約 3,151,993 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/213.html
ハルガードの物語 タヴィ・ドロミオ 著 「史上最強の戦士はバイルス・ノメナスに違いないぜ」と、シオマーラは言った。「ノメナスよりも広大な地域を征服した戦士の名前を一人挙げてみな」 「そりゃあ、タイバー・セプティムさ」と、ハルガードは言った。 「セプティムは戦士じゃない、統治者だ。政治家だよ」と、ガラズは言った。「それに、征服した土地の広さだけで最強の戦士が決まるわけじゃない。剣の腕前なんてどうかな?」 「なにも剣だけが武器じゃない」と、シオマーラは異議を唱えた。「斧や弓の腕前じゃだめなのか? 武芸百般で最強の達人は誰だろうな?」 「武芸百般で最強の達人なんて思い浮かばんよ」と、ハルガードは言った。「ブラック・マーシュなら、アギア・ネロのバラクセスが最強の槍の使い手。アッシュランドのアーンセ・ルラーヴは比類ない棒術の名人。刀の達人はおれらが聞いたこともないようなアカヴィルの武将かもしれない。弓術となると……」 「ペリナル・ホワイトストレークは、たったひとりでタムリエル全土を征服したって話だぜ」シオマーラが割り込んできた。 「第一紀の前の話だろうが」と、ガラズは言った。「どうせ大半は神話さ。けど、偉大な戦士なら近代でもたくさんいるぜ。強奪者キャモランなんてどうだ? 混沌の杖を元どおりにしてジャガル・サルンを征伐した、知られざる英雄さ」 「無名のチャンピオンは、偉大な戦士とは呼べんな。女帝カタリアのチャンピオン、ナンドール・ベレイドならどうだ?」と、シオマーラは言った。「この世の武器ならなんでも使いこなしたという話だぜ」 「けど、ベライトはどうなった?」ガラスは笑みを浮かべた。「幽霊海で溺れ死んだのさ、鎧が脱げなくてね。注文の多いやつだと言われそうだけど、地上最強の戦士なら鎧の脱ぎ方くらい知っていてしかるべきじゃないかな」 「鎧の着こなしのうまさを技巧として評価するのは、難しいところだな」と、シオマーラは言った。「鎧一式を身につけたときに普段どおりに動けるか、動けないかのどっちかしかない」 「それはちがうな」と、ハルガードは言った。「そういう達人もいる。鎧を着てないときよりも着てるときのほうが、あれこれ巧くこなせてしまうものたちが。王の偉大なる祖父、フラール・パソロスの話を聞いたことがあるか?」 シオマーラとガラズは聞いたことがないと認めた。 「何百年も昔の話だ。パソロスは広大な土地を支配してた。その地で最強の戦士であることの証として勝ち取ったものらしい。現在の氏族の権力のほとんどは、パソロスが戦士として手に入れたものの上に成り立っていると言われてきたし、それは真実だろう。彼は毎週のように城でゲームに興じていた。近隣の地所のチャンピオンを相手に腕試しをして、賞品を勝ち取っていたんだ」 「パソロスは、武器の扱いに長けていたわけではなかった。斧や長剣もそれなりに使いこなせたが、重たい鎧一式を装備しながらてきぱきと俊敏に動けるのがご自慢の才能だったんだ。鎧を着てるときのほうが足が速いとさえ噂するものもいた」 「この物語の数ヶ月前、パソロスは近隣に暮らす娘を勝ち取った。メナという美しい女性で、彼は彼女を妻としてめとった。パソロスはメナを溺愛したが、とにかく嫉妬深かった。まあ、それももっともなことだが。メナは彼の夫としての能力に不満を感じていたんだな。それでも、メナが決してふらふらと出歩かなかったのは、パソロスが厳しく監視していたからだった。メナという女は、わかりやすく言うと、生まれながらの淫乱だったんだ。それに、賭けの対象にされたことで憤慨していた。パソロスが出かけるときはいつも彼女を同伴させた。ゲームの時は、特別にあつらえた箱に彼女を入れておき、勝負の最中でも目が届くようにしていた」 「しかしながら、本人は気づいていなかったが、パソロスの真の挑戦者は、やはり過去のゲームで勝ち取った若いハンサムな鎧職人だった。メナは彼を意識していた。タレンという名の鎧職人もはっきりと彼女を意識していた」 「ひわいな冗談にもなりそうな話だな、ハルガード」と、シオマーラは笑いながら言った。 「それはまったくもって正しいな」と、ハルガードは言った。「恋人たちが直面していた問題は、もちろん、どうしてもふたりきりになれないことだった。そういうせいもあって、ふたりの欲望は余計に燃えたんだと思う。タレンはふたりが愛を交わすとしたら、ゲームの最中しかないと踏んだ。メナは仮病をつかって、箱に入らなくてもすむように仕向けた。が、パラソスは勝負の合間を縫って数分おきに病室にやってきたため、タレンとメナはまたもやひとつになれなかったんだ。病気の妻を見舞うため、パソロスががちゃがちゃと鎧を鳴らしながら階段をのぼってくるのを聞いて、タレンはひらめいた」 「タレンは、主人のために鎧一式を新調したんだ。頑丈で色鮮やかで美しく装飾された鎧を。しめしめとばかりに、彼は脚の関節部にルカの粉をすり込んだ。パソロスが汗をかけばかくほど、脚を動かせば動かすほど、関節部がくっついて離れなくなるという寸法だった。しばらくすればパソロスは素早く動けなくなり、勝負の合間に妻を訪れようとしても時間切れになるはずだった。が、念のため、タレンは脚に鈴をつけておき、歩くと盛大に鳴るようにしておいた。彼が接近してきても余裕を持って対処できるように」 「翌週のゲームが始まると、メナはまた仮病をつかい、タレンは主人に新作の鎧を献上した。彼の期待どおり、パソロスはご満悦といった顔つきになって、最初の対戦にのぞむべく鎧を身につけた。タレンはこっそりと二階へ向かい、メナの病室に忍び込んだ」 「ふたりが愛を交わしはじめても、部屋の外はひっそりとしていた。メナははたと気づいた。タレンがおかしな表情になって、どうしたのかと尋ねようかと思った矢先、彼の首がごろりと落ちたのだ。背後には、パソラスが斧を手にして仁王立ちしていた」 「どうしてそんなに早く二階にやってこれたんだ、関節がくっついてるってのに? それに、鈴の音は聞こえなかったのか?」と、ガラズは訊いた。 「まあ、なんというか、足が思うように動かないとわかると、パソロスは逆立ちして歩いたんだ」 「ばからしい」シオマーラは笑い声をあげた。 「それからどうなった?」と、ガラズは訊いた。「パソロスはメナも殺したのか?」 「それからどうなったのか、詳しいことは誰も知らないんだ」と、ハルガードは言った。「パソロスは次のゲームには戻ってこなかった。その次のゲームにも。四ゲーム目になってようやく戻ってきて、戦いを再開したんだ。メナは箱の中から観戦した。もはや体調が悪そうには見えなかったらしい。それどころか、笑っていたんだ。ほんのりと顔を赤らめて」 「やったのか?」シオマーラは大声をあげた。 「そのあたりの事情はさっぱりわからないが、ゲームが終わると、パソロスの鎧を脱がせるのに従者が十人がかりで十三時間かかったそうだ。汗と混じったルカの粉のせいで」 「どうにも解せないな。パソロスは鎧も脱がずにあれをやったと── でもどうやって?」 「言っただろ」と、ハルガードは答えた。「この話は、鎧を着てないときよりも着てるときのほうが俊敏になんでもこなせる男の話なんだよ」 「いやはや、すごい才能だな」ガラズは言った。 小説・物語 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/118.html
シェザールと神々 帝都図書館 古代神学・古数神秘学芸員補 フォースティラス・ジュニアス 著 シェザールは誤解されがちな存在であるが、シロディールでは信仰を勝ち得ている。彼や、他の多くの神々は、帝都における数々の大規模な宗派の崇拝の対象となっている。シェザールは特に西部コロヴィア地方で崇拝されており、当地ではショールという名で呼ばれている。西部の王たちの多くが民族意識的にも宗教的にもノルドであるためである。 シェザールと他の神々との関係にはわからない部分が多い(彼はよく神々の「失われた兄弟」と呼ばれる)。その経歴はシロディールの「奴隷の女王」と呼ばれた聖アレッシアが帝都シロディールの原型を築いた時代から始まる。ハートランドにおけるシロディールとノルドたちの歴史の初期、シェザールは人間を代表してアイレイド(ハートランドの支配者エルフ)と戦った。その後、なぜかシェザールは歴史の舞台から消え(他の土地の人間を助けに行ったと考えられている)、彼の統率力を失った人間たちはアイレイドによって征服され、彼らの奴隷と化した。 奴隷制度は何世代にもわたって続いた。そのあいだ、互いに接触のなかった人間たちは主人であるエルフたちの神々を崇めるようになり、また彼らは支配者エルフの宗教的な習慣を彼ら自身の信仰に取り入れたため、人間とエルフの宗教は混ざり合い、区別があいまいになっていった。 第一紀242年、アレッシアと彼女の半神の恋人である「カイネの息吹」モーリアウス、そして悪名高いペリナル・ホワイトストレークに率いられ、シロディールの人間たちは反乱を起こした。スカイリムがこの南の奴隷の女王に味方の兵を送って協力したため、反乱は成功した。