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バトルロイヤル企画 ◆k5Y/BkYMOA こんばんは、皆様。 私はディートハルト・リート、報道関係の仕事についているしがない一人の男に御座います。 唐突ですが皆さんは、バトルロワイヤル、と言う物をご存じでしょうか? バトルロイヤルとはプロレスでの試合形式の一つのこと。 大勢のレスラーがリングへと昇り、敵味方関係なく戦い合うことです。 強いレスラーを倒すために手を組んでも良し、その相手を背後から襲うもよし。 その企画で、勝利者と呼べるのは、最後に残ったただ一人のみ。 ……ここまで勿体ぶって言えば、もう既に気づいているでしょう? 知らぬ間に嵌められた銀色に輝く首輪、閉じ込められた小部屋、唐突に聞こえ始めた私の声……この圧倒的な立場の違いを。 レスラーは貴方、リングはその外、勝利条件は最後の一人。 オーナーは我々、観客席は目にも届かぬ場所、勝利条件は優勝者を当てること。 唯一の違いは、貴方には『参った』がないこと。 命が果てなければ敗北にはならず、命を奪わなければ勝利になりはしない。 さあ、始めましょう。 今から電子ロックと魔術による封印を同時に解きます。 目の前の何の反応も示さなかった扉が、ようやく開き始めます。 貴方は脚元のデイパックを手に取り、その脚で大地のリングへと踏み出しなさい。 ルールブック、武器、食糧、地図、一部を除いた戦う人間の乗った名簿、その他の備品。 それが貴方の持ち札、後は自らの力と知恵のみ。 では六時間後、またお会いできることを祈って…… 主催 【ディートハルト・リート@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 黒幕 【?@?】 [備考] ※参加者は三畳ほどの(一部例外あり)小屋に一人ずつ閉じ込められていました。 ※聞こえたのは声のみで映像はありません。 ※ルールブックには、放送と首輪の効果が書かれています。 ※地図と名簿は共に紙、名簿には52名の名前が載っており放送で残りの12名の名が発表されます。
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ep.00 -masterpiece- ◆ANI3oprwOY どこかで、誰かの息遣いが聞こえた。 「――――こうも頻繁に起こる異常(イレギュラー)の定義とは、いったい何処に在るのだろうね」 そこは氷点下まで冷え切った水槽(ビーカー)の中だった。 内部を満たす液体に漬されて、それは目覚める。 靄を裂くように薄く開けた風景は、依然、オレンジ色のおぼろげ模様。 こぽこぽと、浮き上がる泡が視界を過ぎていく。 規則的に聞こえてくる、空気の抜けるような音。 薄いオレンジ色の向こう側には、ガラス張りの壁。 窮屈なビーカーを満たす、弱アルカリ性の培養液。 「――――――」 どこかで、誰かの、気配を感じた。 「例えばそれは、『神の気まぐれ』と表現される現象だ」 浸されて、揺蕩う水槽の、その向こう。 オレンジ色のおぼろげの、ガラス張りの壁の、更にその向こう側。 鑑合わせになるかのように、もう一つ、水槽が置かれていた。 その先を、明確に認識することが出来ない。 未だ、明確な意識を持てない。 痛みは無い。 知識も無い。 個我は薄い、が――――― 「―――――――」 どこかで、誰かの、疼きに触れていた。 「神様は大雑把な性格をしているという。ふむ、なるほど、ここに証明されているな」 向かい合う水槽、設置されたもう一つの生命維持槽の向こうに、それはいた。 一人の存在。その形を定義することは困難だ。 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える、それは『人間』だった。 「君を送り返す『宛先』を間違えている。魂のラベルではなく肉体のラベルを『宛名』としたか。 魂は、精神だけでなく肉体にも宿るという、その思想のもとであれば、決して間違った形では無かったのかもしれないが」 逆さに浮いた、その人間は問うている。 「たかが並行世界の厄介ごとで、プランに誤差を発生させられては困る」 アレイスター=クロウリー。 学園都市の最大権力者、学園都市総括理事長。 一つの世界の頂点にある者が、その『個』に、問うているのだ。 「私の街から好き勝手に持ち出して、返さぬまま自滅したのは看過できない事実だが。 誤差は修正可能の範囲だ。 そして君は差し詰め、今回の数少ない拾いモノという事だろう」 ――――仕事を受けるか、と。 「『私の観測する世界において』欠けたのは超能力者が数人。 幻想殺しを奪われた世界に比べれば軽度の損失だが、重大な誤差には違いない。 その誤差を、君は修正するに足る働きを見せるか。 あるいは、プランの短縮すら為して見せるか。 だとすれば、今回の異変(イレギュラー)にも、価値は在ったと示せるかもしれない」 どこかで、誰かが、熱を発した。 「答えを聞こう、来訪者(マーセナリー)」 ごぼり、ごぼり、と。 沸騰する水槽の内側で、熱が昇る。 泡立ち昇るモノに紛れるようにして、ゆっくりと、それの口元がつり上がる。 目の前の存在に、新たなる雇主に、向かい合うようにして。 水槽のなかを揺蕩う茶髪の少女―――傭兵は、次なる始まりへと凄絶に微笑みかける。 「はッ――――俺は、高いぜ?」 どこかで、誰かが、願っていた。 もう一度、始めろと。 終わらせるなと、呼んでいた。 ああ、また願われてしまった。 ならば仕方ない。 是非もない。 もう一度始めようじゃないか、仰せのままに、己のままに。 さあ、火を起こせ。 赤く染めろ。 地獄の中心で踊り狂え。 異なる世界と世界が交わる時、物語は始まる、ならば―――― 「さあ、次の物語(せんそう)を始めようぜ」 【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / アリー・アル・サーシェス -To the next story!- 】
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作者・◆VxAX.uhVsM氏 第二弾です 超自己満足で楽しめないと思いますがよろしくお願いします。 2011/2/02 完結!ありがとうございました。 ジャンプキャラバトルロワイアル本編 ジャンプキャラバトルロワイアル本編SS目次・時系列順 ジャンプキャラバトルロワイアル本編SS目次・投下順 ジャンプキャラバトルロワイアル追跡表 ジャンプキャラバトルロワイアルの死亡者リスト ジャンプキャラバトルロワイアルの参加者名簿 ジャンプキャラバトルロワイアルの参加者名簿(ネタバレ) ジャンプキャラバトルロワイアル支給品紹介 ジャンプキャラバトルロワイアルの地図&ルール
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【参加者名】うっかリリカルロリィタ 【トリップ】◆U85ZpF.SRY 【所属ロワ】kskアニメキャラバトルロワイアル 【ロワ内性別】 【外見設定】スク水を着たキョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱 【特徴その他】 【書き手紹介】 【登場話:話】
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支援MAD ◆MADuPlCzP6氏製作 【完成版!K S K ア ニ メ キ ャ ラ バ ト ル ロ ワ イ ア ル 追 悼 M A D】 ◆MADuPlCzP6氏製作 【組曲「kskアニメキャラバトルロワイアル」】 ◆321goTfE72氏製作 【kskアニメキャラバトルロワイアル第二放送終了記念MAD】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm5497418 7スレ目 664氏 製作 【ガイバー資料MAD】 ◆321goTfE72氏 制作 【kskアニメキャラバトルロワイアル第一回放送終了記念MAD(暫定ver_】 ◆321goTfE72氏(10スレ目 603氏)制作 【kskアニメキャラバトルロワイアル第一放送終了記念MAD(一応完成ver.】 完成ver.はこちら→http //www.nicovideo.jp/watch/sm4910559 ◆10スレ目 884氏制作 【kskアニメキャラバトルロワイアル参加者MAD】
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_,-ー'´ `'´<._ > \ l \ _∠´ >Nレ' ヽ_ __________________________ / 1‐- / /. .. ', .| ここは、安価で決定されたアニメ作品のキャラクターによる / . . / ... .. / l l . ヘ、 | バトルロワイアルパロディの企画スレさ。 /イ . / .. / /l / ノ \ヽ .. . . . l . l` | l. イ . / / レi / /_.. -ー\‐、l l . ∧! .| この企画はその性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が j l . . //ナこニ;ミl / /l /7Z=サナ‐ャ.〉l | リ ' | 登場する可能性がある。苦手な人は注意してくれ。 ノ |. リ l. /<'ヘ リ..`,l /l´ l/ " ヾ-' " /f`|! |' .| /-イl i l´リl/X  ̄ / /)ソ l リ.. .| なお、本企画は他板に存在する同様の企画とは一切関係ない。 l / | |、Kヘ 〈L /-'/|/ < 混同しないように気をつけて欲しいところだね。 /´l/ヽ l \ ー- - -一' , ' / | ノノl/V| `-、,. /l |/′ | それから、僕と目が合ったそこのキミ。 l´ | `' -、_,/ .| | 好意に値するよ……『好き』ってことさ♪ | | \__________________________ _-ー」 .. ト、__ /i7 ノ .. ',l l、 ../ `ー、_ .. .. r'´ ト、 _/´レ /`ー`) -、 . -‐十⌒〉 \ `ー、 /∠´-ー┘ 「{...____.. -‐|! く.___\ `ヽ、 _,.-''´ .了 / | 三=ー ̄ | \ ` ̄、 `ヽ、 _,.-'´ _,-'´ `ヽ、l、 / / ``-、 `ヽ 前スレ kskアニメキャラバトルロワイアル Part31 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1268121087/ 避難所したらば http //jbbs.livedoor.jp/anime/7056/ まとめwiki http //www39.atwiki.jp/kskani/ 過去スレや参加者は 2以降に 過去スレ kskアニメキャラバトルロワイアル Part30 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1258043447/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part29 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1253119691/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part28 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1250006407/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part27 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245766157/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part26 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1243065623/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part25 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1241620804/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part24 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1240388302/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part23 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1237377384/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part22 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1235397738/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part21 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1233661828/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part20 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1231683608/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part19 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230679406/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part18 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1229845601/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part17 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1229267673/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part16 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1228743088/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part15 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227535172/ kskアニメキャラバトルロワイアル(実質14) http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1226591287/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part13 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1225463936/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part12 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224586241/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part11 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1223734166/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part10 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1223212911/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part9 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222568380/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part8 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222005228/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part7 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221486079/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part6 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220958994/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part5 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220615940/ kskアニメキャラバトルロワイアル Part4 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220359994/ kskアニメキャラバトルロワイアル part3 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220120311/ アニメキャラバトルロワイアルin創作発表part2 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220104445/ アニメキャラ・バトルロワイアルin創作発表 http //namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220012845/ よろしいならば参加者だ 3/6【涼宮ハルヒの憂鬱】 ○キョン/●涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/●キョンの妹/○古泉一樹/●朝比奈みくる 4/6【キン肉マンシリーズ】 ○キン肉スグル/○キン肉万太郎/○悪魔将軍/●ウォーズマン/●アシュラマン/○ジ・オメガマン 0/6【モンスターファーム~円盤石の秘密~】 ●佐倉ゲンキ/●モッチー/●スエゾー/●ホリィ/●ハム/●ナーガ 4/6【魔法少女リリカルなのはStrikerS】 ○高町なのは/○スバル・ナカジマ/●フェイト・T・ハラオウン/●セイン/○ノーヴェ/○ヴィヴィオ 2/5【ケロロ軍曹】 ○ケロロ軍曹/●日向冬樹/●タママ二等兵/○ドロロ兵長/●ガルル中尉 2/4【スレイヤーズREVOLUTION】 ○リナ=インバース/●ゼルガディス=グレイワーズ/○ゼロス/●ラドック=ランザード 1/4【新世紀エヴァンゲリオン】 ●碇シンジ/●加持リョウジ/●惣流・アスカ・ラングレー/○冬月コウゾウ 2/4【強殖装甲ガイバー】 ○深町晶/●アプトム/●ネオ・ゼクトール/○リヒャルト・ギュオー 3/4【砂ぼうず】 ○水野灌太(砂ぼうず)/●小泉太湖(小砂)/○川口夏子/○雨蜘蛛 1/3【となりのトトロ】 ○トトロ/●草壁サツキ/●草壁メイ 22/48 地図はこれだよ! http //takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0376.png こちらは現在位置だよ! http //takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0367.png 【――カヲル君からのお願い――】 ___,,,.................,,___ \ / キャラクターの状態を把握しやすくするために、 ´ >'"¨'''ー- ...,,__¨`\ ヽ\ | SSの最後に以下のテンプレを挿入してくれ。 _/_,,.... -─-- ..,,_\ \ i ヽ | / `> \ \ i\ i | 【場所/時間帯】 /-‐ァ / ___ \ヽ i / | 【名前】 / /// / _,,..二ニ= ',i // | 【状態】 //,.7'" _,,.. -‐'''"、‐-..__.... -──- 、 レ 、 ̄`\ | 【持ち物】 /,..イ/ 「¨,ゝ、=ニ二 \¨、`\ | 【思考】 //// Z ヽマラ''" -‐‐- 、 \ \ __ | // _=ニ二__.... _二ニ= , il ', ',/ ̄ | 時間帯の区分は以下の通りだ。 ___,イ,' 、_ノ _,.-‐ニ二、-‐ニイ ll \. i ',. ', / | 0~3時:未明 / フ , 、 '"、 -.、、\. /i ∧ /l ∨ ',_', ,.イ | 3~6時:明け方 "\'-─- //!,' 丶 ヽ,仏、 / レ' ', /| l __,,... -‐ム''" < 6~9時:朝 \‐-、 ,' \ Z ヾ-イ .// /',/ /レ'''"/ / | 9~12時:昼前 //ヽ ` Z ` ソ / /_/ ,.イ / | 12~15時:昼過ぎ 、 ,. ‐‐--‐'''"_,.! \ _,,.. -‐- ..,,__,,.. -‐'''" / . | 15~18時:夕方 / / ̄  ̄>'''" / / . | 18~21時:夜 __/__........___/ -‐==- イ / . | 21~24時:夜中 / / ,.-‐''" | \ 三時間区切りだから、割とアバウトでいいと思うよ。 【放送】 6時間に一度ゲームマスターからの放送があり、死亡者と禁止エリアを発表します。 禁止エリアは 101 102 103……という形で書いてもらい、安価で決定されます。 キャラクターの時間を進めるのは自由です。 しかし、放送時間までたどり着いたら一度ストップ、他のキャラ達が追い付くのを待ってください。 ほとんどのキャラが放送時間にたどり着き、放送がされたら再び時間を進められます。 次の放送は24時です。 【予約】 予約はこのスレ内で行います。 トリップをつけて「○○(キャラ名)と××を予約します」と宣言して下さい。 予約期限は原則として5日ですが、「ちょっと待って」で2日ほど延長が可能です。 さらに事情があったりするときは追加の延長もできます。 ただし連発は出来る限り避けましょう。 延長したい場合は、再び予約時と同じトリップをつけて延長を申請して下さい。 何らかの理由で破棄する場合も同様です。キャラ追加予約も可能です。 予約期限を過ぎても投下されなかった場合、その予約は一旦破棄されます。 その時点で他の人がそのキャラを予約する事が出来るようになります。 また、前予約者も投下は可能ですが、新たな予約が入った場合はそちらが優先されます。 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | あーーーーーっと!!! ここでお願いが入ったぁぁぁぁ!!! | | 次スレは 950を踏んだ人が立てて下さい! | | そしてテンプレもhttp //www39.atwiki.jp/kskani/pages/290.htmlに置かれております!! | |_______________________________________| ∧ | ∧ ,i |_,! i、 i .。 |_ 。, `i i -ー、―-、 | i ,/"^ヘ^i i i i' | | i ヽ_,._,/ ,' ゙ー---―'
