約 3,151,920 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/26.html
種族別の系統発生論および生物学 第7版 帝都大学治癒師会 著 治癒師会では、遠い昔に生体標本を使った分析をおこない、その結果、全ての人間やエルフの「人種」は互いに交配可能であり、繁殖可能な子を産むことができるという結論に達した。通常、子は母親の人種的特徴を受け継ぐが、部分的に父親の特徴が現れることもある。カジートやアルゴニアンと、人間やエルフが交配可能かどうかはわかっていない。これら異種間交配やデイドラとの交配で子が生まれたという報告は時代にかかわらず数多く存在するが、信用に足る記録は残されていない。カジートと人間、およびエルフとの違いは骨格や皮膚にとどまらず(カジートは「毛皮」で全身が覆われている)、代謝系や消化器系にまで及ぶ。アルゴニアンは、ドゥルーのような半陸半水生の人間型生物とされているが、アルゴニアンの生物学的分類がドゥルーなのか、人間なのか、エルフなのか、それとも先人の考えたようにブラック・マーシュの木に住むトカゲに近いのかは不明である。 オークの生殖については不明な点が多い。また、ゴブリン、トロール、ハーピー、ドゥルー、ツァエシ、イムガ、デイドラなどについても同様である。強姦や魔術での幻惑によるこれらの「人種」間の性交の例があるのは事実である。しかし、それらによる妊娠は報告されていない。また、これらの生物と文明を持つ人型生物との間の交配の可能性については検証されていない。これは文化的な差異が大きすぎるためであると思われる。つまり、オークによって妊娠させられたボズマーやブレトンは恥を恐れて事実を隠すし、人間の子を妊娠したオークもまた彼女らの社会から追放されると考えられるのである。我々は治癒師であり、残念ながら科学的検証のためにこれらの人種を強制的に交配させるということはできない。しかし、スラスやスロードは幼生時は両性具有で、陸上を動き回れるほどに成長して初めて雌雄どちらかの生殖器を持つようになるという点については確証がある。このため、これらの種と人間やエルフとの交配は理論上不可能であると言える。 これらの「人種」の分類についても疑問は残る(人種というのは不適切ではあるがわかりやすい用語なのでここでも誤解を恐れずに用いる)。人種の特徴そのものが「地の骨」を操作する魔術的な実験の過程で作り出された共通の特徴や相違点などによるものなのか、世代を経ての段階的な変化によるものなのかという問題にはまだ結論が出ていないのである。 生物学 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/40.html
帝都調査委員会による報告書 イオニスの惨事 委員長 ポトライド卿 Ⅰ: 準備 皇帝のアカヴィル遠征計画は270年、タムリエル・アカヴィル間海域の島々における小王国の征服から始まった。282年にエスロニーのブラック港が陥落し、皇帝ユリエル五世は最終目標であるアカヴィル征服の準備を始めた。皇帝はまず、ブラック港の補修と強化を命じた。遠征中の指令基地および補給地として利用するためである。同時に皇帝は、アカヴィルへの最後の海峡を渡るための数多くの巨大な輸送船の建設を命令した。必要となる輸送量に、海軍の船だけでは不充分であったためである。ここからわかる通り、皇帝のアカヴィル遠征計画はエスロニー征服が完全に終わる以前からの周到な準備の上で行われており、決して一部で揶揄されているような思いつきの類ではなかった。 284年にエスロニーの王子バショモンが皇帝の支配下に下り、皇帝の全精力はアカヴィル遠征計画に注がれることになった。285年と286年には、アカヴィル周辺の海路および沿岸の地形を偵察するために海軍が派遣された。また、多くの帝都の知識人が、魔術師もそうでないものも集められ、情報集積にあたった。そうして集められた情報に基づき、アカヴィル南西のツァエシという王国が最初の攻撃目標として選ばれた。 同じ頃、皇帝は遠征軍を組織しはじめていた。この遠征のために新しく極東艦隊が編成され、その威容は海軍の他の艦を小さく見せるほどであった。極東艦隊はタムリエルの歴史上最も強力な艦隊といわれている。第5、7、10、14部隊が最初の上陸戦に投入され、上陸地点に拠点が確保された後、第9、17部隊が増援部隊として加わる作戦であった。この上陸作戦は軍全体の規模に比べて小規模に思えるかもしれないが、大規模な部隊を長期間維持できるほどの補給経路が確保されていなかったことを思い起こさなければならない。加えて、皇帝および遠征軍の司令官たちは、侵攻作戦に対する反撃は少なくとも初期の段階ではそれほど激しいものではないと踏んでいた。さらに決定的だったのは、一度に4部隊が限界という海軍の輸送力であった。 我々が調査した限り、皇帝による遠征の準備に欠陥はなかったといえる。侵攻前に得られた情報(現在から見れば不充分であるが、当時知り得た限りの情報については申し分ない成果であった)に基づくなら、当委員会は当時の皇帝が軽率でも無謀でもなかったと確信する。遠征軍の戦力が小規模すぎたとする批判が一部にあるが、もし仮により多くの部隊を輸送し維持できる方法が確保されていたとして(帝都全体の経済を停止しなければ不可能だったろうが)より多くの部隊の投入は惨事の規模をむしろ増大したと思われる。まして、あの強奪者キャラモンの教訓も記憶に新しかった。皇帝はタムリエルの外に戦力を集中することは帝都の防衛力を弱めると考えたのである。(そして、我々はこの考えを支持する)むしろ、当委員会では遠征軍が大規模すぎたと考えている。皇帝が2部隊を新しく編成したこと(加えて、第5部隊を再編成したこと)を考え合わせたとしても、この惨事で遠征軍を失ったことは帝都軍全体の戦力を諸国に対して弱めることにつながり、現在の状況を招いたといえるであろう。このことから考えると、アカヴィル侵攻に必要な戦力に対し皇帝の全体的な戦力が不足していたといえる。もし帝都を守るべき戦力を投入して遠征部隊の規模を大きくしていたら、帝都は皇帝の遠征中に崩壊していたかも知れない。 Ⅱ: アカヴィル侵攻 288年雨の御手月23日、遠征軍は晴天のブラック港を出発し、6週間の航海の後アカヴィルに到着した。上陸地点は大河の河口に位置するツァエシの小さな入り江で、タムリエルに近いこと、また豊かな河口の地形が内陸への進軍と食料の現地調達に好都合だったことから選ばれた。最初の頃は全てが順調であった。ツァエシの住民は遠征軍の姿が見えるとすぐに町を捨てて逃げたので、遠征軍は難なく町を占領しその地をセプティミアと名づけた。アカヴィルにおける最初の占領地であった。工兵が町を要塞化し、港を極東艦隊の到着に備えて改修している間に、皇帝は2部隊とともに内陸へ進軍した。周りの土地は豊かで水脈に恵まれているようであった。次の町の住民も抵抗することなく逃げ、無傷で町を占領することができた。この町はイオニスと名づけられた。セプティミアより広く周辺の支配に都合のよい位置にあったため、皇帝はイオニスに司令部を置いた。 遠征軍は、いまだに反撃らしい反撃にあっていなかったが、敵の騎馬兵の姿がしばしば見かけられ、大規模な偵察隊以外は軍の本体から離れることができなかった。遠征軍に唯一欠けていたのが騎馬隊であった。輸送艦の限られた容量のせいであったが、さしあたっては魔闘士たちが魔術による偵察によってその不利を補っていた。 皇帝はツァエシの王、もしくは誰であれその地を治めるものと接触するために何人もの公使を送ったが、その誰もが戻ってこなかった。今から考えれば、この試みが貴重な時間を無駄にしたといえる。イオニスで足止めを喰らっていたこの時間に、そして敵がまだ侵攻に動揺しているうちに、さらに進軍すべきであった。しかし、当時皇帝はツァエシの王が遠征軍の戦力に恐れをなして降伏し、交渉によって戦闘で被害を出すことなく占領できるであろうと予想していた。 同じ頃、4部隊がセプティミア・イオニス間の道路の敷設川沿いの番兵所の建設、2つの町の要塞化などにあたっていた。これらの作業は後に彼らを救うことになる。騎馬隊がいなかったため、偵察は困難で、2つの町の連絡は敵の奇襲に常におびやかされた。この時点で、奇襲に対する有効な策は無かった。 当初の計画では上陸後の拠点が確保でき次第、増援部隊が投入されるはずであった。しかし、ここで致命的な判断がその到着を遅らせることになった。艦隊を使い、増援部隊の前に入植者をアカヴィルへ輸送するという決定である。原住民が町を捨てて逃げたため、彼らに占領地での物資の生産をさせることができなくなっていたという状況から、入植者を呼び寄せて食料などを現地調達することで物資輸送経路の不充分さを補うべきだというのが皇帝と元老院の一致した意見であった。加えて、物資輸送の経路上にあるイェスリーで反乱が勃発しており、物資の問題をさらに深刻にしていた。元老院は第9、17部隊をこの反乱の鎮圧にあたらせ、遠征軍の物資輸送経路を正常化するべきであると確信していた。 入植者の帝都市民は、暖火月中旬にセプティミアに到着し始め、彼らは(兵士たちがすでに始めていた仕事を引き継ぐ形で)春に収穫する作物の耕作にとりかかった。このとき、相当数の騎馬も同時に到着し、そのおかげで新しい植民地に対する奇襲の数は格段に減った。また、ついにツァエシからの特使を名乗る者がイオニスに到着して和平交渉が始まり、遠征軍は穏やかなものになるはずの冬に備えていた。 このとき、元老院は皇帝に、艦隊とともにタムリエルに戻って、冬の間帝都内の差し迫った課題に取り組むべきであると進言したが、皇帝はアカヴィルに残ることを選んだ。これは幸運な選択であった。なぜなら、艦隊の大部分が、皇帝の乗る艦隊も含めて、初冬の嵐によって帰還途中に破壊されたのである。288年から289年にかけての冬は異常な大嵐が長期にわたって吹き荒れ、計画されていたアカヴィルへの物資輸送も不可能になった。このことは魔闘士から皇帝に報告され、遠征軍は現在持っている物資で冬を越すことになった。 Ⅲ: 遠征軍の壊滅 アカヴィルの冬そのものも、予想されていたより厳しいものであった。物資輸送の問題に加えて1,000人以上の入植者がいたため、遠征軍の食料は不足していた。さらに、ツァエシ側からの奇襲は激しさを取り戻しており、2つの町の外で食料を調達する兵士がしばしば襲われた。セプティムとイオニスの間にある要塞のうちいくつかが吹雪に乗じて奪われ、他の要塞も維持が困難になり放棄された。結果として2つの町の間の通信は魔術によってのみ可能となり、このことは部隊の魔闘士たちに大きな負担をかけた。 薄明の月5日、ツァエシ王の側近と名乗る集団がイオニスに到着し、和平の提案を伝えに来たと主張した。しかし、その夜その卑怯な公使たちは町の門番を殺し、町の外で待機していた彼らの軍隊を呼び入れた。彼らの狙いは明らかに皇帝の暗殺であったが、王宮を守っていた第10部隊が勇猛で警戒を怠らなかったので何とか食い止められた。言うまでもなく、この事件によって皇帝とツァエシ王の和平交渉は決裂した。 やがて春が来たが、問題はさらに増えた。期待されていた春の雨の変わりに東からの熱風が吹き始め、それは強さを変えながら夏まで続いた。作物は不作となり、南中の月になると河は完全に干上がった。前年には小船でイオニスの上流まで行けるほどの水量であったというのに、である。これらの悪天候がアカヴィル特有のものか、あるいはツァエシ側の魔術による操作によるものであったのかは定かではない。当委員会は前者の立場を取る。なぜならば、ツァエシがそのような強力な魔力を持っていることを示す材料は存在しないためである。ただし、これによって後者の可能性が完全に否定されるわけではない。 長引く悪天候のため、輸送艦隊はなかなかブラック港を出港できなかった。第二の種月初旬になってようやく出発したものの、再び嵐に襲われ、8週間後にやっとのことでセプティミアに到着したときには多くの艦が失われていた。アカヴィルの食糧事情は悪化の一途をたどっていたため、皇帝は魔闘士団の大部分を艦隊に同乗させ、夏の間続きそうな悪天候を彼らに操らせることにした。