約 349,523 件
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/151.html
8月18日、午前10時。 幸村カヤは朝まで続いた護衛依頼を終え、粥満のカフェで眠気覚ましがてら、朝飯を食べようとしていた所だった。 「あれ?カヤじゃないか!」 いきなり名前で呼ばれ驚きはしたが、カヤは振り返り声の主を確認すると、思い出すように声をあげた。 「あーっマキさん!お久しぶりです!」 「本当に久しぶりだね。あんたがハンターの研修を終えた時以来か?ギルドもそれから移籍して、あたしは葵だったしなぁ」 塚田マキ(つかだまき)。 30代後半の、独身のCクラスハンターだ。 カヤがまだギルドで研修を受けていた時に、筆記だけでなく実技の方も指導してもらっていたベテランハンター。 久方ぶりの偶然の再会に喜び、二人は近くのカフェへと入った。 「聞いたよ、竜とか悪魔とかと関わってんだって?あたしなんかもう目じゃないね」 「いやー、そんな事ないです。私なんて特に役にたってませんし」 「またまたー、謙遜しなくていいって」 冗談や近況を話し合いつつ、時刻が正午を回ろうとした時だった。 ふとカヤが一つの疑問を尋ねた時だ。 「あれ?マキさん最近徹夜気味です?」 「ああ、目の下にクマできてんだろ?最近親友のハンターが亡くなって、その手伝いとかで忙しかったのさ」 努めて明るく笑う彼女に、しまったと思ったがそれを見透かされたのか、マキは話を続けた。 「最近物騒な話題も多いし、あんたも結構危ない依頼とかも受けてんだろ?何かあったらいつでも相談しな。まあ今となってはあんたより頼りない先輩だけどね」 「そんな事ないですって~」 再びいつもの調子で談笑が始まる。 ひとしきり話し終え、カヤはマキと携帯番号を交換し自宅がある茜に向かうため、ターミナルへと足を運んだ。 ☆☆☆ 8月18日、午後20時。 茜のアパートに帰宅したカヤは、徹夜の疲れもありすぐに寝ることにした。 酷く体が疲れたようで、いつも以上にすぐに眠りにつく。 「……カヤ、カヤ!」 「っ!?」 肩を揺すられ、カヤは目を覚ました。 そこはリニアの中で、目の前には心配そうな顔のマキがいる。 昼間久しぶりにあったせいか、夢にまで見ているのだろう。 「あれ?マキさん。夢……ですよね?」 「やっぱり夢なのか?これ」 「やめれふらはい!あ、痛くない」 困った表情のまま、マキはカヤのほっぺたをつねる。 カヤは痛みを感じなかったので、やはり夢だと認識した。 そもそも、夢と認識できる夢は初めてだったが、痛みがないのだからそうとしか言いようがない。 「しかし変な夢だなー。カヤと昼間あってたせいか?」 「私も思ってました!でもちょっと変じゃ……」 と、その時車内アナウンスがなる。 『次は~高砂真司、高砂真司~』 「は?」 「人名……?」 「高砂って場所は、確か茜にあったけど……」 訝しげに思っている二人だったが、またアナウンスが車内へと響く。 『皆様、ご利用誠にありがとうございます。只今リニア内は混んでいるため、スムーズに処刑を行えるよう、ご協力をお願い致します。次は和宮真琴~和宮真琴~』 「処刑……?」 「やっぱり変っすよ!夢みたいですけど、なんかこう……!」 「ああ、上手く言えないが、あたしもそう思う!とりあえず、あたしが先頭車両見てくるから、カヤはここで残っててくれ」 そう言ってマキが先頭車両の扉へと進んだ瞬間、カヤの意識が遠くなる。 否、自分のアパートの天井が目の前にあった。 やっぱり夢だったらしく、額の寝汗を軽く拭うと、テレビをつけて台所へ向かい水を飲んだ。 19日、午前3時。 早く寝たせいで、随分と早く目覚めてしまったようだ。 テレビもニュースしか映っていない。 他の局の番組は放送していない所もある。 流すようにニュースをかけつつ、鏡を見た。 「はぁ~、嫌な夢だったなー」 鏡の中には、当然ながらカヤしか映っていない。 ほっと安堵していると、携帯の音に驚いた。 こんな時間に電話してくるなんて、殆ど無いからだ。 カヤに関係する緊急な依頼くらいだろうか。 しかし、表示された名前は塚田マキ。 いくらなんでもちょっと非常識の時間じゃないか、とも一瞬頭をよぎったが、それ以上に先程の夢が気になったため、すぐに電話に出た。 『ああ、カヤかい?悪いね、こんな時間に』 「いや、それは全然いいんですけど……どうも」 二人に気まずい沈黙が流れる。 それを破ったのは、マキだった。 『あのさ、今変な夢を見てたんだ。リニアに乗ってたら、人名みたいなアナウンスが流れてきてさ』 「マキさんも!?私も今……マキさんと一緒にいましたよ!」 『……やっぱりそうか。カヤ、今から会えるかい?ちょっと気になる事があるんだ。そうだね、あんた今は茜だったね?どこが一番近い?』 その言葉に、カヤは考えた。 居酒屋やバーもこの時間では閉まっている場所が多い。 かといってコンビニでは、相手の深刻そうな声を聞く限り、話せるような場所ではないだろう。 「近くに、ドームってカラオケ屋があるんです。そこでどうでしょう?」 『ああ、そこなら入った事はないけど知ってる。じゃあ車とばすから、2時間後にそこで』 相手の言葉に相槌を打つカヤだったが、突如声が出なくなる。 正しくは、声が出なくなるほど驚いたから、だ。 「……」 『カヤ?どうした?カヤ!』 「ま、マキさん……すぐに、すぐにニュース見てください!」 『ニュース?一体……っておい!これって!』 おそらく今、マキも同じニュースを見ているだろう。 ニュースには、つい先程、高砂真司が自宅アパートで変死しているのが発見されたと報道されていたのだ。 『カヤ、あんたはとりあえずそのドームに向かってくれ。そこで、次に何をどうするかを決めよう。あたしは、ギルドに連絡して……ダメ元で助けを呼ぶから!いいね!』 少し言葉に詰まったマキ。 おそらく、夢でその人の名前が呼ばれてました、と言ってもどうしようもないのだ。 何かが、起こっている。 カヤはマキとの通話を切ると、背筋に悪寒を感じながらそう思った――。 ☆☆☆ 8月19日、午前5時。 カヤはカラオケ屋「ドーム」へとやってくる。 マキもちょうど、ワンボックスカーでやってくると、二人はカラオケ屋へ一緒に入る。 もちろん、歌いにきたわけではなく、情報交換のためだ。 「さて、まずは整理しよう」 話を切り出したのはマキだった。 突然、電車の中にいた事。 そして、人の名前と思しきアナウンスが聞こえた事。 マキが前列車両へ様子を見に行ったとき、二人共目が覚めたという事。 その時、痛みなどはなかったため夢だと思われる事。 「……でも、二人同時に同じ夢を見るなんて、有り得るんですか?」 「ああ、あたしも半信半疑だったさ。ただ、ニュースで見たろ?死んだヤツは、夢でアナウンスされてた名前のヤツさ。 ……そして、こんなに切羽詰ってあんたを呼び出したのは、もう一つ理由がある」 その口調は真剣そのもので、マキは重たそうに口を開く。 「珠洲森蘭子ってハンター、知ってるか?」 「名前くらいは。私は一緒の依頼になったことはありませんが、茜のハンターですよね」 「ああ、そしてあたしの親友さ。そして、数日前、自宅で変死してたんだ」 そこで、カヤはマキが何を言いたいのかがわかった。 珠洲森蘭子の変死。 自宅で死亡し、強盗殺人や凶悪犯の可能性もあるとして捜査されていた案件だったため、カヤには関係のない依頼だったため見落としていた事がある。 そう、自宅での変死。今回、高砂真司と同じ状況だ。 「……ラジオで、和宮真琴の死亡も確認したよ。 だから、おそらくあたし達の名前を呼ばれるのもそう遠くはないはずだ」 「でも今回、そうなる前に私達は夢から醒めて……!」 「違うんだカヤ、この夢は、眠れば毎日見る事になる。そして、どんどん自分が処刑台の前に勝手に体が動いていくシステムなんだ」 相手の発言に、言葉を失う。 ただの夢ではないのがわかっていた。 まだ、悪夢は終わっていないのだ。 「あたしの親友が、命をかけて調べた事が3つある。 まず一つ目。あたし達はハンターカードのお陰なのか、あの夢の中で一般人とは違って、ある程度動くことが可能だ。 おそらくはあたし達の体の魔力が、その怪異に対して少しでも抵抗しているんだと考えられる。 二つ目。夢の中では魔術を使うことができない。そして、自分の番になれば、ハンターカードがあろうが足が勝手に処刑台のギロチンへと向かっていく。つまり、自分の番になればタイムリミットってことさ。ちなみに、死刑執行人はミノタウロスのような魔物だったって話しだね」 そこまで言うと、マキは珠洲森の事を思い返しているのか、少し沈んだ表情になる。 カヤは気を利かせたのと、時間がない怪異という事に焦りを感じたため、3つ目を尋ねた。 「最後に三つ目。これは蘭子が見つけた助かる方法さ。 