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ゆめみるれいむときゃっしゅさん 39KB 自業自得 差別・格差 野良ゆ 赤子・子供 現代 内容の割に長いです 深夜。住宅街から外れた、とある道路脇。 「あ~、ヤバイ。これはヤバイわ・・・」 ブツブツの何かを呟きながらおぼつかない足取りで歩く男が一人。 どう見ても酔っ払いだ。 「う・・・う・・・お゛ええ゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 そのうち、電柱に寄りかかって吐き出した。最悪だ。 しかし男は少しスッキリした様子で、足取りも気持ち軽く歩き出した。 そんな男の前に――― 「にんげんさん、どう?すこしよっていかな~い?」 「「ゆっくちきゃくひきしゅるよ!!!」」 妙な口調のれいむと、夜中にあるまじき大音声の赤れいむ二匹が、話しかけてきた。 「あ、ゆっくり?・・・そこのやつならくれてやってもいいぞ」 電柱の根元にある、己の吐瀉物を指差す男。何処までも最低だ。 「ゆ!!?いらないよ!なにかんがえてるの!? れいむたちは“しょーばい”しにきたんだよ!!」 「なんだ、物乞いじゃないのか…で、なんだ、商売か・・・何売んの?」 男は律儀に、親れいむの話に耳を傾ける。 最も話をちゃんと聞いているのかは怪しい物だが。 しかしそんなことはゆっくりには関係がない。かまわず話を続ける。 「れいむたちがうりたいのは・・・これだよ!!」 れいむが得意げに目線を寄越した先にあったのは 「はやきゅきちぇにぇ!ぐじゅはきりゃいだよ!!」 「あんまちしちゅこいちょしぇーしゃいしゅるよ!!」 「ゆ…ゆ……やめちぇ、ゆっくちあるきましゅから…」 「「ゆっくちちないでにぇ!!このぐじゅ!!!」」 「はい……」 二匹の赤れいむに、ぶつかられるように押されて出てきた一匹の赤ありすだった。 赤れいむと比べて身体は小さく、どう見ても元気がない。 そんなありすをゴミを見るような目で一瞥して、親れいむはこちらに向き直った。 「さあ、このやくたたずをすきなようにしてもいいよ! おれいはきゃっしゅさんでいいからね!!」 「「ちょーらいにぇ!!」」 「うぅ・・・おねがいしましゅ・・・」 そう言われても『はいそうですか』と言えるわけがない。 男は戸惑いながら、親れいむに聞く。 「なんで急に…?しかもそのありすは誰だ? 役立たずを好きなようにしていいって……」 「ゆふん!まぬけなにんげんさんにもわかるようにせつめいしてあげるよ!!それは(割愛します)」 例によってゆっくりの説明は長ったらしくて解りにくいので、訳した物で説明しよう。 「れいむはレイパーに襲われたシングルマザーだよ! れいむに似たおちびちゃんは可愛いけど、レイパー似のチビはいらないよ!! でもゆっくり殺しはできないから、せめて何とかして役に立ってもらうよ!れいむは頭が良いね!!」 以上である。 「そーですかー。・・・でもなんで俺なんだよ。ゆ虐趣味とか無いんだけど」 「にんげんさんのなかには、ちいさいこがすきなにんげんもいるってきいたよ! だからそういうにんげんだったらきっとうれるとおもったよ! にんげんさんはなんだかゆっくりしてそうだったからこえをかけただけだよ!!りかいできた?」 どうやら、酔っ払っていたので気分が良さそうに見えたから、というだけらしい。 「さあ、どうするの?ゆっくりできるちゃんすだよ!すきにしてね! ぼこぼこにしてもいいし、すっきりのどうぐにしてもいいよ!!」 「「しゃっしゃちょこのぐじゅでしゅっきりしちぇにぇ!!!」」 なお自慢げに聞いてくるれいむたち。 勿論答えは――― 「いや、いらんわ」 NOである。 「ど、ど、どぼじでぇぇぇ!!?」 「おかーしゃんにょかんぺきにゃしゃくしぇんにゃにょにぃぃぃ!!」 「ゆっくちしゃしぇちぇぇぇぇ!!」 「・・・ありしゅひどいこちょしゃれないにょ?」 騒ぐ饅頭三匹に、安堵する者が一。 男はかまわず疑問に答える。 「だから俺にゆ虐趣味は無いっての。 しかも小さい子が好きって・・・まあ否定はしないけど。 それでも赤ゆっくりはねーよ。第一俺は紳士だし。HENTAIな真似とかしないし」 「そんなぁ・・・じゃあどうすればいいの?」 「そう言われてもな。第一、そのありすを売るってのが駄目なんじゃないのか? しかも売る側のお前らがいらない役立たずって言ってたら感じ悪いだろ。もう少し考えろよ」 「じゃあほかには、かわいいれいむのおちびちゃんはだめだし・・・そうだ!」 親れいむが何かに気付いたように、急に俯いていた頭を上げた。 「そういうことだったんだね、にんげんさん・・・しかたないね。れいむがひとはだぬぐよ!!」 「はあ?」 話の流れがつかめない。男は首を傾げるばかりだ。 「ちびちゃん、おかーさんの“ゆうし”をちゃんとみておいてね!!」 「がんばっちぇ!おかーしゃん!!」 「にゃにしゅるかわかんにゃいけど、きっちょしゅごいこちょだよ!!」 「お、おかーしゃん。がんばっちぇ「おまえにはいってないよ!!」ゆん・・・」 「で、どうするんだ。一肌脱ぐってどうやって?」 「ゆっふっふっふ・・・あんなぐずよりもかわいいれいむのほうがいいにきまってるよね。わかるよー」 全く聞いてない。完全に自分の世界に陶酔している。 そろそろ放っておいて帰ろうかと思った頃に、れいむはやっとこちらに戻ってきたようだ。 そして気合を入れると、後ろを向いて体を前に倒して、こう叫んだ。 「ゆっくりれいむをみていってね!!!」 「・・・は?」 親れいむはこちらに汚い尻(?)を向けて、フリフリ振っている。 ハッキリ言って気持ち悪い。生理的に受け付けない。 男は、気味悪い、苛つく、ワケが分からない、といった具合で混乱気味だ。 そんな男に、れいむは子馬鹿にしたような目つきで言う。 「れいむがにんげんさんのすっきりーっをてつだってあげるっていってるんだよ!!」 「スッキリって…ああ、そういうことか。 ・・・って何で俺がやらなきゃいけねーんだよ!!しかもお前なんかで!!」 「さいしょかられいむがめあてだったんでしょ? それならあのくずありすにきょうみがないっていうのもなっとくだよ!」 どうやったらそこまで飛躍した発想になるのか教えて欲しいものだ。 「でもざんねんだけどれいむはにんげんさんとのすっきりはしたくないよ! だからかわりにかわいいれいむのまむまむをみせてあげるからそれでゆるしてね!! これでもかんがえられないほどのさーびすをしてるんだよ!!ありがたくおもってね!!」 好き勝手にのたまうれいむに、男はだんだん腹が立ってきた。 当たり前だろう。自分は何も言ってないのに、最初はロリコンのHENTAI。 次はゴミ袋に欲情して、一人でナニするろくでなしに勝手に仕立て上げられているのだから。 (さっきまでいい気分だったのに・・・俺がなにか悪いことをしたか?) 怒りは膨れ上がり、やがてやり場のないものに変わり――― 「さあ!しこってもいいのよ!!!」 ―――プツン れいむが得意げに尻についた妙な汚い穴を見せたとき、とうとう男の中で何かが切れた。 「うるせえぇぇぇぇぇ!!!死ねえぇぇぇぇぇぇ!!!!」 「ゆっ、う゛ぎゅぼっ!!!?」 「「おきゃーしゃーーーん!!」」 「お・・・おかーしゃん!?」 男は怒りの全てを足に乗せ、れいむの汚い穴目掛けて思いっきり蹴飛ばした。 男の蹴りは巨大な重い饅頭であるれいむを浮かすほどのものであった。 れいむは数メートルほど転がり、無様に地に這いつくばる。 「ゆ゛ぅぅ゛ぅ゛・・・で、でいぶのめいきなまむまむさんがぁぁぁぁ!!!」 自慢の汚いまむまむがあった場所には、男の蹴りによって無残に大穴が開いていた。 「これじゃもうびゆっくりとすっきりできないよぉ・・・」 体中砂糖汁に塗れながらブツブツ呟くれいむ。 「・・・あ~、スッキリした~!!」 対して男はとても晴れやかな顔をしている。 先ほどの怒りと一緒に、日ごろのストレスも吐き出したらしい。 「おかーしゃんをいじめにゃいで・・・」 「うん?」 気分を良くした男に語りかけてきたのは、一匹だけの赤ありすだ。 他の二匹の赤れいむはというと、母親に寄りかかるでもなく黙って電柱の裏で震えている。薄情なものだ。 「いじめないでって・・・お前だって散々あいつらにひどい事されてきたんだろうに」 「ゆ~ん・・・しょれでもありしゅのかぞくだきゃら、ありしゅにとっちぇだいじにゃんだよ・・・」 なんともいじらしいではないか。あれだけの不遇に遭いながら、それでもかばおうとするとは。 隅で我関せずと目を逸らしながら震えている赤れいむたちとは大違いだ。 ゆっくりは徹底的な利己主義者ばかりだと思っていた男は、赤ありすの姿に心をうたれた様だ。 そして、思いつく。 「・・・なあれいむ。俺がこのありす貰っていいか?」 「いだいよぉ・・・ゆっ?どういうことなの・・・?」 「だからこのありすを、俺が引き取るのさ。いわゆる身請けってやつだ」 「ゆぅ゛・・・それは・・・」 確かに忌々しいレイパーの子が居なくなるのは、れいむにとって喜ばしいことだ。 しかしあいつは貴重な商売道具である。そう簡単に手放していいものか・・・ 「勿論タダとは言わない。これが代金だ」 男が財布から取り出して、れいむの前にハラリと差し出したのは・・・千円札だ。 「きゃ、きゃっしゅさん!!!」 「これはありすの身請け金と・・・まあお前を蹴ってスッキリした分だとでも思ってくれ」 「あ、ありがとうにんげんざん!!そんなくずさっさとつれていってね!!」 「言われなくてもそうするさ。じゃあ行こうか、ありす」 「ゆっ!?」 話から取り残された赤ありすは、何がなんだかといった様子だ。 「これからお前は俺の家で暮らすことになったんだ」 「ど、どうちて?ありしゅおかーしゃんたちといっちょにいちゃいよ・・・」 「お前がいると、あいつらはゆっくりできないんだと。 あいつらとお前が両方ゆっくりするには、これが一番いい方法なんだ」 「・・・しょうにゃにょ、おかーしゃん?」 ありすが問い質そうと振り向いた先には――― 「ゆわーい!!きゃっしゅしゃんだよ!! きゃっしゅしゃんがあればにゃんでもできりゅよ!!」 「きょれであみゃあみゃいっぴゃいにんげんかりゃもりゃえりゅにぇ!」 「そうだねおちびちゃんたち!これでにんげんをどれいにしてやろうね!!」 「あにょありしゅでもやきゅにたちゅんだにぇ!!」 「「「ゆっゆっゆっゆっゆ!!!」」」 集まって下卑たことを言いながら汚い身体を揺らすれいむたちがいた。 もう赤ありすのことなど殆ど頭には残ってないようだ。もちろん心配する素振りなど見せない。 「お、おかーしゃん・・・れーみゅ・・・」 「わかっただろ?お前はあいつらの幸せと引き換えにウチに来たんだ。 な?そういうことにしておこう。なに、ウチでの生活だってそう捨てたもんじゃないさ。 少なくとも今よりは数段豊かになるはずだ。不便な思いもさせないつもりだし」 「ゆぅ・・・じゃあにんげんしゃん。これきゃらゆっきゅりしゃしぇちぇもらいましゅ・・・」 結局赤ありすは折れたようだ。子供ながら、もうどうしようもないことを悟ったのだろう。 「きょうはおうちにかえってえんかいするよ!!」 「おいちいもにょたくしゃんたべれりゅにょ?」 「そうだよ!おうちにあるものぜんぶたべたらきゃっしゅさんであまあまもらいにいこうね!!」 「きゃっしゅしゃんにはにんげんもかにゃわにゃいんだよにぇ!!ゆっきゅりできりゅよ~♪」 能天気に騒ぐれいむたちとは逆の方向に、ありすを抱えて男は去って行った。 だが、もうれいむたちにはそんなことは関係ない。 この世の全てを手に入れたかのように、舞い上がっていたのだから。 ―――――――――― 『『『いらっしゃいませ!』』』 「いらっしゃいませ。ようこそ、ONNY・SUNへ。本日は季節のタルトが―――」 ここは、町内でも評判のお菓子屋『Patisserie ONNY・SUN』である。 全体的に白を基調とした店構えと、控えめの内装が静かで清潔感のある雰囲気を出している。 肝心の販売している洋菓子や飲み物の味も申し分なく、 値段も手頃なことから常に訪れる客が絶えない話題の店だ。 今日も多くの女性が、男性が、入れ替わるように店に押しかけている。 そんな中――― 「ついたよおちびちゃん!ここであまあまさんがもらえるんだよ!!」 「にんげんがいっぴゃいだにぇ!!」 「れーみゅたちはたくしゃんきゃっしゅしゃんをもっちぇりゅんだよ!! しゃっしゃちょどれいになっちぇあみゃあみゃよこしぇ!!」 店内の雰囲気に全くもってそぐわない、汚い饅頭が三匹やってきた。 ちなみに親と思われる一番大きいやつの口の下には大穴が開いていて、それが一層気味悪さを引き立たせている。 やつらは場の空気も読まずに大声で話している。周りの迷惑などお構い無しだ。 『やだ、あれ・・・』 『野良だろ?汚いな・・・』 『お店が汚れちゃうわ・・・』 『折角の良い気分が台無しよ・・・』 『うわっ、近寄るなよ。気持ち悪い!』 やがて店内の客も、大声で話す野良ゆっくりに気付いてそれぞれヒソヒソと話し出す。 出てくる話に好意的な内容のものなど一つも無いのだが、肝心の饅頭たちは当然そんな事には気付かない。 「ゆっ!?なんだかさわがしいね!」 「きっちょれーみゅたちがきゃっしゅしゃんもっちぇるかりゃおどろいちぇるんだよ!!」 「しゃしゅがきゃっしゅしゃんだにぇ!はやきゅあみゃあみゃもっちぇきょい!!」 周りの空気も意に介さず大声で鳴き続ける野良たちの前に、 黒と白の制服を着た店員らしき若い青年が立ち塞がった。どうやらこの店の制服みたいだ。 青年は表情を崩さず、あくまでも穏やかな顔でゴム手袋を嵌めた手を軽く構えている。 「なにぼーっとつったてるの?これがみえないの?」 そう言った親れいむが身体を震わせると、 リボンの辺りからクシャクシャになった千円札がころりと落ちた。 ついでに身体に付いたゴミや虫の死骸なんかまで床に落ちて、れいむの周辺を汚した。 それを見た客はまた一斉に眉をしかめ、目の前にいる店員の青年も一瞬ピクリと顔を歪ませる。 しかし全く気に留めない野良れいむたちはかまわず騒ぎ続ける。 「いくらばかなじじいでもわかるでしょ?これはきゃっしゅさんだよ!! わかったらはやくどれいになってね!!それであまあまちょうだいね!!」 「しゃっしゃちょあみゃあみゃもっちぇこい!!ぷきゅー!」 「きょにょきゃっしゅしゃんがみえにゃいにょ? きょれだきゃらばきゃにゃじじいはきょまりゅにぇ! あみゃあみゃももっちぇこれにゃいにゃんちぇばかにゃにょ?ちにゅにょ?やくたたじゅにゃにょ?」 「・・・お客様方、大変失礼致しました! 非情にご不快な思いをさせたことを心よりお詫び申し上げます! この野良ゆっくり達はこちらできちんと処理しますので、ご安心ください!」 「うる・・・いだい゛!ひっぱらないでぇ!!でいぶのがみぢぎれぢゃう!!」 「ゆんやぁぁ゛ぁ゛!!れーみゅにょきゅーちくりゅにゃかみしゃんがぁぁ!!」 「いちゃいよ!やめちぇにぇ!!きちゃにゃいちぇでれーみゅにしゃわりゃにゃいでにぇ!!」 「誠に申し訳御座いませんでした。それでは引き続き、ごゆっくり―――」 良く通る声で店内全体に告げた後、青年はれいむ達の髪やもみあげを掴んで店の奥へと引っ込む。 そしてその声を聞いた人々は多少訝しげにしながらも、それだけで店内は元の平穏な空気に戻った。 「「「ゆげんっ!!!」」」ブチッ 野良一家が放り出されたのは店の裏口。 駐車場からも離れていて人通りが少なく、多少の大声なら迷惑にならない。 そんな場所だ。 「ゆぴぃぃぃぃ!!れーみゅのきゃわいいもみあげしゃんがぁぁぁ!!」 「おぢびぢゃぁぁん!どぼじでごんなひどいごどずるのぉぉぉ!!」 「どりぇいにょくちぇにいもーちょにひどいこちょしゅるにゃぁぁぁ!!!」 赤れいむの片割れのもみあげが、投げ出された際の衝撃に耐え切れず放り出された拍子に千切れたようだ。 もっとも、青年が意図してやったことではない。ただ赤れいむのもみあげが脆すぎただけだ。 「れいむのおちびちゃんがかわいそうだよ!! これからどうやってぴこぴこすればいいの!!?」 「ぴこぴこしゃんはゆっくちできちゃにょにぃぃぃ!!」 「くしょどりぇいにょくしぇににゃまいきぢゃよ! にゃんちょかいっちゃりゃどうにゃにょ!?ぷきゅ~!!」 「・・・・・・」 ピーピーと鳴き喚く野良一家であったが、青年は何も言わずに、ただ見下ろしている。 その、どことなくゆっくりした様子に野良一家の怒りは更に深くなった。 「はやきゅにゃんちょきゃちりょ!くしょじじい!!」 青年は何も答えない。 「かわいいおちびちゃんにはやくあやまってね!!それといしゃりょうとしてあまあまうわのせしてね!!」 こちらをじっと見つめたまま、微動だにもしない。 「きゃっしゅしゃんでみょいいよ!!たくしゃんよこちてにぇ!! あちょきゃわいしょうにゃいもーちょにどげじゃしちぇあやまっちぇね!」 そのままゆっくりと足を上げる。 「「はやきゅきゃわいしょうにゃれーみゅ(いもーちょ)にあやまりぇ!!」」 「れいむはしんぐるまざーなんだよ!!どれいははやくやさしくしてね!!」 そして、まるでれいむ達の抗議(笑)を嘲笑するかのように、少し息を吐いた。 「「「ゆがあぁぁ!!むじずるなぁぁ゛ぁ゛!!!『ブチッ』「ぴっ!」」」 青年が足を踏み付ける様に下ろすと同時に、何かが潰れる音がした。 「ゆっ!?なんのお・・・お・・・おちび・・ちゃん・・・?」 親れいむが何事かと音のした方向に視線をよこすと、 そこには青年の足と、足の下には地面に広がった餡子の花。 この状況を見ればいくら間抜けで物分りの悪いれいむでも一瞬で理解できる。 あれは、もみあげをなくしてないていたおちびちゃんだ。 「おぢびぢゃぁぁぁ゛ぁ゛ん゛!!!」 「ゆわぁぁぁ!!!れーみゅ!!れーみゅぅぅぅ!!!」 あまりの惨たらしい光景に叫ぶ野良親子。 そして、それでも尚微動だにしない青年。青年は黙って野良一家を見下ろしている。 大事な家族が殺されて黙っている者はいないとばかりに、れいむたちは怒りを青年にぶつけようとした。 あまあまなんか関係ない。もう奴隷にもしてやらない。 きゃっしゅさんの力を使っておちびちゃんと同じようなめに遭わせてやる!! 「おちびちゃんをころしたくそじじいはきゃっしゅさん・・・で・・・・」 「よきゅもれーみゅにょいもーちょをころちたにゃ!しょんにゃく・・じゅ・・・・」 しかしその思いも一瞬で打ち砕かれてしまった。 「・・・・・・」 先ほどまで穏やかだった青年の表情は、全く正反対の物になっていた。 今の青年の眼はどこまでも無関心な物に対するもので、冷たかった。 どうということはない。 青年の眼を見た瞬間に、勇ましい怒りなど吹き飛んでしまったのだ。 「ゆっ・・ゆっ・・・ゆあぁ・・・」 「たしゅけちぇ・・・ころちゃにゃいでぇ・・・」 青年の眼は今までれいむ達が散々見てきた、決して関わってはいけない種類の人間の目。 ゆっくりを生き物どころか、ゴミでしかないと思っている人間のそれだった。 野良時代に散々逃げ回ってきた種類の人間が目の前にいるというだけで、 親れいむは。いや、赤れいむですらも反抗や復讐をする気など消え失せてしまった。 「ゆ・・ゆるじでぐだざい!もうじじいだなんでいいばぜんがら!!」 「にゃんでぇ!?れーみゅにはきゃっしゅしゃんがありゅにょにぃぃ!!」 できる事といえば、無駄だとわかっていての命乞いだけ。 徹底的に染み付いた負け犬根性を覆せるほど、この場においてきゃっしゅさんは頼りになる物ではなかった。 が、青年はそれすらも聞いていない。 ただ、ゆっくりとしゃがみこんで、れいむ達に顔を近づけて 「これでもう、あれこれ心配する必要無いだろ?」 言い放った。 れいむ達は、凍りついた。命乞いの言葉すら出なくなった。 れいむ達が固まったのを見て、青年は立ち上がる。表情は変えない。 そのまま十秒ほどして野良親子がガタガタと震え出すのと同時に、後ろの方から声がした。 「あれ。先輩、おはようございます。どうしたんッスか?こんなとこで。あ、饅頭」 声の主は、とても大きくガッチリとした体つきの青年。どうやら青年の同僚、後輩のようだ。 後輩の姿を確認した青年は一瞬で先ほどまでの穏やかな顔つきに戻った。 とは言っても、れいむ達を見るときの目だけは全く変わっていないのだが。 「ああ、おはよう。実はこいつらが店に入ってきてね。おかげで入り口付近がドロドロさ」 「あー。それは災難でしたね。で、どうするんですか?それ」 後輩に指を指されてれいむ達の身体がビクリと震える。もはや声も出ない。 「それなんだけど、こいつら捨ててきてくれない?」 「はい?・・・俺がッスか?」 「そうそう。近所の自然公園の近くに行って、投げ捨ててくれればそれでいいからさ。 僕がやってもいいんだけど・・・もしこの格好でゴミの投げ捨て見られちゃ、まずいでしょ?」 「まあ店の評判に関わりますね。そういう事なら別にいいッスよ。 投げ込んでもいいならそんなに時間も掛からないし、ここで潰して後片付けさせられるよりなんぼかマシです」 「悪いね。今の時間帯なら人も居ないから多分大丈夫だと思うよ。 でも一応場所は選んでね。もしそれで遅くなっても、事情は僕から言っておくから心配しないで。 ああ、小さい方はでかい方の口の中に突っ込んで、纏めてから投げた方がいいよ。 そうすれば着地の衝撃で潰れないから公園を汚さなくて済む。適度に弱らせられるし」 「ウッス。じゃ、やりますか」 あれよという間に話はまとまり、 青年のGOサインを貰った後輩はゴム手袋を嵌めて、気だるそうに野良親子に近寄る。 そして突如迫り来る後輩の姿を見て焦るのは野良れいむの親子だ。 「な、なに!?ちかよらないでね!!」 「ゆっくちできにゃいにんげんはきょっちきゅるにゃぁぁ!!」 先ほどまで恐怖で震えて青年達の話を何も聞いていなかった親子であったが、流石にこの妙な雰囲気には気付く。 そして後輩の姿を見て警戒するのも当然の事。 何故なら後輩の青年もまた、あの関わってはならない人間の眼をしていたから。 「きょにゃいでにぇ!!ゆ・・ゆ・・・くるにゃぁぁうぎゅ!?」 精一杯の抵抗もむなしく、赤れいむは後輩の青年に掴まれてしまう。 「おちびちゃんをはなしてね!!れいむおこるよ!ぷ『ボキャッ!!』ぎゅっ!!?」 そして大事な子供を取り返さんとなけなしの勇気を振り絞って精一杯の抵抗であるぷく~をしようとした所に、 思いっきり赤ゆを持った方の拳を突き入れられた。 「よ・・・っと。ほれ、吐き出すなよ。何度でも歯ぁヘシ折って突っ込むからな~」 「むぐぅぅぅ!!べいぶぼぶぶぐびいばぼがばびびぼびびびゃん゛ばぁ゛!!」 おそらく歯を折られたことを嘆いているのだと思われるが、口を閉じているせいで何を言っているのかは解らない。 閉じているというよりも、後輩の青年の手によって無理矢理閉じられていると言った方が正しいのだが。 「さっさと終わらせますか~っと。・・・あれ?なんだこれ。千円札?」 親れいむの髪に引っかかっていた紙切れを見て、後輩が呟いた。 「ん?ああ、持ってきてたのか。随分ちゃっかりしてるもんだねえ」 「金持ってるゆっくりってのも珍しいッスね。 それにしても・・・この千円札どうしましょうか?」 「後で僕が交番にでも届けておくよ。千円でもお金はお金だし。 どうせ落ちてたのをガメたんだろうし、もしかしたら持ち主が出てくるかも」 「わかりませんよ。もしかしたら“おうた”で稼いだものかも」 「あの公害並の騒音で?ハハッ、中々面白い冗談だね。 あんなもの、グリンピースがどうとか言ってる保護団体ですら金なんか払わないよ」 「でしょうねぇ。さーて、急ぎましょうか。これから掻き入れ時ですしね!」 「ああ。僕もさっさと潰れた饅頭片付けて、そろそろ戻らないと!」 こうして和やかに話した後、眼を白黒させながらもがくれいむを抱えて後輩は去っていった。 青年は早足で掃除道具を持ち出し、手早く饅頭の残骸を片付ける。 そして、あれが来るだけで随分余計な仕事が増えるなぁ。と、一人でぼやきながら店内に戻った。 向こうでは、今まさに汚れた饅頭が空を飛んでいるところだった。 ―――――――――― 「………ぃぃいいい!!!っゆぎぃ!!『ゅ…ぃ!!』げぺっ!!」 思いっきり地面とちゅっちゅしたれいむは、ピクリともせずにその場に転がった。 「うぅ゛・・・どぼじでぇ・・・」 れいむは皮が破れそうな痛みでロクに身体も動かせないまま考えていた。 「きゃっしゅさんがあればにんげんはでいぶのどれいに・・・」 そう。きゃっしゅさんがあれば、人間は言うことを聞くのではなかったのか。 そもそもれいむがきゃっしゅさんの存在を知ったのは、子ゆっくりの頃である。 野良であったれいむは父も居らず、唯一の親であった母れいむを見て育ってきた。 れいむの記憶に残る母は、いつもおうたを歌っていた。 赤ゆっくりの頃も最低限の食糧しか獲ろうとせず、その代わりにゆっくりできるおうたを聴かせてくれた。 そして、自分がゴミ漁りをできるようになると食糧集めは全て自分に任せて、 今度は自分に聴かせるのではなく、いつも人間が沢山いるところでおうたを歌った。 当時のれいむはよく聞いたものである。「どうしてそんなにおうたばっかりうたうの?」と。 それに対する親の答えは、いつも「にんげんさんはこうやってればきゃっしゅさんをくれるんだよ!」だった。 毎日毎日、母れいむはおうたを歌い続けた。 きゃっしゅさんとはそこまで苦労するほど良い物なのだろうか? その疑問に対して母れいむは 「きゃっしゅさんはすごくゆっくりできるんだよ。 あれがあればにんげんさんだってさからえないよ。 あまあまだってほしいだけたべれるよ!もうこんなくらしをしなくてすむんだよ!!」 ひたすらそう答え続けた。まるで自分に言い聞かせるように、いつだってそう言い続けた。 れいむはどれだけ母が頑張っているか、よくわかっていた。 でもこれっぽっちも。きゃっしゅさんどころかあまあまの一欠片でさえ、誰もくれなかった。 それどころか必死に歌う母れいむに誰も見向きもしなかった。 あんなにれいむが大好きなおうたをがんばっておかあさんは歌っているのに・・・ そして母が生きている間にれいむがキャッシュさんを見ることは、ついぞ無かった。 