約 3,151,965 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/233.html
オルシニウム陥落 メニャヤ・グソスト 著 時は第三紀399年、メネヴィアとウェイレストに挟まれた広大な土地を見下ろす山腹に、立派で博学な裁判官がいた。法を遵守する公平なる仲裁者であり判事であった。 「とても説得力のある土地所有権の申し立てですな」と、裁判官は言った。「嘘ではありませんよ。しかしながら、競合者のかたの主張ももっともです。この仕事で頭を悩ませるのはこういうときなのですよ」 「そいつを競合者と呼ぶのですか?」ボウイン卿はせせら笑いながら、オークのほうを身振りで示した。ゴルトウォグ・グロ・ナグロムと呼ばれているその生物は、悪意に満ちた視線を投げ返した。 「土地所有権を主張するに足る書類はそろっていますからな」裁判官は肩をすくめた。「それに、わが国の不動産法は特定種族を差別いたしません。何世紀も昔のことですが、ボズマーの摂政時代もありましたな」 「ならば、豚や怪魚が所有権を訴えてきたらどうされるのです? 彼らにも私と同様の権利があると?」 「しかるべき書類がそろっていれば、そういうことになるでしょうな」裁判官は笑みを浮かべた。「複数の請求者に同等の所有権があるとされ、膠着状態になったときは、決闘で勝負をつけよと法はうたっております。なんとも時代遅れな法かもしれませんが、繰り返し検分してみたところ、現在においても有効とされるのです。帝都評議会のお墨つきで」 「どーしたらよいですか?」オークは低いしゃがれ声で訊いた。シロディールの言葉には不慣れらしい。 「第一の請求人、ゴルトウォグ卿は、決闘人の武器と鎧を選んでください。第二の請求人、ボウイン卿は決闘の場所を選んでください。チャンピオンを代理に立てるもよし、みずから戦うもよしです」 ブレトンとオークは互いの顔を見合わせて吟味した。ようやく、ゴルトウォグが口を開いた。「ヨロイはオークのヨロイ、武器はどこにでもあるハガネのチョー剣。魔法はナシ。妖術もダメ」 「決闘地はウェイレストにいるわがいとこ、ベリルス卿の宮殿の中庭としよう」と、ボウインは言った。軽蔑の眼差しをオークに向けながら。「オークの立会人は認められないものとする」 こうして話がついた。ゴルトウォグはみずから戦うと宣言し、まだ若く、社会的地位もあるボウインもまた、みずから戦わなければ面目を保てないと思っていた。そうはいっても、決闘の予定日の一週間前にいとこの宮殿にやってくると、稽古の必要性を感じた。オークの鎧一式を購入すると、ボウインは生まれて初めて、けた外れに重いうえに融通のきかないものを身にまとった。 ボウインとベリルスは中庭で手合わせをした。10分もすると、ボウインはいったん稽古を中断した。鎧を身につけて動いているうちに顔が上気し、息が切れた。彼の憤りに油を注いだのは、一発のパンチもいとこに当てることができず、自分は見せかけのパンチを何発も食らっていたことだった。 「どうしたらいいんだ」と、夕食どきにボウインは言った。「あの鋼鉄のモンスターを装備してまともに戦える誰かが見つかったところで、決闘に送り込んでゴルトウォグと対戦させるわけにはいかない」 ベリルスは同情した。奉公人が皿を片づけると、ボウインは椅子から立ち上がってそのうちのひとりを指差した。「オークが家にいるなんて聞いてないぞ!」 「ワシでしょうか?」その年寄りは情けない声で言った。ベリルス卿のほうを向いて、場の雰囲気を乱してしまったと恐縮していた。 「タナー爺のことか?」ベリルスは笑った。「昔からわが家に仕えてるんだ。どうすればオークの鎧を着こなせるのか、稽古をつけてもらったらどうだ?」 「いかがいたしましょうか?」タナーはへつらうように訊いた。 ベリルスもこのとき初めて知ったのだが、この奉公人はかつてハイ・ロックの伝説的な“呪いの軍団”に参加していたことがあった。タナーはオークの鎧の着こなしを知っているのみならず、家事手伝いをするようになるまでは他のオークの訓練師として活躍していたのだった。わらにもすがる思いだったボウインは、その場で彼を正式な訓練師として雇うことにした。 「力みすぎですな」訓練初日、闘技場でタナーは言った。「重たい鎧を着ていても意外と楽に動けるものですよ。関節はわずかな力で曲がるようにできています。無理に関節を動かそうとすれば、敵と戦うときまで力は残らないでしょうな」 ボウインはタナーの指導に必死でついていこうとしたが、たちまちいらつきだした。しかもいらつけばいらつくほど余計な力が入ってしまい、あっという間に疲れてしまうのだった。休憩して水を飲んでいるあいだ、ベリルスがタナーと話をしていた。ふたりの顔は、ボウインの勝利を楽観視しているふうには見えなかった。 それからの二日間、タナーはボウインを厳しく鍛えた。が、奥方であるエリソラの誕生日とかち合ってしまい、結局その日、ボウインは豪華な夕食を心ゆくまで堪能した。最初のコースは、ポピーとガチョウ油の酒にヒソップのバター炒めを添えたコックティンシュ。次のコースはカワカマスのローストに、ウサギのミートボール。メインのコースはキツネの舌のスライス、バロムプリンの牡蠣油がけ、バタグリア草とバタグリア豆。デザートはコレキュイヴァのアイスと砂糖のフリッター。食事を終えると、ボウインはぐったりと椅子にもたれかかった。と、ゴルトウォグと裁判官が部屋に入ってくるのが見えた。 「何しにきたのですか?」と、ボウインは叫んだ。「決闘まではまだ二日あります!」 「ゴルトウォグ卿が、決闘の日取りを今夜に変更したのですよ」と、裁判官は言った。「おととい私の使者を送ったのですが、あなたは訓練の最中でした。それでも、いとこのベリルス卿が代理で話を聞いて、日程変更に同意されたのです」 「しかし、後援者を召集する時間もありません」ボウインは不満をもらした。「それに、小柄な男なら殺せてしまえそうなほどのご馳走をたらふく食べたばかりなのです。ベリルス、そんなに大事なことをどうして教えてくれなかった?」 「タナーと相談したんだ」と、ベリルスは言った。いとこを欺いてしまったせいか、顔を紅潮させていた。