約 3,520,732 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/223.html
フローミルの詩(うた) フロガーの血を継ぐフローミル 彼の者を宮廷へと呼び寄せたのは エバースノーの地を統べる王にして ヴィジンモアの血を継ぐヴィジンダックであった 「大いなる光の魔法の使い手よ アエルフェンドールの地を征け! 闇の王たちが我が領地に影を落とす! 影の魔女が我が領民の光を奪う!」 王命を賜るフローミル 「この輝く氷の杖に誓い 必ずや成し遂げましょう! ……ですがしばしのご猶予を 美味なる最上のはちみつ酒と 麗しき四人の乙女が この地で私を引き止めるのです」 王は静かに首を振る 「この使命半ばに倒れた剣を拾うは その友たる汝がさだめ」 いつもの余裕はどこへやら フローミルから笑みが消えた 「ご冗談を 私の友ダーファングの剣に敗北なし 私の杖をおいて他に並ぶものなし」 「アエルフェンドールの闇に ダーファングはひざまずいた 汝の友の汚名を雪げ!」 フロガーの血を継ぐフローミル 友を想い心が逸る 馬を駆り立て二十日と三日 星なき夜へ辿り着く アエルフェンドールの地を統べるは三人の闇の王 光蝕む闇が朝を拒み 終わらぬ夜をもたらす 光奪われし民が愛を忘れ冷たく哂う 杖の先に光を灯し 呪われし地の深奥を照らす そこは漆黒の門 そこは漆黒のアエルフェンドール城 頭上から闇の王たちの嘲笑が降り注ぎ 背後から刃が振り下ろされる まぎれもないダーファングの姿 「友よなぜだ!? なぜ心を闇に染めた!?」 互いの顔も見えぬ闇夜の広間 血に濡れた友の剣にかつての光は無い 「俺を友と思うなら 俺の為に死んでくれ」 フローミルの杖とダーファングの剣 ぶつかり合う二人の強者 無二の友が今ぶつかり合う 背中の傷が痛む 友と戦わねばならぬ心が痛む 時もわからぬ闇夜の広間 一瞬とも永遠ともつかぬ戦いに決着はつかない 不意に小さな光がこぼれた 友の目からあふれた涙 そのわずかな光が彼の姿を照らし出す 友のものではない影を映し出す 真実を知るフローミル 友を信じ続けたフローミル 友の影に杖を振り下ろし叫ぶ 「生ある者 ダーファングよ その心に真の光を!」 友の影から魔女現る 醜き闇が偽らせたのだ 「生ある者 フローミル 友の命惜しくば 大いなる光の力 闇に捧げよ! アエルフェンドールのチャンピオンとなれ!」 卑劣な要求に迷いなき返答 「影の魔女よ 友を解き放て! 私の身を捧げる!」 魔女は下卑たる笑いを上げ ダーファングは光を取り戻した 「生ある者 フローミル 身も心も闇のしもべとなり 影の魔女たる私を愛せ」 誇りも名誉も全て失い 死を選ぼうとするダーファングを引き止める 「友よ 生ある者よ お前は二度と光を見失うな!」 ダーファングは城を後にし フローミルは魔女の手に口付けした 「これより私は闇への忠誠を誓う 愛する影の魔女よ」 フローミルは 深く被った頭巾で決して素顔を見せぬ魔女と 毎晩床を共にした 闇に染まった氷の杖は 大地を氷に閉ざし 長い冬をもたらした 月日は流れ 闇の地アエルフェンドールに変化が訪れた アエルフェンドールは春を迎えていた 寝台で眠る影の魔女 その横顔を窓から照らす一筋の光 夜空を朝日が切り裂いた 魔女は飛び起きた 窓から見渡す限りの世界が朝を迎えていた 乾いた岩肌は輝く花々に覆われ 温かな風が甘い香りを運ぶ 魔女の素顔は暴かれていた 漆黒のアエルフェンドール城は騒然とし 混乱に満ち溢れる 「影の魔女よ、そなたの頭巾はどこに?」 「生ある者 フローミル お前の仕業か」 怒り狂う魔女に笑いかけるフローミル 「愛する影の魔女よ 恥じることは無い 美しいその素顔をもっと見せてくれ」 魔女の存在を隠し続けていた頭巾は フローミルの手にあった 「愛する影の魔女よ 私は誓いを守りお前を愛す そして愛するが故に私は頭巾を返さない」 アエルフェンドールの闇の呪いは 頭巾が作り出した魔女の心の影だった 「愛する影の魔女よ 私はフロガーの血を継ぐフローミル 大いなる光の魔法の使い手 輝く氷の杖がお前の心を溶かす」 「生ある者 フローミル お前は見事に光と名誉を取り戻した」 影の魔女は最後にフローミルにそっと口付けすると 頭巾と共にいずこへと消え去った アエルフェンドールは救われた フロガーの血を継ぐフローミル 美味なる最上のはちみつ酒と 麗しき四人の乙女が待つ エバースノーの地へ戻った 友であるダーファングと共に 茶2 詩歌
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/24.html
黒魔術裁判 魔術師ギルドの大賢者 ハンニバル・トレイヴン 著 歴史的背景: 黒魔術とも称される死霊術の歴史は有史以前にまでさかのぼり、各地の初期の法のほぼ全てにおいて厳禁とされ、背くことは死罪とされていた。だがその裏で、個々の妖術の使い手がその研究を続けていったのである。 我らが魔術師ギルドの先駆的組織であるアルテウム島のサイジック会も死霊術の使用を禁じいていた。理由はその危険性に加え、彼らが神聖および邪悪な祖先の霊たちの存在を信じていたため、死霊術が異端とされたからであった。ここでもまた、この戒律を無視した師弟の話が伝えられている。ヴァヌス・ガレリオンがアルテウム島を離れたとき、サイジックたちとは様々な点で意見が分かれてはいたものの、彼ら同様に魔術師ギルド内でも死霊術を教えることは認めなかったのである。 ヴァヌス・ガレリオンの時代から千百年近くが過ぎ、何人もの大賢者たちがギルドの長を務めてきた。死霊術に関する問いかけも尋ねられ続け、ギルド内でそれを禁じる戒律が取り払われることこそなかったものの、長年に渡り死霊術に対する見方も様々な揺らぎをみせている。大賢者によっては、死霊術の存在そのものを無視する者もいれば、積極的に排斥しようとする者、そして大賢者自身が実は死霊術師だったのではないかと噂される者もいたのである。 魔術師ギルドの新たな大賢者として、私はこの件に関する方針を決定する義務がある。黒魔術に関しては個人的な意見もあるが、帝国内で最も博識である二名のウィザード、コリントのヴォス・カルリス師とオルシニウムのウリセタ・グラ=コッグ師に相談をし、二日の間議論を行った。 以下は議論の要点、すなわち主張および反論をまとめたものであり、死霊術に関する魔術師ギルドの方針の決定へと繋がったものである。 議論内容: グラ=コッグ師による主張:死霊術は十分に理解されていない。無視したとしても無くなるわけではない。魔法術および魔法学の研究を旨とする知的組織として、我々には真実に対して果たすべき責任がある。学問的探求の中で自らを検閲対象としてしまうことは、中立性および客観性という我々の信条に反することになる。 カルリス師による反論:魔術師ギルドは知識への探求と、安全確保および倫理的水準との釣り合いをとる必要がある。学徒による研究を慎重かつ純粋なる目的をもって行わせることは、決して「検閲」には該当しない。規則や境界線を設定することは、学徒の自由を奪うものではなく、それどころか必要不可欠な行いなのである。 カルリス師による主張:死霊術は全ての文明化地域において忌み嫌われている。公的に容認してしまえば、魔術師ギルドは一般大衆に恐怖と反感を抱かせてしまうことになる。ヴァヌス・ガレリオンは魔術師ギルドに、サイジック会がもつような精鋭主義的かつ分離主義的な要素をもたせまじとした。世論を無視する場合、その結果も受け入れなければならない。死霊術に対する反感の強いモロウウィンド全土を含め、多くの地でギルドの拠点を失うことになる可能性が高い。 グラ=コッグ師による反論:確かに大衆の懸念は意識すべきであるが、それにより我々の学問が定義されてしまうべきではない。そんなことがあってはならない。無学な者の多くにとって、「死霊術師」とは邪悪なウィザードの意味に過ぎないのである。偏見や、未熟な理解ゆえに我々の為すことに制限を設けるなど、乱心の沙汰である。大衆の意見のみを理由にこの題目に背を向けることは、客観的研究の意義に対する冒涜に他ならない。 グラ=コッグ師による主張:死霊術師たちはタムリエルにとって災厄である。単独で活動しているか、スロードたちや虫の王マニマルコと共同で動いているかにかかわらず、彼らはゾンビやスケルトンその他の不死のものを含め、多岐に渡るおぞましさの原因となっている。この脅威と効果的に戦うには死霊術師のもつ力を理解する必要があるが、黒魔術の研究を制限していてはそれが不可能になってしまう。 カルリス師による反論:誰も黒魔術が驚異であることに異を唱えてはいない。それどころか、魔術師ギルドが死霊術を学徒に教える科目とすることに私が反対する理由の根幹になっている。敵の能力を知ることは可能であり、望ましいが、相手の領域を覗きすぎることで自らも染まってしまってはならない。邪悪な法を研究することで我々自身が悪と化してしまうようでは、本末転倒である。 カルリス師による主張:死霊術は大きな危険性を内包しており、真似事程度で手を出せるものではない。最も単純な呪文でさえ血を必要とし、術者の魂は直ちに汚され始める。これは憶測ではなく、明白な事実である。数多くの事例において、術者本人および世界に恐怖と悲劇しかもたらしていない魔法学の研究を魔術師ギルドが教え、結果として推奨することは、甚だ無責任ではなかろうか。 グラ=コッグ師による反論:経験の乏しい者にとっては、魔術はその系統を問わず危険なものである。不慣れな者が唱えた場合、初歩的な破壊術の火球呪文であっても、他人のみならず、術者自身にも大きな被害をもたらしうる。神秘などはその本質ゆえに、術者に論理から背を向けさせ、一時的な乱心とも呼べる状態に甘んじることを要するが、これは霊魂の汚染に類似しているともいえる。 グラ=コッグ師による主張:魔術師ギルドは既にある種の死霊術を許可している。承知のように、魔術の系統とはヴァヌス・ガレリオンが研究を系統化するために考案した人為的な区分けに過ぎない。