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名探偵として最も高い適正を持つのは、「自身を客観的に見つめる能力に長けた犯罪者」に他ならない。 これは、犯罪者の次の行動を予測するには、犯罪者の特性や心理を深い所まで理解している前提が必要となるからだ。 勿論、犯罪心理学の教科書を捲っても近い事はできるだろう。それならば、わざわざ犯罪者が名探偵になる必要はどこにもないと思われるかもしれない。 しかし、心理学者はその心理を最初から客観視して、いくつかの根拠から推察し、誰にでも伝わる言葉で発表しただけに過ぎないのである。 それゆえ、彼らは実像を百パーセント知る事も出来なければ、誰かに伝える事も出来ない。彼らの研究はあくまで「近い推測」なのだ。 更に言えば、彼らは何の根拠もない直感を確信として発表する事が出来ないのも足枷となっている。たとえば、「経験上、何となくそう思った」は根拠とは言えないのである。 実際には、その直感も根拠らしいものに基づいて脳が導き出した推理と言えるかもしれないが、やはり根拠がなければ戯言と同じになるのであろう。 だが、本当の犯罪者たちは、そうして心理学者たちが掬い逃した犯罪の細部までも丁寧に観察し、次の一手を直感的に推理推測する事が出来る。 天才的な犯罪者であるならば、更にいくつもの経験や思考を、全て直感や知恵へと変えてしまう。 もはや、彼らは「犯罪」や「殺し」の輪郭を、より高い解像度で映し出すレンズを嵌めながら生きているような物であった。 自分ならば、どう動くのか――それを考えれば、犯罪者の闇に足を突っ込むのも容易い。 そして、その種の人間の目的が「犯罪を犯す事」ではなく、「犯罪者を暴く事」に傾く奇跡が起きた時、真の名探偵は生まれるのである。 その能力を持った男は、犯罪に付随するあらゆる「理由」を見逃さない。 果たして、反倫理的行動を犯した者が、その次に起こすアクションは何なのか。 どういう社会的立場や性格のカテゴリを持つ人間が、それと同種の犯罪を行うのか。 犯罪が発生しやすい時間帯はいつか。犯罪が発生しやすい場所はどこか。犯罪に巻き込まれやすい性質を持つのはどんな人物か。 犯罪者にはどういう心理が働いているのか。彼らの抱えるトラウマは何か。 そして、それは何故なのか。 軽犯罪から重犯罪まで、あらゆる事件のデータベースを知り尽くし、更には自分自身さえも客観視した犯罪者は、これらの疑問に対して、犯罪心理学など学ぶ必要もなく独学で応えた。 一つの傾向に素早く気づき、「次」を予測しうる能力に長けた名探偵――それはもはや、人並み外れた直感の持ち主でさえあった。 これまでの譜面を頼りに直感的に最良の一手を指す棋士のように、これまで知った犯罪や思い描いた犯罪を頼りに目の前の犯罪を解決してしまう、まさに天才的存在。 千の犯罪を知る事で、千一番目を容易く解き明かしてしまう、最初の男。 この世界にはじめて誕生した探偵は、そんな人物だったとされている。 ◆ 冬木市内のごく普通のアパートで、彼らは暮らしていた。 片一方の男――『高遠遙一』は逃亡中の指名手配犯に違いないのだが、それでもあまりにも自然にその場に身を置いて、愛想のよい近所づきあいを演じている。 隠れ家を作るならばもっと人の目のないアンダーグラウンドな場所が向いているかのように思えるが、彼はそれを嫌った。 警察も決して只の無能の集まりではない。犯罪者が隠れやすい場所に目を付けるのだけは、決して遅くはないのである。 だいたい、いかにも隠れ家といった所に隠れ家を構えるのは、元々高遠自身の主義に合わない。 犯罪者であると同時に、一人のマジシャンである彼は、もっと堂々と構えながら――いつ見つけられるかもわからないスリルの隣で、生を演じる義務があった。 そんな風にして、普通の街の中に、一人の殺人鬼が暮らしていた。 高遠は、変装などをして顔を隠す事はなかったが、意外にも誰かが彼を気に留める事はなかった。 強いて挙げるならば、黒縁眼鏡をかけて、少々立派なスーツを着ている程度だろう。やはりそれも、変装と言うほど大袈裟ではなかった。 だが、これらの変装と言えない変装と、いくつかの要因が重なって来ると、奇妙な事に誰も彼が逃亡中の犯罪者とは思わないのである。 簡単に、彼の正体が晒されない仕組みを説明しよう。 まず、高遠は元々、目立った特徴のある顔立ちではない。 目立つ所に黒子があるとか、髪に癖があるとか、顔のパーツが大きいとか、そういった誰の目にも留まるシンボルは元来持ち合わせなかった。 身長も、平均かそれより少し高い程度だが、それも大した特徴にはなりえないし、交番に張り出された顔写真だけでは、体格等のデータにあまり現実味を帯びる事はない。 等身大のパネルやポスターでもあれば別だが、警察はそれを全国に配備するほど犯罪者の逮捕に力を入れてはいないので、やはり高遠を三次元的に見る者はいなかった。 それらの要因からして印象に残りにくいのもあるが、それに加えて眼鏡が顔を隠すと更に高遠の印象は、手配写真から遠ざかった。 人気俳優や人気アイドルの中も、眼鏡や帽子で変装する者がいるくらいなのだから、親しい間柄の相手でなければ、よほど気づきにくいのだろう。 たった一つの眼鏡が、高遠をぼんやりとしか覚えていない人々の目を眩ませた。 それから、もう一つの変装道具であるスーツも、また周囲の目を眩ませるのに一役買っている。 これが相応に煌びやかである事によって、「逃亡中の犯罪者」という金銭的余裕のなさそうな人物像と乖離してしまうのである。 それでいて高級すぎるわけでも派手なわけでもないので、露悪的な組織と繋がっているとも思われがたい。 最近事件を起こして追われている男が、まさかこんな風に洗濯したての綺麗なスーツを来て歩いているなどとは、さすがに思えないのであった。 極めつけは、普段は愛想よく振る舞い、何かに怯える様子もなく、挙動不審な行動や倫理を疑うような行動が目立たない……という素の姿でいられる肝っ玉の太さだろう。 それらが徹底的に、犯罪者のイメージは彼と距離を広めてしまうのである。 彼は自ら他人と過度の接触こそしないが、近所の住人が困っている時には、わざわざ声をかけて手伝う事もある。これがたびたび信用を買う。 もし、仮に誰かが薄々感づいていたとしても「気のせい」と片づけてしまうほどに、彼は凶悪犯的性格の片鱗も見せなかった。 それに、周囲からしても、近隣の住民を警官に通報するには少々の勇気が要るに違いない。 誤報であれば、この程よい近所づきあいも壊れるし、それが取り返しのつかないミスに繋がる恐れがある。 多少似ている程度の人間ならば世の中にいくらでもいるし、おそらくその一人なのだろうと片づけてしまう。 第一、通報は面倒だ。わざわざ通報するほどの人間ではない。 あんな「怪しくもない人物」を難癖つけて指名手配犯などと呼んで通報してしまうのはもはや魔女狩りだ。 そう――逃亡中の指名手配犯が自分の近隣住民などという、使い古されたサスペンスが自分の身に降りかかるのを、もう誰も信じていなかった。 ビッグスターが身近に引っ越してくるよりも低い確率の偶然が、自分のもとに降りかかるような物である。 そんな面白い物語が現実に起こる可能性など、もう誰も諦めているのだ。 どこかにいるが、自分の近くにはいない。 だから、彼が近くに住む人間たちに――指名手配犯、『高遠遙一』として彼が通報される事は全くなかったのである。 マジシャンは最も見られたくない物を、本来目につくところに堂々と置く事がある。 彼もまた、堂々とその場にいる事によって、自らの存在を指名手配犯と結び付けない心理的な壁を作り上げていたのだ。 ――――しかし、だ。 人間の行動は、必ずしも定型的とは言えない。 九十九人の観客を騙せても、時に目ざとい一人がそれを看破する事だって珍しくないし、他者と全く別の視点を持つ才能のある人間もいるのだ。 世の中には、時折優れた頭脳を持つ人間が、マジックのタネを暴いてくる事がある。 高遠もこれまで、何人かそんな相手と出会ってきたし、言ってみるなら、その一つの例は今も目の前にいた。 それは――彼が呼び出したサーヴァントであり、この家での共同生活者であった。 「――高遠くん、きみが持っているこの事件に関する資料は、これが最後かな」 「ええ。あくまで、『良質な資料』という意味ならば、それが全てです。 もし、眉唾ものまで知りたければ、インターネットに繋いで調べればいくらでも見つかりますよ」 「なるほど、この事件も未解決だからね。憶測や珍説、奇妙な尾鰭や伝説も付き物だ。 ノイズであるのを踏まえたうえでも、後で見る事にするよ。どんなブッ飛んだ説があるのか、少々興味はあるからね」 彼の部屋に寝転がって、「切り裂きジャック」の本を読み進めている十代ほどのヨーロッパ系少年だった。 アサシン――『フランソワ・ヴィドック』である。 白いシャツとサスペンダーとが、高遠と馴染む高級感を感じさせ、同時に怜悧な美少年のイメージを高めている。 このフランソワ・ヴィドックの名は日本ではあまり知られていないかもしれない。 しかし、彼に端を発する職業を知らない者はいないだろう。 そう――彼は、この世界において存在した、史上初の「名探偵」である。 彼の伝説は、フィクションの中の探偵たちにさえ、多大な影響を与えたと言われている。 たとえば、あのシャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンさえも、彼が歴史上にいなければ成立しなかった作品にあたるし、『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンも彼がモチーフと言われている。 そんな彼の頭脳は、高遠が犯罪者であるのをいち早く直感してしまう程であった。 曰く、 「ここは非常に脱走に向いている部屋だね。この立地なら、正面の玄関を押さえられる事があっても、裏を押さえられる事はない。 家具も、いつでも使い捨てられるような、置物の家具ばかりだ。個人情報に関するデータをはじめ、足がつくような物がまるで置いていない。 たぶん、本当に必要で持ち歩かなければならない物はいつもその木のバッグに入っているのだろう。それくらいなら普段から持ち歩いて逃げられるからね。 万が一、部屋の中を突入された時の事もよく考えてある。一見して人間が隠れる事が出来るような家具が多いけど、それらは全て目くらましだ。 この中に突入した追っ手も、思わずあのクローゼットやソファーの中身を調べたくなってしまうだろう。 だが、追っ手がそこらじゅうの隠れられそうな家具を調べている間に、きみはもっと遠くに逃げてしまうだろうね。 つまるところ、きみが普段から誰かに追われているのは間違いないけど、どうやらきみの魔力では、魔術師に関連する事象というわけでもないようだ。 むしろ、追われ慣れているのに、みすぼらしさの欠片もないところを見ると、理不尽に追われているわけでもない。 ……だとすると、きみは何か罪を犯しているので、警察から逃げる為という所かな。