「こういう状況のほうが、おまえは力を出し切れると考えたんだ」 闘技場での決闘はまばらな観衆の中で行われた。食事で満腹だったため、ボウインはとても軽やかに動けそうもないと感じていた。驚いたことに、鎧は彼の倦怠感をくみとったかのように、よろめきに合わせて滑らかで優雅な動きを披露してみせた。動きのこつをつかんでいくにつれて、ボウインは体ではなく心で攻めたり守ったりできるようになった。生まれて初めて、ボウインはオークの兜越しにものが見えるようになった。 もちろん、ボウインは負けた。採点されていたとしたら大差がついたはずだった。ゴルトウォグにはお手のものの戦いだったのだ。が、ボウインは裁判官がためらいがちに勝者を告げるまで、三時間以上も戦いつづけてみせた。 「この土地は、ソセンの土地にちなんでオルシニウムと名づけます」と、勝者はそう言った。 ボウインがまず思ったのは、どのみちオークには負けるのだから、大勢の友人や家族の目の前で戦わなくてよかったということだった。中庭をあとにして、夜の早いうちから望んでやまなかったベッドに向かおうとしたとき、ゴルトウォグとタナーが話しているのが目に入った。言葉は理解できなかったが、二人は知り合いのようだった。ボウインはベットに寝転がると、奉公人に老オークを呼びに行かせた。 「タナー……」と、彼はおだやかに言った。「ざっくばらんに答えてくれ。ゴルトウォグ卿に勝たせようとしたな」 「ずばりでございます」と、タナーは言った。「だが、あなたは健闘された。二日後に戦ったとしてもこうはいかなかったでしょう。私はですね、戦わずしてオルシニウムが奪われるのは我慢ならなかったのですよ」 物語(歴史小説) 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/227.html
曝されし手掌の道 未熟な拳闘家は、太鼓をたたくように拳をやたら振りまわして敵をぶちのめすものだ。甚だ無様な勝利である。曝されし手掌の道とは、それよりもはるかに洗練されていて、危険極まりないものだ。 ひとつ問いを与えよう。ある男の胸を一枚の大皿で引っぱたいた。小さなあざができるが、怪我らしい怪我はそれだけだ。そこで大皿を割ってその破片を手にとり、同じだけの力でもって男の胸を突き刺した。今度ばかりは男も死ぬか重傷を負うだろうが、なぜなのか? どうして大きな皿より小さな破片のほうがひどい傷を負わせられるのか? この質問の要点がそのまま、曝されし手掌の道の最初の指となる。手掌の指は五つある。集中、反応、均衡、速力、呼吸の指だ。素手による戦闘をきわめるには、これらの五つの指をすべて究めなければならない。 男と大皿の話は、「集中」の指の比喩である。すべての殴打は一点に集中させることで威力を増す。拳全体で打ち抜くよりも、親指だけで攻撃したほうが致命傷を負わせられるが、厳しい訓練を積んだ戦士にしかできない芸当だ。 「集中」はまた、自分がなすべきことだけを考えるための精神的鍛錬も意味する。究極的な目標をいつも見すえていれば、意志が雑念に揺らぐことはない。真なる戦士は、痛みすら遮断することができる。 兵法・戦術 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/71.html
バレンジア女王伝 第1巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第二紀の後期、バレンジアはモーンホールド王国(現在の帝都州モーンホールド)の王女として生まれた。バレンジアは5歳まで、ダークエルフの王女にふさわしい贅沢と保護の下で育った。その頃、タムリエルの初代皇帝、タイバー・セプティム1世閣下はモロウウィンドの堕落した王たちに対し、彼の帝都支配下に加わるよう要請したのだった。自らの魔力を過信したダークエルフたちはその要請を拒み続けたため、ついにタイバー・セプティムの軍は国境まで迫ってきたのであった。結果としてダークエルフは停戦に合意したが、そこに至るまでにはいくつかの戦があった。その一つは、モーンホールド王国のがれきの山と化していた、現在のアルマレクシアにて繰り広げられた。 幼い王女バレンジアと乳母は、戦のがれきの中で発見された。ダークエルフでもあった帝都将軍シムマチャスは、その幼き子を生かしておけば後に役立つかもしれないと皇帝に進言した。こうして、バレンジアは元帝都軍兵に預けられることになった。 元帝都軍兵であるその人物、スヴェン・アドヴェンセンは、引退した際に伯爵の位を授かっていた。彼の領地、ダークムーアはスカイリム中心部にある小さな町だった。セヴン伯爵とその妻は、自らの子供のように王女を養育し、なによりも帝都の一員としての美徳、すなわち遵法、分別、忠誠、信仰などを教えこんだ。その結果、彼女はすぐにモロウウィンドの新しい支配者の一人としてふさわしい資質を身に付けた。 バレンジアは美しく、気品と知性にあふれた少女に育った。彼女は優しく、また養父母の誇りでもあり、養父母の5人の息子たちもみな彼女を姉として慕った。彼女には、見た目以外にも他の少女にはない特質を持っていた。森や野原と心を通わせ、ときどき家を抜け出しては自然の中を歩き回るくせがあったのだ。 16歳までバレンジアは、とても幸せな毎日を送っていた。そんなある日、仲良くしていた厩番の孤児の不良少年から、セヴン伯爵と客のレッドガードとの間で行われた話を聞かされたのであった。どうやら妾として彼女をリハドへ売り飛ばすことを企んでいるらしいことを。ノルドやブレトンは肌が黒い彼女と結婚したがるはずもなく、ダークエルフでさえも異人種に育てられた彼女を嫌がるに違いないという考えを伯爵は持っているというのである。 「どうすればいいのかしら?」と、バレンジアはふるえながら涙声で言った。まっすぐに育った彼女は、友達である厩番の少年が嘘をついているなんて思いもしなかったのである。 そのストロウという名の不良少年は、彼女の護衛を買って出て、貞節を守るべく一緒に逃げることを勧めてきた。悲しげにバレンジアはその計画を受け入れた。 そしてその夜、目立たぬよう男装をしたバレンジアとストロウは、ホワイトランの町へ逃げたのだった。 ホワイトランに着いてから数日後、彼らはある隊商を護衛するという仕事に就いた。このいかがわしい隊商は帝都の街道を通ると通行税がかかるため、脇道を通って東へ向かおうとしていたのである。そして、隊商とともに彼らは追っ手に見つかることなくリフトンの町へ辿り着き、しばらくその地に身を置くことにしたのだった。彼らはダークエルフが珍しくないこのモロウウィンドとの境界に近い町に、束の間の安らぎを感じたのであった。 歴史・伝記 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/56.html