自分の番になった時、『私はいいから次の人は助けてあげてください。冤罪です』っていうのさ。 そうすりゃ次のヤツは助かる。実際、どこから出た噂か知らないが、蘭子はその夢……『牛夢』から助かったヤツに会ったとか。 あたしはただの夢だろ、ってそこから聞いちゃいなかったんだが……今思えば、ちゃんとあたしがあの時、蘭子の話を聞いていればこんな事には……」 「そんな……マキさんのせいじゃないですよ」 「いいや、あたしのせいさ。多分、カヤが巻き込まれたのも、あたしのせいかもしれないね。 この夢を見たヤツと接触した者が、この夢を見るようになる。 つまり、あの時あたしとカヤが偶然、あってさえいなければ……」 そう言ってマキは悔やむように頭を抱える。 何も言えないカヤだったが、彼女は一つある種の不自然さを感じていた。 それは勘と言ってもいいだろう。 なにか、説明はできないがなんとなく彼女の言葉の違和感。 別にマキが怪しい、とかいうことではなく、マキの言葉の真意が、ちょっと違っているような……。 それを裏付ける証拠もないし、間違いなく勘。 それも、何に対しての違和感かはわからない。 二人は少し気まずい空気のまま、カラオケ屋を後にした。 「応援を呼んではみたが、おそらく当事者じゃないハンターに期待しないほうがいい。 とにかく、起こっちまった事を悔やんでも仕方がない。カヤには悪いが、数日感は今請けてる依頼は全部キャンセルして、この『牛夢』って怪異に付き合ってもらうよ」 「それはいいんですけど……」 「手がかり、だな。あたしは蘭子の家を改めて調べてみる。 手がかりがそれ以外に無い以上、あたしと一緒に来るか?って言いたい所だが、下手したら無駄足に付き合わせる事になる。 だから、あんたはあんたで自分で考えてみて調査をしてくれ。 それでも手がかりが欲しいって言うなら、ターミナルであたし達が夢で見た車両を知らないか聞くのもアリかもな」 「でも、おそらくそんな車両は」 「無いだろうね。あったら事件になってる。だからこそ、どこ行くか決まらない場合、最後の手段ってことにしておいてくれ。 おそらく無駄足になるのは間違いないからね。それじゃ、何かあったら連絡する!」 そういって、マキは車に乗って去っていく。 カヤと離れた後、車の中でマキは一人、呟いた。 「カヤ、安心しな。電車で目覚めた時、あたしの後ろにあんたがいた。いざとなったら、あたしが犠牲になってでもあんただけでも助けてやるさ」 あの助かる方法は事実らしい。 だからこそ、巻き込んだ自分がカヤのために犠牲にならなければならない。 死にたくは無いが、そうなった場合は仕方がないのだ。 マキは自嘲気味に笑うと、車をとばして粥満方面へと向かった。
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/256.html
☆ 維胡琉は襲い掛かる美代子をみて、とっさに加速装置をかけ素早く身をかわした。 「っ……美代子さん、ずっと寂しかったんだね。 あのね、現実世界では美代子さんの絵が誰かに盗まれていて、 いま、外で仲間が絵を探してくれてる。 美代子さんが大事な人と一緒にいて、笑えるように、 私もできることをするから、私を信じてほしい。」 少し距離を置いてから、呼吸を整えそう告げるが、美代子は既に正気を失っており、ただ息を荒げ狂気に満ちた笑みを浮かべるのみだった。 「……しょうがないね、クロとりあえず、逃げよう。」 クロを抱え、維胡琉は走った…。 ☆☆ 美代子の姿が見えなくなり、呼吸を整えると維胡琉は口を開いた。 「………クロ、絵に命を宿す筆について、教えてくれない? 仲間が「コガラシ」っていう箱について、教えてくれたの。 お払いとか、封印とか、とにかく長い年月をかけないとどうにもできない代物なんだって。もしかしたら『筆』もその類のものかもしれないって…。 筆はどういった経緯で入手されたものなのか、知ってる…?」 『…私が、美代子にプレゼントされたものだ。 美代子が亡くなる前のクリスマス、最後の……その筆が命を宿す筆だとは知らずに、美代子からもらった筆で元気な美代子の姿を描こうと思った。 しかし、途中で徐々に自分の生気が失われていくのを感じた…。 代わりに絵の中の美代子がどんどん生き生きとしていくのが分かった。 たとえこの命が尽きようとも…美代子が笑ってくれるなら構わないと…だから、あの絵を描きあげたんだ…。』 「クロ……貴方…。」 維胡琉が言葉を探している間、クロは遠くを見つめていた。 『あの筆を破壊すればきっと美代子は解放される。 恐らく最後にあの絵を描いたアトリエにあるはずだが…。 ……最悪は此方の世界の美代子の絵を燃やすといい。 あの絵を介してこの世界に来たお前なら元の世界にはじき出されるだろう。』 「…でもそれは、本当に美代子さんが救われる方法…なのかな…。 今、私の仲間が筆や、現実にある美代子さんの絵を探してるの。 きっと、悲しい結末にはしない…約束するよ。」 維胡琉は緩やかに目を細めてクロに笑みを向けそう言ったあと、直達三人に筆のありかについてメールをした。 ☆☆☆ その頃、直、凪、祠堂は佐倉倉治のアトリエに来ていた。 三人バラバラに調べていたが、結局行きつく先は同じだったのだ…。 「この鍵、よく借りられましたね?」 「流石だろ?これがハンターの経験値ってやつだよ。」 アトリエのカギ美術館のオーナーから親戚をたどり、なんだか上手いことをいって借りてきたようだった。 祠堂が少し驚いたように直に声をかけると、直は得意げに笑って見せた。 中に入ると、しばらく人の入った気配のないその場所は埃や蜘蛛の巣でいっぱいだった。そしてその中心においてあるキャンバスに気づく祠堂。 「この絵って…もしかして。」 誰しもが一度は目にしたことのある、リアルな少女の絵……『美代子』のはずだが、肝心の少女はそこには居なかった。 代わりに居たのは、維胡琉。胸には黒い猫を抱いている。 「…戦況は芳しくねぇようだな。」 「…大丈夫かな、先輩…あ、筆っ、筆はないですかね??」 小さく舌打ちをする凪の隣で心配そうに絵を見つめていた直は、慌てて筆を探し始めた。 「そうだな、元凶はそいつだろう。それを壊せばあるいは……」 「筆ならいっぱいあるんすけど…それらしいものは…」 「…うわ、何コレ、気持ち悪……」 三人は手分けをして室内を探し始める。 沢山の筆が収められたいくつかの筆立ての中には変わったものはなかったが、机の中に大事にしまわれていた箱を見つけた。 その箱は蓋を開けずとも気分が悪くなるほどの邪気が感じられる。 そっと蓋を開くと、毛先まで真っ黒の筆が一本、禍々しい空気を放っていた。 「間違いなく、此れだろうな。」 「…コガラシ程の気持ち悪さはないけど…結構きますね。」 「どうします?ぶん殴ったら壊れますかね?」 三人はひとまず、物理的に壊すことを試し始めた……… ☆☆☆☆ 維胡琉は再び窮地に追いやられていた。 美代子は他の絵画も操り、剣や斧を振りかざし維胡琉に迫っていたのだ。 『維胡ル……さァ、早ク。鈴ヲ…渡しテ。苦シクナイわ、一瞬デ終わル…。』 「……ここが最後かな…。 クロ、今まで一緒にいてくれてありがとう。 ……クロの大事な人、美代子さんの大事な人… 皆が幸せに生きられるように、答えを選ぶね。」 唯一の救いは、この部屋には美代子の絵画があったこと。 維胡琉は、唇を噛みしめ、痛む胸を押さえつけながらも魔術を練り上げた……。 次の瞬間… ―シャリーーーーンッ!! 大きな鈴の音と共に、世界が歪んだ…。 … …… ……… 「先輩っ、向坂先輩!!」 「先輩、大丈夫か?」 「向坂さん…起きてください。」 三人の声に、維胡琉はそっと瞼を開いた…。 そこは、古びた洋館の一室だった。 何が起きたか分からず、あたりを見回すと、部屋の中心にはキャンバスが一枚。 満面の笑みの美代子と、そして… 「…クロ…!…間に合ったんだ、良かった。 ……皆、有難う。」 思わず潤んだ瞳で笑み浮かべ呟くようにそう言った維胡琉に、三人は一瞬きょとんとするものの、無事を確認すれば小さく笑いあい肩を竦めたのだった…。 ―結局、美代子の絵がなぜあの場所にあったかは不明で、破壊した筆もいつの間にか跡形もなく消えていた。 また、『美代子』が元の絵とは変わっているのも何故か人々の記憶は”元々そうであった”となっており、当の維胡琉さえ時間が経ちあれは夢であったのだろうか…と思うようになっていたという。 ―END―
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/159.html
