約 3,642,815 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/792.html
「ゆっゆ~♪」 「ゆ~♪」 れいむは巣の中で子ども達と一緒に宝物を眺めてにやにやと笑いあっていた。 「おや、なんだいそれは?」 「ゆ!?」 その時、突然巣の入り口から人間が覗き込んだ。 人間はゆっくり達の宝物を面白そうに眺めていた。 「あんなガラクタ大事にしてんのか…」 ゆっくりの宝物というのは比較的まるくて綺麗な小石や人間が出したゴミといったものだった。 こんなものでもゆっくりにとっては珍しく大事なのだ。 「ゆー!ここはれいむのおうちでこれはれいむのたからものだよ! ゆっくりでていってね!」 れいむは勝手に巣をのぞく男に対してぷんすかと怒り男はそれを無視して 顎に手を当てて考え込みながらぱっとひらめいたかのように自分のかばんの中を漁って 母れいむ二匹分くらいの箱を手渡した。 「宝物をそのまま置いておくなんて無用心だろ こっからこの中に入れるといいよ そうすれば取られない」 そう言って箱の上部の500円玉くらいの大きさの穴を指差した。 「ゆ!?おにいさんありがとう!ゆっくりもらっていくね!」 「ゆっくちありがちょう!」 男はゆっくり立ちに御礼を言われると笑顔で返して 箱を置いて去っていった。 「ゆ~♪これであんしんしてゆっくりできるよ☆」 れいむは嬉しそうに宝物の小石やゴミクズを口に咥えると箱の中にいれていった。 「おかーしゃんおかーしゃん!たかりゃものだけぢゃなくちぇごはんもだいぢだよ!」 「ゆ!ほんとだ!れいむのあかちゃんはやっぱりあたまがいいよ!」 子れいむにいわれてれいむは今度は食べ物を箱の中に入れていく。 食料を全て入れてれいむはほっと一息ついた。 「ゆ~こんどこそゆっくりできるよ…」 「う~~~~☆たーべちゃうぞー☆」 「ゆううううううう!?」 そんなれいむの巣に突如ゆっくりれみりゃが襲い掛かった。 「たーべちゃうぞー!」 「たちゅけておかあしゃああああああん!!!」 このままでは子れいむ達が真っ先にれみりゃに食べられてしまうだろう。 迫り来るれみりゃを見ながられいむははっと思いつく。 この大事なものを入れる箱の中に子ども達を入れれば子ども達は安全だ尾t。 「あかちゃんたちはこのはこのなかにはいってね!」 さっと子れいむ達を咥えると穴にぺっとだしてさらに上から押し込んだ。 「ゅぅぅぅぅぅう!?いちゃいよおかあしゃあああああん!!」 「がまんちてねえええええ!!」 穴が小さすぎたのか子れいむ達は痛みに悲鳴を上げるが今はそんなことを構っている暇は無い。 れいむは三匹の子れいむ達を即座に押し込んでいった。 「う、うー?」 れみりゃはさっきまでいた子れいむ達が箱の中に隠れてしまい困ったように辺りを探した。 「ゆううう!ここはぜったいにとおさないからゆっくりでていってね!」 立ちふさがるれいむを見てれみりゃはそれをむんずと掴んだ。 「これまずいからいりゃない!ぽいっするど!ぽいっ!」 「ゆうううううう!?」 「しゃくやー!ぷっでぃーんもっでぐるどー」 もとより子れいむ以外食べる気がなかったのか母れいむを投げ捨て、れみりゃはその場を立ち去った。 「ゆぅぅぅ…あぶないところだったよ…」 れいむはれみりゃに投げ飛ばされて痛む体を起こしながらほっと溜息をついた。 「ゆ、もうだいじょうぶだよ!ゆっくりでてきてね!」 「ゆー♪おかあしゃんしゅごーい!」 「さっしゅがぁ♪」 「おかあしゃんだいちゅき!」 子ゆっくりたちは歓声を上げて母の元へと行こうと箱の中を歩き回った。 「「「どうやってでりゅのおおおおおおお!?」」」 「ゆううううううううう!?」 それから一月が経った。 「ごはんをもってきたからゆっくりたべてね!」 巣に帰ったれいむは真っ先に箱の中に餌を入れていく。 「…むーしゃむーしゃ」 「…しあわ」 「じぇんじぇんしあわせじゃないよおおおおおおお!!!」 あれから子れいむ達は毎日のように泣いていた。 箱の中は穴以外から光は入らず非情に薄暗く、換気もろくに出来ないため常にじめじめとしていた。 鉄で出来た箱の内壁は冷たく重々しく、心までゾワゾワと冷ましていく。 箱の中はゆっくりとは全く無縁の場所だった。 「だちて!だちてえええええええ!!」 一匹の子れいむがドンドンと壁に体当たりを繰り返す。 「やめてね!ゆっくりできなくなっちゃうよ!」 「も゛う゛ゆ゛っぐり゛でき゛な゛い゛い゛い゛いいいい!!」 箱の中に子れいむの叫びが木霊した。 「ゆ゛ぐぐぐ…ごべんね…ごべんね…!」 れいむは箱に耳を当てて中の会話を聞きながらぎゅっと目をつぶり涙した。 もし自分が箱の中に入れたりしなければこんなことには もし自分がこの鉄の箱をひっくり返して中のものを取り出せれば れいむはこころの底から後悔した。 さらに二ヶ月の月日が経った。 都合、三ヶ月もの間子れいむ達は過ごしたことになる。 「ごはんをもってきたからゆっくりたべてね!」 「「「……」」」 ここのところもはや三匹は何も喋らずにただただご飯を食べるだけであった。 その姿を見ながら元気だった頃の子れいむ達の姿を思い出してれいむの頬を涙が伝った。 「どぼぢで…ごんなごどにぃぃぃぃ…」 悲痛なれいむの声を聞いて、通りすがりの男がすっと巣の中を覗き込んだ。 「なにしてんだ?」 あの箱をれいむたちに与えた男である。 「うわああああああああああ!!!」 思わずれいむは男の顔面にむかって体当たりした。 「うわっぷ!?な、なにすんだよ!?」 「おばえのぜいで!おばえのぜいでぇええええ!!」 「おにいざんがごのばごをわだずがらでいぶだぢがあああ!!!」 子れいむたちも男の出現を悟って思わず溜まっていたものが爆発して罵声を投げかけ始めた。 「な、まさかお前子どもまで箱の中に入れたのかよ!?」 男は酷く驚いたようだった。 「でいぶのあがぢゃんぢゃんどだぢでねえええええ!!」 男はこの箱ならゆっくりには取り出せないだろうと思って軽いいたずらのつもりでこの鉄の箱を手渡したのだが まさか子どもを入れてしまうなんて思いもよらなかった。 「わかったわかった、出してやるって…」 流石に男も気の毒に感じて手を貸してやることにしたのだった。 「あ、あぢがどおおおおおおおおおお!!!」 れいむは嬉し涙を流して男の足に頬をこすりつけて感謝した。 「要はひっくり返せばいいんだよ…重いな」 男はよっこいせと箱を持ち上げるとごろんとさかさまにした。 「ゆぐ!?」「ゆうう!?」「ゆっくりまわしぎゃあ!?」 中のものもごろごろ壁に当たりながら転がり、箱の穴が下側に向いた。 「さ、その穴からでな」 男は思っていたより重いのか少し声を震わせながら早く出るよう子れいむ達に促した。 「ゆっくりでてきてね!」 れいむはこれ以上ないという笑顔で子れいむ達の脱出を待った。 箱の中から子れいむ達が動きあう音がする。 「「「でれないよおおおおおおおおおお!!!」」」 「ど、どおいうことおおおおおおおお!?」 三ヶ月という時間は子れいむ達が成長するのに充分すぎたのだ。 500円玉程度の穴を通るには子れいむ達は成長しすぎていた。 「ぢゃんどだぢでね!でいぶのあがぢゃんぢゃんどだぢであげでね゛!」 「これ、加工場に働いてる兄貴から失敗作貰っただけだから加工場行かないと取り出すのは…」 「がごうじょういやあああああああああああ!!!」 子れいむ達が加工場という単語を聞いて泣き喚いた。 「ほがのぼう゛ぼうぢゃんどがんがえでよ゛おおお!!!」 子れいむ達が出られるという希望を打ち砕かれてれいむは半狂乱になって男に噛み付いた。 目は血走り、怒りに震えている。 「し、しるかよ!」 男は箱を投げ捨ててれいむを引っ剥がすと一目散に走り去った。 男にとっていくら同情したからといってこれ以上は面倒なだけだった。 「ゆぎゃあああああ!」 「いだいいいいい!!」 子れいむ達は箱を乱暴に投げ出されて壁に体を打ち付けて悲鳴を上げた。 「ま゛っでよおおおおお!ゆ゛っぐり゛だぢでえええええええ!」 れいむは男の後を追ったが遂にその男とふたたび出会うことは無かった。 「もういやあああああ!」 「ごごがらだぢでええええええ!!」 子れいむ達の悲鳴だけが箱の中から漏れ出していた。 それから月日は経って、子れいむ達が箱に入って一年がたった。 もはや親子の間で会話さえなくれいむが箱の中に餌を入れ それを黙々と子れいむ達が食べるだけという生活が続いていた。 成人間近の子れいむ達の食料を集めるためにれいむは奴隷のように働き続けた。 もはや他のゆっくりとの親交もなくただただひたすら食料を集めるだけ れいむの楽しみなど全く無くゆっくりせずに汗水たらす日々だった。 れいむはなみだも枯れ果てた目で箱を見つめる。 「ぉかあさん…」 その時、小さな小さなくぐもった声が箱の中から聞こえた。 「…!?どうしたの?ゆっくりしていってね!」 久々に聞いた子どもの声にれいむは慌てて箱をよじ登って穴を覗き込んだ。 「ぜまぃぃ…!」 「ゆ!ごべんね!いつかかならずだしてあげるからがまんしてね!」 れいむはいつも言っていた文句ながらも久々に子れいむと会話が出来て 嬉しそうに答えた。 「ちがうのぉぉお…!」 しかし子れいむの声は苦しみに満ち、切実だった。 「いぎ…でぎ…だい…」 「ぐるじぃぃ…!」 「ゆ!?どういうこと!?ゆっくりせつめいしてね!」 箱の中は限界に来ていた。 成長した子れいむ達により完全にぎゅうぎゅう詰めになり息をするのも困難なほどで 三匹は顔をつき合わせて穴に向かって口を開いていた。 もう後ろを振り返ることも出来ないだろう。 いや、横も無理か。 動かなくていいぶん発育だけは非常によかったのが仇になった。 ぶくぶくと太り成人以上のサイズになった三匹にもはやスペースは無かった。 次の日 何とかしなければと思いながらも結局何も思いつかなかったれいむは また食事を運ぶことを繰り返した。 「ぉか…さ…」 この前よりさらに苦しそうなか細い声が聞こえ、慌てて箱を覗き込む。 するとそこには赤黒い何かが広がっていた。 「ど、どおいうこと?!」 「はやくれいむのおくちにたべものいれてね!!!」 箱の中の赤黒い何かがうごめいたかと思うと子れいむの元気な声が返ってくる。 「ゆ!?ひょっとしてこれおくちなの? そんなところにいたらほかのみんながたべられないよ! ゆっくりどいてあげてね!」 「うるさいよ!むのうなおかあさんはゆっくりしてないではやくごはんよこしてね!」 「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおお!?」 子れいむの突然の暴言にれいむは驚愕した。 「こんなことになったのはおかあさんのせいなんだからおかあさんのいうことなんてきいてられないよ! おかあさんはれいむたちみんなしぬかれいむにだけでもごはんをあげるかとっととえらんでね!!」 「ゅ…」 「た…ぅぇて…お…ぁ…ん…」 子れいむの怒声と押し潰された他の二匹のか細い悲鳴が聞こえてくる。 「ゆ、ゆぅぅぅう…!」 れいむは悩んだすえに、他の二匹にないて謝りながら餌をあげることにした。 その顔には苦渋の色だけがあった。 それから三日ほど経った。 「……」 れいむは陰鬱な気持ちで箱の前へと歩いていった。 その姿はまるで死刑執行代への道を歩む死刑囚のように項垂れていた。 「おかあさん!はやくごはんちょうだいね!おなかすいてゆっくりできないよ!」 「ゆーおなかすいたああああああ!ゆっくりしてないでえええええええ!!」 しかし二匹の呼び声を聞いてその表情はぱぁ、っと明るくなった。 「ゆ!なかなおりしてくれたんだね!みんなでゆっくりごはんたべようね!」 れいむは三匹の子達が仲直りして押し潰すのをやめてくれたのだと想い喜びに震えながら穴を覗き込んだ。 「ゆ…?」 しかし穴の中からは甘い香りと真っ赤に開かれた二つの口があるだけだった。 甘い香りは一体どこから来たのかとれいむは目を皿の様にして必死に見回した。 何度か角度を変えると光の具合が変わり、その原因がわかった。 「どぼぢでええええええええ!?」 穴の前を占領していた子れいむが顎の下を食い破られて死んでいた。 「れいむたちのごはんをとるわるいれいむはやっつけたよ!」 「だからおかあさんはやくごはんちょうだいね!!!」 「ゆっぐりいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」 れいむの中に一挙に恐怖の感情が沸き起こった。 自分の家族を自分で喰らったこの子達は本当に自分の仲間なのかという疑問がわきあがる。 その疑問や恐怖を仕方なかったんだと理性が必死に押さえつけた。 感情を押し殺して、れいむの箱の前にただ餌を運ぶだけの日々がまた始まった。 「ぐぢゃいいいいいいいいいいい!」 「むじじゃんごわいいいい!おがあじゃんだずげでよおおおおおお!!」 「……」 食いちぎられた子れいむの死体は腐って、悪臭を放ち いつの間に入り込んだのか虫たちが集り始めていた。 れいむの耳にはそんな状況に身をよじって助けを求める子れいむ達の悲鳴を 聞き入れる気力さえなかった。 ただただ餌を与えるだけである。 数日後、男が巣の中をのぞいた。 一瞬、箱を渡した男が来たのかと思ったがよく顔を見ると別人だった。 ひょっとしたら箱の開け方が分かって助けに来たのかと思ったのにぬか喜びだったのかと れいむはまた死んだ魚のような目で俯き溜息をついた。 「その箱、開けに来てやったぜ」 「「「ゆ゛!?」」」 「弟に前なんとかならないかって頼まれててな 工場の道具持ち出すと色々とまずいんだが弟があんまりに憐れそうに言うんで遂に折れてきちまったよ。」 その男は箱を渡した男の兄であるようだ。 罪悪感を感じてた弟が兄に頼み込んで、重い腰をあげたというところのようだ。 「あ、あぢがどおおおおおおおおおおお!!!」 れいむは押し殺していた感情が爆発して涙を流した。 この箱に囚われた生活がやっと終わるのだ。 「やっどでれるよおおおおおおおお!」 「おねえちゃん!おかあさん!おそとにでたらいっぱいあそぼうね!!」 子れいむ達は顔を見合わせて嬉し涙を流しながら笑いあった。 れいむもその仲のいい姿をもうすぐ見れるのだと思って嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。 今までの全てが報われたとれいむは思った。 「加工場製作のチェーンソー、切れないものはあんまり無いぜ!」 男が背負っていた巨大な機械の紐を引っ張るとその刃が回転し始める。 その刃を箱に添えると火花と不思議な金属音が鳴って、箱の上部が切り開かれた。 「ゆぎゃあああああああああ!!!」 「でいぶどりぼんがあああああああああ!!!」 その際子れいむの頭の皮が少し削れ、悲鳴を上げた。 「あ、わるいわるい」 男は悪びれなくニヤリと笑った。 「きをつけてね!」 「わかったわかった、今だしてやるから…あ」 男は顔をしかめた。 「ゆ?どうしたの?はやくだしてあげてね!」 「「だしてね!」」 「ちょっと見てろ」 そう言うと男は死んだ子れいむの体を掴み引っ張った。 ベリベリと音を立てて壁に皮を残して子れいむの死体がちぎりとられた。 「ゆげええええええええ!!!」 凄惨な我が子の姿にれいむは餡子を吐いた。 「な、なんでごどずるのおおおおお!!」 そしてすぐに抗議をした。 男は残念そうに首を横に振る。 「皮が壁に完全に癒着しちまってるよ 取り出したら今みたいに皮剥がれて死ぬね 諦めろ」 男は両手を上げてお手上げのポーズをとった。 「どおいうごどおおおおおおおおおおおおお!?」 「ぢゃんどだぢでよおおおおおおおおおおお!!」 子れいむ達が話が違うと悲鳴を上げ男に飛び掛ろうとした。 しかし今は動ける空間があるにも関わらず一歩たりとも二匹は動くことが出来なかった。 「ま、人生そううまくいかないってこったな」 男はやれやれとチェーンソーを抱えて去っていった。 「「おいでがないでえええええ!!!ゆっぐりぢでいっでよおおおおおおお!!!」」 子れいむ達の叫びに男は一度だけ振り返って残念そうに眉をしかめたがそれだけだった。 「ふ、ふひひひひひひひいひひひ…ゆっくりぃ…ゆっくりぃ…」 れいむに至っては、絶望の淵で目の前にぶらさげられた希望を打ち砕かれて遂に心に異常をきたした。 しかしその顔は幸せそうでもあった。 なにせこうやって何もせずにゆっくりしているなど一年ぶりにもなるのだから。 子れいむ達も直に何もかも諦めてゆっくりしだして家族みんなでゆっくりできるようになるだろう。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2604.html
「う~、さむ。もうすっかり冬だなぁ」 秋が過ぎ、冬の寒さが本格的になり始めた。 畑の収穫も終わり、忙しさも一段落する頃だ。 ふと外を見ると、冬の目印が空から降って来た。初雪である。 「おー、雪かー。そりゃ寒いわ」 こたつで暖まりながら雪の降る庭を見る。実に風流だ。 ここで何か茶菓子でもあれば最高なのだが、生憎と切らしている。 「今日も平和だねー」 のんびりとした日常を満喫する。 畑仕事もないのでゆっくり相手に運動することもない。 そんな感じで暇を持て余していたその時。 ――ゴトッ 俺以外には誰もいない筈の我が家から物音がした。 突然の事にビクッと体が反射的に震える。 「…今なにか音したよな…?」 そのまましばらく無言で様子をうかがうが、何も聞こえない。 どうやらさっきの音は気のせいのようだ。 そう安心しかけたその時。 ――ゴトゴトッ 再び聞こえる怪音。流石に今度は気のせいではない。 ねずみでも入り込んだのかと思い、家の中を調査することにした。 まず部屋今いた部屋を探すが、何も変わったところはない。 べつのへやからかな、と思い廊下に出る。すると。 「……ゆっ……あつ………ね…」 「…これ…ゆっく……でき…」 怪音の次は声の様なものが聞こえてきた。 なんなんだ、我が家には幽霊でもいるのか? 段々怖くなってきたぞ。俺の心に恐怖心というやつだ。 何とか恐怖に耐えながらも声が聞こえてくる方向へ移動する。 そうすると、家の一角にある部屋へと辿り着いた。 「…ここか?」 部屋の中で耳を澄ますと、確かにさっきまでより声が大きく聞こえる。 どうやらここが怪奇現象の発生地らしい。 「さて、一体何が起きているのやら」 原因を探すため、部屋を物色し始める。 するとどうやら声は床下から聞こえているようだという事がわかった。 「ここからか…」 畳を外し、床下を確認する。 そこでは三つの丸い物体が動いていた。 「ゆ! にんげんさんだよ! ゆっくりしていってね!」 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすなんだぜ!」 「おにいさんはゆっくりでていってね!」 そこにいたのは三匹のゆっくり。 成体のれいむとまりさに、子供サイズのれいむだ。恐らく親子だろう。 一体どこから入り込んだんだ。野生動物が入り込まないように、家の周囲はきちんと囲っているはずなのに。 そう思った俺は、床下へ頭を潜らせて穴がないか確認する。 「あ、あそこか」 この部屋の床下の端。そこには小さな隙間があった。 人間は勿論、小さな野犬等も通ることは不可能なほどの小さな細いスキマ。 だが軟体のゆっくりならば体を滑り込ませることが出来るだろう。 あちゃー、もっとちゃんと確認しておけば良かったな。 他にもスキマが無いか別の方向も見る。 が、すぐに見なきゃよかったと後悔した。 「うへぁ、勘弁してくれよ」 床下の少し奥の部分、そこには大量の虫の死骸やよくわからないキノコ等々が貯蓄されていた。 恐らくこの家族が集めたものだろう。 どうやらここで越冬する気だったようだ。 「ゆっ! はやくでていってね!」 「ゆっくりしたければあまいおかしをもってくるんだぜ!」 「おかしおかしー!」 こんな調子でさらに虫の死骸やら何やらを集められてはたまらない。 そういうわけでさっさとお引き取り願う事にした。 一旦部屋から離れ、箒とチリトリを持って戻ってくる。 俺が今から何をするのかわかっていないのだろう、ゆっくり達は不思議そうにこちらを見つめている。 「まったく、余計な手間かけさせてくれるよ」 そう言って箒でゆっくり達の集めた餌、つまりゴミをチリトリへと集めていく。 ここにきてようやく気づいたのか、三匹は猛烈な剣幕で抗議してきた。 「そればれいぶだちのあつめたごはんだよぉぉぉぉ!!」 「まりさたちのごはんになにしてるんだぜえぇぇぇぇぇぇ!?」 「も゛っでいがないでえぇぇぇぇぇぇぇ!!」 親れいむが箒に体当たりしてきたので、さっと撃退する。 バチンといい音が鳴って、親れいむは元いた場所へと転がった。 その口からは少量の餡子が漏れている。ちょっと強すぎたかな? 「ゆえ゛っ…いだい゛よ゛おぉぉぉぉ!!!」 「おかあさんになにずるの゛おおぉぉぉぉ!!」 「ゆっぐりできないおにいざんははやぐどこがにいぐんだぜえぇぇぇ!!」 涙を流して怒鳴る子れいむと親まりさを無視して掃除を続ける。 その間にも、やべでぇぇぇぇと言う声が聞こえるが無視だ無視。 「ふう、こんなものかな」 ゴミをチリトリに集め終わった後、床下を覗きこんで確認する。うん、綺麗だ。 さて…問題はこいつらをどうするかだけど、と三匹のゆっくりを見ながら考える。 あ、そうだ、いいこと思いついた。 「ゆっくりできないおにい゛さんばどっかいっでよおぉぉぉぉ!!」 泣き叫ぶ子れいむを掴み、持ち上げる。 「ゆゆっ! おそらをとんでるみたいー♪」 つい今までの剣幕はどこへやら、楽しそうに笑顔を浮かべる子れいむ。 相変わらずすごい切り替えの早さだな、おい。 そのまま子れいむを近くにあった透明な箱に入れた。 「ゆっ!? でれないよ!」 成体用サイズの箱の中で、子れいむは四方八方へと移動する。 たがそこは箱の中。当然一定以上は進めない。 「どぼじででれない゛の゛おぉぉぉぉぉ!!?」 脱出不可能な事を知り、再び泣き始める子れいむ。 周囲が見えているのに、見えない壁に阻まれて進めない。よく考えたら結構怖いな、これ。 子れいむの鳴き声を聞いて、親れいむを介抱していた親まりさが勢いよくこちらに向かってきた。 「ばりざのごどもをがえずんだぜえぇぇぇぇぇ!!」 顔は涙でぐしょぐしょだ。そのうち水分で溶けるんじゃなかろうか。 俺はそんな親まりさの口に両手を入れ、その口の上下を掴んだ。 「ん゛があぁぁぁぁ!! あ゛にあ゛あ゛ん゛あ゛え゛え゛ぇぇぇぇぇ!!(なにするんだぜぇぇぇぇぇ!!)」 そのまま勢いよく口を上下に引き裂く。 ビリビリッという威勢のいい音と共に親まりさの口が裂けた。 限界以上に口を開いたゆっくり。パッと見何かわからない物体になってしまった。 「あ゛がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」 引き裂かれた激痛に親まりさの両目からは大量の涙が溢れ出ている。 俺はそんな彼女の中へ、チリトリ内のゴミを流しこんだ。これぞ、ゆっくりゴミ箱。 まあゆっくりにとっては餌らしいし、別にいいよね。 「おごっ……あがっ……!!」 親まりさの苦しそうな呻き声も気にせず、次々と詰め込んでいく。 チリトリが空になるときには、どうみても許容量を超えた状態だった。 おお、親まりさの口内にゴミの山が出来ておる。 「ゆ゛っ……ががっ…!」 「おーおー、苦しそうだねぇ」 「おどうざぁぁぁぁぁん!!!」 子れいむは箱の中で泣き叫ぶ以外出来ない。 俺は痙攣している親まりさの後頭部にそっと手を添えた。 