アイレイドの覇権は瞬く間に滅ぼされた。それからまもなくして、アレッシアの勢力は白金の塔を占領し、アレッシア自ら最初のシロディール女帝となった。そのことはまた、彼女がアカトシュ信仰の女教皇となったことも意味した。 アカトシュはアルドメリの神であり、アレッシアの治める人々はまだエルフの神々への信仰を捨てようとしていなかった。このことは、彼女に政治的な問題をもたらした。彼女はノルドの人々を支配化に置いておきたかったが、彼らは(当時は)エルフの宗教を拒絶していたのである。だからといって、人々に今度はノルドの宗教を強要することはさらなる革命をまねく恐れがあり、避けたかった。そのため、宗教的寛容が推進され、女皇アレッシアは新たな信仰の対象を設けた。八大神である。八大神は、ノルドとアルドメリそれぞれの宗教の綿密な調査に基づく適切な融合であった。 結果として、シェザールについても変更が加えられなくてはならなかった。彼はもはや、アルドメリと敵対する血に飢えた武将ではいられなかったのである。しかし彼はまた、消え去ることもできなかった。彼を信仰することを否定すれば、ノルドの人々はアレッシアの支配圏から去ってしまっていたであろう。最終的に、彼は「人間の全ての営みを助ける御霊」ということになった。これはショールの特徴を薄め、軽く偽装したようなものであったが、ノルドたちは満足していた。 なぜタイバー・セプティムがアルドメリの領土を攻める際に本来のシェザールを「復活」させなかったのかについては、憶測の域を出ないが、アレッシアたちの悪行(ドラゴンの突破、正義戦争、ゲルナンブリア・ムーアでの敗北)の記憶は、帝都の王座をめぐる戦いに不利に働くと考えられたからであろう。 九大神の騎士関連 白1 神話・宗教
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/179.html
狂気の十六の協約 第十二巻 マラキャスの物語 オルシニウムの発見が為される前の時代、疎外されていたオークの民は、我々の時代における彼らの子孫が慣れているそれよりずっと厳しくおびただしい追放と迫害の対象となっていた。そのため多くのオーシマーのチャンピオンが、同胞の増殖のために境界を強化しながら旅をした。たくさんのチャンピオンたちが今でも語りぐさとなっており、その呪いの軍団には、無毛のグロンマと、気高いエンメグ・グロ=カイラも含まれている。後者の聖戦士は、あるデイドラの王子たちに目をつけられることがなければ、タムリエル中に知られる伝説的存在へと間違いなくのし上がっていたはずである。 エンメグ・グロ=カイラはある若い女性の庶子として生まれたが、母親は彼の出産と共に亡くなっていた。そのため、現在はノルマル高地と呼ばれている山に住む彼の部族、グリリカマウグの、シャーマンに育てられることになった。15歳の後半になってから、エンメグは部族における成人の儀式に従い、手の込んだウロコ鎧を一式、自分で鍛造して作った。ある風の強い日、エンメグは最後の鋲を打ち込み、分厚い外套の上に重いマントを羽織って、村から永遠に旅立った。隊商を盗賊の手から守ったり、奴隷にされた獣人を解放したりといった英雄的行為の噂が、常に故郷にまで届いた。気高いオークの聖戦士の噂はブレトンの者たちにまで喜々として語られるようになったが、わずかばかりの恐怖心を伴って伝えられることも多かった。 成人に達してから2年も経っていなかったある晩、グロ=カイラがテントを張っていると、どんよりとした闇の中から呼びかけるか細い声が聞こえた。明らかにオークの者ではない口から自分の部族の言葉が出るのを聞いて、彼は驚いた。 「カイラ卿よ」と声は語りかけ、「お前の功績が多くの者たちの口に伝っており、私の耳にも届いたのだ」。エンメグが暗闇に目をこらすと、ぼんやりとしたたき火に揺らめくように、外套をまとった者のシルエットがどうにか見えた。声のみで判断すると、侵入者は老婆かと思われたのだが、細かい所までは何も分からないものの、どうやらきゃしゃでひょろっとした体つきの男がそこにいるようだった。 「そうかもしれません。」と、慎重なオークは答え、「しかし私は栄光を求めてはいません。あなたは誰なのですか?」 質問を無視して、そのよそ者は話を続けた。「にもかかわらず、オーシマーよ、栄光はお前にもたらされた。そしてそれに見合う贈り物を私は携えている」。訪問者は外套をわずかに開き、淡い月の光にかすかにきらめくボタンだけをのぞかせながら、一つの包みを取り出し、二人の間にあるたき火のそばに放り投げた。その物に巻かれたぼろ切れを注意深く取り除くと、凝った装飾の柄を持つ、幅の広い弓なりの刃が出てきて、エンメグは驚嘆した。剣はずっしりと重く、実際に振ってみると、手の込んだ柄がかなりの重さを持つ刃とのバランスを保つという実用的な役割を果たしていることが、エンメグには分かった。今の状態では特にどうということがないようにも見えるが、汚れを落とし、取れてしまっている宝石を元通りにすれば、自分の十倍もの評価を持つチャンピオンにもふさわしい剣になるだろうと思われた。 「剣の名はネブ=クレセンだ」と、その価値を認めて顔を輝かせるグロ=カイラを見ながら、やせたよそ者が言った。「私は暖かい地方で、1頭の馬とある秘密とを差し出して、それを手に入れた。だがこの年齢になっては、そんな武器を持ち上げられるだけでも幸運というものだ。お前のような者に渡すことこそ、正しいことと言えるだろう。その剣を手にすれば、お前の人生は永遠に変わることになる」。鍛え上げられた弓なりの鋼鉄に夢中になる気持ちをひとまず抑え、エンメグは訪問者に注意を戻した。 「お言葉はもっともですが、ご老人、」あえて疑念を隠さずにエンメグが言った「私も馬鹿ではありません。交換によってこの剣を手に入れたのなら、今夜もまた、何かと交換するつもりでしょう。望みは何です?」。よそ者が肩の力を抜き、黄昏時にやってきた真の目的を明らかにしてくれたので、エンメグは喜んだ。よそ者と一緒にしばらく座り込んだ後、風変わりな武器との交換品として、たくさんの毛皮と、温かい食事、一握りの硬貨を彼に差し出した。朝が来る前に、よそ者は去っていった。 エンメグがよそ者と出会った翌週は、ネブ=クレセンが鞘から抜かれることはなかった。森で敵に遭遇することはなかったし、食事は弓矢で捕まえた鳥や小さめの獲物で賄っていたからだ。安らかでいられることが心地よかったが、7日目の朝、低く垂れ下がった大枝の間にまだ霧が立ち込めていた頃、深い雪と森の堆積物をザクザクと踏みしだく確かな足音が近くで発せられているのを、エンメグの耳は聞き取った。 エンメグは鼻の穴をひくひくさせてみたが、彼のほうが風上だった。訪問者の姿も匂いも分からず、しかも自分の匂いがそよ風に乗ってその相手のほうへと流れていることを知ったエンメグは警戒を強め、ネブ=クレセンを慎重に鞘から抜いた。次に何が起きたのか、エンメグ自身にも完全には分からなかった。 ネブ=クレセンを抜いてからの最初の記憶としてエンメグ・グロ=カイラの意識に残っているのは、弓なりの剣が目の前でさっと振られ、森の地面を覆う汚れなき粉雪に血が飛び散った光景だった。次に記憶にあるのは、激しく血を欲する感情が自分に忍び寄ってきたことだったが、その時になって初めて、彼は犠牲となった者の姿を目にしたのだった。それはおそらく彼より少し若いと思われるオークの女性で、その身体には、屈強な男を10回は殺せるほどのむごたらしい傷が一面についていた。 それまで彼を包んでいた狂気を嫌悪感が圧倒し、自らの全意志に後押しされるような形で彼は握りしめていたネブ=クレセンを放り投げた。耳障りな音を立てながら剣は宙を切り裂き、雪の吹き溜まりに埋まった。恥ずかしさと恐怖を感じたエンメグは、昇る太陽からの批判の視線を避けるかのように外套の頭巾で顔を隠して、その場から逃げ去った。 エンメグ・グロ=カイラが同族の一人を殺害した現場は、ゾッとするような有り様だった。死体の首から下は見分けもつかないほど斬りつけられて損なわれていたのに、無傷の顔は絶望的な恐怖の表情をしたまま凍りついていたのだ。 この場所でシェオゴラスがある儀式を行ってマラキャスを召喚して、デイドラの主である二人は、ひどく損なわれた死体の前で問い詰め合った。 「なぜこれを私に見せるのだ、マッドゴッド?」。言葉を失うほど激怒していた状態から立ち直って、マラキャスが口を開いた。「我が子らの殺害を嘆き悲しむ姿を眺めて、楽しもうとでも言うのか?」。ガラガラとした声を轟かせながらそう言うと、オーシマーの守護者である彼は責めるような目で相手を見つめた。 「生まれに関しては、彼女はお前の物だ。落ちこぼれの兄弟よ」。いかめしい顔つきと態度でシェオゴラスが話し始めた。「だが自らの習性により、彼女は私の娘になったのだ。私の悲嘆は決してお前のそれに劣る物ではないし、憤激もまた然りだ」 「それはどうか分からないが、」マラキャスが声を轟かせ「この罪に対する報復が私の役割であることは確かだ。貴様との争いなど望んではいない。下がっていてくれ」。恐怖の王子が押しのけて通り過ぎようとすると、シェオゴラス閣下が再び話し始めた。 「お前の報復を邪魔するつもりは全くない。