約 3,520,710 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/100.html
ペリナルの歌 第2巻:その訪れ [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] (そして)ペリフは天を仰ぎ、神々の使いに語りかけた。天はエルフが地上を支配し始めたから、その慈悲を失っているように見えた。ペリフは、命に限りある人間であった。彼女の同胞である人間の、弱さの中の強さや謙虚は神々の深く愛するところであり、人間が、最後にある死を知りながら命を燃やす姿は神々の憐れみを誘っていた(向こう見ずに魂を燃やす者たちが竜の一族に好かれるのと同じ理由である)。そして、彼女は神々の使いに語りかけた:「そして、私はこの思いに名前をつけ、それを自由と呼びました。失われし者シェザールの、別の名前だと思います…… (あなたは)彼が失われたとき、最初の雨を降らせました。(そして)私は今、彼に起こったのと同じことが邪な支配者たちに起こるよう願います。彼らを打ち破り、彼らのした残虐な仕打ちの代償を支払わせ、トーパルの地へ追いやり(たいのです)。あなたの息子、あの強く、荒ぶる、猛牛の角と翼を持つあのモーリアウスをもう一度地上につかわし、私たちの怒りを晴らさせてください」…… (そしてその時)カイネはペリフに新しい印を与えた。それはエルフの血で赤く染まったダイヤモンドで、その面は(なくなり、形を変え)一人の男となってペリフの縛めを取り払った。その男は「星の騎士」(を意味する)ペリナルと名乗り、(そして彼は)(未来の)武具を身に付けていた。そして彼はシロドの密林へと分け入り、そこにいるものを殺した。モーリアウスはペリナルの出現に喜び、地上に降りてペリナルに寄り添った。(それからペリナルは)ペリフの率いる反乱軍の陣地に戻り、自分の剣とメイスに刺さったエルフのはらわた、首、羽、アイレイドーンの印である魔玉などを見せた。血で固まったそれらを掲げたペリナルは言った「エルフの東の長だったものだが、こうなっては名乗ることもできまい」と。 歴史・伝記 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/80.html
五つの戒律 教義1:決して夜母に無礼を働かないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義2:決して闇の一党を裏切らないこと、そして秘密を漏らさないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義3:決して闇の一党の高官からの命令に背いたり、遂行を拒んだりしないこと。それらを行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義4:決して闇の兄弟や闇の姉妹の所持品を盗まないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 教義5:決して闇の兄弟や闇の姉妹を殺さないこと。行った場合、シシスの憤怒をもたらす。 社会 緑3 闇の一党関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/65.html
「坊や、そこへ座りなさい。これからお話をしてあげるからね。この物語は長年語り継がれてきたお話だよ」 「どんなお話なの? お爺ちゃん。英雄と野獣が出てくるお話?」 祖父は孫をじっと見つめた。彼は良い子供に育っていた。すぐにこの物語の価値、つまり幾世代にも語り継がれてきた教訓を理解するであろう。 「よく聞きなさい。この話はお前のその心にしっかりと刻むのだよ」 ─ 昔々、スコールがまだ新入りだったころ、この地は平和だった。太陽が照り、作物はよく育ち、全創造主の与えた平和の中で人々は幸せに暮らしていた。しかし、スコールの人々は現状に満足して、全創造主から与えられたこの大地とその恵みを当然のものとみなすようになった。彼らは大事なことを忘れ、思い出そうともしなかった。それは魔王が常に彼らを見張っていること、つまり全創造主と彼に選ばれた人民を苦しめるのを楽しみにしているということを。そしてついに魔王がスコールの前に降り立つ時がきた。 魔王はさまざまな姿をしていた。ある時は不浄の獣、またある時は不治の疫病であった。四季の終わる頃には、魔王は世界を貪り食う者、サーターグとして知られることになるが、この時代においては強欲者と呼ばれていた。 強欲者は(我々がこう呼ぶのは彼の真の名前を呼んでしまうと破滅を引き起こすからである)長い年月にわたってスコールの中に紛れ、生活をしていた。おそらくもともとは普通の人間だった男の心に、魔王が入りこんで強欲者と化してしまい、このように語り継がれているのだろう。 とうとうスコールの力が失われる時が来た。戦士は武器を失い、シャーマンは獣たちを呼び寄せる呪術を奪われた。年寄りたちは全創造主の機嫌を損ねてしまったのだと言い、全創造主は永遠に彼らのもとを去ったのだと言う者もいた。そこへ強欲者が現れた。 「お前たちスコールは日々肥え、怠惰な暮らしを送っておる。そんなお前たちから、全創造主からの贈り物を盗んだ。まず海を盗んだ。お前たちはもう二度と喉の渇きを癒せないであろう。次に陸・森・太陽を盗んだ。作物は枯れ、死ぬだろう。そして獣を盗んだ。飢えがこの地を襲うであろう。そして風を盗んだ。お前たちがこの先全創造主の魂を感じることはないであろう」 「もしお前たちの誰かがこの贈り物を取り返しに来なければ、スコールはいつまでも惨めで絶望的な暮らしを送り続けるであろう。ゆえに私は強欲者、これが私の真の本性だ」 強欲者はそう言って消え去った。 スコールの人々は、来る日も来る日も話し合いに明け暮れた。この中の誰かが贈り物を取り返しに行かなければならない。しかし、誰が取り返しに行くかを決められなかった。 「私は行けない」と、長老は言った。「私はスコールを導き、決まり事が何なのかを人々に伝えなければならない」 「私も行けない」と、戦士は言った。「私にはスコールを守る義務がある。強欲者がまた現れれば、私の剣が必要になるだろう」 「私も行けない」と、シャーマンは言った。「人々には私の英知が必要だ。私は前兆を読み解き、知恵を授ける必要がある」 その時アエヴァーと呼ばれる男が声をあげた。彼は腕っぷしの強い、俊足の持ち主であったが、この時はまだスコールの戦士ではなかった。 「僕が行きます」とアエヴァーが言うと、スコールは皆笑った。 「最後まで聞いてください」と彼は続けた。「僕はまだ戦士ではないから、僕の剣はまだ必要とされていない。前兆を読む力もないので、人々は僕に助言を求めに来ない。そして、まだ若いので政治にかかわるほど賢明ではない。僕が強欲者から奪われた全創造主の贈り物を取り返してきます。もしできなかったとしても、僕を失って悲しむ人はいない」 皆は少し考えた結果、アエヴァーを行かせることにした。翌朝、アエヴァーは贈り物を取り返すため村をあとにした。 アエヴァーはまず最初に、水の贈り物を取り返しに行こうと水の岩へ向かった。そこで初めて全創造主がアエヴァーに語りかけた。 「西の海へ行きなさい。泳ぎ人のあとをついて命の水へ向かうのです」 そこでアエヴァーが海岸を歩いていると、全創造主が遣わした泳ぎ人、ブラック・ホーカーに出会った。泳ぎ人は海へ飛び込み、ものすごい速さでどんどんと遠くに行ってしまった。しかし、アエヴァーは強い体の持ち主で、懸命に泳いだ。泳ぎ人について横穴のあいた所まで深く潜り、肺が焼けそうになりながら、体がくたくたになりながらも泳いだ。ようやく海中に空気の溜まり場を見つけ、そしてその暗がりの中に命の水を見つけた。残る力をふりしぼり、命の水を持って、海岸へと泳ぎ戻った。 水の岩へ戻ると、全創造主が語りかけてきた。「あなたはスコールに水の贈り物を取り戻しました。海が再び現れ、皆の喉の渇きを癒すでしょう」 アエヴァーは次に大地の岩へと向かった。そこでまたも全創造主が語りかけてきた。 「秘密の音楽の洞窟へと行き、大地の歌を聴くのです」 そこで今度は北東にある秘密の音楽の洞窟へと向かった。そこは大きな洞窟で、岩が天上から垂れ下がり、地面から伸びていた。耳を澄ますとかすかに大地の歌が聞こえてくる。そこでアエヴァーはメイスを取り出し、リズムに合わせて岩を叩いた。すると音は次第に大きくなり洞窟とアエヴァーの心を満たした。そしてアエヴァーは大地の岩へと戻っていった。 「スコールは再び大地の贈り物を手に入れました」と、全創造主は言った。「大地は再び肥え、そこから新たなる生命が宿るでしょう」 太陽が激しく照りつけ、それをさえぎる木陰も冷たい風もないので、アエヴァーは疲れていた。それでもなおアエヴァーは獣の岩へ赴いた。そこでまた全創造主が語りかけた。 「善の獣を探し出し、その獣を苦しみから解き放つのです」 アエヴァーがアイジンフィアの森を何時間もかけて通り抜けていると、丘の向こうから熊の叫び声が聞こえてきた。丘に登ると、首に雪エルフの矢が刺さって叫び声をあげている熊を見つけた。アエヴァーは周りに雪エルフが潜んでいないかどうか(異論を唱える者もいるが、敵は雪エルフであった)を見渡し、誰もいないことを確認してからその獣に近づいていった。アエヴァーは熊をなだめながらゆっくりと近づき、「善の獣よ、僕は君に危害を加えたりはしない。