約 3,520,677 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/122.html
2920 薄明の月(2巻) 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ 著 2920年 薄明の月3日 アルタエルム島(サマーセット) 見習いたちが一人一人オアッソムの木へと浮かび上がり、高いほうの枝から果実もしくは花を摘み、地面へと舞い降りてくる様子を、その身のこなしの個人差を含めて、ソーサ・シルは眺めていた。彼は満足げにうなずきつつも、一瞬その日の天気を楽しんだ。大魔術師自身が遥か昔に手本となって作られたとされるシラベインの白い像が、湾を見下ろす崖の近くに立っていた。淡い紫色のブロスカートの花がそよ風に揺られて前後していた。その向こうには大海と、アルタエルムとサマーセット本島を分けるもやがかった境界線が見えた。 「概ね良好だな」最後の見習いから果実を受け取りながら、彼は講評を述べた。手を一振りすると、果実も花も元あった位置へと戻っていた。もう一振りすると、見習いたちは半円状に妖術師を取り囲んだ。彼は白いローブの中から直径一フィートほどの小さな繊維質の玉を取り出した。 「これが何かわかるか?」 修練僧たちは質問の意図を理解していた。すなわち、謎の物体に鑑定の呪文を唱えよとのことだった。彼らは一人一人、目を閉じ、その塊が万物の真実の中にあるのを思い浮かべた。あらゆる物質および精神体がそうであるように、玉は独特の響きを発しており、それには負の要素、鏡面要素、相対経路、真の意味、宇宙における歌、時空の中での性質、そして常にあり続け、いつまでもあり続けるであろう存在の側面があった。 「玉です」ウェレグと名乗る若いノルドが口にすると、年の若い修練僧たちの間で忍び笑いをする声も聞こえたが、ソーサ・シル本人を含め、多くの者は眉をひそめた。 「愚かな答えを返すなら、せめて愉快な答え方をするがいい」妖術師は叱るように言うと、困惑した様子の、若い黒髪のハイエルフの娘に目を向けた。「わかるか、リラーサ?」 「グロムです」と、リラーサは自信なさげに答えた。「ドルーがメフするものです。ク… ク… クレヴィナシムの後で」 「正確にはカルヴィナシムだが、良い答えだ」と、ソーサ・シルは言った。「どういう意味なのか、説明はできるか?」 「わかりません」リラーサは認めた。他の修練僧たちも首を振った。 「物事の理解にはいくつかの層が存在する」と、ソーサ・シルは言った。「そこらの者であれば、物を見る際に自らの考えの中に当てはめる。古き習わし、すなわちサイジックたちの法、神秘に長けた者たちは、物を見てその役割から素性を知ることができる。だが理解に達するには、もう一枚、剥がすべき層が存在する。物をその役割と真実から鑑定し、その意味を解釈する必要があるのだ。この場合、この玉は確かにグロムである。大陸の北部および西部に生息する水棲種族、ドルーが分泌する物質の名称だ。ドルーはその生活環のうち、一年間カルヴィナシムを経て、陸上を歩くことになる。その後、水へと戻ってメフすることになる。すなわち陸上での生存に必要であった皮膚と器官を自ら貪る。そしてこのような小さな玉状のものを吐き出す。グロム、すなわちドルーの吐しゃ物のことだ」 修練僧たちは妙な表情で玉を見つめていた。ソーサ・シルはこの講義が何よりも好きだった。 2920年 薄明の月4日 帝都(シロディール) 「密偵だ」皇帝は風呂につかり、足にできたこぶを見つめながら漏らした。「余のまわりは裏切り者と密偵だらけだ」 妾のリッジャは皇帝の腰に両脚を絡めたまま、その背中を流した。長年の経験より、性と官能の使い分けは心得ていた。皇帝がこのような機嫌の時は、落ち着かせるように、なだめるように、誘惑するかのように官能的であるのが正解だった。かつ、直接何かを尋ねられない限りは一言も発しないことだった。 もっとも、すぐに質問がとんできた。「皇帝陛下の足を踏みつけた者がいたとして、『申し訳ありません、皇帝陛下』と言ってきたらどう思う? 『お許しください、皇帝陛下』のほうが適切だと思わんかね。『申し訳ありません』では、まるであのアルゴニアンめが私が皇帝陛下であることを申し訳無く思っているかのようではないか。我々がモロウウィンドとの戦に負ければいいと願っているかのようにな。そう聞こえる」 「いかがなさいますか?」と、リッジャは問いかけた。「鞭打ちに処すべきでしょうか? 所詮はソウルレストの武将に過ぎません。足元に気をつけるよう、思い知らせてやるのもいいでしょう」 「余の父であれば、鞭打ちにしていただろう。祖父であれば処刑していたな」と、皇帝は不満そうに言った。「だが私は足くらいならいくら踏まれてもかまわん。相応の敬意さえ表してくれればな。そして、謀叛を企てなければな」 「せめてどなたかは信用なさらないと」 「おまえだけだよ」皇帝は微笑み、僅かに身体をひねってリッジャに接吻をした。「息子のジュイレクもだろうな。あいつにはもう少し慎重さがほしいが」 「議会と、摂政様は?」と、リッジャは尋ねた。 「密偵の群れと、蛇だ」皇帝は笑い、再び妾に接吻した。愛し合い始めつつ、彼はささやいた。「おまえさえ忠実であれば、世は何とでもなる」 2920年 薄明の月13日 モーンホールド(モロウウィンド) トゥララは黒い、装飾された街の門の前に立っていた。風が彼女の体に吹きつけていたが、何も感じなかった。 公爵はお気に入りの愛人が妊娠したと知って激怒し、彼女を追放したのだった。何度も何度も面会をと懇願したものの、衛兵に追い返されてしまったのだ。彼女はついに家族のもとに帰り、真実を伝えたのであった。真実を隠し、父親が分からないと言い張りさえしていれば。兵士でも、流れ者の冒険者でも、誰でもよかったのに。だが彼女は父親は公爵、すなわちインドリル家の一員であると話したのだった。誇り高きレドラン家の者である以上、彼らのとった対処はやむを得ないものであり、そのことは彼女も承知していた。 トゥララの手には、父が泣きながら押しつけた追放の烙印が焼きついていた。だが、彼女にとっては公爵に受けた仕打ちのほうが遥かに苦痛であった。トゥララは門を通して真冬の荒野を見渡した。歪んだ姿で眠り続ける木々と、鳥のいない空。もはや、モロウウィンドに彼女を受け入れてくれる者などいない。遠くへ行かなければ。 重い、悲痛な足取りで、彼女の旅は始まった。 2920年 薄明の月16日 アネクイナ(今日のエルスウェーア)、センシャル 「何かご心配事でも?」と、ハサーマ王妃は夫の機嫌の悪さに気づいて尋ねた。普段は恋人の日の夜となると、夫は大抵上機嫌になり、他の招待客と共に舞踏場で踊っているのが常であったが、今夜は早めに引き上げてきたのであった。王妃が様子を見に行くと、彼は寝床で身体を丸め、眉をひそめていた。 「あの忌々しい吟遊詩人が聞かせたポリドールとエロイサの物語、あれで気分を害してしまったよ」王は不満そうに唸った。「どうしてあのような気の滅入るような話をするのだ?」 「ですが、それこそがあの物語の真実ではないのですか? 世の理の残酷さゆえに破滅を迎えたのでは」 「真実かどうかは、どうでもいいことだ。くだらん話に、下手な語り手だ。もう二度とやらせはすまい」ドローゼル王は寝床から跳ね起きた。その目は涙で曇っていた。「どこの出だと言っていたか?」 「ヴァレンウッド東端のギルヴァーデイルだったかと」と、王妃は動揺した様子で答えた。「あなた、何をなさるおつもりなのです?」 ドローゼルは一瞬で部屋を出、塔へと続く階段を駆け上がっていった。ハサーマ王妃は夫の意図を察していたとしても、彼を制しようとはしなかった。最近は妙な言動やかんしゃくが目立ち、ひきつけさえ起こしていたのだった。だが彼女は王の乱心の根深さも、吟遊詩人、および彼が語って聞かせた人間たちの残酷さと異常さに関する物語に対し、王がどれだけ憎しみを感じていたかも気づいていなかったのである。 2920年 薄明の月19日 ギルヴァーデイル(ヴァレンウッド) 「もう一度よく聞くんだぞ」と、年老いた大工は言った。「三つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、二つめの部屋に金の鍵がある。一つめの部屋に金の鍵があるなら、三つめの部屋には黄銅のくず鉄がある。二つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、一つめの部屋に金の鍵がある」 「わかったわ」と、婦人は言った。「言われた通りにね。だから一つめの部屋に金の鍵があるわけでしょう?」 「違う」と、大工は答えた。「もう一度最初からいくぞ」 「お母さん?」と、少年が母親の袖を引っ張って言った。 「ちょっと待っててね、お母さんお話し中なの」母親は答えると、謎かけに意識を集中させた。「あなた言ったわよね、『二つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、三つめの部屋に金の鍵がある』って」 「いや、違う」大工は根気良く答えた。「三つめの部屋に黄銅のくず鉄があるのは、二つの……」 「お母さん!」少年が悲鳴を上げた。母親はようやくその意図に気づいた。 明るい赤色の霧が波となって街に押し寄せ、建物を次々と飲み込みつつあった。その前を赤い皮膚の巨人、デイドラのモラグ・バルが大股で歩いていた。その顔に笑みを浮かべて。 2920年 薄明の月29日 ギルヴァーデイル(ヴァレンウッド) アルマレクシアは辺り一面の泥沼の中で馬を止め、川の水を飲ませようとしたが、飲みたがらないどころか見ずに嫌悪を覚えているようであった。モーンホールドからかなりとばして来たことを考えれば、喉も渇いているはずである。妙だ。彼女は馬を下りると、一行のいる方へと足を運んだ。 「現在位置は?」と、アルマレクシアは尋ねた。 婦人の一人が地図を取り出した。「ギルヴァーデイルという町に近づきつつあるはずですが……」 アルマレクシアは目を閉じ、すぐにまた開けた。その光景は耐え難いものであった。従者たちが見ている中、彼女は煉瓦と骨の欠片を拾い上げ、その胸に抱いた。 「アルテウムへと急ぐぞ」と、彼女は静かに言った。 この年は、蒔種の月へと続く。 物語(歴史小説) 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/190.html
火中に舞う 第1章 ウォーヒン・ジャース 著 場所:帝都 シロディール 日付:第三紀397年 10月7日 正に宮殿と呼べるような建物に、アトリウス建設会社は入っていた。ここは帝都内のほとんどすべての建設事業に対し、建設や公証を行う、事務手続きと不動産管理の会社だった。宮殿の広場は質素で、豪奢な飾りつけなどはされていなかったが、この建物はマグナス皇帝の時代から250年間立っていて、飾りが質素で荘厳な広間と豪華な広場を構えていた。そこでは精力と野望に満ち溢れた中流階級の若い男女が働いていた。デクマス・スコッティのように、安穏と働く中年もいた。誰もこの会社がない世界など想像していなかった。スコッティもまた例外ではなった。正確には、彼は自分がこの会社にいない世界など想像していなかった。 「アトリウス卿は君の働きぶりにいたく感銘を受けているよ」と主任は後ろ手でスコッティの職場へと通じる扉を閉めながら言った。「しかし、世間の物事はだな、なんとも難しいものなのだよ」 「はい」スコッティは堅い表情で答えた。 「ヴァネック卿の遣いが近頃我々にハッパをかけてきておるし、我が社もこの先を生き抜くためにはもっと効率を上げなければならない。実に悲しいことだが、過去素晴らしい働きぶりを見せたとしても、現在が業績不振であれば、年配の働き手といえども解雇せざるをえないのだよ」 「わかります。仕方ありません」 「わかってもらえて良かったよ」と主任は笑顔になったが、その笑いはすぐに消えさり、「それでは早急に君の机をかたづけてくれ」と言った。 スコッティは後任者に明け渡すため机回りの整理を始めた。おそらく次の後任者は若いイムブラリウスという男であろう。そうしなければならなかったのだろうと彼は哲学的に考えた。その若者は、仕事をつかむ術を知っているのだ。スコッティは、イムブラリウスが神殿から委託された聖アレッシア像建設の契約をどうするつもりなのかといぶかっていた。「きっと彼なら、仕事上の架空のミスを作り出し、前任者である私に罪をおしつけ、修正費用をせしめることさえやりかねないだろうな」 スコッティがその声の主を見ると、丸々とした顔の配達人が事務所の中へと入ってきて、封のされた1巻の巻物を渡してきた。彼は配達人にチップを渡し、早速広げてみた。乱暴な筆跡と書き損じとひどい文法と誤字で、この手紙の主がすぐにわかった。リオデス・ジュラスだ。彼も数年前は同じ職場の友であったが、この会社の道義に反した慣例に嫌気がさし、去っていったのだった。 ── 『スクッティへ 俺に一体全体、何が怒ったかと思ってるだろ。そして俺が今一体どこにいるのかと思ってるはずだ。森の中だと? まあ、実はその通りだ。ハハッ。おまえが頭のキレるヤツで、アトリウス卿のために、えらい稼ぎたいなら(もちろん自分の分もだ、ハハッ)、ここ、ヴァリーニウッドに恋。世の流れにツイてってる、ツイてってなくても、ボッシュマーとその隣のエルスワーの愛だで2年も続いた戦があったことは知ってるだろうか? 昨今ようやく落ち着きを取り戻して、各地で再建が始まったのさ。 今、抱えきれないほどの仕事の波が着ている。手助けしてくれそうなヤツを探してる。筆が進む優秀な代理店がいないかと考えていたら、友よ、おまえさんが頭に浮かんだんだ。ヴァリーニウッドのファリンネスティにあるマザー・パスコスの酒場で遭おう。オレは2週間いる予定だ。悪い酔うにはしない。 ジュラスより 追伸:ついでに、木材を煮馬車1台分もってきてくれないか。』 ── 「何を持ってらっしゃるんですか?」と、尋ねる声がした。 スコッティはその声に驚いた。声の主はイムブラリウスだった。彼はドア越しにやたらハンサムな顔を覗かせ、手厳しい顧客やがさつな石工屋の心さえも溶かしそうなとびきりの笑顔を浮かべていた。スコッティはあわてて手紙を上着のポケットへとねじ込んだ。 「私的な手紙だよ」と、スコッティはあしらった。「すぐにここを片付けるから待ってくれ」 「そんなに急がなくてもいいじゃありませんか」と言いながら、イムブラリウスはスコッティの机の上にあった何も書いていない契約書をつかみとり、「私に任せてください。若い書記の字なんか、まったくひどくて読めやしませんからね。あなたが心配することは何もないですよ」 イムブラリウスはそういい残し、去っていった。スコッティはもう一度手紙を取り出して読んだ。彼は自分の人生について考えた。普段の彼ならまったくしないことだが。今のスコッティの視界は、漠然と切り立つ黒い壁に阻まれた、灰色の海のようであった。その切り立つ黒い壁を抜けるのには、たった1本の細い道筋しかない。彼は考えが変わる前に、急いで「皇帝御用達アトリウス建設会社」と書かれ金箔をあしらわれた未記入の契約書を何枚かつかみ、かばんに私物と一緒に放り込んだ。 翌日、彼はなんの躊躇もせず、目が眩むような冒険へと旅立った。その週に帝都を出発して南東に向かう1人引きのキャラバンに、ヴァレンウッドまでの席を1人分用意してもらった。ほとんど荷造りをする時間はなかったが、馬車1台分の木材を用意することは忘れなかった。 「その木材用の馬は追加料金ですよ」と、キャラバンの護衛長は顔をしかめながら言った。 「もちろん」と、スコッティはイムブラリウスのようなとびきりの笑顔をつくってみせた。 十台の荷馬車は午後にシロディールを出発し、見慣れた風景は徐々に小さくなっていった。野生の花々が咲き誇る草地を過ぎ、森や小さな村を穏やかな調子で過ぎていく。石道に当たる馬のひづめの音を聞いていると、確かこの道はアトリウス建設会社が建設した道だったなと思い出した。この石道が完成するまでに18もの契約書が必要であったが、そのうち5つはスコッティが作成したものであった。 「そんなふうにして木材を運ぶとは、賢いお方ですな」と灰色のひげをたくわえたブレトンの男が話しかけてきた。「かなりの商売人ですね」 「そんなところです」と、スコッティはためらいながらも答えた。「どうも、私、デクマス・スコッティといいます」 「グルィフ・マロンです」と、男は答えた。「私は詩人なんですが、今は古代ボズマー文学の翻訳もやっておりまして。2年前に発見されたムノリアダ・プレイ・バーの小冊子の研究をしているのですが、ちょうど戦が始まり、私も避難せざるをえなかったもんですから。ムノリアダはご存じかと思いますが、“緑の約束”という作品を耳にされたことがありますかな……」 スコッティは彼の話す内容をまったく理解できなかったが、ただうなずいていた。 「普通に考えれば、ムノリアダがメー・アイレイディオンと同じくらい有名だとか、ダンサー・ゴルと同じくらい時代を感じてしまうとまでは申しません。ただ彼の作品は、ボズマーの心情の本質を理解するにはもっとも意義のあるものなのです。本来、ウッドエルフは木を切ったり、植物を食べるのを嫌いますが、逆に異文化から植物全般を積極的に輸入している。このことはムノリアダのある一節と深く結びついていると思うのです」そう言うと、マロンはその一節とやらを探して自分の荷物をごそごそと探り始めた。 今夜の宿営地に馬車が止まり、スコッティはようやく開放された。そこは高い崖の上で、下には灰色の小河が流れ、ヴァレンウッドの広大な谷が広がっていた。海鳥の声が聞こえてきた。西の入り江に海があるようだった。ここの木々は背丈もあり、また幹も太かった。ねじれながら伸びていて、遥か昔から筋くれだっているようで、ちょっとやそっとでは切り倒せそうになかった。一番下の枝までの高さが50フィートぐらいの木が宿営地のそばの崖に何本か生えていた。このような風景はスコッティにとって見慣れないものであり、こんな荒野に入っていくことに不安を覚え、なかなか眠れそうになかった。 幸いにもマロンは、古代文化の難題を語り合える別の同胞を見つけたようだった。夜も更けこんできたころ、マロンがボズマーの詩を原文と自分の翻訳したものと併せて朗読していた。すすり声をあげたり、うめき声を出したり、小声にしてみたりとその場ごとに合わせて声色を変えていた。次第にスコッティは眠気に襲われ、ウトウトしていたところに突然、木々の激しく折れる音がした。彼の目は一気に覚めた。 「あれはなんです?」 マロンは笑顔で答えた。「ここは僕の好きな一節だ、『月ない月夜に悪が集う、火中の舞い……』」 「木の上にものすごく大きな鳥がいるみたいです」と、スコッティは小声で言いながら、頭上で動く真っ暗な物体を指差した。 「あれなら心配ご無用」と、マロンは言ったが、聴衆に邪魔されて不機嫌そうだった。「それよりも、ハルマ・モラの第4巻18節の祈祷文を、詩人がいかにして読み解いたかを聞いていただきたい」 木々にひそむその暗い影は、止まり木に止まる鳥のようなもの、ヘビのように這うもの、人間のように直立するものなど様々だった。マロンは詩を朗読し始めたが、スコッティはそのもの達が静かに枝から枝へと飛び移り、翼もなしに信じられない距離を飛ぶのを見ていた。それらは何組かに分かれ、宿営地を囲むように周りの木々へと再び散らばった。そして、突如として急降下してきたのである。 「おい!」と、スコッティは叫んだ。「雨みたいに落ちて来るぞ!」 「おおかた種子のさやでしょう」と、マロンは顔を上げずに肩をすくめてみせた。「このあたりには変わった性質の木があって……」 突然宿営地は混沌の世界へと変わり果てた。荷馬車には火がつき、馬は暴れ回り、真水や酒がそこらじゅうに流れ出した。スコッティとマロンのそばを1つの影がすばやく通りすぎ、穀物と金が入った袋を、驚くほど機敏かつ優雅な動きでかっさらっていった。スコッティだけがその姿を捉えた。すぐそばで炎があがり、その明かりに照らされたのはつやつやと光る生き物で、尖った耳、横長の黄色い目、まだら模様の毛皮、鞭のような尻尾をしていた。 「人狼だ」と言って、スコッティはすすり泣きながら体を縮めた。 「いや、キャセイ・ラートだ」マロンはうめくように言った。「人狼よりさらにタチが悪い。カジートのいとこかそんなようなものだ。略奪に来たのだ」 「なんてこった!」 襲撃も早ければ、退去するのも早かった。キャラバンの護衛としてついていた魔闘士や騎士たちが敵を確認する前にはもう、崖から飛び降りていた。マロンとスコッティは絶壁近くまで駆け寄ると、100フィートも下で水から飛び出し、体についた水を振り切ると森の中へと消えていく小さい姿が見えた。 「人狼はこんなに俊敏じゃない」と、マロンは言った。「絶対にキャセイ・ラートだ。恐ろしい盗賊たちです。ステンダール神の御加護のお陰で、このノートを奪われずにすみました。助かった」 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第2章 ウォーヒン・ジャース 著 完全に失った。キャセイ・ラートは数分で、隊商の中にあった価値のあるものをすべて盗み、破壊して行った。デクマス・スコッティがボズマーとの貿易を見込んでいた木の積み荷には火をかけられ、絶壁から落とされた。彼の衣服や仕事の契約書は引き裂かれ、こぼれたワインや土のぬかるみの中にすり込まれていた。一行の巡礼者や商人や冒険者たちは皆、愚痴をこぼし泣きながら、夜明けの太陽が昇る中、残った持ち物を集めた。 「なんとか『ムノリアド・プレイ・バー』の翻訳に必要な覚え書きを手放さずにすんだことは、誰にも言わないほうがいいな」と、詩人グリフ・マロンはささやいた。「おそらく皆が私を狙うであろう」 スコッティはどれだけマロンの所持品に対して微少な価値しか見出せないかを伝える機会を辞退した。その代わり、彼は自分の財布のなかのゴールドを数えた。34枚。これから新しい仕事を始めようとしている起業家にとっては、いかにも少ない。 「おーい!」と、森の中から叫び声が聞こえた。武器を携え、皮の鎧を着たボズマーの小集団が茂みから現れ、「敵か? 味方か?」 「どちらでもない」と、隊商の代表者が唸りあげた。 「あんたたち、シロディールだな」背が高く、スケルトンのように痩せ、長細い顔を持った小集団の隊長が笑った。「あんたたちが旅をしていることは聞いていた。どうやら、我々の敵も聞いていたようだな」 「戦争は終わったと思っていたのに」と、すべてを失った隊商の、すべてを失った商人が低く言った。 ボズマーはまた笑い、「戦争ではない。ちょっとした境界線の小競り合いだ。ファリネスティへ向かうのか?」 「俺は行かない」隊商の代表者は首を振った。「俺の役目はもう終わった。馬がいなくなる、即ち隊商もなくなる。俺にとっては大損だ」 男も女も皆、代表者の周りに集まって抗議したり、脅したり、嘆願したが、彼はヴァレンウッドに足を踏み入れることを拒否した。もしこれが新しい平和の形ならば、彼は戦争時代が戻ってきてほしいと言った。 スコッティは違う方法を試みようと、ボズマーに話を持ちかけてみた。彼は不機嫌な大工との交渉時に使うような、有無を言わせないが、友好的な声で話した。「私をファリネスティまで護衛して貰えないでしょうか? 私はアトリウス建設会社という重要な帝都機関の代理人であり、あなたたちの地方に、カジートとの戦争がもたらした問題を修復して緩和する手伝いをしに来たのです。」 「20ゴールド、それと、荷物があったら自分で運ぶ」と、ボズマーは返答した。 不機嫌な大工との交渉も、めったに彼の思いどおりにはならなかったことを思い出していた。 支払いのためのゴールドを、6名の熱心な人々が持っていた。資金がない人々のうち、1人は詩人であり、彼はスコッティに手助けを願い出た。 「グリフ、ごめんなさい、私には14ゴールドしか残っていないのです。ファリネスティに到着しても、まともな部屋をとることすらできないのです。