実際、私はお前を助けたいのだ。この荒野には私の召使いがいて、我々の共通の敵がどこにいるのかを教えることができる。ただ、お前には私が選んだ武器を使ってもらいたい。私の剣で罪人を傷つけて、私の平面へと追いやって、私自身の罰を受けさせてやって欲しい。名誉のための殺人をする権利は、お前にある」 その申し出にマラキャスは同意し、幅広の剣をシェオゴラスから受け取ってその場を後にした。 マラキャスは殺害者の行く手に姿を現した。外套を身にまとった彼の姿は、猛吹雪の中にかすんで見えた。周囲の木をしおれさせるほど汚らわしい悪態の言葉をがなり立てながら、マラキャスは剣を抜き、野生の狐よりも素早く相手との距離を縮めていった。烈火のごとく怒った彼は滑らかな弧を描くようにして剣を振り、敵の首をきれいに切り払った。さらにその刃を胸に突き刺して柄の部分まで押し込み、血が噴き出すのを抑えたため、ウロコ鎧と重い外套の下で赤い泡の染みがじわじわと広がっていった。 予期せぬ慌ただしさと憤激を込めて殺害を行ったマラキャスは息を切らし、激しく傷ついて仰向けに倒れた死体と、大きな平たい石の上に無様に乗っかった首を前にして、片膝をついて休んだ。すると突然、静寂を打ち破る音が聞こえてきた。 「わ、悪かった……」。そう吐き出した声は、エンメグ・グロ=カイラの物だった。マラキャスが目を見開き、切断された頭を見つめると、傷口から血が染み出しているというのに、まだそれが生きていることが分かった。その瞳は激しく揺れ動き、前にいるマラキャスの姿に焦点を合わせようとしていた。かつて誇りに満ちていたチャンピオンの瞳は、深い悲しみと苦しみ、そして混乱がもたらす涙で一杯になっていた。 恐ろしいことに、ここに至って初めてマラキャスはあることに気がついた。彼が殺した男は、彼にとってオーシマーの子の一人であるというだけでなく、文字どおり、彼が今から幾年か前にあるオークの乙女に授けた息子だったのだ。落胆と衝撃に包まれて、二人はしばらくの間、痛々しく見つめ合った。 やがて、油を塗った鉄のごとき静けさで、シェオゴラスがその空き地まで歩いてやって来た。そしてエンメグ・グロ=カイラの切断された首を持ち上げ、小さな灰色の袋に放り込んだ。シェオゴラスはネブ=クレセンを死体から引き抜くと、背を向けて去っていった。マラキャスは立ち上がりかけたが、取り返しがつかないほど我が子を破滅させてシェオゴラスの領域へと送ってしまったことを知り、再びひざまずいた。そして、しわがれた声で弁明をする息子の声が凍える地平線へと消えていく中で、己の失敗を嘆き続けたのだった。 SI 神話・宗教 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/37.html
魔術師ギルド憲章 Ⅰ.目的 魔術師ギルドは魔術の専門家に利益を分配し、また魔術の公正な使用に関する規律を制定する。魔術師ギルドは、タムリエル市民の公益に重きを置き、魔術に関する知識の収集、保存、分配にあたる。 Ⅱ.権威 魔術師ギルドは、ヴァヌス・ガレリオンとライリス十二世によって第二期230年サマーセット島に設立され、その後、支配者ヴェルシデュ・シャイエのギルド法令によって認可された。 Ⅲ.規律および処分 ギルド構成員に対する犯罪には、厳罰をもって対処する。ギルド構成員のギルド内における以前の地位への復帰は、アークメイジが決定権を持つ。 補還:第三期431年より有効、ギルドに対する犯罪を犯したギルド構成員は、その場でギルド構成員としての諸権利を差し止められる。差し止めは、魔術師評議会の役員の決定により解除される。複数回差し止めを受けたギルド構成員は、評議会の略式決定に基づき即座に、永久的にギルドから追放される。 Ⅳ.加入資格 魔術師ギルドは、優れた知性と高い理想を持つ者をギルド構成員として受け入れる。候補者は、次に挙げる魔術の主要な分野に精通していなければならない:破壊、変性、幻惑、神秘。また、候補者は、魔術と錬金術に関する実際的な知識を有することも証明しなければならない。 Ⅴ.加入手続き ギルド構成員候補者は、ギルド本部の執事に面会し、考査の上、承認を得なけらばならない。 補還:第三期431年より有効、アークメイジであるトレイヴンの決定に基づき、候補者はギルド本部の全ての役員の承認を得た上で、その旨を速やかに魔術師評議会へ書面で通知しなければならない。 補還:第三期431年より有効、評議会の決定に基づき、帝都州における呪文の販売の収益は、ギルド本部に再分配される。各魔術分野は、下記の支部がそれぞれ担当する。 変性:シェイディンハル 召喚:コロール 破壊:スキングラード 幻惑:ブラヴィル 神秘:レヤウィン 回復:アンヴィル 社会 茶2 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/137.html
先駆者たち シヴァリング・アイルズの奇妙な廃墟の検証と、我々の未来に対するその恐ろしい意義 放浪者イングヴァール 著 地方に点在する古代の廃墟は、シヴァリング・アイルズの住民たちにとっては見慣れた光景である。あまりにも見慣れているため、その重要性について大部分の人たちがこれまで気づかなかったほどだ。最近になって私はこれらの廃墟に隠されていた恐ろしい秘密を発見し、その秘密をここで皆さんと共有したいと思う。しかし忠告しておくが、この知識は一部の人にとっては過酷すぎるかもしれない。恐ろしい運命が待ち受けているというのに、それを避ける術が全くないのだから。残酷な未来があらわになることで受ける精神的な衝撃に耐えられるだけの強い心を持っているなら、読み進めなさい。 廃墟に対する私の興味は、ある単純な観察から始まった。表面的に見る限り、どの廃墟もだいたい同じ古さと建築様式を持っているようである。かつては堅固だったはずのこれらの構造物を作ったのは一体誰で、その人々に一体何が起きたのだろうか? 調査を進めるうち、さらに奇妙な真実が見えてきた。廃墟は一見どれも同じ時代の物のように見えるが、実はそれぞれ大幅に異なる時代の物だったのだ。シラルンの廃墟(比較的保存状態は良いが、間違いなく、現存する地上最古の物)と、約千年前に建てられ、アイルズで最も新しい遺跡の一つであるエブロッカの廃墟とでは、何千年もの開きがあるのだ。この結論を却下される方は、廃墟を訪ねて自分で証拠を確かめてみることを勧める。つまり、建造物の埋まっている部分を覆う地層の深さや、むき出しになった石の風化の度合い、建造物の上および周辺の植物の成長、等々だ。(証拠に関しては、別の研究論文「先人たちの廃墟の年代測定:衝撃の新証拠を徹底解明」にまとめてあり、この件をもっと掘り下げて詳しく調査したいという学者のために喜んで公表したいのだが、今のところまだ出版はされていない。) 様々な廃墟の年代を正確に立証してみたところ、気になるパターンが見えてきた。廃墟はいくつかの明確な年代に分類することができ、それぞれの年代がきっちり一千年ずつ離れているのである(シラルンだけは例外で、その次に古い廃墟から何千年も時代をさかのぼる。このことは、より古い時代の廃墟がまだ発見されずにいるか、あるいは時の試練に破壊されて失われてしまったことを示していると思われる)。 一千年ごとに確実に繰り返されたこの破滅のプロセスは、何を持って説明することができるのだろうか? すぐに思い浮かぶのは、復讐心に燃えた神がその怒りを大地に向けて発散したという古代の物語、グレイマーチの伝説である。もし仮に、それが単なる伝説でなかったとしたら? 実際に起きた出来事が、おぼろげな記憶として伝わっているのだとしたら? 発見された中で最も新しい廃墟であるところのエブロッカの年代を測定することの重要性を、私は即座に理解した。検証の結果、約一千年前の物であることが証明されたのである。そうです、親愛なる読者よ、ついにこの点に到達してしまった。大変動は私たちの身に再び降りかかろうとしているのだ。エブロッカの廃墟に関しては、極めて正確に年代を測定した。我々の破滅が何年に起きるのか、私は知っている。この知識は、他の人たちに負わせてしまうにはあまりにも恐ろしい重荷であるため、正確な日付まで公表するのは差し控えたいと思う。 この概略的な警告書を出版することさえ、パニックあるいは絶望を引き起こしかねないため、私は長い間ためらってきた。しかし、何も知らないまま終末を迎えるよりは、どのようなことであれ、それに向けた準備をする時間があったほうがいいだろうという結論に達したのだ。グレイマーチの伝説が歴史上の出来事に基づく物だということを、私は今や確信している。我々の文明が迎える最後の日が恐ろしい物となることも間違いないだろう。過ぎ去りし時代の強大な都市が残した、破壊されて崩れ落ちた石の数々を見れば、それは疑いない。しかしながら、我々の最後が先人たちの石にすでに書かれていたことを知って、私は奇妙な安らぎを覚え、破滅に抗おうとすることは、押し寄せる波に向かって叫ぶのと同じぐらい無意味なことだとも感じたのである。この暗い見通しに対して、私と同じように安らぎを感じる読者が少しはいることを願っている。 SI 自然・天文・地学 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/92.html
