約 3,152,008 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/252.html
軽装鎧の修理 軽装鎧には2種類がある。金属製か非金属製かである。鎖帷子、エルフ製、ミスリル、ガラスなどはすべて金属製軽装鎧の代表である。ガラスが金属として考えられることに驚くかもしれないが、それは見た目にだまされているのだ。ここで言う「ガラス」は家にある窓ガラスだけではない。緑がかった金属で強度が高く、同じく融点も高い。 非金属のものは、毛皮製と皮製が挙げられる。これらを作るには、ハンマーよりも針箱の方が役に立つ。厚い生地を縫い合わせるには、先の鋭く尖った千枚通しが必要となる。穴には頻繁に別の布で継ぎ当てをする必要がある。ただ、経験に基づいていうならば、当て布をするぐらいならその鎧の寿命がきているということなので、新しく作り直したほうがよい。 金属製の鎧でも、時には修繕の継ぎ当てをする必要が出てくる。通常は、ハンマーで壊れた部分と一緒に後ろから打ちつければ直る。エルフ製とミスリル製は熱を加えたほうが修繕しやすい。鎖帷子は低温状態で修繕した方がよい。 一番特殊なのがガラスである。目に沿わずに叩いてしまうとその鎧を粉々に壊す危険性がある。できれば目に沿ってハンマーの当たりをそろえるのが望ましい。極端な場合、鎧を油で満たした桶に入れてみるといい。修理したい部分を金床に当て、その下に油をひくのがコツだ。ハンマーからの振動は油で吸収され、ガラスを割る可能性が減る。 兵法・戦術 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/39.html
アベルナニット必殺の一撃 賢者ゲオクラテス・ヴァーナスによる解説 壊れた狭間胸壁と大破した壁 恐怖(1)の崇拝が一時受け入れられた場所。 50回の冬(2)の傷、霜と風 不浄の門を砕き、穴を開け、 そして、酷くみだらな尖塔を降ろさせた。 すべては塵、すべては塵にすぎない。 血は乾き、そして悲鳴はこだまして消えた。 荒れた丘に囲まれた、見捨てられた場所 モロウウィンドの アベルナニットの不毛な骨がある。 三度祝福されたランギディル(3)が初めてアベルナニットを見たときは、 力と不変性で光沢のある銀色に輝いていた。 恐ろしい場所を恐ろしい男たちが守っている 熱を帯びた硝子の目と恐怖を介しての力 敵数のほうが遥かに多いのをランギディルは見た。 彼が率いる数名のオーディネーターとボイアント・アーミガーよりも、 野原と死の城を上の丘から見る、 建っている間は、人々の魂を呪った モロウウィンドの アベルナニット、呪われた邪悪な城。 合図が鳴らされ、神聖な戦士を戦場へ呼んでいる 悪しき者の盾に正義の槍でこたえるために、 前で戦い勇敢になるために彼ら自身の心を鋼に。 盾と薄い黒檀の槍をランギディルもつかんだ 戦いの喧騒が鳴り響く衝突とともに始まった 空から雲を揺すり落とすために。 防御壁は崩され、血が止まった 野原の地面、唯一無二の戦い モロウウィンドの アベルナニットの悪を滅ぼすために。 確かに、乱心の大群は武器に長けていた、 しかし、三つの聖なる拳、母、卿、ウィザード(4)は押し進んだ 怪物の軍は突撃に次ぐ突撃のあとに戻ってくる。 ランギディルは上から見た、軍に防衛するよう駆り立てた、 ダゴス・スラス(5)彼自身が邪悪な塔の尖塔にいる、 悪の心を捕まえたときに限り 土地は真に救われるであろう。 そして彼は神殿と聖なる法廷に忠誠を誓う モロウウィンドの アベルナニットの塔をとるために。 強烈な押しで、塔の土台は貫かれた、 しかし、尖塔を落すすべての努力は無意味であった 恐怖のすべての力があの1個の塔を支えているかのように。 登り階段は急で細く 戦士2人が並んで昇れない。 軍を1列に、上へ上へとよじ登った 塔の部屋をとって支配を終わらせるために 史記の中の一番残酷でつまらない暴君の1人 モロウウィンドの アベルナニットのダゴス・スラス。 彼らは先発からのときの声を待って塔をよじ登った しかし、沈黙のみ戻った、そして血、 最初はただの小川、そして勢いのよい緋色 上からの叫びとともに、階段を流れ落ちた、 「ダゴス・スラスは我らの軍を一人一人倒している!」 ランギディルは軍を呼び戻し、オーディネーター全員と、 ボイアント・アーミガー、そして彼自身で階段を昇り、 最高の戦士たちの血だらけの亡骸を通りすぎた モロウウィンドの アベルナニットの塔の部屋へ。 ダゴス・スラスは死のカラスが巣に乗っているようであった 塔の部屋の扉で、血だらけの盾と血だらけの刃を握りしめている。 ランギディルの槍のすべての猛攻は容易く防御され ランギディルの剣のすべての斬撃は跳ね返され ランギディルのメイスのすべての打撃は盾にあたった すべての速射も的がない 怪物の最高の力はその恐ろしい祝福にあり どの戦士からのどの武器もどこからでも モロウウィンドの アベルナニットの盾を越えられない。 時がすぎ、ランギディルは理解した ダゴス・スラスで、どのようにして最高の戦士たちが最後を迎えたか。 彼らの攻撃を防ぐことで、彼らを疲れ果てさせることができるのだ そして、故に弱まって、彼らは簡単に切り倒された。 悪人は辛抱強く、そして盾使いが巧みであった。 ランギディルは自らの強い腕がしびれてくるのを感じた その間、ダゴス・スラスはすべての斬撃を予測して防御した。 ランギディルは神聖なる3人の祝福なくしては モロウウィンドの アベルナニットの塔で死ぬと懸念した。 しかし、彼は叫びながら打撃を浴びせかけた、 「敵よ!我はランギディル、真実の神殿の王子、 我は多くの戦闘で多くの戦士と戦い 彼らは我が刃を止めようと試み、失敗した。 我がどの打撃を放つかを予測できるものは数少ない、 予測できても、その攻撃を止められるもの、 または、我が攻撃を受け止められるものはさらに少ない。 より素晴らしい盾防御のマスターはどこにもいない モロウウィンドの アベルナニットの城以外には。 我が敵よ、闇の支配者ダゴス・スラス、我を殺す前に、 どうして防御のしかたを知っているのかを教えてくれ」 途方もなくごう慢なダゴス・スラスはランギディルの嘆願を聞き、 神殿のチャンピオンのはらわたをくり抜く前に、 死後のために知識を授けてあげようと決め、 どう彼の直感と反応が働くか、それを、説明を始めたところ、どうやっているのか知らないことに気がついた、 ランギディルが繰り出すのを、困惑しながら見ていた、 モロウウィンドの 「アベルナニット必殺の一撃」を。 *** ゲオクラテス・ヴァーナス 注釈: (1)「恐怖」とはデイドラの王子メエルーンズ・デイゴンのことである。 (2)「50回の冬」は、叙事詩が第三期150年に行われた、アベルナニット攻城戦の50年後に執筆されたことを示唆する。 (3)「3度祝福されたランギディル」はランギディル・ケティルであり、第二紀803年に生まれ、第三期195年に死去している。彼はテンプル・オーディネーターの指揮官、そして神々の法廷によって祝福されることによって、「3度祝福された」ことになる。 (4)「母、卿、ウィザード」とは、アルマレクシア、ヴィヴェック、ソーサ・シルの法廷のことである。 (5)「ダゴス・スラス」は出所不明な強力なデイドラ崇拝者であり、彼自身は6番目の家の継承者であると宣言したが、彼がその滅んだ家系に由来するという証拠は少ない。 茶3 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/254.html
ブラヴィル:ニベンの娘 サシィーア・ロングリート 著 ブラヴィルはシロディールの中でももっとも魅力溢れる町で、質素ではあるが、美しさと過去の栄華で彩られている。帝都南部を訪れる人は必ず、ブラヴィルの賑やかな河港沿いを散策し、地元の子供たちとのおしゃべりを楽しむ。もちろん村の伝統である、有名な“幸運の老女”の像に祈りの言葉もささやく。 アトモラの民がやってくるよりもはるか何千年も前のこと、地元アイレイドの人々が今日のブラヴィルの近くで長く暮らしていた。今のニベンにあたるこの場所では、食料が供給され、輸送機関もあり、今よりずっと人口が多かった。彼らは孤立していたところで住んでいたため、自分たちの住む土地をなんと呼んでいたのかは定かではないが、彼らの使う言葉で“家”と意味する言葉で呼んでいた。アイレイドは塹壕を掘って侵入に備えていたので、ブラヴィルはアレッシア軍が第一紀の二世紀に自由化した土地の最後の1つだった。その時代のものは文化的なことも考古学的にも何も資料が残っていないが、放蕩と堕落の物語が伝説化されたことはマーラに感謝すべきだ。 いかにしてアイレイドがそのように長く苦しい期間を生き長らえたのかは今日の学者たちの間でも討論されている。しかしながら、女帝の大隊長の1人であるテオ・ブラヴィリアス・タサスはこの地で勝利の栄誉をつかんだのである。地名はこの男の名にちなんでいる。 テオ・ブラヴィリアス・タサスは激しい抵抗にあいながらも、少なくとも4度に渡ってその村を侵攻したと言われている。しかしいずれも夜明けの時間帯になると、彼の率いる軍隊ほぼ全員が息絶え、殺されてしまうのであった。次に百人隊が到着するまでに、この要塞化された町は再びアイレイドの人々で溢れていた。