約 3,520,755 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/252.html
軽装鎧の修理 軽装鎧には2種類がある。金属製か非金属製かである。鎖帷子、エルフ製、ミスリル、ガラスなどはすべて金属製軽装鎧の代表である。ガラスが金属として考えられることに驚くかもしれないが、それは見た目にだまされているのだ。ここで言う「ガラス」は家にある窓ガラスだけではない。緑がかった金属で強度が高く、同じく融点も高い。 非金属のものは、毛皮製と皮製が挙げられる。これらを作るには、ハンマーよりも針箱の方が役に立つ。厚い生地を縫い合わせるには、先の鋭く尖った千枚通しが必要となる。穴には頻繁に別の布で継ぎ当てをする必要がある。ただ、経験に基づいていうならば、当て布をするぐらいならその鎧の寿命がきているということなので、新しく作り直したほうがよい。 金属製の鎧でも、時には修繕の継ぎ当てをする必要が出てくる。通常は、ハンマーで壊れた部分と一緒に後ろから打ちつければ直る。エルフ製とミスリル製は熱を加えたほうが修繕しやすい。鎖帷子は低温状態で修繕した方がよい。 一番特殊なのがガラスである。目に沿わずに叩いてしまうとその鎧を粉々に壊す危険性がある。できれば目に沿ってハンマーの当たりをそろえるのが望ましい。極端な場合、鎧を油で満たした桶に入れてみるといい。修理したい部分を金床に当て、その下に油をひくのがコツだ。ハンマーからの振動は油で吸収され、ガラスを割る可能性が減る。 兵法・戦術 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/39.html
アベルナニット必殺の一撃 賢者ゲオクラテス・ヴァーナスによる解説 壊れた狭間胸壁と大破した壁 恐怖(1)の崇拝が一時受け入れられた場所。 50回の冬(2)の傷、霜と風 不浄の門を砕き、穴を開け、 そして、酷くみだらな尖塔を降ろさせた。 すべては塵、すべては塵にすぎない。 血は乾き、そして悲鳴はこだまして消えた。 荒れた丘に囲まれた、見捨てられた場所 モロウウィンドの アベルナニットの不毛な骨がある。 三度祝福されたランギディル(3)が初めてアベルナニットを見たときは、 力と不変性で光沢のある銀色に輝いていた。 恐ろしい場所を恐ろしい男たちが守っている 熱を帯びた硝子の目と恐怖を介しての力 敵数のほうが遥かに多いのをランギディルは見た。 彼が率いる数名のオーディネーターとボイアント・アーミガーよりも、 野原と死の城を上の丘から見る、 建っている間は、人々の魂を呪った モロウウィンドの アベルナニット、呪われた邪悪な城。 合図が鳴らされ、神聖な戦士を戦場へ呼んでいる 悪しき者の盾に正義の槍でこたえるために、 前で戦い勇敢になるために彼ら自身の心を鋼に。 盾と薄い黒檀の槍をランギディルもつかんだ 戦いの喧騒が鳴り響く衝突とともに始まった 空から雲を揺すり落とすために。 防御壁は崩され、血が止まった 野原の地面、唯一無二の戦い モロウウィンドの アベルナニットの悪を滅ぼすために。 確かに、乱心の大群は武器に長けていた、 しかし、三つの聖なる拳、母、卿、ウィザード(4)は押し進んだ 怪物の軍は突撃に次ぐ突撃のあとに戻ってくる。 ランギディルは上から見た、軍に防衛するよう駆り立てた、 ダゴス・スラス(5)彼自身が邪悪な塔の尖塔にいる、 悪の心を捕まえたときに限り 土地は真に救われるであろう。 そして彼は神殿と聖なる法廷に忠誠を誓う モロウウィンドの アベルナニットの塔をとるために。 強烈な押しで、塔の土台は貫かれた、 しかし、尖塔を落すすべての努力は無意味であった 恐怖のすべての力があの1個の塔を支えているかのように。 登り階段は急で細く 戦士2人が並んで昇れない。 軍を1列に、上へ上へとよじ登った 塔の部屋をとって支配を終わらせるために 史記の中の一番残酷でつまらない暴君の1人 モロウウィンドの アベルナニットのダゴス・スラス。 彼らは先発からのときの声を待って塔をよじ登った しかし、沈黙のみ戻った、そして血、 最初はただの小川、そして勢いのよい緋色 上からの叫びとともに、階段を流れ落ちた、 「ダゴス・スラスは我らの軍を一人一人倒している!」 ランギディルは軍を呼び戻し、オーディネーター全員と、 ボイアント・アーミガー、そして彼自身で階段を昇り、 最高の戦士たちの血だらけの亡骸を通りすぎた モロウウィンドの アベルナニットの塔の部屋へ。 ダゴス・スラスは死のカラスが巣に乗っているようであった 塔の部屋の扉で、血だらけの盾と血だらけの刃を握りしめている。 ランギディルの槍のすべての猛攻は容易く防御され ランギディルの剣のすべての斬撃は跳ね返され ランギディルのメイスのすべての打撃は盾にあたった すべての速射も的がない 怪物の最高の力はその恐ろしい祝福にあり どの戦士からのどの武器もどこからでも モロウウィンドの アベルナニットの盾を越えられない。 時がすぎ、ランギディルは理解した ダゴス・スラスで、どのようにして最高の戦士たちが最後を迎えたか。 彼らの攻撃を防ぐことで、彼らを疲れ果てさせることができるのだ そして、故に弱まって、彼らは簡単に切り倒された。 悪人は辛抱強く、そして盾使いが巧みであった。 ランギディルは自らの強い腕がしびれてくるのを感じた その間、ダゴス・スラスはすべての斬撃を予測して防御した。 ランギディルは神聖なる3人の祝福なくしては モロウウィンドの アベルナニットの塔で死ぬと懸念した。 しかし、彼は叫びながら打撃を浴びせかけた、 「敵よ!我はランギディル、真実の神殿の王子、 我は多くの戦闘で多くの戦士と戦い 彼らは我が刃を止めようと試み、失敗した。 我がどの打撃を放つかを予測できるものは数少ない、 予測できても、その攻撃を止められるもの、 または、我が攻撃を受け止められるものはさらに少ない。 より素晴らしい盾防御のマスターはどこにもいない モロウウィンドの アベルナニットの城以外には。 我が敵よ、闇の支配者ダゴス・スラス、我を殺す前に、 どうして防御のしかたを知っているのかを教えてくれ」 途方もなくごう慢なダゴス・スラスはランギディルの嘆願を聞き、 神殿のチャンピオンのはらわたをくり抜く前に、 死後のために知識を授けてあげようと決め、 どう彼の直感と反応が働くか、それを、説明を始めたところ、どうやっているのか知らないことに気がついた、 ランギディルが繰り出すのを、困惑しながら見ていた、 モロウウィンドの 「アベルナニット必殺の一撃」を。 *** ゲオクラテス・ヴァーナス 注釈: (1)「恐怖」とはデイドラの王子メエルーンズ・デイゴンのことである。 (2)「50回の冬」は、叙事詩が第三期150年に行われた、アベルナニット攻城戦の50年後に執筆されたことを示唆する。 (3)「3度祝福されたランギディル」はランギディル・ケティルであり、第二紀803年に生まれ、第三期195年に死去している。彼はテンプル・オーディネーターの指揮官、そして神々の法廷によって祝福されることによって、「3度祝福された」ことになる。 (4)「母、卿、ウィザード」とは、アルマレクシア、ヴィヴェック、ソーサ・シルの法廷のことである。 (5)「ダゴス・スラス」は出所不明な強力なデイドラ崇拝者であり、彼自身は6番目の家の継承者であると宣言したが、彼がその滅んだ家系に由来するという証拠は少ない。 茶3 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/124.html
2920 栽培の月(5巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 栽培の月10日 帝都 (シロディール) 「殿下」と、支配者ヴェルシデュ・シャイエが自分の部屋の扉を開けながら笑顔で言った。「このところお目にかかりませんでしたね。ひょっとしたら殿下は…… リッジャ様が愛らしすぎて具合が悪くなったのかと」 「彼女ならミル・コラップで風呂に入っている」と、皇帝レマン三世が惨めったらしい声で言った。 「どうぞお入りください」 「とうとう3人の人間しか信じられないようなところまで来てしまった。お前と、我が皇太子と、リッジャだ」と、いらだたしそうに皇帝が言った。「元老院は単なるスパイ集団だ」 「どうかなさいましたか、殿下?」と、支配者ヴェルシデュ・シャイエが同情した様子で言いながら、部屋の暑いカーテンを閉めた。大理石の廊下を歩く人の足音や、春先の庭で鳴く鳥の声など、外からの物音はすべてすぐに遮断された。 「ボドラムでの戦いが始まる前に我々が野営をしていた際、わしの息子に毒が盛られたことがあった。その時、ブラック・マーシュ出身のオルマの部族民でカッチカと呼ばれる悪名高い毒殺者が、ケイル・スヴィオで軍隊と一緒にいたという情報をつかんだのだ。本当はわしを殺したかったことは間違いないが、その機会がなかったんだろう」と、忌々しげに皇帝が言った。「だが彼女を告訴するならまず証拠を出すべきだと元老院は言っている」 「もちろんそうでしょうね」と、思いやりを示すようにポテンテイトが言った。「特に、もしその中の一人二人が自ら筋書きに加担していたとすれば。私に考えがあります、殿下」 「何だ?」と、待ちきれない様子でレマンが言った。「早く言いたまえ!」 「この件は撤回すると元老院に申し出てください。私は衛兵を派遣してカッチカの所在を突き止めさせ、尾行させます。彼女と共謀しているのが誰なのかが判明するでしょうし、殿下の命を狙うこの陰謀が果たしてどの程度の大きさのものなのかもつかめるでしょう」 「そうだな」と、満足げに眉を寄せてレマンが言った。「それは名案だ。相手が誰であろうと、そのやり方で突き止めよう」 「もちろんです、殿下」ポテンテイトは微笑みながら、皇帝が部屋を出られるようにカーテンを開けた。部屋の外の廊下にはヴェルシデュ・シャイエの息子、サヴィリエン・チョラックがいた。少年は皇帝に会釈をしてからポテンテイトの部屋に入った。 「何か面倒なことにでもなってるの、お父さん?」と、アカヴィリの少年はささやいた。