約 3,151,943 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/150.html
帝都の略歴 第3巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、セプティム王朝初代皇帝タイバーから第8代皇帝キンタイラまでの歴史の概略を述べた。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争とその後に続くユリエル三世からキャシンダール一世までの治世について述べた。また、その巻の最後に、いかにして皇帝キャシンダールの異父弟ユリエル四世が帝位を継承したかを論じた。 ご存知のように、ユリエル四世はセプティムの血を引いていなかった。彼の母カタリア一世はダークエルフだが、セプティムの血統である皇帝ペラギウス三世に嫁ぎ、夫の死後長い間女皇として君臨した。しかしユリエルの父親は、カタリアがペラギウスの死後に再婚したブレトンの貴族、ガリヴェール・ラリアートであった。キャシンダールは帝位を継ぐ以前、ウェイレストの王であったが病弱だったため、また子供がいなかったためにその地位を異父弟のユリエルに譲って退位した。その際、キャシンダールは法的にユリエルを養子として皇籍に迎えたのである。その7年後、母カタリアの死によってキャシンダールは皇帝として即位し、さらに3年後にユリエルは再びキャシンダールの位を継ぐことになるのである。 ユリエル四世の治世は長く、問題の多い時代であった。彼は正当に皇籍に入っていたし、また彼の父親の家系であるラリアート家もセプティムの傍系で高い地位にあったにも関わらず、元老院の大多数は彼を正当なセプティムの血統と認めなかった。元老院はカタリアの長い治世中、加えてキャシンダールの短い治世中も、帝政にかかわる権限の大部分を任されていたので、意思の強いユリエル四世のような皇帝は彼らにとって「異物」であり、彼らの忠誠を勝ち得るのは不可能であった。皇帝と元老院は一度ならず意見を違え、多くの場合元老院の意見が通された。ペラギウス二世の時代から、元老院は帝都の中で最も裕福な男女で占められ、絶大な権力を持っていたのである。 そして元老院の反抗はユリエル四世の死後も続いた。ユリエル四世の息子アンドラックは元老院の決定により帝位を継げず、代わりに、セプティムの家系により近い彼のいとこセフォラス二世が第三紀247年に即位した。セフォラス二世の即位から9年間、アンドラックを擁護する勢力は帝都と帝位をめぐって争った。賢者エラインタインによる「タイバー・セプティムの沈黙の心臓」条例によって、アンドラックはショーンヘルムのハイ・ロック王国の王となり、争いに終止符が打たれた。その地は今にいたるまでアンドラックの子孫が治めている。 しかし、セフォラス二世はアンドラックに関することよりも大きな問題を抱えていた。強奪者キャモランと名乗る男、エランタインが「暗黒の悪夢」と呼んだデイドラとアンデッドの軍隊を率いてヴァレンウッドに侵攻し、その地の王国を次々に征服したのである。彼の猛攻に抗えるものは少なく、血塗られた年となった第三紀249年になると、抗おうと試みるものすらいなくなった。セフォラス二世はハンマーフェルに次々と傭兵を送り込み征服者の北進を止めようとしたが、彼らはみな買収されるか、そうでなければ殺されてアンデッドとして征服者に加わった。 強奪者キャモランについては、それだけで1冊の本が書けるほどである(詳細についてはバロウズ・イルトーレによる「征服者の滅亡」を参照されたい)。ここでは、征服者の討伐に皇帝はほとんど貢献していないことを記すにとどめる。皇帝に残されたものは局地的な勝利、それに無力な皇帝に対する王たちの反感と反乱の増加であった。 しかし、セフォラス二世の息子である次代皇帝のユリエル五世は、帝都の潜在能力を示し反感を鎮めた。タムリエルの民衆の注目を国内の争いから逸らすため、彼は第三紀268年の即位直後から帝都外への遠征を始めたのである。ユリエル五世は271年にロスクリーを、276年にキャスノキーを、279年にイェスリーを、そして284年にエスロニーを、次々と征服した。 第三紀288年、彼はついに最も大きな野望であったアカヴィル王国の侵略に乗り出した。この試みはしかし、ユリエル五世がアカヴィルでのイオニスの戦いにおいて命を落としたことで最終的に失敗に終わった。それでもなお、ユリエル五世は歴代皇帝の中でもタイバーに次ぐ武人として評価されている。 ユリエル五世の幼い息子を始めとする、最近の4代の皇帝については次の最終巻で述べる。 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/183.html
火中に舞う 第2章 ウォーヒン・ジャース 著 完全に失った。キャセイ・ラートは数分で、隊商の中にあった価値のあるものをすべて盗み、破壊して行った。デクマス・スコッティがボズマーとの貿易を見込んでいた木の積み荷には火をかけられ、絶壁から落とされた。彼の衣服や仕事の契約書は引き裂かれ、こぼれたワインや土のぬかるみの中にすり込まれていた。一行の巡礼者や商人や冒険者たちは皆、愚痴をこぼし泣きながら、夜明けの太陽が昇る中、残った持ち物を集めた。 「なんとか『ムノリアド・プレイ・バー』の翻訳に必要な覚え書きを手放さずにすんだことは、誰にも言わないほうがいいな」と、詩人グリフ・マロンはささやいた。「おそらく皆が私を狙うであろう」 スコッティはどれだけマロンの所持品に対して微少な価値しか見出せないかを伝える機会を辞退した。その代わり、彼は自分の財布のなかのゴールドを数えた。34枚。これから新しい仕事を始めようとしている起業家にとっては、いかにも少ない。 「おーい!」と、森の中から叫び声が聞こえた。武器を携え、皮の鎧を着たボズマーの小集団が茂みから現れ、「敵か? 味方か?」 「どちらでもない」と、隊商の代表者が唸りあげた。 「あんたたち、シロディールだな」背が高く、スケルトンのように痩せ、長細い顔を持った小集団の隊長が笑った。「あんたたちが旅をしていることは聞いていた。どうやら、我々の敵も聞いていたようだな」 「戦争は終わったと思っていたのに」と、すべてを失った隊商の、すべてを失った商人が低く言った。 ボズマーはまた笑い、「戦争ではない。ちょっとした境界線の小競り合いだ。ファリネスティへ向かうのか?」 「俺は行かない」隊商の代表者は首を振った。「俺の役目はもう終わった。馬がいなくなる、即ち隊商もなくなる。俺にとっては大損だ」 男も女も皆、代表者の周りに集まって抗議したり、脅したり、嘆願したが、彼はヴァレンウッドに足を踏み入れることを拒否した。もしこれが新しい平和の形ならば、彼は戦争時代が戻ってきてほしいと言った。 スコッティは違う方法を試みようと、ボズマーに話を持ちかけてみた。彼は不機嫌な大工との交渉時に使うような、有無を言わせないが、友好的な声で話した。「私をファリネスティまで護衛して貰えないでしょうか? 私はアトリウス建設会社という重要な帝都機関の代理人であり、あなたたちの地方に、カジートとの戦争がもたらした問題を修復して緩和する手伝いをしに来たのです。」 「20ゴールド、それと、荷物があったら自分で運ぶ」と、ボズマーは返答した。 不機嫌な大工との交渉も、めったに彼の思いどおりにはならなかったことを思い出していた。 支払いのためのゴールドを、6名の熱心な人々が持っていた。資金がない人々のうち、1人は詩人であり、彼はスコッティに手助けを願い出た。 「グリフ、ごめんなさい、私には14ゴールドしか残っていないのです。ファリネスティに到着しても、まともな部屋をとることすらできないのです。できるならば、本当に助けてあげたいのですが」これが本心であると自分を説得しながら、スコッティは言った。 六名とボズマーの護衛の一団は、絶壁に沿って険しい道を下り始めた。一時間も経たずに彼らはヴァレンウッドのジャングル奥深くにいた。果てしなく続く茶色と緑の天蓋が、空を見えなくしていた。何千年もの間に落ちた葉が、彼らの足の下で腐敗した厚い敷物を形成していた。この滑りの中を、数マイル歩いて通り抜けた。そしてさらに歩き続けてから、彼らは落下した枝や低く垂れ下がる大木の主枝の迷路を横断した。 何時間もの間、疲れを知らないボズマーたちがあまりにも早く歩くので、シロディールたちは取り残されないよう必死だった。足の短い赤ら顔の商人は、腐った枝に足を取られて倒れそうになった。同郷のものが立ち上がるのを助けなければならなかった。ボズマーは一瞬だけ立ち止まり、絶えず頭上の木陰に目を配り、また迅速な歩調で歩き出した。 「彼らは何に対してあれほど神経をとがらせているんだ?」イライラしながら商人があえいだ。「キャセイ・ラートがまたくるのか?」 「馬鹿なことを言うな」説得力なくボズマーは笑った。「これほどヴァレンウッドの奥深くでカジート? 平時に? あいつらには無理だろう」 一行が沼地から臭いがある程度消されるくらい高いところを通過したとき、スコッティは突然の空腹による胃の痛みを感じた。彼は1日4食のシロディールの習慣に慣れていた。食べずに何時間もの休みなき激しい活動を行うのは、十分な報酬を与えられている書記の摂生習慣の一部ではなかった。多少意識が混濁するなか、彼はどれくらいジャングルの中を駆け回っているかを考えた。12時間? 20時間? 1週間? 時間にはあまり意味がなかった。日光は、植物性の天井の所々からしか差し込まない。木や腐葉土に生えている、リン光を発するカビだけが規則的な照明を提供していた。 「休憩と食事をとることは無理ですか?」前にいる案内役に大声で言った。 「ファリネスティの近くだ」と、こだまする返事が返ってきた。「あそこには食べ物がたくさんある」 道はさらに数時間ほど上昇を続け、倒れた木々が固まっている場所を横切り、並んだ木の主枝の1段目、そして2段目へと上昇した。大きな角を曲がりきると、彼らは何十フィートもの高さから流れ落ちる滝の中途にいることが分かった。大量の岩をつかみ、少しずつ自らを引き上げ始めたボズマーに、文句を言う気力は残っていなかった。ボズマーの護衛たちは噴霧の中に消えて行ったが、スコッティは岩がなくなるまで登り続けた。彼は汗と川水を目から拭った。 ファリネスティが彼の目の前の地平線に広がった。川の両側には巨大なグラッドオークの街が不規則に広がっていて、その周りには、まるで王者に群がる嘆願者のように、より小さな木の林や果樹園などが隣接していた。より小さな規模で見ると、この移動する街を形成する木は並外れていたのであろう。曲がりくねった金と緑の王冠を載せ、つるを垂れ下がらせ、樹液で光り輝いている。数百フィート以上もの高さで、その半分の幅。スコッティが今まで目にした何よりも壮大であった。もし彼が、書記の魂を持った餓死寸前の男でなかったら歌でも歌ったであろう。 「ここに居たのか」と、護衛の長が言った。「散歩には十分だったな。冬場であったことに感謝しろ。夏場だと、街はこの地方の最南端にあるんだからな」 スコッティはどう進んだらよいのか分からなかった。人々が蟻のように動き回るこの垂直な大都市の光景が彼の感性をマヒさせた。 「ある宿屋を探しているんですが」一瞬言葉を切り、懐からジュラスの手紙を取り出した。「『マザー・パスコスの酒場』とか呼ばれているらしいですが」 「マザー・パスコストか?」ボズマーはいつもの人を馬鹿にしたような笑いを発した。「あそこには泊まりたくないと思うぞ。訪問者は必ず、主枝の最上段にあるアイシアホールに泊まりたがる。値は張るが、いいところだぞ」 「マザー・パスコストの酒場で人と会うのです」 「もし行くと決めているなら、昇降装置でハベル・スランプへ生き、そこで道順を聞くんだな。ただ、道に迷ってウエスタン・クロスで寝ちまったりするなよ」 どうやらこの一言は彼の仲間たちにとっては気の利いた洒落だったらしく、こだまする彼らの笑い声を背に、スコッティはねじれ曲がった根の階段をファリネスティの基部へと進んだ。地上は葉やゴミが散乱していて、時折、遥か頭上から硝子や骨が落下してくるので、彼は警戒のために首を曲げながら歩いた。入り組んだ可動台はしっかりと太いつるに固定され、この上ない優雅さで滑らかな幹を上下しており、そのつるは牛の腹ほどの腕を持った操作者によって動かされている。スコッティは暇そうに硝子パイプを吹かしている、一番近くの台の操作者に近寄った。 「ハベル・スランプへ連れて行ってもらえませんか?」 男はうなずき、スコッティは数分後に地上100付近にある2本の巨大な枝の屈曲部にいた。渦巻く蜘蛛の巣状の苔が枝の一面を不規則的に覆い、数十戸の小さな建物が共有する天井を形成していた。