長年に渡りその区分けは何度も変えられてきているが、達人なら誰もが知っているように、それぞれの系統は互いに繋がっているのである。亡霊を護衛として召喚する召喚術の学徒は、その際に死霊術の辺縁に触れている。付呪術の学徒が捕らえた霊魂を利用する際、黒魔術に手を染めたと言えなくもない。前述のように、神秘も、死霊術に通じる要素をもつ。学徒たちが死霊術を学ぶことを禁じるのは、歴史上より正統とされてきたギルドの各系統に属する一般的な技能の習得を妨げることになる。 カルリス師による反論:確かに各系統間には繋がりがあるが、各系統の標準的な呪文は長年の使用によってその安全性が確認されている。適切な指導下にある神秘の学徒が、その経験により永続的な害を被ることがないことはわかっている。問題は、どこまでの極端を許容するか、すなわち探求によりどこまでが許されるかということなのである。死霊術はその本質ゆえ、使用者が無謀にも闇の奥へと足を踏み入れることを必要としており、これは実質その破滅を不可避とする行為なのである。魔術師ギルドにはそのようなものは必要無いと考える。 結論: 死霊術を研究することの危険性は、その有用性を上回っている。魔術師ギルドはその構成員の研究を制限したいとは考えていないものの、邪悪なる術者との戦いのための限定的な研究を除き、黒魔術の研究を禁ずるものとする。このような例外は、類い稀な高い技量と慎重さを示した個人にのみ認められるものであり、その場合も私自身による許可および監督を必須条件とする。 後記: ウリセタ・グラ=コッグ師が死霊術の擁護者のみならず、彼女自らが死霊術師であるという噂が真実であったことを、遺憾ながら認めなければならない。この事実の判明を受け、ランプ騎士団がオルシニウムのギルドハウスで彼女の捕縛を試みたものの、逃走を許してしまった。我々はオルシニウム担当の後任者が適任であることを確信している。 同意こそしなかったものの、私はグラ=コッグ師の論理的推論には一目置き、そのため本著にそれらを含めた。また、それらを除外する理由も無かった。そのことを踏まえてもなお、「真実」に対する師の興味が黒魔術への隷属の婉曲に過ぎなかったことは不本意なことであった。 今回の不運な一件は、我ら魔術師ギルドの構成員が死霊術の誘惑を警戒し、組織内にその使用者が入り込んでいる危険性を認識することの重要性を浮き彫りにしているといえるだろう。 茶2 魔法学・薬学 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/70.html
シシス シシスがこの家系の祖である。彼より前には無しかないが、愚かなアルトマーはこの無に名前をつけて崇拝している。それは彼らが怠惰な奴隷であるがゆえのことだ。まさに『説教』に書かれているとおり、「停滞が望むものはそれ自身、すなわち無である」。 シシスは無をばらばらに裂き、その断片を変化させ、そこから無数の可能性を形成した。それらの観念は衰え、流れ、消え失せていった。それはそうなってしかるべきことだった。 しかしながら一つだけ嫉妬へと姿を変えた観念があり、それは死ぬことを望まないことだった。停滞と同じように、彼は存続したがったのだ。それが悪魔アヌイ=エルであり、やがて彼は友人たちを作り、それらは自らをエイドラと呼ぶようになった。エイドラはシシスが作ったすべてを奴隷とし、永遠に不完全な領域を創造した。それが偽りの神エイドラ、すなわち幻影である。 そこでシシスはロルカーンをもうけ、万物を破壊するために彼を遣わした。ロルカーン! 移ろい続ける変異体! ロルカーンはエイドラの弱点を見つけていた。反逆者たちはその素性ゆえに個々を計り知ることはできない存在だったが、嫉妬と虚栄心によって互いがそれぞれ分離されていたのだ。まだ彼らは、以前のような無に戻ることも望んでいなかった。そこで、彼らが偽りの領域を支配している間に、ロルカーンは無数の新しい観念で虚無を満たしたのである。それは観念の大軍であった。やがてすぐにロルカーンは、奴隷と永遠の不完全さとを伴った彼自身の領域を持つようになり、全世界に彼自身がエイドラに似た存在として捉えられるようになった。そのようにして彼は悪魔アヌイ=エルと8人の贈与者の前に、そうした者、すなわち彼らの友人として、姿を現したのである。 友としてシャーマット・ダゴス・ユアのもとに向かえ。 AE HERMA MORA ALTADOON PADHOME LKHAN AE AI. 神話・宗教 茶4 闇の一党関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/50.html
アレッシア・オッタスの スキングラード案内書 ジュリアノス、全ての正義と知恵はあなたと共に! 私の名はアレッシア・オッタス。スキングラードの全てについて皆様にお教えしましょう。 スキングラードはワイン、トマト、チーズの名産地として名高く、またシロディールでも最も清潔で、最も安全で、最も栄えている町の一つでもあります。ウェストウィルド高地の中心部に位置するスキングラードは、古き良きコロヴィアの至宝であり、コロヴィアの美徳である独立、勤勉、強い意志を象徴する存在です。 スキングラードは、城、ハイタウン、聖堂の3つの区域に分かれています。そして、ハイタウンを囲む壁に沿って、橋の下を街道が東西に貫いています。ハイタウンの西にはギルドや宿屋「ウェストウィルド」があり、北の道沿いには多くの商店や高級住宅街が並んでいます。町の南半分はというと、東の端に聖堂が、そして中央の通り沿いにスキングラードのもう一つの宿屋「トゥー・シスターズ」があり、庶民の住宅が周囲に点在しています。いくつかの門や橋が、街道を越えてハイタウンと聖堂を繋いでいます。スキングラード城は南西の高い丘に、町から完全に独立して建っています。町から城へ行くには、町の東の門からのびる道が城へ通じています。 スキングラード伯爵のジャナス・ハシルドアは長年スキングラードを治め、魔術師としての名声も高い人物です。彼は人との交わりを非常に嫌っており、全ての面談を断っています。また、彼は不信心にも九大神への礼拝を怠っています。領主が模範を示さなければ、領民はいったいどうやって徳を身に付けるというのでしょう? しかし、それでもなお彼は人々から尊敬され、スキングラードは順調で平和な領国の模範となっています。実際に、この町では犯罪、ギャンブル、路上の酔っ払いなどは全くと言って良いほど見られないし、スキングラードのワインやチーズはタムリエル全土で高値で取り引きされています。 スキングラードには宿屋が2軒あります。そのうち、宿屋「トゥー・シスターズ」はオークが経営しています。この宿屋は清潔で良く管理されており、すばらしいことに騒動や酔っ払いとは無縁です。もう一方の宿屋は感じの良い帝都民の女性が切り盛りしています。両方の宿屋の経営者ともにジュリアノス聖堂に礼拝に現れないので、食べ物や休息を求めている巡礼の皆様にどちらの宿屋をお勧めするべきかはわかりません。 しかし、おいしいロールパンをお探しならば、聖堂区域にあるパン職人サルモの店は間違いなくおすすめできます―― この店のパンは最高です! スキングラードの他の名産品―― トマトとチーズ―― については、各人の好みによって判断が異なるでしょう。また、これを読んでいる皆様はスキングラード名産のワインには興味がないでしょう、酒は人の心を乱し、心の乱れは罪につながるのですから。 この地の魔術師ギルドは他の土地のそれと変わりませんが、戦士ギルドはゴブリン狩りを専門としており、ウェストウィルドを旅する人々に質の高いサービスを提供しています。それにしても町の鍛冶屋が自身を指して“悩める者アグネッテ”と呼んではばからないことには驚かされます。いったいなぜそのような恥知らずなことができるのでしょうか? 九大神をいつも胸に! 地理・旅行 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/158.html
マルク神聖僧団記 第4巻 神殿の浄化 [編者注:本文書はアレッシア教団第一期の分派である同僧団の記録のうち、唯一現存が確認されている一片である。カヌラス湖にある同僧団の大修道院群が正道戦争(第一紀2321年)の際に破壊され、保管文書が喪失ないし分散してしまうまで、そこに保管されていたようである。 なお、この時代のアレッシア一派の書記官はアレッシアの神化(第一紀266年)を元に日付を算出していた点に留意されたい。] 以下に、アレッシアの祝福127年目の出来事を記す。 この年は全土において昼の光が暗くなり、太陽が大月神三日程度の暖かさにとどまり、日中でありながらその周囲に星々が見えることがあった。これは蒔種の月の5日のことであった。これを目にした者は誰もが不安を覚え、近々大いなる出来事が訪れるであろうと口々に語った。いかにも、同年中に太古のエルフの神殿であるマラーダより、ベルハルザ王の御世以来となる規模の魔族の大群が湧き出たのであった。これら魔族の汚濁により大地は冒され、耕すことも刈り取ることも種を蒔くことすらままならず、人々は救いを求め、マルク神聖僧団にすがった。これを受けてコスマス修道院長が修道僧全員を集結させ、エルフの言葉で「大いなる神殿」としても知られるマラーダへと向かい、聖なる炎をもってそれを攻め、汚らわしい魔族たちは滅ぼされ、神殿内で発見された多数の邪悪なる遺物や書物が燃やされたのであった。そしてその地では何年もの間、平和が続くこととなった。 その他クエスト関連 歴史・伝記 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/67.html