この頃になって、元老院は皇帝に遠征を中止し遠征軍とともにタムリエルに帰ることを提案した。しかし、皇帝は艦隊が今や4部隊を一度に運べる規模を持たないことを理由にこの提案を却下した。確かに、一部の部隊を次の艦隊が来るまでの間アカヴィルに残してゆくことは士気を低下させたであろうというのが当委員会の見解である。しかし、同時に、遠征部隊全体を失わずに済むならば、1部隊を犠牲にすることもやむを得なかったと考える。ともかく、この局面が後の惨事を防ぎうる最後の機会であったというのが当委員会の一致した意見である。結局、艦隊は補修と物資の補給のためにタムリエルへ送り返され、このことが遠征軍の運命を決定づけることとなった。 ここから先、アカヴィルで起こったことの詳細は明らかになっていない。大部分の魔闘士が艦隊に乗り込み支援にあたっていたので、遠征軍とタムリエルの間の通信は制限された。アカヴィルの情勢が悪化するにつれ、かの地に残った魔闘士は多くのことに限られた魔力を振り分けねばならなかったのである。それだけではなく、ツァエシもまた不可解な方法により魔闘士たちの魔力に影響を及ぼしていた。アカヴィルの魔闘士たちは魔力の異常な低下に悩まされ、元老院とアカヴィルの交信を受け持っていたシロディールの魔術学校はアカヴィルの魔闘士との通信が(訓練を積み、交信に慣れているはずの師匠と弟子の間ですら)困難であると訴えた。当委員会は、アカヴィルとの将来の戦争に備えるため、このツァエシの謎の魔力について魔術学校で研究する必要があると考える。 南中の月中旬、皇帝は町に限られた人数の守備隊を残して進軍を開始した。皇帝はツァエシがその戦力を北の山地の向こう側に集結しつつあるという情報を得ており、彼らの総戦力が揃う前にこれを攻撃し物資を奪う作戦であった。物資の欠乏が限界に達していたからだ。この急激な進軍はツァエシ側を動揺させた。遠征軍は山を越えてツァエシ軍の駐屯地に攻め入り彼らを打ち破った後、指揮官(貴族と思われる人物)を捕虜にした。しかし、まもなく皇帝は退却を余儀なくされたが、退却は困難を極めた。皇帝はイオニスに戻ったが、町はツァエシ軍に包囲され、セプティミアにいる守備隊もまた包囲されて合流は不可能であった。この時になると、数少ない魔闘士たちの主な仕事は、兵士の生命を支える水を作り出すことになっていた。魔術学校ではあまり教えない技術である。艦隊は魔闘士の支援もあって無事にブラック港へ帰還したが、289年の残りの間中エスロニーを吹き荒れた猛烈な嵐により、アカヴィルへ戻ることは不可能になった。 元老院と皇帝との最後の交信は霜天月初頭のことであった。星霜の月の頃になると、状況を重く見た元老院は危険を犯してでもアカヴィルへ戻るよう艦隊に命じた。相変わらずの大嵐にもかかわらず、艦隊はなんとかアカヴィルにたどり着いた。魔闘士との交信に成功し、彼らがまだイオニスで持ちこたえていることがわかると、皇帝側に希望が湧いてきた。遠征軍がイオニスを脱出してセプティミアへ戻り、艦隊と合流するための作戦が急いで練られた。これが、遠征軍との最後の直接的な交信であった。艦隊がセプティミアに到着した時、守備隊は強大なツァエシ軍の強襲を受けていた。艦隊の魔闘士たちは生存者が乗船し艦隊が退却できるまで敵をできる限り長い間食いとめなければならなかった。 セプティミアまでたどり着くことができた、数少ない遠征軍の生き残りに依れば、皇帝は二日前、夜に乗じ軍を率いてイオニスを出発し、敵陣を突破することに成功したが、その後セプティミアへの途中で圧倒的な軍勢に包囲されたという。皇帝と第10部隊の英雄的な最後の戦いによって、第14部隊の生存者がセプティミアへたどり着くことができたのであった。その夜、2人の第10部隊の生き残りがセプティミアに到着した。かれらは敵陣が勝利の祝いで混乱している中を運良くすり抜けたのであった。彼らは皇帝の死を確認したと証言した。皇帝は第10部隊の遮蔽壁を立て直しているときに敵の矢に射抜かれたのである。 Ⅳ: 結論 当委員会は、アカヴィル遠征の失敗にはいくつかの要因があり、残念ながらその全てが予測不可能であったと考える。 広範囲にわたる事前調査が行われたにもかかわらず、遠征軍の装備はアカヴィルの状況に対して不充分であった。予期しない悪天候は軍隊と海軍の能力を大きく損なった。もし遠征中に極東艦隊の大部分が失われていなければ、遠征軍は289年のうちに退却できたであろう。また、悪天候によって魔闘士の大部分が艦隊の支援にまわることになり、皇帝はその後の戦いで魔闘士の力を利用できなかった。そして、289年のイオニスを襲った干ばつは食料の現地調達を不可能にし、包囲された際の状況を悪化させた。 ツァエシ軍の戦力も、事前の情報を上回っていた。主要な戦いは皇帝と元老院の交信が途切れた後に起こったため、ツァエシ軍が遠征軍に対して投入した最終的な戦力の規模はまだわかっていない。しかし、遠征軍の4つの精鋭部隊が退却を余儀なくされ、数ヶ月間包囲されたことから見るに、ツァエシ軍は数の上で遠征軍を上回っていたようである。 前に述べたとおり、当委員会はアカヴィル遠征の計画そのものは批判していない。当時知りえた情報に基づけば、計画は妥当なものであった。成功の可能性がほとんど無い計画であったように見えるのは、我々が現在持っている情報を加味して考えているからに過ぎない。そして、当委員会はこの惨事から学ばねばならない教訓がいくつかあると考える。 まず一つは、ツァエシが強力な未知の力を操っているという可能性である。彼らがあれほど広範囲にわたって天候を操っていた可能性は限りなく小さいように思える(実際、3人の委員はこの点を報告書に入れることに反対した)が、この件は調査に値するというのが委員会全体としての見解である。及ぼしうる影響が甚大である以上、どんな小さな可能性も無視してはならないであろう。 次にツァエシが海軍と呼べるような海軍を持っていないらしいという発見である。遠征軍は海上で攻撃を受けたことがなく、極東艦隊が戦った相手は天候のみであった。実際、当初の計画では艦隊の一部がアカヴィルに残り沿岸の任務にあたるはずであったが、かの地では大型艦が陸に近づける地点は限られていた。セプティミアの北と南の沿岸に広がる無数の岩礁、砂州、小島などのためである。また、セプティミアおよびイオニスの周囲には材木にできる木が生えておらず、浅い沿岸の海域を航行できる小さい船を現地で造ることも不可能であった。将来のアカヴィル遠征においては、アカヴィルに対する海軍の優位(残念ながら遠征軍はこれを生かせなかった)を利用するため、何らかの方法で海軍による沿岸での任務を可能にしなければならないであろう。 三つ目に、将来、再度の侵攻に着手する前には、さらに長期にわたるアカヴィルに関する情報の集積が必要になるであろう。先の遠征に先立って4年間の広範囲にわたる調査が行われたが、これは不充分であったと言わざるをえない。天候は全く予想外であり、ツァエシ軍は情報よりもはるかに強力であり、和平交渉も完全な無駄であった。アカヴィルは我々の予想を裏切る異質な特徴を持つ土地であり、将来の侵攻計画はかの大陸の自然、政治、人民についての入念な事前研究なくしては成功しないであろう。 最後に、現在のあらゆる情報を考慮すると、現時点でのアカヴィル遠征は無謀であるというのが当委員会の一致した結論である。特に、現在の帝都の状況では、帝都軍の部隊はタムリエルにとどまるべきである。いつの日か、統一された平和な帝都は再びアカヴィルの地へ赴き、イオニスの惨劇と皇帝の死に対する報復を果たすであろう。しかし、その日がいつなのかはわからないが、少なくとも現在ではないのである。 歴史・伝記 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/241.html
評論・ザルクセスの神秘の書 第1巻 マンカー・キャモラン 著 デイゴン ようこそ、修練者よ。まずは安心してもらいたいのだが、マンカー・キャモランもかつては諸君たちと同じように眠り続ける浅はかで、デイドラの精力を宿していた。死ぬ定めの我々は皆、夢の保護膜、すなわち母親との共生のために用意された退避場所を離れて誕生し、実戦と親善に努め、新たな瞳を通して見ることによりやがて母親が背後にいてくれることを求めたり恐れたりしなくなり、ようやく家庭を離れる。そしてその時、我々は彼女を永遠に破壊し、神デイゴンの領域に入る。 読者諸君、本書はその領域への扉であり、諸君は破壊者ではあるが、それでもなお制約は甘んじて受け入れなければならない。立ち止まれるだけの賢明さを持つ者のみを神デイゴンは受け入れる。それ以外の者たちは、愚かにも走り出すことにより、オルビスに命を奪われるだろう。まずは歩け。注意を怠らず。諸君らが最初に首をはねるべき奴隷は、自らの焦りだ。 神デイゴンの言葉どおりに入れ。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。そしてその時、諸君は王族の一員となり、新たな破壊者となり、深遠の暁がそうであったように。既知の花と未知の花がその庭には咲き乱れるだろう。そうして諸君は自らが産声を上げた瞬間へと引き戻されるが、生まれ出てくる姿は以前とは違う。毒気を母とする主の優れた血族であるところの、ネオニンビオシスとなるのだから。 どこに住む者たちも我々のことを知っていて、我々が通り過ぎたとしても、身震いされること以外に何もうんざりすることは起きない。諸君らが我々のところに来たのは、戦争、研究、影、あるいはある種の蛇のような連携を通じてのことだろう。その経路はそれぞれ異なるとしても、褒美は常に同じだ。修練者よ、ようこそ。ここに辿り着いたということは、君には王族の価値があるということだ。懐中を探って、見てみるがいい! 最初の鍵が新たな暁の光に輝いているだろう。 夜が終われば昼が訪れるように、最初の洞察は皆一様に荒れ狂う海に落下するものであり、そこであらゆる信念が試されることになる。だが再び、安心してもらいたい。強奪者でさえ、艦隊を求めて浮上する以前にイリアックに沈んだのだ。恐れるのは一瞬だけでいい。揺らいだ信念は目的に水を差す。暁の庭で我々は完全なる真実を呼吸するだろう。 神デイゴンの言葉どおりに入れ。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。我々の教団の原理は神の強大な刃に基づいている。修練者、探求する騎士、牧師、そして主。我々の視線の余力によるものであるかのように、邪悪な者たちはその光で焼き尽くしてしまうがいい。その時、我々の知恵は正しいものとなるだろう。しかしながら忘れずにいて欲しいのだが、諸君の視界はまだ狭いものだし、招待状は受け取ったとしても場所がどこなのかまではまだ分かっていないのだ。 私自身の最初の召喚は、神デイゴンが錆と傷の砂漠にいる時に書いた本を通じて行われた。その書の名は『ザルクセスの神秘の書』、アルドメレタダ集合体、すべての謎の妻の祖先だ。どの言葉も刃を受け、秘密であり、地殻変動よりも薄く、赤い飲み物のように曇っている。私が口にしたことはどれも、君の新たな階級を立証するためのものだ、我が子よ。君の名は今やその重さへと切断された。 王宮であろうと粗末な小屋であろうと洞窟であろうと、とにかく諸君は霧のかかった概念の世界を投げ捨ててやって来た。ヌマンティア! 自由! 楽園を約束されたことを喜ぶがいい! 果てしなくそれは君の周りで形作られ、再び形成されるだろう。実存としての行為、開花してゼロサムとなるほんの1時間前の全系統、衣装のように花開き、神デイゴンの黄金の足もとで踊るために身にまとう神々しい衣服。1つめの腕で嵐、2つめで呪われた雨、3つめでアヌの火口、4つめでまさにパドームの瞳。第1の鍵を手にしているのだから君の心は高揚していて当然だ。その心は、偽りの空のワームロットの、至るところへと飛び込んでいくだろうから。 神の歌によって声がかれるまで私は大声で発しながらさまよった。神デイゴンの神秘について私は読み、あふれるような思いによって再び狂おしい感情に包まれた。身を隠すことができるようになるまで、私の言葉が買われることはなかった。これらの言葉はタムリエルの庶民のためのものではなかった。タムリエルの聖職者がその昔、暁の存在そのものを装ったことがあるからだ。私の過ちから学ぶが良い。謙虚さこそがマンカー・キャモラン独自の知恵であることを知って欲しい。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。 あの夜明けに身を捧げることにより私は慈悲の帯に包まれた。私の声が戻った時、それは違う言葉遣いになっていた。3夜を過ごした後、私は炎を語ることができるようになっていた。 赤い飲み物、刃を受け、私は庭への道を垣間見て、その隠れ場所について他の者たちに知らせるには、まず自分自身を探索の海に沈める必要があることを知った。私は艦隊を見つけたし、君こそが私にとって最も重要な希望であることを知って欲しい。ようこそ、修練者よ。マンカー・キャモランもかつては諸君らと同じように眠り続ける浅はかでプロトニミックな存在だったが、今は違う。今私はこうして座り、この宇宙にあるすべての世界にいる君たちと一緒に祝宴を始める。ヌマンティア! 自由! 神話・宗教 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/51.html