裏通りには数名しかいなかったが、先の角を曲がると音楽や人々の音がした。スコッティはファリネスティの広場のフェリーマンにゴールドを一枚渡し、マザー・パスコストの酒場の場所を聞いた。 「まっすぐ進んだところにありますが、あそこには誰もいませんよ」フェリーマンは説明しながら、音の方向を指差した。「ハベル・スランプの皆は月曜日には盛大に酒盛りをするのです」 スコッティは注意しながら細い道に沿って歩いていた。地面は帝都の大理石でできた街路のように硬かったが、滑りやすい裂け目が樹皮にはあり、致命的な川への落下の可能性をむき出しにしていた。彼は数分間座って休憩するとともに、高いところからの眺めに慣れようとした。確かに素晴らしい日ではあったが、たった数分の熟視で彼は不安とともに立ち上がった。眼下の下流につながれていた素敵な小さな筏は、彼が見ている間に、はっきりと何インチか動いていたように見えた。しかしそれは、実は全く動いていなかった。彼の周りのものすべてと一緒に、彼が動いていた。それは、たとえではなく、ファリネスティの街が歩いたのである。そして、その大きさから考えると、素早く動いていた。 スコッティは立ち上がり、曲がり角から立ち昇る、煙に向かって歩いていった。それは今までに嗅いだことがないほど美味しそうな丸焼きの匂いであった。書記は恐怖を忘れ、走っていた。 フェリーマンが言った「酒盛り」は木に縛り付けられた巨大な舞台の上で行なわれ、それはどの街の広場にも匹敵するほどの幅があった。そこにはスコッティが今までに見たこともない様々な種類の人々が肩を並べており、多くは食べ、さらに多くは呑み、一部は群衆の上の横枝に腰掛けている笛吹きや歌手の音楽に踊っていた。彼らの大部分は鮮やかな皮や骨の民族衣装を着たボズマーと、数で少々劣る少数派のオークたちであった。雑踏の中を旋回し、踊り、お互いに怒鳴りあいながら進むのは、見るもおぞましい猿人であった。群衆の上に突き出しているいくつかの頭は、最初にスコッティが思ったような背の高い人のものではなく、ケンタウロスの一家であった。 「羊肉は要らんかね?」と、真っ赤な石の上で巨大な獣を丸焼きにしている、しわくちゃな老人が聞いた。 スコッティはすぐさまゴールドを渡し、手渡された足をむさぼり食った。そして、もう1枚ゴールドを渡し、足をもう1本。彼が軟骨を喉に詰まらせたのを見て、老人はクスクス笑い、スコッティに泡立っている白い飲み物を渡した。彼はそれを飲むと、体中がくすぐられているかのように震えるのを感じた。 「これは、なんですか?」と、スコッティは聞いた。 「ジャッガ。発酵させた豚のミルクじゃ。ゴールドをもう1枚出してもらったら、これの大瓶と羊肉をもう少し持たせてやれるが」 スコッティは同意し、支払い、肉を飲み込み、大瓶を持って群衆の中に消えていった。彼の同僚リオデス・ジュラス、ヴァレンウッドにこいと言った男はどこにも見られなかった。大瓶が約四分の一なくなったころ、スコッティはジュラスを探すのをやめた。それが半分なくなったころには、壊れた厚板や裂け目を気にせず群衆と踊っていた。四分の三なくなったころには、まったく言葉が通じない生物と冗談を交わしていた。そして大瓶が完全に空になったとき、彼はいびきをかきながら眠っていたが、周りでは彼の無気力な体をよそに、酒盛りが続けられた。 あくる朝、いまだ眠っているスコッティは誰かの口づけを感じた。彼もそれに応えようと口をすぼめたが、炎のような激痛が彼の胸を襲い、目を開けさせた。牛と同じくらいの大きさの虫が彼の上に座り込み、刺々しい足が彼を押さえつけ、中央の回転刃のような渦巻く口が彼の服を破いた。彼は叫びもがいたが、獣は強すぎた。それは食事を探しあて、完食するつもりであった。 終わった、地元を離れなければよかったと、スコッティは狂乱しながら思った。街に留まり、もしかしたらヴァネック卿の下で働けたかもしれない。もう1回下級書記から始め、また上へ昇っていけたかもしれない。 突然、口がひとりでに開いた。その生物は1度身震いし、胆汁を一気に放出して、死んだ。 「仕留めたぞ!」あまり遠くないところから叫び声。 スコッティは、少々その場から動かなかった。頭は脈打ち、胸は焼けるように痛い。視界の端に動きを見た。この恐ろしい生物がもう1匹彼に向かって走ってきた。彼は自分を解放しようと慌てて動き出したが、出られる前に弓の割れるような音が響き、矢が2匹目の虫を貫通していた。 「上手い!」と、違う声が叫んだ。「1匹目をもう1度射て! 少し動くのを見たぞ!」 今回は矢が死骸に命中する衝撃をスコッティは感じた。彼は叫んだが、どれだけ彼の声が昆虫の体によって押し殺されていたか彼にもわかった。注意しながら足を出して、下から転がり出ようと試みたが、その動きはどうやら射手に、生物が生きていると思わせる効果があったらしい。矢の一斉射撃が放たれた。獣は十分穴だらけになり、その血と、おそらくは犠牲者の血が流れ始め、スコッティを覆った。 スコッティが子供のころ、そのような競技には自身が慣れすぎてしまうまで、帝都闘技場へしばしば戦闘競技を見に行っていた。戦闘の熟練者が秘訣を聞かれたとき、彼は「何をしたらいいのか分からず、盾を持っているのであれば、私はその後ろに隠れている」と言ったのを思い出した。 スコッティはその助言に従った。1時間後、矢が射られている音が聞こえなくなったとき、彼は虫の残骸をどけ、彼に可能な限りの速さで立ち上がった。間一髪であった。八人の射手の集団が、彼の方向に弓を向け射かける準備をしていた。 「ウエスタンクロスで寝るなと誰も教えてくれなかったのか? おまえら酔っ払いがやつらの餌になっていたら、どうやって俺たちはホアヴォアーを根絶したらいいんだ?」 スコッティは頭を振り、舞台に沿って歩き、角を曲がり、ハベル・スランプへ戻った。彼は血だらけで、破れ、疲れていて、発酵した豚のミルクを飲みすぎていた。彼が欲するのは横になれる場所であった。彼は湿っぽく、樹液で濡れ、カビの臭いがするマザー・パスコストの酒場に入った。 「名前はデクマス・スコッティ」と、彼は言った。「ここにジュラスという名の人は泊まっていませんか?」 「デクマス・スコッティ?」と、太った女主人、マザー・パスコストは思案した。「その名前、聞き覚えがあるねえ。ああ、彼が置いていった手紙の相手はあなたのことね。探してみるから、ちょっと待っててね」 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/156.html
帝都の略歴 第1巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 初代皇帝タイバー・セプティムによる統治以前、タムリエルは混沌に包まれていた。詩人トラシジスはこの時代を「絶え間ない血と憎悪にまみれた昼と夜」と書いている。各地の王たちはどれも貪欲な暴君で、地上に秩序をもたらそうとするセプティムに武力をもって抵抗した。 しかし、彼らはみな自堕落で統率がとれていなかったため、セプティムの力によって駆逐され、タムリエルに平和がもたらされた。第二紀896年のことであった。次の年に皇帝は新しい時代の始まりを宣言し、第三紀の幕が開けた。 皇帝タイバーは、38年間に渡り最高権力者として君臨した。その統治は正当かつ神聖で、この輝かしい時代では奴隷から支配者まで全ての人間が正義の恩恵を享受できた。皇帝の崩御の際には雨が2週間も降り続き、まるでタムリエルそのものが悲しみの涙を流しているかのようであった。 皇帝タイバーの後は、孫であるペラギウスが帝位を継いだ。彼の治世は短いものであったが、前皇帝と比べても遜色のない確固たる統治により、帝都の黄金時代は続いた。しかし、なんということか、皇帝家に敵対する何者かがあの呪われた殺し屋集団「闇の一党」に依頼し、帝都の最高神の神殿でひざまずき祈りを捧げる皇帝を襲わせたのである。ペラギウス一世の治世は3年にも満たなかった。 ペラギウスの崩御当時、彼に子供はいなかったので、帝位は彼のいとこでタイバーの弟アグノリスの娘へと渡ることになった。その娘、シルヴェナール女王キンタイラは、女皇キンタイラ一世として即位した。彼女の統治中、帝都は繁栄と豊作に恵まれ、また彼女自身は美術、音楽、舞踊を積極的に保護し発展させた。 そしてキンタイラ亡き後は、その息子が帝位を継いだ。タムリエル皇帝で始めてユリエルという皇帝名を使ったのが彼である。ユリエル一世は歴代皇帝の中でも随一の優れた立法者であり、私有の会社やギルドの設立を推奨した。彼の保護と規律のもと、戦士ギルドと魔術師ギルドがタムリエル中で活性化した。第三紀64年のユリエル一世の崩御後は息子のユリエル二世が、第三紀82年のペラギウス二世の帝位継承までの18年間帝位に就いた。悲劇的にも、ユリエル二世の治世中、帝都は都市の荒廃、疫病、暴動に悩まされることとなった。残念なことに、ユリエル二世が父から受け継いだ慈悲の心はタムリエルに行き渡らず、正義は果たされなかった。 ペラギウス二世はその父から帝位とともに負の遺産、つまり財政の困窮と法治の衰退を受け継がなければならなかった。ペラギウスは元老院を解散し、元老院の地位のために大金を払う者だけを残して残りの者を追放した。また、臣下であるタムリエル各地の王にもそうすることを推奨し、その甲斐あって、彼の17年間の治世が終わる頃にはタムリエルは再び繁栄した。ただし、この政策によって、英知がありながら金を払えなかった者が指導的立場から追われることになったとする批判もある。このことは、ペラギウスの後帝位を継いだアンティオカスの代に起こった諸問題の遠因となった。 質実な気風のセプティム家の中で、アンティオカスは珍しく派手な性格であった。彼は多くの妻と同じくらいの数の愛人を持ち、贅沢で派手な装いと快活な人格で知られた。しかし不運にも、彼の治世は祖父のユリエル二世の代よりも市民戦争の多い時代であった。第三紀110年のアイル戦争では、サマーセット島のほぼ全域がタムリエルから失われることになった。サマーセットの諸王と皇帝の連合軍は暴風雨のために苦戦し、ピアンドニアのオルグハム王を討ち負かすにとどまった。伝説によれば、アルテウム島のサイジック団が魔術をもってこの大嵐を起こしたとされる。 アンティオカスの後に帝位を継いだ娘のキンタイラ二世は、歴代で最も悲劇的な皇帝であろう。彼女のいとこでソリチュード女王ポテマの息子ユリエルが、アンティオカス統治下の帝都の退廃を仄めかしながら、キンタイラを私生児であると告発したのである。この告発でキンタイラの戴冠を止めることはできなかったが、ユリエルはその後も帝政に不満を持つハイ・ロック、スカイリム、モロウウィンドの諸王とポテマ女王を味方につけ、皇帝に対し3回の反乱を起こした。 一度目の反乱は、ハイ・ロックとハンマーフェルを隔てるイリアック湾周辺地域で起こった。この戦いでキンタイラの側近は殺され、彼女自身は捕われた。それから2年間、キンタイラはグレンポイントもしくはグレンモイルにあったとされる帝都獄舎に捕らわれた後、独房で謎の死を遂げた。 二度目の反乱はモロウウィンド諸島沿岸の守備隊に対する攻撃であった。キンタイラの夫コンティン・アリンクスは、この時砦を守る戦いの中で命を落とした。三度目の、そして最後の攻撃は帝都の占領であった。その直前、ハイ・ロックおよび東モロウウィンド攻撃のために元老院が帝都軍を分割しており、帝都の防衛力は落ちていた。そのため、ユリエルの圧倒的な戦力による侵略に抗することができず、わずか2週間後に帝都は陥落した。 ユリエルは帝都陥落の夜に自ら戴冠し、タムリエル皇帝ウリエル三世として即死した。第三紀121年のことであった。ここに端を発するレッド・ダイヤモンド戦争については、次巻で述べる。 歴史・伝記 緑3 帝都の略歴 第2巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻で、歴代皇帝のうち最初の8代皇帝について述べた。栄光あるタイバー・セプティムから、その子の、いとこの、孫の、曾孫であるキンタイラ二世までの系譜である。グレンポイントの獄中でのキンタイラ二世の死を、正当なセプティムの血統の終わりであるとする見方もある。実際のところ、それによって何か重大なものが失われたことは間違ない。 ユリエル三世はタムリエル皇帝を名乗ったばかりでなく、高貴な名であるセプティムを称号とし自らをユリエル・セプティム三世と称した。実際には、彼の名字は父親の家系のマンティアルコである。ユリエルはほどなくして帝位を追われ彼の罪は非難されたが、このセプティムという名を皇帝の称号とする伝統はその後も続くこととなった。 六年の間、レッド・ダイヤモンド戦争(この呼び名は有名な皇帝家の印に由来する)は帝都を分断した。