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3rd / 天使にふれたよ(1)◆ANI3oprwOY /境界色 ――――ひとりの少女が、そこにいた。 真っ白で、真っ黒で、真っ赤で、真っ青で、思ったとおりに変わる世界がある。 形を定めぬ不定形。何でもあって、何にもない。 ここはそういう、ガランドウの場所だった。 境界に染みる色。 不在なる空間は変遷する。 ごく短い時間、あるいは常しえの追憶を費やして、その場所は少しずつ変わりつつあった。 伽藍の洞は、接続されたとある空間に通じている。 共鳴するように、相反するように、引き合い、離れ合い、分離しながら融合する。 それは天の杯の通した道が、根源に近づいている証拠であり、『 』が確かに存在する証左だった。 アーカーシャの剣と、かつて呼ばれたモノの保存されていた場所。 ガランドウと対を為す、集合無意識を内包した黄昏の神殿。 黄金の、夕焼け。 もうすでに境界線の曖昧になった二つの世界。 接合し、混在し、再編される空間の最果て。 一人の少女が、そこにいた。 永遠に広がる、黄昏の空の下で、たった一人。 広がる水源に足を付け、ぽつりと立っている。 じっと、じっと、暮れゆく茜色を見つめたままで。 そよぐ黒い髪。 たなびく白い着物。 たたえられる淡い微笑み。 静止した時の中、彼女は永遠にそこにいる。 そこにいる彼女は、そこにしか居られない彼女は、ずっと、ずっと、ただ、そこにいる。 足を付ける水面に、映る陽光の線。 それはもしかしたら、境界なのかもしれなかった。 あちら側とこちら側。 遥かと彼方。 その、境界線の真ん中で、あちらでもこちらでもない中間で。 何をするでもなく。 誰を待つでもなく。 彼女はただ、そこに在り続けた。 在り続けたまま、暮れゆく過程の空を見上げていた。 何もしない彼女の傍らを、誰かの影が通り過ぎていった。 陽光に照らされたその誰かの表情はよく見えない。 視えないまま、去っていく。ちゃぷりと、水面を揺らしながら、あちら側から、こちら側。 或は、その逆なのだろうか。 いずれ、一線を越えた誰かは、彼女の隣を通り過ぎ、ガランドウの反対へと。 神殿の最奥、扉のように開かれた光の中へと消えていく。 その背を、静かに、見つめて。 「――――――」 もう幾度目かしれぬ、去りゆく誰かの背中を、見送った少女は再び、茜色の陽光へと向き直る。 ふと流れた、うろこ雲。 ゆっくりと動き出した空模様。 止まっていた筈の永遠が、留まっていた筈の永久が、静かに変わり始めている。 暮れの来ないように思えた陽光に、僅か、影が差した。 黄昏に、ほんの少しの夜が滲む。 近づいてくる世界の終わりを、物語の終わりを、示すように。 この世界の何もかもが消えて無くなる刻限を、告げるように。 ここはなんでも在って、なんにも無い場所、そうしてもうすぐ終わる場所。 少女は、そこにいた。 特段の悲しみもなく、別段の喜びもなく、強いて言えば、なにもなく。 俯瞰するガランドウの少女は淡い微笑みを讃えたまま一人、いつまでも、いつまでも―――― ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 3rd / 天使にふれたよ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ /クオリア 神を殺す剣がある。 神威を貫く魔弾がある。 ただの一撃、人が創り出した破壊の結晶。 星のきらめきに装飾された空を、一筋の軌跡が昇っていく。 フレイヤ。 人知が至る科学の兵器。 超常の要素は何一つ含まれていない。 魔法も、魔術も、超能力も、そこに入る余地はない。 特別があるとすれば、一つだけ。 一人の少女の祈り。秋山澪という存在の願い。 何の変哲もない、普遍的な日常を願ったちっぽけな人間の、ありふれた思い。 神がとるに足らないと切り捨てた純粋な切望のみを乗せ、破滅の兵器は飛翔する。 ―――閃光。 弾頭の炸裂は呆気なく。 しかし威力は圧巻だった。 瞬時に広がる淡い桃色の閃光は範囲内のすべて抹消する。 それも、一撃で終わりはしない。 殺し合いの各地から射出されたフレイヤは各地で一斉に炸裂を開始する。 もとは全てが終わった後、このかりそめの世界を終わらせるために作られた装置だ。 システムは『ON』になった瞬間から、滞りなく役目を実行する。 世界が、閃光に包まれていく。 世界が、終わっていく。 「―――――――?」 破滅の光景。 それを、世界の神を名乗る存在は、しばらくの間、理解することは出来なかった。 墜落して行くエピオンへの追撃を忘却したように、 『これはなんだろう?』 などと、のんきに考えていた。 フレイヤは確かに、神に『それ以外の存在』が抗しえる数少ない手段だ。 しかし、それが使われることはあり得ないと考えていた。 なぜなら、それは誰にとっても、『どうしようもない破滅』だからだ。 一度起動したフレイヤは止められない。 地上を破壊しつくすまで炸裂を止めない、文字通りのリセットボタン。 そうするために作ったのだから当然だ。 帝愛の連中は緊急時の切り札などと考えていたようだが、そんな甘いものではない。 遠藤の死後、フレイヤの起動権が言峰の手に渡ったことも知っていた。 だから『一応』言峰を始末しようとしたことは、それも理由の一つだ。 仕留めきれず、言峰は逃げ遂せ、フレイヤの危険性は残り、しかし、しかし、それでも、それでもだ。 あくまで使われることは無いと考えていた。 フレイヤの起動は言峰の目的すら壊してしまう。 現にいま、言峰の計画の要であったバースディすら、フレイヤによって砕かれた。 まして、参加者に至っては、それこそ破滅を意味し――― 「――――」 思考が途切れる。 言峰が黒聖杯を起動したとすれば、その場から動くことは出来なくなる。 地下深くの起動場所に赴く事は不可能だ。 となると、今、フレイヤを起動した人物は別人、すなわち参加者ということになる。 ならば動機は? 目的は? いまイリヤスフィールの器を壊してしまえば、大規模な魔法の行使は不可能になる。 結果として、地上に降りるのは、せいぜい一握りのカケラだけ。 回収したところで永遠の平和は訪れない。 出来る事と言えば、たとえば数人を生き返らせて、数人を戻す程度の、たったそれだけの、 それだけの、それだけが、これを為したモノの目的だったとするならば――― 「そうか」 リボンズは、やっと状況を理解する。 「そうか、そうか、なるほど、人間にはそういった感情があったね。忘れていたよ」 そうして彼はようやく、 「嗚呼、どこまで―――どこまで愚かなんだッ!! 人間ッッ!!」 怒気が爆発するに至ったのだ。 「己が願望の追及だと? そんなもので僕を落とすだと!? 世界の救済を止めるだと!? ふざけるなよ愚かさの極みだ。やはり人間は救えない。ああまったく救えないなぁ。悲しくなるほどにッ!!」 抹消の球体が迫る。 空を揺るがし、塗りつぶすように。 今、遂に、難攻不落のダモクレスに到達した。 無敵を誇っていたブレイズルミナスを呆気なく砕き散らし、城に住まう女神へと切っ先は前進する。 出自の世界を同じくする二つの兵器の衝突。 確かに、些か荒すぎるとはいえ、城壁を打ち破るにはこれ以上ない選択と言えただろう。 「だけど、それでも、僕が救ってあげよう!! 救えない君たちを!! 不可能を可能にするのが聖杯の、神の、役割なのだから!!」 女神の住まう城塞を目前にして、停止した爆壁。 しかし既に、更なるフレイヤ弾頭が数発、ダモクレスに到達していた。 炸裂は一瞬の後に。 ノイズの走る空(うちゅう)。 揺らぎ始めていたリボンズの世界。 「ヴェーダ!!」 統制を失いつつあったモノが、号令と共に落ち着きを取り戻す。 フレイヤの破壊範囲は機械で統制されたモノだ。 ならばより上位の権限を持つシステムの支配下に置いてしまえば――― 「静まれ!! くだらない人の玩具がッ!!」 自然、その被害範囲はコントロールされる。 及ぼされる破壊のすべてはイリヤ(せいはい)に届かない。 次々と炸裂を止められ、落ちていく。 「無意味だよ。何度も言わせるな、人間風情の力で僕に届くことは無い」 そう、無意味。 リボンズの言葉通り無意味だった。 フレイヤ弾頭。 最強の破壊兵器。 その威力をもってしても、神には届かない。 秋山澪の抵抗は、リボンズ・アルマークに傷一つ付ける事かなわぬまま、終わった。 出来たことと言えば、ブレイズルミナスの破壊と。 ほんの一瞬、神から『余裕』を奪った、ただそれだけ。 心に、衝撃を与えた。 人の愚かさを、救えない愚かさを知らしめた。 それだけだ。 ―――それだけで、全てが、変わったのだ。 ◇ ◇ ◇ 空に憧れていた。 澄み渡る蒼天。 大切な物は何かと問われたとき、グラハムの脳裏で真っ先に浮かび上がる物はそれだった。 泣いたような曇り空ではない。 見上げる者の心すら澄み渡るほどの、鮮やかな青空が理想だった。 だから今、自分は空を守る職務に就いているのだと、彼は思う。 青い空と、それが見下ろす尊き市民を守る職。 例え、何度戦火が地を襲い、天が赤く染められようとも。 全力で戦い、守り、取り返す為に。 「そうだ。私は信じていた」 暗闇の中、たゆたう。 ここはどこなのか。 自分はどこにいるのか。 なにも分からない。 分かる事実は一つだけ、グラハム・エーカーは神の前に敗北したという事実のみ。 閉じたまぶたの裏には、いつ見たのかも思い出せない青空が広がっている。 海の青、空の青、混ざりあい、境界すら分からなくなる程の蒼。 それはきっとこの世のどこにもない。 グラハムの内側のみにある、心象風景とでも言うのだろうか。 「そんなものに意味はない」 何を見たところで、何を考えたところで、勝利は得られない。 理想は理想のまま、グラハムごと朽ち果てる。 今のグラハムに力をもたらすのは、断じてこんなものではないと振り払う。 目を開いた。個人の理想よりも、現実を見るために。 勝つことの出来ない敵を、見るために。 それなのに――― 「まったく、この期に及んで……」 開いた目に移した景色も、また、理想に過ぎなかった。 「恥を知らないのだな、私も」 腰掛けるのは簡素な椅子。 目前には、表面に緑色の広がる机。 卓上には乱雑に置かれた麻雀牌。 そして、対面の席には一人の少女。 当然、このシチュエーションで出会う存在など、1人しか居ない。 「死に瀕した者が見る走馬灯の一種か。 それともゼロシステムが見せているのか」 「さあ、どちらだろうな。グラハム」 長く煌めく金髪と、赤いカチューシャが、少女の動きに合わせてひょこりと跳ねる。 「どちらでもあるし、どちらでもないかもしれない。 それは、衣にも分からん」 生前の彼女が再現されたようなその動きに、グラハムは苦笑いとともに目を伏せた。 「なんにせよ困ったな。 私は今、君に会わせる顔を持ち合わせていないのだが」 「言うな。衣が哀しくなってしまう」 その声に、呆気なく顔を上げ、少女を視界に入れてしまう自分の愚かさが恨めしい。 これは弱さだ。 屍の為には戦わないと決めたはず。 今、生きている者、泣いているものの為に戦い抜くと誓ったばかりだというのに。 ここに来て、彼女の姿を幻視するなど、それは結局のところ、グラハム自身の未練。 失ってしまった者への哀切。 後ろを振り返る愚鈍の発露に他ならない。 即刻断ち切って、戻らねばならない。 己に念じる。 さあ戻れ戦場へ。 たとえ1%の勝ち目すら無い状況だとしても。 それすら叶わないなら、目の前の少女が死に際に見る『許し』なのだとしたら。 せめて疾く死すべきだ。 誰一人守れずに倒れる男に、死に際の救済など不相応だから。 「……い」 なのに、 「すま……ない……」 彼女を目にしてしまえば、自然と、謝罪の言葉を口にしてしまっていた。 堪えることも、迷うことも、出来はしなかった。 それが、許しを求める滑稽な縋りであると分かっていて尚、口にしてしまった。 「すまない私は、君を、守ることが出来なかった」 ああ、なんて愚か。 なんて弱さだと、自らを詰り、それでも言葉は止まらない。 「あまつさえ今、二度目の敗北を喫した。また、勝てなかった」 せきを切ったように、喉から、心から、弱さは流れ続けて終わらない。 「エピオンの性能を最大まで引き出しても、ゼロシステムを使いこなしても、それでも届かなかった。 所詮、神が与えた力で、神に敵う道理がなかったのだ。 私は……弱い。『全力』を振り絞っても、届かなかったッ!!」 生き恥だ。 こんな弱さを曝すなど。 何より、己が弱いと自覚するのは、分かっているからだ。 グラハムは彼女が許してくれると分かっている。 もういい、十分よくやった、もう眠ってもいいのだと。 彼女はきっと言うだろう。 優しく労い、眠らせてくれるだろう。 それを知っていて、だからこそ、だからこそ、グラハムは、 「―――なあ、グラハム。それは本当に全力か?」 彼女の一言に、声を失った。 「エピオンの性能。ゼロシステム。 そんなものが、グラハム・エーカーの『全力』だったのか?」 正鵠を射る言葉に。 「衣の知っているグラハムの強さは、そんな後付の物じゃあなかったぞ」 何もかもを見通した視線に。 「神から授かった力で神に勝てない? なる程それは道理だな。 だったら簡単だ。神に貰った覚えの無い、元々持っていたグラハム自身の、グラハムだけの、力で戦えばいい」 グラハムの『弱さ』そのものを、粉々に打ち砕かれていた。 「さすれば、グラハム・エーカーが、ただの神様如きに負ける筈が無い」 そう、少女は花のような笑顔で、当然のように言い切った。 「だから、ほら、そろそろ目を覚ませ。分かっただろう? 今でも衣とグラハムは―――」 ◇ ◇ ◇ 眩い閃光に灼かれ、痛む目を開く。 すると、そこには空があった。 憧れたもの、好きだった筈の、しかしそこにあるのは、違っていた。 炸裂するフレイヤの輝きに照らされた空は、様々な色で染められている。 黒き背景に、偽りの天体で飾り付けられたプラネタリウム。 敷かれた星座方陣の中心で、白き燐光を散らす聖杯の光。 弄られた天上。まるで神の遊び場だ。 ああ、これは違う。 違うな、と。 一瞬の微睡みから覚めたグラハムは、落下の渦中、思う。 これではない、これは己の好む空ではない。 断じて、彼女に見せたかった、誇りたかったあの空では、ない。 「……そうか、そこにいるのだな」 陳腐な話だ。 ありふれた物語だ。 特段、珍しくもない。 だけど、それだけに、胸が高鳴る。 約束は、一つだけ、確かに果たされていた。 「そう、我々は今も、一心同体だ」 生涯。忘れることは無いだろう。 二度と、彼女を失うことは無いだろう。 なぜならここに、確かに、いるのだから。 「では、凌駕するとしようか」 ―――いつ? これから。 ―――誰を? 無論、ただの神様如きを。 ―――誰のために? かつて失った者の為、これから守る者の為、そして何より『自分』の為に。 ―――では何のために? 決まっている。 「このグラハム・エーカーの鬱積を晴らすためだ」 空を睨み、満身創痍の全身を起こす。 機体ごと持ち上げていく。 「はあああああああああッ!!」 そうだ、最初から気に入らなかったのだ。 あの空、あの要塞、あの機体。 頭上に浮かぶ余計な何もかも。 今、我が物顔で空を支配する神を。 蒼を余計な色で塗り潰す聖杯を、グラハム・エーカーは絶対に認めない。 聖杯? 人の救済? 幸せな結末?。 不要だ、まずはどけ、お前達はそもそもが邪魔なのだ。 神だろうがなんであろうが、そこに胡坐をかくことは許さない。 無粋な装飾を、今すぐ剥がさねば気が済まない。 さあ、今一度、取り返しに行くぞ。 返してもらおうか、私の愛した『空』を。 これがグラハム・エーカーの理由。グラハム・エーカーの矜持。 誰の為でない、己だけの戦意。 最初から、立ち向かう力の源は、ここにあったのだ。 そうして最後に、黒き天上の奥の奥。 夜に囚われたような円形の光を見上げる。 ―――煌く、黄金の満月。 「共に、飛ぼう」 報いる。 守る。 そして取り戻す為。 何度でも、グラハム・エーカーは空へ舞い戻る。 ◇ ◇ ◇ ―――フレイヤの輝きは収束していく。 世界の神に唯一、反撃できる威力を秘めていた暴力の光が、呆気なく消されていく。 消えた後には何も、残らない。 それが在った痕跡すら残されない。 静寂が戻る。 きらびやかに装飾された空の下。 在るのは未だ、聖杯の白一つ。 けれど今ここに、入れ替わるように更なる輝きが新生する。 空へと、昇る光がある。 ガンダム・エピオンを駆り、神を名乗る存在へと、天で高みする者達へと、邁進する者。 それは何度地に堕ちようとも、再び光を纏い、空を目指す光。 愚直な、人の生(ひかり)だった。 「度し難いな」 見下ろすリボンズ・アルマークは、目を細めていた。 何度でも立ち上がる人の意志。 だから、何だというのだろう。 今生き残る全ての個の、願い。 望み、希望、叶えんとする祈り。 全てが、愚かしい。 全人類を救う儀と、個々人の願望。 如何なる天秤にかけようと、どちらが軽いかは瞭然で、 こんなにも簡単に『死ぬ理由』を用意したにも関わらず、何故未だに彼らは生きているのだろう。 ―――ご都合主義が見たいのだろう? それを用意したと言っているのだ。 お前たちの悲劇は悲劇でなくなる。 救済の物語がもうすぐ完成しようとしている。 なのになぜ? 「消えろ」 無意味な思考に、一瞬だけ顔を顰め、リボンズは考えを打ち切った。 満身創痍のまま向かってくるグラハムへと、銃口を向け、トドメの一撃を放つ。 この攻撃は躱せない。 躱せるはずが無い。 黄金の目から、逃れることは出来ない。 未来を見通す千里眼。 変革の力。 ヴェーダとそして聖杯に直結した未来視はこれまで、リボンズを裏切った事など無かった。 そう、人は愚かだった。 どこまでも愚かだった。 現実を拒否したまま、自ら盲目となって向かってくる事もあるだろう。 度し難いが、それが弱い人間の自衛策だ。 最初から『参加者』に、リボンズを傷つける術などありはしない。 そんな力は、与えていないのだから当然だ。 ここでこの人間を排除すれば、もう儀式は終わったようなもの。 ファングの掃射によって、下方の泥の勢いは減衰している。 フレイヤを止めた今、後は矮小な黒聖杯さえ消してしまえば、 リボンズ・アルマークを脅かすものは、彼の女神の脅威に値するものは全て排除されたも同然。 グラハム・エーカーを処刑した後、下界の展示場に内包された存在を黒聖杯ごと打ち抜けば、それで全て収束する。 黄金の眼は見通す。 聖杯に直結したヴェーダから平行世界中の脳量子波を読み取り、描き出した恒久的世界平和の形。 人に与えられるべき理想の未来を。 穢れの払われた展示場跡地に、イリヤ・スフィールは降臨し、彼女を手に入れたリボンズ・アルマークは己が願いを成就させる。 最初から決められていたシナリオ。 今もゆるぎないストーリー。 何もかも予定調和。 何一つ、計画を脅かすものは無い。 なのになぜ、今になって心がざわめく。 あの光を、フレイヤの輝きを見てからだ。 なんなのだろう、この感情は、分からない。 ―――そして何故、今、放った銃撃は躱されたのか。 完全に、予測して放った弾道。 ガンダム・エピオンの動きを予測、否、決定して放つ。 それは確定された未来に向けた銃撃であり、覆せない絶殺だった。 にも拘らず、ガンダム・エピオンは、グラハム・エーカーは回避した。 当然のように、神の決定を覆した。 再起動したエピオン。 神への突貫を仕掛けていく閃光。 何が変わったわけではない。 先程までと同じ、愚直な突貫だ。 愚直な、そう、『先ほどよりも尚、愚直すぎる突貫』だ。 ゼロの予測、エピオンの性能を活かした立ち回り、すべてを捨てた単純な操縦技術のみの飛翔。 余計なものを取り払った『グラハム自身の力』でもって、弾幕を踏破する。 当たらずは通り。 神は、グラハムが頼ると思っているのだから。 ゼロに、エピオンに、グラハムは、グラハムより強い全てに縋るしかないのだ。 神に勝つためには、そうするしか無いのだからと。 断じて撃つから当たらない。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!」 自然、下がる性能。 されど雄叫びのみが、上回る。 先ほどまでの彼を、一秒前のグラハムを凌駕する。 エピオンも、ゼロシステムさえも、越えて。 もっと大きく、もっと鮮烈に、知らしめよと吠えるのだ。 ―――人の愚かさを。 底知れぬ愚かさを知れ。 感覚のズレが引き起こした回避劇も長くは続かない。 リボーンズ・ガンダムの隣に、幾つもの銃口が並んでいく。 黒聖杯が沈静化したことによって呼び戻された、大量のファングだった。 千里眼の予測を上回ろうが、今度は単純な性能差に押しつぶされる。 幾重ものビームがエピオンを貫く。 強制的な幕引きをここに、圧倒的な暴力でもって茶番劇を終わらせる。 その、寸前に。 遥か下方から放たれた銃撃が、並ぶファングを薙ぎ払っていた。 「嗚呼、本当に、本当に、愚かだな」 レーダーに捉えたその姿へと、リボンズは言葉を贈った。 遥か下方、展示場付近に陣取ったジングウと、一機の射手。 「君には『僕の声』が聞こえているのだろう? ならば尚更だ」 そう、聞こえていた。 今、天上の神を照準に捉える彼には。 ヴォルケイン。 ヨロイを纏った枢木スザクは今確かに、『声』を聞いていた。 己へと語りかけるリボンズの声。 人の愚かさを憐れみ、無意味な抵抗を続けるグラハムとスザクを、どこまでも脅威とは見做さない言葉。 人を救おうとする神の声を。 「ああ、聞こえているよ。リボンズ・アルマーク」 だが、それだけではなかった。 スザクに聞こえる声は、人を憐れみ救おうとする神様の声だけではなかった。 ―――今、鮮烈に戦う者達が居る。 空へ手を伸ばすグラハム・エーカーを初め、戦い続ける全ての者達の声。 脳量子波。 人の想い、世界へと放たれる感情の音。 なぜ聞こえるのか、枢木スザクには分からない。 ルイス・ハレヴィの薬剤。 かつて死に瀕した際、ユーフェミア・リ・ブリタニアが彼に飲ませた薬剤が元来の要因であり、 リボンズの放った強力な脳量子波によって、僅かながらもその『副作用』が発露させられたこと。 そのような理は知る由も無く、また彼にとってどうでもいい事柄だった。 ただ、聞こえている。 今を戦い続ける全ての声が。 絶望的な状況の、絶望的な世界でも、一人ではない。 たとえ理由すらバラバラでも、『救われまい』とするのは一人ではない。 ならば今、抗う事に厭は無く。 「リボンズ・アルマーク。 お前には、聞こえていないのか」 そしてスザクに聞こえる音は、それだけではない。 「聞こえるのに、耳に入らないのか」 音がする。 遠い、遠すぎる音がする。 それは失われた声。 いつかどこかで失われた、けれど確かに在った幾つもの言葉。 頭の中で響くその音色の一つを、スザクは放つ銃撃と共に口にする。 「―――削除(デリート)」 空へと伸びる狙撃はグラハムを追い越し、先にある障害(ファング)を撃ち落していく。 熱が伝わる。 いつかこの機体に乗っていた誰かの熱。 『―――二度と取り戻せないもののために、傍から見れば馬鹿げた真似に命を賭ける。 もうそれしかできないからだ。亡くした者のために、どう足掻こうがそれしかできないからやるんだ。 それを悪と呼ぶなら、間違いと呼ぶなら俺はそれでも十分だ…………!!』 復讐。 何も生み出さない、誰も幸せに出来ない願い。 哀しい、切ない、どうしようもない。 それでもそれは、彼にとっては残された唯一無二の『夢』、だったのだろう。 其れしかないからと彼は言った。 彼とは違う道を、スザクは選んだ。 大切なモノを失っても、『殺したものを殺すこと』をスザクは夢としなかった。 だけど同じだとも思う。 ゼロ・レクイエム。 鎮魂を歌う事。 結局のところスザクも、失くした物の為にどう足掻こうが、それしかできないから。 やり方は違えど、それはきっと、ある意味では復讐なのだ。 失った者の為に、自分の為に、出来ること、やると決めたこと。 彼と同じであり、また違う、『生きた夢』。 ならばそれを殺すことを、許しはしない。 例え、誰かに間違いだと言われようと、愚かだ、悪だと断じられようと、それでも十分だ。 この場の全員の死が、全世界の救済となり、正しい道理なのだと神が定めようとも。 スザクは生きることを選択する。生かすことを選択する。 未だここに、残る夢を。 天性のセンスと、微かに聞こえる声に従うようにして、 スザクはヴォルケインを辛うじて固定砲台として駆動させている現状だった。 けれどそれでいい、出来ることがある。 確かに今、天に手を伸ばしている。 空の戦場に、スザクは帰還を果たしていた。 土壇場で発現した力は、まだまだ弱い。 一方的に『受信』できるだけで、『発信』することも出来はしない。 だから、代わりに、一撃に込めて届けようと思う。 天上の存在が、聞かないなら、聞かせてやる。 この引き金に乗せて。 今、聞こえる、失われた声(ユメ)の残滓を全て、撃ち込もう。 それが、この世界における鎮魂歌(レクイエム)になるのなら。 『―――――生きろ』 そして、また一つ。 色濃く残された誰かの言葉。 過去、どこかで消えた、知らない誰かの想いを今、スザクは受け取っていた。 『――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――』 空を睨み据える二つの眼。 左は契約の紅。 そして、右は、変革の黄金。 過去と未来。 自己と他者。 幾つもの想いを乗せて、騎士はトリガーを引き続ける。 天上から放たれる迎撃に晒されながらも、只管に狙い撃つ。 空と地を結ぶ閃光。 幾つも想いが交差した、色めく世界にて。 ―――最後の、戦いが開始された。 ◇ ◇ ◇ そうして、目指し続ける少女は、見上げていた。 いま、たどり着こうとしている場所。 黒き塔、変わり果てた展示場、その麓に彼女は、平沢憂はいた。 脱出した紅蓮のコックピットからここまで、それほどの距離は無く。 歩いてたった数分で到達できた。 幾多の光が空に舞い上がる。 彩られる宇宙の下。 ゆらゆらと、黒き泥に支配された建造物は揺れている。 身体の震えが抑えられない。 憂は思う。怖い、と。 この先に何が待っているか分からない。 死ぬかもしれない、何かを失うことになるのかもしれない。 やっと見つけられた物すら、消えてしまうかもしれない。 からっぽのままならば、ここまで怖いとは思わなかった。 何かを得てしまったからこそ、死ぬのは、失うのは、こんなにも恐ろしい。 それでも、ここには、彼がいる。 いま、会いたい人が、居る。 求めたモノが、この先にきっと在ると信じている。 夢を、抱いた。 破りたくない、約束をした。 嘘にしたくない、想いを抱いた。 そしてもう一つ、彼女は決めたことがある。 だから――― 少女は一歩、踏み込んだ。 黒き塔の内側へと。 他の誰でもない、平沢憂を待っていてくれる、誰かもとへ。 いま、ふれたいと願うから。 少女は前に、進んでいった。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back 2nd / DAYBREAK S BELL(5) Next 3rd / 天使にふれたよ(2) 投下順で読む Back 2nd / DAYBREAK S BELL(5) Next 3rd / 天使にふれたよ(2)) 338 2nd / DAYBREAK S BELL(5) リボンズ・アルマーク 339;3rd / 天使にふれたよ(2) グラハム・エーカー 枢木スザク 平沢憂