きみが、一人の犯罪者であると考えると非常に納得がいくね」 との事である。 ヴィドックは直感的に、この部屋の構造が脱出に向いていると睨んでいたのだ。 それは、ヴィドックが名探偵であったから導き出された結論というわけではなかった。 ヴィドック自身も――過去に投獄された時に脱獄を繰り返した「脱走犯」だったのである。 彼は、「名探偵」であり、同時に「犯罪者」でもあったのだ。 まさしく、この部屋の謎も、犯罪者の視点がゆえに導いた、犯罪者の結論だったと言えるだろう。 ついでに言えば、こうして彼が十代の少年の姿をしている事も、探偵である時も犯罪者である時もこの方が都合が良いからに相違ない。 あらゆる犯罪や密偵に用いた「変装術」では、体のパーツを水増しする事は出来ても、削ぎ落す事は出来ないし、体格は小さければ小さく、中世的であればあるほど変装には向いている。 得意とする情報戦においては肉体年齢など関係ない。サーヴァントの精神年齢や知識は死亡時に依存する場合があり、彼はまさしくその恩恵を受けていた。 それゆえに、彼の「全盛期」は、まだ軍属ですらなかった頃の淡い少年期の姿であった。 高遠にしてみれば、この年頃の美少年を部屋に棲みつかせている事の方が怪しく見られそうに思えるくらいである。 彼がサーヴァントである事の不都合といえば、そのくらいだろう。 ――とにかく、ヴィドックは、こんな風にして、自身の経験と、自身が獄中にいた時に通じた犯罪者たちの経験を手掛かりに、あらゆる推理を行う探偵だった。 ただ、彼の持つ事件記録自体は、ヴィドックの生前までのデータでしかないので、文明が大きく発達したその後の事件や、他の文化圏の国の事件データは全て高遠の推薦書を調達してもらう形で補っている。 それらは「記憶」や「経験」ではなく、あくまで公表されている内容の「記録」として知っているがゆえ、ヴィドックにとっても少々物足りないが、彼は既に「近年の日本の事件傾向」にも手を伸ばせるようになっている。 高遠も有名事件から、あまり知られていない軽犯罪・小規模事件まで詳しく知っているので、ヴィドック自身もかなり助かっていた。 高遠自身がいかなる事件を起こしたのかはまだ彼の口から利けていないが、先に壮大な百年の事件史を知るのは確かに理に適っているといえるので、ヴィドックも別に無理矢理高遠の過去を探ろうとはしなかった。 おいおい聞けたら、という形で納得してしまっている。 そういう意味では、やはり相性の良い二人である。 ちなみに、この切り裂きジャック事件の場合は、ヴィドックの死後に発生した未解決事件であるせいもあり、ヴィドックはその事件について特に念入りに、興味深そうに読んでいた。 自身がその事件に居合わせなかった事の悔しさが、この執着の最大の理由のようだ。 本当に読んでいるのか疑わしくなるくらいに素早く手を動かしているが、おそらく一つの事件の資料を読み漁る中でおおよその展開を予測してしまっているからだろう。 他の本と重複する部分も多いので、余計に読み飛ばしても伝わるようになっているのだ。 「なるほどね」 彼は、しばらくしてそう言ってから、読み終えた本を閉じた。 ヴィドックにとって、解決した事件の資料は大抵予想通りの展開ばかりを辿っていた。 しかし、切り裂きジャック事件に関しては、その全貌を把握するのが少し難しいようだった。 彼がその場に自分がいれば、おそらく「ある特徴を持つ人物」を念入りに取り調べるだろうというのはある。 実際、当時のイギリスの警察の捜査方法を見る限り、あまりにも杜撰すぎて、真犯人に辿りつけないのも当然だと思えてしまう。 あとわずかに別の視点があれば、誰にでも解決できる事件になりえたとヴィドックは断言できる。 だが、百年以上の時を隔てて、伝説となってしまった事件を、資料だけで断定的に推理するのはヴィドックにとっても難儀だった。 いくつかの資料と資料ではいくつか矛盾があるし、もはや一世紀を隔てた未解決事件の資料は「資料」と呼べないほどの虚構、憶測、主観、勘違いに満ちている。 これでも正しい部類の資料だというのだから、もっと多くの資料を見つめれば、更にあらゆる情報が混在してしまっているのかもしれない。 ヴィドックはそうした見解を高遠に述べる事にした。 元々、高遠もヴィドックの見解を聞きたいと言っていた為である。 「――この事件も、ぼくやパリ犯罪捜査局の諸君、それにこのアーサー・コナン・ドイルという英国人作家が本腰を上げて捜査をしたならば、解決も夢ではなかっただろうね。 見たところ、どうやら、切り裂きジャックは、大声で騒ぐほどの大した事件ではない。ドイルの言う通りだよ。 上手く捜査すれば解決できてもおかしくないものを、警察が無能で解決できなかったから騒がれているのさ。 技術の進歩を抜きにしても、今の警察ならばもっと早くに解決が見込める。当時の警察は、的外れな根拠で余計な決めつけをし過ぎたんだと思うよ」 「なるほど。私もおおよそ同感です」 「だろう?」 「しかし、私からすれば、このジャック・ザ・リッパーも尊敬に値する人物ですよ。 何せ、犯罪で都市を劇場に変えた人間の一人ですからね。『最初の犯罪芸術家』と呼んでも、過言ではないでしょう。 私の立場からすれば、偉大なる先輩と言っても良い人物です。 ……尤も、犯行声明を出したのが本人かどうかと訊かれると、少々口を噤んでしまいますが」 高遠は薄く笑いながら、そう返した。 犯罪者であり、明晰な頭脳も持ち合わせるゆえに、高遠もヴィドックに共感するところは多いらしい。 決定的に違うのは、ヴィドックにある「不特定多数の罪人に慈愛を向ける」という性格が、高遠にはない点だろう。 それゆえ、高遠はヴィドックの心情を理解しても、共感はしない。 ヴィドックは、そんな高遠との根本的な相違こそ感じているが、その相違も含めて彼を容認し、理解し、共感しようとしている。 彼はヴィドックにとっては、一つの犯罪サンプルでもあり、一人の犯罪者であり、己のマスターであり、新しい友人なのだった。 最初から「理解不能な相手」と決めつけるのではなく、「悪意や憎悪ごと理解する」という形で、ヴィドックは誰に対しても施しをする。 悪の面を持っているがゆえに、悪に対しても優しくなれるのが彼なのである。 「――しかし、警官が無能であったのは、まったく、本当に残念だね。無能というのは、殺戮と同じくらいに重たい罪だよ。 どうも、犯罪ですらない、思考力や想像力の至らなさが招いた過失は、ぼくにも共感しがたいものがある。 結局、彼らは被害者の無念を晴らす事も出来ないばかりか、犯人を救う事もできないわけだ。これでは切り裂きジャックが可哀想だよ」 「…………ほう。切り裂きジャックが可哀想、とは? 少々、興味深い考え方なので、聞かせてもらえますか」 「これは、ぼくの哲学だよ。ぼくにしてみれば、犯罪者は、許されがたき者であると同時に、誰より弱い生物さ。 ぼくやきみを含め、誰もが等しく生きる為の法律さえ守れない――そんな自分勝手で脆弱な精神の持ち主ばかりだ。 だから、犯罪者も実は、自分を理解し、同調し、支持し、救ってくれる人間を待っている。常にそうだった。 他人に認められたくて仕方ない人間ばかりなんだ。だから、却って彼らの罪は見破られ、救われなければならない。 言ってしまえば、逮捕される事のない犯罪者も、誰にもトリックを知られないまま孤独に死を迎えるマジシャンも、ぼくにとって良い生き方とは思えないよ」 「――ですが、マジシャンとは、往々にしてそういう物です。我々にとって、トリックを見破られるというのは、むしろ死にも代えがたい苦痛ですよ。 勿論、私の場合、『犯罪』においても同様です。誰もが不思議がり、誰もが必死に謎を解こうと頭を捻る姿を、高くから見る事に快感を覚える」 「……」 「そう……自分で言うのも痛々しいですが、私は殺しが好きというよりは、そこから生じる芸術が趣味の、ただの芸術家なんですよ。 誰かが死んだとしても、私にとってはどうでもいい事です。私が殺人を犯したのも、僅か四名への憎しみと、残りはすべてただの芸術の為の材料だったからです。 そんな犯罪者も、実際、あなたの目の前にいる……それを考えた事はありませんか?」 「……ああ。わかってるよ。だから、これはあくまで、『ぼくの哲学』だよ。 きみのその精神に対しても悪の心で共感してしまうんだ。 だが、同時にもうひとつの正義漢気取りの心で『悪の寂しさ』を指摘してしまう。 きみを見ていても、『そういう犯罪的な考えに至らない、健康的な生を受けた方が幸せだったんじゃないか』って思ってしまうんだ。 ……失礼な言い方だけど、あまり不快に思わないでくれよ? ぼくだって別に、上から憐れんでいるわけではないんだから。あくまで、ぼくは、きみの上ではなく隣にいるんだ。自分を慰める為にこう言っていると思ってくれ。 人を騙す事に快感を覚えるきみの気持ちもよくわかる。別に止めるつもりはない。むしろ、敬意もある。 それに、今は依頼人がいるわけでもないし、まして、きみもぼくも一緒に『聖杯』を得ようとする一人だからね」 「なるほど、わかりました。私の隣、というのは良い表現だ。 ただの一人の人間の『哲学』とするならば、確かに、意見がまるっきり対立するほどの平行線というわけでもない」 高遠も納得を示したようだった。 ヴィドックの考えに飲み込まれたというより、一つの考え方として有りと容認しているだけであるが、それでも対立しているわけではない。 いつか交わってもおかしくない、同居できる線と線であった。 ヴィドックからすれば、既に交わっている感覚なのかもしれない。 犯罪を取り締まるとともに、犯罪を愛し、犯罪者を憎むとともに、犯罪者に強い共感を持つ。 そして、極刑を下される殺人犯を見るたびに、自分が殺されるかのような痛みを感じる。 それが彼だ。 だからこそ、聖杯に求む彼の願いは――『罪人たちの救済』なのだ。 罪人たちが、罪によって救われるのでも、罰によって救われるのでもない、ただの魂の解放。 犯罪者たちが犯罪を犯した後に苛まれる、罪の呪縛――あるいは、「反省のできない不幸な精神」から解放する事が、ヴィドックの願いだった。 そうしなければ、ヴィドック自身が救われないような気がしていたのだ。 本当に救われないのは被害者であるが――被害者は「死」によって聖人になる。 しかし、犯罪者は永久にそうなれない運命を背負い、永久に名誉ごと死んでしまう怪物となる。 そうあってはならない、それでは悲惨にさえ思ってしまう――理解されがたいかもしれない願いだった。 犯罪者たちの、生まれもっての、そこに至る運命を崩してしまいたい。 それほどにヴィドックにとって犯罪者はいとおしい隣人であり、自分の体の一部であった。 「――ところで、高遠くん。 僕も、まったく、これだけ雑談を繰り返していても、きみが聖杯を欲しがる理由だけはわからないんだ。 そろそろ教えてくれよ。一つの参考にしたいんだ。 きみの場合、願望器に頼るくらいなら自分で願いを叶えるだろうし、願望器でなければ叶わないような願いは却って求めないだろう。 ――それなのに、きみは願望器を欲している。理由が知りたいんだ」 ヴィドックは、少し上目遣いに、しかしどこか興味深そうに訊いた。 犯罪について訊く時だけ、彼には少年らしい無垢な瞳が視えた。 それは狂気のように見えて――しかし、狂気というには優しい願いも持ち合わせている。 ゆえに、余計に奇妙で理解しがたい瞳だった。 高遠は、その瞳に応えるように、ゆっくりと口を開いた。 「その答え、ですか……。考えるほどでもない、実に単純な事ですよ。 私はただ、――魔術を否定したいんです」 「魔術の否定?」 「ええ、我々マジシャンというのはね……魔法使いや魔術師ではないんです。 あくまで、魔法使いを演じる一人の役者でなければならない。――これはとある高名なマジシャンの言葉です。 この言葉に沿うならば、便利な魔法というのは、マジシャンが活きる為には、この世にあってはならない物です。 それならば、一度この世から消してしまう事で、われわれマジシャンがアイデンティティを保てるようにしたいんですよ」 「ああ、なるほど、願望器による、魔術の否定――か。矛盾しているようでしていない、随分と奇妙な願いだね。 一回限り、願望器を使う事で、魔術自体を否定してしまうわけだ。可能かどうかはぼくにもわからないけど、やってみる価値はあると思っているんだろう? …………しかしね、高遠くん。きみの言う事には少々、根本的な問題があるよ。 魔法と魔術は決定的に違うんだ。 魔術はあくまで、表に出ていない、巷に流布していないだけの実現可能な技術だ。 現実に、マスターもその渦中にある。魔術はどこにでもある、一つの力学だよ」 「ええ、しかし……そうであるとしても、です。 ――だって、つまらないでしょう? 手を使わずに出来る事が増えてしまうほどね……」 高遠はニヤリと笑った。 どこか、憎悪さえ込めた歪んだ顔つきだった。 「――不可能だからこそ、そうであるかのように振る舞い、他人を驚かせる価値がある。 少なくとも私はそう思いますし――そうでなければ、私の作る芸術は意味を損なう事になると思っています」 「……そうか。その言葉が本心ならば、驚くほど、誠実なトリックスターだね。きみは 犯罪者としても、非常に珍しいタイプだよ」 「私に限った事ではありませんよ。 真の愉快犯(トリックスター)ほどルールに忠実な存在はないんです。だって、そうでなければ面白くはありませんからね。 法を犯すのもまた、自分が作ったルールを忠実に守りながらゲームをしているからに過ぎません」 つまり、法より自分のルールを優先させる性格でありながら、自分の作り上げたルールだけは絶対に破らないというわけだ。 ヴィドックは、それを聞いて少しだけ考え込むようなそぶりを見せた。 それから、少しばかり時間を隔ててから、演説するように、あるいは数式を羅列するように、ヴィドックは口を開いた。 「うーん……。なるほどね。 ――厳格な父。奔放な母。おそらく父はもう死んでいるか、もしくは半永久的に視界に入らないところにいる。 母は……こちらはわからないけど、やはり亡くなっているのかな。 家庭は裕福。しかし、父親の影響力は強く、普通の家庭より少し窮屈。少なくとも、影響を与えるほど一緒に育った兄弟姉妹もいない。いや、いるとしても、姉はいない長男かな。 奇術が好きだと言ったけど、多分、それは子供の頃からの根強いものだね。おそらく、きみの場合は母親が奇術が好きだったとか、そんな所だと思う。 他者への共感性は乏しいが、時として自分に近い物を持っている人間には少なからず施しをする事もある――それが、きみの性格といったところかな!」 「……え?」 「ああ、いや――見ていて、きみの生い立ちはそんな所だと思ったんだよ。当たってるだろう?」 高遠は弱点を見せたつもりはないが、ヴィドックはそれを上回る推理力で、全てを解き明かしていた。 それは、推理というよりはほとんど直感的なレベルのものであったが、高遠も目を丸くするほどに命中していた。 かの探偵の宝具――『ヴィドック回想録』の力の片鱗が、実体を持ってマスターの前に晒された時であった。 【CLASS】 アサシン 【真名】 ウジェーヌ・フランソワ・ヴィドック@17~18世紀フランス 【パラメーター】 筋力D 耐久E 敏捷B 魔力E 幸運A 【属性】 中立・中庸 【クラススキル】 気配遮断:A 自身の気配を消す能力。 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 【保有スキル】 直感:C 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。 また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。 諜報:B 気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。 親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。 変装:C 別の人間に変装する技術。 アサシンの正体を知る者が顔に触れても気づかないほどの変装技術を持つ。 このスキルと『気配遮断』が併発すれば、殆ど一般人と見分けがつかない状態にもなる事ができる。 ただし、変装にモチーフがある場合、そのモチーフを詳細に知る人物には看破される可能性が上昇する。 【宝具】 『ヴィドック回想録』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- アサシンの宝具にして、彼の「犯罪捜査」の経験値と記録。 接触したサーヴァントの性格面・言動の特徴や、サーヴァントの乱戦跡・殺害痕・手口などから、そのサーヴァントの性格・弱点・コンプレックスなどを、正体に近い所まで推理する。 とりわけ、「悪」の属性を持つサーヴァントの看破に特化しているが、宝具自体が人間観察の記録と呼べる領域に達している為、「善」「中庸」といった属性のサーヴァントも見破れない訳ではない。 マスターなどに対してもその性格等を言い当てる能力は健在であり、これもまたマスターの性格の暗部を言い当てる能力として非常に高いレベルに達している。 それはもはや根拠のない直感レベルにさえ卓越しており、些細な手がかりから「なんとなく」で、像を掴んでしまう事もある。 反面で、「狂」の属性を持つサーヴァント、動物性が強いサーヴァント、無機物のように、人間の理性・倫理・思考・感情の範囲外の相手に関してはその性質を特定する事が困難になる弱点も持つ。 ルーラーのスキル『真名看破』と違うのは、対象の思想信条や個人的な事情を予想できる点や、直接対面しなくとも痕跡から言い当てる点、真名を言い当てる訳ではない点(ただし相手によっては可能)などがある。 そして、これらの能力から対策術までを講じる、探偵式暗殺術の一連の流れがこの宝具として成立している。 【weapon】 拳銃 犯罪データファイル 【人物背景】 世界で初めての「名探偵」にして、「犯罪者」。 若き頃、軍隊に入隊のち除隊したが、その際に手違いで除隊証明書を受けなかった為、脱走兵として逮捕される。 さらにのち、偽札紙幣を偽造した一味の仲間という濡れ衣を着せられ、更に重い刑に服す事になる。 しかし、ヴィドックはそれを逆に利用し、入獄中の犯罪者たちの性格や行動、犯罪の手口や暗黒社会に関する情報を収集。 脱獄や潜入、変装の手法もこの期間に学び、高め、実際に脱獄と入獄を繰り返していた為、徒刑場でも問題児扱いされていた。 出獄ののち、パリ警察と共謀して密偵となり、徒刑場で得た情報を用いてあらゆる犯罪の手口を看破。 これらの功績が認められ、国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設し初代局長となる。 犯罪データベースを用いた現代に繋がる捜査方法を確立したほか、探偵事務所を開いた初の人物でもある。 その捜査方法は、自らが犯罪を犯す事も全く厭わない、かなり強引な手法であるとも言われ、まさしく「犯罪」と「法律」との挟間にある犯罪者探偵であった。 また、上記の逮捕された経緯こそ冤罪に近いが、幼少期から盗癖があったり、友人に暴力を振るったり、甘え上手で女性を騙すのが得意だったりもする「犯罪者」としての一面も嘘ではない。 【特徴】 ショタ。十代前半程度の中性的な美少年。 黒髪で、顔は同じ年代ごろのレオ・ルグランのようなイメージ。 服装はサスペンダーと白いシャツをつけている感じ。外ではベレー帽も被るかも。 口癖はないが、台詞がやたら長く、演説的になりがち。 ちなみに、史実では、少年期から体格が大きかったらしい。 【サーヴァントとしての願い】 犯罪者たちの救済。 【マスター】 高遠遙一@金田一少年の事件簿 【マスターとしての願い】 魔術の否定。 【weapon】 『マジック道具』 普段、高遠が自らの身体に仕込んでいる様々なマジックアイテム。 アタッシュケースに入れて必要時に持ち歩いている物の他、いつでもショーが披露できるように体にも幾つかのマジックのタネを用意して生活している。 用意周到であり、事件現場では防弾チョッキを着用していた事もある。 【能力・技能】 天才奇術師・近宮玲子の血を引き継いでおり、当人もマジシャンを志している為、魔法と見紛うような奇術を披露できる。変装やメンタリズムもお手の物。 高度な知性を持ち、高校時代は名門進学校の秀央高校に入試全科満点で合格している。授業を聞いていなくても一通りの授業内容を理解できる模様。 それに限らず知識量もあるようで、作中で音楽家やギリシャ神話の解説を務めた事もある。 元々殺人犯であり、躊躇なく殺人を行う冷酷な性格でもあり、他者に殺人の為のトリックを授けて殺人教唆を行うが、一方で殺人事件を解決したり、殺人犯が使ったトリックを解明したりする事もある。 コンピュータウイルスを作ったり、インファイトで格闘したり、ピアノを弾いたりといった姿も見せており、大抵の事はできるキャラとして描かれている模様。 【人物背景】 地獄の傀儡師。 天性の犯罪者とも呼ばれる、他者を利用して殺す事を厭わない冷酷な殺人鬼である。 幼少期は、厳格な義父のもとでイギリスで生活をしていたが、ある時、天才マジシャン・近宮玲子の舞台を義父に見せられて以来、マジシャンを志すようになる。 高校時代は、日本に帰国しており、名門進学校・秀央高校に全科目満点で入学。在学期間中に校内で発生した殺人事件を探偵のように推理して解決し、犯人を殺害している(ただし正当防衛によるもので殺意はない)。 また、在学中に義父が死去した事で、本格的にマジシャンを目指すようになり、そのためにイタリアへと渡る。 イタリアでは高名なマジシャンの弟子として修行していたが、十七歳の時に近宮玲子の死を知る事になり、十八歳の誕生日に近宮玲子が自分の母親である事を知った。 後に近宮の弟子である「幻想魔術団」のマジックを参考の為に鑑賞。 しかし、その時に幻想魔術団の行ったマジックが「近宮玲子の模造品」であった事から、「近宮は弟子に殺された」という真相を知り、憎悪に燃える。 幻想魔術団のメンバー四名の殺害を決意した高遠は、マネージャーとして潜入。ターゲットを絞り込んだ後、警察に予告状を出したうえで「劇場型連続殺人」を演じた。 彼の起こした「魔術列車殺人事件」は金田一一によって事件は解決される事になったが、逮捕後に間もなくして脱獄。 以後は、いくつかの事件で金田一や明智健悟に向けて挑戦状を出し、復讐を望む人間たちに「マジックのような、美しく謎と怪奇に満ちた芸術犯罪」を教唆する犯罪コーディネーターとなった。 非常に冷徹な人物ではあるが、同時に約束を絶対に守る義理堅い性格であり、協力者の死には怒りを見せ、基本的に自身の計画に無関係な人物は巻き込まず、自分と近い境遇の人物の命を助け、肉親の過ちを正し、無邪気な子供たちの前では優し気な笑みと共に人形劇を見せるといった面も見せる。 【方針】 他陣営と共謀しつつも、目的はあくまで聖杯。 魔術の存在そのものを嫌うが、聖杯戦争が終わるまでは魔術を利用する事も辞さない。
