約 3,210,620 件
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/272.html
『続 とある上嬢の貞操騒動(もしくは上嬢の逆襲)』 ここはとある病院。 まだ面会時間内とは言え、既に外は昼と夜が妖しく交じり合う時刻――いわゆる逢魔が時――となり、廊下の照明は陽光から人工の光に代わっていた。 それでも闇を払拭できないのだろうか? それとも病院という場所柄だろうか? そわそわと何か落ち着かないような空気が、薄闇に紛れる様にして辺りに漂っている。 そして、そんな廊下を進むある一団がいた。 皆、少女と呼ぶに相応しい年頃の女の子たちだ。 一人を除いて、皆が皆、同じ学校の制服を着ている事から、同じ学校の仲良し同士が入院する友達を見舞いに来た様にも見える。 それにしては奇妙な事に、皆一様に無言であり、中には険しい表情を見せている者もいる。 そして、先程一人だけ制服で無いと上げた少女は、別の少女に背負われていて――眠っているのだろうか? その瞼は閉じられ、顎を肩に預け、両の手は力なくだらりと下に下がっている。 この状態では安定しないのだろう。もう一人の少女が背中から支えるようにしてずり落ちるのを防いでいた。 これだけでも十分奇妙な一団なのだが、奇妙な点は他にもあった。 まず、彼女等六人の内、四人が同じ顔をしている事。 幸い廊下ですれ違う人は誰もいなかったが、もし誰かが彼女等を目撃したならば、「四つ子?」と思った筈だ。 それほどに彼女等は容姿が似通っていた。 数少ない相違点を上げるなら、その内の三人は頭に無骨なゴーグルを着けていて、更にその内の一人はオープンハートのネックレスをしているのだが、ネックレスはよほど近づかないと判らない。 残るゴーグルをしていない一人は、その二の腕にツインテール頭の少女をまとわり着かせて見るからに歩きにくそうに歩いている。 時々引き剥がそうと努力しているようだが全く功を奏さない。 かえって強く引っ付かれてバランスを取るのに苦労しているようだ。 そんな一団の中、先頭を歩く少女――御坂妹が、ロビーを抜けてから初めて声を発した。 「こちらです、とミサカ一〇〇三二号は自分の部屋のように皆を招き入れます」 シュっと目の前の病室の扉が開く。 御坂妹が先頭に立って中に入ると、他の者も後に続く。 中に入るとそれほど広くも無い病室の中で目に付くのは、大き目のベッドと、その横にある用途不明の機械の数々。 そして、その横に佇む、御坂妹と同じ顔の少女が一人。 またお姉様と同じお顔のぉぉぉぉと声を上げそうになる白井の口を美琴が急いで塞いだ。 そんな騒ぎなど無かったかのようにベッドの横に立つ少女は微動だにしない。 そんな少女が、ぺこりと首だけで挨拶をする。 「おかえりなさい、とミサカ一九〇九〇号は妹達(シスターズ)に挨拶します」 続いて、美琴に向かって少し上体を倒して、さっきよりは丁寧にお辞儀をすると、 「お久しぶりです、お変わりありませんか? とミサカはお姉様に取り合えず社交辞令を言います」 「社交辞令かい! フン! アンタも他のコと一緒で元気そうね」 美琴は、ミサカ一九〇九〇号の言葉に突込みを入れた後、フン、と視線を中にそらすと、そっけない感じに挨拶を返す。 それでも、ちょっと嬉しそうなのは、ミサカ一九〇九〇号が見た目元気そうだったからだろう。 彼女等は皆、美琴の体細胞クローンであり、常に人間扱いされない環境にあった。 それを救ったのが、今妹達(シスターズ)の背中で眠る少女・上条当子である。 お陰で、使い捨てられようとしていた彼女等は一人の『個人』として生きる道を与えられたのだ。 そんな美琴とミサカ一九〇九〇号が挨拶を交わしているところに、御坂妹が割り込んできた。 「いやいや、同じではありません、とミサカ一〇〇三二号は訂正します。一九〇九〇号(コイツ)は、隙あらばミサカたちを出し抜こうとしている女狐です、とミサカ一〇〇三二号は力を込めて力説します」 ビシッとミサカ一九〇九〇号に指を突きつける。 「今そんな話をしなくても、とミサカ一九〇九〇号は一〇〇三二号の空気の読めなさに唖然としました」 ミサカ一九〇九〇号は、少し肩を落とすと、右手で顔覆おう。 その顔は心なしか『がっかり』とも『ショック』とも取れる感じで、それを見た美琴は、あら? このコには少し表情があるのねと、小さく呟く。 妹達(シスターズ)皆がいつか表情豊かに喜怒哀楽を表現する日が来るのだと実感して、美琴は一人目頭を熱くさせる。 それもこれも皆、上嬢(コイツ)のお陰。 彼女は何時も何でも無い事のように他人の事情に首を突っ込んでは、ずたぼろのぼろ雑巾にされる。 本当に死んでもおかしく無いような状況に何度なった事か。 上嬢がまず心配するのは相手の事。 それが敵だろうと味方だろうとお構いなしなのだ。 美琴から見れば、こんなに無知で無能で無力で無策で無節操なヤツが、何を思い上がっているのだろうと思う。 しかし、あの時鉄橋の上で自分の前に立ちふさがった姿を思い出すと信じずにはいられないのだ。 だから、上嬢が死地とも言えるような場所に向かおうとしている事を知っても止められなかった。 これからも止めるような事はしないだろう。 それは、彼女の本質に反する。 ならば次は自分も同じ死地に向かおう。 (コイツの背中は私が守ってやるんだからっ!!) 美琴は、今は眠る上嬢の横顔を見ながら決意を新たにするのだった。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 所で、美琴に手で口を塞がれたままだった白井は、その手の拘束がいつの間にか緩んできたのを幸いに、自分の手を隙間に差し込んでそっと美琴の手を動かして呼吸を楽にしていた。 そうして今度は美琴に抱きしめられているのを存分に堪能しようと腕の中でもぞもぞしだした。 (うふふふ、お姉様の方からわたくしを抱きしめてくれるなんて又とないチャンス! ぞっんぶんに堪能させていただきますわ) そんな邪な心イッパイの白井の頬に何かがぽたりと落ちてきたのはその時だった。 何気に視線を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、涙を流す麗しのお姉様の顔であった。 「お、お姉様ぁ?」 何とか声をかける事は出来たが、動揺を隠す事は出来なかったようで微かに声が上ずっている。 「へ?」 そんな白井の感情などつゆ知らず、突然変な声を掛けられた美琴は間抜けな返事を返す。 「何泣いてるんですの?」 「へ? え!? な、ななななぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」 白井の指摘に、何気に頬に触れた美琴は指先をぬらす涙(しょうこ)に慌てふためく。 その顔は見る間に真っ赤に染まり、口は酸欠した金魚のようにパクパクと動く。 ようよう暫くして、真っ白だった頭の中に少し色彩が戻ってきたのか、早速言い訳を開始する。 「あ、あわ、こ、これは何でもないのよ――そう、急に目にゴミが、どうしたのかしら……あはははは」 「お姉様……流石にその言い訳は苦しいですわ」 あまりに苦しい言い訳に思わずジト目になる白井。 そして、そんな光景を黙ってみていた御坂妹が口を開くと、美琴に話しかける。 「ここはいいスタッフが揃っていますから診察を受けては如何ですか? とミサカ一〇〇三二号は真摯に進めます」 「ア、アンタ、バカにすんのもいい加減にしなさいよ!」 「そんな事より、この方を下ろしたいのですが、とミサカ一〇〇三九号は話を元に戻す為に提案します」 そんな事はどうでもいいとばかりにミサカ一〇〇三九号は、無表情に顎で上嬢とベッドを交互に指差す。 水を指された感じとなった美琴と御坂妹は、同時にミサカ一〇〇三九号に頷き返して、彼女の提案に同意の意思を示した。 それを合図に、ミサカ一〇〇三九号の背中の上嬢を、後ろに回りこんだ同じ顔の少女――ミサカ一三五七七号がゆっくりと下ろすと、二人でベッドの上にそっと寝かせる。 上嬢がベッドに寝かされると、皆でベッドを囲むように彼女の顔を覗き込む。 「よく起きませんわね」 白井が率直な感想を述べた。 「良く眠っていらっしゃるようです、とミサカ一〇〇三二号は寝顔から目を離さずに報告します。お姉様(オリジナル)、生体電気を操作してもう少し深い眠りに出来ますか? とミサカ一〇〇三二号はやはり寝顔から目を離さずに問いかけます」 「コラコラ、アンタねぇー」 美琴は御坂妹の言葉に抗議の声を上げる。 何時もの彼女なら、ここから怒涛の口撃が開始されるのだが、今回は違っていた。 美琴は「んん」と喉の奥で咳払いのようなものをすると、気持ち悪いくらいの猫なで声で、 「ところでさぁー、ここら辺で止めるってい――」 「『止める』とはどういう意味ですか? とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)に言葉の意味を確認します」 美琴の言葉は御坂妹の言葉に遮られて最後まで言うことは出来なかった。 あまりの切り返しの速さにたじろぐ美琴は、御坂妹からぷいっと目を逸らすと、その視線をベッドの上の上嬢に向ける。 「や、止めるって……そりゃアンタ、その……これの事よ」 「それは出来ません、とミサカ一〇〇三二号は全ミサカを代表してきっぱりと言います。これはもうお姉様(オリジナル)だけの問題ではありません、とミサカ一〇〇三二号はこの計画に中止は無いと言う意思を込めてお姉様(オリジナル)の案を拒絶します」 美琴の視線から内容を把握した御坂妹は、いつも通り淡々と、しかし絶対の意思をもって否定の言葉をぶつけた。 その言葉に美琴の視線が再び御坂妹の顔に向く。 (っんのぉぉ! 私が下手に出でれば好き勝手言ってくれちゃってぇ) 自我を持ってくれるのは嬉しい事だが、こう反発されると流石に頭にくる。 これが反抗期ってヤツ? などと美琴はそんな事を考えたりした。 (嘘ついてこのままコイツを起こしてやろうかしら? いやいや、この場でコイツが目を覚ましたら、私は何て言い訳をすれば――) 内心強引に邪魔してやろうとまで考えた美琴だったが、上嬢を起こした後の言い訳が思いつかず、次の行動を決めかねていた。 そんな状態の美琴だったから、急に御坂妹から声を掛けられて更に慌ててしまう。 「早くしてください、とミサカ一〇〇三二号はお姉様(オリジナル)に催促します。出来ないのでしたら別の方法が有ります、とミサカ一〇〇三二号は出来ないなら出来ないと正直に申告して諦めて欲しい気持ちを込めて言います」 「な!? ば、馬鹿にすんじゃないわよ! アンタたち見てなさい! 美琴サンの手に掛かれば――」 御坂妹からのいきなりの駄目だし宣言。 本来の美琴ならここで盛大にキレて電撃大放出と言うところだが、今の逼迫した状況と上嬢を守りたいという気持ちが交錯して頭が上手く働かない。 仕方なくここはあえて従ったフリをしようと、御坂妹の要望を実行する為に上嬢の額に右手を伸ばすと人差し指と中指をそろえて触れる。 「これくらいの事――」 美琴の髪が帯電を示すようにふわり広がる。 「朝飯前なんだからねっ」 美琴はそっと目を閉じながら自信に満ちた声とは裏腹に、心の中では『ごめん』と上嬢に謝るのだった。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 薄闇の中、外灯の光の中に最初に浮かび上がったのは白い頭だった。 続いて、灰色の服に覆われた体が付いて来て人の形を成す。 この時刻、全ての輪郭が滲みぼんやりとする中で、彼――一方通行(アクセラレータ)のいるそこだけは、別の像を投影したかのようにはっきりと存在感をアピールしていた。 彼は、ゆっくりと歩きながら首のチョーカーに手を伸ばした所で、はたとある事に気付いて盛大に舌打ちをする。 「チッ、どォりでなンか寂しいと思ったら、部屋に杖忘れて来てるじゃねェかァ」 俺ァ何やってンだァァァ? と無造作に伸びた白髪を乱暴に掻き毟る。 彼は過去に脳に重大な怪我を負って以来、能力の殆どを首につけたチョーカーで補っている。 正確には、このチョーカーを介してミサカネットワークの加護を得ているのだ。 そしてこれにはいくつかのモード設定がある。 今のように能力使用モードなら、以前と変わらない状態で体を動かす事が可能だが、その時間は15分しかない。 それが過ぎれば、歩く事はおろか、言葉を交わすことさえ出来なくなるのだ。 その為、通常は能力使用モードはOFFにしてある。 これなら48時間の稼動に耐えられる――しかし、その場合は超能力は使えなくなり、歩くには補助器具が必要になる。 今回の件を15分で済ますとなると、かなり荒っぽいことになってしまうだろう。 そうなれば、上嬢や、美琴達や、この病院の患者、医療スタッフ、そして施設を無傷でとは行かなくなってしまう。 今の一方通行(アクセラレータ)にはそれらの犠牲を無視する事は出来ない。 