約 560,080 件
https://w.atwiki.jp/medenase/pages/21.html
本の概要 タイトル:もっと!! 愛でなせェ! 発行:2013年10月27日開催 COMIC CITY SPARK 8にて 仕様:フルカラー表紙 A5 オンデマ ページ数/価格未定(通販も予定しておりますが、手数料がかかるため上記価格より高くなる可能性があります。ご了承ください。) R-18仕様です。販売する際、年齢を確認させていただく場合がございます! 内容 土沖愛を叫ぶことにより、『銀魂』 沖田総悟受けプチオンリー「そごっぷち!」 の開催をお祝いし、とにかくそごたんが愛されている本です。 漫画、イラスト、落書き、小説、萌がたり、つぶやきなど、形式は様々です! ※申し訳ございませんが、執筆者様の募集はしておりません。ご了承ください。
https://w.atwiki.jp/papayaga0226/pages/434.html
それは突然のことだった。 とある国に突如出現した、全身2メートル以上の巨大な“人のような”存在。 “彼ら”は銃弾等の兵器攻撃を無効化する特殊な“障壁”を持ち、 常人には不可視である“超能力”と呼ばれる力を用い、 破壊本能のままに街を、人を、何もかもを引き裂き破壊し続ける。 突如出現したその存在を人々はこう呼んだ。 人の姿を持ちながら、人ならざる存在―――“異形の者-ヴァリアント-”と。 人としての知性、理性を持たないヴァリアントとの共生は不可能と判断した各国首脳は、 対ヴァリアント用の兵器の開発、そしてヴァリアントと同様、超能力を有した人間を、 対ヴァリアントのスペシャリストとして育成する方針を打ち出した。 全人類に関わるけして見過ごすことの出来ぬ災厄を前に、各国は力を合わせて全ての作業を急ピッチで進めていった。 ヴァリアントが出現してから数年、今まではただただ蹂躙されるしかなかった人間達の反撃が始まる。 超能力との親和性に富んだ特殊鋼を素材とした武器・通称SSA(special steel arms)を持ち、 日々ヴァリアントとの戦いに身を投じる超能力(PK系能力)、超感覚(EPS系能力)を有した者達。 彼らはこう呼ばれる。 ―――“異形を狩る者-ヴァリアント・ハンター”と。 『合格おめでとうございます、亀井絵里さん。 今日からあなたはヴァリアントハンターとして活動する資格を得ました。 今後の活躍を期待しています』 “亀井絵里”の脳裏に浮かぶ、試験官の穏やかな微笑みと声。 今日、絵里は念願であったヴァリアントハンターとしての試験に合格したのだ。 ヴァリアントハンターだけが持てるハンター証を片手に、帰り道を今にも駆け出しそうな雰囲気である。 誰にでも受験資格があるわけではない特殊な国家資格、それが“ヴァリアントハンター”である。 受験資格はたった一つ―――“超能力”及び“超感覚”を有していること。 まず普通の人間では受験資格すら与えられない、余りにも特殊過ぎる資格である。 また、ヴァリアントハンター試験は超能力を持っていれば誰でも合格できるような温いものではない。 対ヴァリアント用に開発された特殊武器SSAを使った実技試験、ヴァリアントに関する知識等を問う筆記試験。 この二つの試験でそれぞれ80点以上取った者だけが資格を得ることが出来るのだ。 受験料も高額だが、試験を受けるまでにかかる費用はさらに高額である。 そして、実技試験も筆記試験の難度も他の国家資格と比べても高難度の部類に入る。 そのため、ヴァリアントハンターを目指す者はまず、己を受け入れてくれるギルドを探す。 だが、ギルド加入もまた容易ではないため、超能力者の殆どはこの時点で既に篩に掛けられているようなものだった。 幸い、絵里はギルドの人間からスカウトされた為にそういった苦労はせずに済んだのだが。 拠点へと帰る絵里の足取りは軽快そのものである。 絵里は今までに三度受験しその度に不合格だったのだ。 実技試験はいつも満点を叩き出し試験官を驚かせていたが、筆記の方がなかなかクリア出来ずにいた絵里。 次駄目だったらもう試験は受けさせないと、ギルドマスターである“安倍なつみ”に言われていたのだ。 それは絵里にとっては死刑宣告にも等しかった。 ―――ギルドの人間以外につてがあるわけではない、今放り出されたら確実に路頭に迷ってしまう。 絵里は幼い頃に交通事故で両親を亡くし、遠縁の親戚に育てられてきた。 駆け落ち同然で結婚した両親を快く思ってはいない親戚の家で、肩身の狭い思いをしながら暮らしてきた絵里。 絵里の運命が変わったのは、出かけた先でヴァリアントに襲撃を受けたある日のこと。 襲いかかってくるヴァリアントから攻撃を受けた絵里は、 己のうちに眠っていた超能力“風使い-ウィンド・マニピュレート-”を解き放つ。 だが、その力だけでは厚く固いヴァリアントの障壁を切り裂くことは出来ず、死を覚悟したその時だった。 鮮やかな銀の光をたなびかせたなつみが、颯爽と障壁を切り裂いてヴァリアントを一瞬で屠る。 小柄ななつみの手に握られていたのは、大男でも振り回せなさそうに見える程の巨大な剣。 剣を鞘に仕舞ったなつみは、絵里の方を振り返る。 『危ないところだったね。 でも、もう大丈夫だよ』 そう言って微笑むなつみの姿を、絵里は今でも忘れない。 あの時なつみに助けられたから今自分は生きている。 ヴァリアントを退治したなつみは、絵里をギルドへと勧誘してくれた。 親戚が何と言うか分からないと返事を曖昧にした絵里に、大丈夫、何とかするからと言って―――本当に何とかしてしまった。 その出来事から四年、ようやく絵里はゴールに到達したのだ。 そして、明日からはついに、ギルドの正式なハンターとして今までに受けてきた恩を返すため、 ヴァリアントとの戦いの日々がスタートする。 怖くないと言えば嘘になるが、今の絵里はようやく試験に合格出来たという喜びの方が遥かに大きい。 いつも通っている道も、今の絵里にはキラキラと輝いて見えた。 やがて、絵里の視界に飛び込んでくる五階立ての低層ビル。 ここの一階に入っている喫茶店“スノーホワイト”、これと言った特徴のないその喫茶店こそが、 ギルド“共鳴者-リゾナンター-”の拠点だった。 紅黒色の木製のドアを開けると、カランカランとドアベルが音を奏でる。 既に店内には数人、ただならぬ空気を発している者達が居た。 見た目こそ一般人と変わらない彼女達、だが皆この界隈でそれなりに名を上げているハンター達である。 「亀井、どうだった?今回も駄目だった?」 真っ先に声をかけてきたのは、絵里の教育係である“保田圭”であった。 ある依頼を遂行中に利き腕に後遺症が残る程の大怪我を負った為、一線を既に退いている圭。 本来ならば、戦えなくなったハンターはギルドを脱退し一般人と同じように生活を送るのだが、 その技術、知識を後進のハンターへと伝えたいという本人の希望が通り、講師という扱いでギルドに所属している。 「今回の結果は―――」 言葉を紡ぎながら、絵里は圭に向かって飛びつく。 突然のことに目を白黒させる圭に絵里は飛びきりの笑顔で結果を伝えた。 途端、圭の瞳から溢れ出す涙―――鬼の目にも涙とはこのことか、と絵里は心の中で呟いたその瞬間、 絵里の脳天に圭の拳が何の躊躇いもなく振り下ろされる。 「いぃったあい!何するんですか!」 「四年も教育係してるんだからあんたが今何思ったかなんてバレバレよ! どうせ、鬼の目にも涙か、とか思ったんでしょ―――泣いて悪かったわね、 ようやく出来の悪い弟子が試験に合格して…それで泣くなって方が無茶よ本当」 圭の涙声に、絵里の視界もようやく滲み出す。 四年間という決して短くはない期間、朝早くから夜遅くまで毎日圭が付きっきりで指導してくれた。 決して物覚えがいい方とは言えず、運動神経は並より少し上程度の絵里が合格出来たのは、圭の指導あってのもの。 向いていないから辞めろと、何度言われたか分からない。 時には指導するのも馬鹿らしいと、講習の途中で席を立たれたことも一度や二度では済まなかった。 だが、ようやく―――その日々も終わったのだ。 涙を流しながら抱擁を交わす絵里と圭に、周りからも祝福の声が次々と上がる。 しかし、ギルドマスターであるなつみだけは絵里に祝福の声をかけようとはしない。 そのことに絵里以外の人間が気付き始め、店内を包んでいた祝福の空気は徐々にその温かさを失っていく。 シン、とした沈黙の中、なつみがようやく口を開いた。 「カメ、合格おめでとう。 だけど…合格しただけじゃ、うちの正式なハンターとして雇うことは出来ない」 「え…?」 なつみの言葉の意味が分からず、絵里は惚けたような顔で見つめ返すことしか出来ない。 一言告げたきり黙ってしまったなつみの後を引き受けるように、圭が口を開く。 「―――ハンター試験に合格するのは、最低限の当たり前、ってやつね。 亀井、あんたはまだハンターとしての資格を取っただけに過ぎない。 あんたがうちのハンターとしてやっていけるかどうか、今度はギルドの試験を受けて貰う」 「意味は分かりましたけど、ギルドの試験って一体―――?」 絵里の言葉に、なつみと圭が視線を交わす。 一体どんな内容になるのか検討すらつかぬまま、不安だけが絵里の胸を締めていった。 * * * 絵里の問いに帰ってきた答えは非常に分かりやすいものだった。 “ユニオン”に赴き、依頼を一つ受けて―――それを成功させること。 特に難度は問わないが、ギルド側は依頼を成功させるのに必要な武器の貸与以外の支援は行わない。 また、ギルド内外問わず人からの支援を受けることも禁止とされた。 ただし、ユニオンからの情報提供は支援に含まないとされたため、絵里の不安は幾分和らいだのだった。 スノーホワイトを出た絵里は、その足で数百メートル離れたバス停へと向かう。 バスに乗り込んだ絵里は窓際の席を陣取り、不安と期待に胸を高鳴らせた。 ユニオンに近づくにつれ、見たことのない建物や店が増えてくる。 53系統バスに揺られること、約30分。 バスを降りた絵里はポカーンと口をだらしなく開けて、しばしの間固まった。 「…ここが“ユニオン”」 絵里の前にそびえ立つのは、リゾナンターが所有するビルとは比較にならないほど巨大なビルだった。 “エボリューション”―――地下三階、地上五十階からなる高層ビルは見る者を圧倒する存在感を放つ。 全国各地に拠点をもつユニオンの中心施設であり、所属する人員は千人を超えるとも言われている。 “ユニオン”とは、ヴァリアントハンターギルドを束ねる統括機関の総称である。 国、団体、企業、個人問わずヴァリアントに関する案件、情報を豊富に持つ巨大組織。 