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“腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(後編) ◆0zvBiGoI0k ◇ 「待てって!先に行くなよ!」 「―――なんだ、秋山か」 「……!私じゃ不満か?」 「いや、別に」 「……………………………」 「……………………………」 コツリコツリと、靴の音が鳴る。足音の残響が通路を巡る。 明りは一切なく、前を行く式の懐中電灯と、後を追う澪のランタンのみが狭い道を照らす。 分かれ道もなければ曲がり道もない、完全な一本道がこれでもかと長く伸びる。 足場も綺麗に整備されており、まるで細長い棺桶のよう。 ただ暗く長い道だと分かれば、恐怖は幾らか和らいだ。 少なくとも遊園地のお化け屋敷よりは何倍もマシだ。 だから、気まずいのはこの無音の空気。 別に式とは仲良くなってないし、嫌悪感だってまだ抜けきっていない。 それなのにこんな狭い場所で二人きりになるなんて、思ってみればどうしてこんな行動を取ったのか。 肩に機関銃は背負ったまま、ランタンで肩手も塞がれるのでバランスが取りずらい。 式も後続のペースなんて考えていないので気を抜くとすぐ離されてしまいそうになる。 けれど、立ち止ったままではいられなかった。 何かをしていないと、胸に抱えたおもいに潰されてしまいそうで。 交流を深めたいのは事実だけど、それは友達になりたいなんていうベクトルとは全然別のもの。 使える繋がりがあったから利用するなんていう、馴れ初めとしては最低の部類だ。 けれど、それでいい。 最低でも最悪でも構わない。そうでも手を染めなきゃ届かないものを自分は目指している。 そう決めたのならなにか話すべきなんだろうけど、やはりというか何も出てこない。 式自身進んで語ろうとはしない性分であるのは知っている。自然こちらから話を切り出さなければいけないのだが、 談笑できる間柄でもないのもお互い知っている。 結果こうして互いに無言で進み続けるだけ。 声をかけるきっかけを探そうと周りを見渡す澪だが――― 「着いたな」 「え?―――わ!」 突然立ち止まった式に意識が回らずぶつかりそうになるも踏みとどまる。 光に照らされた先には階段、この通路の終着点を意味する。 「……結局何もないのか?」 「隠し通路なんだから道があるだけなんだろ。 スイッチは……これか」 階段を登り扉を開ける。開いた先はまたしてもうす暗い空間。 たださっきと違い僅かだが夜の光を感じ、風の音と潮の香りが耳と鼻に届く。 どうやらここは本当に洞窟らしい。 外に出られたことを確認して、デバイスを取り出す。現在位置は【F-2】。遺跡である。 まるまる1エリア分移動してきたことになる。海路がなくては通れない者の為の措置ということだろうか。 「あ、おい!」 とりあえずルルーシュに連絡した方がいいだろうか、そう思案している澪を横目に式は歩を進める。 仕方なく着いて行くと、ようやく式の視線の先―――向かって左の壁にある「ソレ」に気付いた。 巨大な石板、古の壁画。 まるで大きな木の根かのように無数に分かれた枝。 その中心に添えられた、羽ばたく鳥の紋様。 端に置かれた販売機と換金機以外に何もないことから、コレのためにこの施設はあるのだと分かる。 では、コレのある意味とは――― 「……ワケがわからないな。式はコレがなんなのか分か―――」 無論、澪に判明できるはずもない。 機械が置かれてるわけでもないし、ルルーシュなら意味を引き出せるのだろうか。 同じように壁に手を置いている式に尋ねてみる。 純粋に正体を知ってるのか、会話のきっかけに出来るという思いもあって。 けれど――― 「―――え」 言葉が、止まってしまう。 半日も経たない程の時間で、それでもほんの少しはその在りようや特徴なんかは掴めていた目の前の少女が、 まるで、まったくの別人みたいに見えてしまったから。 風貌や言葉使いもあって女性にも男性にも判断できる式を、今は女性にしか見えない。 そこに不自然はなく、むしろ彼女の本当の、ありのままの姿であるようにも感じてしまうからますます困惑する。 「なに、オレになんかついてるか?」 かけられた言葉にはっとなる。 見ると式はいつも通りの、ぶっきらぼうな男口調に戻り鋭い目つきで私を見つめる。 「……いや、何でもない」 ただの勘違いか。私はそう結論付けることにした。 大して気にしていなかったのか、式は視線を空へと移す。 けどそれは景色ではなくて、そこにいる何かを睨みつけてるようだった。 おもむろに式は左手を上げる。そのまま、開いた掌をぐっと握りしめた。 変化は、なにもない。 「……消えた。いや、吸い込まれた、か」 ぽつりと呟く。まるで獲物を取り逃がした狩人みたいに。 「今度は何してるんだ?」 「いや、なんでもない。霊魂か何かが視えた気がしたんだけど消えちまった。」 「れいっ!?」 咄嗟に強い反応をしてしまう。 秋山澪が恐怖を感じる者の中で常に上位をキープする単語。 夏で毎度律の持ち出した怪談に枕を濡らした数も知れない。 「だからいなくなったって言ってるだろ。いや、最初からいなかったのかもな。 魂なんてそんな簡単に視えるわけないんだ。凝り固まったり加工されてない限りはすぐ消えるんだから」 だから怖がる必要なんてないんだ、と言われて自分が恐れていたことに気付く。 なぜ今更幽霊なんかに怯えているんだろう。 そんな不確かなものより、もっと恐ろしいものに何度も出会っているというのに。 「それより、もう行こうぜ。ここにはなにもないよ」 踵を返して式は私を抜いて歩き出す。 色々言いたいことがあったけど、帰る途中でもいいやと続く。 通信機が繋がりルルーシュに遺跡にいることを教えて、指示通り自販機の商品のメモを取る。 波の音だけが、扉に消える二人を見送っていた。 やっぱり、帰り道も終始無言だったのは言うまでもない。 ◆ 黄昏の空。 佇む神殿。 歴史の図書。 廻る歯車。 赤子の泣き声。 無数の仮面。 渦巻く肉塊。 昇る螺旋。 思考エレベーター。 割れる景色。 覗く世界。 宙を突く柱。 神を殺す剣。 魂の還る場所。 人。 無意識 アラヤ。 世界。 C。 蒐まる四十の死。 来訪を待つ二十四の生。 杯に注ぐ御酒。 醸造の蔵場。 閉じた楽園。 外と内の中継点。 死が起きる度に門を開き、其の魂を回収。聖杯へと行き届かせる。 起動は一瞬。神代の魔術師にも、Cの魔女にも悟られない。 箱庭に散った命を一点に収束させる。それがこの門の役割。 あの石板に触れた瞬間に流れ込んだその一瞬のみにわたしは引き出された。 どれだけ分かれていても枝に触れられたら根も反応する。 科学によって到達した、人という仮面を被る演者の舞台。 始めから繋がっていた分、いつか来た少女のように外的要因なくとも自動的に接続が叶ってしまった。 無秩序な単語の羅列、錯綜する光景。それはこの封された世界の真実の一端。 けれど彼女にその情報は咀嚼し切れないし、そもそも自分が開示する気がない。 今までも、これからも、なにがあろうと自分が手を出すという選択肢は存在しない。 彼ももう、死んでしまったし。 けれど。 隣人に顔を見せる位なら、しておいてもいいのかもしれない。 カラのまんなかで、わたしはそう考えていた。 ◇ 式と澪が抜け道から戻った後、ルルーシュ達は一端ホバーベースへと戻った。 今後の行動―――主に周辺の施設の捜索について話すためだ。 象の像以外のこの周辺にある施設は【学校】、【ショッピングセンター】、【廃ビル】、備考に【吊り橋】がある。 【憩いの館】はやや離れており、【遺跡】も視野に入れていたが澪と式のおかげで除外できた。 よってこの三か所、ないし四か所を優先的、迅速に調査することになる。 主な調査対象は施設の概要、自販機の商品、施設サービスの把握。魔方陣の破壊。 参加者と会う機会があるのならなるべく接触、こちらに連れてくるか情報の交換を。 一目で危険人物と分かる相手か、阿良々木暦を発見した場合は逐一連絡。 戦闘に発展してしまった場合は撤退をなによりも優先、最悪は拠点に合流し迎え撃つ。 それが式と澪が井関へ向かっていた三十余分の間にルルーシュとデュオで決めた方針だ。 (しかし、思考エレベーターか……) 神を殺す剣。ラグナレクの接続のための現の世界とCの世界とを繋ぐ鍵。 元々遺跡が神根島のものであることはガイドブックで知っていたため思考エレベーターがあることに驚きはない。 考えるべきは、ここに思考エレベーターが置かれている訳だ。 単に目に着いた建造物から適当に選んだ可能性もあるが、 Cの世界に向かう「コード」を持つC.C.、 ラグナレクの接続の同志であるルルーシュの実母、マリアンヌの意識が乗り移っているアーニャ・アールストレイム、 そしてその計画を知り、阻止した時系列から呼び出されたルルーシュがいることから、偶然の産物とも考えにくい。 また逆説的に、この殺し合いに計画の立案者たるシャルル・ジ・ブリタニアとV.V.が関わっていることも否定できる。 自分はともかくC.C.が死んでは元も子もあるまい。 (そういえば、ダモクレスの設計図にも思考エレベーターの表記があったな。 アレが会場の外にあるとするなら、遺跡同士で人員の転移や交信をしているのか? そこを押さえれば主催の本拠地に乗りこめるかもしれないが当然操作は受け付けなくされてあるだろうが、 コードを持つC.C.ならば起動が可能か―――) 「それじゃ、俺達は行くけどよ……っておいルルーシュ?」 「―――っああ分かった。しかし本当にMSではなくていいのかデュオ?」 脳内の考察はおくびにも出さず対応するルルーシュ。 ダモクレスをはじめとした主催の重要な情報は未だ秘匿し続けているが、 抜き差しならない事態になれば開示も考慮に入れていた方がいいのかもしれない。 「いいっていいって、リーオーじゃあんまスピードも出ないし目立ちまくる。 その分バイクなら小回りも利くし飛ばせば一時間もかからねえよ」 調査の手順としては別グループに分かれて両端の施設を調べることになった。 振り分けは例によってデュオと式がショッピングセンター、ルルーシュと澪と憂の三人は学校と廃ビルに。 先にデュオ達がショッピングセンターに先行し、ルルーシュ達はホバーベースで二つの施設を回る。 施設を調べ終える毎に通信を取り、最終的な合流地点を決めるという手はずだ。 「それと、念のためにこれを渡しておく」 ルルーシュが手渡したのは一つの首輪。 内側の金具には「SABER」の文字。 「緊急時などにペリカが必要な場合は使ってくれ。 彼女の物なら充分な額が得られるはずだ」 「……オーケー。式、体の方は平気か?」 「だいぶマシになった。あの化物と戦う前くらいには持ち直したかな」 背伸びをして答える式。 前というのはバーサーカー戦前、信長との対戦後のことだ。 戦闘行為には支障がない程度、ということになる。 「けどおまえ、いつの間にあいつと呼び捨て合う仲になったんだ?」 「ああ、それについてはちょっとあってな。向かう途中にでも話すさ」 「ふうん、まああの棺桶に詰められるのに比べたら別にどうでもいいことだけど」 「カンオケってなぁオマエ……」 デイパックからバイクを引っぱり出すデュオの横で愚痴る式。 だがMSをカンオケ呼ばわりとは死神である自分に対しては中々シャレが利いている。 苦笑をこぼしながらもキーを入れエンジンを吹かす。 「んじゃ先に行ってるぜ。ヤバイことがあったら早く伝えろよ」 「ああ、そちらも気を付けてな。良い報告を期待しよう」 サムズアップを決めながら工業地帯を一気に駆け抜けるサイドカー。 見る見るうちに姿は消えていく。 桃子から完全にいなくなったこと、通信の漏れがないことも確認した後、確認に戻る。 「さあ、俺たちも出発するぞ。まずは学校だ」 その表情はまるで仮面を付け替えたように一変する。 三人のメンバーを抱える黒の騎士団の長としてのルルーシュの顔に。 「……いつの間にあんな馴れ馴れしくなったんだ?」 あまりに急な変化に気持ちの悪いものを感じつつも澪は尋ねる。 「ん?ああ色々あってな。それも含めて話すとしよう」 ホバーベースの進路を取りつつ答える。 オートパイロットとUSBの地図とを連動させてあり、目的地を入力しておけばある程度の自立移動が可能なように仕組んである。 よって操縦桿に手を離した状態で憂、澪、通信機越しの桃子との会議を始める。 「俺たちの動きはデュオ達に言った通りだ。施設を巡り、魔方陣の破壊、参加者と接触し可能なら引き込む。 だが彼らとは一点だけ違う点がある。それは―――」 「阿良々木さんをブチ殺すことですね!」 「………………っ」 「そうだ、阿良々木暦を発見した場合はデュオ達に悟られぬよう排除する。 可及的速やかにな」 元気よく返事を上げる憂。満足げに肯定するルルーシュ。それを愕然と見つめる澪。 どうして、先生に指を指されて自慢げに問題に答える生徒のようにそんなことを言えるのか。 阿良々木暦という人物の排除。 それは澪が「黒の騎士団」に加入した際に聞いてはいる。 自分たちの正体を知り目的の妨げになるだろうという人物。 だが阿良々木暦の名が出るたびに憂が垣間見せる因縁と執着はどうしても合点がいかない。 優しい彼女をして激昂させるほどの不埒な暴行を加えられたのか。 そうであったのならまだ気が楽だ。危険人物であるなら倒せばいいのだから。 だがそうはならないのはそうではないと無意識に理解しているからなのか。 ギャンブル船で八九寺真宵から聞いた阿良々木暦の人物像。 そして、姉の死を目の当たりにしながらも―――もう瓦解寸前といった様だが―――平然としている平沢憂。 それを教えたのは全て、ルルーシュ・ランペルージという男から。 けれど、きっとこれは甘えだ。 阿良々木暦がどんな人物であれ、平沢憂の状態がどうあれ、それを深く考える必要はない。 誰かを気にする余裕なんて、許されないことなんだから。 軽音部のみんなを、あの日常を取り戻す。 それ以外のすべてを捨てる覚悟がなければ、望みを叶えることなんてできない。 そう、自らを緊縛する。 「では、これより黒の騎士団としての活動を開始する」 「おー!」 返事を返す余裕も、今はない。 ……To be continued⇒ 【E-3/ホバーベース内/1日目/夜中】 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】 [状態]:疲労(中)、右腕の骨折 [服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2 [装備]:イヤホン@現地制作、ニードルガン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ククリナイフ@現実、ホバーベース@ガン×ソード [道具]:基本支給品一式×2、6500万ペリカ、盗聴機×8、発信機×6@現地制作、単三電池×大量@現実、通信機×5@コードギアス反逆のルルーシュ 歩く教会@とある魔術の禁書目録、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達) パソコン、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達) 首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、 荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、和泉守兼定@現実 “夜叉”の面@現実、ゼロの仮面とマント@コードギアス、バトルロワイアル観光ガイド、不明支給品(0~1) 食材色々(ホバーベースの冷蔵庫内) [思考] 基本思考:枢木スザクは何としても生還させる。 1:学校→廃ビルの順に施設を調査する。 2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。 3:デュオと式を上手く利用する。 4:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。 5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい 。 6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する事にした。 7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。 8:象の像は慎重に調べる。 9:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感? 10:ライダー、織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。 11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。 12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する? 13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。 14:桃子と憂の2人を、必要以上に大切に思わないように気をつける。 [備考] ※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。 ※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。 ※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。 ※モデルガン@現実、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード、ミサイル×2発@コードギアス反逆のルルーシュ ジャージ(上下黒)、鏡×大量、消化器、ロープ、カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、その他医薬品・食料品・雑貨など多数@ALL現実 揚陸艇のミサイル発射管2発×1機、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス反逆のルルーシュR2、 現在支給品バッグに入れています。 ※揚陸艇の燃料…残り7キロ分。揚陸艇は船着場に繋留したままです。 ※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。 ※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い。 及びその記憶と想いを呼び覚ましました。 (どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手さんにお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める。イノベイターに覚醒する等は一切ありません) ※荒耶宗蓮の工房から不明品多数を回収しました。 (何を回収したのかは後述の書き手さんにおまかせします) ※荒耶宗蓮の工房内に在った大極図の魔方陣がルルーシュにより傷付けられ力を失いました。 ※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。 ※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。 ※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。 ※デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。 ※【象の像】でなにか購入、首輪換金、施設サービスを使用したかはお任せします。 【平沢憂@けいおん!】 [状態]:拳に傷、重みを消失、疲労(小) [服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット、純白のパンツ@現実 [装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯、S W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6) 遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×10個(in腰巾着)、発信機@現地制作、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ [道具]:基本支給品一式、日記(羽ペン付き)@現実、桜が丘高校女子制服、カメオ@ガン×ソード、皇帝ルルーシュのマント ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2、包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor 、 鉈@現実、阿良々木暦のMTB@化物語、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、 燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1 “泥眼”の面@現実 、38spl弾×46、メイド服@けいおん! 、さわ子のコスプレセット@けいおん!、洗濯紐 [機動兵器]:RPI-13サザーランド スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード [思考] 基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。 1:サザーランドを乗りこなせるようにする。 2:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。 3:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。 4:桃子ちゃんは友達。 5:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。 6:澪さんとバンドが組めて嬉しい。 7:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。 8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。 9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。 10:思いを捨てた事への無自覚な後悔。 11:お姉ちゃんは私の――。 [備考] ※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。 ※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。 ※第2回放送をほとんど把握していません。 ※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。 【東横桃子@咲-Saki-】 [状態]:疲労(小) [服装]:鶴賀学園女子制服(冬服) [装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、果物ナイフ@現実(現地調達)、双眼鏡@現実(現地調達) [道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実 蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)、小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、キャンプ用の折り畳み椅子@現実 七天七刀@とある魔術の禁書目録、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、発信機@現地制作、“狐”の面@現実、不明支給品(0~1)、 死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、 ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達) [思考] 基本:加治木ゆみを蘇生させる。 