約 1,869,335 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2028.html
シエスタは馬車の中で、眠れぬ夜を過ごしていた。 暗闇の中で目を開けて向かい側の椅子を見ると、モンモランシーが椅子の上でに横になりすぅすぅと寝息を立てている。 カリーヌは、水の精霊に危害を加えるメイジを一人で相手すると言っていた。 ラグドリアン湖の湖底にいる水の精霊、それに危害を加えるだけでも大変なことなのに、水の精霊を手こずらせるのだから、襲撃者はかなりの手練れなのだろう。 カリーヌの手伝いをしたいと申し出たシエスタだが、「客人を危険な目に遭わせるわけにはいかない」と言われ、申し出を断られてしまった。 オールド・オスマンからカリーヌ・デジレは『烈風カリン』だと聞かされていたが、貴族の世界に仲間入りを果たしてまだ間もないシエスタには、いまいちその強さや伝説がピンとこなかった。 シエスタは暗闇の中で、今からでもカリーヌを手助けに行くべきだろうかと悩んでいた。 「きゅいーーーーーーーーーっ!」 「!」 シエスタが飛び起きる。 突然聞こえてきた、何かの叫び声に聞き覚えがあった。 シエスタは馬車から出ようと、内側にかけてある鍵を開けようとしたが『ロック』の魔法がかけられており鍵が開かない。 「開かないっ、何で?どうして!?」 「な、なに?どうしたの?」 モンモランシーがシエスタの声に驚き、飛び起きる。 「モンモランシーさん、この扉鍵がかかってるんです!魔法で鍵を開けて下さい!」 「え?え?でもカリーヌ様が…」 「お願いします!」 「わっ、解ったわよ、ちょっと待って」 モンモランシーは懐から杖を取り出すと、馬車のドアノブに向けて『アンロック』を唱えた。 しかし、何の反応もない。 モンモランシーは再度杖を向けると、先ほどよりもゆっくりとした動作で『アンロック』を使った。 「……駄目ね、きっとカリーヌ様が『ロック』をかけて出かけらしたんだわ、私の『アンロック』じゃ太刀打ち出来ないみたい」 「そんな…」 そうこうしているうちに、馬車の外からドスン、と音がした。 馬車の窓を開けて外を見ると、月明かりに照らされた一匹の竜が地面に横たわっていた。 「シルフィード!?」 シエスタの叫びに気がついたのか、シルフィードは首を上げ辺りを見渡したが、シエスタの姿は見えない。 「シルフィード!シルフィード!」 力一杯シエスタが叫ぶと、シルフィードは「きゅい!きゅい!」と鳴いて、馬車の方を見た。 「シルフィードって、タバサの使い魔?そういえば最近タバサを見てなかったけど…なんでこんな所にいるのよ」 モンモランシーが訝しげに呟いて、外を見る。 「きゅーん…」 シエスタとモンモランシーの姿を見たシルフィードが、助けを求めるような鳴き声を出した。 「きゅっ! きゅい…」 苦しそうに鳴くシルフィード、そこに突然風が舞い起こり、シルフィードの体を地面に押しつけた。 そして、シルフィードと馬車の間に、『フライ』で飛んできたカリーヌがふわりと着地した。 数秒遅れて、黒づくめのローブに身を包んだ二人の人間が、シルフィードの側にゆっくりと降ろされた。 「カリーヌ様!その竜は私の知り合いです!」 シエスタが馬車の中から叫ぶ、するとカリーヌは馬車を一瞥して杖を降った。 ガチャリと音がして馬車の扉が開くと、シエスタは一目散に外に出てシルフィードの側に駆け寄ろうとしたが、風で作られた障壁があって近づくことができない。 ぶわりと風が舞う、シエスタの目の前で黒づくめのローブがはぎ取られ、二人の顔が顕わになった。 「キュルケさん!それに、タバサさんまで、どうして」 「お知り合いですか?」 カリーヌが問うと、シエスタはカリーヌに振り向き、叫ぶような声を上げた。 「二人は、魔法学院の友人です!魔法を解いて下さい!」 「この二人は、先に魔法で手を出しました。貴方の同級生であっても油断はできません。……手足だけは拘束させて頂きますよ」 カリーヌがキュルケ達を覆っていた障壁を解く、と同時に二人の両手両足は風によって拘束され、地面に大の字に寝かされた。 倒れている二人の肩を叩いて、シエスタは二人の名を叫んだ。 「キュルケさん!タバサさん!」 何度か揺さぶってみたが、二人とも返事はない。 そこにモンモランシーが駆け寄り、二人の容態を確認した。 「…大丈夫みたい、二人とも気絶しているだけだわ」 「本当ですか!?」 「ええ。それにしても…シルフィードは翼を痛めてるわね。波紋で手伝ってくれないかしら」 「はい!」 シルフィードは強く体を打ち付けたせいか、体の至る所に青あざのようなものを作っていたが、二人が協力して治療を施したため、みるみるうちに青あざは消えていった。 「きゅい…」 「もう大丈夫よ、シルフィード」 シエスタがシルフィードの頭を撫でると、シルフィードはまるで猫のように顔をこすりつけた、目には涙も浮かんでいる気がする。 カリーヌはモンモランシーに近寄り、呟いた。 「ミス・モンモランシー。この二人が湖面に向けて魔法を唱えていました。それを目撃した私に殺傷能力のある魔法を私に向けたことから、十中八九襲撃者でしょう…ただ、確認せねばなりません。お疲れの所に頼むのは心苦しいですが、今から水の精霊を呼んで頂けますか」 「わ、解りました」 モンモランシーは頷き、早速ロビンを呼びに行った。 「うっ…」 「キュルケさん?大丈夫ですか、キュルケさん!」 キュルケが目を覚まし、苦しそうにうめいた。 それに気づいたシエスタが屈み込んで、顔をのぞき込み、声をかける。 「……あ、れ? シエスタ?」 「キュルケさん、大丈夫ですか?どうしてこんな所に…」 「どうしてこんな所にって、私の台詞よ、それは……あ、タバサは?タバサは!?」 「ミス・タバサは眠っています、大丈夫です、怪我もありません」 「そう…よかった」 キュルケが安堵のため息をつくのを見て、シエスタも安心を得たた。 友人を、タバサの身を心配して、何か危険な任務に巻き込まれたのだろう、水の精霊を襲撃したのがこの二人だとしても、そこには何か理由があるに違いないと思ったのだ。 「水の精霊に引き渡す前に、事情を説明して頂けませんか」 「…こちらのめっぽう腕の立つご婦人は誰かしら」 「ひとに名を訪ねる前に、名乗るのが礼儀です」 つん、と見下したような口調でカリーヌが言うと、キュルケは少しむっとしたが、すぐに気を取り直し名を名乗った 「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。『微熱』のキュルケと呼ばれておりますわ」 つんとした態度で名乗ったキュルケだが、カリーヌはそれを気にすることなく淡々と答えた。 「運命的な物を感じますわね。私はカリーヌ・デジレ。在学中は私の娘ルイズがずいぶんとお世話になったようですね…以前は『烈風』と呼ばれておりました」 「…!」 キュルケが目を見開き、首を動かしてまじまじとカリーヌを見る。 ルイズの母親というだけでも驚きなのに、二つ名が『烈風』だと聞くと、たちの悪い冗談だとしか思えなかった。 だが、キュルケもタバサも、この人物を殺して逃げる覚悟で魔法を放った、それなのに傷一つ追わせることもできなかった。 キュルケもタバサも自分の魔法に自信があったが、これ程までに手も足も出なかったのは生まれて初めてかもしれない。 キュルケは、この人物が『烈風カリン』なのかと納得し、心中でため息をついた。 不意に、キュルケの拘束が解かれた、タバサとシルフィードの拘束も解かれ、体が自由になる。 上体を起こしたキュルケがカリーヌを見つめる、するとカリーヌは先ほどまでの厳しい目つきではなく、どこか寂しそうな雰囲気を纏わせた。 「火傷をした娘を介抱して下さったと、ミス・シエスタ、ミス・モンモランシーから聞き及びました。ここから逃がすことはできませんが、拘束だけは解かせて頂きます」 「…お心遣い、痛み入りますわ」 そう言ってキュルケは立ち上がり、タバサの隣に移動すると、静かに座り込んでタバサの顔をのぞき込んだ。 「ふう…参ったわね。どうしよっか」 キュルケは優しくタバサの頭を撫で、呟いた。 「あの…キュルケさん、水の精霊を襲おうとしていたのは、本当ですか?」 シエスタがキュルケの顔をのぞき込む、 「ええ、本当よ。……ラグドリアン湖の水位が上がって、被害が出てるからってね。水の精霊を退治しないといけなくなったの」 「そうなんですか…じゃあ、お二人が水の精霊を怒らせた訳じゃないんですね。でも、そうだとしたら、水の精霊はなんで水位を上げたんでしょう」 「私に聞かれたって解らないわよ、ところであんた達は何でココにいるの?モンモランシーまで居るなんて」 「それなんですけど、今、ある人を治療するのに『水の秘薬』がどうしても必要なんです。水の精霊を怒らせた人のせいで秘薬が入手できないと聞いて、直接交渉しに来たんです。そうしたら水の精霊は、襲撃者を退治したら願いを聞くと言って…」 「そうなの…でも、こっちだってそう簡単には引き下がれないわよ、これは、ホラ…タバサの」 シエスタは、キュルケが言いたいことを悟った。 『タバサに与えられた任務』だと言いたいのだ。 タバサの母を治癒したときに、だいたいの事情は聞いているので、この任務を失敗したら何らかの制裁がタバサと、タバサの母、もしくは数少ない召使いにも与えられるだろう。 ここ数週間、魔法学院でもキュルケの姿が見えなかったのは、タバサと行動を共にしていたからだと難なく想像できた。 どうすればよいのか、シエスタは悩んだ。 そもそも、ラグドリアン湖の水位が上がらなければ、二人が差し向けられることも無かったはずだ。 なら、水の精霊に交渉してみるしかない、とにかく水位を上げ続ける理由だけでも聞かなければならない。 シエスタは拳を握りしめて、ゆっくりと立ち上がった。 「参っちゃったわね。あなたたちとやりあうわけにもいかないし、水の精霊を退治しないとタバサの立つ瀬はないし……」 「キュルケさん。水の精霊を襲うのは中止してください。そのかわり、私が水の精霊に、どうして水かさを増やすのか理由を聞いてみますから。水かさを増やす原因に対処すれば、戦う理由なんて無くなるはずです」 キュルケが驚いたように目を見開き、シエスタを見た。 「水の精霊が、聞く耳なんかもってるの?」 「私達は、襲撃者をやっつけるのと引き換えに、秘薬をもらうって約束したんです…水浸しになったこの土地が、元に戻ればいいんですよね?」 キュルケは少し考えて、タバサを揺すった。 タバサはしばらくすると目を覚まし、身じろぎをした。 キュルケに抱きかかえられて立ち上がると、シルフィードがタバサに顔を近づけた。 「大丈夫」 タバサはそう言ってシルフィードの頭を撫でると、今度はキュルケに向き直った。 カリーヌの姿を見たタバサは複雑そうな表情でキュルケを見た、もっともタバサの表情の変化は極めて乏しいので、タバサが困っていると解るのはキュルケとシエスタぐらいのものだ。 「水かさが元に戻れば良いんでしょう?」 「………」 タバサはこくりと頷いた。 しばらくすると水の精霊が現れたのか、湖面が輝きはじめた。 シエスタはカリーヌと向き合うと、怯えることなく、堂々とカリーヌの目を見た。 「カリーヌ様、二人を水の精霊に引き渡すのは待って頂けませんか。水の精霊に水を引いて貰うように頼みたいんです。水かさを増した原因に対処すれば、二人も水の精霊を退治せずに済みます」 力強くもなく、怯えたようでもなく、シエスタはひたすら冷静にカリーヌの目を見つめていた。 「……よいでしょう。ただし水の精霊を怒らせる真似は決して許しません」 「ありがとうございます。」 シエスタはカリーヌに礼を言って、モンモランシーの側に駆け寄った。 ちょうど水面が盛り上がり、水の精霊が姿をあらわした所だった。 人間のような形を取らず、不定形のままでうねうねと動いている。 「水の精霊よ。もうあなたを襲う者は、もう貴方を襲う気はないと話しているわ」 モンモランシーがそう言うと、今度はシエスタが口を開いた 。 「水の精霊さん、水かさを増やす理由を教えて貰えませんか。できれば、水かさを増やすのは止めて欲しいんです。私たちにできることなら、なんでもしますから、お願いします」 水の精霊は、ゆっくりと大きくなっていき、モンモランシーそっくりの姿を取った。 「お前たちに、任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った……『太陽』よ、お前がいるのならば、我はお前を信じることにしよう」 モンモランシーは「まただ」と呟いた。 太陽という名の者は聞いたことがない、話の流れからすると、シエスタを指しているようだが…なぜシエスタが水の精霊に知られているのかが解らいのだ。 そうこうしているうちに、水の精霊はモンモランシーの姿から、20年代前半の美しい女性の姿に変わっていき、シエスタの目の前にまで近づいてきた。 「太陽よ。人間どもが流した汚れた水を浄化し、我に波紋を与えたリサリサの血を引きし者よ。我はそなたを信用しよう」 「!」 シエスタの目が驚きに見開かれる。リサリサ、つまりシエスタの曾祖母は、水の精霊を助けた過去があるようだった。 「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」 「秘宝ですか…」 「秘宝?」 モンモランシーが「秘宝」と聞いて首をかしげる、モンモランシーは水の精霊が何かを守っていたなど知らなかった。 「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど交差する前の晩のこと」 小声でモンモランシーが「おおよそ二年前ね」と呟く。 「我はその秘宝を探すため、大地を水で浸食しているのだ。水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」 「…………」 ハルケギニアを水が覆うまで何年かかるだろう、数百年、いや数千年か。 あまりにも気が長い話に、シエスタは絶句した。 秘宝を取り返すためにハルケギニアを水没させるつもりだとは思っていなかったのか、モンモランシーも多少驚いている。 「き、気が長いんですね…」 「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り……今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」 どうやら水の精霊に寿命という概念は無いらしい、ずっと長い間、気が遠くなる昔からこの湖で暮らしてきたのだろう。 