国と連携して活動を行っており、その規模は最早国家機関といっても過言ではない。 しばらく固まっていた絵里だったが、慌ててビルへと入っていく。 とは言え、初めてきた絵里には勝手が分からない。 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩く絵里を見かねたのか、一人の女性が近づいてきた。 「あなたハンター? それともユニオンに依頼しに来たの?」 「えっと、一応ハンターです、といっても今日資格を取ったばかりなんですけど」 「今日は何をしにユニオンに来たの?」 依頼を受けに来たと伝える絵里に、女性は小さく微笑むと付いてきてと言って歩き出す。 自分の庭を歩くように進んでいく女性の背中を見つめながら、絵里はちゃんと道順を覚えておこうと必死であった。 これから幾度となく訪れることになる施設だが、さすがに何度も人に案内して貰うわけにはいかない。 エレベーターに乗り込んだ女性と絵里は、たわいもない話をする。 何故ヴァリアントハンターとなったのか、これからどんなハンターになっていきたいか。 絵里の言葉に女性は笑いながら、そっと絵里の手を取った―――それと同時に、エレベーターのドアが開く。 「さ、ここが突発案件専門のフロアよ。 いってらっしゃい、雛鳥さん」 「え、あなたもここに用事が」 「とっくに用事は済んでるから。 …あたしも昔、あなたのように何処に行けばいいのか分からなくて困ってた時にこうして助けて貰ったのよ」 そう言って微笑む女性は思わず見惚れてしまうほど魅力的で―――ギルドの面々を思い返してしまうような温かさを持っていた。 ありがとうございますと頭を下げ、絵里は小さく微笑み返して手を振る。 絵里の思考を占めるのは、いつも温かく見守ってくれているギルドの面々。 ―――他のギルドにいくとか考えられない、あの人達と一緒に戦いたい、心の底からそう思った。 女性を見送った絵里は、フロアを進んでいく。 明らかに只者ではない空気を纏う者もいれば、ハンターとは思えないような雰囲気を醸し出す者も居る。 周囲の好奇の視線に身が縮こまる思いをしながら、絵里は受付へと立った。 「いらっしゃいませ」 「あの、一人でも出来るような案件って発生してますか?」 「…ご紹介の前に、ハンター証の提示をお願い致します」 受付の女性の事務的な口調に、絵里は慌てて服のポケットからハンター証を取り出して提出する。 十数秒程の間を置いて、女性は絵里にハンター証を渡してようやく笑顔を見せた。 「本日試験に合格したばかりなんですね、それで早速依頼を受けに…。 亀井さんはまだハンターとしての実績がないので、報酬の少ない低難度の依頼しか受けれませんが、構いませんか?」 「はい、っていうか、低難度じゃないと困ります、絶対に成功させないといけないんで」 絵里の率直な言葉に、女性は思わず苦笑を浮かべながら軽快にキーボードを叩き、マウスを操作する。 それを数度繰り返すこと、わずか三分。 「ご紹介できる案件が見つかりました、これより詳細をご案内します」 淀みない声で女性は絵里に依頼の詳細を説明し始めた。 G地区に発生したランク1のヴァリアント1体の抹殺という、駆け出しのハンターでも出来うるであろう低難度の依頼。 近隣住人は既に避難済みで、現在ヴァリアントは活動期から停止期へと入っているという。 「ヴァリアントが再び活動期に入るのは、明日の正午頃と予測されます。 それまでに準備を整え、早期抹殺することが今回の依頼内容になります。 この案件を受けるのであれば、こちらの書類にサインをお願いします」 机の上にそっと差し出された書類に、絵里はさらさらと流れるような手つきでサインをする。 その書類のサインを確認した女性は、案件の詳細が記載された書類と冊子を一つ絵里に手渡した。 手渡されたものを大事そうに胸に抱えた絵里に、女性は柔らかな微笑みを浮かべて口を開く。 「書類の方、確かにお預かりしました。 こちらの方で後の手続きはしておきますので、今日はもう帰っても大丈夫ですよ」 その声にありがとうございましたと答えた絵里は、来た道を早足で引き返していく。 早くギルドに戻り、準備を整えなければならない―――何もかもが初めてである以上、準備は入念にしたかった。 タイミング良く来たバスに乗り、絵里はスノーホワイトへと戻ってきた。 談笑していた仲間達にただいまとだけ声をかけ、絵里は二階にある自室へと向かう。 その後ろ姿を見つめながら、仲間達は思い思いに口を開く。 「なっち、さすがにぶっつけ本番で依頼させるのはまずいんじゃない?」 「そうだよ、せめて一度くらいは誰かの依頼に同行させてからの方がいいと思うな」 「だよね、一旦どんなもんか見本を見せるくらいのことはした方がいいんじゃないの?」 次々にあがるどこか批難じみた声。 なつみが口を開くより先に声を発したのは圭だった。 「大丈夫よ、何年あの子に色々叩き込んだと思ってるの? あの子が私の教えてきたことをちゃんと身につけていれば、失敗するはずないわ」 圭の言葉にそれもそうかと頷くと、仲間達は再び談笑を始めた。 だが、圭はその輪に加わることなくなつみの方に視線を向ける。 なつみは黙って何かを考えているようだった。 圭はその横顔を見つめながら、誰にも聞こえないようにボソリと呟く。 「…ただヴァリアントを倒してくるだけなら、ね」 師匠である圭の目から見ても、絵里の射撃術は確かなものだった。 おそらく、実戦においてもその射撃術で確実にヴァリアントを仕留めてくるに違いない。 それは、合間合間に絵里の様子を見に来ていたなつみもよく知っているはずだ。 なつみが何を考えて絵里に試練を与えたのか。 長年なつみのパートナーとして戦ってきた圭だけが、その“思惑”に気付いていた。 「…もう朝かぁ…」 少し掠れた声が静かな部屋に溶けていく。 絵里はベッドの上に身を起こすと、軽く伸びをする。 昨晩は大変だった。 書類と冊子に目を通すのに約三時間、その後夕食を取ってからは武器の手入れ、銃弾の準備に約二時間。 それが終われば、今度はG地区までの移動ルート、ヴァリアントがいるポイント付近の地図を頭に叩き込む。 全ての準備が終わってから絵里が就寝したのは、日付が変わって大分経った頃。 充分な睡眠時間を取れたとは言い難いが、ヴァリアントが活動期に入るより前に確実に依頼を遂行したい。 顔を洗い、髪を一つに結わえた絵里は寝間着から“戦闘服”へと着替える。 インナーの上に羽織ったベストに銃弾の装填されたマガジンを数本差し込み、その上からハーフコートを羽織る。 ハーフコートの内ポケットには、ちょっとした怪我に対応できるように応急処置セットを入れた。 携帯端末に情報が入っていることを再確認した絵里は、複合素材で出来た黒いケースを片手に部屋を出る。 持ち運びしやすいようにスリングが付いたケースには―――絵里の“相棒”が眠っている。 階段を下り、スノーホワイト店内に足を踏み入れる絵里。 朝早い時間だというのにも関わらず、既に圭となつみがティーカップを片手に談笑していた。 「おはようございます」 「おはよう、亀。 何か軽く食べる?」 優しく微笑むなつみに、紅茶でいいですと返事をした絵里。 いつもの絵里からは想像出来ない素っ気ない返事に、なつみも圭も思わず苦笑いしてしまう。 いつも穏やかな微笑みを浮かべている絵里も、さすがに依頼となれば真剣な表情を浮かべる。 ましてや、この依頼を成功させねば―――ギルドへの正式加入は叶わないのだ。 朝に相応しくない重い空気に耐えられなくなったのだろう、圭は散歩に行ってくると言って店を出て行った。 散歩ってキャラじゃないよねというなつみの軽口にも絵里がのることはなく、やはり空気は重い。 差し出されたティーカップに口を付けた絵里は―――勢いよく中身を飲み干す。 「ご馳走様でした、じゃあ、行ってきます」 「…行ってらっしゃい」 あえて、その後の言葉を紡がないなつみに気がついたのか。 なつみに一礼をした絵里はケースを肩にかけると足早に店内を出て行く。 G地区はスノーホワイトがあるここR地区からはかなり離れた距離にある。 まずバスで駅まで移動し、そこから電車で移動しなければならない。 最短時間で移動出来るように、時刻と移動経路をまとめたメモを片手に絵里はバス停に向かう。 65系統のバスへと乗り込んだ絵里は後方座席に座ると、小さく溜息を付いた。 緊張で胸が押しつぶされそうだった。 深呼吸を何度も繰り返し、汗をかく手を服の裾で拭う。 大丈夫だと、何年もずっと厳しい講習を受けてきたのだから、自分の技術はヴァリアントを抹殺するに充分だ、と。 何度も何度も自分に言い聞かせているうちに、バスの運転手から声をかけられる―――とっくに、目的地へバスは到着していた。 * * * 電車に揺られて数十分、絵里はG地区の中心駅へと到着した。 ここから目標地点付近までは徒歩で移動する。 携帯端末で地図を確認しながら、絵里は見知らぬ街を進んでいく。 十数分程歩いただろうか、絵里の目に飛び込んできたのは数名の警察官。 絵里の姿を見た警察官は不審そうな視線を遠慮なく絵里に向けてくる。 「あのー」 「何だ? ここから先の一般人の立ち入りは現在禁止されている。 ヴァリアントが退治されるまで大人しくしてな」 横柄な口を聞いてくる警察官に、絵里はハーフコートのポケットからハンター証を取り出して警察官に提示する。 途端に顔色を変えて謝ってきた警察官に苦笑しそうになりながら、絵里は奥へと進んでいった。 奥へと進むに連れ、ヴァリアントが暴れた“痕跡”が辺りに見られるようになる。 亀裂の入った道路、真っ二つに折れた電信柱、原型を留めてない乗用車等…これで、ランク1のヴァリアントだと言うのだ。 絵里の背筋をツゥーッと、汗が伝い落ちていく。 携帯端末を弄り、絵里は目標地点を再確認した後…辺りを見渡す。 絵里の目に止まったのは、5階立ての古びた雑居ビルだった。 ビルの屋上を目指し、絵里は非常階段を上っていく。 数分もかからないうちに、絵里は屋上に到着した―――ここが、絵里にとっての目標地点である。 絵里は屋上の柵ギリギリまで歩み寄ると、肩にかけていたケースを降ろして蓋を開ける。 中に入っていたのは、鈍く輝く鉄色のスナイパーライフル。 絵里はスナイパーライフルを取り出すと、マガジンを装着しコッキングレバーを引く。 ガチャッという小気味よい音が絵里の耳を揺らす―――これで、初弾が装填され、いつでも撃てる状態になった。 絵里が装備しているスナイパーライフル“鉄の狼-アイゼンヴォルフ-”は、ドイツ製のSSAである。 