約 1,390,173 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/109.html
5- ぐったりとリリスに凭れかかるラムザ。 「貴様、ラムザに何をしたッ!?」 「暴れたら面倒だから、寝て貰っただけ。―今夜は良い夜ね」 「何!?」 「お酒の匂いでまた来てみれば、お酒の他にオ・ト・コ付き☆」 「ふ、ふざけるなッ!だいたい、逃げられると思うか!」 聖剣技を繰り出す。 リリスはラムザを離し、回避する 「聖剣技が使えるのね~。感心感心」 「ああ。神の加護より繰り出される剣技だ。ラムザは渡さんぞ、妖魔!」 「"は"…って。何?貴女、仕事よりラムザちゃんが大事なの?」 「む…つ、積み荷も渡さんぞ!」 「! は~ん、貴女、彼のこと好きなのね?」 「そ、そんな事は―」 「そう、そうなんですよ!隊長は――」 「アリシアァ!」 「………ゴメンナサイ。何デモナイデス」 「ラムザは隊の長だ。…尊敬はしている」 「それだけ?」 「それだけだ!」 「ふ~ん、そう」 少し思案した後、リリスは予想外の言葉を発した。 「ねぇ、貴女のしぶとさに免じてお酒、置いていってあげる」 「何?」 「お酒も良いけどたまには男も良いな~って☆」 「ふ、ふざけるな!それに貴様を倒す事がそもそもの目的!!積み荷は消えても、貴様をかえすわけにはいかん!」 「あ、そう。馬鹿ね貴女。折角私が見逃して上げるって言ってるのに」 リリスはヤレヤレと肩をすくめた。 「私ね。リリスの中でも結構好き嫌いない方だけど、どうしても我慢できないものがあるの。それが―」 高スピードで跳躍してくるリリス。 「―貴女みたいに自分の気持ちに嘘をついてる人よっ!!」 アグリアスに爪攻撃を仕掛ける それをを左後方に転がり避ける。 起き際に聖剣技を繰り出そうとするが、見当たらない 「鈍~い♪」 右後方から声がし、咄嗟に盾で防御 リリスの回し蹴りをもろに食らい吹っ飛ぶアグリアス。 「ホーリー!」 アリシアが唱えたホーリーがリリスに直撃する 「うふふ♪私には聖魔法なんて効かないわよ?」 「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 夢邪睡符!」 アリシアが力なく倒れる。 「ホーリーが駄目なら、これならどうだ!」 アグリアスの乱命割殺打がリリスに向かって放たれる。 しかしリリスはさっと飛び去り、聖剣技を避ける。 「はい、ハズレ」 「チッ!」 「貴女はだいぶ鍛錬を積んでるわね」 「何だと?」 「剣技を見てれば判るわ。所々鋭く、綺麗な剣線をしてるもの」 「――何が言いたい」 「リリス族って、相手の心が読めるの。心に隙のある人は特にね。だから貴女の攻撃も避けれた」 心が読める?―剣を極めて行くと相手の心が読めるようになると聞くが・・・。 「そんなんじゃないわ。例えば…ふ~ん、貴女、今の隊に居場所がないようね。強い人が入って居場所がなくなったってところかしら?」 ――! 本当に自分の心が読まれている事をしり、動揺を隠せない。 「その人が入るまで自分は腕のたつ剣士だ~、そこら辺の騎士より優れている~って思ってたでしょ?そう言うのをね、慢心って言うのよ!」 リリスの爪がアグリアスに迫る。 「クッ!」 アグリアスは迎撃するように剣を振る。 しかし、驚いた事にリリスの爪はアグリアスではなく、剣をしっかりと掴んでいた。 「貴女より強い人間なんて沢山いるわっ!―自分の慢心に気がつかない限り、貴女の居場所は見つからないし、自分より強い人にも勝てない! どんなに鍛錬を積んだってねッ!!」 言い終わるや、もう片方の爪がに迫る。 アグリアスはそれを寸前のところでかわす。 だが避けた直ぐ後、爪を追うように回し蹴りが迫って来た。 「心が影響を及ぼすのは剣だけじゃないわ。当然動きも鈍る!!」 ――避け切れない! アグリアスは咄嗟に盾で防御をする。 「そんなヘタれた盾じゃ防げないよ!」 リリスの回し蹴りをもろに受け盾が砕ける。 衝撃で吹っ飛んだアグリアスは山の岩肌に叩きつけられた。 「グハッ!」 拙い―!予想よりダメージが大きい。 だんだんと口の中に血の味が広がるのを感じる。 「あはは☆――動きも鈍い、剣も鈍い、そして自分の気持ちにも鈍い!ホントにイライラすわ、貴女を見てると!!」 確かに自分は慢心していたのかもしれない。 以前から雷神シドの噂は聞いてたし、騎士として尊敬している人物である。 騎士団時代はそのオルランドゥをも超えるよう鍛錬を怠らないようにしていた。 だから、聖剣技を自在に駆使し、ラムザと一緒に旅をするようになってからも頼りにされていた。 多種多数のモンスターを倒し、伝説に詠われるルカヴィとも渡り合った。 それがため、「もはや自分はオルランドゥ伯に並んだ。いや、超えたかも知れぬ」と慢心に繋がっていたのだ。 6- アグリアスは重い体に鞭をうちなんとか立ちあがる。 「まだ戦うの?シブトイわね」 戦況は確実に不利。 敵にこちらの攻撃はあたらなく、盾も壊れてしまった。 叩きつけられた影響で、体も重く感じる。 ケアルで何とか出来るだろうが、唱えている間にやられるのがオチだ。 「ねぇ、最後に教えてよ。何のために剣を振るうの?」 剣を振るう理由、戦う理由―― 「名誉を挽回したいから?」 そうじゃない違う。 「アハハ!騎士って人種は本当に哀れね。民を守るとか言いながら、心の中では卑下している。貴女が騎士になったのも地位と名誉が欲しかったからなんでしょ?」 私は―――― 「サヨウナラ、騎士さん」 リリスの爪がアグリアスに伸びる。 その攻撃を剣で弾くアグリアス。 「―確かに私は弱い。慢心し、守るべき君主の側にも居ず、今も貴様にやられそうだ」 突然のアグリアスの言葉に怪訝な顔をするリリス。 だが、止めを刺さんと再び回し蹴りを繰り出す。 「だが、どんなに弱くても、どんなに鈍くても譲れないものがある」 回し蹴りをしゃがんで避けるアグリアス。 「権力や地位など関係ない」 右斬上に剣を振り上げる。 「助けを求められれば助けたい」 (早い―!?) 予想外のスピードに避ける事も出来ず慌てて爪で受け止める。 「大切な人を守りたい」 リリスはいったん距離を取ろうと翼を羽ばたかせる。 「私は、私を必要としてくれる者の為に戦う!それが私の戦う理由だ!!」 アグリアスは逃げようとするリリスの手を掴む。 「死兆の星の七つの影の 経路を断つ! 北斗骨砕打! リリスはアグリアスに掴まれ避ける事ができず、放たれた北斗骨砕打が体を貫いた。 「あ…」 小さく呻き崩れ落ちた。 暫く倒れたリリスの様子を伺うアグリアス。 リリスからは殺気も戦意も感じ取れない。 北斗骨砕打が綺麗に決まったから良いようなものの、決らなかったらやられていたのは私の方だった。 妖魔リリス――、破廉恥で心を読む厄介な敵だった。 だが、おかげで自分の間違いに気づく事ができた。 それに忘れれかけていた戦う理由も。 きっと止めを刺そうとすればいつでも刺せたのだろう。 何のためにリリスがあんな無駄口を叩いたのかは判らない。 そういう性格なのかもしれない。 ――だが、もしかすると自分を諭すために? もしそうだとするなら相当な御節介者だ。 「…!」 突然、眩暈がし思わず片膝を付く。 やはり叩きつけられたダメージがそうとう効いているようだ。 ケアルラを唱え、体力の回復を図る。 癒しの光が体を包み、次第に体も軽くなって行く。 積み荷も完全な状態とは言えないが、なんと守る事も出来た。 ラムザとアリシアも夢邪睡符で寝ているだけだから、問題あるまい。 しかし、依頼とはこんなに大変なものなのだろうか? だとすればいつも儲け話に行っているラヴィアン・アリシアの評価をもっと上げる必要があるな。 ケアルラをかけ終わり、体に力が戻って来たのを確認するアグリアス。 ふと視線を上に戻すと、そこに倒れているはずのリリスの姿がない。 「逃げた――か?」 そう思ったが、倒れていた場所に掌大の石像が落ちている。 それは羽の生えた女性像で先ほどまで倒れていたリリスに似ている。 「あぁ、そうか。リオファネス城で倒したアルケオデーモンも倒したら石になったな」 悪魔種とはきっとそういうものなのだろう。 アグリアスは地面に落ちているリリス像を手に取った。 ――フフフ。私を倒すなんてやるじゃない。これからは自分の気持ちに正直になりなさいよ そんな、リリスの声が聞こえた。 少し驚いたアグリアスだが、直に苦笑する。 「本当に御節介だな、貴様は」 7- ハッー!ヤッ!フッ! ラムザ一行が宿泊する宿の裏手で、アグリアスはいつものように鍛錬に勤しむ。 依頼を受けてから4日目でドーターに戻った。 酒場では異例の速さに報酬にイロを付けてくれ、休暇を楽しんでいたメンバーも称賛の言葉をかけてくれた。 だが、夜間戦闘からの帰還で眠さがピークに達していた為、直ぐに寝てしまった。 そして今日にはドーターを発たなくてはいけない。 だから、朝から鍛錬に勤しんでいるのだ。 そんなアグリアスを心配して、ラムザが声を掛けて来た。 「アグリアスさん、大丈夫ですか?昨日帰ったばかりなのに休まなくて」 「なに、心配するなラムザ。今日は素振りだけにするよ。あと300回程で止める」 (300回のどこが軽いんだろう?) ラムザも鍛錬をするが、300回と言ったら普通の鍛錬と変わらない気がした。 「おぉ、今日も鍛錬をしておるのか。結構結構」 「あ、伯。おはようございます」 「おはようございます、オルランドゥ伯」 「うむ、二人ともおはよう」 一旦、素振りを止めたアグリアスだが、挨拶を終えると直ぐに素振りを始めた。 そんなアグリアスをじっと見るシド。 「―うむ。迷いがない良い剣線だ。迷いが吹っ切れたようだな」 「はい!ですが、まだまだオルランドゥ伯の足元には及びません」 「なに、儂は長い年月を経て今の力を手に入れたのだ。きっと貴殿と同じ頃の儂なら負けておるよ」 「ご謙遜を」 「ときにラムザ。報告書は読ませてもらったよ、妖魔リリスとはなかなかの相手だっただろう」 「いえ、僕なんか直ぐに眠らされちゃって戦ってないんです」 「ならば、君もアグリアスを見習って鍛錬に勤しむがよい。 君はどこか自分の命を軽率に見ている感がある。 己が死んでしまったら、多くの人が悲しむことになる。そうならないようにな」 「はい」 シドの言葉をおもおもしく受け止めるラムザ。 「とこで、リリスを倒したとなれば、リリス像が手に入ってのではないか?」 「あ、はい。あの像ですか。他の財宝と一緒に管理してありますよ?」 「うむ、昔からリリス像は持つ者の力を高めると云われ、歴代の武人が好んで収集したものなのだよ」 「へ~」 「でな、少し儂に貸してくれんか?」 「え?構いませんが――」 「そうかそうか。ではさっそく―――」 上機嫌に去っていくシド。 「ねぇ、アグリアスさん」 「何だ?」 「伯が言っていていたように依頼を終えてから、 特にリリスを倒したあとから以前のように何か吹っ切れたような気がするんですけど、何があったんですか?」 「ん―知りたいか?」 アグリアスは素振りを止め、ラムザに向き合う。 「ラムザもアリシアも眠らされた後も、あのリリスは色々な罵声を私に浴びせて来たんだ。 その中でリリスは私に戦う理由を詰問してきた」 「戦う理由ですか?」 「あぁ。だから言ってやった。私は私を必要としてくれる人のために戦うのだと」 「―なるほど。でも、リリスも何でそんな事を言ったんでしょうね」 「さぁ、私にも判らない。だが、おかげで自分を再認識する事が出来た」 少し間が空いた後、アグリアスが真剣な面持ちで言う。 「ラムザ、これからも――私を必要としてくれるか?」 それはとても深くて、重みのある言葉。 だけど、ラムザはいつもの笑顔で答える。 「もちろんです。僕にはアグリアスさんが必要です」 「ありがとう」 ラムザは出発の準備をすると言い、その場から離れて行った。 それを見送り、アグリアスは鍛錬を再開する。 正直にいえば、自分の気持ちを伝えたかった。 リリスは自分の気持ちに正直にと言っていたが、今はその時ではない。 ラムザはその身にアルマの事、ルカヴィの事、隊のメンバーの事などたくさんの重荷を背負っている。 そこに自分の気持ちを伝えれば、良いにしろ悪いにしろ私はスッキリするだろう。 だが、それはラムザにまた一つ重荷を背負わせる事に他ならない。 ならば、今は言う時ではない。 今は側にいてラムザを支える――― それが最善の方法だろう。 剣線は 黒珊瑚の海から吹きあげる風を切っていく。 その剣の鍛錬に一層の気合が入る。 以前のように己のためではなく―― ―――――その剣で自分の大切な人を守るために。 次の朝――― 「あれ~、フェニックスの尾が減ってる…。おかしいな~?昨日確認した時はもっとあったのにな」 「ラムザ!」 「あ、アグリアスさん。丁度良かった―って、どうしたんです?そんなに怖い顔して」 「見てくれ、これを!」 「あぁん、返してくださいよ!私のお酒ぇ~」 「あ、これって依頼で運んだ―」 「そうだ。幻の酒と言われるバッカスの酒だ!」 「でもあれってリリスに全部飲まれたんじゃ?」 「たしか もう飲んじゃったって」 「ヘッヘー、このアシリアがちゃんと手を打っておいたんですよ♪」 「お前が隠しておいただけだろうが!!」 「良いじゃないですか一本くらい。私達のおかげでイヴァリース中においしいお酒が届くんですから」 「だからと言って積み荷を盗ってしまっては盗賊と同じだろうがッ!!」 「む?なんの騒ぎかね?」 「あぁ、伯、見てください。アリシアが―って風呂あがりですか?」 「うむ。昨日の夜は少し鍛錬に気合が入りすぎての、朝までヤってしまったわい」 「朝まで鍛錬とは…私も頑張らねば」 「イイ汗かいたおかげで若返ったようだ!」 「そうそう、ラムザ。フェニックスの尾が必要だったのでちょっと使わせてもらったぞ」 「あ、伯だったんですか?でも、鍛錬でフェニックスの尾なんて何に使ったんです?」 「レイズでも良いのだが、それだとかなり手間がかかるのでな。体力がギリギリの状態で生き返ってた方が、鍛錬に勤しめるのだよ」 「?」 おしまい
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/123.html
