約 3,642,792 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/163.html
ここはゆっくり霊夢の家族が住んでいる巣 お母さん霊夢を中心に5匹ほどのゆっくり霊夢の子供達が中むつまじく生活している。 このお母さん霊夢は成体で、繁殖をしても黒ずんで朽ちることなく無く今も娘達を優しく守っている。 この平和なゆっくりの巣に発情させたゆっくりアリスを放り込んでみた。 だらしなくよだれを垂らしながら「ゆっゆっゆっくりしていってねええええええええ!!!」とわき目も振らずにお母さん霊夢に突進するゆっくりアリス。 がっちりとゆっくりアリスに押さえ込まれたお母さん霊夢、すぐさま交尾が始まった。 「ゆ゛っ……ゆ゛っゆゆっ!!!」苦しげなお母さん霊夢。 小刻みに震え、切なげな声を出すゆっくりアリス。 娘霊夢たちはわけもわからずガタガタ震えることしか出来ない。 そして「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」と一際大きなお母さん霊夢の声、交尾が終わったようだ。 頭から茎を伸ばしながらもこれでゆっくりできると一安心のお母さん霊夢、だがそこで終わりではなかった。 すぐさま連続して交尾に移ろうとするゆっくりアリス、さすがのお母さん霊夢も「ゆ、ゆっくりしようよ!!!」と危険を察したのか娘達をかばいながらあとずさる。 「れ、れいむううううううううううううう」飛びかかるゆっくりアリス、交尾を終えたばかりで体力を失っているお母さん霊夢が逃げられるわけも無く、再び行われる交尾。 2回目の交尾が終わり、茎ももう一本生え息も絶え絶えなお母さん霊夢、だが発情したゆっくりアリスはお母さん霊夢が朽ちないことが分かると更に交尾をするためにお母さん霊夢に飛びつく。 そうして繰り返される交尾。 発情期のゆっくりアリスの持久力は凄まじく、勢いは衰えることは無い。 お母さん霊夢は限界が近いのか「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と朽ち果てる前に出すような異様な声を時折出すようになってきた。 ただならぬ気配を感じたのか「ゆ゛っぐり゛や゛め゛でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛」と娘霊夢達が泣きじゃくる。しかしゆっくりアリスは小刻みに身体を動かし交尾をやめる様子は全く無い。 何度交尾があったかわからなくなった頃、もう母体が限界に近いので、ゆっくりアリスを巣から引っ張り出す。 ようやく解放され、巣には平穏が戻った。 残されたのは「ゆ・・・ゆ・・・」とうつろな目で体中から大量の茎を伸ばすお母さん霊夢。 そして、ただただ泣く事しか出来ない娘達である。 やがて生まれてくる大量のゆっくり霊夢の赤ちゃん、その数は50匹を越えている。 ゆっくりアリスの襲来という酷いことがあったにせよ、家族がいっぱい増えて「みんなでゆっくりしようね!!!」「家族が増えてたのしいね!」と赤ちゃんや娘はおおはしゃぎしている。 お母さん霊夢も回復し「みんなゆっくりしていってね!!!」と満面の笑みである。 だが問題が発生する、巣が狭すぎるのだ。 生まれたばかりの赤ちゃん霊夢は小さいにせよ数が多い、元々は家族がゆっくりできたであろう広い巣も今では学校の教室くらいの人口密度になっている。 しかし巣の広さはまだ何とかなる方であった。 食糧の問題は更に深刻であった、赤ちゃん霊夢は食欲旺盛で「おなかすいたよ!」「ごはんがたべたいよ!」と大合唱。 お母さん霊夢とお姉さん霊夢が必死になって虫や木の実などを集めてきても「まだたりないよ!」「おなかすいたよ!」と焼け石に水状態である。 しかし、どんなにお母さん霊夢達が頑張っても集められる食料の量には限界があり、一部の赤ちゃんゆっくり達は食べ物が手に入らず「ゆ…ゆ…」とうめき声を上げることしかできずに衰弱していった。 更に赤ちゃんゆっくり達は成長スピードが早く、1週間も経つ頃には生まれたときの3倍以上の大きさになり、巣はラッシュ時の駅構内のような大混雑になっていた。 しかし、満足に餌が食べられなかった赤ちゃんゆっくりは身体も小さくもう巣の隅の方でぐったりしているだけになっていた。 そこで起こるのが体の大きな赤ちゃんゆっくりによる共食いである、生まれてからずっと空腹状態の赤ちゃんゆっくりにとって弱ったゆっくりは最早餌にしか見えていなかった。 お母さん霊夢達が巣の外へ餌を探しに出ているタイミングを見計らい、弱ったゆっくり達の元へ集まる赤ちゃんゆっくり達。 「ゆっくり食べられてね!」この言葉が引き金となり共食いが始まった。 「ゆっくりやめてね!ゆっくりやめてね!」必死に命乞いをするがそんなものが聞き入れられるはずも無く、捕食されていく弱ったゆっくり。 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」 「うっめ、メッチャうめ!」 「ゆ゛っ゛ぐ゛り゛じだがっ゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「うまうまー」 巣に帰ってきたお母さん霊夢が見たのは以前より少しだけ広くなった巣、床や壁に飛び散った大量の餡子、そして数が減った赤ちゃんゆっくり達であった。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 お母さん霊夢の慟哭がこだまする。お姉さん霊夢達も何が起きたのかを理解したのか涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして震えている。 「どお゛じでぞん゛な゛ごどずる゛の゛?」 「み゛ん゛な゛でゆ゛っ゛ぐり゛じよ゛う゛っ゛でい゛っ゛だの゛に゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」 お母さん霊夢の叫びが赤ちゃん霊夢達に向けられる、そして赤ちゃん霊夢達は自分たちが取り返しがつかないことをしてしまったと気づいた。 「お゛があ゛ざん゛ごめ゛ん゛な゛ざい゛い゛い゛い゛い゛」 「み゛ん゛な゛ごめ゛ん゛な゛ざ゛い゛」 涙を流しながら謝罪の言葉を口にする赤ちゃん霊夢達、巣ではゆっくり霊夢達の鳴き声が一晩中続いた。 3日後 あの惨劇を乗り越え、ゆっくり霊夢の家族はより一層強い結びつきとなり、巣は家族がゆっくりできる環境になっていた。 赤ちゃんゆっくりの数が減り、残ったゆっくり達も満足な量ではないが皆で分け合い、生きていくのに必要な量の餌は確保できるようになっていた。 「今日もみんなゆっくりしようね!!!」 お母さん霊夢の声がゆっくりの巣に響く。 今回はお母さん霊夢のおかげで共食いがあったにせよ巣は平和になった。 第2段階として明日にでも再び発情したゆっくりアリスを巣に放り込み、限界ぎりぎりまで繁殖をさせる予定である。 更にゆっくりの数が増え、今回共食いをした赤ちゃんゆっくりはどういった行動を取るのか、ゆっくりの知能ではどうなるかは想像に難しくない。 しかしお母さん霊夢が居る限り巣の平穏は保たれるであろう。 最終的にはゆっくりアリスに最後まで繁殖をさせ、お母さん霊夢を朽ち果てさせる計画である。お母さん霊夢が居なくなった後、大量の赤ちゃんゆっくり達がどうなるか大変興味深い。 選択肢 投票 しあわせー! (12) それなりー (6) つぎにきたいするよ! (24) 名前 コメント すべてのコメントを見る お母さん霊夢が死んで赤ちゃんがこんおあたどうなるか -- (陽太) 2017-09-23 17 25 48
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1799.html
ありすはゆっくり生まれたい 柔らかく頬を撫でる風の感触に、赤ありすは目を覚ました。 けれど、まだ目は開けられない。生まれていないのだから当然だ。 聞こえもしない、見えもしない。 触覚と、嗅覚だけが、今のありすに許された感覚だった。 体を包む風は、少しだけキンモクセイの匂いを孕んでいて、熱くもなければ冷たくもない。 ゆっくりと柔らかく体を包み、静かにありすの体を揺らしてくれる。 それはありすにとってとても心地のいい感触。 けれど、ありすは少しだけ残念だった。 叶うなら、ありすはずっと眠っていたかったのだ。 夢は、眠りの中でしか見ることができない。 それはありすが眠っているとき、お母さんの体から、茎を通してやってくる。 頭の天辺から、しみこむように、溶け込むように。 お母さんのクリームがありすの体に入るたび、ありすはたくさんのものを見、聞き、そして嗅ぎ、触れるのだ。 どこまでも続く草原と、とても綺麗な花々と。 とかいはに飾られたすてきなお家と。柔らかくておいしい芋虫さんと、楽しそうに歌うゆっくりたちと、柔らかいお父さんのほっぺの感触と沢山の声。 りっぱな茎さんになったね。 ご飯一杯とってきたよ。がんばってねありす。 ゆっくりしてるね。 髪さんゆっくりはえてきたね、きれいだね。 おはだもゆっくりもちもちだね。 まりさとありすのあかちゃんだよ?きっとゆっくりしたいいこだよ。 ゆっくりしてね、あかちゃん。 ゆっくりしていってね、ゆっくりしていってね…… それらの映像が、音声が、お母さんの思い出であるということを、ありすはとうに理解している。 おぼろげで、それでも『しあわせー』がパンパンに詰まった記憶のカケラたち。そんなたくさんの思い出が、ありすの意識を形作る。 ありすは、お母さんの『しあわせー』で出来てるんだ。 理由もなしに、確信できた。 細切れになったいくつもの断片のどれもが、ありすにとってゆっくりできるものだったから。 幸せは、ゆっくりできる。 ゆっくりするのがゆっくりなんだから、お母さんはきっとありったけのゆっくりをありすに詰め込んでくれている。 だから、きっとありすはお母さんやお父さんが会ったどんなゆっくりよりも、ゆっくりできるゆっくりになるんだ。 そう、とても『とかいは』なゆっくりに。 体の揺れが、少しだけ大きくなった。 同時に、意識はますますはっきりしてくる。今までにないくらいの鮮明さで。 起きているときも眠っているときも吹き込まれていたクリームの感覚が、今はもう途絶えている。 何かが、ぷつりと千切れていく感触。 お母さんとありすをずっとつないでいた何かが千切れていく。 ありすはようやく気づいた。ああ、もうすぐ生まれるんだ、と。 ぷつり、ぷつりと。茎がゆっくりとちぎれていく。 ちぎれて落ちたその瞬間が、ありすにとっての誕生の瞬間。 そう、もうすぐだ。もうすぐ、もうすぐ…… ・ ・ ・ 「おきゃ……しゃ……」 ぽろぽろと涙をこぼす赤ありすを、俺はゆっくりと摘み上げた。 後頭部から腹の辺りをつまむようにして持ち、ボールの上にかざすと、指に力を入れていく。 零れ落ちそうなほどに見開かれた目。半開きの口からは、舌がぴんと突き出している。 「やべで!やべでぐだざい!!あがぢゃんゆっぐりでぎなぐなっじゃうぅ!!」 テーブルの上で、足を焼かれて動けない父まりさがなにやら喚いている。 無論、俺の知ったことではない。かまわずに作業を進めていく。 「ちゃしゅ……け……きゅるしぃ……けぅ」 苦しげな声が、不意に止まった。一瞬、突き出た舌が倍ほどにも膨れ上がり、 「ぢゅ、ゆきゅ、びゅッ」 奇妙な断末魔と同時に、舌が爆ぜた。カスタードクリームが噴出する。 使用済みのコンドームよろしく萎んだ赤ゆの残骸をさらに指でしごき上げ、最後の一滴までクリームを搾り出した。皮だけになったそれを、コップの中に放り込む。 そして、次の赤ありすを取り出すべく、俺はステンレスの料理バットに腕を伸ばした。 赤ありすたちは狭いバットの中を必死に逃げるが、跳躍能力さえない赤ゆにとっては、底の浅いバットですら脱出不可能の監獄に等しい。 たちまち角のほうに追いやられ、3匹そろって押しくら饅頭状態になる。何も、揃って同じ方向に逃げる必要はあるまいに。 ───まあ、それでも。 普通はそっちに逃げるわな。 そっちの角には母親が──バットの上に茎を伸ばしたまま、ぼんやりと虚空を見つめる母ありすがいる。 孤立無援に等しい赤ゆたちが、この狭い調理台の上にいる唯一の味方を頼るのは、当然といえば当然のことだ。 「ありずっ!ありずぅ!おぢびぢゃんをだずげで!ありずぅ!」 親まりさが、必死に声援を送ってくる。 「みゃみゃ、ありちゅきょわいよ。たしゅけて、みゃみゃ……」 「おきゃあしゃん、おきゃあしゃん、おきゃあしゃん……」 泣きながら母に救いを求める赤ゆっくり。 つくづく頭が悪い……ま、人間だって同じような立場におかれりゃ、こいつらと似たようなリアクションしかできないだろうが。 赤ゆの一匹をつまみあげながら、俺は部屋の中のゆっくりたちに言い聞かせてやる。 「気づけよ、バーカ。 そのありすはな、もうイカれちまってんだ。餡子が狂っちまってんだよ」 「うしょだぁあああああああッ!!」 赤ゆたちが、同時に同じ悲鳴を上げた。 「うぞだ、ありずはゆっぐりじだゆっぐりだもん、おがじぐだんでだらだいよぉ! うぞだ、うぞだァッ!」 まりさがうぞうぞと体をよじる。異口同音とはこのことか。 「嘘なもんか。見てみるか?そーれ」 俺は母ありすの後頭部を左手で掴むと、まりさも赤ゆも観察できるよう、持ち上げながら回してやった。 「……けへ……へひッ……きゃ……あっきゃ……あは……り」 一時間ぶりにありすが発した声は、これ以上ないほどに楽しげなもの。 赤ゆの瞳が凍り付いた。 まりさがきつく目を閉じる、もう見たくないと言わんばかりに。 まぁ、ゆっくりなら多分誰だってそうなるんだろう。 笑いながら怒り狂い、嘆きながら楽しんでいるとしか言いようのない表情は、左右の均衡を完全に失ってしまっている。 右目は眼窩から零れ落ち、濡れた紐のようなもので体とかろうじてつながっていた。無論俺が抉り出したわけではなく、ありすの眼輪筋餡が痙攣した結果、目の端がちぎれて自然とこぼれおちたのだ。 痙攣するたびに、ありすの形相は奇怪に変じ、二度と同じものにはもどらない。さながら顔面万華鏡といったところか。 「みゃ……みゃ……」 つままれたままの赤ありすが、呆然と母の名を呟いた。 「どぉちて……みゃみゃを……みゃみゃ……」 「ご愁傷様。 狂ったありすから生まれたばかりの赤ありす、その腹ん中のカスタードは、三ツ星レストランのシェフさえ目を剥くほどの品質でね、100匹も絞ればいいカネになる。つまりはそれが俺の商売。狂わせるのも殺すのも、俺の仕事のうちなのさ。 まあ、当然納得なんざ、できやしねえだろうがよ……恨むなら、ありすに生んだ親を恨むか、ありすに生まれた自分を恨みな」 経文代わりに言ってやると、手の内の赤ありすを手早く、しかし赤ゆの目玉が飛び出してクリームの中に混ざらないよう力を加減しながら、クリームの最後の一滴まで、指先を使って丁寧に絞りあげる。 一通り赤ありすを絞り上げたなら、今度はぐずるまりさを発情させて、もう一度種付けをしてやらなければならない。母体のありすがすっきり死なないよう、そして赤ゆが早く実るよう、オレンジジュースの点滴を準備する必要もあった。無論、適当なタイミングでクリームをパック詰めすることも忘れてはならない。 それが済んだら、今度は裏の倉庫から、別のありすの親子を引っ張り出してきて……手際や技も重要なら、 段取りもおろそかにしてはならない。まあ、仕事なんてものは大体がそういうものなのだが。 「あがぢゃん、にげでぇ……」 まりさの涙声が聞こえる。だが、もうどうにもなりはしない。俺が突然こいつらに同情して助けるなんてことがあるわけがないし、焼き焦がされたまりさのあんよが治って、ものすごい勢いで俺を倒して逃げ出すなんて奇跡が起こるわけもない。もちろん、あの赤ゆたちがバットの壁を乗り越えることも絶対にありえない。 そう、絶対だ。これは殺害でもなければ殺戮でもない。ただの作業にすぎないのだ。ならば、例外などありえない。 まりさ自身もそのことに気づいているだろう。 それでも、その声は一向に止まないのだ。 「ゆっぐり……ゆっぐりぃ……にげでねぇ……あがぢゃんだぢ……にげで……」 ゆっくりと持ち上げられる感覚がありすを襲う。 じたじたと体を動かしても、人間の指から逃れられない。 「みゃみゃぁ!みゃみゃあ!」 恐怖に硬く目を閉じたまま、赤ありすは必死に叫ぶ。 返事は一向に返らない。それでもありすは叫び続ける。 まま、助けて。ありすはここだよ。ここにいるんだよ。 ありすこわいよ。まま。まま。まま!! だが、返事は一向に返らない。 不意に、喉の奥が苦しくなる。 人間の指が、ありすの体をゆっくりと絞り上げはじめているのだ。 「み"ゃ……み"ゃ……」 苦しい。苦しい。 舌がぱんぱんに膨れ上がる。 いたい、いたい、いたい、イタイ。 目があんこに押されてせり出した。否応なしに目蓋が開く。 見えるのは、とても大きな銀色のくぼみ。 そして、中に溜まった白くてとろとろした何か──── ────お姉ちゃんたちのハラワタだ。 「────!」 涙が頬を伝い落ちる。 痛いのはいやだ。苦しいのはいやだ。 いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。 やだよ。まだなんにも見てないよ。まだなんにもしてないよ。 ゆっくりしたゆっくりたちとも会ってないよ、ゆっくりしたご飯も食べてないよ。 ぱぱとも、ままとも、全然すりすりしてないよ、挨拶だってしてないよ。 ありすは全然、全然、全然─── ブツリという破断の音を、ありすは確かに聞いたと思った。 最後の、そして最大の痛みがありすを襲う。 「ゆ"、ぶ」 舌が、裂けたのだ。 傷口からあんこがあふれ出していく。 急激に薄れていく意識。 ありすを形作っていたものが。 お母さんがくれたいっぱいの夢が。 何一つ実を結ばないまま、どろどろの餡子になって、ハラワタになって。 何一つ意味のないものになって、音も立てずに流れ落ちていく。 ───もっと、ゆっくりしたかった。 それがありすの最後の嘆き。 誰の耳にも届かないまま、餡子の流れに蕩けて消えた。 終わり。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1525.html
森でまもなく子供が生まれるゆっくりれいむとそれを見守るゆっくりまりさをみつけた。 「どうしたんだい?」 「ゆっ!?まりさ、にんげんだよ!」 「おにーさんどうしたの!ゆっくりしていってね!」 俺の声かけに気づいたゆっくりまりさがれいむを守るように俺の前に立ちはだかる。 すこし膨れているのでだいぶ警戒しているのだろう。 れいむはまりさに隠れながら自分の頭の上の実を気にしている。 その後ろは土が崩れている用に見える。 「もしかしてここに巣があったのかな?」 「ゆぅ・・・おにーさんにはかんけいないよ!はやくかえってね!」 「そうだよ!れいむはふたりでゆっくりしたいよ!」 「まぁまぁ。この様子だと巣を掘りなおすにはしばらく掛かるんだろう?」 「ゆぅ・・・」 「その間うちに来ないかい?」 俺の質問にまりさとれいむは俺を気にしながら相談を始める。 ゆっくりにとって人間は捕食者の一つである。 昔は人間を気にせず人の畑や家に入り込んで食料を漁っていたが、人間によってゆっくりが殺されだすとゆっくりは森の奥に逃げ出した。 森の中で人間にあってもすぐに逃げるようになったので一部を除く人間は無視するようになった。 これにより人間とゆっくりは上手く生活できるようになった。 しかし、一部の人間がゆっくりを捕まえに森に入っていたので、このように人間を警戒するのである。 「おにーさんのていあんはうれしいけどまりさたちはもりでくらすよ!」 「でも近くに身を隠せる場所は無さそうだけど。」 「でもにんげんはしんようできないよ!」 「子供達がどうなってもいいのかい?」 「ゆゆゆゆ・・・」 人間は怖い。しかし、このまま森でいるとやがて夜になり、捕食者が目を光らす時間になる。 まりさは何とかなるかもしれないが、実を生やしたれいむは明日にはいなくなるだろう。 まりさは決断を迫られた。 「ゆっ!おにーさんすこしゆっくりさせてね!」 「まりさ!?」 「だいじょうぶだよれいむはまりさがまもるよ!」 「じゃあ俺の後についてきてね。」 まりさは子供とれいむを見捨てれなかった。心配するれいむをなだめるまりさの目にはれいむを護るという決意の火が見えた。 もうすぐ日が暮れる。このままでは俺も危ないので崩した巣穴を離れた。 俺は後ろからついてくるまりさとれいむを気にしながらゆっくりと家に帰った。 帰る間俺は一度もれいむに近づけなかった。 近づこうとするたびにまりさが間に入るのだ。これなら夜も過ごせたかもしれない。 家につくと庭の一角にある小さな小屋に連れて行く。 「ゆゆっ!これはほかのゆっくりのすだよ!」 「そうだよ!かえってきたらゆっくりできないよ!」 「あぁ前にも使ってたゆっくりがいるだけだよ。」 「ゆぅ?」 「ここは巣をなくしたゆっくりに使わせるために作ったんだ。 今までに何匹ものゆっくりがここで巣が見つかるまで暮らしてたんだよ。」 「じゃあいまはいないの?」 「そうだよ。今は誰も使ってないからそこでゆっくりしていってね。」 「ゆっくりしていくね!」 「おにーさんありがとう!」 ちゃんと俺にお礼を言うゆっくり。 家に来るまではだいぶ警戒していたが、先ほどの話とこの巣に残っていたのだろうゆっくりの気配から俺を少しは信用したようだ。 しかしまだ完全に信じきってはいないようで巣箱の入り口は俺の手が入らないように枝や木の葉で隠せるようにしていた。 「ずいぶん厳重だね。」 「しらないばしょだからね!なにがくるかわからないもん!」 「まりさ!ごはんはどうしよう?」 「ゆぅ・・・」 「こんな時間だしね。何か食べれるものを持ってこよう。」 「ゆ!おにいさんいわるいよ!」 「まりさ!ここはおにーさんにたすけてもらおうよ!