約 3,520,824 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/30.html
戦士ギルドの歴史 第二紀283年、支配者ヴェルシデュ・シャイエは、帝都分裂の危機に直面していた。タムリエルに散らばる隷属国の反抗ぶりは新たな次元に到達し、公然と彼の支配に挑んでくるようになった。彼らの税金の支払いを拒絶し、軍を率いて各地の帝都軍に襲いかかった。ドーンスターの砦が陥落すると、シャイエは帝都評議会を招集した。ドーンスターの南にある会合地となった街の名前をとって、「バードモント会議」とでも呼んでおこう。その会議で、大君主は包括的かつ普遍的な戒厳令を宣言した。軍隊を解散しないタムリエルの王子たちには大君主の懲罰が待っていた。 それからの37年間は、タムリエルの歴史において、もっとも血なまぐさい時代となった。 王立軍をひとつ残らず叩きつぶすため、ヴェルシデュ・シャイエはみずからの精鋭軍の多くを犠牲にすることを強いられた。さらに、帝都公庫の財源もほとんど使い果たした。それでも、かれは考えられないことをやってのけた。歴史上初めて、地上に軍隊がひとつしかない、シャイエの軍隊しか存在しない時代が到来したのである。 いくつかの問題がすぐさま表面化した。それは、シャイエの偉業と変わらないほと衝撃的なものだった。シャイエの戦争は貧困を蔓延させていた。敗戦国もまた、軍資金を防衛費につぎ込んでしまっていた。農民も商人も生活の手段を粉みじんに破壊されていた。タムリエルの王子たちは以前のように税金を出し渋るのではなく、払いたくても払えなくなっていたのだ。 戦争で利ざやを稼いだのは犯罪者だけだった。地元の衛兵や義勇軍が消えうせた今、逮捕される心配もないまま、彼らは無法と化した土地の残骸を食い荒らした。シャイエが最後の家来の軍を破壊する以前からアカヴィルが懸念していた事態だったが、解決策はどこにもなかった。シャイエとしては、隷属国に軍隊を再組織させるわけにもいかず、結果として、かつてないスケールで無秩序が深まりつつあった。シャイエの軍は犯罪の増加を食い止めようとしたが、地元の犯罪組織は中央政権をみじんも恐れてはいなかった。 320年の幕開けとともに、ヴェルシデュ・シャイエの親類である「鉄宰」ディニエラス・ヴェスが、大勢の仲間を従えて大君主に謁見した。常備軍の代案として、利益を追求した、貴族が雇うことのできる傭兵の結社を作ってはどうかと提案したのが彼だった。雇用契約は一時的なものとし、契約料の数パーセントを中央政府が徴収する。そうすることで、シャイエの激痛のうち、ふたつは癒せるのではないかと。 結成当時はまだ、ツァエシ語で「戦士」を意味する「シフィム」と呼ばれてはいたものの、ここにおいて、後に「戦士ギルド」として知られるようになる組織が誕生したのである。 「鉄宰」ディニエラス・ヴェスは当初、アカヴィル人だけの結社にすることが大切だと考えていた。彼がこうした信念を抱いていたことはどの歴史家も認めるところだが、その動機については意見が分かれる。古典的でシンプルな理論は、ヴェスは同郷人のことをよくわかっていて、信用しており、利益のために戦うという彼らの伝統がプラスに働くと踏んだからだ、というものだ。また、鉄宰と大君主のどちらもこの組織を利用して、五百年前に端を発するタムリエルの征服を達成しようとしたのだという、これまたもっともな意見もある。第一紀2703年にタムリエルを襲撃したとき、アカヴィルはリマン王朝に撃退された。そして今、大君主が権力の座につき、ディニエラス・ヴェスの策謀によってアカヴィル人だけの現地軍が生まれようとしている。戦闘で成し遂げられなかったものを、忍耐力でまんまと成し遂げようとしていたのだ。多くの研究者が提唱するように、こうしたやり方はアカヴィルのツァエシにとって、伝統的な戦略なのである。なにしろ彼らはいつでも時間を味方につけられる不死の蛇人なのだから。 だが、それらは空論でしかない。シフィムはシロディールと隣接するいくつかの王国で地位を確立したものの、あっという間に現地の戦士の必要性が高まった。問題の一部は単純に、なすべき仕事をこなせるだけのアカヴィル人がいなかったということだ。それと、配属された地域の地理や政治を蛇人が理解しないという問題もあった。 シフィムがアカヴィル人だけでは成り立たないことは明白だった。そして、その年の中頃までに、戦士兼妖術師、ならず者、騎士といった3人のノルドが組織に加わった。 そのノルドの騎士は、名前は時間の流砂に埋もれてしまったが、腕のいい鎧職人でもあった。それにひょっとすると、ディニエラス・ヴェスを除けばもっとも組織の発展に貢献した人物であったかもしれない。しばしば述べられてきたように、アカヴィル人、とりわけツァエシは鎧よりも武器についての造詣が深い。彼らが鎧を着ることはなかったとしても、騎士は他のメンバーに敵の鎧の弱点を説明し、ポールドンやグリーヴには関節がいくつあるかとか、アケトンとアームカチェン、ゴーゲットとグリドシュリム、パレットとパスガード、陣羽織と草ずりの違いについて説いて聞かせたのだった。 こうした知識のおかげでシフィムは、その心もとない戦力からは考えられないほど効率的に、賊どもを一掃するための長い戦いに勝つことができた。歴史家はこんな冗談すら口にする。アカヴィルが第一紀にノルドの鎧職人を雇っていたら、侵略は成功しただろうに、と。 シフィムに加わった3人の部外者が活躍したことで、現地メンバーの加入に拍車がかかった。その年度末までに、シフィムの活動は帝都全域に広がっていた。若い男や女が大挙して組織に加わった。その理由は、生活が苦しいから、ひと暴れしたいから、冒険に出たいから、犯罪のはびこる隣国を助けたいから、などなど、十人十色だった。彼らは訓練を積み、悩みを抱える貴族を救うべくすぐさま派遣され、管轄区域における衛兵や戦士としての役割を担った。 犯罪撲滅や怪物退治におけるシフィムの目ざましい活躍ぶりが呼び水となって、支配者ヴェルシデュ・シャイエは帝都の是認を求める他の組織の代表者も手厚くもてなすようになった。魔術師ギルドは比較的早い時期に結成されてはいたものの、帝都から疑わしく思われていた。第二紀321年、大君主は「ギルド法案」を採択し、魔術師ギルドは帝都公認のギルドとなった。この法案では他にも、鋳掛師、靴職人、娼婦、代書人、建築家、酒造家、ワイン商、機織工、ねずみ捕獲人、毛皮職人、料理人、占星術師、治癒師、仕立て人、吟遊詩人、弁護士、それと戦士であるシフィムも公認ギルドとなった。ただし、勅許状にはシフィムとは記されておらず、すでに市民のあいだに浸透していた呼称を立てる形で、「戦士ギルド」と呼ばれるようになった。どのギルドも、第二、第三紀にかけて新たに認められた他のギルドも、タムリエルの人民に対する価値を認められ、シロディールのもとで保護され、奨励されることになっていた。対価を払わなければ勢力を広げることはできなかった。ギルドの存在により帝都の基盤は強化され、その財源は再び潤っていった。 ヴェルシデュ・シャイエの死後間もなく、ギルド法案の採択からわずか3年後、世継ぎのサヴィリエン・チョラックは現地軍の再編に着手した。戦士ギルドはもはや地方貴族の主力部隊ではなくなっていたものの、その存在価値は揺るぎないものとなっていた。過去においても、私的財産を求めた力のある個人は確かに存在したが、ディニエラス・ヴェスこそが、近代における冒険ブーム、つまり富と名誉をつかむことに人生を捧げる男たちや女たちの「奔り」とも言える存在であると、多くの歴史家が述べている。 それゆえに、誰もが戦士ギルドに感謝しなければならない。そのメンバーだけでなく、対価を払えば法の範囲内で強い戦士を提供するというギルドの公平なる方針に助けられてきた人々も。戦士ギルドがなければ、どんなギルドも存在しなかったのだから。それどころか、自立した冒険家という生き方すら存在しなかったかもしれないのである。 戦士ギルド関連 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/137.html
