約 1,869,291 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4881.html
前ページ次ページゼロのロリカード 学院から早馬を飛ばしてルイズとアーカードは王宮へときていた。 アンリエッタ姫殿下直々の出陣という報を聞いたので、ルイズはいてもたってもいられなかったのである。 既に戦の準備は始められており、王宮内もそれに呼応するかのように張り詰めていた。 いよいよもってアンリエッタ直々の出陣もありえないことではないとルイズは思う。ならばせめて傍に控え、 お支えするのが自分の務めと考えていた。 前回の強引に通行した一件からか、話は通してあったようで、名を名乗るとあっさりと門を通された。 戦の準備が進められてる中、ルイズとアーカードは中庭を歩いていると見知った顔を見つける。 アーカードは爽やかに笑いその人物に手を振った。 視界の端に少女を捉えたマンティコア隊隊長、ド・ゼッサールは苦い顔をする。マザリーニ枢機卿に説明されたものの、恥を掻いたことには変わりない。 少女二人を呆気なく通してしまったということ。その不甲斐無さにマンティコア隊全員、自身のプライドが許せなかった。 手を振っていたアーカードはすぐにルイズに引っ張られる。 「はいはい余計なことしないの、とっとと行くわよ」 「りょ~かい」 ◇ 「姫さま・・・」 「ルイズ、会えて嬉しいわ」 部屋に通されると、アンリエッタは今まさに出撃準備をしているようであった。国を守る為、士気を高めアルビオンに打ち勝つ為に。 「やはり・・・姫さま自らご出陣なさるのですね、なれば私をお傍に・・・」 「ルイズ・・・・・・ありがとう、あなたが傍にいてくれればそれだけで心強いわ」 アンリエッタはすんなりとルイズの申し出を受け入れた、内心はやはり不安なのだろう。 ルイズはもう一人いる金髪で青い瞳の剣士風の女性に目をやった、すぐにその視線にアンリエッタが気付く。 「そういえば紹介がまだでしたね、彼女は新たに設置した『銃士』隊の隊長アニエスです。私直属の護衛を務めてもらっています」 アンリエッタの言葉の後、アニエスという名の女剣士は一歩前へ進み出てお辞儀をする。 「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランです」 軍人気質の一つ一つに無駄がない動作でアニエスは自己紹介をする。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。よろしく、アニエス」 「はっ、よろしくお願いします。ラ・ヴァリエール殿のことは姫殿下から、かねがね聞き及んでおります。今後様々な形でお会いすることになるでしょう」 次にルイズに目で促されたアーカードが名乗る。 「主人ルイズの従僕、アーカードだ」 「アニエスです、アーカード殿。あなたのことも姫殿下から聞いております」 「・・・ほう、なんと?」 「ええ、なんでも恩人だと」 アーカードはアンリエッタの方を見る、アンリエッタはにこやかに笑った。その様子にアーカードもフッと笑みを浮かべる。 概ね紹介も終わり、アンリエッタは出撃の為の準備を再開し、ルイズ達はアニエスから現状を聞くことにした。 現在トリステイン一国のみでアルビオンという大国と戦わなくてはならない状況、さらには既に劣勢の立場にあるということ。 アルビオンは突如として宣戦布告同時攻撃を敢行、矢継ぎ早に軍を侵攻させてきた。 これに対抗する為に急遽出撃したトリステイン艦隊は、準備の足りなさと敵旗艦の長射程の砲撃に出鼻を挫かれ、大打撃を受けた上で一時撤退。 その長射程の大砲を持つロイヤル・ソヴリン級『レキシントン』号を旗艦とした、アルビオンの先遣艦隊は現在示威行動に入っている。 さらにアルビオンの本艦隊も既にラ・ロシェールに展開しつつあった。トリステインには艦隊を二手に分けてまともに戦えるほどの余剰戦力はない。 示威行動に移っている先遣艦隊は、王都すらその侵攻圏内に入っている。当然これを放置することはできない。 しかしアルビオン本艦隊を後回しにすれば、国土を蹂躙されるのは目に見えている。 既にゲルマニアに使者を送り援軍要請の旨を伝えたのだが、未だ軍備が整っていないとの話である。 結果ただでさえアルビオン艦隊と比較して戦力の少ないトリステイン艦隊を、二つに分けるのも止む無しいう結果に至る。 アンリエッタの出陣も苦渋の選択であった。アルビオン本艦隊相手に王女率いる大いに士気を上げたトリステイン艦隊でなんとか食い下がる。 先遣艦隊とぶつかる方は布陣を展開、とにかく余計な動きを取らせないよう時間を掛ける。 あとは正式にゲルマニアの援軍がくるまで保たせるのが目的である。 ゲルマニア艦隊との挟撃の形になればさしものアルビオン軍とて長期決戦を持するとは思えない、戦力も風石も支援にも限界があるだろう。 同盟を組む国とはいえゲルマニアには余計な負担をかけさせる以上、トリステインには相応の代償を求められるだろう。 だがそれでもアルビオンに降伏するよりはいい、現在のアルビオンはゲルマニア以上に不明瞭で何を求めてくるかわからない恐ろしい敵である。 突然の宣戦布告、そしてその直後に艦隊を侵攻させるというほぼ不意打ちとなんら変わらない暴挙に出た国である。決して負けるわけにはいかない。 「クックック、まるで幽霊船だな。そして・・・ははっ、なんとおあつらえ向きなんだ」 戦況を聞いたアーカードはクスクスと笑う、その意図するところは本人にしか分からなかった。 その様子にアンリエッタは怪訝な顔を浮かべる。ルイズは思った、またアーカードはなにかとんでもないことをしでかす気なんじゃないかと。 「どうしたの?なにがそんなに面白いわけ?」 ルイズは問い掛ける。アーカードがおあつらえ向きと言って笑ったのだ、何か意味があるのだろう。 「示威行動をしている艦隊、そちらは私がなんとかしよう」 当然その場にいる者達はアーカードの言葉に驚く、いきなり何を言い出すのかと。 「たった一人で?いくらアンタでも艦隊を相手にするのは不可能でしょ」 ルイズの言葉にアーカードは首を振って否定する。 「SR-71は飛ぶ、コルベールが燃料を作ったからな。強力な対空ミサイルでもない限り、成層圏ギリギリをマッハ3以上でフッ飛ぶ超音速高高度偵察機を落とすことなどできはしない」 アンリエッタは心底わけがわからずアーカードの言葉を聞いていた。 ルイズも半信半疑な状態であった、あの金属の塊が本当に飛行するなんて。そして飛ばしたところで何をどうなんとかするのか。あとミサイルってなんだろう? 「尤も距離を考えれば高高度超音速で飛ばす必要性はないし、空中給油できない上に余分な燃料もない。だが普通に飛行しても、大砲程度じゃ到底捉えることなどできんから支障はない」 「申し訳ありません、仰ってる意味がよく・・・」 アンリエッタが言う。アーカードはポリポリと頭を掻く、どうやって説明したらいいのだろうか。 一貴族の一使い魔の意見一つで、トリステイン軍の動きを決定させるなんて。相応の根拠を提示されない限り納得できるものではないだろう。 しかし説明のしようがない。SR-71を見せてる暇もないだろうし、飛行機一機で敵艦隊を倒すなんて言っても到底信じられる筈もない。 「アーカード殿、先程から何を言っているのだ」 アニエスは鋭い目でアーカードを見据える。 「なんだ?」 「わけのわからない言葉を並べ立て、姫殿下を無闇に惑わすのはやめていただきたい」 「よいのです、アニエス。彼女は何か思うところがあって我々の力になってくれると言っているのですから」 アンリエッタはアニエスを窘める。 「しかし・・・いえ、口が過ぎました。無礼をお許しください」 アニエスはすぐに冷静になる。アンリエッタの大切な友人とその使い魔であり、姫殿下自身が信頼を置いた相手である。 思わず感情的になってしまったが、アンリエッタに制された以上、それ以降自分が差し出がましく口に出すことではない。 アーカードはその様子を静観しつつ、思考を巡らせていた。 「ふむ・・・そうだな、やはり殿下は普通に出撃してくれて構わん。トリステイン艦隊を二つに分けるのもいいだろう。 考えてみれば燃料不良で飛ばない可能性もないとは言えん。私は私で勝手にやらせてもらおう、終わったら援軍に向かう。ルイズ、命令をくれ」 「よくわかんないけど、本当に大丈夫なの?」 「無論だ、ちなみに複座型だが主は乗せられん。やることは特攻によるオーソドックスな攻城戦、そして只只一方的な虐殺だ。もし飛ばなかったらすぐに主達に合流しよう」 アンリエッタ達には未だ理解不能の内容だったが、進軍内容に変更は無いようなのでよしとする。 アーカードにはアーカードの策があるようで、成功すればよくわからないけど、こちらに有利に働くということだけは把握した。 「・・・わかったわ、私は姫さまのお傍にいる。アーカード、あなたはあなたで我々に敵対する勢力を打ち倒しなさい」 「了解、我が主」 ――――アーカードは既に学院に戻り、いよいよアンリエッタ指揮の下、トリステイン軍は出撃することとなった。 「・・・ルイズ、私は不安です。あなたがいてくれなければ、きっと重圧で押し潰れていたかもしれません」 ユニコーンに跨り、アンリエッタは隣で馬に乗っているルイズに心の内を明かす。 「ご安心ください、役に立たないかもしれませんが私は姫さまを精一杯お支えします。・・・・・・正直に言えば私も怖いです。でも、信じられるものがあります」 「アーカードさん、ね」 アンリエッタは微笑む。 「はい、アーカードと出会ってからまだ二ヶ月程度ですが・・・大丈夫だと思います。そりゃあ時々私に逆らうし、からかうし、遊ばれたりもしてますけど・・・」 ルイズは目を瞑る。 「それでも私が信じる、私の使い魔です。アーカードはいつだって有言実行をし、私を支えてくれました。だから私も負けられません」 「ふふっ、貴方達には助けられっぱなしです。・・・本当にありがとう」 アンリエッタは大きく一度だけ深呼吸をした。 「では、行きましょうルイズ」 「はいっ!」 アンリエッタは前を向く。国を民を守る王族として、親友とその使い魔に負けない為、強く生きるというウェールズとの約束の為。 ルイズは前を向く。姫殿下を守り支える為、いつだって自分を助けてくれる使い魔に笑われない為、己が歩み進む道程に後悔しない為。 ◇ 「コルベール、飛行の準備だ」 アーカードの突然の話にコルベールは戸惑う。 「え?は?今からですか?」 「そうだ」 アーカードはJP-7の入った樽を軽々と持ち上げる。 「燃料は私が運ぶ、コルベールはテントを撤去しといてくれ」 「あ・・・はい、わかりました」 コルベールは困惑したまま研究室を出てSR-71の元へと向かい、アーカードは樽を一旦外へとその全てを運び出す。 積み上げた樽を一気に持ち上げ、絶妙なバランスでSR-71が置いてあるところへと歩いていった。 「戦争に・・・行くのですか」 「んむ」 アーカードは簡潔に一言で肯定した、コルベールはなんともいえない顔になる。 「SR-71はあなたの物ですし、私にどうこう言う権利はありません。研究も大方終わりましたし、飛行するのも是非この目で見てみたい」 燃料を入れ終えたアーカードは計器類をチェックしている。 「ですが・・・戦争は、反対です」 アーカードが首を傾けながらコルベールを見る。 「私は好きだぞ」 薄く笑みを浮かべながら言う。コルベールはその言葉でさらに険しい顔になった。 「そんな顔をするな、私は吸血鬼だぞ。貴様よりも遥かに長く生き、幾つもの戦争をしてきた化物だ」 「そう・・・でしたね」 コルベールは煮え切らない態度を見せる。 そう、彼女は吸血鬼。それはSR-71を研究し始めてから数日経って聞いた話である。 アーカードの世界の話を聞いた時にカミングアウトされたこと。当然驚いたものの、異世界の話を考えればどうということはなかった。 「・・・なんだ、お前はこの私に戦争の無意味さでも説く気か?」 「いえ・・・そういうわけでは・・」 アーカードはまた計器類を見始める。特に問題も見当たらない、これなら飛べると確信する。 「ふっ、悩め悩め。若者らしくの」 もういい年であるコルベールは若者と言われ苦笑いを浮かべる、目の前の少女にとっては自分でもまだまだ若輩者ということか。 「あぁそれと、コレはもう戻ってこないからヨロシク」 「は?」 きょとんとしているコルベールにアーカードは続ける。 「コレは破壊槌だ。敵艦に打ち込むのでな、当然壊れる」 SR-71に使用される燃料のJP-7は発火点が低い為、トリエチルボランを始動とアフターバーナー点火に使用する。 特に問題もなくSR-71は始動され、そのエンジン音が響く。アーカードは満足げにうんうんと頷いた。 コルベールの情熱と錬金技術も大したものだと改めて感心する。 アーカードは窓越しにコルベールに手を振った、それに気付いたコルベールは会釈でかえす。 アフターバーナーに点火し、SR-71はどんどん加速度を上げ、遂には離陸した。 轟音と共に飛び立った黒い鳥、その姿に思わずコルベールは見惚れていた。 それが戦争に使われ、一度飛び立った以上もう二度と帰ってこないと言われたものであったが・・・・・・それを忘れさせるほどに荘厳で美しかった。 しかし次の瞬間、SR-71が光った。次の瞬間には炎のようなものが見える。 何事かと思ってコルベールは見つめていたが、しばらくするとまた元に戻った。 心なしか最初より深い黒に染まったような気がしたが、風竜よりも遥かに速いそれはすぐに見えなくなった。 ◇ 離陸して間もなく、加速度が高まってきたところでSR-71は炎上した。 やはり錬金で同じものを作るのは無理があったようで、燃料に引火したのである。 アーカードは嘆息をつく。元々錬金で作るという事自体に無理があったのだ、飛べただけでも及第点である。 「拘束制御術式、三号二号一号開放」 アーカードの影は瞬時にSR-71を包み込み、燃え上がる機体は黒に覆われすぐに炎は消えた。 「なにも、問題は、ない」 燃料に引火しただけ、クロムウェルでもどうしようもない重大な故障というわけではない。 ――――なら問題はない、飛行するのに何も問題は無い。 アーカードは足を組み、膝に手を置いた。端正な顔立ちを大きく歪ませて笑う。 「・・・・・・心せよ、亡霊を装いて戯れなば、汝、亡霊となるべし」 ◇ 順調だ、何もかも順調だ。 先遣艦隊旗艦レキシントン号に乗ったワルドはゆっくりと空を仰いだ。 既にアルビオン本艦隊はタルブの草原でトリステイン軍と交戦が開始されたらしい。 アンリエッタ直々の陣頭指揮の下、トリステイン軍はなんとか戦えてるという状態でしかない。 戦力的に見てもアルビオンが勝つのは自明の理である。あとはこちらに差し向けられている僅かなトリステイン軍を蹴散らすだけ。 その後は王都まで一気に攻め込んでもよいだろう、この艦なら・・・やれないことはない。 その時だった、ワルドに悪寒が走る。 ただの第六感でしかない、なんの根拠もない。しかし・・・・・・何かがおかしいことだけは、俄かに震える体が理解していた。 「何だ・・・!?何だこれは・・・?」 この心の奥底からナニカが滲み出る感覚、これは・・・以前にも味わったことがある。思い出せ、いつのことだ。 ――――――思い出す、そうだ。自分がトリステインを明確に裏切って、『レコン・キスタ』についたあの日。 そう、アルビオンで・・・ウェールズを殺した、あの時に感じたではないかッ!! 「あいつだ・・・あいつだ!!奴が来るッ!!」 ワルドは空を凝視する、何かが見える、空にポツンと確認できる黒い点。それはあっという間に大きくなっていく。 降下による加速度でSR-71はレキシントン号に衝突した。 それはもはや轟音というレベルではない。ワルドは吹き飛ばされ、強く船の端に叩き付けられる。 打ち付けられた所為で呼吸困難に陥る。必死に息を吸い、吐く。燃える異臭が鼻をついた。 レキシントン号は衝撃で大きく高度を落とし、傾くもギリギリのところで保っていた。 爆発し炎上したそれは、十字を描いていた。傾いた船は少しずつだがまた水平に戻っていく。 朦朧とする意識に活を入れてワルドはなんとか立ち上がった、一体何が起こったのか必死に状況を把握しようとする。 その時、燃え上がる十字架に人影を見る。ああ、そうだ・・・そうだった。あいつだ、奴だ、狂気の代弁者、混沌そのもの。 「裏切り者は、一度も許したことがないと言ったろう」 少女は笑う、ただ単純に、しかし明確に、敵意を向けて。 「・・・・・・アーカード」 ワルドは少女の名を呟く。そうだ、まだだった。奴との決着はまだだった。 だが、退くわけにはにはいかない。我が野心の為にも―――ここで引くわけには・・・いかないのだ。 「・・・決着を、つけよう」 知らず知らず笑みを浮かべその言葉を口にした自分にワルドは気付く、一体どのような感情が自分にそうさせているのかわからない。 あまりに突然にやってきた、その非現実的な光景の中で、ワルドとアーカードは睨み合った。 「さあ行くぞ、歌い踊れ、ワルド。豚の様な悲鳴をあげろ」 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4457.html
284 アニエスさん最高 (^^) -- セン? サイト争奪杯〜番外編とラブ○ぇんのタバサ編とケフィア最高でした!!サイトとタバサの絡みがファンタジスタ過ぎますよ!! これからも頑張って下さい!! あなたのファンの一人より -- 自由な旅人? 廃止にする?それとも吹き飛ばす? -- 克?
