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それは唐突に起こった。 ルイズがトリステインからの大使だと聞いたイザベラが何の気なしに口に出したのだ。 「じゃあ、魔法の腕もいいんだろうね。トライアングルかい?」 トリステインはガリアと並ぶ魔法大国である。 違うことと言えば、昨今のガリアでは建前上は魔法の優劣で人間の優劣は決まらないとされていることくらいだ。 これは多分に現ガリア王ジョゼフに魔法の才能がないという事実に端を発している。 魔法が使えないものを下に見るということは、すなわち国王を、 即位早々に大粛清を行った暴君を愚弄し、侮辱することになるのだから。 もっともそれは正しく建前上の問題だけであり、表に出せない分だけ根深い差別を生み出す温床となってもいるのだが。 一方トリステインはどうかと言えば、その先王は風の属性を持つアルビオン王弟でもあり、 その王女アンリエッタもまた水のメイジである。魔法の才能ある者に対する優遇はガリアの比ではない。 ましてやルイズの実家はヴァリエール公爵家。現当主とその夫人の双方がスクエアメイジであることは有名であり、 非合法とはいえ騎士団団長をしていたイザベラの耳にもその家名は届いていた。 ただし、その子供たちに関しては三人ともが女性であることもあって詳しい話は伝わってはこなかった。 公爵家を告ぐのはその入り婿であるだろうから、娘たちに婚約者が出来ればそれを調べれば良いという判断があったからである。 ちなみに一番可能性の高い長女の婚約者については、あまりに頻繁に変わる所為でそれ専門の部署が作られたと言う事実もあるが、 流石の北花壇騎士団団長もそこまでは知らなかった。 とまれ、イザベラの問いにルイズは何の気なしに答えたのだ。 「いいえ、わたしは魔法は使えないわ。 使えたのは二回だけ。ブータを呼び出した時と、契約した時だけよ」 はにかみながらそう言って微笑みながらブータを撫ぜるルイズ。 驚き、呆然としてそれは本当かと目線で問いかけるイザベラとカステルモールに、 ギーシュとキュルケ、タバサはあるいは言葉で、そして態度でそれが本当であると保障した。 彼らはルイズが嘘つきであることは知ってはいたが、彼女が魔法が使えぬことは事実であったからだ。 それを見たカステルモールは隣の少女が聞いてはならぬことを聞いてしまったのではないかと微かに顔を歪め、 ワルドはそれを知ったガリアの主従の言葉や態度でルイズが傷つくのではないかと懸念を抱いた。 タバサは我関せずと懐から本を取り出し、ギーシュとキュルケは何かを期待するかのようにルイズを眺めた。 彼らはルイズがそのような事で傷つかぬと誰よりも知っていたし、何よりも彼女がつく嘘を好ましいと思っていたからだ。 「嘘だね! 信じないよ! トリステイン貴族のあんたが、しかも大使様が魔法を使えないなんてさ!」 ――――そしてイザベラは身体を震わせ、真っ赤な顔で激怒した。 驚いたようにキュルケとギーシュが顔を見交わす。 彼らには解らなかったのだ。なぜ、イザベラが怒り出したのか。 それはカステルモールやタバサ、ガリアの王女を知る者たちも同様だった。 魔法が使えぬルイズを蔑むのならまだ解る。哀れむのも理解できるだろう。 だが、なぜイザベラが怒ったのかは解らなかった。 ワルドはイザベラの瞳と表情に微かな既視感を憶えて首を傾げ、 ブータは異世界での車椅子に乗った友人を思い出して沈痛な息をついた。 「信じない、絶対に信じない! やっぱりあんたも人形娘と同じで、あたしを馬鹿にしているんだろう!?」 叫ぶイザベラの脳裏に、ガリア宮殿での記憶が蘇る。 魔法の才能の無い自分に向けられる侮蔑の視線。呪詛の様に耳に届く嘲りの言葉。 自分と従妹を比べる視線と言葉に、一体どれだけ眠れぬ夜を過ごしたことか。 どれだけの憎悪と屈辱を両手に抱えて日々を過ごしたことか。 なのにこの娘は、トリステインの大使として選ばれたこの娘は。 友人たちに囲まれて笑うこの娘は言うのだ。自分には魔法が使えぬと。 自分が欲しかったもの。かつて夢見たもの。 叔父の死と共に失われた筈の従妹の友情。 自分を蔑みも嫌いもしない友人たち。 その全てを手に入れているこの娘が魔法を使えぬなど、そんなことがある筈が無い。 「始祖ブリミルにかけて、そんなことがあっていい筈が無いんだ!」 血を吐くようなイザベラの叫び。 キュルケにも、タバサにも、ギーシュやカステルモールにもその心情は理解できなった。 なぜなら彼らにとっては魔法を使えることは当たり前のことであり、自分の才能について憎悪したことなどなかったのだから。 ワルドは一度だけ目を瞑り、そして桃色の髪の自分の婚約者に視線を向けた。 遠い昔を、もう夢のように思える微かな記憶を思い出したのだ。 庭の湖に浮かぶ小さな小船で泣いていた幼い少女。 魔法が使えぬから父も母も姉も自分を嫌うのだと、その瞳に涙をためて。 魔法が使えぬから召使いや平民にすら馬鹿にされるのだと、唇をかみ締めて。 魔法が使えぬ自分が全て悪いのだと、ただ自分だけを責め続けていた、小さい姫君。 自分はあの時なんと言ったのか。そんなことは憶えていない。 けれど、なんとかしてその涙を止めたいと思ったことだけは憶えている。 それは彼がまだ若く、その手を血に濡らすことも、謀略の泉の水を飲むことすらなかったことの遠い夢。 彼は彼女の手を取って小船から連れ出して、けれど何も言えなかった。 彼に出来たのは彼女をその姉に渡して、同じ髪の女性の胸で泣きつかれて眠るまでその傍らにいることだけだった。 「あなたには、居なかったのか、イザベラ王女。 魔法が使えずともあなたを好いてくれる人は、ミス・フォンティーヌのような方は」 ルイズが驚いたように目を見開いた。 彼女はワルドの口に出したその人を知っていた。誰よりもよく知っていた。 カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。 ヴァリエール家の次女。ルイズの優しいちい姉さま。 魔法が使えず泣く自分をいつも抱きしめて慰めてくれたその人。 魔法が使えなくても、あなたは私の妹よと言ってくれるその言葉に、自分はどれだけ救われたのか。 わたしだけでなく、父さまも母さまも姉さまもあなたが大好きよと語るその声に、自分がどれだけ慰められたのか。 ただ微笑んで、優しく抱きしめてくれるそのぬくもりが、どれだけ自分を守ってくれたのか。 「誰だいそいつは!?」 腹立たしげにイザベラが叫ぶ。 魔法が使えなくても自分を好いてくれる人物? そんな者が居る筈が無い。 父は確かに娘の自分を愛してくれてはいるが、それは彼よりも自分の方が魔法の才能があるからだ。 カステルモールの忠誠はシャルロットの下にあるし、北花壇騎士団の部下達も自分に好意など持っている筈が無い。 宮殿の下働きたちや貴族たちも同様で、 ――――イザベラ、シャルロットと仲良くしてくれてありがとう―――― 息が詰まる。 そんなことはある筈はない。 だってあの人は、魔法が使えぬ兄に不満を抱いて、 ――――君がシャルロットと仲良くしてくるから、本当に助かるよ―――― だから、謀反を、計画して。 父上を殺そうとして、でも、仲間割れで、殺されて、 ――――これは内緒だよ? 僕はね、兄さんが大好きなんだ。兄さんこそがガリアの王になるべきだ―――― あたしを、父上を、騙して、馬鹿にして、裏切って、 ――――兄さんは僕を嫌いかもしれない。だけど、イザベラ。シャルロットが君を好きなように、僕も、兄さんが―――― 「いない、いなかった! 誰も、誰もだ! 誰も、あたしのことなんか……!」 ――――あのね、イザベラ姉さま。わたしね、大きくなったら、イザベラ姉さまのお手伝いをするの―――― 脳裏に浮かぶ声を、まだ幸せだった頃の思い出を黙殺する。 忘れようとした訳ではないのにもう思い出すことすら少なくなったそれを、 まだ自分が従妹と共に笑い会えていた頃の幻影を、醜い嘘で塗りつぶす。 アレは無かったのだ。自分はずっと一人で、優しかった叔父も、懐いてくれていた従妹も、全ては欺瞞でしかなかったのだと。 「魔法さえ、使えれば、いや、魔法さえ、なかったら――――!」 力なく俯くイザベラを見やり、ルイズはそっと目を伏せた。 ああ、もう一人の自分がここに居る。 もしもあの日、あの時、あの場所で、あの人に出会わなかったのならば。 頑張れと、絶対に負けるなと言われなかったならば。 自分は今のイザベラのように、魔法が使えぬことを免罪符に、自分に嘘をつき続けていたことだろう。 遠い記憶が蘇る。 『世界は嘘に満ちている。けれど嘘は嘘によって切り裂かれる。その時、最後に残るものこそが真実だ』 そう教えてくれたあの人。 名前も知らず、もはや顔さえもおぼろげで、声すらも定かには思い出せない恩人。 けれどあの人がくれた魔法は、この胸の中に今もなお輝いている。 ルイズはワルドに視線を送り、微笑んだ。 かつての自分を知る、優しい婚約者。 ただ一人かつてのルイズを知るが故に、イザベラがもう一人のルイズだと気づかせてくれた優しい人。 わたしは魔法を使えない。わたしは大嘘つきで、だから嘘をつく事しか出来ない。 だから、わたしは、もう一人のわたしの涙を終わらせるための嘘をつこう。 「――――“それがどうした”よ。イザベラ王女」 胸の首飾りに光が宿る。 そして大嘘つきの少女は、たった一人の少女のために世界すら相手取る嘘を唇に浮かべた。 前に戻る 次に進む 目次
