約 3,371,782 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4792.html
「ねえ、ちょっと」 くいっと俺の服が引かれ、 「なによ、あれ。何であんたがあそこに居るの? ここは何処なのよ?」 中学ハルヒは現状況の雰囲気だけは察知しているのか、息を潜めて俺に尋ねてきた。 「ここは……その、なんだ。北校の校門前で、あれは過去の俺だよ」 「過去のあんたは何してんの? あそこで、この長門って人に話しかけてるみたいだけど」 ん……それについては話してる暇が無さそうだな。と考えた俺は、 「とにかく……そろそろ事態は動き出すから、もう少し見守っててくれ」 「でもさ、あたしは何をやればいいの? 見てるだけ?」 ……どうだろう。朝比奈さんは何か知っているだろうか。 「あたしも、その、詳しくは聞いていません。知っているとすれば……」 と言いながら、自分の未来である女性の後姿に不安そうな視線を向けた。 「それと……」朝比奈さんは視線を落として、「……すみません。キョンくんに、何度もこんな場面を見せることになってしまって。そして、それを止めることが出来ないあたしも――」 確かに何度も見たい映像じゃないが、それを言うなら朝比奈さんこそ気の毒だ。単純に考えて俺の倍はこの場面に立ち会わなければならないのだから。 「あ、」 これは誰の声だか分からないが、ここにいる長門のではない。俺かハルヒか、朝比奈さんか。何故この声が漏れ出したのかと言えば、答えは簡単だ。 ――刺された。目の前の『俺』が、朝倉に。 「――キョンくん!」 朝比奈さんが慌てて走り出すと、すぐさま見えない壁にぶつかり「あ……!」っと前回と同じ行動を繰り返した。 「長門さん!」 朝比奈さんのセリフを合図に、俺も走り出す。 ……が、俺の足はすぐさま停止した。 「な……?」 ――長門が展開しているフィールドが、解除されていない。 「ちょっと……。あの女の人、あんたを――」 驚愕の色を隠せないハルヒが、こぼすように呟く。そして校門の前では、朝倉が倒れている『俺』に向かって何かを話している。何か、とは言うものの、その内容を俺は知っているのだが。 「えっ……長門さん!? 何してるんですか! 早くしないと……キョンくんが!」 こうしている間にも朝倉は『俺』へと近づき、ナイフを『俺』に突き立てんとしている。 と、そのとき。沈黙を貫き通していた長門が疾走し、朝倉のナイフを掴みにかかった。 「朝比奈さん! 俺たちも行きましょう!」 残されて呆気に取られている朝比奈さんに呼びかけ俺たちも駆け出し、数瞬遅れの俺たちが現場で見たものは、すんでの位置で朝倉のナイフを素手でホールドした長門の姿であり、朝倉は急に伸びてきた手に戦慄を走らせた後、 「誰!?」 と吃驚し、付近で腰を抜かしている眼鏡の長門はこの光景を目の当たりにすると、 「あ……?」 疑問符付きの小声を出した。その間に朝比奈さん(大、小)は刺された『俺』へとすがりついて、朦朧としている『俺』に話掛けている。この光景……朝比奈さん(大)が言っていたように、刺された俺が見ていたものそのままだ。こうして客観的に見ると、体験したときよりも事の流れが速いように思う。やはり、人は死が近づくと時間を長く感じるのだろうか。 「なぜ!? あなたは……!? どうして……」 と朝倉が叫んだところで、二人の朝比奈さんは、俺の記憶する言葉を『俺』に言い放っていた。 ……そして現在の俺は、この時の朝倉の言葉に続きがあったのを知ることとなる。 「そんな状態に、なっているの……?」 この言葉は朝比奈さんたちの言葉にかき消されて、刺された瞬間の俺には聞こえなかったのだろう。 俺は倒れている『俺』の側に転がる長門銃を拾い上げ、自分に向かって、 「すまねえな。わけあって助けることはできなかったんだ。(分岐点を作るために必要だったとよ)だが気にするな。俺も痛かったさ。(見ているだけで思い出せるね)まあ、後のことは俺たちが何とかする。(ハルヒだっている)いや、どうにかなることはもう分かっているんだ。(この問題を解決したから、あの三日間が生まれているらしい)」 そして俺の姿を死にそうになりながら確認しようとしている『俺』に、 「お前にもすぐ解る。今は寝てろ」 そうして『俺』は死の眠りにつくかのように気絶した。 ……俺の台詞は、思い出しながら復唱しておくまでもなくすらすらと出てきていた。やはり現在の俺の行動が、この日の基点になっているのだろう。 「ひょっとして、死んじゃったの?」 背後からハルヒの声がした。死んでるっぽいが、この俺は幽霊でも何でもないということから、こいつはまだ生きてると断言できるな。 「キョンくん! しっかり……!」 朝比奈さん(小)が『俺』を揺らし、三途の川の橋渡しをしようとしている。だから、あんまり揺らすと死んじゃいますよ? さて。これから俺は、朝倉が消えて世界が修正された前回とは違った結末を迎えなければならない。あの三日間に繋がるようにしなければならないのなら、長門銃――再修正プログラムは使わないのだろうか。 俺は朝倉と長門の姿を確認する。長門が掴んでいる朝倉のナイフはきらめくことなくズルリと抜け出し、朝倉は後方へと飛び退いた。長門はしゃがみ込むと『俺』の傷口に触れ、おそらく治療であろう行為を行った。そして朝倉の方へとにじり寄り、一定の間合いを保って得も知れぬ緊迫感の飛び交う拮抗状態を作り出す。倒れ込む『俺』は上半身を朝比奈さん(大)の膝の上に抱えられ、永眠に似た安眠を惰眠の如く貪っている。変わってもらいたいが、今は朝比奈さんの母性に甘えている場合じゃない。 朝倉、と呼びかけようとしたときだった。 「あんたたち、長門さんに何したのよ……」 愕然とした面持ちを下げた朝倉が、虚ろな長門を瞳に据えたまま言い放った。 「わたし……? なぜ……? どうし……て……」 眼鏡の長門はへたり込んだまま、この混迷した状況を把握出来ずに当惑している。朝倉はその長門の姿を確認すると、激情によりわなないていた蒼髪にフッと冷静さを戻し、 「……そっか。もう関係ないのよね。そこの長門さんがどうなっていたとしても。あなたが、長門さんなのだから」 関係ないわけがない。今の長門は長門であって長門じゃないが、そこの眼鏡姿の長門も……長門じゃないんだよ。 長門銃を片手に歩を進めた俺が朝倉に向かって話すと、血の付いたアーミーナイフを持ったそいつは秀麗な笑顔を作りながら、 「この子が長門さんなの」 すっと横へ歩き出す。俺の長門は右足を半歩前に出して距離を詰めようとするが、朝倉はそんな所作を気にもかけない。 「じゃあ聞くけど、あなたの言う長門さんって何? ここにいる、長門さんが望んだ姿の彼女が長門さんじゃないなんて、何を根拠にそう言えるのかしら」 「……長門が自分を作り変えた、ってのが根拠だろう」 俺は続ける。 「俺たちと一緒に過ごしてきた長門が長門だ。そして長門はさっき、そんな今までを消し去って別の長門に変わっちまったんだ。だから……ここにいる長門は、長門じゃない」 言いながら、不安そうな顔を眼鏡の下に貼り付けている長門を見て申しわけなく思っていると、 「どうして?」 朝倉は笑顔を崩さないまま、 「長門さんが望んだ自分の姿である彼女こそが、本当の長門さんじゃないの? あなたがこの長門さんを否定するのは、つまり長門さんの願望を押さえつけているのと変わらないわ」 「違う。人が変わるときってのはもっと別にある。こんな方法じゃありえない。これじゃ、何も変わってないのと一緒だ」 朝倉は一瞬呆けた顔を浮かべたが、すぐにまた余裕のある笑顔へと戻し、 「どういうことかしら」 俺は怯えている眼鏡の長門を一瞥し、朝倉に視線を戻すと、 「……俺はこの日があったから、自分の気持ちに気付いて変わることが出来た。それは俺が一人で過ごしていたら、気付かなかったことだと思う。人が変われるのは、そいつの側に人が居て、そして自分を自分で受け入れることが出来たときなんだ。自分を無理に変えちまうってのは間違いで、変わりたいなら、まずは自分のことを知らなけりゃならないんだ」 「自分のことって?」と聞く朝倉に、 「長門の場合はエラーだのバグだのと言っている部分がそうだな。それはこいつの感情なんだよ。その正体に自分で気付けなかったから、そして、俺もその大きさに気付かなかったから……長門は、世界を変えちまったんだよ」 ふふ――。朝倉は不意にくすぐられたかのような笑いを出し、その姿を見て疑問符を浮かべている俺に整然と、 「それは間違い。感情? そんなの、長門さんは持っていないのよ。長門さんが何を思ってこの姿に自分を変えたのか、あなたに分かる?」 う……。猛烈に否定したいことを言っているが、後半の部分には閉口せざるを得ない。……それを、俺はコイツに尋ねに来たんだ。朝倉は少し顔をしかめている俺に優しく諭すように、 「長門さんが今日の行動を止められなかったのには理由がある。それは、起こす理由があったから。だから彼女は世界を改変したの。その理由っていうのは単純。長門さんは人間になってみたかったのよ。でもそれは彼女の望みを叶えるためのもので、長門さんの望みは他にあるの」 朝倉は俺の長門のほうへと体を向け、俺のことなどまるで見向きもしないように、 「長門さんはね、『心』が欲しかったの。どうしてそんなものを彼女が欲しがったのかといえば……それは、あなたたちが原因」 立ちつくす俺や、大人の朝比奈さんをくるっと見回して、 「クリスマスなんていう記念日に浮かれるあなたたちを見て、長門さんは思った。わたしは、彼らのようにその日を楽しめるのだろうか、今、わたしは楽しいのだろうか。なんてことをね。そしてクリスマスという日の持つ意味が、長門さんを世界の改変へと走らせた」 「クリスマスの……意味だって?」 俺が言葉を出すと朝倉は穏やかに、 「人にとってクリスマスは、神様が人間の子として生まれ出たことを祝うとされている日。この国では、サンタクロースがプレゼントを与えてくれる日でもある。そこで長門さんは思ったの」 不意に朝倉の双眸は俺へと向けられ、俺の瞳を見つめながら……こう呟いた。 『わたしは……『心』が欲しい。その心というものが有機的な活動によって与えられるのならば、わたしは……人間になりたい』 長門の『望み』らしい言葉を言い終えると、軽い溜息を吐くように肩の力を抜き、 「だけどね、『人』になりたいと願った人外の存在が辿る顛末っていうのは、大抵相場が決まっているものなのよ。そして長門さんもその例に漏れなかった。つまり……」 一瞬。朝倉の姿が消失し、次に眼鏡の長門の背後へとふわりと登場したかと思えば、座り込んでいる長門の首元に両腕をまわし、後から抱きついた格好のまま、 「この子のように夢が叶い人間になるか……あなたが連れてきたそこの人形のように、壊れちゃうってこと」 「……ぐ」 それは違う――と言いたいところだが、異議となる言葉が出てこない。 ――くそ、なんて皮肉だ。そういう系統の物語のオチは確かにそういった末路を辿ることが多い。だが、どっちの結末を取ったとしても、長門にとっては―― 「わ……たし……? なんのこと……」 ふるふると小刻みに震える手を自分にからむ朝倉の両手に添え、背後へと向き返す眼鏡の長門。朝倉は長門の頬をスッと撫でつけ、 「あなたは、人の『感情』に魅せられてしまったのね。だけど人間の世界は、優しいあなたが生きるのには適していない。でも安心して? あなたはわたしが守ってあげる。願いを聞いてくれるサンタクロースなんてものがいない代わりに、わたしが長門さんの願いを叶えてあげるから」 「……どういうことだ」 朝倉は軽く目を閉じるとスッと立ち上がり、 「長門さんが欲しいと願う『感情』っていうものは、有機生命体がその脆い身体を守るために、進化の過程で形成されてきたプログラムだと思念体は捉えてる。自分にとって有益なものを選び、害をなすものは忌避するといった行動を取らせるためのね。一言でいえば、『死』を回避するプログラムってところなのかな。情報生命体である思念体には死の概念がないから、わたしたちはそんなものを持っていなかった」 眼鏡の長門を哀愁の目で見下ろしながらそう話すと、俺へと視線を戻し「そしてね、」と続けて、 「長門さん以外のわたしたちインターフェイスは、人類との相互理解の方策を打ち立てるために、涼宮ハルヒの能力発現から間もなく人間社会に溶け込んだの。そこでわたしは色んなものを知ったわ。人間の性質の特異性や、他の有機生命体との相違点。それらの情報を多様に組み上げながら、わたしは人間という存在に対応していった。そして長門さんは、それらがないままに涼宮ハルヒやあなたたちへと接触してしまったの。本来なら観察の役割しか持たなかった彼女が、あなたたちに触れられてエラーを起こすようになった。――そして今日、長門さんは世界を改変するに至ったの。それは自分の身の上に不満を持っているようなあんたに、元の世界がいいか、この長門さんが人間として生きる……あんたにとっての常識的な世界が良いかを選ばせるためでもあり、人間になった自分をあんたに見てもらうためでもあった。そしてあんたは、元の世界を選んだのよね」 「……ああ。その判断は間違っちゃいなかったと思うぜ。ただ、長門の望みを聞いてやれなかったのは最低だった。だから俺は長門のために、またここにやってきたんだ」 そう。と朝倉は興味がなさそうに言い、 「わたしは長門さんのために、彼女が人間に抱いた幻想を……現実のものにしてあげるわ。彼女を脅かす人間を消去して、この人間になった長門さんが笑顔で生きていけるための世界を作るつもり。それが、あたしから長門さんへの――」 ……恐らく朝倉はこの後、クリスマスプレゼント、と続けるつもりだったのだろうが、他のヤツが言葉をはさんだおかげで言うことが出来なかった。どんな台詞が飛んできたかといえば、 「バッカみたい」 これを言ったのはもちろんハルヒだ。ハルヒは自分より年上であるはずの女に向かって、 「あんた賢そうな顔してるけど、てんで分かっちゃいないわ。あたし思うんだけど、機械や人形や動物なんかが人間になりたいっていうとき、なんで自分の体を人間にするために行動するの? そりゃあ体も精神に影響するんだろうけどさ、心の結びつきを考えると、人か動物かなんていう違いってのは男か女かって程度の意味しかないはずなのよ。だからあたしは、動物が人間になりたがるのはとても動物的だと思うけど、逆にね、それが自分自身をちゃんと理解して、自分らしく人間と接している姿には、たとえそいつが何であろうと、あたしはそれにひどく人間味を感じるの。大事なのは中身なのよ。人間の体してたって人間じゃないような奴なんて沢山いる。結局体なんてね、自分という存在の入れ物にしか過ぎないってこと。この長門って人が宇宙人なら、それをネタにして人間と笑い話でもしてればいいじゃない。宇宙人だってのが気になるっていうんなら、相手はそんなの気にすることないって教えてあげればいい。宇宙人だろうが人間だろうが、その人たちの本質的な関係には何の意味もないんだから。それに……」 少し朝倉の姿を視認するような間を空け、確認が終わると、 「あんたも宇宙人なんでしょ? じゃあ、この長門って人も『心』を持てるはずよ。だって、あんたはこの人が心配で、この人のために動いてるじゃない。それって、『心』がないと出来ないことだから。あんたが『心』を持っているんなら、この人も……」 ――と、今度は朝倉がハルヒの言葉の終わらぬうちに、 「そうね。確かにわたしには『心』があるのかもしれない。でもね、あなたが正しいのはそれだけ。他は間違ってるわ」 ハルヒは片方の眉をピクリと吊り上げ、朝倉は不敵な笑みで、 「知ってる? 有機生命体独自の『心』っていうシステムの中でも、人間のそれは特殊なの。一言で言うなら、ウイルスと同じ。わたしに『心』が生まれたのは、人間同士のネットワークに繋がったことによって『心』が伝染したからに他ならないわ。そして長門さんは優秀な端末であるがために、そんなウイルスじみた『心』なんてものを持たなくて済んでいるの。長門さんが人の心を持ちたいのなら、人間になるしかないのよ。そして人間の『心』から生まれる感情の喜怒哀楽っていうのはね、人が社会に組み込まれたときを境に変質しちゃうの。それがどういうことなのか……わたしが教えてあげる」 朝倉はナイフをくるくる回し、その自分の手元に目線をやったまま、 「――人間は、何も知らない子供の頃には自分の周りがとても輝いて見える。世の中は何て素晴しいんだろうって、自分の周囲と人の綺麗な部分しか見えていない人間は思いさえするわ。だけど人が世界を知ったとき、自分という絶対的な存在が、人間社会の中で相対的なものへと変容したときに……その人が見ている世界は一変するの」 ハルヒは一瞬身じろぎし、苦い顔を呈した。そんなハルヒの姿を見て……俺はいつかのハルヒの野球観戦の話と、それに伴うハルヒの憂鬱な表情を想起した。 朝倉はチャッとナイフの柄を掴むと、 「他人の幸せと自分の幸せを見比べて、やがて、自分の幸せはとてもちっぽけなものだと感じるようになる。そして妬む。自分の存在や取り巻くものに不満を覚え、何故自分は……といった怒りを表すようになるのよ。そしてそんな自分を哀れみ、悲しみの中に身をおく。そして最後には……世界が、自分にとって全く楽しいものではなくなってしまうの。……そうね、涼宮ハルヒ。これをもとに、わたしがあなたの未来を予言してみようか」 シュッ、と血のついたナイフの切っ先をハルヒに向けて、 「世界に憂鬱を覚えたあなたは溜息をつくかわりに、そんな退屈な日常を変えるため、消失してしまった喜びを探すために暴走を始める。