約 665,753 件
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/19.html
え~まず初めに注意事項です。最近――というか、いつものことらしいけど行方不明者が出てま~す。名呑町と雨多ノ島の間、あの細い内海で小船が消えたそ うで~す、えへ。注意してくださいね~。はいはいはい、それじゃ改めまして皆さん、乾より子です――えへ。この高校では日本史を教えることになりますね。 大学では民俗学をかじったり地域史をかじったりしてました。とはいってもまだこの名呑町はあんまり知らないんだけど……えへ、調べがいがありそう。そうそう、こっちに来て思い出したけど「海を見てはいけない日」というのを知ってるかしら。 伊豆七島では一月二十四日に物忌みをして、その日は絶対に海を見てはいけないの。海難法師って話にカテゴライズされてるんだけど、その日は海から「何か」がやってくるらしいのよ。 実際、そこに住んでた友達から聞いた話だと、その日に海を見ると精神に異常をきたしたり、外出した人が死んだりしたらしいの。しかも「何か」に食い散らされた跡があったって。 海には「何か」がいる。 別に怖がらせようなんて思ってないんだからね――えへ。 さて海にまつわる伝説は色々あるけど、この町にたくさんあると言えばエビス像よね。ちょっと変わった、蝙蝠みたいな羽とタコみたいな触手を持ってる独特 の造形。やっぱりここは海運と漁業の町だから崇められてきたのもわかるんだけど、エビス信仰は日本中にあるのよね~。日本は島国だから、漂着するという伝 説が多い。神が来たり化け物が来たり――つまり海の向こうには永遠の世界、常世の国があって、そこから「人ならざるもの」がやってくる。 エビス様も同様。海に流れ着いた神だって説が濃厚。さて、ここで問題。 流れ着いたのはエビス様。では海に流された神と言えば何でしょう。ヒントは日本神話で出来損ない、見た目が醜いと言われている神。 ん? ノア? 惜しい、なんて失礼なこと言わないの、えへ。 正解は、ヒルコ。日本の国を作ったイザナギとイザナミの子。でも出来損ないだったから流された。 エビスって漢字で書くと、大体はまあ、こうかしら。『恵比寿』 でもこの町のエビスってこうも書くのよ。『蛭子』 現在、この町では独特のエビス像がたくさんあり、信仰されています。皆が信じている「それ」は、何なんでしょうね? 遠い何処かから来た醜悪な何か? 深海生物? 神様? そして内海では、昔からいつも行方不明者が出てます。町の人は慣れてしまってるようだけど。 さて、この町には「何」がいるんでしょうね。
https://w.atwiki.jp/feif/pages/61.html
白夜シナリオ 6章 / 7章 / 8章 / 9章 / 10章 / 11章 / 12章 / 13章 / 14章 / 15章 / 16章 / 17章 / 18章 / 19章 20章 / 21章 / 22章 / 23章 / 24章 / 25章 / 26章 / 27章 / 終章 / 遭遇戦 白夜外伝 サイゾウ / タクミ / リョウマ / ツバキ / アサマ / ヒナタ / ツクヨミ / ニシキ シナリオ - 白夜王国・15章 人狼の峰 基本情報 ◆勝利条件:敵全滅 強制出撃キャラ:主人公 出撃数:12体 加入キャラ▼ 女性主人公はジョーカー(バトラー,Lv13)、男性はフェシリア(メイド,Lv13)…クリア後にマイキャッスルで加入 脱退キャラ:スズカゼ(主人公との支援レベルをAにすれば脱退回避) 入手アイテム▼ 守獣石、秘伝の書、はやての羽、精霊の粉、マスタープルフ×2、3000G(撃破時に入手) 竜脈:豪雨で、敵能力を減少。ターン回復 敵部隊 兵種 Lv 所持品 ドロップ品 備考 マーナガルム(フランネル) Lv6 超獣石 / 精霊の粉 精霊の粉 スキル:獣特効 マーナガルム×2体 Lv2 獣石 / マスタープルフ マスタープルフ マーナガルム Lv2 獣石 / 秘伝の書 秘伝の書 マーナガルム Lv2 獣石 / 3000G 3000G マーナガルム Lv2 獣石 / はやての羽 はやての羽 マーナガルム Lv2 獣石 マーナガルム Lv2 守獣石 守獣石 マーナガルム Lv2 守獣石 / 3000G 3000G ガルー×6体 Lv15 獣石 増援▼ ガルー×4 7ターン目に左側の砦から出現する。 ガルー×3 10ターン目に上部の砦から出現する。 備考 ガルー系のみなので、獣特効できれば非常に有効。14章でブノワがドロップするビーストキラーが役に立つ。 ただし、獣特効はフランネルも利用出来るのでこちらの兵種にも注意。 またカウンターでダメージをそのまま返されることもあるので要注意。 敵の攻撃は射程1ばかりなので、射程2から攻撃出来るユニットが居れば戦いやすくなる。 よって、風神弓で山の地形を無視して移動しつつ一方的に叩けるタクミが活躍する。 クリア後にスズカゼの永久離脱イベントが発生するが、主人公との支援レベルをAに上げておけば回避可能。 15章開始前に、遭遇戦を繰り返して防陣を行うなどして支援レベルを上げておこう。 クリア後にマイキャッスルでジョーカーもしくはフェリシアが加入する。
https://w.atwiki.jp/nekomimi-mirror/pages/773.html
RRRRRR... RRRRRR...... 『はいもしもし』 『やあ、僕だけど、元気?』 『まったく、どちら様が何様のつもりだ』 『なあに? まさか、わざわざ、僕と君の友情の間にイチイチ名乗りが必要だとでも?』 『電話をかけたらまず名乗る。ご両親には教わらなかったか?』 『ははっ、生憎と父に教わったのは帝王学くらいのもんでね』 『これだから貴族サマは!』 『ああでも、メアリには言われた気がするかも』 『誰だよそれ』 『乳母、かな。何度か話したこともあると思うな』 『乳母、ねえ。乳母。乳母! これだから貴族サマは! ていうか、教わってるだろ。ほら、ちゃんと名乗る名乗る!! 最初っからやり直すぞ。 はいもしもし』 『ああでもね、メアリが言うには、 “電話に出たらまずもしもし、その次に自分から名乗って、最後にどなたか尋ねなさい” だってさ』 『……………………』 * * * RRRRRR... RRRRRR...... 『……はいもしもし。ギュスターヴですが、どちら様ですかね?』 『やあ、もしもし。僕だよ、エルヴィン。元気?』 『ああお前か。元気かどうかわざわざ聞くほど、時間が経ってるわけでもなかろうに』 『ま、社交辞令だからね、大目に見てちょうだいな』 『いっつも思うんだがな、一応お前だって、貴族なんだろ。 庶民にほいほい電話なんざかけていいもんかね。貴族の風格、落ちるぞ』 『ただでさえ没落貴族の上に、家なんて継げない継がない放蕩五男坊だよ? 誰もそんなこと気にしないってば』 『そうかい、自称没落貴族サマ。 それにしても頻りに電話ばっかりかけてきやがって。お前、他に友達いないの?』 『友達いなくてさみしいのは君だろ、ギュスターヴ』 『じゃあそんなさみしいおれと今度呑みにでも行こうぜ』 『ああいいね待ってました! えー、えー、いつがいい? どこがいい? 他に誰か誘う?』 『いきなりテンションあがるとか気持ち悪い奴だな……』 (その後しばらく続く与太話の後、) 『ああ、ああ! 忘れてた! そういやギュスターヴ、君に用があったんだよ!!』 『はあ? 今更? 別に放っておいてもほいほい電話かけてくるくせに』 『お誕生日、おめでとう!!』 『おう、ありがとう。……まだだけどな』 『もうすぐだよね? 今年でいくつになったんだっけ?』 『歳なんか、そんな重要じゃないだろ、忘れちまったよ』 『だーめーだーよー! そういうのちゃんと覚えておかないと』 『九十代ではあるんだがなあ』 『というわけでギュスターヴ、君にプレゼントがあるんだ』 『げえっ』 『ははは、そんなに嬉しいかこの野郎』 『いい歳した男どうしなのにプレゼントとか、キモっ。キモっ!』 『えー、別にいいじゃん。 とにかくさ、プレゼント、届けに上がるからね、来週末、出かけないでくれよ』 『なにそれ。まさか、ウチくんの?』 『うん、運ぶのもけっこう手間だから、直接行くよ』 『いいって別に。そもそもプレゼントなんていらないし』 『じゃあ来週末だから。おとなしく雁首揃えて待っててね?』 「いやだから別に、……っておい! ちくしょう、切りやがったな、ちくしょうめ!!」 * * * 第一話 ハロー メイ・アイ・スピーク・トゥー・ゲイター、プリーズ? * * * その日、ネコの国の某地方都市は朝から、なんだか雲の陰った一日でありました。 けれども、雨が降りそうな模様では決してなく、ただ曇っているだけ。そんな空をしていました。 昼を過ぎても、空は光を落とさず、いつまでだって塞ぎ込んでいました。 どんより曇天の中を、馬車がことこと、軽快な音を立てて歩いていきます。 道行く人々が、ちらちらと振り返ったり振り返らなかったりして、目で追います。 それもそのはず、街中を歩く馬車は、まったく街中にそぐわない、華美で豪奢な装丁がなされているのですから。 つやめき白く光りを返す黒の車体、まぶしく映える緋色の幌、あしらわれた金細工、曳くは純白の獣。 ただでさえ地方都市、さらにその中心からも外れた市街には、有り余るほどの豪華がそこにありました。 ことこと、ことこと、車は進み、商店街を抜けた住宅地、とある一件の平屋の前で足を止めました。 御者が、すばやい身のこなしで馬車から降り、車体の扉を開きます。 降りたのは、ネコの男性。 ふわふわと柔らかく、しかし厚くないよう上品に揃えられた灰色の毛並に並ぶ、黒い縞模様。 顔つきも凛々しく長身痩躯、眉目秀麗と呼んでまるで差支えなく感じられます。 ダークグレーのスーツは、見るからに仕立てのよく、高級な品です。 