全創造主から君の苦しみを癒すように言われ、ここへやってきた」と言った。 この言葉を聞いた熊は暴れるのをやめ、頭をアエヴァーの足元に横たえた。アエヴァーは矢をぐっとつかんで首から引き抜いた。自分が知るちょっとした自然魔法を使ってその傷口を治したが、これでアエヴァーは最後の力を使い果たしてしまった。熊の傷が治るとアエヴァーは眠りへと落ちた。 目が覚めると、熊はアエヴァーの前に立ちはだかるようにしていた。周りにはいくつもの雪エルフの死体が転がっていた。善の獣は一晩中、アエヴァーを守っていたのであった。アエヴァーが熊と一緒に獣の岩へ戻ると全創造主が語りかけてきた。 「獣の贈り物を無事取り戻しましたね。善の獣は再びスコールの空腹を満たし、寒さには着物を与え、必要なときには彼らが守ります」 アエヴァーの体力も回復したので、彼は樹の岩へと向かった。ここで善の獣とは別れた。彼が到着すると万物の父が語りかけてきた。 「始まりの樹々が枯れてしまったので急いで植え替えねばなりません。始まりの樹々の種を探し出してください」 アエヴァーは再びハースタングの森へと向かい、始まりの樹々の種を探したが、一向に見つからない。そこでアエヴァーは生ける樹の精霊たちに問いかけた。精霊たちが言うには、ある雪エルフ(雪エルフは魔王の手下だ)が種を持ち去り、森の奥深くに隠してしまって、誰も見つけられないのだ。 アエヴァーは森の奥深くへと進み、下位の樹の精霊たちに囲まれる邪の雪エルフの姿を見つけた。精霊たちは雪エルフの奴隷状態にあり、種の魔法を使い、秘密の名前を言わされていた。アエヴァーはそのような力には対抗できないと分かっていたので、こっそりと種を盗み取らなければならなかった。 アエヴァーは自分の小袋に手を伸ばし、火打石を取り出した。葉を集め、邪の雪エルフと魔法にかけられた精霊たちの周りの空き地に小さな火をおこし始めた。スコールはみな、精霊たちが火を恐れていることを知っていた。火は精霊が仕える樹を燃やしかねないからだ。すぐに、精霊の本能は取り戻され、彼らは急いで火を消そうと駆けていった。混乱の巻き起こる中、アエヴァーはそっと雪エルフの背後に回り、種の入った小袋を盗み取り、邪の雪エルフが気付く前に逃げ去った。 アエヴァーは樹の岩に戻り、地面に種をまいた。すると、全創造主が話しかけてきた。 「樹の贈り物も取り戻しましたね。樹々や草花が再び生え、人々に滋養と日陰を与えることでしょう」 依然として太陽は暑く照りつけ、涼しい風が吹かなかったのでアエヴァーはひどく疲れていたが、木陰で少しの間休むことができた。アエヴァーの足は棒のようになり、目もひどく重たかったが、それでも旅を続けた。次は太陽の岩へと向かった。そこでまた全創造主が語りかけてきた。 「太陽の穏やかな日差しが盗まれてしまいました。今や激しく照りつけるばかりです。太陽を日食の館から解き放つのです」 そこでアエヴァーは西へと歩き、凍り付いた陸地を越え、日食の館へと到着した。中に漂う空気は厚く重く、自分の腕から先はまったく見えない状況であった。自分の足音が響く中、壁を頼りに歩くも、この館の中には肉を引き裂き、骨までしゃぶりつくす不浄の獣が潜んでいることを知っていた。何時間かそうして歩くと、広間の向こうに微かな光を見つけた。 そこには一枚板のような氷の後ろからまばゆい光が差し込んでいて、アエヴァーは目を開けてはいられなかった。視力を失ってしまうのではないかと思うほどであった。燃えさかる不浄の獣の目を引き抜き、力の限り氷の板に向かって投げ捨てた。氷に小さなヒビが走ったかと思うと、次の瞬間には大きなヒビが入った。ヒビの間からゆっくりと光がもれだし、全体へと広がり氷を粉々に砕いた。轟音とともに壁は崩れ落ち、光がアエヴァーと廊下を包み込んだ。視力を失い、体が燃えさかる不浄の獣の叫びが聞こえた。アエヴァーは光に導かれるように広間を飛び出し、外の地面に倒れ込んだ。 アエヴァーが立ち上がったときには太陽が再び彼を暖かく包み込んだ。アエヴァーはそのことに感謝した。アエヴァーが太陽の岩に戻ると、全創造主が語りかけた。 「太陽の贈り物を再び手に入れましたね。太陽は人々を温め、光を与えます」 アエヴァーが取り戻すべき贈り物は残すはただ1つ。風の贈り物である。アエヴァーは島のはるか西の海岸の、風の岩へと向かった。全創造主はアエヴァーに最後の課題を言い渡した。 「強欲者を見つけ、その呪縛から風を解き放ちなさい」 アエヴァーは強欲者を探して陸地をさまよい歩いた。樹の中も探してみたが強欲者の姿はなかった。海のそばにも、洞窟の奥にも姿は見えず、獣たちも森で強欲者の姿は見てないと答えた。しかし、ついにアエヴァーは一軒のねじれた家を発見し、そこに強欲者がいるようだと分かった。 「誰だ?」と強欲者は叫んだ。「私の家を訪れる者は誰だ?」 「僕はスコールのアエヴァーだ」と、アエヴァーは答えた。「僕は戦士でもなければ、シャーマンでも長老でもない。もし僕が村へ生きて帰れなくても誰も悲しまない。だがしかし僕は海、大地、樹、獣そして太陽を取り戻した。あと風も取り戻すことができればスコールの人々に全創造主の魂が再び宿るであろう」 そうしてアエヴァーは強欲者の袋をぐっとつかんで引き裂いた。風が勢いよく飛び出し、強欲者をも巻き上げ、島から遠く離れた場所へと吹き飛ばした。アエヴァーはすっと風を吸い込み、喜んだ。風の岩のところへ戻ったアエヴァーに全創造主は最後にこう語りかけた。 「よくやりとげました、アエヴァー。スコールでもっとも若きものよ。私の贈り物すべてを取り返しましたね。強欲者は今やはるか遠くへと飛ばされ、二度と村の生活を脅かすことはないでしょう。実に喜ばしいことです。さあ、お行きなさい。己の本能に従い生きるのです」 アエヴァーはスコールへと帰っていった。 ─ 「それからどうなったの? お爺ちゃん」 「どういう意味だ? アエヴァーは無事家に帰っていったのだよ」 「村に帰ったあとの話だよ。アエヴァーはその後戦士になったの? それともシャーマン? スコールの街を戦いへと導いたの?」 「それはどうだろうね。ここでこの物語はおしまいさ」と祖父は答えた。 「こんな終わり方なんてないよ! 物語らしくない」 老人は笑って、椅子から立ち上がった。 「そうかい?」 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/55.html
錬金術の基礎 アリャンドン・マスイエリ 著 若い魔術師は見落としがちだが、錬金術は歴史のある学問で、極めれば人生が変わるほどやりがいもある。錬金術の公式で使われる材料の知識を深めるのは難しく、危険をともなうが、あきらめずに真摯に研究を続けていけば、最後には大きく報われる学問と言えよう。 成功を勝ち取るためにも、それを目指すためにも、まずもって初級の錬金術師は錬金術の基本原理を理解しなければならない。この世の道具のほとんどは自然界の有機物から作られており、マジカの特性を含んだ根源的な成分に分解することができる。腕のいい錬金術師になると、材料のさまざまな特性を利用できるようになる。数種類の材料の源を混ぜ合わせることで薬ができあがる。もちろん、誰が飲んでもよい。(伝説によると、真に偉大な錬金術師はひとつの材料から薬を調合できたという。それだけの離れ業を身につけるには並大抵の努力では足りないだろう) 錬金術師の調合する薬は材料によって多彩な効能が生まれる。そのなかには毒となるようなものさえある。たいていのレシピからは、正と負の効果を併せ持つ薬が生成される。どのレシピが最高の結果をもたらすのか、それを見つけるのは錬金術師にかかっていると言えよう。(負の効果だけを持つ薬を生成すれば毒として利用できることも覚えておくといいだろう。本書ではこの実践を推奨しないため、これ以上の言及は避けておく) ウォートクラフト ウォートクラフトは、実際のところ、素人向けの錬金術である。材料を食べるには歯ですりつぶさなければならないが、その結果、もっとも純粋な源だけが解放され、食べた人に瞬間的な効果をもたらすのだ。ウォートクラフトでは、きちんとした道具で作られる薬のような効果は期待できない。 錬金術のツール 乳鉢と乳棒は錬金術に欠かすことのできないツールである。これがないと、薬として使えるように材料をうまく下準備することができない。新進の錬金術師はこれらのツールを肌身離さず持ち歩き、早いうちにその扱いに慣れておくべきだろう。材料をすりつぶすことは薬を作るうえで欠かせない基本手順となる。きちんと製粉された紅花草の花弁は粉末状になり、朝鮮人参のような材料を混ぜ合わせることで解毒剤ができあがる(これは錬金術師がもっとも早いうちに学んで身につけるレシピのひとつだろう。調合に失敗したときにお世話になることの多い薬だからである)。 腕のいい錬金術師なら、薬の質を高めるためのツールも扱えるようになる。レトルトを使うと混合物を純化することができ、薬の正の効果を高める。混合物を蒸留器で洗浄すると、不純物が取り除かれ、負の効果を減らすことができる。燃炉を使えば、混合物の不純物を焼却することができ、薬の効能がアップする。これらの道具は薬の生成に必ずしも必要なわけではないが、使わない手はないだろう。 材料の組み合わせ 薬の質は材料に依存する。同等の効果を持つ材料だけで薬を調合するのが無難だろう。ひとつの薬に対して4種類までの材料なら、問題なく使用できるようである。 錬金術師は材料の下ごしらえの腕前が上がっていくと、新たな特性を見つけられるようになり、それらを薬に利用することができる。錬金術師としての幅が広がるわけだから嬉しい瞬間には違いないが、完成時にどのような効果を持った薬になるのかしっかりと把握しておくべきであろう。すでに確立されたレシピの結果が変わる可能性があるうえ、すべてがプラスに働くわけではないからである。 白1 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/132.html