2度目の侵攻が成功したあと、地下の秘密のトンネルが発見され、埋めはしたものの、夜明けとともに軍隊は再び死滅し、町の人々が戻ってきた。3度目の侵攻が成功したあと、軍隊が町の外側に配置され、攻撃の兆しがないか道路や河川を見張っていたが、そのような兆しは見られなかった。しかし翌朝、侵攻していた兵士たちの死体が町を覆う胸壁から投げ出された。 テオ・ブラヴィリアス・タサスは、アイレイドの人々がこの町のどこかに隠れて夜が更けるのを待ち、兵士が寝ている間に殺しているに違いないとにらんだ。問題は、どこに隠れているかであった。4度目の侵攻のあと、彼は兵を引き連れて、町中のあらゆる角、あらゆる物陰をしらみつぶしに調査して回った。もう探す当てがなくなった頃、この大隊長は2つのことに気づいた。誰も登ることができそうにない、町にそびえ立つ垂直の壁の高いところにくぼみがあって、狭い踏み台になっていた。町なかの川の岸に、明らかに帝都のブーツのものではない、誰かの足跡がくっきりと残っていた。 アイレイドの人々は身を隠す手段を2つ持っているようだ。まず、空中浮揚で壁を高くのぼり、高い所に身を潜めるものと、川の中に潜り込んでその中で呼吸ができるものがいるようだ。奇妙なエルフの輪をかけて奇妙な隠れ場所を見つけてしまえば、もう夜中に軍隊を襲われないように注意することは比較的簡単であった。 しかし、魔術師ギルドが仲間たちにマジカの方法を教えられるよう体系づける何百年も前に、このような呪文の技が町全体に浸透していたのは信じがたいかもしれない。しかしながら、このことはアルテウム島のサイジックが神秘をそういう名前で呼ばれる以前から発展させたのと同じように、シロディール南部のこの不思議なアイレイドが、変性の流派となるものを発展させたという証拠であるとも思える。ブラヴィル征服の当時もそれ以降も、他のアイレイドたちが己の姿を変えることができたという考えは、決して拡大解釈ではない。ブラヴィルに征服される以前の人々は、獣や怪物に変身することはできなかったが、自分たちの姿を隠せる術は持っており、それがとても役立っていたことは確かだ。しかし、結局彼らの身をいつまでも生き長らえさせるほどの力は発揮されなかった。 今日のブラヴィルにアイレイドの存在は微塵も感じさせないが、様式の異なる驚くべき建築物が彼らの存在の証拠である。慈悲深きマーラ大聖堂や領主邸宅などと同じくらい美しくて魅力的で、ブラヴィルの手によらないもので有名なのは、「幸運の老女」という彫刻である。 「幸運の老女」と彼女自身にまつわる物語は、多すぎて列挙できないほどだ。 彼女の母親はブラヴィルの売春婦で、父を知らない子として生まれたと言われている。その不幸が幸運の始まりであった。彼女はほかの子供たちからいじめられ、彼女の父親が誰なのかをしつこく尋ねられた。毎日、彼女はいじめから逃げるように泣きながら小さなボロ家へと帰るのであった。 ある日、ステンダール司教がブラヴィルへと慈善活動を行いにやってきた日のこと。彼は小さな女の子が泣いているのを見つけて、その泣いてるわけを尋ねると、自分の不幸がつらくて、自分の父親が誰なのかがわからないから泣いているといった。 司祭はしばらく考え笑顔でこう答えた。「君は優しい目を持ち、嘘をつかない口を持っている。そんな君は明らかにステンダールの子どもだよ。神のご自愛を受け、思いやりを持ち、当然幸運もたずさえている」 司祭の思いやり深い言葉はその後の彼女を変えた。彼女は誰の子かと尋ねられるたびに、元気いっぱいに「私は神の子よ」と答えるのであった。 やがてその少女は大人になり、バーで働くようになった。お客に対して優しく、穏やかで、飲み代をツケにしてやることもしばしばあった。ある雨の強い夜、彼女はボロをまとった若い男に店の中へと入れ、雨宿りをさせた。その男はお金を一銭も持っておらず、ややケンカ腰で無礼な態度であったが、彼女は男にご飯も食べさせ、寝床も貸してやった。翌朝、男はお礼の一言も言わずに出て行ってしまった。彼女の友人や家族は、もしかしたら危ない男だったかもしれない、もっと用心するようにと彼女に忠告した。 1週間後、皇族の馬車がブラヴィルを訪れた。帝都の王子がその馬車に乗っていた。彼はまったく見違えていたが、まさにあの時彼女が助けた若い男であった。王子はあの時の自分の言動と行動を何度も謝罪し、あれは魔女の一群にさらわれ、呪いをかけられていたのだと説明した。あとになってようやく意識を取り戻したのだと話した。彼女は大変なお礼を受け取り、もちろん優しい彼女は町の人々とそれを分け合い、その後も心ゆくまで長生きしたそうだ。 いつ町の広場に彼女の像が建てられたのか、それを作ったのは誰なのかを知るものはいないが、彼女の像は第一紀の時代から何千年とそこに立っているのである。今日に至るまで、観光客もブラヴィルの人々も、苦労の中で神の幸福が得られるように“幸運の老女”像を訪れる。 魅力と幸せのつまったブラヴィルの村の、より魅力的な一面である。 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/124.html
2920 栽培の月(5巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 栽培の月10日 帝都 (シロディール) 「殿下」と、支配者ヴェルシデュ・シャイエが自分の部屋の扉を開けながら笑顔で言った。「このところお目にかかりませんでしたね。ひょっとしたら殿下は…… リッジャ様が愛らしすぎて具合が悪くなったのかと」 「彼女ならミル・コラップで風呂に入っている」と、皇帝レマン三世が惨めったらしい声で言った。 「どうぞお入りください」 「とうとう3人の人間しか信じられないようなところまで来てしまった。お前と、我が皇太子と、リッジャだ」と、いらだたしそうに皇帝が言った。「元老院は単なるスパイ集団だ」 「どうかなさいましたか、殿下?」と、支配者ヴェルシデュ・シャイエが同情した様子で言いながら、部屋の暑いカーテンを閉めた。大理石の廊下を歩く人の足音や、春先の庭で鳴く鳥の声など、外からの物音はすべてすぐに遮断された。 「ボドラムでの戦いが始まる前に我々が野営をしていた際、わしの息子に毒が盛られたことがあった。その時、ブラック・マーシュ出身のオルマの部族民でカッチカと呼ばれる悪名高い毒殺者が、ケイル・スヴィオで軍隊と一緒にいたという情報をつかんだのだ。本当はわしを殺したかったことは間違いないが、その機会がなかったんだろう」と、忌々しげに皇帝が言った。「だが彼女を告訴するならまず証拠を出すべきだと元老院は言っている」 「もちろんそうでしょうね」と、思いやりを示すようにポテンテイトが言った。「特に、もしその中の一人二人が自ら筋書きに加担していたとすれば。私に考えがあります、殿下」 「何だ?」と、待ちきれない様子でレマンが言った。「早く言いたまえ!」 「この件は撤回すると元老院に申し出てください。私は衛兵を派遣してカッチカの所在を突き止めさせ、尾行させます。彼女と共謀しているのが誰なのかが判明するでしょうし、殿下の命を狙うこの陰謀が果たしてどの程度の大きさのものなのかもつかめるでしょう」 「そうだな」と、満足げに眉を寄せてレマンが言った。「それは名案だ。相手が誰であろうと、そのやり方で突き止めよう」 「もちろんです、殿下」ポテンテイトは微笑みながら、皇帝が部屋を出られるようにカーテンを開けた。部屋の外の廊下にはヴェルシデュ・シャイエの息子、サヴィリエン・チョラックがいた。少年は皇帝に会釈をしてからポテンテイトの部屋に入った。 「何か面倒なことにでもなってるの、お父さん?」と、アカヴィリの少年はささやいた。「皇帝が、ナントカっていう毒殺者の情報をつかんだって聞いたけど」 「話術の最大のコツは──」と、ヴェルシデュ・シャイエが息子に語りかけた。「こちらが相手にさせたいと思っていることを相手がしたくなるように仕向けながら、相手が聞きたがっている言葉を言ってあげることだ。お前には、カッチカに手紙を届けてもらいたい。そして、そこに書かれている指示に完全に従わなければ、命が危なくなるのはこちらよりもむしろ彼女の方だということをちゃんと理解していることを、確認してきて欲しい」 2920年 栽培の月13日 ミル・コラップ(シロディール) リッジャはぷくぷくと泡を立てている温泉にゆったりと浸かり、無数の小さな石で肌がくすぐられているような感覚を味わっていた。頭の上に突き出している岩のおかげで霧雨は当たらず、日の光だけが木々の枝の間から筋となってたっぷりと降り注いでいた。それは牧歌的な生活におけるのどかなひとときであり、入浴後には自分の美しさがすっかり蘇っているはずだということを彼女は知っていた。唯一足りないものは一杯の水だった。温泉のお湯は匂いこそ素晴らしいが、必ずチョークの味がした。 「水!」と、召使いに向かって叫んだ。「水をちょうだい!」 目隠しするように顔に布を巻いた、一人のやせこけた女がリッジャのそばに駆けてきて、ヤギ皮の水袋を落とした。そのあまりの慎み深さにリッジャは思わず笑い出しそうになった──自分が素っ裸でいることを恥ずかしいとは思っていなかったのだ──が、布の透き間から見えた老婆の顔にはそもそも瞳がないことに気がついた。話には聞いたことがあるが一度も会ったことはないオルマの部族民のようだった。生まれつき目がない彼らは、それ以外の感覚がずば抜けて優れている。