左手に黒い傘を持ち、庶民であれば、格の違いというものをまざまざと見せつけられてしまうかもしれません。 男性は、見た目にそぐわず、ぴょいと音でもつきそうなほど軽く、飛び降りました。 御者がむっと彼を睨み、彼は舌を出してにやりと笑います。 先導せんとする御者を右手で軽く制し、単身、平屋へ向かいます。 こんこんとドアをノック、 「もしもし! エルヴィンだよ! ギュスターヴかい?」 大声で呼びかけます。 その大声ですら、曇りのないテノール、美しいものでありました。 「それは、電話での話だろうが……」 地を這うように迫りくるバスと共に出てきたのは、頭二つも三つも彼より大きな男。 深緑色のごつごつした鱗、長く伸びて開かれた大きな口、鋭く走る眼光、なんとも厳つい顔をしています。 背が高いだけでなく、横幅も広く、さらにそれは鋼のような筋肉であり、大男以外、なんと表せば良いのでしょう。 少し足が短く胴が長いようでもあり、非常に太く地を擦る尾を持つ、その人は――ワニ男でした。 「やあ、ギュスターヴ。いつ見てもでかいね!」 「しょっちゅうかかってくる電話のせいで全然そんな気はしないんだが、会うのは久々だな、エルヴィン」 「そうだね。何年だろう? 十年は経ってるはずかな?」 「雨、降りそうか?」 「え、なんで?」 「傘」 「傘?」 「雨だから持ってるんじゃないのか?」 「何言ってんの? 傘なんて差さないよ」 「雨が降った時に差すものが傘に決まってるだろ」 「雨が降ったら車に乗るに決まってるでしょ?」 「変な奴」 「え、僕が変なの? おかしいなあ」 くすり、手を添えて笑うネコ。 「懐かしいね! 見た目こそだいぶ老けたけど、所作やらなんやら、学生時代と変わりないんだから!」 「懐かしいとはいえ、あんまり来てほしくはなかったが……、まあ、上がってけよ」 ワニ男は扉を開けて、一歩身を引きます。けれども、ネコは優雅に首を傾げ、答えました。 「いいんだいいんだ、渡したら、すぐに帰っちゃうから」 「はあ? なにそれ? どういうこと?」 「僕から君へのバースデイ・プレゼントだ。 ……受け取って、くれるね?」 「いや、そんなこと言われても、ぶっちゃけいらんし」 「受け取ってくれ」 「いや、さあ」 「受け取る、ってただ言えばいいんだ」 「どうせ、どんなにおれがいらないって言っても、勝手に押しつけていくくせに」 「じゃあ、受け取ってくれる?」 「ああもうはいはい、受け取る、受け取ります、ありがたく頂戴させていただきますよ!」 それを聞いて、ネコはぱちりと指を鳴らしました。 くるりと振り返る顔は、喜色満面、目いっぱいの笑顔。 「良かった! じゃあ今度こそ、僕から君への、バースデイ・プレゼント、だ!!」 御者が馬車の扉を開けます。 開けられた扉をくぐり、“わたしは、”そっと地面へと降り立ちます。 二人の視線が、“わたしに”集められます。 ワニ男はもはや無表情にすら見える、「あがァ」の声と共に、あんぐりと口と開けた間抜け顔。 ネコ、”わたしの”現ご主人様は、満ち満ち溢れんばかりの笑顔。 ……けれどもその笑顔の目には、涙が浮かんでいるような気さえして。 静かに前へ、扉へと歩いていきます。 ご主人様の後ろにつくと、ご主人様はさっと後ろに回り、両肩に手を当て、ぐっと全面へ”わたしを”押し出します。 「はじめまして、旦那様。わたくし、アマネ、と申します。これから、よろしくお願いいたします」 「プレゼントだ、ギュスターヴ。 ヒトの娘だけど、うちで鍛えられた立派なメイドだ。大事にしてやってくれよ」 身にまとうのは、黒いエプロンドレス。メイド服。 深々と頭を下げ、精一杯愛想よく、にっこり微笑んで見せます。 思えば、ここから、“わたし”――アマネの物語がはじまったのです。 * * * 「あのねえ、ギュスターヴ。僕もう帰りたいんだけど」 「帰すか! 誰がお前単独で帰すか! 返したいのはこっちの方だ!」 「それねえ、ジョーク? おもしろくないってば。わかりづらいもん」 「ほんとまじで……、帰るならこいつも連れて、まとめて帰れええええっ……!!」 その後。 まず、すぐに正気に戻ったワニ、ギュスターヴ様が、ご主人様とわたしを家の中に押し込みました。 御者様が慌てて駆けつけますが、ご主人様の一言「ちょっと話つけてくるから待ってて」に引き下がらざるを得なくなり、 結局、ご主人様とギュスターヴ様とで、話し合いがはじまりました。 「だから、嫌だったんだよ! お前が寄越すものはいつだってろくでもねえんだ! いらんいらん、ヒトなんて絶対いらん!! ほんとまじでそっくりそのまま帰れ!!」 「なんだよ嘘つき。さっき“受け取る”なんて言ったのはどこのどいつだよ。 僕はこの耳で、君が言ったのを、ちゃあんと聞いてるんだからね。従ってもらうよ」 深くソファーに腰掛けゆったり優雅に足を組むご主人様。 浅くソファーに腰掛け足を広げて腕を組んだギュスターヴ様。 話し合いは「受け取れ」「受け取らない」の平行線をたどるばっかりで、収まる様子もありません。 「おれは貴族サマとは違う! メイドもヒトも必要ないの!」 「よく言うよ。 男の一人暮らし。とりあえず今日は、僕が来るからか、片付いてるようだが、普段はそうでもないんだろう? 知ってるよ。学生時代の君のアパート、それからそこの散らかりよう!」 「学生時代ィ? 何年前だと思ってんだ! おれだって一人暮らし長えし、家の管理ぐらいできるようになってるに決まってんだろ!」 「三つ子の魂百まで、とも言うんじゃなかった? ま、よしんば、掃除ができたとしても、料理、昔っから得意じゃあなかったよねえ。 ありあわせでものを作るのが苦手で、気が付けば毎日おんなじものばっかり食べてた、んだっけ?」 「そりゃあ、あの時のおれは貴族サマと違って貧乏学生だったからな、否が応でも自炊せにゃならんかったが、 今やこちとら一発当ててんだよ! メシくらいどこへなりとも食いに行けるわ!」 「せっかくダイニングのある家なんだから活用しようよ……。 というのはおいといてもね、さっき君、一人暮らし長いって言ったよね。 いい人の一人くらい、いないの?」 「あーあーあー悪かったなッ! どうせおれはお前と違ってモテねえよ!!」 ご主人はくすりと笑い、しなやかに、ギュスターヴ様の耳元へ。 そして、指の長い手を添え、そっと囁きます。 「溜 ま っ て る んじゃないのかい?」 ぴくりと動く首、顰められた顔。 「なんてったって、ヒト、だよ? しかも女、だ。 何してもいい、何だってできる、何でもしてくれる。 ……何だって、できるんだよ?」 「てめえッ!」 ギュスターヴ様がご主人様を睨みつけ、ご主人様は翻るように、くるりと立ち上がります。 「ごめん。ごめんね! そういや君は、昔っから、そういうの好きじゃなかったね!」 「なら、最初っから言うな!」 「だから、ごめんってば! ……でもね、ギュスターヴ。まだ、メイドもヒトもいらないって言える? 幸い、部屋なんて余ってるじゃない。一発当たった一人暮らし、お金だってあるんでしょう」 「……おれが、孤児とか拾ってて、部屋も目いっぱい使ってるかもしれないだろ」 「うわっ、ありそう! 君は昔っから、顔は怖くて身体はでかい、ごつくて厳めしい大男。 そのくせ、子供が好きな博愛主義者なんだもんね。行き倒れの子供とか、二人くらいは拾ってそう。 そしたらさ、その子、紹介してくれないかな」 「……すまん、さすがに拾ってない」 「ついでに、嘘なんて到底つけない正直者、そんなところも変わらないねえ」 勢いよくソファーに飛び込んで、背もたれに手を這わせるご主人様。 足に腕を置き、指を組むギュスターヴ様。 「それからね、たぶん、一番君が喜びそうなことなんだけど」 「微妙に嫌な予感しかしないんだが」 「ねえアマネ。君、落ちる前には、どこにいたんだっけか?」 突然話を振られて、少しだけ動揺します。 が、それは決して悟られぬよう、努めて平静に、わたしは答えます。 「ニッポン、という国におりました。 具体的には、ニッポン国の首都、トーキョーという都市にある、郊外の町です」 「ニ、ニッポン!?」 わたしの過去なんて、なんの意味があるというのでしょう? 甚だ疑問ではあったのですが、予想外に大きなリアクションがありました。 「そ。アマネはね、落ちモノの、立派な天然ヒトだ。すごいでしょう? 落ちてきたのを僕が直々に拾って、うちで教育したやつだから、目に見える傷はまったくないよ。そういう趣味はないからね。 だから、ね? 受け取ってよ」 「……な、何が“だから”だ。いらないものはいらない!!」 「もう、強情だなあ、ギュスターヴ。 ここまで押せば、さすがの君でも折れて、もらってくれると思ってたんだけど」 「友人相手に作戦まで立ててくるとはひっでえ奴。 だが、悪かったな、エルヴィン。そうそう負けてなんてやるもんかよ」 「親友だと思ってるからこそ、ばっちり計画に嵌めてやらないと、君には勝てないって知ってるんだよ」 きゅっと首を捻り、ご主人様の黄色い瞳がわたしの方へ。 「ほら、アマネ。こいつが君の新しい主人になるかならないかの瀬戸際なんだから、 そんな突っ立って、掃除すべき所を探してなんかいないで、自分を売り込みなさいな。 掃除すべきところなんてありすぎてありふれてて、逐一探し出したらキリもないよ」 「平然と人んち汚いって言うのやめてくれない? お前んちと比べたら、どこだってごみ捨て場だよ!」 「申し訳ございません、ご主人様。 ええと、旦那様。雑巾とゴミ袋をいただけませんか?」 「いやいやいやいや、デモンストレーションは確かに有用だよ、だけどね? 先にさ、一応言葉で説明しようよ!」 気を取り直して。 「わたくし、アマネは、ヒトでこそありますが、 炊事・洗濯に始まる家事労働、掃除・買い出しまでの家政はもちろん、 保育や介護に至る養護、書類や帳簿などの庶務、ありとあらゆる方面でご主人様をお支えする、“ 一 流 の ”メイドでございます。 