ペラギウス二世の3人の子であるポテマ、セフォラス、マグナス、そして彼らの子らが互いに帝位をめぐって争った。ポテマは当然息子であるユリエル三世を支援し、スカイリムと北モロウウィンドの王を全て味方につけた。しかしセフォラスとマグナスの尽力によりハイ・ロックはポテマを裏切った。ハンマーフェル、サマーセット島、ヴァレンウッド、エルスウェーア、そしてブラック・マーシュについてはそれぞれ地域内で違った思惑があったが、多くの王たちはセフォラスとマグナスの側についた。 第三紀127年、ハンマーフェルにおけるイチダグの戦で、ユリエル三世が捕虜となった。その後、彼を帝都での審判のために護送する途中、群集が彼の居る檻を奪い檻ごと焼き殺した。彼の叔父たちはそのまま帝都に帰り、民衆の支持によってセフォラスがタムリエル皇帝セフォラス一世として即位した。 セフォラスの治世は戦争に明け暮れることとなった。彼は素晴らしく柔和で知的な皇帝であったが、残念ながらその時代のタムリエルが必要としていた偉大な闘将になることはできなかった。彼が度重なる戦いの後とうとうポテマを討ち負かすまで、実に10年の時を要した。ソリチュードの狼の女王と呼ばれたポテマは、137年に彼女の領地が陥落する際に命を落とした。そのわずか3年後、セフォラスもまたこの夜を去った。戦争に明け暮れる中でセフォラスは子供を残せなかったため、弟の、ペラギウス二世の第4子であるマグナスが帝位を継いだ。 皇帝マグナスは即位した際に既に年老いており、さらにレッド・ダイヤモンド戦争で敵対した諸国の王を征伐する任務が、彼の生命力を奪った。伝説ではマグナスの息子で帝位継承者であるペラギウス三世が彼を殺したとされるが実際にはありえないだろう。ペラギウス三世はポテマの死後ソリチュードの王位に就き、ほとんど帝都に戻ることは無かったためである。 狂王ペラギウスとして知られるペラギウス三世は、第三紀145年に即位した。その直後から、彼の奇行は官僚の間で問題になり始めた。彼のふるまいは、教皇や臣下の王たちを当惑させ、時には反感を買い、さらには彼が自殺を試みたために、伝統ある王宮舞踏会が取りやめになるという事件さえあった。最終的には、女帝が摂政となり皇帝に成り代わって政治を行い、当の皇帝は精神病院に入れられたまま、第三紀153年に34歳でこの世を去った。 摂政女帝は夫の死後、タムリエル女帝カタリア一世として即位した。キンタイラの死をセプティムの血統の最後としない者の多くは、このダークエルフの女性の即位こそが、その血統を終わらせたと主張する。一方、彼女を擁護する者は、彼女自身はタイバーの血を引かないものの、彼女とペラギウス三世の子は正当な皇帝の血統であり、皇帝家は途切れてはいないとする。人種差別主義者の主張に反して、彼女の46年間の治世は、タムリエルの歴史の中でも最も祝福された時代の一つであった。居心地の悪い帝都から逃れるため、彼女は帝都全域を歴代の皇帝が一度も足を踏み入れることのなかったような地まで旅した。彼女は前皇帝によって危機にさらされていた各地の王との同盟を修復し、国交を回復した。貴族たちはともかく、タムリエルの民衆は女皇を愛していた。ブラック・マーシュにおける小戦闘の中でのカタリアの死は、陰謀論の好きな歴史家が好んで論じる事件である。例えば、賢者モンタリウスの発表した、とある皇籍を剥奪されたセプティムの傍系の存在と彼らの小戦闘への関与などは、興味深い新事実であるといえよう。 息子キャシンダールが帝位を継いだとき、彼は既に中年であった。彼はエルフの血を半分しか受け継いでいなかったため、ブレトンと同じように歳をとっていたのである。しかも、病弱だったため、領地ウェイレストの統治を異父弟であるユリエルに任せていた。しかしながら、彼は唯一ペラギウスの血を引くタイバーの血統であったので、帝位を継ぐほかなかったのである。大方の予想通り、彼の治世は長くなかった。わずか2年ののち、彼は永遠の眠りについた。 キャシンダールの異父弟、ユリエル・ラリアートは、カタリアと再婚相手のガリベール・ラリアートとの間にできた子(つまり、ペラギウス三世の死後のことである)であったが、皇帝ユリエル四世として帝位につくためウェイレストを離れた。ユリエル四世は、法律上、セプティム家の人であり、キャシンダールがウェイレストの統治を委任する際に、彼を皇帝家に入れていたためである。 しかしながら、元老院にとって、そして民衆にとっても、彼はカタリアの婚外子であった。母親のような力強さを持たなかった彼の43年間の治世中、帝都は暴動と騒乱の温床となった。 ユリエル四世については、第3巻で語ることにする。 歴史・伝記 緑3 帝都の略歴 第3巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、セプティム王朝初代皇帝タイバーから第8代皇帝キンタイラまでの歴史の概略を述べた。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争とその後に続くユリエル三世からキャシンダール一世までの治世について述べた。また、その巻の最後に、いかにして皇帝キャシンダールの異父弟ユリエル四世が帝位を継承したかを論じた。 ご存知のように、ユリエル四世はセプティムの血を引いていなかった。彼の母カタリア一世はダークエルフだが、セプティムの血統である皇帝ペラギウス三世に嫁ぎ、夫の死後長い間女皇として君臨した。しかしユリエルの父親は、カタリアがペラギウスの死後に再婚したブレトンの貴族、ガリヴェール・ラリアートであった。キャシンダールは帝位を継ぐ以前、ウェイレストの王であったが病弱だったため、また子供がいなかったためにその地位を異父弟のユリエルに譲って退位した。その際、キャシンダールは法的にユリエルを養子として皇籍に迎えたのである。その7年後、母カタリアの死によってキャシンダールは皇帝として即位し、さらに3年後にユリエルは再びキャシンダールの位を継ぐことになるのである。 ユリエル四世の治世は長く、問題の多い時代であった。彼は正当に皇籍に入っていたし、また彼の父親の家系であるラリアート家もセプティムの傍系で高い地位にあったにも関わらず、元老院の大多数は彼を正当なセプティムの血統と認めなかった。元老院はカタリアの長い治世中、加えてキャシンダールの短い治世中も、帝政にかかわる権限の大部分を任されていたので、意思の強いユリエル四世のような皇帝は彼らにとって「異物」であり、彼らの忠誠を勝ち得るのは不可能であった。皇帝と元老院は一度ならず意見を違え、多くの場合元老院の意見が通された。ペラギウス二世の時代から、元老院は帝都の中で最も裕福な男女で占められ、絶大な権力を持っていたのである。 そして元老院の反抗はユリエル四世の死後も続いた。ユリエル四世の息子アンドラックは元老院の決定により帝位を継げず、代わりに、セプティムの家系により近い彼のいとこセフォラス二世が第三紀247年に即位した。セフォラス二世の即位から9年間、アンドラックを擁護する勢力は帝都と帝位をめぐって争った。賢者エラインタインによる「タイバー・セプティムの沈黙の心臓」条例によって、アンドラックはショーンヘルムのハイ・ロック王国の王となり、争いに終止符が打たれた。その地は今にいたるまでアンドラックの子孫が治めている。 しかし、セフォラス二世はアンドラックに関することよりも大きな問題を抱えていた。強奪者キャモランと名乗る男、エランタインが「暗黒の悪夢」と呼んだデイドラとアンデッドの軍隊を率いてヴァレンウッドに侵攻し、その地の王国を次々に征服したのである。彼の猛攻に抗えるものは少なく、血塗られた年となった第三紀249年になると、抗おうと試みるものすらいなくなった。セフォラス二世はハンマーフェルに次々と傭兵を送り込み征服者の北進を止めようとしたが、彼らはみな買収されるか、そうでなければ殺されてアンデッドとして征服者に加わった。 強奪者キャモランについては、それだけで1冊の本が書けるほどである(詳細についてはバロウズ・イルトーレによる「征服者の滅亡」を参照されたい)。ここでは、征服者の討伐に皇帝はほとんど貢献していないことを記すにとどめる。皇帝に残されたものは局地的な勝利、それに無力な皇帝に対する王たちの反感と反乱の増加であった。 しかし、セフォラス二世の息子である次代皇帝のユリエル五世は、帝都の潜在能力を示し反感を鎮めた。タムリエルの民衆の注目を国内の争いから逸らすため、彼は第三紀268年の即位直後から帝都外への遠征を始めたのである。ユリエル五世は271年にロスクリーを、276年にキャスノキーを、279年にイェスリーを、そして284年にエスロニーを、次々と征服した。 第三紀288年、彼はついに最も大きな野望であったアカヴィル王国の侵略に乗り出した。この試みはしかし、ユリエル五世がアカヴィルでのイオニスの戦いにおいて命を落としたことで最終的に失敗に終わった。それでもなお、ユリエル五世は歴代皇帝の中でもタイバーに次ぐ武人として評価されている。 ユリエル五世の幼い息子を始めとする、最近の4代の皇帝については次の最終巻で述べる。 歴史・伝記 緑3 帝都の略歴 第4巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、初代皇帝タイバーから第8代皇帝の時代までの歴史を概観した。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争以降の6代の皇帝について論じた。第3巻では、続く3代の皇帝の受難、すなわちユリエル四世の失意、セフォラス二世の非力、そしてユリエル五世の英雄的な悲劇について語った。 ユリエル五世が遠く海を隔てた敵国アカヴィルで命を落とした時、皇位継承者のユリエル六世はまだ5歳であった。実際、彼が生まれたのは父であるユリエル五世がアカヴィルへ旅立つ直前のことであった。ユリエル五世の他の子は、平民との間にできた双子で、彼が旅立った直後に生まれたモリハーサとエロイザしかいなかった。そのため、第三紀290年にユリエル六世は即位したが、彼が成年に達するまでのあいだは、ユリエル五世の后でユリエル六世の母親であるソニカが摂政として限られた権限を持ち、実権はカタリア一世の世から変わらず元老院が握ることになった。 元老院は勝手な法律を広めては利益を貪っていたため、なかなかユリエル六世には帝政にかかわる実権を渡さなかった。彼が正式に皇帝としての権利を認められたのは307年、彼が22歳の時である。それまでにも少しずつ皇帝としての責任ある立場を任されてはいたが、元老院も、そして限られた摂政権しか持たない彼の母親でさえ、その支配力を全て彼に譲るのを嫌がり、先延ばしにしたためである。彼が帝位につく頃には、帝政に関する皇帝の権限は拒否権を残してほとんどなくなっていた。 しかし、ユリエル六世はこの残された拒否権を積極的に行使した。そのせいもあって、313年までには彼は名実ともにタムリエルの支配者となった。彼はほとんど忘れられていたスパイ組織と衛兵隊を有効に利用し、元老院の中で反抗的な者を威圧したのである。異母妹のモリハーサは(意外なことではないが)彼の最も忠実な味方であり、彼女がウィンターホールドの男爵ウルフェと結婚し富と権力を得てからは、さらに頼りになる勢力となった。賢者ユガリッジの言葉を借りれば、「ユリエル五世はエスロニーを降伏させ、ユリエル六世は元老院を降伏させた」のである。 ユリエル六世が落馬し、帝都で最も優れた治癒師の尽力にも関わらず命を落としたため、彼の最愛の妹モリハーサが帝位を継承した。このとき25歳のモリハーサは、外交官たちから(立場上のお世辞もあったであろうが)タムリエル一の美しさであると称えられた。彼女は教養があり、快活で、運動神経と政治能力に恵まれていた。彼女はスカイリムから大賢者を帝都に招き、タイバー・セプティム以来二人目の帝都軍の魔闘士を持つ皇帝となった。 モリハーサは彼女の兄が始めた政策を引き継ぎ、帝都州の政治を真の意味で女皇の(そして後に続く皇帝たちの)支配下に置いた。しかしながら、帝都州の外においては、女皇の支配力は少しずつ弱まっていた。反乱や市民戦争が、女皇の祖父セフォラス二世の時代から有効な対策がとられないままに各地で激しさを増していた。モリハーサはやり過ぎない程度に注意深く反撃と鎮圧の指示を出し、反乱を起こした地域を少しずつ支配下に戻していった。 モリハーサの戦略は効果的ではあったが、慎重すぎたためにしばしば元老院の反感を買った。そんな一人、アルゴニアンのソリクレス・ロマスは、女皇がブラック・マーシュの自分の領地の危機に軍隊を派遣しなかったためひどく怒り、殺し屋を雇って彼女を第三紀339年に暗殺した。