シヴァリング・アイルズ動物総覧 ナムリル・エスプリンク 我が親友にして同僚であり、全世界の生物を守ったヴェンリストウィーに捧ぐ。 若い頃に私は動物相のあらゆる形態についての広範囲の研究に関する教育を受けたのだが、大遠征でシヴァリング・アイルズを調査した際の発見に対する驚きは、完全に想像を絶する物だった。私は生まれてからずっとここで暮らしてきたが、アイルズの生物がどれほど素晴らしく独特なものであり得るか、今になってようやく気がつき始めたのである。 大遠征は、6年間に及ぶ大規模な調査を行い、アイルズをくまなく調べて固有の動物相を分類し、その情報を後世および科学界のために記録しようという試みだった。各生物を詳細に描写すべく、私は最善を尽くした。この情報は多くの命を犠牲にして得られた物であり、他に類を見ないほど総合的で信頼できる参考文献だということを、特筆しておくべきだろう。 バリウォグ バリウォグは並外れて醜い水生生物で、シヴァリング・アイルズの湖、川、沼を主な生息地にしている。バリウォグ、あるいは地元民の一部がそう呼ぶところの「ウォグ」は、四足歩行を行い、決して愚鈍あるいは従順とは言えない性質を有する。十分に成長した成体のバリウォグはそのかぎ爪で強烈な一撃を与えることができ、また、非常に鋭い歯で噛みついて相手の命を奪う可能性すら持っている。この獣がもたらす致死性は実際のダメージによる物ではなく、それが引き起こすと思われる恐ろしい病気による物である。さらに注目すべき点として、水に浸かるだけで回復できるという神秘的な能力が挙げられる。観察した結論として言えるのは、この野獣はとにかく避けるほうが懸命だということである。彼らの中には、完ぺきな真珠を身体の中に持つ者がいると言われているが、一体なぜ真珠を呑み込むのか、そこにどんな効用があるのかについては、まだ分かっていない。 エリトラ エリトラは大きな昆虫のような生物で、アイルズの広い範囲に棲む固有種である。北方種(マニア)と南方種(ディメンシャ)とでは著しい色の違いがあるものの、行動パターンと肉体的構造は極めて似ている。エリトラは戦闘時に役立つ2つの興味深い仕組みを持っており、不用意な旅行者にとっては重大な脅威となっている。1つ目の能力は、武器による攻撃を防ぐ不思議な能力である。たとえば剣や矢といった、自分に向かってくる攻撃を察知するための早期警戒システムとして、彼らが触覚を用いているのではないかと、観察を通じて私は推測するようになった。触覚から脳に信号が送られ、彼らは本能的に腕をあげて攻撃を防ぐのである。2つ目の能力は、彼らの針に含まれている自然な毒である。毒は非常に微量であり、それゆえに欺かれやすいが、実はその持続性が致命的な性質をもたらすのである。放っておいた場合、この毒で平均的な男性は数時間のうちに死にいたるのである。最も恐ろしいのはエリトラ・マトロンの毒で、より小さな種類が出す毒よりもずっと長い持続性を持っている。 肉の精霊 アイルズで最も風変わりな生物の一種である肉の精霊は、皮と筋肉とを縫い合わせたような塊が不可思議な象徴で飾られ、鉄の襟を身にまとった姿で現れる。この生物を創造したのがシェオゴラスなのか、あるいは他のデイドラの王子なのかは定かではないが、これらを守護者として用いることが創造の意図であったことは間違いない。肉の精霊は通常、地下の廃墟で見受けられ、守るように指定された地域を、身が滅びるまで守り続ける。この生物が持つ独特な視覚的特徴として挙げられるのが、身体にあるエネルギースポットである。その部分には色がついており、内部からの光で輝きながら、精霊が持つ力を示しているように見える。身体の大きさが増すにつれて、光の色が黄、紫、赤と変わるようである。そのスポットの機能については未だ謎であるが、観察を通じて、魔法を弱める腺のような物ではないかと私は推測している。期待にたがわず、肉の精霊は病気や毒には全く影響されず、炎と霜に対しても高い抵抗力を持っている。逆に雷撃の魔法はどうやら彼らに影響を及ぼすようで、最大の弱点のように思われる。紫と赤の種類の物は、治癒や火炎球などの魔法能力も生来持っているようである。 ナール おそらく最も奇妙な生物と言えるのが、時に「歩く木」と呼ばれることもあるナールである。この活動的な植物は、エリトラと同じように、アイルズのほぼどこでもうろつき回っている姿を見ることができる。シェオゴラスが創造した中でも最高に独特な生物の一つであるナールは、自分に向けられた魔法を利用して自らの防御力を強化することができるという、実に変わった特性を持っている。炎、霜、電撃のいずれかに打たれるとナールは物理的に大きくなり、攻撃に用いられた元素に対して、短い間、耐性を持つようになる。おもしろいことに、ナールの脆弱性が現れるのはその時なのである。攻撃された元素に対して耐性を発揮している間、他のすべての元素に対して脆くなってしまうからだ。我々の遠征のガイドは、まず炎の矢をナールに放ち、続いて霜の矢を放ち、また炎の矢を放つといった形で、その性質を実際に見せてくれた。 グラマイト グラマイトはシヴァリング・アイルズで唯一の、生まれつき武器を巧み操れる生物である。水の中で生まれるこの原始的な人型の生物は、部族的な体系で組織化されているが、誰あるいは何を崇拝しているのかは明らかではない。グラマイトの創造主であるシェオゴラスを崇拝しているとも考えられるが、彼らの宗教的なトーテム像は、マッドゴッドとは似ても似つかない物である。ただ分かっているのは彼らが単純な階層制度を保っていることで、その中には、シャーマンや、他の者たちに指令を出していると思われるボス・グラマイトなどが含まれる。またグラマイトは、マグス・グラマイトによって証明されたように、魔法のかけ方も習得している。不思議なことに、グラマイトはバリウォグのそれに似た防御の仕組みを有している。水に浸かれば、グラマイトの傷ついた肉体は回復を始めるのだ。バリウォグとは異なり、この再生の仕組みは雨でも有効であるため、嵐の日の彼らは恐るべき存在となる。水による治癒能力という共通性を理由に、私はバリウォグとグラマイトには何らかのつながりがあると信じるに至ったのだが、広範囲に及ぶ調査をしてもなお、確かな関係性を見つけることはできていない。 ハンガー シェオゴラスの暗い側面を象徴する生物がいるとすれば、ハンガーである。紛れもないデイドラの生物として生まれた彼らは、従者および番人としてここアイルズに配置されているのである。ハンガーをあなどってはいけない。彼らは優れた素早さと電撃を跳ね返す能力を持ち、犠牲となる者を疲労させる一時能力をも有しているのである。この恐ろしい生物に遭遇した際の最良の方法として私が勧められるのは、とにかく近寄らないようにするか、あるいは即座に殺してしまうことである。呪文を唱えることによりハンガーを召喚し、敵に立ち向かわせることができる魔法が存在しているとも言われているので、用心していただきたい。 スケイロン スケイロンもまた、シヴァリング・アイルズ固有の水生生物である。直立したバリウォグに驚くほど似ているスケイロンは、大きなヒレのついた腕と、背トゲをその特徴としている。この生物は通常は非常に恐るべき存在で、獲物の後を追ってゆっくると歩き回っている。その遅いスピードが弱点だと勘違いしてはいけない。スケイロンは驚くべき跳躍攻撃ができるため、かなり遠くから獲物に襲いかかることが可能なのだ。バリウォグとのつながりとしてもう一つ挙げられるのは、噛んだりかぎ爪を用いたりすることにより、獲物に病気を移すことができるという事実である。接近戦ではとてつもなく恐ろしい相手となり得るので、最大距離を取った上で呪文やミサイルを用いて攻撃することが望ましい。 シャンブルズ シャンブルズは、骨を用いて作ったアンデッドな構造物を、針金あるいは布きれを用いてつなぎ合わせたような姿をしている。奇妙なことに、彼らの組み立てに用いられている骨は、相互関係がまるでお構いなしのように見える。いくつか例を挙げるなら、頭蓋骨が膝のお皿になっていたり、脚の骨が腕になっていたりという具合なのである。シャンブルズはアンデッドかもしれないが、犠牲となる者を追いかける時には、まるで獲物を追う肉食動物のようである。骨っぽいアンデッドの仲間と同じように、シャンブルズは、病気、毒、麻痺に対して完全な耐性を持つ。また、すべての霜の魔法に対し、独特な耐性を有している。さらに、死を迎える際にシャンブルズは爆発し、見事な霜のシャワーを降らせる。この興味深い能力はどうやら、土壇場での防御機能として創造主によって付け加えられた物のようだ。私は元々この事実を知らなかったのだが、最も有能なガイドの一人が致命的な一撃をシャンブルズに与えた時に、初めて分かったのである。このアンデッド生物と戦うつもりなら、霜に対する防護物を必ず携帯するか、距離をおいて殺すようにすべきである。 皮を剥がれた猟犬 この忌まわしいアンデッド獣は、通常、アイルズに点在する廃墟の中あるいは周辺で遭遇することが多い。皮を剥がれた猟犬は身のこなしが非常に敏捷で、肉に対する飽くなき欲望を持っている。肉の精霊と同じように、皮と筋肉をぞんざいに縫い合わせたような姿をしているが、召喚された生物なのかあるいはただ単に組み立てられた物なのかについては定かでない。皮を剥がれた猟犬は決して侮れない敵である。まるで幽霊のように全く目にも留まらない突進攻撃ができるし、霜に対する有限の抵抗性を持ち、さらに、病気と毒に対する完全な免疫を持っているからだ。この獣の弱点は炎である。火におびえるほどの知性は持ち合わせていないようだが、彼らを手早く片づける方法として炎が非常に効果的であることは間違いない。 この著作は生物との戦いに関する側面のみに言及しているに過ぎないが、シヴァリング・アイルズの境界内を旅するすべての旅行者にとって、最重要な物だと私は感じている。今後の著作の中では、これらの生物が持つ別の側面、すなわち、再生産、創造、魔法的な起源、そしてさらには旅行中に私が発見したおいしい調理法にまで、触れてみるつもりである。アイルズの道を歩く際の最善の助言として私が言えるのは、常に慎重さを保ち、心の準備を怠らずにいることである。敵を知ることが、おぞましい死と生とを分ける境目になり得るのだ。 SI 生物学 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/239.html