アルカナの復古 手引き書 ワップナ・ニューストラ 著 名誉教授 第一:純金のみによって気質は整流され、真なる力の混沌より生まれた真の原理へと導く。よって、純金で満たされるマナの泉を創作し、泉の水面に純金を滴らせ。泉がもたらす危険な嵐より己を守る細心の注意を怠るな、なぜならば、これらの来襲は己の生命を枯れ果てさせるもととなる。 第二:己の気質要素をもって、自身やその他の世界を混乱させぬよう、必要とする言葉を必要とする時に、違わず発するためにもこの優れた書を携行するよう心がけよ。 第三:この書のみから学べる適切な言葉をささやきながら、修復を望む品を己の手に取り、満たされた泉に浸せ。腸が私の知識への妬みで侵食され、間違いを多く盛り込み、すべてにおいてこの書に劣る彼らの手引き書の有効性を語るカーネソンやラッターの、汚れた中傷などに傾ける耳を持つなかれ。 第四:己の傷は即座に治癒せよ、または神殿や治癒師の前にその身を現せ。貴重なアルカナの復古を完全に果たそうとする者は苦痛や苦悩を負う。しかし、過度にその痛みに耐えることは賢明にあらず。苦しみがアルカナの効力を向上したり、崇高にするものにあらず。カーネソンやラッターの思慮なき憶測に傾ける耳を持つなかれ、彼らの過ちや邪悪は造詣の浅い評論家にも一目瞭然なり。 緑1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/152.html
妖精族 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 その偉大な賢者は背が高く、不精な感じの男で、髭をたくわえており、頭ははげていた。彼の所蔵の本も持ち主に似て、どの本も長い間にホコリをかぶり、本棚の奥へと突っ込まれていた。最近の授業で、彼はその中の数冊を用いて、ヴァヌス・ガレリオンがどのようにして魔術師ギルドを設立するに至ったかを学生のタクシムとヴォングルダクに説明していた。2人はサイジック教団でのガレリオンの修行時代について、またそこで行われた魔術の研究と魔術師ギルドのものとはどのように異なるのかなど、たくさんの質問を投げかけた。 「サイジック教団は、今も昔もは非常に組織的な生活様式を持つ機関である」と賢者は説明した。「実際、きわめてエリート主義的である。ガレリオンはその点を批判していた。彼は魔術の研究を自由に解放したかったのだ。まあ、『自由に』とはいかないまでも、少なくとも誰にでも門戸が開かれているようにだ。そのためにまず彼はタムリエルで路線を変更した」 「ガレリオンは現代の薬剤師、道具工、呪術師がみな使用しているような慣習と儀式を体系化したのですよね?」と、ヴォングルダクが尋ねた。 「それは業績の1つに過ぎない。ヴァヌス・ガレリオンは、今日の魔術を作り上げたのだ。彼は一般大衆でも理解できるように、魔術の体系を組み直した。また、彼は錬金術の道具を開発した。誰もが魔法の跳ね返しを恐れずに、どんなものでも、どのような技術でも、懐の許す限り混ぜ合わせることができるようになった。そう、彼は最終的にそういうものを作り上げたのだ」 「どういう意味ですか?」と、タクシムが尋ねた。 「初期の道具は、現在の我々のものよりも自動化されたものだった。どんな素人でも、魔法や錬金術のことを知らなくてもその道具を使うことができた。アルテウム島では、学生は何年にもわたる苦労を重ねて技術を習得しなければならなかったが、ガレリオンはそれがサイジック教団のエリート主義の一例に過ぎないと考えた。当初彼の開発した道具は、いわば機械の付呪師や錬金術師で、金さえ出せば客は望むものを何でも作り出せた」 「例えば、世界を真っ二つに切り裂くような剣も作れますか?」ヴォングルダクが尋ねた。 「理論的には出来るだろうが、それを作るには世界中の金が必要になるだろう」と言って賢者は笑った。「これまでのところ、我々が大変な危機に直面したことはないが、学識のない田舎者が己の理解を超えた物を作り出してしまったという不運な事故は少なからずあった。そういうこともあり、ガレリオンは古い道具を廃棄して、我々が現在使っているようなものを作り上げた。ある意味エリート主義かもしれないが、何かをする前には自分が何をしようとしているのか分かっている必要がある。きわめて当然なことではあるが」 「人々はどんなものを作ったのですか?」と、タクシムが尋ねた。「何かエピソードはありますか?」 「君たちは試験を受けるのが嫌で、話をそらすつもりなんだな」と偉大な賢者は言った。「だが、要点を押さえたちょうどいい話をしよう。サムーセット島の西海岸に在るアリノールの街が舞台の、タウーバッドという書記にまつわる物語だ」 それは第二紀、ヴァヌス・ガレリオンが魔術師ギルドを初めて設立してからまだ間もない頃、その支部がタムリエルの本土にまでは進出まではしていないが、サムーセットの至るところに広がった頃のことであった。 この5年間、書記タウーバッドは、伝令のゴルゴスという少年を通して外の世界に向け文書を送り出す生活を送っていた。隠遁生活だった最初の年には、わずかに残っていた本当に少数の友人や親族── 実際は亡妻の友人や親族であったけれど── が彼を訪ねようとしたが、一番しぶとく粘った身内でさえ諦めてしまった。誰もがタウーバッド・フルジクと交友を続ける理由をたいして持っていなかったので、そのうち、連絡を取ろうとするものはほとんどいなくなった。時々、義理の妹から彼がほとんど覚えていないような人々の近況を綴った手紙が届いていたが、それも極めてまれなことだった。彼の家を往き来する手紙のほとんどは、彼の仕事、つまりオリエル神殿から毎週発刊される公報を書く仕事に関するものであった。公報は神殿の扉に釘で止めて貼り出されるのだが、内容は地域のニュースや説教などであった。 その日、ゴルゴスが持ってきた最初の手紙は治癒師もので、木曜の約束の確認だった。しばらく時間をかけて、彼は浮かない顔つきで了承の返事を書いた。タウーバッドはクリムゾンの疫病を患っており、治療に多額のお金を使っていた。ちなみに、この物語が治癒魔法の流派が高度に専門化する以前の物語であることをお忘れなく。それは恐ろしい病気で、彼は文字通り声を失った。この為、彼のコミュニケーションは筆記によるものに限られていた。 次の手紙は教会の秘書であるアルフィアからだった。彼女の手紙はいつも乱雑な文章で不愉快なものであった。「タウーバッドへ、添付資料は日曜の説教、来週のスケジュール、死亡情報です。少しは『色を付けて』記事を書いてください。前回の分には失望しています」 タウーバッドはアルフィアが神殿に勤め出す前から公報の作成に携わっていたので、彼が心に抱く彼女のイメージは純粋に頭の中だけで作り上げたものであり、それは時間とともに変化していった。最初は、イボだらけの醜く太った雌の醜い魔物の姿をしていた。最近は、痩せ細った行かず後家のオークに変異している。ひょっとしたら、彼の千里眼は当たっていて、ちょうど彼女も体重を落としたところかも知れない。 そもそもアルフィアの外見がどのようなものでも、タウーバッドを見下す態度は明らかだった。彼のユーモアセンスも大嫌いなら、どんなに小さな書き損じも見逃さない。彼の文章と筆跡は素人レベルでも最低であると思っている。幸い神殿の仕事は、善良なるアリノール国王の為の仕事の次に安定していた。稼ぎはたいしたことはないが、タウーバッドはほとんど金を使わなかった。実際のところ金は必要なかった。彼はすでに一財産を築いていたし、日々の生活に働く以外の楽しみはなかったのである。つまり、ほかに時間や思考を費やすところがない彼にとって、その公報の仕事は何よりも大事だった。 すべての手紙を配達し終えたゴルゴスは、掃除を始め、やりながらタウーバッドに街のニュースをすべて伝えた。少年はいつもそうしていて、タウーバッドはいつもあまり聞いていなかったのだが、今日のニュースには興味深いものがあった。魔術師ギルドがアリノールに進出したというものである。 タウーバッドが熱心に耳を傾けるので、ゴルゴスは、ギルドに関する全てを、つまり驚くべき大賢者と、錬金術と付呪用の道具について話した。彼が話を終えると、タウーバッドは簡単なメモを書いて、そのメモと一緒に1本の羽ペンをゴルゴスに渡した。そこには「この羽ペンに魔法を封じてもらってきてくれ」と書いてあった。 「お金がかかりますよ」と、ゴルゴスは言った。 タウーバッドは、長年貯めてきた数千枚のゴールドを彼に渡して送り出した。タウーバッドは、アルフィアを感動させ、オリエル神殿に栄光をもたらす力を手に入れようと決心したのだ。 後に聞くところによれば、ゴルゴスはそのお金を横取りしてアリノールから逃げようとも思ったが、貧しく老いたタウーバッドのことが心配になった。何より、主人からの手紙を届けるために、毎日会わねばならないアルフィアのことが彼も大嫌いだった。良い動機と言えないまでも、ゴルゴスはギルドに赴いて羽ペンに魔法を封じてもらおうと決めた。 最初に話したとおり、その当時は特に、魔術師ギルドはエリート主義の団体ではなかった。だが、ただの伝令の少年が魔導具の製造機を使わせてほしいと頼んだ時は、すくなからず疑いの眼差しを向けられた。しかし袋の中身を見せると、彼らの態度は一変し、ゴルゴスは部屋に招き入れられた。 ところで、私はその古い付呪用の道具を見たことがない。君たちには想像力を働かせてほしい。その道具には、マジカを封入するための大きなプリズムや、一揃いの魂石、エネルギーを封じ込めた球体などがついていた。それ以上は、その外見も効果もよくはわからない。ギルドに渡したゴールドのおかげで、その羽ペンには最高額の魂、つまり妖精族というデイドラの魂を封じられることになった。ギルドの修練僧は、当時の他のメンバーと同様に無知であって、その魂がエネルギーに満ち溢れているという以外には、大した知識はなかった。ゴルゴスが部屋をあとにした時には、その羽ペンには限界かそれ以上の付呪が施され、力で震えているようだった。 もちろん、タウーバッドがその羽ペンを使ってみると、それがどれだけ彼の理解を越えたものであったかが明らかになったのだ。 「それでは…… 試験を始めよう」と、偉大な賢者は言った。 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/275.html