ロマスはすぐに捕らえられ裁判にかけられ、最後まで無罪を主張したが処刑された。 モリハーサに子供はなく、妹のエロイザは4年前に高熱で他界していた。そのため、エロイザの25歳になる息子、ペラギウスが皇帝ペラギウス四世として即位した。ペラギウス四世は彼の叔母の仕事を受け継ぎ、反乱を起こした王国や領地を少しずつ皇帝の支配下に取り戻していった。彼はモリハーサの冷静さと慎重さを受け継いだが、残念ながら彼の戦いは彼女のようにはうまくいかなかった。各地の王国は長い間皇帝の支配を離れていたため、その支配がどんなに寛大であろうとも皇帝の存在自体が疎まれるようになっていたのである。しかし、ペラギウスが29年間の安定した統治の後この世を去る頃には、タムリエルの諸地方はユリエル一世の時代よりも結束を固めていた。 我々の現在の皇帝である、ペラギウス四世の息子にして栄光あるユリエル・セプティム七世陛下は、大伯母モリハーサの勤勉さ、大伯父ユリエル六世の政治力、大伯父の父ユリエル五世の武勇とを受け継いだ。二十一年間にわたり、彼はタムリエルを統治し地上を正義の光で照らした。しかし第三紀389年、帝都軍の魔闘士ジャガル・サルンが謀反を起こしたのである。 ターンはユリエル七世を別次元に作りあげた牢獄に閉じ込め、幻惑を使って皇帝の地位を乗っ取った。その後10年間、ターンは皇帝としての特権と利益を欲しいままにしたが、ユリエル七世の始めた帝政の強化には無関心だった。今に至るまで、ターンの真の目的も、君主に成りすましている10年間に何を得たのかも完全にはわかっていない。第三紀399年、謎めいたチャンピオンが王宮の地下で魔闘士を倒し、別次元に捕らわれていたユリエル七世を解放した。 解放されて以来、ユリエル七世はタムリエルの全土を支配下に置くための戦いを精力的に続けている。ターンの邪魔によって勢いが落ちたのは事実であるが、近年の戦いが証明しているように、タムリエルをタイバー・セプティムの時代以来再び皇帝の栄光のもとに統一し黄金時代をもたらす希望は残されている。 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/170.html
2920 薪木の月(9巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 薪木の月2日 ギデオン (ブラック・マーシュ) 女帝タヴィアは彼女のベッドに横たわり、独房のなかを行ったり来たりする晩夏の熱風を感じられずにいた。喉は燃えるようにひりついていたが、それでも彼女は抑えきれずにすすり泣き、最後のつづれ織りを手で握りつぶした。彼女の嘆きの声はギオヴェッセ城の誰もいない廊下中をこだまし、洗い物をしていた召使いの手や衛兵の会話を止めた。彼女の召使いの1人が細い階段を登ってきたが、彼女の衛兵長ズークが入り口に立ち、首を振った。 「彼女はたった今、息子の死を知った」と、彼は静かに言った。 2920年 薪木の月5日 帝都 (シロディール) 「陛下――」ポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエは扉を挟んで言った。「扉を開けても大丈夫です。お約束します、完全に安全です。誰も陛下を殺そうとはしていません」 「ああ、マーラよ!」押さえ込むような乱心の混じった皇帝レマン三世の声がした。「誰かが王子を暗殺したのだ。そして彼は私の盾を持っていた。私であると思いこんだのかもしれないではないか!」 「確かにその通りです、陛下」ポテンテイトは軽蔑しながらも声から一切のあざけるような口調を消し去り言った。「そして、我々は陛下の息子の死に対して責任を負うべき悪人を探し、処罰しなければなりません。しかし、陛下なくしてそれはできません。帝都のために勇敢でおありください」 返答はなかった。 「最低でも出てきてリッジャ貴婦人の処刑指令書に署名願います」ポテンテイトは呼びかけた。「我々の知る、裏切り者であり暗殺者である1人を処分しましょう」 しばらく沈黙が続き、そして家具が床の上を引きずられる音がした。レマンは扉をほんの少しだけ開いたが、怒り、恐れている顔と、以前は彼の右目があった場所にある、引き裂かれた皮膚の盛り上がりがポテンテイトには見えた。帝都の最高の治癒師の治療もむなしく、サーゾ要塞でのリッジャ貴婦人からの恐ろしい置き土産がそこにあった。 「指令書をよこせ」皇帝は怒鳴り声を出した。「喜んで署名してやる」 2920年 薪木の月6日 ギデオン (シロディール) 沼地の気体と霊的なエネルギーの組み合わせであると教えられたウィル・オ・ウィスプの奇妙な青い光は、窓の外を見るたびにタヴィアを怖がらせてきた。今は妙に慰めているように見えた。沼地の向こうにはギデオンの街がある。17年間も毎日見てきたのに、あの街の街路に1度も足を踏み入れたことがないことを可笑しく思った。 「何か私が忘れているものを思いつくか?」彼女は忠実なコスリンギー・ズークに振り返りながら聞いた。 「何をすればよいのか、明白に分かっております」と、彼は簡単に言った。彼が笑ったように見えたが、彼女の笑顔が彼の銀色に光る肌に反射されたのだと女帝は気付いた。彼女は自分が笑っていることに気が付いていなかった。 「尾行されていないことを確認するのだぞ」と、彼女が警告した。「この長きに渡り、どこに我がゴールドが隠されているのかを夫には知られたくない。あと、自分の分け前はしっかりと取るのだぞ。そなたは良き友であった」 女帝タヴィアは前へと踏み出し、霧の中へと視界から消え落ちた。ズークは塔の窓に鉄格子を戻し、ベッドの上の枕に毛布を被せた。運がよければ明日の朝まで芝生に横たわる彼女を発見しないであろう。そしてそのころには、彼はモロウウィンドの近くまで辿りつけていることを期待していた。 2920年 薪木の月9日 フィルギアス (ハイ・ロック) 周囲にある奇妙な木々が、赤や黄色やオレンジがほとばしる毛糸の束のように見え、それはまるで虫の巣に火をかけ、様々な彩りの生き物が一斉に出てきたようであった。ロウスガリアン山は霧のかかった午後にかすんでいった。トゥララは広い牧草地へと馬をゆっくりと進めながら、見慣れない、モロウウィンドとはまったく違った景色に驚いた。後ろでは、頭を縦に振りながら、キャシールがボズリエルを抱きかかえたまま眠った。一瞬、トゥララは野原をさえぎるペンキで塗られた低い柵を飛び越えようかと考えたが、それはやめておいた。キャシールに手綱を渡す前に、あと数時間寝かせてあげようと思った。 馬が野原に進み入ると、トゥララは森に半分隠れている小さな緑の家を隣の丘の上に見た。その姿は絵に描いたように美しく、彼女は半眠状態に引き込まれていくのを感じた。そのとき、ホーンの爆音が身震いとともに彼女を現実へと引き戻した。キャシールは目を開けた。 「今、どこ?」と、彼が息をもらすように言った。 「分からないわ」トゥララは目を見開き、どもった。「あの音はなに?」 「オーク」と、彼はささやいた。「狩り集団だ。やぶの中へ、急いで」 トゥララは馬を小走りで木が数本集まっているところへと走らせた。キャシールは子供を彼女に渡し、馬から降りた。彼は、荷物を引き降ろし始め、やぶの中にそれらを投げ入れた。そのとき、音が鳴りはじめた。遠い足音の轟音、徐々に大きくなり、近づいてくる。トゥララは慎重に馬から降り、キャシールが馬から荷を降ろすのを手伝った。その間、ボズリエルは目を見開いて見ていた。トゥララは時々、子供がまったく泣かないことを心配したが、今はそれに感謝している。すべての荷を降ろしたところで、キャシールは馬の尻を打った。そしてトゥララの手を取り、茂みのなかにしゃがみこんだ。 「運が良ければ――」彼はひそひそと言った。「彼らはあの馬のことを野生か農場の馬だと思ってくれて、乗り手を探しには行かないだろう」 彼がそう言ったとき、オークの大群がホーンを轟かせながら野原に殺到した。トゥララは以前オークを見たことがあったが、これほど多数でもなければ、これほど野蛮な自信に溢れてはいなかった。馬とその混乱ぶりに狂喜しながら、彼らはキャシール、トゥララ、ボズリエルが隠れている茂みを急ぎ通り越していった。彼らの暴走で野花が舞い上がり、空気中にそのタネを撒き散らした。トゥララはくしゃみを押さえ込もうとし、上手くいったと思った。しかし、オークのうちの1匹が何かを聞きつけ、調査のためにもう1匹連れてきた。 キャシールは静かに剣を抜き、自分の中の自信をできる限りかき集めた。彼の能力、あまり良いとは言えないそれは、間諜であり戦闘ではなかった。しかし、彼はトゥララと赤子をできるだけ長く保護すると誓っていた。彼は思った、もしかしたらこの2匹は殺せるかもしれないが、叫んで大群の残りを呼び寄せる前には無理である。 突然、見えない何かが風のように茂みの中を通りすぎていった。2匹のオークは後ろに飛ばされ、背を地につけて死んでいた。トゥララは後ろを振り向き、近くの茂みから真っ赤な髪を持つ、しわくちゃの老婆が出てくるのを見た。 「私のところに連れてくるつもりかと思ったぞ」彼女はささやいた、微笑んでいる。「一緒にきたほうがよい」 三人は丘の上の家に向かって生えている、茨の付いた茂みの裂け目をとおりながら老婆の後についていった。逆側に出ると、老婆はオークたちが馬の残骸をむさぼり食っているのを見に振り返った。それは複数のホーンの拍子に乗った、血まみれの祝宴であった。 「あの馬はあんたのかい?」と、老婆が聞いた。キャシールがうなずくと、彼女は声をあげて笑った。「あれはいい肉すぎじゃの。あのモンスターどもは、明日には腹痛をおこして、腹がふくれ上がっていることじゃろう。いい気味じゃ」 「歩き続けなくて平気なの?」老婆の大声に肝を抜かれて、トゥララは声を低くして言った。 「奴らはここへはこんよ」笑みを浮かべ、笑い返すボズリエルを見ながら老婆は言う。「奴らは我々を恐れておるのでな」 トゥララは首を振っているキャシールのほうを向いた。「魔女か。ここは古きバービンの農場、スケフィントン魔女集会と思って間違いではないかな?」 「おりこうさんじゃの」老婆は悪名高きことを嬉しく思い、若娘のようにクスクスと笑った。「私の名はミニスタ・スケフィントンじゃ」 「さっきの茂みの中で… あのオークたちには何をしたの?」と、トゥララが聞いた。 「霊魂の拳を頭の右側に放ったのじゃ」とミニスタは言い、坂を上り続けた。その先には農場が開け、井戸や鶏舎や池があり、様々な年齢の女性たちが家事を行い、はしゃぐ子供たちの笑い声がした。老婆は振り向き、トゥララが理解していないことに気が付いた。「あんたの故郷には魔女がおらんのかね?」 「知る限りでは、いないわ」と、彼女は言った。 「タムリエルには実に様々な魔法の使い手がおる」彼女は説明した。「シジックたちは、彼らのつらい義務であるかのように学ぶ。真逆の対象として、軍の魔闘士たちは呪文を矢の如く浴びせかける。我々魔女たちは、呼び出し、集い、祝うのじゃ。あのオークたちを倒すには、私が親密な関係を持つ風の精霊たち、アマロ、ピナ、タラサ、キナレスの指、そして世界の風にあの雑魚どもを殴り殺すようささやきかけただけじゃ。召喚とは、力や謎解きや古い巻物を苦しみながら読むことではないのじゃ。召喚とは良き関係を築くことである。仲良くすること、とも言えるの」 「特に、私たちと仲良くしてくれていることには感謝する」と、キャシールは言った。 「そうじゃが、さらに言うとな――」ミニスタは咳払いをした。「あんたらの種族が2千年前にオークの母国を破壊したのじゃ。それまでは、やつらがここまできて我々の邪魔をすることもなかったのじゃ。さて、旅のほこりを落として、食事にでもしようかの」 そう言うとミニスタは彼らを農家へと案内し、トゥララはスケフィントン魔女集会の一家と知り合いになった。 2920 薪木の月11日 帝都 (シロディール) リッジャは前の晩、寝ようともしていなく、今彼女の処刑時に演奏されている悲しい音楽には催眠効果があると思った。それはまるで、斧が振り下ろされる前に、自発的に無意識になろうとしているようであった。彼女の目は覆われていたので、彼女の前に座り片目でにらんでいる元愛人、皇帝の姿は見えなかった。彼女は、金色の顔に勝利の表情を浮かべ、彼の下で尻尾がきれいに巻かれたポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエの姿を見えなかった。彼女を抑えようと触れた執行者の手の感触は、しびれながら感じられた。夢から覚めたものが起きようとするように跳ね上がった。 最初の一撃は頭の裏にあたり、彼女は悲鳴をあげた。次の斬撃は首を叩き切り、彼女は死んだ。 