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/62.html
【種別】 地名 【解説】 トリステイン北の田舎。 アニエスの故郷。 20年前に、コルベールを隊長とする魔法研究所実験小隊によって焼き払われた。 名目は疫病の被害を防ぐためとされたが、実際はここに逃げ込んだロマリアの新教徒を始末するため。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/57387.html
アスクラボール アーサー王伝説の登場人物。 円卓の騎士の一。 関連: パロミデス (息子) セグワリデス (息子) サフィール (息子) 別名: エスクラボル
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4587.html
ゼロの使い魔 サイト ルイズ タバサ-シャルロット シエスタ アンリエッタ モンモランシー ティファニア アニエス キュルケ シルフィード ミョズニトニルン(シェフィールド) エレオノール カトレア ケティ イザベラ フーケ ジェシカ マリアンヌ コルベール ギーシュ ジュリオ マリコルヌ ジョゼフ デルフリンガー ビダーシャル ワルド ストライクウィッチーズ 穴拭智子 迫水ハルカ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1818.html
第二十九話 『凱歌はなお鳴りやまぬ銃声と共に』 トリステインの城下町、ブルドンネ街ではでは派手に戦勝記念のパレードが行われていた。 華やかななりをした貴族たちが馬車に乗り込み胸を張って闊歩し、その周りを魔法衛士隊が警護している。だが絶体絶命とさえ思われた状況から生きて帰れたことからかその目には厳しさよりも安堵の色が強く見受けられた。 狭い街路には観衆が詰めかけ花道を作り出し、道に出られなかった者達も通り沿いの建物の窓や、屋根や、屋上から身を乗り出すようにしてちり紙の花吹雪と共に歓声を上げている。そして次の瞬間に観衆の興奮は最高潮を迎えた。 聖獣ユニコーンに引かれた馬車に乗ったアンリエッタと、そのいささか後方から美しい白馬に跨ったウェールズがやってきたのだ。 「アンリエッタ王女万歳!聖女様万歳!」「トリステイン万歳!」「おお!白の国の勇者様だ!トリステインを救ってくれた勇者様だぞ!」「アリガトオオッ!アリガトォ~~~~~~!!アリガトオオッ!!!」 街路は今まさに歓喜の坩堝と化した。敵の侵攻にいち早く反応し駆け付け侵攻をくい止めながら村人を守ったウェールズと数で大きく勝る敵軍を最終的には大きな力で撃破したアンリエッタは『聖女』と『勇者』と崇められ、今やその人気は絶頂である。 二人が進むたびに観衆は黄色い歓声を上げ、この勝利を祝う。 すると誰かが歌を口ずさみ始めた。それは徐々に、徐々に周りに伝播して気づけば街中が歌を歌い出し始めたのだ。勝利を祝い、兵を労い、祖国の繁栄を歌う、トリステインに伝わる凱歌。人々の喜びを乗せた歌声は青い空に響き渡る。 人々が歓喜する理由には祖国の勝利の他にもう一つあった。 アンリエッタはこの戦勝記念パレードが終わり次第、戴冠式に臨むのだ。母である太后マリアンヌから王冠を受け渡され、晴れて女王となる運びであった。これに異を唱えるものなどはまずいなかったほどである。 強いて上げるとすれば隣国のゲルマニアくらいではあるが、ゲルマニア皇帝は渋い顔をしながらアンリエッタとの婚約解消を受け入れた。一国にてアルビオンの侵攻軍を打ち破ったトリステインに対して強固な姿勢を示せるはずもなく、同盟の方もより強固なものとなった。 しかし何より、アンリエッタとウェールズの事が庶民の話題の中心であった。亡国の王子と祭り上げられた王女。悲劇的な上に二人は美しいときている。 人はとかく美談に弱いもので、二人は恋仲だのトリステインに亡命したのは王女がいるからだのと騒ぎ立て、今や二人はいつ婚約するのかというまでに話は膨れあがっていた。 「結ばれぬはずの恋人は今数々の障害を共に乗り越えて結ばれる――――いやはや、これは物語化されること間違いなしだね。なあホレイショ」 賑々しい凱旋の一行から離れた中央公園の片隅で捕虜の一人がそう言った。男の名はサー・ヘンリー・ボーウッド。あの巨艦レキシントン号の艦長として指揮を執っていた者だ。だが敗軍だというのに日焼けした精悍な顔には微塵も悔しさを見せていない。 「おや、気が合うな。ぼくも今まさにそう思っていたところさ。見ろよあの二人の嬉しそうな顔を。さすがは『聖女』に『勇者』だ!なんとも輝いているね!」 ホレイショと呼ばれたでっぷりと肥えた貴族のその言葉にボーウッドは腕を組んだ。 「輝き。輝きと言えば、ああ、あの光はいったい何だったのかな!艦隊を丸ごと飲み込んで壊滅させてしまった光!驚きだね!」 「なによりあの光による死傷者はゼロときている。奇跡の光だ。あれも巨人の力なのかね?まるで巨大な手のひらで弄ばれたような気分だよ」 「まったくだ・・・。『巨人』に『聖女』に『勇者』とは、ますますもってお伽話じゃないか。やれやれ、我が『祖国』は恐ろしい敵を相手にしたものだ!」 ボーウッドは大仰に手を上げて見せた。そうは言いながらもやはり不思議と悔しさはなかった。そして近くに控えていたトリステインの兵士に声をかけた。 「きみ。そうだ、きみ」 「お呼びでしょうか、閣下」 敵味方を問わず貴族には礼が尽くされる。杖こそ取り上げられてはいるが、敗軍の将が今こうして縄も掛けられずにパレードを見ているのもそう言った事情からであり、兵士は丁寧な物腰でボーウッドに接してきたわけである。 「なあきみ、ぼくの部下達は不自由していないかね。食わせる者は食わせてくれているかね?」 「兵の捕虜は一箇所に集められ、トリステイン軍への志願者を募っている最中です。そうでもない者については強制労働が課されますが、ほとんど我が軍へと志願するでしょう。あれだけの大勝利ですからな。 それと胃袋の心配は無用でしょう。捕虜に食わせるものに困るほどトリステインは貧乏ではありませぬ」 胸を張って答えた兵士にボーウッドは苦笑を浮かべて金貨を握らせた。 「これで聖女の勝利を祝して、一杯やりたまえ」 兵士は直立すると、にやっと笑った。 「おそれながら閣下のご健康のために、一杯いただくことにいたしましょう」 立ち去っていく兵士を見つめながら、ボーウッドはこの不思議な気分の正体に気付き呟いた。 「もし、この忌々しい戦が終わって国に帰れたらどうする?ホレイショ」 「もう軍人は廃業するよ。なんなら杖を捨てたってかまわない。おかしな話なんだがね、負けたというのに気分は晴れ晴れとしているのだよ」 ボーウッドは大声で笑った。 「まったく今日は良き日だよ!こんなに気が合うとはね!ぼくも同じ気持ちだよ!もしかしてきみも今何か叫びたいんじゃないのかい?」 「おお奇遇!それでは一緒に叫んでみるか!何せ今日は無礼講だ!」 二人は目を合わせて笑うとそろって叫んだ。 「トリステイン万歳!」 枢機卿マザリーニはアンリエッタの隣で、ここ十年見せたことの無いようなにこやかな笑みを浮かべていた。 彼はアンリエッタが戴冠式を迎えて女王となった暁には、内政と外交の二つの重石をアンリエッタに任せ、自分は相談役として退こうと考えていた。いや、正確にはアンリエッタとウェールズに、である。 (この夢のないじじいに期待を抱かせる二人だ。きっと上手くやってくれるだろう) 王宮の中には未だウェールズの存在を快く思っていないものもいるが、ウェールズの活躍に民衆の期待がそれを軽く押し切ってしまうだろう。自分の最後の仕事はさしずめ二人の仲人か、とマザリーニは柄にもなく思っていた。 傍らに腰掛け民衆に手を振る新たな主君に声をかける。 「ご機嫌麗しいようでなによりですな。このマザリーニ、この馬車の中で殿下の晴れ晴れとしたお顔を拝見するのはこれが初めてですぞ」 「あら、それはあなたの見方がひねくれているのではなくて?わたくしあなたの前で笑顔でなかったためしはなくってよ」 「その様子では本当に気負いはないようですな」 するとアンリエッタは少し考え込み尋ねた。 「母さまはなぜご自分が即位なさろうとはお考えにならなかったのでしょう・・・」 「太后陛下は喪に服しておられるのですよ。亡き陛下を未だに偲んでらっしゃるのです。あの方は我々が『女王陛下』とお呼びしてもお返事をくださいませぬ。妾は王の妻、王女の母に過ぎませぬ―――そう言ってご自分の即位をお認めになりませぬ」 マザリーニは自分でも声の調子が落ちているのに気付きしまったと思い、下げてしまった視線を上げた。しかしアンリエッタは凛とした顔をしてマザリーニを見つめている。 「母さまのお気持ちはわかります。もし・・・・・・もしもウェールズ様が死んでしまわれていたのなら、きっとわたくしも王座に座ることを拒否したでしょうから・・・・・・」 「殿下・・・・・・」 「でも、あの人は帰ってきてくださったわ。あのときの誓いを果たしてくれました。だから今度はわたくしが誓いを果たす番ですわ。『国も国民も守る』覚悟はできています」 アンリエッタの瞳には、まだ小さいながらも力強さが備わり始めているようだ。そして天井のない馬車の背後を見つめている。その先には、愛しの君がいる。 昔の詩人は『恋する乙女は無敵』と謳っていたが、なるほど、確かにその通りだとマザリーニは微笑んだ。 今まさにその守るべき国民達が凱歌を歌い始めた。 「ある雪の日にディランとキャサリンが道を歩いていたんだ。あんまりにも寒くって地面に氷が張っていたのに二人は気付かず、案の定キャサリンは思いっきり転んで尻餅を打ってしまったんだ。それで慌てて助け起こしたディランは彼女のお尻を見て言っちまったのさ。 『おいキャサリン、お尻が汚れてるぜ』と。そしたらキャサリンはこう答えた。『やあねディランったら。私のお尻はとっくにあなたに汚されちゃってるじゃない』ってな!HAHAHAHA!」 パレードを眺める群衆の中、ウェザーはワインの瓶を片手にかなりオーバーアクションでそう言うと豪快に笑い出した。俗に言うアメリカンジョークというヤツである。 「こんな時間から下ネタだすなんてだいぶ酔ってるわね、ウェザー」 「酔い方がオヤジ臭いのよ」 「・・・彼は三十九」 そんなウェザーの様子をルイズ、キュルケ、タバサの三人娘は呆れたように見ていた。 「まあでも、あのお姫様達もようやくってとこだしね。ダーリンが浮かれるのもわかるわ。私たちもかかわった手前、人ごととは思えないし」 「それもそうね。今日はめでたい日だし、少しくらいは大目に見てあげようかしら」 「・・・進歩」 「何か言ったかしら、タバサ?」 そんな三人をよそにウェザーは空を仰いでため息をつく。疲労ではなく充実感からのため息。 ああ、ペルラ。見てるかい?あの幸せそうな二人の顔を。こっちまで嬉しくなっちまう。デートの時の君はよく笑ってくれて、今のアンリエッタにそっくりだ。 なあ、ペルラ。あの時守れなかったモノ。ちゃんと今は、守れてるだろう? 流れる雲も緩やかに、風は優しく吹いている。この凱旋を祝う凱歌も徐々に大きくなり盛り上がりを見せている。 「・・・ん?」 ウェザーはその雲の中に一つだけ違和感を感じるものを見つけた。白くてふわふわしていて、捉え所のない雲。いや雲と言うより――帽子だ。 どこかで見た気もするが、果たしてこのパレードの観衆の物だろうか? いや、今日は風は強くない。あんな空高くにまで運ばれはしないはずだ。となればあれは幻覚だろうか? 「あー・・・なあルイズ。『あれ』見えるか?」 帽子を指差して尋ねるがルイズは目的のものがわからずに小首を傾げるだけだ。 「なに?あれって・・・雲?」 「ああ、いやいい。どうも酔ってるらしい」 「幻覚でも見たんじゃないの?」 ほどほどにしなさいよ、と呆れた様子でルイズは視線を戻した。 ウェザーはそれに肩を竦めて答えると再び視線を上げた。帽子は変わらずふわふわふらふらと宙を漂っている。 凱歌は高々と空に響いている。 ウェザー達とは別の場所でモンモランシーはパレードを遠巻きに眺めていた。人垣でパレード自体は見えないが盛り上がっていることはよくわかる。 手持ちぶさたにそれを見ていると、人ごみをかき分けてギーシュが現れた。両手には果物のジュースの入った容器を持っている。 「遅いわよ」 「いやあ、ごめんごめん。人が多くてね。いつもあそこは大人気だ」 頭を掻きながらジュースを渡してくるギーシュに、モンモランシーはあっそ、とつれなく返した。困ってしまったギーシュはパレードを指さして明るい声を出す。 「ほら、あれをごらんよ。姫様が通る。すごいね」 「へえ。じゃああなた、せっかくなんだからアンリエッタ様とデートでもすれば?それともキュルケとがいいのかしら。まさかタバサやルイズだなんて言うの?」 「も、モンモランシー・・・・・・誤解しないでくれよ。彼女達とは確かによく一緒にいるけれど、それはあくまで親友としてであってだね、ぼくが愛しているのは君だけさ、モンモランシー」 キザったく恰好をつけて言ってはいるが、果たしてこのセリフも何度目だろうか。モンモランシーがなお冷たい姿勢を崩さないで居ると、ギーシュは空を仰いで眉間を抑えた。必死に褒め言葉を探してでもいるのだろう。 その間にモンモランシーは事を起こした。袖に隠していた小瓶を取り出し素早く中身を自分の飲み物に垂らす。透明な液体がジュースに溶けていく。あとはこれを不味いとでも言ってギーシュのものと取り替えてしまえばいい。 小瓶の中身は禁制の惚れ薬だ。ギーシュの浮気性にかねがね悩まされてきた身としてはこれぐらいのことはしなければ安心できない。 「そうだ!さっき向こうでアクセサリーの露天を見つけたんだ。君に似合いそうな物もあったよ。行ってみないかい?」 「ふうん・・・まあいいわ。行きましょう」 俄に表情を明るくしてギーシュは歩き出した。本当にころころと表情の変わる人ね、これが表情だけですめばいいんだけれどと思いながら、モンモランシーも歩き出した。 でも、何か違和感を感じる。何だか今までのギーシュとは違う気がするのだ。確かにギーシュはギーシュでギーシュだけど、でもけっしてギーシュであるとは言い切れないのでギーシュ・・・・・・語尾までギーシュに侵されるなんて相当ね。 べ、別にあいつが好きなわけじゃなくて、浮気が許せないだけなんだから! なんて事を考えて顔を上げると、ギーシュはもう人ごみに紛れて姿が見えない。モンモランシーは慌てて駆け出した。 「いてぇな!」 ろくに前も見ていなかったせいか、モンモランシーは男にぶつかってしまった。花を擦りながら見上げると、いかにも傭兵崩れといったなりの厳つい大男で手に酒のビンを持ち、ラッパ飲みをしている。その顔はすでに真っ赤で相当にできあがっているようだった。 こういう手合いにはかかわらない方がいい。視線を避けるようにモンモランシーは男の脇を通り抜けようとしたが、腕を掴まれた。酒臭い息が降りかかってくる。 「おいおい、待てよお嬢さん。他人様にぶつかっておいて謝りもなしに立ち去ろうなんて法はねえ」 モンモランシーは必死に腕を振り払おうともがくが、力が強く放してはくれない。 傍らの傭兵仲間らしき男がモンモランシーの羽織ったマントを見て「貴族じゃねえか」と呟いた。しかしモンモランシーの腕を掴んだ男は動じない。 「今日はタルブの村の戦勝祝いの祭だぜ、無礼講だ。貴族も兵隊も町人も関係ねえよ。ほら、貴族のお嬢さん、ぶつかったわびに俺に一杯ついでくれや」 「は、離しなさい!無礼者!」 モンモランシーが叫ぶ。だがその声は震えてしまい、男もそれに耳ざとく気付きいやらしい笑みを浮かべて迫ってきた。 「なんでぇ、俺にはつげねぇってのかい、ええ?そりゃねえだろうお嬢ちゃん。誰がタルブで戦ったと思ってやがる!あんたが今こうして平和に暮らせてるのは『聖女』や『勇者』でも貴族でもねえ!俺達兵隊さ!」 男の無骨な手がモンモランシーに向かって伸ばされる。モンモランシーは恐怖に竦んでしまい動くことさえ出来なかった。 いや、いやよ。何でこんなことになってるの。誰か助けて。誰か・・・助けて、ギーシュ! モンモランシーはきつく目を瞑った。しかしいつまで経っても男の手は触れてこない。