本物のバレンジア 第2巻 著者不明 バレンジアとストローは貧民街に安い部屋を借りて、リフトンで冬を過ごすことにした。バレンジアは盗賊ギルドに入ろうとしていた。好き勝手に盗みを働いていてはいつか面倒なことになるとわかっていたから。ある日、盗賊ギルドの名の知れたメンバーのひとりと酒場で目が合った。若さあふれるカジートで、その名をセリスといった。ギルドに紹介してくれたらあなたと寝てもいいわ、とバレンジアは声をかけた。セリスは彼女を見つめてから笑みを浮かべると、いいとも、と言った。が、まずは儀式をこなすのが先決だとも言った。 「どんな儀式なの?」 「ああ」と、セリスは言った。「前払いでたのむぜ、かわいこちゃん」 (この一節は神殿によって検閲を受けている) ストローに殺される、たぶんセリスも。いったいどういう気まぐれでこんなことをしてしまったのか。バレンジアはおどおどした目つきで部屋を見渡した。だが、他のパトロンはとっくに興味を失って仕事に戻っていた。知らない顔ばかりだった。彼女とストローが泊まっている部屋ではなかった。運がよければ、しばらくはストローにばれずにすむかもしれない。あわよくば永遠に。 *** バレンジアはセリスほど刺激的で魅力のある男には出会ったことがなかった。盗賊ギルドのメンバーに求められるスキルについて教えてくれるばかりか、そうしたスキルの稽古もつけてくれた。あるいは、稽古をつけられる人物を紹介してくれた。 その中に、魔術に詳しい女がいた。カチーシャは貫禄たっぷりに肥えたノルドで、鍛冶屋の妻として二人の十代の子供をもうけており、派手さはないが尊敬すべき女性だった。ただし、とにかく猫が好き(論理的に考えれば、その人間版であるカジートも)で、いくつかの魔法の才能があり、変わった友人が多いという特徴はあったが。彼女はバレンジアに透明化の呪文を教えて、隠密行動や変装の技法をいくつか仕込んだ。魔術の才能と魔術のいらない才能を好きなように組み合わせて総合力を高めるということもやってのけた。盗賊ギルドのメンバーではなかったが、セリスのことは気に入っていた。どことなく母性がくすぐられるのだろう。バレンジアはセリスのことが好きになった。女性に対してそういう気持ちになるのは初めてだった。それから数週間かけて、自分のことを洗いざらい彼女に話した。 バレンジアはストローを連れていくこともあった。ストローはカチーシャには好感を持ったが、セリスとは馬が合わなかった。セリスはストローに興味がわいたらしく、バレンジアに「スリーサム(注釈:三人による乱交のこと)」をしないかと持ちかけた。 「絶対にいやよ」と、バレンジアはきっぱりと言った。テリスがこっそりとその話題を切り出してくれたことに、このときばかりは感謝した。「ストローは楽しめないわ。私だってそうよ!」 セリスはとっておきの猫笑いを三角形の顔に浮かべて、椅子の中でだらしなく手足を投げ出し、屈伸運動をして尻尾を丸めた。「きっと驚くだろうに、ふたりとも。ただの交尾ってのはどうにも退屈でね」 バレンジアはにらみつけることで応じた。 「ひょっとすると、君のあのいなかっぺの彼氏だから楽しめないのかも。おれの友人を連れてきてもいいかい?」 「よしてよ。私に飽きたんなら、お友だちと別の女をたらしこめばいいじゃないの」バレンジアはすでに盗賊ギルドのメンバーになっていた。入会の儀式を終えていたのだ。セリスには使い道があるが、どうしても必要というわけでもない。彼女もまた、セリスにちょっと飽きているのかもしれなかった。 *** バレンジアは男のことで抱えている問題については、カチーシャに相談してみた。あるいは、バレンジアが問題だと感じていることについて。カチーシャはかぶりを振って、体の関係ではなく愛を求めなさい、と言った。あなたにぴったりの男は会ったときにピンとくるわ、ストローもセリスもあなたにぴったりの男じゃないのよ、と。 バレンジアはけげんそうに小首をかしげた。「みんな言うわ。ダークエルフはいん、いん、いんばいだって」言葉の選択が合っているのかどうかはあやふやだった。 「淫乱って言いたいのね」と、カチーシャは言った。「もっとも、ダークエルフの淫売もいるでしょうけど」と、後から思いついたように続けた。「若いエルフはみんな淫乱なの。でも、大人になれば卒業することよ。ひょっとしたら、あなたも卒業しつつあるのかもね」期待を込めて言った。バレンジアには好感を持っており、どんどん好きになっていた。「けど、素敵なエルフの若者と会ってみるべきね。カジートや人間とつるんでばかりいたら、あっという間に妊娠しちゃうわよ」 バレンジアは想像するうちにほくそ笑んでいた。「楽しいかもね、それも。でも、きっと重荷になるでしょう? 赤ちゃんは世話が焼けるもの。それに自分の家だって持ってないし」 「あなたいくつなの? 17歳? そういうことなら、妊娠するようになるまでにはあと一、二年あるわね。よっぽど運が悪いんでなければ。その後でも、エルフとエルフのあいだには子供ができにくいのよ。だから、エルフと付き合っていればその心配はないと思うわ」 バレンジアは他のことを思い出した。「ストローが牧場を買って私と結婚したいって」 「それがあなたの望みなの?」 「ううん、今はまだ。いつかはそういう気になるのかもしれないけど。いつかはね。けど、そんなことより女王になりたいの。ただの女王じゃないわ、モーンホールドの女王に」と、バレンジアは決然と言った。意固地になっているようにすら聞こえた。あらゆる疑念を振り払おうとするかのように。 カチーシャは最後の発言については聞き流すことにした。彼女のたくましい想像力を微笑ましく思い、健全なる精神の証だろうと受け取った。「ベリー、その『いつか』がやってくる頃には、ストローはきっとお爺ちゃんになってるわ。エルフの寿命はとっても長いから」カチーシャの顔にうらやむような、ねたむような表情がちらついた。エルフが神より授かった千年の寿命について考えるとき、人間はそういう顔をする。確かに、疫病やら暴力やらで命を落とすエルフも多いため、実際にそこまで生きられるものは少ないだろう。それでも、可能性はある。本当に千年生きたというエルフの話もちらほら耳にする。 「お爺ちゃんも好きよ」と、バレンジアは言った。 カチーシャは笑い声をあげた。 *** バレンジアは気ぜわしげに身をよじった。セリスが机の書類をていねいに並べていたのだ。徹底的かつ几帳面に、ひとつ残らず元あった場所に戻していった。 二人は貴族の屋敷に押し入ったのだった。ストローには見張りとして外に残ってもらっていた。セリスが言うには、ちょろいヤマだが密やかに進めたいとのことだった。他のギルドの仲間も連れてこないようにと釘を刺していたほどだった。バレンジアとストローなら信頼できるが、他のやつはだめなんだ、と。 「探してるものを教えてよ、見つけてあげるから」バレンジアは急かすようなささやき声で言った。セリスは彼女ほど夜目がきくわけではなかった。しかも、どんなほのかな光でも魔法で灯してはいけないと、彼は前もって告げていた。 これほど贅を散りばめた場所に足を踏み入れたのは初めてだった。彼女が少女時代を過ごしたスヴェン卿とインガ夫人のダークムーア城など比べものにならなかった。バレンジアはごてごてと飾り立てられた音の反響する階下の広間を通り抜けながら、驚きに満ちた視線をあちこちに投げかけた。が、セリスの興味は上階の本に埋もれた小さな書斎にある机だけに向けられているようだった。 セリスは怒りもあらわに指を唇にあててみせた。 「誰か来るわ!」と、バレンジアは言った。すぐさまドアが開き、黒っぽいふたつの影が部屋におどり込んできた。セリスはバレンジアを彼らのほうへ乱暴に押しやると、窓際へ跳躍した。バレンジアの筋肉はこわばっていた。動くことも叫ぶこともできなかった。なす術のないまま、小さいほうの影がセリスを追って跳ぶのをながめていた。