もちろん、介抱するわけではない。 ここからは時間との勝負だ。 「よいしょっ!」 「ゆばぶぶぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!??」 添えた手を一気にこちら側へと引っ張る。裂けた口を元の位置に戻すのだ。 「ゆ゛べべべべべべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」 元の2倍ほどに膨れたまりさの体。 少しでも衝撃を与えると破裂するんじゃないかというほど、ぱんぱんに張り詰めている。 すぐさま俺は用意していたガムテープでまりさの口を塞いでゆく。 元々の口にくわえて、裂けた部分も当然封をしていく。 「ん゛ん゛……ん゛……」 「ふぅ、間に合ったか」 何とかゴミを吐かれる前に密封に成功した。 親まりさの口周辺には隙間なくビッチリとガムテープが貼られている。 よほど苦しいのか、少し経つと親まりさは白目を剥いて気絶してしまった。 まあゆっくりにとっては食料だし、死にはしないだろう。 「さてさて、床下も綺麗になったし、あとは…」 まだダメージが残っているらしい親れいむと気絶している親まりさを袋に入れる。 おかあさんたちになにするのおぉぉぉぉぉ、という子れいむの声が聞こえるが放置だ。 「やべでね! ここからだしでね!」 親れいむがまだ少し濁った声で言ってきた。 うるさいので袋越しに弱めの蹴りをくれてやる。 「ゆ゛べらっ!?」 少しは大人しくなったようで、ゆ゛ぅゆ゛ぅとしか鳴かなくなった。 親二匹の入った袋を担いで家の外に出る。 「おがぁぁぁぁぁぁぁぁざぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! おどぉぉぉぉぉぉざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 誰も居なくなった部屋から子れいむの絶叫が声聞こえてきた。 「う~、寒いね」 外は雪がしんしんと降り続けており、さっきまでよりも寒さが増したような気がする。 「いいか、もう二度と来るんじゃねぇぞ」 そう言って勢いよく袋を近くの森の方角へ放り投げた。 普段ならそれなりの飛距離は出るのだが、流石にまりさが重いせいかいつもより距離は短めになった。 まあそれでも森までは届いたし、よしとしよう。運が良ければ助かるだろう。 「寒い寒い。さっさと済ませてこたつで暖まろう。おやつもあるし」 ゆっくり達が侵入してきたスキマを頑丈に塞ぎ、家の中へと戻った。 これでもうゆっくりが床下に来る事はあるまい。 残った子れいむはきちんと洗ったあと、お茶と一緒においしく頂きました。 適度に恐怖と悲しみを味わわせたおかげか、とても美味しかったです。 一方、森へと飛ばされた二匹のゆっくり達は何とか生きていた。 運よく木々がクッションになり、落下時の勢いが弱まっていたのである。 とはいえ全くの無事、というわけではない。 体中に擦り傷が出来ていたし、地面に激突した衝撃でれいむも気絶してしまっていた。 そして先に気が付いたのもれいむだった。 「ゆぅ……ここどこ?」 彼女が目覚め、最初に目にしたのは見たこともない風景だった。 一体どうして自分はこんなところにいるのだろう、とれいむは思った。 しばらく考えたが、落下時の衝撃で記憶が消えたのか、ただ単に餡子脳だからか、全く思い出せなかった。 「ゆっ! かんがえてもしかたないね! みんなでここでゆっくりしようね!」 と、れいむは夫と子れいむの姿を探した。 そして彼女は自分の後ろにあるものを見て――全てを思い出した。 目に入ったのは体が膨れ上がり、口を封じられた伴侶の姿。まりさはまだ気絶していた。 そうだ、自分達は見つけたおうちでゆっくりしていたらあの人間が後からやってきて…。 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!! ま゛り゛ざ! だいじょぉぉぉぶぅぅぅ!?」 れいむの必死の呼びかけで、まりさの意識も覚醒した。 が、体は重いし喋ることが出来ない。それに可愛い子れいむはどこへ行ったんだろう、とまりさは思った。 「んーんーんー!」 「だいじょうぶだよ! いまとってあげるからね!」 ちゃんと喋ることが出来ないまりさに向かってれいむは言い、ガムテープを剥がそうとする。 しかし、手を持たないゆっくりでは、何重にも貼られたガムテープを剥がすのは不可能だ。 なんど挑戦しても、れいむは一枚もはがす事が出来ずにいた。 「どぼじてとれな゛いの゛ぉぉぉぉぉ!?」 無力な自分に絶望するれいむ。そんな彼女を容赦ない寒気が襲った。 雪は未だやむ気配がなく降り続け、二匹の体力をじわじわと奪っていく。 「ゆゆっ! とりあえずおうちにもどろうよ! そこでゆっくりとろうね!」 「んんー!」 まりさの言っている言葉はわからないが、表情からすると賛成であることはれいむにもわかった。 暖かいおうちに戻って、可愛い我が子を助け出してまた三人でゆっくりしよう、とれいむは意気込んだ。 そうして二匹はしばらく森の中を進む。 が、ここが知らない場所だということは、お兄さんの家までの道など当然知っている筈なく。 「どう゛じだらおうぢにいげる゛の゛おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」 いつまでたっても目的地に辿りつかず、その場で泣き出すれいむ。 これでは可愛い我が子を助け出す事が出来ない。 まあ仮にお兄さんの家に辿りついたとしても、既に子れいむはお兄さんのお腹の中なのだが。 再び歩き始める二匹だが、やはりどれだけ進んでもお兄さんの家どころか見覚えのある場所にも辿りつかない。 とうとうれいむの心は折れてしまった。 「れ゛いぶのかわいい゛れいむ゛ぅぅぅごべんねぇぇぇぇ!!」 もう二度と子供と会う事は出来ない。 そう思うとれいむの両目から涙が溢れ出てきた。 一方、そのれいむの様子を見たまりさは、子供があの人間に捕まったのだという事を理解した。 とても悲しかったが、今はゆっくりできる新しいおうちを探す事が先決だ。 そう考えたまりさは何とかれいむを慰めて、新しいおうちを見つけ出す事を身振りで提案した。 れいむも気を取り直し、次は新しいおうちを見つけるために三度進み始めた。 「ゆっ! あそこにおうちがあるよ!」 「んーんん!」 そして二匹は小さい巣穴を見つけた。 おそらく以前別のゆっくりが使っていたのだろう、ところどころに生活の跡が見られる。 家族が増えて狭くなったのか、それとも捕食種や人間に襲われたのかはわからなかったが、今は誰も使っていないようだった。 れいむとまりさもここを新しいおうちにしようと考えた。 が、ここで問題が発生する。 「ゆっ! さ、さむいよ! ゆっくりできないよ!」 そう、この巣は隙間が多く、そこから寒気が入り込んでくるのだ。 これでは越冬など出来そうにない。 そう思い、落胆していたれいむの頬に何か暖かい物が触れた。 「んーんー!」 「まりさ…!」 それはまりさの頬だった。まりさは笑顔でれいむの頬に自分のそれをくっつける。 れいむもお返しとばかりに頬をすりすりした。 それはとても暖かく、寒さなんて気にならないほどだ。 こうしていれば冬も過ごせるかもしれない。 「ゆっ! じゃあここでゆっくりしようね!」 「んーんんんんんん!」 それかられいむはまりさの口周辺に張り付いているガムテープをはがそうと何度も挑戦したが、やはりはがす事は出来なかった。 「どぼじよぉぉぉ! これじやあま゛りさがごはんたべれないよ゛ぉぉぉぉぉ!!」 だがまりさはそれに落胆せず、逆にれいむを元気づけた。 考えてみれば自分の体内には越冬用に貯めた沢山のごはんがあるのだ。そう簡単には死にはしないだろう。 必死にジェスチャーをしたところ、れいむにもその事が伝わったようだ。 「ゆっ! それじゃあここでいっしょにゆっくりしていようね!」 寒さは二人で寄り添い、すりすりすれば問題ない。餌も自分一人分ならなんとかなるだろう。そうれいむは考えた。 しかし、そう上手くはいかない。 ただでさえ冬でゆっくりが食べることが出来るものは数少ない。 それに加え、この家族は今までまりさが狩りをしていた。その為れいむは餌集めが苦手だったのだ。 しかも外はゆっくりできない寒さで、体を満足に動かすことも出来ない。 そんな状況の中、餌を集めることなど出来る筈もなく、れいむは日に日に弱っていった。 ある朝の事、ついにれいむは空腹と寒さで動けなくなってしまった。 まりさが寄り添り、頑張って体をすりすりさせるが意味は無かった。 「ゆ……まりざ…れい゛む……もっどゆっぐり…したかっ…たよ……」 「んーーんーんーんー!」 それがれいむの最後の言葉になった。その日、まりさは一日中涙を流していた。 それからまりさも命が終わるのはそう遠くは無かった。 伴侶という心の支えをなくし、ろくに寒気も防ぐことが出来ない巣にいては当然だろう。 「ん…んー……」 冷気に晒され続けながら一匹で過ごすというストレスによって、まりさの餡子は急速に劣化していった。 れいむが死んでから数日後、まりさも伴侶の死骸に寄り添いながらその生を終えた。 春になるころには、その巣穴の中には大量の虫と何重にも重ねられたガムテープの塊だけが存在していた。 終 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4456.html
※俺設定注意 僕は、一匹のゆっくりを飼っている。 数年前に訪れたゆっくりブーム。人々はこぞってゆっくりをペットにしたがった。 僕もそんな流行に流された者の一人だ。 それから暫く経ってゆっくりブームは収束し、ゆっくりをつれて歩く人もまばらになったが、いまだに僕はゆっくりを飼い続けている。 「やぁ『まりさ』。ゆっくりしてるかい?」 「ゆっ!!おにいさん!!!まりさはとってもゆっくりしてるよ!!!」 今日も今日とて良いご挨拶。 やっぱりゆっくりの声はどことなく癒される。 「今日はちょっと豪勢なゆっくりフードを用意したよ。さ、お食べ」 「ゆゆっ!!うめっ!!これめっちゃうめっ!!が~つが~つ!!」 ちょっぴり眉をしかめる僕。 元気の良いことは大変結構だが、それでもちょっと食べ方が汚すぎる。 これは躾が必要だな。 「こら、『まりさ』。そんな汚い食べ方しちゃいけないだろう?」 ぶすり。 まりさの両目に指を突き込み、かき回す。 そうして引き抜いた指先には、ぐちゃぐちゃになった『まりさ』の両目があった。 「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」 「いい天気だね、『ありす』。ゆっくりしてるかい?」 「ゆっくりしているわ!!!」 今僕達はお散歩中。 カチューシャにリードを取り付けられて、綺麗な蒼いおめめをぱちくりさせながら『ありす』は駆け回る。 元気だなぁ。これがとかいはと言うやつだろうか。 「おにいさん、ここ!!ここにゆっくりできるばしょがあるわ!!」 「はいはい」 ありすがベンチを見つけたらしく、そこに座ろうと急かしてきた。 まったく、そんなに急いでもベンチは逃げないぞ。 「・・・・・・ゆっくり、していってねぇ・・・・・・」 「うわ、何だ!?」 のそりと、ベンチの下から何かが這い出してきた。 ゆっくりれいむ。ただし、薄汚い野良ゆっくりだが。 久しぶりに見た。まだ駆除されないで生き残っている奴がいたのか。 「ゆっくりしていってね!!!」 「おい、ありす。そんな奴に構わなくてもいいって」 薄汚い野良風情に挨拶を返す『ありす』。 もし野良が擦り寄ってきて、『ありす』が薄汚れてしまったらどうするつもりなのだろう。 「ゆっ!!れいむはきっとゆっくりできるゆっくりよ!!おにいさんは、そこでみていてね!!」 「ゆっ・・・、あ、あでぃずぅ・・・・・・」 「あ、こら」 僕の忠告を無視して、ゴミへと近寄っていく『ありす』。 いけないな。飼い主の言うことは素直に従わなくちゃ。 これはおしおき決定だな。 ありす目掛けて、思い切り蹴り上げる。 全速力で振りぬかれた僕の爪先は、ありすのまむまむの周囲、そしてその少し上にある口を削り取った。 飛び散るクリームと白い飴の歯と求肥の舌。 「・・・・・・っ!?・・・・・・っひゅーっ・・・・・・ひゅー・・・・・・」 口を失い、代わりに掘られた穴からはヒューヒューと風音がする。 薄汚い野良れいむはそんなありすを見て失禁していた。 「『ぱちゅりー』、その本面白い?」 「おもしろいわ!とってもゆっくりできるごほんよ、おにいさん」 家の中、僕は『ぱちゅりー』と一緒に本を読んでいた。 小難しい小説を読む僕と、むきゅむきゅと逆三角形の口をとがらせて簡単な絵本を読む『ぱちゅりー』。 まったくもってほほえましい光景だ。 「おにいさん、つぎのごほんはないの?」 もう読んでしまったのだろうか。 次の絵本をねだる『ぱちゅりー』。 そうは言っても絵本なんてうちには殆どない。あるとすれば・・・・・・。 「じゃあこの絵本を貸してあげるよ、『ぱちゅりー』」 「ゆ?そのごほんは・・・・・・」 「ああ、古いだろう?僕の宝物だった本なんだ」 古ぼけた一冊の絵本を物置から引っ張り出す。 昔はこれをずっと抱えていたっけ。 「ぱちゅりー、貸してはあげるけど汚さないでくれよ。もうその本売ってないんだ」 「むきゅ!わかったわ!あ、でもこのほん・・・・・・」 意気揚々と僕から本を受け取り、開く。 本を開いたその瞬間、埃が舞い上がった。 その埃をもろに吸い込んでしまう『ぱちゅりー』。 「むぎゅ!!ごほっ、ごほっ・・・・・・えれっ、えれれっ!!!」 「あ」 咳につられて、嘔吐までしてしまう『ぱちゅりー』。 本にびしゃりとクリームがかかる。 もうこれは読めなくなってしまっただろう。 「ごほっ、げほっ、えれれ、ごぼっ!!」 「ああ、僕の絵本が・・・・・・」 汚さないでと言ったのに。 『ぱちゅりー』は僕の思い出を容赦なく汚してしまった。 これはお仕置きしなくてはいけない。 『ぱちゅりー』の脳天に抜き手をかます。 元々薄い『ぱちゅりー』の皮はあっさりと破け、簡単に手首まで埋まってしまった。 あとはハンドミキサーの要領でぐりぐりと手を掻き混ぜる。 「っ!!!?・・・・・・けひっ!!かひぇっ!?・・・・・・・くひぃっ!!」 ぐるんと白目を剥き、わけの分からないことを叫んで痙攣を始める『ぱちゅりー』。 もうこれでクリームを吐き散らかすようなことはしないだろう。 僕はぱちゅりーの頭から手を引き抜き、払ってクリームを振り落とした。 「やぁ『れいむ』。ゆっくりしてるかい?」 「ゆっ!!おnいさん、れいmはとっtもゆっkりしてrよ!!!」 『れいむ』に話しかける僕。 『れいむ』は今日も今日とて良いご挨拶・・・というわけにはいかなかったようだ。 「あれ?れいむ、今なんて言ったの?」 「ゆ?おにiさん、rいむはとってmゆっくrしてるyっていったnだy!!!」 僕の問いかけに返事を返す『れいむ』。 やっぱり聞き間違いではなかったようだ。 そういえばもう長いところ調整していない。そろそろガタが来たのかなぁ。 「うーん、こりゃ酷いな。総メンテが必要になったのかな?」 「ゆyっ?oにいsん、いったiなnのkと?」 僕を見上げるその瞳がカメレオンのように別々に動き始める。 ぐるぐると一箇所を見続けることはなく、時々白目を剥いたり、黒目に戻ったり。 うん、やっぱりこれは内部まで点検しないといけない。 「それじゃあ『れいむ』。ちょっとの間眠っててね」 「ゆ!おnいさn、rいmまdねmくな・・・・・・」 振り上げた拳をそのまま『れいむ』に叩きつける。 頭を不気味に変形させて、目と言わず口を言わずありとあらゆる穴から餡子を噴き出す『れいむ』。 一瞬の断末魔もなく、『れいむ』はそのまま静かになった。 「えーと、電話電話・・・・・・確かこの番号に・・・・・・」 電話帳を片手に、電話のボタンをプッシュする。 プルルとお馴染みのコール音。相手が出たのは、2コール後だった。 『はい、加工所愛玩部でございます』 「あ、すいません。ゆっくりの修理をお願いしたいのですが―――」 数年前に訪れたゆっくりブーム。 何故ゆっくりなんていうものがペットとして流行ったのか、それにはある理由があった。 先ず第一に人間の言葉が使えること。 犬や猫と違い、言ったことがそのままわかると言うのはペットとして大きなニーズを獲得した。 勿論、言語が通じることで生じる問題もあったが。 第二に、飼育が簡単であると言うこと。 なんせ生ゴミを適当に与えておいても勝手に育つのだ。 面倒くさいマニュアルなんてものはいらない。それはペットとして大きな魅力だろう。 そして、第三。恐らくこれが最も大きな要因だろう。 ゆっくりは、簡単に『修理』できるのだ。 他の動物なら致命傷でも、ゆっくりならば簡単に直せる傷なんてのは良くある。 元々体の脆いゆっくりの事、お手軽にペットを治療できるなんてのは病院代に悩む飼い主を救うことを意味していた。 それは、後々別の意味を持つことになる。 『ゆっくり救急治療キット』が世に出てから随分経つ。 名前の通り、そのキットにはオレンジジュースをはじめとするゆっくりを直す道具が一通り揃えられていた。 このキットが売り始められた時期と、ゆっくりのブームは奇しくも―――いや、必然だろう――― 一致する。 人々はゆっくりを『治療』するだけには止まらなかった。 治療と言う名の行為が行き着く果て―――それは改造だ。 今やペットショップにはゆっくりの種類別に分けられた眼球などのスペアパーツが並んでいる。 僕もそんなゆっくりを『改造』するものの一人だ。 この『れいむ』―――いや、その前は『ぱちゅりー』で、その前は『ありす』。更にその前は『まりさ』。 ではその前は一体なんだったろう。たしかみょんだったようなちぇんだったような・・・・・・?よく覚えていない。 とにかくこの元の種族すら分からない一匹のゆっくりを、僕は延々と改造し続けている。 その姿に飽きれば皮を剥がして、目を入れ替えて、植毛して、中枢餡を残したまま中身を入れ替えればよいのだ。 他の動物には真似出来ない、立派なゆっくりの長所だと思う。 まぁ時々こうして中身の不具合が出るのは加工所に任せるしかないんだけどね。 ともかく、ゆっくりがこの世に出てからいくらか経ったこの時代。 品種改良を重ね続けて、ゆっくりは完全に人に迎え入れられるような形となった。 人のために姿を変え、記憶を変え、魂まで変える。 なんとひたむきで、いじらしいのだろう。 『れいむ』を受け取りに来た職員さんに、そっと『れいむ』を差し出す。 一週間でお返しできます、との言葉を最後に職員さんは車を出していった。 きっとあの車の中には『れいむ』と同じようなゆっくりが積み込まれているのではないか。 遠くなっていく影を見つめながら、僕は一人思いを馳せる。 今度はどんな姿に改造してやろう。 もう『れいむ』の姿には飽きてしまった。つきはどんな姿がいいだろう。 そうして、つい最近入荷された新製品の事を思い出す。 確かあれは『ゆっくりゆうかセット』だったっけ。 緑の髪、赤い瞳、そして植物を栽培するらしい習性。 よく分からないが希少種・・・?のためらしく値段が少々高い。 それでも、セットに描かれていたあの姿は可愛らしかった。 きっとあの姿ならすぐには飽きない。少しは長く楽しめるだろう。 よし、決めた。次は『ゆうか』にしてやろう。 あの『れいむ』・・・いや、あの『ゆっくり』は喜ぶだろうか。 喜ぶだろうな。なんせあんなに可愛いのだから。 思い立ったが吉日。 僕は一週間後の改造に備えて、意気揚々とペットショップへと歩いていった。 人のためのゆっくり。 それは、ペットと人形の中間で人間に弄ばれる存在なのかもしれない。 おわり ――――― 書き溜めです。 ちゃんとゆっくりを愛でてみようと思って書いてみました。 着せ替え人形みたいにその日その日でお手軽に姿を変えられるペット、これは流行る。わけがない。 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2997.html