怪訝に思い目を開くと、いつの間にか現れたギーシュが、男の手をがっしりと掴んでいた。 「ギーシュ!」 「なんだテメエ、ガキはすっこんでろ!」 「彼女に触れるな」 ギーシュの低く静かな声が聞こえた。モンモランシーにはそれが信じられなかった。確かに出しゃばりで大口を叩くが、その実ヘタレでへっぽこな、あのギーシュが私をかばってこんな厳つい大男の前に立ち塞がるなんて。 「テメエも貴族か。だったら俺達に感謝の意を示すべきじゃねえのか?俺たちゃあのタルブで―――」 「タルブ村で戦った?それはおかしいな。あそこで戦った兵達は女王陛下にその功績を讃えられ特別にウェールズ様の隊としてあのパレードに参加しているはずだ」 ギーシュはけっして目をそらすことなく大男を睨みつけている。大男は歯軋りをして腕を振り上げたがそれをもう一人の男がそれを抑えた。 「そのへんにしとけって」 「放せよ!こいつをぶん殴ってやらなきゃ気がすまねえ!」 「よく見ろ。そいつはもうマントの下で杖を構えてるぞ。いや、呪文も出来ているかもな。どちらにせよ俺達に良い事なんざねえよ」 大男は仲間にそう諭されて、手を下げた。しばらくギーシュの目を見ていたが、やがて「悪かったな」と告げて背を向け去っていってしまった。 何だかギーシュの意外な一面をよく見せられる日だ。 「・・・ギーシュ、あなた・・・」 「ああ、大丈夫だったかいモンモランシー?急にいなくなるから心配で走って探し回ったよ」 ギーシュは極度の緊張から解放されたせいか、大きくため息をついて膝に手をついた。額には汗が滲んでいる。 (ああ、急いで駆け付けてくれたんだ) モンモランシーはなんだか嬉しくなってしまい、頬が赤くなるのを隠すように俯いた。ギーシュはそれをケガでもしたのかと勘違いしておたおたとモンモランシーの様子を心配して、そのギャップがモンモランシーには何だか可愛く映ってしまう。 「大丈夫よ、ケガはないわ。それよりほら、あなたこそこれ飲んで落ち着きなさいよ。自分のヤツはどこかにやっちゃったんでしょ?」 飲み物を手渡したとき、モンモランシーはあることに気が付いた。 「あなた―――背が伸びた?」 「え?そうかなあ・・・大きくなった気はしないけど自分じゃ気付きにくいからかな?」 いや、確かに伸びている。思えばこの前アルビオンから帰ってきた時にも少し伸びていた気がする。 (そう言えばさっき私をかばってくれたときも、何だか背中が大きく見えたし・・・) ラ・ロシェールやアルビオン、それに先のタルブ村での戦いのことも聞いてはいたが話半分程度にしか信じていなかった。けれどギーシュはそこで戦い、大きくなってきたのだ。メイジとしても、人間としても。 そう思うと惚れ薬を使ってギーシュを自分に縛り付けようとしていた自分が急にちっぽけに見えてしまった。 (くやしいけど、わたしも早くギーシュに追いつかなきゃダメね) 「ねえギーシュ、その飲み物なんだけど・・・」 ギーシュから惚れ薬入りの飲み物を返して貰おうと声をかけたとき、銃声が響いた。 「な、何?」 パレードの様子がおかしい。周りの人たちも不安そうに騒いでいるみたいだ。 「姫様達に何かあったのかも・・・・・・危ないかも知れないからモンモランシーはここで待っていて!」 「ちょっ・・・とギーシュ!」 モンモランシーの制止も虚しくギーシュはパレードに向かっていってしまった。 と言うか、 「ジュース返してよ―――ッ!」 勝利に酔いしれる街の片隅に男はいた。パレードから少し離れた路地裏に立ち竦んでいる。元はそれなりだったであろう衣服はすり切れてみすぼらしくなり果て、長い髪はボサボサだった。 だが、その下の眼だけは少しもすり切れてはいない。獲物を狙う鷹のような眼光が宿っているのがわかる。しかし、それでもその双眸が光を映像として捉えることはない。男の目は白く、光はもはや彼を苦しめるだけの毒に過ぎなかった。 だからだろうか。男は光を嫌うように薄暗い路地を歩き、頭にはボロ布を巻いていた。かすかに三つ編みが揺れる。 「『あのお方』が・・・・・・この光を嫌ったわけがわかるな・・・」 ボソボソと呟かれた言葉は誰に届くでもなく、男は歩き続けた。その手には布に巻かれた杖があり、見えぬ割には確かな足取りだ。 「右は・・・・・・レンガの壁・・・でかいな・・・・・・工場か?・・・煙突があるな。高さは15メートル弱・・・・・・十分だ・・・」 壁をなぞり、男はその白い瞳を左右に向けた。そして路地の一角、資材の積まれた場所に向かうと懐からズッシリとした袋を取り出して資材の中に紛れ込ませた。近くに立て掛けられていた梯子を見つけると、それを民家の屋根にかけて、一歩一歩静かに登っていく。 危なげもなく登り切ると、煙突のてっぺんに陣取り周囲を見渡す。 「大通りまでは・・・・・・90・・・2・・・3・・・・・・95メートル前後というところか。風は後方からの微風・・・・・・1.7メートル。障害物無し・・・」 そこまで確認すると煙突に腰掛け、杖を取る。布を取り払ってその真の姿を日の下に晒してやる。 黒光りする長筒――銃――を抱き締めるように持ち上げ、正面に構える。 「筋肉は信用できない。ライフルは骨で支える―――と、ライフルではなかったな・・・・・・」 一瞬、ほんの一瞬だけ男は寂しそうな顔を見せたかと思ったが、再び正面を見据えたときの眼は鷹のそれだった。頭に巻いていたボロ布を剥ぎ取って捨てる。 「・・・・・・『マンハッタン・トランスファー』」 帽子のようなスタンドがパレードの真上に浮遊する。弾丸を待ちこがれるかのように揺れている。 かつてウェザーのいた地球には悪の帝王がいた。その圧倒的なカリスマと力で世界を支配しようとした男。だがその計画は男と深き因縁を持つ者達によって砕かれ、悪の帝王は消滅した。 しかしその影響まで完全に消し去ることは出来なかった。帝王に心酔した生き残り達が帝王の敵討ちを考えるのも当然の流れと言えた。彼らは執念深く時を待っていた。 二十年。それがこの男の執念を物語っていると言えよう。男は二十年間片時も恨みを忘れずに生き、ついに仇に手傷を負わせたが、戦い破れ息絶えた。 そして今『ここ』にいる。男の名はジョンガリ・A。復讐の引き金を引く男。 狙いを定めて引き金に手をかける。 「暢気なものだ・・・戦の引き金に指はかかっているというのに・・・・・・」 銃声が凱歌を切り裂く。 ルイズは固まっていた。いや、だけではない。観衆も凱歌を止め、ただただ目の前の光景を見ていることしかできない。 アニエスによって地面に取り押さえられるウェザー。アンリエッタをかばうように覆い被さるウェールズ。そして地面に垂直に撃たれた弾丸。何が信じられないかと言えば、何もない空から弾丸が降ってきたことだろう。 ウェザーが飛び出してからまさに電光石火だった。凱歌が最高潮を迎えた瞬間、空を見ていたウェザーがいきなりウェールズの名を叫びアンリエッタの馬車に向かい駆け出し、同時に銃声。 一番に反応したアニエスによってウェザーが地面に倒された時には弾丸が馬車を貫通していたのだ。十数秒の間に起きた急転直下の事態についていけぬ観衆はただただ口を開けることしか出来ない。 「いてぇいてえ!絞めすぎだ馬鹿!」 「黙れ不埒者、大人しくしろ!」 アニエスに関節を決められてもがくがいっこうに緩む気配がない。 「あ・・・アンリエッタ、ウェールズ、無事か・・・」 「あ、ああ。お陰様でね」 ウェールズもかすり傷で済んでいるようだった。ウェザーが空を見上げると既に帽子は消えている。 「銃声は・・・あっちか!」 ウェザーは渾身の力を込めてアニエスを跳ね飛ばすように立ち上がると騒ぎ立てる観衆を掻き分け、一目散に駆け出していった。 「あ、待て貴様!」 アニエスが後を追いかけて消えた。 「ちょ、ちょっと!ウェザー!?」 取り残されたルイズの叫びも野次馬と化した観衆のざわめきに虚しく飲まれて消えた。 「・・・どうする?」 「あら、それは愚問と言うものよタバサ。あたしたちは行くけど、お姫様が心配なら待っててもいいのよ?ルイズは」 「追いかけるわよ!」 煙突の上で、騒ぎ立てる群衆のようにジョンガリは驚愕していた。よもやこの世界に自分以外のスタンド使いがいようとは。 「・・・・・・・・・」 だがそれを動揺につなげたりはしない。心を落ち着かせて再び銃を構える。だが、銃を見てその気もなくしてしまった。銃身が歪んでしまっているのだ。 「ふん、オレを性能実験に使ったか・・・しょせんはオレも捨て駒というわけだ」 懐に手を入れてブツを確認する。もしものときのために用意しておいた保険。だがジョンガリは命に保険をかけてきたわけではない。 目的を遂行するためだけに用意した死の保険だ。 ふと気づくと、スタンドが何か空気の乱れを感じ取った。恐らくは自分を捜し回っているのだろう。スタンドに不意打ちでもさせられれば楽だが、所詮こいつは衛星にすぎない。弾丸を中継する『狙撃衛星』。 三度銃を構え、狙いを絞る。『マンハッタン・トランスファー』はすでに中継点で待機している。 「最後の仕事だ・・・・・・行くぞ。『あのお方』の下まで」 ズドンッ! 迫りくる追手に向けて弾丸を放つ。 銃声のした方向に向かってかけているとギーシュと鉢合わせた。 「ウェザーじゃないか!何があったんだい?」 「アンリエッタが狙撃された。無事だが犯人を捜している。俺が見た限りじゃ敵は上だ。この辺で高い場所は?」 それにアニエスが答える 「高い・・・・・・確か路地の奥に工場があったはずだ!あそこの煙突は高い」 「そ、それはどこだい?早く行かなくては逃げられてしまう!」 「いや、銃の射程を考えればそう遠くへはまだ逃げていないはずだ。すぐに衛士隊の包囲が完了して逃げ場はなくなるだろう」 「そんなに大人しいヤツなら苦労しないんだがな・・・」 「とにかく急ごう!」 アニエスを先頭に路地を走り抜ける。しばらく走ると狭い空から煙突が見え始めた。と同時にウェザーにはスタンドも見えた。前のアニエスの袖を引いて思いっきり引っ張る。 「う、わあっ!」 弾丸がアニエスの眼前を横切る。いきなり引っ張られてバランスを崩したが、そのおかげでかわすことが出来たのだ。 「な・・・弾丸がいきなり・・・」 「ウェザーこれは・・・」 「ああ、スタンドだ。弾丸操作系か?何にせよ遠距離攻撃は厄介だな」 スタンドを視認できるのがウェザーだけな上に敵は手の届かない場所にいる。スタンドに気を取られていては本体を逃がしてしまうかもしれない。 だが、こちらの焦りよりもあっさりとそいつは見つかった。 入り組んだ路地の奥、少しだけ開けた行き止まりに男――ジョンガリ・Aは座っていた。 「逃げないんだな」 するとジョンガリはゆっくりと立ち上がり顔を上げた。白く濁った眼がこちらを捉える。 「!・・・目が見えてねえのか。それであの射撃精度とは恐れ入るぜ」 ハルキゲニアの銃のレベルは魔法の台頭によって明らかに低く、しっかりしたモノでも100メートル先の標的を狙うのは蟻の眉間に針を刺すようなものだ。 だがこの男はパレードから直線距離にしておよそ100メートルの距離を正確にアンリエッタめがけて発射したのだ。スタンドの力がどの程度のモノかわからないが、それでも本人の能力に依る部分は大きいだろう。 「目など必要ない。目などあるから見なくて良いものを見てしまうのだ。この鼻が、耳が、肌が世界を教えてくれる」 「臭いものには蓋をするってわけか。気に食わねえな・・・。そしてもう一つ気に食わねえのがてめえの態度だ。とても追い詰められた人間には見えないな」 その問いにジョンガリは喉で笑った。籠った笑い声が湿った路地に響く。 「追い詰められた・・・か」 ジョンガリの足元を見れば、銃身が見るも無惨に折れてしまった銃が落ちていた。なぜこうなったのかはわからないが、 「・・・・・・撃てなかったのか」 「今のこの状況、後ろには壁、前方には追手が三人。しかも一人はスタンド使い・・・なるほど確かにオレの能力と装備ではこの状況は確かに『追い詰められた』のだろうな。 ・・・『あのお方』ならば『将棋やチェスで言うチェックメイトに嵌まったのだ』、とでも言うのだろうなあ・・・ふふふ」 ジョンガリは一人で話し、納得し、笑いだした。完全にネジがハズレているタイプだ。頭上で浮遊するスタンドが今の状況とチグハグで不気味さに拍車をかけている。 その陰鬱な雰囲気を無理矢理吹き飛ばすようにアニエスは銃を向けた。 「わかっているなら話しは早い。大人しくお縄につけ!」 「お縄につけ?舐めるな女ッ!オレを縛り付けられるのは『あのお方』だけだ!オレがオレの意思で心と体を捧げるのは唯一人!DIO様だけだ!あのお方こそがオレの世界だッ!」 今までとは打って変わった弾けるような口調にさすがのアニエスも怯んでしまった。 ウェザーはジョンガリの目に見覚えがあった。己の信ずるものこそ正義と信じる文字通りの狂信者。世界の基準など関係ない、善悪さえちり紙のように吐き捨てるだろう。そう、あのプッチがまさにそれだった。 「お前が何を正義と信じようと勝手だ。だが、それで関係ない他人を傷付けるなよ。迷惑なんだよ」 「知ったことか」 心底どうでもよさそうに言い捨てると、壁に積まれた資材の布に手をかけた。土でも積まれているのか盛り上がったそれは、しかし布が取り払われた瞬間に凶悪な素顔を見せたのだ。 「っ!火薬!」 「動くな」 ジョンガリは懐から取り出した小銃を火薬の山に向け、再び静かな口調でウェザー達に命じた。当然動くことは出来ない。 「そこら中の路地に火薬を仕込んである。ここで火を着ければ火が飛んで辺り一帯は―――」 ボンだ、と空いた手で爆発を表した。 すぐ近くにはパレードを見に来た群衆が溢れかえっている。もしもジョンガリの話が本当なら、最悪の事態が引き起こされることになる。 「くっ・・・だが、それに着火すれば貴様も確実に死ぬぞ!」 「構わないな。あちらにもこちらにもDIO様はいなかった・・・・・・なら最早オレに生きる意味はない。そしてDIO様のいない世界など消えてなくなればいいのだ!争い戦い憎み殺し合え!」 「だからアンリエッタ様を狙ったのか・・・そんな下らない理由で」 アニエスが歯痒さに震えている様を男はたいそう面白そうに見る。 「ああ、だから雇われてやったんだよ・・・この新型の銃もそいつから貰った。とは言え、試作型でこのザマだがな。しかし・・・ふはは、『聖女』は憧れと同時に憎しみの対象でもあるわけだ。 王女の輝きが増せば増すほど影は濃くなる・・・やはりあのお方ほどのカリスマでなければ人を支配するのは不可能だ」 「雇われただと?誰にだ!言え!」 「そこまで教えてやる義理はない。さあお話はここまでだ!残りはあの世で昔話に興じるがいい!」 「俺は――」 ウェザーが脈絡もなく話しに割って入ってきた。 「お天気お姉さんではCCNのロラーナちゃんが好きなんだけど、あの子がやるといつもハズレるんだよな。まあ、晴れって言ったら傘をさせってことなんだが」 「何が言いたい!」 「お前天気予報確認したか?」 ジョンガリが引き金に力を込めた瞬間、まさに瞬間に世界から音が消えた。否、一切の音がかき消される程の豪雨が街に降り注いだのだ。バケツをひっくり返した程度では済まなさそうな、文字通り体を打つ雨。 呆然とするジョンガリにウェザーが声をかける。 「本日のトリステインの天気は全国的に快晴、ただしところにより一時的なスコールが降るでしょう―――ちゃんと確認したか?家出る前に天気予報を見るのは大人のたしなみだぜ。あーあーひでえなあ、火薬濡れちゃってんじゃん。勿体ない」 そして豪雨は現れた時のようにいきなり去っていった。と同時に魔法衛士隊が到着する。ウェザーたちの後方で隊列を組み、屋根にまで登って包囲を完了させていた。 「あーあー、犯人に告ぐ!貴様は完全に包囲されている!アンリエッタ王女殿下を狙いし貴様の卑劣な犯行!天が許そうとも、あ・このヒポグリフ隊が許してはおかーん!」 屋根の上から杖を掲げて現れたのはいつぞやのヒポグリフ隊隊長だった。 「元気だなあのオッサン・・・・・・」 「腕は立つし面倒見はいい人なんだが・・・」 アニエスが恥ずかしそうにフォローした。後ろを見ればマンティコア隊の隊長もやれやれと頬を掻いているしまつだ。しかしヒポグリフ隊隊長はそんなもの目に入らぬようで、元気に捲し立てている。 「トリステイン魔法衛士隊の包囲網は世界一ィィィィ!半径二十メートル『衛士隊の結界』を食らうがいい!