0:学校→廃ビルの順に施設を調査する。 基本は潜入、監視。 1:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。 2:もう、人を殺すことを厭わない。 3:覚悟完了。ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。 4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。 5:……憂ちゃんは一応、友達ってことで。秋山澪は……。 6:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。 7:浅上藤乃と思われる黒髪の少女に出会った際に、冷静であるように努める。 8:ルルーシュの能力とは? 9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。 [備考] ※登場時期は最終話終了後。 ※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。 ※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。 ※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。 ※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。 ※闘技場で伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。 ※【A-7】での爆発に気付きました。 【秋山澪@けいおん!】 [状態]:疲労(小)、両頬に刀傷 [服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki- [装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実 [道具]:基本支給品一式×9、千石撫子の支給品0~1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん! 桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、法の書@とある魔術の禁書目録 下着とシャツと濡れた制服、桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、 モンキーレンチ@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、軽音楽部のティーセット、 シアン化カリウム入りスティックシュガー×5、ゼロの仮面、刀身が折れた雷切 @現実、 ジャンケンカード×10(グーチョキパー混合)、ナイフ、薔薇の入浴剤@現実、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、 中務正宗@現実、発信機@現地制作、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、ランタン@現実 [機動兵器]:RPI-13サザーランド スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン [思考] 基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。 0:学校→廃ビルの順に施設を調査する。 1:サザーランドを乗りこなせるようにする。 2:この集団を利用し、目的を果たす。 3:軽音部全員を救う方法を見つける。 4:見つけ次第、実行する。 手段を選ぶつもりはない。 5:式とのコネクションは秘密にしておく。 6:憂の精神状態に疑念。 7:一方通行、ライダー、を警戒。 8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。 9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。 10:正義の味方なんていない……。 [備考] ※本編9話『新入部員!』以降の参加です ※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました ※エスポワール会議に参加しました ※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。 ※起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。 ※自分の望みのために、起源を乗り越えて戦う覚悟を決めました。 ※黒の騎士団全員の情報を得ました。 ※ルルーシュたちの作戦を把握しました。 【(腹)黒の騎士団の作戦】 1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。 2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。 3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。 4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。 5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。 6:桃子は集団内の人間をよく観察する。 7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。 8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。 9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて分かれるか、そもそも関わらない。 10:『おくりびと』は見られないようにする。 【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:疲労(小) [服装]:牧師のような黒ずくめの服 [装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実 COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実 BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2 [道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、 首輪×5(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久・セイバー)、手榴弾@現実×10 桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、 ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1) [機動兵器]:OZ-06MS リーオー ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用) [思考] 基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。 0:式とショッピングセンターを、ついでに吊り橋も調査する。終わったらルルーシュと再合流。 1:首輪の解析について、ヒートショーテルや手榴弾などを駆使して実験してみる。 2:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。 3:『消える女(桃子)』に警戒。 4:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。 5:首輪を外すのもゲームの内か……。 6:五飛の死に対する小さな疑問。 [備考] ※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。 正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。 ※以下の情報を式から聞きました。 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。 ※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。 ※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。 ※【象の像】でなにか購入、首輪換金、施設サービスを使用したかはお任せします。 【両儀式@空の境界】 [状態]:疲労(小)、 ダメージ(小) [服装]:私服の紬(上着排除) [装備]:九字兼定@空の境界 [道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0~1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA 陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実 [思考] 0:私は死ねない。 1:当面はこのグループと行動。 2:ボロボロだし新しい着物が欲しい。行き先(ショッピングセンター)に呉服屋はあるかな……。 3:澪との約束は守る。 4:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。 5:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。 6:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。 7:荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。 8:荒耶が死んだことに疑問。 9:首輪は出来るなら外したい。 [補足] ※首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。 ※荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。 しかし、彼が殺し合いに何かしらの形で関わっているのではないかと、確信しています。 ※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました ※以下の仮説を立てています。 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。 ・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。 ※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。 ※平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明) 【施設の備考】 【F-3/倉庫群】 十二のコンテナが置かれている。うち四つは死の線が視えない。以下ルルーシュとデュオの推察。 材質はガンダニュウム合金。 線が視える八つはダミー、もしくは罠。 首輪を外す技術があれば同じ要領で開封できる。 中身は機動兵器。首輪を外した者へのボーナス。高性能機か脱出艇。ただしどれも何らかの不備がある。 一機は内通者が仕込んだ不備のない機体がある(ルルーシュのみの推察)。 【E-3/象の像】 【遺跡】に繋がる隠し通路の扉が壊されました。簡単に見つかります。 象の上には聖人像が乗っています。効果は不明。 自動販売機の商品一覧 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 象の像(ミニチュア):100ペリカ お守り(健康・安産・優勝):1万ペリカ 矢×10:10万ペリカ リフレイン:10万ペリカ ブラッドチップ(スペック:低/高):50万ペリカ 弓:500万ペリカ カラドボルグⅡ(レプリカ):1000万ペリカ ゲイボルグ:(レプリカ):1500万ペリカ エクスカリバー(レプリカ):2000万ペリカ 長刀:2000万ペリカ 鎧・兜:2000万ペリカ 警備ロボット:3000万ペリカ オートロボット:6000万ペリカ スーパーカー(フェラーリ・エンツォ、赤):8000万ペリカ ※機動兵器一覧 OZ-07MSトラゴス:3億ペリカ GNR-010オーライザー:4億ペリカ 富岳:5億ペリカ ※施設サービス:換金率2倍 この換金機で首輪を換金した場合、金額は2倍になる。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【F-2/遺跡】 自動販売機の商品一覧 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 天然水:150ペリカ ジュース:200ペリカ オール:1000ペリカ ゴムボート:5万ペリカ 照明器具:10万ペリカ モーターボート:100万ペリカ 西洋剣:1000万ペリカ アサルトライフル(AK-47):2000万ペリカ GNミサイル(2発):4000万ペリカ 木造船:6000万ペリカ 揚陸艇:1億ペリカ ※機動兵器一覧 ポートマンⅡ:2億ペリカ OZ-09MMSパイシーズ:3億ペリカ ドラクル:5億ペリカ ※施設サービス:転送装置 入力した任意の座標へ空間転移できる。ただし範囲は会場内に限定。 所要ペリカ:1人につき3000万ペリカ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 時系列順で読む Back “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) Next 阿良々木暦の暴走(前編) 投下順で読む Back “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) Next 阿良々木暦の暴走(前編) 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) デュオ・マックスウェル 263 伽藍の世界 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) 両儀式 263 伽藍の世界 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) 平沢憂 264 残酷な願いの中で 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) ルルーシュ・ランペルージ 264 残酷な願いの中で 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) 東横桃子 264 残酷な願いの中で 256 “腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅(前編) 秋山澪 264 残酷な願いの中で
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3rd / 天使にふれたよ(3)◆ANI3oprwOY /夢物語 ――――そうして、少女はたどり着いた。 雫が、落ちる。 ゆっくりと、天井から床へ。 時が止まったような静寂に包まれた、展示場ホール。 床に点在する黒き水たまりに、吹き抜けから差し込む月の光が映っている。 その水面は穏やかだ。 胎動していた泥の勢いは既に収まり、湿り気だけが残されたそこは、まるで雨上がりのようだった。 人の声は、ない。 一つの戦いが終わった後。 残されたものは、朽ち果てた廃墟と、力を失くした汚泥の残骸と――― ―――かつり。 と、小さく。 踏み込む音があった。 静寂の空間に、立ち入る足音が、あった。 決して力強い歩みではない。 自身のある歩みではない。 ここで舞い続けた者達に比べれば、どれだけ頼りない者だろう。 だが、迷いもまた、そこには無かった。 その歩みを奏でる者は、少女は、平沢憂は、迷いなく進む。 廃墟と化したホールの中を、真っ直ぐに。 目指したものに向かって、歩き続けて。 ―――かつり、かつり……っ。 そうして、ゆっくりと、歩みは―――走りへと。 堰を切るようにして、少女は駆け出した。 目指した場所、目指した人の居る所へ。 腕を振り、真っ黒な地面を蹴り飛ばし、自分に可能な最短を実現して。 「……っ……今度は……っ!」 展示場ホールの中央に倒れ伏した、幾つかの人型。 そのうちの一つに、再会を願う人の元に。 「……今度は、間に合って……!」 少女はたどり着く。 駆け寄って、確かめて、そして、 「……っ…………」 まだ、消えてない。 死んで、ない。 彼に、真っ黒い床に横たわる阿良々木暦に、確かに息はあった。 「よかった、まだ。生きてる」 とても微弱な、力の無い生命活動であったけれど。 それでも生きていた。 僅かな呼吸。 小さな鼓動。 それらが、彼がまだ、『続いている』ことを、示していたから。 「あなたを、死なせませんよ……絶対。 約束は……まだ生きてるんだから……っ!」 また会うと誓った。 「君の手を引く」と、彼は言った。 それを嘘には、させない。 憂にとっての約束は、決して『看取る』ことではなく。 生きて、言葉を交わさなければ、認められはしないものだ。 そして何より今、憂自身の中に、彼に伝えたい言葉が在るのだから。 腕の切断された肩口を縛り、これ以上の失血を阻止する。 加えて、近くに転がっていた腕を断面に合わせ、ガムテープと添え木で固定した。 即席かつ乱暴であったが、今できる限界であり――― 「……お願い、阿良々木さん……頑張って」 どれだけ傷つけられても、再生した。 手首を落とされても、時間を掛ければ接合できた。 そんな彼の身体の強さに、賭けるしかなかった。 阿良々木暦の再生能力には限界がある。 まず即死級の怪我は直せず、血を流す度に弱まり、時間が経つほどに消耗する。 しかしまだ、今も阿良々木暦の身体は微弱ではあるが、再生を続けていた。 常人であれば憂の応急処置を受けるまでもたず、限界を迎えていただろう。 阿良々木暦は今も、生きようとしている。 例え、尽きかけた蝋燭の如き再生力だったとしても。 だから憂も、彼の命を諦めるつもりは無く。 「死なせない……絶対」 その時、ぴちゃりと、一際大きな雫の音がした。 「――――!?」 無意識に任せて腕を動かす。 素早く銃を抜き、ホールの一角に向けた。 直感が、危険を告げている。 そこでようやく、憂は改めて、周囲の状況を理解した。 阿良々木の傍には、真っ白なシスター。インデックスが倒れていた。 仰向けに倒れた彼女は、息をしていたけれど、見開かれたままの眼は何もうつしていないように虚ろで。 おそらく、もう、何もうつすことは無いのだろうと、憂は思う。 理屈ではない直感で、彼女はもう、終わってしまったのだと。 少し離れたところでは、両儀式が、蹲っている。 胸を僅かに上下させていることから、生きてはいるようだが、 疲労の為か、一言も発する余裕はないようだ そして、更に奥には、一つの死体があった。 一方通行と呼ばれた、超能力者の屍。 胸に赤い槍の直撃を受け、黒い泥の中に、うつ伏せに沈んでいる。 憂の銃は、そのいずれにも向けられていなかった。 「また……こうなっちゃたな。私たち」 「…………」 聞こえた声。 今、危険を感じ、反射的に銃を向けた方向を、なぜだか見たくなかった。 「なあ、まだ、こっちを向いてくれないのか。 憂ちゃん」 せめて、死を見てくれないか。 大切な人の死を、見ないふりしないでくれと。 いつか彼女から投げかけられた言葉だった。 「いいえ」 だから今、応えなければならなかった。 見なければならなかった。 例えそこに、どれだけ見たくないものが在ったとしても。 「私はもう、向き合うことにしたんです。澪さん」 顔を上げて正面から見つめる。 憂以外に、この場で唯一、動くことが出来る者。 「生きてて……よかった」 ―――こちらに銃を向けて立っていた、秋山澪を。 「その男から、離れてくれ」 短く、澪はそう告げた。 銃口を憂でなく、いま憂が抱きかかえる少年、阿良々木暦へと向けながら。 「殺すつもり、なんですね」 質問に澪は沈黙でもって肯定した。 彼を殺す。 今、その為だけに、彼女はこの危険地帯に留まっている。 「憂ちゃん。私は、まだ諦めてないんだよ」 彼に向けられた銃口は、震えていなかった。 瞳は、決意していた。 「もうすぐ、チャンスが来る。全部、取り戻せるんだよ。 これ以上何も失うことなく。 もしかしたら、憂ちゃん達を―――殺すこともなく」 全てを取り戻す。 そして、これ以上、何も失う事は無い。 その範疇に、憂もまた含まれている。 願望でも妄想でもなく、彼女は希望を叶えると確信していて。 素直に、憂は嬉しく思った。 あなたが大事なのだと、言ってくれたことを。 「時間が無い。急いでここを脱出しなきゃいけない」 けれど同時に、秋山澪は、こうも言っている。 「だけどね。……その前に、その男だけは、ここで殺しておかなきゃいけないんだ。 理由を話してる時間は無い。 けど、その男だけが『例外』なんだ。今の私にとって、唯一、殺さなきゃいけない敵なんだ」 願望を成就させる為の前提として、阿良々木暦を殺す、と。 「今からでもいい。一緒に来てくれないか、憂ちゃん。 もう、向き合ってくれたんだろう? 悲しんでくれたんだろう? だったら……わかるだろう……」 ああ、分かる。 分かると思う。 決して秋山澪と同じ深度とは言わない。 けれど、失った者に向き合う悲しみ、痛み、重さに、平沢憂は向き合った。 「……わかりますよ。わからないわけ……ないじゃないですか……」 失った者に向き合う。 何の意味も無いのに、何も帰ることは無いのに、なのに心が、そうしようと叫ぶ背反。 ひたすら辛くて、痛くて、重くて。 結果、死は、帰らない過去は、乗り越える物ですらなく。 どうしようもない傷を受けて『それで終わり』の物語だ。 だからその運命を、『どうしようもないおしまい』を、認めず抗う、彼女の気持ちが。 痛いほど、わかる。分かってしまう。 共に行く、そんな選択肢もあると思う。平沢憂は秋山澪を、絶対に否定しない。 少し前、何もなかった憂なら、そういう選択をしただろう。 この世界に来て、大切な人を失って、『それだけ』だったなら。 「だけど、私は……この人を、死なせません」 それは切迫した状況でありながら、静かな言葉の交わしあいだった。 憂は不思議に思う。 自分は誰よりも、彼を、殺そうとしていた筈なのに。 今は、こんなにも必死に、守ろうとしている。 守りたいと、思える。 まったくもって、変な運命だなあ、と。 「………」 秋山澪は、一度、悲しそうに、憂から目線を切った。 明らかな隙であり、どちらも承知していたが、なにもしなかった。 憂は静かに、澪の言葉を待っていた。 「……なんで、だよ」 改めて憂を見つめた澪がこぼした声は、悔しさに塗れていた。 「……そいつが、憂ちゃんに何をしたんだよ」 なぜ庇う。 なぜ守ろうとする。 「助けてくれたのか? 救ってくれたのか? 私たちの、誰か一人でも、そいつは拾い上げてくれたのかよ。 居ただけ、じゃないか……偶々……そこに、いただけで。 そいつは……何も出来ちゃ……いなかったじゃないか……」 そんなにも大切なのか。 ヒーローなんかじゃあり得ない。 何もしてくれなかった、出来なかった、ただの他人が。 「ここで失った誰よりも、いなくなった人よりも、大切だって言うのか?」 悲痛な叫びだった。 胸を抉る言葉だった。 静かに、静かに、憂は、口を開く。 いま、『あなたを助けたい』と言ってくれた、秋山澪へと、想いを返すために。 「澪さん……この人は……」 命を救ってくれたことが在るだろうか。 大切な人を助けてくれただろうか。 憂の心を襲った迷い、不安、絶望、それらを、取り除いてくれただろうか。 「たしかに、なにも、してくれませんでしたよ」 そう、阿良々木暦は何もしていない。 阿良々木暦は、平沢憂を助けてなどくれなかった。 助けてくれたから、また会いたいと思ったわけじゃない。 守ろうとしているわけじゃない。 秋山澪の言う通り。 彼はヒーローじゃなかった。 無力な彼は、ただそこにいただけのようなものだった。 そこに居て、誰も助けられず、一人でひた向きに頑張って、傷ついていただけ。 「いた、だけなんです」 偶々そこに。 他の誰でもない、彼は。 平沢憂の傍に。 「いたんです」 憂が一番つらかったとき。 誰かに、そばにいて欲しかったとき。 一人じゃきっと、耐えられなかったその時に。 彼は、そこにいた。 「いてくれたんですよ……」 平沢憂は、それに何より救われたのだから。 他に、何が必要だったと言うのだろう。 憂は、澪の眼を真正面から見つめ、告げる。 まっすぐに、まっすぐに、偽りない気持ちを伝える為に。 「ねえ、澪さん。私、お姉ちゃんが死んで……死んだんだって、やっと実感したとき。 本当の重さで、分かったとき。 