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アサシン クリード クロニクル ロシア(ダウンロード専用ソフト) 公式サイト http //ubisoft.co.jp/acc/ 機種 Xbox One 発売日 未定 定価 DL版:未定 ジャンル 2.5Dアクション 発売元 ユービーアイソフト 開発元 Ubisoft MontrealClimax Studios オフラインプレイ人数 多人数プレイ要素 年齢区分 審査予定 初回特典 限定版 備考 プレイ画像 PV
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無垢の蛹を脱ぎ捨てて、少女は地獄へ堕ちた。 ただ、最期の瞬間だとしても。 この胎内にある生命だけが、地獄の中でも救いであることを信じて。 ◆ 「――――!!!」 声にならぬ叫びを上げながら、吉田咲は汚れきった公衆便所の床を転げまわっていた。 顔は視る影もなく泣きじゃくり、身体はかつての白い肌を全く連想させない汚れたものとなっていた。 閏をともにした男達を絶賛させた曲線美は既に無く、膨れた腹は咲の身体にある生命が一つではないことを雄弁に物語る。 本来、幸福の形であるその腹部とは反対に、咲の全ては不幸に満ち溢れていた。 ただ、彼女は変わりたかっただけだった。 変わって、変わることで、幸福を手に入れたいだけだった。 男に遊ばれた。 女に捨てられた。 父に襲われた。 母に罵倒された。 社会に餌にされた。 その末路が、同じく社会に弾き飛ばされた者達からの蹂躙だった。 「ぁあぁ……!……ぁ……!」 唇が開き、乾いた口内からそれでも唾液が出る。 腕を掻きむしる。 衝動。 薬物への依存を表していた。 おおよそ、堕落という全てが咲の体と魂に宿っていた。 つまり、彼女は変身をしたつもりが堕落という坂を転がっていっただけだったのだ。 「ぅ…ぅぅうう……!」 床に堕ちた、割れた眼鏡を拾う。 眼鏡をかけ、咲は這いよるような動きで立ち上がり、鏡を見た。 かつて、自身の外観に興味を持たなかった頃の姿を思い出す。 メガネを掛け、髪をきつく三つ編みに結い、ぶかりとした服を纏っていたあの頃。 咲の今の姿は、眼鏡をかけてもあの頃とは余りにも違いすぎるものだった。 長い髪は脱色し傷んでいる、あんなに綺麗な黒髪だったのに。 服はぴっちりとした、露出の多すぎる、淫靡な格好。 こんな形になりたかったのではない。 ただ、ただ。 幸福になりたかっただけなのに。 体が震える。 心への負荷と、体の薬物への訴え。 その二つが、彼女という存在を限界へと追い込む。 やっと、地獄が終わる。 そう思えば、咲は楽なのかもしれない。 それでも違った。 咲が思ったのは、中学校の卒業式のあの日と同じこと。 変わりたい。 幸福になりたい。 その想いに、何かが答えた。 腹部に一つの紋章が走った。 ――――訊くよ、貴方が生きたいを願ったヤツ? 消えいく意識に響いた、その問に。 腹部を撫でながら、咲は小さく頷いた。 ◆ セックス、ドラッグ、暴力。 求めていたものはそんなものではない。 だのに、咲に与えられたものはそんなものだった。 そんなもののために、咲はあの日泣いたのではない。 幸福になりたい。 遍く生命が思うように、咲は、あの日そう思ったのだ。 ただ、少しだけ疑問がある。 ――――自分は他者を不幸にしてでも幸福が欲しいのだろうか。 ◆ 「いただきます」 結論として言ってしまえば、咲は死ななかった。 ただ、咲の中の生命の一つは消えた。 あれだけ膨れ上がった腹部はすでにキュッとくびれていた。 生命を引き換えに、咲は奇跡を呼んだ。 この世ならざる、人の世に刻まれた英霊を呼んだのだ。 「アンタ、馬鹿ね」 手を合わせて、コンビニエンスストアで購入した弁当に箸をつける咲を罵倒する少女。 黒い髪をボブカットに揃え、病気めいた白い肌の少女。 釣り目がちな瞳は強い意志を感じさせるが、顔つき自体はハイティーンの咲よりも幾分幼い。 大人びた雰囲気の女子小学生といった様子だ。 「食べる?」 「だから、触らないでって」 少し鼻にかかった高い声で、小生意気な口調で語りかける少女。 無地の白いシャツと赤い膝丈のスカートは余りにも野暮ったいが、どこか儚い美しさを持つ少女。 この世あらざる、触れてはいけないような寒々しい美しさだ。 そう、この世あらざるもの。 「触ったら死ぬんだから、何度言っても分かんないの?」 少女は、正しくこの世にあってはならない存在だった。 「アタシはね、そういう生命なの。 そういう死ってやつを引き受けるヤツなの」 『女子トイレの三番目の扉』から召喚された反英霊。 人々の噂から生まれ、人々の信仰を背景とし、人々の穢れを引き受けた真実を持つ少女。 咲の生命を救い、咲の中の生命を奪った存在。 トイレの花子さんと呼ばれる少女は、吉田咲という少女を主として選んだのだ。 「花子ちゃんは食べなくても良い?」 「花でも食べてるよ」 洒落なのか、真実なのか。 判断がつかずに、困ったような顔をつくる咲。 花子さんは余り動かない表情筋を、やはり動かさず。 唇だけを動かした。 「ちゃんと、咲が食べなきゃ。 子供のためってのは、そういうことなんだよ」 二人でベンチに腰掛け、夜空を眺めた。 曇天の夜空に星など無く、肌を刺すような寒さを連想させる暗さだけがある。 それでも、寒さはなかった。 花子さんの持つ呪による術だった。 花子さんが落ち葉へと触れた。 カラカラと枯れ果てていた葉っぱが、その残りカスのような生命すらも失い。 灰のように崩れ落ちた。 まるで私のようだと、口にこそ出さなかった咲は思った。 ◆ 「駄目だよ、おっさん」 ある日の事だった。 咲は『売り』を続けていた。 それ以外に貨幣を稼ぐ術など知らなかったからだ。 また、咲が欲する『クスリ』のためには売りのような術が必要だった。 ただ、今回は余りにも相手が悪かった。 咲を唆して純度の高い『クスリ』を打ち。 強烈な『キメセク』へと導いた。 最初に規定した時間を三時間も上回るその行為によって、咲は蛙のように裏返り手足を震わせる。 秀麗なその顔は目が裏返り、限界まで舌を伸ばすことで見るも無残なものとなっている。 男は、美しい女の無様な姿が好きだった。 そのために金を手に入れたと言っても不思議ではない。 「咲はあんまり頑丈じゃないんだ、こんな無茶なことされちゃ」 咲の選択と考え、気配を遮断したまま口は出さなかった。 咲は自身をトイレの花子さんと知っても、それを利用しての金儲けを目論まなかった。 単純にその発想がなかっただけなのかもしれないが、花子さんとしてもわざわざ提案する必要もなかった。 ただ、それでも我慢できないものもある。 いつも動かない表情筋は、ピクピクと動き、怒りの表情を抑えようとしていることを訴えてきた。 「ブヒヒ! わからんのかね、この女の人権は私が買い取ったのだよ!」 そんな花子さんの言葉に、咲を買った男は開き直るように言い放った。 突然現れた花子さんのことを不思議に思わない。 ただ、売りの仲間なのだろうとしか考えなかった。 ピクリと、抑えきれないように表情筋が動いた。 それでも身体は動かさずに唇だけを動かす。 「咲の生命は咲のものだ」 「知らんなぁ #65374;!生命に値段はつけられんが、この身体には値段がつけられるのだよ! このまま帰らずに、余りある金を置いてやるだけで私は稀に見る善人だよ!」 「アンタが善人ならアタシは神様みたいなもん――――って、それじゃアンタが善人になっちまう」 もはや、我慢がならなかった。 花子さんはゆっくりと手を伸ばした。 このまま邪気を放つことでも呪うことは出来るが、それでは我慢できなかった。 死というものを。 本来、身近に存在するそれを遠いものだと信じきっている男に与えるために。 その小さな腕を伸ばして、短い指で男の唇に触れた。 「ブヒヒ……その歳で淫売とはな」 それが最後の言葉だった。 男の唇を分け入るように指を口内へと突っ込み、舌を優しくなでた。 瞬間、男の中のあらゆるものが動きを止めた。 それは内臓の動きであり、血の流動であり、魂という輝きだった。 あらゆるものが動くことが産まれるということならば。 あらゆるものが止まることが死ぬということだ。 男は死んだ。 呆気無く、呆気無く。 本来あるべき、死を間近に思わなかった男は。 死そのものである花子さんに、赤子のために死を引き受け溜め込んだ花子さんに。 死を与えられたのだ。 花子さんは一瞥もせずに、その肉という肉を殺した。 まるで、最初から何も存在しなかったように、男の肉体は喪失した。 残るのは、無様にベッドで転がる咲だけだった。 「アタシはアンタが好きだよ」 百人が見れば百人が顔を背けるその様を、花子さんは愛おしげに眺めた。 「慌てたような顔でトイレや病院に駆け込むようなヤツよりも。 アンタみたいな、泣きながらお腹をさすっているようなヤツのほうがずっと好き」 指を伸ばしかけ、引っ込める。 自身が触れれば、咲は死ぬだろう。 「男に遊ばれて、女に罵倒されて。 男に打ち捨てられて、女に見捨てられて。 それでも、その原因となるはずの生命を産みたいと思ってくれたなら」 くるりと振り返り、飾られた花を触る。 「アタシはアンタの味方。 アンタはアタシに触れられないけど、アタシはアンタを守るよ」 花が萎れた。 花子さんの傍で生きる生命はない。 そういうものなのだ。 国を作るために、赤子は穢れを引き受けて、世界の外へと流されなければいけなかった。 海の外にあるとされる死後の世界へと流れ着いて、現し世の穢れを運ばなければいけなかった。 今は自由自在だ。 死後の世界である『幽世』の扉を開くことで、この街の全てを死へと染め上げることが出来る。 トイレの花子さんという都市伝説の皮を被って現れた神霊が持つ権能ならば、其れが可能なのだ。 