・・・と言いたいところだが、取り敢えずは五体満足で捕らえなければな」 「ぐ・・・オレは・・・復讐も、破壊も出来ないのか?DIO様の下に行くことすら許されないのか?」 切り札の火薬も銃も雨に濡れて使えなくなってしまい、ジョンガリは後退する。が、すぐに壁に阻まれてしまった。魔法衛士隊がその包囲網を縮めていく。 誰もがこの事件が無事解決されるのを確信していたのだろう。だが、その緩んだ空気を裂くようにして風の刃が放たれた。 「危ない!」 ウェザーとアニエスは咄嗟にギーシュを押さえて倒れこみ、その上を刃は飛んでいった。 その先には――― 「がフッ!」 三人が顔を上げて見たものは、バックリ開いた胸と口から大量の血を吐き出し今まさに崩れ落ちるジョンガリの姿だった。 一帯はただただ静まり返る。有り得ないことだ。なぜならあの風の刃を放ったのは魔法衛士隊なのだから。 「救護だ!救護兵を呼べ!死なせるな!」 「誰だよ撃ったの!」 「俺じゃないぞ!」 「う、うろたえるんじゃあないッ!トリステイン魔法衛士隊はうろたえないッ!」 現場は打って変わって騒がしくなり始めた。魔法衛士隊が忙しなく動いている。 ウェザーは男の側に駆け寄り声をかけてみる。聞き出せる情報があるかも知れない。期待はしなかったが・・・ 「最後だ。誰に雇われた?」 しかし意外にも男は口を開いた。だが声が小さく聞こえない。ウェザーは屈んで耳を寄せた。男はパクパクと金魚のように口を動かして、 「・・・・・・今行きますDIO様・・・」 喜びに満ちた笑顔で、死んだ。 ルイズたちが迷い迷って現場に着いた時にはそこはすでに封鎖されていて、立ち入ろうとすれば案の定止められてしまった。 「ここから先は立ち入り禁止です」 「わたしの使い魔が中にいるのよ」 「使い魔?」 魔法衛士隊のその態度を見て改めて人間の使い魔の珍しさを思い知らされた。彼にはウェザーはただの平民にしか写らないのだろう。 「ほら、帽子被っていて」 「とっぽい感じの」 「黒衣の男性」 三人の説明にようやく納得したらしい。 「わかったら通して」 「いや、ですが許可無しには・・・」 「構わないよ」 声をかけたのはウェールズだった。いきなり背後に立たれて隊員は慌て敬礼の姿勢をとる。 「彼女たちは犯人について僕らよりも詳しいはずだ。力になってくれるかもしれない」 ウェールズの意味ありげな視線に気付いた三人は、この事件がスタンド使い絡みだと覚った。黙って頷くとウェールズに先導される形で進んでいく。 「でもなぜウェールズ様がここに?」 「レコン・キスタの手掛かりがあるかと思ってね、アンリエッタを落ち着かせてから飛んできたんだ」 「やはり奴らの仕業でしたか・・・」 「いや、それが事態はもう少しややこしくなりそうだ・・・と、着いたよ」 そこは入り組んだ路地の行き止まりで、壁にはまだ赤い血が生々しく残っていた。ウェザーたちはそこで魔法衛士隊と話している。ウェールズが声をかけた。 「隊長、何かわかったかね?」 「他の場所から見つかった火薬の量から考えて、外部から運んだとは思えません。それにあの銃も。また現在調査中ですが、我々衛士隊の中にも敵の息のかかった者がいるようです。これらのことから恐らくは内部に事件を手引きしたものがいるかと・・・」 「考えたくない答えだったがな・・・」 「ぬうぅ!ワルドに続きまたも裏切り者が出ようとはなんたることか!我ら魔法衛士隊は王家に!祖国に!忠誠を誓ったはずではないのか!」 ヒポグリフ隊隊長の激昂ももっともだろうが、事態は予想以上に深刻なようだ。 「・・・これ以上は何も収穫はないだろうな。何人か残して君たちは下がりたまえ」 「ですな。では我々はこれで」 隊長二人は敬礼をして退いていく。ヒポグリフ隊長がまだ何か言うのをマンティコア隊長が適当に相手してやっているのが後ろ姿でわかる。 残った面々の間には嫌な沈黙が流れた。戦いは一区切り付いたが敵の撃鉄は上がりっぱなしなのだと思い知らされたからだ。 「ところでギーシュ。お前さっきからずっと何持ってんだ?」 ウェザーの言葉に全員の視線がギーシュの手元に集まった。 「ああ、これかい?果物ジュースだよ。何だね、ずっと持っていたのに気付かなかったよ。なんなら飲むかい?」 その時さんざん走って喉の渇きを覚えている者が何人かいた。 「ウェールズ先に飲めよ」 「いいのかい?昔トリステインに来たときに見たことはあるんだが機会はなくてね。一度でいいから飲んでみたいとおもっていたんだ」 そう言いながら容器を受け取り、口に運ぶ。 「ウェールズ様!少しお話しが・・・」 今まさに飲まんとしているところに衛士隊から声がかかった。ウェールズは残念そうな顔をしながら容器を下ろし、ウェザーに渡した。 「やれやれ、どうやら今日は飲む日ではないと始祖様からのお達しが来てしまった」 おどけて見せて去って言った。それじゃあとウェザーが容器を掲げた。 「・・・いや、お前全部飲めよ」 その掲げた容器をアニエスに突きだした。アニエスはいぶかしんでウェザーと容器を交互に見た。 「俺の故郷じゃレディーファーストは基本なのさ」 レディーと言われて複雑な表情をしながらもアニエスはそれを受け取って口に運んだ。しかしその時、 「ギーッシュ!」 モンモランシーが叫びながら走ってきた。額に汗なんぞ浮かべてかなり必死で走ってくる。 「モンモランシーじゃないか。今迎えに行こうと思っていた所なんだよ。それとも、一人にしたのが寂しかった―――」 「そんなことよりアレは?ジュースは?」 そんなこと呼ばわりされたギーシュは項垂れながらもアニエスを指差した。慌ててモンモランシーが容器をひったくる。が、 「ああああああああ!」 すでに中身は空だった。飲んでしまったアニエスはと言うと、 「なんだ、飲んだらダメなものだったんじゃないか・・・・・・んあ?」 ウェザーを見上げた瞬間、アニエスの感情が変化した。 アニエスはウェザーのことを、王族の信頼を得るほどの凄腕の戦士と見ていた。とある事情で異性を気にする余裕はなかったアニエスである。 しかし今ウェザーを見た瞬間、今まで感じたことのない感情が溢れ、どうにかしなければ堪えきれない程になっていた。そして体は本能に忠実だった。 ぼふっ。 柔らかい音に今度はウェザーに視線が集まる。そこには―――― 「好きだ!」 「な、何だってェーッ!」 幸せそうにウェザーに抱きつくアニエスの姿があった。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9140.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十六話「トリスタニアの奇跡」 地獄星人ヒッポリト星人 暴君怪獣タイラント 宇宙大怪獣アストロモンス 宇宙大怪獣改造ベムスター 光熱怪獣キーラ 宇宙スパーク大怪獣バゾブ 登場 トリステイン女王アンリエッタの、突然の失踪。それは内通者リッシュモンをあぶり出すために 仕掛けた、アンリエッタの罠であった。しかしリッシュモンは既にヒッポリト星人に魂を売り渡しており、 卑劣にも故郷トリステインを焼き払うためにネオパンドンを呼び出した。その危機に立ち向かったのは、 我らがウルトラマンゼロ。彼は改造により戦闘力が上昇したネオパンドンをも打ち倒した。 しかし、ヒッポリト星人の計画はそこで終わりではなかったのだ。ネオパンドンを倒したばかりのゼロに、 タイラントを筆頭とした宇宙大怪獣軍団が襲い掛かる。ゼロの窮地にウルティメイトフォースゼロが 駆けつけたのだが、それこそがヒッポリト星人の狙い。ウルティメイトフォースゼロは隙を突かれ、 全員ヒッポリトカプセルの中に閉じ込められてしまった! このままではゼロたちがブロンズ像に変えられ、トリステインは壊滅してしまう。これを救えるのは ルイズだけだが、そのルイズにも、侵略者の手先となり果てたリッシュモンの魔の手が伸びていた。 危うし、ルイズ! 『グワハハハハハ! 怪獣どもよ、もっと暴れろぉ! 街を地獄に変えるのだぁーッ!』 ヒッポリト星人の命令により、五大怪獣がトリスタニアで大暴れする。 「キイイイイィィィィッ!」 ウルティメイトフォースゼロが閉じ込められて手が出せないのをいいことに、タイラントは 口から爆炎を吐き、家々を片っ端から爆破、炎上させる。 「くそッ! やめろぉッ!」 「キュイイイイイイ!」 怪獣たちの猛威をどうにか食い止めようと奮闘している魔法衛士隊だったが、キーラが彼らに閃光を浴びせる。 「うわああああ―――――――!?」 騎士と飛竜、どちらも視界を潰され、大多数の騎士が落とされてしまった。 「カ―――ギ―――――!」 竜騎士たちが羽虫のようにボトボトと落ちる様を背景に、改造ベムスターは腹の口で家屋をもぎ取り、 そのまま呑み込んだ。ベムスターは腹の口で、どんなものでも捕食してしまうのだ。 「キイイィィィ!」 アストロモンスは花より消化液を噴出し、街の一画をドロドロに溶かす。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 バゾブは電撃光線で、広範囲を一気に焼き払った。 「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!」 「助けてぇぇぇぇぇぇぇッ!」 「ト、トリステインはもう駄目なのか!?」 人々は怪獣の猛威になす術なく、逃げ惑うばかり。だが五体もの怪獣に追い回されて、 どこまで逃げられるだろうか。どんどん逃げ場はなくなっていく。 『くっそぉッ! あんな奴らの好きにさせたままだなんて! このッ! このぉッ!』 ゼロは人々を踏みにじる邪悪なヒッポリト星人の軍団と、あっさりと罠に嵌まって無力化された 不甲斐ない自分への怒りをカプセルにぶつけるが、やはりヒッポリトカプセルが壊れる気配は 微塵もなかった。そうしている内にも、ヒッポリトタールによって身体が徐々に固まっていく。 焦るグレンファイヤーたち。 『や、やべぇッ! このまんまじゃ、みんなお陀仏だぜ! くっそぉ、またブロンズ像化は嫌だぞッ!』 『しかし……最早打つ手がありません……!』 『くッ! 万事休すか……!?』 『無駄だ無駄だぁッ! お前たちに出来ることは、もう死ぬことだけなのだぁッ! フハハハハハハハッ!』 必死にあがくゼロたちを、ヒッポリト星人が余裕綽々の態度で嘲笑した。 「くッ……もう時間が……!」 地上からルイズが、だんだんと固められていくゼロたちを見上げて、彼らと同じように焦燥していた。 しかし目の前のリッシュモンが杖を向けていては、彼らを助けられない。 「無駄な抵抗をするな。私としても、女子供を無用に痛めつけたくはない」 うそぶくリッシュモンに、ルイズは鋭い視線を飛ばす。 「リッシュモン! 貴族の誇りを捨て、祖国を裏切って、恥ずかしいと思わないの!? 曲がりなりにも 上流貴族でしょう!」 と非難するも、リッシュモンは鼻で笑うばかり。 「フフフ、実に子供らしい青臭い台詞だな。誇りと愛国心で財産を得られ、甘い蜜が吸えるのならば、 私もそうしようではないか」 「……貴族の風上にも置けない下衆ねッ……!」 嫌悪感を剥き出しにするルイズだが、だからと何かが出来る訳ではない。呪文が長い『虚無』の魔法では、 既に呪文を完成させているリッシュモンにどうあがいても速さで勝てない。 (トリステインもわたしも、ゼロたちも、サイトも……こんなところで終わりなの!?) 絶望感に目の前が暗くなりかけた、その時のことである。 突然上から、誰かが自分とリッシュモンの間に降り立ち、リッシュモンに銃を向けた。 すぐ側の家の窓から飛び降りてきたようだ。 この事態に、リッシュモンのみならずルイズも驚く。 「えッ!?」 「ラ・ヴァリエール殿。早くお逃げを」 リッシュモンから目を離さないまま、ルイズを助けに入った、アニエスがそう告げた。 我に返ったルイズは、すぐにその言葉に従った。 「ありがとうッ!」 短く礼を告げて、全速力でリッシュモンと反対方向、ゼロたちの方へと走っていった。 リッシュモンは忌々しくアニエスをにらみつける。 「貴様か……。余計な真似を」 リッシュモンは既にアニエスと顔を合わせていた。彼女が平民であることはもう知っている。 そのため、最初から舐めて掛かっていた。 「どけ。私には、貴様を殺す手間を掛ける暇もないのだ。私は既に魔法を解放するだけだし、 銃などこの距離ならば当たらぬぞ。とっとと去ねい。平民が、命を捨ててまでアンリエッタに 忠誠を誓う義理などあるまい」 ゴミを見るような目で脅しを掛けるが、アニエスは一歩も動かない。逆に、目に憎悪を宿して リッシュモンをにらみ返した。 「私が貴様を殺すのは、陛下への忠誠からではない。私怨だ」 「私怨?」 「ダングルテール」 そのひと言だけで、リッシュモンは理解したようだった。下卑た笑みを浮かべる。 「貴様、あの村の生き残りだったか!」 アニエスは唇をぎりっと噛み締めた。唇が切れて血が流れる。 「ロマリアの異端諮問“異教徒狩り”。貴様がわが故郷が“新教徒”というだけで反乱をでっちあげ、 今この時と同じように踏み潰した。その見返りにロマリアの宗教庁からいくらもらった?」 リッシュモンは唇を吊り上げた。 「金額を聞いてどうする? 賄賂の額などいちいち覚えておらぬわ」 「金しか信じておらぬのか。侵略者につけ込まれるのももっともな、あさましい男よ」 「お前が神を信じることと、私が金を愛すること、いかほどの違いがあると言うのだ? お前が死んだ肉親を 未練たっぷりに慕うことと、私が金を慕うこと、どれだけの違いがあると言うのだ?」 「殺してやる。貯めた金は、地獄で使え」 「お前ごときに貴族の技を使うのはもったいないが……、これも運命かね」 リッシュモンが呪文を解放し、杖の先から火の球がアニエスへと飛ぶ。それに対し、アニエスは……銃を投げ捨てた。 「なに?」 マントを翻して火の球を受ける。マントは一瞬で燃え尽きたが、中に仕込まれた水袋が蒸発して 火の球の威力をそいだ。だが消滅はせず、アニエスにぶつかる。 「うぉおおおおおおおおおおおッ!」 しかしアニエスは耐え、リッシュモンへ突進し続けた。そして剣を抜き放ち、リッシュモンの懐に飛び込む。 「うお……」 リッシュモンの口からは、呪文の代わりに鮮血があふれた。胸に剣が刺さり、背中から刃が飛び出ていた。 「メ……、メイジが平民ごときに……、この貴族のわたしが……、こんなおもちゃに……」 「……これはおもちゃではない」 リッシュモンから剣を引き抜くアニエス。貫通して出来た穴から、血液がごぼっとあふれ出た。 「剣は“武器”だ。我らが貴様ら貴族にせめて一かみと、磨いた牙だ」 リッシュモンの身体が崩れ落ちる。アニエスは深い火傷を負った身体を強靭な精神で支え、 死体を冷ややかに見下ろした。 アニエスがリッシュモンに裁きを下したのと前後して、彼女に助けられたルイズは改めて呪文を唱え、 ゼロたちを捕らえるカプセルへ解き放った。 「『爆発』!」 途端に四つのカプセルが閃光に呑まれた。それを目の当たりにして、ヒッポリト星人は言葉を失う。 『な、何ぃッ!? この光は……!』 光が収まると、カプセルは全て消え去り、タールも落ちたウルティメイトフォースゼロの四人が、 街の中に立っていた。青いカラータイマーを胸に光らせるゼロが、ヒッポリト星人を指差す。 『残念だったな、ヒッポリト星人……勝負はここからだぜッ!』 『ふぃ~! せまっ苦しかったぜッ!』 グレンファイヤーが肩をグルグル回して身体をほぐした。 『おのれぇ、しくじったな! やはり人間なんぞを頼ったのが間違いだった!』 一方、用意周到な作戦を破られたヒッポリト星人は激しく悔しがり、街を破壊している怪獣たちを呼び戻す。 『怪獣たちよ、早く集まれ! こうなったら総力戦だッ! 叩き潰してやるッ!』 「キイイイイィィィィッ!」 「キュイイイイイイ!」 「カ―――ギ―――――!」 「キイイィィィ!」 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 命令するヒッポリト星人の前に五大怪獣が並び、ウルティメイトフォースゼロに突撃していく。 『望むところだ! みんな、行くぜぇーッ!』 『うおおぉぉー!』 ウルティメイトフォースゼロも雄叫びを上げ、怪獣軍団と再度激突した! ゼロたちと怪獣軍団の激突を、マンティコアにまたがる魔法衛士隊隊長ド・ゼッサールは 苦々しく見守っていた。 