れいむはおなかがぺこぺこだよ!」 「ゆゆゆゆ・・・」 「料理に使わなかった野菜屑だから平気だよ。俺は捨てるものがなくなってうれしい。君達は食べれるものがもらえてうれしい。」 「ゆっ、じゃあへいきだね!おにーさんごはんください!」 「じゃあこっちにきて一緒に食べようか。」 そういってまりさとれいむを家の中に招待する。 れいむは縁側を登るのに苦労しそうだったので俺が持ち上げることにした。 まりさはいやがってたがお腹がすいたれいむはすぐに持ち上げてと言って来た。 まりさも言葉では嫌がっているがよだれがすこし見える。 朝早くに巣を壊したのでほとんど一日何も食べてないのだからしょうがないのかも知れない。 「うっめぇ、これめっちゃうめぇ!」 「むーしゃむーしゃしあわせー!」 野菜屑を一心不乱に食べるゆっくり達。それを見て俺も夕食を食べだした。 夕食を食べ終わるとこれからのことを話し合う。 「ゆっ!あさになったらでていくよ!」 「おにーさんありがと!」 「でも巣の当てはあるのかい?」 「ゆっ・・・でもなんとかするよ!」 「まぁまぁもうすぐ雨が良く降るのは知ってるだろう?」 「うん!もうすぐゆっくりできなくなるよ!」 「巣ができる前に雨が降っちゃうと溶けちゃうよ?それでもいいのかい?」 「ゆぅぅぅぅぅ・・・」 「だからさ、巣が出来るまであそこを使ってほしいんだ。餌は俺がやっても良いし自分でとってきてもいい。」 「おにーさんいいの?」 「ああ、もちろんその代わり話し相手になってくれないかな?ひとりだと退屈でね。」 「いいよ!ゆっくりしていってね!」 餌は雨の日以外は自分でとって来るそうだ。俺としては毎日上げてもよかったがまりさが嫌がった。 「かりのしかたわすれちゃうとだめだからね!」 「まりさはとってもじょうずだもんね!」 「れいむもすごいじょうずなんだよ!」 「はいはい。」 次の日からまりさとれいむの新しい生活が始まった。 朝のうちからまりさは巣のあった場所に出かけて穴を掘りに、れいむは新しい巣で子供達が落ちないようにじっとしている。 俺はまりさについていき一緒に森で食べ物を集めた。 森のことはゆっくりの方が詳しいのだ。まりさに連れられてかごをいっぱいにして家に帰る。 まりさは帰るとすぐに巣にいきれいむにご飯をあげる。そして次の日までれいむやおれとゆっくりして過ごす。 物覚えもよく、人の畑の餌をとらないなど俺が教えたことはすぐに覚えた。 どうやらゆっくりしているときに教えてもらったことはちゃんと覚えるらしい。 昔はゆっくりに厳しく教えていたそうだから逆効果だったのだ。 そんな生活も1週間続くと終わりが見える。 れいむの実がだいぶ育ち、赤ちゃんゆっくりの形が分かるようになった。 ゆっくりれいむが6匹、ゆっくりまりさが同じく6匹。 まりさの巣ももうすぐ完成だという。 「おにーさんいままでありがとう!」 「れいむたちはあしたにはでていくよ!」 「急だね。赤ちゃんが生まれてからでもいいんじゃないか?」 「にんげんになれちゃうよだめだからね!」 赤ちゃんが俺になれてしまうと、親ゆっくりがいない間に人里に近づくことを心配しているのだ。 「うーん、明日は止めた方がいいかな。」 「ゆ?」 「明日の天気予報は雨なんだ。」 「だいじょうぶだよ!あさはふらないよ!」 「しかし、もうすぐ赤ちゃんが生まれるれいむが昼までに巣までいけるのかな?」 「ゆぐぅ・・・」 俺はまりさたちがここに一日留まるように雨のことをはなす。 実際に雨が降るのでまりさも困っているのだろう。 「まりさ!まりさ!」 「れいむどうしたの!」 「あかちゃんみてみて!もううごいてるでしょ!」 「ほんとだもうすぐゆっくりだね!」 「うん!あしたにはうまれるよ!」 「ゆゆっ!?じゃああしたはここでゆっくりしようね!」 「うん!あそこならゆっくりうめるよ!」 実を宿したれいむが言うのだから本当なのだろう。明日には赤ん坊が生まれるのだ。 「じゃああとすこしだけここにいさせてね!」 「分かったよ。そのかわり後で赤ちゃんを見に行っていいかな?」 「ゆっ!うまれたあとならいいよ!」 「あといえにはあげれないよ!」 「うん。本当はおいしいものをあげたいんだけどそれもだめだよね?」 「だめだよ!もりでくらせなくなるよ!」 「じゃあ明日はすこし多く野菜屑をあげよう。れいむはゆっくりがんばってね。」 「ゆっくりがんばるよ!」 胸?をはるゆっくりれいむ。赤ちゃんが生まれる姿を見れないのは残念だがしょうがない。 俺はゆっくりをおいて部屋の奥で作業を始めた。 その夜、ゆっくり達が寝静まったのを確認してゆっくりの巣箱に向かう。 餌に睡眠薬を入れていたので朝までぐっすりだろう。始めのうちは警戒していたが今は無警戒だったので楽だった。 巣箱につくと屋根の上の鍵を外して屋根を持ち上げる。 巣の入り口は枝や石で入れないようになっていたが、そんなものは意味がない。 屋根を外すとゆっくり寝ているまりさとれいむが見えた。 朝まで時間がない。急ごう。 俺はれいむを持ち上げ外にだす。 次に実の大きさを測り、2番目に大きいれいむを手に取る。 そして用意していたライターで赤ちゃんゆっくりの底部を焼く。 焼きすぎると動けなくなるので、跳ねれない程度にライターであぶる。 これまで何度もやってきたので感覚でライターをうごかす。 一番大きいれいむ以外を焼くと、まりさのほうも同じように焼く。 これで、一番大きい赤ちゃんまりさとれいむ以外は生まれて来ても跳ねることができないだろう。 焼けた後が見えないように小麦粉で隠し、れいむを元の場所にもどして屋根を置く。 明日が楽しみだ。 赤ちゃんが生まれる日。妙にげんきなまりさとれいむに赤ちゃんが生まれたら教えてほしいと言い、家の中で待つ。 しばらくすると、巣が騒がしい。どうやら全部生まれたようだ。 まりさはまだやってきてないが俺は巣箱に近づく。 巣箱の前まで行くと外にまりさとれいむのこれが漏れていた。 「ゆっくりしていってね!」 「「「「「ゆっくちちていっちぇね!」」」」」 親ゆっくりの声に元気に答える赤ちゃん達。 俺はまりさに呼びかける。 「あかちゃん、生まれたみたいだね。出て来て見せてほしいな。」 「ゆっ!!ちょっとまってね!」 「ん?どうしたんだい?」 「なんでもないよ!ゆっくりまっててね!」 どうやら子供達のことで焦っているようだ。 俺はゆっくり出てこいとまりさを説得する。やがてあきらめたのか、れいむとまりさが出てきた。 「みんなでてきてね!」 「ゆっ!ゆっ!」 れいむのこえに赤ちゃんまりさが一匹と赤ちゃんれいむが一匹巣から出てきた。 元気に親まりさのまわりを跳ねる。 しかし、親まりさとれいむはうかない顔だ。 その原因が巣から出てきた。 「ゆっ!ゆっ!」 小さいまりさと小さいれいむが五匹ずつ、巣から這いずって出てきた。 「おかーしゃんまっちぇ~!」 「ゆっ!ゆっくりはねてね!」 「ゆうううう!できないいいいい!」 5匹は上手く焼けたのかずるずるすべるしかできないようだった。 親まりさとれいむは必死に飛び跳ねさせようと口に咥えて目の位置ぐらいから落とす。 元気な赤ちゃんれいむとまりさはぽよんと地面で跳ね返った。 しかし残りの十匹はべちょっと地面に引っ付く。 「どうしてええええええ!」 「これはいったい!?」 「まりさにもわからないよおおおおおお!」 我慢していたのだろう。泣き出すまりさとれいむ。 この赤ちゃん達は外敵から逃げることも餌を取ることも出来ない。 親ゆっくりもそんな赤ちゃんを養い続けれないので赤ちゃんゆっくりはやがて餓死する。 そんな未来を思い描いてないているのだろう。 「ゆぅ・・・おにーさんありがと。まりさたちはここをでていくね・・・」 「子供達はどうするんだい?」 「がんばってそだてるよ!できるだけがんばるよ・・・」 最後まで元気が続かないれいむ。まりさも子供達を捨てることを考えているのがうかない顔だ。 そこで俺が提案する。 「もしよければ、その10匹預からせてくれないかな?」 「ゆ!でもこの子達は・・・」 「俺なら十分な量の食事を与えれるから。だめかな?」 「ゆぅぅぅぅ・・・」 捨てることを考えてた親ゆっくりにとっては願ってもないことだろう。 ゆっくり理解するのを待ってると 「まりさ、おにーさんにおねがいしようよ!」 「ゆっ!そうだね!おにーさんならだいじょうぶだね!」 信用してくれて何より。 ところで今までの話を子ゆっくりも聞いていたんだけど大丈夫なのだろうか。 「「「おかーちゃんおなかしゅいた~」」」 ・・・どうやら自分のことを話していたとは考えてないようだった。 元気な子ゆっくりはともかく、飛べないゆっくりはもう少し危機感を持つべきだろうに。 まぁその方が話が楽だ。飛べないゆっくりを手にとって手元に集める。 「じゃあ確かに預かったよ。」 「おにーさんまりさとれいむのあかちゃんをおねがいします!」 「あぁ、ちゃんと育てるよ!」 親ゆっくりは安心したのか子供達に餌をやり始める。元気なゆっくりにはもちろん、飛べないゆっくりにも餌を渡そうとする。 「おにーちゃんはやさしいからね!げんきにそだってね!」 「とべるようになったらもどってきてね!」 親ゆっくりはまだ子供達が跳ねれるようになると思ってるのだろう。 もう無理なんだけどね。 まぁ最後になるだろう子ゆっくりとの時間を潰すのはかわいそうなのでそのままにしてあげることにした。 次の日の朝親ゆっくりと元気な子ゆっくりは親ゆっくりの作った巣へと旅立っていった。 俺は残った赤ちゃんゆっくりを用意してあった箱に落とす。 「ゆべっ!」 「ゆぐっ!」 べちゃべちゃと床に引っ付く赤ちゃんゆっくり。 始めはこちらに文句を言ってきたが、しばらく無視しているとこちらを気にせず集まってゆっくりをしだす。 全部がゆっくりしだしたところで話を切り出した。 「それじゃこれから君達を鍛えるよ。最後までついてきたら親ゆっくりの元に帰れるかもね。」 「ゆっ!ゆっくちがんばりゅよ!」 元気よく返事した赤ちゃんゆっくりを確認すると赤ちゃんゆっくりから離れた場所に旗を立てた。 「じゃあ今からこの砂時計が終わるまでにあそこについてね。たどりつけたらおいしいご飯をあげるよ。」 「ごはんごはん!」 「おなかしゅいたー!」 「ご飯はたどり着いてからだよ。それじゃスタート。」 スタートと同時に砂時計をひっくり返す。赤ちゃんゆっくりも同時に旗を目指して動き出した。 跳ねると楽に間に合う距離だったが跳ねれない赤ちゃんゆっくりには遠い距離だ。 必死に這っていく赤ちゃんゆっくり。俺はそれを横から眺める。 「ゆ~!砂しゃんゆっくちちてね!」 「ゆっくちちていっちぇね!」 「ゆっくち!ゆっくち!」 砂にお願いするもの、無言で這う物、声をあげながらがんばってるもの。 赤ちゃんゆっくりはそれぞれ思いつく方法で旗を目指す。 やがて一匹、二匹と旗にたどり着く。差が出るのは途中で休む休まないの違いだ。 今回は最後まで見るためにかなり距離を短くしていたので全匹たどり着くことが出来た。 それでも予想していた時間よりはだいぶ掛かっていたが。 「つかれちゃ~」 「ゆっくちきゅうけいだよ!」 「ゆっくちちていっちぇね!」 さて約束どおりおいしいものを上げよう。 「よくがんばったね!じゃあおいしいものをあげよう。」 「やっちゃね!」 「これれゆっくちできるよ!」 「はやくちてね!」 うれしそうな赤ちゃんゆっくりの下にお菓子を置いていく。 「さぁお食べ。」 「むーしゃ!むーしゃ!・・・しあわちぇええええええ!」 「うっめ!これめっちゃうめ!」 「ゆっくちたべるよ!」 さっきまでの疲れはどこへやら、夢中にお菓子を食べるゆっくり。 やがて食べ終わった赤ちゃんゆっくりは思い思いにゆっくりしだす。 と、言っても跳ねれないので壁に寄り添ってたり、赤ちゃん同士で話すぐらいなのだが。 ゆっくりしだしたのでもう一つルールを教えることにする。 「さてじゃあ次からは食事にも砂時計を使うよ。」 「ゆゆ?」 「この砂時計の砂が落ちる間だけご飯の時間だからね。」 「それじゃゆっくちできないよおおおおー!」 「ご飯を取り上げるだけだからゆっくりはできるよ。それに砂時計ゆっくりしてたでしょ?」 「ゆっくちちてたよ!ごはんだけならゆっくちできるね!」 「でも次の旗も同時に置くからね余りゆっくりしてるとたどり着けなくなるから気をつけてね。」 「わかっちゃよ!」 「じゃあ次を始めるよ!」 そういって今度は先ほどよりすこし遠い距離になるよう旗を置く。 今回は最初と違って赤ちゃんゆっくりは二つに別れた。 旗に向かうものとゆっくりしてるものだ。 先ほどは旗についてからもだいぶ時間があったからゆっくりしてるのだろう。 しかし砂時計はそんな赤ちゃんゆっくりを待たずに砂を落とす。 やがて全部の赤ちゃんゆっくりが旗を目指すが、砂が全部落ちたとき辿りつけていたのは半分だった。 たどりつけてなのはまりさ種の方が多い。這うだけでも身体能力の高さが出るようだ。 それに加えて最初にゆっくりしてたのはれいむ種が多かったのもあるだろう。 「今回は半分になったね。じゃあご飯の時間だよ。」 そういってたどり着いた方には前と同じようにお菓子を、たどり着けなかったほうには野菜屑や近くで取った虫を与える。 「「「むーしゃ!むーしゃ!しあわせ~!」」」 おいしそうにお菓子を貪る赤ちゃんゆっくり。対照的に、 「むーしゃ・・・むーしゃ・・・」 「ゆゆっ!むししゃんうごかないでね!」 「れいみゅもおかしがいいよ!」 こちらは野菜屑や虫の赤ちゃんゆっくり。 親ゆっくりが取ったのを食べたことがあるので食べないことはないが、食べやすいように口渡しだったので動く虫は食べずらそうだ。野菜屑も食べやすい大きさに切ってないのでうまく食べれない。 お菓子を食べてるゆっくりの方に向かおうとしたが透明な壁によって旨そうに食べる赤ちゃんゆっくりを見て涎をたらすしか出来なかった。 そうして食べている頃に砂時計の砂が落ちる。 「はい、時間切れー。次の旗はあそこだよ。」 「ゆ~!まだたべおわっちぇないよ!」 「もっとゆっくちちゃちぇてね!」 「だめだめ。砂はもう全部落ちたよ十分ゆっくりできたよ。」 「おにーしゃん!れいむちゃちにもおかしちょうだい!」 「旗まで辿りつけたらね。辿り着けなかったらさっきみたいな野菜屑と虫だよ!」 「「「ゆ゙ゔううううううううううう!!!」」」 砂時計は砂の量を少なくしていたので短いと感じるのは当然だったが、赤ちゃんゆっくりには砂の量の違いは分からない。 野菜屑はもう嫌なのか先ほど辿り着けなかったゆっくりは我先にと旗へと向かう。 お菓子だった赤ちゃんゆっくりも野菜屑を食べないように旗に向かうが野菜屑だったゆっくりよりはゆっくりしていた。 「ゆっくち!ゆっくち!」 今回の旗はさっきよりはかなり遠くにおいているからしばらく掛かるだろう。 砂の量は増やしたので全匹辿り着けないことはないはず。砂が落ちる頃に見にこよう。 赤ちゃんゆっくりの必死な声を聞きながら俺は部屋を後にした。 「じゃあご飯の時間だよ!」 「むしゃむしゃむしゃ・・・」 旗に向かうってご飯と言うことを3日間繰り返した赤ちゃんゆっくりはもはや喋ることもせずに黙々とご飯を食べる。 一口でも口に含もうと必死なのだ。それは野菜屑と虫の方も変わらない。 この三日間で野菜屑にならなかった赤ちゃんゆっくりはいなくなった。 まだ野菜屑と虫を食べにくそうにしている赤ちゃんゆっくりもいるが、慣れて普通に食べる赤ちゃんゆっくりも出始める。 「はい時間切れ~。次はあそこだよ。」 「ゆ・・・ゆっくちがんばりゅよ・・・」 次の場所を教えると赤ちゃんゆっくりはゆっくりせずに旗に向かう。 お菓子のほうはだいぶ食べられているが野菜屑はまだ残っている。 タイムアップと同時にご飯の時間が始まり、食べる場所は旗の近くなので遅れたゆっくりは食べ始める時間もそれだけ短いのだ。 この3日間で距離と時間はだいぶ延びた。 今では俺と同じ時間に食事をするように砂時計と距離を合わせている。 赤ちゃんゆっくりは朝昼夜と制限時間内に旗に辿り着けるように一度もゆっくりせずに旗を目指し。 夜と朝の長い時間の間にだけ眠ることが出来た。 それもゆっくりしすぎると旗までたどりつけないのでゆっくり眠れない。 野菜屑をあげるのは朝の時間が多く、昼夜は余り野菜屑が必要なくなっていたが、野菜屑なんてそんなに多くでないので好都合だった。 お菓子を食べてる間は幸せそうに思えるだろうが、忙しなく食べていてはおいしさも分からないだろう。 現に今は小麦粉をこねてお菓子に見せたものなのだ。 遅れてご飯を食べれずに衰弱していく赤ちゃんゆっくりも出始めるが、寝ている間に果実の汁をかけてやれば元気になる。 死んでゆっくりさせないようにゆっくりの体調管理には気をつけねば。 赤ちゃんゆっくりを鍛えるようになって1週間、うれしい誤算があった。 赤ちゃんゆっくりが心配になった親ゆっくりが現れて、旗に向かって懸命に這う赤ちゃんゆっくりをみてマツタケを置いていったのだ。 どうやら、ちゃんと育ててくれていると勘違いしたようだ。 もっとも勘違いするように音は届かないようにしているし、近づくと気が散るからと言って遠くから見せたから当然だが。 赤ちゃんゆっくりも必死なので周りに目がいかず、親ゆっくりが来ても気づかなかった。 「どうだい。がんばってるだろう?」 「ゆっ!あかちゃんたちがんばってるよ!」 「そうだろう。みんな君たちに会うためにがんばってるんだ。」 「あかちゃんたちにももってきたものたべさせたいよ!」 「あとで俺がちゃんと食べさせるよ。」 「ゆ~、まりさがちょくせつわたしたいよ!」 「それはだめだね。今は君達に会うためにがんばってるから今あっちゃうと今までの苦労が無駄になっちゃうんだ。」 「ゆゆゆ・・・」 「まだ野生に耐えれないから我慢してね。」 「ゆっくりりかいしたよ!」 「よし、じゃあこの野菜屑をやろう。こんなものしかないがよければもっていってくれ。」 「おにーさんありがとう!」 それからも親ゆっくりは俺にいろいろなものを持ってきた。 どれも山で取れる珍しいもので、赤ちゃんゆっくりのためにがんばって取ってきたのだろう。 ありがたく全部いただくとする。 赤ちゃんゆっくりは一度もゆっくりさせずに這い回っている。 今は平地だけじゃなく、砂利道や坂など様々な障害を加えている。 今は綱渡りだ。 旗は立方体の箱の上にある。跳ねれればいいのだが跳ねれないゆっくりは崖で止まってしまう。 そこで坂がついた箱を用意し、そこから旗の箱まで綱を引いてやるのだ。 旗に辿り着くには綱を渡らなければならず、綱から落ちたら最初からだ。 これだと辿り着けない赤ちゃんゆっくりは一度も食事を出来ずに衰弱してしまい、果実汁に頼りっぱなしになるが、 親ゆっくりが持ってきているものの中に果物が含まれているので余り負担は増えなかった。 それに赤ちゃんはまったく育ってない。 実は親ゆっくりに遠くから見せていたのは育っていない赤ちゃんを気づかせないためでもあった。 こいつらはゆっくり出来ないと成長も出来ないらしい。 おかげで餌代も増えず、場所もずっと同じでいいので楽だ。ご都合設定バンザイ。 「もっとゆっくちちたいよおおおお!」 「ゆぅ、れいみゅがんばっちぇね!」 「ゆっくちがんばりゅよ!まりしゃもがんびゃろうね!」 相変わらず食事中は声もなく急いで食べるが、ほとんど旗に辿り着けるようになって赤ちゃん達はお互いに助け合うようになった。 協力しないと辿り着けないようなギミックを増やしたせいもあるだろう。 これはどんどん無口になっていく赤ちゃんゆっくり対策だ。 綱を渡るゆっくりをもう渡りきったゆっくりが応援する様子を見ながら、 まだまだ退屈させない赤ちゃんゆっくりのために次はどんなギミックにしようか考えるのはもう日課になっていた。 「おにーさんまりさたちはしばらくこれないよ!」 「ん、そうかもう冬篭りか。」 「そうだよ!あしたにはあなをふさぐんだよ!だからはるまであえないけどあかちゃんをよろしくね!」 「それなら餌が必要だろう。よければもってけ。」 「ゆゆっ!おにーさんありがとう!」 そうかもう冬篭りか、ゆっくりが言うのだからそろそろ雪が降るだろう。 ゆっくりは天候に敏感だ。身の危険と直結してるから当然だろう。 そろそろ虐待の手段に欠いてきたのでここらで赤ちゃんゆっくりをかえしてやるか。 最後の旗とりをさせた次の日、俺は赤ちゃんゆっくりを外に出してやる。 「ゆー!おしょとだー!」 「しゃ、しゃぶいよおおおお!」 「ゆっくちできないいいいいい!」 「あぁ悪い悪い、これを着ればゆっくりできるよ。」 そういってゆっくりを綿で包んで外れないように止めてやる。 「どうだ?まだ寒いか?」 「ゆゆ~!あっちゃかぃ~」 「これなりゃゆっくちできるよ!」 「よし、じゃあゆっくり親の元へお帰り。これまでがんばってきたから野生でもゆっくりできるよ。」 「おにーしゃんありがちょー!」 「巣の場所は教えたとおりだからね。がんばって帰るんだよ。春にはまたおいで。」 「おにーしゃんまちゃね~!」 そういって綿に包まれた赤ちゃんゆっくりは森に入っていった。 今日巣を閉じると言っていたから間に合うだろう。 今までの訓練から野生でゆっくりと生きる赤ちゃんゆっくりを想像しながら俺は雪の降る道を帰っていった。 「おかしいな。あいつらがゆっくりしてる姿が想像できないぜ。」 続く このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/1052.html
