約 3,151,920 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/271.html
ジール城の恐怖 ─幕物 バロス=クル 著 登場人物 クラヴィデス、帝都衛兵隊長 シロディール民 アナーラ、ダンマーの侍女 ユリス、帝都衛兵副隊長 アルゴニアン ゾラッサ、若きアルゴニアン魔術師 深夜。洗練された家具やつづれ織りで十分に飾られている、スキャス・アヌド城の玄関大広間で芝居は幕を開ける。松明だけが唯一の明かりをもたらしている。広間の中心には、城への正面入り口である大きな鉄の扉が立っている。上の踊り場へと続く階段は扉の横にある。舞台左手には、今は閉じられている図書室への扉がある。舞台右手には、もうすこしで部屋の天井に届く、20フィートもの巨大な鎧の1式が立っている。誰も見えないが、女性の歌声が図書室の扉から伝わってくる。 正面扉を叩く大きな音。歌をやめる女性。図書室への扉が開き、何の変哲もない侍女、アナーラが部屋から出てきて正面扉へと急ぐ。インペリアルの制服をまとった見栄えの良いクラヴィデスが目の前に立つ。 アナーラ: こんばんは。 クラヴィデス: こんばんは。ご主人はいるかね? アナーラ: いいえ、不在です。いるのは私だけです。私のご主人様であるセデゥーラ・ケナ・テルヴァンニ・ホルダルフ・ジール様は避寒地にいます。私で何かのお役にたてますか? クラヴィデス: かもしれない。入ってもいいかね? アナーラ: どうぞ、お入りください。フリンでもお持ちしましょうか? クラヴィデスは広間に入り、あたりを見回す。 クラヴィデス: いや、結構。名前は? アナーラ: アナーラです。 クラヴィデス: アナーラ、ご主人はいつスキャス・アヌドを発った? アナーラ: 2週間以上前です。なので、私しか城にはいないのです。閣下にお仕えする他の召使いや奴隷たちはみんなご主人様に同行しています。何かあったのですか? クラヴィデス: うむ、あったのだ。サル・カリファという名のアッシュランダーを知っているかね? アナーラ: いいえ。知りません。 クラヴィデス: では、これからも知ることはないな。彼は死んだのだよ。数時間前、アッシュランドで凍傷によって死にかけているところを発見されたのだ。彼は狂乱していて何を言っているのかほとんど理解できなかったが、最後の言葉は「城」と「ジール」だった。 アナーラ: 夏季に凍傷によって死ぬ、アッシュランドにてですか? 妙な事が起こるものですね。ご主人様がその人を知っていた可能性はありますが、彼はアッシュランダーでご主人様はテルヴァンニ一族、失礼な言いかたですが、お友達ではなかったと思います。 クラヴィデス: あれがご主人の図書室? 中を見てもいいかね? アナーラ: どうぞ、どこへでもご自由に。何も隠すものはありません。私たちは帝都の忠臣です。 クラヴィデス: テルヴァンニは皆、そうであると聞いている。 (劇作家からの覚え書き:この台詞は皮肉抜きで読まれるべきである。観客の笑いを信じて── 地元の政治情勢に関係なく、失敗はない) クラヴィデスは図書室に入り、本を見越す。 クラヴィデス: 図書室はほこりを払う必要があるな。 アナーラ: はい、ちょうどあなた様がいらっしゃった時に行なっていたのです。 クラヴィデス: それには感謝する。もし終わっていたら、つい最近持ち去られたかなり大きな本があった場所の、ほこりの付いていないところに気が付かなかったであろう。あなたのご主人は、どうやらウィザードらしいな。 アナーラ: いいえ。というか、彼は研究熱心ですが、もし呪文を唱えることがウィザードを意味するなら、彼はまったく唱えません。彼はケナで、大学なども出ています。あの、今になって考えると、昨日、大学から他のケナがやってきて、何冊か本を借りていきました。ご主人様の友人なので、問題ないかと思っておりました。 クラヴィデス: そのケナ、彼の名前はワーヴィム? アナーラ: だったかも知れません。覚えていません。 クラヴィデス: 大学に、我々が昨夜拘束したケナ・ワーヴィムという名の疑わしい死霊術師がいる。彼が大学で何をしていたかは分からないが、違法行為であったことは間違いない。本を借りたのはそのケナか? 足が萎れて不自由な、小さい男? アナーラ: いいえ、その人は昨日のケナとは違います。彼は大きくて、しっかりと歩いていたのを見ました。 クラヴィデス: 家の他の場所も見させてもらうぞ。 クラヴィデスは階段を登り、次の台詞を踊り場、および上の部屋から言う。アナーラは下の階の整頓を続け、床を磨くために背もたれの高い長椅子を鎧の間へへと移動する。 アナーラ: 何を探しているのか聞いてもいいですか? お手伝いできるかもしれません。 クラヴィデス: これが城のすべての部屋かね? 秘密の通路はないのかね? アナーラ(笑いながら): なぜ、セデゥーラ・ケナ・テルヴァンニ・ホルダルフ・ジール様が秘密の通路を必要とするのでしょう? クラヴィデス(鎧を見ながら): あなたのご主人は大物だからな。 アナーラ(笑いながら): からかうのはやめてくださいな。あの巨大な鎧はただの飾りです。ご主人様が10年前にあの巨人を倒し、その記念品として取っておかれているのです。 クラヴィデス: そうだ、それは初めてここに赴任してきたときに聞いた覚えがある。巨人を殺したのがジールという名字のものであったのは知っていたが、名がホルダルフだったとは思わなかった。記憶とは薄れていくのだな。巨人の名は何であったかな? アナーラ: 残念ながら覚えておりません。 クラヴィデス: 私は覚えている。トルファングだ。「トルファングの盾から出た」 アナーラ: 何のことでしょう。トルファングの盾? クラヴィデスは階段を駆け下り、鎧を調べる。 クラヴィデス: トルファングの盾から出られたようなことをサル・カリファが言っていた。気が狂い、取りとめのない話をしていたと思っていたのだが。 アナーラ: ですがその通り、それは盾など持っていません。 クラヴィデスが背もたれの高い長椅子を動かすと、鎧の基部から据え付けられた大きな盾が見えた。 クラヴィデス: 持っているね。あなたがあの長椅子で覆ったのだ。 アナーラ: わざとやったのではありません! 掃除をしていただけです! 毎日あの鎧を見ていますが、ああ、神よ、誓ってその盾に気付いたことはありません! クラヴィデス: もうよいアナーラ、信じるよ。 クラヴィデスが盾を押すと、それは後退して下への地下道をあらわにした。 クラヴィデス: セデゥーラ・ケナ・テルヴァンニ・ホルダルフ・ジールには秘密の通路が必要なようだな。松明を持ってきてくれるか? アナーラ: ああ、恐ろしい、そんなのは見たことがありません! アナーラは壁から松明を外し、クラヴィデスに手渡す。クラヴィデスは地下道へと入って行く。 クラヴィデス: ここで待つように。 アナーラはクラヴィデスが地下道へと消えて行くのを見守る。彼女は動揺しているように見え、ついには正面扉へと走っていく。扉を開けると、入り口には帝都衛兵副隊長であるアルゴニアンのユリスが立っていた。彼女は叫ぶ。 ユリス: 驚かせて申し訳ありません。 アナーラ: 今は駄目! どこかへ行って! ユリス: お嬢さん、隊長はそれをあまり快くは思わないと思います。 アナーラ: あなたは…… 隊長殿と一緒ですか? ああ、よかった。 クラヴィデスは顔面蒼白で地下通路から出てくる。話すまでしばらく時間がかかる。 ユリス: 隊長? 下には何が? クラヴィデス(アナーラへ向かって): あなたのご主人が死霊術師であることを知っていたか? 地下室が死体で溢れていることも? アナーラは気を失う。ユリスが彼女を長椅子まで運び、横たえる。 ユリス: 隊長、見せてください。 クラヴィデス: 慌てなくてもすぐに見られるさ。死体を運び出すには駐屯地にいる全兵士が必要だ。ユリス、私はたくさんの戦闘を見てきたが、こんなのは見たことがない。2体として同じものがない。カジート、スロード、ダンマー、シロディール、ブレトン、ノルドたちが、生きたまま焼かれ、毒を飲まされ、感電させられ、溶かされ、バラバラにされ、内蔵を出され、切り刻まれた上で縫い合わされているんだよ。 ユリス: それが、脱出したアッシュランダーの身に起きたというのですか? クラヴィデス: 分からない。なぜこのようなことをするのだ、ユリス? 扉を叩く音。クラヴィデスが出る。若いアルゴニアン女性のゾラッサが小包と手紙を携えて立っている。 ゾラッサ: おはようございます、あなたはジール卿ではありませんね? クラヴィデス: 違う。それは何だ。 ゾラッサ: 閣下に配達するはずの小包と手紙です。閣下はすぐ戻りますか? クラヴィデス: いや、戻らないだろう。差出人は誰だ? ゾラッサ: 大学にいる私の講師、ケマ・ワーヴィムです。