そしていつまでたっても何処まで走っても『それ』がみつからないことにあなたは次第に動揺を覚え始め、それが誰かの陰謀であることにも気付くことなく、行き場のない感情を抑えきれなくなって憤慨するの。それでもあなたは走り続ける。だけど、それは逃げるという行動に変わって、やがて分裂した道、二つの行き先へと辿り着くことになる。フフ。残念ながら、あなたがそれからどっちへ行くのかは解らないわ。だってさ……」 朝倉はナイフの背を肩にトントンと当てながら……冷めた声で、こう言い放った。 「――着いた先が天国か地獄かなんて、死んでみなければ分からないのだから」 ……ハルヒは面食らったように声を出さず、そのまま、一向に二の句を継げずにいた。そんなハルヒを見て俺は、何も言い返せない自分が……腹立たしかった。 俺とハルヒが押し黙っている――そのときだった。 「――違いますっ!」 この目一杯の否定の意味を込めた声を、俺は聞いたことがある。それは喫茶店で藤原の話を聞いていたときに、俺の朝比奈さんが放った言葉だ。つまり静まり返った俺たちのなかで、この渾身の否定句を飛ばしたのは朝比奈さん(小)だった。 「……あら、小さい未来人もいたの? 何が違うのかしら。教えて欲しいところね」 そういえば、朝比奈さん(小)の姿は朝倉には見えてないのか。俺から見える小さな朝比奈さんは視線を地面に落とし、 「……人は、やがて死にます。だけど涼宮さんは、それを逃げ道になんて絶対にしません! だって……」 そして朝倉を意気のこもった目で見据え……、 「涼宮さんの未来には、キョンくん……そして、SOS団のみんなが待っているから!」 ……どうやら、こちらの預言者の方が一枚上手だったようだな。気持ちいい位にナイスな啖呵だ。さぞかし朝倉も表情を歪ませて――、 と思ったがしかし、当の朝倉は呆れ返ったような風体で、 「何言ってるのよ。その涼宮ハルヒの作ったSOS団こそが現実逃避の最たるものじゃない。あの涼宮ハルヒもやがて気付くわ。自分の行動の虚しさに、そして自分が……いつも独りだったってことにね。その事実を知って驚愕することになるのは、自分勝手な彼女が受ける当然の報いよ」 朝倉は視認できない朝比奈さん(小)の代わりに大人の朝比奈さんを見つめ、 「あなたにとって涼宮ハルヒはどんな存在なの? あなたの未来は、彼女をいいように利用しているだけじゃない。情報統合思念体はね、彼女を進化の可能性の一つとしか捉えていないわ。そして機関とかいう人間たちも、常に他者の前では仮面をかぶり、自らを晒そうとはしない。涼宮ハルヒに限らず、それぞれが結局は自分のため、己のエゴによって行動しているのに過ぎないの。SOS団とかいう集団こそ、涼宮ハルヒを独りにしている原因なんじゃないかしら」 俺の朝比奈さんまでもグッと言葉をなくし、俺は目を細め、ハルヒは朝倉をキッとにらみつけ、長門は虚ろな瞳、朝比奈さんは震える眼で……目前で嗤う女の姿を捉えていた。朝倉は血みどろのナイフをスッと降ろすと、 「でも安心して。それは人として当然の動きなのだから。フフ。わたしが見てきた人間の正体を教えてあげよっか」 誰も答えることなど出来ずにいると、もとより返事など求めていなかったように朝倉は喋り出し、 「……他者と交わることによって歪んでしまった人間の感情はね、自分の中だけに向けられているときはまだいいの。だけど、それが他者に向けられたとき、人は自身の向上を忘れ、他人の評価を下げることによって自らを成立させようとする。人の失脚や誤ちに幸福を感じ、自分と違うもの、自分より優れたものを排除しようとする。人が他人のために悲しむのもね、結局は自分に不利益があるからなのよ。そして人は自身が楽をするために同じ人間である他人を利用し、その利益を搾取する。そんな『他』との関わり合いこそ、人間がここまで進化してきた理由」 このとき既に笑顔は消え、愛想をつかした者を見るような卑下した目線で……朝倉は語り出した。 「情報統合思念体は涼宮ハルヒという人間に進化の可能性を感じたのだけど、それは間違いだった。だって現状の人間の進化なんてさ、さっきわたしが言ったように、優秀な存在を残すはずの『淘汰』という現象が、現存するものを食いつぶすだけの行為に変わってしまったものなのだから。つまり、既に人間の進化も頭打ちなのよ。後は、自分たちが堕ちていくことに気付かぬまま身内同士潰しあっていくだけ。それに涼宮ハルヒの情報創造能力だって、現実を認めることが出来ない駄々っ子が創出した……とても幼稚な力。その程度の存在でしかない涼宮ハルヒになんて、情報統合思念体を進化たらしめるヒントなんてあるわけない。いえ、最初から思念体には、自律進化の閉塞状況を打破する方法なんてなかったんだわ。意思統一が不完全な情報生命体の集合であるわたしたち……いえ、彼等には、人間と同じように滅びの道しか残されていなかったの。それを考えてもね、長門さんが世界を作り変えたのは正解だった。元の矛盾だらけの偽りの世界より、長門さんの修正した世界のほうがずっと真実に近いから。でも、真実は常に正しい者に寛容というわけではないのも確か。むしろ、正しい行いをする者こそ馬鹿を見るような世の中なのよ。わたしは長門さんの世界から……そういった、人を笑いながら踏みにじるようなヤツを排除する。この世の悲しみを全部消せば、みんながみんな笑える世界になるはずなの。ねえ、あんたもそうだと思わない? だから、それは必要ないの」 朝倉はそう言うと片手を空にかざし――空気を、掴み取るとるような動作を始めた。 ……待て。これは……、長門が世界を変えたときの――。 「――まさか、そんな……」 小さい朝比奈さんが凍りつく。そして俺の手に握られていた長門銃は微小な光の粒へと姿を変えサラサラと消失していき、現在俺たちが置かれている状況を不穏に示唆していた。 ――まるっきり頭になかった。この世界も時間平面で出来ているなら、ハルヒの情報創造能力もどこかに存在するはずなんだ。 そしてその能力は、ハルヒにも、長門にも備わっていない。とすると、その能力の行き先は…………朝倉。あいつに……。 つまり朝倉は、ハルヒの能力でこの長門が作り変えた世界をさらに改竄するつもりだったんだ。この世界から悪人を消す――気の弱い眼鏡の長門が、他の奴らから傷つけられないために。 「フフ。何といっても、やっぱりこの能力には驚かされるな。その長門さんがまるで障害じゃないもの」 朝倉は勝ちを確信したような声調で、 「そこの『人形』の情報統合思念体との接続と、端末が有する情報操作能力もキャンセルさせて貰ったわ。つまり、もうあなたたちに切り札は残されていない。……わたしは今から、この情報創造能力で世界を整理する。誰もがみな平等で、孤独など存在しない世の中を作るために。わたしは長門さんのためにこれを行うのだけど、あんたらにとっても欣快にすべきことなのよ? 一人では決して生きていけない人間が、他者を食い物にすることなく歩んでいけるようになるのだから。それこそが人と人との繋がり方で、最も正しい――」 「――違う!」 俺の叫びに、朝倉は虚をつかれたように笑みを消した。 「……自分にとって要らないもんを消し去って、都合のいい世界を作るなんてのは絶対に間違ってる。それで良いわけがないんだ!」 当たり前だ。自分のエゴを人に押し付けるヤツは最低だが、そいつを消すなんてのも個人のエゴによる行動でしかない。例えそんな風に平和な世界を作ったとして……長門が、本気で笑顔になれるはずもない。誰だってそうだ。何故ならな、それこそ偽りの、嘘で塗り固められた土台に立つ、虚しいだけの世界でしかないからだ。 「じゃあ、」朝倉は冷ややかな視線で、「あんたは人間の関係をどう思ってるの? 弱者が強者に蹂躙されるのは仕方のないこと? 隙のある奴が悪くて、それを付けねらうのは当然? 小さい輪のなかで互いに傷を舐めあい、意味のない肯定を交わすのが弱者の生き方? あのね、人は誰しも心に壁を作っているのよ。それは、他者の侵入を許さないため。脆い自分を守るため。口ではどんなに仲間意識を語ってもね、絶対的に人間は孤独なの。だからわたしは、人が壁を作らなくてもいい世界を創造する。心の侵犯者を排除すれば、心に壁なんて必要なくなるわ。だって、世界に自分を傷つける者などいないのだから。そうなれば、みんな自分から外へと歩きだす。そして健やかな心を持つ人間がこの世界を調律していくのよ。歪んだ人間の感情なんて自身の進化においてはじゃまっけなノイズでしかない。自律進化を阻害する粗悪な遮蔽物でしかないの」 「……確かに、歪んじまった人間はいるさ。けどな、そんな奴らのために、歪んだ心を直すために、人は一人じゃないんだ」 俺は朝倉の整った顔に苛立ちを見出したが、構わず、 「足を引っ張り合うだけが人間じゃない。人が人と寄り添うのは、感情が後ろ向きになっていること、進むのをやめちまって立ち止まってることをそいつに気付かせるため、そして自分が気付くためなんだ! そうやって前を向き合って、互いに自分の道を歩いていくのが人間の繋がり方なんだよ! ――そしてハルヒ。俺は、お前に言っておきたいことがある」 幼いハルヒは哀切のこもる顔をなだらか俺へと向け、俺は朝倉を見やったまま、 「俺の知ってるハルヒは、いつも高らかに笑ってる奴なんだ。だからお前が他人の幸せを妬むようなとき、俺はそんなのは違うと叱ってやる。自分の存在がちっぽけに思えたときは、俺の中で、ハルヒというやつの存在がどれほど大きいものなのか教えてやる! そしてもしも世界が、お前の目にはツマラナイもののように映るんなら……」 ――俺は、お前が俺にそうしてくれたように……、 「俺がお前の世界を大いに盛り上げてやる!」 そして俺は眼鏡の長門を見て、 「長門。俺がこの世界が楽しいと言えるようになったのは、この日……お前のお陰なんだ。だから俺は……俺たちSOS団は、元の世界を、長門が泣いたり笑ったり、不満だって言えるような世界に変えていく。けどな、それは俺の親友の言葉を借りるなら、価値観の変容によるものだ。お前はもっと笑っていい。泣いていいんだよ。そうするために必要な、立派な心がお前にはある。――お前はただ、感情の出し方を知らないだけなんだから」 「……わたし、が――?」 眼鏡の長門は戸惑いを隠せず、震える声で小さく呟く。 ……気付いてくれ、長門。お前は、お前のままでいいってことに。 「長門。俺は、元のお前に戻って欲しい。長門は長門じゃなきゃダメなんだ。だから――」 「――ふざけたこと言わないで!」 逆上したような声を張り上げ、今までとは打って変わり怒りをあらわにした朝倉は、 「今まで自分たちの行動がどれだけ長門さんを傷つけていたかも知らなかったくせに、都合の良いことばかり彼女に吹きこむんじゃないわよ! そうやってまた長門さんを苦しめるつもり? わたしはそんなの許さない! ……そろそろ気付きなさいよ。あんたはそうやって長門さんを悩ましてるだけなの! 堕落した人間の馴れ合いなんか、彼女に求めないで……!」 激しい感情をぶつける朝倉に眼鏡の長門はびくりと体を強張らせ、朝倉の辛辣な言葉に俺もたじろぐ。 すると朝倉はまるで原発がメルトダウンを起こしたときのように急に静まり返り、体を少しずつ前へと進めながら話し出した。 「――そうよ。こうなったのも、全てあんたらが原因なの。あんたは長門さんを傷つける。死ねばいいんだわ。でも……」 ザッと足を踏み鳴らし停止した朝倉の体はハルヒへと向けられ、 「すべての始まりはあなたなのよね。あなたこそ死ぬべきよ。あんたが長門さんを傷つけるより先に、わたしがあんたに『死』と痛みを与えてあげるわ。涼宮ハルヒ、それがあなたへのクリスマスプレゼント。最初で最後のね。しっかり受け取って頂戴――」 朝倉はナイフを腰元に構えると、滑空するようにハルヒの元へと飛びかかる――! 「……ハルヒ! やめ――」走り出そうとした俺に急激な頭痛が襲来し、「う………」と堪らずよろめいた俺は片手を額に当てて停止した。 ――なんだ……!? 頭の中に、聞き覚えのある女の声が響きわたる――。これは、喜緑さん…………? 「な………」「あ………」 中学ハルヒと眼鏡長門は朝倉の突然なる凶行に、長門は文字通り腰を抜かしたまま、ハルヒは身じろぎ一つ出来ないで凍り付いてしまっている。くそ、このままじゃ……。 だが次第に俺の頭痛も激しさを増し、それに伴い喜緑さんの声が言葉となって明確になっていく――。 『パーソナルネーム『長門有希』へのアクセス要望を確認。自動解凍処理プログラム起動。制限解除コード解凍完了。解除コード××××。同期可能な状態への復帰を確認。当該対象への同期を開始します――』 「――ぐ。一体、何が起きて…………」 いや……。待て……。微かに他の声も聞こえる……? これは……アイツの――――。 そして俺の目の前で、朝倉は――――。 ノンタイトル・サード
https://w.atwiki.jp/intel_inside/pages/61.html
ハルヒ くどの物まねレパートリーの一種。 正直似てない。 SOS団団長。無茶な事をやろうと言い出すのは変わらないが 何故かそれを部室でやりたがる。恐ろしいほど運動神経がいい。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3549.html
「お久しぶりね、キョン君」 ん・・・?この声は・・・?まさか!? そう、俺は、一番聞きたくない奴の声を聞いて目を覚ましたのだった。 「朝倉!?どうしてお前らがここにいる!?というかこれはどうなっているんだ!?それに・・・そこにいるのはハルヒか!?おい、ハルヒ!無事だろうな!?」 場所は今、文芸部部室、もといSOS団アジト。いつもの平穏な空気など微塵も残っておらず、今や部室内は一面が闇に包まれ、暗黒に染まっている。 その中で、ひとつの闘いが、今まさに幕を閉じようとしていた。 「なんか彼、ごちゃごちゃうるさいけど、覚悟はできてるわね?それじゃあ本当に終わりにしましょうか、涼宮さん?いくわよ?・・・・・の攻撃!プレイヤー涼宮ハルヒにダイレクトアタック!!!」 何も言わずにモンスターの攻撃を喰らって吹っ飛ぶハルヒ。そしてライフも0になった。 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 駆けつけようにも情報操作でもされているのか、俺の体はピクリとも動かない。 クソ・・・なんでこんなことになっちまったんだよ!? なんで朝倉が復活してるんだ!?こりゃあ一体どうなっているんだ!?これもハルヒの力のせいなのか!? なぁ、ハルヒ。本当にお前がこんな状況を作り上げたのか? 俺は、『闇のゲーム』に立ち会うこととなった原因へとフラッシュバックした。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ 俺は、相変わらず自分に搭載されているコンピューターでは解析不能な「英語」という名の謎の文字列の授業を、素晴らしき「夢」という名の世界に旅立つことによって克服し、SOS団のアジトと化した我等が文芸部室へ歩みを進めていた。 ハルヒはハルヒで、授業が終わるや否や教室を台風の通り過ぎるようなスピードで飛び出していった。たしか手に何か本みたいなのを持っていた気がするな。あまりのスピードでよくわからんかったがな。本なんかアイツに似合わんが一体どうしたんだ? なんて、そんなことを考えているうちに俺の足は文芸部室のドアの前についていた。 コンコン、とノックをする。もしかしたら、麗しのマイスイートエンジェル、朝比奈さんがお着替え中かもしれんしな、うん。たまにはノックをし忘れたことにしてそのお姿を拝見してみたい、なんて考えたことないぞ。本当だ。本当だからな。 「はぁ~い、どうぞぉ~」 天使のような声が耳をうずかせる。どうやらもう着替えは終わっているようだ。ちょっと残念・・・なんて思ってないからな。 かちゃり、と戸を開けると、そこにはいつもの席で石像の様に静かに本を読み続ける宇宙人、小動物のように愛くるしい未来人、0円スマイルを貼り付けてニヤニヤしている超能力者、そして、我等が団長、涼宮ハルヒがいた。 「すぐにお茶を淹れますから、ちょっと待ってて下さいね~」 いつもいつもありがとうございます、朝比奈さん。もう俺はあなたのお茶なしでは生きていけませんよ。 「うふふ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」 そういうと朝比奈さんはちょこちょことお茶を淹れにいった。教室で少し様子のおかしかったハルヒは、というと、相変わらず、まるで長門のように本のようなものを読み漁っていた。 その本が何かって?そんなの俺にも分からんさ。なぜならカバーをかけているからな。 それに、険しい顔して読んでるもんだから、聞く気にもならんしね。 「おい古泉、ハルヒのやつ、また機嫌でも悪いのか?授業の時からずっとあんな感じなんだが」 「いえ、そういう事はないようです。僕のところにはなんの連絡も入っていませんし」 まあ古泉がそういうんだ。間違いはないだろう。触らぬ神に祟りなし、というやつか。 「それはそうと、久々にアレ、やりませんか?実は結構楽しみにしてたんですよ」 別に構わない、というより実は俺も結構楽しみにしていたぞ。最近ご無沙汰だしな。だが手加減はせんぞ。俺の無敗伝説をコレでも更新したいからな。 「今回は甘く見ていると痛い目にあうかもしれませんよ?」 