる。そしてレンタル小鬼が手伝ってる。 ちょっとシュールだった。 「いーのかしら、コレ……まぁ誰も文句言ってないから良いか」 考えるのは怒られてからで良いと、最近すっかりC調になったルイズは諦める。 明るい農村を横目に、次は牧場を見に行く。 牛とか馬とかって小鬼より大きいわよねー、どうしてんのかしらーとか考えていたら、そこには予想もしていなかったモノが飼われていたり。 「……ナニコレ?」 ルイズの目の前を悠々と泳ぐキンギョ。 毒々しいぐらい赤くて丸々と太った、ヒラヒラした大きなヒレが印象的なアレである。 アレが、子牛や羊ぐらいのサイズで空中をふよふよと泳いでいる姿を想像してもらいたい。 ギョロリとした巨大な目のどこに向いてるのかワカンナイ視線が正直キモイ。 百万迷宮で一般的な乗騎や農耕魚、また食料などとしても利用されるキンギョは、深階から昇階して来る超越種族『深人』の一種だが、大人しくて知能も低く酪農に向く、家畜化された『渡り魚』の一種だと言う。 渡り魚には他にも肉食のピラニアや口から銃口を生やしたテッポウウオなども居るとの事。 まぁそんなのと比べたら、キンギョなんてカワイイものだろう。 「って言うか、何時の間にこんなにたくさん連れて来たのよ?」 小鬼農場には10匹を超えるキンギョがふよふよと泳いでいる。 農地と比べて意外に数が多い事に疑問を感じたルイズが尋ねると、ダッパ君がヒドイ答えをくれる。 ――『牧場』の『施設』はこくみんになったモンスターをふやすこうかがあるんです―― 「え? 農場ってそーゆー施設なの? 1匹からでも増えるの? 一日で?」 ――はい。そうですがなにか?―― 「なんの魔法よそれは。物理法則がおかしいにも程があるわよ百万迷宮。 それに、この前アンタ達が食べてた赤い魚って……」 ここに泳いでるキンギョは名目上国民。 そして国民とか小魚のうちに焼いて食べちゃったりするのだ。 百万迷宮はホント地獄だぜファハーハー!(AA略) ――ちなみに、クサみがつよいのでミンチにしたりマヨネーズやきにしたりするとタンパクなアジワイでおいしいです―― 「いやーっ! 聞きたくない聞きたくないっ!」 桃色の髪をブンブン振り乱して、両耳をふさいで叫ぶルイズ。 いくらヤサグレていても良心ってモノがあるのだ。ちょっとだけ。 「そんな事よりクロビスは何処に居るのよ? 私に牧場と農地を見に来いって呼びつけたのはあの子なのよ?」 「おう、来たかルイズ! こっちだこっち!」 元気一杯で主人を呼び捨てにする使い魔。 とは言え、ルイズも国王を呼び捨てにする神官だからお互い様と言えるだろう。 むしろ傍目には仲の良い姉妹にも見えるぐらいだった。 そんなルイズの妹みたいなクロビス国王の声に、そちらへと行ってみると、すっかり旅装束を調えた小鬼王。 ぴかぴかに研ぎ上げたナイフと使い古した鎧、マントは普段のものではなくて毛皮の裏打ちされた暖かそうな物。 水筒や食料を腰に結び付けて、側らのキンギョにも荷物を括り付けている。 周囲に居る配下の小鬼達『国王親衛隊』も、粗末な布やおべんとうを身に付けて準備万端の様子だった。 「ナニやってんのよクロビス?」 「ナニって、これから野犬討伐に行くんだぞ。国民が安心して暮らせる環境をつくらんとな!」 勇気凛々で言い切るクロビス。 野犬に数回滅ぼされた国の国王のクセに、ちっともメゲてない。 「大丈夫なの、そんな事してて? まぁアンタは逃げ足だけは早いから平気とは思うけど。 とりあえず怪我には気をつけて、夕飯までには帰って来なさいよ」 「うーん、やつらは夜行性だから徹夜になると思うぞ。さあ、ルイズも早く仕度をするのだ!」 「――――――えっ?」 与えられたのは武器と鎧。 跨らされたのは専用の桃色キンギョ。 何がなんだか理解もしないうちに、野犬討伐に付き合わされるルイズであったとさ。 おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』 【エプロン】 コモン生活アイテム。つまり百万迷宮的には別にマジックアイテムでもなんでもない。 料理人は最初から持っている。でも3メガゴールドもする超高級品。 倒したモンスターから得た『素材』を全て『肉』に変えるという効果を持ち、 本文中にあるように機械だろうが情報だろうが肉に変えて食べられるように出来る。 更に職業『料理人』のキャラクターが使用して料理を作ると、食べた者の中からランダムで一人、 しばらくの間だけ元になったモンスターの能力を一つ習得できる効果が追加される。 結果、国王が火を吹いたり従者が飛行したり大臣が毒の胞子を撒いたりするように…… 繰り返すがマジックアイテムでもなんでもない、ただのエプロンである。 【農地と牧場】 両方とも生産施設。 生活レベルが上昇する農地はともかく、国民になったモンスターを複製できる牧場は凶悪。 条件次第では白衣の天使とか淫魔とか養殖できます。エローイ。 どうやって増やしているのかはワリと謎。ツガイじゃなくても増やせるからなぁ…… ちなみに初版ルールブックでは『農地』の効果が生活レベルの上昇ではなくて、 軍事レベルを上昇させると誤字られていたと言うオマケな話がある。 一面に広がる農地によって最強の軍事国家を作り出す。 それはそれでシュールで良いかもしれない。 【『口から先に生まれた』ピピン】 星術師にして小鬼の『逸材』。小柄なメスの小鬼で瞳にキラキラ星が浮いている。 趣味は白馬の王子様が来てくれる日を夢見る事。好きな物は平穏な生活。 雨や寒さから身を守ったり、人の心根を外見に映し出すおまじないを使える。 とか決めたところで、ひょっこり死ぬのが小鬼だが。 逸材とは、国に様々な効果をもたらす職業を持った優秀な国民の事で、 ランドメーカー程では無いが並みの民よりは優れていると言う存在の事。 ちなみに星術師の効果は『農地が有ると国家予算が1MG増える』というもの。 【キンギョ】 りっぱな深人系1レベルモンスター。『飛行』と『かばう』というスキルを持つ。 深人は下級のものこそ単なる飛ぶ魚だが、 上級のものになると「ふんぐるいむ」とか「いあいあ」とか言い出す巨大な海産物になる。 そりゃもう一部の人が大好きな海の邪神様とか居ますよもう大好き。 でもコイツは単なる魚。百万迷宮では主要な動物性タンパク質。 迷宮化に適応できずほぼ絶滅した牛や馬に替わる貴重な家畜として運搬乗騎食料と大活躍。 なお同じく下級天使であるハトなどの鶏肉も百万迷宮の民達のごちそうである。 バチ当たりなハナシだと思いますよ実際。 【野犬の討伐】 わざわざこんな事するクロビスは良い王様だなぁ――― とか思うかもしれないが、百万迷宮における小王国の宮廷の任務は大抵こんなモン。 民から要求される諸問題の解決こそが宮廷の存在意義と言っても良い。 でも野犬倒して凱旋帰国したら喝采で迎えられてパーティーとかあるから良いやん。 パーティーのメインになる「ごちそう」は倒した野犬の肉料理に違いないだろうけど。 前ページ次ページルイズ・キングダム!!