儲け話で手に入れる財宝は骨董品だ。それは古と呼ばれる時代のものであったり、それよりも前であったり…。 この大人のパンのレシピもその一つだ。 今は誰も作る者がいなくなったであろうこのパンの味を知りたいと言いだしたのは他ならぬラムザであった。 「アグリアスさん。パンを作ってください」 「はぁ?」 紅茶を手に持ったまま間抜けな声を出す。 普段、ラムザが呼ぶ時には隊の事だ。プライベートの事はあまり話した事がない。 お互い気を遣いすぎているのかその機会に恵まれないのだ。 「あ…やっぱり、嫌ですか?」 「い、いや。そんな事はないぞ」 ラムザの前で間抜けな声を出した自分に恥ずかしさを覚え狼狽する。 コホン と咳払いをし、動揺を隠す。 「ただ、突然の事でビックリしてな」 「あ、すみません。状況を説明すればよかったですね。えーと、ラッドがこの度の儲け話でパンのレシピを手に入れたんです」 「パンのレシピ?」 パンはイヴァリースだけでなく、隣国の国々も主食とするものだ。 パン作り――それは母から子へと伝えれていく伝承の技。 だから今までレシピを見て作るなんて事はした事がなかったし、パンにレシピがあることに少し違和感さえ覚えた。 ラムザから渡されたレシピは昔のもので、薄い本になっている。 名は『大人のパンの作り方とその応用』 「パンのレシピなんて初めて見たな」 「…じゃあ、パン作れないんですか?」 「な、アグ姐に料理が出来るわけないって」 「どこから湧いた、ムスタディオ」 失礼な口を叩くムスタディオを睨みつける。 「湧いたとは酷いなぜ」 「パンは主食だぞ?作れるに決ってるだろう」 「ホントですか!?」 「あぁ。作るのは子供の時以来だがな」 「本当にそれで大丈夫かぁ~?」 「一度覚えた事を忘れる私だと思うか?ムスタディオ」 「だって子供の時だろ?何年前だと思ってるんだよ」 「貴様っ!」 「ムスタディオ、失礼だよ!」 殴りかかろうとするアグリアスを制止ながら、ムスタディオを諌めるラムザ。 「ならお前はアグ姐が料理してるの見た事あるか?」 「う…それはないけど」 「だろ?そんな奴が料理できるなんて、しかも小さい頃に作った経験しかないなんて俺は失敗するに賭けるね」 「よかろう、ラムザ起っての願いだ。パンを焼いてやる。失敗したら不器用な女だと笑うが良い だが、美味くできた暁には…覚悟しておくがいい!」 「上手く焼けたら、残飯でもなんでも食ってやるよ」 へへっと卑下た笑いを洩らすムスタディオ。 こうしてアグリアスはパンを焼く事になった。 ―2話 夕食にはパンが焼けそうだとのアグリアスから聞いたラムザは、夕食を抜きにして待ってる。 本当は財宝の整理などやることが沢山あるのだが、今日くらいは良いだろう。 今、アグリアスは厨房でパンを焼いているところだ。 一朝一夕でできるものではないので、結局次の日になってしまったが、それでもアグリアスは夜を徹して仕込みをしてくれた。 だから頼んだ張本人として待つのは当たり前だ。 だが―― 「あ~早くパン持ってこないかな~」 「ラッド。アンタさっき夕食、食べたばかりじゃない」 「夕食は夕食。アグ姐のパンはアグ姐のパンだ」 「おぃおぃ、お前、アグ姐の作ったパンが食えると思うのか?」 「お前こそ大丈夫かムスタディオ。お前の話だと、美味く出来たら残飯食うんだよな?」 「アグ姐に美味い料理が作れるかよ。きっと石みたいなパンか、別の物体になるな」 「失礼ね、ムスタ!アグリアス隊長だって料理位できるわよ(きっと)」 「そうですよ。アグリアス隊長は何でもこなせる方なんですから(たぶん)」 「ヘっ。まぁ、せいぜい石でも食ってな」 「お前こそ残飯食うなんてモノ好きな奴だぜ」 いつの間にか隊全体に話が広がり、"アグリアスPresents-大人のパン試食会-"に発展していた。 しかし待ち切れず酒まで飲みだして、もういつもの飲み会である。 …なんでこんな展開になってるんだろう? 被害者は少ない方が…って訳じゃないけど 折角アグリアスさんの手料理を一人占めできると思ったのにな~。ハァ いつもはアルマの事やメンバーの事を考えている頭を、"一人でアグリアスの手料理を食べるにはどうすれば!?"を議題にフル回転させたのだが…。 何が失敗かと言えば、やはり自分の欲を出したのがいけなかったのかなぁ… アグリアスさんって競争率高いしなぁ…上手くいかないな 作戦が失敗し落ち込んでいるラムザを笑うように、メンバー達の笑い声が聞こえてくる。 ラムザは恨めしそうに酒を飲むメンバー達をみる。 酒まで持ち出して…楽しそうだな。 でも何でムスタディオ達は酒を飲むんだろう。あんなに不味いのになぁ… 僕には理解できないや グゥゥゥ はぁ…お腹すいた。アグリアスさんまだかなぁ… そんな落ち込んでいるラムザに、ある人物が近寄る。 「ね~らむざ。一緒に飲もうよ~」 「ラファ、それはお酒じゃないか!?」 お酒は二十歳になってからとラファからエールを取り上げようとする。 「い~や~っ!!」 「よこしなさい。お酒は大人の飲み物だよ」 「あたしはもう十分オトナだわっ!!」 ドンッとカウンターを叩き胸を張るラファ。 異国の衣装がピンと張り、体のラインを表す。 白い衣装だからか。 しっかりと双丘が見てとれる。 「―――うん…知ってる。もぅ、だいぶ大人だよね」 「エヘヘ♪だよね、だよね」 「でも、お酒は二十歳になってから だよ」 「じゃあ、らむざも飲んで」 「いや、僕はいいよ」 「の~ん~で~ぇ~っ!!」 ラファはエール片手に暴れだした。 「わかった。飲むから、ラファ落ち着いて!」 ラムザはラファから渡されたエールをじっと見つめる。 酒を飲むのは傭兵時代、ガフガリオンに飲まされていらいだ。 『酒ってのは豪快に飲むンだ。特に最初の一杯目は一気に飲むンだよ!』 そう言われて無理して飲んだ結果、次の日は最悪のコンディションになった。 横目でラファを確認する。 期待に目を輝かせているラファが見えた。 もぅ、こうなっては腹を決めるしかない。 ラムザはエールをグッと飲んだ。 口の中に苦みと、弱い炭酸の痺れが広がる。 不味い!まずいよーー!!! この胃にしみわたる感じは間違いなく酒だ! 大人の味だ!! それに苦い!!苦いぞ、コンチクショー!!!! 心の中で悪態をつきながらエールの味に耐えていく。 なんとか空にする事が出来たが、息も絶え絶えである。 「すご~い。らむざってお酒飲めるんだね」 「あ、ははは…ありがと」 「これでらむざもあたしと同じだ~☆」 ラムザの腕に抱きつくラファ。 フニュ こ、これは―――(゚∀゚)――――!!!!!!!!!!! その時ラムザの中で何かが目覚めた。 ラムザとて年頃の男である。普段は、持ち前の冷静さと理性で様々な欲望を抑えつけているのだ。 そう、間違いない。この上腕部にあたる感触。 肌や腕では表せないこのやぁらか~い感触はあの双丘に間違いない!!! さっき眺めた白い双丘―――それは神秘とロマンに満ちた丘。 それが腕に当たっているのイメージは容易に想像できる!! 妄想モードに入ったラムザだが、ラファは酒を飲んでくれた事がそんなに嬉しいのか、体を左右に振る。 フニュ フニュ 更なる感触に酒も良い感じに加わって、顔がニヤける。 あぁ―――この感触 お互いの服の上からでも判るこの感触はイイ!d(≧∀≦)b 最高だ!! こ、これを直に触れられたら、そ、そ、そ、そそそれはどんな――――イカン!!! このままでは理性の箍が外れて、手を出してしまいそうだ! ――駄目だ駄目だ!僕にはアグリアスさんがガガガ゙ガガ 必死に欲望と戦うラムザ。 理性の箍が外れるのは時間の問題だった。 「ラファ、ラムザに迷惑かけるな!」 「なに、兄さん。ほっといてよ」 「放っておけるか!ほら、向こうでお茶でも飲め」 「あ~ん、らむざ助けて~」 ズルズルと引きずって行かれるラファ。 た、助かった―――ような残念のような。 だけど、マラークも大変だな。妹を持つ者同士として同情する。 アルマが酒を飲んだ所を見た事がないが、アルマも酔うとあんな感じになるのだろうか? そう疑問に思いながらも、腕に残る感触が蘇る。 アヘヘ…柔らかったなぁ―――って違う!しっかりするんだラムザ! 自分に活を入れるため席を立つ。 …あれ?何だろう。視界はハッキリしているのに何だか立っている感じがしない。 両手で顔を抑えてみる。 熱い。確実に紅潮している。 もしかして――― ラムザはサロンの出入り口に向かって歩いてみる。 ―――歩ける。だが、気を抜くと右や左に体が動いていく。 ちょっと休んだほうが良いかな フラフラする体を精神を奮い立たせて歩く。 ちょっとでも気を抜けば落とされる…そんな断崖を歩いている心持で部屋まで戻って行った。 ―3話 「だいぶ待たせてしまったな」 だが待たせたかいがあり、大人のパンは美味しく仕上がった。 アグリアスはパンかごを抱えながらサロンへと向う。 そして部屋に入るなり今、一番会いたくない人物と最初に目が合う。 「んぉ?いょう!遅かったじゃねえか!」 「ムスタディオ…随分とご機嫌だな」 「あぁ、アグ姐ェが長い時間かけて残飯作ってるんでな。ウハハハハ」 「アグリアス様、もうパンは焼けたのですか?」 「アグ姐!待ってたぜ!」 「あ、良い香りがする~」 「お、来たな」 「何だ?皆、私のパン待ちだったのか?」 「そーでぇーーす!」 「アグリアス様の初手料理ですからね!食べない手はないですよ」 アリシアの発言につられて、ラッド・ラヴィアン・マラークとぞろぞろと近寄ってくる。 「で、どうです?出来栄えは」 ラヴィアンが若干、不安がかった表情で聞いてくる。 説明するより目で見た方が早いだろうと、パンかごに掛っているナプキンを取る。 とうとう明かされるアグリアスの初手料理、大人のパン。 ナプキンをとったことでパンの香りがいっそう強くなる。 色は濃い琥珀色、大きさは掌より若干小さめの、丸いパン。 「うわぁ、美味しそうですね!」 「あぁ。レシピに乗っていたのはパン型に居れるタイプだったのだが、生憎パンが他がなくてな。仕方ないから小分けにしておいた」 「ま、まぁやるじゃん。でも匂いや見た目だけなら誰も出来るぜ」 「そうだな。皆、待たせたな。食べてみてくれ」 「わーい、いただきまーす」 「アグリアス様、頂きます」 「アグ姐、頂きます」 「一つ貰うよ」 「…」 それぞれが籠からパンを一つずつとり口に運ぶ。 「うめー!うーまーいーぞー!!」 「ん~!おいしい!!」 「これの葡萄はラムレーズンか。美味いな」 「ああ。しかも、ラムレーズンから出た酒がパン全体に広がってる…まさに大人のパンだな!」 「流石、アグリアス様です!」 「これなら何個でもイケルぜ!!」 「美味い美味い。ラファお前も…ってアレ? ラファ、何処行った?お~い」 様々な称賛の声をあげるメンバーを余所に、どんどんと立場がなくなるムスタディオ。 自分の予想を大きく裏切った結果に何も言えないでいる。 「…」 「どうした、ムスタディオ?私の作った"残飯"はどんな味かな?」 「………めぇ」 「ん?」 「…うめぇ。だが、小さくて食った気がしねぇな!!」 勢いに任せてパンを口に放り込むムスタディオ。 自分の立場を保持するために悪態をつくとは……哀れな男だ 「何いってんの!十分美味しいじゃない!!」 「そうよ、それにあんた夕食食べてたでしょ!!」 「諦めろ。男らしく残飯食え」 「ま、ガンバレ。ムスタディオ」 「ぐぅ……」 ラヴィアン達からもう反撃を受け、青くなるムスタディオ。 身から出た錆とはいえ、このままでは本当に残飯を食わされそうだ。 「まぁまぁ、皆。あまりムスタディオを責めるな。私は今まで料理を作っていなかったのだ。 それでは料理下手だと想像する者もでるのも当たり前と言うもの」 「な…アグ姐ェ」 まさかの見方に驚愕の表情をあげるムスタディオ。 「とはいえ、人を中傷するのはお前の悪い癖だ。直せよ」 「くぅ…アグ姐ェ、俺が悪かった!すまん!!」 ムスタディオが目を潤わせて頭を下げる。 それはまるで罪人が女神に許しを乞うている絵画のようなシーンだ。 ―――さぁ、賭けの代償を払って貰おうか? 「は?」 部屋一杯に広がる黒いオーラ。 ルカビィを超えるアグリアスから発せられる恐怖。 さっきまで目を潤ませて謝っていたムスタディオの表情が凍りつく。 「アリシア、ラヴィアン。すまないが厨房からパンを持ってきてくれ」 「はい。了解です」 「な、何を?」 「何って賭けの代償だ、ムスタディオ。残飯食えとは言わないが、ある物を食って貰おう」 ラヴィアンとアリシアが厨房から"ある物"を持って来た。 それはパンの山―― 「ちょっと沢山作ってしまってな」 「た、タスケ――」 「ラッド」 「おう」 「な、止めろラッド!離せッ!!」 「さっきラッドも言ってただろう?"これなら何個でも食える"って」 ふいにパンを一つ手に取る。 「フフフ…お前は"小さくて食った気がしない"と言っていたな。望み通りほら、大きいぞ」 さっきまでのパンと比べて見せるアグリアス。 大きさは約2倍。 またアグリアスは笑ってはいたが、その顔は笑い掛けるアルテマデーモンのよう。 「さぁ、存分に食うが良い」 「いーーやーーだーーーーッッ!!!!」 暴れ出すムスタディオ。 「さぁ、ムスタ。食べさせてあげるから☆」 「そうそう、全部食べないと、明日の朝食は拝めないよ~」 「お酒も一杯あるから、食べやすいよ~。ほら、ドンドン入ってく~」 「た、助けてーームグゥ!!」 ラッドに抑えつけられたムスタディオは逃げる事も出来ずにパンを食わさせられる。 またラヴィアンとアリシアは嬉々としてムスタディオの口にパンと酒を詰め込んでいった。 愚かなとこだ。自分で自分の首を絞めるとは―――あ 目の前で繰り広げられる"賭けの精算"を嘲笑していたアグリアスだったが、ある事に気がついた。 折角パンを焼いたのに、食べたいと言った張本人はどこに行ったのだろう? 私がここに来た時にはもう居なかったな。 「ラヴィアン、ラムザはどこに行ったのだ?」 「あ~、隊長ですか。なんか部屋に戻ったみたいですよ」 「ふむ。そうか」 仕方ない。私が部屋まで届けてやろう。 アグリアスはもぅ興味はないとばかりに、さっさと部屋から出ていった。 ―4話 なんとか部屋へと戻ったラムザ。 部屋へ戻る途中にも壁に柱にと体をぶつけて歩く。 表現を悪くすればランプにぶつかってくるヤママユガ… もしくは、ガラスに気が付かずぶつかる蜂のようだ。 「う~ん。ヤバいよ~」 立っていては危ないのでベットに座り顔を抑える。 さっきより熱いように思う。 