その途中でリサリサに会ったのかと思うと、シエスタは胸に何か熱いものがこみ上げる気がした。 「水の精霊さん、私たちがその秘宝を取り返してきて来ます、その秘宝はいったいどんな物なんですか?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 モンモランシーは秘宝の名に聞き覚えがあったのか、そういえば…と口を開いた。 「なんか聞いたことがあるわ。『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるとか…」 「そのとおり。誰が作ったものかはわからぬ、単なる者よ、お前の仲間かも知れぬ。ただお前たちがこの地にやってきたときにはすでに存在した…」 水の精霊はモンモランシーの言葉を肯定し、話を続ける。 「死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの命ゆえ。 単なる者よ、偽りの命に動かされた、自我を持たぬ者にしかならぬ。指輪を使いし者にしか従わぬ、操り人形よ……」 、 「とんでもない指輪ね……水の精霊よ、誰がそれを盗んだのか、名前や、背格好とか、手がかりになりそうなものを教えて」 モンモランシーが問うと、水の精霊はしばらく体を震わせてから答えた。 「風の力を行使して、我の住処やってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった。姿形はわからぬ…だが個体の一人が『クロムウェル』と呼ばれていた」 水の精霊の言葉にキュルケが答えた。 「…聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前よね」 カリーヌが静かに頷く。 モンモランシーは後ろを振り向き、キュルケに異を唱えた。 「ちょっと待ってよ、クロムウェルなんて名前、何人もいるじゃない」 だが、カリーヌは水面に近づき、モンモランシーの隣に並び、こう呟いた。 「ほぼ間違いはないでしょう。神聖アルビオン帝国の皇帝を名乗るクロムウェルは、神より授かった虚無の魔法を用いて死者をも蘇生させ、それによって多くの貴族を掌握したと言われています」 「え…」 モンモランシーが絶句する、それはこの場にいる皆の総意でもあった。 だが、一人、カリーヌだけは凛とした表情を崩さず、水の精霊に向き合って口を開いた。 「水の精霊よ、約束しましょう。その指輪を何としてでも取り返します。ですがすぐに取り返すことは出来ません。しばらくの間水かさを増やすのを待って頂けませんか」 水の精霊はふるふると震え、答えた。 「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら水を増やす必要もない…お前たちの寿命がつきるまでの間に、指輪が戻らぬのなら、我はまた大地を浸食するだろう」 「永劫の長き時を生きる水の精霊よ、貴方のご判断に感謝致します」 カリーヌは静かに呟き、感謝の意を表した。 水の精霊はまた震えだすと、今度は片手を前に出して、シエスタの前に手のひらを見せた。 「約束の通り我が体の一部を渡そう、太陽よ、リサリサの血を引きし者よ、ここへそなたの波紋を流すのだ」 シエスタは恐る恐る水の精霊の手を取った。 そして次の瞬間、シエスタの体に、電撃のようなものが走った。 「――!」 「新しき盟約、リサリサの盟約に基づき、我は我の体の一部とともに、そなたの体にリサリサの波紋を渡そう。波紋戦士が訪れたとき、リサリサから預かりし記憶を渡す盟約は、これで果たされる…」 シエスタは自然と、波紋の呼吸をしていた。 両手に集まった波紋が水の精霊の体に通り、水の精霊はそれに応じて球体を作り出す。 「ちょ…」 モンモランシーが、言葉にならないほど驚き、慌てる。 シエスタの手に渡された『水の精霊の涙』は、涙と呼べるような量ではないのだ、洗い桶一杯分はありそうな『水の精霊の涙』に、モンモランシーは背筋が寒くなる思いだった。 「そなたの力は我等精霊にとって命そのもの、太陽を木々が受け、木々が土地を豊かにし、土地は水を浄化する。だがそなたの力は、波紋は、我等精霊に絶大なる力を与える」 そう言って水の精霊は姿を変え、今度はモンモランシーの姿を取った。 「古き盟約の者よ、我はそなたに感謝しよう、太陽を我が元へ導いたのはそなたならば、我は今ここで新たに盟約を結ぼう」 「ほ、ほんとうですか、わわわ、わかりました!」 モンモランシーは緊張しつつ、腰に下げた袋から針を取り出し、指先に軽く突き刺した。 慌てたせいか、ダラダラと血が流れてしまったが、そんな事を気にしている余裕はない。 水の精霊が差し出した手の上に、モンモランシーが血を垂らすと、水の精霊は体を震わせて不定型な形に戻った。 「これ新たに盟約は結ばれた。単なる者よ、我はそなたと力となろう…」 そう言って水の精霊は、ごぼごぼと姿を消そうとした。 その瞬間、タバサとシエスタが水の精霊を呼び止めた。 「「待って」」 タバサが他人を呼び止めるところは、皆見たこともない、キュルケですら少し驚いている。 シエスタはタバサを見ると、静かに頷いた。先に質問してくれと言う意味だ 「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」 「なんだ?」 「貴方は『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由を知りたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。 しかし察するに、我に決まったかたちはない故に我は変わらぬ。お前たちが世代を入れ替える間も我は水と共にあった。 移り変わる者よ、おまえ達は、おまえ達にないものを欲するのであろう、祈りという形で……」 タバサは頷き、目をつむって手を合わせた。 いったい、誰に何を約束しているのだろうか解らないが、キュルケがその肩に優しく手を置いたのを見て、シエスタは「母を必ず治療する」と約束しているのだと気がついた。 シエスタは両手に波紋を流し、水の精霊から渡された体の一部を球体に保ちながら、水の精霊に質問した。 「水の精霊さん、私は、心を壊す毒を治す術を知りたいんです、さきほど私の心に触れたようにして、心を病んだ人を治すことはできますか?」 「太陽よ、体を治すことはできよう。だが心は我にも治せぬ。先ほどそなたの記憶から、心を病んだ者が見えた。そこにいる蒼髪の単なる者に近しい者であろう」 シエスタが「しまった!」と心の中で呟いた、モンモランシーとカリーヌに、タバサの身内が心を病んでいると知られてしまったからだ。 しかし、水の精霊に質問するチャンスなど、今ぐらいしか無いと思うと、質問せずにはいられなかったのだ。 「古き者。エルフを頼るが良かろう。彼らは精霊と共に自然と共にありし者。故に体の組成にもさることながら精神の組成にも関わる。 彼らは毒を作り出せる、それ故に解毒にも彼らを頼るがよい。我が体の一部が必要ならば、その時またそなたらの前に姿を現そう……」 水の精霊はそう言うと、今度こそ静かに湖底へと消えていった。 早朝、太陽が登り始める頃、シエスタ、モンモランシー、カリーヌの三人は竜の引く馬車でラ・ヴァリエール領へと向かっていた。 キュルケとタバサは、シルフィードに乗ってガリアに報告し、それから魔法学院に戻るらしい。 水面を引かせたのだから、任務はこれで完了だろう、と笑っていた。 モンモランシーは夕べほとんど寝ていないためか、椅子に座ってすぅすぅと寝ている。 シエスタは自分のマントを広げてから蔓草を巻き付け、袋状にし、その中に水の精霊の涙を入れていた。 これが無ければ、ラ・ヴァリエール領まで波紋を流し続けることになっていただろう、液体を両手に保ち続けるのは、かなり疲れるのだ。 多機能マントを作ってくれたコルベール先生に感謝しながら、シエスタはカリーヌの表情を伺った。 「……何かしら?」 「あ、いえ、何でもありません」 「貴方、さっきから私の顔をじっと見つめているわ」 「すみません…」 シエスタはカリーヌから視線を外し、俯いた。 その手は固く握りしめられ、ぷるぷると震えている。 今にも泣きそうな、それでいて何かに怒っているようなシエスタの雰囲気に、カリーヌは首をかしげた。 「ミス・シエスタ、言いたいことがあるのならば言ってご覧なさい。平民として育ったとしても、今の貴方はもう貴族なのです。堂々としなければなりませんよ」 シエスタはツバを飲み込んだ、その音がやけに大きく体の中で響く。 「……悔しいんです、私」 「悔しい?」 「もっと早く、波紋が使えていれば、ルイズ様を…」 「ミス・シエスタ。貴方にとってルイズはどんな貴族でしたか?」 「私にとって、ですか?私がメイドとして働いていた時…ルイズ様から料理の感想を何度か聞きました」 「感想?」 「はい。あれは…二学年になられて間もない頃でした」 シエスタは、ルイズとの馴れ初めを話した。 包帯を借りに来た時のこと… 食事を美味しいと言ってくれたこと…… 給仕の最中に水をこぼしてしまった時は、謝るときでも自信を持ちなさいと励ましてくれた。 「今思えば…ルイズ様は、自分に与えられた仕事を、役目を、その立場における責任を全うしろと、仰っていたのかもしれません」 「そう、ですか」 カリーヌは一言呟くと、それっきり黙ってしまった ふと窓の外を見ると、遠くに羊飼いらしき少女が見えた。 少女の被っている麦わらの帽子が風に飛ばされると、帽子の中からピンク色の髪の毛がふわりと広がった。 「…!」 だが、それは見間違いだった。 よく見れば、よくある茶色の髪の毛で、しかも背格好もルイズより大きい。 カリーヌの頬を、自然と涙が伝った。 ルイズは、顔に火傷を負って、どこかで生きているかも知れない。 しかしそれ以上にカリーヌの心を揺さぶったのは、シエスタの言葉だった。 ルイズの言葉はシエスタに受け継がれ、『活きて』いる。 母としての悲しみと、貴族としての喜びが混ざり合い、カリーヌの瞳からとめどなく涙が流れていった。 そして少しの時が流れ、場面は魅惑の妖精亭。 「なんだ、これは」 アニエスは、テーブルに置かれた豪華な料理と珍しい高級酒に、どう反応すれば良いのか解らずにいた。 「アニエス様!この間はありがとうございました、どうぞ気の済むまで食べて下さい!」 魅惑の妖精亭で働いている店員一人が、アニエスに駆け寄り礼を言う。 「この間?何のことだ?」 「格好良かったです、いけすかないチュレンヌの取り巻きを一網打尽にして…私達みんなアニエス様のおかげで助かったんですから」 「……記憶にないな、私はこの店に食事をしに来たことしか無いが」 「ああん、もうそんな謙遜するところが素敵ですぅ」 「あー、その、何だ、とにかく。こんな豪華な料理は食べきれない。この皿だけでいいから後は皆で食べてくれ…」 「えーっ!」 驚く店員に、店長の娘ジェシカが近寄って耳打ちした。 「ほら、駄目よそんなことじゃ。接待するのもサービス、知らんぷりするのもサービスなんだからね」 「そ、そうですね。それじゃあアニエス様。ごゆっくりおくつろぎ下さいね」 そう言って二人は、アニエスのテーブルから離れていった。 アニエスは自分の頬をつねって、痛みを確認した。 「夢じゃないな。だとすると…」 アニエスが店内を見渡すと、一人の女性が目についた、ルイズである。 ルイズはアニエスの視線に気づいて、アニエスのテーブルに近寄った。 「おい、どういう事だこれは」 「格好良かったわよ。賄賂を強要して私腹を肥やすチュレンヌに、剣だけで渡り合う女シュヴァリエ・アニエス。女王陛下も喜んでくれるわ」 「やっぱりお前の仕業か…」 ため息をつくアニエスを見て、ルイズはくすくすと笑った。 「ところで、明日、二人組がここに来る。護衛を頼むぞ」 「二人組?」 「あぶり出し…いや、ねずみ取りを明日行う。念のため王宮から出てくる馬車のうち、酒樽を三つ積み込んだ馬車を護衛してくれ」 「…二人って、あの二人か。まったく無茶な作戦を考えるわね」 「発案者はそのお二人だよ」 「まあ!」 ルイズが大げさに驚くと、何人かの店員と客が、ルイズの方を見た。 それに気づいたアニエスは気まずそうに顔をしかめたが、ルイズはあえて大きな声でこう続けた。 「お酌できるなんて光栄ですわ」 「え?あ。ああ」 アニエスは思わずグラスを手に取り、ルイズの前に差し出した。 ルイズは差し出されたグラスは細く、縦長のものであった。 ルイズは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべると、グラスにワインを注ぎ、アニエスの手に自分の手を重ねた。 そのままアニエスの唇にワイングラスを運び、ルイズはグラスの反対側にキスをした。 「「「「「「キャー♪」」」」」」 店内から黄色い声が上がる。 他にも「やれやれ!」とか「もっと!」とか「おおお!」とか、驚きの声が上がっていた。 グラスが見えぬ位置からでは、ルイズがアニエスにキスをしたと勘違いするであろう。 事実、何人もの人が勘違いをして、二人に向けてヒューヒューと口笛を鳴らし、はやしたてていた。 魅惑の妖精亭から少し離れた宿屋では、ワルドとロングビルが、情報交換をしている所だった。 今、魅惑の妖精亭で皿洗いをしているのは、ワルドの遍在である。 「……って事は、やっぱりアタシを助けたのは、アンタだったのかい?」 「僕が助けたのは偶然だが、ルイズの意志でもある」 「まいったね…あの嬢ちゃんにも、あんたにも恩を作られちゃったか」 「返せとは言わないさ、裏切りさえしなければな」 「裏切り者のアンタがそれを言うと、なかなか皮肉だね」 「フン」 ラ・ロシェールで起こった出来事や、アニエスに連れられてトリスタニアに戻ってきた事を話したロングビル。 彼女は近々ウェールズと接触し、今後のことを話し合うらしかった。 「トリステインにもアルビオンにも協力はしないさ、でも、嬢ちゃんには協力するつもりだよ」 「ルイズが話していた、ティファニアという娘のためか」 「…アタシの家族さ。神聖アルビオン帝国とやらを頬って置いたら、いつティファニアに危害が加えられるか解らないからね」 椅子の背もたれに体を預けて、ロングビルが大きな欠伸をした。 「ふわ……今のままじゃアルビオンに密航もできないしねえ、嬢ちゃんを手助けするのが一番の近道だろうと思ったのさ」 「かも、しれないな」 ワルドは薄笑いを浮かべた、嫌みたらしい笑みではなく、同感だと言いたげな笑みであった。 「む? 店が騒がしいな」 「ああ、そういえばアニエスが店に立ち寄るとか言ってたよ。ルイズとの関係を悟られるのは困るから、アタシはごめんこうむったけどね」 「何!何だと!」 ワルドが珍しく、狼狽えたような声を上げた。 「ちょっ、ちょっと、どうしたのさ」 「………フーケ、一つだけ聞こう。ルイズに何かされたことはあるか?」 「はあ? まあ、抱いてくれって言われたことはあるけど(母性的な意味で)」 ワルドは天を見上げてから、その場にがっくりと項垂れた。 「どうしたんだい」 ロングビルがワルドの顔をのぞき込むと、ワルドは少し渋い顔をしていた。 ワルドは偏在を通して、ルイズとアニエスがキスをしているのを目撃してしまったのだ。 「フーケ、そうだな、仮に、だ。 最愛の妹がレズビアンだったら、君ならどう接すべきだと思う?」 ロングビルの顔が、瞬間沸騰して真っ赤に染まる。 「何想像してんのさ!」 ロングビルの腰の入った平手打ちが、ワルドの頬に命中した。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/1514.html