青い光が音もなく二度ほどきらめくと、セリスはくずれて動かなくなった。 書斎の外では、屋敷が眠りから覚めたようだった。足音があわただしく鳴り響き、張りつめた呼び声が飛び交っていた。急いで身につけたらしい鎧のきしむ音がとどろいた。 大柄な影は見たところダークエルフの男だった。セリスを半分かかえて半分ひきずりながらドアまで運ぶと、待機していたもうひとりのエルフの腕に押しやった。大柄なエルフが頭をひょいと傾けると、青い法衣を身につけた小柄なエルフもやってきた。大柄なエルフはゆうゆうと歩きながらバレンジアのほうへ近づき、彼女の顔をながめた。バレンジアはなんとか動けるようにはなっていた。動こうとすると頭が割れるように痛んだが。 「胸をはだけてみせるんだ、バレンジア」と、エルフは言った。バレンジアは呆然としながらも、シャツをぎゅっとつかんだ。「女の子なんだろう、ベリー?」と、彼はおだやかに言った。「さっさと男の子の変装をやめなかったのは失敗だったな。かえってひと目を引いただけだった。しかも、ベリーなんて呼ばれてるんだから。お友だちのストローは昔のことをすっかり忘れてしまったのかな?」 「エルフによくある名前だわ」バレンジアはストローをかばって言った。 男は悲しげにかぶりを振った。「ダークエルフはそんな呼び名をつけないもんさ。もっとも、ダークエルフは世俗にはうといのかな。悲しいことだが、きみが悪いわけじゃない。まあいいさ、私が救済してあげようじゃないか」 「あなた、誰なの?」と、バレンジアは問いただした。 「名声なんてこんなものか」男は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。「シムマチャスという。バレンジア姫。畏怖すべきわが陛下、タイバー・セプティム一世の帝都軍に仕える将軍だ。あなたを追ってタムリエルを駆けずりまわされたが、まったくもって楽しかった。少なくとも、今は楽しくてしかたがない。いつかきっとモロウウィンドに向かうと思ってたが、運はあなたにあったらしい。ホワイトランでストローとおぼしき死体が見つかってから、二人組みの捜索を打ち切ってしまってね。まったく、とんだ失態だった。まさかこんなに長いあいだ連れ立っているとは考えもしなかった」 「ストローはどこなの? 無事でいるの?」バレンジアは心底うろたえていた。 「ああ、彼なら元気だよ。今のところ。もちろん勾留してるが」シムマチャスは顔をそむけた。「あなたは…… 彼のことが好きなのかね?」そう言うと、いかにも興味たっぷりに彼女を見つめた。彼女にとっては、赤い眼で見つめられるのはなんだか妙な感じがした。ごくたまに鏡で自分の眼を見ることはあったが。 「ただの友達よ」と、バレンジアは言った。彼女の耳には、その言葉はけだるく、あきらめの境地にあるように響いた。まさかシムマチャスとは。帝都軍の将軍その人とは。タイバー・セプティム皇帝の友であり耳でもあると言われている男だなんて。 「ふむ、あなたには何人かの不釣合いなお友達がいるようだが。お気に障られたらお許しを、姫さま」 「その呼び方はやめて」バレンジアは将軍のそこはかとない皮肉にいらついていた。だが、彼は微笑むだけだった。 そうして話しているうちに、屋敷の喧騒はおさまっていった。バレンシアの耳には、おそらく屋敷の住人がさほど遠くないところでささやき合っているのが聞こえたが。のっぽのエルフは机の角に腰かけていた。すっかりくつろいでいるらしく、しばらく帰りそうになかった。 そのとき、バレンシアはピンときた。この将軍は、何人かの不釣合いな友達と言った。つまり、彼女のことなら何でも知っているのだ! いずれにしても結論はひとつだった。「見、みんなをどうするつもりなの? わ、私はどうなるの?」 「ご承知のとおり、この屋敷は管轄の帝都軍司令官の住居でね。ありていに言えば私の屋敷なんだ」バレンジアは息をのんだ。シムマチャスはすかさず顔を上げた。「おっと、知らなかったのかな? そいつはいけませんね、姫さま。いくら若くても軽率すぎる。自分のしていることをしっかり把握しておかないと。あるいは自分が関わろうとしていることを」 「で、でも、ギルドが、ど、どうしても…… どうしても……」バレンジアは震えていた。盗賊ギルドは帝都軍の方針に逆らうような任務に手を染めたりはしない。タイバー・セプティムにけんかを売るような真似はしないのだ。少なくとも、彼女の知り合いはそういうことはしない。ギルドの会員がへまをやらかしてしまった。こっぴどいへまを。これから彼女はその報いを受けることになる。 「言いにくいことだが、セリスがこの件でギルドの承認をもらっているとは思えないね。実際のところ──」シムマチャスは入念に机をチェックして、抽斗を順番に引っぱり出した。ひとつを選んで机に置き、二重底のふたを取り外した。折りたたまれた羊皮紙がしまってあった。どこかの地図のようだった。バレンジアがにじり寄ると、シムマチャスは笑いながらその紙を彼女から遠ざけた。「いやはや軽率なお姫さまだ!」そう言って地図をざっとながめてから抽斗に戻した。 「状況を把握しておけと助言したのはそっちでしょう」 「そうだった、そうだった」いきなり将軍はご機嫌になったようだった。「そろそろ行かないと、姫さま」 シムマチャスは彼女に付き従ってドアから階段へと進み、夜風の中に出た。近くにひと気はなかった。バレンジアは闇に向かって視線を走らせた。シムマチャスを撒けるだろうか、どうにかして逃げられるだろうか、と考えを巡らせた。 「逃げようなんて思ってはいないだろうね。ひとまず、あなたをどうするつもりか聞きたくないかね?」将軍の声はどことなく傷ついているように聞こえた。 「そんなふうに言われたら、聞きたくなるわ」 「友達のことから話したほうがいいかな」 「だめ」 シムマチャスはご満悦の顔つきになった。将軍が望んでいた答えだったのだろう、とバレンジアは思った。が、それは本心でもあった。友達のこと、なかでもストローのことが気がかりだったが、それ以上に自分自身のことが気になっていた。 「あなたには正式にモーンホールドの女王になってもらう」 *** シムマチャスが言うには、彼もタイバー・セプティムもずっとその計画を温めてきたということだった。バレンジアが疎開させられてからの十数年間、モーンホールドは軍の統治下にあったが、ゆっくりと民政に戻りつつあった。もちろん帝都の指導のもと、帝都領モロウウィンドとしてではあったが。 「だったらどうしてダークムーアに移されたの?」バレンジアは訊いた。説明されたばかりのことがほとんど信じられなかった。 「もちろん、匿うためだ。どうして逃げたのかね?」 バレンジアは肩をすくめた。「とどまる理由がなかったから。すべて話してくれたらよかったのに」 「そのつもりだったさ。それどころか、皇室の一員として帝都で暮らさせようと、あなたのことを呼び戻そうとさえした。が、そのときにはもう失踪なさっていたわけだ。自分の定めのことならはっきりとわかるはずだ。わかっていてしかるべきだった。それだけの価値がなければ、皇帝は生かしておかない。皇帝にとってのあなたの価値などひとつしかなかろう」 「皇帝のことなんて知らないもの。それを言ったらあなたのことも」 「なら覚えておくがいい。タイバー・セプティムは敵味方関係なく、功績によって評価する」 バレンジアはひとしきりそのことについて考えをめぐらせた。「ストローは私のために尽くしてくれたわ。誰かを傷つけたこともない。盗賊ギルドのメンバーでもない。私を守るためにそばにいてくれたの。使い走りをして生活費を稼いでくれて、それから、ストローは……」 シムマチャスはじれったそうに手を振って彼女の言葉をさえぎった。「ストローのことならすべてわかっている」と言った。「それと、セリスのことも」穴が開きそうなほど彼女を見つめた。「で、あなたはどうしたいのかな?」 バレンジアは深呼吸をした。「ストローは小さな牧場をほしがってた。私がお金持ちになれるんなら、彼にも少しおすそ分けをしてあげたい」 「よかろう」シムマチャスは驚いた顔つきになってから、喜んでみせた。「承知した。望みをかなえよう。セリスはどうするかね?」 「私を裏切ったわ」と、バレンジアは冷淡に言った。危険なヤマだということを、彼は彼女に伝えておくべきだった。そればかりか、彼女を敵のふところに突き飛ばして逃げようとさえしたのだ。褒美を与える必要はない。つまるところ、信じるに足る男ではなかったのだ。 「そうだな。それで?」 「ええと、罰を受けさせるべきかな?」 「当然だろう。どういった罰がいいかね?」 バレンジアは両手を拳ににぎった。みずからあのカジートをぶん殴って引っかいてやりたかった。が、こういう流れになってしまったからには、いささか女王らしさに欠ける罰のような気がした。「鞭打ちの刑かな。二十回じゃ多すぎるかしら? 一生残るような傷は負わせたくないの、わかるでしょ。ちょっとお灸をすえるだけでいいの」 「うむ、もっともだ」シムマチャスはにっこりと笑った。と、いきなり顔つきが引き締まり、真剣になった。「仰せのとおりに、モーンホールドのバレンジア女王様」と言い、お辞儀をした。