「皇帝が、ナントカっていう毒殺者の情報をつかんだって聞いたけど」 「話術の最大のコツは──」と、ヴェルシデュ・シャイエが息子に語りかけた。「こちらが相手にさせたいと思っていることを相手がしたくなるように仕向けながら、相手が聞きたがっている言葉を言ってあげることだ。お前には、カッチカに手紙を届けてもらいたい。そして、そこに書かれている指示に完全に従わなければ、命が危なくなるのはこちらよりもむしろ彼女の方だということをちゃんと理解していることを、確認してきて欲しい」 2920年 栽培の月13日 ミル・コラップ(シロディール) リッジャはぷくぷくと泡を立てている温泉にゆったりと浸かり、無数の小さな石で肌がくすぐられているような感覚を味わっていた。頭の上に突き出している岩のおかげで霧雨は当たらず、日の光だけが木々の枝の間から筋となってたっぷりと降り注いでいた。それは牧歌的な生活におけるのどかなひとときであり、入浴後には自分の美しさがすっかり蘇っているはずだということを彼女は知っていた。唯一足りないものは一杯の水だった。温泉のお湯は匂いこそ素晴らしいが、必ずチョークの味がした。 「水!」と、召使いに向かって叫んだ。「水をちょうだい!」 目隠しするように顔に布を巻いた、一人のやせこけた女がリッジャのそばに駆けてきて、ヤギ皮の水袋を落とした。そのあまりの慎み深さにリッジャは思わず笑い出しそうになった──自分が素っ裸でいることを恥ずかしいとは思っていなかったのだ──が、布の透き間から見えた老婆の顔にはそもそも瞳がないことに気がついた。話には聞いたことがあるが一度も会ったことはないオルマの部族民のようだった。生まれつき目がない彼らは、それ以外の感覚がずば抜けて優れている。ミル・コラップの君主は召使いの雇用に関してずいぶんと異国趣味のようだと、リッジャはひそかに思った。 すぐに女は立ち去り、その存在は忘れ去られた。そこにいると日の光と温泉のこと以外は何も集中して考える気になれないことをリッジャは感じていた。水袋のコルクを抜いてみたが、中の液体は妙に金属臭い匂いがした。気がつけば、そこにいるのは彼女一人ではなかった。 「リッジャ様」と、衛兵隊長が言った。「カッチカとお知り合いのご様子ですね?」 「知らないわ、そんな人」と、どもりながら言った。そして、憤然とした様子で言葉を続けた。「ここで何してるの? 私の身体は下品な視線にさらすためのものじゃないのよ」 「お知り合いではないとおっしゃる。ついさっきご一緒におられたようですが」と言いながら隊長は水袋を拾い上げ、匂いを嗅いだ。「ネイヴー・イコーを持ってきたようですね? 皇帝に毒を盛るためですか?」 「隊長」と、駆け寄ってきた衛兵の一人が言った。「アルゴニアンの姿が見当たりません。どうやら森に消えたようです」 「ああ、連中にはお手のものだからな」と、隊長は言った。「だが問題はない。宮中の連絡係を見つけたからな。殿下もお喜びになるだろう。この女を捕まえろ」 身もだえする裸の女を衛兵たちが湯ぶねから引き上げると、彼女は叫んだ。「濡れ衣だわ! 私は何も知らないし、何もしていない! 皇帝がこれを知ったら絞首刑になるわよ!」 「ああ、もちろんそうなるだろうな」隊長が微笑んだ。「皇帝がお前を信用されればの話だが」 2920年 栽培の月21日 ギデオン (ブラック・マーシュ) 酒場「ブタとハゲワシ」は人目につくことなく行動できる場所で、今回のような相手に会う際にズークが好んで用いる店だった。彼とその連れ以外、薄暗い店の中にいるのは霧のような存在の数人の老人のみで、しかも酔いつぶれてほとんど意識がなくなっていた。汚れっぱなしの真っ黒な床は目ではなく足で確かめて歩くべきものだった。空中に浮かんだおびただしい埃はじっとして動かず、わずかに差し込んでくる夕陽の光に映し出されていた。 「激しい戦闘に加わった経験は?と、ズークが訊ねた。「割のいい仕事だが、その分、危険も非常に大きい」 「戦闘経験なら言うまでもない」と、ミラモールが横柄に答えた。「2ヶ月前にボドラムの戦いに行ってきたばかりだ。そっちが責任を果たして、約束どおりの日時に、最小限の護衛を伴って皇帝が馬でドーザ峠を通るようにしてくれれば、俺は俺の責任を果たす。皇帝が変装しないで来るようにさせることだけは忘れないでくれ。皇帝レマンが隠れているかもしれないと疑って、峠を通る隊商を皆殺しにするのはごめんだからな」 ズークが微笑み、ミラモールはそのコスリンギー独特の思慮深そうな顔に自分の姿を見た。彼はその見た目が気に入っていた。完ぺきな自信に満ちたプロの顔だった。 「よろしい」と、ズークは言った。「残りの金は仕事が済んでからだ」 ズークは二人の間にあるテーブルの上に大きな収納箱を置き、立ち上がった。 「数分してから出てくれ」と、ズークは言った。「後はつけないように。依頼主は匿名のままでいたいと望んでいるから、万が一、君が捕まって拷問にかけられた場合のことも用心してる」 「心配するな」と、酒のおかわりを求めながらミラモールが言った。 ズークは馬に乗って迷路のように狭く入り組んだギデオンの道を駆け、ようやく門を抜けて国に入った時には、彼も馬もほっとため息をついたかのようだった。ジョヴェーゼ城に続く本街道は、春になると毎年そうであるように水浸しになっていたが、ズークは丘を越える近道を知っていた。枝にまで苔が生えて垂れ下がっている木の下を走り、つるつると滑りやすく危険な岩場も駆け抜けて、彼は2時間もかからずに城門に辿り着いた。そして直ちに、一番高い塔のてっぺんにあるタヴィアの独房へと駆け上がった。 「どんな男だった?」と、女帝が訊ねた。 「愚か者です」と、ズークは答えた。「しかし、この手の仕事にはむしろそのほうが好都合です」 2920年 栽培の月30日 サーゾ要塞 (シロディール) リッジャは、ただひたすら叫び続けた。独房の中でその声を聞き届けているのは、厚い苔に覆われてはいるがびくともしない大きな灰色の石壁のみだった。外にいる衛兵たちは、彼女だけでなくすべての囚人に対して聞く耳を持っていなかった。遠い彼方の帝都にいる皇帝にも、無実を訴える彼女の叫びはまったく届いていなかった。 おそらくもう誰も聞いてくれないことは十分に分かっていたが、それでも彼女は叫んだ。 2920年 栽培の月31日 カヴァス・リム峠 (シロディール) シロディールであろうとダンマーであろうと、トゥララが人の顔というものを最後に見てから何日、いや何週間も経っていた。道を歩きながら彼女は、これほどまでに住む人が少ないシロディールが皇帝の住まい、すなわち帝都となったのは本当におかしなことだと考えていた。ヴァレンウッドのボズマーにだって、このハートランドよりは住む人の多い森があるに違いない。 彼女は回想していた。モロウウィンドからシロディールに入る国境を越えたのは1ヶ月前、それとも2ヶ月前? 今よりずっと寒かったのは確かだが、それ以外に時間的な手がかりは何もなかった。衛兵たちはぞんざいな態度ではあったが、彼女が何も武器を持っていなかったため、国境通過を許可するほうを選んだのだ。以来、彼女はいくつかの隊商に出会ったし、キャンプを張っていた冒険者たちと食事を共にしたことさえあったが、町まで乗せていってくれる者には一度も出会わなかった。 トゥララはショールを外し、後ろに引きずって歩いた。一瞬、背後にいる誰かの音が聞こえた気がして、振り返ってみた。誰もいなかった。小鳥が枝に留まって、笑い声に似た鳴き声を出しているだけだった。 彼女は歩き続け、立ち止まった。たいへんなことが起きようとしていた。お腹の赤ん坊はそれまでにも蹴ることがあったが、今回のけいれんは違う種類のものだった。うめき声を上げて彼女はよろよろと道の脇に向かい、草の上に倒れ込んだ。赤ん坊が生まれようとしていた。 彼女は仰向けになって力んでみたが、痛みと落胆で涙があふれてほとんど何も見えなくなるばかりだった。なぜこんなことになってしまったのだろう? 荒れ地の中、一人きりでモーンホールド公爵の子を出産することになるなんて。激しい怒りと苦悩で発した叫び声に、木々の鳥が一斉に飛び立った。 先ほど彼女を笑っていた小鳥が道に降りてきて留まった。トゥララがまばたきすると小鳥は消え、そこにダンマーほど浅黒くはないがアルトマーほど青白くもない、一人のエルフの男が裸で立っていた。アイレイドのワイルド・エルフだということは、彼女にもすぐに分かった。トゥララは叫んだが、男が彼女を押さえつけた。数分間のもみ合いの後、すっと力が抜けていく感じがして、彼女は気を失った。 目を覚めさせたのは、赤ん坊の泣き声だった。その子はきれいに拭かれて彼女の隣に寝かせられていた。トゥララは女の赤ん坊を抱き上げ、その年に入ってから初めて喜びの涙が頬を伝うのを感じた。 頭上の木々に「ありがとう」とつぶやき、赤ん坊を両腕に抱えて彼女は道を西へと歩き始めた。 時は真央の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/220.html