重量は約六キロ、スナイパーライフルとしては軽量な部類だが絵里の“鉄の狼-アイゼンヴォルフ-”は、 本来装備されているスコープや照準器を取り外してあるため、通常品よりもさらに数百グラム軽量化が図られている。 弾丸を撃ち出す仕組みは非常にシンプルなものだ。 軍隊などで使用される銃は引き金を引き絞ることで撃鉄が撃針を打ち、 さらにその撃針が弾薬内の雷管を撃つことにより発射薬を燃焼させ、その際に燃焼したガスが弾丸を撃ち出す仕組みである。 だが、SSAはそうした武器とは全く仕組みが異なるものだった。 まず、弾丸…撃ち出すのは、自分の超能力エネルギーを圧縮注入した弾丸である。 この弾丸を撃ち出すのに必要なのは―――超能力を発動する時に発生するエネルギー。 引き金を引き絞る、この際に超能力を発動する要領で力を込めると…超能力エネルギーがそのまま、 銃内部に装填された弾丸を撃ち出す運動エネルギーへと変換され、弾丸が発射されるという仕組みである。 超能力を使えない一般人にはまさに無用の長物としかいいようのない武器、それがSSAであった。 通常の武器では弾丸の射出速度は殆ど変わらないが、SSAは弾丸の射出速度は籠めたエネルギーに比例する。 射出された特殊弾丸は、その運動エネルギーとヴァリアントの障壁が衝突する際に発生するエネルギーにより、破砕。 破砕と共に圧縮された超能力エネルギーが吹き出し、物理エネルギーでは傷一つ付けられない障壁にダメージを与えるのだ。 絵里は伏射の体勢になると、集中を開始する。 “鉄の狼-アイゼンヴォルフ-”に何故、スコープや照準器が装備されていないのか。 ―――それは、絵里の持つ“超感覚”がそれらよりも遙かに優れているからだった。 絵里の瞳が深い茶色から鮮やかなオレンジ色へと変わっていく。 “鷹の目-ファルコン・アイ-”と圭に名付けられた超感覚は、 その名の通り遠く離れた場所にいる対象物を視覚的に“捉える”ことが出来るものである。 一般的な“遠隔透視-クレアボヤンス-”がマクロだとすれば、この超感覚はマクロからミクロまで自在に、 見える範囲、対象を絞ることが出来る特殊な超感覚である。 超感覚によって構築された擬似視覚が絵里の視界を変貌させる。 絵里の疑似視覚は地上100mの俯瞰から、カメラのコマ送りのような速さをもって標的の拡大図へ変わっていく。 (まだ停止状態…これなら余裕!) 拡大して視たヴァリアントは完全に停止状態だった。 その身を守るための障壁を展開しているものの、動く気配は一切ない。 口元に笑みが浮かぶのを感じながら、絵里は引き金に指をかけて―――動きを止めた。 狙撃対象から5メートルも離れていない位置、そこに人が悠然とした足取りで出てきた。 この付近への一般人の出入りは現在禁止されている、それは警察の人間も同様。 立ち入りを許されたのは資格を持ったハンターのみのはずだ、それなのに何故人がいるのか。 絵里は視線を狙撃対象から人へと移す。 黒ずくめの服装、自分よりも小柄な体格、そして―――両手に持っているのは、拳銃。 そこまで確認した絵里の頭は混乱した。 (え、何で他のハンターがここにいるの!? この依頼を受けたのは絵里のはずなのに…何で?) 何故自分以外のハンターがこの場にいるのか、絵里には全く理解出来ない事態だった。 ただ分かるのは、少なくともあの人物は自分を援護するために現れたのではないということだけだ。 停止状態のヴァリアントを起こそうと、全身から殺気を放っている。 折角楽に終わらせられる低難度の依頼だというのに、このままではどうなるか分かったものではない。 絵里は伏射の体勢を解き、その場に立ち上がった。 スナイパーライフルを空に向かって構えると、引き金に力を込めて引き絞る。 銃口から音速を超えた速度で弾が撃ち出され、辺り数百メートルに銃声が響き渡った。 全身に走る衝撃に一瞬顔を顰めた絵里は、スナイパーライフルを下に降ろして人物の方に視線を向ける。 銃声に気付いたのだろう、その人物は絵里の方を見て露骨に顔を顰めた。 顔を顰めたいのはこっちの方だと思いながら、絵里は牽制の意味をこめて人物の方に銃口を向ける。 無駄な戦いはしたくない、ましてや同じハンターだ。 絵里は退いてほしいと願いながら、人物を睨み付ける。 次の瞬間だった。 絵里の視界から人物が“消える”。 消えたことを絵里の脳が理解するのと、後頭部に何か硬い物が押しつけられた感覚が走ったのは同時だった。 ドクドクドクドクと、一気に心臓が血を全身に送り出す、背筋を嫌な汗が伝っていく。 「…好きな方選ばせてあげる。 大人しく獲物を譲るか、二度と銃を持てない体にされるか。 さぁ―――どっち?」 背後を取られ、その上、後頭部に銃を押しつけられている絶対的不利な状況。 このまま、“彼女”の言う通り退くしかないのだろうか。 そこまで考えて―――絵里の中に沸々と沸き上がってくるものがあった。 先に依頼を受けたのは間違いなく自分だと言うのに、何故自分が退かねばならないのか。 この依頼を成功させなければ、自分はギルドを追い出されて途方に暮れる羽目になるのだ。 絶対、退くものか。 絵里は瞬時に体の向きを反転させると同時に“彼女”の腕を掴む。 呆気に取られたような顔を見せる女性を睨み付けながら、絵里は大きく息を吸い込む。 「獲物を譲るのはそっち、っていうか、この依頼は絵里が受けたんだから。 人の受けた依頼に割り込んで報酬横取りしようなんて、そんなの絶対許さない」 怒気をこめた絵里の言葉を、女性は鼻で笑う。 嘲笑を浮かべた女性の眼光が急に鋭さを増し、絵里の瞳を射貫いた。 「はっ、馬鹿馬鹿しい。 あんたもハンターの端くれなら、ヴァリアントハンター界の現状くらい知ってるやろ? ここ数年で需要に対しての供給が増えすぎた。 それまではギルドに来る依頼だけで充分な稼ぎがあった、でも今は違う。 各所属ハンターが単発の依頼を受け、その分の稼ぎの何割かでもギルドに入れんとギルドの運営自体がままならんところもある。 そして、そういう依頼も今は取り合いや―――現状も知らんでこの世界に入ってくる馬鹿が多くなった分、余計にな」 「でも、絵里はこの依頼だけは絶対譲れない。 ハンターになるために何年も努力してきたし、絵里がハンターになれるように自分のことみたいに必死になってくれた人達がいる。 絵里はこの依頼を成功させないと、その人達と一緒にヴァリアントに立ち向かうことが出来ないの。 ―――お願いだから、退いて」 掴んだ腕に力を込め、絵里は女性を見つめる。 だが、女性の目に宿った眼光は一瞬も揺らがない。 「ハンターになるのに何年もかかるような落ちこぼれなんて、 例えこの依頼を成功させてもギルドの足手まといになるのが目にみえとるわ。 落ちこぼれはそこで指くわえて見てればええ、“暗闇の星-ダークネス・ノヴァ-”の次期エース、 高橋愛の華麗な戦いをな」 言葉を紡ぎ終わると同時に女性―――“高橋愛”はその場から消える。 残された絵里はスナイパーライフルをぎゅっと握ると、何度も深呼吸を始めた。 『あんたの欠点は、一度頭に血が上ると落ち着くまで時間がかかるところよ。 あんたはスナイパーなんだから、どんな時でも落ち着いて、前線で戦うアタッカーをフォロー出来なくちゃいけない。 どんな事態が起きても即座に対応出来るように、フォロー出来るように、平静状態を保つのよ』 圭の言葉を思い出しながら、絵里は何度も何度も息を吸い込み吐き出す。 そうだ、熱くなってはいけない、そんな状態では正確な狙撃は出来ないのだから。 それに―――チャンスが全くないわけじゃない。 絵里は目を閉じて“得た情報”を整理する、 絵里が持つもう一つの超感覚“接触感応-サイコメトリー-”によって得た情報を。 愛が持つ武器は、絵里と同じドイツ製の二丁拳銃。 銃弾の最大装填数は20、そして愛がこの依頼のために持ってきた予備マガジンは二本。 現在愛が所持している銃弾数は合計80発、ランクの低いヴァリアント相手だからとはいえ、 少々敵を舐めているとしか思えない数だ。 ヴァリアントが停止状態なら充分その銃弾だけで障壁貫通、そして始末することが100%可能だろう。 だが、活動期に再び入ったヴァリアントをそれだけの銃弾で始末しきれる可能性は―――100%ではない。 絵里はコートの袖をまくり、時間を確認する。 時刻は午前11時55分―――そろそろ、ヴァリアントが活動を開始する頃だ。 絵里はスナイパーライフルを構え、鷹の目を発動する。 まず、絵里は風速、距離、重力…狙撃を行う際に必要な計算を行う。 一分強で計算を終えた絵里は、予測される着弾点に照準を合わせると―――目標から少しだけ銃口をずらして引き金を引いた。 音速を超えた弾丸が放物線を描きながら、絵里の狙った着弾点へと一ミリのズレもなく到達する。 弾丸は着弾と同時に破砕し、ヴァリアントの展開する障壁を切り裂く鋭い“鎌鼬”がその場に発生した。 これに驚いたのは、既にヴァリアントに対して攻撃を始めていた愛だった。 絵里のいる位置からヴァリアントの障壁まではおよそ600メートル程度、だが、愛が驚いたのはその距離に対してではない。 スコープやレーザーサイトといった照準を合わせるための部品がついていないスナイパーライフルで、 愛にかすり傷負わせることなく正確な射撃を行われたことだった。 通常の弾丸とは異なる、着弾と同時に圧縮注入された超能力エネルギーが吹き出す弾丸は、 着弾点がほんの少しずれただけで自分の意図しないところに攻撃を加える結果になる。 絵里は至近距離でヴァリアントと交戦中の愛がダメージを受けることのないように、 弾丸が破裂した後のエネルギーの吹き出しまで計算して射撃したのだ。 少なくとも、こんな正確無比な射撃が出来る人間は愛のギルドにはいない。 (うちのギルドに来たら即レギュラーやわ…ってか、あいつか? 実技試験では今まで数人しか取っていない満点を叩き出すのに、毎回筆記で落とされる奴って…) ヴァリアントが生み出す念動刃を華麗に避けながら、愛は思わず唇を噛む。 大手ギルドの次期エースである愛は、ハンター資格を得てからわずか三年で屠ったヴァリアントの数は数百を超えていた。 どんな敵にも臆することなく飛び込んでいく度胸のよさ、運動神経のよさで瞬く間にそこまで上り詰めた愛。 愛の胸を焼くのは強い嫉妬だった。 筆記試験で満点を叩き出す人間はそれなりの数がいるが、実技で満点を叩き出せる人間はほんの僅か。 しかも、実技で満点を取った人間の多くが今やハンター界で知らぬ者はない、 知らない奴はモグリだといわれる程の名声を得た実力者である。 愛が実技試験で取った点数は93点、この数字は受験者の平均点である85点を余裕で超えている。 