ミル・コラップの君主は召使いの雇用に関してずいぶんと異国趣味のようだと、リッジャはひそかに思った。 すぐに女は立ち去り、その存在は忘れ去られた。そこにいると日の光と温泉のこと以外は何も集中して考える気になれないことをリッジャは感じていた。水袋のコルクを抜いてみたが、中の液体は妙に金属臭い匂いがした。気がつけば、そこにいるのは彼女一人ではなかった。 「リッジャ様」と、衛兵隊長が言った。「カッチカとお知り合いのご様子ですね?」 「知らないわ、そんな人」と、どもりながら言った。そして、憤然とした様子で言葉を続けた。「ここで何してるの? 私の身体は下品な視線にさらすためのものじゃないのよ」 「お知り合いではないとおっしゃる。ついさっきご一緒におられたようですが」と言いながら隊長は水袋を拾い上げ、匂いを嗅いだ。「ネイヴー・イコーを持ってきたようですね? 皇帝に毒を盛るためですか?」 「隊長」と、駆け寄ってきた衛兵の一人が言った。「アルゴニアンの姿が見当たりません。どうやら森に消えたようです」 「ああ、連中にはお手のものだからな」と、隊長は言った。「だが問題はない。宮中の連絡係を見つけたからな。殿下もお喜びになるだろう。この女を捕まえろ」 身もだえする裸の女を衛兵たちが湯ぶねから引き上げると、彼女は叫んだ。「濡れ衣だわ! 私は何も知らないし、何もしていない! 皇帝がこれを知ったら絞首刑になるわよ!」 「ああ、もちろんそうなるだろうな」隊長が微笑んだ。「皇帝がお前を信用されればの話だが」 2920年 栽培の月21日 ギデオン (ブラック・マーシュ) 酒場「ブタとハゲワシ」は人目につくことなく行動できる場所で、今回のような相手に会う際にズークが好んで用いる店だった。彼とその連れ以外、薄暗い店の中にいるのは霧のような存在の数人の老人のみで、しかも酔いつぶれてほとんど意識がなくなっていた。汚れっぱなしの真っ黒な床は目ではなく足で確かめて歩くべきものだった。空中に浮かんだおびただしい埃はじっとして動かず、わずかに差し込んでくる夕陽の光に映し出されていた。 「激しい戦闘に加わった経験は?と、ズークが訊ねた。「割のいい仕事だが、その分、危険も非常に大きい」 「戦闘経験なら言うまでもない」と、ミラモールが横柄に答えた。「2ヶ月前にボドラムの戦いに行ってきたばかりだ。そっちが責任を果たして、約束どおりの日時に、最小限の護衛を伴って皇帝が馬でドーザ峠を通るようにしてくれれば、俺は俺の責任を果たす。皇帝が変装しないで来るようにさせることだけは忘れないでくれ。皇帝レマンが隠れているかもしれないと疑って、峠を通る隊商を皆殺しにするのはごめんだからな」 ズークが微笑み、ミラモールはそのコスリンギー独特の思慮深そうな顔に自分の姿を見た。彼はその見た目が気に入っていた。完ぺきな自信に満ちたプロの顔だった。 「よろしい」と、ズークは言った。「残りの金は仕事が済んでからだ」 ズークは二人の間にあるテーブルの上に大きな収納箱を置き、立ち上がった。 「数分してから出てくれ」と、ズークは言った。「後はつけないように。依頼主は匿名のままでいたいと望んでいるから、万が一、君が捕まって拷問にかけられた場合のことも用心してる」 「心配するな」と、酒のおかわりを求めながらミラモールが言った。 ズークは馬に乗って迷路のように狭く入り組んだギデオンの道を駆け、ようやく門を抜けて国に入った時には、彼も馬もほっとため息をついたかのようだった。ジョヴェーゼ城に続く本街道は、春になると毎年そうであるように水浸しになっていたが、ズークは丘を越える近道を知っていた。枝にまで苔が生えて垂れ下がっている木の下を走り、つるつると滑りやすく危険な岩場も駆け抜けて、彼は2時間もかからずに城門に辿り着いた。そして直ちに、一番高い塔のてっぺんにあるタヴィアの独房へと駆け上がった。 「どんな男だった?」と、女帝が訊ねた。 「愚か者です」と、ズークは答えた。「しかし、この手の仕事にはむしろそのほうが好都合です」 2920年 栽培の月30日 サーゾ要塞 (シロディール) リッジャは、ただひたすら叫び続けた。独房の中でその声を聞き届けているのは、厚い苔に覆われてはいるがびくともしない大きな灰色の石壁のみだった。外にいる衛兵たちは、彼女だけでなくすべての囚人に対して聞く耳を持っていなかった。遠い彼方の帝都にいる皇帝にも、無実を訴える彼女の叫びはまったく届いていなかった。 おそらくもう誰も聞いてくれないことは十分に分かっていたが、それでも彼女は叫んだ。 2920年 栽培の月31日 カヴァス・リム峠 (シロディール) シロディールであろうとダンマーであろうと、トゥララが人の顔というものを最後に見てから何日、いや何週間も経っていた。道を歩きながら彼女は、これほどまでに住む人が少ないシロディールが皇帝の住まい、すなわち帝都となったのは本当におかしなことだと考えていた。ヴァレンウッドのボズマーにだって、このハートランドよりは住む人の多い森があるに違いない。 彼女は回想していた。モロウウィンドからシロディールに入る国境を越えたのは1ヶ月前、それとも2ヶ月前? 今よりずっと寒かったのは確かだが、それ以外に時間的な手がかりは何もなかった。衛兵たちはぞんざいな態度ではあったが、彼女が何も武器を持っていなかったため、国境通過を許可するほうを選んだのだ。以来、彼女はいくつかの隊商に出会ったし、キャンプを張っていた冒険者たちと食事を共にしたことさえあったが、町まで乗せていってくれる者には一度も出会わなかった。 トゥララはショールを外し、後ろに引きずって歩いた。一瞬、背後にいる誰かの音が聞こえた気がして、振り返ってみた。誰もいなかった。小鳥が枝に留まって、笑い声に似た鳴き声を出しているだけだった。 彼女は歩き続け、立ち止まった。たいへんなことが起きようとしていた。お腹の赤ん坊はそれまでにも蹴ることがあったが、今回のけいれんは違う種類のものだった。うめき声を上げて彼女はよろよろと道の脇に向かい、草の上に倒れ込んだ。赤ん坊が生まれようとしていた。 彼女は仰向けになって力んでみたが、痛みと落胆で涙があふれてほとんど何も見えなくなるばかりだった。なぜこんなことになってしまったのだろう? 荒れ地の中、一人きりでモーンホールド公爵の子を出産することになるなんて。激しい怒りと苦悩で発した叫び声に、木々の鳥が一斉に飛び立った。 先ほど彼女を笑っていた小鳥が道に降りてきて留まった。トゥララがまばたきすると小鳥は消え、そこにダンマーほど浅黒くはないがアルトマーほど青白くもない、一人のエルフの男が裸で立っていた。アイレイドのワイルド・エルフだということは、彼女にもすぐに分かった。トゥララは叫んだが、男が彼女を押さえつけた。数分間のもみ合いの後、すっと力が抜けていく感じがして、彼女は気を失った。 目を覚めさせたのは、赤ん坊の泣き声だった。その子はきれいに拭かれて彼女の隣に寝かせられていた。トゥララは女の赤ん坊を抱き上げ、その年に入ってから初めて喜びの涙が頬を伝うのを感じた。 頭上の木々に「ありがとう」とつぶやき、赤ん坊を両腕に抱えて彼女は道を西へと歩き始めた。 時は真央の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/262.html
不死の血 著者不明 月も星も姿を隠していた。特別静かな夜がいっそう沈んで感じた。街の衛兵は松明なしには巡回もままならなかった。だが、私の聖堂を訪ねてきた男は灯りを携えてはいなかった。やがて気づいた。モバース・ピクインは夜でも昼と同じように見ることができる。素晴らしい才能だった。彼がことのほか夜行性であることを考えたら。 侍者のひとりに連れられてやってきた彼を見たときに、まず、すぐにでも治療しなければと感じた。青白いどころかオパールのような顔色をしていた。耐えがたき苦しみに襲われ、かつての男ぶりの良さが抜け落ちてしまったような顔だった。目のまわりにできたくまが疲労の激しさを伝えていたが、瞳そのものは鋭く、真剣であった。 私の懸念を感じ取ったかのように、彼はすぐさま自分は病気ではないと告げた。それ以上、突っ込んで話そうとはしなかったが。 「バンパイアさ」と彼は言い、私がいぶかしげな顔をしたのを見て、一旦、言葉を切った。「こういうことで力になれるのはあんたしかいないと言われた」 「誰から聞いたのかね?」と、私は笑みを浮かべて訊いた。 「ティシナ・グレイだ」 彼から答えを聞く前から、すぐに彼女だとわかった。勇気と美貌を兼ね備えた騎士で、バンパイアにまつわる虚構から真実をより分ける手助けをしてほしいと頼まれたことがあった。あれからもう二年になるが、音沙汰がなく、私の助言が役立ったのかどうかはわからずじまいだった。 「彼女に会ったのかな? 元気にしてたかね?」と、私は訊いた。 「死んだ」と、モバースは冷淡に言った。と、私がうろたえるのを見るや、緩衝材となるような言葉を継いだ。「あんたの助言はすこぶる効果があったと言ってたよ。少なくとも、あるバンパイアに対しては。最後に話したとき、彼女は別のバンパイアを追ってた。そいつに殺られたんだ」 「となると、私の助言は充分でなかったわけか」私はため息をついた。「なら、どうしておまえには効果的だと考えるのかね?」 「おれはかつて教師だった。昔の話だ」と、彼は言った。「大学とかじゃない。戦士ギルドの訓練師だった。