ファーストホールド反乱 マヴェウス・サイエ 著 「おまえは私に言ったな、彼女の兄が勝利を収めれば、ウェイレスト王の妹となった彼女を、レマンは同盟のために手元に置いておくだろうと。だが兄のヘルセスが敗北し、母親と共にモロウウィンドへと逃げ帰ったにもかかわらず、レマンはあの女を捨てて私と結婚しようとはしない」ジアリーン夫人は水ぎせるから深く、ゆっくりと煙を吸い、竜のごとく息を吐き、豪華なその居室を華の香りで満たした。「おまえは助役としては無能だな、ケイル。私はモルギア王妃の惨めなる夫など追わずとも、クラウドレストかアリノールの王と恋仲になれていたかもしれないのだぞ」 ケイルはファーストホールド王がダークエルフである王妃を愛するようになった可能性を指摘するなどして、婦人の虚栄心を傷つけるほど軽率ではなかった、代わりに、婦人がバルコニーから崖の上にそびえる古都の宮殿群を見渡せるだけの間を設けたのであった。月々が深きサファイアの色をしたアビシアン海の水を水晶のごとく照らしていた。ここは常春の地であり、婦人がクラウドレストやアリノールよりもこの地の玉座を好んだ理由もケイルには頷けるのであった。 ケイルはようやく口を開いた。「民衆はあなた様を支持しています。レマン亡き後で、ダークエルフの血を引く世継ぎたちが王国を支配するのを快く思ってなどいないのです」 「一つ疑問に思うことがある」と婦人は落ち着いた口調で言った。「王が同盟ゆえに王妃を捨てないのであれば、王妃自身が恐れゆえに自らその座を降りる可能性はあるのだろうか? ファーストホールド中で、宮廷へのダークエルフの影響を最も不愉快に思っているのは誰だ?」 「裏のあるご質問でしょうか、御婦人殿?」と、ケイルは尋ねた。「無論、トレバイト僧たちにございます。サマーセット島の血筋、とりわけ王族の血筋を純粋なるハイエルフのものとするのが彼らの信条ですゆえ。ですが、手を組むには当てにならぬ連中にございます」 「わかっている」ジアリーン夫人は考え込みながら再び水ぎせるを手にした。その表情は徐々に微笑みへと変わりつつあった。「モルギアは連中が力を得ないよう、手を打っているからな。民衆への貢献をかどにレマンが止めなければ、連中を一掃していたことだろう。そこでもし、連中に大いなる力をもった支援者が現れたとしたらどうなる? ファーストホールドの王宮事情に通じ、王の側室の筆頭であり、父親であるスカイウォッチ王から十分な武器を調達するための資金を有する者が」 「民衆の支持を得、十分な武装ができれば、屈指の戦力となるでしょう」ケイルはうなずいた。「ですが、助役として忠告させていただきます。モルギア王妃と敵対されるのであれば、徹底的にやり込めなければなりません。母親であるバレンジア女王の知恵と復讐心の大部分を受け継いでいますゆえ」 「私が敵と気づいた時には手遅れになっているだろうよ……」ジアリーンは肩をすくめた。「トレバイト僧院に行き、ライリム修道士を呼び寄せなさい。襲撃の計画を練らなければ」 その後二週間、レマンはモルギアを「黒き女王」と呼ぶ平民たちの間で敵意が強まりつつあるとの助言を受け続けたが、いずれも聞き覚えのある内容であった。彼の注意はカルイス・ラルと呼ばれる沖合いにある小さな島に巣食う海賊たちに向けられていた。最近、その活動が大胆になり、王族の船などに計画的な襲撃をしかけたりもしてきていたのである。決定的な打撃を加えるため、レマンは在郷軍の大半に島の侵略を命じ、自ら陣頭指揮をとることに決めた。 レマンが王都を離れて数日の間、トレバイト僧による反乱が勃発した。襲撃は計画的で、不意を突いたものであった。衛兵隊長は侍女たちの制止を払いのけ、失礼を承知でモルギアの寝室に入ってきた。 「王妃様」と、彼は言った。「反乱でございます」 対照的に、ケイルが報せを届けに来た時、ジアリーンは眠ってはいなかった。窓際に座り、水ぎせるの煙を吸いつつ、遠方の丘陵地帯に見える火の手を眺めていたのだった。 「モルギアが助役たちを集めています」と、彼は説明して言った。「反乱の担い手がトレバイト僧たちであり、朝には反乱勢が街の門に到達するであろうことを王妃に説明していることでしょう」 「残されている王の在郷軍に比べ、反乱軍の戦力はどれほどか?」と、ジアリーンは尋ねた。 「戦力比は我が方が有利です」と、ケイルが答えた。「期待していたほどの差はございませんが。民衆は王妃の不満をこぼしつつも、暴動に踏み切るまではいかない者が多いようです。反乱軍の中核は修道僧たち自身と、御父上の資金により雇い入れた傭兵の軍団が成しているようです。ある意味、この方が望ましいでしょう。民衆の大群よりも練度が高く、統制がとれています。実際、鼓笛隊まで備えたまともな軍隊なのです」 「これで黒き女王がその座を降りないというなら、降ろさせる方法が思いつかぬな」ジアリーンは微笑み、椅子から立ち上がった。「不安で我を忘れていることであろう。早速出向いてその様子を堪能してくるとしよう」 会議の間から出てきたモルギアを見たジアリーンは失望を禁じえなかった。反乱の報せで眠りを妨げられたうえに、ここ数時間を残された数少ない家臣との討議に費やしたにしては、王妃は美しかった。明るい赤色のその眼には、誇り高き光が依然として輝いていた。 「王妃様──」ジアリーンは涙を流しながら漏らした。「報せを受けて直ちに参りました! 我々は皆殺しにされるのでしょうか?」 「その可能性は十分にあるでしょうね」と、モルギアは短く答えた。ジアリーンはその意図を読もうと試みたが、ハイエルフの男たちに比べ、女たち、特に別種族の女ともなると、その表情は難解であった。 「このような御提案をする自分が許せませんが──」と、ジアリーンは言った。「彼らの怒りの原因があなた様である以上、玉座を降りられることで反乱を鎮められるかもしれません。どうか御理解ください、王妃様。王国のためと、我々の命のことのみを考えての御提案です」 「あなたの言わんとするところはわかります」と、モルギアは微笑んで返した。「助言として聞いておきましょう。勿論私自身もそのように考えはしました。ですが、それには及ばないと思います」 「我々が生き延びれるような計画がおありなのでしょうか?」と、ジアリーンは少女のごとき淡い期待をにおわせる表情を作りつつ、尋ねた。 「王は魔闘士を何十人か残していってくれています」と、モルギアは言った。「反乱勢力は我々側には近衛兵と若干の兵士しかいないと信じ込んでいるようなのです。門に辿り着いたところに火球の雨を降らせてやれば、戦意を喪失して退いてくれる可能性が高いでしょう」 「ですが、そのような攻撃に対して防護する方法もあるのではありませんか?」と、ジアリーンはできるだけ不安そうな声で聞いた。 「もちろん、事前に知っていれば対処は可能です。ですが蜂起した民衆が回復術に長けた魔術師たちを擁していて呪文に対する防御をしてくる可能性も、神秘によって呪文を我が方の魔闘士たちにはね返してくる可能性も低いでしょう。そうであれば事態は深刻ですが、仮に彼らの戦力にそれだけの呪文をはね返せるだけの数の神秘師が含まれていたとしても、戦術として行なわれることはないでしょう。敵の実体が正確に把握できてでもいない限り、戦場の指揮官が攻城戦においてそのような防御方法を指示することはありません。無論、我が方が待ち伏せを仕掛けてからでは、対抗呪文は間に合わないでしょうしね」モルギアは目くばせをしてみせた。 「実にお見事な策にございます、王妃様」と、ジアリーンは心底感心しながら言った。 モルギアは魔闘士たちと打ち合わせをすると言い、ジアリーンは抱擁を交わした後に別れた。宮殿の庭でケイルが待っていた。 「傭兵の中に神秘師はいるか?」と、彼女は手早く尋ねた。 「かなりの数がおります」と、ケイルは問いかけを不思議に思いつつも答えた。「主にサイジック会を追放された者たちですが、基本的な神秘呪文を唱えられるだけの技量はあるはずです」 「街の外へと忍び出て、ライリム修道士に伝えなさい。前衛部隊全員に反射の呪文をかけるようにと」ジアリーンは命じた。 「戦術としては常軌を逸していますが」と、ケイルは眉をひそめて言った。 「そんなことはわかっている。モルギアの目論見はそこにあるのだ。城壁上で魔闘士の一団が待ち構えていて、我が軍に火球の雨を降らせるつもりなのだ」 「魔闘士ですと? レマン王が海賊たちと戦うためにお連れになったものかと」 「おまえの考えでは、であろう?」ジアリーンは笑った。「だがそれでは負けてしまうのだよ。急いで行け!」 ライリム修道士は、味方の兵全員に反射の呪文をかけるなど開戦時の策としては奇妙かつ前代未聞であるとのケイルの見解に同意した。これはあらゆる習わしに反することで、トレバイト僧は何よりも習わしを重んじるのであった。だが敵から情報が得られた以上、対処せざるを得ないのであった。軍団内の癒し手の数はただでさえ不足気味であり、耐性を高める防御呪文に割く魔力は無かったのである。 夜が明けた時点で、反乱軍はファーストホールドの輝く尖塔が見える位置まで進軍していた。ライリム修道士は神秘を僅かでも知っており、マジカの力の利用方法を知っている兵たちを全員集めた。達人と呼べる者は僅かであったが、結集された魔力はなかなかの見ものであった。強大な魔力の奔流が軍団全体を取り囲み、その眼に見えぬ加護の力を兵一人一人が得たのであった。街の門に迫る中、反乱軍の兵士の誰もが、当分の間呪文の影響を受けずにすむだろうと確信していたのである。 ライリム修道士は、予想外の反撃方法を常軌を逸した対処で封じ込めた指揮官ならではの満足げな表情で、配下の兵が門を襲撃するのを見つめていた。だが間も無くして、その顔から笑みが消えた。 城壁で反乱軍を迎え討ったのはウィザードではなく、近衛部隊の弓兵だったのである。反乱軍の頭上に火矢の雨が降り注ぎ始めたため、癒し手たちが負傷兵を支援しに急いで前進した。ところが死にゆく兵士たちに唱えた癒しの呪文が次々と反射されてしまったのである。突如無防備となった攻撃側は混乱し、恐れを為して退却を始めた。ライリム修道士自身も一瞬踏みとどまろうかと迷った挙句、その場から逃げ去った。 彼は後にジアリーン夫人とケイルに憤怒のにじんだ書簡を送るが、届けることがかなわなかったとのことで返ってきてしまったのだった。王宮内の腕利きの密偵たちでさえ、二人の居場所を特定できなかったのだ。 蓋を開けてみると、両者とも拷問の経験は乏しかったようで、すぐに王の目論見通り、叛意を認めたのであった。ケイルは処刑され、ジアリーンは護衛つきでスカイウォッチ王のもとへと送還された。そしていまだに夫を探しているとのことである。一方、レマンは新たな側室は迎え入れないことに決めたのだった。ファーストホールドの大衆はこの王宮の伝統の崩壊を黒き女王による影響のさらなる現れと考え、聞く耳を持つ者には誰でも愚痴をこぼしてまわったという。 物語(歴史小説) 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/120.html