と言うか、そこまで派手にやる理由が思いつかない。 大体自分は杖まで忘れるほど何を興奮してここに来たのだろうか? こうして今、ここにいるのが段々馬鹿らしくなって来たが、手ぶらで帰るのも癪なので、彼にしては珍しく少しポジティブに考える事にした。 「クソ、しかたがねェ、杖の代わりを借りてくるか――ついでに病室(いばしょ)も案内させりゃ世話ねェか」 ひとりごちると、つかつかと病院の受付に向かって歩き出す。 そして正面玄関を抜けた所で見知ったカエルに良く似た顔を見かけて立ち止まる。 向こうもこちらの存在に気がついたようで、ひょこっと片眉を上げると声を掛けてきた。 「おや? 杖を使っていないと言う事は能力使用モードかな? という事はまた何か騒動が起こっているのかい?」 一方通行(アクセラレータ)は、何時もの通りの疑問符混じりの言葉にうんざりしたような視線を返す。 「残念だがアンタの手を煩わせる様な事ァ起きてねェよ。ちょっとな、うっかり杖忘れたンで、こォして無駄にバッテリー消費してるだけだ――で、わりィンだけど杖貸してくれよ」 一方通行(アクセラレータ)の図々しいとも言える言葉に嫌な顔一つせず、ああ、お安い御用だよ、と言ってカエル顔の医者は一方通行(アクセラレータ)に手招きするとすたすたと歩き出す。 そして、すぐ側の扉を開けて中に入ると、後ろから着いてきた一方通行(アクセラレータ)に椅子を勧めて、ちょっと待っていてくれるかな? と言って部屋を出て行った。 どうやら彼はチョーカーのバッテリーを気にして先に座れる場所を提供してくれた様だ。 それに気付いた一方通行(アクセラレータ)も、無言で椅子に座るとチョーカーの能力使用モードをOFFにする。 程なくしてカエル顔の医者は一本の松葉杖を持って帰って来た。 普段一方通行(アクセラレータ)が使っているような、新しいデザインの物ではなく、従来からある古い形のものだった。 このタイプは、バンドで腕に固定するようになっていて、手を離しても大丈夫なようになっている。 「長さが調節できるのはこのタイプの物しかなくてね」 「構わねェ」 医者の言葉に一方通行(アクセラレータ)は短く答える。 その返事を聞くと、カエル顔の医者は、こっちでいいね? と一声掛けると、一方通行(アクセラレータ)の右手に松葉杖を装着する。 そして、脚の長さを調節すると一方通行(アクセラレータ)に、立ってみてくれるかね? と言った。 その言葉に、一方通行(アクセラレータ)は杖をついて椅子から立ち上がる。 「どうかな? 重くは無いと思うんだ。普通に使う分には簡単に壊れたりしないと思うけどね?」 そんな医者の言葉を聴きながら、体重をかけたり、床を突いたりして杖の感触を確かめる。 「悪くねェ」 その言葉を聴いて、カエル顔の医者の口元が少し綻ぶ。 「それは良かった。ところで彼女――打ち止め(ラストオーダー)には最近会ったかい?」 そんな質問を急に投げかけられても一方通行(アクセラレータ)は慌てなかった――そんな事を聞かれるだろうと言う予感があったからだ。 ただ、一方通行(アクセラレータ)は自分を語るのはあまり得意では無い様子で、当然その質問に対してうんざりしたような視線を投げかけた。 「けっ――そんな事聞いてどォすンだよ?」 一方通行(アクセラレータ)を知る者の認識として、彼にこう言われても食い下がれる人間はそう多くは無い。 まして顔色一つ変えずにいられる人間など数える程しかいないだろう。 そして、このカエル顔の医者はその数少ない一人だった。 「僕はね、治療のためには患者の事はどんな些細な事でも知っておきたいと思ってるんだ。特にまだ完治していない君のようなコはね」 一方通行(アクセラレータ)は、深いため息を着くと、 「ああ、たまにな。あいつン所行くよ」 「それで、彼女はどうしてるんだい?」 「ああ? なンか妙にはしゃぎやがンだよなァ――俺なンかが来るのがそンなに楽しいもンかねェってくらいはしゃぎやがンだ、あいつはよォ。それで――」 一方通行(アクセラレータ)の話を聞きながら、カエル顔の医者はふとある事に気がついた。 あの一方通行(アクセラレータ)が笑顔を浮かべているのだ。 それも全く険の無い、歳相応の――いやもっと幼い子供のような笑みを浮かべている。 かつてカエル顔の医者はある人物に、彼の本質は黒だと言った事がある。 (誤診? いや彼が変わった? いやいやどちらにしろ僕の診断に間違いがあったという事か。やはり医学と言うものは一筋縄ではいかないね) 「ありがとう。もういいよ」 「――で俺が料理しィ……あン? もういいのか? そォか……、まァ……、あァ……判った」 彼がちょっと残念そうにしたのは、きっと気のせいだろう。 彼のキャラじゃないからね、とカエル顔の医者はそれ以上追求する事は止めておいた。 そんな一方通行(アクセラレータ)も、自分らしくない一面に気がついたようで、不貞腐れたような顔をして頬を人差し指で掻いた。 それから、カエル顔の医者の方を向くと、 「俺からも聞きてェ事があるンだけどよォ――妹達(シスターズ)が病室に女ァ連れ込ンでンだろ?」 カエル顔の医者の質問が終った途端、今度は一方通行(アクセラレータ)から医者への質問と言うより尋問に近い響きの言葉が投げかけられた。 「連れ込んだって穏やかじゃないね? ああ、確かにお友達が一緒だったみたいだね? 珍しい事もあると思ったんだよ?」 のんびりとした医者の返事に、特に何の感情も見せずに一方通行(アクセラレータ)は次の質問をする。 「部屋ァ教えてくンねェかなァ?」 彼なりに丁重にお願いしたつもりのようだが、語気には脅迫的な力が込められている。 「聞くけど、院内で騒ぎを起こすつもりじゃないだろうね? いくら君でも――」 「うるせェンだよォ。こっちは急いでンだ。教えねェってンなら病室片っ端から見てくだけだ」 そんな言葉にカエル顔の医者は、相変わらすだねぇ、と一言漏らすと、ポケットから紙片とペンを取り出してさらさらっと何かを書いた。 そして、その紙片を一方通行(アクセラレータ)の方に差し出しながら、 「そう短気を起こすもんじゃないよ? ○○○○号室だ。これは簡単な見取り図。ただこれだけは了解して――」 と説明がてら、医者は一方通行(アクセラレータ)に一言釘を刺そうと考えたのだが、 「騒ぎは起さねェし、死人も怪我人も出さねェ。これで満足か? あァ?」 とはき捨てるようではあるが、何とか及第点とも呼べる回答を返してきたので、 「君を信じよう」 と言葉を返すに留めた。 「ハ! ありがとうよ」 「礼を言われるような事じゃないんだけどね?」 立ち上がって病室を出てゆく一方通行(アクセラレータ)を、カエル顔の医者は困ったような、少し楽しそうな、そんな顔で見送った。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 病室のベッドに寝かされた上嬢の上半身は今、白いブラが一枚と鎖がついたチョーカーのみにされた。 くすみ一つ無い上嬢の白い肌には、その美しさゆえに判る戦いの傷跡と思しき赤い線が、――この程度に留められたのは医者の腕の賜物だろう――うっすらだが見てとれた。 首に輝くゴールドのチョーカーとかわいいブラとのアンバランスさと、チョーカーにつながれた細い鎖の存在、それらが交錯して、穏やかに眠る彼女の姿にそこはかとない背徳感を与えている。 そして、そんな姿にしばし見とれていた美琴は顔を真っ赤にして上嬢を脱がせた張本人――白井にくってかかる。 「な、何でアンタ上脱がしたのよ!!」 「え? でもお姉様、服を脱がせませんと確認は出来ませんわ」 こちらも上嬢に見とれていた白井は、美琴の方を向いて、さも当然と言わんばかりに返答を返した。 「な、なら下だけ、ぬが、脱がせばいい、いでしょ。よ、よよ、用があ、あああ、あるのは下ぁ……」 そこまで言うのが限界だったかのか、美琴は俯いてしまった。 そんなお姉様も可愛いですわ、と白井は悪戯心が湧いてきて、 「あらあら、『下』だけですの? 確かに、セーターの裾からチラリと見える生脚と言うのは……劣情を誘いますわね。その奥に何が隠れているのかとかぁ……」 その言葉に美琴の体がビクッと跳ね上がった。 そして、先程よりずっと真っ赤な顔をして、黒子に猛然と否定の開始した。 「アタ、アタシはそんな事ぜっ~んぜん考えてませんからぁ!!」 そんな騒ぎに今の今まで無言で静観していた――正確には半裸の上嬢を前に色々とそれど頃ではなかった――妹達(シスターズ)は顔を上げると一斉に美琴と白井を見つめた。 そしてその中から御坂妹が代表して、 「この後も控えていますからさっさと次に進んでください、とミサカ一〇〇三二号は期待を込めて作業の継続を促します」 「え? ぁ……ぁあ!?」 と美琴は当初の予定を忘れ――ある意味美琴以外には予定通りなのだが――て流されていた自分に気がついて慌てたが既に遅し。 美琴の体を押しのけて白井がベッドに身を乗り出すと、 「うっふぅふー♪ ではではぁ~、ここは……、そうですわねぇ……、ブラを残して下を……、一気に全部行きましょうか♪」 と、上嬢のズボンのウエスト部分にするっと指を滑り込ませた。 その動作に、妹達(シスターズ)が一斉にベッドに身を乗り出して、白井の手の動きを凝視した。 そこでもやはり御坂妹が――珍しくぎこちなく白井の方を向くと真っ赤な顔で、 「ま、まま、全く、も、持って異存ありません!! とミ、ミサ、ミサカぁぁぁぁぁぁぁああああああ……」 御坂妹の言語中枢が興奮で決壊したようだ。 目つきもちょっと怪しい。 いや気がつくと、他の妹達(シスターズ)もギラギラしている。 「こ、こらぁー!! いい加減にしなさいよ!! こんな事してどぉーすんのよぉー!!」 無視すんなー!! 話を聞けぇー!! と言う美琴の叫びは彼女たちには届かないようだ。 こんな所でもスルーキャラを見せる美琴だった。 それはさて置き、期待も最高潮になった所で白井は、 「でわでわ皆様方ぁー、ご開ちょ――」 と行く筈であった。 しかし、その言葉は最後まで言う事は出来なかった。 何故なら、突然に病室のドアがズバァーンとあるまじき音を立てて開くと、 「お楽しみの所失礼しまァァァァァァァァアアアアス」 とこの場にもっとも不釣合いな声が響いた。 「「「「「「!? !!!!」」」」」」 その部屋にいた上嬢以外の全員が一斉に入り口の方の向く。 そして、そこに立つ杖を付いた白い少年を見てギョッとした。 「ア、アク、アク、アクセラレェタァー!?」 美琴の言葉に、「あれが噂の学園最強の……」と白井が畏怖の念を込めた言葉を吐く。 そんな皆を一方通行(アクセラレータ)ねめつける様に見回すと、 「テメェらァ、がん首そろえて略取誘拐たァどォ言う了見だ?」 とはき捨てるかのように言った。 その言葉にいち早く我に返った美琴が、 「あなたにとやかく言われる筋合――」 と言い返そうしたが、 「うるせェンだよ。俺ァテメェらなんぞに構ってる暇はねェンだ! さっさとソイツをこっちに渡せ」 美琴の言葉を遮るように言い放つと、左手を腰の辺りで水平にして掌を上にして『さっさと寄越せ』とアピールした。 それを見た美琴たちは、 「なっ!? 誰がアンタなんかにっ」 「そのとおりですわ! いくら『学園最強』と言えど上嬢さんは譲れませんわ!」 「「「「あなたにうらみはありませんが我々にも引けない事があるのです!! とミサカは戦闘態勢に移行します!!」」」」 とそれぞれが構えを見せる。 しかし、そんな彼女たちを見て一方通行(アクセラレータ)の顔に浮かんだのはまさに『凶相』。 なまじ正坦な顔ゆえ、それが崩れると凄まじい畏怖と嫌悪を相手に与えるのだ。 「黙ってろよ三下ァ――俺ァ少し気が立ってンだァァァアアアア」 と言いながら左手を無造作に横に薙いだ。 「「「「「「!?」」」」」」 ただそれだけの筈なのに、美琴、白井、妹達(シスターズ)の体を正面からありえない突風が襲い、彼女らを次々と病室の壁に叩き付けた。 低いうめき声を上げて壁にもたれかかる彼女らに一瞥をくれると、 「テメェらは光(あっち)の側の人間だろォがよォ、土足で闇(こっち)の側の領分に入ってくンじゃねェよ」 と面白くなさそうにぼそりと言う。 そして一方通行(アクセラレータ)はカッカッと杖を鳴らせて上嬢のいるベッドに歩み寄り、眠る上嬢を覗き込んだ。 「こンだけ騒ぎになってンのにノン気なもンだァ……オイ、何だこの首輪は?」 上嬢のチョーカーから伸びた鎖を手にとっていぶかしむ一方通行(アクセラレータ)に御坂妹が、 「ミサカたちからのプレゼントです、とミサカ一〇〇三二号はミサカを代表して言います」 「この首輪がかよ?」 一方通行(アクセラレータ)は御坂妹と鎖を見比べると、 「ったく、これは何のプレイなンだよ! 何時から妹達(シスターズ)の間でSMごっこなンて流行り始めたンだ?」 と呆れた声を上げた。 そして更に、 「何だァ? やっぱこれはあれか? 