東方地域についての客観的考察 また、数百年にわたるこの二州の占領を正当とする理由は倫理的にも法的にも疑わしいのだが、このさいそのことには目をつぶるとして、モロウウィンドとブラック・マーシュから経済的または軍事的にどのような利点が得られるのか考えてみたい。 実際のところ、これらの州において帝都より独占権を与えられている一握りの者たちは、財産や資源を好きなだけ利用して富を得ている。が、帝都全体としては潤っているのだろうか。帝都のばかでかい官僚機構の維持費は税収だけでは到底まかなえない。しかも、これらの属州の辺境にある帝都軍要塞の建設や管理にかかる費用は、東方から軍事的な脅威が迫っているという確証があってこそ有益に使われていると言えるものだが、そうした証拠はひとつもない。モロウウィンドやブラック・マーシュの軍隊が帝都の安全を脅かしたことはないのだ。もちろん、シロディールそのものが襲われたことなどあるはずもない。 実際のところ、帝都の安全を脅かすおびやかす最大の驚異はぐうたらな軍隊そのものにある。彼らの胃袋は納税者の負担によって満たされている。こうした軍隊の将校は身近な敵がいるわけでも、反対されるわけでもないため、西方に色気をみせることもありうる。彼らには忠実なる古参兵の軍隊もついているし、ひとり勝ち状態の商人の後援により財源も潤っている。皇位継承の先行きが不透明な中、彼らは思いもよらぬ政治的要因となってくる。 モロウウィンドとブラック・マーシュの占領が理想を追い求めた結果であったなら、帝都の重圧にもいくらかは耐えられたかもしれない。だが、帝都のなんと恥さらしなことか。モロウウィンドで暗黙のうちに実践されている奴隷制度を見て見ぬ振りをし、ダークエルフの領主から哀れなカジートとアルゴニアンの奴隷を救うために軍を出動させるのではなく、無防備な奴隷施設を防衛するために予算をさいているのだ。モロウウィンドの黒檀鉱山では、帝都の勅許のもとで私腹を肥やした者たちが奴隷を酷使して、賄賂と汚職によって保証された法外な利益を収穫しているのである。 東方地域に平和と啓蒙をもたらすというわが国の命題のなんと傲慢なことか。実施にしているのは、これまで驚異ですらあったことのない土地に派兵し、モロウウィンドとブラック・マーシュで実践されていた蔑むべき忌まわしい制度をいいように利用しただけのことにすぎない。その結果、皇室にへつらうものたちだけが豊かになっていった。 客観的に考察してみると、わが国の東方占領政策は道徳的には堕落し、軍事的には無防備で、経済的には破綻しており、導かれる結論はひとつしかない。東方部隊を解散し、帝都の官僚や豪商を東方から引き揚げさせ、このいにしえの土地に暮らす民の手に自由を与えることだ。いやしくも西方文化の失われつつある理想や財産を守ろうとするなら、そうすることでしか道は開けないのではなかろうか。 白1 社会
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/100.html
ペリナルの歌 第2巻:その訪れ [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] (そして)ペリフは天を仰ぎ、神々の使いに語りかけた。天はエルフが地上を支配し始めたから、その慈悲を失っているように見えた。ペリフは、命に限りある人間であった。彼女の同胞である人間の、弱さの中の強さや謙虚は神々の深く愛するところであり、人間が、最後にある死を知りながら命を燃やす姿は神々の憐れみを誘っていた(向こう見ずに魂を燃やす者たちが竜の一族に好かれるのと同じ理由である)。そして、彼女は神々の使いに語りかけた:「そして、私はこの思いに名前をつけ、それを自由と呼びました。失われし者シェザールの、別の名前だと思います…… (あなたは)彼が失われたとき、最初の雨を降らせました。(そして)私は今、彼に起こったのと同じことが邪な支配者たちに起こるよう願います。彼らを打ち破り、彼らのした残虐な仕打ちの代償を支払わせ、トーパルの地へ追いやり(たいのです)。あなたの息子、あの強く、荒ぶる、猛牛の角と翼を持つあのモーリアウスをもう一度地上につかわし、私たちの怒りを晴らさせてください」…… (そしてその時)カイネはペリフに新しい印を与えた。それはエルフの血で赤く染まったダイヤモンドで、その面は(なくなり、形を変え)一人の男となってペリフの縛めを取り払った。その男は「星の騎士」(を意味する)ペリナルと名乗り、(そして彼は)(未来の)武具を身に付けていた。そして彼はシロドの密林へと分け入り、そこにいるものを殺した。モーリアウスはペリナルの出現に喜び、地上に降りてペリナルに寄り添った。(それからペリナルは)ペリフの率いる反乱軍の陣地に戻り、自分の剣とメイスに刺さったエルフのはらわた、首、羽、アイレイドーンの印である魔玉などを見せた。血で固まったそれらを掲げたペリナルは言った「エルフの東の長だったものだが、こうなっては名乗ることもできまい」と。 歴史・伝記 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/80.html