わざとらしいほど深くて礼儀正しい小粋なお辞儀だった。 バレンジアは心が躍った。 *** バレンジアは二日間ほどシムマチャスの部屋で過ごした。すべきことが山ほどあった。欲しいものがあれば、ドレリアンという名のダークエルフの女がなんでも手配してくれた。彼女も食卓を共にすることから、召使いというわけではなさそうだった。かといってシムマチャスの妻にも、愛人にも見えなかった。バレンジアにそのことを訊かれると、ドレリアンは意外そうな顔をして、わたしは将軍に雇われてあなたの世話をしているだけよ、とさらりと答えた。 ドレリアンの取り計らいで、いくつかの上物のガウンと靴がバレンジアのもとへ届けられた。それから乗馬用の服とブーツと細々とした日用品も。自分の部屋もあてがわれた。 シムマチャスは外に出ずっぱりだった。たいていの食事には顔を出したが、自身のプライベートや任務の内容について口を開くことはほとんどなかった。気さくでうやうやしく、たいていの話題なら喜んで歓談に加わり、バレンジアの口にする一語一句に興味があるようだった。ドレリアンもまたそうだった。バレンシアは彼らのことを好意的に受け止めてはいたものの、いかにもカチーシャが言いそうなことだが、どこかつかみどころがないようにも感じていた。バレンジアは言いようのない失望感に襲われていた。ダークエルフとこれほど親しくするのは初めての経験だったため、安心感のようなものが得られると期待していたのだ。ようやく自分の居場所が見つかったような、誰かとつながっているような、何かの一部になれたような、そんな絆を感じられると思っていた。ところが実際は、カチーシャやストローといったノルドの友人たちへの恋しさがつのっていた。 明日になったら帝都へ出発するとシムマチャスに言われたとき、バレンジアは彼らにお別れの挨拶をさせてほしいとねだった。 「カチーシャですか?」と、シムマチャスは訊いた。「そうですね…… 彼女には借りもあることですし。ベリーというひとりぼっちのダークエルフが同族の友達を欲しがってるとカチーシャが耳打ちしてくれたおかげで、あなたを見つけることができた。あなたがたまに少年の変装をしてることも教えてくれた。彼女は盗賊ギルドとは何のつながりもありません。それにあなたの素性に気づいている盗賊ギルドのメンバーも、セリスをのぞけばいないようですね。おおいに結構。あなたが元盗賊ギルドのメンバーだったということは公にはしたくない。どうか口外なさらぬようお願いしますよ、女王様。そうした過去は帝都の女王にはふさわしくない」 「知ってるのはストローとセリスだけよ。彼らは誰にも言わないわ」 「ええ」シムマチャスは妙な微笑みを浮かべた。「もちろんでしょう」 カチーシャも知っていることにシムマチャスは気づいていなかった。が、それでもやはり、どことなく含みのある言い方だった。 *** 出発の朝、ストローが彼らの部屋にやってきた。ふたりは客間に取り残されたが、他のエルフが耳をそばだてていることにバレンジアは気づいていた。ストローの顔はやつれていて青白かった。しばらく静かなる抱擁を交わした。彼は肩を震わせ、頬に涙を伝わせていたが、無言のままだった。 バレンジアは笑顔をこしらえようとした。「これで、ふたりとも欲しいものが手に入るわね。私はモーンホールドの女王様に、あなたは牧場の主になるの」彼の手をとり、おだやかなありのままの笑顔を向けた。「手紙を書くわ、ストロー。約束する。あなたも代書人を見つけて手紙を書いてもらえばいいわ」 ストローは悲しげに首を振った。バレンジアがなんとか話を続けようとすると、彼は口を開けてそこを指差し、声にならない音をもらした。ようやく、彼女にもすべてがわかった。舌がなかった。切り落とされていた。 バレンジアは椅子にくずれ落ち、わんわんと泣いた。 *** 「だけど、なぜ?」ストローが退室させられると、バレンジアはシムマチャスを問い詰めた。「なぜなの?」 シムマチャスは肩をすくめた。「彼は知りすぎてしまった。放ってはおけません。死んではいませんし、豚だかなんだかを育てるのに舌はいらないでしょう」 「人でなし!」と、バレンジアは怒鳴りつけ、いきなりかがみ込んで床に吐きもどした。波のように満ちては引く嘔吐感をこらえながら罵倒しつづけた。シムマチャスは無表情のままそれを聞いていた。ドレリアンが床を拭っていた。ようやく彼は口を開き、静かにしないと猿ぐつわをされたまま帝都に向かうことになりますよと言った。 一行は街の出しなにカチーシャの家に立ち寄った。シムマチャスとドレリアンは馬に乗ったままだった。家の様子は普段のままだったが、バレンジアはおびえるようにドアをノックした。カチーシャの声がした。彼女が無事であってくれたことにバレンジアは感謝した。が、カチーシャはまぶたを泣き腫らしていた。それでもバレンジアを温かく抱きしめた。 「どうして泣いているの?」と、バレンジアは尋ねた。 「だって、セリスのことがあったから。あなた、聞いてないのね? ああ、かわいそうなセリス。彼は死んだわ」バレンジアは氷の指で心臓を撫でまわされるような感覚に襲われた。「司令官の家に盗みに入って逮捕されたの。かわいそうだけど、馬鹿なことをしたもんだわ。ああ、ベリー、あの子は今朝、司令官の命令で四つ裂きの刑に処されたの!」彼女はすすり泣きだした。「立ち会ったのよ、あの子が望んだから。むごかったわ。死ぬまでにかなり苦しんだでしょうね。一生忘れられない。あなたとストローのことを探したんだけど、誰に聞いてもどこにいるかわからないって」バレンジアの肩越しに見やった。「あれは司令官じゃないの。シムマチャスだわ」すると、カチーシャは奇妙な行動をとった。泣きやんで笑ったのだ。「あたしったら、あの人を見たときに思ったのよ。バレンジアの運命の人だって!」エプロンをつかんで涙を拭った。「あなたのことを話したの。わかるでしょう」 「うん」と、バレンジアは言った。「わかるわ」カチーシャの手をひとつずつとると、ひたむきな瞳で見つめた。「カチーシャ、愛してるわ。会えなくなるのはとってもつらい。けどね、私のことは誰にも話さないでほしいの。絶対に。お願いよ。とくにシムマチャスには絶対にだめ。それから、ストローの面倒をみてあげて。約束してほしいの」 カチーシャは約束した。戸惑いながらもこころよく。「ベリー、セリスが捕まったのはあたしのせいじゃないわよね? セリスのことは、あ、あ…… あの人に話したことはないもの」そう言って、将軍のほうに眼を向けた。 バレンジアは彼女のせいではないと言ってなだめた。内通者が帝都兵にセリスのたくらみを伝えたのだと。ひょっとしたら嘘かもしれない。が、カチーシャはそういう類の安らぎを求めていたのだ。 「それを聞いてほっとしたわ、こんなひどい状況でもね。考えたってしかたがないけど、だったらどうすればよかったのかしらって思うわ」カチーシャは身をかがめてバレンジアの耳にささやいた。「シムマチャスはすごいハンサムね。それに、とっても魅力的だわ」 「そうは思えないけど」と、バレンジアはそっけなく言った。「そんなこと考えもしなかったわ。他に考えることがあったから」モーンホールドの女王となってしばらく帝都で暮らすことをかいつまんで説明した。「将軍は私を探してただけ。皇帝の勅命でね。私が旅の目的だったのよ。も、も、目標でしかなかったのよ。女として見られてるかどうかも怪しいわ。少年には見えないって言われたけどね」そう言うバレンジアを尻目に、カチーシャは懐疑的なまなざしを向けていた。男性に会うたびに性的魅力および性的有用性という観点で品定めをするのがバレンジアだったからだ。「私が本物の女王様だと知って驚いたでしょうね」とバレンジアが言うと、カチーシャはうなずいて同意した。そうね、ちょっとした驚きだわ。あなたはとても貴重な体験をしてるとは思うけど、と付け加えて、カチーシャは微笑んだ。バレンジアもいっしょに微笑んだ。それからまた抱き合った。ふたりとも泣きじゃくりながら最後の別れを交わした。その後、バレンジアがカチーシャやストローと再会することはなかった。 バレンジアの一行は立派な南門からリフトンを出た。一度だけ、シムマチャスは彼女の肩に手をやってから、門のほうを指差した。「セリスにお別れを言わなくてよろしいのですが、女王様」 バレンジアは一瞬だけ、門の上で串刺しになっている生首をしかと見やった。鳥にあちこち突かれていたが、面影はなんとかとどめていた。「セリスには聞こえないもの。私が無事だと知ったら喜んでくれるでしょうけどね」と、つとめて晴れやかに言った。「先を急ぎましょうか、将軍?」 シムマチャスは彼女の反応の薄さにがっかりしていた。「そうか、ご友人のカチーシャからお聞きになられたんですな。そうでしょう?」 「そのとおりよ。彼女は処刑の場に居合わせたの」バレンジアはさりげなく言った。シムマチャスが気づいていないとしても、きっとすぐに気づくだろう。彼女はそう確信していた。 「彼女はセリスがギルドの一員だと知っていたのですか?」 バレンジアは肩をすくめた。「みんな知ってるわ。会員であることを隠しておかないといけないのは、私みたいな下っ端のメンバーだけだから」いたずらっぽく将軍に笑いかけた。 