近年より高難度になったと言われる実技試験で90点台を突破するものは100人中5名程度、即戦力として採用されるレベルだ。 それこそ、満点なら…自分から門を叩かなくとも数多のギルドから好条件で勧誘の声がかかる。 「あんな温いことしか言えんような奴が満点…!」 引き金を引き絞る指に力が籠もる。 敵の攻撃を避けながら小刻みに銃弾を撃ち込み続ける愛を嘲笑うかのように、時折遠くから銃弾が着弾する。 冗談じゃない、あんな奴に獲物は渡さない。 愛は気付いていなかった。 絵里の存在に気を取られる余り冷静さを失いつつある自分、そのことに気付くことのないまま、 ひたすら障壁へと弾丸を撃ち込み続ける。 ランク1の低級ヴァリアントの障壁だからマガジンは2本もあれば充分だろう、そう思っていた愛。 だが、それは、愛が平静さを持って狩りに臨めばの話だった。 銃弾による攻撃での障壁破壊のセオリー、それは一点集中。 ヴァリアントを包み込む強力な障壁を破らずにそれを屠ることは不可能、 まずは障壁を破る為に何処か一点に狙いを定めて連射、が基本である。 普段の愛であればとっくに、障壁を破って弾丸の雨をヴァリアントに浴びせていただろう。 だが、冷静さを欠いた愛の射撃は狙いが甘く、銃弾を消費している割に罅の一つも入っていない。 それもまた、愛の心を苛立たせていく―――何故、こんな敵に手こずらなければならないのか、と。 愛が焦って銃弾を消費していくのを見つめながら、絵里は淡々と狙撃を行っていた。 愛に気付かれることのないように、時に愛の放つ銃弾が破砕するタイミングに被せながら、 障壁の一点に狙いを定めて撃つ。 愛が一旦ヴァリアントから離れた。 マガジンを交換するのだろう、残りの弾は40発…上手くいくだろうか。 絵里が狙っているのは障壁の一点だけではない。 冷静さを欠いた愛が銃弾を撃ち尽くして成す術がなくなるように、一点突破の狙撃の合間に挑発のための狙撃も行っている。 絵里が今回の依頼のために準備した銃弾は、200発。 低級ヴァリアント1体相手に準備するには多すぎるとも言える数だったが、 絶対に依頼を成功させるためにと念を入れて準備してきたのだ、当の本人はこういうケースは想定していなかったが。 愛が再び距離を詰め、小刻みな攻撃を開始する。 幾分落ち着いたのだろうか、先程よりは狙いが定まっているようだ。 「…今頃落ち着いても遅いよ」 絵里の独り言は風に流れる。 狙撃を開始してからずっと、狙いを定めながら愛の様子を見てきた。 愛の様子だけではない、愛が放つ銃弾の威力もずっと注視してきたのだ。 遠くから離れて行う狙撃とは違い、至近距離での射撃では引き金に籠められるエネルギーに限界がある。 通常以上にエネルギーを籠めようとすれば0コンマ秒での遅れが出る、それは時に、 至近距離で戦う者にとっては生死を分ける時間となるのだ。 エネルギーを籠めれば変換される運動エネルギーが銃弾の威力に上乗せされる、 だが、そんな余裕は愛にはなさそうだった。 今の愛の銃弾の威力では、残りの弾で障壁を破ることが出来たとしても―――肝心の攻撃分は残らない。 絵里の口角がつり上がる。 愛が放つ銃弾の数をカウントしながら、タイミングを量る。 ドクドクと鳴る心臓の音が聞こえる。 だが、それは自分の心臓の音ではない、この心臓の音はヴァリアントの心臓の音だ。 もう、ヴァリアントの命は愛の手からすり抜け、自分の掌中にある。 絵里はコートのボタンを全て外し、中のベストに装着していたマガジンを全部取り出して地面に置く。 そして、絵里はこの屋上に来た時と同じように伏射の姿勢を取った、これで万全の態勢が整う。 一番命中率の高い姿勢を取り、銃弾を撃ち尽くしてもすぐに新しいマガジンに交換が可能―――後は、愛の弾切れを待つのみだ。 (くそ、もう弾が! こうなったら、あいつのスナイパーライフルを奪って戦うか?) 残りの銃弾は両手合わせてもう10発もなかった、“瞬間移動-テレポーテーション-”で一旦予備のマガジンを取りに戻る、 そういう選択肢は選べない―――取りに戻る間に、絵里に獲物を奪われてしまう可能性があるからだ。 今まで狩れなかったヴァリアントなどいない、そしてこれからも存在してはいけない。 最大手ギルドの一角を担うギルドの次期エースとして、絶対にこの獲物を譲るわけにはいかないのだ。 だが、愛の中には迷いがあった。 近接戦闘用のSSAと長距離狙撃用のSSAでは、そもそも設計思想が根本から違う。 狙撃用SSAの使用経験が無に等しい愛では、たとえ得物を奪えたとしても上手く扱える保障がなかった。 いや、扱えたところで眼前のヴァリアントを倒すのはまず不可能と考えるべきかもしれない。 迷っているうちに―――愛の銃弾は0になった。 愛はバックステップで一旦距離を置く、こうなったら、絵里を昏倒させてその間に銃弾を取りに戻るしかない、 そこまで考えた愛は次の瞬間―――ありえない光景を目にすることになる。 「いっけえええええええ!」 叫び声と共に絵里の怒濤の攻撃が開始された。 引き金を引きっぱなしにし、狙撃していた着弾点へ一気に連射する。 衝撃が体に走り続けることを気にも留めず、絵里は引き金に力を籠め続ける。 障壁に徐々に亀裂が走り始める、銃弾が切れる。 絵里は素早くマガジンを交換すると、再び連射を開始する、それを二回繰り返した頃―――ついに、障壁が砕けた。 残りの銃弾は今装着しているマガジン+予備マガジン一本。 これだけあれば充分だ。 心臓の音が聞こえる、先程よりも大きく確かに。 途切れることのない衝撃に腕が悲鳴を上げている。 連射するために常にエネルギーを放出し続ける体が、軋んでいる。 普段の射撃訓練でも、一回にこれだけの銃弾を撃つことはなかった。 鷹の目を常時発動し常に正確無比な射撃を行い続けるという行為は、絵里にとって未知の領域。 全てが終わるまで持ちこたえられるか予測する余裕は、もうなかった。 『亀がスナイパー…アタッカーよりそっちの方が全然いいと思うな。 折角、スナイパーだったら誰でも欲しがるようなすごい超感覚持ってるんだし、 そういうのを活かさないのって勿体ないしね』 『あんたがなつみみたいなアタッカーになりたいってのは分かるわ、アタッカーは花形だしね。 でも、ね…スナイパーってのもいいもんよ。 目立たないかもしれないけど、前線のアタッカーが楽に戦えるように支援する、これは誰にでも出来るもんじゃない。 卓越した射撃術、常に冷静な目で戦況を見つめ判断を下せるだけのクレバーさ。 主役じゃないかもしれない、だけど主役より重要にもなれる…それがスナイパーってもんよ』 脳裏に蘇るなつみと圭の優しい声。 その声だけが、未知の領域に挑み続ける絵里を支えていた。 ヴァリアントが持つもう一つの特徴、それは―――驚異的な自己再生力。 数発弾丸を撃ち込んだ程度では瞬く間に回復されてしまう。 着弾と共に吹き出す鎌鼬が確実にヴァリアントの体を切り刻んでいく。 自己再生力を上回る激しい攻撃―――もう、ヴァリアントの命は風前の灯火だ。 だが、こちらの銃弾もそろそろ底を突く。 残りの銃弾が20になった頃、絵里は引き金を引く指に今まで以上のエネルギーを送り込んだ。 「っつ!」 最後の銃弾を発射したと同時に、スナイパーライフルがミシッという音と共に半壊した。 極端な酷使にも耐えうるように製造されたSSAだが、ここまで極端な酷使をする人間がいるとは、 製造した人間も全く想定していなかっただろう。 絵里は肩で息をしながら小さく笑う―――ヴァリアントは跡形もなく消滅していた。 * * * 無事依頼を成功させた絵里だったが、その後が大変だった。 愛にはライバル発言された上に一方的にマークされ、半壊したスナイパーライフルを手にギルドに戻ったら圭に怒鳴り散らされ。 初の依頼で得た報酬は全て銃の修理費用に消え、絵里の手元には一銭も残らなかった。 その上、極端な連射のおかげで数日はスナイパーライフルどころかご飯茶碗を持つだけで腕が震える有様。 まだまだあんたにはあたしの指導が必要なようね、と笑う圭が嬉しそうだったので思わず顔を顰めたら、 思いっきり腕を掴まれて悶絶する羽目になって、涙目になる絵里。 二人のやり取りを見つめながら、なつみは穏やかな微笑みを浮かべる。 圭の指導のおかげで射撃だけなら既に中堅ハンター以上の絵里に、 何故、ヴァリアントを狩るだけという単純な試験を与えたのか。 それは、この世界で生き抜くだけの図太さがあるか知りたかったからだった。 今回の絵里のように依頼に割り込まれることは、数年前ならまず有り得なかった。 ヴァリアントの数に対してハンターはまだまだ足りない状況で、どこのギルドも人員を欲していたのだ。 今では、ギルドに回ってくる依頼だけでは運営がままならなくなり、ハンター達はギルドのため、 自分の為に個人で出来る依頼を受けるようになった。 そして、その依頼の数は決して多くはない。 絵里は運がよかった。 今回のような奪い合いで負傷し、二度と戦線に立つことが出来ない体になることだって充分にあり得るのだから。 個人の依頼にギルドは立ち入らないというルールのおかげで、 過失を装い相手を負傷させるという無茶をやる人間も少なくはなかった。 だからといって、そこで尻込みして帰ってくるようでは話にならない。 絵里がこれから生きていこうとしている世界は、生半可な気持ちでは生き抜くことが出来ない世界なのだ。 幾ら腕がよくても、時には自身の身を守る為に同胞を撃つくらいの覚悟がなければ、 あっという間に普通の生活すらままならない体にされることは決して珍しくない。 今後、この状況は更に加速していくだろう、最悪、ギルドのために尽くしてくれた人間を数人解雇することもあり得る。 そうなった時、ギルドに残すのは…何があっても依頼を確実に遂行出来る、腕のいいハンターだけだ。 ギルドに絶対に残したい、そう思わせてくれるだけのハンターに絵里は成長してくれるだろうか。 なつみは微笑みながら窓の外を見る。 すっきりしない曇り空は、まるで今の絵里のようだった。 腕は充分ある、だけど今後どういう未来を進んでいくのかは分からない駆け出しのハンター。 一流のハンターになる前に誰かに潰されるかもしれないし、絵里自身がこの世界に嫌気が差して去っていく可能性もある。 そうならないことを祈りながら、なつみは二人の方へと歩み寄っていく。 ―――亀井絵里がヴァリアントハンター界にその名を轟かせる日が来るのか、それを知る者はない。
https://w.atwiki.jp/idol8/pages/1413.html
