約 1,625,715 件
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/428.html
エキシビジョンSS・変電所その1 結果だけ見れば、それは最後の戦い《エキシビジョン》にはふさわしからぬ、あまりにもあっけない幕切れであった。 探偵の放った銃弾は、探偵自らの額を撃ち抜いた。 探偵は斃れた。最後に立っていたのは、常に温和な笑みを絶やさない、物腰柔らかな糸目の神父。 迷宮時計の争奪戦。ただ一人残り、選ばれた勝者は、敗技の王、常敗無勝の綾島聖その人であった。 ■ ■ ■ 話は戦闘が始まる数時間前に遡る。小高い丘の上、蔦の絡まる一軒家で、二人は再会を果たした。 「ドアの鍵、毎回壊さねえとロクに人ン家にも入れねーのか! テメーは!」 大理石、石膏、繊維、銅板、乱雑に積み上げられた様々な素材の中、芸術家・丸瀬十鳥の苦言をものともせず、我が物顔で着席し紅茶を啜る安楽椅子探偵・古沢糸子。 「こっちだって大変なのよ。マジで。夜魔口も本当しつこいし……隠れ家も全部つぶされちゃってさ」 糸子はほっと暖かい一息をつく。それは嘘偽りなく、彼女が久々にひととき得た安らぎであった。 「……まさか、お前まで巻き込まれてるとはな」 「ホント勘弁してって感じ。でももうこれでおしまいね。これが最後。サクっと行って、とっとと帰ってきてやるわ」 けらけらと笑う彼女の目を、だが丸瀬は真剣にじっと見据えた。 「死ぬ気だろ、お前」 「……わかる? やっぱ隠し事はダメだね。向いてない」 糸子は空のカップを差し出した。丸瀬は無言で、カップにポットの茶を注いだ。二人の間に、しばしの静寂の時間が流れた。 「そんなにヤバいのか。綾島聖って奴は」 「控えめに言って、最悪。ってとこかしらね」 探偵は、懐から取り出した時計を丸瀬に投げてよこした。刻の止まったシンプルな懐中時計。それは世界の終わりまでを刻む終末時計。指し示す時刻は11時58分。針が天頂に届くまで、残り2分。 「わかるんだ。時計がご親切に教えてくれるからね。この11時59分までの1分があたしで、その次の1分が綾島聖。次に負けるのは、あたしだよ」 糸子は伏し目がちに丸瀬を見た。だがすぐにそれは怪訝な顔に変わった。先の言葉を丸瀬が聞いていたかどうかはわからなかった。その目は彼女の時計を見、驚愕に大きく開かれていた。 「……何だ、これ。同じだ。あいつのと、同じ……」 「……? なに? 何言っているの」 丸瀬は糸子の安楽椅子の手前に回りこむと、どっかと腰を下ろした。 「おい。お前が望むならば、死に方は選ばせてやる」 「はァ?」 「俺の魔人能力。名を『フール・オン・ザ・ヒル』という。今の俺に最もふさわしい、な。使ってやる」 「って知ってるけど……使う? 時計に?」 糸子には彼の意図するところがわからなかった。だが彼はさらに続けた。 「それに……もう一つ渡すものがある」 丸瀬は立ち上がり、作業場の奥から掌に収まるほどのなめらかなトーラス形の石を取り出した。名声をほしいままにする大芸術家にしては、あまりにも素朴な彫刻作品。だが糸子には、それが持つ途方もない価値が、瞬時に理解できた。 「いいの、これ……あたしが、受け取っても」 「黙って持ってけ」 「……迷惑かけたね」 「迷惑だよ」 「チョコ食う?」 「ああ、くれ」 敗北の運命に連れ去られるまで、二人は最後の会話を交わした。 ■ ■ ■ 「――よくぞいらっしゃいました、私の展覧会《エキシビジョン》へ……しかし大変申し訳ないのですが、まだ陳列が終わっておりませんので……。最初に並ぶ作品は……クヒッ、古沢糸子さァん! そう、あなた! あなたの血と臓物をグチャグチャに塗りつけてこの壁に描くフレスコ画を、死ッヒャアアァ~~ッッ!!」 物腰柔らかな糸目の神父は、当然ながら絵画芸術にも造詣が深い。 文字通りに危険が張り巡らされた変電所設備内で、まるで意味のない悪趣味な大演説をぶちあげるこの男。綾島聖のことを、糸子は随分と昔から知っているように錯覚した。それほどまでに、糸目を引き絞る彼の姿は、事前に調べ上げたプロファイリングと寸分違わず一致していたのだ。 糸子は綾島聖をすみずみまで調査した。そして愕然とした。この男には、何もないのだ。守るべき人も。取り戻したい記憶も。打ち倒すべき敵も。綾島聖には、勝つ理由が何もない。 だが、綾島聖は勝ってしまう。守るべき人、取り戻したい記憶、打ち倒すべき敵、そういった人々の願いを無残にも踏み潰して。彼自身そうあろうとすらしていないのに。 それが、史上最悪の《糸目》たる、綾島聖という男であった。 「わかったよ。幕切れだ。カーテンを下ろそう」 安楽椅子に腰掛けたまま、糸子は両手に拳銃を構えた。瞳の光はもはや探偵が放つ色ではなく、犯人のそれであった。 「安楽椅子探偵・古沢糸子、これが最後の事件だ」 「ヒャヒャヒャヒャヒャ! そしてあなたが最後の被害者というわけですねェ、古沢さぁ~~~~~~ん!!」 神父は両腕に鉤爪を構え、己の筋肉を爆発的に増大させた! 『力天使の形相』! これこそが綾島聖の『剛魔爆身』! あまりにも、あまりにも無体なその魔人能力!! 丸太のようなその脚で、綾島聖は地を蹴った! 「これで終わりだァーーーーーーーーーッッ!!」 無意味に周囲を飛び跳ねながら糸子へと迫る綾島聖! めっちゃ無駄ではあるが確かに狙いは付けにくい! だが、探偵の銃口が見据えるその先に彼はいない! その頭上、天井に張り巡らされた高電圧ケーブル! 「舌先で痺れな!」 BLAM!! 糸子の『サヴォイ・トラッフル』、それはチョコレート菓子の弾丸を操る能力! 左手のリボルバーから放たれた銃弾の名はエクレア、原語をエクレール・オ・ショコラ! 意味するところは、即ち『雷』! 稲妻の如く曲がりくねる軌跡に、まとめて切断された導線の束が、二人の間に雷のカーテンを形作った!! 「キヒッ! この程度で、私を止めたと言うつもりですかァ~~!!」 立ちふさがる危険なケーブルを、綾島聖は手にした鉤爪で撫で斬った! 「ゲッギヒャァァアアアアーーー!?!?!?」 当たり前だ! 電流の流れるケーブルを、金属の鉤爪で切断すればどうなるか? 感電するに決まっている! バカか、こいつは! 「クッ……ですがまだまだアアアアアアアーーーーーッ!!」 綾島聖は愚かにも垂れ下がるケーブルを素手で払いのけようとした。その手指が、思わず危険な導線を力強く握りしめた! 直流の大電流に身体が触れたが最後、神経系による筋肉の随意運動は不可能になる! 彼は強大に膨れ上がった筋肉で握り締めたその拳を、自らの意思で緩めることができないのだ!! 「ギギギググ……き、貴様~~~~味な真似をギャアァアァァアァ~~~ッッ!!」 綾島聖はなお空いた左手で右手首を掴み、無理に引き剥がそうとした! 当然電流が直に伝わったその手は、彼自身の肉と骨を力強く握り潰す! だから高電流下では筋肉が勝手に収縮するんだと言っているだろうが! 聞いているのかバカ! 何だよ、なんなんだよお前は!! だが……綾島聖は、本当に、本当にただただ強かった。無理が道理を押しのけて、物理も化学も全て無視して、彼はケーブルを全て素手で引きちぎった。口、鼻、目から白煙を吐きつつ、いまだ不敵に笑うその姿を見て、糸子は真に恐怖を覚えた。 安楽椅子の動力を、バックギアへと切り替える、その瞬間。既に神父は探偵の眼前にいた。『権天使の形相』。スピードに特化したその形態が、糸子の喉首をその手で強く絞めていた。 「……ッ! …………か、はッ…………」 万力のように締め付けるその指先に、声を出すことができない。降参の二文字すらも口に出せぬ。しかしそれが言えたからといって、もはや聞き届けられることはなかったろう。 「ああ、いい……とてもいい気分です……まるで私の耳元で、天使の歌声が響くかのよう……」 身を焼く大電流に晒されて、彼の鼓膜はとうに破れていたのだ。 「ですから、特別にあなたにも教えて差し上げましょう……迷える子羊のあなたにも、是非に冥土の土産を。迷宮時計に私が抱く、その願いは――」 そして神父は再び、その言葉を告げた。それが彼女にもたらしたものは、やはり黒一色の絶望であった。 「――さあ古沢糸子さァん! お望みの死に方を選ばせて差し上げますよォ~~~~ッ!! このまま高圧電流で黒コゲミンチハンバーグがお好みですかねェ~~~~ッ?」 ああ。 「それとも……ふ、ふ、粉塵! ヒ、ヒヒャ、ふ、粉塵爆発などはいかがですか!?」 ダメだ。 「もしよろしければその首へし折って縊り殺して差し上げますよォ~~~ッ!」 この男だけは。 「やはりここは、脳髄を一突きに……いえ、頚動脈! その細首を一太刀で切り裂いて……血、血、血ヒャアーーーーーーーーーーーーー~~~ッッ!!」 こいつにだけは、迷宮時計の力は渡せない。 戦場たる変電所へと訪れた直後には、まだ糸子にも迷いがあった。だが今やその決意は確固たるものとなった。綾島聖に迷宮時計を渡してはならない。自身の破滅を必定とするこの《糸目》に渡れば最後、世界が、いや宇宙すべてが残酷なカタストロフィを迎えるであろう事は、想像に難くない。 糸子は薄れる意識の中で、堅く誓った。この戦い、絶対に―― ――負けなければいけない! 彼女は力を振り絞って、震える右腕を動かそうとした。肘を曲げ、手に持つ拳銃の先がいくばくか上向いたところで、糸目の鉤爪が振り上げられた。 「さぁ私の願いのために尊い犠牲となるのです、古沢さん!! 大丈夫です、大丈夫……あなたの想いは、この私の中で生き続けるのですからねェ~~~~~~ッッ!!」 だが、ああ――彼こそは、綾島聖。糸目の、最低の落ちこぼれ。敗北必死の妙技を、うっかり逆用してしまう。それが彼にもたらすものは、あまりに不注意な勝利。 彼が振り上げた鉤爪。その先端に、先程切り捨てた電流線の切れ端が、うっかり、再びほんのわずかに触れた。 「ギヒッ!?」 人体に流れる電流は、筋肉の不随意運動をもたらす。綾島聖の肉体を通過した電流は、古沢糸子の首筋から右腕へと、拳銃を握り締めたその人差し指へと伝わり、少しばかり筋肉を収縮させた。 「あ……」 BLAM! 引鉄が引かれた。探偵の銃口から発射された弾丸は、探偵自身の額を打ち抜いた。 神父の手から取り落とされた探偵。その懐から、シンプルな装いの懐中時計が転がり出た。止まっていたその針が、かちりと1分だけ進んだ。11時59分。それはすぐに、神父が持つどこか禍々しげな形の懐中時計へと吸い込まれて、姿を消した。 【現代】変電所。戦いの勝者は、綾島聖。 ■ ■ ■ 戦闘空間から転送された綾島聖は、己が元々いた教会とは異なる場所にいることに、直ちに気がついた。視界に広がる神々しき光景。花々が咲き乱れ、木々には黄金の果実が実り、大地に蜂蜜の川が流れる。それは神々の楽園と呼ぶにふさわしい理想郷の絵図であった。 エデンの園。約束の楽園。 すなわち、それは彼、綾島聖が、迷宮時計の戦いにおける、最後のひとりとして選ばれたことを意味していた。 「ク……」 ああ、それは。 「クヒャ~~~ッッハッハッハァーーーーーーーーーーーー~~~~~~ッッ!!!」 地上の楽園にはあまりにも不釣合いな、下賎で下卑た笑い声。 「す……素晴らしい。素晴らしい! おお、神よ! 私はついに貴方の元へと参りました!! さあ、神の僕たる我が時計よ! 時空を束ねる狂った時計よ! 我が望み、我が願いを、聞き届けたまえ……!!」 そして彼の脳裏に、勝者をたたえる迷宮時計からの祝福の言葉が響いた。だが、それは彼の望みとは少しばかり異なるものであった。 時計は告げた。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 第∞回戦第∞試合の対戦組み合わせを発表いたします。 この試合の締め切りは#N/Aです。 【第∞試合】 綾島聖 戦闘空間:【現代】公園 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 綾島聖は信じられないといった様相で、ぽかんと口を開けていた。 彼は時計をその拳で打ち砕いた。彼の身に宿る所有権が、時計を元通りに復元した。 彼は自らの頭を握りつぶした。戦闘空間における勝者の負傷を、たちまちに、迷宮時計が跡形もなく回復させた。 だが、それでも戦闘は終わっていなかった。彼の脳裏に、先程と全く同じアナウンスが鳴り響いた。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 第∞回戦第∞試合の対戦組み合わせを発表いたします。 この試合の締め切りは#N/Aです。 【第∞試合】 綾島聖 戦闘空間:【現代】公園 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - エデンの園。それは生命の遊戯においては、他のいかなる地点からも到達できない領域を指す言葉である。だが如何にしてか、彼はそこへとたどり着いてしまった。 それをさせたのは――古沢糸子の終末時計である。11時59分を指したまま動かない時計。今や綾島のものへと溶け込んだ時計。その内部には、ほんのわずか、針の進行を妨げるチョコレートの塊が仕込まれていた。 細工をしたのは、何を隠そう、丸瀬十鳥である。彼の能力は『フール・オン・ザ・ヒル』――一言で言えば、彼が手がけた芸術作品の『因果を固定する』力であった。 迷宮時計の所有者は死ぬとき所有権を失う。彼が作れば、所有権を持ったものはいつまでも生き続ける。 戦いが終わるとき終末時計は12時を迎える。彼が作れば、動かぬ終末時計は戦いを決して終わらせない。 もちろんかような強大な能力には、大いなる制約が付随する。彼の場合、生命を賭して全身全霊を打ち込んだ最高傑作の芸術作品でなければ、その効果を発揮することはない。本来ならば、わずか十五分足らずで小細工を仕込んだ時計など、もってのほかである。 だがそれが、彼がその命を捧げ飾り上げた螺鈿細工の懐中時計のもともとの姿と、対をなす存在であった場合にはどうであろうか。 決して時を打つことのないシンプルな時計。彼はその作品に、『空即是色』と名をつけた。いまやそれは形而下の姿を失い、綾島聖の時計の中でただ概念だけが生き続けていた。 「ケ……」 綾島聖の望みとはなんだったのであろうか。それを知る者は、彼を除いては他にない。 「ケヒ……ヒ……」 隣り合った運命を覗き見ることができる者がもしいたならば、あるいは――だがいずれにせよ、この場で語るべきものではないだろう。それが叶う瞬間は、もはや永遠に訪れないのだから。 「ケヒャアアァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ、キッキヒッ、クキキヒャヒャヒャイヒャァァァァッ、ケヒャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」 祝福の楽園に、綾島聖の狂笑が響き渡る。浮かべた糸目は、怒りか、笑いか、泣き顔なのか。それはまさに『神の子の形相』。生きとし生けるもの全ての原罪を一手に背負った男の貌であった。 綾島聖が負けることは、決してない。 綾島聖が勝つことは、二度とない。 たとえ、すべての宇宙が終末のときを迎えたとしても。 迷宮時計は完成しない。 ■ ■ ■ 「私たちは、間違っていたのかしら……」 夫婦は言葉少なに夕餉の卓を囲む。血の繋がらぬ我が子の席が、ぽっかりと空いていた。 その問いに答えられる者はいない。ただ時の流れだけが彼らの心をいくばくか癒すことができるのみ。 棚の上に置かれた色あせた写真には、フレームにおさまらぬほどに猛々しいエゾヒグマの隣で、屈託無い笑顔を見せる母子の姿があった。 ――けれど僕は それでも北海道に帰りたい―― 蛎崎裕輔 彼は巧くやってるかい、と尋ねたツクモガミの親分に、主人はかぶりを振って答えた。 「帰っては来ませんでした」 「なんと。人の時間よりも、妖の時間が先走ってしまうとは」 親分は煙管を深く吸うと、長い長い息を吐き出した。煙が空中に幾つもの輪を描き、絡み合って空中に溶けた。 「別れは必ず訪れるものだ。しかし君ならわかるだろう。彼が妻と共に過ごした時間、それがそこにあったという事実は、永遠のものだろうから」 ――赦してくださいね。妻が私の帰りを待っていますので―― 蒿雀ナキ その声。糸音、糸音なのだな? ああ。糸音、糸音――なんだか久しぶりで、恥ずかしいのだ。 そうだとも。我らグンマーの民は一にして全。全にして一。 力合わせる二百万。恐れることなど、何もないのだ。 だけど――もう少しだけ、そばにいてほしいのだ。 ――グンマーと共にあらんことを―― 上毛早百合 「アイツなら、長いこと見ていないな」 闘技場を囲む観客席の熱量は、かつての盛り上がりからは程遠い。 地下魔人格闘大会史上最強の王者、後ろ向きの英雄がその姿を消してから早くも三ヶ月が経っていた。 「真面目に働きだしたんじゃねえのか?」 「まさか。人間、そうそう性格なんて変わるもんじゃないぜ」 ――やっぱり俺ってダメなやつだな―― 羽白幾也 少年は夢を見た。家族と共に過ごした大切な日々。奪われた日常を。 それを取り戻すために、彼自身が奪ったものを。 彼にとって「日常」と「非日常」の境界は非常に曖昧である。 それは現であったのか。あるいは、彼を惑わすその言葉すら虚言であったのか。 全ては幻なのか。 それを知る者は、もう誰もいない。 ――でも僕は、僕の大事な人にまた会うために、たくさんの血を流してきました―― 刻訪朔 無の暴虐は、大都市に深い深い傷跡を残した。 失われた命は二度と戻らない。街の復興にも長い時間がかかるだろう。 災厄の敵を踏みつけて、彼は大統領へとホットラインを繋ぐ。 「How are you?(鮎が地面を這っているという意味の英語)Mr. ゴードン」 立ち止まってはいられない。守るべき、愛する合衆国が、もう一つできたのだから。 ――Have a nice day―― ウィッキーさん 魔法使いの置き土産、世界の敵の忘れ形見。それは彼に永劫の戦をもたらした。 押し寄せる異形を、殴る。掴む。叩く。引き抜く。蹴る。へし折る。潰す。 その口元は隠しきれない笑いで歪む。彼は喜びにうち震えていた。 もとより手段のためならば目的は何でもよいのだ。 戦いが。闘争さえあれば、それでよい。 ――戦って、奪い取る―― 撫霧煉國 「まほ」「かつ」「まほ」「かつ」 控えめな掛け声が染み渡る朝焼けのレンガ通り。 寒さにかじかむ拳を握り締めて、彼女は誓う。もっと強くなる。もっともっと強く。 戦友たちに、また胸を張って逢えるように。 彼女は『努力』の元・魔法少女。 努力は決して、裏切らない。 ――私はあなたを、いいえ……すべての善良な人々を、助けたい―― 錬鉄の元・魔法少女キュア・エフォート 「おい、後悔していないか? ……一人なら、代わりに帰れたのにさ」 赤髪を燃え上がらせる『勝利』の魔法少女が帰還した後、花恋はそう問いかけた。 「ばか」 思わず噴き出してしまった。 「あの子を代わりに犠牲にして? 花恋だってできるわけ無いだろ、そんなこと」 唯一無二の親友の手を握る。掌にいくばくか増えた二人の皺が重ねあわされた。 「それに何度も言ったよな。帰るときは二人で。だろ」 ――アタシはいつでもどんな時でも、まっすぐ自分の道を貫き通すだけさ―― 菊池徹子 徹子。私の一番のヒーロー。いつだって、憧れの人。 私も徹子みたいに、最後まで貫き徹すことが出来たのかな。 でもやっぱりちょっと妬けちゃうな。 イチ、ありがとうな。こっちに来てくれて。 最後に会えて本当にうれしかった。 ごめんね。愛花姉のこと、頼んだよ。 ――絆とか、そういうのこっぱずかしいけどさ―― 潜衣花恋 母さんは戻ってはこなかった。 だから、俺は伝えなければいけない。 扉を開けて俺を迎えてくれた、潜衣愛花――ああ、もう潜衣ではないのだけれど―― 怪訝そうに俺を見るその顔は、若い頃の母さんの写真にそっくりで。 俺は何も言えず、あふれる涙を拭うことすらできなくて。 愛花さんは困った様子でそれをずっと見守っていたんだ。 ――なあツカサ、母さんは幸せだったのかな―― 菊池一文字 「柔、聞こえるか……」 聞こえる、聞こえるよ、ケンちゃん。 離れていても、一方通行でも、こんなに心が通じ合うだなんて。 だけど、だけど――本当はやっぱり会いたいな。 「今日は7cmまで穴を広げた、この俺の筋力で。もう腕一本ならば入る。待っていろ、必ずお前を迎えに行く」 少女の願いが叶う日も、そう遠くは無い。 ――その時の私は天にも登るような気持ちで、幸せだったんだ―― 本葉柔 「……馬鹿みたい」 おっぱい女は今日も呑気に遠距離恋愛中。 毎日毎日、のろけ話ばかり。聞かされる身にもなってほしいわ。 だいたい、恥ずかしくないのかしら。 精神の支柱をあんなに男に依存しちゃってさ。 私には、お兄ちゃんだけいればいいもの。 ――私、まだ……うれし涙は、残ってたみたいだね―― 刻訪結 工房の仕事も軌道に乗り、生活も少しばかり賑やかになった。 最近は注文がひっきりなし。おかげで上流階級とのコネクションにも事欠かない。 酒の味も覚えた。仕事場の棚には、贈答高級酒の空ガラス瓶が数多く並ぶ。 「……これじゃあ、あの最低のクズと同じじゃん、ねえ」 思わず苦笑がこぼれた。そして、家に残してきた弟妹のことを想った。 ――私の他に誰があの子達を守るというのだ―― 飴びいどろ 大小さまざまなグラスが間借りの工房に並ぶ。 濡らした指先で、そっとその縁をたどると、熾天使の歌声にも類される澄んだグラス・ハープの音が響き渡った。 グラス・ハープは繊細な楽器だ。指にわずかでも汚れがあれば音色はゆがんでしまう。 自分にもいつか理想の演奏ができるだろうか。誰にでも誇れるような。 そうしたら、帰ろう。家族のところへ。己が捨てた日常の元へ。 ――硝子が割れる音が聴こえるんです―― 飴石英 日課の手入れを彼女にほどこす私の耳に、グラス・ハープの音色が届く。 まだまだ未熟。しかしあれは、芸術による芸術のなんたるかを理解したものの音だ。 己の理想をどこまでも追い求めることができる者は、そう多くはない。 私を超える演奏能力を有す者。思ったよりも早く、見つかるかもしれない。 そのとき、私ははじめて演奏家ではなくひとりの楽器職人として彼女に会えるだろう。 ――狂人と呼びたければそう呼べ、普段から呼ばれているからな―― 廃糖蜜ラトン 「もう嫌! こんなことして、なんになるの!」 少女は蟹色のトウ・シューズを教師に投げつけると、窓から己の身を投げ出した。 水の翼で海鳥の如く空を翔る少女は叫ぶ。バレエなんて嫌い! ダンスなんてやりたくない! ただ、あの狂った目の男がいつか自分を迎えに来ることを考えると、ちょっと怖い。 「セシル。会いたいの……わがまま言って、ごめんなさい」 優雅な曲線を描くフレームの奥から、ひとしずくの涙がこぼれた。 ――私はセシルのことが好き。だから、私はセシルの願いを叶えるの―― リュネット・アンジュドロー 「シスターセシル。どうしたのですか、このたくさんのご本?」 聖アリマンヌ教会の若き修道女は同胞に尋ねた。 曰く、ふたりが児童館へと運ぶその山は、日本で唯一の特級司書が私費で寄付したものであるという。 「とても子供たちのことが大好きで――立派な方だったと、伺っています」 セシルと呼ばれた修道女は、目を閉じ、胸の前で両手を組んだ。 「彼女の名は、この教会にも永遠に刻まれることとなるでしょう」 ――では図書館の準備がありますので―― 本屋文 『同窓会』の面々も、ずいぶんと増えた。 少年は瓦礫の中で遊ぶ子らに、故郷に残る47人の子供達の顔をひとりひとり重ね合わせる。 彼を殻にしてかろうじて保たれていた故郷。心配していないと言えば嘘になる。 だが、うるさく小言を言っても仕方が無い。 子供なんて、大人の見ぬ間に勝手に育っていくものなのだ。 ――テメーら、仲良くしろよ。喧嘩すんじゃねーぞ―― PTA少年・雲類鷲ジュウ どうしてこんなことになってしまったのだろう。 僕は君を取り戻したかった。ただそれだけなのに。 僕には君が全てだった。 だけど、僕が君を傷つけた。 僕が君を傷つけたんだ。 ああ、だけど――君はきっと、そんな僕を、笑って許してしまうんだろうね。 ――僕はヒナに謝らなくちゃいけないことがある。伝えなくちゃいけない言葉がある―― 天樹ソラ ぶよぶよとした中年男性が、ほとんど全裸のかっこうで路上をさまよっていた。 「ヘ、ヘ、ヘークションッ! オカマッ」 如月の冷たい空風は、彼の肌から容赦なく体温を奪う。 何もかも失ってしまった――否、彼は気づいた。命がある。体がある。もう一度やり直せる。 「……今度こそ、働かなくてもいい社会を、ワスが作る。ヒ、ヒークションヒークションオカマッ」 震える身体で再起を誓う。楽をする為にはいかなる努力も惜しまない、つくづく生真面目な男である。 ――優しい世界を作って行こう。そうすれば肩身の狭い思いをせずに済む―― 飯田カオル 今朝はすこぶる気分が良い。まるで枯れた老体の内に、若々しい勁力が渦巻くかのようである。 病室の外からかしましい嬌声が聞こえる。布団から身を起こして、彼は毎日の訪問者たちを出迎えた。 だがその日の彼女らの様子は常とはいくばくか異なっていた。 あっと叫ぶ者。手荷物を取り落とす者。頬を赤らめる者。 「はて……お嬢さん方。どうされた。私の顔が、如何いたしましたかな?」 ――今までまことに世話ににゃり申した―― にゃんこ師匠 大学に進学した私を待っていたのは、めくるめく色彩の世界。 白一色の病室で過ごしていた私にとって、皆には当たり前の日常がまるで万華鏡のよう。 今日ね、告白されちゃったんだ。サークルの先輩。ううん、正確には、告白されかけたの。 でも――駄目だよね。だって、その言葉は、私が君の為だけに取っておくものだから。 先輩の唇が開ききる前、無防備な顎に打ち込んだ私の掌底が、一瞬でその意識を刈り取った。 ――僕は、幸せな日々を失いたくなかった。ただそれだけなのに―― 日下景 「うおおおおおおっ! 巨大な鉄球が! た、頼むぜ相棒!!」 「まかせて……って! 足元見て! 落とし穴!!」 たとえ異世界に飛ばされようと、二人はさして変わりない。冒険、冒険、そして冒険だ。 「ああ、この命の軽々しいやり取り。サバンナの脱出を思い出すなあ」 「本当にね……美弥子ちゃん、無事だといいけど……」 不安をその小さな顔に浮かべるパートナーに、彼はつとめて明るく言った。 「大丈夫に決まってるだろ! 冒険者の勘がそう言ってるんだぜ」 「そうよね……うん、きっとそう!」 ――ロマンと夢と秘宝を求めて秘境に冒険するのが良いんだよ―― 希保志遊世 「ん……もうこんな時間」 テーブルにうつぶせたまま寝てしまっていたようだ。 窓から覗く外の景色はどっぷりと暗い。 ふと、娘の部屋から聞こえるすすり泣くような声が聞こえた。 思わずドアノブに手をかけようとして、手を止める。 女の子には秘密がつきもの。 みずから話してくれるのを待ちましょう。時間は無限にあるのだから。 ――大丈夫……絶対に、助けるから―― 撫津美弥子 彼は殺した。何度も殺した。何度も何度も何度も殺した。 彼は最後に彼を殺した。 なぜなら彼は殺されなければいけなかったからだ。 己が殺したものどもと、まったく同一であるからだ。 あいつはそうは思わないだろう。あいつは馬鹿だから。馬鹿みたいに優しいから。 だから彼が殺さなければいけなかったのだ。 ――盛華は天国に行かなければいけないんだ……だから俺は殺す―― シシキリ ミスター・チャンプの訃報。その事実は異世界に暮らす剣士の耳にも届いていた。 愛刀に自身の顔を映す。氷のように冷徹な彼女の表情の下にはしかし、一抹の憂いが、隠し切れぬ暖かな人の心があった。 どこまでも不器用で、まっすぐだった男。己を負かした男。 似ても似つかぬ想い人に抱くはずの感情に似た何かを、彼女は首を振って打ち消した。 袈裟懸けの素振りを一閃、迷いを断ち切る。 ――阿呆が―― 斎藤一女 代々木ドワーフ採掘団、アークエンジェル平井の毒霧が、使い込まれた竹刀に炸裂する。 