望むところだな、それじゃいくぞ! 「「決闘(デュエル)!!!」」 結果から言ってしまうと俺の勝利だった。マイスイートエンジェル、朝比奈さんの前で醜態を曝す訳にはいかないからな。長門もちらちらと見てたし。だが、古泉は古泉でなかなか強かった。 少しでも手を抜いていたら下手したら負けてたかもしれん。 「今回は結構自信があったのですが。いやはや、やはりあなたはお強いですね」 いつもより一割くらい減ったニヤケ具合で話しかけてくる。お前はそんなに俺に負けたのが悔しかったのか?でもお前も十分強かったぞ。 「あなたが僕のことをそういうなんて珍しいですね。僕もまだまだ捨てたもんじゃないってことですか」 調子に乗るな。そういうのは俺に勝ってから言え。挑戦は受けてたつぞ。 「ではお言葉に甘えまして、もう一勝負どうです?今度は負けませんよ?」 いいだろう、相手をしてやるよ。来い、古泉! 「それでは・・・」 「「決・・・」」 闘と続けようとしたが、突如、 「覚悟はいいわね、キョン!!!滅びの呪文、デス・アルテマっ!!!」 との言葉とともに後頭部に激痛が走る。あまりの痛みに、少しの間、頭を抱えたまま悶絶する。そしてしばらくして後ろを見ると、モップの柄をもって、目をキラキラ輝かせながら団長様が仁王立ちしていた。 「痛ってえな!なにしやがる!」 「何ってデス・アルテマよっ!あんた、聞いてなかったの?」 そういう問題ではない。俺が聞いているのは何でお前がモップの柄で俺の頭を叩いたのかってことを聞いているんだ。ただでさえ赤点レーダーギリギリ低空飛行な俺の頭がこれ以上悪くなったらどうするんだ? 「あんた、もうあんまり悪くなりようがないじゃないのよ。そんなことよりやっぱりデュエルモンスターズは王国編よね!ストーリー的にあれが一番面白いわよ!」 そうかい、俺の話はもうスルーかい。そしてお前が今日ずっと読んでいたのはアレだったのか・・・。それと古泉、お前、見えてたんならあいつをちゃんと止めろよ。俺は痛いこととか苦しいこととかはまっぴらなんだからな。 「すみません、不注意でした」 そのニヤニヤ顔で言われても全く誠意が伝わってこないのだが。 「ごごご、ごめんなさい、キョン君・・・」 いえいえ、あなたが謝るなんて、とんでもないですよ、頭を上げてください、朝比奈さん。悪いのはハルヒの馬鹿なんですから。 「…………」 お前も気にしなくていいぞ、長門。 「あんたを差し置いて誰が馬鹿よっ!それにあんたねぇ、もう過ぎたことを気にしても遅いのよ!ちゃんと前を見なくっちゃ、前を!」 やれやれ、当の本人がなんとも思っちゃいないなら意味ない、か。 「それよりもキョンに古泉君、あんたたちがやってるのって、デュエルモンスターズよね!?私もいまデッキあるのよ。さあ!どっちか決闘しなさい!」 そういって、ハルヒは自分のポケットからデッキを取り出した。目には炎を灯らせてな。しかもなぜか腕章には『決闘王』の文字が。 悪いが古泉、続きはまた今度になりそうだな。 「そうですね。残念ですが仕方ありません」 「そこっ!コソコソしゃべらない!じゃあ・・・そうね、キョン。あんたが相手しなさい!」 やれやれ、もうすっかりさっきのことを忘れてやがる。仕方ない、カードで軽く仕返しでもしてやるか。 「分かったよ、こい、ハルヒ」 「あんたなんかに絶対負けないんだからね!」 こうして俺たちの決闘は始まった訳だが、思惑通りあっさり勝負は決まってしまった。 「・・・え?嘘よ・・・こんなの嘘よ・・・もう一度勝負よ!」 構わんぞ。何度やっても変わらんと思うがな。それに俺の鬱憤晴らしにもなるしな。 その後、三回ほど決闘し、俺が全勝したところで長門がパタンと本を閉じて、お開きとなった。俺に数連敗してぶつくさ言いながらぶーたれているハルヒをよそ目に俺はカードを片付け、デッキをしまおうと鞄をあけた。そうしたら中に何のラベルも貼られていない謎のディスクが入っているではないか。ここに来る時は確かなかったよな?古泉とやるために鞄を開けたときは・・・・覚えていない。が、恐らくその時にでも紛れ込んだのだろう、と思って他の部員に声をかけた。 今思えばあんな怪しいものはないのだが、そのときの俺はなんとも思わなかったのかね。出来る事なら過去に戻って面倒なことになるからやめろ、と過去の俺に言ってやりたいくらいだ。残念ながら俺にそんな記憶はないので、できない話なんだろうがな。 「このディスク、誰のだ?俺の鞄に入っていたんだが」 古泉、お前か? 「いいえ。違いますよ」 じゃあ長門か? フンフンと頭を横に1ミクロンくらい振る。 なら朝比奈さん、あなたのですか? 「ふえっ?何ですか?え~と、そのディスクですか?う~ん、違う・・・と思いますよ」 ということは消去法でハルヒ、お前のだな? 「違うわよ。でも何か怪しいわね!キョン、これの中身調べるわよ!」 と言ってディスクを俺の手から奪い取った。 「なぁ、長門、あのディスク、大丈夫なのか?」 「……分からない。あのディスクには高度なプロテクトがかけられている。それを解くには情報操作が必要」 と言ってチラッとハルヒを見た。そうか、アイツがいるからそれができないんだな? そう聞くと長門はコクッと頷いた。古泉もこの話を聞いていたらしく、アイコンタクトを送ってくる。ピコッ、とパソコンの起動音がした。 「さぁて、この中身はなんなんでしょうね!?もしかして宇宙人からのメッセージが入ってるとか!?あ!まさか!キョン、実はあんたのディスクで、中にいやらしい画像とかが入ってるんじゃないでしょうね?」 馬鹿かお前は。もし本当に自分のだったらいちいち人に聞かんぞ。 「さぁ、どうかしら?あ、ついたついた」 そういって起動したパソコンに目を移す。長門は少し緊張した顔をしている。古泉もいくらか真剣な目をしていた。 カチッ。 その音を聞いて俺は自分の意識を突如として失った。 ================================================================= 「一体何よこれ!?どうなってんのよ!」 ディスクのデータをクリックして起動させたとたん、部室一面が闇に覆われてしまった。 ぱっと見、前に見たキョンと二人っきりの夢の世界に似てるけど・・・ ううん、ぜんぜん違うわね。あの巨人こそいないものの、なんか禍々しいものを感じるというか・・・ 「ね、ねぇキョン?」 これどうなってんのよ!?と言いかけてあたしは言葉を失った。 だってそこにはさっきまでいたはずのキョンが、いや、キョンだけじゃない。有希やみくるちゃんや古泉くんといったみんなが、どこを見回しても影も形もなく消えちゃってるんだもの。 もう一度パソコンに目を移す。だってこれをやってからおかしくなったのよ?だったらもっかいなにかをやれば元に戻るはずよ!そう思ってパソコンに手を伸ばしたとき、突如あたしの後ろから声がした。 「ふふふ、お久しぶりね、涼宮さん?」 ハッとして後ろを振り返る。 「あんたは・・・朝倉?!いつの間に!?いったいどこから!?」 「あら、せっかくの再開なのに、その言い様はないんじゃないの?」 「そんなことどうでもいいのよ!それよりも、ねえ、あんた、みんなのこと知らない!?」 「知ってるわ。だってあたしが閉じ込めたんだもの。」 「ならさっさと解放しなさい!」 「いいわよ。ただし、命をかけた『闇のゲーム』でわたしに勝てたら、だけどね。もちろん決闘で」 そういって朝倉は左手をガッツポーズの形にした。その腕にはいつの間にか決闘盤(デュエルディスク)がついている。一体いつの間につけたのかしら?それに『闇のゲーム』って・・・まさにあたしが今日読んでたあたりじゃない!でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。 「なんだかよく分かんないけど、その勝負、乗ってやろうじゃないの!このあたしに決闘を申し込んだことを後悔させてやるわ!」 そう言ったとたん、急に左手に重量を感じた。なんと、あたしの腕にも決闘盤が。 ほんと、これこそまさに不思議よね。・・・てそんな場合じゃなかった。 「分かったわ。それじゃあいくわよ?」 「「決闘!!!」」 掛け声とともにあたしたちはデッキから5枚のカードを引いた。 「ふふふ、闇のゲームの始まりよ!わたしの先行、ドロー!そうね、ここはリバースカードを2枚セット、さらにモンスターを守備表示でセット。これでわたしのターンは終了」 朝倉がカードをセットするのと同時に巨大なカードのビジョンがブォンという音と一緒に部室内に現れる。何よこれ!超おもしろそうじゃないの! 「それじゃいくわよ!朝倉!あたしのターン!ドロー!あたしはヂェミナイ・エルフ(攻1900/守900)を召喚!」 さっきと同じように、ブォンという音とともにフィールドに双子エルフのヴィジョンが出現する。 「それじゃ、いくわよ!ヂェミナイ・エルフであんたのモンスターを攻撃!」 エルフの姉妹の息のあったコンビネーション技が相手に決まり、セットされたモンスターがパリーンという音とともに撃破される。凄いじゃないの、これ!!! 「やったわ!どうよ、朝倉!さっさと観念しなさい!」 「ふふっ、ありがと、涼宮さん。あなたの攻撃したモンスターはリバースモンスター、メタモルポット(攻700/守600)だったの」 メタモルポット・・・確かアレは・・・ 「あなたの攻撃でメタモルポットは表表示となり効果発動!お互いのプレイヤーは手札を全て捨てて、新たにデッキから5枚引く」 やっぱり!?せっかく手札にいいカードがあったのに!ううう、悔しいわね。 「あんた、よくもやってくれたわね!?」 「ううん、本当はこれからなのよ?」 といって朝倉が微笑む。それを見たあたしは、なんだか嫌な予感がしたの。まあそれは奇しくもあたることになるんだけど・・・ そして突然、ウヲヲヲヲヲヲという地獄の底から響いてくるような雄たけびが聞こえ、暗黒の渦が現れ、雷とともに中から一体の白銀の悪魔がフィールドに舞い降りた。 なんで!?なんでこんな強そうなモンスターがいきなりでてくんのよ!? 「このカードは暗黒界の軍神シルバ(攻2300/守1400)。このカードは他のカードによって手札から墓地に送られたとき、フィールドに特殊召喚することができるの。あなたがメタモルポットを攻撃してくれたおかげよ。そのおかげでデーモンの召喚が墓地にいっちゃたんだけどね。一応お礼を言わせてもらうわ」 何よそれ、反則じゃない。いきなり2300とか対抗できるわけないじゃないの! 「だ、だったらリバースカードを1枚セットしてターン終了よ!」 朝倉、かかってきなさい!あんたなんか次のターンでボコボコにしてやるんだから! 「わたしのターン、ドロー!まずは手札から魔法カード、未来融合-フューチャー・フュージョン-を発動!このカードが発動したとき、わたしは融合モンスターを指定して、それの融合素材をデッキから墓地に送る。そして2ターン後のスタンバイフェイズ時にその融合モンスターを特殊召喚することができるの。ちなみにわたしが選ぶモンスターは有翼幻獣キマイラ。よって、デッキから幻獣王ガゼルとバフォメットを墓地に送るわ」 ううう、厄介なカードね。でもなんでキマイラ?あれはそこまで強くないじゃない。 「そして手札からシャインエンジェル(攻1400/守800)を召喚!」 リクルーターね。戦闘で破壊してもデッキから特殊召喚してくる嫌なカードだわ。 「ふふふっ、それじゃバトルフェイズね。いくわよ!暗黒界の軍神シルバでヂェミナイエルフを攻撃!」 やっぱり来たわね。でもこの攻撃をくらうわけにはいかないのよ! 「今よ!リバースカードオープン!攻撃の無力化!よってシルバの攻撃は無効よ!」 「なんですって!?」 「残念だったわね、朝倉!これであんたのバトルフェイズは終了よ!」 「やるわね。ターン終了よ」 ふう、危なかったわ。エルフが破壊されてたら結構やばかったかもね・・・いくわよ!朝倉! 「あたしのターン!ドロー!あたしは手札から魔法カード、召喚師のスキルを発動っ!このカードは、デッキから星5以上の通常モンスターを手札に加えるカード。あたしはこの効果で真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を手札に加えるわ。」 「あら、あなたのフィールドにはモンスターは1体しかいないわよ?どうやって出すつもり?」 「まだあたしのメインフェイズは終わってないわ!今度は手札から黒竜の雛(攻800/守500)を召喚!」 「ふふっ、なぁに、そのかわいい竜は・・・ん?・・・・はっ!そ、そのカードは!?」 「ようやく気がついたようね、朝倉!あたしは黒竜の雛の効果を発動!表表示でフィールドに存在するこのカードを墓地に送ることによって、あたしは手札から真紅眼の黒竜を特殊召喚することができる。出でよっ!真紅眼の黒竜((攻2400/守2000)!」 フィールド上にいた可愛らしげな雛が閃光に包まれたかと思うと、疾風とともに中から大きな黒竜が現れた。くううう、かっこいいじゃない!あたしのレッドアイズ!!! 「えっ・・・ここで一気に形勢逆転されるなんて!?」 朝倉の顔に驚きの色が浮かぶ。いくわよ、レッドアイズ! 「バトルフェイズに入るわ!レッドアイズでシルバに攻撃!」 レッドアイズが口を開き、そこに熱く燃え盛る炎がみるみるうちに集まっていく。 「喰らいなさい!黒・炎・弾!!!」 レッドアイズの口から炎が発射され、シルバを捕らえた。ドガァァァァァンという轟音の後にはもはやシルバは完全に消え去っていた。 「くっ!!!やるわね!?」 よし、朝倉のライフが3900になったわ。このまま一気に攻めるわよ! 「それと、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃!」 「きゃあああ!!!!」 これで朝倉のライフは3400。このまま一気に押し切るわよ! 「ちょ、ちょっと待ってもらえる?シャインエンジェルの効果を発動するわ」 なによ?なんかあるわけ? 「シャインエンジェルが先頭で破壊されたとき、わたしは攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚することができるわ。だからわたしはもう一度シャインエンジェルを特殊召喚」 リクルーターだったのすっかり忘れてたわ。まぁ盾ってわけね。なかなかしぶといじゃないの。 「これであたしのターンは終了よ」 「それじゃあわたしのターンね。ドロー!そうしたらリバースカードを2枚セット。シャインエンジェルを守備表示に。これでターン終了するわ。かかってきたらどう?涼宮さん?」 なんだ、朝倉ったらよくわからない魔法使っただけで何もしかけてこないじゃない。あのリバースカードは気になるけどね。あたしのライフはまだ無傷だし、攻撃あるのみ、かしら。 「あたしのターン、ドロー。下級モンスターはこない、か。なら戦うしかないわね、いくわよ、ヂェミナイエルフでシャインエンジェルを攻撃っ!」 どうどう?トラップは来るの!?・・・とハラハラしたが、どうやら間違いだったみたいね。だって、苦い顔しながら効果でもう一度シャインエンジェル出してきたくらいだもん。 これってかなりのチャンスよね!? 「続けてレッドアイズでシャインエンジェルを攻撃よっ!黒・炎・弾!!!」 朝倉のモンスターは攻撃表示。特殊召喚されるのは厄介だけど、1000ダメージは大きいわね。なんて思ってる間に黒炎弾がシャインエンジェルに命中し、爆発が起きる。それで出た爆煙がフィールドを埋め尽くした。 でも朝倉が包まれる寸前、その顔に笑みが浮かんでいたのは気のせい、よね・・・? 「どうよ朝倉。1000ダメージは痛いでしょ!?あんたがいくらモンスターを呼ぼうと・・・」 「それ、よんでたわよ、涼宮さん!あなた、自分のライフを見てみなさい」 煙の中で朝倉が笑う。何が言いたいのよ?あたしのライフ4000のままでしょ?減ってるわけが・・・・・ あれ?なんで?なんであたしのライフが3000になってんの!? 「それはわたしがトラップを発動したから」 煙が徐々に晴れ、そのトラップが姿を現した。 「トラップカード、ディメンションウォール。このカードは、プレイヤーが戦闘ダメージを受けたときに発動するカード。その戦闘ダメージを相手に与えることができる。よってあなたに1000ダメージ!」 「くっ、そうくるなんて思ってもみなかったわ」 最初の攻撃で使ってこなかったのは戦闘ダメージが発生しなかったからなのね。モンスターを伏せてこなかったのも、確実にシャインエンジェルに攻撃させるため、か。 ホント強いわね、こいつ。ライフ的には負けてるけど、朝倉の場はリバースカード1枚と未来融合だけ。次の朝倉のスタンバイフェイズにキマイラが出てくるけど・・・ レッドアイズの敵じゃないわね。それにこのカードがあればキマイラなんてちょちょいのちょいよ。しょうがないけど、このターンはもう何もできないかな。 「あたしはリバースカードを1枚セットしてターン終了!」 「いくわよ、私のターン。ドロー!スタンバイフェイズで有翼幻獣キマイラ(攻2100/守1800)を未来融合によって特殊召喚!」 残念だったわね、キマイラは破壊させてもらうわよ! 「今よ!リバースカードオープン!速攻魔法、サイクロン発動!」 相手ターンでも使える速攻魔法。サイクロンはその中でもかなり優秀で、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊することができる。 未来融合は、未来融合自体が破壊されたら特殊召喚した融合モンスターも破壊する効果も持っていたはず。これで相手のフィールドはほぼがら空きね! 「もちろん破壊するカードは未来融合よ!」 グラフィック化された未来融合のカードに向かって一つの竜巻が迫る。これで朝倉ももうお終いよ! 「惜しかったわね!リバースカードオープン!カウンタートラップ、マジックジャマー!このカードは手札を1枚捨てることによって、相手の魔法カードの発動を無効化し、破壊することができるカード。よって、わたしは手札を1枚捨てて、サイクロンの発動を無効化するわ!よって、キマイラも健在よ。」 竜巻の進行方向に魔方陣が突如として現れ、竜巻を吸い込んでいった。 「ふ、ふんっ。でもあんたのフィールドにはキマイラしかないじゃない。だったら早めにあんた自身で負けを認めなさい!それで、このゲームを終わらせてみんなに会わせなさい!」 あたしがそう言ったとき、朝倉は、ふふふっ、とこれで何度目か分からない笑いをこぼしたの。その眼には狂気の色を浮かべて。 「そうね、このゲームを終わらせるのにはわたしも賛成だわ。でもね、負けるのはあなたよ」 何言ってるのよ、圧倒的に有利なのはあたしのほうじゃないの。 「見てれば分かるわよ。嫌でもね」 その時あたしはなんだかとっても嫌な感じがしたの。何度もそれが何かの間違いであるように願ったわ。でもね、嫌な予感ってのはなかなかはずれないもんなのよね。 「まずは速攻魔法、魔道書整理を発動。これによってわたしはデッキの上から3枚までのカードを見て、それを好きな順番で戻すことができる」 朝倉はデッキの上から3枚のカードをめくり、ふふん、と笑って順番を入れ替えた。何考えてるのかしら?まったく分からないわ。 「残念ね、涼宮さん。あなたの負けはもう規定事項みたい」 は?あんた何言ってるのよ? 「ふふっ。すぐに終わらせてあげるわ。わたしは、墓地に存在する、デーモンの召喚、暗黒界の軍神シルバ、バフォメット、シャインエンジェルの、3枚の闇の悪魔、1枚の光の天使をゲームから除外し、混沌の世界から破滅の使者を呼ぶわ!降臨せよ!天魔神ノーレラス(攻2400/守1500)!!!!!」 そう朝倉が言い放つと、あたしと朝倉の間に闇が集まり、ゲートを作り出した。そのゲートの中心部から一筋の光が放たれ、その中から暗黒の巨体に闇の翼を生やし、髑髏の仮面をつけた、邪悪な魔人が現れた。なんなのよ、コイツは・・・ 「お、大口たたいた割には、出てきた奴はレッドアイズと同じ攻撃力のモンスターじゃない。あんた、まだ本当に勝つつもりなの?」 確かにレッドアイズと同士討ちされて、キマイラでヂェミナイを攻撃されたら痛いわね・・・でもあたしの手札には聖なるバリア-ミラーフォース-があるのよ。次のターンで相手モンスター全滅よ!この状況であたしが負けるわけないじゃない。 「あら、何を勘違いしてるの?わたしはノーレラスでは攻撃しないわ」 じゃあ何のために出したっていうのよ? 「もちろん効果のために決まってるじゃない。あなたを敗北の道に突き落とすための効果をね」 あんた、一体なにを考えてるのよ? 「見せてあげるわ!ノーレラスの効果発動!プレイヤーはライフを1000払うことによって、お互いのフィールド、手札を全て破壊し、墓地に送る!その後、お互いはカードを1枚引く」 ええ!?あたしのミラーフォースが!レッドアイズが!なんてことなの!フィールドと手札がリセットされちゃったじゃない!こんなのって反則よ! で・・・でも何かしら?何か忘れているような気が・・・・ 「あながちそれも間違いじゃないわ」 その言葉であたしは朝倉のフィールドを見て、そして驚いた。 「なんで!?すべてのカードが破壊されたはずなのになんであんたのフィールドにモンスターがいるのよ!」 おかしいじゃない!まだカードだってドローしてないわよ? 「あなた、キマイラの効果、覚えているかしら?」 キマイラの効果・・・?確か・・・キマイラが破壊されたときに、墓地から幻獣王ガゼルかバフォメットを場に特殊召喚できる・・・・・っ!!! 「そうよ。ノーレラスによって破壊されたキマイラは効果を発動!わたしは幻獣王ガゼル(15攻00/守1200)を攻撃表示で特殊召喚!」 あたしには今手札も場もがら空き・・・次のターンまでもつの?! 「それよりも涼宮さん、わたしたちはまだドローしてないわよね?」 ええ、そうね。このドローで次のターンにつなげるしかないもの。 「それと、さっきわたしが使ったカードも覚えてる?」 何だったかしら?確か・・・魔道書整理・・・ってまさか!?今のために!? 「そうよ。全てはこのときのため。それじゃあゲームを終わらせましょうか。あなたの敗北でね。幻獣王ガゼルを生け贄に、偉大魔獣ガーゼット(攻0/守0)を召喚!」 攻守0ですって?そんなカードで何ができるっていうのよ? 「あら、あなたはこのカードの効果を知らないの?なら教えてあげる。このカードはね、このカードを召喚するのにつかった生け贄モンスターの攻撃力の2倍の数値を自分の攻撃力として得ることができるのよ」 そ・・・それじゃあ今、ガーゼットの攻撃力は・・・・・ 「3000、ね。ちょうどあなたのライフポイントと同じね」 あたしは絶望した。この攻撃を耐えることなんて不可能だから。そう・・・あたしの負け、なのね・・・ 「朝倉、あたしの負けよ。でも、ひとつだけお願い聞いてもらえないかしら?」 「いいわよ。どうせこの後消えちゃうんだもんね。わたしにできる範囲なら構わないわ」 よかった。それを聞いて安心したわ。 「じゃ、じゃあ・・・・・キョンに会わせてほしいの」 「あら、そんなことでいいの?いいわよ、会わせてあげる。でもしゃべっちゃ駄目よ?」 分かったわ。会えるだけでも十分よ。それを聞いて朝倉は満足したのか、ポケットからカードを1枚取り出し、なんかよくわからない言葉を早口でつぶやいた。そして、カードが一瞬光ったかと思うと、部室の空間の一角が歪み、そこからキョンが出てきた。 あれから数十分しか経ってないのに、すごく懐かしく感じる。でも、キョンは目を閉じていた。 「ちょっと!キョン、気失ってるじゃない!あんた、何やったのよ!」 朝倉は、大丈夫よ、と言うと、また謎の早口言葉を始めた。なんなのかしら、あの呪文は。 「お久しぶりね、キョン君」 しばらくして朝倉がそういうと、キョンが目を覚ました。 ああ、これでもう未練はないわ。いや、もうすこしこいつと話がしたかったな・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・ 「大丈夫か!?ハルヒ!?」 体が動かせない分、ありったけの声を張り上げる。頼む!無事でいてくれ! 「そんなに心配しなくてもすぐ起きるわ。何もしてないもの。だって彼女、まだ罰ゲームを受けてないからね」 「貴様!これ以上ハルヒを苦しめるな!なんなら俺が相手になってやるぞ!」 俺なりに一番迫力がありそうな眼で朝倉を睨み付ける。身体はエースキラーに捕まったウルトラ兄弟みたいな格好で動かせないがな。そこ、ダサいとか言うな。 「でもこの決闘は彼女も望んでしたこと。きつく言うようだけど、部外者のあなたには関係ないことよ。闘ってみたいっていう気持ちもあるけどね」 な、なら俺と・・・! 「あら、彼女が起きたみたいよ」 俺は、朝倉がそう言い終わるのよりも早くハルヒのほうを向いた。 「おいハルヒ!ここからさっさと逃げろ!逃げるんだっ!」 「・・・あんた、何勘違いしてるの?」 ハ・・・ハルヒ?その顔は冷静そのものだった。 「決闘ってのはね、そもそも古代ローマで、奴隷たちが自由を求めて命を懸けて闘ったのが始まりなのよ?それはあたしたち決闘者も同じ。あたしは負けた。命を懸けた決闘に。その闘いはあたしの望んでしたことだった」 その真剣な表情に俺は何も言い返せなかった。俺にこんな覚悟はできるだろうか。俺はハルヒみたいに何かに命を懸けられるだろうか。 「だからね。あんたには笑って見送って欲しいの」 ハルヒ・・・お前・・・ 「お話中悪いけど、そろそろいいかしら?もともとしゃべらないって約束だったんだし」 「ええ・・・そう、ね。もう時間ってわけか。」 ちょっと待ってくれ・・・頼む朝倉・・・待ってくれ! そんな俺の必死の願いも虚しく、朝倉はポケットから何も書かれていないカードを取り出した。 「それじゃ、さようなら。涼宮さん。罰ゲーム!!!魂の牢獄!!!」 そしてその口から無情な言葉が発せられた。ハルヒの体から光が抜け出し、カードに吸い込まれていく。全ての光がカードに吸い込まれる直前、あいつは言ったんだ。 「今までありがとね・・・キョン・・・」 静かに、そして悲しい微笑みを浮かべながら。 「ハルヒ!?ハルヒーーーーっ!!!!!!」 ドサッ。 ハルヒが床に倒れる。その瞬間、俺の体も動くようになっていた。その証拠に、その場に俺は泣き崩れていたんだ。 「くそおおおおぉぉおおおぉおおぉおぉ!!!!」 なんで!なんで俺じゃなかったんだ!なんで俺じゃいけなかったんだ! 「ひとつだけ、いい事を教えてあげる」 なんだ・・・? 「涼宮さんがわたしの闇のゲームを受けたのはね?あなたたちのためだったのよ?」 ・・・・・それはどういう意味だ? 「わたしは、あのディスクが起動したとき、対象を全ての能力を封じ、かつ意識を失わせた上で空間閉鎖された亜空間に閉じ込めるようにしたの。あ、いい忘れたけど亜空間っていうのはこのカードね」 そういって朝倉はみんなが描かれたカードを見せてきた。 「もちろん、対象と言うのはあなたたちのこと。」 それじゃあハルヒは・・・ 「あなたたちを助けるためにわたしの決闘を挑んだのよ」 体中に電撃が走ったみたいだった。悔やんでも悔やみきれないとはこのことだろう。そう。この事件は俺が引き起こしたも同然、いや、俺が引き金となって起こったものだったのだ。そのために古泉が。長門が。朝比奈さんが。そしてハルヒが。 それと同時に俺は分かったんだよ。俺が命を懸けれる、懸けなければならないものってのがな。 「・・・・・朝倉」 「なにかしら?」 「俺はお前に闇のゲームを申し込む」 あいつらのためなら、あいつらとの毎日を取り返すためなら、この命、微塵も惜しくはない。 「そうね。いいわよ」 ならば話が早い。いまここで・・・ 「でも条件があるわ」 条件だと?さっさと言え。 「それはあなたがわたしのところに辿り着く事」 はぁ?お前はなにを言っているんだ?全く話がつかめんぞ。ちゃんと言え。 「んん、もう。キョン君が突っ込むのが早いんじゃない。ちゃんと聞いてよね」 ああ。分かった。 「これからあなたにはある島に行ってもらって、その島にあるお城を目指してもらうわ。でもここからが重要。お城に入るには4つの証が必要なの。その4つを持っているのは4人のプレイヤーキラー。1人1つ持ってるから全員倒してもらうわ」 簡単に言うと、全員倒さなきゃお前とは闘えんということか。 「うん。そういうこと。言い忘れてたけど、あなたのライフと命は繋がってるからね」 簡単に言うと、俺のライフが0になったら俺は死ぬってことか。 「うん。そういうこと」 ・・・負けるわけにはいかないな。あいつらのためにも、俺のためにも。 「分かった。それじゃ、俺を島へ送ってくれ」 構わん。俺は勝たなきゃならないからな。いや、勝つんだからな。 「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないわよ。ええ、分かったわ。始めましょうか。」 ・・・・・すぐに助けてやるからな。待ってろよ、ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん。 「「それじゃあいく「わよっ!」「ぞ!」」」 「「決闘!!!」」 そう口にした瞬間、俺は閃光に包まれ目を閉じた。 失ったもの、命を懸けられるもの、その「答え」を取り戻すため。 俺は長く険しい闘いのロードへと足を踏み出したんだ。 ~涼宮ハルヒの決闘王国2へ続く~ ※この作品は「涼宮ハルヒの決闘」を参考にさせていただいております。 このような場所で恐縮ですが、改めてお礼とお詫びを言わせていただきたく思います。 作者様、どうもありがとうございました。そして、許可なく参考にさせていただき、すみませんでした。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6495.html
涼宮ハルヒの切望―side H― どうも『涼宮ハルヒの異界』の作者です。 こちらのTOP絵でランダム表示される中の一つ、とあるシリーズの妹達コスプレ長門を描いたのも私です。 さて、今回は前回の『涼宮ハルヒの異界』の続編でございます。 ハルヒサイドとキョンサイド分けして、マルチサイドっぽく仕立てたつもりですが、あんまりうまく行っていませんので生暖かい目で見守ってください。 本当は、どちらのお話も読まないと、ハッピーエンディングに辿り着けない、という風に細工したかったんですけど、知識がなくて断念しました。 なので、どちらか一方を読み進めていっても大丈夫ですけど、たぶん片方だけだと話が見えなくなるんじゃないかなと。 注意事項は今回も前回と同じです。 一応、まだ続編がありますので。 こちらはハルヒサイドです。 では、どうぞ。 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅳ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅴ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅵ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side H―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5825.html
ゴン。 鉄の塊を床に落としたような鈍い音がして、俺は目を覚ました。 記憶の隅に、なんだか洗濯機に入れられてぐるぐると回されていたような断片が落っこちている。ただしもう吐き気はしない。頭が痛いのは、それはおそらく俺が机に思いっきり頭をぶつけたからだろう。 夢から醒めたばかりのような気怠さが体から抜けていくのとともに徐々に復活する現実味。夜の底に落ちたような静けさ。変わらない世界。 ここはどこだと思って頭をもたげると、ぼんやりと霞んだ視界にパソコンが見えた。少なくとも一年前は最新型だったやつだ。 さらに首を振ると、驚いたことに朝比奈さんと古泉の姿までもが目に入ってきた。二人は石膏像のように黙って、目をつむっている。生命でも抜き取られちまったみたいに動きなし状態で完全にまわりの静物の中に溶け込んでいた。そしてちらりと見えちまった(わざとではないぞ)朝比奈さんのふくよかな胸には、小さなほくろがあるようだった。 俺は首を回す。ポキポキという小気味のいい音がした。 ハンガーラック。メイド服、ナース服。ボードゲーム各種。目についたそれらは、俺の色彩感覚が正しいのであれば、クリーム色一色に染まることなく白や黒などの色も纏っていた。 俺は、とあるところで目をとめた。 七夕の竹。 見間違いようもなく、そこには五つの願い事がぶら下がっているのだった。五つ。その数がどんな意味を持っているのか、俺は理解しているつもりだ。 俺は大きく息を吸った。空気がひんやりと冷たくて鼻孔を刺激しやがる。 夏だってのに……と俺は一瞬嫌な予感の到来を思ったが、それは俺にはたいしてショックではなかった。七夕の願い事が五つ、しっかりと垂れていることが俺には一番重要だったからだ。 それに、その嫌な予感も杞憂だったらしい。なぜなら窓の外が黒く染まっているからだ。夏でもこの時期、まだ夜は寒いこともある。 俺は部室にいて、そんでもってここは夜の学校……? 「あれ? キョンくん?」 突如として後ろで柔らかい声がした。俺はさっと振り向く。制服姿の朝比奈さんが驚いた顔に両手をあてがっていた。 「おっと、ここはどこでしょう?」 銅像のように固まっていた古泉もようやく気がついたらしい。起きがけもハンサム営業スマイルを忘れない精神は尊敬に値するな。どうでもいいが。 「夜の学校らしいぜ。夏のな。ただしどこの世界かと訊かれたら解らんとした答えようがない」 「あたしたち、さっきまで長門さんがつくってくれた超空間にいましたよねえ?」 朝比奈さんが腑に落ちない感じで訊く。ええ、そうですね。 「そこからどっかに行って、ここは……? ええと、でもでも、あたしたちはあの空間から外に出られなかったわけですよね。存在が抹消されていた、とかで」 「しかし、この部室はあそことは違うらしいですね。まず色があります。窓の外の風景もね」 古泉があごをなでながら続ける。 「ここは間違いなく、僕たちの正規の部室ですよ」 「だが、九曜はどこに行ったんだ。それとあの部屋を占領していた朝比奈さんと古泉の偽物も」 「消え去ったのでしょう。いや、消え去ったと言うよりも宇宙の彼方に追放されたと言うべきですが」 俺は窓から外を眺めた。星がいくつか輝いている。 「なぜだ」 古泉は静かな口調で、 「あなたもあの世界の最後の瞬間を見たでしょう。涼宮さんが長門さんを見て、有希と言いましたね。それが証明です」 何の? 「あの世界では周防九曜が長門さんを名乗っていたんですよ。もちろん彼女の見た目は長門さんと異なっていますし、涼宮さんも何の疑問もなく周防九曜の姿をした人間を長門有希だと思っていたわけです。