ご主人様の友人にも恋人にも家族にも、敵にも悪魔にもなれませんが、 ただ、ご主人様の味方にはなれる、“一流の”ヒトメイドでございます。 どうか、わたしを旦那様のメイドにしてくださいませ」 「まあはじめてにしては良いセールストークなんじゃない? でもさ、まだもうちょっと、できることあるよね?」 「もちろん、わたしは弱いヒトで、さらに脆弱なメスでありますから、お望みとあらば、ご主人様の情欲や暴力衝動を満たすことも、」 ギュスターヴ様の指がぽきりと音を立て、鬼のような形相でご主人様を睨みつけました。 ご主人様は慌てて、わたしに向き直ります。 「違う違う、違うって。いやまあ間違ってはいないけどもね、ほら、ギュスターヴの目が怖いから。あんまりそういうこと言わないで。 それよりもほら、ニッポン、ニッポンだよ」 「ニッポン? ええと、わたしは、確かに、落ちて、まいりましたから……。 そう、あちら側の世界の話も、できると思います。 それから……、ニホン語の読み書きと、わずかばかり、英語の読み書きと、こちらの国の言葉も、少しならば」 「それ! そうだよそれそれ!」 ご主人様がほっと胸を撫で下ろし、ギュスターヴ様は、――わたしをじっと見つめていらっしゃいました。 とび色をした目、黒い瞳が鋭く、縦長に走っております。爬虫類の、鋭い目でした。 わたしは微笑み返してみせました。 「ね? どう? 欲しくなってこない?」 「来――――ない」 「口ではなんと言っても身体は正直なったりしてこない?」 「こない!!」 「ぐぬぬぬぬぬ、手強いぞー」 口ではそう言っても、どことなく楽しそうなご主人様。 あまり、言いたくはなかったのですが、無難な結論を提唱してみることにします。 「あの、すみません」 「なあに、どうした?」 「ご主人様はわたしを手放したくて、旦那様はわたしが不要であるのであれば、 わたしを、別のところに売ってしまえばよいのではないでしょうか」 「うんうんうん」 「残念ながらメスですから、多少値は落ちてしまいますが、それでも、悪い額にはならないと思います。 もし、売るのに抵抗があるのでしたら……」 二人とも、私をじっと見つめていらっしゃいました。 ご主人様は、弧を描く口を貼り付けたように浮かべて。 ギュスターヴ様は、眉間にしわを寄せて、険しい顔で。 「わたし、一人で、……出て、いきますわ。 ご主人様にも、旦那様にも、ご迷惑になりませんように……。 わたしのせいで、お二人に、軋轢が、生まれてしまうのは、申し訳、ありません、ので」 わたしのつたない言葉を遮ることもなく、二人はそのまま座っていました。 少しばかり、静寂が満ちます。 「だって、さ」 「…………」 「出てっちゃうんだって」 「……だな」 「どう思う? 博愛主義のギュスターヴ君?」 「……どうも、こうも」 「僕たちのため、だそうだよ?」 「…………」 ギュスターヴ様は額に手を当て、ふうっと、ため息をつきました。 「…………」 「頑固だなあ、もう。 ここまできちゃったらしかたない、しかたない、ね。 ねえ、アマネ。ちょっと二人だけで話したいんだけど、いいよね」 「もちろん。それでは、外でお待ちしておりますので、終わりましたらお呼びください」 「いや、おれたちが出てけばいいだろ。……行こうぜ」 ギュスターヴ様が立ち上がろうとしました。 まさか、お二人に移動していただくわけにもまいりません。 「いえ、かまいませんわ。どうぞ、そのまま」 それよりも先に、わたしは部屋から出ます。 扉に手を当て、 「それでは、失礼いたします」 ぱたり、静かに閉めました。 * * * 「――、――――――――」 「――――、――――。――――――――」 扉の向こう側では、お二人が何やら、話し合っていらっしゃいます。 そもそも、わたしを伴って話し合う必要は、なかったように思います。 なにしろ、わたしはヒトなのですから。 ご主人様が誰に譲ろうとどうしようと、わたしに知らせる必要は、ないのです。 「――――、――――――」 「――、――お前!!」 語勢が荒くなりました。 ギュスターヴ様の大声が、少しだけ聞こえます。 「――――――、――――――――、――――」 「……ろよ! なん…………こと!!」 その後に続いた叫びともいえる声は、到底、信じられないものでした。 「わかった! わかった……! もら……やる……!」 「だから、頭を上げろぉぉぉ……っ!!」 * * * それから。 “元”ご主人様――エルヴィン様は、零れ落ちてしまいそうなほどの笑顔と「よろしくね、ギュスターヴ。元気でね、アマネ」との言葉を置いて、 また、あのきらびやかな馬車に揺られて、人々の視線を浴びながら、帰っていきました。 この家に残されたのは、わたしと、少しばかりの荷物(服とか日用品の類を少々)が詰まったトランクケース。 それと、家主であるギュスターヴ様――わたしの、新しいご主人様。 「わたくし、アマネを雇っていただき、本当にありがとうございます。ご主人様。 か弱いヒトのわずかな力ではありますが、これから、精一杯ご主人様をお支えいたします」 「ご主人様、ねえ」 顔を一層怖くして、ご主人様がつぶやきました。 ……ずっと思っていたのですが、ご主人様は、表情が読み取りづらい上に、鋭い牙を見せつけるように口を開けているので、 どうしても、顔が怖く思えてしまいます。 「やめねえか、そういうの。普通に名前で呼んでくれていいからよ」 「そういう訳にも参りませんわ。主人の名前を呼ぶメイドなんて、どこにいるというのでしょう?」 「これからここにいればいい。 おれには“ギュスターヴ”っつう、親にもらった立派な名前があるんだよ。 おれは名前を誇りに思ってるし、そんな立派な名前で呼ばねえのは、失礼にあたると思わねえのか」 「そもそも、ご主人様とわたしは、遥かそびえる身分の壁に阻まれているのです。 ご主人様がそのお名前を誇りに思っているからこそ、下賤なわたしが口に出すほうが、無礼なことなのです」 「あー、まったく口が減らねえな、“元”ご主人サマにそっくりだ!」 ご主人様は声が低くて、大きな声を上げると、振動がびりびりと直に伝わるようであります。 それもまた、印象の険しさに直結してしまうのだと思えました。 「いいか、よく聞け。“メイレイ”だ――、おれのことは名前で、ギュスターヴ、と呼べ。いいな!」 「“できません”」 「あがァ」という間抜けな声、そして、いっそう大きく口が開かれました。 ご主人様の目もまんまるとなります。 「ご主人様。わたしはヒトでこそありますが、ご主人様の命令ならなんでもきく奴隷ではございません。 わたしは、“メイド”です。ご主人様をお支えする、“ 一 流 の ヒトメイド”なのでございます。 この身はすべてご主人様のために、この力はすべてご主人様のために、 立派なご主人様であっていただくために、ご奉仕させていただくのです。 ご主人様の命令は、大概ならば聞きましょう。ご主人様のためとあらば、身を粉にしてまでも、果たしましょう。 けれども、それがご主人様のためとならないのであれば、従うことはできません。 ご主人様のためとあれば、ご主人様に反目すらいたします。そうしてこそ、一流のメイドたりえますもの。 そのことで、ご主人様の不興を買うやもしれません。 ですが、そこを曲げてしまっては、ただの奴隷となんら変わりないではありませんか、ご主人様?」 くつくつ。喉の奥から笑い声が響いてきます。 わたしのものでなく、低い声のそれは、まぎれもなくご主人様のものでした。 「そうか。そうか! いいな、こりゃあいい! なんだ、お前――アマネだったな、アマネ、お前、一流のメイドなのか!」 「その通りです、ご主人様。 ……もし、お気に召さないようでしたら、今からでも、追い出してくださいませ」 「いや、いや、追い出す気なんか毛頭ない、なくなった! むしろ、もっと早くそう言ってくれれば良かったんだ。そうしたら、あいつにあんなことさせずに済んだのに」 いや、忘れてくれ、と一言足して。 「だがな、アマネ。それとこれとは話は別だろ? もちろんこれとは“おれの呼び方”。 ご主人様だけはほんと勘弁してくれ。 そりゃああいつは、雲の上の貴族サマだから、名前を呼ぶのも失礼だろうさ。 だがな、おれはそんじょそこらの庶民サマだ。名前を呼ぶのすら失礼にあたるほどいい身分じゃあないぜ」 「ですが、ご主人様――」 「これだけはほんと譲らないぞ、まじで。 そもそもおれなんてご主人様っちゅう器でも柄でもねえしよ。 それに、あいつもご主人様って呼んでたろ? それだと、おれがあいつと比べられてるようで、居心地が悪ィんだ。 誰だって、あいつと比べられたら見劣りしちまうだろ? な、頼むよ、名前で呼んでくれ。これは、命令でもなんでもなくて、ただのお願い、だ」 そう言って、右手で手刀を切り、左目でぱちりとウインク。愛嬌のつもりかもしれませんが、その外見にはあまりにも相応しくない振る舞いです。 ……けれども、その時のわたしは、それがどうしてもおかしくてたまらなくなってしまったのです。 「仕方ありませんね。かしこまりました、ギュスターヴ様」 「おっと、そうだな、サマなんてのもやめてくれよ。ばかにされてるみてえだから。 ……やめてくれるまで、お前を部屋に案内してやらないぜ。ここでずっと、議論でもなんでもしてやるからな。 自慢にもならないが、おれは徹夜、得意なんだ。何時間だって放さないぞ」 「さ、さすがにそこまではできかねます!」 「お、やるか? 単純な我慢比べで、ヒトの女になんか、負ける気がしねえなあ」 あれだけ怖かった顔なのに、にやにやしながら喋る様子――まるで、エルヴィン様と話すときのような――は、 なんだか、妙に身近に、親しみやすく感じるようでありました。 言葉だって乱暴で、顔だって、怖いままなのに。 「それは、困ります。 中に入れて頂かないと、お掃除も食事の支度だって、なんにもできませんもの。……ギュスターヴさ、ん」 サムズアップとにっこり笑顔。 「オーケイ。