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▼平成21年 1月10日 ・イオンの森コンサート ▼平成21年 3月20日 ・第9回青森県市民バンドブラスフェスティバル(旧ぱるるホール) ▼平成21年 4月25日 ・ライオンズクラブ45周年祝賀会アトラクション演奏 ▼平成21年 6月20日 ・木造 育実幼稚園ミニコンサート ▼平成21年 6月21日 ・鯵ヶ沢 海の駅わんど創業祭 シーサイドコンサート ▼平成21年 8月12日 ・鰺ヶ沢 成人式アトラクション演奏 ▼平成21年10月 3日 ・森田学園祭 ▼平成21年11月 8日 ・第9回定期演奏会 みんなの音楽会2009 (演奏メンバー54名+子供達9名) ▼平成22年 1月31日 ・第10回青森県市民バンドブラスフェスティバル(三沢市) ▼平成22年 6月19日 ・木造 育実幼稚園ミニコンサート ▼平成22年 6月27日 ・鯵ヶ沢 海の駅わんど創業祭 シーサイドコンサート ▼平成22年 8月14日 ・鰺ヶ沢 成人式アトラクション演奏 ▼平成22年10月 2日 ・森田学園祭 ▼平成22年10月17日 ・軽トラ市アトラクション演奏 ▼平成22年11月 7日 ・第10回定期演奏会 みんなの音楽会2010 (演奏メンバー50名+子供達9名) ◇◆◇平成18年~平成20年◇◆◇ ▼平成18年 6月25日 ・海の駅わんど創業祭 シーサイドコンサート ▼平成18年 月 日 ・森田学園祭 ▼平成18年11月26日 ・第6回定期演奏会 (演奏メンバー約54名) ▼平成19年 6月24日 【写真】 ・海の駅わんど創業祭 シーサイドコンサート ▼平成19年 7月 8日 ・全体会議&立佞武多の館へ楽器搬入 ▼平成19年 8月19日 ・森田学園祭 ▼平成19年10月21日 ・「栄幸園」慰問演奏 ▼平成19年11月18日 ・第7回定期演奏会 みんなの音楽会2007 (演奏メンバー約 42名+子供達15名) ▼平成19年12月 9日 ・「湖水荘」慰問演奏 ▼平成19年12月24日 【写真】 ・第55回クリスマスこども大会(青森市文化会館大ホール) ▼平成20年 2月17日 ・第8回青森県市民バンドブラスフェスティバル(黒石市文化会館) ▼平成20年 2月23日 ・新年会&新入団員歓迎会 ▼平成20年 5月 6日 ・2008年度定時総会 ▼平成20年 6月21日 ・木造 育実幼稚園ミニコンサート ▼平成20年 6月22日 ・鯵ヶ沢 海の駅わんど創業祭 シーサイドコンサート ▼平成20年 9月14日 ・「祝 岩木川の日」アトラクション演奏 ▼平成20年 11月 1日 ・団員披露宴余興演奏 ▼平成20年11月16日 ・第8回定期演奏会 みんなの音楽会2008 (演奏メンバー約53名+子供達14名) ▼平成20年12月14日 ・団員披露宴余興演奏 ◇◆◇平成15年~平成17年◇◆◇ ▼平成15年 4月 ・中高生の受け入れを開始 ▼平成15年 5月18日 ・イオンの森コンサート ▼平成15年 5月31日 ・第25回西北五地区吹奏楽祭参加 ▼平成15年 8月31日 ・サマーコンサートin車力 ▼平成15年10月 5日 ・第3回定期演奏会(演奏メンバー約68名) ▼平成16年 5月16日 ・イオンの森コンサート ▼平成16年 9月11日 ・第26回西北五地区吹奏楽祭参加 ▼平成16年 9月25日 ・鳴沢田園コンサートin鯵ヶ沢 ▼平成16年 9月26日 ・陸奥新報に「田園コンサート」の記事掲載 ▼平成16年11月28日 ・第4回定期演奏会(演奏メンバー約69名) ▼平成16年12月19日 ・アンサンブルコンテスト西北五地区予選 (クラリネット4重奏 代表金) ▼平成17年 1月 9日 ・アンサンブルコンテスト青森県大会 (クラリネット4重奏 "ブルールーム" 銀賞) ▼平成17年 3月 6日 ・青森県クラリネットオーケストラコンサート (クラメンバー2名参加) ▼平成17年 3月28日 ・市町村合併式典 アトラクション演奏 ▼平成17年 5月22日 ・イオンの森コンサート ▼平成17年 8月20日 ・第27回西北五地区吹奏楽祭参加 ▼平成17年 9月24日 ・鳴沢田園コンサートin鯵ヶ沢 2005 ▼平成17年12月 4日 ・第5回定期演奏会 (演奏メンバー約75名) ◇◆◇平成11年~平成14年◇◆◇ ▼平成11年11月11日 ・当団名称決定 ▼平成12年 5月 ・吹奏楽連盟に加盟 ▼平成13年 9月15日 ・第23回西北五地区吹奏楽祭参加 (2名で参加・団員募集のチラシ配布) ▼平成13年 9月30日 ・初顔合わせ&練習開始(20人+子供11人) ▼平成13年11月25日 ・第1回定期演奏会(演奏メンバー44名) ▼平成13年12月 2日 ・東奥日報に定演記事掲載 ▼平成14年 1月27日 ・第1回総会開催 ▼平成14年 9月 8日 ・第24回西北五地区吹奏楽祭参加 ▼平成14年11月 3日 ・第2回定期演奏会(演奏メンバー46名) ▼平成14年12月13日 ・東奥日報夕刊トップに定演記事掲載 トップページ 当団紹介と募集要項 練習日程(試運転) 過去の定期演奏会 活動の記録 練習日誌 交流掲示板 リンク集 団員用掲示板
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草原を渡る風に髪を靡かせながら、シエスタは少しずつ明るさを増していく空を眺めた。 タルブの村の朝は早い。おそらく既に村の男たちは起き出して仕事の準備をし、 女たちは朝食を作り出していることだろう。 本来ならばシエスタもその列に加わるべきではあったが、 帰って来たばかりだし一日くらいはゆっくりしていろと父に言われたのである。 「おはようございます、ミス・シエスタ」 「おはようございます、ミセス・シュヴルーズ。よくお眠りになられましたか?」 ええ、と微笑んだのはシエスタを護衛してタルブの村までやってきたシュヴルーズである。 それから魔法学院に引き返しても到着は深夜になってしまうので、それならと村で一泊することにしたのだ。 これはオスマンも承知の上のことで、そのための代金も少しだが学院から出ている。 最初は貴族や魔法衛士が付き添っての帰郷ということで、何事かあったのかと村中大騒ぎになったものだが、 シエスタの説明でやっと落ち着きを取り戻したのだった。 「ここはいい村ですね、ミス・シエスタ。それとも、平民の暮らしはどこでもこうなのでしょうか」 「どうでしょう? わたしはこの村以外は知りませんから」 朝の光に目を細めながらシエスタが言った。 「でも、わたしは、この村が大好きですよ、ミセス・シュヴルーズ」 胸を張ってそう告げる少女の様子に微笑がこぼれる。 彼女が自信をもってそう言うのも頷ける。確かにここはいい村だった。 昨夜、宿泊代だといって差し出した袋を受け取らなかった村人たちの姿を思い出す。 彼らは言ったのだ。 あんたたちはシエスタの恩人だ。ならそれは村の恩人と同じだ。恩人から金は受け取れないと。 仕方なく袋を納めれば後は宴だった。 村の恩人を歓迎すると、あとからあとから人が訪れた。 出された料理は野卑で、上品さもなく、普段口にするものからすれば粗野ではあったが、 シュヴルーズとその相伴に与った魔法衛士にとっては何よりも美味に感じられた。 お貴族さまの口に合いますかどうかと出されたシチュー、ヨシェナベと言う名のそれはこの上なく温かかったし、 村の秘蔵ですと注がれた葡萄酒も今までにないほど美味しかった。 朝になれば、出会う村人全てが親しみを込めて挨拶をしてくれた。 お金が受け取ってもらえぬならと農機具に『錬金』の魔法を使えば、皆が心の底から感謝の言葉を述べてくれた。 『貴族は魔法を持ってしてその精神と為す』 トリステイン魔法学院の校訓である。 何度も唱えたし、何度も生徒たちに告げた言葉である。 だが、と今になってシュヴルーズは思うのだ。 自分はその言葉を知っていても、本当にその言葉を理解していたのかと。 土のトライアングルメイジとして学院に奉職し、何人もの貴族を送り出してきた。 自分の世界はと言えば学院と首都トリスタニア、そして自宅しかなかった。 魔法を使えるのが当然の世界だった。 魔法を使っても感心はされても感謝されることなどなかった。 それを当たり前だと思い、不思議に思うことなどなかった。 目を閉じ、思い切り息を吸い込む。 優しい草原の空気が胸いっぱいに広がる。 優しい村人たちの声が聞こえる。 小さな世界に閉じこもって、何の疑いもなく自分を貴族だと思っていた昨日までの自分と、 この広い草原に立って、魔法を使ったことで村人たちから感謝されている自分。 本当に貴族の名に相応しいのは、いったいどちらなのだろうか。 古い記憶を思い出した。 一年前、学院に来たばかりのルイズが言ったというその言葉。 最初の授業で、君たちの思う貴族とは何ぞやと問うたコルベールに、その少女は堂々と告げたのだという 『魔法が使える者を貴族と言うのではありません。 その力を万民のために、名も顔も知らぬ領民のために、 どこかの誰かの笑顔のために使える者こそが貴族と言われるのです』 これがそうなのか、とシュヴルーズはようやく理解した。 貴族とはなんなのか、魔法を使うというのはいったいどういうことなのか。 それが、その答えこそがこの村の人たちの笑顔だった。 胸の奥で苦笑する。これは一体どういう皮肉なのか。 魔法が使えぬルイズが理解していたものを、魔法が使える自分が理解できていなかっただなんて。 なのに、魔法学院の教師などという職に就いていただなんて。 目を開け、空を見上げた。 雲一つない青空が、あの桃色の髪の小さな少女の首飾りのような色の空が見えた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 あの少女は本当に不思議だ。 魔法が一切使えぬ身でありながら誰よりも貴族たらんとしている少女。 誰よりも貴族を理解している少女。 彼女のことを思えば頬に笑みが浮かぶ。 それに彼女の仲間たち。キュルケ、タバサ、ギーシュ。 三人とも教師の間では実力者ぞろいと評判である。 ことにギーシュはルイズと決闘騒ぎを起こしてからかなり力をつけているとも聞く。 それに一年生や三年生、彼女の先輩と後輩たち。 三年生は後輩に貴族の心構えで負けてはおれぬと奮い立ち、 一年生は堂々と決闘の場に赴いた彼女の言動に貴族とは何かを教えられた。 彼女は、次々と人の心を変えていく。 彼女に人は貴族を見、我もまた貴族たらんと奮い立つ。 それはまるで、地に落ちた一粒の小麦がやがては麦畑になるように。 ルイズという名の麦は、魔法学院を豊潤な麦畑に変えたのだ。 シュヴルーズは本当に楽しそうに笑った。 