れいむにとってはとってもゆっくりできるお歌だったのに、 うるさいと言われて母れいむはあっさりと潰されてしまったから。 幸いというべきか、ご飯を集めながらいつも遠くで母の姿を見ていたれいむはそれに巻き込まれることは無かった。 そして、生き残ったれいむは一つの目標を立てることになる。 「なにをしてもきゃっしゅさんをてにいれてしあわせーっになる」と。 結局きゃっしゅさんがどういうものなのか、具体的にれいむが知らされることはなかった。 しかし愛する母がゆん生をかけて求めたものなのだ。きっとすばらしいものに違いない。 きゃっしゅさんを手に入れて幸せになることが、母への弔いになるように思えて仕方が無かった。 そして月日は流れ、いつしかれいむは成ゆっくりになっていた。 しかし、未だにきゃっしゅさんには巡り会えない。 れいむは、おうたを歌ってきゃっしゅさんをもらう事は考えなかった。 自分よりもゆっくりしたおうたを歌えた母が潰されたのに、自分が上手くいくとは思えなかったから。 だから何か別の方法で探そうと決めたのだ。 が、なにを思いつくわけでもなく時は過ぎていく。 そもそも今日を生きるだけで精一杯で、きゃっしゅさんを貰う案など考える暇が無いのだ。 そんなある日――― 「ゆっふっふ、れいむ!これをみるんだぜ!!」 「なに?まりさ。・・・なんなの?そのぺらぺらさん」 「なんだ。れいむしらないのかぜ?これはきゃっしゅさんなんだぜ!!」 「そ、それがきゃっしゅさんなの!?」 「そうだぜ!!このぺらぺらさんがいちばんゆっくりできるきゃっしゅさんなんだぜ!! さっきおちてたのをまりささまがひろってまりささまのものにしたんだぜ!!」 「ゆゆ~ん。うらやましいよぉ~・・・」 「ゆふん!まりささまはこれでにんげんをどれいにしてゆっくりするのぜ! じゃあうすぎたないれいむはこれからもがんばってなまごみさんでもあさってるんだぜ!!」 そう言って野良仲間のまりさは元気に跳ねていった。 その後ろ姿を羨ましげに見つめるれいむ。 しかし、 「見つけたぞ、この泥棒饅頭!!」 「ゆっ!?ゆぎぃ!!」 突然まりさは人間に潰された。 少し離れたところで、れいむが固まりながら見ていると 「ど、ど・・ぼ・・じで・・・」 「うるせぇ!人が落とした金勝手に拾いやがって! これだからてめぇら野良は見過ごせねぇんだ。とっととくたばれ、このゲスが!!」 「ゆ゛っゆ゛っ・・・も、もっどゆっぐりあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!やべでっ……」 あっけなくまりさは、人間の手によって殺されてしまった。 この件でれいむはきゃっしゅさんの形と 「落ちてるきゃっしゅさんは拾っちゃいけない」ということを学んだ。 やはり母がやっていたように人間をゆっくりさせて、きゃっしゅさんを貰わなくちゃいけない。 今度こそれいむは何をすべきかを見定めたのだ。 そして紆余曲折を経て、ようやくあの目障りなチビと引き換えに念願のきゃっしゅさんを手に入れた。 誰かから殺して奪い取ったわけでもなく、本当の意味で手に入れたきゃっしゅさん。 これさえ人間に見せれば何でも叶うはずだった。 そのはずだった。なのに・・・ 「ぜんぜんゆっぐりでぎないよぉ・・・おがあざんのうぞづぎぃ・・・」 何故こんな目に会っているのだろう。おまけに大事なおちびちゃんまで失って。 ・・・そうだ、おちびちゃん!れいむのおくちのに入ってたおちびちゃんは!? 「ゆ・・ゆ・・ゆっ・・・くち・・・」 口の中にいたはずの赤れいむは、れいむのすぐ傍で倒れていた。 「おちびちゃん!!」 れいむは痛みや怪我で動かない体を必死に引きずって、赤れいむの下へと這いずっていく。 どうやられいむが地面にぶつかった時に口から吐き出されたらしい。 激突によるダメージは無いようだ。しかし・・・ 「い・・いちゃいよ・・・おかーしゃん・・・」 「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!・・・どぼじであんござんでてるのぉぉぉ!!?」 赤れいむは、あんよから餡子を漏らしていた。 出ている量は多くないが、ただでさえ小さな赤ゆが命の源を垂れ流しているのだ。 このまま放っておけばいつか致命的な量になるのは、誰から見ても明らかである。 「ぞんなぁ!でいぶのおぐぢはあんっぜんっだったはずなのにぃ!!」 れいむはそう言うが、事の真相は「れいむが着地の拍子に、子供の皮を噛み切った」というもの。 つまりはれいむのせいである。 しかし、れいむがそんなことを理解できるはずもない。 「ぺーろぺーろ!おちびちゃんゆっくりしないでなおってね!!ぺーろぺーろ!!」 ただ必死に傷口を舐めるだけだ。 しかし勿論舐めるだけで傷が治ったりはしない。 成ゆっくりならともかく、赤ゆっくりではなおさらだ。あくまでも一時的な凌ぎにしかならない。 「どうしよう!れいむのひとりしかのこってないおちびちゃんがしんじゃうよ!どうしよう!」 為す術もなく慌てるれいむ。 そんなれいむを、疎ましげな様子で覗き込む一つの影があった。 「あん?騒がしいな。また野良かよ・・・あらら、死に掛けてら」 「ゆっ!?にんげんが・・・お、おにいさん!!」 「へ?なんで俺のこと知ってんの?」 「まえにくらいときにあったでしょ?わすれちゃったの?」 「・・・ああ、あのときの一家か!」 そう。影は一昨日の夜に遭った、あのクズときゃっしゅさんを交換した人間だった。 そうと分かったれいむは、子供の事も忘れて怒りを男にぶつけた。 「どういうことなの!あのきゃっしゅさんみせてもにんげんがどれいにならなかったよ!」 それに対して男は飄々とした態度を崩さない。 「キャッシュさん?・・・ああ、やっぱり使えなかったか」 「やっぱりって、じゃああれはほんものじゃなかったんだね!!」 「いいや?あれは間違いなく本物だよ。俺に偽札持つ度胸なんてあるわけないじゃん」 「ゆ!?じゃ、じゃあなんで・・・」 「う~ん、理由は沢山あるけど・・・一番の理由はお前がゆっくりだから、かな」 その言葉を聴いた途端、れいむは凍りついた。 「お前、お金がどう使えばどうなるか、ちゃんと知ってるか?」 「ゆ・・きゃっしゅさんはみせればなんでも・・・」 「ほらわかってない。普通に考えて、見せれば何でも上手くいく道具なんてあるわけないだろ」 「じゃあなんで・・・」 「それを知っても意味がないんだよ。だってお金ってのはさ、 人間だけの、人間による、人間のための道具なんだから。 普通は人間とまともに商売するなんて事、できるわけないのに」 「でもおにいざんは・・・」 「俺?俺は、ほら、酔ってたとはいえお前の言う通りスッキリしちゃったんだからさ。 饅頭が相手でも取引成立したのを無視して―――って言うのも後味が悪いんだよ。よく律儀だって言われます」 「ぞんなぁ・・・じゃあでいぶのかんっぺきっなさくせんさんは・・・」 「完璧って、どこが?そりゃおまえらみたいな汚い饅頭がいきなり店に来て 『さっさとなんでもいうこときいてね!!』だなんて、千円札ごときを振り回して言えば追い出されるだろ。 いやー、まさか本当にやるとは。馬鹿な事したなぁ。チビも・・・あ、一匹いなくなってるじゃん。死んだ?」 人間の言葉を聴いて、またもやれいむは子供のことを思い出した。 「おちびちゃん!れいむのだいじなおちびちゃん!!」 「なんか大変そうだなあ。・・・じゃ、頑張って」 叫ぶれいむを一瞥して、去ろうとする男。 「まってよ!どこいくの!?れいむたちをおいてかないでね!!」 が、唯一助けを求められそうな存在をれいむが逃がす筈もない。 「え~?俺もこれから休日だからこそ、ありすと一緒にこのケーキ食べる仕事が待ってるんだけど」 「け、けーきさん!?これにはけーきさんがはいってるの?」 男が軽く掲げた箱に、れいむの目が釘付けになる。 「ああ。ここのケーキはここらへんでも評判でな。 必死に並んで―――って、お前らに行列の価値なんて分かる訳ないか」 ケーキさん。ゆっくりにとって最高のあまあまだ。 あのあまあまがあればれいむの怪我どころかおちびちゃんも助かるかもしれない。 「そのあまあまさんれいむたちにちょうだいね!ぜんぶちょうだいね!!」 「え、やだよ。なに言ってんの。今の話聞いてたか?常識的に考えてありえねえ」 「どぼじでぞんないじわ゛るいうのぉぉ゛ぉ゛!!?」 「だからこれはありすと俺の分なんだって。何故に貴様らなんぞにやらにゃならんのだ」 ありす・・・あのクズか!あんなクズよりも 「あんなくずよりもでいぶたちのほうがだいじでじょぉぉぉ!!?」 「俺にとっちゃ自分の子や姉妹をクズクズ平気で言うでいぶの方がよっぽどクズだよ」 「いいがらざっざどよごぜぇ゛ぇ゛!!ぐずにんげんん゛ん゛!!」 「へーへー、そうですよっと。俺ァ愚図だから賢いでいぶさんの言う事は解りませんわぁ。 そんじゃあ賢いゲスでいぶさん、お達者で~。これから楽しい楽しいティータイムがありますもんで」 れいむの言うことを受け流して去ろうとする男。 「ゆ゛っ!?ゆ゛っ!?ごべんなざい!みずでないでぐだざい! でいぶがわるがっだでず!おにいざんはぐずじゃないでずぅぅ゛ぅ゛!!」 これはいかんと、急いでれいむが謝った。反射的な鳴き声だとしても、たいしたものだ。 「えぇ~?もういいじゃん。俺が愚図でいいから帰らせてくれよ。そこら辺はどうでもいいからさ」 そもそも帰りたいならさっさと無視して去ればいいのだが、ちゃんと付き合う辺りこの男も中々律儀なものだ。 「でいぶだちそれがないどじんじゃうんでず。がわいぞうなんでず。 ぜめでおぢびぢゃんだげでも・・・」 必死に頼み込むれいむに対して何か感じ入ったのか、男は少し考え込んだ末に 「・・・別にいいよ、考えてやっても」 なんと、承諾した。これを聞いてれいむは大喜びだ。 「ほんとうに!?ありがとうおにいさん!おれいに―――」 「いや。御礼とかはいいから、金よこせ」 「・・・ゆ?」 「だから金だよ、金。人間に何かをしてもらうときにこそ、金が必要なわけ。 わかる?お金。money。キャッシュさん!」 「れ、れいむきゃっしゅさんなんて・・・」 「俺が昨日渡したやつあるだろ?あれ渡せばお前も助けてやるよ。それでも釣りが返ってくるし」 「だかられいむはもうきゃっしゅさんはもってないんだよ!にんげんにとりあげられちゃったよ!!」 「あ、やっぱりそっかー。それじゃあなおせないや。いやーざんねんだなあ」 棒読みの台詞でもわかるとおり、男は全く残念そうに見えない。大体は予測していたのだろう。 「どぼじでぇぇ!?ぞんないじわるいわないでだずげでよぉ!!」 「だって、お前らだって何かするときあまあまとか要求するだろ? なのに何でお前らだけタダで助けてやらなきゃなんねーのよ」 「でいぶはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!! しかもおちびちゃんまでしにそうなんだよ!だから!」 「助けてねって?じゃあそんな可哀相なお前らに虐め倒された挙句、 はした金で捨てるように売られたありすはもっと可哀相だなあ。と、言う訳でこれはありすにあげよう。それじゃ」 またも踵を返そうとする男に対して、れいむは引き止める為の言葉を捜す。 しかし、そう何度も都合よく思いつくわけがない。それでもれいむは必死に考えた。 そして出た言葉が 「じゃあかわいいおちびちゃんをうるからそれでおちびちゃんとれいむをたすけてね!!」 これである。 なにをバカな、と思う無かれ。れいむはいたって真剣に、身を切るような想いで言っているのだから。 まあそれでも 「なにをバカな事を・・・」 言っちゃうものなのだろう。 「で・・・でいぶばかじゃないぃぃぃ!!」 「いやあ、十分馬鹿だって。お前さっき俺がなんて言ったか覚えてるか? お前らはクズだって言ったんだよ。 なんで商品価値ゼロのクズを助けるために、わざわざそれを買わなきゃいけないわけ?」 「でいぶもおぢびぢゃんもくずじゃ・・・だってくずのありすをかったのに!」 「・・・じゃあ、そこの死に掛けのチビは“おうた”を歌わず静かにしていられるか?」 「なんでぇ・・・?おうたはゆっぐりできるのにぃ・・・」 「それはお前の感性だろ?第一こっちは静かにしてもらわないと困るんだよ おまえだって、例えば・・・ゆっくりできないやつから隠れてるときにチビに騒がれちゃ困るだろ?」 「ぞれは・・・お、おぢびぢゃんはいつもげんきいっぱいだよ・・・」 「そうか。じゃあ駄目だな。 ちなみにありすは俺の言うことをきいてちゃんと静かにしているよ。都会派とも田舎物とも言わずにな」 それはそうだ。だってれいむ達が散々うるさいって虐めたんだから。 「それじゃ次。ちゃんと俺の言う通り、はしゃがずに大人しくしていられるか? 理由はこれも同じだよ。ゆっくりできないやつが(以下略」 「ゆぅ・・・おちびちゃんはできないよぉ」 「だろうなあ。ちなみにありすはどこでだって大人しくしていられるぞ。 コーディネイトとか言って部屋も散らかさない上に、お家宣言のおの字も出しやしない」 あたりまえだ。れいむ達がいつも隅に追いやっていたせいで、決まった場所から動かなくなっていたのだから。 「ならご飯を食べる時は……」 「ぼうやべでぇぇ・・・」 その後も男はずっと質問を繰り返した。 ありすに比べてそこのチビはどうだ?俺の言う事が聞けるか?お前にとって本当にゆっくりできる存在か? それに対するれいむの答えは、常にNO。 れいむの立場で例えを出された事で、 自分にそっくりなおちびちゃんがどれだけゆっくりしてないかをこの上なく理解させられる事になった。 しかしそれでも認めることができない。 れいむにとって、自分と同じ姿のおちびちゃんは世界一可愛いものだったのだから。 「まあそういうわけだ。お前も、お前の大事なおちびちゃんも、ありすに比べりゃクズ同然。 そんなクズを引き取った上になんで助けてやらなきゃならないんだって話だろ?」 「うぞ・・うぞだぁ・・・でいぶのかわいいおぢびぢゃんは・・ゆっぐりぃ・・・」 「まあ実際ありすはよくできたゆっくりさ。もしかしたらお前、名ブリーダーかもな。 あれだけの躾がされたゆっくりを店で買おうとしたら、七、八万は掛かるだろうなあ。 具体的には、お前にやったキャッシュさんと比べて(お前達には)数え切れないくらい沢山の価値だ」 それを聞いたれいむは、呆然としている。 男の言葉が理解できないのだろうか。それとも、理解したくないのだろうか。 「だからあの千円もそれに比べれば安いものだったんだよ。 それでもお前にとっちゃ、数万円に匹敵する価値があっただろうけど 肥溜めにでも落としたと思えば。いや、それ以上にどうとも思わなかったね。 まあ、俺はちゃんと代価を払わないと物を大事にできない性質の人間でさ。 やっぱりあれだけでも払っといて良かったと思うよ。おかげで今はありすのことが可愛くて仕方ない」 「でいぶのきゃっしゅさん・・・かわいいおちびちゃん・・・」 「でも問題もあってな・・・そうだ!れいむ、取引をしよう!!」 「・・・ゆ?」 「お前のものを貰う代わりに、金をやるよ。つまり商売だ」 「ほんとに?それなられいむたちたすかるの!?それならしょーばいするよ!!」 男の言葉で再び元気を取り戻すれいむ。 しかしそんなれいむの言う事には全く反応せずに、男はれいむの傍に近づいた。 そして――― 「じゃあ、これ貰っていくな」ブチッ 「ゆぎっ!!・・・ゆ・・ゆ・・・ゆあぁぁぁ!!でいぶのおりぼんざんがぁぁぁ゛ぁ゛!!!」 男に千切られたのは、れいむが命と同じくらいに大事にしているおかざりだった。 「それじゃ、これが代金だ。ほらよ」 そしてれいむの前に投げ出されたのは、小さな小さな薄っぺらい玉。 表面に1と描かれたそれは、この上ないほどに軽い音を立てて地面に落ちた。 「これがお前の薄汚いリボンの価値だ。まあ妥当な所だろう?」 「かえじでね!!それがないどゆっぐりでぎない!!がえじでよおおぉぉ!!!」 「何言ってるんだ。その一円玉があれば大事なチビを助けられるぞ。 ・・・まあ、それにはあと百枚ほど。数え切れないほどのそれが必要だけどな!!」 「どぼじで!?でいぶのおりぼんざんがどぼじで!?」 れいむは必死に訴えかけるが、もう男はそんなものは聞いていないようだった。 「ありすの奴、良い子なのはかまわないんだけど、ちょっと情が深すぎるんだよなあ。 早く忘れりゃいいのに、まだお前らの事心配してるみたいでさ。やたら心配するわけよ。 だからこれ使って適当な作り話でもでっち上げようかと思ってな。 『お前の家族は全員事故で無残に死んでたからせめてこれだけでもと思って持ち帰ってきた。 お前は運良くあいつらに最後に救われたんだと思って、精一杯幸せになれるように楽しく生きろ』ってさ。 後は俺がしつけを間違えなきゃ、そのまま完璧なありすの出来上がりだ。いやー、胸が躍るわ!じゃあな!」 大きな笑い声を上げながら今度こそ男は去って行った。 そして、ただ呆然とその後ろ姿を見送るれいむ。 れいむには何が残ったのだろう。 「でいぶはぎゃっじゅざんでゆっぐりじだがっだだけなのにぃ・・・」 ひたすら子供である自分の事も顧みずにきゃっしゅさんの為に歌い続けた母は、何一つ報われる事無く死んでいった。 偶然きゃっしゅさんを手に入れたまりさは、それを活かす機会すら与えられずに殺された。 そして自分は――― ただの思い込みにゆん生を捧げた挙句、大事なおかざりやおちびちゃんも奪われて、こうして傷だらけになっている。 きゃっしゅさんとはなんだったのだろうか。 本当にゆん生も何もかも懸けてまで求めるほど価値があるものだったのだろうか。 答えはもう出ている。今のれいむの姿が、その答えだ。 そこには人間が作った勝手なシステムに踊らされた結果である、哀れなゴミ饅頭が一匹いるだけだった。 「ゆ・・・ゆっくちぃ・・・」 「お、お・・・おちびちゃん!!まだいきてたんだね!!」 いや、一匹ではない。男とのやり取りですっかり忘れていたが、赤れいむがまだ生きていたのだ。 だがしかし、それでも油断できる状況ではない。相変わらず餡子が少しづつ漏れ出ているのだから。 むしろ先ほどよりも明らかに弱っている。もう目の前にいる者を認識すらできないほどに。 このままいけば、やがて餡子不足で息絶えるだろう。 が、たとえそうであっても 「このこだけはたすけるよ・・・もうれいむにはこのこしかのこってないよ!!」 れいむは諦めない。例えリボンが無くて母だと認められなくても、 この先自分がどれだけゆっくりできなくても、この子だけは守ってみせる。 何にも得られなかったれいむのゆん生に、せめてたった一つでも何かを残しておきたかったから。 「ゆっくりてあてするよ・・・ゆーしょ、ゆーしょ」 れいむは痛む身体を引きずって、公園の小さな雑木林の中へ子供を運んでいく。 お飾りが無いれいむが他のゆっくりや人間に見つからないようにする為だ。 「ゆひぃ・・・ゆひぃ・・・ゆっくりてあてするよ。 ぺーろぺーろ。おちびちゃんげんきになってね・・・ぺーろぺーろ」 「だ・・れきゃ・・・たしゅけ・・・ちぇ・・・」 そして自分の身体も省みず、少しでも傷を塞ぐべく一心不乱に傷口を舐め続けた。 あまあまも貰えず、他のゆっくりに助けも求められないれいむにはもうそれしかすることがなかった。 それでもれいむは助かると信じて舐め続ける。 今度こそ正真正銘、自分の全てを懸けて挑んでいるのだから。 「なおしてみせるよ・・・ぜったいにおちびちゃんだけはたすけてあげるからね!!」 「もっちょ・・ゆ・・・っくち・・・ちた・・・きゃ・・っちゃ・・よ・・・ぉ・・・・」 この救命作業は一時間後、れいむの疲労がピークに達して意識を手放してしまうまで続いた。 まあ結局、だからと言ってなにが変わるわけでもない。 動く饅頭一匹がどれだけ死に物狂いになろうとも それだけで奇跡が起こせるほど、この世界は優しく作られてはいなかった。 飾りも無く、生涯懸けてようやく得たお金(チャンス)も失い、まむまむに大穴が開いて他の部分も傷だらけ。 そんな満身創痍のれいむが翌朝一番最初に目にする物は、 餡子が全て抜けてシワシワに萎んで黒ずみ、苦悶の表情を貼り付けたまま息絶えている我が子の姿であった。 ・あとがき 言葉話せてお金持ってれば買い物できるの?そんな訳ないよね! 数百円程度で品位ゼロの、しかも饅頭にヘーコラするとか有りえないでしょう。 余談ではありますが、ゆっくりが自業自得で空回りして無残な目に遭う悲劇(笑)が大好きです。 賛同してくれる方募集中。 では、最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!! また今度! 小五ロリあき 挿絵 byM1 ・過去作品 ふたば系ゆっくりいじめ 412 僕と『あの子』とゴミ饅頭と ふたば系ゆっくりいじめ 446 俺とゲスと自業自得な餡子脳 ふたば系ゆっくりいじめ 460 弱虫まりさとほんとの勇気 ふたば系ゆっくりいじめ 484 ドスと理想と長の資格 前 ふたば系ゆっくりいじめ 494 ドスと理想と長の資格 後 ふたば系ゆっくりいじめ 514 僕とさくやとおぜうさま ふたば系ゆっくりいじめ 548 てんことれいむとフィーバーナイト 前編 ふたば系ゆっくりいじめ 559 てんことれいむとフィーバーナイト 後編 ふたば系ゆっくりいじめ 583 ゆっくりしたけりゃ余所へ行け ふたば系ゆっくりいじめ 599 はじめてのくじょ~少女奮闘中~ ふたば系ゆっくりいじめ 615 お兄さんは静かに暮らしたい ふたば系ゆっくりいじめ 659 よくあるお話 ふたば系ゆっくりいじめ 674 かわいいゆっくりが欲しいなら ふたば系ゆっくりいじめ 701 おうちは誰の物? 小五ロリあきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 結論 ゆっくりは所詮馬鹿である -- 2018-06-01 18 15 39 れいむがヤクルトスワローズと同じくらいしか価値がないことがわかった。 つまり、れいむがゆっくりしたりヤクルトが優勝したりすると誰も幸せになれない。 -- 2016-03-15 21 48 12 お兄さん得したね♪ -- 2016-01-27 13 34 07 数百円程度で品位ゼロの、しかも饅頭にヘーコラするとか有りえないでしょう。 ところが日本では害饅頭以下のゴミにもへーコラせねばならんのだが -- 2015-09-26 22 11 54 流石は餡子脳!肝心な所は抜かして都合良く覚える♪ 人間でも大金積んで奴隷に成れ!と言う奴は非難轟々だろ。 お兄さんは律儀だけど人望有りそうだ。友人に欲しいな。 アリスはきっと金バッジ級だね!末長くお幸せに♪ 余談ではありますが、ゆっくりが自業自得で空回りして無残な目に遭う悲劇(笑)が大好きです。 賛同してくれる方募集中。 激しく同意!歩く死亡フラグの王道と言っても良いね♪ では、最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!! また今度! -- 2015-09-11 00 21 04 たまらねえぜ! -- 2014-11-09 14 18 12 ってか、キャッシュさんってどこでおぼえたんだよー。わからないよー。 -- 2014-08-19 19 27 12 朝からいい気分だ。 -- 2014-03-13 09 12 13 絵が!絵が怖いよ! -- 2013-03-17 21 43 48 善良は幸せになるべき -- 2012-10-08 16 11 50 虐待された子はいい子に育てやすい。これ法則です しかし、れいぱぁが引き継がれなくて良かったよ -- 2012-09-25 14 25 11 でいぶを精神的に追い詰めるとは、、、こいつできる -- 2012-08-10 17 06 33 いままでのSSの中で1番面白いし良作だった!! いい感じ! -- 2012-07-25 17 52 11 千円札と一円玉の対比が効いてていいね 両親とは正反対なありすには幸せに過ごしてほしいものだ -- 2012-03-25 22 46 55 1円だけw -- 2011-12-12 19 09 01 さいこーーー -- 2011-10-02 00 31 39 ↓X7 日本は客も下手に出てるだろ 金を出して買うのに’ください’なんて言うのは日本人くらいじゃないか? 以前日本語がまだたどたどしい中国人が店番してるとこで’それください’って言ったら ぎょっとした顔をされた、すぐにピンときて買うって意味ですよと伝えたら分かってくれたが でもまあ確かに’ください’って変かもなとも思ったよ -- 2011-08-25 04 19 05 人間すら奴隷に出来る魔法のアイテムは 人間から恵んで貰わないと手に入らないって時点で矛盾してる事に気付かんのかね -- 2011-01-19 17 22 53 このお兄さんはいい人だな -- 2010-12-31 15 43 48 お兄さんと一緒にありすが出てきてもおもしろかたと思ったわ。乙 -- 2010-11-15 04 58 24