8月18日、午後15時。 行成ハナは、粥満の郊外に来ていた。 ここの少し大きな一軒家が、ハナの祖父である国木田明夫の家なのだ。 遊ぶ約束をしていたのだが、仕事で忙しくて行けそうにない、という祖父の代わりにハナが来たのだ。 「おじーちゃん喜んでくれるかな~」 既にハナは、祖父が宮廷魔術師だと知っている。 そのため忙しいのは分かるが、余り仕事ばかりしていても疲労で倒れても困る。 だからこうしてハナが派遣され、祖父に休暇を与えるためにサプライズ訪問に来たのだ。 両親のどちらが言い出したかは、今となっては忘れたがハナも祖父に会いたかったため、二つ返事でやってきた。 家はどこにあるか、以前の依頼で知っていたため呼び鈴を押す。 しかし、反応がない。 負けじと何度も呼び鈴を鳴らすが、やっぱり反応がない。 サプライズ訪問のため、この可能性も考えなかったわけではなかったが。 「おじーちゃんいないのかなー。どうしよう……」 この辺は詳しくないので、どこに何があるかはわからない。 一番の誤算は、見渡しても住宅街のせいか時間を潰せそうな場所が無いのだ。 困った様子で家の前をウロウロしていると、先月、依頼で来た時にあった隣の家の女性が、息を切らして走ってきた。 「あの……!うちの子、みませんでしたか!?これくらいの子なんですが……!」 「はいっ!?えーっと……男の子、ですか?」 そういえば、以前来た時にこの母親が連れてった子は男の子だった。 それを思い出し言うと、女性は何度も頷いて肯定する。 「そうです!どこで見ましたか?!」 「あっ、すいません……わたしが見たってわけじゃなくて、前に来た時に見た子なんですよっ」 その言葉に、心底ガッカリしたような表情をする女性。 あわわ、と相手の様子に慌てたハナは。 「あ、あのっ。もしよかったらわたしも探すの手伝います!」 「……え?いいんですか?取り乱してたのですみませんが、貴方ここら辺じゃ見かけない子じゃあ……」 「そこの国木田さんの家がありますよね?わたしのおじーちゃんなんですよー!」 「あら……国木田さんにお孫さんがいたなんて初耳ですけど……」 訝しげな目で見てくる女性に、ハナはおじーちゃーん!と内心焦った。 いくら宮廷魔術師の事は秘密だからと言って、せめてご近所さんくらいには家族構成は伝えてほしかったものだ。 ただハナの様子を見て、少し笑った女性は不審者ではないと判断したようで。 「分かりました。ではお願いします。私はまだ見てないあっちを見てくるので、お嬢ちゃんは向こうを探してもらっていいですか?」 「はーい!見つけたら、ここに連れて帰ってきますねっ」 国木田の隣の家だから、分かりやすい。 そう思い、彼女と別れて一人捜索を始めるハナ。 以前来た道であったが、まずどこを探すかで迷った。 こちらの道は先程まで女性が捜索してきた場所だから、女性が見落としそうな所…と言っても特に思い浮かばない。 どうしようか、迷っていた時だった。 「ゴーン」 鐘の音が鳴る。 以前来た時は、夜19時くらいになったはずの鐘。 しかもあの時とは違い、1回しか鳴らなかった。 「……うんっ」 なんとなく、勘でしかなかった。 ハナは時計塔がある教会までやってくると、教会の入口前に子供サイズの小さめのキャップが落ちている。 「もしかして、この中……かなぁ?」 しかし、先程の女性が気づかないものか。 明らかにこの道を通っていたら、周囲を少しでも警戒していたら気づきそうなものだ。 それに、あからさますぎる。 そういう気配を読む感覚に疎いハナですら、そう感じてしまうくらいに。 ハナは携帯を取り出し、国木田へと連絡を取る。 留守番電話サービスに繋がったが、それでも構わず。 「あ、おじーちゃんですかっ。今粥満の近くまできてるんだけど、隣の家の子が居なくなっちゃったみたいだから捜してたら、近くの使われてない教会でその子の帽子が落ちてたの!ちょっと見てきます!」 携帯を切ると、よし、と満足気に鼻を鳴らして教会の扉を開ける。 鍵はかかっておらず、簡単に中に入ることができた。 やっぱり。そう思って教会内へ足を踏み入れた瞬間。 バタン!! と突如背後の扉が閉まる。 「ぴぇぇぇ!!なんで、なんで開かなくなってるのー!!」 先程の勢いを殺されたハナは、涙目で教会の扉を何度も開けようとするが、開かない。 しまいにはドンドンと助けを求める方になってしまった。 ぼぼぼっぼっぼぼぼっぼ。 「ぴぇぇぇ!!」 そして、聞こえてきたのは謎の音。 以前、ここを見た時は何も起こらなかった。 だから少し油断していたのだろう。 おそるおそる、近くの部屋の扉を開けるハナ。 そこは前も見回ったように、もう使われていないテーブルがあるだけの食堂だった。 もちろん地域住人でお金を出し合い、偶に清掃業者が綺麗にしているから、蜘蛛の巣などは無かったのだが。 そのはずなのだが。 「ううっ……ひっく、おかあさん……」 「あっ、もしかしてキミが……」 食堂の隅で、うずくまって泣いている少年を見つけたハナ。 安堵して話しかけたが、そういえば母親の名前を聞いてなかった事を思い出し、そこで言葉が詰まった。 「お姉ちゃん……誰?」 「えーっと、キミのおかーさんに頼まれて捜しに来たのっ。一緒にかえろ?」 にぱ、と微笑みながら、手を差し伸べるハナ。 彼女の笑みに癒されたのか、少年は泣き止みその手を取ろうとした瞬間だった。 ぼぼぼぼぼぼっぼぼぼ。 今度はハナのすぐ耳元で聞こえたその音。 ハナは一瞬恐怖で固まった。 「うわああああ!!」 「あ、待ってっ!」 少年は、立ち上がり一目散に逃げていってしまった。 ではここに残されているのは? ぼぼぼっぼぼぼぼぼぼ。 振り返ったハナの目の前には、ハナの2倍くらいありそうな大きな髪の長い女が、にやぁと口を明けて見下ろしていた――。 ☆☆☆ 8月18日、午後20時。 「繋がらん!!どうなっておるのだ!」 「落ち着いてください、国木田先生。何もまだハナ君に何かあったというわけでは」 国木田の家には、国木田明夫と土御門伍代、そしてハナに捜索の手伝いを頼んだ女性が居た。 「す、すいません……私が頼んだばっかりに……」 「……いや、あんたのせいじゃあないよ。大声を出してすまんかったね」 「ところで、貴方……牧野さんはいつ頃ハナ君も居なくなった事に気づいたのですか?」 「そうですね……彼女とあったのが3時くらいで、それから2時間後、でしょうか」 「……そうなると、17時。ワシが家に帰る少し前か」 「ついでに言うと、私も国木田先生と一緒に来たので先生と私が先生の家に来る少し前、となりますね」 伍代の回りくどい言い方に、国木田は少し睨みを見せる。 何か?と言わんばかりにニコニコしている伍代だったが、彼なりに場を和ませたのだろう。 「仕方ない。伍代君、牧野さんを少し落ち着ける場所に連れて行ってやってくれ」 「……成る程、分かりました」 「???」 伍代が、牧野という女性を連れて別の部屋へと向かった。 それを見て、国木田は自身の目に魔力を乗せ、辺りを見渡す。 白銀に変わった瞳は、周囲の怪しい物、気配、事象を全て見透す力があり、彼にとって怪異程度の発見など朝飯前だった。 「どうですか?先生」 「伍代君か……。視えたぞ、やはりあの教会だ。以前視た時は何も無かったのに、今ははっきりと魔力でないなんらかの嫌な力が働いている」 「……そうですか。では、国木田先生は少し休んでいてください」 「すまんな、かなり消耗が激しい。もう歳かもしれん」 「またまたご冗談を」 伍代が国木田に笑みながら、右手をぐっと握る。 そしてそれを開くと、漆黒の烏が出現し、国木田の家から教会へ向けて飛び立って行った。 「……大したもんだ、土御門流や数多の奥義だけでなく、召喚術も使うか」 「黒精召喚・八咫烏。姫神先生から教えて貰った技です。少しでも力になれればいいのですが……」 「いや、すまんな伍代君。部外者の君に手伝ってもらって」 「お気になさらずに。元はと言えば、先生を長い間、私が引き止めていたせいでもありますので。ギルドにも、私の方から応援を呼ばせてもらいますね」 そう言うと伍代は、国木田に肩を貸してソファーに座らせる。 窓を開け、教会へ飛んでいく烏を見て小さく呟いた。 「しかし……一体なぜこんなに各地で怪異が大量発生しているのだろうか」 何か陰謀めいたものを感じつつ、ハナの無事を祈りつつ夜の闇に消えていく烏を見送った――。 ☆☆☆ 8月18日、午後21時。 ぼぼぼっぼぼぼぼっぼぼぼ。 「~~~~!」 言葉にならない声を出して、目覚めたハナ。 「あれ?ここは……?おじーちゃんの家……?」 寝ぼけた様子で、辺りを見渡し、国木田の家より無機質な冷たい石造りの感触に、ハナは意識を覚醒させた。 「そうだっ、あの子は!?」 辺りを見渡しても、既に誰もいない。 と言うより、ここは何処なのだろうか。 真っ暗な部屋で、何も見えない。 カササ。 「ぴぇぇぇっ!?」 その時、何かこの部屋?の中で動いた音がした。 その音の主は、カサカサと音を立ててハナへと向かってくる。 音の主はかなり速いスピードで、右に、時には左に揺れながら向かってくる。 音で判断できないようにしているのだ。 しかし、このまま黙っていれば良くない事が起こりそうな気がする。 まずは目の前に迫るモノをなんとかしなくてはいけないだろう。 そして、なんとか切り抜けたらあの男の子を捜さなくてはいけない――。