麦畑から取れた麦は、また新たな麦畑になるだろう。 それを繰り返せば、きっとトリステインの、いやハルケギニア全ての貴族がルイズのようになる日も近いのかもしれない。 ならば、と彼女は心に決めた。 『赤土』のシュヴルーズの名にかけて、一粒でも多くの麦を地に撒こうと。 /*/ ガリアの王都リュティスの東端、ヴェルサルテイル宮殿。 さらにその中心に位置するグラン・トロワと呼ばれる建物の一室で、 現ガリア王ジョゼフ一世は面白げに片眉を上げた。 目の前では彼と同じ青い髪をした少女が、その広い額を赤く染めて怒りの色を見せている。 よほど興奮しているのだろう、朝一番で父王の元を訪れた王女は、興奮を隠そうともせずに声を張り上げた。 「現役の北花壇騎士ともあろうものが! その主君に何の断りもなく行動するなど許されませんわ!」 「まぁそう怒るな、イザベラ。問題なのは成果だ。任務に対する成果さえ上げれば文句は言わん。 別に、なにか任務を与えていたというわけでもないのだろう?」 二人の目の前の机には、二通の書状が置かれている。 一通はトリステインのマザリーニ枢機卿からの密書、 北花壇騎士七号タバサことシャルロットがアルビオンに向かったと言う報告と、 それに同行した者たちの名簿であった。 「任務、任務ですって!?」 信じられない、と言う風にイザベラは叫んだ。 「任務がなくても、常にそれを受け取ることが出来る場所にいるのが義務ではありませんこと!? ましてや、あのガーゴイル娘は、王位を簒奪しようとした罪人の娘なのですよ? あの無表情な顔の下で、一体どんな悪辣な野望を考えていることやら! 考えるだけで怖気が走りますわ!」 簒奪か。 娘の言葉に現王は皮肉げな笑みを浮かべた。 生憎だが娘よ。俺とお前以外の国民は、俺こそを王位の簒奪者だと思っているのだぞ? 「それで、イザベラよ。 お前は余に何が言いたいのだ。シャルロットはお前の部下だろう。 部下の不満を余にもらしに来たのか」 「違いますわ! あのガーゴイル娘への処罰の許可をいただきに来たのです!」 唇を歪めて王女は言った。 確かにイザベラは北花壇騎士団の団長であり、命令権を持ってはいる。 だが、その部下たちの中でもただ一人、タバサに対しては処罰を与えることを王に禁じられていたのだ。 命令違反や敵前逃亡などの明確な叛意を示した場合を除き、彼女に対して何ら肉体的被害を与えてはならないと。 気位の高いイザベラにして見ればこれはどうにも許容しがたいことであり、 いきおいタバサへの態度も陰湿なものとなっていた。 「却下だ」 「父上!」 考える素振りも見せずに首を横に振る父王に、イザベラは机を叩いて反論した。 「父上はお甘い! そもそも、なぜわたしにあのガーゴイル娘への処罰権を与えてはくださいませんの!?」 「約束だからだ」 娘の激昂を軽く受け流し、ジョゼフは軽く目をつぶると口を開いた。 「約束だ。 あの娘には手は出さぬと。 シャルルとその妻だけで満足すると。 あの娘の母親と約束したのだ。 王の約束は守られなくてはならん」 瞼の裏にあの日の情景が浮かび上がる。 怯えの表情を隠さぬ貴族たちの中にあって、ただ一人自分を睨みつけた女丈夫の瞳を思い出す。 自分を糾弾し、娘の安全を願い、そして毒をあおった義理の妹。娘の安全を信じて毒をあおった気高い母親。 誰もがジョゼフを無能と蔑み、王位を簒奪したと言い、邪知暴虐な王だと後ろ指を差す中で、 だが、それでも彼女は義兄を信じた。 自分の願いを聞き、笑みを浮かべた王を信じて毒を呑んだ。 「あの女はな、余に何も求めなかった。 余がその約束を履行すると信じて毒を呑んだ。 まったく、そんなところは夫のシャルルそっくりだ。 気がつけば誰も彼もが、あいつの思うように動いていた。 何より腹立たしいのは、誰もそれを不快に思わんところだ。 余には幾度生まれ変わっても真似できぬ」 イザベラは不満そうに頬を膨らませた。 故オルレアン公シャルルのことは彼女も知っている。 魔法に長け、誰にでも愛された優しい叔父上。 だが、彼は父のものとなるべき玉座を狙った大罪人ではなかったのか。 なのに、なぜ父は叔父のことを語る時、あんなに優しい瞳を見せるのか。 「それは騙されていたんですわ! そんな大嘘つきの子供ですもの、あの娘だって何かよからぬ事を考えているに決まってます!」 「やれやれ、よくもまぁ嫌ったものだな。 昔はあんなに仲が良かったというのに。 今でも憶えているぞ。お前とシャルロットが二人で、ラグドリアン湖で溺れかけた時のこととかな」 「冗談でもおやめください父上。 それは何も知らぬ子供の頃のことですわ。 確かにあの時はあの娘の魔法で助けられましたけれど、 きっと心の奥底では魔法がまだ使えなかったわたしを蔑んでいたに違いありませんわ!」 ますます興奮する娘にやれやれと肩を竦める。 これでは話は平行線だ。いつまでたっても交わるわけがない。 「なんにせよ、だ。 今回の件で花壇騎士の任務に支障があるとも思えん。 よってシャルロットの罪を問うことはせん」 「父上!」 しかしとジョゼフはにやりと笑い、トリステインからの密書を手に取った。 「ここには、シャルロットが友人と共にアルビオンに旅行に行ったと書いてあるな。 イザベラ、お前がそれを羨ましく思って怒っているのだというのなら、 余にはそれを止めることはできんな」 その言葉に、イザベラの顔が瞬時に引きつた。 そこに爆発の予兆を感じ取ったジョゼフは、 片隅に控えていた騎士に手を振り王女を退室させるように命じる。 「離しなさい、カステルモール! 父上、まだ話は終わったわけでは……!」 抱きかかえられるように退出する愛娘を見た父の顔が緩み、 侍女を呼んでイザベラが暴れたために脱げた靴を片付けるよう指示すると、 しばらく誰も部屋に入らぬように言いつけた。 「心の奥では蔑んでいた……か。 確かに今のシャルロットは余たちを恨んでいような。 だが娘よ、お前は、それがどれだけ幸せなことかまだ解らんのだろうな」 呟くと、部屋の隅に置いてあった遊戯の駒に目を向ける。 思い出そうとしたわけでもないのに忘れられぬあの日の情景が、 今もなお脳裏から離れぬ弟の言葉が彼の脳裏を過ぎった。 『おめでとう。兄さんが王になってくれて、ほんとうによかった。ぼくは兄さんが大好きだからね――――』 /*/ 学院に戻ると言うミセス・シュヴルーズの見送りを終え、 シエスタはゆっくりと懐かしい道に歩を進めた。 まだ朝も早く、家にいてもすることがない。 そんな時は、村はずれの草原と並ぶお気に入りの場所で過ごすのが彼女の常だった。 村から少し離れた小高い丘の麓に作られたその建物の前に立つ。 村人からは寺院だと思われているそれはもう数十年も昔、彼女の曾祖父が建立した施設であった。 その中には曾祖父が残した遺品が眠っている。 それについて尋ねられた時、彼は決まって言ったそうだ。 『人でも神でも命を賭けて戦う時がある。そしてそれは貴族だけに限った話ではない。 誰も彼も、貴族も平民もなしに戦う時が来る。 運命を司る火の国の宝剣の導きにより絢爛舞踏祭が始まる時、これは再び蘇るだろう』 その言葉から、これはなにか宗教的なものなのかと村人の多数が勘違いしたのは余談である。 シエスタは胸を張って扉を開くと建物の中へと足を踏み入れた。 尊敬する曾祖父に、同じくらい尊敬している彼女の主人のことを報告するために。 日差しが、門に刻まれた文字を温かく照らす そこに刻まれているのは曾祖父が自ら刻んだ祖国の文字だと言う。 もはやそれを読むことのできる者はこの世にはいないが、 シエスタとその家族たちはそこに刻まれた言葉の文字を知っていた。 物心ついた頃から聞かされ、叩き込まれた遺品の使い方同様に、 それは彼女たち家族にとっては絆であり誇りであった。 ――――“正義最後の砦タルブ出張所・秘密格納庫” 前に戻る 次に進む 目次
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朝靄の中、ルイズは俯いたままの侍女に優しく声をかけた。 「そんな顔しないで、シエスタ。きっとすぐに迎えに行くから」 ルイズたちが学園を離れアルビオンに向かう今日、 シエスタも学園を離れて故郷であるタルブの村に向かうのである。 王女からの密命を受けたルイズが手配したのがまずこれだった。 かつてシエスタを我が物にしようとした男、モット伯。 自分が学園にいないとなれば、彼かもしくは彼の配下の者がシエスタを召しだそうとする危険性があった。 ならば学園から遠ざけてしまおうと言うルイズの策略である。 まさかにもわざわざタルブの村まで彼女を探しには行くまい。 村まで送り届ける護衛を頼んだついでに確認したところでは、タルブの村の領主はモット伯とは不仲であるとのことだった。 ならば言葉は悪いが、たかが平民の女性一人のために仲の悪い相手に借りを作るなどと言うこともあるまい。 アルビオンから帰ってきたらすぐにでも迎えに行くつもりだった。 「やれやれ、立派に見えてもやっぱりまだまだ子供だねぇ。 なんでそこの嬢ちゃんが落ち込んでるか解ってねぇみたいだ」 「まったくだぁなぁ。まぁ、こればっかりはしかたがねぇけどよ」 呆れたような声が響いた。 タバサがその得物としているデルフリンガーと地下水のコンビである。 主人はキュルケやギーシュ、それにブータと共にシルフィードに荷物を積んだりウェルダンテ用の鞍を用意しており、ここにはいない。 丈の長いデルフリンガーはそう言った作業をするにの邪魔だし、地下水は喋るのがうるさいと放置されたのである。 「あのな、ルイズ嬢ちゃん。 騎士でも従者でも使い魔でも貴族でも何でもいいけどよ、 およそ他人に仕える者が、名目だけでなく、心から誰かに心酔している人間が、 心の底から望んでいる一言って何か解るか? それさえ命じられれば無常の幸福だと、死んでもかまわないって思う一言って奴だが」 考えるが、ルイズには解らない。 そしてそのことで自分を恥かしいと思った。 人の上に立つ貴族たらんとして歩いてきた自分が、そんな一言すら解らないなんて。 だがデルフリンガーの告げた答えは、彼女にとっては到底信じがたいものだった。 