彼は足が不自由なので、これらを閣下に届けるよう言われました。正直に言いますと、本当は昨夜届けるはずだったのですが、忙しくて。 ユリス: おはよう、同族の妹よ。我々が小包を閣下に渡しましょう。 ゾラッサ: ごきげんよう、同族の兄よ。りりしきアルゴニアンがスキャス・アヌドにいるとは聞いていました。残念ながら、小包は閣下の手に直接届けると、ケマ・ワーヴィムに約束してしまいましたので。もう遅れていますし、置いて行くわけ── クラヴィデス: お嬢さん、我々は帝都衛兵だ。私たちがその小包と手紙を預かる。 ゾラッサは渋々とクラヴィデスに手紙と小包を渡す。帰るために逆を向く。 ユリス: もしからしたらお話を伺うかもしれませんが、大学にいますか? ゾラッサ: はい。お元気で、兄よ。 ユリス: 良い夜を、妹よ。 ゾラッサが退場するなか、クラヴィデスが小包を開ける。何枚ものバラ紙が挟まった本である。 クラヴィデス: どうやら紛失していた本を見つけたようだ。我々のこの手に届けられるとはな。 クラヴィデスがその本を黙読し始める。 ユリス(満足そうに、自分に話しかける): スキャス・アヌドにアルゴニアンがもう1人。しかも可愛い。彼女に対してあまり無礼でなかったならいいのだけれど。もうツルツルとした濡れ肌の女性はうんざりだ。非番の時に会えたら最高なのだが。 ユリスは自分に話しかけながら、手紙の封を切り読む。 ユリス(続く): 彼女は私と同様、南からのようだ。北ブラック・マーシュからのアルゴニアンは… その… アレだ…… ユリスは読み続け、その手紙に立ちすくむ。クラヴィデスは本の最後へと飛ばし、最終章を読む。 クラヴィデス(読み上げる): 黒のインクで、「カジート男性は簡単な雷の呪文に対しても驚くほどに低い耐性を見せたが、中位の酸の呪文をゆっくりと数日間にわたってかけることで、興味深い生理的な結果を得た」余白部分に赤のインクで、「ああ、なるほど。酸の呪文は被験者の全体に均一にかけられたのですか?」黒のインクで、「ノルド女性は16時間の冷気の呪文にさらされ、最終的には結晶化して仮死状態になり、それが原因となって息絶えた。ノルド男性もアッシュランダー女性も違った。彼らはさらに早い段階で昏睡状態に陥ったが、後に回復した。その後アッシュランダーは脱出を試みたが、拘束した。ノルドはその後、簡単な炎の呪文に対して興味深い過剰な化学反応を起こして息絶えた。付随の図解を参照ください」赤のインクで、「ああ、なるほど。腫れと損傷の傾向が何らかの内面燃焼を示唆していますね、もしかしたら、長い期間の冷気の後の短い炎の発射によって引き起こされたのかもしれませんね。実際に実験を見にいけなくて残念ですが、素晴らしい記録に賛辞を述べます」黒のインクで、「侍女アナーラにゆっくりと被毒させることを提案してくれてありがとうございます。提案してもらった用量は、ゆっくりと彼女の記憶を巧妙に侵食する、非常に興味深い結果を得ました。用量を急激に増やし、彼女が気付くまでどれくらいの期間がかかるかを見るつもりです。そういえば、アルゴニアンの被験者がいなくて残念ですが、奴隷商人が秋には健康な試験体を約束してくれました。彼らの代謝作用をエルフや人間と比べてみたいものです。私の理論では、中位の連続した雷の呪文の波は、シロディール女性やあの巨人のように、アルゴニアンにとって少なくとも数時間が致命的なラインであると感じています」赤のインクで、「秋まで待たなければならないのは残念です」 ユリス(手紙を読み上げる): 赤のインクで、「このアルゴニアンをどうぞ。結果を教えてください」これは署名されています。「ケマ・ワーヴィム」 クラヴィデス: ああ、神キナレスよ、これは死霊術ではない。これは破壊だ。ケマ・ワーヴィムとケナ・テルヴァンニ・ホルダルフ・ジールは死の実験を行なっていたのではなく、魔法による拷問の限界を調べていたのだ。 ユリス: この手紙はケナ・テルヴァンニ・ホルダルフ・ジールに宛てられていません。宛先は、セデゥーラ・アイアチラ・ジールです。彼の妻でしょうか? クラヴィデス: アイアチラ。その名前こそが巨人殺しに関連して聞いたジール家のテルヴァンニだ。侍女をここから連れ出さなければ。彼女は治癒師に行かなければならん。 クラヴィデスがアナーラを起こす。混乱している様子である。 アナーラ: 何が起きたのですか? どちらさまですか? クラヴィデス: 心配はいらない、すべて大丈夫だ。あなたを治癒師へ連れて行く。 ユリス: 上着は必要ですか、アイアチラ? アナーラ: いいえ、ありがとう。寒くはないです── アナーラ/アイアチラは止まり、捕まったことに気付く。クラヴィデスとユリスは剣の鞘を払う。 クラヴィデス: 閣下、指に黒のインクが着いています。 ユリス: 扉で私を見たときに、あなたの友人であるワーヴィムが送ってきたアルゴニアンだと思った。だからあなたは、「今は駄目! どこかへ行って!」と言ったのですね。 アナーラ/アイアチラ: あなたはアナーラよりも観察力がありますね。彼女は、私が毒の呪文を3倍にして、私が観測した感じでは非常に苦しみながら息絶えるときでさえ、何が起きているのかが完全に分かっていませんでした。 ユリス: 私には最初に何をかけるつもりでしたか、雷、それとも炎? アナーラ/アイアチラ: 雷。炎は予測しづらい。 彼女が話している最中、松明の炎が消される。舞台は完全な暗闇。 争う音がして、剣が音をたてる。突然、稲妻の閃光が走り、沈黙に包まれる。暗闇の中からアナーラ/アイアチラが話す。 アナーラ/アイアチラ: 非常に興味深い。 幕が下りるなか、さらにいくつかの雷の閃光が走る。 完 物語(戯曲) 茶1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/206.html
アジル・トラジジャゼリ 著者不明 この本は、くだらない本である。しかし、よく言われることだが、カジートらしさを感じさせるすべてのものと同じように、“gzalzi vaberzarita maaszi”、すなわち、「くだらないものが不可欠となった」のである。私が言うべきことのほとんどはこれまで文字にされてこなかったものである。よしんば文字にされていたとしても、誰も読めなかっただろう。帝都の民は後世のためにすべてを書き残しておくべきだと感じているが、エルスウェーアで生まれるカジートの子猫はみずからの歴史を知っている。母親のお乳といっしょに飲み込むのだ。 だが、ごく最近になって、貪欲なレヤウィーン伯爵の手から祖国を奪い返さんとするわれらの闘争が、われらの立場に同情的な人々を引きつけるようになってきた。その中には帝都の民もいて、われらの運動に加わりたいと切に願っているものの、どうやらわれらの流儀がわかっていないらしい。もちろん、われらの敵もわれらのことをわかっていないが、それはわれらの武器としてしまっておきたいところだ。しかしながら、カジートでないわれらの友人は、われらがどういう存在で、どうしてこうなって、どんなことをしているのか知っておくべきだろう。 カジートの心は内省するように設計されていない。われらは単純にやりたいことをやるし、世界がどうなろうと知ったこっちゃない。われらが哲学を言葉で伝えたり理論立てて説明したりするのはなじみのないことであり、この本を読んだところでわれらのことがわかるようになるとは保証できない。“Q zi no vano thzina ualizz.”、すなわち「矛盾を述べるとき、私は真実を語っている」という単純な真理をしっかりと理解していただきたい。 われらは、レンリジュラ・クリンである。「傭兵のニヤケ顔」、「土地ナシ小僧の笑顔」、「微笑むクズ」、どれもこれも妥当な翻訳であろう。軽蔑的な表現だが、面白いのでそのまま取り入れた。 われらは心では怒るが、顔では怒らない。エルスウェーアのために戦うが、われらの土地の象徴である“たてがみ”と手を組むことはない。正義を信じるが掟には従わない。 “Q zi no vano thzina ualizz.” これは掟ではない。タ・アグラには「掟」という言葉がないのだ。われらの“thjizzrini”すなわち、「浅はかな考え」とでも呼んでいただきたい。 その一 “Vaba Do Shurh do” すなわち、「勇ましいことはいいことだ」 われらはタムリエルの帝都そのものを敵にまわして無謀な戦いを挑んでいる。われらの大義は何よりも気高い「祖国防衛」である。しくじれば、われらは過去も未来も裏切ることになる。われらの死者は“Ri sallidad”、たいそう誤用が多いその言葉の意味をできるだけ正確に翻訳すると、“殉教者”である。われらは犠牲を尊び、笑顔の下では死者を深く悼んでいる。 われらの勇敢さは、われらの名にも含まれる「クリン」という笑顔に凝縮される。