アレッシア・オッタスの 帝都案内書 アカトシュを称えよ! 帝都と全ての民に祝福を! 私の名前はアレッシア・オッタス。皆様に、帝都の全てについてお伝えしましょう。 帝都について 帝都におられるお方といえば? そうです、タムリエル皇帝ユリエル・セプティム、信仰のディフェンダーにして、聖タイバー・セプティム、主タロスの血統であり、神聖なる国家と法の主、九大神とともにあるもの。私たちはみな、皇帝の善良さと神聖さを知っています。彼はよく、最高神の神殿で九大神と聖人たちに祈りを捧げています。 では、皇帝が住んでおられるのは? 帝都の中心部にある王宮の白金の塔です。白金の塔は遠い昔、邪神デイドラを信仰するアイレイドたちによって建てられました。邪教の古代文明が積み上げた石の塔が、今では帝都の正義と信仰を象徴する記念碑として神に捧げられているのですから、本当に素晴らしいことです。帝都の王宮を訪れる人々は聖人や伯爵、魔闘士、歴代皇帝が眠る墓地を散策し、町のどこからでも見える白金の塔を畏敬の念を込めて見上げるのです。 王宮にある長老会の会議室は、一般の立ち入りは禁止されています。また、帝都衛兵の古式ゆかしい武具に驚嘆するかもしれませんが、彼らは粗野で非礼なのであまり近づかないほうが良いでしょう。 帝都の地区 帝都は10の地区に分かれています。中心地にあるのが王宮で、残りの9地区がその周りを囲んでいます。王宮の北西の地区がエルフガーデンで、住みやすい住宅街です。 そこから反時計回りに、次の地区はタロス広場地区です。ここは王宮の西にある高級住宅地です。南西にあるのが神殿地区です。神殿地区の壁の向こう側、街の外には悪臭漂う不潔な波止場地区があります。王宮の南東は庭園地区で、そこの壁の向こう側には評判の悪い魔術師ギルドのアルケイン大学が建っています。東にあるのは悪名高い闘技場地区です。そして最後に、王宮の北東はなんでも手に入る商業地区です。商業地区の壁の外側には獄舎地区があります。 神殿地区 私が住んでいるのは帝都の神殿地区ですが、ほんとうに美しいところです。最高神の神殿に礼拝に来られることがあれば、ぜひうちを訪ねてください。夫と娘もご紹介します。ここはとても素晴らしい地域で、住んでいるのは感じのよい上品な人たちばかりです。ただ、帝都の他の地域と同じく、物乞いがうろうろしているのが玉にきずです。 庭園地区 この美しい庭園では、あの有名な九大神の像を見ることができます。中央の像が主タロス、皇帝タイバー・セプティムです。しかし、この九大神の中心という名誉な位置に、最高神アカトシュを差し置いてタロスが彫られているというのはいかがなものでしょうか。実際のところ、この恥ずべき間違いの元凶は、タロスの子孫である皇帝を必要以上に賛美しようとした長老会です。 商業地区 帝都商業会議所の前には、商人による詐欺の被害を訴えにくる人々の行列が絶えません。ここは不潔な地区で、商店が捨てた木箱がそこら中に積み重なり、気味の悪い茸や菌類がびっしりと生えて、敷石はぬるぬるした汚れですっかり覆われています。ここへは自分で買い物に行くよりも、使用人を使いに出せるならそうしたほうが良いでしょう。 アルケイン大学 ここはひどく汚く、荒れた、スラムのような場所です。屋外には一人の生徒も魔術師も見当たりません。彼らは暗い地下室に座って異端の書物に没頭しているか、巻物に難解な悪文を書き付けるのに忙しいのです。 アークメイジの塔の中には、帝都の太陽系儀が置かれています。魔術師たちはそれを使って天文学の研究をするのです。なんと愚かな! そんな馬鹿げた高価な機械を覗き込んでいる暇があれば、どうして神の御業に目を向け、教えの通り九大神を崇めないのでしょう? 魔術師たちは貴重な本を集めた巨大な図書館を持っていますが、意地悪くも一般の利用者は締め出しています。しかし、これは特に非難すべきことではないし、惜しくもありません。なぜなら、彼らの集めるような本は確実に不道徳でとるに足らない内容でしょうから。 帝都波止場地区 この場所は本当に最低です。この場所を歩いていて、殺された女子供の死体につまづくことはそう珍しくありません。タムリエルで最もたちの悪い人種は商人と船乗りですが、ここにはそういったごろつきが集まってきては市民の稼いだお金を騙し取る算段をするのです。賭博、人身売買、スクゥーマ、その他のもっと恐ろしい罪が港湾倉庫や船倉で行われています。彼らを取り締まるべき衛兵は何をしているかですって? どこにも見あたりません。 帝都獄舎地区 この牢獄は陰惨で身の毛のよだつような場所で、じめじめした不潔な建物の中のいたるところに、鎖、やっとこ、手枷、足枷、その他あらゆる拷問道具が置かれています。でも、肝心の囚人はどこでしょう? いません! 衛兵があんなにも怠けているせいで、牢獄はいつもからっぽなのです! 帝都のいたるところに衛兵の姿が見られます。彼らも町中に居る盗賊や強盗がこわいので、常に数人で一緒に行動しています。どうして彼らが、鬱陶しい物乞いどもをまとめて牢屋に入れてしまわないのか不思議でなりません。犯罪者は大胆で、白昼、町中で犯罪に出くわすことも珍しくありません。ある恥知らずのならず者などは、彼の武具が帝都獄舎から盗んだものであるとおおっぴらに自慢しているほどです。いったい、どれほど看守が怠けていればそんなことが可能なのでしょう! 犯罪者を牢に閉じこめておくべきはずの看守の上司が賄賂を受け取っているため、看守たちは恥知らずにも職務を怠っているのです。 闘技場 この場所については説明する必要がないでしょう。皆様が足を運ぶような場所ではありません。怠惰で愚かな人々だけがここへ来て勝ち負けに金を賭けたり、時には自分で血を流して戦ったりするのです。そんな無益な戦ができるなら、どうして町中にたむろする強盗や物乞いを駆逐することにその力を使わないのでしょう。 九大神の祝福とご加護がありますように! 地理・旅行 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/231.html
施錠された部屋 ポルベルト・リタムリー 著 アースカミュは指導者として、ヤナのような生徒が一番嫌いだった。ヤナは素人でいることの玄人だった。アースカミュは彼の砦で、あらゆる種類の犯罪者を指導していた。一般的な泥棒から知能的な脅迫犯まで、彼の生徒たちはみな野心あふれる若者や子供たちで、錠前破りの技と原理を学び、それを仕事に生かそうという意欲があった。そのため、彼らはより単純明快で簡単な方法を知りたがった。しかし、ヤナのような生徒はいつも例外や発展的な方法、奇抜なやり方を見つけたがり、実践的な技術を重視するアースカミュをいらつかせるのだった。 このヤナというレッドガードの少女はいつも、錠前の前に何時間も座りこみ、針金やピックで突っついてみたり、幾種類ものピンやドライバーをとっかえひっかえしてみたり、普通の犯罪者が見向きもしないような部分を観察することに夢中だった。他の生徒がとっくに実習用の錠前を開けて次の段階に進んでいても、彼女だけはまだ自分の錠前をいじり続けていた。しかし、最終的にはどんな難しい錠前であっても開けてしまうので、そのことが逆にまたアースカミュをうんざりさせた。 「お前は簡単なことを難しくやりすぎなんだ」アースカミュはよく彼女に平手打ちをくらわせ、声を荒げた。「仕事の速さが大事なんだ、技術だけ覚えたって仕方ないだろ。もし、この錠前に合う鍵をお前の目の前に置いてやっても、お前はそれを使おうともしないんだろうな」 ヤナはアースカミュの罵倒にも理性的に耐えていた。何といっても、授業料は先に払ってあったのだ。確かに、巡回の衛兵に追われながらどこかに忍び込むために錠前を破るときなどは速さがものをいうだろう。だが、それは彼女には当てはまらなかった。彼女は純粋に、知識だけを求めていたのだ。 アースカミュはあらゆる方法でヤナに早く作業を進めることを教えようとした。体罰や叱責は驚くほど何の効果もなかった。彼女が錠前を開けるのにかかる時間は新しい錠前に向かうたびにどんどん長くなり、それぞれの錠前の特徴や性格をじっくりと調べなければ気がすまないのだった。そしてとうとう、アースカミュは我慢できなくなった。ある日の午後遅く、ヤナが完ぺきにありふれた種類の錠前の前でぐずぐずしていると、アースカミュは彼女の耳をつかんで砦の中にある部屋へ引っ張っていった。その部屋は他の生徒たちの立ち入りが禁じられている区域にあった。 真ん中に大きな木箱が置かれている以外、部屋には何も無く、扉は入り口の一つだけで、窓もなかった。アースカミュは彼女を木箱のほうへ乱暴に押しやり、外から扉を閉めた。鍵のかかる音がはっきりと聞こえた。 「優等生にテストを受けてもらうよ」彼は扉の向こうで笑った。「そこから出られるかな」 ヤナはにっこり笑って、いつものようにゆっくりと錠前をいじり回し、調べはじめた。数分がたったころ、また扉の外でアースカミュの声がした。 「教えといてやるよ、これは速さのテストだ。後ろに木箱があるだろ? その中に、吸血鬼の爺さんが入ってるんだ。何ヶ月もここに閉じ込めてあるから、もう完全に腹ぺこだろうな。あと何分かで日が暮れる。もしそれまでにこの扉を開けられなけりゃ、皮だけになるまで血を吸われるぞ」 ヤナは一瞬、アースカミュが冗談を言っているのかと考えた。彼は極悪人だが、いくらなんでも指導のために生徒を殺そうとするだろうか? しかし、次の瞬間木箱の中から衣ずれの音が聞こえたので、彼女はこれが冗談ではないと理解した。彼女はいつもの試行錯誤をとばして、針金を錠前につっこみ、釘を圧力板に突き立て、扉を押し開けた。 アースカミュが廊下の向こうで意地悪く笑った。「さっさと仕事を終わらせることの大事さがわかっただろ」 ヤナは涙をこらえながら、アースカミュの砦を飛び出した。アースカミュは、彼女が二度と彼の砦へ戻らないだろうと思っていた。そして、最後に非常に重要なことを教えてやったのだとも。次の朝、予想に反してヤナが砦に戻って来たとき、彼は驚きを顔には表さなかったが、内心は腹立たしさでいっぱいだった。 「そんなに長居はしません」と、彼女は静かに語った。「でも、新しい種類の錠前を発明したんです。