ところが、涼宮さんは最後、超空間にいた長門さんを見て有希と言ったんですよ。周防九曜とは違う姿をした人間を見ても、彼女は有希と言いました。つまりその瞬間、涼宮さんはすべてを思い出したのです。SOS団のメンバーの顔も、存在もね。そしてまた、周防九曜の頭脳支配をも吹き飛ばしました。間違ったSOS団は崩壊し、僕たちが元のこの部室に戻ってきたんです。抹消されていた存在も涼宮さんの力で取り戻せたのでしょう」 「うーん。でも、何で長門さんって解ったんでしょうね。不思議ですよねえ。……あ、お茶飲みます?」 「いえ」 俺は朝比奈さんの好意を断って窓から遠い街を見やった。 ハルヒの力。周防九曜までも吹き飛ばしてしまうほどの。 あいつはやっぱり、元のSOS団がよかったのだろうか。お遊びサークルじゃなくて謎的存在がたむろする奇妙な団体が。 「そういや、ハルヒと長門の姿が見えんが、あいつらはどこ行ったんだ」 疑問を口にしたとき、部室の扉が音を立てて開いた。 入ってきたのは長門だった。もちろん九曜じゃなくて読書好き文芸部員で無口な長門のほうだ。相変わらず無表情で感情のかけらも見受けられない。 「来て」 恐ろしく短い単語を口にした。誰が、どこへ。 「あなた」 「俺?」 「そう」 ずっと入り口で黙っているので、俺は仕方なく長門に歩み寄った。長門は古泉と朝比奈さんがぽかんと口を開いているのを見て付け加えるように言った。 「悪い話じゃない。この世界は木曜日の状態に復帰した。涼宮ハルヒは現在、自宅で眠っている」 * はたして、長門に連れられていったのは校舎の屋上だった。階段を上り、上り、上りしてどこまで行くのかと思ったら最上階まで行ってしまった。さすがにこれ以上は俺は上ることができんな。 屋上なんて滅多に来ない。というか来る用もない。体育祭の時にはどこかの委員会が来たりしているが俺がここに来た記憶があるのは一回か二回くらいだ。ハルヒに振り回されていたような記憶がかすかにある。 寒い。 何てったって夏でも夜なのだ。風が吹いているし、真っ暗で、ただし夜空だけは大パノラマでよく見えた。はりぼてみたいな空に星が無数に光っている。 「長門?」 俺は黙ってたたずんでいる小柄な人影に話しかける。 「よく解らない。あなたに話すべきかどうか。話して何か得るものがあるのか」 北高のセーラー服が風に揺られている。長門は校舎からグラウンドを見下ろすように立っているため、俺は長門がどんな表情をしているのか解らない。見えたとしても暗くて解らないかもしれなかった。 俺は「何でも聞いてやるから話してみろ」と言った。 長門は俺に向き直った。 「この世界は今、完全に元の形に戻った。未来人も超能力者も、わたしたち宇宙人と呼称される存在も。未来との経路も復旧した。現時点では木曜日のときと同じ未来に接続されているように思われる。周防九曜は宇宙の彼方にいて情報統合思念体が監視を続けている。だから安心して」 「ああ……」 長門は早口で一息で言ってのけ、それからじっと俺を見つめた。 「聞きたい?」 「何を」 「あなたやわたしにどんな影響を与えるか解らない。でも、あなたが聞きたいなら話す」 質問の答えにはなっていなかったが俺は「話してくれ」と言った。長門が自分から話すことなんてのはよほどのことに決まっている。俺がそれを聞いてやらないでどうするのだ。 長門は重たそうに口を開いた。 「今回、情報統合思念体はわたしに、あなたを助けるなという命令を出していた。見殺しにしろ、と」 ? どういうことだ。 「統合思念体は周防九曜によってわたしたち三人の存在抹消が実行された後の火曜日に、涼宮ハルヒの精神が非常に安定しているのを観測した。閉鎖空間と呼ばれる空間が発生することも、ましてや世界改変が起こる可能性も皆無だった」 それで? 「もともと、情報統合思念体は彼女のまわりをうろつく未来人や超能力者のことをよく思っていない。積極的に破壊しようとは思っていなかったが、いないに越したことはない。だから今回、周防九曜が彼らを消してくれたのは都合がよかったとも言えた。情報統合思念体はその機会を利用しようと考えた。これで邪魔されず、なおかつ世界改変のおそれも無視して涼宮ハルヒを観測できる、と」 ……何て奴らだ。俺は背筋が震え、戦慄が身体を走り抜けるのを感じた。 長門はなおも続ける。 「本当は、わたしが救済措置として設置した超空間も違反行為だった。あなたを助けることになるから。あの時、情報統合思念体からはあなたが涼宮ハルヒの能力によって抹消されるのを待て、という命令が出ていた。もちろん放っておけばそうなっていたと思う」 記憶が甦る。三人の退部。あれでSOS団にふっきれちまったハルヒは、明日にでも俺を消していたことだろう。そうなったら最後だった。情報統合思念体が助けてくれない以上、長門はどうしようもないし、俺以下三人は歯がゆい思いをするだけだろう。 「情報統合思念体は何て言ってる?」俺は長門に訊いた。「いつかみたいに、お前の処分を検討するなんてことを抜かしてたりするんじゃないだろうな」 「そんなことはない。ただ、再び涼宮ハルヒの監視を続けろ、と」 やはり平坦な声で言う。監視。監視ね。そういえばそれがこいつの仕事だった。勝手なことを言うもんだよな、宇宙意識野郎も。 俺は長門に尋ねてみることにした。 「よう長門、お前さ、SOS団って団体をどう思ってる?」 「どう、とは」 「情報統合思念体の連中はそんなもんないほうがいいって思ってるんだろ。邪魔くさいから。でも、あんな奴らは無視するとしてお前自身はどう捉えてるんだ? ハルヒの監視のために所属している団体か?」 正直なところ、俺はどんな答えが返ってきてもひるまない覚悟でいた。「そう」と言われても「違う」と言われても。だから訊くこと自体にたいした意味はなかったのだが、何となくこいつがどう思っているかを知りたかったのだ。 無口な有機アンドロイド。感情の薄い文芸部員が、無理やり入れられた団体をどう思っているのかを。 長門はしばらく黙っていた。本当は答えなどなくて、今それを捻出しているところなのかもしれない。風が何度か通りすぎた。そのたびに長門の短い髪が揺れる。 「わたしは――」 何度かまばたきをして続けた。静かな声で。 「落ち着いて、本を読めるところだと思っている。そんな場所なら、あったほうがいい」 * さて。 今度の事件はこれでようやく終わりを迎えたらしかった。ハルヒも長門も朝比奈さんも古泉も全員が復帰し、完全元通りである。 とはいえ俺に精神的後遺症はイヤというほど残ったようだ。 何だか毎日部室のドアに手をかける度に心臓がバクバクするのは本当にどうにかして欲しい。そんでもって俺は、中にメイド服やらボードゲームやらを見つけて平穏な日常を思い、また胸をなで下ろすのだ。宇宙人(以下略)と過ごす部室の風景というのが日常になっているのは毎度毎度どうかと思うのだが、俺もいい加減そんなことを言うのはやめることにした。これが最後だ。SOS団が一気に消えちまってようやく気づいたね。もう俺はこれが日常で構わないや、と。開き直りなら開き直りと思ってくれ。 ところで買ってきたけど使わないダイエット食品みたいな感じで半分放っておかれている七夕は、俺と古泉がオセロをしていたり朝比奈さんが編み物をしていたり長門が本を読んでいたりするうちにやはり何事もなく過ぎてしまった。ハルヒは肝心の七夕の日を見過ごしてしまったことを後になってひどく悔やんでいたが仕方ないだろう。文字通り後の祭りだし、その日にヤツが何をやっていたかと言えば朝比奈さんに次々と目新しい衣装を持ってきては着せ替え人形の感覚で着せ替えていたのだから自業自得だ。文句は受け付けん。 おかげで今ハルヒは来る合宿に向けて七夕で放出できなかったエネルギーをためている途中であり、それが爆発したら孤島の殺人事件どころか全人類滅亡くらいのスケールまで持っていきそうで怖い。昨日は足りなかった合宿用品を買いに行って、ついでに鶴屋さんも呼んで部室で暴れていた。まあ好きにしてくれ。合宿でえらい目に遭うのは俺ではなくてツアーコンダクターの古泉と向こうにいるはずの荒川さん森さんだ。古泉だって余裕でイケメンスマイルをかましてられるのも今のうちだろう。 それはそうと話は飛ぶが、俺は七夕の前日、ちょっと思いついてしたことがあった。 短冊がまだ残っていたのでそいつをちょっと借りてささっと書いて笹のてっぺんにつるさせてもらったのだ。もちろん誰にも見られてはいない。ましてやハルヒになんか見られたら顔を覆いたくなるような願い事だ。七夕の翌日には俺が真っ先に部室に来てその願い事の短冊を回収しゴミ箱に投げた。何やってんだか自分でも解らんが、別にかまいやしない。何となくそうしたい気分だったのだ。それにハルヒがいる以上、十六年後と二十五年後にその願い事が限らんしな。 その願い事。 実はこいつは願い事が叶うのは十六年後と二十五年後というのを失念している願い事なんだが、それでもよかった。どっかの神様が気を利かしてちょっと早く届けてくれるかもしれない。 ハルヒがもし見ていたら、その場で叶えてくれたかもな。宇宙人と未来人と超能力者、それが全部同居してるのがSOS団だというならね。 俺も卒業するまでは付き合ってやる覚悟だし、ハルヒ含む四人にもそれぞれ謎的プロフィールを持った存在でいてもらうつもりだ。他の誰にも渡さないし、ここはSOS団という謎を追い続ける謎的存在がいる場所だ。お遊びサークルだっていいが、それじゃあSOS団という団体名を変更してもらわないといけない。そして俺の予想では、ハルヒは今後そんなことをするつもりはなさそうなのである。 七夕の願い事ってのはそれのことだ。ここはSOS団で、しかもそれは宇宙人、未来人、超能力者がいるところなのさ。 『この部室は俺らのものだ!』 (Fin)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/559.html
翌日 窓越しに聞こえる雨の音に起こされた俺は、予定時間より早起きしてしまったことを嘆いていた しかし、覚めてしまったものは仕方なく、もう一度寝るのも忍びない、というかもう一度寝るほどの時間もない …と、それは言い訳か 実際は昨日の出来事を思い出した頭の中がお花畑でチーパッパなのだ ―涼宮ハルヒと付き合うという事実 その喜びが、無尽蔵に押し寄せて実は昨夜もなかなか眠れなかった 思わず、今日の朝も早起きしてしまった、ということだ まぁ気を取り直して、外は雨…部室か ちゃっちゃと着替えて早めに行ってみようか ハルヒに少しでも早く会えるかもしれない とかそんなことを考え、心とは裏腹に降りしきる雨なんか気にも止めなかったのだが、今思えば ―雨はすべてを物語っていたのかもしれない そして浮き浮きしながらも淡々と準備を終わらせた俺はとっとと家を出る 久しぶりに登る坂道を越え、文芸部室に到着した 部屋に入れば…なんと誰もいない、もちろんハルヒもいない。残念 大きな期待が裏切られた時というのはその分落胆も大きいもので無気力にイスに座る しばらく何をするでもなく暇を持て余していると最初の登場人物 俺はハルヒを期待したのだが古泉だった 最大級の裏切りだ 「おはようございます、あなたが最初なんて珍しいですね」 諸事情で早起きしてな 「おやおや、遠足前の小学生みたいですね、そんなに涼宮さんにあえるのがうれしいんですか?」 昨日も会ってるだろうが、おまえはどこまで知っているんだ? 「どこまで…とは?涼宮さんと何かあったんですか?ぜひお聞かせ願いたいですね」 …しまった、つい口が滑った 気分が浮かれたいたのをいいわけにさせてくれ 「それよりも古泉、おまえはハルヒのスペシャリストじゃなかったのか?」 この言葉で話題をそらせれば御の字だ 「昨夜から妙に浮かれている、ぐらいしか僕にはわかりませんよ。それが負の感情じゃないから、こうやってあなたをいじれるんじゃないですか」 いじるとか言うな、気分が悪い さて、どうやってごまかそうか、そんなことを考えていたのだが 「あ、おはようございますぅ」 とわが麗しの… ハルヒと付き合うことになっても可愛いものは可愛い、そうだろ? 改めて、麗しの朝比奈さんのご登場である 「あ、そういえばキョンくんおめでとう、だよね?」 ちょっと待ってください朝比奈さん あなたは未来人であってこの古泉のように超能力者ではないはずなのに、いや古泉も超能力で心が読めるわけではないですが、どうして俺の心を読んでしまうのです? そんなに今の俺はわかりやすい顔をしていますか、そうですか 「いえ、そうじゃなくてこれは…」 とまで言って朝比奈さんは言葉をつまらせた そして 「ごめんなさい、禁則事項みたいです」 と続けた いったい何が禁則に当てはまったのか? ハルヒと俺が付き合うのはこの時間平面上の必然だったのだろうか? まあ、何でもいいか 朝比奈さんはこれから着替えるだろう、そう思って古泉を伴い、部屋を出ようとしたのだが、朝比奈さんに袖を捉まれる なんだ、どういうことだ? 「キョン君ごめんなさい、ちょっとだけ…ね?」 と、首を傾けた朝比奈さんはとても可愛かった …ハルヒに聞かれたらどうなるか、果てしなく恐怖だ その仕草に気をとられそうになるが、朝比奈さんが時計を気にした一瞬を見逃さなかった この感じは前にハカセ君を助けたとき… また、前みたいなことがあるのか? でも、未来人の直接干渉はタブーって言ってなかったですか?朝比奈さん 「あ、朝比奈さん?」 とりあえず何かを読み取ってしまった俺だが何をするのかまではわからない 中途半端な状況で俺の声は戸惑っていた その声で俺の心境を読み取ったか、朝比奈さんは堂々と時計を見始めた 「ごめんなさい、キョン君、強制コードなの」 嗚呼、そんな潤んだ眼で上目遣いを… 「それはどういう―」 俺の言葉は途中で止められた なんと朝比奈さんが俺に… 心の準備はいいか? 朝比奈さんが俺にキスをしてきたのである …そこ、嫉妬していいぞ ちょっとこんなとこハルヒにみられたら… その時、俺は本当にこう思ったのか思わなかったのか それほど、ぴったりのタイミングでドアが轟音をたてたのだ 「ヤッホー!み…」 轟音の先にいた人物、要するにハルヒだが ハルヒは言葉途中で絶句していた 当然か、俺が入ってきたときにハルヒが古泉とキスしてたら俺も絶句する やばいな、これは死んだかもしれん 美少女に 振り回されて オチはこれ ―俺、辞世の句 なんてやってる俺の予想を裏切り… ハルヒは目に涙を目一杯ため、駆け出して行ってしまった しかし、あの朝比奈さん(大)の言っていた「ちゅーまでなら許す」っていうのがいやはや、規定事項だったとはね …いや、落ち着いている場合じゃない 「ハルヒっ!!!!」 俺は走りだしていた 一番大切な人の笑顔を守るために 部室を出る時に朝比奈さんが「ウフフ、うまくいきそうです」といっていたのが聞こえた気がする 散々誰もいない学校を走り回ってやっと中庭で座り込んで雨の中泣いているハルヒをみつけた やばい、可愛いすぎて理性が吹っ飛びそうだ 「ハルヒ!!!」 俺は無我夢中で駆け寄った ハルヒは俺の声に気付いたのか、顔をあげると眉を釣り上げこう叫んだ 「キョンのバカッ!あっち行け!」 泣いたり怒ったり大変だなハルヒ …と俺のせいか しかし、あれだけのことをしたというのに頭ん中はやけに冷静だ まぁ、それもそうか あれは浮気ではなく事故なのだから 雨に濡れているのも原因の一つかね 「ホントは前からみくるちゃんと付き合ってて、あたしを弄んだだけなんでしょ!」 冷静な思考回路を巡らしてる間にハルヒがまくしたてていた うーん…人間って不思議なもので、心が冷静でも体が勝手に動くことがあるんだな ハルヒを抱き締めていた 「離せ!バカ!!」 叫びながらハルヒは俺のボディーに的確なブローを叩き込んでくる 世界を狙う気かお前は ここで俺が保証する、難なく獲れるよ、世界 なんて言っている場合ではなく、ブラックアウトしそうになる意識をなんとか保ちながら、痛みに耐えていた 今は耐えるんだ、耐えて耐えて耐え抜けば、そのうち痛みに慣れる だが、このままだと慣れる前にお星様が見える 仕方ない弁解を開始しようか 「ハルヒ、あれは事故なんだ」 言ってから俺はバカなことを言ったと思った どうしたら事故であんなことになる? 「…事故?」 俺の腕の中でハルヒが涙目の上目遣いという究極のコンボで俺を見る …って信じたのか?ハルヒは とりあえず、続きを話させてくれるようだ 「ああ、何を思ったか、朝比奈さんが急にキスしてきたんだ、何が起きたか認識できなくてな、その瞬間にお前が入ってきた、というわけだ」 事実をありのままに語った以上、これを華麗にスルーされたら俺は言葉を失ってしまう 「…え?…なんで…みくるちゃんが…?」 それは禁則事項らしい なので俺にわかるわけもなく、このキスが何をもたらすのか全然わからない 「さぁな、全然わからん」 古泉がいつもやるように肩をすくめてみせた ハルヒも少し落ち着いてきたし、ちょっとぐらいユーモアを入れてもいいだろう 「…?」 謎である旨を伝えるとハルヒは考えだした 考えて出てくるのならフロイト先生もびっくりだ しばらくハルヒはうんうんうなっていたが、なぞなぞの答えを聞いたときのような顔をして、こう話した 「なんだ、やっぱりキョンのせいじゃない」 ホワイ??なぜに?? 何か俺、朝比奈さんにしたのか?? そんな疑問が顔にでていたのだろうか、ハルヒがしたり顔で続けた 「と、とにかくあんたが悪いんだから罰ゲームよ」 やれやれ、自分が悪い理由を知らないまま罰ゲームとはね まぁ、それでハルヒの機嫌が治るならやすいものか 「何をすればいいんだ?」 できるだけ穏やかな、優しい笑顔で話し掛けた 俺だって早く仲直りしたい 「あ、あたしとキスしなさい」 顔を真っ赤にしたハルヒがそこにいた 「は?」 罰ゲームらしからぬ罰ゲームに思わず聞き返してしまった 「な、何よ、みくるちゃんとはキスしてあたしとはキスできないっていうの?」 そう言ったハルヒの顔にはいくばくかの焦燥が浮かんでいた 言っておくが俺は朝比奈さんとキスしたんじゃない 朝比奈さんにキスされたんだ 「ハルヒ、悪いが、罰ゲームは別のにしてくれ」 何で俺がこんなことを言ったかって? すぐにわかるさ 「…え?」 ハルヒの顔に浮かんでいた焦燥が悲哀に変わる かまわず俺は続ける 「俺は今からハルヒにキスをする、それは俺がハルヒにキスしたいからであって罰ゲームだから仕方なく、ではないんだ」 言いながらハルヒの濡れた髪を撫でる それを聞いたハルヒは滴る雫など吹き飛ばすような太陽の笑顔になった 「キョン、そこまで言ったからには生半可なキスじゃ許せないわよ」 俺は真っすぐ俺を見据えるハルヒの瞳に吸い込まれそうだった、いや吸い込まれていた 次の瞬間には俺の口唇はハルヒの口唇と重なり合っていた お互いの存在を確かめ合うような永い、深いキス 閉鎖空間を入れると2回目だが、お互いの気持ちが重なり合い、お互いの口唇を重ね合う、現実世界でのファーストキスだ 雨の中のキスなんてドラマティックこの上ない そんな自分とハルヒに酔い痴れながらそっと口唇を離した ハルヒはものたりなさそうな顔で、それでいて恥ずかしそうな顔をしていた 正直な話、俺も少し物足りないのだが、今は優先すべき事柄がある 「ハルヒ、部室に戻ろう」 そうなのだ、なんだかんだいろんなものを投げっぱなしにしてハルヒを追い掛けたからいつまでもここにいるわけにはいかない ハルヒは不満そうな顔をしていたが、俺が手を差し出すとそれを握り黙ってついてきた 部室への道程は二人とも無言だった だが居心地の悪さは感じない お互いがお互いの存在を確かめるための無言なのだ 幸せいっぱいの俺たちだったが、ハルヒのまわりを彩る‘不思議’の固まり達が、そしてハルヒ自身が平穏な幸せを提供してくれるとは思えない やれやれ、これ以上の厄介はさすがに勘弁だが、ハルヒとなら乗り越えられる気がするな