乱交パーティーかなンかなンですか? って、オイオイ、マジ愉快な事してるじゃねェーかよ」 と蔑みの眼差しを辺りに投げかけた。 すると、それまで壁を背に床に座っていた美琴がゆっくりと立ち上がると、 「何にも知らないくせに」 「あァ?」 一方通行(アクセラレータ)は何を言われたのか判らず聞き返した。 そんな一方通行(アクセラレータ)に、美琴は猛然と、 「アンタなんか何にも知らないくせにって言ったんだよ! この白髪頭ぁ!!」 と人差し指をビシッと突きつけて言い放った。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 一方通行(アクセラレータ)はこの茶番劇にイライラしていた。 (何でこの俺がこンな所でコイツらの相手なンかしてなきゃいけねェンだ?) 本来なら今頃、打ち止め(ラストオーダー)と生ぬるい『家族ごっこ』に興じていられただろうに。 そんな鬱屈した状況だったところに放たれた美琴の言葉に、普段は挑発されない一方通行(アクセラレータ)がこの時ばかりはキレた。 「上等だァ……オモシレェじゃねェかよ各下ァ。ステキにぶちまけてやる前に遺言くらい聞いてやンよ」 赤い瞳が爛々と輝く。 そんな一方通行(アクセラレータ)を、睨みつける美琴。 まるで操車場の再現の様に両者がにらみ合う。 「アイツをアンタなんかに渡さないんだからぁぁぁぁあああああああ!!」 「上等だァテメェ、あン時の決着を着けてやンよォ。各下がどォしても辿りつ――」 一方通行(アクセラレータ)ははき捨てるように言うと、左手を鉤爪のように折り曲げて美琴に――向かおうとしたが出来なかった。 「ンにィ!?」 左手をつかまれると目にも止まらぬ速さで引き寄せられ、気がつくとベッドの上に組み伏せられていた。 その組み伏せている相手とは上嬢当子――本来彼が助けるべき相手であった。 「ンあ? おい、テメェ何しやが――」 一方通行(アクセラレータ)はそれ以上の言葉を発することが出来なくなった。 それもその筈、覆いかぶさっていた上嬢に口を塞がれたのだ――彼女自身の唇で……。 一方通行(アクセラレータ)は必死に頑張った。 元々体力勝負で上嬢に敵う筈も無い彼だったが、それでも必死に抵抗を試みる。 (クソッ! 助けに、来た、相手に、公開レイプされるたァ予想もしなかったぜェェェ!!) しかし、ぐぐもった叫びも徐々に弱くなっていき、それに変わって聞こえるのは唾液の合わさる水音と、荒い息遣いのみとなる。 そして、暫くして一方通行(アクセラレータ)の体が小刻みに痙攣しだし、2、3度大きく痙攣した所で、上嬢が上体を起こして、一方通行(アクセラレータ)上から移動した。 すると、支えのなくなった一方通行(アクセラレータ)の体はずるずるとベッドを滑り床に尻餅をついた。 どうやら彼は意識が無い様子で、その瞳には生気は感じられず、白い肌は真っ赤に上気し、だらしなく開いた口からは少し舌がはみ出していて、顎を伝って唾液が滴り落ちていた。 すっかり沈黙してしまった一方通行(アクセラレータ)を見て、上嬢は口元を拭うと満足げにため息を着いた。 「んふぅー。やっぱりこの方法で間違いなかった訳で、カミジョーさんはとっても満足しました」 それまで唖然として事の成り行きを見守っていた中から、美琴が上嬢に声を掛ける。 「ア、アンタ何やってんの?」 「へ? おぉー、これはだな、錯乱した同性を落ち着かせる方法ってヤツで、効果てき面だろ?」 本に書いてあったんだよーと自慢げに語る上嬢に、 「ど、同性ってアンタ、一方通行(アクセラレータ)は男――男なの?」 と、美琴は思わず本筋とずれた所に突っ込みを入れたところで、その疑問を御坂妹にぶつけた。 「私は彼の性別までは知りません、とミサカ一〇〇三二号は驚きを隠しつつも情報を提供します」 そんな御坂妹の役に立たない回答に上嬢は、 「本名? 鈴科百合子って言うくらいだから女でいいだろ?」 「な、何でアンタが一方通行(アクセラレータ)の本名知ってんのよ!?」 「こんなのでも女性なのですか!? とミサカ一〇〇三二号は驚愕します」 上嬢の言葉に皆が一様に驚愕した!! 一方通行(アクセラレータ)が女? ぐったりと床に座る彼に、そう言われれば女性に見えなくも、などと皆が思っていると、 「今、ミサカネットワークを通じて上位個体から『お風呂で胸までは確認したけどツルツルペッタンコだったよ! ってミサカはミサカは独占情報を公開したりっ!』と言っています、とミサカ一〇〇三二号は同居者の信憑性のある情報を提供します」 「ほら! やっぱり一方通行(コイツ)は男なのよ!!」 美琴は御坂妹の言葉に相槌を入れる。 それより一方通行(アクセラレータ)の同居人って誰なんですの!? と言う白井の言葉は皆には聞こえなかったようだ。 「さらに上位個体から『でもでも、下は見たこと無いなぁ~ってミサカはミサカは実はミサカって同性愛の危機!? って驚いてみたりっ!!』と言っています、とミサカ一〇〇三二号はなんかどうでもいい情報も提供します」 「え? 何? って事はホントはどっちなのよ」 と美琴は混乱して頭を抱えてしまう。 そんな美琴をベッドの上から眺めながら上嬢は、 「ま、どうでもいいんじゃないの? だってどうせ私の夢の中だし」 上嬢を覗く全員が、「はぁ?」と言う顔をして上嬢を見つめた。 そのまま、固まってしまった皆を見回して、上嬢が「何?」と小首を傾げると、 「「「「「「ユメぇぇぇぇえええええ!!!!? !!!!」」」」」」 と一同の大合唱が帰って来た。 それにビクッと体を竦めて上嬢は、 「ッウ……ウルッセーなぁー……そうだ!! お前らもあれだ、練習に付き合ってくれよ」 その言葉に全員の顔――妹達(シスターズ)すらも――が引き攣った。 「1、2、3、4、5、6――ふっふっふ、これだけこなせば上嬢さんのスキルも激上がりっつー事ではありませんかぁ!!」 妙にハイテンションな上嬢を前に、美琴以外の皆が一斉に取った行動は、 「ア、アンタらなんで私の後ろに隠れんのよぉぉぉぉおおおおお!!!!」 「「「「ここはお姉様(オリジナル)に先陣を切っていただきましょう、とミサカはお姉様(オリジナル)に優先権をを譲ります」」」」 「黒子!」 「わたくしはお姉様の『露払い』こんな時こそわたくしの見せ場と心得ておりますわ」 (ここで上嬢さんを撃破し、その勢いに乗ってお姉様も、くふふふ――その為にもぉ) 「この勝負負けられませんわ!!」 両手を広げて、構えを見せる白井に、 「お、ヤル気満々じゃねーか。嬉しいぜ白井、そんなお前が好きだよ」 とベッドから降りてきた上嬢が優しく白井の頬に指を滑らせながら言うものだから、 「か、かか、かみじょぉぉぉぉぉおおおお、おごっ!!」 興奮した白井が上嬢に飛びかかろうとしたが、上嬢に上手く抱きとめられてしまうとそのまま唇を奪われる事になった。 後は全く一方通行(アクセラレータ)と同じなので割愛する。 (そ、そんなのあんまりですわ!!?) ともかく後には、上嬢に抱きかかえられぐったりとする白井。 その顔が微かに幸せそうだったのが、彼女の唯一の救いになったかどうか。 上嬢はそんな白井をベットの上に寝かせると、 「さてと、お次は美坂さんですかね? お姉様のすごい所を私に見せてくれよな」 と上嬢は笑顔でそんな事を美琴に言った。 「んな!? く……い、いいわよ。その代わりアンタが負けたら『罰ゲーム』なんだからね!」 (こんな形でアイツとなんてホントは嫌だけど、アイツから逃げるのはもっと嫌) と生来の負けん気が勝り、覚悟を決める美琴。 そんな美琴に、 「おいおい、お前ってホント『罰ゲーム』とか『勝負』って好きだよなぁ。生粋のギャンブラーっすか?」 「そ、そんな事いいからさっさと来なさいよ!!」 おどける上嬢に美琴が啖呵を切る。 「お、さっすが美琴タン。そんな元気な所が好きだぜ」 と上嬢は美琴の両肩に手を置いてにっこりと微笑んだ。 「あ、ありが……んん!!?」 急にそんな事を言われたものだから、今まで以上に顔を真っ赤にしてもじもじしてしまった。 そして、そんな一瞬の隙を見逃す上嬢ではなく、素早く美琴の唇を奪う。 (あ!? もう、何よ!! ひ、卑怯じゃないのよぉぉぉおおお!!) しかし、そんな心の叫びも段々と口内の刺激に塗りつぶされていってしまうと、 (初めてがこんな形なんて、うう、でも――) 美琴の心は霞の中に埋もれていってしまった。 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ その後どうなたのかは誰も知らない。 ただ、それぞれの胸には何か残ったようである。 「クソッ、もォー二度とヤツとはかかわらねェ、クソ、クソ、クソォォォォオオオ!!」 (てか、次にヤツの顔をどォ見たらいいのか、ぜっぜン思いつかねェ……。大体なンだありゃ? 今思い出しても……、…………、思い出すンじゃ無かった) 「あれあれ? 何であなたは帰って来てから目を合わせてくれないの?ってミサカはミサカは疑問を投げかけてみたり。それからそれから何で急に真っ赤になっちゃったの? ってミサカはミサカは興味津々で聞いてみる!!」 (うふふ、暫くはこれで退屈しそうに無いねって、ミサカはミサカはあの人にグッジョブと言ってみたりっ!) 「はぁー……、はぁー……、…………、うわ、うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」 (したのよね! 私アイツとしたのよね! ンフ、ンフフフフ……) 「はぁ……、上嬢さんを攻略するにはあの熱きベーゼを……ふふ、っふふふふ」 (でも新しいスキルを入手しましたわ。まずはこれでお姉様を……ほほほほ……) 「「「「今回の件に関しましてミサカはこれを個人情報として封印します!! とミサカは淡い気持ちを胸に次も期待します」」」」 (この経験は自分で確認してください! とミサカはミサカネットワークにその事だけ伝えておきます) 「な、何だよ皆で私を悪者にして!! カミジョーさんが何かしたって――あ、あ、スイマセン、スイマセン、マジスイマセンってもぉぉぉおお、不幸だぁぁぁあああああ!!」 END
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/106.html
とある教師の進路相談 肌寒さに急かされて重いまぶたをゆっくりと開く。 月明かりのスポットライトに照らされて、星屑と身を寄せ合うように埃(ほこり)たちは輝き、部屋中を舞い踊る。 夜は好きだ。 恥ずかしさもなく、素直にそう思う。 無粋な呼吸一つで静けさを失ってしまうその儚さは、世界をより鮮明により先鋭に変化させる。がらにも無いがそれはとても美しい 光景だ。 けれど、だからこそ——、 夜は怖い。 強調された世界では、曖昧に生きている自分がひどく浮いてしまう。 病室にいるときはいつもそうだ。 誰かを救うことができたという充実感。誰も本当の自分を知らないという孤独感。 二つの感情が飽きもせずメリーゴーランドのようにやってくる。 こんなときはひたすらに眠り続けるのがいい。そう思って掛け布団にくるまろうとしたときだった。 夜のとばりを揺らす小さな足音。 室内の無個性な壁掛けは午後九時を知らせている。看護師の巡回にはまだ早い。普段なら同じ入院患者が散歩でもしている、と無視 したことだろう。けれど——今日はそう思うことができなかった。 なんとなくだが……この病室のドアを叩くのでは、そう思った。 それは予想だったのか、それとも期待だったのか。 「失礼するですよー?」 遠慮がちな申し出と同時に、焦らすようにドアが開き、 「——あれれ、起こしちゃったですか? 十分静かにしたつもりだったのですけど」 幼顔(おさながお)の小柄な担任——月詠小萌が訪れた。 一〇月中旬。上条当麻は毎度のごとく入院していた。 もはや常連とまで言える入院回数に担当の医師も院内の看護師も呆れるばかり。お見舞いの人間すら顔を覚えられている。 その日もそれなりのお見舞いがやってきて上条を笑い、けなし、噛みついていった。 「小萌先生にもお仕事があるのですよ。お見舞いに来たくても終わってからじゃ時間が遅くなっちゃいますからねー。今日は上条ちゃ んのカワイイ寝顔だけ見て帰ろうと思っていたのです」 小萌は慣れた手つきで林檎を剥いていく。 一緒に置いてあった蜜柑や葡萄、白桃などはことごとくインデックスに食べられてしまった。唯一残されたのが二つの林檎。ここま できたら残されたことを哀れにさえ思う。まぁ、これはインデックスのちょっとした反逆……いや、優しさの裏返しだと願っている。 「わざわざすみません」 「ふふっ、気にしなくていいのです。そんなにしおらしいのは上条ちゃん『らしくない』ですよ?」 滑らかに動くナイフをとめると、小萌は幼い顔でふんわりと笑いかけてきた。 『らしくない』 つらい言葉だ。特にいまの上条にとっては。 記憶喪失にもなんとか慣れ始めたから、こんなときは軽口でも言えばなんら問題ないことくらいわかる。