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731 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 18 42 02 ID lsFTCLuA とーか「さぁ!バリバリ歓迎会の準備をしますわよ!」 一同「おー」 部長「田井中さん、力あるのね。羨ましいわ」 律「えぇ、ドラムは体力ないと勤まらないので」 部長「でもキャスターさん激しいんでしょ?田井中さん身体もつ?」 律「あぁ見えても加減してくれますから…あ、律でいいですよ」 部長「ありがとう律ちゃん。私の事も久って呼んでね」 律「あはは!久さん気さくでいいですね」 美穂子「田井中さん、ごめんなさい、これあっちにお願い出来ないかしら?」 律「あ、はーい。重っ?!よくこんなの持てますね」 美穂子「田井中さんほどじゃないわ」 律「いやぁあたしよりムギ…琴吹の方がよっぽどバカ力で…」 美穂子「そんな畏まらないで。私達仲間でしょ?」 律「あ、はい!」 唯「ねーねーあずにゃん。さっきからりっちゃん、みほみほと竹井さんの間行ったり来たりしてるよ?」 あずにゃん「あー言われてみれば…まぁなにかあるわけでもないみたいですし」 池田「キャプテンがなにも無いように牽制してるんだし」 唯「え、どーゆーこと?」 池田「清澄のスケコマシがあんたたちのとこのドラマーを狙ってるってことだし」 唯「?」 あずにゃん「うわぁ…命知らずですね、あの人…バレたらキャスターさんになんかされますよ…」 池田「どーせそれもスリリングでいいとか思ってるし…」 732 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 18 47 03 ID lsFTCLuA とーか「あ、そこはこうしたほうがよろしくてよ!そっちはこう!」 筆頭「なぁ…さっきから予定にないとこ拡張してねぇか?」 小十郎「収拾がついてませんね。かといって彼女の立場を考えると止めるわけにも行かず…」 筆頭「まぁ気が済むようにやるまでだがよぅ…こりゃ確実に間に合わねぇぜ?」 とーか「そこ!手が止まってますわよ!あ、そこはこうお願いしますわ!」 筆頭「やれやれ…」 733 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 21 13 11 ID lsFTCLuA 衣「如何にせん…」 ?「どうしたんだい、扉の前で難しい顔して」 衣「この中でとーかが待っていることは分かる。だが衣は歓待を受けるような事はしておらず… むしろグラハムたちの足を引っ張ることしかしておらぬ…」 ?「なんだ、そんなことかい?君は十分平衡を崩したじゃないか」 衣「衣はなにもなしてない!結局グラハムたちは衣のせいで現に危機と直面しておるではないか!」 ?「でも君がいなければ白衣ちゃんを動かせなかった。 首輪を解除する道を示したのは君の功績だよ」 衣「心にも無い世辞をいうな…!」 ?「お世辞なんかじゃないさ、ただの事実確認だよ。 君はよくやった。歓待を受けるだけの事はしたさ」 衣「しかし…」 ?「それにさ、そこで立ち止まってちゃ、君の従姉妹も気が気でないはずだぜ? 迷子になっちまったかといらぬ心配をかけちまうだろ?」 衣「衣はそんな清澄の嶺上使いのような事はしない!」 ?(へぇ…なるほどねぇ…) 734 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 22 39 15 ID lsFTCLuA 筆頭「おい…こりゃあ…」 小十郎「なんともまがまがしい…」 幸村「うぅむ!リュウモンブチ殿の指揮通りに作っていたら安土城になったでござる!」 カイジ「一日で城が出来た事自体驚きだが…おい、一体こりゃあどういうこった」 とーか「おかしいですわねえ…ファビュラスな会場を作ろうとしてましたのに…」 部長「ま、まぁ天江さんの到着前に完成しそうでよかったじゃない!」 【安土城二つ目完成直前!】 735 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/10(土) 22 57 27 ID lsFTCLuA 衣「そうだな、とーかにこれ以上無用の心配をかけるわけにもいくまい …行くことにする」 ?「その前に贈る言葉じゃ無いが伝えておきたい事があるんだがいいかい?」 衣「なんだ?」 ?「君はどうして自分が死んだ後の現世の様子を承知してるんだい?」 衣「…?よく分からないがおそらく先程の女性二人に教えてもらったはずだが?」 ?「なるほどねぇ…だけど清澄の嶺上使いが迷子癖があるとかなんで君は知っているんだい?」 衣「それは…合同合宿や全国の開会式で…」 ?「おかしいねぇ…君は県大会直後にここに呼び出されたんじゃないのかい?」 衣「な、なにを言いたい!お前の言いよう…まるで…まるで…」 ?「なにかな?」 衣「…衣が…衣でないみたいではないか!」 736 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 00 05 42 ID EqmCo0yg ひたぎ「やっと新約3巻読み終わったそうよ」 C.C.「随分時間が掛かったな…日付を跨いでいるじゃないか…」 ひたぎ「それで内容についてなんだけど…」 C.C.「いやそれはダメだろ…ここで言っていいことじゃない」 ひたぎ「まあそうよね…って言うかもう今の死者スレの流れがそれを許さないわね」 C.C.「みんな歓迎の準備をしているしな…」 ひたぎ「ユフィさんはひたすら土下座のフォームの最終チェックをしてるしね…」 C.C.「で?お前は土下座の準備をしなくていいのか?」 上条「…え?」 ひたぎ「いやだってあの発言は…ねぇ…」 C.C.「結構傷付いていたと思うぞ…ちゃんと謝っておけ」 黒子「全くですの…」 美琴「うん…あれはちょっと…」 上条「…分かってるよ…焦ってたとはいえ、言っちゃいけないことを言ったってのは…きちんと謝るよ」 ひたぎ「じゃあ今から鉄板の用意をしてもらうように言ってくるわ」 上条「ちょっと待って!!さすがに焼き土下座は勘弁して!!!」 737 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 01 56 32 ID EqmCo0yg インデックス「ただいま…」 上条「あ、お帰りインデックス…」 インデックス「………はぁ…」 上条「インデックス…」 ひたぎ「元気がないわね…」 C.C.「やっぱりあのことを気にしているのか…」 上条「それはそうだろ…目の前で友達があんなことになったら…」 ひたぎ「え?…あっ、そっちの話?」 C.C.「あぁ~そうか…そっちの話か…」 上条「………何の話だと思ったんだ?」 ひたぎ「いや~てっきり…ねぇ?」 C.C.「ああ…絶対にあっちの話かと…なぁ?」 上条「曖昧な表現でごまかそうとするな…はっきり言え」 ひたぎ「じゃあ、まあ…」 C.C.「ネタバレにならない範囲で…」 上条「言ってみろ」 二人「「彼女は本当にメインヒロインなんですか?」」 上条「絶対に言ってはならないことを!!」 ひたぎ「まあ私も人のこと言えないんだけどね…」 C.C.「ひーちゃんは大丈夫だよ…もうすぐ『恋物語』が発売するから」 上条「…とにかくインデックスを元気づけないとな…あいつも歓迎会に誘うか」 ひたぎ「それって大丈夫なのかしら?」 C.C.「色々な意味で…」 上条「『死者スレ』は何でもアリだろ!?だったら大丈夫だ!!」 二人「「ツッコミがそれ言っちゃダメだろ」」 738 :名無しさんなんだじぇ:2011/12/11(日) 02 23 00 ID JuL/uYCw ?「そうだねえ…君のありようを見るにそのように思えて来るねぇ…」 衣「バカな!グラハムと初めて戦えた時の喜び! 必死になって首輪を解除してくれたあらららぎとインデックスへの感謝! …なんの甲斐も無く心臓が止まったあの無念 全て衣の中にある!これが偽りであっていいはずがない!」 ?「なら何故君は激昂してるんだい?嘘と思うのなら笑って済ませるだろう」 衣「それは…!それは…」 衣「なぁ教えてくれ…この衣は何者だ?衣は衣でないのか…?」 ?「自分が何者で何処へ行くのか…か。 ローティーンなら誰しも思い悩む所だねぇ」 衣「戯れ事を弄ぶな!」 ?「本質的な所は変わらないさ。扉の向こうの連中も多分君と同類だろうしね」 衣「衣はなにをしたらいい…?こんなあやふやな気持ちを…どうしたらいい…」 ?「さてね。悩めばいいんじゃないかい 衣「…」 ?「ま、答えがでないなぞなぞなんて無視してしまうのが一番さ」 衣「なら何故…」 ?「さぁ?こどもちゃんの曇った顔が見たかったから、かもしれないねぇ」 衣「こどもじゃない!衣だ!」 ?「まぁほどなくすべてが終わる。悩む時間もないかもしれない。 …どうするかは君次第だよ。」 衣「…」 ?「では良き死後の旅を」 ガチャ 【衣、死者スレ到着】
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作者・◆VxAX.uhVsM氏 第六弾です。 これまでかつてないほどカオスになると思います。 1/19 リスタートしました DOLバトルロワイアル4thSS目次(未編集) DOLバトルロワイアル4th参加者名簿 DOLバトルロワイアル4th参加者名簿(ネタバレ) DOLバトルロワイアル4th死亡者リスト DOLバトルロワイアル4thルール・マップ
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夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上- ◆ANI3oprwOY これから語られるのは、物語の裏で密やかに進んでいた挿話。 舞台は、『死に接触して快楽する存在不適合者』と呼ばれた少女が惨劇を起こした地。 始まりは、大地が崩落し、紅蓮が上がる。 征天魔王が暴威を振るい、根源を目指す魔術師が因縁の悲願を砕かれ砂に散っていく、その最中――― ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ 三階の教室で、彼は独り、左腕を失くした身体を教室の後ろの壁に預け、窓の外を眺めていた。 人影は無い。敵のものも、味方のものも。 視線を壁に掛けられた時計へと移す。 時計の針は、ちょうど五時をさしていた。 五回目の放送まであと一時間。グラハム達が姿を見せる気配は未だ無い。 合流できなかった時のことを、彼は冷静に考える。 ルルーシュに敵意を持つ暦を放置するわけにはいかず、衣を見捨てることを暦が認めないことは容易に想像できる。 となれば、一人で暦と衣というお荷物を連れてルルーシュとの合流を目指さなければならないだろう。 そのためには、何が必要か――― 彼は時計から視線を外し、そばにある机を足で乱雑にどかしてスペースを作ると 肩にかけていたデイパックを床へ落とした。 そばにいた三匹の猫たちが音に驚いて教室の隅へと逃げたことを気に留めることもなく、彼はデイパックの口を開ける。 そして僅かに。 たとえここに誰かがいたとしても気づかれないくらい、本当に僅かに。 彼の表情が歪む。 だがそれは刹那のこと。 次の瞬間にはその歪みを――表情そのものを消し去って。 彼はデイパックの中から毛布に包まれた物を引き摺り出した。 毛布を捲って現れるのは、二度と目を開かない桃色の髪の少女。 「…………」 そっと、少女の頬に触れる。 生きている人間の温もりは無い。 死体の感触があるだけだ。 何の感慨も湧かない。湧くはずがないのだ、と彼は思う。決めつける。 現時点で、自分の義手の購入に必要なペリカは手元に無い。 それ以外にもこの先、販売機から道具を入手することが必要になる場面があるかもしれない。 販売機から道具を入手するためにはペリカが必要になり、ペリカを手に入れる方法は首輪を換金することだけ。 首輪を手に入れるには死体の首を切り落とさねばならず、 死体の首を切断するだけの時間の余裕はいつでも確保できるわけではない。 だから今ここでユーフェミアの首を斬り、彼女の首輪を入手しておく。 これが、彼の出した結論だった。 右手をデイパックに突っ込んで鉈を取り出し、刃を彼女の首筋に当てる。 「―――っ」 血が滲み出る。 皮膚が薄く裂けただけだ。首の切断には程遠い。 「……ぁ……っ…………」 教室に、彼の呼吸する音だけが響く。 明らかに乱れ、時として止まる音。 息の仕方が、わからなかった。 上手く呼吸ができず、だが彼は、それを苦痛とは感じない。 首を切断することにだけ意識を向ける。 しかし彼の右手は、彼女の皮膚を僅かに傷つけたきり、動かない。 迷いなど、無いはずなのに。 「…は、……っ……っ…………」 もう、要らなかった。 躊躇っているという事実が、要らなかった。 「……はっ、ははっ…………」 彼は嗤う。 死体の首を斬ることさえできない自分を。 そして思う。 "枢木スザク"が殺せなかった真田幸村は死んだ。 "枢木スザク"が生きろと命じたレイ・ラングレンは死んだ。 "枢木スザク"が会いたいと願ったユーフェミア・リ・ブリタニアは死んだ。 だからもう、"枢木スザク"も死んでよかった。 いや、違う。 死んでもいいんじゃない。 死ななければならない。 遅いくらいだ。 ルルーシュを殺し、ゼロになる時じゃない。 ナイトオブゼロになることを決めた時点で、"枢木スザク"は消えるべきだった。 彼女の笑顔の記憶も、彼女の温もりの記憶も、もう要らない。 「生きて」と願われた。 それだけを覚えていれば、十分だ。 「…………」 乱れていた呼吸が、一気に落ち着く。 彼女への想いは、"枢木スザク"と一緒に、ここに置いて行く。 この身体は、ゼロレクイエムを遂行し、ゼロとなるためだけにあればいい。 全身が冷えていくような感覚を味わいながら、彼は"枢木スザク"を殺す。 ――――鉈を握る手に、力を込めた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上- ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 部屋の中は静寂でいっぱいになっている。 保健室には僕、阿良々木暦と、チーズくんというキャラクターのぬいぐるみを抱いて眠る天江の二人だけ。 この学校という施設にはもう一人、枢木が居るが、校舎内を見回ってくると言って出ていったきり、まだ戻らない。 息を吐き、僕は壁に掛かった時計を見上げた。 「……五時ちょっと、か」 放送はいずれ必ず聞こえるし、グラハムさんは、ここに彼女がいる限り必ず帰ってくる。 式と白井をつれて帰ってくるはずだ。 たとえその帰還が、どのような形になろうとも。 「……っ」 嫌な想像を振り払うようにかぶりをふる。 ここで待つことしかできない僕が考えたって、どうしようもないことなのだ。 言い聞かせるようにして、ベッドの上で眠る少女の寝顔を見つめた。 天江の顔色は酷く悪い。失血と頭のケガ、蓄積された疲労のせいだろう。 「ったく、頑張りすぎなんだよ」 呆れも半分に、見下ろす寝顔に言った。 そして僕は、傍に置いていたデイパックを引き寄せる。 道具の確認をするためだ。 今の僕の役割は、天江の看病。そして、いざという時に、天江を守ること。 優先すべきは戦闘での勝利ではなく、僕たちの生存。 となれば、必要なのは武器よりも、逃走のための道具だ。 何か無いかと、デイパックの中を漁る。 いくらでも物が入るのをいいことに、よく考えもせず何もかもを詰め込んだ僕のデイパックの中はぐちゃぐちゃだ。 とりあえず、すぐに使えるようにとマウンテンバイクを取り出す。 枢木から聞いたサーシェスって人ならともかく、人間かどうかも疑わしい、というかおそらく人間じゃない 一方通行や織田信長から自転車で逃げられるとは思えないけど、まあ、一応。 他に何か……そう思いながら荷物を掻き分けていた手が、ギターに触れた。 たしか、ぎー太とかいう名前だったと思う。 とある少女の面影が浮かび、僕はギターを引っぱり出した。 ――平沢憂。 僕を殺すと言った少女。 蟹に行き当たった、重い(思い)のない少女。 彼女もまだ、生きている。 彼女は少なくとも、二人の人間の命を奪った。 そしてそれは、間違いなく僕も責任を負わなければならないことなのだ。 グラハムさん達と合流できれば、次に僕等が目指すのはルルーシュだ。 そこにはきっと、平沢もいる。 僕に会ったら、平沢はどうするのだろうか。 平沢に会ったら、僕はどうするのだろうか。 僕は何故、未だにこのギターを持ち続けているのだろうか――― ぬいぐるみを抱えて眠る少女の傍らで、答えの出ない自問自答を繰り返す男子高校生がそこにはいた。 ていうか、僕だった。 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ 意識は此処に在り、身体は無い。 これは泡沫の夢か。黄泉路へ逝く者が見つめる景況か。 真っ赤に染まった水面の上に、衣は今、立っている。 どれほど大切に思っていても、どれほど側にいて欲しいと願っても、 人は容易く黄壌に去っていく。 ……そのようなこと、衣は此の冥府へと堕とされる前より知悉していた。 父君も母君もそうだったように。 衣を置いて、皆寂滅するのではないかと、そう恐れていた。 ――智見していた、つもりだったのだ。 いつからだろう。 衣は甘受していた筈の重荷を捨てていた。 あまりにも日々が幸福だったから。 与えられた幸せが、甘美で有り過ぎて。 遺却してしまったのだ……そのような、章々たることを。 衣が清福を得ようなど、成就することのない冀望だったというのに。 衣のせいで、色々な人に煩労をさせた。 恩義には深く感謝しているが、何一つ返すことが出来なかった。 返すことのないままに、天津国へと下ってしまった。 ……済まない。 深い後悔と――諦念。 きっと、そう遠くもないうちに衣もそちらへと参るだろう。 ……そのときは、思う存分に怨嗟を聞かせて欲しい。 同じところに行くことが、衣に許されるというのなら。 …………。 そんな悟ったような気持ちは。 咬み殺すような横暴は。 避け得ぬ現実の前にはあまりにも、無力だった。 心安らかに、諦めて、運命を享受しようなど、なんと思い上がった考えだったのだろう。 燃え上がる言葉はただひとつ。 「死にたくない」 なぜ。 涙が。涙が。涙が。 止まらない。 死ぬのだ。 避けられないのだ。 もはやそれは、どうすることも、できない。 未来は、覆ることはない。 なぜ。 叫びだしたくなる心を抑える。 震える身体を抱きしめる。 あんまりだ。 首に手をやる。 硬くて冷たい拘束具に、触れる。 確かな手触りが、衣の生命を雁字搦めにしていた。 息が止まりそうなほどに、胸が苦しい。 ――なぜ、なぜ、衣が死ななければならないのだろう。 衣はそれほどに悪い子だっただろうか。 誰かに泣きつくことすら許されはしない。 衣は何も、何一つ分かっていなかった。 死ぬのはこんなにも怖い。 目の前に迫るまで分かっていなかった。 死ぬということがどういう事なのか。 それは何よりも、怖い。 目の前で人が死んだ時よりも。 命がけで戦った時よりも。 大切な人を失った時よりも。 ――そんなものは、比ではないほどの恐怖。 心臓を鷲掴みにされているような――そんな比喩ですらまだ軽い。 どうして――こんな目に、衣が。 否定できるのならば全てを否定してしまいたい。 ……全てを? 嗚呼。 衣にはそれもできない。 この地で衣には友ができた。 衣はたしかに、笑っていたのだ。 死はこれほどまでに恐ろしいのに、衣には死よりもなお恐ろしいものがある。 己の命よりも失えない物が、衣にはあるのだ。 だから。 衣は、何かを返したい。 今までの衣は、享受するばかりだった。 ずっとずっと。 どこだって、いつだって、誰からも。 だから。 受け取ったものと同じだけは無理でもせめて、何かを返したい。 共に戦いたい。 衣は死するその瞬間まで、友と、大切な人と、一緒に――――いきたい。 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ 「お、起きたか天江」 いつの間にか目を開けていた天江に気づいて、僕は慌ててギターをデイパックに仕舞い込む。 「……ありゃりゃぎ……?」 天江は僕を認識すると、ゆっくりと起き上がり、立ち上がる。 顔色はいいとは言えないけれど、さっきまでに比べれば幾分ましになっている。意識もはっきりしてるみたいだ。 「ここは大丈夫だからさ、もう少し寝ててもいいぞ?」 「いや、それには及ばない。……衣はみんなに迷惑をかけてしまったのだな」 「気にするなよ、友達ってのは助けあってのものだろう」 僕が何気なく言った言葉に、天江が僅かに笑みを浮かべる。 だけどその笑顔は、すぐに消えてしまった。 「阿良々々木……今、何時だ?」 「六時、もうすぐ放送だけど……らが一個多いぞ」 今度は僕の言葉にうなだれる天江に、僕はどうすればいいのかわからない。 もしも、グラハムさんだったら……… その時、窓の外で音がした。 走りだそうとした天江がふらついて倒れそうになったところを支え、ここで待っていようと声をかける。 素直に頷いた天江は、ドアが開かれた瞬間、僕の腕から離れていた。 「グラハム………ッ!」 「……ただいま帰還したぞ、天江衣」 天江がグラハムさんの胸に飛び込み、グラハムさんは天江をしっかりと受け止める。 天江の頭を撫でる、それだけの仕草にも、グラハムさんの優しさが込められている。 両儀と白井はどうしたのか。 信長はどうなったのか。 聞きたいことはあったけれど、グラハムさんの様子を見る限り、早急にここを離れなければならないという状況ではないらしいと 判断した僕は、トイレに行ってきますとだけ言って保健室の外に出た。 僕は、二人の邪魔をするほど野暮ではない。 グラハムさんと天江じゃ、あんなことやこんなことをする展開にはならないだろうから、五分くらい席を外せば十分だろう。 部屋を出る言い訳だったけれど、本当にトイレに行こう。 ……場所はわからないけれど。 けどまあ、学校のトイレというのはだいたい、その階の真ん中か端っこかのどちらかだろう。 少なくとも、この階を端から端まで歩けばみつかるはずだ。 そんないい加減な当たりをつけて、廊下を歩き、角を曲がり、もう一度角を曲がる。 そこで僕は、酷く現実感に乏しい光景を目の当たりにした。 「……き」 言葉につまる。 目の前に在るものが危険か、いや現実かそうでないかを断じられない。 「ふむ」 だけど僕の立場、いや僕達の立場から見れば、目前のものはあまりに剣呑だったのだ。 「最初に出会ったのは貴方ですか」 その、妙に重厚な声。 目前に立つ二人の男女。 慇懃に話しかけてきた、首輪の無い、初対面の男は勿論のこと。 「お前……!?」 その男の隣で、無機質な視線を向けてくるあいつは忘れもしない。 インデックスと名乗った。あの少女。 主催者が、目の前にいる。 正直言って、一介の男子高校生にすぎない僕の頭では処理仕切れないくらい、唐突過ぎる展開だった。 「お前ら、なんだ? 主催者連中が……いったい何の用だ?」 じり、と。 一歩を引きながら険悪を隠さず言い放つ。 実際にこの目で見ているのだからこれは現実だろうし、そして経験上、こいつらが出張ってきた時にはロクなことにならない。 そもそもこいつら、いったいいつ、どうやって入ってきたんだ。 というか、枢木は何をやってるんだ。 枢木一人でこの学校全体をカバーできないことくらいわかっているけれど、それでも思わずにいられない。 この状況、僕一人でなんとかしろって、それは無理だろ…… 「申し遅れました。私の名はディートハルト・リート。 こちらの少女は……今さら説明の必要はありませんね」 やはり慇懃に名乗る男を見ても、僕の警戒心は緩まない。 むしろ強まるばかりだった。 男だけが一歩、こちらに進み出てくる。 「阿良々木暦」 僕も同時に一歩引きかけて、踏みとどまった。 自覚しろ。 いま僕は、対応を迫られている。 きっと、間違えてはならない選択肢が目の前に在るのだ。 「く、そっ」 何を考えてるかは知らないが、「何か」をさせるわけにはいかない。 こうなったら先手必勝か、と。 攻勢を即断し。 決めた僕が引きそうになった足を戻し一歩、前に出た。 「単刀直入に言う」 その時、だった。 男の行為と言葉によって、僕は出鼻を挫かれることになる。 「ここに我々は――」 「へ?」 なぜならそれは、深く低く、瞬く間もない速度の、 「君たちへの亡命を申し込む……!」 土下座だった。 この僕をして、見惚れてしまいそうなくらい、見事な土下座だった。 ビジネスとか、キャリアとか、ハードな世界を生き抜いてきた貫禄を放つ。 King of DOGEZAを名乗るに相応しい土下座だった。 とか、そんな事は心の底からどうでもよくて。 「は、はぁ!?」 すっとんきょうな声を上げてしまった僕に、ディートハルトと名乗った男は畳み掛けてくる。 「我々の立場を思えば、君たちにこんなことを言うのはあまりに恥知らず……! 承知している。だが君たちしか頼める者はいないのだ! どうか我々を助けてほしい。代わりに我々は、君たちを全力で支援しよう!」 「い、いや、ちょ、ちょっと待てよ、おい!」 突然の申し出に、僕は怒っていいのか、喜べばいいのかも分からずに、ただ困惑した。 事のベクトルは変わったが、なんにせよ僕一人で対応しにくいのは変わらない。 こいつはいったいなんなんだ? 「頼む……頼む!!」 「いや、だから、ああもう!」 何の答えも結論も見出せないまま、ただただ困惑する男子高校生がそこにはいた。 ていうか、それも僕だった。 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ 黒いスーツを着た男、 ディートハルト・リートは突き刺さる視線を受けとめながら、重たい声で本題を切り出した。 「交渉材料は二つ」 この場に立つ三者の視線、それぞれ微妙に異なる険悪がある。 「まず、我々が所持する物資。全て無償で譲渡します」 憤怒、 不快、 不信、 三様の刺がディートハルトに突き刺さる。 「次に情報。私の知る限りのすべてを話しましょう」 阿良々木暦、枢木スザク、そして激戦から帰ったばかりのグラハム・エーカー。 