が、生徒が正しい質問をしなかったのなら、失敗したとしても教師に非はないことくらいはわかってる。おれは正しい質問をしようと思う」 そして彼はそうした。何時間ものあいだ、質問を投げかけてきた。私はわかる範囲で答えてやった。が、彼が自分自身のことを率先して話すようなことはなかった。笑うことも。ひたすら鋭い目つきで私の顔をながめ、私が口にする一字一句を記憶にとどめようとしていた。 彼の質問が途切れ、ようやく私が質問する番がめぐってきた。「戦士ギルドの訓練師だったと言ったが、ギルドのためにやっていることなのかね?」 「いや」と、彼はぶっきらぼうに言った。そしてとうとう、私はその熱心な眼差しにいくばくかの疲れを見てとった。「この続きは明晩にしよう、あんたさえよければ。少し眠って知識を吸収しないといけない」 「昼間は寝るのか」私は笑った。 驚いたことに、彼が笑い返してきた。いかにもぎこちなかったが。「獲物を追うときは、獲物の習慣に合わせないといけないからな」 翌日、彼はさらなる質問を抱えて戻ってきた。その内容はかなり具体的だった。彼が知りたがっていたのは、東スカイリムのバンパイアのことだった。私は最強の種族である執念深くて残虐なヴォルキハーのことを教えてやった。その息で獲物の血を凍りつかせるというバンパイアのことを。彼らがどうやって辺ぴな呪われた湖の氷の下で、食事どき以外はあえて人間界に降り立つこともなく暮らしているのか話した。 モバース・ピクインはじっくりと耳を傾けていた。夜にかけてさらに質問をぶつけ、ようやく引き揚げる気になったようだった。 「数日は会うこともないだろう」と、彼は言った。「が、おれは帰ってくる。情報がどれほど役に立ったかをあんたに伝えるために」 それから四日後の深夜を少し過ぎたころ、約束通り彼は聖堂に戻ってきた。頬にまだ新しい傷を負っていたが、あの不気味だが満足げな微笑みを浮かべた。 「あんたの助言はとても役立ったよ」と、そう言った。「けど、ヴォルキハーにはあんたが言わなかった能力が備わっていたことを知っておくといい。やつらは湖の氷を割ることなく水中へ引きずり込もうとしてくる。何の前触れもなく下からいきなりつかまれたもんで、嫌な汗をたっぷりかかされたよ」 「そいつはすごいな」と、私は笑いながら言った。「そして、恐ろしくもある。まだ生きてるとは運がいい」 「運など信じない。信じるのは知識と訓練だけだ。あんたの情報は役立った。そして、おれの接近戦の技術があの吸血鬼の運命に破滅をもたらしたんだ。おれはどんな武器も信用しない。どんなに腕のいい刀匠でも、傷のある刀を造ることくらいあるだろう。だが、自分の体ができることならよくわかる。体勢が崩れるまでに無数の打撃を浴びせられることはわかってる。先手をとれたらの話だが」 「先手をとれたら?」と、私はぼそっと言った。「つまり、虚を突かれるわけにはいかないのか」 「だからあんたに会った」と、モバースは言った。「この世であんたほど、あの怪物のことをわかってる人はいない。各地のいまいましい変種のことにも詳しい。さてと、北ヴァレンウッドのバンパイアことを聞かせてくれないか」 私は希望をかなえてやった。今回もまた、彼の質問に私の知識は悲鳴を上げた。話しておくべき種族はいくつもあった。ろうそくの火で照らさないかぎり、ボズマーと見分けがつかないボンサムのこと。肉体を霧状にすることができるキーリルスのこと。人を丸呑みするイェケフのこと。子どもを食らう恐ろしいテルボスのこと。彼らはやがてその子に成りすまして家庭に入り込み、何年も辛抱強く待ってから、尋常でない飢えを満たすために皆殺しにするという。 またもや彼は数週間で帰ってくると約束して別れを告げ、またもやその言葉どおり、数週間後の深夜過ぎに戻ってきた。このとき、モバースは生傷こと作ってはこなかったものの、やはり新たな情報を仕入れてきていた。 「キーリルスは、水に突き落とされると霧状に変化できないというのは誤りだった」と彼は言い、親愛の情を込めて私の肩をぽんと叩いた。「幸いにも、やつらは霧のままだと遠くへは行けないんだ。で、首尾よく追いつめることができた」 「バンパイアもさぞかし驚いたことだろう。おまえの実践的知識はますます磨きがかかっているな」と、私は言った。「数十年前におまえのような侍者がいてくれたらよかったのだが」 「さて、教えてもらおうか」と、彼は言った。「シロディールのバンパイアのことを」 私はできるかぎりの知識を与えた。シロディールに生息するバンパイアは一種族のみ。帝都がそうしてきたように、すべてのライバルを蹴散らしてきた強力な一族だと。やつらの本当の名前は歴史に埋もれてしまってわからないが、潜伏の達人であるらしい。満腹であるかぎり生きている人間と見分けがつかない。属州のバンパイアと比べると教養があり、文明化されていて、獲物が寝入っているところを闇討ちするという。 「不意を突くのは難しそうだな」モバースは顔をしかめた。「だが、きっと見つけだして、わかったことをあんたに報告しよう。そしてら今度はハイ・ロックのバンパイアについて教えてもらう。それからハンマーフェルとエルスウェーアとブラックマーシュとモロウウィンドとサマーセット島のバンパイアのことも。いいな?」 私はうなずいた。この男は終わりなき旅を続けているのだ。真実のひとかけらを手にしただけでは満足できない。そのすべてを手にしたいのだから。 ひと月たっても彼は戻ってこなかった。ようやく帰ってきたその夜、その顔は落胆と失望に満ちていた。聖堂に火は灯っていなかったが、私はそれを見てとることができた。 「しくじった」と彼は言った。私はろうそくに火をつけた。「あんたの言うとおりだった。どこにも見つからなかったよ」 私はろうそくを顔のあたりまで持っていき、微笑んだ。彼は驚いた。私の顔色の悪さに、私の永遠の瞳に浮かぶよこしまな渇望に、そして私の牙にぼう然としていた。そうだとも。虚を突かれることの許されない男でも、この牙にはすこぶる腰を抜かしたことだろう。 「七十二時間ほど食事をしてなくてね」私はそう言いながら襲いかかった。モバースは先手を打つこともとどめを刺すこともなかった。 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/175.html
シェオゴラス神話 ミモフォナス 著 シェオゴラスは音楽を発明する 最古の時代、世界がまだ未開だった時代に、シェオゴラスは人間に混じって歩くことを決めた。彼は杖を持った紳士に変装して、気付かれずにあちこち移動した。11昼夜の後、シェオゴラスは人間の生活が彼の超俗的な生活よりはるかに退屈であると確信した。 彼らの生活をもっと面白くするために何ができるだろうか? と彼はつぶやいた。同時に、近くにいた若い女が物憂げにつぶやいた、「鳥の奏でる音はとても美しい」 シェオゴラスは黙って彼女にうなづいた。人間は美しく、心を動かされるような鳥の鳴き声を作ることができなかった。その声は哀れで、平凡なものだった。彼は人間の本質を変えることができなかった、それは他のデイドラの王子の権限だったためである。しかし、彼は人間に美しい音を奏でる道具を与えることができた。 シェオゴラスは短気な女を捕まえて、バラバラに引き裂いた。そして、その腱でリュートを作り、その頭蓋骨と腕の骨で太鼓を作り、その骨でフルートを作った。彼はこれらの贈り物を人間に渡し、こうして音楽が生まれた。 シェオゴラスとライアンディール王 ライアンディール王は非常に合理主義的な男として有名だった。彼は小さく、簡単な造りの、芸術品など全くない、みすぼらしい宮殿に住んでいた。「これ以上は必要ない」、彼は言うのだった。「軍や重要な公共事業に使えるものを、なぜそんなぜいたく品のために私の金を使うんだ?」 彼の王国はその実用本位の規則のもとで繁栄した。しかし、人々はいつも王の実用主義的考えを理解していたわけではなかった。必ずしも実用的とは言えなくても、見た目に美しい家を建てる者もいたのだった。彼らは芸術作品に時間とエネルギーを費やした。ぜいたくな祝賀行事を催したことだろう。一般的には、彼らは全くもって幸せだった。 ライアンディール王は彼らのような多くの者が王の見本に従わず、質素で実用的な生活をしなかったことに落胆した。彼は何年もこのことについて考えた。そしてついに、そんなつまらない活動に時間を浪費しなければ、どんなに多くのことを成し遂げられるのかを人々が単に理解していないだけだと彼は確信した。おそらく、人々にはもっと見本が必要だっただけなのだと彼は判断したのだ。 王は今後新たに建てるすべての建物は簡素で、装飾もなく、住居として必要な大きさを超えないように命じた。人々はこれには不満だったが、王のことは好きだったので新しい法を尊重した。2、3年が経過すると、豪華な建物より簡素な建物のほうが多くなった。しかし人々は節約した金をさらに多くのぜいたくな芸術品の作成、購入、そしてさらに度を超えた式典に費やした。 ライアンディール王は、自分の時間と財産をもっと実用的な目的に使えばどれだけ有益か、厳しい見本をもう一度人々に示すことにした。彼は都の中のすべての芸術品を禁止した。これには人々もかなり怒ったが、王が人々のためを思ってやっていることだと理解した。しかし、人間の本性はそんなに簡単には否定できない。さらに2、3年が経過すると、都は簡素で、簡単な造りで、芸術のかけらもない建物ばかりになった。