なんでー?たった一杯なのに(しかも飲みかけ) ラムザは酔いのまわっている頭で必死に考えた。 僕ってこんなにお酒弱かったのかなぁ… 状態を起こしているのもキツくなってきたので、そのままベットに横になる。 しかし、空きっ腹に酒。 ちょっと休むだけのつもりだったが、いつの間にか寝入ってしまった。 スー スー 部屋に響くは寝息のみ。 その部屋にノックもなしに入ってくる者がいた。 「らむざ居る~?あ、らむざはっけぇ~ん」 フラフラしながらラムザを探していたラファだ。 「確かラムザの部屋は奥から2番目の部屋だったな」 アグリアスは忙々と部屋に向かう。 思えば男のために料理をするのはこれが初めてだ。 幼いころから"男のために料理をする"というのは結婚している者がする行為だと思っていた。 ―――フフ。まるで、夫婦のようだな。 一人、笑みがこみ上げてくる。 だが、その笑みはラムザの部屋の近くに来て突如として失われた。 ラムザの部屋のドアが開きっぱなしになっている。 今だイヴァリースは治安の悪い状況で、宿と言えども部屋のドアを開けっ放しにするのは防犯上好ましくない。 またアグリアスの記憶上、今までラムザがドアを開けっ放しにしていた事はない。 しかも人の話し声がする。 "――っけぇ~ん" ――教会の手先か、賊か? アグリアスに緊張が走る。 が、その声には聞きおぼえがあった。 "もぅ~、らむざねてる~。あははははっ!" 「ラファ?」 ラファが何故ここに?それにいつも以上に明るい。 それにラファが言うにはラムザは寝ているらしい。 では、ラファは何のためにラムザの部屋に??? "寝るならアタシと一緒にねよ~?" 「!」 アグリアスの体に衝撃が走る! ――寝る?ラムザとか!? アグリアスは電光石火の勢いで部屋に飛び込む。 そして目に映ったのは眠っているラムザと、布団をめくりムザの隣に入り込もうとするラファの姿。 「ラファ、待て!」 「いや~!らむざとねるぅぅぅ~~!!!」 部屋にあった机にパンを置き、ラファをベットから引き離す。 そして気が付く酒の香り。 「酒?ラファ、酒を飲んでるのか!?」 「2人はしあわせになるのぉ~!!」 「一体誰だ、ラファに酒を飲ませたのは!!」 質問に答えないラファを何とかベットから引き離そうと力を込める。 強引に引き離したため、ラファは床に突き飛ばされる形になった。 「いった~い」 「す、すまんラファ。だが、お前も悪いのだぞ?」 「あぐりあすさんなんかもうしらな~い!」 「大声を出すな、ラムザが寝ているのだぞ」 「いりあいのかねのひびきぃ~!」 「だから、静かにせんか!」 歌いだしたラファを一喝する。 しかし、ラファは嫌がらせの様に歌うのを止めようとはしない。 「てんにぃひかりきゆるとき~」 「悪かった。私が悪かったから先ずは歌うのを止めてくれ」 「いまありしはまぼろしとしるぅ~」 まさか――これは歌ではない!? 気付いた時には遅かった。 「だいこくうぞうぉ!」 「ぐ!」 大虚空蔵に耐えるため、全身に気合を入れるアグリアス。 そして、間髪いれずに世界が青で包まれる。 真言ー大虚空蔵ー ダメージと共に、暗闇・沈黙・毒など様々なステータス異常も起す厄介な技。 しかし、真言は狙いの定めにくい技で当たらない事もある。 「?」 アグリアスの周りから大虚空蔵が消えたが、物的ダメージがない。 詠唱が未完全だったため、光だけで失敗か?? その後も大虚空蔵はアチラコチラで光を散らす。 「わ~。きれいね~」 まるで他人事のように自分の唱えた術に見ほれるラファ。 そしてその光はアグリアスの後方でも光を散らした。 「!?」 アグリアスは慌ててラムザに振り返る。 ダメージは無くともステータス異常を受けている可能性もある。 振り返ったアグリアスの目に入ったのはカエルになったラムザだった。 しかも仰向けの状態で、少々グッタリしている。 「ラ、ラムザっ!?」 アグリアスはラムザが死んでしまったのではないかと思い、慌てて手に取ってみる。 ――大丈夫。カエル状態になってはいるが、生きている。 「もぅ、あぐりあすさん!おおきい声だしちゃだめなんですよぉ!???」 「えぇい、うるさい!元はと言えばお前が大虚空蔵など唱えるから――」 「うーん、わかった。私の魔法とくと見てください!えい、トード!!」 「わ、馬鹿――」 制止する前にラファがトードを唱えた。 アグリアスの目の前で発生する緑の煙。 ご存じの通り、カエル状態にトードを掛ければ元に戻る。 手の上に乗せている状態でトードを掛ければ、当然全体重が両手に圧し掛かる。 アグリアスは重さに耐えきれず、ラムザをベットに落とし、自身もベットに突っ伏していった。 当然酒に酔っているとはいえ、ベットに落とされれば相当深い眠り出ない限り、目は覚める。 「うぁ!――な、何が!?」 突然の事にビックリしながらも状況を把握しようとするラムザ。 (敵かもしれない!やっぱり酒なんか飲むんじゃなかった!―――っっっ!!) 後悔と同時に何かが顔の上に覆い被さってきた。 (な、なんだっ!一体何がッ!?―――?攻撃してこない???) 視界は完全に塞がれたものの、以降何も起きない為とりあえず顔を動かしてみる。 (…布?それに何だろう。暖かい…それに柔らかくて何だか心地いいような――?) つい心地よくて、顔で感触を確かめ続けているラムザ。 だが、突然覆いかぶさっていたものが無くなった。 そしてラムザは見た。 羞恥心と怒りで顔を真っ赤にしたアグリアスを。 「な、アグリアスさん!?」 「ラァァムザァァァ!!!」 怒りと共に繰り出された拳が脳天にヒットする!! ―――ヘッドブレイク!! 薄れゆく意識の中…ラムザは悟った。 あぁ――覆いかぶさっていたのはアグリアスさん――― ということはさっきの柔らかく温かかったのは――― アグリアスさんの―――蒼い―――双山――――― 「だ、ダイナマイ――」 ラムザはベットに深く沈んで 逝った。 ―5話 翌朝、ラムザは目が覚めた。 「―! いててっ!…頭が痛い?何でだ?」 昨日の事が良く思い出せない。 「確かアグリアスさんにパンを作ってもらう予定で…暴れているラファを沈めるため酒を飲んだんだ。そして…」 ――思いだせない。 思いだそうとすればする程、酷く頭が痛むのだ。 だが、何か大事な――何かを忘れているような気がする。 痛みに耐え必死に昨夜の事を思い出す。 「―!」 刹那――まさに一瞬の出来事だが、美しい光景が頭に浮かんだ。 それは、白い双丘と―――蒼い双山―― どこで見た光景なのか。 イヴァリースのどこかの風景なのかもしれない。 もしくは只の夢か。 その後必死に思いだそうとしたが思いだせない。 だが、それでもいい。 夢ならばまた見る事も出来るだろうし、どこかの風景ならばまた目にする事もできる。 考えるのを止めると、頭の痛みも和らいだ。 グゥゥゥ すると腹の虫が鳴いた。 そう言えば、昨日は夕飯を食べてない。 ふと視界に机の上に置かれたパンが目に入った。 「あ…」 きっとアグリアスが持って来てくれたのだろう。 食べたいと言った本人が居なかったのだ。 きっと怒ってるに違いない。 アグリアスが作ってくれたパンを手に取る。 冷めてしまっているが、良い香りがしてくる。 一口割いて、口に居れる。 程良い甘さが口に馴染む。 ただのパンとは違い、香気良い香りが食欲をそそり沢山食べれそうだ。 アグリアスの作ってくれた大人のパン。 香りよく、甘く―――そして大人の味がした。 fin
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/55.html
ヤードー アグリアスお姉ちゃん、「こい」って、したことある? ブロンドというには赤みの強い髪の少女は興味津々、 小首をかしげてアグリアスの顔を覗き込む。 10歳。 大体の意味をわかりながらおませな言動をしかける少女は、 あまり見かけない不思議な金色の瞳をクルクル輝かせる。 アグリアスに甘えて飛びつき、あかがね色の髪が揺れる。 少女とは年の離れた妹がよくわからない顔をしてふたりを見比べる。 「お姉ちゃんみたいな美人は『ひくてあまた』だって八百屋のおじさんが言うの」 少女のおませな言動には冷や汗をかかされることも多いが これが彼女の本来の姿なのかもしれない。 アグリアスは苦笑しながらかつて憧れた人の話、その背に憧れるだけだった話を少しだけした。 「そうじゃないの!いまいるお姉ちゃんのコイビトの話をして!」 リオファネス 夏の陽が遅い時間におちてゆく。 真白い服をまとった褐色の肌の兄妹は血のあたたかさに染まる。 日没と共に急速に冷えてゆく。 「兄さん・・・兄さん・・・」 「ラファ、そこにいちゃダメだ・・・逃げろ…・・・・・・・」 がたがた震える自分の体と動かない兄の体を寄り添わせたラファの目が宙を泳ぐ。 返事をしない冷たい兄、他人の命は何度も奪ってきた。だけど。 そして、人ならざるものたちが軽々と養父を投げ捨てた異様な光景。少女の心身が凍る。 「助けないと・・・」 亜麻色の髪の「異端者」は剣を杖代わりに必死になって身を起こそうとする。 あえなくくずおれる。連戦で負ったいくつもの深手が生命を削りかけている。 透き通った金髪の女性騎士が彼の脇腹の傷に手を添え、チャクラを流し込む。 「バカ者!そんななりで剣をとるな!お前は休め!」 「でも・・・」 とび色の髪の青年が間に入る。 「魔力はまだあるみたいだし、ラムザは後方支援させるか」 血に染む兄妹を前に放心していた白濁気味のブロンドの娘が強く頭を振って立ち上がる。 ラムザの剣を取り上げる。 「わたしもラッドに賛成。わたしが前衛やるから」 「ラヴィアン、大丈夫・・・?しばらく後方ばっかりだったし・・・」 「ほかに誰もいないよ?アリシアは前衛向きじゃないし」 「ごめんなさい、あんまり魔力ももたないかも」 魔導士のローブから栗色の髪を一筋のぞかせる娘が済まなそうに目を伏せる。 「わり、アグねえ、オレも集中力の限界だ。よろしく頼むわ」 つなぎ姿の青年は枯れ草色の頭を壁にもたせかける。 「分かった。ラッド、ラヴィアンが前衛、私は中距離から支援、ラムザはムスタディオ、アリシアと回復魔法を頼む!」 夕日に燦然ときらめく黄金の髪をみつめ、 女の皮をかぶった人外のものの一方がが舌なめずりする。 「キレイね。ふふ、あの髪、欲 し い な」 グローグからヤードーへ グローグの丘を抜けた一行は満身創痍だった。 異端者の烙印を押されようが、どこまでもお人よしなラムザの本質はなにもかわらない。 南天騎士団の脱走兵たちとの交戦は、 これ以上無駄な血を流したくないからと必死になって説得していた。 いつも以上に。 首を狙われ、銃の照準を定められ、それでもけっして自分から攻撃を加えようともせず、 自分よりもいくぶん幼さが残る見習い戦士たちに命がけで呼びかけた。 習ったことを忠実になぞろうとしたあげくにその渾身の攻撃をあっさりいなされ、 追い詰められた、と思い込んだ見習い兵の少年たちは聞く耳をもたなかった。 「お前ら殺して家にかえるんだあ!」 ひとりの少年が血走った目で持ちなれない銃をふりまわした。 「ああああ!」 「バカ!やめろ!兆弾するぞ!」 銃の扱いに慣れたムスタディオが絶叫するが少年はもはや言葉を解さない。 狭い場所で闇雲に放たれた弾丸は彼の敵ではなく朋友たちを貫く。 「もうよせ!」 銃を奪おうとラムザは少年に飛びつく。 「うああああああ!」 「・・・・・ッ!」 「ラムザ!」 「やばい、暴発だ!ラムザ離れろ・・・」 耳をつんざく轟音と同時に肉の焦げる、 彼らにはもはやおなじみとなった臭いがたちのぼってゆく。 少年の頭部とラムザの両の掌から。 ヤードー 自分の初恋は11歳だったから少女をませていると怒ることもできない。 ただの憧れというよりなかったけれど。 オークス家とは遠縁にあたる26歳の青年だった。 自分のような子供にも真摯に接してくれ、使用人たちにすら思いやりを忘れない。 そんな温かみのある人だった。 一見気弱そうなその人は、ひとたび剣を握れば誰にも負けない腕前で、 五十年戦争の末期、ただ友のため部下のため懸命に戦場を駆け抜けた。 最期もあの人らしかった。 初陣の少年を庇った、とだけ葬儀の場で知ることができた。 どこまでも高い冬の空を見上げながらわあわあ泣いた。 彼の妻は泣かなかった。 彼が残したおなかの子を立派に育てると一言高らかに宣言した彼女は美しかった。 以後は彼女がアグリアスの目標になった。 「んもう!それじゃあまるで、憧れのお姉さんの話になっちゃってるじゃない。 好きな人がいた話じゃなくってコイビトの話をしてよ!」 「あなたがもう少し大人になったらね」 学者だという少女の祖母が何年もかけて収集した古書を、蔵書目録と引き比べながら丁寧に荷造りする。 一般教養として古代語をある程度読みこなせるアグリアスにはうってつけの仕事だ。 それというのも彼女の金銭感覚が疎いから、一般の儲け話に不向きだからめぐってきた話だからとは なんとも奇妙なめぐり合わせもあるものだとひとりごちる。 ここのところ軍資金に不足しがちな一行にとっては願ってもない働き口だった。 「ダメ!いますぐ!」 学者の命ともいえるような内容のものはそこになく、奇想天外でいんちきくさい内容のものばかりが並ぶ。 ムスタディオが見たら喜びそうな失われた多色印刷の技法もあざやかに、 かつてイヴァリースで隆盛したといううさんくさい錬金術の技法をつらつらと解説している。 科学と魔法の架け橋となるものだったらしいがその技法は科学技術もろとも失われたという。 「ほら、いい子だから、お仕事の邪魔をしないで」 「悪い子でいいもん!」 なぜかむきになった少女は箱から乱暴に本をつかみ、投げ出してゆく。 「やめなさい!おばあさまの大事な御本でしょう?!」 貴重な古書が蝶々のかたちにひらめいては無様な格好で床に落ちる。 「いいもんおばあちゃんなんかだいっきらい!」 「やっていいことと悪いことがあるでしょう!」 「せっかく友達ができたらいつもなんだもん!またお引越しなんてもういや!」 やめさせようと手首をつかんだときにはあらかた古書はひっくり返されていた。 「ホラ見て!ぜんぶ初めからやりなおし!」 「いいかげんになさい!」 「だってこのおしごとが終わったら、アグリアスお姉ちゃん、 旅にもどっちゃうんでしょ?もう会えないかもしれないでしょ?」 「そうね。