未だ枷に囚われし者達の憤怒を込めた、眼光。 「後は、あなた方の心情面。我々を受け容れられるか、それ一つだ」 それに焼かれることを、恐れぬように。 「――さあ、答えを聞かせて頂きたい」 神の域から逃れ降りた男は、地で留まる者達へと、選択を委ねていた。 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ 「さて、どうするか。いや、どうするかなど、考える事も無いのだろうな……」 「……ええ確かに。彼の語った情報と、物資、そして条件すらも、破格の物です。 この状況では、一見して迷う余地の無い根拠を持っている」 ディートハルトとインデックス、そして阿良々木暦の姿が消えた教室の中で、 二人残ったスザクとグラハムは決断を下そうとしていた。 「僕は彼を知っている。ディートハルト・リートは確かに、ルルーシュの部下だった男だ。 ルルーシュから聞いた彼の経緯と、そして彼自身が語った事柄の推移を合わせれば、 少なくとも彼はルルーシュが危険に晒される真似はしない。 彼と自身の生還を求めるならば、ディートハルトにとって僕等への協力は、十分に考えられる選択肢だ」 スザクは目の前に集められた物、ペリカと呼ばれる紙幣の束と、グラハムが式から預かったペリカードを見つめながら言った。 「彼が持ってきた三千万と、僕らが元々所持していた約八千万を合わせて、全部で約一億一千ペリカ。 両儀式の情報通りなら、これだけあれば僕は『腕』を手に入れることが可能です」 その口調は、しかし安堵を込めたものではなく、グラハムはスザクの態度に僅かな違和感を覚えた。 「……きっと僕達に奮戦を望むと、主催者であるリボンズ・アルマークの破滅を願うという彼の言葉は、嘘ではない。 嘘であったところで、僕たちに選択権は無い」 先程、あの男が語ったことの意味。 頭の低い姿勢であったディートハルトであったが、結局のところイニシアチブは終始一貫してあちらにあった。 情報を持っているか、持っていないかの差。 欲しいものを持っているか、持っていないかの差。 信用できなくとも、要求を呑まざるをえない、状況。 つまりはそういうことなのだ。 今この時、この圧倒的劣勢たる状況で、グラハム達はディートハルトの協力を拒否する手など、打てない。 いくら機械の兵器を手にしようと、純然たる戦力差は覆らない。 参加者同士の戦いであってすら未だに優位に立てない現状で、どうやって主催を滅ぼすのか。 戦う手段を得たところで、勝ちは拾えない。 抵抗は抵抗に過ぎないのだ。 故に、気に食わないからと、胡散臭いからと、差し伸べられた手を払うことはできないのだ。 僅かに見える希望の光があるならば、いかに不穏な糸でも手繰るに決まっている。 しかも今回は、相手はスザクの既知の人物。 その上、実際に無償の支援は行われている。これは今までの主催の悪辣な罠とは一線を画していた。 「ですが……やはり、どこか解せない」 「そうだな」 声の苦い響きは、グラハムの口調にも共通した事柄だった。 「奴には裏がある。……いや、裏とは少し違うな。奴は確かに嘘を言ってはいないだろう。 だが全てを語ってはいない。と、私は見ている。 何故なら、我々を支援する意志が本当であろうと、主催を滅する意志が本物であろうと、 奴はまだ……奴自身の狙いを正確に語っていない」 提出された品々を見、彼らは共通の思いを抱いていた。 破格、だが同時に、キナ臭い話だ、と。 ディートハルトが語ったことは主催の枠組みの解説であり、正体の見えない敵を型にはめることを意味する。 あちら側と、こちら側。階層に分かれた組織体系。 シスターズという端末。 数ある並行世界の召集。 そしてなによりも、『リボンズ・アルマーク』という、名前。 この情報が齎した効果は絶大だった。 この時、この瞬間より、敵は『主催』などと言った漠然なものでなく、『リボンズ・アルマーク』という確固たる存在に定められたのだ。 倒すべき敵。 破壊するべき目標。 これを型にはめた今、途方も無い存在という絶望は、限りなく薄まる。 そして同時に、ディートハルトにもまた主催ではなく、ディートハルトという個人の解釈が行われる。 総合的に論理的に、事は進められるのだ。 だから今や『主催者』という漠然かつ強大な存在ではなく、あくまでディートハルトという存在を図る上で、 やはり信用は出来ないと、二人は断じた。 これはおそらく、反対も賛成も論じずにディートハルトの見張りを買って出た阿良々木暦も感じていた違和であろう。 「ええ、彼は、きっと純粋な味方などではありえない。 たとえ主催者を倒すことが共通の認識だろうと、僕達がどうなるのかまでは、範疇じゃない。 彼は命を狙われたから、死にたくないから逃げてきたと言う。 だけど彼はきっとそれだけじゃない。そんな俗なタイプじゃないと、僕は聞いている」 「奴には奴なりの目的があると?」 「おそらく、ルルーシュが絡んでいる可能性が高いですが……僕達は利用されているだけかもしれません」 「そうだな」 グラハムは諦めたように言って、立ち上がった。 「とはいえ結局は、進むしかない」 スザクも立ち上がる。 「ええ。僕には守らなければならない約束がある。ここで立ち止まるわけにはいきません」 彼等はその手に、前進の為の糧を一つ、掴んでいた。 正体の見えない希望、それでも進むために。 「我々の最終目標が違うことは前に話した通りだ。 私は私が守ると決めたものを守る。他の者達も、それぞれに戦う理由を持っている。 君はあくまで、君が守るべき者を守る為に戦えばいい。 君に、我々のために死ねなど言わない。私も、君のために死ぬつもりはない」 「僕は僕の戦いを。貴方は貴方の戦いを」 「そういうことだ。君は君の守るべきものを守る為に戦い、生きればいい」 教室を出る、スザクとグラハムは共に決めていた。 希望の形がこちらを利用しようとするならば、こちらも利用するまでだ。 決して、食い物にはされない。 今はただ前に進むこと、それを憶えていればいい。 「ただ、そのために生き延びる。 生きて倒すべき敵を倒すこと。我々に共通する一点だ」 「だから、『そのときが来るまでは』、僕達は協力できる。――異論はありません」 いつか、近い将来において、互いの優先順位の違いが現れる事もあるだろう。 その時は後腐れなく、互いの第一目標を優先しよう、と。 既にその協定は結ばれている。 故に、二人の言葉に淀みは既にない。 行くと決めた以上、立ち上がった瞬間から迷いはない。 「それでは、僕は校内の見回りを。式をみつけたら声をかけておきます。貴方は?」 「放送後すぐに出発できるよう、エピオンの整備に向かう」 各々、次の一歩に向けて動き出す。 しかし彼らには一つだけ、知りえていない事実があった。 グラハム・エーカーの言葉は概ね正しい。 彼がどれほどの意識をもって発言したのかは定かではないが。 グラハムの読みの通り、ディートハルトがあえて言わなかった幾つかの事柄の中で最も重大な一点がある。 それは時間が無い、ということだ。 しかしここで言う残り時間とは、如何なる意味での猶予なのか。 戦いを続ける上で、もうじき戻れないところに差し掛かっているという意味か。 天江衣の命が、残り僅かしかないという意味か。 それとも、真なる脅威の到来が、参加者の誰にとっても間近に迫っていると。 いずれにせよ今の彼らに、答えを出すことは叶わない。 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ グラハムさんと枢木が話し合いをしている間、僕はディートハルトとインデックスの見張りをしつつ 天江から、あの場で起こった出来事の顛末を聞いていた。 二人の再会の邪魔にならないようにと気を利かせたつもりが、天江一人にグラハムさんから辛い話を聞き、 それを僕に話すという役割を担わせることになっているのだから、裏目もいいところだ。 しかも天江は、涙ひとつ僕には見せない。 白井が死んだという話の内容もだけれどそれ以上に、僕は自分の不甲斐なさに泣きたくなった。 「それで、式は?」 「校舎内のどこかにいるそうだ。あんなデカい物が動けばわかるから出発の時に合流すると言っていた、とグラハムが言っていた」 僕等が話している間にグラハムさん達の話し合いも終わる。 二人の出した結論は、インデックスとディートハルト・リートの提案を飲み、彼等を同行させるというものだった。 僕はひとことの異論も挟まず、その決断を受け入れた。 そして、今。 僕は、天江とインデックス、それから枢木から離れてくっついてきた猫二匹と一緒に校舎の三階にいた。 放送まで校舎内の見回りをしながら式を探すと言う枢木に、天江が自分も見回りをすると言いだしたからだ。 勿論、僕もグラハムさんも出発まで休んでいろと止めたのだけれど、天江は聞かなかった。 「衣にも、それくらいはできるぞ!」 そう言った天江は、何故か追い詰められたような顔をしていて、結局僕等は天江を止め切れずに今に至る。 三階が天江の担当として振り分けられたのは、校舎内では比較的危険が少ない部類だと枢木が判断したからだ。 職員室の中には入らないように、と枢木に言われた時点で、 天江が、ここが既に枢木が点検済みだと気づいたかどうかはわからないが、気づいていたとしても触れるつもりはないらしかった。 それにしたって、この組み合わせはなんなんだろう。 校舎の見回りをする天江と、その横を歩くインデックス。 天江が強引にインデックスを引っ張っているように見えなくもない。というか、強引に引っ張っていた。 その少し後ろを歩く僕がしていることと言えば、見回りというよりも、天江の保護者兼インデックスの監視役だ。 ちなみに、枢木はディートハルトと一緒に別の場所を見回り中、グラハムさんはエピオンの整備にあたっている。 「ここも誰もいないようだな」 「そのようですね」 「……何も無いな」 「そのようです」 インデックスと、成立しているのかどうかよくわからない会話をしながら歩いていた天江の足が不意に止まる。 彼女の見つめる先には一枚の扉。その上に取り付けられた『職員室』のプレート。 そこは駄目だって枢木が言ってただろ―――僕がそう言うよりも先に、天江は扉を開けていた。 「おい、天江……!?」 考えてみれば、わかることだったろう。 冷えきった空気から気づきにくいが、ここには過去に起きた戦闘の跡が各所に見られる。 戦闘があったのなら、その結果として残るものがあるはずだ。 そして、地面にこびりついたような―――厭な臭い。 その部屋に何があるかなど、一考で瞭然だというのに。 散乱した室内。 破壊された教室。 ばらばらの手足。 ばらばらの胴体。 ばらばらの内臓。 ばらばらの頭。 もう人間とはいえない、けれど間違いなく人間だったもの。 硬く固まったボロ雑巾を無理やり絞った結果、捩じ切れてしまった残骸。 浅上藤乃という少女の、罪のカタチがそこにはあった。 「……鶴賀の大将だ。名を加治木ゆみという」 呟いた天江を、僕は見る。 悲鳴をあげるでもなく、天江はまっすぐに加治木の死体を見つめていた。 天江はたぶん、ここに何があるのか予想していたのだろう。そんな気がした。 「知ってるのか?」 「共に卓を囲み、麻雀をした」 「そうか」 「阿良々木は東横に会ったことがあるのだろう?」 「ああ、あるよ」 「彼女は東横の先輩にあたる人物だ」 「うん」 「……阿良々木」 「なんだ?」 天江が僕を見る。 それは僕が今まで見たことのない、天江衣だった。 「東横は、ここに来たのだろうか?」 天江の問いに、僕は答えられなかった。 おそらく、東横はルルーシュ達と一緒にこの学校に来たんだろう。 もしかしたら、加治木の死が告げられた最初の放送よりも前にここを訪れ、この死体を見たかもしれない。 人を殺してもいいと思えるほどの存在の死を、しかもこんな残虐で不自然な死を目の当たりにして、東横は何を思ったのか。 それを考えると、言葉は出てこなかった。 「……阿良々木に訊いてわかることではないな。忘れてほしい」 それだけ言って一人で歩きだした天江を、僕はあわてて呼び止める。 「衣はグラハムの所へ行く。……一人でも、大丈夫だ」 僕の方を振り返ることさえせずに言うだけ言って、天江は走りだした。猫達が後を追う。 知人の惨殺死体を目にした、それは、予め覚悟をしていたことだとしてもショッキングに違いない。 この場から逃げ出したところで咎められるいわれもない。 だがこの感じはなんだ? 何かが腑に落ちない。僕の中で構築されていた天江衣というキャラクターにズレが生じている。 いや、今はそんなことよりも、早く天江を追いかけないと。 「待ってください」 一歩踏み出した僕の背後から声がかかる。 振り返るとインデックスが僕を見ていた。 そういや、こいつが自分から誰かに話しかけるのって、これが初めてじゃないか? 「なんだよ、今は天江を追わないと」 「―――今しか機会はないので、あなたに伝えておきます」 「え?」 唐突だった。 亡命宣言から終始無言だったインデックスが唐突に話しかけてきた。 このタイミングでしかない会話とはいったいなにか。 校舎の廊下。 二人きり。 男と女。 澄み切った空気。 静寂が包み込む。 息を呑む。 楽器のように声は上がる。 「今から約一時間半後に、天江衣の首輪は爆破されます」 刹那の沈黙の後、五回目の放送が始まる。 原村和の声が響く中、呆然と立ち尽くすことしかできない愚かで無力な男子高校生がそこにはいた。 ていうか、それが僕だった。 【天江衣の借金返済期限まで――残り 01 31 28】 【E-2/学校/二日目/朝】 【阿良々木暦@化物語】 [状態]:疲労(小) 、手足に火傷のようなダメージ(治療中) [服装]:直江津高校男子制服(破損:大) [装備]:ベレッタM1934(5/8) [道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実 ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、RPG-7(グレネード弾×2、煙幕玉×2付属)、衛宮邸土蔵で集めた品多数 軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki、レイのレシーバー@ガン×ソード [思考] 基本:個人の意思としてこのゲームから生きて脱出。 1:天江の首輪が爆発する……? 2:ルルーシュ達との確執は最大限妥協。憂の事は……。 【天江衣@咲-saki-】 [状態]:首輪爆発まであと1時間31分(現在の負債:4億ペリカ)、頭部に負傷(応急手当済)、血液300ccマイナス [服装]:いつもの私服 [装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス、スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん! [道具]:麻雀牌セット、エトペン@咲-Saki-、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20 ペリカード、血液300cc [思考] 基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。 1:みんなに何かを返したい 2:インデックスと友達になりたい 3:東横を止めたい [備考] ※7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。 【両儀式@空の境界】 [状態]:疲労(小)、切り傷多数(処置済み) [服装]:白い和服(損傷:中) [装備]:ペーパーナイフ×3、鬼神丸国重@現実 [道具]:基本支給品一式×7(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0~1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実、USBメモリ@現実、ティーセット@けいおん! ルイスの薬剤@ガンダムOO、特上寿司×37@現実、空のワインボトル×2@現実 ピザ×8@現実、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、麻酔注射器、痛み止め、 落下杖(故障)、伊達政宗の眼帯、基本支給品外の薬数種類@現地調達 [思考] 基本:識の夢を守りたい。 1:いまはこの集団についていく。 2:澪との約束は……。 3:首輪は出来るなら外したい。 【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】 [状態]:疲労(小)、全身にガラスによる刺し傷(処置済み) [服装]:ユニオンの制服(破損:小) [装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、予備弾×30 、 レイのレシーバー@ガン×ソード [道具]:基本支給品一式、サザーランドのキー、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、 ゼクスの手紙、RPG-7(グレネード弾×3、煙幕玉×2付属)、双眼鏡、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、 ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実、ミネラルウォーター@現実×15 ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、包帯(20m)×3、 『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子、治療に使えそうなもの(1万ペリカ分) [機動兵器] OZ-13MS ガンダムエピオン [思考] 基本:断固として殺し合いには乗らない。主催の思惑を潰す。 1:放送後、ルルーシュの集団へ向かう。 2:ルルーシュ(とスザク)には最大限の譲歩を。 3:天江衣をゲームから脱出させる。 【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 [状態]:疲労(小)、左腕切断(処置済) [服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し) [装備]:GN拳銃(E残量:小)、アゾット剣@Fate/stay night 、アーサー@コードギアスR2 [道具]:基本支給品一式×2、鉈@現実、イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4 シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実、M67破片手榴弾×2@現実、シャベル@現実 軽音部のラジカセ@けいおん、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実 サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20)、5757万ペリカ、ペリカード(残金5100万ペリカ) [機動兵器]Z-01Zランスロット・アルビオン [思考] 基本:ナイトオブゼロとして、ゼロレクイエムを完遂する 1:ルルーシュとの合流を急ぐ。 2:対立が決定的ならルルーシュに付く。 3:ショッピングセンターで義手をとりつけたい。 4:ディートハルトの動向と思惑に注意。 5:ユフィの願いは忘れない。 【ディートハルト・リート@コードギアス 反逆のルルーシュ】 [状態]:健康 [服装]:スーツ [装備]:FN P90 [道具]:ノートPC [思考] 基本:ゼロを勝者とする。 1:この集団を利用してルルーシュを援護する。 [備考] ※所有していた三千万ペリカを譲渡しました。 【インデックス@とある魔術の禁書目録】 [状態]:ペンデックス? [服装]:歩く教会 [思考] 基本:??? 1:??? 時系列順で読む Back プロローグ/モノローグ Next 優&愛(前編) 投下順で読む Back プロローグ/モノローグ Next 優&愛(前編) 291 BRAVE SAGA『希望』 阿良々木暦 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 291 BRAVE SAGA『希望』 天江衣 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 291 BRAVE SAGA『希望』 両儀式 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 291 BRAVE SAGA『希望』 グラハム・エーカー 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 291 BRAVE SAGA『希望』 枢木スザク 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 294 プロローグ/モノローグ ディートハルト・リート 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編) 294 プロローグ/モノローグ インデックス 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(前編)
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ひとりにひとつ ◆zsYinY96dc 煙を吐かない煙突とがらんどうの倉庫と灯を消した工場を電線が縦横無尽に結ぶ工業地帯 そこに太陽に向かって大音量を響かせながら爆走する一台のトレーラーがあった 操るはOZ元総帥トレーズ・クシュリナーダ 身に付けるはゼロの仮面 響くは日本の魂「演歌」 早朝にかけて走らせていたが 曲がりくねり交互に入り組む工業地帯独特の複雑怪奇な道は トレーラーの巨体もあって万能の天才である総帥すらも大いに悩ませたが ようやくと大通りに出たため今は気ままな爆走状態である そして天才はいかなるときもリラックスする術を失わない 過度の緊張は人を疲労させ正しい判断を失わせる事を知っているからだ リラックスする方法は状況により異なる 最善はもちろん睡眠をとること 次に入浴、音楽・映画、人によってはプラモデルを組み立てたり よりアグレッシヴに柔軟体操、T字バランスを取るものも居よう そしてトレーラーなどの大型車両を走らせる際は大音量で音楽を聴く コレが一番のリラックス法だ このトレーラーの持ち主もそれは心得ていたようで ダッシュボードの中は演歌の音楽データで満ち満ちていた これだけのデータがあれば長距離を移動するには全く不自由はない しかも全てが珠玉の傑作選 ことにフェニックスといわれた女性の唄はどれも心を打つものばかりであった 兵たちのリラックス法として各MS内にこのデータを入れてもいいかもしれない ソウルフルな演歌はマーチにぴったりであろう 第一回放送が始まったのはそんな時だった そして数分後、トレーズはハンドルを人差し指で神経質に叩いたのちに やや硬めにハンドルを握りまたトレーラーを走らせた ◇ 福路は線路の上を歩いていた 暖かな日の光が背中を射してほこほこする 夜の霜によってすっかり冷え切った身体を暖めながら振り返って駅を見る 胸に抱かれた六本の刀 コレを政宗に届けるとの決意を確認するために コレを託した小十郎を思い返すために 何も出来ない自分をこの絶望的な状況の中守ってくれた人に感謝するために そして守ってくれた人は既に居ないという現実を受け止めるために 駅に向きかえって頭を下げる そしてまた振り返り風越の泣き虫キャプテンは歩き始める 第一回放送が始まったのはそんな時だった 名簿外の12人の中に自分の見知った名前は無かった 不謹慎ではあるが福路は豊かな胸を手で抑え、ほぅとひと息をついた 「―――今回の放送帯での死亡者を発表させて頂きます。 」 栗色の髪の少女は白い指を組みながらうつむいて一心不乱に祈る 「華菜だけは…上埜さんだけは…どうか…お願い…!」 我ながら身勝手な願いだと思う しかし、だからこそ、その願いは真摯であった だが 「―――【池田華菜】―――」 全身の力が抜けたように膝から落ちる 組んでいた指もほどけダラリと肩からぶらんと腕が下がる 全身の血が引いたかのようにただでさえ白い顔が死人かのようにさらに真っ白になる そしてそんな彼女をあざ笑うかのようにあどけない少女の声は続ける 「―――【竹井久】 ―――」 瞬間、線路の砂利の上に膝を打ちつけ、額をグリグリと押し付ける ガンッガンッと枕木に無差別に頭を打ちつける音が響き渡り 黒子がやる気を放棄した人形のようにでたらめに腕足首髪をぶん回す 「あはははははははははははははははははははははははは!!!!!!! よかった『 上 埜 さ ん 』じゃない!やったわよ華菜アアアアアア! だって上埜さんのはずが無いじゃない! だって上埜さんのこと私はずっと!!!ずっとよ?! ずっとだってずっとずっと三年!三年の間ずっと! 華菜聞いて!上埜さんは無事!だって死んじゃったのは『 竹 井 さ ん 』だもの! やったあああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!! 華菜ぁ!華菜ァ!聞いてぇ!聞いてよ華菜ァ!!!何で返事をしないの華菜! あ、そっかぁ!