アレッシア・オッタスの ブラヴィル案内書 恵みあふれる母なるマーラ、我らを病からお守りください! 私の名はアレッシア・オッタス。ブラヴィルの全てについて皆様にお伝えしましょう。 ブラヴィルは例えるなら、下水口のふたにぞっとするほど汚らしいごみがたくさん溜まっているような光景を思い起こさせる町です。この町はシロディール中で最も貧しく、最も汚く、最も古ぼけて、最もみすぼらしく、最も多くの犯罪者、酔っぱらい、スクゥーマ中毒者が住みつき、最も多くの住人が獣じみた下等人種もしくは外国人です。あとはここにデイドラを崇拝する邪神教の集会でも加われば、間違いなく極悪非道、品性下劣な最悪の町と言えるでしょう。しかし、おぞましいことに、ブラヴィルでは実際にそれよりも邪悪で堕落した邪神崇拝が秘密裏に行われているという噂です。 この町は陰気で殺伐としており、常に重苦しい空気が漂っています。また、気候はじめじめとしており、大気は汚れています。というのも、町の下水が流れ込むラーシウス川の淀みからは悪臭が立ち上り、ニベン湾の低地には同じく悪臭を放つ沼地が広がっていて、疫病と害虫の温床になっているのです。 町の建築物の見苦しさと乱雑さは度を超しています。住宅、商店、ギルドの建物の柱はひび割れ、裂け、腐って軟らかく、緑のカビで覆われています。いっそのこと崩れ去ってしまえばその後に新しくましな家を建てることもできるでしょうが、彼らは今ある家の上にまた汚らしい家を建て、そのおかげで家々は三階、四階とまるでこやしの山のように見苦しくその高さを増してゆくのです。物乞いや泥棒は通りの頭上に張り出したバルコニーで無為に時間を潰し、ごみやガラクタを不運な通行人の頭の上に投げ捨てるのです。建物の屋根の上にぐらぐら揺れながら建っている信じられないほど不潔な小屋に、一家全員が暮らしていたりします。 ブラヴィルの住民は不愉快で不誠実です。彼らの生活は洞窟に住むゴブリンより少しましな程度で、今にも崩れそうな不潔な小屋に勝手に住みついています。町の住民は2つの階級に分けることができるでしょう。一方は密輸業者、スクゥーマ中毒者、強盗、泥棒、殺人者たちで、もう一方はこうした犯罪者がカモにする物乞いや愚鈍な役立たずたちです。 ブラヴィルの支配者は犯罪者のリーダーたちです。町の衛兵は、スクゥーマ密売人の親玉に雇われています。エルスウェーアとブラック・マーシュにほど近いこの町に多くのアルゴニアンとかカジートが住んでいるのは不思議なことではありませんが、オークの多さには驚かされます。しかし、これらの下等な人種たちは他の下等な人種と問題なく共存しています―― ちょうど泥棒や獣がお仲間を見つけては群れ集うのと同じように。 ブラヴィルの町は区画整理などされていませんが、不運にもこの町を歩くことになった人々のためにいくつかの目印をご紹介しましょう。城へは、崩れそうな橋で川を渡って東へ。聖堂は西です。商店やギルドは東側の壁と川を背にして並んでいます。聖堂と商店・ギルドの間の地域はブラヴィルのスラム街です。 城は、ブラヴィルで唯一の石造りの建物です。この城は庶民の住む掘っ立て小屋と同じぐらい汚く建てつけも悪いですが、それでもアンヴィルや帝都で一番貧しい物乞いの家と比べれば少しはましかもしれません。レギュラス・タレンティウス伯爵は家柄も良く、かつてはトーナメントでチャンピオンになり名声を得たこともありますが、領民に言わせれば今では単なる役立たずの酔っぱらいです。伯爵の息子のゲリアス・タレンティウスは典型的な親の七光りで、犯罪者とスクゥーマ中毒者が好き勝手に振る舞える社会の維持に大いに貢献しています。 聖堂の建物の石でできた部分は、崩れるがままでカビに覆われています。木材を組み合わせただけのぼろぼろの柵で囲まれた墓地は乱雑に荒れ果てています。女司教はマーラの敬虔な信奉者ですが、九大神見捨てられたこの町の犯罪と不正は彼女の手には負えないでしょう。女司祭は聖堂を訪れる数少ない人々に好かれていますが、この町の大多数の住民は生涯一度も聖堂に足を踏み入れることはないのです―― 盗みや物乞いに入る場合を除いては。 また、この町の宿屋の評判も最悪です。宿屋に入るには、まず玄関に寝そべった酔っぱらいと彼らが吐いたものを乗り越えなければならないでしょう。宿の中では、暗がりのごろつきや博徒やスリが、不注意な旅行者をあっという間にカモにしてしまいます。そのような宿に泊まろうとする物好きな旅行者は、眠っている間に殺されたとしても文句は言えません。 それに比べれば、ギルドはまだ清潔で酔っ払いも見当たらず、比較的平穏が保たれている場所といえます。もし必要に迫られてブラヴィルで夜を越すことになった時は、戦士ギルドか魔術師ギルドに泊まるのが最善でしょう。ギルドにいる人々も野蛮で不道徳ですが、少なくとも安全に眠れる場所だからです。 商店もブラヴィルの他の部分と比べれば、まだましと言えるでしょう。商店は泥棒対策のために厳重に見張られており、店内では暴行や殺人の心配はありません。 もしあなたが何かの不運でブラヴィルを訪れることになってしまったとしたら、町に入ってすぐにそこから出たくなることでしょう。そのときは気をつけてください、町を出るあなたの後ろから追いはぎと殺し屋の群れが追ってこないように。 九大神を称え祈りましょう! 地理・旅行 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/94.html
アルゴニアン報告 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 帝都の小さいが立派な広場の一角に置かれている、または、ぐったりとしているのがヴァネック卿の建設会社である。その想像力に欠けた質素な建物は、芸術性や建設設計に関してはあまり有名ではなく、むしろその並外れた長さによって知られている。もし批判的なものが、なぜヴァネック卿はあのような飾り気のない、伸びきった突起物を好むのかを疑問に思ったとしても、彼らはそれを口にしなかった。 第三紀398年、デクマス・スコッティは建設会社の先任書記であった。 内気な中年の男がヴァネック卿の下へ、五年戦争によって破壊されたヴァレンウッドの街道を修復する独占権をこの建設会社に与えるという、今までの契約の中でも最高の利益を得られる契約をもたらしてから数ヶ月が経過していた。これによって彼は、管理職や書記に間で人気者になり、彼の冒険を物語る日々を過ごしていた、大体に関しては忠実に…… 彼らの多くはシレンストリーによって催された、祝賀のアンスラッパローストに参加していたので、結末は除いてあった。聞き手に彼らは人肉をむさぼり食ったと伝えるのは、どのような気の利いた話であっても、その質を高めるものではないからである。 スコッティは特に野心家でもなければ勤勉者でもないので、ヴァネック卿が彼に何もすることを与えなかったことは気にしていなかった。 いつでもあの、小太りで小さなふざけた男が職場でデクマス・スコッティに出くわすと、ヴァネック卿は必ず、「君はこの建設会社の名誉である、頑張りたまえ」と言う。 最初の頃は、何かしていなければいけないのかと心配したが、数ヶ月がすぎて行くにつれ、彼はただ「ありがとうございます、がんばります」と答えるだけになっていった。 一方、将来のことも考えなければならなかった。彼は若くもなく、何もしない人にしてはかなりの給料も貰ってはいたが、近いうちに引退する破目になり、何もしない、何も貰えない人になってしまうのではないかなどと考えた。もしヴァネック卿が、ヴァレンウッドの契約が生み出す何百万もの金への感謝から、快くスコッティをパートナーにしてくれれば、それは素晴らしいことだと考えていた。最低でも、彼にお宝の歩合をほんの少しでも与えてくれればと考えていた。 デクマス・スコッティはそのような事柄を請求するのは苦手であった。それが、ヴァレンウッドでの先任書記としての目覚しい成功の前は、アトリウス卿にとって彼が手際の悪い代理人であった1つの理由である。彼がヴァネック卿に何か言おうと決断しかけた時、閣下が突然話を進めた。 「君はこの建設会社の名誉である」と、よぼよぼした背の低いものは言い、そして一瞬止まった。「予定に少々、時間の空きはないかね?」 スコッティは躍起になってうなずき、閣下の後を、あの悪趣味な装飾を施された、誰もがうらやむ巨大な部屋へとついていった。 「君がこの建設会社に居てくれることを、ゼニタールの神に感謝します」小男が甲高い声で雄大に言った。「知っているかは知らないが、我々は君が来る前はひどい苦境に立たされていた。確かに大きな計画はあったのだが、成功はしなかった。例えばブラック・マーシュ。我々は、何年間も商業用の街道や他の通行用の路線の改善を試みてきた。私はその件に最適の男、フレサス・ティッジョを送り込んだが、膨大な資金と時間の投資をよそに、毎年それらの路線上の貿易は遅くなる一方であった。今は、君の良くまとまった、建設会社の利益を押し上げてくれるヴァレンウッドの契約がある。君が報われるべき時期が来たと思う」 スコッティは謙虚さと、かすかな欲をまとった笑顔を見せた。 「フレサス・ティッジョからブラック・マーシュの仕事を引き継いでもらいたい」 スコッティは心地よい夢から恐ろしい現実へと引き戻されたかのように震え、「閣下… わ、私には……」 「大丈夫だ」ヴァネック卿は甲高い声で、「ティッジョのことは心配しなくてもよい。手渡す金で彼は喜んで引退するであろう、特に、この魂をも痛めつけるほどに難しい、ブラック・マーシュ事業の後ではな。君にこそ相応しい挑戦である、敬愛なるデクマスよ」 スコッティは、ヴァネック卿がブラック・マーシュに関する資料を取り出している最中、声は出せなかったが口は弱々しく「嫌」の形をしていた。 「君は、読むのは早いほうであろう」ヴァネック卿は推測でものを言った。「道中で読んでくれたまえ」 「どこへの道中ですか……?」 「ブラック・マーシュに決まっておるではないか」小男がクスクス笑った。「君は面白い男だ。行われている仕事や改善の方法を他のどこへ行って学ぶというのだ?」 次の朝、ほとんど触れられていない書類の山とともに、デクマス・スコッティはブラック・マーシュへと南東に向かって旅立った。ヴァネック卿が、彼の最高の代理人を保護するために、壮健な衛兵を雇っていた。少々無口なメイリックという名のレッドガードである。彼らはニベンに沿って南へと馬を進め、それから彼らはシルバーフィッシュに平行して、川の支流には名前もなく、草木は北帝都地方の上品な庭園からではなくまるで違う世界から来たような、シロディールの荒野へと進んだ。 スコッティの馬はメイリックのそれにつながれていたので、書記は移動しながら書類を読むことができた。進んでいた道に注意を払うことは困難ではあったが、建設会社のブラック・マーシュにおける商取引に関して、最低でも大雑把な知識が必要であることをスコッティは分かっていた。 