「興行、すっぽかしやがって……ったく。悪いが、次回の開催は百年待ってくれや」 丁寧に清めたその形見を、黒塗りに金文字で描かれたポスターの横に立てかけた。 彼は表情を作る。極悪非道の悪役プロレスラーの顔を。そして活気渦巻くジムの扉を開けた。 「さあガキ共! 怖ェ怖ェヒール様が来てやったぞ! こういう時はどうするんだ?」 未来のミスター・チャンプ達は、拳を振り上げ、一斉に返した。 「「「ウィー! アー! チャンプ!」」」 ――再戦はいつでも受け付けているぞ―― ミスター・チャンプ 代々木ドワーフ採掘団、無人の事務所。 今は亡きミスター・チャンプがポスターから見守る中、彼の秘蔵酒「世界の敵」の一升瓶がひとりでにかたかたと揺れ動いた。 振動は次第に大きくなり、限界を超えると、やがてガラス瓶は倒れ粉々に割れた。 度数96度のコメ製アルコールが、机に置かれた真っ白のダルマをしとどに濡らす。 まだ何も終わっちゃいない。どこからかそんな声が聞こえた気がした。 ――終わりにするのは他の誰でもない私達、僕たちの役目なんだ―― 風月藤原京 妙なことになったものだ、と彼は自嘲する。 正々堂々、皆のヒーロー。下らぬ真実を覆い隠す仮面。 その嘘っぱちに、隠された素顔の方が近づいていく。天地開闢後の新世界は、彼にとっての新世界でもあった。 ジリリリリ、と調子はずれの電話が彼を催促する。 電話線の彼方に向け舌打ちをしつつ、受話器に手を伸ばす。 正義の味方。もう少し、続けてみようじゃないか。 ――どこまでやれるもんかね。雷炎の魔人ヒーロー・ブラストシュートさんよ―― 山口祥勝 思えば妙なことになったものだ。 最強。それが己を規定する二文字。 戦うことが、壊すことが己の存在すべてだと考えていた。彼らと巡りあうまでは。 そしてようやく気づいた。作ること。それも悪くは無いのだと。 英雄の下で剣は舞う。 霊峰の頂に座する老齢の創世神は、己が生涯を賭けて創り上げた世界を満足げに見下ろしたのち、眠るように息を引き取った。 ――そしてそれを上回る、こいつが俺の筋力だ―― 時ヶ峰健一 野を埋め尽くす一面の花畑。朽ちた兵器に覆いかぶさるように色とりどりの花々が咲き乱れる、その中心に、一人の少女がいた。 長い銀髪の隙間から昆虫の如く透き通った翅を生やし、赤子のように背中を丸めて眠り続けていた。 「おさな」 眠れる唇で、彼女は呟く。 「おさな」 その呟きは誰に届くとも無く、ただ風の流れの中に消えていった。 ――わたしはだれなの 父さま 母さま―― メリー・ジョエル 探偵は言った。私が俺君を、陥れた、と。 その推理は私を貫かなかった。でもそれは私の心をちょっぴり焦がした。 ほんの少し。わずかでも、認めてしまっていたから。 ああ。そうだよね。こうなって当然、かな。 他人を利用して、全てを奪い尽くしてきた私が。 こんな私が、幸福になって良いわけ、ないよね。 ――そんな物で私が救われる領域は、もうとっくに終わっているんだ―― 馴染おさな あの日、お前がいなくなって。 おれは何も聞けずに、置いていかれて。 だけど今ではおれも同じだ。 会ったら文句の一つでも言ってやろう。 言えなかったお前と、聞けなかった俺。 これからはずっと、ふたりきりの戦争。 ――今のおれには、生きる目的がある。そのために全てを投げ打てる―― 真沼陽赫 (ってさ~、お姉さんまたアイツのこと心配してるの~?) 「誰が! あんなリョナ野郎」 (いいんじゃない~? 他に『素敵な人』なんて一向に現れそうもないしぃ~~) 「ぐッ……お前なぁ……言って良いことと悪いことが……」 蟹の片目に蟹の片鋏。異形の少女は、かつての敵、内なる同居人と対話する。 「……まあ、もう一度会いたいのは確かだ。絶対今度は顔ブン殴ってやる」 ――女の子には誰でもいつか素敵な出会いがあるって―― 右野斬子 「あーん、モージー負けちゃったかァ」 「残した借金も困ったもんじゃ! 生命保険掛けといてよかったのう」 「まったく、門司くんのバカは死んでも治りませんね」 「どうかのう、奴は負けてもただ殺されるタマではないぞ。今頃向こうで美人さんとヨロシクしとるかもしれんな、ガハハ!」 「お、門司くんもようやく脱童貞? それは興味深い説ですね」 「いやー、ないない。だってモージーだよ? それはないでしょォ」 ――ここが正念場だぜ、ハッハーッ!!―― 門司秀次 「あ、が……へぅ……」 息も絶え絶えに横たわりつつ、彼は己の安請け合いを心から後悔していた。 か弱き幼女の頼みとほだされたが運の尽き。動けぬうちに殺しておけば、こんなことには―― 俎上の鯉のようにびくびくと跳ねる体の上、跨る女は身を起こす。 刀の血糊をぬぐうが如く、彼女は己の武器を鞘に納めた。 「……またつまらぬモノを食ってしまった」 凛とした眼に、冷たい怒りが燃え上がっていた。 ――動くな。動けば、セックスする―― 猟奇温泉ナマ子 「せん……ぱい……アハ、ハ……せんぱい…………」 太古の原生林には、あまりにも場違いなささやき声。 音の元を辿れば――おお――読者諸氏よ、帽子をしっかり押さえていたまえ。 そこにあったのは、ごぼごぼとしたあぶくを吐く、白濁した粘液の海。 木々をなぎ倒し、鳥獣を飲み込み、増殖する。世界の全てを犯しつくすまで。 それを生物と呼称してよいものか――もはや誰にもわからない。 ――せんぱいのすべてを支配し……それから、あたしは―― 補陀落とろろ 彼女は一度覚えた技術を二度と忘れない。 だから最期に覚えたこの味を、ずっと忘れることはないだろう。 喉の奥へと溶けていった、ファーストキス。それはフリスクネオ。 一粒の重量は従来のフリスクの約5倍。 強いミントの清涼感、このさわやかさがいつまでも長持ち。 フリスクネオ、新感覚のタブレット。 全国の薬局やコンビニエンスストアでお買い求めいただけます。 ――私だけなら、負けていた。貴方は強かった―― 真野海人 * 映画初出演にして勝ち取られた主役ということで。大変おめでとうございます 「ありがとうございます。これも監督や共演者の方々、スタッフの皆様の支えあってのことです」 * 抜け忍生活の中での稽古、そして撮影。非常にご苦労されたかと思います 「はい、でも私の女優としての初舞台、あの劇場のカーテンコールを忘れられなくて。その思いを胸にここまで頑張れました」 * では最後に一言お願いいたします 「私の全ては、彼女の笑顔のため――この栄光を、彼女に――美鳥に捧げます」 ――笑えばいい。美鳥が笑えば、みんな力が出る―― 紅井影虎 筏の上から足を投げ出し、女はぱしゃぱしゃと海水を蹴りつつ呟いた。 「あの人、どこ行っちゃったのかしら。探し人は見つけられたのかな」 ハルマゲドンは終結した。それがもたらした結果は、海水をいくばくか血の赤に染めただけであった。 だが目的を忘れた無益な争いの中、ひとりの旅人がとうにその目的を果たしてしまっていた、その噂だけはしばらく人々の耳を賑わすであろう。 女の隣、小さな家鳴がひょいと出て、海中を眺めてきいきいと泣いた。 ――早う山ん中へ帰りよー―― 善通寺眞魚 「お? 家鳴か。こがな新しゅう建物におるとは、まっことめんずらしいことじゃのう」 箒を履く白衣(びゃくえ)の青年の足元に、きいきいと鳴く子鬼が何匹もまとわりついていた。 「こら、おんしゃあら。どしたどした、このわりことしが」 青年は笑う。だが家鳴たちは泣きそうな顔でその足を握り締めていた。 はて、人違いか、と彼は困り果てた。 だがそれを無碍に振りはらうことは決してしなかった。 ――ふいー、一丁上がりじゃな―― 善通寺眞魚、もう一人の 高速道路の片隅に、一輪の向日葵が咲いていた。 堅いアスファルトにその根を穿ち、陽の光をもとめて日陰からけなげにそっ首を伸ばし。 君、徒花と嗤うなかれ。見目麗しきこそ花々の本懐なり。 ひとときでも大切な伴侶の目に留まれたならば、手折れた価値もあろうもの。 どうか愛してくださいまし。この身枯れ落ちる、その日まで。 ――日車には行かなければいけないところがあるのです―― 伊藤日車 秘密魔人結社『手折結党』。その党員数、現在零名。 ああ皆まで言わずとも、おっしゃりたいことはわかります。 ――構成員無くして、組織は組織足りえるのか――と。 しかし残念至極、常ならばとうとうと語り聞かせたいところでありますものの、 零の発見から空集合の構成に至るまでをそらんじるには、文字数が少々足りませぬ。 だけど、ああ、やっぱり欲しかったなあ……仲間。 ――佳く、佳く御覧じよ。これが僕の用意した最終幕―― 折笠ネル わあ大変大変大変、こんなにたくさん文字数使っちゃって! とっくにみんな飽きちゃったんじゃないかな? でも大丈夫! 私が来たからには…… うん、ふっくん。わかってる。もうそろそろ行かなきゃね。 ……さあ最後に行くよ! 私のとこからカウントスタート! それではみなさま、ご一緒にっ! ――何があっても三・千・字! 絶対詰めるぞ三・千・字!!―― 山禅寺ショウ子 「……いい奴らから先にいなくなりやがる。本当どうかしてるよな」 芸術家・丸瀬十鳥は、ひとりアトリエで呟いた。 テーブルの上、残された紅茶が、しんとするほどに冷え切っていた。 またひとつ、ぽっかりと穴が空いた。 ――その最初の穴だけは、どんなにしても埋めることも動かすこともできなかった―― 一切空 諧謔という概念がスーツと眼帯を着込んで歩いていた。 意外であろう、彼は彼の芸術に何の意図も意味も意思も込めてはいない。 ただ見るものが己の心を投影し、教科書に自分勝手な解釈と講釈を垂れるのみ。 だからそんな批評家どもをあざ笑い、心の内で舌を出しつつ、こう告げてやるのだ。 ――存在するものは毅然としてあり、空間の中に一点の肖像を作り出す―― 色盲画家ストル・デューン 彼を知りたい? では小学生の甥から教科書を拝借しよう。 二十一世紀初頭のポップカルチャー、このページだ。 とても芸術家には見えないね。鍛え上げた肉体、口にくわえたペン。 その顔からは鼻血が吹き出し、両耳にバナナ、はげ頭に花が…… ああ、あまりにも無残な落書き。あいつめ、ひどいものだ。 でもまあ、この扱い……彼は満更でもないのだろうな。きっと。 ――諦めるな!! 功夫が足りねえなら……漫画で補え!!―― 梶原恵介 西暦476年、西ローマ帝国が滅亡。 東ゴート族、ランゴバルド族の支配を経て、ナポリ市は東ローマ帝国の手に渡る。 やがて11世紀、群雄割拠の南イタリアはノルマン人の征服の下に統一された。 13世紀にはシチリア王国からナポリ王国が分裂。 その繁栄も永くは続かず、15世紀にはスペインがこの地の支配を始める。 悠久の歴史が流れる地の下、彼女は眠り続ける。 ――手放したく、ないもの―― 雨竜院暈々 「いつまで寝とるんやオカン!」 「ふにゃ~、珍念~? もう少し寝かせとって~」 不純堕天使・四葉ちゃんの朝は遅い。 「もうええわ! 昼飯は勝手に用意せえ!」 そう言い残して佐分山珍念ことサブイネンは出かけていった。ツマランナーのところへ。 あっちの妻夫木さんも元気かな。わたしこんなゴロゴロしてていいのかしら。 だけど今まで大変だったもの。もう少しだけ、だらけててもいいよね。 ――わたしがみんなのママなんだから、明日もがんばろう―― 純粋天使・須藤四葉 異界門〜 いかいもん〜 よそのお家も見たいもん、ジャカジャーン! 今日は飯田のおっちゃんの力を借りて平行世界の様子を見に行くでえ。 ンギャース! あっちでもサブイネンとカミマクリン付き合っとるんかい! ホギャース! あっちのワイが黒パン一丁でスタジオ飛び出した! ミギャース! ト、トラックに轢かれた!! ワイーッ! しっかりせえ、ワイーッ!! ――絶対に許さんからなぁ、基準世界人―― ツマランナー 彼女は変わり者だった。 どこからともなく現れて、私のことを卯月と呼んだ。 彼女は足が遅かった。 その名の通り幸せそうで、いつもそばで笑っていた。 あんまり歩みが遅いから、わけを知るのに60年もかかっちゃった。 私の大切なお幸。 ――『コウ』! 君は『コウ』だ!―― 鈍亀の継嗣、若葉卯月 厚くたなびく雲が晴れ、隙間から覗く月光が、寝台の上、泣きはらした女の顔を照らした。 もう泣かないと誓ったのに。 「……時計になんて、頼らないの」 傍らで寝息を立てる友の手を握りしめる。その手はほのかに握り返された。 「絶対に取り戻すの。何年かかっても、たとえ私がどうなろうとも……」 いつの日か、四人で―― ――れいかも、美弥子の力になるの―― 刻の辻斬り、読小路麗華 「「ダメだったのね、結局」」 無縁双生児(ツインズ)が直接顔を合わせるのも久しぶりである。 声と声を、手と手を重ね、友人の死を悼む。 だがそんな沈痛さとは裏腹に、モニターに映る、あまりに滑稽に加工された彼の最期。 「「何が正々堂々、みんなのヒーロー、何が正義よ。本当にまったく」」 使い古したこの台詞もこれで最後となろう。 ――これも茶番だ。ぜ~んぶ茶番だ―― 浅尾龍導 ■ ■ ■ 勝者の去った、変電所にて。 取り残されて横たわる安楽椅子探偵の額には、自身の手による、こめかみから後頭部へと貫通する一条の穴が穿たれていた。 不意に、その額の穴が、するりと動いた。穴は首元をくぐり抜け、袖の下から変電所の床へと移動した。やがて無傷の探偵は、少々気恥ずかしそうにその身を起こした。 ――おお、それは、その穴は、見間違えようもない――誰あろう、一切空の『アルバート・ホール』! 丸瀬が糸子に手渡したものは、穴であった。彼が彫刻に保存した、幼き少女の忘れ形見を、彼女は受け継いでいたのだ。 出発の刻、糸子は円環型の石をチョコレートに浸した。そしてリボルバーの銃倉に込めたのだ――チョコレートドーナツの穴を! ああ、なんたる傲慢! なんたる恥知らずであろうか! はたしてドーナツの穴はドーナツなのか? 構成員無くして、組織は組織足りえるのか? いずれにせよ、彼女は持ち前の不躾さで哲学上の難題を押し通したのだ! 「……ありがとね」 床に遺された穴は、もはや何の変哲もないただの穴であった。糸子は名も知らぬ少女に礼を捧げた。 「はぁ~、結局事件も迷宮入りか。依頼も未達成。ホント探偵失格ですね、師匠」 結局、敗北は敗北には違いないのだ。これからの身の振り方を考える必要がある。 「……まぁいいや。ついでにいいもの見れたしね」 安楽椅子探偵は、変電所の丸窓から外の景色を覗いた。視界に広がる漆黒の宇宙に、青く輝く地球がぽかんと浮かんでいた。 北海道。それは神代のスペースコロニー。 天空の松前半島と地上の津軽半島とを結ぶ唯一の架け橋、軌道エレベーター・青函トンネルに並行する、もう一本の知られざる糸をご存知であろうか。 亀田半島と下北半島とを結ぶ、直流送電の大動脈。 北海道・本州間連系設備、いわゆる北本連系である。 その要石、七飯発電所からの宇宙太陽光エネルギーを地上に送り届ける水門を、函館変換所という。 迷宮時計が戦場に選んだ変電所の名であった。 眩く光る太陽が、球体に陰影を投げかける。 ゆっくりと、一定の速度を保って、円弧は刻々と這い動いていく。 彼女はそれを眺めていた。 45億年間、粛々と動き続けた永久機関。 地上のどこかが朝を迎える。同時に、裏では夜が訪れる。 そこに乗せた人々の想いなどお構い無しに。 青の迷宮は、時を刻む。 ■ ■ ■ やあ、久しぶりだね! ミスター解説さ。 おっと! 蛇足だなんて言わないでおくれ。何せこれで最後だからね。 永久に続くかに思われた長き戦いも、これにて閉幕だ。 だが……敗れたものや、斃れたもの、あるいは遺されたもの。 その想いはこれからもずっと受け継がれていくことだろう。 ひとりひとりの人生が、ひとつひとつの物語を編み、 絡み合って世界という名のタペストリーをつづり織る。 それはなんと残酷で、なんと素晴らしいことか。 さあ、そんな寂しそうな顔をしないでおくれ。 またいつか会う日もあるだろうから。 その時までは、さよならだ。笑顔でお別れしようじゃないか。 それじゃあみんな、また会おう! このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/106.html
エキシビジョン 伝説の勇者ミド 名前 性 魔人能力 伝説の勇者ミド 女 おもいだす 池松叢雲 男 統一躯 陸軍一佐フジクロ 男 八咫鴉 採用する幕間SS 『幕間 池松叢雲・エクストラ1』 (SLGの会と公安の関係、および池松の能力仕様) ■注意■『SLGの会』入会希望者は必ず読んで下さい■重点■(by 稲枝) (SLGの会におけるミドの立ち位置) 試合内容 † 勇者ミドの伝説 Exhibition 『Animal and Bitch and Crow』 <現在> 「ミツメテ(meet-me-tea)、アイシテ(I-see-tea)、ダキアッテ(duck-at-tea)、 ヌイデ(noon-ill-day)、ナメテ(name-tea)、クチヅケテ(coach-zoo-kate)、 イトシサト(it-sea-sat)、セツナサト(sets-now-sat)、 ココロヅヨサト(cock-rose-you-sat)、イトイシゲサト(it-east-gay-sat)、 カンジテ(can-G-tea)、イッテ(it-tea)、ブッカケテ(book-cake-tea)・・・」 少女は絶え間なく英語を発し続ける。 その発音と語彙は、池松にも正しく意図の伝わる見事なEnglish-communicationだ。 池松叢雲の鳥面の奥の瞳が見開かれ、その色が青みをおびる。 一触即発。 姿は見えないが、確かに少女の声が聞こえる。その場違いな内容に流石の池松も 自らのlisteningを一瞬疑った。 要約すると彼女は・・・こう言っているのだ。 ――オカシテクダサイ (oh-case-take-do-say:「セックスをしましょう」という意味の英語)。 【エキシビジョン】 伝説の勇者ミド VS 池松叢雲 VS 陸軍一佐フジクロ ††† ひっくり返されたプラネタリウムのように、足元から地平線まで続く蛍の海。 それらのまたたきは、しかし殆ど全てが人工の灯りだ。 輝く直方体で埋め尽くされた首都の夜。なんとかと煙はは高い所が好きと言うが、 逆に、これほど豪奢な街並みを丸ごと眼下に収めてしまっては酔いが回るのも 仕方ないのかもしれない。 権力も同じだろうか。男はふとそんな事を考えた。 東京タワー最上層の特別展望台は狭い。 タワー先端にほど近いため面積がほとんどなく、細い通路がドーナツ状に一周している のみ。壁面はすべて窓になっており、360度の景色を見渡す事ができる。 出入り口はエレベーターと、階段の二箇所。とはいえ、地上250mのこの場所まで 階段で訪れようという者はそういないだろう。 男・・・フジクロは周囲を一瞥しただけで部屋の構造と位置を把握する。 周囲に人の気配はない。そして現在自分より高い位置に敵が存在しないという事実も、 彼には「視え」た。 (少々出来すぎた位置取りだな) もちろんそれで勝利を確信したりなどしないが。彼は他人事のように状況を俯瞰し、 静かに己の僅かな地形有利を悟った。 そしてフジクロは淡々と「準備」に取り掛かる。 地形から、取るべき戦術もまた、彼には見えていた。 冷徹な思考力と判断力、そして人にない視力。彼は常に物事を多面から俯瞰できる。 精神的にも、また物理的にも。 夜闇にまぎれて、黒い羽が一枚、ひらりと窓を通過した。 ††† ――以上が、今回のエキシビジョンマッチで対戦して頂く相手の詳細になります。 よろしいですか? 渡葉美土様」 「なんにもよくない」 ミドはつーんとそっぽを向いた。結昨日司は説明スマイルのまま固まっている。 試合前のことである。運営から呼び出され、対戦者の情報を伝えられたところであった。 ふう、と大げさにため息をついてみせると、ミドは意地の悪い笑みで司を見る。 「こんな長い説明に大量の持ち物、覚えられるワケないじゃないですかあ。 なんか滅茶苦茶強いみたいだし・・・あー、もう優勝できたし、帰ろっかなあ」 「えっ、そ、それは」 困る――のである。『図書館の男』からの要望は絶対だ。報道部関係からミドに 圧力をかける事もできるだろうが、優勝者にそんな事をしては、彼女のことである。 後々何をされるかわからない。ユキノイベントの体面にも関わる。 「把握できないという事でしたら、改めて書面にしてお渡し――」 「いやいや、そうじゃなくて。私は『覚えたい』んですから。私の能力、もちろん ご存知ですよね? つまり・・・一息に読んでくれないと」 「えっ」 『おもいだす』はセリフ単位に記憶枠を消費する能力である。スロットは3つ。 限られた枠をできるだけ有効利用したいミドとしては当然の要求かもしれない。 「というわけで――深呼吸して。イッキにお願いしますよ! さんはいっ」 ミドが指揮者じみて、にこやかに腕を振る。 「え、あ、今回対戦相手となる陸軍一佐フジクロ様、見た目はダークスーツを着た男性 で、格闘と各種武器を使用した戦いを得意とされます、能力『八咫鴉』は 専用に用意したカラスを操る能力で視界も共有しており、烏は全部で12羽、 フジクロ様の所持武器はサバイバルナイフが2本と自動拳銃1丁、装弾数は8、 あとワイヤーと無線機、さらにそれらとは別にカラスが、持ち、運んで、いるそうびっ、 がぁ、・・・・・・っ、はぁはぁ、うえぇ」 「ああーーーーざんねーん。ではもう一回、」 「人前で息を荒げて喘いで、恥ずかしくないのかしらこの雌豚は」 「司ちゃん、次はアップで撮るからねーー、イイ顔で頼むよっ、さあ!」 「さ、斎藤窒素様に結昨日映様!? いつの、間に・・・っ今まで、どこに」 「大丈夫、艶っぽく息を吐く司ちゃんのパンツはばっちり撮れてるから」 「ちょっ」 「じゃあ、早速2回目のチャレンジいってみようかー」 「そ・・・んな、皆様、考えればきっと、もっと良い方法、がっ、ある筈」 「「「さんはいっ」」」 (うん。無償試合とはふてえやろうだと思ったけど、まあこのくらいで許してあげよ) ミドは満足げにうなずいてその場を去る。 「久々にやりがいのある現場だったわ。またよろしく頼もうかしら」 「ふ・・・ふおお・・・こりゃーイイ画ですぜ旦那・・・」 斎藤窒素と結昨日映は上機嫌にそれを見送った。司は力尽きて声もない。 どさくさで胸や唇も、特別サービスで触っておいた。当分忘れられないだろう。 目的の情報はしっかりとむねにきざみこめた。実際、それで十分なのだ。 「SLGの会」最強と目される達人にして鈴木三流の英語家庭教師、池松叢雲。 そして、そのSLGの会が相対せねばならぬであろう公安、そこにおける 要注意人物(と同じ名を持つ男?)フジクロ。 そもそも、先のミドの無茶な要求は、本来ならば運営として断る事もできるものだ。 たかが野試合ひとつ。その出場拒否を盾にされただけで、司が拒否できなかった。 そこにフジクロという名は、いかなる意味を持つのだろうか――? いずれにしても。どちらの男にも元々興味はあった。力を見せて貰う価値がある。 ――交えたいのは、拳じゃないけどね。 ミドはぺろりと、小さな舌を唇に這わせた。 ††† そして、今。ミドは池松に英語を投げかけ続けている。 教材からテープを編集し、記憶した例文を『おもいだす』。 セリフの完全記憶能力は抑揚からアクセント、発音の精密な再現を助ける。 もちろん正しい会話には勉強が不可欠だが、そこから暗記の手間が省けたと言えよう。 ここは東京タワー中層部に位置する大展望台。 最上階に比べるとそれなりに広く、1階と2階の二層から成り、レストランや グッズショップもここに存在する。ミドは試合開始からここに潜んでいたのだが。 そこへ池松叢雲は――床を突き破って現れた。 ミドが居たのは2階のグッズショップ。その気配を感じたのだろうか。 (い、1階から来るなら階段もあるんだけど・・・!) 流石の彼女も目を丸くした。心臓が珍しく、薄い胸を内側から激しくノックする。 胸に手を当てて気を落ち着ける。大丈夫、ここから先は――手筈通りだ。 「・・・ここか(cook-cow:「此処に居るな」という意味の英語)」 池松がグッズショップに目を向ける。 その視線には、聞こえてくる不自然に流暢な英語への違和感が含まれていた。 『あの』池松に戦闘以外の思考がよぎる。それがタイミングだ! ――ガシャァン、と派手な音を立てて棚が倒される。 池松の眼前に薄いピンクの弾幕が迫り視界を塞いだ。棒状の頭、これは・・・ 東京タワーのマスコット、「ノッポン」のぬいぐるみ! (小:400円、中:600円、大:1300円。価格はいずれも税込。 見ているとなぜかコンドームを思い出す) ♪ノッポン 音頭で ノッポンポン ♪ノッポン 音頭で ノッポンポン 同時にフロア内に、非常識な大音量で季節外れな太鼓サウンドが響き渡る。 それはノッポンのテーマソング、「ノッポン音頭」だ! 殺伐とした戦場に、謎の夏祭りムードが満ちたその時。 ミドはすでに池松の目の前まで迫っていた。 他の音が聞こえなくなるほどの音量で音楽が流れれば、英語は相手に届かない。 同じく相手には聞こえないとわかりながら――ミドは呟いた。 「さあ・・・Lessonを始めましょう?」 そのまま、ミドは池松に抱きついて接吻した。 ††† <1年前> 「ダメだよ、それじゃあ」・・・ その時の事は、まだ鮮明に思い出せる。 関脇・股ノ海は学生時代、アマチュアの大会で相撲に取り組んでいた時の思い出に 浸っていた。まだ「股ノ海」という名ですらなかった頃の話だ。 大会を見に来ていた、素人としか思えない幼い女の子。 まだ小さい子供に――突然そんな事を言われたのだ。 むろん子供のたわごとである。気にとめるような事ではない。ないのだが。 なぜだろうか、その子の静かな瞳には、無視できないものが秘められていて。 若き名もなき相撲取りは、惹かれるように足を止めた。 「どうしたんだい?」 「お兄さん、もっと強い筈だよ。・・・いつもどうやってお相撲とってるの?」 「どう、って。何も考えず、真っ直ぐに突っ込む。それが相撲だよ」 相撲取りとして正統派の見解を述べる。しかし、女の子はふるふると首を振った。 「さっき何で負けたのか、わかってないのね」 「!! ・・・僕の取り組みを見ていたのか」 「好きだもの、お相撲」 確かに彼は先ほど、ロクに前も見ずにぶちかましに行ったところをかわされて、 突き落としで土を付けられていた。正々堂々とした力士を目指す彼としては、 それも仕方なしと考えていたところだが。 「横綱になりたいなら、かしこくならないと。そう、もっと色んな、技とか」 「・・・技」 「前に出るだけじゃない相撲。お兄さんは、それができる気がするの」・・・ 思えば、やはりこれがきっかけだったのだろう。彼は力任せな相撲スタイルを改め、 柔軟な考えを持つようになったのだ。 多彩な技を持つ股盛山親方に弟子入りし、自らも希望崎の裏山で自主稽古に励んで 様々な奥義を身につけた。相手に合わせて戦法を変え、立ち回りで翻弄する相撲。 そして彼は今、関脇にまで上り詰めている。 股ノ海はよく、この思い出を振り返るようにしている。自分の転換期、そのきっかけを。 そして、ふと思う。 あの女の子は幾つになったろう。今でも相撲が好きでいてくれているだろうか。 自分が変わったという事を・・・知ってくれているだろうか? 「・・・おう、股ノ海」 と、彼を呼ぶ声があった。親方だろうか。 声のあった方に向かう。相撲部屋の玄関からだ。 「ハイ、何でしょう」 「お前に客だそうだが。若い女の子だぞ? 色恋にうつつを抜かしちゃいないだろうな」 「まさか。自分にそんな知り合いなど」 ――玄関の外を見る。 確かに小柄な少女が立っている。制服姿だが、中高生だろうか? 少女は出てきた股ノ海に気づくと顔を上げて微笑み、朗らかに口を開いた。 「・・・お久しぶりです!」 ††† <現在> 熱く、甘く、濃い感覚が2人を繋ぐ。 少女の小さい筈の舌は、蛇のように器用にもう一方の舌に絡みつき、その動きは 封じられた。言わずもがな、言語を発する事など到底できない。 もちろん封じられたのは口だけである。腕は自由だ。 池松が腕力でミドを吹き飛ばすのはたやすい。