「簡単な一言さ。 “自分のために死んでくれ” その言葉さえあれば、忠実な従者は万の大軍にだって刃向かえる。 現に……うん? 誰だっけな。誰かそんなことをした奴がいたはずだが……」 「あー、とにかくだ。そこの嬢ちゃんは、あんたにそう命じられなかった自分に不満を持ってるんだよ。 ウチの主人やキュルケやギーシュがあんたと一緒に行くのに、なんで自分は行けないのかって」 途中から論旨があやしくなったデルフリンガーに代わり、地下水がその後を引き取った。 ルイズは唇を噛んだ。 彼女の考えでは、危険な場所に第一に飛び込むのが貴族たるものの責務だと思っていた。 部下や従者を死なせるなど言語道断だと思っていた。 なのにデルフリンガーと地下水は、主のために死ねるのが喜びだと言う。 疑問に思ったが、彼らが虚偽を言っていないことだけは確かだった。 存在を始めてからの長い年月。その間に彼らが看取ってきた幾十幾百幾千の人々の死に様が、 彼らの言葉に真実のみが纏う重みを宿らせていたからだ。 「……そう、なの? わたしはただ、シエスタに危ない目に遭ってもらいたくないって……」 「ルイズ様、お気になさらないでください。これはわたしの我が儘なんです。 確かに、デルフリンガー様や地下水様の言うとおり、わたしもルイズ様のお役に立ちたいって思ってますけど……」 顔を曇らせるルイズに、慌ててシエスタが口を開いた。 ルイズの気持ちは嬉しかった。 自分がルイズを終の主人と決めたあの時のことを憶えていてくれたことは、 王国から密命を受けた時にでも忘れずにいてくれたことは天にも昇るほど嬉しかった。 けれど、いや、だからこそ、思うのだ。 なぜ自分には、彼女を助けることが出来ないのかと。 「聞いたかい? デルフリンガー様だってよ」 「聞いたぜ。地下水様だってよ」 二振りの武具が声を交わす。 告げられた言葉は僅か。けれどこの二振りにはそれで十分だった。 武具として生まれ、意思を吹き込まれて生きてきた。 睡眠も食事も必要とせず、ただ長い時間をそこに在るだけの存在として過ごしてきた。 相棒と呼ばれることもあった。 文字通り道具としてしか扱われないこともあった。 気味の悪い物体として敬遠されることも、 誰からも顧みられることなく棚の中や宝箱の中で過ごしてきたこともあった。 だがこの侍女のように、全く違和感なく自分たちを一個の人格として扱い、 しかも敬意すら払ってくれる少女に出会ったことは初めてだった。 ましてや戦士でもメイジでもなく、商人でもない。 武器としての自分たちではなく、 珍しい商品としてでもなく、 デルフリンガーと地下水としての一個人を見てくれる存在は。 「ついでに言わせて貰うがよ、シエスタ嬢ちゃん。 戦士でもメイジでも兵士でも貴族でもいいがよ、 およそ戦う者にとっての一番の幸せって何か解るか?」 「それはな、守りたいものがあることだよ、嬢ちゃん。 守りたい者を守り、守らねばならない物を守り、守るべきモノを守れることが幸せなのさ」 「誇りなんぞ、名誉なんぞ、戦場じゃあ意味がねぇ。 なにしろみんな狂ってる。正気でいたいなんて贅沢をいう奴から死んでいくのさ」 「そんな中で生き残るのは、いつだって守りたいものがある奴だ。 それこそが、狂気の淵から帰ってくる唯一の手段なのさ」 「俺たちの経験から言わせて貰えば、間違いなくルイズ嬢ちゃんは幸せだ。 あんたっていう守りたいものがあるからな」 だから、デルフリンガーと地下水は決めたのだ。 主人に言われたわけでもなく、自分たちの意思で誓ったのだ。 必ずルイズを守り、再びシエスタに会わせてやろうと。 「ま、心配するこたねぇやな。 俺たちの主人はトライアングルメイジでシュヴァリエだ。 それに猫の旦那もいる」 「俺っちは四大の魔法が使えるし、兄貴は魔法を吸い込んじまう。 必ずルイズ嬢ちゃんをあんたの元に連れ帰ってやるよ」 お互いの気配を探り、心中で笑う。 ああ、確かに自分たちは幸せだ。 ルイズという守りたい者が出来た。 横に相棒、頼りになる主人に戦友。そして守るべき姫君。 およそ戦場に赴く前に、これ以上に望むものなどあるものか。 「よろしくお願いします。デルフリンガー様、地下水様も。 お二方もお気をつけてくださいね」 深々と頭を下げるシエスタに、二振りの剣はえも言われぬ感情を抱いた。 腰のすわりが悪いというか、穴があったら隠れたいというか。 おそらく彼らに自由に動く身体があったならば、 二人とも身動ぎをしていたであろう。 何しろ、一個の人格として扱われたのが初めてな彼らである。 当然このような感謝の情を向けられたことも初めてであり、 堪らない気恥ずかしさに襲われたのだった。 だが、と二振りは思った。 ――――こういうのも、悪くない。 /*/ 目の前に現れた男を、キュルケは胡乱げな目で観察した。 自分たちより十歳ほど年上の、見事な羽帽子をかぶった凛々しい貴族である。 ルイズの婚約者だというその貴族は、にこやかに帽子を取って頭を下げる。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。君たちの護衛を仰せつかった」 「ワルド様、アンリエッタ姫は未だ即位していないし、マリアンヌ大后も同様ですわ。 卑しくも王室直属の近衛が事実関係を誤認しているのは問題ではないかしら」 「おお、僕の可愛いルイズ。これは失礼したね。 僕の忠誠は未だ生まれざる新たな王に向けられているのでね、つい間違えてしまったよ」 ルイズの言葉に、笑いながら訂正するワルドを見ながら、キュルケは唇を歪めた。 気に入らない。 この男、ルイズを明らかに下に見ている。 そんな視線をキュルケは昔から知っていた。 魔法が使えぬルイズを侮り、一段下に置く視線を知っていた。 それは魔法をこそ至高とみなす貴族にとってはいたし方のないことなのかもしれないが、 まかり間違ってもルイズの婚約者を称する者が浮かべていいものではなかった。 大猫がキュルケの横に寄り添い、落ち着けというように手を舐める。 見ればギーシュは彼女と同じような目でワルドを見つめ、タバサは心配するような目で本の影からこちらを見ていた。 「失礼、ワルド子爵。グラモン家四男、ギーシュ・ド・グラモンと申します。お見知りおきを」 ここは任せろと目配せしたギーシュが前に進み、堂々と口上を述べた。 魔法衛士隊は全貴族の憧れであり、それはかつてのギーシュも例外ではなかったが、 しかし今の彼には他に仰ぎ見るべきモノがあり、守るべきものを知っていた。 つまりはルイズ症候群の重症患者だったのだ。 「なるほど、君がか。君の事は姫殿下から聞いているよ。 勿論、君の父や兄君たちのことも。もっともこれは姫殿下からではないが」 「それは重畳。 ところでご質問があるのですが、ワルド子爵はミス・ヴァリエールの婚約者とのことでしたが」 「その通りだよ。実に嬉しいことにね。もっとも、こうして再会するのは十年ぶりだがね」 「なるほど、そうでしたか。これで謎が解けました」 「ほう、どのような謎かな?」 「なに、杞憂といいますか、解けてしまえばなんでもないことですよ。お気になさらず」 「いや、気になるな。姫殿下のお話からすれば、どうも君は僕の知らない可愛いルイズを知っているようだしね」 にこやかに会話を進めるギーシュとワルドだが、どうにもその間に険悪な空気が漂っているように見えてならない。 「……修羅場?」 「わたし、あの子爵様よりもギーシュ様のほうがルイズ様にはお似合いだと思います」 「ななななななに言ってんのよシエスタ!」 やれやれと思いつつもキュルケは頬を緩めた。 これで解った。この子爵は、十年前のルイズしか知らないのだ。 彼女本人から聞いた話では、やはりそれくらいにある男性に会ってから全てが変わったのだと言う。 それが誰かは本人も知らない、顔と声だけしか憶えてないと言っていたが、少なくとも子爵でないのは間違いなかろう。 だからワルド子爵の中では、ルイズは魔法が使えないと泣いていたどこにでもいるような子供のままなのだ。 やれやれと思いながら苦笑する。 まぁ知らないのならば仕方ない。これから知っていけばいいのだ。 たぶん最初は驚くだろう。わたしやギーシュがそうだったように。 けれどたぶん最後には、この子爵様もルイズに感化されてしまうだろう。 何しろルイズはこのわたしの好敵手なのだから。 ひとしきり未来を予想して肩を震わせ、それにしてもとキュルケは思った。 「あの姫さま、わたしたちのこと、なんて説明したのかしら?」 前に戻る 次に進む 目次
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インナー・シティー・ジャム・オーケストラをお気に入りに追加 インナー・シティー・ジャム・オーケストラのリンク #bf Amazon.co.jp ウィジェット インナー・シティー・ジャム・オーケストラの報道 gnewプラグインエラー「インナー・シティー・ジャム・オーケストラ」は見つからないか、接続エラーです。 インナー・シティー・ジャム・オーケストラとは インナー・シティー・ジャム・オーケストラの45%は希望で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの17%は純金で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの8%は明太子で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの7%はビタミンで出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの7%は時間で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの7%は海水で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの4%は祝福で出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの2%はスライムで出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの2%はツンデレで出来ています。