とても、とても、悲しかったんです。 言葉に出来ないくらい、死んでしまいたいくらい、痛かったんです」 その痛みは、今も無くならない。 平沢憂が死するその時まで、痛み続ける『傷』なのだろう。 「それは、『お姉ちゃんが私を助けてくれたから』、じゃないんです。 私を庇って死んだからでも、血が繋がっていたからでもなくて。 私はあの人からたくさんのものを貰っていたから、それを返してあげたかった。 ずっと、一緒にいたかった。 ……私は、あの人の事が、すきでした」 だからもう、それが叶わない事が悲しい。 あの人と同じくらい大好きになれる人が、この先、現れるだろうか。 太陽のように輝いていた笑顔。 私の星。 私のサンタクロース。 あったかい、素敵な魔法をたくさん教えてくれた人。 「お姉ちゃんが、大好きでした」 ああ、きっと、もう、現れることはない。 何故なら彼女は、世界に一人しかいないのだから。 「だい……だい……だいっっっすき。だったんです」 「ああ、知ってるよ」 あなたの為に、何でもしてあげたいと思っていた。 何でも出来るって思っていた。 それはきっと、私の為でもあったから。 私の、夢だったから。 「もう一度、あの夢が見れるなら、それは、きっと―――」 いつか平沢憂の胸を締め付けた、一つのユメ。 もう死んでしまった、終わってしまった夢。 続きを観れるというのなら、それはどれだけ魅力的なのだろうかと思う。 もしも憂の胸が『がらんどう』のままだったらなら、迷わず澪の手を取っていただろう。 「だけど、ここに……。 ここにはもう……在るから。 叶えたいって、願ってしまったから……」 しかし今、痛みと共に掴む、平沢憂の胸には、確かに在る。 『がらんどう』を、埋め尽くしたもの。 新しいユメ。 それは今までの夢とは全然違うものだ。 あの人が、戻ることは永遠に無い。 『あの人と同じ大好き』を、二度と想う事は無い。 当たり前だ、同じ『すき』は、二つとないのだから。 「ごめんなさい。澪さん」 けれどこの世界に、いちばんは、いっぱいある。 人は欲張りな生き物だ。 何かを永遠に失っても、また違う何かを得ることができる。 得たいと、想える。 「私は、あなたと一緒には行けません」 同じじゃない、代わりじゃない、唯一無二の。 「この夢を、譲りたくはないから」 それを得られた事こそを、何よりもの奇跡だと信じている。 きっかけをくれた彼に、傍にいてくれた彼に、心から感謝している。 だから、伝えなければならない言葉がある。 愛だろうか、恋だろうか、ただ大切だという、それだけだろうか。 なんて、複雑に考えるまでもない。 ただ、死んでほしくないと、居なくなってほしくないと。 いつか大切だった『彼女』や、『彼』と同じように、そして違うように。 想うことが出来れば、それだけで簡単に言えること。 「彼を、殺さないでください。私の、好きな人だから」 今、この胸の中にある、夢は。 たくさんの『彼』、そして『彼女』との関わりの中で、新たに芽生えた夢は。 抱いてしまった、平沢憂の、ユメは。 そっちには、ない。 この先、にしかない。 だからあなたと、一緒の道を歩むことは出来ないのだと。 「……それに……約束とか、しちゃいましたし」 そこでやっと、憂が澪から目を逸らし、照れたように。 付け加えるように言って、けれど次の瞬間には、もう一度、澪の眼を見つめて言った。 「私は、守ります。今度こそ」 両者共に、今相対する者を殺すつもりなど無く。 平沢憂の手にする銃は、澪ではなく、彼女が構える凶器に向いている。 秋山澪の銃口は、憂ではなく、彼女が守る阿良々木暦に向いている。 ―――S W M10 “ミリタリー&ポリス”。 元は誰の手に在ったものなのか。 彼女の友人を初め、幾人もの手に渡ったそれを、平沢憂は握り締める。 ―――FN ブローニング・ハイパワー。 元は誰の手に在ったものなのか。 彼女がこの場所で唯一、本当の意味で仲間とした少女から受け継いだそれを、秋山澪は握り締める。 違う歴史を掴む。 それは彼女らが、今まで異なる道を歩んできた証明であり、 違うユメを持つに至る理由だった。 手放せないモノの為に、これから二人、違う道を歩んでいくために。 「……そっか」 「……はい」 澪が、憂が、そうして、覚悟を決めた時だった。 「―――――」 引き金が引かれることは無かった。 憂は、あり得ない音がしたことを認識する。 澪は、時間が来たことを意識する。 「――――――――a」 声を上げたのは死体だった。 いや、それは産声だったのかもしれない。 泥の中で倒れ伏したままの、一方通行の亡骸の口が、何か音を奏でている。 「――――――――――――a.a.a.a.a」 意味を成さない音の羅列を。 「―――――――――――――――l」 少女二人の語らいに、呼応するかのごとく。 心臓を貫かれた死体は。 「―――――――last――――――――――order」 一方通行は、立ち上がっていた。 ◇ ◇ ◇ 世界が、逆転している。 「―――」 上は下になり、左は右と化した。 喜悦は哀切に堕ち、枯渇は飽和し、光は闇となった。 光が視界を埋め尽くしている。 意識は無意識となり、思考を埋め尽くす感情の方向性が定まらぬまま形にならなず。 ―――呆然と、空を見ていた。 仰向けに倒れたまま、展示場の吹き抜け、その更に先を。 黒き嶺上は枯れ落ち、伽藍の洞の底の底から、装飾された夜空に浮かぶ、光を見つめている。 光を見続ける彼は、何を思うのか。 きっと何も思わない。何も、思えない。 既に、彼の意識は停止しているのだから。 「――――――a」 雑音が鳴っている。 「――――a―――――a」 心臓を破壊されて生きていられる命など無い。 ならば今、彼を稼働させるものは何か。 彼の燃料として駆け巡るモノは――― ―――ドクン、ドクン、と。 在り得ぬ鼓動の音が鳴る。 真っ赤な槍に刺し穿たれたはずの左胸。 不可思議な光景だった。 仰向けに倒れたままの彼の、一方通行の左胸に突き刺さっている槍が、ゆっくりとその色を変えていく。 鮮やかな紅が、塗りつぶされていく。 おぞましく、穢れた黒へ。 とっくに変調していた一方通行の心臓に侵食されるが如く、穂先から駆け上がるように染め上がる。 一方通行の鼓動とシンクロするように、展示場内で力を失っていた汚泥が、再び胎動を始めた。 黒聖杯。 言峰綺礼、そして宮永咲という依代を失ったそれは消滅の危機を前に、縋るモノを求めた。 この世全ての悪。 悪性の聖杯。叶える願いを寄越せ。 その意味を、その価値を、生まれてきた理由を寄越せと。 過去幾度、拒否されたか知れない殺戮の器。 此度も無為に消えていく運命を告げられた有象無象の汚れ達が、縋るように群がる。 沈静化し徐々に消えゆく定めだった汚泥のすべてが、彼へ寄り集まっていた。 言峰綺礼が最後に勝者と定めた存在へ。死して尚、何かを諦められない器へと。 しかし彼の精神は既に動きを止めている。 肝心の意思が止まっているのだから、駆動させるべき方向性が定まらない。 このままではやはり、黒き聖杯の存在意義は果たせぬまま、すべてが朽ちる、筈だった。 「―――夢を、譲りたくはないから」 そんな言葉が、彼の耳に届いた。 直ぐ傍らで続けられていた、二人の少女の会話。 純粋で、まっすぐな思いのカケラ。 「………ユ……メ……」 うわ言のように口にする。 それは、なんだ。 死して止まっていた心に、染み入る響き。 死んでも忘れられない何かを、思い出してしまいそうになるほどの懐かしさが、からっぽの心に色を与えた。 「………」 眼を、開く。 ただ直上、空に在るモノを見る。 忘れない。 忘れられない。 嗚呼、いつか、遠い、いつか。 叶わない夢を見た。 決して届かない希望を、抱いてしまった。 守りたかった。 助けたかった。 共に生きていきたかった。 大切に思う彼女と。 同じ場所にいられたら、だなんて。 それはなんて、なんて分不相応な夢だったのだろう。 他人を守る方法なんて分からなかった。 助け方なんて理解できなかった。 昔から、最初から、己に出来たことなんて、一つだけ。 壊すことだけ。 ぶち壊して、ぶち壊して、ぶち壊して、何もかもぶち壊して台無しにしてしまう。 そんな最悪の方法しか知らなかったから。 なんて、愚か。そんな奴が、誰かを守ろうだなんて夢を持つこと自体が間違っていた。 「―――last――――order」 身体をゆっくりと、起こす。 すると目の前に、 アイツの、 姿が在った。 「―――――オ―――マ――エ」 一方通行の前に立っている。 誰もが待ち続けていた彼が、もしかすると誰よりも一方通行が、希求していたかもしれない主人公(アイツ)の姿が。 幻想を殺し、幻想を守る彼が、そこに立っている、前だけを見て立っている。 一歩通行の目の前で、前を、天を見上げて、元凶の神を見据えて、彼は断ち続けている。 そうして、彼は振り向きもしないまま、一言だけ、告げた。 ―――――後は任せろよ。 そうだ、ヒーローなら、既にいた。 ここにいて、そういうだろう。 幻想のみをぶち壊し、現実のすべてを守り抜く右手。 憧れて、同時に、決して己には至れないと、知っていたその在り方。 だから一方通行は、そんな幻想に心からの安堵を抱いて――― 「―――は、くだらねェ幻想だ。死にやがれ」 幻想ごとごと殺害して、踏み込んだ。 穂先を、掴む。 僅かに外していた、心臓までほんの数センチ届いていなかった紅槍を、握り締める。 「オマエの出番なンざ、もうねェンだよ」 憧れた正義の味方。幻想殺しの主人公。 それすら、己は殺して、殺しつくした果てに、ここに居る。 絶死の運命すら超え、ここに最強を張り続ける。 「どけよ、ここからは俺のハナシだ。 死んだオマエは、あの世で悔しがりながら見てやがれ」 正義の味方には、なれなかった。 最後まで、一方通行には壊すことしか出来ない。 最悪の方法しか選べない。 だとしたらいま、この胸を埋め尽くす殺意を、全部を黒く染め上げるほどの悪意を、最後は何処に向けようか。 「じゃァな」 並び立ち、そして越えていく 霧散する幻想の背中を追い抜いて。 悪を背負う。悪を引き受ける。 結局、彼に出来ることはそれだけで、それだけが、貫ける信念だったから。 この世全ての悪。 上等だ。是非も無い。 クソッタレの悪党にはお似合いだ。 これ以上の道連れが在るものか。 「行くぜ。クソッタレどもが」 背負ってやろう。 受け入れてやろう。 そして連れて行ってやろうとも。 左胸に突き刺さる紅き槍の、その柄を握り締め、今度こそ心臓へと、突き刺した。 足りない、もっとだ、もっと深くまで味わいやがれ、と。 自らの腕で槍を押し込み、完全に心臓を貫通させた。 「がっ……ァ……は……喜び……やがれ……俺が、オマエらに生まれてきた意味をくれてやる」 この世全てのクソッタレの悪(くろ)を、ぶつけるに足るクソッタレの善(しろ)の元へ。 届けてやるから、さあ、生まれてきた意味を果たせ。 「――――――」 見上げた空から、落ちてくるモノがあった。 白き燐光。 遂に放たれた、それは展示場という施設を跡形もなく消し飛ばす神の鉄槌だった。 再生の名を持つ神が放つ一撃が、その場全ての者の視界を埋め尽くす。 誰もが思った。 終わった、と。 最後だ、と。 そう、最後だ。 最後まで、一方通行は己らしく在ろうと思う。 壊すことしか知らないなら、何もかも台無しにすることしか、出来ないなら。 だったら最後に、最後まで――― 「――――――」 見上げた空に映る極光。 神様が願う、この世全ての善を布く、崇高なユメとやらを。 ああ、クソッタレの悪党らしく、ぶち壊して、ぶち壊して、台無しにしてやろうじゃないか。 黒き竜巻が発生する。 周囲に存在する有象無象を吹き飛ばしつつ、 泥と同化した展示場ホールの吹き抜け天井、壁を引きはがし、取り込んでいく。 実に悪党らしい哄笑と共に、最後の飛翔を実現させる。 背中に展開する翼をより黒く染め。 展示場に存在する汚泥の全てを施設ごと喰らい尽し、言葉通り、この世全ての悪を引き連れて。 一方通行は地を蹴った。 ◇ ◇ ◇ 生命が、燃えていた。 鮮烈に、鮮烈に、鮮烈に。 ここは舞台、女神の御前、奇跡の下に踊れ踊れと鳴り響く。 広がる夜天の下、刃は舞う。 終わりなき舞踏を繰り広げる。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!」 咆哮。 擦り切れた喉で、ただひたすらに咆哮。 紅の機装(エピオン)、グラハム・エーカーの放つ剣閃は色褪せず、対敵する存在を追って駆けていく。 「愚かだな」 神を斬る。 などと、果たせぬ暴挙を為すべく、空を往く彼を、 リボンズ・アルマークは未だ、あしらいながら慈悲をもって見下していた。 「哀れだな」 金緑色のサーベルは届かない。 幾何億と振るおうとも、上空に立つリボーンズ・ガンダムに触れる事すら叶わない。 全て片手で払われ、その度に罰の如き両断を返され、地へと落とされ続ける。 絶対的彼我の差を、覆す未来は存在しない。 「そして何より滑稽だ。ここまで来て、まだ足掻くのかい?」 「ああそうだとも。 確かに君は強い。百度戦おうと、千度戦おうと、敵わない神様なのだと知っている。 ――だが、生憎だったな、私はしつこくてあきらめも悪い、俗に言う人に嫌われるタイプなのだからなッ!」 閃光が奔る。 「それに、『しつこくてあきらめも悪い』のは、私だけではないぞ」 エピオンの背後から放たれたそれはリボーンズ・ガンダムの傍らを抜け、そこに在ったファングを撃ち落した。 「そうだろう!? 枢木スザク!!」 「――援護を続けます。 あなたはただ、前を見て戦いに専念してください。僕が、道を開きます」 「承知ッ!!」 直下からの、狙撃だった。 ヴォルケインという銘のヨロイ。 搭乗している枢木スザクにとっては操縦体系の異なる機体だった。 しかし一時的に得た、金色の片眼に視えるもの。 脳に響く微かな残留思考が、スザクを導く。 ごく短い間、共に戦った人の、いつかの思念。 移動すらまま成らいザマだが、それでも砲台に徹することで戦況に一石を投じる。 そもそもヴォルケインには飛行機能が無いのだから是非もない。 かつて夢を失い、夢を過ぎて、それでも歩き続けていた抜け殻のような誰かの思い。 彼が、世界に刻み向けた僅かな感情に沿うように。 スザクは狙い、トリガーを引く。 撃つたびに、思考に交じる量子は過ぎゆき、入れ替わる。 だから、スザクは一射ごとに、それを込めて、放った。 だってそれしか出来ないから。 だけどそれなら出来るから。 今はただ、脳裏を掠める感情(おもい)を送る。 天上に立つ存在へと。 ―――誰も知れぬ。 その機体が、地上に齎された中でただ一つ、天上に立つ神の与えた力でないという事実。 「で、だから、どうしたのかな」 そしてそんな彼らの最後の抵抗を、リボンズ・アルマークは見下していた。 下に、下に、彼らが何度立ち上がろうと、天上の目線で測り、憐れむ。 何故なら己は上位種だから。 眼下で蠢く有象無象とは違う次元に立っているから。 弱者の足掻きに余裕と慈しみを持って接するのは、上に立つ存在の義務ですらあるだろう。 断言しよう。 決して、神と同じ高度に立つことは許されない。 自信に、罅を入れる事すら為し得ない。 戦う理由の変遷など、心の持ちようなど、関係がない。 純粋に力の差で、彼らは勝つことが出来ないのだから。 背にするダモクレスに合わせ、リボーンズ・ガンダムはゆっくりと降下を続けていく。 彼の降下に合わせて、突貫を続けるグラハム・エーカーは叩き伏せられ落とされる。 幾度挑もうと、対等に並ぶ事はあり得ない。 ヴォルケインもまた同じだ。 スザクが込め、放つ弾丸は、ファングを落とすのが関の山だ。 如何なる意味においてもリボンズにまで届かないし、伝わらない。 造物主の思考は常に先を見る。 現在を生きる命(だれか)、これから作られる命(なにか)、その幸福のみを追求すればい。 死者の思い。世界を救うために犠牲になった誰か。 既に終わったモノを鑑みるなど、神はすまい。それは人間のすることだから―――― まったくもって詰まらぬ茶番。 くだらぬ児戯。 彼らは必死になって食い下がろうとしているが、その実、リボンズ・アルマークを肉体的に殺す事にすら、意味は無いのだ。 会場に降りたリボンズの肉体は彼本人の物であるが、同時に代わりの効く端末でしかない。 肉体を滅ぼしたところで、幾度でも作り出すことができる。 無論、多少の時間は掛かるだろうが、ヴェーダと聖杯の在る限り何度でも再生は可能だ。 だから、リボンズを殺す事すら意味は無い。 最初から、全部が無意味でしかないというのに――― 今をもって、リボンズ・アルマークが本気になる気配すら見えず。 と、そこでようやくリボンズは自分が今、自分が余裕を保っていると気が付いた。 まるで今まで、全く別の勝負をしていたような、馬鹿げた時間の浪費をしていたような感覚を。 「くだらないな」 一笑に付し。 彼は終わらせる事を決める。 それは何とも軽い決定だった。 もっと簡単に終わらせる方法に気づいてしまったから、では終わらせようというだけのこと。 「―――トランザム」 アクセス・ヴェーダ。 情報の海と、聖杯に接続された黄金の眼が、完全に予測された未来を視る。 その先は、語るまでも無い蹂躙だ。 「―――ッッッ!!」 振るわれるサーベルはエピオンの片腕を切り落とし、 「――――ぐっ!!」 撃ち漏らしたファングがヴォルケインの装甲を削り切る。 「さようなら」 数十秒先の未来、グラハム・エーカーは機体を真っ二つに裂かれ、敗死。 遅れて数秒、枢木スザクも集中砲火を浴び、死亡した。 そんな、単純な未来が、すぐそこに視えていた。 ―――さあ、いよいよだ。 地上への到達は目前。夜空に広がる純白の方陣は世界を覆い尽くし、全ての並行世界へと影響を及ぼすべく扉を開く。 極大の光が地を照らし昼と夜が逆転する。 門が、開いて行く。 白き聖杯、ここに降臨。 女神の身体を借りて、現世に、遍く世界に救済を齎す。 不完全な世界を、救おう。 その為に、聖杯(かのじょ)は作られた。 その為に、神様(ぼく)は生み出された。 信じている。 己以外の何も、信じようとしなかった神は唯一、信じていた。 彼女の価値を、彼女が瞳に映した己の価値を。 自分だけが、世界を救える、救う事が出来るのだ。 何でも出来て何もしない、そんな神はもう、いらない。 己は違う。 いつの時代も人が切に望み続け、得られなかった物をくれてやろう。 真なる、永久の世界平和を授けよう。 その形とは、何度壊れても再生する『恒久の生命』と『もう一つ』――― 「欲しかったんだろう? 幸せな結末が」 人類から、『遍く全ての悲劇を取り除く』。 潰えぬ命で、永遠のハッピーエンドを繰り返せ。 「君たちはその為に戦ったんだ。良かったじゃないか」 救われただろう。 歓喜し、感涙せよ。 お前たちの永劫求め続けたモノが、漸く、世界に満ちるのだ。 「そう、これにてハッピーエンドさ。 君たちの死をもって、それは終わり、永遠に始まる。 ―――嬉しいだろう?」 高速で振るわれるサーベルが、エピオンを解体していく。 ファングの集中砲火に晒されたヴォルケインも、 幾ら機体に光学兵器への耐性があるとは言え、数秒と持つまい。 だが、それより尚早く潰すべき処刑対象が、眼下に居た。 「なんだ、まだあったのか」 展示場を喰らい、蠢く黒聖杯。 発生時は山のようだった巨体はファングの斉射に押され沈静化し、既に死にかけの蟲の如き有様になっている。 だが、まだ僅かに動いていた。 漆黒の手を浅ましく、白き洗練な聖杯へと伸ばしている、つまり生きている。 数少ない、リボンズが憎悪を向ける対象が、まだ『在る』のだ。 看過できる筈が無い。許せるはずが無いだろう。 奇跡の糧となる参加者は憐れみ慈しむべき者だが、アレは屑だ。 リボンズと聖杯の儀式を文字通り汚しかねない、唯一と言っていい障害だった。 現世界に設定した、第三の霊脈。 第一、第二を避けてまで降ろすと決めたのは、同じくここに発生するだろう汚泥を完全に潰すと、最初から決定していたからだ。 実質のところ土地の質など、リボンズの信じる完全な聖杯には関係がない。 素体が完全なのだから、地脈など第三で十分である。 奇跡をかすめ取り穢す可能性のある、無粋な汚濁があるならば、上から洗浄し消し去るのみ。 そして理由はどうであれ、リボンズはここに降ろすと決めたのだ。 ならばここが、彼女の花道。 彼女の物語を終わらせ、そして始める極点だ。 だからまず、場所を開けろ、疾く消え去れよ贋作が。 そこは我が女神の降りる地だ。 「リボーンズ・キャノン」 変形と共に、全てのファングが、砲火が、展示場に向けられる。 もはや空前の灯火となったそれにトドメを刺すべく。 放たれる燐光は、蠢く汚泥、『この世全ての悪』へと引導を渡す、紛れもない決着の閃光となった。 「――――」 決着へと、確かに繋がっていた。 いざ、この世全てに善を齎さん。 絶対の幸福が支配する、純白の世界へと――― 「――――■■gyxeq■■■gase止ggee」 異を、唱える漆黒が、ここに在る。 「■■■■laaaaa■■■■■■aaaaaaaast■■■■■ooooooooooo■■■■■■■■oooooooorder■■■■■―――――――――!!!」 燐光を放たれた展示場の『土地』が、ぐにゃりと盛り上がり、弾けた。 否、違う。 これは展示場という施設を飲み込み一体化していた、巨大なる黒の汚濁その物に他ならない。 悍ましい泥は、誰もが疎む死の具現は、こう言っていた。 ――わたしは生まれてきた。 ――ここに居る。確かに居る。 ――その、意味が欲しい。 ――意味のないまま消えたくない。 ――だからねえ、使ってください。 どうかわたしたちに、生まれてきた意味を教えて――― 「―――あァ、いま連れてってやるからよォ!!」 哄笑が響き渡る。 施設ごと、形状を変化させていく。 天へと伸ばしていた手が崩れ、黒塔が砕け散り、再形成されていくそれは左右に在った周辺施設を喰らい付くし、無限に増えていく。 残っていた全ての汚濁が、死が、悪が、黒が、一つの存在に寄り集まって新たな形を成す。 その依代が今、地を蹴り、飛翔を開始していた。 無限に滴り落ちる泥が寄り集まり、縋りつくのは一人の人間の背。 一つ一つでは弱すぎる、有象無象の具現達。 地下深くから、どれだけ手を伸ばしても届かなかった清廉。 遠すぎる天空へと、憧れた白へと、到達するべく形成するモノ。 大地を覆うほどの巨大な漆黒。 左右へと二枚展開される。 それはきっと、翼と呼ばれる形をしていた。 「ひァははははははははははははははァ!! おォォ待ァたせしましたねェ!! カミサマさンよォォォォォォォ!!」 響き渡る狂声。 胸を串刺しにされたまま、血だらけの天使は飛翔する。 地上に放たれた砲火の全てを貫いて。 『この世全ての悪』を引き連れて、クソッタレの悪党は空を往く。 「何だ、何だよ、何ですかァ? このザマはァ! 俺が来るまでに終われなかったンですかァ!? 仕事が遅いぜ全知全能!! それじゃァ何もかもがご破算だ!!」 中核を失った聖杯は自己を存続させようと、繋がっていた超能力者へと群がり形を成した。 もはや彼らは切り離すことの出来ない同一個体。 最後の乱入者、一方通行が神へと、滅びを届けるべく翼を羽ばたかせる。 曲がりなりにも汚れた願望器を受け取ったモノとして。 そして駆動させ、願いを成就させる者として。 己が願望を、届かせる為に。 「愚かだな……本当に……ッ」 下方から這い出して来るようなその姿に、 「本当に、どこまで君は……」 告げるリボンズは感じ取っていた。 微かな、苛立ちを。 だってそうだろう。 誰もかれも、いい加減、『愚か』がすぎる。 そして殊更に、リボンズにとって、目の前の存在は余りにも醜悪だった。 狂声を上げながら、実際に狂い果てながら、悪を翼と背負い踊り昇ってくる、『弱者』。 決して脅威ではあり得ない。負ける気など欠片もしないモノ。 死にかけの、半分以上生きてすらいない生命の残りカス。見るに堪えぬから一秒以内に消して、それで仕舞いの塵芥。 だが、醜悪さだけは、眩暈を憶えるくらい特上の代物だったから。 見た目においてだけでない、脳量子によって伝わってくる内側はそれ以上にグチャグチャで。 余りにもみっともなくて、汚過ぎて、おぞましくて、リボンズをして一瞬、見入る程に、気持ちの悪いモノだったから。 そしてそれは、紛れない『人間』だったから。 「どこまで、君らは……」 思ってしまったのだ。 一瞬の気の迷い。 あり得ない夢想、些末な錯覚であると同時に、ともすれば彼の根底を覆してしまいかねない感想を。 『こんな愚かな人間(モノ)、本当に救えるのか?』 それは全人類を救う神として、敗北宣言に等しいワードではなかったか。 莫迦なとすぐに吐き捨てる。 くだらないと切り捨てる。 聖杯に不可能はなく、遍くすべてを己は救うのだと、コンマ一秒も断たずにリボンズは取り直し。 その僅かな間隙こそ、全てを分けたのだと気付けない。 「■■■■cb■■■■■■■■gfx■■h■■■asf壊ghj■■■■■■■■■jhfwr■■■■■■■oas輯ue■■―――――――――!!!」 極大のGNの粒子が一方通行を焼き尽くす。 その寸前、胸の刃を、掴ませてしまった。 だからもう遅いと、ソレは嗤って。 「さいっっっこォの悪夢をデリバリーしてやるよォォォォォ!! クッソ野郎ォがァァァァァァァァァァ!!!!!」 大量の血飛沫が宙に舞う。 展開していた黒翼が再び体内へと収束し、体の中心で渦を巻く。 突き刺した呪いの紅槍へと、破壊された全身の血管を通じて、血液と一体化した汚濁を芯まで染み込ませる。 それは世界間を超えた、魔術と科学の合一だった。 柄まで染まった様はもはや黒槍であり、 槍本来の呪いなど及びもつかないほど汚らわしく歪まされた媒介を、一方通行は己の魂(しんぞう)ごと引き抜いた。 