黒谷つみきをお気に入りに追加 黒谷つみきとは 黒谷つみきの41%は汗と涙(化合物)で出来ています。黒谷つみきの37%は保存料で出来ています。黒谷つみきの12%は魔法で出来ています。黒谷つみきの5%は優雅さで出来ています。黒谷つみきの4%は陰謀で出来ています。黒谷つみきの1%は明太子で出来ています。 黒谷つみき@ウィキペディア 黒谷つみき 黒谷つみきの報道 gnewプラグインエラー「黒谷つみき」は見つからないか、接続エラーです。 黒谷つみきをキャッシュ サイト名 URL 黒谷つみきの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 黒谷つみきのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 黒谷つみき このページについて このページは黒谷つみきのインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される黒谷つみきに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/satsumakenshi/pages/147.html
(じんケンあゆみちゃん) 概要 ひっとべ!ボッケモンランド第26回から登場。 人権イメージキャラクター。 人KENまもるくんと共に活動している。 デザインは、アンパンマンの作者として有名な漫画家の「やなせたかし」。 人権啓発活動では、やなせたかし作詞・作曲の人権イメージキャラクターソング「世界をしあわせに」も活用されている。 * 登場 性格 人権が尊重される社会の実現に向けて、全国各地の人権啓発活動で活躍している。 * 好きなもの・嫌いなもの * 趣味・特技 特徴 一人称は「私」。 赤色の頭巾を被った女児。 前髪が「人」の文字になっており、胸に「KEN」のロゴが入ったシャツを着て「人権」を表している。 声優 和泉 向日葵(いずみ ひまわり)(*1) 関連リンク 人権イメージキャラクター 人KENまもる君・人KENあゆみちゃん 法務省 「人KENまもる君」「人KENあゆみちゃん」の活動(人権イメージキャラクター) 出典参照リンク 「 アフレコと椎茸の週末 」 薩摩剣士隼人プロジェクトスタッフブログ、2013年2月19日。
https://w.atwiki.jp/satsumakenshi/pages/146.html
(じんケンまもるくん) 概要 ひっとべ!ボッケモンランド第26回から登場。 人権イメージキャラクター。 人KENあゆみちゃんと共に活動している。 デザインは、アンパンマンの作者として有名な漫画家の「やなせたかし」。 人権啓発活動では、やなせたかし作詞・作曲の人権イメージキャラクターソング「世界をしあわせに」も活用されている。 * 登場 性格 人権が尊重される社会の実現に向けて、全国各地の人権啓発活動で活躍している。 * 好きなもの・嫌いなもの * 趣味・特技 特徴 一人称は「僕」。 オレンジ色の頭巾を被った男の子。 前髪が「人」の文字になっており、胸に「KEN」のロゴが入ったシャツを着て「人権」を表している。 声優 和泉 空(いずみ そら)(*1) 関連リンク 人権イメージキャラクター 人KENまもる君・人KENあゆみちゃん 法務省 「人KENまもる君」「人KENあゆみちゃん」の活動(人権イメージキャラクター) 出典参照リンク 「 アフレコと椎茸の週末 」 薩摩剣士隼人プロジェクトスタッフブログ、2013年2月19日。
https://w.atwiki.jp/idol7/pages/1454.html
黒谷つみきをお気に入りに追加 黒谷つみきとは 黒谷つみきの41%は汗と涙(化合物)で出来ています。黒谷つみきの37%は保存料で出来ています。黒谷つみきの12%は魔法で出来ています。黒谷つみきの5%は優雅さで出来ています。黒谷つみきの4%は陰謀で出来ています。黒谷つみきの1%は明太子で出来ています。 黒谷つみき@ウィキペディア 黒谷つみき 黒谷つみきの報道 gnewプラグインエラー「黒谷つみき」は見つからないか、接続エラーです。 黒谷つみきをキャッシュ サイト名 URL 黒谷つみきの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 黒谷つみきのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 黒谷つみき このページについて このページは黒谷つみきのインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される黒谷つみきに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/akb43/pages/1445.html
黒谷つみきをお気に入りに追加 黒谷つみきとは 黒谷つみきの41%は汗と涙(化合物)で出来ています。黒谷つみきの37%は保存料で出来ています。黒谷つみきの12%は魔法で出来ています。黒谷つみきの5%は優雅さで出来ています。黒谷つみきの4%は陰謀で出来ています。黒谷つみきの1%は明太子で出来ています。 黒谷つみき@ウィキペディア 黒谷つみき 黒谷つみきの報道 gnewプラグインエラー「黒谷つみき」は見つからないか、接続エラーです。 黒谷つみきをキャッシュ サイト名 URL 黒谷つみきの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 黒谷つみきのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 黒谷つみき このページについて このページは黒谷つみきのインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される黒谷つみきに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/3size/pages/2149.html
田中こなつ プロフィール(スリーサイズ、カップ情報) タナカ コナツ 生年月日:1988年09月16日(33歳) 身長:160 体重:42 B:77 W:60 H:80 カップ: 備考: Wikipedia: https //ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E3%81%93%E3%81%AA%E3%81%A4 関連URL: http //www.sunmusic.org/profile/tanaka_konatsu.html 所属アイドルグループ コンテスト 出演ドラマ アンナチュラル 健康で文化的な最低限度の生活 よつば銀行 原島浩美がモノ申す! 家売るオンナの逆襲 モトカレマニア 関連タグ:よつば銀行 原島浩美がモノ申す! アンナチュラル 健康で文化的な最低限度の生活 家売るオンナの逆襲 田中こなつ
https://w.atwiki.jp/i914/pages/114.html
キーボードを叩く音がピタリと止んだ。。 さして広くはない薄明るい室内には、大量の機械類が所狭しと据え置かれている。 富士山の北西に広がる青木ヶ原樹海。 面積はおよそ30万平方メートル、1200年程の歴史しかない若い森。その一角に、この施設はあった。 人の目に触れぬ地下に建造されたこの施設の主は、虚空を見つめ唇を真一文字に結ぶ。 数十秒程経っただろうか。この施設の主“保田圭”は、白衣の裾を翻して部屋を後にした。 少々薄暗い灰色の廊下に、一定のリズムで刻まれる足音。 正面を見据えて歩く瞳の鋭さとは裏腹に、歩く速度は悠然とさえ言える。 その横顔からは何を考えているのか読むことは出来なかった。 やがて、圭は一つの扉の前に立つ。 センサーの作動音と共に、灰色のドアは左右へと割れた。 圭は足を踏み入れながら部屋の中央へと視線をやり、口角を釣り上げる。 「待たせたわね、小川」 「いえ。お疲れ様です、保田さん」 機械類と家具が混在する空間。おそらくここは施設の居住スペースなのだろう。 小川と呼ばれた女性は、保田の姿を見て明らかに安心したような表情を浮かべていた。 小川麻琴。 かつて圭が所属していた“組織”の一員であり、圭にとっては可愛い後輩だった。 圭の記憶の中では、太陽のような眩しい笑顔で常に周囲に明るさを振りまいていた少女だった麻琴。 数年間会わないうちに、麻琴はすっかり大人の女性となっていた。 圭は麻琴の向かい側の席に座り、眩しいものを見るかのように目を細める。 口元に僅かに浮かぶ笑みに、麻琴も満面の笑みを浮かべた。 「大役ご苦労さん、本当にあんたは頑張ってくれたわ…感謝する、本当にありがとう、小川」 「そんな、保田さん頭を上げてくださいよ。 私がしたことなんて全然大したことないですから!」 深々と頭を垂れる圭の姿に、麻琴が慌てふためく。 その雰囲気を察してか、圭は頭を上げ…麻琴の頭へと手を伸ばした。 二度、三度と、麻琴の存在を確かめるかのように髪を撫でる圭。 その手の優しさに、麻琴の瞳にうっすらと涙が浮かび、やがてこぼれ落ちた。 「ほら、もう泣かないの。 しっかし…大人になってもあんた、何も変わんないわね」 「保田さんは老けましたね、今幾つでしたっけ?」 「…小川…」 「冗談ですよ、冗談」 二人の笑い声が、広い空間に響く。 数年間全く会うことがなくとも、まるで常に一緒にいたかのような温かさが場を満たしていった。 麻琴と圭が共に過ごした期間は、僅か一年程。 圭が組織を離脱してからは、互いに連絡を取りたくとも取れない状況であった。 圭が組織を離脱して、数ヶ月。 たったそれだけの時間で、組織は…かつての姿を思い起こすことすら困難な程変容してしまった。 光を掲げていたはずの組織は、ある日を境に闇に墜ちる。 麻琴は、闇に墜ちてもなお、その組織に所属することを余儀なくされた人間だった。 離脱すること叶わず、数年の月日が流れ。 このまま何も変わらぬ日常が続くと思っていた麻琴に突如訪れた、組織離脱の機会。 それは、ほぼ同時期に組織に所属した、麻琴にとっては妹のような存在である“新垣里沙”が、 数年間に渡る敵対組織へのスパイ活動を終えた次の日のことだった。 里沙が敵と心を通じ合わせたという理由の元、“処理”されるという情報をかつての同胞から得た麻琴は、 姉同然に慕う“安倍なつみ”に報告する。 なつみは、それを阻止しなければならないと…麻琴に協力を仰ぎ、封じられた己の力の解放を目論んだ。 