それでも『記憶を失う前の 上条』と自分は違う。小萌の表現は『記憶を失った上条』と『記憶を失う前の上条』を暗に比較しているふうに聞こえてしまう。 自分らしさ……『記憶を失った上条』にとって、それはどのようなものだろう。 こんなことを考えると、どうも意識が自分の内側ばかりに向いてしまう。小萌といる現状ではそれは芳しくない。 「らしくないのは小萌先生ですよ。そんな子供っぽい顔してお料理スキル満点だなんて……上条さんはそんなギャップに屈しませんか らね、えぇ屈しませんとも!」 『子供っぽい』など、わざとちゃかすような発言をして話を濁す。 「な、なに言ってるのですか! こう見えても……いえ、小萌先生は見てわかるように家事全般は大得意なのですよ!?」 案の定つっかかってくれた。 とはいえ自分のした行動が、わざと好きな女の子をいじめる小学生くらいの男の子みたいで、無性に恥ずかしくなってくる。 そんな上条を知ってか知らずか……、 「まったく……上条ちゃんは仕方ないのです、えへへ」 年上とは思えない——いや、実際問題として小萌の容姿は小学生と言っても通用するだろうが——ような愛くるしい表情で、林檎を さっきの倍以上のペースで剥きだした。ダメな子ほど絶大な効果が発揮される世話焼きスキルである。 結局それから上条が小萌をなんとかして帰すまで、これでもかというほど介抱された。 小萌とのやりとりに疲れたのか、その夜はいつもより穏やかに眠れた気がした。 「上条ちゃんっ、病室に引きこもってばかりでは体に悪いのですよー! いまから小萌先生とお散歩に出かけるのです!!」 昨日より少し早い、まだ月が建造物で顔を隠している時間。小萌はそう宣言して車椅子を持ってきた。 その表情は昨夜に見た眩しいほどの笑顔である。 世話焼きはまだ続いていたわけだ。 「はぁー」 二の句を告げられなくなった上条は、溜息一つをお土産にして小萌には帰ってもらうことにした。 布団に潜り込もうとしたが驚異的なスピードで腕をつかまれ、現実逃避をこばまれる。 「……もう夜なんですけど?」 「むむっ、小萌先生だってそれくらいわかってます。昨日も言いましたけど、小萌先生には時間がないのです」 「あと数ヶ月で死んじゃう悲劇のヒロインみたいなこと言わないでください……」 あまりの傍若無人っぷりに呆れてしまう。 「えへへ……まぁ、冗談はここまでにしといて」 あろうことか小萌はそんなことを言い出した——が、夜の散歩が流れてしまうなら、との思いでツッコミたいのを我慢する。 「——上条ちゃんは温かい格好をするのですよ?」 「結局行くんかいっ!!」 相変わらず小萌の瞳は一昔前のLED光源のようにわざとらしいほどまぶしく輝いている。どうやってでも上条を外に連れ出したい ようだ。このまま拒み続ければ最終的には女の武器を使用するだろう。そうなったら上条に退路はない。 秋の涼しさは街中に広がっているとはいえ、今日は比較的暖かいほうだ。上条は寝間着としてジャージの下に長袖のTシャツといっ た格好だったので、少し見栄えは悪くなるが薄手のカーディガンでも羽織れば問題ない。 腹をくくる必要がありそうだった。 「……外出許可は取ってあるんですよね?」 「あ、その……上条ちゃんが本当に嫌だったら小萌先生も諦めますよ?」 そうは言っているが、自分がいまにも泣きそうなのをわかって言っているのだろうか? まぁ、きっと無自覚だろう。 上条としても、ここまでしてくれた小萌をそのまま帰すのは……まぁ、それなりに忍びない。 「いいですよ、散歩くらい。ちょっと準備するんで廊下で待っててもらえますか?」 「あの、平気です? やっぱりやめましょうか?」 「……小萌先生が誘ったんでしょ。それとも……生徒の生着替えでも見たいんですか? キャッ、小萌先生のエッチ!!」 それでも少しだけからかってみれば、 「なっ、なに言ってるんですか、上条ちゃん!!」 小萌は小さな両手で朱に染まった顔をなんとか隠しながら病室を飛び出していった。 なんというか……あんなことで真っ赤になるなんて本当にちっちゃい子みたいだ。きっと土御門や青髪ピアスにしたら、そこが小萌 の魅力なのだろう。上条には理解できない世界だ。 ……とはいえ、あの仕草には上条自身もグッとくるものがあったのも現実なのだが。 病院を後にすると、小萌はデートプランを練ってきたかのように迷いもなく歩を進めた。 「小萌先生、どこに向かってるんですか?」 素直にそう問いかける。 「特には決めてませんよ? 今日はお散歩なので着の身着のまま赴くままに、といった感じなのです。……それとも、上条ちゃんはど こか行きたいところがあるです?」 「特にはないですよ。それじゃ、小萌先生にまかせますね」 なんだかはぐらかされたような気もするが、変な勘ぐりはやめることにした。 もし上条に内緒で行きたいところがあるいのなら、それは小萌にとって本当に知られてはいけないのだろう。 自分の意思とは関係なく景色が動いていく。 ここのところ怪我ばかりの上条だったが車椅子に座ったのは初めてだった。 上条は自分が座っている車椅子を小萌が押すのは少々無理があるのでは、と松葉杖で行くことを勧めた。なにせ身長一三五センチの 体格では、ほぼ全自動の駆動輪付き車椅子でさえ扱いづらいはずだ。それなのに上条の言葉を一蹴して看護師から車椅子を略奪した。 よほど上条を連れて行きたいところがあるのかもしれない。単なるお節介という線もなくはないが……。 「えへへ、まかせてほしいのです!!」 肩越しに見た小萌は、左手を小さく握り締め、息巻いて頷いた。 この担任は教え子である上条にこんなにも無邪気に笑いかけてくる。そんなあどけない笑顔をじっくり見ていては小萌にも失礼かも しれないし、なにしろ上条自身が恥ずかしい。 車輪の行方を小萌に任せ、月明かりに照らされた科学の街を眺める。 「なんか……この辺りは静かですね」 「そうですねー、やっぱり病院が近いせいだと思うのですよ。……それに、どこかの誰かさんみたいに不良さんと追いかけっこするよ うな子もいないと思うのです。有り余ってる体力は勉強の方で発散してほしいですねー。上条ちゃんも、そう思ないです?」 「……ははは、そうとう元気な人ですね」 どこか乾いた声になってしまう。 「まったくもってその通りなのです。なんとですね、その子ったらなにかといろんなことに巻き込まれてたのです。不良さんと遊んで るのもその一つみたいで……女子中学生にもちょっかい出されたりするらしいのですよ? ほんと……とっても楽しそうなのです」 小萌の声は弾んでいて、明らかに上条をからかっていた。 「そ、そうですか?」 なんとか返事をしたが……心中穏やかではなかった。 「そうですよ。正直……学園都市は子供にとって住みよい場所だとは思えないのです。小さい頃から強度(レベル)による上下関係が 生まれるですし。傷ついてしまう子、傷つけてしまう子。どちらにとっても悲しいことです。……でも、その子は笑っていました。痛 いのは嫌だけど他の誰かが痛いのはもっと嫌、そんなことを言っていたのです」 いま、小萌の顔を見たら築いてきたものが崩れてしまう、そう思った。 記憶喪失以来、上条はそんなことを小萌に言った憶えはない。つまり小萌の話は『記憶を失う前の上条』のことだ。 小萌は上条が知っている教師の中でも、学園都市にいる大人の中でも、とてもとても素晴らしい人物だ。年端もいかない上条に対し てでも、まっすぐな気持ちと言葉をぶつけてくれる。 きっと頼ってしまう。どうしようもない想いを吐き出してしまう。 それだけは耐えなければいけなかった。 「——上条ちゃんは憶えていますか?」 この街の無機質な律動の音、その中で小萌の澄み切った声はやけに大きく聞こえた。 「初めて会った日のことを」 病院さほど遠くない小さな公園で小萌は足を止めた。 所々にある遊具たちは本日の業務を終えて故障したかのように動きを止めている。閉館後の遊園地も同じ雰囲気なのだろうか。外界 から切り離されたような、どこか違う時間を流れている感覚。 上条も彼らと同じ空間にいた。 縫いつけられたように車椅子に座っている。膝の上で絡ませていた両手が小刻みに震えだす。 「——は、初めてって『あの時』……です、か?」 『あの時』? それはいつだ!? 俺はなにを言っている! 小萌の不意打ちで思考は完全に止まっていた。しかし、身体は動くことをやめなかった。 知りもしない幻想を吐き散らしてまで小萌を事実から遠ざけようとする。 「……憶えてるです? 小萌先生は『あの時』、『あの場所』で出会えたのが『上条ちゃん』で本当によかったと思ってるですよ」 投げかけられる言葉が何度も胸をえぐる。 悲鳴を叫び続ける心とは裏腹に、不自然なほど滑らかに言葉が流れていく。 「なに言ってるんですか……俺だってそうですよ」 やめろ! これ以上『上条当麻』を演じるな! もう、この人だったらバレたっていいじゃ——、 上条の脳裏に焼きついて離れない、向日葵のような笑顔。 それを守らなければいけない。陰ることすらあってはならない。 「本当に……本当にそう思ってるです? 小萌先生に気を使ってるんじゃないです? お世辞とかじゃなくて……上条ちゃん……いえ、 『上条当麻』として言っていますか?」 いつの間にか小萌が目の前にいた。 上条が車椅子に座ってちょうど同じくらいの目線。心の奥まで覗き込むように、じっと上条を見つめている。 『能力』と『学力』で全てを評価される学園都市で小萌ほど学生に真摯な態度をとる大人はいないだろう。上条は記憶を失ってから の数ヶ月足らずで心からそう思っていた。 バカなクラスメイトにも、怪しげな外国人のシスターにも、無鉄砲な上条にも小萌自身ができる精一杯のことをしようとしてくれる。 表面的な印象だけで決め付けず、ちゃんと向き合ってくれる。 だからこそ、この人には誠実でありたい。 たとえ言えないことでも、向けられた想いだけは返したい。 なのに、 「——もちろん、です」 『上条当麻』はそう答えていた。 「そう、ですか……それならいいのです。えへへ、なんか変なこと聞いちゃいましたね」 やめてくれ……そんな笑顔で俺を見ないでくれ。俺はあなたに嘘をついたんだ。笑いかけてもらう資格なんてもうないんだ!! 小萌の笑顔は心から守りたいと思う少女にどことなく似ている。それがいま、嘘にまみれた上条に向けられている。 喉が枯れる。胸が痛い。心が軋む。 とり返しがつかないことをしてしまった思いが全身を支配して、まともなことを考えられない。 「正直、小萌先生は不安だったので——」 小萌の顔に一瞬だけ影が走った。しかし、それは本当に一瞬で次の瞬間にはまったく別の表情になっていた。 「ちょ、ちょっとどうしたのですか? 上条ちゃん、どうして泣いてるです!? あぁっ、やっぱり小萌先生のせいです!?」 急に慌てだした小萌がそうまくしたてる。 泣いている? 俺が? ……俺はまだこの人に迷惑をかけるのか!? 笑いかけなければ。 霞がかった意識の中でそう思った。 ふざけたことでも言わなければ。いつも通りの冗談だと、心配する必要などまったくないのだと。 そう確信できたのに——、 「あ、あぁ……」 『上条当麻』はことごとく裏切った。 「——うわぁあああああ!!」 堰(せき)を切ったかのように泣き叫んだ。 唇を噛んで嗚咽を殺そうともせず、目元を隠さずこぼれ落ちる涙で頬を汚し、恥ずかしげもなく子供のように泣きじゃくった。崩れ そうな心を支えるために小萌の服のすそを掴んだ。からっぽの心を誤魔化すために小萌の気配を感じていた。 溢れ出した『弱さ』を全身で受け止めて、小萌はそっと上条に寄り添った。 それから一〇分ほど上条は泣き続けた。 涙が静まると、とめどなく溢れていた感情も影を潜め、冷静な思考と身体の自由が戻ってきた。 やってしまった。 思った以上に追い詰められていたことには驚いたが、それを堪えきれないほどに自分が脆かったことを痛感した。記憶喪失を隠し通 せていたと油断していた。 横目でベンチの方に視線を向ける。小萌はなにを考えているかわからなかったが、一応は笑顔で天頂に上り始めた月を見上げている。 上条が泣いている間は、ぽつりぽつりと小さな言葉を紡いだ。 「小萌先生はずっとそばにいるですよ。だから……上条ちゃんは泣いてもいいのです」 なに一つ思い出を持っていないことを知った上で。 上条は感情の昂ぶるまま記憶喪失のことを吐露していた。 あの日より前の記憶がなにもないこと。それが決して戻ってこないこと。記憶喪失ということを知られてはいけないこと。それでも 自分のこと以外——インデックスや魔術に関することを言わなかったのは、インデックスを想ってか、それとも小萌を巻き込まないた めか。 上条の視線に気づいて小萌がおだやかに微笑む。 「……『あなた』は自分のことをどう思うです?」 普段の呼び方——『上条ちゃん』ではなく『あなた』だった。 「俺は……気づいたら真っ白な病室だった。なんかのマンガみたいな、信じられないことばっか説明された。