できるならば、本当に助けてあげたいのですが」これが本心であると自分を説得しながら、スコッティは言った。 六名とボズマーの護衛の一団は、絶壁に沿って険しい道を下り始めた。一時間も経たずに彼らはヴァレンウッドのジャングル奥深くにいた。果てしなく続く茶色と緑の天蓋が、空を見えなくしていた。何千年もの間に落ちた葉が、彼らの足の下で腐敗した厚い敷物を形成していた。この滑りの中を、数マイル歩いて通り抜けた。そしてさらに歩き続けてから、彼らは落下した枝や低く垂れ下がる大木の主枝の迷路を横断した。 何時間もの間、疲れを知らないボズマーたちがあまりにも早く歩くので、シロディールたちは取り残されないよう必死だった。足の短い赤ら顔の商人は、腐った枝に足を取られて倒れそうになった。同郷のものが立ち上がるのを助けなければならなかった。ボズマーは一瞬だけ立ち止まり、絶えず頭上の木陰に目を配り、また迅速な歩調で歩き出した。 「彼らは何に対してあれほど神経をとがらせているんだ?」イライラしながら商人があえいだ。「キャセイ・ラートがまたくるのか?」 「馬鹿なことを言うな」説得力なくボズマーは笑った。「これほどヴァレンウッドの奥深くでカジート? 平時に? あいつらには無理だろう」 一行が沼地から臭いがある程度消されるくらい高いところを通過したとき、スコッティは突然の空腹による胃の痛みを感じた。彼は1日4食のシロディールの習慣に慣れていた。食べずに何時間もの休みなき激しい活動を行うのは、十分な報酬を与えられている書記の摂生習慣の一部ではなかった。多少意識が混濁するなか、彼はどれくらいジャングルの中を駆け回っているかを考えた。12時間? 20時間? 1週間? 時間にはあまり意味がなかった。日光は、植物性の天井の所々からしか差し込まない。木や腐葉土に生えている、リン光を発するカビだけが規則的な照明を提供していた。 「休憩と食事をとることは無理ですか?」前にいる案内役に大声で言った。 「ファリネスティの近くだ」と、こだまする返事が返ってきた。「あそこには食べ物がたくさんある」 道はさらに数時間ほど上昇を続け、倒れた木々が固まっている場所を横切り、並んだ木の主枝の1段目、そして2段目へと上昇した。大きな角を曲がりきると、彼らは何十フィートもの高さから流れ落ちる滝の中途にいることが分かった。大量の岩をつかみ、少しずつ自らを引き上げ始めたボズマーに、文句を言う気力は残っていなかった。ボズマーの護衛たちは噴霧の中に消えて行ったが、スコッティは岩がなくなるまで登り続けた。彼は汗と川水を目から拭った。 ファリネスティが彼の目の前の地平線に広がった。川の両側には巨大なグラッドオークの街が不規則に広がっていて、その周りには、まるで王者に群がる嘆願者のように、より小さな木の林や果樹園などが隣接していた。より小さな規模で見ると、この移動する街を形成する木は並外れていたのであろう。曲がりくねった金と緑の王冠を載せ、つるを垂れ下がらせ、樹液で光り輝いている。数百フィート以上もの高さで、その半分の幅。スコッティが今まで目にした何よりも壮大であった。もし彼が、書記の魂を持った餓死寸前の男でなかったら歌でも歌ったであろう。 「ここに居たのか」と、護衛の長が言った。「散歩には十分だったな。冬場であったことに感謝しろ。夏場だと、街はこの地方の最南端にあるんだからな」 スコッティはどう進んだらよいのか分からなかった。人々が蟻のように動き回るこの垂直な大都市の光景が彼の感性をマヒさせた。 「ある宿屋を探しているんですが」一瞬言葉を切り、懐からジュラスの手紙を取り出した。「『マザー・パスコスの酒場』とか呼ばれているらしいですが」 「マザー・パスコストか?」ボズマーはいつもの人を馬鹿にしたような笑いを発した。「あそこには泊まりたくないと思うぞ。訪問者は必ず、主枝の最上段にあるアイシアホールに泊まりたがる。値は張るが、いいところだぞ」 「マザー・パスコストの酒場で人と会うのです」 「もし行くと決めているなら、昇降装置でハベル・スランプへ生き、そこで道順を聞くんだな。ただ、道に迷ってウエスタン・クロスで寝ちまったりするなよ」 どうやらこの一言は彼の仲間たちにとっては気の利いた洒落だったらしく、こだまする彼らの笑い声を背に、スコッティはねじれ曲がった根の階段をファリネスティの基部へと進んだ。地上は葉やゴミが散乱していて、時折、遥か頭上から硝子や骨が落下してくるので、彼は警戒のために首を曲げながら歩いた。入り組んだ可動台はしっかりと太いつるに固定され、この上ない優雅さで滑らかな幹を上下しており、そのつるは牛の腹ほどの腕を持った操作者によって動かされている。スコッティは暇そうに硝子パイプを吹かしている、一番近くの台の操作者に近寄った。 「ハベル・スランプへ連れて行ってもらえませんか?」 男はうなずき、スコッティは数分後に地上100付近にある2本の巨大な枝の屈曲部にいた。渦巻く蜘蛛の巣状の苔が枝の一面を不規則的に覆い、数十戸の小さな建物が共有する天井を形成していた。裏通りには数名しかいなかったが、先の角を曲がると音楽や人々の音がした。スコッティはファリネスティの広場のフェリーマンにゴールドを一枚渡し、マザー・パスコストの酒場の場所を聞いた。 「まっすぐ進んだところにありますが、あそこには誰もいませんよ」フェリーマンは説明しながら、音の方向を指差した。「ハベル・スランプの皆は月曜日には盛大に酒盛りをするのです」 スコッティは注意しながら細い道に沿って歩いていた。地面は帝都の大理石でできた街路のように硬かったが、滑りやすい裂け目が樹皮にはあり、致命的な川への落下の可能性をむき出しにしていた。彼は数分間座って休憩するとともに、高いところからの眺めに慣れようとした。確かに素晴らしい日ではあったが、たった数分の熟視で彼は不安とともに立ち上がった。眼下の下流につながれていた素敵な小さな筏は、彼が見ている間に、はっきりと何インチか動いていたように見えた。しかしそれは、実は全く動いていなかった。彼の周りのものすべてと一緒に、彼が動いていた。それは、たとえではなく、ファリネスティの街が歩いたのである。そして、その大きさから考えると、素早く動いていた。 スコッティは立ち上がり、曲がり角から立ち昇る、煙に向かって歩いていった。それは今までに嗅いだことがないほど美味しそうな丸焼きの匂いであった。書記は恐怖を忘れ、走っていた。 フェリーマンが言った「酒盛り」は木に縛り付けられた巨大な舞台の上で行なわれ、それはどの街の広場にも匹敵するほどの幅があった。そこにはスコッティが今までに見たこともない様々な種類の人々が肩を並べており、多くは食べ、さらに多くは呑み、一部は群衆の上の横枝に腰掛けている笛吹きや歌手の音楽に踊っていた。彼らの大部分は鮮やかな皮や骨の民族衣装を着たボズマーと、数で少々劣る少数派のオークたちであった。雑踏の中を旋回し、踊り、お互いに怒鳴りあいながら進むのは、見るもおぞましい猿人であった。群衆の上に突き出しているいくつかの頭は、最初にスコッティが思ったような背の高い人のものではなく、ケンタウロスの一家であった。 「羊肉は要らんかね?」と、真っ赤な石の上で巨大な獣を丸焼きにしている、しわくちゃな老人が聞いた。 スコッティはすぐさまゴールドを渡し、手渡された足をむさぼり食った。そして、もう1枚ゴールドを渡し、足をもう1本。彼が軟骨を喉に詰まらせたのを見て、老人はクスクス笑い、スコッティに泡立っている白い飲み物を渡した。彼はそれを飲むと、体中がくすぐられているかのように震えるのを感じた。 「これは、なんですか?」と、スコッティは聞いた。 「ジャッガ。発酵させた豚のミルクじゃ。ゴールドをもう1枚出してもらったら、これの大瓶と羊肉をもう少し持たせてやれるが」 スコッティは同意し、支払い、肉を飲み込み、大瓶を持って群衆の中に消えていった。彼の同僚リオデス・ジュラス、ヴァレンウッドにこいと言った男はどこにも見られなかった。大瓶が約四分の一なくなったころ、スコッティはジュラスを探すのをやめた。それが半分なくなったころには、壊れた厚板や裂け目を気にせず群衆と踊っていた。四分の三なくなったころには、まったく言葉が通じない生物と冗談を交わしていた。そして大瓶が完全に空になったとき、彼はいびきをかきながら眠っていたが、周りでは彼の無気力な体をよそに、酒盛りが続けられた。 あくる朝、いまだ眠っているスコッティは誰かの口づけを感じた。彼もそれに応えようと口をすぼめたが、炎のような激痛が彼の胸を襲い、目を開けさせた。牛と同じくらいの大きさの虫が彼の上に座り込み、刺々しい足が彼を押さえつけ、中央の回転刃のような渦巻く口が彼の服を破いた。彼は叫びもがいたが、獣は強すぎた。それは食事を探しあて、完食するつもりであった。 終わった、地元を離れなければよかったと、スコッティは狂乱しながら思った。街に留まり、もしかしたらヴァネック卿の下で働けたかもしれない。もう1回下級書記から始め、また上へ昇っていけたかもしれない。 突然、口がひとりでに開いた。その生物は1度身震いし、胆汁を一気に放出して、死んだ。 「仕留めたぞ!」あまり遠くないところから叫び声。 スコッティは、少々その場から動かなかった。頭は脈打ち、胸は焼けるように痛い。視界の端に動きを見た。この恐ろしい生物がもう1匹彼に向かって走ってきた。彼は自分を解放しようと慌てて動き出したが、出られる前に弓の割れるような音が響き、矢が2匹目の虫を貫通していた。 「上手い!」と、違う声が叫んだ。「1匹目をもう1度射て! 少し動くのを見たぞ!」 今回は矢が死骸に命中する衝撃をスコッティは感じた。彼は叫んだが、どれだけ彼の声が昆虫の体によって押し殺されていたか彼にもわかった。注意しながら足を出して、下から転がり出ようと試みたが、その動きはどうやら射手に、生物が生きていると思わせる効果があったらしい。矢の一斉射撃が放たれた。獣は十分穴だらけになり、その血と、おそらくは犠牲者の血が流れ始め、スコッティを覆った。 スコッティが子供のころ、そのような競技には自身が慣れすぎてしまうまで、帝都闘技場へしばしば戦闘競技を見に行っていた。戦闘の熟練者が秘訣を聞かれたとき、彼は「何をしたらいいのか分からず、盾を持っているのであれば、私はその後ろに隠れている」と言ったのを思い出した。 スコッティはその助言に従った。1時間後、矢が射られている音が聞こえなくなったとき、彼は虫の残骸をどけ、彼に可能な限りの速さで立ち上がった。間一髪であった。八人の射手の集団が、彼の方向に弓を向け射かける準備をしていた。 「ウエスタンクロスで寝るなと誰も教えてくれなかったのか? おまえら酔っ払いがやつらの餌になっていたら、どうやって俺たちはホアヴォアーを根絶したらいいんだ?」 スコッティは頭を振り、舞台に沿って歩き、角を曲がり、ハベル・スランプへ戻った。彼は血だらけで、破れ、疲れていて、発酵した豚のミルクを飲みすぎていた。彼が欲するのは横になれる場所であった。彼は湿っぽく、樹液で濡れ、カビの臭いがするマザー・パスコストの酒場に入った。 「名前はデクマス・スコッティ」と、彼は言った。「ここにジュラスという名の人は泊まっていませんか?」 「デクマス・スコッティ?」と、太った女主人、マザー・パスコストは思案した。「その名前、聞き覚えがあるねえ。ああ、彼が置いていった手紙の相手はあなたのことね。探してみるから、ちょっと待っててね」 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第3章 ウォーヒン・ジャース 著 マザー・パスコストは彼女の酒場である薄暗い穴へと消え、すぐに見覚えのある、リオデス・ジュラスの走り書きがなされている紙くずを持って現れた。デクマス・スコッティはそれを、木の街を覆う大きな枝の数々の間から差し込んでいる、木漏れ日にかざして読んだ。 ── スクッティへ ボリンウッドのファリネンスティに付いたか! おめでたう! ここに来るまでにいろいろ大変だったろー。残念だけど、思ってるとおり、もー俺はここに以内。川をくだるとアシエって町があって、おれ居る。舟みっけて、こい!さいこーだぜ!けいあく書、一杯もってきたろうな、こいつらたちたくさんタテモノひつよだぜ。こいつらたち、戦闘にちかかったんだけどよ、ちかすぎてカネがねーわけじゃねぜ、ハハッ。出切るだけはやく恋。 ジュラスより ── なるほど、スコッティは考えた。ジュラスはファリネスティを離れ、アシエと言う場所へ移動していた。彼の下手な筆跡と言葉を失うような文法を考慮すると、その場所はアシー、アフィー、オスリー、イムスリー、ウルサ、クラカマカ、このどれにでも同等になり得るのである。常識的に考えたら、この冒険をやめて帝都へ戻る手段を探したほうが良いのはスコッティにも分かっていた。彼は興奮する人生にその身を捧げる傭兵ではなく、成功を収めた民間建設会社の先任書記なのである、または、先任書記で「あった」のである。この数週間、彼はキャセイ・ラットに身ぐるみをはがされ、へらへら笑うボズマーの一味にジャングルで死の行進をさせられ、餓死寸前になり、発酵したブタの乳でこう惚状態にされ、巨大なダニに食い殺される寸前になり、射手に襲われた。彼は不潔で、疲れ果て、手持ちはたったの10ゴールド。更に、彼をその提案によってこの苦難の連続へと導いた張本人はここに居もしない。完全にこの計画を放棄するのは、賢明で礼儀にかなったことである。 しかし、小さいが、はっきりとした声が頭の中でささやく。 「あなたは選ばれたのだ。最後を見届ける以外に選択肢はない」 スコッティは丈夫そうな老婆のほうを向いた。マザー・パスコストは彼のことを、もの珍しそうに見ていた。「最近、エルスウェーアと衝突寸前になった村をご存じないかを考えていたのですが。アシ…エ、そのような名前なのですが?」 「アセイのことじゃな」にやけながら彼女は言った。「次男坊、ヴィグリルがそこで牧場を経営していてな。川沿いできれいなところじゃ。そこにあんたの友達は行ったのかね?」 「はい」と、スコッティは言った。「最短でそこへ行く方法を知っていますか?」 短い会話の後、さらに素早くファリネスティの根の部分まで行き、そして川岸まで走った。スコッティは巨大で、髪の色が薄く、ふやけたような顔を持ったボズマーと移送の交渉をしていた。彼は自分をバリフィックス船長と呼んでいたが、あまり世間を知らないスコッティでさえ、彼が何であるかは分かった。金さえ渡せば雇えるであろう、引退した海賊で、疑う余地のない密輸者、あるいはもっと酷いこともするのであろう。彼の船は明らかに昔盗まれたもので、壊れかかった帝都式1本マストの帆船である。 「50ゴールドで、2日でアセイに連れて行ってやるぜ」のびのびと、轟くような声でバリフィックス船長は言った。 「10、いや、ごめんなさい、9枚ならあります」と、スコッティは答えてから説明の必要性を感じ、「10枚あったのですが、ここまで連れてきてもらうのに、広場のフェリーマンに1枚あげてしまいました」と、付け足した。 「じゃあ9枚でもいいぞ」と、船長は合意した。「本当のところ、あんたが金を払おうが払うまいが、俺はアセイへ行くつもりだったんだ。まあ、船に乗ってくつろいでくれ、あと数分したら出発だ」 デクマス・スコッティは木箱が高く積み上げられ、船倉から溢れ出た袋が甲板へとせり出すほど貨物を積まれたせいで深く水に沈みこんでいる船に乗り込んだ。それらの袋は、それぞれまったく害のなさそうな品物の名前が刻印されていた。くず銅、豚脂、インク、ハイ・ロックの食事(「牛用」と書かれていた)、タール、魚のゼリー…… スコッティはどのような非道徳的な交易品が船中にあるかを想像し、それが絵となって頭の中を巡りめぐった。 残りの荷物を船中に積み終えるまでにバリフィックス船長が言った数分以上かかったが、1時間後には錨は上がり、アセイに向かう流れに乗っていた。草色をした水面はわずかに波立ち、そよ風に頬を撫でられていた。岸には草木が生い茂り、様々な動物が互いに歌いうなり合うさまを隠していた。周りの穏やかな環境によって心を静められたスコッティは、眠りへと落ちていった。 夜起きた彼は、清潔な着替えと食べ物をバリフィックス船長から受け取った。 「聞いてもいいかね? なぜアセイへ行くのだ?」と、ボズマーは言った。 「あそこで、昔の同僚と合流するのです。帝都でアトリウス建設会社の職員だった私に、契約の交渉をするためにここへ来るよう彼が私に依頼したのです」スコッティは、2人で夕飯として分け合っていた干しソーセージを口にした。「最近のカジートとの戦争で破損した橋や道路や建物などの修理と改装をするつもりです」 「この2年間は辛かった」船長はうなずいた。「でも、俺やあんたやあんたの友達にはいいのかも知れんが。交易路は遮断されているぜ。聞いたか? 今度はサマーセット島と戦争になるかも知れないらしいぜ」 スコッティは首を横に振った。 「俺は、沿岸でスクゥーマの密輸をたくさんやってきた、革命家の部類のヤツらでさえ助けてやってきたぜ。でもな、戦争が俺を堅気の貿易商、商売人にしちまった。戦争で出る最初の犠牲者はいつも堕落した人間だ」 スコッティはお気の毒にと言い、2人は沈黙し、穏やかな水面に映る天空の星や月を見ていた。次の日、スコッティが起きてみると、泥酔して動けず、帆に絡まりながら、ろれつが回っていない舌で歌っている船長を目にした。スコッティが起きたのを見ると彼は、ジャッガの大瓶を差し出した。 「ウエスタンクロスのお祭り騒ぎで懲りてるぜ」 船長は笑い、そして突然泣き出し、「堅気になんかなりたくねえ。昔知ってた他の海賊たちは、今でも犯し、盗み、密輸して、あんたみたいな善良なヤツらを奴隷として売りさばいてるんだ。本当に、初めて合法の荷物を運んだとき、俺の人生がこうなるなんて思ってもいなかったぜ。戻れるのは分かってるさ、でもな、いろいろと見てきた後の俺じゃあ無理だ。俺は破滅だ」 励ましの言葉をささやきながら、スコッティは涙を流す海の男が帆から出るのを手伝った。そして、こう付け足した、「話題を変えてごめんなさい、でも、今どこですか?」 「ああ」バリフィックス船長は惨めにうめいた。「予定より早く到着できた。アセイはそこを曲がったらすぐだ」 「では、アセイは火事のようです」と、スコッティは指を差しながら言った。 タールのように黒い、巨大な煙の柱が木の上へと昇っていた。川が曲がっているところを抜けると、炎が見え、そして黒く焼かれ骨組みだけになった村が見えた。火に包まれ、死にゆく村人たちは岩から川へと飛び込んだ。嘆きの不協和音が耳に届き、私の周囲にはたいまつを持ち、歩き回るカジート兵の姿が見えた。 「ああ、神よ!」ろれつの回らない船長が言った。「また戦争だ!」 「何てことだ」と、スコッティは泣きそうになった。 帆船は炎に包まれた街とは反対側の岸へと流された。スコッティは岸と、その安全性に注目した。恐怖から離れた穏やかな木陰。そのとき、2本の木の葉が揺れ、弓で武装した柔軟なカジートが十数名、地上へと降りてきた。 「見られています」と、スコッティはささやいた。「弓を持っています!」 「弓を持っているって? あたりまえだろう」バリフィックス船長はうなった。「あれは俺たちボズマーが発明したかも知れんが、秘密にしておこうとは考えなかった。政治家め」 「今度は矢に火をつけています!」 「そうだな、たまにあることだ」 「船長、撃っています! 火のついた矢で撃ってきています!」 「ああ、そうだな」船長はうなずいた。「ここで肝心なのは、矢が当たらないことだ」 だが、すぐに命中し始めた。そして最悪にも、2度目の一斉射撃で矢が積み荷のピッチに命中し、とてつもなく大きな青い炎が上がった。船と積荷が粉々になる直前に、スコッティはバリフィックス船長をつかんで船から飛び降りていた。冷たい水の衝撃がボズマーを一時的なしらふにした。彼は既に川の曲がりへと全速力で泳いでいたスコッティを呼んだ。 「デクマス先生よ、どこへ向かって泳ぐつもりだい?」 「ファリネスティへ戻ります!」と、スコッティは叫んだ。 「何日もかかっちまう、それに着く頃には皆アセイへの攻撃のことを知ってるぜ! 見慣れないヤツなんか入れてくれないぞ! ここから一番近い下流の村はグレノスだ、そこなら俺たちを保護してくれるかもしれん!」 スコッティは船長のところまで戻り、燃え盛る村の形跡を後に、並んで川の中央を泳ぎ始めた。泳ぎを覚えたことを、彼はマーラに感謝した。帝都地方はそのほとんどが陸地に囲まれていたため、シロディールの多くの子供たちは泳ぎを覚えなかった。もしミル・コラップやアルテモンで育てられていたなら絶望的であったかもしれないが、帝都自体は水に囲まれていたため、男の子も女の子も皆、船がなくても川を渡れた。冒険者ではなく、書記へと育った人たちでもそうである。 バリフィックス船長のしらふの状態は、水の温度に慣れるにつれて薄れていった。冬であっても、ザイロー川は比較的暖かく、それなりに快適である。ボズマーの泳ぎは変則的で、スコッティに寄ってきたり、離れたり、前に出たり、遅れたりしていた。 スコッティが右を見ると、炎は木々が薪であるかのように燃え移っていた。なんとか追いつかれないようにはしているが、後ろからは猛火が流れてきている。左の岸は、アシの葉が揺れ、何が揺らしているのかを見るまでは、問題がないように見えた。今までに見たことがないほど巨大なネコが群れをなしているのである。彼の最悪の悪夢にも匹敵するようなアゴと歯、赤褐色の毛と緑の目を持つ猛獣であった。その獣たちは泳いでいる2人を見つめながら、速度を合わせて歩いている。 「バリフィックス船長、あの岸へもこっちの岸へも行けません、半熟に煮えるか食べられてしまいます」スコッティがささやいた。「腕の動きとバタ足を安定させてください。普段と同じように息を。疲れてきたら言ってください、しばらく背で浮きましょう」 酔っ払いに理性的な助言をしたことがある人ならば、この絶望感を理解できるであろう。ボズマーが海賊時代の小唄をうめいている最中、スコッティは遅くなったり、早くなったり、左右に流される船長の速度にあわせた。同行者を見張っていないときは、岸のネコに注意した。しばらく続いた直線を抜けた後、右方向へと曲がった。違う村が火に焼かれていた。それは、疑いようもなくグレノスであった。スコッティはその赤々と燃え上がる業火を見つめ、その破壊のさまに恐怖した。そして、船長が小唄をやめたのを聞き逃していた。 彼が振り向いたとき、バリフィックス船長はいなかった。 スコッティは濁った川の深みへと何度も潜ってみた。何もできることはなかった。最後の捜索から浮上したとき、巨大なネコは去っていた、おそらく彼もまた溺れたと思ったのであろう。彼は1人で下流へと泳ぎ続けた。川の支流が最後の防壁の役目を果たしたと見え、延焼はそこで止まっていた。しかし、もはや街はない。数時間後、彼は岸に上がることの賢明さを考え始めた。どちらの岸へ、それが難問であった。 決断する必要はなかった。彼の少し先に、大きな焚き火をたいた岩だらけの島が見えた。ボズマーの一行の邪魔をすることになるのか、はたまた、カジートの一行か、彼には分からなかったが、彼はもう泳げなかった。張りつめて痛む筋肉で、彼は自分を岩の上に引き上げた。 教えられる前に、彼らがボズマーの難民であることが分かった。逆側の岸で、彼をつけ狙っていた巨大ネコと同じ種類の生物の死骸が火にかかっていた。 「センチー・タイガー」と、若い戦士の1人が言った。「ただの動物ではないです―― キャセイ・ラットやオームスや他のカジートと同等の賢さがあります。こいつは溺れてしまっていたので残念です。生きていれば、喜んで殺してやったのに。肉は気に入ると思います。こいつらは砂糖をたくさん食べるせいで、肉は甘いんですよ」 人間ほど知的な生物を食べることができるかどうかスコッティには分からなかったが、ここ数日間やってきたように彼はその行動に自分自身が驚いた。肉は味わい深く、みずみずしく、豚の砂糖漬けのように甘かったが、味付けは何もされていなかった。食べながら彼は、集まった人々を見渡した。