「例え世界を殺してでも、アンタの『穢れ/全て』を持っていくよ」 死の権能を、花子さんが振るうことは躊躇いはなかった。 花子さんにとって、母の愛は、親の愛は。 不幸の底に居ても、死の間際に居ても。 子を撫でようとした咲のような存在は。 ――――たった其れだけで、救いなのだから。 . 【クラス】 アサシン 【真名】 トイレの花子さん@都市伝説、古事記 【パラメーター】 筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 気配遮断:B 自身の気配を消す能力。 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 【保有スキル】 神性:A トイレの花子さんは、民間信仰における『トイレの神様』に由来する。 花子さんが女性なのは安産祈願のトイレの女神様に由来し、名前はトイレに備えられた造花に由来する。 また、安産であり死を代行する性質から、日本神話におけるある神とも同一とされる。 その神の概念こそが、花子さんの宝具である。 変化:A+ 借体形成とも。 ある逸話から、花子さんは三つの頭を持つ体長三メートルの大トカゲへと変身することが出来る。 ただし、この逸話をスキルとして昇華されているために、あらゆる逸話による弱点も花子さんは持つこととなっている。 呪術:D 花子さんが持つ、あるいは負わされた邪念や死を、対象へとぶつける術。 その起源から人身御供の生贄としての一面を持つ花子さんは、多くの死を内包している。 【宝具】 『原初に罪ありき、漂浪する葦の逆子(ヒルコ)』 ランク:EX 種別:対命宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1人 トイレの花子さんの真の正体。 この国において、初めに流された赤子であるヒルコ神そのもの。 原初の時代において海の外とは単なる国外という意味ではなく、死後の世界という意味を持っていた。 川を流され、海にたどり着き、それでも漂流し続けたヒルコ神は死後の世界へと辿り着いた。 ヒルコ神はすでにこの世の存在ではなく、その身全てが『死』そのものである。 ヒルコ神に振れることはこの世における生命をあの世へと運ばれることを意味する。 故にヒルコ神、花子さんへと触れたものは死が瞬時に訪れ、また、死後の世界への門を開く事もできる。 【weapon】 死 【人物背景】 トイレの花子さん。 1950年代に流布された『三番目の花子さん』という都市伝説がベースとなり、1980年代に流布された『トイレの花子さん』その人。 「休日の学校に遊びに来ていた少女が変質者に追われ、トイレの3番目の個室に隠れたが見つかって殺害された」 「生前、父親から虐待を受けていた少女の霊で、おかっぱ頭はその時の傷を隠すため」 「福島県の図書館の窓から落ちて死んだ少女の霊」 など様々な説がある。 弱点や特徴なども全国で差異があり、トイレの花子さんとして召喚された花子さんはその全ての特徴として内包している。 今回の花子さんの背景として、江戸時代から昭和初期にかけて盛んだった厠神信仰が元となっている。 すなわち、名前の『花子』はお供え物の花が原型。 少女であるのは妊婦たちの神であるため。 という、『皮』を持っている。 背景である厠神の共通点を『皮』として。 神々に捨てられた『水子』であり『神霊』である『ヒルコ神』が現界した。 【サーヴァントとしての願い】 赤子に祝福を、愛する母に幸福を。 【マスター】 吉田咲@変身 【参加方法】 公園の公衆便所にて輪姦されていた際、胎内の赤子を代償に召喚の儀式を成功させる。 【マスターとしての願い】 不明 【weapon】 なし 【能力・技能】 非常に整った顔立ちをした、しかしそれだけの平凡な少女。 生来からの資質として、性欲に溺れやすい。 いわゆる淫乱。 その性質がドラッグによって増加されている。 キメセク中毒。 【人物背景】 平凡な女子高生。 中学時代の三年間、一人も友人が出来ないまま卒業を迎えたことを期にイメージチェンジ。 野暮ったい服装や髪型を大幅に変え、見事に高校デビューを成功させる。 しかし、その後に初めてのナンパに浮かれて『お持ち帰り』をされ、一方的にナンパ男を彼氏と信じこむ。 また、友人に唆されて援助交際にも手を出し、悪い道へと染まっていく。 そんななか、家庭においても、母の面影を見た父に襲われ、母からは父を誘ったと罵倒され家出。 ナンパ男の元へと逃げ込むが、ナンパ男にクスリを勧められ、手を出し、そのクスリのために『売り』を強要される。 やがて誰の子ともわからぬ子を妊娠し、男に捨てられる。 最後はトイレの公園で輪姦され――――
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アイテム>防具>アサシン>腰 に戻る 画像 名前 装備可能Lv 防御力 HP MP 付加属性 鑑定付加属性 強化レベル 耐久度 購入額、販売額 入手 必要アイテム 生産 備考 ガードファーパンツ 1 9 169 3 110 購:販: キャラメイク時(ヴァンパイアアサシン) 購:販: 購:販: 購:販: 購:販: 購:販: 購:販: 購:販: 購:販: 購:販:
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「おい、チビ野郎」 少年は、弱者だった。 ただ奪われ、怯えることしか出来ない弱者に過ぎなかった。 怯える少年を見下ろすのは、下衆な笑みを浮かべる若者達。 所謂「不良」と呼ぶべき人間達だ。 人気の無い路地裏で、少年は不良に囲まれていたのだ。 「お前さぁ、金は?まだ払って貰ってないんだけど」 不良の一人が少年に顔を近づけながら威圧的に言う。 少年は怯えながら不良を見上げる。 不良達にとって、少年は「金蔓」だった。 常に気弱でおどおどとしていて、その上何も出来ない。 カモにするには丁度いい相手だったという訳だ。 それ故に少年は無慈悲な簒奪の対象となる。 不良達に金を巻き上げられる被害者となってしまったのだ。 「ご、ごめんなさい…!今月はちょっと厳しくて… その……あの額は……流石に……!」 少年は俯き、おどおどと答えた。 少年は不良達に幾度と無く「友達料金」を払っていた。 友情の証。友達としての信頼。 そんな嘘っぱちを吐きながら、不良は少年から金を絞り取り続けていたのだ。 時間と共に不良達は少しずつ過激に、更に傲慢になっていった。 月日の経過と共に不良達は料金を釣り上げていった。 最早少年には払い切れない額となるまでに。 直後、少年が殴り飛ばされた。 不良の一人が手を出したのだ。 「友達料金払えないんならさぁ、もう友達じゃなくなっちまうんだよ! いいの!?友達じゃなくなってブチのめされたいの!?」 壁に叩き付けられた少年の胸倉を、殴り飛ばした不良が掴む。 脅し文句と言わんばかりの言葉を怒声と共に吐き出す。 少年は絶望した。 口答えなんてした所で、無駄なのだと。 彼らは徹底的に自分から搾り取るつもりなのだと。 全てを諦めようかと思った。 もう、どうせ何をやっても無駄なのだから。 そのまま少年が、素直に金を払おうとした。 その時だった。 「ヘイッ!そこの兄ちゃん達!」 どこからともなく、軽快な声が聞こえてきた。 不良達や少年が視線を向けた先に居た者。 それは大柄な体格を持つ、外国人の青年だった。 「そのおチビくんさぁ、俺の親友なんだよねェー…… だからさぁ兄ちゃん達、そいつのこと放してくんねえかなぁ~~~?」 突然現れた外国人に、不良達も少年も唖然とする。 こいつは一体誰なんだ。 当の外国人を除き、この場に居る全員がそう思っていた。 その態度は何処か気さくで、悪く言えばおちゃらけている。 しかし、その容貌は不良達を警戒させるには十分だった。 190cmを超える身長。屈強な肉体。見慣れぬ肌の色。 小柄な日本人にとっては未知の風貌であり、異様とも言える存在だ。 不良達が僅かにでも怯むのは無理も無い。 「……ッ、何なんだよテメェは?」 そんな中、気性の荒い一人の不良が外国人の前に躍り出る。 体格で勝る外国人を見上げ、鋭い目付きで睨みつけたのだ。 外国人は真顔で目の前の不良を見下ろす。 「何?正義のヒーローごっこ?悪いけどさ、ぶちのめされたくなかったら―――――」 そう言って、不良が外国人の胸倉を掴もうとした瞬間。 不良の身体が、勢い良く吹き飛んだ。 外国人が容赦なく顔面に拳を叩き付け、殴り飛ばしたのだ。 不良はそのまま地面を転がり、呆気無く気絶する。 「そいつを『放せ』っつったんだよ!このスカタン共がッ!」 外国人は声を荒らげ、残る不良達に言い放つ。 不良達は外国人の力に動揺し、怯み出す。 目に見えて統率が乱れている。 今にも逃げ出しそうな様子だ。 「こ、この野郎ォッ!!」 そんな中で、一人の不良が――――懐からナイフを取り出した。 柄を握り締め、そのまま勢いよく外国人へと向かって駆け出したのだ。 仲間の静止も聞かず、不良は突進していく。 対する外国人は、平然と待ち構えていた。 拳を構えることも無く、武器を取り出すことも無く。 あるいは、逃げ出すこともせず。 突進してくる不良を真っ直ぐに見据えた。 そして、彼がゆっくりと取り出したのはコーラ入りのペットボトル。 瞬間。 ペットボトルの容器に詰められたコーラに、奇怪な電流が迸る。 直後に不良は目の当たりにした。 コーラが水鉄砲の如く噴射する様を。 コーラの勢いに乗せられ、ペットボトルの蓋が飛ぶ様を―――――! 「ぎゃあッ!!?」 素っ頓狂な声と共に、不良はナイフを落とした。 ペットボトルの蓋が弾丸の如く飛び、ナイフを『弾き飛ばした』のだ。 ナイフを弾かれた衝撃によって腕が痺れ、不良は驚愕の表情を浮かべる。 対する外国人は、余裕の態度。 ペットボトルの中に余ったコーラを、一気にがぶ飲みし始めた。 何が起こったのか解らない。 何なんだこいつは。 一体何をしたんだ。 不良達の表情はそう言わんばかりに青ざめていた。 目の前の外国人は、ヤバい。 不良達は本能的にそう理解した。 敵わぬ相手を前に混乱し、その場から必死に逃げ出したのだ。 「ヘッ!ザマーみやがれ!」 まるで悪戯小僧の様な表情でにししと笑い、外国人は不良を見送る。 そんな外国人を、少年は唖然とした様子で見つめていた。 彼はおちゃらけた態度で瞬く間に不良を撃退した。 少しばかり、怖いと思っていた。 だけど。 彼は、不良に金を巻き上げられている自分を救ってくれた。 名前も顔も知らない自分を、助けてくれた。 少年にとって、目の前の外国人はヒーローだった。 ◆◆◆◆ 外国人――――ジョセフ・ジョースター。 祖父は貴族の家系だったと言う英国人。 その性格は貴族には程遠く、おちゃらけた若者と言った風体だ。 他者を茶化す様な言動も多く、軽い人間と見られがちだ。 しかし、その胸の内には熱い正義感が秘められていた。 先程、彼は拳と波紋によって見ず知らずの少年を助けた。 