※純真無垢な子ゆっくりが・・・。 ※少し・・・な人間が・・・。 ※前後編でお送りします。 前編はスタンダード(笑)な虐め。 後編は続きが気になった方のみ御覧ください。 ◆『清く、ゆっくり、美しく』前編◆ 白いレースのカーテンが日の光に煌き、穢れの無い純白光がリビングを照らす。 部屋の壁紙は一面無地の白色で、カーペットから天井、家具、引き出しの把手に至るまで、 あらゆる物が白色で染められていた。 そんな目も眩むような部屋の中央、 白いソファーに若い女性が腰を沈め、テレビの画面をじっと見つめている。 テレビの筐体もボタンの一つ一つにまで白のペンキで染め上げられていた。 『いま巷では空前の『ゆっくり』ブーム!! 親子でゆっくり戯れるその姿は、見る者を癒し、ペットの代わりとしても大人気!! 今回の『先どりBOOM』はこの『ゆっくり』の魅力をたっぷりとお届けします!!・・・』 女性はワイドショーの1コーナーに釘付けになり、すっかりと『ゆっくり』に心奪われてしまった。 これまでにもペットとして猫を飼おうとした事もあったが、その体毛が部屋中にばら撒かれ、 また排泄物の処理などが女性には耐えられなかった。 結局、猫との共同生活はうまくゆかず、知人の伝で引き取ってもらう事となった。 女性は潔癖症なのだ。 人間関係でもトラブルが絶えなく、男性との付き合いもうまく行かなかった。 それでも何モノかと触れ合っていたい。 先の猫を飼った事情もそんな願望ゆえの試みだったのだ。 さっそく女性はゆっくりを取り扱うペットショップへと向かった。 夕方。 オーブントースターほどの箱を抱えた女性が帰宅した。 箱は黒い包みで覆われており、中ではゆっくりが夜だと勘違いして眠っているのだ。 女性は玄関で衣服と箱をホコリ採りで掃除し、殺菌スプレーを吹きかけてリビングへと向かった。 テーブルに箱を置き、それを覆う黒い包みを開封する。 プラスチック製の透明な昆虫用飼育箱の中では、拳より少し大きいくらいの子まりさ、子れいむが2匹ずつ眠っていた。 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆりかごさん・・・ゆぅら・・ゆぅ・・・」 「「「ゆすぅ・・・ゆぅ・・・・」」」 幸せそうに眠る4匹の姿に、女性も自然と笑みがこぼれる。 ゆっくり達を起こさないよう、大事に持って帰った甲斐があった。 女性は子ゆっくり達が眠っている間に夕食をとることにした。 リビングにはダイニングからのおいしそうなシチューの匂いが漂っていた。 その匂いに釣られて子ゆっくり達が目を覚ます。 「・・・ゆっ!! おいしそうなにおいだよ!! 」 「ゆっ!! ごはんのじかんだね。」 「ゆー!! とってもきもちよくねむれたよ。」 「ゆゅ!! いっぱいねたら、いっぱいおなかがへったよ!!」 その様子に女性も気がついたのか、食器洗い器に食器を片付け、飼育箱の傍に寄って行く。 網状の蓋を取り、飼育箱の隅をコンコンと小突いてみた。 子ゆっくり達が一斉にこちらを向く。 「ふふ、おはようおちびちゃん達。」 「ゆゆっ? おねーさん・・・?」 「ゆ、 おねーさんはゆっくりできるひと?」 「ええ、ゆっくりできるわよ。今日からここがあなた達のおうちよ。 これからは私と一緒にゆっくりしましょうね。」 「ゆー!! おねーさんとてもゆっくりしてるよ!!」 「とてもゆっくりできそうなおねーさんだね」 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 「まりさといっしょに すりすりしてねっ!!」 飼育箱の中から子まりさが飛び出そうとした。 女性は、サッと蓋を元に戻す。 急に蓋を閉められ、勢いあまって天井に激突する形となった子まりさ。 「ゆびぇっ!!」 「まりさ?!」 天井に激突した子まりさは、子れいむの上に落下した。 「ゆぐっ!!」 「ゆぎぃ!! おもいよまりさ、ゆっくりどいてね!! ゆっくりどいてね!!」 「ゆげぇ!! このおねーさん、ゆっくりさせてくれないよ!!」 「ゆー!! おねーさん、まりさになにするの!? ゆっくりあやまってね!!」 「ごめんなさいね。でも、遊ぶ前に体をきれいにしようね。」 「ゆ? きれいきれい?」 女性はゆっくり達が入った飼育箱を持ち上げると、洗面所へと向かった。 透明な箱の中で宙に浮いたと錯覚したゆっくり達はキャッキャとはしゃいだ。 「ゆわぁー!! おそらをとんでるみたい!!」 「れいむもことりさんになれたよ!!」 先程の事はすっかり忘れ、歓喜の声を上げるゆっくり達の様子に、女性も安堵の表情を浮かべた。 ひとまず飼育箱をタオルなどが収納された棚の上に置くと、 女性は髪を後ろで束ね、ゴム手袋とエプロンを装着した。 「ゆゆ、おねーさん、”おねーさん”みたいだよ!!」 「ふふ、もう少し待っててね。」 女性は洗面台の栓を締めると蛇口を捻り、ぬる目のお湯を張った。 そしてその中にボディソープをいくらか流し込み泡立てる。 立ち上る湯気の中に、泡の雲の世界が完成した。 「ゆわぁー!! あわあわさんのおふろだよ!!」 「とってもきもちよさそうだね。」 「れいむもいっぱい きれいきれいしてね。」 「ゆー!! まりさもあわあわさんと いっぱいともだちになるよ!!」 準備を終えた女性はゆっくり達の入った飼育箱の蓋を開いた。 「ゆー!! まりさをいちばんに きれいきれいしてね!!」 「こらこら、ゆっくりまってね。」 女性は慌てる子まりさを嗜めると、次々にゆっくり達の帽子、髪飾りを取り上げていった。 「ゆぎゃああああああああ!!! ばりざのぼうしかえじで!!!」 「れいぶのがわいいりぼんどらないでええええええええ!!!」 「ゆうぇぇぇぇん!! びぼんがないどゆっぐりでぎないいいいっ!!!」 「がえじで!! がえじでぇ!! ばりざのぼうじ、いまずぐがえじで!!!」 半狂乱に陥ったゆっくり達は、なんとか髪飾りを取り戻そうと飼育箱から飛び出そうとする。 女性は再び飼育箱の蓋を閉めた。 「こらっ!! 静かにしなさい!! そんな事じゃゆっくりできないわよ!!」 「うるざいっ!! ぼうじがなきゃゆっぐりでぎないよ!!」 「れいぶのりぼんがえじで!! どうじでごんなごどずるのぉぉぉぉ!!?」 「帽子被ったままじゃ、きれいきれいできないでしょ! これは洗濯して綺麗にしたら返してあげるから、安心しなさい。」 「ゆぐぐぐぐ・・・。ほんどうなの? うぞづいたら、まりざドッカーンするよ!!」 「でいぶのびぼんにひどいごどじないで!!」 「はいはい、分かってるから静かにしてね。」 女性は洗濯槽にゆっくり達の髪飾りを放り込む。 そして棚から一つのボトルを取り出すと中の液体を流し入れて、蓋を閉めた。 初めて見る洗濯機を不安な表情で見つめる子ゆっくり達。 女性が洗濯機のスイッチを入れると、洗濯機の中から水が流れる音がし、ゴトゴトと動き始めた。 その様子を見つめる子ゆっくり達の表情がますます曇ってゆく。 「ゆぅぅぅぅっ!! やっぱりへんだよ!! おねーさんがまりさたちをだましたんだよ!!」 「れいぶのりぼんにひどいごどじないっていっだのにぃぃぃっ!!!」 「がえじでっ!! ばりざのぼうじ、いまずぐがえじでっ!!!!」 「いい加減にしなさい!! ゆっくり出来ない子はお仕置きするわよ? さ、みんな一緒にきれいきれいしようね。」 女性は子ゆっくり達の入った飼育箱を持つと、その中身を泡立てたぬるま湯の中へ流し入れた。 「「「「ゆゆぅぅぅぅ〜〜〜!!」」」」 ゴロゴロ転がり、泡の中へと消えてゆく子ゆっくり達。 ゆっくりは動物とは違うので、手入れも楽だとTVで言っていた。 程なくして、子ゆっくり達の悲鳴が泡の中から聞こえてきた。 「ゆぎゃああああ!! めがああああああああ!!」 「おべべがじみるよおおおおおおおおおおお!!」 「ゴボ、ゆご、このおみじゅ、ゴボ、にがいよおおおおおおおお!!」 「ばりざの!! じみるううう!! ぼうじ !! にぎゃいよおおおおお!!」 「ちょっとっ!! どうしたの!? おとなしくしなさい!!」 子ゆっくり達は洗面台の中で暴れ喚き、そして一斉に飛び出した。 「あっ!! こらぁっ!!・・・」 「「「「ゆべぇっ!!」」」」 子ゆっくり達は洗面台から落下し、呻き声を上げながら洗面所の外へと逃げ出す。 床に泡と濡れた跡を残しながら子ゆっくり達は一心不乱に跳ねて行く。 女性がリビングの方へ探しに行くと、テーブルの下でわんわんと泣き喚く4匹の姿を発見した。 リビングのカーペット、特にテーブルの周りはビチョビチョに濡れていた。 女性は抱えた飼育箱に4匹を放り込み、洗面所へと戻る。 飼育箱を棚の上に置き、リビングの始末をして戻ってくると、子ゆっくり達は小さな声で囁き合っていた。 「ゆぅぅぅ・・。 あのおねーさんはゆっくりできないよ・・・。」 「おめめがまだいたいよ・・・。」 「にがいおみじゅ いっぱいのんじゃって、ぺっぺっできないよ。」 「まりさのぼうじ、はやくかえしてほしいよ。」 再び現れた女性の姿に、静まり返る子ゆっくり達。 雑巾を洗い終えた女性は飼育箱を抱えると浴室へと入って行く。 そしてその中身を浴槽の中へと放り込んだ。 「「「「ゆぎゃん!!」」」」 子ゆっくり達は浴槽の隅に集まり、怯えた表情で浴槽の縁を見上げる。 女性は浴槽の傍に腰を屈め、1匹の子れいむを掴み上げた。 「ゆわぁあああん!! はなしてっ!!」 「私の目を見なさい!!」 「ゆぁぁ・・・?」 「あなた達のおかげで部屋がグチャグチャになったじゃない!! ゆっくり出来ない子にはお仕置きですっ!!」 そう言って女性は子れいむの頬に平手打ちを放った。 バチンーーッ!!! 「ゆぎゃんっ!!」 子れいむのもち肌が打たれ、浴室内に小気味良い音が響き渡る。 その様子を見上げていた他の子ゆっくり達。 「ゆわあああああ!! れいむをいじめないでえええええええ!!!」 「どおおおおじでごんなごどずるのおおおおおおおおおおおお!!?」 「ばりざのぼうじに、ひどいごどじないでえええええええええ!!!」 女性は別の子れいむを掴み上げると、同じ様に平手打ちを放ってゆく。 「私の目を見なさい!! お部屋をメチャクチャにする悪い子は、お仕置きです!!」 バチンーーッ!!! 「ゆびゃっ!!」 バチンーーッ!!! バチンーーッ!!! 他の2匹にも同様に平手打ちを喰らわせた女性、今度はシャワーからぬるま湯を出し、 その先を浴槽内の子ゆっくり達に向けた。 浴槽内は阿鼻叫喚の巷と化す。 「ゆわあああああ!! ぼうやべでえええええええ!!」 「も゛うい゛やあああああああああああああ!!」 「ごごがらだじでえええええええええ!!」 「ぼうじがないど、ぬれじゃうよおおおおお!!」 「濡れた体で部屋の中跳び回るから、いっぱい汚れが付いちゃってるでしょ。」 女性の家は隅々にまで清掃が行き届いているので、ホコリの一つを見つけるのも大変だったが、 それでも女性には絶え難かった。 逃げ回る子ゆっくり達を、容赦無くぬるま湯の雨の柱が追いかける。 浴槽の栓は外されているので、湯が溜まる事は無い。 1分ほどシャワーを浴びせた後、女性は風呂桶の中にぬるま湯を張り、 ボディーソープを入れて泡立てた。 そして浴槽から1匹の子まりさを掴み上げる。 子まりさは女性の手から逃れようと暴れたが、女性は構わず子まりさを風呂桶の中へ沈めた。 「ウゴボボボゴボボボボ・・・!!」 「さあ、今度こそきれいきれいするわよ。」 風呂桶から子まりさを引き上げると、風呂桶の泡と湯を手に取り、子まりさの髪の毛に擦り付ける。 女性は子まりさの髪の毛を痛めないよう指先を使い、根元から毛先まで丁寧に洗い始めた。 初めは泣き喚いていた子まりさだったが、女性の指先がマッサージのように気持ちよくなったのか、 「ゆわ〜♪ ゆ〜くり〜の〜♪ おふろ〜〜♪ あわっあわっ〜〜♪」 と歌い始めた。 浴室内に響くその歌声に合わせて、浴槽からは 「「「ゆんっ♪ ゆんゆんっ♪」」」 と 3匹のハミングする声が聞こえてくる。 「はーい、こんどは顔もきれいきれいしようね。」 「ゆ〜ん♪ ゆ〜くり〜♪ りかい〜♪」 「「「ゆんっ♪ ゆんっ♪」」」 女性は手の平の上で子ゆっくりを仰向けにし、子まりさの顔を洗ってゆく。 おでこから口の周りまで女性の指先が這い回り、くすぐったそうに目を瞑る子まりさ。 「こんどは体よー。」 「まりさの〜♪ つるつる〜♪ なまあし〜〜♪」 「「「ゆんっ♪ ゆんゆんっ♪」」」 全身を女性の指先で撫で回され、子まりさはヘブン状態。 「さーて、おめめも綺麗にしようねー。」 「まりさの〜♪ キラキラ〜♪ おめめ〜♪」 「「「ゆんっ♪ ゆわ〜〜〜♪」」」 女性は子まりさの瞼を親指と人差し指でこじ開け、眼球の表面をもう片方の指の腹でこすり始めた。 「ゆっ♪!? ゆぎゃあああああああ!! ゆぎぃっ!! ゆぎぎいいいいいいいい!!」 「「「!!!?」」」 以前にTVCMでやっていた。 眼球の表面にはホコリなど、小さな汚れがたくさん付着しているのだ。 女性は専用の洗眼剤を所有していたが、使用者以外の者と共用する事は推奨されない。 ましてや他所から来た得体の知れない物体とそれを共用するつもりは無かった。 子まりさの目にソープ水をかけ、万遍なくこすり洗う。 「まぶたの裏も綺麗にしようねー。」 「びぎゃん!! やべでっ!! めがああっ!! ぼおおおうやべっでええええええ!!」 「まりさがいやがっでるよっ?! やべであげでねええええええええええええええ!!」 「ばりざぁっどうじだの!? ばりざをはなじであげでええええええええええええ!!」 「ばりざのぼうじがえじでぇっ!!! がえじでえええええええええええええええ!!」 浴室内に4匹のハーモニーが響き渡る。 洗い終えた時には子まりさの眼球はあずき色に充餡し、まるで水羊羹のようだった。 今度は女性は洗面所の棚から、買い置きの歯ブラシを持って来た。 ブラシの先をソープ水で濡らし、子まりさの口へと突っ込む。 「お口も綺麗にしないと、虫歯さんになっちゃうぞ。」 「ゆぶびゃああああああああ!!!」 女性は”かため”の歯ブラシを愛用していた。 人間にとっては何の事は無い固さだが、饅頭で出来たゆっくりの体、 ましてや水気を吸った今ではこの固さのブラシは凶器である。 女性は運動靴の汚れを落とす感覚で子まりさの口内を磨いていった。 「はぎゃぎゃぎゃぎゃ!! にぎゃぎぎゃぎゃぎゃ!! ぶびょばあああああ!!!」 「こらじっとしなさい!! 口の中が見えないでしょ。ほらベロを出してごらん。」 女性が子まりさの舌を引っ張り出そうと口の中に指を入れたその時だった。 子まりさの顎が勢いよく閉じ、女性の指先に噛み付いた。 「いったっ!!!」 「ゆべっ!!!」 思わず女性は子まりさを床に放り投げてしまう。 指先を見るとゴム手袋の先が破れ、血が滲んでいるのが分かった。 女性は風呂場から出ると洗面台で指先を良く洗い、消毒液と絆創膏で処置をした。 「もうおうじがえるうううううううううううう!!!」 「ばりざあああ!! だいじょうぶううううう?!!」 「でいぶもおうじがえりだいよおおおおおおお!!!」 「ばりざのぼうじがえじでえええええええ!!!」 別のゴム手袋を装着し風呂場に戻ると、子まりさが浴槽の縁に身を寄せて叫んでいた。 女性は子まりさの髪を掴み上げ、自身の顔の高さまで持ち上げた。 無言で見つめてくる女性の視線と目を合わせた子まりさは、激しく身を揺すって喚きだした。 「ゆうう!! はなじでっ!! ゆっぐりはなじでっ!!」 「私の目を見なさい!!」 「い゛や゛ああああ!! もおバヂンはい゛や゛ああああああああああああ!!!」 バチンーーッ!!! その音は浴槽内の子ゆっくり達にもはっきりと聞こえ、浴槽内から喚き声が上がる。 「私の指を見なさい!! あなたのせいで痛い思いをしたのよ!! 謝りなさい!!」 「ゆああああああ!!! もうおうぢがえじでえええええ!!」 バチンーーッ!!! 髪を掴まれ、パンチングボールのように揺れる子まりさ。 「ごめんなさいでしょ!! 悪い事したら謝らなくちゃいけないって教わらなかったの!!?」 「ごおおおめんだざああい!!! もおうじまぜんがら、ゆるじでくだざあい!!!」 「よしよし、いい子ね。分かれば良いのよ。」 子まりさに微笑みかける女性。 すぐ傍の鏡で自分の姿見てみろよ。と突っ込みたくなるが、 女性は再び子ゆっくりを手の平で掴み直すと、歯ブラシを手に取った。 「ほら、ベロ出してね。」 「ゆぅ・・・ゆ・・・。」 子まりさは恐る恐る舌を出した。 女性はその舌を親指で押さえつけ、歯ブラシでゴシゴシと磨いた。 「ゆべえげええええええええええええええええええええええ!!!!」 子まりさの舌はズタズタに耕され、二度と「む〜ちゃ〜♪ む〜ちゃ〜♪ ちあわせ〜〜〜!!」と出来なくなった。 女性はぬるま湯のシャワーで子まりさの体を洗い流すと、フカフカのバスタオルで子まりさを拭いてやる。 「さ、きれいきれいの時間は終わりよー。他の子が上がるまでゆっくり待っててねー。」 飼育箱の中に子まりさを入れてやる女性。 子まりさは壁にぶつかりながら這いずり、箱の隅でガタガタと振動した。 子まりさが見る景色は、蜘蛛の巣状にヒビの入った様な模様が常に付きまとい、 近くの物でないとボヤけて見えるようになっていた。 もうどんなに礼賛されるべき絶景を眺めても、ゆっくりする事はできないのだ。 箱から遠ざかってゆく女性の後姿がボヤけてゆく。 そして風呂場の方から子れいむの悲鳴が聞こえてきても、「ゆ゛っ・・・ゆ゛っ・・・」と呻く事しか出来なかった。 きれいきれいの時間が終わり、ダイニングでは4匹の子ゆっくり達が飼育箱の中で身を寄せて振動していた。 「さーて、みんな。ごはんにしましょ。」 「「「「ゆ? ごはん!?」」」」 子ゆっくり達は床に敷かれた新聞紙の上に出される。 地獄のような拷問を受け、疲弊しきった子ゆっくり達の中に希望の灯火が再燃する。 白い皿を持った女性が近づき、子ゆっくり達の前に差し出す。 白い紙皿の上にはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、の皮がたんまりと盛られていた。 TVのコメンテーターが言っていたのだ。 ゆっくりは雑食で、うちではクズ野菜や調理で出た生ゴミを食べさせて処分してもらっているのだと。 「「「「ゆ・・・・?」」」」 「さあ、溢さずゆっくり食べてね。慌てなくてもまだあるからね。」 室内にはシチューの甘ったるい匂いがまだ残っていた。 子ゆっくり達は名前も知らぬ人間の食べ物の匂いに期待を膨らましていた。 しかし目の前の”ごはん”は見るからに不味そうである。 これが期待していた物だったのだろうか。 子ゆっくり達は空腹には逆らえず、目の前に盛られた”ごはん”をその口に入れ始めた。 「「「「ゆゆっ?!!!」」」」 子ゆっくり達は困惑した。 今まで何かを口にした時は必ず「むちゃ〜むちゃ〜しあわせ〜♪」か「まぢゅい!! こんなのいらないよ!!」 の感想が出てくるはずだった。 しかし確かに口の中で何かを咀嚼する感覚はあるのだが、何も味覚を感じないのだ! 嫌な予感がする。このままではゆっくりできなくなる気がする。 慌てた子れいむが今度は別の色をした皮を口にしてみる。 結果は同じだった。 三大欲求の塊のようなゆっくり。 そこから普段最も楽しむ機会が多い”食の楽しみ”を奪われれば、1日のほとんどがゆっくり出来なくなるのは明白だった。 空腹が紛れ、食欲が満たされてゆくのは感じるのだが、 どちらかというと「しあわせ〜♪」よりも「まぢゅい!!」の感覚に近かった。 困惑する頭で考えた後、子れいむはこの食べ物を吐き出す事にした。 「ゆっ!! れいむはゆっくりきめたよっ!! まぢゅいっ!! こんなのいらないよ!! ぺっぺっ・・・」 子れいむが吐き出した吐しゃ物は、新聞紙の上を通り越し、ダイニングの床へと落ちた。 「みんな!! このたべものはゆっくりできないから、たべちゃ・・・」 突如、女性の足がドン、ドン、と近づいて来る。 何事かと不思議に思っている内に、子れいむはゴム手袋を装着した手で掴み上げられていた。 そして自らの吐しゃ物にその顔を向けられた。 「これは何なの!?」 「ゆゆぅ? これはおねーさんがだしたご・・・」 今度は女性の顔を見せ付けられる子れいむ。 「私の目を見なさい!!」 「ゆ゛ゆ゛っ?!!」 先の出来事が子れいむの表情に暗い影を落とす。 「せっかくのごはんが、綺麗に食べなきゃダメでしょ!!」 「ゆゆっ!! ゆっくりできないたべものは、ぺっぺっするんだよ!!」 バチンッ!!! 「ゆべんっ!!!!」 女性の手から弾き飛ばされ、床に転げ落ちる子れいむ。 「やめであげでえええええええ!!!」 「でいぶにひどいごどじないで!!!」 「いいがら、ばりざのぼうじがえじで!!!」 「あなた達もよく聞きなさい!!」 女性が再び子れいむを掴み上げると、女性の顔の前まで持ち上げた。 「私の目を見なさい!!」 「ゆぅぅぅわあああ・・・もういやだあああああああああああああああああああ!!!」 「いいこと!? これからはご飯を食べる時は新聞紙の上から溢さずに食べなさい。 それから出されたごはんはきちんと食べる事。口に合わなかったのならこちらも努力するわ。 けれどもあなた達も私と同じ物を食べている事を忘れないで。わがまま言う子はお仕置きです!! わかったかしら!?」 「ゆっぐりでぎないおねーざんは、ゆっぐりじねええええええええええええええっ!!!!」 バチンッ!! バチンッ!! バチンッ!! バッチンッ!! 「なんて言葉を使うの!!? 謝りなさい!! こういう時は『ごめんなさい』でしょ!!」 バチンッ!! バチンッ!! バチンッ!! バチンッ!! 「ずびばぜんでじだあああああ!! ごべんなざあああいいいいいいいいい!!」 子れいむは解放され、他の子ゆっくり達の元へと這いずっていった。 「でいぶぅっ!! だいじょうぶぅ? でいぶぅ!!」 「じっがりじで!! ばりざどいっじょにゆっくりじよ、でいぶぅ!!」 「もういやあああああああ!! ぼうじがぶっって、おうぢかえるううううううううう!!!」 「だからここがあなた達の”おうち”って言ってるでしょ!!」 女性は片手に持った鍋からシチューの残りの汁の部分を掬うと、ゆっくり達の餌の上に垂らしてやった。 先程よりはいくらか見た目は良くなったが、結局、子ゆっくり達の舌を満足させる事は無かった。 「いいこと? 私と一緒に暮らしていく以上、私との決まり事をきちんと守って頂戴!!」 「ゆっぐり、ゆっぐりりがいじまじだから、ゆっぐりさぜでぐだざいぃ・・・」 どうやらこの女性は極度の潔癖症以外にもいろいろとアレなようだ。 しかし子ゆっくり達が生きてゆくには女性の言う事を聞くしか無かった。 子ゆっくり達はこれから先、その心まで真っ白に洗い流されてゆくのだった・・・。 『清く、ゆっくり、美しく』前編 おわり ※後編は虐め成分はほとんどありませんので、前編で興味を持たれた方のみ御覧ください。 ◆『清く、ゆっくり、美しく』後編◆ 子ゆっくり達が女性の家を”おうち”にしてから1ヵ月後。 白いソファーに女性がゆったりと腰を沈め、その膝には白いひざ掛けが、 そしてその上には真っ白に漂白された帽子を被った子まりさの姿があった。 女性の右側には子れいむが1匹、左側には子れいむと子まりさがソファーの上で並んでいる。 テーブルを挟んだ正面のテレビでは、映画「ゆっくりず えんじぇる」が流されていた。 「みんな楽しい?」 「「「「ゆっくりー!!」」」」 「良かったわ。」 子ゆっくり達の髪飾りは皆、漂白され真っ白になっている。 それ以外は皆、街の広告などに描かれた標準的なゆっくりの表情のまま固定され、まるでぬいぐるみの様だった。 視線は真正面の一点を見つめたまま微動だにせず、話しかけられた時だけ相手の方へと向く。 子ゆっくり達の視界のほとんどは灰色の雲で覆われ、真正面の一部しか見る事が出来なくなっていた。 「映画が終わったら紅茶でも煎れて、お茶にしましょうね。」 「「「「ゆっくりー!!」」」」 「今日は街で評判のケーキを買ってきたから楽しみね。」 「「「「ゆっくりー!!」」」」 味覚を失った子ゆっくり達にとって評判のケーキの味など関係なかった。 生きるため、腹を満たすため、生ゴミも出されるがまま食べた。 女性との生活が始まって2週間目の夜。 その日も何回かゆっくりできない事があった。 子ゆっくり達は積もりに積もったストレスで、身も心もとてもゆっくり出来ていなかった。 眠りに着いた子まりさは夢の中で、ある”光”を見つめていた。 その光はとてもとても小さく、果ての無い暗雲の世界で儚げに輝く。 光は透明な球体で覆われており、その厚さは子まりさのほんの一押しで壊れそうなほど薄く、 光と暗雲とを隔てていた。 球体の中の輝きはオーロラの様にゆらゆらと色を変え、 耳を澄ますと中から「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!・・・」と微かに聞こえてくる。 その光の中を覗くと、とてもゆっくりする事ができた。 ここしばらくゆっくりできていない。 このまま光の中に入って行きたい! ほんの一押しで、透明な球も突き破られそうなのだが、ふと思い止まる。 このまま透明な球を破ってしまうと、何故か自分が”ゆっくり”ではなくなってしまう気がしたのだ。 「(・・・・・!・・・・・!・・・・・!)」 突如、誰かが自分を呼んだような気がした。 振り返ると、そこには仲の良い3にんの子ゆっくり達の姿があった。 3にんの姿がグニャリと形を変え、暗雲となる。 その暗雲の中には子まりさの数々の思い出が投影されていた。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 目の前は未だ暗闇の中。 赤まりさは「ゆっきゅりうまれりゅよ!!」と力一杯に体を揺らした。 頭の先が何かから千切れる感覚がし、赤まりさは平らな地面の上に落っこちた。 赤まりさは本能に従ってゆっくりと瞼を開く。 初めてその目で見た景色は、大小様々な”棒”や”箱”が動き回る世界だった。 「ゆぅぅぅぅ!!」 赤まりさにとっては目に見えるもの全てがゆっくりできる物に見えた。 ふと赤まりさはある事を思い出す。 それは”おかーさん”の前でゆっくり挨拶する事だった。 赤まりさは”おかーさん”の方を向こうと、ぴょんと飛び跳ね、振り返った。 しかし目の前は冷たげな色をし、鈍い輝きを放つ壁しかなかった。 「ゆぅ?」 不思議に思った赤まりさがその壁を見上げると、壁にはいくつもの穴がずらりと並んでおり、 穴の一つ一つから1本づつの茎が伸びていた。 そしてその先には、まだ目を開いていない、何にんもの赤ゆっくり達が実っているのだ。 「ゆー!! まりしゃのおとみょだちが、いっぱいだよ!!」 ”おかーさん”の姿は見当たらないが、頭上を通り過ぎて行く沢山の”おともだち”に赤まりさは嬉しくなった。 そしてようやく赤まりさは眼前の壁が動いている事に気がつく。 赤まりさが生まれ落ちたのはベルトコンベアの上だったのだ。 