悲しげな集団、中には失った家族を想い、いまだに泣いているものもいる。彼らはグレノスとアセイの両方の生き残りであり、全員が戦争のことを話していた。どうして―― はっきりとシロディール出身のスコッティに向けられた言葉である ――どうして皇帝は彼の領土の安全を守らないの? 「シロディール人と合流するはずだったのですが……」彼は、アセイ出身であると踏んでいたボズマーの娘に言った。「彼の名前はリオデス・ジュラス。彼に何が起きたか知りませんか?」 「あなたの友達は知りませんが、街に火がついたときにもアセイにはシロディールがたくさんいました」と、娘は言った。「そのうちの何名かは急いで逃げたと思います。彼らは内陸のジャングルの中にあるヴィンディジへ向かっていました。私や他の大勢も明日そこへ行きます。もし望むのであれば、一緒にどうぞ」 デクマス・スコッティは厳かにうなずいた。岩でゴツゴツしている川の島、彼はできるだけ自分の気持ちを落ち着けようとした。そして努力の末、どうにか彼は眠りに落ちた。しかし、その眠りはあまり深くなかった。 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第4章 ウォーヒン・ジャース 著 18人のボズマーと1人の帝都建設会社の元事務員デクマス・スコッティは、重い足取りでジャングルの中を西へ、ザイロ川からヴィンディジの古い集落へと向かっていた。スコッティにとって、ジャングルは敵意に満ちていて居心地が悪いところだった。巨大に生い茂った木々が明るいはずの朝の日差しを闇で覆ってしまい、彼らの進行を妨げる邪悪な爪のようだった。低木の葉でさえも、邪悪な力によって震えているかのように見えた。さらによくないことに、不安そうなのは彼だけではなかった。彼と共に旅をしているのは、カジートの攻撃を生き延びたグレノスやアセイヤーの地元民だが、その顔は明らかに恐怖におびえていた。 ジャングルの中には何かの感覚、単なる乱心ではなく、その土地固有の慈悲深い精神を感じさせる何かがあった。それでもスコッティは視野の端に、自分たちのあとをつけ木々の間を飛びかいながら移動するカジートの影をとらえていた。だがスコッティがその影のほうに目を向けると気配は瞬時に消えてしまい、そこには最初から誰もいなかったような、ただの暗闇となってしまうのだった。しかし、彼らに見られていることは確実だった。ボズマーたちも彼らの姿に気づき、歩くペースを速めた。 18時間歩いて、虫に喰われ、何千というとげにひっかかれ、ようやく開けた渓谷へと出た。既に夜になっていたが、渓谷には松明の灯りが彼らを歓迎しているかのように一列に並び、ヴィンディジの集落の皮製のテントやそこらじゅうに転がる石を照らしていた。渓谷の端には松明で囲まれた聖域があった。筋くれだった木々が積み重ねられ、神殿を形作っていた。無言のままボズマー達は松明の列の間を通り、神殿へと向かっていった。スコッティも彼らのあとをついていった。密集した木々の一角にぽっかり口をあけた門にたどり着くと、その奥から青白い光が漏れていた。中では何百人ものうめき声が反響しあっていた。スコッティの前にボズマーの娘が手をかざし、彼を止めた。 「あなたには理解できないでしょうが、外の人はいくら友人でも入れないわ。ここはあたしたちの聖域なのよ」 スコッティは頷き、彼らが頭を下げながら神殿の中へと入っていくのを見ていた。最後列にいたウッドエルフが中に入ってしまうと、スコッティは振り返って村の方を見てみた。あそこなら間違いなく空腹を満たせるものがあるだろう。松明の向こうに見える、一筋の煙と鹿の肉が焼かれる微かなにおいが彼を導いた。 そこには5人のシロディールと2人のブレトン、そして1人のノルドがいた。彼らは白く焼けた石の焚き火を囲み、細長く裂いた大鹿の肉を蒸し焼きにしていた。スコッティが近づくと、そこにいた全員が立ち上がった…… いや、正確には1人を除いて。ノルドだけは目の前の大きな肉の塊に目が釘付けだった。 「こんばんは。お邪魔して申し訳ない。私に少し何か食べ物を分けていただけませんか? グレノスとアセイヤーから逃げてきた人たちとここまで1日中歩いてきて、とても空腹なのです」 彼らはスコッティに座って一緒に食べるように勧めた。そして自己紹介をした。 「戦争が再び始まってしまったようですね」と、スコッティは愛想よく言った。 「触らぬ神にたたりなしだ」と、ノルドが肉をほおばりながら言った。「俺はこんなにふざけた文明を見たことないよ。陸ではカジートと、海ではハイエルフたちと戦っている。こんな仕打ちを受ける価値がある場所は、あのムカつくヴァレンウッドぐらいなもんだ」 「しかし、ヴァレンウッドのやつらは、別にあんたのことを嫌ったりしてないだろう」と、ブレトンの1人が笑いながら言った。 「やつらは生まれながらの悪党さ。優しい顔して侵略するところはカジートよりもたちが悪い」ノルドは脂のかたまりを焼けた石に吐き出し、ジュージュー音をさせた。 「徐々に、自分たち領土の森を他国にまで広げていくんだ。だが、思いがけずエルスウェーアの反撃をくらい、慌てふためいているってわけさ。俺はあれほどの悪党は見たことがないね」 「あなたはここで何をしているんですか?」とスコッティは尋ねた。 「俺はジェヘナの宮廷の外交屋さ」とノルドは食べ物の方を向きながらつぶやいた。 「あなたは? 一体ここで何をしているのですか?」とシロディールの1人が聞いた。 「私は帝都にあるアトリウス建設会社で働いています。以前一緒に働いていた仲間から手紙をもらい、ヴァレンウッドへ来るようと書かれてました。もう戦争が終わったので、壊れた建物を建て直す仕事をしている私の会社と大口の契約を結べるだろうというのです。しかし、災難に次ぐ災難で、ここにくるまでに全財産を失い、戦争は再び始まりそうだし、手紙をくれた仲間にも会えないしでほとほと困っています」 「その昔の仲間というのは……」もう1人のレグリウスと名乗るシロディールが小声で言った。「もしかしてリオデス・ジュラスという名ではありませんか?」 「彼を知っているのですか?」 「私もあなたと同じように彼から誘いを受けて来たのです」レグリウスはいやな笑いを浮かべた。「私はあなたの会社とはライバルのヴァネック卿の元で働いており、リオデス・ジュラスも以前そこで一緒に働いていました。私も彼から手紙をもらいました。戦で倒壊した建物の再建を手伝わないか、とね。私はちょうどその時、会社をクビになったばかりでしてね。これは何かのチャンスだと思いましたよ。彼とはアセイヤーで会い、シルヴェナールともっと儲けのいい話をするつもりだと言っていました」 スコッティは叫んだ。「彼は今、どこにいるんですか?」 「私は神学者ではないから、なんとも言えませんが……」とレグリウスは肩をすくめた。「おそらく彼は死にましたよ。カジートがアセイヤーを攻撃した時、奴らはジュラスが彼の船を泊めていた港に火をつけ始めました。あ、いや、私の金で買ったものだから『私の船』ですが。何がなんだかわからないままに、気づいた時には何もかもが燃やされて灰になってました。カジートは動物かもしれませんが、攻撃の心得はあるようですね」 「カジートはヴィンディジのジャングルを通って我々を尾けてきていました」と、スコッティは神経質に言った。「あの梢のあたりを飛び回っていたのは間違いなくやつらの仲間だ」 「ただの猿人の類じゃないのか?」ノルド人はせせら笑うように言った。「何も心配することはねえよ」 「私たちが最初にヴィンディジに入った時、ボズマーが皆あの木のとこに入って行ったんです。彼らは怒りながら“古代の恐怖を我らの敵に解き放て”というようなことをブツブツ言っていました」と言ったブレトンは、その時の情景を思い出し、ブルブル震えていた。「それから1日半もの間、こもったきりなんです。心配なら、あそこを調べてみたらいいんじゃないですか?」 ダガーフォールの魔術師ギルドの代表者と自己紹介したもう1人のブレトンは、仲間が話している間、暗闇を見ていた。「どうもジャングルの中にも何かいるようだな。村の右の端の方を見ている」 「戦から逃れてきた人たちでは?」スコッティは自分が警戒しているのを悟られないような声で尋ねた。 「この時間帯に木々を抜けてくるとはおかしいだろう」とウィザードは小声で答え、ノルドとシロディールの1人が湿った皮のシートを引っ張り出して火にかぶせた。火はたちまちに静かに消えた。ようやくスコッティにも侵入者たちの姿が見えた。彼らは楕円形の黄色い目を持ち、長剣と松明をかかげていた。スコッティは恐怖で固まり、敵に見つかっていないことを願った。 彼は何かに背中を押されたのを感じ、はっと息を飲んだ。 レグリウスが頭上からささやいた。「たのむから静かにしてここを登って」 スコッティは消えた焚き火の横の高い木から垂れ下がる、2本の蔓を結んだロープをつかんだ。彼は急いでそのロープをよじ登り、その努力を無に帰さないように必死に息を殺した。頭上高くのロープの先には、三つ又に分かれた枝の上に乗った、かつて巨大な鳥がこしらえたであろう巣が打ち捨てられていた。スコッティが柔らかく、ワラのいいにおいのする巣の中へともぐりこむと、レグリウスはロープを引き上げた。そこには他に誰もおらず、下を覗いてみるとそこにも誰もいなかった。カジート以外には。彼らは神殿の灯りにむかってゆっくりと進んでいった。 「ありがとう」とスコッティはささやいた。ライバル会社の人が助けてくれたことに深く感謝していた。集落から目を離して辺りに目をやると、より上の方の枝が苔生した渓谷を囲む壁にもたれかかっていることに気づいた。「もっと上に行きましょう」 「バカ言うんじゃない」と、レグリウスは息を殺して言った。「奴らがいなくなるまでここに隠れていよう」 「アセイヤーやグレノスにしたように、カジートがヴィンディジに火をつけたら、私たちは地上にいるのも同然で、確実に死んでしまう」と言うとスコッティは、ゆっくりと用心しながら枝を確かめつつさらに上へと登っていった。「彼らの動き、わかりますか?」 「どうだろうね」とレグリウスはじっと薄暗い中を目をこらして見ていた。「奴ら、神殿の前に集まっている。何か手に持ってるな…… 長いロープみたいだ。前後に垂れ下がっている」 スコッティは表面が濡れてごつごつした崖に向かって伸びる枝の中で一番丈夫そうなのを選び、その上を這っていった。決して距離のあるジャンプではない。実際、石の湿った、ひんやりとするにおいが嗅げそうなほどの距離だった。しかし、一会社員として過ごしてきた彼の人生の中で地上から高さ100フィートもあるところから切り立った岩までジャンプする経験など皆無であった。彼はジャングルで頭上よりもうんと高いところから彼を尾けねらってきた影の動きを思い描いた。彼らのバネがついてるかのような脚、しなやかにものをかっさらおうとする腕。そして彼は飛んだ。 スコッティは岩をつかんだが、縄のように長く厚い苔のほうがつかまりやすそうだった。彼は苔にしっかりつかまって足を前に出そうとしたその時、足がすべって、宙に浮いた。体勢を整えるまでの数秒間、自分が上下さかさまになっているのがわかった。崖から突き出た細い岩のようなところがあり、彼はそこに立ってようやく息をついた。 「レグリウスさん、レグリウスさん」と、スコッティは声にならない声で呼びかけた。しばらくして、枝がゆれ、ヴァネック卿の元部下が、まず彼の鞄、頭、そして残りの部分の順番で姿を現した。スコッティは小声でなにか言おうとしたが、レグリウスは激しく首を振り、下を指差した。カジートの1人が木の下で焚き火の跡をじっと見ていた。 レグリウスは不恰好に枝の上でバランスをとろうとしたが、片方の手だけでそれをやるのはあまりにも困難だった。スコッティは両のひらを丸めてみせ、次に鞄を指差した。レグリウスは嫌そうだったが、鞄をつかみ、スコッティに投げてよこした。 鞄には目に見えないほどの小さな穴が開いており、スコッティが鞄をキャッチした時にゴールドが1枚、下へと落ちてしまった。ゴールドは岩壁に当たって、高く柔らかい音をたて落ちていった。今までに聞いたことがないほど大音量のアラーム音のようだった。 そしてたくさんのことがいっぺんに起きた。 木の下にいたキャセイ・ラートは上を見て、おたけびの声をあげた。そのほかのカジートたちもその声に呼応して、猫のように身をかがめたかと思うと、跳ね上がり、下の枝に飛び移った。レグリウスは、ありえない器用さで上ってくるカジートの姿を自分の下に見てパニックに陥った。スコッティが「絶対に落ちる」と言う暇もなく彼はジャンプした。悲痛な叫び声をあげながら、レグリウスは地面に落下し、衝撃で首を折った。 その時、神殿のあらゆる隙間から白炎の閃光が一気に噴き出した。ボズマーの詠唱の声はもはや乱心じみており、この世のものとは思えないほどになっていた。気を登っていたキャセイ・ラートも動きをとめ、神殿のほうをじっと見た。 「キアゴーだ」とキャセイ・ラートは言って息をのんだ。「荒野の狩人だ」 それはまるで現実世界に裂け目が入ったような光景であった。神殿から恐ろしい獣たち── 全身から触手が生えたヒキガエル、硬い鎧と鋭い棘をもった虫、体表がねばねばした大蛇、神々の顔をした霧状の化け物、これらすべてが怒りに我を失ったように勢いで神殿から飛び出してきた。それら恐ろしい獣たちはまず神殿の前にいたカジートたちの体を引き裂いた。それを見たほかのカジートたちは一目散にジャングルの中へ逃げ込もうとしたが、自分たちの持っていたロープに足をとられた。瞬く間に、ヴィンディジの集落は荒野の狩人たちの幻影の乱心のるつぼと化した。 言葉にならない叫び声や、獣の群れがあげるおたけびの声が蔓延する中、身を隠していたシロディール、ノルド、それと2人のブレトンも全員見つかってしまい、貪り喰われてしまった。ウィザードは自分の姿が見えないよう呪文をかけていたが、視覚に頼らない虫たちにはせっかくの魔法も無力であった。木の下にいたキャセイ・ラートが想像できないほどの力で木を揺さぶり始めた。このカジートの恐怖におびえる目を見て、スコッティは縄状の太い苔を1本、彼に向けて差し出した。 スコッティに差し出されたロープにつかまろうとするカジートの表情は痛ましいほどの感謝の念であふれていた。スコッティがそのロープを引っ張ろうとするとカジートはその表情を変える間もなく落下していった。彼は地面に落ちる前に荒野の狩人に骨まで食いつくされた。 スコッティもその場から逃げようと別の突出した岩に向かって飛びうつった。思いのほかうまくいった。そこから崖の頂上へとよじ登り、ヴィンディジの変わり果てた姿を一望することができた。獣たちの群れはだんだんと膨れ上がり、その数は谷全体へと広がり、逃げ惑うカジートたちを追っていた。その光景はまさに地獄絵だった。 月夜に照らされ、スコッティのいるところからはカジートたちがロープを取り付けようとしていた場所が見えた。その時、雷のような轟音が鳴り響き、雪崩のように次々と巨石が転がってきた。粉塵がおさまると、谷は巨石によって完全に封鎖されてしまった。荒野の狩人たちはそこにとどまった。 スコッティはこれ以上の人食いの饗宴を見ていられず、顔をそむけた。眼前には網の目のように木々の生い茂るジャングルが広がっていた。彼はレグリウスの鞄を肩にかけ、再びジャングルの中へと入っていった。 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第5章 ウォーヒン・ジャース 著 「せっけんだ! この森は愛を食べて生きている。まっすぐ進め! このマヌケでアホな牛め!」 スコッティがジャングルへ降り立つと、すぐにその声が響いてきた。彼は、薄暗い林の空き地をじっと目を凝らしてみたが、そこから聞こえてくるのは、動物や虫の鳴き声、風のざわめきだけだった。先ほどの声は、非常に奇妙で風変わりなアクセントがついており、性別もはっきりせず、震えるような抑揚だが、人間のものであることは間違いないようだ。あるいは、ひょっとしたらエルフの声かもしれない。おそらく、1人でいるボズマーが、たどたどしくシロディール語を喋っているのだろう。何時間もの間ジャングルをさまよった後では、どんな声でも少しは親しみが持て、すばらしく聞こえた。 「こんにちは!」とスコッティは叫んだ。 「カブトムシの名前は? 確かに昨日だった、そうだ!」と言う声が返ってきた。「誰が? 何を? いつ? そしてネズミ!」 「あなたの言ってることがよく分からないんですが」とスコッティは答えた。声がする方向に、荷馬車ほどの太いイチゴの木があり、それに向かって「こわがらないで下さい。私は、帝都から来たシロディールで、デクマス・スコッティと言います。戦争後の再建のお手伝いをしに、ヴァレンウッドへと来ました。ですが、道に迷ってしまいまして」 「宝石の原石に、じっくりと焼かれた奴隷達…… 戦争」そのうめき声は、すすり泣きへと変わっていった。 「戦争について何か知っているんですか? 私は何も知らなくて。ここが国境からどれだけ離れてるかとかも知らないんです」と言ってスコッティは、ゆっくりとその木へと寄っていった。レグリウスの鞄を地面に置き、空いた手をそこに差し出した。「武器は持っていません。私はただ一番近くの街までの行き方を知りたいだけなんです。シルヴェナールで、リオデス・ジュラスという友人と会わなければならないんです」 「シルヴェナールだと!」と声は笑った。スコッティが木の周りを回っていると、さらに大きな笑い声が聞こえてきた。「虫とワイン! 虫とワイン! シルヴェナールの歌は、虫とワインのためだ!」 木の周りには何も見つけることができない。「どこなんです? どうして隠れているんですか?」 空腹と疲労でイライラが爆発し、彼は、その木の幹をたたいた。突然、木の空洞の上の方から、金色と赤色の小さなものが飛び出して来た。それは6つの翼を持った数インチたらずしかない生物で、スコッティは取り囲まれた。トンネルのようなこぶの両側に深紅色の眼がついており、口は常に半分開いていた。彼らに脚はなく、素早く羽ばたかせているその美しい薄い翼は太って張り出した腹を運んでいるかのようだった。しかし、彼らは、火花が散るような速さで、空中を俊敏に動くことができた。そして、かわいそうな事務員の周りをぐるぐる飛びながら、もはや全く意味不明な事を喋り出してしまった。 「ワインと虫、私は国境からどれだけ離れているのか! 学術的美辞麗句、ああ、リオデス・ジュラス!」 「こんにちは、私は武器を持っていなくて怖いよ。煙の巻きあがる炎と一番近い街は、親愛なるオブリビオン」 「太って悪い肉、藍で染めた光の輪、でも、私を怖がらなくていい!」 「どうしてあなたは隠れてるの? どうして隠れてるの? 友達になる前に、私を愛して、ズレイカ様!」 自分の言ったことを真似されるのに腹を立て、スコッティは腕を振り回して彼らを木の上へと追い払った。彼は足を踏み鳴らして森の開けたところまで戻り、数時間前にもそうしたように、レグリウスの鞄を開いて覗いた。もちろん、何か役に立ちそうなものも食べられそうなものも、その鞄のどのポケットにも入ってはいなかった。あるのは、かなりの量の金(ジャングルの中でも、金で問題解決できるだろうさ、と彼は皮肉気に前と同じく口元を歪めた)と、ていねいに畳まれた空白のヴァネック建設会社の契約書、何本かの細い縄、油を塗った防水具。「少なくとも……」とスコッティは思った。「雨の心配はいらないな」 雷のとどろく音が聞こえ、彼は、ここ何週間か思っていたことを確信した。自分は呪われている、と。 その後一時間の間、スコッティは鞄の中にあった防水具を着け、泥の中を這うように進んで行った。森は日光を通さないが、暴風雨には簡単に許してしまう。耳に入るのは、激しく降る雨の音に、頭上でひらひらと飛び、戯言を繰り返す例の生物の声だけだった。彼はその生物に怒鳴り声を上げ、石を投げつけたが、彼らはスコッティを気に入ってしまったようだ。 自分を悩ます奴らに投げつけようとスコッティが大きな石に手を掛けたそのとき、彼は足元がぐらつくのを感じた。雨で地面がぬかるんでいたため突然足元がすべり、潮のようになって、スコッティはまるで小さな木の葉のごとく上下逆さになりながら流されて行った。泥の洪水がおさまるまで、彼は滑り落ち、遂に、25フィート下の河に突っ込んだところで停止した。 嵐は、やって来たのと同じくらい唐突に去って行った。太陽が暗雲を吹き飛ばし、スコッティが海岸へと泳ぐ間、彼の体を温めてくれた。そこにも、カジートがヴァレンウッドを襲撃したことを示す気配があった。近くには小さな漁村があったが、最近になって打ち捨てられたのか、ほとんど活気は無く、死にたての屍のようにくすぶっていた。泥で作られた家も荒廃して灰に戻っており、かつてはそこに積み入れられていたであろう魚の匂いがこびり付いていた。イカダや小船は壊れたまま放置されており、半分が水に浸かってしまっていた。住民の姿はもはやなく、もし誰かいるのならば、死体か、遠くから避難して来た者だろうと思った。何かが廃墟の壁にぶつかる音が聞こえてきた。彼は急いで調べに行った。 「私の名前はデクマス・スコッティですか?」と1匹目の翼の生えた獣が歌った。「私はシロディールですか? ボクは帝都から来たのですか? 私は、戦争後のヴァレンウッド再建のため来たのですが、ここで迷子になってしまったのですか?」 「私は、膨れて、汚れて、猿頭だ!」ともう1匹の仲間が賛同した。「あなたはどこですか? どうして隠れているんですか?」 彼らが喋っているのを尻目に、スコッティは村の他の場所を調べ始めた。野良猫があちこちの物陰に乾ききった肉のかけらや、ひと口サイズの魚肉ソーセージなどを隠していた。しかし、猫たちはこんな壊滅的状態にありながらも汚れた身なりではなかった。食べ物もろくにないだろうに。歩いているうち、かつては石造りの小屋だったであろうあばら家の下から、使えそうな道具を見つけた。骨で出来た弓と2本の矢だ。弦はなくなっていた。火事で燃やされてしまったのだろう。彼はレグリウスの鞄から縄を取り出すと、それで修理した。 その作業の間、あの生き物たちが、彼の頭上を飛び回っていた。「聖リオデス・ジュラスの修道院か?」 「あなたは戦争について知っています! 虫とワイン、黄金色の主人を束縛しなさい、猿頭!」 弦を張り直して、弦を胸まできつく引いたまま弓をつがえて、ぐるりと回してみた。翼のついた獣たちは射手を前にした経験があったようで、霞のほうへ一目散に逃げ去った。スコッティが最初に放った矢は、3フィートほど飛んで地面の上に落ちた。彼は悪態をつき、矢を拾った。マネをする生き物たちは、腕の悪い射手を前にした経験もあったようだ。一度は退散した彼らはスコッティの頭上に戻って来て、嘲笑した。 二回目は、技術面に限って言えば、かなり上達した。彼はホアヴォアーの下から飛び出た時に、ファリネスティの射手達がどんな風に矢を用いていたか、どうやって全員が自分を狙っていたかを思い描いた。両腕を伸ばし、右肘を均等に引いた。弓を引くと右手が下顎をかすめた。矢が指先のように視界のあの生き物を指しているように見えた。しかし矢は的を2フィートほど外し、そのまま石壁に当たって折れた。 スコッティは河岸を歩いていた。もう矢は1本しか残されていなかった。動きの鈍い魚を見つけてこの矢で仕留めるのが現実的だと考えた。弦さえ壊れない限り、外した矢は何度でも河底から持って帰ればいいのだから。彼の前を、ひげのついた魚がゆったりと過ぎ去っていき、彼はそれに狙いを定めた。 「私の名前はデクマス・スコッティ!」あの生き物の1匹がうなり声をあげ、その魚を驚かせてしまった。「この、マヌケでアホな牛め! お前は火の中で踊れ!」 スコッティは、さっきと同じようにその生物を狙ってみた。今度はあの射手たちのような姿勢をとることが出来た。足幅は7インチ開き、膝は伸ばしたまま、右肩を後ろに引くのに合わせて左脚は心持ち前に出す。そして、彼は最後の矢を放った。 どうやら、この矢は例の生物をその矢で串刺しにしたまま廃墟の石の上で焼くのにも便利なようだ。