Break Card イレイザー 2F/2C [[ワーウルフ]]/[[マシン]] 3/4/4 【“ミント・ブラマンシュ”のみ[[ブレイク]]可能】 1:[[メインフェイズ]]終了時まで、≪この[[キャラクター]]≫は[[精神攻撃]]によるダメージを受けない。 No.EP056/EP128 Rarity - Illustrator かなん Expansion ギャラクシーエンジェル/ギャラクシーエンジェルII&I カード考察 ネタカードなのにエフェクト使用でまさかのジリアン、アニエス一方負け。 デッキによっては割と本気で終了しかねない一枚。 青自体がエフェクトへの対策が取り辛い。 攻撃力が青の3F3Cの耐久力と同じ。 この2点が主な理由であろうか。 幸い、ブレイク元の精神力が1しかないので、このカードのブレイク後にレスポンスを積まずにステラが2コストの方のエフェクトを2回使えば落とすことはできる。 他にもエフェクトを使用すれば2回しか行動出来ない点もあるので、最悪ドローキャラとかでチマチマ行けばなんとかなるだろう。 ○関連カード G.A.パイロット“ミント・ブラマンシュ”
https://w.atwiki.jp/kuroeu/pages/338.html
珊海王の円環 解説 数百年周期で姿を現す珊海王が、ルノーシュ地方に存在する自分と関連のある秘宝の中から選出する六つの円環。 常に同じ秘宝が選ばれる訳では無く、どの秘宝が円環として選ばれるのか事前には分からないが、過去に一度選ばれた秘宝は円環として選ばれる事は無い。 選ばれた円環には珊海王の魔力が付与され、手にした者は強力な円環魔法が使用できるようになる。 六つの円環を全て集めると珊海王との謁見が可能となり、願いを叶えて貰えるとされている。 雑感・考察 過去に一度選ばれた秘宝はもう選ばれないって事はいつかは自然に終息する現象なのだろうか? あるいは一巡したらリセットされて二巡目に入るのかもしれないが。 願いに関しては過去の謁見者が叶えた願いを無効にする様なものは拒絶される模様。 (例えばアニエスが望んだウァルプメイル復興はそれを滅ぼしたいイルヤナの願いに反するので叶えて貰えなかった) また謁見者が真に望む形で願いを叶えられるとも限らない様であり、カオスエンドのアリツやウルリカ、イジャスラフはかなり酷い願いの叶えられ方をしている。 望まぬ方法で願いが叶えられるのは「猿の手」っぽい。 過去の勝者の願いを打ち消す願いは叶えられない。アニエス編でエルフの森の復活が不可能なことやエルフ達の蘇生ができない状態にある事が語られる - 名無しさん (2024-07-02 08 48 34) その会話だと過去の勝者の願いに反しないなら死者蘇生自体はできる感じもする。ただアルヴィド姉とかソーニャの師匠とか見るに変な叶えられ方をしそうではあるか。不死者みたいにして復活みたいな - 名無しさん (2024-07-02 08 52 02) 名前
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9440.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 ふたりのウルトラマンの参戦によって、戦いは一気に流れを変えだした。 だが、この戦いを見守る黒幕は、この状況を見てむしろ楽しそうに笑っていた。 「すごいすごい、さっそくウルトラマンがふたりも駆けつけてきましたよ。まったくこの星は恐ろしいですねえ、ひ弱な私にはとても侵略など思いもできませんよ」 まるで他人事のような気楽な態度。自分が送り出した怪獣がやられそうだというのに、まるで気にした様子を見せていない。 隣のジョゼフは無言で、なにかをじっと考え込んでいる。シェフィールドが心配そうにのぞき込んでいるが、まるで気づいている様子さえない。 ジョゼフにここまで深刻に考えさせるものとはなにか? そして黒幕の宇宙人は、手を叩いて愉快そうにしながらクライマックスを告げた。 「おやおや、そろそろ決着みたいですね。王様、見逃すと損をしますよ。私も私の世界にはいないウルトラマンがどんな必殺技を繰り出すのか、もうワクワクしてるんですから」 だがジョゼフは答えず、視線だけをわずかに動かしたに過ぎない。 そしてそのうちにも、戦いは黒幕の言った通りに終局に入ろうとしていた。 まずは怪獣たちに先んじて、ワルドが引導を渡されようとしていた。 「くっ、弱いくせにしぶとさだけは一人前だな」 「伊達に猛訓練してきたわけではないのでね。これくらいでへばっていたら、もっと怖いおしおきが来るのさ」 ギーシュたちは三人がかりでワルドの遍在ひとりと対峙していた。互角、と言いたいところだがさすがワルドは強く、ギーシュたちは苦戦を余儀なくされているが、ワルドとて楽なわけではない。 「だが、いくら粘っても私の遍在ひとつ倒せないお前たちに勝機はないぞ」 「それはどうかな? ぼくらはただの時間稼ぎだったことに気づかなかったようだね。ルイズ、いまだ!」 「ええ、あんたたちにしちゃ上出来ね。『ディスペル!』」 合図を受けたルイズが詠唱を終えて杖を振り下ろすと、杖の先から虚無の魔法の光がほとばしり、ワルドの遍在たちを影のように消し去っていった。あらゆる魔法の威力を消滅させる『ディスペル』の魔法の効力だ。 たちまち一人になるワルド。ワルドは、水精霊騎士隊の戦いが、最初からディスペルの詠唱を終えるための囮であったことに気づくが、もう遅い。 「し、しまった」 「ようし、これで邪魔者は消えたな。みんな、袋叩きにしてやれーっ!」 いくらワルドでもひとりで才人をはじめ水精霊騎士隊全員とは戦えない。悪あがきのライトニンググラウドも才人のデルフリンガーに吸収され、後にはワルドの断末魔だけが響いた。 唯一、救いがあるとすればルイズが冷酷に言い放った一言だけだろう。 「とどめは刺すんじゃないわよ。そいつには吐かせなきゃいけないことがたくさんあるんだからね。まあ、アニエスの尋問を受けるのに比べたら死んだほうがマシかもしれないけど」 まさしく『烈風』の血を引く者としての苛烈な光を目に宿らせたルイズの冷たい笑顔が、ワルドが気を失う前に見た最後の光景であった。 そして、怪獣たちにもまた最後が訪れようとしている。 「ダアアッ!」 ガイアがアブドラールスを宿営地の外側へと大きく投げ飛ばす。そして、無人の空き地に落ちたアブドラールスに向けて、ガイアは左腕にエネルギーを溜め、右手を交差させながら持ち上げると、そのまま腕をL字に組んで真紅の光線を放った。 『クァンタムストリーム!』 光線の直撃を無防備に受けて、アブドラールスはそのまま大爆発を起こして四散した。 さらに、ダイナも空を飛び交うサタンモアとの空中戦の末、両腕を広げてエネルギーをチャージし、全速力で突進してくるサタンモアに対してカウンターで必殺光線を放った。 『ソルジェント光線!』 頭からダイナの必殺技を浴びたサタンモアは火だるまになり、そのまま花火のように爆発して宿営地の空にあだ花を残して消えた。 ダイナはガイアのかたわらに着地し、「やったな」というふうに肩を叩いた。 だが、ガイア・我夢は素直に喜ぶことができなかった。 〔どうした我夢? どっかやられたのか〕 〔いや、本当にこれで終わったのかなと思って。なにか、あっけなさすぎると思って〕 ガイアもダイナもたいした苦戦をしたわけではない。ふたりともカラータイマー、ガイアの場合はライフゲージではあるが、青のままで余力たっぷりだ。 念のために周りを探ってみたが、別の怪獣が潜んでいる気配もない。こちらがエネルギーを消費したところへ追撃が来るというわけでもなさそうだ。Σズイグルのように罠を残していった様子もなかった。 アスカも、言われてみれば楽に勝てすぎたと思い当たったようだが、彼にもそれ以上はわからなかった。 しかし、ウルトラマンの活動限界時間は少ない。考えている時間はなく、ふたりともこれ以上余計なエネルギーを消耗するわけにはいかないと飛び立った。 「ショワッチ」 「シュワッ」 ガイアとダイナはガリア兵たちの歓声に見送られて飛び去り、宿営地に安全が戻った。 兵たちは秩序正しく動き出し、被害箇所の復旧や負傷者の救助に当たり始めた。 そんな中で、タバサは連行されていくワルドの姿を見た。すでに大まかな報告はタバサのところに上がってきており、概要は知っている。 だが、タバサもまた解せない思いでいた。 「おかしい……」 「ん? なにがおかしいのね、おねえさま」 「ジョゼフの仕業にしては、あっさりしすぎてる……」 シルフィードにはわからないだろうが、ジョゼフという男を長年見続けてきたタバサには、これがジョゼフのしわざとは到底思えなかった。 確かにふたりのウルトラマンは強かった。それに、才人やルイズたちが強いのも友人のひいき目はなくわかっているつもりだ。だがそんなことはジョゼフなら当然わかるはずで、力押しならば圧倒的な戦力を背景にした上で、そうでなければ裏をかいて悪辣な何かを仕組んでいるのが常套だ。 しかし、今回は怪獣たちは特に強化された様子もなく、ワルドも前のままの実力であっさりと捕らえられてしまった。追い詰められて手段を選んでられなくなったのか? いや、それはない。ジョゼフがそんな暗愚の王ならば、とっくの昔に仇は討っていた。けれど、ここが陽動でほかの場所で事件が起きたという知らせもなく、タバサもまた公務に忙殺されていった。 激震が起きたのは、その翌日である。 その日、ルイズは才人を連れてトリステイン王宮を訪れていた。もちろん昨日の顛末を女王陛下に報告し、さらに今後のことを話し合うためである。 「女王陛下、ルイズ・フランソワーズ、ただいま参上つかまつりました」 謁見の間には、アンリエッタのほかにタバサも先にやってきていて、王族同士ですでに話をつめていたようだ。 なお、ウェールズは今はアルビオンに戻っている。アルビオンもまだまだ安泰というわけではないので当然だが、新婚だというのに別居せねばならないアンリエッタのことをルイズは痛ましく思った。平和が戻った暁には、トリステインとアルビオンを夫婦で交互に行き来して統治するつもりだというが、一日も早くそうしてあげたいと切に願っている。 今日はこれから、捕縛したワルドから引き出した情報を元にしてジョゼフへの対抗策の原案を練る予定となっていた。だが、謁見の間に深刻な面持ちで入ってきたアニエスの報告を受けて、一同は愕然とした。 「ワルドの記憶が消されている、ですって!?」 ルイズは思わず聞き返した。ほかの面々もあっけにとられている中で、アニエスは自分も納得できていないというふうにもう一度説明した。 「目を覚ましたワルドを、考えられるあらゆる方法で尋問したが、奴は錯乱するばかりで何も答えようとはしなかった。そこで、まさかと思って水のメイジに奴の精神を探ってもらったら、どうやら奴はここ数年来の記憶をまとめて消されてるようなのです」 「ここ数年ということは、つまりトリステインに反旗を翻したことも、昨日のことも……」 「ええ、きれいさっぱり忘れてしまっています。嘘をつけないように、それこそあらゆる手を尽くしましたが、結果は同じでした」 アニエスの言う「あらゆる手」が、どんなものであるか、才人は想像を途中で切り上げた。ここは現代日本ではない、悪党へのむくいも違っていてしかるべきだ。 しかし、記憶が消されているとは。アニエスは説明を続ける。 「恐らく、敗北したら記憶が消去されるようになんらかの仕掛けがされていたのでしょう。魔法か、薬物か、催眠術か……今、調査を続けておりますが、奴の記憶が戻る望みは薄いと思われます」 「口封じというわけね……けど、おかしいわね。口封じのためなら敗北したら死ぬようにしておけば、一番確実で安全でしょうに?」 ルイズは、なぜワルドを生かして捕らえさせたのかと疑問を口にした。 記憶が消されているのはやっかいだが、戻る可能性が皆無というわけではない。たとえば何らかの魔法、今も行方不明のアンドバリの指輪でも使えば強固な精神操作は可能であろうが、ディスペルを使えば解除は可能だ。そのくらいのことをジョゼフが予見できないとは考えられない。 なら、記憶を消されたワルドにはまだ何か役割があるということか? アンリエッタはアニエスに、念を押すように尋ねた。 「アニエス、死んだはずのワルド子爵ですが、本当に死んだところを確認したのですね?」 「はい、あのとき奴の心臓をこの手で確実に……そして怪物と化した後はウルトラマンAが倒したのをこの目で確認しました。あれで、生きているわけがありません」 「しかし、現に子爵、いえ元子爵は生きた姿で帰ってきました。シャルロット殿、あなたはどう思われますか?」 話を振られたタバサは、自分もいろいろと考えていたらしく、仮説を口にした。 「まだ、はっきりしたことは言えないけど。可能性としては、前にあなたたちが倒したワルドが偽物だった、スキルニルなどを使えば精巧な偽物は不可能じゃない。第二に、ワルドに似せた別人を自分をワルドだと思わせるように洗脳した。