ゾアレイム師匠伝 ギ・ナンス 著 トーバルにある「踊る双子の月の神殿」は何百年ものあいだ、足と拳が資本の戦士にとって、タムリエルの中でも屈指の訓練場でありつづけてきた。師匠たちは帝都各地からやってくる生徒を年齢に関係なく受け入れ、いにしえの技術から近代的な応用技まで幅広く教えている。過去に卒業した多くの門弟たちが成功を収めた。私もそこで学んだひとりだ。子供のころ、最初の師匠であるゾアレイムに訊いたことを覚えている。神殿の教えをもっとも深く理解したのはどの卒業生でしょうか、と。 「あの男に会ったとき、私はまだ師匠ではなく一介の生徒だった」と、ゾアレイムは言った。懐かしむように笑みを浮かべて。師匠のしわだらけの大きな顔が、しなびたバスラムの木の実のように見えた。「ずいぶんと昔の話だ。おまえの両親が生まれるよりも前のことだ。何年も神殿で修練を積んでいた私は、踊る双子の月の神殿の誇る博覧強記の師匠が教鞭をとる、非常に難度が高く、求められるものも大きい授業を受けるほどまでになっていた」 「ギ・ナンス、おまえにもやがてわかる時がこよう。逞しい体は逞しい心と共に鍛えられることを。この神殿には、リドル・サーの流儀に従って我らが何年もかけて築いてきた、基幹となるべき訓練の手法がある。私は階段を登りつめて大いなる力とスキルを手にした。たとえ魔術や神がかり的な力を使おうとも、素手による戦いでこの私に勝てるものはほとんどいないだろう」 「その当時、神殿には奉公人がいた。私や授業仲間よりもいくらか年上のダンマーだ。が、彼のことなどまったく眼中になかった。もうかれこれ数年間、こっそりと訓練場に入ってきて、数分で掃除をすませ、黙ったまま出ていくのが彼の日課になっていたからだ。もっとも、彼が何かしゃべっていたとしても、我らは上の空だったろうが。訓練と授業に入り込んでいたからな」 「最後の師匠が、私を含めた数名の徒弟に向かって、神殿を後にするか師となるときが来たようだと告げると、盛大な祝祭が催された。『たてがみ』もわざわざ足を運んで祝祭をご覧になられた。昔も今もここは哲学と戦闘の神殿であるため、神殿の格闘場では、数名のエリートだけでなく全生徒が参加しての討論会や競技会が行われた」 「祝祭の初日、初戦の相手は誰なのだろうかとグラディエーターの登録名簿をながめていると、背後の会話が耳に入ってきた。奉公人が神殿の大僧正と話していたのだ。ダンマーの声を聞いたのはそのときが初めてだった。そして初めて彼の名を知った」 「モロウウィンドで戦っている郷里の仲間と再会したいという気持ちはよくわかるとも、タレン」と、大僧正は言った。「残念至極ではあるがな。おまえはもう、この神殿になくてはならない存在であったから。みんなさみしがるだろうが。私にできそうなことがあったら、なんなりと申しつけるがいい」 「なんとも嬉しいお心遣いでしょう」と、ダンマーは答えた。「ひとつだけ頼みがございますが、おいそれと認められることではないかもしれません。この神殿にやってきてからずっと、修練にはげむ生徒たちの姿を目にしているうちに、自分でも職務の合間を縫って練習を続けてきたものです。私はしがない奉公人でしかございませんが、格闘場で戦うことをお許しいただけるのなら、まことに名誉でありましょう」 「あまりにおかどちがいなエルフの放言に、私はあえぎかけた。修練を積んだわれわれと対等に戦わせてほしいなどと、よくもぬけぬけと言えたものだ。驚いたことに、大僧正はふたつ返事で請け合うと、初心者階級の登録名簿にタレン・オマサンの名を書き加えたのだ。私はエリートの同輩たちにこの話を耳打ちしたくてうずうずしていたが、あと数分で自分の初戦が始まるところだった」 「私は十八戦連続で戦い、全勝した。格闘場に集った観衆は私の才能のことを知っていて、対戦が終わるたびに控えめな、驚きの少ない拍手を浴びせてきた。どんなに戦いに集中しようとしても、格闘場の他のグラディエーターのほうに注目が集まっていくのが気になってしかたがなかった。観客はひそひそ話に勤しみ、無傷の連勝記録よりもはるかに刺激的で、先の読めない対戦を求めて何人もが席を立ちはじめていた」 「踊る双子の月の神殿で教えるもっとも大切な授業のひとつが、虚栄心を捨てることだろう。私はそのとき、心と体の個人的共時性を成し遂げることの、無意義な外部的影響をはねつけることの大切さを理解してはいたが、心では受け入れていなかったのだな。自分が強いことはわかっていながら、自尊心が傷ついたのだ」 「とうとうチャンピオン決定戦となった。私は勝ち残ったふたりのうちのひとりだった。対戦相手の戦士を目にしたとき、傷だらけの威厳に満ちていた私の心は不信感に染まった。私の敵は奉公人のタレンだったのだ」 「これは冗談にちがいない、哲学的な最終試験にちがいないと、私は自分に言い聞かせた。それから観衆を見やると、世紀の一戦が始まるという期待感で誰もが目を輝かせていた。タレンと敬意を取り交わした。私はぎくしゃくと、彼はいかにも慎み深く。戦いが幕を開けた」 「最初はさっさと終わらせる気でいた。タレンなど格闘場を掃除するほどの価値もないのに、そこで戦うなどもってのほかだと思っていた。まったくとんちんかんな考えだったよ。タレンも私と同じように、何人もの生徒を倒して決勝の舞台まで勝ち上がってきたとわかっていたはずなのに。タレンは私の攻撃に対してよくあるカウンターで応じ、殴られたら殴り返した。幅広いスタイルを持っていて、洗練された難しい足技を使ったかと思えば、次の瞬間には単純なジャブやキックを放ってきた。私は執拗に攻撃を繰り出してタレンを圧倒しようとしたが、私の才能を恐れるような、あるいは見下すような色がその顔に浮かぶことはなかった」 「長い戦いになった。いつ敗北を覚悟したのかは覚えていないが、試合が終わっても結果をすんなりと受け入れた。普段は感じないようなうそ偽りのない謙虚さでもって、私は彼に一礼した。が、万雷の拍手に送られながら格闘場をあとにするとき、私は訊かずにはいられなかった。いったいどうやって師匠級の腕前をこっそりと磨いていったのかと」 「私の立場ではそうするしかなかったのです」と、タレンは言った。「毎日毎日、私は優秀な生徒の訓練場を掃除し、それが終わると初級の生徒の訓練場を掃除してきました。そのせいか、初歩的な失敗や教訓、技術を忘れるという不運に見舞われることなく、師匠のあるべき道を観察し、学んでいくことができたのです」 「翌朝、タレンはトーバルを後にして故郷へ帰っていった。それ以来、彼とは会っていない。人づてに僧侶や師になったという話を耳にはしたが。私も師になって、踊る双子の月の神殿で訓練を始めたばかりの子供達や、才能ある者達の面倒を見ている。そして傑出した生徒がいれば、ゆめゆめ初心を忘れることのないよう、未熟な戦いを見物しに連れていくことにしているのだ」 緑3 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/35.html
避難民たち ジェロス・アルブリー 著 地下貯蔵室の石壁は塩水が腐食していて、入り江の匂いがじわじわと染み出してくるようだった。もっとも貯蔵室自体、酢になってしまった古いワインと白カビ、そして傷ついた者の手当をする目的で治癒師たちが持ち込んだ異国の薬草を用いた香辛料など、様々なものが発する匂いがすでに入り混じっていた。もともとは階上の売春宿の倉庫で、長く放置されていたこの大きな地下室に、今や50人を越える人間がひしめき合っていた。うめき声やすすり泣きは今のところ止んでいて、今は病院となっているこの場所は共同墓地に変わってしまったかのように静まりかえっていた。 「お母さん」と、レッドガードの少年がささやいた。「今のは何?」 母親が答えようとした矢先、何かが転がるような地鳴りが外から再び聞こえてきた。まるで実体のない巨獣が貯蔵室に降りて来るかのように、その音はどんどん大きくなっていくのだった。四方の壁が震え、埃が雨となって天井から降り注いだ。 前の時とは違い、誰も叫んだりはしなかった。耳にこびりつく不気味な音が通り過ぎていくのを待っていると、やがて、遠くで行われている戦闘の物音が低く聞こえてくるだけになった。 一人の傷ついた兵士が、『宿命』から引用したマーラの祈りをささやき始めた。 「マンカー」と、簡易ベッドの上で丸くなっているボズマーの女性が、吐き出すように言った。その目は熱っぽく、肌は青ざめて汗で濡れていた。「彼がやって来る!」 「誰が来るの?」と、母親のスカートをきつく握って、少年が聞いた。 「誰が来るって? お菓子屋が来るとでも言うのかい?」と、白髪交じりで片腕のレッドガードが乱暴に言った。「強奪者キャモランさ」 少年の母親は怒りに満ちた目で老兵士をにらんだ。「あの女の人は何も分からずに言ってるのよ。熱にうなされて」 少年はうなずいた。母親の言うことはいつもだいたい正しかった。母親が住んでいた小さな村に強奪者キャモランが向かっていると人々がささやき始め、荷物をまとめて彼女が逃げ出した頃、少年はまだ生まれていなかった。リハドとタネスならわけなくキャモランを退治してくれるはずだと言って、近所の人たちは彼女のことを笑った。彼女の夫で、少年ルーカーにとっては一度も会わずじまいだった父親も、同じように笑った。収穫の時期だったから彼女はお祭りを見逃すことになった。 しかし少年の母、ミアク=アイは正しかった。逃げ出してから2週間後、村が一晩のうちに完全に破壊され、誰一人生き残らなかったことを彼女は知った。リハドとタネスはどちらも倒されたのだ。強奪者を止める手立てはなかった。 ハンマーフェルの至るところにあった難民キャンプでルーカーは生まれ育った。友だちができても長くて数日のつきあいだった。西の空が赤く燃えだしたら、荷物をまとめて東に向かわなければならないことを彼は知っていた。南の空が燃えていたら北に向かった。キャンプからキャンプへと移動し続けて12年が経ってから、ようやく親子はイリアック湾を渡る経路を通ってハイ・ロック地方に入り、ドワイネン男爵領に向かった。そこでなら平和な永住生活手に入るはずだとミアク=アイは約束し、そうしたいと願っていた。 そこは目が眩むほど青々とした土地だった。ある時期、ある場所でしか緑を見ることができなかったハンマーフェルとは違い、ドワイネンは一年を通じて緑に覆われていた。例外は雪が降る冬だけで、初めの頃ルーカーは雪を怖がっていた。本当の危険が迫っている今になって思い出せばそれは恥ずかしいことだったが、それまでの彼にとっておなじみの世界といえば、戦争の赤い雲と、難民キャンプの悪臭や苦痛しかなかったのである。 今、赤い空は入り江の水平線の上にあって、次第に近づいてきていた。