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/240.html
12月中旬、午後22時(2日目)。 入生田宵丞は息を切らしながら走った。 まず最初の目的地は、花時計広場。 通り道だったため、ここに何か原因がある、なんてことは彼は思っていない。 ただ、会いたい人にはいた。 「おやぁ~?入生田君ではありませんか~」 「あ、教授。よくわかりましたね…。」 直接面識はないはずだが、的確に声をかけられて振り向くと、城ヶ崎憲明。 夏に深海将己の怪異の解決に協力していた人物だった。 「うふふ~、私、こう見えても勘はすごくいいんですよね~。実はこの前も、商店街の福引で~」 「教授、土御門って人とコンタクトってとれますか。」 話が長くなりそうだったので、時間も惜しいし宵丞は話を切り出す。 相手の「ええ、取れますが~」の反応に続けて、今の状況を説明する。 怪異についても興味を示してくれるだろうし、将己を助けた所を見ても信用できる相手だと思うからだ。 「なるほど~、私は鎮守くんの事はよく知らないのでなんとも言えないのですが~…いつ頃からそうなったかはご存知です~?」 「いつ頃…だったっけ。」 宵丞は思い出してみる。 確かに最近、寝不足だーとはよく言ってたりしたが、それ以前に何かあっただろうか。 「寝不足ですか~、夢に纏わる怪異ですかね~?」 「そういえば、大分前に毎日変な夢で目が覚めるって言ってたような…。」 「その夢の内容、わかりますか~?」 城ヶ崎の言葉に、ゆっくりと首を横に振った。 わからない。 そう、内容を聞いても「大したことじゃないぜ」とはぐらかされたのだ。 「そうですか~、まあとりあえず、何かわかったら私にも教えてくださいね~?」 これ、改めて。と城ヶ崎から名刺をもらう。 電話番号やメールが書かれている。 「あ、土御門さんへの連絡は。」 「わかってますって、ちゃんとしてみますよ~。ただし!彼も忙しい身ですから、気長に待っててくださいね~」 それでは~と手を振りながら去っていく城ヶ崎を見送った後、宵丞は学園へと急いだ。 ☆☆☆ 茜駅前ターミナル前。 そこでは、深海将己が電話をかけていた。 「…なんででねーんだよ。誰かいるだろ普通は」 いくらかけても、緋杭寺には繋がらない。 売店で新聞を買いつつ、適当に腰かけて眺める。 そこには、新聞社がまだ正確に把握していないのか、事件発生の事だけしか書いていなかった。 情報が遅い新聞に呆れるように息をつくと、龍志狼ではなかったが、一人の少年を見つけた。 確か、他の奴が『零』と呼ぶ少年だ。 明らかにぼろ布を身にまとっているため、他の一般客と比べたら浮いている。 が、他の者は気づいていないのか、そんな彼に視線一つ送らない。 彼は将己の視線に気づき、笑顔を返すとリニアに乗りこんだ。 その行く先は粥満。 なんの意図があり、リニアに乗り込んだのかはわからない。 「行くか…?」 追っても、この一連の怪異の元凶とも呼べる、龍志狼と会える保証はどこにもない。 勿論、この怪異に関しても関わっているとは言えないだろう。 追うならば、将己の次の一手は決まったようなものだが、追わなければ龍を探すチャンスがまたあるかもしれない――。 ☆☆☆ 志島武生は、イーステン美術館にいた。 そこの経営主(実際は祖父の経営だが)である東十常司と会うため。 ちょうど運よく彼はおり、鎮守由衛の事を聞いた。 「寝不足…?最近は来てませんからねえ。わかりませんよ。 単位も足りてるようですし、王貴さんも学園に来ない事の方が多いですし」 「何かした、とか違和感を感じた、とかそういう事でいいんだ。鎮守、さんのちょっと変わった所をさ」 と顎に手を当て考える司。 そういえば、と切り出し。 「あの人、いつ頃かは覚えていませんが、生徒会室で寝ていたので起こしたところ、毎夜カウントダウンされる身にもなってよ、って再び寝直してましたね。 別にあの人に興味はなかったので聞かなかったですが!カウントダウン?と不思議に思って覚えていました。 いつだったかな…1月以上は前だったような気がします。最近は学園にもそこまで頻繁に来ていませんしね」 その時、司を従業員が呼んだ。 失礼、それでは何かあれば携帯に連絡でもください、と言うと武生の前から去って行った。 これ以上何か聞くのは、さすがに美術館にとっても営業妨害だろう。 ☆☆☆ 「でねえな…」 神風学園の本の虫へと向かっている六角屋灼は、携帯電話越しに呟いた。 上条はもちろん、土御門も王貴と連絡が取れない以上、連絡のしようがない。 灼の知り合い…他にはもう一人しか思いつかなかった。 『もしもし、六角屋?』 「あ…藤咲。頼みがあるんだけど…」 一通り話を聞いた、Bクラスハンターの藤咲真琴はため息をつき「いいよ」と返した。 「今リモートの依頼も2件しか入ってないし、なんなら龍志狼だっけ?そいつの居場所、調べてみようか?その代わり、高くつくけどね」 「葵以外も調べられんの…?だったら頼むかな…」 「ただ葵以外の情報屋とかとコンタクトとるから、時間はかかるよ」 迷ったが、龍志狼と会えるなら、と思い了承を出す灼。 藤咲は了解、と言うとそこで通話は切れた。 この後、特に大学部の本の虫では何も情報は仕入れられなかった。 ☆☆☆ 12月中旬、午後23時(2日目) 時間も時間のため、まずは守衛に言って中へと入れてもらった。 そして高等部のカフェテリアへ行く。 何度思い返しても、由衛に変わった所はなかったはず。 武生と灼の情報は、彼らから連絡が来たため聞いている。 「カウントダウン…。」 何かの比喩か、そのままか。 宵丞は呟きながら、丁度入ってきた人物に気付き顔を向けた。 「こんばんは、入生田先輩」 「櫻井さん、ごめんなー。」 まずは開口一番、真田斎が生徒会長の頃に生徒会役員だった櫻井六花を呼び出した。 家が神風学園に近いこともあり、すぐに来てくれた。 彼女以外とは相変わらず連絡がつかないか、友人である燕沢凛桜は、土御門伍代の別邸でバイトを行っている最中で、メイド長に睨まれているためすぐに電話は切られた。 念の為伍代に連絡をとれないか聞いてみたが、ここ数日、仕事帰りはどこかへ出かけているようなので、コンタクトを取るのは難しいと言われてしまった。 「で、鎮守先輩の事ですか」 「そう、櫻井さん何か知らない?同じクラス…。」 「同じクラスですが、浮いた存在ですもん。わかる筈がないですよ!」 夜中に呼び出したのはさすがにまずかったのか、六花は多少不機嫌な様子。 しかし宵丞にとっても、まさかこんな時間になるとは思ってもみなかった。 それだけ城ヶ崎といい時間まで話していたのだろう。 「そっかー…。うん、ごめんなこんな時間に。」 「…まあいいですけど。それで、入生田先輩はどこまで情報を掴んでいるんですか?そこからまずは聞かせてください」 宵丞はとにかく、自分が覚えてる限りの説明を行った。 六花は話を頷いて聞き、最後にこう呟いた。 「…そういえば、怪異で思い出しました。入生田先輩、大学部の七不思議ってご存知ですか?」 「…いや、知らない。」 夏頃にそれに関する依頼があったんですけど、と前置きをして 「それにたくさんのハンターの方が参加されていたみたいなんですが、鎮守先輩も出たらしいんですよ。 そして、なんでも喋る石像の怪談がどうとか言ってましたね」 「うん。」 「えっと…それ、だけなんですけど」 「あれっ。」 ずっこけそうになったが、それだけでも十分収穫にはなった。 喋る石像の怪談、それから調べようとしていた宵丞に、意外な所から声がかかる。 「メインエントランスの石像、夕方の4時44分44秒に一体だけ、いつもはいない石像がいる」 「え!?」 「小次郎…さん?」 小次郎はそれだけ言うと、奥へと引っ込んでしまった。 唖然としていた面々だが、六花が我を取り戻して大声を出す。 「それですよ!それ!鎮守先輩もなんか気になっていたようで!あー…!でもそれだとおかしいのか。確かその石像を見た人は、44日後に死ぬって噂ですから、もう12月だし、その依頼は6月か7月くらいだったし…」 「それを見たのが、つい最近って事は?」 「あ、そっかっ…!別にあの七不思議調査依頼の時に、見たってことはないですもんね!」 「だったら、カウントダウンもなんとなく繋がる。」 なんですかそれ?と尋ねる六花に今度説明する旨を伝えつつ、宵丞は立ち上がった。 「でも、もしそれが本当だとしたら、対処法は…?」 「え?…いや、聞いた事ないですね…」 困ったように狼狽える六花を見て、落ち着くように言いつつ、ふとポケットに名刺がある事に気が付いた。 