皇帝は疲れたような素振りでポテンテイトに向き、「これは終わったな。それで、彼女にはコルダという名のかわいい妹がハンマーフェルにいたと言ったな?」 2920年 薪木の月18日 ドワイネン (ハイ・ロック) 魔女たちが売ってくれた馬は、前の馬ほどよくはなかったとキャシールは思った。霊の崇拝や生けにえや姉妹関係は霊の召喚には便利で役立つのかもしれないが、荷役用の動物にはあまり効果がないらしい。それでも、彼には文句を言う理由がなかった。ダンマーの女とその子供が彼の手を離れ、彼は予定よりも早く到着できた。先には彼の母国を囲う壁が見えた。ほぼ同時に、彼の周りには旧友や家族の人々が群がった。 「戦争はどうだったの?」従兄弟が叫びながら道に出てきた。「ヴィヴェックは王子との和平に応じたのに、それを皇帝が拒否したって本当なの?」 「そうじゃないだろう、違うのか?」と、友達の1人が輪に入りながら言った。「ダンマーが王子を殺させて、その後、条約の話をでっち上げたけど証拠がないって俺は聞いたぜ」 「ここでは何も面白いことは起きていないのか?」キャシールは笑った。「本当に、これっぽっちも戦争やヴィヴェックについて語る気がしない」 「おまえはコルダ貴婦人の行列を見逃したぞ」と、友が言った。「大勢の取り巻きと一緒に湾を横切ってきて、帝都に向かって東に行ったんだ」 「でもそんなのは大したことないや。それで、ヴィヴェックって、どんななの?」従兄弟が熱心に聞いた。「彼は現人神のはずだよね?」 「もしシェオゴラスが退いて、他の乱心の神が必要になったなら、彼がうってつけだな」と、キャシールは偉そうに言った。 「それで、女は?」極稀な機会にしかダンマーの女性を見たことがない青年が聞いた。 キャシールはただ微笑んだ。トゥララ・スケフィントンが一瞬頭をよぎり、すぐに消えた。魔女集会と一緒にいれば彼女は幸せであろうし、子供の面倒もしっかりと見てくれるであろう。しかし彼女たちは、今では戦争や場所などの永遠に忘れたい過去の一部であった。彼は馬から降りて街に踏み入り、イリアック湾での毎日の小さな噂話に花を咲かせた。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/257.html
ニベンの父 フローリン・ジェリル 翻訳・批評 序文: 誰かの伝記を書くことは難しい。題材の人物を見極めるにも、いつも何冊もの年代記に書かれた偏った記述を見比べなければならない。以前、聞いたことがあるのだが、ウォーヒン・ジャースは彼の代表作『ソリチュードの狼の女王伝記』を書くのに100冊を超える同時代の物語を調査した。似たようなことをするものとしては、この程度のことで不平を言えない。 ここにある男の記録がある。名前は水先人トパル、タムリエルの初期のアルドメリ探検家として知られる。叙事詩『ニベンの父』は、現代にわずかに4つの断片を残すのみである。しかし、これらの断片が、水先人トパルがタムリエルの周りの海を航海していたかもしれないという、論争の余地ある面白い見解を神話紀中期に提供した。 『ニベンの父』は水先人トパルの航海を書き連ねた記録文書にすぎないが、彼の存在を証明するだけのものではない。サムーセット島にある大水晶塔の財宝の中に、彼の荒削りだが人を魅了する地図がある。それは彼が全タムリエルに残した遺産である。 アルドメリの“Udhendra Nibenu”の翻訳、『ニベンの父』は私の作品であり、他の学者は私の選ぶ言葉に賛意を示さないかもしれない。私は原作の美しさに応える翻訳に仕上がる保障はできない。私はただシンプルで首尾一貫したものを目指す。 断章 1 二番目の船にはパスクイニエルが乗っており、水先案内人は イリオ、「道の石」の指す南方へと 向かった 三番目の船にはニベンが乗っており、 水先案内人はトパル、彼らは「道の石」の指す 北東へと向かった 水晶塔から命令を受け、 八十ヶ月の航海をし報告に戻る ニベンだけはファーストホールドへと戻り、そこには 金や香辛料、毛皮、生きてる死んでるに関わらず 変わった生き物が空高く積まれていた エルノフェイのトパルはなにも見つけられなかったが 航海で訪れた驚きの地 すべての話を語った 六十六昼夜、彼は激しい波に打たれ、 渦巻きをやりすごし、 炎のように焼き付ける霧の中を航海していたところ 大きな湾口に着き、 彼らはおだやかな谷の陽光に輝く野原に降り立った 乗員が皆休んでいると恐ろしいうなり声が聞こえてきた 真っ暗な谷から見るもおぞましい海の怪物が姿を現した 人を食べてしまう歯には血の塊がついていた 何世紀もの間、古代アルドメリの難破船やら桟橋から、奇妙な水晶玉のようなものが発掘された。それは深遠の暁─神話紀の芸術品で、それぞれが具体的な方向へその軸を回転させる性能のものであるとわかるまで、考古学者たちは頭を悩ませた。それは南を指すもの、北東を指すもの、北西を指すものの3種類であった。 それらがどのようにして動くのかはわからないが、ある特定の力と波長が合うつくりになっているようだった。これが「道の石」のかけらであった。それぞれの船の水先案内人が自分の船を行きたい方向へ向かわせるのに使っていた。北西の道の石を持つ船は、船体を北西のスラスやヨークダへ向かっていった。パスクイニエルは南の道の石へ、ピアンドニアへ向かって航海しなければならなかった。トパルと彼の北東の道の石はタムリエルの本土を見つけた。 この断章から、3隻の船が旧エルノフェイへ戻る道を探すよう指令を受けていたことがわかる。今もサムーセット島で生きるアルドメリが、祖国の姿を知るためであった。本書は水先人トパルの研究を目的としており、アルドメリが旧エルノフェイから集団移動したことに関する説を論じる余地はない。 この詩を自書の引用元としてのみ使うならば、数隻の船は旧エルノフェイを去ったあと嵐に遭ったという言い伝えを信じている学者に賛成する。生き残った人々はサムーセット島へ帰る道を見つけたが、「道の石」を持っていなかったため祖国がどちらの方角にあるのかはわからなかった。結局、この3隻がまったく別の3つの方向へある1ヶ所を探しにいく理由はどこにあるのだろうか? もちろん1隻だけ戻ってはきたが、ほか2隻のうち1隻、もしくは2隻ともが旧エルノフェイを見つけられたのか、海上で滅びてしまったのか、古代ピアンドニア、スロード、ヨークダの近くまで行けたのかどうかはわからない。アルドメリが特に頭がおかしいのでなければ、3隻中少なくとも1隻は正しい方向へ向かっていたものと思われる。それがトパルであったのだろうが、彼は北東といってもそれほど遠くまでは行かなかったのであろう。 トパルは船をファーストホールドから北東へ出した。偶然にもほかのどんな陸地も見つけずにアビシアン海へと向かう航海ルートであった。もし彼が東へ真っ直ぐ向かっていたら、現代のシロディールのコロヴィア西部へ数週間のうちに到着し、もし南東へ向かっていたら数日でヴァレンウッドの丘へ到着していた。しかしこの水先案内人は、自分を信じて、我々が現代でも使う地図を頼りに、アビシアン海を抜け北東へ真っ直ぐ船を走らせ、イリアック湾へと入っていき、出航して2ヶ月ごには現代のアンチクレールの近くの土地へと辿り着いた。 この詩の中で、南方にある穏やかな起伏の丘があるところと言えば、ハイ・ロックとしか思えない。その場にいたものは誰でもそう思ったであろう。当然、問題は海の怪物がその地にいたとするこの明確な言及は何なのかということだ。怪物はアルドメリが入植するまで出現しておらず、広がったのはレスデインの時代、トリニマックとボエシアの有名な戦いの後のことだからである。 言い伝えが間違っている可能性もある。海の怪物はアルドメリの植民地化より前にいた原住民だったのではないだろうか。おそらく呪われた人々── アルドメリでいう「オーシマー」で「オーク」と同じ言葉── とは別の生き物、つまり別時代の海の怪物に同じ名前が与えられたのであろう。この詩がここで終わってしまったのは実に残念で、そこには残された疑問を晴らす手がかりがあったであろう。 一つ目の断章と二つ目の断章の間は、かなりの部分が失われた。その間にさらに80ヶ月が過ぎたに違いない。なぜならトパルはその時タムリエルの逆側におり、旧エルノフェイを見つけられなかった後で、南西のファーストホールドへ戻るよう航海の準備をしているからだ。 断章2 網でできた絶壁が巨大なあごのように突き出ており、 西の方には航路がないことがわかり、 ニベンは南へと船を出した。 聖域と平和を約束する 砂と森林に覆われた島を通りすぎた時、 乗組員は喜び騒いだ だが垂れ下がった岬に似た革でできた羽のような木の上に 巨大な影が現れた時、歓喜は恐怖へと変わっていた 船ほどの大きさのコウモリトカゲであったが よい水先案内人であるトパルはただ弓を構え、その頭に一撃を加えた トカゲは倒れ、トパルは船員長に聞いた「死んだかな?」 トカゲが白波にぶつかる前に、今度は心臓にとどめを刺した それから四十日と六日、ニベンは南へ船を走らせた トパルの案内人、製図家、生存能力、談話家としての武勇伝に加えて、弓矢の名手であることがわかる。もちろん詩的許容であるが、神話紀のアルドメリは洗練された射手であったことは考古学的にも証明されている。彼らの弓は木を重ねたもので、銀の絹糸で警笛が下げられており美しいものだった。何千年も前の専門家も絶賛している。 この断章の初めでトパルが立ち向かう生き物は、その怪物は竜を思い起こさせるが、現代のモロウウィンドにいる崖に住む種族の祖先のようだ。海岸線の足場の悪い不安定な崖はネクロムのように思える。ゴルン島は「コウモリトカゲ」の巣であるのかもしれない。ただし、私が今知る限りの情報では、モロウウィンド東部にそのような生き物はいない。 断章3 悪臭のただよう、邪悪な沼地でヒトトカゲは 東に撤退し、トパルと仲間たちの心臓は ダイヤモンドブルーの澄み切ったすばらしい海を 目にし、喜びに打たれた 三日間、彼らは大歓声の中、北西へと船を進めた ファーストホールドは彼らを手招きしたが、希望はついえた 恐怖の中、上陸すると防御の盾が立ちはだかるようだった 水先人トパルはひどく憤怒し、彼が正確にひいた地図を調べた 南へ行く最善の航路は、大陸の終わりはどこなのか 北へ蛇行する川を進むべきか 「北だ!」彼は悲しい表情を浮かべる仲間に叫んだ 「今すぐ北へ行くんだ! 大丈夫、北だよ!」 トパルの動きを追うと、彼はモロウウィンドの端を通り、ブラック・マーシュ南部を探求しているのがわかる。見たところ、できるかぎり彼の「道の石」に従うように決めているようだ。彼が去ろうとしている沼地は、おそらく現代のギデオンの近くであろう。我々は今トパルの性格を知ることで、ブラック・マーシュとエルスウェーアの間の湾で彼の感じた失意を感じることができる。 彼は、積極的に自分の使命に従い、河を通って南東に向かい、ファーストホールドへ到着する。彼の地図を見ると、モロウウィンドの内海へ緻密に計画を練っている。彼が通行可能な水路、つまりブラック・マーシュからの泥の多い支流のいくつかを通ろうとしたのがわかる。確かに彼の後、ほかの多くの探検家が、病気や獰猛なアルゴニアンの襲撃によって探検を思い止めさせられた。 今、手元にある現代のタムリエルの地図を参照すると、彼が南へ行くべきところで北東への道を選んでいたという間違いに気づく。当時の彼には、果てしない本土はただの突出した半島であるとは知る由もなかった。彼は既に南へと遠く旅していることに気付き、河を上るという賢明な、しかし誤った判断を下した。 この大きな誤算が歴史上において彼の評価を下げることになってしまったのは皮肉なことである。彼が果てしなく続く海だと思ったのは湾で、今日ではトパル湾として知られている。また、彼が道に迷ってしまった河は、船の名前を分けてニベン河とされている。 断章 4 動物のように歩いたり、直立して歩いたりする猫の悪霊たちが 河沿いを駆けながらも、緑色の目は常に船に合わせ、 シューシューと息をもらし、唾をはきながら怒りの ふるえた声をあげている 木には果物がなっており船員たちを誘惑するが、 河岸に降り立つ勇気はまったくなかった 腕を河岸へ下ろしつかみとろうとし、 猫が飛びつく前にすばやく果物をつかんだ 十一日間にかけて彼らは北へと進み ようやく水晶のようにきらめく湖にたどりつき そこには美しさと平和を超越するかのような 八つの島があった 輝く色をした光まばゆい空飛ぶ生き物が 彼らに向かってアルドメリ語で挨拶をしてきた 船員たちは彼らが何を言っているのか分からなかったが ただ単純に彼らの言葉を繰り返しているのだと気づいた 彼らの言葉を理解しているわけではない でも何かしゃべっている 船員は笑った 水先人トパルその島に魅了され そこには翼の生えた人種が生活していた ニベンもそこに一ヶ月過ごした そして鳥人たちは彼らの言葉を習った 船員たちは彼らの言葉を習い 鉤爪状の足での文字の書き方も習った 新しい知識に喜び、彼らはトパルを自分たちの国王にし 彼らの島を 贈り物として捧げた トパルはいつの日か帰ろうと思っているので まず最初に東のファーストホールドへの水路を探さなければ 遥か彼方の 最後の断章はいくつかの理由もあってほろにがい。 