「ゆー!! まりゅで ありゅいてるみたい!!」 このままゆっくりしていれば”おかーさん”にも会えるのだろう。 赤まりさはそのまま検査区画へと運ばれていった。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 目を覚ますとそこは見た事も無い部屋の中だった。 正面の壁は透明になっており、その先には沢山の窓が並んだ壁が見える。 自分がいる部屋の中では、何にんもの子ゆっくり、赤ゆっくり達が各々ゆっくりしていた。 「ゆぅ・・・?」 「ゆ〜♪ ゆゆ〜♪ ゆっくり♪・・・あっ、めをさましたよ!!」 赤まりさの周りに子ゆっくり達が集まってくる。 「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」」」」」 「ゆっ!? ゆっくちしちぇいっちぇね!!」 赤まりさにとって初めての同族との触れ合い、そして初めての「ゆっくりしていってね!!」だった。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 赤まりさにとって子ゆっくり全てが友達だったが、中でも3にんの赤ゆっくり達と仲良くなった。 自分と同じまりさ種の赤まりさと2りの赤れいむだ。 聞けば彼女達も動く地面の上で生まれたそうだ。 「きょうもみんにゃで、ゆっくちしようね!!」 「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!」」」 4にんは透明な壁の前に並んで、向こう側の景色を眺めるのが好きだった。 透明な壁の向こう側には沢山の窓がついた壁が見え、その中では様々な動物達が暮らしている。 「ゆー!! ネコしゃん きょうもゆっくちしちぇるね!!」 「へびしゃんは きょうもクルクルしちぇるよ!! へびしゃんは ゆっくちできるね!!」 「れいみゅも ことりしゃんみたいに とんでみちゃいよ!!」 「トカゲしゃんの”えりまき”もかわいいけじょ、まりしゃのぼうしのほうがかわいいよ!!」 透明な壁の向こうの景色は一日中見ても飽きる事無く、とてもゆっくりする事が出来た。 ガチャンッ。 「ごはんの時間よ。」 透明な壁と反対側にある扉が開かれ、エプロンを着けたにんげんの”おねーさん”の顔が覗く。 差し入れられた皿の上には、ごはんがたんまり盛られていた。 皿の周りに子ゆっくり、赤ゆっくり達が集まり輪になる。 「「「「「「「「「「む〜ちゃ〜♪ む〜ちゃ〜♪ ちあわちぇ〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」」 他の動物達の餌で余った物を混ぜ合わせた物だったが、子ゆっくり達には過ぎたご馳走だった。 「なんか食べられない物があったら、ちゃんと吐き出してね。」 「ゆっくりりかいしたよ!! まずいときは、ぺっぺっするね!!」 ゆっくり専用のペットフードなど存在しない。 時々ではあるが、本当に口に合わないごはんを出される事もあった。 皆でごはんを食べた後は、思い思いにゆっくり過ごす。 「いつまでも4にんでゆっくちちようね!!」 本来ゆっくりは森に住み、大自然の中で様々な動植物に囲まれて暮らす。 本能に刻み込まれた感覚と、ここでの生活は非常に近いものがあり、 そこは子ゆっくり達にとって最高の”ゆっくりぷれーす”だった。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 透明な壁の向こうには、にんげんさんのこどもも遊びに来た。 4にんはこどもの顔の前で仲良く並び、挨拶する。 「「「「にんげんしゃんのこどもしゃん、ゆっくちちて・・・」」」」 バ ン ッ!!! 「「「「ゆびゃぁっ!!!」」」」 不意に透明な壁を叩かれ、驚く赤ゆっくり達。 時々ゆっくりできないにんげんさんもやってくる。 しかし透明な壁が自分達を危害から守ってくれた。 「(こら!! たかし!! お店の人に謝りなさい!!)」 パチコン!! 「(ああああ!! ごめんなさあああいいい!!)」 「ゆゆ!! にんげんしゃんのこどもしゃん、おきゃーしゃんにおこられちぇるよ!!」 「わるいことしゅると、おかーさんにおこられりゅんだね!!」 「ゆぅ・・・。まりしゃもおかーしゃんとあいたいよ・・・。」 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 赤まりさもすっかり成長し、子ゆっくりのサイズになっていた。 今日も友達のなんにんかが、ここを旅立って行く。 おねーさん曰く、「人間さんの所で、もっとゆっくりしにいく」だそうだ。 「とかいはなありすのほうが ながくここにいるのに、しつれいしちゃうわ!!」 最年長の子ありすが頬をぷくーっと膨らましてご立腹のようだった。 しかし、去るものがいれば、新しくやって来るものも多かった。 ここに来てからの友達も随分と減ったが、子まりさはここでみんなとゆっくりできれば満足だった。 その日の夜。 最年長の子ありすと数にんの子ゆっくり達がおねーさんによって部屋から出された。 「ようやくわたしのばんがきたのね。にんげんさんのところで、さらなる”とかいは”になってみせるわ!! いなかものは そこでずっと ゆっくりしてるといいわ。」 おねーさんは何も言わずに部屋の扉を閉めた。 最年長の子ありす達が居なくなり、子まりさ達4にんが部屋の最年長組となった。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 数日後、透明な壁の向こうから、にんげんさんのおねーさんが覗いてくるのに気がついた。 透明な壁の前でゆっくりしていた子まりさ達は、その顔を不思議そうに見つめた。 「ゆぅ? にんげんさんのおねーさんが、のぞいてるよ!!」 「にらめっこかなぁ?」 初めは他のゆっくり達の方も見ていたのだが、やがて一番近い透明な壁の前の4にんだけをジロジロと見つめだした。 4にんぜんいん、ひとりひとりと目線を合わせてゆく。 「ゆぅ?! みんなであいさつしようね!! せーの・・・」 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 すると、おねーさんの顔が微笑み、自分達の前で手を振ってくれた。 「「「「ゆうううううううううううううう!!!」」」」 「おねーさんがてをふってくれたよ!!」 「とてもゆっくりできそうな、おねーさんだね!!」 「れいむ、おねーさんとともだちになってもいいよ!!」 「まりさのかわいいぼうし、みていってね!!」 程なくして、おねーさんが透明な壁の前から消え、代わりに部屋の扉が開いた。 子まりさ達4にんが部屋から出される。 「ゆぅ!? ゆっくりはなしてね!! まりさはここでゆっくりしたいんだよ!!」 「今日からは人間のお姉さんのところで暮らすのよ。」 「おねーさん? さっきのゆっくりしたおねーさん?」 「さあ? そうかもね。」 そう言って飼育係の女性は子まりさ達4匹を箱に詰め、アルコールを薄めた霧吹きを吹きかけた。 「ゆゆ!? なんだかねむ・・た・・く・・・」 中の子ゆっくり達が眠りに落ちたのを確認すると、飼育係の女性は黒い紙で箱を包装し始めた。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 ゆっくり目を開くと、子まりさは暗雲の中で3にんの子ゆっくり達と向かい合っていた。 「ゆぅ・・・。あのころにかえりたいよ・・・。」 溜まらず涙が零れてしまう。 「まりさ・・・。もうむかしにもどることはできないよ。 でもきいてね。あのひかりはゆっくりできるよ!! きっと、とてもゆっくりできるせかいがまってるよ!!」 「れいむたちは これからさきずっとゆっくりするため、ゆっくりしたみらいのため、 あのひかりのなかにいくよ!!」 「でもあのひかりにはいると、なんだか”ゆっくり”じゃなくなるきがするよ!!」 「なにいってるの? れいむたちはゆっくりなんだよ!!」 「ゆっくりは ゆっくりするために うまれてきたんだよ!! ゆっくりの”ぎむ”なんだよ!!」 「まりさのぼうしはこんないろじゃないよ!! もうゆっくりできないくらしはいやだよ!!」 子まりさは3にんひとりひとりと目を合わせる。 「(私の目を見なさい!!)」 突如、女性の言葉が辺りに響き渡る。 「ゆぅぅぅぅ!! もうゆっくりできないのはいやだよ!! まりさもいっしょにいくよ!!」 「まりさ・・・。みんなでいけば、きっとだいじょうぶだよ!!」 「ゆぅぅぅ。ありがとうね、みんな!!」 3にんの姿がグニャリと形を変え、暗雲となる。 子まりさは振り返り、再び光の方へと向いた。 そして迷わず光の中へと突き進んだ。 自身と光とを隔てる透明な球を突き破る。 パリィィィィィィン・・・・・!! ガラスを割った様な音を立てて透明な球が砕け散る。 四方八方に飛び散った破片が光を反射してキラキラと煌き、 そしてその無数の破片が子まりさの顔面に突き刺さった。 「ゆぎゃああああああああああああああああああああ!!」 思わぬ激痛に飛び退く子まりさ。 光と暗雲とを隔てるものが無くなり、暗雲がドロドロと光へと迫る。 よく見ると暗雲は餡子だった。 「どおおおじでぞうなるのおおおおおおおおおおおお!!」 その時である。 餡雲に飲み込まれようとしていた光が白く眩い閃光を放ち、一瞬にして膨れ上がる。 果ての無い餡雲の世界を作っていた黒い餡子が、眩い光に照らされ、白餡へと変わってゆく。 「ゆううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・!!」 子まりさの中身は淀みの無い白餡で満たされ、その心の内はただただ白い世界が広がるのみとなった。 翌日、子まりさは外部からの刺激に対して「ゆっくりー!!」としか反応しなくなっていた。 子まりさだけではない、他の3匹も同様の有様だった。 リビングが芳醇な紅茶の香りで満たされる。 女性は買ってきたケーキを一人で平らげ、ナプキンでその口元を拭いていた。 子ゆっくり達は、”カビの生えかけた食パンに紅茶を染み込ませた物”を半分ずつ平らげ、じっと正面を見つめている。 女性はゴム手袋を装着し、ウェットティッシュで子ゆっくり達の口元を拭いてやった。 「みんなおいしかった?」 「「「「ゆっくりー!!」」」」 「これからもみんな、ずっと一緒にゆっくりしようね。」 それを聞いた子ゆっくり達がテレビの前で整列し、女性の方を向く。 左からまりさ、れいむ、まりさ、れいむの順に。 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 彼女らは得意げな笑みで、来る者を遍く歓迎する。 欲望のままに我が儘を吐き散らし、挑発的な言葉を吠える事も無い。 目先の利益に目を眩ませ、徒党を組んで破壊活動を行う事も無い。 私利私欲のため同族を裏切り、辱める事も無い。 心身が反応するがままに涎や涙、体液、糞尿を撒き散らす事も無い。 日頃の厳しい躾(?!)と徹底的な洗浄作業の末、 彼女らは”ゆっくりする事を失い”、”きれいなゆっくりとなった”。 『清く、ゆっくり、美しく』 おわり ※あとがき※ 都合の悪い事は聞き流し、思い通りにいかなかったら癇癪起こす。 どっちが餡子脳だよ。 そして書いてる舞台や設定に矛盾を感じつつも、都合の悪い所は目を瞑る作者も餡子脳。 書いてる途中で、ゆっくりに度の合わないコンタクトレンズ付けたらどうなるなぁ? ってのを読みたくなったりならなかったり。 相も変わらずダルイ文章にお付き合いくださり、ありがとうございました。 ※今まで書いたもの※ ※「おでんとからし 〜おでん〜」 ※「おでんとからし 〜からし〜」 ※「トカゲのたまご 〜たまご〜」 ※「トカゲのたまご 〜とかげ〜」 ※「ゆっくりしんぶん <1面>」 ※「ゆっくりしんぶん <2面>」 ※「清く、ゆっくり、美しく」
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1252.html
このSSにはドス・まりさ、wwwを多用した台詞が含まれて居ます。 ここは加工所第7会議室 今日の議題は近頃確認された新種のゆっくりの処理法についてである。 新種のゆっくりとはそれまで確認されていた巨大ゆくっりより一回りも二周りも大きいゆっくり、ドス・ゆっくりの事である。 さて、ここで簡単にドス・ゆっくりの特徴について述べておこう。 ドス・ゆっくりという名は付いているが、今のところまりさ種のドス・ゆっくり以外確認されていない。 その為、短くドス・まりさと呼ぶのが一般的だ。 このドス・まりさ普段は森の奥の洞窟で暮らし、手下のゆっくりに自らの分の餌も集めさせ、自分は何もせずに日々惰眠をむさぼっている。 なぜ手下のゆっくりはドス・まりさの為に餌を集めるのかと言うと、ドス・まりさと暮らしている間、通常のゆっくりにはゆっくりとした生活が約束されるからだ。 しかし、ドス・まりさがやることはと言えば毎朝目を覚ましたゆっくりに朝一でご飯を探しに行くように指示を出すだけだ。 通常のゆっくりであれば目を覚ましても直ぐには動き出さず、何をするわけでも無しにゆっくりとすごすのだ。 時には日が暮れはじめるまでゆっくりし続けるゆっくりもいる。夕方に焦って餌を探しに行けばまず間違いなく夜行性のれみりあに襲われ返ってこない。 かといって何も食べなければ、一日と持たずに共食いを始める。 と言うわけで、この朝の号令係はゆっくりにとってもとても重要な役割を果たす。 この重要な役割を果たすドス・まりさは通常のゆっくりからとても尊敬されており、それゆえドス・まりさの為に一生懸命餌を集めていたのだった。 ただ搾取するだけのドス・まりさはそれゆえ通常のゆっくりではありえない巨体をしている。 そろそろ話を元に戻そう。 なぜ、このドス・まりさの処分方法が議題に挙がるのかと言うと、それはその巨体ゆえの問題だった。 加工所の職員にとっては当たり前の事だが、存分にゆっくりとしたゆっくりの餡はまずい。 甘味を失いパサパサとした食感と、なんともいえない後味の悪さをかもし出す。 存分にゆっくりとしたと言うことは、つまりゆっくりのサイズに比例して味が落ちていくと言うことだ。 あれほど巨大なドス・まりさである。その味は食べ物の域を超え、汚物のごときまずさを放つ。 とても人間の食用には使えたものではない。ではゆっくりの餌にはどうだろうかと、ゆっくりに与えてみたが、ドス・まりさの餡を食べたゆっくりは ドス・まりさと同じかそれ以上にまずい餡になってしまったのだ。 詰まるところ、このドス・まりさは煮ても焼いても食えないゆっくり。 だからといってその場に放置していけば、周囲のゆっくりにまで感染し食い物にならなくしてしまう。 まったく困ったやつだ。 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」 「ゆゆ?人間さんだね!ゆっくりできるひとならゆっくりしていってね!!」 「課長wwこれっすか?www」 「ああ、そうだ。だがここではやるなよ?」 「ゆゆゆ!おじさんたちはゆっくりできない感じがするよ!!とっとと出てってね!!!!」 「ゆ?ゆっくりできないひとなの?まりさ」 「そうだよ!きっとかこうじょのにんげんだよ!!!!」 「い゛い゛い゛や゛や゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!か゛こ゛う゛じ゛ょ゛は゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「ゆっ!ゆっ!ゆっくり落ち着いてね!!!まりさがいるからだいじょうぶだよ!!!」 「ま゛り゛さ゛あ゛あ゛あ゛!!!は゛や゛く゛お゛っ゛ぱ゛ら゛っ゛て゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛」 「まあ、まあ、みんな落ち着いてくれ。おじさんは君達の事をとっ捕まえたりしないよ」 「うそだよ!!!そうやってまりさたちを捕まえるつもりだよ!!!!」 「本当さ!たしかに加工所では今でも饅頭を作ってはいるが、ちゃんと小豆と小麦粉から作ってるんだ。 でも、作業者の数が足りなくてね、君達に手伝ってもらいたいんだ。もちろん手伝ってもらった分は食べ物をあげるよ。 寝るところも遊び場も雨にぬれないところに作ってあげるよ。おじさんは君立ちと共存の道を歩みたいんだ。」 「きょうぞん!!!まりさはきょうぞんしたいよ!!!!!!!」 「ゆ?????まりさ!きょうぞんってなぁに????」 「きょうぞんはきょうぞんだよ!!!!とってもゆっくりできるよ!!!!!!」 「ゆっくり!!!ゆっくりできるの!!!!!!!」 「そうだよ!!みんなでゆっくりできるよ!!!ゆっくりしようね!!!!」 「そっか!!できるんだ!ゆっくり!!!!れいむ!ゆっくりだから!!!きょうぞんとかわからないから!!!」 「そうだね!!ゆっくりしようね!!!!」 「そっかー!!ゆっくりできるんだー!!!!」 「それじゃあ、返事を聞かせてもらおうか。おじさんと一緒にくるかい?」 「「「「「「ゆっくりつれていってね!!!!!!」」」」」」」 「さあ、着いたよ。大きいまりさはちょっとそこで待っててね。他のみんなはこっちだよ。」 「「「「「ゆっ~♪ゆっ~♪ゆっ~♪」」」」」 「じゃあ、おれは小さいのを連れて行くからでかいのは任せたぞ・・・」 「りょうかいっすwww」 「頼むぞ。」 (まったく気持ちの悪いやつだ…) 「wwwwやっぱでかすぎwwwしゅうせいされるねwwwwww」 「おにいさん!まりさはひかげでゆっくりしたいよ!!ゆっくりあんないしてね!!!!」 「ふひひwwwさーせんwwwww」 「ゆ?おにいさんが持ってるそれはなに???」 「たけやりっすwwさーせんwwwいまから手品をやるっすよwwwww」 「ゆゆ!!たのしみだね!!!ゆっくりみせてね!!!!」 「まず最初にこのたけやりのなかをのぞいてくださいっすwwww」 「ゆゆ?なにがみえる!?なにがみえる!?」 「なんで二回言うのwwwなんで二回言うのwww」ブスッ 「ゆ゛ぎ゛ゅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ま゛り゛さ゛の゛お゛め゛め゛が゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 「だいじょうぶっすよwwwこれ手品っすwwwwww こんどは反対の目でこれを除いてほしいっすwwwww」 「ゆっ…ゆっ…ゆっ…ゆっ?ほんとだ!もう痛くないよ!!!こっちは何がみえるの!!!!」 「さすが鈍痛っすねwwwサーセンwwww」ブスッ 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!や゛っ゛ぱ゛り゛い゛た゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」 「あとはゆっくり解体するっすwwwゆっくりだけにゆっくり解体wwwwうますぎ俺ワロスwwww」 「おう、そっちは済んだか」 「オワタッスwwwちゃんと地下室にオクッテオイタッスwww」 「そうか、後は下のゆっくりが処理してくれるだろ。まあ、あれだけの量だと10日はかかるか…」 加工所のそばのゆっくり処理場、ゆっくりによるゆっくりの処理場。 地下にゆっくりとゴミを一緒にいれゆっくりに処理させる施設。 この施設ではゆっくりの他に肥溜めに溜まった糞尿など有機的なものであれば何でも処分できる。 誰の手も汚さない、人にも地球にも優しい場所なのだ。 蜜柑 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2366.html
ゆっくりぴこぴこ 書いた人 超伝導ありす 初投稿。 某絵師さんの「ぴこぴこ」が余りにも可愛かったので。絵師さんには、最大限の感謝を。 このSSは以下の要素を含みます。苦手な方は読むのをお控えください。 ぴこぴこ 罪のないゆっくりがひどい目に遭います 「ゆっくりしていってね!」 ぴこぴこ。 一匹のゆっくりれいむが、草原で出会ったゆっくりまりさに挨拶した。 れいむの体のサイズは20cmほどで、成体になりつつある子ゆっくり。 まりさの方は、それよりも小さい、10cmほどの子ゆっくりだ。 この草原は、近くに住むゆっくりたちの遊び場になっている。 子まりさは群れのおともだちとゆっくり遊んだ後で、これから帰る所だった。 「ゆっくりしていってね!」 本能に従い、返事をする子まりさ。 相手は、初対面の子れいむだった。 しかも、自分の群れでは見かけたことのない子れいむである。 通常、ゆっくりたちは他の群れ同士で交流するのを好まない。 リーダーのやり方が違えば争いの種になってしまうからだ。 しかし、まりさはまだ子供。 大人たちの都合なんて知らないし、群れはおおむね安泰ですっかり平和ボケだった。 それに、おともだちが増えて困ることなんてない。 …はずだった。 「きょうはいいおてんきだね!ゆっくりできるね!」 ぴこぴこ。 その子れいむは、自分のもみあげを上下にぴこぴこ振っていたのだ。 根元を軸にして、上下だけでなく前後にも揺らしている。 この子れいむは以後、ぴこぴこれいむと呼称しよう。 他の普通の子れいむと並べてしまっては、あまりに失礼であるし。 「ゆ!?れいむ、ゆっくりしてね!?」 「ゆっくりしてるよ!まりさもゆっくりしてね!」 ぴこぴこ。 どうにも落ち着かない。 「れれれ、れいむ、そのぴこぴこはやめてね!ゆっくりできないよ!」 こんなにゆっくりできないものを見たのは、子まりさにとってはじめてのことだった。 子まりさは、その落ち着かない動きに、目を真ん丸くして拒否の意思を伝える。 顔はすっかり怯えていた。 「どうしてそんなこというの!?まりさはゆっくりしてないね!」 しかし、ぴこぴこれいむにとってぴこぴこは、親愛の印でもあった。 挨拶を交わし、全身で喜びを表現しているというのに、なんて失礼なゆっくりだろう。 頬を精一杯膨らませ、ばいん、ばいんと大きく跳ねて怒る。 その際、もみあげがさらに激しく上下すると、子まりさの餡子脳はとうとう処理落ちした。 「ゆっぐりでぎなあいいいい!!!」 子まりさは悲鳴を上げてその場から逃げ出した。 逃げた後には、だばだばと流した涙の跡がなめくじのように続いている。 「ゆゆっ!?れいむは怒ったよ!ゆっくりていせいさせるからね!」 ぴこぴこぴこ! どう見てもゆっくりしていないのはぴこぴこれいむだ。 だが、生まれた時からぴこぴこしていた当人にその自覚はない。 むしろ自分の尊厳を傷つけられて、ひどくご立腹だった。 「おかあさんもゆっくりできるってほめてくれるよ!うそをつくまりさはゆっくりしね!」 …訂正させたいのか粛正したいのか。 この「ぴこぴこ」、人間から見れば愛嬌ある動作に見えるだろう。 愛でお兄さんであればその姿に癒され、虐待お兄さんであれば虐待の新たな要素になるに違いない。 だが、一般的なゆっくりにとってその動きは早すぎる。 きめえ丸のすばやいうごき!と同様なのだ。 ぴこぴこれいむが子まりさに追いついたのは、すぐのことだった。 子まりさが逃げ込んだ群れの集会場は近くだったし、一度に跳ねられる距離も多いからだ。 「まりさは、ゆっくりぜんげんてっかいしてね!」 ぴこぴこ。 「ゆぐう!?」 おうちの近くにまでたどり着き、ほっと一息ついたのも束の間。 