「物乞い」 レヴェン 著 エスラフ・エロルは豊かなノルドの王国、エロルガードの女王ラフィルコパと王者イッルアフのあいだに生まれた5人の子供たちの最後の子であった。妊娠中、女王は身長の2倍もの幅があり、分娩には開始から3ヶ月と6日間かかった。エスラフを押し出した後、彼女は顔をしかめ、「ああ、清々した」と言って亡くなったのは、なんとなく理解できる。 多くのノルド同様、イッルアフは妻のことはあまり気にかけてはいなかったし、子供たちはそれ以下であった。よって、彼がアトモラの古の伝統に従い、愛する配偶者の後を追うと宣言した時、家臣たちは戸惑った。彼らはこの2人がとりわけ愛し合っていたとも思っていなかったし、まずそのような伝統が存在していたことを知らなかった。それでも、北スカイリムの辺境、特に冬期は、退屈が一般的な問題であり、庶民たちはこの退屈を和らげてくれた、王家のちょっとした、それでいて劇的な出来事に感謝した。 彼は王室に仕えるもの全員と、太り、うるさい彼の5人の小さな相続人たちを前に集め、財産を分け与えた。息子イノップには彼の称号を、息子ラエルヌには彼の土地を、息子スオイバッドには彼の富を、娘ライスィフィトラには彼の軍隊をそれぞれ与えた。イッルアフの相談役たちは、王国のためにも遺産をすべてまとめておくことを提案したが、イッルアフは相談役の人々のことを、ついでに言えば王国のことさえもそれほど大切には思ってはいなかった。公表を終え、彼はダガーで喉を引き裂いた。 かなり内気な看護人の1人は、王の生命が徐々に消え行く中、ようやく話しかける決心がついた。「殿下、5人子、エスラフ様のことをお忘れですが」 イッルアフはうめき声をあげた。血が喉から吹き上げる最中、集中するのはいささか難しい。王者はむなしく何か遺贈できるものはないか考えたが、何も残っていなかった。 彼は口から血を飛ばし、いらつきながら言った。「では、エスラフも何か選べばよかったではないか」そして、亡くなった。 生まれて数日の赤ん坊が、彼の正当な遺産を要求することを期待されているのは、間違いなく不公平である。 誰も彼を引き取らないので、内気な看護人、デゥルスバが赤ん坊を家へと連れて行った。それは老朽化した小さな小屋で、その後の数年間で、さらに老朽化していった。仕事が見つからず、デゥルスバは家財道具をすべて売り払い、エスラフのための食べ物を買った。彼が歩き、喋れる歳になったころには、彼女は壁や天井も売ってしまっていたので、家と呼べるものは床しかなかった。もし、あなたがスカイリムへ行ったことがあるのであれば、その状況がどれだけ不十分かを理解してもらえるであろう。 デゥルスバはエスラフに、彼が生まれたときの話も、彼の兄弟が遺産でかなり良い生活をしている話もしていない。前にも述べたように、彼女は内気であり、その話題を切り出すことを難しく感じていた。彼女がどれほど内気なのかの証拠に、彼がどこから来たのかに関して少しでも質問すると、デゥルスバは走って逃げてしまうのである。実際それが、逃げることが彼女のすべてに対する答えなのである。 とにかく、彼女と話をするために、エスラフは歩くことを覚えるとほぼ同時に走ることを覚えた。最初は義理の母についていけなかったが、時と共に、早く短い短距離走を予測した場合は、つま先を主に使って走り、デゥルスバが長距離走に旅立ちそうなときは、競歩のようにかかとを主に使って走ることを学んだ。彼女からは必要な答えのすべてを得られなかったが、走ることだけはしっかりと覚えた。 エスラフが成長していた数年間で、エロルガード王国は残酷な場所になっていた。王者イノップには公庫がなかった。富はすべてスオイバッドが引き継いだのである、王者には土地からの収入がなかった。土地はラエルヌが引き継いだのである、王者には民を保護する軍がなかった。ライスィフィトラが軍を引き継いだのである。さらに、彼は子供であったため、王国のすべての決定は、予想以上に腐敗した評議会を通っていた。王国は、搾取的に税が高い国となり、犯罪は頻発し、近隣国から定期的に侵略を受けていた。タムリエルの王国として特に異例の状況とは言えないが、とはいえ嫌な状況ではあった。 ついに収税官がデゥルスバのあばら家にきて、この家の状況から徴収できる唯一のもの、床を持っていってしまった。抗議するよりも、この可哀想で内気な女性は走り去ってしまい、エスラフは2度と彼女の姿を見ることはなかった。 家もなく、母もおらず、エスラフはどうしたらよいのか分からなかった。寒さにはデゥルスバの家で慣れていたが、彼は空腹であった。 「肉を一切れくれませんか?」彼は街路を少し下ったところにいるブッチャーに聞いてみた。「すごくお腹が空いてます」 この男は少年のことを何年も前から知っていて、しばしば妻に、この子が天井も壁もない家で暮らしていることをどれだけ気の毒に思っているかを話していた。男はエスラフに微笑みかけ、「どこか他へ行け、さもなくば叩くぞ」と言った。 エスラフは急いでブッチャーの下を去り、近くの酒場へ向かった。酒場の主人はかつて王者の宮廷で従者をしており、この少年が本来ならば王子であることを知っていた。この可哀想な少年が街路を歩く姿を何度も見ており、その都度、運命の残酷さにため息をついた。 「何か食べるものをくれませんか?」と、エスラフは酒場の主人に聞いた。「すごくお腹が空いてます」 「俺がおまえを料理して食っちまわないで、良かったな」と、酒場の主人は答えた。 エスラフは急いで酒場を後にした。その後、一日中、少年はエロルガードの善良な民に食べ物を乞うた。一人だけ、彼に何かを投げてくれたが、それは食べられない石であった。 夜が迫ったとき、ぼろぼろの服を着た男がエスラフに近づき、何も言わずに果物と干し肉を手渡した。少年は受け取り、目を見開き、むさぼり食いながら男に愛想よく感謝した。 「もし明日、おまえが街路で物乞いをしている姿を見かけたら……」男はうなった。「おまえを殺してやる。ギルドが1つの街に許可する物乞いの数は決まっている。おまえは、丁度その枠から溢れる。商売あがったりだ」 エスラフ・エロルは走り方を学んでおいて幸運であった。彼は一晩中走った。 エスラフ・エロルの物語は「盗賊」という本に続く。 物語(歴史小説) 茶2 「盗賊」 レヴェン 著 もしこのエスラフ・エロールの連続物語の第1巻、「物乞い」を読んでいないのなら、すぐさまこの本を閉じて出直していただきたい。 さて、今この本を閉じなかったお優しい読者の方、あなたにならお話ししよう。私が最後にエスラフを見た時、彼はまだ少年だった。彼は孤児で、物乞いとなり、彼の故郷であるエロルガードから遠く離れたスカイリムの冬の荒野を走り抜けていた。彼は長年、そこここで走っては止まりを繰り返し、大人になった。 食べ物を得る方法でもっともやっかいなのは人から恵んでもらうことだと、エスラフは身をもって体験していた。荒野の中で食べ物を見つける方がはるかに易しく、もしくは誰も見てない市場の棚から盗むほうが簡単だ。唯一やってはいけないことは食料を買うお金を得るために働き口を探すことだ。これは必要以上にやっかいなことになる。 エスラフにとっては、ゴミ漁りや物乞い、泥棒するほうが楽であった。 初めて盗みを犯したのはエロルガードから出た直後、ホアベルドのちょうど東に位置する村、ジェンセン山近くにある岩だらけの場所にあるタンバーカー南部の森の中であった。エスラフはひどくお腹が空いていた。4日間で口にしたのはガリガリにやせ細った生のリスだけだった。その時、肉の焼けるにおいと煙があがっているのが見えた。吟遊詩人の一団が野営をしていたのだ。エスラフは茂みの中からそっと覗き、彼らが料理をこしらえ、笑い、戯れ、歌を歌っているのが見えた。 食料を恵んでもらえるよう頼んでいたが、それまでの道中ずっと断られていた。だからエスラフは走って飛び出し、肉をつかみ取り、火にたじろいでそのまま近くにあった木によじ登ってガツガツと食べ始めた。その間、吟遊詩人たちは木の下から彼を見上げ、笑っていた。 「この後はどうする気だい? 泥棒さん」そう言いながら笑っていたのは赤髪の美しい女で、体中にタトゥーを入れていた。