全然実感がなかったけど、 インデックスが……あの女の子が俺の前で泣くのを見たら……すごく、辛かった。だから、あの子を泣かせちゃいけないって思った。 だから——俺は『上条当麻』になった」 その言葉は小萌に説明しているようで、上条自身に言い聞かせるようでもあった。 事実を追いかけ、感情を鮮明にしていく。 「最初は、ほんとわけがわかんなかった。『上条当麻』って人間が……台本がないまま舞台に立たされてる、っていう感じ……かもし れない。そういうの、よくわからないけど……でも大変だった」 目を背けていた想いに再び出会う。 「——自分のことを考えてる暇なんてなかった。あの子と『上条当麻』の知り合いたち……いろんなことが起きたけど、俺は見て見ぬ 振りなんてできなかったし……やっぱ、したくなかった。知識だけしかなかったけど身体は動いてくれた。バカみたいなことだけど、 どっかに残ってたのかも、って思う。……俺は少しずつ『上条当麻』に近づいた」 小萌はなにも言わない。 いきなり自分の生徒が泣きだしたら、記憶喪失だなんて言い出したら、事情を聴きたくなるはずなのに——、 ただ、そばにいてくれるだけ。 「だけど……近づいたのは外側だけだった」 目頭が熱を帯びていく。 「みんなが俺を『上条当麻』って認めると、その度に自分がわからなくなった。記憶がなくなっても『上条当麻』は『上条当麻』だと か、そんなこと言われなくてもわかってる。けど、でも……納得なんてできなかった! 俺の中で『上条当麻』はちゃんとした形にな っていくのに……俺自身は空っぽのまま」 揺らいだ世界に気づいて顔を隠すように俯く。もう、泣き顔は見せられない。 「結局……俺は誰、なんだよ」 情けなさと、苛立ちと、虚しさと——混然した感情に思わず開口する。 「……」 不意の気配。 かわいらしい小萌の革靴が視界にはってきた。 怖い。 視線をあげることが怖い。小萌の顔を見ることが怖い。『上条当麻』ではない——初対面の人間と向き合う小萌が怖い。 「『あなた』は……」 肩が震える。惨めな上条を嘲るように膝が笑いだす。 「『あなた』は『上条当麻』です。おバカさんで、どうしようもなくて……でも一生懸命で、ちっともめげない。小萌先生の大事な大 事な教え子です」 小萌は笑っていた。いや……『あの日』自分に向けられた笑顔のように……精一杯、笑おうとしていた。 「——っ、だからっ!!」 荒ぶる感情が声となって吐き出される。 小萌が放った言葉はどうしようもなく正しいのだろう。記憶喪失になったからといって異なる人物に成り代わることなどありはしな い。『記憶を失った上条』も『記憶を失う前の上条』も所詮は同一人物だ。 けれど……それは偽善だ。慰めにすらほど遠い。 「違います。そうじゃないのです」 頭(かぶり)を振って小萌は言った。 「どんな経緯で記憶喪失になったのか、小萌先生に詳しいことはわかりません。……でも『あなた』は……記憶を失ったときから、シ スターちゃんを守ろうと思ったときから……『あなた』は『上条当麻』になったのです」 温かい優しさが肩の震えを抑えていく。 「さっき『あなた』が言ったように、きっと……どこかに『上条当麻』が残っていたですよ。シスターちゃんに出会って、姫神ちゃん と過ごして、風斬ちゃんと仲良くなって、土御門ちゃんたちと笑って、吹寄ちゃんに怒られて……『あなた』の中の『上条当麻』はみ んなに触れて少しづつ大きくなったはずです」 ゆっくりと首に腕を回され抱きしめられた。 ちょっとタバコ臭い……でも陽だまりのような匂いが包み込んでくる。 「それはいままでの『上条当麻』じゃなくて……新しい、『あなた』が成長して創りあげた『上条当麻』なのですよ。以前と同じ必要 なんてありません。なりきる意味なんてないのです。だって……」 小萌の腕に力が入った。 「だって『あなた』は、いままでの『上条当麻』よりずっと素敵な『上条当麻』なのですから」 そんなの詭弁だと思った。この場凌ぎの言葉遊びだと罵りたかった。 だけど——、 その台詞は心の奥底に突き刺さって決して引き抜けないほどにめり込んでいく。 「小萌……せん、せい……」 たとえ詭弁でも、たとえ言葉遊びでも……、 「——ありが、とう」 送られた言葉はひどく嘘っぽくて——そして、嘘みたいに温かかった。 上条は声を押し殺して再び、泣いた。 上条が落ち着いてから、二人は公園を背に帰路を歩む。 車椅子に揺られながら上条は気になっていたことを尋ねる。 「小萌先生は……俺が記憶喪失だって、気づいてたんですか? それであの公園に行ったんですか?」 今日、小萌はまっすぐにあの公園に向かっていた。上条と小萌が出会ったのが『あの場所』というのなら記憶喪失のことを知ってい て連れ出したとしか思えない。 しかし——、 「あは……あはははは……か、上条ちゃん、それはですねー」 小萌の反応は妙に落ち着きがない。 なんというか……教師にいたずらがばれた小学生のようだ。 「小萌先生?」 「お、怒らないで聞いてくださいねっ?」 「……話の内容によります」 小萌の表情はわからないが、ぐっと息を飲んだことがわかった。どうにも言いづらいことらしい。 こほん、と喉を整えて小萌は話を切り出した。 「その……最近、上条ちゃんの様子がちょっと変だったので気になっていたのです。少し元気がないようい見えたので、まずはお見舞 いに行ったのですけど……案の定、上条ちゃんに違和感を覚えてしまったのですよー。それでですね……」 振り向いて視線を合わせる。 「——カマ、かけたんですか?」 一秒もしないで顔をそむけた小萌。少し頬がひくついている。かと思えば鼻先が触れ合いそうなほど顔を寄せてきた。 「ち、違うのですよー! 上条ちゃんのことなので、小萌先生がなにを聞いても『大丈夫』とかそんなこと言って、絶対はぐらかすと 思ったのです。なので、ちょっとだけ……ちょっとですよ!? その、上条ちゃんをからかっちゃおうと思いまして……」 「……から、かう?」 予想外の告白だった。 上条としては最初から小萌が記憶喪失のことを知っていたと思っていた。だから上条の昔のことを話し出したと思っていたのに……。 からかおうとした? 「どうせ上条ちゃんったら小萌先生と会ったときのことなんか忘れてると思ったので、わざとその話をして焦らせてやろうと思ってた のです。そしたら……その、上条ちゃんがいきなり泣き出して——」 「ちょ、ちょっと待ってください!!」 ということはまさか……、 「最初から記憶喪失って知ってたんじゃ……」 「そ、そんなことわかるわけないじゃないですか! 上条ちゃんから聞いて小萌先生だってビックリしてるですよ!?」 まさか……思いっきり墓穴を掘ったのか? 盛大な脱力感に襲われ、なにもかも投げ出したくなる。 しかし、その前にもう一つ聞かなければいけないことが増えた。 「じゃ、じゃあ……俺と小萌先生が初めて会った場所って……」 一瞬の間。その後、不安に覆われていた顔を眩しい笑顔に塗り替えた。 「もちろん、あの公園じゃないですよー」 「……うだー、マジかよ」 もはや文句を言うだけの気力すらない。というか、もとから文句を言うつもりなど全くない。 深く身体を車椅子に預け、黒塗りの天井を見上げる。雲一つない空で月は煌々(こうこう)と輝き、夜の色合いを深めていく。 今日も静かな夜になるだろう。 けれど、安らかな眠りが待っている。そう確信できる。 もう自分はいままでの『上条当麻』とは、仮初めの存在とは違うのだから。 穏やかな夜。 視界の隅にはさっきまで泣いていたかわいい教え子の黒髪。 (えへへ、上条ちゃんったら、まだまだ子供なのですよー) ナデナデとかヨシヨシとかイイ子イイ子とか、大好きな教え子に色々したい感情を必死に抑える。こうして一緒に歩いていると自然 と気分が高鳴っていった。 それでも……、 どうしても表情が曇っている気がする。 (記憶喪失、ですか……) なんとか笑顔を作ってみるが、やはり表情筋が固いようだ。たった数十分ではあの衝撃からは立ち直れない。 本当に側頭部を鈍器で殴られたような鈍い衝撃だった。 クラスの中でムードメイカーとして、まとめ役の一人として振舞う彼を知っている。 自分の信念を曲げずに、誰かのために身を削っている彼を知っている。 どんなにつらくても決して諦めない彼を知っている。 そして記憶を失っても彼は彼のまま、誰にも迷惑をかけず全てを一人で抱え込んでいた。 (やっぱり……『あの時』となにも変わっていないのですね) 一つだけ嘘をついていた。 あの公園。 いまの高校に赴任して数日足らずの月詠小萌と、学園都市に来たばかりの上条当麻。 そこは本当に二人が出逢った場所だった。 (ごめんなさい、上条ちゃん……でも、これだけは言えなかったです) それは二人だけの思い出。 『上条当麻』にさえ踏み入ることを許さない月詠小萌の大切な記憶。 なにかあればいつも思い出していた。 (いつのまにかお別れしちゃったのですね……本当にずるい子です、本当に) けれど、その思い出も深く深くしまわなければいけない。 忘れることなどできないから……一つの想いに添えられた言葉とともに、二度と開くことのない宝石箱の中へ。 (——さようなら『上条当麻』君) 秋の夜風が慰めるように優しく頬を撫でていく。 月詠小萌は『上条当麻』に気づかれないように一雫だけ涙を流した。 たった一雫だけ。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2766.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し 序章 ②激闘の終わり 少女は戦う少年の姿に何処か既視感を覚えていた。 (学園都市に来る前も、誰かにこうやって助けて貰ったことがある気がする) 少女は記憶の中を探るが、何か靄が掛かったように思い出すことが出来ない。 それはとても辛い記憶… 少女のアイデンティティさえ崩してしまうような惨い記憶… 温かい手をした少年が迷子になった自分の手を引いて歩いていた。 少女は確かにその少年のことが幼いながらに好きだったんだと思う。 思いがけず蘇った初恋の記憶に少女は戸惑うものの、 より深い記憶の深層に足を踏み入れていく。 高電離気体を消されて怒り狂う一方通行は妹へ向かって歩を進めていく。 その間に少女は割り込むように立ち塞がった。 「…させると思う?」 「ハッ、図に乗ってンじゃねェぞ格下が。 オマエじゃ俺に届きゃしねェよ、足止めすらできやしねェ。 視力検査ってなァ、2.0までしか測れねェだろ? それと一緒さ、学園都市にゃ最高位のレベルが5までしかねェから、 仕方なく俺はここに甘ンじてるだけなンだっつの」 一方通行は顔面を引き裂くような笑みを浮かべている。 それは見た者なら誰でも凍りつかせるような笑みだったが、 少女は不思議と恐怖を感じることはなかった。 (どうしてだろう、全然 恐いって思わない。 この一帯を包むように懐かしい安心感が漂ってる) そんな状況でも少女は記憶の中に足を踏み入れるのを止めなかった。 とてもそんなことをしている状況でないことは分かっている。 でも止めるわけにはいかない、何故かそれはとても大事なことだと感じる。 少年に向かって石が投げつけられる。 大怪我を負って退院したばかりの少年のことを 大人達がカメラを回して嘲笑を浮かべながら取り囲んでいる。 少年を庇うように立ち塞がる少年の両親。 おじさんのことも おばさんのことも大好きだった。 おじさんとおばさんの顔は思い出せるのに、少年の顔だけが思い出せない。 少年達がいなくなる前の日、少女は少年と最後に一度だけ遊んだ。 以前とは違い翳が差した少年の寂しそうな笑顔。 その笑顔が少女の中に蘇るように浮かび上がった。 「…お兄ちゃん?」 少女は呟くように言った。 「あァ、何言ってやがるンだァ?」 一方通行は少女の呟きを理解できないようだった。 妹も少女が何を言っているか分からない。 一方通行が少女から殺してしまえと考えた、その時… がさり、と一方通行の背後で何か物音が聞こえた。 一方通行は恐る恐る振り返る。 そこに、信じられない光景が広がっていた。 風速120mもの暴風に吹き飛ばされて、 風力発電の支柱に激突したはずの少年がゆっくりと立ち上がる所だった。 少年の体には無数の傷があり、 少しでも筋肉に力を込めるだけであちこちから血が噴き出しているようだった。 その体にはもうまともな力が入らず、両の脚はがくがくと震え、 両の手は柳の枝のようにぶらりと垂れ下がっていた。 それでも、少年は倒れない。 絶対に、倒れない。 「ったく、お前は昔から人の居ないところで無茶ばっかりしやがって… その度に俺は心配して駆けずり回ることになってたんだぞ」 少年はボロボロの体を動かして一歩前へ進む。 その姿はやはり見ていて辛くなるほど弱々しいものだった。 だが少女は目を逸らすことをしない。 何故ならこの物語のハッピーエンドが既に見えていたから… それは妄信ともいえる願望だということは少女自身 分かっていた。 