五つの戒律 教義1:決して夜母に無礼を働かないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義2:決して闇の一党を裏切らないこと、そして秘密を漏らさないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義3:決して闇の一党の高官からの命令に背いたり、遂行を拒んだりしないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義4:決して闇の兄弟や闇の姉妹の所持品を盗まないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義5:決して闇の兄弟や闇の姉妹を殺さないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 社会 緑3 闇の一党関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/65.html
「坊や、そこへ座りなさい。これからお話をしてあげるからね。この物語は長年語り継がれてきたお話だよ」 「どんなお話なの? お爺ちゃん。英雄と野獣が出てくるお話?」 祖父は孫をじっと見つめた。彼は良い子供に育っていた。すぐにこの物語の価値、つまり幾世代にも語り継がれてきた教訓を理解するであろう。 「よく聞きなさい。この話はお前のその心にしっかりと刻むのだよ」 ─ 昔々、スコールがまだ新入りだったころ、この地は平和だった。太陽が照り、作物はよく育ち、全創造主の与えた平和の中で人々は幸せに暮らしていた。しかし、スコールの人々は現状に満足して、全創造主から与えられたこの大地とその恵みを当然のものとみなすようになった。彼らは大事なことを忘れ、思い出そうともしなかった。それは魔王が常に彼らを見張っていること、つまり全創造主と彼に選ばれた人民を苦しめるのを楽しみにしているということを。そしてついに魔王がスコールの前に降り立つ時がきた。 魔王はさまざまな姿をしていた。ある時は不浄の獣、またある時は不治の疫病であった。四季の終わる頃には、魔王は世界を貪り食う者、サーターグとして知られることになるが、この時代においては強欲者と呼ばれていた。 強欲者は(我々がこう呼ぶのは彼の真の名前を呼んでしまうと破滅を引き起こすからである)長い年月にわたってスコールの中に紛れ、生活をしていた。おそらくもともとは普通の人間だった男の心に、魔王が入りこんで強欲者と化してしまい、このように語り継がれているのだろう。 とうとうスコールの力が失われる時が来た。戦士は武器を失い、シャーマンは獣たちを呼び寄せる呪術を奪われた。年寄りたちは全創造主の機嫌を損ねてしまったのだと言い、全創造主は永遠に彼らのもとを去ったのだと言う者もいた。そこへ強欲者が現れた。 「お前たちスコールは日々肥え、怠惰な暮らしを送っておる。そんなお前たちから、全創造主からの贈り物を盗んだ。まず海を盗んだ。お前たちはもう二度と喉の渇きを癒せないであろう。次に陸・森・太陽を盗んだ。作物は枯れ、死ぬだろう。そして獣を盗んだ。飢えがこの地を襲うであろう。そして風を盗んだ。お前たちがこの先全創造主の魂を感じることはないであろう」 「もしお前たちの誰かがこの贈り物を取り返しに来なければ、スコールはいつまでも惨めで絶望的な暮らしを送り続けるであろう。ゆえに私は強欲者、これが私の真の本性だ」 強欲者はそう言って消え去った。 スコールの人々は、来る日も来る日も話し合いに明け暮れた。この中の誰かが贈り物を取り返しに行かなければならない。しかし、誰が取り返しに行くかを決められなかった。 「私は行けない」と、長老は言った。「私はスコールを導き、決まり事が何なのかを人々に伝えなければならない」 「私も行けない」と、戦士は言った。「私にはスコールを守る義務がある。強欲者がまた現れれば、私の剣が必要になるだろう」 「私も行けない」と、シャーマンは言った。「人々には私の英知が必要だ。私は前兆を読み解き、知恵を授ける必要がある」 その時アエヴァーと呼ばれる男が声をあげた。彼は腕っぷしの強い、俊足の持ち主であったが、この時はまだスコールの戦士ではなかった。 「僕が行きます」とアエヴァーが言うと、スコールは皆笑った。 「最後まで聞いてください」と彼は続けた。「僕はまだ戦士ではないから、僕の剣はまだ必要とされていない。前兆を読む力もないので、人々は僕に助言を求めに来ない。そして、まだ若いので政治にかかわるほど賢明ではない。僕が強欲者から奪われた全創造主の贈り物を取り返してきます。もしできなかったとしても、僕を失って悲しむ人はいない」 皆は少し考えた結果、アエヴァーを行かせることにした。翌朝、アエヴァーは贈り物を取り返すため村をあとにした。 アエヴァーはまず最初に、水の贈り物を取り返しに行こうと水の岩へ向かった。そこで初めて全創造主がアエヴァーに語りかけた。 「西の海へ行きなさい。泳ぎ人のあとをついて命の水へ向かうのです」 そこでアエヴァーが海岸を歩いていると、全創造主が遣わした泳ぎ人、ブラック・ホーカーに出会った。泳ぎ人は海へ飛び込み、ものすごい速さでどんどんと遠くに行ってしまった。しかし、アエヴァーは強い体の持ち主で、懸命に泳いだ。泳ぎ人について横穴のあいた所まで深く潜り、肺が焼けそうになりながら、体がくたくたになりながらも泳いだ。ようやく海中に空気の溜まり場を見つけ、そしてその暗がりの中に命の水を見つけた。残る力をふりしぼり、命の水を持って、海岸へと泳ぎ戻った。 水の岩へ戻ると、全創造主が語りかけてきた。「あなたはスコールに水の贈り物を取り戻しました。海が再び現れ、皆の喉の渇きを癒すでしょう」 アエヴァーは次に大地の岩へと向かった。そこでまたも全創造主が語りかけてきた。 「秘密の音楽の洞窟へと行き、大地の歌を聴くのです」 そこで今度は北東にある秘密の音楽の洞窟へと向かった。そこは大きな洞窟で、岩が天上から垂れ下がり、地面から伸びていた。耳を澄ますとかすかに大地の歌が聞こえてくる。そこでアエヴァーはメイスを取り出し、リズムに合わせて岩を叩いた。すると音は次第に大きくなり洞窟とアエヴァーの心を満たした。そしてアエヴァーは大地の岩へと戻っていった。 「スコールは再び大地の贈り物を手に入れました」と、全創造主は言った。「大地は再び肥え、そこから新たなる生命が宿るでしょう」 太陽が激しく照りつけ、それをさえぎる木陰も冷たい風もないので、アエヴァーは疲れていた。それでもなおアエヴァーは獣の岩へ赴いた。