それはギデオンからシロディールへの街道の状態を改善するために、裕福な貿易商ゼリクレス・ピノス・レヴィーナ卿から初めて数百万の金を受け取った、40年前にさかのぼる書類が詰まった巨大な箱であった。当時、彼が輸入していた米や木の根が帝都に到着するまでには、半分腐って3週間という、途方もないような時間がかかるものだった、ピノス・レヴィーナはすでに亡くなっているが、数十年にわたってペラギウス四世を含む多くの投資家たちが、建設会社を雇っては道を作り、沼の水を抜き、橋を作り、密輸防止策を考案し、傭兵を雇い、簡単に言えば歴史上最大の帝都の思いつく、ブラック・マーシュとの貿易を援助するためのすべての方策を行わせてきた。最新の統計によると、この行為の結果、今は荷物が到着するまでに2ヶ月半かかり、完全に腐っているとのことである。 読みふけった後に周りを見回すと、地形は常に変化していたことにスコッティは気付いた。常に劇的に。常により悪く。 「これがブラックウッドです」と、メイリックはスコッティの無言の問いに答えた。そこは暗く、木が生い茂っていた。デクマス・スコッティは適切な地名であると思った。 本当に聞きたかった質問は、「このひどい臭いは何?」だった。そして、後に聞くことができるのだった。 「沼沢地点です」メイリックは、木と蔓が絡み合い、影の多い通路が空き地へと開ける角を曲がりながら答えた。そこにはヴァネック卿の建設会社、そしてタイバー以降のすべての皇帝が好む、型にはまったインペリアル様式の建物がまとまって建てられており、目もくらみ、腸がねじれるような強烈な汚臭と相まって、突然すべてが劇薬にさえ思えた。至るところを飛び回り、視界をさえぎる深紅色で、砂の粒ほどの虫たちの大群も、その光景を見やすいものにはできなかった。 スコッティとメイリックは、元気いっぱいに飛び回る大群に向かって瞬きを繰り返しながら、近づくにつれ真っ黒な川のふちに建てられていることが判明した一番大きな建物に向けて馬を進めた。その大きさと厳粛な外観から、対岸の茂みへと続く大きな気泡を発する黒い川に架けられた、幅広の白い橋の通行人管理と税徴収の事務所であるとスコッティは推測した。それは光り輝く頑丈そうな橋で、彼の建設会社が架けたものであるとスコッティは知っていた。 スコッティが一度扉を叩いたとき、いらいらした汚らしい役人が扉を開いた。「早く入れ! ニクバエを入れるな!」 「ニクバエ?」デクマス・スコッティは身震いした。「人間の肉を食べると言うことですか?」 「馬鹿みたいに突っ立てれば食われるさ」と、兵士は呆れたように言った。彼には耳が半分しかなく、スコッティは他の兵士たちも見たが、全員いたるところをかまれており、1人は鼻が完全になかった。「それで、何の用だ?」 スコッティは用事を伝え、要塞の中ではなく外に立っていたほうが、より多くの密輸者を捕らえられるであろうと付け足した。 「そんなことより、あの橋を渡ることを気にしたほうがいいぞ」と、あざけるように兵士が言った。「潮が満ちてきている。もし急がなかったら、4日間はブラック・マーシュへ行けないぞ」 そんな馬鹿な。橋が上げ潮に呑まれる、それも川で? 兵士の目が、冗談ではスコッティに伝えていた。 砦から外に出た。ニクバエから拷問されることに嫌気がさした馬は、どうやら止め具を引きちぎり、森の中へと消えたらしい。川の油質の水は既に橋の厚板に達しており、その隙間から滲み出ていた。ブラック・マーシュへ行く前に、4日間の滞在に耐えるのは構わないとスコッティは考え始めていたが、メイリックは既に渡り始めていた。 スコッティは彼の後をあえぎながら追った。彼は昔から壮健ではない。建設会社の資料が入った箱は重かった。途中まで渡ったとき、彼は息をつくために立ち止まった、そして、動けないことに気がついた。足が固定されていたのである。 川を覆う黒い泥には粘着性があり、スコッティが行く厚板の上に泥が打ち寄せたとき、彼の足をしっかりと固定してしまった。彼はうろたえてしまった。スコッティはそのわなから顔を上げ、メイリックが板から板へ飛び移りながら、対岸のアシの草むらへの距離を急速に縮めていくのを見た。 「助けてくれ!」と、スコッティは叫んだ。「動けない!」 メイリックは跳ね続け、振り返りもしなかった。「はい、残念ながら、もはや、お痩せになられるしか、なすすべはありません」 デクマス・スコッティは、自分の体重が数マイル多いことも分かっていたし、食事を減らして運動を増やすつもりでもいたが、減量が現在の苦境から速やかに彼を救ってくれるとは到底思えなかった。ニルンに存在するいかなる減量も、その場では助けにならない。そこで、よく考えてみるとあのレッドガードは、資料の詰まった箱を捨てろと言っていたのだと気がついた。メイリックは既に、それまで持っていた重要な物質を何ひとつ持ってはいなかった。 ため息をつきながら、スコッティは建設会社の記録書類が入っている箱をネバネバした川の中に捨て、厚板が数ミリ、辛うじて自身を泥の束縛から解放するに足るだけ浮き上がるのを感じた。恐怖から湧き上がる敏捷性で、スコッティは板を3枚ずつ飛ばしながら走り、川が彼を捉える前に跳ね上がりながらメイリックの後を追った。 四十六回跳んだところで、デクマス・スコッティはアシの茂みを抜けて、メイリックの後ろの硬い地面に着地し、ブラック・マーシュに到着した。彼のすぐ後ろで、橋と、もう二度と目にすることがない建設会社の重要で、公式な記録書類の詰まった箱が、上昇する汚物の洪水に飲み込まれていく嫌な音が聞こえた。 物語(歴史小説) 茶2 アルゴニアン報告 第2巻 ワーリン・ジャース 著 泥と葦原の中から現れたデクマス・スコッティは走り疲れていた。その顔と腕は赤いニクバエにびっしりと覆われていた。シロディールを振り返ると、厚くどんよりした黒い河の中へと橋が消えていくのが見えた。潮が引くまでの数日間はあそこへ戻れないことを悟った。そのネバつく河の底にはブラック・マーシュに関する報告書が沈んだままであった。こうなった今、ギデオンに連絡を取るにはもはや記憶に頼るしかなかった。 メイリックは葦原の中を強い意志をもって突き進んで行った。無駄と知りつつ、スコッティもニクバエをはたき落としながらあとを追いかけていった。 「私たちはツイてますよ、スコッティ卿」と、レッドガードが言った。スコッティはその言葉に首をかしげながら、男の指す方向へと目を向けた。「キャラバンがおります」 ガタガタの木造車輪をつけ、泥にまみれ錆びついた荷馬車が21台、ぬかるんだ地面に半分車輪を沈ませながらそこにいた。アルゴニアンの一群が他の馬車から離れたところにある1台をひいていた。彼らは灰色の鱗と灰色の目をしており、シロディールではよく見られる寡黙な肉体労働者である。スコッティとメイリックがその馬車へ近づくと、果物というより腐ったゼリーのようになってなんだか分からないほどに傷んだブラックベリーで荷台があふれかえっていた。 彼らはまさにギデオンへと向かう途中だったので、彼らの承諾を得て、スコッティはランベリーを積みおろした後に馬車に乗せてもらえることになった。 「この果物はどれくらい前に摘み取られたのですか?」とスコッティは腐りかけの荷物を見ながら尋ねた。 「収穫の月に獲れたものだよ」とこの荷馬車の長と見られるアルゴニアンが答えた。今が11月だから、畑から運ばれてかれこれ2ヶ月ちょっと経っている。 スコッティは、この輸送は明らかに問題だと思った。その問題点をなくすことこそが、ヴァネック建設会社の代理人を務める自分の仕事だと思った。 日光にあたって余計に傷みつつあるベリーを載せた馬車を脇道へ追いやるのに小一時間かかった。荷馬車同士は前後に連結されていた。キャラバンの先頭を行く荷馬車をひく8頭の馬のうちの1頭が連れてこられ、離れた荷馬車につながれた。労働者たちには覇気がなく、倦怠感が漂っていた。スコッティはこの時間にほかのキャラバンを調べたり、自分と道連れになる旅人と話したりしていた。 荷馬車の内、4台には中に備え付けのシートがあるが、乗り心地はあまりよいものではなかった。他の荷馬車には穀物や食肉、そして野菜などが積み込まれており、程度の差こそあれ、それぞれみな傷んでいた。 旅人はアルゴニアンの労働者が6人、虫にたくさん食われて皮膚がアルゴニアンの鱗のようになってしまった帝都の商人が3人、そしてマントに身をつつんだ3人。マントの3人はフードの影から覗く赤く光る目からすると、明らかにダンマーだった。皆が帝都通商街道に沿って荷を運んでいた。 顎の高さまで伸びる葦が広がる草原を見渡し「これが道なのか?」とスコッティは叫んだ。 「固い地面みたいなもんだ」とフードをかぶったダンマーの1人が答えた。「馬は葦を食べ、我々も時に葦で火をおこすが、抜いたそばからすぐに新しい葦が生えてくる」 ようやく荷馬車長がキャラバンの出発の準備が整ったことを知らせ、スコッティもほかの帝都の人間たちと3番目の荷馬車に乗り込んだ。席を見渡すとメイリックが乗っていないことに気づいた。 「私はブラック・マーシュまでの行き来しか承諾してませんよ」とレッドガードは葦原の中へ石を投げ込み、ひげだらけのニンジンにかぶりつきながら答えた。「ここであなたのお帰りをお待ちしておりますよ」 スコッティは顔をしかめた。メイリックがスコッティを呼びかける際、名前の後に「卿」を付けなかったからだけではない。いまや彼にはブラック・マーシュには誰も知り合いがないことになるのだが、荷馬車はギシギシと音をたてながらゆっくりと前へ進みだしていたので、もはや議論する時間はなかった。 毒をはらんだような風が通商街道を吹き抜け、葦原に奇妙な模様を描いていった。遠くには山のようなものが見えるが、わずかながらに動いているため、それは濃い霧の壁であることがわかった。たくさんの影が風景を横切っていき、スコッティが空を見上げると巨大な鳥が数羽飛んでいた。その剣のようなくちばしは、身体と同じくらいの長さだった。 「ハックウィングだよ」スコッティの左側に座る帝都のケアロ・ジェムラスがぶつぶつ言った。彼はまだ若いようだったが、疲れきって老人のように見えた。「ここはまったくあきれた場所だよ。ぐずぐずしてたらパクッとひと飲みされちまうよ。あの物乞いたちは急降下してきて、あんたに一撃を食らわし、飛び立った頃にはあんたは失血死でおだぶつさ」 スコッティは震え上がった。夜が更けるまでになんとかギデオンに到着できることを祈った。その時彼は、太陽の向きがおかしいことに気づいた。 「失礼だが……」と、スコッティは荷馬車長に聞いた。「ギデオンに向かっているのですよね?」 荷馬車長はうなずいた。 「それならばなぜ北へ向かっているのですか? 我々が向かう方角は南なのでは?」 返事の代わりにため息が返ってきた。 スコッティはほかの旅人もギデオンに向かっていることを確認したが、誰一人としてこのおかしなルートを取ることに疑問を抱いてなかった。荷馬車の固い椅子は、中年の背中や腰には正直こたえたが、キャラバンの動くリズムや葦の揺れに誘われ、スコッティはいつのまにか眠ってしまった。 数時間後、スコッティは暗闇の中目を覚ました。今、自分がどこにいるのかがわからなかった。キャラバンは停車しており、気づけばシートの下の床に横たわっていた。横には小箱がいくつかあった。シーシーカツカツという声が聞こえてきた。彼には何語なのかまったくわからなかったが、誰かの脚の間から何が起こっているのか見えた。 双月の光はキャラバンを囲むこの厚い霧の中ではわずかに差し込む程度であり、声の主が一体誰なのか、今いる位置からはっきりとはわからなかった。どうも荷馬車長がぶつぶつと独り言をいってるかのように見えたが、暗闇の中で動くものはしっとりとした、光り輝く皮膚をしているようだった。一体その生物がどれだけいるのかは検討がつかないが、とにかく大きくて、黒くて、目を凝らすとより細かな部分が見えてきた。 ぬらぬらと光る針のように尖った牙でいっぱいの巨大な口が見え、スコッティは急いでシートの下へとまた滑り込んだ。彼らの黒い眼はスコッティをまだとらえてはいなかった。 スコッティの目の前にあった脚はパタパタと動き出し、そのまま何者かに荷馬車の外へと引きずりだされた。