だけど今の旅ももしかしたら、あと何年もしないで終わるかもしれないわ」 ぽつりと本音をこぼした少女を抱きしめ、金色の瞳を覗き込む。 「なら約束しない?そうね、五年。 あと五年してあなたが素敵なレディになれたらそのときまた会いましょう。 この町で、あなたのお誕生日を祝うの。ね、どうかしら?」 「うん、そうする・・・」 でもね、おばあちゃんがいうの。もう逃げているのも限界だって。 お前たちは連れ戻されてしまうだろうって。 少女のつぶやきは古書特有の黴臭い空気に静かに飲み込まれ、 アグリアスの耳には届かない。 リオファネス 「このお!」 女たちに渾身で打ちかかったラッドとラヴィアンはあっさりと手の甲で受け止められる。 踊り子装束に身を包んだしなやかなその体で想像できるようないなす動きではなく、力押しで攻撃を捌かれる。 パーティで一番体格がいい彼が競り負けている。 「ハ、なんつうバカ力だよ・・・」 「ラッド!」 肘をねじられたラッドは剣を落とす。 黒い踊り子衣装の女がそのおとがいをとらえ、両の目を熱っぽく見つめる。 「目を閉じろ!チャームだ!」 アグリアスの言うまま目を閉じたラッドが突き飛ばされる。 「クソ!」 銀髪鬼の髪が暮れなずむ空と同じ色調で変化してゆく。 異形の女たちふたりに任せてあるじのエルムドアは悠然とたたずむ。 「森羅万象の生命を宿すものたち 命分かち、共に在らん! リジェネ! 」 背中をしたたかに打ちつけたラッドに魔法の加護が加わる。 「よかった、間に合ったね・・・」 「何やってんだこのスットコドッコイのお人よしは!お前の回復が先だろうが!」 「ははは・・・。アリシア、頼むよ・・・」 しょうがないな、とため息をついたままアリシアの詠唱が完了する。 「水晶に砕けた陽光のすべてをその薄羽に捧げる… フェアリー! 」 「まったく!うちのぼっちゃまどもきたら情けない!!」 屋根の上ではひとり小柄なラヴィアンが女の姿をしたものを相手に切り結んでいる。 力押しはあきらめ、関節と腱に狙いを定めた剣が夕焼けに赤く染まる。 文句を垂れるだけの余裕があるうちに援護しなくては。 ジャンプの不得手なアグリアスは横目で彼らの無事を確認しつつ、攻撃をしかける。 「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き! 」 「くッ・・・・・・」 黒い服を着たほうが聖剣の光に飲み込まれる。 「あらっ、意外にできるのね!」 ピンク色のほうが感嘆しながらラヴィアンの背後にまわる。 攻撃はせず、肩の下くらいで揺れるその髪をひとすじ掬い上げる。 「んー、一応はブロンドの範疇、かしら?でもね、欲しいのはあっち!」 「何をゴチャゴチャ・・・あ!!」 頭をつかまれたラヴィアンがそのまま放り投げられる。 ヘアピンで留めていたシーフの帽子をくっつけたまま宙に舞う。 「―――――――ッ!!」 必死になって手を伸ばした先のガーゴイル像と雨樋が、黒装束の両肘から下をぼろぼろに切り刻む。 「ラヴィアン!」 ラムザが新たに詠唱していたリジェネの光が動かなくなった体を包む。 「やべえ、おっこっちまう!」 雨樋が割れる。かろうじてアグリアスがローブの襟首をひっつかむ。 「な、に・・・・・・」 援護に向かおうとしたラッドは首筋に奇怪な感触を覚える。一撃で倒れる。 「ラッド!」 黒い服のほうだ。 「間に合うか?!」 ラヴィアンを助け起こし、ラッドのもとへ。 首筋に奇妙な感触を覚える。全身の神経をからめ取られたように動けない。 「ふふふふ、近くで見るともっとキレイな髪ね」 ピンクの衣装のほうがいつの間にかアグリアスの真横から耳打ちする。 アグリアスのお下げを持ち上げ、指を這わせた。 「ねえっ、キレイな金髪の騎士さん、取引しないこと?」 「取引?」 「そ、取引」 「レディ、何をしているの?!」 黒い衣装のほうが、顔をこわばらせる。 「んもう、姉さんは黙っててよ!」 「アグリアスさんに何をするんだ!」 傷を完全に塞いでいないラムザがよろけながらアグリアスに迫るほうを睨みつける。 「あらあら嫌な言い方ね。ただちょっと彼女とお話してるだけよ。それに、損はないと思うけれど?」 捕まれているのは髪だけのはずなのに。 異形のものの気配がアグリアスの足を麻痺させる。 先の戦闘で足をくじいたままなのも糸を引いている。アグリアスも無理を重ねていた。 「ほらぁ、お仲間はもう全員ボロボロじゃない?今日は顔見せに来ただけなのよ、私達。 ねっ、それはそうと、この髪、頂戴?」 「髪・・・・・・?」 「そう、この髪、透き通っててとってもキレイだもの、欲しくなっちゃった。 ね、頂戴?」 「アグリアスさんに触れるな!」 「んもう、うるさい坊やねえ。もっと話がわかりそうなのはいないの?」 「レディ!もうやめて!」 「ねぇっ、そこのお嬢さん」 ざん、と奇妙な音ともにレディが兄の亡骸に取りすがっていたラファの前に現れる。 屋根を駆け上る姿は誰も目にしなかった。 「今ここでお兄さんとおなじようになっちゃいたい?」 「あ、あ、あ・・・・・・」 「ね、なっちゃいたい?」 「やめろ!分かった!私のことは好きにしろ、だからその子には手をだすな!」 その言葉を待ってましたとばかりにレディは身を翻し、再びアグリアスの背に姿を現す。 喜色満面でお下げを持ち上げる。 「それじゃ、頂戴ね」 音も無くレディの腕がしなったかと思うと次の瞬間にはその手にお下げ髪がぶら下がる。 「アグリアスさん!」 「ああもう何度もうるさいわねえ、もう何にもしないわよぉ。これが欲しかっただけだから!」 子供っぽく頬を膨らせたレディに、アリシアが詠唱を完成させる。 「陽光閉ざす冷気に、大気は刃となり骸に刻まん! クリュプス!」 「きゃあ!もう、乱暴ねえ!」 ケロッとした顔ながら、いくぶんよろける。 「こっちだって痛い思いしてラーニングしたんだから!ちょっとは喰らってくれなきゃ困るのよ!」 「もう!」 あかんべをしたレディはセリア、エルムドアと合流する。 「…なるほど、キュクレインやベリアスがやられるわけだ…。 セリア、レディ、今夜は引き上げるぞ!」 「じゃあねッ」 レディがうれしそうに戦利品を掲げてみせる。 「異端者ラムザよ、我が聖石が欲しくば、ランベリー城へ来るがいい!待っているぞ…!」 三人の姿が掻き消えたかと思いきや、アグリアスはもう一度背に異形の気配を察知する。 「!」 悲しげな表情の黒衣の女が、セリアと呼ばれたほうがアグリアスの短くなった髪に触れる。 「ごめんなさい、アグリアス、あの子は何も覚えていないの・・・」 疑問を問いかけられる前にセリアの姿も冬の夜空に消える。 軽くなってしまった頭に何かを感じてアグリアスがそっとふれてみると、 セリアの身に着けていたカチューシャがあった。 グローグからヤードーへ 「やばい!オレ右、アグねえ左な!!」 誰もが異様な事態に茫然としているなか、一人ムスタディオが冷静だった。 左手で皮袋の中身をぶちまけながら、右手に掴んだエクスポーションの蓋を歯でこじ開ける。 「手ぇ貸せラムザッ」 薬を注いだ皮袋にラムザの右手を押し込める。 われに返ったアグリアスも遅れて同じことを左手に施す。 「チャクラ頼むな!」 言われたとおりにアグリアスはラムザに寄り添い、ふたりの身体をめぐるチャクラを解放する。 表情をこわばらせたままだったラムザがようやく己の身に起こったことを理解しはじめる。 「ありがとう・・・」 「まだ安心するな!ラヴィアン、ラッド、そのへんこいつの指落ちてないか見てくれ!」 死体を見ても動じることが少ないふたりが、あわてて少年の体をひっくり返す。 「あ・・・指、ゆび、だね・・・大丈夫。両方とも五本ずつ感覚があるよ・・・・・・」 いまさらながらラムザの顔にどっと脂汗が噴出す。 「それ、当分そのままにしとけよ。皮膚と肉がちゃんと再生するまで、魔法も併用してるし結構早く取れるだろうけどな」 ラムザの両手は、回復薬をしみ込ませたガーゼを何重にも載せたあげく包帯で厳重に巻かれている。 「うん、心配かけてごめん」 傍らではアグリアス、アリシアがひたすら回復魔法に集中している。ラムザ自身も詠唱を繰り返す。 ヤードーに入りすがら出会った異邦人の少女、ラファは隣の部屋でずっと寝込んだままでいる。 出会いがしらに助けをもとめられ、おもにアグリアスやラッドたちが追っ手からかばって助けた。 リオファネスからの逃避行や兄との断絶で心身ともに疲れがたまっていたらしく、 風呂と食事のとき以外はほとんど眠りこけている。 一行の中心であるラムザも重傷をおっているいま、休息を必要とする者は休めるだけ休んでおけばよい、と、 ラッドの判断でずっとそのままにさせてある。 「ゴーグじゃたまーにだけどあることだからな、慣れててよかったよ。 まさかオレの暮らしの知恵がこういうときに役立つとはな。ラッドやアグねえ差し置いてさ」 人なつこい笑みをみせるムスタディオは手元の紙に両手の機能回復訓練の方法を書き出していく。 「焦るのは仕方ないけどこれだけは言わせてくれ。焦って手の筋肉や神経がおじゃんになってからじゃ遅いんだからな。 オレの知ってる機工士でバルクさんって人がいたんだけどさ、その人も仕事中に両手がメチャクチャになったんだ。 で、焦ってムリに動かした結果がな。普通に暮らす分にはいいんだけど自慢の器用な細工は二度とできなくなっちゃったんだよ」 機工士として満足な仕事ができなくなった、ゴーグを去ってしまった男を偲び、いつも陽気なムスタディオがそれきり黙る。 ラムザが銃の暴発に巻き込まれた直後、なにもできなかったアグリアスも黙りこくる。 「あの、ちょっといい?いつものことだけど、あんまり大人数で長逗留していたら人目につきやすいでしょ? そろそろラッドかラヴィアンが酒場で何か儲け話を受けてくるかもしれないから、私もしばらくは」 「そうだな。行っといで。回復はアグねえがやるし、コイツの世話はオレがするからさ」 ふたたび人懐こい笑みをみせたムスタディオが、任せておけ、と請け負う。 「いいのか?私ひとりでラムザの身の回りはどうにかできそうなものだが」 ようやく回復魔法の詠唱以外のことを口にしたアグリアスの耳元にムスタディオが素早く何事か囁く。 頬を染めたアグリアスは再度だんまりを決め込んでしまう。 「ムスタディオ、何言ったのさ?」 「風呂のかわりに身体をふいてやる必要もあるだろ、いまのお前」 その2へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/131.html
春のうららかな風と海から吹き寄せるひんやりとした風のどちらをも肌で感じながら、一路はフォボハム平原を進んでいる。 彼等はこの平原を超えた先にある、ある台地を目指していた。 何故、その地へ向かっているのか。 その理由に答えるには、まずラムザの過去を語らねばならない。 おおよそ一年前、骸旅団と呼ばれる義勇団がラムザ、ディリータを中心とする士官候補生の前に立ちふさがった。 貴族に対して要人誘拐や暗殺などのテロ活動を各地で行っていた骸旅団の行いは、もはや北天騎士団には看過しえぬ状況になっていた。 そして、士官候補生とミルウーダ率いる骸旅団の残党は盗賊の砦で初めて相まみえた。 貴族などの支配者階級の圧政に苦しむ民を解放する。 そのような桃源郷とも言える世界の理想を掲げる頭目ウィ―グラフの実妹、ミルウーダからすれば禍根である畏国軍の、 それも貴族ばかりが集められた分隊に対して必要以上の牙を向く事は当然の事だった。 だが、飢えと貧窮から既に盗賊の集まりと化していた骸旅団の結束力は著しいほどに乏しく、 戦略、戦術ともに骸旅団はラムザたちの前に辛酸を舐めることとなった。 農民あがりの彼等には戦術、戦略という言葉は円程遠いものであったことは想像に難くない。 彼女は最期までラムザの助けを断りつづけた。そして騎士時代から募る貴族への深い憎悪を抱えながら、 坂道を駆け上がるように進んでいた革命の志半ばで、ミルウーダはレナリアの地で生涯を閉じた。 ラムザはそのレナリア台地に向かっているのだ。 彼はかの女剣士と改めて対峙しようとしている。剣を置いた言葉なき会話を。 彼はただ悔しかった。助けたかった。彼女の人生はまさに発展途中だった田畑を焼き払われたようなものだ。 まだ生き続けることができた人間を、砂が無残にも自分の手からこぼれおちるように、自分の手で彼女の命を無残にも落としてしまった。 ラムザは後悔の念からか、手に携える手綱を強く握った。 だから彼は走る。ティータも感じているだろう無念さ、悔しさそして恨み、それらを全て受け止めるのだ。自らの代償を示す行為のあらわれだ。 彼は異端者の刻印を押されていた事もあってか、教会が布教活動の一環として行う、神聖なる存在の“神”など毛根の先端まで信じてなどいなかった。 ラムザは今一度手綱を強く握った。 しかし、彼女たちが無事安らかな地へ旅立つ事を、ラムザはどこにいるのかもわからない“神”に祈った。 話がうますぎるか。 ラムザは傲慢ともいえる自らの考えに苦笑した。代償からか、ラムザの両手には暫く綱の跡がくっきりと残った。 隊の一行は突き詰めてラムザにとくに目的を問うたりはせず、外で先導する数人の見張りを除き、 残りの隊員を乗せた馬車は実の無い話と共にゆらゆらと進んでいく。 隊の数人が馬車の中で四方山話に明け暮れていた。 話を聞くにどうやら最近の流行はラム酒に油虫を入れることだそうで、飲むと身体が芯から温まるという旨を一人が一生懸命語っている。 その端で一人、副隊長の、騎士アグリアスは板に付いたような気難しい顔で武器の手入れを丹念に行っていた。 彼女が馬車で移動する光景は極めて珍しい。 というのも、先日彼女が程なく愛でていたチョコボが夜のうちに何処へとぞ走りに行ったきり姿を見せなくなってしまったのだ。 時間に暇があればチョコボの食事や毛繕いを率先して、夜にはチョコボの羽毛を借りて星空の元で安らかな眠りにつくこともあった。 それだけにアグリアスには衝撃が強く、尚気丈に振る舞おうとする彼女は、しかし何人も寄せ付けない言い難い悲壮感を暫くの間纏っていた。 心底心配したラムザが無断で軍資金の一部を使いチョコボを新たに見つくろうとしたものの、 財布の紐を握るアグリアス自身にその事実が知られることとなり話は難解を極めることとなる。 結局、彼女は新たなチョコボを望まずに他の隊員と同様に馬車での移動を希望し今に至るのである。 