土手で子供とゆっくり達が遊んでいる それを眺めながら葉加瀬博士はおもむろに語りだした 「ここだけの話、わしゃ小さいころはゆっくりが苦手でなぁ」 「ホー、それは驚きデース」 助手のジョシュ君が相槌を打つ 「近所の原っぱにゆっくり妖夢が住んでおったんじゃが、あいつちんぽーとかって鳴くじゃろ」 「鳴きますネ」 「なんて下品な奴と子供心に思っておった。親と一緒のときは理由も無く恥ずかしくなったものじゃ」 「ドラマの濡れ場シーンみたいなものデスね」 「うむ。だが学校からの帰り道にヤング葉加瀬いやチャイルド葉加瀬はふと思いついたのじゃ」 「あれは男のシンボルではなくて、珍宝、つまり珍しい宝の場所を示したがっているのではないか」 「とな」 「昔からエキセントリックな発想をする方だったのデスね」 「えちせんとりっくとはなんじゃい。その日の国語で珍という字を習っただけじゃい ま、わしも絶対の確信で思ったわけじゃないがひょっとしたらひょっとするかも知れんし、 試しに花さか爺さんとか読んでやったりしたんじゃ」 「ハナサカ・・・Oh、ここほれわんわんデスね」 「すると、これが通じた」 「WHAT?通じた?」 「いえす。通じたんじゃな。明くる日ゆっくり妖夢はわしを空き地まで引っ張って言ったんじゃ」 「ここほれちんぽー、ここほれちんぽー」 「ここ掘れ珍宝デスか」 「うむ。わしは喜んで掘ろうとした。が、またしてもわしは思いついてしまったのじゃ」 「ちんぽーでここ掘れと言われると、何だか地面ではなく別の穴を掘れといってるように聞こえる」 「とな」 「YouAreSHOCK!体育の授業でおゲイを習ったのデスか?」 「そんな事習うかい。空き地に薔薇族の雑誌が捨ててあったんじゃよ ゆっくりはしきりにここほれというし、マッチョにこられても怖いしで、わしはでん部をガードして逃げ帰ったのじゃ」 ジョシュは呆れた顔をした 「良く分かりませんが、それがトラウマでゆっくりが嫌いになったのデスね」 「いや、それでわしゃゆっくりに目覚めてしもうたんじゃ。嫌いだったのはその前じゃよ」 「ハカセが昔からヘンタイだったということは分かりマシタ」 「変態じゃないもん!博士だもん!」 「HAHAHA!」 ゆっくりと子供達は、いつの間にかいなくなっていた 「ま、そうして逃げたわしじゃったが、暫くして空き地に戻った。 一応ここ掘れとゆっくりは言っていた訳だから、念のため掘ってみるかと思ってな その頃にはゆっくりはいなかったが」 「何かでてきましたか?」 「それが掘っても何もでてこなんだ」 「ま、そうデショーね」 「所詮ちんぽーはちんぽーか。そう思って引き揚げようとするとだ 掘り返した土の中に光るものがあった。拾って見ると、それは小さなバッジなんだ」 葉加瀬は指で丸を描いた 「わしはそれに見覚えがあった。だいぶ前にゆっくり妖夢が近所の子供から貰って喜んでいたのを見たのじゃ」 「これはきれーだちんぽ!ようむのたからものだよ!」 「わしは知っていたんじゃ。天涯孤独のあいつはそれ位しかもっていなかった事を その唯一の宝物を、わしなんかの為に差し出したんじゃよ 言ったとおり小さい時分はゆっくりが苦手じゃったから随分邪険にもしただろうにの それにも関わらずあいつはな・・・」 「・・・」 「わしが花さか爺さんなんか読んだものだから、 宝が出てくればわしがゆっくりすると思ったんじゃろ その日の夜、どんな気持ちであのバッジを手放そうと決めたのじゃろうか そしてどんな思いで埋めたのかのう どんな思いでここほれと言ってたのかのう 逃げられたとき、どんな気持ちがしたかのう わしゃそれを思うとたまらなくなっての。バッジを握り締めてそいつを探し回ったんじゃ」 「・・・見つけた」 「ゆゆっ?ゆっくりしていってねちーんぽ!」 「一晩中かかって見つけたそいつは笑ったが目の周りを赤くしててな まぁわしも似たようなもんじゃったろうが ポケットに入ってたベビースターを2人で食べて家に帰ったのじゃ 夜遅かったから、親にはこっぴどくしかられたのう」 「HAHAHA」 「そうして、わしの初めてのゆっくり家族ができたんじゃよ」 「明日、あいつの命日なんじゃ」 「・・・お墓にまいりまショー」 「すまないの」 騒がしい声が聞こえる 子供達はまた遊び始めたようだ 「あいつがきっかけでこの仕事に就いたが、あいつの誇れる大人になれたのじゃろうか・・・」 「ケッキョク」 「ん?」 「ここ掘れと言われて掘った場所には宝物があったのデスね」 「・・・そうなるじゃろうか」 空を見上げると、飛行機雲がかかっていた 葉加瀬の胸に着けたバッジが太陽を反射して光る 墓参りは晴れそうだった ほんとうの宝は残るもの?残らないもの? 難しいですな -- 名無しさん (2009-04-12 00 08 06) い゙い゙ばな゙じだな゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ -- 名無しさん (2009-07-16 17 31 50) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4265.html
※お兄さんが一番餡子脳 『ゆっくりしていってね!』 「ゆっきゅちちていっちぇね!」 狭いケースの中に響き渡るスピーカーから流れ出した音声 それに律儀に返事をするのはケースに閉じ込められた赤いリボンの1匹の赤ゆっくり 彼女の名前はゆっくりれいむ。正確には彼女の種族はゆっくりれいむか ゆっくりと呼ばれる下膨れ生首型餡子生命体の中では極めてオーソドックスな存在である 『ゆっくりしていってね!』 「ゆっきゅちちていっちぇね!」 『ゆっくりしていってね!』 「ゆっきゅちちていっちぇね!」 スピーカーからその音声が聞こえてくるのは常に3回 れいむは本能の命ずるままに毎回ちゃんと笑顔で返事をする 直後、床の一角が開き、そこから少量のゆっくりフードと水がせり出してきた 「むーちゃむーちゃ・・・ふしあわちぇー」 しかし、ゆっくりフードは無味乾燥な上に水も少々苦い 何とか生命を維持できる最低限度のものでしかないこんな食事で満足できるはずも無かった 「ゆぅ・・・ゆっきゅちちたいよぉ・・・」 ご飯を食べ終えたれいむは俯き、涙をこぼした その後もいつもと同じ全然ゆっくりできない一日を過ごした お店が開いたら上っ面だけの笑顔を浮かべて、やってきたお客さんに精一杯愛想を振りまく 全然美味しくない昼食と夕食を食べて、閉店後は1匹の子ゆっくりが人間さんとゆっくりしている映画を視聴する 「ゆぅ・・・れいみゅもゆっきゅちちちゃいよぉ・・・」 子れいむが飼い主の男性と外でボール遊びしている姿を見ていると、思わずそう呟いてしまった ブラウン管の中で笑顔を浮かべる子れいむは心の底からゆっくりしているように見えた ある日、れいむは必死に愛想を振りまいた甲斐あって、ある男性に飼われる事になった 彼はれいむを見て優しそうに微笑んでくれた 「やっちゃあ!こりぇでゆっきゅちできりゅよ!」 れいむは幸福に満ちた暮らしに思いをはせて、喜びのあまりに思わず飛び跳ねて天井に頭をぶつけた 「やめちぇ!やめちぇね!いちゃいよおおおお!?」 ある日、れいむは飼い主から厳しい折檻を受けていた 理由は飼い主のお茶碗に体当たりをして、その拍子にお茶碗が割れてしまったから 当然、ゆっくりと割れ物をテーブルの上に置いた飼い主にも非はある しかし、ゆっくりを教育する上でそのような理由で譲歩する必要は無い 「れいむ、お前はどうして怒られているんだ?」 そう言って飼い主の男性はれいむの底部、もとい“あんよ”をプラスチック定規で打ち据える れいむはその痛みから逃れようとするが、輪ゴムで別の定規にうつ伏せに固定されているのでそれも叶わない 「わかりゃにゃいよおおおお!れいみゅ、にゃにもちてにゃいよ!」 「いいやしたよ。お前は俺のお茶碗を割った」 そう言って飼い主は泣きじゃくるれいむに一部の欠けてしまったお茶碗を見せた そして、「お店でもそう教えられたはずだろ?」と眉間にしわを寄せて再びあんよを叩く 「ちらにゃい!れーみゅ、ちらにゃいいいい!?」 が、れいむは自分の非を一切認めようとはしない 念のため言っておくと、これは別にれいむがゲスだと言うわけではない 割れたのがれいむの目の前ではなく、テーブルの下だったことがまず理由として考えられる つまり、れいむが落とした、落としたから割れた。ゆえにれいむが割ったという論法がれいむの中で成立しないのだ 「やめちぇね!ごめんなちゃいしゅるかりゃ、もうゆっきゅちさせちぇね!?」 だきゃらやめちぇね!というれいむの要求が飼い主を更に怒らせてしまった 動物のしつけは大抵「~すると叩かれる」という単純なパターンを理解させること 今後、れいむは恐らくお茶碗に近づかないようにするだろうからしつけとしては十分である 「ゆっくりしたいから謝るんじゃ駄目だろ。悪い事をしたからお仕置きされているんだよ?」 しかし不運にもゆっくりは人語を喋り、人語を解してしまう そのせいか、こういった訴えが反省していない証拠と捉えられいっそう厳しいお仕置きを受ける事が多々ある 人間の価値観を押し付けてしまうために、ゆっくりの思考能力や判断の基準を無視してしまうのだ 「ちゃんとペットショップでもそう教えられているはずだよ?」 「ちらにゃいよ!れーみゅ、おはなしゃんわっちぇにゃいよ!?」 「訳の分からない事を言わない!」 飼い主はいっそう力強くれいむのあんよを叩いた が、れいむの言っている事はれいむにとってはそれなりに意味のあることである “おはなさん”とはペットショップで見た子れいむが割ってしまったお茶碗の柄の事なのだ ゆっくりはお茶碗に何の価値も見出せないが、お花はとってゆっくり出来るもの だから、店で子れいむが叱られている映像を見たとき、「おはなさんをこわしたのがわるい」と認識したのだろう 「ご、ごめんなぢゃいいいい!れーみゅがわりゅかっちゃよ!だきゃら、ゆっぐ・・・ぼう、やめぢぇえ・・・」 「仕方ないな。もう許してやるから、今度はお茶碗を割るんじゃないぞ?」 「ゆっぐ・・・ゆひぃ・・・ゆっぐぢぃ・・・」 その後もれいむはガラスのコップなど、手を変え、品を変えて、色んな物を割ってはその度に折檻を受けた 酷いときには、あんよが真っ赤にはれてしばらく跳ねる事が出来ないことえあった 「もうやじゃぁ・・・れーみゅ、てーぶりゅしゃんきりゃいだよ!」 れいむにとっては理不尽極まりない折檻は、れいむがテーブル嫌いになるその日まで頻繁に繰り返された もっとも、テーブル嫌いになったその日もそれが原因で折檻を受ける事になったのだが・・・ 「やめちぇね!いちゃい!いちゃいよ!?」 ある日、またしても折檻を受けた 理由は彼に「お友達が欲しい」とわがままを言ったから 男性はいつものように定規でれいむのあんよを叩きながら呟く 「わがままは駄目って教えられなかったのか?」 もちろん、れいむだってそんな事は知っていたし、だからお菓子をよこせなどと言った事はない なら、どうしてれいむが友達が欲しいなどと口にしたのか 理由はこれまたペットショップでしつけ用に何度も見せられていた映像にあった 「だっぢぇ、おとみょだちはゆっきゅちできりゅっちぇ・・・」 「言い訳しない!」 その理由を言おうとした瞬間、思いっきりあんよを叩かれる しつけ用の映像の子れいむは途中から子まりさと一緒に飼われ、いつも2匹で遊んでいた だから、映像で見た怒られることをしてはいけないのが当然であるのと同様に、お友達は無条件に与えられるはずだと思っていたのだ 「だっぢぇ、れいみゅ・・・ゆひっ・・・!」 「わがまま言うな。俺には2匹目を飼う余裕はない」 なのに、男性はもう一匹のゆっくりを飼う事はおろか、公園などのれいむを連れて行くことさえしなかった 公園に行くにしても彼にはそのような時間的余裕も、ペットに手間をかけるつもりも無かった そういったゆっくりを安価で一時的に預かってくれる施設もあるのだが、彼はそういった施設の存在を知らない 「ゆえーん、どうぢぢぇ・・・れーみゅ、いいきょに、ゆっぐ・・・」 「良い子はそんなわがまま言わないよ」 「ゆあ゛っ!・・・ゆぴぃ!」 あるいは近所のゆっくりを飼っている人に預かってもらうと言う手もあるのだが、彼にはそんなネットワークも無い 元々あまり外交的な人ではないのだろう。だからゆっくりを飼おうと考えた、飼い主の男性はそういう人物なのだ だから、人間はおろかそれ以外の相手に対しても想像力が働かず、れいむの気持ちを汲み取る事ができない 「それに、いつもちゃんと遊んでやってるだろ?」 「ゆっぐ・・・でみょぉ・・・」 「デモもストもクーデターも無いだろ」 そう言いながら、何度も何度もれいむのあんよを定規で殴打する 彼の言う事は間違ってはいない。確かに彼は仕事から帰ってくるとれいむが起きていればかならず遊び相手になっていた しかし、そもそもゆっくりと人間では全く別物であり、人間はゆっくりの代わりにはなれない また、飼い主への気兼ねや、何かの拍子に怒らせたら・・・という不安のせいで、彼が思っているほどにれいむはゆっくり出来ていなかった 「ゆひぃ・・・ご、ごめんなちゃい!れーみゅがわりゅかっちゃよ!ゆっぎゅぢあやまりゅよ!」 「分かったならよろしい」 こうして、れいむは結局友達を紹介してもらう事も、お外に連れて行ってもらうことも叶わなかった そして、ゆっくり出来ない思いばかりを募らせながら、家の中だけの世界でゆっくりと成長していった しかし、お外にでて友達を作りたいと言うこの願望は後に予期せぬ形で実現する事になる 「ゆゆっ!とびらさんがあいてるよ?」 3ヵ月後、れいむはもう成体サイズと言っても差し支えないほどの大きさになっていた 用事で出かけた飼い主がドアを閉め忘れている事に気がつき、つい出来心で外に出て行った 障害物を避けながら進んでゆくと急に視界が開け、人間やゆっくり、その他の動物が行きかう通りに出た 「すごいよ、すごくたくさんだよ!」 「ゆゆっ!なんだかとってもゆっくりしたれいむだよ!」 「ゆぅ?」 初めての外に浮かれるれいむに声をかけたのは1匹の野良まりさ 恐らく、れいむの魅力に惹かれて思わず声をかけてしまったのだろう 飼いゆっくりは健康管理やケアが行き届いているので野良の目には大抵美ゆっくりに映る 「ゆっくりしていってね!まりさはまりさだよ!」 「ゆっくりしていってね!れいむはれいむだよ!」 お約束の挨拶を交わす2匹 まりさにとっては本当に何気ない挨拶だが、れいむにとっては産まれて始めての他のゆっくりとの挨拶 そのあまりのゆっくり出来る感覚に思わず涙がこぼれる 「ゆっぐ・・・ゆぅ・・・」 「ゆゆっ!?どうしたの、れいむ?ゆっくりしてね?」 「ぢがうよ!でいむ、ゆっぐぢぢでるよ!・・・ゆっぐ」 そうは言うものの、れいむの意思とは無関係に涙は溢れ出してくる もちろん、嬉しさの余りに感極まっての落涙だ それに気付かないまりさはれいむの目の前でおろおろと右往左往しながら、れいむが泣き止むまで 「れいむ、ゆっくりしてね?」 「ゆっくりしてよー」 「ゆっくりだよ!」 と、頬ずりをしたり、顔を舐めたりしながら彼女を慰め続けた 「まりさ、ゆっくりありがとう!」 「れいむ、ゆっくりしてる?」 「とってもゆっくりしてるよ!」 やがて、何とか涙の収まったれいむはまりさに満面の笑みを浮かべて感謝を口の言葉にする 飼いゆっくり故の美貌をもってこんな事を言われたまりさはもうれいむに首っ丈 「れれれ、れいむ!まっ、まりさとずっといっしょにゆっくりしてね!」 はやる気持ちを抑えることができず、まりさはれいむに求婚した 初めて会ったゆっくりにいきなり求婚を受けたれいむはしばらく呆けていたが、やがて嬉しそうに飛び跳ねて 「れいむもまりさとずっとゆっくりしたいよ!」 「やったぁ!これでゆっくりできるよ!ずっといっしょにゆっくりしようね!」 と、あまり彼女の言葉の意味も理解せずにプロポーズに応えた そして、まりさはれいむと一緒に男性の家に入り、そこで初めてのすっきりーを行った もちろん、れいむも初すっきりーで、2匹とも至らぬところはあったが・・・ 「「すっきりー!」」 「ゆゆっ!まりさ、あかちゃんだよ!」 「ほんとうだね!とってもゆっくりしたあかちゃんだね!」 無事、すっきりーする事ができ、れいむはまりさの子どもを額に生えた茎に宿した 「なんだ、こいつは?」 「おかえり、おにーさん!まりさはれいむのだーりんだよ!」 「ゆっくりしていってね!まりさはまりさだよ!」 その後、帰ってきた飼い主の男性に挨拶を済ませ、まりさは正式にれいむのだーりんとなった 飼い主の男性は思いのほかあっさりとまりさの同棲を認めてくれ、にんっしんっの事も素直に祝福してくれた 「ふっひっひ・・・俺達は怖い怖い泥棒さんだ!」 「お金を盗みにやってきたぞ!おや、こんなところに可愛いゆっくりが!?」 「「ゆゆっ!?」」 翌日、2匹が明るい未来に思いを馳せながらお喋りに興じていると、突然妙な男達がやってきた しかし、この家で一番強い飼い主の男性は現在外出中で、家にはまりさと身重のれいむしかいない 「だめだよ!おかねさんとったらおにーさんがゆっくりできないよ!」 「ここはまりさたちのおうちだよ!ゆっくりでていってね!ぷくぅぅぅううう!」 2匹はそれでも一生懸命泥棒2人組を説得、あるいは恫喝して追い払おうと試みる が、人間相手にそんなもの何の効果もあるはずがない 「おやおや、おうち宣言とはゲスまりさがいるぞ?」 「それにこのれいむ頭に子どもを生やしてるぞ?」 「「なんかむかつくなー」」 えらい棒読みで喋る2人は手際良くまりさを捕まえると、いつの間にか取り出した透明の箱に放り込んだ まりさの身動きを封じると、れいむを両頬を押さえつけるように捕まえて、一人の膝の上に乗せる それと並行してもう一人はえらく巨大な半田ごての準備を始めていた 「おやー、相棒。それは何かなー?」 「これは去勢用の器具だ。これを使われたゆっくりは二度とにんっしんっ出来なくなるんだ」 「それをこのれいむに使うつもりなんだな。おお、怖い怖い」 酷い説明口調でその太めの半田ごての使用方法を説明するとれいむとまりさの顔が真っ青になった ゆっくりにとって赤ちゃんを作る事は至上の喜びだと言われており、レイパーの子でも育てる事からこれは周知の事実である もっともにんっしんっしたゆっくりの中である種の餡内麻薬が分泌され、それによる錯覚だとも言われているが とは言え、どのような理由があったとしても当人達にとっては子は宝であり、それ以外の何者でもないのだ 「ゆゆっ、やめてね!あかちゃんをゆっくりさせてあげてね!?」 「んー・・・どうしようかなー?そうだ、まりさに聞いてみよう!」 れいむの懇願を聞いた泥棒の一人は突然まりさの方に振り返り、彼女に話しかけた 「れいむはああ言ってるけどさ。まりさちゃんはどうよ?」 「ゆゆっ!そんなの・・・「まだ喋るな!」 れいむにも聞こえるような大声でこれ見よがしにまりさに話しかける泥棒 しかし、突然小声で喋り始めた 「もし、れいむと赤ちゃんを助けて欲しいなら俺の言うとおりにしろ」 「・・・・・・ゆぅ」 「俺が次にお前に話しかけたときにれいむに向かって『まりさは人間さんに飼われたかっただけだよ!れいむと赤ちゃんは勝手に死んでね』って言うんだ」 「ゆっ!いや「断ったら全員死ぬだけだぞ?」 「ゆ、ゆっくりりかいしたよ・・・」 まりさの返事を聞いた男はれいむにも聞こえるように再び大声で話し始める 「さあ、まりさちゃん!君はれいむと赤ちゃんを見殺しにしてでも生き延びたいよね!」 「ゆゆっ!なにいってるの!まりさはれいむのだーりんなんだよ!?」 そう言って男の言葉に抗議するれいむだが、彼の背中が邪魔でまりさの顔を伺うことが出来ない それゆえに、わずかばかりの不安を覚えながら、まりさに話しかけようとするが・・・ 「まりさはにんげんさんにかわれたかっただけだよ!れいむとあかちゃんはかってにしんでね!」 「ゆがーん!?どほぢでぞんなごどいうのおおおお!?」 れいむの期待を完全に裏切る非常で無常な言葉がまりさの口から放たれた その直後、れいむを取り押さえていた方の男が彼女の額の茎を乱暴に引き抜いて、もう一人の男に投げ渡す それを受け取った男はまりさの額に乱暴に穴を開けると、そこに茎をねじ込んだ 「ゆぎぃ!?」 「そんなこと言うゲスにはこれくらいの制裁は必要だよねー。俺は別の部屋でも物色するかー」 「ああ、そうだなー。さあて、俺は今から去勢するぞー」 もう一人の男が部屋を後にするのを見届けた男はそう言いながらいつの間にやら熱しておいた半田ごてをれいむの額にねじ込んだ 瞬間、れいむは目を大きく見開く 全身から脂汗のようなものをだあだらと流しながら、必死になって男の腕から抜け出そうともがく 「い゛ぎぃ!?ゆびぃ・・・!ゆ゛ゆ゛っ!!」 「はっはっは・・・無駄無駄無駄」 しかし、男の手から逃れられるはずもなく、瞬く間に室内に皮や餡子の焼けた匂いが充満する 数十秒後、ようやく男が半田ごてを抜いたときにはれいむは力泣く震えながら嗚咽を漏らす事しかできなかった そんなれいむを気遣ってか、男はれいむの額にどこから取り出したゆっくりの皮を貼り付けた上で、オレンジジュースを浴びせた 「ゆっぐ・・・ぼう、やべでぇ・・・ゆっぐぢぃ・・・」 「残念だが、まだひとつ残っている」 そう言うが早いか、今度は下あご付近に半田ごてをねじ込まれるれいむ そこはぺにまむと呼ばれる器官の存在する部位で、ここを焼かれてしまうと胎生での出産ができなくなる 男の意図に気づいたれいむはオレンジジュースのおかげで幾分か回復した体力を振り絞って抵抗する が、最初の時点で敵わなかった相手に敵うはずもなく・・・ 「やべでぇえええええ!?あがぢゃんうべなぐなっぢゃうううう!?」 「そのためにやってるんだよー。ふっひっひ」 こうして、にんっしんっ出来なくなったれいむに先ほどと同じような治療を施すと男はそそくさと部屋を後にした 2人の男がれいむのつがいのまりさを連れて男性の家から出ると、目の前に家の主の姿があった 彼の姿を認めたまりさは安堵の笑みを浮かべ、彼に向かって叫ぶ 「ゆゆっ、おにーさん!このひとたち、わるいにんげんさんだよ!」 「ふーん、そうか」 「ふぅ、去勢作業と居ついた野良の駆除、終わりましたよ」 「ありがとうございます」 が、男性は泥棒2人に感謝の言葉を口にすると、懐からお金を取り出して彼らに手渡した まりさはわけがわからないといった様子で首を傾げるが、直後の彼らのやり取りで全てを理解することになった 「いやぁ、れいむがいれば十分だったんで助かりましたよ」 「勝手に子どもやつがいを作られると飼い主としては面倒ですからねぇ」 「ところで、そのまりさはどうされるんですか?」 「こいつですか?こいつは飼いゆっくりに手を出した害ゆとしてしかるべき場所で社会貢献してもらいます」 男たちが出て行ってから数分後、悲嘆にくれるれいむだけの家に飼い主の男性の声が響いた 「ただいまー・・・れいむ、どうしたんだ?!」 「ゆっぐ・・・お、おに゛ぃざあん・・・でいむ、あがぢゃんうべなぐなっぢゃだよぉ・・・」 「どういうことだ?それに、まりさもいないな?」 「まりざぁ・・・ゆわああああああああああああああああああん!?おにいいざあああああん!?」 れいむは男性に飛びついて気が済むまで泣き、それから全ての事情を説明した せっかく、赤ちゃんが出来たのに、お兄さんにも赤ちゃんを見せてあげたかったのに・・・ そう言ってめそめそと泣くれいむの頭を男性は優しく撫で・・・ 「気にするな。どんなになってもれいむはれいむだし、何よりれいむが無事で良かった」 そう言いながら優しく微笑んだ この日以来、れいむはまりさと違ってどんなになっても自分を受け入れてくれる飼い主に全幅の信頼を置くようになった 悪いゆっくりのいる外に出ることも、外に行きたいとわがままを言うこともなく、毎日家の中で男性の帰りを待つ そして、帰ってきた男性に思う存分甘える 彼に嫌われないためにも悪いことは絶対にしない こうして、れいむはペットショップで見せられた映像の中のれいむにも勝るとも劣らない幸せを手に入れた ---あとがき--- たとえ飼い主が虐待愛好家じゃなくても無知で身勝手だったり、 ゆっくりに対して変な勘違いや幻想を持っていたり、 過剰に厳しかったりするとゆっくり出来ないんだろうなぁ・・・ このれいむの今わの際の言葉はきっと「もっとゆっくりしたかったよ」だろう byゆっくりボールマン このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/269.html