空から舞い散る白いものに怯えて泣いた頃が、ルーカーにはたまらなく懐かしく感じられた。 「マンカー!」ボズマーの女がまた叫んだ。 「彼がやって来る。死をもたらしに!」 「誰も来ないわよ」と、若くきれいなブレトンの治癒師がボズマーの女のそばに来て言った。「もう静かにして」 「おーい?」頭上から声がした。 部屋全体がほぼ同時にハッと息を呑んだ。一人のボズマーが足を引きずりながら、粗末な木の階段を下りてきた。人の良さそうなその顔はどう見ても強奪者キャモランのそれではなかった。 「びっくりさせたんならごめんよ」と男。「ここに治癒師がいるって聞いたもんで、ちょっと診てもらえないかなと思って」 ロゼイナが駆け寄ってボズマーの足と胸の傷を調べた。現役を退いたとはいえ今でも美しい彼女は、売春宿で働いていた頃は1、2の人気を争う娼婦で、職業に必要な技術とともに治癒の技術も『ディベラの宿』で学んでいたのだ。慎重に、しかし素早く、借り物である皮の胴鎧、鎖帷子、草ずり、グリーヴ、ブーツを脱がせ、傍らに置いて、彼女は傷を仔細に調べた。 レッドガードの老兵はそれらの防具を手に取って観察した。「戦場に行ってたのかい?」 「その隣に行ってたって言うほうが、たぶん当たってるかな」。ロゼイナに傷を触られてわずかに顔をしかめてから、ボズマーの男が微笑んで言った。「裏に行ったり、脇に行ったり、前に行ったり。僕はオーベン・エルムロックっていうんだ。斥候だ。本当の戦いには加わらないようにしてる。戻って報告しなきゃいけないからね。血の色を見るのが苦手な奴にはうってつけの任務だ」 「フジムだ」そう名乗って、戦士はオーベンと握手した、「俺自身はもう戦うことはできないが、戦場に戻るんなら鎧を直してやってもいい」 「皮職人かい?」 「いや、ただの何でも屋だ」と答えてフジムはワックスの入った小さな缶を開け、固いが柔軟性もある皮に塗り込んだ。「鎧を見た時に斥候だってことは分かったがな。何を見張ってたのか聞いてもいいかな? 俺たちは半日前からここにいて、外からは何の情報もないんだ」 「イリアック湾全体が、波の上の大戦場になってるよ」そう言ってからオーベンは、ロゼイナの呪文によってギザギザでありながらも浅かった傷がふさがっていくのを見て、ため息をついた。「湾口からの侵入は遮断したんだけど、僕は海岸のほうから向かおうとしていて、敵軍はロスガリアン山脈を越えて行軍しているところだった。そこでちょっとやり合ったわけさ。別に驚くことはないよ。前線での戦いがふさがっている時に側面から入って行くのは良くあることだからね。キャモラン・カルトスの計略書から牡鹿王が拝借したトリックだ」 「牡鹿王って?」と、ルーカーが訊ねた。静かに聞き入っていた彼は、その言葉以外はすべて理解していた。 「ヘイモン・キャモラン、強奪者キャモラン、牡鹿王ヘイモン、みんな同じだよ。めんどくさいことが好きな奴だから、名前も一つじゃ物足りないんだ」 「知り合いなの?」と、前に進み出てミアク=アイが聞いた。 「20年近くなるかな。こんなにも陰気で血なまぐさい事態になる前のことだ。僕はキャモラン・カルトスの斥候長、ヘイモンは彼に仕える妖術師で、相談役でもあった。僕は両方に手を貸してたんだけど、二人はキャモランの玉座を求めて張り合い、その時に征服に乗り出したのが……痛っ!」 ロゼイナは治療を止めていた。激しい怒りを瞳に浮かべて彼女が呪文を逆向きに唱えると、一旦ふさがって治りかけていた傷が再び開き、黒ずんだ感染症も戻ってきた。オーベンが後ずさりしようとすると、驚くほどの力で押さえつけた。 「大馬鹿野郎……」治癒師の娼婦がなじった。「ファリネスティにはいとこがいるんだよ。女司祭をしている」 「元気でいるさ!」と、オーベンが声を張り上げた。「カルトス卿は自分にとって脅威でない者は絶対に傷つけないように徹底していたから……」 「クヴァッチの住民たちはそんな言い分を認めないと思うぞ」と、冷ややかにフジムが言った。 「ひどい有様だった。あれよりひどい光景は見たことがない」オーベンがうなずいた。「ヘイモンの仕業を目にして、カルトスは泣いていた。こんな仕打ちをやめてくれるなら何でもするし、お願いだからヴァレンウッドに戻ってくれと牡鹿王に懇願したんだ。だけど奴はその申し出をはねつけ、そのせいで僕たちは逃げることになった。決して君たちの敵じゃないよ。昔からずっとね。コロヴィア西部とハンマーフェルに強奪者がもたらした恐怖を防ぐ手立てはカルトスにはなかったし、それでも被害が広がるのを抑えようとして15年間も戦い続けているんだ」 恐ろしい野獣の吠え声のような音が、前よりもさらにうるさく、再び天井の上を通過しようとしていた。自分ではどうにもできない恐怖に、傷ついた者たちはうめくことしかできなかった。 「じゃあ、あれは何?」と、冷笑するようにミアク=アイが言った。「やっぱり強奪者が真似したキャモラン・カルトスのトリック?」 「実の話、あれこそがトリックだ」。甲高い音にかき消されないようオーベンが叫んだ。「人を怯えさせる目的で用いる幻影なんだ。まだ駆け出しでそれほど技量がなかった頃には、彼も恐怖心を利用する戦術に頼らざるを得なかった。そして今、次第に力が衰えているせいで、再びそういうやり方に頼らなければいけなくなっているんだ。だからヴァレンウッドを制圧するのに2年もかかったわけだし、ハンマーフェルを半分制圧するのにさらに13年もかかったんだよ。レッドガードを責めるわけじゃないけど、あなたたちの武勇が彼に足止めを食らわせた。以前みたいな後押しを得ることはできないんだ。彼の主からの……」 木霊する轟音が強さを増し、それから再び静けさが訪れた。 「マンカー!」ボズマーの女がうめいた。「彼が来る。すべてを破壊しに!」 「彼の主って?」ルーカーが訊ねたが、オーベンの視線は血まみれの簡易ベッドに丸まっているボズマーの女に据えられたままだった。 「あの人は?」オーベンがロゼイナに聞いた。 「難民の一人よ、もちろん。あんたとカルトスが鞍替えする以前にやってたヴァレンウッドの戦争から逃げてきたの」。治癒師が答えた。「名前は確かカアリス」 「ジェフレの神よ」声をひそめてオーベンは言い、足を引きずって女性のベッドのところまで行くと、その青ざめた顔から汗を拭い、血がこびりついた髪の毛を脇に寄せた。「カアリス、オーベンだ。覚えてるかい? なぜここに? 奴に傷つけられたのか?」 「マンカー!」カアリスがうめいた。 「それしか言わないのよ」と、ロゼイナは言った。 「一体何のことだろう」オーベンが眉間にしわを寄せた。「強奪者のことではない。彼女も奴を知ってたけどね。それも、とても良く知っていた。奴のお気に入りだったんだ」 「奴のお気に入りはみんな奴に背を向けたってわけね。あんたも、カルトスも、彼女も」と、ミアク=アイが言った。 「だからこそあいつはいずれ倒される」と、フジムが答えた。 武装した者たちの足音が天井から響き、貯蔵室の扉が勢いよく開けられた。オスロック男爵の城の衛兵長だった。「埠頭が燃えているぞ! 生き延びたいならワイトムア城に避難するんだ!」 「手を貸して!」と、ロゼイナが叫び返したが、衛兵たちの任務は防衛であり、病人を安全な場所まで送り届けることではないのは分かっていた。 それでも10人の衛兵たちが援助に割り当てられ、傷病人たちの中では最も丈夫な者たちも手を貸したので、貯蔵室にいた全員が外に出ることができた。ドワイネンの街には煙が満ちて、炎が無秩序に広がり始めていた。海上から誤って放たれた1発の火の玉が埠頭に落ちただけだったが、被害は甚大だった。数時間後、広大なお城の中庭に治癒師たちは簡易ベッドを据え付け、罪もなく傷ついた者たちを再び手当てし始めた。ロゼイナが最初に見つけたのはオーベン・エルムロックだった。傷口がまた開いていたにもかかわらず、彼は2人の患者を手助けして城まで連れてきていた。 「ごめんなさいね」と、傷口に両手を当てて治療しながら彼女は言った。「ついカッとしちゃったの。自分が治癒師だってことも忘れて」 「カアリスは?」と、オーベンが訊ねた。 「ここにいない?」と、見回しながらロゼイナが言った。「きっと逃げたんだわ」 「逃げた? 傷ついていたんじゃなかったの?」 「健康な状態ではなかったけど、出産が無事に済めば、母親になったばかりの女はびっくりするような力を発揮するものだわ」 「妊娠してたのかい?」と、息を呑んでオーベンが言った。 「ええ。それほどたいへんなお産じゃなかったみたいよ。私が最後に見かけた時には男の赤ちゃんを抱いていた。お産は自分一人でしたって言ってたわ」 「妊娠してた」と、オーベンがつぶやくように繰り返した。「強奪者キャモランの愛人が、妊娠してた」 戦闘が終わったという知らせがあっという間に城じゅうに広まった。それだけでなく、戦争そのものも終わっていた。ヘイモン・キャモランの軍は海で敗北し、山でも負けていた。牡鹿王は死んだのだ。 ルーカーは城壁の上から、ドワイネンを囲む暗い森を見おろした。カアリスの話を耳にした彼は、生まれたばかりの赤ん坊を抱いて死にものぐるいで荒野を逃げていく女の姿を想像した。カアリスには行く当てがないし、二人を守ってくれる者もいない。ミアク=アイと自分がそうであったように、カアリスと赤ん坊も難民になるのだろう。これまでのことを思い返すうち、ルーカーは彼女の言葉を思い出した。 やって来る。彼がやって来て、死をもたらす。彼がすべてを破壊する。 ルーカーは彼女の瞳を覚えていた。病気ではあったが、怯えてはいなかった。強奪者キャモランが死んでしまったとすれば、やって来る「彼」というのは誰のことだろう? 「他に何か言ってなかったかい?」と、オーベンが聞いた。 「赤ん坊の名前を教えてくれた……」と、ロゼイナが答えた。「マンカーって言ってたわ」 メインクエスト関連 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/211.html