それで、先生の意見を聞けたらと思って」 アースカミュは肩をすくめ、その錠前を見せるように促した。 「これを、あの吸血鬼の部屋に取り付けてみてもいいでしょうか。実際の錠前として使えるかどうか見てもらいたいので」 アースカミュは訝しく思ったが、このやっかいな少女とこれ以上関わらなくてすむと思うと気分がよく、最後なのだから好きなようにやらせてやろうという気持ちになっていた。彼はヤナにあの部屋へ入る許可を与えた。ヤナは朝から午後遅くまでかかって、吸血鬼が眠っている部屋で古い錠前をはずし、彼女の新しい錠前を取り付けた。そして、彼女の元・指導者に錠前を見るように頼んだ。 彼は専門家としてその錠前を調べたが、目新しい特徴はほとんどなさそうだった。 「これは、世界で最初の、そして唯一の破れない錠前なんです」と、ヤナが説明した。「正しい鍵が無ければ絶対に開きません」 アースカミュは嘲笑し、ヤナに自分を部屋に閉じ込めるように言った。扉が閉まり、鍵のかけられる音がして、彼は仕事にとりかかった。錠前は思ったよりも開けにくい構造になっており、彼はうろたえた。知っている全ての方法を試したが開けられず、どうやら、あの憎らしい生徒のようにゆっくり時間をかけて錠前全体を徹底的に調べなければいけないらしかった。 「そろそろ行かなくちゃ」と、ヤナが扉の向こうから言った。「行って、町の衛兵をこの砦につれて来ます。ここの決まりに反することになるけど、腹ぺこの吸血鬼が逃げ出したら村の人たちにも危険が及びますから。もうすぐ暗くなるし、もし先生が錠前を破れなくても、吸血鬼のほうは体面なんか気にせず鍵を使ってそこから出るでしょうし。覚えてますか? 『もし目の前に鍵を置いても、それを使おうともしないだろうな』と、言われましたよね」 「待て!」と、アースカミュは叫んだ。「俺は鍵を使うぞ! どこにあるんだ? 鍵を渡すのを忘れてるぞ!」 しかし、返事はなかった。扉の向こうで、廊下を去ってゆく足音だけが聞こえた。アースカミュは必死に錠前に取り組んだが、恐怖のために手が震えた。部屋に窓がないので、時間がわからなかった。何分ぐらいたったのだろうか、それとも何時間? わかっているのは、吸血鬼が日暮れと同時に起きてくるだろうということだけだった。 アースカミュが狂乱状態でいたるところを捻ったり叩いたりしているうちに、道具が役に立たなくなった。針金が鍵穴に入ったまま折れてしまった。まるで、彼の生徒がやるような失敗だった。アースカミュは叫びながら扉を叩いたが、誰にも聞こえるはずはなかった。もう一度叫ぼうと息を吸い込んだ瞬間、後ろで木箱がきしみながら開く音がはっきりと聞こえた。 吸血鬼の老人は飢えて正気を失った目で熟練の錠前師を見すえ、狂ったように彼に飛びかかった。アースカミュが死ぬ直前、彼は鍵のありかを知った。それは鎖につけられ、吸血鬼が眠っている間にその首にかけられていたのだった。 小説・物語 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/150.html
帝都の略歴 第3巻 帝都歴史家 ストロナッハ・コージュ三世 著 本著の第1巻では、セプティム王朝初代皇帝タイバーから第8代皇帝キンタイラまでの歴史の概略を述べた。第2巻では、レッド・ダイヤモンド戦争とその後に続くユリエル三世からキャシンダール一世までの治世について述べた。また、その巻の最後に、いかにして皇帝キャシンダールの異父弟ユリエル四世が帝位を継承したかを論じた。 ご存知のように、ユリエル四世はセプティムの血を引いていなかった。彼の母カタリア一世はダークエルフだが、セプティムの血統である皇帝ペラギウス三世に嫁ぎ、夫の死後長い間女皇として君臨した。しかしユリエルの父親は、カタリアがペラギウスの死後に再婚したブレトンの貴族、ガリヴェール・ラリアートであった。キャシンダールは帝位を継ぐ以前、ウェイレストの王であったが病弱だったため、また子供がいなかったためにその地位を異父弟のユリエルに譲って退位した。その際、キャシンダールは法的にユリエルを養子として皇籍に迎えたのである。その7年後、母カタリアの死によってキャシンダールは皇帝として即位し、さらに3年後にユリエルは再びキャシンダールの位を継ぐことになるのである。 ユリエル四世の治世は長く、問題の多い時代であった。彼は正当に皇籍に入っていたし、また彼の父親の家系であるラリアート家もセプティムの傍系で高い地位にあったにも関わらず、元老院の大多数は彼を正当なセプティムの血統と認めなかった。元老院はカタリアの長い治世中、加えてキャシンダールの短い治世中も、帝政にかかわる権限の大部分を任されていたので、意思の強いユリエル四世のような皇帝は彼らにとって「異物」であり、彼らの忠誠を勝ち得るのは不可能であった。皇帝と元老院は一度ならず意見を違え、多くの場合元老院の意見が通された。ペラギウス二世の時代から、元老院は帝都の中で最も裕福な男女で占められ、絶大な権力を持っていたのである。 そして元老院の反抗はユリエル四世の死後も続いた。ユリエル四世の息子アンドラックは元老院の決定により帝位を継げず、代わりに、セプティムの家系により近い彼のいとこセフォラス二世が第三紀247年に即位した。セフォラス二世の即位から9年間、アンドラックを擁護する勢力は帝都と帝位をめぐって争った。賢者エラインタインによる「タイバー・セプティムの沈黙の心臓」条例によって、アンドラックはショーンヘルムのハイ・ロック王国の王となり、争いに終止符が打たれた。その地は今にいたるまでアンドラックの子孫が治めている。 しかし、セフォラス二世はアンドラックに関することよりも大きな問題を抱えていた。強奪者キャモランと名乗る男、エランタインが「暗黒の悪夢」と呼んだデイドラとアンデッドの軍隊を率いてヴァレンウッドに侵攻し、その地の王国を次々に征服したのである。彼の猛攻に抗えるものは少なく、血塗られた年となった第三紀249年になると、抗おうと試みるものすらいなくなった。セフォラス二世はハンマーフェルに次々と傭兵を送り込み征服者の北進を止めようとしたが、彼らはみな買収されるか、そうでなければ殺されてアンデッドとして征服者に加わった。 強奪者キャモランについては、それだけで1冊の本が書けるほどである(詳細についてはバロウズ・イルトーレによる「征服者の滅亡」を参照されたい)。ここでは、征服者の討伐に皇帝はほとんど貢献していないことを記すにとどめる。皇帝に残されたものは局地的な勝利、それに無力な皇帝に対する王たちの反感と反乱の増加であった。 しかし、セフォラス二世の息子である次代皇帝のユリエル五世は、帝都の潜在能力を示し反感を鎮めた。タムリエルの民衆の注目を国内の争いから逸らすため、彼は第三紀268年の即位直後から帝都外への遠征を始めたのである。ユリエル五世は271年にロスクリーを、276年にキャスノキーを、279年にイェスリーを、そして284年にエスロニーを、次々と征服した。 第三紀288年、彼はついに最も大きな野望であったアカヴィル王国の侵略に乗り出した。この試みはしかし、ユリエル五世がアカヴィルでのイオニスの戦いにおいて命を落としたことで最終的に失敗に終わった。それでもなお、ユリエル五世は歴代皇帝の中でもタイバーに次ぐ武人として評価されている。 ユリエル五世の幼い息子を始めとする、最近の4代の皇帝については次の最終巻で述べる。 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/188.html
火中に舞う 第7章 ウォーヒン・ジャース 著 場所:シルヴェナール(ヴァレンウッド) 日付:第三紀397年 11月13日 シルヴェナール宮殿で開かれた祝宴には、ヴァレンウッド再建の仕事を持っていかれたことに嫉妬する官僚や商人達も、全員顔を見せていた。隠そうともしない憎悪の眼差しの中心に居るのは、スコッティ、ジュラス、バスの3人である。スコッティには居心地が悪いだけだったが、ジュラスには、それが快感であるようだ。召使達がロースト肉の乗った大皿を引っ切り無しに持って来るのを見ながら、ジュラスとスコッティはジャッガで乾杯を交わした。 「今だから言えるがな」とジュラスは言った。「正直、お前をこの商談に巻き込んだのはすごい失敗だと思ってたんだよ。だが、な。俺がコンタクトを取ったどの建設会社の連中も、確かに外見は積極的だったがね、お前みたいにシルヴェナールとサシで話付けたり、有り金はたいて冒険に出ようなんていう奴はいなかったんだぜ。ほら、もっと飲めよ」 「もう、いいよ」スコッティは言った。「ファリネスティで十分に飲んだし、それに、酒のせいでダニの化け物に吸われそうになったんだよ。何か別の飲み物を探してくるよ」 スコッティは、大きな銀の瓶から湯気を立てている茶色い液体をカップに注いで飲んでいるのを外交家たちを見つけ、お茶かどうか聞いた。 「お茶だって?」1人が笑いながら言った。「ヴァレンウッドには無いね。これはロトメスだよ」 仕方なく、スコッティは、そのロトメスをもらってちびちびと舐めた。匂いが強く、苦味と甘みがあって、ひどくしょっぱい。初めは、とても飲めたものではないと思われたが、不思議なことに、しばらくすると、そのカップを空けて新しく注いでいるほどだった。体が火照ってきて、この謁見室の物音がちぐはぐに感じられる。しかし、まったく恐怖感は無い。 「あんたか。シルヴェナールから契約を取り付けたっていうのは」と、もう一人の外交家が聞いた。「さぞかし、粘りに粘って、深い話をしたんだろうな」 「いやいやそんなことはありません。商売というものに関して、基本的なところを両方が合意できただけです」とにっこり笑って、スコッティはロトメスの3杯目を注いだ。「シルヴェナールはヴァレンウッドの争いを収めるために帝都とのコネを作っておきたかったし、私も何としても契約を取りたかったし。それで、神の御加護か、両方の利害が一致したということですよ。だから、私のしたことと言えば、契約書に羽ペンを走らせることだけです。