ほかにもいくつか仮説はあるけれど、どれも『なぜこのタイミングでワルドを送り込んできた』かの説明ができない。腕の立つ刺客なら、ジョゼフはほかに何人も雇えるはず」 確かに、タバサを始末するだけならあんな派手な攻撃は必要ない。むしろひっそりと暗殺者を送り込むほうが安全で確実だ。なにより、ワルドはルイズたちへの雪辱に気を取られてタバサには目もくれていなかった。 ルイズや才人も、納得のいく答えが出なくて悩んでいる。才人は、なにかあったらまたその時に考えればいいんじゃね? という風に笑い飛ばそうかとも思ったが、自分の手で確実に葬ったはずの奴が当たり前のように戻ってきたと思うと、やはり不愉快なものがあった。そんなにしつこいのはヤプールと、いいとこバルタン星人くらいでいい。 残された手掛かりはワルドのみ。今もミシェルがやっきになって調査をしているものの、あまり期待はできそうにない。 タバサはアニエスに対して、もう一度尋ねた。 「あのワルドという男、本当にあなたたちの知っているワルドそのものなの? スキルニルで作られた複製、あるいはアンドバリの指輪で操られている死人という可能性は?」 「ない! 女王陛下への報告の前に、あらゆる手立ては尽くした。魔法アカデミーにも頼んで徹底的にな。あれは間違いなくワルドだ。生きた人間だ!」 アニエスはいらだって大声で答えた。彼女とて信じられないのだ、確実に死んだはずの人間がまた現れる。そんなことは、先の始祖ブリミルの一件だけでたくさんだ。 しかし、完全に秘匿されているはずのこの部屋を、こっそりと覗き見ている者がいた。 それは窓ガラスに張り付いた一匹の蛾。それが魔法で作られたガーゴイルであれば、部屋のディテクトマジックに引っかかっていだろうが、あいにくそれは科学で作られた超小型のスパイロボットだったのだ。 その情報の行く先はもちろんガリアのヴィルサルテイル宮殿。そこでジョゼフとシェフィールドを前にして、黒幕の宇宙人は高らかに宣言した。 「ウフハハハ! 聞きましたか王様? 間違いなく生きた人間そのものだそうですよ。これで、私の言うことを信じていただけますね! では、始めていただけますね。約束しましたよね?」 「ああ、やるがいい……ミューズ、出かけるぞ。支度しろ」 「ジョゼフ様……はい、仰せのままに……」 グラン・トロワから飛行ガーゴイルが飛び立ち、ジョゼフを呼びに来た大臣が騒ぎを起こすのはその数分後のことである。 そして時を同じくして、トリステイン王宮でも事態は急変していた。 突然、謁見の間の窓ガラスが割れて、室内に乾いた音が響き渡る。 「女王陛下!」 「ルイズ、俺の後ろにいろ!」 敵襲かと、アニエスはアンリエッタをかばって剣を抜き、才人もルイズをかばって同じようにする。もちろんタバサも愛用の杖を握って、女王ではなく戦士の目に変わった。 しかし、敵の姿は見えず、代わってガラスの破片の中からジョゼフの声が響いた。 『シャルロットよ、お前の屋敷で待っている。戦争を止めたければ、来い』 それが終わると、ボンと小さな爆発音がして静かに戻った。 いまのは、いったい……? 唖然とするルイズや才人。だが、タバサはわかっていた。わからないはずがなかった。 「ジョゼフ……」 あの男の声を、父の仇であるジョゼフの声を聴き間違えるはずがない。 だが、ジョゼフの声にしては珍しく落ち着きがなく、動揺が混じっていたように感じられたのはなぜだ? しかしタバサの中の冷静な部分の判断も、抑え込み続けてきた怒りの前にはかなわなかった。 謁見の間の窓ガラスを自ら叩き壊し、ベランダに出たタバサはシルフィードを呼び寄せた。もちろんルイズや才人が慌てて引き止めようとする。 「待ってタバサ! あなた、どこへ行くつもり?」 「ジョゼフが待ってる。わたしは、行かなきゃいけない」 「なに言ってるのよ! これは間違いなく罠よ。あなたならわかるでしょう」 「たとえ罠でも、これはジョゼフを倒すまたとない機会。たとえ刺し違えても、あの男をわたしは倒す。わたしがいなくてもガリアは……さよなら」 飛びついて止める間もなく、タバサはシルフィードで飛び去ってしまった。こうなると、シルフィードに追いつけるものはそうそう存在しない。 「タバサ! ああ、もうあんなに小さく。アニエス、竜かグリフォンを、って、それじゃ間に合わない。シルフィードより速いのなんてお母様の使い魔くらいしか、お母様は今どこ?」 「カリーヌどのは昨日の襲撃の検分のために、ちょうどお前たちと入れ違いになった。お前こそ、前に使ってみせた瞬間移動の魔法はどうした!」 「遠すぎるしシルフィードが速すぎるわ! もう、あの子ったら我を忘れちゃってるわ。こんなときに限って、キュルケもいないんだから、もう!」 「落ち着け! 追いつけなくても追いかけることはできる。シャルロット女王はどこへ向かった? 飛び去ったのはリュティスの方角ではないぞ」 アニエスに言われて、ルイズははっとした。あの方向は、まっすぐ行けばラグドリアン湖……そしてキュルケから聞いたことがある。ラグドリアン湖のほとりには。 「旧オルレアン邸……タバサの実家だわ!」 ジョゼフの言葉とも一致する。そこだ、そこしかないと才人とルイズは飛び出した。 同時にアンリエッタもアニエスに命じる。 「アニエス、伝令を今連絡がとれる味方すべてに出しなさい。あらゆる方法を使って、ラグドリアン湖の旧オルレアン邸に急行するのです! シャルロット殿を死なせてはなりません!」 伝書ガーゴイル、その他思いつく限りの方法がトリステイン王宮から放たれる。 そして、急報を受けてトリステインのあらゆる方向からタバサに関わりのある者たちが飛び立っていく。目指すはオルレアン邸、前の戦いの疲れも癒えないままに、それはあまりにも唐突で早すぎる決戦かと思われた。 しかし、いかに彼らが急ごうとも、タバサに先んじてラグドリアンまでたどり着ける位置と方法を有している者は、ウルトラマンさえいなかった。 オルレアン邸の現在はギジェラに破壊されて以降、放置されたままの廃墟の姿をさらし続けている。 タバサは飛ばされる理由もわからずに飛んでいるシルフィードに乗って、自分の家であり、かつて異世界に飛ばされる場所になったそこに帰ってきた。 「ここで待っていて」 タバサは門の前にシルフィードを残すと、ひとりで邸内へと入っていった。 敷地内は雑草で覆われ、焼け落ちた邸宅はつるに巻き付かれて荒れ放題な様相を見せていた。 女王のドレスに身を包んだままのタバサは、油断なく杖を構えながら庭を進んでいく。かつて幼い日には家族と遊びまわった庭、ジョゼフが弟を訪ねて遊びにやってきたことも何回か覚えている。 そう、オルレアン公と王になる前のジョゼフは、庭の一角にテーブルを広げ、よくチェスに興じていたものだ。思えば、チェスに関しても無類の強さを持っていた父が「待った」をしていたのはジョゼフを相手にだけだったかもしれない。 そしてその場所で、ジョゼフはひとりで立って待っていた。 「来たなシャルロット……ここも変わってしまったな。俺がここにやってきたのは、ざっと五年ぶりくらいだ。あの頃のお前はまだ妖精のように小さくて、来るたびにシャルルの奴が娘の自慢話を長々と聞かせてくれたものだ」 「呼ばれたから、来た。なにを、企んでいるの?」 「そう警戒するな。別に罠などは仕掛けていないし、ここにいる俺はスキルニルでも影武者でもない俺本人だ。お前より先にリュティスからここに来るのは、少々骨を折ったぞ」 ジョゼフは杖も持たずに棒立ちでタバサの前に無防備でいた。 対してタバサは油断せずに、全神経を研ぎ澄ませてジョゼフと自分の周囲を観察している。 伏兵が潜んでいる気配は特にない。目の前の相手も、こうして確認する限りではジョゼフ本人に間違いはない。だが、一気に魔法を撃って仕留める気にはならなかった。ジョゼフも虚無の担い手であることは判明している。下手な攻撃は返り討ちに合う危険性が高い。 だが、洞察力をフル動員してジョゼフを観察しているタバサは、違和感を覚えてもいた。なにか、声に余裕がなく、焦っているように感じられる。あのジョゼフが焦る? まさか。 「ここはわたしの家、客人は来訪の用件を言ってもらう」 「フ、たくましくなったものだなシャルロット。用事は簡単だ。お前にひとつ、相談したいことがあってな」 「相談? 冗談はよして」 「冗談ではない、俺は本気だ。実は今、真剣に悩んでいることがあってな。お前にもぜひ意見をもらいたいんだ」 信じがたい話だが、ジョゼフが嘘を言っているようには思えなかった。だがジョゼフの口から出る言葉が、まともなものとはとても思えなかった。 このまま問答無用で仕留めにかかるか? 相談とやらが何か知ったことではないが、それを聞けばまず間違いなく自分が不利になる。 しかし、タバサが決断するよりも早く、ジョゼフがつぶやいた一言がタバサの心を大きく揺り動かした。 「……」 「……え?」 タバサの表情が固まり、心臓が意思に反して激しく脈動し始めるのをタバサは感じた。 ジョゼフは今、なんと言った? まさか、いやそんな馬鹿な。だが、それならジョゼフの焦りの説明もつく。そうか、あれはすべてこのために用意された伏線だったのか。 呼吸が荒くなり、杖を持つ手が幼子のように震えだす。それは、どんな悪魔のささやきよりも深くタバサの胸へと浸透していった。 その間にも、才人たちは全速力でオルレアン邸へと急行しつつある。 けれど、黒幕のあの宇宙人はそれにも動じることはなく、自分の思い通りに事が進んでいることに高笑いを続けていたのだ。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/tb_roh/pages/17.html
ブレイブ 図鑑順 1ページ [ルーキーの実力]バーナビー・ブルックス Jr.(ノーマル) [ヒーロー登場]バーナビー・ブルックス Jr.(ノーマル) [マスクの中の微笑]バーナビー・ブルックス Jr.(ノーマル) [ヒーローの素顔]バーナビー・ブルックス Jr.(ノーマル) [ヒーロー登場]ファイヤーエンブレム(ノーマル) [異色のヒーロー]ファイヤーエンブレム(ノーマル) [ヒーローの素顔]ネイサン・シーモア(ノーマル) [的確な意見]ネイサン・シーモア(ノーマル) [万年最下位]折紙サイクロン(ノーマル) [ヒーロー登場]折紙サイクロン(ノーマル) [見切れ命]折紙サイクロン(ノーマル) [ヒーローの素顔]イワン・カレリン(ノーマル) [視聴率至上主義]アニエス・ジュベール(ノーマル) [打ち解ける心]トニー(ノーマル) [よき理解者]ベン・ジャクソン(ノーマル) [怪盗団リーダー]ポーリー(ダイアモンドマン)(ノーマル) 2ページ [熱い実況]マリオ(実況)(ノーマル) [メカニック]斎藤(ノーマル) [本音と建て前]バーナビー・ブルックス Jr.(ノーマル) [余裕]ファイヤーエンブレム(ノーマル) [堂々最下位]折紙サイクロン(ノーマル) [キャリアウーマン]アニエス・ジュベール(ノーマル) [縁の下の力持ち]ベン・ジャクソン(ノーマル) [母校での特別講義]バーナビー・ブルックス/折紙サイクロン(レア) [女子力]ファイヤーエンブレム/ブルーローズ(レア) [求める真実]バーナビー・ブルックス Jr./ルナティック(レア) [導き]折紙サイクロン/スカイハイ(レア) [いつか咲く華]ドラゴンキッド/ファイヤーエンブレム(レア) [ポイントGET]バーナビー・ブルックスJr./スカイハイ(レア) メカニック斎藤/ベン・ジャクソン(レア) [アプローチ]ファイヤーエンブレム/ワイルドタイガー(レア) [連携の賜物]バーナビー・ブルックスJr./ワイルドタイガー(レア) 3ページ [前途多難]バーナビー・ブルックス Jr./ワイルドタイガー(レア) [むぎゅっ]ファイヤーエンブレム/ロックバイソン(レア) [ギリギリセーフ])バーナビー・ブルックスJr./ブルーローズ(レア) [見切れだけでは終わらない折紙サイクロン(ハイレア) [追い続けた闇]バーナビー・ブルックス Jr.(ハイレア) [容赦ない攻撃]ファイヤーエンブレム(ハイレア) [ニューヒーロー誕生]バーナビー・ブルックス Jr.(ハイレア) [思い出のおもちゃ]バーナビー・ブルックスJr.(ハイレア) [犯人の目的]ファイヤーエンブレム(ハイレア) [人の車に何してくれてんだ]ネイサン・シーモア(ハイレア) [見切れ絶好調]折紙サイクロン(ハイレア) [決別の理由]イワン・カリレン(ハイレア) [フォートレスタワーで事件発生]アニエス・ジュベール(ハイレア) [決戦の朝の味噌スープ]ジェイク・マルチネス(ハイレア) [連続攻撃]バーナビー・ブルックス Jr.(ハイレア) 4ページ [求めた真実]バーナビー・ブルックス Jr.(ハイレア) [ヒーローの休日]イワン・カレリン(ハイレア) [背中で語る]折紙サイクロン(ハイレア) [ウサギのワンポイント]バーナビー・ブルックスJr.(Sレア) [怒りの反撃]バーナビー・ブルックス Jr.(Sレア) [灼熱の炎]ファイヤーエンブレム(Sレア) [忍びの心得]折紙サイクロン(Sレア) [スーパールーキー]バーナビー・ブルックスJr.(SSレア) [見切れ職人]折紙サイクロン(SSレア) [パートナーシップ]バーナビー・ブルックスJr./ワイルドタイガー(レジェンド) - - -
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1760.html