そこでまた全創造主が語りかけた。 「善の獣を探し出し、その獣を苦しみから解き放つのです」 アエヴァーがアイジンフィアの森を何時間もかけて通り抜けていると、丘の向こうから熊の叫び声が聞こえてきた。丘に登ると、首に雪エルフの矢が刺さって叫び声をあげている熊を見つけた。アエヴァーは周りに雪エルフが潜んでいないかどうか(異論を唱える者もいるが、敵は雪エルフであった)を見渡し、誰もいないことを確認してからその獣に近づいていった。アエヴァーは熊をなだめながらゆっくりと近づき、「善の獣よ、僕は君に危害を加えたりはしない。全創造主から君の苦しみを癒すように言われ、ここへやってきた」と言った。 この言葉を聞いた熊は暴れるのをやめ、頭をアエヴァーの足元に横たえた。アエヴァーは矢をぐっとつかんで首から引き抜いた。自分が知るちょっとした自然魔法を使ってその傷口を治したが、これでアエヴァーは最後の力を使い果たしてしまった。熊の傷が治るとアエヴァーは眠りへと落ちた。 目が覚めると、熊はアエヴァーの前に立ちはだかるようにしていた。周りにはいくつもの雪エルフの死体が転がっていた。善の獣は一晩中、アエヴァーを守っていたのであった。アエヴァーが熊と一緒に獣の岩へ戻ると全創造主が語りかけてきた。 「獣の贈り物を無事取り戻しましたね。善の獣は再びスコールの空腹を満たし、寒さには着物を与え、必要なときには彼らが守ります」 アエヴァーの体力も回復したので、彼は樹の岩へと向かった。ここで善の獣とは別れた。彼が到着すると万物の父が語りかけてきた。 「始まりの樹々が枯れてしまったので急いで植え替えねばなりません。始まりの樹々の種を探し出してください」 アエヴァーは再びハースタングの森へと向かい、始まりの樹々の種を探したが、一向に見つからない。そこでアエヴァーは生ける樹の精霊たちに問いかけた。精霊たちが言うには、ある雪エルフ(雪エルフは魔王の手下だ)が種を持ち去り、森の奥深くに隠してしまって、誰も見つけられないのだ。 アエヴァーは森の奥深くへと進み、下位の樹の精霊たちに囲まれる邪の雪エルフの姿を見つけた。精霊たちは雪エルフの奴隷状態にあり、種の魔法を使い、秘密の名前を言わされていた。アエヴァーはそのような力には対抗できないと分かっていたので、こっそりと種を盗み取らなければならなかった。 アエヴァーは自分の小袋に手を伸ばし、火打石を取り出した。葉を集め、邪の雪エルフと魔法にかけられた精霊たちの周りの空き地に小さな火をおこし始めた。スコールはみな、精霊たちが火を恐れていることを知っていた。火は精霊が仕える樹を燃やしかねないからだ。すぐに、精霊の本能は取り戻され、彼らは急いで火を消そうと駆けていった。混乱の巻き起こる中、アエヴァーはそっと雪エルフの背後に回り、種の入った小袋を盗み取り、邪の雪エルフが気付く前に逃げ去った。 アエヴァーは樹の岩に戻り、地面に種をまいた。すると、全創造主が話しかけてきた。 「樹の贈り物も取り戻しましたね。樹々や草花が再び生え、人々に滋養と日陰を与えることでしょう」 依然として太陽は暑く照りつけ、涼しい風が吹かなかったのでアエヴァーはひどく疲れていたが、木陰で少しの間休むことができた。アエヴァーの足は棒のようになり、目もひどく重たかったが、それでも旅を続けた。次は太陽の岩へと向かった。そこでまた全創造主が語りかけてきた。 「太陽の穏やかな日差しが盗まれてしまいました。今や激しく照りつけるばかりです。太陽を日食の館から解き放つのです」 そこでアエヴァーは西へと歩き、凍り付いた陸地を越え、日食の館へと到着した。中に漂う空気は厚く重く、自分の腕から先はまったく見えない状況であった。自分の足音が響く中、壁を頼りに歩くも、この館の中には肉を引き裂き、骨までしゃぶりつくす不浄の獣が潜んでいることを知っていた。何時間かそうして歩くと、広間の向こうに微かな光を見つけた。 そこには一枚板のような氷の後ろからまばゆい光が差し込んでいて、アエヴァーは目を開けてはいられなかった。視力を失ってしまうのではないかと思うほどであった。燃えさかる不浄の獣の目を引き抜き、力の限り氷の板に向かって投げ捨てた。氷に小さなヒビが走ったかと思うと、次の瞬間には大きなヒビが入った。ヒビの間からゆっくりと光がもれだし、全体へと広がり氷を粉々に砕いた。轟音とともに壁は崩れ落ち、光がアエヴァーと廊下を包み込んだ。視力を失い、体が燃えさかる不浄の獣の叫びが聞こえた。アエヴァーは光に導かれるように広間を飛び出し、外の地面に倒れ込んだ。 アエヴァーが立ち上がったときには太陽が再び彼を暖かく包み込んだ。アエヴァーはそのことに感謝した。アエヴァーが太陽の岩に戻ると、全創造主が語りかけた。 「太陽の贈り物を再び手に入れましたね。太陽は人々を温め、光を与えます」 アエヴァーが取り戻すべき贈り物は残すはただ1つ。風の贈り物である。アエヴァーは島のはるか西の海岸の、風の岩へと向かった。全創造主はアエヴァーに最後の課題を言い渡した。 「強欲者を見つけ、その呪縛から風を解き放ちなさい」 アエヴァーは強欲者を探して陸地をさまよい歩いた。樹の中も探してみたが強欲者の姿はなかった。海のそばにも、洞窟の奥にも姿は見えず、獣たちも森で強欲者の姿は見てないと答えた。しかし、ついにアエヴァーは一軒のねじれた家を発見し、そこに強欲者がいるようだと分かった。 「誰だ?」と強欲者は叫んだ。「私の家を訪れる者は誰だ?」 「僕はスコールのアエヴァーだ」と、アエヴァーは答えた。「僕は戦士でもなければ、シャーマンでも長老でもない。もし僕が村へ生きて帰れなくても誰も悲しまない。だがしかし僕は海、大地、樹、獣そして太陽を取り戻した。あと風も取り戻すことができればスコールの人々に全創造主の魂が再び宿るであろう」 そうしてアエヴァーは強欲者の袋をぐっとつかんで引き裂いた。風が勢いよく飛び出し、強欲者をも巻き上げ、島から遠く離れた場所へと吹き飛ばした。アエヴァーはすっと風を吸い込み、喜んだ。風の岩のところへ戻ったアエヴァーに全創造主は最後にこう語りかけた。 「よくやりとげました、アエヴァー。スコールでもっとも若きものよ。私の贈り物すべてを取り返しましたね。強欲者は今やはるか遠くへと飛ばされ、二度と村の生活を脅かすことはないでしょう。実に喜ばしいことです。さあ、お行きなさい。己の本能に従い生きるのです」 アエヴァーはスコールへと帰っていった。 ─ 「それからどうなったの? お爺ちゃん」 「どういう意味だ? アエヴァーは無事家に帰っていったのだよ」 「村に帰ったあとの話だよ。アエヴァーはその後戦士になったの? それともシャーマン? スコールの街を戦いへと導いたの?」 「それはどうだろうね。ここでこの物語はおしまいさ」と祖父は答えた。 「こんな終わり方なんてないよ! 物語らしくない」 老人は笑って、椅子から立ち上がった。 「そうかい?」 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/266.html