華菜も死んじゃったんだっけ!!!!!!!!! はははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」 線路の上で血まみれになりながらダラリと腕を下ろし 背中をのけぞらせながら中天に向かって奇声を発す、 人間であったものがそこに跪いていた 精神的な疲労の果てにぐったりとした福路はなおも続く放送を聞き流していた そして死亡者リストの中に小十郎の名前があがっていることを確認すると 砂利と土と擦り傷と血でぐちゃぐちゃになった顔に大粒の涙が流れた 一番大事にしていた人も 一番大切にしていた人も 自分を身をもって守ってくれると言ってくれた人も もう、この世にはいない 空気を読まず天と地を燦燦と照らす太陽の下 右目を閉ざした少女は枕木に額を押し付けて嗚咽に喉を枯らす 心の虚は巨大化して胸のブラックホールに自身の四肢が飲み込まれていく 嘆く言葉すら思いつかない ただ声にならないうめき声を上げながら身を右に左によじる 「…どうして…どうして私の大切な人ばかりがどうしてどうして死んでしまうの…」 ようやく口をついたのは今まででは思いもつかないただの愚痴 しかしそれが思考の口火となった ―――死ぬ…いや『殺された』のだ このくだらないゲームに殺されたのだ 福路の中で殺意が芽生えた それはふつふつと湧き上がる怒りの中であっという間に生長し 福路の腕を首を腰を柔らかな胸を豊かな太ももを縛り付ける 『 殺 す 』 少女の目に生気が戻る 殺す 今まで考えたことも口に出したことも無い言葉 殺す ここに送り込まれて以降封印してきた恐ろしい、忌避してきた言葉 殺す しかしなんと甘露な甘美な響きであろうか 「殺す!」 福路の顔に笑顔が戻る 下級生たちに絶えず見せてきた満点の暖かい笑顔 目標を見つけたからにはぐずぐずしていられない 足元に散乱した刀を拾い集めると線路から駆け下り倉庫に向かって走り出した 大通りに差し掛かったところで福路は強力な光を浴びた 爆音とともに巨大な小山が猛烈な勢いですぐ目の前まで近づいてくる 唐突に圧倒的な質量を持って迫り来る死を前に風越のキャプテンは やっぱりスローモーションのように映るものなのね と妙に感心し六本の刀を胸に、立ち尽くしていた 運転席の人、仮面をかぶってる きっと前方不注意ね。 殺意をもっての暴走じゃなくてただの事故なのでしょうか 逆光だから反応が遅れたのかも コレはトラック?いえ、やたらと頑丈でそして今まで見たどんなものより大きい こんな大きいのは無理 ピカピカに整備されてるからきっとこの車の持ち主は車が大好きなのね それにしてもビームが上を向いてるのはなんででしょうか あぁそうか線路を乗り越えるつもりだったのね それにしても眩しい… 世界全てが真っ白に塗りつぶされていく中 福路美穂子は取り留めのない思考をめぐらせるのをやめた コレでもう狂う必要もなくなる 「華菜…上埜さん…待たせてしまってごめんなさい…今行きます…」 殺到してくる”死”に片目の少女はその身を委ねた ◇ トレーラーを運転するトレーズはいつに無く無口であった 思考も纏まらず堂々巡り これでは壊れたレコード盤、終わらないワルツを踊る間抜けな舞踏会だ なにをそんなに混乱する必要があるのか 目の前に小高い丘が見えた。位置からしてこれが地図を横断する線路であろう ふとステレオをミュートにしたままだったのを思い出し演歌をまた流しだす 前方の注意を逸らしたのはほんの刹那であった 普段の彼なら決して犯さないであろうミス だがその刹那に唐突に目の前に黒い影が飛び込んできた とっさにハンドルを切り横転しかねないほどにブレーキを踏む けたたましい音を立て道路に黒い軌跡を残しつつトレーラーは止まった ■ ふと気がつくと福路は麻雀卓の前に居た 周囲を見渡すと間違いなくここは風越の麻雀部部室 十卓以上が立ち並ぶ部室の中は騒然としていて卓の中の声しか聞こえない 周りに流されること無く麻雀に集中できるすばらしい場所 そして日々の戦績がそのままランキングに直結する激しいせめぎ合いの場 福路の対家に座るのは… 「上埜さん?!」 思わず立ち上がり叫んでしまう 目の前にいるのは紛れも無くおさげを結った竹井久 しかしその身に包むのは清澄高校の制服ではなく…風越の制服 「どうしたの、美穂子。さぁもう半荘いくわよ」 竹井にそう薦められると片目の少女は腰を落ち着かせ頬を赤らめると胸に手を置いた 心臓の音が手を伝わなくても体中に響く 「この半荘は焼き鳥だったから…でも今度こそ和了るわよ~」 闘志をむき出しにして、それでも微笑を浮かべて竹井が宣言する 「一度も和了れないなんて竹井さんらしくもない」 福路もまた微笑み返す 卓の中央に牌を入れ洗牌する。同時に卓上に牌山がせりあがる ―――楽しい 素直にこの空間がいとおしく思った 「そうねぇ…でも」 牌を四つ取りながら竹井が切り出す 「不死鳥はその身を焼き滅ぼして、その炎から新しく生まれ変わり飛び立つのよ」 福路もまた牌をちょんちょんと取りながら答える 「そう簡単には行きませんよ?私も負けませんから」 理牌して手元を見る (あら?) 牌が読めない。白牌ばかりという意味ではない。読めないのだ 困惑する福路を見て竹井が神妙な顔で言う 「知ってる?夢の中では新聞って…読めないのよね」 瞬間全てが崩れ去りあたりは上も下も分からない真っ暗な空間が広がるだけになる ここに居るのは体中に血がこびりつき、髪も振り乱して六本の刀を腕に抱いた福路と 清澄の制服を身につけたいつもの竹井のみ 「お互い、本当にもう交わることさえ出来ない所まで…来てしまったのですね」 血塗られた腕を交差して胸に押し付ける。直前までの幸せも先刻までの狂気ももうそこにはない 「そうね…自棄(やけ)になって危険牌を振り込むような人とは一緒に卓を囲みたくも無いわ」 ―――やはり私のことを怒っている ―――ゲームに乗ろうとした私を許せないんだ 第一放送を聴いたときとはまた違った、そしてそれ以上の絶望感が福路の足元をぐらぐらと揺らす そんな福路を見やりながら竹井は微笑みながら人差し指を傾ける 「でもまだ終わりじゃない。あなたにはまだ点棒が残ってる あなたの所の池田って子は持ち点が0になってから頑張ったじゃない それに比べたらまだリーチが出来るだけ希望はあるわよ」 無茶苦茶な慰め方だが福路にとっては竹井がまだ自分を見捨ててないという事実が重要だった 「ここからまた飛びたてるのでしょうか?」 嬉しさと悲しさが交差して何が何やら分からない。自然と涙が零れてきた 竹井は福路の涙を指で掬うと、右手を取る 「出来るわ。だってあなた名門風越のキャプテンじゃない」 そこで景色が光に包まれていった。竹井の姿も光の中に消え去っていく 「待って上埜さん!わたしは―――!」 福路は光に向かって叫ぶ 「もう一局だけでもいいから、あなたと打ちたかった…っ」 あとはもう光しか見えなかった ■ 「"ゼロ"であるならばあのまま轢殺するべきだったのかもしれないな」 剣をしっかりと抱きしめながらベッドの上で気絶している少女を肩越しに見つつ仮面を脱ぐ しかしそれはエレガントではない トレーズにとって理由はそれだけで十分だった トレーラーの巨体を縦横無尽に暴れさせたため周囲に甚大な被害を及ぼしたが 彼の矜持を守ることにはどうやら成功したらしい 少女の身体は血まみれではあるが、その多くは額からの出血であり おでこにバッテン印を作るだけで怪我の処置は済んだ むしろ予想以上に血を失っているらしく輸血作業に時間をとった 適応する保存期間内の血液があった事は僥倖という他ない 「上埜さん…」 何度となく少女が呟く 参加者リストに名前がないことからおそらくは少女の恋人であろう なんにせよ、彼女が意識を取り戻さないことにはどうしようもない 全てはこのスリーピングビューティの本質を見極めてからだ ふと少女の瞳に涙が浮かんだ為それをスッと指で掬う 「う…ん…」 どうやら気がついたようだ まるでおとぎ話そのものだな 微笑しゼロの仮面とマントをカーテンの内に隠す ◇ ―――シャワーを浴びるのはいつくらいぶりだろう そう考えてつい先日合宿所で露天風呂に入ったばかりだということに気づいた もはやものすごく遠くのことのような気がして愕然とする 多くのことが片目の少女の周りで起き続けていた カッターナイフとホッチキスの少女・小十郎との出会い…別れ 眼帯の女性・そして池田と竹井の死 たった六時間。麻雀にして6半荘。一日の学校生活にも満たない時間 急激な変化はしかし受け入れるしかない現実として福路に突きつけられ続けている 一旦精神の平衡を崩してしまった片目の少女は、だが今では冷静さを取り戻していた ―――あんな夢を見るということはやっぱり私は殺し合いを望んでいないってことだわ 夢が天からの差し出し物だというロマンチシズムを横に置くと 所詮夢は自分の中の考えを投影したものでしかない 判断材料を集め最良の選択をし続ける それが麻雀でいう推し引きであり 風越のキャプテンはその選択において、おそらくは世界でも最高峰のセンスを持っていた そこに対してある程度の自負はある だからこそ竹井に夢の中であんな台詞―名門風越のキャプテン―を言わせたのだ、と ―――でも風越の制服を着た上埜さん、可愛かったな 微笑を浮かべながら身体についた泡をくまなく洗い流しシャワーの栓を締める 自分の中の考えは決まった 何のことは無い。今まで通りだ 殺し合いには乗らない 政宗に刀を返す 全員が帰ることの出来る手段を探す あとは自分を保護してくれたトレーズというあの青年についてだ 目に付いた人間全てを殺すという人には見えなかった 殺そうとすればいつでも殺せるはずだった自分を保護した点から言ってもコレは間違いない 身のこなしから言って小十郎と同じく軍人、それも物腰から言ってかなり偉い人だろう 身の起こし方の不自然さから過去に大怪我を、それも命に関わる重傷を負っている 隙なく自分を観察していたあの瞳から見て元々は慎重な人物なのだろう 動作の端々から動揺が見られたから、もしかしたら既に見知った人を失っているのかも とにかくも彼に対して自分の出来ることなどたかが知れている だが問答無用で殺されることは、無い なら彼の質問には全て真摯に、自分の知っていることを全部伝えるべきだろう 脱衣所には黒を基調とした服と白い布地が置いてあった やたらとボディラインを強調した服だがそれは問題ない 福路にとって不思議だったのは白い布地だ 「なにかしら?穴が三つ開いてるけど…髪留め?」 かなり伸縮性のある布らしく、見た目小さいその布地は片腕一本分には伸びた しげしげと眺めた挙句布地はとりあえず無視することにする ブラジャーが無いことには大変なことになるので やや残念ではあるが今まで着けていたものを使うことにした ―――それにしても 手のひらの小さな布地を見つめて思う 「かなり風習の違う世界の人なのでしょうか?」 ■ ソファーに腰掛け談笑する一組の男女 年の差は見受けられるものの傍から見れば恋人同士に見えるかもしれない 「なるほど、君の世界では日本麻雀が世界的な競技になっているのか」 「閣下の世界では取るに足らない遊戯なんですね、私にはそのほうが驚きです」 紅茶と基本支給品の中にあった軽く温めたマフィンを肴に 互いの認識を埋めあう姿もまた恋人同士に見えるかもしれない 「竹井君や、池田君、片倉君には気の毒なことをした」 トレーズが爆弾に手をかけた 「閣下も大切な方を亡くされたようで…」 目を伏せて福路はジョーカーを切った 片目の少女の洞察力については今までの会話で理解している いきなり自分を閣下と呼び、世間話から切り出すソツの無さは驚嘆に値する だが自分の動揺までも把握されていたとは意外だった 「リリーナ・ピースクラフト、か」 天井の照明設備に視線を逸らし考えをめぐらす振りをする その死が自分にこれほどの動揺を与えていた事自体が驚きだった だが他にこの動揺を表しうる事象は無い ―――あと敢えて言えば目の前の少女だが 彼女の説く完全平和主義が絵空事ではなく胸中で共感を得ていたのか 確かに彼女亡き後の世界を考えると如何様にしても纏まるものも纏まらない ―――自分はいつしか彼女の存在を機軸にして構想を練っていたのだな 対主催の流れを画策する彼にとって死者の蘇生は既に計画の外のこととなっている 五飛たちのいずれかが生還したのちの地球圏について 彼らになんらかのアドヴァイスを送るべきだろう 「大切、というほどのものでもない。ただ、あとの始末が面倒だというだけだ」 視線を戻し、あらかじめ用意していた台詞を出す ◇ 「嘘、ですね」 重要な局面での手牌からの即切りは下家にプレッシャーを与える手段として 初級~中級者には有効ではある ただし上級者相手ではただ単に自分の思考時間を縮める悪手でしかない しかし対話においては畳み掛けに際して有効 今まで獲得したトレーズの癖から手の動きを見抜き右手を両手で包む 「打算だけではないのでしょう?」 ◇ 完全に機先を制された形になったが慌てる必要はない 片目を閉ざした少女に対する自分の優位はゆるぎない 分からないのは何故相手の神経を逆なでしかねない行動をするか、ということだ 人の所作を凝視し、次々と相手の先を読み人の出方を伺う優等生 同級生からはさぞ疎まれたことであろう 哀れには思うがまだ選定は済んでいない なればこちらも続けて爆弾を投下するのみ 「…麻雀部員といったね?実は君に出会う少し前、私はネット麻雀に興じた 対戦相手は誰といったかな…もしかしたら君の知り合いかもしれない」 対面の手を包み込んだまま片目の少女はやや興奮をもって答えた 「誰でしょう?東横さん?それとも天江さんでしょうか」 ―――案の定いまだ生存しているであろう知人の名前を出したか 「いや、アレは確か…竹井だったかな…」 目の前の少女は傍目にも哀れなほどに動揺していた 「もう察しがついてもいいんじゃないかな? この地では全ての行為が、無論遊戯も殺し合いにつながっている 竹井君を、彼を殺したのは私だよ 明確な殺意をもって、ね」 黒いミニスカートを穿いた少女は力なく膝から落ちた ◇ 今この人はなんといったのだろう 『竹井君を殺したのは私』 確かにそう言った ―――なら目の前のこの人は上埜さんの仇?! 福路の左目に殺意の炎が起こった が 『自棄(やけ)になって危険牌を振り込むような人とは一緒に卓を囲みたくも無いわ』 竹井の蔑んだ顔が思い浮かぶ ―――さっき決めたばかりじゃない かぶりを振って邪念を払う 目の前の青年の顔をまじまじと見つめる。自然と右目が開いていく 上埜さんの名前を出したときに奥歯を軽く噛んでいた 今まで見せたことの無い癖…誠実な今までとは全く違う 少なくとも上埜さんの存在、名前は私と出会うまで知らなかったはず なのにわざわざ上埜さんの名前を出したのは私を揺さぶらせたいためで間違いない 揺さぶらせる意図は…こちらの出方を見るため? 意に反した行動に出たときは私を殺すため この人は選別をしているんだ…! ◇ ―――さて、どう出るか 絶望と怒りに縁取られた片目の少女…福路といったか このまま向かってくるようならば見るべきところはない 復讐を諦め恭順を求めてくるようならば兵士として扱おう 妄執を捨て"巨悪"に立ち向かう… 突然目の前の少女が自分の顔を見つめる いつの間にか閉ざしていた右目が開いている ―――しまった 自分の右腕は少女によって自由を奪われている 少女とはいえ六本の日本刀―重量にして10キロはあろう―を軽々と持ち歩く力だ とっさには拘束を外せない もし彼女の右目に特別な超常能力があった場合致命的なことになりかねない 内心冷や汗をかいたトレーズだったが、しかして何も起こらなかった 少女の青い右目は変わらずに自分を見つめている 全てを見透かすかのように 反して自分は何の考えも纏まらない ―――リズムを狂わされたか つっと青い瞳の少女は立ち上がる そのまま隣に移動し…トレーズの顔に自らの胸を押し付けて言う 「なんでも自分で背負い込もうとしないで下さい… なにもかもうまくやろうとしたら、大変なんですから… 私が出来ることならなんでも相談してください…」 暖かな慈雨が降り注ぐ 少女の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていた ◇ ―――この人は自ら悪役に成り下がろうとしている 自分からしてみたら悲しすぎる決意。到底真似出来る事ではない 選別を仕掛けて自ら悪役になり、そして道しるべとして果てるつもりだろう ―――たった一人で 自分を身を挺して護り、そして死んでしまった小十郎の姿がダブる 手段こそ違えどトレーズのやろうとしていることは小十郎と同じである ―――小十郎さんは死のうとしたことは一度もないって言ってたけど 抱きしめる手に力がこもる ―――この人は自ら死地を望んでいる 福路ははらはらと涙を流すことしか出来なかった そして口をついてでたのはかつて池田華菜に対して自分が言った言葉 『先輩ってホント…おせっかいだし…』 そのとき池田が返した言葉を思い出す ―――でもね、華菜。アレはおせっかいじゃないの いよいよ本格的にえづいてしまい呼吸が苦しい ―――あれは私自身に対する愚痴みたいなものだから そう考えが至って改めて認識する 池田華菜という存在に自分を重ねていたことに 鏡映しになったもう一人の自分 それが福路美穂子の中の池田華菜だったのだ そして自らの分身はもうこの世にいない (華菜…華菜…)あとはもう言葉にならない 自らの分身を失った空白を埋めるかのように抱きしめる腕に力を入れる 今度こそ、失ってしまわないように。 トレーズはゆたかな胸に顔を埋めながら今度は本当に思いをめぐらせていた 「貴女はレディアンには、なれない…」 忠実なそして時に冷酷で時に慈愛に満ちた部下の名前を出してしまったのは何故なのか トレーズ自身、分からなかった ■ トレーラーは再び動き出す。朝日に向かって 「ここから北東に行ったところに薬局がある。そこまでは送ろう」 手負いの人間が駆け込むであろう場所にトレーズは案内する マローダー(殺戮者)とゲームに抗うもの―――わが心に刻まれしもの(エングレイヴド) 二者がぶつかり合う殺戮の宴の場と化しているかもしれない だからこそ福路を向かわせる価値があった 「貴方はどうなさるんです?」 福路は再び右目を封印しシーツ一枚を身にまとい身を起こした 下腹部が幸福でズキズキする 「私は反対側に引き返し西側の市街地を周る」 ふと自らの”最大の理解者”を思い出す 「もし張五飛という男に出会ったのならば、よろしく伝えてくれ」 ―――素晴らしい闘志を見せてくれるだろう 「…貴女ともう一度出会ったその時、もし私が道を踏み”正し”ていたのなら そして、その時に至っても私についてきてくれるというのなら そのときこそ貴女をこう呼ぼう。―――レディミホコ、と」 レディミホコ…よくワケが分からないが、その名に含んだ思いが福路には嬉しかった 「はい」 片目の少女は幸せそうな笑顔で受け入れた 「あぁそれと―――」 福路はディバックに入れておいた”それ”を引っ張り出した 「せっかくですけどわたし髪留めをするほど髪が長くないのでお返ししますね」 トレーズは"それ"を後ろ手に受け取り確認した 純白のパンツを ―――やはりこの女性は苦手だ 「文化が違う!」 【E-4/一日目/午前】 【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:健康 [服装]:軍服 [装備]:サブマシンガン、片倉小十郎の日本刀 ゼロの仮面 マント [道具]:基本支給品一式×2、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2 黒の騎士団のトレーラー 、純白のパンツ@現実 [思考] 基本:全ての参加者から忌み嫌われ、恐れられる殺戮者となり、敗者となる。 1:この争いに参加する。生き残るのに相応しい参加者を選定し、それ以外は排除。 2:ゼロの存在を利用する。 3:福路美穂子と再会し殺戮者として殺される [備考] ※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。 【E-4/薬局前/一日目/午前】 【福路美穂子@咲-Saki-】 [状態]:健康 [服装]:黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない [装備]: [道具]:支給品一式、不明支給品(0~1)(確認済み)、六爪@戦国BASARA [思考] 基本: 殺し合いには乗らない。対主催の仲間を集める 1 薬局に向かい政庁→公園→学校→ホール→展示場→タワーと周り同志を募る 2. みんなが無事に帰れる方法は無いか考える 3.トレーズと再会したら、その部下となる 4. 伊達政宗を探し出して六爪を渡し、小十郎の死を伝える 5. 阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら? 6.張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える [備考] 登場時期は最終回の合宿の後。 ※ライダーの名前は知りません。 ※トレーズがゼロの仮面を被っている事は知っていますが ゼロの存在とその放送については知りません 【黒の騎士団の服@コードギアス】 黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム 超ミニスカ 【純白のパンツ@現実】 福路美穂子がかぶったパンツ。 例えそれを髪留めとしか認識できなかったとしても驚いたり引いてはいけない 我々とは文化が違う 時系列順で読む Back おくりびと/燃える火のように Next 騎士 失格 (前編) 投下順で読む Back おくりびと/燃える火のように Next 騎士 失格 (前編) 075 混迷への出撃 トレーズ・クシュリナーダ 132 みんな! 丸太は持ったか!! 092 恐怖の調理法あれこれ 福路美穂子 127 ざわざわ時間(前編)
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でもそれって根本的な解決にはなりませんよね? ◆mist32RAEs 一方通行と呼ばれる彼にも、かつてはれっきとした日本人らしい名前があった。 苗字は二文字で、下は三文字だった。どこにでもある、いたって普通の名前だったように思う。 それを失くしたのは彼がこの世に生を受けてから十年を過ぎたあたりか。 彼は最初から最強だったわけではないが、それでも周りと比べて図抜けていたのは確かだ。 突っかかってきた同年代の子供たちは触れただけで骨を折った。 さらにそれを止めようとした大人たちも同様だった。 取り囲んで一斉に飛び掛かり、捕まえようとしたが結果は同じ。 彼とその周囲の人間にとって不幸だったのは、この時点で彼を宥めることが誰もできなかったことだった。 それどころかほかの人間たちは皆、彼の強大な力に怯え、恐れおののいた。 しまいには警察、軍隊に等しい武装集団まで駆り出されての大捕り物となったらしい。 だが誰より怯えていたのは彼――当時は小学生にすぎない未熟に過ぎる精神の持ち主に他ならない。 彼はとにかく怖かった。 彼は拳を振り上げられるのが怖くて抵抗しただけだ。 大人たちに大勢で取り囲まれ、さらには彼らが恐ろしい形相で飛び掛ってきたので必死で腕を振っただけだ。 小さな子供にとっては当然の反応といえる。 だがそんな純粋な防衛本能を、その特異な力が災害クラスの破壊力に変えてしまった。 ヘリが、戦車が、武装した大勢の武装勢力が、怯えに任せて力を振るう少年を取り囲むという、一見して奇妙な構図。 そのときの彼はまるでテレビに出てくる醜い怪獣のようだった。 誰もが恐れ、怯え、必死の形相で睨んでくる。 彼がほんのわずかな力を行使するだけで、大勢の人間が傷ついていく。 少年だった彼には、そのとき世界はどう見えたことだろう。 まるで自分が世界の全てから『お前は悪だ』と告げられたような、そんな気持ちではなかったか。 その後の彼は、まるで自ら望んで悪になろうとするようだった。 誰にも望まれず、誰にも関ろうとされず、だがそれでも誰かに認められたいというように。 それが例え万人に忌み嫌われる道であっても、それでも絶対の力を持つ悪としてならば、皆は自分を認めてくれるのではないかというように。 そんな彼にある少年による一つの敗北と、ある少女の一つの理解と、一つの救いを求める心が芽生えるまでは。 ◇ ◇ ◇ 地が無い。 天が無い。 光が無い。 闇だけが在る。 そして目の前には一人の少女。 「超電磁砲 レールガン ……!?」 栗色のショートヘアに整った顔立ち。 白のブラウス、サマーセーター、プリーツスカート。 年相応に学生らしい制服姿の少女――学園都市第三位のレベル5。 超電磁砲の御坂美琴が闇の中に立っていた。 立っていた、というのはふさわしい表現ではないかもしれない。 ここでは地面すらあやふやで、もしかしたら浮いているのかもしれないし、沈んでいるのかもしれない。 だがそんなことはどうでもいいことだ。 「なンでてめェがいやがる……」 死んだはずだ。 あの放送が本当ならばもう12時間以上も前に。 「別にいいじゃない。さ、早く願いを言いなさい。それがあんたの力の容(カタチ)になるわ」 「何?」 「守りたいんでしょう?」 「……てめェは誰だ。クローンどもか?」 こいつが打ち止めの一件を知っているはずはない。 いやもしそれを知っているからといって、この少女に自分の胸の内まで吐露した覚えはないのだ。 一万人を殺して、殺して、殺して、その果てに待ち受けた敗北を経て、そして初めて己が所業の罪を思い知った。 そしてそこでようやく己の本当の願いと、そして成すべきことを悟った。 それを知るものはほんの一握り。少なくともこの少女でないことは明らかだ。 そもそもこの状況は一体なんだ。 これは現実なのか。 「仕方ないなぁ。まあ確かに私は超電磁砲じゃないし、アンタが殺しまくったクローンのシスターズでもない。 私はアンタの心が映し出した罪業のシンボルってとこかしらね」 「…………ぁ?」 「よーするにアンタが今までで一番悪いことしたなって思ってることに関連付けて私の姿は形作られてるわけよ。 あんだけ派手にブチ殺しまくっておいて実は罪の意識がありましたー、なんてどんだけよって思うけどね」 「……」 正確ではない。 自分の心の根底に気づいたのが全て終わった後であったというのが本当のところだ。 が、だからといって殺されたシスターズ一万余りと、生き残った一万弱に向かってそれを言ってどうなるというのか。 一方通行によって殺されたという事実は何も変わることはないのだ。 押し黙るしかない。何も言えなかった。 それを知ってか知らずか、眼前の少女はひらひらと手を振りながら軽い口調で語りかける。 「まあいいわ。本題に戻るけど、どうするの? 望むならアンタに力を授けてやれる。ほら、あれ――」 「……! なンだ、ありゃァ……!」 息を呑む。 少女が指差した先には黒い太陽が在った。 いや――あれは孔だ。 底抜けに深い闇を湛えた巨大な孔がぽっかりと頭上に開いている。 