スコッティはさらに奥へと縮こまり、小箱の間で体を小さくした。スコッティはきちんとした身の隠し方というものを心得てはいなかったが、盾を使った経験はあった。なんでもいいから相手との間に障害物があることは感謝すべきことであった。 瞬く間に、目の前にあった脚はすべて消え去り、絶叫が1つ、2つと聞こえてきた。その叫び声は声質も、アクセントも違っていたがその叫びが伝えてくるものは…… 恐怖、苦痛、それも恐ろしい苦痛であった。スコッティは長い間ステンダール神へ祈祷していなかったのを思い出し、この場で祈りをささげた。 静寂が訪れた…… それは不気味なほどの静けさで、数分が数時間、数年にさえも感じられた。 そして荷馬車は再び動き出した。 スコッティは周りに注意を払いながらシートから這い出した。ケアロ・ジェムラスが困惑した表情を向けた。 「やあ、お前さん…… てっきりナガスに食べられちまったかと」 「ナガス?」 「たちの悪いやつらさ」とジェムラスは顔をしかめて言った。「腕と脚のついた大毒蛇さ。怒り狂って立ち上がったときは78フィートほどの高さになる。内陸の沼地から出てくるんだが、ここいらの物はさして好みじゃなさそうだ。だからお前さんのようなお上品な人間は奴らの大好物なんだよ」 スコッティは今のいままで自分が上品だと思ったことは一度もない。泥にまみれ、ニクバエに喰われた彼の服はせいぜい中流階級あたりの格好だ。「なぜ私を狙うのだ?」 「そりゃもちろん奪うためさ」と帝都の男は笑顔で答えた。「あと殺すためだな。お前さん、ほかの者たちがどんな目に遭ったか分からないのか?」男は先ほどの光景を思い出したように、顔をしかめた。「シートの下にある小箱の中身を試してないのか? 砂糖みたいなもんさ。どうだい?」 「いいや」とスコッティは顔をしかめた。 男は安心してうなずいた。「お前さんはちょいとのんびり屋みたいだな。ブラック・マーシュは初めてか? ああ、クソッ! ヒストの小便だ」 スコッティがジェムラスが発したその下品な言葉の意味を聞こうとすると雨が降ってきた。地獄の果てのような悪臭を放つ褐色の雨がキャラバンに降り注いだ。遠くで雷がゴロゴロと鳴っていた。ジェムラスは馬車に屋根をかぶせようとし、スコッティの方へじっと視線を送るので、しかたなくスコッティも手伝いをするはめになった。 この冷たい湿気のせいだけではなく、屋根で覆われていない荷台の作物にさきほどの雨が降りこんでいる光景を見て、スコッティはぞっとした。 「すぐに乾くさ」とジェムラスは笑顔で言い、霧の中を指した。 スコッティはギデオンを訪れたのはこれが初めてだが、どんなところかの大体の予想はしていた。帝都と似たり寄ったりの大きな建物、建築様式、過ごしやすさ、伝統を持っている土地であると。 しかし泥の中に居並ぶあばら家の寄せ集めはまったく違っていた。 「ここは一体どこだ?」とスコッティは当惑して聞いた。 「ヒクシノーグだ」ジェムラスは奇妙なその名前を力強く発音した。「お前さんが正しかったよ。南へ行くべきところを北へ向かっていた」 物語(歴史小説) 茶4 アルゴニアン報告 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティはブラック・マーシュ南部にある徹底的に帝政化された街、ギデオンで、ヴァネック卿の建築委員会およびその顧客を代理して、地域の交易を活性化させる商取引の手はずをあれこれと整えているはずだった。ところが実際には、半分水没した腐りかけのヒクシノーグなる小村にいた。知り合いなどひとりもいなかった。シャエロ・ゲムルスという名の麻薬密売人をのぞけば。 隊商が南ではなく北に向かってしまったのにも、ゲムルスはこれっぽちも動じていなかった。しかも、村人から買い求めたバケツ一杯分のトロードなる歯ざわりのいい小魚をスコッティにも分け与えた。スコッティとしては、火を通してある状態で食したがったが。せめて死んでいたほうが。が、ゲムルスは、トロードという魚は死んでも火を通しても猛毒になるのだとのんきに説明した。 「本当なら今頃は」スコッティは口をとがらせると、のたうちまわっている小さな生物を口の中に放り込んだ。「ローストを食べているだろうに。それからチーズとグラスワインも」 「おれなんか北方でムーンシュガーを売りさばいて、南方で仕入れるけどね」と、ゲムルスは肩をすくめた。「あんたももうちょっと柔軟に考えたほうがいいぜ」 「私の仕事はギデオンにしかない」スコッティは顔をしかめた。 「まあ、いくつかの選択肢はあるぜ」密売人は答えた。「この村に残ってもいいだろうな。アルゴニアの村はたいてい、ひとところにとどまらない。だから、ヒクシノーグがギデオンの門の目の前に流れ着く可能性は大いにある。1、2ヶ月かかるだろうけど、もっとも楽ちんな方法だろうな」 「予定が大幅に遅れてしまうよ」 「なら次の方法だ。もう一度、隊商に乗っけてもらえばいい」と、ゲムルスは言った。「今度こそ正しい方角に向かうだろうし。底なし沼にはまることも、ナーガの追いはぎに皆殺しにされることも、ひょっとしたらないかもしれない」 「気乗りがしないな」スコッティは顔をしかめた。「他の方法は?」 「根っこに乗ればいい。地下超特急さ」ゲムルスはにかっと笑った。「ついてきな」 スコッティはゲムルスについて村を出ると、ひょろ長い苔のベールに覆われた雑木林に入った。ゲムルスは地面から目を離そうとせず、ねばつく泥をつついたりつつかなかったりしていた。ようやく正しい地点をつつくと、てらてらと光る大きな気泡の塊が地表に浮き上がってきた。 「完ぺきっす」と、ゲムルスは言った。「さてと、肝心なのはパニックにならないことだ。超特急は一直線に南へ向かう。冬を越すための移住だな。赤粘土があちこちに見えるようになったら、ギデオンに近いってことだ。とにかくパニックだけは起こすなよ。で、泡の塊が見えたらそれが通気孔だから、そこから外に出るといい」 スコッティはぽかんとしていた。ゲムルスの説明はまるでちんぷんかんぷんだった。「は?」 ゲムルスはスコッティの肩をつかむと、泡の塊のてっぺんに彼を押しやった。「ここに立つんだ」 スコッティはたちまちぬかるみに沈んでいった。恐怖におびえた顔でゲムルスを見つめていた。 「赤粘土が見えるまで待つんだぞ。で、その次に泡が見えたら体を押し上げろ」 脱出しようともがけばもがくほど、スコッティは勢いをつけて沈んでいった。首のあたりまで泥に埋まっていた。あいかわらずゲムルスを見つめたまま、「うぐ」という声にならない不明瞭な音だけを口から発していた。 「それと、消化されちまうんじゃないかってパニックになるなよ。根ミミズの腰の中なら数ヶ月は生きられる」 スコッティは慌てふためいて最後の空気をひと飲みすると、目を閉じ、泥の中に消えていった。 スコッティは予想外の温もりに包まれているのを感じた。目を開けると、半透明のねばねばした物質にすっぽり覆われていた。南に向かって猛スピードで移動しているのがわかった。空を飛ぶように汚泥を突っ切り、複雑に絡み合う根っこの道を軽快に跳びはねながら進んでいった。スコッティは戸惑ってはいたが、恍惚感にもひたっていた。わき目も振らずに見知らぬ暗黒世界を爆走していき、肉厚な触手のような樹木の根をかわしては飛び越えた。闇夜を舞っているような気分だった。沼地の奥深くで地下超特急に乗っているとは思えなかった。 圧倒的な根っこの集合体のほうを少しだけ見上げてみると、何かが身をよじりながら通りすぎた。長さは8フィートほど、腕がなく、足もなく、色もなく、骨もなく、目もなく、ほとんど輪郭もない生物が根っこに乗っていた。その中に、黒っぽい何かがいた。と、ぐっと近づいてきて、スコッティはそれがアルゴニアンの男だとわかった。スコッティは手を振った。すると、体内にアルゴニアンを乗せたそのおぞましいモンスターはいささか速度を落としてから、あらためて前方に猛進していった。 その光景を見るや、ゲムラスの言葉がスコッティの脳内に蘇ってきた。「冬を越すための移住」「通気孔」「消化される」などなど、それらのフレーズが舞を踊っていた。入ろうとしてもはねつけられてしまう脳みその内部にみずからの居場所を見つけようとするように。が、この状況ではそれも仕方のないことだった。生きた魚を食べることに始まって、輸送手段として生きたまま食べられるに至った。スコッティは今、根ミミズの体内にいるのだ。 スコッティは執行の決断を下し、気を失った。 スコッティはだんだんと目覚めていった。女性の温かい腕に抱かれるという美しい夢を見ながら。にやけた顔で目を開けると、一気に現実の居場所に引き戻された。 根ミミズはあいかわらずの猪突猛進ぶりだった。愚直なほど前へ前へと、根っこをなぞるように進んでいたが、もはや闇夜の飛翔という感じはしなかった。そう、早暁の空のようだった。ピンクと赤。スコッティは、赤粘土を見落とすなというゲムラスの言葉を思い出した。ギデオンに近いのだ。手順に従えば、今度は泡を見つけなくてはならない。 泡などどこにも見あたらなかった。根ミミズの体内は今でも温かく快適だったが、スコッティは土の重さを感じるようになっていた。「パニックになるんじゃないぞ」と、ゲムラスは言ったが、アドバイスを聞くことと理解することではまるで次元が異なるのだ。スコッティが身もだえしだすと、内なる圧力が高まるのを感じたのか、モンスターは速度を上げはじめた。 そのときだった。スコッティが頭上を見やると、か細い泡状の螺旋が渦巻いていたのだ。どこかの地下水流からわいてきた気泡が、泥の中をまっすぐに、根っこをくぐって表面まで連なっていた。根ミミズがそこを通過する瞬間に、スコッティは渾身の力で体を押し上げ、モンスターの薄い皮膚を突き破った。気泡が彼の体を勢いよく押し飛ばし、一度もまばたきすることなく、スコッティはぬかるんだ赤い泥から飛び出した。 二人の青白いアルゴニアンが、網を手に、近くの木陰に立っていた。控えめな好奇心でもってスコッティのほうを見ていた。網の中では、ふさふさの毛が生えたネズミに似た生物が数匹、もぞもぞと動いていた。スコッティがこの生物に気をとられていると、もう一匹が木から落っこちた。スコッティはこうした風習に詳しいわけではなかったが、どうやら釣りをしているらしかった。 「あの、ちょっといいですか」と、スコッティはつとめて陽気に言った。「ギデオンのある方角を教えていただけません?」 アルゴニアンはそれぞれ「焚きつけしもの」および「丸めた若葉」と自己紹介すると、質問に戸惑いを浮かべて顔を見合わせていた。 「だれに会う?」丸めた若葉は訊いた。 「たしか名前は……」と、スコッティは言った。とうの昔に紛失したギデオンの連絡先ファイルのページを頭の中でめくりながら。「『右足岩の支配者』?」 焚きつけしものがうなずいた。「5ゴールド、道教える。ずっと東。ギデオン東の大農園。とっても素敵」 この2日間で最高の取引だと考えたスコッティは、焚きつけしものに5ゴールドを手渡した。 アルゴニアンの先導でぬかるんだ一本道を進んでいき、アシの草むらを抜けると、はるか西方に広がるトパル湾の鮮やかなブルーが見えてきた。スコッティは、明るい真紅の花が咲き乱れている外壁に囲まれた壮麗な屋敷を見渡すと、なんてきれいなんだろう、と考えている自分に驚いた。 その街道は、トパル湾から東に向かって勢いよく流れる小川に沿って続いていた。オンコブラ川だとアルゴニアンが教えてくれた。ブラック・マーシュの中心の薄暗い奥地まで流れているという。 ギデオン東部に広がる大農園を柵越しにのぞきながら、スコッティはほとんどの畑地が手入れされていないことに気づいた。収穫期を過ぎた腐った作物がしおれた蔓にいまだにぶらさがっていた。荒れ放題の果樹園に葉の枯れ落ちた樹木。畑地で働くアルゴニアンの農奴は痩せていて、弱っていて、半分死人のようだった。理性的な生命体というよりもさまよう亡霊のようだった。 二時間後、3人はとぼとぼと東へ向かう旅を続けていた。屋敷は少なくとも遠めには立派に見えたし、街道は雑草だらけながらもがっしりとした造りだったが、それでもスコッティは畑地の農奴と農作物の状態にいらいらし、おののいていた。この地域に尽くそうという気持ちは失せていた。「あとどのくらいなんですか?」 