あなたにも、神のご加護がありますように」 「あんた、皇帝御用達の会社に長く勤めてるんだろ?」と、最初の外交家が尋ねた。 「帝都では色々とあってね。ここだけの話、実は、もう無職なんだ。アトリウス建設会社で働いてたんだが、クビになった。大体あの契約書も、本当は商売仇のヴァネック建設会社のものだ。レグリウスからもらったんだ。いい奴だったよ。カジートに殺されちまったが」と言ってスコッティは5杯目を空けた。「帝都に戻ったら、アトリウスとヴァネックにサシで話付けるつもりさ。奴らの前でこう言ってやるよ。“この契約書、どっちが欲しい?”ってね。そしたら、2人とも俺にがっついてくるだろうな。誰もどこでも見たことないような奪い合いになるだろうな」 「と言うことは、つまり、あんた、本当は帝都の代表なんかじゃないんだな?」と、最初の外交家が聞き返した。 「俺様の話をちゃんと聞いてなかったのか!?」と唐突に激憤が彼の中を巡ったが、同じく唐突に収まってしまった。そして、にやにや笑いを浮かべると、7杯目のロトメスをつぎ足した。「個人でだって建設会社は作れるんだぜ? そりゃ、確かに今はアトリウスやヴァネックのアホが皇帝の代理人だがな。しかし俺様にだってなれるさ、この契約書さえあればね。俺様のお話は難しすぎるか? 話について来れてるか? みんな、詩みたいなもんさ。火に踊れ。幻覚に従うならば、それはつまり隠喩だ」 「あんたの同僚もかい? あんたの同僚も、代表じゃないのかい?」と、2番目の商人が尋ねた。 スコッティは爆笑して首を振ってみせる。2人の商人は尊敬の念のこもった別れの挨拶をすると、大臣の方へ話をしに行ってしまった。残されたスコッティは、千鳥足で宮殿を抜けると、奇妙に入り組んだ大通りや並木道をふらふらと進んで行く。数時間後、彼はプリサラホールの自室で眠りに落ちていた。ただし、彼のベッドのすぐ近くで。 翌朝、スコッティは、ジュラスとバスに揺り起こされて目を覚ました。まだ目は完全に開いていなかったが、その他の点は良好であった。商人達との会話が、子供時代の記憶のように、ぼんやりと浮かんできた。 「いったいぜんたい、ロトメスは何なんだ?」と、彼は口早に尋ねた。 「ひどい匂いの発酵させた肉汁に、臭みを消すための大量のスパイスが入ってるんだ」と、バスが笑って言った。「一緒にジャッガを飲んでいろと警告しておくべきだったろうな」 「マンダンテの肉については、すぐに知っておくべきだな」と言って、ジュラスも笑った。「ボズマーときたら、ブドウの実や地面を触るのより共食いが好きなんだからな」 「あの外交家達に、私は何て言ったんだ!?」と、スコッティはパニックになりながら叫んだ。 「今のところ、表立って悪いことは起こってない」と、ジュラスが何枚か書類を取り出しながら答えた。「そうだ、例の契約書とお前を安全にシロディールまで運んでくれる護衛が、階段の下まで来てるぞ。急いだ方がいいぜ。シルヴェナールは、ビジネスが迅速に進まないことに、あまり寛容ではいらっしゃらないようだからな。それと、この契約をしっかり履行したら、特別に褒賞が出るらしいぞ。実は、俺はもう幾つかもらってきた」 そう言って、ジュラスは、大粒のルビーで飾られた美しいイヤリングを見せびらかした。バスも同じものを見せた。二人の太った男が部屋を出ていくと、スコッティは急いで着替えと荷造りをした。 シルヴェナールの衛兵の一連隊が、既に宿屋の前に整列していた。彼らはヴァレンウッド軍の正規の武具に身を固めて、羽根飾りの付いた馬車を取り囲んでいる。その光景に呆然としたものの、スコッティが慌ててその馬車に潜り込むと、隊長の号令の下、連隊は出発した。そのスピードは速く、馬車の中の彼も揺られながら外を眺めていた。すると、後ろの方で、ジュラスとバスの2人が手を振っているのが見えた。 「ちょっと待って!」とスコッティは叫んだ。「あなた達は帝都に帰らないのか!?」 「帝都の代表者としてここに残るように、シルヴェナールから言われたんだよ」とジュラスが叫んだ。「また、契約とか交渉とかする必要が出てこないとも限らんだろ。それに、俺達はアンドレイプの勲位ももらったんだぞ! 外国人に与えられる特別な奴だ。心配すんな、また祝宴で会おう! 俺達はこっちで上手くやるから、お前は、アトリウスとヴァネックとの交渉を上手くやるんだぞ。お前なら出来るさ!」 ジュラスはまだ何かアドヴァイスを続けていたようだったが、遠ざかるにつれて、声も遠のいていった。そして、護衛達が通りをぐるっと回ると、すっかり彼ら2人の姿は見えなくなってしまった。それから、ぼんやりとジャングルが見えてきたと思ったら、既にその中を走っていた。そう、この深い森の中、彼は自分の足で苦労して歩いたり、川をゆっくりとボートで下ったりしたのだ。それが、今や、こうして馬車に乗って、悠々と進んでいるのである。木々の緑が瞬く間に後ろへと流れて行く。馬は、草の上を駆けて行く方が、街中の整備された路を走るよりも早いような気がした。ジャングルに特有の奇妙な物音もじめじめした匂いも、全く気にはならない。馬車の窓から覗く風景は、まるで紗幕を通してするジャングル劇が上演されているようだ。 そうして2週間が過ぎた。馬車の中には食べ物も水も充分にあったので、スコッティはただ食べたり飲んだりを繰り返していればよかった。時々、彼は剣で打ち合う音が聞こえたが、周りを見てみた時には、既に馬車は出発してしまった後だった。そして、一行はヴァレンウッドとシロディールとの国境に到達した。そこには、帝都の要塞が居を構えていた。 スコッティは、馬車に乗って来た兵士達にあれこれと書類を見せた。兵士達は質問の集中砲火を浴びせてきたが、スコッティが素っ気なく答えていると通行の許可が下りた。そこから更に数週間かかって、帝都の門の前に到着した。ジャングルを飛ぶように疾駆してきた馬達も、ここコロヴィアの東の見知らぬ風景には、少し戸惑い気味である。それと対照的に、見慣れた鳥、匂い、植物と、その風景を見ているだけでスコッティは活力を取り戻すのだった。そこは正に、数ヶ月前の彼が夢にまで見た故郷なのだ。 帝都の門をくぐると、馬車の扉を開けて、スコッティは不確かな足取りで地面に降り立った。彼が護衛達に何事か言おうと振り向いた時には、既に彼らは森を抜けて南の方へ走り去ってしまっていた。まず彼がすべきことは、近くの宿屋に行って、お茶と果物とパンを食べることだ。もう肉を食べないとしても、それが自分に合っているだろうと彼は思った。 その後すぐに行ったアトリウスとヴァネックとの交渉は、大方納得できるものだった。どちらの建設会社も、ヴァレンウッド再建計画に加わることでどれだけ利益が上がるか、しっかり分かっていたのである。ヴァネックは、この契約に用いられた書類は自社のものであるため、この契約はヴァネック社のものであると主張した。一方、アトリウスは、この契約を成功させたのは自社のスコッティであるため、この契約をアトリウス社のものであると主張した。もちろん、決して彼を解雇した覚えは無い、と付け加えたが。結局、この争いには皇帝による調停が為されることになったが、皇帝は無理だと言った。なぜなら、皇帝の相談役である帝都の魔闘士ジャガル・サルンが長らく消息不明であり、彼無しでは、公平な判断など無理な相談であるからだ。 アトリウスとヴァネックから賄賂をもらい、スコッティは悠々自適の生活を送った。毎週、ジュラスとバスから、交渉の進捗状況を記した手紙が届いた。しかし、彼らの手紙は次第に少なくなっていって、今度は、シルヴェナールの経済相とシルヴェナールその人から緊急の手紙が届くようになった。それによれば、サムーセット島との戦争は、ウッド・エルフからアルトマーに湾岸の島をいくつか移譲することで講和が成立したらしい。また、エルスウェーアとの戦争は依然として続いており、ヴァレンウッドの東方の荒廃はまだ止んでいないようである。そして、アトリウスとヴァネックとの勝負もまだ続いているのだった。 第三紀398年のある気持の良い初春の朝。一人の密使がスコッティの家のドアを叩いた。 「ヴァネック卿が、ヴァレンウッドの再建代理権を入手なされました。つきましては、速やかに、例の契約書をご持参の上、邸宅へいらっしゃいますようお願いします」 「アトリウスは諦めたのかい?」と、スコッティは尋ねた。 「たった今、お亡くなりになりました。偶然にも、凄惨な事故に巻き込まれてしまったようです」と密使は言った。 スコッティは、いつから闇の一党がこの交渉に参入し始めていたのだろうかと考えた。ヴァネックの邸宅へと向かう途中、延々と続く荘厳な、名もないが素晴らしい建築物の間を歩きながら、スコッティはゲームで遊んでいるつもりが、遊ばされているとも限らないと考えていた。商売仇のアトリウスが死んでしまった今となっては、あの金に汚いヴァネックは私の足元を見てくるのではないかと思ったが、有難いことにヴァネックは、凍りつきそうな心で交渉に臨んだスコッティに申し出た通りの金をきっちり払ってくれた。ヴァネックの相談役が言うには、もしも事が上手く進まなかった場合には、別な会社を建てて、引継ぎさせるようだ。 「全てが合法的に収まってなによりだ」と言ってヴァネックはご満悦の表情であった。「今や我々は、かわいそうなボズマーを救済するという誇りある仕事の前途に立っている。もちろん、その分の報酬は頂くが。非常に残念だが君は我が社の代表ではないので、実務はベンダー・マーク君とアルネシアン君とに担当してもらうことになるが。ところで、まだ戦争が続いているようだね」 こうしてスコッティとヴァネックは、シルヴェナールについに名誉の契約の準備が調ったことを告げる手紙を出した。そして数週間後、新事業の発足を祝うパーティーが開かれることになった。スコッティは今や帝都に於ける時代の寵児であり、その記念すべき祝宴には、費用も全く惜しまず注ぎ込まれた。 その祝宴で彼は、この新事業で利益を受けることになる貴族や豪商達と挨拶を交わした。舞踏室には異国風の、しかし何か親しみの持てるバラのような香りが漂っていた。