見ているだけでわけのわからない怖気が走る。 あそこから声が聞こえてくる。 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 超質量の瘴気。 怨念の海。 正確にはどう言い表して良いのかわからない。 だがアレがどういうものかは本能的に理解した。 織田信長が纏っていたものと同種の、いわゆる良くないモノ、悪と呼ばれるべきモノ。 「アレが力だってのかよ……」 「そう」 「ふざけんじゃねェ!! あんなんで俺の望みが叶うわけねェだろうがァ!!」 力いっぱいの拒絶の叫びだった。 あんなものが自分が望む救いであるはずがない。 あんなものを手に入れたところでそれが自分と、自分を唯一理解してくれたあまりにもか弱く純粋な彼女に救いをもたらすなどと――、 「何言ってんのよ?」 そこで少女は心底不思議そうに小首を傾げてみせた。 その質問があまりに意外だったというように。 「そんなことは……ねえ、アンタなら誰よりもよくわかってるんじゃないの?」 「……あァ?」 「ここで嘘は通じないわ。だってここはアンタの心の中だもの。私もアンタの心が写し出した超電磁砲のイメージ。 ここの全てはアンタの心の内そのものであって、私が嘘をつくってことは自分で自分に嘘をつくことになるの。 そんなのできるわけないでしょう?」 「心の、内……?」 何がどうなったのかわからない。まるで夢を見ているようだ。 いや、本当に夢なのだろうか。自分のことだというのにまるでそういった感覚がない。 自動的に流れていくテレビの映像のように進行していく会話を、もう一人の自分が脇で見ているような感じだった。 超電磁砲の少女と会話を交わしているのは確かに自分だ。 だがそこに関与して物事の流れを変えることができない――と、いうより思考できない。 不自然なポイントはそれこそ数え切れないほどあるというのに、だ。 少女の言葉はさらに続いていく。 「これがアンタのやり方に一番合ってると思うけど? そしてアンタの心の内の一欠けらである私がそう思うってことは、自分でも認めてるってことよ。 アンタ自身の意識として気づいてないってだけでね」 「うるせェ! だったら教えやがれ!! あんなモンでどうやったら――どうやったら守れるってんだよ! どうやったら救いを得られるのか答えてみやがれ、あァ!?」 つかみ掛からんとするほどの勢いで少女に詰め寄る。 するとどこか噛み合わない問答にいい加減に嫌気がさしたのか、少女は大きなため息をついてこういった。 「仕方ないわね……じゃあ実際にやってみればわかって貰えるかな?」 少女のしなやかな指先が眼前に突きつけられて――世界はそこで暗転した。 ◇ ◇ ◇ 大洋に二隻の船。 片方には200人、もう片方には300人の乗客と一方通行。 さて一方通行に問題だ。 嵐に遭遇して両方の船が沈みそうになった。 お前の力は触れたものしかベクトル操作できないので、つまり片方しか助けられない。 その間にもう片方は沈没するだろう。 さて、どっちを救う? 「……300人の船だ」 すると選ばれなかった200人の船の連中がお前を取り囲んでこう言い出した。 『こちらの船を先に救え』と。さあ、どうする? 「それは――」 一方通行の能力が炸裂した。 200人が乗った船が胴体の真ん中から真っ二つになり、壁も窓ガラスも打ち砕かれた。 乗客はその崩壊に巻き込まれ、ゴミのように海中へと沈んでいく。 正解――。 「な……」 次の問題だ。 生き残った300人はまたしても危機に襲われる。 50人を見捨てれば残りの250人は助かる。 ならばどうする? 「おい……」 一方通行は50人を助け、250人を見捨てた。 見捨てられた人間たちはこちらを救えと、力ずくでも言うことを聞かせようとしたが、全て殲滅完了。 正解――。 「はァ!? おい、ちょっと待てよ! さっきは人数多いほう助けといて、何ッだァそりゃァ!?」 いいや、まちがってはいない。 君は絶対にこの選択肢を選ぶ。 では次の問題だ――。 ◇ ◇ ◇ 一方通行がいくらわめいても問題はお構いなしで進行していく。 50人は30人に、30人は10人に、10人は4人に。 殺した。殺した。殺して。殺した。 裂いて。割って。潰して。曲げて。 斬って。砕いて。刺して。刻んで。 剥いて。破って。壊して。貫いて。 回して。彫って。抉って。捌いて。 屠って。弄って。葬って。除いて。 刈って。塞いで。掃って。薙いで。 晒して。消して。畳んで。捩って。 巻いて。注いで。繋いで。研いで。 殺して。殺して。殺して。死んだ。 そのうちにわかってきた。 一方通行がなぜこの選択肢を選ぶのか。 その理由は彼が救うと選択した集団に必ず一人の少女が混ざっていたから。 水色の古ぼけた毛布に身を包んでちぢこまっている少女。 彼女こそが、初めて一方通行という存在を理解してくれた唯一無二の聖域だった。 血塗られたこの手でも、傷つけ破壊することしか知らない自分に対して、そうではない――と言ってくれた。 彼女の笑顔を、同じ目線で接して自分を認めてくれたことを失いたくないと思った。 そしてそう思えた自分自身もまた、失いたくないと願った。 例えどんなことをしてでも――、 「……そういうことかよ」 残るは四人。 その全てが自身にとってかけがえのない存在だった。 だがそれでも二人と二人のうちどちらかを選べと言われた。 本名を捨ててから記憶の隅に追いやっていた両親が、ベクトル操作の威力で木っ端微塵に砕け散った。 「結局……壊すことしか、殺すことしかできねェってことかよ」 残るは二人。 その中からたった一人の打ち止めを救うために、一方通行は残りの一人を殺す。 壊すことしかできずとも、殺すことしかできずとも、それでもそれが彼女を助ける方法になるのなら――、 「上等だァ……例えこの世全ての悪になろうが知ったことかァ!! こっちの一方的な都合で消えてもらおうかァ!!!!」 立ちはだかる人影があった。 その最後の一人に向かって哄笑をぶつけた。 己が悪であると誇示する、絶対強者の凶暴性を示す威勢。 「いいぜ……てめえがそんな方法でしか大事なものを守れないと思ってるなら……!」 それに対して一歩も引かず。 幻想殺しの上条当麻。 一方通行をまっすぐに見据えるその眼。 己が正しいと信じて疑わない。 おそらくこいつは愛されている。 それに何の疑問もなく、己が正しいと。 そしてそれを確信としてわかっている。 欲しくて欲しくて欲しくて、でもどうにもならなくて、決して手に入らないと悟って――、 とっくの昔に諦めて、冷たい心の底に封じ込めておくしかなかったもの全てを、こいつは当たり前のように持っている。 ちくしょう。 ちくしょう。 ちくしょう。 「まずは、その幻想を――!!」 ――愉快に、素敵に、ビビらせて、 ――ブ ッ 殺 し て や る 。 ◇ ◇ ◇ これは夢だ。 放送前にわずかな睡眠をとった時間で見た、起きてから本人が覚えているかどうかすら怪しい、うたかたの夢。 だが、そこに写っていた一方通行と呼ばれる彼の心は真実だ。 彼の心がその結果として具体的にどのように狂ったのか、そしてそれが今後の行動にどのような影響を与えるかはまだわからない。 一つ言えるのは、今の彼は殺意に満ち溢れているということだ。 彼の目的は打ち止めの救出、そして自分を拉致拘束した帝愛の打倒だ。 しかしそのために合理的な判断ができるのか。それもいまだ不明。 彼はかつて、自分がどんなにクソッタレでもそれで誰かが死んでいい理由にはならない、と言った。 だが今の彼ならばこう言うのだろう。 「どいつもこいつもよォォ!! ウゼェ奴や邪魔クセェ奴がいたら、殺さなくていい理由なんてねェよなァ!! ――ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」 【E-7/学校/一日目/夜】 【一方通行@とある魔術の禁書目録】 [状態]:精神汚染(完成) [服装]:私服 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×12、ランダム支給品×1(確認済み)、パチンコ玉@現実×多量、缶コーヒー各種@現実×多数 [思考] 基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。 0:どいつもこいつもブチ殺す。上条当麻は絶対にブチ殺す。 1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません) 2:このゲームをぶっ壊す! [備考] ※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。 ※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。 ※ライダーの石化能力と藤乃の念動力の制限を分析しました。 ※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。 ※織田信長の瘴気の影響で精神に異常が出ました。 時系列順で読む Back 街の灯り潤んで揺れる Next 試練~New Translation~ 投下順で読む Back 街の灯り潤んで揺れる Next 試練~New Translation~ 223 隣合わせの灰と青春 一方通行 244 我が骨子は捻じれ狂う/相克する螺旋で君を待つ
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試練/どうあがけば希望?(前編) ◆fQ6k/Rwmu. 【利根川幸雄 ギャンブル船/2階スイートルーム -1 28 37】 「はっきり言わせてもらおう、利根川氏。 貴方を信用すること、それは『悪魔の証明』でしかないと」 ちっ……このグラハムとかいう若造。 軍人と名乗っているだけはある。そう簡単にわしを信用はせんか。 元々こちらが圧倒的に不利というのもあるだろうが、こいつさえいなければあっちの小娘だけなら篭絡できたかもしれんのに。 「帝愛の幹部であった過去があり、情報を持っている。 成程。確かにそれは接触の価値も同行する価値もあるだろう。 ただし、それは貴方が本当に幹部であったことがあり有力な情報を持っている場合だ。 私とて生憎そんな虚言にわざわざ乗るほど酔狂な者ではない。なにしろ同行者がいるのでな。迂闊にこちらの情報は開示できない。 故に利根川氏。貴方が幹部であったということが確実でない限り、私は貴方と共に行動し情報を開示することはできない。 しかし貴方が幹部であったと言う証明はあまりに難しい。 貴方の言う知り合いはこの名簿にたった1人。出会うにはあまりに確率が低いと言わざるを得ない。 その知り合いに遭うのを延々と待っている時間はこちらにない。私達は捜さなければならないものがあるのでね。 知り合いに会えない以上貴方が帝愛の幹部であったと言う証明はまず不可能だ。 さっき話したギャンブルルームの黒服。彼に聞いたとしても同じだろう。 彼らはこの殺し合いにおいては中立の立場を貫いているように思えた。ギャンブルにおいてのみ手を出すのだろう。 それは逆を返せば」 「ギャンブルに関する以外の質問には微塵たりとも答えない、ということ?」 今まで黙っていた小娘が口を突っ込んできた。 小さな体躯に大きなリボン……ふん。最近の小娘どものセンスはわからん。 それでいて口調はたまに古臭い言葉を使う。最近の若者はまったくわからん。 しかし、まさかギャンブルルームなどというものがありしかもそこに黒服の男が配置されているとはな。 4時間以上ここにいてそれに気づかなかったことがばれた時はこいつらに危うく蔑まれそうになった。 『こんな所につれてこられて突然平静でいられる方が不自然だ』と言い負かしてやったがな。 そもそもわしのスタート場所は元々この船内、しかもギャンブルルームよりも上階だ。更に言えばその階から動いていない。 階下のギャンブルルームに気づけず何が悪い。手順矢印も1階駐車場へのタラップを上がってきた奴らを誘導する為のもの。 ギャンブルルームより上の階には張られていないのだ。 にしてもさすが帝愛、会長の考えそうなことだ。殺し合いの中にギャンブルを織り交ぜるとは。しかも血液搾取のシステム。 これはつまり、身体的弱者でも強力な武器を入手できる、そして身体的弱者が身体的強者を殺すことも可能ということだ。そう、この老人のような弱者でも! まあそれにはまず相手をギャンブルにのせねばならんがな。ペリカという餌がある以上できんことはないとは思うが。 黒服の男はギャンブル以外の質問には答えない。これは正解だろうな。私も『向こう側』ならそうさせる。 過剰な干渉は退屈を招く。なぜなら、それは参加者を甘えさせることになる。 それでは見ている方は面白くない。与える情報は最低限………そんな限られた状況で足掻く様………それは観覧者にとって極上のショー………っ! さながら蟻の巣に水を流し込み慌てる蟻どもをみる無邪気で残酷な子供に似た心境っ! 「そういうことだ。例え私たちの後にあそこに誰かが来たとしても、彼は私達のことを教えはしないだろう。 奴らに言わせれば『フェア精神』と言ったところか。 わかってもらえたか。利根川氏。貴方が幹部であったという証拠が無い以上、こちらからの情報開示はできない。 それに信憑性が無いと言うのでは貴方の人間性に疑いを持たざるを得ない。となれば貴方をそう易々と保護は出来ない」 「くっ……!」 私は顔を曇らせた。 言いたいこと言いよってこの若造が。軍人と言いながら民間人を保護する気はなしか。 「………ねえ、グラハム」 辛そうな私の顔に耐えかねたのか、小娘が男に話しかけた。 その声には同情の色が見て取れる。少し前まではわしに恐れている様子が見て取れたが、流石にわしの落ち込み様にその恐怖を引っ込めたらしい。 「何かね衣」 「確かに不確実な事を名乗った老人にも非はある。でもここで見捨てるのはこの老人が可哀相だ。 お願い。衣に免じて1つ、チャンスを上げてくれないかな?」 「チャンス?」 小娘は見かけによらず優しい心根らしい。 男に切り捨てられ後が無さそうな私を見かねて『チャンス』を提案してきた。 私が帝愛幹部であったと言う証明になりそうな『チャンス』。 私にとっては喜ばしい限りだ。 小娘がわしにチャンスをくれた。 そう。 わしの思惑通りにな。 ======= 【衛宮士郎 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -1 10 49】 「改めて歓迎しよう、白井黒子、衛宮士郎、秋山澪……! ようこそ、希望の船『エスポワール』のギャンブルルームへ………!」 船にやってきて手順の矢印の通りに進んできた先にあったギャンブルルーム。 そこに足を踏み入れた俺達を待っていたのは、いくつものギャンブル用の遊戯台、そして黒服の男の拍手だった。 秋山が驚きのあまり気絶しそうなのを白井が気付ける間に男は勝手に喋りだした。 ここにいる人間の中で、唯一首輪を嵌めていない男が。 内容はこのギャンブルルームについて。 ここでは色んなギャンブルができること。ここでは戦闘行為を禁じている事。ただしギャンブル目的以外での長期滞在は禁止。篭城はできないってことか。 協力スタッフ、ハロの存在。わらわらと球が転がってきて喋ってきた時は俺もびっくりした。 秋山に至っては危うく倒れる所だった。今は遊戯台の1つに背を預けて気を落ち着かせている。 ただ白井だけはそれほど驚いたように見えなかったな。単に表情に出にくいだけなのか? 得たぺリカによって景品を獲得できること。トカレフとかベレッタとか俺でも聞いた事のある銃器の名前が俺の手元にあるファイルにざらっと並んでいた。 「質問してよろしいですの?」 大体の説明を終えたらしい黒服に一歩歩み寄ったのは、白井だった。 彼女に漂うどこか凛とした雰囲気。なんか少しだけセイバーに似てるな。 思えば秋山に比べて白井はかなり落ち着いている。もしかしたら俺よりも。この中じゃ1番年下のはずなのに。 「まず1つ。『参加者の位置情報』。景品にこれはありませんの?」 そうだ。ココに来た目的はそもそもそれ。銃器やピザとかは正直どうでもいい。いや武器は欲しいがまずは探し人の所在だ。 「成程。お前たちの目的はそれか」 「わたくし達の名前を即答したことを考えれば、その探し相手も予想ついていそうですわね」 「その点に関してはご想像にお任せする……。 でだ。参加者の位置情報……最後のページから3ページ目、めくってみろ」 そう言われて白井は俺に目を向ける。今ファイルを持っているのは俺だ。俺はその視線を受けてファイルをめくった。 最後から3ページ目……あった。 『参加者1人の位置情報(1時間) 【3000万ペリカ】』 「なっ……!」 「どうしたんですの、衛宮さん」 「おい!なんだよこれ! RPG-7より高いじゃないか!」 俺は黒服にファイルを見せ付けた。 RPG-7。いわゆるロケットランチャーだ。獲得できればかなり強力に違いない。 それですら2500万ペリカ! こいつはそれより更に高額! しかも、3000万ペリカは俺達に支給されたあのICカードの初期残高ピッタリ。つまり、当初の予定通りギャンブルなしで得られても1人の情報しか分からない。 そして得てしまえば俺達は1文無し……!1文無けりゃ、ギャンブルにはもう挑めない!つまりその1人以外の情報は得られないってわけだ。 「くくっ……!何を驚く……! 『参加者の位置情報』。これがこの殺し合いでどれだけの価値を持つか……! 探し人ならばすぐに行けば会えるかもしれない。危険人物ならば近づいてくるのを避けてしまえばいい。 探し人に会えること、危険人物を避けられること。それはかなりの有益!ここでは……! そう……使い方次第では……ロケットランチャーよりも有益……! これは妥当な価格だ。先に言っておこう。変えろという要求は却下する」 「っ……!」 そう言われて俺は黙るしかない。 無駄だ。こいつらは価格を変える気なんて毛頭ない。言っても無駄か……! 「……この情報はどうやって受け渡ししますの?」 「要求者のデバイスに本部から情報を送信させる。1時間の間、当該人物の位置情報がリアルタイムで逐一表示される。相手が移動すれば地図上の光点が移動する。 どうだ。便利だろう」 何が便利だ。 もし相手がここから離れた、南西とかにいたらどうするんだ!1時間じゃ電車を使ってもギリギリ。その間に相手が移動したら元も子もない。 1時間じゃあまりに短い! かといって、3時間、5時間となると更に高額だ。こんなのよほどギャンブルが強い奴じゃないと……いや、ギャンブルが強い奴なんているのか? 結局は運じゃないのか? そうだ、そんなのイカサマでもやらないと……。 「わかりました。では次ですわ。この部屋の安全性に関して。あなたのさっき言った『戦闘行為の禁止』。戦闘行為とはどこまでの範囲を言いますの?」 「どこまでの範囲、とは?」 「銃や刃物はまあわかりますわ。では、誰かが素手で相手を殴った場合、誰かを関節技などで拘束した場合はどうなんですの?」 「殴った場合は、1回時点で忠告。それを聞かず2回目を行った時点で首輪を爆破。 拘束した場合は戦闘行為とは見なさない。ただし、拘束して危害を加えようとした場合は爆破だ」 「では、毒物で誰かを殺害した場合は?」 「!」 白井の言葉に黒服の言葉が止まった。 もしかして、これについては対策がないのか? 『戦闘行為』。考えてみればこれはかなり曖昧だ。 銃や刃物、殴るなんてのは正攻法でわかりやすい。 だが拘束や毒物での殺害。これは相手を妨害し死に至らしめる行為だけど、『戦闘行為』とは言いにくい。 そうだ。『戦闘行為の禁止』。一見安全そうなこのルール。穴がある…! 白井の奴、すぐにこれに気づいたのか!? 「どうなんですの?」 「…………毒物の死に関しては『戦闘行為』とは認められない。よって黙認する」 「あらあら。とんだ『楽園』ですこと」 やっぱり……! こいつらが明確に禁じているのは『明確な戦闘行為』! 毒物とか拘束とか、『分かりにくい戦闘行為』は黙認する……! そして、『戦闘行為』は禁じても『殺害行為』は禁じていない! 「では次。例えばある人物がここに爆弾を仕掛けて出て行った。そしてその後爆発。 この場合は?」 「ハロが四六時中この部屋を監視している。設置は不可能だ」 「それでも、仮にできてしまった場合。もしくは設置がばれた場合は?」 「……」 また黒服が黙った。 『爆弾の設置』。これは戦闘行為か? 「……判明した場合は、黙認する」 「まあ爆発してしまったら貴方もおしまいですものね。 やれやれ大分穴がありますわね、ここは」 白井がいつしかなんだか優勢になってる。 別に俺達はまだゲームをしているわけじゃない。 だが、奴らの『戦闘行為の禁止』。一見楽園に見えるこのルールの穴をつく。 別に穴をついたからって俺達にあまり益はない。だが、『戦闘行為は禁止だから』とここで油断する事は無くなる。爆弾や毒物に警戒が出来る。 「では次。貴方はこの『ギャンブルルーム』及び『特設会場』での戦闘行為は禁止と仰いましたわね? ならば、この『外』からの攻撃。この部屋の上から下を射抜くとか、特設会場が外なら、船の外から狙撃するとか。 その場合は――」 「そこまでだ」 「ひっ……!」 っ! あの黒服……目つきが変わった! って、秋山がまた震えだした!? 本当に繊細だなアイツ! 「警告する。それ以上の質問は『ギャンブル以外の使用目的』と判断し首輪を爆破する」 「あら。これは『ギャンブルをする為にここの安全性を確かめたい』理由で質問しているんですのよ?」 「ギャンブルが始まればそんなものは関係なくなる。要は常に警戒をしていればいいことだ。 既にお前たちが入ってかなりの時間が経った。ギャンブルを行わないならば」 まずい……こいつ、本気で俺達の首輪を爆破する気か!? 「わかりましたわ」 「白井!?」 まさかギャンブルする気か!? いくら元手があるっつっても、1ペリカでも失えば情報が手に入らないんだぞ!? 「ならば純粋にギャンブルについて質問をいたしましょう」 ====== 【天江衣 ギャンブル船/3階スイートルーム -1 00 00】 【白井黒子 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -1 00 00】 「衣は気付いていた。あのギャンブルルームのゲームの中」 「麻雀にブラックジャック、聞きなれたものが多い中、聞き覚えがなかったゲームがありましたわ」 「その数は3つ。グラハムも聞き覚えがなかったらしいし、つまりその遊戯は」 「貴方達帝愛のオリジナルゲーム」 「利根川翁。もしあなたが本当に幹部なら、当然帝愛の作ったゲームは知ってるはずだ」 「わたくしたちにはそのゲームの全貌がまったくわかりません。ですので」 『その3つのゲーム。3つとも全て説明してみせてくれ』 くださいますか?』 ====== 【利根川幸雄 ギャンブル船/3階スイートルーム -0 58 35】 「成程。彼が本当に帝愛の幹部ならば帝愛オリジナルゲームを知り尽くしているはず、か」 「そうだ。ただ……」 「利根川氏。貴方が本当にギャンブルルームに行った事が無い。これが前提だ。 既に貴方がギャンブルルームを見つけ、黒服にゲームを聞いていた場合」 ちっ。疑い深い若造め。 「ふん。恥を忍んで言わせて貰うが、わしは本当に2階にすら降りた事は無い。この槍も3階にある施設の材料で作ったものだ。 貴様らが疑うならそれまでだがな、それこそさっきの話と同じにな」 「………わかった。ギャンブルルームについて話した時の貴方の反応。 かなり真に迫っていたからな。それを信用して貴方に説明を求めよう」 ふん。最初からそう言っていればいいのだ若造が。 そう、これはあの小娘からもたらされたチャンスなどではない。 わしが既に想定したチャンスだ。 奴らとてわしの持つ情報というのが魅力的であるのは事実だ。ただ不信感がそれを妨げる。 それを払拭するにはわしが幹部だったと言う証拠が必要。証言者はカイジしかいないが、あいつに会える可能性などそうない。そんな運否天賦を頼るのは愚者のやること。 それ以前に、わしを叩き落す事になった原因に頼るなどわしのプライドが許さん。利用してやることは呑んでもこれは譲れん。 ならば奴らが提示できるのは、ゲームの内容説明だと踏んでいた。ギャンブルルームについて聞いた時点でな。 勿論ギャンブルルームについて聞いた時の反応は本物だ。そこに行った事が無いのも真実。 そしてだ。 あの若造は『悪魔の証明』だなどと抜かしたが、ふざけるな。 悪魔は存在しない。だからその存在の証拠は提示できない。これが悪魔の証明だ。 だがわしは違う。わしが幹部だった時間は存在する。だから証明が出来る……!悪魔の証明などではない! そう。わしは帝愛のゲームに関わってきた。故にオリジナルゲームも熟知している! 勝算はある。いや、勝算しかない! 「では始めよう。貴方にはゲームの名称とそのゲームのルールをできれば仔細に説明してもらう。 その後、私と衣がギャンブルルームに戻り、そのゲームのルールを聞いてくる。つまり答えあわせだ。 もし合っていれば私達は貴方を信用し、同行しよう。情報もこちらから話す。それが疑った分の謝罪としよう。 ゲームは3つ。よろしいか?」 「帝愛のオリジナルゲームはいくつもある。そこから当てずっぽうで言わせる気か?」 「グラハム。最初の1文字と最後の1文字だけ教えるのはどうだ? それならば知らなければ当てられることはまずないと思う」 「そうだな。それでいいか利根川氏」 「構わん」 そうしてわしとグラハムは向かい合う。部屋の中央にイスを対面になるよう移動させ、それぞれ座り向かい合う。 小娘はメモ帳と筆記用具を手に、扉の近くでこちらを見ている。 奴はわしの説明したルールを記録する役目と、誰かが近づいてきた時それに気づく役目を担っている。だから扉の近くに位置させているらしい。 「では始めよう」 もっとも、これに関しては少し博打の部分はある。 わしとて帝愛の全てのオリジナルゲームを知っているわけじゃあない。ただその知っている割合が高いというだけのことだ。 だが、割合は高い。ここにおいてわしに目は向いている……! わしはこの殺し合いで這い上がるつもりだ。 その座にいたるまでの道は、この2人を抱き込むくらいできずに、再び駆け上がれる簡単な階段ではない! わしがかつて上った大理石の階段はな! 「まず1つ目。最初の文字は」 来い………来い………! 再び………駆け上る力を………! 得るんだ……あの、安全≪セーフティ≫を! 「『い』だ」 な………? 『い』………だと? 『い』………『い』……… 「最後の文字は『ど』。どうだ利根川………氏?」 「ど、どうした利根川!」 若造と小娘が戸惑いながらこちらを見てくる。 ああ、そうさ。当然だ。 わしが今、突然顔を歪ませ笑いだしたんだからなぁ! 「く、くくく……あはははは……! よりにもよって………!よりにもよってそのゲームが来るか! 今のわしに………そのゲームが!」 頭が『い』で最後が『ど』。 ああ、わかる。思い浮かぶ。忘れていない。 いいや、忘れられるわけがあるまい! あのゲームを!! わしが落ちることになった、あのゲームを! 奴に敗北したあのゲームを! やはりツキはわしに来ている……! わしが這い上がる為の第1歩が、わしが落ちることになったつまずきの石なのだから! 「――――だ」 「っ!」 グラハムとやらが目を見開く。 くくっ、軍人といえどまだまだ若造。表情が隠しきれておらんぞ……! 気持ちがいい。もう一度言ってやろう。 「『Eカード』だ。……次はルール説明だったな。ああ説明してやろう。 『奴』に話してやったように、な。ふふふ……!」 ====== 【秋山澪 ギャンブル船/2階ギャンブルルーム -0 49 32】 「Eカードは1対1で対戦するゲームだ。 使うのは3種類のカード。この『皇帝』、『市民』、『奴隷』。 それぞれ配られるカードは5枚。そしてその内訳は決まっている。 『皇帝側』が『皇帝』1枚、市民4枚。『奴隷側』が『奴隷』1枚、『市民』4枚。この『皇帝側』、『奴隷側』の説明は後にする。 次に対戦方法。 これは至って簡単。遊戯台を挟んで向かい合い手札から1枚カードを選び遊戯台に置く。自由に出来る部分はここくらいだ。どうだ、簡単だろう? お互いカードを置きおえたら、先に置いた方からめくる。2枚ともめくり終えたらそこで勝敗判定だ。 なに、勝敗判定はよくある三すくみだ。 『市民』は『奴隷』に勝ち、『皇帝』は『市民』に勝ち、そして……『奴隷』は『皇帝』に勝つ。 この関係に疑問そうだな。まあこれはあくまでこのゲーム上だ。現実において、とかは考えるな。それにあながち……いや、いいな。これは関係のないことだ。 勝敗判定で勝てば、そこでまずその1回は勝利となる。『市民』と『市民』のあいこの場合は当然勝つまで続行。最大5回まで。 あいこに出したカードはその1回の間には手元には戻らない。 次の『1回』ではある3回を除き、手札は最初の通り元に戻る。内訳は変わらない。 これを全部で12回行う。 ただし、3回を4セット。そして1セットごとに、初期手札を変える。 ここでさっきの『皇帝側』、『奴隷側』だ。プレイヤーは1セットごとにこれを入れ替える。 つまり1人のプレイヤーにして見れば、4セットの手札は『皇帝』『奴隷』『皇帝』『奴隷』もしくは『奴隷』『皇帝』『奴隷』『皇帝』の順となる。 そしてカードを出す手順、これは手札を出す『1回』で交代だ。最初は皇帝側が先に出すカードを決定、次の回では奴隷側からだ。 ルールの説明は以上だ」 私がやっと落ち着いてきた時、黒服の人は長々とした説明を終えた。白井さんが要求したゲームの説明。 流石にそれは私にも理解できた。 「なんかややこしいな……」 「そうでもないですわ。奴隷、皇帝とわかりにくい単語で考えるからややこしいんですの」 頭を掻く衛宮くんに白井さんが振り向いた。 「三すくみなのですから、ジャンケンと考えればわかりやすいですわ。 皇帝をグー、市民をチョキ、奴隷をパーとして。 普通のジャンケンと違うのは」 「使える回数が限られているのと、使える手も限られているってところ、ですか?」 私は何とか息を落ち着けて言った。 大丈夫。落ち着いてきた。私にもEカード、大体はわかった気がする。 白井さんは感心したような顔で私を見た。 「その通り。 例えばわたくしが『皇帝側』つまり『グー側』の場合、使えるのはグーが1回とチョキ4回。 衛宮さんを対戦相手としたなら、貴方は『奴隷側』つまり『パー側』、使えるのはパーが1回とチョキ4回。 では衛宮さん。ここで問題です。 貴方が勝てるのはお互いどんな手を出した場合ですの?」 「え? えーっと……。 まず俺がパーを出して、白井がグーを出した場合か?」 「そう。『奴隷側』は『奴隷』を出し、『皇帝側』が『皇帝』を出せば『奴隷側』の勝ちですの。 そして、それ以外に『奴隷側』が勝てるケースはなし」 「! そ、そうか。あとは俺がチョキを出した場合だけ。でも白井はパーを持ってないから、俺はチョキを選んだら絶対勝てない!」 「一方わたくし『皇帝側』は、こちらがグーならば相手がチョキ、こちらがチョキならば相手がパーを出せば勝ちですの」 「そ、それじゃ……『皇帝側』の方が圧倒的に有利ってことか!?」 そう。一見すればそうなんだ。 グーに勝つパーは相手には1枚、チョキに勝つグーは相手になし。 つまり『皇帝側』が負けるケースは『奴隷側』がパーを出した場合だけ…! 「くくっ……説明するまでもなく辿り着いてしまうとは……さすがだな白井黒子。学の違いが出たな」 「あら。やはりわたくし達のこと、知り尽くしているみたいですわね」 口を挟んできた黒服の人に向かって白井さんが厳しい目つきを向けた。 「安心しろ……どっちにしても『奴隷』と『皇帝』は交代して互いに2回担当する。そこで十分にフェアになるだろう。 それに、不利は不利なりのリターンをちゃんと用意している」 「リターン?」 「そうだ。『奴隷側』で買った場合に得られるペリカは、『皇帝側』で買ったときに獲得できるペリカよりも高額になる。 『賭けるもの』が同一でもな」 「なるほど。憎らしいくらいよくできたルールですこと」 「だが白井。そうなると」 「ええ。仮に互いの1枚しかない札を『切り札』としましょう。『皇帝側』ならば『皇帝』、『奴隷側』ならば『奴隷』。 そしてそれぞれ後に札を出す場合。 『皇帝側』の勝利条件は、奴隷が切り札を出さないと判断した時に自らの切り札を打ち込む。『皇帝が市民を討つ』場合。 もしくは、奴隷が切り札を出してきたと判断した時にこちらは切り札を出さない。『市民が奴隷を討つ』場合。 『奴隷側』の勝利条件は、皇帝が切り札を出してきたと判断した時に自らの切り札を打ち込む。『奴隷が皇帝を討つ』場合のみ。 よろしくて?」 「つまり、『奴隷側』は如何に皇帝側が切り札を出すタイミングを見極めるかがカギ、ってことか?」 「そういうことですわね」 「いや、待てよ。『奴隷側』はずっと市民でアイコにしてれば最後には自分に奴隷、相手には皇帝が残るから…」 「ううん。それは危険……だって衛宮くん。もしその間に相手に皇帝を出されちゃったらどうする?」 「あ。そっか……負けちまう。ていうか、やっぱりこれ運なんじゃないのか? 相手が切り札を出すかどうかなんて」 「まあそのあたりの論議は後にしましょう」 白井さんが話を切り上げて再び黒服の方をむいた。 凄いな……年下のはずなのに、凄く落ち着いて頼りになる。あんな怖い人になんで正面から向き合えるんだろう。 物怖じしない。堂々として怖い者知らずみたいなところ…………似てるなぁ。 「さあ。次のゲームについて教えてくださいませ。 『勇者の道』とやらを」 律…………どこにいるんだ? ======= 【利根川幸雄 ギャンブル船/3階スイートルーム -0 40 11】 「……どうだ? 鉄骨渡りに関して聞いた感想は」 「ああ。かなり趣味が悪いゲームだという事は理解した」 「なんだそれは……そんなものはゲームではない、ただの殺人ではないか!!」 『勇者の道』について話してやった後の奴らの反応はそんなものだった。 若造は冷静になりながらもその目の怒りを隠せず、小娘に至っては隠しもしないで激昂する。 まったくそろいも揃って程度の低い。 『勇者の道』は早い話が『鉄骨渡り』。 離れたスタート地点とゴール地点の間に掛かる細い鉄骨。それを渡る。それだけのシンプルなゲーム。 距離は25m。ただしスタートとゴールの間にあるのは距離だけではない。 高さ。そう高さもある。 この高さは実は2つほどある。それはゲームが『座興』か『本番』かで異なる。 『座興』ならば、高さは9m前後。落ちたとしても足を下にしていれば骨折はするだろうが命はまず助かる高さだ。 『座興』の場合は勝利条件に『誰よりも』が着く。1番ならば高い賞金、2着にも順当、3着以下ならば無し。 だがこの状況で『座興』はないだろうな。レース形式となると参加者数が多く必要になる。 目の前の相手を押し、後ろの奴に押されるかもしれない。そういった蹴落としあいが魅力なのだから。 補充するにしても、話じゃあ機械がやるらしい。そんな技術が帝愛にあったはずはないがこれは後だ。 機械なんかじゃ『座興』の面白みはない。奴らがこっちをやる可能性は低いだろう。 となればありえるのは『本番』だ。 『本番』と『座興』の違い。まずは競争ではない事。参加者は向こうに辿り着けばいい。時間制限がある可能性は高い。 本来なら参加するには『座興』で得られるチケットが必要だが……ここは変更せざるを得んだろうな。 次に、鉄骨の幅も長さも同じだが、鉄骨には電流が流される。死なない程度、ただし流れれば転落は必至の電流がな。 これは鉄骨に手を突き座ってただ進んでいくような興ざめな事態を防ぐためだ。 そして最も大きな違い………それは高さだ。 『座興』が9m前後だったのに対し、『本番』は………74m! 実に………約8倍!! 転落すれば……死は免れん! 『座興』を乗り越えた奴らは皆言う。『さっきと同じだ』『長さは同じだ』『もう1度同じようにやればいい』と。カイジもそうだった。 だが違う……! 8倍の高さ………落ちる場所すらわからない、暗闇………! 死の恐怖が足を止め、体を震わせ、幻覚を見る奴すらいる。そして………落ちる………星になる………っ! まあ現実問題、こんな船の中で74mの再現は無理だろうがな。『魔法』とやらもそんなことができるかどうか。 せいぜい落ちる場所に『必ず死ぬ細工』をしておけばいくらか再現は出来るだろうがな。 で、この説明を終えたら小娘が怒り出した。 74mの高さを命綱もなしに足元に電流が流れた状態で渡る。これが許せんらしい。 まったくこれだから平和な場所で安寧している連中は。 学生という安全圏………そこで『平和だ』と微温湯に使っているガキ………。 このゲームが社会の縮図とも知らないで………いつか自分が放り出される場所だとも知らないで。 社会で生き抜けるのは、学生である時点でそれを見抜き勉強する奴らだというのにな。 「何を言う。金を求めて参加するのは奴らの方だ。2000万という大金を目当てにな。 小娘。まだ中学になったかならないかのお前程度ではわからんかもしれんが、世の中とは」 「衣は高2だ」 「…………」 「…………」 「でだ。世の中とは」 「沈黙の後黙殺とはどういうことー!?」 「あからさまな嘘に付き合ってられるか。キーキー喚くな。 2000万という大金はそう簡単に手に入れ」 「利根川氏。その話は後にしてもらえるか。最後の証明に移りたい」 若造があからさまにせかしてくる。 まあいい。長い説明も次で終わりだ。奴らの反応からして今までのものが正解なのは見え見え。 そしてわしにはもう最後のゲームの予想は付いている。 そうだ。名簿を見た時点でヒントはあった。 わしとあのカイジの名前くらいしか知り合いがいない時点で! 間違いない。 ギャンブルルームのオリジナルゲーム、それは全てカイジが経験したゲームだ! Eカードも、『勇者の道』も! 帝愛のオリジナル、わしが何回も見てきたということ以外の共通点はそれだけ! おおかたあの会長の気まぐれだろう。彼はカイジをやけに買っていたからな。無論悪意たっぷりに。 だから奴に苦い経験を思い出させるためにあんなゲームを………。 いや待て。本当にカイジだけなのか? まさか、わしも? わしもあの二つのゲームにはいい思い出が無い。あってもカイジが現れて全て吹っ飛んでしまった。 2つのゲームはわしへの嫌がらせでもあるのか……? まあいい。この証明状況では逆に好都合だ。 そしてカイジが参加したゲームは……あと1つしかない。 他ならぬこの船で行われたゲーム……! 『限定ジャンケン』! 間違いない、最後のオリジナルゲームは限定ジャンケンだ! つまり 「いいだろう。ほれ早くしろ」 「了解した。最後のゲーム、」 最初の文字は………『げ』………! これで決まりだ………! 「最初の」 さあ早く言え。 今お前の仕事はそれだけだ。 さっさと『げ』と言えばいいんだ………っ! さあ言え………言え………! 「文字は」 早くしろ……早くしろ……! 『げ』………『げ』………『げ』………! 「………」 『げ』だ!『げ』だ!『げ』だ!『げ』だ! お前がそういえばすぐに言ってやる! 『限定ジャンケン』とな! 後はお前たちに懇切丁寧に説明すれば終了! これでわしは盾を手に入れ、お前たちに情報をちらつかせることで優位に立つ! そこからわしの道は始まる!あの座に戻る階段が! お前たち屑はわしの盾となり道具となり 「『じ』だ」 使い捨てて…………………。 「最後の文字は『す』だ」 時系列順で読む Back 恐怖の調理法あれこれ Next 試練/どうあがけば希望?(後編) 投下順で読む Back 存在 Next 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) グラハム・エーカー 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) 天江衣 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 079 大逆転物語 -THE MIRACLE OF THE ZONE- (2) 利根川幸雄 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 衛宮士郎 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 秋山澪 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 077 RHYTHM DIMENSION 白井黒子 094 試練/どうあがけば希望?(後編)
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前夜祭の黒騎士たち ◆0zvBiGoI0k バリバリと、皮が裂ける音がする。 ボリボリと、咀嚼の音が響く。 ゴキュゴキュと、嚥下の音が止まらない。 それは腹を空かせた獣の食事の時間。 果肉と油の塊と成り果てたトーストを獣肉のようにかぶりつき、生地を食い千切る。 フライパンで熱しただけの肉厚のベーコンを切らないままぱくり。本物の肉の味を楽しむ。 右手には泡立つ黄色の液体。ジョッキ満タンに注がれたそれを一気に喉に流し込む。 喉の奥が燃え上がる、久方ぶりの生の実感。肉も殺しもつまみにしてこそ酒は旨いとばかりに。 飲みこむ手間も惜しいのか、片手で器用に卵の殻を割り、焼きも煮もせず生で頂く。 観客の嫌悪の視線など気にも留めず、腹の底を埋めるためひっきりなしにかっ喰らう。 獣に礼儀作法など一切不要。下に肉片を撒き、小さな口を淫らに開けては閉め、噛んではしゃぶり、口元の汚れを正そうともしない。 今までの欠乏を埋めるように、これからの生を存分に愉しむために、ひたすらに貪り続ける。 杯を直に掲げ最後の一滴まで残さず飲み干し、ようやく食事は終わった。 ■■■■■ 「――――――ふぅ、喰った喰った。ようやくまとまなメシにありつけたぜ」 黙々と喰い荒していた獣、アリー・アル・サーシェスという少女はようやく人語を発する。 深紅のチャイナドレスに引かれた扇情的なスリットを惜しげなく広げ大股に座り、ソファにだらしなく体を預ける。 一足先に休憩がてら食事を取っていた俺と憂を見てか、サーシェスは思い出したように空腹を訴えた。 冷蔵庫から適当に食糧を持ち出して目の前で喰い始める事数分間、俺達は飢えた肉食獣のような食事光景を見せつけられることとなった。 親父臭く楊枝を咥える顔と散乱している残骸を見比べて、小さく溜息をつく。 ちなみに憂が作った料理には全く手を付けていない。 というより付ける余地をなくしていた。憂が。 元々少ない量だった上、残った分も憂が処理してしまったためサーシェスが口に入れる隙を与えていなかった。いとあはれ。 その憂は何をするでもなく、隣で同じくサーシェスの食事を眺めていた。 視線は鋭く、親の仇でも見るような目付きだった。 表から窺えるのは、敵だった女への拒絶と否定。 裏に潜むのは見えぬ何かへの、大きな怯えと恐れ。 終始、小さく体は震えていた。知らず掴まれていた手からは汗が溢れ血の気が失せていた。 サーシェスとの相性が良くないことは前からも知っている。それは正しいものだし、そうでなくては後々の布石でも支障をきたす。 これまでも嫌悪の態度を見せていたが、そこまでなら決して問題にするものでもなかった。 だが今までよりなお一層に露骨で過剰な状態。単なる敵意以外のものが含まれてるのは確実だ。 どうやら、自分の知らぬ間にこの2人の中で何か関わりが出来ていたらしい。当然、悪影響の方向で。 傭兵に女子高校生、自負できる程に最低の組み合わせであるが、この時ばかりはこの3人はチーム、命の共同体だ。 こんな劣悪な関係ではまとめて全滅する危険がある。連携の乱れは戦場では最大の命取りだ。 今更憂とサーシェスとの関係については修復不可能。ならば自分がその間に入ることでバランスを保つ他あるまい。 「―――さあてと、だ。腹も膨れたことだしここからは仕事の話といきましょうか」 そんな思考にあった俺の意識を、甲高くも野太い声が引き戻す。 目を上げた先にはあどけない顔をした少女。 だがその瞳に宿るのは飢えたる猛獣。 その心中に住まうのは、無数の危難を切り抜けてきた歴戦の傭兵。 求めるは戦火。対価もまた戦火。 焦げ付いた戦の匂いを忘れられないワイルドギース。 戦争屋アリー・アル・サーシェスとしての目で己を見据えていた。 「これからどうすんだい旦那。まさかとは思うがこのまま呑気に物見遊山とはいわねえよな?」 整った顔立ちを台無しにする下品な破顔。綺麗に揃えられた歯も心なしか犬歯に見える。 獰猛な顔の裏では冷静に、冷徹に雇用主を値踏みしている。 興を冷ませるような対応をすれば、即座にその牙はこの喉に喰らい付くだろう。 文字どおりに野獣のサーシェスに対し、慎重に思考を広げる。 「当然だ。ここからは次の段階に移る。いつまでものんびりしてる暇はない」 幸か不幸かはさておき―――多少なりとも情による関係で結びついてる憂とは違い、サーシェスとの関係は実にビジネスライクだ。 互いにメリットがあり、利益を得られるという一点のみで結託している契約関係にある。 雇い主と雇われの傭兵。そこに不確定な要素が入り込む余地はない。 俺はもちろん、サーシェスもまた余計な茶々を混ぜることはしない。 こちらにとって奴はひとつの戦力であり、奴にとって俺達は武器と戦場の提供者でしかないからだ。 利用価値がないとわかれば容易に切り捨てられるが、逆説に問えば価値がある間ならば一定に信頼が持てるのだ。 そして、契約の任期はこちらの采配一つで問われる。 そこは商売の世界と何ら変わりない。流通物が直接の生命か否かという点くらいだ。 「そりゃあ安心だ。それで、さしあたっては何をするんだ?」 「手に入るだけの戦力は集めた。これ以上ここの探索は徒労になるだろう。次はその運用法を考えていく。 ……そうだな、まずは情報の確認といこう」 廃ビルの調査は終え、その過程で紅蓮等の武装の確保はできた。現時点での最高の装備だろう。 次は集めたそれらの使い道を考えていく番となる。 それと、今のうちに自軍の置かれた状況の整理をしておきたい。 揃えた手駒の編成と的確に王手をかけるための戦略の確立。俺という駒が持てる能力の本領発揮だ。 僅かに溜めを作り、空気を引き締める。 感傷を捨て、感覚を置き去り、雑音を取り除く。思考を高速、並列、分割して望む未来を計算する。 「5回目の放送を越えて生き残った参加者は俺達を含めて12人。この殺し合いもいよいよ佳境に入った。 次に起きる大規模な戦闘が最終戦になる可能性が高い」 俺の言葉に憂は息を呑み、サーシェスが唇を吊り上げる。 冗談でも脅しでもなく、正真に次の戦いが最後になると思っている。 ここ以外でも戦闘は当然起こっているだろう。生き残り全員が一か所に集まり、大混戦になるのも十分あり得る事態だ。 その時のために、今ここで出来るだけの戦略を練っておくのが肝要だ。 突発的事態に対応し辛い己の欠点は熟知済み。幾度なく常識外の存在を目の当たりにしてきた分、より細かい分析が求められる。 「始めに現時点での生き残りの情報を纏める。つまり俺達3人を抜いて9人、 阿良々木暦、秋山澪、一方通行、天江衣、織田信長、グラハム・エーカー、枢木スザク、東横桃子、両儀式についてだ」 「………………………っ」 何名かの名前に対し―――もはや予想するまでもない―――小さく体を震わせた憂を無視したまま話を進める。 「―――まずこの中で味方に回ると断言できるのはスザクだけだ。なるべく早期に合流することが望ましい」 ナイトオブゼロに任命時から連れて来られたと裏付けが取れている以上、これは間違いない。 生身での身体能力もナイトメアの操縦技術も超級の域、戦略の幅を大いに広げられる。 次代の『ゼロ』。全ての咎を自分が背負った後の世界を託すためにも、何としても生きて還さなければならない存在だ。 「随分とソイツを買ってんだな。マブダチってやつかい?」 「当たらずとも、遠からずだな。強さについては直接体験したお前なら分かるだろう?」 俺とスザクとの間にある関係は、サーシェスはもちろん憂にも教えていない。 ある意味でこちらの弱みといえるものだ、不用意に情報を与える真似はできない。 「ああそりゃ納得だ。あん時ゃマジ死ぬかと思ったぜ。まあ実際殺されてんだけどなぁ!」 ぎゃははは、と。 宴会でかますジョークのように気軽に笑い飛ばすサーシェス。 だが、その裏にはドス黒い念が見え隠れしているのが見て取れる。 サーシェスからは、ギアスによりこれまでの会場での動きの大体を聞いている。 主な焦点は主催に関してと死亡から蘇生のあらましだったが、その中で元の肉体を死に至らしめたのがスザクだと判明している。 仮とはいえ自分を殺した相手をそうそう許せるとは思えない。 ましてやコイツは期限付きの日雇いだ。報復に来ることは十分考えられる。 「分かってるとは思うが妙な気を起こすなよ。契約はまだ施行中だろう」 「わーってるよ。報酬も先払いしてもらったんだ、その分キッチリ働くし裏切りもしねえさ」 釘を刺す忠告も、糠に打ち付けた感触で軽く流される。 暗に、『契約が切れ次第殺す』と宣告したような返答で。 正面からならばスザクが遅れを取るとは思えないが、乱戦の不意を突かれるようなことがあれば、万が一ということもある。 自分にはそれを制する膂力はない。だが手懐ける調教の鞭と手綱は一級品だ。 合流以降は、しっかりと握る必要があるだろう。 「……あれ。ルルーシュさん、式さんはどうしたんですか?あの人も味方ですよね?」 味方というキーワードで思い出したのか、少し前まで行動を共にしていた両儀式のことに触れる憂。 サーシェスの襲撃の折り、単独行動に出た澪を探すといったきり式とは音沙汰なしだ。 放送で名を呼ばれてない以上生きてはいるがその状況はようとして知れない。 持たせた通信機が壊れた、負傷して動けなくなっている、可能性は幾つも思い当たる。 だが自論で言えば……その線は薄い。 「―――式は、おそらく戻ってこないかもな」 「え?ど、どうしてですか……?」 震える声で憂が問う。 澪の裏切りを知らせた時よりは小さいが、それでも動揺は隠せないようだ。 「元々、俺達とはそりが合わなかったみたいだからな。 会話も殆どがデュオを通してのものだったし、他人と関わりを持ちたがらない性格なんだろう。 そのデュオも死んだと分かった今、ここに戻ってくる保証はない。通信機にも何度かかけたが今も連絡がない。 最悪、澪達の側へ付いてる可能性もある」 「そんな…………」 俺に関しては始めから信用されてなかったようだしな。と心中で吐きながら。 サーヴァントと渡り合える戦闘力は魅力だったが、腹の内どころか顔すら碌に見合わせない間柄ではいずれこうなると予想はしていた。 思えばあの時の発言から違和感があった。 明らかに他者との馴れ合いを好まなさそうな式が自ら澪の探索に出る。考えて見ればこれは大きな疑問。 澪と桃子と秘密裏に繋がっていたように、式も澪と少なからず関係を持っていたのかもしれない。 それが澪達と共謀していたことと同義とは言えないが、自主的にここに戻ってくる見積もりは低いと言わざるを得ない。 確実に敵とはいえないが、味方と呼ぶには信頼が足りない。そんな微妙な境界の立ち位置。 それならば障害の側と認識していた方が影響は少ないだろう。 「これこそお前とは無関係なことだ。何も気にすることはない」 「……………はい」 納得はしたが不安はある、といった表情で押し黙る憂。 式とは全くといっていいほど会話など交わしていないはずだが、顔に落ちた喰らい影は落とされたままだ。 今の憂にとって何かを失くす、自分の前からいなくなるということは禁忌に等しい事柄なのだろう。 姉への思いを失い軽くなった身は支柱のない家のように恐ろしく脆い。 何かに依存しなければ自己すら保てない、破綻と矛盾に絡まれた螺旋の心理。破滅の免れない空虚な器。 そうしたのはまぎれもなく、俺だ。 他ならぬ俺が彼女をそういう少女に仕立ててしまった。 その罪を受け止めてはいても、償うという選択肢は、きっと俺には許されないのだろう。 「一定以上に注意しておくべき人物には、阿良々木、澪、桃子、一方通行の4人が該当する。 といっても、4人の間では危険度にある程度の開きがある。 まず明確に敵対している桃子、それと行動を共にしているだろう澪とは対決は避けられそうにない。 一方通行は未知数な点が多いが、おくりびとで数回出て来たことから警戒はしておいて損はない」 「――――――――――――」 それに何の思いも抱くことなく、次の考察を進める。 今度は静かに、だがそれ故に顕著に大きな反応を見せる憂。やはりそれに構わず口を動かす。 「対策はあんのか?