我々は、水先案内人が出会ったこの奇妙で親切な翼の生えた人々は絶滅することを知っている。 ──実際に、シロディールのこの鳥の生き物にふれているのは、この詩だけである。トパルは彼らに読み書きの能力を与えたが、残念ながら彼らを最後の運命から助ける力にはならなかった。多分「猫の悪霊」ことカジートの祖先の手にかかったのであろう。 トパルと船員たちは、8つの島からの航路(現代のシロディールからイリアック湾を通る)を見つけることはできない。彼の地図が、詩に残されていない物語を語っている。 彼らはニベン河から上がってルマーレ湖への航路を取ったことがわかる。またそのあと彼の目的の場所へはたどり着けない支流を試してみたようだが、トパルの失意が感じられる。彼とともに長く苦しんだ船員たちの失意も同様だ。彼らはニベン河からトパル湾へと戻っていった。 ここで彼らの初期の間違いが決定的になる。エルスウェーアの半島を通ったことが原因だったのだ。結果的に彼らは海岸線を旅し、ヴァレンウッドの海岸を通って祖国へと帰っていった。普通、叙事詩であれば幸せな結末で終わるのだが、これらの詩は1つ1つで孤立し、完成部分が失われている。 現代のシロディールの奇妙な鳥の生き物に加えて、オーク(おそらく)の祖先や崖に住む種族の祖先、アルゴニアンの祖先、この最後の断章でカジートの祖先を垣間見られた。この単調な詩の数行に歴史が確かに息づいている。それというのも、1人の男が帰路を見失い、ありとあらゆる間違った方向へ行きつ戻りつしなければならなかったからだ。 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/82.html
アルゴニアン報告 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 帝都の小さいが立派な広場の一角に置かれている、または、ぐったりとしているのがヴァネック卿の建設会社である。その想像力に欠けた質素な建物は、芸術性や建設設計に関してはあまり有名ではなく、むしろその並外れた長さによって知られている。もし批判的なものが、なぜヴァネック卿はあのような飾り気のない、伸びきった突起物を好むのかを疑問に思ったとしても、彼らはそれを口にしなかった。 第三紀398年、デクマス・スコッティは建設会社の先任書記であった。 内気な中年の男がヴァネック卿の下へ、五年戦争によって破壊されたヴァレンウッドの街道を修復する独占権をこの建設会社に与えるという、今までの契約の中でも最高の利益を得られる契約をもたらしてから数ヶ月が経過していた。これによって彼は、管理職や書記に間で人気者になり、彼の冒険を物語る日々を過ごしていた、大体に関しては忠実に…… 彼らの多くはシレンストリーによって催された、祝賀のアンスラッパローストに参加していたので、結末は除いてあった。聞き手に彼らは人肉をむさぼり食ったと伝えるのは、どのような気の利いた話であっても、その質を高めるものではないからである。 スコッティは特に野心家でもなければ勤勉者でもないので、ヴァネック卿が彼に何もすることを与えなかったことは気にしていなかった。 いつでもあの、小太りで小さなふざけた男が職場でデクマス・スコッティに出くわすと、ヴァネック卿は必ず、「君はこの建設会社の名誉である、頑張りたまえ」と言う。 最初の頃は、何かしていなければいけないのかと心配したが、数ヶ月がすぎて行くにつれ、彼はただ「ありがとうございます、がんばります」と答えるだけになっていった。 一方、将来のことも考えなければならなかった。彼は若くもなく、何もしない人にしてはかなりの給料も貰ってはいたが、近いうちに引退する破目になり、何もしない、何も貰えない人になってしまうのではないかなどと考えた。もしヴァネック卿が、ヴァレンウッドの契約が生み出す何百万もの金への感謝から、快くスコッティをパートナーにしてくれれば、それは素晴らしいことだと考えていた。最低でも、彼にお宝の歩合をほんの少しでも与えてくれればと考えていた。 デクマス・スコッティはそのような事柄を請求するのは苦手であった。それが、ヴァレンウッドでの先任書記としての目覚しい成功の前は、アトリウス卿にとって彼が手際の悪い代理人であった1つの理由である。彼がヴァネック卿に何か言おうと決断しかけた時、閣下が突然話を進めた。 「君はこの建設会社の名誉である」と、よぼよぼした背の低いものは言い、そして一瞬止まった。「予定に少々、時間の空きはないかね?」 スコッティは躍起になってうなずき、閣下の後を、あの悪趣味な装飾を施された、誰もがうらやむ巨大な部屋へとついていった。 「君がこの建設会社に居てくれることを、ゼニタールの神に感謝します」小男が甲高い声で雄大に言った。「知っているかは知らないが、我々は君が来る前はひどい苦境に立たされていた。確かに大きな計画はあったのだが、成功はしなかった。例えばブラック・マーシュ。我々は、何年間も商業用の街道や他の通行用の路線の改善を試みてきた。私はその件に最適の男、フレサス・ティッジョを送り込んだが、膨大な資金と時間の投資をよそに、毎年それらの路線上の貿易は遅くなる一方であった。今は、君の良くまとまった、建設会社の利益を押し上げてくれるヴァレンウッドの契約がある。君が報われるべき時期が来たと思う」 スコッティは謙虚さと、かすかな欲をまとった笑顔を見せた。 「フレサス・ティッジョからブラック・マーシュの仕事を引き継いでもらいたい」 スコッティは心地よい夢から恐ろしい現実へと引き戻されたかのように震え、「閣下… わ、私には……」 「大丈夫だ」ヴァネック卿は甲高い声で、「ティッジョのことは心配しなくてもよい。手渡す金で彼は喜んで引退するであろう、特に、この魂をも痛めつけるほどに難しい、ブラック・マーシュ事業の後ではな。君にこそ相応しい挑戦である、敬愛なるデクマスよ」 スコッティは、ヴァネック卿がブラック・マーシュに関する資料を取り出している最中、声は出せなかったが口は弱々しく「嫌」の形をしていた。 「君は、読むのは早いほうであろう」ヴァネック卿は推測でものを言った。「道中で読んでくれたまえ」 「どこへの道中ですか……?」 「ブラック・マーシュに決まっておるではないか」小男がクスクス笑った。「君は面白い男だ。行われている仕事や改善の方法を他のどこへ行って学ぶというのだ?」 次の朝、ほとんど触れられていない書類の山とともに、デクマス・スコッティはブラック・マーシュへと南東に向かって旅立った。ヴァネック卿が、彼の最高の代理人を保護するために、壮健な衛兵を雇っていた。少々無口なメイリックという名のレッドガードである。彼らはニベンに沿って南へと馬を進め、それから彼らはシルバーフィッシュに平行して、川の支流には名前もなく、草木は北帝都地方の上品な庭園からではなくまるで違う世界から来たような、シロディールの荒野へと進んだ。 スコッティの馬はメイリックのそれにつながれていたので、書記は移動しながら書類を読むことができた。進んでいた道に注意を払うことは困難ではあったが、建設会社のブラック・マーシュにおける商取引に関して、最低でも大雑把な知識が必要であることをスコッティは分かっていた。 それはギデオンからシロディールへの街道の状態を改善するために、裕福な貿易商ゼリクレス・ピノス・レヴィーナ卿から初めて数百万の金を受け取った、40年前にさかのぼる書類が詰まった巨大な箱であった。当時、彼が輸入していた米や木の根が帝都に到着するまでには、半分腐って3週間という、途方もないような時間がかかるものだった、ピノス・レヴィーナはすでに亡くなっているが、数十年にわたってペラギウス四世を含む多くの投資家たちが、建設会社を雇っては道を作り、沼の水を抜き、橋を作り、密輸防止策を考案し、傭兵を雇い、簡単に言えば歴史上最大の帝都の思いつく、ブラック・マーシュとの貿易を援助するためのすべての方策を行わせてきた。最新の統計によると、この行為の結果、今は荷物が到着するまでに2ヶ月半かかり、完全に腐っているとのことである。 読みふけった後に周りを見回すと、地形は常に変化していたことにスコッティは気付いた。常に劇的に。常により悪く。 「これがブラックウッドです」と、メイリックはスコッティの無言の問いに答えた。そこは暗く、木が生い茂っていた。デクマス・スコッティは適切な地名であると思った。 本当に聞きたかった質問は、「このひどい臭いは何?」だった。そして、後に聞くことができるのだった。 「沼沢地点です」メイリックは、木と蔓が絡み合い、影の多い通路が空き地へと開ける角を曲がりながら答えた。そこにはヴァネック卿の建設会社、そしてタイバー以降のすべての皇帝が好む、型にはまったインペリアル様式の建物がまとまって建てられており、目もくらみ、腸がねじれるような強烈な汚臭と相まって、突然すべてが劇薬にさえ思えた。至るところを飛び回り、視界をさえぎる深紅色で、砂の粒ほどの虫たちの大群も、その光景を見やすいものにはできなかった。 スコッティとメイリックは、元気いっぱいに飛び回る大群に向かって瞬きを繰り返しながら、近づくにつれ真っ黒な川のふちに建てられていることが判明した一番大きな建物に向けて馬を進めた。その大きさと厳粛な外観から、対岸の茂みへと続く大きな気泡を発する黒い川に架けられた、幅広の白い橋の通行人管理と税徴収の事務所であるとスコッティは推測した。それは光り輝く頑丈そうな橋で、彼の建設会社が架けたものであるとスコッティは知っていた。 スコッティが一度扉を叩いたとき、いらいらした汚らしい役人が扉を開いた。「早く入れ! ニクバエを入れるな!」 「ニクバエ?」デクマス・スコッティは身震いした。「人間の肉を食べると言うことですか?」 「馬鹿みたいに突っ立てれば食われるさ」と、兵士は呆れたように言った。彼には耳が半分しかなく、スコッティは他の兵士たちも見たが、全員いたるところをかまれており、1人は鼻が完全になかった。「それで、何の用だ?」 スコッティは用事を伝え、要塞の中ではなく外に立っていたほうが、より多くの密輸者を捕らえられるであろうと付け足した。 「そんなことより、あの橋を渡ることを気にしたほうがいいぞ」と、あざけるように兵士が言った。「潮が満ちてきている。もし急がなかったら、4日間はブラック・マーシュへ行けないぞ」 そんな馬鹿な。橋が上げ潮に呑まれる、それも川で? 兵士の目が、冗談ではスコッティに伝えていた。 砦から外に出た。ニクバエから拷問されることに嫌気がさした馬は、どうやら止め具を引きちぎり、森の中へと消えたらしい。川の油質の水は既に橋の厚板に達しており、その隙間から滲み出ていた。ブラック・マーシュへ行く前に、4日間の滞在に耐えるのは構わないとスコッティは考え始めていたが、メイリックは既に渡り始めていた。 スコッティは彼の後をあえぎながら追った。彼は昔から壮健ではない。建設会社の資料が入った箱は重かった。途中まで渡ったとき、彼は息をつくために立ち止まった、そして、動けないことに気がついた。足が固定されていたのである。 川を覆う黒い泥には粘着性があり、スコッティが行く厚板の上に泥が打ち寄せたとき、彼の足をしっかりと固定してしまった。彼はうろたえてしまった。スコッティはそのわなから顔を上げ、メイリックが板から板へ飛び移りながら、対岸のアシの草むらへの距離を急速に縮めていくのを見た。 「助けてくれ!」と、スコッティは叫んだ。「動けない!」 メイリックは跳ね続け、振り返りもしなかった。「はい、残念ながら、もはや、お痩せになられるしか、なすすべはありません」 デクマス・スコッティは、自分の体重が数マイル多いことも分かっていたし、食事を減らして運動を増やすつもりでもいたが、減量が現在の苦境から速やかに彼を救ってくれるとは到底思えなかった。ニルンに存在するいかなる減量も、その場では助けにならない。そこで、よく考えてみるとあのレッドガードは、資料の詰まった箱を捨てろと言っていたのだと気がついた。メイリックは既に、それまで持っていた重要な物質を何ひとつ持ってはいなかった。 ため息をつきながら、スコッティは建設会社の記録書類が入っている箱をネバネバした川の中に捨て、厚板が数ミリ、辛うじて自身を泥の束縛から解放するに足るだけ浮き上がるのを感じた。恐怖から湧き上がる敏捷性で、スコッティは板を3枚ずつ飛ばしながら走り、川が彼を捉える前に跳ね上がりながらメイリックの後を追った。 四十六回跳んだところで、デクマス・スコッティはアシの茂みを抜けて、メイリックの後ろの硬い地面に着地し、ブラック・マーシュに到着した。彼のすぐ後ろで、橋と、もう二度と目にすることがない建設会社の重要で、公式な記録書類の詰まった箱が、上昇する汚物の洪水に飲み込まれていく嫌な音が聞こえた。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/119.html