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3662.html
4.窮地 ハルヒが倒れてから6日が経った。 長門によると、決戦は明日の13時前後らしい。 「13時5分の前後10分間」 これが長門の予測だった。長門には本当に頭が上がらないな。 これが終わったら図書館&古本屋ツアーだ。ハルヒに文句は言わせん。 明日にはハルヒに会える。 俺はそう思っていた。 世の中上手く行かないもんだ。 いや、俺がこいつらの存在を忘れていたのが悪いのかもな。 今、俺の目の前で、朝比奈さん(みちる)誘拐犯、橘京子が微笑んでいる。 「ああ、早く病院行かなきゃならんな」 とりあえず何も見なかったことにしよう。 「んもうっ、待ってくださいよ!」 何か言ってるな。聞こえん。 「涼宮さんのことですよ!」 「……ハルヒだと?」 佐々木じゃないのか。 「ふぅ、やっと止まってくれた」 足を止めて橘を見る。正直、関わりたくはない相手だ。 ハルヒは大丈夫だ、明日には目覚めるさ。 そう思っても、こいつがハルヒの名前を口に出すと反応せざるを得ない。 信用は絶対にできないが。 「で、ハルヒがどうした。サッサと言え」 「あなたは涼宮さんが明日目覚めると思ってるんでしょう」 何でこいつがそんなことを知ってるか、何て今更どうでもいい。 『機関』と同じような組織だ。調べる伝手なんかいくらでもあるんだろう。 しかし、何で今更俺にそんなことを言ってくるんだ? ハルヒがこのまま情報生命素子とやらに乗っ取られるのは、こいつらにとっても不都合なはずだ。 こいつらに俺たちを邪魔する理由は思い当たらない。 まだ邪魔しに来たと決まったわけではないが。 「それがどうした。お前には関係ない」 「そんな言い方酷い。……まあ、それはいいですけど。 それより、涼宮さんは明日になっても目覚めない、と言ったらどうしますか?」 何を言っているんだこいつは。ハルヒが明日目覚めない? 長門は明日、ハルヒの情報生命素子を消去すると言い切った。 こいつと長門、俺がどちらを信じるかなんてことは言うまでもない。 「あ、信じてないでしょう。無理もないか。今は伝えるだけでいいです。 明日、涼宮さんは目覚めません。手遅れになる前に手を打たないと」 「お前が未来人だとは思わなかった」 まともに相手してやる気はない。だが、こんな予言めいたことを言う理由は気になる。 「まさか。未来人ならこんなはっきり明日のことは言わないはず」 それは確かにそうだ。未来のことをはっきり言うのは禁則事項らいしからな。 「まあ、簡単に気が変わるとは思ってなかったけど……」 簡単でも複雑でも、俺がお前らに協力することはねぇよ。 「いつまでそう言っていられるかしら? まあいいわ、またすぐに会うことになるんだから」 そう言うと、笑顔のままひらひらと手を振って去っていった。 何しに来たんだ? 俺を不安に陥れようとしたなら大失敗だぜ。 しばらく悩んだ俺は、古泉の携帯に電話してみた。 あいつらの行動とその目的を機関が把握しているか確認したくなったからだ。 電話が通じるところにいない可能性が高い。 だが、予想に反して携帯は通じた。 『もしもし』 ……俺は思わず携帯を離してまじまじと見てしまった。 かけ間違えたか? 出たのは女性だった。 『もしもし? 大丈夫です、これは古泉の携帯で間違いありません』 受話器から聞こえてくる声で俺は冷静になった。 驚かせてくれたな、古泉め。 「その声は森さんですか?」 電話越しでも聞き覚えのある声は、完璧なメイドにして怒らせると恐ろしい機関のエージェント、森さんだった。 『はい、お久しぶりです。古泉が閉鎖空間にいるときと就寝時、機関の人間の内 あなた方がご存じの人間がこの携帯を預かることになっています』 なるほど。いつでも連絡が取れるようにという機関の配慮だろう。 「ああ、すみません、びっくりしてしまって。それで、用件なんですが……」 『橘京子があなたと接触したことですね』 ……やれやれ、さすがにわかっていたのか。俺は尾行でもされているのか? 『結果的には尾行になりますが、目的はあなたの安全です。今は緊急事態ですから』 森さんはあっさり認めた。 『それに、橘京子の方にももちろん監視がついています。 今回あなたと接触しようとしていることも掴んでいました』 本当にやれやれだ。そこまでわかっていたなら教えておいてくれてもいいだろうが。 機関も未来人同様、秘密主義をモットーとしているのか? 「で、あいつは何で俺のところに来たんですか? ハルヒが目覚めないなんて戯言をほざいていましたが」 『……そんなことを言っていたようですね』 ん? この言い方だと今の俺たちの会話で初めて知ったようだが? 知らなかったのかよ おい! これが古泉相手なら嫌味の2つや3つ言ってやりたくなるが、相手は森さんなので素直に聞く。 「把握されてなかったんですか」 『申し訳ございません。我々としましても何とか把握したいとは思っていたのですが、 不自然な邪魔ばかり入りまして』 不自然な邪魔? 『ええ、おそらくは人外の、と言っていいと思います』 人外ってことは…… 「宇宙的な力で邪魔されたと言うことですか」 あっちにも長門たちとは別の宇宙人がいたからな。 『証拠があるわけではありませんが、そのように推測しております』 そりゃ、普通の人間が太刀打ちはできないよな。 『橘京子の発言について、こちらもこれから検討に入ります。 周防九曜は監視をすり抜けて活動しています。何かあるかもしれません。 事実だとすると時間がなさ過ぎます。急がないと』 周防の活動、と聞いて寒気が走った。橘の警告。まさか何かたくらんでやがるのか。 だが、俺は長門を信じる。古泉がらみで今回は機関も信じてやってもいい。 絶対に、何とかなる。 病院に着くと、ハルヒの母親がいた。 初日に会って以来、俺は初めてあった。 ほとんど午前中に来ているらしい。 1日中ついていると言い張ったらしいが、病院の方でなだめたと聞いた。 長門が1日ついていることは隠しているらしい。 「あなたがキョンくんでしょ」 いきなり言われて戸惑った。 「あ、はい、そうですが……」 「いつも娘がお世話になってるみたいね。ありがとう」 「えっ いえ、そんなことは……」 一体ハルヒは家で俺のことをどういう風に話しているんだろう。 「こんなにお友達が心配しているの1週間も起きないなんて……」 ハルヒ母は、悲しげな目をハルヒに向けて言った。 特に異常はないが何故か目覚めない、そう聞かされているはずだ。 原因がわからないのでますます不安になるだろう。 「中学のときだったら、お見舞いに来てくれる友達なんていなかったと思うの」 ハルヒを見つめながら独り言のようにハルヒ母は続ける。 「それが今はずっとついてくれているお友達がこんなにいるものね。この子は幸せ物だわ。 ──あんまりお友達に心配かけてないで、早く起きなさい、ハルヒ」 言いながら涙目のハルヒ母を見て、俺は何も言えなかった。 本当のことを知らされないってのも辛い物だよな。 ハルヒ、お袋さんも心配してるぜ。頑張ってくれ。 そのとき、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。 おいここは病院だぞ。こんなドアの開け方をする奴はハルヒ1人で十分だ。 「きょ、キョンくん!! た、たた大変です!!!!」 「朝比奈さん!?」 朝比奈さんがこんなドアの開け方をするなんて珍しい、というかありえねえ。 何かあったのは顔を見れば一目瞭然だ。これ以上ないくらい焦っている。 「な、長門さんが、長門さんが……!!!」 大きな目からボロボロ涙をこぼし始めた朝比奈さんは、それ以上説明できなくなってしまった。 「落ち着いてください、長門がどうしたんですか?」 聞いても既に号泣してしまっている朝比奈さんは何も説明してくれない。 「長門はどこにいるんですか? とりあえず案内してください」 そう言うと朝比奈さんは泣きながらうなずいて病室の外に出て行ったので、俺もついていくことにした。 「お騒がせしてすみません、失礼します」 ハルヒ母に頭を下げると、病室を後にした。 ここまで来て、長門に何があった!? 「すみません、落ち着いたらでいいから説明してくれると嬉しいんですが」 泣きじゃくりながら俺を案内する朝比奈さんに聞いてみた。 無理っぽいけどな。 俺の中の不安がだんだん形になってくる。 『明日、涼宮さんは目覚めません』 橘の言葉がよみがえってきた。くそっ あいつらが何かしやがったんじゃないだろうな。 「うっ ぐすっ……す、涼宮さんのお母さんが、みえたんです、だから席を外して……」 泣きじゃくりながら何とか説明をし始めたところで、ハルヒの病室とは少し離れた部屋に着いた。 ドアを開けると、ベッドに長門が寝ていた。休憩しているのか? いや、そんなわけはない。だったら朝比奈さんが泣き出すわけがない。 「そ、そしたら……ぐすっ……突然、長門さんが……た、倒れて」 状況は把握した。だが、長門が倒れる? 過去に長門が倒れたのときには必ず関わってる奴がいやがった。 雪山のとき。そして今年の春。 「畜生、あいつか……」 情報統合思念体が「天蓋領域」と名付けたやつ。 いまいち、というか全然何考えてるかわからない存在だ。 長門の親玉にすらわからないんだ、俺になんかわかるはずもない。 あいつらにも、長門がいないとハルヒを助けられないことくらいはわかってると思うが。 だったら何故? 「わ、わたし、何もできなくて……ぐすっ 長門さんが、大変なのに……」 朝比奈さんが泣いている。 泣かないでください、俺も同じです。 何もできねぇよ、畜生! 何とかしないと……どうする? 焦って思考がまとまらない。 長門──情報統合思念体によるインターフェース。 二度と会いたくないが、朝倉がいたらこの際代わりに頼りたいくらいだ。 朝倉? そうか! 俺は携帯を取り出して古泉に電話をかけた。 『もしもし』 今度は古泉が出た。 「古泉か。長門が倒れた」 時間があまりない。単刀直入に話す。 『ええ、聞いています。僕も今そちらに向かっているところです』 「原因は天蓋領域か」 『おそらく。周防九曜の動きが全くつかめていません。何かしたのではないかと』 やはりな。 「そこでだな、今気がついたんだが、喜緑さんに連絡を取れないかと思ったんだが」 この際喜緑さんじゃなてく、他のインターフェースでもいい。 機関は複数のTFEIとコンタクトを取っている、と言っていた。 長門以外の宇宙人でも、長門と同じことができるはずだ。 「情報統合思念体の派閥が違っても、ハルヒの今の状態が面白くないのは同じなはずだ。 情報生命素子とやらを何とかするのに異論はないはずだろ」 俺は古泉に言った。 『それに気付くとはさすがですね』 嫌味かよ。 『いえいえ、純粋に賞賛の言葉ですよ。ですが、残念ながら無理です』 「無理? 何でだよっ!」 電話越しに突っかかる。目の前にいたら襟首を掴んでいるところだ。 『今朝から、機関が把握しているTFEIと連絡が取れなくなりました。 原因は長門さんと同じと思われます』 「なんだって?」 つまり情報統合思念体製インターフェースは、すべて活動停止に追いやられているってことか。 『そういうことです。長門さんは、最後まで動いていました。 状況はわかっているようでしたし、注意する、と言ってくださっていたのですが……』 なんてこった。長門は気がついていたのか。 気がついて、何とかしようと努力してダメだった。 まるで1年前のあのときのように。 また何も言わずに1人で抱えてたのかよ、長門! 『あなたには言うなと言われていましたが、状況が状況ですので。それでは、後ほど』 電話が切れた。 ちょっとショックだった。俺に隠したかったのか? 「違いますよぉ」 いつの間にか泣きやんでいた朝比奈さんが、まだ涙の浮かぶ目で俺を見て言った。 「長門さんは今のキョンくんに、涼宮さんだけを心配していて欲しかったんです」 そんなこと言われたって、この状態で長門を心配するなっていうほうが無理だ。 「長門さんはキョンくんに余計な心配かけたくなかっただけなんです」 言いたいことはわからないでもない。 それでも、やはりショックは抜けなかった。 そりゃ、俺は何もできないが、少しは頼って欲しかったよ、長門。 「すみません、少し頭冷やしてきます」 なんと言っていいかわからず、俺は部屋から逃げ出した。 外に出ると、古泉が到着したところだった。 「どうしたんです? わざわざ出迎えてくれるとは」 俺を見つけると、古泉が声をかけてきた。 「そんなわけないだろ。頭冷やしに出てきただけだ」 「あなたがショックを受けているのはわかりますよ」 古泉が真顔で言った。 「僕だってそうですから」 お前も? 少なくともお前は長門から話を聞いていただろうが。 「いえ、ただ一言『注意する』とだけ。具体的に何が起こっているかは何も聞いていません」 そうか。やはり1人で何とかしようとしていたのか。 「しかし、今回は正真正銘の緊急事態です。 長門さんはこちらの唯一のカードにして切り札だった。それを奪われたわけですからね」 その通りだ。長門がいなきゃ、ハルヒは助からない。 意識が戻っても、既に中身は違う人間だ。実際、どういう人間になるのかもわからない。 そんなことは絶対に避けなければ駄目だ。 「俺たちはどうすりゃいい?」 古泉に聞いた。こいつなら、何かいい案を出してくれるかもしれない。 だが、古泉は首を横に振った。 「機関の上の方は恐慌状態ですよ。こちらは何の手も打てないのですから」 そりゃそうだろう。機関と言っても、所詮はただの人間の集まりだ。 「でも、少なくとも僕たちは諦めるわけにはいきません」 いつになく真剣な目で古泉は俺を見つめた。 この『僕たち』というのはSOS団のことだ。 「そうだな、諦めるわけにはいかねぇよな」 ──俺たちだけは、な。 5.選択へ
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/