黒髪の嬢ちゃんはともかく消える女……ステルスだっけか?の方は厄介だぜ。 戦力比からも性質的にも、真正面から向かってくるなんてことはまずあり得ねえ。間違いなくドサクサに紛れて不意打ちしてくるぜ」 「確かにな。だが来ると分かってる奇襲が脅威になるか?やりようはいくらでもあるさ。 理想は逆にこちらから奇襲をかけることだな。桃子自身のスキルは低い、上手くやれば簡単に無力化できる。 澪に対しては簡単だ。『油断しないこと』これに尽きる。 窮鼠は猫をも噛むからな。それさえ忘れなければ問題ないだろう」 サーシェスと会話する傍ら、ちらりと横目で見やる。憂の面持ちは沈痛だ。やはり精神の消耗はかなり大きいとみえる。 今後の戦いのためにも休めたいが、まだ聞いておかねばならないことがある。 「憂、念のために聞いておく。今でも阿良々木暦を殺したいと思っているか?」 正直、既に俺にとっては阿良々木暦は排除対象とは言い難い男だ。 情報の行き違いと誤解から処理の標的として定めていたが、それから半日も経過してその意味は薄れつつある。 見た目と人物像からいって、阿良々木暦が単独で強者を屠るだけの力と知恵を持ってるとは考えづらい。 そしてこの局面で集団に属しているのなら、そこにスザクも加わっている目算は非常に高い。 であるのならば、自分との間の誤解も解けているのではないか。 スザクもここで対立して余計な軋轢を生む真似はしない筈。桃子も離反した今、和解とまではいかなくとも協調にまでは踏み入れる余地はある。 ならば、重要なのは個人的な執着を持つ憂だ。 彼女は果たして今も阿良々木暦に明確な殺意を抱いているのか――― 「?ありますよ?阿良々木さんはブチ殺すに決まってるじゃないですか!」 「―――――――――」 即答。あまりに早い回答だった。 さっきまで澪や式に大きく揺さぶられていたとは思えない。むしろ快活なくらい色のある声だ。 思わず呆気にとられる。 阿良々木暦と憂との因縁は、実のところあまり把握していない。 暴行を受けたというわけではなく、むしろ憂が阿良々木を襲い返り討ちにあったということくらいだ。 いったいどれだけの事をしでかせばこれだけの怒りと殺意を抱くのだろうか。 ……逆に言えば、思いを失ってなおそれだけ執着しているということなのだが。 執着といっても、解釈を返せばそれは一つの依存の形だ。 守るものを奪われた時、人は残された思いを憎悪へと転化させ生きる糧を得る。 殺すために生涯を費やす復讐者などが良い例ではないだろうか。自分もその一例だ。 憎悪にせよ執着にせよ、良し悪しは別にすれば、強い感情は生きる気力になる。 あるいはそれを転化させれば、遠くない破滅を約束された少女に救いの道を開くことが――― ■■■ERROR■■■ERROR■■■ERROR■■■ERROR■■■ERROR■■■ERROR■■■ERROR■■■ 警告、警鐘。 頭痛、暴動。 危険。危険。危険。 思考、遮断。閉鎖。脱線。断線。断層。隔離。 「ルルーシュさん?」 「―――そうか、わかった。お前の好きにするといい」 思考を打ち切れ。忘れろ。録音を消去しろ。 そんなことは、考える意味がないことだ。必要のないことだ。 今更……俺が彼女に何をしてやれるっていうんだ。 頭痛のせいで思考が散発しているのだろう。気を入れ直さなければならない。 無理やりに纏め上げ、脳を再稼働させて早々に話題をごまかし次に移る。 ■■■■■ 「天江衣は情報の限りでは麻雀以外では非力な少女でしかないそうだ。桃子とも切れた今、特別関わる必要性は薄いと見ておく。 グラハム・エーカーに関しては全くの情報なしだが……サーシェス、お前は知っているか」 「俺の世界じゃ名の知れたMSパイロットだそうだぜ。もっとも会ったことはねえし、俺が知る限りじゃ死んだか行方不明だかって話だけどな」 「ここまで来た以上、同姓同名ということはなさそうだな。モビルスーツがあれば引き寄せる餌にはなるか―――」 異なるルートで動いていたサーシェスを併せて情報の整理は滞りなく済んでいく。 大方の考察は出揃った。ここからが本番。この会議を始めた理由の大半。 今まで上げた人物は、危険度の差こそあれどれもある程度の対策というものが見えている。 未知数の部分も状況によって柔軟に対応するだけの余地もある。 だが、次の相手には特に入念に練る必要がある。 それだけの、最大限の警戒を以てして考える必要があると判断したまぎれない敵。 「織田信長。こいつが俺達が最も警戒すべき敵だ」 おくりびとで見た顔を想像し、仮想の敵を思い返す。 壮年に入った年頃、映像越しでも伝わる鬼の如き気迫。第六天魔王と後世に恐れられた通りの形相だった。 「こいつの情報自体は決して多くはないが、それでも間違いなく最大の障害として立ち塞がることになるだろう」 「へえ、根拠は?」 「簡単だ。少ない情報だけでも危険な要素が満載だからさ」 織田信長に関して集まっているマトリクスは確かに多くはない。だがその少ない情報でその戦力、性質が容易に窺い知れる。 サーヴァントと同等の力量の戦国武将。 凶行を繰り返し続けた明智光秀の上官。 直接対峙した式とデュオからの証言(一瞬だけとはいえサーシェスも含む)。 現在でも生き残っていることもよりその剛健さを裏付けている。しかもこれで最低限の推察なのだ。 過去のサーヴァント戦での経験から、常に想定以上の強さを誇っていると見なしても問題ない。 それを見積もれば、その強さは規格外としかいいようがない。 「戦国武将でも屈指の威名、バーサーカーと同等以上の扱いをしても過大にはならないはずだ」 そしてニホンの歴史を学べば必ず目にする知名度の高さ。 ……俺の知識が正しければ、歴史上の信長は常識にとらわれない戦法を軸にして成り上がった大名なのだが、今となってはどうでもいい。 「…………!」 「―――で、そいつに勝つ見込みはあんのかい旦那」 身震いする憂に、ここまでで一番の真剣な顔を見せるサーシェス。 憂にとっては、思いだしたくない恐怖の象徴であろう狂戦士を越える敵となれば、警戒と畏怖を抱いても無理もない。 サーシェスとしても信長は排除には相当手間取ると考えてるのだろう。傭兵の勘は遠目とはいえ直に見た威圧感というものを感じ取っている。 俺自身、バーサーカー以上の強さというものに予想がつかない。 だが。 「勝つさ。勝たなくてはならない。どんな相手だろうとな」 強大さ、正体、そんな要素はたいした問題ではない。 敵の手の内が見えないなど至極当然。ようはそれを叩き潰すだけの実力があるかどうかだ。 そしてルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとっての実力とは即ち権謀術数。 策を弄し術を携え、足を掬う戦略構築に他ならない。 実際勝算はある。一騎当千の勢いを持つバーサーカーを斃せたように、しかるべき手さえ取れば決して太刀打ちできない存在ではない。 バーサーカー戦時とは数の上では劣るが戦力比でいえばむしろ上昇している。勝利への方程式は組みつつある。 「俺の見た手では、戦国武将及びサーヴァントの戦闘力は高性能のナイトメア一機分と想定している。 俺達の戦力は紅蓮とリーオー。馬力はリーオーの方が上だが対象が人間大では狙いが付けにくいだろう。 よって前衛に憂に置き、後衛でサーシェスが援護射撃、俺が指揮を執る陣形を基本としていきたい。 紅蓮の性能なら決して見劣りしない筈だ」 憂の身に秘められた才能は芽を開き、操縦技術においても訓練を積んだ一般兵を上回る。紅蓮の性能も引き出せるだろう。 構築した戦略を解説して、横に座る憂に顔を向ける。 「当然、お前には大きな危険が付き纏うことになるが―――憂、できるか」 不安げに俺の顔色を窺う、子犬のような仕草。 戦う意志はあるか。命を懸ける覚悟はあるか。俺を信じてくれるか。 既に幾度なく行われた問い。それを再認識させることで、彼女の戦意を促す。 なんて、卑怯。選択肢なんて、とうの昔に奪ってしまったというのに。 「―――出来ます。大丈夫です。 ちゃんとやりますから。私が、ルルーシュさんを守りますから……」 予想通りの、都合のいい返事。分かり切っていた回答が耳に届く。 潤んだ瞳は俺から目を離さない。それが最大の信頼の証というように。 あなたを信じます。あなたを頼ります。あなたのために働きます。 必死に暗示を自己にかけ続けている。 「ああ、頼んだぞ」 「はい…………」 それを指摘することなく振る舞う。このまま騙し続けることが俺の役目だと戒めて。 せめてこの瞳だけからは目を逸らさず、真正面から受け止める。 欺こう。 演じさせてあげよう。 俺の紡ぐ優しい嘘に。 だって、彼女には。 もう、俺しかいないんだから。 ……いないのだろうか、本当に。 「2人の世界のところ悪いけどねえ、そろそろ作戦のまとめといかねえか?」 完全に蚊帳の外状態のサーシェスの声を受け咄嗟に離れるく憂。 何故だか、顔が赤い。涙をこらえているせいだろうか。 確かにこれ以上のフォローは無用か。話の路線を元に戻す。 「そうだな、今からすることはこの船の武装化だ。幾つか余った装備があるし、それを遠隔操作できるようにしておきたい」 戦いとなればこのベースは大きな的にしかならない。大型船舶ということに安心し切れないのは承知済みだ。 2人の戦いをサポートするためにももう一手欲しい。戦艦とはいかなくとも護衛レベルのものを備えおく。 「憂、装備の配置に手伝ってくれ。紅蓮の慣らしも兼ねて動かしておけ」 「はい。あ、でもルルーシュさん……」 従順に頷く憂だが、俺の横を見て少し戸惑う。 視線を追えば、赤い中華服に身を包んだ茶髪の少女。 どうやら、俺とサーシェスを残すことに不安があるらしい。 「気にするな、俺も後で来る。それにこいつには何もできないさ」 今はまだな、と心中で付け加える。サーシェスはそれに何も言わない。 気付いてないか、あるいは勘付いた上で黙しているのか。 憂はやや間を置いて、不承不承ながらも了解したように扉へ歩く。 だが出ていく前に振り返って一言。 「ルルーシュさんにヘンなことしたら、絶対に許しませんからね」 そんな、奇妙な台詞を捨て残して部屋を後にしていく。 姿が消え足音も聞こえなくなってから、堪え切れないという風にサーシェスが吹き出した。 「うらやましい限りだねえ、ぞっこんじゃねえかあの嬢ちゃん」 「あまり不用意にからかうな。連携が乱れては困るのはお前の方だぞ」 俺としてはより円滑に動けるようにコミュニケーションを取っているつもりなんだがねぇ……、と呟きながら足を組みかえ頬杖を突く。 色気よりも健康さが発露されている、瑞々しい小鹿のような腿を曝け出し、嘲るように声を投げかけられる。 年端もいかない少女の肉体に中年男性のような振る舞いはひどい倒錯感を覚えさせる。 ある意味でそれは誘惑だ。獲物を誘い仕留める肉食獣じみた姿勢だ。 「旦那こそ人のこと言えるか?あんだけベタ甘にされりゃあ、色々考えもするんじゃねえのか?」 「そう見えるか?」 …………………… しばし、沈黙。 サーシェスの顔はふっ、と。さっきとは毛色の違う冷笑を浮かべる。 「――――いいや。旦那はそんなタマじゃねえよ。アンタの腹(ソコ)は分かってるさ。 目的の為なら何だって、俺も嬢ちゃんも、てめえさえも躊躇無く差し出すだろうさ」 そういう所が気にいったんだぜ。両手を挙げてポーズを取りながらそう答える。 こいつは、自分が切り捨てられるということを勘定に入れた上で俺に従っている。普通に考えなければ狂ってるとしか言いようがない。 当然気狂いの妄言ではない。自分の札に手がかけられる直前に逆に出し抜く算段を立てている。 元々派遣扱いの雇用者、ここで離脱しても元の鞘に収まるだけ。何の問題もありはしない。 だがむしろ、このほうがいい。 今まで組んでいた相手とは馴れ合い過ぎた。その結果がこの無様でもある。 この傭兵との関係こそが、俺が慣れ親しんできた、俺に相応しい他人との間柄だ。 人を従え、隷属し、支配し続けて来たあの頃の自分。 このいつ背くとも知れない獣を傍に置くことで嘗ての自分を取り戻す。 これからの戦いに必要なのは、悪逆皇帝としての冷酷さ。 「さあ、休憩時間は終わりだ。ここからは休みなしと思え。一層働いてもらうぞ」 「はははっ望むところだねえ。んじゃ精一杯お仕事といきますか!」 景気づけとばかりに、手をかざす。 スリットを捲り露になる太腿にまき付かれた紫の布を振り回す。 すると棒はみるみる内に硬質化して、身の丈を越える棒となりサーシェスの肩に乗せられる。 流体金属製というその布は電流を帯びることで形を変える材質でできている。懐かしきホールからの戦果のひとつだ。 澪と俺の部屋に別個にして置いていた支給品の詰まったデイパックから、サーシェスが使える武器として渡したものだ。 これ以外にもまだ使える品が残されている。これと自販機を活用すればそれなりの防備を作れるだろう。 ■■■■■ 3つのデイパックを抱え前を進むサーシェスを見て、誰にも気取られぬ視界で思考を別のものに切り替える。 裏に潜む存在、リボンズ・アルマークという黒幕に関しての情報は殆ど得られていない。 直接の情報源はサーシェス一人だし、その本人から有用な手掛かりには辿り着けなかった。 ギアスの支配下での質問で沈黙を通したという事は、本当にサーシェスは何も知らないということだ。 今の俺同様、リボンズの私兵として動いてきたサーシェスでは容姿程度しか知るものはない。 一見手詰まりの現状であるが、それに反してこの殺し合いそのものに関しての手掛かりは各地に置かれていた。 会場内の地図。 ダモクレスの設計図。 そして廃ビルで手にした首輪の設計図。 つまり殺し合い抗するための手段は多数あるが、元締めであるリボンズ本人に関しては一切の情報がないのだ。 これの意味する所。単に俺達の殺し合いを観戦するがためでないのは明らかだ。 ネット麻雀やチェスと同じ要領だ。顔が見えなくとも出した手を見れば次の動きも読めてくる。その先の読み合いこそがボードゲームの真髄。 これまでに集めた断片を、一本の線に形作る。 (敵は相当の自信家。俺達が集められる程度の情報では自分の元へ辿り着かないと確信している。 その上で首輪の情報を流し俺達が自主的に脱出するように―――殺し合いが成り立たなくなるように仕向けている。 つまり優勝者の決定の是非は問わない。脱出して喜ぶ俺達を嵌めて嘲笑うためにしては手が込み過ぎている。 奴は一体何をしたい?俺達に何をさせたい?) しかし答えは出ない。数式を解くためのピースはあまりにも足りず、解答時間もリミットが近づいてきている。 焦りは禁物とはいえ時間オーバーでは話にならない。疑念は躊躇を生み、行動を遮らせる。 故に一端打ち切る。正しい答えに辿り着くには時を置くことも重要だ。熱くなり過ぎた考えを冷まし、柔軟な思考を取り戻させる。 皮算用ばかりで目前の戦いを疎かにしては話にならない。今はこの準備を進めておく方を優先する。 だが、必ず。何としてもその影を暴いて見せる。その玉座から引き摺り下ろして見せる。 リボンズ・アルマーク。 お前は誰かを撃つと同時に自分も撃たれる覚悟があるか。 人を撃つということの重みと、それに伴う痛みが理解できてるか。 ないのだとしたら、俺がそれを理解させてやる。 だから、待ってるがいい。 【D-1 廃ビル前(ホバーベース内)/二日目/朝】 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】 [状態]:疲労(中)、右腕骨折、頭部に裂傷(処置済み) [服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス 、頭部の包帯 [装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、 [道具]:基本支給品一式、2億200万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、不明支給品(0~1) 、 単三電池×大量@現実、和泉守兼定@現実、フェイファー・ツェリザカ(弾数2/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実、 USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、首USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達) BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2) 、輪の詳細設計図@現地調達、オートマトンx3@機動戦士ガンダム00 [思考] 基本:枢木スザクは何としても生還させる。 0:戦闘の準備をする。 1:首輪を取り外すためにもう少し情報が必要。 2:殺しも厭わない。憂、スザク以外は敵=駒。 3:スザクと合流したい。 4:サーシェスを上手く利用する。 5:主催の目的を探る。 [備考] ※首輪の解除方法を知りました(用意次第で解除可能) 【平沢憂@けいおん!】 [状態]:拳に傷、重みを消失 [服装]:アシュフォード学園女子制服 [装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯 S W M10 “ミリタリー&ポリス”(4/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着) [道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード 鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×44、さわ子のコスプレセット@けいおん! 紅蓮弐式の起動キー@コードギアス 反逆のルルーシュR2 、アシュフォード学園女子制服 [機動兵器]: 紅蓮弐式 [思考] 基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。 1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。 2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。 3:阿良々木さんはブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。 4:東横桃子は敵と見なす。 5:思いを捨てた事への無自覚な後悔。お姉ちゃんは私の――。 6:澪への未練 【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】 [状態]:左頬に湿布、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身、 右腹部に傷(治療済み)、 [服装]:チャイナドレス(パンツはいてない)、首輪、ファサリナの三節棍@ガン×ソード(太ももに巻き付けてる) [装備]:コルトガバメント(6/7)@現実、予備マガジン×1、 [道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、接着式投擲爆弾×2@機動戦士ガンダム00 COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(0/1/)発/予備40・9発)@現実 ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録 、 [機動兵器] :OZ-06MS リーオー [思考] 基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。 1:ひとまずこの集団に属して立ち回る。 2:好きなように動く。 3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。 4:式、スザクには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。 5:影の薄い女にはきっちりとお礼をする。 【ホバーベース】 現在はD-1廃ビルに停止中 ※以下の荷物を3人で運んでいます。 基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機 ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、 カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実 基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合) 蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実 桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達) 桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5 皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@ ※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。結構な量をサーシェスが食い散らかしました。 ※下記の機動兵器が格納されています。 [―――]:RPI-13サザーランド 装備:スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード [平沢憂用]:紅蓮弐式 装備:輻射波動機構、呂号乙型特斬刀(特殊鍛造合金製ナイフ)、飛燕爪牙(スラッシュハーケン)×1 [アリー・アル・サーシェス用]:OZ-06MS リーオー 装備:ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用) 時系列順で読む Back I hope so... Next わたしとあなたは友達じゃないけど(前編) 投下順で読む Back I hope so... Next わたしとあなたは友達じゃないけど(前編) 288 優&愛(後編) ルルーシュ・ランペルーシ [[]] 288 優&愛(後編) 平沢憂 [[]] 288 優&愛(後編) アリー・アル・サーシェス [[]]