でも少年なら、自分が大好きだった少年なら最高の物語の結末を作り出してくれる。 少女にはそんな確信があった。 「面白ェよ、オマエ…」 一方通行の声が響き渡る。 「…最っ高に面白ェぞ、オマエ!」 そうして、夜空に吼えるように絶叫した一方通行は 少年を撃破するために拳を握って駆け出した。 地面を蹴る足の力のベクトルを変更した、 砲弾じみた速度であっという間に距離を縮めてくる。 それは少年にとって好都合だった。 向こうから近づいてきてくれるなら、それに越した事はない。 今の少年のボロボロの体では、 一方通行の元まで辿り着く前に倒れてしまっていただろうから。 少年には何の力も残されていない。 その体には、自分の足で立って歩くだけの力も、 自分の舌で言葉を紡ぐだけの力も、自分の頭で何かを考えるだけの力も、 …そんなわずかな体力さえも、残されていない。 少年に残されているとすれば、幼い日の少女と遊んだ懐かしい日々の記憶だけだった。 少年にとっては幸福ともいえるその記憶だけが、今の少年を支えていた。 だから、少年は右手を握る。 視線を上げる。 一方通行は、弾丸のような速度で真っ直ぐに少年の懐へと飛び込んできた。 右の苦手、左の毒手。 共に触れただけで人を殺す一方通行の両の手が、少年の顔面へと襲いかかる。 瞬間、時間が止まった。 体に残る、絞りカスのような体力の全てを注ぎ込んで、 少年は頭を振り回すように身を低く沈めた。 右の苦手が虚しく頭上を通り過ぎ、 追い討ちをかける左の毒手を少年は右手で払い除ける。 「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)…」 二重の必殺を封殺され、心臓を凍らせた一方通行に少年は言う。 密着するほどの超至近距離で、獣のように獰猛に笑い、 「…俺の最弱(さいきよう)は、ちっとばっか響くぞ」 少年の右手の拳が、一方通行の顔面へと突き刺さった。 一方通行の華奢な白い体が勢い良く砂利の敷かれた地面へ叩きつけられ、 乱暴に手足を投げ出しながらゴロゴロと転がっていった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/725.html
【初出】 SSスレPart3 612 〜〜♪〜〜♪〜〜〜 禁書目録本体から切り離された自動防御プログラムが暴走する。 立ち向かうのは、わたしたち学園都市チームと、そして、そして……!? 禁書目録事件の、これがきっと、最終決戦! 次回、魔砲少女リリカル・カナミンA`s 第12話 「夜の終わり、旅の終わり」 長い夜も、もう終わるから……。 CAST(激しく個人的見解含む) 一方通行…………嘱託魔道士。『白い悪魔』 御坂美琴…………嘱託魔道士。『黒の一番』 インデックス…………魔道書の主。 白井黒子…………守護獣。サポート。 結標淡希…………図書館司書。サポート。 ステイル…………執務官。 初春飾利…………管制官。 ローラ(小萌先生?)…………提督。未亡人。一児の母。 神裂火織…………守護騎士。剣の騎士。 オルソラ…………守護騎士。湖の騎士。 アニェーゼ…………守護騎士。鉄槌の騎士。 シェリー…………守護騎士。盾の守護獣。サポート。 風斬氷華…………管理プログラム。 アウレオルス…………禁書目録解決の為に裏で画策してた提督。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/634.html
最終決戦を制した上条勢力。 魔術、科学の「世界の崩壊」を望まぬ者達の活躍と、覚醒した三人の超能\力者と一人の幻想殺し、三人の聖人と二対の天使によってアレイスター率いる敵を撃破した。 そして、禁書目録は上条当麻に別れを告げる。 「とうま、私はこれから壊れ果てた世界を直す為に、いろいろな所を旅しなきゃならないの」 なら俺も付いて行く、上条がそう言うが、禁書目録は止める。 「とうまは短髪…みことを護るって約束があるでしょ!だから、これでお別れ。…とうまと逢えて楽しかったよ!もう会えないかもしれないけど、とうまはみことと幸せになってくれなきゃ嫌かも!…かおり達が呼んでるからそろそろ行くね!」 「禁書目録……。あぁ、わかった。それじゃあ、運が良かったら一万二千年後にまた会おうぜ!」 飛びきりの笑顔で禁書目録は去っていった。 「インデックス…笑ってたけど辛そうだったわね…」 「美琴…。そう、だな。…それじゃ俺達も行きますか!」 「どこに!?」 「決まってんだろ。美琴の両親に挨拶だよ」 絶対能\力者の一人、御坂美琴の叫び声が木霊した。 「皆さん、それでは宜しいですね?」 「はい、火織」 「もちろんだよ」 「良いのよなー」 その他大勢のアニェーゼ部隊や、天草式のメンバー、女子寮のメンバーが神裂の問いに答える。 「それじゃあかおり、行こ!」 禁書目録はその先頭に立ち、世界を直す長い旅に出た。 「舞夏ー、今帰ったにゃー」 「やっと帰ってきたなー。正直…帰って来ないかと…思ってたん…だぞ…」 「ごめんな…舞夏」 とある学生寮では感動の再開を果たし、 「さてと、絶対能\力者と言えど、修行を怠ってはならねーな!」 またある場所では一人の熱血漢が修行を始め、 「またパシリかよ…」 とあるマンションでは平和に暮らす少女と、それを守る無能\力者が居て、それぞれが勝ち取った平和を楽しもうとしていた。 そして─。 「本当にこの道で合ってンだろうなァ?」 「ミサカが嘘付くわけ無い、ってミサカはミサカは断言してみる!」 絶対能\力者の中でも最強の一方通行と、彼を支え続けた打ち止めが、ある目的地を目指していた。 「確かこっちだったよな」 「ね、ねぇ…本当に行くわけ?」 「ん?あぁ。俺は一秒でも早く美琴と一緒になりたいからな」 「…バ カ」 後に世界を救った英雄として語り継がれる上条当麻と、生涯、彼を支え続ける妻となる御坂美琴もある目的地を目指していた。 「そこだな」 「そこか」 ここで二組の足は止まった。 「あなた方もここに用事ですか…って一方通行!?」 「奇遇ですね…って当麻!」 「あら、打ち止めも一緒ね」 「わーいお姉様!ってミサカはミサカは久しぶりの再開にはしゃいでみる!」 上条当麻と一方通行は驚き、御坂美琴と打ち止めはさも当然のように抱き締めあう。 「えーっと、一方通行もご挨拶的な?」 「そういう当麻もかァ?」 こういう時だけ仲良しな二人。最終決戦で互いに背中を預け合った仲である。 「そ、それじゃあ行くぞ…」 「あ、あァ…」 ピンポーン、とチャイムを鳴らす上条。 程なくして一人の女性が出てきた。 「どちら様ですかーって白い子…確か一方通行 途中から消えたっぽいから続きから 君に当麻君、それに打ち止めちゃんに美琴ちゃんじゃないの!どうしたの?」 御坂美鈴。上条と一方通行を結び付ける一因の女性だ。 「今日は大切な話があって来ました」 「同じく。重要な用件なンだよ」 「そ、そんなに改まって…美鈴さん困っちゃうな…。と、とりあえず上がって」 いつもとは違う雰囲気の二人に気圧される美鈴。ひとまず家の中に入るように指示する。 「一方通行、第一段階はクリアだな」 「次が難関なンだよな」 家の中に二人は入っていく。 どうやら二人は共同戦線を張るつもりらしい。 「お姉様ー、この二人はいろいろ正反対なのに中身は一緒だったりするよねー、ってミサカはミサカは面白がってみたり」 「そうね。ま、そこが二人の良いとこなのよね」 打ち止めと美琴は、二人の後を追う。 御坂家にお邪魔する上条と一方通行。美琴と打ち止めは実家に帰ってきた。 「さて、何の用だ?上条当麻君に一方通行君。まぁ、そこに座りなさい」 美鈴に案内され、居間にやってきた上条と一方通行は、そこに待ち構\えていた一人の父親ー御坂旅掛のオーラに体が硬直する。旅掛に言われた通り、テーブルを挟んで旅掛の向かい側に正座する二人。 「きょ、今日はお義父さんに話があって来ました」 「同じく。大切な用件があって来ました」 上条の隣には、美琴が。 一方通行の隣には打ち止めが座っている。 「ふむ…君達の意志は本気のようだ。声色を聞けばわかる。だが、君達にお義父さん、等と言われる筋合いはない」 その一言に背中に冷や汗が流れる二人。 「しかし、君達の話を聞かせて貰おう」 旅掛は、いつの間にか美鈴が煎れていたコーヒーを一口飲み、言い放った。 「最初に一方通行君から聞かせて貰おうか」 指名された一方通行は一瞬、少しだけ震えたが、自分の意志を旅掛に伝える。 「お、俺は今日、打ち止めを貰いに来ました!」 「却下だ。どうやら君は敬語と言うものを知らないのかな?そんな奴に打ち止めは任せられない」 次は当麻君、と言われ上条は深呼吸する。隣の一方通行が俯き、涙を溜めたのが見えた。 意識を集中させて宣言する。 「答えは却下だ。挨拶に来たというのに、なんだ?そのボロボロの服は。挨拶に来るならもっとマシな格好で来るべきだな」 正論を突きつけられ、反論出来ない二人。 「…悪い、一方通行……仇取れなかった…」 「…別に構\わねーよ……」 「用件が済んだなら帰りたまえ」 意気消沈する二人を見て旅掛は帰ることを勧める。 無言で立ち上がり、玄関に向かおうとする二人。 (このまま帰ったらいつまで経っても了承はしないぞ?良いのか?若造共…) 旅掛は二人の背中を見つめ、問い掛ける。 「なぁ、一方通行」 「なんだ当麻」 「俺は諦めが悪いようだ」 「奇遇だなァ。俺もそう考えてたとこだ」 上条と一方通行は旅掛に背中を向けたまま、会話を交わす。 そして─。 「俺は美琴を貰う!」 「俺に打ち止めを寄越せっ!」 振り向き、吠える。 「なっ…当麻…」 「一方通行…」 覇気を取り戻した二人に美琴と打ち止めが驚く。 が、それに驚いたのは二人だけではない。美鈴と旅掛も同じだ。 「何度言っても無駄だ。却下だ」 その答えは予\想通りとも思われる表\情の上条と一方通行。 「そうだと思ったぜ」 「演算無しでもわかるってことだなァ」 満身創痍。まさしくこの言葉が合う二人だった。 深呼吸をして意識を高める上条と一方通行。 「俺は何度も打ち止めに救われたァ。そして今日もコイツに救われた…。最初は鬱陶しいと思ったこともあったがよォ、いつの間にか俺は打ち止めが居ねェと寂しくなっちまうんだよ。だから俺から打ち止めを取り上げるんじゃねェ!…それでも却下するってェなら俺は打ち止めをかっさらって行ってやンぞ!」 拳を握り締め、自分の想いを旅掛にぶつける一方通行。 「良くやった一方通行…次は俺の番だッ!俺は美琴を愛してる…。最初から愛していたわけじゃない。だけど!学園都市で過ごして行く中で美琴は俺の掛け替えのない存在になった!これからも美琴と一緒に居たい!それでも却下するなら…その幻想は俺がぶち殺す!」 一方通行に続き、上条が想いをぶつける。 二人は互いに拳と拳をぶつけ合い、行動を賞賛した。美琴と打ち止めは初めてみる想い人の一面に圧倒されていた。 「全く…若いって良いよな」 黙って聞いていた旅掛が動く。 「お前達は本当に娘達を幸せに出来るんだな?」 勿論、と二人は頷く。 「もし幸せに出来なかったら覚悟しておけよ?俺は容赦しないからな。美琴、打ち止め。幸せになるんだぞ」 その言葉を聞いた4人(+話を聞いていた美鈴)は最高の笑顔になった。 激闘を終え、御坂家を後にした4人は学園都市まで戻ってきた。 「なぁ一方通行」 「あァン?」 「良かったな、了承貰えて」 「てめェもな、当麻」 二人はどちらともなく右手を差し出し、握手していた。 「ホント、無茶苦茶よね…あの二人」 「でもそんな当麻お義兄さんに惚れたんでしょーってミサカはミサカは悪戯に質問してみるー!」 「なっ…アンタねぇ!…そう言う打ち止めもそこに惚れたのよね」 「ギクッてミサカはミサカは姉妹の遺伝子は怖いって思ってみたりー!」 御坂美琴の体細胞クローンの打ち止め。しかし美琴の妹達である打ち止めだが、一生を共に歩む男性は違った。が、本質は似たようなものだったりするのだが。 「そういえばアンタ、さらっと当麻義兄さんとか言わなかった?」 「だってお姉様の旦那様は義兄になるわけだよ、ってミサカはミサカは当たり前のことを言ってみる」 この一言が、夕日をバックに未だ握手し続ける旦那達に波乱を呼ぶことになるのだが、それはまた別のお話し。
https://w.atwiki.jp/frontmission3/pages/1273.html