子まりさは飛び上がって再び逃げ出す。 ゆっくりした結果がこれだよ! 「ゆっくりできないれいむがいじめるよおおお!」 子まりさがそう叫ぶと、周囲にいた群れの仲間達が集まってきた。 「ゆっくりしていってね!」 子まりさの親であり群れの長でもあるリーダーまりさが、ぴこぴこれいむに声を掛ける。 よそ者とはいえ、同じゆっくり。 争いを回避できる可能性を模索するべく声を掛けたのだ。 「ゆゆ!ゆっくりしていってね!」 ぴこぴこれいむは声を掛けられたのが嬉しかったのか、さきほどまでの怒った表情はどこへやら。 満面の笑みでリーダーまりさと周囲のゆっくりたちに返事をした。 ぴこぴこぴこ! 群れのゆっくりたちにどよめきと、剣呑とした雰囲気が発せられる。 「みんなでなかよくしようね!ゆっくり~♪」 ぴこぴこぴこぴこ! 「このれいむとは、ゆっくりできないね!」 「とかいはじゃないわ!」 「むきゅう。みんな、あのれいむをみてはいけないわ!」 「わからないよ~!」 「しかたがないね。ゆっくりできないよそものはたいじするよ!」 皆の意見を元に、リーダーまりさが号令を掛けた。 「ゆっ?ゆっぐり?」 気が付くと、ぴこぴこれいむは他のゆっくりたちに取り囲まれていた。 「ゆっくりできないゆっくりはしね!」 「れいむ、ゆっくりしてるよおおお!?」 どすん! 先陣を切ったリーダーまりさが、ぴこぴこれいむを正面から吹き飛ばした。 リーダーまりさだけあって、相手が子供サイズであろうと容赦しない。 ゆっくりたちがぴこぴこれいむを押さえつける。 ほぼ同時にありすが右のもみあげに噛み付き、ひっぱり上げた。 「やべでえええ!でいぶのぼみあげがああああ!」 抵抗する暇もなく。 ぶちん! 「ゆぎゃああああああ!!」 子れいむの右のもみあげが根元から引っこ抜ける。 皮が破れ、汁っ気の多い餡子が飛び散った。 ゆっくりの体は非常に脆弱である。 とはいえ、まったくの治癒能力が無いわけではない。 通常、れいむ種の中身はしっとり餡子だが、怪我をすると傷を癒すために周囲の餡子が液状化し、新陳代謝を促すのだ。 もっとも、今の状況ではまったくの無意味ではあったが。 「びだりのばゆるじでえええ!!」 今度はちぇんが左のもみあげを引っ張った。 「びこびこなくなっぢゃったらゆっぎゅりでぎだいいよおおおお!?」 しかし、所詮は子ゆっくり。 ちぇんが本気を出すまでも無く、左のもみあげも引っこ抜かれてしまう。 「でいぶのおおおお!!いだいいいいいい!!おがーじゃあああん!?」 もみあげの根元に神経が集中していたのか、半端ない痛みに絶叫する、ぴこぴこれいむ。 いや、もはやぴこぴこれいむと呼べはしないが。 押さえつけられているので、悶絶して地面を転げまわることも、そして痛みを紛らわすこともできなかった。 「れいむ、ごかくご~!だみょん!」 木の枝を銜えたみょんが、ぴこぴこれいむの正面に立ち。 ずぶうう!! よだれを撒き散らし、だらしなく開いた口から脳天へと、木の枝が貫通した。 「えげあががががが!!?」 傷口から餡子がびちびちと吹き出す。 「も…えげっ…ゆ…」 餡子中枢を貫かれたぴこぴこれいむは、えずきながら白目をむいて絶命した。 もっとゆっくりしたかった。 お決まりの遺言も残せない無慈悲な死である。 二本のもみあげは、引き抜かれた後も力なく地面で踊っていたが、本体の死とともに動かなくなった。 「さあ、まりさ、ゆっくりできないれいむはやっつけたよ!あんしんしてゆっくりしてね」 「ゆっくり~♪」 リーダーまりさが優しく語り掛けると、震えていた子まりさは、ようやく安堵の声を漏らした。 その光景を、遠目で見ているれいむ親子がいた。 ぴこぴこれいむの母親と、妹の赤れいむである。 「これでじゃまなこはきえたね!」 「ぴこぴこする、あちゃまのおかしぃおねーしゃんはしんでよかったにぇ!」 あのぴこぴこれいむは、親れいむが初めて生んだ子供だった。 しかし、お腹を痛めて生まれてきたのは、もみあげをぴこぴこさせて喜ぶおかしな子。 それでも、ぴこぴこれいむは最初に産んだ、大切な我が子だ。 『れいむのぴこぴこはゆっくりできるね!』 どこかゆっくりできない事を我慢しながら、子れいむを褒める親れいむの生活。 たとえおかしな子でも責任を持って育てなければ。 しかし。 最愛の夫は愛想を尽かして出て行き、遅れて生まれた第二子が正常だと知った時。 親れいむの決意は脆くも崩れ去っていた。 「さあ、かえってすーりすりしましょうね、おちびちゃん」 「ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ!!」 感慨もなく振り返った、れいむ親子。 と。 「おお、おろかおろか」 「ゆっ!?」 突然、れいむ親子の目の前に降り立ったのはきめえ丸。 「まいどおなじみ、きめえ丸です」 「ゆゆゆ、ゆっくりしてね!?」 きめえ丸の姿を見て、動揺するれいむ親子。 相手はれみりゃのような捕食種ではないが、自分達をからかって楽しむ油断ならない相手である。 「ガバディガバディ!!」 掛け声とはまったく関係なく、きめえ丸はれいむ親子の周囲を回り始めた。 その速さたるや、秒間2回転。 「ゆっぎゅりでぎにゃいいいいいよおおおお!」 「おぢびじゃあああああああ!?」 姉との生活でゆっくり出来ないことに耐性があるかと思いきや、赤れいむはあっさりと致死量の餡子を吐き出してしまう。 「おお、もろいもろい」 きめえ丸はそれを見ると満足そうに空へと飛び立って行った。 「おちびじゃん!へんじじでね!?おちびじゃああああん!!」 親れいむは赤ゆっくりの亡骸を前に、いつまでも泣いていたとさ。 おお、おろかおろか。 「さあ、この死体はまりさが片付けるからね!」 群れの集会所では、リーダーまりさがぴこぴこれいむだった餡子の塊を処分しようとしていた。 この群れには、ゆっくりの死体はずっと遠くへ捨てなければならない、という風習があった。 リーダーまりさは自分たちゆっくりが、とても意志の弱い生き物であることを自覚している。 一度共食いを許してしまえば、傷を癒すための『ぺーろぺろ』すら引き金となって争いが起きるかもしれない。 この風習はまりさの前リーダーよりずっと続いていた。 現在も副官であるぱちゅりーの説得により、群れのすべての親にも徹底されてもいる。 だが。 「あまあまなにおいがするよ!おいしそうだよ!」 死体に駆け寄ったのは、今回、一番の被害者である子まりさ。 「だめだよ、まりさ!これはあまあまさんじゃないよ!」 しかし、子まりさは食べ盛り。 なおかつ遊び疲れてお腹の減った子まりさにとって、その匂いは魅力的すぎた。 「がーつ!がーつ!」 「だめだよおおおお!?なんでおとーさんのいうことがきけないのおおお!?」 餡子を頬張ったまりさは。 「しししし、しあわしぇええええええ!!」 あまりのおいしさに目を輝かせていた。 …そして。 ぴこぴこ。 子まりさは気がつかなかった。 不完全ではあるが、自分の三つ編みがゆれ始めていることに。 群れのゆっくりたちの視線が、自分に集中していることに。 「めっちゃうめえええ!!」 ぴこぴこぴこ! 「ゆっぎゅりできないいい!!」 再び、ゆっくりの群れに動揺と悲鳴が広がったのだった。 翌日。 群れの遠くの遠くの森の中。 そこには捨てられた餡子の塊があった。 餡子の塊の中には、赤いリボンや金色の三つ編みがまじっていたそうな。 めでたしめでたし。 あとがき ぴこぴこ萌え。 初投稿ということで、大人しめなお話にしてみました。 (まあ、ハード系は苦手ですけど) 超伝導ありすと申します。 是非、感想をお聞かせください。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3627.html
内容がブラックです。 自分設定を垂れ流しています。 古本屋の虐待(?)SSです 一応交尾はありません、ぺにまむも無いです。 『人間がたくさん死にます』 『でもゆっくりもたくさんしにます』 それでもよければ、読んでいただけると嬉しいです。 【ゆっくりの世界】 野鳥、野良猫、野良ゆっくり わけても都心部では昨今の野良ゆっくりによる衛生の悪化は社会問題になっている。 ゴミ捨て場荒らしに始まり、町中に散乱する死骸は衛生面だけでなく 交通機関にも多大な影響を与え、美観も損ね悪臭を撒き散らす。 想像してみて欲しい 生ゴミの詰まった袋が、数百数千と街中を跳ね回っているのだ。 条約で野良ゆっくりに餌を与える事が禁止され、飼いゆっくりを捨てる事が禁止されても 焼け石に水にすらならない、元から誰も餌など与えないし 捨てられる飼いゆっくりはますます増えたがそれに関係なくネズミ算ならぬゆっくり算式に増える野良たちに 市民の苦情を一手に受ける保健所も必死だった。 そしてついに、行政が重い腰をあげる。 汚臭を放つ生きた生ゴミは、法整備を皮切りに 汚臭とともに絶叫を、街中で上げることになり ボランティアの公衆衛生に加えて自衛隊も狩り出され、生ゴミ被害は夏季を前に解決した。 市街からは汚臭を放つ生ゴミは姿を消し 野良ゆっくりが現れてから十数年間の間喪われていた ゆっくりのいない衛生的な生活が取り戻され 忌まわしい事件が起こった。 * * * 【わーむゆうっど】 三年前、ゆっくり駆除法に合わせて 専用の処理施設として国費を投じて造られた 世界最大のゆっくり処理施設 世界最大規模のリサイクル施設として 世界中にバイオ燃料や最上級の有機肥料を 安価で提供する施設として話題になり 国内外から多数の見学者が連日訪れる ゆっくり再利用の一大施設が 爆音/悲鳴/怒号 燃え上がり、照らし出され 我先に雪崩出る人々 人類の長い歴史の中で、決して絶えない 思想による争い、その最悪の形の一つである 「Take it Easy!!!」 「F××k!!!」 蛮声を挙げながら重火器を乱射し 次々と爆薬を起爆させていく 数十人もの覆面をかぶった集団 見学に訪れていた人たちと施設で働いていた職員達が逃げ惑い まさに阿鼻叫喚の地獄絵図となった【わーむゆうっど】 このテロによる死傷者の数は300人以上に昇り 世界的にも大きく報道された。 世界初の【ゆっくり愛護派】によるテロ事件として。 * * * 「まりさ…こわいよ…」 「れいむ…なにがあってもずぅっといっしょだよ…」 二匹のゆっくりは、寄り添い震えている。 【わーむゆうっど】の生産プラントで生まれた900世代目以降の促成ゆっくり種 遺伝子組み換えにより、生後4日で成体に成長し 二日間で20回の植物型出産をさせた後 センサーによる判別で一定以上の質量を持つ物は分解して肥料又は飼料に そうでないものはバイオ燃料に精製される 人工物に生態系ピラミッドがあるとすれば その最底辺の存在として不動の地位を確立しているのが このプラント産ゆっくり達である。 品種改良した雑草が自家製のゆっくり有機肥料でプラント中の草原を形成しているため 一体あたりの終身生育コストは僅かに20円 決められたスケジュールによって定められた繁殖には 繁殖用ありすすら使われない。 都合よく組みかえられた培養精子餡が、機械によって噴霧される。 計画的に世代を重ねるだけ 数百代に渡って子孫へと受け継がれる情報は 誕生⇒管理⇒繁殖⇒精製されるだけが自分達の全てだと伝えるだけ 死ぬために生きなければならない事を理解しながら、逆らう事など出来るはずも無い。 人工物と言える彼等が生態系のピラミッドに属するならば バクテリアに分解される廃棄物と同等かそれ以下の位置に属する底辺。 それが【わーむゆうっど】で生まれるゆっくりのゆん生の全てだった。 遺伝子的に受け継がれるゆっくりの基本情報が おぼろげに伝える【加工場】ですら このプラントのゆっくり達にとっては羨望すら抱く境遇なのだ 此処には一片の【ゆっくり】すら存在しない 【ゆっくりできない場所】より【ゆっくりがない場所】の方がかれらには恐ろしいのだ。 そこで生まれて三日 ともに最終生産固体であるこの二匹は 一瞬たりとも親というモノに触れることは出来なかった。 植物型発生と同時に茎ごと濃縮培養液槽にうつされ(この時点でコンベアによって母体ゆっくりは各工程に処分される) 1時間後に生れ落ちた場所が、たまたまプラントの同じエリアだっただけの固体だ。 与えられた茎のペーストを言葉も無く咀嚼し 適温に維持された室内で 定刻どおり照明が落とされた時 偶然一番近くに居た固体に、寄り添って眠っただけだ。 それから三日間、離れる理由も無いので一緒に居ただけの二体だ 「…」 「…」 只それだけの二体は今、理解できない状況に怯えながら 言葉も無く身を寄せ合って、身体を揺らす爆音と人間の悲鳴に恐怖している。 何が起こっているのかは判らないが とても恐ろしいモノが迫っているのだけは、わかる。 * * * 憐憫・侮蔑・嘲笑、あるいはそれ以外の何か 連日のように訪れる見物客の視線は 【ゆっくりしたい】という本能を捨てきれないプラントゆっくりにとっては 耐え難い苦痛だったし 一人で居る事は、それだけでいらぬ視線を集める事になるのを識っている彼等は 或る程度の数群れて、見学時間中殆んど動く事をしない。 すこしでも、ほんの僅かでも【ゆっくりしている状態】に近くあろうとする。 何代にも渡って受け継がれた体内時計は、自分達を観るために人々がやってくる時間が来る事を知らせていた。 「いこうか」 「そうするぜ」 見学用の窓にからもっとも遠い壁際が、二体の定位置だった。 壁が落とす僅かな影に隠れ、二体で見学時間が終るまで草を食み続ける。 生まれてから3日間、おそらく何代も前から繰り返してきた 可能な限り消耗しない時間つぶし 新しい事など、試そうとも思わない そういう事をするのは世代の浅いゆっくりか 時折生まれるドス化の兆候を見せる固体だけだ。 二体は最初期からのプラントゆっくりの系譜であり そういう事をして消耗する事が、いかに無意味かを餡子で理解している。 二体が影に移動してから、僅か数分で見物客が姿を見せだした 「…」 「…」 ただただ身体を小さく、気配を消して耐え続ける。 校外学習の小学生達が喚き散らしながらバンバンと強化硝子を叩きながらはしゃいでいる。 遮断されているため、音は聞こえないが 硝子を叩く衝撃だけは本能的に身体をすくませる。 あの硝子がもし割れれば、あの人間たちは自分達を捕まえて踏み潰しにかかるのではないか ありえない、だが本能的な恐怖に駆られて 自分達の安全を確かめたいと 二体が震えながら、ほんの僅かに視線を見物人に向けたその時。 「っ…!」 「ゅ…!?」 強化硝子に貼り付きゆるゆると滑り落ちていく 放射状に広がる子ゆっくりの死骸 おそらく子供達の誰かが持ち込んで、悪戯に投げつけたのだろう 二体にはその口が【たすけて】と動いたような気がした。 「ゆ、ゆあ、ああああああああああああああ゛!!!」 離れた所で一匹のまりさが猛然と駆け出し、見物客の並ぶ窓に体当たりを繰り返す。 余りの形相に、一瞬だけ見物客がたじろいで その後は皆、思い思いに懐から四角いものを取り出して パシャパシャと光を放つ何かを体当たりを続けるまりさに向ける。 薄笑いを浮かべて。 「…」 「…」 二匹は声も上げない、哀しいとさえ思わない ただ【見なければよかった】という想いだけを共有して ひたすらに草を食み続けた。 間も無く昼時になり、見物客が飲食コーナーに移動しだすと 円筒型の清掃ロボット(別エリアで行われるゆっくり発電で稼動する)が 体当たりを続けるまりさを排除するために、僅かな音を立てて現れ 精密な動きをするロボットアームで取り押さえられる 「や゛べろ゛を゛っ、は゛な゛ぜぇ!!までぃざを…」 プシュっと音を立てて、清掃ロボットの頭部が開き その中にゆっくりと、アームがまりさを運んでいく。 「ふざけるなぁっ!ばでぃざはゆっぐりなんだぜっ!!!ゆっくじするたべに…やべっ、やべで!!」 エリア中のゆっくりたちが眼をそらし、耳を塞げない事に絶望する。 清掃ロボットは、そのまま精製ロボットでもある。 問題行動を起した固体や、繁殖に問題の有る固体を発見した場合 その場で内蔵センサーによる質量測定を行い、適切な形に精製する。 「い゛や゛た゛!!」 視界に無くとも、全方位の音を聞き続けるゆっくりにとって 「た゛す゛け゛て゛ぇ゛!!!」 その絶叫は雄弁であり 「【ゆ゛っ゛く゛り゛し゛た゛い゛】!!!!」 その断末魔は【わーむゆうっど】の全てのゆっくりの祈りだった。 現れた時と同じく、僅かな音を立てて姿を消す清掃ロボット ぷらんとゆっくりの恐怖の代名詞である機体が回収口に姿を消した瞬間 悲鳴に鋭敏になった全てのゆっくりの聴覚に 殴りつけるような爆音が襲い掛かった。 * * * 「まりさ…こわいよ…」 「れいむ…なにがあってもずっといっしょだよ…」 相互依存 理解不能の恐怖を感じている今、それだけが二体を支える最後の砦だった。 野生のゆっくりであるならば、その情動は番うに値するかもしれないが プラントのゆっくりからはそんな先の見えた楽観はとうに喪われている。 立て続けに起こった正体不明の恐怖 時間はまだのはずなのに突然消える照明、環境系の停止による暖房の停止。 あまりにも唐突な状況の変化に、急性ノイローゼを起し 失神、気絶、痙攣、発狂…果ては(餡子)脳死するゆっくりまで現れる中で 二匹はただただ震えて、怯えていた。 やがて、覆面をした男たちが現れ 証明は点り、部屋が余所に暖かさを取り戻していった。 男たちは、生き残ったゆっくりを集め 一体一体丁寧に体中を調べつくした。 男達に解放されたゆっくりたちの中から 僅かに勇気の有る固体が『自分たちはこれからどうなるのか』を恐る恐る尋ねると 親指を立て覆面をしているから、顔の全体は見えないがそれでも理解できるほど快活に プラントのゆっくりたちが忘れ去った【笑顔】で、宣言した。 「「「Take it Easy!!!」」」 それは、意味こそ理解できなかったが 【希望】そのもののような、自分達の未来そのものの様な言葉だった。 男たちが作業を終えて立ち去った後 静寂が戻ったプラントエリアで生き残ったゆっくりたちは フワフワと浮き足立つような感覚を味わいながら 餡子の詰まった総身に、何か熱いものを感じていた。 「れ、れいむ…」 「まりさ…れいむね、れいむね…」 なかでも、数少ない最初期からの遺伝情報が伝える絶望を植えつけられてきた二体は 歯の根も合わず、打ち震えている 何かが、起ころうとしている なにかを、取り戻せそうな気がする。 「れ、れ、れいむっ!」 「まりさぁっ!!」 「「ゆっくり、して……っ!!」」 * * * この日 過激派ゆっくり愛護団体によるテロ行為によって 死者129名 重軽傷者290名を数える大惨事となり 【わーむゆうっど】全施設が保有していた 六億匹のゆっくりも喪われた 同日インターネット上に犯行声明が発信され 『人類に歪められた、全ての哀れな【ゆっくり】を開放するまで我々の活動は終らない』 という宣言が世界中を愛護派排斥の動きに傾かせる結果になったのは、皮肉としか言いようが無い。 年をまたいで同日 過激派テロの起こったこの日が 【わーむゆうっどの日】と制定され 三年後の2×××年の【わーむゆうっどの日】を目処に 化石燃料を安価で安全なゆっくり由来のバイオ燃料に完全移行する事を目的に 世界中に大規模なゆっくり精製工場が建設される事が ×カ国協議で正式に発表された。 地球上の全ての人類が ゆっくりに感謝し、依存して生活している 世界は今、ゆっくりで繋がろうとしているのだ。 by古本屋
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/603.html
とある場所、とある日。 ゆっくりまりさとゆっくりれいむが、仲良さそうにほほをくっつけてゆっくりしていた。 その顔は切なそうで嬉しそうで、どこか悟った様な風情をたたえていた。 「ゆ……そろそろれいむのばんかな」 「まりさのばんかもしれない」 顔を見合わせ、寂しそうに微笑む二匹。 「みんないなくなっちゃったね」 「うん、いないね」 ガランとした部屋を見渡す。 中には何もない。二匹以外のゆっくりは、カケラすら見当たらなかった。 元気なゆっくりちぇんは、一日前にどこかに行った。 頭の良いゆっくりぱちゅりーは、20時間ほど前に。 恥かしがりやのゆっくりみょんは、12時間ほど前に。 いつも三匹でゆっくりできていたゆっくりありすは、つい1時間ほど前に。 仲の良かったお友達。 皆が様々な方法でゆっくりできなくされ、様々な方法で殺されたのだろう。 「まりさのおかあさん、すごくゆっくりしたいいゆっくりだったね」 「れいむのおかあさんもゆっくりしてたよ」 もういない親兄弟を懐かしむ。 この二匹は友人や家族が連れ出されても騒がず、ただひっそりと二匹だけでゆっくりしていたため、ここまで持ったのだ。 「もっとゆっくりしたかったね」 「うん、ゆっくりしたかった」 だが、それももうおしまい。 不意に、ゆっくりれいむが弾かれる様に部屋から飛び出していく。 見えない手に捕まれた様にへこんだほほを、ゆっくりまりさは静かに眺めていた。 「ゆぐぐぐぐぐ! まりざぁ! ざよならぁ!」 「れいむ……」 れいむは、唐突な痛みも、これから自分の身に起こるであろう悲劇を嘆くでもなく、ただ一人残る友人との別れを惜しむ。 まりさは、そんな友人の末路を思うと、自然と涙がこぼれてきた。 「もっといっしょにゆっくりしたかったよ! それでかぞくになってあかちゃんもいっしょにゆっk……」 最後まで言い終わる前に、部屋から消えるゆっくりれいむ。 ゆっくりまりさは、ただ無言ではらはらと涙を流し続けた。 ぱさりと帽子が置かれた。 「ごめんね、なにもないからこれしかおはかにできないよ」 呟いて、帽子のないゆっくりまりさは、祈る様に目を閉じた。 そこは、先ほど親友が飛び出していった場所。痕跡すらない壁を見つめ、一時の別れを惜しんだ。 「さみしくないよ、またすぐいっしょにゆっくりできるもん」 まりさは、優しく、先ほどまでと同じ調子で壁に向かってゆっくりとほほをすり寄せた。 何度もしている内に、ゆっくりまりさの熱が伝わり、壁がほのかな温かみをまとう。 冷たい壁が、ほんの僅かれいむのぬくもりを残してくれた様で、まりさは幸せな気分になった。 「まりさはちょっとだけゆっくりしてるね、またあおうね、れいむ……」 もういない友人、もうすぐ会える友人との再会を楽しみに待ちながら、ゆっくりまりさは目を閉じた。 「「「ゆっくりしていってね!」」」 「ゆぎゅっ!?」 突然の大声に、ゆっくりまりさは目を開いた。 見ると、知らないゆっくり達が部屋にひしめき合っている。 ――あぁ『つぎすれ』にきたんだね。 一匹のゆっくりが、まりさの方を向く。 「ゆっ? ぼうしないまりさがいるよ!」 その声を合図として、数匹のゆっくりがまりさの方を向いた。 ゆっくり達は、何が面白いのか分からないが、楽しそうに声をかけてきた。 「ぼうしないこはゆっくりできるの?」 「できるよ! こんにちは、ゆっくりしていってね!」 「いっしょにゆっくりしようね!」 にこにこと声をかけてくるゆっくり達を尻目に、まりさは再び目を閉じる。 「ゆっ? ねむいの?」 「うるさくしてごめんね! ゆっくりねていってね!」 「ゆっくりべつのことあそぶよ! まりさは、またあとであそぼうね!」 ぴょんぴょんと離れていくゆっくり達。 楽しく遊ぶゆっくり達の中、不意におかしな感触に見舞われるものが一匹。 「ゆっ?! いだいよ! なにごれぇぇぇ!!!」 引きちぎられる様な痛み、吸い取られる様な感触に、ゆっくりまりさは悲鳴をあげた。 「ゆっ! なにこれ! これじゃゆっくりできないよ!」 「ゆゆっ! みょんなことしないでゆっくりしてね!」 先ほどまでまりさと一緒に遊んでいたゆっくり達は、急に顔の一部がわしづかみにされた様にへこんだ友人を前に、オロオロするばかり。 「ゆっくりたすけるよ!」 それでも、一部のゆっくりは即座に助けようと動いた。 数匹のゆっくりが、ゆっくりまりさの帽子や顔に噛み付き、何とかして元の下膨れに戻そうとする。 「「「むむむーーーーー」」」 「いだいいだいいだいいだい!!! やべでぇぇぇぇぇ!!!」 だが、それは効果がないどころか、ゆっくりまりさを弱らせるという最悪の結果を招いた。 それを見て、噛み付いていたゆっくりは口の圧力を緩める。 「ぐぐぐぐ……ゆっくりしたけっかがこれだよ!」 しゅぽんと音を立て、ゆっくりまりさは消えうせた。 「まりざぁぁぁ!!! まりざどごにいっだのぉぉぉ!!!」 「ゆっぐりでぎないよ! ごごじゃゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」 「だじでぇぇぇぇぇ! おがあざんんんんん!!!」 ゆっくり達は、即座にパニックに陥る。 その様子を、帽子のないゆっくりまりさが、懐かしいものを見る目で眺めていた。 ここは、ゆっくり虐待スレの舞台裏。 虐待スレで虐待されるゆっくりは、ここから排出され、そのまま二度と戻ってこない。 今度残るゆっくりはどのゆっくりかは分からない、いやゆっくりが残るかすら分からないが、彼らはそれぞれに、それぞれの方法で殺されていく事だろう。 『おわらないゆっくり』 スレの変わり目に、こういう話はいかが? とか言って出そうと思ったけど、書き終わってみたらもう次スレ……ゆっくりした結果がこれだよ! by319 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/825.html