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狂気の拠り所 ◆lDZfmmdTWM 風を切り、音を立てて疾走する一騎のバイク。 その速度を示すメーターは、既に最大限の値まで届いている。 デュオ・マックスウェルと両儀式の二人は、目的地を目指して一直線に突き進んでいた。 当初と同じ目的地―――北へと。 「……良かったのか?」 プリシラの亡骸を見届け、走り出してからしばらく程経った頃。 ふと、式がデュオに一言だけ尋ねる。 考えた末に出した、北上するという結論に対しての初めての問い。 目的地をどうするかは確かに一任こそしたが、一応は聞いてみるべきだろう。 そう考えてかの発言だった。 「ああ……どうせ、どっちを選んだとしても悩むのは同じだしな」 デュオにとっても、デパートか敵のアジトかの二択は、悩んだ末のものだった。 どちらを選んでも確かにメリットとデメリットはある。 全ては、その両者の度合いを考慮した結果として導き出された。 まず、敵のアジトへ向かうという選択肢を選んだ場合。 それは文字通り施設の意味を確かめる事であり、その『場所』を調べる事。 その一方、デパートへ向かうという選択肢を選んだ場合。 その目的はゼクスに出会う事であり、『人物』と接触する事。 『場所』と『人物』。 この両者の大きな違いは、どちらが確実かという点である。 そう……後者には移動する可能性が会ったが故に、向かう事を戸惑ったのだ。 ―――動いてなけりゃD-6のデパートにゼクスって奴がいる。聞きたいならソイツにでも訊きやがれ。 一方通行が残した言葉は、ゼクスが移動していなければという仮定での言葉だ。 逆に言えばそれは、ゼクスがデパートから離れている可能性が十分にあるという意味でもある。 更に、思い返せば一方通行は何時頃にゼクスと接触し、分かれたかを一言も口にしていない。 故にデュオは、デパートへ向けては動けなかったのだ。 ゼクスと接触できなかった場合、得られるものは当然ながら何も無い。 ただですら時間を消費している現状、そんな賭けに出るわけにはいかない。 「まあでも、デパートと駅の位置はかなり近いんだ。 案外、ゼクスとセイバー達が接触してるって事もありえるわけだし、どうにかなるだろ」 「その場合、あの一方通行とかいう奴には不本意だろうがな」 「ハハッ、違いねぇぜ」 希望的観測を言うならば、デパートから最も近い施設は、他でもない合流地点の駅という事。 ゼクスが駅に残った者達や戻ってきたスザクと接触する可能性も、そう低くは無い。 ならば、合流したその時に改めて話を聞けるだろう。 ただし問題があるとするならば、ゼクスがもしも殺し合いに乗っていたらという事だが…… (いや……一方通行の言葉からしても、あいつは殺し合いを壊そうとしている側だ。 リリーナが死んだ事で、取り乱してるかもしれねぇが……敵とは言え、ここは信じるしかないな) 断定こそ出来ないものの、彼は殺し合いに乗っていないと判断しても十分だろう。 一応はゲームを壊そうと考えている一方通行と接触し、情報交換を行なったというのであれば、彼も同じ立場だろうと判断は出来る。 無論、これがデュオの全く知らない第三者ならばそうはいかないが、相手はゼクス=マーキスだ。 彼の性格からして、殺し合いを良しと思わぬ事は間違いない。 ゲームを壊す側を演じる殺人者になっているというパターンは、流石に無いだろう。 ならば、何故断定できないか……それはやはり、リリーナの死だ。 まさか、ゼクスが彼女の為に優勝を目指そうなんて事は流石にありえないと思うが…… そう言える以外、全く行動の予想がつかない。 「……大丈夫だろ」 「ん?」 そんなデュオの悩みを見抜いてか、式は彼に呟いた。 「阿良々木は兎も角、真田とセイバーの二人がやられるなんて事はそうそうないだろ」 「……成る程ね」 言われてみれば納得する。 幸村はその体つきや身の振る舞い等を見る限りでは、かなりの手馴れと判断できる。 セイバーに至っては、直にその実力を見ているから説明不要だ。 一般人の阿良々木は別として、仮にゼクスがあの二人と同時に戦ったとして、勝ち目があるか? 答えは、もはや言うまでも無いだろう。 (……改めて考えると、さっきの戦闘といい、洒落にならなさすぎる奴が多すぎるぜ) ◇◆◇ 「さて……そろそろだな。 一体、何が出てくる事やら……」 それからしばらくした後。 二人は予想していたよりかはやや早く、目的地の近くまでやってきていた。 どうやら、時間のロスを無くすべく最短のルートを最速で走った事が、功を奏したようだ。 敵のアジトという如何にもな名前の施設。 幸村程ではないにしても、気にならないといえば嘘になる。 やはり、アジトの名に相応しい特殊な施設か。 それとも、難攻不落の名が似合う巨大な要塞か。 果たしてどんなものが待ち受けているか、デュオは息を呑んで進み…… 「……ハァ?」 そして、素っ頓狂な声を上げた。 それも当然、目の前の施設を見れば誰だってそう思うはずだ。 敵のアジトなんて大層な名前をつけられた施設が…… 「これ……マンションか?」 マンションだったなんて、誰が予想していただろうか。 しかし敢えて言うならば、どこにでもある様なマンションとは見た目がやや異なる。 見る限り、一階と二回は普通の建物。 しかしそこから上は、半円形をした10階建ての二つの住居棟が隣り合う様に建ち、 その中心部を円柱―――恐らくはエレベーターがある部分―――が繋いでいる。 言うならば……そう。 『太極図』を模したかのような形だ。 「……ったく、拍子抜けしちまったぜ。 どんなやばいのが出てくるかと思ったら、ちょっと見た目の変わったマンションなんてよ。 なあ、式?」 流石にこれには、デュオも溜息をつかざるを得ない。 横にいる式も勿論同じだろうと、彼は同意を求める……が。 「……敵のアジト、か。 確かに、こいつはその通りだな……」 逆に、式の表情はかなり真剣なものになっていた。 目の前の建物を、しっかりと見つめている……睨んでいると言ってもいいだろう。 その様子を見て、デュオはまさかと感じた。 普通、このマンションを見てここまで真剣になれる奴なんているわけがない。 しかし…… 「……式、まさかお前、こいつを知ってるのか?」 建物の意味を知っているならば、話はまた別になる。 「ああ……小川マンション。 こいつは、俺にちょっと縁がある場所さ」 『敵』のアジト……その敵とは、式にとっての全ての黒幕。 すなわち、魔術士荒耶宋蓮の事。 そして目の前にあるマンションの名は、小川マンション。 荒耶の工房にして、根源へと辿り着くべく生と死が人工的に繰り返されている実験場。 式の脳裏に深く焼きついている、忘れられない場所のひとつだ。 「入るぞ、デュオ。 少し気になる事がある」 「え……あ、ああ」 駅で会って以来、はじめて式の方から行動の意志が告げられた。 デュオはそれに戸惑いつつも、内部の様子を確かめるべく、バイクを入り口につけて降りる。 そして中に入ろうとする、その寸前で。 「ああ、言い忘れてたけど、このマンションには人の精神に異常をきたしやすい仕掛けがしてある。 しっかりと意識を保っておけばどうにかなるとは思うが、気をつけろよ」 「な……!?」 さらりと、かなりとんでもない言葉を告げられた。 どういうことだと抗議をしようとするも、それよりも早くに式は内部へと入っていた。 デュオは当然の事ながら、今告げられた式の言葉が心に引っかかり、入る事を躊躇する。 しかし、このまま置いていかれるわけにもいかず……少しした後、意を決して足を踏み込んだ ◇◆◇ 「うへぇ……これは確かに、気が狂いそうになるぜ」 マンションの内部に入り、デュオは式の言葉の意味を理解した。 床はところどころに微量の傾斜を着けることで、平衡感覚を狂わせ。 その概観は、塗装と照明の使い方で目に負担をかけてくる。 作為的に、マンション全体が人の精神を狂わせる構造にしてあるのだ。 ただし、これはデュオが先に式からその事実を告げられていたからこそ認識できているのであり、 何も知らぬ者がここに来れば、この様な仕掛けがしてある事なんてまるで気付けないだろうレベルだ。 もっとも、この仕掛けさえも予備的なものであり、荒耶による建物全体に施された 魔術的な措置での精神異常を狙うものこそが本命ではあるのだが、デュオにはそれを知る由など当然ない。 「敵のアジトなんて怪しい名前にしておいて、何も知らない奴がここを重点的に調べようとすれば、 やがては気が付かないうちに精神に異常をきたしていく……とんでもない罠だな」 名前からして怪しく、何かしらの罠に違いないという可能性は考えていた。 しかし……まさかここまで酷いとは、完全に予想外だった。 この仕掛けは、自分達の様に対主催派の人間ですらも、殺し合いに乗せる可能性がある悪辣な代物。 式の言葉が無ければ、デュオとて調べているうちにどうなっていたか分からない。 「後は、そんな風になってる先客がいない事を祈るだけなんだが……」 不安を感じ、周囲を警戒しつつデュオは先に行く式の後を追いかける。 すると、階段を上がって東側の住居棟へと足を踏み入れた、その矢先。 「……いたぞ、先客なら」 「何だって!?」 式から告げられるやいなや、すかさずデュオは銃を抜いた。 最悪の予想が当たってしまったと、彼は舌打ちをして内心毒づく……が。 少しして、式が溜息と共に口を開いた。 「落ち着け。 先客は確かにいたが、こいつはもう生きてねぇよ」 そう、先客は『いる』のではなく、『いた』のだ。 既に物言わぬ屍と化した、哀れな男が。 「……マジかよ」 「こんなところでギャンブルなんて、自殺行為もいいところだぜ」 式が見つめるその先にあるのは、本来のこのマンションには存在しなかった一室。 『ギャンブルルーム』という説明書きがなされた、巨大なモニターの設置された部屋である。 その中で、骸―――兵藤和尊は、驚愕の表情のまま椅子に座っていた。 死因は分かっている。 椅子の隣に設置された、病院でよく見る採血器の様な道具だ。 この男は、文字通り命を賭けたギャンブルに挑んだのだ。 「デュオ、分かるか?」 「ん~と、ちょっと待ってくれよ」 式に言われ、デュオはギャンブルルームに備え付けられていた端末を操作してみる。 まさか、何のメリットも無しにこの男がギャンブルに臨み死んだとは思えない。 ならば、このギャンブルには…… 「やっぱりな……予想通りだ」 モニターに、このギャンブルルームについての説明書きが表示される。 分かった事は、大きく分けて四つ。 まず一つ目が、この会場中に同様のギャンブル設備が備えられているという事。 二つ目が、このギャンブルは100点につき10万ペリカ、もしくは10ccの血液で支払われる麻雀である事。 三つ目が、勝利すればペリカを得られる。 更に相手が死亡した場合はその所有物も得られる―――どんな仕組みかは分からないが―――という事。 そして四つ目は、ギャンブルに参加したら逃げ出す事は出来ず、無理に何かをすれば首輪が爆破されるという事だ。 「こいつを利用すれば、腕っ節の弱い奴でも十分に誰かを殺せる上、ペリカまでもらえる。 ってことは、この爺さん……殺し合いに乗りやがったな」 「そして、返り討ちにあって死んだ、か」 この説明を見れば、目の前の老人が殺し合いに乗って死んだことは明らかだ。 驚愕の表情を見る限り、ギャンブルには自信があったに違いない。 まさか、己が敗北するなどとは思ってなかったのだろう。 事実、兵藤和尊の博才は会場内でもトップクラスだ。 「……運が無かったな」 だが……結局の所、彼は不幸だったのだろう。 機械越しの勝負であるが故に、その観察眼も働かず。 ギャンブルで己が命を晒した経験も無い為に、場馴れをしておらず。 そして……この小川マンションで勝負に臨んでしまった事もまた、少なからずその敗因だったに違いない。 人の精神を狂わせるこのマンション内で、精神力を使う麻雀というギャンブルに挑む事は、その時点で大きなハンデだ。 もしも兵藤がその事実に気付き、別の施設に移動した上で勝負を挑んでいたならばどうだろうか。 兵藤は、トレーズに殺されずにすんだのか? 逆に、兵藤がトレーズを殺していたかもしれなかったか? それは確かに、ありえない話ではなかっただろう……だが、もはや今となっては完全なIFの話だ。 「それで式、このギャンブルルームがお前の言う、気になっていたって事か?」 「いや……確かにこいつは予想外だったが、それは違うぜ」 式は軽い溜息をついて答えた。 確かにこんな部屋が設置されていた事は予想外だったものの、彼女が気になっていた点は別にある。 それは、このマンションの住人……荒耶によって、延々と生と死を繰り返される者達がいるかどうかであった。 式はかつてこのマンションに乗り込んだ際、荒耶が操るその生きた死体達を相手に戦った。 もしかすれば、また同じことになるのではと予想していたが……どうやら、この予想は外れたらしい。 このマンションには、住民がいる様子は一切無い。 「このマンションはどうやら、中身がところどころ本物と代わってるみたいなんだ。 多分、殺し合いの為にいじられたんだろう」 「成る程な……それでどうする? もう少しここを調べてみるか、それとも……」 問題は、これからどうするかであった。 もうしばらくこのマンションを調べてみるか、それとも立ち去るか。 アジトの正体そのものは分かったから撤退も確かに一つの手だが、 このギャンブルルームの様な殺し合いに関係した部屋が、もしかしたら他にもあるかもしれない。 調べるだけの価値はあるが…… 「……いや、ここは引き上げるぜ。 丁度良い手土産もあるし、長居は無用だ」 式は死体を、正確には死体の『首』を指差しながら答えた。 彼女としてもこのマンションは確かに気になるが、時間的な事を考えるとここは引き上げた方がいい。 それに……目の前には丁度、自分達を縛り付けている厄介なものがある。 先程プリシラの遺体を目にした時は、デュオの機嫌を損ねるのが面倒で言わなかったが、今は別だ。 駅で待つ三人にこれを見せれば、何か解除の手がかりを得られるかもしれない。 「手土産か……確かにその通りだけど、あいつ等でこれをどうにかできると思うか?」 「さあな、人は見かけによらないっていうだろ?」 式はルールブレイカーを遺体の首元に当て……一閃。 死の線に沿っての斬撃で、見事に首を切り落とす。 そして残された胴体から、首輪を難なく取り出した。 「さて、それじゃあ行くか」 「出来る事なら、こんな危ない場所はぶっ壊しておきたいけど……やっぱ無理だよな?」 「流石に、マンション一個解体するのは俺でも無理だな」 この危険地帯をこのまま放置していく事に関してだけは、流石に不安はある。 しかし、これだけの建物を破壊する手段も無い以上、やむを得なかった。 ありったけの爆薬か、それかいっそモビルスーツでもあれば楽なのだが……そう思いつつ、デュオは溜息をつく。 考えたところで、無い物は無いのだから仕方が無い。 ◇◆◇ (……『敵』のアジトか……) 階段をくだりつつ、式は施設の意味を考える。 何故、この小川マンションが『敵のアジト』なんていう名前で地図に書かれていたのか。 もっとも自然なのはやはり、先程デュオが口にした通り、訪れた者の精神異常を狙うのが目的の罠という可能性だ。 しかし……本当にそれだけなのだろうか? (……いや。 首輪の事も考えると、そうとは言い切れないな) この敵=荒耶宋蓮という事が分かるのは、会場にいる参加者ではたった二人。 両儀式と黒桐幹也のみだ。 そして、首輪の死が見えにくくされていたあの仕掛け……明らかに、式の事を意識している。 (まさか……?) 自分の事をここまで徹底して意識する相手に、式は一応の心当たりがあった。 あの男が裏で仕組んでいるのならば、全ての説明はつく。 一つ気がかりがあるとすれば、『参加者』としてあの魔術士がこの場にいる事だが…… ありえない話ではないだろう。 他ならぬ、式にとっての敵……荒耶宋蓮が、この殺し合いの根底に関わっているのかもしれないという事が。 【A-5/敵のアジト内/一日目/午前】 【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:健康 [服装]:牧師のような黒ずくめの服 [装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×93@現実、 BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2 [道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、メイド服@けいおん! [思考] 基本:なるべく殺したくはない。が、死にたくもない。 1:D-6の駅に正午までに戻り、セイバー達と合流する。 2:明智光秀、平沢憂には用心する。 3:デスサイズはどこかにないものか。 [備考] ※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。 正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。 【両儀式@空の境界】 [状態]:健康、荒耶に対する僅かな疑念。 [服装]:私服の紬 [装備]:ルールブレイカー@Fate/stay night [道具]:基本支給品一式、首輪、ランダム支給品0~1 [思考] 1:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないと考え中。 2:とりあえずはデュオと共に駅に戻るつもりだが、それからどうするかは不明。 3:黒桐は見つけておいた方がいいと思う。 4:光秀と荒耶に出会ったら、その時は殺す。 5:首輪は出来るなら外したい。 [補足] ※首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。 ※荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。 しかし、彼が殺し合いに何かしらの形で関わっているのではないかと、疑念を抱いています。 ※藤乃は殺し合いには乗っていないと思っています。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました 【小川マンション】 荒耶宋蓮が、根源に近づく為の実験場として用いていたマンション。 半円形をした10階建ての生活棟が隣り合い、その中心を円柱が繋いでいるという奇妙な形をしている。 荒耶による魔術的な措置や、建物自体の構造から、中にいる者の精神に異常をきたしやすいという特徴がある。 これは、原作にて燈子が黒桐に「気をつけろ」と発言した事から、 この事を自覚するか、もしくは強い精神力の持ち主ならば、耐えられると思われる。 このロワでは、本来いた筈の住人達は誰一人として存在いない。 また、3階にはギャンブルルームが一室設置されているなど、本物とは若干違う点も見られる。 時系列順で読む Back 絶望の城 Next ざわざわ時間(前編) 投下順で読む Back 夢! Next 右手に剣を左手に死者を 心に激しい殺意を抱き締め 116 とある死神の≪接触遭遇(エンカウント)≫ デュオ・マックスウェル 159 君が 光/闇 に変えて行く 116 とある死神の≪接触遭遇(エンカウント)≫ 両儀式 159 君が 光/闇 に変えて行く
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crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(一) ◆ANI3oprwOY ―――ただ一つ、この心臓に残るものが在る。 一人の男が歩んでいる。 黒き奈落の道を進んでいる。 男は何者にも頼らず、己の二本の脚で歩んでいた。 影のような薄い足場を踏みしめて奔放に、力強く前へと進んでいた。 前方には何も見えない暗闇だけが、どこまでもどこまでも続いている。 先には何も無く、何も見えぬ場所に繋がる、地獄に通じるような道。 されど側面に興味は無く、後方などそもそも振り返るつもりもなく。 ひたすら前に進んでいた。 男は闇の向こうにしか、興味が無かったのだ。 たとえその向こうに、何も無かったとしても。 己の歩む影の先が、どこに続いているか男は知らない。 回り道もなく、引き返す道もなく、ただただ男は己の道を行く。 長く細く、光の無き混沌の渦へと通じている、それは黒き道だった。 悪きし、と言う声が在る。 暗きし、と誰かが叫ぶ。 汚れし、と誹られる。 ちらつく音、ならば上等。 是非もなし、と。 男は笑い、払いのけ、また闇の深くへと踏み込んでいく。 こう在るべきなのだと、男は信じていた。 己とは、人とは、この道を行くべきなのだと。 信じるが故に目指していた。 人として進む禁忌の魔道を、人としてどこまで行けるか、男は知りたかった。 ただただ深く、より深く、更に更に深淵へ。 奈落の底へ転がるような道中、幾度もの戦いがあった。 暗き道に、稀に差し込む光がある。 白く、眩い、突き刺すような、精錬された純粋色。 俗に正義、英雄と呼ばれる、その光こそが男の敵だった。 己の目指す深淵の果てに降りる旅路と逆に、 底から這い上がってくる輝かしき閃光の白き道。 暗きを照らし、消し去っていくもの。 時に決して相容れぬその色が男の道と交差する。 交わってしまったが最後、排斥し合うより他に無き相克だった。 故に男は払う。 これこそが人の生き方であると確信して。 双方に容赦なく、一切の呵責は無く潰しあう。 ただただそう、「道を開けろ」と、告げる代わりに殺すのだ。 白は黒を、黒は白を、相対する光と闇はそうせねば、己は前に行けないのだから。 だから何度も払って、砕いて、潰して、 道を阻む光を尽く滅して止まる事無く歩き続ける。 男はそうやって生きてきた。 いき続けて今、男は進む魔道の底が見える場所までたどり着いていた。 たどり着き、そうしてやっと気づく。 己を染め上げる邪気に、己が周囲を満たす禍々しさに。 そして発する漆黒の根源とは今まで歩んできた道でなく、紛れも無く己の内側であったことに、ようやく気づき。 こんなのもか。 しかし感想は、ただそれだけだった。 進んできた道の到達点を前にしても。 至るべき存在に、己が限りなく近づいていたとしても。 人としてどれだけ進めるか、それを知りたかった筈の己が、既にヒトの範疇を超えつつあると知っても。 未だ、身を震わせる歓喜など欠片も無く。 こんなのもか。 男は思う。 こんなものか。 こんなものか。 こんなものか。 と繰り返し、繰り返し、白き光を払う度に掠めていた僅かな落胆。 今も胸に巣くい燻る何がしか。 進むほどに体は黒く染め上がり、既に存在は概念に変わろうとしていて。 ひたすらに目指した場所は目前で。 それでも、ここにきて、男は何かを捨てられずにいる。 強く、絶対的であり、迷う事など何も無かったはずの男が、 こんなものか。 こんなものなのか。 何かを、未練に感じている。 男は既に黒き何かであり、ヒトであった頃の何もかもを払い退けた。 限りなく、男は最早ヒトではなく、魔の王を名乗るに相応しい、上位の存在。 故に、その黒き腕は腕でなく、黒き脚は脚でなく、黒き胴は胴でなく、無論脳は脳でなく。 思考は全て黒き、暗き混沌。 波乱と破滅とそして創生を与える、その名は『魔王』。 されど、ただ一つ、残されし臓器に、 「こんなものか?」 ただ一つ、この心臓に残るものが在る。 ■ □ □ □ □ crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』 ■ ■ ■ ■ □ /勇侠青春謳・劍撃ノ参 そこからは、なんら見応えのない陥落だった。 サーシェスのリーオーを失った時点で、ルルーシュの策は完全に瓦解していた。 城が防備の拠点に成り得るのは、そこに十分な兵と武器があればの話である。 兵がなく、撃退する砲門もなければ、どれほど堅牢な城もただの豪勢な置物と大差ない。 守りが消え、容赦なく魔王の斬撃射撃を受け続けた艦艇はもはや見る影もなかった。 張り巡らせた弾幕は容易く避けられ、戦略の全ては突き崩され、船体には無数の傷跡が造られる。 炎を上げる城砦、ホバーベースは今や完全に静止していた。 必死に船を動かし必死に逃げ切ろうとあがいた結果か、E-1エリアの中部までは辿り着いていたものの。 機関部を撃たれたことで艇の制御をなくし、壁に激突して推進の機能を停止させている。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが操る最後の武装にして鎧、城は、完全に敵の手に落ちていた。 「ふむ……漸く墜ちおったか。煩わせおって」 黒く変色した高層ビルの屋上に陣取り、西洋剣を軽く振り払いつつ落城を見届ける。 己が身一つ、単騎で機械の軍勢を打ち破り、敵城の攻略を成し遂げたるはこの男、織田信長。 攻め落とした城塞の惨状ぶりを見てさも愉快そうに笑う。 事実、今の彼は悦に浸っていた。 征服者としての矜恃、責務とすらいえる通例の儀式。 引き籠る臆病な主を丸裸にし、その痴態を嘲笑する。 中に収められた兵糧や財、女子供を簒奪した後、哀れな敗将を引き摺り出し首級を上げ晒しに処す。 これこそが勝者の特権というものであろう。 「いざ仕上、よ」 己が黒く染めたビルの壁を蹴り、漆黒が降下を開始する。 残る仕事はただ一つ、敵将の首を取る、それだけだ。 踵で踏みつけたコンクリートの塊は、ただそれだけで砂と化し、風に流れて消えていった。 着地した場所は、停止したホバーベースより数メートル前方の大通り。 コツコツ、と質量を響かせながら信長は進んでいく。 敵へと、斬るべき存在へと、真っ直ぐに。 「しかし…………目障りよなァ」 目を細める。 言葉少なに不快を告げながらも、やはり歩みを止める事はなかった。 その必要もなしと断じているのか。 魔王は歩き続けていた。 表情に、しかし悦の色は既に無い。 かしゃかしゃ、かしゃかしゃ、と。 水を差すような雑音が、信長の周囲を取り囲んでいた。 多足が金属の音を鳴らす、駆動音が響き渡る。 「下らぬ、このような玩具。求めておらぬわ」 機械の兵団。 船が停止する前に地上に降ろしていたらしい、オートマトンの群れは彼我の差も考えずに向かってくる。 意志なく、感情なく、ただ、ただ、向ってくる。 向うために、時間を稼ぐために、壊されるために。 それだけの存在が、無数の銃口で信長を出迎えていた。 「とく失せィ。我意無き塵芥」 無機質に、簡素に、簡単に。 恐怖も知らず、狂気も分からず、ただ主の意のままに動く人形。 それに、生きとし生けるもののみならず、万物を畏怖させる大六天魔王は、何一つ感情を乗せず。 彼が斬って捨てるは、敵の五体のみならず。 「我を刺すは、我を殺さんとする一太刀のみぞ」 黒い羽衣を振るう。 艶やかな闇が、オートマトンのアイセンサーを覆い尽くした。 ■ ■ ■ 幾重もの対策を揃えてきたルルーシュがここまで追い詰められた要因とはいったい何か。 それにはやはり、この戦場における位置と、周囲の状況が関係している。 この戦い、始めからルルーシュの不利な状況で開始されたものだった。 戦闘の発端は、自分達と同じ大規模の対主催グループと合流する道中で起きている。 大型帆船故に小回りも利かず、殺気を隠さず臆面もなく現れた魔王相手に、ルルーシュ達は迎撃せざるを得なかった。 ルルーシュにとって一番の誤算は、全く同時期にもう一方の集団に別の襲撃者が現れたことだった。 そこに枢木スザクがいることを知ってしまった事もまた、選択肢を阻めることに繋がってしまっている。 ルルーシュにとって決して捨てられないスザクの存在が、対峙する敵への撤退を許さなかった。 弱みにつけ入られ飛び込まざるを得ない戦場、味方を同タイミングに分断する鮮やかな連携、 まるでルルーシュのために編まれたような戦術に、完全に機先を制されていた。 とはいえ尤も、どれだけ戦術的な要素があっても、それはあくまで副次的なものでしかないのだろう。 進んだ道を焦がし、進む先をも燃やし尽くす戦国の悪鬼。 策も数も武装もどれだけあっても、全てを吹き飛ばす暴威の権現。 ルルーシュにとっての最大の失敗とは、 紛れもなく、この織田信長を敵に回したことに他ならないのだから。 実際、対策は万全だった筈なのだ。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは如何なる敵が現れても迎え撃てる布陣を整えていた筈。 たとえ信長と対敵することになろうとも、戦いそして斃す算段はついていた。 抜かりは無かった、にも拘らず、状況はこうなっている。 第六天魔王を名乗る武人の地力。 一切合財、何もかもが、ルルーシュにとって計算外と言ってよかった。 前提(ルール)を決め、戦略を練り、手順を踏んで達成すること。 ルルーシュのような策士が絶対とする戦いの基礎である。 故にこそ、彼らは絶対的に相性が悪い。 人の身で機動兵器二機と戦艦一隻と撃ち合い、押し克つ存在など対策の立てようもない。 異能者の存在はルルーシュもまた知りえたが、差し引いても魔王は怪物だった。 物事の尺度、物事の程度を測る理(ことわり)、常識とよばれる全ての基準を破壊している。 織田信長にはルールがない。 事前に聞き及んでいた実力よりも、データよりも遥かに強大な存在だった。 まるで戦う敵に対応して能力が向上しているが如く。 底力に、底が無い。 常識を知るものには絶対に及ばない存在。 故にこちらにも必要だった。 常識を超える、非常理、理屈を凌駕する何か、が。 とはいえ、今は何もかも遅く、及ばず、 決着の光景だけが広がっている。 誰の目にも明らかな、戦いの顛末のみが―― 「ぐっ――――――あ―――う―――……」 指令室に焦げ臭い煙が上る中、床に力なく横たわる姿。 死体と見紛う程に傷付いた体は、僅かに動く指がそれを否定していた。 それでも、肉体が限界に達しようとしていることには疑いようがないだろう。 「ご―――ふ――――――、―――づ―――」 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの肉体の疲労、損傷はピークを超えていた。 