ただ偶然少年が囲まれているのを目にしたから、それに割り込んだのだ。 彼にとっては得にもならない人助けだ。 だが放ってはおけなかった。見て見ぬふりをするのも後味が悪い、というのもある。 何より彼が秘める『黄金の精神』が、踏み付けられる弱者を見捨ててはおけなかったのだ。 さて、ジョセフ・ジョースターという男の人となりを語った所で一つ。 ジョセフにはある悩みがある。 それは――――――。 (ったくよォーーー……ここは一体何なんだ? 俺は確かエリナおばあちゃんと一緒にニューヨークに来てたはずだよな…) 自分が『全く見知らぬはずの日本の街に居る』ということだ。 ジョセフはアメリカに飛んだ英国人である。 当然ながら日本に縁など無いし、訪れた記憶も無い。 だというのに、今の自分は日本に住むフリーターの外国人として存在している。 少し前までジョセフはそのことに何の疑問も抱かず生活していた。 しかし、ある時突然ジョセフは思い出した。 自分の素性を。自分が何者であり、何をしてきた人間なのかを。 更に今の日本は20XX年だと言うではないか。 自分の記憶が正しければ現在は1938年のはず。 まさか自分はタイムスリップをしたと言うのか。 何故か縁のない日本で暮らしている自分。 認識している西暦のズレ。 奇妙なことが起こりすぎている。 不良を撃退した後、ジョセフは一人そのことを悩んでいた。 市街地を歩きながら、一人悩み続けていた。 はっきり言って、自分はとっととニューヨークへ帰りたい。 その為に空港への移動も試したが、タクシードライバーは聞く耳持たずだ。 ジョセフはこの街の異常性に気付いていた。 時間のズレのみならず、『東京都から出る為の行動』の一切が妨害される。 まるで自分をこの街に閉じ込めているかの様に。 一体此処は、何なんだ――――? 「…あ?」 唐突にジョセフは足を止める。 市街地を歩いている最中、ジョセフはあるものに気付いた。 (何だこりゃあ…高級テーラーか? つか、こんなトコに高級テーラーなんかあったっけ?) 彼が目にしたのは、高級紳士服店―――テーラー。 この街は日本に住むジョセフにとっての主な行動区域だ。 街の地理はある程度把握してるつもりだし、目立った店も記憶している。 だというのに、この高級テーラーは『全く記憶にない』のだ。 更に不思議なことに―――通行人は高級テーラーに見向きもせず素通りしている。 突然出現した高級テーラーの存在を全く疑問に思っていないのだ。 まるで初めからそれが存在していたかの様に、受け入れている。 一体何がどうなっているんだ。そうジョセフが思った時だった。 「御機嫌よう。君を待っていた」 突如として、ジョセフに声を掛ける者が現れた。 ジョセフが視線を向けた先に存在していた者。 それは、高級テーラーの壁を背に立つ白人男性だった。 年齢は50代程か。整えられた髪、小綺麗なスーツ、知的な眼鏡といった風貌。 その出で立ちはさながら英国紳士とでも呼べるものだ。 「失礼ながら、先程の少年を助ける一部始終を見させてもらった。勇敢な青年だ」 「ちょっと待て、アンタ一体何者だ?突然話し掛けてくるどころか、堂々と覗き見宣言とはよォー!」 一方的に語りかけてくる紳士。 対するジョセフは少し苛立った様にそう吐き捨てる。 紳士は少しばかり思考した後、手招きをしながら高級テーラーの中へと入っていく。 店の中に入れ、とでも言いたいのか。 ジョセフは眉を顰めながら、ずけずけと入店をする。 紳士服が綺麗に並べられた古風な店内を眺めた後、ジョセフは紳士を見据える。 この男は、先程の少年を助ける一部始終を見ていたと言っていた。 一体いつから見ていたのか。 男の気配は一切感じられなかったし、それらしい人影さえ見当たらなかった。 ジョセフは男がただ者ではないことを見抜いていた。 そもそもこの男は、一体何者なんだ。 カウンターの前に立つ紳士を睨み、彼の返答を待つ。 「この街は聖杯戦争の会場。君は聖杯戦争のマスターとして選ばれた。 たった一つの奇跡の願望器を巡る、所謂殺し合いだ。 そしてマスターには必ず一騎の従者(サーヴァント)が宛てがわれる」 淡々と語る紳士に対し、ジョセフは再び眉をしかめる。 聖杯――――エリナおばあちゃんから聞いたことがある。 円卓の騎士とかいう英雄達が探したという聖遺物。 そして、この東京都はその聖杯を巡って争う殺し合いの会場だという。 普段ならば「テメー、一体何言ってやがんだスカタン野郎」とでも憤っていただろう。 しかしジョセフは、街の異常に気付いていた。 この世界のおかしさを既に感じ取っていた。 それ故に彼は、目の前の紳士の話を無言で聞く。 それにしても、殺し合い? 何故自分がそんなことに巻き込まれなきゃあいけないんだ。 姿を眩まし続けて、エリナおばあちゃんに寂しい思いをさせたくなんかない。 その為にも、この街から抜け出さなければならない。 手段は未定だが、出来ることなら殺し合いは避けたい。 乗り気な奴なら兎も角、自分の様に巻き込まれた者まで手にかけたくない。 もしそういった者と出会ってしまった場合は、出来ることならば助けたい気持ちもある。 思考を続けていた最中、ジョセフはあることに気付く。 聖杯戦争は、奇跡の願望器を巡る殺し合いという。 参加者であるマスターには必ず一騎のサーヴァントが宛てがわれる。 ならば、自分のサーヴァントはどこにいる。 まさか。 「私はアサシンのサーヴァント」 口元に微笑を浮かべ、紳士はそう答える。 そう、目の前に立つこの紳士こそがサーヴァント。 ジョセフ・ジョースターの元に召還された、一騎の従者。 「君の正義の心に可能性を見出した『紳士』さ」 彼は高級テーラーに務める英国人だった。 同時に、かつて聖杯伝説に登場した騎士の名をコードネームとして冠するスパイだった。 男の名はハリー・ハート。 コードネームはガラハッド。 諜報機関「キングスマン」に所属していた、紳士だ。 【クラス】 アサシン 【真名】 ハリー・ハート@キングスマン 【ステータス】 筋力D+ 耐久D 敏捷C+ 魔力E 幸運D 宝具D+ 【属性】 秩序・中庸 【クラス別スキル】 気配遮断:C 自身の気配を絶つ。 完全に気配を絶てば発見することは難しい。 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 【保有スキル】 心眼(真):C 修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理” 専科百般:C+ 諜報員としての多才な技能の具現。 戦術、学術、隠密術、暗殺術、詐術、話術といった数々の技能を体得している。 【宝具】 「礼節が紳士を作る(アクト・オブ・ガラハッド)」 ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- キングスマンに所属する一流スパイ―――コードネーム「ガラハッド」。 一流のスパイとしての卓越した技術が宝具へと昇華されたもの。 諜報活動・隠密行動を行う際に有利な補正が与えられる。 更に自身が標的に先制攻撃を仕掛けた場合、戦闘中に筋力・耐久・敏捷のステータスにプラス補正が掛かる。 「紳士は群衆に潜む(ディセント・キングスマン)」 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- 高級テーラーを隠れ蓑とし、キングスマンとしての正体を秘匿していた逸話の再現。 彼の現界と同時に自動発動し、高級テーラー(紳士服の仕立て屋)を街に出現させる。 高級テーラーは会場そのものに影響をもたらし、契約したマスター以外の人物からは「初めからその店が存在していた」ものとして認識される。 高級テーラーの存在を知らない、あるいは高級テーラーを宝具と認識していない者に対し、ハリーの全ステータスと魔力を秘匿する。 この宝具が機能している間、ハリーは単なるNPCの店員としか認識されない。 高級テーラーが宝具によるものだと認識された瞬間、その者に対しての秘匿は一切機能しなくなる。 自動発動したまま維持され続ける宝具だが、魔力消費は極めて小さい。 「引き金に敬意を込めて(ガンズ・アンド・ヨセフ)」 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- ハリー愛用の傘型ライフル。 実弾・非殺傷弾・リング状のスタン弾を自由に切り替えることが可能。 更に低ランク・低威力の飛び道具なら傘の布で防御することができる。 高威力の飛び道具は防ぎきれないものの、魔力を消費することで破損した傘を修復することが可能。 【Weapon】 《拳銃》 キングスマン特製のオートマチック式拳銃。 威力は低いものの、急所に当てればサーヴァントも十分殺傷が可能。 銃身にはアンダーバレル式のショットガンも装着されており、散弾によって混戦にも対応できる。 《仕込み刃》 靴に仕込んだ刃。 速効性の毒が塗られており、人間相手ならば一撃を当てるだけで毒殺することが可能。 ただしサーヴァントには効果が薄く、一定時間体力を徐々に減少させるのみに留まる。 リーチが短くサーヴァント戦で有効ではないため、暗器としての使用がメイン。 《指輪》 右手に嵌めた指輪。 スタンガンが仕込まれており、対象を感電させることが可能。 《手榴弾》 ライターに偽装した手榴弾。 《紳士服》 紳士を形作る特注のスーツ。 防弾仕様であり、拳銃弾程度ならば弾くことが可能。 とはいえサーヴァント戦で期待できる程の防御機能は無い。 【人物背景】 表向きは高級テーラーに勤める英国紳士。 しかしその正体は諜報組織「キングスマン」に所属するベテランスパイである。 コードネームはガラハッド。 キングスマンはどこの国にも属さず、難事件やテロリズムの解決を任務とする。 【サーヴァントとしての願い】 なし。 ちょっとした「人助け」のつもりで召還に応じた。 【方針】 マスターを手助けする。 その過程でマスターが持つ素質と正義を見極める。 【マスター】 ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 第二部「戦闘潮流」 【マスターとしての願い】 とっとと帰りたい。 【weapon】 なし 【能力・技能】 「波紋」 仙道とも呼ばれる術。 呼吸のエネルギーが生み出す生命の波紋の力。 ジョセフは波紋の素質を生まれ持っている。 その技量は未熟ではあるものの、吸血鬼を倒すには十分な威力を持つ。 「頭脳」 ある意味でジョセフ・ジョースター最大の武器。 数々の策や機転を駆使し、敵を翻弄する策士としての能力。 あらゆる状況・道具を利用した変幻自在の搦め手を得意とする。 【人物背景】 ニューヨークにやってきた英国人で、第二部のジョジョ。 第一部の主人公であるジョナサン・ジョースターの孫。 おちゃらけた軽い性格だが、その胸の内には黄金の精神を宿す。 祖母であり唯一の肉親でもあるエリナ・ジョースターを大切にしている。 この聖杯戦争におけるジョセフはニューヨークに来たばかりの時期から呼び寄せられている。 その為波紋の腕前は未熟であり、柱の男の存在も知らない。 【方針】 この世界から抜け出す方法を探す。 候補作投下順 Back うちはサスケ&アーチャー Next 李小狼&セイバー