程なくして武器を磨き終えたアグリアスは目の前に愛剣をかざした。 失踪事件からいくらか立ち直ったのか、剣の光沢によって映し出された彼女の顔はいつもと同じ気難しいものだ。 ただ、普段は自らの武器の煌びやかさに一人満足げな表情をする彼女だけに、今日はその変化の片鱗を見せているのもまた事実だった。 そんな微細の変化を感じ取ったラヴィアンは、数人の中での話を適当に切り上げアグリアスの元へ近づいて行った。 「どうかいたしたのですか、アグリアス様」 ラヴィアンが近づいてきたことに気づいていなかったのかじっと剣を見つめていた彼女は、横から飛んできた言葉に驚いたように顔を上に向けた。 一言断り、ラヴィアンがアグリアスの隣に腰掛ける。 「いつものご調子ではないようなので。まだ、チョコボのことを…」 アグリアスは静かに首をふった。 「違うんだラヴィアン。あれはもう過ぎた事だ。それに奴は今頃違う地で自由に楽しんでいるに違いない。うん、そうに決まっている…」 自分の言葉に反し、未練を隠しきれない表情でアグリアスは語った。 チョコボ失踪時、捜索隊は今まさにアグリアスたちが行軍を進めるこの地帯まで探索網を広げたのだが見つけるには至らなかった。 「違うんだ…」 アグリアスは、捻り出すように言葉を紡いだ。そんな様子を見せる彼女に、ラヴィアンは思い当たる節があった。 「ラムザ隊長のことですね?」 う、と声を上げてアグリアスは気難しそうな顔を解き、隣に座っているラヴィアンの顔を見た。罰の悪そうな顔で。 ラヴィアンは言葉を続ける。 「隊長の過去は前に私やアリシアもラッドから聞きました」 かの事件はアグリアス達が加入する前に起こった事件である。 彼の傭兵時代の身の上話は詳しく語られる前に、ラヴィアンたちを含む一行は欲望と狂気の渦巻く一連の事件に片足を入れてしまった。 そのため、一連の事件後暫くして隊の古株からその話を聞いた時、ラヴィアンは肌に粟を生じたものだ。 王女オヴェリアの護衛として当時護衛隊長を任されたアグリアスの下、上司と等しく騎士としての誇りを鎧として彼女は常に身にまとっていた。 騎士として本懐である本戦に参加する機会が全くといっていいほど巡ってこなくても、その観念は変わる事が無かった。 彼女はおおよそ人の死とはかけ離れた位置にいた。 ラヴィアンはただただ恐ろしかった。人の命とはこんなにも儚く、人の死というものはこんなにも悲愴であるのか。 ラムザが獅子戦争の裏で活路を開きそれに同行するようになって以来、彼女は人の死と精通するようになった。 初めて人を殺害した時は、まさしく風の音にでも怯えてしまう風声鶴唳の心持だった。すぐにでも忘れてしまいたい。彼女はそう願った。 しかし時間は経てど、そのような感情を一瞬忘れることはできても、その後に頭の中には得も知れぬ罪悪感がとぐろを巻いて押し寄せてくる。 人の命を軽々しく扱っているようで、そして自分が死とは無縁であると発している。 自責にさいなまれた彼女の悲痛な叫びは未だ彼女の身体のどこかに留まりつづけている。 アグリアス様とて同じはず。 ラヴィアンは一度床に伏せていた視線を今一度アグリアスの方へ向け、言葉を仰いだ。 「…この件に関して、私がとやかく言う資格はないが。…本当にこのまま行っていいのだろうか?」 アグリアスは自らの心中から言葉を抜き出すように語った。 「どういうことでしょうか?」 首を傾げて、ラヴィアンが訊く。 「…怨念とは死んでも尚、禍根を残すと聞く。ツィゴリス湿原がいい例だ。 話を聞く限り、そのミルウーダという女性は最期までラムザたち貴族を憎んでいた。嫌な予感が…」 馬が吠えた。 アグリアスが最後の句点をつける前に、それまで程良く隊員を揺らしていた安楽の馬車は突然、その動きを停止した。 アグリアスを始めとする馬車内にいた兵士たちは物理学上における慣性を、身をもって体験することとなってしまった。 アグリアスはその手に持っていた愛剣を咄嗟に障害物の代わりとし、態勢を持ちこたえた。ラヴィアンは、殆どの戦士は額と地面を対面させた。 二頭の馬の荒い鼻息によって、それまで時が静止していた小宇宙たる馬車内から緊張感がとめどなく解き放たれた。 起き上ったラヴィアンは鋭い眼を保ったまま、少し赤くなった額をさする。 ったく、アリシアったら、昨日の飲みすぎで気でも失ったか。 彼女を泥酔させた超本人であるラヴィアンは心の中で同僚アリシアを友人範内で毒づいた。 気持ちを高め、すぐに左の懐にささっている鞘に手を伸ばす。 外で何か起こったのか。敵の来襲か。 一同は皆一様に身構えた。アグリアスとラヴィアンとて例外ではない。 「どうした!」 膠着状態の中アグリアスが、外で馬車を引いているアリシアに叫ぶ。すぐに返答がきた。 「た、大変です!それが…それが」 どうやら命に別条はないようだ。 アグリアスは部下の無事に一旦は心の中で安堵したが、すぐに要領を得ないアリシアの返答に、上司としての気質ゆえか怒鳴り返した。 「どうしたと聞いているんだ!!物事を明確に述べんか!!」 馬車の外にいるアリシアがアグリアスの言葉に体を震わせたのが馬車内から見て取れた。 アグリアスの横で身構えているラヴィアンも、すぐ上から降ってきた怒号に一瞬体を震えあげる。 戦士たちは緊張感を解かないまでも、厳格な上司を持ったアリシアとラヴィアンに、心の隅で僅かな憐憫の情を抱いた。 「はい!た、竜巻が!前方に巨大な竜巻が発生しています!!」 アグリアスはその言葉を聞くとすぐに後方の天幕から外に舞い降りた。ラヴィアンも続く。 アグリアスの視線の先には、アリシアの言うとおり巨大な竜巻が発生していた。 その大きさはまるで天に届きそうな程である。細長く不格好ではあるが勢力は強大なようで、 竜巻の近くでは根元で半分に折れてしまった木々が砂埃とともに辿り着くはずもない天までの遍路を始めていた。 竜巻はまるで表現しようの無い自らの怒りをぶつけるかのように、左右に頭を振りながら、 見えない手でむんずと木を掴んでは自らの腹の中に放り込んでいる。 「皆さん危険です!すぐにこの場を離れましょう!」 殿としてボコの鞍上にいたラムザは手綱を引きすぐに馬車の前に走り出ると、隊の皆にそう激励した。 前方の巨大な竜巻に対して明確な対処案を見いだせないでいたアリシアは、横から飛んでくるラムザの指令に驚きながらもしっかりと頷き、 馬車を反転させるべく鞭を手に取った。 馬車から見て先程は後方に位置する、今は前方へと位置している剣聖オルランドゥが騎乗するチョコボに引かれながら、 鞭で刺激された馬は今来た道を蹄で噛みしめるように戻っていく。ラムザはその間、ただひたすら竜巻の流れを見ていた。 瞬間、竜巻がこちらを見た、 そのようにラムザは感じた。 何故そう感じたのかはわからない。しかしラムザは、竜巻から目を離すことができなかった。 離せば自らの信条を破る、そのような感覚にさいなまれたからだ。 「ラムザ!何をやっている!貴公もすぐに来い、巻き込まれるぞ!!」 ラムザの異常にいち早く気付いたアグリアスが皆の制止を踏み切り、再び馬車から下りた。 そして硬直しているラムザの元へ走っていく。 「隊長!!危険です!!」 天幕からのラヴィアンの悲鳴がラムザの意識を引きもどさせた。 顔を上げる。 先程まで指の関節で全長を表現できた竜巻が、今は首を上にもたげてもその終わりは確認できない。 もしかしたら本当に天まで続いているのかもしれない。 「ラムザ!!死にたいのか!!」 轟音ともとれる風音の中で、本気で怒号を飛ばしているアグリアスのよく澄んだ声がラムザの右耳の鼓膜を突き破った。 ラムザは一瞬苦笑いを浮かべた後、すぐに彼女の怒りに触れないよう、驚きよりもむしろだらしなくたるんでいた顔を程良く引き締め、反転した。 手綱を手に取り手前に引く。 うずうずしていたボコが、待ってましたといわんばかりに呼吸も忘れる程に来た道を全速力で引き返し始めた。 猪突猛進するボコが、ラムザへ向かって走っていたアグリアスにどんどんと近付いていく。 「アグリアスさん!しっかりと掴まってください!」 アグリアスの返答が聞こえる前に、ラムザは右手に手綱をしっかり握りしめながら半身を左斜め地面すれすれに傾け、 向かってくるアグリアスに向かって腕を突き出す。 加速度十分、刹那、アグリアスはすっぽりとラムザの腕に抱きかかえられるような格好でボコに騎乗した。 そのままアグリアスを自らの前に乗せ、ラムザは彼女に手綱を握らせた。 「すまない!!」 アグリアスの通った声が迫りくる爆音にも似た風音にも負けず辺りに響く。ラムザは一度頷くと、すぐに前方を確認した。 もう馬車が目と鼻の先の距離だ。 やはり馬は遅い。次に用意する時は馬じゃなくてチョコボにしよう。ああ、アグリアスさんの髪はいいにおいだ。 危機の真っただ中でラムザは大よそ浮足立っていた。 次に後ろを振り返った。 風音からある程度の予想はついていたが、こちらももはや目と鼻の先だ。 凄い、まるで自ら意志を持っているかのように行動している… 「ラムザ!!来るぞ!!」 同じく後ろを振り返ったアグリアスが、今や襲いかからんとばかりの竜巻を目のあたりにし、悲鳴めいた声をあげた。 アグリアスさんらしくないな、とラムザは至極冷静に思った。 人間、死の淵に近づくと冷静になるって言うけど本当だったんだ。 まだ死にたくないけれど、こればっかりはしょうがない。一か罰かで… ――――― 逃…さない。 … 族… の … ――――― ラムザは驚きのあまり、あれ程きつく握っていた手綱をこぼしそうになった。 仲間が発した声ではない。もう後ろから雪崩のようにせまる怪物によって仲間の声など遮られるに違いないのだ。 頭の中で声が響いた。 誰だ?しかし聞き覚えのある声だ。 まさか…―――― ラムザが、先程までの冷静で穏やかな顔とはうってかわった、後悔、焦燥感にまみれた表情で後ろを振り返ろうとした。 その時にはまさに、眼前に大きな口を開けた巨大な怪物がラムザに最後の一瞥した視線を投げかけていた。 瞬時、世界が灰色となる。 ― …ムザ … ラムザ!! ―― ラムザの耳に届いてきたのは朗らかな笑顔の天使が鳴らすラッパ音でも天衣を纏った可憐な女神によるハープの演奏音でもなく、 よく聞きなれた、耳がこそばゆくなるフルートのような声色だった。 ああ、もう少しこのままでいようか。 「ラムザ、起きてくれ!!」 極地の揺れがラムザを襲った。たちまちのうちにラムザは意識を戻し、目を覚ました。 視界一杯にはアグリアスの心配そうな顔が広がっている。 ああ、冥土明利につきるなあ。 ラムザはまたも浮足立っていた。 「目が覚めたか、よかった」 安心したのか、珍しくアグリアスはその顔にほほ笑みを浮かべるとラムザの眼前からその姿を消した。 ラムザはアグリアスを追うかのように、その半身を起した。そして周りが新緑で覆われる限りない平原であることに、ラムザは初めて気付いた。 どこまでも一面に続く緑、雲ひとつない快晴の空、 聞こえてくるは時折その目的を思い出したかのように花や草を揺らす、轟音とは程遠い風の草笛だけである。 ラムザは周りの穏やかな風景に戸惑いを覚えると同時に、ここが天界ではないのかと半ば本気で考えた。 「ここはどこなんでしょう?」 「私にもわからない。目が覚めたら隣にお前しかいなかったんだ」 ラムザは起き上った。周りを再度見渡す。 ここが、かのレナリア台地ではない事は明白だった。竜巻が近くを通り過ぎた形跡はどこにも見当たらない。 そもそも、台地という点でラムザ達が今いる地とレナリアは相似していたが、 高地から先を見れば遠く遥かにイグーロス城が小指程の大きさながらも確認できたレナリアと違い、 この地は見渡せど見渡せど、地平線が続くばかり。 小さいながらも辺りは見渡せば見渡すほどのどかで広大で、しかしどこか閉鎖的なのだ。まるで世俗から離れているように。 「竜巻に飛ばされてこのような所に?」 「そうかもしれない。だとすると随分と遠くまで飛ばされてしまったのかもしれない。 しかし貴公も私も怪我ひとつないのが幸いだな」 アグリアスはその髪を払いながらラムザに振り向くと本当に不思議そうな表情でそう告げた。 ラムザが彼女の旨に同意する物言いをした。 「とりあえず辺りを散策してみましょう。仲間がどこかにいるかもしれません」 ボコもいるといいんだけど、と心の中で望みながらラムザとアグリアスは緑の草原を歩きだした。 歩けど歩けど、緑が続く。鳥一羽鳴かず、虫一匹飛び跳ねない。 辺りに響くは二人が草を噛みしめる音、そよ風が陽気に吹く口笛音だけである。 そんな非現実な周りに、しかし二人は不思議と溶け込んでいた。 ゾディアックストーン、ルカヴィ、そして人間の醜い憎悪と果てなき欲求。 旅の途中で再三接触したこれらの存在は、ラムザ一行を非現実的な世界へと引きいれるには十分な要素だった。 彼等は近づきすぎたのかもしれない。 現に発狂者が出てもおかしくないこの状況下で、この二人はただ仲間の安否を気遣っている。 周りで起きている不可思議な現状の事など、ムスタディオが隠れて飼っているポーキーの晩飯ほどにどうでもいいことなのだ。 どれくらい歩いたのだろうか。 一向に陽が沈む気配を見せない草原の先に、今までは見えなかった黒い点のような物が二人の眼前に飛び込んできた。 「あれは…町でしょうか」 「ここからだとよく見えないが、何かあることだけは確かだ。先を急ごう」 二人は大急ぎで高地から降り、その黒い点がある方向へと歩みを進めた。 果たしてそこには村があった。 ただ、どうやら村の周りは城壁のようなもので囲まれているらしく二人が村の中を遠目から直接確認する事はできなかった。 ただ、囲っている城壁からちょこんと、村の中心部に位置するのだろうか、教会と思われる屋根の先端がラムザとアグリアスを窮屈そうに見つめている。 その村は異様な存在感を放っていた。 円村というものは元来、村の周囲に耕地を耕し発展、繁栄を続けるものだが、 二人の辺りは土地を掘り返した形跡ばかりか踏み荒らされた痕跡すら無い。この場から村だけを取り除いても、誰も不思議に思わないに違いない。 それほどまでに、優雅でぼんやりとした周りの光景と、無機質で禍々しいくっきりとした印象を与える城壁との違和感は酷く鮮明であった。 アグリアスたちの前に開いている門はまるで大きな口を開けた化け物のようで、 ラムザたちが門をくぐるのを今か今かと待ちわびているようだった。 その口たる、門の中に広がる町の風景をまたもラムザ達は垣間見ることができなかった。門の辺りに不自然な靄がかかっているのだ。 「行ってみましょうか、アグリアスさん?」 「何を今更。行くしかないだろうに」 二人はお互いの顔を見やり神妙に頷いた。 不思議な草原、不自然な町、不可思議な靄、二人の周りには怪奇が多すぎた。 これ程の条件が揃っても、彼等は臆することなく怪奇の一端へと向かっていく。 一片の怖ろしさ、それにも勝る仲間の安否を心の中で気遣いながら。 二人は門をくぐる。木でできた門の橋がキイキイと悲鳴をあげるがすぐにその音は止んだ。 待ちわびたかのように靄は急いで二人を包み込む。村の中に入ったのだ。二人は一層緊張感を強くした。 その時、後方に位置する門があるはずのない顔が、ぐにゃりと狂喜のために歪んだ。 まるで、これから起こる展開に喜びを隠せないかのように。 ラムザはすぐに振り返る。 当然、靄で門の存在はおろか隣のアグリアスの姿も見えない。 ラムザはこれ幸いにと、隣にいるアグリアスに悟られないよう、静かに一人、震えた。 その2へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/80.html