元より体力のない貧弱な身、これまで溜め込んだ疲労と負傷。 他者の手がなければ無様に朽ちる他ない身である。 右の腕は折れ、頭部に銃撃を喰らい、休みなく一昼夜を無理に動かせ続けてきた代償。 疲労困憊、満身創痍、いつ動かない死体になってもおかしくはないだけの重態であった。 「―――はぁ―――――――――」 死が、近づいてきてるのがわかる。他人事のようにそう知覚する。 息を吸い、吐くという行為だけでも消耗を強い、全身にじわじわと染み入ってくる。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはもうじき死する。 自分自身で他者よりも確信を持てるのは、それは彼にとって既知のものだったからか。 胸の中心を剣で貫かれた、あの時のように。 「―――、――――――、――――――――――――――――――」 寒気はやがて全身を包み込み、熱を冷やす。 感覚を奪い、まどろみのうちに眠気を誘う。 痛みも恐怖も麻痺していき、安らぎのうちに生を終える。 それはある意味で救済だ。 今までの生を激動に費やしてきた男にとって、その終着は紛れもない祝福だろう。 「っっっ!!!」 だからこそ、彼はそれを受け入れなかった。 ガヅンと、鈍い音がした。 周囲から火が吹き出ている指令室にしてはやけに不釣り合いな音。 自分で叩き付けた頭の衝撃で逆に飛びそうになる痛みを堪え、彼は意識を覚醒させた。 「…………………………まだ、だ」 脳内のブレーカーを強引に上げ、弱弱しくも立ち上がる。 とうに骸になっている筈の五体。 いつ動かなくなっても不思議ではない筈のそれを、意思の力だけで縛り上げる。 手遅れになると分かっていながら―――、否、だからこそこの一瞬を足掻く為に。 「安息に眠る権利など、俺にはない……!」 痛みを刻み付けて思い出させる。 忘れるな。己の犯した罪の数を。貫き通すべき誓いを。 多くの嘆きを産み出してでも、より多くの幸せを造り出そうと決めた。 地獄に落ちることを承知で今まで駆け続けた。 そして最後は、悪として撃たれる道を選んだ。 結果が幸せな未来(もの)であったとしても、そこに至る犠牲と憎しみを流してはいけない。 神の慈愛に看取られての最期などという幸福な眠りが、己に許されるはずがない。 それなのに、こんな所で死ぬ? ここで死んで、殺される? ――――――馬鹿を言うな。 死ぬのは構わない。どうせ本来はとうに死人になる筈だった身だ。 だがそれでも、貴様ら如きにやれるものじゃない。 下らぬゲームの酔狂に、くれてやれる筈がない。 自分の命は自分で使う。使い道を決めるのは貴様らじゃない。 つまらない命ではあるが、汚れきった魂だろうが、こんな所で費やせるものではないのだ。 「づ―――ぐ………!」 視界が、上手く利かない。眼球から入り込む映像は砂嵐がかかっている。 煙のせいか、眼がやられたのか、あるいは脳に及ぶのか。 ぼやけた景色を手探りながらコンソールまで近づき、船の損傷状態を確認する。 現在のホバーベースの状態。全長に至るまで数多くの箇所が破損している。 無傷の部位を探す方が困難だった。 機関部にも軽微だが損傷があり、出力は落ちてるが、しかし航行には問題ない。 外部の攻撃兵装も半分以上が破壊されているが、少しばかり残っているだけでも僥倖だろう。 策は僅かだが残っている。完全に手詰まりではない。絶望するにはまだ早い。 諦観は決してせず、生き残るための手段を模索する。 たとえ―― 白煙の晴れた先の視界に、死神が鎌首もたげて待ちかまえていようとも。 「………………………」 「―――――――――」 ルルーシュの真正面、操縦室前面のデッキに仁王立ちする偉丈夫。 黒き鎧に、背に広がる魔の光景。 人の域を超えた、戦鬼の魔貌だった。 遠目に見ていた時とは比べ物にならない、肌を切りつけるほどの威圧感。 鬼が、口を開き、牙を覗かせ、言った。 「……小僧、貴様がこれの将か?」 「ああ、その通りだ」 「……ほぉ」 ブリタニアの皇帝。 戦国の大名。 2人の『王』が、遂に対面を果たす。 奇しくも互いが、世を震えあがらせ支配した「魔王」の名を冠する反英雄。 あり得ざる奇跡は、血と硝煙、戦の炎に塗り固められた部屋で行われていた。 鉄火場での接敵。限りなく詰みを決められた上での。 たとえ弱小の雑兵であっても、即座に剣と銃で裂き散ることになるはずである。 それがこの魔王となれば穏便にすむわけがないと思われた。 しかし、意外にも紡がれたのは会話の言葉である。 そも信長は既に理解しているからこそ、こうしているのかもしれない。 目前で立つ男はもはや死に体であると。 敵は今や満身創痍。 追い詰めた敗残の将など、わざわざ急いて首を斬る必要もない。 敗者を嬲り、嘲り、見下すは勝者の責務であり矜持であると捉えているのか。 対して、ルルーシュは気軽な調子で言葉を投げる。 「戦国時代に一時代築き上げた武将、大六天魔王・織田信長。拝謁にかかり光栄だ」 「余の名を知り、その業を知った上で余に弓引くか」 「こちらにも、引けぬ理由が……あるのでね」 敵の放つ余裕を知ってか知らずか、ルルーシュもまた咳き込みながらも会話の姿勢を取る。 生ある者を否応なく射殺す視線にも、傷付き衰えた体は怯む事はない。 むしろ身近に死の脅威を捉えたことで活が自然と入っていくから丁度いいと言うように。 死中に活を見出さんと、目を逸らすことなく両眼で魔王を睨みつける。 「よかろう。大人しく頭を垂れ首を差し出すか。 無様に逃げ惑い、向けた背を撃ち抜かれるか。好きに選ばせてやろうぞ」 「生憎だが、どちらも遠慮させてもらおう。死出の道は既に自分で進むと決めているのでね」 「ククク……実に慇懃無礼。では、何とする?」 たとえ勝敗が明らかだとしても、 形の上ではまだ戦闘続行中の関係だというのに、王の会話は妙に静かなものだった。 たった今まで、明確な殺意を持って殺し合っていた敵同士とは思えない。 内容が剣呑極まりない分、余計に違和感が付き纏う。 呼吸と等しく闘争を続けて来た信長と、いかな局面であれ冷静であろうとするルルーシュ。 この二人だからこそ奇跡的に意志の疎通が成っているのか。 「すぐに、教えてやろう」 だが、そんな偶然に欣喜することもなく。 絶命の危機にあるはずのルルーシュは不敵に笑みを見せ続けていた。 別に、末期の土産に語らいたくて彼は言葉を続けているわけではない。 鬼謀を携えるかの王にとっては、弁舌の一声、演技の一つさえも立派な「策」として機能する。 「簡単だ―――こうするのさ」 突如、轟音と振動が信長を揺らす。 原因は、今信長が足場にしているホバーベースの移動。ビルに激突している状態で無理やりに発進していた。 無論ルルーシュは操縦桿になど触れておらず、微塵も動いていない。 そんな隙を見せていたら信長が即刻斬り捨てている。 仕込みの種は自動操縦。気絶から目覚め、信長が来るまでの間に艇の操縦はオートパイロットに設定していた。 移動のタイミング、方向は周到に織り込んである。 ルルーシュの役割は起動の時間までせいぜい喋りに華を咲かせるだけでよかったのだ。 定めた進行方向は『直進』。速度は全開フルスロットル。 半壊状態の艇を更に砕きながら、ひたすら瓦礫の中を突き進む。 高速で動くホバーベースとビルとの間に挟まれては、第六天魔王といえど挽臼に轢かれる豆粒も同然だ。 「貴様――――――まだ抗するか」 謀られたことを察し、信長は抜き身の殺意を解放する。 山脈との本格的な衝突にはまだ一刻の猶予がある。 瞬きほどの時間だが、戦国の徒にとっては如何様でも対応は取れる。 挟み撃ちとなる現地点を跳躍して離脱するなり、直撃よりは安全な指令室に飛び込むなり、選択肢は豊富だ。 そうして苦し紛れの凡策を嗤い、改めて敵将の首を落とす。 それで終いだ。 だからこそ、王はもう一手を講じていた。 強力無比な王札(キング)すら黙らせる、最上の鬼札(ジョーカー)を。 “ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる―――――――――” 信長が異常を察してルルーシュから目を離し、再び視線を戻すまでの刹那の瞬間だった。 瓦礫の崩落にかき消されないように、船内のスピーカーを最大で開いた上で唱える。 『――貴様は動くな!その場から、微塵たりともッ!!』 紅く輝く双眼。浮かびあがる紋様。 顕現する王の力。絶対遵守のギアスが開眼する。 脳髄が破裂するような痛みを食い縛り、命令を出し終える。 硬直する信長。絶え間なく我を誇示していた男が崩落するビルの傍において沈黙する様は、些か以上に奇妙な絵面だ。 ギアスが戦国武将と同質の存在である筈のセイバーや荒耶に対しても効果があるのは実証済み。 直接死に到らない命令であれば無効も減衰もない事も把握できている。 どれだけ強大な自我を保持していようとも、神の如き存在だったとしても、ギアスの呪いには抗えない。 これまでに呪いをかけられた数多の犠牲者同様、魔王もその従順の意志を首肯で証明―――――― 「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――否」 しなかった。 「な――――――に……?」 今度こそ、ルルーシュの顔が驚愕と絶望に染まる。 在り得ざる返答、理解出来ぬ事態に。 金槌で思い切り殴られたような衝撃が頭に響く。 信長の眼前には、背中より噴出している黒い影が躍り出ていた。 分厚い外套の幕はギアスの主動力たる光情報を両の眼から完全にシャットアウトし、ただの売り文句へと意味合いを堕としていた。 「否、よ。断じて否だ。いかな策を用いてくるかと思いきや、詰まらぬ。 この織田信長に貴様の如き愚昧が命令するなど……無礼不敬にも飽き足らぬ、万死に値するわ」 ギアスを見破られた。否、気付かれていた。 何故。疑問の究明だけがルルーシュの意識を結合していた。 信長の取った行動、それは明らかに対ギアスを想定していたものだ。 何故奴がギアスを知り得ている?信長と直接邂逅したのはこの一戦のみでしかない。 いったい、何処に気付く余地があった? 答えの出ない問いは胸中を飛び交い、何度も何度もループする。 「かような小娘の諫言の通りなのは些か解せんが……それ以上に、貴様の方が遥かに不愉快よ」 小娘―――諫言――― その一言を聞いた瞬間、カチリと歯車が噛み合う音がした。 ちりばめられたピースが揃い、綺麗に形を作る。 全てに合点がいった。この戦いで多くあった幾つもの疑問に。 出来過ぎたタイミングで自軍に襲いかかった事も、ギアスについて知り及んでいた事も。 ルルーシュのギアスについてはじめから知っているのは、ユフィを除いた自分と同じ世界の参加者だけ。 だがその誰もが、わざわざ味方に成り得る人物の秘策を口外する確率は限りなく低い。 そして、ルルーシュが知る中でギアスを知るのは、二度図らずも目の前で見せた彼女と、主催の一員である荒耶宗蓮のみ。 荒耶が第二放送時点で死に、ここに至る条件までを踏まえれば、行き当たるのは1人しかいない。 ”桃子……いや、澪か。大したものだ、二人だけでここまでの事を仕出かすとはな……” どうやったのかは皆目見当がつかないが―――信長との接触に成功した二人は敵の位置と数、情報を教えた。 事細かに説明する必要はない。一方的に耳に入れるだけでも効果は覿面だろうし、事実結果はそうなった。 桃子のステルスは相手の都合の悪い展開に持ち込むための工作にはうってつけだ。 そして、今度は待つだけでなく自ら有利になる展開を作り出す真似までした。 果たしてルルーシュの東横桃子に対する評価は、決して過小評価ではなかったわけだ。 歩く暴風雨とでもいう織田信長に対し、まがりなりにも交渉を成功させた。紛れもない彼女たちの功績。 運気に助けられた分もあるだろうが、こうも見事に嵌められては、賛辞のひとつでも授けたくなるものだ。 「ふむ―――決めたぞ。貴様は、蜂の巣だ」 当然、そのような俗事に口を挟むわけもなく、逃げようのない処刑が実行される。 見開かれる眼には、堪え切れないといったようにありありと殺意を孕んでいる。 向けられる左腕。回転を始める砲身。秒読みで死が歩き出す。 万策、尽きたか。 諦めるつもりなどない。だがこれ以上の手は本当に残っていなかった。 防護服に『歩く教会』を着込んではいるが、銃口から捻じり出される光の機関銃には抗いようがない。 よしんば貫通を免れても、銃弾がぶつかる衝撃だけでも肉を灼き骨を砕き絶命せしめるだろう。 「逝ねい」 火砲が咆哮を上げる。無数の銃弾をばら撒き華奢な肢体を八つ裂きにする。 その直前、 天(そら)より降った刃が、廻る銃身を斬り落とした。 「ぬッ!?」 補足の外からの攻撃に目をしかめる。 不意を取られた信長ではあったが、その程度で動揺するほどの肝の持ち主ではない。 機関部を放り捨てすぐさま態勢を直し、決着に水を差された憤怒を不埒者へ向けんとする。 見上げた信長の視界に飛び込んできたのは、 減速なしで突っ込んでくる、白銀の蹴脚―――――――! 「――――――――――――!」 落ちてくる岩盤と、切断されたビームガトリングの誘爆から逃れるため宙へ飛んだことが仇となった。 超高速の『飛び』膝蹴りを受けた信長は、反射的に覆った外套の防護を突き破られて大地に叩きつけられる。 その衝撃は、黒の騎士団総出で蓄積した損傷と釣り合う程の、かつてない大打撃だった。 「………………っ!」 暫し唖然となるルルーシュ。だが落ちる瓦礫の雨の音で現実への対応に迫られた。 咄嗟に遠隔操作を解除し、ビル群から離脱する。落盤する前にギリギリで脱出し指令室の破壊は免れる。 抜け出たホバーベースを守るように、白の騎士は背を向け前に起つ。 淡い緑光の翼をはためかせ、絶望の戦場を塗り潰していく。 或る世界において、最強を値するに相応しい真なる皇帝の剣。 片膝を付き、倒れ込む身体を押さえて、己の救世主を見上げる。 「ランスロット、アルビオン―――」 援護を期待していなかったわけではない。 最後の策、大音声でのギアスによる副次効果。 その声に気付いた者が参ずることに一縷の望みを賭けてはいた。 だが、これほどに相応しい救援が来るとは、どうして思えようか。 第9世代KMF、ブリタニア軍ナイトオブゼロ専用機。 白兜の華麗なフォルムは自身の記憶に一寸の違いない。 この機体で、この状況で、ルルーシュを助けに現れる存在。 それに当たる者など―――ルルーシュの中では、一人しか思い至らない。 かくして、運命を誓い合った二人は邂逅を遂げる。 ■ ■ ■ 平沢憂に救助されたスザクは置かれてる状況を知ると、一も二もなく決断に踏み切った。 最優先対象であるルルーシュの危機、はぐれた阿良々木達、計られた天秤は秒針を刻む間もなく傾いた。 義手の性能は違和感なく、本物と相違ない本物の実感を与える。 紅蓮に埋もれたランスロットを掘り起こしてもらい、機体の状態を確認。 異常なく起動させ、背中のエナジーウイングを広げルルーシュの待つ戦場へと飛翔した。 障害物のない空、隻腕時とは比べ物にならない速度を以て、地上を走る憂を置いていき僅か一分足らずで現場へ馳せ参じて見せた。 目標の機影を補足し、指令室と思しき位置に陣取り銃を構える敵を発見した時点で行動は決まっていた。 存在を気取られない真上まで昇り、一気に急降下してからの奇襲をかける。 スラッシュハーケンで銃を叩き、怯んだ一瞬に間合いを詰め蹴り飛ばす。 五秒あまりの時で位置関係、形勢の奪還に成功した。 スザクの魔腕と、ランスロットの超越的な性能が合わさったからこそ可能にした絶技である。 「……………………」 そうして救出したルルーシュに背中を向けたまま、スザクは黙したまま後ろを振り向かないでいた。 傷だらけの体を押して、戦場に立つ朋友(とも)の姿。 一日越しの再会。けれどあまりにも永く感じる乖離。 知らずとも、いずれも片方が散ることを良しとせず探し求めた。 そして今、待ち望んでいたその時が来ても心に感動はない。 約束し合った誓いのとき以来の邂逅。 無事の再会を喜ぶでも、身の安否を窺うでもなく、彼らはただそこに在り続ける。 「……………………」 ルルーシュもまた、己の窮地を救った騎士に対し何も言わない。 沈黙を押し通している。 遂に叶った生きての対面。暗闇の牢獄を這い回って探し続けた希望の道。 実際会う際には慎重を期する気だった筈だ。 果たして両者がいかな立場に立ち、いかな意志を持ってここにいるのか。 ここに至るまでの障壁を鑑み、段階を踏んでの接触を考えていただろう。 されど、この沈黙はそういう意図ではない。 予定が早まって言葉が出ないというわけではなく、声を出す気力がないでもなく、彼らは静寂に身を任せている。 『―――ルルーシュ、君に問おう』 無言の圧力が広がる中、先に口を開いたのはスザクだった。 お互いに、聞きたいことがある。 問い質したいことも数多い。確かめたいことも無数だ。 しかし、彼らに多くの言葉は必要なかった。 質問は最初から、ひとつだけで事足りた。 『君は、何を為す者だ?』 騎士は王の、号令を待つ。 ■ ■ ■ 『君は、何を為す者だ?』 その一言で、ルルーシュは全てを察した。 意思の疎通、対話の時間など無用であると。胸に懐く僅かな感傷すら消えていく。 この一言、ただ一言で、そして枢木スザクがここに存在するそれだけの事実で、あらゆる理解を得られた。 以心伝心。友情などという領域を超えた、それは魂の共振。 故にこの沈黙は、自分の意思を待つ行間なのだ。 授ける指示、託すべき言葉は、これもひとつだけで事足りるのだから。 「―――我が名は神聖ブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ヴリタニア」 己が真名を世界に示す。 決意を顕に。誓いを新たに。 不退の意志をこの瞳に宿し、彼は告げる。 「俺は旧き世界を壊し、新たな世界を造る者。 故に今、この世界を壊すッ! その為にもう一度命ずる。 俺の力となり、意志を継ぎ、そして『生きろ』! 枢木スザクッ!!」 王は騎士に、命を下す。 「―――イエス、ユア・マジェスティ!!」 そして、トリガーが引かれた。 枢木スザクの脳が脈動する。 遣わされたギアス(命)を完遂せんと、全身の全ての機能を発揮する。 スザクの意志に呼応して、ランスロットもまた息吹を上げる。 注がれる力と意志を燃料に、『帝国最強』の名のもと敵を誅する。 討つべきは第六天の魔王。漆黒の殺意を眼に宿し新たな贄を見上げるは鬼の形相。 だが、ここに迎えるのは智謀の魔王と邪竜を刈り取る伝説の騎士。 遂に集う、一つの世界における最強の戦術と最強の戦略。 退転の二文字はなし。いざ往かんと、騎士はグリップを握る力を高める。 で 「枢木スザク。ランスロット・アルビオン、出撃る!」 肉を銃に。骨を剣に。 気高き魂を灯に。 守護すべき主君を背負い。 討つべき敵を見定め。 交わした約束を果たし合うため、騎士は翔ぶ。 ■ ■ ■ 「ルルーシュ、さん?」 指令室のルルーシュの安否を窺うように、小さな声が聞こえる。 半壊したホバーベースの足元に佇む紅の機兵。帰還した平沢憂の紅蓮だ。 その巨体に関わらず、そこから発せられる気配は子犬のように委縮している。 「憂、か。よくやってくれたな。ありがとう」 「―――っ、は、はい!」 素の声で無自覚に発した、紛れもない賛辞。それを聞いた憂の心が晴れ渡る。 先程まで記憶に張り付いていた少女のことも、自分に纏わり付いていた煩わしい言葉も心から締め出し、彼の無事をただ喜ぶ。 そう、これでいいんだ。自分は彼の為になることだけ考えていればいい。 そうすればあの人は自分を守ってくれる。 辛いことなんて考えなくていい。必要なこと、大切なことは、みんな彼が与えてくれる。 それ以外にすることなんて、なにもない。 そう、傾きかけた心を立て直す。 「ぐっ――――――」 忘我の中にいた憂の意識は、ルルーシュの苦悶の声を聞いたことで引き戻される。 「だ、大丈夫ですか!?すぐに助けに……」 「……いや、問題ない。お前はスザクの援護に向かえ」 「そんな、危ないです。もうボロボロじゃないですかっ!」 「俺の仕事はまだ残ってる。お前がちゃんと任務をこなしてくれた以上、俺も途中で放棄するわけにはいかないからな」 救助に向かおうとする憂を苦笑しながらルルーシュは制する。 自分の状態を把握できていないわけではないが、今はまだ戦いの最中。身の安全を確保する暇はない。 何せ相手が相手だ。油断も慢心もあったものではない。 スザクだけでなく憂も加えて万全の布陣で臨むべきだ。 王が逃げては戦場で兵は付いてこない。自分もまたここで指示を取り続けなければならない。 「憂、お前のことは頼りにしている。俺達が生き残るために今少し、力を貸してくれ」 煽てとも誤魔化しともいえる激励に、嬉しさと不安が入り混じった顔を俯ける。 こう言われると、憂には何も言い返せない。ルルーシュの敵がいて、それを倒せと指示をもらうのなら拒否する理由はなかった。 「……分かりました。行きますっ!」 空洞の胸に懐いた希望、それを抱き締め紅蓮も戦線に加わる。 自分が死なないため、自分を守る人を死なせないために。 駒が集い、盤上に置かれる。二つのナイトはただキングを討ち取る。自らの王に勝利をもたらす為に。 全ての条件はクリアした。後はただ邁進するのみ。勝利へと。誓いへと。 「さあ……決着を付けるぞ、大六天魔王」 長きに渡る、様々な者の思惑入り乱れる戦い。 条理を覆し、道理を引き裂く天地鳴動の大乱戦はここに佳境を越える。 晴天に浮かぶ灼熱の影だけが、決着の時を見守っていた。 ■ ■ ■ ―――ただ一つ、この心臓に残るものが在る。 今や野望の実現は目前であり、至る場所はここにある。 男の進んできた魔道は終局を迎え、魔王となり君臨する。 もう、終局だと、知る。 交差した光の全ては撃ち払った。 刺し込む白は既になく、一切合財は黒く染め、沈めた。 もう、ヒトの何も、己を止められはしない。 事実止められはしなかったのだから、魔王はいま此処にいる。 征服した玉座。 一抹の疼き、残る何かを置いて。 しかし阻む物は既に絶無。 戦国の火は、己以外全て絶え果てた。 それ以外の瑣末な世界のヒト風情に、止められるはずもなし。 ならば残すは、天に現る神のみか、と。 魔王は今も続く、目前の戦いを終わらせる。 「こんなものか」 ヒトとして戦う、ヒトを相手取る、最後の戦に幕を下ろす。 「こんなものか」 魔王として相手取る、神殺しの前座にもならぬ瑣末な戦。 「こんなものなのか」 それなのになぜか、僅かな未練が脈を打ち――― 「―――ほぅ」 いま、刺し込んだ新たな白光に、やはり鼓動は歓喜していた。 叩きつけられた衝撃。己の体の損傷を確認する。 当然の如く軽微。しかし―― 「まだ、終わっておらぬ……か」 立ち塞がる黒白、二つの闘志。 見知らぬ世界の見知らぬ誰かが織り成した、苛烈な意志。 未だ折れず立ち塞がる、ヒトの輝きに、己の中に残る何かが疼いている。 「ならば―――」 それは男の、魔王の内側で燻り続ける。 ヒトとして唯一残る臓器に宿る、最後の感情であったのか。 嗚呼、面白い、と。 「ならば、是非も無し」 ただ一つ、この心臓に残るものが在る。 血が騒ぐ。 こうでなくてはならない、と。 最早止まらぬ。 止められぬ黒き体と、黒き意志を引き連れて。 今もまた己を阻まんと君臨する、白き光、打倒すべきヒトの強さに歓喜して。 「いざや開かん、冥底の門―――!」 第六天を統べる魔王は、再び進軍を開始した。 【勇侠青春謳・劍撃ノ参――了】 時系列順で読む Back crosswise -white side- / ACT3 『Glossy MMM』(2) Next crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(二) 投下順で読む Back crosswise -white side- / ACT3 『Glossy MMM』(2) Next crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(二)
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38 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 09 35 36 ID kOqMJ5l6 セイバー「(ぜーはーぜーはー)ヒサ!しかしやっぱり私はシロウを許せません!」 アーチャー「(ゼーゼー)もう許してやれよ…俺だって好きでふらふらしているんじゃないんだ…」 部長「(ぜーはーぜーはーぜーはー)だから…意識を変えてみたらどう…かしら…」 セイバー「意識を、変える?」 部長「そう、イメージするの。頭に思い浮かべて。さっきの衛宮クンと美穂子との会話」 セイバー「シロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 部長「そう。そして、美穂子をセイバー、あなたに置き換えてイメージするの」 セイバー「シロウ…ウェヘヘヘ…こんな甘々シチュエーション、私は嫌いじゃありませんよ?」 部長「そうよ、その調子。私も衛宮クンを自分に投影してみるわ…。ウェヘヘヘ…美穂子ぉ…」 アーチャー「なんというか人間としてダメになっている気がするのだが…」 【おさまった】 39 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 10 40 26 ID rjeRxKvE アーチャー「セイバーを止める仕事は疲れたんだよ… だからオレは、公式HPでユーザーと会話する仕事で癒されたいんだ!」 バーサーカー「あっちにはセイバーもいませんからね。私もいませんが」 アーチャー「そういうことだから、しばらくは任せていいか? なに、大英雄ならば止められようさ」 バーサーカー「えっ」 41 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/20(木) 23 19 23 ID UhXONrWo 池田ァ「相変わらずセイバーは見ているだけなら面白いしw」 カイジ「ん? 随分と冷静だな。てっきりお前も暴走してるのと思ったんだが」 池田ァ「今のキャプテンには誰かの支えが必要だと思うし…とりあえず黒子っ言う彼女が別にいるから安心して任せられると思うし…」 カイジ「池田…」 池田ァ「それにぶっちゃけ、あのエレガントな貴族やバカ馬より奥手で遥かに安全そうだしw」 カイジ「ま、まあ、確かにそうだが…」