仲間の死を目にした他の連中はすぐに退散してしまったので、彼は、静かに食事を楽しむことができた。その肉はとてもおいしく、一級品のものとなんら変わりがなかった。彼が最後の一口を矢から引き抜いていると、蛇行した河の向こう側から1隻の船が近付いて来るのが見えた。舵を握っているのはボズマーの船員だった。彼は、急いで岸に走り寄り、手を振った。彼らは、顔を背けたまま通り過ぎて行ってしまった。 「なんて残忍で冷酷な奴らだ!」とスコッティはわめいた。「この、悪人、悪党、悪漢、猿頭め!」 そのとき、灰色の頬ひげの男が1人、ハッチから顔を出した。すぐに、それがグルィフ・マロン、シロディールからのキャラバンで一緒だったあの詩人兼翻訳家だったと分かった。 マロンは彼のほうをじっと見てすぐに喜びで目を輝かせて言った。「スコッティ! 君に会えて嬉しいよ。そうだ、ムノリアダ・プレイ・バーの難解な一節について考えを聞かせていただきたい!『世界に涙を流そう、不思議な事物を求めて』で始まるのです。もちろんご存知でしょう?」 「グルィフ、もちろんムノリアダ・プレイ・バーについてお話ししたい」とスコッティは返した。「ではまず、その船に乗せてくれますか」 どんな港を目指していようが船に乗り込めたことに喜んでいようが、スコッティは約束を守る男であった。この船がボズマーの村々の焼け焦げた廃墟を通り過ぎながら河を下っていく間、彼は、何の質問もここ数週間の身の上話もせずに、マロンのアルドメリ神話の密義に関する自分なりの解釈をじっと聞いていた。彼は、学術的知識を要求することなく、単に頷いたり肩をすくめてみせたりするのも、教養ある会話の方法として受け取ってくれた。しかも、上の空にしている彼にワインや魚肉ゼリーさえ振る舞いながら、いくつもの論文を並べて講釈を垂れるのであった。 マロンが些細な引用をノートに探しているとき、ようやくスコッティは質問した、「講釈の内容には劣るのですが、この船は一体どこに向かっているんでしょう?」 「この地方の中心地区、シルヴェナールですよ」読んでいる一節から目も離さずに、マロンは答えた。「ちょっと厄介なのは、僕はまずウッドハースで、ディリス・ヤルミヒアッドが書いたものの原本を持っているというボズマーに会いに行きたかったんです。信じられます? そうは言っても、こうして待っている他はないんですが。ところで、サムーセット島は都市を包囲して、あそこが降伏するまで住民たちを飢えさせ続けるようです。いやな想像ですが、ボズマーは、喜んで共食いするでしょうね。最後に残った1人の太ったウッドエルフが旗を掲げることになる危険がありますよ」 「まったく面倒な話です」スコッティも同じ気持だった。「東の方では、カジートが何もかも焼き払っている。西の方では、ハイエルフが戦いを始めている。北の境界は大丈夫なのでしょうか?」 「もっと悪いですよ」といくらかこちらに気を向けて、マロンは答えた。「シロディールとレッドガードは、ボズマーの避難民を受け入れたがっていない。もちろん、理由はある。彼ら避難民は家も無ければ食物も無い。そんな彼らを受け入れたら、どれだけ犯罪が増えることか」 「そうですね」とちょっとした寒気を感じながら、スコッティは呟いた。「どうも、ヴァレンウッドに足止めされているようですね」 「まったくだ。出版社の方に新しい翻訳本の締め切りが近いと言われているので、早く行きたいのだが。シルヴェナールに特別国境警備の請願書を出せば、無事にシロディールに戻れるようですよ」 「シルヴェナールに請願するのですか? それとも、シルヴェナールで請願するのですか?」 「シルヴェナールでシルヴェナールに請願するんです。この地方独特の奇妙な言い回しで、翻訳家としても興味をそそられるところです。それで、シルヴェナールというのは、彼、いや、彼らと言った方がいいと思うが、彼らは、ボズマー達に最も近しい指導者なのです。で、彼らについて覚えておくべきことは……」とマロンは笑みを浮かべて、とある一節を探り当てた。「これだ。『14の夜、不可解な、世界は踊りだす』これもまた比喩ですな」 「シルヴェナールについて、何ですって?」とスコッティは尋ねた。「覚えておくべきこと、というのは?」 「そんなこと言ったかな」マロンはそう返すと、講義の続きに戻ってしまった。 それから1週間、船は浅瀬に何度かぶつかりながらも、ザイロ川の水面を泡立てながら緩やかに進んで行き、スコッティはシルヴェナールの街を初めて目にすることが出来た。ファリネスティが1本の木ならば、シルヴェナールは1輪の華である。緑、赤、青、白の落ち着いた陰影が壮大に積み重ねられて、水晶で出来た他の部分と共に輝いている。途端に、マロンは何も見ずにまくし立て始めた。こんな風にするのは、アルドメリの作詞法を解説する時くらいのものだ。「この街はこうして森の開けたところに華を開いているのだが、これは、何かの魔法や偶然によるものではない。と言うのも、ここに生えていた木々が半透明の樹液を流して、その樹液でこうして華やかな色の木々が固められて、そして、そこに街並みが造られたのです」そのマロンの説明は興味深いものだったが、スコッティには、この街の美しさを堪能している余裕は無かった。 「すみません、このあたりで一番豪華な宿屋は?」と彼は、ボズマーの船員に尋ねた。 「プリサラホールですよ」マロンが答えた。「私も一緒に泊まっていいですか? この近くに、知り合いの学者がいるんです。会えば、きっと君も気に入ると思うな。彼の家は家畜小屋みたいですけど、アルドメリ神話の氏族、つまりサルマチについては独自の解釈を持っていて──」 「状況が違えば、喜んで何でも受け入れるのですが」とスコッティは微笑んで言った。「でも、この数週間、ずっと地面や小汚い船の中で眠ったり、食べられる物は何でもかき集めたりしなくちゃならなかったんです。おまけに、忌々しい翼を生やした生き物にも、随分と寛大な態度で臨まなくちゃならなかった。明日か明後日あたりにはシロディールへ安全に帰れるように、シルヴェナールに頼みに行ってみます」 2人は互いに別れの挨拶を交わした。マロンは帝都にある出版社の住所を教えたが、スコッティは迅速にそれを忘れることにした。スコッティはシルヴェナールの街並みをぶらついたり、琥珀色の橋を渡ったり、石化した木々で出来た家々に感心したりした。そうして、銀色に輝く水晶で造られた、とりわけ立派な豪邸を見つけた。そこが、プリサラホールであった。 彼は最上級の部屋を頼むと、これも最上級の食事を大量に頼んだ。彼の着いたテーブルの近くでは、ひどく肥えた2人の男、1人はシロディールでもう1人はボズマーだが、ここの食事とシルヴェナール宮殿のものとどちらがおいしいかの議論を交わしながらも、議論の主題は、現在の戦争や資金繰りの問題、そして、この地方の橋の再建へと移って行った。片方の男がスコッティの視線に気付いたのか、彼の方を見返すと、何かに気付いたような目つきになった。 「スコッティか? なんてこった、どこにいたんだ? ここいらの契約、俺1人で取りまとめなくちゃならなかったんだぞ!」 その声には聞き覚えがあった。その太った男はリオデス・ジュラスで、やたらと食べていた。 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第6章 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティは、座ってリデオス・ジュラスの話を聞くことにした。だが、いまだにこの眼前の太った男が、かつてのアトリウス建設会社の同僚であるとは信じられなかった。辺りには、スコッティがさっきまで食べていたロースト肉の、香辛料の匂いが立ち込めている。この広いプリサラホールの中の周囲の物音はすっかり消え失せていて、まるでジュラス1人しかいないようである。彼は自分がこれほど感受性豊かであることに驚いてしまったが、実際のところ、霜降月初旬に下手な手紙で帝都から彼を導いてくれた男を前に、潮が満ちていくような感慨を味わっていた。 「どこにいたんだ?」と、ジュラスは詰め寄った。「何週間か前には、ファリネスティで俺と落ちあうはずだったろ?」 「もちろん、そこに行ったさ」あまりの剣幕に驚いて、スコッティはどもりながら返した。「そこで『アセイヤーに行け』っていう君のメモを見て、そこに行ったんだが、カジートが焼き払ってたんだ。それで、避難民達と別の村へ行くことになって。その村で、君がもう殺されたって聞いたんだけど?」 「お前、そんなこと信じてたのか?」と、ジュラスがせせら笑った。 「それを教えてくれた人は、君のことをよく知ってたから。レグリウスっていうヴァネック建設委員会の人で、彼も私と同じように戦争の後のヴァレンウッドの仕事を手伝うよう誘われたと言っていたよ」 「ああ、そうだったな」とちょっと考え込んでから、ジュラスは言った。「たった今、その名前を思い出したよ。この商売、きっと上手くいくぜ。何たって、帝都を代表する建設委員会の2人が、工事の入札の手筈を調えるのを手伝ってくれるんだからな」 「レグリウスさんは死んだよ」と、スコッティは言った。「でも、ヴァネック建設委員会の契約書は持って来たけど」 「おお、上出来だ!」と、ジュラスは感嘆の声を上げた。「ふん、お前がそこまで無慈悲になれる奴だったとはなぁ、スコッティ。まぁ、これでシルヴェナールの仕事もやり易くなったな。バスの紹介はまだだったな?」 スコッティはジュラスの隣にいる、ジュラスと同じ位の胴回りを持つボズマーの存在にはぼんやりとしか気付いていなかった。スコッティはバスにそっけなく目礼をしたが、まだどこかうわの空の気持であった。彼の頭には、シロディールへ安全に帰れるように、できるだけ早くシルヴェナールへ嘆願する、ということしかなかった。その後ジュラスと、ヴァレンウッドとエルスウェーアやサムーセット島との戦争からどうやって稼いでやろうか算段している時も、どこか他人事みたいに思えてならなかった。 「俺とあんたの同僚は、いまシルヴェナールについて話してるんだぜ?」と、今までかじっていた羊の脚を置きながら、バスは言った。「ちゃんと話を聞いてないようだが」 「少しぼんやりしてました。シルヴェナールというのは、とりわけすごい人なんですね」 「彼は民衆の代表なんだよ、法律的にも物理的にも精神的にも」と、新しい相棒の常識の無さに苛々しながら、ジュラスが説明してくれた。「ここの連中が健康なのも、ほとんど女ばっかりなのも、彼のおかげだ。もしも庶民が、食べ物や商売や外国からの邪魔に不平を漏らしたら、彼は連中と同じ気持になってその不平を避ける法律を作るのさ。つまり、彼は独裁者なのさ。ただし、民衆のためのだ」 「それは……」スコッティは適当な言葉を探し出した。「戯言だね」 「そうかもしれない」バスは肩をすくめてみせた。「だが、彼は、『民衆の声』という多大な権限を持ってる。その中には、外国の会社による建設許可や契約交換を認可する権利も、もちろん含まれている。信じてくれなくても構わんが。シルヴェナールをお前の所の頭のイカれた皇帝、例えばペラギウスみたいなもんだと考えてみてくれ。今現在、このヴァレンウッドは四方八方から攻撃されてかなり参ってる。シルヴェナールも、よそものに対してはすっかり不信と恐怖を抱いてる。たった一つの民衆の望み── つまりは、シルヴェナールの望みでもあるが── は、帝都が介入してこの戦争を終わらせることだ」 「皇帝が?」と、スコッティが尋ねた。 「あのイカレた皇帝に期待するのは無理かも知れんが」と言いながら、ジュラスはレグリウスの鞄から、空白の契約書を取り出した。「実際、あいつがどうするかなんて誰にも分からん。それより、レグリウス様のおかげで、随分と仕事がスムーズに行きそうだ」 彼らは、シルヴェナールと会うとき、どうやって自己紹介するかについて夜まで話し合った。スコッティは食事をつづけていたが、残りの2人ほどの量ではなかった。太陽が丘に登り始め、光が水晶の壁を通して3人を赤々と照らした。ジュラスとバスは、シルヴェナールに会いに行く代わりに、自分たちの部屋へ戻っていった。スコッティは、自分の部屋に戻ってジュラスの計画に穴が無いかどうか考えを巡らせていたが、冷たく柔らかいベッドに抱かれて、すぐに深い眠りへと落ちてしまった。 次の日の午後にスコッティは目覚め、体の調子が良いのを感じた。言い換えると、おびえてもいた。考えてみれば、この数週間、ずっと生死をさまよっていたようなものだった。極限の疲労を味わったり、ジャングルで獣に襲われたり、飢えてげっそり痩せ細ったり、おまけに、アルドメリの詩作についての議論に巻き込まれたりしたのだ。それに、ジュラス達との、どうやってシルヴェナールを騙くらかして彼の署名入りの完全に合法な契約書をこしらえるか、という討論もあった。そんなことを考えながら着古しの服に着替えると、食べ物とゆっくり考え事ができる場所を求めて階段を下りた。 「起きたか」というバスの声がスコッティの頭上から降って来た。「今から宮殿に行くぞ」 「今から?」と、スコッティは愚痴をこぼした。「見て下さいよ、この格好。今から女を買いに行くのとはわけが違うんですよ。『ヴァレンウッドの民衆の声』とやらは、あなたが独りで届けてきて下さい。風呂にも入ってないんです」 「いいか、この瞬間から、お前は事務員じゃなくて商人見習いだ」スコッティを燦々と陽が差す大通りに引っ張って来て、ジュラスが勿体ぶって宣言した。「まずやらなくちゃいけないことは、将来有望な顧客に何を示し、どういうやり方がしっくりいくかを考えることだ。大体、豪勢な衣装やプロの立ち居振る舞いなんかじゃ、お前はシルヴェナールの旦那を騙せないんだよ。そんな風にやろうとしたころで、失敗するのは火を見るより明らかなのさ。ここは俺に任しとけ。俺やバスも含めて何人かが宮廷に行ってみたが、何かしらヘマをしちまったもんだよ。がっついたり、格式張ったり、商売の話ばかりしようとしたり、な。それで、もう二度とシルヴェナールと会えなくなっちまったわけだ。だが、俺達は今でも居残っている。その後、宮廷についてぼんやりと考えてみたり、宮廷の情報を仕入れてみたり、ピアスを開けてもらったり、ぶらぶら散歩したり、がつがつ飲み食いしてた。あえて言うなら、1ポンドか2ポンドは太ったな。さて、俺達がシルヴェナールの旦那に伝えるべきメッセージは簡潔にして明瞭だ。『私たちにとってではなく、彼にとってとても興味深い面会になるでしょう』だ」 「計画は始まった」と、バスが付け加えた。「大臣に『我々帝都の代表者が到着しました、朝のうちにシルヴェナール様にお会いしたいので、すぐにでも連れて参ります』と伝えておいたよ」 「遅刻してるじゃないか?」と、スコッティは聞いた。 「ああ、大幅にね」とジュラスは笑みで返した。「しかし、それも計画の内さ。慈悲深く、私利私欲を見せずだ。シルヴェナールを、世襲貴族と間違えちゃいけないぜ。奴は、庶民の心の拠り所なんだよ。どうやって彼を丸めこんだらいいか、お前も分かるだろう?」 それから数分間、ジュラスはヴァレンウッドについて何がどれだけ足りないか、それにはいくらの金がかかるかについてという講釈を話しながら歩いた。その額は莫大なもので、規模も費用も、スコッティが今まで扱ったものよりも遥かに大きなものであった。スコッティはそれを注意深く聞いた。彼らの周り、シルヴェナールの街は、ガラスや花々、風のうなり声や心地よい気だるさを鮮明に感じさせた。宮殿に着くと、スコッティは立ち止まりあぜんとした。ジュラスはそんな彼を見つめ、笑った。 「変わってるだろ?」 その言葉の通りだった。緋色の爆発をそのまま凍らせたような、ねじれて不均衡な尖塔が太陽を付き刺さんとばかりに伸びている。小さな村ほどもある庭園には、廷臣や召使い達が、たくさんの昆虫のように、互いの体液を吸う勢いで歩き回っている。花びらのような橋を渡って、3人は不安定な壁に覆われた宮殿の中を歩いて行った。細かく区切られた区画があり、それぞれは日陰の集会所や小さな部屋であるらしい。何度か道を曲がって行くと、一行は壁に囲まれた中庭に到着した。そこには、ドアはなく、どうやら宮殿をぐるりと巡るらせん階段の他にシルヴェナールの所に行く方法はないようだった。つまり、会議室や寝室や食堂を通り抜け、高僧や王妃や宮廷楽団員や、それに大勢の衛兵の側を通って行くのだ。 「実に愉快なところだ」と、バスが言った。「だが、いささかプライバシーに欠けてるな。まあ、そこがシルヴェナールには好都合なんだろう」 宮殿に入ってから2時間後、廊下を歩いていた一行は、剣や弓をちらつかせる衛兵達に呼び止められた。 「私達は、シルヴェナール陛下との謁見を望む者達です」ジュラスは、辛抱強く言葉を選んだ。「こちらは、デクマス・スコッティ氏、帝都の代表です」 一人の衛兵が廊下を曲がって姿を消すと、背丈の高い、革を縫い合わせたローブを着込んだ高貴そうなボズマーを1人連れて来た。シルヴェナールの経済相である。「陛下は、デクマス・スコッティ氏、彼1人との謁見を御所望でいらっしゃる」 とやかく言ったり不安の色を見せたりしている場合では無かった。スコッティは、残る2人の方も見ずに歩を進めた。大体、彼らに泣きついたところで、無関心を装われるに決まっているのだ。大臣の後をついて行って謁見室に通された彼は、この謁見で重要なことを全て暗誦すると、ジュラスの立てた計画を心に思い描いた。 シルヴェナールの謁見室は、壁が天井に向かって次第に内側へ反っていき、緩やかなドーム形をしていた。何百フィートもの高さから、陽光が天井の隙間を縫って、銀色に輝く錦の上に立つシルヴェナールに降り注いでいた。この街や宮殿に比べ、シルヴェナール自身は至って普通に見える。体つきは太っても痩せてもおらず、穏やかで均整の取れた顔立ち、少し疲労の色が見えるが、帝都のどの州議事堂にもいるような、ちょっと変わったウッドエルフというところだ。しかし、彼が高座から降りてきて、スコッティは風変わりなところを見つけた。背丈が非常に低いのだ。 「私は、お前だけと話がしたい」シルヴェナールは、ありふれた、気取らない口調で切り出した。「書類を見せてくれないか」 スコッティはヴァネック建設委員会の契約書を手渡した。シルヴェナールはそれをじっと見ると、「帝都」という飾り文字の上に指を走らせてから、彼に返した。彼は何だか気恥ずかしくなって、床に顔を向けてしまう。「我が宮廷には」とシルヴェナールが言った。「この戦争で儲けようというペテン師どもで溢れ返っている。おおかた、お前や、お前の同僚もそうであろう。しかし、この契約書は本物のようだな」 「もちろんです」スコッティは冷静に応えた。彼のあまり格式ばっていない、へつらう様子もない口調は、シルヴェナールに好印象を与えたようだ。これは、ジュラスに教えられた通りである。「再建が必要な道路の話、アルトマーに壊された港の修復のお話をいたしましょう。それから、経済網の再整備に必要な費用の見積もりをお出しします」 「ところで、どうして2年前にエルスウェーアとの戦争が始まったときに、皇帝は使節を派遣してくれなかったと思う?」と、シルヴェナールがゆうつつそうに尋ねた。 スコッティは、返答する前に、このヴァレンウッドで会ったボズマー達との会話を思い出してみた。彼を国境からここまで護衛してくれた、金に汚くおどおどしていた兵士達。ファラインスティのウェスタンクロスにいた、大酒飲みたちや、害虫駆除(彼も駆除されそうになった)の射手達。ハヴェル・スランプの詮索好きなパスコス母さん。哀れむべき元海賊のバルフィックス船長。悲哀に満ちた、しかし希望を捨てていないアセイヤーやグレノスの避難民達。乱心と殺意に満ち、自身をも滅ぼす勢いのヴィンディジの荒野の狩人。マロンに雇われた、物静かで気難しい船員達。ちょっと風変わりなバス。もしも1つの生物が、それが住む地域の生物の気質を代表するというならば、その生物の個性とはどのようなものだろうか? スコッティは仕事上でも気質上でも事務員である。だから、目録や書類を作ったり、何かをシステムに組み込んだりすることには本能的に安らぎを覚える。もしもヴァレンウッドの人々の気質の欄に何か書き込まねばならないなら、いったい何がふさわしいだろうか。 ほとんど考えるまでもなく答えは出て来た。「否定」だ。 「私はその質問に興味がありません。すぐに商談に移って構いませんか?」と、スコッティは言った。 その昼の間中、2人はヴァレンウッドの再建計画について議論を交わした。全ての契約書に、記入と署名がなされていった。費用がどんどんと加算される一方で、余白にも追加条項が走り書きされていき、それにも署名が重ねられる。こうして素早く交渉はまとめられていったが、その内容は決して考え無しのものではないことに、スコッティも気付いていた。実際のところ、「民衆の声」の計画はかなり効率的なものであり、これに従えば、日常生活も上手く回っていくだろう。つまり、漁獲や経済利益や航路や森林の状態などが、事細かに考えられたものだったのだ。 「この契約の成功を祝して、明日の夜、祝宴を開こう」と、シルヴェナールが最後に言った。 「今夜はどうですか」と、スコッティは答えた。「この契約書を持って、明日シロディールに発たなきゃならないんです。なので、そこまでの路を確保して頂きたい。時間を無駄にしたくないんです」 「よかろう」と言って、シロディールは呼び寄せた経済相に封をした契約書を渡し、祝宴の準備に向かって行った。 スコッティが謁見室を出ると、ジュラスとバスに迎えられた。彼ら2人は、長い間気を揉んでいたせいか、すっかり顔が引きつってしまっている。衛兵達の姿が見えなくなると、すぐに彼に首尾を尋ねてきた。スコッティはすべて説明した。契約書を見せると、バスは、歓喜のあまり涙を流した。 「シルヴェナールを見て、何か驚いたかい?」と、ジュラスが尋ねた。 「背が低かったね。私の半分しか無かった」 「そうなのか?」と言って、ジュラスは少し驚いたようだった。「大方、俺達があんまりにも謁見しようと必死なもんだから、縮んじまったんだろうね。もしくは、民衆の苦境に心を痛めて、かな?」 物語(歴史小説) 赤1 火中に舞う 第7章 ウォーヒン・ジャース 著 場所:シルヴェナール(ヴァレンウッド) 日付:第三紀397年 11月13日 シルヴェナール宮殿で開かれた祝宴には、ヴァレンウッド再建の仕事を持っていかれたことに嫉妬する官僚や商人達も、全員顔を見せていた。隠そうともしない憎悪の眼差しの中心に居るのは、スコッティ、ジュラス、バスの3人である。スコッティには居心地が悪いだけだったが、ジュラスには、それが快感であるようだ。召使達がロースト肉の乗った大皿を引っ切り無しに持って来るのを見ながら、ジュラスとスコッティはジャッガで乾杯を交わした。 「今だから言えるがな」とジュラスは言った。「正直、お前をこの商談に巻き込んだのはすごい失敗だと思ってたんだよ。だが、な。俺がコンタクトを取ったどの建設会社の連中も、確かに外見は積極的だったがね、お前みたいにシルヴェナールとサシで話付けたり、有り金はたいて冒険に出ようなんていう奴はいなかったんだぜ。ほら、もっと飲めよ」 「もう、いいよ」スコッティは言った。「ファリネスティで十分に飲んだし、それに、酒のせいでダニの化け物に吸われそうになったんだよ。何か別の飲み物を探してくるよ」 スコッティは、大きな銀の瓶から湯気を立てている茶色い液体をカップに注いで飲んでいるのを外交家たちを見つけ、お茶かどうか聞いた。 「お茶だって?」1人が笑いながら言った。「ヴァレンウッドには無いね。これはロトメスだよ」 仕方なく、スコッティは、そのロトメスをもらってちびちびと舐めた。匂いが強く、苦味と甘みがあって、ひどくしょっぱい。初めは、とても飲めたものではないと思われたが、不思議なことに、しばらくすると、そのカップを空けて新しく注いでいるほどだった。体が火照ってきて、この謁見室の物音がちぐはぐに感じられる。しかし、まったく恐怖感は無い。 「あんたか。シルヴェナールから契約を取り付けたっていうのは」と、もう一人の外交家が聞いた。