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※こんな作品なんて投棄所送りだ ある日、群れの中のゆっくりぱちゅりーが言いました。 「ドスなんてバカだわ。バカでマヌケでやくびょうがみだわ!」 すると、すぐにドスの側近のゆっくりまりさ達に捕まりました。 何日も食事をさせてもらえなかったぱちゅりーはとうとう自分の考えを曲げ謝罪しました。 「ごめんなざい、ぱちゅりーがまぢがっでまじだぁ!!」 しかし、まりさ達はぱちゅりーを許さなかった しばらくして、ドスが悪い事をしたゆっくり達の檻を視察に訪れ、 ぱちゅりーを見つけると、どんな悪い事をしたのかとまりさ達に尋ねた。 「このぱちゅりーはドスのひみつをバラすゆっくりできないぱちゅりーなんだよ」 まりさ達の言葉にドスは感心し、秘密を漏らす奴はどんどん捕まえるように頼んだ。 しかし、ぱちゅりーはこう反論した。 「ぱちゅりーのいったことはみんながしってることだよ!!」 すると、まりさ達はこう答えた。 「ドスはしらないでしょ!!」 ゆっくりきもんげの一家が渡り切ると、ゆっくりうどんげに成れる丸太を見つけた。 丸太は川にかかっており、落ちたら一大事だったが、 お父さん、お母さん、お姉さんはどんどん丸太を渡り切り、可愛いうどんげになった。 ただ一匹、末の妹が丸太から落ちそうになった。妹は何度も助けを求めたが、 「キモいきもんげなんかたすけないよ。ゲラゲラゲラ」 と、うどんげ達は答えた。 ゆっくりとピザの違い。 ピザはオーブンで焼いても騒がない。 長としてのドスまりさのマニュアル (1)ドスまりさを信じよ (2)性能に疑問が生じた時は(1)を読め ドスまりさに管理された群れのゆっくりまりさが虐待お兄さんに捕まったれいむに会いに来て尋ねた。 「そっちはゆっくりできる?」 捕まったれいむは何を言っているのか、と少しムッとして答えた。 「あといっぽでじごくだよ!!」 群れから来たまりさは答えた。 「まりさたちのほうがいっぽすすんでるね!!」 罪を犯したゆっくり達が閻魔の裁きを待っていた。 ゆっくりれいむ、自分は働かずにいたが、子の面倒はよく見た。天国に行け。 ゆっくりまりさ、乱暴者であったが、家族の為によく働いた。天国に行け。 ゆっくりぱちゅりー、他のモノを見下していたが、知恵で皆を救った。天国に行け。 ゆっくりありす、周りの者と打ち解けずにいたが、伴侶への愛は強かった。天国に行け。 おい、ゆっくりらん、お前はちぇんを残しているだろ。現世に帰れ。 ゆっくりらんは泣いて、閻魔の元から去った。 別の日、罪を犯したゆっくり達が閻魔の裁きを待っていた。 ゆっくりれいむ、子の世話はしたようだが、働かずに迷惑をかけた。地獄に行け。 ゆっくりまりさ、狩りは上手いようだが、他のモノに乱暴をした。地獄に行け。 ゆっくりぱちゅりー、知恵は優れていたが、周りのモノをバカだと嘲笑った。地獄に行け。 ゆっくりありす、伴侶への愛は強かったが、レイプして無理やり伴侶にした。地獄に行け。 おい、ゆっくりらん、お前はゆかりを残しているだろ。現世に帰れ。 ゆっくりらんは泣いて、閻魔の元から去った。 ある日、ペットショップから貴重なゆっくりけーねが逃げ出した。 ペットショップはけーねに懸賞金をかけました。 愛でお兄さんが人を集め、あらゆる場所を捜索しましたが、見つかりませんでした。 それを見た虐待お兄さんは森に入り、30分ほどで森から出てきました。 手にはボロボロになったゆっくりまりさが一匹。すると、まりさがこう言いました。 「ゆっくりけーねだよ」 大きなスィーに乗ったゆっくり達は、素敵なゆっくりプレイスに向かって発進したが、 途中、不慮の事故にあい。スィーは谷底深くへと落ちていった。 それを見ていた虐待お兄さんが突然泣き出した。 友人は大嫌いなゆっくりが死んだのにどうして泣くんだいと質問すると、 「俺がいない場所があいつらにとって一番素敵なゆっくりプレイスなんだ」 まりさが三匹いた。 一匹目のまりさは言いました。 「まりさはおさなんだよ。むれをまもるためならいのちをおしまないよ!!」 二匹目のまりさは言いました。 「まりさはつよいんだよ。それをみせつけるのにいのちはおしまないよ!!」 三匹目のまりさが言いました。 「まりさはたいせつなんだよ。それをまもるためにほかのいのちはおしまないよ!!」 ゆっくりありすは死に瀕していた。 虐待お兄さんに追い詰められ、ナイフで頬を数か所刺され、どんどんとクリームが漏れ出す。 しかし、虐待お兄さんの視線は傷や恐怖するありすの顔でもなく、人間の腕ほどはあるぺにぺにだった。 「あ、ありすだってこわいときはちぢまるのよ、いなかものめ、わらうがいいわ!!」 男はまだ赤ちゃんのゆっくりれいむに様々な芸を教え込み、 これで見世物でも始めようと思った。 手始めに、街の喫茶店に行き、コーヒーとクッキーを注文すると、 主人にここで客を取っていいか尋ねる為、ゆっくりれいむを取り出した。 「ちょっといいかね、主人」 「あ、お客さん、すいませんね。よく入り込むんですよ」 主人はゆっくりれいむを叩き潰した。 赤ちゃんれいむは悲しみに暮れていた。それを見かけたゆっくりありすが声をかける。 「どうしたの?」 「おかーしゃんがしんじゃって」 「かわいそうに、ゆっくりできるの?」 「うん、おかーしゃんはたくさんのごはんをのこしてくれたの」 次の月、また赤ちゃんれいむが悲しみに暮れていた。またありすが声をかける。 「どうしたの?」 「おとーしゃんがしんじゃって」 「かわいそうに、ゆっくりできるの?」 「うん、おとーしゃんはキレーなおうちをのこしてくれたの」 また次の月、またまた赤ちゃんれいむは悲しみに暮れていた。またまたありすが声をかける。 「どうしたの?」 「おねーしゃんがしんじゃって」 「かわいそうに、ゆっくりできるの?」 「うん、おねーしゃんはゆっくりできるおかざりをのこしてくれたの」 ある日、ありすは赤ちゃんれいむの家を訪ねてみた。 群れのみんなに聞いたが、今月はれいむの家族に死んだゆっくりはいないらしい。 悲しみを和らげるためにも、散歩に誘おうとやってきたのだ。 しかし、赤ちゃんれいむは悲しみに暮れていた。 「どうしたの?」 「こんげつはまだだれもしなないの」 ある日、イタズラ好きのゆっくりまりさはとうとうお母さんれいむを怒らせた。 「ゆっくりできないわるいこだね!!」 大きな声で叱る母れいむはこう続けた。 「おとーさんだって、たいどがよかったからドスになんかいもゆるしてもらえたんだよ!!」 ドスまりさは食料の確保に躍起になっていた。 「みんな、もっとはたらいてね!!」 しかし、側近のぱちゅりーはドスにこう言った。 「そんなことしたら、みんなしんじゃうわ!!」 群れのみんなはドスを支持してこう言った。 「あまあまがふえるね!!」 よだれを垂らし、みすぼらしい格好をしたゆっくりまりさが1匹。 「ゆっ!あれはおさこうほのまりさだわ」 「むきゅー・・・あんなのぜんぜんおさのうつわじゃないわ」 ぱちゅりーの言葉にありすは反論した。 「こうほになら、あのれいむだってなれるのよ」 ある日、胴つきのゆっくりらん、いく、てんこが飛行機に乗っていたが、 飛行機のエンジンが不調になり、運転していたお兄さんは早々とパラシュートで脱出してしまった。 「ら、らんはちぇんのためにしねないよ。らんはぜったいたすからなきゃいけないんだよ!!」 そう言って、らんはパラシュートをつけて飛び出してしまった。 「うわぁあああ、総領娘さまぁ、いくのことはいいですから、総領娘さまがパラシュートをおつかいくださいぃいい!!」 てんこも悲しそうに先ほど降りて行ったらんを見送る。 「あのらんめぇ!!総領娘さまぁ、ゆっくりせずにおにげくださいぃいい!!!」 「・・・てんこのおかしがはいったリュックをらんはぬすんでいきました。はじしらずならんがいた!!」 二人はパラシュートで脱出した。 ドスまりさと人里の長が神様の所にやってきました。 「神様、あと何年すれば人間は幸福になれますか?」 長の質問に神様は答えた。 「あなたの任期中には無理でしょう」 「かみさま、あとどれぐらいゆっくりすれば、ゆっくりはしあわせになれますか?」 ドスまりさの質問に神様は答えた。 「わたしの任期中には無理でしょう」 すっきりの後、 ゆっくりまりさの5%はそっぽを向きそのまま眠てしまった。 25%はベッドから起きてご飯はむしゃむしゃし始めた。 残りの70%はれいむのもとに返っていった ありす、まりさ、れいむが集まり、それぞれ出ているSSについて文句を言っていた。 「いじめ系SSなんてちっともゆっくりできないわ」 ありすがプンプン怒ると、まりさは少しバカにしたようにこう言った。 「まりさがでてるジャンルものなんて人間さんよりずっと強いお姉さんが出るんだよ」 二匹をバカにするように、れいむはこう言った。 「ドロワ系なんて、ゆっくりが主役じゃないんだよ・・・」 偉大なる群れの長、ドスまりさは幼少の頃すでに今と同等の知能を身につけていた Qゆっくりまりさと神の違いは何か? A神は自分の事をゆっくりまりさだと思った事はない。 群れの長であるドスは群れの食料備蓄に関する仲間達の不安を知りたいと考えて、大掛かりな意識調査を命じた。 会議で、その結果がぱちゅりーから報告された。 「この調査によってわが群れは大きく二つのグループに分かれることが判明しましたわ。楽観派と悲観派、楽観派はいずれはうんうんを食べることになるだろうと予想しています」 大統領はびっくりして言葉を挟んだ。 「それが楽観派?すると悲観派は・・・」 「むきゅー・・・悲観派は群れ全体にはうんうんが行き渡らないだろうと心配してるわ」 ゆっくりまりさとゆっくりありすがある養鶏場を訪れた時 案内人「ここの雄鶏は日に50回もセックス、つまりすっきりをします」 ありす「まあ・・・それじゃそのことをまりさにいってあげてね」 案内人「・・・という事でしたが。」 まりさ「そのおすどりさんがすっきりをするときはいつもおなじあいてなの?」 案内人「いいえ、全部別々の雌鳥が相手ですよ。」 まりさ「じゃあ、そのことをありすにいってやってめ!!」 ゆっくりれいむの一家の巣が落石により入り口が塞がれてしまった。 何匹もの子ども達が死んだ凄惨な事故だったが、 群れの仲間の必死の救助活動で数匹の子れいむが助けられた。 2ヶ月も巣に閉じ込められていたというのに、子れいむ達はやつれた様子もなく、 元気に外を走り回った。 ゆっくりまりさ達の住む場所は何もない荒野だった。 ある日、神様が何か望みはないかとやってきてた。 まりさ達はいろんな恵みを挙げていった。 たくさんの食料や過ごしやすい気候、天敵のいない森に快適な巣。 最後に優秀な指導者という前に、神様は消えてしまった。 それ以来、まりさ達の恵みは全てドスまりさが独り占めしている。 by118
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注・ゆっくりらしからぬゆっくりが出ます。 幻想郷の人里から少し離れた場所に緑の森が有る。 その森に住んでいるゆっくり達はとても幸せだった。 何故ならここには外敵である筈のれみりゃなどもほとんどやって来る事も無く、人里の人間も好んで立ち入る事も無かった。 時折、無謀なゆっくりが人里に悪さをしに行く場合も有ったが、再犯でもしない限りは直ぐに殺される事も無い。 流石に2,3度となれば別だが、そこまでの再犯を重ねるゆっくりで有れば、逆に人間に裁いて貰った方が平和になる。 幻想郷の人間は融和的で、罪を犯したゆっくりとその他のゆっくりを混同するなどという、短絡的で愚かな考えはしなかった。 その為、狩りや木の実の採取に長けたゆっくりまりさと、ぱちゅりーにも負けない明晰な頭脳を持ったれいむが率いるその群れは、 仲間同士で争う事も無く、困った事が有れば群れの仲間同士で協力し日々を謳歌していた。 ある越冬の時では、食料が芳しくない家の者に群れのゆっくり達が少しづつ食料を提供し、その家族は無事一匹も欠ける事無く冬を越した。 ある梅雨の季節では、暴風で破壊されたゆっくりの家が有ったが、群れのリーダーであるまりさはその家が直るまで住人を快く自らの家へと招き入れた。 相互扶助。 その群れのゆっくり達は全て、その言葉は知らずとも、その行動を実行する事が出来た。 かつ、いつまでも他の者に頼るなどという甘い考えのゆっくりなどは存在せず、この群れはとても良好に機能していた。 やがてそのまりさとれいむは群れの皆から祝福され結婚して家族となり、より一層の繁栄を為し得るかに見えた。 そう、一週間程前までは。 「ゆぅぅ、なんでこんなことに・・・」 薄暗い洞窟の奥で、ボロボロの身なりのれいむが居た。 少し前まで群れの長であったれいむである。 黒々とした艶の有った髪も見る影も無く荒れ、頭のリボンもネズミにでも齧られたかのように所々千切れている。 それにも増して、かなりの暴行を受けたのだろうか、その身体にはそこかしこに真新しい傷が出来ていた。 その場所にしても、洞窟の中の狭い一室の入り口を柵で覆い、まるで牢屋のように作られている事から、その状況が尋常で無いのは一目瞭然であった。 「まりさたちはだいじょうぶかなぁ・・・」 いつまでも続くかに思えた幸せの時を思い出してしまい思わず嗚咽が漏れる。 最愛のゆっくりを思い浮かべると涙が零れる。 部屋の片隅で丸い身体を震わせ、えぐえぐとただ悲嘆に暮れなき続けるしか、今のれいむには出来る事は無かった。 一週間前、群れで大規模な反乱が起こった。 その反乱により、群れを率いていた群れの幹部達の多くは捕らえられてしまったのだ。 夫であるまりさと子供達は間一髪の所で逃げ出す事に成功したが、れいむはその時自ら犠牲となり囚われの身となってしまった。 「ゆふふ、惨めなものね」 そんなれいむを嘲笑うような声が聞こえたかと思うと、数匹のゆっくりがその部屋の中に入ってくる。 先頭のゆっくりは普通のゆっくりには扱えぬ筈の火の付いた松明を口に咥えている為、部屋の中が一気に明るくなった。 ほとんどは数週間前に群れにやってきた新参のゆっくり達だが、中には昔から群れに住んでいた見慣れた顔のゆっくりも居る。 そして遅れて入ってきたゆっくり。 煌びやかな髪が松明の炎に照らされて鮮やかな光を放ち、その優雅な佇まいにはゆっくりで有りながらも何処か厳かな雰囲気を漂わせる。 薄暗い洞窟の中でそのゆっくりの存在感は一層際立ち、周りの者の眼を引く。 「ゆっ!?おまえは……ゆっくりしねぇ!!」 涙を流していたれいむであったが、その姿を一目見た瞬間、まるで鬼にでも取り付かれたかのような形相に変わり目の前のゆっくりに飛び掛かろうとした。 だが、周りの者達がすぐさま盾となりそれを阻み、れいむを跳ね飛ばす。 そのまま壁に叩き付けられ「ゆぐぅ」と短い呻き声を上げたれいむに、追い討ちとばかりに数匹のゆっくりが圧し掛かる。 「いつもむだなことをしないでね!!ゆっくりりかいしてね!!」 「いたいよ、ゆっくりやめっ、てびゅっ!!やめて、に”ゅ!!」 「ちーんぽ!!ちーんぽ!!」 まりさ種やみょん種、中には同種のれいむ種まで居る。 それらは足元のれいむの声などに一切耳を貸さずにひたすら飛び跳ねれいむを苦しめる。 数は元よりろくに食事も食べていない弱ったれいむは成す術も無く、そこから逃げ出す体力も無い。 「ゆぐっ、やめ”、びょひゅ……いだい”よ、ゆっぐりぃ」 「おお、よわいよわい」 「な”んでごんな……ゆべっ!!ゆびぃ!!」 反論を挟む余地の無い暴力。 段々とれいむの眼から生気が失われていき、その叫び声も「ゆぐっ!!ゆげぇ!!」から「ゅみゅ…、ゅきゅ……」と弱々しくなっていく。 淡々と行われるその暴行を冷ややかな眼で見詰めていたあのゆっくりがズイッと前に出ると、周りの者はそれに反応してすぐさまその場から飛び退いた。 後に残されたのは、その口から餡子を垂れ流し、楕円形の形になってしまった瀕死のれいむである。 「ゅ……ゅ……」 「おやおや、わらわがわざわざ会いに来てさしあげたのに、あなたはもうゆっくり死んでしまいますの?」 ビクビクと痙攣を始めたれいむの前で、明らかに他のゆっくりとは違う流暢な話し言葉で呼び掛けた。 すると、このまま死んでしまうかに見えたれいむの眼に少しだけ光が戻る。 そして動かぬ身体で眼だけを動かし、眼の前のそのゆっくりを憤怒の炎が宿った眼で睨み付けたのだ。 「ゆぐぐ…このぉ、おんしらずのゆっぐりめぇ……」 「ゆふふ、わらわはそなたの様なゆっくりに受けた恩など覚えがありませぬ」 「ゆぎぃぃ!!きさまなんか、れいむとおなじれいむなんておもえないよ!!」 憎しみを込めて力一杯に叫ぶと同時に、横から別のゆっくりが体当たりをし、れいむは又もや吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。 「おまえのようなゆっくりとおなじにするなだぜ!!はくれいむさまとおよびするんだぜ!!」 取り巻きの一匹であるまりさが体当たりをし、そうれいむに対して叫ぶ。 その後ちらりと、はくれいむと呼ばれたゆっくりれいむに眼を向け、ニヤリと口元を歪ませる。 はくれいむに惚れているのだろうか。 まりさなりのアピールを欠かさない。 はくれいむと呼ばれたそのゆっくりはれいむ種でありながられいむ種ではなかった。 髪は透き通るように白く普通のれいむ種の黒とは対極にあり、暗闇の中でもその存在感は際立っていた。 更には頭に付けられているれいむ種のトレードマークであるリボンも、赤い部分は真っ白に染め上げられ、その姿は正に「はくれいむ」と呼ぶに相応しかった。 姿だけでは無い。 その雰囲気もれいむ種どころか、他のゆっくりと一戦を隔す程に厳かで幽玄。 ゆっくりでありながらも、カリスマと言うべきだろうか、他ゆっくりを引き付ける何か持っている。 だがその本質は残酷で冷徹。 一ヶ月程前に数匹の取り巻きと群れに加わり、独自のやり方で群れの指導者に気付かれずに多くの仲間を作っていき、 瞬く間に反乱を起こして群れを乗っ取った。 そう、彼女こそが例の反乱の主導者であり、眼の前のれいむの幸せを打ち砕いたゆっくりなのだ。 そして一方のれいむは打ち付けられた衝撃と積み重なった暴行のダメージで「ゆべぇぇぇ!!」と汚らしく餡子を吐き出し続けるばかりである。 「おお、ぶざまぶざま。わらわがこのようなゆっくりと同じなど、考えただけでおぞましい」 そんなれいむの様子を中傷した笑みで見ながらそう呟くと、周りの者も全くだとばかりに笑いの声をあげる。 れいむは言い返す気力も無く、ただただ餡子と涙を吐き出し続けるだけであった。 クスクスと笑いながらその様子を暫く眺めていたはくれいむであったが、ふと思い出したようにれいむに問い掛ける。 「……ところで、あなたの夫であるまりさは何処にいるのかしら?」 かなりの量の餡子を吐き出し若干落ち着いたれいむは、その言葉にピクリと反応する。 だが、返答する気配は見せず貝のように押し黙ったままだ。 「はくれいむさまがしつもんしているんだぜ、ゆっくりこたえるんだぜ!!」 「……ゅ、なんどきてもれいむはこたえないよ」 一瞬言葉に詰まった。 ここに来てから何度も尋問され、その度に拒否をして暴行が行われる。 餡子脳であるがその恐怖はこの一週間でしっかりと刻まれ、その痛みと恐怖を思い出して少し言葉に詰まった。 だが、れいむは愛するまりさを裏切る気など毛頭無い。 例えこのまま殺されても絶対に喋らないと、そう心に誓っていたのだ。 「ゆゆっ!?うそをつくんじゃないぜ、おまえがにがしたんだからどこにいったかしっているはずなんだぜ!!」 「れいむはしらないっていってるよ……ゆっくりりかいしてね」 「ゆぎぃ!!おまえそんなことをいってどうなるかわかっているんだぜ!?」 れいむの馬鹿にしたような受け応えに、頭に青筋を浮かべそうな程に真っ赤になりながらまりさは凄む。 だが、周りは敵だらけというそんな状況でもれいむは怯えた表情も出さず、その口元に笑みを浮かべ。 「でも……まりさならめのまえにいるよ?」 「ゆっ?どこなんだぜ!?」 そうれいむが呟くとまりさはキョロキョロと見渡すが、何故か周りのゆっくりは一斉にそのまりさの方を見る。 「ゆぅぅ、でもわたしのしっているまりさとはちがうみたいだね」 「ゆ?どういうことなんだぜ?」 「わたしのしっているまりさとちがって、ばかでゴミくずでまったくゆっくりできてないね」 「ゆゆっ!??」 れいむのその言葉に唖然となり、その餡子脳に考えを巡らす。 このれいむはなにをいっているんだぜ? まりさがきいているのはむれをひきいていただめまりさで、ここにいるのはこのさいきょうまりささまだけなんだぜ。 そのうえ、ばかでゴミくずでゆっくりできない? だれのことをいってるんだぜ? 暫くグルグルと考えを巡らすと、流石のまりさにもどういう事か理解出来てきた。 れいむはしてやったりという風にその口元に中傷の笑みを浮かべる。 「ゆぅ!!こ、こいつ、このまりささまをばかにしてるんだぜ!?」 「ゆゆっ、ゆっくりりかいできたんだね。ゴミくずからオガクズにいいかえてあげるね」 湯気が出そうな程に全身を真っ赤にして、瀕死のれいむ今にも飛び掛らんとするまりさ。 その様子に怯む事無くれいむは更に罵倒を続ける。 「あかくなったらつよくなるとでもおもってるの?さんばいなの?しぬの?」 「ゆぎぃぃぃ、まりさはおこったんだぜぇぇ!!ゆっくりしねぇ!!」 このまま嬲り者にされたまま生き長らえるくらいなら、このまま死んだ方が良いとれいむは思っていた。 そうすれば、れいむを助けに来ようとするまりさを危険な目にあわせる事も無い。 ただ一つ心残りが有るとすれば、最後に一度で良いから愛する家族に会いたかった。 それを思うとやはり涙が零れる。 そして死が怖くなり、段々と震えが起きそうになる。 れいむはそんな湧き上がるものを、歯が欠けそうなほどに奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。 こんな非常なゆっくり達にこれ以上惨めな姿を晒さないためである。 まりさが地を蹴る瞬間、れいむはそっと眼を瞑る。 すると死ぬ事への恐怖も不思議と消えていった。 はくれいむに一矢報いたかったが、この馬鹿なまりさに屈辱を味あわせてやっただけで満足しよう。 れいむはそう思った。 「ゆっくりお止めなさい!!」 突然、その部屋に怒声が響く。 その声にれいむを殺そうとすべく飛び上がる瞬間のまりさは身を竦めて動きを止める。 周りの者も眼を丸くして、はくれいむの方を見遣る。 「おお、愚か愚か。そのようなゆっくりの罵詈雑言に耳を傾けるとは」 「ゆぅ……でもはくれいむさま、こいつはまりさのことをばかにして……」 「お黙りなさいな。このゆっくりは死ぬ気力も無いから口先であなたを煽動し自らを殺そうとしているだけなのですよ」 「ゅぅ……」 「それにこれ以上やっては死んでしまいます。このゆっくりにはまだまだ役に立って貰わないと」 まりさは、はくれいむにそう諭され眼を地面に落とす。 格好良い所を見せようと張り切ったつもりがこんな事になるとは思っていなかった。 「ゆふぅ……あなたはまだまだ激流にゆっくりと身を任せる事が出来てないようですわね」 そんな様子のまりさにはくれいむはそう呟き、一瞥する。 その顔はこの世の終わりとでも言おうか、先ほどから一転、真っ青に血の気が引いている。 「ですが、あなたの忠義心は十分に評価していますわ。今後もわらわの部下として精進なさい」 思いも寄らぬ言葉。 それを聞いてまりさの表情はぱっと華やいだ。 二転三転、器用なものである。 しかし、はくれいむのその飴と鞭の使い分け様はやはり他のゆっくりには真似が出来るものではなかった。 周りで見ている者達も、仲間といえどまりさの馬鹿さ加減に呆れる一方で有ったが、逆にそれを許すはくれいむの懐の深さを際立たせる所となった。 そしてはくれいむにとってこの一連の流れは十分に計算通りのものであり、愚かなまりさを傍に置いている理由の一つでもある。 正に悪のカリスマというべきであろうか。 「ゆゆっ、そんなことをいいながられいむをころすどきょうがないだけなんだよね!!」 その一連のやり取りの中、れいむが声を上げる。 はくれいむを挑発しているのだ。 「ゆふふ、愚か者は声だけは立派に張り上げますのね」 「そうやってゆっくりしてられるのもいまのうちだけだよ、はやくれいむをころさないと、ゆぐっ!!?」 そんなれいむの言葉を遮る様に周りのゆっくり達が二匹回り込み、その口に縄を噛ませる。 れいむはモガモガと口を動かすが一向に外れようとしない。 後ろでちぇんが器用にその縄を結び、猿轡が完成した。 れいむの唯一の抵抗を不可能にし、これ以上餡子を吐かれたりするのを防ぐためである。 「ふぁにするの!?ふっぐぃ、ふぁずしてね!!(なにするの!?ゆっくりはずしてね!!)」 「なにいってるかわからないよー♪」 ちぇんのその言葉に周りのゆっくりは苦笑し、バタバタと暴れるれいむに冷ややかな視線を浴びせる。 そして、はくれいむは周りの一匹に目配せした。 松明を咥えたゆっくりみょんである。 そのままみょんはじりじりとその松明をれいむへと近付けて行く。 「ふぐっ!!ふぁぐいよ、ふっぐりふぁがれてね!!(ゆぐっ!!あついよ、ゆっくりはなれてね!!)」 「ふぁめてね!!ふぁ……あ”ぐぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!(やめてね!!やめ……あづぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!)」 壁に追い込まれたれいむの身体にその松明の先端が押し付けられる。 逃げる事も適わずにその肌は焼け焦げていき、チリチリと髪が焼け千切れていく。 左右に避けようとしても、周りのゆっくりに押し戻される。 「ふ”ぇい”ぶが、ふぉべち”ゃう!!ふぉべちぁうっべばぁぁぁぁ!!(れいむが、こげちゃう!!こげちゃうってばぁぁぁぁ!!)」 「ゆへへ、さっきまでのいせいはどこいったんだぜ?」 まともな言葉も出せずに涙を流して壁へと張り付くれいむの無様な姿を見て、先ほどのまりさも溜飲が下がったようだ。 必死の形相のれいむに構わず、みょんはグイグイとその火をれいむに押し付ける。 辺りには焼き饅頭の香ばしい匂いが立ち込め、それが段々と焦げた匂いへと変わっていく。 すると急に、ぼわっとれいむの頭に火の手が上がる。 本格的に髪に引火してしまったのだろう。 「ふぎゅあ”ぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁあぁ!!」 頭に火を付けて眼を見開き、言葉に成らぬ叫び声をあげたれいむに松明を持っていたみょんも思わず後ろに下がる。 引火した火を消そうとれいむがゴロゴロと地面に転がり、その様子に周りで見ていたゆっくり達も後ろへと退いた。 「びゅぅべいぶのびゃびばぁぁ!!おびぼんぎゃあぁぁあぁぁ!!(でいぶのがみ”がぁぁぁ!!おりぼんがぁぁぁぁぁ!!)」 「ぶぁふへへ、ふぁりしゃあぁぁあ!!ぶあぁぁぁりじゃあ”ぁぁぁ!!(だすけてぇ、まりじゃあぁぁあ!!ま”あぁぁぁりざあ”ぁぁぁ!!)」 一度は死を覚悟しながらも、じわりじわりと蝕む苦しみに思わずれいむはまりさに助けを求める。 だが当然まりさは来ない。 身体の全水分を眼から垂れ流しながら、必死に愛するゆっくりの名前を叫びながられいむは転げ回るだけだ。 