しかし、今や人々はさらに多くの金と時間をパーティや式典に費やしていた。 心を痛めたライアンディール王は、人々は子供のように扱わないといけないのだと考えた。そして子供のように、人々には生活に本当に重要なものは何かを理解させるため権威ある偉人の定めた規則と罰が必要だった。彼は都にお祭り騒ぎは必要ないと考えた。歌、踊り、音楽はすべて禁止された。食べ物や飲み物でさえ、水と簡単な食料品に限定された。 人々はもうたくさんだったが、ライアンディール王には非常によく訓練され、整備された軍隊があったために、逆らうことはできなかった。人々は大挙して聖堂や神殿を訪れ、ライアンディール王がこれらの新らしい圧政的な法を取り消してくれるよう、すべての神、デイドラの王子にさえ祈った。 シェオゴラスは人々の願いを耳にして、ライアンディール王のもとを訪れることにした。彼は花びらの代わりの腕と中心にあるマッドゴッドの顔で花畑のように夢の中にいる王の前に現れた。「私は創造者の君主であり、乱れし者の君主である。おまえには私の創造した贈り物は無用なので、豊富にある他の贈り物で祝福することにした」 その翌日から、都で生まれた子供は皆狂気に襲われた。幼児の心の病は露呈しなかったため、気が付くまでに数年かかった。王自身の息子も犠牲者の1人で、発作や妄想に苦しんだ。しかし、ライアンディール王は方針を変えることを拒んだ。 彼の息子グリントが12歳だった時、寝ているライアンディールを刺した。死に際にライアンディールは尋ねた、「なぜだ?」、息子は答えた、「これが僕にできる一番実用的なことだ」 新しい若い王は王宮にいる召使いを全員殺すように命じた。彼は新しい治世とライアンディールの法の撤廃を祝って盛大な式典をするように命じた。集まった人々に出したシチューは王宮の召使いの死体から作ったものだった。彼はすべての建物の東面の壁を赤く塗り、西面の壁を縞模様に塗るように命じた。彼はすべての市民は豪華な仮面を頭の後ろにつけるように命じた。それから王宮を焼き払い、新しい王宮の建設を始めた。 新しい王宮では、若い王は自分の部屋に扉をつけないように命じた; 小さな森林生物が襲ってくることを恐れたためだ。彼は太陽や月がねたんで彼の死を企てることを恐れて、王宮に窓をつけないようにも命じた。 こうして、ライアンディール王の政策は終わりを告げた。都の人々は豪華な芸術品と騒々しい式典のある生活へと戻った。彼らはまるで自分たちには生き生きとした王がいて、王宮を維持しているかのように話して振舞い、王宮を家のように使い、狂った子供の世話をした。シェオゴラスはこの結果に非常に喜んだ。その翌日から、都はあり得ないほどの数の優れた芸術家と乱れた市民という祝福を受けた。 精神力の争い 以前、ラバトという名の強力な魔導師が、時の風を歩いてシェオゴラス閣下を見つけた。彼の目的はこの最も移り気なデイドラの王子に気に入られることだった。シェオゴラスを見つけると、ラバトは謙虚に話しかけた、「シェオゴラス閣下、お願いがございます。私にその偉大な魔力をお与えいただければ、あなた様の名のもとに喜んで1000人を発狂させましょう」 ラバトにとって幸運なことに、シェオゴラスはご機嫌だった。彼は勝負をもちかけた、「もしおまえが3日間正気でいられたら、願いをかなえてやろう。その間、おまえを発狂させることに全力を注ごう。楽しいことになりそうだ」 ラバトはこの新しい取引にあまり気が向かないと確信していた。彼は本当に1000人を発狂させることを楽しみにしていたのだが。「シェオゴラス閣下、私の浅はかで自分勝手な要求であなた様の邪魔をしたことを後悔しております。私は不運な願いを撤回し、畏れながらこの場を去ります」 シェオゴラスは笑っただけだった、「遅すぎる、強力なラバトよ。勝負は始まっている、おまえは続けなければならない」。ラバトは逃げたが、すぐにデイドラの領域からのすべての出口が閉ざされたことに気付いた。彼は後ろを何度も振り返り、あらゆる音に驚きながらあてもなくさまよった。シェオゴラスが仕掛けてくるのを待っていると、次々と新しい恐怖が襲ってきた。 3日後、ラバトはあらゆる植物や動物はシェオゴラスの道具なのだと確信した。シェオゴラスが食べ物や飲み物に毒を入れるのを恐れて、食べることも飲むこともしなかった。シェオゴラスが夢の中に侵入してくるのを恐れて眠らなかった。(それは愚かだった、夢はヴァーミルナの領域なので、私たちに安らかな眠りを与えてくれるであろうから) その時、シェオゴラスが彼の前に現れた。ラバトは叫んだ、「あたな様は世界中が私を監視するようにされました!あらゆる生物や植物は私を発狂させようというあなた様の命令で動いています」 シェオゴラスは答えた、「実際、私は何もしていない。おまえは自分の恐怖で勝手に発狂したのだ。その妄想がおまえが本当に発狂している証拠だ、だから私の勝ちだ。おまえは1000人を発狂させることを望んでいたが、私はおまえ1人の心を狂わすことを望んでいたのだ」 その翌日から、ラバトはシェオゴラスのあらゆる思い付きのために働いた。勇敢な旅人がシェオゴラスに近づこうとすると、いつでもラバトは警告する、「シェオゴラス閣下はすでに我々の中にいる。おまえはすでに失われているのだ」 SI デイドラの神像関連 神話・宗教 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/251.html
アクラシュの最後の鞘 タバー・ヴァンキド 著 第三紀407年、暑い夏の日、ベールで顔を覆った若くて美しいダンマーの女性が、テアのとある鍛冶屋の親方のところへ足しげく通っていた。地元の住民は彼女の顔を一度も見たことはなかったが、彼女の姿かたちや身のこなし方からきっと若くて美しい女性に違いないと思っていた。彼女と鍛冶屋の親方はお店の裏に引っ込み、店を閉め、数時間の間、弟子たちを帰らせた。昼下がりには、彼女は店から去っていき、また翌日同じ時間に現れるのだった。当然のごとくいろんなゴシップが飛び交ったが、それはとるに足らないもので、たとえばその年取った親方がそのような美しく魅力的な体型の女性とやることとは…… といったがさつな冗談ばかりであった。数週間後にはその定例訪問もなくなり、ティアのスラム街の生活も元に戻っていったのであった。 訪問が止んで1─2ヶ月のこと、近所の酒場にて酒をしこたま飲んだような1人の若い仕立屋がその鍛冶屋に聞いてきた。「それであのおトモダチとはどうしてるんだ? 振っちまったのかい?」 鍛冶屋はその手の噂話が流れていることは知っていたので「彼女は素敵な女性だよ。2人の間には何もなかったよ。ましてや相手は私だ」と答えた。 「それじゃ毎日彼女は何しにきてたわけ?」と、居酒屋の娘はなんとかこの話を広げようとして聞いてきた。 「そうだな」と鍛冶屋は答えた「武具の作り方を教えていたんだ」 「そんなはずないだろう」と言って、仕立屋は笑った。 「彼女はただ私の芸術的な部分に特別惹かれただけさ」と鍛冶屋はちょっとした誇りをちらつかせ、今はなき幻想をなつかしむように言った。「私は彼女に剣の修繕方法を教えたのだ。それもありとあらゆる、刃のこぼれや破損、細い亀裂、割れた柄頭、刀の鍔の片側、柄の部分など、具体的にだ。最初は彼女もまったくの素人で刃物の中子で柄を固定するやり方さえ知らなかったよ。もちろん始めた頃はまったくの手探り状態さ。まあ、それも当然だが。しかし自分の手が汚れることなんか全然気にもしていなかったさ。立派な刃物についてるような小さな金銀の細工の継ぎ合わせ方まで教えたよ。神が神々しい金敷から引っ張り出したかのような、鏡のような光沢を出させる磨き方もね」 居酒屋の娘と仕立屋は大声で笑った。鍛冶屋が何を言ったとしても、鍛冶屋が話すその若い女性の訓練の様子は、遠い過去の悲恋のように聞こえた。 居酒屋にいた地元の人々の多くが鍛冶屋の感傷的な物語を聞いていたが、話題はもっと重要な噂話へと移った。街の中心で上から下まで一気に内臓をえぐられた奴隷商の殺人の話だ。この2週間で6体の死体が発見された。この犯人を「解放者」と呼ぶものもいたが、この街では奴隷商に対する恨みはさほど強くはなかった。どちらかといえば、初期の犯罪の手口が頭を切り落とす手口だったため、「切断者」と呼ばれるほうが多かった。シンプルに体に穴を開けられたり、切り刻まれたり、内臓をえぐられたりといった、そのほかの手口はもあったのだが。 熱狂的なよた者たちが次の犠牲者の殺され方で賭けをする一方で、今のところ生き残った奴隷商たちの多くは、その土地の領主であるセルジョ・ドレス・ミネガウアのところに集まっていた。ミネガウアはドレス家のケチな用心棒であったが、奴隷商仲間の主要メンバーであった。もうすでに彼は落ち目になっていたが、皆は彼の元へ知恵を拝借しに集まったのである。 「我々はこの『切断者』と呼ばれるものがどんな人物であるのか、しかるべき調査にふみこまなければならない」ミネガウアは贅沢に作られた暖炉の前に座りこう言った。「犯人が奴隷制と奴隷商に対して理由のない憎しみを抱いているのは確かである。それに、剣の名手でもある。犯人は我々の背後からそっと忍び寄り、十分な警戒態勢をしいている我々の住居に侵入してくる。私にはどうも犯人は外部の人間としか思えない。実際、モロウウィンドの住人が我々に対してこんな攻撃はしてこまい」 奴隷商たちはみな、この意見に頷いた。