~自治都市ベルベニア~ 「いいわね!次に会うときがあなたの死ぬときよ!」 神殿騎士メリアドールと名乗るイズルードの姉らしい 騎士の部隊に強襲を受けたラムザ一向は、疲労回復もかねて、また 先ほどの騎士にボロボロにされた装備を買いなおすため、 2日ほど宿屋に滞在することになったラムザ一行であった・・・ ムス「なんなんだよあの追いはぎは!」 アグ「メリアドールと名乗っていたが、ラムザ、知り合いか?」 ラム「いや、彼女は前に戦った神殿騎士イズルードの姉らしいんです。 彼女はイズルードを僕に殺されたと思っているらしく・・・」 ラッド「イズルード?ああ、オーボンヌにいたやつか。 ぴょんぴょんとんでたやつだな。 意味不明なジョブヘルプメッセージとともに・・・」 ラム「ラッド、何の話だ?」 ラッド「いや、なんでもない。しかしけっこういい女だったな! あの香水を盗みたかったものだ。」 ムス「そんな暇あったか!?うぅ・・俺の装備が・・まあアグ姐の下着姿グフェふぁぐsふぃ!? 見れば剣を抜いてるアグリアス。どうやら北斗骨砕打を放ったらしい。ムスタディオ、死亡。 そしてそれを横目に見ながら ラム「それじゃあ明日と明後日は休憩とします。 おのおの日々の疲れを癒してください。」 そして隣では 「やべえ、アレイズ二回目ミスッた!」 「何で効かないのよ!」 そらそうだ。怒りのアグリアスが電光石火の早業でリフレクトメイル かぶせていったからな。 「やべえぞ。カウントゼロだ!」 「わー!フェニックスの尾ー、フェニックスの尾はどこだーーっ!」 良かったな、ムスタディオ。アイテム路線にしてもらえて。 1日目の夜、風呂に入ろうと一回に降りてきたアグリアスは、 珍しくラファに声をかけられた。 ラ「あの・・・アグリアスさん?一緒にお風呂入ってもいいですか・・?」 アグ「悪いが、私は風呂は独りで入ることにしている。 ほかを当てにしてくれ」 ラ「お願いします!アグリアスさんじゃないとだめなんです!」 アグ「(何か相談事でもあるのだろうか?)そこまでいうなら・・ 別に構わんが私は今から入るぞ。ラファ、そっちの予定はいいのか?」 ラ「大丈夫です。ありがとうございます!。」 浴場にて・・・・・・体にタオルを巻きつけた二人が並んで湯につかっている・・ アグ「それで、何か私に相談事か?私でよければ聞いてもいいが・・?」 ラ「な、何でわかったんですか?」 アグ「貴公の様子を見てたらわかる。それで、なんなのだ?」 ラ「ど、、どうしたらアグリアスさんみたいに胸が大きくなるんですか!?」 アグ「!?」 アグ「いっいっいっいきなり何を言い出すのだ、貴女は!」 ラ「だって・・・いつも皆の着替えの時とか皆凄いんだもん・・。 でも私は・・・」 アグ「ええいっ、別に私とて好きにこんなになった訳でもない! むしろこんなもの邪魔なのだ!」 ラ「何でそんなこと言えるの?!、 私の体を見た後でもそんなこと言えるのっ?!」 と言うと、ラファはおもむろに立ち上がり、体を包んでいたタオルをはだけた。 そこには褐色の肌と線の細い体、しかしながら16と言う年齢にしては ブラジャーの必要がないほどのほとんどふくらみのない胸と そのくびれの全くない体を見て、それでもアグリアスは アグ「別に良いではないか。人それぞれ違いはある。それに貴女はあだ16であろう これからではないのか?」 ラ「いいえ、私が昔いたバリンテンの暗殺集団・・カミュジャでも 私と同じ歳の人はいたけどその誰もが私みたいな体じゃなかったわっ! ねえ教えてアグリアスさんっ!どうしたらそんなに大きくなるの? 約束でしょうっ!相談に乗ってくれるって! アグ「だが私にどうしろと言うのだ?私はそんな方法など知らぬぞ!」 ラ「アグリアスさんから皆さんに聞いてください。その方法を・・・」 アグ「なっなっ何を言うのだ!騎士がそのようなこと口にできるはずがなかろうっ!」 ラ「約束を破るのも騎士としてできないことじゃないのですか?」 アグ「ーーーーー!」 ラ「お願いします」 後日・・・ アグ「あ、アリシア、そ、そのだな、」 アリ「どうしたのですか隊長?」 ラヴィ「隊長、顔真っ赤ですよ」 アグリアスの受難であった・・・ 終
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/105.html
ラムザ「戦闘中にアグリアスさんとはぐれてしまったぞ。敵はしょせん寄る辺ない野良モンスターとはいえ油断は禁物だ。そろそろ森が深くなってくる。それほど奥には行っていないと思うけど……」 あぐりあす「これでとどめだ! くらえッ! 無双稲妻突き!」 ラム「あっ、これはアグリアスさんの声。そう遠くないぞ。アグリアスさーん! 今そっちにいきまーす…………って、ええええええええええええええええええええええ!?」 あぐ「くらえ、レッドパンサー! 無双稲妻突き!」 あぐ「待て、わたし。以前から思っていたのだが、わたしはどうも無双稲妻突きばかりを使いすぎているようだ。たまには他の聖剣技を使ってみようと思うのだが」 あぐ「ふむ。習慣に流されてなにも考えずに剣を振っていては思考停止だな。さすがわたし、いいことを言う。」 あぐ「そうでもないぞ。わたし」 あぐ「そういうことなら特に使用頻度の低い乱命割殺打だな。さっそくこれでとどめを刺すとするか」 あぐ「待て。乱命割殺打は死の宣告の効果。とどめを刺すというなら即死効果の北斗骨砕打こそふさわしかろう」 あぐ「どちらにせよレッドパンサーのHPはあと一撃でゼロだ。この際、付加効果は無視してもいいのではないか?」 あぐ「そういえば久しく通常攻撃をしていないな」 あぐ「なるほど。その選択肢もあったか。なかなか悩ませることをいうわたしだな」 あぐ「わたしの言うことでわたしが悩むとはおかしなことを言うわたし」 あぐ「わたしとしては聖光爆裂破の長大な効果範囲も捨てがたいものがある」 あぐ「わたしとてわたしなのだから思いは同じ。以心伝心、いや私心伝私というべきか」 あぐ「で、眼前の敵はどうするンだ? お題目を並べていてもモンスターは感心してくれンのだぞ」 あぐ「カタカナのンを使うとは、わたしらしからぬわたしだな。そこのわたしは本当にわたしなのか?」 あぐ「より理知的なわたしに言わせてもらえば、人間の内には多種多様な”わたし”が存在し、そのすべてをひとつのわたしが統括できるというのは驕り高ぶった考え方だ」 あぐ「へっ、わたしにゃあ難しいことはよくわかりませんけどね!」 あぐ「なんと はすっ葉 なわたしだろう」 あぐ「しかし、おまえもまたわたしなのだな」 あぐ「おまえなどと他人行儀なことをいうな。皆わたし同士ではないか」 あぐ「そーだそーだ! みんなで力を合わせれば怖くない! できないことなんてひとつもないのさ!」 あぐ「やけにうっとうしいわたしだな」 あぐ「ひとくちにわたしと言っても、本当にいろいろなわたしがいるのですね」 あぐ「わたしの好きなわたし、嫌いなわたし。でもすべてが他でもないわたし自身なのだ」 あぐ「さすがわたし。いいことを言う」 あぐ「そうでもないぞ。わたし」 あぐりあす達「ハハハハハハハ」 あぐ「そういえなんの話してたんだっけ?」 あぐ「無双稲妻突きばっか使いすぎっちゅー話」 あぐ「よろしい、ならば不動明王剣」 あぐ「あー出たよ。ありがちな間違い」 あぐ「正しくは不動無明剣だな」 あぐ「無明剣っていった」 あぐ「いってない」 あぐ「いった!」 あぐ「いってない!」 あぐ「いった!」 (レッドパンサーは尻尾を巻いて逃げ去る) ラム「……48、49、50……小さい、小さい、ちびアグリアスさんが50人…… 数える単位は人でいいものだろうか。匹じゃさすがに悪い気がする。50体。いや、やはり50人と呼ぶべきだろう。どう見てもあれはアグリアスさんだもの。僕のひざの高さぐらいまで小さくなっているけれど……。 一体これはどういうことなんだ。いたずらな森の妖精のしわざとでもいうのか? 話してる内容もわけわかんないし、なんだかこわいっ……」 (落ちてる枝を踏んでパキッ!) ラム「!」 あぐ「おお、ラムザ。そんなところにいたのか」 あぐ「わたしたち、準備はいいな?」 あぐりあす達「おー!」 (あぐりあす達が整列し、いっせいに歌い出す。挿入歌『真・アグリアスさんのテーマ』) アッグリ~アス~さん~ 私達アッグリ~アス~さん~ ヘヘイヘイ ランラランラン ウォウウォウウォウウォウ イェイイェイイェイイェイ 近衛騎士団からやって~来~た~ 私達アグアグ ヘヘイヘイ そこのけそこのけデコっぱち アグアグ一味のお通りだい 鈍足の国からやぁーってぇ来ぃたぁ 私達アグアグ ヘヘイヘイ ラムムスラドマラオルランドゥ アホ毛よい子だ撫でさせろ~ アグたん!(ヘイ)ラヴィアン!(ヘイ) その他大勢!(ヘヘイ) アグたん!(ヘイ)アリシア!(ヘイ) その他大勢!(ヘヘイ) ア~グ~ア~グ~人~間~ ランラランララン アッグリ~アス~さん~ 私達アッグリ~アス~さん~ ヘヘイヘイ ランラランラン ウォウウォウウォウウォウ めっちゃ巨蟹 畏国の皆さんこんにちは 私達アグアグ ヘヘイヘイ その他の皆さんこんにちは 私達アグリアスさんですよ 勝負シューズはゲルミナス 私達アグアグ ヘヘイヘイ 勝負ドリンク リアルポーション リアルポーション リアルポーション アグりん!(ヘイ)オヴェリア!(ヘイ) その他大勢!(ヘヘイ) アグりん!(ヘイ)ディリータ!(ヘイ) いりません(なんでだ) ア~グ~ア~グ~人~間~ ランラランララン アッグリ~アス~さん~ 私達アッグリ~アス~さん~ ヘヘイヘイ ランラランラン ウォウウォウウォウウォウ めっちゃホリナイ 1,2,3,4 アッグリ~アス~さん~(アッグリ~アス~さん~) アッグリ~アス~さん~(アッグリ~アス~さん~) アッグリ~アス~さん~(アッグリ~アス~さん~) アッグリ~アス~さん~(アッグリ~アス~さん~) アグ! (あぐりあす達の歌は続いている) アリシア「こっこれはーーッ!? さすが全員がアグリアス隊長だけあって完璧なハモリが輪になって溶けあい優美な音楽を紡ぎだしているーーーーッ!?」 ラヴィアン「てゆうかこれってどうゆうシチュエーション!?」 ラム「アリシアさん! ラヴィアンさん!」 ラム「じつはこれこれこういうことなんです」 アリ「なるほど……」 ラム「なにか心当たりが?」 アリ「コレは…………パラレルワールドだね」 ラム・ラヴィ「パラレルワールド?」 アリ「そう、パラレルワールド。わたし達とは別の可能性宇宙の水平世界。わたしの予想では各パラレルワールドのアグリアス隊長たちが、なんらかの目的をもってわたし達の世界のアグリアス隊長に集結した結果と見たね。 50人にちっさく分裂したのは物質世界のエントロピーが常に一定で上昇も下降もしないからってことで説明できるし」 ラム「うーん。正直なにを言ってるのかよくわからない上にとっても胡散くさいですけど、アグリアスさんのこの状況にはなんらかの意味、目的があるということですか」 アリ「そう。わたし達の知るアグリアス隊長とはちょっとずつちがう49のアグリアス隊長が、わたし達のアグリアス隊長の元で集結した意味。その謎を解けば事件は解決するっ!!(キリッ)」 ラヴィ「集結した意味……目的……欲求……渇望する精神……内的衝動……。とっても胡散くさいけれど、可能性があるとすれば……」 あぐ「アホ毛よい子だ撫でさせろ~♪」 あぐ「アホ毛よい子だ撫でさせろ~♪」 アリ「なるほど……ニヤリ。あっ、逃げた! 『蔦地獄』!」 ラム「しまった! う、うごけない。だっだれかー! おかされ」 ラヴィ「『沈黙唱』!」 ラム「むぐっ! むぐぐぐーーー!」 アリ「ごめんねラムザ」 ラヴィ「こんなにたくさんの隊長にこき使われたら、私達それこそ体がいくつあっても足りないわ」 ラム「むぐーーーー!」 (迫り来るあぐりあす達) ザッザッザッザッザッザ あぐりあす達「アホ毛よい子だ撫でさせろ~」「アホ毛よい子だ撫でさせろ~」 アリ「わわっ来た! われらが指揮官の健勝を祈る!」 ラヴィ「戦線離脱します!」 あぐりあす達「アホ毛よい子だっ!」「撫でさせろおおおおおおお!」 ラム「いっいやあああああああああああああああああああっっっっっっ!」 (半刻後) アリ「どうなってる?」 ラヴィ「ちょっと押さないでよ…………うそっ!? にわかには信じがたいけど元に戻ってる!? いつものアグリアス隊長よ! 他のちびアグリアス隊長たちも見あたらないわ!」 アリ「みんな自分の世界に帰ったんだね」 ラヴィ「ラムザの姿は……」 アリラヴィ「って、ええええええええええええええええええええええ!?」 アグリアス「モンスターとアラグアイの森で戦闘になったことは覚えている。 しかしそれ以降、なにがどうなってこんなことになったのか、まったく記憶が曖昧でわからない……。 なぜラムザがちびラムザになっているのか……なぜ50人に分裂しているのか…… そしてなによりこの歌は、この珍妙な歌はなんなんだあああああああああああああああ!!」 畏国の皆さんこんにちは 僕達ラムラム ヘヘイヘイ その他の皆さんこんにちは 僕達ラムザくんですよ~ あとがき:挿入歌は過去ログよりコピペさせていただきました。 全体のイメージは『狂乱家族日記』というアニメのオープニングを意識して書いた。 ちびキャラごちゃごちゃ。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/78.html