将軍の心が動かされた気配はなかった。「ということは、彼女にはあなたが誰でどこから来たのか話しただけで、ギルドのことは教えてないと」 「ギルドの一会員だなんて大っぴらにはできないわ。他の秘密とはわけが違うもの。だいいち、カチーシャは生真面目な人だから。彼女にばらしたら、きっと冷たい眼を向けられるようになる。もっとまともな職につきなさいってセリスに口やかましく言ってたから。もっともな意見だと思うわ」シムマチャスに冷たい視線を向けられるにまかせた。「あなたには興味のないことだろうけど、彼女が他にどんなことを考えてたかわかる? 運命の男と添い遂げたら私がもっと幸せになれると思ってたのよ。ダークエルフの男とね。しかも、中身のともなっている、ね。中身がともなっていて、道理にかなった意見というものを心得ているダークエルフの男。つまり、あなたみたいな」バレンジアは手綱をしぼって馬を駆ろうとした。が、最後に強烈な皮肉をお見舞いするのを忘れなかった。「願いって、思ってもみなかったふうにかなうのね。けれど、自分が望むようにはいかないの。自分がずっと望んでたようにはいかないと言ったほうがぴったりかしら」 あまりにも意外な答えが返ってきたのでバレンジアは虚を突かれて、キャンターで駆け出したことなど忘れてしまった。「ええ、そうですね」と、シムマチャスは応じたのだ。しかも、声音とのずれがみじんも感じられなかった。それから、ちょっとすみませんと言って後ろに下がった。 バレンジアは頭を高く突き出してぐんぐん加速していた。つとめて無関心を装いながら。それにしても、将軍の返事のどういうところに引っかかるのだろう? 言葉そのものではないことは確かだった。むしろ、その言いように引っかかった。どことなく、バレンジアそのものが、将軍のかなえられた願いのひとつであるように感じられた。ありえそうもないことだったが、彼女はそのことをじっくりと考えてみた。将軍はようやく彼女を見つけた。何ヶ月もかけて、おそらく皇帝の圧力にも耐えながら。それは疑いようがない。まさしく、将軍の願いはかなえられたのだ。そういうことに違いなかった。 だが、ある意味、すべてが望んだようにはいかなかったということだろう。 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/167.html
月夜のロルカーン ファル・ドルーン 著 アダマンチンの塔での出来事に関する様々な報告を説くつもりはない。また、明瞭なる暗喩の戦から生じた話が、俗に呼ばれる「物語」というものの特性に欠けていることに関しても、述べるつもりはない。皆それぞれに、ロルカーンに関するお気に入りの物語、ニルン創造の背後にあるお気に入りのロルカーンの動機や彼の心臓を巡るお気に入りの物語があるだろう。しかし、「月夜のロルカーン理論」はとりわけ注目に値する。 端的に言うと、今も昔も月は、ロルカーンの「聖なる肉体」の二等分から成り立っている。ほかの神々のように、ロルカーンは「偉大なる創造」に加わった惑星であった… 八聖者は自らの神聖なる肉体を一部貸し与え、死すべき惑星を創り上げた。一方で、ロルカーンの肉体は粉々に砕け、流星の如くその聖なる光はニルンへ落ち、「その存在価値と多少の利己心の跡を残す」こととなった。 従って、大月神と小月神は、二分割の化身(アルテウムによるところの「裂けた二元論」)であり、ロルカーンにまつわる伝説でしばしば非難の対象となるのである。それはすなわち、アニマとアニムス、善と悪、有と無、そして肉体と嗚咽や、失敗した者のうめきと沈黙を織り成す詩歌などといった観念を指す。ロルカーンは、己の役割に命の限りがあることをいつも忘れぬよう、夜空に月を置いたのである。 この理論を支持する者によると、他の「心臓物語」はすべて、月の真原点に関する陳腐な神話であると言う。(また、言うまでもなく、『空虚なる三日月理論』に対しても同様にとらえている) 神話・宗教 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/112.html
アズラと箱 ドゥーマー太古の物語 第11部 マロバー・サル 著 ナイルバーは若いころは冒険心にあふれていたが、やがてとても賢い老ドゥーマーとなり、真理の探究や俗説の見直しに生涯をささげた。彼は実にいろいろな定理や論理的構造を打ち出しその名を世間にとどろかせていった。しかし彼にとって世界の多くはいまだなお不思議なものに満ち、とりわけエイドラとデイドラの本質は謎そのものであった。探求の結果、神々の多くは人類などによるつくりごとであるという結論に達した。 しかしながら、ナイルバーにとって神道力の限界以上の疑問はなかった。偉大なる存在がこの世全体の支配者なのであろうか? もしくは謙虚な生き物たちが自ら己の運命を切り開く力を持っているのだろうか? ナイルバーは自分の死期が近いと予感し、最後にこの疑問に挑まなければならないと感じた。 彼の知人でアシーニックという聖なる鐘の司祭がいた。司祭がベタラグ=ズーラムを訪れた際に、ナイルバーは彼に神道力の本質の探究に挑むつもりであることを話した。アシーニックは恐れおののき、そのような謎に手を出さないよう説得するもナイルバーの決心は固かった。司祭は神への冒涜になることを恐たが、最後には愛する友のため手伝うことに同意した。 アシーニックはアズラを召喚した。司祭が彼女の力への信仰を誓ういつもの儀式を行い、アズラが司祭には危害を加えないことを約束すると、ナイルバーと彼の多くの教え子たちは召喚の間へと大きな箱を運び入れた。 「この地に降り立つアズラよ、あなたは黄昏と暁の神であり、神秘の支配者である」とナイルバーは語りかけ、できるだけ従順な態度に見えるようにした。「あなたの知識は絶大です」 「そのとおり」とデイドラは微笑んだ。 「たとえば、この箱の中には何が入っているのかお分かりでしょうね」とナイルバーは言った。 アズラはアシーニックの方に向き直った。険しい顔だった。司祭は急いで、「神よ。このドゥーマーはとても賢く、尊敬された人物です。どうか私を信じてください。これは貴方様のお力を試すためではございません。しかし、この科学者と疑い深い連中の念をはらすため貴方様のお力をどうかお見せください。何度私のほうから説明しても、彼はその目で確かめたいという信念を持っているのです」と釈明した。 「もしこのドゥーマーたちが持ち込んだやり方で私の力を示すのであれば、その力はこれまで行ってきたことよりも印象的な業となるであろう」とアズラは怒鳴り、そしてナイルバーの目を真っ直ぐに見た。「箱の中には赤い花が1本入っている」 ナイルバーは表情を変えず、箱を開けて中身を見せた。箱の中身は空だった。 教え子たちはいっせいにアズラの方を向くと、彼女は姿を消していた。唯一アシーニックだけが彼女が消え去る前に「神の業」を見た。彼はただ何もしゃべることが出来ず、震えているだけであった。彼は呪いがふりかかった、と確信した。しかし先ほど証明された神道力についての考え方の方が呪わしかった。ナイルバーは青ざめ、足元もおぼつかなかったが、彼の顔は恐れではなく喜びで輝いていた。疑問に過ぎなかった真実の証拠を見つけた、という笑顔だ。 教え子の2人は彼を支え、もう2人は司祭を支え、召喚の間から出て行った。 「私は長い年月をかけて研究してきた。数え切れないほどの実験をこなし、独学で何ヶ国語も学んだ。最終的な真実を私に教えてくれた技術でさえ、ただ食べていくためだけに努力する貧しい若者だった頃に身に着けたやり方だ」と賢者は言った。 ベッドに上がる階段に連れて来られた時、彼のゆったりとしたローブのたもとから1枚の赤い花びらが落ちた。ナイルバーはその夜、息を引き取った、彼の死顔は知り得たことに満足して穏やかなものだった。 出版社注: これはドゥーマーのオリジナルの物語とはまったくの別物である。エルフ語に翻訳したものとも異なるが、物語の本質は同じものである。ダンマーにはナイルバーに関する同じような話が伝わっているが、その物語では、アズラはひっかけであることを見破り、答えることを拒んだ。彼女は疑念にかられたドゥーマーを殺し、ダンマーには冒涜に対して呪いを与えた。 エルフ語版では、アズラは空箱ではなく、直方体に変化する球体を入れた箱で試された。もちろんエルフ語版は、オリジナルのものに非常に近いもので、また難解な内容でもあった。おそらく「舞台マジック」の説明はゴア・フェリムがこのようなトリックを劇中で魔術を使わずに試した経験にもとづいてフェリム自身が付け加えたものである。 このマロバー・サル版ではナイルバーは孤独に描かれ、ドゥーマーの持つ多くの長所を表現した。ナイルバーの疑念はエルフ語版ほど絶対的なものでなく、ドゥーマーや貧しい司祭の名もなき家に呪いがかけられてもなお称賛されている。 神の本質が何であるにしろ、またドゥーマーがそれに対していかに正しかったか、または誤っていたかとしても、この物語はドワーフがタムリエルから消えた謎を解き明かしている。ナイルバーたちはそもそもエイドラとデイドラを欺くつもりはなかったのかもしれないが、彼らの疑念は神々の命に背いていた。 デイドラの神像関連 小説・物語 茶2