先駆者たち シヴァリング・アイルズの奇妙な廃墟の検証と、我々の未来に対するその恐ろしい意義 放浪者イングヴァール 著 地方に点在する古代の廃墟は、シヴァリング・アイルズの住民たちにとっては見慣れた光景である。あまりにも見慣れているため、その重要性について大部分の人たちがこれまで気づかなかったほどだ。最近になって私はこれらの廃墟に隠されていた恐ろしい秘密を発見し、その秘密をここで皆さんと共有したいと思う。しかし忠告しておくが、この知識は一部の人にとっては過酷すぎるかもしれない。恐ろしい運命が待ち受けているというのに、それを避ける術が全くないのだから。残酷な未来があらわになることで受ける精神的な衝撃に耐えられるだけの強い心を持っているなら、読み進めなさい。 廃墟に対する私の興味は、ある単純な観察から始まった。表面的に見る限り、どの廃墟もだいたい同じ古さと建築様式を持っているようである。かつては堅固だったはずのこれらの構造物を作ったのは一体誰で、その人々に一体何が起きたのだろうか? 調査を進めるうち、さらに奇妙な真実が見えてきた。廃墟は一見どれも同じ時代の物のように見えるが、実はそれぞれ大幅に異なる時代の物だったのだ。シラルンの廃墟(比較的保存状態は良いが、間違いなく、現存する地上最古の物)と、約千年前に建てられ、アイルズで最も新しい遺跡の一つであるエブロッカの廃墟とでは、何千年もの開きがあるのだ。この結論を却下される方は、廃墟を訪ねて自分で証拠を確かめてみることを勧める。つまり、建造物の埋まっている部分を覆う地層の深さや、むき出しになった石の風化の度合い、建造物の上および周辺の植物の成長、等々だ。(証拠に関しては、別の研究論文「先人たちの廃墟の年代測定:衝撃の新証拠を徹底解明」にまとめてあり、この件をもっと掘り下げて詳しく調査したいという学者のために喜んで公表したいのだが、今のところまだ出版はされていない。) 様々な廃墟の年代を正確に立証してみたところ、気になるパターンが見えてきた。廃墟はいくつかの明確な年代に分類することができ、それぞれの年代がきっちり一千年ずつ離れているのである(シラルンだけは例外で、その次に古い廃墟から何千年も時代をさかのぼる。このことは、より古い時代の廃墟がまだ発見されずにいるか、あるいは時の試練に破壊されて失われてしまったことを示していると思われる)。 一千年ごとに確実に繰り返されたこの破滅のプロセスは、何を持って説明することができるのだろうか? すぐに思い浮かぶのは、復讐心に燃えた神がその怒りを大地に向けて発散したという古代の物語、グレイマーチの伝説である。もし仮に、それが単なる伝説でなかったとしたら? 実際に起きた出来事が、おぼろげな記憶として伝わっているのだとしたら? 発見された中で最も新しい廃墟であるところのエブロッカの年代を測定することの重要性を、私は即座に理解した。検証の結果、約一千年前の物であることが証明されたのである。そうです、親愛なる読者よ、ついにこの点に到達してしまった。大変動は私たちの身に再び降りかかろうとしているのだ。エブロッカの廃墟に関しては、極めて正確に年代を測定した。我々の破滅が何年に起きるのか、私は知っている。この知識は、他の人たちに負わせてしまうにはあまりにも恐ろしい重荷であるため、正確な日付まで公表するのは差し控えたいと思う。 この概略的な警告書を出版することさえ、パニックあるいは絶望を引き起こしかねないため、私は長い間ためらってきた。しかし、何も知らないまま終末を迎えるよりは、どのようなことであれ、それに向けた準備をする時間があったほうがいいだろうという結論に達したのだ。グレイマーチの伝説が歴史上の出来事に基づく物だということを、私は今や確信している。我々の文明が迎える最後の日が恐ろしい物となることも間違いないだろう。過ぎ去りし時代の強大な都市が残した、破壊されて崩れ落ちた石の数々を見れば、それは疑いない。しかしながら、我々の最後が先人たちの石にすでに書かれていたことを知って、私は奇妙な安らぎを覚え、破滅に抗おうとすることは、押し寄せる波に向かって叫ぶのと同じぐらい無意味なことだとも感じたのである。この暗い見通しに対して、私と同じように安らぎを感じる読者が少しはいることを願っている。 SI 自然・天文・地学 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/209.html
ネクロム事件 ジョンクイラ・ボーズ 著 「つまりはこういうことだ」と、フラクシスは言った。どの彫像にも負けないくらい彫りの深い、毅然とした顔で。「街の西側にある墓地が悪しき存在にとりつかれていて、何年もそのまま放置されているんだ。民はもうそれを受け入れてしまっている。明るいうちに死者の埋葬を終えて、大月神と小月神が夜空に浮かび、邪悪が目覚める前に墓地から離れるようにしている。魔物どもの餌食になるのはよほどの愚か者かよそ者くらいなものだ」 「自然なやり方で厄介払いができていいじゃないの」と、ニトラはけらけらと笑った。背の高い中年の女性で、目は冷たく、唇は薄い。「彼らを救うお金はどこから出るわけ?」 「神殿からだ。墓地の近くの新しい修道院を再開させようとしていて、是が非でも悪霊を浄化したがってる。莫大な報酬がもらえるってことで、依頼を請け負った。私が討伐チームを集め、報酬は分配するという条件つきで。それで君たちを探したわけだ。聞いたところでは、ニトラはモロウウィンド最強の剣士らしいね」 ニトラはむっつりした顔で最高の笑顔をこしらえた。 「それから、オスミックは世に知れた盗賊だ。もっとも、投獄された経験はないらしいが」 頭のはげた青年はどもりながら反論しようとしたが、すぐに笑顔に戻った。「どんな場所でも入れるようにしてやるが、その先はあんたらに任せるよ。こちとら戦いは苦手なんでね」 「ニトラと私の手に負えないことは、マシッサが勇気をもって対処してくれよう」フラクシスはそう言って、討伐隊の4人目のメンバーに向き直った。「とてつもない力と技を秘めた妖術師という触れ込みだから」 マシッサは純粋無垢を絵に書いたような女性で、丸顔に丸い目をしていた。ニトラとオスミックはいぶかしげに彼女を見た。フラクシスが墓地に巣くうモンスターの恐ろしさを説明しているときに、いかにもおびえたような表情を浮かべたのがとくに気になった。