じゃあとりあえず、案内しようか、おれの城」 トランクケースを持ち上げようとしたのを丁重にお断りして(不服げではありましたが、今度こそわたしの勝ちです)、 ギュスターヴさんの城、……これからわたしが住むことになる、4LDK庭付き平屋一戸建ての奥へ、足を踏み入れました。 * * * リビングダイニング以外の四つの部屋はそれぞれ、書斎、寝室、トレーニングルーム、物置、となっています。 書斎は壁一面が本棚で埋まっており、圧巻でありました。万が一本棚が倒れでもしたら、大惨事を招きそうです。 本棚は、一部の開いているスペースを除き、ほぼ満員で、内容も小説やら学術書やら、どうやら、本に関しては雑食のようです。 机も椅子も、大柄なギュスターヴさんでもゆったり使えるような、大きなものです。 寝室は私室も兼ねているらしく、大きなダブルベッド(「別に下心だけじゃないぞ。尻尾が落ちると重いから、落ちねえように、だ」)の他、 マガジンラックが置いてあったり、ダンベルが落ちていたり、はたまた、弦のついた楽器まで。 あまりじろじろ見るのも失礼だと思い、しっかりとは確認したわけではありませんが。 そしてトレーニングルーム、とは言っても、大掛かりな機材があるわけじゃあなく、ちょっとしたエキスパンダーやらなんやら、 それから、マットが引いてあるくらいのものです。 「運動不足になりがちだからな、太るのも嫌だし」 「健康のためなら、ジョギングとか有酸素運動のほうがよろしいのでは?」 「下手に走ると死ぬからね、体温上がりすぎで」 「変温、なんですね」 「当たり前だろ? ワニは爬虫類だ」 わたしにあてがわれたのは、物置でした。 物置といえども、目立つのはすぐには読まないらしい本くらい。 ガラクタやら保存食やらの類もあることにはありますが、そのままでもわたしが寝る程度のスペースはありそうです。 「悪いな、散らかってて。初仕事はどうやらお前の部屋作りのようだ」 「ヒトなんて所詮、立って半畳寝て一畳。足を延ばして寝る空間さえあれば、どんな場所でも大丈夫です」 「ベッドもなくて申し訳ないが……、ほら、昔使ってた布団があるから、ペラくてショボいが、当面はこれで我慢してくれ」 「ありがとうございます。当面と言わずとも、これで十分です」 「よし、まずとっとと片付けちまおうぜ」 「いえ、それには及びません。大丈夫ですから」 「何を言う。寝場所の確保は大事だろ」 「わたしの部屋なんか後回しでかまいません。それよりも、それよりももっと気になるところが……!」 その家の中を一言で表現するなれば、まあ、一人暮らしの男性の家と聞いて想像するところそのまんま、ではないでしょうか。 全体的に埃っぽくて、物が散乱、もしくは積み重ねられている状態。脱いだ服だってそのまま落ちています。 足の踏み場があるのが救いといいますか、むしろ、足の踏み場以外はひどい有様といえます。 エルヴィン様が通されたリビングだって、一見片付いてはいましたが、散らかったものを奥に押し込めて隠していただけのようです。 唯一整理整頓がなされているといえそうだったのは、書斎くらいのものでした。 ……ただしデスクを除きます。なぜだか机の上だけは、本やら紙やらが暴力的に積まれていました。 だのにキッチンばかりは、水あかもなければ生ごみが臭うこともなく、埃以外は、概ねきれいな様子です。 最後に掃除をしたのはいつかと尋ねれば、 「あー……、いつだろうなあ……」 と気が遠くなるようなお返事。少なくとも、とてもやりがいのある仕事ではありそうでした。 それは、今すぐにでも取り掛からないといつまでたっても片付かないような、脅迫でもありました。 * * * 「おれは鱗だからシャンプーなんてものこの家にはないがしかし、いくらなんでもアマネ、お前には必要だろ。 必要そうなもの買ってくるから、とりあえずなんか考えて教えてくれ」 仕えるべき主人を使いに出せるわけがありません、なんて抗議をしてみれば、 「おれはただでさえ近所付き合いの悪い変人で通ってるんだよ! ヒトを囲ってるなんてバレてみろ、既に残念な評判が地の果てまて落っこちるだろうが! そこまで他人の目なんて気にしねえが、それにも限度ってもんがある。 悪いが、しばらくの間は外には出ないでくれな。洗濯もんを干すものおれがやる」 とのこと。 もちろんお願いとしても申し上げてみるのですが、同じく「ダメだ」の一点張り。 結局、根負けしてしまうのはこちらで、ギュスターヴさんにはお使いに行っていただくこととなりました。 その間にわたしはお台所の水回りを掃除し(多少の油染みを落とす以外は水拭きと食器洗いくらい)、 ちょうどそれが終わるころに、ギュスターヴさんがお戻りです。 「おかえりなさいませ」 「……おう、ただい、ま」 なんだかこそばゆそうに靴を脱ぐギュスターヴさん。 「今から夕食の用意をいたしますね」 「ん、ああ。じゃあ頼むわ。書斎にいるからできたら呼んでくれな」 「かしこまりました」 * * * わたしは、料理が得意ではないと思っています。 それでも、料理をすること自体は好きなのかもしれません。 食材を切るのも味をつけるのも、煮たり茹でたり炒めたり揚げたり、作っている間は、何も他のことを考えていないからです。 料理をしているときは、それに夢中なのでしょう。 夢中になれることは、好きなこと、ではないでしょうか。 少しだけ魔洸調理器具の扱いに手間取り、時間がかかってしまったのですが、なんとか今日の夕食が出来上がりました。 鶏の唐揚げと野菜たっぷりのスープ、半熟卵のサラダ、アスパラガスのベーコン巻、です。 ……黒いパンには合わないかもしれない、と気づいたのは、唐揚げがすっかりきつね色に揚がった頃でした。 一番問題だったことといえば、ギュスターヴさんがどれだけ召し上がるかわからない、ということです。 そもそも男性でありますし、さらにはあれだけの巨体ですから、それはたくさん召し上がるでしょう。 けれど、“たくさん”とは、具体的にはどれくらいなのか、わたしにはわかりませんでした。 とりあえず、いざとなればわたしが食べれば良いですし、足りないよりかは余る方が良いと思い、 大きな平たいお皿に山積みできるくらいには作りました。が、いくらなんでも多すぎるだろうと苦笑がこみあげるものです。 テーブル上で唐揚げが山になっている姿は、いっそ滑稽でもありますが、子供の頃の夢が叶った気分にすらなれるようでした。 けれども、ギュスターヴさんの反応は、わたしの想像とははるかに異なるものでした。 「ん? お前の分は?」 テーブルにあるのは、標高30cmの唐揚げ山、白いボウルに映える緑のサラダとスープカップ、小皿のアスパラ、あとスライスした黒いパンが、一人分。 すべて、ギュスターヴさんのための料理です。 「わたしは後でいただきます」 「はァ?」 頬が強張って、ぴくぴくと震えています。鋭い歯がちらちら伺えます。眉間には固く寄せられた皺。 「当然です。メイドは、主人とは別に食事をとるものです」 「いい加減に――――」 振りかぶられた腕――。 ぶたれる、そうわかっても、動けないわたしがいます。 揃えられた指――。 かろうじて、首が縮こまり――、 ……指が、揃ってる? へんなの。 「しろッッ!!」 「いたっ」 こつん、と頭に当たる程度のチョップ。 肌がびりびりするかと思うほどの怒声に伴うものとは、到底考えられない、優しいものでした。 「やれ名前を呼ぶのは失礼だ、やれ一緒にメシを食うのは失礼だ、いい加減にしろ!! メイドだって言い張るのはそういう意味か! おれの期待を返せ!!」 ええ、確かに、体罰だとはとてもじゃなく呼べないチョップではありましたが……。 わたしの髪はちょうど、頭の正中に分け目がありまして、その分け目にぴったり沿う形でチョップをいただいたのです。 「同じ家にいるのに一人メシとかまじ冗談じゃねえっての! どんだけさびしい奴だおれはよお! なんだなんだ、そんなにおれとメシ食いたくねえってか! そりゃあおれは醜男だよ!! でも一緒にメシくらい食ってくれたっていいじゃねえか! 懇談しろとは言わな、言わな……、……喋りつづけろとは言わないから!」 さらには、いくら優しくとも、そもそもギュスターヴさんは体格の良いこの世界の男性であり、その中でも相当筋肉質です。 手は鱗でごつごつ、腕だって常に筋肉が盛り上がって見えているのです。 「あーあーあーあー、うまそうないい匂いはするしニッポン生まれのヒトだっていうし、割と楽しみだったのに、お前という奴は、 …………ん? あれ、おい、えっと、もしかして――」 痛かった? ……痛かったです。 「こんなもんで痛いのか。さすが噂通りの弱々しさ、なのか?」 「せめて、髪があるところだったら、もっとずっと大丈夫だったのですが、 ちょうど分け目に当たってしまい、皮膚に直接だったので、痛かったです」 「なるほど、分け目チョップが有効……。あ、いや、謝るさ、すまんな。 でも、何も酷いことしようとしてるわけじゃないんだぞ。一緒にメシくらい食おうぜ、な?」 「……うまい反論が、もう、思いつきませんし、痛くて。 きっと、何を言っても、押し返されてしまうのでしょうね」 「……そんなに痛むか?」 「すぐ、慣れますから……」 「じゃあほら、メシだメシだ。あー腹減ったー!」 「その、ギュスターヴさん」 とび色をした目は、もう怒気で歪んでいません。 「申し訳ございません」 「謝るくらいなら最初っからこうしておこうぜ」 「そうですね。……申し訳ありませんでした」 一人暮らしだというのに四人掛けの食卓、どこに座ればいいのかわからなくて、逡巡します。 それを見て、というわけではないかしれませんが、顎でしゃくられたのは、ギュスターヴさんの正面の席。 失礼します、と椅子に座って。 「よし、それじゃあ、いただきます」 「あ、はい、……お口に合うかはわかりませんが」 * * * 食事風景は、まさしく圧巻のひとことだと思われました。 フォークでぐさり一突きされた唐揚げが、ほいほいと口の中に吸い込まれるように消えていきます。 