「「ゆっくりしていってね!」」 「……」 男は、無言でゆっくり二匹を抱えて道を急ぐ。 いきなり捕まえられたゆっくりは、口々に「ゆっくりやめてね!」「ゆっくりはなしてね!」などと言うが、男はゆっくりの言う事など聞かない。 それ以前に、これらのゆっくりがどのゆっくりかにすら興味がない男にとっては、ゆっくりが何を言おうと気にもならないのである。 ――ゆっくりれいむとかまりさとかみょんとかちぇんとか、帽子とかリボンとか、そんな個体識別はいらない。ゆっくりはゆっくりで良い。 この男の持論である。 男は、全く融通が利かない上に頑固という、友人の少ないタイプの人間だった。 余談はさておき、男は急ぐ事もゆっくりする事もなく、普通の足取りで自分の家に入った。 『詰め替えゆっくり』 「ユックリシテイッテネ! ユユ! コノユックリタチハユックリデキルコ!?」 (ゆっくりしていってね! ゆゆ! このゆっくりたちはゆっくりできるこ?) 男が玄関口で靴を脱いでいると、ブレて見えるほどのスピードのゆっくりが現れた。 「なにこのこwww ぜんぜんゆっくりしてないよw」 「ゆくりちていてねだってーw なにじんよ(pgr」 二匹にとって、異常なまでのスピードのゆっくりは嘲笑の対象らしく、好き勝手な事を言う。 「ユユ! マリサヲバカニスルコハユックリシネ! シネ! シネ!」 (ゆゆ! まりさをばかにするこはゆっくりしね! しね!) 「ちねだってさ」 「おお、したたらずしたたらず」 あまりに高速で飛び跳ねているために空中に浮いている様に見えるゆっくりを見ても、全く動じないどころかうざい対応をとるゆっくり二匹。 「ヘンナコトヲイウバカナユックリタチハユックリシネ!!」 (へんなことをいうばかなゆっくりたちはゆっくりしね!!) 「ゆぎゅ!? きもいよ! ぎもいよぉぉぉ!!!」 「きもいこはどっかいけ! ごっぢぐるなぁぁぁ!!!」 弾丸の様な速度で二匹のゆっくりに突っ込んでいくゆっくり。 このままぶつかれば、普通のゆっくり達は顔面からアンコを放出させて死ぬ事になるだろう。 普通のゆっくり達は、うざい顔を泣き顔に変えた。 「……」 その時、靴を脱ぎ終わった男が突然素早いゆっくりを踏んだ。 足には絶妙な力加減がかかっているらしく、素早いゆっくりは潰れてはいないものの動けずにもがいている。 「ユギュウッ!? オジザンナニズルノォォォ!?」 (ゆぎゅうっ!? おじざんなにずるのぉぉぉ!?) 「まりさたちをいじめようとしたけっかがこれだよwww」 「きもいこはそこでおとなしくしててね~www」 「「ばーかばーか♪」」 泣いたゆっくりがもう笑ったとでも言えば良いのだろうか。 普通のゆっくり達は反撃できない相手に対して暴言を吐き、素早いゆっくりはその言葉を聞いて男の足から逃れようと必死にうごめく。 目は血走り、口の端からアンコまみれの泡を吹いて凄まじい抵抗をする素早いゆっくり。完全に頭に血が上っている。 「オジザンユッグリバナジデネ! ゴイヅラユッグリデギナグジデヤルガラユッグリバナジデネ!!! ユギュッ!?」 (おじざんゆっぐりばなじでね! ごいづらゆっぐりでぎなぐじでやるがらゆっぐりばなじでね!!! ゆぎゅっ!?) 「うるさい」 もう止められないと判断したらしく、男はため息をついてそのまま素早いゆっくりを踏み潰した。 「ゆ……ゆっぐりじだがっだよ……」 素早かったゆっくりは、最期だけははっきり分かる言葉を呟いた。 「ばーかばーか、きもいこはゆっ!?」 「ゆっくりしたけっかがこれだよぉ!?」 死んだゆっくりへ罵声を浴びせている途中、男がゆっくり二匹を持ち上げた。 中途半端なところで強制的に口をふさがれた形になった二匹は、男に文句を言おうとするが何も出来ず、そのまま奥へ持って行かれる。 奥の部屋では、一般的にはゆっくりれいむ・まりさと呼ばれる種類のゆっくり数匹が動き回っていた。 「「ゆぎゅぅっ!?」」 二匹のゆっくりはいきなり手を離されたため、無防備なまま床に叩きつけられる。 すぐさま起き上がろうとするも、顔面から硬い床に落とされたのだ。二匹は、痛みを訴える様に泣き出した。 「「いだいよぉぉぉ!!!」」 「……」 泣き叫ぶ二匹を無表情で見ながら、男は飾りに何かの印を付け、部屋を後にした。 パタンとドアを閉めた音と同時に、突然二匹は起き上がり、ドアに向かってツバを吐きかける。 「れいむたちがないてるのにぜんぜんこっちみてなかったよ! ばかなじじいだね!」 「ほんとだね! まりさはこんなにかわいいのに、みるめがないじじいだね! しんじゃえばいいよ!」 そう言ってゲラゲラと笑う二匹。ウソ泣きだった様で、その顔は男への嘲笑に満ち溢れている。 ひとしきり男への文句を言い合ってから、改めて二匹は辺りを見渡した。 「たくさんゆっくりがいるね!」 「いち、に……かぞえきれないよ!」 実際は10に満たない数しかいないが、ゆっくりの頭では多数いる様に見えるのだろう。 二匹は、ここに閉じ込められている事すら忘れてしまったように、ゆっくりゆっくりと楽しそうに仲間のいる方に飛び跳ねた。 「「ゆっくりしていってね!」」 二匹はちょうど近くに来たゆっくりに声をかける。相手のゆっくりは、時間をかけて振り返った。 「ゆ~っ~く~り~し~て~……」 (ゆっくりしていってね! こんにちは、あなたたちはゆっくりできるゆっくり?) 「ゆぅ!? すごくゆっくりしてるゆっくりだよ!」 「いいなー、うらやましいなー、いっしょにゆっくりしたいよ!」 やたら素早いゆっくりは嘲笑の対象だったが、遅いゆっくりは尊敬の対象らしく、二匹は目をキラキラさせて擦り寄っていく。 だが、スローゆっくりはたっぷりと時間をかけて嘲りを含んだ顔へと変わっていく。 「ゆ~っ~く~り~や~め~……」 (ゆっくりやめて! ちかよらないでね! ふたりともぜんぜんゆっくりできてないからきもいよ!) 普通のゆっくりにとっては素早いゆっくりが気持ち悪く思う様に、遅いゆっくりにとっては普通のゆっくりが嫌悪感を催すものらしい。 スローゆっくりは、触りたくないとでも言う様にじりじりと後ずさっていく。 追うゆっくりと、避けようとするゆっくり。 先ほどの素早いゆっくりとの一件を、かなり速度を遅くして繰り返している様な状況。 スローゆっくりが嫌がっている事を知ってか知らずか、二匹の前に別のゆっくりが飛び込んできた。 「8zhldwezw,! 3uqqa,8zhlw@gjrt?」 (ゆっくりしていってね! あなたたち、ゆっくりできますか?) 「なにこのゆっくり! ゆっくりわかることばしゃべってね!」 「ふつうのことばしゃべってね! にほんごでおけ!」 「uibk8zhl! 0toue,bsf@0toue9!」 (なにこのゆっくり! わからない、ことばわからないよ!) ゆっくりなのにゆっくりの言葉をしゃべらないゆっくり。 これは、単純に通じないだけなので、別に好悪どちらにも当てはまらないらしい。 最終的には、身振りだけであるていどの会話らしきものをしていた。 無言で伸び縮みを繰り返すゆっくりにはかなりの気持ち悪さがあるが、男には気にならないらしい。 言葉を忘れてしまった様に伸びているゆっくり二匹を抱えて、別の部屋へと歩いていった。 その部屋には、甘い匂いが染みこんでいた。 先ほどの部屋と同じ形でゆっくりが数匹いる事も同じだが、その部屋にいるゆっくり達は、全てが丈夫な縄で押さえつけられ、頭頂部がぱっくりと開いていた。 「ゆ……ゆぅ、ごろじで、もう……ごろじで……」 「ゆふあははははははははははは」 「ぐぞじじい! れいむのあんごがえぜ! まりざのもがえぜ! み”ん”な”を”も”どに”も”どぜぇぇぇぇぇ!!!」 頭に黒い穴が開いた様にぽっかりとアンコが取り出されたゆっくりが、早く楽になりたいと呟く。 奇妙な色の何かを詰められているゆっくりは、壊れたテープレコーダーの様に、平坦な笑い声をあげ続けている。 ほとんど取られていないゆっくりは、目で表情で声で、憎悪を男にぶつけている。 そんな、ゆっくりにとっての地獄絵図を、抱えられたゆっくり達は無言で見つめていた。 先ほどの部屋でボディランゲージに慣れたためではなく、恐怖によって言葉が出ないのである。 男は、怯えるゆっくり達を、他のものと同じ様に縄でくくりつけた。 あまりの恐怖に動く事すらできない二匹は、無抵抗のまま縛り上げられる。 「かっこいいおにいさん、れいむをたすけてください。おねがいします」 「すごくゆっくりしたおにいさん、まりさもたすけてください。おねがい……」 ガチガチと歯を鳴らし、涙を流しながら助けを求める二匹。 人間で言えばあごの下にあたる部分から黒い液体を漏らしている。アンコを失禁している様だ。 だが、男は無言で見つめている。当然、許すつもりはない。 なぜなら、それがこの男の仕事だからだ。 じっと見つめている内にあまりのプレッシャーからか白目をむいて気絶した二匹を眺めつつ、男は仕事を始めた日の事を思い出していた。 「そこの貴方、ちょっと良いかしら」 ある日、男は赤と青の交差した服を着た女に声をかけられた。 男は、ちょっと周囲を眺めてから自分だと気付き、端的に用件を聞く。 男のあまりの無愛想さに苦笑しつつも、女は細い指をちょいちょい、と動かした。 「ちょっとお話があるのだけど……少し時間空けられるかしら?」 女は、笑顔で男を誘う。男は、無表情のまま女に付いていった。 美人だけれど服のセンスは最悪の女。 男の女……八意永琳への第一印象は、その程度のものだった。 「実験?」 「そう、実験に協力して欲しいのよ」 人間の里唯一の喫茶店で、風景にそぐわない怪しい会話をする男女。 二人の前に置かれたコーヒーは、手付かずのままでそこにあった。もう湯気は立っていない。 永琳はまずそうにコーヒーを一口飲み、淡々と話を続ける。 男にある実験の手伝いをして欲しいという事。 実験の内容は、ゆっくりの中身を入れ替えるとどんな変化が起こるのかについてという事。 報酬は、家と金と実験を終えたゆっくりは好きな様にして良い事。 「……ゆっくりの提供はするし、貴方自身が捕まえても良いわ。その代わり、定期的な報告と、新種を作る事に成功したら直接見せて欲しいのよ」 お願いできる? と、胸の前で手を合わせる永琳。 男は、ほとんど間を置かずに承諾した。 それからしばらく、男は送られてくるゆっくりの中身を様々な物に詰め替え続けた。 送られてくるゆっくりは様々な種族だったが、男は特に関心を持たなかった。ゆっくりはゆっくりでしかないからだ。 固体・液体・気体……食材だけではなく、ありとあらゆる物を試し続けた。 時には、わざと腐らせたものも入れてみたが、大体は数分生き延びるかどうかといった所だった。 たまに永琳が様子を見に来たが、順調だという所を見せると僅かに輝く視線を向け「この調子でお願いします」とだけ言って去っていった。 春が来て夏が過ぎ秋を越えて冬が終わり、一年が瞬く間に過ぎていった。 この頃には、一日の半分近くはゆっくりの中身を入れ替えて過ごす事が、男の日課となっていた。 ふと顔を上げると、ゆっくり二匹は口の端から黒い泡を吹き「ゆっ……ゆっ……」とうめくだけの存在に成り果てている。 男はそんなゆっくりを放置し、自分の部屋に戻る。 棚には大量の帳面が置いてあり、中には多数の中身を詰め替えたゆっくりの報告がまとめられている。 河童製だという、ゆっくりのアンコの核部分のみを残して全て抜き取る機械は、既に5台目に突入しているが、それもアンコまみれで酷い状況だ。 6代目への取替えはもうすぐだろう。 詰め替える物置き場は、男にしか分からないほどに雑然としている。 部屋の中は人間の内面を表すと言われているが、それが本当なら、男は相当に混沌とした性格をしているのだろう。 ――さて、あいつらの中は何にするかな。 男は、未だに白目をむいているだろうゆっくり二匹を思い浮かべ、これまでずっと表情のなかった顔に、初めて笑みを浮かべた。 饅頭生命体のゆっくりは中身に左右されるのではないかという考えから発展した結果、こうなりました。 最初は中身を入れ替えるだけの単純な話だったんですが……なぜこうなったんだろう。 感想フォームについてですが、捨てアド用意しましたので何かありましたらこちらにお願いします。最初から用意しておけば良かった……。 319_breeder@excite.co.jp by319 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/134.html
「よし、今日はここまでにしようか」 「はーい」 「けーね先生さようならー」 「宿題をちゃんとやるんだぞ」 「えー」 「慧音先生また明日―」 ここは幻想郷の人間の里にある寺子屋、里に住む子供たちが集まり読み書きを学んでいた。 授業も終わり子供たちは家や遊び場など思い思いの場所に散らばる所であった。 5人ほどが集まってなにやら楽しそうにしている、彼らは皆農家の息子で小さい頃からの仲良しグループであった。 ここ1週間ほどは畑の種まきの時期で、皆寺子屋が終わったら真っ直ぐ家に帰り親の仕事の手伝いをしなくてはならず久々の自由な時間に胸を躍らせていた。 彼らが向かおうとしているのは里から少し離れた所に作った秘密基地である。 今は誰も使っていない資材小屋で、彼らは少しずつ遊び道具や家具を持ち込み、遊びの拠点となっていた。 この秘密基地を作るのに協力してくれたのが慧音先生の知り合いだという白髪の女性であった。 彼女は「やっぱ男の子には秘密基地が無くちゃねえ」と言って、どこから持ってきたのか火鉢やござ、ちゃぶ台などを秘密基地に提供し、釣竿や竹馬などの遊び道具も作ってくれた。 竹馬を作ってくれた際は「いい竹が取り放題のところがあるんだ」と嬉しそうに話していて、秘密基地には何かと竹製の物が多かったりする。 またその女性は「私の家も近いからこの辺には悪さをする妖怪や妖精は来ないから安心していいよ」と太鼓判を押してくれている。 少年たちは秘密基地への道すがら今日は何をして遊ぼうか考えていた、そうだ、今日は魚釣りに行ってお姉さんに魚を釣ってプレゼントしてあげよう! 1週間ぶりの秘密基地に少年達の足取りは自然と軽くなっていた。 場所は変わってゆっくり一家の巣 「ゆっくりしていってね!!!」 今日もゆっくりたちのお決まりの台詞が巣に響く。 ここはゆっくりたちがゆっくり暮らしている巣、とはいっても1週間ほど前に無人の小屋を発見し住み着いたばかりの新居である。 ここに住んでいるのは成体のお母さん霊夢、そしてその子供たちである。 子供達のうち5匹はちびゆっくりれいむ、後の4匹はちびゆっくりまりさだ。 ちびれいむの方が若干大きく、ちびまりさはこの巣に着てから生まれた子供たちであった。 ちびまりさの母体であるゆっくり魔理沙はお母さん霊夢との繁殖に耐えられず絶命、お母さん霊夢が子供たちを育てていた。 小川や草原、林などゆっくりの餌となる虫や草花がすぐ手に入る環境。 ゆっくりたちをいじめて馬鹿にする妖精や恐ろしい野犬なども来ない。 更にゆっくりたちの寝床や子供たちにとっての遊び道具もこの巣には大量にあった。 見たことも無い竹で出来たおもちゃ、ちびゆっくりが全員乗っても壊れない見晴らし台。 この巣はゆっくりにとって理想郷だった。 お母さんが運んできた虫や草花のお昼ごはんをたっぷり食べ、ちびゆっくりたちは笑顔を浮かべ巣で思い思いに遊んでいた。 「ゆっくりおいかけっこしようね!」「ゆっくりまりさもあしょぶー」 「すなばでゆっくりしようね!」「ゆっくりー!」 「おかあさぁん、おうたうたって!」「ゆっゆっゆー!」 寝床ではお腹いっぱいになったちびまりさが2匹すやすやと寝息を立てていて、それをほっぺたで撫でながら「ゆ~、ゆ~」と子守唄を歌うお母さん霊夢その表情はこれ以上無いと言うほど幸せそうである。 ゆっくりたちのゆっくりとした至福の時間、毎日が楽しくて仕方が無かった。 ガラガラ 秘密基地の扉を開けた少年達は寸前まで描いていた楽しい時間のことなど忘れ、呆然と立ち尽くしていた。 少年達が見たのはボロボロになった秘密基地。 床には食い散らかした虫や草木のカスが散乱し、少年達が捨てられていた新聞で一生懸命作った障子はビリビリに破かれていた。 お姉さんが作ってくれた竹馬は縄の部分が食いちぎられただの竹の棒に。 お姉さんが作ってくれた釣竿は糸が切れ竿も折れている。 魚篭の中にはちびゆっくりが寝ていて「ゆ~、ゆゆ~」と不快な寝言が聞こえてくる。 火鉢は灰が散乱し今も直ちびゆっくりがゴロゴロ転がって灰を撒き散らしている。 極めつけはちゃぶ台で、ど真ん中に黒ずんだ何かの塊が鎮座していた。 突然の侵入者にゆっくりたちは驚くかと思いきや 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」 と母娘そろってこちらに笑顔でごあいさつ。 混乱し動けずにいる少年達にゆっくりたちは言葉を続ける 「お兄さんたちゆっくりできるひと?」 「れいむたちのおうちでゆっくりしていってね!!!」 その無神経な言葉に少年の一人が切れた。 「うわあああああああああああああああああああああああ」 「おまえらあああああああああああああああああ」 手近なちびれいむを鷲掴みにし床に叩きつける! 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」 投げられたちびれいむは目を回して叫び声を上げる 「ゆっくりやめてよね!!!」 お母さん霊夢が少年をにらみつけるがそんな物におびえる物は居ない。 他の少年達も参加しゆっくりたちを攻撃し始めた。 ちびれいむを壁に投げつける!しかしちびれいむは軽いため致命傷にはならず泣き叫ぶちびれいむ。 「い゛た゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」 ちびまりさが入った魚篭を振り回し中のちびまりさが遠心力で放り出される! 「ゆ゛!ゆ゛!」「おかあさんいたいよ!!!たすけて!!!」 そしてついに一人の少年がちびれいむを踏みつけた! ブチュ 餡子が漏れる音がしてちびれいむが潰れてぺしゃんこになる、少年は「うわ、やっちまった」と足が汚れるのを気にしている。 それを見てしまったお母さん霊夢、顔を真っ赤にして「な゛に゛す゛る゛の゛お゛お゛お゛!!!」と近くに居る子供たちをかばいながら少年に体当たりをする。 「うるせーよ!」 少年が思い切りお母さん霊夢を殴る!殴りつける!力任せにクッションのような弾力のお母さん霊夢を殴り続ける! ボス!ボス!ボス! 「お゛か゛あ゛さ゛あ゛あ゛あ゛ん゛」 「も゛う゛や゛め゛て゛あ゛げ゛て゛よ゛ね゛!!!」 サンドバックを殴るような音が響く中、ちびゆっくちたちは泣き叫ぶ。 ひとしきりゆっくりたちを投げたり殴ったりした少年達は少し落ち着きを取り戻した。 そして小腹が空いたことに気づく少年、そこで足元で潰れたちびれいむの中身の餡子に目が行く。 こいつらって餡子で食べられるんだよな…。 お母さん霊夢は咳き込みながらもよろよろと体制を建て直し「ゆう…ゆう…」と荒い息をついている。 ちびれいむやちびまりさはお母さんほどのダメージは受けておらず「おかあさんだいじょうぶ?」と心配そうにしている。 少年達はお姉さんがついでに作っていた竹串を持ち出し、火鉢に炭を載せ、これまたお姉さんがくれた小さな火を発生させるお札を使い火を起こしていた。 自分達は解放されたと思ったゆっくりたちは、火鉢の周りが暖かい事に気づき 「ほかほかだね!!!」「ゆっくりできるよ!!!」 と上機嫌になっている。 少年(…こいつら脳みそあんのか?餡子だから無いのか?) やがて炭が真っ赤になり少年達はちびゆっくりをカゴに放り込み出した。 むぎゅ、ぽい、むぎゅ 最初はきゃっきゃとしていたちびゆっくりたちもぎゅうぎゅう詰めになる頃には 「ぐるぢいよ!!!」 「だしてよ!!!ゆっくりできないよ!!!」 と騒ぎたてる。 お母さん霊夢は「みんなをゆっくりさせてよね!!!」