やがてそのまま全身に火が廻り焼け焦げてしまうかに思えたその様子を、たじろぐ事も無く見ていたはくれいむは後ろに控えていためいりんに合図を出す。 すると、めいりんが咥えた水の入った容器をれいむに投げつける様にぶつけ、辺りに水が飛び散ると共に見事に炎は鎮火された。 「まりさもひをけすのにきょうりょくしてやるんだぜ!!ぺっ!!」 「わかるよー、ちぇんもしーしーしてあげるねー♪」 そのまま痙攣を繰り返すだけの動かないれいむに対して、無情にもまりさは唾を吐き掛け、ちぇんもチロチロと尿を浴びせ掛ける。 その後に、ちぇんはれいむが死んでいるのか不思議そうに眺めていたが、 未だにプスプスと煙をあげてはいるものの、何とかれいむは生きているようだ。 「めいりん、そのゆっくりの縄を外して差し上げなさい」 「じゃお!?じゃおおおおおお!!」 戸惑いはしたものの、めいりんはれいむに結び付けられていた猿轡を外しに掛かった。 縄は半分焦げ付いていたので、結び目を解く必要も無く簡単に外れる。 そのままめいりんは、半分焦げ饅頭になったれいむの顔を覗き込んだ。 髪は以前の半分の所まで焼けて巻き上がり、アフロとまではいかなくても奇抜なものとなっていた。 その上リボンも所々焼け、穴がそこかしこに覗き、以前のれいむからは見る影も無い。 「……ゅひゅぅ……ゅひゅ……」 顔を近付けてみるとどうやら息をしている。 めいりんはホッと、ゆっくりには存在しない筈の胸を撫で下ろした。 今はこのようにはくれいむの部下となってはいるものの、めいりんは自身を群れに加え、 野生では虐められるのが当たり前の自分を一ゆっくりとして扱ってくれたれいむが好きであった。 ただ、反乱の時は突然の事でどちらに味方すれば判らず、オロオロしている内に群れははくれいむの手中に収まり、めいりんも言われるがままに部下となってしまった。 しかしそうは言ってもそう簡単に割り切れるものでは無く、このようにはくれいむの部下でありながらも気付かれずにれいむの身を案じる事もあった。 「めいりん、よく出来ました。ゆっくりお下がりなさい」 「じゃおぉぉぉ……」 「ゆ!?このばかめいりん。ゆっくりさがれとおっしゃってるんだぜ!!」 「じゃお!?」 はくれいむの呼び掛けにすぐに応えなかっためいりんに、まりさが身体をぶつける。 大した痛みは無いものの、目の前のれいむに何もして上げられない事を悔しく思い、めいりんは悲しい顔をしたまま後ろへと下がる。 残されたれいむは火傷の痛みだろうか、白目を向いたまま時折ビクリビクリとのた打ち回る。 「ゆふふ、今日はこのくらいかしらね」 れいむのその様子を満足そうに眺めながら、はくれいむは口元に笑みを浮かべる。 そのまま近くのゆっくりに何事かを囁くと、くるりと踵を返してその場を後にしようとした。 後ろには側近の者達が続き、後には命令を受けたゆっくりとその他に数匹のゆっくりが残る。 監視役とれいむの世話をする群れに長く居たゆっくりである。 はくれいむはこの様にして群れに長く留まっていたゆっくりの自分に対する忠義心を試し、旧体制の反乱の芽を潰すよう心掛けていた。 れいむの世話をしているゆっくりが何かしら不穏な動きをすれば監視役がそれを報告し、即座に対処する。 新たなる群れを作るのに不穏分子は早く潰すに越した事は無い。 敢えてれいむに近付け、その選別を行うのだ。 「あ、そうそう……」 突然ピタリと、はくれいむはその歩みを止め「今日はそなたの親友を招いていたのであった」と振り返らずに話し出す。 「先日であろうか、そなたを助けようとわらわ達に歯向かった愚か者達がおってな」 「確か主犯格はぱちゅりーと名乗る者だったらしいが……」 その言葉に、混濁していたれいむの意識が揺り動かされる。 れいむの最も信頼のおけるゆっくりの内の一匹。 子供の内から一緒に群れで暮らしてきたゆっくりに違いない。 「ちぇんよ、あれを持って来させよ」 「わかるよー♪」 はくれいむにそう言われたちぇんはピョンピョンと何処かに跳ねて行き、暫くすると何匹かのゆっくりが風呂敷に包まれた何かを引き摺るようにやってきた。 ゆっくりと、れいむの捕らえられた部屋へと風呂敷が運び込まれる。 「ぱ……ちゅ、りぃ……?」 グルリとれいむの眼が白目から黒目へと切り替わり、弱々しく声をあげる。 眼の前の風呂敷の中にぱちゅりーが居るのだろうか? 自分の為に捕らえられてしまったというのか? そんな疑問が浮かび、哀しみが込み上げて来る。 その一方で不謹慎ではあるが、今まで会う事が出来なかった仲間に会う事が出来る事への喜びが湧き上がったのは確かであった。 れいむのその眼に微かに光が戻ったのを確認すると、はくれいむが合図を出す。 するとばさりとその風呂敷が広げられ、そこには丸い物体が置かれていた。 紫色の帽子に月の飾りを付け、その更に紫色の美しい髪は昔のまま色褪せてはいない。 間違い無い、れいむの親友のぱちゅりーだ。 「ぱちゅ、ぱぢゅりー、よがっだ、いぎでだんだね」 もう、ろくに動かない身体をズリズリと動かして、そのぱちゅりーへと近付く。 半分焦げた身体に痛みがまだ有ろうが、眼の前に親友がやってきてくれた事でそんな事など気にもならなかった。 ジッとれいむの方を見詰めるぱちゅりーに少しづつ近付いて行く。 「ぱちゅりー……ぱちゅり……ぃ?」 やっと肌を接する程に近付いて、ある異変に気付く。 このぱちゅりー、先ほどから身動ぎ一つしないどころか、眼を開けたまま瞬き一つしないではないか。 それに近くで見ると判る。 肌が何処か変な、何と言うか乾いているというべきであろうか、あの瑞々しさが無い。 更に近付いて、肌を接してみるとあの柔らかいぱちゅりーの身体とは思えない、岩肌にも似た感触を覚える。 そのままぱちゅりーに呼び掛けながら、顔を覗き込む。 返事も無く、そしてその瞳は眼の前にいる筈のれいむを捕らえることも無く、何処かずっと遠くを見ているようだ。 光が無いその眼もやはり乾いていた。 周りのゆっくり達もその異常さに気付く。 「こ、これ……」 「それを作り出すのには苦労した」 異変に気付いたれいむの様子に、満足そうにしながらはくれいむは説明を始める。 「わらわの美意識からしても、反逆者とはいえそのぱちゅりーは中々に美ゆっくりであってな」 「どうにかして、その姿を永遠にゆっくりと留められないだろうかと思案したのじゃが……」 凍り付いた表情でれいむは、はくれいむへと視線を泳がす。 「他の反逆者に協力してもらって、どうにか作り上げる事に成功したわ」 「樹に吊るして下から炎で燻しあげる……そなたのような愚か者には理解出来ぬだろうが、燻製焼きというものであってな」 「ただ普通にやっては、他の反逆者のように最後は見るに耐えない悲惨な表情で死に絶えるものだから」 「そのぱちゅりーは飾りを取った後、全身にきつく布を巻きつけて表情が崩れぬよう工夫したのじゃ」 この眼の前のゆっくりは何を言っているのだろう? れいむはそんな表情で何も言えずにその言葉を聴き続けた。 「一番難しかったのは、閉じたままはつまらぬ故に事前に眼の周りを動かぬよう焼き固めておく事だったわ」 「その時には酷く抵抗しておった……むきゅむきゅと泣き叫びながら、そなたの名前も大声で叫んでおった」 「後は両目だけを覗かせ、先ほど説明したように蓑虫の様に布を巻きつけ吊り上げ、一晩中下から煙で燻し上げたのじゃが……」 「そこから覗く瞳はひたすらに涙だけを流し、赤ん坊のように潤んだそれは何処か愛おしさすら覚えたのぅ」 「絶命する随分前には、もはや瞳の水分は完全に失われて何も見えてはおらなかった様子だが」 途中から、れいむの頭の中を鐘がガンガンと打ち鳴らすように感覚を覚えた。 普通のゆっくりであればはくれいむの喋る事を半分も理解できなかったであろうが、半ば賢いだけにれいむはその残酷な情景を頭に浮かべてしまった。 先ほど自分が味わったあの苦しみと息苦しさを、ぱちゅりーは一晩中も味わわされたのだ。 そうでなくてもぱちゅりー種は元来ぜんそく持ちである。 少しのホコリや砂を呼吸が出来なくなる程、それを煙で燻し上げるなどどれほどの苦しみであろうか。 想像を絶する。 「ゆ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、ばぢゅりぃぃぃぃ!!くるしかったよね?ゆっくりできなかったよね?」 眼の前の最早形だけで命の無いぱちゅりーに、それでも頬をすり合わせて涙を流す。 れいむの頭にぱちゅりーと過ごした、数々の想い出が去来する。 まだ賢く無かった子供の頃に様々な事をぱちゅりーから学んだ。 群れの皆で協力して、れみりあを撃退した時に一緒に群れを指揮した事。 親友でありながらも師でもあったぱちゅりー。 まりさとの結婚で一番喜んでくれたのもぱちゅりーだった。 それらを思い起こすと、身体中の水分が涙となって流れ出していく。 それが段々と黒々しくなり、完全に餡子が流れ出しても止まる事は無かった。 そして少し前に、ぱちゅりーに会えると喜んだ自分を呪った。 そんな馬鹿な自分のせいでぱちゅりーが死んでしまった。 そう思えて仕方なかった――そして。 「ゆっぐじぃぃぃ……ごろじでやるぅぅぅぅ!!」 餡子の涙を流したその顔で、はくれいむの方へと向き直る。 その余りの迫力に、周りの取り巻きは怯えた表情を浮かべ、後ろへと思わず遠退く。 だが、肝心のはくれいむはというと、涼しげな表情でその様子を嬉しそうに眺めるばかりであった。 「ゆっぐじぃぃぃ、ゆっぐじぃぃぃぃ!!」 ずりずりと火傷で動かない身体を引き摺ってはくれいむの方へと向かう。 ゆっくりとは思えないどの行動の原動力は、凄まじい怒りに寄るものだろう。 それにハッとしたかのように、取り巻きのゆっくり達が間に割って入るがはくれいむは「ゆふふ、よいよい」とすぐさま退けさせた。 そのまま後少しで、はくれいむに喰いつける距離まで辿り着こうかという地点で、バタリとれいむは突っ伏すように顔を地面に向けて動かなくなってしまった。 「じゃ……じゃおおぉぉぉ!!」 近くで怯えながら見ていためいりんがすぐさま駆け付け状態を確かめる。 気絶しているだけで、どうやら死んではいないようだ。 だが、その顔は憤怒の表情で固まったまま動かない。 「じゃおおぉぉぉ!!じゃおぉぉぉ!!」 「なにやってるんだぜ、ゆっくりそいつにとどめをさすんだぜ!!」 取り巻きのまりさが声を張り上げる。 愛しのはくれいむを殺そうとしたそのれいむをそのままにしておくべきではないと思ったが、自分が近付いて殺す事は怖くて出来なかった。 めいりんは涙を流しながら顔を左右に振りそれを拒否する。 再びまりさが声を張り上げるがそれも拒否する。 「まりさのいうことがきけないばかめいりんなんて、ゆっくりできなくしてやるんだぜ!!」 「じゃ、じゃおおおぉぉぉん!!」 怒りのその言葉とゆっくり出来なくされると言われ、困惑するめいりん。 そんなやり取りと眺めていたはくれいむが、ゆっくりと指示を出す。 「ゆふふ、まだまだその愚か者にはゆっくりと楽しませて貰わなければならぬ」 そう言うと、周りで様子を見ていただけのゆっくり達にすぐさま治療に当たらせた。 どういう事かよく判らないといった表情のまりさも、ハッと我に返ると先ほどとは正反対に 「そのれいむをころすな」や「もしできなかったら、そいつらもゆっくりできなくするんだぜ」などと喚いている。 はくれいむはそれを暫く眺めていたが、ゆふふと笑い声をあげると踵を返して、今度こそは本当にその場を後にした。 そして更に一週間後、その洞窟の誰も知らない空洞の中を這いずるように一匹のゆっくりが進んでいた。 ゆっくりまりさである。 そのまりさはブツブツと何事か呟きながら、大人のゆっくりでは狭いその空洞の間を縫うように進み続ける。 その眼には何かしらの決意が見て取れた。 随分と進んだ後、開けた場所に出ると同時に一匹のゆっくりが目に付く。 反乱の一端を担っていてゆっくりみょんである。 見張りであろうか。 深夜のためうつらうつらと身を揺らせるそのみょんに気付かれぬよう、まりさは帽子から鋭く尖った木の枝を取り出す。 それを口に咥えると、ゆっくりとその背後へと近寄る。 すると突然、まりさの気配に気付いたのだろう。 みょんが振り向きそのまりさを確認すると、仲間を呼ぶために声を張り上げようと身体を膨らます。 その一瞬の間に、まりさはゆっくりしないで口に咥えた凶器をみょんへと突き刺す。 何が起こったのかイマイチ理解出来てないみょんの身体の中心を抉るようにそれを掻き回し素早く抜き取る。 するとそこから大量の餡子が噴出しだす。 みょんの眼は次第に生気を失い白目を剥き最後には、 「ぱ、ぱいぷ…かっとぉ……」 と呟き、その場に力無く倒れた。 まりさはそのみょんの最後を悲しそうな眼で見遣った後、帽子を被り直して先へと進み始めた。 この程度の事で感傷に浸っている場合じゃない。 そうまりさは自身に言い聞かせているようあった。 「れいむ、ゆっくりまっててね……まりさがぜったいにたすけだしてやるからね」 続く 後書き・はくれいむの喋り方はハクレイ4000年の歴史のせいでしょう。 by推進委員会の人 このSSに感想を付ける
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乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
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乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
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注・ゆっくりらしからぬゆっくりが出ます。 幻想郷の人里から少し離れた場所に緑の森が有る。 その森に住んでいるゆっくり達はとても幸せだった。 何故ならここには外敵である筈のれみりゃなどもほとんどやって来る事も無く、人里の人間も好んで立ち入る事も無かった。 時折、無謀なゆっくりが人里に悪さをしに行く場合も有ったが、再犯でもしない限りは直ぐに殺される事も無い。 流石に2,3度となれば別だが、そこまでの再犯を重ねるゆっくりで有れば、逆に人間に裁いて貰った方が平和になる。 幻想郷の人間は融和的で、罪を犯したゆっくりとその他のゆっくりを混同するなどという、短絡的で愚かな考えはしなかった。 その為、狩りや木の実の採取に長けたゆっくりまりさと、ぱちゅりーにも負けない明晰な頭脳を持ったれいむが率いるその群れは、 仲間同士で争う事も無く、困った事が有れば群れの仲間同士で協力し日々を謳歌していた。 ある越冬の時では、食料が芳しくない家の者に群れのゆっくり達が少しづつ食料を提供し、その家族は無事一匹も欠ける事無く冬を越した。 ある梅雨の季節では、暴風で破壊されたゆっくりの家が有ったが、群れのリーダーであるまりさはその家が直るまで住人を快く自らの家へと招き入れた。 相互扶助。 その群れのゆっくり達は全て、その言葉は知らずとも、その行動を実行する事が出来た。 かつ、いつまでも他の者に頼るなどという甘い考えのゆっくりなどは存在せず、この群れはとても良好に機能していた。 やがてそのまりさとれいむは群れの皆から祝福され結婚して家族となり、より一層の繁栄を為し得るかに見えた。 そう、一週間程前までは。 「ゆぅぅ、なんでこんなことに・・・」 薄暗い洞窟の奥で、ボロボロの身なりのれいむが居た。 少し前まで群れの長であったれいむである。 黒々とした艶の有った髪も見る影も無く荒れ、頭のリボンもネズミにでも齧られたかのように所々千切れている。 それにも増して、かなりの暴行を受けたのだろうか、その身体にはそこかしこに真新しい傷が出来ていた。 その場所にしても、洞窟の中の狭い一室の入り口を柵で覆い、まるで牢屋のように作られている事から、その状況が尋常で無いのは一目瞭然であった。 「まりさたちはだいじょうぶかなぁ・・・」 いつまでも続くかに思えた幸せの時を思い出してしまい思わず嗚咽が漏れる。 最愛のゆっくりを思い浮かべると涙が零れる。 部屋の片隅で丸い身体を震わせ、えぐえぐとただ悲嘆に暮れなき続けるしか、今のれいむには出来る事は無かった。 一週間前、群れで大規模な反乱が起こった。 その反乱により、群れを率いていた群れの幹部達の多くは捕らえられてしまったのだ。 夫であるまりさと子供達は間一髪の所で逃げ出す事に成功したが、れいむはその時自ら犠牲となり囚われの身となってしまった。 「ゆふふ、惨めなものね」 そんなれいむを嘲笑うような声が聞こえたかと思うと、数匹のゆっくりがその部屋の中に入ってくる。 先頭のゆっくりは普通のゆっくりには扱えぬ筈の火の付いた松明を口に咥えている為、部屋の中が一気に明るくなった。 ほとんどは数週間前に群れにやってきた新参のゆっくり達だが、中には昔から群れに住んでいた見慣れた顔のゆっくりも居る。 そして遅れて入ってきたゆっくり。 煌びやかな髪が松明の炎に照らされて鮮やかな光を放ち、その優雅な佇まいにはゆっくりで有りながらも何処か厳かな雰囲気を漂わせる。 薄暗い洞窟の中でそのゆっくりの存在感は一層際立ち、周りの者の眼を引く。 「ゆっ!?おまえは……ゆっくりしねぇ!!」 涙を流していたれいむであったが、その姿を一目見た瞬間、まるで鬼にでも取り付かれたかのような形相に変わり目の前のゆっくりに飛び掛かろうとした。 だが、周りの者達がすぐさま盾となりそれを阻み、れいむを跳ね飛ばす。 そのまま壁に叩き付けられ「ゆぐぅ」と短い呻き声を上げたれいむに、追い討ちとばかりに数匹のゆっくりが圧し掛かる。 「いつもむだなことをしないでね!!ゆっくりりかいしてね!!」 「いたいよ、ゆっくりやめっ、てびゅっ!!やめて、に”ゅ!!」 「ちーんぽ!!ちーんぽ!!」 まりさ種やみょん種、中には同種のれいむ種まで居る。 それらは足元のれいむの声などに一切耳を貸さずにひたすら飛び跳ねれいむを苦しめる。 数は元よりろくに食事も食べていない弱ったれいむは成す術も無く、そこから逃げ出す体力も無い。 「ゆぐっ、やめ”、びょひゅ……いだい”よ、ゆっぐりぃ」 「おお、よわいよわい」 「な”んでごんな……ゆべっ!!ゆびぃ!!」 反論を挟む余地の無い暴力。 段々とれいむの眼から生気が失われていき、その叫び声も「ゆぐっ!!ゆげぇ!!」から「ゅみゅ…、ゅきゅ……」と弱々しくなっていく。 淡々と行われるその暴行を冷ややかな眼で見詰めていたあのゆっくりがズイッと前に出ると、周りの者はそれに反応してすぐさまその場から飛び退いた。 後に残されたのは、その口から餡子を垂れ流し、楕円形の形になってしまった瀕死のれいむである。 「ゅ……ゅ……」 「おやおや、わらわがわざわざ会いに来てさしあげたのに、あなたはもうゆっくり死んでしまいますの?」 ビクビクと痙攣を始めたれいむの前で、明らかに他のゆっくりとは違う流暢な話し言葉で呼び掛けた。 すると、このまま死んでしまうかに見えたれいむの眼に少しだけ光が戻る。 そして動かぬ身体で眼だけを動かし、眼の前のそのゆっくりを憤怒の炎が宿った眼で睨み付けたのだ。 「ゆぐぐ…このぉ、おんしらずのゆっぐりめぇ……」 「ゆふふ、わらわはそなたの様なゆっくりに受けた恩など覚えがありませぬ」 「ゆぎぃぃ!!きさまなんか、れいむとおなじれいむなんておもえないよ!!」 憎しみを込めて力一杯に叫ぶと同時に、横から別のゆっくりが体当たりをし、れいむは又もや吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。 「おまえのようなゆっくりとおなじにするなだぜ!!はくれいむさまとおよびするんだぜ!!」 取り巻きの一匹であるまりさが体当たりをし、そうれいむに対して叫ぶ。 その後ちらりと、はくれいむと呼ばれたゆっくりれいむに眼を向け、ニヤリと口元を歪ませる。 はくれいむに惚れているのだろうか。 まりさなりのアピールを欠かさない。 はくれいむと呼ばれたそのゆっくりはれいむ種でありながられいむ種ではなかった。 髪は透き通るように白く普通のれいむ種の黒とは対極にあり、暗闇の中でもその存在感は際立っていた。 更には頭に付けられているれいむ種のトレードマークであるリボンも、赤い部分は真っ白に染め上げられ、その姿は正に「はくれいむ」と呼ぶに相応しかった。 姿だけでは無い。 その雰囲気もれいむ種どころか、他のゆっくりと一戦を隔す程に厳かで幽玄。 ゆっくりでありながらも、カリスマと言うべきだろうか、他ゆっくりを引き付ける何か持っている。 だがその本質は残酷で冷徹。 一ヶ月程前に数匹の取り巻きと群れに加わり、独自のやり方で群れの指導者に気付かれずに多くの仲間を作っていき、 瞬く間に反乱を起こして群れを乗っ取った。 そう、彼女こそが例の反乱の主導者であり、眼の前のれいむの幸せを打ち砕いたゆっくりなのだ。 そして一方のれいむは打ち付けられた衝撃と積み重なった暴行のダメージで「ゆべぇぇぇ!!」と汚らしく餡子を吐き出し続けるばかりである。 「おお、ぶざまぶざま。わらわがこのようなゆっくりと同じなど、考えただけでおぞましい」 そんなれいむの様子を中傷した笑みで見ながらそう呟くと、周りの者も全くだとばかりに笑いの声をあげる。 れいむは言い返す気力も無く、ただただ餡子と涙を吐き出し続けるだけであった。 クスクスと笑いながらその様子を暫く眺めていたはくれいむであったが、ふと思い出したようにれいむに問い掛ける。 「……ところで、あなたの夫であるまりさは何処にいるのかしら?」 かなりの量の餡子を吐き出し若干落ち着いたれいむは、その言葉にピクリと反応する。 だが、返答する気配は見せず貝のように押し黙ったままだ。 「はくれいむさまがしつもんしているんだぜ、ゆっくりこたえるんだぜ!!」 「……ゅ、なんどきてもれいむはこたえないよ」 一瞬言葉に詰まった。 ここに来てから何度も尋問され、その度に拒否をして暴行が行われる。 餡子脳であるがその恐怖はこの一週間でしっかりと刻まれ、その痛みと恐怖を思い出して少し言葉に詰まった。 だが、れいむは愛するまりさを裏切る気など毛頭無い。 例えこのまま殺されても絶対に喋らないと、そう心に誓っていたのだ。 「ゆゆっ!?うそをつくんじゃないぜ、おまえがにがしたんだからどこにいったかしっているはずなんだぜ!!」 「れいむはしらないっていってるよ……ゆっくりりかいしてね」 「ゆぎぃ!!おまえそんなことをいってどうなるかわかっているんだぜ!?」 れいむの馬鹿にしたような受け応えに、頭に青筋を浮かべそうな程に真っ赤になりながらまりさは凄む。 だが、周りは敵だらけというそんな状況でもれいむは怯えた表情も出さず、その口元に笑みを浮かべ。 「でも……まりさならめのまえにいるよ?」 「ゆっ?どこなんだぜ!?」 そうれいむが呟くとまりさはキョロキョロと見渡すが、何故か周りのゆっくりは一斉にそのまりさの方を見る。 「ゆぅぅ、でもわたしのしっているまりさとはちがうみたいだね」 「ゆ?どういうことなんだぜ?」 「わたしのしっているまりさとちがって、ばかでゴミくずでまったくゆっくりできてないね」 「ゆゆっ!??」 れいむのその言葉に唖然となり、その餡子脳に考えを巡らす。 このれいむはなにをいっているんだぜ? まりさがきいているのはむれをひきいていただめまりさで、ここにいるのはこのさいきょうまりささまだけなんだぜ。 そのうえ、ばかでゴミくずでゆっくりできない? だれのことをいってるんだぜ? 暫くグルグルと考えを巡らすと、流石のまりさにもどういう事か理解出来てきた。 れいむはしてやったりという風にその口元に中傷の笑みを浮かべる。 「ゆぅ!!こ、こいつ、このまりささまをばかにしてるんだぜ!?」 「ゆゆっ、ゆっくりりかいできたんだね。ゴミくずからオガクズにいいかえてあげるね」 湯気が出そうな程に全身を真っ赤にして、瀕死のれいむ今にも飛び掛らんとするまりさ。 その様子に怯む事無くれいむは更に罵倒を続ける。 「あかくなったらつよくなるとでもおもってるの?さんばいなの?しぬの?」 「ゆぎぃぃぃ、まりさはおこったんだぜぇぇ!!ゆっくりしねぇ!!」 このまま嬲り者にされたまま生き長らえるくらいなら、このまま死んだ方が良いとれいむは思っていた。 そうすれば、れいむを助けに来ようとするまりさを危険な目にあわせる事も無い。 ただ一つ心残りが有るとすれば、最後に一度で良いから愛する家族に会いたかった。 それを思うとやはり涙が零れる。 そして死が怖くなり、段々と震えが起きそうになる。 れいむはそんな湧き上がるものを、歯が欠けそうなほどに奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。 こんな非常なゆっくり達にこれ以上惨めな姿を晒さないためである。 まりさが地を蹴る瞬間、れいむはそっと眼を瞑る。 すると死ぬ事への恐怖も不思議と消えていった。 はくれいむに一矢報いたかったが、この馬鹿なまりさに屈辱を味あわせてやっただけで満足しよう。 れいむはそう思った。 「ゆっくりお止めなさい!!」 突然、その部屋に怒声が響く。 その声にれいむを殺そうとすべく飛び上がる瞬間のまりさは身を竦めて動きを止める。 周りの者も眼を丸くして、はくれいむの方を見遣る。 「おお、愚か愚か。そのようなゆっくりの罵詈雑言に耳を傾けるとは」 「ゆぅ……でもはくれいむさま、こいつはまりさのことをばかにして……」 「お黙りなさいな。このゆっくりは死ぬ気力も無いから口先であなたを煽動し自らを殺そうとしているだけなのですよ」 「ゅぅ……」 「それにこれ以上やっては死んでしまいます。このゆっくりにはまだまだ役に立って貰わないと」 まりさは、はくれいむにそう諭され眼を地面に落とす。 格好良い所を見せようと張り切ったつもりがこんな事になるとは思っていなかった。 「ゆふぅ……あなたはまだまだ激流にゆっくりと身を任せる事が出来てないようですわね」 そんな様子のまりさにはくれいむはそう呟き、一瞥する。 その顔はこの世の終わりとでも言おうか、先ほどから一転、真っ青に血の気が引いている。 「ですが、あなたの忠義心は十分に評価していますわ。