「さぞかし、粘りに粘って、深い話をしたんだろうな」 「いやいやそんなことはありません。商売というものに関して、基本的なところを両方が合意できただけです」とにっこり笑って、スコッティはロトメスの3杯目を注いだ。「シルヴェナールはヴァレンウッドの争いを収めるために帝都とのコネを作っておきたかったし、私も何としても契約を取りたかったし。それで、神の御加護か、両方の利害が一致したということですよ。だから、私のしたことと言えば、契約書に羽ペンを走らせることだけです。あなたにも、神のご加護がありますように」 「あんた、皇帝御用達の会社に長く勤めてるんだろ?」と、最初の外交家が尋ねた。 「帝都では色々とあってね。ここだけの話、実は、もう無職なんだ。アトリウス建設会社で働いてたんだが、クビになった。大体あの契約書も、本当は商売仇のヴァネック建設会社のものだ。レグリウスからもらったんだ。いい奴だったよ。カジートに殺されちまったが」と言ってスコッティは5杯目を空けた。「帝都に戻ったら、アトリウスとヴァネックにサシで話付けるつもりさ。奴らの前でこう言ってやるよ。“この契約書、どっちが欲しい?”ってね。そしたら、2人とも俺にがっついてくるだろうな。誰もどこでも見たことないような奪い合いになるだろうな」 「と言うことは、つまり、あんた、本当は帝都の代表なんかじゃないんだな?」と、最初の外交家が聞き返した。 「俺様の話をちゃんと聞いてなかったのか!?」と唐突に激憤が彼の中を巡ったが、同じく唐突に収まってしまった。そして、にやにや笑いを浮かべると、7杯目のロトメスをつぎ足した。「個人でだって建設会社は作れるんだぜ? そりゃ、確かに今はアトリウスやヴァネックのアホが皇帝の代理人だがな。しかし俺様にだってなれるさ、この契約書さえあればね。俺様のお話は難しすぎるか? 話について来れてるか? みんな、詩みたいなもんさ。火に踊れ。幻覚に従うならば、それはつまり隠喩だ」 「あんたの同僚もかい? あんたの同僚も、代表じゃないのかい?」と、2番目の商人が尋ねた。 スコッティは爆笑して首を振ってみせる。2人の商人は尊敬の念のこもった別れの挨拶をすると、大臣の方へ話をしに行ってしまった。残されたスコッティは、千鳥足で宮殿を抜けると、奇妙に入り組んだ大通りや並木道をふらふらと進んで行く。数時間後、彼はプリサラホールの自室で眠りに落ちていた。ただし、彼のベッドのすぐ近くで。 翌朝、スコッティは、ジュラスとバスに揺り起こされて目を覚ました。まだ目は完全に開いていなかったが、その他の点は良好であった。商人達との会話が、子供時代の記憶のように、ぼんやりと浮かんできた。 「いったいぜんたい、ロトメスは何なんだ?」と、彼は口早に尋ねた。 「ひどい匂いの発酵させた肉汁に、臭みを消すための大量のスパイスが入ってるんだ」と、バスが笑って言った。「一緒にジャッガを飲んでいろと警告しておくべきだったろうな」 「マンダンテの肉については、すぐに知っておくべきだな」と言って、ジュラスも笑った。「ボズマーときたら、ブドウの実や地面を触るのより共食いが好きなんだからな」 「あの外交家達に、私は何て言ったんだ!?」と、スコッティはパニックになりながら叫んだ。 「今のところ、表立って悪いことは起こってない」と、ジュラスが何枚か書類を取り出しながら答えた。「そうだ、例の契約書とお前を安全にシロディールまで運んでくれる護衛が、階段の下まで来てるぞ。急いだ方がいいぜ。シルヴェナールは、ビジネスが迅速に進まないことに、あまり寛容ではいらっしゃらないようだからな。それと、この契約をしっかり履行したら、特別に褒賞が出るらしいぞ。実は、俺はもう幾つかもらってきた」 そう言って、ジュラスは、大粒のルビーで飾られた美しいイヤリングを見せびらかした。バスも同じものを見せた。二人の太った男が部屋を出ていくと、スコッティは急いで着替えと荷造りをした。 シルヴェナールの衛兵の一連隊が、既に宿屋の前に整列していた。彼らはヴァレンウッド軍の正規の武具に身を固めて、羽根飾りの付いた馬車を取り囲んでいる。その光景に呆然としたものの、スコッティが慌ててその馬車に潜り込むと、隊長の号令の下、連隊は出発した。そのスピードは速く、馬車の中の彼も揺られながら外を眺めていた。すると、後ろの方で、ジュラスとバスの2人が手を振っているのが見えた。 「ちょっと待って!」とスコッティは叫んだ。「あなた達は帝都に帰らないのか!?」 「帝都の代表者としてここに残るように、シルヴェナールから言われたんだよ」とジュラスが叫んだ。「また、契約とか交渉とかする必要が出てこないとも限らんだろ。それに、俺達はアンドレイプの勲位ももらったんだぞ! 外国人に与えられる特別な奴だ。心配すんな、また祝宴で会おう! 俺達はこっちで上手くやるから、お前は、アトリウスとヴァネックとの交渉を上手くやるんだぞ。お前なら出来るさ!」 ジュラスはまだ何かアドヴァイスを続けていたようだったが、遠ざかるにつれて、声も遠のいていった。そして、護衛達が通りをぐるっと回ると、すっかり彼ら2人の姿は見えなくなってしまった。それから、ぼんやりとジャングルが見えてきたと思ったら、既にその中を走っていた。そう、この深い森の中、彼は自分の足で苦労して歩いたり、川をゆっくりとボートで下ったりしたのだ。それが、今や、こうして馬車に乗って、悠々と進んでいるのである。木々の緑が瞬く間に後ろへと流れて行く。馬は、草の上を駆けて行く方が、街中の整備された路を走るよりも早いような気がした。ジャングルに特有の奇妙な物音もじめじめした匂いも、全く気にはならない。馬車の窓から覗く風景は、まるで紗幕を通してするジャングル劇が上演されているようだ。 そうして2週間が過ぎた。馬車の中には食べ物も水も充分にあったので、スコッティはただ食べたり飲んだりを繰り返していればよかった。時々、彼は剣で打ち合う音が聞こえたが、周りを見てみた時には、既に馬車は出発してしまった後だった。そして、一行はヴァレンウッドとシロディールとの国境に到達した。そこには、帝都の要塞が居を構えていた。 スコッティは、馬車に乗って来た兵士達にあれこれと書類を見せた。兵士達は質問の集中砲火を浴びせてきたが、スコッティが素っ気なく答えていると通行の許可が下りた。そこから更に数週間かかって、帝都の門の前に到着した。ジャングルを飛ぶように疾駆してきた馬達も、ここコロヴィアの東の見知らぬ風景には、少し戸惑い気味である。それと対照的に、見慣れた鳥、匂い、植物と、その風景を見ているだけでスコッティは活力を取り戻すのだった。そこは正に、数ヶ月前の彼が夢にまで見た故郷なのだ。 帝都の門をくぐると、馬車の扉を開けて、スコッティは不確かな足取りで地面に降り立った。彼が護衛達に何事か言おうと振り向いた時には、既に彼らは森を抜けて南の方へ走り去ってしまっていた。まず彼がすべきことは、近くの宿屋に行って、お茶と果物とパンを食べることだ。もう肉を食べないとしても、それが自分に合っているだろうと彼は思った。 その後すぐに行ったアトリウスとヴァネックとの交渉は、大方納得できるものだった。どちらの建設会社も、ヴァレンウッド再建計画に加わることでどれだけ利益が上がるか、しっかり分かっていたのである。ヴァネックは、この契約に用いられた書類は自社のものであるため、この契約はヴァネック社のものであると主張した。一方、アトリウスは、この契約を成功させたのは自社のスコッティであるため、この契約をアトリウス社のものであると主張した。もちろん、決して彼を解雇した覚えは無い、と付け加えたが。結局、この争いには皇帝による調停が為されることになったが、皇帝は無理だと言った。なぜなら、皇帝の相談役である帝都の魔闘士ジャガル・サルンが長らく消息不明であり、彼無しでは、公平な判断など無理な相談であるからだ。 アトリウスとヴァネックから賄賂をもらい、スコッティは悠々自適の生活を送った。毎週、ジュラスとバスから、交渉の進捗状況を記した手紙が届いた。しかし、彼らの手紙は次第に少なくなっていって、今度は、シルヴェナールの経済相とシルヴェナールその人から緊急の手紙が届くようになった。それによれば、サムーセット島との戦争は、ウッド・エルフからアルトマーに湾岸の島をいくつか移譲することで講和が成立したらしい。また、エルスウェーアとの戦争は依然として続いており、ヴァレンウッドの東方の荒廃はまだ止んでいないようである。そして、アトリウスとヴァネックとの勝負もまだ続いているのだった。 第三紀398年のある気持の良い初春の朝。一人の密使がスコッティの家のドアを叩いた。 「ヴァネック卿が、ヴァレンウッドの再建代理権を入手なされました。つきましては、速やかに、例の契約書をご持参の上、邸宅へいらっしゃいますようお願いします」 「アトリウスは諦めたのかい?」と、スコッティは尋ねた。 「たった今、お亡くなりになりました。偶然にも、凄惨な事故に巻き込まれてしまったようです」と密使は言った。 スコッティは、いつから闇の一党がこの交渉に参入し始めていたのだろうかと考えた。ヴァネックの邸宅へと向かう途中、延々と続く荘厳な、名もないが素晴らしい建築物の間を歩きながら、スコッティはゲームで遊んでいるつもりが、遊ばされているとも限らないと考えていた。商売仇のアトリウスが死んでしまった今となっては、あの金に汚いヴァネックは私の足元を見てくるのではないかと思ったが、有難いことにヴァネックは、凍りつきそうな心で交渉に臨んだスコッティに申し出た通りの金をきっちり払ってくれた。ヴァネックの相談役が言うには、もしも事が上手く進まなかった場合には、別な会社を建てて、引継ぎさせるようだ。 「全てが合法的に収まってなによりだ」と言ってヴァネックはご満悦の表情であった。「今や我々は、かわいそうなボズマーを救済するという誇りある仕事の前途に立っている。もちろん、その分の報酬は頂くが。非常に残念だが君は我が社の代表ではないので、実務はベンダー・マーク君とアルネシアン君とに担当してもらうことになるが。ところで、まだ戦争が続いているようだね」 こうしてスコッティとヴァネックは、シルヴェナールについに名誉の契約の準備が調ったことを告げる手紙を出した。そして数週間後、新事業の発足を祝うパーティーが開かれることになった。スコッティは今や帝都に於ける時代の寵児であり、その記念すべき祝宴には、費用も全く惜しまず注ぎ込まれた。 その祝宴で彼は、この新事業で利益を受けることになる貴族や豪商達と挨拶を交わした。舞踏室には異国風の、しかし何か親しみの持てるバラのような香りが漂っていた。彼がその香りのもとを辿って行くと、長く厚い皿に乗せられた、厚切りのロースト肉に行き着いた。すっかりできあがったシロディール達が、その肉に群がって、味や質感を言い表す言葉を失ったかのように、次から次にその皿へと手を伸ばしている。 「こんなにおいしいもの、今まで食ったことない!」 「丸々太った豚みたいな味の鹿だ!」 「ほら、赤身と脂身がほどよく混ざってるのが分かるだろ? これが最高の一品という証拠さ!」 それらの声につられて、スコッティも少し切り取ってみた。しかし、確かに外はよく焼かれて美味しそうではあるが、中は乾燥したパサパサのもので、決して高級とは言えない代物だった。そして、その皿を置いて引き返そうとした拍子に、彼の新しい雇い主となったヴァネックとぶつかってしまった。 「どこに行ってらっしゃったんですか?」とスコッティは驚きながら言った。 「我が顧客のシルヴェナールのところだ」とヴァネックは威光を見せながら答えた。「そうそう、あれはあちらの住民がアンスラッパと呼ぶ珍味だよ」 スコッティは吐いた。しばらく吐き続けた。宴は一時中断したが、スコッティが彼の家に引き返したあとも、客たちは食事を続けた。珍味、アンスラッパは皆の口を喜ばせていた。その切り身を取ったヴァネックが、中に埋め込まれていた2組のルビーの片方を見付けた時には、それは更なる盛り上がりを見せることになる。ボズマーは何と巧い料理を作るんだとシロディールたちは口々に言い合った。 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/241.html
評論・ザルクセスの神秘の書 第1巻 マンカー・キャモラン 著 デイゴン ようこそ、修練者よ。まずは安心してもらいたいのだが、マンカー・キャモランもかつては諸君たちと同じように眠り続ける浅はかで、デイドラの精力を宿していた。死ぬ定めの我々は皆、夢の保護膜、すなわち母親との共生のために用意された退避場所を離れて誕生し、実戦と親善に努め、新たな瞳を通して見ることによりやがて母親が背後にいてくれることを求めたり恐れたりしなくなり、ようやく家庭を離れる。そしてその時、我々は彼女を永遠に破壊し、神デイゴンの領域に入る。 読者諸君、本書はその領域への扉であり、諸君は破壊者ではあるが、それでもなお制約は甘んじて受け入れなければならない。立ち止まれるだけの賢明さを持つ者のみを神デイゴンは受け入れる。それ以外の者たちは、愚かにも走り出すことにより、オルビスに命を奪われるだろう。まずは歩け。注意を怠らず。諸君らが最初に首をはねるべき奴隷は、自らの焦りだ。 神デイゴンの言葉どおりに入れ。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。そしてその時、諸君は王族の一員となり、新たな破壊者となり、深遠の暁がそうであったように。既知の花と未知の花がその庭には咲き乱れるだろう。そうして諸君は自らが産声を上げた瞬間へと引き戻されるが、生まれ出てくる姿は以前とは違う。毒気を母とする主の優れた血族であるところの、ネオニンビオシスとなるのだから。 どこに住む者たちも我々のことを知っていて、我々が通り過ぎたとしても、身震いされること以外に何もうんざりすることは起きない。諸君らが我々のところに来たのは、戦争、研究、影、あるいはある種の蛇のような連携を通じてのことだろう。その経路はそれぞれ異なるとしても、褒美は常に同じだ。修練者よ、ようこそ。ここに辿り着いたということは、君には王族の価値があるということだ。懐中を探って、見てみるがいい! 最初の鍵が新たな暁の光に輝いているだろう。 夜が終われば昼が訪れるように、最初の洞察は皆一様に荒れ狂う海に落下するものであり、そこであらゆる信念が試されることになる。だが再び、安心してもらいたい。強奪者でさえ、艦隊を求めて浮上する以前にイリアックに沈んだのだ。恐れるのは一瞬だけでいい。揺らいだ信念は目的に水を差す。暁の庭で我々は完全なる真実を呼吸するだろう。 神デイゴンの言葉どおりに入れ。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。我々の教団の原理は神の強大な刃に基づいている。修練者、探求する騎士、牧師、そして主。我々の視線の余力によるものであるかのように、邪悪な者たちはその光で焼き尽くしてしまうがいい。その時、我々の知恵は正しいものとなるだろう。しかしながら忘れずにいて欲しいのだが、諸君の視界はまだ狭いものだし、招待状は受け取ったとしても場所がどこなのかまではまだ分かっていないのだ。 私自身の最初の召喚は、神デイゴンが錆と傷の砂漠にいる時に書いた本を通じて行われた。その書の名は『ザルクセスの神秘の書』、アルドメレタダ集合体、すべての謎の妻の祖先だ。どの言葉も刃を受け、秘密であり、地殻変動よりも薄く、赤い飲み物のように曇っている。私が口にしたことはどれも、君の新たな階級を立証するためのものだ、我が子よ。君の名は今やその重さへと切断された。 王宮であろうと粗末な小屋であろうと洞窟であろうと、とにかく諸君は霧のかかった概念の世界を投げ捨ててやって来た。ヌマンティア! 自由! 楽園を約束されたことを喜ぶがいい! 果てしなくそれは君の周りで形作られ、再び形成されるだろう。実存としての行為、開花してゼロサムとなるほんの1時間前の全系統、衣装のように花開き、神デイゴンの黄金の足もとで踊るために身にまとう神々しい衣服。1つめの腕で嵐、2つめで呪われた雨、3つめでアヌの火口、4つめでまさにパドームの瞳。第1の鍵を手にしているのだから君の心は高揚していて当然だ。その心は、偽りの空のワームロットの、至るところへと飛び込んでいくだろうから。 神の歌によって声がかれるまで私は大声で発しながらさまよった。神デイゴンの神秘について私は読み、あふれるような思いによって再び狂おしい感情に包まれた。身を隠すことができるようになるまで、私の言葉が買われることはなかった。これらの言葉はタムリエルの庶民のためのものではなかった。タムリエルの聖職者がその昔、暁の存在そのものを装ったことがあるからだ。私の過ちから学ぶが良い。謙虚さこそがマンカー・キャモラン独自の知恵であることを知って欲しい。4つの鍵を携え、ゆっくりと進むのだ。 あの夜明けに身を捧げることにより私は慈悲の帯に包まれた。私の声が戻った時、それは違う言葉遣いになっていた。3夜を過ごした後、私は炎を語ることができるようになっていた。 赤い飲み物、刃を受け、私は庭への道を垣間見て、その隠れ場所について他の者たちに知らせるには、まず自分自身を探索の海に沈める必要があることを知った。私は艦隊を見つけたし、君こそが私にとって最も重要な希望であることを知って欲しい。ようこそ、修練者よ。マンカー・キャモランもかつては諸君らと同じように眠り続ける浅はかでプロトニミックな存在だったが、今は違う。今私はこうして座り、この宇宙にあるすべての世界にいる君たちと一緒に祝宴を始める。ヌマンティア! 自由! 神話・宗教 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/51.html
アレッシア・オッタスの ブラヴィル案内書 恵みあふれる母なるマーラ、我らを病からお守りください! 私の名はアレッシア・オッタス。ブラヴィルの全てについて皆様にお伝えしましょう。 ブラヴィルは例えるなら、下水口のふたにぞっとするほど汚らしいごみがたくさん溜まっているような光景を思い起こさせる町です。この町はシロディール中で最も貧しく、最も汚く、最も古ぼけて、最もみすぼらしく、最も多くの犯罪者、酔っぱらい、スクゥーマ中毒者が住みつき、最も多くの住人が獣じみた下等人種もしくは外国人です。あとはここにデイドラを崇拝する邪神教の集会でも加われば、間違いなく極悪非道、品性下劣な最悪の町と言えるでしょう。しかし、おぞましいことに、ブラヴィルでは実際にそれよりも邪悪で堕落した邪神崇拝が秘密裏に行われているという噂です。 この町は陰気で殺伐としており、常に重苦しい空気が漂っています。また、気候はじめじめとしており、大気は汚れています。というのも、町の下水が流れ込むラーシウス川の淀みからは悪臭が立ち上り、ニベン湾の低地には同じく悪臭を放つ沼地が広がっていて、疫病と害虫の温床になっているのです。 町の建築物の見苦しさと乱雑さは度を超しています。住宅、商店、ギルドの建物の柱はひび割れ、裂け、腐って軟らかく、緑のカビで覆われています。いっそのこと崩れ去ってしまえばその後に新しくましな家を建てることもできるでしょうが、彼らは今ある家の上にまた汚らしい家を建て、そのおかげで家々は三階、四階とまるでこやしの山のように見苦しくその高さを増してゆくのです。物乞いや泥棒は通りの頭上に張り出したバルコニーで無為に時間を潰し、ごみやガラクタを不運な通行人の頭の上に投げ捨てるのです。建物の屋根の上にぐらぐら揺れながら建っている信じられないほど不潔な小屋に、一家全員が暮らしていたりします。 ブラヴィルの住民は不愉快で不誠実です。彼らの生活は洞窟に住むゴブリンより少しましな程度で、今にも崩れそうな不潔な小屋に勝手に住みついています。町の住民は2つの階級に分けることができるでしょう。一方は密輸業者、スクゥーマ中毒者、強盗、泥棒、殺人者たちで、もう一方はこうした犯罪者がカモにする物乞いや愚鈍な役立たずたちです。 ブラヴィルの支配者は犯罪者のリーダーたちです。町の衛兵は、スクゥーマ密売人の親玉に雇われています。エルスウェーアとブラック・マーシュにほど近いこの町に多くのアルゴニアンとかカジートが住んでいるのは不思議なことではありませんが、オークの多さには驚かされます。しかし、これらの下等な人種たちは他の下等な人種と問題なく共存しています―― ちょうど泥棒や獣がお仲間を見つけては群れ集うのと同じように。 ブラヴィルの町は区画整理などされていませんが、不運にもこの町を歩くことになった人々のためにいくつかの目印をご紹介しましょう。城へは、崩れそうな橋で川を渡って東へ。聖堂は西です。商店やギルドは東側の壁と川を背にして並んでいます。聖堂と商店・ギルドの間の地域はブラヴィルのスラム街です。 城は、ブラヴィルで唯一の石造りの建物です。この城は庶民の住む掘っ立て小屋と同じぐらい汚く建てつけも悪いですが、それでもアンヴィルや帝都で一番貧しい物乞いの家と比べれば少しはましかもしれません。レギュラス・タレンティウス伯爵は家柄も良く、かつてはトーナメントでチャンピオンになり名声を得たこともありますが、領民に言わせれば今では単なる役立たずの酔っぱらいです。伯爵の息子のゲリアス・タレンティウスは典型的な親の七光りで、犯罪者とスクゥーマ中毒者が好き勝手に振る舞える社会の維持に大いに貢献しています。 聖堂の建物の石でできた部分は、崩れるがままでカビに覆われています。木材を組み合わせただけのぼろぼろの柵で囲まれた墓地は乱雑に荒れ果てています。女司教はマーラの敬虔な信奉者ですが、九大神見捨てられたこの町の犯罪と不正は彼女の手には負えないでしょう。女司祭は聖堂を訪れる数少ない人々に好かれていますが、この町の大多数の住民は生涯一度も聖堂に足を踏み入れることはないのです―― 盗みや物乞いに入る場合を除いては。 また、この町の宿屋の評判も最悪です。宿屋に入るには、まず玄関に寝そべった酔っぱらいと彼らが吐いたものを乗り越えなければならないでしょう。宿の中では、暗がりのごろつきや博徒やスリが、不注意な旅行者をあっという間にカモにしてしまいます。そのような宿に泊まろうとする物好きな旅行者は、眠っている間に殺されたとしても文句は言えません。 それに比べれば、ギルドはまだ清潔で酔っ払いも見当たらず、比較的平穏が保たれている場所といえます。もし必要に迫られてブラヴィルで夜を越すことになった時は、戦士ギルドか魔術師ギルドに泊まるのが最善でしょう。ギルドにいる人々も野蛮で不道徳ですが、少なくとも安全に眠れる場所だからです。 商店もブラヴィルの他の部分と比べれば、まだましと言えるでしょう。商店は泥棒対策のために厳重に見張られており、店内では暴行や殺人の心配はありません。 もしあなたが何かの不運でブラヴィルを訪れることになってしまったとしたら、町に入ってすぐにそこから出たくなることでしょう。そのときは気をつけてください、町を出るあなたの後ろから追いはぎと殺し屋の群れが追ってこないように。 九大神を称え祈りましょう! 地理・旅行 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/214.html