アイレイド最後の王 ヘルミニア・シンナ 著 アイレイドとは有史以前の神話の時代にシロディールを支配していたハートランドのハイエルフの別名である。ちなみに、歴史上存在する最も古い記録の一つが第一紀243年に起こった白金の塔の陥落であり、一般的にこの一件がアイレイドの滅亡を意味していたとされている。 アイレイドによるシロディール全土の支配体制は第一紀243年に崩壊したものの、これは長年に及ぶ停滞の中での顕著な一件に過ぎなかった。第一紀の最初の二世紀の間に、シロディール各地の偉大なるアイレイドの王たちの間で騒乱が拡大していったのである。アレッシアは内乱が発声した時期に合わせて蜂起を計画したようである。帝都の歴史家たちは伝統的に彼女の勝利をスカイリムからの干渉によるものとみなしてきたが、白金の塔の攻城戦の際は反乱側のアイレイドの諸侯から同程度以上に支援を受けていたようである。 残忍な奴隷使いという典型的なアイレイド像は無論事実に基づいたものであるが、意外と知られていないのが、何人かのアイレイドの王子が263年以降もシロディールの新女帝の臣下としてシロディールのいくつかの地方を支配し続けたことである。これはアイレイドによる支配が必ずしも全土で忌み嫌われていたわけではなかったか、あるいはアレッシアとその後継者たちが一般に思われているよりも実利主義的であったか、あるいはその両方であったことを示唆している。 いずれにせよ、複数のアイレイドの遺跡での発掘調査により、いわゆる後アイレイド期(第一紀243年から498年頃まで)にもそこにアイレイドがとどまっていたことがわかっており、所によっては領土が発展していた様子さえうかがえる。当初、何人ものアイレイドの諸侯が人間たちの新帝都の臣下として統治を続けていた。アレッシアに味方をしたアイレイドに見返りとして倒した敵の領地を与えた場合もいくつかあったようである。シロディール帝都下で人間たちの隷属がどの程度存続したかは明らかになっておらず、シロディール内のアイレイドの支配下の地域に人間が住み続けたことは確かながら、その暮らしの状況がいかなるものであったかを決定づける根拠は見つかっていない。 しかしアイレイド諸侯と人間側との関係は当初から不安定なものであり、長続きするはずもなかった。帝都内にアイレイドの諸侯がとどまり続けていることに対する憤りが、マルクによって創設されたいわゆるアレッシア派の台頭の一因となっていたようである。最初にアレッシア派の犠牲となったのは、シロディール内のアイレイドたちだったのである。300年代初頭にて、人間の支配下にある地域のアイレイド集落は一つ一つ滅ぼされていき、戦火を逃れた難民が一時的に残存するアイレイド領の勢力を強めることになった。 361年にはアレッシア派勢力が帝都の覇権を握り、アレッシア主義を全土に浸透させ、これによりアイレイド諸侯による地方統治は廃止された。この法令の適用には直接的な武力はほとんど必要とされなかったようである。それはこの時点で力の差があまりにも歴然としており、自分たちの命運を長年に渡って予感していた生き残りのアイレイドたちの大半が迷わずシロディールを離れ、やがてエルフたちの住むヴァレンウッドやハイ・ロックへと散っていったからである。ディレニ勢の台頭も、シロディールからのアイレイドの流出に関連があると考えられる(この点に関して歴史家たちによる検証はまだほとんどなされていない)。 このような流れにもかかわらず、アレッシア派による支配を生き延びたアイレイドの残存勢もいたらしく、ディレニ勢がアレッシア派に決定的な打撃を与えた482年のグレヌンブリアの沼地での戦いでは、「アイレイド最後の王」が加勢したとされている。この王の臣下たちがそれまでの百年間をどうやって生き延びたのかは解明されていない。この一派が何者であったかすらわかっていないのだが、最近の研究ではこの「最後の王」がネナラタに眠っている可能性が指摘されている。あいにく、帝都の現状ではネナラタのような大規模な遺跡に対し入念な科学的調査を施すだけの資金が確保できなくなっているため、これらの謎の解明は後世の者たちに託すことになりそうである。 その他クエスト関連 九大神の騎士関連 歴史・伝記 赤2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/121.html
2920 暁星の月(1巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 暁星の月1日 モルンホールド(モロウウィンド) アルマレクシアは毛皮のベッドに横たわり、夢を見ていた。太陽が窓に当たり、彼女の肌色の部屋に乳白色の光が注ぎ込まれて、ようやく彼女はその目を開けた。それは静寂と静けさであり、彼女が見ていた血と祝典で溢れていた夢とは驚くほどに違っていた。数分間、彼女は天井を見つめビジョンの整理を試みた。 彼女の王宮の宮廷には冬の朝の涼しさで湯煙を立てている、沸き立つプールがあった。手の一握りで湯煙は消え、彼女の恋人ヴィヴェックの顔と姿が北の書斎に見えた。すぐには話しかけたくなかった: 赤のローブを着て、毎朝のように詩を書く彼はりりしく見えた。 「ヴィヴェック」彼女が言うと、彼は笑顔とともに顔を上げ、何千マイルもの彼方から彼女の顔を見ていた。「戦争の終わりのビジョンを見たわ」 「80年も経った今、誰にも終わりは見えないと思うが…」と、ヴィヴェックは笑顔とともに言ったが、真剣になり、アルマレクシアの予言を信じた。「誰が勝つ? モロウウィンドか、それともシロディール帝都か?」 「ソーサ・シルがモロウウィンドにいなければ、私たちは負けるわ」と、彼女は返答した。 「私の情報によると、帝都は北部を春の早い段階で攻撃するであろう。遅くとも蒔種の月にはね。アルテウムへ行き、戻るよう彼を説得してくれるか?」 「今日発つわ」と、彼女は即座に言った。 2920年 暁星の月4日 ギデオン (ブラック・マーシュ) 女帝は牢獄のなかを歩き回っていた。冬の季節が彼女に必要のない体力を与えていたが、夏はただ窓の近くに座り、彼女を冷ましにきた、ムッとするような沼地の風に感謝するだけであった。部屋の反対側では、帝都宮廷での舞踏会を描写した、未完成のつづり織りが彼女を嘲るように見えた。彼女はそれを枠から破り取り、床に落としながら引き裂いた。 その後、自らの無駄な反抗の意思表示を笑った。修理するのに十分な時間があり、その上で更に100枚作る時間もあった。皇帝は7年前に彼女をギオヴェッセ城に監禁し、おそらく彼女が死ぬまでそこに拘留するつもりであろう。 ため息とともに、彼女の騎士ズークを呼ぶ綱を引いた。帝都衛兵にも相応しい制服を着た彼は、数分以内に扉の前に現れた。ブラック・マーシュ出身のコスリンギーの民のほとんどは裸でいることを好んだが、ズークは衣服に前向きな楽しみを覚えていた。彼の銀色で反射する皮膚はほとんど見えず、顔、首、手のみを露出していた。 「殿下」と、お辞儀をしながら彼は言った。 「ズーク」と、女帝タヴィアは言った。「退屈である。今日は夫を暗殺する手段を話そうぞ」 2920年 暁星の月14日 帝都 (シロディール) 南風の祈りを宣告する鐘の音が帝都の広い大通りや庭園に鳴り響き、皆を神殿へと呼んでいる。皇帝レマン三世はいつでも最高神の神殿の礼拝に参列したが、彼の息子にして継承者である王子ジュイレックは、各宗教的祝日はそれぞれ違う神殿にて礼拝に参列するほうが政治上より良いと思っていた。今年はマーラの慈善大聖堂であった。 慈善での礼拝は幸い短かったが、皇帝が王宮から戻れたのは正午を大きく回ってからであった。その頃には、闘技場の闘士たちは式典の始まりをしびれを切らして待っていた。ポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエがカジートの軽業師の一座による実演を手配していたため、群集はそれほど落ち着かない様子ではなかった。 「そちの宗教は我が宗教よりも都合がよいな」と、皇帝はポテンテイトに謝罪するかのように言った。「最初のゲームは何であるか?」 「優れた戦士2人による、一対一の決闘であります」と、ポテンテイトが立ち上がりながら言った。うろこ状の皮膚が、日の光を受け止めていた。「彼らの文化に相応しい武装で」 「よいぞ」と皇帝は言い、手を叩いた。「競技を開始せよ!」 二人の戦士が群衆の声援が沸き立つ闘技場に入るや否や、皇帝レマン三世はこのことについて数ヶ月前に約束したが、忘れてしまっていたことに気がついた。闘士の1人はポテンテイトの息子サヴィリエン・チョラック。ギラギラした象牙色のうなぎは、アカヴィリ剣と小剣を一見細く、弱そうな腕で握っている。もう一方は、皇帝の息子、王子ジュイレック。黒檀の鎧とともに野蛮なオークの兜と盾、そしてロングソードを携えている。 「この見物は興味をそそります」と、ポテンテイトが息を漏らすように言い、細い顔でにこやかに笑った。「シロディールがアカヴィルとこのように戦うのを見た覚えがありません。通常は、軍対軍ですからな。やっとどちらの考え方が良いのか決着がつけられます── あなた方のように、剣と戦うために鎧を作るのか、それとも、我々のように、鎧と戦うために剣を作るのか」 まばらにいるアカヴィリの参事とポテンテイト以外はサヴィリエン・チョラックの勝ちを望んではいなかったが、彼の優雅な動きを目にしたとき、皆息を呑んだ。彼の剣は体の一部のようで、尻尾が腕から伸び、後ろの腕に合わせる。重量を平衡させる業で、若い蛇男を丸まらせ回転しながら、攻撃姿勢のままでの舞台の中央への移動を可能とさせた。王子はそれほど印象的ではない、普通の移動方法で、とぼとぼと前へ進んだ。 二人がお互いに飛び掛ると、群集は歓喜の叫びを上げた。アカヴィリはまるで彼が王子の衛星軌道上の月であるかのように、後ろからの攻撃を試みるために楽々と彼の肩を飛び越えたが、王子は盾で防ぐためにすぐに旋回した。彼の反撃は、敵が地面に倒れこみ、スルスルと彼の足の間を抜けながら足を引っ掛けたので空を切った。王子は大きな衝突音とともに地面に倒れた。 王子はすべて盾で防いだが、サヴィリエン・チョラックが幾度となく王子に攻撃をしかけると、金属と空気が溶けて融合した。 「私たちの文化に盾はありません」と、ヴェルシデュ・シャイエが皇帝に呟いた。「息子には盾が奇妙に見えているのでしょう。私たちの国では、殴られたくなかったら、避けるのです」 サヴィリエン・チョラックが再度目もくらむような攻撃に備えて後ろ足で立ったとき、王子は彼の尻尾を蹴り彼を一瞬後ろに退かせた。彼はすぐに立ち直ったが、王子も地に立っていた。二人ともお互いの周りを回っていたが、そのうち蛇男が、アカヴィリ剣を突き出して前に回転しながら出てきた。王子は敵の策を見破っており、アカヴィリ剣をロングソードで、そして小剣を盾で防いだ。その短く突き抜く刃は金属にめり込んでしまい、サヴィリエン・チョラックは平衡を崩されてしまった。 王子のロングソードがアカヴィルの胸を切り、突然の激しい痛みが彼に両方の武器を落とさせてしまった。直後、戦いは終わった。サヴィリエン・チョラックは王子のロングソードを首に突きつけられた。解体される家畜同然であった。 「ゲームは終了である!」と、皇帝は叫んだが、闘技場内の拍手の音でかすかに聞こえただけである。 王子はにっこりと笑い、サヴィリエン・チョラックが立ち上がるのを手伝い、治癒師へ連れて行った。皇帝は安堵しながらポテンテイトの背中を叩いた。戦いが始まったとき、息子が勝つ可能性の低さに気付いていなかった。 「彼はいい戦士になります」と、ヴェルシデュ・シャイエが言った。「そして、偉大な皇帝に」 「これだけは憶えておけ」皇帝は笑った。アカヴィリには派手な技が多いが、我々の攻撃が1度でも通用すれば、それで終わりなのだ」 「よく憶えておきます」ポテンテイトは頷いた。 レマンの残りのゲームの最中、その言葉のことを考えていて心底楽しめなかった。ポテンテイトも、女帝がそうであったように敵なのだろうか? この件は監視することにした。 2920年 暁星の月21日 モルンホールド(モロウウィンド) 「なぜ私があげた緑のローブを着ない?」と、モルンホールドのデュークは若い娘が服を着るのを見ながら聞いた。 「合わないからよ」トゥララは笑った。「それに、赤が好きなのを知っているでしょう」 「合わないのは、太り始めているからだ」と、デュークは笑い、彼女をベッドに引き込み、胸や腹部に口づけをした。くすぐったくて彼女は笑ったが、起き上がり、赤いローブを羽織った。 「女性らしく出るところは出ているのよ」と、トゥララは言った。「明日会える?」 「いや」と、デュークは言った。「明日はヴィヴェックをもてなさなければならない、そして次の日はエボンハートのデュークがここを訪れる。アルマレクシアが居なくなるまで、私はアルマレクシアと彼女の政治手腕を大切に思っていなかった。信じられるか?」 「私と同じね」トゥララは微笑んだ。「私が居なくなって初めて大切に思うのよ」 「そんなことはない」デュークはせせら笑った。「今、大切に思っているさ」 トゥララは扉を出る前に、デュークに最後の口づけを許した。彼女は彼の言った言葉を考え続けた。彼女が太り始めているのは彼の子を宿しているからだと知ったら、彼はどれだけ彼女を大切に思ってくれるのだろうか? 結婚するほど大切に思ってくれるだろうか? 時は薄明の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/46.html