「あたしたちに捕まってお仕置きされないように、どうやってここから出て行くのかしら?」 空腹が満たされてくると、エスラフは彼女の言うことももっともだと思った。彼らの輪の中に落ちることなくここから逃げる唯一の方法は、小川の方へと伸びる枝を伝って下りていくしかなかった。一歩間違えば50フィートほどの崖の下へと落ちてしまう。しかし、この方法が一番賢い策だと考え、エスラフはゆっくり枝の方へと這っていった。 「安全な落ち方は知ってるのか?」カジートの若者が叫んだ。エスラフよりやや年上のようで、華奢な体つきであったが筋肉はついており、ちょっとした動きにも優雅さが感じられた。「そんなことはやめて、こっちへ下りて来い。首を折っちまうような馬鹿な真似はやめろよ。それよりもお前を何発か殴ったら、家まで送り届けてやるよ」 「もちろん、落ち方ぐらい知ってるさ」エスラフは返事をしたが、彼らのほうへは戻らなかった。もちろん落ち方のコツなんてものは知らず、あとは成り行きに任せるしかないと思った。だが、50フィートもの高さから下を見下ろせば、誰もが動けなくなるだろう。 「大盗賊さんよ、あんたを見くびって悪かった」カジートはニッコリ笑いながら言った。「知ってると思うが、足から真っ直ぐ落ちると、卵みたいに割れちゃうぜ。まあ、それでも俺たちの手から逃げられることにはなるがな」 エスラフはカジートのヒントを受け、川へと飛び込んだ。優雅に、とは言えないまでも彼は無傷であった。年月が過ぎ、彼はこれよりも高い場所から飛び降りる場面に何度か出くわした、もちろん大体は盗みを働いた後にということだ。時には下に水がないときもあったが、彼は基本的な技を学んでいった。 エスラフは21歳の誕生日の朝、ジャレンハイムの町を訪れた。誰がこの町で一番の金持ちで、泥棒に入るのに絶好の相手か、すぐにわかった。この町の中心に難攻不落の宮殿がそびえたっており、その持ち主はスオイバッドという、神秘的な雰囲気の若い男だった。エスラフはすぐに宮殿を見つけ、観察した。これまでの彼の経験からいうと、このような要塞化された宮殿に住む人間には、頑丈な警備で固められた地下に物を隠すおかしな癖がある。 その宮殿は新しく、そのあたりから察するに、スオイバッドが金を手に入れたのもつい最近のことであろう。衛兵が定期的に見回りをしていることから、盗みに入られるのを恐れているようだ。この宮殿で特徴的といえるのが、石壁よりも100フィートも高くそびえる塔だった。このスオイバッドという男がエスラフが考えるような偏執症であれば、その塔から宮殿内の宝庫の場所が分かるだろう。金持ちというのは自分の財産をいつでも目にすることができるようにするものだ。つまり、この塔の真下に金目のものがあるのではなく、城内の中庭のどこかにあるのだ。 塔の照明灯は一晩中点けられていたので、エスラフは大胆にも真昼の時間帯に狙おうとした。おそらくスオイバッドも寝ているに違いないと考えた。衛兵もよもやそんな時間帯を狙って泥棒が入ってくるとは思っていないだろう。 そういうわけで、真昼の太陽が宮殿を照らすころ、エスラフは正門近くの壁をよじ登り、胸壁の裏に隠れて待った。中庭は平坦で荒涼としており、隠れる場所はほとんどなかったが、2つの井戸が見えた。1つは衛兵たちが時折水をくみ、喉の渇きを癒していた。しかし、もう1つのほうにはまったく衛兵が立ち寄らないことに気づいた。 宮殿に金品を運びこむ商人の馬車が通り、衛兵たちの気がそれる短いチャンスが訪れるまで待った。皆の注意が馬車に向いてるのを確認し、エスラフは壁から井戸の方へ足元から優雅に飛びこんだ。 軟着陸とは行かなかった。というのも井戸にはエスラフがにらんだとおり水ではなく、財宝で埋め尽くされていたからだ。それでも、彼は落ちたあとの受け身の取り方も学んでいたので、傷1つなかった。じめじめした地下の宝庫であったが、ポケットに詰めれるだけ詰め、まさにその場を立ち去ろうとしたその時、塔へと続くらしいドアのところにリンゴほどの大きさの宝石を見つけた。ここにある中で一番高価なものだと思ったエスラフは、パンツを広げそこへねじこんだ。 ドアは塔へと続いており、エスラフは静かに、すばやく階段の吹き抜けを上っていった。頂上へ到着すると、この宮殿の主の私室へと辿り着いた。そこは豪勢な装飾が施され、大変貴重な美術作品やら、飾りつきの剣や盾が壁に飾られていた。エスラフは、おそらくシーツの下でいびきをかいてるのがスオイバッドだと思った。彼はそれ以上は調べようとせず、窓へ這って進み、鍵を外した。 この高さからのジャンプは危険だろう。塔から壁を通り越し、反対側の木の枝まで飛ばなければいけなかった。木の枝で怪我をしてしまうかもしれないが、その下には怪我を防げそうな干草の山があった。 エスラフがその部屋から飛び出そうとしたその瞬間、部屋の主が目覚めて「私の宝石!」と叫んだ。 エスラフは目を大きく見開いて部屋の主としばし見つめ合った。彼らは瓜二つだった。驚くべきことではない、彼らは兄弟であったのだ。 この話は「戦士」の巻へと続く。 物語(歴史小説) 茶2 「戦士」 レヴェン 著 この本は4巻の本からなる連続物語の3巻目になっている。もし最初の2巻、「物乞い」および「盗賊」を読んでいない場合は、そちらを読むことをお勧めする。 スオイバッド・エロルは自分の過去についてあまり知らなかったし、知りたいとも思ってはいなかった。 子供のころ、彼はエロルガードで暮らしていたが、王国はとても困窮しており、その結果、税金は非常に高かった。彼は多額の遺産を管理するには若すぎたが、彼の破滅を心配した召使いたちが彼をジャレンハイムに移動させた。なぜその地が選ばれたのかは誰も知らない。とうの昔に死んだ召使いの1人が、子供を育てるには良い場所だと思ったのであろう。他に案を持つものもいなかった。 若きスオイバッドよりも甘やかされて育った子供たちもいると思うかもしれないが、恐らく実際にはそんなことはないだろう。育つにつれ、彼は自分が金持ちであることを理解したが、他には何もなかった。家族も社会的地位もなく、警護もまるでなかった。忠誠心は真には買えないと知ったのは1度ではない。自分に巨大な財産という強みしかないことを充分に分かっている彼は、それを守り、そして可能であれば増やすことに必死になった。 一般的にも、良い人たちの中に強欲なものはいるが、スオイバッドは富の入手と貯蓄以外にはまったく興味を持たない珍しい人種であった。彼は富を増やすためならば何でもするつもりで、彼は実際に、魅力的な土地を攻撃するための傭兵を秘密裏に雇い、その後、誰も住みたがらなくなったときに買い上げるといった方法をとった。当然、攻撃はそれで止み、スオイバッドは有益な土地を格安で手に入れることになる。最初はいくつかの小さな農家から始まったが、最近はさらに野心的な作戦行動を行い始めている。 北中央スカイリムには、地理的に興味深いアールトと呼ばれる地域がある。そこは周囲を氷河によって囲まれている休火山低地であるため、土壌は火山によって温められるが、常に霧雨状態で空気は冷たい。そこではジャズベイと呼ばれるブドウが快適に育つが、それはタムリエルの他のどの場所でも萎れて死んでしまう。この奇妙なブドウ園は私有物であるため、そのブドウから作り出されるワインには希少価値があり、極めて高価である。皇帝がこのワインを年に一度飲むには、帝都評議会の許可が必要であると言われている程である。 アールトの所有者を苦しめ、彼の土地を安く手放させるためには、かなりの数の傭兵を雇わねばならなかった。よって彼は、スカイリムにおける最高の私兵集団を雇う必要があった。 スオイバッドはお金を使うことが好きではなかったが、リンゴと同じ大きさの宝石を、ライスィフィトラと呼ばれる将軍に支払うことを承知した。もちろん、支払いは任務が成功したときに行なわれるので、まだ渡してはいなかったが。しかし、こんな素晴らしいものを手放すことを分かっている彼は、夜も眠れなかった。彼は盗賊が夜うろつくのを知っていたので、倉庫を監視するためにいつも日中に寝た。 ある日、うつらうつらした眠りからスオイバッドが昼頃に起き、突然、彼の寝室で盗賊に出くわした。その盗賊こそ、エスラフであった。 エスラフはどのように窓から飛び降り、要塞化された大邸宅の壁の表にある百フィート下の木々の枝に体をあて、いかに積んである干草に身を投じるかを沈思していた。そのような離れ技に挑戦したことがある人はおそらく、かなりの集中力と度胸が必要であると言うであろう。寝ている富豪が起きたのを見たとき、その両方とも吹き飛んでしまい、エスラフは飾ってある装飾用の大きな盾の裏に潜み、スオイバッドが再び眠りにつくのを待った。 スオイバッドが再び寝ることはなかった。彼は何も聞いてはいないが、誰かが一緒に部屋の中にいることを感じた。彼は立ち上がり、部屋の中をうろうろし始めた。 スオイバッドは歩き回ったが、徐々に自分が想像しているだけだと思い込んだ。そこには誰もいない。彼の富は無事だ。 何か物音を聞いたとき、彼はベッドに戻りかけていた。振り向くと、ライスィフィトラに渡すことになっている宝石が、アトモラの騎兵用の盾から少し離れた床上に見えた。盾の裏から手が伸びてきて、それを拾い上げた。 「盗賊だ!」スオイバッドは叫び、宝石で装飾されたアカヴィリ剣を壁からつかみ下ろし、盾に向かって突進していった。 エスラフとスオイバッドの「戦い」は偉大な決闘の記録には残らない。スオイバッドは剣の扱いを知らなかったし、エスラフは盾による防御に関して無知であった。