ハルヒと親父 @ wikiにようこそ このwikiは、ハルヒスレSSまとめwikiに掲載された「ハルヒと親父」(オリキャラ全開)シリーズとその周辺的二次創作の物置です(詳しくは→はじめての方へ)。ひとりでやってます。 急募「親父の掛け合いを演じてみませんか?」 声劇「ハルヒと親父」では、声優さん(声で演じてくれる人)を募集してます。http //bit.ly/9TQ1r5 本日の親父の放言 「井の中の蛙の頭上にも、空は広がっている」 今日のオススメ ランダムリンク 新着記事 取得中です。 ハルヒと親父wiki 内容一覧 ([+]をクリックで展開、[-]をクリックで畳込み) +ハルヒと親父(メインライン・ストーリー) ハルヒと親父(メインライン・ストーリー) ハルヒと親父1 ハルヒと親父2 ー おとまり「ハルヒと親父2 ー おとまり」から削除されたラブシーン ハルヒと親父2その後 一周年一周年 その1 一周年 その2 一周年 その3 一周年 その後ー腕の腫れ、氷の癒し ハルヒと親父3 — 家族旅行プラス1ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その1 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その3 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その5 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その6 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その7 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その8 家族旅行で見る夢は (家族旅行プラス1のスピンアウト作品) +ハルヒと親父(サブライン・ストーリー1) ハルヒと親父(サブライン・ストーリー1) ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5 (続編) 涼宮ハルヒのリフォーム その1 涼宮ハルヒのリフォーム その2 涼宮ハルヒのリフォーム その3 涼宮ハルヒのリフォーム その4 涼宮ハルヒのリフォーム その5 +ハルヒと親父(サブライン・ストーリー2) ハルヒと親父(サブライン・ストーリー2) できちゃった その1 できちゃった その2 できちゃった その3 できちゃった その4 できちゃった その5 できちゃった その6(最終回) できちゃった エピローグできちゃった 外伝ー教材仁義 できちゃった 外伝ーミッドナイト・ミルク できちゃった 外伝ーお風呂の時間 +ハルヒと親父(サイド・サイド・ストーリー) ハルヒと親父(サイド・サイド・ストーリー) ダンス・ダンス・ダンス +ハルヒと親父(ビター・ストーリー) ハルヒと親父(ビター・ストーリー) 一人旅に必要な事一人旅に必要な事 一人旅に必要な事 その後 一人旅に必要な事 その後の後エピローグ1 アキとハルヒ エピローグ2 アキと親父 エピソード「スキとキス」 エピソード2 幸せと笑顔 エピソード3 アキとキョン エピソード4 参観日 一人旅に必要な事 elself +ハルヒと親父(主としてハルキョン) ハルヒと親父(主としてハルキョン) 水いらず火炎瓶 スポンサーから一言(親父キョン) その1 その2 その3 その4 その5 その6(最終回) 親父が来る(二人は暮らし始めましたー場外) その1 その2 その3 一攫千金シリーズ 新興宗教 +ハルヒと親父(親父とSOS団) 涼宮家の一族 前編 後編 オヤジラジオ その1 その2 その3 その4 図書館で オヤジ野球 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 ロール・プレイング その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 +ハルヒと親父(親父もしくは母さんメイン) ハルヒと親父(親父もしくは母さんメイン) 涼宮親父の修業時代 ハルヒ母の遍歴時代 親父と母さんの格闘 オヤジ狩り 王様とあたしたち その1 +小さいハルヒと親父 小さいハルヒと親父 ファーストキス・ショット 生まれた理由 涼宮ハルヒの特訓 キスキス 夏休みの工作 しふぉん 捨て猫と会った日のこと High Moon:真夜中の親父 +親父さんと谷口くん 親父さんと谷口くん その1 その2 その3 その4 その5(最終回) エピローグ +ハルヒと親父(小品) ハルヒと親父(小品) とある七夕の前日 なれそめ チョコレート・パニック ハルヒとその母:共に居る理由 What s Love? 子犬の恋 或る日の出来事 親父の一番長い日 恋文たち 天抜きの日 父の日のこと 愛と運命についての対話 嫁いだ日 二人でベンチに キョンが泊まった翌朝の涼宮家 二人でドライブ 同じ夢の中 6月の桜 デカンショ ハルヒのピアノ 7月30日プロレス記念日 クレイマークレイマー 長門有希の空腹 長門有希の満腹 銀行強盗 夏仕舞い ハルヒと親父の格闘 For piano four hands 親父のびおろん 親父とRPG やつは大変なものを盗んで行きました 通り魔 先延ばしの詩(うた) 冷蔵庫のあかり オヤジのバスケ 化粧 親父抜きの大晦日 Sweet Pain 師走の親父 通り魔2 雪洞の親父 しもやけ オヤジ野球 ホワイトデー ちかんにあった 朝食の情景 親父の臨終 ハルヒと親父シリーズ以外:主としてハルキョンもの +異年齢シリーズ 異年齢シリーズ ハルヒ>キョン ハルヒ先輩 ハルヒ先輩2 ハルヒ先輩3 ハルヒ先輩4 ハルヒ先輩5 ハルヒ先輩6 ハルヒ先輩7 ハルヒ先輩8 ハルヒ<キョン 保健室へ行こう 保健室へ行こう2 保健室へ行こう3 保健室へ行こう4 保健室へ行こう5 保健室へ行こう6 +「二人は暮らし始めました」シリーズ 二人は暮らし始めました 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 8日目 9日目 10日目 二人は暮らし始めましたー外伝 ハルキョン温泉旅行 その1 その2 その3 その4(最終回) 二人はひきこもりました その1 その2 その3 二人は暮らし始めましたー場外 親父が来る その1 親父が来る その2 二人は暮らし始めましたー短編 ラブひげ危機一髪 ラベンダー・バス 留守番 わるいゆめ +辞書シリーズ 辞書シリーズ 国語辞典:よばい 漢和辞典:虹 英和辞典:I love you. 和英辞典:ただいま/おかえり 新語辞典:バカップル 古語辞典:モノ/コト +新落語シリーズ 新落語シリーズ 出来心 金明竹 二十四孝 三年目 松山鏡 +にわか記念日シリーズ にわか記念日シリーズ 1月31日 妻にささげる日 6月6日 かえるの日 7月20日 Tシャツの日 7月25日 夏氷の日 7月27日 スイカの日 7月28日 乱歩の日 7月30日プロレス記念日 8月1日記念日の応酬 8月2日 パンツの日 8月10日 健康ハートの日 8月18日 北海道清酒の日 9月23日 酒風呂の日 +司書魔女シリーズ 司書はなにゆえ魔女になる? 司書はある朝、魔女になる 司書は休日、魔女になる +その他のSS しんみり系 I wish you were here.(アナタガココニイテホシイ) みぞのの鏡 手錠 ハカセくんの初恋 彼と彼女と彼女のメール 電波の日 Nowhere ふたりがここにいる不思議 同窓会の日にて ヰタ・セクスアリス/雨宿り 夏氷(なつごおり)の日 ゲリラ雷雨 フェバリット・メモリー 虫愛づる姫君のためのパヴァーヌ 夏の自転車 ドラキョン:あるヴァンパイヤの憂鬱 終電車 ハルキョン童話:しかめっ面の女の子 彼を知る彼女達の対話 アーカイブ ふたりだけにひろがる空 白みかける空 年越し その次の日 あいつについてあたしが話せる2、3の事項 +その他のSS ある意味青春系 明日のお弁当 涼宮ハルヒの格闘 涼宮ハルヒの格闘2 ツンデロイド 受験当日の二人 ネーミング・ライツ 輪になってマッサージ 涼宮ハルヒの創作 よくあるデートの誘い方 自転を逆に回して 近距離レンアイ 寒い日が好きだった 涼宮ハルヒの正夢 ともコレ マジで恋する5秒前 かなしいうた 夢魔が降る夜 +その他のSS かなりばか系 その男、文系につき SOS団がカラオケへ行く スモール・トークス ラブレターズ 歴史改変阻止シリーズ 技術の長門 おれがあいつであいつがおれで 背中合わせ 逆チョコ バカップル度チェック 7月20日 Tシャツの日 一言違いシリーズー伝染病 一言違いシリーズークラークの法則 長門有希の解答ーおっぱい 技術の長門−ワッフル・デコーダーの暴走 ミルク搾りの女の子 青少年愛護条例 ハルキョン版アリとキリギリス 銀河の中心で愛を叫ぶ バカップル度チェック(初心者篇) ならんでる +その他のSS カオス系 涼宮ハルヒの禁欲 涼宮ハルヒのいちゃつき 涼宮ハルヒの中継 かつてなく積極的な ツンデレエンザ キス銀行 6月6日 かえるの日 クイズ大会 アルプスの少女ハルヒ ハルヒ番長 こちら七曲署SOS課 字マンガぬこハルにゃん 資本戦隊キャピタル・ファイブ 資本戦隊キャピタル・ファイブ2 資本戦隊キャピタル・ファイブ3 +企画室 企画室 親父語録保管庫 親父の英会話Lesson 1 Lesson 2 Lesson 3 Lesson 4 Lesson 5 Lesson 6 Lesson 7 Lesson 8 Lesson 9 Lesson 10 親父の英文法Lesson 1 親父さん、何読んでるの?(涼宮オヤジの100冊) オヤジならどうする?(涼宮オヤジの人生相談)? -その他 あるSS書きの七つ道具 親父書きがSSを読む そのとき親父書きは何を思ったか? 掲示板/足跡帳 ほめられちゃった bookmark_yahoo bookmark_hatena bookmark_delicious bookmark_livedoor bookmark_nifty bookmark_fc2 bookmark_sphere bookmark_blinklist
https://w.atwiki.jp/penpeeeen/pages/25.html
ハルヒ8ちゃんだおぉぉぉ(*´Д`) ハルヒ8 ブレイダー 88lv 僕のメインはハルヒちゃんだお(*´Д`) 皆ハルヒちゃんの事ハルちゃんって呼んでいただきたい←えw ぱみゅぱみゅ~ 近々BLOG作ります~♪
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/525.html
これは「涼宮ハルヒの改竄 Version K」の続編です。 プロローグ 俺はこの春から北高の生徒になる。 そして明日は入学式だ。 担任教師からは「もう少し頑張らないときつい」と言われたし 親父と母さんは「もうすぐ高校生なんだからしっかりしなさい」と言われた。 はぁ、全く以って憂鬱だね。 さぁ、明日は朝から忙しくなりそうだし、もう寝るとするか。 睡魔が俺の頭を支配する寸前、何故だか「はるひ」の泣き顔が頭をよぎった。 なんであいつの顔が出てくるのだろう? 等という疑問も睡魔に飲み込まれていった・・・ とてもいい夢を見た様な気がする。 どうせなら、現実と入れ替えたいと思うような夢だった。 ん?どうして、夢だって分かるのかって? 何故なら、それは現実ではまずありえないことだったからな・・・ だから夢だって分かる訳さ。 どうやら夢というのは一番いいところで終わるものの様だ。 もう少し見ていたい気もするのだが・・・ 最近、腕がメキメキと上がる妹のボディプレスで俺は目を醒ました。 「妹よ、もう少し優しい起こし方は出来んのか?」 「だって、こうしないとキョン君起きないもんっ!!」 ふむ、どうやら中々起きない俺にご立腹の様だな。 俺が起きたのを確認すると足早に1階へと降りていった。 それを見送った俺は枕元の時計で時間を確認する。 そこで頭が一気に覚醒した。 ヤベッ、寝坊したっ!! 起こしてもらって寝坊してたら、そら腹も立つわな・・・ 妹よ、スマン。 「涼宮ハルヒの入学 version K」 俺は慌てて部屋を出て階段を駆け下りた。 が、その時足が縺れ、俺は豪快に階段を転げ落ちた。 母さんが慌ててリビングから出てくる。 「ちょっと、キョン大丈夫っ!?」 「いって~、初日の朝からこれかよ?ダッセー」 「そんなことどうでもいいわよっ!!それよりちゃんと立てるの?」 「あぁ、大丈夫だ。朝から騒々しくしてスマン」 そう言って俺は立ち上がった。 が、一瞬フラついて壁に手を当てた時、俺の腕に激痛が走った。 「っ痛!」 俺はもう片方の手で痛みが走った腕を押さえた。 「ちょっと腕見せてみなさい」 それを見ていた母さんは、俺の腕を心配そうな顔で見ていた。 「折れてはいないみたいだけど、一応病院に行った方が良さそうね」 「これ位なんて事無いから、大丈夫だ」 と言った俺は母さんにポカっと頭を殴られた。 「確かにただの打撲かもしれないけど、万が一って事があるでしょ?学校には連絡しとくからとりあえず支度だけはしときなさい」 「分かった。朝から面倒掛けてスマン」 「いいわよ。あたしが年取ったらいっぱい面倒掛けてやるんだから。覚悟しておきなさい」 この時ばかりは母親の強さというものが骨身に染みた。 「あぁ、幾らでも掛けてくれ」 「えぇ、そうさせてもらうわ。お父さん帰ってきたらすぐに病院に行くわよ。だからさっさと着替えなさい」 と言いながら俺の寝巻きを剥いできた。 「ちょ、自分で脱ぐからそれだけは勘弁してくれ~」 「何言ってんの?腕怪我してて自分じゃ脱げないだろうと思って手伝ってやってんじゃない。いいから黙って剥かれなさい」 前言撤回したくなってきた。 この人は間違いなく遊んでいる。 そこへ妹が興味を引かれてやってきた。 「何してるの~?」 「なんでもあr「あ、ちょうどいい所へ来たわ。キョンが腕に怪我したから寝巻き脱がすの手伝って」 「そうなの~?キョン君大丈夫~?」 それを聞いた妹は心配そうな面持ちで俺を見てきた。 あぁ、お兄ちゃん想いの妹を持って俺は幸せ者だなぁ等と思っていたら、妹は俺のズボンを引っ張り出しやがった。 ここから 「こ、こら、ズボンを引っ張るんじゃありません。」 「なんで~?ケガしちゃって大変なキョン君のお手伝いしてるだけだよ~」 もはやこの親娘を止められる奴なんかこの世に存在しない事を悟った俺は抵抗を諦めた。 「好きにしろよ、もう」 母さんと妹から強制ストリップショーを敢行させられた俺は無事北高の制服に身を包んでいた。 のだが、それだけでは終わらなかったのである。 現在、母さんは学校と親父に電話を掛けている。 俺はというと、テーブルに座り朝食にありつきたいのところなのだが箸を妹に拘束され、俗に言う「お預け」状態にあった。 俺は俺の箸を強奪して至極楽しそうにしている妹を恨めしい目で見た。 「お母さんが電話終わるまで待ってなさいって言ってたでしょ?」 いったい何なんだこれは?果てしなく嫌な予感がするぞ。 そして母さんが電話から戻ってくると俺の嫌な予感が的中したのだ。 「腕が痛くてご飯もおちおち食べられないキョンのために、あたし達が今日だけ特別に食べさせてあげるわ」 なんですと~っ!? 今、この人はなんて言ったの? って、俺が現実逃避している間に母の手により一口サイズにつまんだ白米が口元まで進攻してきていた。 っく、覚悟を決めるしかないのか? 「最近、キョンったら全然釣れないんだもの。こういう時しかキョンで遊べないもんねぇ?」 「うん、キョン君で遊ぶの久し振りだから楽しい~」 こいつ等、やっぱり遊んでいたのか・・・ 親父、早く帰ってきて俺を助けてくれ。 もう、あなただけが頼りだ。 その時、玄関の方から「ただいま~」と救世主の声が聞こえた。 グッジョブ親父!! と思ったのもつかの間だった。 「なんだ?怪我したっていうから急いで帰ってきたのに、随分羨ましい事してるじゃないか?」 「そう思うんだったら代わってくれ、今すぐに」 「キョンってば冷た~い、あたし達はもっとキョンと仲良くしたいだけなのに」 「キョン君は私達が嫌いなの~?」 なんなんだ、このアホアホ家族は・・・ 「分かった、分かったよ。有難く頂きます」 俺はヤケクソで母さんと妹から運ばれる朝飯を食い尽くした。 「美味しかった?美味しくない訳無いわよね~?」 「あぁ、美味かったよ。もうお腹いっぱいだ、色んな意味でな」 「そう?褒め言葉として受け取っておくわ」 俺の皮肉もどこへやらで母さんはどうやら満足したらしい。 はぁ、やれやれ・・・ 「じゃあ、そろそろ病院行きましょうか」 やっとか・・・長かった。 「おぅ、先にこいつと車で待ってるぞ」 「分かったわ~」 というわけで俺は今親父と二人、車内で母さんと妹を待っている。 「怪我はどうなんだ?そんなに酷いのか?」 「いや、ただの打撲だと思う」 「そうか、あんまり母さんに心配掛けるなよ。あぁ平静を装ってるが、内心はパニック寸前なんだからな」 また迷惑を掛けちまったな。 後できちんと謝ろう。 「あぁ、分かってる。これからは気を付ける」 「あぁ、そうしてくれ。あとたまにはちゃんと話もしてやれ。母さん寂しがってるぞ」 「そうする」 そうだ。普段は強気でいるけど母さんはその実とっても弱いんだ。 俺は母さんをどれ位傷つけたんだろう・・・ 図体ばっかで全然成長出来てないな俺・・・ その時、母さんと妹が車に乗り込んできた。 「ごめ~ん、お待たせ!!さぁ、病院へレッツゴー!!」 母さん、病院はそんなハイテンションで行くところじゃありませんよ・・・ その後、病院へ行って診察してもらった結果やっぱり打撲だった。 それを聞いた時の母さんの安心しきった顔を俺は一生忘れないだろう。 そんなこんなでやっと北高へ着いた。 もう式も終わっていて今はクラス毎にLHRが行われている時間だ。 俺は「もう式も終わってるんだから今日は休もう」と言ったら「ダメ。初日からサボリなんて許さない」と両親から最大級の威圧を与えられ今、受付に向かっている。 俺は片付けを始めている受付で自分の受験番号と名前を述べた。 「受験番号???の○○○○です。事情が合って遅れてしまったのですがクラスを教えて頂けますか?」 「はい連絡は受けています。○○○○さんのクラスは1年5組になります。