「結局はこうなるのか……。やはり我々は、無力な存在なのか……」 ゼロたちの奇跡の復活を喜ぶ反面、本来国を守る役目を担う自分たちが怪獣に歯が立たず、 助けられてばかりというのは胸が苦しい思いだ。しかし現実として、自分たちに出来ることはない……。 思い詰めていると、一人の竜騎士が慌ただしくゼッサールの元に飛んできて、次のことを告げた。 「報告します! 王立魔法研究所(アカデミー)で開発中だった、対怪獣用兵器が完成したとのこと! また、その使用許可も下りました!」 「何!? 遂に完成したのか!」 驚くゼッサール。アカデミーはその名の通り、トリステインの魔法研究施設で、現在は相次ぐ 怪獣被害に対抗するための新兵器開発を推し進めていた。それがとうとう完成し、しかもすぐに使えるという。 それを知ると、気を落としていたゼッサールは、たちまちの内に士気を盛り返した。 「分かった! ハルケギニアは、我々人類の手で守らねばならん! すぐに使用しよう! 何回使える?」 「残念ながら、怪獣一体分が限度とのことです」 「それで十分だ。では……」 空から戦場の様子を見下ろすゼッサール。 「キイイイイィィィィッ!」 「カ―――ギ―――――!」 『うおぉぉッ!』 タイラントと改造ベムスターがゼロの前後から、腹からの冷凍ガスと光線を食らわせていた。 さすがのゼロも、挟み撃ちにされて手を焼いている。それを援護するのが最も良いと、 ゼッサールは瞬時に判断した。 「あの平たい怪獣に狙いを絞るぞ! 総員、集合せよ!」 まだ飛んでいる騎士を集めたゼッサールは、二つの新兵器の仕様を聞き出し、即座に作戦を打ち立てた。 その手筈を、全員にしっかりと伝える。 「まずは怪獣の動きを止めるところからだ。この役目は、私が引き受ける」 「隊長自ら!? 危険です!」 一人の騎士が泡を食って止めに掛かったが、ゼッサールは不敵に笑ってそれをさえぎった。 「我々が、これまで暴威を振るってきた怪獣に反旗を示す栄誉ある一番槍を、お前たち若造に 譲ってやる訳にはいかんな。……何、命だけは拾って帰るさ」 ゼッサールの言葉は、半分は本当だった。一番危険な役目を部下に任せられないという気持ちもあるが、 今度の新兵器と作戦は、平民が貴族に対抗する牙として「剣」を磨いたように、怪獣に対抗するための 自分たちの牙なのだ。それを自身の手で成功させたい。人類が決して無力な存在ではないことを、この身で示すのだ! 「万事ぬかるんじゃないぞ! では、作戦開始!」 指示を出し、ゼッサールはマンティコアを駆って改造ベムスターの頭上へ慎重に移動した。 相手がこちらに気づかない内に……その顔面に飛び移る! 「とうッ!」 命を省みない、捨て身の作戦。しかしその甲斐あり、改造ベムスターの眼球の真下に張りつくことが出来た。 そして『エア・ニードル』の呪文で、相手の下まぶたの内側を切り裂く! 「カ―――ギ―――――!!」 たちまち黄色い血が噴水のように噴き出し、改造ベムスターは激痛に耐え切れずにゼロの背後から離れた。 あらゆる攻撃を受け止める驚異の防御力を持つ怪獣といえども、身体の全てが固い訳ではない。 特に、普通ならまず攻撃が当たらないまぶたの裏はブヨブヨ。普通の刃物でも切り裂くことが出来る。 狙うのは当然非常に危険だが、その効果は十分にあった。 血が片方の目玉にベッタリ付着して、遠近感を失った改造ベムスターは立ち尽くす。そこにすかさず、 作戦の第二段階が発動した。 「怪獣め! この特製火石をたっぷりと味わえ!」 竜騎士二人が、人工的に作った巨大火石を抱え上げて、改造ベムスターへと接近していく。 これは大量の火石を、何人ものスクウェアクラスメイジが数日間休まずに作業して、一つにしたもの。 莫大な火力が石の中に眠っている、最早火石ではなく強力な「エネルギー爆弾」だ。一つ作るだけでも 手間と人員が掛かりすぎるので、人間の戦争に利用できるものではないが、怪獣相手の切り札には十分に使える。 改造ベムスターが腹から家屋を呑み込んだので、腹が口だということは理解している。 竜騎士たちは、腹の口にエネルギー爆弾を放り込んだ。 「カ―――ギ―――――!」 何でも食らうベムスターだが、爆弾のエネルギーが大きすぎるため、吸収に手間取る。 そして魔法衛士隊は、とうとう作戦の最終段階に移行した。 「これで、とどめだッ!」 ゼッサールを部下が救助すると、四匹の飛竜が改造ベムスターの正面に回った。飛龍は、金色の巨大な大砲を 吊り下げている。これこそが本命の新兵器。トリステインの魔法技術の粋を集めて作り出した、ハルケギニア史上初の光線砲である。 トリステインは、侵略者の脅威の科学力と兵器を逆利用できないものかとずっと考えていた。 そこで、ゼロたちが撃破した円盤やロボットの残骸を密かに回収し、研究していたのだ。 だが現実は甘くなく、宇宙人の科学の産物の仕組みは全く理解できなかった。しかし始祖ブリミルは、 完全に見放してはいなかったらしい。唯一キングジョーに搭載されていたビーム砲が生きていて、 連日に亘る錬金による、杖に血がにじむような努力が実って、制御することに成功したのだ。 それがこの光線砲。名前は、キングジョーから取り、『キング砲』だ! 「行くぞ! キング砲、発射ぁッ!」 竜騎士の魔法がスイッチとなり、キング砲から稲妻状の光線が発射された。光線は改造ベムスターの 腹の中の、エネルギー爆弾に命中する。 瞬時に発生する、壮絶な爆発! 改造ベムスターは身体の内側からの熱と衝撃に耐えられず、 木端微塵に吹っ飛んだ! 「やった、成功だ……! やったぞぉぉぉぉー!」 その光景を目にして、ゼッサールは大歓声を上げた。自分たちが、初めてウルトラマンたちの 手も借りずに、怪獣を撃破したのだ。 だが、仕組みを理解している訳ではないキング砲を使用できるのは、たった一回きり。 残りの怪獣たちは、ゼロたちに任せることとした。 『うおぉッ! すげぇ! 人間が大怪獣をやっつけたぜ!』 アストロモンスを抑えていたグレンファイヤーが、改造ベムスターが撃破されるところを 目撃して歓声を上げた。 『よっしゃ! 俺も負けてらんねぇぜ! うらぁぁッ!』 「キイイィィィ!」 相手の鞭の振り下ろしを受け止め、顔面にパンチを決める。アストロモンスはフラフラと後退した。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『むうぅッ……!』 その一方で、ジャンボットはバゾブの磁界で動きを制限されたところに、電撃光線を食らってよろめいた。 『焼き鳥、大丈夫か!? 代わろうか?』 『私はジャンボットだ! それに、その必要はない……』 『必要はないってお前、相性最悪じゃんか……』 心配するグレンファイヤーだが、ジャンボットはそれを振り払うように告げる。 『この星の人間が諦めずに戦っているのだ。私も、この程度で根を上げていられん! 見ていろッ!』 ジャンボットが突然、ブースターから火を噴いて大空に飛び上がった。バゾブは思わず目で追って見上げる。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 飛び上がったジャンボットはバトルアックスを構えると、バゾブの頭上からまっさかさまに 落下を開始した! 目を見張ったバゾブが逃げようとしたが、その時にはもう遅く、 ジャンボットは頭のすぐ上へと迫っていた。 機械の動きを止めるバゾブの電磁波だが、自由落下してくる物体を止めることは出来ない。 50メイルの質量のロボットの激突と、それに伴うバトルアックスの斬撃を食らったバゾブは、 頭頂部から真っ二つにされて爆散した。 『ふッ……ざっとこんなものだ』 『おおぉぉッ! お前も随分と無茶なことするなぁ焼き鳥』 『私の名前はジャンボットだと言っているだろう!』 戦闘中まで相変わらずのやり取りをしたグレンファイヤーの背後から、アストロモンスが鞭を振るう。 しかしそれを気取っていたグレンファイヤーは、その鞭をはっしと掴んだ。 『うらぁぁぁぁ―――――――!』 「キイイィィィ!」 そして豪力を発揮して、鞭ごとアストロモンスをハンマーのように振り回して投げ飛ばした。 放物線を描いて落下するアストロモンスへと駆けていくグレンファイヤー。 『ファイヤースティィック!』 炎の如意棒を出すと、頭から落ちてくるアストロモンスの花の中央にファイヤースティックを突き刺した。 それによってアストロモンスは火炎に包まれ、爆発四散した。 『うっしゃあッ! こっちもいっちょ上がりだぜ!』 怪獣を撃破したグレンファイヤーは、頭をかき上げて炎を燃え上がらせた。 『シルバークロス!』 「キュイイイイイイ!」 ミラーナイトはキーラにシルバークロスを当てたが、スペシウム光線も易々と受け止めるキーラの甲殻は、 シルバークロスでも傷一つつかなかった。そしてキーラは、まぶたを閉じて閃光発射の構えを取る。 『! はぁッ!』 ミラーナイトは、キーラが目を開けるタイミングに合わせて、自分の前面に巨大鏡を作り上げた。 「キュイイイイイイ!?」 閃光は鏡によって跳ね返り、キーラは自身の目が潰された。そして大きくひるんだキーラに、 ミラーナイトがミラーナイフを放つ。 『やッ!』 ミラーナイフは動きを止めたキーラの、わずかな甲殻の隙間に見事突き刺さった。全身にミラーナイフを 食らったキーラはダランと腕を垂らし、後ろに倒れ込んで爆散した。 『鏡作りが得意な私に、光で挑んだのが間違いでしたね』 ミラーナイトは肩をすくめて、息絶えたキーラに告げた。 「キイイイイィィィィッ!」 『うおらッ! ……くッ! しぶといな!』 最後に残った怪獣はタイラントだ。だが超獣ハンザギランの不死身に近い生命力を受け継いだタイラントは、 ストロングコロナゼロの打撃を何発も食らっても応えた様子がなかった。あらゆる怪獣の優れた点を併せ持つ 恐るべき合体怪獣を、ゼロはどうやって攻略するのか。 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントは再びゼロの首を締めようと、フックつきロープを飛ばす。 『同じ手食らうかよ!』 だがその攻撃を見切っていたゼロは、ロープをはっしと掴んだ。 この時、ゼロに名案が浮かぶ。 『この手で行くぜ! ぜあぁッ!』 早速作戦を実行するゼロ。額からエメリウムスラッシュを発射して、掴んだロープを焼き切る。 「キイイイイィィィィッ!」 引っ張っていたロープがいきなり切れたことで、タイラントはバランスを崩して背後に倒れ込んだ。 相手が起き上がらない内に、ゼロはルナミラクルへと再変身した。 『行くぜ! ウルトラゼロランスだぁッ!』 フックを掲げたゼロは、ルナミラクルの超能力とブレスレットの力により、それをウルトラゼロランスに変えた。 そして、タイラントへと投擲! フックを変えたランスには、タイラントのパワーが上乗せさせる形で宿っている。そのパワーが、 タイラントの生命力を相殺する! 「キイイイイィィィィッ!」 ランスが腹部に深々と突き刺さったタイラントは、大爆発を起こして塵も残さず消え去った。 『なッ!? ば、馬鹿な! 私が選りすぐった大怪獣軍団が、全滅だとぉ!?』 怪獣たちを全て失ったヒッポリト星人は大いに動揺する。その彼に、通常状態に戻ったゼロが 指を向けて言い放った。 『残るはお前だけだ! もう観念しろ! 人間を舐め切ったテメェの負けだぜ!』 高々と告げるも、ヒッポリト星人は負けを認めず、逆上した。 『黙れぇッ! この偉大なるヒッポリト星人が、貴様ら如きに敗北するはずがないッ!』 頭部の突起や両眼、両手などあらゆる箇所からビーム、ミサイルを乱射して、ウルティメイトフォースゼロを 狙い撃ちにする。 『うおおぉぉぉッ!』 『くッ! あくまで悪あがきしますか……!』 『見苦しいぜッ!』 ゼロたちは弾幕によって動きを縛りつけられる。しかしここに来てヒッポリト星人は、 人間の力を度外視していた。 「これで最後だ! 十文字作戦ッ! あの突起を狙うんだ!」 魔法衛士隊が残った力を出し切って、頭頂部の突起に十字砲火を浴びせた。 「キョオオオオオオオオ!」 発光部に魔法の集中攻撃を食らったヒッポリト星人が麻痺した。その隙に、ウルティメイトフォースゼロの 一斉攻撃が放たれる! 「シャッ! シェアァッ!」 『シルバークロス!』 『ビームエメラルド!』 『グレンスパァーク!』 ワイドゼロショットを始めとした、四人の必殺技が命中。ヒッポリト星人は跡形もなく木端微塵になった。 「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!」 怪獣軍団の首魁を倒したことで、ハルケギニア中の人々が割れんばかりの歓声を発した。 魔法衛士隊には、ゼロたちが大きく手を振る。 「隊長、見て下さい! あれはきっと、私たちへの感謝と友好の印ですよ!」 「うむ……我々はとうとう成し遂げたのだ。彼らと戦場で並び立つことを……!」 ド・ゼッサール隊長を始めとした魔法衛士隊は、胸がいっぱいになっていた。 「姫さま!」 「ルイズ! 無事でしたか!」 アンリエッタを見つけて、駆けつけたルイズは、弾んだ声で彼女に尋ねる。 「姫さま、ご覧になりましたか? 大勝利です! それだけじゃない。トリステインの騎士が、 怪獣を討ち取りました!」 「ええ、ええ。よく見ていましたとも」 二人も、大勢の人間と同じように、人間が怪獣から勝利をもぎ取ったことに歓喜で打ち震えていた。 アンリエッタは、小さくつぶやく。 「わたくしたちは、無力ではなかった。グレン、見ていてくれましたか……」 そしてルイズは、アンリエッタたちを先ほど助けてもらったアニエスのところへ案内し出した。 ハルケギニアの人間が、長きに亘る苦難の果てに、ウルトラマンゼロたちと肩を並べて戦い、 大怪獣と侵略者に勝利したこの戦いは後に、『トリスタニアの奇跡』と称されることになるのである。 その奇跡に街中が湧く中で、アニエスは傷ついた身体を抱えていた。彼女だけは、他の人間と異なり、 その目に憎悪をたぎらせたままであった。 「……ここで、死んでたまるか。まだ、実行犯が残っている……!」 ダングルテール虐殺の計画者、リッシュモンは討った。しかし、虐殺の実行犯がまだどこかに 生きているはずだ。それを抹殺して、ようやく復讐は完遂される。 アニエスは暗い情熱の力により、その身体を支えていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6587.html