彼女が人間の男女以外の敵と戦ったことがないのは明白だった。その場にいる誰もが思った。マシッサが生き残るようなことがあれば、驚くべき番狂わせだと。 夕刻、4人組は重い足取りで墓地に向かう道すがら、新人のマシッサに質問をぶつけてみた。 「バンパイアはいやらしいモンスターだわ」と、ニトラは言った。「病気をばら撒くの。はるか西方のバンパイアは苦悩をもたらすだけでなく、無差別に呪いをかけてまわると言うわ。この辺のバンパイアはそういうことはあまりしないけど、傷を負わされたら手当てをしないとだめ。メンバーの誰かが咬まれたら、回復の呪文とかそういうので助けてくれるんでしょう?」 「少しは知ってるけど、治療師じゃないから」と、マシッサは控えめに言った。 「魔闘士に近いのか?」とオスミックが訊いた。 「至近距離でならかすり傷くらいは負わせられるけど、あんまり得意じゃないの。どっちかというと幻惑師なのよ、私」 ニトラとオスミックは不安感もあらわに顔を見合わせた。と、一行は墓地の門に到着した。影が動いていた。がれきだらけのひび割れた小道を縫うように飛びまわる迷える死霊たち。迷路状になっているわけでもなく、どこにでもありそうな荒廃した墓地だったが、ひときわ目立つ特徴がひとつあった。墓標を見なくても、それが何なのかわかった。シロディール家の無名の役人が安置された第二紀の霊廟が遠くにそびえていた。どこか風変わりな建物だったが、費用のいっさいかからない「腐朽」という様式で作られたダンマーの墓とも釣り合いがとれていた。 「びっくりするほど便利な流派なのよ」マシッサはみずからを弁護するようにささやいた。「あのね、マジカのパワーで、物体の物理的構造を変化させずに認識結果だけをゆがめることが肝要なの。たとえば知覚情報を排除して視力を奪ったりするわけね。聴覚や臭覚も無効にできる。うまく使えば──」 赤毛の女バンパイアが影から躍り出ると、フラクシスの背中を突き飛ばした。ニトラはとっさに剣を抜き放ったが、マシッサのほうが早かった。彼女が手を振りかざすと、モンスターは動くのをやめてその場で固まった。あごでフラクシスの喉を食いちぎろうとする直前で。フラクシスは剣を抜いてバンパイアにとどめを刺した。 「幻惑か?」と、オスミックは訊いた。 「ええ」マシッサは微笑んだ。「バンパイアの動きだけを奪ったのよ、その形態を変えることなく」 四人は小道を乗り越えて霊廟の正門までやってきた。オスミックが鍵をぱちんと外し、毒の罠を解除した。ほこりまみれの廊下を進みながら、マシッサは光の波を照射して影を消し去り、闇の住人をおびき出した。その直後、一対のバンパイアが襲いかかってきた。吠えたりうなったりしながら血をよこせと訴えていた。 戦いが始まった。最初の2匹のバンパイアが倒れるやいなや援軍が飛びかかってきた。吸血鬼どもはけた外れの体力と忍耐力の備わった驚異の戦士だったが、マシッサの麻痺の魔法とフラクシスとニトラの剣術でもって、討伐隊は敵をなで斬りにしていった。オスミックでさえ戦いに加わった。 「危険なやつらね」ようやく戦いが終わると、マシッサは息を切らせて言った。 「クァラだ。バンパイアの血族でもっとも残忍と言われる」とフラクシスは言った。「最後の一匹までやつらを見つけ出して始末せねばならん」 霊廟の地下深くへと進んでいきながら、討伐隊はさらにモンスターを成敗した。それぞれ見かけは異なったが、力と爪でめったやたらに攻撃してくるという点では通ずるものがあった。隅から隅まで霊廟を捜索して怪物を全滅させると、討伐隊はとうとう地上へ引き返すことにした。あと一時間もすれば夜明けだった。 逆上したような叫びやうなり声はもはや聞こえてこなかった。突撃してくる敵もいなかった。最後の攻撃はこれまでとはまるで違ったため、討伐隊は完ぺきに不意を突かれた。 古代の怪物が墓地の出口付近で待ちかまえていたのだ。そうとも知らずに、討伐隊のメンバーは報酬の分け前の使い道について談笑していた。怪物はもっとも手ごわい相手を慎重に見極めると、マシッサに襲いかかった。フラクシスが門のほうから視線を戻さなかったら、マシッサは叫び声をあげる間もなく八つ裂きにされていただろう。 バンパイアはマシッサを墓石に向かって突き飛ばした。鉤爪で彼女の背中を引っかいたが、攻撃の手をゆるめて、フラクシスの剣の一撃を受け止めようとした。バンパイアはきわめて残忍にその思惑を成し遂げた。戦士の腕を肩からもぎとったのだ。オスミックとニトラも加勢したが、負け戦になると直感した。弱っていたマシッサが血を流しながらも岩の山からなんとか立ち上がったまさにそのとき、戦況が変わった。マシッサが魔法の火の玉をバンパイアめがけて投げつけると、怪物は憤激して彼女に向き直った。ニトラはここがチャンスと見るや、剣を一閃、バンパイアの首をはね飛ばした。 「少しは攻撃の呪文も使えるのね、話したとおりに」と、ニトラは言った。 「それから少しの回復呪文も」と、マシッサは力なく言った。「けど、フラクシスは助からない」 戦士は土の上で血まみれになって息絶えていた。三人はしんみりと、朝陽に照らされた郊外をネクロムに向かって歩いていった。マシッサは背中で強烈な痛みが増していくのを感じていた。それから、氷漬けにでもされたように全身の感覚が失われていった。 「感染したかどうか、治療師にみてもらわないと」街に到着すると、マシッサは言った。 「明朝、『蚕と炎』で落ち合いましょう」と、ニトラは言った。「私たちはこの足で神殿に行って報酬をもらってくるわ。きっかり三等分しておくわね」 三時間後、オスミックとニトラは宿屋の一室で、嬉しそうに何度も何度も金を数えなおしていた。三等分してもかなりの額になった。 「治療師がマシッサの症状をみて、さじを投げたらどうする?」と、オスミックは夢見心地で言った。「潜伏性の病ってこともありうるからな」 「廊下で音がしなかった?」ニトラはすかさず訊いた。が、外を調べても誰もいなかった。部屋に戻って後ろ手に扉を閉めた。「あれからすぐ治療師のところに向かっていれば、マシッサはきっと助かるわ。けど、私たちは今夜のうちに金を持ち逃げしたっていい」 「われらの哀れな妖術師のために、最後の乾杯といこうか」と、オスミックは言った。ニトラを連れて部屋を出ると、階下に向かった。 ニトラは笑った。「私たちのあとを追おうとしても、幻惑の呪文だけじゃ何にもならないわ。どんなに便利であってもね。麻痺、光、沈黙。どれもこれも、手さぐり状態じゃ役に立たないもの」 彼らは部屋の扉を閉めた。 「透明化も幻惑の呪文のひとつなのよ」と、マシッサは幽体離脱した状態で言った。テーブルの上の金が宙に浮かび、ぱっと消えた。彼女がバッグにしまったのだった。ふたたび扉が開いて閉じると、部屋は静かになった。数分後、オスミックとニトラが戻ってくるまでは。 小説・物語 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/258.html