その戦いはぎこちなく、不細工であった。スオイバッドは激怒していたが、繊細な飾り付けを傷めて価値を下げてしまうような使い方を心理的にできなかった。エスラフは盾を彼と剣の間に置くようにしながら、盾を引きずりつつ動き続けた。何といっても、それが盾防御の要である。 スオイバッドは盾を殴りながら叫び、その盾は殴られる反動で部屋を移動していった。宝石はライスィフィトラという名の偉大な戦士に約束されていると説明し、返してくれるならスオイバッドは喜んで他のものを渡すと、彼は盗賊と交渉すら試みた。エスラフは天才ではなかったが、それでもそれが嘘だと判った。 主人の呼び出しに応え、スオイバッドの衛兵が寝室に到着したときには、窓の近くまで盾を追いつめていた。 スオイバッドよりも遥かに剣の力量に富む彼らは盾にのし掛かったが、そこには誰もいなかった。すでにエスラフは窓から飛び降り逃走していたのだ。 懐にしまったゴールドを鳴らし、巨大な宝石が体に擦れるのを感じつつ、ジャレンハイムの街路を重そうに走るエスラフは、どこに行けば良いのか分からなかった。ただ、この街にはもう戻れないということと、宝石の所有権を持つライスィフィトラという名の戦士に会うことだけは絶対に避けなければならないことはわかっていた。 エスラフ・エロルの物語は、「王者」に続く 物語(歴史小説) 茶2 「王者」 レヴェン 著 読者諸君、この連続物語の3巻、「物乞い」「盗賊」「戦士」を読み、記憶に留めていない場合は、結末へとたどり着くこの最終巻に書かれている内容を理解することは難しいだろう。お近くの本屋でのお求めをお勧めする。 前回の物語は、いつもの如くエスラフ・エロルが命をかけて逃走しているところで幕を閉じた。彼は多量の金と非常に大きな宝石を、ジャレンハイムのスオイバッドという名の富豪から盗んだ。その盗賊は北へと逃げ、盗賊らしくありとあらゆる非道徳的な快楽のために、金を湯水の如く使った。この本を読んでいる淑女や紳士を動揺させてしまうような内容なので、詳しくは述べないことにする。 手放さなかったのはあの宝石だけである。 愛着があって手放さなかったわけではなく、彼から買い取れるほどの金持ちを知らなかったからである。何百万もの価値がある宝石を手にしながら、無一文という皮肉な状況に彼は陥っていた。 「これと交換で、部屋とパンとビールの大瓶をくれないか?」あまりにも北すぎて、その半分が亡霊の海に面する小さな村、クラヴェンスワードの酒場の店主に彼は聞いた。 酒場の店主はそれを疑わしげに見た。 「ただの水晶だよ」と、エスラフはすぐさま言った。「でも、きれいじゃない?」 「ちょっと見せて」鎧に身を固め、カウンターの端にいた女性が言った。許可を待たずに彼女は宝石を手に取り、見つめ、そしてあまり優しくなさそうな笑みをエスラフに向けた。「私のテーブルで一緒にどう?」 「実は、ちょっと急いでいるので」と、宝石に向かって手を伸ばしながらエスラフは答えた。「またの機会に」 「友であるこの酒場の店主に敬意を表して、私も部下も皆、ここにくるときは武器を置いてくる」宝石を返さず、カウンターに立てかけてあったほうきを手に取りながら、何気なく彼女は言った。「でも、これだけは断言できるわ。私はこれを武器としてかなり有効に使える。もちろん、武器ではないけれど、気絶させるたり骨の1本や2本を折る程度、そして── 1度中に入ったら……」 「どのテーブルだい?」エスラフは即座に聞いた。 その若い女性は、エスラフがいまだに見たことがないほど大きなノルドが10人座っている、酒場の裏にある大きなテーブルへと彼を連れて行った。彼らはエスラフのことを、踏み潰す前に一瞬の観察に値する奇妙な虫であるかのような無関心さで見つめた。 「私の名前はライスィフィトラ」と彼女は言い、エスラフは瞬きをした。それはエスラフが逃走する前に、スオイバッドが口にした名前であった。「彼らは私の副官たち。私は気高い騎士たちから成る大きな独立した軍の指揮官。スカイリム最高の軍よ。つい最近、ラエルヌと言う男が我々の雇い主がスオイバッドと言う男にブドウ園を売り渡すことを強要するため、アールトにあるブドウ園を攻撃する仕事を与えられたわ。我々の報酬は、とても有名で間違えようのない、飛び抜けた大きさと質の宝石のはずだったの」 「依頼通りにやり遂げ、スオイバッドの下に謝礼を受け取りに行ったら、彼は最近泥棒に入られたために支払えないといったわ。でも最終的には私たちの言うことを聞き、貴重な宝石の価値に匹敵するくらいの金を支払った。彼の宝物庫を空にはしなかったけれど、結局はアールトの土地を買えないことになったわ。よって、私たちは十分な支払いを受けられなかったし、スオイバッドは金銭的な痛手を負い、ラエルヌの貴重なジャズベイは一時的に意味もなく台無しにされたの」ライスィフィトラは続ける前に、ゆっくりとはちみつ酒を1口飲んだ。「さて、よく分からないから教えてくれない? 私たちが手に入れるはずだった宝石を、どうしてあなたが持っているの?」 エスラフはすぐには答えなかった。 その代わり、左にいる髭を生やした蛮族の皿からパンを1切れ取り、食べた。 「すまない」と口をモグモグさせながら彼は言った。「いいかい? 宝石を取ることは、やめたくてもやめられないし、実際のところ別に構わない。そして、どのようにして私の手に入ったかを否定するのも無駄なことだ。要するに、これは、あなたの雇い主から盗んだ。もちろん、あなたや気高い騎士たちに被害を加えるつもりはなかったが、あなたのような人にとって、盗賊の言葉など相応しくない理由も理解できる」 「そうね」ライスィフィトラは答え、顔をしかめたが、目は面白がっているようである。「相応しくないわね」 「でも私を殺す前に──」エスラフはパンをもう1切れつかんで言った。「教えてくれ、あなたのように気高い騎士が、1つの仕事で2度報酬を得るのは相応しいことなのか? 私にはなんの名誉もないが、支払いのためにスオイバッドが損害を被り、今はその宝石を手にしている。よって、あなたの莫大な利益はあまり誇れるものではないと思うのだが」 ライスィフィトラはほうきを拾い上げ、エスラフを見た。そして笑い、「盗賊よ、名は?」 「エスラフ」と、盗賊は言った。 「今回は我々に約束されていたものなので、宝石はいただくわ。しかし、あなたは正しい。1つの仕事で2度支払いを受けるべきではないわ。なので──」ほうきを置きながら女戦士は言い、「あなたが我々の雇い主よ。我々に、何をさせますか?」 多くの人々は自分の軍隊にかなりの使い道を見出すであろうが、エスラフはその1人ではなかった。頭の中を捜してみたが、最終的には、後に支払われる貸しにしておくことに決まった。彼女の野蛮性にも関わらず、ライスィフィトラは素朴な女性であり、彼女が指揮するその軍に育てられたことを彼は知った。戦闘と名誉が彼女の知るすべてであった。 エスラフがクラヴェンスワードを離れたとき、彼には軍の後ろ盾があったが、1ゴールドすら持っていなかった。近いうちに何かを盗まなければいけないのは分かっていた。 食べ物を拾い集めようと森の中をさまよっていると、彼は奇妙な懐かしさに襲われた。ここはまさしく子供のころにいた森で、当時も空腹で食べ物を拾っていた。道に出たとき、彼は優しく間抜けで内気な召使い、デゥルスバによって育てられた王国に戻ってきたことに気付いた。 彼はエロルガードにいたのだ。 そこは彼の幼少期よりもさらに絶望の深みへと堕ちていた。彼に食べ物を拒否した店の数々は皆、板が打ち付けられ放棄されていた。そこに残されている人々は皆、うつろで絶望した姿であり、彼らは税金、専制政治、野蛮人の侵略によってやつれきっていて、弱りすぎて逃げることすらできない人々であった。エスラフは、若いころにここから出られた自分がどれだけ幸運だったかを実感した。 しかし、そこには城があり、王者がいる。エスラフはすぐさま公庫に侵入する計画を練った。普段どおりその場を注意深く観察し、警備や衛兵の習慣などを記録した。これには時間がかかったが、結局、警備も衛兵も存在しないことに彼は気付いた。 彼は正面の扉から中に入り、がら空きの廊下を下って公庫へ向かった。そこは、何もなさで満ちていた。1人の男が居る以外は。彼はエスラフと同年代だったが、さらに老けて見えた。 「盗むものは何もない」と、彼は言った。「かつて存在したこともないがな」 王者イノップは年齢以上に老けているが、エスラフ同様の白金髪、そして割れた硝子のような青い眼を持っていた。その上、スオイバッドやライスィフィトラにも似ていた。エスラフは破滅させられたアールトの地主、ラエルヌとは知り合いにこそならなかったが、見た目は似ている。当然のことである。彼らは兄弟なのだから。 「何も持っていないのか?」と、エスラフは優しく聞いた。 「この王国以外は何もない。忌々しいことだが」王者はぼやいた。「私が玉座に就くまでは強力で、富んでいたのだが、私はそのどれも相続しなかった、ただ称号のみ。私の全人生に責任がのし掛かっていたが、それを正しく推し進める資質を持ったこともなかった。生得の権利であるこの荒野を見渡すと嫌になる。もし王国を盗むことが可能であるならば、それを止めたりなどしない」 結局、エスラフは王国を盗むことにした。それからしばらく後、エスラフがイノップとして知られるようになったが、それは身体的な相似から容易な偽装であった。本物のイノップはイレキルヌと名を変え、喜んで彼の領地を離れ、最終的にはアールトのブドウ園で素朴な労働者となった。初めて責任から開放された彼は、心から喜んで新しい人生に取り組み、そして長い年月が彼から溶け出した。 新しいイノップはライスィフィトラへの貸しを回収し、彼女の軍を使ってエロルガード王国に平和を取り戻した。安全になった今、商売や交易がその地に戻り、エスラフは税額を下げ、それらの成長を促した。それを聞き、常に富を失うことを恐れているスオイバッドは、生誕の地へ戻ることを決心した。彼が何年か後に死ぬとき、彼はその強欲から相続人の指名を拒否したため、王国が彼の全財産を受け取った。 本物のイノップからいい評判を聞いたエスラフは、その財産の一部を使ってアールトのブドウ園を購入した。 これによってエロルガードは、王者イッルアフの5人目の子によって以前の繁栄に返り咲いた── エスラフ・エロル、物乞い、盗賊、お粗末な戦士、そして、王者。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/266.html