彼がその香りのもとを辿って行くと、長く厚い皿に乗せられた、厚切りのロースト肉に行き着いた。すっかりできあがったシロディール達が、その肉に群がって、味や質感を言い表す言葉を失ったかのように、次から次にその皿へと手を伸ばしている。 「こんなにおいしいもの、今まで食ったことない!」 「丸々太った豚みたいな味の鹿だ!」 「ほら、赤身と脂身がほどよく混ざってるのが分かるだろ? これが最高の一品という証拠さ!」 それらの声につられて、スコッティも少し切り取ってみた。しかし、確かに外はよく焼かれて美味しそうではあるが、中は乾燥したパサパサのもので、決して高級とは言えない代物だった。そして、その皿を置いて引き返そうとした拍子に、彼の新しい雇い主となったヴァネックとぶつかってしまった。 「どこに行ってらっしゃったんですか?」とスコッティは驚きながら言った。 「我が顧客のシルヴェナールのところだ」とヴァネックは威光を見せながら答えた。「そうそう、あれはあちらの住民がアンスラッパと呼ぶ珍味だよ」 スコッティは吐いた。しばらく吐き続けた。宴は一時中断したが、スコッティが彼の家に引き返したあとも、客たちは食事を続けた。珍味、アンスラッパは皆の口を喜ばせていた。その切り身を取ったヴァネックが、中に埋め込まれていた2組のルビーの片方を見付けた時には、それは更なる盛り上がりを見せることになる。ボズマーは何と巧い料理を作るんだとシロディールたちは口々に言い合った。 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/275.html
本物のバレンジア 第2巻 著者不明 バレンジアとストローは貧民街に安い部屋を借りて、リフトンで冬を過ごすことにした。バレンジアは盗賊ギルドに入ろうとしていた。好き勝手に盗みを働いていてはいつか面倒なことになるとわかっていたから。ある日、盗賊ギルドの名の知れたメンバーのひとりと酒場で目が合った。若さあふれるカジートで、その名をセリスといった。ギルドに紹介してくれたらあなたと寝てもいいわ、とバレンジアは声をかけた。セリスは彼女を見つめてから笑みを浮かべると、いいとも、と言った。が、まずは儀式をこなすのが先決だとも言った。 「どんな儀式なの?」 「ああ」と、セリスは言った。「前払いでたのむぜ、かわいこちゃん」 (この一節は神殿によって検閲を受けている) ストローに殺される、たぶんセリスも。いったいどういう気まぐれでこんなことをしてしまったのか。バレンジアはおどおどした目つきで部屋を見渡した。だが、他のパトロンはとっくに興味を失って仕事に戻っていた。知らない顔ばかりだった。彼女とストローが泊まっている部屋ではなかった。運がよければ、しばらくはストローにばれずにすむかもしれない。あわよくば永遠に。 *** バレンジアはセリスほど刺激的で魅力のある男には出会ったことがなかった。盗賊ギルドのメンバーに求められるスキルについて教えてくれるばかりか、そうしたスキルの稽古もつけてくれた。あるいは、稽古をつけられる人物を紹介してくれた。 その中に、魔術に詳しい女がいた。カチーシャは貫禄たっぷりに肥えたノルドで、鍛冶屋の妻として二人の十代の子供をもうけており、派手さはないが尊敬すべき女性だった。ただし、とにかく猫が好き(論理的に考えれば、その人間版であるカジートも)で、いくつかの魔法の才能があり、変わった友人が多いという特徴はあったが。彼女はバレンジアに透明化の呪文を教えて、隠密行動や変装の技法をいくつか仕込んだ。魔術の才能と魔術のいらない才能を好きなように組み合わせて総合力を高めるということもやってのけた。盗賊ギルドのメンバーではなかったが、セリスのことは気に入っていた。どことなく母性がくすぐられるのだろう。バレンジアはセリスのことが好きになった。女性に対してそういう気持ちになるのは初めてだった。それから数週間かけて、自分のことを洗いざらい彼女に話した。 バレンジアはストローを連れていくこともあった。ストローはカチーシャには好感を持ったが、セリスとは馬が合わなかった。セリスはストローに興味がわいたらしく、バレンジアに「スリーサム(注釈:三人による乱交のこと)」をしないかと持ちかけた。 「絶対にいやよ」と、バレンジアはきっぱりと言った。テリスがこっそりとその話題を切り出してくれたことに、このときばかりは感謝した。「ストローは楽しめないわ。私だってそうよ!」 セリスはとっておきの猫笑いを三角形の顔に浮かべて、椅子の中でだらしなく手足を投げ出し、屈伸運動をして尻尾を丸めた。「きっと驚くだろうに、ふたりとも。ただの交尾ってのはどうにも退屈でね」 バレンジアはにらみつけることで応じた。 「ひょっとすると、君のあのいなかっぺの彼氏だから楽しめないのかも。おれの友人を連れてきてもいいかい?」 「よしてよ。私に飽きたんなら、お友だちと別の女をたらしこめばいいじゃないの」バレンジアはすでに盗賊ギルドのメンバーになっていた。入会の儀式を終えていたのだ。セリスには使い道があるが、どうしても必要というわけでもない。彼女もまた、セリスにちょっと飽きているのかもしれなかった。 *** バレンジアは男のことで抱えている問題については、カチーシャに相談してみた。あるいは、バレンジアが問題だと感じていることについて。カチーシャはかぶりを振って、体の関係ではなく愛を求めなさい、と言った。あなたにぴったりの男は会ったときにピンとくるわ、ストローもセリスもあなたにぴったりの男じゃないのよ、と。 バレンジアはけげんそうに小首をかしげた。「みんな言うわ。ダークエルフはいん、いん、いんばいだって」言葉の選択が合っているのかどうかはあやふやだった。 「淫乱って言いたいのね」と、カチーシャは言った。「もっとも、ダークエルフの淫売もいるでしょうけど」と、後から思いついたように続けた。「若いエルフはみんな淫乱なの。でも、大人になれば卒業することよ。ひょっとしたら、あなたも卒業しつつあるのかもね」期待を込めて言った。バレンジアには好感を持っており、どんどん好きになっていた。「けど、素敵なエルフの若者と会ってみるべきね。カジートや人間とつるんでばかりいたら、あっという間に妊娠しちゃうわよ」 バレンジアは想像するうちにほくそ笑んでいた。「楽しいかもね、それも。でも、きっと重荷になるでしょう? 赤ちゃんは世話が焼けるもの。それに自分の家だって持ってないし」 「あなたいくつなの? 17歳? そういうことなら、妊娠するようになるまでにはあと一、二年あるわね。よっぽど運が悪いんでなければ。その後でも、エルフとエルフのあいだには子供ができにくいのよ。だから、エルフと付き合っていればその心配はないと思うわ」 バレンジアは他のことを思い出した。「ストローが牧場を買って私と結婚したいって」 「それがあなたの望みなの?」 「ううん、今はまだ。いつかはそういう気になるのかもしれないけど。いつかはね。けど、そんなことより女王になりたいの。ただの女王じゃないわ、モーンホールドの女王に」と、バレンジアは決然と言った。意固地になっているようにすら聞こえた。あらゆる疑念を振り払おうとするかのように。 カチーシャは最後の発言については聞き流すことにした。彼女のたくましい想像力を微笑ましく思い、健全なる精神の証だろうと受け取った。「ベリー、その『いつか』がやってくる頃には、ストローはきっとお爺ちゃんになってるわ。エルフの寿命はとっても長いから」カチーシャの顔にうらやむような、ねたむような表情がちらついた。エルフが神より授かった千年の寿命について考えるとき、人間はそういう顔をする。確かに、疫病やら暴力やらで命を落とすエルフも多いため、実際にそこまで生きられるものは少ないだろう。それでも、可能性はある。本当に千年生きたというエルフの話もちらほら耳にする。 「お爺ちゃんも好きよ」と、バレンジアは言った。 カチーシャは笑い声をあげた。 *** バレンジアは気ぜわしげに身をよじった。セリスが机の書類をていねいに並べていたのだ。徹底的かつ几帳面に、ひとつ残らず元あった場所に戻していった。 二人は貴族の屋敷に押し入ったのだった。ストローには見張りとして外に残ってもらっていた。セリスが言うには、ちょろいヤマだが密やかに進めたいとのことだった。他のギルドの仲間も連れてこないようにと釘を刺していたほどだった。バレンジアとストローなら信頼できるが、他のやつはだめなんだ、と。 「探してるものを教えてよ、見つけてあげるから」バレンジアは急かすようなささやき声で言った。セリスは彼女ほど夜目がきくわけではなかった。しかも、どんなほのかな光でも魔法で灯してはいけないと、彼は前もって告げていた。 これほど贅を散りばめた場所に足を踏み入れたのは初めてだった。彼女が少女時代を過ごしたスヴェン卿とインガ夫人のダークムーア城など比べものにならなかった。バレンジアはごてごてと飾り立てられた音の反響する階下の広間を通り抜けながら、驚きに満ちた視線をあちこちに投げかけた。が、セリスの興味は上階の本に埋もれた小さな書斎にある机だけに向けられているようだった。 セリスは怒りもあらわに指を唇にあててみせた。 「誰か来るわ!」と、バレンジアは言った。すぐさまドアが開き、黒っぽいふたつの影が部屋におどり込んできた。セリスはバレンジアを彼らのほうへ乱暴に押しやると、窓際へ跳躍した。バレンジアの筋肉はこわばっていた。動くことも叫ぶこともできなかった。なす術のないまま、小さいほうの影がセリスを追って跳ぶのをながめていた。青い光が音もなく二度ほどきらめくと、セリスはくずれて動かなくなった。 書斎の外では、屋敷が眠りから覚めたようだった。足音があわただしく鳴り響き、張りつめた呼び声が飛び交っていた。急いで身につけたらしい鎧のきしむ音がとどろいた。 大柄な影は見たところダークエルフの男だった。セリスを半分かかえて半分ひきずりながらドアまで運ぶと、待機していたもうひとりのエルフの腕に押しやった。大柄なエルフが頭をひょいと傾けると、青い法衣を身につけた小柄なエルフもやってきた。