ゆっくりマウンテン 以前書いた『ゆっくり焼き土下座』から派生した話ですが、別に読んでなくても大丈夫です。多分。 虐待成分薄め。制裁成分高め? むしろ因果応報系。 終盤、一部パロディを含みます。 ↓それでもよろしければ、どうぞ。 ここは地獄の一丁目……ではなく、地獄でも端の端に位置する場所である。 そこに、死んだゆっくりの魂が集められる、ゆっくりマウンテンがある。 ゆっくり達はこの山を登ることで己の罪を清算し、再び蘇ることを許されるのだ。 ゆっくりマウンテン、山頂。 ここには大きな光の球が浮かんでいる。この中に飛び込むことで、ゆっくりは転生できるのだ。 「ゆっ! やっとついたよ!」 「がんばったねれいむ! らいせでも、まりさといっしょにいてね!」 「いっしょにゆっくりしていってね!」 生前からつがいであったれいむとまりさが、光の中に飛び込み、そして消えた。 罪の清算を終えた二匹は、再びゆっくりとして生まれ変わることを許されるであろう。 「ゆっくりしていってね!」 また他のゆっくりまりさが光に飛び込む。だがそのゆっくりの魂は他と違い、光の球よりさらに上方へ上っていく。 ゆっくりには滅多にいないことだが、生前、悪行より善行を多く積んだゆっくりは、ゆっくり以外に転生することを許されるのだ。 このまりさは来世では、ゆっくりよりもっとマシな畜獣として生まれ変わることだろう。 光に飛び込むゆっくり達には、疲労の表情もあるが、そのどれもが未来への希望へ満ち溢れている。 「らいせもゆっくりしていってね!」 そのとおりになるとは限らないが。 ゆっくりマウンテン、九合目。 この辺りともなれば、目前の安寧を目指し、ゆっくり達は最後の力を振り絞って山を駆け上がっていく。 「ゆっくりはやくのぼるよ!」 「もうすぐちょうじょうだよ! ずっとゆっくりできるよ!」 「みんながんばろうね!」 苦楽を共にした仲間を励ましあいながら、ゆっくり達はせっせと登っていく。 そんな中、一匹の幼いゆっくりまりさが他のゆっくりと共に駆けていた。 「ゆっくりうまれかわって、またみんなといっしょにゆっくりするよ!」 他のゆっくりの半分程度の大きさしかないというのに、しかしその速度は成体ゆっくりと全く同じだ。 ゆっくりマウンテンでは、全てのゆっくりの身体能力は同じになる。 生まれや育ちによって、死後の贖罪に差があってはならぬとの閻魔の配慮である。 どのゆっくりも、ひとたび跳躍すれば同じ距離だけ跳び、同じ分だけ疲労する。赤子でもドス級でもそれは変わらない。 よってこのゆっくりマウンテンを登るのに必要なのは、ただひたすら前に進もうとする意気である。 ゆっくりマウンテン、八合目。 だがどのような境遇であろうと、怠けるものというのは確実に存在する。 「もうすぐちょうじょうだね! でもあせらずゆっくりしようね!」 「ゆっくりしちぇいっちぇね!」 ここにいるのは、五匹のれいむの姉妹である。どれも幼く、うち二匹はまだ生まれたてである。 巣の中で育ち、自然の厳しさを知る前に死んでしまったこの姉妹は、どうにも甘えが抜けていないのだ。 頂上まで上れば転生できる、というのは分かる。だが五匹は、そうまで頑張る必要もないではないか、と思っていた。 ゆっくりマウンテンにいる魂たちは、日中と夜は空腹に苛まれるが、翌朝になれば満腹感を得、体力が回復するのだ。 他のゆっくりに襲われて殺されることもないため、ある意味、最高にゆっくりできる環境だとも言えよう。 そんな風に思っている姉妹達は、転生することより、ここでゆっくりすることを選んだ。 焦ることはない。ゆっくり登っていけばいい。それに、もう頂上は目の前なのだ。生き返りたくなったときに急げばいい──そう考えたのだ。 だが姉妹達は、まだ気づいていない。 ゆっくりマウンテンの地面は、実は時間経過と共に徐々に下がっていく。 全方向に伸びる、下りエスカレーターのようなものである。 その速度は実にゆっくりとしていて、およそ七日で一合分ほど降下する。 ゆっくりの速度なら一日一合は登れるから、真面目に登っていけばあまり気にする必要のないことではあるが── 「ゆ~……ゆ~……」 「みんなあんなにいそがなくてもいいのにね~」 「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってよー!」 姉妹達がくつろぎ始めて、既に四日。 自分達がどんどん山頂から遠ざかっていることに気づくのに、あと何日かかるだろうか。 ゆっくりマウンテン、七合目。 「ぱちゅりー! がんばって!」 「むっきゅ、むっきゅ、むっきゅ……」 一所懸命に山肌を登るぱちゅりーを、それより少し上にいるありすが励ましていた。 ぱちゅりーの速度は、他のゆっくりに比べて明らかに遅い。 身体能力は横並びになっていても、しかし、生まれつき虚弱なぱちゅりーは、突然得た健常な肉体を使いこなせないのだ。 そのため、どうしても他のゆっくりに比べて遅れがちになってしまう。 こればかりは、いかに閻魔と言えどどうしようもなかった。ぱちゅりーという種そのものの業であるが故だ。 ありすの親友であったこのぱちゅりーにしても、それは同じだった。 「むきゅ~、わたしはからだのつかいかたをおぼえてからおいかけるから、ありすはさきにいってね」 だからそう言って、ありすを先に行かせようとしたのだが、ありすはそれを拒んだ。 説得の末、ありすはぱちゅりーより先に行くことを一度は受け入れたものの、結局十メートルほど進んだところで止まってしまった。 「ぱちゅりー! やっぱりぱちゅりーといっしょにいたいわ! ありすはぱちゅりーといっしょじゃなきゃだめなの!」 そう告げる友の笑顔に、ぱちゅりーは勇気付けられた。そして一刻も早く、ありすと一緒に生まれ変わりたいと思った。 ありすは、声を張ってぱちゅりーを応援している。ぱちゅりーもそれに応えようとしている。 ところで、そんなに友人が大事なら戻ってやればいいと思われるかもしれないが、しかしここにもこのゆっくりマウンテンのルールが存在している。 ゆっくり達は山を登ることはできても、下ることはできない。 何故ならば、ゆっくりが今いる高さが、ゆっくりの罪の少なさを測る指針そのものであるからだ。 登った分だけ罪を清算したことになるのだから、捨てた罪の場所に戻ることはもうできない。 だがもし、ゆっくりがこの山を下ることがあるとすれば── 「のろまなぱちゅりーはじゃまだよ! ゆっくりどいてね!」 「むきゅっ!?」 大急ぎで駆け上がるれいむが、進路上にいたぱちゅりーを突き飛ばした。 「ぱちゅりぃー!?」 ありすが叫ぶ。突き飛ばされたぱちゅりーが転び、山肌にその身体を投げ出す。 転がり落ちてしまう──そう見えたその瞬間、不思議なことが起こった。 「「「────────!!??」」」 ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、ぱちゅりーとれいむの位置関係が入れ替わった。 突き飛ばされたはずのぱちゅりーは平然と元の位置におり、逆にれいむが突き飛ばされたかのような格好になっている。 「ゆゆゆゆゆー!?」 何が起きたか理解できないまま、れいむは山肌を勢い良く転がり落ちていく。 ──ゆっくりがこの山を下ることがあるとすれば、それはこの山で新たに罪を重ねた場合のみ。 自分のことを優先し、犯さなくてもいい罪を犯したれいむは、その罪の分だけ山を転がり落ちていく。 ぱちゅりーとありすは唖然とした表情でそれを見送ったが、やがて気を取り直し、二人一緒に山を登り始めた。 ゆっくりマウンテン、六合目。 「ゆゆゆゆゆーーーーー!!!!」 先程のれいむが、まだ山を転がり落ちている。 「ぢぢぢぢぢぢぢんぼーーーー!!!」 「わからないよー! わからないよぉぉぉ!」 「「「「ゆ゛あ゛あああああああああああんん!!!」」」」 それとは対照的に──まるで落下の逆回しを見ているかのような速度で、山を登っていく集団があった。 二十匹ほどからなるこの集団は、かつて人里を襲い食物を奪ったゆっくり達である。 本来なら三合目からの登山を言い渡されるほどの罪であるが、しかし反省が認められ五合目からの登山となった。 その五合目に来たのが、今から六時間ほど前である。 ゆっくりが一日のうち、十二時間を行動し、十二時間を眠るのであれば、このゆっくり達はおよそ倍の速度で一合分を走破したことになる。 それだけ急がなければならない理由が、このゆっくり達にはあったのだ。 見れば六合目にいるゆっくり達は、どれも大体同じような顔をして、大急ぎで登っていっている。 「「「「「ゆっぐりでぎないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」 叫ぶ内容も、また同じであった。 ゆっくりマウンテン、五合目。 「ゆべっぶ!!」 れいむの転落も、ようやく終わった。 「ゆゆ、いたいよぉ……」 一体何が起きたのかれいむは理解できていなかったが、確かなのは、転生により時間がかかるということだけだった。 めげずに頂上を目指そうと顔を上げたとき、 「──ゆ?」 それが、いや、それらが目に入った。 「どうも」 「清く正しい」 「きめぇ丸です」 「ゆ゛ぅえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」 れいむの絶叫に合わせて、きめぇ丸達の首がヒュンヒュンヒュンと風を切って動く。その光景に、れいむはさらに怖気を走らせる。 気づけばれいむは、十数匹のきめぇ丸の群れに取り囲まれていた。 「おお、このれいむは上から落ちてきたようですね」 「おお、無様無様。何か馬鹿なことをしでかしたんでしょうねぇ? ですよねぇ?」 「いやいや全く、ああ勿体ない勿体ない。自分から転生の機会を遠ざけるなんて、なんてお馬鹿さん」 「おお、お馬鹿お馬鹿」 普段なら激昂に値するであろう嘲笑にも、れいむはろくに反応を返せない。 今更説明することでもないが、ゆっくり達にとってきめぇ丸は天敵である。 そこにいるだけでゆっくりできない上に、自力では追い払えない程度には強い相手だからだ。 そのきめぇ丸に取り囲まれているこの状況は、れいむにとって果てしなく地獄だった。 最初三合目から登山をスタートしたれいむは、既に一度この地域を通り抜けているが、それでも恐怖が抜けるわけではない。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 いっそ哀れなほどに悲壮な叫び声を上げて、一目散にれいむは逃げ去った。 「フフフ、ゆっくりできないですか、ですよねー」 それを見て、きめぇ丸達は楽しそうにニヤニヤと笑う。 このゆっくりマウンテンにいる以上、きめぇ丸達も魂のみと化した存在である。 頂上に到達しなければ転生できないことにも代わりはない。 だというのにきめぇ丸達がこんなところにたむろしている理由は、ひとえに「ゆっくりできないゆっくりを見れるから」である。 ここは言わば、ゆっくりの煉獄である。ゆっくりは罪を贖うため、ゆっくりしている訳にはいかないのだ。 それは、ゆっくりをゆっくりさせないことを信条とするきめぇ丸達にとって、ある意味天国のような状況なのである。 そのため、わざわざ生き返ろうとするきめぇ丸は一匹もいない。 これは完全に閻魔の誤算であり、後ほど、知能の高いきめぇ丸については通常の生物と同様の裁きを行うように変更された。 しかし既にゆっくりマウンテンに放り込まれていたきめぇ丸については、もうどうしようもないのだ。 最近では、「これはこれで罰として機能しているから、別にいいか」と閻魔も思い始めているようである。 ゆっくりマウンテン、四合目。 ここから下は、上よりも地面に対するゆっくりの割合が高い。 というのも、性格の悪いゆっくりは他人を押しのけて上に行こうとするため、新たな罪が堆積し続け、いつまで経っても上に登れないのだ。 悪循環という言葉のいい例である。 「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ」 そんな中を、一匹のめーりんが登っている。 基本的に善良であるめーりんが、何故このような場所にいるのかと言えば、ここよりもっと上で他のゆっくりの手助けをしてしまったからだ。 ゆっくりマウンテンは、己の力のみで登らなくてはならない。 他者を助けるという行為は、一見すれば善行であるが、それは助けられた者から努力の機会を奪う『甘やかし』である。 そのため、最初七合目あたりにいためーりんは、まず五合目まで転げ落ちてしまった。 さらに五合目で、きめぇ丸に怯えるゆっくり達を見て、思わずきめぇ丸に体当たりを敢行してしまったのである。 それもまた罪とみなされ、めーりんは更なる転落を余儀なくされた。 しかしそんなめーりんを、体当たりされたきめぇ丸が哀れんだため、一合転落した辺りで止まることができた。 「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ」 めーりんはそんな境遇に落胆することなく、己の行いに後悔することもなく、ただひたすらに上を目指し続ける。 「ゆっ! くずめーりんがいるぜ!」 だがそんなめーりんを、まりさ・れいむ・ありす・ぱちゅりーの四匹が見咎めた。 「じゃおっ!?」 「おいくずめーりん! おまえなんかがこんなところでゆっくりしていていいわけはないんだぜ!」 「おちてにどともどってこないでね!」 「このいなかもの!」 「むっぎゅーん! ゆっくりしね!」 四匹がいっせいに跳びかかる。 「じゃおっ!? じゃお、じゃおー!」 めーりんは必死な顔で四匹を止めようとするが、四匹はそれをめーりんの怯えと受け取った。 そして、 「「「「ゆ????」」」」 四匹がめーりんに衝突したかに思えた瞬間、四匹は何故かひっくり返って岩肌に投げ出されていた。 「「「「ゆぅぅぅぅぅうぅぅうううーーーーーー!!!!????」」」」 自分が急ぐという理由でもなく、ただ気に喰わないからという理由でめーりんを排除しようとした四匹は、凄まじい勢いで転落していく。 この速度では、一合目付近まで落ちてしまうことは避けられないであろう。 「じゃおーん……」 めーりんは悲しげに啼いた。このようなこと、既に一度や二度ではすまないほど起きている。 七合目付近のゆっくりは既に改心していたり、この山の仕組みを理解している者が多いため、めーりんに余計な危害を加えたりしない。 だがこの四合目付近のゆっくりは、めーりんを見かけるたびに排除しようとし──そしてさらに落ちていくのだ。 無論、それはそのゆっくり達が悪いのだから、めーりんが気にするようなことではない。 だが自分がここにいることそれ自体が、ゆっくりに罪を重ねさせている原因であることもまた確かなのだ。 「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ……」 だからめーりんは、一刻も早くこの場を離れようと、山を登り続けるのだった。 ゆっくりマウンテン、三合目。 「みんな! ゆっくりがんばってのぼっていくよー!」 「ゆっ! どすについていくよ!」 「がんばろうね!」 ここには、ドスまりさとその周りにいるたくさんのゆっくりの姿を見ることができる。 雪崩によって全滅したある群れが、そのまま閻魔の裁きを受けることになったのだ。 しかしそこで、群れの一部が人里で盗みを働いていた事実が発覚する。 それにより、盗みを働いたゆっくりと、それを看過していたゆっくりは、この三合目まで落とされたのだ。 その事実を知らなかったその他のゆっくり達は、ドスの教えに従い人間に迷惑をかけることなく暮らしていたため、六合目からの登山を許された。 しかしドスまりさは、群れのリーダーでありながらその事実を知らなかったことを咎められ、三合目からの登山となった。 だがドスまりさはその裁きに納得していた。 生前導けなかった群れの仲間を、今ここで導くことが自らの責務と思えたのだ。 「みんな! がんばってね! またみんなでいっしょにゆっくりするよ!」 ドスまりさは皆を励ましながら、同じ速度で登っていく。 速度を落としているのではなく、ドスもまた同じ身体能力に揃えられているからである。 そのため傍目には、体躯に反してひどくのろまであるようにも見えた。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ」 群れはそうして、同じ速度でゆっくりと山を登っていたのだが、 「ゆーっ! もうつかれたよ! うごけないよー!」 若いまりさが、地面に突っ伏して疲労を訴えた。 「ゆ! れいむもだよ! もうここでやすもうよ!」 「ゆっくりしようよー!」 それを見て、他の何匹かもまた同様の訴えを起こした。 無論、ただの我が儘である。体力が同じなら、動けなくなるタイミングも同じはずだからだ。 「ゆっ! だめだよ、がんばってのぼって! ちゃんと、みんなでいっしょにゆっくりしなきゃ!」 ドスは動かなくなったゆっくり達を励ますが、皆ふてくされたように動こうとしない。 動かないのは、主に盗みの実行犯や、まだ若く甘えの抜けないゆっくり達であった。 「ゆっ! そうだよ!」 そのうちの一匹が、何か閃いたように身体を起こした。 「どうしたの?」 「どすにのせていってもらえばいいんだよ!」 「ゆ゛っ!?」 うろたえたのはドスまりさである。しかし他の我が儘ゆっくり達はそれに賛同した。 「さすがれいむだよ! あたまいいね!」 「どす! ぼうしのうえにのせてね!」 「のせてね!」 「だだだだだだだめだよぉぉぉぉぉ!!!」 近づいてくるゆっくりから、ドスまりさは必死になって遠ざかる。 そんなことをしたら何が起きるか、歩きながらも周囲のゆっくりを観察していたため、理解しているのだ。 しかし我が儘ゆっくりはそれを知らない。 「どーして!? まえはいつものせてくれたじゃない!」 「けち! どすまりさのけーち!」 「もういいよ! かってにのるよ! ぷんぷん!」 「だめぇーーーー!!!」 ドスまりさの懇願も虚しく、ゆっくり達はいっせいにドスまりさの髪の毛に噛み付き、 「「「「「「ゆぁーーーーーー!!!???」」」」」」 当然のように弾き飛ばされ、山肌を転がっていった。 「だから……だめだっていったのに……」 落ちていく仲間を追いかけることもできず、ドスまりさは悲しげに呟いた。 残った他の仲間達も、同じ表情で見ている。 「むっきゅ、しかたないわ……あのこたちがわるいんだもの……」 「どすがきにすることじゃないよ。だいじょうぶだよ、みんなまたのぼってこれるよ」 「ありがとう……」 群れはしばらく、仲間が転がっていった方向を見ていたが、やがて一匹、また一匹と登山を再開した。 最後にドスまりさが登り始める。後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら。 ゆっくりマウンテン、二合目。 この辺りともなると、より性格の悪いゆっくりの数が増えてくる。 この山に放り込まれるのは、まだ矯正の見込みがあると見なされたゆっくりばかりだ。 矯正の見込みがないとされたものは、こことは比べ物にならないくらい厳しい罰を受けている。 正しい心と行いを以て山を登るだけで転生できるというのは、ある意味破格の条件であろう。 だが山を下るに従って、悪辣なゆっくりの数は増えてくる。 生前は大きな罪を犯さないまま死んだとしても、それは機会がなかったからで、充分に悪辣なゆっくりというのもこの山には存在する。 ある意味、この山はゆっくりが二度目の生を送る場所なのである。 ただしここは、かつていた場所ほど思い通りにはならない場所なのだが。 「「「「「「ゆべべっ!!!」」」」」」 先程ドスまりさを頼ろうとしたゆっくり達が二合目まで落ちてくる。 「ゆぐぐ~、いたいよ~」 「ゆっぐりでぎながっだぁぁぁ!!!」 顔を打ち付けた痛みにそれぞれが泣き叫ぶ。魂だけでも痛みはあるのだ。 「それもこれも、どすがのせてくれなかったせいだよ!」 一匹のまりさが怒りもあらわにそう口にする。 それを皮切りに、他のゆっくり達もいっせいにかねてからの不満を口にした。 「そうだよ! どすのせいだよ!」 「だいたいまえから、れいむたちになんでもかんでもいいすぎだよ! あれじゃゆっくりできないよ!」 「どすがどしゃくずれにきづけなかったせいで、みんなしんじゃったんだよ!」 「やくたたずのくせにりーだーづらして、ひどいやつだったね!」 「あんなやつ、もういちどしんだほうがいいよ!」 地団太を踏みながら口々にドスまりさの陰口を言うゆっくり達であったが── 「「「「「「ドスまりさは、ゆっくりしね!!!!!!」」」」」」 有無を言わさず、再びゆっくり達は山肌から弾き飛ばされた。 ここでは、閻魔が罪と判断したあらゆる所業は成立しえない。 罪に対する処罰が即座に下り、結果、罪を重ね続けるゆっくりはいつまで経っても山を登りきることができない。 例えば、 「んほぉぉぉぉぉぉぉ!!! すっきりしようねぇ、まりさぁあああああああ!!!」 「やべでぇえええええええええええ!!!」 ここに、まりさをレイプしようとする一匹のありすがいる。 「いぐっ、いぐっ、ずっぎりしぢゃううぅぅぅううう!! ああー! すっき──り?」 「……ゆ?」 今まさにすっきりしようとしたその瞬間、ありすからは快楽の波が消え去り、さらに身体は宙に浮いていた。 そして腹の底から、すっきりできなかったがためのむず痒さがじわじわと這い上がってくる。 「どうじでずっぎりでぎないのぉぉぉぉおぉ!!!???」 姦淫の罪を犯そうとしたありすは、こうしてさらに山を下っていくこととなった。 