インナー・シティー・ジャム・オーケストラの1%は世の無常さで出来ています。 インナー・シティー・ジャム・オーケストラ@ウィキペディア インナー・シティー・ジャム・オーケストラ Amazon.co.jp ウィジェット 掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ インナー・シティー・ジャム・オーケストラ このページについて このページはインナー・シティー・ジャム・オーケストラのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるインナー・シティー・ジャム・オーケストラに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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10日目・未明 ガンパレード・オーケストラ緑ルート Dコース NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(1) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(2) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(3) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(8) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(11) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(18) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(19) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(21) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(22) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(24) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(26) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(27) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(28) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(30) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(33) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(34) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(35) 世界の謎 初心者用ミニゲーム(延長決定)(スレッド1) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(36) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(38) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(39) 世界の謎 初心者用ミニゲーム(延長決定)(スレッド2) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(41) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(43) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(45) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(49) 世界の謎 初心者用ミニゲーム(最後の問題)(スレッド4) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(56) 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 OPセレモニー 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第1ターン 真琴・ 光で輝き 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第2ターン ナナシ・ AS 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第3ターン トオコ・ 古村 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第4ターン 歌月・ 磯辺 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第5ターン 佑・ とよたろう 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第6ターン つづみ・ 三水酉 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第7ターン RF11・ さくらつかさ 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第8ターン 姫つつじ・このよ 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第9ターン 白竜・こまち 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 最終ターン alneco 雨花 アンコール。 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出外伝 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 リザルト&感想の部屋 NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(58) ガンパレード・オーケストラ緑の章(第59.5回)源の事情。 ガンパレード・オーケストラ緑の章(第59.5回)英吏の事情。 NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(60) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(61) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(62) ガンパレード・オーケストラ緑の章(64) ガンパレード・オーケストラ緑の章(65) ガンパレード・オーケストラ緑の章(66) 緑のオーケストラ本祭 原・ストライク(7) 緑のオーケストラ本祭 原・ストライク(12)光で輝きボーナス 緑のオーケストラ本祭 原・ストライク(15)天河石ボーナス2 8日目(夜)23 ガンパレード・オーケストラ(白)(3) 10日目(夜)27 ガンパレード・オーケストラ緑(3) 全ニューワールドお見合いコンテスト、中間速報
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NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(4) (作内) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(5) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(6) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(8) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(11) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(13) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(14) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(15) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(19) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(21) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(22) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(33) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(34) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(35) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(36) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(38) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(39) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(41) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(43) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(46) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(49) NOTボーナス ガンパレード・オーケストラ緑の章(56) 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第2ターン追記 斉藤奈津子(なっこちゃん)からの脱出 第8ターン 姫つつじ・このよ 10日目(夜)27 ガンパレード・オーケストラ緑(3)