大柄なエルフはゆうゆうと歩きながらバレンジアのほうへ近づき、彼女の顔をながめた。バレンジアはなんとか動けるようにはなっていた。動こうとすると頭が割れるように痛んだが。 「胸をはだけてみせるんだ、バレンジア」と、エルフは言った。バレンジアは呆然としながらも、シャツをぎゅっとつかんだ。「女の子なんだろう、ベリー?」と、彼はおだやかに言った。「さっさと男の子の変装をやめなかったのは失敗だったな。かえってひと目を引いただけだった。しかも、ベリーなんて呼ばれてるんだから。お友だちのストローは昔のことをすっかり忘れてしまったのかな?」 「エルフによくある名前だわ」バレンジアはストローをかばって言った。 男は悲しげにかぶりを振った。「ダークエルフはそんな呼び名をつけないもんさ。もっとも、ダークエルフは世俗にはうといのかな。悲しいことだが、きみが悪いわけじゃない。まあいいさ、私が救済してあげようじゃないか」 「あなた、誰なの?」と、バレンジアは問いただした。 「名声なんてこんなものか」男は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。「シムマチャスという。バレンジア姫。畏怖すべきわが陛下、タイバー・セプティム一世の帝都軍に仕える将軍だ。あなたを追ってタムリエルを駆けずりまわされたが、まったくもって楽しかった。少なくとも、今は楽しくてしかたがない。いつかきっとモロウウィンドに向かうと思ってたが、運はあなたにあったらしい。ホワイトランでストローとおぼしき死体が見つかってから、二人組みの捜索を打ち切ってしまってね。まったく、とんだ失態だった。まさかこんなに長いあいだ連れ立っているとは考えもしなかった」 「ストローはどこなの? 無事でいるの?」バレンジアは心底うろたえていた。 「ああ、彼なら元気だよ。今のところ。もちろん勾留してるが」シムマチャスは顔をそむけた。「あなたは…… 彼のことが好きなのかね?」そう言うと、いかにも興味たっぷりに彼女を見つめた。彼女にとっては、赤い眼で見つめられるのはなんだか妙な感じがした。ごくたまに鏡で自分の眼を見ることはあったが。 「ただの友達よ」と、バレンジアは言った。彼女の耳には、その言葉はけだるく、あきらめの境地にあるように響いた。まさかシムマチャスとは。帝都軍の将軍その人とは。タイバー・セプティム皇帝の友であり耳でもあると言われている男だなんて。 「ふむ、あなたには何人かの不釣合いなお友達がいるようだが。お気に障られたらお許しを、姫さま」 「その呼び方はやめて」バレンジアは将軍のそこはかとない皮肉にいらついていた。だが、彼は微笑むだけだった。 そうして話しているうちに、屋敷の喧騒はおさまっていった。バレンシアの耳には、おそらく屋敷の住人がさほど遠くないところでささやき合っているのが聞こえたが。のっぽのエルフは机の角に腰かけていた。すっかりくつろいでいるらしく、しばらく帰りそうになかった。 そのとき、バレンシアはピンときた。この将軍は、何人かの不釣合いな友達と言った。つまり、彼女のことなら何でも知っているのだ! いずれにしても結論はひとつだった。「見、みんなをどうするつもりなの? わ、私はどうなるの?」 「ご承知のとおり、この屋敷は管轄の帝都軍司令官の住居でね。ありていに言えば私の屋敷なんだ」バレンジアは息をのんだ。シムマチャスはすかさず顔を上げた。「おっと、知らなかったのかな? そいつはいけませんね、姫さま。いくら若くても軽率すぎる。自分のしていることをしっかり把握しておかないと。あるいは自分が関わろうとしていることを」 「で、でも、ギルドが、ど、どうしても…… どうしても……」バレンジアは震えていた。盗賊ギルドは帝都軍の方針に逆らうような任務に手を染めたりはしない。タイバー・セプティムにけんかを売るような真似はしないのだ。少なくとも、彼女の知り合いはそういうことはしない。ギルドの会員がへまをやらかしてしまった。こっぴどいへまを。これから彼女はその報いを受けることになる。 「言いにくいことだが、セリスがこの件でギルドの承認をもらっているとは思えないね。実際のところ──」シムマチャスは入念に机をチェックして、抽斗を順番に引っぱり出した。ひとつを選んで机に置き、二重底のふたを取り外した。折りたたまれた羊皮紙がしまってあった。どこかの地図のようだった。バレンジアがにじり寄ると、シムマチャスは笑いながらその紙を彼女から遠ざけた。「いやはや軽率なお姫さまだ!」そう言って地図をざっとながめてから抽斗に戻した。 「状況を把握しておけと助言したのはそっちでしょう」 「そうだった、そうだった」いきなり将軍はご機嫌になったようだった。「そろそろ行かないと、姫さま」 シムマチャスは彼女に付き従ってドアから階段へと進み、夜風の中に出た。近くにひと気はなかった。バレンジアは闇に向かって視線を走らせた。シムマチャスを撒けるだろうか、どうにかして逃げられるだろうか、と考えを巡らせた。 「逃げようなんて思ってはいないだろうね。ひとまず、あなたをどうするつもりか聞きたくないかね?」将軍の声はどことなく傷ついているように聞こえた。 「そんなふうに言われたら、聞きたくなるわ」 「友達のことから話したほうがいいかな」 「だめ」 シムマチャスはご満悦の顔つきになった。将軍が望んでいた答えだったのだろう、とバレンジアは思った。が、それは本心でもあった。友達のこと、なかでもストローのことが気がかりだったが、それ以上に自分自身のことが気になっていた。 「あなたには正式にモーンホールドの女王になってもらう」 *** シムマチャスが言うには、彼もタイバー・セプティムもずっとその計画を温めてきたということだった。バレンジアが疎開させられてからの十数年間、モーンホールドは軍の統治下にあったが、ゆっくりと民政に戻りつつあった。もちろん帝都の指導のもと、帝都領モロウウィンドとしてではあったが。 「だったらどうしてダークムーアに移されたの?」バレンジアは訊いた。説明されたばかりのことがほとんど信じられなかった。 「もちろん、匿うためだ。どうして逃げたのかね?」 バレンジアは肩をすくめた。「とどまる理由がなかったから。すべて話してくれたらよかったのに」 「そのつもりだったさ。それどころか、皇室の一員として帝都で暮らさせようと、あなたのことを呼び戻そうとさえした。が、そのときにはもう失踪なさっていたわけだ。自分の定めのことならはっきりとわかるはずだ。わかっていてしかるべきだった。それだけの価値がなければ、皇帝は生かしておかない。皇帝にとってのあなたの価値などひとつしかなかろう」 「皇帝のことなんて知らないもの。それを言ったらあなたのことも」 「なら覚えておくがいい。タイバー・セプティムは敵味方関係なく、功績によって評価する」 バレンジアはひとしきりそのことについて考えをめぐらせた。「ストローは私のために尽くしてくれたわ。誰かを傷つけたこともない。盗賊ギルドのメンバーでもない。私を守るためにそばにいてくれたの。使い走りをして生活費を稼いでくれて、それから、ストローは……」 シムマチャスはじれったそうに手を振って彼女の言葉をさえぎった。「ストローのことならすべてわかっている」と言った。「それと、セリスのことも」穴が開きそうなほど彼女を見つめた。「で、あなたはどうしたいのかな?」 バレンジアは深呼吸をした。「ストローは小さな牧場をほしがってた。私がお金持ちになれるんなら、彼にも少しおすそ分けをしてあげたい」 「よかろう」シムマチャスは驚いた顔つきになってから、喜んでみせた。「承知した。望みをかなえよう。セリスはどうするかね?」 「私を裏切ったわ」と、バレンジアは冷淡に言った。危険なヤマだということを、彼は彼女に伝えておくべきだった。そればかりか、彼女を敵のふところに突き飛ばして逃げようとさえしたのだ。褒美を与える必要はない。つまるところ、信じるに足る男ではなかったのだ。 「そうだな。それで?」 「ええと、罰を受けさせるべきかな?」 「当然だろう。どういった罰がいいかね?」 バレンジアは両手を拳ににぎった。みずからあのカジートをぶん殴って引っかいてやりたかった。が、こういう流れになってしまったからには、いささか女王らしさに欠ける罰のような気がした。「鞭打ちの刑かな。二十回じゃ多すぎるかしら? 一生残るような傷は負わせたくないの、わかるでしょ。ちょっとお灸をすえるだけでいいの」 「うむ、もっともだ」シムマチャスはにっこりと笑った。と、いきなり顔つきが引き締まり、真剣になった。「仰せのとおりに、モーンホールドのバレンジア女王様」と言い、お辞儀をした。わざとらしいほど深くて礼儀正しい小粋なお辞儀だった。 バレンジアは心が躍った。 *** バレンジアは二日間ほどシムマチャスの部屋で過ごした。すべきことが山ほどあった。欲しいものがあれば、ドレリアンという名のダークエルフの女がなんでも手配してくれた。彼女も食卓を共にすることから、召使いというわけではなさそうだった。かといってシムマチャスの妻にも、愛人にも見えなかった。バレンジアにそのことを訊かれると、ドレリアンは意外そうな顔をして、わたしは将軍に雇われてあなたの世話をしているだけよ、とさらりと答えた。 ドレリアンの取り計らいで、いくつかの上物のガウンと靴がバレンジアのもとへ届けられた。それから乗馬用の服とブーツと細々とした日用品も。自分の部屋もあてがわれた。 シムマチャスは外に出ずっぱりだった。たいていの食事には顔を出したが、自身のプライベートや任務の内容について口を開くことはほとんどなかった。気さくでうやうやしく、たいていの話題なら喜んで歓談に加わり、バレンジアの口にする一語一句に興味があるようだった。ドレリアンもまたそうだった。バレンシアは彼らのことを好意的に受け止めてはいたものの、いかにもカチーシャが言いそうなことだが、どこかつかみどころがないようにも感じていた。バレンジアは言いようのない失望感に襲われていた。