だが、それは行われないのだ。 それは池松叢雲が・・・己の英語に、地獄のようなプライドを持っているからである。 己の『英語』の一撃によって敵を斃す。それ以外の方法はありえない。 単なる力による勝利など、勝利ではない。最強とは。そう――英語だ。 よって現在、発音のできない池松は攻撃を封じられている。 しかし・・・彼は英検力のみの男だろうか? 答えはNoだ。 《統一駆》で自らの舌を操る。精緻な操作とそのパワーをもってすれば、 ミドの舌を押さえ込み、あまつさえ引きちぎる事すら、本来は可能かもしれない。 池松はそれを試みる。だが、霧がかかったように思考が霞み、能力の制御がきかない。 どうした事か?(do-shit-a-caught-car:「どうした事だろう」という意味の英語) 疑念を感じる。自己にいう事をきかせるための《統一駆》それ自体が、 意のままにならない――! 彼にとって初めての事態であった。 ミドはとろんとした目で、だらしなく恍惚と笑っている。快楽を貪っているのだ。 非日常レベルの、超常の、快楽を。 媚薬。 互いの舌の接触とともに、池松の体内へと押し込まれたもの。 それはすぐに2人の体温を上昇させ、ミドの下着は瞬間、しとどに濡れた。 一方の池松は、意思が焼けるように寸断される感覚に困惑を覚えていた。 《統一駆》は己の精神と肉体を制御するもの。しかし、それを「制御しよう」という 意思は、どこに存在するのだろうか? ――それは脳以外にありえない。 その脳を、支配する。快楽で埋め尽くす。これがミドの池松対策の真骨頂であった。 ちなみに池松はいざとなれば、口の発音機構を使わずとも骨伝導により英語を 伝える事もできる。しかし今や、そうしようという意思さえ支配されていた。 その鳥面の奥の瞳は青く輝き、すでに顔もネイティブのそれとなっている。本気! すると、あろうことか。情欲が――はじけて加速した。 そもそも欧米人は性にオープンである。肉体がネイティブ化したことで、なおのこと 性欲に逆らえなくなってしまったのだ。ニマリと目を細めるミド。これもまた、計算。 こうして池松は能力を完全に封じられてしまった。いや、それどころか、 「本来であれば」この段階で詰まされていたはずだ。 ナイフが、池松の胸を貫いていた。 口づけと同時に差し込まれたものだ。反撃を封じると同時に止めを刺す。 シンプルだが、それゆえ一切の抜かりのない刺殺。完璧。終了。そのはずだった。 だがそういかないのもまた、池松だ。 左胸を深々と貫くナイフは、しかし致命的な臓器を捉えていない。 やはり《統一駆》は侮れなかった。事前に内臓の位置を動かしていたのだろう。 ミドもまた、打つ手を失った。かといって離れるわけにもいかない。 口を解放すれば、すぐにでも英語が飛んでくるだろう。 状況が膠着したその時。 羽音が静寂を破った。 ――カラス! 池松は見た。2羽の烏が、ミドの背後から左右に1羽ずつ直進してくる。 そのちょうど中間が、一瞬きらりと光を反射した。極細のワイヤーだ! 2羽の烏が、それぞれの一本足に巻きつけて繋がれたワイヤーをぴんと張って ミドの首を狙う。そのまま旋回して2人ともを拘束する狙いか? また同時に、ミドも見た。2羽の烏が池松の背後から迫るのを。 やはりこちらもワイヤーで繋がれている・・・が、ミドは右側の烏の足に、もっと 恐ろしい何かを見た。万年筆大の円筒形。この形状は『おもいだせ』る。 事前の情報と照らせば、これは手榴弾だ! 池松背後、左側の烏が大きく横に動き、金属音。張られていたワイヤーがたわむ。 ワイヤーの先端には、やはり手榴弾のピン。外れた。右側の烏が、掴んでいた円筒を投下 瞬間! ミドは池松の口を解放して飛びのいた。すぐに池松が息を吐く。 「Hello ――Nice to meet you.」 池松が発したのは挨拶代わり――いや、挨拶そのものの一撃。初歩の初歩、基礎会話。 おまけに媚薬効果によって技の精度は落ちている。・・・しかし! たった一言挨拶した。それだけで。 四方、計4羽の烏は「アベシ!(at-base:断末魔の悲鳴)」と叫んで絶命、落下。 軌道を狂わされた手榴弾は池松に届く前に爆発し消えた。 さらに抜け目ない池松は発声と同時に、飛びずさるミドを腕で追うように小突いた。 ミドは両腕でガードしていた上に後ろに跳んでいた・・・にもかかわらず、 まともに着地すらできず床に転がった。 「ぁう・・・ッ!?」 思わず悲鳴が漏れる。激痛。全身を、英語が奔っていた。 浸透勁(sing-to-"K")だ。 倒れたミドを、池松は一瞥。媚薬に狂わされた精神を取り戻すべく深呼吸すると、 「――成程(now-rule-hold:「合点がいった」という意味の英語)」 と短く発した。 この、一見なんの変哲もない脆弱者が鈴木三流に重用される理由。 その一端が見えた気はした。だが・・・やはり『英検』には及ばぬ。 「面白くはあった(on-moss-ill-look-hat-tail)」 池松は言い捨てると、窓の外を見る。1羽の烏が横切り、上へ飛んでゆくのが見えた。 「上か(wait-car:「上に居るな」という意味の英語)」 ミドから興味を失ったように振り返り、池松は窓に歩み寄る。 ††† <1年前> 眼鏡をかけたその少女。学校の制服とおぼしき衣服に身を包んだ未発達な肢体は 14~5歳くらいに見える。股ノ海の近しい知り合いにはいない年代だ。 親戚にも心当たりはない。ファンか? しかし相撲部屋まで押しかけるだろうか。 「あの時は、名前も言ってませんでしたが・・・渡葉美土、といいます」 やはり覚えのない名前。いや、名乗られてすらいなかった? 礼儀正しい笑みを浮かべる少女の顔を見る。その細められた瞳の奥に、何ともいえない 静けさを感じて股ノ海は思い至った。この感覚は、あの時と同じだ。 「・・・もしかして、君は」 「かしこく、なりましたか? 股ノ海関」 少女の笑顔が、挨拶の為のものから親しみを込めたそれへと変わった。 やはり。股ノ海は確信する。あの時の女の子。自分の相撲道を決定づけてくれた、あの。 「おお、おお・・・そうか。よく会いに来てくれた! 君には、礼を言わなければ と思っていた。本当に、ずっと、思っていたとも」 股ノ海の目尻には涙が滲んでいる。真面目で涙もろい男である。 しかし、渡葉美土――伝説の勇者ミドは、そんな彼に変わらず笑顔で語った。 「いやア、こちらこそ。覚えててくれて嬉しいです。・・・でも、実は」 「?」 「今日は思い出を語りに来たわけじゃ、ないんですよ」 ミドの頭部の、ティアラのように宝石のついた額当てが日光を受けて光る。 見慣れない装飾品だ。最近の女の子の間では、こういうのが流行りなんだろうか。 荒唐無稽な話をどこから説明したものか――ミドの表情に、珍しく若干の迷いが見える。 しかしやがて意を決すと、うってかわって顔を上げ、真摯な目ではっきりと告げた。 「今日は、お願いがあって来ました」 そして、数分の会話の後。勇者のパーティに新しく『力士』が加えられる事となった。 幼少から相撲好きであったミドが、偶然たぐり寄せた出会い。 彼女が股ノ海に与えたのは、前に出るだけではない、力の使い方があるという事。 そして後に、股ノ海がミドに返すことになるモノ。 運命は、未来に向けて動き始めていた―― ◆股ノ海列伝・邂逅編 完 ††† <現在> ミドは座り込んだまま動かなかった。いや動けなかった。 人形のように力なく投げ出された肢体を、冷淡な夜風が気持ち強めに撫でていく。 風が、入ってきている。目の前の窓に大穴が空いていた。 池松が窓を破砕して飛び出し、烏を追って行ったのだ。今更彼が何をしようが驚かない。 ミドは手を握り、開閉してみる。痛みは感じるが動く。大きなダメージが残っている わけではなさそうだった。だが――立てない。立ち上がる気力がない。 渡葉美土は、『恐怖』を感じていたのだ。 貧弱な肉体に、わずかとはいえ直接、達人の英語を浴びせられた。その威圧感は大きい。 また彼女は今までも天地の差がある強者と対峙してきたが、その勇気は策に裏打ち されていたのも大きい。取るべき手段が見えていれば、立ち向かうのは楽になる。 しかしその策が外部要因とはいえ不発に終わり、根本的な戦闘能力の差を身体に 覚えさせられた。足腰や唇が意思と無関係に震え、涙が勝手に目尻から垂れた。 逃げ出したい――そんな言葉さえ頭をよぎり、彼女は首を振って思考をかき消した。 トーナメントを通して初めてのことだ。 (こんな時に≪統一駆≫でも使えればなあ) ミドは戦意を取り戻さなければ、と思っていた。この体を再び奮い立たせなければ。 そう、彼女はまだ意思では交戦を求めていた。 力なくとも敵を打ち破ってきた自負もプライドもある。 仮にも優勝を手にしていながら、泣いて逃げましたではあんまりだ。 今までの対戦相手や、励ましてくれたパーティメンバーにも申し訳が立たないだろう。 さらには、SLGの会としての立場。まだ公安・・・フジクロの戦闘技能についても 解析できていない。それどころか、できるならここで破っておくべきだ。 今は池松が交戦しているのだろうが・・・しかしミドは推測する。 先ほど見た烏を使った戦法、その傾向。そして池松の戦闘スタイルから考えるに。 このままでは――おそらく、池松は敗北する。 ††† フジクロは変わらず最上層、特別展望室に構えていた。 奇襲から直接相手の実力を見るために出した烏が全滅するまでの経緯は、共有した視界 と、無線機からの音声で把握していた。タワーの外にも常に偵察用の烏を数羽出して おり、彼は常にすべての戦況を手にしている。 だから、現在池松が急速にここへ迫っている事も承知の上だ。 しかしそれに対し彼はまだ動くようなそぶりは見せない。無音で立ったまま窓を見る。 片手で顔を覆ったポーズは癖だろうか。隙は一切ない。 ――ガィン! 不意に強烈な金属音が響きフロアを揺さぶった。 外からだ。フジクロは動かない。当然発生元もわかっている。 ガィン! ガィン! ガィン! ガィン! ガィン!! ガィン!!! 音が容赦なく近づく! 大きく揺れる展望室。フジクロは半ば呆れ気味に呟いた。 「エレベーター7割、階段2割くらいに考えていたが――1割を取るとは常識外れだな」 フジクロの眼前の窓の向こうに、鳥面の巨躯が躍り出る。 この男は・・・タワーの赤鉄骨を駆け上がってきたのだ。エレベーターよりも疾く。 強烈な金属音は、彼が鉄骨を蹴りつけていた音に他ならない。 いま、2人の強者は、真正面からついに相見えた。 「Nice to meet you・・・はもう言ったな。 My name is ――Murakumo Ikematsu!!」 池松がガラス窓を蹴破る。開戦である! 常なる通り、池松の思考はただ一点のみ。一撃。前に出る。そして一撃。 しかし鳥面の奥の瞳はすぐにそれを阻むものを視認した。 幾重にも光るワイヤー。常人であれば気付きすらせず踏み込み足を取られ、 切り裂かれるか――いや、さらに悪質なトラップに連動しているかもしれない。 しかしもちろん、その地獄の領域を池松は・・・常人と同じように歩み進んだ! 用心すればその分、前進は鈍るかもしれない。しかし流石に狂人の選択であった。 案の定、張り巡らされたワイヤーに身体のあちこちを切り裂かれる池松。 統一駆によって痛みは感じない。前進に影響はない。しかし鮮血が飛ぶ。 「覇ッ!!(hat:「帽子」という意味の英語)」 短い発声ととともに腕を振るう。強靭な高張力ワイヤーがいくらかはじけ飛んだ。 が、それもまた次なる脅威を引き込むに過ぎなかった。 ワイヤーが切断された事をトリガーに、池松の真横からサバイバルナイフが飛来。 しかもそれだけではない。キン、という短い金属音。池松はこれを先程も聞いた。 手榴弾の、ピンの音だ。やはりワイヤーと連動していた。 左からのナイフを腕で受け止める。ナイフは手首を貫通した。 さらに右方で手榴弾が爆裂。右肩の肉が破ける。池松の前進がわずかに鈍る。 もちろん、フジクロもそれを黙って眺めているわけではない。 この部屋は狭い。侵入口も限られている。 本命のエレベーター、対抗の階段、そして大穴の壁面、窓――これらすべてに トラップを用意するのも、それほど難しくはない。ましてフジクロは一流である。 さらには、彼はどこから敵が来ようともそのタイミングを「眼」で正確に把握できる。 ここで戦う限り、トラップで動きを止める事はほぼ確実に可能であり・・・ そしてフジクロは銃を抜いた。動きの制限された相手など固定された的にすぎない。 彼が『少々出来すぎた位置取り』と考えたのはそういう事である。 池松が前進を再開する。意を決したか先ほどより速い。だが関係ないとばかりに サプレッサー付の拳銃が、ほぼ無音で銃弾を吐く。一発。二発。三発。 一発は胸に。しかしやはり池松は内臓を移動させており致命傷にならない。 一発はナイフの刺さった左腕に。銃弾が肉を抉る。 さらに一発、続けて左腕に。左の手首から先がボトリと床に落下する。 池松は突撃を止めない! フジクロは不動のまま四度目の発砲。 フジクロが動かないのは、相手の進路を読み切る事と、最大火力を浴びせるためである。 銃弾は池松の顔面、鳥面を吹き飛ばす。碧い瞳が輝いている。すでにネイティブの顔。 五発目。また顔だ。狙いは――池松の口。最強の英語を生み出す発音の源。 なすすべもなく唇が吹き飛ばされる。赤い肉がグロテスクに覗く。 しかし、その肉が・・・嗤うように蠢いた。口の端が吊り上がる。 ――まだ甘い(murder-an-May)。そう動いたように見える。しかし不明瞭だ。 やはりダメージはある。しかし、だが、それでも。 池松は進撃を止めない・・・! ここに至ってフジクロは池松の想定以上の強靭さに策の不備を覚えた。だが遅かった。 池松がいよいよフジクロを射程に捉える。しかし英語はもはや発せないのでは・・・ ググ、と口周りの筋肉が集まり、唇の『ようなもの』を形作った。 フジクロが目を見開く。発砲。発砲。しかし池松の長い髪がざわめき銃弾を逸らす。 池松が大きく息を吐く! 「Coooooooooooooooo――――――――!!!!!」 『 抜 山 倒 海 (bat-than-taught-kind)』 大きく右掌が突き出され、英語が爆裂した。 そこに現出されたのはアメリカ合衆国アリゾナ州、赤茶色に聳える偉大なる大地・・・ 「グランド・キャニオン(Grand Canyon)――!!」 英語は展望室全体を震わせ、全面のガラスを吹き飛ばす。 が、鍛えられた魔人はこれだけでは仕留められない。 このまま右の掌打をフジクロの肉体へと打ち込めばそれで終わりだ。 フジクロが後ろへ跳ぶ。池松は追う。まだ右腕は伸びる! 関節も外され、統一駆で限界まで延長された右腕による一撃は―― ――しかしついにフジクロには届かなかった。 フジクロは、宙に居た。背後に翼が舞う。 ただ後ろに跳んだのではなかった・・・両腕から、ワイヤー。それぞれ片腕に2羽ずつの 烏へと繋がれている。そのまま後方へ若干距離を飛行、割れた窓から外へ出た。 「危なかった、な」 「・・・未熟(me-junk:「己が未熟だった」という意味の英語)」 手榴弾が投擲される。頭部付近で爆発したそれに脳を揺さぶられ、池松は・・・ ついにその場に倒れ伏した。 壮絶なる両者の激突が、幕を引いた。 ††† ――池松の渾身の英語とほぼ時を同じくして。 最上階のエレベーターの階数表示が機械的に点滅していた。チンと短く音が鳴り、 自動で扉が開く。もし到着が一瞬遅れていたら、英語の振動によってエレベーターは 停止していたかもしれない。間一髪。 扉の向こう、エレベーター内に人影は見えない。直後、激震。 階数ボタンに背を預けたまま英語の衝撃を感じ、ミドは戦況の変化を感じた。 額に汗を感じながら、目だけで外の様子を窺う。ここからでは戦う2人は見えない。 が、ほどなくして羽音、炸裂音、そして会話が聞こえ、人体の倒れる音。 池松が、敗れた。そしてフジクロが展望室の外へ。 今しかない。ミドは意を決すると、トラップに用心しながらワイヤーを 避けて進み・・・池松に駆け寄った。 「未・・・熟(me-junk)」 おぼろげに呟いている。意識はあるようだ。だがその巨体は動きそうになかった。 ミドはそんな池松の前にしゃがみこむと、真剣な眼差しで語りかけた。 「やっぱり――突撃したんですね」 池松は答えない。ミドはフジクロの無線に盗聴されぬよう声を潜めて続ける。 「池松先生。恐れながら・・・ beastが最強であるのなら、世界中の紛争には猛獣使いが投入されている筈です。 しかし、lionもbearも戦場では役に立ちません」 「英語はanimalのものではない。・・・peopleのためのコミュニケーションだ」 池松は反論した。 「英語そのものの話ではありません、先生の戦闘方法の話です」 「・・・何が言いたい(now-knee-gay-tail?:「本題を言え」という意味の英語)」 「先生の『一撃』はおそらく無手最強に近いです。しかし野獣のごとく暴れる だけでは、こういった大会や路上の格闘戦ならともかく・・・戦場では無意味だと いう事です。先生がこのままでは、『SLGの会』はこの先――公安と戦えない」 『SLGの会』『公安』という単語に池松は黙った。 まだ事を構える時期ではないとはいえ、公安の脅威については池松も意識するところだ。 「bombは、的確な位置に的確なタイミングで戦術的に放つからこそ意味を持つものです ――ましてや、組織戦においては。少なくとも、もっと賢く戦えば、貴方はさらに 強くなる・・・それを知ってほしいんです」 池松は絶対的な力を持っている。しかし力押しで勝ち続けるほど見えなくなる 事実も、ある。そういえば過去にも1人――そんな男を諭したことがあった。 ミドはそれを思い出して少し笑った。彼は今、当時の倍は勝っている。 「それで。説教をしに来たのか」 「いえ・・・私がそれを、今から示したいんですけど」 ミドは立ち上がって笑いかけた。眼鏡が夜景を反射して煌めく。 「――力を、貸してください」 ††† 窓から外に出たフジクロはタワー頂上付近の鉄骨上に着地した。風が冷たい。 着地の際に、脇腹と左の膝が違和感を訴えた。骨にヒビくらい入っているだろう。 空気を振動させただけでこれか・・・生で味わう英語に驚愕を覚えるフジクロ。 (英米と事を構えるのは、極力避けた方が良さそうだな) 英語を極めた軍隊というものを想像すると、軽く眩暈がした。 そんな大局的思考を続ける彼だったが、肩の上の烏がギャア、と短く啼き現実に 戻された。国家からすれば塵のように小さい、・・・本当に小さい、少女がひとつ。 それがここまで這い出してきたらしい。フジクロは烏たちを飛び立たせた。羽が散る。 「うわア、黒い羽根を沢山生やされまして・・・堕天使かと思いましたよ。流石、 お偉い魔人は厨二力も高いと見えますね」 「くだらん戯言に付き合う趣味はない」 フジクロが冷徹な視線と銃口を同時に向ける。 するとミドは、背筋をムカデにでも這い回られたかのように全身がゾクリと震えた。 軽口を叩くどころではなかった。池松とはまた別種の、恐怖。 この男、陸軍一佐フジクロは・・・ 池松叢雲のような圧倒的な破壊力は持たないはずだ。 バロネス夜渡のような応用の効く能力も持たず、自在に飛行もできない。 裸操埜闇裂練道のごとき異次元の格闘能力も持たず、 クイーンのもじのような抵抗不可の無体な論理能力もない。 真野風火水土のように予測できない突飛な策を弄す事もないだろう。 白王みずきのように、人生のほぼ全てを賭けて強い意志とともに戦いに臨んでもいない。 それでも。 女子供でも無表情のまま1秒で殺しそうな、向けられた殺気の質によるものだろうか。 この男が、今までに相対した誰よりも――怖い。 しかし。ミドも今ここに、ただ登ってきたワケではない。 策を携えてきた時の彼女は・・・誰にだって、何にだって、立ち向かえるはずだ。 少女の名は『伝説の勇者ミド』だ。恐怖に立ち向う者をこそ・・・人は勇者と呼ぶ。 ミドは伝説の剣『まるごし』を抜き放つ! フジクロはそれを見て、冷淡に分析する。 素人が剣を使える足場ではない。あの剣は防御に使える代物でもない。 では何のために剣を抜く必要があるか。本命は剣そのものではあるまい。 あの中に――何かが隠されているのだ。 普段ならナイフだ。真野戦ではネジの束だった。では、此処なら? ナイフは役に立たないだろう。他に何か手に入れたか。あの時、拾ったものだろうか。 フジクロは烏の視点から、ミドと池松の会話後の行動も視ていた。 あの後ここに来るまでにミドは、特別展望室の物品をわずかに物色していたのだ。 トラップに使用した、ワイヤーの結び付けられたサバイバルナイフ。 烏に持たせていた、フジクロと通信可能な無線機――これは拾ってから捨てていた。 それと、池松の千切れた左手。 同じく池松の装着していた、鳥面。 それらをしゃがみこんだままゴソゴソと剣に出し入れし、それから彼女は 立ち上がっていた。残念ながら肝心な部分が見えなかったが、流石にそこはミドも 注意深く動いたのだろう。能力はバレている。 全てを剣に仕込める体積ではない。どれをどう使うつもりなのか知らないが・・・ しかし、それとは無関係に結論は出た。いずれも投擲してフジクロに届く距離ではない。 つまりこのまま銃殺するのが正解だ。 サプレッサー付きの銃が無慈悲に火を吹いた。 ††† 勇者を名乗るようになってすぐの頃、ミドはよく考えた。 なぜ自分が『勇者』などになったのだろう? 希望崎学園進路相談室・就職課(通称ダーマ)の事務員(何故か神官と名乗った)は 「剣に選ばれたから」だと言う。しかしミドはたまたま社会科準備室で埃を被っていた 『まるごし』を発見しただけだ。 悪名高い戦闘破壊学園である。勇者として戦うのに向いている魔人など、 他にいくらでもいるだろう。しかし『まるごし』はあえて渡葉美土を選んだ。 しかし、その『まるごし』と共に戦ううち、ミドは自信とともに納得していった。 『まるごし』だからこそなのだ。 この伝説の剣とやらは、まるで戦うための力を持たない。まやかしの剣だ。 剣士ならば、普通の鉄の剣で戦ったほうがよほど強い。 この剣を使って最も強くなれる者。それは―― 自身は力を持たなくとも、見せかけで、ハッタリで、「力」を超えられる。 そんな一流のペテン師をこそ、『まるごし』は求めていたのだ。 それはまるで「強大なる力に人の身で挑む」勇者という存在を体現するかのごとく。 「自身に力のないハッタリだけの存在」である剣が、同類を求めるかのように・・・ 今ではミドにとって『まるごし』は歴戦の戦友である。 彼女にとって、この伝説の剣は。どんな攻撃力の名剣にも勝る最強の装備なのだ。 ††† 「う・・・・・・ッぐ」 銃弾はミドの細い右太腿を正確に捉えた。鮮血が滴る。バランスが崩れる。 しかし池松に聞いた通りならば、池松との戦いで7発撃っていた筈。 この銃は弾切れだ。今しかない。ミドはこのタイミングを逃さぬよう前に出て剣を、 しかし一羽の烏が猛スピードで飛来、少女の顔面に取り付いた! 「わぷッ・・・」 さらにバランスが崩れる。右足は思うように力が入らない。 そしてこの間に、別の烏がフジクロの右手を通過、その一瞬で銃がスペアと交換された。 ふたたび今度は派手な銃声が上がる。一発、二発。 無残にも右手を打ち抜かれ・・・ ミドはあっさりと『まるごし』を取り落とした。これでは何もできない。 実体のない剣の幻から、スカーフがハラリと舞い落ちる。そしてその中から―― 他の物体が出てくる事はなかった。 「!!」 「・・・は ず れ ☆」 激痛の中、せいいっぱい強がった笑みでミドはぺろりと舌を出した。 左手で腰に下げた剣の鞘を掴むと、全力で上空に放り投げる。 『まるごし』はまやかしの剣。 最後の最後まで――その存在自体がハッタリでしかない剣! 本命は鞘だった。フジクロが目を見張る。 鞘の中から、ミドが収集していた物品・・・ ワイヤー付きサバイバルナイフ、池松の左手、池松の鳥面が中空に投げ出された。 どれだ。どれで勝利するつもりなのか。いや、関係ない! フジクロは素早く全てのアイテムに発砲。いずれの物体も彼の体まで到達しない。 しかしミドの動きはまだ止まっていない。ミドが大きく息を吸い、叫んだ。 「――今だ!!(it-murder:「今がそのタイミングです」と伝える英語)」 今のは、英語? 誰に。もちろん池松だろうが、だが、まだ動けるというのか? そもそも池松は今、先の特別展望台にいる。烏の視点から「視える」。 今から何をしようと、間に合いはしないだろう。 その時。フジクロの懐の無線機・・・烏との通信のため付けっぱなしにしているそれ から、声が発された。 「・・・ザザッ・・・オーケー(OK:「了解した」という意味の英語)」 ミドが一度拾った無線機を捨てたのは、取捨選択したのではなかった。 あれは、池松に「渡していた」のだ。それをカモフラージュするためにいくつもの 物品を集めていた。本当に必要だったのは「捨てた」無線機と、池松の左手だけ。 刹那――空中の池松の、切り離された左手の爪が勢い良く伸び、 フジクロの胸部へ突き刺さった。《統一駆》による操作。傷は浅いが、しかし。 この瞬間、フジクロは恐るべき事に気がついて唖然とした。 池松と、音声通信が可能であるという事は。 刺さった爪が、今度は急速に収縮する。手のほうがフジクロの胴体に迫る。 ミドの口と、池松からの無線通信が、同時に告げた。 「「終わりだ(oh-what-reader:「これで終わりです」という意味の英語)」」 続いて無線機から聞こえる、深海の唸り。これは――バイリンガルの呼吸! C o o o o o o o o o | | | | | !!!!!!! 『 in - owner - zoo - N 』 無線機から爆裂する英語の発声! 同時に、フジクロの胸部へと到達した池松の左手は そのまま手刀を叩き込んだ。致命的に命中する『一撃』。 フジクロは口から大きく吐血、そのまま真下へと吹き飛ばされた。 落下する身体は特別展望室を突き抜け、 | | タワーを支えるいくつもの鉄骨を貫通し、 | | 中層、大展望室のノッポンぬいぐるみ達を蹴散らし、 | | 土台、入り口部分のチケット売り場に派手な土煙を巻き起こし、 | | | <激突!!> 上級魔法のような激烈な一撃を受け、フジクロはついにそれから目を開ける事は できなかった。 ††† 一方、ミドも意識を手放しそうになりながら、遅れてタワーから落下していた。 足を貫かれ、立っている事もできなかったのだ。 (大見得切ったのに、結局池松先生の一人勝ちかァ。なんだかなあ) 落下し始めてすぐ、池松のいる特別展望室を通る。 「一応・・・勝ったよ」 見えるかはわからないが、ミドは展望室に向けて親指を立ててみせた。 すると――角度が良かったのだろう。池松の姿がちょうど見えた。 池松は残った右手を動かして親指を立て返すと、口を動かした。 「見事だ(me-got-that:「見事だ」という意味の英語)」 そして池松は、ミドが過ぎ去ってから、こう呟いた。 「負けでいい(market-day-E)」 「ギブアップ(give-up)」 勿論ミドには聞こえていない。 「あれは、俺の一撃ではない―― 組織戦、か」 「あっ」 ミドは突然、何かに気がついたように声を漏らした。銃創の痛みに顔をしかめながら。 池松に、伝えるべきことをひとつ忘れていた。迂闊だった。 もう勝ち負けはいい。試合が終わったら言おう。 すぐに言おう。 絶対言おう。 「――ところで。 強い人の精液を飲むと脳が活性化するって・・・知ってます?」 【完(THE-END)】
https://w.atwiki.jp/p2mattari/pages/701.html