「ゆっ! ばかなありすなんだぜ! このまりささまをおかそうなんてひゃくねんはやいんだぜ! そこでえいえんにゆっくりしていってね!」 そしてありすの悪口を言ったまりさも、また落ちていった。 ゆっくりマウンテン、一合目。 ここから下は、ゆっくりマウンテンでも一番の混沌と叫びにまみれた場所である。 下から来たれいむが、上のまりさを押しのけようとして落下し。 それを嘲笑うまりさもまた落ちていく。 懲りずに姦淫に耽ろうとするありすも落ちていく。 争うゆっくりを眺め、思わず憎まれ口を叩いたぱちゅりーも落ちていく。 前を行くちぇんに嫉妬して、尻尾に噛みついたみょんも落ちていく。 落ちてきたみょんを口に入れようとしたゆゆこも落ちていく。 寝てばかりいるれてぃは、あと一週間もすればゆゆこと同じ場所まで下っていくだろう。 そしてその行き着く先は── ゆっくりマウンテン、麓。 そこにあるのは平原などではなく、沸騰寸前まで熱されたお汁粉の湖だ。 「ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 「あぢゅいよぉぉぉぉぉ!!!」 落ちてきたゆっくりが湖に落ち、叫びを上げる。 だが岸に近い場所に落ちたゆっくりはまだいい。なんとか自力で這い上がることができるからだ。 「んほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 先程二合目から転がり落ちてきたありすは、勢いがつきすぎていたため、水面を跳ねるようにしてより遠い位置に落ちた。 これでは、山に戻ることさえままならない。 「あづいいいいいいい……!」 「だずげでぇええええ……」 「ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 湖は、そんなゆっくり達で満たされている。 夕暮れ時となった今、もはや叫ぶ体力もろくに残っておらず、ゆっくり達はひたすら低い声で喘ぐばかりだ。 顔を上に向けて、茫洋とした表情でただ空を見つめるばかりだ。 だがそんなゆっくり達も、一時的に活力を取り戻す瞬間がある。 ギィ、ギィと船を漕ぐ音が、ゆっくり達の耳に届いた。 「ゆっくりだずげでぇええええええ!!!」 「ごごがらあげでぐだざいいいいい!!!」 「おねがいじばずぅぅぅぅうううう!!!」 口々に、船に向かってゆっくりは叫ぶ。 その小さな船に乗っているのは、櫂を咥えたゆっくりこまちと、どうやって保持しているのか、勺を持ったゆっくりえーきである。 ちなみにこのえーきとこまちも魂だけの存在だが、きめぇ丸と違い、ちゃんと地獄に雇われている身である。 ゆっくりのことはゆっくりに任すのが良いと判断されたためであった。 えーきは叫びに耳を貸さず、湖に浮かんでいるゆっくり達を順に眺めていく。 そして船が、一匹のれいむの前で止まる。 「だずげでぐだざい! おねがいじばずっ!」 「はんせいしたかー?」 「じまじだっ! れいぶがわるがっだでず! もうほがのゆっぐりのじゃまじだりじまぜんっ!」 「んー……」 えーきはしばらくれいむを眺め、そして、 「よいぞっ!」 勺を立てると、その動きに釣られるようにれいむの身体が湖から浮き上がる。 「ありがとぉぉぉお!!!」 れいむは感謝の言葉を述べながら、不思議な光に包まれて、山のほうに飛んでいった。 えーきはそれを見てにっこり頷き、またこまちに指示してお汁粉の湖を渡り始める。 「どうじでれいぶはだずげでぐれないのぉぉぉぉぉ!?」 「いがないでぇえええ!!! だずげでぐだざいいいいい!!!」 「やだぁああああああ!!!」 後ろから放たれる哀願の声にも、えーきは耳を貸さない。 この湖には、えーきとこまちが百八組放たれており、それぞれが閻魔から授かった仕事をこなしていた。 えーきには、閻魔の手によって、他のゆっくりの罪悪感を知る程度の能力が与えられている。 えーきとこまちの仕事は、こうして毎日お汁粉の湖を渡り、きちんと反省したゆっくりに再びチャンスを与えることだ。 なので反省していないゆっくりに欠ける情けなど微塵もないのである。 「どうじであんなれいぶをだずげでまりざはだずげでぐれないのぉぉぉぉ!!?? はやぐだずげろ、ごのばがああああああ!!!」 「…………」 同時に、罰を与える権能も僅かながら与えられている。 こまちの船が、醜い罵声を放ったまりさの前に横付けされる。 えーきはまりさを、何かを見定めているようにじっくり眺めている。 「なにみでるのっ!? はやぐだずげろっ!! だずげないならじねええええ!!」 見ているだけで一向に何も言わない二匹に、まりさは激昂する。 この湖に落ちて、もう二週間以上。既に限界だった。 「だずげろっ! ごのぐずっ! だざいぼうじなんががぶっでぢょうしのっでんじゃねぇえええええ!!!!」 真っ黒な憎悪を込めてまりさが叫んだところで、えーきは告げた。 「 堕とせ 」 その瞳に光はない。 こまちはすぐさま応じた。 咥えていた櫂を高らかに持ち上げると──勢いよくまりさに向かって振り下ろす。 「ゆべぇっ!」 まりさの顔がへこみ、身体が沈む。 それからも立て続けにこまちの櫂が炸裂する。 「ゆべっ! べびっ! びゅッ! びゅっ!」 身体が沈みきり、見えなくなったところで、こまちが櫂に船が傾くほどの力を込める。 しばらくお汁粉の表面はぶくぶくと泡立っていたが、やがてそれも絶えた。 こまちは無言で櫂を引き抜き、再び船を漕ぎ始める。 周囲は、しばし静寂に包まれていた。 ゆっくりマウンテン──マイナス十合目。 「ぶびゃっ!」 お汁粉の湖の底まで沈んだそのまりさは、何故か地面の上に落下した。 湖の下に水底はなく、広い空間が広がっていたのだ。 「ゆぎぎぎ!! あのくそえーき!! ここからもどったら、ゆっくりしかえししてやるぜ!!!」 憎悪も新たに、まりさは猛る。 だがはたと気づく。戻るといっても、ここはどこだ? ──その答えはすぐに与えられた。 「ぶぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 「ごぼぼぼぼぼぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 「ぎゃっべ、ごべっ、びぎゃっ、っぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」 絶叫。 空間中に轟く絶望の咆哮。 身を強張らせたまりさが見たのは、そこかしこで繰り広げられるゆっくり達の大虐殺であった。 怖ろしい姿をした鬼達が、金棒や素手でゆっくりを潰して回っている。 「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」 まりさは思わず後ずさる。だがその背中が、何かにぶつかった。 振り返ると、それは大きな石臼だった。 「アそーれ、アそーれ、アぁどっこいしょー!」 その横では、鬼が巨大な杵を臼に向かって振り下ろしている。 「ゆーゆゆゆーびぇっ! ……ゆーんゆーゆっびゃ! ……ゆゆーゆゆーんぼっ!」 臼の中では、一匹のまりさがひたすら潰されている。 まりさは杵の一撃を受けるたびに餡子をぶちまけて絶命するが、しかし鬼が杵を振り上げるたびに再び蘇る。 潰されるまりさは、何かに取り憑かれたように歌い続けている。その瞳に正気の色はない。 「っこらしょー!」 「ゆんびゃっ!」 一際強く杵を振り下ろしたところで、鬼は一息ついた。 「ハァ、遣り甲斐のねぇ仕事だこと。なんの反応も返さないし。かといって他のも弱っちいしなぁ。 あーあ、人間殺す仕事に戻りてぇ。まだしも、あっちのほうが歯応えあるって話だよ」 ぼやきながらも、再び歌うまりさに向けて杵を振り下ろす仕事を始めようとして、 「ン?」 「あ、あ、あ、あ……」 臼の陰で震えている、別のゆっくりの姿に気づく。 「ンだ、新入りか。おぅい! 新しいのが来たぞー! そっち連れてけー!」 「あいよー!」 別の鬼が、まりさを回収するために足を向けたその直後、 「ゲットだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「ゆぅぅぅぅぅ!!」 スライディングで割り込んできた人間が、まりさを横から掻っ攫っていく。 「「げぇっ、虐待お兄さん!」」 呼んだ鬼と呼ばれた鬼の声が重なる。 まりさは、立ち上がった虐待お兄さんの顔の高さまで持ち上げられた。 にっこりと虐待お兄さんが笑う。助けてくれた。まりさは一瞬そう思った。 「ゆっくりしていっ」 「 少 林 寺 撲 殺 拳 ! ! ! 」 「でぶぇっ!!??」 直後、まりさは粉砕される。 まりさの意識が途絶え、しかし一秒後には再び元の身体を取り戻していた。 「ゆっ? ゆっ!?」 「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ!!!」 「ゆぼぉっ!!!」 戸惑っていると、あまりの速さに十本に分裂した右ストレートが、全方向からまりさを叩き潰す。 「……っぶぁぁぁぁあ!!!??? どうなっでるのぉぉぉぉぉぉ!!!???」 「豪ォォォ熱!!! マシンガンパンチパンチパンチパンチパンチィィィーーーーーー!!!!」 「ぶぎゃべぎぼごばぎゃあああああ!!! ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!! どうじでまりざじなないのぉぉぉぉぉ!!!」 「一・撃・必・倒!!! ディバィーンバスタァァァァァァァァ!!!」 「ぼびゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」 「T-LINKナッコォ!!!!」 「ちぇ・げばらっ!!」 「ファールコーンパーンチ!!!」 「どぼふ!!!」 「フタエノキワッミ!!! アーーーーーーー!!!」 「ぴぎゃあああああああああああ!!!」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアア!!!!」 「ヤッダーバァァァァア!!!」 ボグシャア、とまりさが地面に落下し、しかし一秒で全ての傷が癒える。 「フゥ……ンッンー、久しぶりだからちょっと殺リすぎちゃったカナッ☆」 実にいい笑顔で汗を拭う虐待お兄さんであったが、たまらないのは鬼達である。 「テメェエエエエ!!! また地獄抜け出してきやがったなあああああ!!!」 「来るなっつってんだろ! 仕事邪魔すんなっつってんだろ!」 「大人しく転生してよぉ! 頼むから!」 生前、あまりに多くのゆっくり(万単位)を殺したお兄さんは、当然のように地獄に落とされたのだが、 「この程度! ゆっくりを虐められない苦しみに比べたら! なんでもないんだよォォォォォォォォォォォ!!!」 と言って、たびたび地獄を抜け出しては、ここ──『ゆっくり専用無間地獄』にやってくるのだ。 ここのゆっくり達は、正気を保ったまま一万回死ぬまで転生することはない。しかし逆に言えば、その間は殺したい放題なのである。 主に直接的手段によってゆっくりを虐待することを好みとしていたこのお兄さんには、まさに天国のような場所である。 が、鬼達にとってはたまったものではない。鬼にもノルマが課せられており、それを達成しなければこの場所を出ることはできないのだ。 ゆっくりの相手など、正直鬼にとっても願い下げなのである。 なので早々に終わらせて早く転属したいのだが、お兄さんに殺された分はカウントされないので、お兄さんがいるとその分転属が遅れるのだ。 「ウルセェ────────!!! ゆっくりがいなきゃどこだって地獄だあああああ!!!」 「逆ギレすんじゃねぇよ! 帰れよ! あと死ねよ!」 「いや殺すッ、ここで殺してやるッ!!! そしてさっさと転生しやがれぇええええええ!!!」 「やってみろ! ことゆっくりに関しては、俺は神にも勝てる自信があるッ!!!」 「ほざけ! ウォォォォォ!!!」 「ぬわりゃあああああああ!!!」 とうとうお兄さんと鬼達が乱闘を始めた。 その足元では、さっきのまりさが逃げ遅れた他のゆっくりと一緒に踏み潰されまくり、既に五十回ほど死んでいる。 「ゆっゆーんゆー、ゆゆっゆーんんー♪」 気の狂ったまりさの歌い声が、阿鼻叫喚の地獄に響いていた。 このようにして、地獄は今日も地獄絵図である。 なお虐待お兄さんは、後日正式に転生し、虐待鬼さんとして新たな生を得たとか得ないとか。 あとがき テラカオス この話は、焼き土下座のときにチラッと出した『ゆっくりマウンテン』の話です。 特に深く考えてたわけじゃなかったんですが、なんの気まぐれか書いてしまいました。 しかしこれ、虐待にも制裁にもなりえない話だなぁ…… 制裁というのは、罪に対して過剰・過激な罰が与えられるくらいが楽しいと勝手に思っています。 ちなみに九合目の子まりさ、六合目の逃げるゆっくりの群れ、無間地獄の歌うまりさは、多分皆さんが想像している通りのゆっくり達です。 あとこの虐待お兄さんの名前はきっとギャクターイ・アニメスキーとかそんなん。 今までに書いたもの ゆっくり実験室 ゆっくり実験室・十面鬼編 ゆっくり焼き土下座(前) ゆっくり焼き土下座(中) ゆっくり焼き土下座(後) シムゆっくりちゅーとりある シムゆっくり仕様書 ゆっくりしていってね! このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4104.html
注意 某奇妙な冒険のまんまパロディです。 ゆっくり達が某奇妙な冒険の6部のラスボスの 完成した能力に巻き込まれていたら・・・というシチュエーションです。 まだストーンオーシャン最終巻を読んでいない方は戻りましょう。 モロネタバレです。 某奇妙な冒険自体が嫌いだったり、知らない、読んだことがない、 という方も戻りましょう。 ちょっとゆっくり達が賢すぎる か・も? 虐待描写が無いに等しいです。 ジゅジゅのゆっくりな冒険 ゆトーンオーシャン ステアウェイトゥゆっくり~ゆっくりへの階段~ ここはどこかの森の中。 ここでは様々なゆっくりたちが様々な形でゆっくりしながら毎日を過ごしている。 れいむとまりさとありすとぱちゅりーがすーりすーりしながらお喋りをしている。 ちぇんとらんがかけっこをしている様子をゆかりんが微笑みながら見守っている。 みょんが木の枝を咥えて一匹で黙々とけんのしゅぎょーをしている。 めーりんは俺の嫁。 きめぇ丸が木の上で物凄い速さで体を振動させている。 ゆうかりんが自分が育てた立派な花を嬉しそうに見つめている。 そんなとてもゆっくりしているゆっくり達に、ある日、とてもゆっくりしていない出来事が起こる。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ!ゆっくりしすぎたよ!ゆっくりいそぐよ!!!」 矛盾していることを呟きながら移動しているこのれいむは、 ともだちであるまりさ、ありす、ぱちゅりーと一緒に食べ物をとったり、一緒にゆっくりしているいつもの広場へ向かっていた。 いつもなら急ぐ必要は無いのだが、「おひさまがまうえにくるまでにしゅーごーよ!」と いつもぱちゅり-から言われていたのに、現在、いつもは青いはずの空の西の方角が微かにオレンジ色に輝いてきている。 ようするに、れいむは寝過ごしたらしいのだ。寝ていた時間は普段と変わらない気がするのに。 ちなみにゆっくり達は「眠る」ことも「ゆっくりする」と表現している。紛らわしいってレベルじゃあねーぞ! とてもゆっくりしているまりさ達なのだからゆっくり待っていてくれるだろうとは思うが あまり待たせるのは悪い、そう思い、普段は使わない(たまには使うけど)近道を通ることにした。 おうちからその広場まで行くまでの近道には、地面が数センチ盛り上がっている部分がある。 人間からすれば意識しないでも乗り越えれるであろうこのおやまさんは(れいむのおうちからみて)向こう側が段差になっていて、 ここを通るのはゆっくりにとっては少々怖いものでもあるようだ。降りるときに跳ねなければならないからだ。 しかし、段差を降りればそこが待ち合わせ場所の広場となっているのだ。 「ゆっ!こわいけどまりさたちをまたせたくないからがんばるよ!ゆっ、せー、のー、ゆっ!!!」 思い切り飛んだ。 「ゆ!?ゆべえっ!?」 そして転んだ。 力いっぱい飛んだれいむは、思い切り底部を強打した。 いや、底部を強打すること自体は毎回あったのだが、今回は度が違った。 自分が飛んでから落ちるまでの間が凄く短かった気がする。 凄く痛い。目を開けてられない。 「ど・・・どぼじで・・・ゆぐぐ・・・」 まあ、でも死ぬほどじゃないから気にしないことにしよう。 そう思うことにした。 「ゆ、ゆうぅ・・・それにしてもゆっくりできないおやまさんだね!ぷんぷん!」 こんな相手に威嚇してもどうしようもないのだが、 後ろにいつもの3にんがいるはずだ。 そう思い、振り向きながら叫んだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 しかし、ともだちのみんなは誰も居なかった。 「ゆぅ・・・まりさとありすとぱちゅりーはかえっちゃったんだね・・・ しょうがないよ、きょうはひとりでたべものをさがすよ・・・」 そう寂しそうに呟き、どこを探そうかと考えていたら、 「ゆ!れいむじゃない!おそくなってごめんなさいね!ゆっくりしていってね!!!」 と声がしたので、驚いてその声の方向に体(顔?)を向けた。 「ゆゆ!?ありす!?・・・ゆっくりしていってね!!!」 とっくにおうちにかえったと思ったともだちが現れたことと、声の内容に一瞬困惑したが、いつもの挨拶を交わした。 ありすはれいむが一瞬困惑したような表情をしたことが気になったらしく、 「どうしたのれいむ?」 と訊いた。 訊かれたれいむは、確認するように 「ありす・・・いま『おそくなって』っていった?」 と言った。 「ゆ?そうだけど?ほんとにごめんなさいね!きのうのよるからいままでゆっくりしすぎたのよ! とかいはとしてなさけないわ!」 自分と同じだ。とれいむは思った。 「まりさとぱちゅりーは?」 「たぶん、もう、ゆっくりかえっちゃったんじゃないかな?」 「ゆう・・・わたしたちがわるいわね。」 「ゆ・・・」 「でもへんなのよ!」 「ゆ?なにが?」 「ゆっくりしてたながさはいつもとおなじくらいだとおもったのよ!」 「ゆ!?ありす、れいむもだよ!れいむもゆっくりしてたながさはいつもとおなじだっておもったよ!」 「ゆゆ!?」 奇妙なことに、二匹は全く同じことを感じていのだ。 「・・・ゆ?ありす、だれかちかづいてくるよ!」 二匹が話していたら、すぐ近くから草を掻き分ける音が聞こえてきた。 その音の正体は、 れいむがもう帰ってしまったと思っていた見慣れた顔だった。 「ゆおーい!れいむ!ありす!おくれてごめんなんだぜ!ゆっくりしていってね!!!」 「「まりさ!?ゆっくりしていってね!!!」」 しかも二つ続けて。 「むきゅ、みんな、おくれてごめんなさい、ゆっくりしていってね!」 「「「ぱちゅりー!ゆっくりしていってね!」」」 そして、二匹とも先ほどのありすと同じような台詞を吐いた。 ということは・・・ 「まりさも、ぱちゅりーも、ふたりともきのうからいままでゆっくりしすぎたの?」 と、れいむは訊いた。 「そうなんだぜ!すまないんだぜ!」 「ほんとにまたせてごめんなさいね、ふたりとも」 ありすとおんなじだ・・・ と、れいむは思った。 「ふたりとも、ゆっくりしてたながさはいつもとおなじくらいだっておもわなかったかしら?」 次はありすがこう訊いたら、 「ゆ!?なんでわかるんだぜ!?」 「むきゅ、そのとおりよ、いつもとおなじだとおもったわ!」 だそうだ。 今までも誰かが遅刻をすることはたまにあったが、今日のように全員がここまで遅刻をしたことは一度も無かった。 さらに、この4匹全員が「ゆっくりしていたじかんはいつもとかわらない」同じようと感じている。 いくら仲のよい4匹でも、これも一度も無かった。一体何が起こっているのだろうか? ふと、ありすの後方から、こんな声が聞こえてきた。 「らんしゃま~、あのきのみさんがほしいんだよ~わかるよ~」 「そうか、わかった。すぐにとってやろう。」 「らん、あなた、すこしちぇんをあまやかしすぎじゃあないかしら?」 「いえ、そんなことはありません、ゆかりんさま。むしろたりないくらいです」 「やれやれだわ・・・」 ゆかりん一家がいつものように戯れている。このゆっくり達は何故かは知らないがいつもどおりの時間に広場へ来たようだ。 らんがちぇんの為に、木の枝に付いている木の実を、らんの尻尾の中身である米つぶ弾を撃って落とそうとしているらしい。 いつもやっていることなので、いつもどおり簡単に落とせるだろう。 「ちぇん、おちてきたきのみさんがみつかりやすいようにようにそのあたりにいてくれ」 「わかるよ~わかったんだよ~」 と、ちぇんが木の実のおよその落下地点に待機して、らんは ぷひゅっ と米粒を口から勢いよく撃ち出した。 それは見事に木の実に当たり、ちぇんの待機しているところに落ちてきて、 ちぇんの喜ぶ顔が見れる。 はずだった。 ズグゥッ という効果音がしたのと同時に、 ブシュゥゥゥゥゥッ と、ちぇんの中身であるチョコレートがちぇんの脳天から噴出していた。 「「え?」」 「ちぇ・・・ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」 とらんは叫びちぇんの側へ跳ねていったが、ちぇんは既に物言わぬ饅頭となっていた。 「ちょっと・・・どういうこと?」 「あ・・・ああ・・・ちぇん!しっかりしろお!!!」 木の実が深々と中枢餡にまでめり込んでいる。これはどうあっても助からないだろう。 運が悪いものだ。見事に木の実の着地点に入っていたばかりに。 「う・・・うぁ・・・ああ・・・ちぇん・・・」 「ちょっと・・・なんできのみにあたったくらいでちぇんがこんなになるのよ・・・? いつもならぼうしにあたってもなんともないはずでしょう?」 「・・・ちぇん・・・うう・・・」 「なにがおこっているの?」 らんはちぇんのだったものの側で大量の涙を流し、 ゆかりんは何か異常なことが起こっていると感づいたようだ。 「・・・ん?」 ふとらんは、奇妙なことに気付いた。 普段、ちぇんが怪我をしたときはらんが介抱しているから分かるのだが、ちぇんの中身はチョコレートで出来ていて、 それはもちろん溶けた状態でちぇんの中に入っているのだが、もちろん外気に触れると数分で固まる。 しかし、このちぇんの死体から溢れてくるチョコレートは、既に固まっている。ものの数秒で。 こんなことはありえない。 「らん・・・」 ゆかりんが、気の毒そうな表情でらんに寄り添う。 そしてらんの顔を覗き込んだのだが、らんが悲しみだけではなく疑問を持っているような顔をしているのを見て、こう訊いた。 「らん?・・・ なにか、きづいたことでもあるの?」 らんはそう訊かれたので、さっき気づいたことをゆかりんに話した。 この一部始終を見ていたれいむ達は、 (*1))) と確信した。 「むきゅぅ・・・わたしたちがおもってたことと、きのみさんがちぇんをしなせてしまうくらいゆっくりしてないこと・・・ なにかかんけいがあるんじゃあないかしら?」 「ど・・・どんなことなんだぜ?!」 「まりさ・・・それをいまからかんがえるんでしょう?」 「ゆ・・・そうなんだぜ」 「・・・ゆ!?ぱちゅりー!」 「なあに?れいむ?」 「れいむ、さっきちかみちするためにあのおやまさんからとびおりたの!」 「・・・むきゅ?」 