ダークエルフとこれほど親しくするのは初めての経験だったため、安心感のようなものが得られると期待していたのだ。ようやく自分の居場所が見つかったような、誰かとつながっているような、何かの一部になれたような、そんな絆を感じられると思っていた。ところが実際は、カチーシャやストローといったノルドの友人たちへの恋しさがつのっていた。 明日になったら帝都へ出発するとシムマチャスに言われたとき、バレンジアは彼らにお別れの挨拶をさせてほしいとねだった。 「カチーシャですか?」と、シムマチャスは訊いた。「そうですね…… 彼女には借りもあることですし。ベリーというひとりぼっちのダークエルフが同族の友達を欲しがってるとカチーシャが耳打ちしてくれたおかげで、あなたを見つけることができた。あなたがたまに少年の変装をしてることも教えてくれた。彼女は盗賊ギルドとは何のつながりもありません。それにあなたの素性に気づいている盗賊ギルドのメンバーも、セリスをのぞけばいないようですね。おおいに結構。あなたが元盗賊ギルドのメンバーだったということは公にはしたくない。どうか口外なさらぬようお願いしますよ、女王様。そうした過去は帝都の女王にはふさわしくない」 「知ってるのはストローとセリスだけよ。彼らは誰にも言わないわ」 「ええ」シムマチャスは妙な微笑みを浮かべた。「もちろんでしょう」 カチーシャも知っていることにシムマチャスは気づいていなかった。が、それでもやはり、どことなく含みのある言い方だった。 *** 出発の朝、ストローが彼らの部屋にやってきた。ふたりは客間に取り残されたが、他のエルフが耳をそばだてていることにバレンジアは気づいていた。ストローの顔はやつれていて青白かった。しばらく静かなる抱擁を交わした。彼は肩を震わせ、頬に涙を伝わせていたが、無言のままだった。 バレンジアは笑顔をこしらえようとした。「これで、ふたりとも欲しいものが手に入るわね。私はモーンホールドの女王様に、あなたは牧場の主になるの」彼の手をとり、おだやかなありのままの笑顔を向けた。「手紙を書くわ、ストロー。約束する。あなたも代書人を見つけて手紙を書いてもらえばいいわ」 ストローは悲しげに首を振った。バレンジアがなんとか話を続けようとすると、彼は口を開けてそこを指差し、声にならない音をもらした。ようやく、彼女にもすべてがわかった。舌がなかった。切り落とされていた。 バレンジアは椅子にくずれ落ち、わんわんと泣いた。 *** 「だけど、なぜ?」ストローが退室させられると、バレンジアはシムマチャスを問い詰めた。「なぜなの?」 シムマチャスは肩をすくめた。「彼は知りすぎてしまった。放ってはおけません。死んではいませんし、豚だかなんだかを育てるのに舌はいらないでしょう」 「人でなし!」と、バレンジアは怒鳴りつけ、いきなりかがみ込んで床に吐きもどした。波のように満ちては引く嘔吐感をこらえながら罵倒しつづけた。シムマチャスは無表情のままそれを聞いていた。ドレリアンが床を拭っていた。ようやく彼は口を開き、静かにしないと猿ぐつわをされたまま帝都に向かうことになりますよと言った。 一行は街の出しなにカチーシャの家に立ち寄った。シムマチャスとドレリアンは馬に乗ったままだった。家の様子は普段のままだったが、バレンジアはおびえるようにドアをノックした。カチーシャの声がした。彼女が無事であってくれたことにバレンジアは感謝した。が、カチーシャはまぶたを泣き腫らしていた。それでもバレンジアを温かく抱きしめた。 「どうして泣いているの?」と、バレンジアは尋ねた。 「だって、セリスのことがあったから。あなた、聞いてないのね? ああ、かわいそうなセリス。彼は死んだわ」バレンジアは氷の指で心臓を撫でまわされるような感覚に襲われた。「司令官の家に盗みに入って逮捕されたの。かわいそうだけど、馬鹿なことをしたもんだわ。ああ、ベリー、あの子は今朝、司令官の命令で四つ裂きの刑に処されたの!」彼女はすすり泣きだした。「立ち会ったのよ、あの子が望んだから。むごかったわ。死ぬまでにかなり苦しんだでしょうね。一生忘れられない。あなたとストローのことを探したんだけど、誰に聞いてもどこにいるかわからないって」バレンジアの肩越しに見やった。「あれは司令官じゃないの。シムマチャスだわ」すると、カチーシャは奇妙な行動をとった。泣きやんで笑ったのだ。「あたしったら、あの人を見たときに思ったのよ。バレンジアの運命の人だって!」エプロンをつかんで涙を拭った。「あなたのことを話したの。わかるでしょう」 「うん」と、バレンジアは言った。「わかるわ」カチーシャの手をひとつずつとると、ひたむきな瞳で見つめた。「カチーシャ、愛してるわ。会えなくなるのはとってもつらい。けどね、私のことは誰にも話さないでほしいの。絶対に。お願いよ。とくにシムマチャスには絶対にだめ。それから、ストローの面倒をみてあげて。約束してほしいの」 カチーシャは約束した。戸惑いながらもこころよく。「ベリー、セリスが捕まったのはあたしのせいじゃないわよね? セリスのことは、あ、あ…… あの人に話したことはないもの」そう言って、将軍のほうに眼を向けた。 バレンジアは彼女のせいではないと言ってなだめた。内通者が帝都兵にセリスのたくらみを伝えたのだと。ひょっとしたら嘘かもしれない。が、カチーシャはそういう類の安らぎを求めていたのだ。 「それを聞いてほっとしたわ、こんなひどい状況でもね。考えたってしかたがないけど、だったらどうすればよかったのかしらって思うわ」カチーシャは身をかがめてバレンジアの耳にささやいた。「シムマチャスはすごいハンサムね。それに、とっても魅力的だわ」 「そうは思えないけど」と、バレンジアはそっけなく言った。「そんなこと考えもしなかったわ。他に考えることがあったから」モーンホールドの女王となってしばらく帝都で暮らすことをかいつまんで説明した。「将軍は私を探してただけ。皇帝の勅命でね。私が旅の目的だったのよ。も、も、目標でしかなかったのよ。女として見られてるかどうかも怪しいわ。少年には見えないって言われたけどね」そう言うバレンジアを尻目に、カチーシャは懐疑的なまなざしを向けていた。男性に会うたびに性的魅力および性的有用性という観点で品定めをするのがバレンジアだったからだ。「私が本物の女王様だと知って驚いたでしょうね」とバレンジアが言うと、カチーシャはうなずいて同意した。そうね、ちょっとした驚きだわ。あなたはとても貴重な体験をしてるとは思うけど、と付け加えて、カチーシャは微笑んだ。バレンジアもいっしょに微笑んだ。それからまた抱き合った。ふたりとも泣きじゃくりながら最後の別れを交わした。その後、バレンジアがカチーシャやストローと再会することはなかった。 バレンジアの一行は立派な南門からリフトンを出た。一度だけ、シムマチャスは彼女の肩に手をやってから、門のほうを指差した。「セリスにお別れを言わなくてよろしいのですが、女王様」 バレンジアは一瞬だけ、門の上で串刺しになっている生首をしかと見やった。鳥にあちこち突かれていたが、面影はなんとかとどめていた。「セリスには聞こえないもの。私が無事だと知ったら喜んでくれるでしょうけどね」と、つとめて晴れやかに言った。「先を急ぎましょうか、将軍?」 シムマチャスは彼女の反応の薄さにがっかりしていた。「そうか、ご友人のカチーシャからお聞きになられたんですな。そうでしょう?」 「そのとおりよ。彼女は処刑の場に居合わせたの」バレンジアはさりげなく言った。シムマチャスが気づいていないとしても、きっとすぐに気づくだろう。彼女はそう確信していた。 「彼女はセリスがギルドの一員だと知っていたのですか?」 バレンジアは肩をすくめた。「みんな知ってるわ。会員であることを隠しておかないといけないのは、私みたいな下っ端のメンバーだけだから」いたずらっぽく将軍に笑いかけた。 将軍の心が動かされた気配はなかった。「ということは、彼女にはあなたが誰でどこから来たのか話しただけで、ギルドのことは教えてないと」 「ギルドの一会員だなんて大っぴらにはできないわ。他の秘密とはわけが違うもの。だいいち、カチーシャは生真面目な人だから。彼女にばらしたら、きっと冷たい眼を向けられるようになる。もっとまともな職につきなさいってセリスに口やかましく言ってたから。もっともな意見だと思うわ」シムマチャスに冷たい視線を向けられるにまかせた。「あなたには興味のないことだろうけど、彼女が他にどんなことを考えてたかわかる? 運命の男と添い遂げたら私がもっと幸せになれると思ってたのよ。ダークエルフの男とね。しかも、中身のともなっている、ね。中身がともなっていて、道理にかなった意見というものを心得ているダークエルフの男。つまり、あなたみたいな」バレンジアは手綱をしぼって馬を駆ろうとした。が、最後に強烈な皮肉をお見舞いするのを忘れなかった。「願いって、思ってもみなかったふうにかなうのね。けれど、自分が望むようにはいかないの。自分がずっと望んでたようにはいかないと言ったほうがぴったりかしら」 あまりにも意外な答えが返ってきたのでバレンジアは虚を突かれて、キャンターで駆け出したことなど忘れてしまった。「ええ、そうですね」と、シムマチャスは応じたのだ。しかも、声音とのずれがみじんも感じられなかった。それから、ちょっとすみませんと言って後ろに下がった。 バレンジアは頭を高く突き出してぐんぐん加速していた。つとめて無関心を装いながら。それにしても、将軍の返事のどういうところに引っかかるのだろう? 言葉そのものではないことは確かだった。むしろ、その言いように引っかかった。どことなく、バレンジアそのものが、将軍のかなえられた願いのひとつであるように感じられた。ありえそうもないことだったが、彼女はそのことをじっくりと考えてみた。将軍はようやく彼女を見つけた。何ヶ月もかけて、おそらく皇帝の圧力にも耐えながら。それは疑いようがない。まさしく、将軍の願いはかなえられたのだ。そういうことに違いなかった。 だが、ある意味、すべてが望んだようにはいかなかったということだろう。 物語(歴史小説) 赤1