丸めた若葉と焚きつけしものはお互いの顔を見合わせた。そんな質問など思いつきもしなかったと言わんばかりに。 「右足岩の支配者、東?」丸めた若葉は考え込んだ。「近い、遠い?」 焚きつけしものは煮え切らない態度で肩をすくめると、スコッティに言った。「あと5ゴールド、道教える。ずっと東。大農園ある。とっても素敵」 「当てずっぽうなんだろう?」スコッティは叫んだ。「どうして最初にそう言わなかったんだ。べつの誰かに訊くこともできたのに!」 前方の曲がり道のあたりからひづめの音が響いてきた。馬が近づいているのだ。 スコッティは音のするほうへ歩いていき、乗り手を止めようとした。焚きつけしものの鉤爪がきらめき、そこから呪文が放たれたことには気づかなかった。か、体ではそれを感じた。氷のキスが背筋をなぞると、腕と脚の筋肉がいきなり硬直して動かなくなった。頑丈な鋼に包まれたようだった。スコッティの体は麻痺していた。 麻痺状態で何よりも悲惨なのは── 不幸にも読者の方はここで知ることになるのだが── 体がまるで反応しなくても目は見えるし、頭もしっかりしているということだ。スコッティの頭を突き抜けた思考は、「ちくしょう」だった。 もちろん、焚きつけしものと丸めた若葉は、ブラック・マーシュのたいていの素朴な日雇い労働者がそうであるように、卓越した幻惑師だった。それに、帝都の友人であるはずもない。 アルゴニアンたちはスコッティを道端に突き飛ばした。馬にまたがった乗り手が角を曲がってきたのだ。 やってきたのは堂々たる貴族だった。その鱗のついた肌とそっくりな色をした、きらびやかな深緑色の外套をまとい、体の一部とつながったようなフリルのついた頭巾をかぶっていた。角のついた冠といった趣だった。 「こんにちは、兄弟!」と、その貴族が二人に向かって言った。 「こんにちは、右足岩の支配者」と、二人は返事をした。それから、丸めた若葉が付け加えた。「今日はいい天気、どんな感じですか?」 「忙しい、忙しいよ」右足岩の支配者は威厳に満ちたため息をついた。「女の農奴のひとりが双子を出産したのだ。双子たぞ! 幸いにも、双子でもかまわんという商人が街におったし、女もさほど面倒をかけることはなかった。それがすんだと思ったら、今度は帝都のまぬけの相手だ。ヴァネック卿の建築委員会の代理人とギデオンで会う約束なのだ。財布の金をばら撒かせるには、仰々しい視察に連れていかなければならんだろうな。まったく面倒をかけてくれるわい」 焚きつけしものと丸めた若葉はさも気の毒そうな顔をしてから、右足岩の支配者が馬で走り去ると、獲物のようすを見にいった。 彼らにとって不運だったのだ、ブラック・マーシュでもタムリエルのその他の地域と変わらないほど重力が働いているということだった。二人の獲物、デクマス・スコッティは、置き捨てられた地点から転がり落ちて、そのときにはもう、オンコブラ川でおぼれかけていた。 物語(歴史小説) 茶2 アルゴニアン報告 第4巻 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティは溺れていて、それ以上何も考えられなかった。アルゴニアンの農夫に受けた麻痺の呪文のせいで手足を動かすことができなかったが、すっかり沈んでしまうこともなかった。白濁したオンコブラ川は大きな岩さえもやすやすと流し去ってしまう勢いで流れていた。スコッティは上下逆さになりながら、あちこちにぶつかり、転がりながらひたすらに流されていった。 彼は自分がもうすぐ死ぬだろうと思ったが、それでもブラック・マーシュへ逆戻りするよりはましだと思った。肺に水が入り込んできたのを感じても、彼はもはやさほど慌てふためくこともなかった。そして冷たい闇が彼を包みこんだ。 。 しばらくして、スコッティは初めて穏やかな気持ちに包まれた。それは聖なる闇であった。しかしすぐに痛みに襲われ、彼は自分が激しく咳こみ、胃や肺に流れ込んだ水を吐き出したのを感じた。 「なんとまあ、生きてるじゃないか!」という声が聞こえた。 スコッティは目を開け、自分を見下ろす顔を見ても、まさかこれが現実とは思えなかった。今だかつて見たことのないアルゴニアンがそこにいた。槍のように細長い顔立ちをしていて、その鱗は太陽のごとくルビーレッド色に光り輝いていた。アルゴニアンは眼をぱちぱちさせながら彼を見たが、そのまばたきは縦に入った切れ目を開け閉めするかのようだった。 「俺たち、別にあんたを取って食いやしないよ」とその生き物は笑ってみせたが、その歯並びからして嘘でもなさそうだとスコッティは思った。 「どうも」とスコッティは弱々しく答えた。スコッティは「俺たち」がだれなのか確認しようと首をゆっくりと動かした。そして自分が今穏やかな川のぬかるんだ浅瀬に横になっていて、さきほどの彼と同じような細長い顔立ちのアルゴニアンに囲まれることを理解した。彼らの鱗は明るい緑色や宝石のような紫、青、そして橙色などまるで虹のようだった。 「教えてくれないか…… ここはどこだ? どこかの近くなのか?」 ルビーレッド色のアルゴニアンが笑った。「どこでもない。お前さんがいるのはあらゆる場所の中心で、同時にどこの近くでもないのだ」 「ああ……」とスコッティは言った。ブラック・マーシュでは「場所」という概念はさほど意味をなさないものであることなのだとわかった。「それであなた方は一体?」 「俺たちはアガセフだ」ルビー色のしたアルゴニアンがこう答えた。「俺の名前はノム」スコッティも自己紹介をした。「私は帝都にあるヴァネック建設会社の事務主任をやっているものだ。通商上の問題を解決するためにここへ来た。しかし、大事なメモはなくすし、会う約束をしていたギデオンのアーチェンとも会えずじまいで……」 「こいつは思いあがった奴隷商の泥棒役員だ」と小柄でレモン色をしたアガセフはとげとげしくつぶやいた。 「でも今は、ただ家に帰りたい」とスコッティは言った。 ノムはいやな客がパーティをあとにするのを喜ぶ主催者のように、長い口をにんまりさせて、「シェフスに案内させよう」と言った。 シェフスと呼ばれた者は、やや小柄で黄色い生き物だったが、この任務にいやそうな顔をした。彼はスコッティを驚くべき力で持ち上げたが、この時スコッティはジェムラスに地下の急流へと続く泥沼の中に放り込まれた時のことを思い出した。しかし今回は、水面に浮かぶ剃刀のように薄いいかだの上へと放り投げられたのだった。 「これが君たちの旅のやりかたかい?」 「俺らは外の仲間が持っているような壊れかけの荷馬車や死にかけの馬は持っていないんだ」シェフスは目をくるくると回しながら答えた。「これよりもいい方法を知らないだけだよ」 そう言ってこのアルゴニアンはいかだの後ろの方に座り、鞭にも似た尻尾をプロペラのように回し、いかだの舵を取った。いかだは何世紀にも渡って腐敗した堆積物がヘドロの塊となって渦巻くなか、ちょっとしたぐらつきで一気に静かな水面で崩れ落ちそうな先の尖った山々や、錆びついてもはや金属で作られたのかどうなのかもわからない橋の下をくぐって進んでいった。 「タムリエルのものがすべてここブラック・マーシュへと流れつくのさ」とシェフスは言った。 いかだが水上を進む間、シェフスはスコッティに、アルゴニアンの種族のうち、アガセフはこの属州の内陸のヒストの近くに住んでおり、外の世界にはまったく興味をしめさないのだと話した。彼らに見つけられたのは運が良かったという。ヒキガエルに似たパートルや翼を持つサルパなどのナガスに捕まれば即座に殺されていただろう。 他にも遭遇を避けるべき生き物はいた。ブラック・マーシュのもっと内陸の方に住む自然の肉食動物たちだ。ゴミ箱に住むこの掃除屋は、生きた獲物に一度喰らいついたらもう二度と離さない。頭上では西の方で見かけたのと同じようなハックウィングが旋回しているのが見えた。 シェフスは静かになっていかだを完全に停止させ、何かを待っていた。 スコッティはシェフスの視線の先を追ったが、特に変わった物陰は見られなかった。しかし、目の前にある緑色のヘドロの塊が、確かに河岸から反対側の河岸へと素早く動いているのに気づいた。それは後ろに小骨を吐き出しながら葦の中に消えていった。 「ボリプラムスだよ」とシェフスは説明し、再びイカダを動かし始めた。「つまるところ、あんたなんか一瞬にして骨にされちまうってことだ」 スコッティはこの光景と悪臭から早く逃げ出したい衝動にかられたが、この語彙の豊富なシェフスと過ごすのは悪くないと思った。お互いの文明の差を考えると実に興味深いことであった。東に住むアルゴニアンは実際、しゃべりが達者だった。 「20年前、彼らはウンホロにマーラ神殿を建てようとしたんだ」シェフスが説明した。スコッティは前になくしてしまったファイルで読んだことがあったのを思い出して、それにうなずいた。「最初のひと月で、沼の腐り病のせいで跡形もなく消えてしまったけど、非常に面白い書物を残してくれた」 スコッティがそれについて詳しく聞こうとしたその時、巨大で、恐ろしいものを見つけ、身体が凍り付いてしまった。 前方に見えたのは、その姿を水に半分沈めた針の山で、9フィートもある長い鉤爪がついていた。もはや何も見えない白目で前方を見つめていたが、その怪物は突如グラグラと揺れ出し、突き出した顎からは血の塊のついた牙が見えた。 「沼の巨獣だ」とシェフスは感心したように口笛を吹いた。「とーっても危険な奴だ」 スコッティはぐっと息を飲みこみ、アガセフはなぜこうも落ち着いていられるのか、なぜ危険な怪物に向かっていかだを漕ぐのか不思議に思った。 「世界中のあらゆる生き物の中で、特にネズミは最高に悪いやつだよ」とシェフスが言ったのを聞いて、スコッティはこの巨大な怪物がただの抜け殻であることにようやく気づいた。動いてるように見えたのは何百匹ものネズミがその抜け殻に入り込み、内側から中身を食べつくし、皮膚に穴をあけて這い出ていたからだ。 「本当にそうだな……」とスコッティは言い、泥沼の深くへと沈んでいったブラック・マーシュに関するファイルへのことを考え、過去40年に渡るブラック・マーシュでの帝都が成し得た業績に思いを馳せた。 2人はブラック・マーシュの中心地を抜けて西の方へと進み続けた。 シェフスは広大で複雑なコスリンギーの遺跡、シダや花の咲きほこる野原、青苔の天蓋に覆われた小川などを見せてくれた。ヒストの木々で生い茂る大きな森はスコッティのこれまでの人生の中でもっとも驚くべき光景であった。彼らは道中まったく生き物に出会わなかったが、スラフ・ポイントのちょうど東に当たる帝都通商街道の端に到着すると、スコッティのレッドガードガイド、マリックが辛抱強く待っていた。 スコッティが「あと2分待とうか」と言うと、レッドガードは彼をキッとにらみつけ、手にしていた食べ物の残りを足元の残飯の山に捨て、「結構です」と言った。 デクマス・スコッティが帝都に着いた時には太陽は光かがやき、朝露に反射して、建物を光らせていた。それはまるで彼の到着に合わせて磨き上げられたかのようであった。スコッティはこの街の美しさ、また物乞いがほとんどいないことに驚いた。 ヴァネック建設会社の長大な建物はこれまで通りであったが、どこかエキゾチックというか奇妙なものに見えた。建物は泥に覆われていなかった。中の人々は本当に、普通に働いていた。 ヴァネック卿はややずんぐりとした体型で斜視であったが、清潔感が漂う男であり、泥にまみれ皮膚病に冒されるなどとは程遠く、また堕落した人間にも見えなかった。スコッティは初めて彼を見た時、じっと見つめずにはいれらなかった。ヴァネックもスコッティを真っ直ぐに見返した。 「なんてひどい姿だ」と小柄な卿は顔をしかめた。「ブラック・マーシュから馬に引きずられながら来たのか? 今すぐ家に帰って着替えてくるように…… と言いたいところだが、君に会うため大勢の人が待っている。まずはそっちを片付けてくれないか」 彼の言葉は誇張ではなかった。シロディールに住む20人ほどの時の権力者たちが彼の帰りを待ちわびていたのだ。スコッティはヴァネック卿の部屋よりもさらに大きな事務室をあてがわれ、それぞれの客人たちに会った。 最初の客は、騒ぎ立てながら金を積み上げた5人の貿易商たちであった。