確かに口が大きいから、当たり前ではあるのですが、何個も何個も一度に口の中へ入っていく様は、ある種恐怖すら覚えます。 フォークから引き抜く際、首を使わずに身体全体を動かして引き抜くので、非常にアクティブです。 そういえば、あっちの世界のワニは噛む力がすごく強い、なんて知識を思い出しました。 ざくざく野菜を刺して、そのフォークすらも食べてしまうかのように、大口の中へ。 パンだって、背を反らして噛み千切り、ダイナミックな食べっぷりでした。 「うまっ、……なにこれうまいっ!」 「やばい、人間とっさの出来事に対しては語彙がやばくなる、やばい、うまーい!」 「肉柔らか、柔らかっ、うめー!」 「九十余年の人生でこんなうまいからあげを食べたことなんぞない。うまうま」 むさぼりながら、口々に絶賛されてしまいました。 「アマネ、お前、料理上手だったんだな」 「ありがとうございます。けれど、そんなことありませんよ。むしろ苦手だと思っています」 「お前が料理下手の部類に入るなら、この世の人間はほとんどがド下手だぞ。 普通に店で金出して食べても十二分に満足できるレベルだと思うが」 「それは、言い過ぎです」 「むしろこんな陳腐な言葉でしか表現できない自分が憎くてたまらない」 「……ありがとうございます」 物を食べながらでも、ギュスターヴさんはべらべら喋ります。 その時、口元を左手で隠すのが、妙に似合いませんでした。 「……そんな風に、褒められるのは、……初めてです」 「はあ? おれ以外は誰もいないの? ありえん」 「大概は無反応で、却って貶す方もいましたので」 「まじで? 見る目が、いや、味わう舌がないやつらばっかりだな!」 「言いにくいのですが、ギュスターヴさんの味覚のほうがズレているのかもしれません」 「ない、それはない。アマネの料理は絶対うまいってまじで」 「……ありがとうございます」 「……明日からも、頼むな」 「もちろん。わたしは一流のヒトメイドですので」 「はいはい期待してるぜ、メイドさん」 ここまで熱心にではないけれど、昔は、褒めてくれる人もいたんですよ、とは言えませんでした。 でもその人たちも、だんだん、だんだん何も言わなく、言ってくれなくなるんですよ。 ですから、きっとそのうち、ギュスターヴさんもそうなると思いますし、それでいいとも思っています、だなんて。 「よし、ごちそうさま」 「お粗末様でした。……え?」 「いやあ、うまかったー。大満足」 「え? 全部食べちゃいました?」 「ああ。もしかして、足りなかったか?」 「いえ、いえ、別にそういうわけではなくて」 「ならいいが。んあー、腹いっぱい」 「そうですよね! すごく気に入っていただけたようですから、食べ過ぎただけですよね」 「いや、いつもこれぐらいは食ってるかなあ」 「……ああ、とてもたくさん、召し上がるんですね」 「むしろアマネ、お前こそ、全然食べてないんじゃないか? もっと食え、もっともっと」 「ヒトが食べる適切な量ですっ」 * * * 食事が終わって、後片付けが終わって、 「おいアマネ、お前が次に言うことを当ててやろうか。 まあ次とは限らなくて、最終的に今日中には確実に言うこと、なんだがな。 ずばり、『それでは、わたしは部屋に戻りますので、何かございましたらどうぞお呼びください』だ。 “おれを名前で呼ぶのが失礼”で、“おれとメシ食うのが失礼”なら、“用もなくおれといるのだって失礼”なんだろ、どうせ。 そんなもんくだらねえとは思うがな、結局なんだかんだでお前はここに、 この家に暮らさなきゃいけなくなった以上、好きにふるまっていいっていうのにだ。 掃除に疲れたら居間でごろごろしようともかまわないのに、掃除に飽きたらテレビを見て休憩してもかまわないのに、 掃除にくたびれたらおれの本だって勝手に読んでもかまわないのに、 アマネ、お前は物置みたいな、実際物置だったが、そんなろくでもない場所にひきこもるんだろ、な、そうだろ」 ギュスターヴさんが因縁をつけてきました。 怒り顔と、呆れ顔と、それからどや顔がまざったような、よくわからないような表情を浮かべています。 けれども、その顔もしかめっ面にはかわりなく、最終的には怖い顔、ということに落ち着くのです。 「それが、メイドというものです。陰からご主人様をお支えするのがメイドの役割です」 「目いっぱい異論があるんだが、いちいちそんなことで文句つけたら切りがない。さらにはおれがヤな奴みたいだからな、もう何も言うまい」 引き下がるギュスターヴさん。 けれどもその目は爛々と光っていて、口元は弓のように歪んで、ついでに開いています。 「……ええ、それでは、失礼いたします」 「待て、そうは問屋が卸すまい。お前に、もうひとつ仕事を頼みたい」 「ならば、先にシャワーを浴びた方がよろしいで――」 「分 け 目 チ ョ ッ プ !」 痛いです。 「くだらねえことほざいてんじゃねえよ!!」 「申し訳ありません……」 「まあいい、とにかくちょっと、ついてこい」 向かう先は、ギュスターヴさんの書斎でした。 「書斎、ですか。何か片付けとか――」 「ちょっと待ってろ」 本棚の端の方、ギュスターヴさんが本を調べています。 「ニッポンだろ、ニッポン」 目的のものが見つかったのやら、ギュスターヴさんがくるりと振り返り、手にした本を開き、わたしの眼前へとつきつけました。 「読める、な?」 「ちょ、ちょっと、近いです」 本を受け取ります。少し小さめで、あまり見ない大きさをした薄めの本です。 開かれたページには、縦書きの文章。 「よいち、かぶらをとってつがい、よっぴいてひょうどはなつ。こひょうと――?」 いふぢやう、十二束三伏、弓は強し、浦響くほど長鳴りして、あやまたず扇の要ぎは一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射きつたる――? 添えられた挿絵。海の中、弓矢を構えた鎧の男。見据えるは沖の舟、女が高く掲げる一枚の扇――。 「…………平家物語!?」 ページを捲りました。 次に現れたのは、女性を負ぶった烏帽子の男、その挿絵。 「――白玉か、何ぞと人の、問いしとき」 ――露と答へて消えなましものを。 「伊勢物語……」 ページを捲ります。 「今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、宵の――」 つれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり――。 「児の、そら寝」 本を閉じます。 独特のコーティングがなされた、つやのある手触り。表紙は大きく開くために折り目がつけられています。 見たことのある、見慣れた、もう見たくないとも思えた、タイトルは――。 「……新・古典、一」 それは、古典の教科書でした。 「読めるな、読めるんだな!」 ギュスターヴさんが真剣な面持ちで、わたしの肩を掴みました。 けれどわたしの視線はギュスターヴさんの向こう側――本棚の一角へ。 教科書が収まっていた分だけスペースの空いた本棚に並ぶ、本、本、本……。 文庫本、新書サイズ、ハードカバーまで、まったく装丁には共通項の存在しない本が並んでいます。 「お前に頼みたいもうひとつの仕事――、それは本来のメイド業務からは大きく外れるものであるだろう」 共通項の存在しない? いいえ、一見ばらばらの本にも、一か所に集められる理由は確かにあるのです。 そしてそれは――、一目見て、わかる類のものなのです。 「だがな、アマネ、それはおれでなくあいつでもなく、お前のような、落ちてきたヒトでないとできないことなんだ」 共通点は、背表紙の文字。その棚の本は、すべて“かなと漢字”で書名と作者が記されています。 その上の棚には、ラテン文字の――アルファベットの本が。 また別の棚にはハングル、中文、他にも様々な“あちら側”の文字が! 「仕事内容は単純に、“おれの仕事の手伝い”。それではその“おれの仕事”だが――」 さらに別の棚から、また本を取り出して、ギュスターヴさんが近づいてきます。 「この通り、だ」 手にした一冊の本、それはもはや見慣れたこちら側の文字が書かれています。 著者名は、“ギュスターヴ”と。 「……エルヴィン様から伺っておりました」 あのね、ギュスターヴは、小説家なんだよ。人好きのする笑顔が脳裏に蘇りました。 ギュスターヴさんが舌打ちをします。 「くそっ、嫌味なやつめ。 ……確かに、おれは小説“も”書く。“副業”小説家、だ」 手にしていた本の裏から、もう一冊、本が現れました。もともと、二冊を重ねて持っていたようです。 それも、こちら側の言葉で書いてあるものでした。 先ほどとは違うのは、著者。わたしは、記された名前に心当たりはありません。けれど――。 「本業は――」 著者名の隣にあるのは、またもや“ギュスターヴ”。その肩書きは――。 「 翻 訳 」 訳 者 。 「おれは、落ちモノ文学の翻訳家だ。 落ちてきた書籍に魅入られて、そのため大学へ入り、それの研究をし、そして今、訳している。 おれはプロだ。こちらでは有数の翻訳家だと自負している。 だがしかし、それはあくまで“こちらでは”の話であって、まだまだ力及ばぬところも多い。 おれは向こうの物語が好きだ。こっちでも、その魅力を存分に伝えたいと思ってる。 そのために、お前の力が必要なんだ。メイドのやることではないかもしれない。 だけど……、頼む。おれに、協力して、ほしい」 とび色の虹彩、縦に割れた瞳孔が、深く、わたしを貫いて。 何か言葉を、何か行動を、しようと思えば、言葉が音になる前に、行動が動作になる前に、強い視線に射抜かれ、墜ちていって。 時間が、まるで、止まってしまったかのように、呆けて、わたしは、ただただ、ぼうっと見つめるしかできなくて。 部屋いっぱいに満ち満ちたいろんな背表紙が、わたしたちを見下ろしていました。 Bu...u...u...u...