前ページ次ページゼロの花嫁 彼方に響く、剣撃の音。 ちゃんちゃんばらばらと賑やかな早朝、最近はそこに歌まで加わり大層騒々しい訓練となっている。 早朝のランニングにて山奥まで駆け、巨岩が転がる水辺にて訓練開始。 燦の英雄の詩を聞いているルイズさんの表情も、ようやく硬さが取れ、単に精神が異常高揚するだけとなっていた。 その被害でか、そこらの巨岩は半分以上粉々に砕かれていたりするのだが。 朝の訓練が一通り済んだルイズは、汗だくでべたーっとだらしなく地面に寝そべっている。 「……ちょっと、今日は無理しすぎたかも」 同じく、衣服が肌に張り付いてしまう程の汗をかきながら、近くのちょうどよい岩に座る燦。 「ルイズちゃん、新しい剣もらってから毎日それ言うてる」 「歌止めてもしばらく余波で気分盛り上がっちゃってるんだもの。やっぱその歌凶悪だわ」 しみじみと述懐するのは、岩に立てかけてあるデルフリンガーだ。 「ルイズも随分と人間離れしちまったなあ。お前さん何処までぶっちぎるつもりだよ、下手すりゃブリミルにだって負けないだろそれ」 荒い息でありながら、ルイズは表情を引き締める。 「冗談、英雄の詩に頼ってるようじゃ真の強さとは言えないわ。最強への道のりは遠く険しいのよ」 「……さいでございやすか」 今では恐くて娘っこ何てとても言えないデルフリンガーは、つっこむのも面倒なのかそれ以上何も言わない。 「何でだろうな、すんげえむかーーーーーーーーしに前の使い手と色んな所旅して回った時を思い出したよ。連中もやたらトラブルに見舞われてたっけな」 デルフの自分語りが珍しいのか、燦が興味深げに話を促すと、デルフはぽつぽつと語り出す。 「前のガンダールブが俺っちを使ってた時の話さ。今みたいに色んな事が纏まってやしない頃、騒々しいが、賑やかな時代だったな……ってそうだ! 忘れてた!」 「ん? どうしたん?」 「俺随分前に、ヘボ剣士に使われるのが嫌で体中錆だらけにしたんだっけか! そうだよ! 相棒が氷の魔法打ち返した時、何か変だなーって思ってたんだが、良く考えたら俺魔法吸収出来んじゃん!」 聞き逃せない話にルイズが口を挟む。 「前のガンダールブ? それって始祖ブリミルの使い魔の話じゃないの?」 「そうだよ。言ってなかったっけか」 「……アンタどんだけ長生きなのよ」 更なるルイズのつっこみと脅しにより、デルフは本来の輝く姿を取り戻す。 始祖ブリミルの勇姿にも興味があったルイズであったが、デルフはその頃の事をほとんど覚えていなかった。 「はっはっは、数千年分の記憶とかお前覚えてられるか?」 ふざけるなと怒りかけたルイズであったが、デルフのこの言葉には納得するしかない。 何時もの事ながら節々がびっきびきに痛むのを無視してルイズは立ち上がる。 そろそろ戻らないと授業に遅れてしまうからとそうしたのだが、立ち上がり少し遠間が見えるようになったルイズの視界に、一頭の馬の姿が映る。 「あら……あれは、シエスタ? いや、丈の長いスカートで馬に乗るのは止めた方がいいと思うんだけど……」 うまい事鞍との間で挟んでいる前側はさておき、後ろ側はスカートの裾がわっさわっさと派手にたなびいている。 そんな様子からも見て取れるように、とても焦った様子でシエスタはルイズ達の下へと辿り着く。 「申し訳ありませんでした!」 馬から飛び降りるなり、開口一番頭を下げる。 ルイズ達が学院に戻るより、随分と遅れての帰還を詫びているのだ。 主人より遅れるなどメイドのありようとして、あまり褒められたものでもないが、そもそも予定より早く戻って来たルイズが悪いといえば悪い。 母相手の大立ち回りで、ちょびっと実家に居ずらくなったせいなのは、キュルケ達にすら秘密なのである。 そのキュルケも必要な物が揃うなりとっとと戻って来てしまっているしで、シエスタもメイドとして立場が無い。 ルイズは恐縮するシエスタを笑って許しつつ、ちょうどいいからと馬に乗ってペースメイカーをやるよう命じる。 後にシエスタは語る。 「あれは生き地獄と同義です。悪意は無いのでしょうけど、お仕えする者としてこんな心苦しい話はありません」 シエスタが馬に乗り、ルイズと燦がその後を走る。 汗をだっくだくに流し、必死の形相で主が走っているのに、従者たるシエスタは楽々と馬を走らせているだけなのだ。 例えルイズがぶっ倒れようとも、決して走る速度を変えてはならない。 そんな冷酷無比な命令を受け、半泣きになりながらシエスタは馬に跨る。 そして同じく従者たる使い魔燦が又鬼なのだ。 「ペース落ちてるで! もっと膝を上げて! 腕の振りが足りん! 限界の一つや二つ、笑いながら越えたらんかい!」 サンも熱くなると、すぐこうだから…… いっそ代われと言ってくれた方が楽です。あっと言う間に倒れるだろうけど。 走りながら、言われる通り無理矢理笑顔を作るルイズ様は、もう、何というか見てられません。 私は誓いました。もう二度とルイズ様の訓練には関わるまいと。 学院に戻った所で、前後もわからぬ程に疲れ臥すルイズ様をさておき、私はサンと少しお話をしました。 実家にあった石碑に刻まれた文字をサンに見せると、サンは、ああこれはな、と事も無げに読んでしまいました。 やはり私の考えは正しかったのです。 違う世界からやって来たと言っていた曾おじいさんの話をすると、サンは驚き、あろう事か「実は私もそうなんよ」とあっさりと言ってくれます。 「あーっと、これ内緒じゃった。ごめんシエスタちゃん、内緒って事にしといて」 そんな大層な秘密をあっさりさっくり使用人に漏らさないで下さい。私にも立場ってものがですね。 「……いや、内緒にしといてじゃないでしょ。サン、貴女まさかその調子で他の事もべらべら話して無いわよね」 これが一番びっくりしました。 声も出せない程に疲労し、医者を呼ぼうとまで思っていた(サンが何時もの事と言うので諦めた)ルイズ様が、まだ息は荒いままですが、何時の間にか回復して側に立っていました。 「あ、あはは。大丈夫じゃて、私口は堅い方じゃから」 硬いとかぬかす口は、一体どの口でしょう。 ルイズ様もサンのそんな様子には慣れっこなのか、軽く嘆息すると私に問いかけます。 「その曾おじいさんの話、少し詳しく聞かせてちょうだい。もしかしたら、サンを元の世界に戻してあげるヒントがあるかもしれないわ」 問われるままに答えると、ルイズ様の目が鋭さを増しました。ちょっと、というか、凄く、恐い、かも、です。 今日は授業は休み、と一方的に宣言し、ミスタ・コルベールとキュルケ様、タバサ様を呼びに行くよう申し付けられました。 わ、私何か大きな失敗でもしたのでしょうか……。 え? 皆様の呼び方が変わっている理由ですか? これは私のケジメみたいなものです。 私の忠義は家名にではなくあの方々個人に対するもの。だから、そう断って以後はお名前で呼ばせていただいております。 例え如何なる事があろうとも、ルイズ様、キュルケ様、タバサ様に生涯お仕えする、そう心に決めた証でございます。 何時もの四人にシエスタ、コルベールを交えた話し合いは続く。 結論として、シエスタの曽祖父が口にしていた数々の話は、燦の居た国の過去の話であり、時間差を計算してもほぼ歴史は一致する。 曽祖父は結局元の世界には戻れずじまいであったが、召喚のゲート以外でこちらに来たという話は調査の価値がある、とコルベールは言う。 竜の羽衣の外見にしても、おそらく燦の世界にあった飛行機と呼ばれるものであろうという所まで話は進んだが、これ以上は現地での調査を要するとなる。 早速行こうと言うルイズ達であったが、これを止めたのはコルベールだ。 「君達、幾らなんでも授業出なさすぎだ。自主学習分で進度が遅れているとは言わないが、これ以上学生たる本分を蔑ろにしてはいかん」 全員一言も無いわけで。 それでもコルベールは燦の件に関し、召喚の儀での責任者であったという事を気にしてか、以降は私が調査しようと言ってきた。 流石にそこまでは、と言って断るルイズであったが、コルベールは自信満々で、私に任せたまえと言って強引に引き受ける。 オールドオスマンから問題児達の担当を外すと言われた事が、この件に影響してるか否かは当のコルベール自身にしかわからぬであろう。 常に無く自己主張するコルベールに、ならばとルイズはシエスタを預け、調査行を依頼する事にした。 ルイズは最後に、シエスタの両肩に手を置く。 「私はどうしてもサンを元の世界に帰してあげなきゃならないの。どうか、貴女の力を貸してちょうだいシエスタ」 シエスタは、例え地獄の業火に焼き尽くされようと、使命果たして御覧に入れます。と決意を口にした。 横からキュルケが笑って言った。 「地獄の業火がどんなものか知らないけど、火に燃やされるって洒落にならないぐらいキツイから止めといた方がいいわよ」 何処ぞのグリフォン隊隊長殿も、心から頷くであろう言葉であった。 「師匠! 師匠と呼ばせてくだせえ!」 賭場を出た後、鍛冶屋の男はタバサに土下座して前非を詫びる。 学生ごときに博打の何たるかがわかるもんかい、そう馬鹿にしていたのだが、いざ賭場に出てみると男の負け分を吸収しきって尚浮きがあるほどの大勝利をタバサはやって見せた。 「あれは壷振りが手加減してた」 最後まで良くわからないといった顔をしていたキュルケがタバサに聞き返す。 「手加減?」 「平民を守った英雄、そんなキュルケの連れである私に壷振りが配慮してた。最初に言ってた通り、英雄から金は取れないって事だと思う」 「……それって壷振ってる人が出目を操れるって事?」 「それが出来なきゃ壷振りはやれない。その上で壷振りは客の張りを予想して目を出す。その読みをいかに外すかが本来のサイコロ賭博」 はー、そーなんだー、的な顔をしているキュルケ。 モット伯晒し者事件の影響はこんな所にも出ていた。 モット伯が人を集めているという情報を確認する為鍛冶屋の男を頼ったのだが、なら付き合えと賭場まで付き合わされたのだ。 妙に乗り気なタバサと共に賭場に入ると、目ざとい人間がキュルケの顔を見て件のメイジだと気付いた。 おかげで賭場の責任者がわざわざ頭を下げに来るぐらい丁重に扱われたキュルケは、平民の遊びも悪くないわね、とちょっと良い気分であった。 タバサの勝ちと男の負けでトータルすると、大体豪勢な夕食を楽しめる程度に勝っている。 金額まできっちりコントロール出来るなんて、ちょっと見ない程に見事な腕だったと、壷振りを賞賛するタバサ。 一行は男の馴染みの店で祝杯を挙げる。 男は大き目のジョッキに、並々注いだ酒を一息にあおる。 「まあ事情はわかった。んでもさっき見てわかる通りだ、トリスタニアで今ルイズ様やキュルケ様にケンカ売るような罰当たりはちょっと想像つかねえな」 外れか、と落胆する二人であったが、男は続ける。 「だがまあ、何処の街でもどうしようもねえ悪党ってな居るもんでな。流石の俺様もそういった仁義もクソもねえ連中との付き合いはごめん被るって話で、つまり、そいつらの話となると俺にも解らねえ訳よ」 結局の所、実のある話を聞く事は出来なかった。 だが、男は最後に笑って言った。 「今のトリスタニアで無法行為なんぞ出来る訳ぁねえんだよ。それがわかってねえ馬鹿共がまだ居るらしいが、遠からずそいつらもみんなまとめてお縄だろうさ」 タバサが怪訝そうな顔をしている事に気付いた男が告げる。 「ワルド様率いる鬼みてえな捜査部が睨みきかせてんだ。トリスタニアの主だった連中はみんなとっくの昔に抑えられてる。今平民の間で、特に法を犯してる連中にゃ最も恐れられてるお方さ」 ただ悪党を潰すのではなく、その後の利益移動や物流、人の流れまでを考えて動く捜査部のやり方は、強引すぎる手法でありながら、平民達からは広く受け入れられていた。 「他のどんな貴族でも出来なかった事をさらっとやってのけちまうんだ。天才だぜ、ワルド様は。ははっ、トリステインの未来は明るいぜ、全くよお」 帰り道、タバサの使い魔シルフィードに二人で乗りながら、素直にルイズ経由でワルド子爵を頼ろうという事で話は纏まった。 そして残った時間はというと…… 「ようやく話せるようになったのね! キュルケはきっとおしゃべり大好きだから、話すの楽しみにしてたの!」 きゅいきゅい騒ぐシルフィードの相手で全てを費やしてしまう。 タバサからシルフィードは実は風韻竜であると打ち明けられた。 超貴重な種であり、騒ぎになるのが嫌だったからと秘密にしていたのだが、これ以上欠片も秘密を持ちたくないというタバサの意向により、キュルケ、ルイズ、燦はこれを知る事となった。 「……相当我慢してたみたいね」 「……うん」 何を言おうと全然聞く耳持たず、いつまでも騒ぎ続けるシルフィードに閉口しながらも、二人は風情のある夜空の散歩を楽しんでいた。 ルイズからもたらされた情報が決定打であった。 ワルドはモット伯周辺の動きを探らせると、あっと言う間にならず者達の流れを捉える事に成功した。 あれだけの騒ぎの後だ、モット伯も大人しくしているかと思いきや、こんな思い切った手を打ってくるのは捜査部の人間にも予想外であった。 ヴァリエール公によるモット伯包囲網により、既に幾つかの利権を手放すハメになっていたモット伯は、捨て身で財産を放出し、ルイズ達に恨みの一撃をくれてやらんと狙っていたのだ。 ワルドは人の悪そうな笑みでアニエスに問う。 「ツテはヴァリエール公により封じられた。ならば金のみで動かせるものを全て活用しようという腹だろうな」 アニエスは、一目見ただけで二度とアニエスには逆らうまいと人に思わせる程の、冷酷無慈悲な表情で答える。 「金のみで動く。トリスタニアで明快にそれが為せる相手が動く、そういう事ですね」 「現場を押さえる。この件は君が特に志願していた件だ、君に任せようと思うがどうかね」 深々と頭を下げるアニエス。 「ご配慮痛み入ります。我が身を捨ててでも高等法院への切り込み、成し遂げて御覧に入れましょう」 「アニエス」 「はっ」 ワルドは悪夢から飛び出してきたような、鬼気迫るアニエスの表情にも怯む様子は無い。 「この程度の件で君を失うなどあってはならない損失だ。リッシュモンを追い詰め、なおかつ当然のごとく無傷で戻って来たまえ。君になら出来るはずだ」 君になら、君達になら出来るというのはワルドの殺し文句である。 ワルドがこれを口にする時は、同時に物凄い無理難題を押し付ける時でもあるので、捜査部ではある意味禁断の魔法並の扱いを受けている言葉だ。 しかし、アニエスは更に深く頭を下げ、心からの感謝の意を述べ退室していった。 半月後、謁見の間にて高等法院長リッシュモンの進退が取り沙汰される。 数多の味方を持つはずの彼の弁護をしてくれるものは、誰一人として居なかった。 特に女王アンリエッタの失望は甚だしく、長年仕えて来た功により爵位剥奪こそ無かったものの、公職追放という重い罰を科される事となった。 これは良い機会とばかりにマザリーニの仕掛けた策略により、財産の全てをも没収された彼は、失意のまま都を落ちていく。 彼が蓄財した全てをかき集めると、何とトリステインの国家予算一年分にも相当する額であり、王家は高等法院長の失脚という重大事を埋めて余りある利益を得ていた。 この件で大きな利益を得たマザリーニ、ワルド、そして後任の高等法院長は、裁決が下った夜、自室で同時に祝杯を挙げる。 トリステインの権力図を塗り替える、これが最初の一撃であった。 トリスタニアを離れる馬車がある。 夕暮れ時の茜色に染まった空と、がらがらと揺れる下級貴族の使うような古ぼけた馬車が、栄枯盛衰の儚さをリッシュモンに思い知らせてくる。 共の者も御者と小姓が一人づつのみ。 引き止める者も見送る者もおらず、無念さに涙しながら都を落ちる。 「止まれ」 フードを目深に被った者が道に立ち塞がり、すらりと剣を抜くと御者と小姓は我先にと逃げ出していく。 馬車の窓からその様子を見たリッシュモンも悲鳴をあげながら馬車から飛び降りるが、運動に慣れていない体は言う事を聞かず。 転倒し、地面をしこたま嘗めるハメになった。 「司法取引だ。タングルテールの虐殺での生き残りを探している。知っている限りの情報を教えろ」 女の声、しかし地面に倒れるリッシュモンは、そんな事より己の浅慮を大きく悔やむ。 転倒していたせいで、懐の杖を取り出す間も無く剣を突きつけられてしまったのだ。 人数が一人とわかっていれば、馬車の中からの魔法で蹴散らせたかもしれなかった。 「司法だと? 貴様官憲の類か? そ、それに取引材料も出さぬ取引なぞ成立するものか」 「この先に待ち構えて居るだろう、お前に恨みを持つ者達からその身を守り、無事に領地まで送り届けてやる。不服か?」 リッシュモンは虚勢を張って言い返す。 「ふん、平民の助けなど借りずとも我が魔法で……」 「では好きにしろ。何処に何が待ち構えているかも知らず、追撃を逃れる抜け道も知らぬお前がどうこの窮地を切り抜けるのか、お手並み拝見だ」 フード女は剣を引き、身を翻す。 慌てて追いすがるリッシュモン。 「ま、待て! お前捜査部の人間だな! な、ならば部下も何処かに隠れているのだろう!? 私に恨みを持つ者が居るのか!? そんな情報を得たのだな!」 「取引だ」 「な、ならば私を無事に送り届けた後……」 「お前がそうしてくれるなら我々は効率良く作業を進められる、それだけだ。お前が居なくともいずれ同じ成果は挙げられよう」 二、三人付け、抜け道を潜って領地までに辿り着く間のみの労務で済むのなら、調査に関する手間をかけるよりは効率的だろう。 それ以上を望む、もしくは時間を大切だと考えぬというのであれば、そんな手間のかかる情報は不要だ。 勝手に何処でなりとのたれ死ねというフード女の言葉に、リッシュモンは項垂れる。 「我々は情報を得、貴様は命を得る。信用が必要ならば貴様も随分見慣れただろう身分証を幾らでも見せてやろう」 そう言って捜査部所属である事を示す、紋章入りの指輪をリッシュモンに見せると、彼はようやく折れた。 それが重要な情報でなければ、見捨てられるやもしれぬ。 そんな不安がリッシュモンを掻き立てる。 自身がいかに重要なポジションでタングルテールの件を処理したか、立案から実行に至るまでの経緯を事細かに説明する。 