メイスの取り扱い 時に戦士は、メイスにはなんの戦術も必要ないと考えるという過ちを犯す。彼らは剣こそ技術のすべてであり、メイスは腕力とスタミナのみであると決め込んでしまう。メイス戦術の熟練指導者として言っておこう、彼らは間違っていると。 正しくメイスを使うには、タイミングと勢いがすべてである。メイスの一振りが始まると、止めるのも速度を落すのも難しい。戦士は打撃だけではなく、その反動にも全力を出さねばならない。敵が前のめりになっているとき、そしてできれば体勢を崩しているときに攻撃を開始すること。敵が後ろに反ることは容易に想像できるので、敵の頭の後ろを狙うこと。メイスがそこにたどり着く頃には、彼の頭がメイスの軌道上にあるであろう。 メイスは肩の高さで構える。攻撃前の巻き上げは、肩から手の幅の距離以上は持ち上げないほうがよい。振り下ろすときは、肘を先行させること。肘が鎖骨の高さを超えたところで、前腕を鞭のように伸ばす。加算された勢いがメイスをさらに早く、さらに強く動かし、遥かに多くのダメージを与えるであろう。 衝突する瞬間、手首の力を抜くこと。メイスは跳ね返り、硬い手首を痛めてしまう。打撃の反動を使ってメイスを構えの位置に戻す、それによって戦士は素早い2撃目の準備ができる。 兵法・戦術 茶4
https://w.atwiki.jp/tes5/pages/120.html
デイドラ(種族) デイドラはオブリビオンの異界に棲む不死者であり、創造主パドメイの流した血から生まれたと言われる。 彼らの中で飛びぬけて力の強い者達がデイドラロードと謳われ、神々に等しい存在として畏怖されている。 『召喚魔法』はどんな形であれ、オブリビオンの異界からデイドラを呼び出す術法である。 本作に登場するデイドラドレモラ 炎の精霊 氷の精霊 嵐の精霊 シーカー ルーカー 本作には登場しないデイドラスキャンプ クランフィア スパイダーデイドラ ズィヴィライ デイドロス オーロラン ゴールデン・セイント ダーク・セデューサー オグリム ハンガー ウィングド・トワイライト 本作に登場するデイドラ ドレモラ 高い知性をもつ人型のデイドラ。主にメエルーンズ・デイゴンの配下である。 黒い肌に大柄な体躯を有し、角を持った『鬼』のような恐ろしい外見をしている。 力を尊び、脆弱な人間やニルンの生物を見下している。実際に彼らは例外なく強靭な戦士である。 しかし、例え人間であっても、勇気と実力を兼ね備えた者にはある程度の敬意を表する。 ドレモラの中でも様々な階級や職業などが存在するが、今回プレイヤーが召喚可能なのは戦士系のみ。 強力なデイドラ装備に身を固めており、凄まじい戦闘力を誇る。 チャール、ケイテフ、キンヴァル、キンリーヴ、キンマーチャー、マルキナズ、ヴァルキナズの順で階級が上がっていく。 ドレモラは彼ら自身を「キン」(人々)と呼んでおり、「キナーズ」はドレモラ種族の一員を指す。 魔法の「ドレモラ・ロード召喚」で呼び出せるのはマルキナズ。 「サングインのバラ」を使うと、PCのレベルに応じた階級のドレモラを召喚できる。 フィールドでの登場は極めて少なく、特定の場所でしか遭遇機会が無い。 倒すと必ず「デイドラの心臓」をドロップする。デイドラ装備作成に必須の素材である。 Battlespire、Morrowind、Oblivionにも登場。 炎の精霊 炎をまとった女性型のデイドラ。 地上を滑るように移動し、火球による攻撃を行う。 体力がゼロになると倒れた後に広範囲に炎ダメージをまき散らす。 三種の精霊の中ではもっとも弱い。 Morrowind、Oblivionにも登場。 氷の精霊 岩の骨格に氷塊がまとわりついた、不格好な巨人のようなデイドラ。 他精霊と違い、近接攻撃以外の攻撃手段を持たない。 腕を槍のように尖らせて突いたり、腕をハンマーのように太くして地面に叩き付けるなどパワフルに立ち回る。 Morrowind、Oblivionにも登場。 嵐の精霊 岩石製の顔を中心に、無数の岩が竜巻のように旋回するデイドラ。「雷の精霊」と呼ばれることも。 ドレモラには及ばないが、三種の精霊の中では最強クラス。 分かりづらいが、ライトニングボルトではなくチェインライトニングを放っている。 Morrowind、Oblivionにも登場。 シーカー アポクリファに生息するハルメアス・モラ配下のデイドラ。 イカのような触手と4本の腕を持ち、無限の図書館で読書に興じている。 戦闘ではステータスダメージを与える魔法や吸収系の魔法を使い、自らの分身を召還することもできる。 アポクリファでは霧のような不定形に姿を変えて漂っていることも多い。 この状態は普通に物理攻撃が通るものの、普段の何倍もの速度で移動が可能。 今作DLC第三弾Dragonbornにて初登場。 ルーカー シーカーと同じくハルメアス・モラ配下のデイドラ。 前作DLCのグラマイトやスケイロンによく似た半魚人タイプのデイドラだが、身長は巨人族に匹敵する。 非常にタフで攻撃力も高い強敵。姿勢を崩すことはできても、吹き飛ばしや吸血鬼の手などは通用しない。 口からは触手が蠢く塊を射出し、接近すると腕や脚から触手を出しつつ攻撃してくる。 ソルスセイム島の海岸で目撃されることもある。 今作DLC第三弾Dragonbornにて初登場。 本作には登場しないデイドラ スキャンプ デイゴン配下の下級デイドラ。能力も知能もそれほど高くない。 Battlespire、Morrowind、Oblivionに登場。 クランフィア デイゴン配下の下級デイドラ。二足歩行の恐竜の様な姿をしている。 素早い上に接近攻撃を反射する性質を持つ為、前作では召喚魔法で頼りにするプレイヤーも多かった。 Battlespire、Morrowind、Oblivionに登場。 スパイダーデイドラ メファーラの眷属で、上半身が人間、下半身が蜘蛛のデイドラ。 デイゴンのタムリエル侵攻の際に貸し出されていたらしく、Oblivionではデイゴンの領域で見かける事ができた。 知能はそれほど高くないが、麻痺や召喚といった魔法で攻撃してくるためなかなか手ごわい。 Battlespire、Oblivionに登場。 ズィヴィライ 暴力的だが高い知性を持つ人型のデイドラ。 種族として特定のデイドラロードに仕えることはなく、各々が仕える主を決めている。 ドレモラ同様非常に残虐であり危険な存在。戦闘の際は前述のクランフィアを召喚しつつ接近戦を仕掛けてくる。 Battlespire、Oblivionに登場。 デイドロス モラグ・バル配下のワニの形をした二足歩行のデイドラ。Oblivionではデイゴンの領域で見る事ができた。 モラグ・バルもかつてはこのデイドラだったとされる。 力自慢であり、魔法はほとんど使わず鋭い爪や牙を用いた接近戦を行う。 Daggerfall、Morrowind、Oblivionに登場。 オーロラン スカイリムではイマイチ不人気なメリディア配下のデイドラ。 金色の全身鎧とアイレイド製の斧を装備している。 Oblivionに登場。 ゴールデン・セイント シェオゴラス配下の金色の鎧をまとった金色の人型デイドラ。女性が非常に多く男性は稀。 シヴァリングアイルズのマニア地方を警備している。 Morrowind、Oblivionに登場。 ダーク・セデューサー シェオゴラス配下の黒色の鎧をまとった暗色の人型デイドラ。 シヴァリングアイルズのディメンシャ地方を警備している。 Battlespire、Oblivionに登場。 オグリム オークの守護神マラキャス配下のデイドラ。 強烈な肥満体型の大型デイドラであり、ごつごつした緑色の肌に巨大な角という醜悪な姿をしている。 脳筋の主に相応しく近接攻撃を好む。 Morrowindに登場。 ハンガー 謀略の王子ボエシア配下の下級デイドラ。 ガリガリにやせ細ったチュパカブラのような姿をしており、ムチのようにしなる長い舌を持つ。 近接攻撃に加えて魔法も操る。 Morrowind、Oblivionに登場。 ウィングド・トワイライト 黄昏の女神アズラ配下のデイドラ。 灰色の肌を持つ妖艶な女性の上半身に爬虫類の脚、腕は上腕部から先が巨大な翼という異形の姿をしている。 Morrowindに登場。