伝説のサンクレ・トール マテラ・チャペル 著 スカイリム進出の期間(第一紀245年─415年)、北のハイ・ロックとモロウウィンドの同族たちの進出と富を妬む野心的なハイランドの伯爵たちは、城壁を見越して南のジェラール山地に進出のチャンスを窺っていた。ジェラール山地は困難な障壁であることが判明しており、北シロディールは本格的なノルドの侵略を行なうにはあまりにも小さすぎる報酬であった。しかし、アレッシアは多くの野心的なノルドとブレトンの戦略集団を傭兵として雇い、見返りに豊かな土地と交易権を約束した。勝利を得たアレッシアのシロディール統治に落ち着くと、ノルドやブレトンの戦士や魔闘士たちは、瞬く間に快適で裕福なニベン文化に同化していった。 アレッシアはサンクレ・トールにおける奴隷の反逆の聖なるお告げを受け、彼女はそこに聖地を築いた。サンクレ・トールの鉱山は多少の富をもたらしたが、やせ地と人里離れた山の厳しい気候は、ハートランドからの食料や物品の供給が必要であることを意味した。さらに、ジェラールを通る数少ない峠の1つに位置するため、その財産はスカイリムとの不安定な関係に左右された。スカイリムとの関係が良好なときは貿易や同盟によって繁栄し、スカイリムとの関係が悪化したときは包囲攻撃やノルドによる占領を受けやすかった。 アレッシア会の衰退(第一紀2321年頃)に伴い、シロディールの宗教的統治権は南の帝都に移ったが、サンクレ・トールはセプティム王朝の台頭まで、山岳要塞として、また大規模な宗教の中心地として残った。第二紀852年、街は定期的なスカイリム、およびハイ・ロックの侵略者による占領に苦しんでいた。王者クーレケインは街を奪い返し、北の侵略者を駆逐するために彼の新将軍タロスを送りこんだ。攻城戦のなか、サンクレ・トールは破壊され、放棄された。その地の戦略的な弱さに気が付いた将軍タロス── 後のタイバー・セプティムは、サンクレ・トールの放棄を決意し、彼の統治中、街または要塞に対する復興の取り組みはなされなかった。 アレッシア歴史家は、サンクレ・トールが魔法によって隠され、そして神々によって守られていたと主張した。サンクレ・トールの度重なる敗北や、北方の侵略者による占領がその主張を否定する。要塞への入り口は確かに魔法によって隠されており、要塞やその迷路のような地下施設は魔法の罠や幻影によって守られていたが、それらの秘密は、作成したブレトンの付呪師から攻め寄せるノルドに漏らされていた。 サンクレ・トール伝説のなかで永続的に語られているのは、レマン皇帝たちの太古の墳墓である。アカヴィリの侵略者たちを破った後、サンクレ・トールはレマンのシロディール統治、および彼の子孫であるレマン二世とレマン三世の下で、短い間の富と文化の復活を味わった。彼の系図を聖アレッシアまで辿り、聖アレッシアがサンクレ・トールの地下墓地に埋められた伝統に従い(1)、レマンは素晴らしい埋葬区画を太古の要塞の地下道に作った。ここに最後のレマン皇帝であるレマン三世が、王者のアミュレットと共に埋葬された。 サンクレ・トール攻略の最中、将軍タロスが王者のアミュレットをレマン三世の墓から回収したと伝えられている。神学者は、レマン王朝の崩壊後から数世紀におよぶ政治と経済の混乱は、王者のアミュレットの紛失によるものとの考えを抱いており、第三紀のシロディール帝都復興をタイバー・セプティムのレマン三世の墓からのアミュレットの回収に関連付けている。 サンクレ・トールは第三紀の初めから廃きょのままであり、その周辺の地域にはほとんど人が住んでいない。現在、すべての連絡はコロールとブルーマの峠を通り、サンクレ・トールの要塞とその地下道は、さまざまな狂暴なゴブリンたちの隠れ家となっている。 (1)聖アレッシアは帝都の最高神の神殿の地に埋葬されたとの競合する言い伝えがある。実際の聖アレッシアの墓は知られていない。 メインクエスト関連 歴史・伝記 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/49.html
アレッシア・オッタスの シェイディンハル案内書 健やかな心身にアーケイの祝福を! 私の名はアレッシア・オッタス。皆様にシェイディンハルの全てについてお伝えしましょう。 シェイディンハルを訪れる人はまず、緑の大草原やコーボロ川の土手に経つ優雅な柳の木、よく手入れされた庭園、花でいっぱいの垣根、そういったものに目を奪われることでしょう。手入れの行き届いた家々、その石壁にほどこされた細工や、ガラス、金属、木材を組み合わせた美しい装飾は、シェイディンハルという町の裕福さを物語っているかのようです。 しかし、その裏に何が隠されていると思いますか? 犯罪、醜聞、それに数々の不道徳です! シェイディンハルは、3つの区域に分かれています。北の丘の上にはシェイディンハル城の中庭と城壁があります。その下に、東門から西門へ、東西に道が走っています。コーボロ川はこの道からだいたい南北に流れており、町の南半分を2つの区域に分けています。聖堂は東側の区域、そして市場は西側の区域にあります。市場側の区域には全ての商店、宿屋、ギルドが集まっています。聖堂区域には聖堂と住宅街があります。コーボロ川には北と南の2箇所に橋がかかっていて、南側の橋の途中には小さな公園になっている中州があります。 シェイディンハルは東ニベンに位置していますが、その文化は、ここ半世紀の間にモロウウィンドから移民して来た、ダークエルフたちによって作られたものです。彼ら移民の多くは、モロウウィンドの窮屈な社会と腐敗した宗教支配を逃れて来た人々です。シロディールにおいては、ゼニタールの守護の下、かの地よりも自由で活発な経済活動の機会を見出すことができたのです。 シェイディンハルの伯爵もまた、そうした移民の一人です。アンデル・インダリス伯爵はモロウウィンドのフラール家の出身ですが、より多くの成功の機会を求めてこの地にやってきました。 伯爵はシロディールの貴族社会において異例の速さで上位に登りつめましたが、その理由については謎が多く、シロディールの伝統ある名家の人々は伯爵を身のほど知らずな成り上がり者と陰口を叩いています。さらに、ラザーサ・インダリス夫人がシェイディンハル城の階段で何者かに撲殺され遺体で発見された事件は人々の好奇の目を惹きつけ、伯爵の浪費癖、不倫、激情と事件の関係について黒い噂が絶えません。 シェイディンハルのアーケイ聖堂に訪れる人はほとんどいません。そもそも、模範を示すべき伯爵が一度も聖堂に足を踏み入れたことがないのです。ただし、彼の場合は九大神のもとに現れて審判を受けることを恐れているのかもしれませんが! シェイディンハルの大主教、司祭、治癒師は感じのよい人々で、神に忠実な神学者ですが、この地の聖職者で最も尊敬されているのはアーケイの生ける聖人・エランディルでしょう。彼は魔術師ギルドや帝都戦技大学で不正に行われている黒魔術に反対する運動を精力的に行っています。 シェイディンハルの2つの宿屋はどちらも一見良さそうに見えますが、一方の宿屋「ニューランド」を経営しているダークエルフは下品な異教徒の無法者で、もう一方の宿屋「シェイディンハル・ブリッジ」の経営者は高潔で敬虔な帝都民の夫人です。行き届いたサービスと安くておいしい食事、殺人鬼や泥棒の心配をせずに安心して眠れる安全で清潔な寝室、そういったものを求めるならどちらの宿屋に泊まるべきかはもうおわかりですね。 シェイディンハルの本屋を所有し経営しているのはアルゴニアンのマッハ=ナーです。私は彼より無礼で不愉快な人物にお目にかかったことがありません。しかし、本屋の品揃えは素晴らしく値段も手ごろです。 シェイディンハルの住宅は、最も貧しいものの家でさえみな清潔で見栄えがよく、庭なども手入れが行き届いています。家の中に入って家具や内装を眺めたいなら、住民に言えば喜んで迎え入れてくれるでしょう。(もちろん、早朝や夜中に訪ねたりしなければ、です!)ただし、だまされてはいけません! いくらその住民がどこから見ても立派な人物に見えたとしても、彼らの多くはあなたを招きいれたとたん豹変し、下品で粗野な態度で獣のように襲いかかってきます。彼らと人間らしい会話を交わすよりも、殺されて地下室に投げ込まれる可能性のほうがずっと高いのです。そのような粗暴で卑しい人々の多くがオークだというのは別に驚くべきことではありません。 それでも、シェイディンハルで一番の著名人、画家のライス・ライサンダスの家だけは訪ねる価値があります。彼自身はアトリエにこもって制作に没頭していることが多く、面会は難しいのですが、かわりに優しく親切な夫人があなたを招き入れ、壁にかかった彼の絵を見せてくれるでしょう。 九大神に従い、栄光へと向かいましょう! 地理・旅行 茶3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/115.html
虫の王マニマルコ ホリクレス著 聖なるアルテウム島、バラ色の光が宙へ注ぐ 尖塔や花々を抜けて優しい風がそよぐ 緑に覆われたゆるやかな傾斜の下の崖で泡立つ波 春の潮は午後には境界を元へと戻す 神秘的な霧に囲まれたこの土地がサイジック教団の本拠地 彼らは国王の相談役、注意深く、賢く、公平であった 強国レマンが倒れてから200と30年が過ぎようとしている 2人の優秀な生徒がサイジック内で勉学に励んでいた 1人は明るく温和で、もう1人は暗く冷たい心の持ち主であった 怒りの後者、マニマルコはくるくる回って死のダンスを踊っていた 彼は魂を骨と蟲の中へ、占い師のやり方であった 魂を罠にはめ、奴隷とし、魔法の呪文を唱えた 前者ガレリオン、月日がたつにつれ勇敢で光り輝く魔法を得た ガレリオンは灰色のセポラの塔の下でマニマルコと対峙した 「お前の邪悪な神秘力ではその力をうまく使いこなせまい 魂の世界へ恐怖を連れて行けば、お前の修行もここまでだ マニマルコは嘲り笑い、平和な生活などまっぴらだとうそぶいた 彼は自分の芸術性、死と腐敗の絵へと回帰した 聖なるアルテウム島に次第に恐怖が伝わる 恐ろしい真実が明らかとなったとき、罰はなんと弱いものだったか 残虐なマニマルコは賢者の島から追い出され 美しい夜明けの本土に送られ、さらなる死と魂を得る 「狼が戻った、羊の群れに獣が送り込まれた」 ガレリオンは師に言った、「タムリエルに恐怖が放たれた」 「彼の名を口にするではない」灰色の隠蔽の衣の賢者は言った 師匠がそのように無情になるのはこれが初めてではない 島の宮殿は世俗から遠く離れたところにある ガレリオンはあらためて新しい組織の設立を考えた 新しい結社が魔術師ギルドに真実の魔法を持ってくる しかし、残された時間はあとわずか、アルテウム島の空色の湾 しかし、昔から伝わるヴァヌス・ガレリオンの詩歌がある いかにして彼がサイジックの鎖を投げ捨て、大陸に輝く魔法をもたらしたか 長い年月、ガレリオンはマニマルコの手を感じた タムリエルの砂漠、森林、街、山、海を越えて 暗闇から手が伸び、死に至らしめる病気のように大きく広がる 闇の死霊術師たちによって昔日の呪われた芸術品が集められる 乱心にみちたウィザードと魔女たちが、マニマルコに道具を運ぶ 彼の罪の洞窟に血痕の残る薬草とオイルを運ぶ 甘いアカヴィリの毒薬と聖人の灰、人間の皮膚を束にしたもの キノコ、根っこ、ほかにもいろいろな物で錬金術の棚はあふれかえった 巣を作るクモのように、マニマルコはこれらの力を吸い取った 蟲の王、マニマルコ この世で初めての不死の体 崩壊に次ぐ崩壊、彼の芯まで腐敗に満ちる 彼はマニマルコを名乗り続けたが、彼の体と心は いつしか人間らしさを失い、彼は生ける屍と化した 静脈に流れる血液は酸性の毒薬のシチューと化す 彼の力と精力は収集品が増えるにつれ勢いを増す これら芸術品は強大なものとなり、昔日より長く呪われしものとなる ガレリオンはギルドを去ったという、そこを「沼地」と吐き捨てて しかし、虚実は勢いのよい流れのように、時の河を汚していくものだ ガレリオンはマニマルコの湧き上がる圧倒的な力に注意する 彼の魔術師とランプの騎士に向かって「私が息を引き取る時は 蟲の暴政に直面しているに違いない、そして殺されるが死にはしない」 彼は手下を北の呪われし大陸へと導き、山を越えた 戦いを生き抜いた者たちは、こんなものは見たことがないと言った マジカで武装し、剣と斧に魔法をかける ガレリオンは繰り返し叫んだ「蟲の王、芸術品を明け渡せ、 私に力を分けてくれ そうすれば死にふさわしく生きられる」 渇いた笑いが聞こえ「お前が先に死ぬのだ」マニマルコが言った 魔術師の武器が不吉な音をたてて壊れた 炎と凍結の波のようなものが訪れ、山が震えた 閃光がアーチ状に前へ広がったように見え、竜のため息のような乾いた音 木の葉のように魔闘士が雨落ちる空へと飛んでいく 死霊術師が声をかけると死体の山が戦いのため地中から飛び出した 神聖な灯りの洪水を伴い、何もないところへと追い詰められる エネルギーの大混乱を起こしながら、地の小さな滝が河に流れ込む 空に光る雷鳴のごとく、獅子の唸りのごとく 鋭い剃刀が刺しゅうの施されたレースを引きちぎるかのように ガレリオンの一太刀が山の麓を震わせた 死体の群れは当然のごとく落ちてくる 彼らの悲痛の叫びを聞くと 深淵から蟲の王の蘇りを叫んでいた ニルンは魔術師と死霊術師の戦火にうなりをあげる 彼の目は暗い炎のごとく光り、歯のない胃を大きく開ける 息を吐くごとに暗闇に嘔吐物が舞う 悪臭ただよう空気に死の冷たい感触が伝わる 山の上の上空に陰惨な力が弱まる その時は陰の力の弱まりを感じた 死の芸術は彼の骸骨のように腐敗した鉤爪から失われていく 千もの善と悪とが滅びるのを歴史が確認した おお、ヴァヌス・ガレリオン 彼は道を標してくれた マニマルコは一度は死んだかのように思われた 邪悪で憎むべき死霊術師はバラバラになった 魔術師ギルドに戻り、勝者が呪われた道具を癒す 生きる死人、虫の王マニマルコの道具 子供たちよ、寝室を横切る影の音を聞きなさい 村がぐっすり眠ってしまうと、通りに大群が押し寄せる 月の光は夜に浮かぶ雲を不吉にも照らす 墓場の者たちが休み、永遠の眠りにつけるように 忍び寄る足音によく耳をそばだてなさいい そして蟲の王に決して触れられないように祈るのです 茶2 詩歌 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/161.html
魔術師ギルドの沿革 アークメイジのサラルス 著 第二紀の初頭においては、魔術師、妖術師および各種の神秘師たちが研究と公的福祉のために才能と糧を結集させるという発想は革新的なものであり、目的および構造の面で今日の魔術師ギルドに近いといえた当時の唯一の組織は、アルテウム島のサイジック会であった。当時、魔術とは個人、もしくは小数の同好の士で学ぶべきものとされており、魔術師は隠者とまではいかないものの、大抵は非常に孤高の存在だったのである。 サイジック会はサマーセット島の支配者たちに助言役として仕え、部外者には理解できない複雑な様式によってその構成員を選抜していた。組織としての存在意義や目的が公示されることもなく、彼らを非難する者たちはサイジック会の力の根源をあらゆる邪悪な要素に結びつけようとした。サイジック会の宗教は祖先崇拝といえるものであったが、この類の教義は第二紀には徐々に時代遅れと見なされつつあった。 アルテウム島のサイジックの一人であり、かの有名なアイアチェシスの弟子であったヴァヌス・ガレリオンがサマーセット島中から魔術師を集め始めた時、誰もが彼の行いに反感を抱いたという。彼はファーストホールドの街中を拠点としていたが、これが魔術の実験は住民の少ない地域でのみ行うべきとする(ある程度根拠のある)考え方に反していたのである。さらに衝撃的であったのは、ガレリオンが費用さえ払えば一般市民の誰もが魔術品、秘薬、そして呪文でさえも利用できるようにすると申し出たことであった。これは魔術が貴族階級や知識階級の特権ではなくなることを意味していたのである。 ガレリオンはアイアチェシスおよびファーストホールドの王、ライリス十二世の前に召喚され、作りつつあった組織の意図を問いただされた。ガレリオンがライリス王とアイアチェシスに対して行った演説が後世のために記録されていなかったのは悲劇に違いないが、ガレリオンが今や全土に広がったこの組織を創設するためにどのような虚構や説得を用いたのかについて歴史家たちが空論を戦わせる題材にはなっているようだ。いずれにせよ、ガレリオンの組織は認可されたのである。 ギルド創設から間も無くして、保安面の疑念が生じた。アルテウム島は侵略者から自らを守るのに武力を必要としていなかった。サイジック会が何者かの上陸を阻止すべきと判断した場合、島およびその全住民がこの世から姿を消してしまうだけのことだったのである。これに対し、新たにできた魔術師ギルドは番兵を雇わざるを得なかった。ガレリオンはすぐに、タムリエルの貴族階級が何千年もの間思い知ってきた、金だけでは忠誠は買えないという事実を知らされることになる。次の年にはランプ騎士団が結成された。 ドングリから木が育つかのように、サマーセット島の各地に魔術師ギルドの支部ができ、やがてタムリエル本土にも進出していった。迷信ゆえか妥当な懸念ゆえか、魔術師ギルドを領土内でご法度とした領主の記録も数多くあるが、その次の代もしくは次の次の代くらいまでには魔術師ギルドに自由を認めてやることの利点が浸透した。魔術師ギルドはタムリエルにおいて強大な一派となり、味方としてはどこか無関心ながら、敵にまわすと手強い存在になっていたのである。魔術師ギルドが実際に地元の政争に関わるのは稀であったものの、一部の例外的な案件においては魔術師ギルドの関与が最終的な顛末を決定づけることになっている。 ヴァヌス・ガレリオンによる創設以来、組織としての魔術師ギルドは大賢者六名からなる長老会によって統制されている。各ギルド本部はギルドマスターにより運営され、インキュナブラのマスターと武芸のマスターがこれを補佐する。インキュナブラのマスターの下には学術のマスターと占術のマスターの二名がついており、同様に武芸のマスターにも修練僧のマスターと、ランプ騎士団の支部長であるパラティナスの二名がついている。 魔術師ギルドの一員でなくとも、この複雑に構築された階級制度が時に絵空事でしかなくなることは想像がつくであろう。タムリエルを離れて他の地に旅する際にヴァヌス・ガレリオン自身が言っていたのは、魔術師ギルドが奇妙に入り組んだ政治的な内輪もめの泥沼へと停滞してしまった、ということである。 歴史・伝記 茶1 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/143.html
ニュー・シェオス案内書 -シヴァリング・アイルズの観光- ブレニス・アラリン 著 ニュー・シェオスは王国全体の料理と文化の中心、シヴァリング・アイルズの宝石として広く知られております。我らがシェオゴラス閣下の気まぐれによって造られ、この都はマッドゴッドの完璧な構想の手本となるものなのです。 ニュー・シェオスに初めて訪れた人はしばしば住民の暖かさ、寛大さ、様々な素晴らしいユーモアに感銘を受けることでしょう。訪れた人は両手を広げて歓迎され、ほとんどの方がニュー・シェオス家の一員になったかのような気持ちにさせられるのです。都での目を楽しませる眺望や耳をくすぐる音は新しく訪れた方を圧倒する程であり、この案内書は初めて訪れた人ができるだけ簡単に移動できることをお手伝いするためのものであります。 訪れた人は都が主に3つの地区に分かれていることに気付かれることでしょう: ブリス、クルーシブル、そして宮殿です。宮殿にはマニアとディメンシャを支配しておられる公爵様のお住まいだけでなく、シェオゴラス閣下の壮麗な王宮があります、それに対してブリスとクルーシブルには都に住む者の住居と商用の建物の大部分があります。 同じ都でも、ニュー・シェオスのブリスとクルーシブルは、それぞれ異なった体験をさせてくれることに気がつくことでしょう。ブリスの輝く手すりや金の道は、クルーシブルの素朴な建物や未舗装の通りとは全く対照的であります。騒がしい夜の娯楽やおいしい料理に関心のある旅行者は、豪華な祭りや活気ある催し物で有名なブリスで過ごす時間を好むかもしれません。より静かな時間を求めて訪れた人はクルーシブルでも散歩に時間を費やしたほうがいいでしょう。そこでは見回りをするダーク・セデューサーが静ひつをよしとする生活を奨励おりますから。 あなたの好みにかかわらず、ニュー・シェオスは他にはない体験をお約束いたします。この案内書では、最後にこの壮麗な都についての読み応えだっぷりの、よく道に迷う人でも目的地に案内する方法を記させていただきます。 ニュー・シェオスに到着したら ニュー・シェオスへの旅行者は、マニアの高地かディメンシャの沼地のどちらからか、その門に訪れることでしょう。ほとんどの方は都の壁の外にある美しく壮大な田園を探索しないで、都への門にせかせかと行ってしまうという勿体無いことをします。シヴァリング・アイルズの森や低湿地は王国中の他のどこに行っても見られないので、これは見なければ損なことです。これらを探索することはその地方の特色を体験するのにとても良いことなので、これらの地区について是非にとお勧めするのは当然なことなのです。 マニア 高くそびえる植物相の色鮮やかな地域 マニアの巨大なキノコの木の中を歩くのは、シヴァリング・アイルズを初めて訪れる人にはすぐには忘れられない体験となるでしょう。胞子の木の森を歩き回り、胞子を含んだ空気を深く吸い込むのに至福の時間─ 永遠にあなたの記憶の中に残ることになる時間。安心と安堵の感情が体に打ち寄せ、心を落ち着かせる。その感覚は今までに感じたことの無かったものでしょう。 時間を取って、その地域で見られる美しい植物を手にとってください。手始めにアロカシアの果実を食べてみください。それは回復特性があることが知られています。ほかには、アスター・ブルームの根を摘んでみてください。地元民の間では悪霊の攻撃を防ぐ能力があると言われています。 マニアの田園で時間を費やすつもりなら、ヘイルの小さな集落を訪れることを検討してください。住民は主に地元の芸術家で、疲れている旅行者を手厚く歓迎してくれることでしょう。必ずヘイルの周辺にある素敵な地区を探索して、心休まる時間を楽しんでください。 用心深い旅行者は安全な旅行者ですがマニアののどかな土地でもそうです。眺めの美しい田園地方を通る道のたいていは安全ですが、周辺地域は不用心な旅行者には危険をもたらすことがあります。マニアは多くの固有動植物種の生息地であり、中には未熟な冒険者の脅威となりうるものも。シヴァリング・アイルズではどこを旅する時でも確実に分かる「道」からそれない事をお勧めします。 ディメンシャ ゆっくりとした時間 よく言われるのが、「ディメンシャで過ごす時間、プライスレス」。これほど的を得た言葉はないでしょう。 多くの人は低地の壮大で美しい景色を楽しみながら、ディメンシャの小さな島を歩き回るのに幾日も費やします。ディメンシャ南部の小さな島にかかるエキゾチックな橋を渡って、コケに覆われた木の間からの覗く美しい夕日をお楽しみください。 ディメンシャの地方を散策中にくつろぐ場所をお探しならば、ディープワロウを訪れることをお勧めいたします。小さな労働農場の集落です。そこには住人が珍しい地元の植物を独特の方法で育てているのです。ディープワロウの住民は内向的な人々なので、近づく時には注意が必要です。一度彼らの習慣を覚えてしまえば、共に時間を過ごすのには最も興味深い人々であることが分かるでしょう。 豆知識: さらに楽しい旅の思い出には、シヴァリング・アイルズの中の類を見ない場所である自殺の丘を訪れてみてください。ディメンシャの中心に位置し、旅行者はこの独特で魅力的な場所を見に行く機会を逃すべきではありません。その丘を訪れるのは無料ですから、中にはなかなか離れることが出来なくなる旅行者もおります。 シヴァリング・アイルズに到着 シヴァリング・アイルズに辿り着くのは、単に狂気の王子である我らがシェオゴラス閣下のきまぐれ。 散策 シヴァリング・アイルズを散策する一番の方法は徒歩です。時間をかけ、美しい景色を通ってのびる道に沿って進もう。歩くのに疲れた旅行者は、この世界中に点在する多くの野営地で休憩場所を見つけることができます。 宿泊施設 高級 ブリスにある、わがまま物乞い亭。愛妻家レイブン・バイター氏と、その妻シアー・ミーディッシュ夫人はブリスで素敵な料理店と宿屋を経営しています。部屋は申し分なく、食べ物はその地区の平均より上。ワインを飲んでみることを強くお薦めします─ それは都にある最上級のものばかり。多くの旅行者は、わがまま物乞い亭を訪れると、昼食が特に素晴らしい時間と感じることでしょう。値段は安くはありませんが早い時間であれば、とても世話好きな感じのするシアー・ミーディッシュ夫人がいらっしゃいます。 一般 クルーシブルにある病弱バーニスの酒場。この名称は馬鹿にしているわけではありません: 病弱バーニスの酒場は、下町のクルーシブルにある酒場ということから予想できるとおりの酒場です。酒場はすぐ隣の地区にあるわがまま物乞い亭にあるものほど豪華ではありませんが、十分満足できる場所となっております。病弱バーニスは働けるだけ元気な時は、愛想のいい女主人です。食べ物はおいしく、飲み物もおいしい。ただしこの酒場を訪れたあとは、イーリル神秘堂にいるイーリルに必ず会うことがお勧です。彼は幅広い種類の魔法を良心的な値段で─疾病退散の薬も─ 売っております。 ショッピング ブリス コモン・トレジャーズ もしも… 何か… を探しているのであれば、ブリスのコモン・トレジャーズは手をつけるのにいい場所です。貿易商のティルセ・アレレスは目利きの客向けの幅広い種類の商品を扱っています。また彼女は旅の途中で見つけるあなたに不要なアイテムをけっこうな値で喜んで買い取ってくれます。 クルーシブル カッター武器店 ニュー・シェオス中探してもこれ以上すばらしい武器屋はありません。カッターはすばらしい店を経営して、いつも種類豊富な武器を取り揃え、直ぐに使えるようにしています。また修理サービスもあり、刃のついた武器であれば極上の手入れをしてくれるはずです。この店は見逃せません。 ブリス ブリス書店 旅の間読むものを探しているのなら、ここに行けば入手できます。ソンテールは本だけでなく、親切であり、なおかつ目利きの本屋です。汗水たらして手に入れたお金も、この店で汗水たらしすぎても後悔はしないでしょう。 ブリス ミッシング・ポルドロン亭 もし防具を欲しくなったら、ブリスにあるミッシング・ポルドロン亭に一直線です。つい最近に経営者ドゥマグ・グロ=ボンクのもとで再開して、店はかなり順調なようです。新しい防具を売ったり、あなたの愛用の防具を修理したり、しばらくの間腰を落ち付けて、彼の長く興味深い経験話をあなたにするだけでも、ドゥマグは幸せなのかもしれません。 クルーシブル イーリル神秘堂 多くの冒険者はすべての呪文を収めた本がなければ旅をしたがらず、イーリル神秘堂はニュー・シェオスで最新の呪文を揃っている場所です。すばらしい呪文の数々は見ているうちに、時に時間が止まっているように感じられるほどです。自信をもってお勧めいたします。 クルーシブル なんでも屋 確かに扱っているのは珍品というべき種類のアイテムですが、クルーシブルにあるなんでも屋を訪れても決して退屈はないでしょう。店主のアージャズダはさらなる魅力的な様々な種類の魔法のアイテムを求めて領域中を走り回り、色々な場所で見つけています。あなたも時間をかけて見てまわってください─ 何が見つかるか分かりませんから! SI 地理・旅行 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/94.html