といっても、ヴァレンウッドのおつむの弱そうなサル顔のイムガのように、いつもにやにやしながら歩いているというわけではない。単純に、敵に楽しませていただいているのである。われらは公明正大な戦いなど退屈の極地だと考える。最後に勝つことがわかっているからこそ、われらは自信たっぷりに笑う。それから、われらの笑顔が敵の感情を逆なですることも知っている。 その二 “Vaba Maaszi Lhajiito” すなわち、「逃げることも必要」 われらはタムリエルの帝都そのものを敵にまわして無謀な戦いを挑んでいる。名誉とは乱心である。もちろん、われわれは帝都軍との戦いで勇気ある死を遂げたレンリヤラクリンを愛していたが、こうしたリ・サリダッドはみんな使いこなせなかった脱出路を持っていて、「くそ」とつぶやいて死んでいったと自信を持って言うことができる。 偉大なるセンシェ・ラートがサイミシル・ステップにやってくると、狩もできなければ眠りにもつけないことに気づくだろう。ちびのアルフィクが背中でぴょんぴょん飛び跳ね、咬みついてきて、センシェ・ラートがその立派な体でアルフィクと対峙しようと振り向いたとたんにすっ飛んで逃げてしまうからだ。しまいには、なんとしてもアルフィクを捕まえてやると息巻きながらも、センシェ・ラートのほうから去っていくのである。アルフィクはわれらの遠類で、レヤウィーンの巨大虎との対決では彼らの戦術を採択させていただいた。 撤退は汚辱だと考えるたくましい軍隊の一員になって決然と行進することに心底あこがれているなら、レンリジとは手を組まないほうがいい。われらは川辺のアシの草むらにすべり込み、避けられない殺りくを眺めながら、そうした自殺行為のような浅はかさを大笑いするだろうから。 その三 “Fusozay Var Var” すなわち、「人生を楽しむ」 人生は短い。近頃愛し合っていないという読者は、どうかこの本を置いて、早急にやっちゃっていただきたい。浮気娘でもやんちゃ坊主でもとっつかまえるといい。一人と言わず何人でも、あなたの賢明なる下腹部が望むようにやればいい。それから、いかなる状況においても、もったいつけたりしないように。軍隊とわれらの戦いは後回しにしたっていい。 よろしい。楽しんできたかな? われらレンリジュラ・クリンはともに生き、ともに戦う。レヤウィーンや帝都がすぐに、少なくともわれらが生きているうちに、折れるつもりはないことも知っている。与えられた時間においては、われらはもっとも近しい仲間がむっつりと、ぼんやりと、げっそりと、かっちりと、そしてバージンのまま生きていくのを見たくはない。そういうものが見たければ、帝都のブレイドにでも加わっていただろう。 われらのわいせつな冗談やべろんべろんに酔っ払った夜やムーンシュガーを、どうか嫌悪しないでいただきたい。これらはレヤウィーンがわれらに与えない喜び。だからこそ、われらは陽気さをこれっぽっちもないがしろにしない。 その四 “Fusozay Var Dar” すなわち、「迷わず殺せ」 人生は短い。ことのほか短い。レンリジュラ・クリンを欺いたことのあるものなら身に染みてわかっていようが。 われらは卑怯に戦う。敵と対峙すれば打算し、相手の剣が大きすぎるとみたらとんずらする。が、敵が背を向けていたら、私的見解では、ぶっ倒しておきたいところだ。それからそいつの首に飛びかかってへし折る。ぽきんという音がまた楽しい。もちろん、そうするもしないもあなたの勝手だし、こだわりのスタイルだってあるだろう。 その五 “Ahzirr Durrarriss” すなわち、「なんでも民に与えよ」 われらの目的を忘れないでほしい。われらは家族のために戦っている。太古より先祖の土地であった豊穣で肥沃なマカピ湖やマラピ川の沿岸地域から追いやられたカジートのために。われらの戦いはやつらの悲劇。やつらに思い知らせてやらねばなるまい。われらが戦っているのはやつらではないということを、ゆめゆめ忘れさせないように。 「たてがみ」も皇帝も伯爵も演説をぶちあげ、法を定め、公人として暮らしながら、避けられない革命を食い止めようと民にみずからの見解や哲学を説いて聞かせる。われらレンリジュラ・クリンのような法のしがらみのない組織では、行動をもって意見とせねばなるまい。激しく戦い、もうろくした敵どもをあざ笑っていればそれでいいというわけではない。その意味するところは、民と対話して味方に引き入れることである。われらは武力ではなく政治力で戦う。民が蜂起すれば敵はすごすごと引き下がるだろう。すなわち、われらの勝利である。 民になんでも分け与えるがいい。ゴールド、ムーンシュガー、それから強力な武器も。どこに隠れていようとも、彼らの心はわれらとともにあることだろう。 その六 “Ahzirr Traajijazeri” すなわち、「われらはまさしく力で奪う」 われらの目的を忘れないでほしい。われらは泥棒で悪党、密売人で破壊人なのだ。農場を奪えないなら、燃やしつくすまで。われらの祖先が愛した輝ける古代の砦から帝都兵が動こうとしなければ、砦をぶち壊すまで。レヤウィーン伯爵の背任から土地を救うたったひとつの方法が人の住めない土地にしてしまうことだったら、そうするまで。 われらはわれらの暮らしと故郷を取り戻したい。ちょうど二十年前のような時代を。が、それが現実的でないなら、もっと単純かつ実利的な目標に切り替えるまで。復讐するのだ。笑顔をひとつ添えて。 民族・風習・言語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/141.html
黒い矢 第2巻 ゴージック・グィネ 著 私が女公爵の邸宅で従事した最後の晩餐会には、驚いたことに、モリヴァ村長とヒオメイストが他の客と共に招かれていたのである。召使いたちは噂話に夢中である。村長の訪問は以前にもあったが、非常に稀である。しかし、ヒオメイストの出席は考えられなかった。女公爵のこのような行為は、何を意味しているのだろうか? 他の会食に比べればいささか冷たい雰囲気が漂っていたが、晩餐会そのものは滞りなく首尾よく進んでいた。ヒオメイストも女公爵も、口数は共に非常に少ない。皇帝ペラギウス四世に新しく生まれた息子と後継者であるユリエルについて、一同に議論を投げかけようとした村長であったが、その試みは人々の興味を余り惹かず失敗に終わってしまった。すると、ヴィルア卿婦人── 年上ではあったが、妹の女公爵よりも快活である── が、エルデン・ルートでの犯罪とスキャンダルとについて水を向けた。 「ここ数年、情勢が悪くなっているから、エルデン・ルートから離れるよう姉に言ったんです」と言って女公爵は村長と目を合わせた。「つい最近もモリヴァ丘に彼女の邸宅を建てられないか、そのことを話し合ったばかりです。でも、ご存知の通り、あそこはスペースが足りないでしょう? でも運よく、良いところを見つけました。ここから数日ばかり西の方の川岸の広い野原で、本当に理想的なところです」 「それは非常に結構ですね」と、言って村長は微笑むと、ヴィルア卿夫人の方に顔を向けた。「建設はいつから始められますかな?」 「その場所にあなたの村を移した、その日からね」とウォダ女公爵は言葉を返した。 村長は女公爵が冗談を言っているのだと思って彼女を見た。しかし冗談ではなかった。 「川岸に村を移したら、どれほど商益が上がるか考えてみてください」とヴィルア卿夫人は陽気に言った。「それに、ヒオメイストの学生たちも、その素晴らしい学校に通い易くなるでしょう? みんなのためになるんですよ。そうすれば、妹の土地を勝手に踏み荒らす者も少なくなり、心安らかになれるでしょうね」 「今はあなたの土地に入り込むようなものたちはいませんよ」とヒオメイストは顔をしかめた。「このジャングルはあなたのものではありませんし、いずれそうなることもありませんでしょう。村人たちがここを出て行くよう説得されるのは構いませんが、私の学校が移ることはありませんよ」 それから、晩餐会が和やかな調子に戻ることは決してなかった。ヒオメイストと村長が中座を申し出て、一同も客間に酒を求めて出て行き、私が呼ばれることもなかった。その夜は、壁越しに笑い声が漏れてくることはなかった。 翌日、その夜も夕食会が予定されていたが、いつものように私はモリヴァへと足を運ぼうとしていた。しかし、跳ね橋に差し掛かる前に、衛兵が私を連れ戻して言った。「何処に行くんだ、ゴージック? まさか村じゃないだろうな?」 「どうして行けないの?」 彼は遠くに立ち昇る煙を指さした。「今朝早くに火事が起きて、今も燃えてる。どうやら出火元はヒオメイスト学校だ。山賊の仲間の仕業だろうな」 「ステンダールよ!」と私は叫んだ。「学生は大丈夫ですか?」 「分からないが、生き残ってたら奇跡だろうな。