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/204.html
狼の女王 第8巻 ウォーヒン・ジャース 著 筆:第三紀2世紀の賢者インゾリカス 第三紀127年 イチダグの戦の後、皇帝ユリエル・セプティム三世は捕らえられ、ハンマーフェル王国のギレインにある叔父の城にたどり着く前に、怒り狂った群集によって殺された。その後、この叔父セフォラスが皇帝を宣言し、帝都へと向かった。皇帝ユリエルと彼の母親、狼の女王ポテマに忠実だった軍は、新しい皇帝に忠誠を誓った。その支持の見返りに、スカイリム、ハイ・ロック、ハンマーフェル、サマーセット島、ヴァレンウッド、ブラック・マーシュ、モロウウィンドの貴族階級は、さらに高い自治権と帝都からの独立を要請し、認められた。赤金剛石の戦いの始まりである。 ポテマは負け戦を続け、彼女の影響範囲は徐々に狭くなり、最終的にはソリチュード王国のみが彼女の手中に残った。彼女はデイドラを召喚し戦わせ、死霊術師には倒れた敵をアンデッド戦士として蘇らせ、兄弟である皇帝セフォラス・セプティム一世とリルモスの王者マグナスの軍を、何度も何度も攻撃した。彼女の同盟国は、彼女の乱心が増すにつれて離れていき、最後には長年にわたって寄せ集めたゾンビとスケルトン以外はいなくなった。ソリチュード王国は死者の国となった。狼の女王が腐りかけたスケルトンの召使いに給仕されている姿や、吸血鬼の将軍などと軍議を図る姿を語った物語りは、臣下を恐怖に陥れた。 第三紀137年 マグナスは部屋の小さな窓を開いた。ここ数週間で初めて、街の音を聞いた:荷車のきしみ、石畳の上を行く馬のひずめ、どこかで子供が笑う声。顔を洗い、服を着替えるためベッドの横へ戻るとき、微笑みがもれた。そのとき、特徴のあるノックが扉から聞こえた。 「入りなさい、ペル」と、マグナスは言った。 ペラギウスが部屋へ飛び込んできた。もうすでに何時間も前から起きていたのは明らかだった。マグナスは彼の元気に驚き、もし戦闘が12歳の少年によって戦われていたら、どれだけ長引くかを想像した。 「もう外は見ましたか?」と、ペラギウスが聞いた。「街の人々が帰ってきました! お店や魔術師ギルド、そして港には何百ものお店が色々なところから到着しています!」 「もう怖がらなくても良いのだからな。我々が彼らの隣人だったゾンビやゴーストを退治したから、彼らはもう戻っても大丈夫だということを知っているのだよ」 「叔父のセフォラスも死んだらゾンビになるのですか?」と、ペラギウスが聞いた。 「ならない、とは言い切れんな」マグナスは笑った。「なぜ聞く?」 「彼は老いて病気がちだって聞きました」と、ペラギウスは言った。 「それほど老いてはいないだろう」と、マグナスが言う。「彼は60歳、私のたった2歳年上だからな」 「叔母のポテマはいくつですか?」と、ペラギウスは聞いた。 「70歳」と、マグナスは言った。「そして、それが老いているだ。他の質問はまた後でだ。今は司令官に会いに行かねばならんが、夕食のときにまた話そう。それまでは時間を潰し、良い子でいられるな?」 「はい、父上」と、ペラギウスは答えた。彼は、父が叔母ポテマの城の包囲を続けなければならないと知っていた。城を落とし、彼女を拘留した後、宿を出て城へ移ることになる。ペラギウスはそれが憂うつで仕方がなかった。街全体に奇妙な甘い死臭が漂っていたが、吐き気を催さずには城の外堀へさえも近づけなかった。百万の花を投げ込んでも、あそこには意味をなさないであろう。 彼は街中を何時間も歩き、食べ物を買い、リルモスにいる妹と母のために髪飾りの紐を買った。あとは誰にお土産を買えば良いのかを考えていたとき、ふと気がついた。彼の従兄弟にあたる、叔父のセフォラスや叔父のアンティオカスや叔母のポテマらの子供たちは皆、この戦争で死んでしまっていた。一部は戦闘で、そして他は作物が燃やされすぎたせいで起きた飢きんで。叔母のビアンキは去年、亡くなっていた。もう、彼と、母親、妹、父親、皇帝である叔父しか残されていない。あとは叔母のポテマだが、彼女は頭数に入らない。 今朝魔術師ギルドの近くに来たときは素通りした。奇妙な煙や水晶や古い本が置いてある、あの類の店は彼を怖がらせた。今回は、叔父のセフォラスにお土産を買うことを思いついた。ソリチュードの魔術師ギルドからのお土産を。 老婆が扉を上手く開けられずに困っていたので、ペラギウスが開けてあげた。 「ありがとう」と、彼女が言った。 彼女は、彼が今までに見てきた人々のなかで、優に最高齢者だった。彼女の顔は、古く腐ったリンゴに乱れた白髪を巻きつけたようであった。頭を撫でようとした彼女の伸びすぎて、巻き始めた爪を本能的にかわした。しかし、彼女の首に掛かっていた宝石が彼を即座に魅了した。それは輝く1つの黄色い宝石で、何かが中に閉じ込められているようにも見えた。ロウソクからの明かりが当たったとき、4本足の獣がゆっくりと歩き回る姿が映し出された。 「これは魂石」と、彼女は言った。「偉大な魔族の狼男が注入してあるのじゃ。大昔に人々を魅了する力を付呪したのだが、違う呪文をかけようかと思っておるのじゃ。変性学の鍵か防護壁などかのう」彼女は中断し、少年を水っぽく、黄色い目で見つめた。「見覚えがある顔じゃ、名は?」 「ペラギウス」と、彼は言った。普段であれば「ペラギウス王子」と名乗ったが、街中では注意を引かないようにと言われていた。 「昔、ペラギウスという名の人を知っておった」と、老婆は言い、そしてゆっくりと微笑んだ。「1人かい、ペラギウス?」 「父が…… 軍にいて、攻城中です。でも、壁が崩れたら戻ってきます」 「多分、それほど時はかかるまいな」老婆はため息をついた。「どれほど頑丈に作っても、壊れないものは、皆無じゃ。魔術師ギルドで買い物かね?」 「叔父への贈り物を買いに来たのですが……」と、ペラギウスは言った。「ゴールドが足りるか分からないのです」 老婆は品物を見ている少年を残して、ギルドの付呪師の下へ行った。彼はソリチュードに来てまもない、若く、意欲的なノルドであった。多少の説得と多大なゴールドで彼に、魅了の呪文を魂石から外し、気が狂うまで着用者から年々英知を流出させる、効き目の遅い毒を持つ、強力な呪いを注入することに同意させた。彼女は安物の火炎耐性の指輪も買った。 「老婆に優しくしてくれたお礼に、これを」と、彼女は少年にネックレスと指輪を渡しながら言った。