STAGE00 アリサ編 STAGE01 STAGE02 STAGE03 STAGE04 STAGE05 STAGE06 STAGE07 STAGE08 STAGE09 STAGE10A STAGE11 STAGE12 STAGE13 STAGE14 STAGE15 STAGE10B STAGE16 STAGE17 STAGE18 STAGE19 STAGE20 STAGE21 STAGE22 STAGE23 STAGE24 STAGE25 STAGE26 STAGE27 STAGE28 STAGE29 STAGE30 STAGE31 STAGE32 STAGE33 STAGE34 STAGE35 STAGE36 STAGE37 STAGE38 STAGE39 STAGE40 STAGE41 STAGE42A STAGE43 STAGE44 STAGE45 STAGE42B STAGE46 STAGE47 STAGE48 STAGE49 STAGE50 STAGE51 STAGE52 STAGE53 STAGE54 STAGE55 STAGE56 STAGE57 STAGE58 Ending ストーリーイベントインターミッション STAGE42Bランキング マップ 入手アイテム 味方 敵 ストーリーイベント インターミッション セットアップ ネットワーク フォーラム メール ネットワークショップ デスクトップ シミュレーター セーブ ロード 終了 STAGE42B 上へ STAGE42B 名古屋下水処理場 勝利条件 敵パイロットの全滅もしくは投降 敗北条件 プレイヤーパイロットの全滅もしくは亮五の死亡 出撃パイロット選択 和輝 / アリサ / リュウ / 美穂 / ファム / ラン / メイヤー ランキング 基準値 敵排除数 8 総戦闘回数 35 平均ダメージ 115 平均武器レベル 14 ターン数 12 NPC残数 - マップ 地形 進入不可 段差 スロープ 平地 X 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Y 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 気絶不可 - 混乱不可 - 戦意喪失、投降不可 - 強制排出不可 - 亮五がエレベータースイッチ(S1)に到達すると、エレベーター(E1)が上昇する亮五を敵ユニットのヴァンツァーに乗せたい場合、亮五と同じ段差で無人にすること(段差を移動できないため)同じ段差に移動してきて、亮五を攻撃することが多い敵ユニット(敵3)を無人にするといい 亮五を撃破されないようにするため、ミサイル装備機を出撃させて、ヴァンツァー兵(敵7 / 8)を攻撃するといいヴァンツァー兵(敵7)は攻撃可能な射程に移動してくる 序盤、敵ユニット(敵1 / 3 / 6)は、味方ユニットが接近するまで行動しない 序盤、敵ユニット(敵4)は移動後、味方ユニットが接近するまで行動しない 上へ 入手アイテム 入手先 名称 備考 敵1 / 2 / 3投降 ボディ 111式 春陽 Lアーム 111式 春陽 Rアーム 111式 春陽 レッグ 111式 春陽 敵5 / 6投降 バックパック BX056 上へ 味方 No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 Hand 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 1 草間亮五 2 ------ ハンドガン 貫通 ハンドガン 2 9×1 ∞ 1~2 90% 0% 0% 20 / 20 ×0 / ------ 不能 ------ -- ------ ------ No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 L.Grip 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 L.Shld 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 R.Grip 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 R.Shld マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 2 × 3 × 4 × 上へ 敵 No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム PRIZEMONEY APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 L.Grip 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 L.Shld 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 R.Grip 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 R.Shld マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 1 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 111式 春陽 579 / 579 113% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 リベンジⅡ 150 17 / 17 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐炎熱 111式 春陽 440 / 440 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★★ ------ 2 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 111式 春陽 579 / 579 113% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 リベンジⅡ 150 17 / 17 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐炎熱 111式 春陽 440 / 440 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★★ ------ 3 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 3 111式 春陽 579 / 579 113% 15% ■ ■ ■ 日西90MF 貫通 マシンガン 5 D★★ 18×10 ∞ 1~4 80% 10% 5% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 リベンジⅡ 150 17 / 17 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% 111式 春陽 295 / 295 ×14%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐炎熱 111式 春陽 440 / 440 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ D★★ ------ 4 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 6 キャセルM2 895 / 895 125% 30% ■ ■ ■ ハイバスター 衝撃 格闘武器 1 D★★ 130×1 ∞ 1 100% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 150 17 / 17 キャセルM2 502 / 502 ×5%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ------ 32% キャセルM2 502 / 502 ×5%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐貫通 キャセルM2 660 / 660 6段 3倍 ■ ■ ■ ------ ------ 5 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 109式 炎陽 502 / 502 115% 15% ■ ■ ■ ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 ミサイル弾 150 17 / 17 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ナイチンゲール 炎熱 ミサイル 10 D★★ 124×1 6 / 6 3~9 80% 0% 0% 32% 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐衝撃 109式 炎陽 463 / 463 7段 4倍 ■ ■ ■ ------ BX056 D★★ 6 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 109式 炎陽 502 / 502 115% 15% ■ ■ ■ ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 ミサイル弾 150 17 / 17 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ■ ■ ■■ ■ ■ ナイチンゲール 炎熱 ミサイル 10 D★★ 124×1 6 / 6 3~9 80% 0% 0% 32% 109式 炎陽 316 / 316 ×12%UP ハードブロウ 衝撃 格闘武器 1 D★★ 25×1 ∞ 1 100% 0% 0% D★★ 耐衝撃 109式 炎陽 463 / 463 7段 4倍 ■ ■ ■ ------ BX056 D★★ No. 名前 移動力 バーツ 武器 人物 アイテム PRIZEMONEY APNow / Max Body HP状況Now / Max 格闘力 減少率 AP設定/改造LV 防御 Hand 属性 種類 AP 熟練 攻撃 弾数Now / Max 射程 命中率 距離低下率 段差低下率 HPNow / Max エースランク ポイント バトルスキル L.Arm 命中 命中 武器熟練度 回避(回避率) R.Arm 命中 格闘武器 ショットガン グレネード Leg バーニア ダッシュ 回避 マシンガン 火炎放射 キャノン 属性防御 B.Pack 追加出力 ライフル ミサイル ビーム 7 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 ------ ハンドガン 貫通 ハンドガン 2 9×1 ∞ 1~2 90% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 0 26 / 26 ------ 不能 ------ -- ------ ------ 8 日防軍特殊部隊ヴァンツァー兵 2 ------ ハンドガン 貫通 ハンドガン 2 9×1 ∞ 1~2 90% 0% 0% 20 / 20 ★★★★★★ ×0 0 26 / 26 ------ 不能 ------ -- ------ ------ 上へ
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/33595.html
とあるいなかのむら【登録タグ うんちょP と 曲 鏡音レン】 作詞:うんちょP 作曲:うんちょP 唄:鏡音レン 曲紹介 主に鏡音レンに歌わせているオリジナル曲です。一部LaLaVoice(お兄さん)を使用しています。 歌詞 (ピアプロより転載) とある田舎の村 電車は1時間に1回 便所はもちろん ぼっとん便所 (ぼっとん ぼっとん ぼっとん ぼっとん) 肥溜め 野菜の養分 肥溜め 土が生きる とある田舎の村 バスは2時間に1回 便所はもちろん ぼっとん便所 (ぼっとん ぼっとん ぼっとん ぼっとん) 肥溜め 野菜の養分 肥溜め 命が生きる よ~ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1648.html