未明の出来事で、ほとんどみんな寝入ってただろうからね。師匠の遺体、いや、『師匠だったもの』は見つかったそうだよ。それに、君の友達の女の子、プロリッサの遺体もね」 その日は失意のうちに過ごした。そんなことはありえないとは思ったが、私はあの2人の老貴族、ヴィルア卿夫人とウォダ女公爵が村と学校にいらだちを覚え、それらを灰にしてしまおうと企んだのではないかと直感した。夕食の席では、たいしたニュースでもないかのように、モリヴァでの火災についてほんの少し触れるだけであった。しかし、私は初めて女公爵が笑うのを見たのである。その笑顔を、私は死ぬまで決して忘れないであろう。 翌朝、私は村に行って、生き残った人々の手伝いが何かできないか見に行ってみることに決めた。召使いの間を抜けて豪華なロビーに差し掛かったところで、前の方から何人かの声が聞こえてきた。そこには衛兵とほとんどの召使いが集まっていて、ホールの中央に掛けられている女公爵の肖像画を指さしていた。 肖像画の女公爵のまさに心臓の位置を、1本の黒檀でできた矢が刺し貫いていたのである。 私はすぐに気づいた。それはミッソン・エイキンのものだ。彼が見せてくれた矢筒の中にあった1本、彼いわく、ダゴス・ウルで鍛え上げられた代物である。私はまず最初に安心した。親切に自分を邸宅まで乗せて来てくれたダンマーは、生き残っていたのだ。そして次に、玄関に集まった一同と同じことを考えた。どうやって、衛兵、門、堀、そして、分厚い鉄の正門を突破できたのだろうか? 私のやや後から来た女公爵は、明らかに激怒していたが、育ちの良さからか、その薄い眉を上げてみせただけであった。早急に召使い全員に、始終、邸宅の敷地を警備するよう新たな仕事を命令した。私たちは普段の仕事に加えて、厳重な警備を敷くことになった。 翌朝、この厳戒態勢にも関わらず、新たな黒い矢がまたも女公爵の肖像画を刺し貫いた。 こんなことが一週間も続いた。ロビーには少なくとも一人の人間を置くようにしていたが、どういうわけか、ほんの一瞬警備のものが目を離した隙に、いつも、矢が絵のところで発見されるのであった。 警備する者たちの間で、寝ずの番の間に聞いた物音や不審な出来事を知らせるよう、一連の複雑な合図が考案された。最初は、日中の不審な出来事の報告は城主が、夜間の出来事の報告は衛兵隊長が受け取るように取り決められた。しかし、女公爵は夜眠れないということなので、結局彼女に直接伝えることになった。 邸宅の雰囲気は、陰気から悪夢へと変わっていった。1匹の蛇が這い、堀を渡るのが目に入ったら、ウォダ女公爵は一目散に東の翼面に駆けて行き、丹念に調べ上げた。一陣の突風が芝生に生える木々の1本の葉をざわめかせただけでも、やはり「緊急事態」扱いだった。不運だったのは、偶然1人で邸宅の前を歩いていた旅行者たちである。彼らに何の罪も無いのは明白であるにも関わらず、まるで戦争に遭遇したように暴力が振るわれた。確かにある意味、戦争であった。 そして毎朝、彼女をあざけるかのごとく、正面玄関には矢が突き刺さっていた。 ある早朝の数時間、肖像画を警備する嫌な仕事に私も駆り出された。もう矢が見つからなければ良いのにと思いながら、その肖像画の正反対に置かれた椅子に腰掛けて、私は一瞬でも目を離さないようにした。ところで、読者には1つのものを眺め続けるという経験はあるだろうか? それは奇妙な効果を生むものであった。ほかの全ての感覚が消え失せてしまうのだ。そのため、部屋に駆け込んできた女公爵が私と肖像画の間に立ちはだかった時には、驚いたものであった。 「門からの道のむかいの木の陰で何かが動いているのよ!」と彼女はわめいて、私を脇に追いやり、おたおたと金色の鍵をかけ始めた。 彼女の体は乱心と興奮に震えて、鍵は上手くかからない。手を貸そうと彼女に近づいた時には、すでに女公爵の目は鍵穴を見つめてひざまづいていた。鍵は入ってくれたようである。 まさに、その瞬間、矢が到達した。しかし、決して肖像画まで届かなかった。 それから数年後、私がモロウウィンドで貴族を楽しませている頃、ミッソン・エイキンに再会した。私が邸宅の召使いから、名の知れた吟遊詩人に出世していたことに、彼は感心していた。彼自身はアシュランドに帰り、彼の師匠であるヒオメイストのように引退して、教師兼狩人という簡素な生活を送っていた。 ヴィルア卿夫人は街を移さないことを決め、モリヴァの村は再建されたそうだと、彼に話した。それを聞いて彼は喜んだが、私が本当に知りたかったことを尋ねるきっかけは見つけられなかった。自分の考えは馬鹿げていると思ったからだ。つまり、あの夏の毎朝、門に対して道を挟んだところに生えていたプロリサスの木の陰から、門と芝生と堀と鍵穴を通り抜け、ウォダ公爵の肖像画へと矢を放ち、最後には、彼女自身にも矢を放ったということだ。そんあことは明らかに不可能である。私は聞かないことにした。 その日の内に別れたが、彼はさよならと手を振って、こう言った。「ゴージック、元気にやってそうでなによりだ。あの時は椅子を動かしてくれてありがとう」 茶2 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/24.html
黒魔術裁判 魔術師ギルドの大賢者 ハンニバル・トレイヴン 著 歴史的背景: 黒魔術とも称される死霊術の歴史は有史以前にまでさかのぼり、各地の初期の法のほぼ全てにおいて厳禁とされ、背くことは死罪とされていた。だがその裏で、個々の妖術の使い手がその研究を続けていったのである。 我らが魔術師ギルドの先駆的組織であるアルテウム島のサイジック会も死霊術の使用を禁じいていた。理由はその危険性に加え、彼らが神聖および邪悪な祖先の霊たちの存在を信じていたため、死霊術が異端とされたからであった。ここでもまた、この戒律を無視した師弟の話が伝えられている。ヴァヌス・ガレリオンがアルテウム島を離れたとき、サイジックたちとは様々な点で意見が分かれてはいたものの、彼ら同様に魔術師ギルド内でも死霊術を教えることは認めなかったのである。 ヴァヌス・ガレリオンの時代から千百年近くが過ぎ、何人もの大賢者たちがギルドの長を務めてきた。死霊術に関する問いかけも尋ねられ続け、ギルド内でそれを禁じる戒律が取り払われることこそなかったものの、長年に渡り死霊術に対する見方も様々な揺らぎをみせている。大賢者によっては、死霊術の存在そのものを無視する者もいれば、積極的に排斥しようとする者、そして大賢者自身が実は死霊術師だったのではないかと噂される者もいたのである。 魔術師ギルドの新たな大賢者として、私はこの件に関する方針を決定する義務がある。黒魔術に関しては個人的な意見もあるが、帝国内で最も博識である二名のウィザード、コリントのヴォス・カルリス師とオルシニウムのウリセタ・グラ=コッグ師に相談をし、二日の間議論を行った。 以下は議論の要点、すなわち主張および反論をまとめたものであり、死霊術に関する魔術師ギルドの方針の決定へと繋がったものである。 議論内容: グラ=コッグ師による主張:死霊術は十分に理解されていない。無視したとしても無くなるわけではない。魔法術および魔法学の研究を旨とする知的組織として、我々には真実に対して果たすべき責任がある。学問的探求の中で自らを検閲対象としてしまうことは、中立性および客観性という我々の信条に反することになる。 カルリス師による反論:魔術師ギルドは知識への探求と、安全確保および倫理的水準との釣り合いをとる必要がある。学徒による研究を慎重かつ純粋なる目的をもって行わせることは、決して「検閲」には該当しない。規則や境界線を設定することは、学徒の自由を奪うものではなく、それどころか必要不可欠な行いなのである。 カルリス師による主張:死霊術は全ての文明化地域において忌み嫌われている。公的に容認してしまえば、魔術師ギルドは一般大衆に恐怖と反感を抱かせてしまうことになる。ヴァヌス・ガレリオンは魔術師ギルドに、サイジック会がもつような精鋭主義的かつ分離主義的な要素をもたせまじとした。世論を無視する場合、その結果も受け入れなければならない。死霊術に対する反感の強いモロウウィンド全土を含め、多くの地でギルドの拠点を失うことになる可能性が高い。 グラ=コッグ師による反論:確かに大衆の懸念は意識すべきであるが、それにより我々の学問が定義されてしまうべきではない。そんなことがあってはならない。無学な者の多くにとって、「死霊術師」とは邪悪なウィザードの意味に過ぎないのである。偏見や、未熟な理解ゆえに我々の為すことに制限を設けるなど、乱心の沙汰である。大衆の意見のみを理由にこの題目に背を向けることは、客観的研究の意義に対する冒涜に他ならない。 グラ=コッグ師による主張:死霊術師たちはタムリエルにとって災厄である。