「指輪は叔父にあげるといい、彼には浮遊の付呪がしてあるから、高い所から飛び降りるときに彼を保護してくれると言っておきなされ。魂石は君にじゃ」 「ありがとう」と、少年は言った。「でも、これはいただきすぎです」 「優しさの問題ではないのじゃ」と、彼女は正直に答えた。「帝都の王宮の記録の間に1度か2度行き、君のことをエルダー・スクロールの予言の中で読んだのじゃ。君は、いつの日か、皇帝ペラギウス・セプティム三世になるのじゃ、そして、この魂石に導かれれば、子孫は永遠に君のことを覚えているであろう」 その言葉を残し、老婆は魔術師ギルドの裏の路地へと消えていった。ペラギウスは彼女を見送ったが、盛られた石の裏側を見ようとは思わなかった。もし見ていたら、街の下からソリチュード城へと続くトンネルを発見したであろう。そして、もし彼がそこにたどり着けたなら、ゾンビや朽ちた王宮の先に、女王の寝室を見つけたことであろう。 寝室では、自分の城が崩れ去る音に聞き入っているソリチュードの狼の女王を発見したであろう。そして彼は、歯のない微笑を浮かべながら最後の息を吸う彼女を見たであろう。 筆:2世紀の賢者インゾリカス 第三紀137年 彼女の城で1ヶ月間も続いた攻城戦の末、ポテマ・セプティムは死んだ。生前、彼女はソリチュードの狼の女王、皇帝ペラギウス二世の娘、王者マンティアルコの妻、女帝キンタイラ二世の叔母、皇帝ユリエル三世の母、アンティオカス帝とセフォラス帝の姉であった。彼女の死後マグナスは、王族議会の指導の下、ペラギウスを名目上のソリチュード城主とした。 第三紀140年 落馬が原因で、皇帝セフォラス・セプティムが崩御する。弟が皇帝マグナス・セプティムを宣言する。 第三紀141年 ペラギウス、ソリチュードの王者が「時おり変人」と帝都の歴史記録に記される。彼はヴァーデンフェル島の女公爵、カタリシュと結婚する。 第三紀145年 皇帝マグナス・セプティムが崩御する。狂ったペラギウスとして知られるようになる彼の息子が戴冠した。 物語(歴史小説) 茶1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/237.html
「戦士」 レヴェン 著 この本は4巻の本からなる連続物語の3巻目になっている。もし最初の2巻、「物乞い」および「盗賊」を読んでいない場合は、そちらを読むことをお勧めする。 スオイバッド・エロルは自分の過去についてあまり知らなかったし、知りたいとも思ってはいなかった。 子供のころ、彼はエロルガードで暮らしていたが、王国はとても困窮しており、その結果、税金は非常に高かった。彼は多額の遺産を管理するには若すぎたが、彼の破滅を心配した召使いたちが彼をジャレンハイムに移動させた。なぜその地が選ばれたのかは誰も知らない。とうの昔に死んだ召使いの1人が、子供を育てるには良い場所だと思ったのであろう。他に案を持つものもいなかった。 若きスオイバッドよりも甘やかされて育った子供たちもいると思うかもしれないが、恐らく実際にはそんなことはないだろう。育つにつれ、彼は自分が金持ちであることを理解したが、他には何もなかった。家族も社会的地位もなく、警護もまるでなかった。忠誠心は真には買えないと知ったのは1度ではない。自分に巨大な財産という強みしかないことを充分に分かっている彼は、それを守り、そして可能であれば増やすことに必死になった。 一般的にも、良い人たちの中に強欲なものはいるが、スオイバッドは富の入手と貯蓄以外にはまったく興味を持たない珍しい人種であった。彼は富を増やすためならば何でもするつもりで、彼は実際に、魅力的な土地を攻撃するための傭兵を秘密裏に雇い、その後、誰も住みたがらなくなったときに買い上げるといった方法をとった。当然、攻撃はそれで止み、スオイバッドは有益な土地を格安で手に入れることになる。最初はいくつかの小さな農家から始まったが、最近はさらに野心的な作戦行動を行い始めている。 北中央スカイリムには、地理的に興味深いアールトと呼ばれる地域がある。そこは周囲を氷河によって囲まれている休火山低地であるため、土壌は火山によって温められるが、常に霧雨状態で空気は冷たい。そこではジャズベイと呼ばれるブドウが快適に育つが、それはタムリエルの他のどの場所でも萎れて死んでしまう。この奇妙なブドウ園は私有物であるため、そのブドウから作り出されるワインには希少価値があり、極めて高価である。皇帝がこのワインを年に一度飲むには、帝都評議会の許可が必要であると言われている程である。 アールトの所有者を苦しめ、彼の土地を安く手放させるためには、かなりの数の傭兵を雇わねばならなかった。よって彼は、スカイリムにおける最高の私兵集団を雇う必要があった。 スオイバッドはお金を使うことが好きではなかったが、リンゴと同じ大きさの宝石を、ライスィフィトラと呼ばれる将軍に支払うことを承知した。もちろん、支払いは任務が成功したときに行なわれるので、まだ渡してはいなかったが。しかし、こんな素晴らしいものを手放すことを分かっている彼は、夜も眠れなかった。彼は盗賊が夜うろつくのを知っていたので、倉庫を監視するためにいつも日中に寝た。 ある日、うつらうつらした眠りからスオイバッドが昼頃に起き、突然、彼の寝室で盗賊に出くわした。その盗賊こそ、エスラフであった。 エスラフはどのように窓から飛び降り、要塞化された大邸宅の壁の表にある百フィート下の木々の枝に体をあて、いかに積んである干草に身を投じるかを沈思していた。そのような離れ技に挑戦したことがある人はおそらく、かなりの集中力と度胸が必要であると言うであろう。寝ている富豪が起きたのを見たとき、その両方とも吹き飛んでしまい、エスラフは飾ってある装飾用の大きな盾の裏に潜み、スオイバッドが再び眠りにつくのを待った。 スオイバッドが再び寝ることはなかった。彼は何も聞いてはいないが、誰かが一緒に部屋の中にいることを感じた。彼は立ち上がり、部屋の中をうろうろし始めた。 スオイバッドは歩き回ったが、徐々に自分が想像しているだけだと思い込んだ。そこには誰もいない。彼の富は無事だ。 何か物音を聞いたとき、彼はベッドに戻りかけていた。振り向くと、ライスィフィトラに渡すことになっている宝石が、アトモラの騎兵用の盾から少し離れた床上に見えた。盾の裏から手が伸びてきて、それを拾い上げた。 「盗賊だ!」スオイバッドは叫び、宝石で装飾されたアカヴィリ剣を壁からつかみ下ろし、盾に向かって突進していった。 エスラフとスオイバッドの「戦い」は偉大な決闘の記録には残らない。スオイバッドは剣の扱いを知らなかったし、エスラフは盾による防御に関して無知であった。その戦いはぎこちなく、不細工であった。スオイバッドは激怒していたが、繊細な飾り付けを傷めて価値を下げてしまうような使い方を心理的にできなかった。エスラフは盾を彼と剣の間に置くようにしながら、盾を引きずりつつ動き続けた。何といっても、それが盾防御の要である。 スオイバッドは盾を殴りながら叫び、その盾は殴られる反動で部屋を移動していった。宝石はライスィフィトラという名の偉大な戦士に約束されていると説明し、返してくれるならスオイバッドは喜んで他のものを渡すと、彼は盗賊と交渉すら試みた。エスラフは天才ではなかったが、それでもそれが嘘だと判った。 主人の呼び出しに応え、スオイバッドの衛兵が寝室に到着したときには、窓の近くまで盾を追いつめていた。 スオイバッドよりも遥かに剣の力量に富む彼らは盾にのし掛かったが、そこには誰もいなかった。すでにエスラフは窓から飛び降り逃走していたのだ。 懐にしまったゴールドを鳴らし、巨大な宝石が体に擦れるのを感じつつ、ジャレンハイムの街路を重そうに走るエスラフは、どこに行けば良いのか分からなかった。ただ、この街にはもう戻れないということと、宝石の所有権を持つライスィフィトラという名の戦士に会うことだけは絶対に避けなければならないことはわかっていた。 エスラフ・エロルの物語は、「王者」に続く 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/163.html