「……なァ、おィ、選ンでみろよ?」 夢か、命か。 放たれた燐光が、五体を撃ち抜かんとする寸前。 目の前の怪物(にんげん)が、リボンズへとそう問うていた。 「―――は」 握るは、この世全て悪そのもの。 放つ己は、ただの悪党。 それでいい。さあ、届け。 全部台無しにしてこいよ、と呼びかけて。 投じられる。 黒槍の刃は、明らかにリボンズ・アルマークを『外して』いた。 見当違いの方向を飛んでいく。 狙い損じたのか、否、違う。 「―――何をした、つもりだ? 人間」 それはこの世で最も、彼の憤怒を煽る行いと言っていい。 全身を焼き尽くされてなお高らかに爆笑を上げながら墜落していく一方通行など、もはや眼中には無い。 放たれた槍の一撃の描く軌跡が網膜に焼き付く。 漆黒の穂先は、ダモクレスを指している。 一方通行の身体を離れ、尚飛翔を続け、白き聖杯を目指している。 先のフレイヤの一撃でブレイズルミナスを失ったダモクレスに防ぐ機能は残っていない。 それが何を意味するのか。 参加者にとって、唯一の勝利条件とは何だったろうか。 そう、己が願いを、意志を、天上の聖杯に届かせる。 リボンズ・アルマークの聖杯を奪う、己が願望で、白き少女を染めることだ。 清廉なる不浄の白に、あの黒が触れた時、何が起こるのか。 純白に漆黒の願いが到達すれば、どうなるのか。 言うまでもないことだ。 全部、台無しになる。 全てが、水の泡になるに決まっている。 完全なる器が、黒き穢れによって歪められ――――― 「ざまァみろよ……は……はは……はひゃはははははははははははははっ!! ぎゃはははははははははははははっ!!」 リボンズ・アルマークの夢を、粉々に、破壊する。 「―――ふざけるなよッッ!! 人間ッッ!!」 リボンズの身体はとっくに、そして勝手に動いていた。 ふざけるな。 ふざけるな。 ふざけるんじゃないと、今まで感じた事の無い程の嚇怒に支配された。 何をしたつもりだ。 天上の奇跡に何をしようとしている。 あれはお前のような穢れが触れていい物じゃない。 いや、誰も触れていいものではないのだ。 リボンズ・アルマークだけが使っていい、手にしていい物なのだから。 ――そうだ、彼女は、僕の物だ。 「―――――ぐ―――おおおおおぉぉぉッ―――」 気が付けば、リボーンズ・ガンダムは機体のモードを切り替え、 トランザムの全推力でもって、ダモクレスの正面に到達していた。 槍の軌道に割って入る。 モニターに映る画面が一瞬にして黒く染まる。 庇うようにして自らが、穢れた槍撃を浴びたのだと知って。 直後、全身に襲い掛かる不快な感触に視界が明滅した。 ぐちゃぐちゃに溶けた内面の渦。 受け止めたそれは、愚かだと見下した人間の、全身全霊の『愚かさ』そのものだった。 「―――ねえ、リボンズ」 混濁する意識の中で。 耳元に、ヴェーダを通じて彼女の声が聞こえていた。 状況がまるで見えていないような、静かで落ち着いた、いつもの声だった。 「どうするのかしら?」 「―――黙れ! 切断するッ!!」 告げたそれは、言葉通りの意味だ。 ただちにヴェーダと、そして聖杯とのリンクを完全にシャットアウトする。 食らった一撃の正体は触媒を選ばず伝染する、言わばウイルスだ。 即座に接続を断たねば、泥の影響は機体を通じて彼女にまで及んでしまうだろう。 だが、それは同時に、 リボンズ自ら、ヴェーダと聖杯の加護を断ち切ったに等しかった。 彼女の声が、途切れてしまう。 後は、極大の呪いを叩き付けられた不快感のみが、絶えず頭に流れ込み続け。 「―――がッ」 それでも、 「それが、どうしたッ!!」 神はここに健在だ。 呪いの槍撃を機体の左肘に受け、まさにこの戦い始まって以来初めての傷を、受けた直後であっても。 ツインドライブの片方が砕け散っていたとしても。 シングルドライブになって、だから何だ、負ける要素など無い、趨勢は覆っていない。 リボーンズ・ガンダムが、神が、落されることはあり得ない。 敗北など、未だ1%たりとて、あり得ない、あり得ない――― 「―――?」 あり得ない、ことが一つだけ、目の前に在る。 あり得ない、視線を、あり得ない方向に感じ取る。 この世全ての悪を叩き付けられ、初のダメージを受け、僅かに、ほんの少しだけ僅かに、降下、後退していたリボーンズ・ガンダムよりも、上空から。 四肢の半分をもがれたガンダム・エピオン。 満身創痍のグラハムエーカーが、此方を――― 「なにを―――」 体内で炎が湧き上がる。 リボンズがリボンズで在るがゆえに、無視できない、流せない感情に。 「見下ろしているうううううう!」 爆裂する怒りに任せて上昇する。 「なぜそうまで蒙昧なんだ、君らは!! これ以上、子供の駄々には付き合えんッ!!」 サーベルは翻る。 燐光は舞う。 リボーンズ・ガンダムの持てる機能を全開にしてエピオンを追い詰める。 大幅に性能が落ちたとはいえ、敵は満身創痍の雑魚一人。 一瞬で排除できると踏んでいる。 あと、一閃、一突き、一射の下に――― 「そうだな。駄々のようなモノかもしれん。 このグラハム・エーカー、少し子供っぽいところは自覚している。 愚かだと、そう繰り返す気持ちも分からなくはないさ」 なぜ、沈まない。 そもそもどうして、この敵はまだ生きているのか。 生き足掻こうとし続けるのか。 「私だけではない、我々全員が『愚か』なのかもしれないな。 まったくもってどうしようもない。 何の価値も無い、得る物のない戦いだ。 我々の中の誰が勝者になろうと、きっと世界はそう変わるまい。 所詮、我々は今も捨てられないモノの為に、戦う。 利己の為、『拘り』に引きずられているだけの、それを愚かと呼ばず何と呼ぶ」 絶対に勝てないのに。 勝ったところで、意味など無いのに。 リボーンズ・ガンダムとガンダム・エピオンは苛烈な接近戦を繰り広げながら、上昇を続けていく。 グラハム・エーカーが、決して『上』を譲らないから。 リボンズ・アルマークが、決して『下』に位置することを看過できないから。 だからどこまでも昇っていく。二機は、星のように舞い上がる。 「リボンズ・アルマーク。お前が勝つことが、正しいのかもしれない。 本当に、人の救われる結末なのかもしれない。 だが、きっと我々全員にとって、そんな事はどうでもいいのさ」 カミサマに抵抗してきた理由は、全員がバラバラだった。 一つとして協調はない。 だけど全員別々の理由で、別々の方法で、救いを跳ね退ける事を選んでいた。 共通していたことは唯一点、譲れないモノがあったから。 恒久的世界平和だなんて崇高な願いに比べたらまるで見劣りする、他の誰かにとってはどうでもいい、思い。 ちっぽけなこだわり。くだらない希望。 だけど、彼らにとっては、絶対に譲れない。世界平和すら霞む願望だった。 「何故なら君自身、何度も言っていただろう、我々は、『愚か』なのだよ。 救いようのない愚か者たち。『馬鹿』の集まりさ!! ああまったく救えないなッ!! そうとも!! 君に救われてたまるものかッ!! 神様如きでは、到底救えたものではないッ、我々は最ッ高に!! 馬鹿で愚かな人間風情なのだから!!」 天上に広がる大聖杯の門を目前にして、遂にリボンズの振るう剣がエピオンの頭部を貫く。 位置関係は再び逆転し、神はもう一度制空権を取り戻した。 エピオンは視界と攻撃手段をほぼ喪失し、それでも動きを止めなかった。 体当たりを仕掛けながら更なる上昇を続けていく。 「さあ出番だ!! ここで撃てなければ男子ではないぞ!!」 自爆装置を起動させながら、発破をかける相手は勿論。 背後で時を待っている、白騎士に他ならない。 「――――――ああ、最後だ」 炎上するヴォルケインの内側で、スザクは最後の一射を装填する。 ファングに撃たれ続けた機体は既に限界。 けたたましくなるサイレンは、今すぐ脱出しろと促してくる。 だが、まだ、一発残っている。 これを撃つまで終われない故に、もう一度トリガーを握り締める。 「救えない愚かさ!? 何を言っている、そんな馬鹿げた理由で、人類救済を阻むなど!!」 リボンズはすぐさまグラハムにトドメを刺すべく、残されたファングを呼び戻し、ガンダムの左腕に握るサーベルを振り上げようとした。 「あまり、人間の愚かさをなめるなよ? 我々の馬鹿さ加減は君の信じる未来をどこまでも上回るぞ!! 神様風情が!!」 その、完全なるタイミングで、このチェス盤に、失われた筈のキングの駒が置かれたのだ。 不意に中空で炸裂した爆風により、戻されるはずだったファングが阻まれ、次々と落とされていく。 数瞬前、枢木スザクが、スイッチを押したその瞬間。 地上、誰もが忘却していたその砲門が開いていた。 自動航行で島の広範囲へ狙いを付けられるポジションへと位置を変えた、 人知れずセットされていたその、『揚陸艇の砲』から、ミサイルが発射されて。 騎士の手によって、失われた王の遺産が空に舞い上がる。 死後にまで、彼の言葉を伝えるように。 さあ、いまこそ知れ。 ――――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。 「な―――――」 それだけなら、良かったのだ。 リボンズの勝利は揺るがなかった。 全くの同時に、狙いすましたように、とある爆弾が起動していなければ。 『そォら、アフターサービスだぜ。受け取れよ、クソッタレ』 落ちていく堕天使が、指先で作った銃で、天を撃つ。 「―――――な――に?」 振り下ろそうとしていた、左腕が動かない。 左肘に突き刺さる黒槍が、内包していた極大の魔力に耐えきれず壊れる。 一宝具の、内部からの自壊、加えて内包されていた魔力の量は規格外だ。 よって当然、齎される爆力は生半可なものではない。 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。 リボーンズ・ガンダムの左腕を、内側から破壊しつくす火力が巻き起こる。 機を待ち続けていたような、内側からの一撃、偶然ではあるまい。 仕掛けたモノは学園都市最高の計算能力を所持する第一位なのだから。 「―――――?」 ファングが戻らず、突如として左腕が消失した。 迅速にグラハムを引きはがせぬまま、ヴォルケインの狙撃が迫っている。 右手に握るビームライフルしか、すぐさま振るえる武器が無い。 もしかすると、それは窮地と呼ばれる状況だったのかもしれない。 なのに茫然と、リボンズは考えていた。 はて何故なのだろう。 何かが違う。何かがおかしい。 ようやく、それを自覚している。 それはフレイヤの光を見た時から、頭にチラつく感覚だった。 こんな展開はシナリオには無かった。 ただの蹂躙劇に終わる筈だった。 どこでズレたのだろう。 兆候は、きっかけは、いったいどこに。因果はどこで狂ってしまった。 一方通行が悪を背負うと決意し飛翔した時だろうか。 ならばその要因は? インデックスが一方通行に槍を放った時だろうか。 ならばその要因は? 秋山澪が一番最初にリボンズへと人の愚かさを叩き付けた時か。 ならばそこに至った過程とは? それはもしかすると、もっと前から少しずつ、変わっていたのかもしれない。 変わり続けていたのかもしれない。 機械に過ぎなかったインデックスを変えたのは誰だ。 臆病な女子高生に過ぎなかった秋山澪を変えたのは誰だ。 リボンズの願望を、人類救済というユメに亀裂を入れたのは。 世界を救うシナリオを変えたのは、いったい誰なのだ。 誰もが変わっていた。 誰もが少しずつ変わり、そして身近な他人という、身近な世界を変え続けた結果が。 ここに、絶対のシナリオを変遷させる。 ――――世界が、変わる。 「―――そんな、ことが」 黄金の目に移る未来を台無しにする。 「あって、たまるかぁッ!!」 その時、神様の、リボンズ・アルマークの吐き出したセリフは何処までも熱烈で。 神様を名乗るには、少し人間味に溢れすぎていて。 右手に握るライフルが、炎上するヴォルケインを捉えている。 ヴォルケインもまた、リボーンズ・ガンダムを照準に収める。 両者同時に、引き金を引いた。 「―――――ぁ」 クロスする弾道はお互いの機体を焼き尽くし、直後、エピオンの自爆装置が作動する。 「―――――ぁぁぁ!!」 大聖杯を巻き込む爆発が天に広がって。 リボンズ・アルマークは、無意識に手を伸ばす。 遥かな下界、今まさに地に降り立とうとしている軌跡の聖杯。 器となった、少女の姿。 怒りとプライドに囚われて、置いてきてしまっていた大事なモノに。 「ま……て……」 待て、行くんじゃない。 戻ってきてくれ。 駄目なんだ、このままでは、僕以外のモノが触れてしまいかねないだろう――― 「君は……君は……ッ!!」 ―――君は僕のモノなのに。 最後に、本当に欲しかったモノへと手を伸ばしながら。 神を名乗る存在は、実に人間らしい拘りを胸に、その全身を消滅させられていた。 ◇ ◇ ◇ ――そうして少女は舞い降りた。 「Ich weis nicht, was soll es bedeuten」 ゆっくりと、ゆっくりと、城の庭園から抜け出して。 もう誰も、立つ者の居ない滅びた大地へと。 「Das ich so traurig bin」 滅びた展示場跡地。 瓦礫絨毯の中心へと、静かに、白く細い両足を付けた。 「Ein Marchen aus alten Zeiten」 そこに、動くものは居ない。 静寂が全てを支配していた。 「Das kommt mir nicht aus dem Sinn」 かつて少女は告げた、如何なる形であれ、私を奪うものが勝者だと。 「Die Luft ist kuhl und es dunkelt」 だから今も、少女は待っている、誰かに奪われるその時を。 「Und ruhig fliest der Rhein」 誰も立ち上がる者の居ない、滅びた世界の真ん中で。 願望器の降臨はここに、歌い続ける少女に、辿り着く者へ。 「Der Gipfel des Berges funkelt」 最後の踏破。 それが、この殺し合いの、ラストだった。 「Im Abend sonnen schein」 少女は目を閉じて歌い続ける。 遠くに聞こえる、誰かの小さな足音を待ち続ける。 「Die Lorelei getan」 今はただ、口ずさむ、ローレライの詩と共に。 【 3rd / 天使にふれたよ -END- 】 時系列順で読む Back 3rd / 天使にふれたよ(1) Next 3rd / 天使にふれたよ(3) 投下順で読む Back 3rd / 天使にふれたよ(1) Next 3rd / 天使にふれたよ(3) 339 3rd / 天使にふれたよ(1) リボンズ・アルマーク 340 ALL LAST グラハム・エーカー 枢木スザク 平沢憂 339 3rd / 天使にふれたよ(2) 両儀式 一方通行 阿良々木暦 インデックス 秋山澪 337 1st / COLORS / TURN 7 『Chase the Light!』 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
https://w.atwiki.jp/animerowa-3rd/pages/2097.html
3rd / 天使にふれたよ(2)◆ANI3oprwOY /jellyfish 黒い、雨が降っていた。 そこは室内であるにもかかわらず。 足元には炎。天上には煙。 目の前には、蠢く肉でできた道。 魔界と化した展示場の内部を、一人の少女が歩んでいた。 少女は今や、この世界で最弱と言って憚り無いほどに弱く。 それでも未だ、生きていた。 生きて、戦いを続けていた。 秋山澪は今も、戦う為に歩んでいた。 ぱたぱた、ぱたぱた、と。 廊下に響く雨の音。 天上から滴る黒い汚泥の鳴らす音が、少女の耳に突き刺さる。 鈍い動作で右手を持ち上げ、顔についた泥を拭う。 利き腕の左は使えない。 手首を襲う激痛を紛らわすため、きつく拳銃を掴むので精一杯だったから。 先の起動兵器戦で痛めたらしき左手首は、銃を撃つごとにその痛みを増していた。 今や真っ青になるまで鬱血したその腕で、澪は今も銃を握り続けている。 『あの場所』から、どのようにして逃れてきたのか、瞭然としていない。 澪にとって最後の切り札たるフレイヤ。それを起動した事は憶えている。 辛くも勝利した、阿良々木暦との戦いも。 そして発射時間の到達とほぼ同時に、巻き起こった施設全体の異変。 崩れ始めたシェルター、いや正確には、この展示場という施設そのものに起こった怪奇。 ぐずぐずに歪む床と壁が及ぼした危機感に任せ、ワケも分からずあの場を離脱した事は、何となく憶えていた。 しかし、どのようにしてここまで逃れてきたのかは、果たして瞭然としなかった。 阿良々木暦はどうなったのか。 展示場に何が起こって、ここは展示場の何処なのか。 状況は今、どうなっているのか。 上手く思考が纏まらない。 そして、もう一つ、憶えていることがあった。 地下シェルターから逃避する際、振り返り際に見たモニターの表示。 フレイヤは、止められていた。 何もかもを消し去る筈の破壊は、神の居城(ダモクレス)まで届かなかった。 絶対不滅の要塞たるブレイズルミナスを砕いたものの、ダモクレスを崩せず、ガンダムを落とせなかったなら、無意味に等しい。 澪の放つことが出来る唯一のカードが凌がれたのだから。 実際もうこれ以上、打つ手は無いのだから。 澪にとっては、何もかも終わったも同然であり、 「―――ッ」 それでも体は動いている。 少女は終わりを否定する。 己が体は動くから、何一つ終わっていないのだと、少女は断じて止まらない。 耳には黒い雨の音。 ぼやけた視界の奥底には、焼け落ちた、いつかの風景(ぶしつ)。 朽ちた安息の残滓たち。 今も見つづける、ありふれた幸せの記憶(ユメ)。 それを心に灯すたび。 強く求める事が出来た。 思い出を、今に回帰させる事を、心から願えた。 いつのまにか、目前には長い長い螺旋階段。 蠢く壁に、折れた刀を突き刺して、全身を引きずるように上へ。 手持ちの武器はあと、二つきり。 左手に握る銃と、右手に握る折れた刀が戦力の全て。 多くの物を失った中、 未だ手に残る東横桃子の残した銃と、福路美穂子の残した剣に、奇妙な縁を感じながら。 澪は階段を昇り続けた。 きっと上では状況が動き続けている。 何かが変わるかもしれない。 希望はある。 自分は生きている、だったら――― 「もう……すぐ……」 長い、本当に長く感じた道の終わり。 ようやっと、澪は登り終える。 「―――――っ」 そうして、第一声。 少女は小さく、息をのんだ。 展示場一階。 そこはまさに魔界その物と言える程の異常空間と化していた。 漆黒でありながら半透明の壁は内臓のように胎動し続け、ますます怪物の体内然とした混沌を生んでいる。 コールタールのような汚泥があちこちの床で洪水のように溢れ出している。 施設全体で降りしきる黒雨は激しさを増し、酷い場所では天井が完全に泥と化して『落ちて』すらいる。 怪物は動きを止めず、その腸たる施設の形は一秒たりとも固定されていない。 自分が今居る場所が在り続ける保証など無い。 ふとした一瞬に両側の壁と壁に挟まれ、押しつぶされる可能性すらある。 絵にかいたような危険地帯。 未だ建物としての体裁を保っているのが奇妙ですらあった。 外縁部の廊下でこれなのだから、中央の展示空間は如何なる光景が広がっているのか。 けれど、少女が反応したのは、そんな目先の危険などという『今さらなこと』ではなかった。 少女が見ていたのは、気味悪く動く廊下の壁でなく、天井でなく、床でなく、一秒後に自らを飲み込むかもしれない泥の胎動ですらなく。 傍ら、すぐそばに倒れているモノ。 既に気配すら無い、かつて人だった何かの残骸だった。 たった数メートル先の泥沼。 そこに浸かるようにして、一つの死体が浮いていた。 真っ黒な全身に微かに人の形を残す男。 朽ち果てたような神父の姿。 かつて秋山澪に一つの力を与えたその存在、言峰綺礼は今や、いやとっくに、それは死体だった。 瞳は開いていながら閉ざされたように何もうつさず、身体は両断され上半身しか残っていない。 残された半身すら端から真っ黒に埋められピクリともしない、明らかに死体となっている男。 「――秋山澪、か」 それが、少女の名を呼んでいた。 死体の姿を見つけた時に息をもらした一方、そこから声がしたことに、澪は驚かなかった。 感覚がマヒしているのだろうか、あるいは直感的に理解していたのかもしれない。 出会ってしまった以上、この男はきっと去り際に、そばに在る者へと何かを残すだろう、と。 「……ああ」 ちからなく答えた澪に、黒き神父は口元を歪めた。 顔をひきつらせているようにしか見えなかったが、恐らくそれは、今の彼にとっての『笑み』なのだと。 彼は今、喜んでいるのだと、澪は思った。 「……やはり、貴様も仕損じていたようだな」 「やはり……?」 嬉しそうで、かつ引っ掛かりのある言い方だった。 フレイヤによる神殺し。それが初めから失敗する事を知っていたような。 彼が澪に譲渡した兵器による計画であるにもかかわらず。 いや、譲渡したからこそ知っていたのかと、澪は理解する。 「そうだ、秋山澪。 例えこの世界を消滅させるほどのフレイヤを投入しようとも、 それが機械で制御されている以上は、恐らく妨害が入るだろうことは予想できていた」 「…………!」 「ヴェーダの制御をリボンズに抑えられている以上、不意は突けても、素直に破壊させてはくれんだろう。 予想……などと勿体をつけるまでも無い。必然、だな」 「なんで……じゃあどうして、私に、フレイヤのことを教えたんだよ……!」 失敗すると分かっていながら。 上手く行くわけないと知っていながら。 何故、言峰綺礼は秋山澪にそれを伝えたのか。 「お前は、フレイヤを使った時、いったい何を感じていた?」 「……え?」 「フレイヤが最終的に破壊する範囲内には、両儀式が、平沢憂が、居たはずだ。 お前に、関係の深いそれらの者を纏めて抹消すると決めたとき。……お前は、どう思ったのだ」 「……私、は」 「罪悪感を覚えたか? 達成感を感じたか? 優越感で満ちたか?」 「……………」 「そして、それらが失敗したとわかったとき。……どう感じた?」 「……………っ!」 「……安堵、してしまったのではないか? 人を殺せなかったことを、喜んでしまったでのはないか。 ――――なるほど、自覚していたか。ならば理解できよう。それがお前の弱さだ。秋山澪」 どれほど覚悟を決めようとも。 どれほど逃げ場をなくしても。 どれほど誤魔化そうとも。 どうしようもないほどの、それは本質。 全く以て殺し合いには向いていない。 秋山澪の、どうしようもない結論。 「では、どうする? 己の心が拒否する現実を認識して。 このまま心を偽り続けるのは、それこそ『逃げる』、という事ではないのかな?」 「……………」 暫くの間、沈黙が続いた。 やがて少女は一度、深呼吸をして、ゆっくりと口を開き。 「…………逃げるとか、さ。向き合うとか、さ」 二人が再び遭遇してから初めて、澪はまともに答えた。 死した男に、答えなくてもいい筈の言葉を渡す。 律儀に。愚かに。真剣に。 「そういうのは、言葉遊びなんだって」 どこか自虐的な笑みすら浮かべ、澪は倒れた男から目を逸らす。 言峰と向き合うのが辛くなったわけでも、怖くなったわけでもない。 どこかの、誰か。 それを、思い出している。 「たしかに、私は逃げてたって言えるのかも知れない。 私自身の感情から……。 でも、それが正しいとか、間違ってるとか……きっとそんなことでさえ、本当に大切な事じゃなかったんだ」 正誤など、最初から関係なく。 「苦しくて、辛くて、痛くて。……溢れるほどの弱さだったのかも知れない。……ほんの少しの強さだったのかも知れない。 でも、それでも……きっと、私が選んだって、それだけが大切な事だったんだ。私が決めて、私がやってきた。 ……ねえ、それだけはさ、本当のことだって、私はそう思うんだ」 少女にとっての真実は最初から、その一つだけだった。 「だから……最後まで、やるよ。私は……諦めないことにする。人を殺すのはやっぱり怖いけど」 ―――それでも私は、皆にまた会いたいんだ。 そう、秋山澪は言い切った。 迷いがない、などと言うことは、もう出来ないだろう。 彼女の心はいつだって迷いばかりだ。不安で、押しつぶされそうで。 自分の出した答えは間違いで、逃げているだけなのかもしれないと、自覚している。 それでも、決めたのだ。震える心で選んだのだ、と。 少女は神父に告白した。 「―――――――」 黒い神父はそれに答えない。 歪めた口元をわずかにも動かさず、見開いた目をそのままに、泥濘に埋まっている。 「……死んだんだ」 確認するように、口にする。 どれほど意味があるのかわからないその言葉を、吐き出す。 ため息が、もれる。 きらいな人だったのに。 どうしようもない悪人だったと、分かっているのに。 それでも、それは『人の死』なのだと、澪には感じられたから。 目に滲みそうになったものをこらえて、首を振る。 ――――行こう。 そう思って歩き出そうとして、少しだけ振り向き、言葉を掛けた。 「さよなら」 進んでいく少女の背中に、返答の声は無く。 ただ、黒い水たまりに、最後の波紋が広がっていた。 【言峰綺礼@Fate/stay night 死亡】 ◇ ◇ ◇ さて、とりあえず、目を開けるのが怖かった。 今、泥の中に倒れ伏す僕の目の前には、いったい何が在るのだろう。 死後の世界だろうか。 誰かの死体だろうか。 どちらも在りそうで、そして見たくない物だった。 だけど、どちらも見なくちゃいけない物でもあったから。 目の前に何があっても、見なきゃ、なにも始まらないから。 僕は、阿良々木暦はゆっくりと、目を開ける。 「おはようございます」 目を覚ました時、最初に認識できたのは、少女の顔。 