このようなトラブルは外部の人間が決まって起こすもので、それはいつも当たっていた。 「わしがあと50歳若ければ暖炉に飾ってあるアクラシュの剣をつかんで出て行くのに」と言ってミネガウアはそのキラキラと輝かんばかりの武器を大きな動きをもって指差した。「そしてお前たちとともに犯人探しへ向うのだが。居酒屋にギルド本部にと犯人の居所を探し回り、この手で首を切り落としてやろうぞ」 奴隷商たちは慎ましやかに笑った。 ソロン・ジェレスという1人の若いおべっかつかいの男が、「あなたのその剣を我々にお貸しいただけませんか?」と熱い口調で頼んだ。 「アクラシュの剣の使い心地はさぞよいものであろう」とミネガウアは息をついた。「だが、わしが引退するときに二度と使わないと誓ったのだ」 ミネガウアは娘を呼び、奴隷商たちにフリンを持ってくるように言うと、みなが必要ないと断った。その日の晩に「切断者」を捕まえにいくというのに酔っていては困るからだ。高い酒を断るほどの彼らの熱意の強さに、ミネガウアは心が打たれた。 最後の奴隷商が帰っていくと、ミネガウアは娘の頭にキスをし、アクラシュの剣に尊敬の念を込めた視線を送りベッドへふらふらと歩いていった。ミネガウアがベッドに入るやいなや、娘ペリアは暖炉に飾られた剣を持ち出し、家の裏手を飛ぶように横切っていった。カザフが馬小屋でじっと彼女の来るのを待っていた。 カザフは物陰から彼女の前に飛び出ると力強く彼女を抱きしめ、長く甘いキスをした。彼女が寄り添うまま、彼は彼女を抱きしめていたが、ようやくペリアは身を離し、彼に持っていた剣を手渡した。彼は刃をかざしてみせた。 「どんなに優秀なカジートの鍛冶屋でもこの鋭さは作り出せないだろう」と、カザフは誇らしげに恋人を見つめながら言った。「昨晩だってうまく殺ってみせた」 「その通りよ。鉄の銅よろいの上から切り込まなきゃいけなかったしね」と、ペリアは言った。 「奴隷商たちも今や警戒をしだしている。集まってどんなことを話していた?」 「外部の人間の仕業だと思ってるわ」と言って、彼女は笑った。「よもやカジートの奴隷がこれまで数々の「切断」をやってのける技術を持っているとは思ってないわ」 「君のお父上はまったく疑ってないのか? 彼の大事なアクラシュの剣が今回の事件に一役買っていることを」 「前日とまったく変わらずそこにあると信じて疑ってないわ。あたしが抜け出たことに誰かが気づく前に戻らなければいけないわ。時々、乳母が結婚式の詳細について尋ねてくるの。まるで私になにか選択権があるかのようにね」 「約束するよ」とカザフは真剣な眼差しで言った。「『奴隷取引王朝』を確立させるためだけの政略結婚なんか絶対にさせないよ。このアクラシュの剣の最後の鞘は君の父上の心臓だ。そして父を失った君は奴隷を全員解放し、もっと文明の進んだ州に移動し、そこで君は好きな相手と結婚できる」 「その相手とは誰かしら」とペリアはからかい、馬小屋から走り去った。 夜が明ける前にペリアは起きて庭を這い出し、新緑の蔦の中に隠されたアクラシュの剣を見つけた。刃は比較的、鋭いままだが、表面に垂直の傷がたくさん入っていた。「また1人、首を切り落とされたんだわ」そう思いながら軽石で丁寧に痕跡を消しさり、最後に塩と酢でもってピカピカに磨き上げ、父親が朝食に起きだす前に暖炉の上のもとあった場所へと戻した。 ケミリス・トロム、彼女の夫となる予定であった男の首が胴体から数フィートも離れた州で発見された事件を聞いた時、彼女は別段悲しんでるふりもしなかった。父親は娘が結婚を嫌がっていたことを知っていた。 「なんということだ。あの青年は非常によい奴隷商だったのに。しかしまあ、我が家の良き同胞となるべき若い男はほかにいくらでもいるからな。ソロン・ジェレスなんてどうだ?」 その2日後、ソロン・ジェレスの元へ「切断者」が訪れた。もみ合いはそう長くは続かなかったが、ソロンはちょっとした護身用の武器を持っていた、それは毒性植物の抽出液に浸した1本の針で、たもとに隠し持っていた。致命的な打撃を食らったあと、前面へと倒れこんだその時、カザフのふくらはぎをそのピンで刺した。彼が剣を返しにミネガウアの家に着いたその時、そのまま彼も倒れこんでしまった。 視界がかすむ中、彼はひさしをつたってペリアの部屋へ上り、窓をコツコツと叩いた。しかし、ペリアは答えず、深い眠りへと落ちていた。それもカジートの恋人とのすてきな未来を夢みながら。彼は強く窓をたたいたため、ペリアは眼を覚ましたが、隣の部屋で眠る父親も目を覚ましてしまった。 「カザフ!」と、娘は窓を開けて叫んだ。彼女の隣に立っていたのはミネガウアだった。 彼が見たものは、自分の所有物である奴隷が、自分の所有物である剣を握り、自分の所有物である娘の頭を切り落とさんとしているところだった。突如、ミネガウアに若い力がみなぎり、息絶え絶えのカジートに近寄り、手から剣を奪った。娘が止めるよりも先に彼は娘の恋人の心臓を突き刺した。 一旦落ち着きを取り戻すと、ミネガウアは剣をその場に落とし、衛兵を呼ぶためにドアへと向かった。ふと彼の頭に、娘はケガはしてないまでも治癒師が必要だ、という考えがよぎった。ミネガウアは娘の方へ振り返った。しばらく、何が何だかわからなかった。強烈な一撃を受けた感じがしたのだが、それが剣だとは思わなかった。まず血を見て、次に痛みに気づいた。自分の娘がアクラシュの剣で自分を突き刺したのだと気づく前に彼は死んでしまった。剣はようやく、おさまるべき最後の鞘を無事見つけたのであった。 一週間後、公式な調査を終え、ガウシュの遺体は邸宅内の敷地に無縁仏として埋葬された。セルジョ・ドレス・ミネガウアの墓は歴代の家族の墓と肩を並べるよう、壮大な霊廟の一角に埋葬された。野蛮な「切断者」として次々と商売仲間を殺していくという裏の一面を持った貴族の奴隷商の葬式を見に、多くの見物人が集まった。式場内は厳粛な静けさが漂ってはいたが、誰もがその奴隷商の人生の最後の場面を想像した。奴隷商は乱心に駆り立てられ、自分の娘を手にかけようしたが、幸か不幸か忠実なる奴隷に止められ、持っていた剣で自分を刺してしまった。 見物人の中にはあの年老いた鍛冶屋もおり、彼はベールで顔を隠したあの若い女性の姿を見た。それが彼女がこの街を去る前の最後の姿であった。 小説・物語 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/120.html
ゾアレイム師匠伝 ギ・ナンス 著 トーバルにある「踊る双子の月の神殿」は何百年ものあいだ、足と拳が資本の戦士にとって、タムリエルの中でも屈指の訓練場でありつづけてきた。師匠たちは帝都各地からやってくる生徒を年齢に関係なく受け入れ、いにしえの技術から近代的な応用技まで幅広く教えている。過去に卒業した多くの門弟たちが成功を収めた。私もそこで学んだひとりだ。子供のころ、最初の師匠であるゾアレイムに訊いたことを覚えている。神殿の教えをもっとも深く理解したのはどの卒業生でしょうか、と。 「あの男に会ったとき、私はまだ師匠ではなく一介の生徒だった」と、ゾアレイムは言った。懐かしむように笑みを浮かべて。師匠のしわだらけの大きな顔が、しなびたバスラムの木の実のように見えた。「ずいぶんと昔の話だ。おまえの両親が生まれるよりも前のことだ。何年も神殿で修練を積んでいた私は、踊る双子の月の神殿の誇る博覧強記の師匠が教鞭をとる、非常に難度が高く、求められるものも大きい授業を受けるほどまでになっていた」 「ギ・ナンス、おまえにもやがてわかる時がこよう。逞しい体は逞しい心と共に鍛えられることを。この神殿には、リドル・サーの流儀に従って我らが何年もかけて築いてきた、基幹となるべき訓練の手法がある。私は階段を登りつめて大いなる力とスキルを手にした。たとえ魔術や神がかり的な力を使おうとも、素手による戦いでこの私に勝てるものはほとんどいないだろう」 「その当時、神殿には奉公人がいた。私や授業仲間よりもいくらか年上のダンマーだ。が、彼のことなどまったく眼中になかった。もうかれこれ数年間、こっそりと訓練場に入ってきて、数分で掃除をすませ、黙ったまま出ていくのが彼の日課になっていたからだ。もっとも、彼が何かしゃべっていたとしても、我らは上の空だったろうが。訓練と授業に入り込んでいたからな」 「最後の師匠が、私を含めた数名の徒弟に向かって、神殿を後にするか師となるときが来たようだと告げると、盛大な祝祭が催された。『たてがみ』もわざわざ足を運んで祝祭をご覧になられた。昔も今もここは哲学と戦闘の神殿であるため、神殿の格闘場では、数名のエリートだけでなく全生徒が参加しての討論会や競技会が行われた」 「祝祭の初日、初戦の相手は誰なのだろうかとグラディエーターの登録名簿をながめていると、背後の会話が耳に入ってきた。奉公人が神殿の大僧正と話していたのだ。ダンマーの声を聞いたのはそのときが初めてだった。そして初めて彼の名を知った」 「モロウウィンドで戦っている郷里の仲間と再会したいという気持ちはよくわかるとも、タレン」と、大僧正は言った。「残念至極ではあるがな。おまえはもう、この神殿になくてはならない存在であったから。みんなさみしがるだろうが。私にできそうなことがあったら、なんなりと申しつけるがいい」 「なんとも嬉しいお心遣いでしょう」と、ダンマーは答えた。「ひとつだけ頼みがございますが、おいそれと認められることではないかもしれません。