野生のエルフ キエルジョ・チョルナヴァク 著 タムリエルのほぼ全地方の荒野には、直接ではないにせよ少なくとも思想上はこの地で最初の住人たちの末えいであるアイレイド、通称ワイルドエルフが住んでいる。エルフの亜種のうち、アルトマー(ハイエルフ)、ボズマー(ウッドエルフ)、ダンマー(ダークエルフ)の三種族はタムリエルの新たな文明によく馴染んでいるものの、アイレイドおよびその末えいは文明を疎む姿勢を崩さず、世間の目を避けて古き法を守ることを選んでいる。 ワイルドエルフたちはタムリエル語を嫌い古代シロディール語の一方言を話すため、最も文明化の遅れている他のエルフの亜種に比べても、タムリエルの本流から離れてしまっている。彼らは性格的には陰気で無口だが、これは(彼らが「ペラーニ」と呼ぶ)よそ者たちの観点からの感想であり、同族相手にはその態度も変わってくるものと思われる。 一例として、グウィリム大学屈指の賢者の一人であった、文明に帰化したアイレイドエルフのチュルヘイン・フィーレ(第一紀2790年生、第二紀227年没)が記したワイルドエルフに関する文献には、色鮮やかで活気のある文化が描かれている。フィーレは同族や自分たちの宗教について自由に語った数少ないアイレイドに一人であり、「アイレイドの諸族の気質は多種多様であり、その性格はたとえ隣り合う地域の部族間であっても大きく異なることが少なくない」と主張している(フィーレ、T、アイレイド詩吟の性質について、p.8、グウィリム大学出版部、第二紀12年)。 ワイルドエルフたちは他の異質な文化をもつ種族同様、タムリエルの庶民階級の多くに恐れられている。アイレイドはタムリエルの大陸屈指の大いなる謎であり続けており、その役割を問わず歴史の記録に登場することは稀であり、言及されていたとしても記録者が見かけた直後に森の中に消えてしまう奇妙な人影といった程度である。ありきたりな伝説から架空ながら現実味のある話を抽出してみても、ほとんど何も残らない。アイレイドの神秘は第一紀以前から謎に包まれたままであり、その状態が以後何千年もの間続いたとしても不思議ではない。 民族・風習・言語 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/238.html
「王者」 レヴェン 著 読者諸君、この連続物語の3巻、「物乞い」「盗賊」「戦士」を読み、記憶に留めていない場合は、結末へとたどり着くこの最終巻に書かれている内容を理解することは難しいだろう。お近くの本屋でのお求めをお勧めする。 前回の物語は、いつもの如くエスラフ・エロルが命をかけて逃走しているところで幕を閉じた。彼は多量の金と非常に大きな宝石を、ジャレンハイムのスオイバッドという名の富豪から盗んだ。その盗賊は北へと逃げ、盗賊らしくありとあらゆる非道徳的な快楽のために、金を湯水の如く使った。この本を読んでいる淑女や紳士を動揺させてしまうような内容なので、詳しくは述べないことにする。 手放さなかったのはあの宝石だけである。 愛着があって手放さなかったわけではなく、彼から買い取れるほどの金持ちを知らなかったからである。何百万もの価値がある宝石を手にしながら、無一文という皮肉な状況に彼は陥っていた。 「これと交換で、部屋とパンとビールの大瓶をくれないか?」あまりにも北すぎて、その半分が亡霊の海に面する小さな村、クラヴェンスワードの酒場の店主に彼は聞いた。 酒場の店主はそれを疑わしげに見た。 「ただの水晶だよ」と、エスラフはすぐさま言った。「でも、きれいじゃない?」 「ちょっと見せて」鎧に身を固め、カウンターの端にいた女性が言った。許可を待たずに彼女は宝石を手に取り、見つめ、そしてあまり優しくなさそうな笑みをエスラフに向けた。「私のテーブルで一緒にどう?」 「実は、ちょっと急いでいるので」と、宝石に向かって手を伸ばしながらエスラフは答えた。「またの機会に」 「友であるこの酒場の店主に敬意を表して、私も部下も皆、ここにくるときは武器を置いてくる」宝石を返さず、カウンターに立てかけてあったほうきを手に取りながら、何気なく彼女は言った。「でも、これだけは断言できるわ。私はこれを武器としてかなり有効に使える。もちろん、武器ではないけれど、気絶させるたり骨の1本や2本を折る程度、そして── 1度中に入ったら……」 「どのテーブルだい?」エスラフは即座に聞いた。 その若い女性は、エスラフがいまだに見たことがないほど大きなノルドが10人座っている、酒場の裏にある大きなテーブルへと彼を連れて行った。彼らはエスラフのことを、踏み潰す前に一瞬の観察に値する奇妙な虫であるかのような無関心さで見つめた。 「私の名前はライスィフィトラ」と彼女は言い、エスラフは瞬きをした。それはエスラフが逃走する前に、スオイバッドが口にした名前であった。「彼らは私の副官たち。私は気高い騎士たちから成る大きな独立した軍の指揮官。スカイリム最高の軍よ。つい最近、ラエルヌと言う男が我々の雇い主がスオイバッドと言う男にブドウ園を売り渡すことを強要するため、アールトにあるブドウ園を攻撃する仕事を与えられたわ。我々の報酬は、とても有名で間違えようのない、飛び抜けた大きさと質の宝石のはずだったの」 「依頼通りにやり遂げ、スオイバッドの下に謝礼を受け取りに行ったら、彼は最近泥棒に入られたために支払えないといったわ。でも最終的には私たちの言うことを聞き、貴重な宝石の価値に匹敵するくらいの金を支払った。彼の宝物庫を空にはしなかったけれど、結局はアールトの土地を買えないことになったわ。よって、私たちは十分な支払いを受けられなかったし、スオイバッドは金銭的な痛手を負い、ラエルヌの貴重なジャズベイは一時的に意味もなく台無しにされたの」ライスィフィトラは続ける前に、ゆっくりとはちみつ酒を1口飲んだ。「さて、よく分からないから教えてくれない? 私たちが手に入れるはずだった宝石を、どうしてあなたが持っているの?」 エスラフはすぐには答えなかった。 その代わり、左にいる髭を生やした蛮族の皿からパンを1切れ取り、食べた。 「すまない」と口をモグモグさせながら彼は言った。「いいかい? 宝石を取ることは、やめたくてもやめられないし、実際のところ別に構わない。そして、どのようにして私の手に入ったかを否定するのも無駄なことだ。要するに、これは、あなたの雇い主から盗んだ。もちろん、あなたや気高い騎士たちに被害を加えるつもりはなかったが、あなたのような人にとって、盗賊の言葉など相応しくない理由も理解できる」 「そうね」ライスィフィトラは答え、顔をしかめたが、目は面白がっているようである。「相応しくないわね」 「でも私を殺す前に──」エスラフはパンをもう1切れつかんで言った。「教えてくれ、あなたのように気高い騎士が、1つの仕事で2度報酬を得るのは相応しいことなのか? 私にはなんの名誉もないが、支払いのためにスオイバッドが損害を被り、今はその宝石を手にしている。よって、あなたの莫大な利益はあまり誇れるものではないと思うのだが」 ライスィフィトラはほうきを拾い上げ、エスラフを見た。そして笑い、「盗賊よ、名は?」 「エスラフ」と、盗賊は言った。 「今回は我々に約束されていたものなので、宝石はいただくわ。しかし、あなたは正しい。1つの仕事で2度支払いを受けるべきではないわ。なので──」ほうきを置きながら女戦士は言い、「あなたが我々の雇い主よ。我々に、何をさせますか?」 多くの人々は自分の軍隊にかなりの使い道を見出すであろうが、エスラフはその1人ではなかった。頭の中を捜してみたが、最終的には、後に支払われる貸しにしておくことに決まった。彼女の野蛮性にも関わらず、ライスィフィトラは素朴な女性であり、彼女が指揮するその軍に育てられたことを彼は知った。戦闘と名誉が彼女の知るすべてであった。 エスラフがクラヴェンスワードを離れたとき、彼には軍の後ろ盾があったが、1ゴールドすら持っていなかった。近いうちに何かを盗まなければいけないのは分かっていた。 食べ物を拾い集めようと森の中をさまよっていると、彼は奇妙な懐かしさに襲われた。ここはまさしく子供のころにいた森で、当時も空腹で食べ物を拾っていた。道に出たとき、彼は優しく間抜けで内気な召使い、デゥルスバによって育てられた王国に戻ってきたことに気付いた。 彼はエロルガードにいたのだ。 そこは彼の幼少期よりもさらに絶望の深みへと堕ちていた。彼に食べ物を拒否した店の数々は皆、板が打ち付けられ放棄されていた。そこに残されている人々は皆、うつろで絶望した姿であり、彼らは税金、専制政治、野蛮人の侵略によってやつれきっていて、弱りすぎて逃げることすらできない人々であった。エスラフは、若いころにここから出られた自分がどれだけ幸運だったかを実感した。 しかし、そこには城があり、王者がいる。エスラフはすぐさま公庫に侵入する計画を練った。普段どおりその場を注意深く観察し、警備や衛兵の習慣などを記録した。これには時間がかかったが、結局、警備も衛兵も存在しないことに彼は気付いた。 彼は正面の扉から中に入り、がら空きの廊下を下って公庫へ向かった。そこは、何もなさで満ちていた。1人の男が居る以外は。彼はエスラフと同年代だったが、さらに老けて見えた。 「盗むものは何もない」と、彼は言った。「かつて存在したこともないがな」 王者イノップは年齢以上に老けているが、エスラフ同様の白金髪、そして割れた硝子のような青い眼を持っていた。その上、スオイバッドやライスィフィトラにも似ていた。エスラフは破滅させられたアールトの地主、ラエルヌとは知り合いにこそならなかったが、見た目は似ている。当然のことである。彼らは兄弟なのだから。 「何も持っていないのか?」と、エスラフは優しく聞いた。 「この王国以外は何もない。忌々しいことだが」王者はぼやいた。「私が玉座に就くまでは強力で、富んでいたのだが、私はそのどれも相続しなかった、ただ称号のみ。私の全人生に責任がのし掛かっていたが、それを正しく推し進める資質を持ったこともなかった。生得の権利であるこの荒野を見渡すと嫌になる。もし王国を盗むことが可能であるならば、それを止めたりなどしない」 結局、エスラフは王国を盗むことにした。それからしばらく後、エスラフがイノップとして知られるようになったが、それは身体的な相似から容易な偽装であった。本物のイノップはイレキルヌと名を変え、喜んで彼の領地を離れ、最終的にはアールトのブドウ園で素朴な労働者となった。初めて責任から開放された彼は、心から喜んで新しい人生に取り組み、そして長い年月が彼から溶け出した。 新しいイノップはライスィフィトラへの貸しを回収し、彼女の軍を使ってエロルガード王国に平和を取り戻した。安全になった今、商売や交易がその地に戻り、エスラフは税額を下げ、それらの成長を促した。それを聞き、常に富を失うことを恐れているスオイバッドは、生誕の地へ戻ることを決心した。彼が何年か後に死ぬとき、彼はその強欲から相続人の指名を拒否したため、王国が彼の全財産を受け取った。 本物のイノップからいい評判を聞いたエスラフは、その財産の一部を使ってアールトのブドウ園を購入した。 これによってエロルガードは、王者イッルアフの5人目の子によって以前の繁栄に返り咲いた── エスラフ・エロル、物乞い、盗賊、お粗末な戦士、そして、王者。 物語(歴史小説) 茶2