麻琴の決死の覚悟が身を結び、なつみは封じられていた己の力を取り戻すことに成功する、が。 それを見越していたかのように、なつみにかけられた“呪い”が発動した。 発動した呪いに苦しむなつみは、里沙救出を麻琴と…里沙がスパイ活動を行っていた組織の人間に託すために、 苦痛に苛まれながらも麻琴を組織から離脱させたのであった。 なつみの願いを叶えるために、麻琴は必死に組織からの追跡を逃れ。 つい先程、託されたことを成し終えたばかりだった。 里沙がスパイ活動していた組織“リゾナンター”の人間を、圭の元へと連れて行く。 まず、生きてリゾナンター達の元へと辿り着かなければならないし、 合流後は速やかにかつ追っ手を攪乱するように行動しなければならない。 麻琴は真新しい服に身を包んでこそいるが、露出した部分には幾つもの痛々しい傷が刻まれている。 緊張の糸が切れたせいか、断続的な苦痛が麻琴の体を苛んでいた。 だが、麻琴はそれを押し隠すように微笑む。 「…そういえば。 保田さんは何で、Mを抜けたんですか? …たった数ヶ月です、保田さんがMを抜けてから、たった数ヶ月で…Mはダークネスになりました。 もしも、保田さんの抜けるタイミングが少しでも遅かったら…今の未来はありえなかった。 ―――こんな未来がくることを、保田さんは予測していたんですか?」 「…小川は、何でMが出来たか知ってる?」 質問を質問で返され、麻琴は言葉に詰まる。 部屋に広がる沈黙。 圭は微笑みの一つすら浮かべず、麻琴の目を射貫くように見つめていた。 麻琴は軽く息を吸い込んだ後、ゆっくりと口を開く。 「Mに拾われてから、Mが“ダークネス”へと転身するまでの間に、そういう話を具体的に誰かから聞くことはありませんでした。 私やガキさんが入った頃のMは、より一層飛躍するために精力的に活動していたから…常に能力者の人間は出ずっぱりで、 そういうことを聞こうにも聞けなかったんですよね…。 ガキさんからちらっと聞いたことはありますけど、あの子その話した時、すごい興奮してたからよく分かんなかったし」 麻琴の言葉に、圭はそっかと言ったきり黙り込む。 確かにその当時のMは、能力者達は戦闘や他の組織同士の揉め事を調停しにと、連日連夜出払っていた。 圭もまた、その能力を請われて数日留守にすることも多々あったし、帰還したら即研究室に閉じ籠もるような生活を送っていた。 そもそも、麻琴はある事件の被害者の子供であり、家族以外に身寄りの無かった麻琴を哀れに思ったなつみが、 周りの制止の声を振り切って組織へと連れ帰ってきたのである。 超能力の使えない麻琴は、朝から晩まで厳しい訓練に明け暮れていたと人づてに聞いていた。 組織の成り立ちや将来のビジョン。 短い時間でさらりと話すような内容ではない上、話す方、聞く方、互いのタイミングというものもある。 そうして、麻琴は…誰からも十分な話を聞けぬまま、運命の奔流に巻き込まれていったのだろう。 微妙な空気を打ち破るように、圭は柔らかく微笑む。 「…あんたも十分立派な関係者になったことだし。 いい機会だから、話してあげるわ。 何故、Mが生まれたのか。 何故あたしはMから離脱したのか…さっきあの子達に話した説明だけじゃ、不十分なところはあるしね」 「…お願いします、保田さん」 麻琴の目にはもう、涙はなかった。 目に浮かぶ強い光は、子供だったあの頃よりもより強く、圭の胸を撃ち抜く。 大役を任され、それを果たしたことで大きな成長を遂げたのだろう。 記憶の中よりもずっと頼もしく見える麻琴へと、圭はゆっくりと口を開く。 ―――長い夜が始まった。 * * * 数十人の研究員が、しきりに手に持つノートへと何かを記入している。 圭の眼前では、潜在能力値ナンバーワンと言われている安倍なつみと、 戦闘能力ナンバーワンとも評価されている後藤真希が戦いを繰り広げていた。 身体能力と有する超能力でなつみを追い詰めていく真希。 だが、圭は周りの真希に対する驚きの声とは別のことを思っていた。 なつみは真希を相手にしても、全く己の持つ能力を行使しようとはしない。 “言霊”と呼ばれる、言ったことを本当のことにしてしまう能力の持ち主であるなつみ。 その気になれば、一瞬で止めを刺すことすら可能な力の持ち主は、真希の攻撃を軽やかに、舞うように避けていた。 なつみはよく出来た子だと、一つしか年齢の変わらぬ圭は内心で呟く。 己の持つ絶大な力を律する心。 僅か16歳にして、なつみは既に自らの能力を誰よりも理解していた。 その気になれば、腕に巻かれたデバイスを破壊し神の如く振る舞うことも可能だというのに。 日常時、戦闘時問わず、なつみは必要以上に己の持つ能力を行使することはなかった。 言霊という能力ではなく、その能力を発動する際に発生するエネルギーを上手く利用して、 なつみは真希の繰り出す攻撃を避け、時には相殺している。 真希の横顔には、僅かながらの苛立ちが浮かんでいた。 対峙している人間だからこそ、なつみが本気を出していないことが誰よりもよく分かるのだろう。 その横顔を見て、思わず圭は苦笑せざるを得ない。 真希はこの施設の中で最年少の能力者だ、まだまだなつみのような境地には達することが出来ないのも無理はなかった。 戦闘訓練ではあるが、真希にとっては真剣勝負。 それなのに、対峙するなつみはけして真っ向から真希とやり合おうとはしない。 真希は己のもつ能力“空間支配”を存分に行使しているというのに、 なつみはあくまでも、自分の持つ力を本来の形で行使しない戦い方を選択している。 それが真希には歯がゆいのだろう。 けして、なつみは手を抜いているのではなく、自らの意思でその能力を律しているだけに過ぎないのだが。 真希が動く。 対峙するなつみ。 銀色の光と金色の光がぶつかり合う。 ―――互いの拳がぶつかり合ったところで、研究員の制止の声が響いた。 「やー、焦った-。 なっち負けちゃうかと思ったべさ」 そう言って太陽のような眩しい笑顔を浮かべるなつみ。 対する真希は。 「…もー、なっちはいつも手ぇ抜くんだからー。 今度はちゃんと、言霊使ってよね」 なつみに文句をつけながら、部屋を後にする。 不機嫌さを隠そうともせずにスタスタと歩いて行く真希を、研究員の一人が追いかけていく。 おそらく、デバイスが破損していないかチェックするためだろう。 圭は溜息を一つつくと、真希達の後を追う。 デバイスが関わるとなると、自分も行った方がいいのだ。 例え、何かあってもなくても、あの研究員は圭を呼びに施設中を歩き回ることが予測できるのだから。 石川県北部。 交通の便がいいとは言い難い街の片隅に、圭達の住む研究所はあった。 表向きは、民間の生物研究所、だが、実際は―――クローン研究所である。 しかも、この研究所は…超能力と呼ばれる、常人には理解不能の力を持った人間を生み出すための施設であった。 クローン技術の第一人者として知られる、寺田博士。 彼の持つ技術を存分に駆使して生み出された存在が、圭達であった。 動物に限らず、普通の人間であれば今の技術的には十分生み出すことが可能である。 だが、超能力を持った人間を生み出すことが出来るのは、世界でただ一人、寺田のみ。 寺田はクローン研究で得た莫大な資金を元に、更なる研究を推し進めるべく研究所を構えた。 その結果の完成系に最も近いのが、圭達―――強大な超能力を有するクローン。 寺田は今も尚、圭達のデータを収集、分析しながら新たな研究を進めている。 先程の訓練は、そのデータ収集を兼ねていた。 最も、圭達は自らの能力をほぼ無効化するデバイスを身につけているため、実際のデータは得られた結果の何倍、 何十倍もの数値となることだろう。 圭は真希と研究員を見つけると、間に割って入る。 研究員の殆どが、機器関係の知識は一般人よりはあるが専門家には劣るというレベルである。 この施設で一番そういった知識を持ち合わせているのは、まだ二十歳にもならない圭以外には存在しない。 圭は“創造”という、既存の物を自分の思うがままの物へと作り替える能力を有している。 その能力を駆使し、様々な物を、既存の技術では作ることの出来ない唯一無二の物へと作り替えてきた。 真希や他の仲間達、そして自分が付けている、能力封じのデバイスも圭が生み出してきたものである。 そうした物を生み出すには、膨大な知識が必要だった。 それは超能力に関する知識だけに留まらない。 あらゆる学問の専門的な知識を身につけるために、圭だけは他の仲間達とは違う生活を送っていた。 圭のためにと用意された専門書ばかり収集された書庫で、圭は1日の大半をそこで過ごしている。 圭は真希のデバイスをチェックし、異常がないことを確認する。 研究員に問題ない旨を告げ、圭はその場を後にしようとした、が。 「圭ちゃーん、また勉強するのー? たまにはごとーと遊んでよ-」 「遊ぶって、あんたの遊ぶは戦う、でしょ…。 勘弁してよ、あたしはそういうのは得意じゃないの。 あんたみたいに身体能力も超能力もずば抜けたのとやりあったら、五分も持たないわよ…」 腕に纏わり付いてくる真希を押しのけ、圭は早足でその場を去る。 幸い、真希が付いてくる気配はなかった。 圭は本日二度目の溜息を盛大につく。 真希は悪い子ではない、だが、その好戦的な性格はまだ若い圭では上手くコントロール出来ない。 しかも、真希は一切、加減という物を知らないのだ。 最近では少しはマシになったものの、以前はそう簡単には壊せないデバイスに罅を入れるほど力を放出していたため、 訓練で対峙する人間はしばしば怪我を負う羽目になった。 年齢を重ねるうちに、そうした好戦的な性格が改善されればいいのだが。 圭はそこまで考えて、三度目の溜息を付く―――どう考えても、これは自分の管轄外だ。 自室へと向かう圭の視界に飛び込んできたのは、圭達が住む居住フロアの出入り口だった。 しんと静まりかえった廊下を歩く圭。 かつては、この廊下には今では考えられない程の喧噪が溢れていた。 現在、圭を含めてこのフロアには八名しか居住していないが…数ヶ月前までは倍近いクローンがここに居たのだ。 どういった事情があるのかは分からない。 だが、彼女達は一人、また一人とこの施設を去っていった。 今頃は、自分達のことを忘れて一般社会で新たな人生を送っていることだろう。 部屋に戻った圭は、鍵をかけるとベッドに倒れ込む。 溜息が出そうになるのを堪えて、圭は天井を見上げる。 沁み一つ無い、真っ白な天井を見上げるその目は、どことなく虚ろだった。 いつかは。 ここを出ていった彼女達のように、自分も新たな人生を選ぶ日が来るのだろう。 