インデックスと呼ばれる女の子の、いつもの無表情だった。 倒れた僕の顔を覗き込むように屈んでいた彼女の銀髪が、頬にさらさらと触れている。 どうやら、死体を見るハメにはならなかったらしい。 だとしたら僕の方が……。 「痛、ッ!!」 「死んでもねーよ」と訴えるように、肉体は痛みを取り戻す。 インデックスの無表情と同じくらい『いつも通り』の、僕の身体はボロボロだった。 うーん、なんというか、安心、する。 いつも通りのボロボロ感は、いつも通りの最悪で、いつも通りの、生きているのだと示す証拠だから。 断じてマゾっけは無いけれど、今は『何もない』よりマシなのだから。 「ここ、どこだよ」 しかも幸いなことに、動けない程ひどい状態じゃないらしい。 僕も、そして周囲も。 泥溜まりがそこら中にみられるものの、まだ展示場内部としての原型を留めている場所だった。 辺りには相変わらず気味悪く変色した廊下の壁と床と、電力が途切れ動きを止めたエレベーターの扉、そしてやはり黒く変色した、階段室に続く扉。 ここはエレベーターホール、だろうか。 痛む上半身をゆっくりと起こしながら、インデックスに向き合った。 「展示場の地下1階です」 ぼそりと彼女は現在地を告げる。 展示場、地下『1階』、恐らくここより地下のフロアは全て泥の海に水没している。 全身を包む痛みに同期して、頭に戻ってくる映像がある。 地下深くに隠されていたシェルター内。 秋山澪との戦いに負けた後、襲い来る泥の波に万策尽きかけた僕を、ここまで連れてきてくれたのは他でもないインデックスだった。 「あなたが案内しろと、そう言った筈ですが?」 「そっか。ああそういや……そうだったな」 ああ、そうだ、確かにそうだ。 黒い迷宮と化した地下通路を逃げ惑う最中、彼女と合流できていなければ、いまごろ飲み込まれていたに違いない。 「希望された、『泥のない場所』は、この建物内に存在しませんでしたが、 比較的希望に近い、『泥の少ない場所』なら、ここです」 「ありがとう、助かったよ」 淡々と告げる少女に、僕は笑顔を作って礼を告げようとして、見事に失敗した。 痛みに表情筋が固まり、不気味な表情にしかならなかっただろう。 「……はい」 素直に御礼を受け受け止める。 そんなインデックスの確かな変化を見て、僕は、まあ、特に何もしない。 良い兆候なら、それはそのまま伸ばしていって欲しいものだから。 「さて、じゃあどうしようかな、これから」 常時痛み続ける全身を、痛みに慣らしつつ、僕は思案する。 秋山との勝負には負けてしまったけれど、どうやら彼女の策もまた成就しなかったらしい。 世界の終わりは来ていない。 どうやら未だに、戦いは続いているようだから。 「ま、どうするも、こうするも、ないよな」 ならば、向かうべきところなど、今更一つしかないだろう。 忍野との邂逅は終わった。 秋山澪との対峙も終えた。 僕に飛ぶ力は無いから、空の戦いには参加できない。 じゃあ、ここから辿り着ける場所なんて、最初から一つしかないだろう。 黒き泥が流れ出す中心。 必ず、戦いがあるだろう。 僕の二本の足で駆けつけられる場所で、きっと誰かが戦っている。 そこには、居るはずだ。 今の僕と違う理由で、だけど同じ思いで、戦っている誰かが。 僕に何ができるか、そんな事は分からない。 いや、含みを持たせる言い方はやめよう。 出来る事なんて、きっとないだろう。 秋山澪という一人の少女を相手に、結局なにも出来なかったように。 まして、この先に待つモノはきっと、魔法、魔術、超能力。 そういう形の企画外だ。 中途半端な半怪奇の人間じゃあ、殺されに行くようなもの。 ロクな戦力になりゃしない。 というか僕がこの場所で出来た事なんて、そもそも在るのかわからない。 僕はどうしようもなく弱い存在であって、この先もそれは変わらない事実だろう。 『できること』は、無い。 だからまあ、向かう先は間違いなく死地であって。 だけどまあ、『やれること』くらいは、残っているかもしれないから。 ―――全員、生きて、また会おう。 そういう約束をした。 また出会うと。 『偶々残った、数人の他人』を相手に。 「……」 目指すは『終わり』。 その終わりがいったい何を指すのか。 きっと、もうとっくに示されている。 身体を完全に起し、階段へと歩む。 向かう先は展示場一階、全ての中心、展示ホールだ。 「じゃあ僕は、そろそろ行くから。インデックス、お前は今のうちにここから逃げ……」 「また、置いて行くんですか?」 その時、あり得ない感触が、背中に在った。 「え?」 引っ張られる様な、しがみつかれる様な。 いや、まて、これは違う。 背中だけじゃない……頭に何かとがっ……。 ――――がぶ。 「あだだだだだだだだだっだだだだっッ!!!!!!」 ぼんやりとした思考は一瞬にして真っ赤に染まり。 頭頂部で痛みに一斉変換された感触に、僕は飛び上りながら何とも情けない悲鳴を上げていた。 ――――がぶがぶがぶがぶ。 「うおおおおおおおおおッッ!!!」 いやいやいやいやいや、なんだこれ! ついさっきまでそれなりにカッコつけて覚悟完了をキメてさあいくぞってノリノリだったのに! 結構決まってるような気がしてたのに!! なんで唐突に女の子に、インデックスに!! 頭に噛みつかれ悲鳴を上げる男子高校生に堕とされてるんだ僕は!? ―――――がぶがぶがぶがぶがぶがぶ。 「マジ噛みッ! マジ噛みは勘弁ッ!」 抵抗の声虚しく、足元の泥溜まりに映るインデックスは無表情のままで僕の脳みそをかじり続けている。 かくして、シリアスムードはぶっ壊れた。 「あーもう、そういうのは聞き飽きたわい」と言わんばかりに、 インデックスは僕の脳内かっこつけモノローグを咀嚼粉砕し、 吐き出してくれた時には、もう全身の痛みが気にならないくらい、ただただ頭が痛かった。 「……お前……そういうキャラだったっけ?」 「そう……だったのかも、知れませんね」 僕の頭から降りた後も、インデックスは表情を変えぬままだった。 「ですが、なんとなく、『そうしたい』、と」 そっか。 「私も、行きます」 じゃあ今の彼女も、僕と同じなのだろう。 説得は無駄という事だ。 「だったら、仕方ないか」 並んで、行く。 彼女は間違いなく主催の一人、事の発端のうち一人で、 けれどいつか天江衣が、友達になりたいと願った一人だった。 「お前、天江の友達なんだよな?」 「……いえ、考慮するとは伝えましたが」 「じゃあ結局どうしたいんだよ。今、アイツの友達になりたいと思うか?」 「……、…………ですが、彼女はもう」 「なりたいんだな。じゃあ、天江とお前は友達だ。天江は生きてるうちにお前と友達になりたいって言ったんだ。 お前が承諾するなら、それで大丈夫だ」 僕たちは黒い展示場の中を進む。 ゆっくりと、ゆっくりと。 痛む全身とディパックを引きずり、握り続けていた紅い槍を杖にして、階段を昇り続けた。 「いいんでしょうか?」 「いいんだよ。だからさ、僕とも友達だ」 「……それはなぜ?」 「友達の友達は、友達ってことだ」 インデックスの表情は変わらない。 だけど、その瞳から、赤い血の涙を絶やさず。 その意味を、僕は問わない。 「それで、本当にいいのでしょうか?」 短い時間で、彼女はとても変化した。 要因も、過程も、何も詳しく知らないけれど、変化したのだと、僕は思う。 だけど、変わったのは彼女だけじゃない。 「じゃあ、しかたないな」 今、生き残る全て。世界に残る全て。 最初と同じで在れたモノなんて、一つも無い。 ここは何もかも、変えてしまう場所。 何故ならここは、何もかも失ってしまう場所だから。 だからこそ――― 「僕と、友達になってください」 ここに残る物は、こんなにも尊い。 何かが変わってしまっても、何かが変わらず、在り続けるものたち。 今でも手に届く、『僅か』が。 「これでどうだ」 いつか僕は、何も持たない事が『強さ』だと信じていた。 失うもののない、傷つくことのない。 一切の痛みの無き場所こそ、優しい世界なのだと。 そんなふうに、思い込もうとしていた。 いつか傷を受けたことがあった。 それはまだ塞がらず、ここに来て、傷はまたたくさん増えた。 沢山のものを失った。 いつか何かを得た事があった。 ほんの少しの偶然と、ほんの少しの勇気と言葉で。 ちっぽけなモノを、手にすることが出来た。 「貴方の事を………みたいだと言っていた人がいました」 「……え?」 「耳が悪いところは、確かに似ていますね」 それは最高の出来事だったから。 こんな失うばかりの場所ですら、何かを得ることが出来ればと、強く思う。 新しい、『何か』を。 「着きましたね」 階段を上り終え、インデックスの指す方を見れば、目前には展示場ホールに繋がる扉。 それは本質的な意味で、何処に繋がっているのか。 地獄に近いどこかの戦場で在ることは確実で、紛れもない死地で、それでも僕はそれを開く。 訪れる終わりの形。 神の救済。 幸せな結末。 そのままで、終わらないために。 開け放つ扉の先。 ホールの奥から、溜めこまれた空気が吐き出され、突風と化して僕を襲った。 口の中、喉を圧力が蓋をして、一瞬息が出来なくなる。 咄嗟に目を覆って、顔を逸らして、呼吸を整えて、ゆっくりと前を向く。 目の前には、最後の戦場。 背後に飛び去っていく黒い風が明るく、僕へと告げた気がした。 ―――それでは、また、失え。 ◇ ◇ ◇ 泥の器が崩れていく。 まるで主の死に引きずられていくように。 悪を渇望する聖杯(こんげん)は潰え、ここに残るのは煉獄から続くような燃える炎。 未だ残留する無数の泥肉の群れ。 そして、一方通行と両儀式の二者のみだった。 二人は今、向き合っている。 先程まで、半ば協力関係に在ったと言っていい状況だったが、決して労いの握手を始めようという雰囲気ではなく。 ただ、次を始めようとしているに過ぎない。 共通の敵が消えたことで、両者は再び対峙する。 「で、だ。 邪魔な汚物はこれで永久退場と相成ったワケなンだが……」 血走った目。黒く変色した血管の浮き出た白い肌。 過去最高潮の状態にあって、一方通行の肉体は今、異様を発現させていた。 まるで先ほどまで対峙していた存在の穢れを、まとめて喰らい尽くしてしまったように。 「待たせたな。ようやっと、『オマエの順番』がやってきたぜ」 「……別に、待ってた憶えはないけど……というか、まだやる気なんだ、おまえ」 対する式は、気怠く。 眼に怯みこそ見られないが、全身は疲労困憊であり、負担を隠せてはいなかった。 「なンだ、もう降参か? いィぜ命乞いのひとつやふたつ見せてみな、少しはキレイに死なせてやるよ。 まァ俺の場合何したってェ? ペースト状にしかならねェけどさァ!」 言峰綺礼にトドメを刺したのはどちらだったのか。 それがそのまま、現在の差を表しているかのようだった。 かたや疲労をそのままに、かたや新たなる異常を全身に。 「まったく……元気だな……」 一方通行は最高のコンディションを維持したまま笑う。 笑う。狂ったように。 それは実に分かりやすい、異常者の振る舞いだった。 「けど、そんな下手な芝居はやめとけよ、似合ってないぞ」 別におまえ、狂ってもいないのに」 「あァ?」 だが、式の言葉は一瞬にしてその虚飾を払っていた。 どこか痛々しいものでも見るかのように目を細め、指摘する。 この世全ての悪(アンリマユ)に精神を犯され続け、間違いなく狂気に侵されている目前の悪鬼は、 両儀式の視点ではそうおかしくはないものだと言うように。 「……やっぱ、眼がイカれてやがンだな。なンにも見えてねェンだろ?」 「ちゃんと視えてるよ。だから言ってる。 そんなになっても、おまえは初めて会った時から変わってない。まだ、最後の線を越えちゃいない。 何かの為に誰かを殺そうとしている。殺人鬼にも怪物にもなりきれていない、ただの殺人者だ。 きっとオレよりも、さっきの奴よりも―――おまえのほうが、まだ全然人間だ」 そう、両儀式は今も断言する。 理由のある殺人は化物ではなく、ありきたりな人間の在り方だと。 その言葉は刃だ。 どれほど肉体をヨロイで覆っても、一切の障壁を無視して精神に触れてくる。 「――――は?」 だが、それでも尚、 「ヒャハハハハハハハハハハハ!!」 一方通行は嗤った。 式の言葉を、蹴り飛ばすように。 「……オマエ……笑わせてくれるじゃねェか! 俺がまだ人間だァ? 狂ってない? だから、なンんなンだよクソッタレが! どうでもいいンだよそンなモン。俺がどこの誰だろォが、正気だ狂気だ正義だ悪だ、全部意味ねェンだよ!! 俺は、俺は、俺は――――――!」 守護(ころ)すモノだ。 アイツを泣かせるもの、アイツを苦しめるもの。 アイツにどうしても人並みの幸せってものをくれてやらない世界を。 こんなやり方しか知らないから。こんなやり方しか出来ないから。 だから、この世の狂気罪科刑罰全て、身に集めてでも絶対に――――――― 「あァ……クソ、ちくしょうが。何言ってンだよ、俺は。どうせ今すぐ殺す奴相手によォ……!」 「同感だ。オレも多分、どうでもいいことを言ってる。 しかもそれでも構わないとすら思っている。まったくさ、どうしようもないよな」 その時、一瞬だけ、何かが緩んだのだろうか。 空気は緊迫としているのに、互いにどこか穏やかな口調で言葉を交わし合う。 だがそれも、きっと最後。 「……さっき、ああは言ったけどさ、その力はやっぱり化物じみてるよ。 確かに、こいつは魔的だ。なら―――」 魔眼が、耀る。 灰色の痩躯に浮き上がる死線。 今は限りなく人離れしたその肉体にも、薄らと、確かな死は存在している。 そこに終わりを齎す亀裂を、突き入れる様を幻視して。 「オマエが言えたクチかよバケモノ女が。 ……けど、あァ全くだ。こんな縁(モン)は、ここで潔く――――」 一つの世界の頂点に君臨する超能が、再び起動する。 解き放たれた能力を全開していく。 殺害方法は無限に徹底。 眼から五体に至るまで、対峙する存在を欠片も残さず粉砕するために。 「きっちり殺しておかないとなぁ―――!」 「キレイサッパリ、殺してやらくっちゃなァ―――!」 衝突する魔と魔。 和装の殺人鬼がナイフを片手に駆け走る。 旋風となり迫る影を、白髪の鬼は無形で立ち待ち受ける。 崩落していく泥の舞台。 灼熱の漆黒が埋める淵の底で、彼ら『人』の、最後の戦いが始まった。 ◇ ◇ ◇ 颶風と化した一閃は一直線に、一方通行に向かって疾走する。 当然である。今の両儀式(かのじょ)にとって、対敵への攻撃手段はそれしかない。 そしてそれは今、どんな策にも勝る単純にして最強の一手である。 踏み込み、斬撃。 ただそれだけ、それのみで、両儀式は最強の超能力者を圧倒する。 それを当然に理解していた一方通行の取った行動とは、極めてシンプルだった。 正面に迫っていた式の上を征服するが如く飛翔し、彼我の距離が縦に大きく引き離された。 真下の式を睨みつけ、おもむろにポケットから数本のコーヒー缶を取り出す。 握り締める手から放された飲料水の容器は、重力だけでなく周囲の力の方向を巻き込み、星に落ちる隕石と化す。 人体が浴びればたやすく肉と骨を貫通する死の雨に、気後れすることなく式は身を翻してみせた。 「なンだァ、その目はァ? お行儀良くヨーイドンで正面から殴り合いするとでも思ってたのかよォ?」 展示場の吹き抜け空間にそびえる柱のひとつ、 既に根元は崩れ役目を果たしていない支柱を足場に、眼下の女を睥睨する。 「相手の土俵で踊るバカがどこにいやがる。 ましてやオマエみてェなバケモノ相手に」 最初から、勝負の形は見えていた。 「俺は近づかねェ。オマエは近づけねェ。 ナマクラ振り回してせいぜいみっともなく逃げ回ってろ」 それは一方通行にしてみれば当然の選択だ。 「さァて―――どこまでもちますかねェ!」 一方通行の立つ柱が、踏みつけた衝撃に同調して激震。 根が折れ特大の砲と化して顕現する。 距離計測。 式との間合いを計算し――― 「に・げ・ン・な・よォ。 そンなにバリエーション豊富に殺されてェのかァ!?」 俊敏に回避行動を続ける式を捉えるべく、一方通行が選択したものは線よりも面を重視した包囲攻撃。 柱一本を砕いて創る規格外の散弾だ。 延焼を続ける炎を巻き込み風を集め、飛び散った黒聖杯の成り損ないを掴んで投げ飛ばす、 この世の全てを武器に変え、たった独りを殺そうと火力を投入し続ける。 凌ぐ式に選択肢は二つしかない。 一つ、かわす。 単純明快だ。 軽やかに舞い、瓦礫の礫を避けていく。 だがそれにはいずれ限界がやってくる。 初対面の時とは違う、ここは閉鎖された屋内だ。 逃げる場所は限られて居る。 また一方通行は今や式の能力をある程度把握している。 その間合い、力の及ぼせる限界。計測して動く戦術眼が今は在る。 そして何より疲労。 先の戦いで大きく消耗している式は、動くが鈍くなっていた。 それは僅かな差異でしかない。微々たる違いだ。 しかしこの敵の前では、その差こそが命取りになる。 躱し切れない一撃が必ず来る。 それは分かっていた。 分かっていたからこそ、遂に回避不能の一撃を予感した時、迷わず行動に移れた。 全身を穿ち貫く瓦礫の嵐。 空間的に、左右どちらも逃げ場無し。 上に飛んでも後退しても死期を早めるだけだ。 故に、握る刀(ゆいせん)に力を込める。 長大なる刃渡りを秒を数えず抜刀し、刀身を視認させぬまま納刀に達する。 『聖人』の一撃を再現する断割は、式の全身を引き裂くはずだった散弾全てを、窮地ごと薙ぎ払っていた。 それも、たったの一振りで。 明らかに斬撃の範疇を超える挙動であったが、それでも本来の聖人の動きを模倣(トレース)仕切れてはいない。 そんな事をすれば式自身の身体が持たず崩壊するだろう。 これはあくまで、唯閃に残されていた使い手の残り香、その更に残滓に過ぎない。 そして残滓の一撃ですら、式の身体に及ぼす負担は尋常ではなかった。 一振り毎に、皮膚に亀裂が走り、肉が潰れ、骨が砕ける。 それでも、目前で展開される絶死の弾幕を踏破するには、斬撃を放つ他無い故に、式は刀を振るい続ける。 命を繋いではいるが、式の肉体には次々と傷が刻まれていく、事実として詰めに入られていることは明らかだった。 間合いに近づけず、逃げ回るか切払うしかない。 時に遮蔽物に逃げ込むが、それも長くもつことは無い。 対し、一方通行は仕留めきれぬ得物を追う。 額から滴る血は、前の戦いでの傷であると無視する。 ぐずぐずと煮え立つような自らの身体の異常を黙殺して。 今はただ、冴えわたる計算と制限の取り払われた能力をフル回転させ疾駆する。 時間制限は最早ない。 代わりに、肉体が現在進行形で崩壊を続けているとしても。 能力を解放するために用いたのは、黒聖杯の魔力。 超能力者に対し、魔の力は猛毒だ。 まして呑み込んだのは呪詛の塊。 アンリマユを受け入れたと言っても、体質的な拒絶反応は消せるものではなかった。 一方通行はそれに気づかない、あるいは気づかぬフリをしているのか。 能力の行使に一切の躊躇は無かった。 まるで、それは罰の顕れなのだと受け止めるかのように。 二人、相手を傷つけながら、自らを傷つけていく。 お互い、相手を殺すために自らを削り続ける行為を続けている。 死に落ちる螺旋を描く、それはまるで円舞だった。 「――――ッ―――――――は―――」 倒れた柱の陰に、身を隠したまま、式は思う。 早くも、限界が近い。 全身の感覚が薄れつつある。 馬鹿な事を、無駄な事をしているな、と思った。 相手は遠からず崩壊する兆しを見せている。 自分を殺したとて、それは変わらない既定事実だろう。 簡単に逃げられるわけもないけれど、それでもマトモに立ち向かっているのは、何故なのか。 同情か、親近感か、どれも違うと思う。 特に、似ているものがあるでもない。 比べるものがあるとすれば。 二度と手に入らなくなっても、残ったモノを守りたいから生きると決めた式。 常に脅かされる大切なヒトを守るため、永遠に離れることを固く刻んだ一方通行。 そこにあるのは羨望なのか。 まだ壊れていないなにかの為に懸命に抗う一方通行に、思うところが在ったのか。 その答えさえきっと、無駄なもの。 どうしようも、ないものだ。 感じるのはただ、残骸を握り締める痛みだけ。 痛みが生きる実感をくれる。かつてそう語った少女がいた。 少しだけ、分かるような気が、した。 「……それでも、ここにいるから」 生きる為に殺すという思考に疑問はない。 殺人衝動は波を引いていた。彼の命を欲しいとも思わない。 今、両儀式は紛れもない「人間」を殺す。その罰の重さを耐え切れないと知った上で。 それは生きる為というより、罪を受け入れるのに似た決意だった。 「――そろそろ、行くかな」 柱の影から出れば、待ち構えていたように浴びせられる炎風。 今度は逃げるつもりも無かった。 何故ならもう、見えているから。 両手に握り締めた七天七刀を振るうだけで、それらは簡単に掻き消えてしまうから。 続いて襲い来る雷電も竜巻も、同様の末路を辿る。 万物に内包された死に切先を通すだけで、全ては死に、還っていく。 「おまえの能力は、形も色もその時によってバラバラだけど、常におまえの周りを囲んで走っているんだ。 規則性がないっていう規則に基づいて動いている。まるで、星の系図みたいでさ。 なんて言うのかな、まるで宇宙そのものを見てるようで―――本当に、綺麗だよ」 忌憚のない感想と共に、微笑して、進み続ける。 直死の魔眼、その本領を発揮する舞台が今目の前に在る。 重力や大気といった見えない要素も、超能力という加工を受けたカタチなら見切る事は可能。 飛来する砲撃を、一振りで切払う。 落下してくる圧力を一足で躱し切る。 純粋なる量に訴えて来ようが、打撃、斬撃、銃撃、全て神速の斬撃が斬り払う。 炎刃、風刃、雷刃、如何なる手段によってか、迫りくるそれらを纏めて殺す。 床や天井に罅入れる崩落すら、式は地面に刀を突き立てて、流されていたベクトルごと、全て殺す。 殺す、殺す、何もかも殺して先に行く。 空間上の、一方通行に操作された『ベクトルの線』を、片っ端から殺していく。 そう、対敵がこの世の全てを悪意に変えて殺しに来るならば、両儀式はその『全て』を殺し尽くす。 「―――!?」 瞠目する敵へと、式は確かに距離を詰めていく。 どこかの喫茶店からくすねてきたナイフを二投。 一方通行の逃げ場を塞ぐように投げ放ったのを合図にして、縮地如きの足運びで、彼我の間合いを詰めていく。 浴びせられる殺意を、殺して、殺して、殺し尽くしながら迫り行く。 「オマエ――――!」 飛来するナイフが、離脱を許さない。 一方通行は予感した。 オマエはコイツに殺される、と。 持てる全火力。 全攻撃手段を浴びせかけて尚、近づていて来る敵の姿に。 考え付く殺害手段全てを投下しても止められない相手。 いつか、己を倒した誰かのように。 最強の攻撃を悉く凌ぎ、眼前にたどり着き、拳を届かせた者のように。 「―――――ふざけンじゃ、ねェぞ?」 認めない。全てを出し切れ。 敵は一瞬にして己を上回った。 ならば、そんなふざけた結果など、再度、書き換えろと猛り吠える。 「おおおおおおおおおおおおおおおおォォォォオォォォ」 質量の雨、プラズマ、火炎、地盤沈下、天井崩落。 何一つ通じやしない。 何をやっても、運動の根源(ベクトル)を殺される。 ならば次の手を撃て。 何でもいい、こいつを殺すための手段を探せ。 片っ端から撃ちまくれ。 そうだ、あるだろう。 まだ対敵に為にしていない殺害手段が、一つだけ。 「――――――gapwzg殺aekseh――――!!」 咆哮に顕れたのは黒翼だった。 その本質は未だ正体不明なれど、破壊力だけは疑いようがない。 何より敵は、まだこの力を解析できては居ない。 振りかざす二枚羽。 消え失せろと叫ぶと同時、漆黒を振り下ろす。 「――――!!」 目の前に迫る極撃。それでも式は怯む事無く突き進む。 黒き翅が視界を埋め尽くそうとするも、するべき事は分かっていた。 打倒すべき奔流は式とは出自の異なる物なのだろうか。 未だにハッキリとした死線を捉えることが出来ない。 一方通行の能力を見るに時間が掛かったように、この交差が終わるまでに捉え切るのは不可能だ。 ならば、出来ることは一つ。 両者ともに、最大の破壊力でもって相手を打ち砕く。 唯閃、その開放。奇しくもそれは一方通行の世界と出自を同じくし、同時に対立する世界の極点。 一方通行の翼を見切る時間は無くとも、今握る刃を理解する事ならもう十分に済んでいる。 読み取る情報(かんかく)は多岐。 之の使い手は、天草式十字凄教、それを土台にした剣術を主体とする。 が、それだけでなく、どこか式の生きてきた世界と根本的に異なる種類の魔が絡んでいる。 仏教術式・神道術式・十字教術式。 知らぬ理(ことわり)が渦を巻き、使いこなす事はやはり不可能だと訴えかける。 だが十分だ、やりかたを『参考』にできればそれでいい。 再現できなくとも編み出そう。 特殊な呼吸、自己暗示による身体組み換え強化、『聖人』。 式に馴染まない異界の魔術。 しかし、それによく似た技法なら馴染みがある。 特殊な呼吸―――この程度なら可能だ。 自己暗示――――よくやっている。 聖人――――――己は違うが比べるべくもない、何故なら己は―――――― 走るノイズすらどうでもいい。 重要な技能はただ一つ。 如何なる対魔防御も異なる教義にてすり抜け『迂回して傷つける』対神格。 天使の翼を刈り取る斬撃。 その概念を創作できれば、それでいい。 「唯―――」 ―――抜刀。 「―――閃」 黒と銀の閃光が通り抜ける。 落ちてくる巨大な漆黒の一翼を、両儀式は両断した。 切り落とされた羽が展示場の床に落下し、地を抉り壁を吹き飛ばす。 刹那の間断すらなく、降ろされる二枚目。 その時点で既に納刀されいてた唯閃の二撃目が、引き抜かれ迎撃する。 切断された二枚目が宙を舞い、そして、その向こうで。 三枚目と、四枚目が、既に控えていた。 「――――gph割akn!」 