城ヶ崎憲明の名刺だ。 迷わず宵丞は電話を城ヶ崎へとかける。 数コールの後、電話は繋がった。 「入生田です。」 『入生田くん?おやぁ~?どうしましたぁ~?』 夜遅くの電話を詫びつつ、今までの経緯を説明する宵丞。 そして、城ヶ崎から帰ってきたのは思わぬ言葉だった。 『入生田くん、そういえば深海くんの時の事覚えてます~? あの時、深海くんがあったという女の子は五大神と呼ばれる大和の守り神的な存在だそうで~。 それらに頼み込んでみる、というのはどうでしょうか~?』 「頼めば、何とかなりますか?」 『わかりません~。ですが、対処法がない怪異ならば、もう神頼みしか~』 「っとすいません…ちょっと一旦切ります。」 携帯に別の着信が来ている事に気付いた宵丞は、一旦城ヶ崎との通話を切った。 その電話は将己からで、簡潔に。零というガキを見たとの事。 更にすぐ後、灼から龍志狼がいると思われる場所を、知り合いのハンターから聞いたと報告を受けた。 茜、粥満のリニアモーター間。 蒼、山岳地帯。 そして粥満、郊外にある使われていない教会。 それらの場所をメモしていると、六花がある事に気付く。 「あれ?もしかして粥満、いつだったか怪異があった場所じゃないですか?」 「…そういや、蒼もうねうねの時に行った場所か。」 「茜、粥満のリニアモーター間は…確かそこらへんに、昔の処刑場があったというゴミ捨て場があったはずです!」 日野守さんから聞いたという、得意気な彼女を横目で見ていた宵丞が一言呟いた。 「五大神…。」 「え?なんです?」 城ヶ崎との話に出ていた五大神。 誰かが知っているらしいが、誰だっただろうか? なんだったか思い出せないが、もし龍志狼もそこに向かっているのだとしたら。 手がかりは、五大神になるだろう。
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/267.html
エピローグ~one year later…8~ 12時ジャスト。 柳茜は玖珂ベルルムと連携を取りつつ、エリスタワー1階へと潜入した。 「誰もいない?」 「気を付けろよ茜。奴さんら、結構名の知れたテロ組織らしいからよ」 ベルルムの言葉に頷き、エントランスに出た二人。 そこには人の姿は無かったが…。 「ここもかよ…。どうする?2階に――」 「行かなくても良さそうよ」 エントランスから3階まで吹き抜けになっている頭上を見上げると、そこには人型のロボットが10体ミニプロペラで体を引き上げ、空に浮かんでいた。 ベルルムはギアアックスと呼ばれるハルバードタイプの武器を構える。 対して茜は、右手に携帯電話、左手に星形のバックパックを取り出してアプリを起動した。 するとバックパックへと茜の魔力が流れる。 魔素が極端に少ない出雲の街中でも使えるようにと、微量の魔力でも反応するように松原エレナの祖父、松原クリストフが発明した機械装置だ。 そのバックパックが変形し、巨大な白銀の翼へと変化した。 もちろん、見た目はメカメカしいが、それでもまるでかつて大和に存在した竜、グレイシアの翼のように美しいフォルムをしていた。 「ベルはサーチをお願い。後、撃ち漏らした奴と」 「へいへい」 「じゃ、いっくぞー!」 ヘッドホンについたインカムのボタン部分を押すと、ゴーグルのように目を覆う装置が現れる。 ベルルムがそれで周辺のサーチを開始するのを確認すると、茜は頭上で機銃を構えたロボット達に目を細め、翼を羽ばたかせる。 翼から炎が噴き出し、その炎がきらきらと雪の結晶のように変化した。 この効果に特に意味は無いが、松原博士の拘りらしい。 茜は空を飛び、そのまま加速しつつロボット達と交差する。 キィン!という音が辺りに響くと同時に、翼に触れたロボット達は真っ二つに切断された。 「残しすぎだろ!」 「あんたの仕事でしょ」 分断されても、地面に落ちてもまだ動くロボットを丁寧に機械式のハルバードで潰していくベルルム。 その間も空中でキィンという音が響き、次々にロボットが落ちていく。 「おい!横からデカいのが来るぞ!」 「横!?」 ゴォォン!と轟音を立てながら、2階部分の壁をぶち抜き、10メートルはある巨大ロボットがエリスタワー内へと入ってきた。 そして飛行中の茜へと豪快なアームパンチが繰り出される。 「遅い遅いっ!」 ウイング『グレイシア』状態での茜の速度に、巨大ロボットの攻撃速度は追いつけていない。 確かに驚きはしたが、出落ち感溢れるロボットに余裕を見せつつ、難なく茜はアームを回避した。 が。 「ぐうっ!」 『おーほっほっほ!甘い甘い!まるで手作りチョコレートのように激アマですわよ!』 高笑いが聞こえ、巨大ロボットから声が聞こえる。 アームは回避したのに、茜の体が痺れて動かなくなったのだ。 そのまま落下し、地面に激突する前にベルルムに受け止められたお蔭で落下ダメージは無かったが、足だけでなく腕も痺れており、声まで満足に出せない状態だ。 『このスペシャル☆フジヤマ試作機の威力はいかがかしら?回避したと思ったら痺れていた。この二段構えが私の素晴らしい科学力でしてよ!おーほっほっほ!』 「辺りに強力な電磁波でも出してやがんのか…?茜、動けるか?」 問題ない、と言うようにジェスチャーをするが、まだ立っているのもフラフラの状態だ。 このままでは次のアームの一撃に耐え切れそうにない。 「仕方ねえ、リリーフだ!お前は少し休んで回復を――」 「そうはいかんよ」 突如、影から現れるようにぬるっと現れた老人。 老人は茜とベルルムの影を踏むと、二人の体が動かなくなる。指一本動かせない。 「このジジイ…!」 『ちょっとコザック、最初はこのスペシャル☆フジヤマ試作機のテストをさせてくれる約束でしょう?』 「アリッサよ、ちゃんと調査書を呼んだのか?無能な騎士連中はともかく、神子と戦乙女。すぐにそのロボットを破壊する手を使ってくるはずじゃ」 『舐めてんの?そんなガキ共、すぐに倒せちゃいますわよ』 「それに…あの臥龍も3層へついたようじゃ」 『臥龍…!それはキケンですわね』 コザックと呼ばれた老人と、アリッサと呼ばれた巨大ロボットを動かす女性の話をただ聞くだけしかない茜とベルルム。 中でも、臥龍…つまり臥龍ヒアデスの方が茜よりも強敵扱いされている事が、茜には面白くなかった。 「ジャッカルは心配ではあるが…レイスが上手くフォローしているじゃろう。レイスならば、双星姉妹に遅れはとるまいて。 それに残りはザコ。松原というハンターは少々手強そうで心配ではあるが、屋上の無能騎士団の連中ならば、今頃ロボットで何とかなっているはずじゃ」 『すべては作戦通りってわけですわね…。予想通りに行き過ぎるのも、些か不安はありますが…まあいいですわ。コザック、例のアレを』 「やれやれ…年寄りをこき使わせすぎじゃ」 コザックが懐から金色に輝く珠を取り出す。 それに魔力を込めると、辺りに青い雷がほとばしる。 それと同時に、雷光により影が消えたため茜とベルルムは動けるようになった。 「ベル!」 「俺の心配よりも、自分の身を守れよ茜!」 「…わっ!」 青き雷は手当たり次第に、変則的に辺りに奔る。 無差別で予想不能の動きに、直撃したベルルムと掠った茜は雷光が止むのを待ち、目を開けた。 お互い、特に怪我などは無いようだ。 未だコザックの持つ珠は金色に輝いているものの、再度雷が出るということもなく。 「お?なんともねぇぞ」 『じゃあお試しになって?』 「油断すんな!エストレア!」 巨大ロボットから繰り出されるパンチが、ベルルムを襲う。 咄嗟に駆け出し、星形状のバックパックを変形させようとする。 しかし、彼女の予想に反してバックパックはいつものように変形を見せない。 「な…っ…!?まだエネルギー残ってるはずでしょ!」 「バカ野郎!どけっ!」 巨大ロボットの強烈なパンチが、茜を突き飛ばして無防備のベルルムに直撃。 ベルルムは大きく吹き飛び、壁に激突し動かなくなった。 『あらまあ、神子の力を使いましたのね。本当なら跡形も無く破裂するはずでしたのに』 「ふぉふぉふぉ、じゃがまあこれで後は戦乙女のみ」 「ベル!…あんた達、いい加減にしなさいよ!」 ベルルムに突き飛ばされ、体勢を立て直している間に状況が動く。 どんな高架化は分からないが、おそらくあの青い電撃は機械類を一切動かなくさせる力だ。 魔力を流せる機能があるとはいえ、基本的に茜の七変化するバックパックは機械。 出雲対策用と言った所だろうか、敵ながら天晴れではあるが…。 「まずったな…通信も使えなくされてるし、タワーの入口も機械での開閉だから援軍も来ない…」 『ほーっほっほっほ!更にこのスペシャル☆フジヤマが開けた穴には、ネズミ一匹通しませんわ!万事休すって所かしら?ハンターはどうでもいいんですけれど、まあ私たちの野望のために死んでもらいましょう。グッバイ!!』 回避!