約 2,060,868 件
https://w.atwiki.jp/3size/pages/2524.html
『リーガル・ハート』 出演者情報 役名 名前 年齢 身長 体重 B W H カップ 更新日 永井茜 小池栄子 41 166 60 91 59 87 F 2009/10/06 村越祥子 和久井映見 50 158 45 82 57 85 2010/02/18 ゲスト 第2話(2019/7/29)ゲスト 役名 名前 年齢 身長 体重 B W H カップ 更新日 花塚千束 矢田亜希子 42 163 83 58 83 2010/02/01 第4話(2019/8/12)ゲスト 役名 名前 年齢 身長 体重 B W H カップ 更新日 井上純夏 松井玲奈 30 162 75 52 85 2016/01/20
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/824.html
初バトル、七月七日、七夕。 一ヶ月の間、私は数十店の神姫ショップを歩き回った。地元の茶畑が広がるような田舎では流石にショップはないので、電車で一時間、お隣の県の大都市まで足を伸ばしたり、バスで三十分揺られ最寄りの商店街をブラブラしたりした。 というのも、お兄ちゃんが買ってきた神姫、マリーは素体のままで武装やアクセサリは全く無かったからだ。私は特別バトルがしたいというわけでもなかったので、彼女が身に付けるものは彼女に選ばせようとして、彼女が気に入るものが見つかるまでいろんな店を回っていたのだった。 まずマリーはあまり実戦的ではなく、どちらかというと観賞用のウォードレスを選んだ。一応ワンピースのそれは防御力はあまり期待できないものの、フリルの可愛いディティールは全部自動迎撃用のレーザーガンで、また申し訳程度の飛行機能も付いていた。 「すごいすごい!マリーが浮いてる」 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら彼女は私の周りを何週か回って見せた。 「便利ですわ」 彼女は私の左肩に着地した。それから私を見上げて微笑む。 彼女の笑顔は完璧、百点満点だと思った。 別の日、彼女はようやく武器を手にした。彼女は先に買ったウォードレスに合わせてその武器――ロンブレル・ロング(L'ombrelle longue)を選んだようだ。 それはどうみても、日傘。日傘(L'ombrelle)って名前付いてるし。武器の性能としては、ライトセーバーとライフルの能力を併せ持つハイブリッドウェポン。ライフルは威力も装弾数も実戦で使えるギリギリのレベル。まあ、早い話がこれもまた観賞用のアクセサリなのだ。 「可愛いよ、マリー」 「ありがとうございます。わたくしもこれで、いつでもバトルが出来るようになりましたわ」 マリーは傘を開いて傾きかけた日差しを遮る。淵の白いフリルが揺れた。 「え?マリーはバトルしたいの?」 左肩に座っていた彼女は私がそう問いかけると、浮き上がって私の胸前にやってきた。私が歩くのと同じ速度で移動し続ける。 「だってわたくしは武装神姫ですのよ?」 「いや、うん、そうだけど。だったらもう少し強そうな装備選んでもいいんじゃない?」 「ダメですわ。時裕様がわたくしは人形型だとおっしゃっていました。ですからわたくしは人形らしく振舞わなければいけませんの」 ああ、そういえば細かい設定は全部お兄ちゃんに任せていたな、と私はぼんやりと思い出した。神姫の性格がCSCの埋め込み方によって変わるといっても、もっと繊細なところはこちらで設定してあげなければいけないらしい。かなりめんどくさそうだったからお兄ちゃんに頼んだのだけれど、正直かなり失敗だったと思う。 「へえ、人形型なんだ」 「はい。人形型MMSノートルダムですわ」 勝手に決められたということを怒るよりも、私はやけに細かい設定に関心していた。 ノートルダムか、と考えると少しにやけてきてしまう。お兄ちゃんらしい名前の付け方だなと思ったからだ。 「でもバトルってどうやるんだろうね」 「とりあえず...ショップ設置の筐体で草バトルと呼ばれる非公式戦ですわ。」 私はふーんと鼻を鳴らしながら早速視線は最寄りの神姫ショップを探していた。 学校帰りの商店街には二店舗、神姫を扱う玩具屋があり、この近くにはそこしかバトル筐体を置いているところはなかった。 「あそこだね」 カトー模型店、商店街の長屋にあるお店としては大きいほうの店構えで、数ヶ月前に改装されたショップだ。もともと地味だった模型店がここまで立派になれるのも神姫ブームのおかげだろう。 午後五時半、私と同じように学校が終わった学生の神姫マスターたちが集まってなかなか賑やかだ。 「やあ、のどかちゃん、いらっしゃい」 「こんばんは、カトーさん」 マリーの装備を選ぶとき、最初に訪れたショップがここだった。お兄ちゃんもここの常連で、店長のカトーさんと顔見知りだということもあって、いろいろ相談に乗ってくれたのが強く記憶に残っている。カトーさんはここにないようなパーツを他の店にはあるからといって紹介してくれたりもしてくれた、いろんな意味でいい人だ。 「マリーちゃんもいらっしゃい」 「ごきげんよう、カトー様」 「ドレスモデルのウォードレスか。なかなか可愛い物を見つけたね」 マリーはスカートの裾を摘み、膝を折って行儀よくお礼をした。 「今日はお兄ちゃん、もう来ました?」 「時裕君?いや、そういえばまだ見てないなあ」 そうですか、と言って私は、私と同じ学校の学生服を着た男の子たちによってバトルが繰り広げられている筐体のほうへ視線を向けた。 お兄ちゃんは一度この店に足を踏み入れると三時間は出てこないので、もしお兄ちゃんが店にいれば、今日は止めておこうと思ったけれど、カトーさんの言葉を聞いていよいよ心臓がドキドキし始める。 「バトルかい、のどかちゃん」 カトーさんは丸い黒縁眼鏡を掛け直しながら言った。 「はい。初めてなんですけど...」 「そりゃよかった。やっぱり武装神姫はバトルが一番楽しいからねえ。次、席空けてもらうからちょっと待っててね」 そう言ってカトーさんはカウンターから出て、つかつかと盛り上がる一方の筐体のほうへ歩いていく。そして学生服の男の子たちと話始めた。 そのうち何人かが私のほうをちらっとみる。その中に同じクラスの藤井君の姿が見えたので少し手を振った。ただ私に気づいているかどうかはわからなかった。 「緊張するね、マリー」 「大丈夫ですわ。きっと」 少し経って、カトーさんは手招きで私たちを呼ぶ。私は背筋を伸ばして恐る恐る筐体へ向かい、マリーはその後を飛びながらついて来る。途中、やっと藤井君も私たちに気づいたようだった。 カトーさんの横にはこの店では珍しく、女の子が立っている。彼女もまた男の子たちと同じように私と同じ学校の制服、というか私と同じ制服を着ていた。 「丁度いい対戦相手が見つかったよ」 と言ってカトーさんは傍らの女の子の肩をぽんと叩く。 「彼女は先月神姫バトルを始めたばかりなんだ。ね、香子ちゃん」 「よ、よろしくお願いします」 その女の子は右肩に神姫を乗せたまま深々と頭を下げる。当然、彼女の右肩に座っていたジルダリアタイプの神姫は声を上げながらずり落ちた。しかしその神姫は落ちていく途中、一回転してから急に落下を止めて腕を組みながら少しずつ浮き上がっていった。 そしてそれに気づいた女の子が顔を上げて、その神姫のほうを見るまで口を尖らせ続ける。 「あ...!ごめんなさい」 「もう少しまわりに注意してくださいね、マスター」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」 女の子はすっかり私を忘れて彼女の神姫に謝り続ける。その様子をまわりの男の子やカトーさんがくすくすを笑った。 「も、もういいですっ。それよりみなさんが...その...見てますから...」 それが恥ずかしかったのか、女の子の神姫は少し頬を赤らめてどんどん声量を落としていった。 俯きながらちらりと私たちを見て、話を変えて、と訴える。 神姫でもそんな表情をするのか、と感心した私は急いで自己紹介をした。 「えっと、七組の月夜のどかです。こっちはマリー」 「ごきげんよう、マリー・ド・ラ・リュヌですわ」 女の子は思い出したように私たちのほうを見る。 「あ、はい、五組の斎藤香子です」 「ジルダリアのラーレです。よろしくおねがいします」 私の通う高校の一年生は、九クラス三百六十人。私は五組には一人も友達がいない――もちろん偶然だ――ので、彼女とは初対面だったことも納得がいく。 「じゃ、挨拶が済んだところで、早速バトルにしようか」 私も香子ちゃんも、そしてマリーもラーレも、そう言ったカトーさんのほうを向いてはい、と返事をした。 作品トップ | 後半
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2832.html
ぶそしき! これから!? 第0話 『トモダチ』 0-3 「……あ」 神姫センターの店員神姫に武装神姫について色々説明してもらった帰り道に、ふと思い出す。 ネットで武装神姫の取扱店を検索した際に、先ほどの神姫センター以外にももう一件あったことを。 今の所からそれほど遠くはない。 少し寄り道する程度の所だ。 わずかに逡巡し、今回はちょっと覗くだけと、その場所に向かう。 「あった」 携帯のナビで特に苦労することなく、もう1つの神姫取扱店に到着する。 ――『おもちゃ屋スターフィールド』 中古品も取り扱い、売買する旨が看板に書かれていた。 薄暗い感じはない。 戸惑わず子どもでも入れる、そんな感じの店だ。 「いらっしゃいませ」「い、いらっしゃい……」 入るとカウンターから声がかけられる。 店内は清掃が行き届いていて清潔で明るい。 近くの棚を見ると、ロボットもののプラモに武器セットが並べられている。 少し奥の方を見ると武装神姫のUSEDコーナーが見える。 行こうとして、ふと気づく。 カウンターに人の姿がない。 「あの、今店長が留守にしているから、あたし達が店番をしています」 「な、なにか御用でしょうか」 よく見ると、カウンターには店の名前が書かれたエプロンらしきものを着た緑髪と黒髪の2体の神姫の姿がある。 黒髪の神姫は何故かメイドさんの衣装を着て、恥ずかしげにしている。 「ええと、ちょっと中古の神姫が見たくて……」 黒髪の神姫があまりにも恥ずかしそうにしているので、何か見てはいけないものを見てしまった気分になる。 少年も少し恥ずかしくなりながら要件を話す。 「……」 緑髪の神姫が黒髪の神姫を少し見やり、一息ため息をつく。 あの様子では接客は無理だろうと判断する。 「あたしが案内します。ハーティア、レジお願い」 「ま、マリーベル。分かったよ」 相方に頼み、マリーベルと呼ばれた緑髪の神姫が少年に向かう。 