結婚持参金 ドゥーマー太古の物語 第10部 マロバー・サル 著 イナレイはグナルで最も裕福な地主であった。彼は、娘のゲネフラと結婚する男のために、長年にわたって莫大な額の持参金を蓄えてきた。彼女が結婚を承諾できる年齢に達すると、彼はゴールドをしまい込み、娘を結婚させると公表した。彼女はは顔立ちがよく、学者であり、運動も万能ではあったが、気難しく考え込んでいる印象を与える容貌であった。花婿候補として名乗りをあげてくる男たちはこの性格上の欠点を気にしていなかったし、それ同等に彼女の特性にも関心がなかった。男たちは皆、ゲネフラの夫、そしてイナレイの娘婿として莫大な富が手に入ることを知っていた。それだけで、何百もの男たちがゲネフラのもとへ求愛に訪れるに十分であった。 「我が娘と結婚する男は……」と、イナレイは参列者たちに言い放った。「金銭欲から結婚を希望してはならぬ。私が満足する自らの富を示さなければならぬ」 その簡単な表明によって、彼らのわずかな財産では地主を感心させられないと分っていた男たちの大多数は離れていった。それでも以後数日間、数十名は良質なキラーク布と銀糸で仕立てた衣服をまとい、異国の召使いたちを引き連れ、素晴らしい乗り物に乗って現れた。訪れた男たちでイナレイに認められたものの中でも、ウェリン・ナリリックの服装はひと際輝いていた。誰も聞いたことがないこの若い男は、ドラゴンの群れに引かせる眩い黒檀の乗り物に乗り、非常に珍しい仕立ての衣服を身にまとい、グナルの誰も今までに見たことがないような幻想的な召使いの行列に付き添われて到着した。従者の目は前後左右に着いていて、召使いたちはまるで宝石を散りばめたかのような外観であった。 それでも、イナレイにとって十分ではなかった。 「我が娘と結婚する男には、自分が知的であることを証明してもらう。私の義理の息子、そして一緒に仕事をする上で、無知な男はほしくない」と、彼は宣言した。 この宣告で、贅沢な生活の中でほとんど物事を考える必要が無かった大多数の求婚者が失格となった。それでも、それからの数日間、才覚と教養を披露したり、過去の偉大な賢者の言葉を引用したり、基本原理や錬金術に関する持論を披露する男達が数人訪れた。ウェリン・ナリリックも同様に、彼がグナルの郊外に借りた別荘で食事をともにするようイナレイにお願いした。そこで地主は、数多くの筆記者がアルドメリ語の小冊子を翻訳する姿を目にし、その若者の、少々的外れではあるが興味をそそる知性を楽しんだ。 イナレイはウェリン・ナリリックに十分感心していたが、それでもなお、別の課題を出した。 「私は娘を深く愛している」と、イナレイは言った。「また、娘が結婚する男にも彼女を幸せにしてほしい。もし彼女を笑わせることができる男がこの中に居るならば、娘と莫大な持参金を与えよう」 それからの数日間、求婚者たちは列をなし、彼女に歌を捧げたり、深い愛情を示したり、彼女の美しさをこれ以上ない詩的な言い回しで表現した。ゲネフラは憂うつさと嫌悪で彼らを睨むばかりであった。彼女の側に居たイナレイは、とうとう失望し始めた。求婚者たちは皆、この課題を果たせずにいるのだ。ここでやっと、ウェリン・ナリリックが部屋に入ってきた。 「私があなたの 娘を笑わせましょう」と、彼は言った。「思い切って言いますが、私と彼女の結婚を認めていただいた後に、彼女を笑わせます。もし、婚約から1時間経っても彼女に喜んでいただけなかったら、結婚は破棄していただいて結構です」 イナレイは娘のほうを向いてみた。笑ってはいなかったが、目の中に、彼女がこの若者に対して陰湿な興味を持った色が伺えた。他の求婚者たちはそんな反応すら彼女から得られなかったので、彼は同意した。 「もちろんのことながら、持参金は結婚してからでなければ支払われない」と、イナレイは言った。「婚約だけでは不十分だ」 「持参金を見せていただけますか?」と、ウェリンは頼んだ。 この宝がどれだけ有名で、恐らくこの若者が実際に手にすることはないだろうと考えたイナレイは了承した。彼はかなりウェリンのことが気に入っていた。イナレイの命令で、ウェリン、イナレイ、不機嫌そうなゲネフラ、そして城代の一行は、グナルの砦奥深くへと進んだ。最初の扉を開錠するにはルーン文字を連続で押さなければならなかった。もし一つでも押す文字を間違えたならば、毒矢の一斉射撃が盗賊を見舞ったであろう。イナレイは次の警備策を特に誇りに思っているようだ── 錠は18本の回転式の刃で構成され、3本の鍵を同時に回すことで入室が許される。刃は、一つだけの鍵穴を破ろうとする者を切り刻むように作られている。ようやく一行は保管室に辿りついた。 完全にカラだった。 「ああ、ロルカーンよ、強盗に入られた!」イナレイは悲痛に言った。「しかし、どうやって? 誰がこんなことをできたのだ?」 「恐れながら申し上げますが、かなりの才能がある強盗のようです」と、ウェリンが言った。「長年にわたってあなたの娘を遠くから愛し続けた男でしたが、人を感心させるようなごう奢さも教養もありませんでした。でもそれは、彼女の結婚持参金が私にその機会を与えてくれるまでの話です」 「貴様が?」と、とても信じられないイナレイは叫んだ。その時、さらに信じ難いことが起きた。 ゲネフラが笑い始めたのだ。彼女は、このような盗賊と出会えるなどとは夢にも思っていなかった。彼女は、激怒している父の目前で、ウェリンの両腕の中に飛び込んで行った。しばし時がたち、イナレイも同様に笑い始めた。 ゲネフラとウェリンは1ヶ月もしないうちに結婚した。彼は実際貧乏であったし教養も無いに等しかったが、この義理の息子と一緒に仕事を始めてからの富の増えかたにイナレイは驚きを隠せなかった。ただし、その過剰なゴールドの出どころに関しては絶対に聞かないようにした。 出版社注: 乙女の心を得ようとする男に対して、父が(一般的には裕福な男か王者)すべての求婚者に試練を課す物語はよくあります。もっと最近の物語で例えると、ジョル・ヨリベス著『ベニタールの四人の求婚者』です。登場する人物の行動はドゥーマーの柄に合っていません。今日では、誰も彼らの結婚に関する風習を知るものも居ませんし、結婚自体が存在したか知る由もありません。 「ドワーフの消失」に関して、本書や、マロバー・サルが著述した他の書物から、一つの奇妙な説がもたらされています。その説は、ドゥーマーは実際ニルンを離れてはおらず、ましてやタムリエル大陸からも出てはいない、彼らはいまなお変装して我々の間に潜んでいると唱えています。これらの学者達は「アズラと箱」の話を引き合いに出して、ドゥーマーが理解することも支配することも出来なかったアズラを恐れていたことを示唆し、アズラの目を逃れるために、彼らがキマルやアルトマーの作法や服装を真似たとしています。 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/104.html