ベノク夫人の 言葉と哲学 元ヴァレンウッド戦士ギルドのマスター、そして帝都の皇帝衛兵長のベノク夫人は、タムリエルの兵を剣に慣れさせようと奮闘していた。私はこの本のために、彼女に3度にわたって接触した。その1回目は、庭園を見下ろせる彼女の部屋のバルコニーであった。 私は約6ヶ月かけて手配した会談に時間よりも早く到着したが、彼女は私がさらに早く来なかったことを穏やかにたしなめた。 「私に自分を擁護するための準備をする時間を与えてしまいましたね」と、グリーンの目を微笑ませながら彼女は言った。 ベノク夫人はボズマーであり、ウッドエルフであり、若い頃は祖先たちと同じように弓を使っていた。彼女は運動に優れ、14歳の頃には部族の狩集団に、長距離射手のジャクスパーとして参加していた。パリック族がサマーセット島の援助を受けて南東ヴァレンウッドを暴れ回ったとき、ベノク夫人は部族の土地を守るために勝ち目のない戦をした。 「16歳の時、初めて人を殺したわ」と、彼女は言った。「あまりよくは憶えていないけれど── 彼か彼女は私が弓を向けた地平線上の影でしかなかったわ。それは私にとって、動物を射る以上の深い意味はなかった。おそらく、その夏と秋で100人程はそのように殺したわ。冬場までは自分が殺人者である実感はなかったわ。彼の血を流しながら、その男の目に見入ることがどのようなことかを知るまではね」 「それは野営地の監視をしていた時に私を驚かせたパリックの斥候だったわ。お互いに驚いたと思う。弓が横にあったけれど、私から0.5ヤードのところに彼が迫った時、私は矢を番えようとして、うろたえてしまったの。それしかすることを知らなかった。勿論、彼が先に剣で切りかかり、私は驚いて後ろに倒れてしまったの」 「初めての犠牲者の失敗はいつまでも覚えているものよ。彼の失敗は、流血しながら倒れたのを見て、私が死んだと思い込んだことね。彼が私に背を向けて、民がいる静かな野営地へ目を向けた時、彼に向かって突進したわ。彼の不意を突いて、私は彼の剣を奪ったの」 「彼を何度突き刺したか分からないわ。次の監視が交代に来て刺すのを止めた頃には、筋肉への負担から腕が青黒くなっていて、彼は原型をとどめていなかったわ。正に、粉々にしてしまったの。ほら、私には戦いの観念がなかったし、どれくらいで人は死ぬのかも知らなかった」 ベノク夫人は知識の不足に気付き、すぐさま剣術を独学で学び始めた。 「剣の使い方は、ヴァレンウッドでは学べないわ」と、彼女は言った。「ボズマーが剣を扱えないと言っているのではなくて、私たちは概して独学なの。北に押し込まれて、部族が土地を失ったときはとても辛かったけれど、1つだけ良い側面があったわ── レッドガードに出会う機会を与えてくれたの」 ウォーデイ・アコールの指導の下、様々な武器の扱いを学ぶベノク夫人は優秀であった。自由契約の冒険者となり、隊商や訪問する高官たちをその土地の様々な危険から守りつつ、南ハンマーフェルや北ヴァレンウッドを旅する。 残念ながら、彼女が若い頃の話をこれ以上続ける前に、ベノク夫人は皇帝からの緊急の召集によって席を立った。このような混沌とした時代では、恐らく過去にも増して、それは帝都衛兵にとってはよくあることである。再会談のために彼女に接触しようとしたところ、召使いから彼らの女主人はスカイリムにいると知らされた。1ヶ月が経ち、彼女の部屋を訪問したときは、彼女はハイ・ロックにいると教えられた。 素晴らしい事に、その年の黄昏の月、ベノク夫人が2度目の会談のために私を探し出してくれた。私が彼女の手を肩に感じたとき、私は街中の血とオンドリという酒場にいた。彼女は粗末な席に着き、あたかも中断されなかったかのように物語りを続けた。 彼女は、冒険者としての日々の要旨に戻り、彼女が初めて剣に自信を持てた時のことを話してくれた。 「当時、デイドラ金属で作られた魔法の大剣を持っていたわ。かなり良い品だった。あれはアカヴィリ製ではなかったし、そもそもその設計から違っていたの。そのような大金は持っていなかったけれど、あの大剣は最小限の努力で最大の打撃を与えるという主目的を果たしたわ。アコーは私にフェンシングを教えてくれたけれど、死ぬか生きるかの状況に直面すると、必ず慣れた上段切りに頼ってたわ」 「メディティアでオークの群れが地元の族長からゴールドを奪ったから、あの地方の田舎の至るところにある地下牢の1つに、オークたちを探しにいったの。普段と変わらずネズミや巨大クモがいたけれど、そのころには経験も豊富だったから、比較的簡単に片付けられたわ。問題が生じたのは、気付くと真っ暗な部屋にいたときに、私の周囲から徐々に近づいてくるオークのうめき声を聞いたときよ」 「私は剣を振り回したけれど何にも当たらず、さらに近づいてくるオークの足音を聞いたの。どうにか恐れを抑えられて、達人アコーが教えてくれた、簡単な練習を思い出せたの。私は耳を澄まして、横に踏み出し、切り、ひねり、前に踏み出し、円を描くように切り、逆を向き、横歩きをして、切った」 「私の直感は正しかったわ。オークは私の周りを囲んでいて、明かりを見つけたとき、彼らは皆死んでいたわ」 「それで私は剣術の研究に集中したの。その実用的な目的を知るのに死ぬような体験を必要とするなんて、馬鹿よね」 ベノク夫人は残りの会談を、概して率直な言いかたで、彼女と彼女の経歴を取り巻く様々な俗説の真相を話すことに費やした。彼女が帝都軍の魔闘士であった元マスター、裏切り者のジャガル・サルンとの決闘に勝ち、ヴァレンウッド戦士ギルドのマスターになったのは事実であった。二年後にヴァレンウッドギルドが崩壊したのは、彼女に責任があったと言うのは事実ではない。(「実際、ヴァレンウッド支部の構成員数は健全だったのだけれど、タムリエル全体の雰囲気が自由契約の戦士たちの無党派組織の存続に貢献しなかったの」)彼女が初めて皇帝の目に留まったのは、センチネルの女王アコリシをブレトンの暗殺者から守った時であることは事実であった。が、暗殺者がダガーフォールの最高裁判所の誰かによって雇われたと言うのは事実ではなかった(「少なくとも…… それは証明されていないわ」と、彼女は顔をしかめながら言った)11年間彼女の下で奉仕をしていた、元召使いであったウルケンと結婚したのも事実であった。(「彼ほどに私の武器の手入れを熟知している人はいないわ。実務的よ。彼の給料を上げるか、結婚するかしかなかったのよ」彼女は言った。) 問いかけた話で唯一、彼女が認めも反論もしなかったのは、皇帝の婚外子であるキャラクセスの話に関してである。彼の名を挙げたとき、肩をすくめ、その事件については何もしらないと明言した。私は話の詳細でたたみかけた。キャラクセスは皇位を継承でき得る立場にはいなかったが、最高神の大司教職を与えられていた── その宗教が崇拝されているタムリエル全土や帝都においては強力な身分である。すぐさま、キャラクセスはタムリエルの非宗教的政権と、特に皇帝に対して神々が憤っていると信じているとの噂がささやかれ始めた。キャラクセスは神政国家を成立させるために、帝都に対する大規模反乱を支持したとさえも言われていた。 皇帝とキャラクセスの関係は非常に荒れ、教会の権限を制限する法案が可決されたのは確かな真実です、と私は続けた。キャラクセスが親友にも告げずに突然消えてしまうまでは。多くの人々は、ベノク夫人と帝都衛兵が、大司教キャラクセスを彼の教会内の聖具室で暗殺したと言っていました── 通常言われている日付は、第三紀498年、黄昏の月29日。 「もちろん」と、彼女の謎めいた微笑みとともにベノク夫人は返答する。「帝都衛兵の立場は玉座の保護者であって暗殺者ではないことは、言うまでもないわよね」 「さらに言えば、そのような繊細な作戦には、衛兵以上に信頼される人はいませんね」と、私は慎重に言う。 ベノク夫人はそれを認めたが、そのような義務の詳細は、帝都の安全のために秘密にしておく必要があるとだけ言った。残念ながら貴婦人は、皇帝が南に用事があるため次の日の早朝には出発しなければならなかった── 当然、具体的には教えてもらえなかった。彼女は会談を続けられるように、戻った際には教えてくれることを約束した。 結局、私自身もサイジック教団の本をまとめるため、サマーセット島に用事があった。よって、3ヵ月後にファーストホールドにて貴婦人に会ったのは驚きであった。私たちは、王立公園の中を通る大きなディシート川のほとりを散歩しながら、3度目にして最後の会談を完結するために、なんとかお互いの義務から離れることができた。 彼女は最近の義務や任務に関する質問を避けていたが、答えるのに気が進まなかったのは当然であると想像した私は、剣による戦いの話題に戻った。 「フランダー・ハンディング」と、彼女が言った。「彼は、38の握り方、750の攻撃と1,800の防御姿勢、約9,000の技が剣の熟達に必要としているわ。一般的な暴れ者は1つだけ握り方を知っていて、それは剣を落とさないための握り方よ。彼は1つだけ攻撃姿勢を知っていて、それは相手の前にいること、そして1つだけの防御姿勢は逃走することよ。戦闘の多種多様な調子や変調に関しては1つも知らないわ」 「戦士の道のりは簡単な進路であるつもりはないの。優秀なウィザードや鋭い盗賊と同じように、駆け出し戦士の原型は心に染み付いているけれど、必ずしも昔からではないわ。ソードマンの哲学者や帯剣した芸術家は、心の力のみで剣を作り出して扱えると言われた、レッドガードのソードシンガーとともに過去の生物よ。知的なソードマンの未来は、過去の栄光に比べると暗いわ」 会談を後味悪く終えたくはなかったので、アレーナ・ベノク夫人に、歩み始めた若いソードマンに対する助言をお願いした。 「ウィザードと対峙するときは……」彼女はディシートにカンスリーフの花びらを投げ込みながら言う。「距離を詰めて、思いっきり強打すること」 茶4 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/82.html