「お客様、手に乗らせてもらってもいいですか」 「あ、うん、いいよ」 提案に素直に頷き、少年がその手を差し出す。 「失礼します」 一言断りを入れてから、カウンターから一飛びして軽やかに少年の手に乗る。 ■ ■ ■ 「そこを右に曲がった棚が、武装神姫の中古素体の場所です」 誘導に従い、少年は歩を進める。 手の上の神姫を見て、ふと浮かんだ疑問を問いかける。 「……ねえ」 「はい、何ですか?」 手の上の神姫が静かな口調で答える。 「君ってマオチャオ?」 「……そうです。あたしは猫型MMSマオチャオのマリーベル」 答えが簡潔に返ってくる。 「ええと……」 「あたしは他のマオチャオの性格と大きく違うから、お客様が疑問に思うのも当然です」 少年がさらに聞く前に、マリーベルは静かな口調で話す。 その様子は実際に見た、話に聞いたマオチャオという神姫のハイテンションのものとは大きく異なる。 「神姫にも色々います。あたし達みたいな変わり者だって当然いる。……あたし位で驚いていたら、これからもっとびっくりすることになるよー」 最後に基本的なマオチャオの真似をして、冗談っぽくマリーベルが言う。 しかし、表情は少年の知っているマオチャオの元気いっぱい天真爛漫の笑顔ではなく、どちらかといえば少し固く、儚い感じの笑みだ。 その笑みの違いが、少年にも神姫も色々であることを実感させる。 「あ、うん。……よく分かった」 「あ、お客様」 ちょっと考え事をしていると、マリーベルから呼びかけられる。 「通り過ぎてます。USED素体の場所」 「――え?」 そそくさと戻り、少年は武装神姫の中古素体の陳列棚に目を見やる。 「……あ、神姫センターで見た新品のよりすごく安い」 少年の懐具合で考えれば、それでもまだまだお高い値段だ。 しかし、手が届かないほどではない、そんな具合だ。 「神姫センターは基本定価だから。それにこのお値段は武装なしのUSEDですから」 「そうなんだ。えと、買ったら動かないとか、何か問題が起きたりとか、しないよね」 ふと思った疑問をマリーベルに尋ねる。 「ええと、そこは――」 「ソフトもハードもチェック済み。起動しないということはないよ。 保証期間も付いてるから、起動後に何かトラブルがあっても安心。 今なら素体のリペイントサービスもしていて、買ってくれた神姫をお好みの色に染めあげれるよ。 ボス……店長がいれば、起動やユーザー登録などの作業も手伝ってくれるよ。お買い得だね」 「そうなんだ、ありがと……って誰?」 少年の疑問にマリーベルではなく、別の声が答える。 「あ、セラ姉さん」 マリーベルが声かけた方を見ると、そこにロングの青髪の神姫がいた。 その神姫は長袖長裾のゆったりした服を着て、その上に店名が書かれたエプロンを着ていた。 メガネをかけているせいなのか別の理由なのか、少し理知的でどことなく落ち着いたような雰囲気がある。 「悪魔型MMSストラーフのセラフィルフィスだよ。よろしくお客様」 「あ、よろしく」 挨拶されて、少年は思わず挨拶し返す。 「マリーベル朝から店番ありがと。今バッテリー残量少ないでしょ。 お客様、よければあたしがマリーベルの代わりに案内と説明をさせてもらうけど、良いかな」 「あ、うん。いいよ」 少年に了解を求めるセラフィルフィス。 バッテリー残量少ないなら仕方ないよねと了承する。 「でも、あたしまだ――」 「いいから。お客様も了解してくれたし、しっかり一休みしなさい。無理をするのはマリーベルの悪い癖だよ。それに戻って店長に店番したこと褒めてもらいなよ」 優しく諭すようにセラフィルフィスはマリーベルに声をかける。 「分かった。失礼します、お客様」 マリーベルはぺこりと少年にお辞儀をして、手から降りてトテトテと走って去っていく。 そんな様子を少しかわいいな、と思いながら見送る。 「さて、お客様、マリーベルに代わりましてセラフィルフィスがご案内させていただきます。何かお探しのもの、またはお聞きしたいことなどありますでしょうか」 マリーベルを見送ると、セラフィルフィス茶目っ気を入れながら挨拶し、最後にウインクする。 「ああ、うん。そうだねー……」 棚を見やる。 そこには悪魔、天使、犬、猫、侍、騎士、種、花、鳥、人魚、兎、砲、銃火器、イルカ、戦車、飛行機、カブト、クワガタ、蝶などなど様々なものをモチーフにした神姫の素体が並ぶ。 ふと、棚から目を離して通路の奥を見ると、カーテンで仕切られた空間が見える。 「ねえ、あのカーテンで仕切られたところって――」 「あそこは年齢が上の方々のコーナーです。お客様にはまだ早い場所ですから。 それよりも、何かお気になる神姫はありませんか? 今なら、この騎士型や戦車型、セイレーン型なんてお求めやすい価格ですよ」 にこりとやたら丁寧な口調で返され、さらに今のオススメの神姫を紹介される。 「あ、ホントだ。これなら、今まで貯めたお年玉とおこづかいで……。う~ん……」 「気になる娘がいたら、なんでも聞いてね」 値札を見ながら少年は悩む。 棚に戻し、値札を見て、を繰り返す。 時おり、質問をする。 セラフィルフィスはその姿を微笑みながら眺め、対応する。 ■ ■ ■ 「――あ」 気がつくと、窓の外はすっかり赤く染まってしまっている。 思ったより長い間、悩んでいたらしい。 「ごめん、帰らなくちゃ」 急いで帰らないと暗くなってしまうと店を出ようとする。 「あ、色々教えてくれてありがとう」 去り際に少年はセラフィルフィスにお礼を言う。 「どういたしまして。これ保護者同意書。また来てねー」 いつの間にか用意されていた保護者同意書を渡され、少年は見送られる。 出入り口に向かう際にカウンターが見える。 そこには店長と思しき大人の男性と、いつの間にかメイド服からツナギのような服に着替えた黒髪の神姫――教えてもらった通りなら、おそらく犬型MMSのハウリン――の姿があった。 「ありがとうございましたー」「ま、また来いよー」 声をかけられ、店を出る。 (家に戻って、お父さんが帰ってきたら、保護者同意書を書いてもらって、明日――) うきうきと軽い足取りで少年は帰宅する。 ――少年が神姫のマスターになるまであと22時間 前へ / 次へ トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2136.html
ウサギのナミダ ACT 1-19 □ その夜、俺は意識が妙にさえていて、眠れそうになかった。 だから俺は、PCの前に座って考える。 クレイドルの上で眠る、ティアの顔を見ながら。 どうすればティアを守ることができるのか、と。 考える。 そもそも、神姫風俗は違法だ。 神姫風俗を経営している者も、それを利用した者も、法を破っていることになる。 神姫に性的虐待を与えていることになるからだ。 これはMMS保護法に抵触することになる。 だから、神姫風俗を経営する者も利用する者も犯罪者であり、明るみに出れば罰せられる。 MMS保護法は日本独自の法律であるが、神姫が浸透している国では似たような法律が制定されている。 その元となるのがMMS国際規約だ。 これはMMSに対する世界共通の認識を定める国際法である。 たとえば、神姫の大原則……一人の神姫に対し、オーナーは必ず個人であることは、この国際規約で定められている。 「心」に等しいAIを持つ神姫の権利についても、基本ラインについて言及している。 心のある人間のパートナーとして、神姫は保護されなければならない。 その理念のもと、MMS国際規約に批准している各国は、それぞれ独自のMMS保護のための法律を制定している、というわけだ。 もちろん、日本も例外ではない。 努力目標ではなく、ちゃんと罰則があり、違反者は実刑が課せられる。 その量刑は、動物愛護法よりも若干重い程度。 随分軽い気もするが、それは俺が神姫オーナーであることの贔屓目なのかも知れない。 それ以外に、他人の神姫を傷つけたりすれば、器物破損に問われる場合もある。 もちろん、他人の神姫を盗めば窃盗だ。 だが、神姫に対する、性的なものを含めた虐待は、表に出てこないだけで、潜在的に行われている可能性がある。 動物や児童に対する虐待同様、内にこもるため発覚しにくい。 周囲の告発によってはじめて発覚するケースがほとんどだ。 神姫虐待はさらにエスカレートしている傾向があるという。 神姫を「心を持つパートナー」としてではなく、「AIを搭載した小型ロボット」ととらえてしまうと、罪悪感が減ってしまうのだ。 悲鳴を上げていても、たかが機械、ととらえてしまい、普段は動物などにはそんなことしない人物であっても、面白半分に神姫を虐待するケースが増えているのだそうだ。 また、同じ理由で周囲が虐待を気にしない場合が多いという。 動物などなら気になるが、神姫は機械であるため、虐待という認識が薄くなる。機械が壊れたなら修理すればいい、という考え方もあり、神姫の「心」を認識していない場合があるのだ。 かつて児童ポルノ等で国際的非難を浴びた日本だが、神姫の性的虐待についても、国際的に疑惑の目が向けられている。 日本がMMS先進国であることも要因の一つではある。 しかし、ホビーの対象に性的な視点を求め、それを推し進めてしまうのは、日本のマニアの特別な性癖なのかも知れない。 ネットに流れている神姫ものの十八禁画像や映像は、その半数以上が日本から配信されているという説もある。 また、内容が過激なのも日本発の十八禁ものの特徴だった。 特に過激だったという、今世紀初頭のアダルトゲームの内容を参考に、それを再現するプレイを神姫に強要する。 そんなことは神姫に対する虐待に他ならない。 そして、その映像が神姫虐待を助長しているという人もいる。 そのような画像や映像が、なかば公然と流通しているのだから、流通元と思われる日本が、MMS国際規約批准国から非難を受けるのはむしろ当然のことだった。 しかし、こうした神姫虐待に対する取り締まりは、あまり厳しくない。 警察にもMMS犯罪の専門部署が設けられているが、神姫虐待に積極的ではない。 むしろMMSによって引き起こされる凶悪犯罪の取り締まりに躍起になっている状況だ。 関連犯罪が増えるのはブームの暗黒面であるが、ここのところ、神姫を利用した殺傷事件など凶悪犯罪が後を絶たず、こちらも社会問題になっている。 神姫の虐待事件よりも、人間に対する直接的脅威となっているし、事件性が高い。 先にも述べたように、神姫虐待事件は内にこもって行われる場合が多く、表沙汰になりにくい。警察もなかなか動けないのが実状だ。 だから、警察の動きに納得はいかなくても、仕方がないと理解はできる。 逆を言えば、神姫虐待もその事実と裏付けとなる証拠があれば、警察も動いてくれるということだ。 神姫保護を唱うNPO法人がいくつも活動しているし、警察の協力を得て、神姫虐待事件を解決している例もある。 もちろんそうした神姫保護団体では、神姫風俗は反対の立場であるし、警察への告発もたびたび行っている。 