12月22日(月) 塩 さん 主催 (29H、686) 本スレの大会もないみたいなのでエキシビション行きましょ- 【募集開始】 23:20 【ラウンド開始】 23:30(又は16名集合時) 【グレード】 GF 【コース】 リンクス 【ティ】 バック・ミラー 【ホール数】 9H・OUT 【タイム】 ロング 【相手の選択】 日本限定 【グループ名】 まったり 服装、クラブ等は自由です。 都合の付く方はどなたでもどうぞ! 結果・コメント 主催者:塩 さん みなさんお疲れ様でしたー 結さん優勝おめでとう! laさんCIEおめ&ラストドンマイです! SSパンダ大杉ワロタwww みなさんまた来て下さい~w P.S.まさん、途中絡みまくってすみませんw 優勝者:結 さん お疲れ様でした~ たなぼた優勝(σ・∀・)σゲッツ!! laさんの3連覇を阻止できて満足ですw 塩さん主催乙でした 名前:こくないのだれか さん 皆さんおつかれさまでした~ 結さん優勝おめでとうございます! laさんCIEおめ&最後どんまいです>< 自分の内容に関してはもう何も言うことないですw パンダ大集合でしたねw 塩さん主催乙でした~ 名前:m さん お疲れ様でした~ Nさん優勝おめでとう! 今日初プレイ+酔っ払いでgdgdでしたwww 塩さん、主催お疲れ様でした~ 名前:こくないのだれか さん おつかれさまでした~ Nさんおめ~ laさんおしいですねーw ぜんぜんだめなんです(><;) 塩ちゃん主催おつでした~ 名前:こくないのだれか さん お疲れさまでした~ 結さん優勝おめで㌧♪まったりでガチは(ry laさん最後どんまいですw 塩さん主催お疲れさまでした~ 名前:こくないのだれか さん 皆さん乙でしたー♪ Nさん優勝おめでとうございます! 上位に食い込むチヤンスは一杯あったんですが… 紙パットっ…またも紙パットっ!痛恨の…紙っ!紙っ!紙パットっ! 塩さん主催乙でした☆ 名前:la さん みなさんお疲れさまでした~ Nさん優勝おめでとうございます! 最後にやらかしましたwww パンダが並びましたね! 塩さん主催ありがとうございました! 名前:こくないのだれか さん 乙でした~Nさんおめ~ ショートチップ駆使してなんとか食い下がってましたが8Hで力尽きましたーw パンダいっぱい並んだんで満足です! 塩さん主催乙でした~ 名前:かず さん お疲れ様でした! Nさん、優勝おめでとうございます! 塩さん、主催ありがとうございました! リンクス疲れますね~。私の腕前で1ボギーなら満足です(笑) 名前:SH さん みなさんお疲れさまでした。 結さん優勝おめでとう! laさん最後はどんまいです! 塩さん主催お疲れさまでした。 最下位いただいちゃいましたw 大会写真 ただいま準備中・・・ imageプラグインエラー 画像URLまたは画像ファイル名を指定してください。 imageプラグインエラー 画像URLまたは画像ファイル名を指定してください。
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/429.html
エキシビジョンSS・変電所その2 その夕暮れ、”彼ら”がエド・サイラスの店を訪れたとき、綾島聖は不在だった。 エド・サイラスのバーはいつもと変わらない。 店内に客の姿はない。 エド・サイラスがどうやって店の経営を成立させているのか、 ”彼ら”は誰も知らないし、興味もなかった。 少なくとも今夜、”彼ら”が興味のあることはひとつだけだった。 「綾島なら、三日前に顔を見せた」 と、エド・サイラスは迷惑そうな顔で答えた。 「もう二度とあの顔を見たくないんだが――、 お前ら誰でもいい、あいつを殺せ」 「そりゃあ、俺たちだって、そうするつもりさ。 それが簡単にできればな」 ”彼ら”のひとり、連続殺人鬼の”ソルト”ジョーは、 カウンターの隅の席を占領した。 「今夜は死ぬかもしれませんよ。 チャンプさんの時と違って、放送はされないんですよね? 残念です」 また別の”彼ら”のひとり、断末魔コレクターの”音楽屋”イシノオは、 店の真ん中のテーブル席に腰掛けた。 「さすがに今夜は、綾島聖も顔を出すだろう。 奴のことだ、絶対に自慢しに来る。死んでいなければ」 また別の”彼ら”のひとり、人間彫刻家の”ルービック”は、 イシノオの正面に座り、トランプの束を取り出した。 「じっくり待つとしようじゃないか。 本日の種目は、ポーカーで良いかね」 「誰がお前の用意したカードで遊ぶか。殺すぞ”ルービック”」 ”ソルト”ジョーは忌々しげに悪態をつき、煙草に火を点けた。 「エド・サイラス、トランプを貸してくれ。 クソ綾島が来る前に、こいつらを一文無しにしてやる。 金が無くなった奴は、次は命を賭けろよ」 「別に構わんが」 エド・サイラスは時計を見て、それからカレンダーを見た。 「綾島聖を待つつもりか?」 「生きていればな」 「どうかな」 エド・サイラスは、喉の奥で唸り、そして黙り込んだ。 その目は、カレンダーの日付に注がれていた。 「少し、日付が悪いぞ」 その日付は、2月14日を示している。 * * * 時計の針が、また進んだ。 夕陽がその針を照らしていた。 古沢糸子が所有する迷宮時計の欠片は、懐中時計の形をしている。 その実態は”終末時計”。 残り人数をカウントする――残りは、ふたり。 その数は、限りなくゼロに近い。 (この戦いの終わりには――、終末時計が零時を告げるとき) 古沢糸子は、取り留めもなく思考する。 (世界が終わるのかしら) そんな風に思考を弄ぶのは、理由がある。 彼女がすでに推理を完結させているからだった。 これ以上、思考を重ねる必要はなかった。 古沢糸子は、『安楽椅子探偵』である。 事件の犯人と対峙するときには、すでに推理は完了している。 現場に出向く前に、何もかもを終わらせているのだ。 彼女にとって、推理という作業はチョコレートの調理に似ている。 材料を的確に整理し、混ぜ合わせ、加熱して味を調え、成果を得る。 (綾島聖。その正体は、恐らく――) 古沢糸子は、その答えを導き出していた。 そして、綾島聖を、自分が止める方法を。 これまでの戦いから、古沢糸子は結論づける。 綾島聖とは何者か? 時ヶ峰健一のように”最強”ではない。 ミスター・チャンプのように”最優”ではない。 シシキリのように”最悪”ではない。 蛎崎裕輔のように”最凶”ではない。 猟奇温泉ナマ子のように”最狂”ではない。 ではない、ではない、ではない、ではない―― だとすれば、その答えは一つだ。 絶望的な答えだった。 古沢糸子は、赤く染まる夕焼けの空の下で、それを見る。 どこか不吉な、変電所に並び立つ鉄塔のシルエット。 その向こうから近づいてくる、ひとりの神父服の男の影がある。 彼の足取りには躊躇や、決意や、覚悟、そういったものが感じられない。 その男――つまり綾島聖は、穏やかに微笑みながら、 ただふらふらと近づいてくる。 「綾島聖」 古沢糸子は、その名を声に出してみる。 空虚な響きだ。 彼女が推理から導き出した、彼の正体は―― (いや、正体といえるべきものは) 何もない。 すべての推理の要素が、その断片をつなぎ合わせた結果が、そう告げている。 (ただ、そういう名前の、どうでもいいチンケな殺人鬼) 綾島聖は、何者でもない。 だが、というべきか――それゆえに、というべきか。 ここまで、こうして勝ち続けてきた。 この”何者でもない男”が勝ったとき、いったい迷宮時計が叶える願いは何か? 奇しくも”終末時計”の形状をした時計の欠片を持つ、 古沢糸子がここで相対することになったこと。 それは果たして偶然か否か? あのような精神性を持った男が勝ったとき、世界になにを願うのか。 古沢糸子は、その先の推理をやめた。 必要ないと思ったからだ。 どちらにしても、綾島聖を止める以外に道はない。 だが、もしも自分がここで止められなければ、あるいは、世界は―― 古沢糸子は、背筋に寒気を感じた。 だから彼女はひと欠片、チョコレートをつまんで口に含む。 チョコレートこそは彼女にとって、精神安定剤にほかならない。 甘さが舌に絡み付いてくる。 少しだけ落ち着く――そう。 いずれにせよ、これが最後の、本当に最後の分岐点になる。 その役目は、他でもない自分に託された。 (さて、うまくいくかしら) 思考する古沢糸子の方向へ、綾島聖がゆっくりと距離を詰めてくる。 その姿。 事前情報と違う点がふたつ。 「おやおやァ――これは奇遇ですね、古沢糸子様」 ひとつ。 綾島聖が白いエプロンをつけていること。 「チョコレートがお好きなんですか?」 ふたつ。 綾島聖が、その両手に泡立て器とボウルを抱えていること。 ボウルの中には、ブラウン色のチョコレートがたっぷりと入っている。 「私もなんですよ、古沢様。 趣味で『いろいろ』と『料理』を『研究』しているのですが、 お菓子作りは生徒にも評判でして……いかがですか?」 綾島聖の手が、泡立て器をなめらかに操る。 なるほど、手つきは悪くない。 ボウルの中のチョコレートを、柔らかに攪拌していく。 「今日は、バレンタイン・デーですよ。 このような争いなどやめて、甘くて美味しぃ~いチョコレートを ご一緒に孤児院へ配りに行くというのはどうで死ょう?」 「遠慮しとくわ」 この期に及んで、よく言う。 だが、古沢糸子が抱いた感情は、呆れるでも笑うでもない。 綾島聖という男の本質を、彼女は探偵ゆえに理解している。 「悪いけど、私、今日は先約があるの。 今日はバレンタインだから」 「それは残念ですねェ。ですが、せっかくですから――」 綾島聖の笑みが歪み、そして深まった。 「この良き日に、古沢様へ、私からまごころを込めた贈り物をいたします。 神への感謝と、あなたへの感謝を祈りながら作らせていただきました。 そう――」 エプロンの裾を翻し、綾島聖が動き出す。 跳躍する。 「とっておきの残虐カカオ内臓爆裂バレンタイン死という 贈り物をねぇぇェェェ~~~ッヒャアァァァーーーーッ!」 「でしょうね」 古沢糸子は短く答え、二丁のリボルバーを構えた。 ――そうして、最後の演目の幕は上がった。 * * * ――どこか、別の異世界で。 ひとりの男が、ヴァイオリンの演奏をやめて空を見上げた。 田園風景を赤く染め、太陽が沈みつつある。 彼の名を、廃糖蜜ラトンと言った。 「嵐が来る」 ラトンのつぶやきに、傍らにうずくまっていた男も顔をあげた。 「嵐――」 彼の名は、飴石英と言った。 その瞳には感情らしい感情は存在しない。 精神を圧搾され尽くしたあとに、残った熾火のような瞳の色だった。 彼はその単語を、なんの意味も感慨も込めずに繰り返した。 「嵐、が?」 「そう」 ラトンはうなずく。 ラトンが飴石英を見る表情には、ささやかな感傷、そして共感があった。 この場にいる両者ともに、古沢糸子が第一試合で下した相手である。 「我々は皆、嵐と雷雨に備えねばならない」 ラトンの声には憂鬱な響きがある。 彼は再び、ヴァイオリンを構えた。 「彼女にこれが届くだろうか? しかし、祈ろう。世界が滅びる前に」 そうして、廃糖蜜ラトンは演奏をはじめる。 奏でられるのはベートーヴェンの交響曲六番、『田園』。 * * * 綾島聖の奇怪な跳躍を、古沢糸子は目で追う。 鍛え抜かれた探偵の目が、標的を見逃すことはありえない。 そして、相手が繰り出すであろう攻撃を推理する。 (あのボウルに入ったチョコレート) 温めた生クリームとチョコレートを混ぜたものだ。 あの状態から、《糸目》が繰り出す攻撃があるとすれば―― 「さぁぁぁあああ~~~ぁ、受け取ってくださいイィーーーッ!」 綾島聖の手中で、泡立て器が踊る。 ボウルの中でチョコレートが猛然と攪拌され、勢い余って飛び散る。 「あなたの大好きなチョコレートですよぉぉぉ~!?」 飛び散ったチョコレートの飛沫を、古沢糸子は見切る。 おそらくは、なんらかの毒物が混じっているであろう。 (《糸目》の攻撃は読める――) チョコレートの飛沫に触れるべきではない。 古沢糸子は安楽椅子を加速させて、それをかわす。 かわしながら、発砲する。 撃ち出されるのは、チョコレートの弾丸――《サヴォイ・トラッフル》。 「おやおやぁぁ~~~ッ! あなたからもバレンタインのプレゼントですねェェェ~~~ッ」 綾島聖は奇怪な側転を繰り返しながら回避し、 さらにチョコレート飛沫を飛び散らせる。 古沢糸子は、動きを止めるわけにはいかなかった。 猛毒チョコレートの飛沫の軌道を、推理によって完全に見切っている。 (そう、この毒チョコレートの飛沫) 古沢糸子は、そのチョコレートの飛沫を利用してやりたい衝動に駆られた。 例えば、この飛沫をリボルバーに装填して、猛毒の弾丸を―― (だけど、それはきっと罠ね) 《糸目》は、そんな小手先のトリックで勝てる相手ではない。 『能力を応用して云々』だとか、『環境を利用して云々』だとか、 そんな方法でこいつに勝てるようなら、他の誰かがとっくにやっている。 綾島聖を倒すには、もっと別角度の『何か』が必要なのだ。 根本的な対策が必要だ。 ゆえに古沢糸子は、ただ自前のチョコレートをリボルバーに再装填する。 地道に積み重ねること。 それが重要だ。 探偵はトリックに頼らない――かつて彼女が目指した、真のハードボイルドのように。 (まずは、攻撃を凌ぎきること) この毒殺チョコレートの飛沫程度なら、じゅうぶんに回避できる。 どんな攻撃に派生するか推理できる――いや、それは否! 「甘くて美味しぃ~~い特別なデコレーションで スイーツお陀仏させて差し上げますよぉぉぉ~~~ッ! ほ~ら、ほらほらほらほらほらああぁぁぁ~~~~……!」 綾島聖が攪拌する毒殺チョコレートは、 あっというまにボウルから飛び散り、なくなっていく。 だが、その代わりに、ボウルの内側には不穏な影があった。 液状化したチョコレートの中に沈んでいたのだ。 (――なによ、あれ?) 古沢糸子は加速する視界の端で、それを見る。 ボウルの内側に隠されていたもの――それは、カナヅチであった。 綾島聖はおもむろに泡立て器をそのへんに放り投げ、カナヅチを構える。 「ヒヒャーーッ! いかがですか、この私のチョコレート捌きは!? これは言わばパティシエ対決ですねェェ~~~~ッ! 私の毒殺チョコレートで、甘く美しく死ヒャーーーーッ!」 綾島聖は、もはや空になったボウルを意味もなく抱えながら、 カナヅチを振り上げて飛びかかる。 「特製チョコレート毒殺ゥゥゥウウシャァァーーーーーー!」 「ちょっ……と!」 推理が外れた。 軽いショックを味わいながら、古沢糸子は安楽椅子を旋回させた。 前輪のキャスターフォークが軋む音をたて、 変電所の鉄塔をぎりぎりで回り込むように回避する。 結果として標的を外した綾島のカナヅチは、鉄塔の根元を直撃。 衝撃音とともに鉄塔が傾く。 古沢糸子は、その恐るべき怪力を横目に叫んだ。 「それの――どこが、毒殺なわけよ?」 「イヒッ! これは失礼しましたねェ……キキヒッ! とっておきのチョコレート毒殺をプレゼントしたいのですが…… ついつい手が滑ってしまいました」 綾島聖は、カナヅチを構えたままじりじりと近づいてくる。 「私はただ、ひとりのパティシエとして、 あなたに最高のチョコレートを召し上がっていただきたいのです。 私の願いはそれだけなのですよ……わかっていだけますか?」 「それ、カナヅチは関係ないでしょ!」 「大丈夫です……これが私なりのチョコレート毒殺ですよぉぉぉーーーッ!」 そこには論理性の欠片もない。 が、おそらくは、彼自身の中でなんらかの整合性がとれているのであろう。 綾島は再び跳躍して古沢を狙う。 「呆れるわ、いや本当に」 古沢もまた、急加速しながらチョコレートの弾丸を射出。 綾島の肉体にチョコレート弾丸が叩き込まれ、えぐる。 その手からカナヅチを叩き落とす。 「おやおやぁぁぁ――」 やはり、弾丸を打ち込まれても動きは鈍らない。 むしろ嬉しそうに綾島は笑うと、ぺろぉぉ~~~っと長い舌を伸ばし、 体中に付着したチョコレートを舐める。 古沢糸子は改めて、自分が怪物と向き合っていることを自覚した。 「古沢様ぁぁ……次のチョコレートを召し上がりたいですか? 仕方ないですねぇぇぇえええええ!」 得物を失った綾島聖は、奇声をあげながら両手を振りあげた。 同時に、神父服の両腕の袖口から、ノズルのようなものが垣間見える。 「この甘い甘ぁぁ~~いホイップクリームで、 華やかにデコレーション殺されヒャァァァ!」 * * * ――どこか、また別の異世界で。 「またかよ」 ひとりの少年が、空を見上げて呻いた。 ゴーグルを額に押し上げて、濁った空気に目を瞬かせる。 それでも、やがて瞳を見開く。 そこは魔窟・九龍城塞として連なる建造物群、その頂点。 雲類鷲ジュウは、王者のように立ち、地平の彼方を眺めていた。 西の空が赤い。 まもなく陽が沈むであろう。 そして、そんな夕陽の彼方で、陽炎が揺らいでいる。 少年の目は、それが空間の揺らぎであることを見て取った。 彼はその揺らぎのパターンを知っていた。 「どこに行っても、世界の終わりってやつは……」 少年の名を、雲類鷲ジュウといった。 第二試合で古沢糸子が下した相手である。 「あの探偵おばさん、うまくやってるのか? それとも、しくじったのか?」 それはわからない。 だが、雲類鷲ジュウは、世界の終りを体験して知っている。 世界の終りがどんな風にしてやってくるかを知っている。 それは何事もなく、いつもの夕暮れ時のようにやってくるのだ。 例えばちょうど、今日の日のように。 雲類鷲ジュウが見る限り、世界はいまにも終わりそうだった。 「迷宮時計が収束しかけているのか? 並行世界の空間構造に影響が出てる。良くねえな」 雲類鷲ジュウは己の右腕に取り付けられた、 蒸気を噴出するメーターを確認する。 「迷宮時計に願うこと、か。 俺は何を願いたかったのか――。 あんたはどうだ、古沢糸子」 雲類鷲ジュウは呟く。 『警告です、学童』 機械音声が右腕のメーターから響く。 ジュウのつぶやきに答えるようなタイミングだった。 『まもなく日没に伴う最終門限時刻です。 良い子は速やかに帰宅し、うがい及び手洗い及び全身洗浄及び 第4等級セーフティ遮蔽プロセスを実行してください』 「うるせえよ」 ジュウは少し笑って、ビルの屋上の手すりに腰掛けた。 何が起きるにしても、これは自分たちの戦いの軌跡と結末だ。 見届ける必要がある。 PTAの言い分など知ったことではない。 * * * 「ほぉ~らほらほらほらぁぁぁ~~~~っ!」 綾島聖は鉄塔から鉄塔へ跳躍し、右手の袖口からホイップクリームを噴出してくる。 それは見るからに毒々しい緑色に染まり、 あからさまな猛毒の臭気を感じさせる。 「どうしました、古沢様ぁぁぁぁ~~~? あなたの大好きなホイップクリームですよぉ~~~っ! 逃げ回らずに召し上がってくださぁぃぃいいキヒィィーーーッ!」 奇声とともに猛毒殺人ホイップクリームが噴出! 間一髪、急減速した古沢糸子の鼻先をかすめ、 ホイップクリームが鉄塔のフレームに着弾。 鉄のフレームがジュウッと蒸気の漏れるような音とともに溶ける。 「キヒャヒィヒャーーーーーッ! 甘く蕩けるようなデコレーション死ィィーーーッ!」 綾島は笑いながら神父服を広げ、ムササビのように鉄塔と鉄塔の間を滑空する。 その影の下で、古沢は逃げ回っている格好だった。 「だから、これのどこがチョコレートだっての……! デコレーションされる前に溶けてるし」 古沢糸子は悪態をつきながら、減速した勢いでドリフト気味にターンを決める。 すぐさま加速。 「私、チョコは好きだけどホイップクリーム好きなんて言ってないわ! あんたって本当、人の話聞かないわね。 少なくとも探偵には向いてないわ――しかも!」 「パティシエール綾島の、デコレーション殺害ィィーーーーーッ! こちらのトッピングはいかがですかァァアアイイイィィヒャァァア!」 綾島は叫びながら左の袖を突き出す。 そこからは放たれるのは、ホイップクリームではない。 左袖からは、青白い炎。 どうやらガスバーナーを仕込んでいるらしい。 その高音の炎は鉄塔を焦がし、見る見るうちに溶かしてしまう。 「ヒィャァァァァハハハハアァァァァーーーッ! どうですか、古沢様!? 右の袖からは猛毒ホイップクリーム! 左の袖からは……別のなにか! この2種類のデコレーション攻撃で、 すぐにあなたも飾り付けて差し上げますからねェーーーッ!」 綾島の叫ぶような早口説明に、古沢の頭脳は即座に真相を導きだす。 おそらく綾島は、右の袖から猛毒ホイップクリームを噴出することで、 相手をデコレーション殺害することを思いついた。 そこまではいい。 だが、左の袖に仕込むものを思いつかなかった。 ゆえに「ガスバーナーでも仕込んでお茶を濁すか」というふわふわした妥協で、 左の袖にガスバーナーを装備してしまったに違いない。 まさに猟奇的殺人鬼にあるまじき、いい加減な理論といえる。 もう少し考えれば、スイーツ用の猛毒カラースプレーでも思いついたはずだ。 なんとういう底の浅さ――思考力の甘さ! だが、強い! 古沢は悔し紛れに怒鳴り返す。 「それ、ガスバーナーって、デコレーション関係ないじゃない……! あなた、デコレーションの意味知ってる?」 「キヒッ……フォンダンショコラァァァーーーーーッ! ザッハトルテ……オランジェットォォ~~~ッ!」 古沢の言葉は、綾島の耳を右から左にすり抜けた。 そう、古沢糸子が推理したとおり、 綾島聖にパティシエ知識などは皆無。 適当にスイーツ関連で知っている言葉を叫んでいるだけなのだ。 舐めくさっている。 しかも、おこがましくもパティシエに関して、 知っている限りの豆知識をこれみよがしに喚いてくる。 「古沢さま、ご存知ですかぁぁぁ~~~っ? 本来パティシエという言葉は、パテ料理職人という語源が……ヒヒッ! あるのですよねぇぇぇ~~~~っ!」 そのような豆知識はいま必要ではない。 薀蓄めいた説明ゼリフが許されるのは、探偵の推理開陳のときぐらいだ。 「やってらんないわ……!」 古沢糸子は、ムササビのように飛び回る綾島聖へ、 リボルバーの狙いをつける。 「《サヴォイ・トラッフル》――ACT2」 「ヒィィィ奇ャァァァァア~~~~ッ!?」 飛来したチョコレート弾丸が、綾島の神父服に着弾―― そして爆発。 綾島の肉体をえぐり、神父服を破り、彼を地面に落下させる。 これこそが、古沢糸子が二回戦の相手―― 雲類鷲ジュウとの戦いで『目覚めさせられた』能力。 チョコレートの弾丸を操る《サヴォイ・トラッフル》の進化系。 ――そして、彼女には『その先』も見えていた。 古沢糸子は、勿体をつけずに能力を起動する。 もとより、『能力応用』や『能力の相性』などという、 そうしたレベルの応酬で勝つつもりはない。 ゆえに、使う。 ありったけを、惜しみなく。 古沢糸子が狙う、その一瞬を切り開くために。 「――《サヴォイ・トラッフル》ACT3」 綾島の体にこれまで着弾させた、いくつものチョコレートが一斉に蠢いた。 ちょうど、種子が芽吹くように身じろぎをし、形を変え、組み上がる。 それは『鎖』の形状となって、綾島聖の身体を拘束する。 「キヒッ!?」 綾島聖は地面でのたうつ。 チョコレートの鎖が全身に絡みつき、動きを制限しているのだ。 これが、《サヴォイ・トラッフル》の次の段階。 彼女の能力は、『発射したチョコレート弾の軌跡を自在に操る』こと。 たとえ”着弾した後”でも同じことだ。 古沢糸子が、チョコレートの弾丸だと認識しているものはすべて、 着弾したあともその形状を自由自在に操れるということだ。 そのことは、三回戦で認識済みだ。 射出したチョコレートを爆発させることは、 《サヴォイ・トラッフル》の一面的な使い方に過ぎない。 彼女の能力は、放たれたチョコレートの銃弾を操作できる―― ごく小さな破片に砕かれた弾丸なら、小さなチョコレートの”部品”として。 事実上、そのチョコレートの”破片”の組み合わせは、自由自在だ。 推理を組み立てるように。積み上げるように。嵌め合わせるように。 古沢糸子の能力は、チョコレート操作能力として開花していた。 「締め上げなさい」 古沢糸子のつぶやくような命令に従い、 チョコレートは綾島聖の肉体を締め上げる。 彼の神父服内に隠し持った火炎放射器、猛毒噴射装置、 そしてこれから使おうとしていた各種おもしろ殺人グッズが、 音を立てて破壊されてゆく。 それが狙いだ。 これで綾島聖をどうにかしようなどとは思っていない。 少しでも、その瞬間を早めるために。 そして事実、綾島聖はあっさりと束縛から逃れた。 「死ィィィヒャァァァーーーーッ!」 筋肉が膨張し、絡みつくチョコレートの鎖を引きちぎる。 そうして綾島聖は立ち上がり、荒い呼吸の合間に忌々しげな声を発する。 「絶対に許しませんよぉぉぉぉおお……古沢さぁぁぁん……! この私のパティシエ魂を侮辱しましたね……? 調理器具がすべて壊れてしまいましたぁぁぁぁ……!」 「あんたほど『おこがましい』って言葉が似合うやつもいないわね」 古沢糸子はため息をつき、リボルバーに弾丸をリロードする。 その手つきは滑らかで、一分の恐れも、気負いも感じさせない。 「悪いんだけど、勝手に進めさせてもらうわ。 あんまり時間もかけていられないし?」 「そぉぉぉぉ~~~うは行きませんよぉぉぉ~~~~ッ」 綾島聖は、傍らの鉄塔に手をかけた。 フレームの一部を溶かされ、捻じ曲げられた鉄塔だった。 「この私が! 変電所の仕組みを利用した! とっておきの猟奇殺人パティシエ変電所メニューを 披露いたしますからねェーーッ!」 「うわ……」 古沢糸子は顔を引きつらせた。 「……ホントに?」 「パティシエェェ~~~~~~ルゥゥォォォオァァァァ!!!」 綾島聖は、両腕にあらん限りの力をこめると、 おもむろに鉄塔を持ち上げた。 * * * ――どこか、それもまた別の異世界で。 二人の少女は、ほとんど同時にそれに気づいた。 場所はロンドン。 テムズの川の橋の上だった。 黄昏の光を受けて、二人の顔が同時に上向いた。 片方は、銀色のマントに身を包まれた少女。 刻訪結。 その目は見開き、なんらかの衝動を押さえ込んでいるようだった。 もう一方は、尋常ではないおっぱいを有する少女。 本葉 柔。 その目は穏やかに細められ、ただまっすぐ夕焼けの空を見ていた。 いずれも、古沢糸子が3度目の戦いで破った相手であった。 ロンドンに取り残され、それでも彼女たちは、少しも諦めてはいなかった。 たとえ、世界の終わりに追いつかれようとも。 「……ねえ。あれ」 刻訪結は、不自由によろめくような足取りで、橋の欄干にもたれかかる。 まるで、銀色のマントに身体を縛り付けられているような、不自然な仕草だった。 「見た? ってか、見える?」 「見えるよ」 本葉 柔は、豊満なおっぱいを欄干に乗せた。 彼方の地平線を、覗き込もうとするかのように。 その瞳には、自らのおっぱい以上の優しさがにじみ出ていた。 懐かしい何かを、思い出しているようにも見えた。 「いま、ちょっとだけね。夕焼けが揺れてる。 迷宮時計に呼ばれたときみたいに。 でも、その向こうには――」 「あいつだ」 刻訪結は断定的に呟いた。 歯ぎしりをする。 「あの探偵。何かやろうとしてる」 「そうだね」 そうして、本葉 柔は欄干から身を離すと、刻訪結を振り返る。 シリコン製ではない、天然自然のおっぱいが大きく揺れた。 「心配なの? あの探偵さんが」 「そんなわけないでしょ。バカにしてんの?」 吐き捨てて、刻訪結は夕焼けから顔を背けた。 「あいつも、あいつの対戦相手も。 どっちも悲惨に潰れてほしいだけ」 「うん」 本葉 柔は、かすかに笑う。 おっぱいに柔らかなさざ波が走った。 「そうだね」 「……バカにしてんの?」 本葉 柔は、殺意すら含んだ刻訪結の言葉に答えなかった。 ただ、大きく背伸びをしてみせただけだ。 おっぱいが激しく主張され、夕陽を浴びて果実のように輝いた。 「ケンちゃんも、この夕陽を見てるかなあ―― 見てるんだろうなあ」 「……やっぱり、バカにしてるわ、あなた」 刻訪結は夕焼けを見ない。 その赤い地平の果てが、大きく歪み始めていても。 * * * 「キヒィィ……ヒュウウゥゥゥゥ……! パティシエ綾島のデコレーション極悪クッキング殺害ィィ……!」 赤黒く膨張した綾島聖の両腕は、恐るべきことに鉄塔をそのまま持ち上げた。 古沢糸子は、やや唖然としてそれを見ていた。 戦慄すべきは、その綾島の腕力だけではない。 