謎かけの赤い本 この手軽な書物にこそ、様々な謎かけやおふざけが収められ、入念な研究を通じ、教養ある慎重な紳士は、同輩の者たちの鋭い才知により当惑させられることはなくなるだろう。 [西方の貴族社会では謎かけの応酬は慣習の一つとなっている。貴族や社交界での活躍を図る者たちは謎かけの本を集めて研究し、会話の際に狡猾にして機知に富んでいる印象を与えられるよう、努力を重ねるという。] 問いかけ: 汗水流して働けど 暮らし良くなる気配無し 努力の挙句に手元に残るは 返し: これぞドレイク金貨なり 問いかけ: 人とエルフの心とは 詩人こそ知るところなり 熊に詩吟を詠ませたら 返し: 瞬く間にのけものなり 問いかけ: 爺を殴って殴りつけ 見慣れぬ顔に仰天す 慌てて周囲を見まわせど 返し: 殴る拳を違えたか 詩歌 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/125.html
2920 真央の月(6巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 真央の月2日 バルモラ (モロウウィンド) 「帝都軍が南に集結しております」キャシールは言った。「二週間の進軍でアルド・イウバルとコロチナ湖に到達するでしょう。それと、きわめて重装備でありました」 ヴィヴェックはうなずいた。アルド・イウバルと湖の対岸の姉妹都市、アルド・マラクは戦略の要地とされる城砦だった。ここしばらく、敵が動くのではないかと懸念していた。ヴィヴェックに仕える将軍がモロウウィンド南西部の地図を壁から引きはがすと、開け放しの窓から舞い込んでくる心地よい夏の海風と格闘しながら、手で撫でつけてまっすぐに伸ばした。 「重装備だと言ったな?」と、将軍は訊いた。 「はい、将軍」キャシールは言った。「ハートランドはベサル・グレイにて野営しておりました。どの鎧も黒檀製やドワーフもの、デイドラものばかりで、上等な武具や攻城兵器も確認できました」 「魔術師や船は?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「魔闘士の軍団がおりましたが──」キャシールは答えた。「船はないものかと」 「それほどの重装備なら、ベサル・グレイからコロチナ湖までは確かに二週間はかかる」ヴィヴェックは地図をじっくりとながめた。「さらに北からまわり込んでアルド・マラクへ向かおうとすれば、沼地にはまってもたつくことになろう。となれば、この海峡を越えてアルド・イウバルを攻め落とそうと考えるにちがいない。それから湖岸沿いに東進し、南からアルド・マラクを奪おうとする」 「海峡を越えてくるなら、やつらは袋のねずみですな」と、将軍は言った。「半分ほど渡りきってしまえばもうハートランドには引き返せない。そこで一気に襲いかかるのです」 「またもやそなたの機知に助けられたようだ」ヴィヴェックはそう言い、キャシールに笑いかけた。「今一度、帝都の侵略者どもを撃退してやろうぞ」 2920年 真央の月3日 ベサル・グレイ (シロディール) 「勝利しておきながら、かように帰還なさるおつもりですか?」ベサル卿は訊いた。 ジュイレック王子はまるでうわの空だった。野営地の後片づけをしている軍隊に意識を集中させていた。肌寒い森の朝だったが、雲ってはいなかった。午後の進軍は暑さとの戦いになりそうだった。これだけの重装備ならなおさらだ。 「早期撤退は敗北してこそするものでしょう」と、王子は言った。遠くの牧草地で、支配者ヴェルシデュ・シャイエが、村の食料や酒、それに女を用立ててくれた執事に謝金を渡しているのが見えた。軍隊とはじつに金がかかるものだ。 「しかしながら、王子……」と、ベサル卿は不安げに訊いた。「このまま東進なさるおつもりですか? それではコロチナ湖の湖畔にたどりつくだけでしょう。南東から海峡へ向かわれたほうがよいのでは」「あなたは村の商人が約束の報酬をもらったかどうかを案じていればいい」と、王子は笑みを浮かべて言った。「軍隊の行き先は私が考えましょう」 2920年 真央の月16日 コロチナ湖 (モロウウィンド) ヴィヴェックは広大な青い湖面の向こうをながめた。みずからと軍の姿が青い水面に映りこんでいた。が、帝都軍の姿は映り込んではいなかった。森で待ち受ける災難を嫌って、とっくに海峡へ到着しているはずだった。羽のように薄っぺらなひょろ長い湖岸の木々が邪魔になって海峡の様子はほとんどうかがえなかったが、かさばる重装備に身を包んだ一団が誰の目にもとまらずに音もなく移動することなど不可能だった。 「もう一度地図を見せてくれ」ヴィヴェックは将軍を呼ばわった。「他の進路があるとは考えられないか?」 「北の沼地には哨兵を配備しております。浅はかにも、やつらが沼地に入ってもがいている可能性もないとは言えませんからな」と、将軍は言った。「少なくとも報告があるでしょう。が、湖を越えるとしたら海峡を抜けるより他はありません」 ヴィヴェックはまた湖面に映った影を見つめた。彼をからかうようにゆらゆらと揺れていた。それから、ヴィヴェックは地図に視線を戻した。 「スパイか……」ヴィヴェックはそう言うと、キャシールを呼びつけた。「敵軍は魔闘士の一団を引き連れていたと言ったが、どうして魔闘士だとわかったのだ?」 「灰色の法衣に謎めいた紋章を身につけておりましたから……」と、キャシールは述べた。「魔闘士だと直感しました。あれだけの大人数でしたし。軍が治癒師ばかりを同道させているとは思えませんので」 「浅はかなやつめ!」ヴィヴェックは怒鳴った。「やつらは変性の技巧を学んだ神秘士なのだぞ。水中呼吸の魔法を全軍にかけたにちがいない」 ヴィヴェックは手ごろな見通しのきく場所へ走って、北の方角を見渡した。水平線に浮かぶ小さな影でしかなかったが、対岸のアルド・マラクから襲撃の火の手があがっているのが見えた。ヴィヴェックは怒りの雄たけびをもらした。将軍はただちに、城砦を守るべく湖をまわり込むよう軍隊に指示を出しなおした。 「ドワイネンに帰れ」ヴィヴェックはキャシールに向かって言い放つと、戦いに加勢すべく出発した。「わが軍はもはやおまえの力を必要としていない」 モロウウィンド軍がアルド・マラクに迫ったときにはもう手遅れだった。街は帝都軍の手に落ちていた。 2920年 真央の月19日 シロディール領帝都 支配者ヴェルシデュ・シャイエが帝都に凱旋すると、熱烈な歓迎が待っていた。男も女も通りにずらりと並んで、アルド・マラク陥落の象徴である大君主を褒め称えた。王子が帰還していたらこれ以上の群集が出迎えたであろうことは、シャイエにもわかっていた。それでも、彼は大いに気を良くしていた。タムリエルの民がアカヴィル人の到着を歓迎するなど、それまでにないことだった。 皇帝レマン三世は心のこもった抱擁で彼を出迎えると、やおら王子から届いた手紙を突きつけてきた。 「どういうことかね」皇帝はようやく言った。喜んでいながらもとまどっていた。「湖にもぐったと?」 「アルド・マラクは、難攻不落の要塞です」大君主はそう言った。「それに加えて、われらの動きを警戒しているモロウウィンド軍が周囲を巡回しています。攻め落とすには不意を突いて、鎧の頑丈さにものを言わせて攻撃するしかありません。水中でも呼吸できる魔法をかけることで、われらはヴィヴェックに感づかれないうちに移動することができました。水中では鎧の重みもさほど気になりません。そして守備のもっとも手薄な砦の西側の水締めから攻め入ったのです」 「すばらしい!」皇帝は歓声をあげた。「驚くべき戦術家だな、ヴェルシデュ・シャイエよ! そなたの父親にもそれだけの才覚があったら、タムリエルはアカヴィルの領土になっていただろう!」 実のところ、その計画はジュイレック王子が考えたものだった。シャイエとしては、王子の功績を横取りする気はみじんもなかったが、大失敗に終わった260年前の祖先の侵略のことに皇帝が触れたとき、決心したのだった。シャイエは控えめな笑みを浮かべて、おもうぞんぶん賞賛を味わった。 2920年 真央の月21日 アルド・マラク (モロウウィンド) サヴィリエン・チョラックは腹ばいになって壁まで進み、モロウウィンド軍が沼地と砦に挟まれた森の中へ撤退していくのを銃眼からじっと見つめた。絶好の攻撃の機会のように思われた。敵軍もろとも森を焼き払ってしまえばいい。ヴィヴェックさえ捕らえてしまえば、敵軍はアルド・イウバルもおとなしく明け渡すかもしれない。ショラックはその案を王子に持ちかけてみた。 