そう思ったが、再びコザックがいつの間にか茜の影を踏んでいる。 「このぉっ…!」 「相手が悪かったのう。アリッサのみならば、戦乙女と神子を止めることはできなかったじゃろうに…じゃが安心せい、ワシも歳だから、老い先は短い。あの世で再び会おうぞ、戦乙女」 『天誅!!』 茜は目を瞑る。 死を覚悟したのではなく、まだ何か対抗策はないかと。 だが、無情にも辺りに轟音が響いた。 ベルルムは咄嗟に神子の能力、彼の場合は身体を一時的に超強化する力を使ったのだろう。 それですらあの有様だ。 魔力も満足に使えない出雲の地で、機械も発動しないこの状況。 完全に、死が――。 ☆ 『W,WHY!?な、なぜ…』 「なんじゃと!?速い、速すぎるッ!!」 どうやら自分はまだ息があるようだ。 それどころか、体が満足に動く。 アリッサが攻撃を外した? と思った矢先、聞き覚えのある声が茜の耳に届いた。 「フフフ…ハーッハッハッハ!!!このォ!!臥龍ヒアデス様をォ!!忘れてもらっては困るぞォォオォ!」 『ど、どうやってこのタワーの中に!?完全に入口は封鎖しており、スペシャル☆フジヤマが空けた穴に近寄れば、気づくはず…』 「ぬるゥゥゥいッ!!!この私が…キサマらテロリストに一切の備えもしていないと思ったかッ!!キサマらテロリストが行う、非道極まりない出雲の機械技術を封ずる対策を想定していないとでも思ったのかッッ!!」 ヒアデスはタワー入口を指さした。 そこは完全に爆発して吹き飛ばされており、更に彼の部下数十名が火薬式の手榴弾を構えている。 「あ、呆れたわ…この出雲でそんな原始的な道具をいつの間に…」 「私はァ!!この出雲の、法王様を守る盾なのだァッ!!ならば…故に…いつでも裏の裏のそのまた裏をかくのがこの臥龍ヒアデスなのだよッッ!!」 「さ、さすがは隊長格よ…!恐れいったわい!」 『ふ、ふざけないで!そんな原始的な武器で、このスペシャル☆フジヤマを破壊できるとでも本当に思っているのかしら!?それに臥龍ヒアデス!貴方の武器は機械式だから、どの道使えはしないじゃない!』 「貴様見破ったのかッ!!!?この流れなら、私が入口をこのアルデバランで破壊しやってきたと思うはずッ!!裏の裏のそのまた裏の裏をかいたと言うのかッ!?」 いつも以上に叫んで、ヘイトを集めているヒアデス。 その間に彼の部下が一人、細長く布に包まれた物を茜に持ってきた。 茜は真田に頼んでいた物が到着したことにほっと安堵し、持ってきた部下に感謝の意を伝えると布を取った。 布から現れたのは、二振りの真紅の直刀。 『D』と名付けられし、茜の魔導具だ。 「アリッサ!!抜けておる場合ではないぞッ!!!戦乙女が!!」 『しまったっ!!』 狼狽する敵二人とは対して、ヒアデスは余裕の笑みを茜へと向ける。 信頼にも似た笑みを向けつつ、小さくつぶやき。 「フ…今回ばかりはこの臥龍ヒアデスがあえて譲ってやろう。あえてだ。次はハンター風情が出しゃばるんじゃあないぞッッ!」 「さて…と」 ヒアデスの言葉を無視しつつ、茜が魔導具を構えると魔導具から不思議な力が放出される。 茜の場合、こちらはあまり使用しないが…魔導具周囲1キロ範囲の特殊な力を無効化するという魔導具の効果。 最初に茜のバックパックの電力が戻った。 それに気づいたコザックは、慌てて茜へと飛びかかる。 「いかん!何かする気じゃ!」 『させませんわ!』 「エストレア!!」 今度こそ、茜の言葉と共にバックパックは反応し盾へと変形した。 七変化の一つ、まずシールド『エストレア』で巨大ロボットのパンチを無効化するだけでなく、衝撃を巨大ロボットに跳ね返す。 巨大ロボットは吹き飛んだが、これくらいではダメージが届いていないくらい装甲は硬いようだ。 「猪口才な…動きを止めていてもらおうかの!」 「アドラメレク!!」 七変化の一つ、バックパック『アドラメレク』の形状へと戻り、紅く光る。 出雲外から広範囲に渡り、魔素をこのバックパックへと集まり始める。 それは茜の魔力へと変換され、この出雲に於いても飛鳥並の魔力を発揮させるという効果だ。 「じゃが踏んだァッ!!これでお主は動け…!?」 「ざーんねん」 既に飛んでいた。 七変化の一つ、ウイング『グレイシア』。 先刻も発動した翼への変化により、巨大ロボットが空けた穴からエリスタワーの外へと、空高く舞い上がる茜。 七変化の一つ、ブーツ『ミスリル』へと変化させ、落下と共にブーツから炎を吹き出し、ジェット噴射のように急加速する。 「頼むよ、『アスカ』!」 七変化の一つ、アーム『アスカ』により、直刀を持つ腕が鉤爪へと変化する。 巨大ロボットの頭上へと、『ミスリル』によるジェット噴射加速もプラスし、二本の直刀による倍撃を繰り出した。 更に鉤爪による一撃でロボットの装甲に傷がつき、コクピットのアリッサの姿が見えたものの、致命的な一撃にはならなかったようで巨大ロボットは体勢を立て直し、茜から距離を離した。 『有り得ません!コザック、もう一度影を!』 「やっておるわ!効きやせん!」 魔導具の効果ではなく、七変化の一つ、ベルト『ウロボロス』の効果。 ウロボロスを模したベルトが青き光を放ち、状態異常などは受け付けない。 他にも効果はあるが、今回は割愛しよう。 「今降参するなら、これで勘弁してあげるけど?」 『シャラップ!調子にのるなよ小娘!!』 「あらら」 煽り耐性低すぎない?と薄く笑って、茜はベルトから更に変化を行う。 『おーほっほっほ!勝った!その効果ならコザックの影縛りは受けないでしょうねえ! でも効果を変えたらコザックはまだ貴方の影を踏んでいますのよ!!』 「ち、近寄るなアリッサ!!この女、まだ『変化を解いて』おらん!!」 「変化が一つだけっていつの私の話をしてるのよ。エクスハティオ!」 七変化の一つ、ヘルメット『エクスハティオ』。 エクスハティオの頭部を模したヘルメットの効果は、火属性変化と特殊技ABBAの強化の二つのみ。 更に、ここで魔導具のもう一つの特殊効果も更に発動する。 魔導具で斬りつける事に、最大3倍まで威力が上がる特殊効果。 2回斬りつけたので既に最大火力。魔導具『D』も燃え上がらん程の真紅の光を放っている。 これ以上威力を上げることもできるが、そうなると反動で自分もただでは済まないのが、異次元から戻ってきた劣化と言えるだろう。 そのためこれ以上上がらないように、現在はリミッターがつけられている。 『さ、さすがはCクラスハンター、柳茜…』 「だからいつの私の話をしてるのよっての!」 右の直刀でロボットを斬りつけ、氷漬けにする。ウロボロスの力の効果の水属性変化。 続けて左の直刀で斬りつけ、爆撃を起こす。エクスハティオの力の効果、火属性変化。 「Bクラスハンター、柳茜。地獄で覚えておきなさい!っどーんっっ!!」 最後にベルト『ウロボロス』をバックパック『アドラメレク』へと変化させ、ヘルメット『アドラメレク』で強化されたABBAを巨大ロボットにブチ込む。 大爆発と共に、跡形も無く巨大ロボットは消滅した。 「やばっ、やりすぎたかも!」 「また爆発オチかよ茜!」 苦しそうに体を起こしながら、ベルルムが背後からお疲れの意を込めて声をかける。 そんな事言ったってしょうがないじゃん、と返そうとした時、彼女らの目の前に銀髪の貴族風の衣装を纏った男が現れた。 その男は、巨大ロボットからすんでの所で救出したアリッサを抱え、空を飛んでいる。 「まだ仲間がいたの?」 「勘違いをしないでもらおうか、戦乙女。今回は君の健闘を称え、挨拶に伺ったまで」 暫く茜とベルルムは顔を見合わせた後、何言ってんのこいつという視線を男へと向けた。 男は気にせず、フ、とキザったらしく笑うと背を向けマントを翻して歩きだす。 「この出雲は必ず我々、朱赤い檻が手に入れる。天空神の名に掛けて、この出雲をあるべき姿に解放するために、な」 「今回は退いてやるわ…次は戦乙女、貴様がいない時に現れたいところじゃの」 「ちょっと、はいそうですかって見逃すとでも…!?」 余裕そうに立ち去る男、それに駆け寄る、爆発の余波によりボロボロのコザックを追おうとした茜とベルルムだったが、男と茜達の間が巨大な光によって阻まれた。 魔力とも、法術とも違うその力。 驚き、二人は一瞬立ち止まってしまった。 「フ…所詮は井の中の蛙。確かに魔導も法術も恐ろしい力ではあるが…世の中には更に上の力があるという事を忘れるな」 言うだけ言って消えた者達に、呆気に取られて見ていた二人。 すぐに正気に戻ったのは、誰かの悲鳴だった。 「なんだァこれはァァァァ!貴様らハンターがこんな惨状にしたのかッッ!?」 「あ、やっば」 「だからやりすぎだって言ったろ茜!」 「はぁ?知ってんのよ、あんた最後、法術使って私の力強化したでしょ!」 「は、はあ~?そんな事するわけないだろ!証拠あるのかよ!?」 「うるさいうるさァァァァいッ!!これだからッッ!!!