アルゴニアン報告 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 帝都の小さいが立派な広場の一角に置かれている、または、ぐったりとしているのがヴァネック卿の建設会社である。その想像力に欠けた質素な建物は、芸術性や建設設計に関してはあまり有名ではなく、むしろその並外れた長さによって知られている。もし批判的なものが、なぜヴァネック卿はあのような飾り気のない、伸びきった突起物を好むのかを疑問に思ったとしても、彼らはそれを口にしなかった。 第三紀398年、デクマス・スコッティは建設会社の先任書記であった。 内気な中年の男がヴァネック卿の下へ、五年戦争によって破壊されたヴァレンウッドの街道を修復する独占権をこの建設会社に与えるという、今までの契約の中でも最高の利益を得られる契約をもたらしてから数ヶ月が経過していた。これによって彼は、管理職や書記に間で人気者になり、彼の冒険を物語る日々を過ごしていた、大体に関しては忠実に…… 彼らの多くはシレンストリーによって催された、祝賀のアンスラッパローストに参加していたので、結末は除いてあった。聞き手に彼らは人肉をむさぼり食ったと伝えるのは、どのような気の利いた話であっても、その質を高めるものではないからである。 スコッティは特に野心家でもなければ勤勉者でもないので、ヴァネック卿が彼に何もすることを与えなかったことは気にしていなかった。 いつでもあの、小太りで小さなふざけた男が職場でデクマス・スコッティに出くわすと、ヴァネック卿は必ず、「君はこの建設会社の名誉である、頑張りたまえ」と言う。 最初の頃は、何かしていなければいけないのかと心配したが、数ヶ月がすぎて行くにつれ、彼はただ「ありがとうございます、がんばります」と答えるだけになっていった。 一方、将来のことも考えなければならなかった。彼は若くもなく、何もしない人にしてはかなりの給料も貰ってはいたが、近いうちに引退する破目になり、何もしない、何も貰えない人になってしまうのではないかなどと考えた。もしヴァネック卿が、ヴァレンウッドの契約が生み出す何百万もの金への感謝から、快くスコッティをパートナーにしてくれれば、それは素晴らしいことだと考えていた。最低でも、彼にお宝の歩合をほんの少しでも与えてくれればと考えていた。 デクマス・スコッティはそのような事柄を請求するのは苦手であった。それが、ヴァレンウッドでの先任書記としての目覚しい成功の前は、アトリウス卿にとって彼が手際の悪い代理人であった1つの理由である。彼がヴァネック卿に何か言おうと決断しかけた時、閣下が突然話を進めた。 「君はこの建設会社の名誉である」と、よぼよぼした背の低いものは言い、そして一瞬止まった。「予定に少々、時間の空きはないかね?」 スコッティは躍起になってうなずき、閣下の後を、あの悪趣味な装飾を施された、誰もがうらやむ巨大な部屋へとついていった。 「君がこの建設会社に居てくれることを、ゼニタールの神に感謝します」小男が甲高い声で雄大に言った。「知っているかは知らないが、我々は君が来る前はひどい苦境に立たされていた。確かに大きな計画はあったのだが、成功はしなかった。例えばブラック・マーシュ。我々は、何年間も商業用の街道や他の通行用の路線の改善を試みてきた。私はその件に最適の男、フレサス・ティッジョを送り込んだが、膨大な資金と時間の投資をよそに、毎年それらの路線上の貿易は遅くなる一方であった。今は、君の良くまとまった、建設会社の利益を押し上げてくれるヴァレンウッドの契約がある。君が報われるべき時期が来たと思う」 スコッティは謙虚さと、かすかな欲をまとった笑顔を見せた。 「フレサス・ティッジョからブラック・マーシュの仕事を引き継いでもらいたい」 スコッティは心地よい夢から恐ろしい現実へと引き戻されたかのように震え、「閣下… わ、私には……」 「大丈夫だ」ヴァネック卿は甲高い声で、「ティッジョのことは心配しなくてもよい。手渡す金で彼は喜んで引退するであろう、特に、この魂をも痛めつけるほどに難しい、ブラック・マーシュ事業の後ではな。君にこそ相応しい挑戦である、敬愛なるデクマスよ」 スコッティは、ヴァネック卿がブラック・マーシュに関する資料を取り出している最中、声は出せなかったが口は弱々しく「嫌」の形をしていた。 「君は、読むのは早いほうであろう」ヴァネック卿は推測でものを言った。「道中で読んでくれたまえ」 「どこへの道中ですか……?」 「ブラック・マーシュに決まっておるではないか」小男がクスクス笑った。「君は面白い男だ。行われている仕事や改善の方法を他のどこへ行って学ぶというのだ?」 次の朝、ほとんど触れられていない書類の山とともに、デクマス・スコッティはブラック・マーシュへと南東に向かって旅立った。ヴァネック卿が、彼の最高の代理人を保護するために、壮健な衛兵を雇っていた。少々無口なメイリックという名のレッドガードである。彼らはニベンに沿って南へと馬を進め、それから彼らはシルバーフィッシュに平行して、川の支流には名前もなく、草木は北帝都地方の上品な庭園からではなくまるで違う世界から来たような、シロディールの荒野へと進んだ。 スコッティの馬はメイリックのそれにつながれていたので、書記は移動しながら書類を読むことができた。進んでいた道に注意を払うことは困難ではあったが、建設会社のブラック・マーシュにおける商取引に関して、最低でも大雑把な知識が必要であることをスコッティは分かっていた。 それはギデオンからシロディールへの街道の状態を改善するために、裕福な貿易商ゼリクレス・ピノス・レヴィーナ卿から初めて数百万の金を受け取った、40年前にさかのぼる書類が詰まった巨大な箱であった。当時、彼が輸入していた米や木の根が帝都に到着するまでには、半分腐って3週間という、途方もないような時間がかかるものだった、ピノス・レヴィーナはすでに亡くなっているが、数十年にわたってペラギウス四世を含む多くの投資家たちが、建設会社を雇っては道を作り、沼の水を抜き、橋を作り、密輸防止策を考案し、傭兵を雇い、簡単に言えば歴史上最大の帝都の思いつく、ブラック・マーシュとの貿易を援助するためのすべての方策を行わせてきた。最新の統計によると、この行為の結果、今は荷物が到着するまでに2ヶ月半かかり、完全に腐っているとのことである。 読みふけった後に周りを見回すと、地形は常に変化していたことにスコッティは気付いた。常に劇的に。常により悪く。 「これがブラックウッドです」と、メイリックはスコッティの無言の問いに答えた。そこは暗く、木が生い茂っていた。デクマス・スコッティは適切な地名であると思った。 本当に聞きたかった質問は、「このひどい臭いは何?」だった。そして、後に聞くことができるのだった。 「沼沢地点です」メイリックは、木と蔓が絡み合い、影の多い通路が空き地へと開ける角を曲がりながら答えた。そこにはヴァネック卿の建設会社、そしてタイバー以降のすべての皇帝が好む、型にはまったインペリアル様式の建物がまとまって建てられており、目もくらみ、腸がねじれるような強烈な汚臭と相まって、突然すべてが劇薬にさえ思えた。至るところを飛び回り、視界をさえぎる深紅色で、砂の粒ほどの虫たちの大群も、その光景を見やすいものにはできなかった。 スコッティとメイリックは、元気いっぱいに飛び回る大群に向かって瞬きを繰り返しながら、近づくにつれ真っ黒な川のふちに建てられていることが判明した一番大きな建物に向けて馬を進めた。その大きさと厳粛な外観から、対岸の茂みへと続く大きな気泡を発する黒い川に架けられた、幅広の白い橋の通行人管理と税徴収の事務所であるとスコッティは推測した。それは光り輝く頑丈そうな橋で、彼の建設会社が架けたものであるとスコッティは知っていた。 スコッティが一度扉を叩いたとき、いらいらした汚らしい役人が扉を開いた。「早く入れ! ニクバエを入れるな!」 「ニクバエ?」デクマス・スコッティは身震いした。「人間の肉を食べると言うことですか?」 「馬鹿みたいに突っ立てれば食われるさ」と、兵士は呆れたように言った。彼には耳が半分しかなく、スコッティは他の兵士たちも見たが、全員いたるところをかまれており、1人は鼻が完全になかった。「それで、何の用だ?」 スコッティは用事を伝え、要塞の中ではなく外に立っていたほうが、より多くの密輸者を捕らえられるであろうと付け足した。 「そんなことより、あの橋を渡ることを気にしたほうがいいぞ」と、あざけるように兵士が言った。「潮が満ちてきている。もし急がなかったら、4日間はブラック・マーシュへ行けないぞ」 そんな馬鹿な。橋が上げ潮に呑まれる、それも川で? 兵士の目が、冗談ではスコッティに伝えていた。 砦から外に出た。ニクバエから拷問されることに嫌気がさした馬は、どうやら止め具を引きちぎり、森の中へと消えたらしい。川の油質の水は既に橋の厚板に達しており、その隙間から滲み出ていた。ブラック・マーシュへ行く前に、4日間の滞在に耐えるのは構わないとスコッティは考え始めていたが、メイリックは既に渡り始めていた。 スコッティは彼の後をあえぎながら追った。彼は昔から壮健ではない。建設会社の資料が入った箱は重かった。途中まで渡ったとき、彼は息をつくために立ち止まった、そして、動けないことに気がついた。足が固定されていたのである。 川を覆う黒い泥には粘着性があり、スコッティが行く厚板の上に泥が打ち寄せたとき、彼の足をしっかりと固定してしまった。彼はうろたえてしまった。スコッティはそのわなから顔を上げ、メイリックが板から板へ飛び移りながら、対岸のアシの草むらへの距離を急速に縮めていくのを見た。 「助けてくれ!」と、スコッティは叫んだ。「動けない!」 メイリックは跳ね続け、振り返りもしなかった。「はい、残念ながら、もはや、お痩せになられるしか、なすすべはありません」 デクマス・スコッティは、自分の体重が数マイル多いことも分かっていたし、食事を減らして運動を増やすつもりでもいたが、減量が現在の苦境から速やかに彼を救ってくれるとは到底思えなかった。ニルンに存在するいかなる減量も、その場では助けにならない。そこで、よく考えてみるとあのレッドガードは、資料の詰まった箱を捨てろと言っていたのだと気がついた。メイリックは既に、それまで持っていた重要な物質を何ひとつ持ってはいなかった。 ため息をつきながら、スコッティは建設会社の記録書類が入っている箱をネバネバした川の中に捨て、厚板が数ミリ、辛うじて自身を泥の束縛から解放するに足るだけ浮き上がるのを感じた。恐怖から湧き上がる敏捷性で、スコッティは板を3枚ずつ飛ばしながら走り、川が彼を捉える前に跳ね上がりながらメイリックの後を追った。 四十六回跳んだところで、デクマス・スコッティはアシの茂みを抜けて、メイリックの後ろの硬い地面に着地し、ブラック・マーシュに到着した。彼のすぐ後ろで、橋と、もう二度と目にすることがない建設会社の重要で、公式な記録書類の詰まった箱が、上昇する汚物の洪水に飲み込まれていく嫌な音が聞こえた。 物語(歴史小説) 茶2 アルゴニアン報告 第2巻 ワーリン・ジャース 著 泥と葦原の中から現れたデクマス・スコッティは走り疲れていた。その顔と腕は赤いニクバエにびっしりと覆われていた。シロディールを振り返ると、厚くどんよりした黒い河の中へと橋が消えていくのが見えた。潮が引くまでの数日間はあそこへ戻れないことを悟った。そのネバつく河の底にはブラック・マーシュに関する報告書が沈んだままであった。こうなった今、ギデオンに連絡を取るにはもはや記憶に頼るしかなかった。 メイリックは葦原の中を強い意志をもって突き進んで行った。無駄と知りつつ、スコッティもニクバエをはたき落としながらあとを追いかけていった。 「私たちはツイてますよ、スコッティ卿」と、レッドガードが言った。スコッティはその言葉に首をかしげながら、男の指す方向へと目を向けた。「キャラバンがおります」 ガタガタの木造車輪をつけ、泥にまみれ錆びついた荷馬車が21台、ぬかるんだ地面に半分車輪を沈ませながらそこにいた。アルゴニアンの一群が他の馬車から離れたところにある1台をひいていた。彼らは灰色の鱗と灰色の目をしており、シロディールではよく見られる寡黙な肉体労働者である。スコッティとメイリックがその馬車へ近づくと、果物というより腐ったゼリーのようになってなんだか分からないほどに傷んだブラックベリーで荷台があふれかえっていた。 彼らはまさにギデオンへと向かう途中だったので、彼らの承諾を得て、スコッティはランベリーを積みおろした後に馬車に乗せてもらえることになった。 「この果物はどれくらい前に摘み取られたのですか?」とスコッティは腐りかけの荷物を見ながら尋ねた。 「収穫の月に獲れたものだよ」とこの荷馬車の長と見られるアルゴニアンが答えた。今が11月だから、畑から運ばれてかれこれ2ヶ月ちょっと経っている。 スコッティは、この輸送は明らかに問題だと思った。その問題点をなくすことこそが、ヴァネック建設会社の代理人を務める自分の仕事だと思った。 日光にあたって余計に傷みつつあるベリーを載せた馬車を脇道へ追いやるのに小一時間かかった。荷馬車同士は前後に連結されていた。キャラバンの先頭を行く荷馬車をひく8頭の馬のうちの1頭が連れてこられ、離れた荷馬車につながれた。労働者たちには覇気がなく、倦怠感が漂っていた。スコッティはこの時間にほかのキャラバンを調べたり、自分と道連れになる旅人と話したりしていた。 荷馬車の内、4台には中に備え付けのシートがあるが、乗り心地はあまりよいものではなかった。他の荷馬車には穀物や食肉、そして野菜などが積み込まれており、程度の差こそあれ、それぞれみな傷んでいた。 旅人はアルゴニアンの労働者が6人、虫にたくさん食われて皮膚がアルゴニアンの鱗のようになってしまった帝都の商人が3人、そしてマントに身をつつんだ3人。マントの3人はフードの影から覗く赤く光る目からすると、明らかにダンマーだった。皆が帝都通商街道に沿って荷を運んでいた。 顎の高さまで伸びる葦が広がる草原を見渡し「これが道なのか?」とスコッティは叫んだ。 「固い地面みたいなもんだ」とフードをかぶったダンマーの1人が答えた。「馬は葦を食べ、我々も時に葦で火をおこすが、抜いたそばからすぐに新しい葦が生えてくる」 ようやく荷馬車長がキャラバンの出発の準備が整ったことを知らせ、スコッティもほかの帝都の人間たちと3番目の荷馬車に乗り込んだ。席を見渡すとメイリックが乗っていないことに気づいた。 「私はブラック・マーシュまでの行き来しか承諾してませんよ」とレッドガードは葦原の中へ石を投げ込み、ひげだらけのニンジンにかぶりつきながら答えた。「ここであなたのお帰りをお待ちしておりますよ」 スコッティは顔をしかめた。メイリックがスコッティを呼びかける際、名前の後に「卿」を付けなかったからだけではない。いまや彼にはブラック・マーシュには誰も知り合いがないことになるのだが、荷馬車はギシギシと音をたてながらゆっくりと前へ進みだしていたので、もはや議論する時間はなかった。 毒をはらんだような風が通商街道を吹き抜け、葦原に奇妙な模様を描いていった。遠くには山のようなものが見えるが、わずかながらに動いているため、それは濃い霧の壁であることがわかった。たくさんの影が風景を横切っていき、スコッティが空を見上げると巨大な鳥が数羽飛んでいた。その剣のようなくちばしは、身体と同じくらいの長さだった。 「ハックウィングだよ」スコッティの左側に座る帝都のケアロ・ジェムラスがぶつぶつ言った。彼はまだ若いようだったが、疲れきって老人のように見えた。「ここはまったくあきれた場所だよ。ぐずぐずしてたらパクッとひと飲みされちまうよ。あの物乞いたちは急降下してきて、あんたに一撃を食らわし、飛び立った頃にはあんたは失血死でおだぶつさ」 スコッティは震え上がった。夜が更けるまでになんとかギデオンに到着できることを祈った。その時彼は、太陽の向きがおかしいことに気づいた。 「失礼だが……」と、スコッティは荷馬車長に聞いた。「ギデオンに向かっているのですよね?」 荷馬車長はうなずいた。 「それならばなぜ北へ向かっているのですか? 我々が向かう方角は南なのでは?」 返事の代わりにため息が返ってきた。 スコッティはほかの旅人もギデオンに向かっていることを確認したが、誰一人としてこのおかしなルートを取ることに疑問を抱いてなかった。荷馬車の固い椅子は、中年の背中や腰には正直こたえたが、キャラバンの動くリズムや葦の揺れに誘われ、スコッティはいつのまにか眠ってしまった。 数時間後、スコッティは暗闇の中目を覚ました。今、自分がどこにいるのかがわからなかった。キャラバンは停車しており、気づけばシートの下の床に横たわっていた。横には小箱がいくつかあった。シーシーカツカツという声が聞こえてきた。彼には何語なのかまったくわからなかったが、誰かの脚の間から何が起こっているのか見えた。 双月の光はキャラバンを囲むこの厚い霧の中ではわずかに差し込む程度であり、声の主が一体誰なのか、今いる位置からはっきりとはわからなかった。どうも荷馬車長がぶつぶつと独り言をいってるかのように見えたが、暗闇の中で動くものはしっとりとした、光り輝く皮膚をしているようだった。一体その生物がどれだけいるのかは検討がつかないが、とにかく大きくて、黒くて、目を凝らすとより細かな部分が見えてきた。 ぬらぬらと光る針のように尖った牙でいっぱいの巨大な口が見え、スコッティは急いでシートの下へとまた滑り込んだ。彼らの黒い眼はスコッティをまだとらえてはいなかった。 スコッティの目の前にあった脚はパタパタと動き出し、そのまま何者かに荷馬車の外へと引きずりだされた。スコッティはさらに奥へと縮こまり、小箱の間で体を小さくした。スコッティはきちんとした身の隠し方というものを心得てはいなかったが、盾を使った経験はあった。なんでもいいから相手との間に障害物があることは感謝すべきことであった。 瞬く間に、目の前にあった脚はすべて消え去り、絶叫が1つ、2つと聞こえてきた。その叫び声は声質も、アクセントも違っていたがその叫びが伝えてくるものは…… 恐怖、苦痛、それも恐ろしい苦痛であった。スコッティは長い間ステンダール神へ祈祷していなかったのを思い出し、この場で祈りをささげた。 静寂が訪れた…… それは不気味なほどの静けさで、数分が数時間、数年にさえも感じられた。 そして荷馬車は再び動き出した。 スコッティは周りに注意を払いながらシートから這い出した。ケアロ・ジェムラスが困惑した表情を向けた。 「やあ、お前さん…… てっきりナガスに食べられちまったかと」 「ナガス?」 「たちの悪いやつらさ」とジェムラスは顔をしかめて言った。「腕と脚のついた大毒蛇さ。怒り狂って立ち上がったときは78フィートほどの高さになる。内陸の沼地から出てくるんだが、ここいらの物はさして好みじゃなさそうだ。だからお前さんのようなお上品な人間は奴らの大好物なんだよ」 スコッティは今のいままで自分が上品だと思ったことは一度もない。泥にまみれ、ニクバエに喰われた彼の服はせいぜい中流階級あたりの格好だ。「なぜ私を狙うのだ?」 「そりゃもちろん奪うためさ」と帝都の男は笑顔で答えた。「あと殺すためだな。お前さん、ほかの者たちがどんな目に遭ったか分からないのか?」男は先ほどの光景を思い出したように、顔をしかめた。「シートの下にある小箱の中身を試してないのか? 砂糖みたいなもんさ。どうだい?」 「いいや」とスコッティは顔をしかめた。 男は安心してうなずいた。「お前さんはちょいとのんびり屋みたいだな。ブラック・マーシュは初めてか? ああ、クソッ! ヒストの小便だ」 スコッティがジェムラスが発したその下品な言葉の意味を聞こうとすると雨が降ってきた。地獄の果てのような悪臭を放つ褐色の雨がキャラバンに降り注いだ。遠くで雷がゴロゴロと鳴っていた。ジェムラスは馬車に屋根をかぶせようとし、スコッティの方へじっと視線を送るので、しかたなくスコッティも手伝いをするはめになった。 この冷たい湿気のせいだけではなく、屋根で覆われていない荷台の作物にさきほどの雨が降りこんでいる光景を見て、スコッティはぞっとした。 「すぐに乾くさ」とジェムラスは笑顔で言い、霧の中を指した。 スコッティはギデオンを訪れたのはこれが初めてだが、どんなところかの大体の予想はしていた。帝都と似たり寄ったりの大きな建物、建築様式、過ごしやすさ、伝統を持っている土地であると。 しかし泥の中に居並ぶあばら家の寄せ集めはまったく違っていた。 「ここは一体どこだ?」とスコッティは当惑して聞いた。 「ヒクシノーグだ」ジェムラスは奇妙なその名前を力強く発音した。「お前さんが正しかったよ。南へ行くべきところを北へ向かっていた」 物語(歴史小説) 茶4 アルゴニアン報告 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティはブラック・マーシュ南部にある徹底的に帝政化された街、ギデオンで、ヴァネック卿の建築委員会およびその顧客を代理して、地域の交易を活性化させる商取引の手はずをあれこれと整えているはずだった。