今後もわらわの部下として精進なさい」 思いも寄らぬ言葉。 それを聞いてまりさの表情はぱっと華やいだ。 二転三転、器用なものである。 しかし、はくれいむのその飴と鞭の使い分け様はやはり他のゆっくりには真似が出来るものではなかった。 周りで見ている者達も、仲間といえどまりさの馬鹿さ加減に呆れる一方で有ったが、逆にそれを許すはくれいむの懐の深さを際立たせる所となった。 そしてはくれいむにとってこの一連の流れは十分に計算通りのものであり、愚かなまりさを傍に置いている理由の一つでもある。 正に悪のカリスマというべきであろうか。 「ゆゆっ、そんなことをいいながられいむをころすどきょうがないだけなんだよね!!」 その一連のやり取りの中、れいむが声を上げる。 はくれいむを挑発しているのだ。 「ゆふふ、愚か者は声だけは立派に張り上げますのね」 「そうやってゆっくりしてられるのもいまのうちだけだよ、はやくれいむをころさないと、ゆぐっ!!?」 そんなれいむの言葉を遮る様に周りのゆっくり達が二匹回り込み、その口に縄を噛ませる。 れいむはモガモガと口を動かすが一向に外れようとしない。 後ろでちぇんが器用にその縄を結び、猿轡が完成した。 れいむの唯一の抵抗を不可能にし、これ以上餡子を吐かれたりするのを防ぐためである。 「ふぁにするの!?ふっぐぃ、ふぁずしてね!!(なにするの!?ゆっくりはずしてね!!)」 「なにいってるかわからないよー♪」 ちぇんのその言葉に周りのゆっくりは苦笑し、バタバタと暴れるれいむに冷ややかな視線を浴びせる。 そして、はくれいむは周りの一匹に目配せした。 松明を咥えたゆっくりみょんである。 そのままみょんはじりじりとその松明をれいむへと近付けて行く。 「ふぐっ!!ふぁぐいよ、ふっぐりふぁがれてね!!(ゆぐっ!!あついよ、ゆっくりはなれてね!!)」 「ふぁめてね!!ふぁ……あ”ぐぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!(やめてね!!やめ……あづぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!)」 壁に追い込まれたれいむの身体にその松明の先端が押し付けられる。 逃げる事も適わずにその肌は焼け焦げていき、チリチリと髪が焼け千切れていく。 左右に避けようとしても、周りのゆっくりに押し戻される。 「ふ”ぇい”ぶが、ふぉべち”ゃう!!ふぉべちぁうっべばぁぁぁぁ!!(れいむが、こげちゃう!!こげちゃうってばぁぁぁぁ!!)」 「ゆへへ、さっきまでのいせいはどこいったんだぜ?」 まともな言葉も出せずに涙を流して壁へと張り付くれいむの無様な姿を見て、先ほどのまりさも溜飲が下がったようだ。 必死の形相のれいむに構わず、みょんはグイグイとその火をれいむに押し付ける。 辺りには焼き饅頭の香ばしい匂いが立ち込め、それが段々と焦げた匂いへと変わっていく。 すると急に、ぼわっとれいむの頭に火の手が上がる。 本格的に髪に引火してしまったのだろう。 「ふぎゅあ”ぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁあぁ!!」 頭に火を付けて眼を見開き、言葉に成らぬ叫び声をあげたれいむに松明を持っていたみょんも思わず後ろに下がる。 引火した火を消そうとれいむがゴロゴロと地面に転がり、その様子に周りで見ていたゆっくり達も後ろへと退いた。 「びゅぅべいぶのびゃびばぁぁ!!おびぼんぎゃあぁぁあぁぁ!!(でいぶのがみ”がぁぁぁ!!おりぼんがぁぁぁぁぁ!!)」 「ぶぁふへへ、ふぁりしゃあぁぁあ!!ぶあぁぁぁりじゃあ”ぁぁぁ!!(だすけてぇ、まりじゃあぁぁあ!!ま”あぁぁぁりざあ”ぁぁぁ!!)」 一度は死を覚悟しながらも、じわりじわりと蝕む苦しみに思わずれいむはまりさに助けを求める。 だが当然まりさは来ない。 身体の全水分を眼から垂れ流しながら、必死に愛するゆっくりの名前を叫びながられいむは転げ回るだけだ。 やがてそのまま全身に火が廻り焼け焦げてしまうかに思えたその様子を、たじろぐ事も無く見ていたはくれいむは後ろに控えていためいりんに合図を出す。 すると、めいりんが咥えた水の入った容器をれいむに投げつける様にぶつけ、辺りに水が飛び散ると共に見事に炎は鎮火された。 「まりさもひをけすのにきょうりょくしてやるんだぜ!!ぺっ!!」 「わかるよー、ちぇんもしーしーしてあげるねー♪」 そのまま痙攣を繰り返すだけの動かないれいむに対して、無情にもまりさは唾を吐き掛け、ちぇんもチロチロと尿を浴びせ掛ける。 その後に、ちぇんはれいむが死んでいるのか不思議そうに眺めていたが、 未だにプスプスと煙をあげてはいるものの、何とかれいむは生きているようだ。 「めいりん、そのゆっくりの縄を外して差し上げなさい」 「じゃお!?じゃおおおおおお!!」 戸惑いはしたものの、めいりんはれいむに結び付けられていた猿轡を外しに掛かった。 縄は半分焦げ付いていたので、結び目を解く必要も無く簡単に外れる。 そのままめいりんは、半分焦げ饅頭になったれいむの顔を覗き込んだ。 髪は以前の半分の所まで焼けて巻き上がり、アフロとまではいかなくても奇抜なものとなっていた。 その上リボンも所々焼け、穴がそこかしこに覗き、以前のれいむからは見る影も無い。 「……ゅひゅぅ……ゅひゅ……」 顔を近付けてみるとどうやら息をしている。 めいりんはホッと、ゆっくりには存在しない筈の胸を撫で下ろした。 今はこのようにはくれいむの部下となってはいるものの、めいりんは自身を群れに加え、 野生では虐められるのが当たり前の自分を一ゆっくりとして扱ってくれたれいむが好きであった。 ただ、反乱の時は突然の事でどちらに味方すれば判らず、オロオロしている内に群れははくれいむの手中に収まり、めいりんも言われるがままに部下となってしまった。 しかしそうは言ってもそう簡単に割り切れるものでは無く、このようにはくれいむの部下でありながらも気付かれずにれいむの身を案じる事もあった。 「めいりん、よく出来ました。ゆっくりお下がりなさい」 「じゃおぉぉぉ……」 「ゆ!?このばかめいりん。ゆっくりさがれとおっしゃってるんだぜ!!」 「じゃお!?」 はくれいむの呼び掛けにすぐに応えなかっためいりんに、まりさが身体をぶつける。 大した痛みは無いものの、目の前のれいむに何もして上げられない事を悔しく思い、めいりんは悲しい顔をしたまま後ろへと下がる。 残されたれいむは火傷の痛みだろうか、白目を向いたまま時折ビクリビクリとのた打ち回る。 「ゆふふ、今日はこのくらいかしらね」 れいむのその様子を満足そうに眺めながら、はくれいむは口元に笑みを浮かべる。 そのまま近くのゆっくりに何事かを囁くと、くるりと踵を返してその場を後にしようとした。 後ろには側近の者達が続き、後には命令を受けたゆっくりとその他に数匹のゆっくりが残る。 監視役とれいむの世話をする群れに長く居たゆっくりである。 はくれいむはこの様にして群れに長く留まっていたゆっくりの自分に対する忠義心を試し、旧体制の反乱の芽を潰すよう心掛けていた。 れいむの世話をしているゆっくりが何かしら不穏な動きをすれば監視役がそれを報告し、即座に対処する。 新たなる群れを作るのに不穏分子は早く潰すに越した事は無い。 敢えてれいむに近付け、その選別を行うのだ。 「あ、そうそう……」 突然ピタリと、はくれいむはその歩みを止め「今日はそなたの親友を招いていたのであった」と振り返らずに話し出す。 「先日であろうか、そなたを助けようとわらわ達に歯向かった愚か者達がおってな」 「確か主犯格はぱちゅりーと名乗る者だったらしいが……」 その言葉に、混濁していたれいむの意識が揺り動かされる。 れいむの最も信頼のおけるゆっくりの内の一匹。 子供の内から一緒に群れで暮らしてきたゆっくりに違いない。 「ちぇんよ、あれを持って来させよ」 「わかるよー♪」 はくれいむにそう言われたちぇんはピョンピョンと何処かに跳ねて行き、暫くすると何匹かのゆっくりが風呂敷に包まれた何かを引き摺るようにやってきた。 ゆっくりと、れいむの捕らえられた部屋へと風呂敷が運び込まれる。 「ぱ……ちゅ、りぃ……?」 グルリとれいむの眼が白目から黒目へと切り替わり、弱々しく声をあげる。 眼の前の風呂敷の中にぱちゅりーが居るのだろうか? 自分の為に捕らえられてしまったというのか? そんな疑問が浮かび、哀しみが込み上げて来る。 その一方で不謹慎ではあるが、今まで会う事が出来なかった仲間に会う事が出来る事への喜びが湧き上がったのは確かであった。 れいむのその眼に微かに光が戻ったのを確認すると、はくれいむが合図を出す。 するとばさりとその風呂敷が広げられ、そこには丸い物体が置かれていた。 紫色の帽子に月の飾りを付け、その更に紫色の美しい髪は昔のまま色褪せてはいない。 間違い無い、れいむの親友のぱちゅりーだ。 「ぱちゅ、ぱぢゅりー、よがっだ、いぎでだんだね」 もう、ろくに動かない身体をズリズリと動かして、そのぱちゅりーへと近付く。 半分焦げた身体に痛みがまだ有ろうが、眼の前に親友がやってきてくれた事でそんな事など気にもならなかった。 ジッとれいむの方を見詰めるぱちゅりーに少しづつ近付いて行く。 「ぱちゅりー……ぱちゅり……ぃ?」 やっと肌を接する程に近付いて、ある異変に気付く。 このぱちゅりー、先ほどから身動ぎ一つしないどころか、眼を開けたまま瞬き一つしないではないか。 それに近くで見ると判る。 肌が何処か変な、何と言うか乾いているというべきであろうか、あの瑞々しさが無い。 更に近付いて、肌を接してみるとあの柔らかいぱちゅりーの身体とは思えない、岩肌にも似た感触を覚える。 そのままぱちゅりーに呼び掛けながら、顔を覗き込む。 返事も無く、そしてその瞳は眼の前にいる筈のれいむを捕らえることも無く、何処かずっと遠くを見ているようだ。 光が無いその眼もやはり乾いていた。 周りのゆっくり達もその異常さに気付く。 「こ、これ……」 「それを作り出すのには苦労した」 異変に気付いたれいむの様子に、満足そうにしながらはくれいむは説明を始める。 「わらわの美意識からしても、反逆者とはいえそのぱちゅりーは中々に美ゆっくりであってな」 「どうにかして、その姿を永遠にゆっくりと留められないだろうかと思案したのじゃが……」 凍り付いた表情でれいむは、はくれいむへと視線を泳がす。 「他の反逆者に協力してもらって、どうにか作り上げる事に成功したわ」 「樹に吊るして下から炎で燻しあげる……そなたのような愚か者には理解出来ぬだろうが、燻製焼きというものであってな」 「ただ普通にやっては、他の反逆者のように最後は見るに耐えない悲惨な表情で死に絶えるものだから」 「そのぱちゅりーは飾りを取った後、全身にきつく布を巻きつけて表情が崩れぬよう工夫したのじゃ」 この眼の前のゆっくりは何を言っているのだろう? れいむはそんな表情で何も言えずにその言葉を聴き続けた。 「一番難しかったのは、閉じたままはつまらぬ故に事前に眼の周りを動かぬよう焼き固めておく事だったわ」 「その時には酷く抵抗しておった……むきゅむきゅと泣き叫びながら、そなたの名前も大声で叫んでおった」 「後は両目だけを覗かせ、先ほど説明したように蓑虫の様に布を巻きつけ吊り上げ、一晩中下から煙で燻し上げたのじゃが……」 「そこから覗く瞳はひたすらに涙だけを流し、赤ん坊のように潤んだそれは何処か愛おしさすら覚えたのぅ」 「絶命する随分前には、もはや瞳の水分は完全に失われて何も見えてはおらなかった様子だが」 途中から、れいむの頭の中を鐘がガンガンと打ち鳴らすように感覚を覚えた。 普通のゆっくりであればはくれいむの喋る事を半分も理解できなかったであろうが、半ば賢いだけにれいむはその残酷な情景を頭に浮かべてしまった。 先ほど自分が味わったあの苦しみと息苦しさを、ぱちゅりーは一晩中も味わわされたのだ。 そうでなくてもぱちゅりー種は元来ぜんそく持ちである。 少しのホコリや砂を呼吸が出来なくなる程、それを煙で燻し上げるなどどれほどの苦しみであろうか。 想像を絶する。 「ゆ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、ばぢゅりぃぃぃぃ!!くるしかったよね?ゆっくりできなかったよね?」 眼の前の最早形だけで命の無いぱちゅりーに、それでも頬をすり合わせて涙を流す。 れいむの頭にぱちゅりーと過ごした、数々の想い出が去来する。 まだ賢く無かった子供の頃に様々な事をぱちゅりーから学んだ。 群れの皆で協力して、れみりあを撃退した時に一緒に群れを指揮した事。 親友でありながらも師でもあったぱちゅりー。 まりさとの結婚で一番喜んでくれたのもぱちゅりーだった。 それらを思い起こすと、身体中の水分が涙となって流れ出していく。 それが段々と黒々しくなり、完全に餡子が流れ出しても止まる事は無かった。 そして少し前に、ぱちゅりーに会えると喜んだ自分を呪った。 そんな馬鹿な自分のせいでぱちゅりーが死んでしまった。 そう思えて仕方なかった――そして。 「ゆっぐじぃぃぃ……ごろじでやるぅぅぅぅ!!」 餡子の涙を流したその顔で、はくれいむの方へと向き直る。 その余りの迫力に、周りの取り巻きは怯えた表情を浮かべ、後ろへと思わず遠退く。 だが、肝心のはくれいむはというと、涼しげな表情でその様子を嬉しそうに眺めるばかりであった。 「ゆっぐじぃぃぃ、ゆっぐじぃぃぃぃ!!」 ずりずりと火傷で動かない身体を引き摺ってはくれいむの方へと向かう。 ゆっくりとは思えないどの行動の原動力は、凄まじい怒りに寄るものだろう。 それにハッとしたかのように、取り巻きのゆっくり達が間に割って入るがはくれいむは「ゆふふ、よいよい」とすぐさま退けさせた。 そのまま後少しで、はくれいむに喰いつける距離まで辿り着こうかという地点で、バタリとれいむは突っ伏すように顔を地面に向けて動かなくなってしまった。 「じゃ……じゃおおぉぉぉ!!」 近くで怯えながら見ていためいりんがすぐさま駆け付け状態を確かめる。 気絶しているだけで、どうやら死んではいないようだ。 だが、その顔は憤怒の表情で固まったまま動かない。 「じゃおおぉぉぉ!!じゃおぉぉぉ!!」 「なにやってるんだぜ、ゆっくりそいつにとどめをさすんだぜ!!」 取り巻きのまりさが声を張り上げる。 愛しのはくれいむを殺そうとしたそのれいむをそのままにしておくべきではないと思ったが、自分が近付いて殺す事は怖くて出来なかった。 めいりんは涙を流しながら顔を左右に振りそれを拒否する。 再びまりさが声を張り上げるがそれも拒否する。 「まりさのいうことがきけないばかめいりんなんて、ゆっくりできなくしてやるんだぜ!!」 「じゃ、じゃおおおぉぉぉん!!」 怒りのその言葉とゆっくり出来なくされると言われ、困惑するめいりん。 そんなやり取りと眺めていたはくれいむが、ゆっくりと指示を出す。 「ゆふふ、まだまだその愚か者にはゆっくりと楽しませて貰わなければならぬ」 そう言うと、周りで様子を見ていただけのゆっくり達にすぐさま治療に当たらせた。 どういう事かよく判らないといった表情のまりさも、ハッと我に返ると先ほどとは正反対に 「そのれいむをころすな」や「もしできなかったら、そいつらもゆっくりできなくするんだぜ」などと喚いている。 はくれいむはそれを暫く眺めていたが、ゆふふと笑い声をあげると踵を返して、今度こそは本当にその場を後にした。 そして更に一週間後、その洞窟の誰も知らない空洞の中を這いずるように一匹のゆっくりが進んでいた。 ゆっくりまりさである。 そのまりさはブツブツと何事か呟きながら、大人のゆっくりでは狭いその空洞の間を縫うように進み続ける。 その眼には何かしらの決意が見て取れた。 随分と進んだ後、開けた場所に出ると同時に一匹のゆっくりが目に付く。 反乱の一端を担っていてゆっくりみょんである。 見張りであろうか。 深夜のためうつらうつらと身を揺らせるそのみょんに気付かれぬよう、まりさは帽子から鋭く尖った木の枝を取り出す。 それを口に咥えると、ゆっくりとその背後へと近寄る。 すると突然、まりさの気配に気付いたのだろう。 みょんが振り向きそのまりさを確認すると、仲間を呼ぶために声を張り上げようと身体を膨らます。 その一瞬の間に、まりさはゆっくりしないで口に咥えた凶器をみょんへと突き刺す。 何が起こったのかイマイチ理解出来てないみょんの身体の中心を抉るようにそれを掻き回し素早く抜き取る。 するとそこから大量の餡子が噴出しだす。 みょんの眼は次第に生気を失い白目を剥き最後には、 「ぱ、ぱいぷ…かっとぉ……」 と呟き、その場に力無く倒れた。 まりさはそのみょんの最後を悲しそうな眼で見遣った後、帽子を被り直して先へと進み始めた。 この程度の事で感傷に浸っている場合じゃない。 そうまりさは自身に言い聞かせているようあった。 「れいむ、ゆっくりまっててね……まりさがぜったいにたすけだしてやるからね」 続く 後書き・はくれいむの喋り方はハクレイ4000年の歴史のせいでしょう。 by推進委員会の人 このSSに感想を付ける
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注・ゆっくりらしからぬゆっくりが出ます。 幻想郷の人里から少し離れた場所に緑の森が有る。 その森に住んでいるゆっくり達はとても幸せだった。 何故ならここには外敵である筈のれみりゃなどもほとんどやって来る事も無く、人里の人間も好んで立ち入る事も無かった。 時折、無謀なゆっくりが人里に悪さをしに行く場合も有ったが、再犯でもしない限りは直ぐに殺される事も無い。 流石に2,3度となれば別だが、そこまでの再犯を重ねるゆっくりで有れば、逆に人間に裁いて貰った方が平和になる。 幻想郷の人間は融和的で、罪を犯したゆっくりとその他のゆっくりを混同するなどという、短絡的で愚かな考えはしなかった。 その為、狩りや木の実の採取に長けたゆっくりまりさと、ぱちゅりーにも負けない明晰な頭脳を持ったれいむが率いるその群れは、 仲間同士で争う事も無く、困った事が有れば群れの仲間同士で協力し日々を謳歌していた。 ある越冬の時では、食料が芳しくない家の者に群れのゆっくり達が少しづつ食料を提供し、その家族は無事一匹も欠ける事無く冬を越した。 ある梅雨の季節では、暴風で破壊されたゆっくりの家が有ったが、群れのリーダーであるまりさはその家が直るまで住人を快く自らの家へと招き入れた。 相互扶助。 その群れのゆっくり達は全て、その言葉は知らずとも、その行動を実行する事が出来た。 かつ、いつまでも他の者に頼るなどという甘い考えのゆっくりなどは存在せず、この群れはとても良好に機能していた。 やがてそのまりさとれいむは群れの皆から祝福され結婚して家族となり、より一層の繁栄を為し得るかに見えた。 そう、一週間程前までは。 「ゆぅぅ、なんでこんなことに・・・」 薄暗い洞窟の奥で、ボロボロの身なりのれいむが居た。 少し前まで群れの長であったれいむである。 黒々とした艶の有った髪も見る影も無く荒れ、頭のリボンもネズミにでも齧られたかのように所々千切れている。 それにも増して、かなりの暴行を受けたのだろうか、その身体にはそこかしこに真新しい傷が出来ていた。 その場所にしても、洞窟の中の狭い一室の入り口を柵で覆い、まるで牢屋のように作られている事から、その状況が尋常で無いのは一目瞭然であった。 「まりさたちはだいじょうぶかなぁ・・・」 いつまでも続くかに思えた幸せの時を思い出してしまい思わず嗚咽が漏れる。 最愛のゆっくりを思い浮かべると涙が零れる。 部屋の片隅で丸い身体を震わせ、えぐえぐとただ悲嘆に暮れなき続けるしか、今のれいむには出来る事は無かった。 一週間前、群れで大規模な反乱が起こった。 その反乱により、群れを率いていた群れの幹部達の多くは捕らえられてしまったのだ。 夫であるまりさと子供達は間一髪の所で逃げ出す事に成功したが、れいむはその時自ら犠牲となり囚われの身となってしまった。 「ゆふふ、惨めなものね」 そんなれいむを嘲笑うような声が聞こえたかと思うと、数匹のゆっくりがその部屋の中に入ってくる。 先頭のゆっくりは普通のゆっくりには扱えぬ筈の火の付いた松明を口に咥えている為、部屋の中が一気に明るくなった。 ほとんどは数週間前に群れにやってきた新参のゆっくり達だが、中には昔から群れに住んでいた見慣れた顔のゆっくりも居る。 そして遅れて入ってきたゆっくり。 煌びやかな髪が松明の炎に照らされて鮮やかな光を放ち、その優雅な佇まいにはゆっくりで有りながらも何処か厳かな雰囲気を漂わせる。 薄暗い洞窟の中でそのゆっくりの存在感は一層際立ち、周りの者の眼を引く。 「ゆっ!?おまえは……ゆっくりしねぇ!!」 涙を流していたれいむであったが、その姿を一目見た瞬間、まるで鬼にでも取り付かれたかのような形相に変わり目の前のゆっくりに飛び掛かろうとした。 だが、周りの者達がすぐさま盾となりそれを阻み、れいむを跳ね飛ばす。 そのまま壁に叩き付けられ「ゆぐぅ」と短い呻き声を上げたれいむに、追い討ちとばかりに数匹のゆっくりが圧し掛かる。 「いつもむだなことをしないでね!!ゆっくりりかいしてね!!」 「いたいよ、ゆっくりやめっ、てびゅっ!!やめて、に”ゅ!!」 「ちーんぽ!!ちーんぽ!!」 まりさ種やみょん種、中には同種のれいむ種まで居る。 それらは足元のれいむの声などに一切耳を貸さずにひたすら飛び跳ねれいむを苦しめる。 数は元よりろくに食事も食べていない弱ったれいむは成す術も無く、そこから逃げ出す体力も無い。 「ゆぐっ、やめ”、びょひゅ……いだい”よ、ゆっぐりぃ」 「おお、よわいよわい」 「な”んでごんな……ゆべっ!!ゆびぃ!!」 反論を挟む余地の無い暴力。 段々とれいむの眼から生気が失われていき、その叫び声も「ゆぐっ!!ゆげぇ!!」から「ゅみゅ…、ゅきゅ……」と弱々しくなっていく。 淡々と行われるその暴行を冷ややかな眼で見詰めていたあのゆっくりがズイッと前に出ると、周りの者はそれに反応してすぐさまその場から飛び退いた。 後に残されたのは、その口から餡子を垂れ流し、楕円形の形になってしまった瀕死のれいむである。 「ゅ……ゅ……」 「おやおや、わらわがわざわざ会いに来てさしあげたのに、あなたはもうゆっくり死んでしまいますの?」 ビクビクと痙攣を始めたれいむの前で、明らかに他のゆっくりとは違う流暢な話し言葉で呼び掛けた。 すると、このまま死んでしまうかに見えたれいむの眼に少しだけ光が戻る。 そして動かぬ身体で眼だけを動かし、眼の前のそのゆっくりを憤怒の炎が宿った眼で睨み付けたのだ。 「ゆぐぐ…このぉ、おんしらずのゆっぐりめぇ……」 「ゆふふ、わらわはそなたの様なゆっくりに受けた恩など覚えがありませぬ」 「ゆぎぃぃ!!きさまなんか、れいむとおなじれいむなんておもえないよ!!」 憎しみを込めて力一杯に叫ぶと同時に、横から別のゆっくりが体当たりをし、れいむは又もや吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。 「おまえのようなゆっくりとおなじにするなだぜ!!はくれいむさまとおよびするんだぜ!!」 取り巻きの一匹であるまりさが体当たりをし、そうれいむに対して叫ぶ。 その後ちらりと、はくれいむと呼ばれたゆっくりれいむに眼を向け、ニヤリと口元を歪ませる。 はくれいむに惚れているのだろうか。 まりさなりのアピールを欠かさない。 はくれいむと呼ばれたそのゆっくりはれいむ種でありながられいむ種ではなかった。 髪は透き通るように白く普通のれいむ種の黒とは対極にあり、暗闇の中でもその存在感は際立っていた。 更には頭に付けられているれいむ種のトレードマークであるリボンも、赤い部分は真っ白に染め上げられ、その姿は正に「はくれいむ」と呼ぶに相応しかった。 姿だけでは無い。 その雰囲気もれいむ種どころか、他のゆっくりと一戦を隔す程に厳かで幽玄。 ゆっくりでありながらも、カリスマと言うべきだろうか、他ゆっくりを引き付ける何か持っている。 だがその本質は残酷で冷徹。 一ヶ月程前に数匹の取り巻きと群れに加わり、独自のやり方で群れの指導者に気付かれずに多くの仲間を作っていき、 瞬く間に反乱を起こして群れを乗っ取った。 そう、彼女こそが例の反乱の主導者であり、眼の前のれいむの幸せを打ち砕いたゆっくりなのだ。 そして一方のれいむは打ち付けられた衝撃と積み重なった暴行のダメージで「ゆべぇぇぇ!!」と汚らしく餡子を吐き出し続けるばかりである。 「おお、ぶざまぶざま。わらわがこのようなゆっくりと同じなど、考えただけでおぞましい」 そんなれいむの様子を中傷した笑みで見ながらそう呟くと、周りの者も全くだとばかりに笑いの声をあげる。 れいむは言い返す気力も無く、ただただ餡子と涙を吐き出し続けるだけであった。 クスクスと笑いながらその様子を暫く眺めていたはくれいむであったが、ふと思い出したようにれいむに問い掛ける。 「……ところで、あなたの夫であるまりさは何処にいるのかしら?」 かなりの量の餡子を吐き出し若干落ち着いたれいむは、その言葉にピクリと反応する。 だが、返答する気配は見せず貝のように押し黙ったままだ。 「はくれいむさまがしつもんしているんだぜ、ゆっくりこたえるんだぜ!!」 「……ゅ、なんどきてもれいむはこたえないよ」 一瞬言葉に詰まった。 ここに来てから何度も尋問され、その度に拒否をして暴行が行われる。 餡子脳であるがその恐怖はこの一週間でしっかりと刻まれ、その痛みと恐怖を思い出して少し言葉に詰まった。 だが、れいむは愛するまりさを裏切る気など毛頭無い。 例えこのまま殺されても絶対に喋らないと、そう心に誓っていたのだ。 「ゆゆっ!?うそをつくんじゃないぜ、おまえがにがしたんだからどこにいったかしっているはずなんだぜ!!」 「れいむはしらないっていってるよ……ゆっくりりかいしてね」 「ゆぎぃ!!おまえそんなことをいってどうなるかわかっているんだぜ!?」 れいむの馬鹿にしたような受け応えに、頭に青筋を浮かべそうな程に真っ赤になりながらまりさは凄む。 だが、周りは敵だらけというそんな状況でもれいむは怯えた表情も出さず、その口元に笑みを浮かべ。 「でも……まりさならめのまえにいるよ?」 