警察も、神姫保護団体が提唱する、年一度のMMS保護週間の時くらいは、ある程度神姫風俗の摘発も行う。 だが、それで十分ではないのが現状だ。 そういう状況にあって、神姫風俗はなくならない。 逆に増えているくらいだ。 なぜか。 それはあくまでもアンダーグラウンドの、個人経営業者ばかりだからだ。 神姫風俗に組合があるわけではない。 情報は回ってくるが、相互扶助など行ってはいない。 たとえどこかの店がへまをして、警察の世話になっても、一時的に店を閉めてほとぼり覚めるまで知らない振りをしていればいいのだ。 人間相手でも、若年齢層の売春斡旋業が、違法でもなくならないのと同じことだ。 神姫風俗はもっとたちが悪いと、俺個人は思う。 風俗の神姫は逃げることができない。 そもそも、経営者がオーナーであるし、オーナーとのつながりは神姫にとって絶対だ。 仮にオーナーの元を逃げたとしても、ただの野良神姫になる。 そうなった神姫は長くても一日程度しか活動できない。 バッテリーの充電が行えず、行動不能に陥るからだ。 足下を歩いている野良神姫を誰が気にとめるだろう? たとえそんな神姫を拾っても、それが風俗にいたと知れば捨てられるか壊されるか……ティアの正体が発覚したときの、ゲーセンの連中の反応を思い起こせば明らかだ。 バッテリー切れの神姫など、もはや精密機械のゴミに過ぎない。 そうなることがわかっていて、逃げ出す神姫はいない。 また、経営者にとっては秘匿性も高くて重宝である。 アタッシュケース一つ用意すれば、所属する神姫すべてをまとめて、店を畳むことができる。 考えたくないことだが、ばれそうになったら、壊したり捨てたりすれば、証拠だって残らない。 容疑があっても、証拠がなければ警察は逮捕できないし、重要事件でもなければ証拠を捜して何百人も動員することはまずない。 どこかの店が摘発を受けて、ほとぼりが冷めるまで店を一時的に閉めたところで、経営者には大した痛手にはならない。 しばらくして、またどこか別の雑居ビルの部屋を借りてはじめればいいのだから。 神姫風俗などの違法営業の情報は、もっぱらネットを通じて、アングラ的に行われる。 だから、一度店を閉めて場所が移動しても、客はネットでその情報を調べてやってくる。 警察のマークが緩いのをいいことに、神姫風俗ではやりたい放題だ。 先に述べた神姫の十八禁映像のような過激なプレイが現実に可能だし、画像や映像を撮影できるらしい。 客の中には、自分の神姫にはそういうことをさせたくないが、風俗に来て神姫に性的虐待をするオーナーが少なからずいるという。考えたくないことだが。 雑居ビルの殺風景な部屋の中では、映像から場所を特定するのも難しい。 だから、神姫風俗の経営者たちも、非公開を条件として、個室内での画像や映像の撮影を許可している場合が多いのだ。 彼らが問題にするのは、自分たちの素性が割れてしまうような情報が流出する事態、である。 いままでに述べたことから総合すれば、神姫風俗は秘匿性も高くて、抜き打ちの摘発で現行犯でもなければ、立件に至らない。 だが、例外はある。 所属神姫が客によって持ち出された場合、だ。 もちろん、退店時に所属神姫は返却されるわけだし、客が神姫を持ち出すなど、店側が許すはずはない。 だが、客がそもそも神姫を奪う目的で入店していたとすればどうか。 それでも、どうやって持ち出すのか、持ち出した後どうやって店をごまかすのか、いろいろと高いハードルがあるので、まず持ち出そうなどとは考えないだろう。 しかし、それをやってのけた奴がいる。 井山だ。 井山はティアを連れ出し、店の人間たちから逃げ切れそうになくなって、ゴミ捨て場に捨てた。 あのときはなんとか逃げ切ったようだが、もし捕まっても、ティアを持っていないとしらを切るつもりだったのだろう。 本当はそのままバッテリー切れとなり、ゴミとなるか、戻ってきた井山が回収したかもしれないティアだったが、そうはならなかった。 俺が拾ったことによって。 ティアのメモリの中には、客への奉仕の記録だけではなく、その客のデータや、風俗店のスタッフの映像やデータも記録されている。 それが明るみに出れば、店は摘発を受けるだろう。 店を畳んでも、顔写真などの明確な個人情報が流出してしまうので、警察に捕まる可能性は拭えないままだ。 ティアが生きていることは、神姫風俗店『LOVEマスィーン』とそのスタッフにとっては、死活問題なのだ。 だから、店のスタッフの黒服たちは、武装神姫が盛んなゲームセンターに現れ、ティアを捜していたのだ。 連中に必要なのは井山ではない。 連れ出されて今も稼働している神姫・ティアこそが奴らの目的なのだ。 井山もティアを狙っている。 奴の様子からして、ティアを大層気に入っていたのだろう。 だから、自分のモノにしたいという欲求が強くなり、我慢できなくなり、店から奪うという行為に及んだのだろう。 そのくせ、店の連中に追われているのをティアのせいにして、ゴミ捨て場に投げ捨てるあたり、どれだけ自己中心な奴なのかと思う。 諦めた神姫が、立ち寄ったゲームセンターで、突然目の前に現れたのだ。 奴の物欲と性欲に再度火が点ったのは想像に難くない。 今度は俺という個人から奪えばいいだけの話だ。 だからあれほど執拗に仕掛けてくるのだろう。 しかも、それで俺が苦しんでいるのを見て楽しんでいるようだから、性格が歪んでるとしか言いようがない。 ティアを狙う神姫風俗店も、その客であった井山も、れっきとした犯罪者だ。 証拠があれば、告発できる。警察は動く。 しかし、『LOVEマスィーン』に気付かれないように、警察には動いてもらわなくてはならないが。 警察を動かしうる、確たる証拠と、伝手があるだろうか? 俺はクレイドルの上で眠るティアを見つめた。 愛らしい寝顔。 俺の中で様々な葛藤が巻き起こる。 俺にとって大切なもの、大事なこと。 捨てていいもの、捨て去れないこと。 社会的な立場や、なけなしのプライド、様々なしがらみ、感情や理性、そういったものが俺の思考で渦を巻く。 俺は長いこと考えていたのだと思う。 ふと気がつくと、カーテンの向こうが明るくなってきていた。 朝の到来を告げる、小鳥のさえずり。 カーテンの隙間から指す、一条の光に、俺は目をすがめた。 そして思う。 ごちゃごちゃと考えがまとまらないときには、シンプルに考える。 俺が今、本当に欲しいもの、守りたいものは、なんだ? ティアを見る。 いつか見た、花がほころぶような、愛らしい笑顔が思い浮かぶ。 証拠はある。 伝手もある。 あと、俺に足りないのは…… ……そう、覚悟だった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/400.html
戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・商品案内-2 注)当然ですが、以下の内容はすべて当方の脳内生成物であり、 現実には存在しませんので。。。 <東杜田技研・新製品のご案内-2> このたび、弊社の小型ロボット向け機器ブランド「HT-NEK」では、 「武装神姫」向けの機器を展開することになりました。 先日発表いたしました和調クレイドル「和(なごみ)壱型」に続き、 診察室型クレイドル「さわやかしんさつしつ」を発売いたします。 〜武装神姫専用クレイドル・「さわやかしんさつしつ」の主な特徴〜 ■和(なごみ)壱型同様、弊社の小型機械技術研究製作部が設計。 さらなる安定性を追求しました。 ■実際の診察室同様、各種処置を行うことができるよう、各社製品に 対応させたベースユニット。 ■神姫による他の神姫の補修が出来るよう、神姫サイズの補修工具を 新たに開発し、その中より基本となるセットを同梱。 ■収納ケースは「診療所」を模した外観の専用品。独特の形状であり ながら、「和(なごみ)壱型」でも採用した、使いやすい二段式の ケースとなっています。 ■初心者には使いやすく、達人にも飽きが来ない、独自の専用ソフト 付属。(WindowsVista2037・MacOS21 両対応。) 詳細は、下記を参照して下さい。また、新たな情報は随時公開いたし ますので、HPにてご確認下さい。 <武装神姫専用クレイドル「さわやかしんさつしつ」> ・対応武装神姫 現在発売中の全武装神姫(純正クレイドルが使用可能である神姫に 限ります。) ・インターフェース 専用ケーブルによりUSB3.1にて接続 (注:本製品はUSBより電源供給を受けますので、電源の弱い一部 モバイルPCは使用できません。また、ハブをご利用の方は、外部 電源を用いるタイプのハブをご利用下さい。) ・対応オプションパーツ 弊社発売予定品 「リアルスキャナー」(放射線不使用のレントゲン) 「工具セット(神姫用)・追加」(追加ドライバDVD付き) 「工具セット(神姫用)・外科・整形外科」 「工具セット(神姫用)・プロフェッショナル」 「神姫といっしょ・神姫用端末」(カルテを作製できます) エルゴブランド 「DXベッド型クレイドル」(接続することで、病室を再現できます) (そのほかに付きましては、順次調査の上、HPにて公開する予定です。) ・付属装置・付属品 マニュアル、神姫用補修工具セット「基本」、神姫用診察机、神姫用白衣、 専用接続ケーブル、ドライバディスク、専用ケース(二段仕様) ・付属ソフト(ドライバDVDに同梱) 「お医者さんプリーズ!(武装神姫学習用ソフト・補修編)」 「ごはんのじかん(バーチャル食事体験)」 「THE バトル(戦闘シミュレータ)」 ほか ・動作条件(ドライバ・付属ソフト) Windows2037・MacOS21が動作可能なPC。 (注:USB3.1必須。) ・発売予定価格 41,060円(税込) ・発売予定時期 2037年5月 以上 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/982.html