ラ・ロシェール付近の森の中、うっそうとした木々の生い茂る一角で、アニエスから渡された甲冑をルイズが装着していた。 アニエスが、ルイズの隣でぽかーんと口を開けて、呆けたように何かを見上げている。 その様子がおかしかったので、ルイズはクスリと笑みをこぼした。 「そんなに驚くことないじゃない」 アニエスは今まで見上げていたモノから目を離し、ルイズに顔を向ける。 「あ…。 いや、でも、これは、驚くさ」 冷や汗を垂らしながらアニエスが呟くと、アニエスの見上げていた吸血竜が、べろんとアニエスの頬を舐めた。 「 !! 」 「大丈夫よ、食べようなんて思ってないわ。お友達への挨拶よ」 「そ、それならいいんだが、心臓に悪い」 アニエスが見上げていたのは、十匹以上の竜を食べ、巨大化した吸血竜の姿だった。 『結局、一晩眠っちまったなあ。開戦になっても目を覚まさなかったらどうしようか、ヒヤヒヤしたぜ』 「居眠りして戦争に遅れました、なんて格好悪いまねしないわよ」 デルフリンガーの言うとおり、ルイズは精神的な疲労のため丸一日近く眠っていた。 昨日、大規模な『イリュージョン』を使ったせいで、ルイズの精神力が限界を迎えていたのだ。 タルブ村を覆うように『森』の幻影を造り、森の中には『タルブ村と草原』の幻影を作る。 これによって、アルビオンの軍勢に一時的な混乱を招き、タルブ村の住民が避難するまでの時間稼ぎをしたのだ。 「アニエス、アルビオン艦隊はラ・ロシェールに近づいきてる?」 「ああ、少しずつだがこちらに接近しているようだ。地上部隊の行進に合わせて移動しているのだろう」 「厄介ね。あの大砲はトリステインの所有するものより性能がいいそうよ。射程距離だって1.2倍…いや、1.4倍は見積もらないと危険ね」 「そこまで高性能な大砲だとは思いたくないな。仮に1.4倍の射程距離があるとすれば、あと一時間でラ・ロシェールが射程距離に入る」 「その前にあいつらを混乱させるわよ」 ルイズが全身を包み込む甲冑を着込み終わると、デルフリンガーを鞘から抜き放ち、その鞘をアニエスに渡した。 「これは?」 「甲冑を着けてると鞘を背負えないのよ、預かってて」 「わかった」 鞘を受け取ったアニエスが、ルイズに敬礼する。 ルイズは目礼でそれに応じてから、吸血竜に飛び乗った。 今のルイズは、ニューカッスルの城から巨馬に乗って脱出したという、銀色の甲冑に身を包んだ騎士の姿そのもの。 「あ、そうだ。ねえアニエス、その……ヴァリエール家は参戦していないの?」 アニエスはすかさず答える。 「ゲルマニアは援軍を二週間後によこすと言ってきたそうだ。遅すぎると思わないか?」 それを聞いて、ルイズはなるほどと頷いた。 「ゲルマニアが裏切る可能性があるから、国境警備を兼ねてるヴァリエール家はここに来られないって訳ね」 「そうらしいな」 「…よかった」 「?」 「何でもないわ、じゃ、早速行ってくるわね」 ルイズは、吸血竜の背から伸びた骨を掴む。 吸血竜はそれを合図にして、力強く翼をはためかせた。 「…頼む」 アニエスは飛び立った吸血竜を見上げながら、まるで祈るように呟いた。 『なあ、嬢ちゃん』 「なに?」 『ヴァリエール家っておめえの生まれた所だろ』 「そうだけど、急に何の話よ」 『おめえ、自分が生きてるってバレるのが怖いだけじゃねえ、何か別の物も怖がってねえか?』 「…わかる?」 『少しは』 「そうねえ……例えばね。『レキシントン』と同じぐらいの戦力を持ったメイジがいるとしたら、どう思う?」 『そりゃ驚きだ、何だ、もしかしてヴァリエール家にはそんな実力を持った騎士団が居るのかい』 「騎士団じゃないわ、個人よ」 『へっ?』 「ある一人のメイジがこの戦場にいれば、戦況は大きくトリステイン側に傾いてたことでしょうね」 ルイズはどこか楽しそうに、そして懐かしそうに笑った。 「なに、竜が?」 『レキシントン』の後甲板で、トリステイン侵攻軍総司令官であるサー・ジョンストンが伝令からの報告を受けていた。 「はっ、未確認の竜が一騎、ラ・ロシェール付近の森から飛び立ち、レキシントンへとまっすぐ向かっております」 ジョンストンはふむ、と自分の顎を撫でた。 「トリステインの竜か、一騎で来るとは妙な奴だ。もしや我等の仲間か、はたまた亡命目的か……まあよい、落としてしまえ」 「既に小隊長命令で竜騎兵が向かっております」 「ふむ、我が部隊は実に優秀だ」 ジョンストンは満足そうに笑みを浮かべた。 「伝令!」 だが、別の伝令が血相を変えて後甲板に足を踏み入れたのを見て、ジョンストンと艦長のボーウッドは顔をしかめた。 「わ、我が軍の竜騎兵二十騎中、五騎が未確認の竜に落とされました!」 「何だと!」 ボーウッドが血相を変えて叫ぶ、アルビオンの竜騎兵は天下無双と唄われるほど訓練されており、航空戦力の要でもあった。 一騎の竜に五騎も落とされるなど、絶対にあってはならないのだ。 「竜は七枚の翼と、異常に長く伸びた尾を使って竜騎兵を絡め取っております!成体に満たぬ風竜のような大きさですが、鱗や角や翼など、誰も見たことのない異様な姿をしており……」 ジョンストンは頭に被った帽子を握りしめ、伝令に向けて叫んだ。 「ワルドはどうした! 竜騎士隊を預けたワルドは! あのトリステイン人はおののいて逃げたか!」 「子爵殿の風竜は、姿が見えぬとか……」 「裏切りおったな! ええい、何としてもその竜を落とせ! ワルドは見つけ次第処刑してもかまわ…」 顔を真っ赤にして怒るジョンストンの前に、ボーウッドがすっと手を出した。 「兵の前で取り乱しては、士気にかかわりますぞ」 ジョンストンは、ボーウッドにもバカにされているのかと思いこみ、怒りの矛先をボーウッドに向けた。 「何を! 貴様の稚拙な指揮が貴重な竜騎士隊に損害を与えたのだぞ!」 叫ぶようにわめきながら、ボーウッドの胸ぐらを掴もうとジョンストンが手を伸ばす。 ボーウッドは杖を握りしめてこぶしを造り、でジョンストンの腹を殴った。 うっ、とうめき声を上げ、ジョンストンは倒れた。 白目をむいたジョンストンを、傍らで待機していた従兵が乱暴に抱きかかえ、艦長室へと放り込む。 ジョンストンは総司令官という立場を与えられてはいるが、戦争の経験に乏しかった。 軍人としての優秀さで今の立場を掴んだボーウッドとは対照的で、落ち着きに欠けているのだ。 ボーウッドは将兵に向かって、落ち着き払った声で言った。 「本艦『レキシントン』号を筆頭に、艦隊は未だ無傷。そしてワルド子爵には何か策があるのだろう。諸君らは安心して、勤務に励むがよい」 将兵達の表情に少しの安堵が戻る。 何も問題はない、何も心配はないと思わせるような威厳こそが、ボーウッドが長年積み重ねてきた研鑽の成果なのだ。 「艦隊全速前進。左砲戦準備」 ボーウッドは艦隊に指令を下す、このまま進めば、ラ・ロシェールに陣を敷くトリステイン軍を射程に入れるまで五分もかからない。 ラ・ロシェールは周りを岩山で囲まれた天然の要塞だ。 だが、制空権を奪ったアルビオン艦隊にとって、トリステイン軍はアリ地獄の底に押し込められたアリのようなものに見えた。 しばらくすると、トリステイン軍の陣容がはっきりと見えて来る、ボーウッドはそれを確認し、指示を飛ばした。。 「艦隊微速。面舵」 レキシントンをはじめとするアルビオン艦隊が、トリステイン軍を左下に眺めるかたちで回頭する。 「上方、下方、右砲戦準備。弾種散弾を込めよ。左砲戦開始。以後は別命あるまで射撃を続けよ」 空高くから、重力の助けを借りて弾丸が飛ぶ。 一発一発の威力は凄まじく、風のスクエアでも対処に苦労するその勢いに、ボーウッドは勝利を確信していた。 だが、まだ何かイレギュラーがあるかもしれないと考えていると、そこに伝令が駆け込んできた。 「竜騎兵、全滅!」 それとは別の伝令も、後甲板へ報告を伝える。 「地上部隊、ニューカッスル城から脱出したと思われる『騎士』と交戦中!」 ボーウッドは眉をひそめた。 ニューカッスル城から脱出した『騎士』と『鉄仮面』。 旧アルビオン王家にとってはまさしく『英雄』であろう。 たった一人の英雄が戦局を変えられるなどとは思っていない、だが、そこに付き従う兵がいたとすれば、それが大きなうねりとなって戦局を覆す恐れがある。 油断はできないからこそ、彼は躊躇いなくどのような作戦をも指示できるのだ。 「”例の船”を準備をしておけ」 ボーウッドの呟きを聞いた一人の従兵が、敬礼をした。 閃光が走る。 アルビオン艦隊からの艦砲射撃がトリステイン軍を襲った。 雨のように降り注ぐ砲弾が、ラ・ロシェールごとトリステイン軍を破壊するような勢いで襲いかかってくる。 「所定の位置につけ!後退しつつ砲弾を反らす!」 ウェールズがアンリエッタの前に立ち、魔法衛士隊をはじめとするメイジ達へと檄を飛ばす。 いくつもの弾が、大地を抉り、岩も人も馬もすべてを吹き飛ばし、舞い上げた。 爆音がトリステイン軍を包んでいるが、トリステイン軍は壊滅的な打撃を受けることなく、砲弾を逸らすことに成功していた。 マザリーニは近くの将軍たちと打ち合わせをしていたが、砲弾を防ぐウェールズの手腕に目を見張った。 トリステインは小国だが、始祖ブリミルから続く歴史と由緒のある国であった。 アルビオン、ゲルマニア、ガリアなどと比べれば国力は弱いと思われがちだが、戦力となるメイジの数は各国の中で最も多いぐらいなのだ。 ウェールズはこの短期間でトリステインの戦力を把握し、ラ・ロシェールの地形を考慮した上で最適の陣を考案した。 風の魔法で作られた空気の壁も、アルビオンの戦力をよく知るウェールズだからこそ効率よく配置できるのだ。 マザリーニは思わず、ううむ、とうなっていた。 しかし、何割かの砲弾は逸らしきれずに飛び込んでくる。 いくつかの砕けた岩と血が舞うのを見て マザリーニは呟いた。 「この砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう」 それを聞いたウェールズがマザリーニに答えた。 「砲撃に勢いがない! こちらが後退戦を仕掛けているのを見抜かれている!」 続けて、アンリエッタもユニコーンの上に乗ったまま、周囲の轟音にかき消されぬようにと大声で言った。 「『石仮面』からの連絡がありしだい『ヘクサゴン・スペル』を使います!」 「御意に」 ドオン、と地震のような地響きが伝う。 敵は空からの絶大な支援を受けた三千、トリステインは、砲撃で崩壊しつつある二千。 マザリーニは、勝ち目がないこの戦をどう覆すのかと、『石仮面』に問いただしたい気持ちだった。 「すごいじゃないの! 天下無双と謳われたわれたアルビオンの竜騎士が、全滅よ!」 白銀の甲冑を着込んだルイズが、アルビオンの地上部隊のまっただ中で叫んだ。 吸血竜が竜騎兵の炎にも、魔法にもひるまずに戦っているのが見えたのだ。 二十騎もいた竜騎兵は、九枚の翼と大蛇のような躰を器用に動かして空を飛ぶ吸血馬に、跡形もなく食われ、吸収されていった。 戦場の雄叫びに包まれ、ルイズの声はデルフリンガーしか聞こえていない。 『五時の方向に指揮官が居るぞ!』 「見えてるわ!」 デルフリンガーはルイズの無駄口には答えず、淡々と敵の指揮官の位置を図っていた。 「オオオオオオオオオオオッ!!」 両手を開き、居並ぶ兵士に向けて猛烈なタックルをぶつける。 その一撃で30人ほどの兵士が浮き足立つ、ルイズはその隙間に入り込んで敵兵を盾にしつつ、指揮官へと接近する。 右手に持ったデルフリンガーで邪魔者を吹き飛ばし、指揮官へと指先を向けた。 甲冑の隙間から伸びた髪の毛が、腕を伝って、指先から勢いよく押し出される。 それはまるで吹き矢のように指揮官の躰へと突き刺さった。 髪の毛は指揮官の身体の中へと潜り込み、脳へと突き刺さる。 「これで20人!」 ルイズは地面にデルフリンガーを突き刺し、勢いよく跳ね上げた。 地面から跳ね上げられた土しぶきと石のつぶてが、勢いよく兵士達に突き刺さっていく。 弓矢と魔法を受けてボロボロになった鎧が、血に染まって赤くきらめいた。 「WRYYYYYYYYYYY!!」 ルイズが叫ぶ、空高くを飛ぶ竜に向けて、叫ぶ。 「GOAAAAAAAAAAA!!」 叫び声を受けた吸血竜が雄叫びを上げ、ルイズを迎えるため地上へと首を向けた。 羽を縮め、鷹が空気抵抗を殺して落下するのと同じように、勢いよく高度を下げる吸血竜。 地上すれすれで大きく翼を開くと、その異様さがどれほど際だっているのかよく解った。 「うああああああああああああああ!」 吸血竜に踏みつぶされ、誰かが叫ぶ。 ルイズはかまわず飛び乗ると、たてがみを握りしめた。 風竜よりも大きな翼をはためかせると、風圧で兵士達が何人も吹き飛ばされる。 長く伸びた尾を無造作に振り回しただけで、兵士達はまるで箒に掃かれる枯れ葉のように宙を舞った。 竜騎士隊を全滅させた吸血竜と、地上で戦っていたルイズは、草原の遙か上空に浮かぶ『レキシントン』へと向かった。 船の下には、ブルリンと再会するきっかけとなった、ラ・ロシェールの港町がある。 デルフリンガーが周囲を確認して呟く。 『嬢ちゃん、雑魚をいくらやっても、親玉をやっつけなきゃどうしょもねえ』 「わかってるわよ」 『策はあるのかい』 ルイズはデルフリンガーを左手に持ち直すと、自分の力を確かめるようにデルフリンガーを強く握りしめた。 右手を高く掲げ、腕の中に仕込んだ杖を少しだけ掌から露出させる。 「風石の効果を少しの間だけ止めるわ、少しでもあの戦艦を地上に近づける。そうすれば勝機はあるはずよ」 『死ぬ気かよ』 ルイズは、答えなかった。 ラ・ロシェールに向けて放たれる艦砲射撃は凄まじい。 見上げた先にある『レキシントン』からは、いくつもの砲門がトリステイン軍勢に向けられている。 その砲撃の中で、一つだけ違和感を感じる発光が見えた。 「!」 ルイズの躰が硬直したのを感じて、吸血竜は勢いよく身を180度翻した。 次の瞬間、吸血竜の躰に無数の鉛玉がぶち当たり、翼や尾の一部を砕いた。 「きゃあっ!?」 『散弾だ! 射線から離れろ!』 デルフリンガーが叫ぶと、吸血竜はうめき声を上げながら翼を翻した、それによって二撃目を避けることはできたが、吸血竜の躰には明らかなダメージが与えられていた。 『嬢ちゃんしっかりしろ!おい!』 「だ だいじょうぶよ!」 デルフリンガーはルイズの心の変化を敏感に感じ取れる。 ルイズの心には、戦争に対する恐怖があった。 吸血鬼となったルイズは、自分が死ぬことなど怖いと思えなくなっていた。 しかしアンリエッタや、ウェールズ達を思い出すと、ルイズの心に恐れが浮かんでくるのだ。 吸血鬼となった自分を、お友達だと言ってくれたアンリエッタ、ウェールズ。 彼らを勝利に導けるのは自分しかいない、いま自分が死んだら戦争に負け、二人は処刑されてしまうだろう。 それを考えると、ルイズの心にも恐怖が浮かぶ。 死にたくないという思いが、ルイズの心を『吸血鬼』から『年相応の少女』へと引き戻すのだ。 『嬢ちゃん、落ち着け!』 デルフリンガーの声が聞こえたのか、ルイズはハッと目を見開いた。 そして、震える躰を押さえようと、強く、強くデルフリンガーを握りしめる。 「わ、わたしは、わたしは、敵に後ろなんか見せられないのよ!」 体勢を立て直した吸血竜の上で、右手を高く、レキシントンへと向けた。 「敵に後ろを見せぬ者をっ… 貴 族 と 呼 ぶ の よ !」 相変わらずルイズの体は恐怖に震えている、だが、その心は信念に支えられ、力強く肉体を動かした。 