だが、圭はその選択肢を積極的に、自らの意思で選びたいとは到底思えなかった。 無条件でここを去れるのならば、今頃こんな殺風景な部屋で寝転んでなどいない。 この施設を出る条件は二つあった。 一つ、己の持つ超能力の完全封印。 一つ、ここで過ごした一切の記憶の消去、及び記憶の改竄。 自分の持つ能力が使えなくなる事への未練はない、が。 圭にとってのネックは、記憶に関することだった。 今まで培った知識は多分、消去や改竄の対象にはならないだろう。 だが、今までここで生きてきた17年間の記憶。 それは一切なかったことになり、全く別物の記憶を与えられる、そのことが圭には耐え難い苦痛だった。 生まれた時から、ずっと皆と一緒に生きてきたのだ。 同じ血を分けた姉妹ではないが、家族と言ってもいい仲間達。 共に笑い、泣き、怒り…色んな思いを分け合って生きてきたかけがえのない時間。 彼女達と過ごした記憶を消され、全く別人としての人生を歩むことなど考えられなかった。 しかし、いつまでこの生活が続くのかとうんざりすることもある。 毎日のように訓練、学習に明け暮れ…この施設から一歩も外に出ることを許されない自分達。 一体、自分達は何のために存在するのだろう。 鳥かごの中で飼われる鳥の如く、このまま死ぬまでここで生きていくしかないのか。 白い天井がやけに眩しく感じて、圭は目を伏せる。 他の仲間達も、おそらくは自分と同じ気持ちを抱いているはずだ。 己の存在理由に悩み、繰り返される同じ日常を憂い。 この苦しみに耐えきれなくなる時こそ、ここを出ていく時。 ―――その日は刻一刻と、確実に圭にも、仲間達にも近づいている。 転機が訪れたのは、圭が18の誕生日を迎える直前のことだった。 それぞれ、訓練に学習にと励んでいた八人の仲間達は、突然、所長室に呼び出された。 圭は隣にいたなつみと顔を見合わせて、首をかしげる。 寺田からの呼び出しはそう珍しいものでもない。だが、それはあくまでも個別で呼び出されるという形に限る。 クローン達を一同に集めて何か話したことなど、今までになかったことだった。 仲間達の最年長“中澤裕子”を筆頭に、八人は所長室へと向かう。 一体何だろうかと圭のように訝る者もいれば、真希のように何も考えずに会話に興じる者もいた。 所長室には、寺田以外にもスーツを着た人間が数人。 外部の人間、しかも相当な権力を持った人間だろうと察したのか、それまで無邪気に会話を楽しんでいた真希ですら黙り込んだ。 訪れた静寂。 八人の顔を見渡した後、寺田はこう言った―――お前達の力を世界の為に役立ててみないか、と。 突然言われたことに何も言えずにいた八人に、寺田は畳みかけるように話を続ける。 世界には自分達のような超能力者が少数ながらも存在するということ。 中には悪人と手を組み、私利私欲のままに罪のない人々を苦しめたりする輩が少なからずいるということ。 そういった者を更正…あるいは排除するために、圭達のように優れた力を持つ人間の力が必要であること。 突如与えられた存在理由に、仲間達は一様に喜んでいた。 中には、争い事を好まないが故に難色を示す者もいたが…寺田や訪れていた政府関係者の熱い言葉に心を動かされたのか、 最終的には他の仲間達同様に寺田達の提案に良い返事を返したのだった。 ―――かくして、超能力組織Mとして八人の新たな日々が始まったのであった。 * * * 「そうやってMは出来たんですねぇ…」 「そ。最初の頃は本当、大変だったのよ。 あたし達は確かに普通の能力者とは違って、生まれた時から色んな教育を受けてきたけど…組織の運営方法なんて誰も知らないし。 裕ちゃんはいつも胃が痛そうだったっけ…あの人、最年長だっていう理由で所長からリーダーに任命されちゃったのよね。 でも、いざリーダーとして振る舞おうにも、皆家族同然で育ってきた仲だから…上手く歯車が噛み合わないことも結構あったし」 そう言って目を細める圭に、麻琴もつられるように微笑みを浮かべる。 だが、麻琴は気付いてしまった。 微笑む圭の瞳の奥に、深い悲しみの光が浮かぶことに。 圭が組織を去るまでの二十数年。 それだけの長い年月を家族同然に過ごしてきた仲間達。 彼女達はなつみと圭を除いて、全員が…悪の組織ダークネスの人間になったのだ。 圭の心が痛まないはずがない。 かつては、同じ志を持ち、描いた青写真を現実にするために戦ってきたのだから。 麻琴の物言いたげな視線に気付いたのだろう。 圭はふっと、息を吐く。 「あー、結構話したから喉渇いちゃったわ…続きは休憩してからね。 …何か飲み物作ってくるけど、小川は何がいい?」 そう言って立ち上がって歩き出す圭の後を追うように、麻琴も立ち上がる。 「私も行きます。 …今日からここが、私にとっての第三の住処になるんですから」 思いがけない麻琴の言葉に、圭は一瞬呆気に取られた後…付いてきなさいとだけ口にする。 第三の住処、言い得て妙だった。 麻琴にとっての第一の住処は生家、第二の住処がMの拠点であったあの研究所だというのなら、 確かにここは麻琴にとって第三の住処となるのだろう。 組織を脱走した麻琴が安全に暮らせるのは、最早ここくらいしかない。 リゾナンター達の住む街はダークネスの目が常に光っているであろうことを考えれば、なおさらのことだった。 重くなる空気を打ち破るように、圭は努めて明るい声を上げる。 「いい話し相手が出来て嬉しいわ。 もっとも…これからは、あんたをあたしの助手として育てるつもりだから、覚悟するようにね」 「え、一体何をやらせるつもりですか? 言っておきますけど、私物覚えかなり悪いですよ」 「そこ、自慢げに言うところじゃないわよ…」 灰色の廊下に響く、二つの声。 ―――その声に宿るのは、互いを気遣う優しさだった。 * * * パタンと携帯電話を閉じる音がやけに大きく聞こえる、夜更け。 飯田圭織は軽く息を吐くと、窓の外に広がる夜空を見上げた。 その横顔は能面のように、一切の感情が浮かんでいない。 「ついに、か…」 掠れるように紡がれた言葉が虚空へと消える。 漆黒の瞳に浮かぶのは、夜空で瞬く星の光。 白い腕を窓へと伸ばした圭織は、そのまま手に力をこめる。 音もなく開いた窓から吹き込む、湿気を含んだ温い風。 圭織はそのまま、その場に静止する。 圭織の思考を占めるのは、先刻の会話。 電話越しにでもよく分かる、静かに燃える感情の炎。 今頃、彼女は何をしているだろうかと思いながら、圭織の思考は体を薙いでいく柔らかい風の如く、過去へと遡っていく。 かつて、圭織はMの一員であった。 予知能力を行使し、仲間達を戦わずして守る不戦の守護者として、日々その力を仲間、そして…世界のために役立てていたのだ。 生きている限り、この力を自分達の想い描く未来のために使い続ける。 その誓いは、ダークネスの一員となった今でも変わらない、ただ―――想い描く未来が真逆になっただけだ。 Mの活動は順調そのものだった。 強大な力を持ち、圧倒的なカリスマ性を持った八人のMは徐々に人員が増え、活動範囲も大幅に広がる。 途中、圭がより専門的な知識を取得し一般世界で技術者として生きていきたいと離脱したが。 圭が集めた専門家へとその知識は引き継がれ、Mの足取りが鈍ることはなかった。 このまま、Mの未来は変わらないはずだった。 想い描く理想の未来を実現するために戦い続ける、そのはずだった。 圭織は、皆は、その未来を疑ったことすらない。 だが―――未来はいとも簡単に変えられる。 圭織がそれを思い知らされたのは、もう、10年近く昔のことになる。 隣国にある中規模の超能力者組織との会談を終え、圭織はリーダーの中澤裕子と共に施設へと帰還した。 組織との会談が上手く成立したおかげで上機嫌の裕子に付き合い、 大して飲めもしない酒を飲んだ圭織が自室のベッドに倒れ込んだのは、午前2時を回っていた。 圭織は夢を見た。 ―――それは余りにも血生臭く、深い悲しみと怒りに彩られた夢。 施設へと帰還したMのメンバーが見たものは、辺り一面に広がる血の海。 噎せ返るような血と硝煙の臭いが鼻孔に届いた。 そこに転がるのは、Mのメンバーを支えてきた研究員達と、 想い描く理想の世界を築き上げるという目的に共感し集った、超能力者達。 凍り付く空気。 生きている者の気配は感じられない。 皆、死んでいた。 抵抗した様子は一切なく、まさに一瞬と呼べる時間で殺されたのだろう。 すぐ近くに横たわっていたのは、先日加入したばかりの幼い超能力者。 ―――その腕には、圭織達同様能力をほぼ無効化するデバイスが取り付けられていた。 それはMの理想、目的に共感した証。 戦闘時以外は自らの能力を封じ普通の人間として振る舞うこと、それは圭織達も例外ではない。 デバイスさえすぐに取り外せれば、ここまでの被害にはならなかっただろう。 その間すら与えない程一瞬のうちに、数多の命は消えていったのだ。 血の海の中心に佇むのは、一人の少女。 彼女のことはは施設の中で何度か姿を見かけたことがある。 圭や寺田と話し込む姿に、あの若さで研究員なのかと驚いた記憶があった。 少女がゆっくりとこちらを振り向く。 能面のように感情のない顔で、少女は起きたことを皆に告げる。 ―――政府の人間達が突如現れ、皆を殺した、と。 辺りに木霊する悲しみと怒りが入り交じった複数の叫び声。 夢はそこで途切れ、圭織の意識は現実の世界へと急速に引き戻される。 雨にでも打たれたかのように、全身から流れ落ちる冷えた汗。 カチカチと鳴る歯の音を耳障りだと思う余裕すらなく、圭織は己の体を抱き締める。 夢から醒めてもなお、鮮明すぎるほど鮮明に思い出せる夢の内容。 圭織は震えながら涙を零す―――これはただの悪夢ではなく、予知夢だと。 予知夢。 睡眠中に無意識のうちに予知能力が発動し、夢という形で起こりうる未来を視る。 まだ震えの止まらぬ体で、圭織はベッドから転げ落ちるように床に立った。 両肢に力を籠め、奥歯を食いしばる。 まだだ、まだ、未来は変えられるはずだ。 予知能力を使い、あの未来を回避する為のヒントを得なければ。 圭織の全身から立ち上る淡い黄色の光。 光は徐々にその輝きを増していく。 ―――次の瞬間、圭織はその場に膝を付いた。 全身を襲う凄まじい虚脱感。 自身に何が起こったのか認識しようとする圭織の耳に届いたのは、微かな足音。 視線を上げた圭織の目に映るのは、夢の中に出てきた少女だった。 鍵はかかっていたはずだ。 万が一を考慮して、マスターキーも存在するが…それは厳重に管理されており、 一般研究員程度ではまず貸し出されることはない。 一体、この少女は何者だ? どうして、この部屋に入ることが出来たのだ? 混乱する圭織に湧き上がる疑問。 ―――そもそも、何故、少女だけが無事に生き残っていたのだろうか。 予知夢では外に出ていた人間以外の全てが、無残にも殺されていたというのに。 しかも、皆、抵抗する間すら与えられぬ程一瞬で―――瞬間、圭織の思考を掠める、もう一つの可能性。 研究者達も能力者達も、抵抗する間を与えられなかったのではないか。 凶行に及んだのが“内部犯”であれば、抵抗した様子がないのも頷ける。 ―――それが、所長からも信頼を寄せられる程の研究者であれば。 その衝撃の大きさに動きが止まる、その一瞬で。 機関銃でも使えば、数秒のうちに何人もの屍が築き上げられるだろう。 背筋を伝う汗。 再び震え出す体に力を籠めようとする圭織を見て、少女は微笑んだ。 『もう、あなたが視た未来は変えられませんよ』 『…そんなわけ!』 圭織は必死に四肢に力を籠め、立ち上がる。 再び予知能力を行使するべく集中を開始しようとした圭織は―――膝から崩れ落ちた。 膝を付く圭織の側へと、少女は歩み寄る。 その細い肩に手を置いた少女の瞳は、圭織を嘲笑うかのような光を浮かべていた。 『飯田さん、あなたが有する予知能力…未来を予知するその力は、確率を視則する能力、とも言えます。 まぁ、簡単に言ってしまえば、予知する対象に起こるであろう未来を確率として読み取るということです。 無論、遠い未来ともなればその精度は落ちますが…』 『何が言いたいの…それと、未来が変えられないことと何の関係があるの? 日々…この一瞬も未来は変化するもの、変えられない未来なんてありえないわ』 圭織の言葉に、少女の口角が釣り上がる。 人を小馬鹿にしたような微笑みに、圭織の体に湧き上がる強い怒り。 鋭い視線を向けてくる圭織に、少女は一つ息を吐いた後、蕩々と語り出す。 『…どうやら、あなたは未来を確率として読み取れるということの意味がお分かりにならないようですね。 確率として読み取ることが出来るということは、すなわち…その確率を変動させたり、 変動させた確率を確定させることも可能であるということです。 ―――あなた程の力があれば』 少女の言葉の意味を理解すると共に、それと自分の体に押し寄せる凄まじい虚脱感が一つに繋がる。 どのような方法を用いたのかは分からないが、少女は眠る飯田の意識へと潜り込み、 自分の描いたシナリオを“確定”させたのだろう。 未来を変えた上に、そうなるように“確定”させたということであればこの虚脱感も当たり前だ。 普通の能力者からは想像不可能な程の力を持つMのクローンであっても、 “神の所業”とも言えるようなことをしてしまえば、能力を使い果たし疲弊しきっても何もおかしくはない。 顔を上げた圭織と少女の視線が絡み合う。 その瞳には先程まで浮かんでいた光は消え、黒く昏い闇が広がっていた。 地面が消えてなくなったかのように、圭織の意識は急速に“失墜”していく。 どこまでも、どこまでも、深く。 自身の体が闇と同化するかのように、溶けていくような感覚。 ―――何故だろう、不思議と、怖くはなかった。 * * * 傾いた月の角度で圭織は時の経過を知る。 随分と長い時間、物思いに耽っていたようだ。 窓を閉めた圭織は、そのままベッドの縁へと腰掛ける。 側に備え付けられた小さなテーブルにはアンティークと思われる繊細な細工が施された水差しと、 切り子細工のコップ、そして透明なピルケースが置かれていた。 水差しを傾け中身をを注ぎ、圭織はピルケースへと手を伸ばす。 中には毒々しい色をしたカプセルや錠剤が何種類も詰められていた。 細長い指で、圭織は一つ一つを取り出し…口に含むと同時にコップに口を付けてそれらを嚥下する。 未来を変え、確定させた代償。 圭織の体は全盛状態の力を維持するために、毎日“薬”を飲み続けなければならなかった。 無論、副作用はある。 今はまだ日常生活を送り、一日一回の予知をすることは可能だが…それも、後数年。 二十代の圭織の心肺機能は、薬の副作用で五十代半ばくらいのものとなっている。 見た目や体力こそ未だ妙齢の女性を保てているが、それもいずれは年齢にそぐわない老いに支配されるだろう。 薬を飲むことを今すぐにでも止めれば普通の人間よりは短いが、後三十年は生きられる。 そう言いながら、“彼女”は圭織がそうしないことを知っているかのように淡く微笑んでいたことを、ふと思い出した。 何年前のことなのか、最早思い出せないほど遠い昔の気もすれば、ごく最近聞かされたようなことでもある。 もっとも、圭織にとっては余りにも些細過ぎることで、どうでもいいと言えばどうでもいい記憶に過ぎないが。 あの凄惨な光景が現実のものとなってから数日で、Mはダークネスへと転身した。 あれは能力者やそれらを生み出す寺田を恐れた政府の人間の凶行である、と、 そう信じ切ったMのメンバー達は、普通の人間との共存という理想を捨て、彼らを支配するために急速に勢力を拡大していったのだ。 ベッドに横たわり、圭織は目を伏せる。 目を閉じてもありありと思い描ける、その姿。 Mをダークネスへと変質させ、今も尚ダークネスのためにと研究に邁進する彼女は。 圭織の内耳に木霊する声。 『明日が楽しみですね…ようやく、必要なデータの全てが揃う日が来ました』 闇を名乗る組織において、唯一、白を纏うことを許された“素晴らしき神”。 彼女が何を思ってあの凶行におよび、そして、Mをダークネスに変えたのかは未だに分からない。 表向きは総統である裕子に付き従う研究者を“装う”彼女の真意は、いつ知ることが出来るのだろうか。 分かっていることはたった一つだった。 彼女の想い描く未来は、自分も望み想い描く未来。 それはあの日、彼女の瞳に囚われ、闇へと堕ちたその日から全く変わらない。 不戦の守護者の誓い。 それは、主と崇める“素晴らしき神”のために、この力も命も捧げることだった。 夜が明けていく。 漆黒の空が、徐々に色を変えていく。 日が昇り、深い闇夜は澄み切った蒼へと。 ―――これから十数時間後、光と闇の最初の“決戦”が始まる。
https://w.atwiki.jp/dngtrpgbu/pages/575.html
“プロブレマティカ”海老奇みなせ 【年齢】 【性別】 【星座】 【身長】 【体重】 【血液型】 16 女 水瓶座 155cm 45kg A型 【ワークス】 【カヴァー】 【ブリード】 不良学生 高校生 トライブリード 【シンドローム】 キュマイラ オルクス (ノイマン) 能力値 肉体:6 感覚:1 精神:1 社会:3 白兵:4 射撃:0 RC:0 交渉:0 回避:1 知覚:1 意志:1 調達:0 運転(二輪):2 芸術():0 知識():0 情報(裏社会):1 運転():0 芸術():0 知識():0 情報(噂話):2 副能力値 HP最大値 常備化P 財産P 行動値 戦闘移動 全力移動 33 6 4 3 8m 16m ライフパス 出自 経験(学生) 邂逅 姉妹 永劫の別れ 慕情 覚醒(侵蝕値) 衝動(侵蝕値) 侵蝕基本値 渇望(17) 解放(18) 35 ロイス 関係 名前 P感情:(チェック) N感情:(チェック) ロイスorタイタス Dロイス 達人:飛礫 Dロイス 妹 海老奇はるか 親愛:○ 隔意 ロイス 魂の場所 カンブリア紀 懸想:○ 忌避感 ロイス エフェクト 番号 エフェクト名 LV タイミング 技能 難易度 対象 射程 侵蝕値 制限 - リザレクト 1 オート - - 自身 至近 効果参照 - - ワーディング 1 オート - 自動成功 シーン 視界 0 - 1 コンセントレイト:キュマイラ 2 メジャー シンドローム - - - 2 - 2 飛礫 2 メジャー 白兵 対決 単体 20m 4 - 3 縮地 4 オート - 自動成功 自身 至近 2 - 4 バックスタブ 4 常時 - 自動成功 自身 至近 - リミット 5 海の恩恵 1 常時 - 自動成功 自身 至近 - - 番号 効果 参照P - 戦闘不能時orシーン終了時使用。戦闘不能を回復しHP(LV)D点回復。回復したHPと同じだけ侵蝕率上昇。侵蝕率100%以上では使用不可、重圧状態でも使用可 EA:P129 - シーンに登場している非オーヴァードを全員エキストラにする。逆に登場しているオーヴァードは使用されたことが自動的に分かる。エフェクトの効果はシーン中持続 EA:P129 1 組み合わせた判定のC値を-LV(下限値7) EA:P129 2 組み合わせた白兵攻撃の射程を20mに変更し、ダイスを+2個。ただし、攻撃力は+9となり、装備している武器の攻撃力は加算できない。同エンゲージ不可。シーンLV回 EA:P60 3 移動の直前に使用。その移動でシーンの任意の場所に移動。離脱を行える。シナリオLV回 EA:P98 4 前提条件:《縮地》。縮地を使用したメインプロセス中、白兵攻撃の攻撃力を+[LV×5]。侵蝕率でレベルアップしない。侵蝕率基本値+4 EA:P102 5 イージーエフェクト EA:P63 武器 番号 名称 種別 技能 命中 攻撃力 ガード値 射程 常備化 1 番号 解説 参照P 1 - 防具 番号 名称 種別 ドッジ 装甲 行動値 常備化 1 番号 解説 参照P 1 - 一般アイテム 番号 名称 種別 技能 常備化 1 コネ:手配師 コネ 調達 1 2 コネ:要人への貸し コネ 情報: 1 番号 解説 参照P 1 〈調達:〉判定のダイスを+3個。シナリオ1回 R1:P179 2 〈情報:〉判定のダイスを+3個。シナリオ1回 R1:P179 コンボデータ カンブリアンバックブリーカー 条件 組み合わせ タイミング 技能 難易度 対象 射程 侵蝕値 ダイス+侵蝕率修正 クリティカル 攻撃力 100%未満 1+2 メジャー 白兵 対決 単体 20m 6 8+侵蝕率修正 8 29 100%以上 1+2 メジャー 白兵 対決 単体 20m 6 8+侵蝕率修正 7 29 解説 3後。2はシーン2(3)回、3はシナリオ4(5)回 ■キャラ説 ツインテールの似合うクラスのムードメーカーであり、水泳部の全国区エースにして、 明るい性格で様々な人間に好かれるカンブリア狂の少女。 それ関連のイベントでよく学校を休む為、教師からは問題視されている。 アノマロカリスの因子を保有し、周辺空間をカンブリア大爆発直後の『生命の海』と重ね合わせ、そこを泳ぐ自らの分身に敵を攻撃させる。 +セッション参加履歴 セッション参加履歴 【セッション名】 【GM】 【ログ】 【備考】 『speiceis within 10th』 ロケット商会 本編/雑談 『祝福されし未完成』 DT 本編/雑談