引きちぎられた電線がバチバチと音を立てて放電し、 鉄塔全体に激しい電流を流しているのだ。 おそらく、それに触れている綾島聖自身にも、 相当の電撃ダメージがあるに違いない。 「いかがですかぁ~~~? 古沢さぁァ~~~~ンンン」 綾島聖の長い舌が、蛇のごとく蠢く。 「この鉄塔を、あなたというケーキに甘ぁ~~く美しぃ~~く デコレーションして差し上げましょぉぉ~~~うぅ……! 見ィィ~~てください、この圧倒的な電圧を……キヒッ!」 綾島聖は、大きく鉄塔を振り上げる。 青白い電気の火花が、鋭い音をたてて飛び散る。 「この鉄塔に触れたが最後……! 恐ろしい電撃が、あなたをあっという間に痺れさせて…… 体の自由を奪ってしまうでしょうねぇぇーーーッ! そうしたら、クォヒャッ! なぶり殺し放題ィィーーーーッ!」 綾島聖のテンションが、ますます上昇する。 「いかがですかぁ~~~~っ!? この変電所という環境を利用した、私の電撃殺法は!? ありふれた電流という現象が、あなたを物言わぬ骸に変えるのですよォーーーッ!」 綾島は興奮して鉄塔を振り回す。 その鉄塔からは電気が飛び散り、触れるだけでしびれ上がるのは確実であろう。 なんたる狡猾な戦術か! 電気で動きを止めたところを、好き放題になぶり殺そうというのか! うなりをあげる長大な鉄塔は、筆者が一見したところ何だか無害そう、 当たってもあんまり痛くなさそうだが、 その鉄材の内部には大量の電気を秘めているのだ! あまりにも巧妙な環境利用! 歴史上、さまざまな主人公たちが電流とかなんとか、 ささやかな舞台トリックをいい感じに利用して、うまいこと敵を倒してきた。 これが――これが、『能力バトル』だ! 「それ……あのね、電気がどうこうっていうか」 古沢糸子は、安楽椅子のエンジンに最大速度を命じる。 加速は一瞬。即座に飛び出す。 必死だ。 「そんなモンでぶん殴られたら死ぬわ! 電気以前に!」 「電気でしびれて甘く美しくデコレーション死ヒャァァァーーーーッ! イィィィイイイーーーッ!?」 綾島の振り上げる鉄塔が、古沢糸子の推理以上の速度で振り回される。 安楽椅子の進路を塞ぎ、かつ、なぎ払うような動き。 ――だが、それはむろん、となりの鉄塔にひっかかり、 轟音を響かせて弾かれる! もう少し考えて振り回すべきだったのだ――なんという悲劇か。 綾島の手から、鉄塔がすっぽ抜ける。 これでは鉄塔の電流を巧みに利用した、電撃デコレーション殺が不可能! 「まあ――そりゃね、そうでしょうよ! 付き合ってられるかっ」 古沢糸子は、一瞬にしてターンを決める。 車輪が地面を抉り、黒く焼き付く。 古沢のリボルバーが両手の中で閃く。 「ギヒィーーーーッ!?」 チョコレートの弾丸が綾島に着弾、即座に破裂する。 筋肉という名の鎧を貫き、鮮血を飛び散らせる。 綾島聖は、のたうち回りながらその場に倒れこむ。 赤黒く張り詰めていた筋肉が、徐々にしぼんでゆく。 古沢糸子は、その兆候をたしかに捉えた。 これを、待っていた。 能力が切れ、綾島聖のおもしろ殺人攻撃バリエーションが途切れる瞬間を。 三文芝居以下のくだらない喜劇に付き合いながら、ずっと待っていた。 このままやっても、綾島聖に”勝つ”ことは不可能だ。 古沢糸子にはそのことが推理できた。 「綾島聖――《糸目》。 あんたを告発する罪は、数え切れないほどあるわ」 古沢糸子は徐々に減速し、綾島聖の正面に回り込む。 「いちいち探偵にお決まりの”アレ”もしていられないくらい。 わかる? って、わかるわけないか」 「ケヒィ……?」 綾島聖は、まったく無垢な目で古沢糸子を見つめ、首をかしげた。 それは可愛らしい森の小動物のようでもあった。 彼の筋肉は、限界を超えて収縮しつつあった。 能力が解け、《剛魔爆身》の副作用、身体強化の報いが現れ始めている。 「わかりやすく言うと、つまりね」 古沢糸子は、リボルバーを握った両手をあげてみせる。 そして、はっきりと宣言する。 「降参するわ。迷宮時計の所有権を――私、古沢糸子は放棄する」 瞬間、白い輝きが周囲を塗りつぶした。 古沢糸子はそう感じた。 その眩い光は、綾島聖の神父服の内側から放たれていた。 夕暮れの赤色よりも、激しく鋭い光。 ゆらり、と、周囲の空間が歪んでいくような気配。 古沢糸子が敗北を宣言したことで、戦闘空間から綾島聖が排除されようとしている。 (いましかない) 古沢糸子は、こわばる手で安楽椅子を操作する。 求めるものは、スペック以上の、最大級の加速。 車体が持たなくても構わない。 ――この一瞬だけは。 (たとえ、あなたに”勝つ”ことは不可能でも) 古沢糸子と、その安楽椅子は、ひとつの弾丸となって飛び出す。 綾島聖の真正面から――ぶつかるように。 空間の歪みが、古沢糸子と綾島聖を捉えた。 (”追放”なら、出来るでしょう!) 古沢糸子は、その推理にたどり着いていた。 * * * 事件の展開に迷ったときは、常に原点から推理をやり直す。 それは古沢糸子が、ハードボイルド探偵であった頃から叩き込まれた、 探偵推理術の基本である。 ――綾島聖は、かつて《糸目》の里を追放されたことがある。 それだけは動かせない事実。 たとえ正体も中身も何もない、《糸目》の綾島聖だとしても、 己のヒストリーに嘘はつけない。 彼はたしかに里を追い出された。 しかし、どうやって? ”無敗”の綾島を里から追い出すことができたのは? 答えは、ひとつ。 勝利することができない相手であれば、相手の勝利を確定させた上で、 こちらはこちらの目的を達成すればいい。 勝利することと、目的の達成は、決してイコールではない―― (だから) 古沢糸子は、綾島聖に試合での勝ちを譲ろうと思った。 その上で、”追放”する。 迷宮時計が時空を歪めるその瞬間――、 綾島聖が元の基本世界に戻る瞬間。 狙うのは、その一瞬。 古沢糸子は賭けに出た。 「綾島聖」 古沢糸子は、綾島を時空の境界へ押し込む。 安楽椅子の出力を限界まで振り絞り、ただ押す。 「あんたを”追放”するわ。 もう、十分、やりたい放題やったでしょう?」 「キヒ……ッ!」 綾島聖は、古沢糸子の安楽椅子を、両手で押さえている。 すでに《剛魔爆身》の効果はほとんど残っていない。 徐々に弱まってすらいる。 あと一歩でも綾島が後退すれば、歪み始めた世界の隙間に落ちるだろう。 そうなれば、もうどこの世界にもたどり着くことはあるまい。 すでに周囲の風景はどろどろに溶け、混じり合おうとしている。 ”変電所のある世界”との繋がりが、絶たれていくのを直感で認識する。 「悪いんだけどね。 あんたと違って、私には、”戦う理由”ってやつがあるわけよ……!」 古沢糸子はリボルバーを構える。 容赦なく打ち込む――綾島聖の胸部に、全弾を。 「キィィヒャーーーーーッ!?」 綾島聖は怪鳥のような悲鳴をあげ、のけぞる。 背中が、時空の歪みの断層に触れる。 「いままで戦ってきた――あの世界に残してきた人たちが」 探偵、古沢糸子は声を絞り出す。 リボルバーは、もはやいらない。 撃ち込んだチョコレートの弾丸が蠢き、綾島聖の肉体を破壊していく。 「『ヘマしたら容赦しないぞ』って、私に言ってるの」 そう。 彼女の中には、廃糖蜜ラトンが。飴石英が。雲類鷲ジュウが。 刻訪結が。本葉柔が。あるいは――丸瀬十鳥が。 すべての人の想いがある。 ゆえに、推理できる。戦うことができる――立ち向かうことができる。 ”無敗”の殺人者、《糸目》の綾島聖に対しても! 探偵は決して諦めてはならない。 探偵が事件の解決を諦めたら、いったい誰がそれをするというのか。 古沢糸子の代わりなど、どこにもいない。 「あんたには、とっておきの推理を食らわせてあげる!」 「――おやおやァ」 綾島聖は、この期に及んでも、穏やかな笑みを浮かべた。 「それは奇遇ですねェ――」 穏やかな笑みが深くなる。 古沢糸子は、不吉な予兆を覚えた。 (――なんだ?) ひどく悍ましく、冷たい予兆。 「私にも、聞こえているのですよ」 綾島聖の四肢に、よくわからない未知の力がこもる。 まだこんな力が。 古沢糸子は少し驚く。 だが、真に驚くのは、その次だった。 「私がいままで戦い、そして、 熱い絆を結んできたみなさんの声がねぇぇぇ~~~ッ!」 古沢糸子は、大声でわめく綾島の瞳を覗き込み、気づく。 (こいつ……綾島聖!) 戦慄した。 (完璧にラリってやがる!) そう、それは脳内で合成された、強力なドラッグ。 麻薬的な成分が、綾島に聞こえるはずのない、 それどころか熱い絆を結んだわけでもない相手の声を、 脳に響かせてしまっていた! 『俺は羽白幾也だよ。綾島聖さんを心から応援しているよ。 あんたのおかげで、こんな俺でも前向きになれたんだ。 がんばってくれよな!』 ――それは一回戦で戦った、羽白幾也の声! もちろん幻聴! 『私は蒿雀ナキだけど、綾島神父にはがんばって欲しい。 妻と一緒に草葉の陰から見守っているし。 これが本当の妖怪ウォッチ(笑)』 ――二回戦で戦った、蒿雀ナキの声! もちろん幻聴! 『やっほー! 元気? 私だよ、一切空だよ! 私は今日もテンション爆アゲだよ! 綾島くんガンバッテね~!』 ――これも二回戦で戦った、一切空の声! もちろん幻聴! 『吾輩はチャンプだが、綾島聖くんに勝ってほしいのである。 もしも勝てたら1000万円あげるのである! がんばってほしいのである!』 ――三回戦で戦った、ミスター・チャンプの声! もちろん幻聴! 『こんにちは。私は馴染おさなでオサナよ。 今日も綾島さんに勝ってもらうために、 お百度参りをしてきましたでオサナ! 必勝でオサナ~!』 ――決勝で戦った、馴染おさなの尊い声! もちろん幻聴! 『Let s get いま描いた秘めたワンシーン! 目指したゆく道かなり斬新! タイミングはかり波乗るメロディー! 溢れ出す光未来へ飛び――』 ――決勝で戦った、潜衣花恋のラップ! 幻聴でしか有り得ない! 「わかりましたよぉ~~~っ! みなさんの声! たしかに私に届いていますからねぇぇぇ~~~~っ!」 ひどすぎる――すべて幻聴! 彼を応援する声など一つもなし! だが、幻聴とはいえ、彼の脳内では事実なのだ。 たしかに血肉を宿した戦友の声が、彼にとっては揺るぎないリアルなのである! ――否、それだけではない! 『そんな相手にいつまで時間をかけている、阿呆が。 私は斎藤一女だが、私と互角に戦った貴様なら勝てると信じているぞ』 『フン、勘違いするんじゃない。別にお前を応援するつもりはない―― 俺は撫霧煉國だが、お前を倒すのはこの俺だ。生き延びてみせろ』 『私は錬鉄の元・魔法少女、キュア・エフォートですけど、 一刻もはやくそいつをクビり殺すところが見たいですねェェ~~~ッ』 『ブラーヴォ! 俺は希保志遊世だぜ、ブラーヴォ! お前なら掴めるさ、魂のグレイトチャンス!』 『旦那さん、ワシや! 撫津美弥子やで! 今年も阪神の優勝に決まっとる! 六甲おろし歌うで~~~!』 『我が名は雨竜院暈々、毘沙門天の生まれ変わり也。 オンベイシラマンダヤソワカ……汝に毘沙門天の加護ぞあれ……』 『私は……浅尾龍導……。寒い……。 助けて……苦しい……。暗い……助けて……』 『私たちは! 柊時計草です! 私と京ちゃんと聖くんは、一心同体! 三人でひとつの探偵だからね!』 『オレ、堀町臨次! コンバンハ! ニホンゴ デキル スコシ! オレ オマエ マモル! コンドハ オマエガ ヤクソク マモル!』 『はじめまして。駆逐艦、菊池徹子です。 小さいからって甘く見ないでよね! 敵艦はぜんぶ沈めてやるんだから!』 『いや、俺は門司秀次だけど、なんで俺だけ普通に呼び出されてんの?』 『オイラは飴びいどろだ。ふぁ~あ。なんだか面倒なことになってきちまったな。 面倒ごとは嫌いだけど、やるしかねえみてえだ! やれやれ!』 『本屋文、推参……。ふっ。 簡単に背中をとられるとは、お主もまだまだ未熟よな』 『私は蛎崎裕輔です。私の計算によると綾島さんが勝つ確率は……90……93…… まだまだ上がる! ……95……99! 99.9999%確実です!』 『色盲画家ストル・デューンだ! なんだか上手く言えねえが…… いや、言葉なんて必要ねえな。俺たちの間には。そうだろ? 相棒(バディ)!』 『俺は時ヶ峰健一だけど、勝手に脳内で使わないでくれるか? あまり気に入らない話だが、俺はいちおう神だぞ』 『山禅寺ショウ子。参ったなあ――こういうの苦手だし、なんて言えばいいのか。 ……じゃあ、一言だけ。綾島聖! 勝てーーーーーーーーーー!』 『わしは飯田カオルぜよ! 日本をいまいちど洗濯しなきゃあいかんぜよ! 日本の夜明けは近いぜよ!』 『おれの名前は通寺眞魚! とびっきり強ぇやつらとの戦い…… ワクワクしてきたじゃねえかぁ! ウルトラ燃えるぜ!』 『日本の魔人の戦い、低レベルデース! HAHAHA! 私はウィッキーさんデースが、アメリカではこの程度、日常茶飯事デース!』 『この刻訪朔さまに文句でもあるってのか? あ~~~ん? 鉄をも引きちぎる俺様のチョップで八つ裂きになりてえのかぁ~~~っ!?』 『ククク……日向で戦う武芸者も、寝込みを襲われれば脆いものよ。 この真沼陽赫様の能力で! リンゴのようにブチ潰してくれるわ!』 『みんなーーーー! 右野斬子だよーーーーー! 今日は私のために集まってくれて、本当にありがとーーーー!』 『わ、たし……メリー・ジョエル……。 あな、た、誰……? 本当に……誰…? 時空、を、超え、て、話し、かけてく、るの……?』 『天樹ソラでヤンス! キシッキシッキシッ! あっしの殺人ドリルを脳天に食らって生きていたやつはいないでヤンス!』 『猟奇温泉ナマ子だ。綾島聖……いま、みんなからの想いを届ける。 心配するな、私たちがお前を支えるさ。ありったけを、ぶち込んでやれ!』 すべての声が、彼の味方となる! 綾島聖の力となる! 思い込みの力が”認識”という名の世界を変える。 そういうことも有り得る。 「ケヒャァァァーーーーーーーッ!」 全身の筋肉に力が溢れ、再び《剛魔爆身》が復活する。 古沢糸子が推理する限り、もう彼の全身はぼろぼろのはずだ。 これ以上は命を失う。 何が彼をそうさせているのか。 彼が命と引き換えにまで求めるものは何か。 古沢糸子は必死で推理しようとした。 (何かあるはず。彼が命に替えてもほしいものが、何か――) 「そういえば、迷宮時計には――私の望みを、 叶えていただかなくてはなりませんねェ……」 「うるさいっての……!」 古沢糸子は、最後の札を切る。 右の義足。 古沢糸子のそれは、ただの義足にあらず。 口径は0.38インチ。 その弾丸は常に装填され、発射されるときを待っている。 古沢糸子の義足は、チョコレートを打ち出す、特別性のマグナムなのである。 ごく簡単なリモート操作で、発射の準備が整う。 あともうひと押し――それを、この弾丸で終わらせる。 「綾島、聖。私はあんたを――」 「では、私の望みをお教えましょう」 綾島聖は微笑んだ。 不意に、古沢糸子の体が、安楽椅子こと浮き上がった。 そんな気がした。 (こいつ――) 綾島聖が、安楽椅子から手を離した。 後方へ跳んだのである。 自ら、空間の断層へと、思い切り跳んだ。 「私の望みは」 加速のついていた古沢糸子と、その安楽椅子は止まれない。 空間の断層へと落ちていく。 綾島聖は、さらにその先へと跳んでいく。 時空の歪みが二人を隔てる。 (信じられないわ) 古沢糸子は目を疑う。 (空間の断層を飛び越えるつもり? たしかに世界の狭間に落ちることはないけど―― どこの世界に落ちるかもわからないのに!) それは、分の悪い賭け以外の何者でもない。 勝率の低い賭けだ。 そこまで推理して、古沢糸子は思い当たる。 勝率の低い賭け――。 それに臨む綾島聖は、他でもない。 ”無敗”の男である。 (こいつの願い) 古沢糸子は、最初に抱いた不吉な予感を思い出す。 まさか本当に、現実のものになるというのか? この《糸目》は、自分の欲望のままに。 (世界を破壊するつもり? それだけは――) もはや何もかもが歪みに沈みゆく中で、 古沢糸子はせいいっぱい手を伸ばす。 義足から、チョコレートのマグナムを撃とうとする。 しかし間に合わない。 「私は勝者として、迷宮時計に願います」 綾島聖は、空間の歪みの向こうで願う。 「1ダースのビールと、Lサイズのアメリカン・スペシャル・ピザ。 30分以内にお願いします」 * * * ――その夜遅く、綾島聖は、ついにエド・サイラスの店にやってきた。 1ダースのビールと、Lサイズのアメリカン・スペシャル・ピザを、 さも大事そうに両手に抱えていた。 「こんばんは、みなさん」 だが、どう考えても、綾島聖の来訪はタイミングが最悪だった。 「うるせえ!」 ”ソルト”ジョーはポーカーの連敗で有り金を使い果たし、 内臓を担保に勝負を仕掛けようとしていた。 「こっちは忙しいんだ。そのムカつく顔を引っ込めろ! 帰れよ!」 「おやおやァ――ジョーさん、ずいぶんと手厳しいですねェ。 いけませんよ、乱暴な言葉遣いをするのは。 ご存知ですか? 水に対して綺麗な言葉をかけると、綺麗な結晶が――」 「綾島さん、うるさいですよ」 音楽屋の”イシノオ”も、不愉快そうに綾島のくだらない口上を遮った。 彼は手中のスマートフォンを握り締め、睨みつけていた。 「いま、ぼくは忙しいんです。しばらく黙っていてください」 「おやおやァ――これは大変ですねェ。 せっかく私が皆さんにご馳走して差し上げようと思ったのに」 綾島聖は恩着せがましく、かつおおげさに、 ビールとピザをテーブルの上に置いた。 「さァ~~~、どうぞ召し上がってください。 毒など入っておりませんからねェェェェ~~~~っ!」 「そんなもん、誰が食うか」 吐き捨てたのは、エド・サイラスであった。 カウンターの内側で、葉巻に火をつけている。 「ほっといてやれよ。”イシノオ”はいま大変なんだ」 「おやァ? 今夜はいったい何事でしょうかねェェ~~ッ? 私、人の不幸が……キヒッ! 悲しくて悲しくて、たまらないんですよぉぉ~~~っ!」 「嘘つけ。”イシノオ”の女――あっと、たしか婚約者だっけか? なんでもついさっき、覚醒剤キメてるところを警察にパクられたんだとよ。 自業自得だと思うけどな」 「そんなことは、ありません!」 ”イシノオ”は声を荒らげて反論する。 「彼女はとても清らかな心の持ち主で――結婚式の際には、 ぼく自らの手で美しい音色を奏でていただこうと思っていたんですから!」 「それはそれは」 横合いから、人間彫刻家の”ルービック”が口を挟む。 皮肉げな笑みの似合う男だった。 「警察に逮捕されて良かったことだろう。 ”イシノオ”、きみの楽器にされるよりもマシだ」 「ぼくの音楽を侮辱しているんですか? だいたい、ぼくの婚約者に覚醒剤を売ったのはあなたでしょう! ぼくは知っているんですよ!」 「失礼な。最初は無料で配布したさ。 彼女がどうしてもというから、有料で売ってあげただけだ」 「――もう我慢の限界です! 人の婚約者をシャブ漬けにしやがって!」 「そこまで彼女に思い入れがあったのか? それはすまない。今度、カレーでも奢ろう。 人生にはこういうこともあるさ、そう落ち込むな」 「調子に乗りすぎですよ、”ルービック”……!」 ”イシノオ”は、たったいま綾島が持ち込んできたビール瓶を掴むと、 それをテーブルに叩きつけて割った。 中身が飛び散って、エド・サイラスは頭を抱える。 「あなたもぼくの楽器にして差し上げましょうか!?」 「できるつもりなら」 ”ルービック”もまた、ビール瓶を掴んでそれを割った。 「私が相手になってもいい。 きみとは芸術性が合わないと常日頃から思っていたところだう」 そうして、ふたりは殺し合いをはじめ、店のあちこちで歓声と怒号が上がる。 綾島聖は、心から楽しそうに笑った。 「いやぁぁ~~~~素晴らしいですねェェ~~~。 素敵な店ですよ、エド・サイラスさん」 「いつ店を畳もうかと考えてる」 エド・サイラスは、大きく煙を吐き出した。 そして、手元のトランプを広げて見せる。 「そういえば勝ったんだってな、綾島聖。おめでとさん。 ――で、そろそろ次の手を出す気にはならんか? ”ソルト”ジョーよ」 「そう簡単に出せるかよ」 ”ソルト”ジョーは、自分の手札を睨みつけていた。 「俺の腎臓がかかってるんだ」 「懲りねえやつだ」 「”ソルト”ジョーさん、よければ、この私が代わりに――」 綾島聖がにこやかに伸ばした手を、”ソルト”ジョーは乱暴に振り払う。 「殺すぞ! てめーはそのへんで首吊って死んでろよ。 二度と俺の前に顔出すな!」 「そんなひどいことを言わないでくださいよ。 美味しい美味しいピザがありますよぉ~~~~っ」 「いるか! 死ね!」 ”ソルト”ジョーは、八つ当たり気味にグラスを手に取り、 それを綾島聖に投げつけた。 綾島聖は笑いながらをそれを避けた。 ”ソルト”ジョーが舌打ちをし、エド・サイラスが不愉快そうに首を振るのを見て、 綾島聖は声をあげて笑った。 エド・サイラスの店には喧騒があふれ、綾島聖の笑いはその混沌に飲み込まれていった。 (おわり) このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/bc5656/pages/2063.html
TVさんが入室しました TV 『鎧騎士エキシビジョンマッチ開催決定!』 TV 『街騎士、鎧騎士と呼ばれる彼らの戦いをTVの前で見よう!』 TV 『各都市を代表する、または勝手に代表になった“鎧”達の熱き戦い!』 TV 『実際これは街をアピールするいい機会ですよスポンサーさん!』 TV 『え、余計なお世話?こりゃ失敬。ですが開催はマジのマジです』 TV 『鎧騎士自身の参加すら自由なフリーダムな形式で行われるこのバトル』 TV 『参加者にはちゃんと賞金も出るので、TVに出て恥ずかしくない戦いをしようぜ!』 TV 『詳細はマックスTVのホームページよりご覧下さい!』 TV 『それでは次のニュースです。ミド・デリー川にアザラシのダマの助が現れました』 TV 『……』 TV 『…』 TVさんが退室しました ミスティさんが入室しました ミスティ (繰り返しCMめいて流される告知を、テーブル席で頬杖突いて眺めている) ミスティ エキシビジョンねぇ… テラさんが入室しました テラ (カラン、と入ってきて ミスティ テラじゃん、おひさ(TVの方見ながら片手だけで挨拶 テラ (どうも、と返して テラ 、持ち切りですよね、そのCM(言いつつ対面に ミスティ 良かったじゃん、ほぼあんた主役でしょ? テラ 。それは―― テラ ……広告塔として、って話ですよ。(ふう、と冷静に ミスティ でも出るんでしょ。自分から戦場に来る物好き限定バトルだもんね。 ミスティ あたしも鎧があれば小遣い稼ぎに出るんだけどなぁ テラ 結構自称自由みたいですし、参加しても良いんじゃ……? ミスティ 生憎と背負う街も名乗る街もないからねぇ… ミスティ 観客はあんたみたいなのが華々しく戦うのを望んでるのよ、きっとね テラ ……、それもそっか… テラ (ふむ、と)確かに皆が皆、参加するわけでもない……か ミスティ (街騎士のリストをI★PADで出す ミスティ 白騎士様としてはどのあたりが出てくる予想? テラ ……ヘルトや”フォーデン”は出るだろうな……(眺めて テラ それにミソラさんも……出るんじゃないかな、うん… ミスティ ま、バリバリ戦闘する系のは来るかもね。 ミスティ それで、どのあたりに出てきてほしいの?(頬杖突いて テラ …、出てきてほしい…? ミスティ さっきから歯切れ悪いね。一人や二人ぐらい、戦いたい相手とかいないの? ミスティ ライバルとか、そういうの。 テラ (ライバルか……、と思案して テラ それ言うと、結構みんなそうなるな…… テラ ヘルトはまだ奥の手があるだろうからやりたいし、 テラ フォーデンとは「勝負」の約束をしてるから、戦いたい気持ちは強いな(うん、と ミスティ やる気出てきた? テラ それに……そう、銀騎士。マヤコさんとは決着がついてない(画面スクロールしていって ミスティ (にや、と笑って)歯切れ悪くて気になってたんだよね テラ ……、(少し虚を付かれた顔をして テラ やる気がない、わけじゃないですよ(口元に指を当てて テラ (一通りスクロールし終えて)ただ…… ミスティ ただ? テラ ……このまま参加しても俺は勝てない。 そう思います(どこか確信めいて ミスティ ふーん、弱気じゃん。 テラ 、冷静って言ってほしいな(ゔ、と ミスティ もっとあたしは『こいつにはこう勝つんだ!』って話を面白く聞きたいんだけどね ミスティ 勝つビジョン見えてないなら、負けるよねぇ テラ そりゃね。 ミスティ 山篭りでもして修行する? テラ 色んな”騎士”が台頭してきた。 最初はがむしゃらだったけど…… テラ それだけ強敵揃いって事ですよ。俺だって勝つ気でいるんですから(うん、と返して テラ そー、ですね。特訓したいな、って所です。 ミスティ うちの師匠の言葉だと、『負けてもいいじゃん』だけどね ミスティ あたしはそうは思わないけど、『経過良ければ結果は後!』ってさ テラ ……(うーん……と腕を組んで テラ 、!(いきなり自分の頬をパン!と ミスティ どしたのどしたの? テラ (よし、と)うん、いや。 やるからには!、ってね ミスティ ま、もやもやしたまま挑むよりその方が…うん、言いたか無いけど ミスティ “楽しい”だろうしねぇ(やれーやれと テラ そうですね。楽しみたいし、戦いたいし、やるからには勝ちたい。 ミスティ カぁーッ!あたしも出れたらめっちゃお祭り荒らしてやるのになーッ! テラ 勝敗に拘ってるというよりは……自分の全力をぶつけていきたいな。 ミスティ 小遣い稼ぎのついでにぶいぶいしちゃうんだけどなー! テラ ……、ミスティさん参加できたらダークホースっぽいよね……(そんな彼女を見て ミスティ ダークホース?とんでもないわ。あたしは…まぁいっか、鎧じゃないしね ミスティ 鎧のお祭りは鎧にお任せ(立ち上がり、コトン…とカップ麺を置いて テラ ……。 ミスティ それでも食べて備えなさいよ、奢りよ(めっちゃドヤ顔で テラ カップ麺――― ぇ、あれカップ麺??? テラ ……持ち込み? ミスティ (一皿の飯に金を払うこの少女にしては珍しい) ミスティ 最近、カップ麺を大量に仕入れた街騎士が此処に来てるの。 ミスティ どっちかってと騎士じゃなくてあれは商人だと思うけど。 ミスティ (フルプラントの山菜ラーメン)トマトの件で笑わせてもらったお返しよ テラ …ぁ、ありが、とう……(珍しい、と思いつつも テラ トマト……トマトか…… あの件以来、街中でも指差されるんですよね…(クッと ミスティ 順調にアイドルになっていいことじゃん ミスティ …ぷふふ…(思い出し笑いに口元を抑えて テラ ……!(じと目 ミスティ じゃ、あたしはお暇するわ。またね、テラ テラ 、うん、また。 …カップ麺ありがとう。 ミスティ (喫茶から出ていきつつ手を上げ、そして去る ミスティさんが退室しました テラ ……エキシビジョンマッチ、か… テラ (折角だから、とカップ麺にお湯注いで テラ ……(「もっとあたしは『こいつにはこう勝つんだ!』って話を面白く聞きたいんだけどね――」 テラ 話、か……(タブレット再度持ってタプタプ テラ (対戦履歴、各騎士のプロフィールを眺めて―― テラさんが退室しました
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/107.html