暗い部屋。精錬した部屋。狭い部屋。穴のような部屋。その中央に座する人影は、パソコンのディスプレイに1つの兆しを見る。ボイスチャット。 「・・・お呼びですか、会長?」 『ああ。昨日の会議の首尾を聞こうと思ってね』 「何も、滞りなく。しいて言えばヒメガミ神姫センターの方から飲食コーナーが赤字続きである事と、逆に『プチトマト』の売上が予想外に多く生産が追いつかない、という報告があった程度です」 『飲食が赤字、それは商店街が活発だという事だろう? それならばコーナーは無くしても構わないな。館内飲食自由にして持ち込んでもらおう。ただし衛生面管理を強化する事。神姫用服飾の方は、まあ無闇に労働力を増やせる訳でもないから現状維持でいい』 「了解。私と同じ見解ですね」 『・・それは、嫌味か?』 「いえ、単純に同意見なのが嬉しいのですよ、我が主」 『・・・やっぱり、嫌味じゃないか』 画面から響く闇は、少し、微笑む。 『ところで副社長、社長は、今居るのか?』 「社長でしたら、今日は来ませんよ」 『・・・そうか』 揺らぐ背景。カーテンの、囁き。いつの間にか開け広げられた窓からは、夕の木漏れ日と、風。 「何だ、いらして居たのですか」 其処に、佇む闇が有る。影を張る衣。座する者。小さな姫・・・ 「来ちゃ悪い? 自分の会社に」 「それなら、例え“神姫”であっても、正面からいらして下さい、我が主」 副社長は、その闇に、微笑む。 ・・・其処にあるのは雛人形。 「・・・・は?」 「うっわ~、こんな初歩的なテにひっかかるなんて」 「・・・会長?」 真横からの声で、彼はようやくその姿を見つける。今度こそ、今度こそ神姫。 「それにしても寒かったわね、今の『例え“神姫”であっても、正面からいらして下さい、我が主』だって~。うぷぷぷぷ」 「・・・何を、なされているのですか」 「そりゃまあ忍者らしく、変わり身の術。趣味で」 「趣味の時点で忍者ではありません」 ・・まあ、口は悪いが、一応、神姫。 「相変わらず給与査定を気にしないツッコミよねえ。それともMなの?後ろの穴準備してるの?」 「穴とか後ろとか言わないで下さい」 ・・・・いや、きっと自信は無いが、まあ、神姫・・・ 「それに、いらっしゃるのでしたら、わざわざチャットするだけの為にハッキングをしかけて来ないで下さい。毎度の事とは言え、ネットハッカーとしても著名な会長にあんな事をされると警備部が面食らうのですから」 「忍者らしい趣味でいいじゃない。警備には抜き打ちテストだとか言っておきなさいよ」 「それも趣味のカテゴリに入る行為ではありませんし、公私織り交ぜている時点で忍者らしくもありません」 「会長にツッコミ入れるのは公私混同じゃないの?」 ・・・。 「全く、会長。せめて上司らしくするか神姫らしくするかどちらかにして下さい」 「あたしは、どっちだっていいのよ。細かい事気にしてるとハゲるわよ?」 「・・・私の役職は細かい事を気にする為にあります。ほら、会長があまりに馬鹿な真似を連発なさるから、ナレーションさんも閉口してしまったではありませんか」 「うわそれあたしのせいにする? 冷静に考えたら、ノリノリで『我が主』とかクっサいセリフ言ってる方がおかしいでしょ? と言う訳で以降解説やりなさい貴方。やらないとマジ減俸」 ・・・ご指名を頂いてしまいましたので、僭越ながら私が紹介をさせて頂きます。私の名前は火神基生。ヒノカミコーポレーション副社長を務めております。そしてこの先程より暴言と公私混同の限りを尽くす忍者型神姫が、御恥ずかしながら我が『ヒノカミコーポレーション』会長です。信じられないでしょうが本当です。社内でも極秘事項ではありますが。 「あ、ちなみに会長職も趣味だから」 「・・・私の祖父たぶらかしてその地位を得ておいて、趣味ですか・・・」 「え~、ちゃんと独力で稼いだ分もあるわよ」 「それはハッカーとして違法に稼いだ資金であるとか先日言っておりませんでしたか?」 「ちゃんと企業利益にも貢献してるでしょ?」 「“神姫パートタイマー”ですか」 神姫パートタイマーは、会長の考案した、会社や学校に通う神姫オーナーの為の『預かり所』を我が社が設置し、其処に預けられた神姫の中で希望者にパート労働をさせるシステムです。我が社の系列店舗への派遣や『プチトマト』等系列店に卸す神姫用服飾衣類の生産など、人件費も安く上がる事もあり数々の実績が上がっております。ただし・・・ 「あれは割に合いませんし、どちらにしろ違法です」 現状のMMS国際法では経済情勢に影響を与えてしまうこのような形での神姫の労働は禁止されています。其処は神姫への給与を『ないしょのおこづかい』として神姫に口止めを行い、オーナーも含め情報漏洩阻止を徹底して対処しています。しかし、そもそも神姫へ労働賃金を支払う義務自体無いのですが。 「いいじゃない、だから趣味なんだし」 「・・・人を巻き込まないで下さい」 「巻き込んでるのは神姫でしょ?」 「私の事です」 何と言っても、その事実を知るのはほぼ私だけなのですから。 「・・・それはともかく、会長、どうしてヒメガミを避けているのですか? 会いたがっていましたよ」 ヒメガミというのは私の妹、ヒノカミコーポレーション社長火神天姫の事です。実質社長職は私と会長で半分以上受け持っているのですが。 「それは、“会長”にじゃなくて“あたし”にでしょ? 実はヒメガミちゃん、会長の正体を探ろうとしてたのよ。それでもう探らせまいと悪戯しちゃったから、顔合わせづらくて・・」 「・・・もしかして、鋏の言っていた大迷惑神姫をヒメガミの護衛に送り込んだのは会長ですか」 「あれ? あなたもハサミと知り合い? 奇遇ねえ。あたしはハッカーの方で知り合い」 鋏と言うのは私の腐れ縁の私立探偵の事です。腕は確かな方ですが、昔から法に触れる事と女性が好きな厄介な奴でしたよ。 「ともかく、まだ、あたし=会長って知られたくないからね、悪いけれど」 「それは教えていなかったからでしょう?」 「だって~、仕事だからってついヒメガミちゃんには辛く当たっちゃったりしてるもの。今更言えないわよ」 「仕事って・・・先程と言っていることが違います」 「あたしはどっちだっていいのよ」 「良くありません。それに、それだけではないでしょう? ヒメガミに嫌われる理由は」 「じゃあ何よ?」 「決まっています・・・」 そう、会長が神姫と知ればそれはごく“当然”の事。何故ならば・・・ 「普通、好きで神姫に仕えようとする人間なんて居ないのですから」 「・・・うっわ~、あたしの事ほぼ唯一会長って知ってて、尚且つその下で働いてる癖にそういう事言うの? 変態?」 「はぐらかさないで下さい。それから何気に人を変態呼ばわりしないで下さい」 「主従逆転して何とも思わない人間なんて、変態以外の何者でもないでしょ?」 会長は相変わらず毒舌で私をあしらう。いつもであれば、私はここであきれ返る。しかし、もう騙されない。これは、会長の、テストだ。 「・・・私は、“自分の認められる人物以外”の元で働きたくはありません。それが単に会長だったと言うだけです」 「・・・全く、その失業保険の手続き方法を気にしない口の利き方というか、ヘンに融通の聞かない真っ直ぐさと言うか」 「こういう、性分です」 「嘘が無い事くらい判っているわよ、最初から」 誠意を持って見据えた闇は、私に微笑を返す。どうやら、テストは合格のようだ。 「・・・怖かったの、ですね?」 「まあね。あたしの気に入ってる子があたしを罵倒したり、あたしの前から居なくなったり、そういうのって、やっぱりこたえるもの」 「それでも、続けなければならないのですか、こんな事を」 「こんな事って、仮にもあんたの家族引っ掻き回されてるんだからもう少し大事にしなさいよ」 「私にとってはそうですが、会長にとってはそんなものでしょう? 何しろ、事が公になれば会長はおろかすべての神姫が脅かされるのですから。そこまでして得られるメリットがあるとは私には思えません」 「趣味って言ったじゃない?」 「趣味なのですか?」 「・・・違うわよ」 闇が、少しくすむ。 「では、聞かせて頂けますか。誰にも認められない道でありながら、そこまでして、会長でいる、理由を」 「・・・まあ、あなたになら、そろそろ言ってもいいかもね」 「・・・あなたは、あたしの事、何者だと思う?」 闇が揺れる。何処からか、会長は大きな・・私には小さなカードを取り出し、切り始める。 「・・・武装神姫です」 「そうね」 その中の一枚、それが突然飛び出し、私の手元に届く。描かれているのは、会長と同じ型、忍者型MMSフブキ。 「あたしの、心は? 神姫?」 「・・・判りません」 「正直ね。でも・・そういう、事よ」 会長は、手を止め、そのカードの束を伏せる。 「人間は、神姫の“心“を正しく認識出来ない」 会長は、暗くも無く、重くも無く、唯佇む闇のように、言い放った。 「考えてみれば簡単な事よ。人間はそもそも自分達の“心”を解析し切っていないのよ? あなただって自分の心が全部判るって訳でもないでしょ?」 「そうですね」 「・・・意外と冷静ね。結構ヒドい事言ってるわよ?」 「今更です」 「あはは~、それもそうね。ま、つまり、そんな現状なのに人間は神姫にも“心”があるって言っちゃったのよ。だったらそれが“神姫の心”をちゃんと認識しているとはお世辞にも言えないでしょ?」 「では、人間の“心”から想像された神姫の“心”も、人間のそれと同じという事ですか?」 「それはちょっと早とちりかな。言っちゃえば、人間の“人間”という認識は今思いっきり拡大しちゃっている所なのよ。神姫とか人間とか、それ所じゃなくね。だって例えば、犬にも人間の感覚を適用して考えちゃうでしょ?」 「・・・なるほど。それは、犬の“心”も人間の“心”と同意に置いているとも言えますね」 「犬どころじゃないわ。猫だろうと蟻だろうと映画のエイリアンだろうと、この足元の地球サマすら人間は自己と同位に置いちゃう事があるでしょ? そしてその可能性を否定し切れない」 「何故ですか?」 「“拒絶”されてないからよ。されているとしても、明確に意思疎通が出来ないからそれを認識できない。つまりはそれが自分と同位存在か否定しきる事が出来ないって訳」 「・・・哲学的な話ですね」 「割と真実よ。だって実際“違う”って言い切ることが出来ないじゃない? だけど“それが人間と同じ心を持つかもしれない”という選択肢は、思考し続ける限り拡大する。つまり現状、人間には世界の全てが自分たちと同じ“心”を持っているかもしれないって思っているのよ」 「・・・暴力的な、話ですね」 「・・・聞きたいって言ったのあなたじゃない」 「つまりはね、人間は未だ神姫の心が何処まで自分達と違い、何処まで自分達と同じか決定的な判断は出来ないの。例えるなら・・そうね、同じアパートのお隣さんくらいしかわかんないのよ。そこに、“創造者”と“被造物”の関係は意味を成さない」 「・・・神姫は初めから、人間の、“創造者”の“設定”を無視しえるのですか」 「そういう事」 会長は、カードの山かを捲る。一番上にあった図柄は、騎士型サイフォス。 「だから、与えられた“設定”を神姫が拡大解釈や勘違いする事だってある」 次に現れたのは、マーメイド型イーアネイラ。 「与えられた武装の“設定”された用途を無視し、より良い使用方法を見出してしまう事もあり得る」 3枚目、黒き翼。天使型アーンヴァルB。 「与えられた“設定”を神姫が拒絶する事もあるわね」 「・・・ですが、神姫らしい神姫も居る筈です」 「あっ! こらちょっと!!」 私は会長の手を遮り、2枚のカードを引き出す。絵柄は砲台型フォートブラッグと、建機型グラップラップと無骨なモチーフの組み合わせ。 「“設定”を神姫が無視するのではなく、オーナーである人間が無視し、そぐわない改造を行ったり、武装の違う用途を強制したりするだけではないのでしょうか?」 