『嬢ちゃん』 「デルフ! 最期までつきあって貰うわよ」 『俺は武器だぜ、最初からそのつもりよ。それよりなんとかして船の真上に行くんだ、そこに大砲を向けられねえ死角がある』 「死角…敵もバカじゃないわ、その死角をカバーする手を持ってるでしょうね。けど……」 ルイズは吸血竜のたてがみを右手で握りしめ、足を踏ん張った。 「行くわよ!死ぬ気で飛びなさい!」 「GURUOOOOOOOOO!!」 吸血竜がそれに呼応し、人間にはとても耐えられぬ勢いで体をくねらせ、翼を動かす。 雲に突入し、高く、ひたすら高く空へと昇っていくと、ルイズの視界が急ににじんだ。 仮面の中で流す涙を拭うこともできず、ルイズはそのまま杖を構え尚した。 「………」 ルイズは強靱な握力で吸血竜の背にしがみつきながら、ルーンを詠唱していた。 吸血竜が雲を突き破り、レキシントンよりも高く舞い上がったのを確認すると、ルイズは吸血竜が、レキシントンを見下ろした。 雲の中から飛び出たルイズは、眼下に広がる草原に杖を向け、『イリュージョン』を放った。 「おお!あれは……アルビオンの国旗ではないか!」 草原の上に描かれたのは、巨大な旧アルビオンの国旗だった。 それを合図にして、ゆっくりと後退していたトリステインの軍勢が敵の地上部隊へと進軍を開始した。 アルビオンの地上部隊では、混乱が起こっていた。 突如空中に現れた国旗に刺激されたのか、20人ほどの指揮官が地上部隊の司令官へと杖を向けたのだ。 「なんだ!?何が起こっている!」 地上部隊の司令官は、突然の反乱に困惑を隠せなかった。 『従順な』はずの部隊長達が、一斉にアルビオン軍に杖を向けたのだ。 それに従う者、逆らう者、かまわずトリステインへと突撃しようとする者が入りみだれ、アルビオン軍の地上部隊は戦列を崩し、烏合の衆になっていった。 ルイズが最初にアルビオンの地上部隊に切り込んだのは、忠誠心を呼び覚ます仕掛けのためだった。 ルイズの髪の毛は肉腫となって人間の脳に寄生し、ルイズへの忠誠心を植え付けることができる。 今回はそれを利用して、『旧アルビオンの国旗』への忠誠心を呼び覚ますトリガーを作ったのだ。 それは、アンドバリの指輪によって指揮官が操られている場合でも変わらない。 何よりも優先して『旧アルビオンの国旗』への忠誠心を呼び起こされた指揮官達は、レコン・キスタへ反旗を翻したのだ。 「『石仮面』からの合図だ!」 「ええ。行きましょう、ウェールズ様」 トリステインの陣では、突如空中に現れた国旗を見て、アンリエッタとウェールズを中心とする即席の部隊が移動を開始した。 「アンリエッタ」 「ウェールズ様」 ウェールズはユニコーンに近づき、ユニコーンに乗るアンリエッタを抱き上げた。 自身の乗るグリフォンへ乗せると、魔法衛士隊が円陣を造り二人を囲む。 そしてアンリエッタとウェールズは杖を掲げて、詠唱を開始した。 「…」 『嬢ちゃん!おい!嬢ちゃん!』 「! あ、デルフ、私、何秒気絶してた?」 『五秒ぐらいだ、それより後ろを見ろ、ワルドが来てるぜ!』 ルイズは頭を振って、今の状態を確認した。 レキシントンよりも高い位置で旋回していた吸血竜が、距離を取ろうと翼をはためかせているが、後ろから接近してくるワルドの風竜はそれよりも早い。 ワルドは風竜の上でルイズを睨んだ。 彼はこのときをずっと待っていたのだ、『レキシントン』号の上空の雲に隠れ、静かに時を待っていた。 アルビオンの竜騎兵を撃墜した謎の竜、ワルドの乗る風竜でまともにぶつかっても勝ち目は薄い。 勝つためには虚を突くしかない、そう考えて上空に隠れていたのだが、竜の背に乗る騎士の姿を見てワルドの心は怒りに震えた。 「石仮面…!」 仮面で顔は隠されているが、あのような戦い方ができる人間など他には居ない。 それどころかあの竜は、他の竜を食べて吸収し、大きくなっているのだ、それに気づいたワルドはニューカッスルの城で切断した腕を思い出していた。 義手がギシギシときしむ音が、まるで歯ぎしりのように耳に付く。 「そこにいるのは『石仮面』、貴様だろう…なぜ貴様はその顔をしているのだ……! 消えろ亡霊ーーーッ!」 ワルドは風竜の手綱を、強く握りしめた。 ルイズは焦った、ワルドが乗る風竜は、吸血竜よりも遙かに早い。 瞬く間に追いつかれたと思ったら、次の瞬間には『エア・スピアー』が吸血竜の体を抉ったのだ。 「まずい……レキシントンをなんとかしなきゃいけないのにっ」 ルイズの焦りを感じ取ったのか、吸血竜が心配そうに鳴き声を上げた。 「グルルルルル……」 『おい、俺に構うなって言ってるぜ』 「嘘じゃないでしょうね」 『こんな時に嘘を言うかよ!』 「ワルドは強敵よ!ニューカッスルで遍在をいくつも使われたでしょ、九人分のメイジが命を省みず特攻してくるのと同じよ!」 「グアアアアアアアアアアアアアアアッ!」 「きゃっ」 突如、ルイズの体に何かが巻き付いた、吸血竜が長く伸びた尾でルイズを掴んだのだ。 吸血竜は、レキシントンの後甲板に向けて、ルイズをぽいっと投げた。 『俺を信用しないのかって怒ってるみてーだ』 「ちょっ、うわっ…」 ルイズの体は宙を舞い、レキシントンの甲板へと落下する。 だが甲板では幾人かのメイジがルイズに向けて杖を向けていた。 「まずいっ、魔法で壁を作られたら…」 『俺をあいつらに向けて構えろ!』 「!」 ルイズはとっさにデルフに従い、空中でくるりと回転して体勢を立て直し、デルフリンガーを甲板に向けた。 そして、デルフリンガーの刀身が輝いた。 「っ!」 ルイズの体に衝撃が走る、空気で作られた壁にぶつかったのだが、その壁は霧散して消えてしまった。 他にも風の刃や、炎の固まりがルイズに向けて放たれたが、デルフリンガーがそれを吸収してしまう。 「馬鹿なッ!魔法が通じ…」 甲板でルイズに杖を向けていたメイジが、何かを言いかけたところで、ドオンと大きな音を立ててレキシントンに振動が走った。 「…あんた、意外とやるじゃない」 『へへっ、これが俺のホントの姿よ、魔法ならいくらでも俺が吸い取ってやるさ』 「頼もしいわね!」 ルイズは、折れたままの足で甲板を蹴り、に渾身の力を込めて、竜騎兵を搭載するほど丈夫な甲板を踏み抜いた。 「サー!『騎士』が甲板に降り立ちました!甲板の中から船内に侵入した模様です!」 「…馬鹿な!」 ボーウッドは珍しく語尾を強めた。 異形の竜といい、『騎士』といい、すべてが規格外だ。 「まさか、烈風カリンではあるまいな」 ボーウッドの背に冷や汗が流れるのを感じた。 「何としてでも殺せ!」 いつも冷静なボーウッドが声を荒げたので、幾人かの兵が身震いをした。 ボーウッドは敵の戦力を侮っていたと、今更ながら考えていた、ふとある事を思いついたが、恐怖を煽ってはならないと考えて、決して口には出さなかった。 (あの騎士は、まさかエルフではないだろうな…) To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/dragoncage/pages/83.html
フィア 名前:フィア 愛称:髭男爵 称号:フォートレス・スレイヤー 種族:ルーンフォーク 年齢:1歳(稼動年数) 性別:女性 穢れ値:0 外見:身長:150 / 体重:42 髪の色:赤みがかった金 / 瞳の色:赤 / 肌の色:白 / 胸:B Riaさん画。Webホワイトボード一発書きでこれ。ありがとうございます。神! 【プロフィール】 プロトタイプであるフリーデルという人格を元に、その記憶を都合よく改変されたルーンフォーク4号。 「1/26与えられた力」にて自害し、1年間=全ての記憶を失った。 その後、皆の助けにより過去の自分を教えられ、冒険者復帰の方向で動く。 しかし、そんな中で請けた、ヘルゲン・ブラッカー女侯爵の護衛時、自領のために命を賭ける彼女と、その仕事の意味に惚れ、自身も爵位を取る事を目指す。 「3/8男爵領を取り戻せ!」にて、皆に助けられながら男爵位を獲得。同時に、竜の篭を引退した。 性格 - 真面目。 好き - 研究、書物、鍛錬、文明、知識、ひげ。 嫌い - 不真面目、不誠実。 【他PCとの交友関係】 ヤシュトー 私を支えてくれる騎士様。でも、護らなくてはならない人。 アーク 色々な意味で、規格外の強さを持った憧れの人。 マリア 厳しく、優しく、戦い方や考え方を教えてくれる人。 アニエス 優しくて強くて頼れるおやびん。 ライカ 元気そうだけど影のある、とても優しい人。 ルル すごく食べる人。テオさんと一緒で幸せそう。 テオ 触手が伸びる人。ルルさんと一緒で幸せそう。 アーニル 戦闘になると別人みたいだけど優しい人。 ケビン つかみどころがないけど、言葉に重みのある人。 フェル 静かで、お酒でできてそうな。 マローネ 理想的な大魔術師で、とても女らしい人。 フィル かわいいけれど、とても強い妹。 スカーレット ボディコミニケーションで安心させてくれる人 【NPCとの交友関係】 ロディ 賭け事好きな竜の篭のマスター。 ジョン 竜の篭の影のマスター。 ヘルゲン・ブラッカー侯 目指すべき目標。 【セッション同行PC】(2009/01/27:記憶喪失のためリセット) 1:アーニル、ヤシュトー、スカーレット 2:ケビン、マリア、フェル、アーク 3:アニエス、ルル、テオ、ライカ、マローネ フィアってどんな印象だった? 選択肢 得票数 得票率 いいんちょ 19 24% ひげ 17 21% どじっこ 17 21% 俺の嫁 13 16% 不器用 9 11% 優しい 3 4% 元百合 1 1% 真面目 1 1% 締め切りました。皆さんご投票有難うございました。 ひげが多かったのでNPC/髭男爵として復活する予定です。 予定は未定です。 名前 コメント 【記憶喪失までのデータ】 【他PCとの交友関係】 アーク 憧れの対象。 アニエス 優しくて強いおやびん。 マリア 頼れるお姉さん。見習いたい。 カイム やるところはやるお兄さん。 ブランカ 理解が難しい人。指は折ってません。 マローネ 最強の魔術師。 ライカ ファッションの先生。 ルル 食べても太らない。羨ましい。 ノーラ 大切な仲間の一人。応えられずごめんなさい。 ヤシュトー 護るべき対象。 アルミ もっちもち。 リカ 鮮血魔術のお嬢さん。 スカーレット 戦士として見習いたい存在。 クーガ 戦い方に生き様が現れています。 テオ これが、美少年というものでしょうか。 フェリシア 追剥魔人の名の通りの実力者。 マップ 生意気だけど頼れる弟のような存在。 グラール 怖頼れるおじさん。 フィル 合理的な人。 アーニル 覗きは良くないと思う。 【NPCとの交友関係】 トライゼン 主であり主人だった人。 ミク 歌声の綺麗な歌姫さん。 ラウル 優しく強いレッサードラゴン タムタム かわいくて賢いウサギさん。 クラウゼ皇 見る度に様子が違います。影武者? 姫将軍 噂にたがわぬ采配。見習いたい。 双子姫 少し危うい感があるうので心配。 【フィアの持っていた偽りの記憶とそれに伴う行動】 とある魔導研究の工房で4番目に創られたため、しかしその後ずっと稼動されず、現代に覚醒。名前のフィアは生まれた地方の言葉(現実の独語)で4の意。 フィアは稼動の際、研究所の関係者であったトライゼンという学者に引き取られる。 その後、フィアは彼によって覚醒し、起動してから8年間、自宅や旅先で、身辺の世話担当をすることとなる。 ひたすらに正直に夢を追い続けるトライゼンに、フィアはいつしか心を奪われ、何よりも優先すべき対象となっていったのだが、9年目の春に行った探索の際、不幸にも彼は命を失ってしまうのである。 叶うはずのない恋が、叶えることは二度とできない恋へと代わり、絶望に打ちひしがれるが…自分でもわからない理由で竜の篭の冒険者となった。 冒険で 大破局 についての資料が見つかれば、いつかトライゼンが帰ったときのために、研究室へ持ち帰ることにする。 【これまでの軌跡】 2008/10/04の冒険にて、判断ミスで山村一つを壊滅に追いやってしまったため、 自分の命よりも他人の命を優先する癖がつきつつあったのだが… 2008/10/20の仕事で共に冒険したヤシュトーが、命を落としてしまう。 それ以来、竜の篭に姿を現さなくなった。 2008/11/02竜の篭への脅迫状にて、 マップ、アーク、ルル、ノーラ、ヤシュトー、タムタム、アニエス、フィル、マローネ、 そして魔剣ハイスピードの助けを借りて復帰。 2008/11/18でウサギの迷宮攻略後、ノーラに心中を告白される。 フィアが受けた事のストレートな愛情を与えてくれるノーラを、嬉しく思っていたが、 いざ告白されると今も主であったトライゼンを想うフィアはそれを受け入れることは出来ず、 また、自分如きが独占していい相手ではないと思い、答えを返すことはできなかった。 結果としてノーラに酷いことをしたままとなっていることを自覚しており、 フィア自身、ノーラとどう接すればいいのかがわからないまま、 外面上、できるだけ今まで通りに振舞いつつ過ごしていた。 2009/01/03 Das Schwert des VIERten Anfanges にて、 ノーラ、ライカ、ヤシュトー、ブランカ、カイム、アーク、アニエスの助けを借り、過去を清算する。 主トライゼンの消息の一端がつかめた!そう思って行った遺跡でフィアとその友人達が目にしたのは、自分の記憶になった妻を失ったショックから、全てを再創造するために手段を選ばず、第四の始まりの剣を求める外道に落ちた主トライゼンだった。 そこで、フィアは自分が一年前に製造され、九年間の記憶は、トライゼンの妻、フリーデルのものを都合よく編集して作られたものであることを知る。 主だと思っていたトライゼンは、実際には自分のプロトタイプの夫で、良き研究仲間だった。 しかし、フリーデルが死んだ事により、彼は狂ったようにその綺麗な再生方法を探し、神への道を歩む事を模索しはじめたのだと。 …しかし、仲間の捨て身の説得に、立ち直る事ができた。皆には、感謝してもし足りない。 2009/01/24 葛藤、恐怖、そして… にて、 失踪したヤシュトーを取り戻すために動く。 結果、取り戻すこと自体は成功したが、この際、フィアは自分の中に生まれている大きな矛盾に気付いてしまう。 それに気付いてしまうと同時に、幸せすぎるぐらいだとと思っていた環境は、罪悪感となって圧し掛かる。 