「そしたら、たまにつかうときよりもあんよがいたかったの!めをあけてられないくらい!」 「・・・むきゅ?」 「・・・ゆぅ?どういうことなんだぜ?」 「・・・あ!きのみさんとおなじみたいだったっていいたいの!?」 「「ゆっ!!」」 ありすの言葉にれいむは頷いた。木の実がゆっくりしていないことと繋がりそうな気がする。 ひとつ答えに近づいたかも、と4匹は思った。 質問に答えたらんの言葉の内容をゆかりんは頭の中で繰り返した。 「ちぇんのなかみがかたまるはやさがまったくゆっくりしていないようなのだ」と、暗い顔でらんは言った。 その答えを聞き、ちぇんの脳天にブッ刺さった木の実の件も合わせて思案する。 だが、なかなか考えがまとまらない。こんな事態は、16年間生きてきた(と自分で言っていた)ゆかりんでも産まれて初めてだった。 モヤモヤする頭をどうにかしようと、空を見上げた。 そこでゆかりんは、違和感を感じた。 「・・・おそらのくもさんがゆっくりしていないッ!たいようさんもみあたらないッ!」 「「「「「ゆ?!」」」」」 ゆかりん自身は小声で言ったつもりだったが、その独白はらんはおろか少し離れた位置に居たれいむ達にもはっきりと聞こえた。 らんはまだちぇんから離れたくないようだったが、れいむ達はその声を聞いて急いで近づいてきた。 「ゆかりん、いまなんて?」 ゆかりんはちらりとらんの方を見たが、どうにも話を聞いてくれる状態ではないようなので 近づいてきた4匹に話した。 「ぱちゅりー、おそらをみなさい!」 「むきゅ?」 「いつのまにかよるになってるわ。それに、おそらのくもさんm」 「ゆうぅぅぅ!!!いつのまにかくらくなってるんだぜ!あぶないのぜ!!はやくおうちにかえr」 「むきゅ、まりさ、うるさいわ・・・いまはそれどころじゃないでしょ・・・」 「はぁ・・・ おそらのくもさんがゆっくりしてないでしょ?」 「・・・きのみさんもゆっくりしてなかったわ。」 「さっきれいむがおやまさんからとびおりたときもだったよ!」 「・・・むきゅ!」 「ぱちゅりー、なにかおもいついたの!?さすがはとかいはなぱちゅりーね!」 「むきゅぅ・・・たぶんだけど、 じかんさんがゆっくりしてないのかもしれないわ・・・」 「「「「「ゆ?!」」」」 「きのみさんとれいむがおちるはやさがゆっくりしてなかったことと、 おひさまがとおくへいっちゃうのがいつもよりはやすぎることと、くもさんもゆっくりしてないこと・・・」 「これをあわせてかんがえると、わたしもぱちゅりーにどうかんなの。 わたしたちがゆっくりしてないじかんさんについていけてないことがぎもんだけど、ほかにかんがえられないわ」 「な・・・なんでじかんさんがゆっくりしなくなったのぜ?!」 「むきゅぅ・・・わからないわ・・・」 「・・・ゆ!みんなおそらをみて!もうたいようさんがのぼってきたよ!」 「ゆうぅぅぅ!ほんとにゆっくりしてないのぜ!」 「でもすぐむこうへいっちゃったわよ!?ぜんぜんとかいはじゃないわ!」 森の木々の間から見えた真上の太陽はすぐさま西へ傾き、夕方のような薄暗さを作り出し、またまたすぐ夜の暗さへ戻ってしまった。 この広場にいるゆっくり達は、理由はわからないけど、「時が加速している」ということは確実だと思うようだ。 ふと、れいむは背後から嫌な視線を感じ、ちらと横目に後ろを見た。そこには、 頭に生えている羽に、口からは牙・・・胴無しの、 「れみりゃだあああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 「「「「「ゆうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」」」」」 こいつのような捕食種が怖いからみんな暗くなる前におうちへ帰っているのだ。 明るい間ならば、れみりゃ(とふらん)は紫外線に極端に弱く、長時間当たっていると皮膚が溶けてしまうので、 夜に活動し、はぐれた子ゆっくりや、見つけた巣穴や、ひなたぼっこで眠ったままのゆっくりを狩っているのだ。 「うー♪う・・・?」 しかし、様子がおかしかった。 「うあああああああああああああ!!!たいようさんはゆっくりできないどおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」 「「「「「「「ゆ?」」」」」」 先ほど太陽が沈んで夜になったと思ったら、またもやすぐに太陽が昇ってきたので、れみりゃは慌てた。 このままでは皮膚が溶けてしまう、はやく日陰へ入らなければ・・・!? 「どぼじででびりゃのがらだがどげるのがごんだにばやぐなっでるんだどぉぉぉぉぉぉぉぉ!?? うー、うー・・・もっどゆっぐりじだがったんだどお・・・」 時間が加速しているからか、数秒しか当たっていないと思ってしまうが 実際の時間では数十分に亘って紫外線を浴びていたことになるのだ。 れみりゃは皮膚から中身の肉、さらには羽まで溶けて、帽子だけが残った。 「ゆ・・・れみりゃがきてもあんしんなのはいいんだけど、このままじゃゆっくりできないんだぜ!」 「それに、このあたりのとってもおいしいとかいはなたべものさんたちはどうなるのぉ!?」 「むきゅう・・・」 「どうしようもないわね。」 「ゆあぁ、もうたいようさんがしずんじゃったよ!!」 「いえれいむ、すぐにたいようさんがのぼってくるわ。」 こんな状況でも冷静に喋るゆかりんと、目まぐるしく変わる空に腹が立ち、 ついにれいむは耐え切れなくなり、そして叫んだ。 「ゆぅぅぅぅぅ、どぼじでごんなごどになるのぉぉぉぉぉ!!?? れいむたちゆっぐりじでだだげなのにいぃぃぃぃぃ!!」 「れいむ!?お、おちつくんだぜ!いまはおちついてあまあまさんをさがすのぜ!」 「あなたがいちばんおちつきなさいよ!このいなかものまりさ!」 (・・・くそ、うるさいぞ、ちぇんがしんでしまったというのに・・・) らんが最も恐れること・・・それは自分の「生き甲斐」が消失することであった。 ゆかりんとちぇんに出会ってからは、その後のことはなんでも、全て覚えている。 おうちの木の入り口の変な形だとか、寝床の枯れ葉や、食べ残しの臭い。 ちぇんが跳ねる音や、ゆかりんが寝返りをうつ時のうめき声・・・ みょんやれいむ達と世間話をし・・・九つの尻尾のうちの一つの形が変だと言って笑った事・・・ 全て記憶している。 だがゆかりん達に出会う以前の事は・・・ ただ生きる為に・・・「ゆっくりとはどういうことか」も知らないまま 自分の生命だけをひたすら守る・・・ それしか「記憶」にない。 一匹で何年も生きてきたはずなのに・・・ある記憶はそれだけだ。 ゆっくりするという事はきっと「思い出」を作ることなのだ・・・ らんはそう悟っていた。 それを失うこと・・・それだけが怖い。 れいむ達それぞれが友の為に行動し・・・ありすとかまりさとか信頼するゆっくりのために 自分の「ゆっくり」を懸けて行動しているのは・・・ きっといい「思い出」がれいむ達の中にあるためなのだ。それがゆっくりのエネルギーなのだ。 「思い出」がゆっくりに勇気を与えてくれるのは間違いない。 一匹の頃のらんにはなかった感覚だ。今はある! それが「生き甲斐」なのだ! らんはそう悟っていた。 (じゅっかんからいんようなんだよ~わかるよ~) しかし今、その生き甲斐の一つであるちぇんの存在を失ってしまった。 ゆかりんに仕えるということと同じくらい、 いや、ひょっとしたらそれ以上に大切に思っていたかもしれないちぇんの存在を。 涙の枯れたらんは、空を仰ぎ見た。 現在の状況については、ゆかりんとぱちゅりーの言葉が聞こえたのでなんとか理解している。 理由は分からないが、時間がゆっくりしていないということを。 この状況でも、妙に頭の中は冷静だった。 空を見ていて、ふと思いついた。あのゆっくりできないあめさんはどうなるのだろうか? そう思った瞬間、空に物凄い速さで暗雲が立ち込めてきていた。 !まさか!!! 「みんな、きのかげにはいれぇ!!!!」 「「「「「ゆ?!」」」」」 らん以外のゆっくり達は、今まで喋っていなかったらんが急に凄い形相でこちらに走ってきながら叫んだのを見て、 まず驚いたが、 「な、どうしたのよ!?・・・わ、わかったわ!」 「むきゅう、わかったわ」 「わかったよ!」 「わかったのぜ!」 「わかったわ!」 らんの只ならぬ様子に、すぐに行動に移ったのだが、 「むっきゅうっ!!?」 「ああっ、ぱちゅりーがッ!!!」 「ゆぅっぱちゅりーころんじゃあだめなのぜっ!?」 運動が苦手なぱちゅりーが転んでしまった!そこへゆっくりらしからぬ速度で走ってきたらんが ぱちゅりーに思いっきり体当たりをした! 「てんこおおおおぉぉぉぉぉお!」 「むぎゅぶっ!?」 ぱちゅりーはその衝撃でれいむたちと同じ木の影へ入ったが、その拍子に中身の生クリームを吐いてしまった。 「むきゅ、むきゅ・・・ら、らん、ありがとう・・・でもなんd・・・むきゅ?」 らんは何故自分達に木の影へ入れと言ったのか疑問に思ったが、 吐き出した生クリームを飲み込み、感謝の言葉を述べつつ振り返った。 が、そこにはらんの帽子だけが残されていた。 「ら、らん?ど・・・どうして?」 ゆかりんは瞬きもせずらんを見ていたのだが、らんが一瞬にして溶けたように見えた。 「ゆ?らんはどこいったのよ?」 ありすは、なぜらんが帽子だけになったのか、理解不能理解不能!状態だ。 「ゆぅぅ~、ゆぅぅ~・・・ゆふぅ~・・・」 れいむは、先ほど興奮して暴れてしまった上で全速力で走ったせいか、息が上がっている。 「ゆ・・・?どういうことなんだぜ? ゆ?・・・ゆかりん、どういうことかわかったのぜ!」 まりさは、らんが一瞬で消えた理由を理解したようだ。 「むきゅ?」「「ゆ?」」 「・・・ せつめいしてちょうだい」 まりさは普段から活発に外を動き回っている上に、まりさ種のこの帽子によって、 普通のゆっくりとは違う条件下でも動けるのだ。そして、その環境をよく観察していたのだ。 「それ」が過ぎ去った後は、絶対にこうなるのだ。 「あめさんがふったのぜ。」 「・・・ゆ?あめさんがふったかんじはしなかったけど」 「あそこにはえてる、いつもゆうかがせわしてたおはなさんのはっぱに、おみずさんがついてるのぜ」 「ゆ!」 「そのほかにも、あそこにはってるくものすさんもおみずさんがついてるのぜ。 あめがふったあとはよくこうなってるのぜ。」 「むきゅ!じかんさんがゆっくりしてないからすぐとおりすぎちゃったようにかんじちゃったわけね!」 「ゆ!・・・ゆ?もうかわいちゃったのぜ!?」 「・・・なるほど。だかららんはあめさんにあたってとけちゃったわけか。」 「ゆふぅ、ゆ、ゆかりん…ちぇんのつぎはらんまで・・・」 「・・・もう、どうしようもないことよ。」 「ゆう・・・」 「もうここからうごけないわね・・・まったく・・・なんでこんなことに・・・」 先ほどのれいむと同じような台詞を、ありすは呟いた。 そして、他のゆっくり達がしてきたのと同じように、無意識のうちに空を見上げた。 その空を見て、ありすは、目を回して中身のカスタードを吐き出してしまった。 「ゆぶぅぅぇ!?」 「ゆ!?ありす、どうしたのぜ!」 「ゆぅぅ~、まりさ・・・おそらが・・・」 「むきゅ?おそr・・・むぎゅううううぅぅぅぅ!!!」 「なに!?どおしたの!?」 「むきゅ、むきゅ、おそらが・・・」 今や太陽は、一本の光の線になっていた。 「なんなのよこのおそらさんはッ!たいようさんはどこッ!あのせんがたいようなのぉーーーッ!? じかんのかそくはとまらないのぉーーーッどこまで!どこまでかそくするのよぉぉぉぉぉぉッ」 「ぶるぶる!さむくなってきたよ!」 「きこうもかわっているぅぅぅぅぅぅぅーーッ」 そして加速していくにつれ、れいむたちの飾りがボロボロに朽ちていく。 「ゆぎゃあああああ!ばでぃざのすてぎなおぼうじざんがぁぁぁぁッぼろぼろだよぉぉぉぉぉ」 「むぎゅうぅぅぅぅぅぅ!ばじゅりーのもぉぉぉッ!!」 「ゆあああああ!ありすのとかいはなかちゅーしゃがああああッ」 「でいぶのおりぼんがあああああぁぁぁぁぁっ」 「ゆぅぅぅっゆがりんのしょうじょしゅうたっぷりのおぼうしもおおおおおおッ」 「「「「「ごれじゃあゆっぐりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」」」」 れいむ達の飾りは朽ち果てて、塵になった。 全員が慌ててなんとかしようとしているうちに、地面が裂け、そして・・・ !・・・ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 次に目に入ったのは、一面の星空。上も下も、右も左も星空。 そこに、れいむ達は漂っていた。れいむ達だけではない。あらゆる生き物が、漂っていた。 「ゆ~おそらをとんでるみt・・・ なに!?ここはっ!?みんな、ぶじ!?」 「おそr・・・ぶ、ぶじだよ・・・ぶじだけど・・・」 「おぼうしがなくなっちゃったのぜええええぇぇぇぇぇ!」 「それにぃぃぃぃ!!じめんさんがなくなっちゃったわよおおぉぉぉぉ!!」 「むきゅうぅ、めがまわりそうなところだわあああっ!」 「ゆぅ!わたしたちだけじゃなくてほかにもみょんやきめぇ丸たちもみえるわ!」 「それだけじゃないよ!むしさんやおはなさん、とりさんもいるよ!」 そこまで喋ったところで、れいむ達は光に包まれた。 「ゆああぁぁあ、ぐるじいぃぃぃ!」「いぎができないわぁぁぁ!」「むぎゅうぅぅぅぅぅ!」 「ゆぐっ!ゆぐっ!」 「どぼじでごおなr・・・」 ゆかりんが叫びかけたとき、 ドサァッ と、全員は何かに叩きつけられた。 「じ・・・じめんさん?じめんさんだわ!」 先程、裂けて崩れ去ったハズの地面が、今はしっかりとゆかりんを支えていた。 れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーも、無事に着地したようだ。そこは、いつもの広場だった。 それぞれのゆっくり達の側に、塵になったはずの飾りや帽子が落ちている。それを急いで取り付けて、まりさが口を開いた。 「ゆう…も、もうだいじょうぶなのぜ?」 「たいようさん・・・もうゆっくりしたみたいだよ!」 「おそらのくもさんも、とってもとかいはにもどったわね!」 コツン、とぱちゅりーの頭の上で音がして、横に落ちたそれを見た。木の実だ。 「・・・じかんさんがゆっくりしたみたいね。」 「おお、ゆっくりゆっくり」 木の上で、いつもどおり高速で震えながらきめぇ丸は言った。 全員が木の上のきめぇ丸を見た。そのとき、ゆっくり達は妙な考えが浮かんだ。 (*2)))) (あれ?ひょっとしてわたしこれからかぜでここからおちる? おお、ようじんようじん) 何故こんな考えが浮かんだのか?ゆっくり達は分からなかった。 そして、風が吹いた瞬間、 「お、おお?!おうっ!おちた!おお、やっぱりやっぱり」 きめぇ丸は強風に吹かれ木の上から落ちた。 「おお、どうしてどうして?」 「むきゅ・・・ふしぎねぇ・・・ぱちゅりーはきめぇ丸がおちるのがさいしょからわかったきがするわ・・・」 不思議に思っていると、ゆかりんは背後から楽しそうな話声がするのに気付き、振り向いた。その先には… 「ゆう!?ちぇん!らん!」 「「「「ゆかりん?」」」」 「こん?」「ゆー?わからないよー」 いた。ちぇんとらんが。しかし、 「ゆぅ?・・・にてる。すごく。・・・でもちがう・・・? ちがう・・・わたしのらんとちぇんじゃあない・・・」 「ゆー?らんしゃまー、ゆかりんはなにいってるのー?わかんないよー」 「こん?・・・ちぇん、きにしなくていいぞ」 似てはいる。似てはいるのだが、微妙に違う。 ちぇんとらんは、ゆかりんが何も言わないので、再び一緒に遊び始めた。 時の加速の果てに、一体何が起こったのか? その時、遠くの茂みからガサガサと、大きな動物が近づいてくるような音がした。 その正体は、人間だった。黒い肌をしている人間だ。 先程のきめぇ丸が木の枝から落っこちることは事前に分かったのに、なぜか人間が近づいてくるのは分からなかった。 ゆっくり達は身構えた。 「いいにんげんもいるけどいじわるなにんげんさんもいるからきをつけろ」と、 いつもゆかりんから聞かされていたのだ。 その人間は、そんなゆっくり達の態度を気にすることなく、いきなりこう言った。 「時の加速により!加速の行き着く究極の所ッ! 宇宙は一巡したッ!新しい世界だ!ゆっくりは一つの終点に到着し夜明けを迎えたのだッ! らんはもういないッ!ちぇんも消滅したッ!『死ゆっくり』は来れないのだ! 例えばこれからゆうかりんは自分の育てた花の許へ行こうするとしよう。 その過程で何が起ころうとゆうかりんがそこへ行くことは『決定』されている。『運命』だからだ! 未来を一巡して『新しい宇宙』が始まった!運命も同じように繰り返される! ゆっくり達は未来の全てを体験してこの世界へ到達した! ・・・・・・・・・・・・・・・・ 例えば『五日後の未来』何が起こるか?ゆっくり達全員がそれを知っている。 「加速した時』の旅で自分がいつ病気になりいつ永遠にゆっくりするのか? 既に体験してここに来た。 他のゆっくりといつ出会い・・・そして別れるか? 自分が誰を恋ゆっくりとし、どのゆっくりを憎むのか? 自分はいつにんっしんっし、子はどんな成長をするのか? 餡子脳やゆっくりの肉体ではなく精神がそれを体験して覚えて知っているのだ! そしてそれこそ『ゆっくり』であるッ! 一匹ではなく全員が未来を「覚悟」できるからだッ! 「覚悟したゆっくり」は幸福であるッ! 悪い出来事の未来も知ることは「ゆっくりできない」と思うだろうが、逆だッ! 明日「永遠にゆっくり」するとわかっていても「覚悟」があるから「ゆっくり」できるんだッ! 「覚悟」は「絶望」を吹き飛ばすからだッ!ゆっくりはこれで変わる! これぞ私が求めたもの!「ステアウェイトゥゆっくり」だッ!」 (さいしゅうかんからいんようなんだよーわかるよー) そう言うと、その人間は広場から去っていった。なかなかシュールな光景である。 (でも、どうしてちぇんたちがしんだことをしってるの~?) (このけんについてはきにしないでほしいんだちーんぽ!) 「・・・あのにんげんさんが、じかんさんをゆっくりさせなくしたの?」 「・・・そうみたいなのぜ。 でもそれより、えぇっと・・・なんていってたのぜ?」 「むきゅ、じかんさんがゆっくりしなくなったけっか、 わたしたちはみらいになにがおこるのかがわかるようになったってことじゃあないのかしら? みんな、さっきのきめぇ丸がきのえだからおちるのがわかったでしょ?」 「うん」 「それとおなじように、わたしたちはさきになにがおこるのかがぜんぶわかるようになったってことじゃないかしら?」 「なかなかとかいはね!」 ぱちゅりーの解説にありすはこう言ったが、 それに対してゆかりんはこう訊いた。 「そうかしら?あのにんげんさんがいってたけど、『かくご』がひつようらしいわよ。 ありす、あなたはあした「えいえんにゆっくり」するってことがわかったとしても、 それをうけいれられるの?」 「ゆ!?」 そうだ。そこが問題なのだ。 ちょっとしたことでも「これじゃあゆっくりできない」だの、 気に入らないものに対しすぐ「しね!」などと言ってしまうゆっくり達に、 果たして『覚悟』が出来るだろうか? ありすの心に不安が広がっていく。 ありすだけではない。ゆかりんの質問を聞いた、 そこの広場のちぇんとらん以外のゆっくり全員が、不安を感じた。 「ゆ、ゆゆー!で、できるのぜ!まりさはつよいのぜ! かくご、できるのぜ!ゆっくりしてみせるのぜ!」 まりさはこう言ったが、それが虚勢であることはどのゆっくりの目にも明らかだった。 ゆかりんは再び口を開いた。 「・・・わたしにはもう、わかっちゃったわ。 あのちぇんはあたまにおもいきのみにつぶされて、 あのらんはあめさんからにげおくれてとけてしぬ。 それがわかっちゃったわ。それはもうきまってることらしいわ。 わたしは・・・かくごなんてできないわ。」 「・・・」 「まったくもって、ゆっくりできないわよ。こんなの」 それっきり、ゆかりんは口を開くことはなかった。 他のゆっくり達も、何も喋らなかった。 そのうちゆっくり達は、それぞれのおうちに帰っていった。 これから、全くゆっくり出来ない生活が待っている。全員がそう思った。 自分のこれからのゆん生においての全ての出来事が先に分かること。 そんなもの、ゆっくり達には要らなかった。 先に幸福が待っていると知ってしまっては、それは喜びを生まない。 先に不幸が待っていると知ってしまっては、それは不安を生むのだ。 なにより、ゆっくり達の精神はどんなことにも『覚悟』出来るほど強くできてはいない。 わたしのらんとちぇんはもういない。 そのことを考えても、悲しくなかった。涙も出なかった。 ただ、ひたすら虚しかった。 自分がいつ死ぬかが分かる瞬間に怯えながら、これからはゆっくりできないまま生きていくしかないのか。 そんなことを考えながら、巣の中のゆかりんは、一匹、夢の中へ落ちていった。 夢の中では、ちぇんとらんがかけっこをしていたら、 ちぇんが転んでしまい、泣いているちぇんを、 予想外の出来事に驚いた顔をしつつもらんが介抱している。 その様子を見ていると いつものことなのに自然と笑顔になってくる自分がいた。それは、とてもゆっくりした光景だった。 あとがき 以前のあとがきにどうしてあんなことを書いてしまったのか・・・ 今になってみると自分でも分からない 色んな人が見るのだということを思慮に入れてなかったかもしれない マジ黒歴史 死にたい 不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした 初SSだぁぁぁっ後半ダレてgdgdになった気がするぜぇ~~っ とりあえずゆっくり達が「饅頭」ではなく「ナマモノ」として扱われた場合の話でした。 一巡前ちぇん「わかるよ~」→一巡後ちぇん「わかるよー」 一巡前らん「てんこー!」→一巡後らん「こん!」 あんまりにもジョジョが好きすぎて書いてしまった。反省はしている。 こんな稚拙な文を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。楽しんで頂けたなら幸いです。 矛盾点があったら指摘をお願いします。 書いているうちにゆっくり達がジョジョの世界に食われていくんだよォ~・・・ 俺にはオリジナルでは無理だし、ジョジョパロでしか書けないから簡便して欲しい 俺は、自分の身の回りで現実に宇宙が一巡して『覚悟こそ幸福』な世界になっても 「明日俺は死ぬ」って知ってしまっても覚悟なんてできるわけがないッ!と思うので、 ゆっくり達はそんなことになったら発狂するだろうな~と思うのですよ。人間ですらこうなんだから。 時の加速は実はゆっくりさくやがこーまかんを失った悲しさから暴走して発動させた能力で 一巡後にれいむ達の前にプッチみたいに現れてれいむ達に潰されるってのを 書き終えてから思いついた それと、めーりんは俺の嫁。 次は何を書こうかな~ 「スターダストゆっクルセイダース~れみりゃの世界~」←書きかけ 「究極ゆっくり、かぐやの誕生」 「ゆトーンオーシャン 悪魔のゆっくり~ヘビーれいぱー~」 「吉良ゆし影は静かに暮らしたい」 「吉良ゆし影の新しい事情」 「ちぇん(らん)は吉良ゆし影が好き」 「ゆっくりボールラン~ゆっくりへの条件、友情への条件~」 「ゆっくりボールラン~ゆっくりへの資格~」 なんとか書けそうなのはここまで思いついた。 このSSに感想をつける