ラッド「ラムアグがマンネリだというならば次点に上がる男はムスタ……しかし……」 マラク「奴は獅子戦争の件でムスアグスレを持っている……つまり……!」 ラッド「アグリアスとの新たなカップリングを開拓するのは!」 マラク「俺達だ!」 ラッド「いやいやいや、普通に俺だから。だいたいお前何? インド系なのはいいよ、ラファとか可愛いし。 でもお前アレじゃん、髪型、何? 横側剃ってんの? モヒカンやるならもっと気合入れろよ」 マラク「いやいやいや、汎用ユニットが相手とかありえな――」 ラッド「ラヴィアリを見てもそのセリフが吐けるんならたいしたもんだ」 マラク「ぐっ……口論ではラッドが上か。伊達にガフガリオンの下で傭兵やってない! ならば実力行使だ! 裏天魔鬼神!」 ラッド「……お前、頭悪いだろ」 マラク「何おう! 獅子戦争使用の裏天魔鬼神は、命中率をしっかりと確保している!」 ラッド「俺は大地の衣を装備してるんだが……敵味方問わずの地烈斬的な意味で……」 マラク「わあ、しまった。じゃあ裏大虚空蔵でステータス異常に……」 ラッド「はいはい、チャージ中を狙ってサソリのしっぽ二刀流でボッコボコ」 マラク「あべし!」 ラッド「勝利ッ!! これでアグリアスは俺のモノだ、ウワーッハハハハハ!!」 ラッド「アグリアスが見当たらないな……おいラムザ、アグリアスは?」 ラムザ「ついさっき本人の希望で除名しました。オヴェリア様と添い遂げたいそうです」 ラッド「し、しまったぁー! 男とのカップリングばかりに気を取られて、アグオヴェを忘れていたぁー!!」 ラムザ「ついでにラヴィアリもアグリアスさんについて行っちゃいました」 ラッド「とことん百合ルートじゃねーか! 男用無し!?」 ラムザ「まあでも我が隊にはオルランドゥ伯がいるから問題ありません。今日も雷神無双でルカヴィを全滅だ!」 ラッド「こうして我が隊は男ばかりのムサ苦しいPTとなってしまいましたとさ」 メリア「ほう、私達の存在を無視するとはいい度胸だ。強甲破点突き!」 レーゼ「獅子戦争使用になった私のブレス、受けてみる? ホーリーブレス!」 ラッド「ひでぶ!」 アグリ「むっ……星が流れた。また誰か死んだのだろうか、ラムザ達は無事だといいが……」 アリシ「オルランドゥ様がいらっしゃいますから、ラムザさん達は大丈夫ですよ」 ラヴィ「それよりあのデコっぱち一人にオヴェリア様を任しとけません。先を急ぎましょう」 アグリ「うむ! 召喚したオーディンから強奪したこの馬スレイプニルの俊足なら今日中に到着だッ! 邪魔する魔物や南天騎士団はネイムレスダンス踊りながら無双稲妻突きを叩ッ込む!」 アリシ「何だか懐かしいノリですねー」 ラヴィ「でもそんな事しながらゼルテニア城に突撃したら私達間違いなく賊扱いよねー」 アグリ「オヴェリア様をお守りするのはこのアグリアス・オークスだ! ウワーッハハハハハッ!!」 オヴェ「うふふ、アルマが無事でよかったわ」 アルマ「アルオヴェ成就のため、オヴェリア様、私は帰って来た! 兄さんには悪いけど神殿騎士団なんかアルテマ一発で壊滅よ。 そこでオヴェリア様にも護身用の奥義を授けたく……その名もトンベリ・アタック! いいですか、ナイフをこう構えて、こう……ハッ! アグリアスさんの気配! 丁度いいわ、実戦(デコ)に備えてアグリアスさん相手に練習させてもらいましょう」 オヴェ「ええ! アグリアスならちょっとくらい刺しても平気よね!」 アグリ「あ、北斗七星の脇に小さな星が見える」 アリシ「さすがアグリアス様、優れた視力でオヴェリア様の敵をサーチしまくれますね」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/116.html
※アグリアス、メリアドールによるソープ物ssです 「除名?」 「うん。ごめん、人数結構増えてきたしさ、剛剣技ってやっぱり使い所が限られるよね?ていうかぶっちゃけシドいるし」 「・・・分かった」 いつもの笑顔で割と酷い事を言うラムザ。言われたメリアドールは淡々と離脱支度を整えはじめた。 ……ま、新作で多少改善されたとはいえ貴女の運命は変わらなかったって所か。大丈夫、ラムザを守る女騎士は私一人で 釣りが来る。あのちょっと小悪魔な金髪の貴公子は、私が立派に守ってみせる・・・ などとニヤつきながら勝手な考えに浸り始めたアグリアスにラムザはつかつかと近寄ると、彼女の肩をぽん、と叩いて 「シドいるから」 自分の顔から血の気が引く音というのを、アグリアスは初めて聞いた。 「うッ・・・うッ・・・ラムザ・・・ラムザぁ・・・。・・・それが・・・本当に、貴公の・・・うぅ、ひっく・・・」 「・・・ウザッたいわね全く。往来の真ん中で泣くんじゃないわよ。だいたいアンタそんなキャラじゃないでしょ。シャキッとしなさい、シャキッと」 完全武装の二人の女騎士、しかも二人ともかなりの美人、しかも片方が泣きじゃくっているとなれば目立つ事この上ない。 それぞれの故郷に帰るにしても路銀が必要だが二人ともそこまでの手持ちは無かった。仕事を探すにしてもロクなものが無い。 背に腹は代えられない、手近な娼館でも探すかと手っ取り早すぎる結論を出そうとしていたメリアドールだったが-- 「・・・ラムザぁ・・・」 「--いい加減にしなさい。捨ててくわよ」 さすがにそろそろ忍耐の限界だった。 「何を偉そうに・・・貴公があまりに役に立たないから、私までもついでに捨てられたんだぞ・・・」 「・・・はぁ?剛剣技も聖剣技もたいした違いは無いでしょう」 「大違いだこのハゲ。ハーゲ」 「ハゲじゃないっ!アンタ、ここで全装備壊して裸に剥いてやろうかっ?!」 「面白い、やってみろっ!!」 次の瞬間、ヒートアップした二人の騎士剣は神速で交差した。 澄んだ音と共に、アグリアスの剣が中程で折られる。 「なにっ・・・」 驚愕の表情を見せるアグリアス。折れ飛ばされた剣の尖端は宙を舞い、 通行人の中年男性の額に、吸い込まれるようにクリティカルヒットした。 「うぅ・・・なんでこんな目に・・・」 「黙って着替えなさい」 有り得ないほどの露出にスケスケのヒラヒラ。服というより布と形容すべきそれを、湯上がりのメリアドールは香油を塗り付けた肌に黙々と纏っていく。 厳格な家に生まれ高潔な騎士として育てられたアグリアスとしては布を片手に涙目である。 路上でうっかりクリティカルしてしまった男は裏街の高級酒場の経営者だった。居合わせた白魔にレイズを掛けて貰ったものの、罪人としての連行は免れない-- 土下座のまま固まった二人の女騎士に、男はある条件で取引を持ち掛けた。 いわく、今夜一晩の重要な接待を手伝ってくれれば不問とする。 見知らぬ男に酒を注ぐなど本意ではないが、自分たちの犯した失態がその程度で拭えるならば安いもの。 というより断れば後ろに手が回るのだ。始めから選択肢は無い。 おまけに、相手に気に入られるようであれば給金まで出してくれるという。 「といっても、具体的にどう振舞えばよいというのか・・・」 「--教会のお偉方の接待に、警護で何度か行ったことがあるわ。見よう見まねでやるしかないけど、なんとかなるでしょう」 ため息交じりのアグリアスに、メリアドールが気丈に答える。 「ヘンなコト、されないだろうな?」 「これでも敬虔な神殿騎士、発情した男のあしらい方くらいは心得てるわよ。あなたは私と同じようにやっときゃいいの。仕事なんだから、本気でやりなさいよ」 「・・・分かった」 豊かな胸に香油を塗し、アグリアスは覚悟を決めた。 全く、今日はひどい厄日だ。 「いらっしゃいませ。ようこそおいで下さいました」 「い・・・いらっしゃい、ませ・・・」 優雅に頭を下げるメリアドールに、顔を真っ赤にしてギクシャクした動きのアグリアス。小さな布で先端だけを隠した胸はいまにも零れてしまいそうだし、 やたらとじゃらじゃらした装飾がある割に腰はほぼ紐に近い。同じ恰好の神殿騎士の落ち着きぶりが、アグリアスには信じられない。 おまけに布の感触ががさがさと粗く、胸の先を擦るたびにくすぐったいようなむず痒いような変な感触が走る。そのたびに更に敏感に乳首が勃ちあがり、 勝手に顔が熱くなる。困る。 「やあ。今日は美人を二人も増やしてくれたんだね。嬉しい事だ」 「はい。ガレスタ協会様のご来店とあらば、どのような御要求でもなんなりと応えさせて戴きますよ」 金持ち青年風の客に、昼に昇天しかけた主人が揉み手をしながら答える。 やがて主人は一礼して退室し、高級な調度に囲まれ品のよい香を焚いた個室には客の男と二人だけが残された。 「うふふ・・・あん、くすぐったぁい・・・」 豪奢な指輪を嵌めた指の先が、女の肌をなぞる。 乳房の上、薄紅色の敏感な突起のまわりを指先がゆっくりと這う。メリアドールは男にしなだれかかり、乱れた衣装から露出した柔肌を男の手に 完全に任せている。 男の手は決して乳首には触れない。しかし色づいたそれは両方ともツンと勃ち、刺激を待ちわびている風である。 首筋を軽く舐めると、メリアドールは軽く呻いた。 「もう・・・あまり焦らさないで下さいな・・・」 酔ったような物欲しげなとろんとした瞳で、メリアドールは男を巧みな上目使いで甘く睨む。 なんだこれ。 酒を注ぐだけじゃなかったのか。 おまえ敬虔な神殿騎士じゃなかったのか。 目の前で広がる予想外の光景に、アグリアスは全身の力が抜けへたへたと座り込んでしまっていた。 それでも、撫で回されるたびに女の反応をするメリアドールの身体から何故かまったく目が離せない。 やがて男の指先が胸の突起に触れると、待ち焦がれた快楽にメリアドールが甘く鳴いた。 本気で感じている。いや、演技なのか? かなりの短髪のため一見すると端正な青年のような外観なのだが、高く喘ぐ姿は確実に牝のそれだ。 どちらにせよ、私にこんなことは-- 「--向こうの彼女は、あまり慣れていないようだね?」 「うふふ。普段は元気が過ぎるくらいなんですけど、いざとなると臆病で困りますわ」 何を言って--なんか、身体がおかしい。熱い。 しまった。この香、その目的の-- そこまで考えた時、這い寄ったメリアドールが、アグリアスの唇を一瞬で奪った。 同時に胸の布を払い、ぴんと張った右の乳首に爪を滑らせる。 「・・・あ・・・っ」 香の薬効に増幅された快楽が、胸の先から全身を震わせる。 細い女の指が、胸を揉み、先端を摘み上げる。 同姓のやわらかい感触、甘い香り。絶妙に絡む舌。一手ごとに、何も考えられなってゆく。 アグリアスはメリアドールにじっくりと口と胸を犯されながら、痺れるような快楽の気配に次第に震える胸を高鳴らせていった。 「ん、・・・ん・・・」 ぴちゃぴちゃと、小動物が水を飲むような音が部屋に響く。 二匹の小動物は半裸の美しい女騎士。二つの桃色の舌が無心に舐め上げているのは、水などではなく男の剛直だ。 互いの舌が触れ合うこともいとわず、豪奢な長椅子に腰掛けた男の左右から四つん這いになって、二つの端正な顔が男の股間に寄り添い無心にしゃぶり続ける。 「おいしい・・・ね?」 「うん・・・おいひい・・・」 メリアドールの囁くような問いに、アグリアスはまるで童女のようにそう答えた。薬のせいか元々素養があったのか、もう行為そのものに夢中の様子だ。 柔らかな舌の感触に加え、ゆらめく金髪が男の下腹部と内股をくすぐる。舌は裏筋を舐め上げ、唇が先端を軽く食む。 やがて二人に与えられる強い快楽が、男を満たしてゆく。 「くっ、…っ」 男が身震いした瞬間、勢いよく射たれた白い飛沫が、アグリアスとメリアドールの顔を幾度も汚した。 匂いたつ液体に彩られた二人は、恍惚の表情で互いの顔を見合わす。 「あは・・・出た・・・」 「ん・・・」 どちらからともなく、二人は互いの顔を舐め合った。 紅潮した肌に付着した白い白濁を、二人の舌が丹念に拭き取ってゆく。 完全に本気のアグリアスを見て、メリアドールはなんだか愛しくて可笑しくて笑ってしまった。 「お客さま、この娘から可愛がって戴けますか?この娘ったら、もうこんなに焦がれてしまってますわ」 メリアドールは四つん這いになったアグリアスの尻に近づき、蜜に溢れた緋色の柔肉を指で押し開いた。 「ああんっ!」 快楽と羞恥に、床に押し付けられた顔がたまらず喘ぐ。 とろり、と垂れた蜜が糸を引いて絨毯に落ちた。 男は笑って彼女の背後に立つと、早くも漲ってきた自身をアグリアスの秘所にあてがう。 「欲しい?アグリアス?」 「うん、欲しい・・・欲しいよ・・・」 ただ肉欲のままに答える声には、元ルザリア近衛騎士団の威厳などかけらも残っていない。 「く、あああっ!」 途端、背後から一気に貫かれ、アグリアスの身体は悦楽に痺れた。 「あ、あはァッ!ん、あっ!」 パン、パン、とリズミカルに肉と肉がぶつかり合う。思わず絨毯を握りしめた手がわなわなと奮え、振り乱れる金髪が、露出した両の乳房が、汗を散らしながら宙を跳ねる。 あまり男に慣れていないはずの膣は意志があるかのようにうごめき、男の根をぬめりながら何度も何度も受け入れる。 アグリアスは神経が焼き切れるような強烈な快感に、半狂乱で獣のように喘ぎ続けた。 「気持ちいい?アグリアス?」 「い、いいっ!いいよぉっ!!あああっ!!!」 やがて抽送が速まり、男は限界ぎりぎりの所でアグリアスから自身を抜くと、宙に精を放った。 もはや視界すらも覚束ないアグリアスの尻と背を、熱い感触が幾度も叩いた。 自分の汗と相手の精でどろどろに汚れたアグリアスは、快楽に泣きながら果てた。 --- 翌日。フィナス河近くの森林をてくてく歩く二人の騎士がいた。 「ああ、ひどい目に合った・・・」 だるそうな足取りのアグリアスとは対象的に、メリアドールの表情はむしろ明るい。 「なかなか楽しかったじゃないの。しかし、貴女もちゃんと女として振舞えたのね」 「う、うるさい、忘れろっ!!しかし一応賃金まで貰えたとはいえ、ルザリアまで持つ額ではないぞ」 「大丈夫。娼館なんてどこにでもあるから」 冗談を言うな--アグリアスの悲鳴は、木々を越え山々に響いた。 (End.)