アルゴニアン報告 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 帝都の小さいが立派な広場の一角に置かれている、または、ぐったりとしているのがヴァネック卿の建設会社である。その想像力に欠けた質素な建物は、芸術性や建設設計に関してはあまり有名ではなく、むしろその並外れた長さによって知られている。もし批判的なものが、なぜヴァネック卿はあのような飾り気のない、伸びきった突起物を好むのかを疑問に思ったとしても、彼らはそれを口にしなかった。 第三紀398年、デクマス・スコッティは建設会社の先任書記であった。 内気な中年の男がヴァネック卿の下へ、五年戦争によって破壊されたヴァレンウッドの街道を修復する独占権をこの建設会社に与えるという、今までの契約の中でも最高の利益を得られる契約をもたらしてから数ヶ月が経過していた。これによって彼は、管理職や書記に間で人気者になり、彼の冒険を物語る日々を過ごしていた、大体に関しては忠実に…… 彼らの多くはシレンストリーによって催された、祝賀のアンスラッパローストに参加していたので、結末は除いてあった。聞き手に彼らは人肉をむさぼり食ったと伝えるのは、どのような気の利いた話であっても、その質を高めるものではないからである。 スコッティは特に野心家でもなければ勤勉者でもないので、ヴァネック卿が彼に何もすることを与えなかったことは気にしていなかった。 いつでもあの、小太りで小さなふざけた男が職場でデクマス・スコッティに出くわすと、ヴァネック卿は必ず、「君はこの建設会社の名誉である、頑張りたまえ」と言う。 最初の頃は、何かしていなければいけないのかと心配したが、数ヶ月がすぎて行くにつれ、彼はただ「ありがとうございます、がんばります」と答えるだけになっていった。 一方、将来のことも考えなければならなかった。彼は若くもなく、何もしない人にしてはかなりの給料も貰ってはいたが、近いうちに引退する破目になり、何もしない、何も貰えない人になってしまうのではないかなどと考えた。もしヴァネック卿が、ヴァレンウッドの契約が生み出す何百万もの金への感謝から、快くスコッティをパートナーにしてくれれば、それは素晴らしいことだと考えていた。最低でも、彼にお宝の歩合をほんの少しでも与えてくれればと考えていた。 デクマス・スコッティはそのような事柄を請求するのは苦手であった。それが、ヴァレンウッドでの先任書記としての目覚しい成功の前は、アトリウス卿にとって彼が手際の悪い代理人であった1つの理由である。彼がヴァネック卿に何か言おうと決断しかけた時、閣下が突然話を進めた。 「君はこの建設会社の名誉である」と、よぼよぼした背の低いものは言い、そして一瞬止まった。「予定に少々、時間の空きはないかね?」 スコッティは躍起になってうなずき、閣下の後を、あの悪趣味な装飾を施された、誰もがうらやむ巨大な部屋へとついていった。 「君がこの建設会社に居てくれることを、ゼニタールの神に感謝します」小男が甲高い声で雄大に言った。「知っているかは知らないが、我々は君が来る前はひどい苦境に立たされていた。確かに大きな計画はあったのだが、成功はしなかった。例えばブラック・マーシュ。我々は、何年間も商業用の街道や他の通行用の路線の改善を試みてきた。私はその件に最適の男、フレサス・ティッジョを送り込んだが、膨大な資金と時間の投資をよそに、毎年それらの路線上の貿易は遅くなる一方であった。今は、君の良くまとまった、建設会社の利益を押し上げてくれるヴァレンウッドの契約がある。君が報われるべき時期が来たと思う」 スコッティは謙虚さと、かすかな欲をまとった笑顔を見せた。 「フレサス・ティッジョからブラック・マーシュの仕事を引き継いでもらいたい」 スコッティは心地よい夢から恐ろしい現実へと引き戻されたかのように震え、「閣下… わ、私には……」 「大丈夫だ」ヴァネック卿は甲高い声で、「ティッジョのことは心配しなくてもよい。手渡す金で彼は喜んで引退するであろう、特に、この魂をも痛めつけるほどに難しい、ブラック・マーシュ事業の後ではな。君にこそ相応しい挑戦である、敬愛なるデクマスよ」 スコッティは、ヴァネック卿がブラック・マーシュに関する資料を取り出している最中、声は出せなかったが口は弱々しく「嫌」の形をしていた。 「君は、読むのは早いほうであろう」ヴァネック卿は推測でものを言った。「道中で読んでくれたまえ」 「どこへの道中ですか……?」 「ブラック・マーシュに決まっておるではないか」小男がクスクス笑った。「君は面白い男だ。行われている仕事や改善の方法を他のどこへ行って学ぶというのだ?」 次の朝、ほとんど触れられていない書類の山とともに、デクマス・スコッティはブラック・マーシュへと南東に向かって旅立った。ヴァネック卿が、彼の最高の代理人を保護するために、壮健な衛兵を雇っていた。少々無口なメイリックという名のレッドガードである。彼らはニベンに沿って南へと馬を進め、それから彼らはシルバーフィッシュに平行して、川の支流には名前もなく、草木は北帝都地方の上品な庭園からではなくまるで違う世界から来たような、シロディールの荒野へと進んだ。 スコッティの馬はメイリックのそれにつながれていたので、書記は移動しながら書類を読むことができた。進んでいた道に注意を払うことは困難ではあったが、建設会社のブラック・マーシュにおける商取引に関して、最低でも大雑把な知識が必要であることをスコッティは分かっていた。 それはギデオンからシロディールへの街道の状態を改善するために、裕福な貿易商ゼリクレス・ピノス・レヴィーナ卿から初めて数百万の金を受け取った、40年前にさかのぼる書類が詰まった巨大な箱であった。当時、彼が輸入していた米や木の根が帝都に到着するまでには、半分腐って3週間という、途方もないような時間がかかるものだった、ピノス・レヴィーナはすでに亡くなっているが、数十年にわたってペラギウス四世を含む多くの投資家たちが、建設会社を雇っては道を作り、沼の水を抜き、橋を作り、密輸防止策を考案し、傭兵を雇い、簡単に言えば歴史上最大の帝都の思いつく、ブラック・マーシュとの貿易を援助するためのすべての方策を行わせてきた。最新の統計によると、この行為の結果、今は荷物が到着するまでに2ヶ月半かかり、完全に腐っているとのことである。 読みふけった後に周りを見回すと、地形は常に変化していたことにスコッティは気付いた。常に劇的に。常により悪く。 「これがブラックウッドです」と、メイリックはスコッティの無言の問いに答えた。そこは暗く、木が生い茂っていた。デクマス・スコッティは適切な地名であると思った。 本当に聞きたかった質問は、「このひどい臭いは何?」だった。そして、後に聞くことができるのだった。 「沼沢地点です」メイリックは、木と蔓が絡み合い、影の多い通路が空き地へと開ける角を曲がりながら答えた。そこにはヴァネック卿の建設会社、そしてタイバー以降のすべての皇帝が好む、型にはまったインペリアル様式の建物がまとまって建てられており、目もくらみ、腸がねじれるような強烈な汚臭と相まって、突然すべてが劇薬にさえ思えた。至るところを飛び回り、視界をさえぎる深紅色で、砂の粒ほどの虫たちの大群も、その光景を見やすいものにはできなかった。 スコッティとメイリックは、元気いっぱいに飛び回る大群に向かって瞬きを繰り返しながら、近づくにつれ真っ黒な川のふちに建てられていることが判明した一番大きな建物に向けて馬を進めた。その大きさと厳粛な外観から、対岸の茂みへと続く大きな気泡を発する黒い川に架けられた、幅広の白い橋の通行人管理と税徴収の事務所であるとスコッティは推測した。それは光り輝く頑丈そうな橋で、彼の建設会社が架けたものであるとスコッティは知っていた。 スコッティが一度扉を叩いたとき、いらいらした汚らしい役人が扉を開いた。「早く入れ! ニクバエを入れるな!」 「ニクバエ?」デクマス・スコッティは身震いした。「人間の肉を食べると言うことですか?」 「馬鹿みたいに突っ立てれば食われるさ」と、兵士は呆れたように言った。彼には耳が半分しかなく、スコッティは他の兵士たちも見たが、全員いたるところをかまれており、1人は鼻が完全になかった。「それで、何の用だ?」 スコッティは用事を伝え、要塞の中ではなく外に立っていたほうが、より多くの密輸者を捕らえられるであろうと付け足した。 「そんなことより、あの橋を渡ることを気にしたほうがいいぞ」と、あざけるように兵士が言った。「潮が満ちてきている。もし急がなかったら、4日間はブラック・マーシュへ行けないぞ」 そんな馬鹿な。橋が上げ潮に呑まれる、それも川で? 兵士の目が、冗談ではスコッティに伝えていた。 砦から外に出た。ニクバエから拷問されることに嫌気がさした馬は、どうやら止め具を引きちぎり、森の中へと消えたらしい。川の油質の水は既に橋の厚板に達しており、その隙間から滲み出ていた。ブラック・マーシュへ行く前に、4日間の滞在に耐えるのは構わないとスコッティは考え始めていたが、メイリックは既に渡り始めていた。 スコッティは彼の後をあえぎながら追った。彼は昔から壮健ではない。建設会社の資料が入った箱は重かった。途中まで渡ったとき、彼は息をつくために立ち止まった、そして、動けないことに気がついた。足が固定されていたのである。 川を覆う黒い泥には粘着性があり、スコッティが行く厚板の上に泥が打ち寄せたとき、彼の足をしっかりと固定してしまった。彼はうろたえてしまった。スコッティはそのわなから顔を上げ、メイリックが板から板へ飛び移りながら、対岸のアシの草むらへの距離を急速に縮めていくのを見た。 「助けてくれ!」と、スコッティは叫んだ。「動けない!」 メイリックは跳ね続け、振り返りもしなかった。「はい、残念ながら、もはや、お痩せになられるしか、なすすべはありません」 デクマス・スコッティは、自分の体重が数マイル多いことも分かっていたし、食事を減らして運動を増やすつもりでもいたが、減量が現在の苦境から速やかに彼を救ってくれるとは到底思えなかった。ニルンに存在するいかなる減量も、その場では助けにならない。そこで、よく考えてみるとあのレッドガードは、資料の詰まった箱を捨てろと言っていたのだと気がついた。メイリックは既に、それまで持っていた重要な物質を何ひとつ持ってはいなかった。 ため息をつきながら、スコッティは建設会社の記録書類が入っている箱をネバネバした川の中に捨て、厚板が数ミリ、辛うじて自身を泥の束縛から解放するに足るだけ浮き上がるのを感じた。恐怖から湧き上がる敏捷性で、スコッティは板を3枚ずつ飛ばしながら走り、川が彼を捉える前に跳ね上がりながらメイリックの後を追った。 四十六回跳んだところで、デクマス・スコッティはアシの茂みを抜けて、メイリックの後ろの硬い地面に着地し、ブラック・マーシュに到着した。彼のすぐ後ろで、橋と、もう二度と目にすることがない建設会社の重要で、公式な記録書類の詰まった箱が、上昇する汚物の洪水に飲み込まれていく嫌な音が聞こえた。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/264.html