「それにしたって神姫と人間の意思疎通が出来て無いって事じゃないの。それなら・・・」 会長は私から山を奪い返すと、また1枚捲る。鮮やかな赤、サンタ型ツガル。 「人間がその“設定”から神姫にコンプレックスを植え付けることもあるでしょ? 勿論自分でそれを克服する事も出来るし」 「・・・そうですね」 説き伏せられた私にもうその気はないにしろ、今度は私の手元も警戒しながらカードを捲る会長。次なるは、雄々しき赤、寅型ティグリース。 「そして、人間に“設定”された“絆”まで否定してしまう事もあるでしょうね」 其処まで捲ると、会長は残った山をもう一度切り始める。丁寧に。 「更に、神姫が凌駕し得るのはそれだけじゃない。人間自身の“能力”も、時には飛び越えちゃうわ」 改めて整頓され置かれたカードの山。小さな腕がまたひとつ、新しい絵柄を見せる。白き力。悪魔型ストラーフW。 「例えば、運転や調理技術、神姫の技能が人間のそれを超えてしまうかもしれない。その“能力”も、それを望みえる“心”もある」 間髪置かずに、今度は愛らしく、種方ジュビジー。 「そうであれば、神姫がその技能を人間に教える立場にだってなり得るわよね。その“能力”だって望めば有るもの」 猛しく、犬型ハウリン。 「神姫が商店でも経営して、人間と同位の経済活動に参加することも可能よね。その“能力”も望める。人間よりも適材な時もあるかもね」 「・・・それは、会長が出資しておられる『ペットショップオシイ』の事そのものでは?」 「あ、バレた?」 おどけながら捲る色彩。艶やかな、花型ジルダリア。 「・・・それで、まあちょっと言いづらいけれど、神姫が人間を殺し得る“能力”だってあるのよね。毒薬でも作ればいいんだし」 「言い辛いなら言わないで下さい」 「でも言っておかないとキモチ悪いし。あ、あたしはそんな物騒な真似までしないわよ?」 「・・・今の時点で十分物騒です」 「そして、人間より人間臭い“精神”の神姫だって居てもいいわよね。例えば金にがめつい奴とか、Sな奴とか。あ、Mは論外ね。主従関係って基本マゾ臭いから」 「・・・先程から聞いていれば、SMなんて連呼しないで下さい、はしたないですよ」 言いながら捲られたのは、丑型ウィトゥルース。そして猫型マオチャオ。 「はしたなくて悪かったわね。でもはしたない所じゃなく、人間を利用しちゃう神姫もきっと居るわよね。それから、『脅し』や『お願い』で人間を操縦しちゃう、そんな図太い“精神”の神姫も居るかもしれない」 「先程から聞いていれば・・・それは全て、会長にも当てはまりませんか?」 そう?とでも言いたげに意地らしく笑って捲られたのは、侍型紅緒、それと兎型ヴァッフェバニー。 「・・・考えたくありませんが、人間の意思決定を担ってしまう神姫や、それを容認し委ねてしまう、そんな“精神”の人間まで居てしまうのでしょうか?」 「・・優柔不断な奴なら、そんなのもあり得るんじゃないの?」 手招きされて、1枚ずつ捲ったカードに描かれていたのは、見事に対の天使型アーンヴァル、悪魔型ストラーフ。 「まあ、その代わり神姫と人間の“心”が明らかに別物の可能性だってあたしは否定しないわよ。なんて言っても身体構造が違うのだし、絶対に相容れない部分もあるでしょうね」 その言葉とともに一枚がはじき出される。手元に寄せれば、写っていたのはイルカ型ヴァッフェドルフィン。 「それならむしろ、人間と神姫、お互いがその“心”を別視する事で、人間が神姫をちゃんと認識出来るようになるのかもしれないけれど」 「・・・こんな風に、これだけの可能性を神姫の“心”は内包している。けれど、神姫が自由に生きるにはまだ難しい世界よね。・・そう、だから、“心”の自由さに気付いた神姫が、“居てもいい”為に手助けをしたい」 会長は全てのカードを戻しながら締め括る。とても優しくて、儚い、理想。 「そして“隣部屋の隣人”にも理解して貰いたい。あたしや、そんな子達が居る事を」 「その為には、力が、必要と?」 「そうね。回りくどい事するには色々と、ね。それが、あたしがこんな馬鹿やる理由かな」 そして、最後に、少し崩れて笑う。 会長は涙を流さない。神姫であるからです。しかし、そんな笑みの意味を私は知っています。だから、こんな時、私は・・・ 「・・・今自分で馬鹿だと認めましたね?」 「ナニそれ? 今までも馬鹿だって思っていたって言うの!! 馬鹿だって思う奴が馬鹿なのよ!!」 「大体良く聞いていれば、どっちつかずで、神姫も人間も引っ掻き回すような理屈ではありませんか」 「う・・・だったらあなた1人の胸にでもしまっときなさいよ!」 「毎度の事ながら、無理難題を言わないで下さい。それで、会長は神姫と人間、どちらの味方なのですか?」 「あら、そんなの、あたしはどっちだっていいのよ」 「またそれですか。あなたの“部下”は本当に、疲れます」 私は、一番私らしい“信頼”の言葉で返す。 「・・・まあ、許してあげる。何だかんだ言って、あなたの事結構気に入ってるのよ? 今まであった男の中で3番目くらい」 「微妙に嬉しくありません。会長とはアパートの隣人程度で十分です」 「あら、つれないわねえ」 そうすれば、“このひと”はまた微笑む。知っている、それも。 「・・・あ、そう言えば」 「まだ何かあるんですか?」 「神姫だろうと人間だろうと、運が悪いのだけはどーにもならないわよねえ?」 「それはそうでしょう。ラプラスの悪魔とでも契約しない限りは」 「・・・それも嫌よね」 その時、いつの間にか踏んでいたカードに気付いた。落ちて、いたのは・・・ 「あ! そのエウクランテのカードに足跡つけたわね!! 弁償よ減俸よ!!」 「不可抗力です」 最後(?)もやっぱり、ちゃんちゃん。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1134.html
戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・商品案内-13 <東杜田技研・新製品のご案内-13> 注)当然ですが、以下の内容はすべて当方の脳内生成物であり、 現実には存在しませんので。。。 <東杜田技研・新製品のご案内> このたび、弊社の小型ロボット向けコスメブランド「T3」では、 近年 人気が高まっております「武士神姫」向け商品を開発、シリーズ名 「T3-乙女志向」として展開することになりました。 まず第一弾として「ボディーソープ」・「シャンプー」・「リンス」を発売 いたします。 〜「T3-乙女志向 ・ 神姫ボディーソープ・ 神姫シャンプー・神姫リンス」の特徴〜 ■各種小型ロボット向けのメンテナンス用品開発で定評のある当社 T3チームが総力を挙げ、小型機械技術研究製作部とも連携して 開発された、神姫向けのボディーソープ。 ■またシャンプーとリンスは当社T3チームと某大手化粧品メーカー との共同開発。 神姫の人工毛髪と抜群の相性を誇ります。 ■中性かつ低浸潤性ながら、強力樹脂クリーナー以上の洗浄力。 もちろん、神姫本体のペイントを侵すことはありません。(註1) ■敏感なフェイス部分にも安心してお使いいただける、独自の配合。 もちろん、オーナー様ご自身にもお使いいただけるよう、各種の 規制に適合させております。 一緒のお風呂・シャワーの際には ぜひお試しください!! ■神姫が嫌がることの無いように、独特の芳香剤を配合。洗浄後に は、ほんのりといい香りも漂います。 ■シャンプーとリンスは、各3種類を用意。お手元の神姫との相性や 香りによって選ぶ事が出来ます。 ■専用ボトルには、オーナー様が使う通常のポンプのほか、神姫用 の小型ポンプも装着されており、神姫自身がひとりで洗浄される 際にも安心の設計。 ■シャンプーが苦手な神姫のために、同時にシャンプーハットも発売。 5色を用意、お好きなものをお選びいただけます。 (註1)純正塗色は問題ありませんが、リペイントに関しましては 保障対象外とさせていただきます。 詳細は、下記を参照して下さい。また、新たな情報は随時公開いたし ますので、HPにてご確認下さい。 <T3-乙女志向 「神姫ボディーソープ」> ・天然由来の香料とボディの艶出し成分を配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプー」> ・ストレート、ダメージケア、トニックタイプの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫リンス」> ・ストレート、モイスト、ダメージケアの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプーハット」> ・ピンク・水色・黄緑・黄色・白の計5色。 ・徳用詰め合わせ10枚セットもあります。 ・発売予定時期 (全商品・今夏予定。初回生産分のシャンプーには、 シャンプーハットが付属する予定です。) 以上 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2574.html
《登場人物紹介》 草薙 蓮 CV 豊崎愛生 本編の主人公にしてセカンドランカー草薙雄也の妹 大河高校二年生 雄也の妹なだけはあり神姫関係の知識は深い 裕也が知人から譲り受けたカガリと鋼牙の面倒を見ることになる 二人のしつけ云々で悩んでいるところに転校生としてクラスメイトとなったエリー・カークランドと出会う 兄がだらしない分しっかり者の妹である。 勉強はそこそこだが運動神経がよい 彼氏を作る前に神姫を始めてよかったのかと少しだけ迷う 17歳 エリー・カークランド CV:桃井はるこ フェレンツェの娘 天才的な頭脳と金髪碧眼を父親から受け継いだ 元『八相』の『運命の預言者』-フィドヘル- 現在大河高校に通いながら父親の研究を手伝っているが蓮と出会い彼女とその神姫たちに興味を示し、同年代としては少ない友人を作ることとなる。 『バトル』方面に興味があるらしく自作の武装を他人の神姫にモニタリングさせている 将来的にはオリジナル武装ブランド名『えりぃじるし』(命名 フェレンツェ)として売り出すつもりだそうだ 体は子供、頭脳は大人を通り越して天才!な 17歳 今居 天馬 CV:中村悠一 ファーストランカー今居加奈子の弟 普段地味目な姉とは打って変って目立つビジュアル(よい意味で 蓮とは中学からの付き合いであるが蓮が神姫に詳しいことからよく話すようになっていた お互い悪友というノリで接することのできる間柄である 神姫はパーティオタイプのしいなで現在セカンドの中位 実は学校に隠れファンがいるとかいないとか…な17歳 草薙 雄也 CV 水島大宙 蓮の兄 古くからのバトル参戦で実力的にはリーグの中間 相棒のヴァッフェバニーのリャンは最近少しスランプ気味で セカンド下位にいる 神姫暦は長く蓮にとって神姫とマスターの関係とは雄也とリャンのイメージが根強い ファーストランカー橘 明人の古くからのランカー仲間でもある 臨時神姫バトルレクチャー教室なども引き受けている 蓮が神姫を持つようになってwktkしている21歳 メインページへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1325.html
SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その3 『Over the Rainbow』(後篇) >>>>> 3 星、星、星――満天の星空。 まるでプラネタリウムのような星の瞬く夜空が、ヘミソフィア(半球状)の天井を成して特設ステージを包んでいた。 幻想的な光景に、しばし見とれたフィシスたちは、自分たちがここに練習をしにきたことを思い出し、慌てて舞台に向かった。 すでに配置につき、空中に待機してきたアクロバットチームたちに混じり、舞台の中央の所定の位置にブルーメンヴァイスの三人がつく。 演出スタッフが本番さながらに操作するスポットライトを浴びながら、フィシスは神姫センターのマスターサーバとのデータリンクを開始する。 アクティブになった回線から流れてくるコレオグラフィーに関する情報と、事前にマネージャーから聞かされていたものとを照合しながら、宙へと躍り出る。 アクロバットチームのアーンヴァルたちとツガルたちが、左右に分かれ散開。 流れる音楽に合わせ、様々なフォーメーションを取る神姫たちの合間を縫って、ブルーメンヴァイスの三人が飛び交う。 星空を落としたような光溢れるステージを、十数体の神姫が時には集合し、時には散開し鮮やかに駆けた。 「らーらららん、らららん♪ らららー、らららー♪」 ハミングを取りながらフィシスが空中を舞っていると、突然目の前を黒い影が遮った。 『ふーん。鑑賞用のお人形さんが、少しはやるじゃん?』 進路をふさぐように現れたアクロバットチームのリーダーに、フィシスは身を翻す。 『ちょっと、接近しすぎよ。その位置だとフォーメーションが崩れてしまうわ』 フィシスは相手に合わせ、喉部声音でなくHFC(センターとのデータリンクを使った高周波通信)を使い相手に呼びかける。 『や~っぱ、アイドル様ってばお上品~。ガイドブックなしじゃ、何もできないタイプ?』 旋回するフィシスをあおるように、アーンヴァルが軌道を重ねてくる。 『ここからは、アドリブタ~イム。見せてみなよ、アイドル様の実力をさっ』 本気――? 思う間もなく、視界の隅で数度瞬いた光に反応し、とっさに急旋回。 アルヴォRDWの銃弾が光を曳いて、フィシスが数瞬前に存在した空間を通り過ぎていく。 『どうなってんのこれぇ? きゃおきゃお!』『どうやら相手は本気のようだ……』白夜と白雪のふたりからのHFC通信。緊迫した様子。 フィシス――マスターサーバを通じて得た空間座標からふたりの状況を瞬時に把握。それによってふたりが、アクロバットチームのアーンヴァルとツガルの集団に追い立てられていることを知る。 ふたりをところに駆けつけようと飛翔したフィシスに、アーンヴァルリーダーが突進する。 とっさにフィシスは振るわれたライトセーバーを、右手に掲げる儀仗から障壁を展開させ受け止めた。乱暴な相手に向かって直接〝声〟を発して抗議する。 「どういうつもり?」 「言ったでしょー、アドリブの練習よ。とっさのアクシデントに対応できないようじゃ、ショーの主役は務まらないでしょ?」 セーバーで障壁を払い退け、距離を取ったアーンヴァルが機関銃を乱射する。 状況をモニタしていたスタッフが、様子がおかしいことに気づいたのか、バラバラな行動を取る神姫たちを制止しようと、大慌てで練習中止の信号を送る。 それに神姫たちが個々で交し合うHFCが加わり、ステージ会場はたちまち幾つもの電波が飛び交う騒乱状態と化していた。 仕方なく、フィシスは最低限の回線のみを残し、他をカット。情報の取捨選択に気をつけながら、撃ってくるアーンヴァルに牽制のため左手から光弾を放つ。 「レイ――ッ!」 立て続けに飛んでいく光弾を、アーンヴァルは翼で風を切りながら軽々と避ける。 「夢見るのもいいけどさぁ? ドロシーもいないアンタらが、オズに会えると思ってんの?」 睨め返すフィシスを見て、「あは、そんな顔もできるんじゃん」とアーンヴァルリーダーは楽しそうに笑った。そのまま体をぶつけるようフィシスの周囲をすれすれに飛び回る。 ワザと危険なぎりぎりの軌道で挑発してくる相手に、カッと上気しながら、 「こんな危険なことを――!?」 咎めるよう声を荒げたフィシスはハッと急反転すると、猛然とステージ会場の一点に向かって急加速した。いきなり明後日の方向に飛び出す白い姿を、アーンヴァルリーダーが訝しげに追いかける。 『ちょっと、逃げるの? それってチョーつまんないんだけ……ど?』 追うアーンヴァルもそれに気づいて目を見開いた。フィシスは構わず加速を続ける。 彼女の持つ大儀仗サクラメントによる、マスターサーバとのインタラクト探査では、わずかの猶予もないことが分かっている。躊躇する時間などない。 『あれって……まずくない?』 リーダーのHFCの呟きに会場内の他の神姫たちもざわつき出す。 新イベントのために飾り付けられたステージ会場、その中で急ピッチな設営のため固定が甘かったのか、それとも元から配置が不安定だったのか――舞台を飾るモニュメントのひとつが倒れ出し、崩れようとしていた。 事態を察知した神姫たちが悲鳴を上げる。崩れるモニュメントの下で、知らずに追い駆けっこを続ける神姫の姿――白夜と数体のツガル。 騒乱状態になった通信状況に、一時的に回線を閉じてしまっているのだろう。モニタスタッフや他の神姫たちが発する緊急通信に、彼女たちは気づかない。 HFCを諦め大声で危険を知らせる周りの声。ようやく白夜を追いかけていたツガルの一体が状況を察し、慌てて離脱をはかる。しかし、白夜とまだ経験の浅いツガルがひとり取り残されてしまう。 彼女たちの前に、人間にとってはさほどでもない――しかし神姫にとっては脅威となるサイズのモニュメントが襲い掛かるように倒れかかる。 その今や怖ろしい凶器と化して崩れ落ちるモノに、フィシスは白い矢となって正面から突っ込んだ――。 4 「にゅきゅ~ん、もう心配したんだよフィたん!」 「ごめんなさい、もう大丈夫よ」 医療用クレイドルの上で身を起しながら、フィシスは手を振って何処にも問題がないことをアピール。心配顔の白夜の隣で、白雪が嘆息する。 「全く無茶をする。一歩間違ったら大惨事」 「でも、誰も大事に至らずにあの状況をうまく切り抜けられたんだから……ね?」 「だからって、倒れてくるモニュメントに体当たりはなかったみゅ~」 あの時――倒れてくるモニュメントから取り残された白夜とツガルを助けるために急行したフィシスは、なんとモニュメントに自分をぶつけることで方向を変えたのだ。 強引に倒れる向きを変えたモニュメントは、白夜とツガルをかすめて落下した。 ふたりは無事だったものの、それと正面から当たり勝負をするハメになったフィシスは気を失い飛ばされて墜落。このセンター内の神姫メディカルルーム(顧客の依頼による神姫の修理や、センター内の神姫スタッフたちの定期診断を行う施設)に担ぎ込まれることとなった次第である。 「いくら何でも無鉄砲すぎ。他にも方法があったのでは?」 「とにかくすっごく心配だったにょ~、うるうる」 うるうる目を潤ませる白夜とジト目の白雪に、フィシスはバツが悪そうに声を小さくする。 「だって……とっさに他の方法が浮かばなかったんだもの……しょうがないじゃない?」 子供のように拗ねた口調で、話す声はどんどん小さくなってく。 その様子に、白雪は一際大きなため息をついた。 「ふう。何はともあれ、フィのお陰で事なきを得たのも確か」 「みんな無事でよかったみょろ☆ ありがとね、フィたん♪」 笑みを浮かべるふたりに、フィシスもにっこりと笑い返した。 「ええ。明日の練習では、また頑張りましょう」 フィシスに見送られ、肩を叩きあいながら白夜と白雪がメディカルルームを後にする。 残ったフィシスは、クレイドルに寄りかかると瞼を閉じた。 いつしか消灯時間となり、メディカルルームも常夜灯の淡い明かりだけを残して暗くなる。 今頃は、外もあのプラネタリウムのステージ会場のように星空だろうか。 「鐘は響くよ ring on ring on♪ 命目覚めるこの大地♪」 曇りよりは、やっぱり晴れた夜空がいい。今の時期ならば、天の川が明るく見えるかもしれない。それとも、摩耶野市の明かりのため晴れていてもあまり鮮明には見えないものなのだろうか。 だとしたら、以前サーバにアクセスした時に見た郊外のマイクロ波発電施設。あの丘に登ったら、きっとキレイな星空が見れるだろう。 歌を口ずさむフィシスの元に、歩みよる影があった。 「キレイな歌ね……」 フィシスは歌を止め、やってきたその神姫に微笑んだ。暗闇にとけるような黒いボディカラー、アクロバットチームのリーダーであるあのアーンヴァルが、そこにいた。 常夜灯の薄明かりの下、クレイドルの端にアーンヴァルが腰を下ろす。隣で身を起すフィシスに顔を向けないまま、静かに語り出す。 「どう、調子は?」 「お陰さまで、万全よ。全系統異常なし……ってね」 「そう、それは安心ね。明日からのステージ練習で、不調を理由に足を引っ張られるのはゴメン」 「ご忠告、ありがたく受け取らせていただくわ」 しばしの、間――。 「ひとつ、聞いてもいい?」 「何かしら?」 「今日の練習中の事故。なーんであんな無茶したの?」 振り返ったアーンヴァルの真剣な瞳がフィシスを見つめる。 「アンタのスピードなら、無茶なマネせずともあのストラーフをつかんで離脱する時間は十分にあったはずじゃん。なのに、何でワザワザ体当たりなんか……」 「――だって。そうしなければ、もうひとりの娘がモニュメントの下敷きになっていたわ」 見開かれるアーンヴァルの瞳を真っ直ぐ見据え、フィシスはさも当たり前に語る。 「自分のチーム仲間でもない、他人を助けるためにあんなことしたっていうの?」 「あら、仲間よ。チームとかそんなのは関係ない。みんなこの神姫センターで働く仲間じゃない」 信じられないといった表情で見つめるアーンヴァルに、フィシスは決まりが悪い小学生みたいに、もごもご。 「……それにメンバーに怪我人がでたら、せっかくの新しいショーができなくなってしまうわ。そんなことしたら、ショーを楽しみにしてくれるビジターのみんなにも申し訳ないでしょう?」 「ほんっとバカね。それで肝心の主役が怪我したら、もっとどーしようもないつーの」 呆れるアーンヴァルに、フィシスがここぞとばかりに強気に指を振る。 「ダイジョーブ。これでもフィは、最新型で結構ガンジョーにできてるの。