感謝の気持ちは呪怨となって心を蝕む。 「日常を保ちたい」 それだけのために矛盾を積み重ねる日々の営み。 崩壊の足音はすぐそこに…。 2009/01/26 与えられた力 にて、 ファントムに力を求め、心の闇を力に変える鎧を手にし、アークをも殺したヤシュトーを止めるため、また、皆をだまし続けていた自分、正義を騙って悪を容認していた自分、現実から逃げ続けていた自分が、最大の悪であると認定し、自害する。 その後、蘇生のためにポゼッションにて呼び出されるも、自分が以下に酷い人間であるかを語り、自分の廃棄を願う。 しかし、それさえも受け止め、戻って来いというヤシュトー、アーク、カイム、ライカの優しさを受け、本当は消えたくなどなかったという自分の本心を曝け出し、アークの自分を信じろという言葉を元に、アークも蘇生を受けることを前提に、蘇生を受け入れる。 この際、1年間=生まれて以来の全ての記憶は、元主であるトライゼンやフリーデルの記憶も含めて失われた。 今のフィアの記憶は、生まれたてのまっさらな状態となっている。 【セッション同行回数】 アーク(22)、アニエス(20)、マリア(20)、カイム(19)、マローネ(18)、ブランカ(17)、ライカ(16)、ルル(13)、ノーラ(10)、アルミ(10)、ヤシュトー(11)、スカーレット(10)、リカ(9)、クーガ(7)、テオ(6)、フェル(6)、マップ(5)、エウレカ(4)、フィル(4)、ケビン(4)、アーニル(4)、アドニス(3)、タムタム(3)、メルシエ(3)、リッツ(3)、アリス(2)、ガラ(2)、シーカー(2)、マギー(2)、ティルト(2)、デュシス(2)、ニル(2)、ノヴィア(2)、深紅(2)、アイ(1)、アララ(1)、アンジェ(1)、イオタ(1)、イリア(1)、ウル(1)、ガウルン(1)、クウ(1)、グラール(1)、ケロ(1)、シャイオ(1)、ソフィア(1)、タカハシ(1)、ティータ(1)、ディック(1)、バラン(1)、フール(1)、ホイペット(1)、マリー(1)、ミスラ(1)、レア(1)、レイク(1)、ロザリー(1)、火鉈(1)、ヒルダ(1)、ルアナ(1)、ファーラント(1)、チャチェ(1) 【所持魔剣】『ハイスピード』 葉月さんの「9/28【魔剣セッション】ザ・ハイスピード」で入手。 →自分GMの「11/02 竜の篭への脅迫状」で眠りにつく。現在は韋駄天ブーツ扱い。 ■分類 装飾品:装備箇所足 特徴 :銀色の謎の金属でできたブーツ。踵のところに羽根のような飾りがついています。 重さを感じず、長時間歩いても足が疲れません。 防護点:+1、制限移動+1、通常移動力+5、全力移動+15 ■能力 ●武器化 補助動作でMP4点を消費することで以下の武器になります。 種別:格闘/Sランク(グラップラーでなくても使用可能) 持続時間:18R 用法:1H# 必筋:1 命中:+1 威力:30 クリティカル値:10 追加ダメージ:+1 #キック攻撃として扱います。 ●能力解放 一日に3回まで以下の能力を使用できます。 乱戦状態の無条件離脱、および無条件通り抜け(【影走り】相当能力を得る)。 MP5点消費。主動作。2R。 - / - / -
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1165.html
時間を戻して五日前。 王城の正門が軋みを上げながら大きく開かれる。 そして豪華な装飾が施された馬車が入城してきた。 周囲には城内の貴族、官吏、主だった者達が出迎えに赴いていた。 ヒヒンと馬が一鳴きして停止する。 素早く枢機卿のマザリーニが馬車の扉を開く。 穏やかに気品あふれる物腰で、ゆっくりと馬車から降りる女性が一人。 皆が下にも置かぬ扱いをするこの女性はキョロキョロと辺りを見回す。 そしてその瞳が小さな少女を見つけたとき、知らず知らずのうちに駆け出していた。 「おお!アンリエッタ!愛しい娘や!!」 飛びつくように抱きしめ、アンリエッタのその身がこの世にあることを確かめる。 「母さま、苦しいですわ」 アンリエッタは、母である大后マリアンヌの胸に顔を埋めながら苦笑気味に言った。 「あれや、済まない。許しておくれ。 あなたが命を狙われたと出先で聞き、いてもたってもいられなかったのです」 そう言っても未だに抱きしめるのをやめないマリアンヌ。 親というものは、いつまで経っても子供が大事なものだ。 特にマリアンヌは夫に先立たれて、残っているのは一人娘のアンリエッタのみ。 可愛がらないほうが無理というものだ。 「いつまでもこうしているわけにもいかないでしょう? 皆様が困ってしまわれますわ。中でお茶を飲みながら、ゆったりお話しましょう」 微笑みながらやんわりと言うアンリエッタ。 「それもそうね。では行きましょう」 諭されるマリアンヌだがアンリエッタの手は離さず、手を引くようにしてアンリエッタと共に進む。 「あら、随分と変わった使い魔さんだこと」 「初めまして、広瀬康一です」 アンリエッタの居室で待っていた康一をアンリエッタが母へと紹介する。 初めて見るであろう、変わった服装(学ラン)をした人間の使い魔に興味津々のマリアンヌ。 康一の方も初対面であるが、待ってるあいだ何かあってはいけないので 射程距離の長いACT1を使ってこっそり覗き見していたため、あまり緊張することも無かった。 「では、あなたがアンリエッタを守ってくれたのですね。本当にありがとう、平民さん」 平民と言われて一瞬、微妙な気分となった康一だが其処はまぁいいか、と持ち前の良い人属性で流す。 「それで一体誰がアンリエッタを狙ったのか、目星はついているのですかマザリーニ卿?」 傍らに立つマザリーニ枢機卿に効くマリアンヌ。 「恐れながら申し上げます。調査しておりますが未だに皆目検討もつきませぬ。 賊にも尋問しておりますが、口が堅く何も聞きだせぬ有様で……」 ふぅ、とマリアンヌは憂鬱そうに一つ溜息をついた。 「母さま、そのことについて一つお願いがあります」 「願い?」 アンリエッタの申し出に何事かと聞き返すマリアンヌ。 「はい、ですがもう少しお待ちを。人を一人呼んでいます。 そろそろ来るはずですので、その者が来るまで少々お待ちください」 そう言って、チラリとアンリエッタは康一を見る。 視線を受けて、康一は宙に自ら以外は見えないACT1を解き放つ。 そして「音のエコー」を使って周囲に目や耳がないかを隈なく調べる。 もちろん自分の目でも確認するために、ACT1を周囲に飛ばす。 ACT1の優れた聴覚を持ってすれば、何処に何があるかが透けて見えた。 そのACT1が一人の足音を捕らえる。 すぐさまACT1を飛ばして直に誰かを確認。 「アンリエッタさん、来たみたいです」 待ち人が来たことをアンリエッタに告げる康一。 そうするうちに居室のドアがノックされた。 大きく三回。小さく二回。これが待ち人の合図だ。 「お入りなさい」 声を掛けたアンリエッタに応えてドアが開く。 恭しく入室してきたのはアニエスであった。 マザリーニ卿は何故平民の兵士がここに来るのかと、多少怪訝な顔をしたがそれきりだ。 「よく来てくれました、アニエス殿」 「それでアンリエッタや、願いとは何なのです?」 「コーイチさん」 コクリと頷いて康一に言う。 康一もそれに応じて、学ランの中から木の板を取り出した。 「おぉ、何と。この宮中に賊の仲間がいるとは……」 アンリエッタはこれまでの経緯を説明した。 自分を狙った賊の宿で、城に内通者がいる手がかりを掴んだこと。 そして内通者は、城の中でも一部の者しか知らない情報も掴んでいたこと。 それ故に誰にも何も言わずに、今まで秘めていたこと。 「して姫様、私達を集めて何をしようというのですかな?」 この城の中枢を司るマザリーニは、その経験からアンリエッタに何か考えがあることを悟った。 「はい、それにはまず母さまのお力が必要なのです」 「聞きましょう」 「まず母さまにはトリステイン魔法学院のオールド・オスマンに連絡を取って頂きたいのです」 「オールド・オスマン?」 もちろん魔法学院の長である、高名なメイジのことを知らぬはずがない。 しかし何故ここでオールド・オスマンに話が繋がるのだろうか。 「はい、そして宝物庫から真実の鏡を取り寄せて欲しいのです。 宝物庫を開けるには、わたくしではなく母さまのお力が必要ですから」 「真実の鏡ですと?」 驚いて口を挟むマザリーニにアンリエッタは頷く。 真実の鏡。鏡に映し出された者は、心の中に思い描く人物になってしまうという魔道具である。 疑問に答えるべくアンリエッタは続ける。 「わたくしを狙うものは、とても狡猾で一筋縄ではいかぬでしょう。 ならばこちらも全力で立ち向かわねばなりません。 それ故に信の置ける者で、敵を炙り出します」 「つまり、こちらから攻めるということですな。 具体的にはどうされるおつもりで?」 「まずは、そこになるアニエス殿に真実の鏡でわたくしに変身していただきます」 アニエスに向き直り言った。 「その上で賊の牢に赴いてもらい、賊をわざと逃がしていただきます。 その過程で捕まって人質となっていただけると、なおいいでしょう。伏兵となりますので。 もちろん死の危険もありますがアニエス殿は既に承諾済みです」 コクンとアニエスが頷いて意思を示す。 「逃がした賊は何処かに逃げるでしょう。仲間のところか、もしくは隠れ家などに。 それをわたくしの使い魔、コーイチさんに追跡していただきます」 マリアンヌとマザリーニの瞳が同時に康一へと向かった。 「コーイチさんは平民ですがメイジに劣らぬ力を持つことは実証済みです。 メイジが相手でも対等以上に戦えるでしょう」 ジッと見つめられて、何だかチョット照れた康一は頬をかいた。 今度はマザリーニに向かってアンリエッタは話す。 「マザリーニ卿には衛士の巡回時間の調査や、賊を逃がす算段を作って欲しいのです。 わたくし達では、それを把握するのは難しいので。 あとはオールド・オスマンにも協力をお願いしようと思います。 コーイチさん一人では少々難しい条件もありましょうし」 それに、と前置きしてからアンリエッタは言う。 「正直に言って、今の状況ではいずれ手詰まりになることは明らかでしょう。 そうなる前に何か手を打たなければなりません。たとえ勝算が低くても………」 ふぅむ、と唸ってマザリーニは言った。 「確かに勝算はあまり高くはありませぬが、悪くもないようですな。 それにあまり時間が掛かると、さらに状況は悪くなる一方でしょう。私は賛成です。 ………よく、考えられましたな」 マザリーニが年齢より遥かに老けた顔で微笑んだ。 「母はこのようなことはよく分かりませぬが、あなたがそうすると決めたのであればそうしなさい。 あなたの行く道を、母は支えましょう。それが母の務めです」 穏やかにマリアンヌ言い、アンリエッタの手を取った。 「して姫様、決行はいつになりますかな?」 マザリーニが問うた。 「月のない、新月。五日後に決行しますッ!」
https://w.atwiki.jp/imas_cg/pages/933.html
同名アイドル [ビキニチャレンジ]中野有香(特訓前)データ プロフィール セリフ集 [ビキニチャレンジ]中野有香+(特訓後)データ プロフィール セリフ集 セリフ集(水着DEドリームLIVEフェスティバル LIVEステージエリアボス) [部分編集] 同名アイドル 中野有香 [お花見]中野有香 [パワフル&スマイル]中野有香 [プリティパティシエ]中野有香 [部分編集] [ビキニチャレンジ]中野有香(特訓前) データ [ビキニチャレンジ]中野有香 属性 キュート レア度 レア Lv上限 40 親愛上限 30 Lv1攻撃値 2380(1コスト比198.3) Lv1守備値 2200(1コスト比183.3) 最大攻撃値 6248(1コスト比520.7) 最大守備値 5775(1コスト比481.3) コスト 12 移籍金 3,100マニー 特技 スマートボディ(キュート・クールタイプの攻守 ランダムで中~大アップ) 入手 水着DEドリームLIVEフェスティバル [部分編集] プロフィール アイドル名 [ビキニチャレンジ]中野有香 フリガナ なかのゆか 年齢 18 身長 149cm 体重 40kg B-W-H 77-57-81 誕生日 3月23日 星座 牡羊座 血液型 B型 利き手 右 出身地 東京 趣味 空手 [部分編集] セリフ集 セリフ 内容 プロフィールコメント 「うぅ…。○○さん、この格好は…ちょっとっ。あたし、道着で人前に出るんだったら慣れてますけど、その…お腹を見せるのは…。腹筋とか…アイドルにしては、へ、変じゃないですか…?」 親愛度UPコメント 表示 「限界なので…ちょっとだけ○○さんの後ろに!」 親愛度MAXコメント 表示 「私の身体、スリムでいい…ですか? ○○さんにそう言ってもらえると、頑張って着たかいがありました! 嬉しいです!」 リーダーコメント 「覚悟を決め…やっぱ待って」 あいさつ 「ちょっと素肌を出しすぎかな…」 あいさつ 「あ…かき氷でも食べましょうか」 あいさつ 「アイドルっぽくない身体ですよね…筋肉ついちゃって…へへ」 あいさつ 「緊張しますね…はは…」 あいさつ 表示 「お…押忍…○○さん、これが試練なら…耐えます…」 仕事終了時 「ビキニは初めてで…緊張します!」 仕事終了時 「ちょっと鍛え過ぎかなぁ…でもレッスンやトレーニングは楽しいし…」 仕事終了時 「(すごい薄着なのに、汗が…)」 仕事終了時 「どんな姿でも…集中!」 仕事終了時 表示 「○○さん、視線には慣れたいけど、そんな見られても…」 [部分編集] [ビキニチャレンジ]中野有香+(特訓後) データ [ビキニチャレンジ]中野有香+ 属性 キュート レア度 レア+ Lv上限 50 親愛上限 150 Lv1攻撃値 2856(1コスト比238) Lv1守備値 2640(1コスト比220) Lv1攻撃値(MAX特訓時) 4106(1コスト比342.2) Lv1守備値(MAX特訓時) 3796(1コスト比316.3) 最大攻撃値 9461(1コスト比788.4) 最大守備値 8746(1コスト比728.8) コスト 12 移籍金 4,650マニー 特技 スマートボディ(キュート・クールタイプの攻守 大アップ) [部分編集] プロフィール アイドル名 [ビキニチャレンジ]中野有香+ フリガナ なかのゆか 年齢 18 身長 149cm 体重 40kg B-W-H 77-57-81 誕生日 3月23日 星座 牡羊座 血液型 B型 利き手 右 出身地 東京 趣味 空手 [部分編集] セリフ集 セリフ 内容 プロフィールコメント 「どんなに肌が出ててかわいい衣装でも、私が恥ずかしがってたら、ファンはがっかりしちゃいますよね。