彼らはスコッティが通商路をいかに改善するつもりなのか教えろと要求した。スコッティは主要道路やキャラバンの状況、沈みゆく橋、そして辺境の地と市場間に横たわるあらゆる問題点をざっと報告した。すべてを取り換え、修理する必要があることを説明すると彼らはその費用の全額を置いていった。 それから3ヶ月のうちにスラフ・ポイントにかけた橋は泥沼の中へと沈み落ち、キャラバンは衰退し崩壊した。ギデオンからのびる主要道路は完全に汚水に飲みこまれてしまった。アルゴニアンは再び昔のやり方、つまり一人乗りのいかだと、時々は地下急流を使って穀物を少量ずつ運搬するようになった。シロディールまでの時間は以前の三分の一、二週間に短縮され、荷物は痛まなくなった。 次の客はマーラの大司教であった。心の優しい大司教は、アルゴニアの母親たちが自分の子供を奴隷商に売り飛ばす噂を恐ろしく思っており、それが事実かどうかを聞いた。 「残念ながら事実です」と、スコッティは答えた。大司教はセプティム貨を渡し、そこで暮らす人々の苦痛を和らげるようこのお金で食料を買い与え、子供たちが自分の身を助ける術を学べるように学校を建ててほしいと言った。 それから5ヶ月のうちに、ウンホロの荒廃したマーラ神殿から最後の本が盗み去られた。アルケインが破産したので、奴隷だった子供たちは親元へと帰り、小さな農園の手伝いをするようになった。僻地に住むアルゴニアンは自分たち民族が熱心に働けば家族を養うことなど簡単であるとわかり、やがて奴隷の買い手市場の勢いも急速に衰えていった。 ブラック・マーシュの北方で高まる犯罪率を懸念しているツスリーキス大使は、彼のような多くのアルゴニアン亡命者が行った貢献について説明した。そしてスラフ・ポイントの国境に配置させる帝都衛兵の増員、主要道路沿いに一定間隔に取り付ける魔法光源のランタンの増設や詰め所、学校の増設など、若きアルゴニアンを犯罪の道へ走らせない設備への投資を要求した。 それから6ヵ月後には、ナガスが道を漂うこともなく、キャラバンが物盗りに出くわすこともなくなった。盗賊たちはより内陸へと移動し、愛すべき腐敗と悪疫に囲まれたそこでの暮らしを思いのほか気に入った。大使は犯罪率の低下を非常に喜び、スコッティにこれからもいい仕事を続けてほしいとさらに金も渡していった。 ブラック・マーシュでは今も昔も、大規模で利益を生むような農場経営を維持することはできなかった。しかしアルゴニアンやタムリエルに住む人々は、ブラック・マーシュのこの地で必要な分だけを作る自給自足の生活を営むことができた。それは決して悪いことではない。望みがあるな、とスコッティは思った。 スコッティはさまざまな問題を同じように解決した。報酬の1割は会社に渡り、要求したわけではないが残りはスコッティの懐へと入っていった。 一年のうちにスコッティは多額の金を手にし、優雅な隠居生活を送れるほどになった。同様に、ブラック・マーシュは過去40年のうちで最も栄えた。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/214.html
伝説のサンクレ・トール マテラ・チャペル 著 スカイリム進出の期間(第一紀245年─415年)、北のハイ・ロックとモロウウィンドの同族たちの進出と富を妬む野心的なハイランドの伯爵たちは、城壁を見越して南のジェラール山地に進出のチャンスを窺っていた。ジェラール山地は困難な障壁であることが判明しており、北シロディールは本格的なノルドの侵略を行なうにはあまりにも小さすぎる報酬であった。しかし、アレッシアは多くの野心的なノルドとブレトンの戦略集団を傭兵として雇い、見返りに豊かな土地と交易権を約束した。勝利を得たアレッシアのシロディール統治に落ち着くと、ノルドやブレトンの戦士や魔闘士たちは、瞬く間に快適で裕福なニベン文化に同化していった。 アレッシアはサンクレ・トールにおける奴隷の反逆の聖なるお告げを受け、彼女はそこに聖地を築いた。サンクレ・トールの鉱山は多少の富をもたらしたが、やせ地と人里離れた山の厳しい気候は、ハートランドからの食料や物品の供給が必要であることを意味した。さらに、ジェラールを通る数少ない峠の1つに位置するため、その財産はスカイリムとの不安定な関係に左右された。スカイリムとの関係が良好なときは貿易や同盟によって繁栄し、スカイリムとの関係が悪化したときは包囲攻撃やノルドによる占領を受けやすかった。 アレッシア会の衰退(第一紀2321年頃)に伴い、シロディールの宗教的統治権は南の帝都に移ったが、サンクレ・トールはセプティム王朝の台頭まで、山岳要塞として、また大規模な宗教の中心地として残った。第二紀852年、街は定期的なスカイリム、およびハイ・ロックの侵略者による占領に苦しんでいた。王者クーレケインは街を奪い返し、北の侵略者を駆逐するために彼の新将軍タロスを送りこんだ。攻城戦のなか、サンクレ・トールは破壊され、放棄された。その地の戦略的な弱さに気が付いた将軍タロス── 後のタイバー・セプティムは、サンクレ・トールの放棄を決意し、彼の統治中、街または要塞に対する復興の取り組みはなされなかった。 アレッシア歴史家は、サンクレ・トールが魔法によって隠され、そして神々によって守られていたと主張した。サンクレ・トールの度重なる敗北や、北方の侵略者による占領がその主張を否定する。要塞への入り口は確かに魔法によって隠されており、要塞やその迷路のような地下施設は魔法の罠や幻影によって守られていたが、それらの秘密は、作成したブレトンの付呪師から攻め寄せるノルドに漏らされていた。 サンクレ・トール伝説のなかで永続的に語られているのは、レマン皇帝たちの太古の墳墓である。アカヴィリの侵略者たちを破った後、サンクレ・トールはレマンのシロディール統治、および彼の子孫であるレマン二世とレマン三世の下で、短い間の富と文化の復活を味わった。彼の系図を聖アレッシアまで辿り、聖アレッシアがサンクレ・トールの地下墓地に埋められた伝統に従い(1)、レマンは素晴らしい埋葬区画を太古の要塞の地下道に作った。ここに最後のレマン皇帝であるレマン三世が、王者のアミュレットと共に埋葬された。 サンクレ・トール攻略の最中、将軍タロスが王者のアミュレットをレマン三世の墓から回収したと伝えられている。神学者は、レマン王朝の崩壊後から数世紀におよぶ政治と経済の混乱は、王者のアミュレットの紛失によるものとの考えを抱いており、第三紀のシロディール帝都復興をタイバー・セプティムのレマン三世の墓からのアミュレットの回収に関連付けている。 サンクレ・トールは第三紀の初めから廃きょのままであり、その周辺の地域にはほとんど人が住んでいない。現在、すべての連絡はコロールとブルーマの峠を通り、サンクレ・トールの要塞とその地下道は、さまざまな狂暴なゴブリンたちの隠れ家となっている。 (1)聖アレッシアは帝都の最高神の神殿の地に埋葬されたとの競合する言い伝えがある。実際の聖アレッシアの墓は知られていない。 メインクエスト関連 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/54.html
五年戦争における多兵科戦術 第1巻 コダス・カロヌス 著 カジートが五年戦争でヴァレンウッドと戦ったときに採用した型破りな戦術は、軍事的に学ぶところが多いだろう。私はデューンにほど近い国境沿いのスフィンクスモス駐屯基地に配属され、多くの北方の尖兵を最初に目にする立場にあった。 いわゆる「トーバル大虐殺」をきっかけに戦いが始まった。カジートの主張では、ボズマーが一方的に街を襲撃し、近隣の密林から駆けつけた援軍に撃退されるまでに千人以上を虐殺したという。いっぽうのボズマーは、カジートの蛮族がヴァレンウッドに向かっていた材木を運ぶキャラバンを襲ったため、報復を行ったと言って譲らなかった。 第三紀396年の春になると、戦争の舞台はスフィンクスモス駐屯基地まで迫っていた。私の詰めていた望楼からも戦火を目にすることができた。のちに、この戦いに参加したカジートとボズマーの両者から話を聞いたのだが、その内容はカジートがいかにして地上と樹上の部隊を使い分けて戦いに勝利したのかを知るうえで、重要な手がかりとなるだろう。 カジートは一風変わった方法で戦いを始めた。キャセイ・ラートと凶暴なセンシュ・ラート、またの名を「戦猫」で構成される伐採チームをヴァレンウッドの森の外縁に送り込んだのだ。樹木が刈り倒されている(独特なボズマー信仰では罪とされる行為)という情報を聞きつけると、ボズマーは南の激戦地から射手を呼び寄せた。ボズマーとしては戦力の分散を余儀なくされたわけである。 ボズマーの射手は切り倒されずに残っていた樹木に陣取った。密集していた樹木の枝葉は今や穴が開いたようにすかすかで、陽光が地面を照らしていた。ボズマーは残った樹木を魔法でゆがめて小さな砦をこしらえて、そこから弓で応戦した。 翌朝、伐採チームが到着すると、ボズマーの最初の一斉射撃によってカジート側に数人の犠牲者が出た。そこでカジートはセンシュ・ラートが背負っていた巨大な木の盾を取り出し、間に合わせのシェルターを築いた。カジート側は身体の大きなセンシュ・ラートでさえも、このシェルターと大木のあいだに身を隠すことができた。カジートがシェルターを使っての持久戦に持ち込もうとしていることがわかると、ボズマーの何人かは木からおりて剣と爪による白兵戦でカジートに挑みかかった。 ボズマーがシェルターに近づくと、カジートのひとりが鉄琴のような民族楽器を奏ではじめた。なんらかの合図だったのだろう。と、人のような姿のオームスとオームス・ラートがふたで覆われた林床の穴から飛び出した。数では負けていたものの、背後から不意打ちを食らわせることでまたたく間に地上を制圧した。 樹上のボズマーの射手にも戦いに勝つチャンスはあっただろう。振ってわいたような問題さえなければ。カジートでも馴染みの薄い種族である、テンマーの森の樹上で暮らすダギとダギ・ラートの一団が、魔法で音を消しながら樹から樹へと飛び移っていき、ボズマーが乗ったら折れてしまいそうな高さにある枝に陣を取ったのだ。例の合図とともに、彼らは爪を振るい、松明あるいは炎の魔法(この点では二人の生存者の意見が食い違っている)を使って射手の気をそらした。まさにそのとき、地上での戦いの火ぶたが切られた。射手は逃げることもままならずほぼ全滅した。 ダギとダギ・ラートが広く信じられているよりも高度な魔力を持っていたのは明らかだ。それほどまでに長いあいだ、魔法で音を消していられるのだから。生き残ったボズマーのひとりは、ダギの中に普通の猫がいくらか混じっていて、あろうことか、この猫たちは「アルフィク」と呼ばれる種族で魔法を唱えられるのだと訴えた。が、ボズマーもカジートも話の信憑性で知られている種族ではないわけで、家猫が魔法を唱えるなど信じられるはずもない。 その日が終わったとき、カジート側の死者は50人に満たない戦力のうちの数人だったが、ボズマー側では射手の部隊が丸ごとひとつ壊滅状態に追いやられた。射手の第二陣が到着するまでに生存者の報告が間に合わず、同じ戦いが繰り返され、同じ結末が導かれた。最後になってボズマーは大がかりな軍隊を派遣し、ヴァレンウッドの森の動物たちの助けもあって、カジートを打ち破ってみせた。この最後の戦いとカジートの応戦ぶりについては本書の第2巻で詳しく述べようと思う。 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/55.html