あのくらいヘッチャラなんだから」 そのフィシスの邪気のない笑顔を見て、アーンヴァルは「あ~っ」と唸って頭を掻きむしると、スッと立ち上がった。 「全く……アンタと話してると、あーだこーだ考えてるこっちの方がバカに思えてくる」 「フィはみんなと話すのが楽しいわ」 「はいはい、よーござんした」ぷいっとそのままメディカルルームから出て行こうとしたアーンヴァルが、ふいに立ち止まった。 「ドロシーと仲間たちは……」 フィシスに背中を向けたまま、アーンヴァルがポツリと呟く。 「それぞれの願いを叶えてもらおうってオズを頼っても、結局それは叶わなかった。なぜならオズはただの小さな爺さんだったから」 フィシスはそんな彼女を見つめる。背中ごしに視線を感じたか否か、アーンヴァルが思い切ったように言葉を吐き出す。 「結局、魔法使いなんて役立たず。何にもなんないっしょ」 「……確かに都合のいい魔法なんてものは、この世に存在しないのかもしれない」 アーンヴァルが見つめる先、入り口の奥を一緒に見つめ、フィシスは続ける。 「でも、ドロシーが願いを叶えてくれたわ。フィたちはそんなドロシーを知ってるじゃない」 こともなげに語るフィシスを振り返り、アーンヴァルはニッと笑みを浮かべると「じゃあ、明日」くるりと背を向け手を振る。 『昼間は、ダチを助けてくれて……サンキュー』 去り際にボソッと呟いたHFCを、フィシスの高感度センサはしっかりと受け取った。 神姫センター摩耶野市店、特設イベントステージ。 満天のプラネタリウムとスポットライトの明かりを受けて、十数体の神姫が宙を舞う。 右に散開する黒い翼、アクロバットチームのアーンヴァル。 左に散開する藍色の羽、アクロバットチームのツガル。 その間を縫って、三つの白い光が駆け抜ける。 艶やかに舞うフィシス。 無邪気に跳ねる白夜。 クールに翔ぶ白雪。 笑顔を振りまくブルーメンヴァイスの三人に、ビジターから歓声が湧き起こる。 三方向に別れた三人は、演武のように先々でアクロバットチームと空中アクションを披露。 白雪のクナイが飛び、白夜がグレネードを撃ち、フィシスが背に広げた大きく輝く羽根から無数のレーザーを放つ。 様々なエフェクトと七色のレーザービイムが乱れ飛び、ステージの熱気は最高潮に達する。 やがて光弾けたその先で、神姫たちは音楽に合わせ、歌い踊り始める。 『見てみて、ビジターのみんなすっごい楽しんでくれてるにょ、ばるばる~』 熱狂するビジターに笑顔を送りながら、白夜のHFCに白雪が応じる。 『ああ。どうやらショーは成功のようだね、フィ?』 ふたりの嬉しそうな通信を聞きながら、フィシスは歌う。そう――これこそがフィシスたちのにとっての魔法の国だ。 これがフィシスたちの進む道。エメラルドの国のその先に、彼女たちは進む道を迷わない。 何故なら―― 『フィたちにとって、ビジターのみんなこそがドロシーなんだもの。ビジターの笑顔こそが、最高でとっても素敵な〝魔法〟なのよ』 それが彼女たちブルーメンヴァイスにとっての、そして彼女たちを応援してくれるビジターたちにとっての魔法なのだ。 白夜と白雪と一緒に歌いながら、フィシスはビジターに飛び切りの笑顔を送るのだった。 ……摩耶野市には、三人の白い妖精たちが住まうという。 今日も彼女たちは笑顔という名の魔法によって、神姫センターを訪れるビジターたちを祝福する。 紡がれるは 魔法の国 の 物語 機械仕掛け の 妖精たち と ヒト の 織り成す 魔法が 語る 夢 と 幻想 の ひととき を あなたに―― 『Over the Rainbow』(後篇)良い子のポニーお子様劇場・その3//fin 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2171.html
ウサギのナミダ ACT 1-31 □ 翌日。 俺はいつものように午前の遅めの時間に、ゲームセンターに向かった。 ついに虎実との対戦だ。 虎実のバトルはよく側で見ていたから、まだ一回しか対戦していないという実感はない。 ティアと戦うために、納得いくまで技を練り上げたという。 それだけでも興味は尽きない。 はたして、虎実はどんな武装神姫になったのか。 駅前で、久住さんと合流する。 彼女も、彼女の神姫・ミスティも、ティアと虎実の対戦は是非観たい、と熱望していた。 あのゲーセンには、感情的に入りづらいので、久住さんが同行してくれるのは心強い限りだった。 ほどなくして、ゲーセンの入り口にたどり着く。 入り口をくぐる。 バトルロンドのコーナーにいるすべての客が俺たちに視線を向けた。 ランキングバトル一位の大城と戦うから、注目されているのだろうか。 それにしては、雰囲気が微妙な感じだが……。 そんな俺の思考を、大声が中断させる。 「あああぁぁっ!! 来た! やっと来た!! まったく君は、どこに行ってたんだよっ!!」 大騒ぎしながら、俺に近寄ってくる、その男。 忘れるはずもない。 「井山……貴様が何でここにいる?」 「決まってるだろ、アケミちゃんを返してもらうためだよっ!!」 そう言う井山の態度には、いつぞやのような余裕は微塵もなかった。 怒りの形相で、目をギョロギョロとさせて俺を睨んでいる。 口調はせっぱ詰まっていた。 俺は久住さんよりも一歩前に出て、彼女を守る位置に。 胸ポケットから、震えが伝わってきた。 俺は胸ポケットをそっと手のひらで隠す。 「くどいやつだな。何度来たって、ティアは絶対に渡さない。あきらめろ」 「うるさいっ! あきらめられるもんか! もうアケミちゃんしかいないんだよ! この間の一斉取り締まり以来、酷い目に遭ってるんだ! 雑誌の連載は打ち切られて、残りのギャラをもらうどころか、とばっちりで怒られる! 神姫風俗はほとんどなくなっちゃって、馴染みの店も神姫もいなくなっちゃったんだぞ! それどころか、取り締まりの日は、逃げるのが大変だったんだ!」 どうやらこいつは、逃げるのだけは得意らしい。 「それからたびたび、警察には捕まりそうになるし、ボクにすり寄ってきた連中はいなくなっちゃうし! 神姫風俗なんか、もうろくな店が残っていないんだ! もう一ヶ月も、神姫でやってないんだぞ!? 頭がおかしくなりそうだ!」 ……こっちの方がおかしくなりそうだ。 周りを見回すと、どうやら井山は俺が来る前から持論を展開していたようだ。 ギャラリーは一様にうんざりとした顔をしている。 「君が素直にアケミちゃんを渡せば、こんなことにはならなかったんだよっ! だいたい、元々ボクの神姫なのに、それを返そうとしないなんて、盗人猛々しいにもほどがある!」 「……自分でゴミ捨て場に投げ捨てておいて、よく言う」 俺の呟きに、井山の顔が引きつった。 ギャラリーがざわめく。 「な、なにを……」 「貴様は、店の追っ手から逃げ切れそうになくなって、それを神姫のせいにして、ゴミ捨て場に投げ捨てた。 雨の中、電柱に叩きつけてな。 腕も脚も折られていて……そんなんでよく自分の神姫だなんて言い張れるな」 「き、君……見ていたのか!?」 「ああ。その後すぐに、お前が悪態をついていたゴミ捨て場で、神姫を見つけた」 ティアの素性は、もうばれている。 だから、ティアを見つけたときのことを隠しておく必要もなくなった。 いまや俺はなんのためらいもなく、井山と対峙できる。 そもそも、素性をばらしたのは井山だ。自業自得だな。 「ティアは確かに、貴様が捨てた神姫だ。 だけど俺が拾ったときには、壊れた精密機械ゴミのような状態だった。 俺は動けるように修理して、自分の神姫にした。 それなのに、まともに動くことがわかったら、また自分のものだと言い張って……盗人猛々しいのは貴様の方だ」 「ひ、開き直って……」 井山はもはや反論もできない様子だ。 もともとこいつの話は正論ではないのだ。 俺が追い込まれたあの時とは事情も違っている。 だから今回は、俺も余裕を持って対峙できる。 ギャラリーはざわついていた。井山の話が、結局は身勝手で一方的なものだということが分かったようだ。。 「く、クイーンとちょっといい勝負したからって……ちょっと雑誌で取り上げられたからって……いい気になりやがって……この、淫乱神姫がっ!」 俺の胸ポケットが、びくり、と震えた。 ティアが怯えている。 俺と本当に心を通じ合わせた今でもなお、この男とのしがらみは、ティアの心を縛り付けている。 こいつだけは許せない。 俺の心にも暗い炎が宿った。 「ふざけるな……この犯罪者」 俺の言葉は、地の底から響くようだった。 「貴様のような奴がいるから、いつまでも神姫たちの悲しみがなくならないんだ。 神姫虐待の犯罪者が、神姫の悪口を言う資格なんざない。 神姫の気持ちも考えず、ただ性のはけ口としてしか考えない貴様と、貴様と同類の連中を、俺は絶対に許さない」 「し、神姫の気持ちなんて……考える方がおかしいだろ!? 神姫なんて、人間様の言うことを素直に聞いてりゃいいんだよっ!!」 次の瞬間、ギャラリーから一斉にブーイングがあがり、井山に罵声を浴びせた。 当然だ。 周りにいるギャラリーは、バトルロンドのプレイヤーばかりだ。共に戦う神姫を、多かれ少なかれ、大切なパートナーと考えている。 今の一言で、井山はここにいる神姫とマスターすべてを敵に回していた。 「うるさい、うるさいっ! 自分の神姫をどんなふうに扱ったって、そんなの勝手だろ!?」 「うるさいのはお前の方だ!」 「この変態野郎が、いい加減にしろ!」 「お前に神姫マスターの資格はねぇ!」 「だいたい、神姫風俗の店から盗んできた神姫は自分のじゃないんじゃね?」 「神姫いじめて悦んでること自体がサイテー」 「普通、神姫風俗行ってたことを自分で言ったりしねぇよな。頭おかしいよ、こいつ」 ギャラリーはいつも無責任に当事者たちを罵倒する。 今回は俺ではなく、井山に向けられている、それだけの話だ。 だが、井山は追いつめられた。 この場で、井山の味方など誰一人としていない。 それでもなおこの場に踏みとどまっているのは、ティアに対する執念なのか。 井山は顔を青くしたり赤くしたりしながら、俺を指さしてこう言った。 「だ、だったら、バトルロンドで勝負だっ! アケミちゃんを賭けて正々堂々と勝負しろっ!」 何が「だったら」なのかよく分からないが。 井山の背後にいた大城が言う。 「アホか! そんな勝負、受けるまでもねぇだろ! それに、遠野たちになんのメリットもないだろが!?」 「もし、万が一、ボクが負けたら……ボクは二度と君たちの前に姿を現さない。アケミちゃんも諦めてあげるよ」 「それだけじゃ、賭けるものが釣り合わないだろ」 俺の言葉に、大城が驚いたようにこちらを見る。 続いてギャラリーがみな、俺に注目した。 「貴様が負けたら、警察に行け。そして、二度と俺たちの前に姿を現すな」 「遠野くん!?」 俺の後ろから、久住さんが悲鳴のように俺を呼ぶ。 俺は少し彼女を振り返った。 