エキシビジョン 池松叢雲 名前 性 魔人能力 伝説の勇者ミド 女 おもいだす 池松叢雲 男 統一躯 陸軍一佐フジクロ 男 八咫鴉 採用する幕間SS なし 試合内容 すでに、完全な包囲であった。 東京タワー。 現在はスカイツリーの竣工に伴い、この施設の運営権利は日本電波塔株式会社の手を離れ、 港区《知恵の実》教会本部に移譲されて久しい。 もっとも、この場の東京タワーは「女神」を名乗る能力者によって創造された、イミテーションに過ぎないが。 平時なら観光客で賑わう昼下がりだが、今日はそうした人影はなく――、 ――代わりに、黒い公安部の軍服に身を包んだ、数十名の小隊がタワーの麓を包囲していた。 今回のトーナメントの規定に照らし合わせれば、明らかな違反であった。 が、それを制止すべきジャッジも、完全であるべき「女神」の空間がどのようにして 外界とつなげられたのか、それを解説する者もいなかった。 あるのはただ、公安部の部隊が数十名の群れを為し、東京タワーと、 それを背にする形の池松叢雲を包囲している事実であった。 「null hod.(なるほど)」 池松叢雲は、鳥面の奥の瞳を細め、包囲の一群を眺めた。 そしてそれに対するのは、一本足の異様な烏を肩に止まらせた、もう一人の男。 こちらはダークスーツに身を包み、陰鬱に沈黙している。 「やけに動きが盛んだと思ったら、お前たちか。公安部」 「……きみは、本当に池松叢雲か? 《あのとき》とは、雰囲気が違うが」 ダークスーツの男、すなわちフジクロ陸軍一佐は、静かに声を発した。 明らかに、異常なレベルの警戒が見て取れる。 「いや、あれはまだ――先のことか。いずれにしろ、ここで仕留めておけば終わりだ。 SLGの会、《一撃》池松叢雲」 自分の素性と、所属が割れている。 池松叢雲は、冷静にその事実を受け取った。 この男が何者か、どのような理由かは知らないが、始末せねばならない。 池松の思考はすぐさまそこに着地した。 「そして」 フジクロ一佐は、わずかに視線を動かし、タワーの上方へ向けた。 「渡葉 美土。どちらも、《現在の》我々にとっては迷惑極まりない。 ここで消えてもらう。――このトーナメントはここまでだ」 「俺と本気で戦いたいと言うのなら、それはcome one(構わん)。 だが」 池松は周囲を囲む黒衣たちを一瞥した。周囲に緊張が波のように流れる。 「こいつらは? 観客ではなさそうだな」 「――。」 フジクロは答えなかったが、池松には見当がついていた。 空間を操り、遠く隔たる出口と入口をつなげる能力者が、この大会にも存在している。 そして時間を超えて現れているかのような物言いの、この男。 あの男は、時間すらも操る術者ではなかったか? (だとしたら) 池松は即座に結論に至る。これがこの男、フジクロ陸軍一佐の『本気の戦い方』なのだ。 集団戦闘。多対一。あるいは多対多。それでこそ指揮官の最大のポテンシャルである。 望むところだ。 「SLGの会。お前との接点」 フジクロは一歩、近づくのではなく、後退した。 おそらくは、何かの罠だ。銃器で武装した部下に囲ませ、 格闘技が苦手と見せているが、それは見せかけだけだ。 そのくらいのことは池松にもわかる。 「すべて、お前の記憶からいただくとしよう」 「そうか。それを聞いて安心した」 池松は、静かに全身から力を抜いた。脱力。 「俺たちを探ろうとするお前を、いま、ここで始末できるからな」 池松は鳥面の下で笑みを浮かべた。 と、同時に跳躍している。 後退したフジクロのいる前方ではなく、東京タワーのそびえる後方へ。 当然、そちらも公安部の黒衣が抑えているが―― (数は――) 池松は高速で飛び出しながら、周囲をかこむ軍服の数を数えた。 およそ三十名。いずれも拳銃で武装。おそらくは対魔人訓練を積んだ、特殊部隊。 「Coooo――」 池松の肺から、冷めた風が流れる。 「いい。彼の移動を無理に塞ぐな」 フジクロの冷静な指示が聞こえた。 「時間をかけても確実に仕留める。……頼むぞ」 「喝ッ(cut)!」 池松の放つ掌底が、進路から退避しそこねた軍服をふたり、正確に吹き飛ばした。 銃火で反撃する暇もない、迅速な左右へのdack-eye(打開)掌打であった。 ついでにもう一人、叩き伏せようとしたが、その瞬間、鋭い殺気が背筋を這った。 常人のものではない。おそらくは魔人。 「了解だ。攻撃を開始する」 「……いきます」 殺気は二種類あった。左右からだ。 耳元で鈴の音が響いた、ような気がした。 池松は咄嗟に地面を蹴り、体をひねり、東京タワーのエントランスへ転がり込むように跳躍する。 突き刺すような衝撃が左の肩を。 鋭利きわまりない斬撃が、右の手首を斬り飛ばしている。 池松の右手首から先が、血の花が咲いたように虚空に渦を巻いた。 手首を切断したのは、ひとりの少女であった。 片手に握った小太刀を、外科医のメスのごとき冷静さで一閃させている。 もうすこし回避行動が遅ければ、首に届いていただろう。 打拳で刃の軌道を逸らそうとしたが、一瞬、致命的に遅れた。 左肩の弾丸もそうだ。こちらは確実に心臓を狙っていた。 (見事な射撃術…… そして、on-sinn……!) 深い痛みの中で、池松は相手を賞賛したくなった。 自分の左肩を打ち抜いたのは、感触からして、拳銃の弾丸であろう。 それも相当な遠距離――池松が殺意の英語を感知できないほどの。 どこから撃たれたのか、その方向を確認している暇はない。 また、右手首を斬り飛ばした少女。 こちらは斬撃の瞬間まで、池松に殺気をつかませなかった。 on-sinnといい、和訳すれば「隠身」ともいう。 気配を殺す技術のことである。 この小太刀の少女のそれは、先日交戦した熊野ミーコを凌駕している。 そしてさらに、小太刀による追撃がくる。 「――吹(foot)ッ!」 池松は上段足刀で斬撃の軌道をそらす。 たたき落とすつもりだったが、うまく力を逃された。そしてタワーの中へ。 なおも追いかけようとした、小太刀の少女の足が止まった。 その太腿に、矢のような何かが突き立っている。 「いそいで! こっち!」 聞き覚えのある少女の声。池松はそちらへ飛ぶように駆けだした。 ――悪くない展開だった。 (時間をかけてもいい、か) 池松は身体操作により、右手首を止血しながら、いっそ凄絶な笑みを浮かべた。 (それが本当だとしたら、こちらの勝ちだ。 たとえ、俺がここで死ぬとしても) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「すみません。外しました」 櫛故救世は、小太刀の血を拭った。 その顔に、表情らしき表情はない。右足に刺さった矢は抜かれ、止血が済んでいる。 「あの距離での奇襲で殺しきれなかったのは、こちらのミスです。 時間外報酬の要求は取り消します。すみません」 「いや。構わない。池松叢雲の右手首を落としたのは大きい」 フジクロは地面を這おうとする池松の手首から先を、ブーツで踏みつけていた。 靴底に仕込まれた刃が、その手のひらの中心を貫き、縫いとめている。 「とにかく、急がないことだ。以前はそれで痛い目にあった」 「――以前というのが何か、よくわからんが」 糺礼が、フジクロの背後から近づいてきている。 池松の左肩を狙撃した射手は、彼女であった。 池松が謎の人物とまるで訓練するかのような交戦をしていた間、 フジクロがかき集めることができた協力者は、櫛故救世と糺礼、そしてもう一名であった。 (不動昭良が転校生化し、離脱したのは痛いな) フジクロは考える。 池松との交戦経験もあり、なにより、彼を一度は退けた。 ここで、確実にミドと池松を仕留めるには若干の不安がある。 だが、魔人同士の戦いに100%など存在しないし、 いっそ状況は不利なほうがフジクロのポテンシャルはむしろ高まる。 そう評価したのは、ほかならぬ彼が敬意を持つ上司であった。 そして、このメンバーが最大戦力ではあった。 ほかのメンバーは公安部に味方するようなタイプではないか、 あるいはこのような作戦を躊躇なく、共同して遂行するのに向かない。 それがフジクロの判断だった。 「フジクロ一佐、本当に生死は問わんのだな?」 「死体から情報を引き出すことのできる能力者に、心当たりがある。 このトーナメントの運営側は沈黙させた。自由にやってくれ」 「やつら――SLGの会といったか。連中は未来で何をやったのだ?」 「それは絶対に言えない」 「ふん」 糺礼はつまらなさそうに鼻を鳴らす。 「タワーに逃げ込ませたのは、失敗ではなかったか? 追い詰めたとはいえ、やりにくいぞ。向こうには渡葉がいる。 なにか仕掛けてくるんじゃないか?」 「仕掛けというのは、すべてタネを割ってしまえば、それだけのことだ。 逆にいえば、それまでは恐ろしい。よって、正攻法でゆく」 フジクロは周囲の――過去の自分の、直属の部隊を見回す。 早速、2名が減っていた。残り三十八名。 「犠牲を出しながら、正面から攻める。やがて、手詰まりになるまで」 「あの男は使わないのか? やつのポータルデバイスならば――」 「戦闘にまで参加する契約ではないからな。それに」 フジクロは左手首の時計を一瞥した。 「手遅れだろう。先ほどさらに十名の増援を要請したが、応答がない。 ポータルデバイスか、一夜に何かあったと判断しよう」 「まさか! この仕掛けに気づいたとして、対策など」 「さあな。だが、そうなった以上」 フジクロは肩をすくめた。虚空に視線をさまよわせるような表情になる。 烏との視覚共有の際には、このような表情になることを、礼は知っていた。 「――時間をかけて攻めようと思ったが、方針を変更しよう。 やつらが何か話し合っている。よくないな。 動く気配がないということは、時間稼ぎも狙いなのかもしれん」 「なるほど。集音マイクが使えんのは面倒だな」 熟達の英検士を相手に、盗聴などという戦術は愚行だ。 マイクごしの英語といえど、それだけで昏倒、最悪は死亡もありえる。 「よし」 フジクロは小さくうなずいた。 「速攻に切り替える。櫛故くん、動けるか?」 「運動能力は5%ほど低下していますが。戦闘に支障ありませんね」 沈黙していた櫛故は、軽く足を屈伸させてみせた。 礼はシグ・ザウアーを外套の内側から引き出した。 「この作戦の指揮はお前に委ねた。侵攻経路を指定してくれ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「すみません、東京タワーオナニーしていたもので」 勇者ミドは、心の底から申し訳なさそうに謝った。 池松はおおげさに肩をすくめた。 「What?」 「いえ、ですから……東京タワーオナニーをしていたので…… あ、東京タワーの頂上で東京タワーに犯されている妄想でするオナニーのことですけど…… すこし、助けに向かうのが遅れてしまって……」 「それはcome one(「構いません、気にしていませんよ大丈夫です」という意味の英語」)。 だが、ドイツ語はさっぱりわからん。英語か日本語で頼む」 Onanieはドイツ語であり、純粋なバイリンガルである池松の言語領域には、 そのような単語は一切存在しない。 「はあ……じゃあ、あの、マスターベーションしていました……」 「難しい発音だが、よく覚えろ。Masturbationだ」 「Masturbation」 「違う。Masturbation」 「――Masturbation!」 「もう一度。Masturbation」 「――Masturbation!!!」 「よろしい」 頬を蒸気させて叫ぶミド。 池松は小さくうなずき、その場に座り込んだ。ダメージが少なくない。 東京タワー、中層展望台跡地、獣人教会礼拝堂である。 地上のフットタウンとは中央エレベーターと、東西二つの階段通路でつながる、 いまでは蛇人たちの日本最大の聖域の一つであった。 かつて売店や博物館的な資料が設置されていたこのフロアは、 いまや《知恵の実》の王、スティーブ・ジョブズを崇拝する 彫像と祭具が多数存在する、荘厳な空間となっている。 アップル社製品特有の、シンプルで直感的なデザインが生かされた、 あなたのクリエイティブなセンスをまったく革新的に刺激するような内装である。 「でも、トーナメントはこれで中止ですね」 勇者ミドは憂鬱げにつぶやいた。 「残念です。私、池松さんとしたかったんですけど……」 「生き延びたならば、いずれ」 池松は鳥面の奥で微笑んだ。 生き延びたならば。 すでに、この戦闘はセーフティのあるイベントではなくなっている。 そういう戦いに関して、フジクロは恐ろしく強いだろう。 そして、「勇者」という対魔王専門の暗殺者であるミドも、 英語検定四十段の池松も言うまでもない。 フジクロに手を貸す、数名の魔人もそうなのだろう。 「時間を稼ぎたい」 池松は端的に目的を告げた。 「ひとり、無事にこのeventから逃がしたい男がいる。 日谷創面という。 すでに包囲されているであろう会場近辺から、彼が脱出するまで、 連中の目を引きつけておきたい――できるか?」 「……それ、私たちの無事は目的に入ってないんですね?」 「それは困る、か?」 「いえ。だったら色々と方法はあります」 ミドは自信ありげにでも、不安げにでもなく、ただ淡々とうなずいた。 「状況を整理しましょう。敵の頭はフジクロ陸軍一佐。 なんとなく未来から来たような男で、 こっちの能力はすべて割れていると考えていい」 「何者か知らんが、実践経験豊富な相手だ。おそらく本人も強い」 「強いだけなら、池松さんの方が強いです」 ミドは断言した。 「どうですか、私のセフ……いえ、パーティーの武道家枠になりませんかっ?」 「進軍経路は主に三つか。中央のエレベーター、東西の階段」 「……空中ということも一応ありますけど」 完全に無視された形になり、ミドは仕方なく話を続けた。 「エレベーターが使われることはないでしょう。対処しましたから」 ミドが『対処した』と言うのならば、池松に異論はない。 池松は戦うための頭脳を、すべてこの少女に任せることに決めていた。 よって、速やかに意識からエレベーターの経路を消す。 「ならば、東西の階段を封鎖するところか」 「そうですね。池松さん、東側をお願いできますか?」 「俺はcome one(「大丈夫です、問題ありません」)。 が、西はひとりでなんとかなるか? フジクロ以外に、手練れの魔人が二人いる」 「大丈夫です。セフ……じゃなかった、仲間を呼んであります。 ミスター・医師仮面、ご存知ですよね?」 ミドはアップル社純正のiPhoneを掲げてみせた。 生前のスティーブ・ジョブズが最後まで出荷を担当した、ラスト・ワンである。 もともと、この施設は電波塔であった。 そして外界とつながっている今、iPhoneの高性能な通話機能が万全に作用していた。 「池松さんも、どうぞ。持っていてください」 ミドが手渡すiPhoneを受け取り、池松はうなずいた。 「なんとか右手首を取り戻したい。左手での操作は不便だからな。 ――向こうは時間稼ぎに付き合うつもりはあると思うか?」 「間違いなく速攻できます。 こちらの会話は盗聴はできないでしょうが、 こちらが話し込んでいる光景は見えているはずなので、その狙いも」 「null hod(なるほど)」 池松の目が、窓の外に向けられた。烏が一羽、じっと窓枠からこちらを見ている。 瞬間、池松の左手が迅速に動いた。 「――疾(shick)!」 潰れた弾丸が、窓ガラスを打ち抜いた。左肩から自力で摘出した、糺礼の銃弾である。 それは一本足の烏の眉間を正確に狙撃している。 回避する暇すら与えない、神速の一弾であった。 烏は鳴き声もあげず落下する。 「お、お見事……」 明らかにミドはドン引きしていた。池松は無視して立ち上がった。 「まず一羽だ。はじめるとしよう。この戦いはお前に任せる。 勝ち目はあると思うか?」 「まあ、そうですね――」 ミドはこともなげにうなずいた。 「八割方は、なんとかなるでしょう」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (なにがどうなってんだ!) 日谷創面は路地裏を駆けながら、あっというまに展開したこの状況を考える。 いや、考えている暇もない。 路地の表通りは黒衣たちに封鎖され、交通制限に苛立つドライバーのクラクションが響いてくる。 (大会スタッフとか、小野寺塩素とも連絡がつかない) 創面は、重たい体を無理に動かし、静かに、手芸者特有の歩法で移動する。 つい一時間ほど前まで続けていた、池松とのLessonの疲労、ダメージが抜けていない。 「見つかってはいけない」。 先ほど、池松叢雲から届いたメールには、流暢な英語でそう書かれていた。 (実際やばいことなのか? 池松先生ひとりを捕まえるためだけに、 これだけの数の警察が動員されてるなんて……) 『アアー……おい。こりゃあ、アレだな。 イベント会場周辺をまるごと包囲されちまってる』 ロクロの声が脳裏に響く。 『空でも飛べないと、突破するのは難しいぜ。 ソメン、特にお前が見つかるのは最悪だ』 (わかってるよ) こちらは、暗殺を企てている身だ。 イベントに参加した者同士の関係を洗われると逃れようがない。 創面と池松の接点を知る者は、どうにか捕まらずに包囲を抜けねばならないだろう。 (でも、ぜんぜん隙がない……!) 創面は密かに路地裏を移動していた。隙が見つからない。 (強行突破は――) 『アホか』 ロクロの小馬鹿にするような声が響く。それはそうだ。 『そんなんで強引に押し通るのは、池松とか練道とかのバケモノのやり口だぜ。 フッフッフ。まあ、俺に体を貸すなら、それも――』 (アホか) 今度は創面が冷たく答える番だった。 (よし――) 創面は意を決して、傍らのビルの壁面に手をかけた。 《アゲインスト・トーフ》。 指を軟化させた壁にめりこませ、登攀をはじめる。 (池松先生は逃げろと言った) 時間稼ぎをするつもりだとも、言っていた。 (そのくらいやってやる。 俺はあのウルワシ製薬総帥を暗殺するんだからな) 創面の逃避行が、静かに進行する。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「東側階段、異常なし」 小声で報告を行い、櫛故救世は足音もなく階段を昇る。 エレベーターは駆動機関部破壊されていたため、東西にチームを分けて制圧することになった。 糺礼は西。櫛故は東であった。フジクロは「万が一の保険」と称していずこかへ消えた。 櫛故に預けられた公安部の十名は非魔人ではあるが、さすがに精鋭であった。 彼女と同様に階段を昇りながら、足音はほとんどないといっていい。 (とはいえ) 池松叢雲には、接近を気づかれているだろうと思う。 強力な相手だ。 しかし、《転校生》というわけでも、スティーブ・ジョブズのような超人でもない。 適切な対処をすれば、決して太刀打ちできない相手というわけではないだろう。 (でも、ちょっと割に合わない任務……) 櫛故は己のチームのリーダーのことを思う。 なんでもかんでも請け負ってくるというわけではない。 むしろ依頼は慎重に選ぶ男だ。 だが、あえて彼女の神経が擦り切れそうになるような仕事を持ってくるのは、 もしかしたらある種の性癖なのかもしれない、と最近は思い始めた。 (これが終わったら、しばらく休暇をとろう) このトーナメント自体、突拍子もない仕事ではあった。 この追加受注には辟易したが、よほど条件のいい報酬があったのだろうか? (旅行に行きたい。こういうヤバイことのない場所で、 沖縄とか、沖縄とか、沖縄とか――) 『……西側! 遭遇だ!』 櫛故の思考を断ち切るように、鋭い糺礼の声がインカムから響いた。 (……何の音?) 能力の性質ゆえか、櫛故の聴力は異常に発達している。 礼の声の背後から、銃声のような音が聞こえた。 現状、公安部の対魔人部隊に携帯許可されている装備は、口径9mmまでの片手拳銃である。 だが、その銃撃に混じった何かの射撃音は、それとは異質であった。 (金属の射撃音。刃物? ミドの――飛び道具?) 『礼君。状況を。相手は?』 かすかな櫛故の思考を、今度は静かなフジクロの声が遮る。 『――二人だ! 渡葉美土、そして――これは――なんだ? クソ、池松叢雲なのか? まずいな』 『落ち着いて。見たままを教えてくれ』 『わからん。報告できない、それに――チッ。手ごわい。 一気に三人やられた! 本当に池松ならヤバい、切るぞ!』 糺礼はすぐに通信を切った。妥当な判断だ。 英語使いを相手なら、マイクごしの英語を常に警戒しなくてはならない。 『――二人か。こっちの速攻に対応して、突破をかけてきたか? 強行突破。池松叢雲を使うなら、確かにその手の正攻法は面倒だ。 ――いや。だが、面倒なだけに過ぎない。むしろ――僕なら――』 礼の怒声にかわって聞こえるのは、フジクロの独白のようなつぶやき。 櫛故は足を止めた。 「フジクロさん。私も西側に回りますか? 二人とも東側を突破しようとしているのなら、そちらを」 『――いや。違う。報告できない。 礼君がそう言ったのなら、本当に相手の正体を報告できないんだ』 フジクロは即座に言葉を返した。 『能力者だ! 増援がいたか。出入口の烏の監視をどうやって――。 櫛故君、なんとかする。持ちこたえてくれ』 通信は唐突に切れた。 そして櫛故は耳にする。風のうなるような音であった。 「Coooooooo――――」 階段の上方である。櫛故はほんの一瞬だけ混乱した。 (池松叢雲? しかし、西側で遭遇したはず――いや) そんな仮定や推測は、能力者同士の戦闘では捨てなければならない。 櫛故は小太刀を下段に構え、後ろに続く公安部隊に「停止」のサインを示した。 『持ちこたえろ』と、それがフジクロの依頼となった。 迎撃する。 (私と池松叢雲の能力は、相性がいい) 櫛故には勝機があった。 《鈴具輪久》の鈴の音を、最大音量で自分と部下の聴覚に流し、池松の英語を遮蔽する。 万全とまではいかずとも、致命打を回避する程度の防御は可能となるはずであった。 間違いなく、池松叢雲は初撃に最大の英語を放ってくるだろう。 (迎撃はあんまり得意じゃないけど) フジクロが「なんとかする」まで時間を稼ぐことならば。 櫛故は静かに能力を起動した。公安部隊にはあらかじめ、この能力の今回の使い方だけは伝えてある。 聴覚を圧倒するほどの鈴の音が聞こえてくる――だが、櫛故にとっては慣れ親しんだものだ。 公安部隊は少し戸惑ったようだが、戦闘に影響は出ないだろう。 ゆえに、櫛故救世はその英語を聞き逃した。 鈴の音で聴覚を防御していたために、そして、足にわずかな負傷を追っていたために、 回避の動作もほんの少し、だが決定的に遅れた。 「exhaust(いくぞ)」 池松叢雲の英語が、階段すべてを震わす威力で響いた。 「抜 山 蓋 世 ( but, than guy say )――」 ばっ! と、蜘蛛の巣のような亀裂が階段を、壁を、天井を走った。 (――!?) 英語そのものは、鈴の音で防御した。 だが、この振動、この破壊の感触は――。櫛故は退避しようとした。 太腿部の痛みが、それをコンマ数秒ほど阻害した。 「抜山蓋世」とは、「垓下の歌」の一節である。 楚漢戦争において、西楚の覇王項羽が詠んだ英語詩とされている。 この詩は、後にこう続く。 「―― 騅 不 逝 (sweet who say)!」 破壊が決定的なものとなった。 壁、天井、階段、すべてが一斉に崩れ落ちる。 「池松……!」 櫛故は、降り注ぐ瓦礫のさらに上方に、その男の姿を見た。 鳥面の男。片手に何かを握っている。それもまた仮面? 「すまないが」 池松叢雲は、白い――ヴェネツィアのカーニバルで用いられるようなその仮面を、 無造作にこちらへ落下させた。 「こちらは手負いだ。まともな勝負は勘弁してくれ」 (なにあれ? でも、なにか危ない。とにかく迎撃――) 足場が崩れ、すでに回避はできない。瓦礫を払いながら、その仮面を小太刀で―― 払いのけ、斬ったと思った瞬間、それは脈絡もなく爆発した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 爆音が響いた。 その男、かつて医師仮面と呼ばれた男はどこか意識の遠くで聞いた。 かつての自分が砕ける音でもあった。 「下がりましょう。次の踊り場まで」 ミドが静かに指示を伝えてくる。銃声。 医師仮面は沈黙のまま、彼女の移動に続く。 それぞれの踊り場ごとに、ちょっとした罠が仕掛けてある。 致命的なものではないが、進軍をためらわせるくらいの効果はあった。 作戦はおおむね、うまくいっている。 医師仮面が隠していた能力、《メモリーズオブユー》。 彼の素顔を再度隠した瞬間、対象はその素顔に関する記憶を消失させる。 これにより、彼は糺礼とその部下に、「池松叢雲らしきもの」として、 注意を惹きつけることができていた。 最初は英語を警戒させる呼吸と、そこからのメス射撃の奇襲で何人かは倒せた。 三人を立て続けに仕留め、ミドがまた一人を潰して、すでに四人を沈黙させている。 さらにうまくいけば、この報告を受けた櫛故もこちらに誘引することができたはずだが―― 「なかなかうまくいかないですね」 ミドは医師仮面の内心を代弁したようにつぶやいた。 彼女は、何の部品をどう改造したものか、クロスボウに似た武器を手にしていた。 もとはエレベーターの巻き上げ機構だったと本人は言っていた。 とても勇者の特技とは思えないが、これと同様の罠をいくつか作っていた。 「罠を仕掛けた踊り場は、あと三つです」 「そうか」 医師仮面は短く答えた。階下で単発の銃撃音。罠が破壊された。 まもなく、やってくる。 糺礼の攻め手は、その振る舞いと逆に極めて堅実であった。 突撃はしてこない。人数を利用して、歩くような速度で攻めてくる。 そして、踏みとどまられれば、こちらはただ後退するしかない。 だとしても、である。 医師仮面は考える。関係はない。 やるべきことをやる。 「医師仮面さん。……次、お願いできますか?」 ミドは、やはりこちらの考えを読んだようだった。 「言われずとも」 そのつもりであった。 この状況下での散る順番、ということを、医師仮面は正確に認識していた。 ミドが頭脳であり、自分と池松叢雲は両腕にすぎない。 足止めにどちらかを使うというのなら、それは自分が先だ。 「――あの、ちょっと、あんまり関係ない純粋な疑問なんですけど」 ミドが不意に尋ねてくる。救援を頼んできたのはこの少女である。 いったいどのようなネットワークを築いているのだろう。 「医師仮面さんはなんでSLGの会に入ろうと思ったんですか?」 「……知らん」 事実だ。自分でもよくわからない。 もともと、いままでの人生で、自分で何かを決めたことなどなかった、という気がする。 組織があり、自分はそれの一部だった。 だからかもしれない。 これが初めて、自分の意思で、何かを達成しようと挑む経験であった。 「強いて言うならば、友人の頼みだ」 「友人? それって、セ、セフ……」 「来るぞ」 医師仮面は発情しかけたミドを黙らせた。 いくつもの静かな足音。だが、医師仮面はそういった足音を判別することに慣れている。 「――なるほど。お前が医師仮面。それが素顔なのか」 コツ、コツ、と、糺礼が階段を昇ってくる。 先行する公安部隊は四人。もう二人が背後を固めている。 「タネは割れたぞ、手品師」 糺礼。 彼女について、医師仮面は思考を巡らせる。 いびつな戦闘意欲と圧倒的な敵意。少々、手に余る相手だ。 「撃て」 糺礼は片手を伸ばした。銃口。他の六人も、整然とそれに倣った。 ――つまり、やるしかないのだった。 「Co――」 医師仮面は、これを《ワンミニット・エクスタシー》と名づけている。 魔人能力ではない。すでに薬物投与は終えていて、『効いてくる』時間帯であった。 「Cooooooooooo――wooooo!」 四肢に異常な力のみなぎりを感じた。視界が跳ねる。 いや、自分が跳躍したのだ、階下の一団に向かって。 「ち――捨て身か」 糺礼とその部下の銃撃は、寸前で回避している。 舌打ちとともに、彼女の胸部が蠢く。この能力は医師仮面も知っている。 タネさえわかってしまえば――この状態の自分には、急所を外して受けることは難しくない。 「うぅッ」 二つの弾丸が腹を打ち抜き、獣じみた唸り声が医師仮面の喉から漏れた。 かわしたつもりだったが、三発の弾丸のうち、二発は跳弾した。 それでも痛みはなく、その運動能力に減退はない。 医師仮面のてからメスが投擲され、彼女の前衛に立っていた公安部隊が二人、同時に倒れる。 別のもう一人が、ミドの放ったクロスボウもどきの矢に射抜かれてよろめいた。 そいつの首をねじりきって、三人目。 「後退しろ。