わかりました! あたし、正々堂々、照れずに立ち向かいます! 自分に気合ですね! イェイ!」 親愛度UPコメント 表示 「かわいいポーズ、練習したんです! あの…変じゃないですか?」 親愛度MAXコメント 表示 「○○さんのおかげで、恥ずかしさを乗り越えられました! これからもかわいい王道を進むため、宜しくお願いします!」 リーダーコメント 「照れないで、前へ!」 あいさつ 「ちょっと素肌を出しすぎかな…」 あいさつ 「緊張しますね…はは…」 あいさつ 「あたし、人に見られれば見られるほど強くなれそう…かも」 あいさつ 「イェイ! ピース! …ど、どうですか!?」 あいさつ 表示 「わかってます。この姿で、あたしを鍛えてくれてるんですよね?」 仕事終了時 「(すごい薄着なのに、汗が…)」 仕事終了時 「どんな姿でも…集中!」 仕事終了時 「水着はアイドルの道着です!」 仕事終了時 「かわいさで1本取るのは、楽しいですね! つぎお願いします!」 仕事終了時 表示 「○○さん、次はかわいいのを選んでほしいです…!」 [部分編集] セリフ集(水着DEドリームLIVEフェスティバル LIVEステージエリアボス) LIVEステージA セリフ 内容 開始前コメント 「押…おはようございます!今日は早起きして走り込みして来ました!熱いフェスにしましょう!」 バトルコメント 「最初から気合で!!」 バトル後コメント 「ち、力入れすぎちゃいました…。でも夏の1日はこれからです!」 LIVEステージB セリフ 内容 開始前コメント 「この衣装…肌出すぎですね…。でも気にしません!夏ですから、薄着の方がLIVEしやすいです!」 バトルコメント 「心頭…滅却!」 バトル後コメント 「ううう、やっぱり、はずかしいですね…。心を鍛え直してきます!」 LIVEステージC セリフ 内容 開始前コメント 「LIVEで勝つには、まず自分に打ち勝たないといけませんね。あたし学びました。今度はいけます!」 バトルコメント 「弱いあたしは、もういません!」 バトル後コメント 「やりました、自分に勝ちました!…勝負には負けましたけど」 LIVEステージD セリフ 内容 開始前コメント 「昔、空手の先生が言ってました。敗北は人を大きくするって!何度も負けて成長しました!」 バトルコメント 「これが実力です!」 バトル後コメント 「せ、成長はしてるんですよ?ただ、まだ足りなかっただけで…」 LIVEステージE セリフ 内容 開始前コメント 「照れをなくすには、強引に自分に言い聞かせないと。かわいい、かわいい…あたしは…かわいい!」 バトルコメント 「かわいく、エイッ!」 バトル後コメント 「ごまかしは通じないですね。…普段から、もっと精進しなくちゃ」 LIVEステージF セリフ 内容 開始前コメント 「たくさんのことを教わった1日でした。夏合宿…じゃなくて夏のLIVE、締めの1本お願いします!」 バトルコメント 「総まとめのLIVEです!」 バトル後コメント 「ありがとうございました!これからもアイドル道を進みましょう!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5764.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ タルブ村の上空三千メイルに、アルビオンの主力艦隊であるレキシントン号の姿があった。存在を誇示するかのごとく、 悠然と君臨している。その周囲には、友軍の戦列艦が分散して警戒に当たっていた。 トリステインの艦隊は全て爆沈され、艦上のあちらこちらで水兵達が万歳を繰り返している。そんな状況に、ボーウッドは 眉をひそめていた。因みに総司令官であるジョンストンも万歳をしていたが、こちらに対しては無視している。 「上手くいきましたな、艦長殿」 隣に風竜を従えたワルドが、ボーウッドに耳打ちする。先ほどまで自国の村を焼き払っていたとは思えない、冷やかな 表情をしている。 「別に、ただ戦争が始まっただけだ。それ以上でも、それ以下でも無い」 ボーウッドは、ボソリを呟いた。その言葉を聞いたワルドは、口元を歪める。 そんな二人の元へ、ジョンストンが近づいて来た。まるで子供が欲しかった玩具を手に入れたかのような、嬉しそうな笑みを 浮かべている。 「艦長、伝令から情報だ。港町のラ・ロシェールに、トリステイン軍が展開したらしい。速やかに艦砲射撃の準備を 進めてくれたまえ」 「了解しました、司令長官殿」 ボーウッドは水兵達に艦砲射撃の準備をするよう命じると、ワルドに顔を向ける。 「で、君はどうするのかね? トリステイン軍が砲撃で全滅する様を、高見の見物かな?」 ワルドは首を横に振ると、ボーウッドに背を向ける。 「まだ敵軍に竜騎士が残っているかもしれませんので、周囲の警戒でもしてきますよ」 そう言って歩き出そうとした時、伝令が走り寄って来た。真っ直ぐにジョンストンの元へ向かい、何やら報告をしている。 何事かと思ったボーウッドは、ジョンストンに問いかけた。 「何かありましたか?」 「ん? あぁいや、別に大した事では無いよ」 そう言いながら、ジョンストンは帽子を被り直す。そして、ボーウッドとワルドに言った。 「何でも、奇妙な形をした竜騎士が一騎、こちらに接近しているらしい。まあ、一騎ほどなら驚くに値しないがね」 「相棒、右下から続いて三騎あがって来るぜ!」 「ヤー!」 「相棒の相棒、左から十騎ばかり来やがったぜ!」 「は~い♪」 レキシントン号から五百メイルほど離れた二千五百メイル上空で、二人はアルビオンの竜騎士隊と空中戦を行っていた。 時速150キロを誇る火竜の約二倍、時速287キロの速度でヘリを縦横無尽に操り竜騎士隊を翻弄している。 敵の背後に回り込んで銃撃すると言う単純な戦法で、二十ほどいたアルビオンの竜騎士隊は、すでに片手で 数えられるまでに数を減らしている。 「まったく、この飛行機械ってのは凄いね! おもしれえわホントに!」 二人の操縦士の間で、デルフリンガーが大声で叫ぶ。 「本当に、私もビックリしたわ!」 後部座席からルイズが体を乗り出して、大声で声をあげた。 「天下無双と言われてるアルビオンの竜騎士隊を軽々と撃ち負かしちゃうんだもん、流石は私の使い魔ね」 アンリエッタから譲り受けた水のルビーをはめた右手を、強く握り締める。本人に聞くと、お守りのためとのこと。 左手には、始祖の祈祷書をしっかりと抱き締めている。 マスケットの銃口に丸い弾を入れながら、リップは楽しげに口を開く。 「私達の持つ武器の性能がチートすぎるからよ、こっちだけズルして無敵モードだし」 ドアの窓から銃口を突き出し、竜騎士に向けて発砲。弾丸は不規則に動きながら、複数の竜騎士と火竜を穴だらけに した。ガクリと姿勢を傾け、地表へ落下していく。 「有効射程が竜の吐く炎よりずっと上ですから、近づかれる前に撃つだけだから簡単ですよ」 大した事では無いとでも言いたげな表情をしながら、セラスは窓からハルコンネンを突き出し残った竜騎士に向け引き金を 引く。落雷のような音を響かせ、火竜の頭部を粉砕。竜騎士はフライの呪文を使い、なにか叫びながら地表へ落ちていった。 「やったわ! アルビオン竜騎士隊、全騎を撃墜。トリステイン竜騎士隊の仇を討てたわ!」 ルイズは立ち上がると、両手でガッツポーズを決めた。それと同時に、始祖の祈祷書が足元にドサリと落ちる。あっと声を あげ、ルイズは慌ててしゃがみこむ。 それを見た(どこに目があるのか分からない)デルフリンガーが、ニヤニヤしながら(どこが顔なのかも分からない) 口を開く。(どこに口があるのかは分かる、鞘の部分だ) 「ご主人さまよ、喜ぶのは良いけど国宝の書物はキチンと扱いなよ」 「言われなくても分かってるわよ、ちょっと手元が狂っただけなんだからね!」 大声で反論しながら始祖の祈祷書を拾い上げようとして・・・ふと、ルイズの手が止まった。 「どうしたよ、ご主人さま。鳩が豆鉄砲くらったような顔して?」 「・・・・・・」 「マスター?」 不審に思ったセラスが振り向くと同時に、ルイズが顔を上げた。両目が大きく見開き、呆気にとられたかのような表情だ。 「え~と・・・どうかしました?」 「・・・セラス、ちょっと聞いてくれない?」 「なんですか?」 二人のやり取りを、リップは眼鏡をキラリと光らせながら見つめている。 「私、読み手に選ばれちゃったみたい。いや、何かの冗談かもしれないけど・・・」 「「はぁ?」」 セラスとリップが揃って首を傾げる。その時、デルフが話に割り込んだ。 「まさかとは思うけど、それってもしかして・・・虚無のことかい?」 「授業で先生が言ってた、虚無のことですか?」 セラスは召喚された後で見学した授業を思い出した。確か、四大系統の他に失われた系統魔法があるって言ってたような? 「そうよ! ほら見て、始祖の祈祷書に古代のルーン文字が浮かんでるでしょ?」 ルイズは始祖の祈祷書の適当なページを開き、二人に見せつける。だが、二人は再び首を傾げる。 「どうしたのよ二人とも、文字が読めないの?」 「いや、そうじゃなくてですね」 「じゃあ何よ!?」 「文字が見えないんですけど・・・」 セラスの冷静なツッコミが、穏やかに響いた。 ◇ 「竜騎士隊が全滅しただと!? しかも、たった一騎の竜騎兵だけで?」 レキシントン号の後甲板で、総司令官のサー・ジョンストンは伝令の報告を聞いて呆然としていた。 ハルケギニアで一、二を争うアルビオンの竜騎士隊が、わずか一騎の敵軍の竜によって壊滅させられたと言うのだ。 「本当に竜騎士隊が全滅したのか!? 生き残りはいないのか?」 伝令の襟首を掴み上げ、額がくっ付きそうなほどの距離で問いただす。伝令は震えながらも、なんとか報告を続ける。 「竜は全滅しましたが、竜騎士は数人ほど生存が確認されています。現在、タルブ村を占領している兵士達によって保護 されています」 ジョンストンはホッと息を吐く。 「分かった、数人ほどは生きているんだな。竜騎士に伝えろ、動ける者は地上の兵と共に占領を維持せよとな。 負傷してる者については、治療を受けるように」 敬礼をして、伝令は走り去って行った。それと入れ替わるように、ボーウッドが歩み寄る。 「わずか一騎で二十騎を打ち負かすとは、まさに英雄ですな。この戦いが終わったら、是非とも会ってみたいものです」 「同感だな」 相槌をうった所で、ワルド子爵がいなくなっている事にジョンストンは気づいた。 「艦長、ワルド子爵はどうしたのかね?」 「ワルド子爵ですか?」 部下達の働き具合を見つめていたボーウッドは、ジョンストンに向き直る。 「子爵なら、我が竜騎士隊が全滅したのを聞いてから飛び立ちました。敵軍の竜に挑んで行ったと思われます」 ジョンストンの眉が、ピクリと動く。 「大丈夫なのかね、相手は我が竜騎士隊を全滅に追いやった強敵だぞ。子爵は皇帝の側近の一人でもあるし・・・」 弱音を呟きだしたジョンストンに対し、ボーウッドは自分の唇に人差し指を当てた。 「総司令官殿、周りに部下がいるのですぞ。そのような言葉は、慎んでください」 ハッとした顔をして、ジョンストンは周囲に目を向ける。どうやら、聞かれてはいないようだ。帽子の傾きを直しながら、 ラ・ロシェールに視線を向ける。 「子爵には、生きて帰って来るのを祈るしか無いな。艦長、左砲戦の準備だ」 「了解しました」 ボーウッドは大声で指令を出した。 「総員、左砲戦準備! 上方及び下方、右砲戦準備! 弾種、散弾!」 ◇ タルブの村を占領したアルビオン軍から距離にして五百メイルほど離れた町、港町ラ・ロシェール。 そこにトリステイン軍は陣を張り、立て篭もっていた。 その中には、アンリエッタの姿があった。右隣には同伴すると言っていたマリナと側近のシーリン、左隣ではマザリーニが 将軍達と何やら話しあっている。 「あれが、アルビオン軍・・・」 アンリエッタは軍旗を掲げて前進する兵士達と、上空に浮かぶ艦隊を見て顔色を変えた。背後で控えていたアニエスが 近付いて、耳打ちする。 「殿下、怖いのは分かります。ですが、今は落ち着いて冷静を保って下さい。指揮官が取り乱しては、部下まで取り乱して しまいます」 額に浮かぶ汗を袖で拭いながら、アンリエッタは手綱を握る手に力を込める。 「ごめんなさいアニエス、心配をかけてしまって」 そう言うアンリエッタの呼吸は、明らかに乱れていた。アニエスは少し考えると、アンリエッタの手を取り胸に当てさせる。 「殿下、このような時は深く呼吸をするのが良いと聞いております。大きく息を吸い、そして吐いてください」 アンリエッタは言われた通り、胸に手を当てたまま深く呼吸をした。淀んだ肺に新鮮な空気が入り、不安に苛まれていた 心が落ち着いていくのを感じる。 「大丈夫ですか?」 マリナが隣に寄り添い、優しく声をかける。アンリエッタは平気ですと口を開こうとした時、爆音が轟いた。 地面が大きく揺れ、危うく落馬しそうになる。音の聞こえた方角に目を向けようとして、アニエスに両目を塞がれた。 「見てはいけません、殿下は正面だけに意識を向けてください!」 「わ、分かったわ。正面ね」 アンリエッタを敵軍に注意を向けさせつつ、アニエスは湧き上がる吐き気をなんとか抑えていた。敵艦隊から放たれた 砲弾によって、見方の一部に被害が出たのだ。それも、人や馬が散弾と岩によって砕け散ると言う、恐ろしい死に方で。 「敵は空から強力な支援を受ける三千、我が軍は砲撃の的となった二千」 マザリーニの号令によって空に空気の壁を作るメイジ達を横目で見ながら、アニエスは小さく呟く。 「勝てるのか・・・こんな、圧倒的な差で?」 更に砲撃が加えられ、空気の壁が破られる。人や馬が岩といっしょくたになって、宙に舞い上がる。頬に飛び散った血を 拭いもせず、小さく口元を歪めた。 「まあ、武器を持っているだけ・・・ダングルテールの虐殺に比べればよっぽどマシだな」 マザリーニの号令により、騎馬隊が前進を始めた。腰に下げた剣と背中に背負った新式のマスケットを頼りに、 アニエスは馬を走らせ敵陣に向けて突進して行った。 前ページ次ページスナイピング ゼロ