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/143.html
今日は収穫感謝祭の日だ。 今年の収穫を神に感謝し、来年の豊作を祈る日である。 この時期に収穫されたカボチャを料理して、神に捧げた後で食べるのが一般的だ。 また、そのカボチャを使ってランタンを作り、火を灯して各家につるしておく。 この灯は「ウィル・オー・ウイスプ」と呼ばれ、先祖の霊を呼び寄せる役目を持つが、 同時に悪魔や妖精を呼び寄せるとも言われている。 このため、この日は悪魔や妖精が現れやすい日とされる。 「お菓子くれよ~!」 「くれないとイタズラするぞ!」 家々を、子供たちが悪魔や妖精のいでたちで訪ねて回る。 ウィル・オー・ウィスプが、悪魔や妖精を呼び寄せるという言い伝えから、 収穫感謝祭の日には、子供たちがそのいでたちで家々を回り、お菓子やおもちゃをせしめていく、 というのが恒例となっているのだ。 「おい、アリシアにラヴィアン。お前たちは黒魔導師の格好なんかして何をしているんだ?」 「あ、アグリアス様。かわいいでしょうこれ?」 「仮装して感謝祭に参加するんですよ。アグリアス様は行かないんですか?」 「私はいい。あまり羽目を外すんじゃないぞ」 「は~い」 「おいラッド行くぞ!」 「ちょっと待てよムスタ!ラムザも早く来いよ!」 (こっちは空賊にたまねぎ剣士の格好か・・・) 「きゃ~!クラウドちゃんカワイイ~!」 「・・・」 「ここにリボンを結んで・・・や~ん、すっごく似合うわ~」 (・・・毎度祭りになると女装させられるクラウドは災難だな) 「あ、アグリアスさん!」 「ラムザ・・・お前までそんな格好なのか」 「へへ、いいでしょう?暗黒騎士ですよ」 「まぁ、今日は祭りだからな。たまには息抜きも必要だろう」 「そうですよ。アグリアスさんは参加しないんですか?」 「私?・・・人ごみが苦手なのでな・・・。本でも読んでようかと思う」 「せっかくのお祭りなんですから参加しましょうよ。ほら、これをつけて」 「これは・・・悪魔の角か?」 「そうですよ。それを頭に付ければ大丈夫です!」 「ううむ・・・考えておく」 「参加すれば楽しいと思いますよ。それじゃ、ムスタ達が待ってますから」 (・・・これをつけるのか?私が?) (・・・・・・) (・・・私らしくない気がするが・・・) 「あ!隊長!」 「やあ、アリシアにラヴィアン。黒魔導師、似合うね」 「へへ~。ありがとうございます!」 「もう祭りが始まっちまうぜ!」 「今回も女装かクラウド・・・」 「慣れている、問題ない」 「あ!アグリアス様!」 「アグリアス様~!!こっちこっち!!」 「お!アグ姉も仮装してるぜ!」 「アグリアスさんカワイイ~!」 「アグリアスさん、来てくれたんですね!」 「べ、別にラムザに言われたからじゃない。ちょっと様子を見に来ただけだ」 「・・・悪魔の角、似合ってますよ」 「う、うるさい!祭りに参加するなら、仮装しないと駄目なんだろう!」 「やっぱり参加するんじゃないですか」 「・・・ええい!帰るぞもう!」 「冗談ですよ!さあ、みんな待ってますよ。行きましょう!!」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/81.html
宇宙人という単語が作られたのは今年の夏であり、 UFOという単語もまた今年の夏に作られたものだ。 そしてその二つの単語が流行り出したのも今年の夏だ。 SF……サイエンスフィクションというジャンルの小説が畏国で大ブームになり、 その中に天空の星々の住人である宇宙人と、 天から大地へ渡る船UFO(未確認飛行物体)というものが考えられた。 幽霊や魔物の存在に慣れている畏国の人々は、 斬新な発想から生み出された未知の存在に魅せられた! こうして――SF小説『ラッドの空、UFOの夏』は超々大ヒットをし、 もはや働く必要がないほどの印税を作者のムスタディオ・ブナンザは得ていた。 「で、何で俺がモデルなんだ」 勝手に小説の主人公にされたラッドは、 ムスタディオから印税をむしりとりながらそう訊ねてきた。 「いやっはっは。最初はラムザにしようかと思ったんだけど、異端者だからなー。 さすがに自分の名前はアレだし、語呂がいいのはラッドしかいなかったんだよ」 大金を得て謎の余裕を持ったムスタディオはあっけらかんと語り、 その場に居合わせた人々――ラッド、アリシア、ラヴィアン、アグリアス――に呆れられた。 "あの戦い"が終わって一年。 故郷に帰った者、旅を続ける者、隠居した者、他国へ渡った者など、 仲間達はそれぞれの道を歩み出した。 そして行くあてのないアグリアス達は、実家持ちのムスタディオ宅の世話になっている。 ラッドは旅を続ける者に分類され、フリーの傭兵をやっているが、 月に一度は酒を持ってムスタディオ宅を訪れるのだ。 その理由は、多分、私だろうとアグリアスは思う。 「だいたい何が宇宙人だ、何がUFOだ。どっからこんなネタ仕入れやがった」 「ファイナルファンタジー4っていう機械仕掛けのゲームを発掘してさ、 そっからアイディアをいただいたんだよ」 「ファイナルファンタジー……4……だと?」 ラッドの顔色が変わったので、おや、とアグリアスは眉根を寄せた。 結局その場はラッドが引き下がったので、 あとになってアグリアスはラッドのための客室を訪れた。 「お前の好きなブランデーを持ってきたぞ。どうだ、一杯やらないか」 アグリアスは大人の女性として酒をたしなみ、ラッドはいい酒飲み仲間だった。 ラヴィアンやムスタディオなどは飲むと騒ぐし、 アリシアは、本人の名誉のために飲むとどうなるかは記さないとして、 物静かに酒を味わうラッドとは、星座抜きにしてもアグリアスと相性がいい。 「月見酒といこうか」 開けられた窓に腰かけていたラッドはニヤリと笑って応えた。 ブランデーを水で割り、さっそく二人はほろ酔い加減になる。 「ああ……やっぱりあんたと飲む酒が一番うまいな」 「フッ……褒めても何も出んぞ」 窓の外のお月様を眺めながら、アグリアスはふと想像をめぐらせた。 「宇宙人とやらが本当にいたら、あの月にもいるのかもな」 そう言って笑うと、ラッドの表情が陰る。 「ラッドよ。先ほど、ムスタディオと話していた時もそうだったが、 どうやらこの話題が嫌なようだが、何か事情でもあるのか。 例えば"ファイナルファンタジー4"の発掘に関わっているとか」 「アグリアス。あんたは鈍臭そうに見えて、結構鋭いところがある。 なあ、俺のつまらない話なんぞやめて、朝まで俺といないか?」 「婚前前の男女が、仮に何もしなかったとしても、ともに夜を明かすなど考えられんな」 「堅物だな……そういう奴が嫌いでたまらなかったはずなんだが。 酒のせいか、月のせいか……」 一気にグラスをあおると、ラッドは熱っぽい視線を向けてきた。 「あんたは月の女神様みたいだな」 カッと頬に朱が差して、酒のせいだと言わんばかりにアグリアスも酒をあおった。 「私が女神などと……」 「いいや、あんたは俺の知るどんな女より美しい……。 あんたが持つ志しがそうさせるんだ。肉体だけの美しさには限界がある」 「く、口説いているのか? 冗談なら、酒の席だ、許してやらんでもないが」 「本気って言ったら、その唇に触れさせてくれるかい?」 グラスを握りしめ、ラッドは窓から降りて、真っ直ぐにアグリアスと向かい合った。 本気だ、とアグリアスは感じて、思わず後ろに下がろうとするが、 自分がベッドの上に腰かけていると気づく。 危うい状況だと理解し逃れようと理性が働く、しかし身体は動かない。 まるで金縛りにあってしまったようで、近づいてくるラッドの顔から目が離せない。 「わ、私は、剣にこの身を捧げている……」 「もう戦いは終わったろう……ラムザだって、もうこの国にいやしない」 「ラムザは、関係ないだろう」 「そうか? 俺は気にしていた。あんたがあいつを見つめていたから」 「ラッド――」 吐息がかかるまでラッドの唇が近づいて、 アグリアスは恐怖心からギュッとまぶたを閉じてしまった。 騎士としての強い精神を持つ反面、女性としては未熟なための逃避行動だった。 このまま口付けを受けるのだろうか。 胸がざわめき、相手が誰にしろ、口付けは互いに同意の上で、 想い合っていなければするべきではないと思考がめぐった。 唇に触れる、硬く冷たい感触。 明らかに人の唇ではないと驚いたアグリアスは、 ギョッと丸くなった目を開いて、唇に触れたのはグラスだと気づいた。 「これで我慢しとくよ」 アグリアスの唇からグラスを離したラッドは、 そのアグリアスの触れた部分に自らの唇を当て、 ほんのわずかに残っていたブランデーのしずくを飲み干した。 その光景を呆然と見つめて、少しずつ冷静さが戻ってきたアグリアスは、 グラス越しの間接キスを交わしたのだと気づいた。 多分、自分の唇に触れた部分は、ラッドが口をつけていた箇所なのだろう。 「き、貴様ッ! 親しき仲とはいえ、このような……!」 「俺は帰らなきゃならないんだ」 グラスを置いて、ラッドは窓へと身体を向け、月を見上げた。 「何の話だ。誤魔化す気か、ラッド」 「ファイナルファンタジー4ってのは、かつての同胞の物語を綴ったゲームだ。 ゴルベーザの野郎が、弟のセシルって奴の活躍を自慢したくて作ったのさ」 「やはり誤魔化す気だな。いかにお前でも許さんぞ」 「宇宙人――なんて品のない名前じゃない。月の民って名前がある。 UFO――なんて不気味な名前じゃない。魔導船って名前がある」 「こっちを向け、ラッド!」 「長い長い旅の果て――青き星からこの大地へと流れ着いた月は、 この大地の文明が育まれるのを見つめながら、やはりまだ眠っていた。 監視員だった俺は、この国が気に入って、けれど戦争になって、 何とかしたいと思ったが、月の民として関わる事は許されなかった。 だから地上の人間としてこの大地に降り、 ガフガリオンの下で武者修行をして、ラムザに出逢い、あんたに出逢った。 ルカヴィの魔の手から畏国を守れて、本当によかったと思ってる」 誤魔化しているにしては不自然すぎる話は、逆に信憑性を感じさせ、 いったいラッドは何を言おうとしているのだろうとアグリアスを悩ませた。 「ムスタディオの小説で、人々の思惟は天空に向けられるようになった。 暗黒の空間、またたく星々、それから美しき月へと。 畏国中に広まった小説はもうどうにもならない。 だから俺は、過去にこの大地に月の民が残してしまった物、 ファイナルファンタジー4を持ち帰り、 そして俺もまたこの大地との関わりを断たなきゃならない。 アグリアス。空を見たら、俺を思い出してくれ。 夏が来たら、月へ飛び去っていく巨大な船を思い出してくれ。 それが俺の最後の望みだ」 ベッドから立ち上がったアグリアスは、ラッドの背中に詰め寄った。 「さっきからいったい、何の話だ!?」 「明日の晩、この窓から真っ直ぐ空を見つめてくれ。じゃあな」 「おい――」 アグリアスが伸ばした手から逃れるように、 ラッドは窓の外へと身を躍らせた。 慌てて窓から身を乗り出すアグリアスだが、ラッドの姿は見つからなかった。 翌朝。ラッドは黙って出て行ったのだとみんなは判断した。 フラリと現れ、フラリと去っていく。いつもの事だ。 また一ヶ月もすれば、酒瓶を持って訪ねてくるだろう。 ムスタディオ達がそう話しているかたわらで、 アグリアスはそっと自身の唇を撫でた。 夜が更けて、窓の向こう、夜空の中、月へと昇っていく光をアグリアスは見た。 もしあの時、ラッドを受け入れていたら、どうなっていただろう? 花開く前の、いや、蕾さえつけていない、 芽が土から頭を出したかどうかというところで、ラッドとの恋は終わった。 けれど多分、空を見るたび、夏が来るたび、彼を思い出すのだろう。 THE END オマケ 「ただいまー」 「よく帰って来た。疲れているだろう、ゆっくり休んでくれ」 「いや……久々に故郷の酒が飲みたいな。付き合ってくれよ、ダチ公」 「いいですとも!」 「ムスタディオよ、私も小説を書いたぞ」 「へえ、何て話だ」 「酒取物語。月からやって来た男と酒を酌み交わす話だ」 「何だそりゃ」 1000年後。 長い眠りから覚め、再び大地に降りた一人の青年は、 とある童話の本を手に取り、その物語と、作者の名前を見て、微笑んだ。