尤もらしくロマリアとの友好云々と言っている部分は、まあリップサービスのようなものだ。 ここで動いた金云々と言った所で誰も得はすまい。 以上、部下からの報告からも生存者が居る可能性はゼロであるとリッシュモンは結論づける。 それこそ特務部隊の精鋭である隊員達が裏切りでもせぬ限り、生存の可能性などありえぬと言い切った。 フードの女は、目深に被っていたフードを掻き上げる。 思っていた以上に若い。 鋭い視線が、まるで敵を見るようである。 「……いいや、生存者は居た」 「だからありえぬと言っている。あのジャンという若い隊長は一欠けらの躊躇も無く全てを焼き払ったと他の隊員全てから報告が上がっているんだ」 女は、泣いていた。 「私が……唯一の生存者だ!」 いきなり斬りつけられた。 全身をなますのようにめった斬りにされる中、私は、どうやら選択を誤ったらしい事に漸く気付けた。 何の事はない、こいつが、捜査部に所属しているこいつこそが、私に恨みを持つ賊であったのだ。 「……う、うそつきいぃ……」 子供の様なそんな言葉が、私の今生最後の呟きであった。 既に退院したワルドは、執務室で任務の報告を受ける。 憔悴しきった顔でワルドに報告事項を告げるアニエス。 一通りの捜査資料を整理し終えたと伝えた後、思い出したようにリッシュモンが賊に殺された旨を付け加える。 「……おそらく、彼に恨みを持つ何者かの犯行かと」 リッシュモンの末路にはさして興味も無いのか、ワルドは特に返事もせず書類を見渡し判を押す。 「復讐か……誰がやったかは知らんしどうでもいい事だが、殺して終わり、では意味が無いと私は思う」 内心、心臓が飛び出しそうになっているアニエスを他所に、ワルドはぺらっと紙をめくる。 「誰かを殺したい程に憎む、そんな気持ちも理解出来ないでもないが、怒りも悲しみも、力に変えられぬようではどの道そいつに先は無いさ」 誰に語るというのでもないだろう。独り言のように呟く。 「全ての想いを、自らの信念を支える糧とし突き進む。そう出来てこそ、自身を想い倒れていった者の無念は晴らされる。私は、そう思っているよ……」 判を押し終えると、ワルドが最近良くやる苦笑を見せる。 「っと、済まない。どうもここの所愚痴っぽくていけないよ。ご苦労様アニエス、君は期待以上の働きをしてくれた。皆もそれを認めているだろう。良くやってくれた」 陰鬱な表情を貼り付けたまま、アニエスは頭を下げ退室した。 何時もは反応がとても素直なアニエスらしからぬ行動に、ワルドは顎鬚を撫でながら考える。 「流石に無理をさせ過ぎたか。疲れも溜まっているようだし、休暇でも与えてゆっくりさせてやらんとマズイ……か」 激務が常になってきている捜査部においても、アニエスのここ最近の働きは目を見張るようであった。 それだけに無理を重ねて来たのだろう。素晴らしい功績を挙げた事でもあるし、他の連中もアニエスならば納得するだろう。 休む暇など与えない事で有名になりつつあったワルドは、必要書類を書き上げアニエスに二日間の特別休暇を与えた。 ちょっとアニエス優遇しすぎかな、などと考えていたワルドの思考は捜査部外からの反応がかき消してくれた。 事情を聞いたグリフォン隊の副長は、しみじみとワルドに語ったものだ。 「……隊長、捜査部あれ働かせすぎですって。あれだけの勲功挙げた子に休み二日だけとか、鬼ですか貴方は」 「そ、そうか……いやしかしだな」 「しかしも何もありませんって。幾らなんでも他所との差がありすぎです、労務管理部良くあれで文句言ってきませんね。少しは自重して下さい」 文句言ってくるような奴はそもそも捜査部に入れてないのだから当然の結果であるが、他所と比べて労働時間が倍近くあると言われてはさしものワルドも抗弁しずらい。 気になって調べてみた所、実労働時間は人によっては三倍近くになってる人間まで居て、ワルドは慌てて全職員に休暇を取るよう命じた。 こんな仕事の仕方をさせていたら遠からず、当人はともかく、職員の一族や近しい者達から抗議が殺到するのは目に見えている。 しかし、命じるは命じたが、嫌な予感がして抜き打ちで調べると、誰一人、そうアニエスですら休暇を取っていない事が判明する。 捜査部を立ち上げて以来、一番背筋が冷えた瞬間だ、と後にワルドは述懐する。 本気で怒鳴りつけ、ようやく連中休暇を取ってくれたが、昼休みなどに何となく聞き耳を立ててみた所、誰もが家に書類を持ち帰ってやっぱり仕事してたらしい。 「モチベーションが高すぎるのも考え物だな……」 結局、当分の間ワルドは、他所の部署では考えられぬ贅沢な悩みに悩まされる事になる。 ワルドよりの使者から聞くべき事を聞いたラ・ヴァリエール公爵は、手勢にアジトへの強襲を指示する。 大貴族らしい典雅なやり方を好む公爵であったが、武力を行使すべきタイミングは決して外さない。 それが必要と判断したのなら、僅かな躊躇も無く配下の軍を動かす。 圧倒的な数で包囲し、一部の漏れも許さず徹底的に殲滅する。 公が王都の屋敷で処理すべき幾つかの案件を同時に見ていた所、執務室に首謀者たるモット伯が引きずられて来た。 伯はそこら中痣だらけにしながら、ぐったりと項垂れていた。 手勢の隊長を任せていた男が報告する。 「集まったならず者達全員の死亡を確認しました。こちらの被害は四名、いずれも平民です」 「遺体の処理は?」 「万事滞り無く。戦闘の音に気付き近寄ってきた者達も、全て我等が張った検問で追い返しております」 「ご苦労」 公は書類から目を上げ、モット伯を見る。 重要度の低い案件をとりあえずで処理するような口調で、ヴァリエール公爵は言った。 「ヴァリエール家に逆らうという事がどういう事か。理解したかね?」 隠れ家から執務室に引きずられてくる間にどんな事があったのか、モット伯は貴族の矜持も失って地面に這い蹲る。 「は、はいっ! 二度と! 二度とこのような愚かな真似はいたしませぬ!」 小さく嘆息する公。 「何だ、まだ理解しておらんか」 「い、いえっ! 存分に思い知りましてございます! 以後はヴァリエール家に絶対の忠誠と協力を誓わせていただきます!」 「二度とだの、以後だの、そんなものはありえぬ。そこを理解しておらぬと言ったのだ。連れていけ」 必死に哀願する伯は兵に引きずられて執務室を後にする。 公は無情な人間ではない。そんな様を哀れに思う心も持ち合わせている。 しかし、下した命令を撤回するような事も無かった。 「運の無い男だ。……まあ、今まで皆が認めていた事を突然許さぬと言われ、乱暴狼藉を働かれた挙句、大恥をかかされ、その上犯人はお咎めなしでは腹が立つも道理だがな」 使い魔に毒を盛るぐらいならば見逃してやらん事も無かったが、ルイズを殺すと兵まで集められては、こちらも相応の対処をするしか無い。 「法に乗っ取っていようと、理屈が正しかろうと、そんなものは我がヴァリエールの一族を傷つけて良い理由になぞならぬというのに。若すぎたなモット伯よ」 処刑完了の報告を、やはり先程と同じどうでもいい事のように聞き流し、ヴァリエール公はすぐにこの件を忘れた。 こうしてそれぞれの日々を過ごす彼等に、多大な影響を与える事件が遠きアルビオンの地で起こっていた。 アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーは、残った親衛隊をかき集め、包囲網の突破を図る。 貴族派を名乗る反乱軍との二度の大きな戦、その全てが突然の配下の裏切りにより敗北を喫している。 王家への忠誠心篤き勇士であったはずの諸侯が次々と裏切って行く様、そしてそれが原因で勝てる戦を悉く逃している悔しさは筆舌に尽くしがたい。 それでも残った者達への猜疑心を表に出さぬウェールズの器の大きさは、王たるに相応しい物であったろう。 現に、老齢により身動き取れぬ王の代わりとなり前線に出るウェールズ指揮の下、細かな勝利は幾度と無く積み重ねて来ているのだ。 そんな勝利達も、二度の大会戦での敗北で全て帳消しとなった。 満を持し、これが最後と挑んだこの戦においても、やはり裏切り者は居た。 敵陣深くまで何度も斬り込み、ウェールズの窮地を救って来たその貴族は、勇ましさをそのままにウェールズへと杖を向けたのだ。 三度目の敗北。 万全の布陣で臨もうと、裏切りすら考慮に入れた策を練ろうと、有能で忠実な者から寝返っていく現状で、どうやって勝利せよというのか。 最早兵も尽き、反撃の余力も残っていない。 それでも、ウェールズは最後の瞬間までアルビオンを諦めてなるものかと皆を叱咤激励する。 抗する術など何一つ残っていないのに、王家の矜持を胸に秘め、ただひたすらに勝利の道を探し続ける。 それが指揮をするものの責務であり、例えこの身が朽ち果てようと、この信念だけは、決して折られてなるものかと。 前ページ次ページゼロの花嫁
https://w.atwiki.jp/animesaimoe2008/pages/155.html
二次予選第8組 コピペリスト 蜂谷美美@ぽてまよ 五月七日小羽(つゆりこはね)@xxxHOLiC◆継 久寿川ささら@ToHeart2 シリーズ ちかげ@ながされて藍蘭島 リコ@みなみけ シリーズ 猫宮のの@よつのは 二見瑛理子@キミキス pure rouge 葛城ミサト/ミサト先生@新世紀エヴァンゲリオン シリーズ 六瓢(本物/フクロウ)@我が家のお稲荷さま。 久遠寺夢@君が主で執事が俺で 神凪綾乃@風のスティグマ プリーシア(プリーシア・フォン・ローゼンベルグ)@プリズム・アーク 露理@ドージンワーク マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム/風花真白@舞-乙HiME シリーズ ソーマ・ピーリス@機動戦士ガンダム00 横尾摩耶@バンブーブレード 春日乃ねね@ぽてまよ 雨童女@xxxHOLiC◆継 朽木ルキア@BLEACH ラピス@レンタルマギカ カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ@ゼロの使い魔 ~双月の騎士~ アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン@ゼロの使い魔 ~双月の騎士~ 柚原春夏@OVA ToHeart2 梅梅@ながされて藍蘭島 穂波・高瀬・アンブラー@レンタルマギカ 西園寺踊子(世界の母)@School Days シリーズ 清水雷鳴@隠の王 魔王リオン=グンタ@ナイトウィザード The ANIMATION 長谷川遥@もやしもん 南斗星(ナトセ)@君が主で執事が俺で エル@しゅごキャラ! 華園光@S・A ~スペシャル・エー~ 上原むつき(むっちー)@がくえんゆーとぴあ まなびストレート! 日向夏美@ケロロ軍曹 ニア・テッペリン@天元突破グレンラガン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9208.html
前ページ次ページるろうに使い魔 チェレンヌ邸襲撃からその後、さらに時間が経過した。 刃衛達による強襲が再度やってこないか剣心達は警戒していたが、結果的にはそういうこともなく無事に事なきを得る運びとなった。 朝日が昇る頃になって、もう厳重警護を解いても良さそうだと判断したアニエスは、そのまま剣心とタバサ、そしてシルフィードを連れ、一度王宮へと戻る事となった。 「ここで待機してくれ」 王宮の応接室の一部屋へ案内された剣心達は、アニエスにそう言われ、そこで待つことになった。剣心は目を閉じて座して待ち、タバサは本を読んで暇を潰す中、それを見かねたシルフィードはきゅいきゅい喚いた。 「ねえ、折角お近づきになれたんだし、もっと話に花を咲かせてもいいんじゃないのね?」 どうやら、全然会話しない二人を見て業を煮やしたらしい。前々から剣心の事は気にかけていたシルフィードにとって、これは二人を近づける絶好の機会だと思ったのだ。 (あんなミイラ男なんかより、こっちのおちびの方がずっとお姉さまを任せられるのね) それなら、と剣心はタバサではなくシルフィードを見て言った。 「そう言えばイルククゥ殿。お主とはどうにも最初に会った気がしないのでござるが、どこかでお会いしなかったでござるか?」 ギクッ、とシルフィードは体を仰け反らせる。 「べ、べべつにそそそんな事はははないのねね。気のせいなのね」 「それにシルフィードはどうしたでござる? てっきりイルククゥ殿と一緒に来るものだと思ったでござるが…」 またまたギクッ、とシルフィードは仰け反らせた。ふと無意識にタバサの方を見るが、彼女は我関せずといった風で本を読んでいる。 そんなわけで、この回答にはシルフィード本人が答えるしかない。 「えっと、シルフィードは今忙しいのね。重大な使命を思い出したって、この前言ってたのね」 「見苦しくねえか、その言い訳」 今度はデルフが口を挟む。暫く奇妙な空気が流れた。 どう言い繕うか、う~~ん…と頭を悩ませるシルフィードに、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。そしてその次には、扉が開かれた。 扉を開けたのはアニエスだった。そしてアニエスを従えるように、アンリエッタが部屋に入ってきた。 第四十四幕 『都合と理由』 「お久しぶりですわ。ルイズの使い魔さん」 アンリエッタはまず初めにそう言って、優雅に会釈した。 「此度の活躍の報、アニエスから聞いております。貴方には本当にお世話になりっぱなしですわね」 優しい笑みを浮かべて、アンリエッタは今度はタバサ達の方を向いた。 「貴方は…確かあの時の、ルイズのお友達の方ですわね。貴方にも重ね重ね、お礼の方を申し上げます」 一国の女王陛下が、わざわざお礼を言いに来る。それはこの国の貴族から見ればなんとも羨ましい光景であろう。 「あの…所で、貴方は何者なのでしょうか? その制服から留学生とお見受けいたしますが、この国の人ではありませんよね? ガリアから来た人ですか?」 アンリエッタが不思議そうに尋ねてきたが、タバサは本を閉じ、そしてアニエスの方を向いて言った。 「…事情は聞かないはず」 「そうですが…せめて充分なお礼をしたいのです。ご家族の方にも、大変名誉なことをしたのだとわたくしから申し上げたいのですが…」 「そんな人はいない」 タバサは冷淡にそう告げる。その目には一切の色が消え失せていた。 尋常じゃない雰囲気に一瞬呑まれかけたアンリエッタは、何か事情があるのだろうと思い、追求をやめた。 「分かりました。では貴方には約束通り報酬の方を支払いましょう」 目を伏せてアンリエッタはそう言った。本当はもっと色々とお礼をしたかったのではあるが、 この国の人間ではない上に明確な家柄も分からぬ以上、ここまでがしてあげられる限界でもあった。 悲しそうな顔をしたアンリエッタは、今度は剣心の方へと向き直った。 「貴方にも、出来れば充分なお礼を差し上げたいのですが…やはり受け取っては下さらないのですか?」 「拙者も、特に必要ないでござる」 剣心はニッコリ微笑んでそう言った。アンリエッタは小さくため息をついた。 「本当ならば、貴方にはこの国の貴族になる資格だってあるのですよ。昨今の上流階級の人達に比べれば、貴方の成し遂げた成果には、それだけの価値があるのです」 しかし、それでも剣心は首を横に振った。 「拙者は只の流浪人で使い魔。それ以上のものなど望まぬ。望むとすれば、早くこの国にも本当の平和が訪れて欲しい、それだけでござるよ」 「……耳が痛いお言葉ですわ」 アンリエッタは、剣心のその顔に眩しさを覚えた。今、剣心のように本当にこの国のことを考えている人はどのくらいいるのだろう。そう思うとやり切れなくなるのだ。 そういった感情から振り切るように、アンリエッタは話題を変えた。 「分かりました…そう言えばルイズはどうしています? 無茶な頼みだとは分かってはいますが、今はあの子や貴方達位しか頼れる人がいないから…」 剣心はそれを聞いて少し言葉を詰まらせた。まさか全財産すって働いているなんてとても言えない。 「あの子から報告の手紙など受け取るのですが、何分せっかちなところがあるから心配で…」 「ま、まあ大丈夫でござるよ」 取り敢えず、剣心はそう言うしか無かった。それでも少しは安心したのか、アンリエッタは胸を撫で下ろした。 