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APO/S53-039 カード名:“嫣然とした笑み”赤のアサシン カテゴリ:キャラ 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2000 ソウル:1 特徴:《サーヴァント》・《毒》 【自】[①] この能力は1ターンにつき1回まで発動する。あなたのカードがレベル置場に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を上から3枚まで見て、《マスター》か《サーヴァント》のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加え、残りのカードを控え室に置く。 無理だ レアリティ:U Fate/Apocrypha収録 18/05/17 今日のカード レベル置場にカードが置かれたときに手札補充ができるレベル0。 効果自体は“憧れの舞台”エリーの下位互換だが、使い方は同じ。 “人類救済”シロウ・コトミネと組み合わせて毎ターン手札補充が可能で、“決戦”赤のライダーの組み合わせると相手ターンでも効果が使える。
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ウォンテッド マンハント アライアンス(LV5から選択可能) ウォンテッドADV(LV12から選択可能) アサシンクリードブラザーフッドでは4種類のゲームモードがあります。 簡単なモード説明などだけなので、詳しくはマルチプレイの基本を見てください ウォンテッド ウォンテッドは他のオンラインゲームで言うと「チームデスマッチ」と言えるぐらい基本的なモードです。 各プレイヤーが自分の暗殺対象を暗殺していくモードです。 マンハント 四対四のチーム戦。 攻撃側と防御側に分かれて5分5分計10分でスコアを競うモードです。 アライアンス(LV5から選択可能) 二人一組を3チームでそれぞれのチームの暗殺対象のチームを暗殺していくモードです。 ウォンテッドADV(LV12から選択可能) ほぼウォンテッドと同じルールです。 一番の違いはコンパスが暗殺対象は↑にいるのか↓にいるのかを伝えれなくなったために、 少し探しにくいモードです。
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36-23 23 :(○口○*)さん [sage]:07/01/15(月) 12 56 ID ZIjUJzo8O 脱退理由:なにこの(゜Д゜;≡;゜Д゜)直結王国!? 相方とギルド無しでプレイしていてそろそろギルドでも入ろうかーと募集広場で雑談しながらウォッチング (ちなみに自分は殴りプリ♀、相方はモンク♀) そんななか問題のギルドのメンバーに声をかけられ試しにと加入 ギルドは新設らしくレベル1、メンバーは♂アサシン3♂騎士1♀モンク1 どうやらAGIギルドらしい 入った直後から兆候があったんだけど日増しに問題がでてきた アサシン3人から執拗なペア狩りアプローチ しかもギルチャじゃなくWisで ギルハンならいいよと言ってもペアがいいと言い いま相方と遊んでるといっても自分の方が強いとか効率でるとか女同士なんて不毛だとかしつこい 溜まりばですわってれば横に座ってきたり(逃げても)三人で囲んできたり そしてプレゼント攻め(断固受け取り拒否) さらには年齢やアドレスや住所とか聞いてくるしまつ ついでに新加入で♂ハンター追加 被害増大 自分だけかと思い相方に相談したら密かに相方にもきていたらしい 4人からWisで結婚申し込みきた時点で相方ともども抜けました(相方はフラレタ3人からプロポーズきたみたい) 我慢したんだけど10日持ちませんでした・・ 26 :(○口○*)さん [sage]:07/01/15(月) 13 02 ID ZIjUJzo8O ちなみに俺は男 相方は妹 前ページ次ページスレ36
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「君、漫画って読むタイプ?」 綺麗に整頓されたその部屋は、如何にも女性的な内装で飾られていた。 壁紙はピンク色を基調にして、カーペットは白と黒のツートンカラー。 窓辺にはファンシーなぬいぐるみが並べられ、居間のテレビには流行りのゲーム機が繋がれている。 どこにでもあるような普通の部屋だ――それこそ、普通ならばまず気が付かないだろう。 この部屋の主が、此処とは違う外側の世界からやって来た"異世界人"であるなどとは。 「ああ、流石に質問が唐突すぎたかな。 実はボク、漫画雑誌の編集者をやってるんだよ。 だからか知らないけど、こっちでの設定も編集者なんだ」 「……、」 「補足してあげたんだから答えてくれないかなぁ。それとももう一回聞いた方がいい?」 「よ……読むっ。読みます……! 流行ったやつとか、たまに……」 されどそんな彼女は今、白黒のカーペットの上に転がされていた。 見れば右腕の肘から先がない。 足も左右両方、こちらは腱の部分をざっくりと斬り裂かれている。 出血のせいか恐怖のせいか、或いはその両方か――哀れな少女はその顔を真っ青にし、歯をがちがちと鳴らしながら答えた。 「じゃあ分かってもらえると思うんだけどさ。 ボク達が今置かれてる状況って、はっきり言ってリアリティが全然ないよね」 「……え、あ。それ、は……」 「能力バトルものにリアリティラインを求めるのは無粋だけど、それでも物語に感情移入するためには"現実との距離感"ってのが大事だと思うんだ。 いきなり異世界に転移させられて、願いを叶えてやるから殺し合え――ってのは、ちょっとその辺り心許ない。 もしボクのところにこれが持ち込まれたら、悪いけど設定から練り直せって言っちゃうかな」 少女の当惑は無理もない。 腕を切られ、両足の腱を切られ、止血しなければあと数分で命を落とすという状況に置かれている彼女。 その隣に体育座りで座り込んで、この男は何の脈絡もない話をこうして延々語っているのだ。 此処が"異常な世界"であることを踏まえても、あまりに異様過ぎる状況。 聖杯戦争という災禍にただ巻き込まれただけで、まだ一度もまともに戦いをした試しのなかった哀れな娘の心は既に破裂寸前だった。 頼みの綱のサーヴァントは既に存在しない。 彼女はもう、この男と……彼の連れているサーヴァントに対して、何の手も講じることができない。 「でも面白いことに。今ボク達にとっての"現実"は、そんなチープな漫画の中だ」 男はペンだこの目立つ手を口元に当てて、にやにやと笑う。 元の顔が整っているからか、その笑みからは爽やかなものさえ感じられる。そしてそれが、余計に不気味だった。 「"神に愛されてる"……って言うのかな。 ボクはあんまりそういうのを信じるタイプじゃないんだけど、流石にこう思っちゃったよ。 こんなおかしな経験、いくら金を積んだってそうそうできるもんじゃないでしょ?」 目の前で、自分より十歳は年下だろう少女が死にかけている。 ひゅうひゅうと危険な喘鳴を漏らしながら、涙を流して怯えている。 けれどそれに微塵の憐憫も示すことなく、男は彼女を助けるための手ではなく、喋るための口ばかりを動かしていく。 「だから、ありったけ取材して帰ろうと思ったんだ」 にぃ、と。 口元を緩やかな三日月のように曲げて、白い歯を覗かせる。 漫画の話も今しがた出た"取材"というワードも、この部屋の有様とはまるでそぐわない。 事の経緯は――実に単純かつ、唐突だった。 マスターでありながら戦うことを厭い、当分は一般人を装って影に潜むことにした少女。 彼女が見張りのために外へ出していたサーヴァントの反応が、急に消滅したのだ。 驚いている暇はなかった。それからすぐに、鍵がかかっているはずの部屋のドアが外側から押し開かれ。 そして、"彼ら"が入ってきた。 ウェーブの掛かった前髪を顔の左側に垂れ下げた男。 場違いな笑顔で入室してきた彼に気を取られたその一瞬で、少女の命運は完全に尽きた。 次の瞬間には彼女の右腕が宙を舞い、床に落ちていて―― 脳が追いつき悲鳴をあげた時には、立つことができなくなっていた。 死の恐怖と混乱で頭をいっぱいにしている彼女を前に、男は滔々と何事か語り始め……そして、今に至る。 「今の気持ちを聞かせてほしいな。 急に異世界に呼ばれて、ちょっとした不意討ちであっさり殺されちゃうようなハズレの相棒を押し付けられて。 そんで本戦も始まらない内に、此処で人知れず死んでいくんだよ、君」 しかし、恐怖の時間はそう長くは続かなかった。 気持ちを聞かせろ、と言うなりだ。 男はその言葉とは裏腹に――いや、真に死を前にして出る言葉を"取材"するためなのか。 しばらく片手で弄んでいたサバイバルナイフで、ずぶりと少女の首を刺した。 「さあ」 促すように言って、メモ帳とペンを構える男。 そんな彼を、死の未来が確定した少女は虚ろな目で見つめていた。 どんどん、血と共に生命が抜けていく。 切断された腕からの出血だけでも危うい状態だったのだから、駄目押しに首を刺されて生き永らえられるはずもない。 最期の言葉を待つ、異常な男の思惑通りに、少女はその口をゆっくり開いた。 首を刺されたためか、奇妙な空気の通り抜けるような音がする。 だが、男にとっては幸いか。その最期の言葉は、しっかりと吐き出された。 「らん、さー……を……ばかに、しないで……」 確かに、彼は私を守りきれなかったけど。 それでも――あの人は私の大事なサーヴァントだったんだから、と。 最後にそう抗議をして、目を丸くする男をよそに目を閉じた。 それきり、少女はもう二度と目を開けなかった。 ◆◆ 「うっ……わあ……。 マジか、マジかマジか~。 そうなるのかぁ、そうなっちゃうのかぁ、こういうシチュエーションだと……!」 少女の最期の言葉を聞いた男は、数秒固まっていたが。 やがて我に返ると、高揚した様子でペンを走らせ始めた。 見れば、息絶えた少女の死体をスケッチしているようだ。 その頬は興奮で仄かに上気していたが、そこに浅ましい情欲の気配は微塵もない。 「いや、これはこれで参考になる……。 "ランサーをバカにしないで"、か。 今まで殺した人の中に、こういう殊勝でドラマチックな言葉を残した子は居なかったのに」 とある世界で――こんな殺人事件があった。 夫婦と、その親類に当たる女性が、家に押し入った何者かにより殺害された。 生き残ったのはベッドの下に隠れていた家の娘ただ一人。 隠れた娘の見ている前で下手人の男はカップヌードルを啜り、パソコンで動画サイトを楽しみ、挙げ句自慰行為にすら及んでみせた。 