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楯代わりのテーブルを飛び越えて出てきた少女を見た時、傭兵は思わず舌打ちをした。 その少女の顔には見覚えがあった。 昨日、自分たちの常宿としている『金の酒樽』亭にやってきて、 賭博でこちらの有り金を全て巻き上げていった相手である。 確かに恨みはあるが、それとこれとは別だ。 剣を持ち、首輪なんぞをしていたから貴族の従者なんだろうと思ってはいたが、 どうもそれは違うらしい。 昨日も一緒にいた貴族はまだテーブルの向こうにいるようだ。 少女を囮にしようと言うのか、それとも少女一人で傭兵を迎え撃てと理不尽な命を下したか。 おそらく後者だろう。 あんな小柄な娘に、あんな大剣を持たせている時点でおかしいと気づくべきなのだ。 だがどちらにせよ、と男は口内に沸いた酸っぱい唾液を飲み下した。 あの赤毛の貴族はあの娘が死のうが生きようが構わんらしい。 つまりは従者ですらない、奴隷以下の存在というわけか。 痛々しげに一瞬だけ目を伏せ、そして目を開ける。 ――――まさに瞬間。 しかしタバサが接敵するには、その一瞬で充分だった。 自身の身の丈ほどもある大剣デルフリンガーを振るい、傭兵を弾き飛ばし、思う存分に蹂躙する。 彼らは知らなかったのだ。 傭兵たちが、いやアンリエッタ王女さえもが従属の証だと思って疑わなかったタバサの首輪。 それは従属ではなく友愛の証。 所有者の能力を増幅する猫神族の神器の一つだと言うことを。 「距離を! 距離をとれ!」 誰かが叫ぶ。 悪いことに傭兵たちの多くが弓を構えていた。 弓はその場で捨てるにしても、剣を抜く前に切られてはおしまいである。 慌てて武装を変更しようとしてももう遅い。 タバサはその動きに片手を突き出すことで答えとした。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」 断片的に少女の身体を支配した“地下水”の放った魔法が生み出した氷の矢が傭兵たちに飛ぶ。 タバサ自身も得意とする“ウィンディ・アイシクル”の呪文である。 「馬鹿な、杖も使わず!?」 驚愕の声が傭兵たちから洩れる。 貴族は杖を持ち魔法を使う。故に杖を持っていなければ魔法は使えない。 それが彼らの常識であり、世界の法則であった。 だが眼前の少女は、それらをいとも容易く打ち砕いたのだ。 「なんと……!」 目を見張ったのはワルドである。 それ以外にも、テーブルの陰からタバサの戦いを見た客や店員たちが興奮に頬を染めていた。 自分よりも大きな剣を携え、それ自体の重さと慣性を利用して縦横無尽に振り回す小さな少女。 それはタバサが戦神より伝えられた戦闘法。 身の丈よりも巨大な武器を振るい、あしきゆめと戦い続ける小神族や猫神族の戦術だった。 誰かが陶然として洩らした吐息が室内に溶ける。 剣を持ち、魔法を振るい、ならず者たちを倒していく小さな姿。 一歩歩を進めれば一人が倒れ、剣を振るえば二人が倒れ、魔法を放てば数人が纏めて吹き飛ぶ。 踊るがごとくに敵を倒していくその姿のなんと麗しいことよ。 御伽噺か英雄譚の中にしか存在しない筈の戦姫がそこにいた。 「いくわよ、タバサ!」 「承知。任せた」 「おっしゃぁ!」 弓矢が途絶えるのを待っていたキュルケが呪文を解き放った。 狙いはタバサと敵集団の中心である。 一瞬で消える爆発ではなく、時間が経たねば消えぬ炎の海を作り出す。 傭兵たちがその熱に悲鳴を挙げるが、 デルフリンガーに守られたタバサには火傷一つ負わせることは出来ない。 「――――あ」 傭兵たちの誰かが喉の奥で悲鳴を挙げた。 これはなんだ。 こいつはなんなんだ。 自分たちは何と戦っている? 青い髪。白い肌。血を塗られたかのように朱い唇。 身の丈よりも巨大な剣を振るい、杖も使わず魔法を使う。 そして味方の魔法に巻き込まれた筈なのにその身体には傷一つなく、 未だ燃え続ける炎の海の中にあって無表情にこちらを睥睨するその視線。 炎が表情のない少女の顔に呪いの仮面のような紋様を映しだす。 誰か唾を飲み込む音が大きく聞こえた。 得体の知れぬ寒気が傭兵たちの背筋を這い登る。 御伽噺か法螺話の中にしか存在しない筈の魔物が、そこでこっちを見てやがる――――! 「さぁ、行こうか」 ギーシュに頷き、主人を乗せた大猫が机の陰から進み出る。 その背に跨り、ルイズは胸を張って閲兵に望む将軍のように前方を見据えた。 背後を守るかのようにあとに続くのはワルドとキュルケ。 殿軍を勤めるギーシュが造花を振って作り出した青銅のワルキューレがその横を守る。 本来ならば切りかかり、矢を放つ筈の傭兵たちの誰もが気を呑まれ、我知らず後ずさった。 遠い昔に捨てた筈の恐怖という名の感情が、彼らの手足を縛っていた。 「――――く」 苦鳴が洩れた。 魔物のような剣士一人でも苦戦していると言うのに、あの炎の使い手に土のメイジ。 髯を生やした男も杖を持っているからにはメイジに違いあるまい。 最後の一人、猫に跨った少女もおそらくメイジだろう。 それも中心にいるからにはよほどの実力者と見て間違いない。 腹の中で、この依頼を持ってきた白仮面の男を口汚く罵る。 なにが簡単な仕事だ、ふざけやがって。 「あの髪の色……まさか、まさか……」 一人の傭兵が、ありえないものを見たかのように目を見開いた。 髪にも白いものが混じり始め、そろそろ引退を考え出す年齢の男である。 傭兵仲間からは親爺さんと呼ばれて親しまれている人物だった。 「どうした?」 周囲の訝しげな視線も気にはならない。 遠い遠い戦場の中での思い出が、彼の記憶の時計をさかしまに回し、 遥か昔に一度だけ見たあの英雄の姿を脳裏に克明に甦らせていた。 彼が若い頃に傭兵として参加した反乱鎮圧。 寄せ集められた一個連隊と共に向かったカルダン橋で見たその姿。 ただ一人で反乱を鎮圧した大英雄。 跨るのはマンティコアではなく大猫であり、顔半分を覆う鉄仮面もしてはいなかったが、 老いたる傭兵は、眼前の少女に確かにその人の面影を見て取った。 「……“烈風”カリン殿……!?」 /*/ その日、ラ・ロシェールに住む人々は実に不思議な光景を目にした。 その光景はそれからしばらくはただ不思議なだけであり、 住民の茶飲み話に時折顔を覗かせる程度でしかなかった。 しかし、ある時を境にそれは一変する。 それは男たちが酒を片手に話す際の話題となり、 あるいは親が子供に語る物語となった。 彼らは自分がそのときに居合わせたことを、 そしてそれを目にすることが出来たことを始祖ブリミルに感謝した。 男たちは杯を手にする度にそれを思い出し、 女たちは子供にせがまれる度にそれを語った。 ラ・ロシェール中から集った傭兵たちを尻目に、 『女神の杵』亭から『桟橋』までを一直線に駆け抜けた、 猫に跨った少女とその仲間たちの物語を。 今もラ・ロシェールで続く火蜥蜴や竜、土竜やグリフォンを模した山車で街中を駆け回る大祭の、 これがその起源である。 /*/ 『女神の杵』亭の屋上に立ち、男は『桟橋』を離れて上昇する船を見送っていた。 その顔には抑えきれぬ怒りの色がある。 ルイズたちを逃したのが悔しいわけではない。 そもそもここで捕らえるつもりは毛頭ない。 傭兵たちを差し向けたのも、邪魔になるかも知れぬ三人を引き離す為だった。 その企てが失敗したのが悔しいわけではない。 むしろよくぞと賞賛してもいいくらいである。 剣士の力を見せ、魔法を打ち込み、傭兵たちの戦闘意欲を奪う。 店から脱出すれば使い魔に分乗し、一直線に『桟橋』を目指した。 傭兵たちを相手にせず、白仮面の男を無視し、 自分が最後の敵だと腰を振る白衣の道化師を黙殺して駆け抜けた。 なにが一番大事なのか、なにが自分たちにとって勝利なのかを知り、 それに向けて全力で行動した結果である。 傭兵たちは怪我こそすれ死んだ者は一人もおらず、 その瞳には今やあの一団に敬意を払う色すら見える。 それはいい。むしろ歓迎すべき事態だ。 ルイズとその仲間たちは貴族に相応しい力を持っているのだと言う事を、 そしてトリステインの貴族とはどのような存在なのかを、 言葉ではなく行動で示してくれたのだから。 「知っていたか、あの娘の力」 「いや、姫殿下は何も言ってはいなかった」 答えたのは、『フライ』の呪文で屋上に上がってきた白仮面の人物である。 横に立ち、苦々しげに遠ざかる船を見つめた。 「マザリーニ枢機卿もだ。それどころか、あの娘をなるべく守れと言ってきた。 没落したとはいえガリアの王族に傷をつけてはならんと」 「してみると、鳥の骨殿も知らなかったか。だが……」 沈黙が降りる。 彼らは今まで、今回の件はアンリエッタ王女のただの我が侭なのだと思っていた。 考え無しの王女が、幼馴染に重大事を任せただけなのだと。 だが、偶然それを任せられた筈の少女とその仲間たちの実力を見るにつけ、 本当にそうなのかという疑念を抑えることが難しくなってきていた。 