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/21070.html
登録日:2012/06/02(土) 23 00 03 更新日:2024/08/18 Sun 16 09 09 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 アズサ クロケア ショウロ ニシキ パソコン ボックス ポケットモンスター ポケモン ポケモンボックス ポケモン登場人物項目 マサキ マユミ マーレイン ミズキ ユカリ 管理人 預かりシステム 【概要】 『ポケットモンスターシリーズ』でお馴染みの機能「ポケモン預かりシステム」。 主にポケモンセンターにあるパソコンから利用できる。 ゲーム中では主人公が勝手に接続するので意識が薄いが、これらは特定の人物の運営のもと成り立っているシステムである。 ジョウト地方以外のそれぞれの地方に最低一人はいる。 預かりシステムはゲーム開始当初は誰かのパソコンという表記で、彼らに会う事でマサキのパソコンといった管理人の名前の表記になる。 但し、ソード・シールドのガラル地方は『ロトミ』が管理しており、スカーレット・バイオレットのパルデア地方ではパソコンがなくなり『ポケモンボックス』が主流になった為、ソード・シールド以降は人間の管理人が存在していない。 また、マユミやミズキの公式の絵はポケモンカードのイラスト(杉森建氏によるもの)で初公開となった。 ポケスペでの彼女らはこれに準拠した容姿。 ポケモンカードゲームでは預かりシステムのイメージからか、どれもデッキからドローやサーチをするカードである。 【歴代の管理人】 ◆カントー地方 マサキ 名前の由来は『柾』。 原点。初代から登場。 転送・預かりシステムの開発者であり、カントー地方及びジョウト地方での管理人でもある。 金・銀・クリスタルではタイムカプセルも作成した。 名字は「ソネザキ」で、1996年時点から既に確認出来る設定。 自分自身は岬の小屋、父親と祖父はセキチクシティ、母親と妹はコガネシティの実家に住んでいる。 実家があるコガネシティのフラワーショップの店長に惚れているとか。 ポケモン評論家(アナリスト)で、オーキド博士のセンスを否定したり、ポケベルにミュウ情報が入ってきた時は講義を中断して飛んでいった。 ポケモンカード 〇マサキ 自分の山札からカードを2枚引く。 〇マサキの転送装置 コインを1回投げ、「おもて」なら、自分の山札からカードを4枚引く。 〇マサキのパソコン(キャンペーン用カード) このカードは、「オムナイト」「ゴースト」「ゴーリキー」「ゴローン」「ユンゲラー」のうちの1枚のカードを、 それぞれに対応した進化カードに交換するのに必要となる。 ニシキ 名前の由来は『錦木』。 リメイクから登場。 ナナシマでの管理人。眼鏡をかけている。 マサキの友人だが、研究開発の手腕はまだ成長途中で、大元のシステム開発者であるマサキのことを尊敬している様子。 本人によるとポケモンバトルは苦手とのこと。 イラストやドット絵だと性別が分かりにくいが、一人称が「オレ」であるため男性である。 1の島のポケモンネットワークセンターにおり、ネットワークマシンを開発している。 カントーとナナシマは距離があるため、主人公が2の島のゲームコーナーにいるおじさんに話しかけ、3の島に着くまではナナシマでボックスは使えない。 主人公にトライパスやレインボーパスを授けたり、ネットワークマシン完成の為に必要な「ルビー」と「サファイア」を持ってくるよう頼んだり、持ちつ持たれつの関係。 ネットワークマシン完成時の発言から、後述のマユミとも知り合いらしい。 ポケモンカード 〇ニシキのネットワーク 自分の山札から、ポケモン(ポケモンexはのぞく)を1枚選び出し、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、その山札を切る。 ◆ホウエン地方 マユミ 名前の由来は『檀』。 ルビー・サファイアから登場。 114番道路に家を構える女性。ホウエン地方での管理人。 眼鏡をかけた赤毛の女性。 最初はハジツゲタウンでパソコンをいじっており、その後彼女の家を訪ねるとドールが貰える。 RS以降のボックスの見やすさは彼女の手によるものであり、 彼女のパソコンを見るとマサキからマユミへ賞賛のメールが届いている。 ポケモンカード 〇マユミのネットサーチ 自分の山札から、3タイプまでのたねポケモンを、それぞれ1枚ずつ選び出し、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、その山札を切る。 アズサ 名前の由来は『梓』。 『ポケモンボックス ルビー&サファイア』から登場。 マユミの姉。 容姿はポケモンボックス内で登場している通り、マユミと似た髪色でショートヘア。 1500匹のポケモンを収納出来るポケモンボックスを管理している。 ポケモンを預けていくと、みねうちチルットやなみのりピチューといった特別な技を覚えたポケモンのタマゴをプレゼントしてくれる。 後に『ポケモンバンク』において新デザインで再登場。 リメイクのフラグでは、と言われていた。 そして実際に『オメガルビー・アルファサファイア』が発表された。 ◆シンオウ地方 ミズキ 名前の由来は『水木』。 DPtから登場。 ヨスガシティにてシンオウでの管理人をしている。 金髪でポニーテールの軽装の女性。 マサキの友人で、関西弁(コガネ弁)である。 マサキから貰ったイーブイを主人公にくれる。 ポケモンカード 〇ミズキの検索 自分の手札を1枚、山札にもどす。 自分の山札のポケモンを1枚、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。 (自分の手札がこのカード1枚だけなら、このカードは使えない) ユカリ 名前の由来は海藻の『紫』もしくは『ユーカリ』。 『みんなのポケモン牧場』から登場。 ミズキの友人。ポケモン牧場のオーナー。 厳密にはボックスの管理人では無いが、牧場は第四世代における『ポケモンボックス』と言えるので記述。 茶髪で左目の下に泣きぼくろがある女性。 杉森氏によるイラストも描かれている。 自身が経営するポケモン牧場を思いっきり「Wiiの中にある空間」と言った。 指定のポケモンを連れていくとポケモン交換を持ちかけてくる。 特定の条件を満たすとフィオネやミュウ等、幻のポケモンを交換してくれる。 ポケモン牧場の配信日の11月18日が彼女の誕生日として設定されており、その日に起動して条件が整うとお祝いイベントがある。 ポケスペにも1コマ描かれている。 とある原因で空間が歪んだことで、友人のミズキと会っていた。 ◆イッシュ地方(BW1・BW2) ショウロ 名前の由来は『松露』。 ブラック・ホワイトから登場、続編にも登場。 ポケモントレーナーの研究をしている事で有名なマコモ博士の妹。イッシュでの管理人。 姉と共にサンヨウシティに住んでおり、眼鏡をかけている。 彼女はマコモのイベントをこなす際に友達手帳をくれるが、こちらから話しかけないと預かりシステムの管理人である事は分からず、誰かのパソコン表記のまま。 ちなみにシナリオ終盤のNの城にて、プラズマ団が預かりシステムからポケモンを解放する準備が整ったと話す。 ショウロの管理が脆弱なのか、プラズマ団の技術が凄いのか…… BW2ではマサキと思しき知り合いから譲ってもらったイーブイを主人公にくれる。 まだカード化はしておらず、公式絵も判明していない。 ◆カロス地方 クロケア 名前の由来はニシキギ科の『カッシーネ・クロケア』。 XYから登場。 マサキに頼まれてカロスの預かりシステムを管理している青年。 コボクタウンにひっそりと住んでいるが、見た目はパンクでロックなアニキ。 カードのイラストによれば赤縁眼鏡をかけている。 ポケモンカード 〇クロケア 自分のポケモンを1匹選び、そのポケモンと、ついているカードを全て山札に戻す。その後、山札を切る。 ◆アローラ地方 マーレイン 名前の由来はハーブの仲間である香草『マレイン』。 サン・ムーンから登場。 アローラでの管理人。 天体観測所で働く青年。マーマネの従兄弟でありククイ博士の友人。元キャプテン。 ゲームをするのが好き。シリーズの管理人の中で初めて主人公にポケモン勝負を挑んでくる。はがねタイプの使い手。 ストーリー中で必ず出会うが、本作のパソコンは調べると直接ボックスに繋がるため、名前を見ることができない。 ウルトラ版ではなんと四天王に出世している。 追記・修正お願いします △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 作をおうごとに影が薄くなる印象 -- ポケモン (2013-11-05 19 25 12) ↑基本寄り道しないと会うことすらないからなぁ…。アズサァ!は色んな意味で印象強くなっちゃったけど -- 名無しさん (2014-01-18 13 19 57) アニメにもマサキ以外でてないしなあ 姉のマコモは出てもショウロは出ないし -- 名無しさん (2014-01-18 13 39 07) 大元のシステムを作ったマサキが一番凄いし他のやつは出来て良いように拡張するくらいしか出来ないから目立てないんだろ。 -- 名無しさん (2014-01-19 18 12 22) どこからでもアクセス・利用できるクラウドコンピューティングの先駆けだって誰かが言ってた -- 名無しさん (2014-03-24 01 48 05) クロケアってメガネかけてんのな -- 名無しさん (2014-05-09 22 02 05) ポケモントレーナーが最も感謝すべき存在 -- 名無しさん (2014-10-03 16 17 31) しかし、よく主人公達は誰が管理しているのかも分からないところに自分のポケモンを預けられるよなぁ…。 -- 名無しさん (2014-12-24 19 41 22) つーかクロケアなんて今この記事を読んで初めて知ったのだが -- 名無しさん (2014-12-31 10 54 21) ショウロちゃんの公式イラストが待たれる。ポケスペには出てるのね -- 名無しさん (2015-09-17 18 55 13) マサキさん顔広いな -- 名無しさん (2015-10-22 14 12 32) ユカリのデザインはMii先行なんだとか -- 名無しさん (2016-07-18 21 35 28) ポケスペでのクロケアとかいうぐう聖、それまでの大人キャラが信用できなかったりする中初めて頼りなる大人キャラとして登場した -- 名無しさん (2016-11-30 03 36 16) マサキ以外だとアズサ・マユミ姉妹がとびぬけてるな。ボックスのビジュアルの基礎を作ったマユミと時空間すら超越するバンクムーバーのアズサ・・・。 -- 名無しさん (2017-05-26 17 37 52) マーレインは久々に目立つ管理人だったな -- 名無しさん (2019-06-23 12 22 14) 剣盾って管理人にあたるキャラ出てきたっけ…?ボックスの運営もマクロコスモスなのか? -- 名無しさん (2019-12-31 11 13 14) 別にいてもいなくても良いようなポジションのキャラなんで剣盾ではいなくなった模様 -- 名無しさん (2020-01-09 19 46 27) あれだけ居るトレーナーが頻繁にアクセスしてる(或いは捕獲の度に送られてくる)のに一度も鯖落ちしないとかすげえな……定期メンテナンスとかも無さそうだし…どう維持してるんだろ… -- 名無しさん (2023-07-16 23 02 19) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/15.html