単独で活動しているか、スロードたちや虫の王マニマルコと共同で動いているかにかかわらず、彼らはゾンビやスケルトンその他の不死のものを含め、多岐に渡るおぞましさの原因となっている。この脅威と効果的に戦うには死霊術師のもつ力を理解する必要があるが、黒魔術の研究を制限していてはそれが不可能になってしまう。 カルリス師による反論:誰も黒魔術が驚異であることに異を唱えてはいない。それどころか、魔術師ギルドが死霊術を学徒に教える科目とすることに私が反対する理由の根幹になっている。敵の能力を知ることは可能であり、望ましいが、相手の領域を覗きすぎることで自らも染まってしまってはならない。邪悪な法を研究することで我々自身が悪と化してしまうようでは、本末転倒である。 カルリス師による主張:死霊術は大きな危険性を内包しており、真似事程度で手を出せるものではない。最も単純な呪文でさえ血を必要とし、術者の魂は直ちに汚され始める。これは憶測ではなく、明白な事実である。数多くの事例において、術者本人および世界に恐怖と悲劇しかもたらしていない魔法学の研究を魔術師ギルドが教え、結果として推奨することは、甚だ無責任ではなかろうか。 グラ=コッグ師による反論:経験の乏しい者にとっては、魔術はその系統を問わず危険なものである。不慣れな者が唱えた場合、初歩的な破壊術の火球呪文であっても、他人のみならず、術者自身にも大きな被害をもたらしうる。神秘などはその本質ゆえに、術者に論理から背を向けさせ、一時的な乱心とも呼べる状態に甘んじることを要するが、これは霊魂の汚染に類似しているともいえる。 グラ=コッグ師による主張:魔術師ギルドは既にある種の死霊術を許可している。承知のように、魔術の系統とはヴァヌス・ガレリオンが研究を系統化するために考案した人為的な区分けに過ぎない。長年に渡りその区分けは何度も変えられてきているが、達人なら誰もが知っているように、それぞれの系統は互いに繋がっているのである。亡霊を護衛として召喚する召喚術の学徒は、その際に死霊術の辺縁に触れている。付呪術の学徒が捕らえた霊魂を利用する際、黒魔術に手を染めたと言えなくもない。前述のように、神秘も、死霊術に通じる要素をもつ。学徒たちが死霊術を学ぶことを禁じるのは、歴史上より正統とされてきたギルドの各系統に属する一般的な技能の習得を妨げることになる。 カルリス師による反論:確かに各系統間には繋がりがあるが、各系統の標準的な呪文は長年の使用によってその安全性が確認されている。適切な指導下にある神秘の学徒が、その経験により永続的な害を被ることがないことはわかっている。問題は、どこまでの極端を許容するか、すなわち探求によりどこまでが許されるかということなのである。死霊術はその本質ゆえ、使用者が無謀にも闇の奥へと足を踏み入れることを必要としており、これは実質その破滅を不可避とする行為なのである。魔術師ギルドにはそのようなものは必要無いと考える。 結論: 死霊術を研究することの危険性は、その有用性を上回っている。魔術師ギルドはその構成員の研究を制限したいとは考えていないものの、邪悪なる術者との戦いのための限定的な研究を除き、黒魔術の研究を禁ずるものとする。このような例外は、類い稀な高い技量と慎重さを示した個人にのみ認められるものであり、その場合も私自身による許可および監督を必須条件とする。 後記: ウリセタ・グラ=コッグ師が死霊術の擁護者のみならず、彼女自らが死霊術師であるという噂が真実であったことを、遺憾ながら認めなければならない。この事実の判明を受け、ランプ騎士団がオルシニウムのギルドハウスで彼女の捕縛を試みたものの、逃走を許してしまった。我々はオルシニウム担当の後任者が適任であることを確信している。 同意こそしなかったものの、私はグラ=コッグ師の論理的推論には一目置き、そのため本著にそれらを含めた。また、それらを除外する理由も無かった。そのことを踏まえてもなお、「真実」に対する師の興味が黒魔術への隷属の婉曲に過ぎなかったことは不本意なことであった。 今回の不運な一件は、我ら魔術師ギルドの構成員が死霊術の誘惑を警戒し、組織内にその使用者が入り込んでいる危険性を認識することの重要性を浮き彫りにしているといえるだろう。 茶2 魔法学・薬学 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/128.html
シヴァリング・アイルズ薬物総覧 シンダ・アマティウス 著 シヴァリング・アイルズには多種多様なものがある。 湿っているもの、乾いているもの。植物からとれたもの、動物からとれたもの、石、空、木、人間、メルからとれたもの。 とても多くの美しいものが薬に使用される。そこにあるそれらすべてが引き抜かれて活用されるのを待っている。「私をすりつぶして! エキスを取って何か新しいもの、何か素敵なものに変えて!」と、それらが私に訴える。 私はとても多くのタムリエルの驚くべきものの発見に人生を捧げてきて、今では未来に待ち受けるものの発見に人生を捧げている。危険で手招きしているマッドゴッドの領域には、興奮で震えてしまうほど多くの新しいものがある。今後、調べたり、調合したり、探し出す時に忘れていないように、私は立ち止まって発見したことを覚え書きに残す。 見習いはシャンブルズの骨髄とスケイロンのヒレを混ぜると、摂取した者の体力を奪い、心臓に打撃を与える猛毒ができることを知るだろう。多くの刀を湿った肉と乾いた骨に浸して馴染ませたが、発見が私を満足させるのだ。 炎の柄と肉体の精霊のエキスは素人でも調合できて、その薬を飲むと再び健康になり、痛みに対抗することができる。熟練者であれば歩行する巨大モンスターに対して自分自身を危険にさらすよりは、叫ぶ口を使えると気づくだろう。 マジカが必要なら(マジカ不要なわけがないが)、エリトラのイコルは素人によってウィザリング・ムーンと調合されるか、熟練者によって茨のフックと調合されるだろう。シヴァリング・アイルズにいる探険家であれば必ずこれらを見つけようと勇んで出かけるはずである。 ハンガーの舌── それ自体生体構造の脅威── は食べると解毒効果があり、ウィザリング・ムーンと調合すると病気を治すことができる。(私にはハンガーに命をかけなければいけないほどのひどい病気があるのか疑問が残るが……) 熟練した錬金術師が腐敗の鱗とワームズ・ヘッドのかさのかさを調合すると敵を麻痺させることができるのを知って私はとても喜んだ。これはアイルズにいるあまり思いやりのない奴らから材料を手に入れるのにはとても役に立つだろう。 SI 赤1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/49.html
アレッシア・オッタスの シェイディンハル案内書 健やかな心身にアーケイの祝福を! 私の名はアレッシア・オッタス。皆様にシェイディンハルの全てについてお伝えしましょう。 シェイディンハルを訪れる人はまず、緑の大草原やコーボロ川の土手に経つ優雅な柳の木、よく手入れされた庭園、花でいっぱいの垣根、そういったものに目を奪われることでしょう。手入れの行き届いた家々、その石壁にほどこされた細工や、ガラス、金属、木材を組み合わせた美しい装飾は、シェイディンハルという町の裕福さを物語っているかのようです。 しかし、その裏に何が隠されていると思いますか? 犯罪、醜聞、それに数々の不道徳です! シェイディンハルは、3つの区域に分かれています。北の丘の上にはシェイディンハル城の中庭と城壁があります。その下に、東門から西門へ、東西に道が走っています。コーボロ川はこの道からだいたい南北に流れており、町の南半分を2つの区域に分けています。聖堂は東側の区域、そして市場は西側の区域にあります。市場側の区域には全ての商店、宿屋、ギルドが集まっています。聖堂区域には聖堂と住宅街があります。コーボロ川には北と南の2箇所に橋がかかっていて、南側の橋の途中には小さな公園になっている中州があります。 シェイディンハルは東ニベンに位置していますが、その文化は、ここ半世紀の間にモロウウィンドから移民して来た、ダークエルフたちによって作られたものです。彼ら移民の多くは、モロウウィンドの窮屈な社会と腐敗した宗教支配を逃れて来た人々です。シロディールにおいては、ゼニタールの守護の下、かの地よりも自由で活発な経済活動の機会を見出すことができたのです。 シェイディンハルの伯爵もまた、そうした移民の一人です。アンデル・インダリス伯爵はモロウウィンドのフラール家の出身ですが、より多くの成功の機会を求めてこの地にやってきました。 伯爵はシロディールの貴族社会において異例の速さで上位に登りつめましたが、その理由については謎が多く、シロディールの伝統ある名家の人々は伯爵を身のほど知らずな成り上がり者と陰口を叩いています。