彼女が心配してくれるのは嬉しい。 言いたいことも分かる。こんな勝負、受ける必要がない、そう言いたいのだ。 だが、俺は井山と雌雄を決するつもりでいた。 ティアが奴への恐怖を克服しない限り、ティアの本当の安息は訪れない。 だったら、奴とのしがらみをここで断ち切るほかにない。 俺は、もう決心していたのだ。 久住さんは俺と目を合わせた。 彼女の大きな瞳に、俺のくそ真面目な顔が映っている。 久住さんはそっと溜息をつくと、俺から視線をはずした。 心配してくれた彼女には申し訳ない、と思う。 俺は井山の野郎に向き直る。 「どうだ。その条件が飲めるなら、バトルロンドで勝負しようじゃないか」 「そ、そんなことしたら、ボクが捕まっちゃうかも知れないだろ!?」 「だから、負けたらおとなしく捕まれ、と言っている。 警察には、ティアの過去の記憶も提出済みだ。解析も終わっていて、顧客も特定されているだろう。 貴様は神姫虐待の容疑で間違いなく逮捕される立場だ。 警察に逮捕された上で、自分の罪を反省し、二度と俺たちに前に姿を現すな」 「な、な、なんでこのボクが、たかが神姫のために、そこまで体を張らなくちゃいけないんだよ!!」 「俺はティアのために、すべてを賭ける覚悟をした。 貴様が仕掛けた罠を覆すためにな。 自分がティアのオーナーだと主張するなら……貴様もすべてを賭けて勝負に挑め」 「や、やっぱり……今回の神姫風俗の件は……君の仕業かっ!!」 「……俺はきっかけだったに過ぎないけどな」 井山の視線には憎悪すらこもっていた。 だがそれは逆恨みというものだ。 警察が神姫風俗取り締まりに動こうとしていたそもそもの理由は、井山が提供した、あの雑誌記事だったのだから。 結局は自業自得なのだ。 せっぱ詰まっていた井山だったが、不意に、表情を変えた。 いつものいやらしい、余裕の笑みをにじませる。 「いいよ、わかったよ。ボクが負けたら警察に行く。勝ったら、アケミちゃんはボクのもの。どちらにしても、君たちの前には二度と姿を現さない。 その条件でバトルしよう」 「……どういう風の吹き回しだ?」 「いいじゃないか。ボクが条件を飲むって言ってるんだからさぁ。すぐ始めようよ」 「貴様、神姫をつれてきてるのか?」 「ここにいるよ」 井山は、手に持っていたアタッシュケースを持ち上げて見せた。 何が入ってるのかと思えば、神姫だったのか。 「条件を飲むかわりに、ステージはボクが指定するよ」 「断る」 俺は即座に井山の意見を却下した。 ティアがまともに戦えないステージを指定されては意味がない。 「わかってるよ、アケミちゃんが戦えるステージじゃないと、ダメなんだろ? ボクが指定するのは……塔だ」 「……塔?」 ギャラリーがざわめく。 俺は記憶をたぐり寄せる。 塔ステージは人気の低い、かなりマイナーなステージだ。 確か、巨大な円柱状の塔の内部がそのフィールドである。 塔の内部はそこそこの広さがある。 外周部に螺旋状に階段がしつらえてある。 全体は強固な石造り。 明かりはたいまつによって、ところどころ照らし出されている。 天頂部は閉じられており、出入り口もない。 円柱状の巨大な密室だ。 特別な仕掛けもない。 なぜこの塔ステージが人気がないのかというと、面白味がないからだ。 飛行タイプの神姫は、最高速度も出せないし、機動も制限される。 地上タイプは身を隠すところもなく、縦方向への移動は螺旋階段のみ。 あらゆる神姫が、お互いの持ち味を発揮できないフィールドなのだ。 奴がこんなステージを指定してくること自体が不可解だ。ティアだけではなく、奴の神姫にだってメリットはない。 「どうだい? ここならアケミちゃんの機動を制限する訳じゃないし。壁走りだってできるよねぇ?」 「……!」 井山はバトルロンドに興味がないのかと思っていたが、そうではないらしい。 少なくとも、ティアの戦闘スタイルを知っている。 ある程度、俺たちを研究していると見るのが妥当か……。 身を隠すところがないのは不安だが、だからといってティアに不利なステージでもない。 井山の神姫がどんなやつなのかは気になるところだが、塔で有利な神姫というのはちょっと思いつかない。 俺たちが有利になりこそすれ、不利な要素は何もなかった。 唯一の気がかりは、奴が何を考えているのか、それだけだった。 「……いいだろう」 「うふふふ、それじゃあ、はじめようよ」 井山は大きな体を揺らしながら、筐体の方に歩いていく。 客たちは、汚いモノに触れるのをいやがるように、奴に道をあけた。 そんな客の態度を、井山は気にもとめない。 「遠野くん……こんなバトル、受けてもよかったの?」 久住さんが心配そうに尋ねてくる。 「ああ。あいつをのさばらせたままじゃ、ティアはいつまでも怯えて暮らさなくちゃならない。ここで奴に引導を渡して、ティアの過去も断ち切る。 これは、どうしても必要なバトルなんだ」 「でも……ハイリスク過ぎるわ」 「わかってる……でも、リスクが高いのは奴も同じだ」 いままで必死に逃げ回っていたのに、このバトルに負けたら、警察に素直に捕まらなくてはならない。 井山の人生においては、大きな事件になるだろう。 お互いにハイリスクなものを賭けたバトル。 それでも俺は一歩も引く気はなかった。引くわけには行かなかった。 「ティア……」 おれは胸ポケットでうずくまる神姫に声をかける。 「怖いか?」 「はい……」 ティアの声は震えている。 実のところ、俺の心は怒りで煮えくり返っていた。 あんな奴のせいで、今もティアはこんなに怯えている。 あいつだけは、絶対に許さない。 「いいか? これから井山とバトルする」 ティアがびくり、と身体を震わせた。 「だが、怖がることなんてない。 昔のお前は一人きりで、奴の言うなりだった。 今は違う。俺がいる。お前と一緒に戦う。あんな奴には決して負けない。 だから……勇気を持て」 ティアが俺の方に顔を上げた。 瞳に涙が滲んでいた。 「戦うのはお前なのに……勝手に奴とのバトルを決めて、ごめんな」 「……いいえ」 ティアは弱々しく微笑んだ。 胸が痛くなる。 このバトルは、ティアには気の進まない戦いだ。 なのに俺はそれをティアに強要する。 だから俺はエゴイストだというのだ。 だが、この戦いがティアに必要だという考えも揺らがない。 一連の騒動に決着をつける最後のピースは、ティアが自らの過去と決別することだ。 そうしなければ、ティアはいつまでも自分の過去を引きずってしまう。 このバトルで、ティアの過去を断ち切る。 俺は強い決意を持って、筐体の前に座った。 「おい、遠野」 「大城……」 大城は俺の後ろにやってきて、くそ真面目な顔をしている。 「すまんな、お前たちとのバトルは、これが終わるまで待っていてくれ」 「……勝つんだろうな?」 「負ける気はさらさらない」 俺も真面目に受け答えする。 大城は頷いた。 このバトルに勝たなくては、長く目標としてきた大城たちとの対戦も実現しない。 俺が決意を新たにしていると。 なんと虎実が、ティアに声をかけた。 ■ マスターが何の考えもなしに、こんなバトルを受けるとは思っていない。 思っていないけれど。 心に刻み込まれた恐怖は、簡単には拭えない。 あの人の……かつてわたしのお客さんだった人の顔を見るだけで、恐怖に身がすくむ。 条件反射のようなものか。 あの手がわたしを掴んだ瞬間から、もう逃げようのない虐待が始まるのだと、どうしてもそう考えてしまう。 マスターは、そんなわたしに気を遣ってくれた。 それはとても嬉しいのだけれど。 でも、マスターの言うような勇気は、まだ絞り出せていない。 バトルに挑む心ができないまま、わたしは筐体の上に立つ。 身体が小刻みに震えているのが分かる。 マスターの指示通りに戦えば、勝てると信じているけれど。 どうしても、どうしても、怖くて怖くて仕方がない。 このままでは、勝てる試合も勝てないのではないか……。 そんな弱気が心に浮かんだ時。 わたしを呼ぶ声が、聞こえた。 「ティア!」 「……え?」 「アンタがあんな奴の神姫に負けるはずがねぇ! さっさと勝って、アタシと対戦だ。忘れんな!!」 驚いた。 虎実さんがこんな風に私に声をかけてくれるなんて、初めてかも知れない。 虎実さんは、まっすぐにわたしを見つめてくる。 真剣な表情に、わたしは息を飲む。 マスターの後ろから、別の神姫の声が聞こえてきた。 「そうよ、自信を持ちなさい! あなたは、この『エトランゼ』にも勝てる、あの『クイーン』とだって渡り合える実力があるんだから!」 ミスティ。 彼女はいつもわたしの心配をしてくれる。 そして、いつの間にかマスターの後ろに来ていた、四人の少女たち……久住さんの弟子?の四人の肩の上から、次々と声がかかる。 「ティア、がんばって!」 「また、あのきれいなバトルを見せて下さい!」 「勝てる、勝てるよ!」 「あんな奴に負けないで、ティア!」 ライトアーマーの神姫たち。 会話するのも初めての彼女たちが、わたしを激励してくれている。 どれほど驚いたことだろう。 どれほど嬉しかったことだろう! わたしは、驚きに見開いていた目を、一度伏せる。 そして再び目を開いたとき。 恐怖に怯える気持ちは、小さくしぼんでいた。 「ありがとう……みんな」 ずっと、独りだと思っていた。 マスターのところに来たときから、わたしは誰にも迷惑をかけないように、独りでいなくちゃならない、そう思っていた。 だけど今は、仲間がいる。 わたしを認めてくれる友達がいる 折れそうなわたしの心を支えてくれる。 アクセスポッドに歩み寄る。 向かい合う相手のマスターは、どうしても怖いけれど。 今は、マスターと仲間たちがくれる、勇気の方が勝っている。 わたしは戦える。 このバトルに勝って、約束を果たそう。 □ 仲間ができた。 俺たちを信じてくれる仲間は、何よりかけがえのない存在だ。 俺は仲間たちに支えられて、絶望の淵から立ち上がることができた。 だから、ティア。 お前も仲間たちの言葉を胸に、勇気を持って走り出せ。 お前が走れるのなら、俺が勝利への道を示してやる。 そして、この事件のすべてに決着をつけよう。 「……準備はいいか?」 俺は井山に尋ねる。 相変わらずの、薄気味悪い笑み。 「いいとも。はじめよう」 俺と井山は同時にスタートボタンを押した。 筐体に今回のフィールドである「塔」が浮かび上がる。 対戦カードが表示される。 『ティア VS クロコダイル』 『GET READY …… GO!』 塔の内部が表示される。 薄暗い塔の中、ティアがたたずんでいる。 どこか、不安な表情。 塔の中は静寂に包まれている。 奴の神姫は…… 瞬間、井山の耳障りな叫びが響きわたった。 「ひゃははははは! かかった、かかったね!? もうこれで、ボクの勝ちさ! さあ、アケミちゃん、思いだしなよ。 これが、ボクの神姫だ!!」 その叫びと共に。 塔の上の方から。 奴の神姫が姿を現した。 次へ> トップページに戻る