謎かけの赤い本 この手軽な書物にこそ、様々な謎かけやおふざけが収められ、入念な研究を通じ、教養ある慎重な紳士は、同輩の者たちの鋭い才知により当惑させられることはなくなるだろう。 [西方の貴族社会では謎かけの応酬は慣習の一つとなっている。貴族や社交界での活躍を図る者たちは謎かけの本を集めて研究し、会話の際に狡猾にして機知に富んでいる印象を与えられるよう、努力を重ねるという。] 問いかけ: 汗水流して働けど 暮らし良くなる気配無し 努力の挙句に手元に残るは 返し: これぞドレイク金貨なり 問いかけ: 人とエルフの心とは 詩人こそ知るところなり 熊に詩吟を詠ませたら 返し: 瞬く間にのけものなり 問いかけ: 爺を殴って殴りつけ 見慣れぬ顔に仰天す 慌てて周囲を見まわせど 返し: 殴る拳を違えたか 詩歌 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/125.html
2920 真央の月(6巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 真央の月2日 バルモラ (モロウウィンド) 「帝都軍が南に集結しております」キャシールは言った。「二週間の進軍でアルド・イウバルとコロチナ湖に到達するでしょう。それと、きわめて重装備でありました」 ヴィヴェックはうなずいた。アルド・イウバルと湖の対岸の姉妹都市、アルド・マラクは戦略の要地とされる城砦だった。ここしばらく、敵が動くのではないかと懸念していた。ヴィヴェックに仕える将軍がモロウウィンド南西部の地図を壁から引きはがすと、開け放しの窓から舞い込んでくる心地よい夏の海風と格闘しながら、手で撫でつけてまっすぐに伸ばした。 「重装備だと言ったな?」と、将軍は訊いた。 「はい、将軍」キャシールは言った。「ハートランドはベサル・グレイにて野営しておりました。どの鎧も黒檀製やドワーフもの、デイドラものばかりで、上等な武具や攻城兵器も確認できました」 「魔術師や船は?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「魔闘士の軍団がおりましたが──」キャシールは答えた。「船はないものかと」 「それほどの重装備なら、ベサル・グレイからコロチナ湖までは確かに二週間はかかる」ヴィヴェックは地図をじっくりとながめた。「さらに北からまわり込んでアルド・マラクへ向かおうとすれば、沼地にはまってもたつくことになろう。となれば、この海峡を越えてアルド・イウバルを攻め落とそうと考えるにちがいない。それから湖岸沿いに東進し、南からアルド・マラクを奪おうとする」 「海峡を越えてくるなら、やつらは袋のねずみですな」と、将軍は言った。「半分ほど渡りきってしまえばもうハートランドには引き返せない。そこで一気に襲いかかるのです」 「またもやそなたの機知に助けられたようだ」ヴィヴェックはそう言い、キャシールに笑いかけた。「今一度、帝都の侵略者どもを撃退してやろうぞ」 2920年 真央の月3日 ベサル・グレイ (シロディール) 「勝利しておきながら、かように帰還なさるおつもりですか?」ベサル卿は訊いた。 ジュイレック王子はまるでうわの空だった。野営地の後片づけをしている軍隊に意識を集中させていた。肌寒い森の朝だったが、雲ってはいなかった。午後の進軍は暑さとの戦いになりそうだった。これだけの重装備ならなおさらだ。 「早期撤退は敗北してこそするものでしょう」と、王子は言った。遠くの牧草地で、支配者ヴェルシデュ・シャイエが、村の食料や酒、それに女を用立ててくれた執事に謝金を渡しているのが見えた。軍隊とはじつに金がかかるものだ。 「しかしながら、王子……」と、ベサル卿は不安げに訊いた。「このまま東進なさるおつもりですか? それではコロチナ湖の湖畔にたどりつくだけでしょう。南東から海峡へ向かわれたほうがよいのでは」「あなたは村の商人が約束の報酬をもらったかどうかを案じていればいい」と、王子は笑みを浮かべて言った。「軍隊の行き先は私が考えましょう」 2920年 真央の月16日 コロチナ湖 (モロウウィンド) ヴィヴェックは広大な青い湖面の向こうをながめた。みずからと軍の姿が青い水面に映りこんでいた。が、帝都軍の姿は映り込んではいなかった。森で待ち受ける災難を嫌って、とっくに海峡へ到着しているはずだった。羽のように薄っぺらなひょろ長い湖岸の木々が邪魔になって海峡の様子はほとんどうかがえなかったが、かさばる重装備に身を包んだ一団が誰の目にもとまらずに音もなく移動することなど不可能だった。 「もう一度地図を見せてくれ」ヴィヴェックは将軍を呼ばわった。「他の進路があるとは考えられないか?」 「北の沼地には哨兵を配備しております。浅はかにも、やつらが沼地に入ってもがいている可能性もないとは言えませんからな」と、将軍は言った。「少なくとも報告があるでしょう。が、湖を越えるとしたら海峡を抜けるより他はありません」 ヴィヴェックはまた湖面に映った影を見つめた。彼をからかうようにゆらゆらと揺れていた。それから、ヴィヴェックは地図に視線を戻した。 「スパイか……」ヴィヴェックはそう言うと、キャシールを呼びつけた。「敵軍は魔闘士の一団を引き連れていたと言ったが、どうして魔闘士だとわかったのだ?」 「灰色の法衣に謎めいた紋章を身につけておりましたから……」と、キャシールは述べた。