さらに、ラザーサ・インダリス夫人がシェイディンハル城の階段で何者かに撲殺され遺体で発見された事件は人々の好奇の目を惹きつけ、伯爵の浪費癖、不倫、激情と事件の関係について黒い噂が絶えません。 シェイディンハルのアーケイ聖堂に訪れる人はほとんどいません。そもそも、模範を示すべき伯爵が一度も聖堂に足を踏み入れたことがないのです。ただし、彼の場合は九大神のもとに現れて審判を受けることを恐れているのかもしれませんが! シェイディンハルの大主教、司祭、治癒師は感じのよい人々で、神に忠実な神学者ですが、この地の聖職者で最も尊敬されているのはアーケイの生ける聖人・エランディルでしょう。彼は魔術師ギルドや帝都戦技大学で不正に行われている黒魔術に反対する運動を精力的に行っています。 シェイディンハルの2つの宿屋はどちらも一見良さそうに見えますが、一方の宿屋「ニューランド」を経営しているダークエルフは下品な異教徒の無法者で、もう一方の宿屋「シェイディンハル・ブリッジ」の経営者は高潔で敬虔な帝都民の夫人です。行き届いたサービスと安くておいしい食事、殺人鬼や泥棒の心配をせずに安心して眠れる安全で清潔な寝室、そういったものを求めるならどちらの宿屋に泊まるべきかはもうおわかりですね。 シェイディンハルの本屋を所有し経営しているのはアルゴニアンのマッハ=ナーです。私は彼より無礼で不愉快な人物にお目にかかったことがありません。しかし、本屋の品揃えは素晴らしく値段も手ごろです。 シェイディンハルの住宅は、最も貧しいものの家でさえみな清潔で見栄えがよく、庭なども手入れが行き届いています。家の中に入って家具や内装を眺めたいなら、住民に言えば喜んで迎え入れてくれるでしょう。(もちろん、早朝や夜中に訪ねたりしなければ、です!)ただし、だまされてはいけません! いくらその住民がどこから見ても立派な人物に見えたとしても、彼らの多くはあなたを招きいれたとたん豹変し、下品で粗野な態度で獣のように襲いかかってきます。彼らと人間らしい会話を交わすよりも、殺されて地下室に投げ込まれる可能性のほうがずっと高いのです。そのような粗暴で卑しい人々の多くがオークだというのは別に驚くべきことではありません。 それでも、シェイディンハルで一番の著名人、画家のライス・ライサンダスの家だけは訪ねる価値があります。彼自身はアトリエにこもって制作に没頭していることが多く、面会は難しいのですが、かわりに優しく親切な夫人があなたを招き入れ、壁にかかった彼の絵を見せてくれるでしょう。 九大神に従い、栄光へと向かいましょう! 地理・旅行 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/260.html
盗賊の台頭 アニス・ノルー 著 「おもしろいぞ」と、インディクは言いながら、黒い服の行列が人里はなれた城の尖塔に向かって進むのを注視した。彼らの荷物は全て見慣れない派手な紋章で飾られ、月の光に照らされて光っていた。「どういうやつらだと思う?」 「お金持ちなのは間違いないわね」相棒のハリアがにやりと笑った。「新しくできた、金儲けのための帝都の秘密結社かも」 「町へ行って、あの城のことを調べてこいよ」と、インディクが言った。「俺はあのよそ者たちがどういうやつらなのか調べてみる。明日の夜、この丘で落ち合おう」 ハリアは、錠前破りと情報集めの名人だった。次の日の日暮れ前に、彼女は丘へ戻ってきた。インディクが戻ってきたのはその1時間後だった。 「あの城はアルド・オリラっていうんですって」と彼女は言った。「第二紀に、貴族の一団が伝染病から自分たちを隔離するために建てたみたい。伝染病患者たちが入ってきて病気をばらまかないように、その貴族たちは当時としてはすごく高度な防護設備を作ったの。もちろん、今ではほとんどが壊れてしまってるけど、まだ残ってる錠前や罠についてもちゃんと調べてきたわ。そっちは何かわかった?」 「そっちほど上手くいかなかったよ」インディクは顔をしかめた。「あの一団について、誰も何も知らなかった。あいつらがここにいることすら誰も気付いてない。あきらめかけていたとき、ある修道院の修道士が、聖エドニュア団という秘密結社に仕えていると言ったんだ。そのパラティオという修道士と少し話したんだが、どうやら今夜、その秘密結社の祝祭の宴会が開かれるらしい」 「それで、あいつらは金持ちなの?」ハリアが急かすようにたずねた。 「そいつが言うには、びっくりするほど金持ちらしい。でも、やつらが城にいるのは今夜だけだ」 「ちょうどピックを持ってるわ」ハリアが片目をつぶった。「私たち、ついてるわよ」 彼女は、地面に城の図面を描いた。大広間と厨房は正門の近くにあり、馬小屋や厳重な武器庫は裏手だ。この2人の盗賊たちは、今まで失敗したことのない手口を持っていた。インディクがそこにいる人間の気をそらしている間に、ハリアが別のところから忍び込んで盗めるだけ盗むというやり方だ。インディクは、ハリアが壁をよじ登っていくのを待ってから、門を叩いた。今回は、吟遊詩人のふりでもしようか、それとも道に迷った冒険家のほうがいいかな。彼は、細かい嘘話を即興ででっちあげるのが楽しくて一番好きだった。 ハリアは、門のところでインディクと出てきた女が話している声を聞いたが、何を話しているかまでは聞こえなかった。だが、どうやら彼はうまくやっているようだった。すぐに、扉の閉まる音が聞こえた。あの男の、そうやって人を丸め込む魅力は、ハリアも認めるところだった。 武器庫の錠前や罠のうち、実際に使われているのは数個しかなかった。きっと、長い年月の中で鍵が失われてしまったのだろう。それらとは別に、団員の宝物を守るために彼らの手下がつけたと思われる新しい錠前がいくつかあった。新しい鍵の構造は入り組んでおり、掛け金やボルトをいじって開けるには時間がかかった。それが終わると、古いが未だに有効な錠前や罠をなんとかせねばならなかった。しかし、ハリアの胸は期待に高鳴っていた。これだけ厳重に守られているということは、中身は相当価値のあるものなのだろう。 ようやく扉が静かに開いたとき、ハリアの欲深い夢は正夢になった。山のような黄金の宝物、秘められた魔法の力できらきら輝く古代の遺物、最上級の武器、こぶし大の宝石、ずらりと並んだ不思議な薬の数々、貴重な文書や巻物で一杯の棚。彼女はこの光景に目を奪われてしまい、背後から近づいてくる男に気付かなかった。 「トーザデ夫人、こんなところにいたのですか」男が言い、彼女は飛び上がった。 それは、黒地に金銀の糸で複雑な模様が織られたフード付きのローブを着た修道士だった。一瞬、彼女は何も答えられなかった。インディクはこういった状況が大好きだったが、彼女はといえばただ首を縦にふり、怪しく見えないように祈ることしかできなかった。 「ごめんなさい、ちょっと、迷ってしまって」と、彼女はどもりながら言った。 「そうみたいですね」男は笑った。「ここは武器庫ですよ。食堂へご案内しましょう。あなたが来られないのではないかと、皆で心配していたんですよ。宴会はもうすぐ終わってしまいます」 ハリアは修道士の男について中庭を通り抜け、食堂の二重扉の前まで来た。男のものと同じローブが食堂の外の壁にかかっており、男はそれをハリアにわたして意味ありげにほほえんだ。彼女はそれを着ると、男の真似をしてフードを深くかぶり、食堂に入った。 たいまつの火が大きなテーブルを囲んだ人々を照らしていた。全員が同じ黒のローブで全身を隠しており、見たところ晩餐は終わった後のようだった。所狭しと並べられた大小の皿やグラスには食べ物の汁や小さなかけらが残っているだけだった。ハリアは少しだけ、ごちそうを食べ逃してしまった気の毒なトーザデ夫人のことを思った。 テーブルの真ん中に、一つだけ変わったものがあった。それは巨大な黄金の砂時計で、中の砂はあと数分で落ちきってしまうように見えた。 人々はみな同じ格好だったが、寝ている者もいれば周りと楽しく話している者もおり、一人はリュートを弾いていた。インディクのリュートだと、彼女は気付いた。そして、引いている男の指にはインディクの指輪があった。ハリアは顔を隠してくれるフードに感謝した。インディクはおそらく彼女に気付かず、彼女が失敗したことにも気付かないだろう。 「トーザデが来ましたよ」男がそこにいる人々に向かって言うと、皆がいっせいに彼女を見て拍手喝采した。 社交的な数人は立ち上がって彼女の手にキスをし、自己紹介をした。 「リドルアです」 「スウレセです」 「クリレです」 奇妙な名前が次々に出てきた。 「ノワポです」 「スリィテスです」 「オティラパです」 彼女は我慢できず笑い出してしまった。「わかった。逆さまに読むのね。本当の名前は、アルドリン、セレウス、レリク、ポワノ、スティリス、それにパラティオね」 「そのとおりです」と、男が言った。