と暴れだしたので少年の一人が上から体重をかけて押さえ込んで動けないようにしている。 「前さ、縁日で食べた焼き饅頭ってのが美味しかったんだよね」 「あれかー、お祭の時くらいしか饅頭なんて食えなかったからな」 「俺食ったこと無いぞ、そんなにうめえのか?」 少年達が会話しながらカゴから一匹のちびれいむを取り出す。 自分は出して可愛がってもらえるのものと勘違いしたちびれいむは「ゆっくりしようね!!」と笑顔を少年に向けている。 少年はニコニコしながら手のちびれいむを竹串に突き刺した 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 ちびれいむの叫びが響く。 幸い?串が細いため致命傷には至らず最初のショックの後はちびれいむは意識もはっきりしている。 「い゛た゛い゛よ゛!!お゛か゛あ゛さ゛ん゛!!!」 叫ぶちびれいむを無視して炭火にかざされる竹串、今まで感じたことも無い高熱がちびれいむを焦がす! 「あ゛つ゛い゛!!あ゛つ゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!」 ちびれいむのぷにぷにのほっぺたが水分を失いひび割れ、少しずつ香ばしい臭いがあたりに漂い始める。 お母さん霊夢は「な゛に゛す゛る゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」と絶叫、他の子供たちもカゴの隙間から惨状を目の当たりにし、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。 「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」 耳をつんざく様な絶叫を残しちびれいむは絶命、こんがり焦げ目の付いた焼き饅頭のできあがりである。 「お、こりゃうめえわ」 「だろ?」 味を確認すると二匹目の調理に取り掛かる、次に掴まれたのはちびまりさである。 「ゆっくりはなちてよ!!!」ひっしに身体をよじらせるちびまりさ、いつもならお母さんが助けてくれる、敵をやっつけてお母さんが優しく撫でてくれる。 そんな思いもむなしく串刺しにされ火にあぶられるちびまりさ。 「お゛か゛あ゛さ゛ん゛!!!た゛す゛け゛て゛え゛え゛え゛!!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「お゛か゛…さ゛…」 焼き饅頭二串目のできあがりである。 次々と串刺しにされ焼かれていく子供たち、お母さん霊夢はもはや狂ったように「や゛め゛て゛よ゛ね゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」と叫ぶのみである。 子供たちが残り2匹になった所で少年達の空腹は満たされた。 ちびれいむとちびまりさ一匹ずつで、あまりのショックに白目を剥いて気絶している。 お母さん霊夢は焦点の合わない目で「ゆ…ゆ…」とわけの分からないことをつぶやいている。 「腹いっぱいになったしこいつらどーする?」 「このでかいのってさ、また子供産むんじゃねーの?」 「だったら取っといて他のゆっくり連れてくりゃずっと饅頭食べ放題?!」 ここは少年達の秘密基地、今日も寺子屋の授業が終わった少年達が集まっている。 少し前と違うのは板で仕切った狭いスペースがあること、そこには食べ残したゆっくりの子供とお母さん霊夢が飼われていた。 冷たい床にちょっとだけワラを敷いた粗末な寝床、与えられる食事は犬も食べないような腐りかけのクズ野菜である。 最初は「もっとおいしいものがたべたいよ!!!」「おうちかえる!!!」と騒いでいたがそれしか食べるのもが無いと分かると黙って食べるようになった。 子供を残しているのは単に気まぐれで、また焼き饅頭が食べたくなったら串に刺して焼くだけである。 そうだ、今度お姉さんに焼き饅頭をご馳走してあげよう。 白髪の女性の笑顔を思い描く少年は頬が少し赤くなっていた。 秘密基地でゆっくり(完)
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1447.html
「いっけーゆっくり橙!しっぽアタックよ!」 「わかるよー」 「ゆっ、いたいよ!ゆっくりやめてね!」 ネコマタ妖怪の指示を受けてゆっくりちぇんがゆっくりれいむに飛び掛りクルリターンして尻尾を叩き付けた。 「よーしその調子でやっちゃえー!」 「わかるよー、このままいけばかてるよー」 「ゆぐっ、もうやめて…」 バシバシと尻尾を叩きつけられて弱っていくゆっくりれいむに後ろから氷精が声を荒げて言った。 「ちょっとーちゃんとやりなさいよー! でないとこっちのゆっくりまりさをガシャーンとやっちゃうからね!」 「ゆ!」 氷精の言葉を聴いてゆっくりれいむがはっとした表情をした。 氷精の手には完全に氷付けにされた親友のゆっくりまりさが握られていた。 湖の近くで二匹でゆっくり遊んでいたところをこの氷精に捕まえられてゆっくり同士で殺し合いをさせられているのだ。 「どうじで…どうじでこんなことに…」 「わかるよー!わたしがかてるよー!」 頭に何度も尻尾を叩きつけられ、皮を裂かれながられいむは俯いて涙を流した。 「れいむは…れいむはゆっくりしたかっただけなのにぃー!!!」 れいむの、心の底からの叫びであった。 その叫びと共にれいむは頭に叩きつけられようとするだった尻尾に噛み付き思い切り引きちぎった。 「ぎゃああああああああああああ!?」 「ゆっぐりごべんね゛ええええええええ!!!」 引き千切った尻尾を吐き出すと今度はさっきまでの優勢が一瞬で消え混乱の最中にあるゆっくりちぇんの耳に噛み付いた。 「わからない!わからないよおおおおおお!!!!」 「ああああ!わ、わからなかったら人に聞くのよゆっくり橙!」 「わからないいいいいい!どうすればいいのおおおおおおおお!?」 「えーっと、どうしよう」 ゆっくり、トレーナー共に激しく混乱するネコマタ陣営。 「ごべんね゛ええ!ゆっくり…死んでね!」 「あ゛に゛ゃあああああ!!!」 遂に耳も食いちぎられ、れいむはそこに口を付けると力いっぱい中の餡子を吸った。 「ずっずぢゅううううう!ずぼっぉ!ずっちゅううう!」 「わからないいいいいい!なにもわからないよおおおおおお!!!」 「ゆ、ゆっくりちぇえええええん!」 こうなればもう捕食する側と捕食される側に分かれた一方的な狩りであった。 「やっぱりあたいったら最強ね!」 餡子を半分ほど吸われ完全に動かなくなったゆっくりちぇんを見て勝ち誇る氷精。 その足元には暗いものを宿した目で必死にすがりつくれいむが居た。 「はやく、はやくまりさを元に戻してね!」 「わかってるってば、そらっ!」 ガシャン 「あ」 「ま゛り゛さ゛あああああああああ!!!」 凍らせたゆっくりを元に戻すのは高等技術なのである。 れいむは同属殺しまでしたにも関わらず結局親友を救えなかったことに絶望して 白目を剥いて餡子を吐いて果てた。 「うにゃー、また負けたー…」 「ま、あたいに勝とうなんて三光年早いのよ」 「古典的なネタにわざわざ突っ込むのも何なんだが光年は距離だ」 さて、今の戦いは何かと言うと最近人里の子ども達の間で流行り出したゆっくりバトルという遊びなのだ。 子どもがトレーナーとなってその辺で捕まえてきたゆっくりに指示を出して戦わせる遊びなのだそうだ。 ゆっくり側には指示に従う謂れは無いので如何にゆっくりを指示に従わせてモチベーションをあげて戦わせるのかが重要な勝負の鍵になってくるらしい。 ゆっくりを闘わせる賭博が人里にて行われているのだがそれを子ども達が真似し出したのだろうと思う。 だが紫様曰く『あれが半端な形で幻想入りしちゃったみたいね 本格的にこちらに境界を越えて入ってくるのは少し先かしら、まだまだ現役ですものね』とのことだ。 紫様のおっしゃることは中々意味がわからない。 「うーん、餡子吸わせちゃったからあんまりおいしくないわね 大ちゃんこれあげるよ、あたいこっちの氷ゆっくり食べるから」 「え、うんありがとうチルノちゃん」 ちなみに負けたゆっくりは勝者がおいしく頂くようだ。 食べかけの上にほとんど餡子の残っていない饅頭を渡されて緑髪の妖精は愛想笑いを浮かべた。 「藍さま~全然勝てないよ~」 「うーん、とにかくもっと精進することだな」 今私の尻尾に腰掛けてゆっくりを食べているのが氷精のチルノ。 そのチルノからゆっくりを貰った緑髪の妖精が大妖精、名前はよく知らないので割愛。 そしてしっぽに包まって泣き言を言っているのが妖怪の式をやっている私の式である橙だ。 「へっへーんだ、あんたがいくら頑張ったってあたいには勝てないよ だってあたいが最強だもん!」 「うにゃー!腹が立つー!」 橙が尻尾のなかでじたんだを踏む代わりにじたばたともがいた。 このくらいで怒っているようではまだまだ修行が足りないかなとも思うが 友達と遊んでいる時に小言を言うのもなんだし尻尾の中で動かれるのが軽くくすぐったくて心地よいので放置する。 「くやしいー!藍さまー!敵をとってー!」 そうやって私を頼っているようでは修行が足りないと言わざるを得ない。 小言を言うのもなんだがせめて自分でなんとかするように言わないといけないか。 大体子ども同士の遊びに保護者がでしゃばるのは流石に大人気ない。 「橙、人に頼ってばかりいずに自分で」 「馬鹿ねー、そんな油揚げにごはん詰めたの食べるのが生きがいの妖怪の下っ端狐に頼ったってあたいに勝てるわけないでしょ! なんたってあたいは最きょ」 「よかろう受けて立とう」 「やったー!藍さま頑張って!」 私はすっと立ち上がると氷精の宣戦布告を受けた。 橙が万歳して歓声を上げる。 「えーと、あのぉ子どもの遊びに大人が出てくるのは流石に大人気ないんじゃ…」 大妖精が控えめに抗議をしてきた。 「私はゆっくりバトルに関しては全くの素人だ 経験的にはそちらの氷精が圧倒的に有利、だから私も一週間時間を貰いたい その間にゆっくりを調教してここに持ってきてそちらのゆっくりと戦わせる それなら充分対等な勝負になるはずだ」 「えー、でも…」 「上等じゃない!受けて立ってやるわ!」 「うむ、それでは一週間後に会おう」 おいなりさんを馬鹿にした奴は例え子どもと言えど許すわけにはいかん。 一週間後徹底的に叩き潰してくれる。 「とは言ったものの」 マヨヒガに戻り、勢いで勝負を受けてしまったもののノウもハウも無い状態からゆっくりを調教して戦わせるというのは中々難しい。 やはり受けるべきではなかったか、いやしかし油揚げの中に入れるものを酢飯ではなくごはんと言うような輩を許すわけにはいかん。 さてどうしたものかと頭を悩ませているとぴょこんぴょこんと橙がこちらに走り寄ってきた。 「藍さまー、どうやってチルノちゃんのゆっくりに勝つか決めた?」 「いや、どうしたらいいか皆目見当もつかない どういうゆっくりを捕まえればいいのかわからないしどうやればゆっくりを戦わせられるのかもまだわからないし あの子のゆっくりも息絶えてたからまた別のゆっくりで来るだろうから対策の立てようもない、はっきり言って八方塞だよ」 そういって私はハァ、とため息をついた。 「藍さま、そういうときはね」 私が何もわからないと聞いて橙が何やら嬉しそうな笑みを浮かべる。 「ん?どうした橙」 「藍さまが私に言ったことだよ」 「あ、なるほど」 私はぽん、と手を打った。 『わからなかったら人に聞く!』 二人の声が重なった。 経験者がすぐ近くに居ることをすっかり忘れていた。 「それでは橙先生、ゆっくりをどう戦わせればいいのか教えてくれるかな?」 「ふにゃ、先生なんてなんだか照れる うーんとねまずは…」 それから橙先生によるゆっくりについての講義が始まった。 まずゆっくりを戦わせる方法はいくつかあること。 ゆっくりは三大欲求に弱いのでそれを餌に戦わせる方法。 これはどんなゆっくりにも通用する、特に食べ物をちらつかせるのがオーソドックスだ。 おなかを空かせておくことでさらに効果は上がるがその分体力が低下するので難しい。 性的欲求不満にさせる方法は戦闘に集中しづらく戦闘中に交尾しようとしてしまうこともあって難しい。 しかしゆっくりアリス種はこの方法で戦わせるとかなりの強さを誇るらしい。 ただ子どもがゆっくりアリスを捕まえて、育てるのは中々難しいので中々出てこないらしい。 睡眠不足にしておく方法は徹夜ハイとうまくタイミングが合えば悪くない戦法だがやはりこれも体力の低下が懸念される。 次に情に訴える方法。 所謂人質による脅しである程度知性の育ったゆっくりは意外と情に厚くこの方法は中々有効なようだ。 橙を下したチルノのゆっくりもこの方法で戦わさせられていたようだ。 他にも母ゆっくりに対して子ゆっくりを人質に取るなどといった戦法もあるようだ。 次に恐怖に物を言わせる方法。 所謂体に覚えさせるという方法なのだが 普通に教えられればいいのだがゆっくりの知性だとどうしても肉体的精神的苦痛を必要とする。 これは調教がきっかりはまればかなりの戦闘意欲が期待出来、他にも戦闘技術を教えこみやすく強力だが 常にやりすぎてストレスや肉体的損傷で死亡する可能性が付きまとい、恐怖の余り錯乱状態に陥る可能性もある。 次に純粋な戦闘種を戦わせる方法でこれを使えばほぼ勝ちは決まったようなものだが これはゆっくりれみりゃなどの戦闘種は子どもの手には手に入りづらく 大人の財力に物を言わせて買うのも大人気ないので除外する。 最後に純粋にゆっくりと友情を結んで戦ってもらう方法。 この方法は食べ物などで釣りつつ少しずつ信頼関係を培う必要があり今回の二週間という制限時間の中では難しいだろう。 次にゆっくりの種類について まず基本となるのがれいむ種とまりさ種 オーソドックスな種類で強さはどちらも似たり寄ったりだが 戦闘意欲に関してはまりさの方が高いらしいが基本スペックはれいむの方が若干強く 特に母れいむの強さは一目置かれているようだ。 自分の手でれいむに子どもを作らせてそれを人質にする場合もあるとか。 それからゆっくりみょん れいむ種より若干強いらしいが、語彙が極端に少ないので意思の疎通が難しい。 モデルとちがって刀は使わないらしい。 そしてゆっくりちぇん 指示に従わせやすいらしいが戦闘力に関しては若干他の種に劣る。 マタタビを使えば簡単に従わせられるらしい。 他にもアリス種やみすちー種など色々な種類が居るが主に使われているのはこの四種のようだ。 「ふむ、かなり勉強になったよ」 「でも私もチルノちゃんには全然勝てないから勝つためにどうすればいいのかまではわからないの… あんまり役に立てなくてごめんね藍さま」 「いや、作戦を考える取っ掛かりができただけでも大きな前進だよ ありがとう橙」 「ふにゃっ、えへへぇ…!」 私は橙の頭を帽子越しにそっと撫でた。 私は縁側に座りおいなりさんをお茶請けにお茶を飲みながら思索にふけった。 「まずどのゆっくりをどういう方針で戦わせるか考えないとな」 恐らくこの四種の内のどれかから選んで戦うことになるだろう。 相手がどんなゆっくりを出してくるかわからない以上なるべく臨機応変に戦えるゆっくりがいいのだが。 時間が余りないことを考えれば意思の疎通が難しいみょん種は除外した方がいいだろうか。 母れいむを子どもを人質に戦わせる方法が一番ストレートでやりやすそうだがゆっくり一家は中々見つけるのが難しい。 適齢期のれいむならすぐに見つかるだろうが交尾させてから死亡されると時間的にあまり後が無い。 それに無理やり作らされた子どもが人質としてどこまで通じるかどうか。 「なるほど、これはなかなか難しいな」 子どもの遊びというのは意外と奥が深い、参った参ったと頭を抱えた。 「テンコー!」 「ん?」 縁側に九本の尻尾を付けたゆっくりがこちらを見ていた。 「テンコー!」 「テンコー…ゆっくり天弧といったところか」 そのゆっくりは九本の尻尾に私に似た狐耳を付けて、帽子をかぶったゆっくりだった。 「ちがうよ!ゆっくりてんこは最近出てきたにせものだよ! らんはゆっくりてんこーだよ!にせものはゆっくりしね!」 「うわぁ」 ゆっくりは今確かにらんと言った。 よりによって私の姿を模したゆっくりまで現れるとは、紫様や橙の姿を模したものだけでも割と苦手だというのになんということだ。 それにしても一人称はらんなのに名前はゆっくりてんこーとはどういうことだ。 らんはどこから来たのだ、どちらで呼べばいいのかよくわからない。 「えーっと、ゆっくりてんこーと言ったか」 「らんでいいよ!」 自分の名前で呼ぶのが嫌だからわざわざ長いほうを選んだというのにこの饅頭頭ときたら、空気を読んでくれ。 「それじゃあらん、一体ここに何をしにきたのか教えてもらってもいいかな?」 「いいにおいがしたからゆっくり来たよ!それゆっくりらんに頂戴ね!」 よりによって私のおいなりさんを狙ってきたとは、運の無い奴だ。 「他の食べ物なら分けてやらんことも無いがこれは駄目だ」 最後通告である、これを断ればこいつはもう二度とおいなりさんを拝むことは無い。 「いやああああああ!それたべたい!それたべたい!」 そう言って私のおいなりさんに向かってぴょんぴょんとジャンプを始めた。 仕方ない、殺すか。 「ぞれ゛え゛え゛え゛え゛!!!ぞれ゛だべだいどお゛お゛お゛!!! おでがい゛!いっごだげ!いっごだげえええええ!!!」 「……」 なんというおいなりさんへの執着心であろうか。 その切ないまでにおいなりさんへ想い焦がれる姿をみて私はふと気づいた。 おいなりさんを馬鹿にしたものを倒すのはおいなりさんを愛するものでなくてはならないということに。 「…いいだろう」 私はおいなりさんを半分に千切り半分は自分の口に、半分はゆっくりてんこーに渡した。 ゆっくりてんこーは夢中でそのおいなりさんを貪った。 「うっめええええええ!めっちゃうっめえええええええ!!!! こんなおいしいものたべたことないよおおおおおおおお!!!」 てんこーはべちゃべちゃ言いながらひたすら初めてのおいなりさんの味をかみ締めていた。 「もっと!これもっとちょうだい!ねえ!」 てんこーは私においなりさんを要求して体当たりを繰り返した。 ――重い おいなりさんを想って繰り出す体当たりとはここまで重いものなのか。 私はすっと立ち上がったがまだ足に対して体当たりを繰り返している。 「おいなりさんが食べたければ私の言うことを聞いてもらおう …どうしても倒さなければならない相手がいるんだ」 「ゆ!ゆっくりわかったよ!すぐゆっくりやっつけにいくよ!だからはやくおいなりさん持ってきてね!」 もう倒しに行く気満々でいる。 「ふっ、頼もしい奴だ、だが今日はもう遅い ゆっくり眠って英気を養うといい」 「ゆっくりやすむから明日はちゃんとおいなりさんよういしてね!」 よし、少々もったいないがおいなりさんを餌に明日からビシバシ鍛えよう。 「きょうからゆっくりしようね!」 次の日、小鳥の囀りと差し込んでくる朝日、そしてゆっくりてんこーの泣き声で目を覚ました。 「ん…ああおはよう」 とりあえず寝床から出て今は紫様が冬眠時期なので橙と私の分だけ朝ごはんを作り その中から油揚げを一枚、ゆっくりの方にほうってやるとピラニア並の獰猛さで噛み付いていて少し驚く。 その後私が食べようとしていた厚揚げに飛び掛って来たのでその跳躍力に感心しつつ尻尾を一本引きちぎって壁の方に投げつけた。 私はテーブルマナーには厳しいのだ。 それはそれとして千切った尻尾をよく見るとおいなりさんだった。 食べてみると油抜きが充分ではないのか油くさくてしつこい。 体が鈍っているのかもしれない、もっと運動させる必要があるようだ。 とりあえず体を動かさせ、同時にてんこーの身体能力を見るために散歩をしつつ手ごろな野生のゆっくりを探す。 10分ほど歩くともう息を切らせて「も、もっとゆっくりしようね!」などとほざいたので ここで甘やかしては強くなれないと思い蹴り転がしながら進むとすぐに 「じぶんであるぎまずう゛う゛う゛!」と目から涙を流し口からは餡子を吐きながら懇願してきたので 「ちゃんと歩かなくちゃだめだぞ」と言って歩かせる。 そのまま歩き続けているとゆっくりれいむの一家と遭遇した。 捕まえて決戦用に育てることも考えたが今はこのてんこーが居るので予定通りてんこーの強さを見るために 子ゆっくりを二匹取り上げ、その内一匹を捻り潰して残り一匹を返してほしくばてんこーと戦えと挑発すると 涙ながらに母ゆっくりが襲い掛かってきた。 勝ったらおいなりさんとてんこーを激励したものの母ゆっくりは強く、てんこーは防戦一方となった。 母ゆっくりが上に乗っかりそのまま押しつぶそうとしたのでこれは危ないと手に持っていた子ゆっくりを 母ゆっくりがよく見えるよう握りつぶして餡子を顔の辺りに投げつけてやった。 そして「れ゛い゛む゛のあがぢゃん゛ん゛んん゛んん!!!」と絶叫してコテン、と転がって逆さまになった隙にてんこーが逆に 母ゆっくりの上に圧し掛かってそのまま餡子が完全に出来るまで踏みつけ続けて事なきを得た。 体力はまだまだだが与えたチャンスを物にするくらいのことは出来るようだ。 てんこーは「はやくおいなりさん頂戴ね!ゆっくりしてるとおこるよ!」などと調子にのったことをぬかしたので 「ごはんの時間まで待ちなさい」と言ってからサッカーボールの様にドリブルしてそのまま家に帰った。 それからお昼ごはんにしたがてんこーは餡子を吐き続けていたので橙と二人だけで食卓を囲んだ。 午後は雑務を片付け晩御飯時にてんこーにはおいなりさんを一つ与えた。 ふと、もともと尻尾としておいなりさんが生えていたところにおいなりさんをくっつけたらどうなるのか気になって もう一つおいなりさんを取って朝千切った傷口の辺りにくっつけて押さえておくと 五分ほどでてんこー自身で動かせるようになっていた。 だいぶ疲れたのでその日はそのまま橙と一緒にお風呂に入ってから床に就いた。 てんこーはとりあえず箱詰にして棚にしまっておいた。 三日目、四日目、五日目もそんな感じで過ぎていき六日目 「らんってよんでね!