ところが実際には、半分水没した腐りかけのヒクシノーグなる小村にいた。知り合いなどひとりもいなかった。シャエロ・ゲムルスという名の麻薬密売人をのぞけば。 隊商が南ではなく北に向かってしまったのにも、ゲムルスはこれっぽちも動じていなかった。しかも、村人から買い求めたバケツ一杯分のトロードなる歯ざわりのいい小魚をスコッティにも分け与えた。スコッティとしては、火を通してある状態で食したがったが。せめて死んでいたほうが。が、ゲムルスは、トロードという魚は死んでも火を通しても猛毒になるのだとのんきに説明した。 「本当なら今頃は」スコッティは口をとがらせると、のたうちまわっている小さな生物を口の中に放り込んだ。「ローストを食べているだろうに。それからチーズとグラスワインも」 「おれなんか北方でムーンシュガーを売りさばいて、南方で仕入れるけどね」と、ゲムルスは肩をすくめた。「あんたももうちょっと柔軟に考えたほうがいいぜ」 「私の仕事はギデオンにしかない」スコッティは顔をしかめた。 「まあ、いくつかの選択肢はあるぜ」密売人は答えた。「この村に残ってもいいだろうな。アルゴニアの村はたいてい、ひとところにとどまらない。だから、ヒクシノーグがギデオンの門の目の前に流れ着く可能性は大いにある。1、2ヶ月かかるだろうけど、もっとも楽ちんな方法だろうな」 「予定が大幅に遅れてしまうよ」 「なら次の方法だ。もう一度、隊商に乗っけてもらえばいい」と、ゲムルスは言った。「今度こそ正しい方角に向かうだろうし。底なし沼にはまることも、ナーガの追いはぎに皆殺しにされることも、ひょっとしたらないかもしれない」 「気乗りがしないな」スコッティは顔をしかめた。「他の方法は?」 「根っこに乗ればいい。地下超特急さ」ゲムルスはにかっと笑った。「ついてきな」 スコッティはゲムルスについて村を出ると、ひょろ長い苔のベールに覆われた雑木林に入った。ゲムルスは地面から目を離そうとせず、ねばつく泥をつついたりつつかなかったりしていた。ようやく正しい地点をつつくと、てらてらと光る大きな気泡の塊が地表に浮き上がってきた。 「完ぺきっす」と、ゲムルスは言った。「さてと、肝心なのはパニックにならないことだ。超特急は一直線に南へ向かう。冬を越すための移住だな。赤粘土があちこちに見えるようになったら、ギデオンに近いってことだ。とにかくパニックだけは起こすなよ。で、泡の塊が見えたらそれが通気孔だから、そこから外に出るといい」 スコッティはぽかんとしていた。ゲムルスの説明はまるでちんぷんかんぷんだった。「は?」 ゲムルスはスコッティの肩をつかむと、泡の塊のてっぺんに彼を押しやった。「ここに立つんだ」 スコッティはたちまちぬかるみに沈んでいった。恐怖におびえた顔でゲムルスを見つめていた。 「赤粘土が見えるまで待つんだぞ。で、その次に泡が見えたら体を押し上げろ」 脱出しようともがけばもがくほど、スコッティは勢いをつけて沈んでいった。首のあたりまで泥に埋まっていた。あいかわらずゲムルスを見つめたまま、「うぐ」という声にならない不明瞭な音だけを口から発していた。 「それと、消化されちまうんじゃないかってパニックになるなよ。根ミミズの腰の中なら数ヶ月は生きられる」 スコッティは慌てふためいて最後の空気をひと飲みすると、目を閉じ、泥の中に消えていった。 スコッティは予想外の温もりに包まれているのを感じた。目を開けると、半透明のねばねばした物質にすっぽり覆われていた。南に向かって猛スピードで移動しているのがわかった。空を飛ぶように汚泥を突っ切り、複雑に絡み合う根っこの道を軽快に跳びはねながら進んでいった。スコッティは戸惑ってはいたが、恍惚感にもひたっていた。わき目も振らずに見知らぬ暗黒世界を爆走していき、肉厚な触手のような樹木の根をかわしては飛び越えた。闇夜を舞っているような気分だった。沼地の奥深くで地下超特急に乗っているとは思えなかった。 圧倒的な根っこの集合体のほうを少しだけ見上げてみると、何かが身をよじりながら通りすぎた。長さは8フィートほど、腕がなく、足もなく、色もなく、骨もなく、目もなく、ほとんど輪郭もない生物が根っこに乗っていた。その中に、黒っぽい何かがいた。と、ぐっと近づいてきて、スコッティはそれがアルゴニアンの男だとわかった。スコッティは手を振った。すると、体内にアルゴニアンを乗せたそのおぞましいモンスターはいささか速度を落としてから、あらためて前方に猛進していった。 その光景を見るや、ゲムラスの言葉がスコッティの脳内に蘇ってきた。「冬を越すための移住」「通気孔」「消化される」などなど、それらのフレーズが舞を踊っていた。入ろうとしてもはねつけられてしまう脳みその内部にみずからの居場所を見つけようとするように。が、この状況ではそれも仕方のないことだった。生きた魚を食べることに始まって、輸送手段として生きたまま食べられるに至った。スコッティは今、根ミミズの体内にいるのだ。 スコッティは執行の決断を下し、気を失った。 スコッティはだんだんと目覚めていった。女性の温かい腕に抱かれるという美しい夢を見ながら。にやけた顔で目を開けると、一気に現実の居場所に引き戻された。 根ミミズはあいかわらずの猪突猛進ぶりだった。愚直なほど前へ前へと、根っこをなぞるように進んでいたが、もはや闇夜の飛翔という感じはしなかった。そう、早暁の空のようだった。ピンクと赤。スコッティは、赤粘土を見落とすなというゲムラスの言葉を思い出した。ギデオンに近いのだ。手順に従えば、今度は泡を見つけなくてはならない。 泡などどこにも見あたらなかった。根ミミズの体内は今でも温かく快適だったが、スコッティは土の重さを感じるようになっていた。「パニックになるんじゃないぞ」と、ゲムラスは言ったが、アドバイスを聞くことと理解することではまるで次元が異なるのだ。スコッティが身もだえしだすと、内なる圧力が高まるのを感じたのか、モンスターは速度を上げはじめた。 そのときだった。スコッティが頭上を見やると、か細い泡状の螺旋が渦巻いていたのだ。どこかの地下水流からわいてきた気泡が、泥の中をまっすぐに、根っこをくぐって表面まで連なっていた。根ミミズがそこを通過する瞬間に、スコッティは渾身の力で体を押し上げ、モンスターの薄い皮膚を突き破った。気泡が彼の体を勢いよく押し飛ばし、一度もまばたきすることなく、スコッティはぬかるんだ赤い泥から飛び出した。 二人の青白いアルゴニアンが、網を手に、近くの木陰に立っていた。控えめな好奇心でもってスコッティのほうを見ていた。網の中では、ふさふさの毛が生えたネズミに似た生物が数匹、もぞもぞと動いていた。スコッティがこの生物に気をとられていると、もう一匹が木から落っこちた。スコッティはこうした風習に詳しいわけではなかったが、どうやら釣りをしているらしかった。 「あの、ちょっといいですか」と、スコッティはつとめて陽気に言った。「ギデオンのある方角を教えていただけません?」 アルゴニアンはそれぞれ「焚きつけしもの」および「丸めた若葉」と自己紹介すると、質問に戸惑いを浮かべて顔を見合わせていた。 「だれに会う?」丸めた若葉は訊いた。 「たしか名前は……」と、スコッティは言った。とうの昔に紛失したギデオンの連絡先ファイルのページを頭の中でめくりながら。「『右足岩の支配者』?」 焚きつけしものがうなずいた。「5ゴールド、道教える。ずっと東。ギデオン東の大農園。とっても素敵」 この2日間で最高の取引だと考えたスコッティは、焚きつけしものに5ゴールドを手渡した。 アルゴニアンの先導でぬかるんだ一本道を進んでいき、アシの草むらを抜けると、はるか西方に広がるトパル湾の鮮やかなブルーが見えてきた。スコッティは、明るい真紅の花が咲き乱れている外壁に囲まれた壮麗な屋敷を見渡すと、なんてきれいなんだろう、と考えている自分に驚いた。 その街道は、トパル湾から東に向かって勢いよく流れる小川に沿って続いていた。オンコブラ川だとアルゴニアンが教えてくれた。ブラック・マーシュの中心の薄暗い奥地まで流れているという。 ギデオン東部に広がる大農園を柵越しにのぞきながら、スコッティはほとんどの畑地が手入れされていないことに気づいた。収穫期を過ぎた腐った作物がしおれた蔓にいまだにぶらさがっていた。荒れ放題の果樹園に葉の枯れ落ちた樹木。畑地で働くアルゴニアンの農奴は痩せていて、弱っていて、半分死人のようだった。理性的な生命体というよりもさまよう亡霊のようだった。 二時間後、3人はとぼとぼと東へ向かう旅を続けていた。屋敷は少なくとも遠めには立派に見えたし、街道は雑草だらけながらもがっしりとした造りだったが、それでもスコッティは畑地の農奴と農作物の状態にいらいらし、おののいていた。この地域に尽くそうという気持ちは失せていた。「あとどのくらいなんですか?」 丸めた若葉と焚きつけしものはお互いの顔を見合わせた。そんな質問など思いつきもしなかったと言わんばかりに。 「右足岩の支配者、東?」丸めた若葉は考え込んだ。「近い、遠い?」 焚きつけしものは煮え切らない態度で肩をすくめると、スコッティに言った。「あと5ゴールド、道教える。ずっと東。大農園ある。とっても素敵」 「当てずっぽうなんだろう?」スコッティは叫んだ。「どうして最初にそう言わなかったんだ。べつの誰かに訊くこともできたのに!」 前方の曲がり道のあたりからひづめの音が響いてきた。馬が近づいているのだ。 スコッティは音のするほうへ歩いていき、乗り手を止めようとした。焚きつけしものの鉤爪がきらめき、そこから呪文が放たれたことには気づかなかった。か、体ではそれを感じた。氷のキスが背筋をなぞると、腕と脚の筋肉がいきなり硬直して動かなくなった。頑丈な鋼に包まれたようだった。スコッティの体は麻痺していた。 麻痺状態で何よりも悲惨なのは── 不幸にも読者の方はここで知ることになるのだが── 体がまるで反応しなくても目は見えるし、頭もしっかりしているということだ。スコッティの頭を突き抜けた思考は、「ちくしょう」だった。 もちろん、焚きつけしものと丸めた若葉は、ブラック・マーシュのたいていの素朴な日雇い労働者がそうであるように、卓越した幻惑師だった。それに、帝都の友人であるはずもない。 アルゴニアンたちはスコッティを道端に突き飛ばした。馬にまたがった乗り手が角を曲がってきたのだ。 やってきたのは堂々たる貴族だった。その鱗のついた肌とそっくりな色をした、きらびやかな深緑色の外套をまとい、体の一部とつながったようなフリルのついた頭巾をかぶっていた。角のついた冠といった趣だった。 「こんにちは、兄弟!」と、その貴族が二人に向かって言った。 「こんにちは、右足岩の支配者」と、二人は返事をした。それから、丸めた若葉が付け加えた。「今日はいい天気、どんな感じですか?」 「忙しい、忙しいよ」右足岩の支配者は威厳に満ちたため息をついた。「女の農奴のひとりが双子を出産したのだ。双子たぞ! 幸いにも、双子でもかまわんという商人が街におったし、女もさほど面倒をかけることはなかった。それがすんだと思ったら、今度は帝都のまぬけの相手だ。ヴァネック卿の建築委員会の代理人とギデオンで会う約束なのだ。財布の金をばら撒かせるには、仰々しい視察に連れていかなければならんだろうな。まったく面倒をかけてくれるわい」 焚きつけしものと丸めた若葉はさも気の毒そうな顔をしてから、右足岩の支配者が馬で走り去ると、獲物のようすを見にいった。 彼らにとって不運だったのだ、ブラック・マーシュでもタムリエルのその他の地域と変わらないほど重力が働いているということだった。二人の獲物、デクマス・スコッティは、置き捨てられた地点から転がり落ちて、そのときにはもう、オンコブラ川でおぼれかけていた。 物語(歴史小説) 茶2 アルゴニアン報告 第4巻 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティは溺れていて、それ以上何も考えられなかった。アルゴニアンの農夫に受けた麻痺の呪文のせいで手足を動かすことができなかったが、すっかり沈んでしまうこともなかった。白濁したオンコブラ川は大きな岩さえもやすやすと流し去ってしまう勢いで流れていた。スコッティは上下逆さになりながら、あちこちにぶつかり、転がりながらひたすらに流されていった。 彼は自分がもうすぐ死ぬだろうと思ったが、それでもブラック・マーシュへ逆戻りするよりはましだと思った。肺に水が入り込んできたのを感じても、彼はもはやさほど慌てふためくこともなかった。そして冷たい闇が彼を包みこんだ。 。 しばらくして、スコッティは初めて穏やかな気持ちに包まれた。それは聖なる闇であった。しかしすぐに痛みに襲われ、彼は自分が激しく咳こみ、胃や肺に流れ込んだ水を吐き出したのを感じた。 「なんとまあ、生きてるじゃないか!」という声が聞こえた。 スコッティは目を開け、自分を見下ろす顔を見ても、まさかこれが現実とは思えなかった。今だかつて見たことのないアルゴニアンがそこにいた。槍のように細長い顔立ちをしていて、その鱗は太陽のごとくルビーレッド色に光り輝いていた。アルゴニアンは眼をぱちぱちさせながら彼を見たが、そのまばたきは縦に入った切れ目を開け閉めするかのようだった。 「俺たち、別にあんたを取って食いやしないよ」とその生き物は笑ってみせたが、その歯並びからして嘘でもなさそうだとスコッティは思った。 「どうも」とスコッティは弱々しく答えた。スコッティは「俺たち」がだれなのか確認しようと首をゆっくりと動かした。そして自分が今穏やかな川のぬかるんだ浅瀬に横になっていて、さきほどの彼と同じような細長い顔立ちのアルゴニアンに囲まれることを理解した。彼らの鱗は明るい緑色や宝石のような紫、青、そして橙色などまるで虹のようだった。 「教えてくれないか…… ここはどこだ? どこかの近くなのか?」 ルビーレッド色のアルゴニアンが笑った。「どこでもない。お前さんがいるのはあらゆる場所の中心で、同時にどこの近くでもないのだ」 「ああ……」とスコッティは言った。ブラック・マーシュでは「場所」という概念はさほど意味をなさないものであることなのだとわかった。「それであなた方は一体?」 「俺たちはアガセフだ」ルビー色のしたアルゴニアンがこう答えた。「俺の名前はノム」スコッティも自己紹介をした。「私は帝都にあるヴァネック建設会社の事務主任をやっているものだ。通商上の問題を解決するためにここへ来た。しかし、大事なメモはなくすし、会う約束をしていたギデオンのアーチェンとも会えずじまいで……」 「こいつは思いあがった奴隷商の泥棒役員だ」と小柄でレモン色をしたアガセフはとげとげしくつぶやいた。 「でも今は、ただ家に帰りたい」とスコッティは言った。 ノムはいやな客がパーティをあとにするのを喜ぶ主催者のように、長い口をにんまりさせて、「シェフスに案内させよう」と言った。 シェフスと呼ばれた者は、やや小柄で黄色い生き物だったが、この任務にいやそうな顔をした。彼はスコッティを驚くべき力で持ち上げたが、この時スコッティはジェムラスに地下の急流へと続く泥沼の中に放り込まれた時のことを思い出した。しかし今回は、水面に浮かぶ剃刀のように薄いいかだの上へと放り投げられたのだった。 「これが君たちの旅のやりかたかい?」 「俺らは外の仲間が持っているような壊れかけの荷馬車や死にかけの馬は持っていないんだ」シェフスは目をくるくると回しながら答えた。「これよりもいい方法を知らないだけだよ」 そう言ってこのアルゴニアンはいかだの後ろの方に座り、鞭にも似た尻尾をプロペラのように回し、いかだの舵を取った。いかだは何世紀にも渡って腐敗した堆積物がヘドロの塊となって渦巻くなか、ちょっとしたぐらつきで一気に静かな水面で崩れ落ちそうな先の尖った山々や、錆びついてもはや金属で作られたのかどうなのかもわからない橋の下をくぐって進んでいった。 「タムリエルのものがすべてここブラック・マーシュへと流れつくのさ」とシェフスは言った。 いかだが水上を進む間、シェフスはスコッティに、アルゴニアンの種族のうち、アガセフはこの属州の内陸のヒストの近くに住んでおり、外の世界にはまったく興味をしめさないのだと話した。彼らに見つけられたのは運が良かったという。ヒキガエルに似たパートルや翼を持つサルパなどのナガスに捕まれば即座に殺されていただろう。 他にも遭遇を避けるべき生き物はいた。ブラック・マーシュのもっと内陸の方に住む自然の肉食動物たちだ。ゴミ箱に住むこの掃除屋は、生きた獲物に一度喰らいついたらもう二度と離さない。頭上では西の方で見かけたのと同じようなハックウィングが旋回しているのが見えた。 シェフスは静かになっていかだを完全に停止させ、何かを待っていた。 スコッティはシェフスの視線の先を追ったが、特に変わった物陰は見られなかった。しかし、目の前にある緑色のヘドロの塊が、確かに河岸から反対側の河岸へと素早く動いているのに気づいた。それは後ろに小骨を吐き出しながら葦の中に消えていった。 「ボリプラムスだよ」とシェフスは説明し、再びイカダを動かし始めた。「つまるところ、あんたなんか一瞬にして骨にされちまうってことだ」 スコッティはこの光景と悪臭から早く逃げ出したい衝動にかられたが、この語彙の豊富なシェフスと過ごすのは悪くないと思った。お互いの文明の差を考えると実に興味深いことであった。東に住むアルゴニアンは実際、しゃべりが達者だった。 「20年前、彼らはウンホロにマーラ神殿を建てようとしたんだ」シェフスが説明した。スコッティは前になくしてしまったファイルで読んだことがあったのを思い出して、それにうなずいた。「最初のひと月で、沼の腐り病のせいで跡形もなく消えてしまったけど、非常に面白い書物を残してくれた」 スコッティがそれについて詳しく聞こうとしたその時、巨大で、恐ろしいものを見つけ、身体が凍り付いてしまった。 前方に見えたのは、その姿を水に半分沈めた針の山で、9フィートもある長い鉤爪がついていた。もはや何も見えない白目で前方を見つめていたが、その怪物は突如グラグラと揺れ出し、突き出した顎からは血の塊のついた牙が見えた。 「沼の巨獣だ」とシェフスは感心したように口笛を吹いた。「とーっても危険な奴だ」 スコッティはぐっと息を飲みこみ、アガセフはなぜこうも落ち着いていられるのか、なぜ危険な怪物に向かっていかだを漕ぐのか不思議に思った。 「世界中のあらゆる生き物の中で、特にネズミは最高に悪いやつだよ」とシェフスが言ったのを聞いて、スコッティはこの巨大な怪物がただの抜け殻であることにようやく気づいた。動いてるように見えたのは何百匹ものネズミがその抜け殻に入り込み、内側から中身を食べつくし、皮膚に穴をあけて這い出ていたからだ。 「本当にそうだな……」とスコッティは言い、泥沼の深くへと沈んでいったブラック・マーシュに関するファイルへのことを考え、過去40年に渡るブラック・マーシュでの帝都が成し得た業績に思いを馳せた。 2人はブラック・マーシュの中心地を抜けて西の方へと進み続けた。 シェフスは広大で複雑なコスリンギーの遺跡、シダや花の咲きほこる野原、青苔の天蓋に覆われた小川などを見せてくれた。ヒストの木々で生い茂る大きな森はスコッティのこれまでの人生の中でもっとも驚くべき光景であった。彼らは道中まったく生き物に出会わなかったが、スラフ・ポイントのちょうど東に当たる帝都通商街道の端に到着すると、スコッティのレッドガードガイド、マリックが辛抱強く待っていた。 スコッティが「あと2分待とうか」と言うと、レッドガードは彼をキッとにらみつけ、手にしていた食べ物の残りを足元の残飯の山に捨て、「結構です」と言った。 デクマス・スコッティが帝都に着いた時には太陽は光かがやき、朝露に反射して、建物を光らせていた。それはまるで彼の到着に合わせて磨き上げられたかのようであった。スコッティはこの街の美しさ、また物乞いがほとんどいないことに驚いた。 ヴァネック建設会社の長大な建物はこれまで通りであったが、どこかエキゾチックというか奇妙なものに見えた。建物は泥に覆われていなかった。中の人々は本当に、普通に働いていた。 ヴァネック卿はややずんぐりとした体型で斜視であったが、清潔感が漂う男であり、泥にまみれ皮膚病に冒されるなどとは程遠く、また堕落した人間にも見えなかった。スコッティは初めて彼を見た時、じっと見つめずにはいれらなかった。ヴァネックもスコッティを真っ直ぐに見返した。 「なんてひどい姿だ」と小柄な卿は顔をしかめた。「ブラック・マーシュから馬に引きずられながら来たのか? 今すぐ家に帰って着替えてくるように…… と言いたいところだが、君に会うため大勢の人が待っている。まずはそっちを片付けてくれないか」 彼の言葉は誇張ではなかった。シロディールに住む20人ほどの時の権力者たちが彼の帰りを待ちわびていたのだ。スコッティはヴァネック卿の部屋よりもさらに大きな事務室をあてがわれ、それぞれの客人たちに会った。 最初の客は、騒ぎ立てながら金を積み上げた5人の貿易商たちであった。彼らはスコッティが通商路をいかに改善するつもりなのか教えろと要求した。スコッティは主要道路やキャラバンの状況、沈みゆく橋、そして辺境の地と市場間に横たわるあらゆる問題点をざっと報告した。すべてを取り換え、修理する必要があることを説明すると彼らはその費用の全額を置いていった。 それから3ヶ月のうちにスラフ・ポイントにかけた橋は泥沼の中へと沈み落ち、キャラバンは衰退し崩壊した。ギデオンからのびる主要道路は完全に汚水に飲みこまれてしまった。アルゴニアンは再び昔のやり方、つまり一人乗りのいかだと、時々は地下急流を使って穀物を少量ずつ運搬するようになった。シロディールまでの時間は以前の三分の一、二週間に短縮され、荷物は痛まなくなった。 次の客はマーラの大司教であった。心の優しい大司教は、アルゴニアの母親たちが自分の子供を奴隷商に売り飛ばす噂を恐ろしく思っており、それが事実かどうかを聞いた。 「残念ながら事実です」と、スコッティは答えた。大司教はセプティム貨を渡し、そこで暮らす人々の苦痛を和らげるようこのお金で食料を買い与え、子供たちが自分の身を助ける術を学べるように学校を建ててほしいと言った。 それから5ヶ月のうちに、ウンホロの荒廃したマーラ神殿から最後の本が盗み去られた。アルケインが破産したので、奴隷だった子供たちは親元へと帰り、小さな農園の手伝いをするようになった。僻地に住むアルゴニアンは自分たち民族が熱心に働けば家族を養うことなど簡単であるとわかり、やがて奴隷の買い手市場の勢いも急速に衰えていった。 ブラック・マーシュの北方で高まる犯罪率を懸念しているツスリーキス大使は、彼のような多くのアルゴニアン亡命者が行った貢献について説明した。そしてスラフ・ポイントの国境に配置させる帝都衛兵の増員、主要道路沿いに一定間隔に取り付ける魔法光源のランタンの増設や詰め所、学校の増設など、若きアルゴニアンを犯罪の道へ走らせない設備への投資を要求した。 それから6ヵ月後には、ナガスが道を漂うこともなく、キャラバンが物盗りに出くわすこともなくなった。盗賊たちはより内陸へと移動し、愛すべき腐敗と悪疫に囲まれたそこでの暮らしを思いのほか気に入った。大使は犯罪率の低下を非常に喜び、スコッティにこれからもいい仕事を続けてほしいとさらに金も渡していった。 ブラック・マーシュでは今も昔も、大規模で利益を生むような農場経営を維持することはできなかった。しかしアルゴニアンやタムリエルに住む人々は、ブラック・マーシュのこの地で必要な分だけを作る自給自足の生活を営むことができた。それは決して悪いことではない。望みがあるな、とスコッティは思った。 スコッティはさまざまな問題を同じように解決した。報酬の1割は会社に渡り、要求したわけではないが残りはスコッティの懐へと入っていった。 一年のうちにスコッティは多額の金を手にし、優雅な隠居生活を送れるほどになった。同様に、ブラック・マーシュは過去40年のうちで最も栄えた。 物語(歴史小説) 茶2