第三章 とある春木の平和な時間 次の日。 暗部での活動を見られた春木は気を落としていた。 「はぁ。大丈夫かなぁ。はぁぁぁ。」 すごい深いため息をだし、より一層どんよりムードになる春木。 「あっ。おーい。はーるーきー。」 ふいにかけられた言葉に、春木は一瞬心臓が止まった。 「昨日大丈夫だったか?警備員連れて戻ったらいなくて、倒れてた奴らもいなくて、 とどめに何も無かったみたいになってたから、めちゃくちゃ心配したんだぞ。」 「あーごめん。大丈夫。なんか怖くて逃げ出しちゃって。」 「あっそうか。ごめん。置いてきぼりにして。怖かったよな・・・・・。」 暗い表情になった当麻を見て、春木は表情を笑顔にした。 「大丈夫。私、怖くないよ。むしろ誰もこなかった時の方が怖かった。」 「そうか。良かった。」 「でーもぉそこまで言うならー。」 「えっ?」 春木は表情を変える。小悪魔風に。 「今日一日。付き合って。」 「は?」 「だーかーら。付き合ってくれって言ってんの。」 「えっちょっそれって・・・・。」 「れっつごー。あっ全部おごりね。」 「お金使う気満々!?不幸だー!」 ズルズルと引っ張られ連れて行かれる当麻だった。 連れて行かれた先は地下街のゲームセンターだった。 「ゲームセンターかー。まぁ無難だな。」 「かみじょー。こっちこっちー。」 「はいはい。てか、お前こんなの欲しいの?」 春木が指差したのは、UFOキャッチャーに積み上げられた、ふわふわモコモコのクマのぬいぐるみだ。 「お前高校生だろ。まだこんなの好きなのかよ。」 「えっ?あたしまだ中三だよ。中学生だよ。てか、お前ってやめて欲しい。風波って呼んで。」 「はいはい。もうすぐ高校生だろ。変わんないよ風波。」 「いーじゃんかー。早くとってー。」 「えっ?俺がやるの?無理だよ、上条さんは不幸ですもん。」 「やってみないと分かんないでしょ。ほーら。」 「勝手にお金入れるなー!しかも千円!一回百円だぜ!」 「えー・・・やんないの?お金もったいなー。」 「くぅ・・・。」 しかたなく始める当麻。 だが、不幸の象徴である当麻が取れる訳が無く、十回やっても取れなかった 「たくぅ、ほらほらどいて。こんなのはねぇ」 お金を入れずに機械に触れる春木。 「まさかビリビリ!?おい警報機がなるぞ。」 「まさか。そんな分かりやすい事するわけ無いじゃん。」 ふわぁと、クマのぬいぐるみが浮いたと思ったらあっさり取れた。 「風よ。これなら警報は鳴らないわ。」 呆れる当麻を置いてゲームセンターを出て行く春木。 「今度こっちー。」 振り回されっぱなしの当麻だった。 「はい。」 クレープを差し出す当麻。 「ありがとう」 満面の笑顔になった春木を見て、当麻は安心した顔になった。 「どうしたの?」 「いや、笑った顔は可愛いなって思って。」 「えっ?ずっと笑ってたけど。何で今?」 「だってさ、なんかずっと作った笑顔みたいだったから。 なんかずっとつらくて悲しくて、でも心配されたくないからみたいな感じがしたんだよ。 もう知らない仲じゃないんだからさ、なんでも言ってくれて良いんだぜ?」 しばらくうつむいていた春木だったが、顔を上げた。 「ありがとう。うん。あたし自分の事に素直になってみる。」 「あぁそれが良いよ。それが一番。」 「ってことで、もっと遊ぼう。レッツゴー。」 「結局それになる訳!?不幸だー。」 ズルズル引っ張りながらうつむいてボソッと言った。 「(ありがと・・・・。嬉しかった。)」 「ん?何か言った?」 「何でもなーい。ほらーいくよー。」 春木は笑っていた。 偽りじゃない。最高の笑顔で。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1720.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある上琴の未来物語 重なる2人の思い 「なぁ、美琴。話さなきゃいけないことが2つある。」 唐突に話し出すウニ頭の高校生の名は上条当麻。 「なによ急に改まって。」 びっぐりした表情で返事をするの美少女の名は御坂美琴。 この2人は学校終わりに散歩をしていた。 「俺は美琴に隠していることがあるんだ。」 「え・・・。」 上条の意外な告白にびっくりしている御坂。 「まず1つ目。俺は実は記憶喪失だ。」 「2つ目。俺は今・・・、『インデックス』と一緒に暮らしてる。」 「・・・・・・」 御坂は下を向いてしまった。 (ええ、どういうことなの・・・。) 「とにかく色々理由があるんだ。信じてもらえないかも知れないけど聞いてくれ。」 「う、うん。」 ―そしてその女の子のことについて話す。 朝起きたらベランダに引っかかっていたこと。 完全記憶能力のせいで1年に1回記憶を消されていたこと。 完全記憶能力を利用されていたこと。 そしてその少女を救うために自分が記憶喪失になってしまったこと・・・。 話終わり御坂は重い口を開いた。 「なんで今まで言ってくれなかったの?・・・。」 「美琴には余計な心配してほしくなかったんだよ。 インデックスと一緒に住んでるなんて言ったら怒ると思ったし・・・」 「なにいってるの、なんも言わないほうが余計に心配よ。それに怒らないわよ。」 「とにかく今日はちゃんと話さないといけないなと思って美琴を呼んだんだ。」 「そうなの。そっか、初めてだもんな当麻の家。えへへ楽しみ。」 「そうですか。そう言ってもらえると上条さんはうれしいですよ。」 2人は手を繋ぎ上条家へと向かった。 2人は上条家の玄関前まで来ていた。 「ここが俺んちだ。」 「そうなの。」 「じゃあ入るか。」 上条は家を開錠して玄関を入る。 すると家の奥のほうで 「とうまとうま。どこに行ってたの。お腹すいたかも。」 と言う声が聞こえた。 「今から作るぞ、でもその前に話があるんだ。」 と上条は家に上がりながら御坂に向かい手招きする。 「どうした、いいから入れよ。」 「お、お邪魔しま~す。」 と上条の後について家へ入る。 そして進むとリビングがあった。 そこにはインデックスがいて御坂を見たとたんに目つきをかえた。 「短髪、何しに来たの?」 「な、何しにって・・・」 困っている御坂を見て上条が質問に答える。 「インデックス、俺、美琴と付き合ってる。」 上条がそう言ったとたんにインデックスの顔色が変わった。 「つ、付き合うってどういうことなの?説明して欲しいかも。」 「つまり俺の彼女だ。」 するとインデックスの目に涙が溢れだした。 「そ、そっか。とうとうこの日が来ちゃったんだね。・・・ねえ、とうま、とうまは私のことどう思ってる?」 「インデックスは・・・、家族みたいだな。」 「そっか。そうだよね。とうまはそんな風にしか思ってないよね。」 「・・・」 「私はね、ずっととうまのことが好きだったよ。もちろん、恋愛感情で。」 「インデックス・・・」 「でも、私は言えなかった。とうまとの関係が壊れちゃうんじゃないかと思って。」 (昔の私みたいだわ) 御坂は今までのやり取りを聞いて思った。 「なぁ、インデックス。」 「なあにとうま。」 「俺は、お前のことを赤の他人だと思ったことは今までに一度もない。そしてこれからもないぞ。」 「とうま・・・。実はそろそろイギリスに帰らないかって言われてるんだよ。」 「だれに言われたのか?」 「ステイルに言われたんだよ。」 「そうか。インデックスはどうしたいんだ?」 「私はイギリスに帰るんだよ。いつまでもとうまに迷惑は掛けられないかも。」 「わかった。それでいつ帰るんだ?」 「明日なんだよ。」 「「あした~!?」」 上条と御坂は声を上げて驚く。 「なぁ、インデックス。ここはお前の第2の実家みたいなもんだからいつでも帰ってきていんだぞ。」 「わかってる。いつでも戻ってくるんだよ。」 「ねぇあんた、本当にこれでいいの?」 「いいんだよ短髪。ただ・・・」 インデックスは少し間を置いて満面の笑みで 「絶対にとうまを幸せにしてね。」 「当たり前じゃない。これからもよろしく。私は御坂美琴って言う。日本に帰ってきたら私ともあってね。」 「うんわかった。私はインデックス・・・って知ってるか。」 と言い2人は約束の握手を交わした。 ――――――――――――――――――――――――――――― 次の日 2人はインデックスを見送る為に空港へ来ていた。 「本当に遠慮しないでいつでも帰ってきていいんだぞ。」 「うん。みこともこれからも仲良くしてね。」 「うん。当麻が好きどうし。」 「じゃあね。また会いにいくかも~。」 といって空港の保安検査場へ消えていった。 「まさかインデックスがあんなふうに俺のことを考えていたんなんてな。」 「私ちょっと妬いちゃったわよ。」 「ははは。確かにインデックスもすごい大切な存在だけど美琴も大切だぞ。 なんてったって俺の・・・その・・・彼女だからな。」 「・・・・・・」 「美琴?」 「ふ、ふにゃ~」 「ちょっ、空港で漏電はやばいだろう。」 インデックスは帰ってしまったがきっと上条の幸せの日々は続いていくだろう。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある上琴の未来物語
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/839.html
とある三月の雛あそび 「あ、あのっ」 人影が少ないランベス区のある通りに、声が響く。 声をかけられた人物、赤く染めた長髪の神父が振り向くと、わりと小柄な女性がそこに立っていた。 二重まぶたが印象的な、なかなか可愛らしい少女である。 「何か?」 神父が咥え煙草を揺らしながら答えると、 「とっ、突然すいません! あのっ、ステイル=マグヌスさんですよねっ!」 緊張した面持ちで少女が言う。 その、名前。 少女の語る言葉に対し、目を細めながら口を開く。 「失礼だが、人違いでは?」 無論、瞬時に発動できるよう術式は待機させたまま、さり気なく袖口のルーンのカードに手をやって答える。 「あっ、すっ、すいません! わたし、天草式にいる者ですっ!」 ステイルと呼ばれた男の様子に気づいた少女が慌てて自分の身を明かす。 それを聞いたステイルは緊張をやや緩めながらそれでも訝しげに問う。 「何か御用が?」 己が属する『必要悪の教会(ネセサリウス)』の傘下にあるとはいえ、微妙な関係にある天草式のメンバーとは、 それほど交流がある訳では無い。 それでも、英国紳士の一員としてレディに対する最低限の礼儀は弁えるようにする。 「こっ、これをっ」 そんな彼に対して、少女はポケットから小さな包みを取り出すとおずおずと差し出した。 「………」 差し出されたそれを前に、ステイルの動きがしばし固まる。 ややあって、 「いや、その、ぼくは、こういうことは……」 しどろもどろな答えをするステイルに対して、少女が慌てて語る。 「あ、いえっ、これ、あなたにじゃなくてですね……」 言われたステイル、内心では安心したのかがっかりしたのか複雑な気分だが、そこはそれ、英国紳士の一 員として接する。 「学園都市に行かれるって聞いたので、これを届けて欲しいんです」 「………」 自分の受けた任務が協力関係にあるとはいえ、外部に漏れていることに対して色々と言いたい事はあるが、 「まあ、いいだろう、どのみちついでだからね」 「ありがとうございます!」 「で、誰に渡せばいいんだい? あと、一応中身の確認をさせて貰ってもいいかな?」 その問いに、少女は顔を赤らめてもじもじしながら答える。 「あ、中身はお守りみたいなものです。届け先は、上条当麻という方に……」 少女の反応と相手の名前を聞いたステイルの胸中に様々な感情が浮かんでくるが、英国紳士の(以下略) 「分かった中身の確認はもう結構だこれは確実に彼に届けようああ中身が何であろうと構いはしないさむしろ 僕としては奴が日頃の振舞いを思い返すようなものだといい位だがね」 言うと素早く少女から包みを受け取ると返答も待たずに立ち去っていく。 ………いや、英国紳士として振舞えてませんよステイルさん? 預かった包みを懐にしまいながら歩いていると、後ろのほうで『どうでしたか五和?』『彼はちゃんと届けてく れるんでしょうか?』『まあ後は無事に受け取ってもらえればいいだけですし』『チョコのときは芳しくなかったで すがこれはあくまで保険ですしね』『いやいやこんなまどろっこしいことをしていないでもっと直接的にいくべき では?』などという声が聞こえてくるような気もしたがまあ気のせいだろう。 そう、自分はあくまで英国紳士として振舞うだけである。 預かった荷物は確かに学園都市にいる少年に届けよう。 まあ、その後で炎剣の一本や二本くらいは叩き込まないとこの気分は収まらないだろうが。 「ふ、ふふふ、待っていろよ上条当麻。学園都市に行く楽しみが一つ増えた気分だよ」 昏い笑みを浮かべながらステイルは空港への道を歩いていく。 まあ、その後学園都市に降り立ったステイルが上条に対して渾身の力で炎剣を叩き込もうとするも、持たさ れていた包みの中にあった人形(デフォルトにデザインされた上条に似たもの)が突如上条への攻撃を全て防 ぎ、しかし驚くステイルの前でその人形に右手で触れたために人形に掛けられていた厄災除けの効果が消え 去り、ステイルからの攻撃は自分には届かないとたかをくくっていた上条が『魔女狩りの王(イノケンテイウス)』に追 いかけ回される羽目に合ったりするのは別の話しであるとか無いとか。