鏡面 ベルディアー・レアンス 著 広々とした草原の上を風がなびき、数本の木を前後に揺すり、苛立たせている。明るい緑のターバンを巻いた若い男が軍に近寄り、彼の族長の和解条件を指揮官に渡した。そして彼は拒否され、戦が始まる。アイン・コルーの戦いである。 よって、族長インベズはむき出しの挑戦を宣言し、彼の騎兵たちはまたしても戦争となった。一族は幾度となく彼らが占有すべき以外の領土に侵入し、そして幾度となく外交的手段は失敗し、ようやく戦になった。ミンドゥスラックスにはそのほうが好都合なのである。彼の同胞たちは勝つかもしれないし、負けるかもしれないが、彼は必ず生き残る。時折戦の敗北側にいたこともあったが、この34年間、彼は1度も近距離戦に負けたことがない。 二つの軍は、ほこりの中を泡立つ小川のように殺到しあい、激突すると喚声が沸きあがり、丘にこだました。血、ここ数ヶ月でこの地が味わった久しぶりの液体は、粉のように踊った。競り合う部族たちの雄叫びは、2つの軍が互いの身体に食い込む中、調和された。ミンドゥスラックスは、彼が愛する場所にいた。 一歩も退かずに10時間戦った後、両指揮官はお互いに、戦場からの名誉ある撤退を行なった。 野営地は高い壁に囲まれ、春の花に飾られた古い墓地の庭園に設置されていた。ミンドゥスラックスがその地を見て回ると、彼の頭を子供の頃の家がよぎった。それは幸せと寂しさの記憶であった。子供の夢の純粋さ、様々な戦闘の教え、そして一抹の記憶。誇りと無言の悲しみで息子を見下ろす美しい女性。彼の母親である彼女が何に悩んでいたのかを聞いたことはないが、沼地を歩いて渡った彼女が数日後に発見された時、自らの手で首を切っていたことすら誰も驚くことではなかった。 戦闘が終ってから30分以内に彼らは再編していた。まるでそれが本能であるかのように。医者が負傷したものを見るなか、誰かがある程度の称賛と驚きをもって言った。「ミンドゥスラックスを見ろよ。髪の毛すら乱れてないぜ」 「彼は偉大なソードマンだ」と、主治医が言った。 「剣は過大評価されている」と、ミンドゥスラックスは言った。「戦士は打撃に注意を払いすぎ、防御に払わなすぎる。戦闘への正しい向かい方は、自分を防御すること、そして理想的な瞬間が訪れたときにのみ敵を攻撃すること」 「俺はもっと単純な接し方が好きだぜ」負傷者の1人が笑った。「騎兵のやり方だ」 「もしビョルサエ族のやり方が役に立たなくなってしまうのであれば、私は文化を放棄する」と、ミンドゥスラックスは言い、冒とく的ではなく表現的であったことを示すため、霊に向かって崇める動作をした。「偉大な剣豪ガイデン・シンジが言った言葉を思い出せ。『最高の技術は生き残った者によって伝えられる』。私は36回戦場に出たが、そうわかるような傷を1つも負っていない。それは私が盾に頼りそれから剣に頼る、その順番を忘れないからこそだ」 「あんたの生き残る秘訣は?」 「打撃戦を鏡だと思え。右手で攻撃するときは、相手の左手を見ている。もし彼が私の攻撃を防御する準備ができているならば、私は叩かない。なぜ無駄な力を出さねばならない?」ミンドゥスラックスは眉を上げた。「だが、相手の右手に力が入っていれば、私の左手は盾を動かす。攻撃を繰り出すには、それを跳ね返す力の倍は力が必要だ。敵が上から、または斜めに、もしくは下から攻撃してくるのを目が認識できれば、自分を守るために盾を旋回して配置することを覚える。もし必要であれば何時間でも防御し続けることができるが、打撃で疲れた敵は一瞬で仕留めることができるだろう」 「今までで一番長く自分を防御させられたのは?」と、負傷した男が聞いた。 「1度、1時間くらい戦ったことがある」と、ミンドゥスラックスが言った。「彼は疲れを知らないこん棒使いで、防御以外に私が何かをする機会を与えてはくれなかった。しかし1時間くらいして、やっと彼が棍棒を持ち上げるのにほんの少し時間がかかり、その瞬間に私は彼の胸に隙を見た。彼は私の盾を数え切れないほど殴ったが、私は彼の心臓を1度だけ攻撃した。それで十分だった」 「では、彼が最高の敵でしたか?」と、医者がたずねた。 「いや、まったく違う」と、彼の顔が銀色の金属に反射するように、大きな盾を返しながらミンドゥスラックスが言った。「これがその人だ」 次の日、戦闘が再開された。族長インベズは南の島から増援を連れてきていた。一族の嫌悪と不名誉をよそに、傭兵や逃亡中の騎兵果てはリーチメンの魔女たちでさえ戦いの仲間入りを果たした。ミンドゥスラックスは戦場を見渡して、集まり、兜をかぶり、盾や剣の準備をしている双方の軍を見つめながら、彼の哀れな母親のことを思った。何があれほどまでに彼女を苦しめたのか? なぜ彼女は自分の息子を嘆かずに見られなかったのか? 朝から晩まで激戦が続いた。幾度となくお互いにぶつかり合う戦士たちを、頭上の青空が照らした。すべての打撃戦にミンドゥスラックスは勝利した。斧を持った敵が打撃を何度も彼の盾に浴びせたが、そのすべては跳ね返され、そして最後にはミンドゥスラックスがその戦士を負かした。槍を持った娘の1撃目が危うく盾を貫通しそうになったが、ミンドゥスラックスは打力を受け流し、彼女を不安定にさせ、反撃できるよう身体を開かせた。そして彼は、盾と剣を携え、金色の青銅の兜をかぶった傭兵に戦場で出会った。一時間半にわたって、彼らは戦った。 ミンドゥスラックスは知り得る限りの技を試した。傭兵の左腕に力が入っていれば、彼は攻撃を控えた。敵が剣を上げたときは、彼の盾も同じく上がり、防御した。人生で初めて、彼は別の守備的な戦士と戦っていた。あまり動かず、反射的で、もし必要であれば何日間でも戦い続けられる体力を持っている。時おり、他の戦士が彼らの戦いに割り込んでくる。時にはミンドゥスラックスの軍からであり、また時には敵の軍からもだった。これらの邪魔者は即座に始末され、2人は彼らの戦いへと戻った。 お互いの周りを回り、防御と打撃、打撃と防御を交わし、戦いながらミンドゥスラックスは理解した。彼は完全な鏡と戦っていたのだ。 それは、血の争いではなく、どちらかと言うと試合、むしろ踊りにも近くなっていた。この舞踏はミンドゥスラックスが足運びを誤り、攻撃が早くなりすぎて均衡を乱すまで終わらなかった。彼は傭兵の刃が自分の喉から胸にかけてを引き裂くのを、感じたというよりは見た。巧妙な打撃であった。それは彼自身が与えることになったかもしれないような攻撃であった。 ミンドゥスラックスは地に倒れ、己の命が失われていくのを感じていた。傭兵は彼の上に立ち、好敵手に止めを刺す姿勢をとった。それはよそ者が行うには奇妙で立派な行為であり、ミンドゥスラックスは大いに心を動かされた。戦場の向こうで、誰かが彼の名に似た名前を呼ぶのが聞こえた。 「ジュリファックス!」 傭兵は呼びかけに答えるために兜をぬいだ。彼がそうしている間、ミンドゥスラックスは兜の隙間から彼に自分自身を見た。それは彼の目であり、赤茶の髪、うすく大きな口、四角いアゴ。彼はその鏡のような容姿に驚いた。そしてその知らない男は彼へと振り返り、最後の一撃を放った。 ジュリファックスは指揮官の下へ戻り、今日の勝利における彼の働きに対する恩賞が十分に与えられた。以前は敵によって占領されていた古い石塚の横にある庭園で、星の下での暖かい食事に彼らは散っていった。傭兵はその地を観察しながらも、妙に静かであった。 「ジュリファックス、ここに来たことがあるのかい?」と、彼を雇った部族民の1人が聞いた。 「私はあなたと同じように騎兵に生まれた。母親は私がまだ赤子のときに私を売った。私はいつも、もし手放されていなかったら、人生がどのように違っていたかと思っていた。もしかしたら、傭兵にはならなかったかもしれない」 「様々なことが我々の運命を決めるのじゃ」と、魔女が言った。「この世の中で、こうしていたら、こうなっていたらと考えるのは無益じゃ。あんたとまったく同じ人間は存在しない、よって比べるのは愚かじゃ」 「しかし、1人いる」と、星を見上げているジュリファックスが言った。「私が自由の身になる前、雇い主から母親は2人の子供を生んだと聞いた。1人しか養う余裕がなかったので私は手放されたが、どこかに私にそっくりな男がいるはずだ。かなうならば、会いたいと思う」 魔女は目の前の霊を見た。そして双子は既に会っている真実を知った。彼女は沈黙を守り、炎を見つめ、想いを頭から追いやった、すべてを伝えるには、彼女は賢すぎた。 小説・物語 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/106.html
ペリナルの歌 第8巻:啓示とアレ=エシュの死 [編者注:この断章は現存するペリナルに関しての文書で最も古く、最も断片的なものである。しかしながら、その発生時期に実際に歌われ伝えられていたペリナルの歌に最も近いと思われ、短さに反してその価値は高い。奇妙なことに、アレッシアの死に際にペリナルがいたと読める箇所があり、それ以前(アレッシアの死より何年も前)にウマリルに殺されていたという他の文書の記述と矛盾する。一部の研究者は、この断章がペリナルの歌の一部ではないとしているが、多くの研究者はこの断章が本物であると信じており、議論が存在する。] 「…… そして、私の半身とともに力を集めさせたのだ、その半身はその死すべきものの観念に光を与えた。それは[神々の]喜び、それは自由、天にもその本当の意味は知られていない[だからこそ]父なる…… [文章欠落]…… 協定より以前、最初の[日々?精霊?渦巻き?]……の中でこの世の憤怒を模して。[我々は]今あなたをつれてゆく。我々の本当の顔を[見せて]やろう…… [それらは]時がくるたびに失われた記憶の中で互いに食らい合う」 歴史・伝記 赤1