らんってよんでね!」などとうるさかったので尻尾を引き千切ったり 「おいなりさんがたりないよ!もっとちょうだいね!」とほざいたので尻尾を引き千切ったり あの後母ゆっくりと再び出会うことはなかったものの普通のゆっくり相手ならばてんこーは危うげなく勝てる程度には戦えるようになっていた。 こちらの指示にもしっかりと応えているし戦意もおいなりさんを餌にすれば充分。 尻尾のおいなりさんの味も充分に引き締まっておいしくなっており最初に出会った時とは違う、そう確信できる。 あまりにおいしいのでついつい残り二本まで尻尾を食べてしまった。 4本目を食べた辺りで目に光がなくなってきたのでそろそろやめなくてはと思ったのだがやめられないとまらない。 寝る前に尻尾を付け足しておき、決戦の日に備えた。 そして運命の日。 「逃げずに来たことはほめてあげるよ」 「子ども相手に誰が逃げる大人は居ないさ」 「へっへーんだ、そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだよ! あたいは超レアなゆっくりを見つけたから絶対に負けないよ!」 「希少さなら私のゆっくりとて負けては居ないさ 来い、てんこー!」 「テンコー!」 九本の尻尾を器用に使っててんこーが大きくジャンプして私の横に着地した。 「そんな奴あたいのゆっくりでけちょんけちょんにしてやるわ! 来な、てんこ!」 「お前らは一級ゆっくりのてんこの足元にも及ばない貧弱ゆっくり そのゆっくりが一級ゆっくりのてんこの名前を騙ることでてんこの怒りが有頂天になった この怒りはしばらくおさまる事を知らない」 チルノの後ろから悠然とした態度でゆっくりと歩みを進めて出てきたのはゆっくりてんこだ。 一級ゆっくりを名乗るその戦闘力は伊達ではなくゆっくりれいむやまりさを寄せ付けない強さを誇るのだが 相当な希少種で普通子どもの手に捕まえられることは無いゆっくりなのだが。 「あ、私がチルノちゃんと一緒に頑張って探して来たんです 大人の人が出てくるんだからちょっとくらい手を貸してあげてもいいですよね」 大妖精、恐ろしい子――…! 「藍さま、あのゆっくり強いよ…!」 「大丈夫、心配要らないよ橙 もちろん構わないわ大妖精」 「ゆ!てんこーはらんが元祖だよ!偽者はゆっくり死ね!」 「てんこは私の方が初出なのは確定的に明らか だというのに勝手に名乗るとは…汚いさすがてんこー汚い」 きしくも真てんこ決定戦の様相になりバチバチと火花を飛ばす二匹のゆっくり。 戦意はお互いに充分、ならば勝負を分けるのは個体の能力と戦術、そしてトレーナーとゆっくりの信頼関係だ。 「それじゃ、私が審判やるから」 そう言って前に出てきたのは緑髪で少年風のいでたちの少女、リグル・ナイトバグだった。 「永夜の異変の時に会った蛍の妖怪か、フェアなジャッジを期待するわ」 「頼まれたからにはしっかりやるよ えーっとそろそろ始めちゃっていい?」 「無論、いつでも大丈夫だ」 「はやくしなさいよ!あたいがこてんぱんにのしてやるんだから!」 「チルノちゃん、戦うのはゆっくりだよ」 「藍さまー!頑張ってー!!」 全員の合意を確認し、リグルはそれじゃあと腕を挙げた。 「ゆっくりバトル…スタート!」 その言葉を聞くと同時に相手に飛び掛る二匹のゆっくり。 「ゆぅぅぅっ!偽者を倒してらんはゆっくりおいなりさんをたべるんだからはやくゆっくり死んでね!」 「同じ時代を生きただけの事はあるな、だがその程度ではゆっくりてんこに淘汰されるのが目に見えている」 「てんこー!がんばれー!」 「てんこちゃん、しっかりー」 二匹ががっちりと組合全力で押し合うがお互いにびくともしない。 てんこの方は表情ひとつ変えないがそれは個体の特性らしいので個体能力はほぼ互角と見ていいようだ。 「よし、力比べはもういい!離れろてんこー!」 「テンコー!」 「!逃げる気!?」 「ほう、経験が生きたな」 てんこーがカカっとバックステップし、一気に二匹の距離が離れる。 「てんこー、アルティメットブディストだ!」 「ゆっくりまわるよ!」 私の指示を聞くやいなやてんこーが回転しぶんぶんと尻尾を振り回す。 その姿を目を細めて警戒するゆっくりてんこ。 「虚仮脅しだよ!そんなの気にせずやっちゃえてんこ!」 「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」 「むっきー!誰に向かって言ってるのよ!」 「チルノちゃん落ち着いて!」 てんこーは回転しつつ器用にもそのまま体当たりを繰り出した。 敵も横に跳んで避けようとするも尻尾を完全に避けきれないゆっくりてんこにべしべしと当ててダメージを与えていった。 「よし、そのまま攻めるんだてんこー!」 「もっとゆっくりまわるよ!」 敵がこちらの出方を伺っている今がチャンス、私はさらに攻める様指示を出し てんこーもそれに応えて強烈な尻尾攻撃を繰り出していく。 ゆっくりにとって高速で振り回されるおいなりさん九個のパワーはかなり脅威となる。 私がこの一週間でてんこーに覚えさせた唯一の技である。 まあ技といっても回るだけなのでそれほど教え込むのは難しくなかった。 「お前それで良いのか?」 再び距離を取ってこちらの攻撃を見ていたゆっくりてんこがこちらに声をかけてきた。 まさかもうこの技の弱点に気がついたというのか、敵ながら恐るべきゆっくりである。 「偽者は話しかけないではやく死んでね!」 「お前要石でボコるわ…」 そういうとゆっくりてんこはその場に落ちている石を口に含むとてんこーの顔に向かってぺっ!と吐き出した。 「ゆ!?いたい!いたい!」 「ちょっと!石使うなんて卑怯だよ!」 橙が審判のリグルに抗議しに駆け寄った。 「どうなんですか、別に武器を隠し持っていたわけじゃないし構わないと思いますけど…」 それに続いて大妖精がすぐさまフォローに走る。 「うーん、その辺に落ちてるものだからセーフで」 「ええー!そんな~!」 橙の審判への抗議は失敗に終わった。 「耐えろてんこー!」 次々と小石がてんこーの顔にぶつかり、顔の皮が少し破れてちらりと中身を見せた。 「自由自在の破壊力ばつ牛ンの要石を決めれるばもうてんこーは早くもは終了ですね」 止めとばかりにゆっくりてんこが少し大きめの小石を口に含んでてんこーに狙いを付け発射した。 その一撃を待っていたのだ。 「てんこー!逆回転!」 「ゆ!さらにゆっくりまわるよ!」 てんこーが即座に逆回転し、飛んで来た小石を尻尾ではじき返してゆっくりてんこに直撃させた。 こんなこともあろうかと仕込んでおいた奥の手である。 「やったー!藍さますごい!」 「ああ!何やってんのよこの馬鹿!ちゃんと避けなさいよ!」 「これあてたの絶対てんこーだろ・・汚いなさすがてんこーきたない」 ゆっくりてんこの顔の皮がむけて辺りに桃の香りが漂ってくる。 「そのまま攻めまくれ!」 「テンコー!」 「お前天地開闢プレスでボコるは…」 私と橙が完全に勝利を確信した瞬間、予想外の事態が起きた。 ゆっくりてんこがジャンプをして空中から小石を吐き出して来たのだ。 上からの攻撃では尻尾で跳ね返すことも出来ないではないか。 それにしてもゆっくりにはあるまじきなんという跳躍力と滞空時間であろうか。 「くっ、天人を模したのは伊達ではないということか…!」 私は歯噛みをして拳を握り締めた。 「やっぱりあたいったら最強ね!」 「いだいいだいいだいいいいいいいいいい!!!!ごべんなざいも゛う゛やべでええええええええ!!!」 「てんこの名前にしがみついた結果がこれ一足早く言うべきだったな?てんこー調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」 勝ち誇るてんこ陣営、完全に戦意喪失したてんこー。 「ここまでか…」 私は地に膝をついた。 「あっがががががががががががががが!!!」 「もはやてんこの勝利は確定的に明らか やはりてんことてんこーの信頼度は違いすぎた」 その時、信じられないことが起こった。 「ス ッ パ ッ テ ン コ ー ! ! ! !」 小石に曝されるままだったてんこーが叫び なんと尻尾が外れゆっくりの命より大事と言われる頭飾りを脱ぎ去ったのだ。 「ゲェー!スッパテンコーですってー!?」 「知っているの、リグルさん!?」 「いや知らないけど」 リアクションをキン肉マンか男塾かどちらかに統一してほしい。 「お前ら目の前でスッパされる奴の気持ち考えたことありますか? マジでぶん殴りたくなるほどむかつくんで止めてもらえませんかねえ・・?」 ゆっくりの命より大事な飾りを捨て去ったことに対して嫌悪感をあらわにしてゆっくりてんこがてんこーを睨み付けた。 「もうゆっくりなんてしてられるか!」 てんこーが一瞬にして視界から消失した。 私は思わず立ち上がる。 「な!?」 「てんこーちゃんが消えた!?」 「な、何よ!逃げるつもり!?」 チルノと橙が驚愕の声を上げる。 「いいえ違います、あれを!」 大妖精が指刺した先には高速で動く何かに切り裂かれていくゆっくりてんこが居た。 「てんこの命がダメージでマッハなんだが」 「まさか…てんこー!?」 てんこーがゆっくりてんこの周りで現れては消え、現れてはまた消える。 そう、てんこーが視認できないほどの超高速で体当たりをしてゆっくりてんこをずたずたにしているのだ。 いや実はみんな突然のことで面食らっただけで普通に目で追えるスピードなのだがそれでもゆっくりとは思えないほど素早い。 「こ、これはまさにプリンセスてんこー -Illusion-」!!」 お前は何ギリギリ過ぎることを言っているんだこの虫けら。 「てんこーちゃんいっけー!」 「ああああああどうしよう大ちゃん!?」 「これはもうあきらめた方がいいと思うな」 呆気に取られる私を尻目に橙がてんこーに声援を送りチルノは狼狽し大妖精はひたすら冷静に戦況を分析した。 「よ、よし、止めだてんこー!!」 「スッパー!!!」 てんこーが真正面からズタズタに切り裂かれたてんこに襲い掛かった。 「想像を絶する痛みがてんこを襲った」 強烈な体当たりを喰らって遂にゆっくりてんこは桃風味の餡子を撒き散らして弾けとんだ。 「最強のあたいがぁ~~!!!」 「元気出して、チルノちゃんはよく頑張ったよ」 「やったね藍さま!てんこーちゃん!」 チルノが頭を抱えて絶叫しているのを尻目に橙が私に駆け寄ってくる。 「ああ、だが危ないところだった、よく頑張ったなてんこー …てんこー?」 橙を抱き寄せてにおいを嗅ぎながらてんこーを呼んだのだが返事がない。 「おい、どうしたてんこー、帰ったらおいなりさんを…」 私は橙と一緒にてんこーの様子を見に歩み寄った。 「死んでる…」 尻尾を自ら引き千切り、頭飾りを捨て去ったてんこーは出産に耐えられなかったゆっくりのように白目を剥いて果てていた。 違いは黒ずむのではなく真っ白になっていたことくらいか。 「結局スッパってなんだったんだろうね」 私の尻尾に腰掛けててんこーの形見のおいなりさんを食べながら橙が私に問いかけた。 「うーん、恐らく死に直面したストレスから来た一種の逃避行動だったんだろう」 私はそう言って空を見上げててんこーとの一週間を思い出していた。 中々いい息抜きになったし悪くない一週間だった。 ただ惜しむべくは最後にもう一度てんこーにおいなりさんを食べさせてやりたかった。 「どっちも死んだんだから引き分けよね!やっぱりあたいって最強!」 「ええー何よそれ、ちゃんと負けを認めなきゃだめだよ」 「審判としては時間差から考えててんこーの勝ちを宣言させてもらうわ」 「チルノちゃんがそれでいいんだったらまあそれでいいんじゃないかな」 四人は私の尻尾に腰掛けながら今回の勝負に関して思い思いの意見を述べ合っていた。 「それにしてもおいなりさんって意外とおいしいわね 油揚げにご飯つめるなんて変なのって馬鹿にしてたけど」 チルノがてんこーの尻尾をむしゃむしゃ頬張りながら言った。 食べながら言ったので私の尻尾にご飯粒がついたが気分がいいから許してやろう。 「それさえわかってくれればもう私から言うことは何もないよ まあ好き嫌いせずに色々食べてみるといいわ」 それにしてもてんこー、最初に食べた時はあんなにしつこかったのに本当においしくなった。 ちなみにさっき拾ってきた帽子は生姜で出来ていた。 子ども達は要らないというので私だけおいなりさんの付け合せにいただくことにしたのだ。 それは幻想郷のこの青空のように清清しい味のおいなりさんだった。 Fin
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2115.html
もちもちのまんじゅう 少年は息を切らせて走っていた。 森へ森へ。飛ぶように速く。 目的はゆっくりだ。 ゆっくり、ゆっくり。あの顔、あの声、あの柔らかさ、あの泣き声。 すべてが好きだ。大好きだ。 それを味わうのが少年の楽しみだった。 走る走る、畑を突っ切って木立の中に入る。 はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。 少年は一目散に森に入り、ガサガサとしたばえを蹴散らしていく。 その目が木立を舐める。 森に慣れた子供の目だ。見つけるまで五分もかからない。 いた。 木立の向こうの、ちょっとした広場。 日の当たる草っぱらに、やつらがいた。 赤いのと黒いのと子供たち。一番多い組み合わせだ。 それでいい、それがいい。一番生き生きした組み合わせでもある。 はあっ! 汗をきらめかせて少年は駆ける。 「ゆゆ~ ゆ~ゆゆ~」 「おはな、むーちゃむーちゃ!」 「ゆぅ……ゆぅ……」 「ゆっくち! ゆっくち!」 「おかーちゃん、みてみて! ゆっくちちてるよ!」 「ゆゆゆーん、ころころだよ!」 ぴょんぴょんと跳ねまわり、ゆらゆら揺れてお昼寝する赤ちゃんれいむ。 草の葉っぱの滑り台でころころっと転がって、ぽよん、とぶつかる子まりさ。 顔いっぱいの笑顔で、にこにこと見守る母れいむと母まりさ。 暖かく明るい森の一角でくりひろげられる、なかよし家族の小さな一幕。 みんなみんな、しあわせそのもの。絵に描いたようなゆっくりしたひと時。 母れいむとまりさが、愛情に満ちた視線を交わす。 あかちゃんたち、ゆっくりしてるね……。 れいむも、まりさも、ゆっくりしてるね……。 こんなゆっくりが、ずうっと続けばいいのにね……。 そう願い、そう信じている。 今までずうっとそうだったから。 明日もきっとそのはずだから。 それに、小さな楽しみもあった。 それは、れいむのおなかの奥。 母まりさに種つけられた、小さな命。 今はまだまりさも気づいていないけれど、新しい赤ちゃんが育ち始めた。 近いうちに、この子も生むことになるに違いない……。 そんな希望を抱く、母れいむ。 見上げた空は、ほんのり暗くなり始めて。 カァ、カァ、カァ……とカラスの鳴き声。 夕方が近くなっていた。 頃合を見て声をかける母れいむ。 「そろそろかえるよ! ゆっくりとあつまってね!」 「「「「ゆゆーん!」」」」 みんなが集まってくる。遊び疲れてきらきらした顔。 素敵なばんごはんを期待する顔。 「おかーしゃん、れいむ、おなかちゅいたよ!」 「ゆっくちごはんがたべたい!」 「まりちゃも、まりちゃもー!」 ぴょんぴょんはねる子供たちに、交替ですりすりと愛情いっぱいの頬ずり。 「ごはんはおうちにあるからね!」 「ゆっくりかえって、ゆっくりたべようね!」 そう言うと、子供たちが嬉しそうにゆっゆっと跳ねた。 ごはんは先週、たっぷり巣穴に溜めた。 だから今週は、好きなだけ遊んで、帰るだけでいいのだ。 おなかいっぱい食べたら、みんなで寄り集まって寝ればいい。 本物の至福。これ以上はないぐらいのゆっくり……。 ガサガサガサッ、と草を踏み分けて、少年が現れた。 「ゆっくりしていってね!」 声をかけながら、少年はやってきて、返事も待たずにポケットから何かを差し出した。 それは飴。緑色に透き通った、キラキラしたお菓子。 甘いにおいに、すぐさま赤ちゃんたちが反応する。 「ゆーっ、いいにおいだよ!」 「きらきらちて、きれいだよ!」 「ゆっくちできそうだね……!」 ゆむゆむと集まって、取り囲む。ぽかんと見ていた親たちが、はっと我に返って声をかける。 「ゆゆっ? だめだよ、赤ちゃんたち! ゆっくりこっちへ来てね!」 「だいじょうぶだいじょうぶ!」 すかさず言って、パクリと飴を食べる少年。そのまま口の中でコロコロして、ごくんと飲み込む。 「あまーいアメだぜ? ほしくない?」 「ゆ……ほちいよ、ほちいよ!」 「ゆっくりちょうだいね!」 ぽむぽむと飛び上がる赤ちゃんたち。その様子は、飾りをつけた鶏卵のダンスのよう。 それを見たれいむたちの頭に、すみやかにあまい安心と期待が広がっていく。 この人間さんはいい人みたい。 ゆっくりさせてくれそうだよ! 「人間さん、赤ちゃんにゆっくりおかしをあげてね!」 「よーし、任せとけ!」 少年はそう言って地面にバラバラとアメをばら撒く。赤、黄、青、緑。その四つ。 「ゆっ、れいむがもらっちゃよ!」 「まりちゃもまりちゃも!」 たちまち飛びつく赤ちゃんたち。けれど食べられたのは四人だけ。 「ぺーろぺーろ……」 「「「「ちあわちぇ~!」」」」 ぱあっ、と顔を輝かせ、涙を流して喜ぶその四人。 「ゆっくちできるあじだよ~!」 「こんなあまあま、はじめちぇ~!」 「おいちい、おいちいよ~!」 いいないいなと取り囲む姉妹たち。母親二人もちょっとうらやましそうな笑顔だ。 それでも、幸せには違いない。娘たちがとってもおいしそうに跳ねているのだから。 少年に向かって、礼儀正しく挨拶した。 「ありがとう、にんげんさん! ゆっくりしていってね!」 「「「「ゆっくりしちぇっちぇね!」」」」 満面の笑顔で、少年は言う。 「かんしゃく玉と、ワサビと、瞬着と、スプリングな!」 「かんちゃく……?」 なんだろう、それはどんなおいしいものなんだろう! 期待を込めて、赤ちゃんたちがつぶやいた時。 赤い飴を舐めていた赤れいむが、歯にちょっとだけ、ガリッと力を込めた。 パン ッ!! 閃光とともに乾いた音。 一瞬で口が破裂する赤れいむ。衝撃で垂直に吹っ飛んでくるくる後転する。 べちゃっ! 仰向けに落ちたときには、まだ息があった。 顔の下半分が花びらのようにバラリと広がって、喉の中で白い煙が揺らめいていた。 「 ゅ … ?」 ぱちくりとまばたき。自分の身に起こったことが理解できない。 ほんの短い間、れいむは考えた。 おくち、なくなっちゃったよ? おそら、みえてるよ? 強烈な衝撃に、感覚が麻痺。痛みも何も感じられない。 ただ、起き上がりたいという気持ちだけがあった。 目だけで母の方を見て、むいっ、むいっ、と二度体を起こそうとして。 そのままの顔で、死んだ。 見開かれた瞳から、光が消える。ぼんやりした透明な玉になる。 顔の下半分が吹っ飛んだ赤ゆっくり。 凄惨な光景が、じんわりと、とても緩慢に、ゆっくりたちの脳に染み渡る。 「あ゛、あ゛、あ゛……」 ようやくガクガクと震え出し、母れいむが強烈な叫び声をあげた。 「れ゛い゛む゛の゛あ゛がぢゃんがああああああ!!!!」 その声をさえぎって、異様な悲鳴が響いた。 「びっ!!?」 濁った声を上げたのは、別の赤れいむ。母れいむたちがぎょっとして振り返る。 その子は口をあけている。あんぐりと開けている。開けた口の中に緑の飴が見える。 飴は溶けて型崩れし、薄緑のねろねしたものを漏らしていた。 大口開けた赤れいむが、ガタガタ、ブルブルと震えている。母まりさがおそるおそる声をかける。 「れいむ、どうしたの? ゆっくりできないの――」 「いぢゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」 母の声すらかき消すほどの、金切り声を赤ちゃんが上げる。 「いぢゃいいぢゃいっ、いぢゃいよぉぉぉぉ!」 赤ちゃんはのけぞり、悲鳴を上げ続ける。 火山噴火のように、猛烈な悲鳴を空へ噴き上げる。 「おくぢっ、おくぢいぢゃああああい! たぢゅけでぇぇぇぇぇぇ!」 「ゆっ、おくちのなかだね!? まりさがゆっくりたすけるぜ!」 ぴょんと飛び寄って、舌を突っ込む母まりさ。 そういったことは慣れたもの。赤ちゃんの誤飲・誤食は日常茶飯事。 ひょいっと取ってやる自信があった。 だが舌が触れた途端。 「ゆぎいぃっ!?」 舌先に釘を打たれたような激烈な辛味。いや、それはすでに味を通り越して毒。 ワサビだった。殺菌効果があり、スプーン一杯でネズミを殺すこともできるという、それでいて少年にも簡単に手に入る毒。 そんなものが、赤ゆっくりの小さな口の中一杯に溶け出している。 「おぐぢが、やげりゅぅぅぅぅぅ!!! はやきゅはやきゅ、はやぎゅだずげでよぉぉぉぉ!」 絶叫しながらびたんびたん、と左右に跳ね回る赤ゆっくり。 だが誰も助けられない。 母まりさは先ほどの辛味に懲りて近寄れず、それを見た母れいむも他の赤ちゃんもブルブル震えるばかり。 「だみぇぇ! もうだみぇぇぇ! れいぶっ、れいぶっ、ぢんぢゃう、ぢんぢゃぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」 限度を越える苦しみに、耳をつんざくような悲鳴を上げたかと思うと。 真上をむいた赤れいむが、めりめりめりっと二つに裂けた! 辛さを逃がそうと口を開け、それでも足りずになおも開け……とうとう自らの口を自らの力で裂いてしまったのだ。 「いぢゃい……あぢゅ……い……」 パックンフラワーのような形になって、涙をじくじくと垂らしながら、二匹目の赤ゆっくりも息絶えた。 遅まきながら、まりさが気づく。 この飴はゆっくりできない飴だと。 「あかちゃんたち、ゆっくりしないでぺっしてね! はやくぺっしてね!」 飛び上がって叫んだが、もう遅かった。 青い飴をなめていた赤まりさが、目を見張ってビクンと痙攣する。 「ゆ゛んっ!?」 その途端、グウッと赤まりさは伸びた。 縦に。 下膨れでまるまるとしていた顔が、一瞬で本物の鶏卵みたいに縦長になった。