あるいはアンリエッタ王女は、全てを承知でルイズにこの任務を任せたのではないかと。 「どう思う。姫殿下は知っていたと思うか」 「解らん。解らんが、もし知っていて、それであの少女たちに任せたというのなら」 男は大きく息を吸って、そして吐いた。 「俺は、姫殿下を許せんだろうよ」 男は下級の貴族の家の出身である。 魔法が使える故に貴族を名乗ることを許されてはいるが、 実質は地方の郷士に過ぎない家柄であった。 しかしそれでも、いやそれ故にこそこの国を愛していた。 権力を持たず、国政に関わることもできぬ故に、 なんらの欲得なしでこの国を愛することが出来た。 アンリエッタ王女についても同様で、 若くして重責を担う少女にごく素朴な敬意を払っていた。 なるほど今は確かに枢機卿の傀儡かも知れぬ。 だが成長し、経験を積めば必ずこの国を良き方角に導いてくれると信じていた。 そう、信じていたのだ。 「確かに、な」 「ああ。もしも本当に魔法学院が彼女たちのような人材を育てているのなら。 そして姫殿下のみがそれを知っていたというなら」 沈黙が降りた。数週間前に湧き上がり、身を焦がした怒りが胸中に蘇る。 王女とゲルマニア皇帝との婚姻の儀。 それはすなわちトリステインをゲルマニアの属国にすることに他ならない。 怒りが男の、男の仲間たちの胸を焼いた。 畏れ多くも始祖ブリミルの御子が建国したトリステインが、 成り上がり者の集団であるゲルマニアの下風に立つなど、 真に国を愛するものとして到底許容できるものではなかった。 アンリエッタの子がトリステインを継ぐと説明されても、 その怒りは収まらなかった。 漁色家としても有名なゲルマニア皇帝には未だ正妃がいない。 故にアンリエッタは正妃としてゲルマニアに嫁ぎ、その長子は皇位継承権第一位となる。 その場合、トリステインを継ぐのは第二子である。 だが、もしも子が一人しかいない時にアンリエッタが謀殺されたならば? 王家直系である以上、トリステインはゲルマニアの次期皇帝を王と仰ぐことになる。 そのような事態は断じて許されるものではなかった。 そして男とその仲間たちは決意する。 ゲルマニアの属国化を防ぎ、自分たちの手でこの国を正そうと。 だがこれはどうしたことだ。 トリステインにあの知略を駆使する参謀がいるのならば、数に頼らずとも戦い抜けるだろう。 ガリアの姫戦士がいるのならば、その武勇で兵を鼓舞することもできるだろう。 そしてそれを率いるのがあの英雄の娘となれば、 ゲルマニアに頼らずともトリステインは戦うことができた筈なのに。 アンリエッタ王女がそれを知っていたならば、なぜマザリーニ枢機卿にそれを言わなかったのか。 なぜ戦おうとせず、婚姻の儀を進めようとしているのか。 怒りが男の口から問いとなって流れでる。。 今回の件を聞いてからというもの、何度も問いかけ、口に出さずにはいられなかった疑問であった。 「なぜだ。なぜ、この国をゲルマニアに売ろうなどと考えた!?」 繰り返すが、男は下級貴族の生まれであり、その仲間たちもまた同じであった。 そのような家柄の者が国を変えようと思えば、謀略を持ってする他はない。 署名を集めて訴えかけはしたが、一考するとだけ言われて黙殺された。 故にこそ、男たちはレコン・キスタと密約を交わした。 アルビオン王家を滅ぼしてもトリステインには攻めては来ぬと。 真の貴族を持って任じるレコン・キスタの大部分にとってはゲルマニアの貴族はただの成り上がりであり、 同盟すら結ぶに値しない。そこに始祖ブリミルの血統が混じるなど考えるだけでもおぞましい。 ここに、彼らの利害は一致した。一致したと信じた。 「僕はそろそろ戻るとしよう。 なに、するべきことに変わりはない。 いや、より重要度が増したというべきか」 「ああ、そうだな。 あの少女が全ての鍵だ。 ガリアの剣士も、ゲルマニアの魔女も。 グラモン元帥の息子までが彼女を中心に動いている。 彼女を手に入れれば、この戦は勝てるな」 空気に溶けるように消えていく白仮面を見送り、 彼が使命を果たした時のことを夢想する。 その時こそ、この国は変わる。変わる筈だ。 おそらく自分たちの名は一人を除いて歴史には残らない。 あるいは数年が過ぎて後に謀略家としての汚名が着せられるかも知れぬ。 ただの捨て駒として見捨てられることになるかも知れぬ。 死した後でも安息は得られず、永久に地獄の炎で焼かれることだろう。 だがそれでもと男は思った。 この国を正しき姿に戻すことが出来たのならば、自分は笑って地獄に行けるだろう。 目蓋を閉じれば来るべき未来がそこに見える。 レコン・キスタを仮想敵として一丸となるトリステイン王国。 その中心にいるのは恋人を戦争で失った悲運の王女アンリエッタ。 その先頭に立つのは、戦雲渦巻くアルビオンから帰還したワルドとルイズ。 虜囚の辱めを受けながらも決死の脱出行を成功させた若き英雄たち。 しかもそれがあの“烈風”カリンの娘と娘婿だとなれば尚更だ。 未だ年若い二人の姿に国民は熱狂し、ヴァリエールの名は大貴族たちをも黙らせるだろう。 そしてこの国は、かつての誇りと栄光を取り戻すことが出来るのだ。 古き良き時代。他の国に頼らずとも済んだ時代。 王が力を持ち、貴族がそれに従い、平民がそれを助けた時代。 今や時の流れの果てに消えうせた黄金の時代を、トリステインは再び取り戻すことが出来るのだ。 目を開き、未だ闇に包まれた東の方角をみやる。 覚めぬ夢がないように、明けぬ夜もまたありえない。 アルビオンの弔いの鐘は、同時にトリステインの目覚めの鐘となるだろう。 男は踵を返して歩き出した。 この愛する祖国に、自分たちの信じる正しき夜明けをもたらすその為に。 以下、余韻をぶち壊すかもしれない今回の没ネタ。 おまけ:その頃の某王女さま 「いいこと、カステルモール! これは極秘任務なのよ。 だから、お前がわたしを姫と呼ぶことは禁止します。 わたしはお前をバッソと呼ぶわ。いいわね!」 「しかし、姫殿下」 「禁止だったら!」 「解りました、イザベラ様。これでよろしいでしょうか?(ああ、あんなに顔を赤くして怒っていらっしゃる)」 「………………」 「………………」 「……け、敬語も、禁止よ。普通の言葉で話しなさい。あとわたしの事はよ、呼び捨てで」 「しかし」 「(無言で上目遣いで睨みつける)」 「――――解ったよ、イザベラ。これでいいかい?」 「~~~~~~~~~~~~!!!!!」 イザベラは赤面した! イザベラは奇妙な踊りを踊った! カステルモールは逃げ出した! しかし回り込まれた! 前に戻る 次に進む 目次
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【作品】ガンパレード・マーチ 【機体】希望(士翼)号 【パイロット】青の厚志 【アビリティ1】人型戦車(R1で溜め→ジャンプ、R2でバックステップ) 【アビリティ2】全自動決め台詞詠唱システム(ボス登場時に古今東西の決め台詞をランダムに一つ石田彰さん・・もとい厚志が叫ぶ) 【サポート】精霊手 【発動条件】プレイヤーがコンボを食らった時に発動 射撃 大口径スペシウムレーザーカービン 格闘 超硬度剣鈴 シフト□ シールド シフト△ 大口径スペシウムレーザーバズーカ(爆風あり) シフト○ 絶技・精霊手(直進範囲) シフト× 火の国の宝剣(一定時間格闘攻撃の攻撃力増加) シフトR1 無し シフトR2 無し ○□ 剣鈴→キック ○○○ 剣鈴→剣鈴→振り下ろし斬り ○○□ 剣鈴→剣鈴→大口径スペシウムレーザーバズーカ ○○○○ 剣鈴→剣鈴→振り下ろし斬り→回転斬り ○○○□ 剣鈴→剣鈴→振り下ろし斬り→精霊手パンチ 機体的にはやたら足早い代わりにハード以上でシールド無しでボスのコンボ食らうと致命傷クラスな紙装甲。 決め台詞はそれこそ「世のため人のため~」から「ちゃらーん」まで色々と。
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「やめて、ルイズ! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮を突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。 昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、 あなたにまで、よそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 眼前に展開する寸劇を見ながら、ブータは横で同じようにそれを見守るギーシュに問いかけた。 「ギーシュよ、なんとも芝居がかって仕方がないように見えるのは、これはわしが老いた所為かね?」 「違いますよ、ブータニアス卿。これがトリステイン流なのです」 声を潜めた師の言葉に、弟子は苦笑しつつもそれに答えた。 聞こえてくる会話から察するに、ルイズと王女は昔馴染みのようではあるが、 それでも警戒するに越したことはない。 猫神ブータの存在を極力秘密にすることはオスマンやコルベールの厳命であるし、 そもそもブータ自身がそれに賛成しているのだ。 ギーシュがそれを守らぬ法はない。 「……なるほどな」 弟子とその手に持った薔薇の造花を見やるとブータは器用にも肩を竦めた。 こやつと言いルイズと言い、どうも自分の世界に没頭する癖があると思ってはおったが、 それが国風だと言うのなら仕方がないのだろう。 なにしろ貴族の頂点に立つ筈の王族にしてからが未だにブータとギーシュの存在に気がつかないのだから。 正体を隠している身としては、アンリエッタがいる間は講義も出来ない。 仕方ないのでブータは開き直って寸劇を鑑賞することにした。 「思い出したわ! わたくしたちがほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」 ブータは眠そうな目であくびをして答えた。 韻が踏まれていない。20点。 「姫様の寝室で、ドレスを奪い合った時のことですね」 ブータは腹を見せて転がった。 