ハンターは嫌いなのだッッ!!!事情聴取だ来いッッ!」 こうして、激怒したヒアデスから逃げるべく、二人は全力でエリスタワーから去って行った。 ヒアデスに捕まれば、ギルドが不利な事になるのは明白。 そりゃあ少しは非を感じている二人だったが、エリスタワーの管理者はヒアデスではなくポルックスなのだから、そちらと交渉して今回の一件を説明すれば丸く収まる。 なので全力で今はヒアデスから逃げる事を決めた。 「待てェェいッ!逃げるんじゃあないッ!!」 「うるせー!事情はちゃんとポルックスちゃんに説明するっての!!」 「やっぱりギルドとは連携できないッ!!!騎士団の誇り高き精神とは噛み合わないッ!!」 新たな脅威が訪れはしたが、戦乙女をはじめとするハンターギルド。 そして常に敵対発言をしているものの、肝心な所は協力してくれなくもない騎士団。 この二つがあれば、出雲のどんな脅威も退ける事ができるだろう。 ◆柳茜 異次元帰還後、Cクラスハンターへと昇格したのを切っ掛けに、風見次郎から声を掛けられ開設したばかりの出雲支部へと身を置くことになる。 そこで色々な事件を解決し、つい先日Bクラスハンターへと昇格する一方で魔導具の作成も積極的に行い、出雲支部では第一号の魔導具所持者となった。 状況判断にも長け、出雲支部の中ではそのハンタークラスが指し示す通り一番の功労者。 唯一の欠点といえば、市内戦に於いてはその力の被害が大きいため、その際は真田斎がストッパーとしてよく組まされる。 これでも異次元どころか、気象制御装置を止めた時よりも力は弱くなっているというのは本人談。 『戦乙女』という渾名を知らない者は、この大陸ではほぼいないくらいの有名人。 ◆玖珂ベルルム 異次元帰還後、扱いこなせていた法術の力が、弱体化により再び使いこなせなくなった。 そのため鳳仙エルハイアに頼みこみ、騎士団の監視下ではあるがハンターギルドへの所属を認められる。 こと戦闘系の依頼では、柳茜や松原エレナと組むことが多くフォロー役に回る事が多い。 一方で一人での依頼の場合は出雲支部の中で誰よりも効率的に動ける典型的なソリストだが、その真価が発揮されることは今後ほぼ無い。 面倒見もよく、後年は新人育成に精を出した。 ◆臥龍ヒアデス 異次元帰還後、いつもと変わらず法王に忠誠を誓い鉄甲を振るう。 ハンターギルドを常に敵視しいがみあってはいるが、ハンターギルドの必要性を説いた、実は出雲支部開設の影の功労者でもあるがそれが明かされる事は今後無いだろう。
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/36.html
高等部学園行事日程(26年度) 第一学期期末試験(7/10~7/16) 第一学期終業式(7/18) 夏休み(7/22~8/31) 補習期間(8/1~8/10) 第二学期始業式&大掃除(9/1) 第二学期中間試験(9/26~10/1) ハロウィンパーティー(10月) 第二学期期末試験(12/8~12/12) 終業式(12/19) クリスマスパーティー(12月) 冬休み(12/22~1/5) 第三学期始業式&大掃除(1/6) 学年末試験(3/2~3/6) 卒業式(3/13) 春休み(3/27~4/5) 大学部学園行事日程(26年度) 前期期末考査(7/13~7/24) 夏休み(7/31~9/30) 後期全体オリエンテーション(10/1) 後期学部ガイダンス(10/2) ハロウィンパーティー(10月) クリスマスパーティー(12月) 冬休み(12/22~1/5) 後期期末考査(2/9~2/17) 卒業式(3/2) 春休み(3/27~4/10)
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/236.html
魔物詳細第四階層・冥府の階層 ※☆はレアモンスター、▼はエリアボスとなる。レアモンスター撃破で煌石+1、エリアボス撃破でエリア攻略となり、攻略したメンバーに報酬が入る。 ※●印のエリアは、◆のエリアを全て攻略しないと進むことができない。 ◆腐臭漂う高等部 制服ゾンビ(男) 制服ゾンビ(女) 教師ゾンビ ☆制服ゾンビ(腐女子) ▼始祖の悪魔タイニーデビル 虚空の次元 ▼悪魔ベレト ●魔女の学園 デュラハン リビングデッド グール ☆サタン ▼魔犬ガルヴァ HP5000000 MP0 OP1000 ☆技能5000 知識5000 感覚5000 精神5000 耐性/弱点:闇(吸収)・火水(無効)・全状態異常無効/光(2倍) 備考:三つ首の大型の犬型魔物。特殊な行動はそこまでしてこないが、常に頭の三つ首で3回攻撃してくる。 クロックマン オールドマン シザーハンド ☆ヘルオアヘブン ▼魔手ゴルゴーン HP5000000 MP0 OP1000 技能1000 知識1000 感覚1000 ☆精神10000 耐性/弱点:闇(吸収)・風地(無効)・全状態異常無効/光(2倍) 備考:巨大な手の魔物。手の中央に目があり、攻撃を与える度に、攻撃を与えて来た者に石化行動をしてくる。 デスキューピッド HP1500000 MP1000 OP1000 技能3000 知識4000 感覚1000 ☆精神3000 耐性/弱点:火水風地光(吸収)・麻痺、凍結、気絶無効/闇(2倍) 備考:ドクロの弓矢を持った愛らしい天使型魔物。だがその一撃は即倒効果を秘めた拡散弓を放つ凶悪な魔物。 カルコニクス HP5000000 MP0 OP0 技能0 知識0 ✩感覚3000 精神0 耐性/弱点:水風地光(吸収)・全状態異常無効・全属性異常無効/火(2倍) 備考:マンドラゴラのような形をした植物型魔物。普段は叫び声をあげるはた迷惑な魔物。たまにパニックを起こし走り回って技力を奪う金切り声をあげている種類もいる。 アリア HP1000000 MP10000 OP0 技能500 知識1000 感覚500 ☆精神2000 耐性/弱点:光闇無(吸収)・全ステータス異常・全状態異常無効/火水風地(2倍) 備考:歌声を流す女性の幽霊の魔物。その呪いの歌声は回避することはできず、体力だけでなく技力と魔力も奪っていく。アンデット。 ☆ダイダロス ▼始祖の悪魔クラリス
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/91.html
イベントコンテンツ 烏月揚羽 行成ハナ 白神凪 六角屋灼 桐石登也 東雲直 天瀬麻衣 日野守桜 向坂維胡琉 福良練 鬼ヶ原空 板垣勝猛
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/168.html
◆◇ 日野守桜は高等部のカフェテリアにやってきた。 この時間はほぼ客がなく、小次郎が仕込みをしているようだった。 「こんにちは、小次郎さん。お仕事中申し訳ありませんが、少しお話よろしいでしょうか?」 カウンターに腰を下ろし、アイスティーを注文しつつ控えめに話を伺った。 雑談をしながら、時折七不思議の話題を持出し情報を聞き出そうとする。 流石に小次郎は長く勤めて居る為、以前に学園の七不思議を調べていたらしいということ、その際に和風庭園に霧が出ていたことまで知っているようだった。 「10年前ですか…先輩方もまだ中等部の頃ですね…。 ちなみに霧が出たり、晴れたりした際には何か変わったことに気づかれましたか?」 小次郎はゆっくりと首を左右に振った。 その後もしばらく二人の雑談は続いたが、どうやら特に新しい情報は得られなかったようだ。 ◆◇ 日浦博喜は高等部の時計棟にやってきた。 博喜は扉に手をかけるが、ガチャガチャと音が鳴るだけで扉は閉まったまま。 「あ。鍵かかってるんやった…」 髪をくしゃりと撫で付けながら、うっかりした様子で眉を下げた。 雨の音の中で、小さく時計の歯車が動く音が扉の向こうから聞こえてくる。 戻って兼田を探そうかと踵を返したところで、茜が遅れてやってくる。 「日浦君、コレコレ。」 にっと口端をあげる茜の手には兼田から借りてきたらしい鍵がぶら下がっていた。 「どこにいったかと思ったら、流石やな。」 博喜は少しばつの悪そうに苦笑いを浮かべつつ、茜が扉を開くのをまった。 扉を開くと、先ほど微かに聞こえていた歯車の音が大きく耳に入ってくる。 「なんや、他にもなんか仕掛けでもあるんやろか…」 「んー?」 茜は中へと入りあたりを見回すが、見当ハズレといったように首をひねった。 機械にそれほど詳しいわけでもないが、どう見ても仕掛けがあるようには見えず、紫の霧もこの部屋の中には他の施設同様入り込んでいないようだからだ。 「私、この部屋から紫の霧が降りてってるのかと思ったんだけど、違ったみたい。」 「せやなぁ…特に変わったところもないし…ハズレ、か。」 細部まで探索を終えると少しばかり肩を落としながらも、扉を閉め屋上へと戻った。 ◆◇ 東雲直は栄養ドリンクを一本深海へと渡し、残った一本を自分で飲んだ。 体力が回復し、足取り軽く大学部の屋上へとやってくる。 激しく屋上の地面に打ち付ける雨に直は顔をしかめた。 「んー、結構降ってるなー。」 小さくぼやきながらも傘を差し外に出て学園を見渡す。 白楼館や図書館などはまだ所々明るいが、洋風庭園や体育館、グラウンドは既に真っ暗だ。 「流石に高等部までは見えないか…………―」 目で確認できるところはここまでかと、直はゆっくり瞼を閉じ意識を集中させてどこからか異変を感じないか、隈なく確認した。 しかし、今までと何か変わったところは特にないようで、感じるのは相変わらずの紫の霧の不思議な感覚だけだった。 「何もない…か。 ―…ん?月?……うわっ!?」 ふと、目を開くと空から一瞬だけ月明かりが漏れた気がした…が刹那、あたりが白く眩しい光に覆われ、直は再び目を閉じる。