しかもなお、じわじわと上下に伸びていく。 声は出ない、だがその目が訴えている。懸命に、必死に。 おかーしゃん たちゅけて たちゅけて! れいむとまりさがその子を取り囲む。 「どうしたの、まりさ!」 「ゆっくり、ゆっくりしてね! ゆっくりするんだよ!」 懸命に声をかけ、ほっぺたをすりすりする。 だが、できることはそれだけ。何が起こっているかわからない。 赤まりさの口がブルブル震えている。その口はさっきの赤れいむと違って、きつくきつく閉じられている。だが、こらえきれずにうっすらと開く。 「ゅ、ゅ、ゅ……」 その奥に見えるのは、鉄のバネ。 ミニ四駆のサスに使う、強力でしなやかなバネ。 それが赤まりさの口内を、ギチギチと上下に突っ張っている。 それにまりさは耐えている。口を閉じあわせることで、バネを押さえ込んで。 脂汗が漏れる。目がうろうろと泳ぐ。言いたい、お願いしたい。 おちゃえて! うえからおちゃえてええええ! だが口を開けられない。 いくらもたたないうちに、ひ弱な赤ゆっくりの力の限界が来た。 「ゅっ、ゅっ、ゅっ……びゅんっ!」 まりさの力が屈服した瞬間、バネが口蓋を突き破って一気に伸びた。 餡子の脳が一息に貫かれる。鉄のバネでまっすぐに貫通される。 まりさの命が他愛もなく壊される。 それは外からはわからない。ただ、小さな音と、餡子がえぐれる湿った響がしただけ。 けれどまりさは死んでいる。縦長の奇妙な姿のまま、目をぐるんと白めにしてコロリと倒れる。 力なくあいた口の奥に、処刑用の槍のようなバネが見えた。 「れ゛い゛む゛の゛あ゛がぢゃんがあぁぁぁぁぁ!」 口を開きわなわな震えて再び喚いた母れいむが、せめてこの子はとばかりに、飴を食べた四匹目に寄り添う。涙まみれのぐじゃぐじゃの顔でぺろぺろと舐める。 「ゆっくりしてね! ゆっくりしていってね? あかちゃん、ゆっくりするんだよ!」 「……! ……!」 その子は一見、命に別条ない。母を見つめて、懸命にぴょんぴょんと跳ねる。母もそれを見て安堵する。 このこは だいじょうぶだったよ……! 「……! ………………!!!」 だがじきにその母も気づく。 赤れいむが答えない。 決して口を開けようとしない。 べったりと癒着してしまった口からなんの声も出せず、血走った目だけで訴えてくる、ということに。 「れいむ、あーんは? あーんはできないの? だめなの!? おしゃべりできないの!!?」 「………………」 れいむは答えない、笑えない、鳴けない。 ただ涙のみ、ぽろりとこぼす。 母れいむとまりさにも、その結末はわかる。ごはんを食べられない赤ゆっくりは、長くない。 持って二日。この子は餓死する。 れいむとまりさは振り返る。しゃがんで見ている人間を。 少年は興奮して見つめている。胸をときめかせて見守っている。頬を上気させ、うっとりと目を潤ませて。 この瞬間が、大好きだ。 怒りに燃える饅頭たちが、哀れな暴走を始めるのが。 「よ゛ぐも゛、れ゛ま゛い゛り゛む゛ざの゛あ゛がぢゃんをぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 バスケットボール大のゆっくり二匹、半狂乱で飛び掛ってきた。 どよん、と当たる。ぼよん、と跳ねる。 ぬいぐるみとたいして代わらない生き物たちの攻撃。 「ごの゛っ、ごの゛っ、ごのぉ!」 「ゆっぐりじね! ゆっぐりじねえぇぇぇ!」 「これで、しんでねっ! ゆっくりたおれてねぇっ!」 仲間同士なら、餡子が出てダメージになるのかもしれない。 だが人間に対してはまったく無力。かすり傷ひとつつけられない。 そんなことも、ゆっくりたちにはわからない。少年が動かないのをいいことに、声を掛け合って励ましあう。 「まりさ、たいあたりだよ、まりさ!」 「そうだね! ゆっくりとやっつけようね!」 「こんなやつ、こんなやづぅっ! しねっ、じねっ!」 「ゆんっ、ゆんっ!」 「ゆゆーっ!」 「きいてるよ、れいむ! こいつはびっくりしているよ!」 効いていると聞いて元気が出たのか、赤ゆっくりたちまで向かってくる。 「ゆっくちたおちゅよ!」 「ゆむぅっ! ゆむっぅっ!」 「くらえっ、えいえいっ!」 ぺちんぺちん、ぱちんぱちんと少年の腿や尻にゆっくりが当たる。 無力だ。無力すぎる。震えるほどの弱小。あきれるほどの子供だまし。 少年は、笑い出すのを必死にこらえて、演技した。 「うあー、やられたああぁ!」 叫んで、バタンと倒れる。仰向けになってひくひくと震える。 「ゆゆーっ、やったよ! たおれたよ!」 「さすがはまりさたちなんだぜ!」 「やっちゃ やっちゃ!」 勝ち誇るゆっくりたち。どの顔も歓喜に染まっている。 「ゆっくりとどめをさすよ! 赤ちゃんたちものってね!」 「ゆっくち とどめをさちゅね!」 勢いのままに、少年の上に飛び乗るゆっくりたち。 心の中は誇らしいきもちでいっぱいだ。 こんなおおきな にんげんさんを たおせたよ! あかちゃんたちの かたきをとったよ! 顔の上や腹の上で、ぼよんぼんと跳ねまくる。 「ゆうー、ゆうー、やっつけたよ!」 「「「「やっちゅけたよ!」」」」 腹の上で、とうとう勝利宣言した。 「どうだ、みたかなんだぜ!」 「さすがはおとーちゃんだよ!」 「ゆっくちやっちゅけたね!」 「まりさはすごいよ! それじゃあ、あかちゃんたちのぶんまでゆっくりしようね……!」 「ゆっ、そうだぜ! みんなでゆっくり、ゆっくりしていってね!」 「ゆっくり!」 「ゆっくち!」 ぽよん! ぴょん! と跳ねる家族。空中でペタッと頬を合わせた後は、 「「「すーりすーり……しあわせー!!!」」」 全員ですりすりをして、しあわせをキメた。 「さあ、ゆっくりかえろうね!」 「「「ゆっ!」」」 いろいろあったけど きょうもゆっくりおうちへかえるよ……! そう思ったときだった。 「くっくっくっくっく……ククククク」 「ゆっ? だあれ?」 「ゆっくりでてきてね!」 キョロキョロと辺りを見回すゆっくり家族。 それも当然、この場にはもう敵はいないはずなのだから。 だがそれこそはファンタジー。現実の見えないゆっくり特有の妄想、いや願望にすぎなかった。 「あっはっはっはっは!!!」 「「「ゆぅーーーーーーーーっ!!!?」」」 爆笑しながら立ち上がったのは、死んだと思った少年。 死んだどころか、今まで必死に笑いをこらえていただけだった。 立ち上がりざまにパンチを放つ。 「ゆっくりしていってねっ! オラッ!」 「ゆびゅぅっ!?」 ドムッ、とれいむの顔面を直撃。左目の下に大穴が開く。 突っ込んだ手先で、グジュッと握る。中枢餡子を壊されてれいむがわめく。 「あぎゅああああああああっ!? ゆっぶぴっねっねっねっねねねねねね」 途中からは、意味のない痙攣だ。リボンを揺らしてブルブル震え、声の名残をこぼすだけ。 「うりゃっ♪」 グーにした手を、引き抜く少年。ガボォッ! と餡子があふれ出し、穴あきれいむは地面に落ちた。 「ね゛ね゛ね゛ね゛ねね゛っ ね゛ ね゛ ね゛ ね゛」 バスバスバス、と土煙をあげて狂ったように暴れていたれいむが、やがてゆっくり静かになった。 「ね……」 それを見て少年は大歓声。 「あーははははは、あっはっは! ねねねねだって! 何コイツぅー!」 「ゆ・ゆ・ゆ゛・……」 目を見開いて、ブルブル震える母まりさと残った家族たち。 なんだろう、こいつ? しんだんじゃ なかったの? なんでもいい ゆるせない! 「ゆっくりじっでねええええええええ!!!」 涙交じりの半狂乱で、ふたたびいっせいに襲い掛かった。 びよんぼよんどよん! ぴょんぽにょんぴにょん! 「こいつ、こいづぅっ! しねっ、じねっ!」 「ゆむぅっ! ゆむっぅっ!」 「くらえっ、えいえいっ! ゆっくちちんでね!」 必殺の攻撃、のはずだった。これなら倒せる、すぐにも勝てる、そう思った。 思いながら頭上を見たまりさは、呆然とした。 少年が、股間に手をやり、 見たことのないものを取り出していた。 あれは……なに? 「あっはっはっは、あーっはっはっはっはっは!!!」 けたたましく笑いながら、少年は突然、放尿した。 包茎の幼い性器から、奔流を勢いよく。 シャアアアアアアアアアアア 「ゆぐううううううううっ、これなんなのおおおお!?」 「くっ、くちゃいよおおおお!!?」 絶叫するゆっくりたちに、狙い定めて注ぎかける。 昼間にたっぷり麦茶を飲んだ。膀胱は満タン、120パーセントだ。 湯気の立つ金色の液体が母まりさに当たる。男の子だから、狙いを定めるのは得意中の得意だ。 ビチチチチチチチッ! 叩くような音とともに、白い饅頭皮にみるみる穴がうがたれ、頬の中の餡子までえぐっていく。 「ゆげえええええええ!!!? みずっ、みずであながあいちゃうよおおおお!?」 ゆっくりは人間の性器など知らない。野生のゆっくりはお湯を見たこともない。 ただ、温かい水にえぐられるという、前代未聞の体験に、パニックするばかりだ。 「やめでね! やめでね! やめでね!」 「ははは、あーっはっはっは!」 「まりざが しんじゃうでしょおおおおお!!?」 ずりずりと這いずって逃げようとするが、すでに遅い。 頬の中まで、だぷだぷに尿を注がれた。 小便まみれで涙と鼻水まみれ、アンモニアくさい溶けかけの饅頭崩れになって、泥の上でぐりょぐりょうごめくだけ。 もうだめだ、と絶望した。こんなことになったら、逃げられない。 さよならあかちゃんたち もっとゆっくり したかったよ―― パニックの中の、そんな一抹の思いすら、少年の爆笑がかき消した。 「しょんべんまんじゅう! しょんべんまんじゅう! うわあー、きったねー、くっせー!」 大声ではやしたてながらまりさの周りをぴょんぴょんと踊りまわると、五歩ほど離れて石をつかんだ。 「もう一回言えよ! やめてねーって! ほら!」 「ま゛っ、まりざにひどいこと……」 「うるせー」 びゅっ、と風を切って投げられた石が、ドボッ、とまりさの額に埋まった。 あ゛っ まりさは、生前の表情をほぼ残したままで、悲鳴も上げずにだらりと死んだ。 「ゆびっ びっ びっ びっ」 残されたのは、三匹の赤ゆっくりたちだけ。 恐怖のあまりガッと口を開けて痙攣している。 その目の前に、少年がポイッと石を放った。 「ほら、さっさと逃げろよ。チビども」 「ぴっ!?」 ドスッと石が落ちると同時に、我に返った赤ゆっくり。 「ぴぎゃあああああああああ!!!」 絶叫しながら後ろを向いて、ぴょんぴょんぽよんと逃げ出した。 「ははははは!」 笑いながら天を仰いだ少年は、手近の石に腰を下ろした。 そのまま静かに、ちいさな跳躍音が消えていくのを見守った。 と思ったらいきなり立って、駆け出した。 「ははははははは待て待て待て待て待て、まぁてぇ~~~!」 ザザザザッと茂みを駆け抜けると、あっという間に追いついた。必死に逃げる二匹のれいむと、一匹のまりさ。 ぴょんぴょんぽよんと伸び縮み、まるでトマトが跳ねてるよう。 「ゆっ! ゆうっ! ゆっくちっ! にげるよっ!」 息も絶え絶え、汗まみれ。周りのことなど見えていない。 だからいきなり人間が現れると、心底、肝をつぶした。 「赤ちゃーん、なにしてるの?」 「ゆゆゆゆう!?」 「追いかけっこ? じゃあー……タッチ!」 ぴょん! と跳ねたところを狙って、バシッ! と上からたたきつけた。 「ゆびゃっ!」 地面に落ちて、破裂する赤れいむ。平たく潰れた皮の上で、リボンだけが美しい蝶のように開閉した。 ゆぅ……ゆぅ…… 「あと二匹ー♪」 「ゆびぇえええええ!」 「ゆっくぢぃぃぃぃ!」 死に物狂いで走るれいむとまりさ。草を飛び越え、丸太をくぐり、石を乗り越え、記録的な速さで走っていく。 ぴょーん ぴょーん もぞもぞもぞもぞ ぴょんぴょーん! ――だがその速度も、少年の脚力の三分の二にも満たなかった。 ダダダダーッ! と少年は大回り。ゆっくりたちの前方にさっさとたどりついて、両手を広げて待ち構える。 そうとも知らず走ってきた、直径五センチもない赤ゆっくりたちは……。 「はい、ゴール」 ぽてん、ぽてん! と少年の両手にぶつかって落ちた。 「ゆきゃっ!」 「ゆぶっ!」 気が付けば、手のひらに乗せられていた。 無垢で凶暴な、キラキラ光る目が二匹をにらむ。 二匹はもはや抵抗の気力もない。すべて終わった。何もかもダメだ。 これから姉妹や両親のように、残虐極まりない方法で殺されてしまうんだ。 「ゆ……」 涙が、滝のようにあふれだした。 「ゆぁーんゆぁーん、ゆぁーん!」 「れいぶ、ちぬのいやだよおおおお!!」 「まりざ、もっとゆっくちちたかっだよおおお!!」 珍しそうに見ていた少年の顔が、ふと曇った。 「おまえら……そんなに死ぬのいやなの?」 「いやだよおおおおおお!!」 「ゆっくちいきたいよおおお!!」 「いたくちないでねえええ! おねがいねええええ!?」 「……っち、しょうがねーなー」 「ゆ?」 ふと見れば、少年は苦笑していた。先ほどまでの高笑いとは別人のような顔。 ――いや、実は同じ表情なのだ。少年というものは気まぐれで、たいした理由もなくころころ表情を変える。 だから、この苦笑にも、慈悲の意味などないのだ。 しかし赤ゆっくりに、そんなことはわらなかった。 「おにーさん、たちゅけてくれるの!?」 「おまえら、がんばったからな! うちにつれてってやるよ!」 「ゆーっ、ほんとう?」 「おうちはいいよ! ゆっくちおろちてね!」 だがそんなこと、気にする少年ではない。 ギュッと握ったゆっくり二匹を、尻ポケットにずぼっと入れて、またも前触れなく走り出した。 「っけね早く帰んないと、もう真っ暗だ!」 狭く苦しい布の間で、二匹のゆっくりは必死に叫びかける。 「だちてね! ゆっくち出ちてねえええ!」 「ここはちぇまいよおおおお!」 「つぶれちゃうよおおおお!」 そんな声はしかし、少年に届くはずがない。 ザザ ザザザ ザザザザ ザザザ 草をけり、丸太を駆け渡り、岩を飛び越えて駆ける少年。 その敏捷さは、まるで羽根が生えているよう。 いや、生えているのだ、少年には。 体になくても、心の翼が。 その翼の命じるまま、少年は飛ぶ。 「そりゃーっ!」 崖から下へ。ちょっと目測を誤った。 ズザザザザザザザ! 尻から落ちて、下へとすべる。幸い土の崖で、あまり痛くはなかった。 「おぃーつつつ……」 ちょっと顔をしかめただけで、少年はまた駆け出す。 頭にあるのは、母親がくれるであろうお説教と、その後に出てくるおいしい晩御飯のことだけ。 少し前のことなど忘れている。 ズボンの右後ろのポケットに残った、べったりした餡子。 帰った後でそれを見てすら、少年はなかなか思い出せない。 なんでこんなものがポケットに入ってるんだっけ? だってあんなこと、珍しいことでもなんでもない!
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/128.html
ゆっくり夫婦の出産 永遠亭のほど近く、竹林の奥にそのゆっくり夫婦は住んでいた。 ゆっくりまりさと、ゆっくりれいむ。 二匹でどれだけの時を過ごしてきたのだろう。 その膨れ上がったその体は大人が両手を広げたよりもなお広い。 重量だけでも一般的なゆっくり三十匹分を優に超すのではないだろうか。 そんなゆっくりれいむとゆっくりまりさが巨体を横たえるのは、竹林の藪に隠されたとある洞。 かろうじて入れるだけのスペースに二匹みっちりと入り込んで、ひたすらにゆっくりと動かないでいた。 あまりにもゆっくりしすぎたのだろう。巣穴の外側に向けた皮にコケが付着して、二匹の住処は竹林に完全に沈み込んで見えた。二匹はなるべく動かない方がゆっくりできることも知っていた。長年、生き抜いてこれた要因のは、偶然とそれを生かすわずかな知恵。 そんな完璧に擬態する二匹を、その日因幡てゐが発見できたのは、竹林のことを知り尽くしていることよりも、天性の幸運とひたすら暇だった境遇ゆえだろう。 鈴仙と永琳が研究にこもって三日目、統率するものもいない永遠亭でてゐは暇をもてあまし、竹林を一匹で歩いていたところだった。 「でけー」 あきれたようなてゐの嘆息。 巣穴の出入り口をふさぐ巨体に、古い妖怪であるてゐですらあっけにとられていた。 巣穴からかすかにはみだした赤いリボンは、おそらくれいむ種のものだろう。体躯のでかさに合わせて腹巻サイズのリボン。この鮮やかな朱が、てゐをゆっくりたちの存在に気づかせた。 てゐはその巨体を前にどうしたものか一端途方に暮れて、その紅リボンをひっぱってみる。 「ゆっ!? だれなの、やめてね!」 びりりと地面を揺らすようなゆっくりれいむのくぐもった声。 「ここはまりさとれいむのおうちだよ! 子供が生まれるから放っておいてね!」 同じくこもった声が続く。言葉の内容で、この二体が夫婦であることも判明した。 と、同時に悪戯っぽく緩むてゐの唇。 最初は軽くからかって暇つぶしをするつもりだった。でも、この二匹を使った悪戯を思いついてしまった。思いついたからには艱難辛苦を乗り越えてでもやらねばなるまい。それが悪戯兎なのだから。 「ごめんね、驚かしちゃった?」 完璧な猫なで声。言葉遣いも純真な少女の口調そのもの。鈴仙などはその声を聞いただけで、裏に流れる何かを感じて悶え苦しむだろう。 とはいえ、人間がその声に目じりが下がってしまうのと同様、ゆっくりたちの警戒を少しだけ解くことになる。 巣穴の表面がぞぞぞと回転して、お人よしそうな瞳が外に向いた。黒髪、ぺたんとして存在がわからない鼻、何かもの言いたげな口。パーツこそ巨大だが、まぎれもなくゆっくりれいむだった。 「ゆっ! 人間さんじゃなくて兎さんだ! ゆっくりしていってね!」 「兎さん!? れいむ、まりさが食べるから捕まえてね! 兎さんはゆっくりしていってね!」 「ゆぐーっ! ゆっくりおざないでええええ! 赤ちゃん、つぶれるううううう!」 食欲にかられた奥のまりさに押されているのか、きゅうきゅうに張り出したれいむの顔。 針で一突きすれば破裂しそうと思うてゐだったが、てゐのしたい悪戯はそんなことではない。にこにことした笑顔でゆっくりに話しかけていた。 「食べられないと思うよ。私は妖怪兎さんだからね」 「ゆっ! 妖怪さん!」 その言葉を皮切りに、れいむの膨張が止まる。 妖怪。人間ですら恐れるその存在を、長生きしていたこの二匹は存分に知っていた。 今度は逆に奥へ引っ込もうとするゆっくりれいむ。 「ま゛り゛さ゛! 奥へ行ってええええ、食べられちゃうううう!!!」 「やべでえええ、まりさの中のあがぢゃんがつぶれるよおおおおお!!!」 もう、てゐが立っているだけで赤ちゃんの命は風前の灯といえる状況だったが、それではもったいない。 てゐは悪意をまったく感じさせない柔和な笑顔を浮かべて見せる。 「大丈夫だよ、私はゆっくりを邪魔しないから」 いいながら、れいむの頭をそっとなでる。 「ゆ?」 そのくすぐったい感触に、れいむは逃げるのをやめて振り向いた。 「うさぎさん、ゆっくりさせてくれるの?」 まりさの声も続く。 「ゆっくりさせてくれるのなら、さっさとでていってね! 二度とこないでね!」 れいむを盾に、きっちりと要求。 その様子が面白くて、くすくすと笑みをこぼすてゐ。 てゐは、このゆっくりたちをゆっくりさせないことにした そのための言葉を、思いつくままに投げかける。 「でも、私が見つけたぐらいだから、すぐに他の妖怪がみつけちゃいそうだね」 二匹のぷるんぷるんという蠢動が、凍りついたかのように停止した。 地面を伝うゆっくりたちの忙しないささやき。 うさぎさんのいうとおりだよ。見つかっちゃうのはいやだよ。別のところにいかないと。でも、どこに。 こそこそと巣穴の中で話し合うれいむとまりさ。てゐのウサミミには丸聞こえだった。 「このおうちで、ゆっぐりじだがっだのにいいい……」 挨拶のころの元気よさはどこへやら。弱りきった口調でゆっくりれいむがつぶやく。 れいむが家族とはぐれてこの巣にたどり着いた頃、この巣はもっと狭くて、それなのに一人ぼっちで寒々としていた。 それがまりさと出会いを経て暖かなおうちになって、体が大きくなるのに従って巣を少しずつ広げていった。 そのおうちに、子供のためのスペースを作りはじめたのはいつ頃だろう。出産と子育てというゆっくりにとって一番危険な時期を無事のりきるため、二匹はずっと子供を安全に育てられるまで自らが大きくなるのを待っていた。 万全の準備で子づくりに挑んだ二匹。何年も待ち望み、求めてやまなかったわが子を熱望していた。 それから、まずはまりさが妊娠する。出産のための餡子は十分にお互い溜め込んでいたため、あとはゆっくりと待つばかり。 ただ、ゆっくりれいむも子供を妊娠したかった。わが子を生み出すという夢のために何年も準備していたのはれいむとて同じこと。 寂しげなれいむの様子に、ついついまりさも同情した。 そんな経緯で、二匹揃って妊娠したれいむとまりさ。このまま、何事もなければ、まりさだけが出産するよりも二倍の幸福が待っている。そのはずだった。 「二人ともお腹に赤ちゃんがいるから、あんまり動けないのおおおおおおおおお!」 まりさの悲嘆に続く、れいむのひぐひぐという鬱陶しい泣き声。 一方、てゐは新たな事実を前に瞳を輝かせていた。 二匹とも妊娠している? 好奇心がざわめくてゐの瞳。 一般に、ゆっくりたちはタチとネコに分かれて妊娠させる役と妊娠する役を分担する。出産準備中に子供の餡子となる分の餌を集めるタチ役、じっとして子供の生えた茎が成長するのを待つネコ役という具合に。 だが、体の中でゆっくりを育てて出産する大きなゆっくりは、元から莫大な餡子を抱えている。役をわける必要がない以上、この二匹はお互いを妊娠させあったのだろう。二匹とも身重になって状況の変化に対応できないという予測はまったく思いつかないままに。 その場の勢いに任せて、本当に馬鹿だ。 そんな感想を抱きながら、てゐはそっと目を伏せる。 「可哀想だね……」 ありもしない地雷によってゆっくりの安寧を奪った張本人の台詞とは思えない。心からの同情に満ちたその表情も、見事だった。 真に迫った演技に、ゆっくりたちはたやすくすがり付く。 