「貴方がそう仰るのなら、きっと大丈夫なのでしょうね」 するとここでアニエスが、そろそろ本題の方を…とアンリエッタに促した。 「そうね」と、それに頷いたアンリエッタは、今度は厳粛な表情で、剣心達に向き直った。 「それでは、貴方達をお呼びした理由に移りましょう。此度の件で起こったこと、その敵の正体のこと、詳しくお聞かせくださいまし」 剣心は話した。黒笠の正体、心の一方について。そしてこれまでの経緯、そのあらましを。 心の一方の能力を聞いたアンリエッタは、俄かには信じがたいような表情をした。 「目だけで相手の動きを止める? でもそんな魔法が…」 「確かにそのお気持ちは分かりますが、私も一度喰らいその身に体験いたしました。ですのでこの話は本当です」 アニエスが剣心の話を、体験談を交えてそう補足する。アンリエッタはため息をついた。 「それでは、いくらメイジを投入しても勝てないはずですわ」 「けど、見た感じ刃衛の他にも協力者はいる。それだけは確かでござる」 剣心はさらにそう付け加える。よくよく考えれば幾ら強いとは言え、全くの異国の地で、正体不明を隠し通す事は刃衛にだって不可能に近い。 恐らく、暗殺を補助する協力者や、事前に情報を与える内通者がいて、それで初めて成り立つはずなのだ。 協力者は、最後にやって来たあの男…がそれにあたるだろう。あの男が内通者も兼ねているのか、それと他にも別の人間がいるのか…。そこまでが剣心の推理だった。 内通者…と聞いて、アンリエッタは少し心当たりがありそうな表情をした。 「分かりました。貴重な情報どうもありがとうございます。今の今までこういった話すら出てこなかったものですから」 アンリエッタは再度会釈すると、今度は自分たち以外誰も見てないか辺りを見回し、確認すると、改めて剣心とタバサの顔を見合わせた。 「つきましてはお願いが…。厚かましいことは分かってはおりますが、出来れば引き続き依頼の続行をお願いしてもよろしいでしょうか? 今は身内でさえ頼れる人が余りいないもので…」 そう言って、タバサの目を見て尋ねた。タバサはアンリエッタの懇願の目を前にしても、相変わらずの無表情で通していたが、やがてポツリとこう呟いた。 「…この事件に関することであれば、わたしは別に」 それを聞いたアンリエッタは、嬉しそうに頬を緩ませた。 「ありがとう。わたくしにはもう、貴方達以外に魔法を使う者が信用できませんの…」 寂しそうな表情をして、アンリエッタはそう呟いた。 それをまた振り切るかのように、アンリエッタは表を上げると、今度はタバサ達にこう言った。 「お疲れでしょう? 今夜は忙しかったですから、もうお休みになって下さいな。聞きたいことがあれば、アニエスが相手を致しますので」 「きゅい、わたしも疲れたのね。早く帰って一眠りしたいのね…」 シルフィードが、眠そうに目をゴシゴシとこすってそう言った。タバサも小さく欠伸をすると、フラフラと立ち上がって部屋を出た。 無理もない。幾ら強いとは言えまだ子供だ。丸一日起きているのは精神的にもかなり辛かったはずだろう。 タバサとシルフィードが、アニエスに連れられて退室するのを見届けると、剣心は改めてアンリエッタの方を向いた。 「姫殿…じゃなくて陛下殿でござるか。実はここで話しておきたいことがあるでござるが…」 「アンリエッタで大丈夫ですわ。何なら縮めて『アン』とお呼びしてもよろしいですわ」 努めてニッコリと微笑みながら、アンリエッタはそう言った。彼女もこの時間まで起きているのは、心身ともに辛いのはわかる。 本当はこんな時間に話すことではないのかもしれない。 けど、話さなくてはいけない。これを逃したら、また何時話せる機会があるか…少なくとも、この国の上に立つアンリエッタには、ちゃんと話しておかなければならない。 そうこうする内、タバサ達を見送ってきたアニエスが帰ってきた。アンリエッタは剣心の表情を見て、小さくため息をこぼしながらソファに腰掛けた。 「まだ何か、お話することが?」 「あの時は、色々あって話せなかったでござるが…この国の未来に関わる重要な事ゆえ、話しておきたいでござるよ」 アンリエッタは、それを聞いて小さく目を瞑った。 「分かりました。詳しくお聞かせください…」 「それと、この話をするにあたって、少し信じられないような話も含まれているでござるが、それでも信じて聞いてくれるでござるか?」 「異世界とかのことですか? でしたらオールド・オスマンに少しお聞き致しましたし、それにもう、ここまで来て滅多なことでは驚いたりしませんわ。どうぞ、お話ください」 それを聞いて、剣心はゆっくりと口を開いた。 「シシオ・マコト……」 数十分後、話を聞いたアンリエッタはそう呟いた。 「その人が、此度の戦いの元凶だと……?」 剣心は、コクリと頷いた。その目には昔の情景の炎が宿っていた。 志々雄真実。 かつて幕末の頃、剣心がまだ人斬り抜刀斎であった頃…。影の人斬りを受け継いだもう一人の暗殺者。 そして最終的に、己の剣と信念を死の淵ギリギリまで交え合った男だった。 何故奴が生きてこの世界にいるのかは分からないが、あの時見せつけられた野望と信念は今でも変わってはいなかった。恐らく奴はまだ自分との決着を望んでいるのだろう。 そして、これがアンリエッタにとって重要なことであるが…奴はいずれこの国を乗っ取りに来ること、それだけの力があることをアンリエッタに伝えた。 「しかし、今のアルビオンの皇帝はオリヴァー・クロムウェルでは?」 「恐らく奴の配下の一人でござろう。今のアルビオンを本当に指揮っているのは、まず間違いなく志々雄真実でござる」 あの男が、大人しくこのままでいるとは思えない。恐らくカモフラージュのつもりなのだろう。 決起する時まで姿を見せず、名を隠し、のらりくらりとしながらも力を貯め、一斉蜂起した時に一気にその名を世界に轟かす。あの男ならそれくらいはやりかねない。 だからこそ、今の内に手は打たなければならない。そう思って、剣心はアンリエッタに話したのだった。 「……そうですか」 話を聞き終えたアンリエッタは、一旦顔を伏せた。その声は少し震えている。 それは間違いなく、怒りからくる震えであった。 (その人が…彼を…アルビオンを…あまつさえあんな事まで…) 「…陛下殿?」 何かを感じた剣心が、アンリエッタの表情を伺う。しかしその前にアンリエッタは席を立った。 「どうも貴重なお話ありがとう。貴方もお疲れでしょう? 今日はゆっくり休んでくださいな」 「…済まないでござる」 暗に一人にして欲しい、そう取った剣心は、何も言わずに部屋を出ることにした。 アニエスと二人になったアンリエッタは、朝日が昇る窓を見つめながら尋ねた。 「例の案件、どうなりました?」 「ここに、全て記しております」 そう言ってアニエスは懐から数枚の紙を取り出し、アンリエッタに渡した。 あの夜…死体になったウェールズを操り、アンリエッタを拐かそうとした事件の時、誰が手引きをしていたのかその詳細が書かれていた。 暫くその調査表と睨めっこしていたアンリエッタだったが、やがてそれらから目を離すと、少し項垂れた様子で椅子に座った。 「おおよそ七万エキュー…これは彼一人の手で賄える金額ではありませんね」 「他にも、このようなものがあります」 そう言ってアニエスは、別の紙をアンリエッタに手渡す。それを見て疑問符を浮かべる。 「…これは?」 「アカデミーの被害届です。何でも幾つかの貯蔵品を盗まれたとか…。時期が丁度、事件が頻発に起こり始めたのと重なりましたので、関連性は高いかと」 『アカデミー』の名前を聞いて、アンリエッタは尚更首をかしげた。魔法を別のベクトルで見、独自の実験を進めることで有名な機関であるが、 そこでの発明品は正直一般大衆から見たらガラクタ同然で見向きもされないものばかりだ。 リストの一番下、ヴァレリーという水のスクウェアメイジが作ったという『魔力を強化する秘薬』にこそ目がいったが、そこに書かれているリスク… 『魔力と同時に精神に異常を来す』を見て、結局は使えない失敗作だとわかると、アンリエッタは見るのを止めた。 「レコン・キスタは国境を越えた貴族の連盟と聞き及びます…が」 「随分と泥棒染みたことを、今の雲の上の人たちはするのね。まあ、上に立つのがそもそも貴族ではないらしいですから、何とも皮肉な連盟ですね」 取り敢えず、これで剣心の言っていた内通者の尻尾が掴めたのだ。 「金でしょう。彼は黄金が好きな男…そのお金で祖国を…わたくしを売ろうとしているのです」 未だに信じたくないという思いがあるが、もうそれを言っている状況でも無かった。 モット伯を始め、数多の貴族を殺してきた『人斬り』。その幇助をしていたのなら、法的にも裁かなければいけない。 例え親しかった身内といえども…。 「計画の方はどうなさいます? 未だ向こうが人斬りというカードを抱えている状況では、少し…いや、かなり危険だと思われますが…」 「時間がもうありませんの。このまま泳がせておいたら逃げられる可能性が高い。当初の予定通り、明日計画に移しましょう」 「御意」 それを聞いたアニエスは、深く一礼をして退室した。一人残されたアンリエッタは、顔を俯かせながら震える声で呟いた。 「わたくしは、あの夜起こったこと全てを許しませぬ。国も、人も、全てです。ええ、決して」 アンリエッタは思い返していた。最愛の人の事を…更に無理矢理に蘇らせて、自分の恋心を弄ばれたことを…。 アンリエッタは、剣心から聞いた男の名…一生忘れぬだろう怨敵の名を呟いた。 「……シシオ・マコト…ッ!!」 朝日が完全に顔を出す、その光を受けながら剣心は王宮を出た。 「あっ、おちび。こっちなのね~~!」 見ると、もうとっくに帰ったと思ったタバサとシルフィードが、手を振って待っていた。 「あれ、帰ったのではなかったでござるか?」 「場所が分からない」 「……学院の?」 えっ…? と聞き返す剣心に、シルフィードが「違う!」と補足する。 「ほら、『魅力の酒場』だっけ? あそこにきゅるきゅる置いてきたからって、お姉さまそこに泊まるつもりなのね!!」 成程、だから待っていたのか…。剣心は、そんな律儀なタバサを見て少し微笑んだ。 「こっちでござるよ」 人混みが溢れ始める中、剣心とタバサ、そしてシルフィードは歩き始めた。 さて、『魅惑の妖精』亭では…。 客もぼちぼちと店を出る中、一人机に突っ伏して飲んでいる客がいた。キュルケである。 「タバサぁ~~あんた今何処にいるのよぉ…」 普段魅力的な彼女とは程遠い姿がそこにはあった。すっかりへべれけになってしまったのか、身体はぐったりしていて悪酔いの表情が出ていた。 これはこれでそそられるものがあったが、人も少なくなった今の状態では、彼女に絡んでくる輩も出てこなかった。 「あんたさぁ…一体いつまで泊まるわけ?」 呆れ顔で顔を出したのは、給仕をしているルイズだった。 あれからいつもそうだ。タバサがいなくなったあの晩から、何かにつけてキュルケはタバサを探しに行った。そして見つからないとなるとこうやって夜遅くまでやけ酒をするのだ。 普段のキュルケなら、信頼しているタバサにそこまでしないだろう。けど軍が動き出すかもしれない緊迫した状況に、事の発端が自分とあれば、流石に放ってはおけないようであった。 「全部ツケとか言わないでよ。ていうかあんたに奢る金なんてこれっぽっちも…」 「タバサぁ~~~」 はぁ…とルイズはため息をつく。それと同時に少し感心もした。キュルケでもこんな一面があるんだなーと。余程タバサを大事にしているのだろう。 そんな彼女を見ていると、どうしても自分まで悲しくなってしまう。 (ケンシン…) 今何処にいるんだろう? このまま帰ってこないなんてないよね? 今やそんな想いがグルグルと渦巻いていた。 確かに…剣心は強い。そして優しいし、困った事があれば全力で相談に乗ってくれる。 でも、彼は輪を作りながらも、そこに決して踏み込んではこない。まるでいつ自分が消えてもいいように…。 「でも…どうしてこんな気持ちになるんだろ…?」 最近、彼を見るとすごい胸がドキドキするようになった。最初はそんなことはなかったのに、アルビオンで旅を経てからはその想いは芽生え、一緒に暮らすことで徐々に大きくなっていった。 だからこそ、彼が何も言わず、そして何も告げずにいなくなることが、ルイズにとってこれ以上ない不安にもなった。 もし自分がキュルケの立場だったら、恐らく自分もこうやってやけ酒を煽っていたかもしれない。そう思うと今のキュルケを笑えなかった。 「けど、毎日これは止めてほしいわね。もうそろそろ上がりたいのに…」 そう言って一旦背伸びして、ルイズは改めて辺りを見回した…その時だった。 コンコン、と裏口を叩く音が聞こえてくる。その音にハッとルイズは振り向いた。 慌ててパタパタと走り去るルイズの音に、キュルケも虚ろな目を開けた。 「何、どうしたの?」 キュルケもまた、ルイズの後を追っていった。それを気にすることなく、ルイズは裏口のドアを開ける。 ガチャリ。という音と共に扉は開かれて、そこにいたのは…。 「……ケンシン」 「おお、ルイズ殿!」 若干懐かしむような声で、剣心は言った。考えてみれば剣心と働く時間帯が変わってから、こうやってまともに会話をするのは久しぶりだった。 何だか、急に学院で暮らしていたあの頃に戻ったようで、ルイズは思わず俯いてしまう。 「あ、ダーリン! 帰ってきたの……――」 その後ろから現れたキュルケが、剣心を見てそう言いかけたが、その隣からひょっこり現れた少女の姿に、思わず目を見開いた。 「タバサ!! もう探したのよ!!」 そう言うなや否や、いきなりキュルケはタバサに抱きついた。タバサもまた、特に抵抗せずにそれを受け入れる。 「ずーっと色んなとこ回ってさ…何かあったんじゃないかと思うとさ…本当にもう、心配したんだから…」 「…御免なさい」 抱きつきながらキュルケはポロポロと涙を零す。いつも快活な彼女がこんな風に泣きじゃくる姿を見ると、急に愛おしさがタバサの中にこみ上げてきた。 そんな二人を微笑ましげに見つめていた剣心は、ふと俯いたままのルイズを見て、困ったように頬をかいた。 (やっぱり、怒ってるんでござろうなあ…) こうやって会話するのも久方ぶりなのだ。余り危険なことに巻き込みたくなかったから遠ざけてしまったが、ルイズの性分からすれば怒り狂っていてもおかしくなかった。 「あの…ルイズ…殿…?」 「……………」 しかしルイズは俯いたまま、何も答えようとはしなかった。怒っているのか、そんなに怒っているのか? 何とも気まずそうな空気が場に流れた後、不意にルイズは剣心の顔を上げた。 「……おかえり」 「―――おろ!!?」 この言葉を聞いて誰よりも驚いたのは剣心だった。あんなに放っていたのに…最悪『爆発』の一つでも喰らう覚悟でいたからこそ、この対応に凄く疑問を覚えた。 「お、怒ってないでござるか…」 「そりゃあ、怒ってるわよ。何で私を放ってどっか行っちゃうのとかさ、何でタバサをそんな気にするのとかさ…色々言いたいことはあるわよ……でもさ…」 ここでルイズが…今まで見せたことのないような汐らしい表情をして剣心に言った。 「あんたの顔見たら…なんか…そんなことが凄くどうでも良く感じちゃったのよ。何ていうか…帰ってきてくれたんだな…って」 ルイズも、最初は剣心に会った時には出会い頭に『爆発』の一発でも入れてやろうかと考えていたのだが、結局剣心の笑顔を見た瞬間、怒りとかの前に嬉しさがこみ上げてきたのだ。 こうやって、また自分に向かって笑ってくれる剣心を見ると、他のことが凄くどうでも良くなる。我ながら甘いとは思うけど…でもそれは理屈じゃないのかもしれない。 「どうせ今回のことも話したくないんでしょ? 百歩…いや二百歩譲ってそこは妥協するわよ。でもね…」 ここでルイズが、いつもの調子を見せながら剣心に向かって指を突き立てた。 「私の許可無しに、勝手にいなくなるのだけは許さないんだからね! 分かった?」 それを受けて、剣心はやれやれといった表情をした。でも少し、朗らかな顔も見せていた。 「了解でござるよ」 「……よし」 今日は、久々に剣心とルイズは一緒の時間に寝た。当たり前のことだったのに、別に隣で寝ているわけでもないのに、それがとてつもなく嬉しくて、ルイズは幸せそうな表情で眠りについていた。 前ページ次ページるろうに使い魔