二人しかいないのに包囲戦か? 15点。 「その調子よ、ルイズ! ああいやだ、懐かしくて涙が出そうだわ!」 ブータは丸い瞳をあっちこっちにやった。 うむ。だが心だけはこもっていよう。31点だ。 「……あ、あら嫌だ。ごめんなさい、ルイズ。もしかしてお邪魔だったのかしら?」 気づくのが遅い。落第点だ。 「そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ、わたくしったら。懐かしさにかまけて、とんだ粗相をしてしまったみたいね」 その言葉にルイズの顔が見事なまでに紅潮した。 そんなことは今まで欠片も考えてはいなかったのだろう。 その見事なまでの顔色の変わりっぷりに、ブータは満点を与えることにした。 「残念ですが、姫殿下。僕とルイズはいまだ友人の間柄ですよ」 にこやかに笑ってギーシュが言った。 さりげなく薔薇を握った手をアンリエッタの目に入るように動かしている。 「“いまだ”なのですか? まぁまぁ! では、わたくしはあなたの求愛を邪魔したのかしら?」 「とんでもない。いまだこの未熟なこの身としては、ルイズ姫の寵愛を受けるには役者不足もいいところです故。 今は雌伏の時期と心得、じっと華が咲くのを待ちわびているのです」 いけしゃあしゃあと心にもないことを述べるギーシュに、何か悪いものでも食ったかとルイズが白い目を向けた。 ギーシュにしても実に不思議だった。 少し前までの自分であったならば、王女殿下の前に出ただけで緊張のあまり倒れてもおかしくはなかった筈なのに。 何故だろうと心の隅で考え、あっさりと結論を出す。 平民だろうと貴族だろうと平等に接する小さな少女に感化されただけだろう。 常に自然体のルイズの姿勢は、相手が王女殿下だろうが変わらないのだから。 つまりは自分はルイズ症候群に感染してしまったということなのだろう。 「あら嫌だ、わたくしったら、まだあなたのお名前すら伺っては降りませんわ! 初めましてかしら? トリステイン王国第一王女アンリエッタですわ。 お名前をお聞かせ願えないかしら? ご立派な殿方」 「グラモン家四男、ギーシュ・ド・グラモンと申します。お見知りおきを」 「まぁ。グラモン元帥の! わたくし、元帥やその息子様方の武勇伝はよく女官たちから聞いておりますわ! 戦場のものは勿論、それ以外のものまで!」 王女はそう言いながら昔馴染みの少女を横目で見る。 生暖かい、隅に置けないわねというような言葉を言わずとも伝えるその視線に、 少女はたまらず口を開いた。 「姫さま、姫さま! 何か誤解なさってらっしゃいませんか!?」 「ああ、いいのよルイズ。あなたは既に婚約者のいる身であることはわたくしも知っていてよ。 けれど、いえ、それ故に燃え盛る想いもあることもわたくしは知っているのですから。 わたくしはいつだってあなたの味方でしてよ?」 言い募ろうとしたルイズが、何かに気がついたかの様に口をつぐんだ。 その言い方では、アンリエッタにも誰か意中の相手がいると言う風に取れるではないか。 ちなみに、ギーシュとブータは別の事で固まっていた。 ルイズに婚約者が既にいると言う件である。 「お待たせ、って、なによこの空気」 ノックもせずにキュルケが顔を出したのはそんな時だった。 室内の妙な沈黙に首を傾げる。 その後ろにはデルフリンガーを背中に担いだタバサの姿も見えた。 夕飯後の日課である素振りを終え、軽く風呂で汗を流してきたのだろう、 いつもは真白い雪のような頬が紅潮し、なんとも言えぬ色気を出している。 相方のキュルケはといえばこれはいつもどおりで、その豊かな胸を強調するような服装に、 おそらくはモンモランシー製であろう香水で大人びた魅力を演出していた。 「ちょっと、キュルケ! ノックくらいしなさいよ!」 「なによ今日に限ってうるさいわね。わたしたちの仲じゃないの」 このようにタバサとキュルケがルイズの部屋を訪れるのはほぼ毎晩のことである。 大体はギーシュが先に来ていて、その後にタバサが合流してブータの講義を聞いているのだ。 ノックについては、講義が始まった晩に主張したルイズが、 「ノックしないと困るようなことをギーシュとするつもり?」 と猫のように笑って言ったキュルケに撃沈されてから有名無実のものと化したという背景がある。 だが、今の部屋にはそれらのことをまったく知らない人間が一人いたのだった。 「まぁまぁ! 何でギーシュ殿が否定されるのかと思ったら、 ルイズ、あなたまさか女性との趣味がおありなの!?」 「ありません!」 どうでもいいがこの姫さま、ノリノリである。 「喧嘩するほど仲が良い。間違ってはいない」 「大間違いよ。……ねぇ、ギーシュ、誰よこれ。王女さまに見えるけど、もしかしてマリコルヌの親戚?」 「彼も出世したものだねぇ。きっとそう言ってあげると喜ぶと思うよ」 憮然としたキュルケと、爆笑一歩寸前に追い込まれたギーシュ。 そして我関せずと超然としたままのタバサをみた王女の目が再びの驚きに見開かれた。 「それに、それに首輪だなんて! 女同士で、その上、首輪だなんて! ああ、始祖ブリミルよ、お許しください!」 ――――それこそ、もう勘弁してやってはくれまいか。 /*/ 一向に収まらぬ騒動を見ながら、ブータは懐かしげに髯を揺らした。 今も目を閉じれば鮮やかに思い出せる。 火の国、火の山の麓に築かれた正義最後の砦を。 袴姿の少女が暴走し不潔です不潔ですと刀を振りかざす。 これはたまらんと伊達男がぽややんの手を取って逃げ出し、 電子の巫女姫が真っ赤になってそれを追いかける。 自らの背に乗った幼女がめーなのめーなのと宥め、 道化師を筆頭とした狩人たちが月の下で珍妙な寸劇を演じていた。 輝いていた過去を想い、大猫は静かに胸を叩いた。 それは既に失われ、記憶の片隅にしか残っていなかったが、 しかし彼はそれが未だ自分と共にあるのを感じていた。 そう、それはどこにでもあるのだ。 例え世界が変わり、時代が流れようとも、 自分と仲間たちが守ったモノは、守ろうとしたモノは何時だって 子供たちの笑顔と共にあるのだから。 /*/ しばしの後。 室内は沈黙に包まれていた。 原因となったのはまたしてもアンリエッタ王女の発言である。 と言っても今回のそれは先ほどのような暴走故のものではない。 「つまり、アルビオンに赴き、その手紙を受け取ってくれればいいのですね?」 総括していったルイズの言葉に、アンリエッタは小さく首を振ることで肯定した。 真面目な話をする内に先ほどの暴走が恥ずかしくなったのか、少し頬を染めている。 その姿を見ながら少女は誰にも聞かれぬよう舌打ちをした。 “ルイズのお友達なら大丈夫でしょう”などと言う王女の言葉など聞かず、 無理にでもキュルケたちを部屋の外に出すべきであったか。 これはトリステインを揺るがす一大事だ。 ギーシュはともかくも、キュルケやタバサまでも巻き込むべきではなかった。 “白の国”“浮遊大陸”アルビオン。 そこを支配する王家に関して、ルイズは複雑な想いを抱いている。 言うまでもなく、ミス・ロングビルに聞かされた過去の一件である。 それを考えれば王家に好感など持てよう筈もない。 だが、とルイズは思考を切り替えた。 ロングビルが知らぬだけで、あの件には他に何か理由があったかもしれない。 その一件のみで王家を悪と謗るのは不用意に過ぎるだろう。 ウェールズ王太子に会えれば、その件について詳しく知っている人も傍にいるかもしれない。 それに…… 「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 考えに沈む少女に声をかけたのはキュルケだった。 「あなたが何を考えているか知らないけれどね。この話、あたしも乗らせてもらうわ。 皇帝陛下の婚儀が、トリステインとゲルマニアの同盟がかかっているなんて聞いたら尚更よ」 そして赤毛の少女は、ギーシュの言葉を借りればルイズ症候群の感染患者であるキュルケは胸を張って言い募った。 「トリステインが堕ちれば次はゲルマニア。そしてあたしの実家の領地はトリステインとの国境よ。 そこが最前線になるなんて耐えられないわ」 「よろしいのですか、キュルケ様。わたくしはゲルマニア皇帝を裏切っているのに……」 「無論ですわ、姫殿下。これはルイズの受け売りですが、 “その力を万民のために、名も顔も知らぬ領民のためにどこかの誰かの笑顔のために使える者こそが貴族”だそうです。 そしてこのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、 自らが貴族であることを常々誇りに思っているのですから」 その言葉を聞き、ルイズはそっと目を伏せて自らを恥じた。 その通り、貴族の力は自らのためではなく、名も顔も知らぬ誰かの笑顔のために奮われるべき力なのだ。 悩むことなどなにもなかったのだと。 ルイズは胸を張り、キュルケに堂々と相対した。 胸の大きさでは比べるまでもなく負けていたが、その中にあるものの大きさでは負けぬと態度で示したのだ。 「わたしの言葉を勝手に使うとはね、使用料を取るわよ、キュルケ」 「あら、世界の真理をお金に換算しようなんて、ルイズも随分ゲルマニア流に染まったようね?」 いつものようにいがみあう二人に肩を竦め、 ギーシュは首元に嵌められた猫の首輪の位置を直すタバサと目を合わせると、 仕方ないなと言う風に笑みを浮かべた。 ルイズ症候群、順調に進行中。 致死率は十割、けれど笑って死ねることだけは確実だ。 「では、僕も一枚かましてもらおう。ゲルマニア人のキュルケ嬢が参加すると言うのに、 トリステイン人の僕が静観などできないからね」 「手伝う。鍛錬の成果も確認したいし」 「にゃー」 口々に言う生徒たちを見ながら、ブータは満足げに頬を緩ませ、自らも参加すると前脚を上げた。 そしてルイズ症候群の重体患者である三人と、むしろ病原菌に近い大猫は感染源の少女に視線を移す。 うん、と頷いた少女は満足げに微笑み、主君にして幼馴染である王女に深々と礼をした。 「――――我ら四名、およびその使い魔一同、その儀、謹んでお受けいたします」 前に戻る 次に進む 目次