「ゆっ?どこなんだぜ!?」 そうれいむが呟くとまりさはキョロキョロと見渡すが、何故か周りのゆっくりは一斉にそのまりさの方を見る。 「ゆぅぅ、でもわたしのしっているまりさとはちがうみたいだね」 「ゆ?どういうことなんだぜ?」 「わたしのしっているまりさとちがって、ばかでゴミくずでまったくゆっくりできてないね」 「ゆゆっ!??」 れいむのその言葉に唖然となり、その餡子脳に考えを巡らす。 このれいむはなにをいっているんだぜ? まりさがきいているのはむれをひきいていただめまりさで、ここにいるのはこのさいきょうまりささまだけなんだぜ。 そのうえ、ばかでゴミくずでゆっくりできない? だれのことをいってるんだぜ? 暫くグルグルと考えを巡らすと、流石のまりさにもどういう事か理解出来てきた。 れいむはしてやったりという風にその口元に中傷の笑みを浮かべる。 「ゆぅ!!こ、こいつ、このまりささまをばかにしてるんだぜ!?」 「ゆゆっ、ゆっくりりかいできたんだね。ゴミくずからオガクズにいいかえてあげるね」 湯気が出そうな程に全身を真っ赤にして、瀕死のれいむ今にも飛び掛らんとするまりさ。 その様子に怯む事無くれいむは更に罵倒を続ける。 「あかくなったらつよくなるとでもおもってるの?さんばいなの?しぬの?」 「ゆぎぃぃぃ、まりさはおこったんだぜぇぇ!!ゆっくりしねぇ!!」 このまま嬲り者にされたまま生き長らえるくらいなら、このまま死んだ方が良いとれいむは思っていた。 そうすれば、れいむを助けに来ようとするまりさを危険な目にあわせる事も無い。 ただ一つ心残りが有るとすれば、最後に一度で良いから愛する家族に会いたかった。 それを思うとやはり涙が零れる。 そして死が怖くなり、段々と震えが起きそうになる。 れいむはそんな湧き上がるものを、歯が欠けそうなほどに奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。 こんな非常なゆっくり達にこれ以上惨めな姿を晒さないためである。 まりさが地を蹴る瞬間、れいむはそっと眼を瞑る。 すると死ぬ事への恐怖も不思議と消えていった。 はくれいむに一矢報いたかったが、この馬鹿なまりさに屈辱を味あわせてやっただけで満足しよう。 れいむはそう思った。 「ゆっくりお止めなさい!!」 突然、その部屋に怒声が響く。 その声にれいむを殺そうとすべく飛び上がる瞬間のまりさは身を竦めて動きを止める。 周りの者も眼を丸くして、はくれいむの方を見遣る。 「おお、愚か愚か。そのようなゆっくりの罵詈雑言に耳を傾けるとは」 「ゆぅ……でもはくれいむさま、こいつはまりさのことをばかにして……」 「お黙りなさいな。このゆっくりは死ぬ気力も無いから口先であなたを煽動し自らを殺そうとしているだけなのですよ」 「ゅぅ……」 「それにこれ以上やっては死んでしまいます。このゆっくりにはまだまだ役に立って貰わないと」 まりさは、はくれいむにそう諭され眼を地面に落とす。 格好良い所を見せようと張り切ったつもりがこんな事になるとは思っていなかった。 「ゆふぅ……あなたはまだまだ激流にゆっくりと身を任せる事が出来てないようですわね」 そんな様子のまりさにはくれいむはそう呟き、一瞥する。 その顔はこの世の終わりとでも言おうか、先ほどから一転、真っ青に血の気が引いている。 「ですが、あなたの忠義心は十分に評価していますわ。今後もわらわの部下として精進なさい」 思いも寄らぬ言葉。 それを聞いてまりさの表情はぱっと華やいだ。 二転三転、器用なものである。 しかし、はくれいむのその飴と鞭の使い分け様はやはり他のゆっくりには真似が出来るものではなかった。 周りで見ている者達も、仲間といえどまりさの馬鹿さ加減に呆れる一方で有ったが、逆にそれを許すはくれいむの懐の深さを際立たせる所となった。 そしてはくれいむにとってこの一連の流れは十分に計算通りのものであり、愚かなまりさを傍に置いている理由の一つでもある。 正に悪のカリスマというべきであろうか。 「ゆゆっ、そんなことをいいながられいむをころすどきょうがないだけなんだよね!!」 その一連のやり取りの中、れいむが声を上げる。 はくれいむを挑発しているのだ。 「ゆふふ、愚か者は声だけは立派に張り上げますのね」 「そうやってゆっくりしてられるのもいまのうちだけだよ、はやくれいむをころさないと、ゆぐっ!!?」 そんなれいむの言葉を遮る様に周りのゆっくり達が二匹回り込み、その口に縄を噛ませる。 れいむはモガモガと口を動かすが一向に外れようとしない。 後ろでちぇんが器用にその縄を結び、猿轡が完成した。 れいむの唯一の抵抗を不可能にし、これ以上餡子を吐かれたりするのを防ぐためである。 「ふぁにするの!?ふっぐぃ、ふぁずしてね!!(なにするの!?ゆっくりはずしてね!!)」 「なにいってるかわからないよー♪」 ちぇんのその言葉に周りのゆっくりは苦笑し、バタバタと暴れるれいむに冷ややかな視線を浴びせる。 そして、はくれいむは周りの一匹に目配せした。 松明を咥えたゆっくりみょんである。 そのままみょんはじりじりとその松明をれいむへと近付けて行く。 「ふぐっ!!ふぁぐいよ、ふっぐりふぁがれてね!!(ゆぐっ!!あついよ、ゆっくりはなれてね!!)」 「ふぁめてね!!ふぁ……あ”ぐぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!(やめてね!!やめ……あづぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!)」 壁に追い込まれたれいむの身体にその松明の先端が押し付けられる。 逃げる事も適わずにその肌は焼け焦げていき、チリチリと髪が焼け千切れていく。 左右に避けようとしても、周りのゆっくりに押し戻される。 「ふ”ぇい”ぶが、ふぉべち”ゃう!!ふぉべちぁうっべばぁぁぁぁ!!(れいむが、こげちゃう!!こげちゃうってばぁぁぁぁ!!)」 「ゆへへ、さっきまでのいせいはどこいったんだぜ?」 まともな言葉も出せずに涙を流して壁へと張り付くれいむの無様な姿を見て、先ほどのまりさも溜飲が下がったようだ。 必死の形相のれいむに構わず、みょんはグイグイとその火をれいむに押し付ける。 辺りには焼き饅頭の香ばしい匂いが立ち込め、それが段々と焦げた匂いへと変わっていく。 すると急に、ぼわっとれいむの頭に火の手が上がる。 本格的に髪に引火してしまったのだろう。 「ふぎゅあ”ぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁあぁ!!」 頭に火を付けて眼を見開き、言葉に成らぬ叫び声をあげたれいむに松明を持っていたみょんも思わず後ろに下がる。 引火した火を消そうとれいむがゴロゴロと地面に転がり、その様子に周りで見ていたゆっくり達も後ろへと退いた。 「びゅぅべいぶのびゃびばぁぁ!!おびぼんぎゃあぁぁあぁぁ!!(でいぶのがみ”がぁぁぁ!!おりぼんがぁぁぁぁぁ!!)」 「ぶぁふへへ、ふぁりしゃあぁぁあ!!ぶあぁぁぁりじゃあ”ぁぁぁ!!(だすけてぇ、まりじゃあぁぁあ!!ま”あぁぁぁりざあ”ぁぁぁ!!)」 一度は死を覚悟しながらも、じわりじわりと蝕む苦しみに思わずれいむはまりさに助けを求める。 だが当然まりさは来ない。 身体の全水分を眼から垂れ流しながら、必死に愛するゆっくりの名前を叫びながられいむは転げ回るだけだ。 やがてそのまま全身に火が廻り焼け焦げてしまうかに思えたその様子を、たじろぐ事も無く見ていたはくれいむは後ろに控えていためいりんに合図を出す。 すると、めいりんが咥えた水の入った容器をれいむに投げつける様にぶつけ、辺りに水が飛び散ると共に見事に炎は鎮火された。 「まりさもひをけすのにきょうりょくしてやるんだぜ!!ぺっ!!」 「わかるよー、ちぇんもしーしーしてあげるねー♪」 そのまま痙攣を繰り返すだけの動かないれいむに対して、無情にもまりさは唾を吐き掛け、ちぇんもチロチロと尿を浴びせ掛ける。 その後に、ちぇんはれいむが死んでいるのか不思議そうに眺めていたが、 未だにプスプスと煙をあげてはいるものの、何とかれいむは生きているようだ。 「めいりん、そのゆっくりの縄を外して差し上げなさい」 「じゃお!?じゃおおおおおお!!」 戸惑いはしたものの、めいりんはれいむに結び付けられていた猿轡を外しに掛かった。 縄は半分焦げ付いていたので、結び目を解く必要も無く簡単に外れる。 そのままめいりんは、半分焦げ饅頭になったれいむの顔を覗き込んだ。 髪は以前の半分の所まで焼けて巻き上がり、アフロとまではいかなくても奇抜なものとなっていた。 その上リボンも所々焼け、穴がそこかしこに覗き、以前のれいむからは見る影も無い。 「……ゅひゅぅ……ゅひゅ……」 顔を近付けてみるとどうやら息をしている。 めいりんはホッと、ゆっくりには存在しない筈の胸を撫で下ろした。 今はこのようにはくれいむの部下となってはいるものの、めいりんは自身を群れに加え、 野生では虐められるのが当たり前の自分を一ゆっくりとして扱ってくれたれいむが好きであった。 ただ、反乱の時は突然の事でどちらに味方すれば判らず、オロオロしている内に群れははくれいむの手中に収まり、めいりんも言われるがままに部下となってしまった。 しかしそうは言ってもそう簡単に割り切れるものでは無く、このようにはくれいむの部下でありながらも気付かれずにれいむの身を案じる事もあった。 「めいりん、よく出来ました。ゆっくりお下がりなさい」 「じゃおぉぉぉ……」 「ゆ!?このばかめいりん。ゆっくりさがれとおっしゃってるんだぜ!!」 「じゃお!?」 はくれいむの呼び掛けにすぐに応えなかっためいりんに、まりさが身体をぶつける。 大した痛みは無いものの、目の前のれいむに何もして上げられない事を悔しく思い、めいりんは悲しい顔をしたまま後ろへと下がる。 残されたれいむは火傷の痛みだろうか、白目を向いたまま時折ビクリビクリとのた打ち回る。 「ゆふふ、今日はこのくらいかしらね」 れいむのその様子を満足そうに眺めながら、はくれいむは口元に笑みを浮かべる。 そのまま近くのゆっくりに何事かを囁くと、くるりと踵を返してその場を後にしようとした。 後ろには側近の者達が続き、後には命令を受けたゆっくりとその他に数匹のゆっくりが残る。 監視役とれいむの世話をする群れに長く居たゆっくりである。 はくれいむはこの様にして群れに長く留まっていたゆっくりの自分に対する忠義心を試し、旧体制の反乱の芽を潰すよう心掛けていた。 れいむの世話をしているゆっくりが何かしら不穏な動きをすれば監視役がそれを報告し、即座に対処する。 新たなる群れを作るのに不穏分子は早く潰すに越した事は無い。 敢えてれいむに近付け、その選別を行うのだ。 「あ、そうそう……」 突然ピタリと、はくれいむはその歩みを止め「今日はそなたの親友を招いていたのであった」と振り返らずに話し出す。 「先日であろうか、そなたを助けようとわらわ達に歯向かった愚か者達がおってな」 「確か主犯格はぱちゅりーと名乗る者だったらしいが……」 その言葉に、混濁していたれいむの意識が揺り動かされる。 れいむの最も信頼のおけるゆっくりの内の一匹。 子供の内から一緒に群れで暮らしてきたゆっくりに違いない。 「ちぇんよ、あれを持って来させよ」 「わかるよー♪」 はくれいむにそう言われたちぇんはピョンピョンと何処かに跳ねて行き、暫くすると何匹かのゆっくりが風呂敷に包まれた何かを引き摺るようにやってきた。 ゆっくりと、れいむの捕らえられた部屋へと風呂敷が運び込まれる。 「ぱ……ちゅ、りぃ……?」 グルリとれいむの眼が白目から黒目へと切り替わり、弱々しく声をあげる。 眼の前の風呂敷の中にぱちゅりーが居るのだろうか? 自分の為に捕らえられてしまったというのか? そんな疑問が浮かび、哀しみが込み上げて来る。 その一方で不謹慎ではあるが、今まで会う事が出来なかった仲間に会う事が出来る事への喜びが湧き上がったのは確かであった。 れいむのその眼に微かに光が戻ったのを確認すると、はくれいむが合図を出す。 するとばさりとその風呂敷が広げられ、そこには丸い物体が置かれていた。 紫色の帽子に月の飾りを付け、その更に紫色の美しい髪は昔のまま色褪せてはいない。 間違い無い、れいむの親友のぱちゅりーだ。 「ぱちゅ、ぱぢゅりー、よがっだ、いぎでだんだね」 もう、ろくに動かない身体をズリズリと動かして、そのぱちゅりーへと近付く。 半分焦げた身体に痛みがまだ有ろうが、眼の前に親友がやってきてくれた事でそんな事など気にもならなかった。 ジッとれいむの方を見詰めるぱちゅりーに少しづつ近付いて行く。 「ぱちゅりー……ぱちゅり……ぃ?」 やっと肌を接する程に近付いて、ある異変に気付く。 このぱちゅりー、先ほどから身動ぎ一つしないどころか、眼を開けたまま瞬き一つしないではないか。 それに近くで見ると判る。 肌が何処か変な、何と言うか乾いているというべきであろうか、あの瑞々しさが無い。 更に近付いて、肌を接してみるとあの柔らかいぱちゅりーの身体とは思えない、岩肌にも似た感触を覚える。 そのままぱちゅりーに呼び掛けながら、顔を覗き込む。 返事も無く、そしてその瞳は眼の前にいる筈のれいむを捕らえることも無く、何処かずっと遠くを見ているようだ。 光が無いその眼もやはり乾いていた。 周りのゆっくり達もその異常さに気付く。 「こ、これ……」 「それを作り出すのには苦労した」 異変に気付いたれいむの様子に、満足そうにしながらはくれいむは説明を始める。 「わらわの美意識からしても、反逆者とはいえそのぱちゅりーは中々に美ゆっくりであってな」 「どうにかして、その姿を永遠にゆっくりと留められないだろうかと思案したのじゃが……」 凍り付いた表情でれいむは、はくれいむへと視線を泳がす。 「他の反逆者に協力してもらって、どうにか作り上げる事に成功したわ」 「樹に吊るして下から炎で燻しあげる……そなたのような愚か者には理解出来ぬだろうが、燻製焼きというものであってな」 「ただ普通にやっては、他の反逆者のように最後は見るに耐えない悲惨な表情で死に絶えるものだから」 「そのぱちゅりーは飾りを取った後、全身にきつく布を巻きつけて表情が崩れぬよう工夫したのじゃ」 この眼の前のゆっくりは何を言っているのだろう? れいむはそんな表情で何も言えずにその言葉を聴き続けた。 「一番難しかったのは、閉じたままはつまらぬ故に事前に眼の周りを動かぬよう焼き固めておく事だったわ」 「その時には酷く抵抗しておった……むきゅむきゅと泣き叫びながら、そなたの名前も大声で叫んでおった」 「後は両目だけを覗かせ、先ほど説明したように蓑虫の様に布を巻きつけ吊り上げ、一晩中下から煙で燻し上げたのじゃが……」 「そこから覗く瞳はひたすらに涙だけを流し、赤ん坊のように潤んだそれは何処か愛おしさすら覚えたのぅ」 「絶命する随分前には、もはや瞳の水分は完全に失われて何も見えてはおらなかった様子だが」 途中から、れいむの頭の中を鐘がガンガンと打ち鳴らすように感覚を覚えた。 普通のゆっくりであればはくれいむの喋る事を半分も理解できなかったであろうが、半ば賢いだけにれいむはその残酷な情景を頭に浮かべてしまった。 先ほど自分が味わったあの苦しみと息苦しさを、ぱちゅりーは一晩中も味わわされたのだ。 そうでなくてもぱちゅりー種は元来ぜんそく持ちである。 少しのホコリや砂を呼吸が出来なくなる程、それを煙で燻し上げるなどどれほどの苦しみであろうか。 想像を絶する。 「ゆ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、ばぢゅりぃぃぃぃ!!くるしかったよね?ゆっくりできなかったよね?」 眼の前の最早形だけで命の無いぱちゅりーに、それでも頬をすり合わせて涙を流す。 れいむの頭にぱちゅりーと過ごした、数々の想い出が去来する。 まだ賢く無かった子供の頃に様々な事をぱちゅりーから学んだ。 群れの皆で協力して、れみりあを撃退した時に一緒に群れを指揮した事。 親友でありながらも師でもあったぱちゅりー。 まりさとの結婚で一番喜んでくれたのもぱちゅりーだった。 それらを思い起こすと、身体中の水分が涙となって流れ出していく。 それが段々と黒々しくなり、完全に餡子が流れ出しても止まる事は無かった。 そして少し前に、ぱちゅりーに会えると喜んだ自分を呪った。 そんな馬鹿な自分のせいでぱちゅりーが死んでしまった。 そう思えて仕方なかった――そして。 「ゆっぐじぃぃぃ……ごろじでやるぅぅぅぅ!!」 餡子の涙を流したその顔で、はくれいむの方へと向き直る。 その余りの迫力に、周りの取り巻きは怯えた表情を浮かべ、後ろへと思わず遠退く。 だが、肝心のはくれいむはというと、涼しげな表情でその様子を嬉しそうに眺めるばかりであった。 「ゆっぐじぃぃぃ、ゆっぐじぃぃぃぃ!!」 ずりずりと火傷で動かない身体を引き摺ってはくれいむの方へと向かう。 ゆっくりとは思えないどの行動の原動力は、凄まじい怒りに寄るものだろう。 それにハッとしたかのように、取り巻きのゆっくり達が間に割って入るがはくれいむは「ゆふふ、よいよい」とすぐさま退けさせた。 そのまま後少しで、はくれいむに喰いつける距離まで辿り着こうかという地点で、バタリとれいむは突っ伏すように顔を地面に向けて動かなくなってしまった。 「じゃ……じゃおおぉぉぉ!!」 近くで怯えながら見ていためいりんがすぐさま駆け付け状態を確かめる。 気絶しているだけで、どうやら死んではいないようだ。 だが、その顔は憤怒の表情で固まったまま動かない。 「じゃおおぉぉぉ!!じゃおぉぉぉ!!」 「なにやってるんだぜ、ゆっくりそいつにとどめをさすんだぜ!!」 取り巻きのまりさが声を張り上げる。 愛しのはくれいむを殺そうとしたそのれいむをそのままにしておくべきではないと思ったが、自分が近付いて殺す事は怖くて出来なかった。 めいりんは涙を流しながら顔を左右に振りそれを拒否する。 再びまりさが声を張り上げるがそれも拒否する。 「まりさのいうことがきけないばかめいりんなんて、ゆっくりできなくしてやるんだぜ!!」 「じゃ、じゃおおおぉぉぉん!!」 怒りのその言葉とゆっくり出来なくされると言われ、困惑するめいりん。 そんなやり取りと眺めていたはくれいむが、ゆっくりと指示を出す。 「ゆふふ、まだまだその愚か者にはゆっくりと楽しませて貰わなければならぬ」 そう言うと、周りで様子を見ていただけのゆっくり達にすぐさま治療に当たらせた。 どういう事かよく判らないといった表情のまりさも、ハッと我に返ると先ほどとは正反対に 「そのれいむをころすな」や「もしできなかったら、そいつらもゆっくりできなくするんだぜ」などと喚いている。 はくれいむはそれを暫く眺めていたが、ゆふふと笑い声をあげると踵を返して、今度こそは本当にその場を後にした。 そして更に一週間後、その洞窟の誰も知らない空洞の中を這いずるように一匹のゆっくりが進んでいた。 ゆっくりまりさである。 そのまりさはブツブツと何事か呟きながら、大人のゆっくりでは狭いその空洞の間を縫うように進み続ける。 その眼には何かしらの決意が見て取れた。 随分と進んだ後、開けた場所に出ると同時に一匹のゆっくりが目に付く。 反乱の一端を担っていてゆっくりみょんである。 見張りであろうか。 深夜のためうつらうつらと身を揺らせるそのみょんに気付かれぬよう、まりさは帽子から鋭く尖った木の枝を取り出す。 それを口に咥えると、ゆっくりとその背後へと近寄る。 すると突然、まりさの気配に気付いたのだろう。 みょんが振り向きそのまりさを確認すると、仲間を呼ぶために声を張り上げようと身体を膨らます。 その一瞬の間に、まりさはゆっくりしないで口に咥えた凶器をみょんへと突き刺す。 何が起こったのかイマイチ理解出来てないみょんの身体の中心を抉るようにそれを掻き回し素早く抜き取る。 するとそこから大量の餡子が噴出しだす。 みょんの眼は次第に生気を失い白目を剥き最後には、 「ぱ、ぱいぷ…かっとぉ……」 と呟き、その場に力無く倒れた。 まりさはそのみょんの最後を悲しそうな眼で見遣った後、帽子を被り直して先へと進み始めた。 この程度の事で感傷に浸っている場合じゃない。 そうまりさは自身に言い聞かせているようあった。 「れいむ、ゆっくりまっててね……まりさがぜったいにたすけだしてやるからね」 続く 後書き・はくれいむの喋り方はハクレイ4000年の歴史のせいでしょう。 by推進委員会の人 このSSに感想を付ける
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・作者リハビリ中 『とてもゆっくりしたおうち』 D.O ここは、とある山のふもとの農村地域。 森沿いに作られた舗装もされていない農道と、田んぼに水を供給している小川の他は、 木々の緑と田んぼの緑ばかりが延々と続く、のどかな光景が広がっている。 そんな、めったに人の通らない森沿いの、これまた舗装もされていない道路脇に、一軒の物置があった。 物置と言っても、中には床も張られず地面をならしただけ、 木板の壁とトタン屋根も古ぼけた、扉すら付いていない小さな農具入れだが。 物置の中を見てみても、壁に掛けられているカマやクワはすっかり錆つき、 中に置かれた木箱や土のう、コンクリートブロックなどにも土ぼこりが積もっている。 わずかに置かれたワラ束や、麻袋に入ったモミガラも、すっかり乾燥しきっていて、 何年前から置きっぱなしなのかわからないありさまだった。 「ゆ・・・てね」 「ぅ・・・くち・・・てね」 そこに、とあるゆっくりの一家が住みついたのは、いつの頃からだろうか・・・・・・ 「ゆ~ん。おちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」 「れいむとまりさににて、とってもゆっくりしたおちびちゃんだよー。」 「まりしゃ、もうすぐおにぇーしゃんになるんだにぇ!」 「ゆゆぅーん。れいみゅたのちみー。」 物置の奥隅に、外からは自分達の暮らす様子が覗けないように、 入口の反対側の壁に向かって横倒しにされた木箱の中では、そのゆっくり一家が今日も仲好くゆっくりしていた。 家族構成は、バスケットボールサイズの大黒柱・父まりさと、現在にんっしん中の母れいむ。 母れいむの頭上にはツタにぶら下がった5匹のかわいい実ゆっくり。 そして、両親と一緒に期待いっぱいの視線で実ゆっくりを眺めているのは、ソフトボールサイズの子れいむと子まりさ。 皆肌ツヤもよく、清潔で、現在とても良い環境で暮らしていることがうかがえる。 それもそのはずである。 この物置のすぐ裏の森は、人間の住処に近いということもあり、 他の野生ゆっくりはめったなことでは近づかず、虫も花も木の実も、食料は全部独占状態。 また飲料用にも水浴び用にもなる豊富な水源として、道路沿いにわずか数メートル進んだところに小川がある。 そして何よりこの、風雨にも負けない、とてもゆっくりしたおうちを手に入れたことが大きかった。 「おちびちゃんたちも、こんなゆっくりしたおうちにうまれるんだから、とってもゆっくりできるね!」 「ゆっへん!まりさがみつけたおうちなんだから、あたりまえだよ!」 「「おとーしゃん、ゆっくちー!」」 一見増長しすぎにも見えるが、父まりさの眼にうっすらと光る涙は、 このおうちを手に入れるまでに積み重ねた苦労、別れの悲しみ、手にいれたときの喜びが凝縮されている。 そもそも、この子れいむと子まりさには同時に生まれた姉妹があと7匹もいたのだ。 しかし、以前所属していた群れのナワバリ内では十分な広さと強度を持ったおうちが無く、 木の洞に作ったおうちはいつも、強風や豪雨によって破損しては、雨漏りを起こしておちびちゃん達の命を奪っていった。 そしてたび重なる悲劇に耐えられず、一念発起した父まりさは、 群れのナワバリを離れてゆっくりしたおうちを手に入れるべく行動に出たのであった。 それから数日後。 初めてこの物置を発見した時、父まりさは身震いするような感動とともに、強い疑念も持った。 「こんなにゆっくりしたおうち・・・にんげんさんがつかってるかもだよ・・・」 ゆっくり駆除のための山狩りを経験したこともある父まりさは、人間の脅威を十分に理解していた。 この辺りは人間のナワバリ。ならば、このおうちも・・・。 とはいえ諦めきれなかった父まりさは、それから2週間以上もの間、狩りの途中に時間を見つけては、この物置を覗くことを続けた。 そして、この物置には人間の住む気配が全くないことに気づき、ついに一つの結論に達したのであった。 「ゆー!ここには、にんげんさんはすんでないよ!きっと、にんげんさんもみつけてない、『あなば』だったんだね!」 所詮は野生のゆっくりである。この物置自体が人間の手により作られた物ということには気づかなかった。 そして現在。 物置の中の、さらに奥に置かれた木箱の中には、ワラ束をほぐしたカーペットが敷かれている。 さらに中央にはワラとふわふわの枯れ草を使って編み上げた、鳥の巣のような物まで作られていた。 鳥の巣状のそれは、まもなく生まれおちてくる赤ゆっくり達を受け止めるためのクッションであり、 おうちの中を上手に跳ねまわることが出来るようになるまで、 赤ゆっくり達がゆっくりと寝て過ごすためのベッドにもなる。 「いもうとたち、ゆっくちできてりゅ?」 「ゆふふ、だいじょうぶだよ。おねーちゃんたちもゆっくりさせてあげてね。」 「ゆっ!れいみゅ、がんばりゅよ!」 ぶるっ!・・・ぶるるっ! そして、新たな命を受け入れるための、万全の環境が整えられたおうちの中で、 ついに待望の瞬間がやってきた。 「ゆっ!まりさ、おちびちゃんたち、うまれるよ!」 「ゆうぅ・・・ゆっくりうまれてね!ゆっくりね!」 ぶるっ・・・ぶちっ・・・・・・ぽとんっ! 「ゆぅ、ゆっく・・・ゆっくちちちぇっちぇにぇ!!!」 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってねぇぇええ!」 「ゆっくち!ゆっくちちちぇっちぇにぇ!」 「ゆわーい!れいみゅ、おねーしゃんになっちゃよー!」 「ゆっくち!ゆっくち!」 「ゆ~ん、ゆっくりしたおちびちゃんだよぉ。」 