この神殿にやってきてからずっと、修練にはげむ生徒たちの姿を目にしているうちに、自分でも職務の合間を縫って練習を続けてきたものです。私はしがない奉公人でしかございませんが、格闘場で戦うことをお許しいただけるのなら、まことに名誉でありましょう」 「あまりにおかどちがいなエルフの放言に、私はあえぎかけた。修練を積んだわれわれと対等に戦わせてほしいなどと、よくもぬけぬけと言えたものだ。驚いたことに、大僧正はふたつ返事で請け合うと、初心者階級の登録名簿にタレン・オマサンの名を書き加えたのだ。私はエリートの同輩たちにこの話を耳打ちしたくてうずうずしていたが、あと数分で自分の初戦が始まるところだった」 「私は十八戦連続で戦い、全勝した。格闘場に集った観衆は私の才能のことを知っていて、対戦が終わるたびに控えめな、驚きの少ない拍手を浴びせてきた。どんなに戦いに集中しようとしても、格闘場の他のグラディエーターのほうに注目が集まっていくのが気になってしかたがなかった。観客はひそひそ話に勤しみ、無傷の連勝記録よりもはるかに刺激的で、先の読めない対戦を求めて何人もが席を立ちはじめていた」 「踊る双子の月の神殿で教えるもっとも大切な授業のひとつが、虚栄心を捨てることだろう。私はそのとき、心と体の個人的共時性を成し遂げることの、無意義な外部的影響をはねつけることの大切さを理解してはいたが、心では受け入れていなかったのだな。自分が強いことはわかっていながら、自尊心が傷ついたのだ」 「とうとうチャンピオン決定戦となった。私は勝ち残ったふたりのうちのひとりだった。対戦相手の戦士を目にしたとき、傷だらけの威厳に満ちていた私の心は不信感に染まった。私の敵は奉公人のタレンだったのだ」 「これは冗談にちがいない、哲学的な最終試験にちがいないと、私は自分に言い聞かせた。それから観衆を見やると、世紀の一戦が始まるという期待感で誰もが目を輝かせていた。タレンと敬意を取り交わした。私はぎくしゃくと、彼はいかにも慎み深く。戦いが幕を開けた」 「最初はさっさと終わらせる気でいた。タレンなど格闘場を掃除するほどの価値もないのに、そこで戦うなどもってのほかだと思っていた。まったくとんちんかんな考えだったよ。タレンも私と同じように、何人もの生徒を倒して決勝の舞台まで勝ち上がってきたとわかっていたはずなのに。タレンは私の攻撃に対してよくあるカウンターで応じ、殴られたら殴り返した。幅広いスタイルを持っていて、洗練された難しい足技を使ったかと思えば、次の瞬間には単純なジャブやキックを放ってきた。私は執拗に攻撃を繰り出してタレンを圧倒しようとしたが、私の才能を恐れるような、あるいは見下すような色がその顔に浮かぶことはなかった」 「長い戦いになった。いつ敗北を覚悟したのかは覚えていないが、試合が終わっても結果をすんなりと受け入れた。普段は感じないようなうそ偽りのない謙虚さでもって、私は彼に一礼した。が、万雷の拍手に送られながら格闘場をあとにするとき、私は訊かずにはいられなかった。いったいどうやって師匠級の腕前をこっそりと磨いていったのかと」 「私の立場ではそうするしかなかったのです」と、タレンは言った。「毎日毎日、私は優秀な生徒の訓練場を掃除し、それが終わると初級の生徒の訓練場を掃除してきました。そのせいか、初歩的な失敗や教訓、技術を忘れるという不運に見舞われることなく、師匠のあるべき道を観察し、学んでいくことができたのです」 「翌朝、タレンはトーバルを後にして故郷へ帰っていった。それ以来、彼とは会っていない。人づてに僧侶や師になったという話を耳にはしたが。私も師になって、踊る双子の月の神殿で訓練を始めたばかりの子供達や、才能ある者達の面倒を見ている。そして傑出した生徒がいれば、ゆめゆめ初心を忘れることのないよう、未熟な戦いを見物しに連れていくことにしているのだ」 緑3 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/91.html
ガスタ クバタ クバキス [スロードの言葉で書かれたこの奇妙な文章は、第二紀の西部の死霊術師、ガスタによって書かれたとされている。] N Gasta Kvata Kvakis N Gasta! Kvata! Kvakis! ahkstas so novajxletero (oix jhemile) so Ranetauw. Riccevas gxin pagintaj membrauw kaj aliaj individuauw, kiujn iamaniere tusxas so raneta aktivado. En gxi aperas informauw unuavice pri so lokauw so cxiumonataj kunvenauw, sed nature ankoix pri aliaj aktuasoj aktivecauw so societo, Ne malofte enahkstas krome plej diversaspekta materialo eduka oix distra. So interreta Kvako (retletera kaj verjheauw) ahkstas unufsonke alternativaj kanasouw por distribul so enhavon so papera Kva! Kvak!. Sed alifsonke so enhavauw so diversaj verjheauw antoixvible ne povas kaj ecx ne vus cxiam ahksti centprocente so sama. En malvaste cirkusonta paperfolio ekzemple ebsos publikigi ilustrajxauwn, kjuj pro kopirajtaj kiasouw ne ankstas uzebsoj en so interreto. Alifsonke so masoltaj kostauw reta distribuo forigas so spacajn limigauwn kaj permahksas pli amleksan enhavon, por ne paroli pri gxishora aktualeco. Tiuj cirkonstancauw rahkspeguligxos en so aspekto so Kvakoa, kiu ja cetere servos ankoix kiel gxeneraso retejo so ranetauw. 民族・風習・言語 緑1 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/154.html
妖精族 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 「ついに、タウーバッドは羽ペンの力を知るところとなった」と言って偉大な賢者は物語を再開した。「クラヴィカス・ヴァイルの従僕であるデイドラの妖精族の魂が封じられた羽ペンは、オリエル神殿の週間公報の書記としての彼に大きな富と名声をもたらした。しかし、彼はその羽ペン自体が芸術家であって、自分は単なる魔法の傍観者の1人に過ぎないということに気付いてしまった。彼は激しい怒りと嫉妬に駆られた。泣きながらその羽ペンを真っ二つに折ってしまった」 タウーバッドはグラスのはちみつ酒を飲み干し、それから視線を戻すと、なんと羽ペンは全くの無傷であった。 彼はそれ以外に羽ペンを1本も持っていなかったので、インク壷に自分の指を浸し、雑な字でゴルゴスへメモを書いた。先日の公報を賞賛する神殿からの新しい手紙の束を持ってゴルゴスがやってくると、タウーバッドは先ほど書いたメモと羽ペンを渡した。メモには、「この羽ペンを魔術師ギルドに持って行って、売ってしまいなさい。魔法をかけられていない普通の羽ペンを買ってきなさい」と書かれていた。 ゴルゴスにはそのメモはなんとも不可解に思われたが、メモの通りに実行した。彼は数時間後に戻ってきた。 「あの羽ペンに対して返金することはできないそうです」とゴルゴスは言った。「それに彼らは羽ペンには魔法が封じられていないと言いました。僕が『何を言ってるんですか。あなた方がここで羽ペンに妖精族の魂石の付呪を施したんじゃないですか。』と言うと、彼らは『それはそうですが、今、その羽ペンには魂は宿っていません。何かしたせいで失われてしまったのではないですか。』と言うのです」 ゴルゴスは主人をみつめた。タウーバッドは何も言えなかった。もちろん、いつにも増して何も言えないように見えたという意味である。 「とにかく、言われた通り、前のペンは捨てて新しい羽ペンを買ってきました」 タウーバッドは、その新しい羽ペンを調べてみた。前の羽ペンの羽は鳩のような灰色だったが、新しいペンの羽は真っ白であった。彼の手によく馴染んだ。安堵の溜息を漏らし、手を振って少年を下がらせた。彼は公報を書かねばならなかった。今度は魔法ではなく、己の才能だけに頼るのだ。 二日かかって、なんとか予定通りに仕事を終えた。実に平凡ではあったが、まさしく彼の作品である。ページに目を走らせて少しばかりのミスを見つけた時には、不思議と安心した。