「うさぎさん、お願い、ゆっくりできるところを教えてええ!!!」 「んー、あるかなあ。あ、そうだ!」 頭に電球が浮かんでもおかしくないようなそぶりで、手を鳴らす。 自分の体より小柄な兎の少女に、ゆっくり二匹は命運を握られて、必死のまなざしでてゐを見つめていた。 「ねえ、あなたたちさえ良ければ、ゆっくり子供を生める場所を紹介してあげようか」 「おっ……お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛す゛ううう!」 頭を擦り付けるようなゆっくり二匹の礼に、今日もいいことしたと晴れやかな笑顔のてゐだった。 「ここが、あなたたちの部屋ね」 てゐに案内され、ゆっくり二匹が通されたのは永遠亭の一角。広くはないが、品のいい調度品で統一された和室だった。 「ゆっ! すごい、ゆっくりできるね!」 れいむがぴょんぴょんと部屋に飛び込んでいく。 その巨体で飛ぶものだから、着地のたびに畳と底板がみしみしと悲鳴をあげている。 それでも、てゐの笑顔にほころびはない。 続けて、れいむの後ろを追っていこうとしているのは、先ほどはずっと穴倉の奥にいたゆっくりまりさ。 だが、縁側から後一歩で和室の中というところで、立ち止まり恐る恐るてゐに向き直る。 「うさぎさん、ここは人間さんのおうちじゃないの?」 ゆっくりを長生きさせていたもの。それは、お互いの領域をわきまえる知性を育めたことだった。 てゐはその賢さに、正直ささやかな驚きを感じてしまうものの、表情は微塵も揺るがぬ一面の笑顔。 「大丈夫だよ。ここは私のうちで、持ち主の私がこの部屋をあなたたちの部屋だと決めたのだから」 その笑顔と言葉に、まりさはほっと一息。 「すごい! やわらかくて暖かいよ! はやくきて、まりさ!」 先行するれいむの声にたまらず、閑静な日本家屋に飛び込んでいく。 大きな振動と、土ぼこり。 穴倉の中にいたまりさの体が、たたみに大きな泥のかたまりをのせ、巨体でずりりとこすり付ける。 向かう先にはゆっくりれいむ。その巨躯で体当たりした結果、大穴の開いた襖。その半壊した奥は押し入れのようだ。 その押入れからは、雪崩のように布団の一段がすべり落ちている。れいむは土まみれの体をこすりつける。幸せそうな「やわらかーい、ゆっくりできるよおお!」という歓声と共に。 楽しげなパートナーの様子に、まりさも辛抱できなかった。 「まりさもゆっくりするうう! ……っ! ひぐうっ!!」 駆け寄るまりさの巨躯では、足元が見えない。そのため、ちゃぶ台にもろに下あごをぶつけていた。 派手な音が響いてひっくりかえるゆっくりまりさとちゃぶ台。ちゃぶ台の上のガラス皿がごろごろと重い音を立て、皿にのせていた果物を床に転がす。 「……ゆっぐりいたぐなっでぎだああああ!」 ひんひんと滝のような涙を流すゆっくりまりさ。 「まりさっ! れいむの赤ちゃんは大丈夫!?」 「……っ! だ、だいじょうぶ、ゆっぐりじでいるよおお」 何がわかるのだろうか、てゐにはうかがい知れないが、子供を心配しあう二匹には十分な母性の強さを感じる。 子供の大切さがひしひしと伝わる光景。このまま出産しても、二匹は母としての勤めを果たすことが可能だろう。 「ゆっ!? 果物さんだ!」 先ほどの衝突で床にこぼれた果物。 その桃の甘い香りにまりさが不意に気づいていた。 いつのまにか、涙は止まっている。その代わりに、大きな口の端からだらららと、留処ないよだれ。 二体はずるずると這うような動作で五個の桃を集める。 まずは仲良く、二個づつ。 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー!」 ほほえましい二匹のやりとり。 ゆっくりが桃をかむたび、その果汁がだらだらと顎を伝い、畳と布団に染みをつくっていった。 あっという間に、部屋の本来の持ち主の好物ゆっくりのお腹に納まっていき、残すは一個。 もちろん、長年にわたって深く愛し合う二匹は奪い合ったりはしない。 まりさとれいむは桃をはさんで向かい合い、桃をお互いの口を押し付けあって持ち上げた。そのまま、双方から食べていく。 「むーしゃ、むーしゃ」 お互いが食べあうため、近づいていく唇。最後は二匹の唇がぺったりとくっついた。 「ゆううう、れいむのくちびる、あまーいよお♪」 「まりさのくちびるも、あまくてぎもぢいいいいー♪」 ぺろぺろと、お互いのごんぶとの舌が触れ合う。 ちゅちゅと響く不快な摩擦音。 「ぷはあああ! れいむのてくにっくがずごいいいいいいい!」 「ぢゅううう、んんんん……ぽん! ぷはああああ、まりざの力づよざもずでぎいいいいい!」 そのまま、本格的にお互いの唇を吸い合う二匹。 巨体同士が絡み合う度、湿り気を帯びた音がぐちゃぐちゃと音を立てる。 どうやら、安全な居場所を得たことで、もう一匹という気持ちが盛り上がりつつあるようだ。 興味深そうに見つめるてゐ。 だが、ゆっくりれいむに睨み返されてしまった。 性欲で血走った目を半眼にし、てゐをにらみつけている。 「ゆっ、なに見ているの! うさぎさんはここでゆっくりしないでね!」 「うさぎさん、ここはもうまりさとれいむのおうちなんだから、ゆっくり出ていってね!」 見られるのを気にするんだ。 その新たな発見に満足して、てゐは気を悪くしたふうもなく笑う。 「あ、ごめんね。ではごゆるりと……ゆっくりしていってね」 含み笑いをにじませながら、ゆっくりれいむにお別れを告げていた。 ゆっくりの巨体で骨組みが粉砕されていた障子を、静かに閉めて立ち去るてゐだった。 「ようやく、すっきりできるよ、れいむうううう」 「ま、まりさああああああ。誰よりもすっきりじだい! だいぢゅきいいいいい」 巨躯二体の絡みはすさまじかった。 ごろごろと体を擦り付けあって部屋を縦横に転がる。 その後を刻み付けるように、二体から分泌された粘液がたたみに跡を残していく。 子供の出る部分をぴちゃぴちゃとすりあせて、ますます興奮していくゆっくり。 「ゆゆゆゆゆゆゆゆっひいいいぎいいいいいいい!」 興奮のあまり、行き立ちはだかる箪笥を二匹、ぶちあたって押し倒す。 地鳴りを立てて倒れ付す衣装箪笥。反動で開いた引き出しから、清楚な白の下着類がたたみの上にあられもなく広がると。 「にゅふうううううううう!!」 二匹がその上に転がりこみ、べとべとの体液に張り付かせて全身をまだらに染める。 「見えないいいいい! げど、まりざがあだだがあああああああい!」 ブラジャーかぶったような体制で両目を塞がれたれいむが、暗闇の中でますます相手の体を求めていた。パンツごしにすううぱああと、荒い息を繰り返していたまりさもすかさず応じる。 情愛を確かめる頬のすり合わせ。お互いのよだれがダラダラとこぼれて、頬にすり込まれていく。顔は真っ赤にのぼせ上がって、だらしない半開きの口が閉まる気配も見せなかった。 すり合わせながら、ぽやああと虚空をうっとりと眺めていた目が、次第に上に上にと高みを見つめる。 口からは、ぶっとい舌がべろんとのびて、はああはああと熱いむわっとした息を相手に吹きかけていた。 絶頂は近い。 ぐりぐりとこすり付けていた体を、ぎゅぎゅぎゅぎゅと小刻みにしていくゆっくりまりさ。 「ずっ、ずっぎりずるううう!? ぞろぞろ、ずっぎりじだい、じだいよおおおおおお!」 まりさの顔はびくんびくんと、危険なほどの痙攣して欲望の果てを望んでいた。 が、そんなまりさのアヘ顔を、欲情した瞳で視姦するれいむ。 「ゆふふふふ! ぞんな゛にそわそわして、がわいいよおおおおまりざあああ! ダメなのおおおおお、もうイグのおおおおお? ガマンできないのおおおおおおお? もうずっぎりしちゃうのおおおお!? 」 答える声はない。 まりさは舌が千切れるのではというほど目につきだして、びくびくと弛緩する体をますます小刻みれいむにすり合わせていく。 「あ゛せ゛ら゛な゛い゛て゛ええええ、ゆっぐりじでねええええ! もっ、も゛お゛ち゛ょっと゛! うっとりじようよおおおおおおお、まりさああああ!」 成熟したゆっくりほど、すっきりの前段階、うっとりの心地よさに貪欲だった。 パートナーのもうたまらないと吹き上げる熱に、ぞくぞくと興奮に打ち震えるゆっくりれいむ。 「まりざあああ、言っでええええ! れいむ、すっきりざぜでくださいって、言っでえええええええ!」 「んほおおおおおおおおおおおおおお! すっきりっ、ずっぎりじだいんおおおおお、ざぜでえええええ、れいむううううううううう!」 涙とよだれと汗と謎の液体で、ぐっちゃぐっちゃの顔で哀願するまりさ。 その惨めたらしい、情けを乞うような卑屈さに、れいむの体を貫く興奮。もはやれいむにも押さえがきかなくなる。 「ああんんんうっほおおおおおおおおおおお!!! いぐううううううっ! らめええええええんほおおおおおおおおおお!!!」 「イげるううううううう、うひいいいいいいゆううううううううう! うれじいいいいいよおおおほほおおおおおおおおお!!!」 二匹は、今まさに絶頂へ至ろうとしていた。 「な、なんなの、これは!」 へたれたウサミミが怒りに震えていた。 妖怪兎であるが、すらりとした背丈と赤い瞳が特徴の月の兎、鈴仙だった。 鈴仙の身分は、実質的には月からの逃走して永遠亭に居座った肩身の狭い居候で、永遠亭の主や薬師に体よく使われる立場。 そんなわけで、この三日間は不老不死不眠不休の師匠に付き合わされ、片時も気を抜けない実験の手伝いをさせられていた。 もう、すでに身も心も疲労の極地。 てゐと約束していた一緒に人の里に遊びに行く約束も断って、今はひたすらに自室の布団が恋しかった。 だが、自室のかなり前衛的にアレンジされた障子を開き、目の前に広がっていた光景は鈴仙の精神に止めを刺すものだった。 狭いながらも、お気に入りの調度品で統一し、永遠亭でもっともほっとできるそのマイルームは、巨大な二匹の生き物に占拠されていた。 「じょ、状況確認」 何とか、昔の月の軍人時代の教練を思い出して部屋の様子を確認する鈴仙。 部屋は荒れ果てていた。 ちゃぶ台はひっくりかえり、香霖堂で粘って購入したガラス皿にはひびが入り、イグサが香り立つ新しい畳も泥だらけ。襖には大穴、障子は骨がへし折られ、箪笥は引き出されて自らの制服や下着は無造作に散乱し、耐え難いことに一部が生き物にはりついていた。もはや、生き物の醜悪さは筆舌に尽くしがたいものに成り果てている。 鈴仙があれほど望んでいた布団などはもう見る影もない。 興奮した様子で絡み合う二匹の下に、下着類とともにしかれて二匹の愛の営みの舞台と化していた。もちろん、布団にも得体の知れない粘液が方針円状に広がり、ぱちんぱちんと体を合わせるゆっくり二匹の動きに合わせてしぶきが部屋中に飛散している。 許されるならば火を放ちたい。 鈴仙がそんな感慨に身を震わせていると、部屋の中央で絡み合うゆっくり二匹が、ぶぶぶぶぶぶと地震の最中のように揺れ始める。 まさか! 悪寒に駆られた鈴仙が部屋に踏み込もうとするが、すでに遅かった。 「のほおおお、すっきりー!!!」 目の前で高みに達していた。 愛しのマイルームが、ゆっくりどものラブホテルと堕したその瞬間だった。 全身を伸び上がらせて天にも昇る感覚に酔いしれるゆっくり二匹。 伸びきったその体が、今度は力を失ってしゅうううと横にへたりと広がる。疲労感に包まれて、至福の脱力。 しばらく、ひいいふううゆううという甘く荒い二匹の息と、無言で立ち尽くす鈴仙がその場に残されていた。 とろんとした目で、まりさを見つめるれいむ。 「ゆー……二人目もきっと今できたね!」 「ゆっ! 今の子供を生んだら、もう一人がんばろうね!」 満ち足りた幸福の言葉をかけあう二匹。 と、そのうち片方、まりさの顔がびくんと震えた。 「ゆっ! 今、お腹の子がゆっくり動き出したよ!」 「ゆ? ゆゆっ!? れいむの子も動き出したよおおお!」 出産間際であれだけの運動をしたのだから、子供も何事かと動き出すのだろう。 二匹、慌てて身を起こし、並んで部屋の中央に。そのまま、微動だにしない。 「ゆっぐううううううう!」 ゆっくりのとぼけた顔がこれほどまで辛そうな表情をするとは、鈴仙は知らなかった。 もしかして、死ぬのだろうとか。淡い期待をよせる鈴仙。死ねばいいのに。死ね。 それに応えるかのように、ゆっくり二匹の顔が、揃って苦悶の色をますます濃くしていった。 と、同時にゆっくりの下あごに少しずつ、黒い影が生まれていく。 穴だった。 肌を内側から裂くように、顎の下に黒い穴が広がり始める。 「んほおおおおおお……!」 あえぐ二匹。快楽などではなく、途方もない苦痛にこぼれた声だった。 果たして、どれだけの痛みなのだろう。歯茎をむきだしにし、目から滂沱の涙。どれだけかみ締めているのか、唇からはぽろぽろと餡子が一筋ながれていた。穴の付近からは餡子とも違う液体が流れて、布団の染みを絶望的に広げていく。 わけもわからず、そのゆっくり二匹の競演に見入ってしまっていた鈴仙。 だが、その黒い穴の奥からゆっくりの子どもの顔がうっすらと見えてきて、すべてを悟った。 「ま、まちなさい!」 自分の部屋での出産だけはやめさせたかった。 そうしなければ、自分の部屋をもう家畜小屋としか思えなくなる。 ぎゅっとふんばる二匹は、突然の乱入者にも身動きできないし、いまさら中止などできない。 そもそも、一刻も早く終わらせたい苦痛なのだ。 この、自分の体を真っ二つに引き裂いたような痛みは、出産直前に最大となり、そうして終わることがわかっているから耐えられる苦痛。さっさと終わらせたいのに、このバニーさんは何を言っているのだろう。 「でていってよ!」 鈴仙がまったく動かない二匹に業を煮やしてれいむの体を押すが、その重量はびくともしない。 出産直前のれいむの苦痛を増幅させただけだった。 「ゆぎいいいいい! いだいいいいいじぬうううううう! はなじでよおおおほおっ!」 あまりの血走った形相に、思わず手を離す鈴仙。 ふひふひと荒い息で痛みを逃すゆっくりれいむが、その血眼を乱入者に向ける。 「兎のおねえさん、ひどいことしないでとっとと消えてね!」 修羅場中の母となろうとしているれいむは、母の情愛から好戦的になっていた。 「なっ! あんたねえ、私の部屋から消えるのはあなたたちでしょうが!」 ゆっくり相手だとわかっていながらも、思わずやり返す鈴仙。 だが、いきなり乱入しての私の部屋宣言に、その様子を横目で見ていたゆっくりまりさが激昂する番だった。 兎さんからもらったおうちなのに、このバカうさぎは何をわけのわからないことを言うのだろう。 人のうちに入って、自分の部屋だと主張することがいけないことぐらいわかってほしいゆっくりまりさ。 「ごちゃごちゃうるさいよ! ここはれいむとまりさのおうちだよ!! いまからこども産むんだから さっさとでてってね!!」 「兎さんからもらったおうちから、出ていってね!」 れいむとまりさの息のあった応酬に、鈴仙は思わず半笑い。 「あー、その兎さんって誰?」 なんとなく、鈴仙は事情が読めてきていた。 「名前はわからないけど、おねえさんより小さくて、品がよくて、やさしくて、じゅんしんな兎さんだよ!」 「うん、そしてれいむみたいな綺麗な黒髪の兎さんだよ!」 「ああ、てゐ、ね」 悪戯兎のニヒヒという品が無く、邪気に満ちて、腹黒な笑顔を頭に思い浮かべる鈴仙。 それにしても、ここまで洒落にならない悪戯をされたのは久しぶりだった。 ふつふつと部屋の惨状を見るたびに煮えたぎる鈴仙の胸のうち。 「それじゃあ、お姉さんはとっとと消えてね!」 「バカじゃないなら、わかるよね。れいむたちはもうすぐ子供が生まれそうなの! 消えてね!」 本来、穏やかな気性の鈴仙。それなのに、その怒りの炎が消えぬよう丹念に油を注ぐ妊娠ゆっくりたち。 鈴仙は腹を決めた。 幸い、鈴仙の手には師匠の永琳から廃棄を頼まれた資材が一山。 その中に、チューブのように太いゴムを見つけ出していた。ゆっくりたちの体を三周して、いまだあまりあるほどのゴムの束。 すううと、鈴仙の狂気の瞳が細められる。 目の前には、間断なく襲い掛かる出産の苦痛に顔を歪めながら、それでも苛々と鈴仙をにらみつける二匹の巨大なゆっくり。 「れいむううう、このお姉さん邪魔なのにどうしているのおおお?」 「きっと、バカなんだね! バカなのは仕方ないから、ゆっくりもう一度いうよ!」 「うん、れいむはやっぱり親切だね! それじゃあ、いうよ! ゆーっくーりー、きーえーてー!」 「わーかーるーよーねー?」 鈴仙はゆっくりたちの心底見下した視線を受け止めて、深く頷く。 「そう、わかったわ」 師匠にこき使われて、てゐに悪戯されて、ゆっくりに出て行けといわれるこの現状の憤りを、鈴仙はしっかりと理解していた。 「ゆっ! ゆっくり話したかいがあったよ!」 「それじゃあ、ゆっくり子供を産もうね! 幸せな家族、つくろうね!」 「うん! 幸せになろうねー!」 向かい合って、安堵の表情を交し合うゆっくり二匹。 瞬間、鈴仙は動いた。 俊敏にゆっくりまりさの後ろに回りこむと、全身の力をこめて体当たりする。 その衝撃にびくんと前に飛び出したまりさ。 正面にいたのは、ゆっくりれいむだった。 「むぎゅ!」 唇をべったり密着させるゆっくり。 何が起こったのか、困惑して離れようとする。 だが、できなかった。 鈴仙の狂気の視線を受けたれいむが、平衡感覚をなくし、離れようとして逆にますますまりさに密着してしまうからだ。 「ゆっ!? ゆっくり離れてね、れいむ!」 「まりさこそ、れいむの正面にこないでゆっくりしていてよ!」 文句をつけあう二匹。正しいのはまりさだが、鈴仙は親切に教えてあげたりはしない。ただ無言で、ゴムチューブを伸ばしてゆっくりたちを縛り上げていくだけだ。 やがて、鈴仙の手で十字に固くゴムが結ばれ、中心に向けてしめあげられるゆっくりたち。 向かい合って、唇を強制的に合わせたまま固定されていた。 「ゆゆゆゆゆ!?」 「ぐっ、ぐるじいいいいいい!」 かろうじて唇をはずしての苦悶は、重圧からにごりきったダミ声となっていた。 元の、気に障るほどに明るい声の面影は、もうどこにも見受けられない。 「ああああああ、あが……あがちゃ……」 赤ちゃんが死んじゃう。れいむたちはどうなっていもいいから、赤ちゃんだけは産ませてください。 そんなゆっくり夫婦の嘆願も、もう締め上げるゴムのきつさに言葉にならなかった。 鈴仙はとりあえず拘束できたことに満足する。しばらく、このままで反省されたいと、ただそれだけの行動。 だが、赤ちゃんが詰まってぱんぱんの親ゆっくりの体にはすさまじい拷問だった。めりめりと悲鳴をあげる赤ちゃん。一週間、穴倉の中でゆっくり大切に育て、新しい家族の誕生に思いをはせたあの日々が、すべて団子の出来損ないで終わってしまう。 「もうこんな目に会いたくないなら、早くここから出て行くことね」 鈴仙はゆっくりを殺すという選択肢をとらなかった。後始末が大変だろうし、命を弄ぶのは本意ではない。 それに、鈴仙には復讐を誓うべき対象は別にいる。 「まあ、あなたたちはてゐに騙された被害者でもあるのよね」 友人の兎の顔を思い浮かべ、ため息。 怒るのも挑発にのってしまっているようでもどかしい鈴仙だった。 「これから、ここの片づけをする道具をもってくるから、それまでに転がるなりして永遠亭から消え失せれていれば何もしないわ」 淡々と言い残して背中を向ける鈴仙。 が、部屋を去る前にもう一度振り返る。 「でも、今度から永遠亭の半径100m以内で見かけたら、殺すから」 赤い目が、本気の意思を潜ませて冷ややかに輝いていた。 部屋を後にした鈴仙は、すぐに身を翻して離れの方へ。 駆け出して鈴仙の前に、その波長に捕らえられたてゐの姿があらわれて、驚いたようにこちらを振り向く。 「こらっ! てゐ!」 しかりつけると観念したかのように立ち止まっていた。 けど、反省の色はない。憎たらしく、べーと舌を出す真似。 まるで子供みたいと鈴仙は思った。 本来のてゐは妖怪兎のリーダーで、寿命もそこらの妖怪がはだしで逃げ出すほどの長寿。永琳たちがくるまでは永遠亭を指導し、永琳たちの来訪時には交渉をもって妖怪兎たちの種の安寧を確保した実績を持つ、老練した妖怪だ。 人間たちにしかける悪戯も機知にとんでいて、騙されたことすら気づかないような嘘を思いつける知恵者でもある。 それがなぜ、自分にはこんな子供じみた悪戯ばかりするのか。 鈴仙はわかっていた。 だから、まったくもって本気で怒れない鈴仙。 苦笑交じりの笑みで、てゐに語りかける。 「てゐ、悪かったわね。最近、ずっとかまってあげられなかった」 永琳の助手以外にも何かと忙しくて、一月あまりろくな会話をしてこなかった気がする。 「なっ、なにを言っているの!」 激昂するてゐに向けられる鈴仙の赤い瞳は優しげだった。 そのまま、一呼吸で歩み寄りぎゅうと抱きしめてあげると、てゐの達者なはずの口が言葉を失う。 そのぬくもりに、どうしようもなくてゐの心が満たされてしまう。 「今日からしばらくは暇だから、いっしょにいようね」 「……うー」 用意していた拒絶の言葉もどこへやら。 芸も無く頷くてゐに、満足げな笑顔をもらす。 「じゃあ、今日からてゐの部屋で私も休むわね」 「え、どうしてー!」 「あなたが、めちゃくちゃにしちゃったでしょ、私の部屋。どこで休めばいいのよ」 「う、確かに。し、しかたないなー!」 なかなかに微笑ましい姉妹のような妖怪兎たち。 これから、夜通し積もる話でもするのだろう。 だが、その前にてゐは悪戯に使った道具のことを思い出す。 「あ、そうだ。あのでっかいゆっくりたちはどうしたの?」 「今は動けないようにしているけど、解いて逃がしてあげるわよ。あれだけ脅しておけば、もうこないでしょうし」 やっぱり鈴仙は甘いなあとてゐはつくづく感じる。 そこが、てゐが一番気に入っているところなんだけどねと、ほくそ笑むてゐに、また何かたくらんでいるのかと困り顔の鈴仙。 一路、自分の部屋へ向かう二羽の妖怪兎。 だが、たどり着いた自分の部屋はがらんどう。 ゆっくり夫婦の姿はすでに部屋から消えうせて、影も形もなくなっていた。 続きへ