「おにぇーしゃん、しゅーりしゅーり!ちあわちぇー!」 「ゆっくちしてね!ゆぅん、すーべすーべしててきゃわいいよ~。」 にわかに賑やかさを増すおうちの中、家族の愛情と、自分を取り巻く世界の優しさを信じて疑わない、 キラキラとした表情を浮かべたおちびちゃんたち。 その姿に、一家は自分達家族の未来が暗示されているかのような思いがするのか、 ますます明るい笑顔になる。 「おきゃーしゃん、おにゃかしゅいちゃー。」 「ゆ!ゆっくりまってね!」 ぷちん。と、父まりさが、先ほどまで赤ゆっくり達のぶら下がっていたツタを母れいむの頭から千切り取り、 ポリポリと噛み砕いてから5匹のおちびちゃんの中央にペッと吐き出す。 「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー!」×5 「ゆわ~。いもうとたち、ゆっくちしてるにぇ~。」 「むーちゃ、むーちゃ。・・・ゆ~ん、まりしゃ、もっちょむーちゃむーちゃしちゃいよぉ。」 「ゆゆっ?ゆふーん!おちびちゃんたち、くいしんぼうさんだね!」 もうすでに体型がなすび型になるほど食べているのに、まだ満足できないらしいおちびちゃん達。 その姿は元気そのもので、なんとも微笑ましい。 「ゆっ!れいみゅおねーしゃんが、いもむしさんをあげるにぇ!」 「まりしゃはおはなさんをあげりゅよ!」 「ゆわーい。むーちゃ、むーちゃ!ち、ち、ちあわちぇー!」 「ゆわーん、れいみゅもたべさせちぇー。」 そんなくいしん坊たちに、自分達も大好物であるはずの、いもむしさんやお花さんを惜しげもなく持ってくる子ゆっくり達。 まだベッドから這い出すことも、上手に食べることもできない妹達に、一口サイズに千切って口移しで食べさせてあげている。 その光景は、両親の心を、餡子の底から暖めてくれた。 「おちびちゃんたち、とってもゆっくりしてるね。」 「まりさは、こんなすてきなかぞくをもって、せかいいちしあわせなゆっくりだよぉ。」 「ゆふふ、なかないで。おちびちゃんたちがみてるよ。」 ・・・・・・こうして、生まれて間もなく存分に甘え、たっぷりと腹を満たした赤ゆっくり達は、 お口の周りをぺーろぺーろと綺麗にしてもらい、両親と姉の愛情たっぷりのすーりすーりを受けた後、 ベッドの中で、何の不安も恐れも存在しない、ゆっくりとした笑顔のまま初めての眠りについた。 子ゆっくり達もそれからまもなく、妹達のゆっくりと眠るベッドの周りにお布団(ワラ)を敷いて、 妹達の寝顔を見守るようにすーやすーやし始める。 安全なおうち、ゆっくりしたおふとん、奪い合う必要なんてない豊富な食糧。 ここには今、父まりさが追い求めた、本物のゆっくりプレイスの姿が存在していた。 そのゆっくりプレイスを温かく包みこむこの物置は、ゆっくり一家に約束された、明るい夢と未来の光にあふれていたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 2匹の赤まりさと3匹の赤れいむが一家に新たに誕生した翌日。 父まりさは、今日も家族のために、朝から物置裏の森に入って狩りに励んでいる。 一方母れいむと子ゆっくり姉妹は、おちびちゃん達がベッドの中でお昼寝している間に、 物置から出てすぐの草地で日向ぼっこをしていた。 「おかーしゃん。いもうとたちもおそとでぽーかぽーかさせてあげちゃいね~。」 「ゆーん。そうだね。でも、まだおちびちゃんたちにはおそとはあぶないから、もうすこしまってね~。」 「ゆっくちりかいしたよ~。」 仰向けになって日にあたって、この上なくゆっくりしていた一家。 だが、その時突然、とてもゆっくり出来ない音があたりに響いた。 ガァーン!!!ガァーン!!!ガァーン!!!ガァーン!!! 「びっくりー!!!」 「ゆぁぁぁぁああああ!!!なんなのぉぉぉおお!」 まどろんでいた母れいむが音の先を振り向くと、その視線の先に驚くべき光景が映った・・・・・・ バリッ!バリッ! そこにいたのは、一人の人間さん。 人間さんは、母れいむ達の方など気にも留めず、作業を進めていた。 そう、れいむ達のゆっくりしたおうち、物置を解体する作業を。 「ゆふふ。きょうもたくさん、ごはんがとれたよ。おちびちゃんたち、よろこんでくれるね。」 その頃父まりさは、午前中の間に森の中を駆け回って、 お花や木の実、やわらかいイモムシなどを帽子いっぱいに集め、おうちへと戻ってきていた。 当然一日の収穫量としては十分な量ではあるが、午前中の間にこの量をかき集めるのは、 いかに手つかずの森であっても楽ではない。 これも父まりさが、少しでも早くおうちに帰って、おちびちゃん達とゆっくり過ごしたい、 その一心で一生懸命狩りに励んだ結果であった。 そうして父まりさが森から飛び出した時、その眼前では恐るべき光景が広がっていた。 「な・・・・な、な、なにやってるのぉ!れいむぅぅぅうううう!!!」 「れいむたちのおうちをこわさないでぇぇぇええ!」 ぽよんっ、ぽよんっ、と人間さんのあんよに体当たりをする母れいむ。 「おうちにひどいことしにゃいでね!ぷっきゅー!」 本気のぷくー!を人間さんに向けて行っている子れいむと子まりさ。 ・・・それは、父まりさの愛する家族が、人間さんに対して挑みかかるという、戦慄の光景であった。 「みんなやべでぇぇぇえええ!!」 父まりさは、お帽子の中の食べ物をバラバラとこぼしながら、全速力で人間さんと家族の間に割って入る。 その間も、釘抜きを片手に物置のトタン屋根をはがし続ける人間さんの手は、一切休まることが無い。 その人間さんの行動、母れいむ達の発言から、父まりさにもおおよその事情は掴むことができた。 「まりさぁぁぁああ!にんげんさんが、おうぢ・・・!おうぢぃぃいいい!!」 「おとーしゃんもゆっくりとめてね!ぷきゅー!」 だが、父まりさは家族の声には耳を貸すことなく、まずは人間さんに対して最善と思われる行動をとった。 「にんげんさん!ごべんなさいぃぃぃいいい!!」 「ゆゆっ!・・・おとーしゃん?」 人間で言えば、土下座。 額を地面にこすりつけ、ひたすら人間さんに許しを請う姿は、家族にどう映っているだろう。 しかし、父まりさには、自分のプライドなどとは天秤にかけられない、守るべき存在があった。 「にんげんさん!れいむたちがゆっくりできないことしたならあやまります! まりさのかぞくと、おうちだけはゆっくりさせてくださいぃぃぃいいいい!!!」 「まりさ・・・」 「「おとーしゃん・・・」」 父まりさは、母れいむ達が人間さんに何をやったのか、どうして人間さんがおうちを壊そうとするのか、 そのような事を確認するのは後回しでいいと考えた。 人間さんは強い。敵わない。 だから、もしも厳しい要求をされたとしても、全て譲ろう。 もしも、なにか気に障るようなことをしたのならば、必死で謝ろう。 ・・・ゆっくりした家族と、ようやく手に入れたおうち、それだけを守ることができるならば、他に何も・・・ やがてそれは、家族達にも伝わったのか、母れいむ、そして子ゆっくり達も、 父まりさと同様に、顔面を地面につけて土下座を始めた。 おうちを突然壊された怒りに我を忘れていたが、頭を冷やしてみれば、自分達の愚かな行為に後悔せずにはいられなかったのである。 しばらくの間、一家が地面に顔面をこすりつけ続けていたところ、 人間さんの近づいてくる音が聞こえてきた。 もしかしたら許してもらえず、ゆっくり出来ない目にあわされるのでは、 そう思うと父まりさは震えが止まらなかったが、人間さんの足音は父まりさの目前で止まり、そこで屈みこむ音が聞こえた。 もしかしたら噂に聞いたことのある、ゆっくりに優しい人間さんなのかもしれない、父まりさはわずかな希望を抱いた。 ・・・・・・。 だが、それから、人間さんは別に話しかけるわけでもなく、 相変わらず土下座を続ける父まりさの前に屈んだまま動く様子を見せなかった。 「?」 段々と、不安が再び大きくなってくる。 高まっていく緊張に耐えられなくなり、父まりさはそっと顔をあげ、 「ゆぅ?」 そして、目の前でコンクリートブロックを振りかぶっている人間さんの姿を見た。 ひゅっ・・・どむっ。 「ゆぷっ・・・!?」 ・・・・・・? 「ま、ま、ま・・・、まりさぁぁぁああああ!!!」 「おどーじゃん、ゆっぐぢぢでぇぇぇえええ!!!」 「・・・・・・ゆ゛!?・・・ぼ・・?」 異音に反応した母れいむと子ゆっくり達が目にしたのは、 父まりさが、コンクリートブロックを縦に脳天に投げおとされ、 Uの字に押しつぶされ変形している姿だった。 「おどーじゃん、ぺーろ、ぺーろ!」 「ゆっぐぢぢじぇぇぇええ!しゅーりしゅーりするからぁぁぁ!」 父まりさは栄養状態が良かったおかげで、皮膚が破れて餡子が漏れることはなかったが、 眼球は半ば飛び出し、ブロックにちょうど押しつぶされた形になる中枢餡は、 体内で真っ二つに引き裂かれていた。 生きてはいた。だが、残念ながら致命傷であり、意識こそまだあるものの、 もう二度としゃべったり、動くことが出来ない体になり果てていた。 「けがはないよ!おとーさんはつよいゆっくりだから、すぐによくなるからね!」 母れいむは、自分もそう信じていたので、子ゆっくり達にもそう言って安心させる。 一方、父まりさに非情の一撃を食らわした人間さんは、 子ゆっくり達が必死に父まりさを介抱している間に、 何事もなかったかのようにおうちの解体の続きを始めていた。 バリバリバリバリッ!! 「ゆぴぃぃぃいいいい!!!ゆっくちしちぇぇぇぇええ!!」 「おちょーしゃん、おきゃーしゃぁん!きょわいぃぃぃいいい!!」 「おにぇーちゃぁぁん!たちゅけちぇぇぇぇええ!」 そして、物置の壁が全てはがされ終えた頃、ついにそれまで壁に隠れていた木箱の中、 赤ゆっくり達のいる寝室が、太陽の光の下へとさらされた。 「おちびちゃんたち!にげてぇぇぇえええ!!!」 「いもうとたちにひどいことしないでにぇ!ぷっきゅー!!!」 だが、赤ゆっくり達は逃げられない。 「ゆぁーん、ゆっくちさせちぇー!」 「ゆっくちぃぃ!ゆっくちぃぃ!」 逃げ出せるはずがなかった。 そもそも生まれてまだ丸一日も経っていない赤ゆっくり達である。 満足に跳ねることもできず、その弱いあんよでは、這い進むのがやっと。 ベッドから出ることすら困難なほどなのだ。 しかも、先ほどからおうちを破壊する轟音にさらされていた赤ゆっくり達は、 恐怖が限界に達しており、5匹ともベッドの中央で身を寄せ合って震えることしか出来ない有様であった。 すっ・・・・・・。 「ゆぅぅぅぅぅ・・・。ゆぅ?」 「?・・・しゅーり、しゅーり。・・・ちあわちぇー。」 だが、母れいむ達の予想に反して、人間さんは赤ゆっくり達をベッドごと優しく持ち上げると、 人差し指でそっと赤ゆっくり達の頬をなで始めた。 「?・・・そ、そうだよ!おちびちゃんたちはとってもゆっくりできるんだよぉぉぉ!」 「しょーだにぇ!まりしゃのいもうとたちはとってもゆっくちできりゅんだよ!」 そうなのだ。 家族みんなでゆっくりしていた所に来て、酷いことをする人間さんだって、 なんの理由もなく酷いことをしている訳ではないはずなのだ。 穢れも知らない、誰にも迷惑をかけたわけではない、あんなにゆっくりしたおちびちゃんたちを、 いきなり酷い目に合わせるはずがない。 「ゆっ!ゆっくち!」 「ゆぁーん、れいみゅもしゅーりしゅーりしちぇー。」 人間さんもゆっくりしている。 きっと、可愛い可愛いおちびちゃん達の魅力が、あのゆっくり出来ていなかった人間さんをゆっくりさせてくれたのだ。 「おちびちゃんたち、・・・とってもゆっくりしてるよぉ。」 そして、人間さんは赤ゆっくり達を持ったまま物置を出ると、 そこから数歩離れた所にあった、深さ数cmほどの地面のくぼみに、ベッドをそっと下ろした。 そして、その上に、やわらかく土をかけた。 ばさっ。 「ゆぴっ!?やめち『ばさっ』・・・・!!」 ばさっ。ばさっ。 「・・・・ぴぅ・・!!・・・っ!!」 「・・・・・・お、おちびちゃんたちに、なにじでるのぉぉぉおおおおお!!!」 「ゆぁーん!いもうとたちがちんじゃうぅぅぅううう!」 止めさせようと叫び、駆け寄る母れいむ達。 だが、そんな言葉など聞こえていないかのように、人間さんは赤ゆっくり達の埋められた土山をポンポンッと軽く固めると、 その上にコンクリートブロックを3つ、蓋をするように積み上げた。 「ゆっくちいもうとをたすけりゅよ!ゆーしょ!ゆーしょ!」 「まりしゃもがんばりゅよ!ゆんせ!ゆんせ!」 ブロックは別にそれほど重いものでもないが、それでも3つ積み重なると、 ソフトボール程度のサイズしかない子ゆっくり2匹の手にはあまる。 だが、母れいむの体格ならば、それこそ怪我する覚悟があれば、体当たり一撃でどかすことができるはずだった。 その母れいむが、人間さんに頭を掴まれていなければ。 「やめてね!はなしてね!れいむはおちびちゃんをたすけるんだよ!」 だが、母れいむの懇願は無視され、頭を鷲掴みにされた母れいむは、先ほど重傷を負わされた父まりさの横へと置かれた。 そして、 「おちびちゃんが、おちびちゃんがぁぁああ!!」 人間さんは釘抜きを持った右手を軽く振りかぶると、 「はなしてぇ!れいむのおちび『ざしゅっ』ゆ゛・・・・・びぇ・・」 その右手を母れいむの顔面にめがけて、横一文字に振りぬいた。 母れいむの顔面はちょうど左目のまぶたから右目の脇まで引き裂かれた。 右目周辺の皮と餡子は荒っぽく引きちぎられて、周囲に飛び散った。 釘抜きの先には、母れいむの右目が突き刺さったまま残っていたが、 人間さんがびゅんと軽く釘抜きを振ると、地面にぺしょりと叩きつけられ、原型は残らなかった。 「・・ぼ・・・ぎゅ・・。」 この傷は深く、母れいむもまた父まりさ同様に中枢餡を傷つけられ、 意識はあっても、もはや話すことも、身動きを取ることも出来ない体になり果てたのであった。 一方、人間さんが母れいむを処理している間に、 そんなことなど全く気付いていない子ゆっくり達は必死にブロックをどかし続けている。 人間さんが戻ってきたころには、ブロックを3つともどかすことに成功していた。 「ゆぅ、ゆぅ、おもいいししゃんは、ぜんぶどかしちゃよ。」 「れいみゅ!まりしゃ!おへんじしちぇにぇ!」 すると、ブロックという重しから解放された地面が、もぞもぞと波打ち始める。 次の瞬間、ぴょろりと赤ゆっくり達の舌が地面から突き出し始め、声こそ苦しそうだが、 可愛くか細い呼吸音が5つ、無事に地面から響き始めたのだった。 「・・・っくち・・・。」 「ぁしゅけちぇ・・・ぁーしゃん・・・。」 「ゆー!まだみんなぶじだにぇ!・・・ゆーん、おそらとんでるみちゃーい!」 「ゆっくちたすけりゅよ!・・・ゆーん、おそらとんでるみちゃーい。」 そこに、人間さんが戻ってきた。 子れいむは右手に、子まりさは左手に、それぞれ掴まれ持ち上げられてしまう。 「ゆーん・・・ゆ!こんなことしてるばあいじゃにゃいよ!」 「にんげんしゃん、ゆっくちはなしちぇにぇ!」 だが、人間さんは子ゆっくり達を持ったまま、その場を離れてしまった。 「はなしちぇにぇ!ぷきゅーしゅるよ!ぷっきゅー!!」 「いうこときいてくれにゃいと、おとーしゃんとおきゃーしゃんにいいつけりゅよ!おこるととっちぇもこわいんだよ!」 その両親は、激痛と致命傷によって身動きが取れない中、必死で子ゆっくり達の方に視線を向けて、 絶望の中でほんの僅かに残された期待を、人間さんの背中に向けて、その流れる涙で訴えかけていた。 優しいが芯の強い長女れいむと、活発で思いやりあふれる6女まりさ。 9匹いた姉妹の中で2匹だけ残された、初めて授かった子供達。 とってもゆっくりした子供達、あのきれいな瞳を見れば、きっと人間さんも酷いことなんてできないはず。 子ゆっくり達のお願いが聞き届けられたのか、両親達の祈りが通じたのか、 人間さんはしばらく歩くと、腰をおろして子ゆっくりを持った両手を下ろした。 「ゆっくちりかいしたんだにぇ!」 「おねがいきいてくれちぇ、ありがちょー。」 だが、その両手の行き先は地面などではなく、 ・・・・・・ちゃぷん。 いつも一家が水浴びをする、小川の中であった。 じゃぶっ・・・ごぼぉごぼっ・・じゃぶじゃぶ・・ごぽっ・・・・じゃぶじゃぶじゃぶ。 しばらくして、顔と手を小川で洗った人間さんが戻ってきたとき、 その両手に子ゆっくりはおらず、また、あの朗らかな声はどこからも聞こえてくることはなかった。 父まりさも、母れいむも、意識が混濁していく中でなお、おそらくあの可愛い子れいむと子まりさとは、 2度と会うことが出来ないのであろうことを悟り、 「ぎゅ・・・・び・・・ぎゅぅ・・・・・」 「じゅ・・・ぎ・・・・・ごびゅ・・・・」 声にならない叫びをあげながら、もはや焦点の合わなくなった瞳から、涙を流し続けた。 「ぉにぇしゃ『どさっ』・・・」「・・・たしゅけ『のしっ』・・・」 「・・・・・・!!・・・!!」 そして人間さんは、地面から舌をピロピロ出していた赤ゆっくり達の上にブロックを優しく積みなおした後、 バリッ!バリッ!・・・・・・ガンッ!ガンッ!ガンッ! 両親の静かな叫びをかき消すように、 一家のゆっくりとしたおうちだった物置を、乱暴な音を鳴らしながらバラバラに解体していったのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− かつて、めったに人の通らない森沿いの、これまた舗装もされていない道路脇に、一軒の物置があった。 そこは、あるゆっくり一家の明るい夢と未来の光にあふれていた、とてもゆっくりしたおうちがあった場所。 しかし現在その場所には、草一本生えていない四角い地面と、なぜか無造作に積まれたコンクリートブロック以外、何も残っていない・・・ 餡小話掲載作品 ふたば系ゆっくりいじめ 132 俺の嫁ゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 148 ここはみんなのおうち宣言 ふたば系ゆっくりいじめ 157 ぱちゅりおばさんの事件簿 ふたば系ゆっくりいじめ 249 Yの閃光 ふたば系ゆっくりいじめ 305 ゆっくりちるのの生態 ふたば系ゆっくりいじめ 333 銘菓湯栗饅頭 ふたば系ゆっくりいじめ 376 飼いゆっくりれいむ ふたば系ゆっくりいじめ 409 町ゆっくりの食料事情 ふたば系ゆっくりいじめ 436 苦悩に満ちたゆん生 本作品 『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけについては何とも言えないけど) 春-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 161 春の恵みさんでゆっくりするよ 春-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 154 竜巻さんでゆっくりしようね 春-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 165 お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ) 春-2-3. ふたば系ゆっくりいじめ 178 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけのおまけ) 春-2-4. ふたば系ゆっくりいじめ 167 ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ) 春-2-5. ふたば系ゆっくりいじめ 206 町の赤ゆの生きる道 夏-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 137 真夏はゆっくりできるね 夏-1-2. ふたば系ゆっくりいじめ 139 ゆっくりのみるゆめ(おまけ) 夏-1-3. ふたば系ゆっくりいじめ 174 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけのおまけ) 夏-1-4. ふたば系ゆっくりいじめ 235 てんこのインモラルスタディ(おまけのおまけのおまけ) 夏-1-5. ふたば系ゆっくりいじめ 142 ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ) 夏-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 146 雨さんはゆっくりしてるね 夏-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 205 末っ子れいむの帰還 秋-1. ふたば系ゆっくりいじめ 186 台風さんでゆっくりしたいよ 秋-2. ふたば系ゆっくりいじめ 271 都会の雨さんもゆっくりしてるね 冬-1. ふたば系ゆっくりいじめ 490 ゆっくりしたハロウィンさん 翌年 ふたば系ゆっくりいじめ 224 レイパーズブレイド前篇(おまけ) 挿絵:キリライターあき 挿絵:じゃりあき 挿絵:キモあき 挿絵:バケツあき 挿絵:儚いあき 挿絵:車田あき 挿絵:余白あき
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「ゆっくりちくろ」 ある男がゆっくりを求めて山へ入った。 ゆっくりが幻想郷の甘味事情を一変させて随分と経つ。 加工所による廉価で安定した供給は、芋や果実では味わえない濃い甘さを庶民の手に届くようにしたが、 日々食べるとなれば滅多に食べれない頃とは味も変わってくる。 昔は甘味と言えば滅多に食べれないからこそとんでもなく甘く、売るほうも塩を入れて少ない砂糖で甘く感じさせたり、 どぎついほどに甘い物が高級品として出回ったものだが、毎日食べれるほどに普及した今では、甘さ控えめでいくつでも食べられる味が人気だ。 しかし男はそれでは満足できなかった。頭が割れるような強烈な糖分の塊が欲しかった。 そのためには自分で作るしかない。 開けたところに出るとゆっくりがいた。近づくと 「ゆゆ!にんげんがきたよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 などと声がする。 「まりさがおとりになるからみんなはゆっくりいそいでね!」 そう言って一匹のまりさがこちらへ向かってきた。作戦を自分でばらしているのでは世話がない。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ……ぜ!ば、ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」 近づいた後、人間の手が届かない所でとび跳ねながら挑発してくるまりさ。演技は大根だ。 男が目線を上げると、群れが右手の雑木林に入って行くところだった。 「なにそののろさ。うんちなの?しぬの?くやしかったらまりさをつかまえてみるんだぜ!」 男が歩きだすと大げさなほど後退して挑発し、誘うように左手へ跳ねていく。 (せめて口に出して言わなければなあ) そう思いながら男はまりさを無視して群れが消えた雑木林へ向かう。 「どぼじでそっぢにいぐのおおおお!?」 シカトされたまりさが口調も忘れて叫ぶ。 「まりざはごっぢなんだぜえええ!?ばがにずるまりざをいじめてみるんだぜええ!?」 男は顔も向けず、ゆるゆると雑木林に近づいていく。 まりさは必死に跳ねて追いつくと、ぼよんぼよんとコミカルな音を立てて男の足に体当たりをした。 「そっぢにはなにもないんだぜ!?まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?」 男が歩くたびに蹴られることになりながら、まりさはまとわりつくのを止めない。転がってもすぐさま向かってくる。 雑木林に入ると逃げたはずのゆっくり達がいた。 「まりさがにんげんをひきつけてくれるかられいむたちはゆっくりできるよ!」 「ゆっくりー♪」 どうやらまりさの囮で安心していたらしい。警戒も怠ってゆっくりしている。 「みんなにげでええええええ!」 まりさの声でれいむが視線を上げると、騙したはずの人間と、土で汚れたまりさがいた。 「俺は饅頭が食いたい。一匹差し出すなら他の奴らは見逃してやろう」 男は群れの前でそう告げる。 男が目の前に現れた時は狂乱状態になったが、逃げ出そうとする奴らは 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 条件反射の硬直時間を利用して手近な枝で串刺しにされた。 「逃げたら刺す」 比較的賢いゆっくりの集まりなのか、逃走が不可能と知るとおとなしくなった。 一人差し出せば、他全員の命が助かる。ゆっくりに対しては破格の条件と言えた。では、誰が犠牲になるか。 「おにいさん!さっきはごめんなさい!おわびにまりさをたべてね!」 そう言って真っ先に声を上げたのがおとりになったまりさだった。挑発の必要がなくなったからか、だぜ口調ではなくなっている。 「まりざだめえええ」 れいむが泣いて抗議をする。 「ゆ!れいむ!むれのみんながみつかったのはまりさのせきにんだよ!れいむはまりさのぶんもゆっくりしてね!」 「まりさはむれのためにきけんなおとりをやってくれたよ!これいじょうぎせいにならなくていいよ!」 群れ全体が沈痛なムードに包まれる。さながら出征の壮行会。 「あー悪いんだけどな」 「ゆ?」 「お前は土で汚れてるから駄目」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 まりさの泣き顔が歪む。いったん決まりかけた安堵感を奪われ、群れのゆっくりたちの顔には戸惑いが浮かぶ。 まさか、自分が食べられなくてはいけないのか。原始的な恐怖は餡子脳を縛るには十分過ぎた。 群れのゆっくりはどれも平均より清潔で丸々としていた。どれを食べても当たりが期待できる。 「そっちで選べないんなら勝手に選ぶぞ」 「おにいさん、れいむをたべてね!」 沈黙に痺れを切らせた男がそう声をかけると、弾かれるように先程のれいむが叫んだ。