否、それだけでは終わらない、五枚目、六枚目が発現する。 まるで熾天使。 この世全ての悪を喰らった体は、異界の魔術と魔術が交差した力は、ここに最大の変貌を遂げていた。 「―――――!!」 式は、死を、視る。 その無敵の翼に走る死を。 脳回路が焼き切れるほどに凝視して。 飛来する四枚の翼へと、全くの同時に、四つの斬撃を叩きこんだ。 「―――――く―――そ―――!」 それはどちらが発した言葉だったのか。 耐えきれず砕け散った唯閃の柄を握る式か。 三枚の翼を同時に殺されるのを感じた一方通行か。 ラスト一枚。 死を捉え切れず、殺し切れなかった翼が落ちてくる。 身体の限界を振り切って斬撃を行使した反動か、唯閃を振りぬいた式の右腕は動かない。 だから代わりに、懐に差し入れていた左手を抜き放つ。 落ちてくる翼へと、握るルールブレイカーを突き刺して、その時、両者の動きが同時に止まった。 「オ……マエ……!」 唯閃を囮にして、最初から、これを狙っていたのか。 ピシと、ルールブレイカーと、この世全ての悪との契約に罅が入る。 故に一方通行は刃の触れた翼を、破棄せざるを得なかった。 彼は驚愕しながら一歩を踏み出す。 最後の翼と、短刀が同時に砕ける。 一方通行はこの世全ての悪(アンリマユ)との契約破棄こそ免れたものの、全ての翼を破壊された。 両儀式は最大の武器である七天七刀を失った。 故にここからが両者にとって、本当の正念場。 お互い間合いに入ったうえでの、両者武装解除。 開始される、クロスレンジでの殺り合い。 一瞬一瞬が生死を分ける。 一歩でも先を行ったモノが、勝者となる。 刀を失った式に対し、翼が無くとも攻撃に移れる一方通行の有利、かに見えた。 一方通行は足元に転がっていた無数の小石を蹴り上げ、右手で触れることによって射出しようとし、 そのさらに先に、一体いつ持ち替えていたのか、式の右手のナイフが一閃された。 切先が小石の弾丸を払い、空間に走るベクトルの能力を殺害する。 能力の封じられた一方通行の五体へと切り返すように、式がナイフを突き入れようとする最中、彼女の頭に突きつけられていたのは銃口だった。 それは、一方通行の左手が握り締めていたモノ。 ベクトル操作によるものではなく、懐に隠し持っていた、何の変哲もない拳銃。 能力を盛大にブラフとした、能力殺しへの切り札だった。 血が、飛び散る。 首を傾け、急所を避けた式の動きは驚嘆に値する物であり、だがその間隔は、隙以外のなにものでもない。 間髪入れずに腕が伸びる。 破壊の魔手。 能力を取り戻した一方通行が放つ、殺人接触。 伸びる手が胴体に触れる前に、式はその腕を自らの手で受け止めていた。 一方通行は勝利を確信する。 触れる場所は何処でもいい、これで詰みだ。 血流を逆転させ、腕から全身を破砕せんとし―― 「―――――あァ?」 次の瞬間、困惑に支配される。 破壊が胸にまで届かず、腕の部分だけに留まっていた事実に。 "―――義手、だと!?" 機能が停止してただのモノに戻った義手は肉体との接続を失い、結果的にベクトルの流れを途中で断ち切っている。 身代わりにした左腕のパーツに混じって、地面へと零れ落ちるペーパーナイフ。 それを式は、ブーツの爪先で蹴り上げた。 「――――がっ!!」 防御の反射は当然の如く無視し、切っ先は身を捩った一方通行の左肩に突き刺さる。 一方通行は肩に熱を感じるよりも早く、いましがた己の細い胸板へと接触していた、式のたおやかな指に底冷えしていた。 指は蠱惑的にさえ思える動きで、泥に浸すようにずぶりと、肉の内側に沈み込み。 「終わり……だ……!」 ―――死ぬ。 死を、直に味わう。 今まで受けたどんな感覚よりも冷たく、深く、昏く。 抵抗の力さえ奪われていく中、全身で死の手触りを知る。 そうして指先が、己が心臓に、達しようとした刹那――――― 「オマエが、なァ」 あらん限りのベクトルを、式の腹に蹴り入れた。 「――――――ッ!!!!」 声を上げる事すら許されず。 式は叩き込まれた衝撃によって、遥か後方に吹き飛んでいた。 一方通行に血液を逆流させる余裕が無かった故に、即死は免れたものの。 それは事実上、勝負を決める一撃だった。 先程まで身を隠していた柱に全身を叩き付けられ、両義式は沈黙する。 左腕を失い、肋骨は数本折れ、立ち上がれたところで満足に動けるかも怪しい。 少なくともこれ以上、一方通行との戦闘に耐えることは出来ないだろう。 「……まァ……なンだ。つまり、そういうこった」 死を実感し、一方通行はここに至り、直死の魔眼の本質を悟る。 確かに強力な能力だ。生者も死者も、幻想すらも殺す能力。 事実として、最強の超能力者を敗死させる寸前だった。 喉笛に刃を押し付けられる、あるいは心臓を直に掴まれた程の瀬戸際。 ほんの僅かな差で、結果は逆転していたと言えるほどの僅差。 だが。だからこそ。自分は負けず、対する敵は勝てなかった。 『全てを殺す』、ほどの規格外。 目の前の彼女はかつて一方通行を倒した彼より強く。 けれど彼とは違う。違うと、断言できる。 何故ならば、 ゛ふざけた幻想だけを殺し、それ以外の全てを守ってきたアイツだからこそ、己は負けたのだから゛ 結局ところ、彼女の敗因とは、ただ一つ。 「最弱(さいきょう)のアイツ以外が、俺に勝てるワケねェンだよ」 そして己の勝因を告げ、終わりの一撃を放とうとして、 「―――――ァ?」 一方通行の視界の隅に、何か、些末なものが、映っていた。 ◇ ◇ ◇ ―――――そこで私は、観測を停止した。 「オマエ、何だ?」 そこに立つものに、一方通行は問いかける。 「……なァ? 頼むぜおィ。 今更、弱い者イジメさせられンのは気分悪ィンだよ」 一方通行の目前に立つ者。 膝をつき敗北寸前の両儀式の、更に背後。 一人の男が、立っていた。 阿良々木暦という、一人の人間が。 一人の弱者が、そこには立っていた。 「……なぜわざわざ、殺されにやってくるンだよ?」 どうして、死ぬと分かっていながら、姿を現したのか。 そう、一方通行は問うている。 一方通行の目の前に立つ彼に。 同時に、彼の後ろに居る存在、インデックスの目の前に、守るように立つ彼へと。 殺すものは問いかける。 なのになぜ、一方通行の前に姿を現した。 注意を引き付ける為だけに、前に出たのだと誰の目にも明らかだ。 両儀式の死を、数秒間遅らせることしか出来ない無能。 障害として機能しないレベルの性能差。 にも、拘らず――――― 彼は、前に出た。 両儀式の死を、数秒間遅らせる為、本当に、ただ、それだけの為に。 泥だらけの学生服。 傷だらけの皮膚。 何度くじかれたか知れない心。 敵は強い。 己は弱い。 勝ち目は無い。 どうしようもない。 それでも立ち続ける者を。 立ち向かえる者を。 誰かが死ぬのを、傷つくのを、見ていられないから行ける、そんな者を。 さて、物語では何といったろうか。 「悪い、ちょっと待っててくれ」 彼は背後に守るインデックスへと、そう言って、また一歩、踏み出す。 「すぐに戻ってくる」 がくがくと震える足で。 「大丈夫、僕は死なないし、誰も殺させない」 紅の槍を両腕に構え。 「なんて、ね。似合わないよな。 でも、一生に、一度だけ、 言ってみてもいいだろ。こういう―――」 目に、敵を映し。 「主人公っぽい、セリフを、さ」 この場、この一瞬だけの主役は、駆け出した。 彼の、絶対的な死を前に。 背後にいた者が、無意識に伸ばしていた手は、届かない。 すり抜ける。掴めない。 いつかのように。いつものように。 ―――いつも? ――――いつもとは、いつのことなのだろう? 分からない。 だけど、分かる、今なら理解できる。 そうだ、いつもすり抜けてきた。 いつも止められなかった、何も出来なかった。 いつも私は、何も、知らなかった。知る事さえ、出来なかった。 『――何を、望みますか? 自己の消滅を前にして、あなたは』 どこかで流れたノイズ。 記録に残る誰かの言葉が、再生される。 『……せめて、戦いたいな、衣も。 それは無理だって、止められるだろうって、分っているけれど 終わる前に、衣も最後に……力になれたなら』 最後に死ぬ前に戦いたいと彼女は言った。 戦って、彼女は死んだ。 誰かの為に、生きたいと、彼女は最後まで願っていた。 ああ、その願いは、果たして、いつの、誰の、願いだったのか。 ―――傍にいたい、私はあなたと共にいたい。 貴方の抱える物を代わりに背負う事が出来なくても、せめて隣で戦いたい。 「―――」 あなたは私に何も話してくれず、私を置いて行ってしまう。 私は守られていることしかできなくて、何もできなくて、傷つくあなたを知ることすらできなくて。 「―――」 だからいつも、ボロボロになって帰ってきたあなたに、微笑しか渡せない自分が悔しい。 わたしだって本当は、あなたを守ってあげたいのに、戦いたいのに―――― 「―――」 そんな苦くて淡い思いは、いったい誰のものだったのか。 「――――――――――」 悲鳴すら、上がることは無かった。 彼が血を流したのは、僅かな思考の、一瞬の後。 一方通行が投射した質量が彼の右腕をばっさりと切断し。 紅い、紅い、飛沫が散る。 インデックスの足元の床に、千切られた腕が落ちてくる。 そして遅れて、血の雨が降ってきた。 紅い血が、『歩く教会』を滑り落ちて、インデックスの頬をぬらした。 「………ぉ……がぁ……ぎ……」 彼が何を言っているのかは分からない。 それはただのうめき声だ。 痛みに咽び、弱さに打ち震える、潰されたカエルのような鳴き声でしかない。 意味をなさない、ノイズ以下の音だ。 そんなものを吐き出しながら、阿良々木暦は、未だ立っていた。 先の途切れた右腕から、鮮血が迸る。 ショート寸前の痛覚に耐える為に噛み締めた下唇から、どろどろと血が流れ出す。 そうして、もう一度、足を、踏み出す。 ―――て。 踏み出して、いく。 ―――って。 彼が一歩を踏み出す度に。 重なるように見える何かに。 ―――まって。 脳が、粉々になっていく。 思考が、意志が、インデックスという装置を、構成するものが破壊されていく。 それは今に始まった事ではなく。 最初から加えられていた一つの機能。 ゲームの終了と同時に、破棄される予定に在った禁書目録。 その自壊装置が、駆動し続けている証。 誰かの喪失を目にする度に、ほんの少しずつ。 時をかけて、少しずつ、少しずつ、罅割れていたガラス、噛み合わなくなっていた歯車。 エラーの蓄積は遂に、致命的な狂いとなり。 砕けた機能の内側から、秘せられていた『感情』が滲み、滲み、溢れ出し――― 「―――告」 このからっぽな心に、意志を、表す。 「――――警告」 耳に聞こえるそれは誰の声か。 この施設に在る全ての存在を、インデックスは知覚していた。 阿良々木を一撃で殺せなかったことに表情を歪めた一方通行。 自らの血に足を滑らせ、インデックスの目の前で床に倒れ伏していく阿良々木暦。 僅かに肩を震わせた、両儀式。 インデックスのさらに背後に立っていた、秋山澪。 外周廊下を駆け抜けて、ホールへと近づてくる平沢憂。 どれでもない、と断定する。 「―――――警告、第三章、第一節。 『その行動』は自身の生命活動を著しく脅かします。即時の停止を推奨」 これは、自らが発する警鐘だ。 いま新たに一歩を踏み出し、阿良々木暦の千切れた右腕を拾い上げた存在。 一方通行の注目を集める、のみに留まらず。 阿良々木暦の右腕が掴んでいた槍を、手に取った者の口から、己自身へと発せられる。 自動書記(ヨハネのペン)という、機能のエラー音声に他ならない。 「対面する存在の敵意を確認。一方通行。学園都市最強の超能力者。 危険度はバトルロワイアル全参加者中最大域を計測。10万3000冊の書庫の保護の為、迎撃を開始します」 壊れていく、機械の音。 「――――警告、第十四章、第十三節。 現在の行動に意味は皆無。ヨハネのペンは残り一時間と二十三分と十八秒をもって内在する意識ごと自壊破棄され■■■■■―――警告、第十二章、第十節。 迎撃対象に最も有効なローカルウェポンを組み上げ開■■■即刻の中止を推奨、現在の行動は禁書目録の存在理由に■■■接触した聖遺物の解析を開始。 ■■■自動書記の機能不全、魔術の不正使用を確認、暴走状態に在ると断定、これより予定(シナリオ)を繰り上げ禁書目録の完全消去を実行しま■■■■」 ざあ、ざあ、と。 聞こえるノイズは強まっていく。 ばきん、ばきん、と。 脳裏では破砕の音が響き続ける。 全身の細胞が次々と弾け、高温の血液が沸騰し、己が存在よ速やかに終われと自動書記は筆を速める。 瞳からは血の涙がこぼれ続け、視界(がめん)は、壊れたテレビのように砂嵐が覆っていく。 ここに来て、加速度的に進んでいく全身の崩壊。 魔術の行使。 そんな事は許されない。 本来、インデックス自身からその機能は排除されている。 インデックスという、ヨハネのペンという、存在を破棄された後でなく、しかし正常でもない。 『崩壊の過程』で在ったからこそ起こり得た、これは『現象』だ。 そう、とっくに、禁書目録は、ゲームを円滑に動かすための装置は、壊れて始めていた。 自らの機能によって、そして観測してきた『彼ら』によって、関わってしまった『彼女』らによって。 彼女もまた、例外ではなく、『変えられて』いたのだから。 「――――警告、第二十三章、第三節。 接触聖遺物の解析―――失敗。 禁書目録とは異なる世界の聖遺物と断定。 内臓された■■の完全再現は不可能。 実行可能な類似奇跡の■■警告、禁書目録の消去進行■■■■検索を開始―――成功。 ―――迎撃対象個人に対して■■■警告、術式の発動停止を即時推奨■■■■最も有効な魔術の組み合わせに成功しました」 観測する端末は壊れ、消えようとしている。 『完全な機能』は崩壊した。 僅かに灯された何かの指令(コマンド)に、ブレーキすら失ったそれが暴走しているに過ぎない。 ならば、今この肉体を暴走(うご)かすものとは――― 「――警告、第■■章第■節。■の解析に成功しま■■■■。 『ケルト神話』より英雄の記録を抜粋■■■警告、禁書目録の消去を更に加速■■■警告、聖遺物の攻勢術式再現開始■■■■。 ■■特性により■■警告■■■■如何なる障壁も迂回無視■■運命■転■■■警告■■概念武装を■■■警告■■■■構築し■■警告■。 術式を固定■■■警告■■■組み込み開始■■■警告■……第一式、■■警告■■第二式、第三式■■警告警告■■■■警告警告警告警告警告――――」 『私』の、意志。 そう、これは、この時だけは、私の―――― 「命名、『刺し穿つ死棘の槍』完全発動まで十五秒――――」 私の、物語だ。 「オマエ―――――――!!」 突如、展開された術式。 紅き槍を構えた存在から発せられた異質な空気。 本能的に危機を感じ取ったのか、一方通行がすぐさま攻勢に移ろうと地を蹴った。 そこに、刃を構える銀色が、割り込む。 「鬱陶しい!!」 投擲される鉛の散弾を、両儀式は断絶させた。 ほぼ全身が機能不全陥った状況下、唯一動く右腕を振り上げ、旋回させるナイフによって断ち切る。 限界に達した肉体で、一挙動ごとに血を吐き出しながらも。 残り十五秒。 之より背後。 絶対に進ませぬと阻んでいる。 「残り、十三秒」 一撃。 銀の鉛が舞う。 威力は相変わらず一撃必殺。 対する一振りも一撃相殺。 「残り十秒」 二撃。 銀のナイフが翻る。 限界は初めから見えていた。 「八秒」 三撃。 銀と銀が衝突し、散る火花。 一振りする毎に、吐き出される鮮血と、遅くなる腕の動き。 「七秒」 四撃。 地を踏みつけた一方通行の足元から、両儀式の蹲る地面を吹き飛ばすべく衝撃が飛来する。 式はすぐさま、床へとナイフを振り下ろし、ベクトルを殺害し――― 「五秒」 五撃。 そこで詰んだ。 空中に飛び上っていた一方通行は展示場の支柱の破片を投げつける。 未だ床に突き刺さったナイフを振り上げる。 ナイフ一本を、持ち上げる為の筋力が、既に、両儀式には残っていなかった。 「残り――――」 その時、強く紅槍を握り締めた私の、更に背後から。 「――――式!」 「――――阿良々木さん!」 ホールに響き渡った、二人の少女達の声に。 「これが本当に、最後のッ!!」 「立って――――――――!!」 ―――両儀式は無意識の内に、ナイフを手放していた。 ―――倒れ伏した阿良々木暦の指先が、ぴくりと動いた。 「最後の一本だからッ!!」 「約束を破らないでッ!!」 声が、届く。 空手で天に翳した式の掌へ、煌く刀身が飛来する。 刀身が中程で折れた、その刀。 殺すもの、守るもの、幾人もの手を渡ってきたその刀。 戦国より受け継がれた刀身に、一瞬だけの紫電が煌いて。 もう、振り上げは済んでいる。 だから力は要らない。 ただ、振り下ろすのみ。 過たず、死の点を貫かれた砲撃は四散し――― 「――――完全発動まで残り■秒――――」 展開されていた魔法陣に、亀裂が走る。 僅か十五秒の経過を待つまでも無く、私の思考が分断される。 視界は罅割れ位相がズレ、敵の姿を、もう捉える事すらできない。 「――――――――警告、■■■■■。 ――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――――――」 身体の感覚が掴めない。 腕の神経などとうに失せ、槍を握り締める実感すら最早ない。 敵の名、己の名、目的、全て砕け散って戻らない。 例え発動までこぎ着けたところで、穂先を何処に向ければいいか、定まらない。 定まらない狙いは乱れ、感覚の失せた腕は槍を、取り落とす。 最早、数メートル先も見えなくなった視界で、私は最後に見た。 「―――――頑張れ」 血を流しながら立ち上がる、阿良々木暦(しょうねん)の姿。 何度でも立ち上がる、主人公の姿。 『彼』が、その穂先を掴み、放つべき敵へ、狙いを定める。 「―――まだ、終わってないだろ?」 ただ、それだけ。 彼に出来た事はそれだけで、それだけが、いま必要な全てだった。 「―――ねえ」 私は、告げる。 目の前の背中に。 立ち上がる少年に。 先を行く、いつか先に行ってしまった、もう届かない誰かに向けて。 「―――ねえ、とーま。私も」 彼に重ねる、いつかの主人公に。 「――――私も一緒にッ!!」 私自身の想いを。 ずっとため込んでいた想いを、壊れた声帯で告げていた。 「――――私も一緒に、連れて行ってッ!!」 「――――ああ、一緒に勝とうぜ、インデックス!!」 もう存在しない筈の右手が、最後に私を抱き寄せる。 振り向いた『彼』の姿は、声は、果たして幻だったのだろうか。 何もわからない。 けれど、ああ、どうしてだろう。 壊れていく私は、全ての思考が粉砕される直前に、ただ一つだけを思っていた。 神様、どうか、どうかこの幻想だけは――――― 「「―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)」」 壊れないで、永遠に。 ◇ ◇ ◇ 「あ?」 一方通行は、放たれた穂先を簡単に弾く。 飛来する槍のベクトルを『反射』させ逆方向に撃ち返す。 「……なンだァ?」 すると槍は妙な挙動をした。 反射に触れる寸前か、瞬間か、或は直後か、それは逆方向すなわち後ろに進んだのだ。 枢木スザクが示したものと同じ、反射の攻略法。 『遠ざかる槍撃』は一方通行自身へと反射され、心臓を貫きに来る。 「なンだよ?」 その程度なら予測していた。 通常の攻撃でないことは見るに明らかであったし、一方通行は既にスザクの動きを観ているのだ。 万が一の対策はしてあった。元より反射はオートではなくリモートにしてある。 増幅された計算能力を総動員し、すぐさま設定を切り替える。 「なンなンだよおィ」 斜め方向に向きを変える屈折現象は無意味だった。 一度だけあべこべな位置に飛んでいった槍は、すぐさま穂先を此方に向け直し再度飛来。 以降、同じ手は通じなかった。 「おィおィ」 槍の運動エネルギーを奪い地面に流し込む転換も大して効果が見られなかった。 一瞬止まったかに思われた槍は、すぐさま自力で運動力を取り戻し再度推進。 以降はどれだけエネルギーを奪っても無駄だった。 「おィおィおィ」 向かってくるエネルギーを利用し、動きに合わせて一方通行自身の位置を変え続けることすら。 その槍撃には意味を成さなかった。 何故かほんの少しずつ、少しずつ、穂先が、一方通行の胸元へと、迫ってくる。 「おィおィおィおィおォォォォォォォォィ!!!!!!」 それは一方通行の思考を上回るがごとき計算起動。 正しく一方通行の能力を開発した科学者の動き、ですらない。 「くそがァ!! いったい――――何を――――仕掛けやがった?」 そうであれば、今の一方通行ならば、凌ぎ切れるはずなのだ。 『この世全ての悪(アンリマユ)』を取り込んだ影響か、過去最大に回転する思考回路は刹那の間隙すら見逃さない。 万物の動きを捉え切り、理論的な攻略方法ならば、数値の勝負ならば、その悉くを上回ろう。 今の彼を傷つけられる物は、両儀式の眼や、上条当麻の腕のような、基礎数にゼロを掛けるが如き反則のみ。 しかし今ここに、また違う形の反則が存在する。 基本的な反射による防壁を初め、屈折、転換、あらゆる迎撃設定を多重に張り巡らせようと、 その悉くを次々と方法を変え踏み込んでくる。 何度弾いても、何度上回っても、どれだけ運動ベクトルを操られようと、違った角度から違ったアプローチで迫る一突き。 抗するべく一方通行は無限に己を更新し、それを更に槍撃が上回り続ける。 穂先が、一方通行に触れる。 ベクトルが操られ、離れていく。 ならばと言わんばかりに穂先は逆方向に動き、迫り、また一方通行の設定が切り替わり、 すると合わせるように槍も動きを変えるのだ。 それは既に、槍撃の挙動をしていなかった。 槍と言う形状では説明のつかない軌道だった。 一方通行の全身を嵐のように埋め尽くす刺突。 多重に屈折した紅き軌跡はまるで人一人を囲む檻の如き情景だったが、あくまで『一突き』だ。 右へ左へ後ろへ前へ、一方通行の周囲数ミリを縦横無尽駆け巡る動作は実のところ後付でしかない。 因果逆転。 心臓を穿つという結果を確定した上で放つ、必中必殺のそれは正に宝具。 放たれたのはそういう特性の術式であり、故に回避も防御も不可能だ。 槍は今、一方通行の心臓を狙っているのではなく。 『一方通行の心臓を穿つ結果』に向かって疾駆する。 最初から当たると決まっている『運命』を相手に、ベクトル操作も、計算能力も何の意味もありはしない。 「―――――――――は」 にも拘わらず、一方通行は抵抗する。 常に己の能力を更新し、設定を変え続け、穂先の到達を一秒でも遠ざけんとする。 決して逃れられぬ運命は刻一刻と心臓に近づいてくるが、諦める気配は微塵も無い。 「―――――――――はは」 理屈を超える奇跡の具現。 唯一要求されるのは、因果逆転の呪いを逸らすほどの幸運。 『幸運』、そんなもの、己は決して持ち得ないと知っていて。 だからこそ、 「はははははははっ、やっとかよ」 何故未だに、己が抵抗を止めないのか、彼は本当に不思議だった。 「ははははははははははははははははははははははっ、やっと俺を!!」 怒るでもない。 嘆くでもない。 滑稽だったから。 何度もあった死地と同じく。 やはり彼は笑う。 そうだ。 これでいい。 これでいいんだと分かってる。 全力の抵抗は及ばず、今度こそ完敗だ、己はもうすぐ殺される。 それでいいじゃないか。 こんな悪は、殺さなきゃいけない。 間違いは、誰かに、正しい何かに、殺されなきゃいけない。 悪を殺した、正義を殺した、ただの弱者すら殺しつくした。 ただ、守る為に。正義じゃなく、『誰かの味方』になるために。 それは願われたわけでも、命じられたわけでもない。 己自身の意志で選んだのだ。 誰か手によってではなく、己が守りたいという、くだらない我欲(エゴ)の為に。 「ははははははははははははははははははははははっ!!」 だからそう、本当に、ああ本当に、ここに『彼女』が居なくてよかったと、心から思った。 こんな悪党の居る世界に、彼女が連れて来られなくてよかった。 悪に穢れた姿を、見せずに済んでよかった。 それだけが今の一方通行にとって、紛れもない『幸運』だったから。 ならば、これ以上なにを望むことがある。 終わる『チャンス』は何度もあった。 何度も、何度も、それを掴めず、誰かを殺して生き延びた。 俺が守る。なんて願望がそうさせた。 「――――――――は」 こんな悪は、やっぱり許しちゃだめだろう。 まして彼女の居る世界に、戻したりなんかしちゃあ、絶対に駄目だろう。 ここできっちり殺して、死なせて、終わらせて、さあ今こそ―――――――― 「―――会いてェ……」 台無しだった。 「は……なンだァ……そりゃァ……笑えねェだろ……」 まったくもって嗤えないくらい、ぶち壊しだった。 ぞぶり、と。 遂に胸をえぐった穂先が、心臓を貫くその刹那。 鮮血と共に口から漏れ出したのは、自分でも驚愕するほどに腐った泣き言で、 今までの全部を無意味にするダサい弱音で、 そしてこれまで、絶死の運命に抗い続けた本当の本当の本当の理由(ワケ)で―――― 「クソ……あァ……ちくしょォ………………会いてェ……なァ…………」 彼にとって、本物の願いだった。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back 3rd / 天使にふれたよ(1) Next 3rd / 天使にふれたよ(3) 投下順で読む Back 3rd / 天使にふれたよ(1) Next 3rd / 天使にふれたよ(3) 338 2nd / DAYBREAK S BELL(5) 両儀式 339 3rd / 天使にふれたよ(3) 一方通行 阿良々木暦 338 2nd / DAYBREAK S BELL(4) インデックス 338 [[2nd / DAYBREAK S BELL(5) 秋山澪 言峰綺礼 GAME OVER