「魔闘士だと直感しました。あれだけの大人数でしたし。軍が治癒師ばかりを同道させているとは思えませんので」 「浅はかなやつめ!」ヴィヴェックは怒鳴った。「やつらは変性の技巧を学んだ神秘士なのだぞ。水中呼吸の魔法を全軍にかけたにちがいない」 ヴィヴェックは手ごろな見通しのきく場所へ走って、北の方角を見渡した。水平線に浮かぶ小さな影でしかなかったが、対岸のアルド・マラクから襲撃の火の手があがっているのが見えた。ヴィヴェックは怒りの雄たけびをもらした。将軍はただちに、城砦を守るべく湖をまわり込むよう軍隊に指示を出しなおした。 「ドワイネンに帰れ」ヴィヴェックはキャシールに向かって言い放つと、戦いに加勢すべく出発した。「わが軍はもはやおまえの力を必要としていない」 モロウウィンド軍がアルド・マラクに迫ったときにはもう手遅れだった。街は帝都軍の手に落ちていた。 2920年 真央の月19日 シロディール領帝都 支配者ヴェルシデュ・シャイエが帝都に凱旋すると、熱烈な歓迎が待っていた。男も女も通りにずらりと並んで、アルド・マラク陥落の象徴である大君主を褒め称えた。王子が帰還していたらこれ以上の群集が出迎えたであろうことは、シャイエにもわかっていた。それでも、彼は大いに気を良くしていた。タムリエルの民がアカヴィル人の到着を歓迎するなど、それまでにないことだった。 皇帝レマン三世は心のこもった抱擁で彼を出迎えると、やおら王子から届いた手紙を突きつけてきた。 「どういうことかね」皇帝はようやく言った。喜んでいながらもとまどっていた。「湖にもぐったと?」 「アルド・マラクは、難攻不落の要塞です」大君主はそう言った。「それに加えて、われらの動きを警戒しているモロウウィンド軍が周囲を巡回しています。攻め落とすには不意を突いて、鎧の頑丈さにものを言わせて攻撃するしかありません。水中でも呼吸できる魔法をかけることで、われらはヴィヴェックに感づかれないうちに移動することができました。水中では鎧の重みもさほど気になりません。そして守備のもっとも手薄な砦の西側の水締めから攻め入ったのです」 「すばらしい!」皇帝は歓声をあげた。「驚くべき戦術家だな、ヴェルシデュ・シャイエよ! そなたの父親にもそれだけの才覚があったら、タムリエルはアカヴィルの領土になっていただろう!」 実のところ、その計画はジュイレック王子が考えたものだった。シャイエとしては、王子の功績を横取りする気はみじんもなかったが、大失敗に終わった260年前の祖先の侵略のことに皇帝が触れたとき、決心したのだった。シャイエは控えめな笑みを浮かべて、おもうぞんぶん賞賛を味わった。 2920年 真央の月21日 アルド・マラク (モロウウィンド) サヴィリエン・チョラックは腹ばいになって壁まで進み、モロウウィンド軍が沼地と砦に挟まれた森の中へ撤退していくのを銃眼からじっと見つめた。絶好の攻撃の機会のように思われた。敵軍もろとも森を焼き払ってしまえばいい。ヴィヴェックさえ捕らえてしまえば、敵軍はアルド・イウバルもおとなしく明け渡すかもしれない。ショラックはその案を王子に持ちかけてみた。 「ひとつ忘れているようだけど」ジュイレック王子は一笑にふした。「休戦交渉中は敵の兵士や指揮官に手を出さないと約束しているんだ。アカヴィルでの戦いに誇りは不要なのかい?」 「お言葉ながら、私はタムリエルで生まれ育ち、祖国を訪れたことはございません」蛇男は答えた。「が、それでも、あなたの流儀はどうも解せない。五ヶ月前に帝都の闘技場で戦ったときも、あなたは金銭を求めようとせず、私は一銭も払わなかった」 「あれは遊びだから」王子はそう言うと、執事にうなずいてみせ、ダンマーの戦士長を迎え入れた。 ジュイレックがヴィヴェックに会うのは初めてだった。この男が神の化身であるという話は聞いていたが、目の前に現れたのはひとりの男だった。屈強で端正な顔した男で、知性にあふれる顔をしていたものの、やはりただの男だった。王子はほっとした。ただの男となら話せる。神であるなら話はべつだが。 「はじめまして、わが称えるべき好敵手」と、ヴィヴェックは言った。「お互いに手詰まりのようだな」 「そうともかぎりません」王子は言った。「あなたはモロウウィンドを明け渡したくはないし、私としてもそれをとがめることはできません。が、外敵の侵略から帝都を守るため、モロウウィンドの沿岸地域はどうしても押さえておきたい。それと、この場所のような、戦略の要地である国境の砦もほしい。アルド・ウンベイル、テル・アルーン、アルド・ランバシ、テル・モスリブラもすべて」 「して、見返りは?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「見返りだと?」サヴィリエン・チョラックは笑い飛ばした。「いいか、勝者はわれらだ。おまえじゃない」 「見返りとして」ジュイレック王子は慎重になって言った。「帝都はモロウウィンドを襲わないと約束しましょう。もちろん、そちらから攻めてきた場合は別として。侵略者があれば、帝都海軍が助けに駆けつけましょう。それから、領土も分け与えましょう。ブラック・マーシュから好きな土地を選んでください。帝都にとって無用な土地であればですが」 「悪くない条件ですが」間をおいて、ヴィヴェックは言った。「即答はできかねますな。シロディールが奪ったぶんだけ補償してくれるなど、これまでになかったことですから。数日の猶予をいただけますか?」 「では、一週間後に会いましょう」王子はそう言って微笑んだ。「それまでにそちらが攻撃をしかけてくることがなければ、秩序は保たれるでしょう」 ヴィヴェックは王子の私室をあとにした。アルマレクシアの読みの正しさを感じながら。戦争は終結した。ジュイレック王子は立派な皇帝になるだろう。 時は南中の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/41.html