俺の幼なじみに「花奥恵」という問題児がいる。授業を勝手に抜け出すは、制服を着ずに絵の具がべったり付いたツナギで通すは、フリーダム過ぎる奴だ。最 近やたらとモテだしたのは絵の才能が注目されるようになってからだ。美術の授業でしか聞かないような画家の再来らしく、美少女天才画家だとさ。当の本人は 何も変わらずに今までと同じ生活を続けてるが。 俺は――何でもなくて、時々弁当を持ってくぐらいの友達。花奥は一度描き出すと飯のことも忘れちまうから、栄養失調で倒れたことがある。だから俺は今日も弁当を作り美術室に持っていく。 「花奥?」 花奥はじっと窓からサッカーをする男子を眺めている。 「岩下くんて、かっこいいね。今度モデルになってもらおうかな」 「そうだな。筋肉の勉強になるかもな。それより、弁当食べないのか」 「今日、テレビの取材で、食べてきたんだ」 花奥はパレットに視線を落とした。赤と黄色を出して、塗り付けていく。 「そうか。何食った?」 「フランス料理」 「うまかったか」 「うん。あ、これからまたテレビの人が来るから」 俺は家に帰った。 もう俺の弁当は必要ないのか。そりゃあフランス料理と比べりゃ小さなエビフライだしな。 俺はソファにもたれてテレビを眺める。そのうち俺の学校が映った。岩下と花奥が並んで立っている。リポーターが去年優勝したサッカー部とコンクールで大賞をもらった花奥を紹介した。 理想の身長差、というんだろうか。頭一つ分、岩下が高い。並んでいると、何故だか納得できる。それからテレビは美術室を映し出した。さっき描き出したはずの絵はもう完成していた。 俺はソファからずり落ちる。 「――まだ乾いてないようですが、これは新作ですか。何でしょう?」 「見てわかりません? 私の大好物です!」 キャンバスには、ちょっとどうかしてるくらいデカデカとエビフライが描かれていた。
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/2.html
メニュー トップページ
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/34.html
一、事件なんてない方がいい 名呑町。 山と海の間で人々がコケみたいにへばり付いて暮らしてる町。 狭い内海を挟んだ向かいには雨多ノ島(ウタノシマ)や寂れた水族館がある。海岸沿いには古くから漁師の家が並び、そばにはシャッターの目立つ商店街がある。参道から山に行くにつれ神社や寺院が増えていく。 山の上には名呑大学もあるが、ノンキな名呑大学生はふざけてこう言う。 「名呑エリートッ! 我々がこれほど憧れる名があるだろうかッ!? 名呑小学校→名呑中学校→名呑高校→名呑大学→漁師。これが名呑エリートだッ!」 自嘲の混じった地元ネタに、俺は笑うに笑えずひきつった。 そんな名呑町の駅前には俺の勤務先、名呑警察署がある。 「先月と先々月合わせても窃盗一件、しかも魚の干物をそこの息子が酒のツマミに頂戴しただけ――確かにありゃ難解だったが」 俺はデスクに突っ伏した。頭の上から間延びした声が降ってくる。 「事件なんてない方がいいし、未然に防げるならそれに越したことはないし。何より楽だし」 警察学校時代からの同僚、岩本は町民の方から頂いたみかんをもぎゅもぎゅ食べている。窓から入った光が岩本の眼鏡に反射する。 「クールな眼鏡で理路整然と反論しやがって」 「えへへ~」 照れんな。 「そんなことよりね、なんか君のお待ち兼ねの事件が起きてるみたいだよ」 岩本は指先で書類を挟み、ぴらぴらと舞わせた。事件発生とな。俺の胸はざわめき・ときめき・きらめき! 事件の概要はこうだ。 茶屋梅子(七五歳・女)が自宅玄関先で死亡していた。かなりでかい鈍器のようなもので後頭部を殴られたらしい。グチャッと頭蓋骨陥没。死亡推定時刻は早 朝四時~六時頃。近所の人間に聞いてみたが、犯行目撃者は誰一人としていない。第一発見者は鼻をたらしたバカ丸出しの花田ひろしくん(七歳)で、登校時に 見つけて通報した、と。 実はこれだけじゃない。似たようなケースが同じ日にあと三件起こっていた。 午前三時から午前六時にかけて一人暮らしの老人ばかり、山本治(八十歳・男)、花奥葉子(七七歳・女)、朝村陽三(七五歳・男)がやられて全員死亡。そ れぞれの家はニキロ以上離れている。もちろん犯人を目撃した者はおらず、第一発見者は鈍器を持てそうもない(あるいは身長の関係からして殴れなさそうな) 子どもや車椅子で生活している人間ばかりだった。 全く見つからない凶器。 老人たちが玄関先に出ていた理由は。そして何故犯人目撃者が一人もいない? 俺は一日で全ての現場を回ってくたびれかえった。その日は家に帰って新聞を読んで考えてるうちに寝てしまった。 翌朝警察署に出ると、岩本は相変わらずみかんを食べていた。俺は机を軽く叩いた。 「一人暮らしの老人という以外、被害者に共通点はないんだ。どう思う」 「どうもこうも担当でもないのに勝手に捜査しちゃマズイでしょ。大体僕らには僕らの仕事があるし」 「頼む」 俺は岩本の背後に立つと、スーツの上着、さらにシャツの下へと手を差し入れていく。岩本は始めだけは一応抵抗する。素肌の背中をゆっくりと撫で上げる。指に吸い付くような白い肌は若干汗ばんでいる。 「ちょ、やめ。アッ―!」 眼鏡がカシャンと床に落ちた。 コイツは男女構わず誰に対しても被虐願望を持つ真性のやらないかドM野郎なのだ。背中から腰の部分を撫でつづけると息が荒くなり頬を染め、あたり構わずピンク色ハートをビシャビシャ撒き散らして何でもいうことを聞く。 そして最悪なことに、コイツは俺なんぞが及びもつかないほど変態的なまでに洞察力が鋭いんだな。 「わかったよ。言う。言うから、後でこんな快楽に負けたダメな僕にお仕置きを下さい」 「ああ」 とは言うものの、いつも俺はすっぽかす。すると岩本は放置プレイだと喜ぶ。Mってすげえよ。いや俺は別にふざけてないぞ。ただ真摯に事件を解決したい一人の真面目な警察官だ。 「岩本、お前どうせほとんどわかってんだろ」 岩本はサラっと資料に目を通すだけで暗記しちまってる。だから何も見ずに、ただみかんの皮をむきながら話す。 「気になるのはね、犯人は相当に大きな鈍器のようなものを持っていたはずなんだ。でも老人たちはそれに気付かずに(警戒せずに?)殺されてるし。後頭部を 殴られてることからして、そう思う。或いは、犯人に向かってノコノコ出ていったか。わざわざ殺されに行くみたいにさ。知り合いだったらそれも可能だろうけ ど、被害者たち全員に関係する個人はいないし。そして時間帯からしても、誰かが犯人を目撃したっていいのに、そうはならない。つまり犯人の姿はナチュラル 過ぎたんだ。繰り返すけど、大きな鈍器のようなものを持っているにも関わらず日常に溶け込む」 そんなことが可能なのか。バカだから俺の頭はついていかない。 「ええと、つまり何だ」 「解答編はお仕置きの後で」 俺は乳首周辺をクルクル弄ってくる岩本を突き飛ばすと、自分で答えを見つけるために歩き出した。 二、不可解な結末 翌日、突然事件は解決した。 被害者たちの家族が出頭・自首したのだ。息子や娘夫婦と、その兄や妹。全員顔見知りらしく「お互い大変ですねえ」と言わんばかりに和やかなムード。 一体あんたらなんなんだ。 以下は、全員が口裏を合わせたように同じことしか言わなかった問答だ。 動機は? 「父が(母が)邪魔で」 凶器は? 「玄関の置物で殴りました」 それはどこに捨てた? 「海に捨てました」 何故そんな時間に殺した? 「カッときたのがその時だったんです」 明らかに凶器が違う。置物みたいなものではなくて、もっとでかい何かなんだ。それにこうも全員同じことを言うのは、不審を通り越して呆れを通り越して、やつらの顔に自信を感じる。 集団の悪意。 サイレント・マジョリティ・マリスってやつを。 ところが警察上層部はあっさりと操作を打ち切り、この事件は終了。 「犯人は、介護が面倒になった家族でした。」 よくある話だ。平和な名呑町が戻ってきた。めでたしめでたし。なんてなるか馬鹿野郎! 俺は帰宅して窓から町を見下ろす。エコバッグからネギがはみ出してるあいつが犯人かもしれない。色黒で目の鋭いあいつも歩きながらリンゴ食ってるあいつも目撃者かもしれない。 俺は町に渦巻く意志を感じる。糞尿鍋に内臓をぶち込んで煮込んでいるような、吐き気のするヤツを。 ――とっとと寝ちまおう。 「おかしい。この町は行方不明者が全国平均の三倍近くあるんだ」 翌日、俺は倉庫の資料を片っ端から当たり、見つけた資料を岩本に見せていた。 「元々海難事故で行方不明者が多かったのに、十八年前、一九九五年から一気に増えてる」 岩本は何か書類を作りながら、はいはいと相槌を打っている。 「で? 今回の事件とそれが関係あるのかい」 「よくわからないが――何かが隠されてる気はするんだ」 息を吸って手を止め、こっちを向いた。 「そんなこと何にだって言えるし。大体事件は終わったんだし、上の人達が言ったら、そりゃ終わりなんだよ」 またみかんを食べはじめやがった。一房ずつ内皮を剥き、みずみずしい果肉へ唇をつけて丹念に汁を吸う。 「じゃあお前は上の人間が死ねって言ったら死ぬのか」 「迷うよね。言葉責めは嬉しいんだけど、ほんとに死ぬと勿体ないし。死ねないことを罵倒してもらいたいし、えへへ」 眼鏡を光らせて知的に照れんな。 「で、真犯人はわかったの」 「わからん」 俺は岩本の手からみかんを奪って食う。果汁が疲れきった脳みそに染み渡る。 「僕を縛って僕のキュートな玉子ちゃんを全力で蹴り上げてくれたら教えよう」 コイツ、ヒドい。純然たる変態。 「それを、やれば――」 俺は唾を飲み込む。喉がなって、鼻息が出る。 「それをやれば、教えてくれるのか――?」 「うんっ!」 「だが断る」 俺はデスク上の新聞に目をやる。何か引っ掛かった。行方不明者は全く報道されていない。海難事故も小さな扱い。警察も早々に捜査を終える。この町は平和という薄皮を被っている。 巨大でも目立たない凶器。早朝。一人暮らしの老人たちが外へ出てくる。 ん? 「犯人、わかっちゃったみたいだね」 岩本が頬をぽりぽりとかいて残念そうに笑う。 「新聞配達員だろ」 俺の心臓と脳ミソが直結してドクンドクン脈打ってギュンギュン回転する。 「配達員は深夜から早朝にかけ毎日、新聞を入れる。早起きで一人暮らしの老人は、新聞配達員を待って、ちょっとした会話を楽しみにする奴も少なくない。ジジイどもはいつものように原付の音に反応して新聞を受け取りに行き、殺された」 岩本と俺は頷き合う。更に続ける。 「凶器は新聞の束が入ったボストン・バッグだ。