ペリナルの歌 第6巻:その憤怒 [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] [そして]彼はパドメイのように、シシスによってこの世界に生まれ、この世を変える力を与えられていたと言われる。ニューテードのフィフドのように、あるものは、ペリナルの星の防具に隠された胸はぽっかりと開いてその中に心臓はなく、ダイヤモンドの形をした赤い憤怒が粗暴なドラゴンのように吼えているだけだという。これは、彼が神話の再現者であることの証であるという。彼が歩を進めたところは思い通りに形作られたともいわれる。ペリナル自身はこれらの言説を気にかけず、神の論理を唱える者は全て殺した。しかし、美しきペリフだけは例外であった。ペリナルは彼女について「話すより前に行動する。実行を伴わない言葉は死んだ目撃者のようなものだ」と言った。兵士たちが彼がそう言い放ったのを聞いて呆然としているうちに、彼は笑って剣を抜き、カイネの雨の中へ飛び出して行った。そして彼は捕虜のアイレイドたちを虐殺し、「おお、神よ、これが俺たちの憤怒だ! お前たちを見る俺を見ているお前たちが見えるぞ! 俺たちが作ったウマリルは、俺たちを呼び覚ました!」と叫んだ。[そして、そういった]怒りに任せた気まぐれを行うとき、ペリナルは憤怒に我を忘れるのだった。そうなったとき、彼が通った後の土地は神の力を持つ彼の狂暴によって全て滅ぼされ、憤怒の後の虚無がやってくるまでその状態は続くのだった。アレッシアは神々に祈り助けを求めねばならず、神々は心を一つにして救いの手を差し伸べ、ペリナルに殺しの願望を忘れさせ、地上のもの全てを破壊することをやめさせた。ギー族のガリドはかつて、そうしたペリナルの憤怒を遠くから目の当たりにしたが、その後、ペリナルが落ち着いたころにともに酒を飲む機会を得、憤怒に身を任せているあいだはどんな気分なのかと尋ねた。ペリナルは簡潔に答えて言った、「見るもののいない夢のようなものだ」と。 歴史・伝記 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/135.html
帝都領モロウウィンドについて サンホルドのエラマンウェ 著 ハンマーフェルの征服後、帝都軍はシロディール北東の国境に集結し、攻撃艦隊はスカイリムで待機していた。 当初、帝都軍と帝都海軍は無敵の存在として広く知られていたにもかかわらず、インドリル家と神殿の幹部たちは死ぬまで戦うと宣言した。レドランとドレスはインドリルの側につき、テルヴァンニは中立を保った。フラールは和解を提案した。 ブラック・マーシュ国境付近での不自然な事件はうやむやのうちに終息したものの、泥だらけの地形のため、陸軍と海軍の連携はうまくいかなかった。シルグラッドの塔とクラゲンムーアの西、およびブラックライトとコーマリス・ビューの西に集結していた帝都軍に対し、モロウウィンドの在郷軍は悲しいほど脆弱で、レドラン傭兵の小隊と貴族のエリート部隊、それに神殿のオーディネイターやアーミガーが頼みの綱であった。さらに事態を複雑にしていたのは、インドリル、ドレス、フラール、テルヴァンニが西の国境への駐屯を拒絶したことであった。インドリルとドレスは西の国境を守ることよりも、内地に撤退してゲリラ戦を挑んではどうかと申し出た。フラールは和解案を提唱し、テルヴァンニはどちらの側にもつかず、結果としてレドランは独りで帝都に立ち向かうことを余儀なくされた。 状況が劇的に変わったのは、ヴィヴェック市においてヴィヴェック本人が、皇帝タイバー・セプティムとの和平交渉が継続中であることを発表したときだった。それにより、モロウウィンドは帝都領として再編されるが、あらゆる信仰の権利と自治権は保証されるというものだった。前もって何も知らされていなかった神殿の幹部たちは愕然とし、ぎこちない沈黙がその場を支配した。インドリルは死を賭して抵抗すると誓い、忠実なるドレスも追従した。帝都に孤立無援の戦いを挑みかけていたレドランは、この発言を都合のいい口実にしてまんまと戦闘を回避し、フラールと結託して条約締結を歓迎した。テルヴァンニは風向きを読んでからフラールとレドランの側について条約を支持した。 セプティム皇帝とヴィヴェックとのあいだでどのような話し合いが持たれたのか、どこにその場が設けられたのか、詳しいことは何もわからない。条約に至るまでの経緯も一切が伏せられたままである。公には、関係者の身元を保護するためだという説明がなされている。西方では、ズーリン・アルクタスのとりなしで条約が締結されたという憶測が飛んでいた。東方では、ヴィヴェックがヌミディウムに対し、アルトマーとサマーセット島の征服における支援を申し出たのではないかという噂が囁かれていた。その見返りとして、モロウウィンドの自治権、家の伝統、宗教活動を認めるという大幅な譲歩を実現させたのだと。 最高評議会の上級評議員であるインドリルはこの条約を認めようとせず、地位を退くことも拒否した。彼は暗殺され、後任にはフラールが選ばれた。インドリル家に積年の恨みがあったフラール家はここぞとばかりに血の粛清を行い、地元評議会のメンバーの顔ぶれががらりと変わった。モロウウィンドが独立国家から帝都領へと変遷を遂げるまでには、帝都軍に対するよりもこうした家柄同士の争いでより多くの血が流れたのだ。 帝都軍の将校はモロウウィンドの侵略を恐れていた。ダンマーは神殿や氏族の伝統を重んじる頭のいかれた敵だとして恐れられていたからだ。彼らはモロウウィンドの政治的弱みには気づかなかったが、皇帝タイバー・セプティムはそのことを読み取って利用したのである。それと同時に、セプティムの征服した他の領地では悲劇的な人口減少と破壊があったこと、さらにモロウウィンドの下層階級および上流階級のどちらにも与える影響が比較的少ないまま、モロウウィンドにおける帝都の法制度と経済への同化が迅速かつ効果的に進んだことを考えたら、モロウウィンドの救いようのない防御の脆さを認め、交渉の席でいの一番に和平案を提示して重要な譲歩を勝ち取った法廷の功績もまた大きいと言えよう。 対照的に、インドリル家の貴族の多くは、帝都に屈するよりもみずから命を絶つ道を選んだ。その結果、帝都への編入が進むうちにインドリル家の権威は失墜し、フラール家に対する影響力や支配力のほとんどを失うことは確実となった。一方のフラール家はというと、帝都に熱心に取り入ることでに影響力と権力を欲しいままにしていたのである。神殿の幹部たちはなんとか失った対面を取りつくろい、権力闘争とは一線を引いたまま、経済や教育や心の豊かさを強調することで民衆の善意を獲得した。 歴史・伝記 茶2