公報にちょっとしたミスがあるのは昔からだからだ。「実際のところ……」彼は幸福そうに考え込んだ。「この文章には、まだ見ぬミスが埋もれているのだろう」 平凡な字体で最後の一巻きを書き終えたところに、神殿からの数通の手紙を持ってゴルゴスが来た。タウーバッドはそれら全てに素早く目を通していたが、そのうちの1通が彼の注意をひいた。手紙の蝋封には「妖精族」という文字が見て取れた。彼は戸惑いを覚えながらその封を切った。 そこには完ぺきに美しい筆記体で「あなたは自殺せねばなりません」と書いてあった。 タウーバッドは公報に突然動きがあったのを見て手紙を床に落とした。妖精族の文字は手紙から跳ね出し、巻物に洪水のように押し寄せると、タウーバッドのみすぼらしい文章を最上の美しい作品に変換していった。タウーバッドはもはや、カエルにも似た奇妙な自分の声のことを気にしなかった。彼は長く長く叫び続けた。そして酒を飲んだ。とにかく飲んだ。 金曜の早朝、神殿秘書ヴァンダーシルからの手紙が届けられていた。しかし、午前中の半ばまで、それを読む勇気はなかった。そこには「おはようございます。今まさに公報を納入しようと思っているところです。いつもなら木曜の夜までに仕上げて頂いておりますが…… 興味深いですね。何か特別なことを計画していらっしゃるのでしょうか?──ヴァンダーシル」と書かれていた。 タウーバッドは「ヴァンダーシル、申し訳ない。体調がすぐれないので今度の日曜の公報は書けそうにないのです」と返事を書き、風呂に逃げ込む前に、ゴルゴスに渡した。その1時間後に風呂から戻ると、ちょうど笑顔のゴルゴスも神殿から帰ってきていた。 「ヴァンダーシルさんも大司教も大喜びですよ」彼は言った。「今までの内でも最高の作品だと言っていました」 タウーバッドはわけが分からずにゴルゴスを見つめた。そして公報がなくなっているのに気づいた。怒りに震えながらも、指をインク壷に浸して、「私が渡したメモには何と書いてあった?」と書き殴った。 ゴルゴスは笑顔を引っ込め「覚えてないのですか?」と聞いた。彼は、近頃主人が酒を飲みすぎていることを知っていた。「正確には覚えていませんが確かこんな内容でした。『ヴァンダーシルさん、今回の公報です。遅れてすみません。最近、体調がすぐれないのです。──タウーバッド』また、「そこだ」とおっしゃったので、公報も届けて欲しいのだと思いそうしました。先ほど言いましたが、神殿の方々はとても喜んでいました。今週の日曜には、三倍の手紙が届きますよ」 タウーバッドは笑顔でうなずくと、手を振ってゴルゴスを部屋から下がらせた。ゴルゴスは神殿に戻って行き、彼の主人は机に向かって新しい羊皮紙を1枚取り出した。 彼は羽ペンで「妖精族よ、お前の望みは一体何だ?」と書いた。 その文字は「さようなら。自分の人生に、すっかり嫌気が差してしまったのです。手首を切りました」に変わった。 タウーバッドは「私はおかしくなってしまったのか?」と書いた。 その文字は「さようなら。私は毒を飲みました。人生が嫌になった」に変わった。 「どうして、私にこんなことをさせるのだ?」 「私、タウーバッド・フルジクは、忘恩の念と共には生きていけません。そのため、こうして首に縄をかけることにするのです」 タウーバッドは新しい羊皮紙を手に取ると、指をインク壷に浸けて公報を書き直し始めた。彼のオリジナルの原稿は、妖精族が変えてしまう前には平凡で欠点のあるものだったのに対し、新しく書いたこの公報は殴り書きであった。「i」の点は打たれておらず、「g」は「y」のように見え、文章は余白にまで飛び出して至るところで蛇のようにトグロを巻いていた。インクは1枚目から2枚目まで染みている。筆記帳からページを破り取ろうとして、3枚目が半分になってしまいそうな長い裂け目をこしらえてしまった。そうした出来上がったものは、何かを感情に訴えかけてきた。少なくとも、そのように彼は願っていた。それから、その公報とは別に「私が届けさせた「たわごと」の代わりに、この公報を使って欲しい」という簡単なメモを書いた。 ゴルゴスが新しい手紙を持って帰ってくると、タウーバッドはその公報とメモの入った封筒を彼に手渡した。届けられた手紙はどれも同じようなものだったが、治癒師テレミヒルのものだけ違っていた。「至急、お越しください。あなたの病状に酷似したクリムゾンの疫病の変異型についてブラック・マーシュから報告がありました。もう一度診察をしたいのです。確かなことはまだ言えませんが、しかし、どんな選択肢がありうるか、確認したいのです」 そのショックから立ち直るのには、その日の残りの時間と15ドラムの強いみつばち酒が必要だった。二日酔いから立ち直るのには翌朝の大部分を費やした。タウーバッドはそれから、ヴァンダーシルに羽ペンを使って手紙を書き始めた。「書き直したほうの公報を、どう思われましたか?」妖精族の手にかかるとそれは「私は火中に飛び込もうと思います。才能は枯渇してしまった」になってしまった。 タウーバッドはその手紙を指にインクを付けて書き直した。ゴルゴスが現れて、一枚の手紙を差し出した。それはヴァンダーシルからのものだった。 そこには「あなたは神々しい霊感だけでなく素晴らしいユーモア感覚の持ち主でもあるのですね。本当の公報の代わりに、あなたから送られた落書きを貼り出している場面を思い浮かべてみて下さい。大司教様は、たいへんに笑っていらっしゃいました。あなたの来週の作品を待ち切れません。──愛情をこめて、ヴァンダーシル」 その1週間後の葬式には、タウーバッド・フルジクにはとても信じられなかったであろうほどたくさんの友人と崇拝者が参列することになった。もちろん棺は閉められねばならなかったが、まるで芸術家自身であるかのように、そのオーク材の棺の滑らかな表面を撫でようとする参列者があとを絶たなかった。大司教が葬儀を執り行い、普段よりは丁寧な弔辞を読み上げた。タウーバッドの古き仇敵にしてヴァンダーシルの前の秘書であるアルフィアもクラウドレストから訪れて、泣き叫びながら、誰彼構わずに、タウーバッドの示唆が自分の進むべき道を変えたのだと訴えた。アルフィアは、羽ペンを自分に遺すというタウーバッドの遺言を聞いて号泣した。ヴァンダーシルは、そのハンサムで素敵な1人の男性、テレミヒルを見つけるまで、ひどく悲しんでいた。 「まったくもって信じられません。彼が亡くなるだなんて。もう会うことも話すことも出来ないだなんて」とヴァンダーシルは言った。「亡骸は見ましたし、まだ燃やされてはいなかったですけど、彼が本当にタウーバッドさんであるかどうかは私にはわかりません」 「何かの間違いであると言いたいところですが、彼本人であることを裏付ける多くの医学的証拠がありますから」とテレミヒルは言った。「いくつかこの目で確認しました。実を言うと、彼は私の患者でした」 「本当ですか?」ヴァンダーシルが尋ねた。「一体なんの病気で?」 「何年も前から、声を奪われてしまうクリムゾンの疫病を患っていました。でも、完全な治療法が見出されたのです。実は、彼が自殺した当日にも、そのことを伝える手紙を出しておいたところです」 「あなたが、あの治癒師ですか?」ヴァンダーシルが声を上げた。「彼の斬新で素朴なデザインの公報についての手紙をゴルゴスに渡す時に聞いたのですが、ちょうど、あなたの手紙を届けたところだと言っていましたよ。その公報というのが、驚くべき一品でした。こんなことを彼にはとても言えませんでしたが、最初は彼が流行おくれのスタイルの中で立ち往生してしまったのかと疑ったものです。しかし、それこそ彼が燦然と輝く栄光のかなたへと旅立つ前に、天才の最後を成し遂げたという証明なのです。何の比喩でもありません。まったくの文字通りです」 ヴァンダーシルは治癒師にタウーバッドの遺作を見せた。テレミヒルは、そのオーリーエル神の権能と威厳を称える、ほとんど判読できない程に熱狂的な数枚の公報を見て、ヴァンダーシルの意見に賛成した。 「さっぱり分からなくなってしまいました」とヴォングルダクが言った。 「どの部分についてだね?」と偉大な賢者は尋ねた。「この物語は非常に筋が通っていると思うのだが」 「どんな公報も妖精族は素晴らしい作品に仕立て上げました。しかし、タウーバッドの最後の公報だけは彼自身が書いたはずです」と思慮深そうにタクシムは言った。「でも、どうして彼はヴァンダーシルと治癒師からの手紙の内容を読み違えてしまったのですか? その手紙の文面も、妖精族が変えてしまったのでしょうか?」 「恐らくはそうだな」賢者は笑みを浮かべた。 「あるいは、妖精族が、タウーバッドの文章を読み取る力を変えてしまったのでしょうか?」と、ヴォングルダクが尋ねた。「つまり、妖精族が彼をおかしくしてしまったのでしょうか?」 「それも大いにありうることだ」と、賢者は言った。 「そうなると、妖精族はシェオゴラスの従僕だということになりませんか」と、ヴォングルダクは言った。「しかし、彼はクラヴィカス・ヴァイルの従僕であると、先生はおっしゃいました。いたずらと乱心と、どちらを司るデイドラなのでしょうか?」 「意思が妖精族によって確かにねじまげられたのです」と、タクシムは言った。「それがまさに呪いを永遠のものにするクラヴィカス・ヴァイルの従僕のやり方です」 「この書記と呪われた羽ペンの物語の結末に関しては、君たちの望むようにしておけばよい」と偉大な賢者は、微笑みながら言った。 小説・物語 茶2