「おかけになりませんか?」 「そうだわ」空いていた椅子に座り、この仮面舞踏会のような雰囲気に慣れてきたハリアはくすくす笑った。「あの砂時計の砂が全部落ちたら、逆さま読みの名前も元に戻るんじゃない?」 「そのとおりですよ、トーザデさん」と、隣にいた女性が言った。「これは、この団のちょっとしたお楽しみなんです。この城はこの会にぴったりの会場ですわ。それが元々、伝染病にかかって彼らの言葉で言う歩く死体になった人々を締め出すために厳重に建てられた城だなんて、皮肉で素晴らしいわ」 ハリアは、たいまつの臭いで一瞬めまいを起こし、隣で寝ていた男にぶつかってしまった。彼は、顔面からがっくりとテーブルに倒れこんだ。 「ウソチゴ・ノメジハときたら──」横にいた男が支え起こしてやりながら言った。「我々を楽しませすぎたな」 ハリアはよろめきながら立ち上がり、頼りない足取りで門のほうへ向かって歩き出した。 「どこへ行くのかな、トーザデ?」と、馬鹿にしたような声で、一人が言った。 「トーザデじゃないわ」と、彼女は言って、インディクの腕をつかんだ。「ごめんね、失敗したの。逃げるわよ」 その男がフードをとるのと、砂時計の最後の砂が落ちるのは同時だった。その男はインディクではなかった。人間ですらなかった。飢えてぎらぎら光る目と横に広がった口、イノシシのような牙を持つ、身の毛もよだつような何かだった。 ハリアはよろけて、ウソチゴ・ノメジハと呼ばれた男のほうへ倒れこんだ。彼のフードがめくれ、インディクの青白く血の気のない顔が現れた。彼女が叫び声をあげると同時に、まわりの人々がとびかかってきた。 最期の瞬間、ハリアはやっと「トーザデ」が何の逆さ読みかに気付いた。 小説・物語 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/180.html
ヴァイサーンの滅亡 第1章 ヴァイサーンの砦は、いかにして第1世代から第2世代へと経過し支配を確立したのか。 ディメンシャの泥から彼の砦を造るよう命じたヴァイサーン伯爵は、家臣として忠誠を誓う者は誰でも彼のもとへ集めた。近隣の狂信者の部族は、彼の土地や部隊を守るための家臣として団結した。このようにして、伯爵はアイルズでの日々を過ごしていった。彼と妻のマウェアン女伯爵の間には、ヴァイサーンの最初の息子と娘であるサーランとニーラが生まれた。 サーランの父と母は、サーランに政治力があれば必ずやシェオゴラスから権力を奪い、シヴァリング・アイルズに繁栄をもたらすことができると信じていた。一方ヴァイサーン伯爵は、自身と彼の相続人が疑う余地もないアイルズの支配者であると考え、シェオゴラスに挨拶することさえ拒んだ。 もちろんこのことで、マッドゴッドを無駄に面白がらせ、彼は死の運命のために嫌悪と辛苦しか与えられないであろうアルゴニアンの助産婦の娘シーン・イン・グレイドとサーランの結婚を許した。 シーン・イン・グレイドはアイルズの誰もが求めるほどの素晴らしい女伯爵で、彼女を迎え入れた家と伯爵に誇りと名誉をもたらしたいだけの者もいた。ディメンシャの中心で生活していたが、長い間、彼女の心は無垢なままであった。残念なことだが、シェオゴラス閣下の祝福なしにはアイルズに長くは住めない。シーン・イン・グレイドは伯爵である夫の不貞により、最後には瀬戸際まで追い込まれた。 サーランは異常なほどの縁故主義で、花嫁を含め血縁のない者は誰も信用しなかった。シーン・イン・グレイドは伯爵の息子(20歳でアイルズから姿を消した)を産んでいたが、サーランの被害妄想が進行するにつれて2人でベッドを共にする頻度は減っていったようである。彼は腕の中にいる妹ニーラが後継者であるセスリアンとの近親相姦で生まれたことを知った。個人的には、セスリアンの支配がヴァイサーンの滅亡につながったと記憶している。 第2章 セスリアン伯爵の誕生は、いかにしてヴァイサーンの輝かしく血みどろの儚い時代の到来を告げるのか。 狂暴で短気なセスリアンはいるはずもない敵を探し求めた。彼がヴァイサーンに君臨して間もない頃、砦から見える人間、メル、獣といったあらゆる種族が、1人残らず虐殺されるのを見た。 彼の短い支配の間、ディメンシャ南東の海岸線の多くは旅をするのに安全ではなく、ヴァイサーンの地には立ち入った者の死体が散乱していて、土地の目印として木の柵が立てられていた。ヴァイサーンのセスリアン伯爵は、残酷な気性だけでなく頭の回転が遅く病弱であることも知られていた。 事実、セスリアンは長さが不釣合いに見える足と耳障りな音でつらそうな呼吸をして生まれてきた。若い頃、家庭教師はその頭の鈍い子を教えるのに四苦八苦していた。周りにいた助産婦と看護婦はアイルズの到る所から手に入れた香油や吸入薬を使ってあらゆる病気に気を付けていたが、彼が成人した時に皆追い払ってしまい、それがもとでしばしば暴力的になった。 おそらく父親の影響だろうが、セスリアンはますます内向的になっていき、選ばれた数人の取り巻きだけが彼の近くにいることを許されていた。彼は地方を襲撃するために家臣の狂信者を組織する時にだけ人前に姿を見せた。 相談役がとにかくしつこく必死に忠告したために、セスリアンは略奪に妻を連れて行き、ヴァイサーンの壮大な防衛線を守ることを躊躇した。だんだん病気がひどくなる伯爵はマニアの荒野にある異端者の地区から、婚約者として活気にあふれた農民の女を選んだ。事実、ジディーン女伯爵はこれ以上ないほど彼とは正反対だった。ヴィトラエン伯爵と彼らの祖先との契約に長く忠実だった家臣の狂信者はこの異端者に激怒し、緊張状態が高まってセスリアンの健康も衰えたので、彼の若い息子のシリオンがヴァイサーンの王位に就いた。 第3章 対立は、いかにしてヴァイサーンを悩ませ、平和的なシリオン伯爵を圧倒したのか。 若きシリオン伯爵は、ヴァイサーン砦の外壁で行われた急な即位式までは人前に姿を見せることがほとんどなかった。式典の間中彼の父親の弱った手で殴られた傷にじっと耐えていたと言う者もいる。シリオンは統治するのに十分な年頃で、その穏やかで控えめな物腰は家臣一族の間の緊張関係を緩めるのには十分だったかもしれないが、彼の母親のジディーン女伯爵は夫が長い間放置してきたたくさんの職務を負わせようとした。 誰に聞いても、ジディーンは女伯爵として適していて、皆に愛されていた── しかし家臣の狂信者の指導者は彼女がマニックから受け継いだものに対する、漠然としたこれらの個人的で無礼な感情を抑えることができなかった。彼女の非常に巧妙な外交策にもかかわらず、彼女に対する敵意は根深く、年々高まっていった。家臣達が長い間誓約に忠実であり続けたのは賞賛すべきことだろう。 シリオンが支配できる年齢に達した時、おどおどした男の子であった伯爵は潔く王位に就くため熱心に取り組んだが、世界に対する彼の恐怖は、あまりにも大きく通り過ぎる鳥の影にさえ驚いてしまうほどだった。彼は公衆の面前での演説はほとんどできなかった。彼が家臣達── まだ彼女の母親の受け継いだものに激怒している── を静めようとしていた時、恐怖に耐えられず、玉座の間から逃げる直前、自身を汚物で汚してしまったと言う者もいる。 運命の進行と同様に、狂信者の家臣達は耐え切れず、戦士達はヴァイサーンを包囲した。伯爵の個人的な護衛では攻撃を退けるには不十分で、包囲は丸1日続いた。その戦いの日以来、生ける魂がヴァイサーンから離れることはなくなった。一部の神話では狂信者の家臣達とヴァイサーンの貧弱な守り手達の魂の間では絶えず争いがあり、狂信者の裏切りとシリオンの臆病による呪いで永久にその最後の瞬間を繰り返していると言われている。 SI 歴史・伝記 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/115.html