座席表は教室の入り口に貼ってありますから教室に入る前に確認して下さい。本日は御入学おめでとうございます」 「はい。ありがとうございます」 俺はペコッと頭を下げると1年5組の教室を目指した。 教室のドアの前に立って自分の席を確認した。 どうやら、今教室内ではクラスメイト達が自己紹介をしている様だ。 その時、自分の後ろの席の奴の名前が「涼宮ハルヒ」と書かれていることに気づいた。 へぇ、あいつと同じ名前だなぁ、どんな奴だろ? もしかしてあいつだったりしてね? いや、そんなドラマ的展開はないか。 あいつは今元気でやってんのかなぁ?等と考えつつドアを開けた。 「東中出身。涼宮ハr「遅れてすいませんでした~」 ヤベッ、自己紹介と被っちまった。 とりあえず謝っておくか。 背後から怒りのオーラ出しまくってるしな。 なんか、今日は朝から謝ってばっかりだな、俺・・・ 「あ~、とりあえずスマン」 謝った途端、そいつはこっちを怒り120%で睨みつけてきた。 そこにはすっかり美人になった「はるひ」がいた。 いや、前に会った時も十分美人だったぞ。 今のはそれ以上という意味だ。 って俺は誰に説明してんだ? 俺が見惚れているとハルヒが聞いてきた。 「ちょっとジョン、なんであんたがここにいるのよ?」 おいおい、誰だよそりゃ? 「誰だ?そのジョンというのは?頼むからこれ以上変なあだ名は増やさないでくれ。はるひ」 「じゃあ、あんたはあの時の「あいつ」なの?」 「あぁ、久しぶりだな」 「ホントにね。ってか何であたしの名前知ってんのよ?」 あぁ、周りの目線が冷やかしモードになってきたな。 初日からこれはマズイ、色んな意味で・・・ 「それは話せば長くなるんだが、とりあえず後にしよう」 頭に?マークを浮かべているハルヒに手で周りを見るように促した。 ハルヒは満足出来ないという面持ちだったがとりあえず席に座ってくれた。 はぁ、とりあえず助かった・・・のか? 俺は、このクラスの担任らしい人に挨拶をした。 「遅れて申し訳ありませんでした。ただの打撲で済みました」 「そうか、それは良かった。しかし、打撲だからといって侮っちゃだめだぞ」 「はい、ご心配おかけしました」 「よし、じゃあ席に着け。今は見ての通り自己紹介をしてもらっている最中だ」 「はい」 そう言うと俺は自分の席に着いた。 「じゃあ、今来た○○○○には最後に自己紹介をしてもらう。悪いが涼宮もう一回頼む」 な、なんだって~っ!? まぁ、落ち着こう。 落ち着いてハルヒの自己紹介を聞こう。 「東中出身。涼宮ハルヒ。趣味は不思議探索です、以上」 なるほど、不思議探索ね。 って、不思議探索ってなんだ? 後で聞いてみよう。 こちらに向けられている怒りの視線の理由と一緒に。 そして、本来なら最後のクラスメイトの自己紹介が終わり俺の番がやってきた。 「○○中出身の○○○○です。一年間よろしくお願いしま~す」 なんともありきたりな自己紹介だと自分でも思う。 しかしながら、変にギャグキャラを気取って一年間そのキャラを演じ続けられる自信もない。 今日の予定は全て終わった様でSHRの後、本日は解散となった。 席に座ってボーっとしていると国木田が話しかけてきた。 「キョン、朝から災難だったみたいだね~」 「あぁ、全くだ」 ホント色んな意味で大変だったさ。 「キョン、この後はどうするの?」 さっさと帰って寝たい気もするが、ハルヒと少し話をしようと思う。 まぁ、そんな事を国木田に言えるわけも無く 「あぁ、ちょっと用事がある」 と誤魔化した。 「そうなんだ、じゃあまた明日ね」 「あぁ、じゃあな国木田」 国木田を見送るとハルヒの方に視線を向けた。 「な、何よ?キョン」 ちょ、お前まで俺をそう呼ぶのか!? 俺は「やれやれ」と言いながら溜息をついた。 なんとかやめてくれないものかと微かな希望を持ってハルヒに言った。 「お前も、俺をその名で呼ぶのか?出来たら勘弁してもらいたいのだが」 「いいじゃない。キョンの方が愛嬌があるんだから」 「はぁ、もう好きにしてくれ」 ハルヒの機嫌もどうやら良くなっているようだからな。 「そうするわ。でもホントに久しぶりだわ。キョンはあんまり変わってないわね」 あぁ、俺も朝に自分でそれを思い知ったさ。 「ははは、そうかもな。ハルヒはとっても綺麗になったな。一瞬誰か分らなかったぞ」 ハルヒの顔が段々赤くなっていく。 さて、俺は今なんて言ったんだろうな? え~っと・・・ うわっ、何恥ずかしい事さらっと言ってんだ俺!! 自分の顔が熱くなっていくのが分かる。 その時、ハルヒの携帯が鳴った。 と思ったら俺の携帯も鳴り出した。 発信は母さんか。 何の用だろうな? ハルヒが俺の方を見ているので俺もハルヒを見て無言で頷いた。 ハルヒが電話に出たのを確認して俺も電話に出た。 「あ~、俺だけど」 「あっ、キョン?もう遅いわよ、何してるの?今から昼ごはん食べに行くからさっさと出てきなさい」 「ん、分かった。今から行く」 「ちゃ~んと、ハルヒちゃんと一緒に出てくるのよ、いいわね?一緒に来なかったら昼はキョンの奢りだからね」 「おい、母さん何言t「プチ」 ツー ツー ツー 何で母さんがハルヒがいるって知ってるんだ? さっぱり、理解できん・・・ 隣を見るとハルヒが俺と同じような事を考えてる様な顔をしている。 俺はまた「やれやれ」と溜息をついた。 俺とハルヒは横に並びながら昇降口へと向かった。 昇降口を出ると、親父と母さんがどっかで見た事ある人と話をしていた。 誰だっけ?どっかで見た事あるんだよな。 あっ、あれってまさか・・・ 「キョン、どうしたの?」 一応聞いてみるか・・・ 「あれ、お前のとこの両親だよな?」 「うん、そうだけどそれがどうかしたの?」 だよな、道理で見た事あるはずだ。 「隣に居るのは俺の両親と妹だ」 「ふーん、そうなんだ。って、えぇ、な、何であたしの両親とあんたの両親が仲良く話してんのよ?」 「俺にもさっぱり分からん」 すると妹がこっちに気づいた。 まだ気付くな!まだ心の準備が出来てない!! 「あ~、キョン君達来たよ~」 「や~っと来たの。もう、ハルヒちゃん可愛いから2人の世界に入っちゃうのは分かるけど、少し位周りの事も考えなさいねキョン」 「ですよね~。でもキョン君もあんなに格好良いからハルちゃんが夢中になるのも分かるわ。あたしもあと20歳若かったらキョン君狙ってます」 等と俺の母さんとハルヒの母親が冷やかしてくる。 「ちょ、何勘違いしてるのよっ!?あたし達はそんなんじゃないわよ」 「「ふ~ん」」 「あ~もう!!黙ってないでキョンも何か言ってやりなさいよっ!!」 だめだ。相乗効果で手がつけられなくなっている。 「スマン、ああなると母さんは止まらないんだ。諦めてくれ」 「あんた、苦労してるのね。親からもあだ名で呼ばれてるし」 「分かってくれるか?」 「えぇ、あんたに送ってもらった日からあたしの母さんもあんな感じだから・・・」 「お互い苦労するな」 「全くね。でも、あんたとなら誤解されてもあたしは嫌じゃないけどね」 「え、それはどういう意味だ?」 「なんでもな~いわよっ!!」 そう言って走って行くハルヒの顔は心なしか赤かった。 俺はダブルマザーの元へ走っていくハルヒを追い掛けた。 その後、俺の家族とハルヒの家族とで合同入学祝いが執り行われた。 親たち曰く「祝い事は大勢でやるもの」らしい。 この現場をクラスメイトに目撃されてない事を祈ろう。 「高校生にもなって酒も飲めんでどうする~」 とハルヒの父親が突然絡んできた。 「いや、高校生だから飲んじゃいけないと思うんですが」 必死に抵抗していると、俺の親父まで悪ノリしてきた。 真面目なくせにノリだけはいいからな、親父・・・ ダブルマザーもアテにならないので俺はハルヒにSOS信号を発信した。 ハルヒはテーブルに置いてあった日本酒を一気に飲み干して親父達に言い放った。 「ちょっと、あたしのキョンになにしてんのよっ!?いい加減あたしに返しなさいよっ!!」 は、ハルヒさん、いきなり何を・・・ 親父達がポカーンとしている間に俺は腕の牢獄を抜け出し、慌ててハルヒの手を引いて部屋から脱出した。 俺は中庭に出るとハルヒを備え付けられたイスに座らせた。 こうしてるとあの時みたいだな・・・ あぁ、気まずい。何か話題を振らねば。 「どうしたんだ、いきなり?あんな事言うからビックリしたぞ」 「ん、ごめん・・・」 こうして見るとやっぱりあのときのハルヒだな。 そう思い、俺はハルヒの頭を撫でた。 ハルヒは恐る恐る顔を上げて俺を見上げてくる。 俺はそれに応えるように微笑んだ。 「もう、すっかり元気になったみたいだな。これでも結構心配してたんだぞ?」 「ホントに?ホントに心配してくれたの?」 「あぁ、ホントに心配したぞ」 「ありがと・・・」 突然ハルヒが俺に抱きついてきた。 俺は心臓が止まるかと思うほど驚いていたが、またハルヒの頭を撫でてやった。 ハルヒが俺の胸元から顔を覗きこんできて、愛しさのあまり我慢が出来なくなった俺はそっとハルヒの顔に自分の顔を近づけた。 ハルヒはそれに応えてくれたようで俺の首に両腕を回してきた。 そして俺は目を閉じて待っているハルヒの唇に自分のそれを近づけた。 「あ~、キョン君とハルヒちゃんがちゅーしようとしてる~」 突然の声に驚いた俺とハルヒはばっと離れて声がした方を凝視した。 そこには妹が指を指しながら立っていた。 「妹よ、そこで何をしている?」 「ん~とね、お母さん達がキョン君達帰ってくるの遅いから呼びに言ってきてって」 「そうか、分かった。今から行くから先に戻ってなさい」 「うん、分かった~」 妹が足早に中庭を出て行ったのを見計らって俺はハルヒに話掛けた。 「だ。そうだ。残念だが次回に持ち越しだな」 「そうね、ホントに残念だわ」 「仕方ない。戻るぞ」 「えぇ、そうしましょ」 と言ってハルヒは立ち上がろうとした。 が上手く立ち上がれず転びそうになる。 俺は「やれやれ」と溜息をつきながらハルヒを抱きとめた。 「大丈夫か?またおんぶしてやろうか?」 「大丈夫、歩いていけるわよ」 ハルヒは真っ直ぐ歩けないほどフラフラしていた。 仕方ない。またあれをやるか。 「なんなら、お姫様抱っこでもいいが?」 「そうね、そうしてもらうわ」 これは予想してなかった訳ではないが流石に驚いた。 ハルヒはしてやったりという顔をしている。 こりゃ、一本取られたな。 まぁ、いいか。 「よし、いくぞ」 と言ってハルヒを持ち上げた。 こりゃいかん、これはおんぶ以上に緊張する。 「スマンが、慣れてないから首に掴まっててくれるとありがたい」 ハルヒは俺の言った通りに首に両腕を回しながら文句を言った。 「自分からするっていったんだから、しっかりしなさいよね」 あぁ、なんか懐かしいな、このやりとり。 「おう、任せとけ」 部屋に向かってる最中ハルヒは俺に聞いてきた。 「ねぇキョン、あたし変われたかな?頑張れたかな?」 「お前が自分で変われたって、頑張れたって思うのなら達成出来てるんじゃないか?」 「うん、そうだよね。でもね、あたしを変えてくれたのも、頑張れるようにしてくれたのもキョンなんだよ」 「そ、そうなのか?」 びっくりだ。 俺なんかが誰かの役に立てるなんて。 「うん、そうだよ」 「そうか、それは光栄だね」 「だからキョン、これからずっとよろしくね!!」 「おう、こちらこそよろしくな」 部屋に到着するとみんなビックリしていた。 まぁ、当然だよな。 俺は腕からハルヒを下ろした。 残念そうに見えるのは・・・気のせいじゃないだろう。 ハルヒは何かを思い出したらしい。 ハルヒは制服のポケットからアイロンをかけたハンカチを取り出して俺に差し出した。 「キョン、これ返すわ。いままでありがと」 「ん、あぁ、これか。なんだったらずっと持ってていいぞ」 「ありがと。でも、もう必要ないわ。だって・・・」 「だって?」 聞き返すまでも無いな。 「これからはずっとキョンと一緒なんだからっ!!」 fin エピローグ(ver Hのエピローグ2の続き) 「ねぇ、キョン。さっきの続きしよ?」 「ん?あ、あぁ」 正直俺は混乱しまくっていた。 さっきのってのは、やっぱり料亭でのアレの事だよな・・・ あの時は、雰囲気やら勢いやらがあったが今は違う。 クソッ、どうする俺!? 今、してしまったら歯止めが利かなくなってしまうかもしれない。 俺達、正式に付き合ってるわけじゃないんだからまだそこまでしてしまうのはマズイだろ。 俺はふと、ハルヒの顔を見た。 俺は愕然とした。 そこにさっきまでの楽しそうなハルヒは居なかった。 代わりにいたのはあの日の泣いているハルヒだった。 「あ、その、ハルヒ?」 「そ、そうだよね。あたしはキョンの彼女でもなんでもないんだからそんなの無理よね。あたし一人で勘違いしてた。ゴメンね、無理言って・・・」 どうやら考えていた事が口から出ていた様だな。 俺のバカヤロウっ!!朝、気付いた事が何にも活かされてないじゃないか!! 今日の出来事を全部思い返してみろよ!! 今日、ハルヒは何度も告白してくれて俺はそれに何度も返事してるじゃないか!? あぁ、そうだった。 ハルヒは何度も勇気を振り絞って俺に想いを打ち明けてくれたのに、俺は一度も自分の想いをハルヒに伝えていない。 だったら、今の俺がするべき事は一つだ。 俺はハルヒの肩にそっと手を置いた。 ハルヒは驚いた顔で俺を見ている。 「ハルヒ、ホントにゴメンな。お前は何度も俺に想いを打ち明けてくれたのに、俺はお前になんにもしてやれてない。ホントどうしようもねぇバカヤロウだ」 ハルヒは黙って聞いてくれている。 「あの日からいつも頭のどっかにお前がいた。お前が望むならいつまでだって傍にいてやる。だから、ハルヒもずっと俺の傍にいてくれ。頼む」 ハルヒは、俺が言い終わると同時に抱きついてきた。 「キョン・・・キョン~、・・・ヒック・・・ホントに・・・・ホントにあたしでいいの?あたしなんかでいいの?」 ハルヒは俺の胸でわんわん泣いた。 「当たり前だろ?もう、お前以外なんて考えられない」 俺も涙で何も見えない。 俺はわんわん泣くハルヒを二度と離さないように、壊さないように抱きしめた。 「ハルヒ、好きだよ。愛してる」 「あ・・あたしも・・・グスッ・・・キョンを愛してる・・ヒック・・大好きだよ・・キョンっ!!」 ガキの恋愛だと笑われたって構わない。 俺はもう、生涯ハルヒを離さないっ!! 俺は、ハルヒの頭に手を回し、そっと俺の方へと寄せた。 ハルヒはこちらを向き、まだ涙がたっぷり溜まっている瞼を閉じて待ってくれている。 俺は自分の唇を、ハルヒのそれにくっ付けた。 たったそれだけの行為でこんなにも幸せになれる。 ハルヒの唇からハルヒの想いが流れ込んでくるようだった。 どれ位していただろう・・・ お互いが自然に唇を離し、その余韻に浸っていた。 もう一度と唇を近づけた時、ドア越しに会話が聞こえた。 なんだ?と思っていたらハルヒと目が合った。 どうやら、ハルヒにも聞こえるらしい。 俺とハルヒはそーっとドアに近づき、聞き耳を立てた。 「・・・・・ルヒちゃんはうちのにはもったいない位です。」 「ホントよね。キョンにはもったいないわ」 「そんなこと言わないで下さい。キョン君以外の子にハルヒを上げる気はないんですから!ね、お父さん?」 「そうですよ。十分ハルヒと渡り合っていけます。あの子が私以外の異性であんなに楽しそうに話すのはキョン君だけなんですよ」 「そう言ってもらえると光栄です。これからもうちのをよろしくお願いします」 「あたしからもよろしくお願いします」 「「こちらこそ」」 ハルヒは肩をワナワナさせている。 どうやら大変ご立腹の様子だ。 無論、俺も例外ではないのでアイコンタクトを取ると一緒にドアを物凄い勢いで開けた。 「「さっさと寝ろ~っ!!雰囲気ぶち壊しだ~っ!!!!」」 この後、親たちから散々からかわれたのは言うまでも無い。 はぁ、やれやれ fin エピローグ2 後日談 「そういや、なんであの時ハルヒの両親と一緒に居たんだ?」 俺はふとそんな疑問を母さんにぶつけた。 「あぁ、あれ?とりあえず気分だけでも味わおうと思ってみんなでブラブラ校門の辺りを歩いてたら会ったのよ」 「へぇ、そうなのか?」 「うん、そうなのよ。まぁ、初めから一緒に入学祝いをする計画だったんだけどね」 「ふーん。って、あの時初めて会ったんじゃないのか?」 「違うわよ?えーっと、そうね。もう、3年位の付き合いになるかしら」 「何をどうしたらそうなるのか教えてもらいたいもんだ・・・」 「いいわよ、教えてあげる。あれは、たしかあんたがハルヒちゃんを送った3ヶ月後くらいかしらね。お父さんと買い物に行った時偶然会ったのよ」 何なんだ・・・この因果律は? 「で、そのまま一緒にお昼ご飯食べて仲良くなったわけ。どう?分かった?」 「あぁ、理解した。で、なんでそれを俺に隠してたんだ?」 「だって、親が横槍入れたら上手くいくものも上手くいかなくなるでしょ?」 「なるほど。って納得いかん。って事はあれか?同じ高校に入る事も事前に知ってたのか?」 「もちろん!!でも、まさか同じクラスになるとは思わなかったわ」 そりゃそうだ。そこまで操作出来る訳がない。 「もうあれね?これは運命よね?キョン、あんたハルヒちゃんとチューしたんだからちゃんと責任取りなさいよ?」 「あぁ、そうする」 これからもお互い苦労しそうだ。ハルヒよスマン。 「あぁ、早く孫を抱きたいなー。あたしはハルヒちゃんそっくりの女の子がいいわ。キョン頑張ってね」 もう何を言っても聞きそうにないな・・・ はぁ、やれやれ・・・ fin 涼宮ハルヒの入学 version H