https://w.atwiki.jp/kamikaze4u/pages/215.html
午前6時 麻衣は懐中電灯だけが頼りの暗い船内でただ一人、行方不明者を捜索していた。 数分前、麻衣と軍人に迫りくる死体達だったが、動きはそう早くない為上手く掻い潜り、軍人と協力して銃で撃ち重ねた死体の上にワンダーナイトメアで一体を気絶させ死体の山を作って足止めをした。 これで少しはこのフロアを探索する時間を稼げただろう。 「さっきの人、ちゃんと外にでられたんやろか…。」 一緒にいた軍人は大和の船に報告と援護を求めに甲板の上へと登って行ったのだが、正直女一人残していくとは情けないものだ、と感じずにはいられなかった。 「…ここも壊されてる………そう簡単には見つからへんか…。」 既に三つ目のキャビンを捜索していたが、どのキャビンも無線は破壊されて使える状態ではなかった。 小さく呼気を落とす麻衣だが、収穫も一つあった。 無線同様、各部屋で壊されているものがあったのだ。 それは”鏡”。 血がべっとりとくっついたそれは粉々に砕かれている為、恐らく死体軍人がやったのだろう。 死体が意志をもってやったものなのか、”女”がそうさせているのか…… そんなことを考えながら、次の部屋へ向かうべく廊下へ出ると、再び死体軍人が動き出そうとしている。 しかしまだ重く積み重なった死体の山は崩れず、こちらに気づかれぬまま隣の部屋に逃げ込むことができた。 逃げ込んだ部屋は一般キャビンではなく、30人程入れそうな食堂だった。 食事をする他、会議なども行うのだろう、ホワイトボードや地図などが置かれている。 「ここにはまだ血の痕がない…」 …ヴヴヴ… 「!」 突然小さな振動とバイブ音を感じると、心臓が微かに跳ねるがそれが自身の携帯だと気づけば、麻衣は静かに電話を取った…。 ☆☆☆烏月揚羽の報告 『マイティッ!大丈夫!?無事!!?』 「…ッ…先輩、耳が痛いんやけど…。」 『え、ナニ!?電波悪くてよく聞こえないんだけど!! …あーっとまぁ、いいや!とりあえず調べたこと報告するね!!』 「…耳が……いえ、なんも。お願いします。」 死体の山を作り上げた直後、一度揚羽からの着信があり、海難事故や皮膚の溶けた死体について調べてもらっていた。 『えっとねー、図書館の古い新聞で出雲の記事があったよ! 40年前なんだけど、研究発表会?みたいなパーティで客船が出てたらしいんだけど、沈没したっていう海難事故の記事。 新聞では事故ってなってるんだけど、妊婦さんが生き残ってて、その孫らしい人が最近ネットでオカルト系のサイトに書き込みしてたの。 、、女と目が合うと肌が溶けるとか、船客を全員殺した―とかなんとか…なんかちょっと、ていうかかなり怪しいけど、今回の事件には似てるかなーって思ってさ…あ…』 と、そこで電波が途切れてしまった。 大和の軍艦に電波中継地があるものの、あまり安定しないようだ。 「…女、肌が溶ける…確かに現状と似てる…。 目が合うと…ってことは、鏡で跳ね返せるんやろか…?」 思い出したのは先ほどの割れた鏡…あまり信憑性はないものの、試してみる価値はあるかもしれない。 ☆☆☆柳茜の報告 揚羽の電話が切れた後、数秒して再び電話がなった。 ポケットにしまおうとしていたそれを再び耳に当てる。 『天瀬先輩、無事ですか?柳です。』 「柳、大丈夫やよ。ありがとう。 ついさっき烏月先輩からも電話があったわ。 こっち電波が安定しないみたいで、途中で切れてしもたけど。」 『ああ、そっか。海上ですもんね。じゃあ、通話し続けるのは難しいか。 …とりあえず、報告です。 ”皮が剥がされた状態で死んでいる”って感じのオカルトネタをネットで検索したんですが、40年前の海難事故がそれっぽいですね。』 「…妊婦が一人生き残ったとか…いう?」 『先越されてましたか…そう、それです。 犯人の女の名前は”リカ”出雲の研究者の娘だそうです。』 柳の話は、40年前の海難事故唯一の生存者、当時妊婦だった女性の孫がその惨劇の真実を綴ったものだった。 「リカ」と呼ばれる20代前半の女性はパーティーの最中突然狂ったように次々と船客を殺めた。 リカが見るだけで人の皮膚は薬品で溶かされたようにすべて剥がれ落ち、皆、痛みに絶命していったという。 妊婦の女性は船の機械室の隅に隠れてやり過ごしていた。 リカが燃料タンクに火をつけるため階段を下りてきたときは絶体絶命と思ったものの、なぜかリカは妊婦の女性を見逃した。 命からがら立ち去る中僅かに振り返ると、リカは子守唄を歌いながら、おなかをさすっていたように見えた…という。 『…と、こんなところですね。 まぁ、オカルトサイトの書き込みなんで信憑性は低いですけど。 それと、リカのその力は有機物にしか利かないらしいです。 漫画とかアニメだったら鏡で反射、とか出来そうですね。』 「色々、ありがとう。 子守唄…歌ったら成仏してくれたりするんやろか…」 『…先輩の歌声、聞いてみたいですね。 なんならこのまま通話つづ…』 と、そこで再び電波が途切れた。 「…うちの美声が聞かせられなくて、残念やな…」 冗談めいた口調で独りごちると思わずふっと表情が緩むが、すぐに気を取り直して探索を再開した。 ☆☆☆ 「―…………あ。」 ホワイトボードや地図、テーブルの下をくまなく探していると、一つの椅子の上に無線が置いてあるのを見つけた。 無線を手にすると、僅かな希望に呼吸と脈が早まる。 ―ジジッ…ピーッ… 「…繋がる…。…………シュウ…?」 ―ジジッ…ッ…『…やぁ、麻衣。そこで何してるの?』 「…何って…随分呑気やね。ってうちも呑気なこと…。 シュウ、…無事でよかった。」 聞こえてきた声に反射的に言葉を返すと、現状とは反した穏やかな空気に自然と微かな笑みが零れた。 ―ジジッ…『あはは、無事っていうのはこの状況から脱した時のことを言うんだよ。』 相変わらずの軽口を聞けば、どこかホッとしてしまうが、やはり危機的状況には変わりない。 のんびりと話をしている場合でもないのは確かだ。 「せやね。今何処?うちは食堂やけど…美澄さんや二ノ宮さんは一緒におるん?」 ―ジジッ…『二ノ宮は操舵室に居たはずだけど、無線が破壊されたみたいで音信不通。 美澄少尉は一緒にいる。エンジンルームでちょっとした仕掛けを作っててね。 最悪、この船ごと爆破して逃げるつもりさ。 麻衣、怪我しないうちに戻りなよ。僕は大丈夫だから。』 「随分派手な脱出劇やね。 …此処まで来て放って帰れるわけな…」 ―ガチャッ! 背筋が凍るような寒気が再び麻衣を襲う。 「!?」 突然食堂の扉が開くと同時、赤い服の女がまるで空気のように、すっと流れるように入ってくる。 血の気の無い青白い肌に顔も見えない乱れた長い黒髪、魔物ではないが、生きた人間でもない。 やはり幽霊、というものが一番しっくりくるのだろう。 何故かあれ程までの狂気に満ちた惨状を目にしてきたのに、自分に対しての殺意は感じられない。 それよりもどこか苦しそうな…、寂しそうなそんな気配さえ感じると、思わず言葉が漏れた。 「リカ…さん?」 『・・・・・。』 ―ジジッ…『麻衣?何かあった?』 『ォ・・・ト・・・コ!!!』 シュウの声が聞こえた途端、黒髪が逆立ち、血走った眼がその隙間からのぞいた。 今まで感じなかった憎悪、殺意がむき出しになり、全て吐き出された一言の”男”に向けられているのだと瞬時に理解する。 「シュウ!そこに居ったら危険や!」 思わず声を荒げる麻衣だったが、時すでに遅し…無線は通じず、女の姿もまた此処にはなかった。 急いでエンジンルームに向かおうとする麻衣だが、その行く手を遮るように死体軍人たちが列をなして向かってきている! このままエンジンルームに向かうべきか…別の手段をとるべきか…。 今、究極の選択が迫られている。 麻衣…HP550/MP335/OP20 状態:疲労(探索時や怪異に遭遇時、HP・MPの減少速度が早い)