このバカバカしい状態は長続きしない」 糺礼は医師仮面を銃撃で牽制しながら、すでに下り降りる構えをとっている。 だが、その銃撃を受けることを前提に、医師仮面はさらに跳躍している。 「あ」 最後の四人目の前衛が、後退しかけて間の抜けた声をあげた。 一瞬にして頚動脈を切断され、血が吹き出る。 医師仮面は迅速に退避していく糺礼と、残りの二人の背を見送りながら、拳をふりあげた。 「Coooooooooooo――」 バイリンガルではないが、医師仮面はネイティヴスピーカーである。 そして、池松の英語を受け、気づかされた。 英語は、力であるということを。 「打ッ(dat)!」 打ち付けた拳は、階段の一部を破壊した。さらに立て続けに、二度、三度と叩き込む。 「なんだと? くそっ」 糺礼は振り返り、銃撃によってこちらの意図を阻止しようとした。 だが、医師仮面の拳は止まらなかった。 叩きつける拳が加速し、階段を、壁を、破壊していく。あたりが地震のように震える。 (たとえこれで命が尽きるとしても) 糺礼と、その部下の銃撃が、医師仮面の胴体に食い込んだ。 頭部への着弾だけは回避している。 そして足を止めて撃つということは、反撃の機会を許すということだ―― 医師仮面のメスは、糺礼の両隣の公安部隊を同時に射抜いている。 (これで、糺礼のチームは全滅。役割は果たした―― 他の誰かの代替でも、命令でもない、私の役割) 銃撃を受けながら振り下ろす拳が、階段を完全に破壊した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「――そうか。わかった」 フジクロは、暗がりのなかでその報告を聞いた。 不機嫌な糺礼の声がノイズまじりに響く。 『くそっ。魔人め。SLGだと? あんなふざけた手品師に……!』 「あまり気にするな。 あのレベルの魔人命懸けとなれば、ある程度はどうしようもない。 それより、想定外の戦力を潰せたことが重要だ」 『しかし、階段を破壊された。ここから攻めるなら、補修が必要だ。 すぐに、というわけにはいかん』 「仕方ないな。礼君は一旦下がってくれ。 櫛故君はどうだ? 動ける状態なのか?」 『……戦闘行動に支障はありますが、不可能というレベルではありません』 かすかに呼吸の乱れた声だった。 櫛故は階段を転げ落ちながら、爆破の威力を減退したようだった。 フジクロは残りの戦力を計算する。 公安部の部隊が十八名。 外にいるはずの矢塚一夜とは連絡がとれないため、ひとまず戦力からは外す。 ならば―― 「櫛故君は援護だけで構わない。 あの《鈴》の能力で、池松の英語さえ防御してもらえれば」 『それだけならば、なんとか』 「よし」 フジクロは、暗い頭上を見上げた。 「こちらの準備はできた」 『おい。フジクロ一佐。私たちを陽動に使ったな?』 「医師仮面がいなければ、片はついていたと思う。 これで多少は有利になる」 多少。 フジクロの認識に油断はない。 「反撃を開始しよう」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「……無事ですか?」 ミドは全身に銃創を穿たれた、医師仮面の裸体を興奮とともに眺めた。 ダメージは致命的であった。 即座になんらかの処置が必要であったが、医師仮面のその手際は卓抜していた。 ただし、可能な限り速やかに、輸血は必要であろう。 《ワンミニット・エクスタシー》の反動もあり、戦闘はおろか、身動きもできない。 「処置は完了……したが、銃弾を喰らいすぎた……な」 銃撃は、ある程度は防ぐことができていた。 医師仮面のコートの内側には、デザインにすぐれたいくつかの小さな板が仕込まれていた。 ――iPhone 4 and 4Sケースである。 Gショック以上の対衝撃性を持つこの携帯電話とケースは、 バイクのヘルメット用のモデルとして作成され、 その構造を軍部でも採用されるほど防弾性をも持ち合わせている。 言うまでもないが、デザイン性も優れていた。 これが医師仮面の命を致命傷から救ったのである。 「あの、私、すごく元気になる治療方法を知ってるんですよ。 つまりセッ」 「sumart night(「すまない 」)。 すぐに病院に運びたいが」 「気にするな……」 池松と医師仮面はミドが言葉を続けるのを完全に無視した。 医師仮面は虚ろな呼吸で声を発する。 「それより、ここを……どう乗り切るか……だ。 時間稼ぎは、まだ十分ではない……だろう」 池松は無表情にうなずいた。 「向こうがうまくやってくれるまで、 一分一秒でも長く、こちらにフジクロの目をひきつけたい」 医師仮面をここまで搬送したのは池松である。 負傷した彼を放置しなかったのは、単なる感情的なものだけではない。 池松自身、死者を蘇生させて操る能力者を何人か知っているからだ。 かつて、上層特別展望台と呼ばれていたフロアであった。 これより上のフロアは存在しない。 いまでは、スティーブ・ジョブズの偉業をたたえる、ただホワイトに塗装された、 なにひとつオブジェクトのないのスペースとなっている。 「でも、これで少しは時間を稼げるはずです!」 ミドは努めて明るく発言した。 「階段を壊しましたし、無理に飛び越えようとすると罠があります。 ちょっと次の手を考えさせてください」 ここまでの展開は、ミドがデザインした通りのものだった。 彼女の手には、iPadが握られていた。 その画面にはこのタワーの内部図が展開され、 ミドのトラップ配置がコメントつきでカラフルかつ見やすく表示されている。 シンプルで直感的な操作を可能とするこの最新鋭のタブレット端末は、 使い手のイメージとパフォーマンスを結びつけ、最高水準に引き出してくれるのだ。 「これ以上は上のフロアに逃げられないので、なんとか踏みとどまらないと。 屋上っていうか、屋外でフジクロ一佐と戦いたくありませんし」 「迎撃の方法か。任せる。俺は無理だ」 池松はあっさりと断言した。 ミドは苦笑いを返さざるをえない。 片手でiPadを操作しながら、思考を進める。 「ですよねー。なんとかしましょう。 プランはあります。でも、いまひとつフジクロさん相手には通じるかどうか。 池松さん、たとえば、このフロアを英語で破壊したりできないですか?」 「右の掌底。それが俺の最大の一撃だ。 あいにく俺は未熟でな。フロアを破壊するには、最低でも、それが必要だ」 「そうですか…… なんとかならないかな。いや、でも――」 「hum...(感嘆詞。特に意味はない)」 池松はかすかに唸り、不意に視線をミドの背後に向けた。 そこには、直通エレベーターのドアがあった。 「少しは時間を稼いでみるが、一刻も早く頼む」 「え? あの、あれ? マジですか?」 「マジだ」 池松は立ち上がり、ミドと医師仮面を庇うような自然体に構えた。 「くるぞ」 「ウソ……!」 ミドが表情を引きつらせたと同時、甲高い電子音とともにドアが開いた。 「エレベーター、巻き上げ機とか動力部とか、ちゃんと壊しておいたのに!」 「伏せろ」 銃声が、連続して二度響き、それは二人を庇う池松がかかげた右腕に着弾した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (防いだか) フジクロはH Kの射撃の直後、ドアから転がり出て、池松叢雲の反撃を回避する。 「――疾(shick)!」 びすっ、と鋭い音が響き、エレベーター内部の壁に金属片が突き刺さる。 メスだ。 医師仮面が使っていたものだが、その投擲威力は銃弾にも匹敵しているようだ。 (だが、ここが勝負だ) フジクロは呼吸を落ち着けることに全力を注いだ。 この状況の池松は、一体一のときほど恐るべき相手ではない。 まずは背後にミドと、医師仮面がいること。彼らを庇わなければならず、動きが制限される。 あの立ち位置を迂闊に動けないだろう。 そして右腕。 手首から先が失われ、さらにいま、二発の弾丸を打ち込んだ。 《統一躯》によっていくら自身を制御できるとはいっても、 断裂した筋肉、砕けた骨の分だけ威力は鈍る。 むろん接近からの直撃は驚異だが、左手でおこなうようなメスの投擲はできまい。 つまり、遠距離から徹底して削るのが最善だ。 ――時間を稼ぎながら。 そのためのタネは仕込んである。 「烏の巣作りを見たことがあるか?」 フジクロは起き上がり、銃を握り直し、池松とミドに声をかける。 案の定、池松は動かず、追撃してこない。 「彼らは驚くほど器用でね。特に私の烏はきわめて賢い。 部品さえ代替できるなら、精密な機械の修復も可能だ」 フジクロはゆっくりと歩く。池松に近づきも、遠ざかりもしない。 いまはこの間合いだけが、彼の身を守る盾だった。 「とはいえ、限界はある」 フジクロの背後で、ばきん!と、鋭い破壊音が響いた。 かなり上のほうから聞こえた音だ。何かが決定的に砕ける音。 「昇り、一回分をもたせる程度の応急処置でね。 つまりこれできみたちの退路が消えたことになる」 「お前の退路も、だな」 池松は会話に乗ってきた。やはり英会話者だ。 「いいのか? 一人で俺たちを相手にできる自信はあるか?」 「きみたちは手負いだからな」 フジクロは意味ありげに、銃を持っていない片手を掲げてみせた。 「――池松さん。あれ」 ミドがかすかな声をあげている。 「これか?」 フジクロはH Kの銃口を池松とミドの間で往復させ、 左手に掴んだその物体を差し出す。 「池松叢雲の右手首。これは英会話業界の大きな損失だな。 未来を変えてしまうおそれがあると思っているよ」 池松の鳥面の奥の目も、それに据えられていた。 やはり、乗ってくる。あとは引き伸ばす。 「返した方がいいかな?」 「池松さん。私と、医師仮面さんのことは気にしないでください」 ミドがフジクロの言葉をまったく無視したように告げた。 「全力で。思い切り。やっちゃってください」 「――いいんだな?」 「勇者は指揮官です。指揮官を信用してください」 「――I eye saw(「アイアイサー」「了解」という意味の英語)」 池松に、火が点いたように思った。 sing-cat(震脚)である。白い床のタイルに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、 その体が矢のように飛び出してくる。 (前に、出てくるか) フジクロは時間稼ぎという目論見が外されたのを感じた。 (だが、そのリスクも) フジクロは能力を起動させる。《八咫鴉》。 (想定済み――だ。行け!) フジクロが乗ってきたエレベーターの、天井にわだかまる闇が蠢いた。 そこにいる。十羽の烏が飛び込んでくる。 彼らの一本足には、みな一様に、軍用ナイフが掴まれていた。 「吹(foot)ッ!」 池松の脚がかすむほどの速度で動き、飛翔して攻める烏の一羽を撃ち落とした。 連携して繰り出される、空中からの刃もかわし、あるいは捌く―― だが、その全てを完全に防ぐには至らず、一撃か二撃は肩で受け、 さらには動きを封じられる形になった。 (ここだ) フジクロは銃撃を二度。方向は池松叢雲。 池松が反射的にそれを迎撃しようとした瞬間、一羽の烏が動いた。 ナイフの角度をわずかに傾け、フジクロの弾丸を弾く。 跳弾。 その狙いは池松ではなく、ミドであった。 最初から、フジクロにとっての撃破優先対象はミドだった。 厄介な頭脳と、思いもよらぬトリック。あるいはフジクロ以上の。 読み合いならば恐ろしい――ゆえに、それを発揮できないところで、確実に仕留めたかった。 「で、ですよねー!」 それでもミドはこれを読んでいたらしい。転がって弾丸を回避する。 このくらいは想定していた。SLGの魔人は総じて身体能力が高い傾向がある。 フリースキル、と呼ばれる、魔人能力の威力を高めるための潜在能力に ほとんどキャパシティを割いていないためだ。 そして渡葉美土ほどの判断力があれば、跳弾の狙いくらいは読みきっていただろう。 (だから) フジクロは床を蹴って直進する。 だからこその、接近戦である。 池松叢雲は烏の群れが抑えている。 このタイミングしかなかった。 「――!」 弾丸を転がって回避したミドの頭上に、駆け込んだフジクロの踵が振り落とされる。 単純きわまりない、格闘メソッド。 ミドはこれを左腕で受けるしかなかった。 めき、と、確実な破壊の感触が足に伝わる。折った。 「まだ……!」 痛みに顔をしかめたミドの右腕には、いつのまに持ち替えたのか、 伝説の剣『まるごし』が握られていた。 振り回されてくる。 だが、フジクロはこの剣の間合いと、使い方を見切っていた。 刃があると見せかけて存在せず、そしてその実、ナイフが握りこまれており―― 「一度だけの武器だ。それは」 そして、その間合いの見極めに気をとられれば、投擲される剣の回避が遅れる。 フジクロはそれを完全に認識しており、飛来する「まるごし」に隠れたナイフの刃を容易く回避した。 そして、その次に飛んでくる、死角からの医師仮面のメスの投擲も、H Kを盾に防御している。 「む……!」 医師仮面が呻くのが聞こえる。 まだ動けたのは驚きだが、その奇襲は殺気を隠せず、精彩を欠いていた。 使えなくなった拳銃はそのまま捨て、武器をすべてなくしたミドへ、再びかかと落としを放つ。 今度は靴底の刃が、かすかな金属音を響かせて突き出される。 そのときフジクロは、ミドの肺から漏れる、奇妙な呼吸に気づいた。 「コオオオォォォ――――ォォッ」 バイリンガルの呼吸であった。 (渡葉 美土――英語検定有段者か? そんな情報は。 ハッタリ。いや。この少女ならば――!) フジクロはその可能性に遅れて気づいた。 ミドは床を踏み鳴らし、起き上がりながら、フジクロの踵落としを迎撃した。 右の掌底を、まっすぐ叩きつける一撃。 ――一撃、である。 その英語は、ミドの能力《おもいだす》が可能としたもの。 ミドは、池松の発した英単語を心に刻み込み、己のものとしていた。 ミドの完全な言語記憶能力。 英検四十段の池松による発音Lesson。 そしてi-padによるクリエイティブで斬新な直感の刺激。 それらが一体となり、ミドに必殺の英語を撃たせる。 「――Masturbation (マスターベーション)!!!」 フジクロは振り下ろす踵から、鋭い衝撃が走るのを感じた。 骨が――筋肉が、神経が、焼けるように鋭い英語! 視界が明滅した。 悲鳴さえあげていたかもしれない。 フジクロは一瞬、自分自身の制御を失い倒れこむ。 《池松叢雲の右手首》が、その手からこぼれ落ちる。 「池松さん」 ミドがそれを拾う。池松に放り投げるのが他人ごとのように見える。 烏の制御もままならず、それを見送るしかない。 (――だが) フジクロはこわばる左手を、必死で上着の内側に伸ばした。 (――想定内) 池松が右手首を受け取り、それを切断面に接合する。 瞬間。 フジクロは上着の内側で、起爆の信号を送るスイッチを押した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 池松叢雲は自分の右腕が爆砕するのを見た。 半径30センチをふきとばす爆弾。わずかな破片が仮面を砕き、額を、頬を裂いた。 (すでに――右手首の中に仕込んでいたか) 池松は冷静な思考でその事実を受け止める。 (俺が間抜けか) 「ここまでだ」 フジクロは床に片膝をつく、ミドのこめかみに銃口を突きつけていた。 「投降は受け付けている、ミスター池松」 「お前がその引き金を引く前に」 池松叢雲は、自然体を崩さないままであった。 吹き飛んだ右腕からは、即座に血が止まっている。 「俺の英語が届くかどうか、試してみるか?」 「いいや」 フジクロは首を振った。 「きみには万が一ということがある。それが怖いから撃たないのさ。 ――この人質ごっこは単なる時間だ」 フジクロと、池松の周囲を烏が羽音もなく旋回する。 チカ、と、窓の外で光がまたたいた。 「制圧完了だ」 フジクロの言葉と同時、窓ガラスが一斉にくだけた。 黒衣の公安部隊が、そろって飛び込んでくる。そして糺礼。櫛故。 「階段もエレベーターも、使用不能。 破壊された階段を迂回して壁を登るのは苦労したが―― ともあれこれで、本当に言わせてもらおう」 フジクロはゆっくりとミドから後退する。 「きみたちに逃げ場はない」 「まったく、本当にだ」 糺礼は不機嫌そうに呻いた。 「このうえ、豚のような悲鳴だけは聞かせてくれるなよ。 おとなしく投稿するか、速やかに死ね」 「――やれやれ」 池松は彫りの深い、ローマ人のような素顔に、自嘲的な笑みを浮かべた。 「最悪の方法を思いついたぞ。未熟だな、俺は。 本当に。一撃を極めるには程遠い」 「おい。何を」 糺礼がシグ・ザウアーを構えようとした。 「池松さん」 ミドが声をあげた。立ち上がろうとしている。 その傍らに、投げ出されたiPadがある。 その液晶は彼女の手を離れても煌煌と輝き、スケジューラのような画面を表示していた。 これがiPadの電源保持能力。そして鮮明な表示能力の本領である。 「準備完了、です! 自由にやっちゃってください!」 「I eye saw(「アイアイサー」「了解」という意味の英語)」 池松はうなずいた。 (まずい) フジクロはそのiPadの画面が意味するものを知っていた。 彼のいる未来でもまだ色あせず愛好されている機能。リアルタイム・マルチスケジューラである。 複数のメンバーのスケジュールをリアルタイムで同期させる、グループワークのための機能だ。 これにより、さらにスマートな進捗管理、 まったく新しいパースペクティブからの統括的なタスク・スケジューリングが可能となる。 さらにはメンバー以外に対しては、スケジュールに自動的な暗号化がかけられ、 完全な秘匿性をもったプロジェクト管理が実現されているのだった! そしていま、『S』と記されたチームの進捗率が100%に達していた。 おそるべきはiPadの進捗管理アプリケーショn。 そしてこのアプリとガジェットを自在に使いこなす、勇者ミドのプロジェクトマネージメント能力! (『S』だと? 別働隊がいたのか? 彼らが待っていたのは――いや、増援――それよりも) フジクロの高速の「読み」の進行を、ミドがただ見逃すはずもない。 ミドの折れているはずの「左腕」が動いた。 袖口から何かがこぼれ落ちる。 (これは――) フジクロは発砲しながら後退する。弾丸は、転がるミドをわずかにはずれた。 ミドの袖からこぼれたのは、小さな瓶。医師仮面の所持品であったか。 (――毒ガス!) 瓶は床に激突して破裂し、無職の液体をまきちらした。 刺激臭――粘膜に激痛。 それでも一瞬のことで、フジクロは後方に飛んで影響を抑える。 まだだ。フジクロには烏たちの《視点》がある。 自然な流れで能力に意識を傾ける。 「ゆくぞ」 池松が身をかがめた。 みし、と、その全身が軋むような音を響かせた。 「櫛故くん! 防御を!」 「――了解」 全身のあちこちに包帯を巻き、血をにじませた櫛故が応じる。 鈴の音が響き始める。間髪をいれず、フジクロは銃口を池松に向けた。 糺礼も、公安部隊もそれに倣う。 「射撃開始」 銃声が連鎖して響いた。 弾丸が池松の体に吸い込まれる。 が、なにか硬質な――いっそ金属的でもあるような、弾ける音が響いた。 「……すこし……空を飛ぶことについて考えた」 池松の全身から、凄まじく何かが軋む音が響いていた。 建物が壊れるような――あるいはまったく別のものに組み変わるような。 「やはり翼が一番だな。参考になった。 思えばこいつの同類は――鳥取の砂丘で、毎日のように見ていた」 「ち……!」 フジクロは舌打ちをしながらさらに射撃。やはりはじかれる音。 彼は池松の伏せた顔に、ウロコ状の何かが浮かび上がったのを見た。 (これは!) 弾切れがやってきた。フジクロはリロードをするべきかどうか、一瞬だけ逡巡した。 「これは――本当の、最悪の手段だ。 なにしろ、自分が――何者だか――忘れることになると思う」 池松の体が膨張した。 細胞レベルでの身体制御。いや、DNAレベルの制御であっただろうか? 「英語も――SLGの会のことも」 とにかく、池松の肉体は劇的な変化を遂げていた。 背中が盛り上がり、翼が突き出した。コウモリの皮膜に似ていた。 みるみるうちに力強く膨張し、ドラゴンのようなそれになる。 「だからミド、医師仮面、鈴木三流には伝えておいてくれ。 池松叢雲は行方不明になったと」 「化け物め……!」 糺礼が銃弾を放つが、当然のことのように、池松の全身に生えたウロコにはじかれた。 ドラゴンの鱗を破壊できる武装があるとしたら――フジクロは考えた。 逆鱗弾。矢塚一夜はどこだ? 連絡が途絶えている。 「See you again(「また会いましょう」という意味の英語)」 それを最後に、池松叢雲は決定的に変化した。 全身が三倍にも四倍にも膨張し、天井に達するほどの巨躯となる。 『AHHHHHHHHHHHHHHHGRAAAAAAAAA!!!』 破壊的な英語が響いた。 もはやそれは英語の体を、文法をなしていなかった。 ただ、池松叢雲の名残の発音があるのみだ。 櫛故の能力で防御していなければ、それだけで卒倒していかもしれない。 それはドラゴンであった。 深緑色の鱗を、海のような光沢に輝かせる、片腕の竜である。 もとは池松であった彼は、翼をうち広げて飛んだ。 「――くそ!」 フジクロはこの局面ではじめて焦った。 烏を繰り出す。そのうちの何匹かは、体内に爆弾を仕込んである―― だが、池松はぐるりと丸太のような首を巡らせた。 『GHAAAAAAAAAAAAAAAAA――AAAHHH!』 視界の眩むような、激しい火炎が池松の顎から吐き出され、 フジクロの烏と、それらが体内に仕込んだ爆弾を誘爆させた。 (魔人ならともかく……!) フジクロは床に伏せ、陽炎と豪火の彼方に池松を見る。 (正真正銘の化け物が相手とは、たまらんな!) 飛翔する池松は片腕で勇者ミドと、医師仮面を抱え上げた。 咆哮が轟き、その炎をこぼす口元の自嘲気味な歪みが、 かろうじて池松叢雲のようにみえた。 もしかすると、ほんの少しでも理性はあるのかもしれない。 それを証明するように、勇者ミドと医師仮面を抱えた池松は、 むしろ穏やかに翼を動かし、窓ガラスを砕いて、東京タワーから飛び出していく。 東京タワーの敷地から抜け出る瞬間、その全身が虹色に輝き、ゆがんだ気がした。 もはや英語の体をなさぬ、意味不明の咆哮が長く尾を引いていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「――ドラゴンか」 路地の暗がりで、その男、闇裂練道はそれを見上げていた。 「珍しいな。こんな都会に」 彼の足元には、十人余りの黒服の男たちが倒れている。 公安部の制服であった。 そして、一本足の烏の死体も一羽。 「まあ、なんというか、あれや」 矢塚一夜は倒れた男たちの上に腰掛け、ごく軽い調子で話しかける。 「これだけ豪勢なイベントだったわけやし、 花火的なもんと違うかな。運営側のサービスで」 「さて……どうかな」 闇裂練道は一夜の気楽な物言いに、首を振った。 片手でiPhoneを握っているが、その画面に表示されているタスクスケジューラでは、 「M」と記されたチームの進捗率がちょうど100%になったところであった。 「俺はそろそろ行く。やつらも脱出に成功したようだからな。 義理立てもこれで十分だろう。――が、お前はどうする? 公安部からは違約金を請求されてもおかしくないな」 「そんなん踏み倒すわ」 一夜は明るく笑った。 公安部からの依頼を裏切ったことなど、気にも止めていない素振りだった。 買収。 それがこの男を降す、もっとも手っ取り早い手段であると、闇裂練道は知っていた。 より正確に言えば、それはミドからの依頼であった。 「前金はもらっとったし、あんたから報酬もいただいて、 まあこっちは大黒字ってとこやな。 あとは、そう――まあ、また関西や未来や過去にでも帰郷してもええ」 関西はいまもって滅亡から立ち直ろうとしているところであり、 なおも中央政府の目の届かぬ暗黒地域であり続けている。 そこに潜れば、容易には捜索されぬであろう。 「いずれにせよ、これでイベントは終了というわけか。 だが――」 闇裂練道は矢塚一夜に背を向け、歩き出す。 「この件は、ほんの始まりというところだな。 二十年代において、SLGの連中がどうなっているのか興味はあるが――」 一瞬だけ、練道は視線だけで一夜を振り返った。 彼はすでにそこにいない。空間転移で去ったか、あるいは時間転移か。 「それは、俺たちが進めなければならない話か」 【フジクロ陸軍一佐:烏を全損。未来へ生還。】 【糺礼:翌日から現場復帰。沖縄にて別任務を開始。】 【櫛故救世:入院。その後、沖縄旅行へ。】 【勇者ミド:生還。成功報酬で沖縄旅行へ。】 【医師仮面:半日の入院と応急処置の後、行方不明。 沖縄でその姿を見かけたという情報あり。】 【池松叢雲:行方不明。 沖縄上空を飛ぶドラゴンの目撃証言あり。】 【闇裂練道:行方不明。沖縄で目撃?】 【矢塚一夜:行方不明。沖縄?】 【日谷創面:沖縄に行きたい?】
https://w.atwiki.jp/livebase_mj/pages/64.html
企画 月間上位エキシビジョンマッチ 予選 東南戦2回 アリアリ 赤なし 2戦合計得点が高い上位2名ずつが決勝へ 決勝 決勝 東南戦1戦 アリアリ 赤なし トップの方が優勝 予選組み合わせ 1卓目 1位 4位 5位 8位 2卓目 2位 3位 6位 7位 ※参加できない方がいれば繰上げあり 参加者の方々(敬称略 水車町@ハム ウナギ@兎 ウィドゥ@阪神 ヨネノプロ@燕 サブ@ロッテ 綿棒@鷹 鷹より@SB カッツ@狗鷲 ※オッケーイ@燕さんが参加できないためカッツ@狗鷲さん繰上げ 予選結果 1卓目 1戦目牌譜 ヨネノプロ@燕(+51) 水車町@ハム(+10) サブ@ロッテ(-14) カッツ@狗鷲(-47) 2戦目牌譜 サブ@ロッテ(+53) カッツ@狗鷲(+22) 水車町@ハム(-23) ヨネノプロ@燕(-52) 合計 サブ@ロッテ(+39) 決勝進出 ヨネノプロ@燕(-1) 決勝進出 水車町@ハム(-13) カッツ@狗鷲(-25) 2卓目 1戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+60) 綿棒@鷹(+6) 鷹より@SB(-21) ウナギ@兎(-45) 2戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+45) 鷹より@SB(+7) ウナギ@兎(-19) 綿棒@鷹(-33) 合計 ウィドゥ@阪神(+105) 決勝進出 鷹より@SB(-14) 決勝進出 綿棒@鷹(-27) ウナギ@兎(-64) 決勝結果牌譜 ウィドゥ@阪神(+48) ヨネノプロ@燕(+13) 鷹より@SB(-10) サブ@ロッテ(-51) 優勝ウィドゥ@阪神さん
https://w.atwiki.jp/yakyu_ch/pages/107.html
企画 月間上位エキシビジョンマッチ 予選 東南戦2回 アリアリ 赤なし 2戦合計得点が高い上位2名ずつが決勝へ 決勝 決勝 東南戦1戦 アリアリ 赤なし トップの方が優勝 予選組み合わせ 1卓目 1位 4位 5位 8位 2卓目 2位 3位 6位 7位 ※参加できない方がいれば繰上げあり 参加者の方々(敬称略 水車町@ハム ウナギ@兎 ウィドゥ@阪神 ヨネノプロ@燕 サブ@ロッテ 綿棒@鷹 鷹より@SB カッツ@狗鷲 ※オッケーイ@燕さんが参加できないためカッツ@狗鷲さん繰上げ 予選結果 1卓目 1戦目牌譜 ヨネノプロ@燕(+51) 水車町@ハム(+10) サブ@ロッテ(-14) カッツ@狗鷲(-47) 2戦目牌譜 サブ@ロッテ(+53) カッツ@狗鷲(+22) 水車町@ハム(-23) ヨネノプロ@燕(-52) 合計 サブ@ロッテ(+39) 決勝進出 ヨネノプロ@燕(-1) 決勝進出 水車町@ハム(-13) カッツ@狗鷲(-25) 2卓目 1戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+60) 綿棒@鷹(+6) 鷹より@SB(-21) ウナギ@兎(-45) 2戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+45) 鷹より@SB(+7) ウナギ@兎(-19) 綿棒@鷹(-33) 合計 ウィドゥ@阪神(+105) 決勝進出 鷹より@SB(-14) 決勝進出 綿棒@鷹(-27) ウナギ@兎(-64) 決勝結果牌譜 ウィドゥ@阪神(+48) ヨネノプロ@燕(+13) 鷹より@SB(-10) サブ@ロッテ(-51) 優勝ウィドゥ@阪神さん