虫の王マニマルコ ホリクレス著 聖なるアルテウム島、バラ色の光が宙へ注ぐ 尖塔や花々を抜けて優しい風がそよぐ 緑に覆われたゆるやかな傾斜の下の崖で泡立つ波 春の潮は午後には境界を元へと戻す 神秘的な霧に囲まれたこの土地がサイジック教団の本拠地 彼らは国王の相談役、注意深く、賢く、公平であった 強国レマンが倒れてから200と30年が過ぎようとしている 2人の優秀な生徒がサイジック内で勉学に励んでいた 1人は明るく温和で、もう1人は暗く冷たい心の持ち主であった 怒りの後者、マニマルコはくるくる回って死のダンスを踊っていた 彼は魂を骨と蟲の中へ、占い師のやり方であった 魂を罠にはめ、奴隷とし、魔法の呪文を唱えた 前者ガレリオン、月日がたつにつれ勇敢で光り輝く魔法を得た ガレリオンは灰色のセポラの塔の下でマニマルコと対峙した 「お前の邪悪な神秘力ではその力をうまく使いこなせまい 魂の世界へ恐怖を連れて行けば、お前の修行もここまでだ マニマルコは嘲り笑い、平和な生活などまっぴらだとうそぶいた 彼は自分の芸術性、死と腐敗の絵へと回帰した 聖なるアルテウム島に次第に恐怖が伝わる 恐ろしい真実が明らかとなったとき、罰はなんと弱いものだったか 残虐なマニマルコは賢者の島から追い出され 美しい夜明けの本土に送られ、さらなる死と魂を得る 「狼が戻った、羊の群れに獣が送り込まれた」 ガレリオンは師に言った、「タムリエルに恐怖が放たれた」 「彼の名を口にするではない」灰色の隠蔽の衣の賢者は言った 師匠がそのように無情になるのはこれが初めてではない 島の宮殿は世俗から遠く離れたところにある ガレリオンはあらためて新しい組織の設立を考えた 新しい結社が魔術師ギルドに真実の魔法を持ってくる しかし、残された時間はあとわずか、アルテウム島の空色の湾 しかし、昔から伝わるヴァヌス・ガレリオンの詩歌がある いかにして彼がサイジックの鎖を投げ捨て、大陸に輝く魔法をもたらしたか 長い年月、ガレリオンはマニマルコの手を感じた タムリエルの砂漠、森林、街、山、海を越えて 暗闇から手が伸び、死に至らしめる病気のように大きく広がる 闇の死霊術師たちによって昔日の呪われた芸術品が集められる 乱心にみちたウィザードと魔女たちが、マニマルコに道具を運ぶ 彼の罪の洞窟に血痕の残る薬草とオイルを運ぶ 甘いアカヴィリの毒薬と聖人の灰、人間の皮膚を束にしたもの キノコ、根っこ、ほかにもいろいろな物で錬金術の棚はあふれかえった 巣を作るクモのように、マニマルコはこれらの力を吸い取った 蟲の王、マニマルコ この世で初めての不死の体 崩壊に次ぐ崩壊、彼の芯まで腐敗に満ちる 彼はマニマルコを名乗り続けたが、彼の体と心は いつしか人間らしさを失い、彼は生ける屍と化した 静脈に流れる血液は酸性の毒薬のシチューと化す 彼の力と精力は収集品が増えるにつれ勢いを増す これら芸術品は強大なものとなり、昔日より長く呪われしものとなる ガレリオンはギルドを去ったという、そこを「沼地」と吐き捨てて しかし、虚実は勢いのよい流れのように、時の河を汚していくものだ ガレリオンはマニマルコの湧き上がる圧倒的な力に注意する 彼の魔術師とランプの騎士に向かって「私が息を引き取る時は 蟲の暴政に直面しているに違いない、そして殺されるが死にはしない」 彼は手下を北の呪われし大陸へと導き、山を越えた 戦いを生き抜いた者たちは、こんなものは見たことがないと言った マジカで武装し、剣と斧に魔法をかける ガレリオンは繰り返し叫んだ「蟲の王、芸術品を明け渡せ、 私に力を分けてくれ そうすれば死にふさわしく生きられる」 渇いた笑いが聞こえ「お前が先に死ぬのだ」マニマルコが言った 魔術師の武器が不吉な音をたてて壊れた 炎と凍結の波のようなものが訪れ、山が震えた 閃光がアーチ状に前へ広がったように見え、竜のため息のような乾いた音 木の葉のように魔闘士が雨落ちる空へと飛んでいく 死霊術師が声をかけると死体の山が戦いのため地中から飛び出した 神聖な灯りの洪水を伴い、何もないところへと追い詰められる エネルギーの大混乱を起こしながら、地の小さな滝が河に流れ込む 空に光る雷鳴のごとく、獅子の唸りのごとく 鋭い剃刀が刺しゅうの施されたレースを引きちぎるかのように ガレリオンの一太刀が山の麓を震わせた 死体の群れは当然のごとく落ちてくる 彼らの悲痛の叫びを聞くと 深淵から蟲の王の蘇りを叫んでいた ニルンは魔術師と死霊術師の戦火にうなりをあげる 彼の目は暗い炎のごとく光り、歯のない胃を大きく開ける 息を吐くごとに暗闇に嘔吐物が舞う 悪臭ただよう空気に死の冷たい感触が伝わる 山の上の上空に陰惨な力が弱まる その時は陰の力の弱まりを感じた 死の芸術は彼の骸骨のように腐敗した鉤爪から失われていく 千もの善と悪とが滅びるのを歴史が確認した おお、ヴァヌス・ガレリオン 彼は道を標してくれた マニマルコは一度は死んだかのように思われた 邪悪で憎むべき死霊術師はバラバラになった 魔術師ギルドに戻り、勝者が呪われた道具を癒す 生きる死人、虫の王マニマルコの道具 子供たちよ、寝室を横切る影の音を聞きなさい 村がぐっすり眠ってしまうと、通りに大群が押し寄せる 月の光は夜に浮かぶ雲を不吉にも照らす 墓場の者たちが休み、永遠の眠りにつけるように 忍び寄る足音によく耳をそばだてなさいい そして蟲の王に決して触れられないように祈るのです 茶2 詩歌 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/161.html
魔術師ギルドの沿革 アークメイジのサラルス 著 第二紀の初頭においては、魔術師、妖術師および各種の神秘師たちが研究と公的福祉のために才能と糧を結集させるという発想は革新的なものであり、目的および構造の面で今日の魔術師ギルドに近いといえた当時の唯一の組織は、アルテウム島のサイジック会であった。当時、魔術とは個人、もしくは小数の同好の士で学ぶべきものとされており、魔術師は隠者とまではいかないものの、大抵は非常に孤高の存在だったのである。 サイジック会はサマーセット島の支配者たちに助言役として仕え、部外者には理解できない複雑な様式によってその構成員を選抜していた。組織としての存在意義や目的が公示されることもなく、彼らを非難する者たちはサイジック会の力の根源をあらゆる邪悪な要素に結びつけようとした。サイジック会の宗教は祖先崇拝といえるものであったが、この類の教義は第二紀には徐々に時代遅れと見なされつつあった。 アルテウム島のサイジックの一人であり、かの有名なアイアチェシスの弟子であったヴァヌス・ガレリオンがサマーセット島中から魔術師を集め始めた時、誰もが彼の行いに反感を抱いたという。彼はファーストホールドの街中を拠点としていたが、これが魔術の実験は住民の少ない地域でのみ行うべきとする(ある程度根拠のある)考え方に反していたのである。さらに衝撃的であったのは、ガレリオンが費用さえ払えば一般市民の誰もが魔術品、秘薬、そして呪文でさえも利用できるようにすると申し出たことであった。これは魔術が貴族階級や知識階級の特権ではなくなることを意味していたのである。 ガレリオンはアイアチェシスおよびファーストホールドの王、ライリス十二世の前に召喚され、作りつつあった組織の意図を問いただされた。ガレリオンがライリス王とアイアチェシスに対して行った演説が後世のために記録されていなかったのは悲劇に違いないが、ガレリオンが今や全土に広がったこの組織を創設するためにどのような虚構や説得を用いたのかについて歴史家たちが空論を戦わせる題材にはなっているようだ。いずれにせよ、ガレリオンの組織は認可されたのである。 ギルド創設から間も無くして、保安面の疑念が生じた。アルテウム島は侵略者から自らを守るのに武力を必要としていなかった。サイジック会が何者かの上陸を阻止すべきと判断した場合、島およびその全住民がこの世から姿を消してしまうだけのことだったのである。これに対し、新たにできた魔術師ギルドは番兵を雇わざるを得なかった。ガレリオンはすぐに、タムリエルの貴族階級が何千年もの間思い知ってきた、金だけでは忠誠は買えないという事実を知らされることになる。次の年にはランプ騎士団が結成された。 ドングリから木が育つかのように、サマーセット島の各地に魔術師ギルドの支部ができ、やがてタムリエル本土にも進出していった。迷信ゆえか妥当な懸念ゆえか、魔術師ギルドを領土内でご法度とした領主の記録も数多くあるが、その次の代もしくは次の次の代くらいまでには魔術師ギルドに自由を認めてやることの利点が浸透した。魔術師ギルドはタムリエルにおいて強大な一派となり、味方としてはどこか無関心ながら、敵にまわすと手強い存在になっていたのである。魔術師ギルドが実際に地元の政争に関わるのは稀であったものの、一部の例外的な案件においては魔術師ギルドの関与が最終的な顛末を決定づけることになっている。 ヴァヌス・ガレリオンによる創設以来、組織としての魔術師ギルドは大賢者六名からなる長老会によって統制されている。各ギルド本部はギルドマスターにより運営され、インキュナブラのマスターと武芸のマスターがこれを補佐する。インキュナブラのマスターの下には学術のマスターと占術のマスターの二名がついており、同様に武芸のマスターにも修練僧のマスターと、ランプ騎士団の支部長であるパラティナスの二名がついている。 魔術師ギルドの一員でなくとも、この複雑に構築された階級制度が時に絵空事でしかなくなることは想像がつくであろう。タムリエルを離れて他の地に旅する際にヴァヌス・ガレリオン自身が言っていたのは、魔術師ギルドが奇妙に入り組んだ政治的な内輪もめの泥沼へと停滞してしまった、ということである。 歴史・伝記 茶1 魔術師ギルド関連