「ひとつ忘れているようだけど」ジュイレック王子は一笑にふした。「休戦交渉中は敵の兵士や指揮官に手を出さないと約束しているんだ。アカヴィルでの戦いに誇りは不要なのかい?」 「お言葉ながら、私はタムリエルで生まれ育ち、祖国を訪れたことはございません」蛇男は答えた。「が、それでも、あなたの流儀はどうも解せない。五ヶ月前に帝都の闘技場で戦ったときも、あなたは金銭を求めようとせず、私は一銭も払わなかった」 「あれは遊びだから」王子はそう言うと、執事にうなずいてみせ、ダンマーの戦士長を迎え入れた。 ジュイレックがヴィヴェックに会うのは初めてだった。この男が神の化身であるという話は聞いていたが、目の前に現れたのはひとりの男だった。屈強で端正な顔した男で、知性にあふれる顔をしていたものの、やはりただの男だった。王子はほっとした。ただの男となら話せる。神であるなら話はべつだが。 「はじめまして、わが称えるべき好敵手」と、ヴィヴェックは言った。「お互いに手詰まりのようだな」 「そうともかぎりません」王子は言った。「あなたはモロウウィンドを明け渡したくはないし、私としてもそれをとがめることはできません。が、外敵の侵略から帝都を守るため、モロウウィンドの沿岸地域はどうしても押さえておきたい。それと、この場所のような、戦略の要地である国境の砦もほしい。アルド・ウンベイル、テル・アルーン、アルド・ランバシ、テル・モスリブラもすべて」 「して、見返りは?」と、ヴィヴェックは訊いた。 「見返りだと?」サヴィリエン・チョラックは笑い飛ばした。「いいか、勝者はわれらだ。おまえじゃない」 「見返りとして」ジュイレック王子は慎重になって言った。「帝都はモロウウィンドを襲わないと約束しましょう。もちろん、そちらから攻めてきた場合は別として。侵略者があれば、帝都海軍が助けに駆けつけましょう。それから、領土も分け与えましょう。ブラック・マーシュから好きな土地を選んでください。帝都にとって無用な土地であればですが」 「悪くない条件ですが」間をおいて、ヴィヴェックは言った。「即答はできかねますな。シロディールが奪ったぶんだけ補償してくれるなど、これまでになかったことですから。数日の猶予をいただけますか?」 「では、一週間後に会いましょう」王子はそう言って微笑んだ。「それまでにそちらが攻撃をしかけてくることがなければ、秩序は保たれるでしょう」 ヴィヴェックは王子の私室をあとにした。アルマレクシアの読みの正しさを感じながら。戦争は終結した。ジュイレック王子は立派な皇帝になるだろう。 時は南中の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/41.html
センチネルに落ちる夜 ボアリ 著 センチネルの名もなき酒場で音楽は演奏されず、用心深い小声の会話、女給仕人の柔らかい足音、常連が注意しながら酒をすすり瓶の口にあたる舌、何も見ていない目、実に音は少ない。もし誰か1人でもこれ程無関心でいなかったら、上質な黒いビロードのケープをまとった若い女性、レッドガードの存在に驚いたであろう。闇に紛れ、看板もないような質素な地下室では、彼女は間違いなく場違いであった。 「あなたがジョミック?」 がっちりとした、年齢よりも老けた中年の男が声の主を見上げた。彼は頷き、自分の飲み物に戻った。若い女性は彼の横に座った。 「私はハバラ」と彼女は言い、小さなゴールドが入った袋を取り出して、彼のマグの横に置いた。 「そうかい」ジョミックはうなり声を出し、彼女の目を見た。「誰に死んで欲しいんだい?」 振り向きはしなかったが、ただ単に聞いた。「ここで話しても安全なの?」 「ここじゃみんな自分の心配以外しちゃいねえよ。あんたが胴鎧を脱いでテーブルの上で胸出して踊ったって、誰も唾すら吐かねえ」男は笑い、「で、誰に死んで欲しいんだい?」 「実は、誰も」と、ハバラは言った。「本当は、ある人間にしばらく消えて欲しいんだけど…… 危害は加えたくないの。だから専門家が必要なの。あなたは非常に評判がいいわ」 「あんた、誰と話したんだよ」ジョミックは退屈そうに聞き、飲み物に戻った。 「友達の友達の友達の友達」 「その友達のうちの誰かは、まったくオレのことを分かっちゃいねえ」と、男はぼやいた。「おれはもう、それはやらないんだ」 ハバラは急いでゴールドの袋をもう1つ、そしてさらにもう1つ取り出して、男の肘の横に置いた。彼は一瞬彼女を見てから、金を取り出して数え始めた。数えながら男は聞いた。「誰に消えて欲しいんだい?」 「ちょっと待って」ハバラは微笑み、首を振っている。「詳しく話す前に、あなたが専門家で、その人をあまり痛めつけず、慎重に処理してくれる裏づけが欲しいの」 「慎重に?」男は数えるのをやめた。「それじゃあ、昔やった仕事の話をしてやるよ。あれは確か── 信じられねえ、もう20年以上も前か、しかも関わった人間で生きてるのは俺しかいねえ。これはベトニーの戦い以前の話だ。あの戦を覚えているか?」 「私はまだ赤ん坊だったわ」 「だろうな」ジョミックは笑みを浮かべた。「王者ロートンにはグレクリスっていう兄がいたのはみんな知ってる。確か死んじまったんだよな? それで、姉のアウブキじゃダガーフォールの王者と結婚しちまった。でもな、ロートンにゃ本当は本当は兄が2人いたんだ」 「本当に?」ハバラの目が好奇心で輝いた。 「嘘じゃねえ」彼は含み笑いをもらした。「なよなよした弱そうなヤツで、名前はアーサゴー、長男さ。なんにせよ、この王子が玉座の後継者だったんだが、親はそれをあんまり喜んでなくてな。でも、それから女王は健康そうな王子をあと2人ひねり出したんだ。そこで、長男が地底王に連れ去られたように見せかけるために、俺と一味が雇われたわけさ」 「知らなかったわ!」若い女はささやいた。 「当たり前だろ、それが狙いだ」ジョミックは首を振った。「慎重さだ、あんたが言ったようにな。少年を袋に入れて、遺跡の奥深くに閉じ込めた、それで終わりさ。なんの騒ぎもねえ。必要なのは2、3人、袋、それと棍棒だけだ」 「それよ、私が興味あるのは」と、ハバラは言った。「私の…… 消えて欲しい友達も弱いわ。その王子のように。棍棒は何のため?」 「道具さ。最近の連中は楽に使えるものを好むから、昔のほうがよかったものでも、大抵の道具は最近見なくなっちまったぜ。説明してやるよ。平均的なヤツの体には、71ヶ所の痛点がある。敏感だったりするエルフとカジートはそれぞれ、さらに3ヶ所と4ヶ所多い。アルゴニアンとスロードは大体同じくらいで52ヶ所と67ヶ所」 ジョミックは短く太い彼の指を使って、それぞれの部位をハバラの体に指し示した。「額に6ヶ所、眉に2ヶ所、鼻に2ヶ所、喉に7ヶ所、胸に10ヶ所、腰に9ヶ所、各腕に3ヶ所ずつ、股間に12ヶ所、利き足に4ヶ所、もう一方に5ヶ所」 「それで63ヶ所よ」とハバラが答えた。 「違うだろう!」と、ジョミックは怒鳴った。 「いいえ、合ってるわ」計算能力が疑問視されていることに腹を立て、彼女は叫び返した。「6と2と2と7と10と9と片腕3と、もう一方の3と12と4と5で、63でしょう」 「どこか抜かしたんだろう」ジョミックは肩をすくめた。「重要なのは、杖や棍棒の腕を磨くには、この痛点を知り尽くさなきゃならないってことだ。上手くやれば軽く叩くだけで殺せるし、逆にあざも残さずに失神させられる」 「とても面白いわ」ハバラは微笑んだ。「それで、発覚しなかったの?」 「どうやってばれるのさ? ガキの両親、王者と女王はもう死んじまってるし。他の子たちは、彼らの兄は地底王に連れ去られたと信じこんでるし。みんなそう思ってるぜ。それに、俺の仲間はみんな死んじまったしな」 「自然死?」 「自然なことなんて、この湾じゃ絶対おきねえことぐらい分かってるだろ。1人はセレヌーに吸い込まれた。もう1人は女王と王子グレクリスの命を奪った同じ疫病にやられた。別の仲間は泥棒に撲殺されたぜ。生きたけりゃ俺みたいに、目立たず隠れてるこった」ジョミックはゴールドを数え終えた。「相当こいつに消えて欲しいんだな。誰だい?」 「見てもらったほうがいいわ」ハバラは言い、立ち上がった。振り返らずに彼女は名もなき酒場を後にした。 ジョミックはビールを飲み干し外に出た。夜は涼しく、イリアック湾の水面から気ままな風が押し寄せ、木々の葉を舞い上がらせていた。酒場の横の路地からハバラが歩み出て、彼に向かって手招きをした。ジョミックが彼女に近づくと、風が彼女のケープを吹き上げ、センチネルの紋章が入った鎧をあらわにした。 太った男は逃走しようと後ずさりしたが、彼女は早かった。ぼんやりする中、彼は自分が路面を背にし、彼女の膝が喉をしっかりと押さえつけていることに気付いた。 「玉座を得て以来、長い年月をかけてあなたと仲間たちを探してきたわ、ジョミック。あなたを探しあてた時の具体的な指示はなかったけれど、あなたが良いことを教えてくれたわ」 ハバラはベルトから、小さく頑丈な棍棒を取り外した。 酒場からよろけながら出てきた酔っ払いが、路地の暗闇から泣くようなうめき声とともに、柔らかなささやき声を聞いた。「今度はしっかりと数えましょうね。いち、に、さん、し、ご、ろく、なな……」 小説・物語 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/2.html
書物一覧 50音順で探す 分類別で探す 本の装丁で探す おすすめの本 クエスト補完書物 シリーズ作品 カウンター 今日 - 昨日 - 合計 -