錬金術の基礎 アリャンドン・マスイエリ 著 若い魔術師は見落としがちだが、錬金術は歴史のある学問で、極めれば人生が変わるほどやりがいもある。錬金術の公式で使われる材料の知識を深めるのは難しく、危険をともなうが、あきらめずに真摯に研究を続けていけば、最後には大きく報われる学問と言えよう。 成功を勝ち取るためにも、それを目指すためにも、まずもって初級の錬金術師は錬金術の基本原理を理解しなければならない。この世の道具のほとんどは自然界の有機物から作られており、マジカの特性を含んだ根源的な成分に分解することができる。腕のいい錬金術師になると、材料のさまざまな特性を利用できるようになる。数種類の材料の源を混ぜ合わせることで薬ができあがる。もちろん、誰が飲んでもよい。(伝説によると、真に偉大な錬金術師はひとつの材料から薬を調合できたという。それだけの離れ業を身につけるには並大抵の努力では足りないだろう) 錬金術師の調合する薬は材料によって多彩な効能が生まれる。そのなかには毒となるようなものさえある。たいていのレシピからは、正と負の効果を併せ持つ薬が生成される。どのレシピが最高の結果をもたらすのか、それを見つけるのは錬金術師にかかっていると言えよう。(負の効果だけを持つ薬を生成すれば毒として利用できることも覚えておくといいだろう。本書ではこの実践を推奨しないため、これ以上の言及は避けておく) ウォートクラフト ウォートクラフトは、実際のところ、素人向けの錬金術である。材料を食べるには歯ですりつぶさなければならないが、その結果、もっとも純粋な源だけが解放され、食べた人に瞬間的な効果をもたらすのだ。ウォートクラフトでは、きちんとした道具で作られる薬のような効果は期待できない。 錬金術のツール 乳鉢と乳棒は錬金術に欠かすことのできないツールである。これがないと、薬として使えるように材料をうまく下準備することができない。新進の錬金術師はこれらのツールを肌身離さず持ち歩き、早いうちにその扱いに慣れておくべきだろう。材料をすりつぶすことは薬を作るうえで欠かせない基本手順となる。きちんと製粉された紅花草の花弁は粉末状になり、朝鮮人参のような材料を混ぜ合わせることで解毒剤ができあがる(これは錬金術師がもっとも早いうちに学んで身につけるレシピのひとつだろう。調合に失敗したときにお世話になることの多い薬だからである)。 腕のいい錬金術師なら、薬の質を高めるためのツールも扱えるようになる。レトルトを使うと混合物を純化することができ、薬の正の効果を高める。混合物を蒸留器で洗浄すると、不純物が取り除かれ、負の効果を減らすことができる。燃炉を使えば、混合物の不純物を焼却することができ、薬の効能がアップする。これらの道具は薬の生成に必ずしも必要なわけではないが、使わない手はないだろう。 材料の組み合わせ 薬の質は材料に依存する。同等の効果を持つ材料だけで薬を調合するのが無難だろう。ひとつの薬に対して4種類までの材料なら、問題なく使用できるようである。 錬金術師は材料の下ごしらえの腕前が上がっていくと、新たな特性を見つけられるようになり、それらを薬に利用することができる。錬金術師としての幅が広がるわけだから嬉しい瞬間には違いないが、完成時にどのような効果を持った薬になるのかしっかりと把握しておくべきであろう。すでに確立されたレシピの結果が変わる可能性があるうえ、すべてがプラスに働くわけではないからである。 白1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/223.html
フローミルの詩(うた) フロガーの血を継ぐフローミル 彼の者を宮廷へと呼び寄せたのは エバースノーの地を統べる王にして ヴィジンモアの血を継ぐヴィジンダックであった 「大いなる光の魔法の使い手よ アエルフェンドールの地を征け! 闇の王たちが我が領地に影を落とす! 影の魔女が我が領民の光を奪う!」 王命を賜るフローミル 「この輝く氷の杖に誓い 必ずや成し遂げましょう! ……ですがしばしのご猶予を 美味なる最上のはちみつ酒と 麗しき四人の乙女が この地で私を引き止めるのです」 王は静かに首を振る 「この使命半ばに倒れた剣を拾うは その友たる汝がさだめ」 いつもの余裕はどこへやら フローミルから笑みが消えた 「ご冗談を 私の友ダーファングの剣に敗北なし 私の杖をおいて他に並ぶものなし」 「アエルフェンドールの闇に ダーファングはひざまずいた 汝の友の汚名を雪げ!」 フロガーの血を継ぐフローミル 友を想い心が逸る 馬を駆り立て二十日と三日 星なき夜へ辿り着く アエルフェンドールの地を統べるは三人の闇の王 光蝕む闇が朝を拒み 終わらぬ夜をもたらす 光奪われし民が愛を忘れ冷たく哂う 杖の先に光を灯し 呪われし地の深奥を照らす そこは漆黒の門 そこは漆黒のアエルフェンドール城 頭上から闇の王たちの嘲笑が降り注ぎ 背後から刃が振り下ろされる まぎれもないダーファングの姿 「友よなぜだ!? なぜ心を闇に染めた!?」 互いの顔も見えぬ闇夜の広間 血に濡れた友の剣にかつての光は無い 「俺を友と思うなら 俺の為に死んでくれ」 フローミルの杖とダーファングの剣 ぶつかり合う二人の強者 無二の友が今ぶつかり合う 背中の傷が痛む 友と戦わねばならぬ心が痛む 時もわからぬ闇夜の広間 一瞬とも永遠ともつかぬ戦いに決着はつかない 不意に小さな光がこぼれた 友の目からあふれた涙 そのわずかな光が彼の姿を照らし出す 友のものではない影を映し出す 真実を知るフローミル 友を信じ続けたフローミル 友の影に杖を振り下ろし叫ぶ 「生ある者 ダーファングよ その心に真の光を!」 友の影から魔女現る 醜き闇が偽らせたのだ 「生ある者 フローミル 友の命惜しくば 大いなる光の力 闇に捧げよ! アエルフェンドールのチャンピオンとなれ!」 卑劣な要求に迷いなき返答 「影の魔女よ 友を解き放て! 私の身を捧げる!」 魔女は下卑たる笑いを上げ ダーファングは光を取り戻した 「生ある者 フローミル 身も心も闇のしもべとなり 影の魔女たる私を愛せ」 誇りも名誉も全て失い 死を選ぼうとするダーファングを引き止める 「友よ 生ある者よ お前は二度と光を見失うな!」 ダーファングは城を後にし フローミルは魔女の手に口付けした 「これより私は闇への忠誠を誓う 愛する影の魔女よ」 フローミルは 深く被った頭巾で決して素顔を見せぬ魔女と 毎晩床を共にした 闇に染まった氷の杖は 大地を氷に閉ざし 長い冬をもたらした 月日は流れ 闇の地アエルフェンドールに変化が訪れた アエルフェンドールは春を迎えていた 寝台で眠る影の魔女 その横顔を窓から照らす一筋の光 夜空を朝日が切り裂いた 魔女は飛び起きた 窓から見渡す限りの世界が朝を迎えていた 乾いた岩肌は輝く花々に覆われ 温かな風が甘い香りを運ぶ 魔女の素顔は暴かれていた 漆黒のアエルフェンドール城は騒然とし 混乱に満ち溢れる 「影の魔女よ、そなたの頭巾はどこに?」 「生ある者 フローミル お前の仕業か」 怒り狂う魔女に笑いかけるフローミル 「愛する影の魔女よ 恥じることは無い 美しいその素顔をもっと見せてくれ」 魔女の存在を隠し続けていた頭巾は フローミルの手にあった 「愛する影の魔女よ 私は誓いを守りお前を愛す そして愛するが故に私は頭巾を返さない」 アエルフェンドールの闇の呪いは 頭巾が作り出した魔女の心の影だった 「愛する影の魔女よ 私はフロガーの血を継ぐフローミル 大いなる光の魔法の使い手 輝く氷の杖がお前の心を溶かす」 「生ある者 フローミル お前は見事に光と名誉を取り戻した」 影の魔女は最後にフローミルにそっと口付けすると 頭巾と共にいずこへと消え去った アエルフェンドールは救われた フロガーの血を継ぐフローミル 美味なる最上のはちみつ酒と 麗しき四人の乙女が待つ エバースノーの地へ戻った 友であるダーファングと共に 茶2 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/98.html
現代の異端者:帝都内のデイドラ信仰の研究 ゴトルフォントのハデラス 著 シロディール内ではデイドラ信仰は法で禁じられてはいない。これは主に、デイドラの召喚を許可するために帝都が魔術師ギルドに大して認めた特権の結果といえる。にもかかわらず、聖職者および一般大衆からのデイドラ信仰への風当たりが非常に強いため、デイドラ関連の儀式を行う者たちは秘密裏に活動している。 一方で、諸地方に目を向けてみるとデイドラ信仰に対する見方は様々である。シロディール内でも年月と共に伝統的な世論に少なからぬ変化が見られ、デイドラを信仰する集落も存在している。伝統的なデイドラ信仰を志す者には信仰心や個人的な信念を動機とする者がいるのに比べ、現代的なデイドラ信者の多くは魔法的な力を目当てにしている傾向がある。とりわけ冒険家と呼ばれる人種は、伝説に名高いデイドラの秘宝の武器としての、もしくは魔法的な利点を追い求める傾向にある。 筆者自身も、暁と宵の女王であるアズラを信仰する一団と遭遇している。デイドラ信仰に興味をもつ研究者は複数の方法で調査を進めることができる。既存の文献の研究、古代のデイドラの祠の探索および発見、各地の情報通からの聞き取り、そして信者そのものからの聞き取りなどが挙げられる。筆者自身はアズラの祠を発見する際にこれらの手段を 全て用いている。 筆者は最初に文献を紐解くことにしている。本書のような解説書からデイドラの祠に関する一般的な事情などを知ることができる。筆者が自身の研究によりシロディール内のデイドラの祠について理解している事項を例示すると、一般的に、デイドラの王の像が祠の象徴となっており、祠の位置は集落などから離れた野外にあり、各々の祠には信者の一団がついており、祠ごとにデイドラの王への嘆願などを行うべき特定の時間(週の間のある日であることが多い)が決まっており、デイドラの王は嘆願者が十分な力を有しているか、相応の人物でない限り嘆願に応じないことが多く、また返答を得るには適切な供物を捧げる必要があり(捧げるべき供物については信者の一団のみが知る秘密となっていることが多い)、そしてデイドラの王は何らかの仕事や使命を達成した冒険家にはしばしば魔力をもった秘宝を授けることがわかっている。 筆者は次の段階として、周辺地域の地理に精通している地元住民に聞き取りを行う。とりわけ得るものが多い聞き取り対象は二つあり、一つめは(移動中に祠を発見する可能性のある)旅の狩人や冒険家であり、二つめは魔術師ギルドの学者たちである。アズラの祠については、どちらの対象も有益な情報源となってくれた。旅路の途中で奇妙ながらに雄大な彫像を見かけたというシェイディンハルの狩人によると、像は両腕を伸ばした女性の姿をしており、片方の手には星を、他方の手には三日月を持っていたとのことだった。祟りを恐れて像を避けたものの、その位置は記憶しており、シェイディンハルの遥か北方、アリアス湖の北西、ジェラール山地の奥深くという情報が聞き出せた。像の外観に関する情報が得られたので地元の魔術師ギルドを訪ねてみると、その外見を元に信仰の対象となっているデイドラの王の正体が特定できたのであった。 祠の位置が判明したので現地に足を運んでみると、祠の周囲に信者の一団が住みついていることがわかった、デイドラ信仰に対する風当たりの強さゆえ、信者たちは当初こそ自分たちの素性を認めたがらなかったものの、筆者が彼らの信頼を得た後にはアズラが嘆願に耳を貸す時間帯(夕暮れから夜明けまで)に関する秘密や、捧げるべき供物がウィル・オ・ウィスプから得られる「発光する塵」であることを教えてもらえた。 筆者は一介の聖職者兼学者であるため、ウィル・オ・ウィスプを発見して発光する塵を入手することはかなわなかったうえ、供物として捧げられたとしてもアズラが耳を貸してくださったかどうかは定かではない。しかし、仮に供物を捧げてアズラがそれを認めてくださった場合、筆者は何らかの使命を与えられ、それを達成できた暁には伝説的な魔力を秘めたデイドラの秘宝「アズラの星」を授かることができた可能性があったのは確かである。 筆者はその後、シロディール内に上記以外にも複数のデイドラの祠が存在すること、およびそれぞれの守護神であるデイドラの王の名、そして冒険家たちが授かりうるデイドラの秘宝に関する噂を耳にしている。狩人のハーシーンは強力な魔力を帯びた鎧である「聖者の生皮」の伝説と結びついている。魔剣「ヴォレンドラング」は妖魔の王マラキャスと関連があるらしく、守護神の名をそのまま冠した「モラグ・バルのメイス」もデイドラ信仰の対象となっているようである。シロディール内にあるこれら以外のデイドラの王の祠および信者たちについては、たゆまぬ努力を続ける探求者たちによって明らかにされていくことだろう。 デイドラの神像関連 メインクエスト関連 神話・宗教 紫1