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 「れいむいっぢゃだめえええ!」 「ぢんぼおおおおお!?」 「むぎゅうううう!?」 「おねーしゃんちんじゃやだあああ!」 随分と信望があるれいむなのか、群れ全体が怒号を発して引き止める。そんな群れを慈しみをこめた目で見渡したあと、 れいむは男に向き直った。 「おにいさん!れいむならだいじょうぶだよね!?これでむれのみんなはゆっくりできるんだよね!?」 「直接危害は加えん」 そう返事をしてれいむを掴み、帰ろうとする。外では手も汚いし、携行の飲料水も乏しい。 「みんな、ゆっくりしていってね!」 「「ゆ、ゆっくりしていってね!」」 「むきゅん!だめよ!」 愁嘆場に背を向けたところ、物言いがついた。 「このばでたべてくれないとにんげんはしんじられないわ!」 「なにをいっでるのばちゅりぃぃぃ!?」 すわ身代りかと思えば予想外の抗議に、まりさは信じられないといった形相で叫ぶ。 「みんなよくきいて!にんげんはずるがしこいのよ!たべたあとににげたからってうそをついてまたくるかもしれないのよ! つらいけどむれのあんぜんのためにはみんながれいむはきちんとたべられたというしょうにんになるしかないの!」 「そんな……」 なんという猜疑心。その気ならば嘘をつかずに一斉に捕まえれば済むだけなのだが、第一ゆっくり相手の約束なんざ人間の温情で 成立しているようなものなのだが、気を回す割りにはその辺の前提がすっぽり抜けている。所詮饅頭の知恵。 男は腹が減っていることは確かだったので、適当に塵を払ってかぶりつく。 「ゆっ……!」 れいむの押し殺した声が聞こえた。さらりとした上品な甘さ。美味いが、この程度なら人里で買えば済む。 「あんま美味くないなあ」 「れいむがおいしくないわけないでしょおおお!!!」 男のつぶやきに、まりさがどこかずれた反論を叫ぶ。 この短時間に感情の振幅が激しかったためか、髪が乱れて目の輝きが尋常ではない。 あちらを素直に食っておけばよかったかと思ったが、約束したのでれいむを食うことにする。しかし甘みが足りない。 ゆっくりは苦痛を味わうほどに甘くなるらしいが、汚れた手で餡子をいじりたくないし髪飾りもきちんと味わいたい。 仲間を殺すさまを見せるのがスタンダードだが、約束したのでそれも出来ない。 傷を付けずに苦痛を味あわせる方法。設備もない野外で出来ることは何か。野外だからこそ出来ることは何か。 『まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?』 「あ」 思いついた。 「なあれいむ。お前の家に案内してくれないか?」 巣は目の前にあった。上手いこと根の隆起を利用して屋根にした穴だった。 中にゆっくりがいればともかく、単体としてはただの気にも留めない深めの穴だ。 奥をのぞいてみると滑らかな石や昆虫の死骸が貯め込まれていた。 「ここがれいむのおうちかあ」 男は意識して柔らかいしゃべり方で話しかける。 「大きくて住みやすそうだね。作るの大変だったろう?」 「うん……まりさもてつだってくれて、ふたりで……」 痛みに堪えながら、かじられた頬が動かぬよう小声でれいむが答える。 「まりさは一緒に住んでないの?」 「むきゅ!けっこんしてないふたりがおなじやねのしたにいるのはふうきがみだれるわ!」 ラブコメの外野のようなことを言うぱちゅりー。 あれだけ仲がいいのにつがいではないということは、大きさでは分からないがまだ成熟し切ってないのだろう。 甘みが少ないわけが納得できた。ともあれ、 「もう誰も住まないなら壊していいよね」 そう言って、足で穴を崩していく。 「れいむのおうちがあああ!」 「でいぶとまりざのだからものがああ!」 叫ぶと共にこぼれる餡子を受け止め、舐める。甘さが強くなったが、まだ足りない。 もっと悪魔のように黒く天使のように純で、まるで恋のように甘くなければ駄目だった。 土が宝物の石も昆虫も埋めていく。淵を削って落とし、深い穴が広く浅いくぼみに変わったところでよく踏んで均す。 「おもいでのだからものおおおお!」 半狂乱で掘りかかろうとするまりさ。しかし踏み固められた地面は簡単には掘り進めない。 穴掘りに夢中になっているまりさは放っておいて、男は群れの一同に語りかける。 「なあみんな。これでれいむとお別れだ。何か言っておくことはないかな?」 「れいむ、いままでありがとう……」 「みんな……」 「いやそんなんじゃなくてね」 「「?」」 「今まで気を遣って言えなかった不満、無いかな?」 「れ、れいむはまりさといちゃいちゃしすぎよ!ふしだらだわ!」 「れいむにふまんなんてないよ!」 と言っていた一同だったが、 「れいむがおいしくないと他の子も食べちゃうかもなあ」 と脅すと、口火を切ったのはぱちゅりーだった。それでもまだ注意するような物言いだ。 「とかいはにいわせてもらえばれいむはまりさにたよりすぎよ!こんかいだってもっとおくまでにげていればよかったのよ! それをれいむがあんぜんだっていうから……いうがらああああ!ぁぁあれいむじなないでぇぇええ」 責めてると思ったら泣き出すアリス。これなんてツンデレ?それも次の告発で終わる。 「おねーしゃんはまりしゃたちにおやつはきまったじかんにっていってるのに、よるまりしゃおねーしゃんとこっそりたべていてずるいよ!」 「なんでじっているのおおぅ!?」 「どういうことよれいむうううう!」 「あいびきだねわかるよー」 「まりざはわたざないがらあああ!れいむがいなくなったあどひとりじめするがらああああ!」 死にゆく者にムチ打つありす。 「むきゅ!れいむ!つごうのいいときだけるーるをおしつけるようではわるいこよ!」 追討ちをかけるぱちゅりー。 「わるいこがたべられるのはじごうじとくだねー、わかるよー」 本当に分かっているのか傷口に塩を塗り込むちぇん。 「ちぃーんぽっ」 もはや何言ってんだか人間では分からないみょん。 「「ゆっくりしんでいってね!」」 逢引が発覚しただけでこの言われよう。果たしてまりさはどれだけのフラグを立てていたのか。 さっきまではれいむは命がけで群れを救おうとする尊い犠牲だったのに、今では公開処刑、吊るし上げである。 「れいむ!たからものをほりかえしたよ!まりさはれいむのことをずうぅっとわすれないよ!」 天然スケコマシがやりとげた笑顔で戻ってきた。しかし離れていたうちに急変した場の雰囲気についていけない。 「どぼじでみんなれいむのわるぐちいっでるのおおおおお!?」 「まりさ!おいしくないれいむがわるいんだよ!」 「むきゅ!くるしむとおいしくなるということは、おいしくないれいむはくるしんでなかったのね!」 「れいむほどゆっくりしてるゆっくりがおいしくないわけないでしょおおおお!?」 「いいおもいばかりしてるわるいゆっくりなんだねー。わかるよー」 「おばえらにでいぶのなにがわがるっでいうんだあああああ!」 矢継ぎ早にれいむを罵倒されたまりさは声を張り上げて仲間に襲いかかった。 「おいしくなくてごめんなさい……おいしくなくてごめんなさい……」 れいむは泣きながら謝り続けている。そろそろいいかと餡子を舐めてみる。脊髄に衝撃が走るほどに甘い。かなりいい感じだ。 だがもうちょっといけそうか? 「れいむ。見てごらん。まりさが暴れてるよ」 そう声をかけると、れいむの目の焦点が定まる。 「まりさっ!?」 まりさは複数の仲間に体当たりを繰り返していた。ぱちゅりーは一撃で中身をこぼし、ありすとちぇんがまりさの攻撃を受け止めている。 「ちーんぽっ」 その隙にみょんが頭上からのしかかり、押さえつけた。 「まりさ!わるいのはれいむなの!」 「れいむはなに゛もわ゛るぐないいいい!」 「わるいの!おいしくないれいむはくるしんでないずるいゆっくりなの!」 「れいむ。助けたかった仲間が死にそうだねえ」 「ゆゆ!?」 「ほら、ぱちゅりー。体弱いんだろ?」 二匹だけの世界に入っていたところを引き戻す。ようやく瀕死状態のぱちゅりーに気付いたようだ。 「ああああ゛ぱちゅりぃぃぃぃ!どおじでえ゛え゛え゛え゛」 滂沱の涙で手が濡れる。甘ったるい匂いはシロップか。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆっくりばっかりしているわるいれいむでごめんなさい!おいしいものたべててぼめんなさい! まりざといっじょにたべたぢょうぢょざんおいじがったですうう!おはなさんはなんでもおいじがっだですうう! つめたいおみずおいじがったでずうう!でいぶはどろみずがおにあいでしだあああ!」 どこかのマラソン選手を彷彿とさせる言葉を発し始めたれいむ。その餡子を男は鬼気迫る形相で食らう。 甘い、甘いぞ。既に舌の感覚がなくなるほどなのに、舐めるたびに甘みが毒々しく舌を打つ。甘過ぎて頭痛がする。 それでいて瑞々しく、食べるたびに喉の渇きが癒される。 「おうちにすめててごめんなざい!まりざにてづだわぜでごめんなざい!れいむはまりざをひどりじめしようどしていたわるいこでずうう! ともだぢがいてごめんなざい!みんなでずるひなたぼっごぎもちよかったですうう!あかちゃんたちかわいかったですうう! いっばいおうだをうだってゆっぐりしまじだあああ!ありずどばちゅりぃぃ、めいわくかけてごめんなさいいい! ちぇんとみょん、いつもおぞくであじをひっばっでごめんなざい!!れいむはみんなどながよぐできでてじあわぜでじたあああ!」 走馬灯のような懺悔が紡がれるたびに、騒いでいた群れが静かになる。れいむがどれだけ自分たちのことを大事に思っていたか分かったのだ。 そのれいむに、ひどいことを言ってしまった。 「ごめんなさい!れいむのことわるいゆっくりっていってごめんなさい!」 「うまれでぎでごめんんざいいい!いづもあまえででごべんなざいいい!」 詫びの言葉は届かない。れいむが錯乱状態にあるのはもちろんのこと、恐ろしい速さで男がれいむを貪っているからである。 既に顔面とそれに付随する餡子しか残っていない。それも一口で噛み砕かれる。最期におかあさんとだけ残して、れいむは男の腹に消えた。 男が我に返ると残りのゆっくり達が汚れたまま放心していた。 ぱちゅりーは死亡。まりさも強く押さえつけられて瀕死。ありす、ちぇん、みょん、とばっちりを受けて子ゆっくりもぼろぼろだ。 存在すら忘れられていた、串刺しにされたゆっくりもいる。かつての清潔さと福々しさは見る影もない。 どうしてここまでこの群れは崩壊してしまったのだろう。俺はただ美味しいお菓子が食べたかっただけなのに。 そう思いながら今度こそ男はその場を後にした。 このSSに感想を付ける
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「ゆっくりちくろ」 ある男がゆっくりを求めて山へ入った。 ゆっくりが幻想郷の甘味事情を一変させて随分と経つ。 加工所による廉価で安定した供給は、芋や果実では味わえない濃い甘さを庶民の手に届くようにしたが、 日々食べるとなれば滅多に食べれない頃とは味も変わってくる。 昔は甘味と言えば滅多に食べれないからこそとんでもなく甘く、売るほうも塩を入れて少ない砂糖で甘く感じさせたり、 どぎついほどに甘い物が高級品として出回ったものだが、毎日食べれるほどに普及した今では、甘さ控えめでいくつでも食べられる味が人気だ。 しかし男はそれでは満足できなかった。頭が割れるような強烈な糖分の塊が欲しかった。 そのためには自分で作るしかない。 開けたところに出るとゆっくりがいた。近づくと 「ゆゆ!にんげんがきたよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 などと声がする。 「まりさがおとりになるからみんなはゆっくりいそいでね!」 そう言って一匹のまりさがこちらへ向かってきた。作戦を自分でばらしているのでは世話がない。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ……ぜ!ば、ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」 近づいた後、人間の手が届かない所でとび跳ねながら挑発してくるまりさ。演技は大根だ。 男が目線を上げると、群れが右手の雑木林に入って行くところだった。 「なにそののろさ。うんちなの?しぬの?くやしかったらまりさをつかまえてみるんだぜ!」 男が歩きだすと大げさなほど後退して挑発し、誘うように左手へ跳ねていく。 (せめて口に出して言わなければなあ) そう思いながら男はまりさを無視して群れが消えた雑木林へ向かう。 「どぼじでそっぢにいぐのおおおお!?」 シカトされたまりさが口調も忘れて叫ぶ。 「まりざはごっぢなんだぜえええ!?ばがにずるまりざをいじめてみるんだぜええ!?」 男は顔も向けず、ゆるゆると雑木林に近づいていく。 まりさは必死に跳ねて追いつくと、ぼよんぼよんとコミカルな音を立てて男の足に体当たりをした。 「そっぢにはなにもないんだぜ!?まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?」 男が歩くたびに蹴られることになりながら、まりさはまとわりつくのを止めない。転がってもすぐさま向かってくる。 雑木林に入ると逃げたはずのゆっくり達がいた。 「まりさがにんげんをひきつけてくれるかられいむたちはゆっくりできるよ!」 「ゆっくりー♪」 どうやらまりさの囮で安心していたらしい。警戒も怠ってゆっくりしている。 「みんなにげでええええええ!」 まりさの声でれいむが視線を上げると、騙したはずの人間と、土で汚れたまりさがいた。 「俺は饅頭が食いたい。一匹差し出すなら他の奴らは見逃してやろう」 男は群れの前でそう告げる。 男が目の前に現れた時は狂乱状態になったが、逃げ出そうとする奴らは 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 条件反射の硬直時間を利用して手近な枝で串刺しにされた。 「逃げたら刺す」 比較的賢いゆっくりの集まりなのか、逃走が不可能と知るとおとなしくなった。 一人差し出せば、他全員の命が助かる。ゆっくりに対しては破格の条件と言えた。では、誰が犠牲になるか。 「おにいさん!さっきはごめんなさい!おわびにまりさをたべてね!」 そう言って真っ先に声を上げたのがおとりになったまりさだった。挑発の必要がなくなったからか、だぜ口調ではなくなっている。 「まりざだめえええ」 れいむが泣いて抗議をする。 「ゆ!れいむ!むれのみんながみつかったのはまりさのせきにんだよ!れいむはまりさのぶんもゆっくりしてね!」 「まりさはむれのためにきけんなおとりをやってくれたよ!これいじょうぎせいにならなくていいよ!」 群れ全体が沈痛なムードに包まれる。さながら出征の壮行会。 「あー悪いんだけどな」 「ゆ?」 「お前は土で汚れてるから駄目」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 まりさの泣き顔が歪む。いったん決まりかけた安堵感を奪われ、群れのゆっくりたちの顔には戸惑いが浮かぶ。 まさか、自分が食べられなくてはいけないのか。原始的な恐怖は餡子脳を縛るには十分過ぎた。 群れのゆっくりはどれも平均より清潔で丸々としていた。どれを食べても当たりが期待できる。 「そっちで選べないんなら勝手に選ぶぞ」 「おにいさん、れいむをたべてね!」 沈黙に痺れを切らせた男がそう声をかけると、弾かれるように先程のれいむが叫んだ。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 「れいむいっぢゃだめえええ!」 「ぢんぼおおおおお!?」 「むぎゅうううう!?」 「おねーしゃんちんじゃやだあああ!」 随分と信望があるれいむなのか、群れ全体が怒号を発して引き止める。そんな群れを慈しみをこめた目で見渡したあと、 れいむは男に向き直った。 「おにいさん!れいむならだいじょうぶだよね!?これでむれのみんなはゆっくりできるんだよね!?」 「直接危害は加えん」 そう返事をしてれいむを掴み、帰ろうとする。外では手も汚いし、携行の飲料水も乏しい。 「みんな、ゆっくりしていってね!」 「「ゆ、ゆっくりしていってね!」」 「むきゅん!だめよ!」 愁嘆場に背を向けたところ、物言いがついた。 「このばでたべてくれないとにんげんはしんじられないわ!」 「なにをいっでるのばちゅりぃぃぃ!?」 すわ身代りかと思えば予想外の抗議に、まりさは信じられないといった形相で叫ぶ。 「みんなよくきいて!にんげんはずるがしこいのよ!たべたあとににげたからってうそをついてまたくるかもしれないのよ! つらいけどむれのあんぜんのためにはみんながれいむはきちんとたべられたというしょうにんになるしかないの!」 「そんな……」 なんという猜疑心。その気ならば嘘をつかずに一斉に捕まえれば済むだけなのだが、第一ゆっくり相手の約束なんざ人間の温情で 成立しているようなものなのだが、気を回す割りにはその辺の前提がすっぽり抜けている。所詮饅頭の知恵。 男は腹が減っていることは確かだったので、適当に塵を払ってかぶりつく。 「ゆっ……!」 れいむの押し殺した声が聞こえた。さらりとした上品な甘さ。美味いが、この程度なら人里で買えば済む。 「あんま美味くないなあ」 「れいむがおいしくないわけないでしょおおお!!!」 男のつぶやきに、まりさがどこかずれた反論を叫ぶ。 この短時間に感情の振幅が激しかったためか、髪が乱れて目の輝きが尋常ではない。 あちらを素直に食っておけばよかったかと思ったが、約束したのでれいむを食うことにする。しかし甘みが足りない。 ゆっくりは苦痛を味わうほどに甘くなるらしいが、汚れた手で餡子をいじりたくないし髪飾りもきちんと味わいたい。 仲間を殺すさまを見せるのがスタンダードだが、約束したのでそれも出来ない。 傷を付けずに苦痛を味あわせる方法。設備もない野外で出来ることは何か。野外だからこそ出来ることは何か。 『まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?』 「あ」 思いついた。 「なあれいむ。お前の家に案内してくれないか?」 巣は目の前にあった。上手いこと根の隆起を利用して屋根にした穴だった。 中にゆっくりがいればともかく、単体としてはただの気にも留めない深めの穴だ。 奥をのぞいてみると滑らかな石や昆虫の死骸が貯め込まれていた。 「ここがれいむのおうちかあ」 男は意識して柔らかいしゃべり方で話しかける。 「大きくて住みやすそうだね。作るの大変だったろう?」 「うん……まりさもてつだってくれて、ふたりで……」 痛みに堪えながら、かじられた頬が動かぬよう小声でれいむが答える。 「まりさは一緒に住んでないの?」 「むきゅ!けっこんしてないふたりがおなじやねのしたにいるのはふうきがみだれるわ!」 ラブコメの外野のようなことを言うぱちゅりー。 あれだけ仲がいいのにつがいではないということは、大きさでは分からないがまだ成熟し切ってないのだろう。 甘みが少ないわけが納得できた。ともあれ、 「もう誰も住まないなら壊していいよね」 そう言って、足で穴を崩していく。 「れいむのおうちがあああ!」 「でいぶとまりざのだからものがああ!」 叫ぶと共にこぼれる餡子を受け止め、舐める。甘さが強くなったが、まだ足りない。 もっと悪魔のように黒く天使のように純で、まるで恋のように甘くなければ駄目だった。 土が宝物の石も昆虫も埋めていく。淵を削って落とし、深い穴が広く浅いくぼみに変わったところでよく踏んで均す。 「おもいでのだからものおおおお!」 半狂乱で掘りかかろうとするまりさ。しかし踏み固められた地面は簡単には掘り進めない。 穴掘りに夢中になっているまりさは放っておいて、男は群れの一同に語りかける。 「なあみんな。これでれいむとお別れだ。何か言っておくことはないかな?」 「れいむ、いままでありがとう……」 「みんな……」 「いやそんなんじゃなくてね」 「「?」」 「今まで気を遣って言えなかった不満、無いかな?」 「れ、れいむはまりさといちゃいちゃしすぎよ!ふしだらだわ!」 「れいむにふまんなんてないよ!」 と言っていた一同だったが、 「れいむがおいしくないと他の子も食べちゃうかもなあ」 と脅すと、口火を切ったのはぱちゅりーだった。それでもまだ注意するような物言いだ。 「とかいはにいわせてもらえばれいむはまりさにたよりすぎよ!こんかいだってもっとおくまでにげていればよかったのよ! それをれいむがあんぜんだっていうから……いうがらああああ!ぁぁあれいむじなないでぇぇええ」 責めてると思ったら泣き出すアリス。これなんてツンデレ?それも次の告発で終わる。 「おねーしゃんはまりしゃたちにおやつはきまったじかんにっていってるのに、よるまりしゃおねーしゃんとこっそりたべていてずるいよ!」 「なんでじっているのおおぅ!?」 「どういうことよれいむうううう!」 「あいびきだねわかるよー」 「まりざはわたざないがらあああ!れいむがいなくなったあどひとりじめするがらああああ!」 死にゆく者にムチ打つありす。 「むきゅ!れいむ!つごうのいいときだけるーるをおしつけるようではわるいこよ!」 追討ちをかけるぱちゅりー。 「わるいこがたべられるのはじごうじとくだねー、わかるよー」 本当に分かっているのか傷口に塩を塗り込むちぇん。 「ちぃーんぽっ」 もはや何言ってんだか人間では分からないみょん。 「「ゆっくりしんでいってね!」」 逢引が発覚しただけでこの言われよう。果たしてまりさはどれだけのフラグを立てていたのか。 さっきまではれいむは命がけで群れを救おうとする尊い犠牲だったのに、今では公開処刑、吊るし上げである。 「れいむ!たからものをほりかえしたよ!まりさはれいむのことをずうぅっとわすれないよ!」 天然スケコマシがやりとげた笑顔で戻ってきた。しかし離れていたうちに急変した場の雰囲気についていけない。 「どぼじでみんなれいむのわるぐちいっでるのおおおおお!?」 「まりさ!おいしくないれいむがわるいんだよ!」 「むきゅ!くるしむとおいしくなるということは、おいしくないれいむはくるしんでなかったのね!」 「れいむほどゆっくりしてるゆっくりがおいしくないわけないでしょおおおお!?」 「いいおもいばかりしてるわるいゆっくりなんだねー。わかるよー」 「おばえらにでいぶのなにがわがるっでいうんだあああああ!」 矢継ぎ早にれいむを罵倒されたまりさは声を張り上げて仲間に襲いかかった。 「おいしくなくてごめんなさい……おいしくなくてごめんなさい……」 れいむは泣きながら謝り続けている。そろそろいいかと餡子を舐めてみる。脊髄に衝撃が走るほどに甘い。かなりいい感じだ。 だがもうちょっといけそうか? 「れいむ。見てごらん。まりさが暴れてるよ」 そう声をかけると、れいむの目の焦点が定まる。 「まりさっ!?」 まりさは複数の仲間に体当たりを繰り返していた。ぱちゅりーは一撃で中身をこぼし、ありすとちぇんがまりさの攻撃を受け止めている。 「ちーんぽっ」 その隙にみょんが頭上からのしかかり、押さえつけた。 「まりさ!わるいのはれいむなの!」 「れいむはなに゛もわ゛るぐないいいい!」 「わるいの!おいしくないれいむはくるしんでないずるいゆっくりなの!」 「れいむ。助けたかった仲間が死にそうだねえ」 「ゆゆ!?」 「ほら、ぱちゅりー。体弱いんだろ?」 二匹だけの世界に入っていたところを引き戻す。ようやく瀕死状態のぱちゅりーに気付いたようだ。 「ああああ゛ぱちゅりぃぃぃぃ!どおじでえ゛え゛え゛え゛」 滂沱の涙で手が濡れる。甘ったるい匂いはシロップか。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆっくりばっかりしているわるいれいむでごめんなさい!おいしいものたべててぼめんなさい! まりざといっじょにたべたぢょうぢょざんおいじがったですうう!おはなさんはなんでもおいじがっだですうう! つめたいおみずおいじがったでずうう!でいぶはどろみずがおにあいでしだあああ!」 どこかのマラソン選手を彷彿とさせる言葉を発し始めたれいむ。その餡子を男は鬼気迫る形相で食らう。 甘い、甘いぞ。既に舌の感覚がなくなるほどなのに、舐めるたびに甘みが毒々しく舌を打つ。甘過ぎて頭痛がする。 それでいて瑞々しく、食べるたびに喉の渇きが癒される。 「おうちにすめててごめんなざい!まりざにてづだわぜでごめんなざい!れいむはまりざをひどりじめしようどしていたわるいこでずうう! ともだぢがいてごめんなざい!みんなでずるひなたぼっごぎもちよかったですうう!あかちゃんたちかわいかったですうう! いっばいおうだをうだってゆっぐりしまじだあああ!ありずどばちゅりぃぃ、めいわくかけてごめんなさいいい! ちぇんとみょん、いつもおぞくであじをひっばっでごめんなざい!!れいむはみんなどながよぐできでてじあわぜでじたあああ!」 走馬灯のような懺悔が紡がれるたびに、騒いでいた群れが静かになる。れいむがどれだけ自分たちのことを大事に思っていたか分かったのだ。 そのれいむに、ひどいことを言ってしまった。 「ごめんなさい!れいむのことわるいゆっくりっていってごめんなさい!」 「うまれでぎでごめんんざいいい!いづもあまえででごべんなざいいい!」 詫びの言葉は届かない。れいむが錯乱状態にあるのはもちろんのこと、恐ろしい速さで男がれいむを貪っているからである。 既に顔面とそれに付随する餡子しか残っていない。それも一口で噛み砕かれる。最期におかあさんとだけ残して、れいむは男の腹に消えた。 男が我に返ると残りのゆっくり達が汚れたまま放心していた。 ぱちゅりーは死亡。まりさも強く押さえつけられて瀕死。ありす、ちぇん、みょん、とばっちりを受けて子ゆっくりもぼろぼろだ。 存在すら忘れられていた、串刺しにされたゆっくりもいる。かつての清潔さと福々しさは見る影もない。 どうしてここまでこの群れは崩壊してしまったのだろう。俺はただ美味しいお菓子が食べたかっただけなのに。 そう思いながら今度こそ男はその場を後にした。 このSSに感想を付ける