https://w.atwiki.jp/yakyu_ch_mj/pages/107.html
企画 月間上位エキシビジョンマッチ 予選 東南戦2回 アリアリ 赤なし 2戦合計得点が高い上位2名ずつが決勝へ 決勝 決勝 東南戦1戦 アリアリ 赤なし トップの方が優勝 予選組み合わせ 1卓目 1位 4位 5位 8位 2卓目 2位 3位 6位 7位 ※参加できない方がいれば繰上げあり 参加者の方々(敬称略 水車町@ハム ウナギ@兎 ウィドゥ@阪神 ヨネノプロ@燕 サブ@ロッテ 綿棒@鷹 鷹より@SB カッツ@狗鷲 ※オッケーイ@燕さんが参加できないためカッツ@狗鷲さん繰上げ 予選結果 1卓目 1戦目牌譜 ヨネノプロ@燕(+51) 水車町@ハム(+10) サブ@ロッテ(-14) カッツ@狗鷲(-47) 2戦目牌譜 サブ@ロッテ(+53) カッツ@狗鷲(+22) 水車町@ハム(-23) ヨネノプロ@燕(-52) 合計 サブ@ロッテ(+39) 決勝進出 ヨネノプロ@燕(-1) 決勝進出 水車町@ハム(-13) カッツ@狗鷲(-25) 2卓目 1戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+60) 綿棒@鷹(+6) 鷹より@SB(-21) ウナギ@兎(-45) 2戦目牌譜 ウィドゥ@阪神(+45) 鷹より@SB(+7) ウナギ@兎(-19) 綿棒@鷹(-33) 合計 ウィドゥ@阪神(+105) 決勝進出 鷹より@SB(-14) 決勝進出 綿棒@鷹(-27) ウナギ@兎(-64) 決勝結果牌譜 ウィドゥ@阪神(+48) ヨネノプロ@燕(+13) 鷹より@SB(-10) サブ@ロッテ(-51) 優勝ウィドゥ@阪神さん
https://w.atwiki.jp/kogf/pages/15.html
戦績・対戦結果(エキシビジョンマッチ) エキシビジョンマッチ(初日) 第1試合 ●ガンダムフォートレス VS ガンダムベイスター○ ネオシーランドからやって来たガンダムフォートレスが、本戦前にガンダムベイスターと一戦交える 「勝負はどうあれ、我がガンダムの力を見てもらう必要があるな……」と意気込むフォートレス、今出場機体のどのMFも凌ぐその巨体を相手に、 まずはビットで様子を見るベイスター。しかしその程度では通用しないとフォートレスは大きな体を生かしての踏みつぶしをかけるが、 ベイスターも華麗によけてショーナンビッグウェーブからの乱撃で反撃の隙を与えない ベイスターを捕らえられないフォートレスとフォートレスに決定打を与えられないベイスター。試合は膠着状態に入り、長期戦を予感させる 攻めきれないベイスター、そのパンチを受け止めたフォートレスはついに奥の手『エクストリームヘイヴン』を発動させる フォートレスの超高性能CPU「データヘイブン」がベイスターのOSに侵入、データの「避難」を試みるが、動きを止めたその一瞬が仇になった 隙を見逃さず放たれたベイスターの一撃が急所を突き、ついに巨大なフォートレスに膝を突かせる 初めて見るフォートレスの戦法にてこずりながらもガンダムベイスターが勝利を収めたのであった 第2試合 ○ナニワガンダム VS ガンダムアルプス● 「先手必勝ですわ!」と一万尺を構えて突撃をかけたガンダムアルプスは、刺身包丁と小回りの利く小槍で激しい刺突でナニワガンダムを攻める だが一万尺での突撃を通天閣ロッドで払い、隙を見つけて『通天閣スープレックス』を叩きこむナニワも負けてはいない ビームハリセンと刺身包丁が火花を散らし、さらにその合間を縫ってアルプスの槍とナニワのロッドが突き合わされる アルプスが大槍小槍で連撃を放てばナニワがカニヌンチャクで受け流し、互角の攻防を見せる両者の戦いはついに延長戦へと突入 猛吹雪ブラスターから『御神渡り切り』を仕掛けるアルプス、得物のリーチで劣るナニワは通天閣ロッドとカニヌンチャクを即席で組み合わせて振り回す ALPSシステムを起動させ、ハクバと共に『木曾林道突き』をかけるアルプスだったが、ナニワの必殺『御堂筋パレード』がアルプスに直撃 この一撃でアルプスは機能停止、大接戦に勝利したのはネオ大阪ナニワガンダムであった 第3試合 ○オバマガンダム VS ダルマーガンダム● 重量級同士の対決となったオバマガンダムとダルマーガンダム。同じ重量級とはいえ対照的なコンセプトを持つ二機の試合に会場の注目が集まる ダルマー得意の『ローリングアタック』の手厳しい先制を受けたオバマは接近戦は不利と判断。ズワイガニを切り離し、いきなり大技『サイレント・ディナー』を放つ だがダルマーも防御は硬い。秘技・達磨落としで会場を揺らしつつ、オバマに反撃を加えていく しかし強大な火力を持つオバマは劣化ウラン弾と廃プルトニウム弾をばら撒きつつ、全エネルギーを放出しての『東尋坊』から再度のサイレント・ディナー この攻撃にはさすがのダルマーも耐えられず、オバマガンダムが圧倒的な破壊力でダルマー相手にKO勝利を見せた 第4試合 ●モモタロウガンダム/ガンダムサンドヒル VS ネズミーガンダム/イズモガンダム○ かつてタッグを組んだモモタロウとサンドヒルがネズミー・イズモタッグに挑む 砂嵐を吹かせるサンドヒルは砂塵地獄で二体を同時に攻撃。さらにその砂嵐を目くらましに接近したモモタロウが鬼切刀を突き出す だが『神舞・黄泉』で斬り払ったイズモが八百万砲を展開、砂嵐めがけて撃ちこむと、ミツキー&ミイニーボディに分離したネズミーもクラッカー型拡散カラフルビーム砲でビームの雨を浴びせる 激しいビーム攻撃に対し『百鬼夜行』で囮と攻撃を兼ねる妖怪砂像を作り出すサンドヒルを、モビルドッグと合体したモモタロウが支援 押されながらも倒れないネズミー・イズモタッグは余裕の構えを崩さない。モモタロウのモビルアニマル攻撃を分離ボディと著作権の怪しいサポートメカ達で迎撃するネズミー さらにその間を縫って草薙の剣を振り回し『神舞・岩戸』を繰り出すイズモ、二体の攻撃がサンドヒルとモモタロウにダメージを負わせ、試合は互角の長期戦となる 終盤、ネズミーがばら撒いたダミーバルーンとバルーンボムに足を止められるサンドヒルとモモタロウに、イズモの『神舞・草薙』が決まる ついに試合は決し、長期戦を制したのはネズミー・イズモタッグ。意外に見事な連携で勝利を収めた 第5試合 ●ガンダムコシヒカリ VS タイガーガンダム○ エキシビジョン初日の最終試合は伝説の農家駆るガンダムコシヒカリと猛虎タイガーガンダム 「先手必勝・・・行かせてもらうぞ!」 と意気込むコシヒカリはライスボールボム、脱穀マシンガンを軸に射撃戦を展開 対するタイガーもライスボールボムをタイガーホームランで打ち返すなど奮闘するも、トキ形態への変形や地雷型ライスボールボム等多彩な戦法に押され始める コシヒカリは隙を逃さず、動きの鈍ったタイガーに寒冷雪崩天鳥拳、毘沙門アタックの必殺の一撃。徐々に趨勢は傾いてゆく 勝負はもはや決したかと誰もが思いはじめたその瞬間、「まだまだじゃーい!」自らを奮い立たせるように立ち上がるタイガー 会場のタイガーへの祈りが通じたのか、はたまた虎の気高き意地か。タイガーはバットで弾丸をはじき返しつつ一気に間合いを詰め、怒涛の反撃に移る タイガーファングで飛びかかった後、まさに大・乱・闘と呼ぶに相応しい猛攻を繰り出し、さすがにたまらずコシヒカリは沈黙 「逆転ホームランじゃー!」と勝利に喜びを隠せないタイガー。華々しく劇的な九回裏の大逆転勝利を収めた エキシビジョンマッチ(2日目) 第1試合 ○ガンダムチェリー VS ネーブルガンダム● 以前タッグを組んだよしみかはわからないが、ネオ愛媛ミカンガンダムの熱烈な声援を受けるチェリーガンダムは、 軽やかな動きでネーブルを近づかせず、弓の連撃を雨の如く放つ 対するネーブルガンダムはチェリーの動きを止めようと全範囲に『ネーブルスプラッシュ』、 そしてポンジュースレインの二連打を叩きこむが、チェリーの息もつかせぬ攻撃の前にあえなく敗れる チェリーの何に注目しているのか、会場の熱烈な歓声を味方につけたガンダムチェリーが勝利した 第2試合 ○マリンザク(シーランド仕様) VS ガンダムケツサイズ● 何を思ったかマリンザク(シーランド仕様)に乗って試合に挑もうとするフォートレスのサポーターを思いとどまらせるため、 日本ガンダムファイト委員会の委員長自らが、委員会公認MF・ガンダムケツサイズで戦いに臨む シーランドライフルから攻めるマリンザクに対し、ケツサイズはビームの大鎌を振りかぶって応戦 熾烈なフィンガー攻撃を紙一重でかわし続けるマリンザク、委員長のダンディヴォイスが会場に響く マリンホークで大鎌を受け止めたマリンザクは格闘戦は不利と見て240mmバズーカを発射、直撃したケツサイズはこの一撃で破壊される 第2試合延長戦 ○マリンザク(シーランド仕様) VS 日本ガンダムファイト委員会(生身)● 勝負あり……かと思いきや機体から抜け出した委員長は生身で応戦すると言いだす 「MF相手に生身でだと!?・・・くっ、なめるな!」と攻撃をかけるマリンザクだが、委員長の神速の動きを捉えきれず、逆に右腕を吹き飛ばされてしまう 生身の委員長めがけて3連装ロケット弾を発射するマリンザクは、委員長の怒濤の攻撃に押されつつも倒れず、一進一退の攻防を見せる 「ザクタイプでこの力!? シーランド広国…侮れん……」と委員長に言わしめるほどの力を見せるマリンザク、しかし委員長の投げた椅子に手痛いダメージを受ける 委員長にメインカメラまで破壊され、なすすべなく追い詰められたかに見えるマリンザクは最早ボロボロであった だが次の瞬間、「公国の力、甘く見るなっ!」と放たれたマリンザクの一撃に不意をつかれ、ついに膝を突く委員長 今度こそマリンザク(シーランド仕様)が勝利したものの、生身でMFを追い詰めた委員長の心は伝わったものと思いたい 第3試合 ○ナットウガンダム VS ヒグラシガンダム● 開始直後、いきなりキナーゼウェブからスケサン拡散砲を放つナットウガンダムに対し、ヒグラシガンダムはライチョウを連射しながら距離を取る それを印籠シールドで防ぎつつ、大技『ナットウストリーム』を繰り出すナットウだが、ウーカイミサイルをばら撒いてなんとかしのぐヒグラシを中々捕らえきれない 連発されるナットウのネバネバネットとスケサン拡散砲。会場から怪しげな視線がヒグラシに注がれる中、ヒグラシはギフワガサを展開し、 チャージ時間を稼ぐためヒートナタで切りかかる。ナットウの攻撃が徐々にヒグラシを絡め取る中、ついにチャージの完了した『スーパーカミオカンデ』を発射するヒグラシ 極大ビームの攻撃をくらったナットウはかなりのダメージを受けるが、粘りに関してはナットウの右に出る機体はいないと尚も攻撃の手を休めない ついにネバネバネットがヒグラシを捕らえ、ギフワガサの展開でナットウの拘束を解こうとするヒグラシにナットウのとどめの一撃が直撃 接戦を制し勝利したのはナットウガンダム。サンドヒル以外に白星のつかないヒグラシに、サンドヒルキラーの噂が囁かれる 第4試合 ○アマクサガンダム VS 甲賀式シノビガンダム● ビームサイズで強襲するアマクサガンダムの攻撃が二連続けて甲賀式シノビガンダムをとらえる 「私の実力を思い知らせてやるのじゃ!」とサイズとソードを切り替えつつ攻めるアマクサに対し、甲賀式も負けじと猛攻を見せるが今一つ相手に決まらない 万能武器・ビームロザリオをアローに変えたアマクサに、甲賀式は手裏剣とまきびしから恐車の術と次々に攻撃をかける ついに中盤、怒濤の攻撃を仕掛けながらも素早い動きでアマクサを翻弄していた甲賀式の『三日月法陣』がアマクサに直撃 あと一歩と言う所までアマクサを追い詰めた甲賀式は、勝負を決めようと連撃を繰り出していく 何とか逃げ切りたいアマクサは終盤、必殺の『ヘブン・ナガサキ・スロープ』で甲賀式に突撃 これをまともに受けた甲賀式はダウンし、追い詰めながらもわずかに力及ばず敗北。勝利の女神はアマクサガンダムにほほ笑んだのであった エキシビジョンマッチ(3日目) 第1試合 ●サイキョウガンダム/ナニワガンダム/シャチホコガンダム VS めんこいガンダム/ガンダムウェルチ/ガンダムシーガイア○ 観客から三馬鹿と言われるサイキョウ・ナニワ・シャチホコ。開始から意見の不一致を起こし、三人同時に突撃をかける 一番槍とサイキョウの一撃が相手チームに打撃を与えるが、対して三賢者と呼ばれるめんこい・ウェルチ・シーガイアも負けじとこれを返す めんこいが得意の防御力で攻撃を防ぎ、ウェルチがグレイプビットを射出、さらにシーガイアが突撃と即席の役割分担を行う ノブナガモードからムラマサで接近戦を挑むシャチホコは、得意の火力攻撃と共に距離を詰め、また同じく接近戦を得意とするサイキョウ・ナニワもこれに乗じて連続攻撃を試みる だがハイパー宮崎タイムと称し、怒濤の乱舞を見せるシーガイアは必殺技『太陽の卵』を放ち、鬼人のごとき活躍を見せて飛び回る またウェルチもビット攻撃でこれをサポートし、めんこいも激しい三馬鹿チームの攻撃を強固な装甲でことごとく受け止める とにかくめんこいを潰さなければ攻撃が通らないと、三人同時攻撃『十万石天下人スープレックス』でめんこいを一斉に狙う三馬鹿 さすがに傷ついためんこいは後ろに下がり、その隙を逃さずビームハリセンとムラマサでの『ダブルハイパービームスラッシュ』、さらに捨て身での特攻をかけるサイキョウ・シャチホコ・ナニワであったが、 傷ついた装甲を捨て突撃するめんこいの『ロックハンドスマッシュ』ととどめとばかり放たれるシーガイアの『フェニックス・オーシャンレイジ・ブラスト』で勝負は決した シーガイアの大活躍と見事な連携プレーで勝利したチーム三賢者であった 第2試合 ○ヒグラシガンダム/めんこいガンダム/ガンダムアルプス VS ナットウガンダム/ウドンガンダム/ガンダムフォートレス● ヒグラシ・めんこい・アルプスの三人娘チームに対するはデータ接収を得意とするフォートレスに加え、拘束攻撃の得意なナットウ・ウドンの束縛チーム 序盤、まずはデータの分析を始めるフォートレスと、キナーゼウェブで物理拘束をかけるナットウ。会場から怪しい声援が飛ぶ 会場からのコールに激昂するヒグラシはヒートナタで突撃、さらにアルプスも長大な槍、一万尺を振り回してこれに乗ずる フォートレスがデータヘイブンにより解析した情報をナットウ・ウドンに送り、さらに自身も巨大な体からパンチを繰り出す 送られた情報により動きの良くなったナットウ・ウドンはキナーゼウェブと『白い力』でアルプスを完全に拘束する だが止められないヒグラシの猛攻、さらに前の戦いで消耗しているめんこいも砲撃でこれをバックアップし、徐々にチーム束縛を追い詰めていく ついにフォートレスの情報解析が全て終了。ここから反撃と行きたいチーム束縛だが、チャージの時間をもらったヒグラシの『スーパーカミオカンデ』が火を噴き、吹き飛ぶ三機 反撃に転じようとする三機だが、拘束を解かれたアルプスの追撃とヒグラシの新技『関ヶ原の豪雨』によるビームの雨、さらに零距離から放たれたカミオカンデの一撃で完全に沈黙 乙女の逆鱗に触れた男性陣チームは完敗、ヒグラシ・めんこい・アルプスの三人娘チームがこれに勝利した 第3試合 ●ガンダムマロウルフ/ガンダムリョウマ VS ダテ・ガンダム/ガンダムビャッコ○ 剣の使い手が集まった第三試合、サムライ勝負に会場の注目も集まる 五色沼光学迷彩を展開させ、全開で攻撃をかけるビャッコと、剣術なら一日の長があると構えるダテ だが、北辰一刀流の他に拳銃も持つリョウマと、蹴鞠爆弾からミブウルフモードに移行して激しく打ちかかるマロウルフに押されていく 協力して『龍虎十文字斬』を放つダテ・ビャッコだが、「剣じゃ銃にはかなわんぜよ!!」と距離を取ってビームピストルを撃ってくるリョウマの攻撃に苦しむ 狼の如き鋭い斬撃で斬り込むマロウルフと、リョウマの的確な射撃の前に追い詰められるダテ・ビャッコだったが、 ついに本気を見せたダテ必殺の『独眼龍突き』が二体を一気に葬る。ダテガンダムがマロウルフ、リョウマをまとめて一閃し、ダテ・ビャッコチームが勝利を掴んだ 未だ衰えていなかったダテの力は、ビャッコも「さすが師匠・・・」と驚いていた 第4試合 ●ネブタガンダム/ガンダムチェリー VS メディカルガンダム/カブキガンダム○ 遠距離からの狙撃を得意とするネブタ・チェリーに対し、接近戦と回復のカブキ・メディカル 凄まじい格闘術を持つカブキをなんとか近づかせまいと弾幕を張るネブタ・チェリーだが、メディカルの回復を背後に砲火を気にせず松風で突っ込むカブキ 接近戦は挑みたくないネブタ・チェリーは退きながらも精密狙撃、さらにチェリーのチェリーボムの連打でカブキの突撃を阻もうとする カブキもダメージは受けているものの、その傷はメディカルが即時修復させていくため、カブきの突撃は止まらない 追い詰められたネブタ・チェリーは肉弾戦を挑むもカブキの高速戦闘の前に敗れてしまう それぞれの役割をうまく果たしたカブキ・メディカルチームが見事勝利した 第5試合 ○メイプルガンダム/ギョクロガンダム VS 伊賀式シノビガンダム/甲賀式シノビガンダム● 東と西の親分が乗るチーム極道メイプル・ギョクロに対し、二機のシノビガンダムで立ち向かうチーム忍道 初撃から手痛い打撃を受け、さらにギョクロのうなぎウィップで追撃を受ける伊賀甲賀のシノビ二機は同時に姿を消す だがなおも攻撃の手を緩めないメイプルギョクロに、伊賀式は伊賀式忍闘法・芭蕉脚、半蔵鬼撃で迎撃するも、 ギョクロによる茶葉ストームの援護を受けるメイプルの必殺『紅掌砕』が反撃する だが二機のシノビは見事な連携で神速の一撃を与え、さらに甲賀式が水遁・琵琶龍波で追い打ち しかし今度はギョクロがメイプルの支援を受け、『スカイラブハリケーン』、さらに二体のビットMSとの連携『スカイラブサイクロン』で二機のシノビを追い詰める シノビ二機は連携して、双賀忍法『重ねカマイタチ』を放つもメイプルのシャモジにクナイをたたき落とされる 後の無くなるシノビ二機は最後の大技と双賀忍法『水遁・双龍撃』で勝負をかけるが、メイプルとギョクロのパワーの前に敗れる 切れ者の忍者コンビ相手に、極道コンビが堂々の勝利を収めた エキシビジョンマッチ(4日目) 第1試合 ●ダンノウラガンダム VS ヒノクニガンダム○ 熱く燃える戦いが予想される第一試合 ダンノウラはじりじりと様子を見るが、「お前ごと打ち上げてやるぜ!」 とヒノクニは得意の火炎を連発 しかしダンノウラの『怨霊フィンガー』をまともにくらってしまい、劣勢に追い込まれる だが火炎拳の連発から『瞬獄火炎爆破』を繰り出し、さらにとどめの火炎拳がダンノウラを燃やし尽くす 一日に行われる試合数としては最多クラスの8試合が行われる本日、最初の勝利はヒノクニガンダムが掴んだ 第2試合 ○ガンダムマロウルフ/ダルマーガンダム VS ウドンガンダム/ガンダムコシヒカリ● 意気投合したマロウルフとダルマーは開始直後から有効打を相手に与え、さらにマロウルフの『和歌合戦』が追い討ちをかける ウドンとコシヒカリも『白い力』による拘束から得意のマシンガン攻撃をかけるも今一つ有効な攻撃にならずじまいである マロウルフの攻撃に翻弄される二機を転がるダルマーが一網打尽と襲撃し、この攻撃に二体はダウン 比較的勝ち星の少ないファイターが集まったこの試合、ガンダムマロウルフとダルマーガンダムのダルマロコンビが勝利した 第3試合 ●サイキョウガンダム VS ガンダムベイスター○ 一人身のサイキョウは妻子持ちのベイスターに嫉妬し序盤から激しい攻撃を仕掛ける 生々しくも醜い互いの言い争いに、会場にもやや殺伐とした空気が流れる 得意の十万石ナックルで攻めるサイキョウに対し、ベイスターはショーナンビッグウェーブで強襲、ビットともに激しく攻撃する 不利な状況に立たされたサイキョウは逆転を狙い『サイキョウスペシャルキック』を放つが、ベイスターのカウンターの一撃に敗れる 立場の違う男同士の意地がぶつかり合った試合は、人生経験の差か、ガンダムベイスターの勝利に終わった 第4試合 ●ナットウガンダム/ナマハゲガンダム VS メディカルガンダム/モモタロウガンダム○ 拘束を得意とするナットウと、速攻でパワー勝負を仕掛けるナマハゲは、互いの長所を生かして連携攻撃を行う だがキナーゼウェブによる攻撃もなんのその、メディカルは軽々と拘束を解いて『トヤマミラージュ』で作り出した分身と共に一斉攻撃をかける いつも組んでいる相手の陰に隠れがちと嘆くモモタロウも「今回は派手に行ってやる!」と意気込むが… ビームメスの的確かつ素早い斬撃が相手の急所を突き、さらに性能強化で怒濤の攻撃を見せるメディカルが、 ナマハゲのパワーとナットウのネバネバネットをかいくぐり勝負を決める 強化したメディカルガンダムがモモタロウガンダムとのコンビで鮮やかな勝利を決めたが、モモタロウはまたも活躍しきれなかったようである 第5試合 ○ヒグラシガンダム/ガンダムサンドヒル VS ネズミーガンダム/オバマガンダム● ネズミーの撒いたバルーンボムをかわすため地中に潜るサンドヒルと、その後を行くヒグラシ 砂の中からライチョウのビームを連射し、さらにヒートナタとアームドリルで奇襲をかけるサンドヒル・ヒグラシだが 「お前らじゃ無理」とタッグ技『エレクトリカルパレード・クライスト』を放つネズミー・オバマも負けてはいない 熾烈な攻防が続く中、マントでオバマの視界を奪ったサンドヒルがドリルで攻撃、オバマの装甲をぶち抜く クリスマス仕様の特別クラッカー砲でネズミーがサンドヒルを引き離すも、オバマのダメージは深刻である さらにサンドヒルの砂塵地獄により足をとられた両機をヒグラシの『スーパーカミオカンデ』がとらえ、オバマの『サイレントディナー』もろとも撃ち抜く とどめのヒートナタが両機を完全に沈黙させ、ヒグラシ・サンドヒルチームが見事な連携で勝利した 第6試合 ●ダテ・ガンダム/ガンダムリョウマ VS ガンダムEg250/ガンダムフォートレス○ データヘイブンを起動させEg250をサポートするフォートレス、それに対するリョウマは先手必勝と攻撃を仕掛ける ダテもそれに乗じて『萩の月』を放つが、フォートレスの支援によって調子を上げたEg250の攻撃が見事にヒット。実に一瞬の勝負であった 見事勝利したEg250・フォートレスチーム。フォートレスにとっては初めてとなる勝利である 第7試合 ●ナニワガンダム/タイガーガンダム VS ガンダムウェルチ/オンセンガンダム○ 得意の『間欠泉スプラッシュ』で攻めるオンセンに、ナニワ・タイガーは接近戦を挑もうとタコヤキマシンガンを乱射しながら近づいて行く 関西どうし気が合うのか、漫才のごときかけ合いをしゃべくりながら攻撃をかけるナニワ・タイガー ウェルチもオンセンの言い間違いに突っ込みを入れながら援護する。試合終盤、オンセンの必殺技『ジゴクオンセンメグリ』が二体を捉えて打ちのめす この攻撃で二機はダウン、勝利したウェルチ・オンセンコンビであった 第8試合 ○イズモガンダム VS アマクサガンダム/ガンダムチェリー/ガンダムリョウマ● 少年たちのイタズラにより茶器を壊され怒ったイズモが三対一の戦いを挑む 「童共、灸をすえてやろうぞ……」と独特の剣技・神舞を操り草薙の剣で三人を攻めるイズモだが、 「いくら僕たちが子供だからって…」「三対一はなめすぎぜよ」と立ち向かう少年チームにさすがに苦戦を強いられる だがアマクサのビームロザリオを展開しての防御も空しく、神舞『黄泉』、さらに『草薙』の連撃が少年チームを一気に打ち破る 3対1のハンデにも関わらず相変わらずの強さで勝利したイズモガンダム、しかし壊れた茶器は帰ってこないのであった…… エキシビジョンマッチ(5日目) 第1試合 ●ミカンガンダム/ナルトガンダム VS ネーブルガンダム/モモタロウガンダム○ ミカンが得意の打撃戦を仕掛ける中、モビルバードをネーブルに貸したモモタロウはモンキーと合体 空中地上から剛腕とネーブルスプラッシュによる同時攻撃をかける 「俺は今日こそお前を超えるッ!」とミカンの陰に隠れがちなネーブルが叫ぶ。しかしミカンのデンプシーロールとナルトのメイルシュトロームに押され気味 目潰しで間節攻撃に移行したネーブル、空からのモモタロウとの攻撃で徐々に巻き返し、ついに『ネーブルスプラッシュ』が相手にクリーンヒット モモタロウも四体合体『対鬼ヶ島形態』で一気に勝負を決めに行く。海賊団の声援をバックに「死にやがれ!!」と吠えるナルト 蜜柑同士の意地をかけてぶつかり合うネーブルとミカン、だがついにモモタロウ・ネーブルコンビが相手を押し切る 戦いを制し勝利をつかんだのはモモタロウ・ネーブルコンビであった 第2試合 ○カキョウ・マエダ(カブキGF) VS 日本ガンダムファイト委員会(生身)● 先日の戦いぶりを見て、生身でガンダムファイト委員会の委員長と戦いたいと申し出たカブキファイター 何と委員長はこれを承諾。リアルファイト委員会の助けを借り、日本ガンダムファイト初の生身の人間同士の試合となった 初撃からの委員長の椅子攻撃をひらりとかわし突撃をかけるカブキファイターは、朱槍(ビームスピアではない)で委員長に鋭い突きを食らわせる 対マリンザク戦で見せた神速の委員長の動きにも難なくついて行くカブキファイターは、カブキフィンガーと称する攻撃から五連撃をたたき込み、 とどめと得意技『漢気一本背負い』で委員長をノックダウン 「わぁっはっはっは!楽しい喧嘩だったぜ!あばよ!」と鮮やかな勝利を手に、颯爽と愛馬松風と共に去って行ったカブキファイターであった 第3試合 ○トンコツガンダム/ウォシュレットガンダムマークⅡ VS ウドンガンダム/ガンダムビャッコ● 一応福岡出身である復活したウォシュレットガンダムMk-Ⅱが、同じ福岡出身のトンコツとタッグを組んでビャッコ・ウドンと戦うことに 同じ麺職人としてぶつかり合うウドンとトンコツをよそに、ウォシュレットの相手をすることになったビャッコは汚水攻撃に及び腰 ウドンの『地獄釜茹で落とし』とトンコツの『ディバイン麺バスター』がぶつかり合い、スパークする ウドンの麺の舞で押されるトンコツ、一方横ではビャッコの必殺『スプラッシュ・イナワシロ』が炸裂するも、水流攻撃を得意とするウォシュレットがそれを軽くいなしてしまった 「今までの俺と同一視されて貰っちゃ困るぜヒャッハー!」と放たれるウォシュレットの必殺技『クラーシアン』 この攻撃でビャッコ、そしてウドンまでもが押し流され、トンコツ・ウォシュレットの福岡チームが勝利を遂げる 蘇ったウォシュレットガンダム、その力は未だ未知数である 第4試合 サバイバル(全員参加)○甲賀式シノビガンダム KOGF最後のエキシビジョンは、全員参加のサバイバル戦 流石に決勝リーグに進んだ機体達は目立った動きを見せる。その中にあってメディカル・ミカンと言った機体も活躍 逃げの一手で機会をうかがうサイキョウ、挑発するサンドヒル、松風で大暴れするカブキに混じってシーガイアやダテも動きだす 密かにウォシュレットが野望を企てるも、飛び交う流れ弾にあえなく撃沈。互いが互いを打ち倒していく中、暗躍する黒い影、 進む戦いの中、弱った機体は次々と落とされていく。最後に立っていたのは一体一体を確実に仕留めていった甲賀式シノビガンダム 大混戦の中久しぶりの勝利を掴み、ここにエキシビジョン全試合が終了した