一部は薄いが、五百部、千部とまとめると無茶苦茶重い。それに加えて老人は骨が弱い。確実に死ぬ。その後、 配達員は何食わぬ顔で新聞を配って凶器は消滅する。バッグだけなら処分は簡単だ。警察は『鈍器のようなもの』を捜してるんだから」 「そう。この町の人々はその朝、誰かを殺した凶器を読んでたってことさ」 待てよ。この方法じゃ、一人を殺してから次々と殺せない。次の殺人現場までニキロはあるんだから。ということは、つまり複数の配達員が――。 「君の頭の中が手にとるようにわかるよ。だからこそ、今言っておく。上の人達が何故捜査を打ち切ったのかよく考えろ」 岩本はいつになく鋭い目をして、口調も変えた。 脳裏をよぎるのは……組織ぐるみの犯罪。複数の新聞配達員が同時に同じ犯行をした。配送所が怪しいが、それよりも警察がこれ以上捜査しないという、癒着している可能性。 どうして目撃者が出ないのか。配達員の姿が目立たないにしても、おかしい。皆その組織に関わりたくないと思っているからだ。 「組織?」 「口に出すな!」 温厚な岩本が大声で怒鳴った。俺は自分で口を抑える。手がべとついて、汗が噴き出しているのに気がつく。その「組織」って何だ。同じ行動をとる人々。自首して同じ証言をした、あの夫婦たちが怪しい。 親を殺されたのに、何故犯人をかばう。犯人と夫婦たちは同じ組織だったんじゃないか。 「被害者たちは殺される理由はあったのか? 何かに批判的だったり敵対してたりってことは、あったのか――?」 「もう首を突っ込まない方がいいって。突っ込むなら、僕の……」 「ふざけるなよ」 岩本は肩をすくめて、ぼそぼそと呟きだした。 「危ないから言えない。でも、そういえば、最近僕は小学生の頃を思い出すんだ。ガメラ空中大決戦、耳をすませば、阪神大震災、プリクラ、アムラー」 「何を言って」 岩本の瞳が俺の目を真っ直ぐ射抜いた。 「地下鉄サリン事件とかね」 一九九五年! 十八年前、名呑町に行方不明者が急激に増えだした年。 俺は急いで年度別捜査資料をあたった。やがて、不必要書類として捨てられる運命にあった、一九九五年のとある名簿を見つけた。そこには、今回自首してきた夫婦たちの名前が全て載っていた。名簿名は。 「リリジョン101」 蝙蝠とタコが合体したような像を崇めてるカルト教団だ。一九九五年は、「リリジョン101」が話題になり、一気に信者数が増えた年だった。 被害者たちは多分家族に反してリリジョン101に入会しなかったか、批判的だったんだろう。全ての符号が繋がった気がした。リリジョン101が名呑町を覆い尽くそうとしているのだ。 しかし、もう手遅れだった。名呑警察署長や町長の名まで名簿にある。おまけに、さっき読みはじめた時に俺は背中を撃たれてしまったのだ。多分教団の息のかかった奴だろう。 慌てて駆けてきた岩本を見つけたが、どうしようもなかった。岩本は自分を責めることばかり言っていたが、Mだからそれで喜んでるのかもしれないなと思うと、愉快だ。 岩本はもう俺が動けないのを知ってて、キスしやがった。 嬉しくはないが、悪くもないな。 俺は、笑った。
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/28.html
水族館のお手伝い急募!! 業務 餌やり、水槽掃除、事務など 条件 高校生以上・泳ぎが上手・身体が丈夫 給与 時給900円〜 時間帯 9 00〜18 00のうち4時間ほど。土日は終日だが、応相談。 連絡 名呑町・雨多ノ島水族館(××××―××―××××) ひっそりした商店街にひっそり張り出されたバイト募集の小さなポスター。日焼けした女子高生がそれに目をとめた。 「泳ぎが得意」 ナツはブツブツと呟いて、手帳を開く。それからサウナのようにじっとりとした熱気の中、歩き出した。 詰め襟のカナメは雨多ノ島へ行く渡船に乗っていた。生温い潮風がスポーツ刈りの頭を撫でていく。カナメは高校生になってから、ほぼ毎日放課後に一人で水族館に行く。何をするでもないが、水槽を行ったり来たりする魚を見ているのが好きなのだった。 「カナちゃん、あの水族館はヤバいって。来た人間をよくわからんモノに変えちまう実験をやってるんだ」 友達のヒノスケは半ば冗談でそう言っていた。カナメは海を眺めながら、「たとえそうであっても」と思う。 「そんな夢みたいなことが起きてるなら、見てみたいけどな」 ナツは家に帰り、着替えた。イヤホンをつけ、口笛を吹く。 「おかーさん、ウチちょっと出てくるけん!」 泥だらけのスニーカーを履くと、駆け出していく。渡船で水族館前に着くと、受付のお姉さんに話しかけた。 「あの、先程連絡したアルバイト希望の者ですけど」 「ああ、それでしたら裏口の扉から地下へどうぞ」 裏口には関係者以外立入禁止と書かれた鉄の扉がある。奥に進むとナツの身長ほどもある実験用水槽が並んでいた。見るからに強固で厳重な水槽には自らの触手に巻かれ過ぎて本体がわからないもの、目や口や手足さえないぷるぷるしたピンク色の塊などが入っている。 そうした水槽に囲まれるように、白衣を着た太めのおばさんがいた。シワの寄った頬が持ち上がり、笑顔になった。 「来たわね。あなたがバイト希望の?」 「ハイ! 竹内夏音です。みんなからはナツって呼ばれます」 「そう。ナッちゃん、私は館長の弓子。ユーミって――よく呼ばれてたわ」 ユーミは淋しげな目をして言う。 「仕事は簡単。あなたには」 じろじろとナツを見る。 「収益の計算や餌やりをしてもらうわ。主に事務ね」 「あの、ウチ、水泳部で泳ぐの得意なんで」 ユーミは目を丸くした。 「水槽掃除の方をやりに来たんだ? へえ〜。結構体力使うから女の子は難しいかと思うけど。それに女の子には他にちょっとした服――ツナギを着てもらう仕事があるしね」 「ウチ、計算とか苦手です。動物に餌やるのよりは掃除してたいです」 ユーミはそれを聞いて深く頷いた。ナツのやる仕事が決まった瞬間だった。 カナメは学生証を受付に見せた。名呑高校の学生は無料で水族館に入ることができるのだ。入口脇には錆びたイルカのプレートが建てられ、「海の生き物に触れ合おう! ※イルカはいません」と書いてある。 カナメはいつものようにタカアシガニの水槽を過ぎ、この水族館最大の目玉である円柱水槽へとやってきた。壁にもたれるように座る。 銀色イワシの群れが反射して輝き、見上げるにつけ水の色が白くなっていく。時折ウミガメがカナメに挨拶するようにゆっくりと旋回していった。 「海の生き物っていいよなあ」 目を細めて深呼吸する。と突然、カナメはガラスに手をつき食い入るように見つめ出した。 「ナツ?」 パンフレットが手から落ちる。小学校以来、話すことのほとんどなかった幼なじみのナツが水槽を降りてきたのだ。 競泳用水着だったが、キラキラを一身に浴びて天上からやってきたように見えた。彼女は気づく様子もなく水をかいて泳ぎ始めた。館長はカナメの隣に来て、落ちたパンフレットを拾いあげた。 「試しに潜ってもらったんだけど。カナちゃん、あの娘ここで働くってよ。君もこない?」 カナメは視線を一切逸らさず、魔法にかけられたように固まっている。 「いつも来てるし、この水族館の勝手がわかるでしょ。それに、働いたらここの秘密を教えてあげるわ」 カナメは何度も頷いたが、姿勢は少しも変えなかった。やがてぽつりと呟いた。 「――ヒノスケ。水族館が人間を別の何かに変えるって? そうだな。まるで人魚だ」 青い水槽の中、ガラス越しに魚たちと戯れる彼女を見て、カナメは胸を抑えていた。
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/45.html
商店街の外れ、公園の中にある広大な名呑池は地元民には昔から「へそ池」と呼ばれている。その傍の木陰で、二人の男子高校生が釣竿を垂れていた。 「で、どうなんだどうなんだどうなんだよ。その竹内夏音さんってどんな人だ。カワイイのか」 夏休みに乗じて脱色した細身の男は、ニヤニヤしながら隣のカナメを小突く。 「いや、ナツはそういうんじゃないんだ。何を考えてるかわからんから聞いてみたら何も考えてなかったりする。バカな子を見るのが好き。コーヒーは嫌いで泳ぐのは好きみたいだ。ハハッ、『ナツ』っていう変な生き物みたいだ」 ――とか言いながら、もうあだ名で呼んでんじゃねえか。 茶屋ヒノスケは心中で突っ込んだ。シャカシャカとリールを巻いてシカケを寄せると、今度は池の反対側の縁を目掛けてキャストする。 「じゃあかわいくないのか」 カナメは黙り、リールを巻く手が止まった。下を向き、やに下がる顔を見せまいとしている。 「畜生バカ野郎。うまくいってるからって調子に乗ってんじゃねえっ!」 カナメは足元の岸に群生するフジツボを見つめ、不意に顔を上げた。 「そっちは。花奥さんの担当者みたくなってんじゃないか」 ヒノスケは竿をそのままにして、聞こえなかったふりをしてごまかした。 「弁当食おうぜ」 二人は割り箸を取り出し、それぞれのコンビニ弁当を見せあった。 「柴漬けやるから、そのから揚げくれよ」 ヒノスケはカナメのから揚げ弁当に箸を伸ばしたが、逆に箸でつままれて止められた。 「お前、箸で箸をつまむのはアレだぞ」 言いつつ、ヒノスケは再び狙う。弁当箱の上で、箸が行き交う攻防戦が繰り広げられた。 「行儀以前に、了承もない他人のおかずを勝手に交換する行為は人間として成立しない」 「わかったよ。じゃ、このエビフライと交換してくれ」 カナメは意外そうに友人を見つめた。言われるがまま交換し、エビフライをしゃくしゃく食べた。 「ふがが」 口に詰めたまま話しそうになり、胸を叩いて慌てて飲み込む。 「ヒノスケはエビフライ大好きじゃなかったか」 その時、ヒノスケの釣竿の先がくくんっと引いた。しかしそれを見ながら動きもしない。 「エビフライは、食べる奴がいないと美味しくないんだよな」 カナメが代わって竿を持ったが既に魚は逃げていた。残念そうに息を吐き、あてつけるようにつぶやく。 「ああ、もう少しでうまい魚が食えたのに」 「だから、うまいかどうかわからなかったろ。得体の知れない化け物だったかもしれないぜ」 カナメは黙り、また弁当を食べはじめた。不機嫌な顔でまだ続ける。 「あれはアナゴか鯛だった。そういう引きしてたからな」 「違えよ。そういう話じゃないんだ。食べる奴がいて、釣り上げられる奴がいて、その時にしかわからないっていう、あああわかんねえ」 ヒノスケは後ろ頭を掻いて、地面に横になった。目を閉じて考えつづける。 「なんだ、ヒノスケはかかったのが化け物かもしれないから釣り上げなかったのか?」 目を開くと、ヒノスケを跨ぐようにカナメが立っていた。 「釣りたいからキャストしたんだろ。どんな魚かわからないうちに諦めるのはおかしいんじゃないか」 「エビフライがまずくても?」 カナメは腕を組んだが、すぐに頭を振ってやめた。 「エビフライがどうとかはわからんが、それ釣りとは関係ないと思う。あと俺が食ったエビフライはうまかった」 ヒノスケが笑って足を払った。カナメはひょいと避けた。涼しい風が木を揺らし、濃い緑の香りを振りまいた。
https://w.atwiki.jp/amaneo/pages/7.html
アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL