約 1,041,881 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6537.html
涼宮ハルヒの遡及 どうもご無沙汰してます。 『涼宮ハルヒの異界』、『涼宮ハルヒの切望―side K―』、『涼宮ハルヒの切望―side H―』の作者です。今回はこのシリーズの完結編をお送りさせて頂きます。 『戸惑・完成ゲーム』、『DQ6』、『YU-NO』、『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱01』等のネタが含まれていますが、どこか分かったてもスルーよろしくです。分からなかった方はニコ動かようつべで探ると分かるかも。 このたびは、賛否両論のオリジナルキャラクターが登場する、当シリーズを、最後までお付き合いくださり、心より感謝申し上げます。 では、どうぞ。 涼宮ハルヒの遡及Ⅰ 涼宮ハルヒの遡及Ⅱ 涼宮ハルヒの遡及Ⅲ 涼宮ハルヒの遡及Ⅳ 涼宮ハルヒの遡及Ⅴ 涼宮ハルヒの遡及Ⅵ 涼宮ハルヒの遡及Ⅶ 涼宮ハルヒの遡及Ⅷ 涼宮ハルヒの遡及Ⅸ 涼宮ハルヒの遡及Ⅹ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅠ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅡ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅢ
https://w.atwiki.jp/death-march/pages/54.html
ドワーフ。 ボルエハルト市の地上にある魔法屋。 ザジウルと幼馴染。彼をライバル視している。 ダレガン市で鼬人族の商人に使えない巻物ばかりを大量に売りつけられていた。 彼の売りつけた巻物は、魔王「黄金の猪王」との戦いで活躍した。サトゥーの天駆なども彼の売った巻物からの派生である。後日、サトゥーから礼状と高級酒の樽が贈られた。 ドワーフ 人物
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/753.html
「あのね、涼宮さんに聞きたいことがあるのね」 「何?」 放課後の教室で、文芸部室に向かおうとしていた俺とハルヒに話しかけてきたのは阪中だ。もちろん返事をしたのはハルヒだ。俺はこんなにそっけない返事はしない、だろう。 「キョンくんにも聞いてほしいのね。相談何だけど…」 阪中の話によると、阪中は面識のあまりない隣のクラスの男子生徒から告白されたらしい。しかし阪中はその男子生徒の事を良く思ってなく断りたいのだが、どう断ったら良いのかわからない。 そこで、中学時代に数々の男をフッてきたハルヒに聞いてみようと考えたらしい。俺は完全にオマケだ。 「でね、明日の放課後にもう一度気持ちを伝えるから、そのときに返事を聞かせてくれって言われたのね」 「そんなの興味ない、の一言で終わりじゃない! 何でそんな簡単なこと言えないのかしら」 「おいおいハルヒ、阪中は普通の女子生徒だぞ? もう少し阪中らしい断り方考えたらどうなんだ?」 「何よ、あたしが普通じゃないみたいな言い方はやめてくれる? それにあたしに相談してきたって事はあたしの流儀を聞きにきたって事よ! あたしのやりかたを言って文句あるの?」 「そうか。それはお前が正しい。だけどそれを押し付けるのはやめろ」 「喧嘩しないでほしいのね」 坂中の言葉で言い争いをやめた俺たちは真剣に協議をし始めた。 ハルヒの席を囲むように座っている。ハルヒと俺はいつもの席で阪中はハルヒの隣にイスを引き寄せて座っている。人が少なくなったので段々と声が大きくなってくる。 「じゃあキョン連れてって『コイツ私の彼氏なの~彼氏いるからむりなのね~』とか言わせて見ようかしら。」 「断じて断る。もっと普通なのはないのか?」 恋愛経験に乏しい俺にはアドバイスができるはずが無く、ハルヒの言った案を通すか通さないか役人的な仕事に専念していた。 ハルヒは非常に非現実的なアイディアばかりだすので俺は却下をくりかえした。阪中は自分の事なのに困った感じはなく、むしろ楽しげだった。 俺は今さらだが阪中は何故ハルヒに相談したんだろうと考えた。坂中の話しぶり、と言うか聞きぶりはハルヒに相談している形を取ってハルヒの過去の恋愛の体験談を聞きだしている感じだった。 不穏なことが起きなければいいのだが、と考えたが阪中なら平気だろうとスルーした。 そういえばルソーの一件以来阪中はハルヒに懐いてる。俺としてはハルヒが学校に溶け込んでる証拠のような気がして少し嬉しく思ってたりもする。 そんな事もあって俺はハルヒのためにも真剣に考えてやろうと思っていた。 「あーもう! 何で却下するのよ!」 「もう少し阪中の事を考えてやれ」 「これ以上はムリよ!!」 「じゃあ涼宮さんが言ってたようにキョンくん連れて行って恋人って言って見ようかななのね」 「こいつの言った意見ではそれが一番マトモなようだが、それは今後に関わるぞ?」 そう、俺の事を恋人と言い切ってしまえば翌日から男子生徒から始まり、少なくともこのクラスと隣のクラスの大半に知られてしまうだろう。 しかも、相手の男子生徒の事を考えると『あれは告白を断るため』とは言えない。 「わたしはいいのね。キョンくんがよければ」 俺が今後の事を考えていると、 「やっぱりキョンくんはわたしじゃ嫌なのね」 とか言われたので咄嗟に、 「嫌じゃあないし噂になるのはこいつのせいで不覚にもなれてしまっているんだ。」 何て口走ってしまう俺はどれだけお調子者なんだろう。ハルヒに助けを求める視線を出すとハルヒは少し不機嫌そうな表情で言った。 「噂になるのは恋愛禁止を掲げているSOS団としては困る事態だわ! 故に却下ね!!」 「じゃあどうするのね」 阪中は困ったように言った。でも俺には多少楽しそうに見える。これだけ考えた挙句振り出しなのだから俺もハルヒもどうしようもなくなっている。 「なぁ、理由なんて言わないで『ごめんなさい』とかだけじゃあダメなのか?何か聞かれても『ごめんなさい』で通ると思うぞ?」 恋愛経験ない俺が口出すのもどうかと思ったが素人の意見も取り入れた方がいいかも知れないと思った俺はそういった。 以外にもこれはシンプルでいいと言う事になってその方針で話を進めていた。ハルヒも阪中も良く考えれば簡単なことなのに思いつかなかったのはきっと2人が生まれつき変わった人間だからだろう。 「じゃあキョンくんと涼宮さんにちょっと実演してほしいのね」 まあ俺はそんな事を言われるとは思わなかったんで驚愕の表情をしていたと思うね。ハルヒほどじゃあないが。 ハルヒは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。お前は金魚か? 「いいわ、やりましょう!」 何を言っているハルヒ! ここにはすでに阪中とハルヒしか居ないとはいえ恥ずかしすぎる! 「あたしはフラれるのは嫌いだからあんたフラれる役ね!」 こうなったらハルヒはとまらない。ムダに逆らうと後が恐いし実演が困難になる。覚悟を決めるしかない。 「しょうがない。じゃあ言うぞ?」と俺は恥ずかしいので視線を落とす。 「ハルヒ、好きだ。付き合って欲しい」 ああ、何でこんなに恥ずかしいんだろう。思ったより全然恥ずかしかったな。それより返事はまだなのか? 視線を上げてハルヒを見ると顔を真っ赤にしている。俺は余計に恥ずかしくなってきた。 「涼宮さん、返事しないとダメなのね。返事が聞きたいのね」 ハルヒはハッと我に返って、 「いいわ! 付き合いましょう!」 とか言いやがった。俺が断らなければダメだろ、と言うと咄嗟にでちゃったなんて言い訳してる。 「涼宮さんにキョンくんをフるのはムリそうなのね。ウソでもフれないのね」 「そんなことないわよ! 中学時代にふった事ないから咄嗟に……」 やめろハルヒ! ごまかしてると思われるぞ、と言おうとしたが言えなかった。阪中の言葉に遮られたからだ。 「じゃあ今度は涼宮さんがキョンくんに告白してみてほしいのね」 ハルヒは俺の顔を見て、少し考えてから言った。 「いいわ! よく聞きなさいキョン! あたしはアンタが好きよ! 付き合いなさい!!」 俺はハルヒの勢いに少し焦って思わず、『廊下に響くぞ、他の人に聞かれたらどうする!』と思って廊下の方に目をやると、廊下側に座っている阪中という女の子の期待に満ちた表情で我に返った。 とりあえず任務を完了しなければ、と一呼吸置いた。そしてやはり視線を落として言った。 「すまんがハルヒ、俺はお前とは付き合えない」 「何でよ!」 「すまん…」 「団長命令よ!!」 「すまん…」 「あたしの事嫌いなの?」 俺は一瞬狼狽した。ハルヒの声が少し悲しそうで、演技には思えなく視線をあげた。そこには悲しい顔をしたハルヒがいた。だけど、阪中に目をやると未だに期待に満ちた表情をしていたのでハルヒは気にしないことにした。 「嫌いじゃあない。だけど、すまん。」 「じゃあ、なんでよ…」 ハルヒの声は消え入りそうだった。見ればほんのり涙目だ。ハルヒの表情は呆然としている。なんだか演技とはいえ、心が痛んだ。 「もういいだろう阪中。こんな感じでいいのか? というよりはこんな感じでいいんじゃないか?」 「ありがとうなのね。でも、涼宮さんの悲しそうな顔を見てたら何だか断れる自信なくなったのね。だから明日の朝手紙で断る事にするのね」 たしかに阪中の期待の表情が無ければ俺は断り切れなかっただろう。それほどハルヒの悲しそうな表情は切なげで、守ってやりたくなってしまった。 未だに呆然としているハルヒに目をやった。俺は、もう演技は終わったんだぞ、と言った。 「涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて、割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね」 そういい残して阪中はさっさと帰ってしまった。俺は、最初から手紙にすればいいのにとか、こんな状態のハルヒをおいて返るなんて、とかいろいろ阪中の批判を思い浮かべたが阪中は本当に困ってたんだろうという結論に着いた。 きっと阪中は手紙じゃあ失礼だと思ったのだろう。そして、今のハルヒには阪中はいないほうがいいと判断したんだろう。そう思うことにする それからハルヒは呆然として、俺はハルヒを置いていくわけにもいかずにハルヒの前の席に座ったまま過ごした。 そうしてハルヒが回復するまで待とうと思ったが、夕日が落ちてきた頃にはとりあえず家まで送ってやろうと決心した。 「ハルヒ、かえるぞ」 コクリとうなずき立ち上がるが、動こうとしない。俺はいつもと立場が逆だとは思いながらもハルヒの手を取って引っ張った。 俺はハルヒに何て言えばいいんだろうとか、そういえば今日のSOS団はどうなってるんだろうとか考えながらハルヒの家の近くまで送った。長門並みの無言が続いた。 ハルヒの家の近くまで来て、こんな状態でハルヒを家に帰していいのか考えた。頭の中で阪中のセリフが蘇る。 『涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね』 どうしたらいいのか分からなかったのでとりあえずハルヒの家の近くの公園に連れて行く。ベンチに座らせ、俺も隣に座る。とりあえずあれは演技であることを強調しようと思う。うまく言えるかな。 「ハルヒ、そろそろちゃんと目を覚ませ!」 ハルヒは多少意識が回復したように見えた。今度はハルヒは悲しそうな表情を浮かべている。俺を見て、視線を落として、もう一度俺を見てから消えるような声で言った。 「キョンはわたしが嫌いなの?」 俺は戸惑った。そんな事を言われるとは想像もしていなかった。あれは演技だから気にするな、と言おうとしていたのに言えなかった。 いや、会話の流れを考えるなら十分普通のセリフだし、言わなければならないのだが何故か口にできない。 「ハルヒ、俺がハルヒの事の事を嫌いなわけがないじゃないか。いつも一緒にいて、そんな事もわからないのか?」 「でも、好きじゃないんでしょ? あたしはキョンにとってはその他大勢。あの球場の5万人の観衆と一緒。同じ場所にいるけど深く関わることはない。」 小学生の時の話か。どうしようか迷ってあることを決心した。告白だ。 「ハルヒ、一度しか言わないから良く聞け。俺はお前の事が好きなんだ。さっきの演技とは違って今度は俺の本心だ。」 「ウソよ!」 ハルヒは急に叫んだ。 「だってあたしはあんたに好きって言われたときは演技だってわかってても断れなかった。そのときに気付いた。あたしはアンタが好きって。 でもあんたはアッサリあたしをふったじゃない。気付いたのよ。キョンはあたしの事を好きではないって。本当に好きだったら言えないハズだって。」 返す言葉もない。古泉なら何て言うだろう。いや、変な言葉でも俺は自分の言葉で言わなければいけないんだろうなと考えた。 「もう一度だけ言うぞ? 俺はハルヒが好きなんだ。」 と言ってからさらに続けた。 「俺も心が痛んださ。でも、演技だってわかってたから堪えることができた。きっと俺はハルヒの事を好きだと自覚していた分だけ心の準備ができていたんだろう。 でも、それでも心が痛んだ。ハルヒの気持ちも痛いほどわかる。ハルヒが俺の事をどれだけ好きかも伝わった。… …だからハルヒ、お前がそれだけ好きになった人の言う事を信じてくれないか?」 ハルヒは無言でこっちを見た。でも何故だかさっきまでの焦燥感や不安感はなかった。気がつけばハルヒは俺の手を握っている。 「ありがと。キョンのいう事だから信じる。」 「そうかい。」 俺はやっとの事でぎこちない微笑みをハルヒに向けた。そっとハルヒの両頬に手のひらを当て、ハルヒの顔に近づいて目をつぶり、キスをした。 ゆっくりと、甘いキスをしながら両手をハルヒの背中において抱きしめた。 そしてゆっくりとハルヒを放してから見たハルヒの顔は学校帰りの顔とは違って嬉しそうな表情をしていた。その中には安堵の表情も読み取れた。 「帰ろう。ハルヒと過ごす時間はいっぱいあるんだからゆっくり楽しんでいこう。」 そういってハルヒを家の前まで送っていった。 翌日の朝になって阪中の事を思い出しうまくやったか気にもなったが俺にはハルヒの方が気になったので阪中には悪いが気にしない事にした。 そして、教室でハルヒを確認して軽い挨拶をして、じゃあ、あらためて今日からよろしく伝えた。 俺とハルヒの関係は誰にも言わない事にした。 しかし言わなくても誰もが気付いている。 そして、交際を始めてからもハルヒと俺はいつでもどこでも変わらない事に気付いた俺は、谷口とかの言う俺とハルヒの関係は昔から付き合っているようなものなんだなと気付いた。 俺はあれから毎日部活の後にハルヒを送っていき、あの公園で話して、最後にキスをして帰るという日課が追加された。 そのことに幸せを感じながら日々を送っていく。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/37.html
父親が帰宅し両親が揃ってから話をした方がいいだろうと、俺とハルヒはファミレスで時間をつぶし、それから俺の家へと向かった。 予想していたことではあったが、うちの家の反応は、鷹揚にして寛容な涼宮家のそれにほど遠く、当惑と難詰とからなる、よくもわるくも、ごく常識的のものだった。 「仲がいいのは結構な話だが、正面切って『同棲』したいんだと言われても、反対だとしか言えないな」 俺の父親がついたため息を引きとって、今度は母親が口を開く。 「ふたりはまだ高校生なんだし、その歳にふさわしいお付きあいの仕方があるとおもうわ。それにハルヒちゃんのご両親だって心配なさると思うし」 ハルヒは顔を上げて、いつもの二割増で目に力をこめて言う。 「あの、うちの両親には話しました、ふたりで」 「そう、どうおっしゃっていらしたの?」 「するなら自分たちの甲斐性と責任で、と言われました」 「そのとおりだな。この話は、今の二人の甲斐性と責任を越えたものだと思う。古い考えかもしれないが、まだ結婚もしてない男女が一緒に暮らすことが、いいことだとはどうしても思えない」 「10代で結婚するのは昔は普通だったし、今もそういう人たちはいるけれど、仕事もなかなかないし、あってもそんなにたくさん貰えるわけじゃないから生活は大変みたいだわ。生活費や家事・子育てについて、親の支援を受けながらというケースもあるけど、それも望んでするものじゃないと思うの」 「まして二人はこれから大学受験が、その先には就職だってある。このことを二人がないがしろにしてないのは、毎晩勉強してることや、息子の成績の変化だけを見てもわかるよ。だから、それだけに、今日聞いた話には正直驚いたし、少し残念だな」 親たちが言う言葉や口調からは、親なりに俺たちを心配してくれているのがよくわかった。加えて、親たちが言うことは、現実的に見ても常識に照らしても、間違っていなかった。それに親たちが指摘した問題や限界は、俺たちも自覚していて、なおかつ今すぐに解決の見つからないものだった。 事を運ぶにあたってどういう問題があるのかについては、親たちと俺たち二人の見解はほとんど一致していた。違うのは、俺たちは「どうしたいか」を考えていて、親たちは「どうすべきか」「どうあるべきか」を考えていることだった。当然、話は平行線をたどり、早々に暗礁に乗り上げ、そして乗り上げたままだった。 沈黙が、その気まずい場を、靄のように包み満たした。沈黙だって? 俺は心の中の何かのゲージが限界近くまで上がってきているのを感じて、何故かあわてて隣のハルヒを見た。 正直に言おう。日頃ハルヒの暴言にツッコミを入れ、無茶を引きとめるのが習い性になってきたせいか、どこかでこいつをとめるのは俺の役目だとうぬぼれていたらしい。すれ違う互いの想いと主張、進まぬ話し合いへのいらだちにキレかかっていた俺は、ハルヒの方が今にもキレようとしているんじゃないかと邪推したのだ。 涼宮ハルヒが黙っていた。 何よりも、そして誰よりも負けるのが嫌いで、口と手が互いに我先にと争って出撃するあのハルヒが、唇を噛みしめ、膝の上でぎゅっと両手を握っている。だがハルヒは、いつにもましてハルヒだった。たじろかず、顔はうつむかず、星団をいくつも詰めこんだような目を大きく開けて、じっと前を、俺の親ふたりを見つめている。 俺は、ハルヒの膝の上で握られたその手に、自分の手を重ねた。 はげますつもりか、はげまして欲しいのか、どちらともつかない気持ちだったが、今はどうだっていい。俺はこいつの手の温かみを感じて、それに力を得て顔を上げた。 「父さん、母さん」 沈黙が破られ、時間が動き出す。 「ハルヒのこと、好きか?嫌いか?」 「そりゃハルヒちゃんのことは好きですよ、ねえ」 「ああ、しっかりした娘さんで、おまえにはもったいないくらいの……」 「俺はこいつが好きだ」 すうと息を吸い込む。そして 「早すぎるというなら待つ。頼りないというならしっかりするよう努力する。甘いというならそのとおりだろうし、夢みたいなっていうなら本当に夢みたいなことを言ってるんだろうと思う。今すぐは無理だというのも分かってる。そんな生活を支える力が俺たちにまだないってことも。でも、これは俺たちの夢なんだ。どれだけかかっても、二人で実現したいと思ってる。……あの、聞いてくれてありがとう。ハルヒを送ってくるよ」 俺は立ちあがり、手を引いてハルヒを立たせようとした。しかしハルヒはこちらを見ず、逆にその手を下に引っ張り、もう一度俺を席に付かせようとした。まだ終わってないわ、と言うように。 「待ちなさい」 母が息をつき、やわらかい声で言った。 「ハルヒちゃん、夕飯食べていきなさい。ね、あなた」 「ああ。そうしなさい。……準備に少し時間がいるだろうから、一度部屋の方へ行ってなさい」 夕食が済み、俺はハルヒを送っていくために玄関を出た。 一度しまったドアが開いた。飛び出して来たのは妹だった。妹は一直線にハルヒの方に駆け寄り、振り向いたハルヒの胸に飛び込んでいった。 「ハルにゃーん、ごめんね、ごめんね」 「よしよし。あー、謝んないで。あたしの方こそ、ごめん。お父さんとお母さんに言いたくないこと、一杯言わせちゃった。妹ちゃんにも悲しい思いさせたね。ごめん」 「ううん。ハルにゃんもキョン君も悪くないよ。あたし、今日の話、すごくうれしかったよ」 「そっか……ありがとね、妹ちゃん。あたしも、それ聞いてすごくうれしい。元気、もらっちゃったね」 「ハルにゃん、お父さんとお母さんのこと、嫌いにならないでね」 「ううん、ならないよ。あんなにちゃんと、あたしたちのこと叱ってくれたんだもの」 「あとあたしのことも。それにキョンくんのことも」 ハルヒが吹き出し、俺がそれに続いて笑った。 「ならないよ、嫌いになんて絶対ならない」 「約束だよ」 「うん、約束しよ」 妹とハルヒは玄関の前で短い指きりをした。二人のつながった手が、「ゆびきりげんまん」の歌に合わせて上下に動いた。 歌が終わって、その指が離れる。妹はその指を少し見つめて顔を上げた。妹に会わせて少しかがんでいたハルヒは、膝を伸ばして、もう一度妹の顔を見た。 「じゃあね、ハルにゃん。おやすみなさい」 「うん、またね、妹ちゃん。おやすみ」 次の日、ハルヒは学校に来なかった。 メールを打つと、「風邪引いた」とだけ返事が来た。 昼休み、古泉に呼び出されて部室に向かう途中、鶴屋さんに会った。 「聞いたよー、キョン君。ハルにゃんのおやっさんに挑戦状叩き付けたってえ? 『この度、麗しき姫君を私のコレクションに加えたく候。明日、丑三つ時に戴きに参上したく申し候』って感じかな?」 「それじゃ『予告状』ですよ。あと、どっちかっていうと、ハルヒの親父さんから叩き付けられたんです」 「じゃ、受けて立ったんだ、そいつぁ男の子だあ。お姉さんは鼻が高いよっ!」 「問題はハルヒの家より、うちなんですが」 「そういや、ハルにゃんを見かけないねえ。休みかな?」 「風邪らしいですよ。なんとかの霍乱かな」 「ふんふん。まあ、焦らず急がず進むがいいや。何かあったら相談ぐらいは乗るにょろよ」 「ありがとうございます。でも、鶴屋さん、どこでその話を?」 「シークレットっさ。依頼人の秘密を守るのは探偵の基本きょろ。そいじゃねー」 昼休みの部室には、いつものように置物と化して本を読んでいる宇宙人と、随分と先に来たらしくボードゲームを並べて一人で駒を動かしている超能力者がいた。 「お呼び立てしてすみません」 「何か非常事態か?」 「今のところ閉鎖空間の類いは出現していませんね。お心当たりでも?」 「あっても宇宙的未来的超能力的な話じゃない」 「なるほど。さしずめファミリー・アフェア(家族の問題)といったところでしょうか?」 「お前、ほんとはテレパシー方面の超能力者じゃないのか?」 「機関ではそういった研究や訓練を行っている部門も確かにありますが」 「まあいい。用件を聞こう」 「放課後、涼宮さんのお見舞いに行かれますか?」 「ああ、そのつもりだったが。おまえのところにもメールが来たのか?」 「正確には僕のところにだけメールが来ました。『今日は風邪で休んでるからSOS団も休みにするわ。有希とみくるちゃんとキョンにも伝えて』。おかしいとは思いませんか?」 「どこがだ?」 「『キョンにも伝えて』というところですよ。メッセージの宛先にあなたも入っている。しかし、僕がメッセージをお伝えする前に、当然と言うべきでしょうが、あなたは涼宮さんの欠席を知っておられた」 「同じクラスだ、嫌でもわかるだろ?」 「僕が『お見舞い』といっても素直に応じられましたね」 「ああ。休んでやがるんでハルヒの奴にメールしたら、風邪だからと返事が来た」 「失礼ですがメールをやり取りされたのはいつです?」 「1時限目が始まる前だが」 「ぼくが涼宮さんからのメールを受け取ったのは、あなたにメールした直前、つまり4時限目終了直後です」 「どこがおかしい?」 「やはり『キョンにも伝えて』というところですね。1時限目の時点で、あなたは涼宮さんの欠席及び欠席の理由まで知っておられた。他の団員へはともかく、あなたにはもはや伝えるべき情報がほとんどない」 「どうせ一度言ったくらいじゃ忘れるかもしれないと思ったのさ」 「意図的に無視されることがあっても、あなたが涼宮さんとのやり取りを忘れるなんてあり得ません」 「あのなあ。それに部活が休みだって情報は、お前からはじめて知らされたぞ」 「そうです、それだけが新たに加わった情報というわけですが……」 「何か言いたいことがあるなら、結論を言ってくれ。昼休みが終わりそうだ」 「いうまでもありませんが、SOS団は名実ともに涼宮さんの団です。彼女抜きで活動することはあり得ないし、これまでもありませんでした。涼宮さんを巡る事件について、ぼくら4人が集まり何らかの対策を講じることはありましたが、それは涼宮さんの知るところではありませんし、また知られてはならない事項であり、当然ながらSOS団の活動でもありません」 「結論を、と言ったはずだぞ」 「失礼。解説役が習い性になっているようです。ですが、結論ならあなたから、最初にお聞きしているので、僕が何か付け加えるのも蛇足だというものかと」 「見舞いのことか?」 「確かに涼宮さんは一回では足りないかもしれないと思い、ダメを押されたとも言えますが、メッセージの含みは、むしろあなた以外のメンバーに向けられていると考えるのが正しいでしょう。部活が休みなら、我々は三々五々帰途につくことになる。場合によっては『みんなでお見舞いを』という無粋な提案がなされるかもしれません。ですが、僕があなたに涼宮さんのメッセージを伝え、それに対してあなたが我々に自分はそのことを《すでに知っている》と伝えれば、他3人は間違いなく『気をきかせる』でしょう。これで涼宮さんの願望は成就する。つまり『キョンにも伝えて』という部分は、あなたに情報を伝えることではなく、むしろ僕とあなたに情報の交換をさせることを意図したものと考えられます」 「俺に言わせれば、単なる考え過ぎだ」 「では、そういうことで結構です。結論は同じですから」 長門がバタンと本を閉じた。話は終わった。俺たちはそれぞれの教室に戻るべく、部室のドアを開け外に出た。 「……いや、同じじゃないかもしれんな」 「どうしました?」 「多分、考え過ぎだ。だが礼は先払いしとく。見当違いだと分かったら、後で取り消させてもらうぞ」 俺は「ありがとな」と言い捨て、廊下を走った。後ろで優雅に肩をすくめる超能力者と、液体ヘリウムみたいな目を向ける宇宙人が、俺を見送っていた。 俺は教室に舞い戻って自分の鞄をひっつかみ、谷口と国木田に「腹が痛いんで早退する」と言い捨てて、また走り出した。 ハルヒが風邪で寝込んでいるなんて考えられない。昨晩、メンタル面はどうあれ、あいつの体はピンピンしてた。触れても熱はなかった。 状況証拠なら、まだある。2回のメールがそれだ。ただ伝えるだけなら、古泉の言うように、メールはどちらか一通で十分だった。俺から古泉たちにハルヒの休みを知らせれば、それだけで部活は自動的に休みになっただろう。古泉宛にメールするのでも同じことだ。 重複しているのは、メールそのものだけじゃない。「風邪で」という部分もそうだ。1通目の俺への返事は、休みの理由は俺が予想するようなものではなく、ただの「風邪」なんだという「言い訳」の含みがあった。そして2通目の古泉へのメールへも同じ「風邪」という理由が添えられていた。俺にならともかく、夕べの一件を知らないはずの古泉には「言い訳」の必要はない。つまり、それは夕べの一件を知る者に対する駄目押しだ。 くそったれ。普段は、何をしでかすか一向に分からないが何がやりたいかは響いてくるように分かりやすいくせに、こういう時に限って、かすかでわかりにくいメッセージを発しやがる。気付くな、でも気付け、とでも言ってるみたいだぞ、ハルヒ。 だが、朝のメールのやり取りだけなら、俺はハルヒを訪ねることを躊躇したかもしれない。何より今の俺にはハルヒにかけてやるべき言葉が思いつかなかった。 夕べのハルヒの言動、態度に落ち度はない。ないどころか、あれ以上なんて俺には到底考えつかない。あの後の夕食でも、ハルヒはいつものように笑いながら、おいしそうに食べていた。ハルヒの振る舞いはベストに限りなく近いものだっただろう。それでも成果はないに等しかった。 「あたし、どうしたらいいと思う?」 とハルヒに尋ねられたら、俺はきっと何も答えられないだろう。 それでも俺はペダルを踏み込み自転車を走らせ、ハルヒの家の近くまで来ていた。この大通りの信号を渡って少し行って角を二つばかり曲がれば涼宮家の前の道に出る。 ところが信号待ちしている時、思わぬ人物がまだ信号が変わらぬ大通りを、散歩するみたいに勝手気ままに、車の間を渡ってやって来た。この人は、天下の公道でもマイペースなのか。 「よう、少年」 「ハルヒの親父さん? なんでこんなところに?」 「知っているとは思うが、俺の家はこの近くだ」 ということではなく、何でこんな真っ昼間に、家の近くにいるのかが知りたかったのだが。 「知ってる顔が妙にしけた面してるのが見えたんでな、赤信号を渡って参上した」 「・・・すいません」 「いつもの面倒くさそうに余裕こいた面はどうした? 早速、壁に当たっちまったか?」 「余裕なんか……」 「当たり前だ。おまえさんたちに余裕こかれたら大人の立場がない。大人なんてな、ヤクザとおなじで、ケチな面子だけでなりたってるんだ」 「……」 「秘密厳守で話を聞いてやる。だから缶コーヒーをおごれ。ギブ・アンド・テイクだ」 「自分の至らなさに思い至ったなら、それで結構だ。『もっとこうできたら』とか『ほんとはこうすべきなのに』とか『〜できない』とか『なんて落ちこんでる場合じゃないのに』とか思って、その手のネガティブな感情や考えにとらわれて落ちこんだら、自分にこう言え。『それで結構だ』」 ハルヒの親父さんは、軽く握ったこぶしで、自分のおでこをこんこんと軽く叩いた。 「人間の頭なんて皮肉なもんでな、思考抑制といって『ピンクの象のことを決して考えるな』と言われると、ますますピンクの象のことなんか考えちまう。だから「こんなダメなこと考えてはダメだ」とネガティブな考えを振り解こうとすればするほど、はまっちまうんだ。震えを止めようとしても、余計震えてしまうだろ。そんなときはわざと自分から震るえてみると意外と簡単におさまるもんだ」 「あの・・・ありがとうございます」 「単なるMind Hackな豆知識だ、googleればいくらでも出てくる。礼には及ばん」 親父さんは軽く手を上げて、やってきたタクシーを止めた。 「……じゃあな。遊んでるように見えるだろうが、これでも仕事中なんだ」 俺は頭を下げた。タクシーが走り去った。 「こんにちは」 「あら、キョン君、いらっしゃい」 ハルヒの母が出迎えてくれた。2階に向かって声をかける。 「ハル、キョン君が来てくれたわよ」 そういってから声を落とす。 「ちょっとご機嫌斜めよ」 「大丈夫です。そこでおやじさん……もとい、お父さんと会いましたよ」 「不思議な人ね。セルフ・フレックス・タイムとか言ってるんだけど」 「キョン! あんた、なんでこんなとこ居るのよ!」 「こんなところって、ここお前のうちだろ?」 「そういう意味じゃない! なんでこんな時間にうちに来てるのよ! まだ授業あるでしょ!」 「だから腹痛だって早引きしてきた」 「何をのんきな。授業をさぼれるような成績じゃないでしょ、あんたは」 「おまえこそ、《か・ぜ》なのに、起きて来ていいのか。せめて上になんか羽織れ」 「うっさい! 羽織れば良いんでしょ、羽織れば」 ハルヒ母にうながされて、俺は階段を上った。部屋からあわてて出て来たハルヒは、 「こ、こら。まだあがってくるな! あんた、誰の許しを得て……」 「はーい。母さんが許可しました」 ニコニコ顔のハルヒ母は、振り向くと階段の下で手まで振っている。 「は、はあ。ちょっと、待ってなさい。すぐだから」 ハルヒはドアを閉めた。内からしばらくガサゴソガサゴソという大きな音が聞こえたが、しばらくしてそれが止み、再びドアは開いた。 「どうぞ。入って」 「何をしてたんだ?」 「何でもないわ。単なる妄想よ」 「お前くらいになると、妄想だけであんな大きな音がするのか?」 「んなわけないでしょ!」 「なんだ、その図面みたいなのは?」 「部屋の模様替えプランよ」 「そうか。……ところどころ、俺の名前、というか『キョン』という文字が見えるんだが?」 「だから妄想って言ってるでしょ! ち、ちょっと笑うなんて失礼よ!」 どうやら俺は笑っていたらしい。自分で気付かなかった。 「す、すまん。いや、さすがハルヒだな、と思ってな」 「あんたにバカにされるほど頭に来ることはないわね」 「バカにしとらん。というか、バカにするなら俺の方だ」 「はあ?」 「来るには来たが、ここ笑うとこだぞ、どうやってハルヒを慰めようかと、実は途方にくれていた」 「はあ、何よ、それ?」 「俺は自分勝手にも、あの涼宮ハルヒが落ち込んでいるだろうと決めつけて、のこのこやって来た訳だ。この際だ、殴っても良いぞ」 「あんたのクサレ頭をどつく拳は持ち合わせてないわ。で、なんで、あたしが落ち込まなきゃいけないわけ?」 「夕べの件だ。俺が謝るのもおかしいが……」 「まったくもっておかしいわよ! 昨日のどこがどうまずかったって訳? あたしはほとんど勝ちどきを上げたい気分よ」 「いや、おまえは全然まずくなかったぞ。だが、うちの親は頑固に常識的だったし、話も進まなかったし」 「なんでもイエスというなら親なんていてもいないのと同じよ。あたしは昨日のは上出来だったって思ってるわ。その後の夕ご飯もおいしかったし、妹ちゃんは泣かせるくらい良い子だし、あんたも、まああんたなりに頑張ったしね。あたしたちの計画はまずは幸先の良いスタートを切ったわ」 と言って、ハルヒは巻き紙のようなものを放ってよこした。 「今後の詳細な計画よ」 「毛筆で手書きかよ。いつの時代の人間だ」 「メールで横書きよりも雰囲気出るでしょ。計画にはね情感に訴えるものが必要なの!」 「それはいいが、こっちの妄想模様替えプランが何か教えてくれ」 「そ、それは……、最終手段よ、自爆装置みたいなものよ」 「もう自爆したみたいな真っ赤な顔になってるぞ。つまり、あれか?」 「そうよ! あらゆる手をつくして駄目だった場合、あんたを拉致してここで暮らす場合、どうすればいいか、っていう見取り図よ。笑うな! 交渉事にはね、最終撤退ラインを決めておくのがセオリーなの! 最終撤退ラインのレベルが高ければ高いだけ、強気で交渉に当たれるのよ! それだけのことなんだからね! だから笑うなって言ってんの!」 ハルキョン家を探す その1 ハルキョン家を探す その2 ハルキョン家を探す その3 →ハルキョン家を探す その4 ハルキョン家を探す その5
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3601.html
第二十ニ章 ハルヒ ビジネスジェット「Tsuruya」号は、滑走路に滑り込んだ。 機体が制止すると共に、お馴染みの黒塗りハイヤーが側にやってきた。 「とうちゃ~~く!さあ、客室の皆さんは、とっとと降りるにょろよ!」 通常の旅客機ならば1時間半は優に掛かる行程を、僅か50分でかっとんで来た「Tsuruya」号の搭乗口に立ちながら、客室乗務員姿の鶴屋さんは俺たちを促す。俺たちはぞろぞろと昇降口から滑走路に降り立ち、黒塗りハイヤーに向かった。だが、その前に。 俺は、昇降口に立ちこちらを見送っている鶴屋さんのところに駆け寄った。 「鶴屋さん?」 「何かなっ?」 「今回はご協力ありがとうございました。このご恩は一生忘れませんから」 「……良いってことさ。こんな事しか、あたしは出来ないからねっ!そんな事改めて言われると照れるっさ!キョン君もこれから頑張ってねっ!あ、それから」 鶴屋さんは、とびっきりの悪戯を思いついた子供のような笑顔でウィンクしながら、こう言った。 「ハルにゃんをよろしくねっ!もう離しちゃだめだぞっ!」 黒塗りハイヤーは俺と古泉、長門を乗せたまま高速道路を滑るように走っていく。運転手は新川さんだ。 以前俺が3日間入院していた『機関』御用達の病院が目的地だ。そこに、ハルヒはいる。あの時、駅で倒れ昏睡状態になったハルヒは、一旦ホテルに運び込まれたものの意識が戻らず、現在は件の病院に入院しているのだという。ハルヒの両親も、入院した当初は昼夜通して看病していたとの事だが、全く覚醒の兆しがない事から、最近では日中のみ、母親のみの付き添いになったと、古泉が説明してくれた。 「ということは、今行くとハルヒのお母さんに会う事にならないか?」 「そうですね。ではこうしましょう。緊急検査のためということで、涼宮さんを別の病棟に移し、そこであなたと涼宮さんを引き合わせる様に手配します」 「そっか。だが、俺がハルヒに出来る事なんて限られてるぞ。しかもアイツは意識がないんだろ?」 「大丈夫です。涼宮さんはあなたをずっと待っているのですから、必ず何らかの反応があります」 いつものスマイルで俺にそう断言した後、古泉はぽつりと呟いた。 「……悔しいですがね」 その言葉を忘れようとするように携帯を取りだし、いずこかへ電話する。多分、病院への手配だろうな。 高速から見える風景が、段々と馴染み深いものに変わってきたとき、ハイヤーは高速を降り一般道に入った。窓から見える風景が、懐かしい。あの引っ越しからもう1年経ったのか。ぱっと見は全く変化がないようにも見えるこの町だが、自分の記憶と違う部分もあちこちにある。僅か一年とはいえ、変わっていることを実感した。そんな俺の個人的な感慨を無視したように、ハイヤーは病院の裏口に滑り込んだ。 「こちらです」 先導する古泉の後を歩く俺と長門。既にハルヒは特別病棟の個室から検査室に移動しているとの事だった。 俺たちは一般入院患者や見舞客の目を避けるように、検査室とやらのある病棟に向かった。 「現在、涼宮さんの状態に変化はありません。身体、脳波共に異常ありません。ただ、未だに目を覚まされておりません。『閉鎖空間』も現状維持のままのようです」 「……現在、涼宮ハルヒに特別な異常は認められない。肉体的には全く正常。精神的な乱れも特に無い」 古泉の報告を長門が補強してくれた。分かった。あとは俺が何とかするしかないんだな。 「……そう」 「期待してます……ああ、こちらですね」 古泉が『第3検査室』と書かれたプレートが下がったドアを開けると、そこにはベッドに横たわるハルヒが居た。若干痩せた感じはするが、まるで眠っているかのようなハルヒの顔。しかし、その腕には点滴用のチューブが刺さり、長期間意識が戻らないという古泉の話を裏付けていた。 「……ハルヒ」 思わず俺は、目の前に横たわっている少女の名前を呼んだ。反応は、無い。 「ハルヒ、俺だ」 ベッドの脇の簡易なパイプイスに座り、ハルヒの手を取る。その手は冷たかった。 「戻ってきたぞ」 ハルヒの手が、以前よりも小さく細く感じる。 「そろそろ起きろ」 トレードマークのカチューシャは付けておらず、ベッドの脇に掛けられている。 「遅刻するぞ」 綺麗な寝顔。あの時見たロングヘアは短く切りそろえられ、見慣れたショートカットになっていた。 「今回の罰金はお前だからな」 そんな俺の行動を見ていた古泉と長門だったが、しばらくすると俺とハルヒから視線を外した。 「僕たちは、席を外します。後はあなたにお任せします」 「……頑張って」 そう言って退室する古泉と長門に、俺は目線で感謝の合図を送った。 まるで眠り姫のように微動だにしないベッドの上の少女。一年前にコイツに告白したときも、寝顔を見ながら色々考えていたっけ。少女の寝顔は、その時と同じで綺麗だ。ただ、目を覚まさないことを除けば。 いつの間にか、そんな少女に俺は語りかけていた。 なあ、ハルヒ。お前、いつまで寝てるんだよ?腕からチューブ生やしてさ…… しかも医者が異常なしって言ってるんだぞ?端から見てればギャグだぜ、これ。 そろそろ目を覚ましてくれないか?俺、お前に謝らなければいけない事が一杯あるんだよ。 古泉とお前のことを誤解してたこと。お前と同じ大学行けなかったこと。パーティをすっぽかしたこと。 それから、それから…… 俺の言葉にも全く反応を示さないハルヒの手を握り、いつの間にか俺は泣いていた。 何が『神の鍵』だ。俺は、今こうやって目の前に横たわっているハルヒに、何にも出来ないじゃないか。 ちくしょう、ちくしょう…… どのくらい経ったのか。泣き疲れた俺は、涙を拭きながら改めてハルヒを見た。ハルヒは俺が入ってきた時と全く変わらない。華奢なその身を俺の前に横たえている。 ただ、一つだけ違いがあった。ハルヒが……泣いている?閉じられた両目から、涙が流れていたのだ。 反応してくれた! 俺はハルヒの頬に手をやり、耳元で呟いた。 「ハルヒ。俺はここだ。お前の側にいるから、早く起きろ。起きて、いつもの笑顔を見せてくれよ」 ぴくり、とハルヒの体が反応した。 未だ瞑ったままのハルヒの両目からは止めどなく涙が溢れ、その端正な口から譫言のような言葉が漏れた。 「……キョ……カキョン……んと…に……」 ハルヒ!気付いたのか??ハルヒ??俺は必死になってハルヒの耳元でハルヒを呼び続けた。だがハルヒは譫言を繰り返すだけで、一向に目を開けようとはしない。 「ハルヒ!ハルヒ!」 いくら耳元で叫んでも、目を覚まさない。ハルヒの口からは、意味の成さない譫言が流れるばかり。 「どうかしましたか?」 「……」 おそらく部屋の外で待機していたであろう古泉と長門が慌てた様子で入ってきた。ぶつぶつと譫言を繰り返し涙を流し続けるハルヒを見て、古泉は「担当医を呼んできます!」と廊下に走り出ていった。 「……涼宮ハルヒの体内反応の活性化を確認。体温上昇中」 まるで計測機器のように、正確に現状を報告する長門。 だが俺は、そんな彼らの行動など気にも留めず、ひたすらハルヒの耳元でハルヒを呼び続けていた。 『白雪姫って、知ってます?』 『Sleeping Beauty』 突然、頭の中にこの言葉がひらめいた。もう2年半以上前、初めてコイツの作った『閉鎖空間』に二人きりで閉じこめられたときに、脱出のヒントとなった言葉。朝比奈さん(大)と長門のヒント。 これか。これしかないか。 「……宮さん…反応を……っちです……」 開け放たれたドアから、古泉が医者を伴って近づいてくるのが分かる。俺のすぐ脇には長門がいる。 だが、かまうものか。 俺は、譫言を繰り返すハルヒの口を強引に自分の口で塞いだ。 ハルヒ、戻ってきてくれ……その想いと共に。 第二十三章 スイートルームへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1051.html
涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 涼宮ハルヒの終焉 第一章 涼宮ハルヒの終焉 第二章 涼宮ハルヒの終焉 第三章 涼宮ハルヒの終焉 第四章 涼宮ハルヒの終焉 第五章 涼宮ハルヒの終焉 第六章 涼宮ハルヒの終焉 第七章 涼宮ハルヒの終焉 第八章 涼宮ハルヒの終焉 最終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3499.html
涼宮ハルヒの軌跡 プロローグ 涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(中編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(中編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 エピローグ -----下記のものは別の方がご厚意により作ってくれたものです----- 涼宮ハルヒの軌跡 動画(PC版) ※Divxコーデック必須
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/172.html
製作中 基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 内容 あらすじ「あてずっぽナンバーズ」 「七不思議オーバータイム」 「鶴屋さんの挑戦」 登場人物 後に繋がる伏線 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第12巻。2020年11月25日初版発行。 表紙 通常カバー…涼宮ハルヒ、鶴屋さん 初回限定生産版で、かつての角川スニーカー文庫を再現したリバーシブルカバー仕様になっている。 タイトル色 通常カバー…赤 初回限定生産版…赤 その他 本編…440ページ 形式…短・中編集 目次 あてずっぽナンバーズ 七不思議オーバータイム 鶴屋さんの挑戦 裏表紙のあらすじ 初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。 だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。 ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ? 天下無双の大人気シリーズ第12巻! 内容 短・中編収録の巻 あらすじ 「あてずっぽナンバーズ」 + ... 「七不思議オーバータイム」 + ... 「鶴屋さんの挑戦」 + ... 登場人物 [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] 後に繋がる伏線 刊行順 <第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)」』
https://w.atwiki.jp/gods/pages/110464.html
ヘンドリックカシミールニセイ(ヘンドリック・カシミール2世) 神聖ローマ帝国のアンハルト=デッサウ侯の系譜に登場する人物。 ナッサウ=ディーツ侯。 関連: ウィレムフレデリック (ウィレム・フレデリック、父) アルベルティーネアグネスファンナッサウ (アルベルティーネ・アグネス・ファン・ナッサウ、母) ヘンリエッテアマーリエフォンアンハルトデッサウ (ヘンリエッテ・アマーリエ・フォン・アンハルト=デッサウ、妻) ウィレムヘオルヘフリーゾ (ウィレム・ヘオルヘ・フリーゾ、子) ヘンリエッテアルベルティーネ (ヘンリエッテ・アルベルティーネ、子) ヨハンウィレムフリーゾ (ヨハン・ウィレム・フリーゾ、息子) マリアアマーリア(3) (マリア・アマーリア、子) ソフィアヘドウィヒ(3) (ソフィア・ヘドウィヒ、娘) イサベレシャルロッテ (イサベレ・シャルロッテ、娘) ヨハンナアグネス (ヨハンナ・アグネス、子) ルイーゼレオポルディーナ (ルイーゼ・レオポルディーナ、子) ヘンリエッテカシミーラ (ヘンリエッテ・カシミーラ、子) 別名: ハインリヒカジミールニセイ (ハインリヒ・カジミール2世)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2951.html
1 後ろの席の奴が、俺の背中をシャーペンでつついている。 こう書けば、下手人が誰かなど説明する必要はまったくないと言っていい。 なぜなら、俺の真後ろの席に座る人物は、この1年と3ヶ月余りの間に幾度席替えがあろうと、いつも同じだからである。 「あのなぁハルヒ。」 「何よ」 「そろそろシャツが赤色に染まってきそうなんだが」 「それがどうかしたの」 クエスチョンマークすら付かない。涼宮ハルヒは今、果てしなく不機嫌である。 去年も同じ日はこいつはメランコリー状態だったなぁと追想にふけることにして、俺は教室の前方より発せられる古典の授業と、後方より発せられるハルヒのシャーペン攻撃をしのぐ。思えばこの日は俺の今までの人生の中で最も長い時間を過ごしている日で、それは俺がタイムスリップなど無茶なことを2回もしているからに他ならない。 俺の、そして恐らくはハルヒの人生でも印象深い日。今日は七夕である。 去年と違うのは、こいつの憂鬱の原因を知っていることだが、かといってまさか「俺はジョン・スミスだ」などと言う訳にもいくまい。切り札はとっておかねば。というわけで、やはり俺はハルヒに小突かれ続けなきゃいかんらしい。今日は早めに学校を出て俺の家でSOS団七夕パーティーをやることになっているんだが、この機嫌で大丈夫なのかねぇ。ともかく、早く朝比奈さんのお茶が飲みたいね。俺にとっちゃ「かいふくのくすり」以上の効き目があるからな。あれは。 そんなこんなで終業のベルが鳴り、俺はさっさと部室へ退避する。 「はぁーい。」 ノックに応えてくれた朝比奈さんはすでにメイド服に着替えていて、いつものごとく俺に熱いお茶を淹れてくれた。俺は団長机に腰掛けてパソコンの電源を入れ、SOS団公式(学校的には非公式)サイトを開く。 「内容がない」というサイトのカウンタが回らない根本的な原因にようやくハルヒは気づいたようで、数週間前から活動日誌を団員持ち回りで更新するという面倒な行為を始めたのだが、長門が更新した回は数秒で読み終わるか、読み終えるまでに数時間はかかるとてつもなく長ったらしいコンピュータの話になるかの両極端だし、朝比奈さんが書いた文章はハルヒによって却下され代わりに写真をアップロードされているし(俺が気づいて削除したのはつい3日前だ)、古泉は古泉で長々しいミステリ論ばかりだし、ハルヒに至っては言いだしっぺのくせにサボるか、意味わかんない方程式だのを書くかなので、まともに日誌と呼べるのは俺が更新した分だけなんじゃないか? 「カウンタの回りが数倍にアップしたんですし、いいじゃないですか」 「そうは言うがな。古泉。」 「涼宮さんも満足げですし、問題ないですよ。彼女の精神の安定に寄与していることは間違いありません。精神自体はここのところ不安定ですがね。ま、今日はさらに安定しないでしょう」 まさにその通りだよ。痛む背中をさすりながら、今日のハルヒの様子を説明してやる。テーブルに座って本を読んでいる長門にお茶を渡すと俺の隣に来た朝比奈さんは、 「七夕は色々ありましたもんね」 と話しかけてきた。 「そりゃそうですね。タイムスリップしたり、世界を再改変したり――」 俺の回想はドアがノックなしに勢いよく開く音で中断された。一瞬の間。 「やぁ、ごめんごめん。遅れちゃった」 おい待てお前。さっきまでの不機嫌はどこいったんだ。去年と同じように竹を担いだハルヒが、にんまりと笑いながら入ってきた。全く、谷口によく似た人間をアシスタントにしている某番組のナビゲーターよりも態度がコロコロ変わる女だ。 「今年もみんなで願い事を書くのよ。毎年メッセージを送り続けなきゃ織姫と彦星だって忘れちゃうわ。」 今年もってことは、その竹もまた私有地の裏林からパクってきたのか。 「バレなきゃいいのよバレなきゃ。」 ハルヒは窓際に竹を置くと、俺を押しのけて団長席につき、中をゴソゴソと引っ掻き回し、短冊を取り出す。 「ちゃっちゃと書いて、早めにキョンの家に行きましょ」 実を言うと、俺の違和感は、この時からすでに始まっていた。 さて、何を書こうか。ヒントを得ようとハルヒのをみると、「彦星とさっさとくっついちゃいなさい」「織姫とさっさとくっついちゃいなさい」と書いてあった。 こいつにしてはなかなかロマンチックじゃないか。 「ちょっとキョン!なに見てんのよ。馬鹿なことしてないでさっさと書きなさいよ」 見えるように置いとくのが悪い。大体なに照れてんだよ。 「べっ、別に。」 ちなみに他の3人はというと、駄目だ、去年と似たり寄ったりで参考にならない。悩んだ挙句俺は、「毎日楽しい日々を過ごせますように」「無事に天寿を全うできますように」と書いたのだが、 「ふーん」 俺の短冊を見たハルヒは、なぜか複雑そうな顔をしている。 恐らく、この短冊が最終的な引き金だったんだろうな。 2 この後俺たちは全員そろって俺の家に移動して、何かの記念日を建前にかなりの頻度で開催されるSOS団的パーティーを楽しんだ。いつもそうだが、ドンチャン騒ぎである。途中で妹が乱入してきたのでなおさらだ。ハルヒがいつかの孤島の反省から酒をNGにしていなかったらと思うとゾッとするね。ツイスターやら2台つなげたノートパソコンやらありとあらゆる物が部屋の中に展開され、これを見て楽しくなさそうという感想を抱くものは一人もいないだろうな。 だが、なんだろう。この違和感は。 みんな楽しそうだったにもかかわらず、俺は漠然とした違和感を持ち続けていた。その正体をつかんだのは、すでにパーティーが始まってかなり経ってからだった。 それはほんの些細な違い。だが俺には、ハルヒのが無理をしてハイテンションを装っているように感じられたのだ。これはハルヒの精神分析医になれそうな古泉も同意見なようで、階下に飲み物を取りに部屋を出た俺は、古泉の「トイレに行ってきます」という声を聞いた。 「涼宮さんの様子がおかしいのはあなたもお解りでしょう。いやな予感がします」 廊下での会話だ。 「一体何が原因なんだ?」 「先ほど部室で言いそびれましたが、涼宮さんの憂鬱の原因は単なる七夕の思い出ではないのでしょう。彼女ははあなたを疑っているんですよ。」 「どういうことだ?」 「あなたにはお解りのはずですよ。とにかく、気をつけてください」 それだけ言うと、古泉は戻って行ってしまった。分かるような分からないような。どうすりゃいいんだ? 結局、その後しばらくして、パーティーはお開きとなった。帰っていくときのハルヒにも、無理している感じは残っていた。 自分の家でこういう行事をやることにはメリットとデメリットがあり、メリットは家に帰る手間が省けること、デメリットは騒ぎで部屋が見事にカオス状態と化すことである。いつもお嬢さまと少年執事に散かされた部屋を片付けるメイドさんの気持ちが良く分かる。しかし、帰るのと片付けるのではどっちが手間がかかるんだろうね。そんな事を考えながら部屋を片付けていると、くそっ、ノートパソコンの電源が付きっぱなしじゃねぇか。「キョン、あんたが明日持ってきて」と命令し、俺の反論は都合よく聞かずに放置してってんだから、電源ぐらい切って帰れてーの。 電源を切ろうと本体を開くと、テキストエディタが起動していた。 YUKI.N あなたはあなたの思う通りの行動をとればいい。 実に長門らしい、簡潔な文章である。だが長門がこういうメッセージを残すということは、何かが待ち構えていることと同義なのだ。 風呂に入り、俺は床に就いた。異様なプロフィールを持つ3人からの追加連絡はなかったからな。 3 うん、「また」なんだ。済まない。また俺はここに来ちまったようだ。 もう今度はレム睡眠談義は不要だろう。 ――キョン、起きて―― 予想通りというべきか、俺の夢にハルヒの声が乱入してきた。あまりいい夢ではなかったから惜しくはないけどな。 また首を絞められるのは嫌だと思いつつ、そんな思念だけで起きられるものなら俺は毎朝学校に行くときに苦労しない。結局、めでたく俺はまたしてもハルヒに首を絞められる運びと相成った。 さすがに目を開く。やはりというか―― 記憶そのままの奇妙な光に照らされた学校であった。 セーラー服を着たハルヒが俺の顔を覗き込む。ということはと思い、自分の体を確認してみると、やはり着ているものはスエットではなく制服だった。 「何なのかしら、ここ。去年と同じよね?」 「どうやらそうみたいだな」 さすがに2回目ともなると、ハルヒも驚いていない。 「キョン、とりあえず部室に行かない?」 その意見に否やはなかった。どうせそこ以外に行くところはないしな。パソコンを起動したらまた何かあるかもしれん。 荒々しくも手っ取り早い方法で職員室から「ぶしつのカギ」を手に入れ、部室棟へと向かう。 「あんたと話したいことがあるの。」 部室に着くなり、ハルヒはこう切り出した。普段は見せることのない、寂しそうな、不安げな、弱気な表情である。 「あんた、あたしに何か隠してない?」 さて、何のことだろう。心当たりがないのではなく、ありすぎて何のことだか分からないのである。 「この間、あんたが休みの日にみくるちゃんや有希や古泉君と一緒にいるところを見たのよ。それと、」 そう言いながら、ハルヒはそれ取り出した。 それは、 1年前のこの日、長門から受け取り、4年の時を過ごした、ハルヒの考えた宇宙人語が書かれた短冊だった――。 「あたし、昨日あんたの家に勉強教えに行ったでしょ?あのとき、あんたがトイレに行ってる間に、何気なく箪笥の引き出しを開けてみたら、これが出てきたの」 なるほど、疑うというのはこのことだったのか、古泉。しかし、自分の迂闊さのせいでまたしても世界崩壊の危機に直面することになるとは。 どうする?俺。だが、答えはすでに俺の胸にあった。 「この短冊に書かれている記号はね――」 「今から4年前にお前が東中の校庭に書いた、馬鹿でかいミステリーサークルのと同じ記号で、意味は『私は、ここにいる』だろ?」 このとき俺には、全てをブチ撒ける覚悟ができていた。世界がどうなろうともうどうだっていい、と思っていたわけではない。全てを曝しても、こいつは世界を変えることはないという自信がなぜかあったからだ。 「4年前の今日、東中に侵入したのはお前一人じゃない。女の子を担いだ高校生が一人いて、お前の線引きを手伝った」 ハルヒの表情が、不安から確信へと変わってゆく。 「俺は、ジョン・スミスだ」 4 「やっぱりね」 それから俺は、ほとんどの真実をハルヒに話した。ただ、こいつが神だとか進化の可能性だとか時間の歪みだとかというところは、改変された世界のこいつに対してもそうだったように、世界を変化させる力があるらしいことだけにとどめておく。俺にだってどれが本当なのかわからないしな。 殺風景な部屋で長門の電波話を聞かされたことから始まり、マッドな朝倉の襲撃、大人版朝比奈さん、閉鎖空間と神人、七夕の時間遡行、カマドウマ、15498回も繰り返された夏、映画撮影、改変された世界、それらにまつわる未来人・宇宙人・超能力者の組織・・・ 話していると、それぞれの光景が脳裏によみがえってくるようだった。俺の大切な思い出たち。それを今まで、目の前にいるこいつは知らなかったのだ。 そういえば、この閉鎖空間に神人は出現していないな。前回ここに来たときはもっと早く現れていたが、つまり、ハルヒの精神状態はイライラではなく、2人でここに来た理由もイライラではないのだろう。 言うべきことを全て言い終え、さてどうしたものかと考えていると、 「今度はあたしからも伝えることがあるの。」 って、まさかハルヒにも、俺に隠していたことがあるのか? 「そうよ。でも、あなたがジョンだって分かってない限りは伝えられない話なんだけどね。」 一呼吸おいて、 「あんたが去年の夏と冬から来たっていう4年前の七夕、なんであたしはあんな大きな図形を書こうとしたかわかる?」 あたしは宇宙人とか、未来人とか、超能力者が目の前にフラッと出てきてくれることを誰よりも望んでた。中学に入って、いろんな、そのときのあたしが考えられる限りの全ての方法で、何とかして特別な存在を見つけようとしていたの。 でも、何も出てこなかった。それに、周りの人たちが私を避けるようになった。そりゃそうよね。小学生のときのあたしがあれを見てもきっと避けてたと思うわ。だから、野球観戦に行ってから色あせたように感じてたあたしの日常は、限りなく無味無色になってしまったの。誰も自分のちっぽけさに気づいてない。誰もあたしのことを解っちゃくれない。だからね、あたし、決めてたの。 ――あの七夕の日、あの校庭にメッセージを書いて、そこに屋上から飛び降りて、全宇宙にメッセージを発信してやろうと。 家の自分の部屋には遺書をちゃんと残したし、もう図形を書いて飛び降りる以外にすることはなかったはずだった。 でも、校門をよじ登ってるとき、予想外のできごとにあった。あんたと出逢ったわけね。あのときのあんたほど、私の印象に残った人間はあんた本人以外ないわよ。「やれやれ」とかいいながらも、あたしを手伝ってくれて、宇宙人も未来人も超能力者もきっといると言ってくれた。 だから、あたしは、死ねなかった。やることが残ってしまったの。やるなら最後まで徹底的に不可思議な存在を探してやろうと思った。高校に入って、高校生になったあんたに出会うまで、ジョン――キョンはあたしの唯一の心の支えだったの。だからSOS団を作れたのも、今こんなに楽しい毎日を過ごせてるのも、ぜんぶキョンのおかげ。 このときの俺がどんな表情をしていたか、キャプチャー職人がいたらアップロードしてほしいぐらいだね。しばらくの沈黙の後、ハルヒは再び口を開いた。 5 「それからね、あんたの話を聞いて一つ不思議なことがあるのよ。あんたが前に会ってた佐々木って子、あの子もここみたいな、閉鎖空間って言うんだっけ?を持ってるのよね?」 「それはまず間違いないな。なんせ俺が実際に入ったんだからな。」 「実はね、あたし、あの子の顔を見たことがある気がするのよ。」 「確かに4月の頭に駅でお前と佐々木が出会ったときも、初対面にしては2人とも変だとは思ったが。でも、お前は佐々木のことを何も知らないんだろ?」 「そうよ。でも、・・・ううん、説明すれば分かると思うわ。あんたはあたしに変な能力が発生したのは今から4年前だって言ったわよね?あれは忘れもしないわ。」 中学に入って、あたしが世界に訴えようとする行動を始めて周りから避けられ始めて少しした日の夜、変な夢を見たの。 なんか自分がワープしてるような感じがする、変な空間を猛スピードで移動してる夢だったんだけど、自分が進む先に女の子が一人いたの。その子が移動するスピードはあたしより遅くて、しばらくして追いついたのね。そしたら、その子があたしの方を向いて、 『全てを君に託すことにしたよ。君ならうまくできると思うよ。よろしくね』 って言ったの。あたしは意味がわかんなくて、とりあえず『うん』って言って、もう少しまともな答えをしようと考えたの。でも、気が付いたら、その子はあたしよりずっと後ろの方にいた。 彼女は一回うなずくと、全身から、白い、まばゆい光を発したの。その光はあたしの方に向かってきて、次の瞬間、あたしは光に包まれた。その光が自分の中に入ってくる感覚が気持ち悪くて、そこで目を覚ましたの。 「その女の子が佐々木じゃないか、ってことか。」 「そう。今でもその夢は鮮明に記憶に残ってるの。去年あんたとここに来たのが夢じゃないって解ったから、あたしが覚えてる夢で一番はっきりしてるものに昇格したわ。もしかして夢じゃなかったのかしら。」 「その可能性もあると思うぞ。」 口ではそう言ったが、俺はその記憶が夢であるとは微塵も思っていなかった。ハルヒもそうなのだろうが。そうなると、ハルヒの能力がどこから来たのか、説明がつくことになる。そしてその能力がどういう形態をしているのかもな。 「いや、俺は夢じゃないと確信している」 何故だかは解らない。ただ、自分の心中に反することを言ったことに心が疼いたのだ。もう、こいつに対して隠すべきことはほとんどないのだ。俺の部屋のベッドの下のようなものを除いてはな。いや、それすらも隠すべきではないのかもしれない。って、なに考えてんだ、俺。 6 「あんたがジョンだって可能性は、入学したときからずっと考えてたのに、いざ本当となると結構混乱するのね。てことは、SOS団の名前の由来も知ってるわけよね。」 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく、だろ?」 「そう。でも、本当はもう一つ意味をかけていたの。SOSそのままの意味よ。この団なら、色のないあたしの日常を救助してくれるんじゃないかってね。」 「・・・」 俺は、しばらくの間、言葉を返せなかった。毎日が限りなく退屈に感じられる日常とは、どのような心地がするものなのだろうか。今、こいつは幸せなのだろうか。いや、何かあるからこそここに俺を連れてきたんだ。それは何だろうか。それはずっと俺が感じているモヤモヤと同じなのかもしれない。 「あたし、バカよね。」 「いきなり何を言い出すんだ」 「だって、去年この世界から帰ってきたあとの喫茶店で、あんた真相を言ってくれたじゃない」 ああ、軽く一蹴された挙句、財布持ってないからと奢らされたあの喫茶店での会話か。 「しょうがねえよ。あんな話を突然されて信じるような奴がいたとしたら、そいつはオレオレ詐欺に何回も引っかかるだろうよ」 「自分で望んでたくせして、目の前の真実をむざむざ見逃すとはね。でも、今なら例えあんたがどんな突飛な話をしても、信じる自信があるわ。」 俺が感じているモヤモヤは、今までにない速さで輪郭を形成しつつあった。 「そんな事を言うなら、俺もカマドウマ並みの阿呆だな。」 「コンピ研の部長の家に出たっていうあれ?」 「はは、それに違いない。真実をブチ撒けたのに、まだお前に話せていない大事なことが2つもあるからな。」 「一つ目。俺もかつてはお前が望んでいたような世界を望んでいたんだ。だが、俺はそれを早々に諦めてしまった。だから、高校に入ってお前を見たとき、正直お前の生き方が羨ましくなった。かつて望んでいたような世界が現実になって、やれやれと不平をたらしながらも、俺はこの日常が楽しくてしょうがないんだ。」 「心配しなくても、そんなこと解ってるわよ。あんたを見てれば解るの。」 しばしの沈黙。 なぜここで沈黙かって?モヤモヤが完全にはっきりした俺にとって、二つ目の『大事なこと』を告げるのには勇気が要ったからだ。ハルヒはハルヒで何かをしようかしまいか迷っている表情をしている。 俺が少ししかない勇気をかき集めて口を開こうとしたまさにそのとき、ハルヒが言葉を発した。 「そんなこと、言うなら、あたしにも言うべきことがあるわ。・・・あたしね、あん――」 「おっと、俺の二つ目がまだ言い終わってないぜ。 ハルヒ、好きだ。」 「ちょっとキョン!先に言わないでよ!あたしだって、・・・あんたのことが、・・・好きなんだから・・・」 こんなに赤くなったお互いを見たことはないと断言できる。だが、そんなことは、今の俺たちには関係ないね。 「キョン。」 「ハルヒ。」 ごく自然と、真っ赤なハルヒの顔が接近してくる。ハルヒが接近してきたか、俺が接近したかなんて、もう、俺にはわからない。 俺たちは、唇を重ね合わせた。 さまざまな思念が、奔流となって、俺の頭の中を駆け抜ける。やがて、その全ての思いが、一点へと収束していく。すなわち、こいつ、涼宮ハルヒを愛しむ想いへと。こいつとずっと一緒にいたい、そう思った。 永遠とも思える時間のあと、不意に俺は重力の消失を感じた。そういえば今いた場所は閉鎖空間だったか。 ってことは、次に気が付くのは、自分の部屋の、自分のベッドの上か。 この予想は間違っていなかった。予想通り、次の瞬間にいた場所は、俺の部屋の、俺のベッドの上だったが、二つの点で、前回閉鎖空間から戻ってきたときと異なっていた。 つまり、一つ目は俺「たち」が制服を着たままだったことで、もう一つは今の表現からお解りの通り、俺とハルヒは抱き合い、唇を合わせたままだった。 さて、ここから翌朝までは、記述を差し控えさせてもらおうか。 7 翌朝、俺がハルヒを家族に見つからないように外に出すのに、負傷した女スパイを導く某ダンボール使いの潜入のエキスパート並みの細心の注意と行動を要したのは、言うまでもないだろう。 鞄を取りにハルヒの家に立ち寄った後から学校に到着するまで、俺らが手を繋いだままで登校したせいか、「俺とハルヒがくっついた」という噂は、ハルヒと朝比奈さんがバニーガールの衣装でビラ配りしたあの伝説の事件の噂よりも早く広まった。授業中も俺のほうを向いてはニヤニヤしていた谷口は、 「キョンにはお似合いだと前から思ってたぜ。てかお前にはあいつ以外に合う奴がいねえだろ。」 などと言っていた。つーかお前も早く彼女つくれよ。 その日の古泉との会話である。 「僕にとって、一番興味深かったのは、涼宮さんが言っていたという佐々木さんの話ですね。」 「あれは俺も俺なりに考えてみたんだが、佐々木がハルヒにあの能力を渡したってことなのか?」 「簡単に言えば、そうなるでしょう」 「だが、それなら橘京子たちの組織はもっと昔からあってもいいようなもんだが」 「そこですよ。ちょっと推測してみましょう。佐々木さんのような人が、自分のイライラを制御する組織を必要とするでしょうか?答えはノーです。僕たちの『機関』も、彼女たちの組織も両方とも涼宮さんが創り出したと考えるのが妥当でしょう。」 「よく意味がわからん」 「涼宮さんがあの能力を得たときのことを考えてみましょう。突然能力を得たと知った、彼女の無意識下の理性は、どう考えるでしょうか?ここで二つのパターンが予想されます。一つは、自分を制御してくれる存在があれば大丈夫だろうという、どちらかという楽観論的な思考です。そしてもう一つの思考パターンは、自分がこの能力を持つことは危険だ、だから元の持ち主に戻すべきだという、若干悲観論的な考え方です。」 「ってことは、」 「僕たち『機関』は、涼宮さんの前者の理性を反映し、橘さんの組織は後者の理性を反映しているのですよ。だから、涼宮さんの理性がせめぎ合っていたように、僕たちも敵対していたのでしょう。」 古泉は続けて、 「ですが、これからは、橘さんのほうの組織は衰退していくでしょう。涼宮さんの中で、自分は『能力』を持っているべきだ、という考えが強くなるからです。彼女が能力を持っていたからこそ、僕たちはここに一同に会することができたのですから」 「まだ解らんことがある」 「どうぞ」 「なぜ佐々木は『能力』をハルヒに渡したんだ?」 「これも僕の推論ですが、佐々木さんは世界が自分の思い通りになって欲しくなかったんでしょう。そして、4年前、何かで世界が自分の思うように変わってしまうのを見てしまう。彼女はこの能力は自分には必要ない、もっとこの能力にふさわしい人のものであるべきだと考えたのでしょう。」 「それがハルヒか。」 「そうです。涼宮さんは不可思議な現象を誰よりも望んでいました。だから彼女に『能力』が授けられたのでしょう。ともかく、そのように考えた佐々木さんは新しい世界を創造し、そこに1日前の時点の全てをそっくりそのまま移動した、このように考えると辻褄が合います。」 「ハルヒが言ってた移動する感覚はこのことか。待てよ、すると、未来人が4年前より前に遡れないのも・・・」 「その通り。世界が存在しないのなら、遡りようがありませんからね。」 その後のことを、少し話そう。 それからも、ハルヒが事の真相を知っていること、俺とハルヒが一緒にいる時間が増えたことをを除いては、以前と同じSOS団的な日々が続いた。相変わらず違う時空の未来人やら天蓋領域やらとドタバタも続いたが、今度は本当に5人全員で切り抜けてきた。夏休みの合宿第2弾やら、映画やら、バンドやら、相変わらずである。 以前、長門や古泉や朝比奈さんが心配していた「ハルヒが真相を知ることによる弊害」は起こらずに済んだ。その理由を一番端的に表しているのは、ハルヒの 「こんなすごいこと、他の人に知らせたらもったいないじゃないの。これはあたしたちSOS団だけの秘密なんだからね!」 という科白だろう。 ――時は変わって7年後、今日は7月7日、いわずと知れた七夕デーだ。 今日は、7年前と同じく、SOS団パーティーが開催される。 今年の七夕パーティーは、SOS団のパーティーでは史上2番目に壮大なパーティーになるはずである。 ここまで言ってしまえば分かる人は解ると思うが、史上最大は去年の今日である。 スペックの異様さを除けばほぼ普通の人間になっている長門や、以前のように偽りではなく、屈託なく笑うようになった古泉とはしょっちゅう会っているが、朝比奈さんには去年の今日、久しぶりに会った。記憶そのままの朝比奈さん(大)の姿で。彼女によると、自分がこのパーティーに参加するのは「既定事項」であったそうな。 以前は七夕になると、決まってブルーになっていたハルヒだが、今はそんなことは全くない。 何でかって?決まっている。 ――今日は、俺とハルヒの、結婚一周年の記念日だからだ。 P.S おっと、書き忘れたことがある。実は今日のパーティーは、ハルヒの妊娠祝いも兼ねているんだ。しかし、名前を考えるってのは、妙に気恥ずかしいな。 完