センチネルに落ちる夜 ボアリ 著 センチネルの名もなき酒場で音楽は演奏されず、用心深い小声の会話、女給仕人の柔らかい足音、常連が注意しながら酒をすすり瓶の口にあたる舌、何も見ていない目、実に音は少ない。もし誰か1人でもこれ程無関心でいなかったら、上質な黒いビロードのケープをまとった若い女性、レッドガードの存在に驚いたであろう。闇に紛れ、看板もないような質素な地下室では、彼女は間違いなく場違いであった。 「あなたがジョミック?」 がっちりとした、年齢よりも老けた中年の男が声の主を見上げた。彼は頷き、自分の飲み物に戻った。若い女性は彼の横に座った。 「私はハバラ」と彼女は言い、小さなゴールドが入った袋を取り出して、彼のマグの横に置いた。 「そうかい」ジョミックはうなり声を出し、彼女の目を見た。「誰に死んで欲しいんだい?」 振り向きはしなかったが、ただ単に聞いた。「ここで話しても安全なの?」 「ここじゃみんな自分の心配以外しちゃいねえよ。あんたが胴鎧を脱いでテーブルの上で胸出して踊ったって、誰も唾すら吐かねえ」男は笑い、「で、誰に死んで欲しいんだい?」 「実は、誰も」と、ハバラは言った。「本当は、ある人間にしばらく消えて欲しいんだけど…… 危害は加えたくないの。だから専門家が必要なの。あなたは非常に評判がいいわ」 「あんた、誰と話したんだよ」ジョミックは退屈そうに聞き、飲み物に戻った。 「友達の友達の友達の友達」 「その友達のうちの誰かは、まったくオレのことを分かっちゃいねえ」と、男はぼやいた。「おれはもう、それはやらないんだ」 ハバラは急いでゴールドの袋をもう1つ、そしてさらにもう1つ取り出して、男の肘の横に置いた。彼は一瞬彼女を見てから、金を取り出して数え始めた。数えながら男は聞いた。「誰に消えて欲しいんだい?」 「ちょっと待って」ハバラは微笑み、首を振っている。「詳しく話す前に、あなたが専門家で、その人をあまり痛めつけず、慎重に処理してくれる裏づけが欲しいの」 「慎重に?」男は数えるのをやめた。「それじゃあ、昔やった仕事の話をしてやるよ。あれは確か── 信じられねえ、もう20年以上も前か、しかも関わった人間で生きてるのは俺しかいねえ。これはベトニーの戦い以前の話だ。あの戦を覚えているか?」 「私はまだ赤ん坊だったわ」 「だろうな」ジョミックは笑みを浮かべた。「王者ロートンにはグレクリスっていう兄がいたのはみんな知ってる。確か死んじまったんだよな? それで、姉のアウブキじゃダガーフォールの王者と結婚しちまった。でもな、ロートンにゃ本当は本当は兄が2人いたんだ」 「本当に?」ハバラの目が好奇心で輝いた。 「嘘じゃねえ」彼は含み笑いをもらした。「なよなよした弱そうなヤツで、名前はアーサゴー、長男さ。なんにせよ、この王子が玉座の後継者だったんだが、親はそれをあんまり喜んでなくてな。でも、それから女王は健康そうな王子をあと2人ひねり出したんだ。そこで、長男が地底王に連れ去られたように見せかけるために、俺と一味が雇われたわけさ」 「知らなかったわ!」若い女はささやいた。 「当たり前だろ、それが狙いだ」ジョミックは首を振った。「慎重さだ、あんたが言ったようにな。少年を袋に入れて、遺跡の奥深くに閉じ込めた、それで終わりさ。なんの騒ぎもねえ。必要なのは2、3人、袋、それと棍棒だけだ」 「それよ、私が興味あるのは」と、ハバラは言った。「私の…… 消えて欲しい友達も弱いわ。その王子のように。棍棒は何のため?」 「道具さ。最近の連中は楽に使えるものを好むから、昔のほうがよかったものでも、大抵の道具は最近見なくなっちまったぜ。説明してやるよ。平均的なヤツの体には、71ヶ所の痛点がある。敏感だったりするエルフとカジートはそれぞれ、さらに3ヶ所と4ヶ所多い。アルゴニアンとスロードは大体同じくらいで52ヶ所と67ヶ所」 ジョミックは短く太い彼の指を使って、それぞれの部位をハバラの体に指し示した。「額に6ヶ所、眉に2ヶ所、鼻に2ヶ所、喉に7ヶ所、胸に10ヶ所、腰に9ヶ所、各腕に3ヶ所ずつ、股間に12ヶ所、利き足に4ヶ所、もう一方に5ヶ所」 「それで63ヶ所よ」とハバラが答えた。 「違うだろう!」と、ジョミックは怒鳴った。 「いいえ、合ってるわ」計算能力が疑問視されていることに腹を立て、彼女は叫び返した。「6と2と2と7と10と9と片腕3と、もう一方の3と12と4と5で、63でしょう」 「どこか抜かしたんだろう」ジョミックは肩をすくめた。「重要なのは、杖や棍棒の腕を磨くには、この痛点を知り尽くさなきゃならないってことだ。上手くやれば軽く叩くだけで殺せるし、逆にあざも残さずに失神させられる」 「とても面白いわ」ハバラは微笑んだ。「それで、発覚しなかったの?」 「どうやってばれるのさ? ガキの両親、王者と女王はもう死んじまってるし。他の子たちは、彼らの兄は地底王に連れ去られたと信じこんでるし。みんなそう思ってるぜ。それに、俺の仲間はみんな死んじまったしな」 「自然死?」 「自然なことなんて、この湾じゃ絶対おきねえことぐらい分かってるだろ。1人はセレヌーに吸い込まれた。もう1人は女王と王子グレクリスの命を奪った同じ疫病にやられた。別の仲間は泥棒に撲殺されたぜ。生きたけりゃ俺みたいに、目立たず隠れてるこった」ジョミックはゴールドを数え終えた。「相当こいつに消えて欲しいんだな。誰だい?」 「見てもらったほうがいいわ」ハバラは言い、立ち上がった。振り返らずに彼女は名もなき酒場を後にした。 ジョミックはビールを飲み干し外に出た。夜は涼しく、イリアック湾の水面から気ままな風が押し寄せ、木々の葉を舞い上がらせていた。酒場の横の路地からハバラが歩み出て、彼に向かって手招きをした。ジョミックが彼女に近づくと、風が彼女のケープを吹き上げ、センチネルの紋章が入った鎧をあらわにした。 太った男は逃走しようと後ずさりしたが、彼女は早かった。ぼんやりする中、彼は自分が路面を背にし、彼女の膝が喉をしっかりと押さえつけていることに気付いた。 「玉座を得て以来、長い年月をかけてあなたと仲間たちを探してきたわ、ジョミック。あなたを探しあてた時の具体的な指示はなかったけれど、あなたが良いことを教えてくれたわ」 ハバラはベルトから、小さく頑丈な棍棒を取り外した。 酒場からよろけながら出てきた酔っ払いが、路地の暗闇から泣くようなうめき声とともに、柔らかなささやき声を聞いた。「今度はしっかりと数えましょうね。いち、に、さん、し、ご、ろく、なな……」 小説・物語 茶3