その大胆不敵にして、良心の欠片もない悍ましい犯行。 警察の追跡も虚しく、未だ解決の足掛かりすら掴まれていない件の事件の犯人を――世間は、"練馬区の殺人鬼"と呼んだ。 「日常の定義が……"世界観"が変わると、そこに居る人間のノリもそれに合わせてズレるってとこかな? 何にせよ、これは面白い取材ができた。ボクの作風に活かせる部分がないか、後でよく検討しないと」 それこそが、この男。 園田夢二。雑誌編集者にして作家志望。そして、殺人鬼。 件の一家殺人など、所詮彼の"取材歴"の一部分でしかない。 彼にとって最も価値のあるものとは、ひとえに"経験"だ。 実際に経験することでだけ生み出され得る生の反応――それを見るために彼は凶行を繰り返してきた。 その末行き着いたのがこの界聖杯内界。願いのために、あらゆる行いが容認される非日常。 「おかあさん、もうおわったの? その人、死んだ?」 「ん――ああ、終わったよ。 なかなか良い取材ができた。君のおかげだね、ジャック」 「えへへ……おかあさんが喜んでくれると、わたしたちも嬉しいよ」 時に。 聖杯戦争とは、言わずもがなマスターとサーヴァント、二つで一つである。 如何に園田が常軌を逸した殺人鬼であろうとも、人の手で英霊を殺傷するのは至難の業だ。 まして彼自身の運動能力もその肉体も、ともすれば並を下回る程度のものでしかない。 故に彼も当然、連れている。自分という存在に呼応して現れた、サーヴァントを。 それは、銀髪の少女だった。 露出の多い服装の上から、黒い外套を羽織っている。 その手には、今目の前で死んでいる娘の血で汚れたナイフ。 さしもの園田も――最初に彼女の真名を聞いた時には、声をあげて驚いた。 「近々また取材をする。その時も頼んでいいかい? 本当はサーヴァントの方もボクが殺せたらいいんだけど、生憎ボクにバトル漫画の適性は無くてねぇ」 「うん。わたしたち、おかあさんが殺せって言うなら――がんばって、誰でも殺すよ」 「いい子だ。今日はジャックの好きなハンバーグにしようか」 嬉しそうに顔を綻ばせる"ジャック・ザ・リッパー"の頭を撫でる園田。 少なくともこうしている分には、彼女がかの伝説の殺人鬼だなどとは到底信じられないが。 しかしこの聖杯戦争という儀式においては、"疑ってかかる"という思考そのものが無意味であるのだと既に園田は悟っていた。 この少女は、確かにジャック・ザ・リッパーなのだ。 切り裂きジャック。人体を破壊するためだけとしか思えない猟奇的な犯行を繰り返しながら、しかしついぞ捕まることのなかった怪人。 恐らくは人類の歴史上、最も有名だろう未解決殺人事件――その下手人である。 「(そういえばボクの殺人も、軒並み未解決のままになってるんだっけ。 ……あ~、そういうところで惹かれ合ったのかな? ま、殺人に抵抗のないサーヴァントを引けたのは素直にラッキーだ)」 ジャックは、園田の凶器としてこの上なく優秀なサーヴァントだった。 自身の宝具で逃げ場を塞ぎ、確実に敵を殺して証拠を残さない。 故に彼も彼女のことは重宝していたのだが――それはそれとして、ひとつ気になることがあった。 「(ロンドンの切り裂きジャックの、"生の反応"……気になるけど、流石に高望みしすぎか)」 "わたしたち"という奇妙な一人称。 何度改めても、自分のことを"おかあさん"と呼ぶ不可解な言動。 そこに園田は、つぶさな人間観察で培った洞察力で以って、深い闇の気配を見出した。 伝説の殺人鬼の内側。彼女が経てきた経験。それを知れたなら、聴けたなら、見れたなら。 それは一体、どれほど貴重で有益な取材記録になってくれるだろうか。 「(ああ、凄い。此処には未知が溢れてる)」 園田は高揚を押し殺しながら、犯行現場を後にした。 大仰な後始末はしない。経験上、この手の殺人は特に隠し立てしなくとも足が付かないと分かっているからだ。 そして何よりも、早く帰宅して今日得られた取材記録を反芻したい気持ちが強かった。 この世界で、自分は一体どれだけの取材を積めるのだろう。 この世界を出た時、自分は一体どれだけ多くの経験を糧にしているのだろう。 考えるだけでワクワクが止まらない。 心臓の鼓動は早まり、自然と口元は弧を描く。 願いよりも、まずは目先の"経験"を。 異常者故の破綻した思考回路を正常運転で回転させながら――殺人鬼を連れた殺人鬼は、今日も健在だった。 【クラス】アサシン 【真名】ジャック・ザ・リッパー 【出典】Fate/Apocrypha 【性別】女性 【属性】混沌・悪 【パラメーター】 筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C 【クラススキル】 気配遮断:A+ サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。 完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。ただし、攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまう。 しかし後述するスキル"霧夜の殺人"の効果によりこの弱点を克服しており、完璧な奇襲を行う事が出来る。 【保有スキル】 霧夜の殺人:A 暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。 ただし、無条件で先手を取れるのは夜のみ。昼の場合は幸運判定が必要。 精神汚染:C 精神干渉系の魔術を中確率で遮断する。 この精神汚染はマスターが悪の属性を持っていたり、彼女に対して残虐な行為を行ったりした場合、段階を追って上昇する。 魔術の遮断確率は上がるが、ただでさえ破綻している彼女の精神は取り返しが付かなくなっていく。 情報抹消:B 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録から彼女の能力・真名・外見特徴等の情報が消失する。 これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。 外科手術:E 血まみれのメスを使用してマスター及び自己の治療が可能。 痛みはないものの、まるでミミズがのたくったように見えるほど乱雑な処置を黒い糸で行うため、施術後の見た目はかなり酷い。 120年前の技術でも、魔力の上乗せで少しはマシ程度。 【宝具】 『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』 ランク:D~B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:1人 通常はランクDの4本のナイフだが、条件を揃える事で子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。 条件は"対象が女性(雌)である""霧が出ている""夜である"の三つ。このうち"霧"は自身の宝具で代用する事が可能なため、聖杯戦争における戦いでは一つ目の条件以外は容易に満たすことができる。 これを全て揃った状態で使用すると対象の霊核・心臓を始めとした、生命維持に必要な器官を蘇生すらできない程に破壊した状態で問答無用で体外に弾き出し、血液を喪失させ、相手を解体された死体にすることができる。 条件が揃っていない場合は単純なダメージを与えるのみだが、条件が一つ揃うごとに威力が跳ね上がっていく。 この宝具はナイフによる攻撃ではなく、一種の呪いであるため、遠距離でも使用可能。それ故にこの宝具を防ぐには物理的な防御力ではなく、呪いへの耐性が必要となる。 『暗黒霧都(ザ・ミスト)』 ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:50人 霧の結界を張る結界宝具。硫酸の霧を半径数メートルに拡散させる。 骨董品のようなランタンから発生させるのだが、発生させたスモッグ自体も宝具である。 このスモッグには指向性があり、霧の中にいる誰に効果を与え、誰に効果を与えないかは使用者が選択できる。 強酸性のスモッグであり、呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせる。一般人は時間経過でダメージを負い、数分以内に死亡する。魔術師たちも対抗手段を取らない限り、魔術を行使することも難しい。サーヴァントならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。 最大で街一つ包み込めるほどの規模となり、霧によって方向感覚が失われる上に強力な幻惑効果があるため、脱出にはBランク以上の直感、あるいは何らかの魔術行使が必要になる。 【weapon】 四本のナイフ 【人物背景】 ジャック・ザ・リッパー。世界中にその名を知られるシリアルキラー。日本ではそのまま「切り裂きジャック」と呼称されることが多い。 五人の女性を殺害しスコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず捕まることもなく姿を消した。 アサシンとして召喚された彼女は数万以上の見捨てられた子供たち・ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊。 この怨霊が母を求め起こした連続殺人事件の犯人として冠された名前が"ジャック・ザ・リッパー"である。 後に犯行が魔性の者によるものと気づいた魔術師によって消滅させられたが、その後も残り続けた噂や伝承により反英雄と化した。 【サーヴァントとしての願い】 胎内回帰 【マスター】 園田夢二@善悪の屑、外道の歌 【マスターとしての願い】 聖杯戦争という非日常を"取材"する 【能力・技能】 一般人の皮を被った殺人鬼。 致命傷を負った死に際でも自分の主義を語り続けるなど常軌を逸した本性を持つ。 良心や共感性といった人間に必要な観念がごっそり欠けた人格破綻者。 【人物背景】 普段は漫画雑誌の編集者で作家志望の飄々とした性格の青年を演じているが、その実態は取材と称して多くの人間を殺害しているシリアルキラー。"練馬区の殺人鬼"の異名を持つ。 最も価値があるものは「経験」だと豪語し、何の躊躇いもなく殺人を行い、その時体験した知識や感情を作品へ書き起こしている。 参戦時期はカモメ古書店の存在を知るよりも前。 【方針】 最後に生きて帰れればそれでよし。 適度に自衛しつつ、この異常な世界を"取材"する。
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竜神の末裔 No.44 レア:☆☆ HP:845 力:34 賢:29 守:18 早:43 特技 スクリュークロー かまいたち 生息地:砂漠 特徴:ツメの攻撃が得意 発生相性 水モンスターチーム 突撃魚チーム 砂漠チーム スナイプLv 竜神の末裔へ戻る ア行へ戻る メニューへ戻る